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1952-06-16 第13回国会 参議院 地方行政委員会 第53号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年六月十六日(月曜日)    午前十時五十五分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     西郷吉之助君    理事            堀  末治君            中田 吉雄君    委員            岩沢 忠恭君            石村 幸作君            高橋進太郎君            宮田 重文君            岡本 愛祐君            館  哲二君            若木 勝藏君            原  虎一君            吉川末次郎君   国務大臣    国 務 大 臣 岡野 清豪君   政府委員    地方自治政務次    官       藤野 繁雄君    地方自治庁次長 鈴木 俊一君    地方自治庁公務    員課長     佐久間 彊君   事務局側    常任委員会専門    員       福永與一郎君    常任委員会専門    員       武井 群嗣君   参考人    東京教育大学教    授       綿貫 芳源君    明治大学教授  弓家 七郎君    国立国会図書館    長       金森徳次郎君    衆議院法制局長 入江 俊郎君    東京大学教授  杉村章三郎君    東京弁護士連合    会弁護士    島田 武夫君    参議院法制局長 奧野 健一君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○地方自治法の一部を改正する法律案  (内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) それでは只今より開会いたします。  只今本委員会で審議中でございます地方自治法の一部を改正する法律案につきまして、参考人各位にお出を願いましたところ、御多忙の折御出席頂きましたことを委員長委員会を代表いたしまして御礼を申上げます。  参考人各位に申上げますが、本日は只今申上げました地方自治法の一部を改正する法律案のうち、特別区の区長の選任の問題につきまして特に各位の御意見を承わりたいと思います。御承知のごとく参議院衆議院から送付せられましたうち第二百八十一條の二、特に第二百八十一條の二でございますが、東京都の特別区のいわゆる区長任命制の問題でございまするが、御承知のごとく政府案におきましては「特別区の区長は、特別区の議会議員選挙権を有する者で年齢満二十五年以上のものの中から、都知事が特別区の議会同意を得てこれを選任する」。となつておりましたが、衆議院におきましてはこれを修正いたしまして、「特別区の議会都知事同意を得てこれを選任する。」と修正して本院に送付して来たのでございますが、本日は参考人各位からこの衆議院の修正いたしました点につきまして、特に憲法との関連の点につきまして御意見を承わり、なお且つその際に政府の原案についても御意見が承われれば誠に仕合せと存じます。各位に対しましては大体十五分見当で御意見をお述べ願いたいと思います。  それでは只今から順次御意見の御発表をお願いいたします。綿貫芳源君。同君東京教育大学教授であります。
  3. 綿貫芳源

    参考人綿貫芳源君) じや坐つたまま恐縮ですが……。私の意見としますと、憲法九十三條の問題は、九十三條の第二項の地方公共団体規定と、地方公共団体の長の直接公選規定とこの二百八十一條の二の規定が牴触するものじやないかという点につきまして、九十三條の第二項の地方公共団体の中に特別区は入らない、結論を申しますと、憲法に違反しない、憲法改正を必要としないという見解であります。  それはなぜであるかと申しますと地方自治法の中に普通地方公共団体特別地方公共団体二つのシステムを分けまして特別地方公共団体の中には財産区のようなものもあるのであります。この特別区の性格は、その事務から見ましても財産区に非常に近くなつている。従つて特別区は財産区に準ずるもの、特別地方公共団体の中にいろいろバリエーシヨンがありまして、特別市から財産区までのバトエーシヨンの中で、特別区は財産区に近いというふうに解釈して、憲法九十三條第二項には牴触しない。この特別区の区長を直接公選にしないでも九十三條第二項には牴触しないという解釈をとつております。憲法問題につきましてはそれだけであります。  簡単ですが以上で終ります。
  4. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) 只今綿貫君の御陳述に対しまして御質問があればこの際お願いいたします。
  5. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 議事進行ですが、皆さんの御意見を聞いて、それから御質問したらどうですか。
