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1952-06-06 第13回国会 参議院 内閣委員会 第36号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年六月六日(金曜日)    午前十時五十九分開会   ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     河井 彌八君    理事            中川 幸平君            鈴木 直人君            成瀬 幡治君    委員            横尾  龍君            楠見 義男君            竹下 豐次君            和田 博雄君            上條 愛一君            栗栖 赳夫君            松原 一彦君            三好  始君   国務大臣    建 設 大 臣 野田 卯一君    国 務 大 臣 大橋 武夫君   政府委員    警察予備隊本部    次長      江口見登留君    警察予備隊本部    長官官房文書課    長       麻生  茂君    警察予備隊本部    装備局長    中村  卓君    警察予備隊本部    経理局長    窪谷 直光君    行政管理庁次長 大野木克彦君    行政管理庁管理    部長      中川  融君    行政管理庁監察    部長      柳下 昌男君    法務法制意見    第一局長    高辻 正己君    法務法制意見    第二局長    林  修三君    海上保安庁長官 柳沢 米吉君   事務局側    常任委員会専門    員       杉田正三郎君    常任委員会専門    員       藤田 友作君   ―――――――――――――   本日の会議に付した事件、 ○行政機関職員定員法の一部を改正す  る法律案内閣提出衆議院送付) ○保安庁法案内閣提出衆議院送  付) ○海上保安局法案内閣提出衆議院  送付)   ―――――――――――――
  2. 河井彌八

    委員長河井彌八君) これより内閣委員会を開会いたします。  行政機関職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。先刻政府から新旧定員行政機関別増減一覧表につきまして一応御説明を聞いたのであります。なお併しその中に非常に軽重という言葉が当るかどうかわかりませんが、軽重があると思いますから、主な点について詳しく御説明を承わりたいと思います。
  3. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) それでは一応この表につきまして御説明を申上げることにいたします。総理府関係では四十三人の増になつておりますが、併し経済安定本部から資源調査会に行く職員が四十人と、あと四人が安定本部から広報関係その他で総理府へ移るものでございます。ただ廃官による減が一人ございますので四十三人になるわけでございます。それから統計委員会につきましては、今回のここの改正統計委員会行政管理庁に統合されますので、必然委員会としては五十七人の全員が減に相成ります。それから公正取引委員会につきましては、廃官による減が一人、それから全国選挙管理委員会自治庁へ統合されますので、その職員四十四名が自治庁へ移ることに相成ります。それから国家公安委員会につきましては、警察関係では変りはございませんが、消防庁が消防本部になりまして、今の長官局長というもののどれかがなくなりますので、廃官による減が一人ございます。それから地方財政委員会自治庁に移りますので、全員百二十七人がなくなつて移転いたします。それから外国為替管理委員会につきましても、同様の理由定員七十四人の全員大蔵省へ移ります。首都建設委員会も同様に定員二十一名が建設省へ移ります。それから電波監理委員会につきましては、郵政省へ三千五十四人移ります。それから公益事業委員会につきましても、同様に七百九十七人が通産省のほうへ移ります。土地調整委員会は変りございません。それから国家人事委員会は従来の内閣機関でありました人事院から九百二十人が新たに入つて来ることに相成ります。それから廃官による減が四人ございます。それから宮内庁は変りございません。それから調達庁は現在五千百七十三人でございますが、これが先だつて説明ございましたような調達業務の減少に伴いまして、三千百八十二人でやつて行くことになりまして、整理人員が千九百九十一人でございます。これが今回の整理一つでございます。それから次に行政管理庁でございますが、先ほど申上げましたように、統計委員会からの五十七人、それから別に経済安定本部公益事業監督をいたしております人員が、監察のほうへ十四人移つて行くわけであります。  それから経済調査庁から千百九十四人移ります。それはあとで御説明申上げます。それから廃官による減は二人ということで、全体として千二百六十三人の増と相成ります。それから北海道開発庁につきましては、保安関係営繕事務のために、七十五人はこれは新規の増でございます。それから自治庁は、先ほど申上げました選挙管理委員会地財委からの移管によりまして、合計百七十一人の増となつております。それから保安庁は、特別職関係は別でございますが、一般職部分といたしましては、海上保安庁から九千九百九十八人、これは海上公安局関係、つまり従来の警備救難監督する関係でございます。それから新たに海上安全の充実、これは先般御承認を願いましたヘリコプターによる警備救難業務強化に伴う増員、それが百人、それから巡視船装備強化に伴う増員が三百名、合計四百名、これは御承知の通りでございます。それから航路啓開門係特別職のほうへ移りますので、その関係で千人百三十九名減になります。廃官による減は二人、それで差引きいたしまして八千五百五十七人の増ということになります。次に経済審議庁でございますが、これは安本が今八百一人でございますが、その中から三百七十四人が経済審議庁の固有の職員として設置されることに相成ります。で、総理府全体といたしましては、差引き五千二百三十二人の増ということに相成ります。  次は法務省でございますが、従来の法務府でございます本府におきまして七百九十九人の増に相成りますが、これは中央更生保護委員会廃止になりまして、法務省のほうに移りますので、その関係で一千百四十六人、それから入国管理庁内局となりまして外務省から移管されますので八百六十五人、それから今御審議中の公安調査庁のほうへ一千百四十五人移ることになつております。それから内閣関係法制局内閣機関と相成りますので、それが定員法からは抜けることになりまして、六十一人こちらのほうへ参ります。それから廃官による減が六人、以上で差引き七百九十九人増に相成ります。それから中央更生保護委員会については先ほど申上げましたように、一千百四十六人が現在の法務府へ移ります。それから廃官による減が六人、以上で差引七百九十九人の増に相成ります。それから中央更生保護委員会につきましては、先ほど申上げましたように千百四十六人が現在の法務府へ移ります。それから司法試験管理委員会は従来も定員がございません。それから公安審査委員会も、この案におきましても特に職員は置かないという建前になつております。それから外局公安調査庁は現在の案が千百四十五人、それから目下御審議中の案が可決になりますれば五百六十七人の新規の増となります。全体といたしましては、法務府は千三百六十五人の増、こういうことになります。  それから外務省入国管理庁法務府の内局に移りますので、その関係で八百六十五人の減となります。  それから大蔵省本庁におきまして、証券取引委員会から百十人、公認会計士管理委員会から十人、国税庁から五万二千二十人、造幣庁附属機関の造幣局に相成りますので、この外局から本庁へ移ります千八百三十二人、更に印刷庁から八千百二十一人、それから外国為替管理委員会から七十四人、あとは先ほど申上げました。それから安本外局であります外資委員会から十五人、経済安定本部から四十八人、廃官による減が九人でございます。大体差引きまして、六万二千二百二十一人の増でございます。証券取引委員会公認会計士管理委員会本省に移りまして減員になる。国税庁、それから造幣庁、それから印刷庁につきましても、先ほど申上げました通り減員になります。全体といたしまして百二十八人の増でございます。  次に文部省でございますが、九十二人増と相成つておりますが、これは先般御可決になりました国立近代美術館設置による増が三十三人、神戸の商船大学設置によるもの六一人、廃官による減が一人でございます。それから文化財保護委員会におきましては、先般お認めになりました専門技術者増員が五人、廃官による減が一人、全体といたしまして九十六人の増でございます。  それから厚生省におきましては、本省引揚援護庁内局になりましたので千七百七十九人移る。経済安定本部から十六人、石油統制撤廃に伴う減が四人、廃官による減が三人、全体として千七百八十八人の増でございます。引揚援護庁本省へ全部移りますので、全体の差引といたしまして九人の増ということになります。  それから農林省におきましては、本省食糧庁内局になりますので、その人員の二万八千百十六人、それから林野庁がやはり内局になりますので二万二千百十五人、経済安定本部から四十一人廻りますが、石油統制撤廃に伴いまして二十人本省で減じ、食糧庁関係で九人激つております。廃官による減が六人、差引いたしまして五万二百三十七人本省で増に相成ります。食糧庁林野庁につきましては、只今申上げましたように本省に移りますのでなくなります。それから水産庁におきましては、石油統制撤廃に伴う減が四人であります。四人だけの減でございます。全体といたしまして、農林省は二人の増といことに相成ります。  それから通商産業省でございますが、本省におきましては、資源庁廃止されますので、その関係で五百十六人、それから工業技術庁附属機関になりますので四千四百十七人が本省に移ります。中小企業庁から百六十六人、公益事業委員会から七百九十七人、経済安定本部から九十四人、石油統制撤廃に伴う減員が二百人、廃官による減が十五人で、差引いたしまして五千七百七十五人の増と相成りまて運輸省といたしましては一万三百四十九人の減となります。  それから郵政省につきましては、三千六十四人の増加となりますが、これは電波監理委員会内局となりますので三千五十四人そのまま増となります。経済安定本部から二人、電気通信省から無電の監督関係で十人、廃官による減が二人、合計いたしまして三千六十四人の増でございます。  それから電気通信省は十五万四百十八人でございますが、これだけが減と相成ります。そのうち只今申上げましたように郵政省のほうへ十人、あと公共企業体等へ十五万四百八人が移ることに相成ります。  それから労働省につきましては、経済安定本部から六人廻つて参ります。そのほか中央労働委員会公共企業体仲裁委員会については変りございません。公共企業体中央調停委員会廃官による減が一人、それから公共企業体地方調停委員会については変りございません。全体としては五人の増でございます。  それから建設省におきましては、本省で六百五十三人の増でございます。これは先ほど北海道開発庁で申上げましたのと同じように、保安関係営繕のための増員が六百三十五人、経済安定本部から廻つて来るものが十三人、それから先ほど申上げました首都建設委員会建設省外局となります関係で二十一人総理府から参ります。石油統制廃止の減が五人、廃官による減が一人、合計六百五十三人の増でございます。  それから経済安定本部につきましては、現在八百一人でございますが、先ほど申上げました経済審議庁のほうに三百七十四人、それから各省にばらばらに申上げましたが、それらを合計いたしまして、各省に分散いたしますものが三百一名、それから整理いたしますのが百二十六人でございます。それから経済調査庁につきましては、只今千九百四十一人でございますが、行政管理庁監察部のほうに千百九十四人引継がれまして、七百四十七人が整理と相成ります。外資委員会は先ほど申上げましたように大蔵省本省に十五人移ります。これで経済安定本部としては全部の人員がつ移されることになります。全体といたしまして十五万三千百五十九八の減、大部分電気通信省公共企業体の移行に伴うものであります。大体各省につきましての今回の定員増減の状況は以上の通りでございます。  なお只今申上げましたことをまとめまして、一応次の資料の第二に増減を書いておりますが、増のほうといたしましては、これを書きました頃は御審議中だつたのでございますが、このうち決定になりましたのが国立近代美術館関係文化財専門技術員関係神戸商船大学関係でございましてまだきまつておりませんのが公安調査庁関係航空法関係でございますが、これらを一応見通しますと七百一人の増になります。それから先ほど申上げました神戸商船大学のほうは海技専門学院が十二人減じますので、差引といたしましては六百八十九人の増ということになります。  それから全く新らしいものといたしましては、予備隊営繕関係、先ほど申上げました建設省と、それから北海道開発庁営繕関係でございます。それから海上安全の充実四百人、船舶の動静調査、これが合計千百六人、これが新規の増であります。それから廃官等に伴うものは合計六十人、調達庁減員整理が千九百九十一人、経済調査庁減員が七百四十七人、経済安定本部百二十六人、石油統制関係の減が六百四十二人、合計三千五百六十六人の減ということに相成ります。  それから振替関係でございますが、国家人事委員会関係で九百二十人で、それから電気近信監督で十人殖えて九百三十人の形式的には増と相成つております。減員といたしましては、海上保安庁関係で千八百三十九人の減となります。法制局へ移りますのが六十一人、電気通信省関係で十五万四百八人、それから監督のほろの十人が減となりまして、全体といたしまして、只今申上げましたように減員が十五万三千百五十九人ということに相成ります。  なおその次の紙の廃官による減の六十人の内訳、それから石油統制廃止に伴う各省減員、それから経済安定本部廃止に伴う各省への定員移官、それから整理人員等が第三表に載つております。大体以上でございます。
  4. 河井彌八

    委員長河井彌八君) 只今の御説明、につきまして御質疑がありますればお願いいたします。
  5. 楠見義男

    ○楠見義男君 これは大体実体法によつて増減のあつた、又これからあるものについての集積のようなものですから、結論的に言えば一応他の法律を済ましてから、更にもう一度振返つてこの法案はやる必要があると思いますが、その前にちよつとお伺いして置きたいのは、先ず第一に衆議院で今回農林省設置法ですか、あれについて特別に官ができたりしたんですが、その関係によつてこの定員法を変えなければならん、これは農林省設置注だけでなしに、ほかの関係で若し修正したものがあるとすれば、それに関係した増員減員というものは何名になりますか。
  6. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) 只今承知いたしておりますのは、農村省関係が結局五人増になるわけであります。それは別に定員注の敏正が規定いたされておりませんので、結局農林省の現在の定員の中でそれだけの職を置かれるといろ意味だろうと思います。
  7. 楠見義男

    ○楠見義男君 そうすると、その点は結局官名増とかいうのではなしに、職名でそういうものが殖えたから現在の人間が補職されると、こう理解すればよろしいわけてすか。
  8. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) 只今のところ私はそういうように解釈しております。
  9. 楠見義男

    ○楠見義男君 なお検討して頂きたいと思います。  それから次に目下国会審議中の法案による定員増合計六百人十九名という提案説明がありまして、それから只今大野木さんから説明を伺つたところで、文部省関係のものと、それから運輸省関係のものと、それから公安調査庁関係のもの、これを合計差引きいたしますと、ここに書いてあるように六百八十九名の実質増になりますが、これ以外に目下国会審議中のもので定員増減に影響のあるようなものがありましようか。全然ないかどうか。
  10. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) 目下のところ変つておるものはないと存じますが、最近南方連絡事務局関係法案が提出される予定でございまして、それに二十一人でございますかの新規増がございます。
  11. 楠見義男

    ○楠見義男君 それは議員立法ですか。
  12. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) それは政府提案でやつております。
  13. 楠見義男

    ○楠見義男君 そうしますと、私どものほうの委員会でも、それから又専門員かたがたにも十分注意をしておいて頂きますけれども、行政管理庁でも注意しておいて順いて、何かあつた場合には又各委員会専門員かたがたのほうへ御連絡をして頂くように、あ、との整理のときに間違いがあるといけませんから、お願いいたして置きます。
  14. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) その点は先だつて三好さんからもお話がありましたので、よく注意いたします。
  15. 楠見義男

    ○楠見義男君 もう一つ、ほかの法律附則でいろいろ直しておつて一つ法案としての国会審議中のものでなしに、議員立法とか、或いは議員修正とか、そういうようなもので衆議院で他の法律附則その他で修正しておるようなものがありましようか、
  16. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) 現在のところはないと思つております。
  17. 楠見義男

    ○楠見義男君 それからこれは内容の点なんですが、提案理由の中に実質的な増として保安庁営繕関係北海道開発庁に七十五人、建設省に六百二十五人、合計七百人の実質増員というものになつておるのですが、これは或いは私のほうの理解が間違つておるかもわかりませんが、この前警察予備隊令改正したときに、警察予備隊建設部員というので八百人か何かを殖やした、これは七月一日からそれぞれの建設省とか、北海道開発庁に移るのである、残りのものだけが警察予備隊のほうに残る、こういうふうな説明があつて実質的な増員にはならないと思いますが、この点はどうなんでしようか。
  18. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) 只今お話通りに、ここにありますのは警察予備隊改正による増員となつておりまして、ただこれを書きましたときにはまだはつきりしておりませんので、実質的な増ということを入れておいたわけでございます。
  19. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 この前の定員法改正のときに、臨時職員というようなものが非常に多いということが問題になりまして、それについてたしか委員長報告にも、この常勤的非常動職員の取扱いということが非常に私は問題になつておると思うのです。それで恩給の問題であるとか、昇給の問題であるとかいうようなものに対して、その後どういうふうに取扱つておられますか、一応お聞きしたい。
  20. 大野木克彦