  6. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) それではさようにいたします。  次に弓家七郎君。同君明治大学教授であります。
  7. 弓家七郎

    参考人弓家七郎君) 問題は憲法九十二條に言うところの地方公共団体とは何であるかということと、第二に特別区は憲法第九十二條意味における地方公共団体であるかどうかということに帰着するものだと、こう考えるのであります。それで憲法九十二條には、地方公共団体というものが事実として存在することを前提として、そういうものの組織及び運営に関する事項は法律でなければ定めてはいけない。又法律で定めるに当つて地方自治本旨に基いてでなければ定めることができない。こう言うだけでありまして、何が地方公共団体であるか、又何が地方自治本旨であるかということは定めておらないと思うのであります。そこでその憲法九十三條以下は更にその九十二條地方自治原則というものをもう少し詳しく書いたものであると考えます。地方自治法はそしてその原則を更にもつと詳述したものであると思うのであります。地方自治法に言うところの地方公共団体のすべてはだから必ずしも憲法に定めておるところのいわゆる地方公共団体ではないと思うのであります。これでこの地方公共団体というのは地方自治法に定められてありますけれども、この地方自治法の定めておるところの地方公共団体憲法の定めておるところの地方公共団体はだから必ずしも同じではない。憲法の定めているのはもつと本質的なものを定めておるのである。つまり地方公共団体の存在ということを前提としまして、その地方公共団体自治権を認めるということでありまして、その地方自治団体が何であるかということになりまするというと、ここに特別区の性質考えますと、それが果して憲法九十二條に定めているところのあの地方公共団体であるかと言いますと、私は憲法九十二條地方公共団体と九十三條に定められておりまする地方公共団体、即ち九十三條には、その地方公共団体議会議員とか長とかは住民が直接に選挙しなければならないということでありまするけれども、あれは九十二條よりはもう少し狭い地方公共団体規定ではないかと、こう思うのでありまするが、その特別区は少くとも地方公共団体よりはもう少し狹いものである、と言うのは特別区というものが実質的に見まして九十二條地方公共団体でないということは、それはその区に一体性がないということ、生活中心がない、或いは団体意識がない。これらについてはもう説明を要しないと、こう思うのであります。区は單純な行政区画に過ぎなかつたことは、三十五区を二十三区に併合した当時において市民がそれに対してどういう考えを持つてつたかということだけでも了解ができると、こう思うのでありまするが、実際の生活面におきまして区というものを中心とした、つまり区というものが社会上、経済上一体としての自治団体を構成しておるかというその意識がないのであります。団体意識がないとすら私は考えるのでありまするが、そういうふうに考えまするので、その区はいわゆる憲法九十二條、九十三條の地方公共団体ではない。例えばその自治法の定めておるところの地方公共団体というものは、中には公共団体組合とか財産区とかいうようなものもありまするけれども、それもその基本的な或いは基礎的な府県とか市町村とかいうようなそういう地方公共団体本質的に同じなものであるとは考えられないのであります。それは地方公共団体であることを否認するのではありませんけれども、憲法に保障するところのあの地方公共団体ではないと、こう考えるのであります。それはあの地方自治法の中にも幾多規定がありまして、府県市町村とは同格のものでないことが明らかにせられておるのでありますし、又沿革上もそうなつておりますし、第一に市民政治意識団体意識と申しますか、東京都民東京都民である、どこに住んでいるかと言われますと、私は東京だと言いますけれども、何区に住んでいるというようなことは余り言わないということによりましても、そして自分たち区長名前も、自分たち選挙しているのでありますけれども、選挙したときには覚えておりましても、あと区長さんの名前は誰だと言われても一向覚えておらないのが殆んど大多数ではないかと、こう思うのであります。そういうようなことも考えまして、この地方公共団体と言う中には幾つもの段階がある、種類がある。そして憲法の保障しているところの、その長は住民から選挙しなければならないという、あの憲法の保障しているところの地方公共団体府県とか市町村とかいうものだけであつて、それは特別市もその中に加わるかもそれは私は知りませんけれども、財産区とかそれから組合とかいうものでないことは明らかなのであります。特別区もその範疇に属するものではないか……属するものである、私はそのように考えます。従いましてその特別区の区長をたとい住民から選挙させなくても、決してそれはこの憲法規定に違反するものではない。このように考えておるものでございます。  以上であります。
  8. 西郷吉之助