    政府委員大野木克彦君) 臨時職員の問題は、実はその後研究はいたしておるのでございますが、このたびの定員法では、まだその措置が成案を得るまでに至つておりませんので出ておりません。ただ目下各省等に実際を聞合せなどいたしまして調査をいたしておりますから、御了承を願います。
  21. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 私それは大変遺憾なことであつて、実際常勤的非常勤の諸君の身になつて見れば、昇給であるとか、いろいろな点において継子扱いになつておるわけです。ですから私はこれはいつまでも捨てて置かれては大変な問題だと思いますから、やはり委員長報告のときに強い要望をされたような線に沿つて、私どもこれは一つ早急な実現を要望いたしまして、あなたのほうも相当忙しかつたということは私もわかりますけれども、やはりやられておるほうの本人にとつては非常に生活の重大問題だと思いますから、これはお願いしまして、この問題については以後どうこうということは、これくらいで打切りたいと思います。次に今度整理される人たちがあるわけですが、例えば特別調達庁職員などについて、これをどうこうするというような就職の問題、例えば職場を振替えて行くというようなことについては、相当増のところがあるわけですが、そういうようなものについて何か考えておられますかどうか。
  22. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) その点につきましては、先般政府部内におきましても閣議決定をいたしまして、できるだけ片方整理をされた人を片方増員をするような場合、成るべくその人をとるようにしてその配置転換を図つて行きたい、こういうふうに考えておるのであります。
  23. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 もう少し具体的に、例えば特別調達庁で首切られる職員が千九百九十一人もあるわけですが、これについてもう少し具体的に閣議で何か問題になつて、こんなところに差向けたら大体いいのじやないかというようなことを、閣議でなければ、若し事務的にも何とかなつておるというようなことがあれば、もう少し具体的にお聞かせ願いたいと思います。
  24. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) 数字は勿論閣議で問題にいたしましたけれども、閣議ではそう詳しくこの人間をどういうふうにするというようなことは適当にやりかねるわけでございますから、原則をきめまして、その方針従つて各省でそれぞれ連絡をとつて措置する、こういう方針決定したのでございます。なお多数の人員整理をなさねばならんという場合におきましては、人員整理対策本部というものを作りまして、この仕事を力強くやつて行きたい、こういうふうに考えております。
  25. 成瀬幡治

  26. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) 名前はその式の名前なんです。
  27. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 これは名称はさておいて、今度作るというようなことは一応決定されておるわけですか。
  28. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) それは閣議決定ではございませんが、各省の考え方といたしましては、例えば経済調査庁というものがなくなりまして、相当大幅な人員整理がありますので、そういうところでは今度の整理によつて職を退くという人の世話とか、或いは配置転換、そういうことをやるために、経済調査庁の中にそういう世話をする本部みたいなものを作つてやるという手はずなのであります。
  29. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 これは各省に持たれるわけなんですね。そうすると、あなたのほうの建設省関係では殖えると思いますが、その受入れのほうはどうですか。
  30. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) 私のほうは大体におきまして、殖えるほうには大体特別調達庁整理によつて減らされる人々を持つて行くようにしたいと考えております。
  31. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 それからこの退職金の八割増のお話なんですが、これは十二月末までに希望退職したものについては八割増にしまして、それからあとの三月末まで云々ということになつておりますが、十二月以降のものについてはこれは全然出さない「わけですか。
  32. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) それは一般行政整理のときの標準で行くということになります。
  33. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 そうすると何ですか、ここには、行政機構改革に関する提案説明という中にはそういうことは書いてないわけですが、十二月までを八割、一月から三月までにやめたものに対しては四割支給するというようなことになるわけですか。
  34. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) 四割ということはありません。例えば我々が普通やめるときと、それから行政整理でやめるときと、それから今度のような特別退職する場合と、三つの場合が考えられるわけでありますが、この中で一番よかつたのは八割増、それから行政整理、それから普通にやめるという場合でありまして、来年の一月乃至三月になりますと、これは真ん中の行政整理でやめるという場合に該当するわけです。特殊待遇はしませんけれども、行政整理でやめる場合の待遇、こういうことになるわけです。
  35. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 そうすると、こういうことなんですか。Aで整理になつて、例えば特別調達庁なら特別調達庁から、或いは経済調査庁なら経済調査庁から他の官庁に移る人に対しては、退職金は全然出さないのですか。
  36. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) 私の手許にありまする資料によりますと、普通の任意退職する場合には、勤務一年につきまして十六日の計算で退職手当を出されるわけであります。それから強制退職の場合には二十五日、一般行政整理の場合が三十日ということになつております。それで今回の場合におきまして、十二月三十一日までにやめる場合には、一般行政整理の三十日の入割増、こういうことになるのであります。それで一月から三月三十一日までにやめる場合には一般行政整理の三十日、八割増こういうことになつております。
  37. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 それに対する予算措置はどうなのでありますか。
  38. 野田卯一

    国務大臣野田卯一君) 予算措置はこの前の十万人という整理のときのいろいろと資金の余つておるもの等がありまして、大体措置できるはずであります。若し措置できませんでしたら、予備金その他でやつて行けるだろうと思います。
  39. 成瀬幡治

    成瀬幡治君 ちよつと速記やめて……。
  40. 河井彌八

    委員長河井彌八君) 速記をやめて……。    〔速記中止〕
  41. 河井彌八

    委員長河井彌八君) それじや速記を始めて……。本案につきましては、この程度でやめることに御賛成でありますか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  42. 河井彌八

    委員長河井彌八君) 御賛成と認めます。それでは午前の会議はこれで休憩をいたしまして、一時から続行いたします。午後は保安庁法案海上公安局法案につきまして審議いたします。  一時まで休憩いたします。    午前十一時四十四分休憩    ―――――・―――――    午後一時四十一分開会
  43. 河井彌八

    委員長河井彌八君) 休憩前に引続いて内閣委員会を開会いたします。  保安庁法案海上公安局法案、この両案を議題といたします。質疑の御通告がありまするから、御発言を請います。
  44. 三好始

    三好始君 保安庁法案は極めて重大なる内容を含んでおる法律案でありますので、この審議に当りまして、私は特に首相、木村法務総裁、外務大臣を含めて、大橋国務大臣以外の各大臣からも関係部分についてお答えを頂きたい問題があるのでありますが、本日は大橋国務大臣だけしかおいで頂いておりませんので、非常にその点残念に思う次第でありますが、これからお聞きいたします問題は、予備隊及び保安庁法に規定されておる保安隊、警備隊の基本的な性格或いはその行動の基準に関係する問題でありますので、たとえ法律関係に亘ります問題にしましても、大橋国務大臣予備隊の主管大臣或いは保安庁法案提出を担当された大臣としての責任と信念の範囲内においてお答えを頂きたいと思うのであります。別に私は法律專門家でもありませんし、農政專門の私のお尋ねすることでありますので、国務大臣として、或いは前法務総裁として十分御答弁できるものと想像いたしますので、法律又は條約事項についても一応お尋ねをいたしたいと思う次第であります。警察予備隊或いはそれに続く保安隊、警備隊の問題は、法律的にも政治的にも極めて重要な意味を持つておると思うのでありますが、特にこれらが憲法第九條に違反するものであるかどうか、こういう点については、国民の間に、殊に学界その他知識人の間に相当違憲論が多いだけに、内閣委員会といたしましても十分に検討しなければいけないと思う次第であります。政府は勿論合憲性を信じておればこそ、こういう法律案を提出されたものと思うのでありますが、違憲論はすでに圧倒的な数的比率を示しつつあるものと考えられますのでありまして、多くの人々は、政府が條理を無視し、憲法を無視して、これを強行しておるというような感じを持つております。私も実はそういうふうに信じておる一人でありますが、その根拠は、これから質疑を通じて明らかにして参りたいと思つております。ただ私は政府に一言いたしておかなければならないと思いますのは、国民の間に最近漲りつつある政治不信の風潮と、法秩序混乱の傾向であります。そのよつて来るところは、必ずしも單純ではありませんけれども、政府みずからが国家の最高法規たる憲法を曲げて憚からないばかりでなく、與党の数の力で條理を無視した政治が行われつつあるのではなかろうか、こういう一般的な認識が相当大きな原因をなしておることは否定できないと思うのであります。そこで予備隊がまさに設けられようとする、保安隊、警備隊等に関しまして、政府は軍に一方的に合憲性を信じ、且つ主張するだけでなくして、国民の間にあるところの違憲の疑いに対して十分納得の行く説明をする義務があると信ずるのであります。多数の国民を納得させることができないで、国民的な意見の対立がいつまでも続く、こうした問題について国論の分裂状態がいつまでも続く、こういうことであるならば、むしろ衆議院を解散して国民の意思を問うことが、憲法問題のような重大問題に対する正しい解決の道でありまして、それが民主政治のルールであることは言うまでもありません。更に又説明によつて納得させることができないだけでなくして、逆に政府のとつて参りました態度が誤まりであつた、こういうことが判明いたしましたならば、むしろ解散ではなくして、内閣総辞職によつて責任をとることが、政治を公明にするゆえんであると思います。問題は極めて重要でありますので、政府は、私が以下数項目に亘つて述べます質疑に対して明確な御答弁をお願いいたしたいのであります。すでに論点を明らかにして、質疑応答が進められるように、月曜日に質疑事項をお渡しいたしてありますので、あらかじめ御検討されたことと思うのでありますが、予算委員会における質疑事項と一見して同じようなお感じを持たれたかも存じませんが、私はより多角的に且つ掘下げてお聞きいたしたい問題があるわけであります。  先ず第一番に、保安庁法の一つの根源をなしたと思われる平和條約との関係の問題について政府のお考えをお聞きいたしたいのであります。平和條約第五條第三項にこういうことを規定いたしております。「連合国としては、日本国が主権国として国際連合憲章第五十一條に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利を有すること及び日本国が集団的安全保障取極を自発的に締結することができることを承認する。」、こういう規定があるのでありますが、この平和條約第五條第三項の規定と憲法第九條とがどういう関係にあるかは一つの大きな問題であります。この点に関して先ずお聞きいたしたいのは、今読みました平和條約第五條に引用しております国連憲章第五十一條並びに平和條約第五條は、他国からの武力攻撃の発生を前提にしておるのでありますが、武力攻撃が発生することに対する自衛措置は、通常の場合自衛戰争を意味するものと考えざるを得ないと思うのでありますが、この点についての御見解を承わりたいのであります。
  45. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 外国が我が国に侵略をいたして参りました場合に、この侵略に対しましては安全保障條約におきまして、米国駐留軍が日本政府との協議に基いて行動をとつてくれるわけでございますが、この意味におきまして国内治安確保の面からいたしまして、警察予備隊或いは海上警備隊というものが必要な行動に出るということは十分あり得ることと存ずるのであります。而してこの場合において相手方の侵略に対する日本側の行動が自衛戰争を引起す結果になるのではないか、こういう御質問の趣旨だと存ずるのでございますが、保安隊や警備隊というものは、我が国が直接又は間接の侵略を受け、警察の任務の途行上必要がありまする場合には国民と共に全力を挙げて行動することは当然であると存ずるのでございます。従つてこの際において臨機に一種の自衛行動をとることがありましても、それは結局国内治安の維持のための行動にほかならないのでありまして、この故に保安隊や警備隊が軍隊になるということは相成りませんし、又このような事態によつて直ちに国際法上の戰争状態が発生するとは考えておりません。
  46. 三好始

    三好始君 私は現実の問題として、保安隊、警備隊の行動を特に問題にしてお聞きいたしておるのではないのであります。條約或いは国連憲章自体の法理論的な意味から入つておるのでありまして、そういう範囲でお答えを頂きたいと思うのでありますが、平和條約第五條或いは国連憲章第五十一條を理論的に解釈する場合、武力攻撃発生に対する自衛措置というのは通常の意味において自衛戰争になりはしないだろうかという、こういう法理論の問題としてお聞きいたしたのでありますが、そういう意味において簡單に答えて頂きたいと思うのであります。
  47. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 戰争というものは單なる状態に非ずして、これは当事国というものがあるわけでございましてこの状態は当事国の意思というものと切離れて存在するものではないと存ずるのでございます。この場合における我が国の自衛行動というものは飽くまでも国内治安確保という意思に基いて行動しておりまするし、又行動の限界も飽くまでその範囲にとどまることでございまするから、これが自衛戰争となるということはあり得ないと考えております。
  48. 三好始

    三好始君 その点については大橋国務大臣と私考え方が必ずしも一致しないのでありますが、丁度今お答えになつたような問題に関して後ほど質疑を予定いたしておりますので、その際に讓ることにして次の問題に入ります。憲法第九條の戰争の放棄或いは憲法の前文のところで使われておる戰争という表現は、官職布告された戰争を意味するのか、広く実質的な意味の戰争をも指すのか、この点についての御見解を承わりたいと思うのであります。
  49. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) これは双方を指すことと存じます。
  50. 三好始

    三好始君 次に集団的自衛或いは集団的安全保障は、個別的な自衛或いは個別的な安全保障の存在を前提としてのみ考えられるのではないかと思うのであります。個別的安全保障機構を全然持たないで他国の安全保障の能力にのみ依存するということは集団安全保障の前提としての集団加入国の独立性が害せられることにもなりますので、そういう状態では、それは正しい意味の集団安全保障とは言えないように思うのでありますが、この問題に対するお考えをお聞きしたいのであります。
  51. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) この点は私は必ずしも三好委員の御見解に一致いたしておりません。即ち当該国が個別的安全保障の能力がなければ、その国についての集団安全保障というものは考えられないと、こういうふうな御意向と承わつたのであります。その点は私どもは個別的な安全保障の能力がなくとも集団安全保障ということはあり得ると考えます。
  52. 三好始

    三好始君 私は個別的な安全保障の能力ということを言つたのではなくして、個別的に自衛戰或いは個別的に安全を守るという或る程度の機能が各国にあつて初めて集団安全保障という機構ができ上るのではなかろうか、全然そういう能力を持たずに他国の能力にだけ依存する、こういう形は集団安全保障の正常の形ではないというのが私の考えておる点なのでありまして、個別的に安全保障の能力を持つておるという意味で言つたのではないのであります。
  53. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 今日国際法上の、国際情勢の原則論としては、お説のように個別的な安全保障の固有の組織というものなくして集団安全保障に入るという状態は国の状態としては異例なものであると考えます。それが一般的なものではないと思います。併しながら我が国はその異例な一つの例をなしておると考えております。
  54. 三好始

    三好始君 只今お答えにありました我が国が異例な状態にあるという場合にも、少くとも我が国として提供し得る能力としての人力とか、経済力とかいうものは考えられておるのではないかと思うのであります。この点は如何ですか。
  55. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 現実の問題といたしましては、平和條約の第五條によりまして「国際連合にあらゆる援助を與え、且つ、国際連合が防止行動又は強制行動をとるいかなる国に対しても援助の供與を慎む」、こういう義務を負うておるわけでございまして、そうした面において集団安全保障の一翼と……正確な意味において一翼と言われるかどうか存じませんが、これに対する協力は当然なすべき立場にあると存じます。
  56. 三好始

    三好始君 日本の集団安全保障機構参加の條件として、人力であるとか、経済力であるとか、こういつたものを提供するということは、総合戰力としての集団安全保障機構の一部を構成するものでありますから、こういう場合には憲法第九條第二項の「その他の戰力は、これを保持しない。」という規定と牴触するような問題が考えられるのでありますが、この点についての見解を承わりたいと思います。
  57. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 日本が集団安全保障に対して平和條約第五條の(a)項第三号によつてとる行動が予想されておる。而うしてこの行動を日本政府がとる場合においては、人的物的の手段が必要となる。この手段は全体としての集団安全保障の中核をなすところの戰力に直接間接の役立をしておるから、従つてそれは一つの全体としての戰力の一部分と観念すべきではなかろうかという趣旨の御質問かと存じます。抽象的にはそうした場合に我が国として戰力を持つてそうして戰力によつて協力をするということも考え得るのでございまするが、併し現憲法下におきましては、我が国の憲法上職力の所持ということは禁ぜられておりまするから、我が国自体が戰力を持つて、かような集団安全保障に協力をするということはあり得ないことでございます。然らばどういう程度の協力が許されるかということになりますと、憲法上は戰力を行使するということでなく、戰力以外の手段を持つて協力すると、こういう以外にはあり得ないわけであります。又現実に政府といたしましては、この條項についてはそういう戰力以外の手段を以てのみ協力するのであつて、少くとも現憲法下においてはそう解釈すべきものと考えております。
  58. 三好始