  9. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 私の申上げる主たる点は、特別区の区長を任命することが憲法に違反するかどうか、こういうことでありまするが、問題は法律的に言えばそれだけに限定せられるはずでありますけれども、周りに存在しますところの現実のあり方と組合わせれてこの問題は解決せらるるように思いますから、少しくその周辺にも触れて申上げたいと思います。  この憲法は極めて簡單地方自治団体というものを規定しておりまして、これが如何なる性質を持つておるかということを明らかにしておりません。そのためにいろいろな疑問を捲き起したのでありまするが、私世上に現われておりまする議論二つの系統に分けて見まして、そのいずれにもいささか違つた見解を持つております。第一の見解は、憲法はただ地方自治体という名前を示すのであつて、その実体法律を以て組織運営その他の各方面に亘つて規定するものである。従つて自治体制度は本来自治政策法律問題に属するのであつて憲法に直接の関係を持つものではないと、こういうような議論によつて、例えば特別区が憲法と無関係なようにも当然にできるように議論せられておる。この形につきましては私はいささか疑いを持つております。それから他の一つ議論から申しますと、いやしくも地方自治体という名が何らかの関係法律的に與えらるるならば、それは当然憲法のいわゆる地方自治体である。従つて憲法規定しておるところのいろいろの細かな制限はこれに当てはまるものである。こういう議論も一面においてあるように思いまするが、これにつきましてもいささか疑いを持つています。  私は考えまするのに、憲法が何故に地方自治体制度をその中に盛り込んだかと言えば、これまぼろしのごとき空なるものを予想しておるのではなくて、現実の我々の社会の中にある地方自治体というものを念頭において、而して憲法が望むところの制約をこれに加えんとするというふうの考え方と思うのであります。なお類例をとりますれば、憲法は人というものを念頭に置いております。すべて人は法律上尊重されるというような原理があるといたしますれば、その人というのはどんなものでもいい、ただ法律的観念によつて人を作り上げるなら何でもよろしいと、こういう意味ではなくて、おのずから人とはこういうものであるということを前提にしておるはずであります。人につきましては何も議論が起るわけでなくて、昔のように黒人は人であるかどうか、こういう議論のあつた時代は別として、現代におきましては、人というものにつきましては異論の起る余地はございませんけれども、地方公共団体という面になりますといささかそこがあいまいになつて来るのであります。なぜかと申しますと、地方自治体というものは、一面において社会的な事実を基礎としている。それも必ずしもはつきりしたものではございません。その上に地方自治体法律的な承認を待つて出て来るものでありまして、法律は或る程度まで大きく自治体を認めることができ、小さく自治体を認めることができまして、いわゆる生殺與奪の権を持つているがごとき感じがいたします。でありますから基礎がすでにあいまいである。その上に法律承認ということがかなり自由の範囲に亘つておりますから、そこで先に申上げましたような憲法自治体自体について二つ見解が現われて、一方は法律で自由自在にこれを形成することができる。他方はそうではない、もつと嚴密制約を持つて名前地方自治体とあれば何でも入るのだというこの二つ考え方は、今申上げましたように憲法の予想する地方自治体というものが運命的においてあいまいなものであるということから生まれて来るものと思います。併し憲法が折角地方自治体を認めてこれを承認しようとしているときに、單にそれが自治体行政の政策的な問題であつて法律で以て如何ようにするのがよいか、例えば堂々たる自治体であつても本物の地方自治体ではない、こういうように作り変えてしまえば憲法規定を離れることができるという、こういうことの考えは恐らく憲法の全精神を破壞するものであろうという気がいたします。  そこで内容は非常に茫漠としておりますけれども、憲法はおのずからその地方自治体と申しますものについて或る一つの理想的な或いは標準的な形態を予想しているものであろうと考えます。その実体はそんなに明瞭なものではございません。併しおのずから一つ社会がちやんとそこは自治体である、地方自治体として本格的に取扱う、こういう観念があるに相違ないし、又それがなければこの憲法はただ空虚な文字であるということになろうと思います。そこでそのような憲法の認めておる地方自治体というものが一体どんなものであるか。今まで世上に現われました議論を見ますと、例えば基礎的なる地方自治体がこれに入るとか或いは一般的な地方自治体がこれに入るとか、そのほかのものは必ずしも憲法の言う地方自治体ではない、こんなようなふうに言われているのを拝見いたします。それは何も間違いとか何とかいうわけではございませんけれども、いささか言葉簡單に過ぎて、その実体をつかむことがむずかしいのではないかという気がいたします。さればとて私が直接に非常に明快にお答えすることはできません。こういう生きた社会に存在しますので、複雑なる観察の方法でこれをつかまなければならんと思うのでありますが、先ず第一に実際学問上の公共団体、即ち社会的な意味におきましての公共団体という本質を備えないものは如何に法律公共団体らしく装いましても、それは憲法では尊重する必要はないと思います。