    三好始君 政府の特殊な戰力に対する定義の問題は後ほど詳細に触れる予定になつておりますので、ここではそれに触れませんが、ただ只今の問題で、戰力としての集団安全保障機構の一部分を日本が構成しておる場合に、それは憲法第九條第二項に牴触しないか、こういう問題でありますが、これは牴触しないという御見解でありますか。
  59. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 集団安全保障は戰力が中核となる場合があると、こう私は考えております。そうしてその場合に集団安全保障の中核たる戰力そのものに貢献するということは我が国の立場上不可能でございまするので、その他の面において協力をする、これは憲法上戰力を我が国が持つたことになるという解釈にはならない。従つて憲法違反にはならない、こうお答えいたしたりもりであります。
  60. 三好始

    三好始君 只今の問題、非常におかしく聞えるのでありますが、日本が人力、経済力を通じて協力することも集団安全保障機構の戰力に当然になると考え得られるのでありまして、それが全然戰力に貢献しないという考え方は非常におかしい考え方のように思うのですが、政府は人力や経済力を、例えば朝鮮で行動しておる国連軍に提供しても、それは国連軍の戰力には全然無関係だとおつしやるのですか。
  61. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) そうではなく、政府の憲法九條の第二項或いは第一項の解釈といたしまして、特に第二項の解釈といたしまして戰力は保持しないというのは、日本政府の機構として、日本政府の組織の一部として戰力を目的とした組織を持つことはない、こういう意味でこぎいまして日本政府が他の国の戰力の機構に対して戰力以外の手段を以て協力するということは、この憲法第九條第二項の問題ではない、こういうふうに考えているわけでございます。
  62. 三好始

    三好始君 こうなつて参りますと、やはり憲法第九條第二項の解釈そのものの問題になつて参りますので、後ほど詳細に触れることにいたしまして次の問題に入ります。国連憲章第五十一條は、武力攻撃が発生した場合においてと、こういう形で表現しておりますから、これに対する自衛権の発動は行動的なものを予想していると認めざるを得ないのであります。発生した場合においてということでありますから、そういうふうに考えられるのでありますが、従つてこの場合には完全なる、又は宣戰布告のない事実上の戰争状態の発生が考えられるのでありまして、日本がこういう交戰状態に入ることが認められるということは、憲法第九條第二項後段の「国の交戰権はこれを認めない。」、こういう規定と矛盾すると私は考えているのですが、先ほど大橋国務大臣はこの点について違つたお考えを持つておられるようでありました。そこでもう一度念を押しておきたいのでありますが、宣戰布告がなくとも外国から侵入して来た軍隊に対して、これと日本の例えば警察予備隊とが交戰をする、こういう場合には宣戰布告がなくても国際法上の部分的な適用のある交戰状態が成立するかどうか、これを念のためにお尋ねしておきたいのであります。
  63. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 戰争につきましては、憲法第九條において「国の交戰権は、これを認めない。」ということに相成つておりまするから、国際法上国家が交戰国として認められる権利を我が国としてはみずから否認をしている。従つて我が国はたとえ外国から戰争を仕向けられましても、これに対する加害手段として戰争を……、国際法上認められた諸権利を主張することはしない、こういうわけでございまするから、この場合に我が国は戰争をするということはないわけでございます。その場合に我が国のとる行動は單に国内治安の維持のために必要な行動をその限度においてとるだけでございまして、これは戰争というべき状態ではないかというのが政府の考え方でこぎいます。
  64. 三好始

    三好始君 やはり問題が第九條第二項の解釈の問題になつて参りますので、あとへ廻しまして、印刷して差上げました質疑事項の二番目の問題に入ります。  日米安全保障條約前文の直属及び間接の侵略に対する防衛のため漸増的にみずから責任を負う、こういう規定があるわけでありますが、この「漸増的に自ら責任を負う」ということがどういう意味かということをお尋ねいたしたいのであります。先ずここに使われている直接侵略というのはどういう場合か、嚴密な法的意味におきましては、国際法上侵略の定義を確立することは非常にむずかしい問題だと思うのであります。侵略せられる国の言う侵略でも、相手国は侵略とは言わないで何らか大義名分を付けるのが例であります。それば重なる侵略国のこじつけだときめてしまうわけには行かないのでありまして、国際的な公権力が確立しておらない以上は、国家間に主観的な主張の違いがありましても、そのどちらが正しいかということを公権力で判定することができないわけでありますから、窮極的には国家みずからの判断に委ねざるを得ない、こういう場合が起つて参ります。戰争がこういう意味では国際紛争の強制的な処理手段であるということも言えるわけであります。ここに言う直接侵略というのは、一般的には日本が国際紛争の強制的処理を受ける場合と判断されるのでありますが、如何でしようか。
  65. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 如何なるものが侵略であるかということは、お説の通り現実にはいろいろ判断が困難であり、これは最も大きな政治問題でこぎいまするので、関係国の政治的な国際政治上の立場によつて相矛盾したような主張が行われるのが実情でございますが、今日世界の各国というものは、戰争の防止ということにつきましては、いろいろ国際的な約束をいたしております。持に国際連合憲章におきましては、戰争というものによつて国際紛争を処理するというようなことは各国ともこれを避ける、平和的な処理によつてつて行くということを原則にいたしておるのでございまして、こういう戰争制限の国際條約のごときは、一つの正当なる戰争なりや否や、或いは侵略戰争なりやということを判断する場合の有力な基準となるものと思うのでございます。従いましてそうした場合におきまして、おのずからこれらの国際的な條約或いは国際観念、こうしたものから侵略であるか、正当な戰争であるかということがきめられることと存じます。無論そのきまつたものを特定の国がその通り認めるかどうか、これは実際の問題でありますが、併し観念的には十分に確認できるものと考えております。
  66. 三好始

    三好始君 抽象的な問題ですから余り立入つたお尋ねはいたさないことにいたしまして、安全保障條約前文に表現されておる「漸増的に自ら責任を負う」という意味は、端的に申しますというと、日本再軍備を意味する、こういうふうに了解いたすのであります。この点は先般予備隊令の一部改正法律案審議の際に、私は同様なお尋ねをいたしました際に、すでに大橋国務大臣は、実質的に日本の再軍備を意味するというようなお答えがあつたと思うのでありますが、そういうふうに了解して差支えありませんか。
  67. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 直接及び間接の侵略に対する防衛のために、「漸増的に自ら責任を負う」という言葉は、これは米国が日本に対しまして安全保障條約の締結において、将来日本国みずからの責任において、みずからに対する侵略の防衛に対処するということを期待しておるという旨を表明したわけでございまして、これを以て我が国に対して再軍備の義務を負わせるという形でないことはそのとき申上げた通りでございます。併しながら防衛に対して独力で対処するということになりますと、今日の実情はおのずからその手段といたしましては、或る程度のものを考えなければならんと思うのであります。併しこれは飽くまでも條約上におきましては、米国としての一方的な期待を示しておるのでありましてこれに対応する日本側の義務というものは、即ち再軍備の義務というものをこれによつて規定をいたしたものとは考えられませんし、又事実そういうふうな考えは持つておりません。
  68. 三好始

    三好始君 印刷して差上げてあります問題の第二点をすでにお答え頂きましたが、この問題について私はこういう感じを持つておるのでありますが、つまり政府は安全保障條約前文に示されたアメリカの期待に対して、これを実現して行く條約上の義務を負つておるかどうかという問題についてでありますが、私は二つの前提を考えて、こういうふうに思つておるのです。二つの前提と申しますのは、先ず前文も本文も共に條約であつて、條約、つまり国際合意である。それからもう一つの前提は、国内法は一つの意思の表現でありますけれども、條約というものは二つ以上の国家意思が含意されたものが條約であつて、法的な性質の相違がそういうところから考えることができる。まあこの前提の上に立つて考えますというと、国内法でありますと、期待するというような実質的な権利義務を伴わない、せいぜい道徳的な義務を生ずるに過ぎないような規定は殆んど無意味でありますから、設けられることはないのでありますが、條約の場合には必ずしもその間の関係は国内法と同じではないと思うのであります。即ちアメリカの期待は全く一方的な宣言ではなくして、條約としての国際合意である以上は、そこに表現された字句は日本もその合意の形成者として参加しておるものであります。だからこの場合における日本の條約上の義務というものは、表現が期待するという表現だから全然問題にならんのだ、こういうふうに片附けてしまうわけにも行かないものがあると思うのでありますが、重ねて見解を伺いたいのであります。
  69. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 條約上の権利義務というものは、明らかに條約上権利或いは義務として規定されたものだけが條約上の権利義務である、こう考えておるわけでありまして、御指摘になりました点は、一つの期待として表現せられておりまするので、それ以上の意味を持つものとは考えておりません。
  70. 三好始

    三好始君 今の点重ねてお聞きしたいのでありますが、二月十日の予算委員会で、木村法務総裁がこういうことを述べられております。自衛力漸増はアメリカの期待であつて、日本は義務付けはされていない。ただ期待に副うべく努力すべきであると思う、こういうふうに言われております。ところが先ほど私が申しました條約が国際合意であるという点から申しまして、單独の意思表示としての期待とは違うと思うのであります。文字には現われておりませんけれども、條約としての性質上論理的にはアメリカは期待し、日本はその期待を了承する、こういう意味が、含まれておるのではないかと思うのであります。従つて單に道義的な問題という以上に、そこに法的な意味を考えることができるのではなかろうか、こういうふうに思うのでありますが、如何でしようか。
  71. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) この期待というものは、これは期待それ自体として條約が表現されておるものではないのでございまして、この前文の関係條項を前から申しますと、「アメリカ合衆国は、平和と安全のために、現在、若干の自国軍隊を日本国内及びその附近に維持する意思がある。」、日本に駐留せしめる意思がある。但し日本が「漸増的に自ら防衛の責任を負うことを期待する。」、こうなつておりますので、アメリカの駐留ということは、これはそれだけ一方的にやるというわけではないので、こういう期待の下に駐留を認める、こういうふうな書き方になつております。従つてこの場合の表現としてこれが日本政府に対する暗黙の義務を押付けておるというふうに理解することは、この字句に対して必要以上の意味を附加することになるものと思います。
  72. 三好始

    三好始君 私はこの條約が日本に義務を課しておるというふうに理解しておるのではありません。期待するという表現が国際合意としての條約に使われておる言葉である以上は、日本はその期待を了承するという法的な意味を考えられないだろうか、こういうことを言つておるのでありまして、義務付けられておるという強い意味で言つたのではないのであります。
  73. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) アメリカ側がそういう期待を持つておるということを日本は認識しておるということは、これはこの條約が双方によつて調印されておりますからして、これは当然その通りであると存じます。
  74. 三好始

    三好始君 それでは直接及び間接の侵略という表現が使われておる、間接の侵略というのはどういう場合を指すかという問題であります。これは端的に申上げますと、主として外国の思想に基く内乱を意味する、こういうふうに受取れるのでありますが、如何ですか。
  75. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 私もこの解釈といたしましては、安全保障條約第一條に「二又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じよう」、こういう表現がございます。これが丁度間接侵略に該当する観念であると心得ております。
  76. 三好始

    三好始君 外国の国家機関としての軍隊ではなくして、形式的には私人としての外国人が一日本を内乱に指導的に、或いは主体的な役割を果すような場合が起つたといたしまするというと、その外国人が国籍を持つておる国家と日本との関係はどういうことになりますか。
  77. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 御質問の要旨は、例えば或る国籍の人がその国の政府関係なしに日本において内乱を指導した、その場合においてその人とその国籍を持つておる国とはどういう関係になるかと、こういう考え方でありましようか。
  78. 三好始

    三好始君 第三国人、第三国人という表現はおかしいのですが、或る国籍を持つた外国人が日本の国内にあつて、或いはその国のうちから内乱を指導する、或いは内乱に対して主体的な役割を果す、こういう場合が起つた場合です、その国と日本の国との関係は全然問題にならないかどうかということであります。
  79. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) その場合におきましても、内乱は飽くまで内乱でございまするからして、これが直ちに我が国とその国との国際的な正常関係を変更するということはないと思います。併し現実にさような事実があり、そうして外国政府がそのことについて責任を負うべきものであるということが明らかになりました場合においては、当然我が国としては相手国に対しまして、外交上の手段をとると思います。その外交上の手段をとつた結果、その国と我が国の関係がどうなるかという問題は、これは一応又切り離された問題だと、こういうふうに理解いたします。従つて御指摘の場合においては、飽くまでもそれは我が国の国内問題である、国外に関係のある国内問題であつて、そのこと自体我が国とその国との国際関係に直ちにそれが一つの変化を及ぼす、そういつた事態にはならないと思います。
  80. 三好始

    三好始君 それでは次の問題に移りますが、政府は安全保障條約に示されておる自衛力の漸増を実現することによつて駐留軍の撤退を希望しておるかどうか、こういう問題についてお聞きいたしたいのであります。先ずアメリカ側から、先般増員されることに決定した以上に更に日本の自衛力増強の要請がなされておるようなことが伝えられておるのでありますが、その真偽がどうであるかという問題、若しこれが事実とするというと、その状況がどういうことになつておるか、こういうことをお伺いいたしたいのであります。
  81. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) アメリカといたしましては安全保障條約に基きまして、我が国に軍隊を駐留せしめることになつておるのでございますが、この安全保障條約それ自体が、先ほどから問題になつておりまするように、自国の防衛のために日本が漸増的にみずからの責任を負うということについてのアメリカの期待に基いておるわけでございまして、恐らく米国政府といたしましては、速かに日本がその期待に副うような状況を実現するということを希望はいたしておると存ずるのでございます。この点は、日米安全保障條約それ自体が暫定的措置であるということを初めから明らかにしてありまする点から見ましても当然そう考えられるわけでございますが、それにつきましてはアメリカ側が希望として、そういう希望が成るべく早く、日本が現在以上の増強を行うことを望んでおるという、そういうふうな希望があるのではなかろうかと、こういうふうに私としては考えております。併し米国政府がその希望を正式に日本政府に対して通告をしておるということについては、私は承知いたしておりません。
  82. 三好始

    三好始君 只今の御答弁は、アメリカ側の意向を御想像されての御答弁であつたのでありますが、日本政府自体としては自衛力漸増に対してどういう考えを持つておらますか。
  83. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 日本政府といたしましては、今年度の予算を御審議頂きまする際に、予算委員会においてもしばしば申上げたる通り、できるだけ速かに日本みずからの手によつて自国の防衛を図るようにいたしたい、それがためにはできるだけ予備隊等の増強によつてそうした状況を作り上げたい、こう考えておるのであります。但しこの点につきましては国内の治安並びに財政事情、こうしたいろいろな要素がございまするので、できるだげ国内治安の必要というものの範囲で財政の許す限度においてそういう運びをつげたい、こういう程度に考えておるわけでございます。
  84. 三好始

    三好始君 日本が自衛力を漸増して行きまして、いつかは駐留軍の完全なる撤退を希望されておると考えていいですか。或いは駐留軍の撤退は自衛力が漸増されても世界の不安が去らない以上は、やはりおつてもらわなければいけないと思つておりますか。
  85. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府はこの自衛力の問題につきましては、現憲法下において軍備というものは許されませんし、又政府としても直ちに再軍備をするという考えを今持つておるわけではございません。従いまして自衛力の漸増ということは警察予備隊なり或いは海上警備隊、こうした国内治安機関の増強によつてできるだけやつて行きたい、又その程度にとどめたい、こう思つておるわけでございます。従つてこの国内の治安機構の増強ということは、国内治安の実情というものに即してこれを行なつて行くべきものであり、又これを実施するに際しましては、我が国の国内財政事情というものを顧慮してきめて行かなければならない、こういうふうに考えておりまするので、できるだけ早くアメリカの駐留軍に撤退してもらえる程度まで増強したいというほどの考えは持つておりません。
  86. 三好始

    三好始君 そういたしますと、政府が現在考えておられるのは、国内治安の問題だけでありまして、外敵に対する考慮はすべて駐留軍に委ねておる、従つて国際不安が去らない以上は永久に駐留軍の駐留を希望しておる、こう考えてよろしうございますか。
  87. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 安全保障條約それ自体が永久的なものでなく、暫定的なものになつておるわけでございまして、永久に駐留してもらうという考えは持つておるわけじやございません。併しこれを完全に撤退してもらうということは、結局日本自身が個別的に日本区域の国際の中和及び安全を維持する能力を持つか、或いはこれに代るべき集団的の安全保障措置というものが何らかの方法でできなければならないわけでございまして、そういう時期まではアメリカ合衆国の軍隊の力によつて安全を保障する以外にない、こういう結果になるわけでございます。併しながら政府としましては、その範囲におきましても国内治安に必要なだげの弊備力の充実、増強、これだけはどこまでもやつて行きたい、こう思つております。
  88. 三好始

    三好始君 安全保障條約が暫定的なものであるという意味は、日本の軍備ができるまでの間という暫定的であるのか、或いは世界が平和になつて軍備を持たなくてもいいような時代が来るかもわからないという意味の暫定的なんですか、どちらですか。
  89. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 安全保障條約が暫定的であるという意味は、日本区域における国際の平和と安全の維持のために十分な定をなす国際連合の措置、或いはこれに代る日本国自身、或いは第三国というものも考えられましようが、そうした個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じたと日本国及びアメリカ合衆国の政府が認めた時、これが安全保障條約第四條の規定でございます。従いましてこれには日本自身の再軍備ということは條件にはなつておりません。
  90. 三好始

    三好始君 個別的な安全保障の能力ができるということは、結局は再軍備であるということにならざるを得ないと思うのですが、非常に軍備という言葉をお使いになるのをきらつておられるようでありまして、問題がなかなかはつきりしない点があるのでありますが、大体政府のお考えはわかりましたから次の問題に入ります。これは予備隊の増強の際にお聞きした問題でありますが、保安庁法の形で新たな機構として出て参りましたからもう一度お伺いいたしたい点なんですが、安全保障條約の前文と今回の保安庁法案提出事情との間にどういう関係が考えられるか。この点をお尋ねいたします。
  91. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 安全保障條約の前文と保安庁法というものは必ずしも関係があるものではないと思つております。この保安庁法は、現在の警察予備隊並びに海上警備隊を管理いたしまする新らしい行政機構を作りたいという全然内政上の行政機構改革の必要に基いてできた法規でございまして、国際條約と関係のあるものとは考えておりません。
  92. 三好始

    三好始君 私が認識不足なのか、非常に違つたお答えをされておるのでありますが、私は安全保障條約と日本の自衛力増強とが血関係だというようなことを説明せられるのは、非常に何か警戒されてのお答えのように思えて仕方がないのでありまして、そういう点をもつと率直にお答えになつてもいい問題じやないかと思います。安全保障條約でアメリカと日本の自衛力の漸増を期待するというふうに言つておるし、さつき私が申しましたように、又大橋国務大臣が了承されましたように、その期待を了承するという意味がやはり考えられる以上は、自衛力漸増の一環として出されたと考えられる今回の保安庁法案の提出は無関係であるというのは少しおかしいと思うのでありまして、関係があると客観的に当然に考えられると私は思うのであります。率直なお答えを頂きたいと思います。
  93. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 私が余り理論的に精密に分析いたしまして正確に答え過ぎたせいかも知れませんが、(笑声)勿論警察予備隊の増強なり玄海上警備隊の創設ということは、これは国内の直接間接の侵略に対する自衛的の措置を強化するということであることは、これは申すまでもございません。保安庁法が無関係だと申しましたのは、それはころした警備隊なり或いは保安隊の増強という政策が、すでに政府といたしましては確立した政策であり、そうしてそれについてはすでに法的措置も済んでおるわけでございます。今ここで新らしく保安庁法というものを制定いたしまするゆえんのものは、その増強をやつて行こうということではなくして、そうしてきまつておりまする保安隊なり警備隊を管理する一つの行政機構を作ろうと、こういうだけのことでございますから、これは純然たる内政上の機構改革の問題であるということを申上げたのです。併し更に遡つてこの保安庁の仕事になつておるところの警備隊、保安隊の増強、整備という問題は、これは御指摘の通り自衛力の漸増ということと表裏一体的な問題であることは申すまでもないと存じます。
  94. 三好始

    三好始君 それで問題が少しはつきりして参つたのでありますが、そこで次の問題として、保安庁法に盛られておる保安隊、警備隊と現在の警察予備隊、海上警備隊とは性格的にどういうふうに違うかという問題であります。この点に関して、先日の地方行政委員会との連合委員会で岡本委員の質疑に対し大橋国務大臣はちよつと納得の行かない答弁をされておるのであります。即ち警察予備隊或いは保安隊の目的、任務の表現の相違の問題なのでありますが、大橋国務大臣は、予備隊令にある「国家地方警察及び自治体警察の警察力を補うため」、こういう字句を削つたのは、このような抽象的な表現を取去つて、ただ具体的に出動の條件を六十一條以下に規定したまでであつて、警察としての性格は変らない、こういう答弁をされたのであります。又六十一條以下の規定が守られるならば、警察としての行動以上に出るものではないと、まあこういうことも言われたのを私控えておるのであります。ところが六十一條を見てみますというと、「非常事態」という表現を使つておるのでありますが、その非常事態とは一体どういうことであるか。甚だ包括的な表現でありまして、範囲が不明確であります。暴動も内乱も、或いはときには天災地変も非常事態でありますが、戰争も非常事態である、こういうふうに解釈論として言えるわけであります。本来の警察でありますというと、行政権の現行的な活動としての警察の具体的な行動に関して国会の承認を求めるというような行動手続上の問題については、そこまで、国会の承認を求めるというところまで規定する必要は認められないのでありまして、せいぜい報告程度で済む問題のように考えられます。ところが今度の法案においては、国会の承認を必要とするという、相当手続上の慎重さを考えられておるところに問題の重要性を認めることができるのであります。これによつて純法理論的には、事実上外国と戰争を始めることも法的には不可能ではありません。宣戰布告をしての戰争ということはできないかもわかりませんが、事実上の交戰は不可能ではないということにもなるかと思います。法は、客観的な存在になりますというと、政府の一方的或いは一時的な御説明でその通わに必ずしも落着くものとは言えません。私は、この六十一條の規定は、宣戰布告には国会の承認を要する、こういう意味が近くに匂つておるような印象をどうしても受けるのであります。これらは、決して警察予備隊と今度の保安庁機構とが同一のものでないという結果にもなるのでありますが、外敵によつて平和及び秩序の破壊或いは人命財産の侵害から国を、国民を護るということが、大橋国務大臣以外の各大臣からもしばしば繰返して述べられておるところの主張であります。外敵によつて起るところの平和や秩序の破壊、人命財産の侵害から国民を護るのは、これは当然な国としての行動だというわけでありますが、これはあとで詳細に申上げるように、いわゆる自衛戰争にほかなりません。それが憲法の容認しないところであることは、後ほど立証いたしたいと思つておるのでありますが、予備隊令による予備隊は、少くとも規定の表面では「国家地方警察及び自治体警察の警察力を補うため」という表現が使われております。ところが保安庁法案では、主要なる規定は勿論、全條文を通じて保安隊、警備隊が警察であるという性格を明確に限定した規定が見当らないのであります。却つて幕僚長であるとか部隊であるとか装備であるとか、こういう表現が使われておりまして、先般の国務大臣の御説明の中には統帥権という言葉さえ出て来る状態であります。これらを以てしても、予備隊と保安隊との間には性格上の相違は決してないんだと、こういうふうに言うことは、非常に法律を比較して見ておかしいのであります。即ち、警察予備隊令には警察たるの性格を残しておりますけれども、今度の保安庁法案ではそれが必ずしも明確ではありません。ここに両者の非常な相違点が考えられるのでありますが、先般岡本委員の質疑に対して、性格上の相違なしという御説明をされたと記憶するのでありますが、私の只今申しました疑問に対してお答えを頂きたいと思います。
  95. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 保安隊及び警察隊は、たびたび申上げまする通り、飽くまでも国内の治安維持の責に任ずることを目的といたしたものでありまするから、その編成装備も又この目的の達成ということを基準として定められるべきものであります。従いまして保安隊及び警備隊は戰力には当らず、この意味で現在の警察予備隊や海上警備隊とはその性格において異なることがないというのが政府の考えでございます。この出動の際に国会の承認を受けるという点は、宣戰の布告に対して議会の承認を受けることと同じような考え方ではないかという点も御指摘になりましたが、政府といたしましては、警察力の不足を補う方法といたしまして、一般的な警察組織それ自体の増強にあらずして、一般警察でない政府直属のこうした特別の保安隊或いは警備隊を出動させるということは内政上非常に重大な問題であると存じまするので、国会監督下に置くことが妥当である、こう認めて国会の承認の制度を設けようと、こういうわけでございまして、それ以上の意味は考えておりません。
  96. 三好始

    三好始君 両者とも国内治安の維持のため行動するのであつて、その点において性格上の相違はないというのが政府のお考えのようでありますけれども、それが国内治安のための行動ということが非常に問題があることは後ほど私が特に触れて申上げる予定にしておることなんですが、客観的に考えた場合、比較した場合、政府説明がどうであろうとも予備隊は、先ほど問題になりました間接侵略に対して警察力を補充するというところに主眼が置かれていた、こういうふうに一応考えることができるわけであります。勿論予備隊を作るとき参議院の本会議で吉田首相は、共産軍の侵入に備えるという言葉を使つて説明されて相当問題を一部分で起したのでありますけれども、客観的に、一般的に言えば間接侵略に対して警察力を補充するという性格を持つておると思うのであります。ところが安全保障條約が締結された以後は、先ほど一応確認された問題でありますけれども、直接及び間接の侵略に対して云々という表現を受けることになりますので、安全保障條約締結以後のコースとしての保安隊、警備隊は、條約に表現されておりますように、單なる間接侵略だけでなくして直接侵略に対しても自衛手段を講ずるという意図の下にこれが設けられておるのではなかろうか、こういうことになつて来るのであります。軍に人員装備が量的に充実されて来る、こういつた問題でなくして、そこに性格上の質的な変化があるのではないか、こういうふうに考えられるのでありますが、そういう質的な変化の問題は、今までの御説明ではないかのような御説明なんであります。やはりないとはつきり断言できるでありましようか。
  97. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 保安隊、警備隊の目的は、飽くまでも現在の警察予備隊或いは海上警備隊の目的を承継いたしておるわけでありまして、飽くまでも国内治安の責に任ずることがその目的となつておる。従つて外国の侵略に対する防衛ということを直接の目的とはいたしておらんのでございます。従つて編成装備も、先ほど申上げましたごとく国内治安の確保ということを基準として定められておるわけでございまするが、ただ、併しそれならば現実に直接侵略があつたと仮定した場合に、その場合にそれでは保安隊、弊備隊は何にもしないかというと、それはそうではなくて、戰カとして組織されたものではないけれども、併しそういう場合においても応分の行動をとる、こういうふうに観念をいたしておるわけでございます。第一義的間接侵略を目的として組織された機構であるが、併し直接侵略の場合においても便宜応分の行動をとるべきである、こういう考え方が政府の考え方でございます。
  98. 三好始

    三好始君 只今の御答弁でだんだん衣の下から鎧が見え出したような印象を受けたのでありますが、私は政府が言つておりますように、近代戰を有効適切になし得る編成装備を持つたものが戰力だと、こういう定義から出発した戦力や、或いは戰争の概念と常識的或いはむしろ正しい立場に立つての戦力の概念から出発した意見との間に、或いはどこまで行つても平行線を描くような関係が考えられるかと思うのでありますが、この点はむしろ憲法第九條の第二項の戦力の究明をする際に譲るのが或いは適当かと思うのでありますが、私の考え方をむしろここで率直に申しておくほうがいいかと思いますので、一言だけ申したいのであります。政府予備隊と保安隊の間に性格上の変化がないというような意味のことを繰返して申されるのでありますが、若しそこに変化がないというのでありましたならば、予備隊の性格に対する政府の態度が、警察予備隊令の規定とは無関係にやはり直接侵略に対抗するものとしての性格を考えていたということにもなりますし、政府予備隊令というものを僞つていた、こういうふうに考えざるを得ないのであります。即ち変化がないというのは、憲法違反性の点について変化がない、こういう一とにならざるを得ないことを、あとに戰力の問題をお尋ねいたす際に申上げなければいけないことになるだろうと思います。平行線のどこまで行つても盡きない基になる戦力の定義の問題のところで明らかにするということを申上げて、次の問題に移ります。保安隊並びに警備隊の装備はアメリカ軍隊の装備を以て行われておるように聞いておるのでありますが、その現在における実情がどうなつておるか、こういうことを承わりたいのであります。
  99. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 装備は、車両につきましては日本側でみずからの手で調達したものがございますが、いわゆる武器に属するものは、おおむね武器に属するものは全部米軍から借受けております。そうして現在借受けておりまする種類といたしましては、自動拳銃、騎銃、それからカービン銃でございます。それから短機関銃、小銃、小銃はライフルでございます。ブローニング自動小銃、ブローニング機関銃、ブローニング重機関銃、ロケット彈発射筒、それから迫撃砲、こういうものを借受けております。
  100. 三好始

    三好始君 車両等を除きまして火機の類で国内生産の状況、生産が全然ないのであればそれでいいのでありますが、生産が若しあるといたしましたならば、その状況、或いは将来の生産の計画はどういうふうになつておりますか。
  101. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 御承知のように降伏後におきましては国内における武器の生産は一切停止せられ、その設備は撤去されるということに相成りまして、現在において国内で武器の生産ということは行われておりません。但し米軍が最近になりまして日本において使用しておりまする米国産の武器の修理工場というようなものを、その指導の下にぼつぼつ設立いたしておる、そうしてここで修理の程度、又近く弾薬につきましては、国内で一部の製造を、これは米軍が指導して行わせます。又その製品は米軍が買受ける、こういうようなことをやつておるというように聞いております。併し予備隊といたしましては、只今予備隊に必要な武器について国内生産業者から調達しようというような考えは現在の段階においてはございません。
  102. 三好始

    三好始君 御承知のアメリカの上院で行われたヴアンデンバーグ決議というのがあります、その第三項に、継続的且つ効果的な自助と相互援助に基礎を置き、且つ合衆国の安全に影響を與える地域的その他集団的取極に合衆国が憲法上の手続に従つて加入することと、こういうことになつておるのでありますが、このヴアンデンバーグ決議と日米安全保障條約、或いはそれに基いてできております行政協定第二十四條の共同措置との関係、或いは予備隊、警備隊等に対する武器の貸與の関係が一体どういうふうになるのであろうか、こういう問題についてお尋ねをいたしたいのであります。もつとはつきり申しますというと、最後の予備隊、警備隊の装備関係は、ヴアンデンバーグ決議では、継続的且つ効果的な自助と相互援助に基礎を置き、こういうふうに明示しておりますから、一方的、恩恵的な武器の貸與はこの決議から申しますと許されないのではなかろうかと、こういうふうに思うのでありますが、現在の関係はどうなつておりましようか。
  103. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 安全保障條約が締結ぜられました当時の説明といたしまして、ヴアンデンバーグの決議に基くところの恒久的な安全保障ということは、日本との関係においてはアメリカとしてはあり得ない、従つて暫定的な措置として日米安全保障條約が締結された、こういうふうに説明を聞いておるわけでございます。従いまして日本に対する関係においてヴアンデンバーグの決議というものは適用することは困難ではなかろうかと考えておりますが、これ以上のことは外務省にお聞きを願いたいと思います。
  104. 三好始

    三好始君 今の問題は、むしろ外務大臣あたりにお聞きするほうが適当な問題かと思いますので、外務大臣の出られたときに更にお伺いいたすことにしてここでは立入つてこれ以上触れないことにいたします。先ほど明らかになつたことなんでありますが、今度の保安庁法案の提出は、政府の自衛力漸増計画の一環である、こういうことなんでありますが、一般の警察力から警察予備隊設置、こういう発展が画期的な問題でありましたように、今度の保安庁機構の法案は更に画期的なものがあると私は考えております。国務大臣予備隊から保安隊への変化はそう大したことはないのだと、こういうことまで何でもないようなことを言つておりますけれども、私は決してそういう感じは持つておりませんし、これはひとり私だけでなく恐らく誰も一応そういうふうに考えておると思うのであります。そうして更に考えられることは、保安庁法案で規定されておる保安隊、警備隊という形態は、将来或いは更に発展するのではなかろうか、まあこういうことも一応考えられるのでありますが、近い将来に保安隊、警備隊の形が更に別の形に変わるというようなことはありませんか。
  105. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府としては、そういうスケジユールは組んでおりません。
  106. 三好始