何となれば憲法はいつも地方自治体本質というものを考えておりますから、それに該当せざる、例えば一個の人間を以て地方自治体とする、そういうことは少し奇異になりますけれども、昔の思想では單独の一人が過去、現在、将来を通じて一体をなすということで一つの法人を考えておつたこともございますけれども、そういうふうなものは地方自治体考えには入りませんと思います。  そこで公共団体という実体を一応は持つておるけれども、社会の事実といたしまして、これに対していろいろな法律的特色を認めて行くときに、つまり法律地方公共団体として取上げて行きますときに、それはいろいろなものができるわけであります。とても一つの型には限らないのであります。日本現行法制の上におきましても種々雑多なるものが出て来ますけれども、この中のどれが憲法に言う地方公共団体であるかという点を見分ける標準がどこにあるであろうか、この点に入つて来るのでありますが、これは結局憲法の持つております規定念頭に置いてそうして解釈するよりほかに途はないと思うのであります。憲法はどういうことを規定しているか、幾つ規定しておりますけれども、併しその要点といたしましては、意思機関住民の直接選挙で、議決機関も人民の直接選挙である。而も憲法十五條を以て解釈いたしますと、成年者普通選挙という形をとつております。満二十才になれば男女何物たるを問わず公務員の選挙を行い得る。従つてこの規定は当然に地方自治体に関する選挙規定を制限するものと思つております。ほかの点は暫らく別といたしまして、そういうことを基にして考えて行きますと、これらの二つ特色地方自治体として守らなければならない原理を示しているものでありますけれども、これを逆に言えば、この原理を当てはめたときに何としても非常識だ、原理から言つて、少くとも当てはめて見れば一つのこういうものになるという自治体を仮定いたしますれば、恐らくそれは憲法の言う地方自治体ではないということになりそうであります。逆のほうから、効果の及ぶほうから本体を推測するということは少しく無理な論法でありますけれども、併し憲法制度というものはナンセンスでできておるのではなくて、裏表、左右、前後から一つ考えを生み出さしてあると思いますから、その適用規定を当てはめてみて恐らく不合理であるというものは、実体のほうがことによると憲法の予想するものでないということになろうと思います。ですから私は基本的自治体とか普遍的自治体とかいうような考えは、それはよくわかりませんが、ただ憲法の予想しているようなそういう規定を当てはめてみて、社会の通念に従つて、これならわかる、我々の茫漠としている考えをこの規定従つて整理して当てはめて行くと常識的に立派な国家の制度になる。こういう判断のできますようなものが地方公共団体として扱われるものではなかろうかというような気がいたします。概念的に申ますれば、選挙権が二十才というようなことになれば、その規定を当てはめて見て如何にもおかしいというようなもの、そういうものがあるかどうか知りませんが、観念的にはそういう公共団体があればこれに当てはまつて来ない。だんだん一つ一つ当てはめて行きまして、そこで今考えておりますところの特別区というものが果して如何なる性質を持つているかというところに入つて行きますと、これは世間に非常なる疑問があることに顧みましても、そんなに明白に疑なく答えるということは私ににはできにくいのであります。併し私自身は現在の制度のごとき、東京都の特別区というものはいわゆる憲法考えておる地方公共団体に必ずしもはまるものではないという説明ができるような気がいたします。つまり区長任命制度にいたしましても必ずしも憲法違反ということにはならないであろうという結論日当てにしておいて所見を述べるのでありますが、実際東京都の特別区というものの組立は普通のものと非常に違いまして、その間に特別な考えを加えなければならない要素が幾多あると思います。  第一の点を考えてみますれば、大きな東京都というものの複雑な組立であります。カルデラ火山というものを見ましてもいろいろ複雑な組織をしておる。殊に自治体が二重組織になつておる。例えば二十三区を合わせて仮に市という言葉を使いますならば、市と区の間には複雑な関連があつて、区は必ずしも独自の行動ができるものではなく、市の手足であるという意味が非常に強い。この点におきまして完全なる自治体性質を相当失つておるものであるというような気がいたします。それからこの一つの区が担任いたしておる事務、或いは機関の委任によりまして区長が担任しておる事務というようなものを考えて行きますときに、私は正確な数字は門外漢であつてよくわかりませんが、ただ聞くところによりますと、一つ区長中心として考えてみまするならば、その担任いたしましまする仕事のうちで純粋の区の仕事に属するものは経費から言えば十七%というふうに聞いております。者して半面市の経費で以て支弁せられるものは八三%であると聞いております。この数字嚴密な正しさはよくは存じませんが、恐らく区の事務というものは経費から言えば六分の一くらいである。あとの六分の五は市の費用に属する仕事をしておる。こういうことを考えますると、よほどそこに特色があるということが考えられます。勿論広く言えば府県知事仕事にみても、それは国費を以て支弁することが多いということは言えますけれども、併しそれは別といたしまして、区につきまして著しくその関係があるということがわかります。そこで又第三の違つた点について考えてみますると、区には区会がある。併し区会が担任いたしまする仕事というものは、今の経費の支弁によつてもわかりまするように、その区の仕事のうちの極めて小部分にのみ区会発言権を持つておるということが推測できます。そうして区長自身の施行する事務、それが区の機関であろうと何であろうと、つまり区長の所管として執行いたしますこの仕事範囲というものは相当大きな分量であります。財政だけの見地で言つても五、六倍の分量を持つておる、こういうことを考えまするとき、ここに又著しい差が出て来るような気がいたします。それは憲法が、区の或いは自治体議会は直接選挙による、同時に自治体執行機関も直接選挙によると、こうきめましたのは、二つのものを対立せしめまして、住民がいわば主権者である、併しその主権者意思に基きまして決議機関執行機関を対立させて、その間に勢力の均衡を保たせしむることに無理の起らないような行政を図るこの動機で、日本の従来の伝統を離れまして両者とも独立な選挙によるという態度をとつたのでありますが、これは二つのものの権能が、バランスが取れておるということから初めて言い得るのでありまして、区長のする仕事の大部分が、その区とその区の住民の意図に緊密に服せしめるのは不適当であるほかの仕事が多いというような場合におきましては、今の住民の直接選挙原理を当てはめまするときは、憲法規定精神とそんなにぴつたりしないような気がいたします。こういうところにも考え余地があるのではなかろうかという気がいたします。次に又一体住民選挙によつてできましたところの自治体機関というものは、それは実質上その自治体に対して忠実であるというのが筋でありまして、従つて上級機関からその自治体機関、例えば区長指揮督督、命令をするということはかなりおかしいことになります。やはり選挙公選ということは、上級機関監督権を自然排除するような傾向を持つておるものと思いまするが、今区長公選にすることにいたしますると、東京都の二十三区に該当する部分自治行政、先に市という言葉を仮に用いましたが、いわば東京市の行いまする仕事区長が担任いたしまするときに、誰がこれに対して自由に指揮、命令し得るか、又複雑な自治組織として市が強く発言権を持たねばならぬときに、それが区民の選挙によつておるということは、実際これは理論ではなくて、自然の結果といたしまして現在の秩序の下におきましては非常にやりにくいというようなことになるということもございます。数え上げれば世間幾多の論点を挙げられておりまするけれども、要するに東京都というものが非常に複雑な、惡く言えば筋の立たないくらいにこみ入つた自治体であるということ、それから区の事務と市の事務というものが区長の肩に非常に複雑な分量になり、釣合いの違つたくらいの分量においてかかつておるということ、それから区会の担任としまする仕事区長の担任いたしまする仕事というものが相対応するという部分のみでなくて、不釣合に一方がふくらんでおるということ、或いは又指揮、監督ということが公選区長に対しましては現在のままでは非常にやりにくい、やりにくいということから起つて来るいろんな故障がある、こういうことを考えて見ますると、どこまで行つた憲法地方自治体特色が外れるかは、それは非常に研究問題でありますけれども、先ず憲法考えておりますような普通の標準的な形の地方自治体とは言いにくいのではないかという気がいたします。従つて私はかような場合に文字通りに当てはめて違憲論を起すだけのことはあり得ないではないかという気がいたします。憲法の文字は多少擴げて読まなければならない場合はほかにも類例のたくさんあることでありまして、例えば憲法の十五條、例の公務員の選任の場合に成年者による普通選挙というものを保障すると、こう書いてありまして、普通の場合には公務員の選任には二十才以上の人間がすべて選挙できめる、こういう考え方は妥当いたしますけれども、特殊の場合に、例えば女子のみの集団から任命することもありましようし、労働者或いは資家本の方面からのみ選ばなければならない場合もございましようし、時と場合にはこれは違うものであります。それも成年者普通選挙を保障するということは、特別な事情がない限り、原則的にその道によるということだけであつて、例外をおのずから含んでおるものでありまして、この地方自治体の場合にもやはり或る程度の例外を含んでおるということは先例もあり、世間も異論のないところでありますから、ただどこから先がこの例外に場なるかということが甚だあいまいでありまして、この点は先にも申しました通り社会の常識で判断するよりほかに道はございません。急所を一つ押えて、この急所だに適うならばどちらかに属する、こんなふうにはつきりはできないという気がいたします。  そこで私は今申しました通り区長選任の制度というものは必ずしも憲法に違反するものでないということを申しました。併しここに一つ考えなければならないのは、憲法地方公共団体に関しまする規定はよしんばぴたりと当てはまらない場合におきましても、その精神はかなり広く行き亘るものと思うのであります。