    三好始君 今度の法律案が自衛力漸増の一環として提出されておるということでありますが、こういう場合の自衛というのは如何なるものであるか。私は自衛カ漸増ということは、政府がしばしば使う表現でありますけれども、これが戦力との関係などから相当問題があるのでありますが、自衛という言葉は随分使うわけでありますから、自衛とは一体どういうものであるか、自衛力漸増計画というような使い方をする場合の自衛というものの本質をどういうふうにお考えになつておるかということを伺つて置かなければいけないと思いますが、この点の御説明を願いたいと思います。
  107. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 安全保障條約におきまして、自衛力の漸増という言葉は、「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負う」という表現を用いてあるわけでございます。先ほど来、御質問に対しまして自衛力の漸増という言葉について我々がその内容として考えながらお答えをいたしておりまする点は、この安全保障條約の前文にありまする「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負う」と、この言葉の内容を頭に置きながらお答えをいたして参つたつもりでございます。
  108. 三好始

    三好始君 自衛と申しますのは、国内法の概念ではなくして、国際法の概念であると私は考えております。国家の自衛という場合には、国家に対立するものが予想されておる概念でありまして、嚴密に申しますと、一部の国民の反乱のごときものは国家の内部の問題として考えられるのでありまして、自衛の概念とは別なものである、こういろふうに考えるのであります。従つて自衛と申しますというと、外国からの侵略を前提にしておる概念、こういうように思うのでありますが、如何ですか。
  109. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 私は日本語の表現といたしましての自衛というのは、先ほど申上げましたような意味を念頭に置きお答えをいたして参つたわけでございます。而して一般的に自衛という場合には、これは国内的な面は全然考えずに、国際的な意味におけるものではないかという御質問でございますが、私は自衛という言葉は、必ずしもそう狭く考えなければならん問題ではないと思います。例えば我が国で一時自衛団などという言葉もございましたが、これらは明らかに純粋な国内的な意味において用いられておつたものと存じます。
  110. 三好始

    三好始君 今の例の取り方はおかしくむしろ滑稽のような感じがするのであります。国家の自衛という場合には、やはり国家に対立するものが予想されての概念であることには間違いないように思うのでありますが、如何ですか。
  111. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) その点はもとより申すまでもないのでございまして、その対立する或るものが国内にある場合もあれば、国外にある場合もある、こう思います。
  112. 三好始

    三好始君 国内にあるものと言いますと、例えば革命を企図しておる一部の国民がある、そういう犯罪的な行為に対して、これを現存の秩序を護るということは、これは大橋国務大臣の言ろ自衛に入るのですか。
  113. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 純然たる国内的な面について、国の秩序を護るということを自衛と考えるかどうかということになりますと、これはいろいろ問題もあろうと存じます。安全保障條約におきましては「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負う」と、こういう表現をいたしてあるのでございまして、これは少くとも自衛というものは侵略に対するものであるということがこの字句からは出て来ると思います。而してその侵略というものは、これは本当の自国民の反政府的な行動という意味ではなくして、それは外部の国による教唆又は干渉によりて引き起されたところのいわゆる間接侵略というものが、この間接の侵略でありまするし、又直接の侵略ということになれば、これは外部からの武力攻撃と、こういうことになろうかと思います。いずれにしてもお話のような外部というものと全然かかわりのない言葉ではないのでありまして、侵略というものは、これは国外勢力というものを眼目においてのものであると私は思います。
  114. 三好始

    三好始君 余りこういう問題で長く時間をかける必要もないと思いますから、次に移りますが、侵略の定義が、一応の定義が下され得るとしても、窮極的には不確定な、主観的なものであるように、自衛の場合にも、その定義は必ずしも確定的に下し得ない場合があると思うのであります。現に日本は自衛の名によつて日清、日露以来の戰争を戰つて来たと考えられます。当時国民としてもそれが自衛であるということを疑わなかつたと思うのであります。それが果して正しい考え方であつたかどうかは別といたしまして、そういう場合にも、国外に出て行く場合にも、自衛という考え方が行われて参りました。(「歴史上の事実だ」と呼ぶ者あり)そうしますと、軍純に国外へ出動すれば侵略であり、国内で戰えばすべて無條件に自衛である、こういうふうに割切つてしまうわけにも行かないと思うのですが、この国内で戰うということは自衛で、海外へ出ることは侵略と、政府は必ずしもそう單純に考えておるとは思いませんけれども、予備隊は海外へは全然出ないのだ、こういう言葉でいろいろ説明の行われるようなこともありました、それは侵略を意図していないのだということを結び付けて説明されておるようにも思いますので、侵略と自衛との限界はそう單純に割切つてしまえるものではないという私の考え方に対して政府の見解を承わりたいのであります。
  115. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 三好委員の言われました今の御言葉は全く同感でございます。私の先ほどの説明自体が三好委員の言われたようなことを裏書きしておると思います。と申しますのは、間接侵略の場合を考えまするというと、間接侵略というのは、相手国からの日本の受ける間接侵略でございまして、日本側は飽くまでも国内におられるので、これは自衛でございますが、相手も相手国自身の国内におるわけでございまして、その正式の機関なり、或いは武力攻撃なりが日本に来たわけであります。従つて相手は相手なりに自分の国内におる、而もこちら側はそれを侵略として受取つておるというのでこぎいますから、自衛と侵略ということは、自国の内外ということは必ずしも関係しないものだという御説には全く同感でございます。
  116. 三好始

    三好始君 首相は三月十日の予算委員会において、自衛のためでも戰力を持つことは再軍備であつて、憲法改正を要するという有名な訂正発言をされておるのでありますが、自衛戰争そのものについては、現行憲法の下で可能であるかどうかということについて、従来そう明確な考え方が発表されたことは聞かないのであります。ただ先ほど大橋国務大臣は、憲法で戰争放棄をしておる以上は、自衛戰争もできないのだというような言葉を使われたと記憶いたしますけれども、この問題はもつと掘下げてお聞きいたしておかないといけない重要な問題だと思いますから、この点に触れたお尋ねを、一、二いたしたいと思います。政府は戰力に対して非常に特殊な定義を下しておるのでありますが、即ち近代職をなし得る能力を持つまでは、それは戰力でないのだ、だから憲法の改正も必要ではないのだと、こういうことを言つておるわけであります。こういう能力が生ずるまでの間に武力攻撃が発生した場合、現行憲法の下で自衛のための行動をとることが肯定されておるのか、否定されておるのか。軍純な行動は国内治安の問題として肯定する、但し自衛戰争はできない、こういうのが本日の大橋国務大臣のお考えであつたと思うのであります。ところで戰争は合意を要するものではありません。相手国が若し事実上の行動として侵入して来ただけでなくして、官戰布告をして入つて来た場合に、日本との関係は国際法上の交戰状態に入ると考えられますが、如何でしようか。
  117. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 相手国は日本の憲法に関係なしに宣戰布告して武力攻撃をするということは、これは決して理論上あり得ないことではないと思います。その場合において、相手国はそれを戰争なりとし、そして戰争状態であると、こういう主張をするかも知れませんが、我が国といたしましてその場合に、これに対して交戰国として応戰をするということは憲法上禁止されておりまするし、又そうしたことはなすべきでないと思うのでございます。従つてその場合においては我が国は自衛上の手段といたしましては、駐留軍の行動によつて実力を以てこれを阻止してもらうという措置がある場合でございまして、その場合に我が国の国内機関も国内治安確保という立場から、その任務に相応した行動に出るという状態でございます。従つてこれは日本としては戰争と認めるべき事態ではない、従つて日本としてはその場合に交戰権を主張するということはあり得ないことでございます。
  118. 三好始

    三好始君 非常に奇異な感のするお考えでありますが、それでは宣戰布告のない事実上の武力侵略が行われた場合には、戰争でないのだから憲法に抵触しない、自衛のための行動を積極的にとるといろお考えでしようか。
  119. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) その場合に日本側が受けて立てば戰争になるわけでございますが、日本としては受けて立つことはしない、米駐留軍の行動に待つという態度をとるべきであります。従つて米駐留軍がその実力によつて阻止する必要があれば、米国が相手国に対して日本侵略を理由として戰争に入るということはこれは十分に考え得ることでございますが、併しそれは飽くまでも米国と相手国との戰争で訪つて、日本みずからが交戰国となつたわけではございません。日本国としては国際法上交戰権を否認いたしております。
  120. 三好始

    三好始君 宣戰布告なく事実上の侵略と宣戰布告のある侵略とによつて日本の地位は相違がありますか、ありませんか。
  121. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) いずれの場合においても日本の地位は相違はないわけであります。戰争の開始というものは、宣戰の布告に基く場合と事実上の武力攻撃によつて始まる場合とどちらも戰争たるには同じでございますから、いずれの場合においても日本の地位に変りはないと考えております。
  122. 三好始

    三好始君 いずれの場合においても日本が主体的な行動として対抗することはできないのであつて、駐留軍の行動に対して協力する、国内治安の見地から協力する、その程度にとどめるのだというのが政府の考え方でありますか。
  123. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 一応そういう考え方をしております。
  124. 三好始

    三好始君 これは議論でなくして質疑でありますから、問題が明らかになれば次に移ります。大分明らかになつた問題が多いのでありますが、一番大きい問題として残つておるのはやはり憲法第九條第二項の解釈の問題だと思うのであります。ここでは注目すべき問題が二つあります。予算委員会で大問題になつた戰力の問題、それから後段の「国の交戰権は、これを認めない。」という規定の問題、順序は或いは逆になるかもわかりませんが、先ず第九條第二項後段の「国の交戰権は、これを認めない。」この規定がどういう意味のものであるかということをお尋ねいたしたいのであります。「交戰権は、これを認めない。」という規定をいたしておる交戰権というのは、交戰をするという権利を意味するとお考えですか、それとも交戰者が持つておる具体的な権利を指しておる、こういうようにお考えになつておるのでしようか。
  125. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府は第九條第二項後段の「国の交戰権」という解釈といたしまして、国際法上国家が交戰国として認められておる権利という意味に解釈をいたしております。
  126. 三好始

    三好始君 国際法上の権利として認められておる交戰権を日本の憲法は認めないというのはどういう関係になりますか。国際法と憲法との関係でそれをどういうふうに理解したらよいでございましようか。
  127. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 国際公法はもとより一国の国内法を以て変更することは許されないものでございまして、我が国が憲法において如何なる規定をいたしましようとも、我が国が国際法上持つところの権利というものはいささかも増減しない理窟であります。但し我が国はこの国際法上の権利を利用し、或いは主張するということはしないということをみずから宣言しておる、一方的に宣言しておるというだけの意味であると考えております。
  128. 三好始

    三好始君 これは先ほどの問題にもう一度触れるのですが、他国から宣戰布告をされてもその国及び第三国に対して交戰権を主張しないというのは、戰争の成立が合意存要しないというそういう関係から考えて見まして、どういうふうに理解したらいいのか、ちよつと憲法第九條第二項後段の規定は非常に意味の捕捉しがたい点が感じられるのですが、この点もう一度合意を要しないという関係から御説明を頂きたいと思います。
  129. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 戰争は事実上の状態でございまして法律行為ではございませんので、従つて一方は戰争するつもりで事実上の行動をとれば、それで国際法上の戰争というものはでき上るわけで、従つて相手国としましては国際法上の交戰権を持ち、それを主張する権利が国際法上認められるわけであります。然るに我が国といたしましては、その場合に交戰権として認められる権利をみずから放棄をいたしておるのでありますから、その場合に我が国が事実上でき土つておるところの状態において交戰国としての権利を主張するということはいたさない、従つて我が国としてはこれを戰争と認めるわけには行かない。こういうことだと思います。
  130. 三好始

    三好始君 そういたしますというと、佐々木惣一博士が説明或いは主張しておるところの、権利としての交戰権の放棄は一事実上の交戰をすることが妨げるものではない、こういう権利としての交戰権と事実上の交戰をするという行為とを区別して考えておる立場を政府もとられておるわけですか。
  131. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府といたしましては、交戰ということはやはり交戰国として戰争を、自国としての戰争目的を遂行するためにやる行動である、こう考えておるわけでございまして、そういう行動をするだけの基礎として戰力というものが必要になるわけでありますが、政府は憲法によりまして戰力というものを持つておらん、ただ国内治安維持の力だけを持つておるのでありますから、国内治安維持のために必要な限度で、そのために許されておる能力をその場合に国内において発動するということはありまするが、併しこれは、交戰とすべき状態とは政府としては考えていないわけでございます。專ら交戰手段の面に至つては駐留軍の戰力にこれを依頼する、こういうふうな考え方でございます。
  132. 三好始

    三好始君 憲法第九條第二項後段の「国の交戰権は、これを認めない。」という規定の趣旨は、事実上の交戰としての外国軍隊への抵抗も容認していないのだ、そういう事実上の交戰をすることに伴つて生ずる交戰者の権利を認めないのだ、こういうふうに考えられるのでありますが、如何でありますか。
  133. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 国内治安の破壊に対してこれを実力で以て処理するということは、これは警察予備隊としましては、当然任務の範囲に属する事柄であります。たまたまその任務の範囲に属する事態が起りました場合は、それが如何なる対象であろうとも、任務の範囲内において行動するということは当然許さるべきことであると思うわけでございます。従いまして警察予備隊が力及ばずといえども治安維持のために実力を行使するということはこれはあり得ることと存じます。
  134. 三好始

    三好始君 外敵が侵入して来た場合に、国内治安の見地から今お使いになつた表現をそのまま使いますというと、力及はずともこれに対して行動をとるのはこれは許されるのだ、こういうお考えのようでありますが、そういたしますと、国内治安維持の見地からする行動と、外国から侵入して来た軍隊に対して交戰をするという意味の自衛との区別はちよつとつきかねると思うのでありますが、その限界が果してつけられるでありましようか。
  135. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 外国からの不法の侵入者というものは、すべて我が国の警察権に服すべきものであつて、我が国の警察力がそれを処理する能力があるかないか、これは別問題であると存じます。併しそれ自体が治安の破壊という結果を生じている以上は、治安を確保するという目的のために警察予備隊が行動に出るということは当然考え得べきことと存じます。
  136. 三好始

    三好始君 それでは自衛戰争もやはり警察行動だと言えないことはないということになつて来ますが、国外に出て行かないで、外敵が侵入して来た場合に国内で抵抗するということにとどまつておる自衛戰争は、実は政府の考え方から申しますというと警察行動に過ぎない、こういうことになりますが、それでいいですか。
  137. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 御質問甚だ御尤もに存じまするが、私のお答えの真意といたしましては、警察行動として不法な侵入に対しまして保安隊が行動をするということはあり得る、これは国内の警察行動である、而してそれは自衛戰争というがごとき状態にまで発展するものではない、何となれば警察予備隊、保安隊といろものは戰争するだけの十分な能力を持つておりません。従つてその範囲で行われる事態は、これは戰争という状態にまでは発展しない、こう考えております。
  138. 三好始

    三好始君 戰争というようないわゆる国際法の問題は、防ぐ能力があるとかないとか、そういう有効な力を持つておるとかおらないとかで、戰争であつたり、或いは国内治安維持のための警察行動であつたりするものではありません。私はそういう点について大橋国務大臣の考え方が非常に無理な論理をこじつけて作り上げようとしておるような感がして仕方がないのであります。自衛戰争と国務大臣の言われる国内治安確保のための警察行動というのは、本質的に区別できないんじやないか、日本の予備隊が持つておる力が政府の定義する戰力に至らないから、それは戰争ではなくして警察行動だ、こういう論理の進め方は非常に奇妙な感じがするのでありますが、如何でしようか。
  139. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) ただそれだけでありますると、それは負ければ全部戰争でないというような状態になつて、勝てば戰争、負ければ戰争でないというので非常に奇妙なことになつて来るですが、この日本の戰争をしないということは、その裏付けといたしまして、現在日米安全保障條約というものがあるわけでして、米国駐留軍というものが必要があれば戰争を引受ける、こういう状態が前提になつておるわけでございます。従つてそういう場合において相手が戰争をしかけて来れば、その戰争の相手としてこれを引受げるのは駐留軍である、従つて日本は国内治安の確保ということだけの行動しかしない、こういうことになるわけであります。
  140. 三好始