複雑なる自治体に対しまして憲法の文字は当てはまらなくとも、当てはまり得る程度にこの文字は活用せられなければならん、それは文字以上に精神が広く行き亘つておるということは、これは動かすべからざる原理であろうと思います。ところが世上一つ議論は、文字さえ外れれば何をやつてもよい、こういうふうの考えがございまするが、それは私どもとしてはこの憲法を破壞するものであるという気がいたします。一例を申しますれば、この憲法は先に申ました通り意思機関執行機関というものは独立させる、市民がこれを選ぶ、或いは住民がこれを選ぶということではありまするが、その二つ機関の一方が他方を選ぶということを排除しております。これは昔の町村の長などの場合と全く違いまして、或いは又よくは覚えておりませんが、旧憲法時代におきましては大体そういう考え方、簡便を重んずるの余りに議会執行機関を選ぶと、こういうふうの原理をとつておりましたが、この憲法ではそれと違つた原理を採用したわけであります。どちらがいいかということはこれはまあ議論のあることであり、容易に決定はできませんが、併し憲法は今までと違つた別個の議論をとつて、これを行うことによつて徹底した民主主義が実行できる。然らずんば立法と行政を対立せしめましても同じことになつてしまうという考えをとつたものと思います。国の場合は、総理大臣の場合はこれ又他の特別の事由がございましうが、ほかの、それを除きましては、大体地方自治の面におきましてその原理を辿つておりまするが、それは守り得るならばできるだけ守りたい。勿論憲法でどうされておるというわけではございませんけれども、憲法規定の中に含まれておる一つの潜在的な原理として、守るならば守りたいという考えがございまするが、果して区の議会都知事承認を得て区長を任命するということが、憲法精神に顧みまして進歩的であるか、それとも退歩的であるかというところに私は非常に疑いを持つておりますけれども、疑いを持つておるから憲法違反というわけではございません。これは妥当の原理、どうすれば一番よいかということの原理でありまして、実際東京都のような複雑な自治体になりますと、いろいろな工夫をいたしましても、どこかで行詰りが起る。で止むを得ずあらゆることを考慮した結果、この道が先ず一番抵抗の少いよき道であるということになれば、これは止むを得ません。それをかれこれ言うわけではございませんが、そこに問題が残つておるのであります。これを純粋に考えて行きますと、この問題を過去の沿革を離れまして、ただ理窟詰めに考えて行きますと、私は区長というものはやはり区会と対立するものである。要するに区の場合は議決機関と区のことを執行する区長というものは対立すべきものであり、この限度におきまして現在の憲法のこの地方制度の形に倣うことのほうが正しいものである。よしんば不便はあろうとも、その不便は何らかの別の方法で除き去るのがいいのではないかという気もいたします。併し何と言つてもこれは市全体の影響を受けることの強いポストであります。仕事の上から申しましてもその市の発言権を認めなければならないというときに、理論的に言えば二人の区長を置いて、一つは区の区会と相対応する事務区長、一は市そのほかの仕事を担任する意味のいわば市事務区長、この二人があるということは形式、理窟ではありますけれども、一応はそういうことが成立いたします。併しそういう不便な制度はとれないので、昔の地方長官と同じようにこれを一人に合体せしめるということから無理が出て来るのでありまして、この無理の出て来るところを如何に納めて行くかということになれば、結局区に関するもについては区会がこれを選任する、市に関すものについては都知事がこれを選任する、この二つ考えが生まれて来るのでありまして、このところをできるだけ区が選任し、それを一人の人間に固めて行くためには止むを得ず現在の法律案が、流れついた、こういう考え方もその意味から言えば説明のできんことはない。こうやりますれば一般的な監督が区長に及んで、大きな自治体とも調和でき小さな区とも調和できる、こういうふうな考え方ができるのでありまするけれども、私はその妥当のほうはよく存ずませんが、疑いを持ちつつ、従つてこの考え方は他日又最も合理的に整理せられて行く道が残つておるのではなかろうかという考えを持ちまして、ただ憲法的に言えば別に非難する点はないと、かような考えを持つております。
  10. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) 次に衆議院法制局長の入江俊郎君。
  11. 入江俊郎

    参考人(入江俊郎君) 憲法九十三條の規定によりますと、地方公共団体の長はこれを住民の直接選挙でやるという規定になつておりまして、それから地方自治法を見ますと「地方公共団体は、普通地方公共団体及び特別地方公共団体とする。」とありまして、「普通地方公共団体は、都道府県及び市町村」、「特別地方公共団体は、特別市、特別区、地方公共団体組合及び財産区とする。」とございますので、文字をただ形式的に考えますと、憲法地方公共団体というものは、地方自治法で言う普通地方公共団体特別地方公共団体もすべて該当するやに考えられます。ところが現在の地方自治法規定によりましても、又一般の認めるところによりましても、少くとも地方公共団体組合、なかんづく一部事務組合であるとか或いは財産区につきましては九十三條の二項の規定がそのまま働くようにはなつておりません。私はこの現在の事実を基礎にして少し考えてみたいと思つたのであります。  そこで結論といたしまして、私は現在の考え方、即ち一部事務組合であるとか財産区は、これは地方公共団体とは言いますけれども、憲法九十三條二項の地方公共団体ではないと解することがまあ妥当だと思うのであります。なぜそういうふうな考え方になるかと申しますというと、これはやはり憲法地方自治というものを、明治憲法では認めてなかつたものを新しい憲法で取上げましてそして憲法上の一項目とした、その趣旨に鑑みて考えなければならんと思うのでありますが、私は地方自治と申しますのは地方々々におきまして、我々住民の日常生活に密接な関連を持つております公共的の事務を、その地方の住民が自主的に地方地方で共同処理して行こうという一つの政治形態であろうと思うので、これは私どもの日常生活に非常に直接しており、そして又極めて民主的な色彩を持つておるものと考えます。即ちこれは私の考えでありますけれども、地方自治というものは、勿論国家の制度によつてこれを規制するのには違いありませんが、その実体としてはやはり社会的の存在として相当根本的な又自然発生的な面のあるものであると考えておるのでありますが、そういつた人間にとつて一般的であり且つ又本来的な民主活動を、地方自治が極めて重要であるというような考えになりまして、憲法がこれを特に取上げて、憲法上の要目とし又憲法上の保障を與えたものではないかと思うのであります。それでありますから、私は憲法九十三條二項の地方公共団体と申しますのは、およそ法律地方公共団体と言えばそれに何でもなるのではなくして、私どもの実際の社会生活、そうしてそれは相当歴史的な背景を持つておる現実社会生活そのものの上におきまして我々として極めて重要な且つ又我々の生活にとつて本来的な意味を持つ面のものでなければならない。即ち憲法九十三條の地方公共団体と申しますのは、一般的且つ本来的な地方自治の団体を言うのではないかとまあ考えておるのであります。そう考えて参りますると、従来扱われておりました地方公共団体組合、なかんずく一部事務組合であるとか或いは財産区と申しますのは、すでに存する一般的或いは本来的な地方自治の団体を基盤として、或る場合には技術的に又便宜的に、或いは又或る場合には特別な事項のために設けられる団体でありますから、そこまでを憲法地方自治の団体として憲法上のあのような嚴重な保障を與えたと解すべきではないように思うので、従つて現在の扱いとしても私は妥当であり、これが憲法上の解釈としても適当なものではないかと考えておるのであります。  そういうふうに現状をもとにして憲法規定を振り返つてみました上で、更に今問題になつております特別区について考えてみたいと思うのでありますが、現行の地方自治法の上におきましては、特別区につきましては一般の市とかなり扱いを異にしておりますし、又特別区の存する区域というものを特に一体性を以て考えたり、都との間に極めて密接な関連性を認める規定がありますけれども、併しどうも私は現在の地方自治法の上におきましては、この特別区というものを私のいわゆる一般的な且つ本来的な地方自治の団体として規定されておるのではないかと思うのであります。この点はその実体の問題でもあると同時に形式の問題であると思いますが、実体から申しますと、言うまでもなく東京都制ができましたときに、東京市というものがまあいわば消えてしまつて、そして地方自治精神から言うと極めて問題を包蔵する制度として続いておりましたのが、終戰後地方自治法規定が制定されましたときに、特別区というものを認めて、これに制度的には広汎な権限を與える建前にしたのであります。即ち現行の地方自治法の二百八十一條の二項と申しますのは、丁度現行の地方自治法二條の第二項と同じ形をとりまして、広くその地方々々における公共的事務を処理する団体としてこれが法律規定されております。「普通公共団体は、その公共事務並びに」云々というそういう事務を処理するというこの地方自治法二條第二項の規定、それからそれと同じような規定を特別区に置きました二百八十一條二項の規定というのは、これは相当日本地方自治制度法律制度の上でも沿革のある規定でありまして、同じような趣旨の規定が明治二十一年の市制、町村制の中にもあり、それが更に明治四十四年の市制の全文改正のときに同じ趣旨で現在のような規定が作られております。それから府県につきましては二十三年の府県制にはそういう規定がなかつたのを、明治三十三年の府県制のときに同じような規定を置きまして、それで市町村府県も能力としては地方公共団体として同じであると、但し府県は一方官吏である知事がその長になつておりました点においていわゆる不完全自治体と言われましたけれども、能力の点から申しますと同じように扱われておつたのであります。ところが東京都制におけるあの特別区の権能は、その規定とは全く違つて、特殊な限られた事務を行う、而も東京都制の下における区というものは、東京都の内部機構として考えられておつたように思うのであります。