    三好始君 やはり非常に不自然なお考え方のような印象を受けるのであります。政府の考え方の基礎になつておるのは、やはり有効適切に近代職を遂行し得る能力を持たなければ戰力でもないし、そういう戰力を持たなければ戰争は考えられない、こういつたところから出発して非常に不自然な論理が展開されるのじやないかと思うのでありますが、それは出発点である戰力の考え方の誤まりにも原因すると思うのですが、いずれにしましてもお考えのように駐留軍だけが戰争の当事者になるのであつて、どんなに外国からの侵略軍に抵抗する武力行動をとつても、予備隊の行動は決して戰争行為ではない、或いは対外的な武力行動ではなくして、軍なる国内治安維持のための警察行動に過ぎない、こういうお考えのようでありまして非常に不自然だと思うのでありますが、私は政府の考え方を要約して申しました。そういうことをやはり政府としては確信を以てお考えになつておると了解していいのですか。
  141. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) 只今の点でございますが、これは大橋国務大臣が仰せになりました通りでございますけれども、なおそれに一点附加いたしますれば、国際法上戰争というものが一体何であるかということに帰着する点もあろうかと思うのであります。戰争といいますのは、これは申上げるまでもなく、特定の国家間における武力衝突、敵対行為であつて、その敵対行為という関係が生じ、それに国際法上、平時においては認められないところの別種の法規が適用されるということに相成るものであろうと考えております。それで先ほど国際法と国内法との関係がございましたが、我が憲法におきましてはとにもかくにも交戰権を第九條第二項の規定によつて否認をいたしておりまして、我がかたといたしましてはこの権利の主張ということをいたされないわけでございます。このような関係は今までの歴史上に起つた戰争というところから律し切れないものがございますので、そのような今までの概念で申上げまして戰争というものを理解した場合に、やはり御指摘のような場合が果してそのような戰争になるのかどうかという点が大きな疑問の一つであろうと思います。これは大橋国務大臣が御答弁になりましたところと別に矛盾をすることでは全然ないのでありますが、ただ一点その点を附加いたしておきます。
  142. 三好始

    三好始君 私は憲法が交戰権を否認しておるから特定の行動が戰争にはならないのだ、或いは憲法が認めないからそれは戰争ではあり得ない、こういうふうに若しお考えになるとすれば、それは論理が逆立ちしておる。事実が憲法の否認しておる戰争に当るのか、当らないのか、こういう問題だと思うのですが、その点は如何ですか。
  143. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) 事実が戰争であるかどうかというお言葉でございますが、とにもかくにも一つの実力と他の実力が衝突するということがあり得ることは、特定の場合について、例えば保安隊、警備隊にしても他国の侵略がありました場合には、それは警察の任務途行上必要なものとして、つまりもつとはつきり申上げますれば、警察の責務となつておりまする犯罪の鎭庄と言いますか、そういうような責務といたしまして、要するに警察目的として一種の自衛行動に見られるような行動がそこに事実として現出するということはあり得ると思うのでございまするが、それが法的な戰争と言えるかどうか、そこにはやはり一応の区別ボあるのじやなかろうか、こういうふうに考える次第でございます。
  144. 三好始

    三好始君 政府のたびたびの説明に出て参りますように警察予備隊、或いはそれが改編されることが予定されておる保安隊等は、外敵が侵入して来た場合にこれに対抗することが予定されております。ところがそれは飽くまで警察の立場で、外敵が侵入して来ても国内治安を守るという立場で行動するのだ、だから憲法違反でないのだ、こういう論理を進めて参りますというと、極めて強大な近代戰を遂行し得るような能力を持つた警察を作つて、外敵が侵入して来ても国内治安維持の見地から警察行動としてこれに対抗するのだ、そういう事態に備えるために設けておるのだ、こういう論理が成立するのでありますが、それでもよろしうございますか。
  145. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) 現在の警察予備隊なり、只今政府から提案になつておりまする墜備隊、或いは保安隊、そういうものが外敵の直接の侵略を目指して設置されたものでないということは政府から、特に又大橋国務大臣からしばしばお話があつた通りでございまして、それを直接の目的として設置しているものでないことは改めて申上げる必要もないと思います。ただこれもすでにお話が出たところでございますけれども、警察というものがその任務を持つて存在しておりまする以上は、それは如何なるものが如何なる程度においてにせよ一定の犯罪行為なるものが国内で、つまり日本の国法の及ぶところで発生いたしました場合には、それに対して警察目的の観点からこれを鎮圧するということは当然のことでございまして、それがために、それがあるが故にその装備なり編成なりが軍隊になつたり、或いはその行為が直ちに戰争になるということにはならないのじやないかと考えておる次第でございます。
  146. 三好始

    三好始君 政府が予定しておる事態というのは、軍純な国内治安の問題ではなくして、やはり外国から軍隊が侵入して来るというような場合が予想されておる。そういう場合にも專らこれに対抗するのは駐留軍であるけれども、予備隊も協力して参加するのだ、但しそれは主体的な戰争という意味ではなくして警察行動としてやるのだ、こういうことを言つておるのであります。決して軍純な国内治安のみを考えておるのでないことは極めて明瞭なのであります。そういう場合に外敵に対抗することが明瞭に予想されておる、それが主たる目的ではなくとも予想されておるという場合には、その範囲で予備隊或いは設けられる予定の保安隊は、單純な国内治安だけを意図しておるものとは性格が違つて来る。若し政府が考えておるように警察行動としてやるのだから差支えないという論理を進めて行くと、さつき私申しましたように非常に強大な外敵に対抗し得る警察を持つてそれは国内治安に加えられた大きな侵害だからというので、外敵に対しても当然に対抗して差支えない、警察行動だから違憲でない、こういうことになりますというと、それは自衛戰争と警察行動との限界がなくなつてしまう、自衛軍と警察の限界も全然そこに認められない、こういうことになりはしないかと私は思うのでありますが、もう一度この点をはつきりお答え頂きたいと思うのであります。
  147. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 純粋に理論的に掘下げて参りますと、或いは三好委員の結論されるようなことが理論上結論として出て来るかも知れませんが、併しながらこれには一つの約束があるわけでございまして、その約束というのは憲法の第九條というものであります。即ち日本といたしましては、外敵の侵入に対しては警察行動はとるけれども、戰争をするものではない、交戰権は否認しておる、こういう憲法が一方において現存しておるわけであります。又「戰力は、これを保持しない。」という憲法の規定が確立せられておるわけでございまして、その範囲において国内治安のために組織されるところの保安隊なり警察予備隊なわというものは、おのずから現憲法下の予備隊として実際上の面においてその装備なり、又力の強さなりというものには限度があると思うわけであります。又政府はそういう限度があるべきであるという考え方に立つておるわけでございまして、御質問のような無限に強大なところの装備充実ということが行われれば、御質問のような結論となるかも知れませんが、現実には憲法の制約下においては、おのずから限界があると、こう考えております。
  148. 三好始

    三好始君 警察行動に憲法第九條の限界があるということは、これは問題のないところでありますが、私はその限界というのは、外敵に対しては戰わないという限界だと思うのでありまして、戰うけれどもその程度の問題は憲法によつて判断しなければならない、こういう判断の余地はないと私は思うのであります。外敵に対しては戰わないというのが、憲法ではつきりしておる限界だと思いますが、如何ですか。
  149. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 外敵に対しては一切戰わない、無論これを完全に撃退する力はなくとも、駐留軍の職力というものを基本にして或る程度これに協力するだけの力はある、併しその場合においてもそのために力を使わない、こういう御解釈でこぎいますが、その点が政府と考え方が違つておる点だと存じます。
  150. 三好始

    三好始君 これは考え方が違つておるということで片付けられましたが、私は繰返して申しておきますが、憲法が認めないからそれは戰争でない、こういう形で事実を憲法の範囲内に当てはめて解釈しようというような態度は実は考え方が逆である。これを繰返して申しておきます。政府はさつき国務大臣の言われた、幾ら警察行動として外敵に対して行動がとれると言つてもそれには憲法の限界がある、むやみに強大に警察力を名目的にだけ警察の名において持つことは憲法の限界があるからできない、こういうことであります。ところがです、政府が考えておる限界は何かと申しますというと、近代戰を遂行し得るに足る能力がこれが戰力である。それに達しない程度のものは戰力でないから持つても差支えない、こういう論法の限界でありますから私は非常にその辺に問題があると思うのであります。近代職を遂行し得るに足る能力として原爆であるとか、ジエツト機が問題になりましたが、その原爆やジエツト機を持つてつても、人がそれに伴つておらなかつたならばそれは戰力でない、こういうふうに発展して行きまして政府の考えておる戰力というのはどんなに強大なものであるか、ちよつと予想に苦しむほど大きなものが考えられておるようなんであります。だからそういう戰力に達しない政府の定義するような、戰力に達しない装備を持つた警察であれば憲法の限界内でできる、まあこういう印象を受ける。今の大橋国務大臣の御答弁はです、非常に不自然であり、それは強大な事実上の軍備を警察と名付けて事実上の自衛戰争の状態を警察行動と名付けるという結果を招来するだろうと、こう思うのでありますが、如何でございますか。
  151. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府といたしましては先ほど来申上げたお答えを繰返えすばかりであると存じます。憲法の限界を越えて警察のためといえども実力部隊を組織するということは、これは許されていないわけであります。従つてそうした程度の装備を持つということは現憲法下においてはあり得ない。従つて事実上侵略がありました場合においては日本みずからの手によつてこれに対して防衛をするということは不可能でありますから、駐留軍の実力に依頼しなければならない。その場合において警察力の範囲内において事実上相手方に対して行動に出るというのは、これは当然あり得るのであるし、又その場合が、その状態が相手国に対して日本が交戰権を行使しておるということではない、こう考えるあけであります。
  152. 三好始

    三好始君 それは政府が従来定義して来た第九條の戰力の定義であるところの近代職を有効適切に途行し得る編成装備を持つた力に達しないものであれば、これは政府の言う戰力でありませんから、警察がその程度の装備を持つことはこれは憲法で許されておることである、併しそれは政府の考えておる戰力ではない。そういう装備を持つた警察が外敵に対して対抗することはです、駐留軍に協力して対抗する場合でも同じでありますが、対抗することは圏内治安維持の見地からする警察行動として説明ができる、違憲ではない、こういう信念に立つておられるわけですか。
  153. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) その通りでございます。
  154. 三好始

    三好始君 そういたしますというと、問題が近代戰を有効適切に途行し得る編成装備が戰力である、こういう予算委員会で大問題になつた戰力の問題に触れて来るわけであります。戰力をめぐつての数点のお尋ねをここでいたさなければいけないことになるのでありますが、この場合には近代戰を有効適切に遂行し得る力と申しますのは、強大な武力を備える国に対して日本だけで独立して有効にこれを防衛する、軍備を持たなければ戰力とは言えない、こういうことなんですか。
  155. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) 戰力の程度と言いますか、規模と言うのは一体何であるかという御質問になると思うのでございますが、これは申上げるまでもなく非常に数字的にはつきりと御満足の行くようなお答えをすることは事柄の性質上むずかしいのであります。それはお察し頂けると思うのでございますが、戰力というものが要するに古今東西を通じて絶対的に一定不変の内容を持つということは言えないので、一国の置かれました四囲の環境によりましておのずから定まつて来る、まあいわば相対的な概念であろうと思うのであります。で憲法が保持を禁止しております戰力、つまり我が国の戰力、これは日本が置かれた四囲の環境に応じまして客観的に判断せらるべきものであるというほかないのであります。それは一概に強大国を相手に防ぎ得る能力であるとか、或いは弱小国を相手に防ぎ得る能力だとはちよつと申上げかねるわけであります。これも最初に申上げました通りにきちつと申上げることならば非常にいいのでありますが、これは事柄の性質上只今申上げたぐらいしか申上げられないわけであります。
  156. 三好始

    三好始君 どの程度まで到達すれば戰力であるかという問題は、私は憲法第九條の解釈から言えばそういう問題は起らない。非常に簡明に九條を解釈できる方法があると思うのでありますが、政府の解釈の立場から言つて、どの程度の状態に達すれば戰力であるかというのは非常な問題だと思うのであります。それをです、なかなか表現できないとか説明できないとかということで片付けるのでは決して問題を明らかにすることはできません。例を挙げて申しますると或る国に対して対抗できるような程度に達しなければ近代戰争能力と言えないのか、又その他の或る国に対して対抗できる程度のものでもそれは戰力と言えるのか、この間には随分隔たりがあるわけであります。そのどちらであるということは言えないというようなそんなことでは政府のとつておる戰力の定義というのは全く捕捉できない、訳のわからんものになつてしまうのであります。その大きな隔たりのある、どちらとも言えないというのではおかしいのでありますが、そこをもつとはつきりした形でお答え頂きたいのです。
  157. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 只今三好委員の御質問は、戰力というものが非常にあいまい模糊としておるという点を、政府の考え方があいまい模糊としておるという点を御指摘になつたわけでございますが、政府のほうといたしましては、戰力というものについてはおのずから一定の限界以上のものでなければならないということをたびたび申上げております。その一定の限界といたしましては、近代戰争遂行の能力という表現を用いておるわけでございます。近代戰争の遂行というのは、これはどの国と近代戰争を遂行するのかという、そういうふうな意味ではなくして、今日の各国の軍事水準というものを基準として考えまするというと、世界の軍事水準の上で一つの近代戰争という観念がおのずからでき上つて来ると思うのであります。例えば或る国において百名か二百名の極く少数の部隊しかない、これに対して他国が攻めて行つたときに、それが一体近代戰争と言われるかどうか。これは規模の面からだと思いますが、規模の面からも近代戰争ということについてはおのずから一つの考え方があります。又戰争において使用されるところの武器の技術的な水準なり或いは量、こういつた点からも近代戰争というような一つの観念が打建て得ると思うのでございます。例えば今次の戰争のごときものは、これは一つの近代戰争であります。又朝鮮に起つておるような事態も、これはやはり近代戰争というものの一つの姿であると考えるべきだろうと思います。こうした近代戰争を遂行するだけの規模なり程度なりになつておるかどうかということによつて戰力というものの基準をきめようというのが政府の考え方であるわけでございます。
  158. 三好始

    三好始君 大橋国務大臣も木村法務総裁も全く同じ考え方の上に立つておると思いますので、便宜上、法務総裁が三月十日の予算委員会で答弁された速記録を引用してお尋ねするわけでありますが、法務総裁は「たとえ自衛のためであつても戰力を持つというようなことであれば、或いはそれは戰力が惡用されるようなことになる。その危險を防ぐために憲法第九條第二項においては「陸海空軍その他の戰力」を持たぬという規定が設けられておるのでありまして」云々と、こういうふうに述べておられます。私は政府の考え方で疑問に思いますのは、自衛戰力が惡用される危險は禁ぜられておるけれども、戰力とは近代戰をなし得る能力である、こういうような解釈の下に事実の再軍備が行われる危險は禁ぜられておらないというのでありましようか。
  159. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府といたしましては、現在の憲法というものが再軍備を明らかに禁止しておると、こう考えております。如何なる意味においても再軍備は禁止せられておる、こう思つております。
  160. 三好始

    三好始君 政府は、近代戰を遂行し得る状態にまで到達しなければ戰力でない、だからその範囲内であれば憲法違反でないから武力を持つてもいいと、こういう解釈をとつておると言わざるを得ないのでありますが、それがです、近代戰を遂行し得るに足るところまで行つていないものであればいいという立場をとつておるのですから、たとえ軍備を持つても近代戰遂行能力に達しない軍備だつたら差支えないということになりそうですが、如何ですか。
  161. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 御質問にお答えをいたすには、私どもは戰力という問題をもう一段掘下げる必要があると思います。例えば今日仮に日本が戰争を遂行する、併しそれは自衛の戰争である、こういうふうなために近代職を遂行し得るだけの程度に達しない部隊を持つたと、そういう場合に、これは憲法違反であるかないか、こういう御質問だろうと存じますが、そういう意図のために持つ場合においては、これも又憲法違反であると、こう言わざるを得ないと存じます。例えば警察予備隊を、戰争をするということのために組織をして行くということになりますれば、その組織の過程において初めは何にもないところからだんだんまあ武器が殖えて来る、そうすると近代戰争遂行の程度まで装備が拡充されて来ると、こういうことになり、いつから憲法違反の状態が生じたかと、こういうことになりますると、それはやはりそういう戰争の意図を以てそうした組織を作り上げるということになれば、そのときから憲法違反の状態が生じると、こういうのが先ず自然であろうと思いまするので、その場合における政府の意図というものも、やはり戰力を判定する一つの重要な資料として十分に検討して見る必要があるだろうと存じます。
  162. 三好始

    三好始君 その意図は主観的に考えられるべきものですか、客観的に考えられるべきものですか。
  163. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 主観的、客観的という言葉の意味でございまするが、併しそういう意図が明らかであるということが一般に考えられれば、これは意図がある、従つてよろしくないと、こういうことになろうかと思います。
  164. 三好始

    三好始君 法務総裁の、或いは大橋国務大臣の言つておる、戰力には達しない程度の武力であつて実質上の陸軍或いは海軍、こういうものができるとすれば、それは今までのお答えでは、戰力とは言えない、こういうことになつているわけですが、それでいいですか。
  165. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 近代戰争遂行という程度にならなくとも、日本の政府自身が、或いは日本国みずからが戰争を遂行するということをまに置いてそうしたものを作れば、やはりこれは憲法に違反すると、こう考えることが自然だろうと思います。
  166. 三好始

    三好始君 その戰争の意図というのがです、例えば戰争のみに目的を置いておるという、全部を戰争に向けておる場合と、戰争にも使うという場合とで区別があるんですか、ないんでんか。つまり戰争意図が部分的である、こういう場合にもそういう武力は許されないと考えていいですか。
  167. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) これは戰争を主たる目的としてそういうものを作つた場合には、それは違反であると、こう私は思います。他の目的のために作つたものが、侵略に際して警察行動としてたまたま用いられ、これを目して戰力として所持しておつた、従つてこれは違反であると、こういうふうに考えることは適当でない、これが私の考えであります。
  168. 三好始

    三好始君 それでは部分的に戰争を予想しておるに過ぎないのであつて、主たる目的は国内治安の維持である、こういう部隊は実質上陸軍、海軍の実体を備えても、近代職の能力に達しない場合には許されていい、こういうわけですね。
  169. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 本来の目的として警察のために組織されました部隊は、これはその裝備もおのずからその警察の目的ということによつて限界があると思います。そうしたものがたまたま侵略に対して本来の目的たる治安確保のために使われる、それが戰争をしかけた相手に対してこれを守るという立場に立つた、例えば米国の駐留軍というものの行動に協力いたしましても、それは軍隊というべきものではないと、こう思つております。
  170. 三好始

    三好始君 私は主たる目的が国内治安の維持としての警察行動に置かれておる場合には、差支えないような政府の考え方に対して相当疑問を持つのでありまして、そういう考え方をとりますというと、やはり実質上の軍備と警察との区別がなくなります。自衛戰争と警察行動の区別は恐らくなくなつてしまうだろうと思うのであります。先ほども問題になりましたように、政府は外敵侵入によつて起る状態も、国内治安の問題として規定しておるわけでありますから、私はその間の限界は全くなくなつてしまう、だから政府の立場を進めて行きますというと、実質上の再軍備が現行憲法の下で警察の名によつて行われるという危險が多分にあると思うのであります。国民の殆んどのものが軍備であると思つておる部隊が、政府だけはこれは警察であるという理窟をこじつけて存在する、こういう虞れが今の政府の解釈の仕方では多分に起り得ると思うのでありますが、如何でしようか。
  171. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 私は只今申上げました解釈を厳格に実行いたしておりまするならば、憲法違反の状態は起らないと思つております。
  172. 三好始

    三好始君 非常におかしい考え方だと思うのでありますが、それでは陸海空軍という表現を第九條第二項で使つておりますが、ここに使つておる陸海空軍というのは三者の総合体を意味しておる表現ですか、それとも陸軍、海軍、空軍という別々のものを列挙して個々のものも一応第一項で考えられておるという意味に理解せられるのですか。
  173. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 陸海空軍というのは、これは陸軍、海軍、空軍ということだろうと思いますが、これらはいずれも戰力の一つの形でありまするから、例として掲げたのが、この第九條の表現だと存じます。
  174. 三好始

    三好始君 政府は名目はどうであろうとも、実質上近代職を遂行し得るような能力に達すれば、それは戰力であり、憲法の容認しないところである。名前は軍と名付けなくても、そういう実体を持つに至れば、憲法では許されないことだと、こういうふうにお考えになつておりますか。
  175. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) その通りでございます。
  176. 三好始

    三好始君 そういたしますというと、軍という名前は付けないけれども、実質上の陸軍、海軍を持つておる、非常に強大な実質上の陸軍、海軍を持つておるが、空軍は持つておらない、こういう場合を予想しました場合、それは第二項で禁ぜられておる戰力に入るかどうか、こういう問題をお伺いいたしたいと思います。
  177. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 空軍はなくとも、陸軍と海軍を持つておれば、これは戰力を持つておるということになりますれば、更に進んで陸軍なら陸軍、海軍なら海軍を持つておるということも戰力たることには違いないのであります。
  178. 中川幸平

    中川幸平君 議事進行について。三好君からいろいろ御質疑があつて、非常に参考になりまするが、この警察予備隊海上保安庁……戰力であるかないかという、即ち憲法違反であるかないかという問題は、予算委員会以来非常に論議された問題である、大いに関連して非常に違憲の疑いがあるということで、本会議でも問題になりました。結局大多数を以て違憲にあらずということに認めておる。私の考えでありますが、全部が全部はつきりと違憲にあらずとして大多数がなつたものでなかろう、中には違憲の疑いもあるけれども、今日の我が国の現状からの段階からして、さよう認めざるを得ないという人も中にはあるのじやなかろうかと、私はかように解釈して参りました。然るに三好君は国民の大多数が違憲であるけれども、政府はこじつけて違憲にあらずとしてやられるというようにいろいろ論議されておりますが、三好君におかれましても現在の我が国の段階からさように認めざるを得ないという前提の下にこの法案審議をしてもらいたいと、私さように思うのでありまして、それはまあ何でありますけれども、相当法案もたくさんあることでありますから簡潔に一つ質疑を進行願いたいと、かように希望いたす次第であります。
  179. 松原一彦

    ○松原一彦君 私も議事の進行について希望を申述べますが、中川さんの御希望は会期末に迫つて設置法の審議を急がねばならんから簡潔にという御要求であります。それは御尤もだと思います。併し三好君の今掘下げておりますこの質疑は非常に重要なる基本的なものでありまして、この保安隊を持つことはいけないという結論ではないのであります。私はさように拝聴しておるし、どうすれば日本の現実にかなうようなことが法理的にも国際的にも可能であるかということを研究いたしておる、私もこれについては質問がまだある、私はやはりこの点につきましては理想論と現実論との間のことにむ質問があります。軍隊でなければ本当の治安の維持はできないというのであります。これはもう世界的の現実である。軍隊なき治安の維持はあり得ない。従つて軍隊を否認するかせんかじやない。問題は憲法を改正しない前においてかくのごとき違憲的な行動が許されるか否かにある。だからこの問題を掘下げることは重大な問題でありますから、中川さんの仰せにもさることながら、折角今ここに予定の質問書を出してそして理論的に掘下げて行つておるのでありますから、今暫らく質問を継続するように希望します。
  180. 中川幸平

    中川幸平君 結構でございますけれども、簡潔に一つ御進行をお願いいたします。
  181. 河井彌八

    委員長河井彌八君) 委員長として、見解を申上げます。中川君の御意見で、例えば予算委員会等において、或いは参議院の本会議において結論が出ておるとはおつしやいましたけれど、この委員会においてこの法律案審議する上におきましては、根本問題の検討というものは相当に徹底すべきものだと委員長は考えております。従いまして今我々は極く限られた期間にこれらの問題を処理しなければならんということに当面しておりまするから、その点をよく見計らわれまして、そうして質疑を徹底するということに委員諸君は御承知ではありますけれども、そういうふうにして頂きたいということを希望しておきます。従いまして夜遅くなつてもよろしいですし、朝は定時にちやんとおいで下すつて、そうして遠慮なく審議を進めて頂きたいとい、ことを希望いたします。
  182. 三好始

    三好始君 私はできるだけ質疑は簡潔にいたしておるつもりなのですが、質疑項目が非常にたくさんあるものですから、相当時間がたつことになつて恐縮なのですが、なお予算委員会の速記録は全部調べて見ましたが、私は予算委員会で取上げたような性質の問題にしましても、できるだけ触れなかつたような問題、或いは触れなければならないような角度からお聞きいたしたいというつもりで進めておるつもりであります。  それでは次に移りますが、「その他の戰力」ということが非常に問題を含んでおることは御承知の通りであります。「その他の戰力」の中には潜在戰力を含むかどうかということは、非常な議論の分れるところでありますけれども、これは戰力になり得る可能性のあるものというふうに考えることが通説でありますので、潜在戰力も含むものだろうという考え方が強いわけであります。ところがそれを含むということになりますというと、警察力も潜在戰力になる。ところが第九條第三項は潜在戰力としての警察までも禁じておるとは思えない、だから潜在戰力を含むという説はどうもおかしくなるから、この考え方は問題がある、こういう意見が一方で行われておるのであります。成るほど平面的に考えますというと、潜在戰力を一切禁止しますというと、産業活動も停止してしまう、こういう状態が考えられます。だから潜在戰力は含まないのだというのが政府の考え方でもあるようであります。これは予算委員会の三月十四日の速記録にも非常に明瞭に出ておる政府の考え方であります。ところが第九條第二項は、潜在戰力の潜在を認めないと言つておるのではありません。保持しないと言つておるのであります。即ち第二項の精神を全体として考えて見ますというと、戰力の意図を以て保持しない、まあこういうことであります。陸海空軍は戰うという意図がないということは絶対に申せませんから、勿論第九條が禁じておるところでありますけれども、「その他の戰力」に含まれておる潜在戰力は、それが潜在するだけでは違憲ではない、だから警察がある、予備隊があるというだけでは違憲ではない。又港湾施設や工場があるというだけでは潜在戰力であるけれども違憲ではない。その潜在戰力が対外的な武力行動を意図して保持されるときには違憲となつて来る。第九條第三項はこういうふうに考える場合にのみ明快な結論が出て来るのじやないかと思うのでありますが、この点の考え方は如何でありますか。政府はその他の戰力という問題についてどういうふうにお考えになつておられましようか。
  183. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) 第二項の「陸海空軍その他の戰力」という「その他の戰力」ということについて極めて精密なお考えをお教え願つたわけでございます。政府といたしましては、只今の御指摘でもございましたように、「陸海空軍その他の戰力」というところを見ますと、陸海空軍という完成された形のものを戰力の例示としておるわけでございますので、「その他の戰力」とは陸海空軍という名称の如何を問わず、実質上陸海空軍に匹敵する体制にある力、完成された力そういうものにあるものをその他の戰力ということと解しておるわけであります。御質問の中にもございました潜在戰力というものについては、政府の第二項の解釈といたしましては、一般的に言われておる意味の潜在戰力というものは別に考えておらないわけであります。
  184. 三好始

    三好始君 そういたしますというと、「その他」という言葉の解釈は、陸海空軍に匹敵する、こういうふうに解釈せられておるわけですが、陸海空軍という例示的に陸海空軍というのを挙げまして、それと類似の匹敵するものでないと戰力とは言えないのではないか、こういうふうな解釈をとつているのですか。
  185. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) 陸海空軍というのは、これは先ほど大橋国務大臣からお話がございましたように、これは戰力である、この一つをとつてもそうであるというふうに仰せられた通りでございますが、その他の戰力というものにつきましても、いわゆる近代戰争を遂行するというような一般的な基準はありますけれども、それに匹敵されるような完成された力、潜在的ということじやなしに完成された力、「その他」というものは、そういうものの例示があつての力、こういうふうに解しております。
  186. 三好始

    三好始君 この問題について予算委員会では專ら英文との対照で議論が鬪わされたようでありますが、私は憲法の問題ですから憲法の條文を引用して比較をして見たいと思うのですが、第九十九條に「天皇又は攝政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」、こういう規定があります。ここで「その他の公務員」という言葉を使つておるわけでありますが、第九條第二項の「その他」の解釈に対する政府の態度をそのまま貫きますというと、第九十九條で使つている「その他」というのは、天皇、攝政、国会議員、裁判官がこれらに匹敵する公務員、こううことになるのですが、それで九十九條の解釈はよろしうございますか。
  187. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) それは「その他の」という例示をとる場合の例のとり方でございますが、只今申上げました陸海空軍その他の戰力というものは、戰争という例示としての問題としてとるわけでございますし、この場合には公務員であるかないか、公務員としての例示の問題でございます。従つて常に「その他の」ということがあるからして、その前の匹敵するものということに常に当てはまるということは言えないのでございます。それはおわかり願えるかと思うのでありますが、「その他の」使い方の問題で常に匹敵するものというふうには言えないと思います。りこれは法律によくございます場合につきまして「その他の」というところの例示のとり方の問題、いろいろな場合があり得ると思います。
  188. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 大体おわかりと存じますが、只今の高辻政府委員説明を補足して申上げます。「その他の」というのは、匹敵するという意味があつてはおかしいじやないかという点はその通りでございまして、高辻政府委員から匹敵するということを申上げましたのは、陸海空軍というのは、戰力の例示としてこれは挙げられております。戰力というものは近代戰争を遂行する手段であります。従つて陸軍も近代戰争を遂行する手段であり、海軍も空軍も同様である、それでは陸軍、海軍、空軍のほかに何か戰力はないか、そうすればそれはやはり近代戰争を遂行する能力でありますから、これらに匹敵するだけの能力を持つたものでなければならない、こういう意味において匹敵するという言葉を申上げたわけであります。ですから匹敵するというのは戰力の説明として申上げたのでありまして、その他の説明として申上げたわけではないのでこぎいまして、陸軍、海軍、空軍以外に戰力ありやということになりますと、現在のところは先ず常識的にはこういうものと言つて挙げることはできませんが、何か新型の軍でもできましたならばそれがこれに該当するかも知れません。そういうものをも戰争遂行の手段は禁止するという意味で戰力の保持は許さない、こう憲法では謳つておるわけでございます。そういう趣旨で申上げたことを御了解願いたいと存じます。
  189. 三好始

    三好始君 非常に御都合のいい解釈をとられておるように伺つたのでありますが、いずれにしましても戰力そのものが近代戰を遂行し得るに足る編成、装備というような特殊な定義をとつておるところから、非常にすべてに不自然な論理が出て来るのじやないかと考えざるを得ないのでありますが、第一項に及んで戰争、武力による威嚇、武力の行使、こういう三つの行為を放棄いたしておりますが、この第一項で放案している三つははつきり区別できるからこういう三つを区別しているのだろうとも思うのでありますが、政府はこの区別をどういうふうにお考えになつておりますか。
  190. 高辻正己

    政府委員(高辻正己君) 御質問の趣旨がよく汲取れませんので、或いは見当違いの御答弁になるかも知れませんが、それでございましたら御指摘を願います。この国権の発動たる戰争ということは、これは申すまでもなくいわゆる戰争でございます。「武力による威嚇又は武力の行使」というのは戰争に至らないようなものとしての力の発動ということであろうと存じます。一応そのことをお答え申上げます。
  191. 三好始

    三好始君 国権の発動たる戰争と、武力による威嚇、武力の行使という二つの間に、規模或いは程度の上に違いが考えられますか、考えられませんか。
  192. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) これは程度の違いと申しますか何と申しますか、武力による威嚇というのはつまりおどかしでございまするから、現実に武力は行使された状態ではない。従つてこれが果して戰争という状態になるかならないか、場合によつていろいろ違いがあると思います。それから武力の行使というのは、これは国の持つている武力が現実に発動した状態でありまして、その場合にもやはり相手の出方如何によりまして戰争にまで発展する場合と、発展せずして武力行動が解決する場合、これはそのときの情勢によつて違いがあると存じます。これはそういう程度の差異と理解して頂いたら結構かと思います。
  193. 三好始

    三好始君 そうしますというと武力の行使という場合に、全面的な或る国に対する武力の行使でなくしてその国の極く一部分に対する武力の行使も第九條の第一項で放棄されておる、こう考えてもよろしうございますか。
  194. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 国際紛争を解決する手段としては、日本国は武力を行使しない、こういうことでございまして、局限された武力行使もしないんだ、こう存じます。
  195. 三好始

    三好始君 局限された武力行使も、第一項に言う武力行使に含まれておるということが只今の御答弁で明らかになつたわけでありますが、第二項の表現としての戰力は第一項を受けて成立しておるものでありまして、第一項は三つの行為を放棄しておる。決して戰争或いは近代戰争のみを放棄しておるのではありません。局限された武力行使を含めて三つの行為を放棄いたしておる。これは只今大橋国務大臣のお認めになつ通りであります。それを受けておるものとしての戰力はやはり局限された武力行使をも受けておると考えざるを得ないのであります。即ち武力による威嚇や局限された武力行使に使用し得る程度の力でもこれは保持していいかどうかは第二項の解釈として非常に問題になつて来ると思うのでありますが、この点は如何ですか。
  196. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 第二項の意味は如何なる意味においても戰争遂行の手段は日本は持たない、こういう規定でございます。
  197. 三好始

    三好始君 それでは武力行使に、或いは局限された武力行使に使用し得る程度の武力であれば、これは戰力に達しないものである以上第二項で禁ぜられておらない、こういう御解釈ですか。
  198. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 武力行使ということはどういうことを言うかと申しますと、例えば日本が国際紛争を処理する手段といたしまして相手国の領土の一部を無血占領するというような場合においても、これはやはり国際紛争処理としての武力行使であることは間違いないと思います。そうして現実にはそのためには無血占領でありまするならば弾丸一発も撃つたわけではないわけでありましてただ人がそこへ武器と共に行つたというだけだろうと思いますが、併しそういう場合においてそのこと自体は全面的には第一項によつて禁止されておりまするが、併し第二項による禁止というものはそういう一切の武器を持つた組織を禁止するという意味ではなくして近代職事を遂行するに足るいわゆる軍備を禁止しておるのである、こういう意味だろうと思うのでありまして、放棄される事柄と第三項の禁止しておるこの軍備というものは必ずしも物的には関係はないと思うのであります。これは禁止をする理由として前項の目的を達するために軍備をしない、こういうことを第二項では明らかにしただけであると考えます。
  199. 三好始

    三好始君 非常に理論的におかしくなつて来るのでありますが、第二項は一項を確実に実現するために設けられた規定だと考えられるのであります。「前項の目的を達するため、」というのはそういうふうに解釈せざるを得ないのであります。ところが前項の中には局限された武力行使も含まれて、従つて局限されて武力行使に使用し得る程度の武力も放棄されなければ第一項の目的は達成できません。ところが局限された武力行使に使用し得る程度の武力と、近代戰を有効適切に遂行し得る武力というものとの間には相当の開きが理論的に考えられるのであります。ところが政府の立場は、第二項で放棄しておるのは近代戰遂行能を放棄しておるのだ、こういうことになりますと、第一項で放棄されておる限局された武力行使に使用し得るようなものは放棄しておらないということになるのでありまして、前項の目的を達するためというこういう規定も全く無意味になります。又全体として九條を解釈した場合に考えられる第二項は、第一項の補完的な意味で第一項の趣旨を完全に実現するために設けられたという立場が全く無意味になつてしまう。こういうことになりはしないですか。
  200. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 誤解を生じましたのは私の説明が至らなかつたと存じまするが、政府といたしましては第一項における武力というものは、これは武力の行使が可能であるためには当然我が国が戰力を保持しているということが前提になると思います。何となれば武力というのは戰力が発動しておる状態を武力と表現しておる、こう解釈いたしておるからであります。従つて第二項におけるところの戰力の保持の禁止、これがある限りにおいては局限された意味における武力の行使ということも一切あり得ない。つまり元が全然ないからそういう結果が起り得ない。そういう状態を保障するために元を禁止したのが第二項であります。そしてこの武力と戰力の字句といたしましては、武力というものは戰力というものがもともとあつて、その戰力が行動として現われた場合にこれを武力という言葉で表現する、こういうふうに理解をいたしておるのであります。
  201. 三好始

    三好始君 近代戰を有効適切に遂行し得る程度に達したいわゆる戰力でなくとも、そこまで到達しておらないいわば武力でも、第一項で禁止されておる武力による威嚇や、武力の行使はできると、こういうふうに考え得られるのでありまするが、近代戰を遂行し得る能力を持つておらなければ武力による威嚇や武力の行使はできないと政府はお考えになつておるのですか。
  202. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) その通りでございます。
  203. 三好始

    三好始君 武力の行使という言葉は局限された武力の行使承含むという立場をとりながら、近代戰を有効適切になし得る能力を持たなければ局限された武力行使もできない、こういうことは非常に論理的におかしいというふうに私は考えるのであります。今日は質疑の第一日ですからそういう問題について余り立ち入つて議論はいたさないことにしますが、いずれにしましても戰力が第一項の国権の発動たる戰争という意味以外の他の二つの武力による威嚇或いは武力の行使、これをも受けておるものであるとしますというと、近代戰を有効適切になし得る編成、装備でなくても、それに足りない武力でもやはり保持できない、こういうことにならざるを得ないと思うのであります。第二項の戰力とは近代戰遂行能力のことではなくして、單に武力というふうに解釈しなければ恐らく第二項は全く無意味な規定になるだろうと思います。政府は第九條の文理解釈はこうだということを盛んにこれまで主張して参りました。本日も第九條の文理解釈として、陸海空軍その他の戰力という言葉もいろいろ御高説を拝聽いたしたのでありますが、私は政府の考え方は、極めて実定法の解釈に忠実な理論的な態度だというようなことを匂おせながら、実は文理解釈ではなくして実定法を忠実に解釈する立場ではなくして戰力の観念的な解釈をやつておるのではなかろうか。第九條の精神を離れて、戰力である以上は戰つて勝つだけの、少くとも戰いができるだけの能力を持たないとこれは戰力とは言えない。近代戰を考えるというと、相当発達した装備を持つたいわゆる近代的な装備を備えたものでないととても戰争なんかできるものではない。戰力をそういう九條を離れた抽象的な観念的なものとして規定して、それを九條の戰力という言葉に当てはめて解釈しておるのが政府の立場である、こういうことが極めてはつきりしておると思うのであります。この点は別な角度から更にお尋ねする問題が残つておるのでありまするが、今日は時間が非常にたちましたので、この程度で止めさして頂きたいと思います。ほかの人に非常に……私ばかりしやべつて恐縮いたしました。
  204. 松原一彦

    ○松原一彦君 私極く短かくお尋ねしたい。国務大臣は治安維持の大責任を負つておいでになるので御同情申上げる。治安はそのときの情勢によつてその保持の仕方に非常な、格段の差があると思うのです。昔靜かな時代には田舎では掛金を掛けなかつたのですが、近頃はあらゆる盗難予防施設をしてもなお且つ安全を保しがたいのであります。今の、今回おとりになる保安庁の施設において日本の治安が責任を持つて守られるとお考えでしようか、どうでしようか。
  205. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 治安を害するものといたしましては、国内の一般的犯罪、特に内乱、騒擾等といつたような活動が起る。これらの活動には純然たる国内的なもの、又いわゆる間接侵略と称する外国の教唆又は干渉によるもの、こういうものもあると思います。最後には武力による攻撃というようなものがあると思いますが、少くとも我が国といたしましては、国内的な暴動、内乱、騒擾等につきましてはその規模の如何を問わず、又国内において原因を持つものたると、或いは外国の干渉、教唆によるものとを問わず、できるだけ自国の力を以て処理して行くということが当然であろうと思うのでございまして、そうしたことを目標といたしまして警察予備隊の拡充なり、又海上警備隊の新設ということを行なつて参つたわけでございまして、現在の段階といたしましては、一般の警察力及びこれらの国内治安関係機関の協力によりまして国内における内乱、騒擾、暴動等は鎮圧できるという確信を持つております。
  206. 松原一彦

    ○松原一彦君 今、今回装備を新たにして出現しようとしておりまする海上の警備隊、相当のまあ力を持つものとは思いますが、この海上警備隊は御解釈によれば飽くまで警察でありますが、この警察力を以て公海の上で漁船が外国から拿捕せらるるといつた場合に抵抗する能力、権力がありましようか。
  207. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政府の船が公海において自国の所属の船舶に対して警察権を行使するということはこれは国内法上可能であろうと存じます。外国の船に対しまして警察権を及ぼすということは原則的にはないことでございます。海上警備隊の船舶が漁船の出漁を保護するということは、その存在によつてそうした公海における不測の事態を予防するということが大きな目的でございまして、今日までの経験に徴しまするというと、海上保安庁の船舶が現場に出動して保護いたしておりまする場合においてその面前において拿捕その他の不正行為が行われた事例は一回もないという状況でございます。これらの経験から考えまして同行して行くという事実それ自体によつて或る程度の目的を達し得ると思うのでございます。今まではそうした例はございませんが、将来において或いは公海において海上保安庁の船が保護しておるにもかかわらず、その面前において不法行為が行われておる場合、そういう場合に如何なる権限を持つだろうかということはこれはいろいろ問題があろうと思います。その場合は全く国際公法上、相手国に対して実力を行使する権限というものはないわけでございます。ただ強いて申しまするならば、漁船の側に立つて漁船を保護するという立場から必要な行動をとり、相手が不法な行為でありました場合においてはこれを防止するための必要な措置をとるということは、正当防衛として認められる場合があろうかと存じます。その範囲においてのみ実力の行使は許される。正当防衛以外の法律上の権限に基いて保安庁所属の船舶が外国或いは無国籍船舶に対して実力を行使するということは考えられないことでございます。
  208. 松原一彦

    ○松原一彦君 これは国際公法上、軍艦旗を掲げたる軍艦でなければ他国の船が日本の船を拿捕する等の行為に対する抵抗はできないということになつておりますので、治安の維持という面から見ましても、私はその軍隊なき治安の維持というものは不可能であろうと思うのです。私は理想主義を堅持して再軍備に対してはできる限り否認するものでありますけれどもが、現実の情勢から申すというと、軍隊なくして治安の維持ができるかということであります。さつきからのお話を聞いておつても、この憲法の下であなたがたは非常な無理をしておいでになる。憲法の成立当時とは全然状態が違つておるこの際に、あの当時に作つた憲法の枠の中でまあ非常に強引な無理をしておいでになることが歴々としてわかるのであります。これは三好君は今日は冷静なる論理的な掘下げをやつたのでありますが、これを掘下げて行けば必ず議論になるので、とにかくあなたがたの立場は治安の維持、治安の維持は軍隊でない、こういうような結論になると思われますが、先般山本五十六氏の伝記を読んでおりますと、山本五十六連合艦隊司令長官が真珠湾に進発する際に各司令官を集めて言つておる言葉にこういう言葉があるが、今諸君はここで命を受けて進発するが、併し来栖、野村等の大使がアメリカでまだ交渉中である、今夜にもこの交渉が成立するかも知れない、成立した場合にはすぐに無電で呼返すから戻つて来い、こう言つたことに対して各司令官が非常に憤慨して矢は弦を離れた、今更そういうことはできない、そういう無理な命令には我々は服従することができないと非常にいきり立つたそのときに、山本司令長官が声を励まして国家が百年兵を養うゆえんのものは一に国の治安を維持するためである、国の安全を守るためである、戰は目的ではない、さようなものは即座に辞表を出せと励声叱咤せられた。一体軍隊そのものが侵略のためのものじやないと私は思う。アメリカが歴史上無比なああいう大きな軍備を今いたしておる、あれは果してアメリカが侵略のためであるか、国内治安の維持のためであるか、自国保持のためであるか。ただ軍隊を持つことは日本の軍隊の発生の歴史から見ましても実は鎮台であつたのであります。明治維新以後は鎮台、九州鎮台、即ち熊本の鎮台、大阪の鎮台、それは当時の国内治安の維持であつたので、あります。大陸侵略を目標として作つた軍隊ではなかつたのであります。ただそれが鎮台が大きくなつてだんだん整備しまするというと、よし一戰やつてやろうかというところに非常な危險が出た。ぐずぐず言うなと腕をまくるところに軍隊の持つ危險性があるのであつて、軍隊そのものの本来の目的は私は国の安全の維持以外に何ものもないと思うのです。侵略を予想する軍隊などは現代にあり得るはずはないと思う。そういうところに再軍備論のいろいろ是非もあるのでありますが、大橋さんも御承知の通りに、私どもはこの憲法制定の当時に衆議院におつてこの憲法を制定した責任者でありますが、この当時には実は頗る浅慮で今日あるを予想しなかつた。而もこの憲法はアメリカと日本との合意と言うか、非常な占領治下におけるところの自由意思のないときにできた憲法である。その憲法の下でこの條約を、行政協定を設け、そうして今アメリカの希望によつて日本が自衛力を漸増しなければならんという矛盾の立場に追込れるところに我々の少なからざる不満があるのです。国民感情においてこれがあることは御承知であろうと思う。それならばこれは潔ぎよく憲法を改訂して然る後におやりになるべきものじやないのか。かような、さつき三好君が前提として上げられましたように、嚴然たる基本的な、国法の基本である憲法というものを曲解しながら無理にこれを、いろいろなさつきからのお話を聞いておると如何にも苦しいのです。もう明瞭に苦しい。無理な言い訳をしながらあの憲法の趣旨とは根本的に違つた行動をとらねばならんことになつておるところに私は日本の現実情勢があると思う。併しこの憲法の改訂は吉田さんにはできないことです。吉田首相が提案し、吉田首相がこれを議決する責任を持つた憲法だから、この吉田首相が提案せられて非常に誇りにせられた平和憲法の下で今軍隊にまで発展しなければならない保安庁、国の治安の維持をする機関を持たねばならんというところに無理がある。これは私が議論を申しておるのではない。あなたのさつきからのお話を聞いておつてしみじみそう思う。苦しくおありだろうと思う。それならば、私はこれは根本的に考え直さなければならんのじやないかということを思うのです。で、お尋ねしたいのは、そういう無理をしないで国民が安心するような方法によつて順序を踏んでおやりになるべきものじやないか。この私の考え方に対してどういうふうな御所感をお持ちでしようか。
  209. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 非常に御回情ある、御理解あるお言葉を頂いて恐縮でありますが、政府といたしましては、軍隊を作らなければ最後においては日本みずからが自力で自国を守るということは不可能であろうということはこれは当然考えたところでございます。併しながら憲法の改正につきましては、独立いたしましたばかりの我が国といたしまして、戰争の記憶というものがまだ相当生々しく残つておるこの時期に憲法の改正ということが果して国民の感情にぴつたり来るかどうか、こういうことも一つの政治問題として考える必要のあることであると存ずるのであります。それからいよいよ再軍備をやるということに相成りまするならば、これは御承知のように非常に金のかかる仕事でございましてなかなか今日の財政事情からいたしまして政府が直ちにそういう決意をいたすということは財政面からも相当制約されるような状況でございます。憲法を改正し、再軍備をするということを中外に闡明しながら而も金がなくてやれないというようなことは、これは賢明な策とは思えないわけでございます。そこで政府といたしましては、日本を守る最後の後楯といたしまして、暫定的に米駐留軍の力を依頼するという趣旨で安全保障條約を結び、憲法の改正ということは現在の段階においては考えないという行き方をいたしておるわけであります。併しながらその範囲内におきましては、できるだけ治安維持上必要な措置をやつて行きたい。即ち財政の許す程度において、又現在の憲法を改正せずとも許される程度において、その範囲内において治安維持の処置を講じて行きたい。こういう考え方が現在の警察予備隊なり、又海上警備隊というものになつて来ておるわけでありますし、又その考え方を継続して更に徹底したいというのがこのたびの保安庁の立案の趣旨であるわけであります。
  210. 松原一彦

    ○松原一彦君 時間がありませんから、私はただこれにとどめますが、その苦しまれておることはよくわかりますが、それは当然のことなんです。この憲法の下において治安を維持しようとすれば苦しまれるのは当然なんです。而も今置かれつつある警察予備隊は陸軍であり、保安庁は海軍であることは当然である。現実は幾ら拒否しても陸海軍であることは当然である。微力であるといつてもそれは事実は小さな国における小さな軍隊であります。現にアメリカから今度借りて来る六十隻の艦艇もこれは軍艦である。そうして今回の組織は幕僚組織であり統帥であります。こういう無理は実はこの憲法の下においてはできないというのがこれは当然至極の私はことであろう、見解であろうと思う。それを無理をせられるところに現内閣の苦悩がある。私はこの無理をされてはいかん。この無理を我々は認めないです。無理でないものによつて明るく我々は日本の国を守りたい。まあそういうことを私は希望を申上げて今後いろいろお尋ねをしますから、どうぞ御承認を願いたいと思います。質問を打切ります。
  211. 河井彌八

    委員長河井彌八君) 諸君にお諮りいたします。本日はこの程度において散会しようと思いますが、御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  212. 河井彌八

    委員長河井彌八君) ではさように決します。  本日はこれを以て散会いたします。    午後五時七分散会