さて地方自治法になりまして特別区の権能を規定するときに、現行の二百八十一條二項が置かれました。その点からみますというと、特別区というものについてはいろいろな考えもありましようけれども、制度的に申しますと、やはりこれは市町村と同じな一般的且つ本来的な地方自治の団体として規定を置かれたものであると思うのでありますので、私は現行の地方自治法の上では、やはり特別区は憲法九十三條二項の地方公共団体であり、従つて区長住民の直接選挙ということが当然ではなかつたかと思うのであります。ところが一体その特別区という制度地方自治法の改正でその性格を改変することができるかどうかという問題でありますが、私はこれはでき得ないことではないと考えるのであります。  今度の地方自治法の改正案によりますと、特別区の存する区域における住民の日常生活に密接な公共的事務の処理は、一応これを都の任務といたしまして、特別区はむしろ都の内部機構的なものとして規定を改めております。即ち特別区は依然法人格を有する団体ではありますけれども、二百八十一條、殊にその第二項以下の改正規定を読みますというと、市町村本質的に性格を異にするもののように制度ができ、そして又幾多規定と照応いたしまして、確かに今度の改正案の狙うところは、特別区の性格をそのように変改したのではないかと思うのであります。ただこの特別区の性格をかくのごとく変改すること、即ち昔東京市が存在したあの区域の一般的公共事務の処理を、大きな区域である都というもの、その都にすべてを任せるというふうなやり方については、当、不当の問題は大いにあろうと思います。又地方自治本旨というようなものに照らして妥当であるかどうかということは、これは相当議論があろうと思いますけれども、純粋な法理的に申しますというと、とにかく二十三区の存する区域についての一般的な本来的な団体としては、やはり都というものが考えられておるのでありますから、憲法の要請はそれによつて満たされておるのではないか。不完全か完全かは別として、憲法の要請はそれで満たされているのではないか、従いまして純粋に法理論的から申しますというと、このような改変は法律の改正によつて不可能ではないというふうに私は考えております。即ちこの改正は、現行の地方自治法の下では、特別区はやはり憲法九十三條の地方公共団体として取扱い、そして又その性格を法律によつて規定付けておつたのを今申しますように改変してしまつたのでありますから、その改変した地方自治法のこの規定を是認するといたしますというと、これは憲法九十三條の地方公共団体ではなくなつてしまつて、あたかも組合であるとか或いは財産区というものが九十三條の地方公共団体ではないと同じように、勿論財産区とは特別区は性質が非常に違いますけれども、憲法の上では九十三條の地方公共団体ではなくなつてしまつたと、こういうふうになると思います。すでに地方自治法のかくのごとき改正を是認するとしますというと、区長住民の直接選挙であるということは、当、不当の問題を別にして、憲法上の純粋な理論から申しますと憲法上の要請ではないと私は思うのであります。そこで今回の地方自治法の改正で二百八十一條の二、第一項の改正規定、即ち選任に関する規定でありますが、これは政府原案でも又衆議院修正案でも共に憲法違反の問題にはならない、専ら立法政策上の当、不当の問題であるように考えます。それから衆議院で若干修正をいたしまして、二百八十一條第一項、二百八十三條、附則第十七以降等を修正しておりますが、この修正は恐らく特別区に関する従来の沿革を顧み、こういうふうな規定にしたほうがいいと考えたのであろうと思いまするけれども、併し私に言わせますと、二百八十一條第二項以下の改正規定政府原案通りで、別段の修正を建前において見ていなかつたとする以上は、今回衆議院で若干の点を特別区の規定について修正した部分は、法理論といたしましては、この問題の結論に別に影響を及ぼすものではないのではないか、そのように考えております。  以上私の所見を申上げました。
  12. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) それでは午前中の参考人意見の開陳が終りましたから、以上の四人のかたの参考人に対して御質疑があれば御質疑を願います。
  13. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 この問題についての私の意見を今ここに申述べようとは思わないのでありますが、衆議院の改正案、即ち区長議会によるところの選挙でありますが、そういう修正案については、金森さんは具体的な結論だけ申しまするというと御反対のように了承いたしたのであります。それから入江さんはここに書いてありまするように肯定していらつしやるようでありますが、私ちよつと用事で中座いたしましたので、聞き漏らしておるかも知れませんが、金森さん及び入江さん以外のお二方の綿貫さん及び弓家さんの衆議院修正案に対する御意見を聞き漏らしたのでありますが、ちよつと一言だけ言つて下さいませんか、綿貫さんは御賛成だつたのですか。
  14. 綿貫芳源

    参考人綿貫芳源君) 私は賛成です。
  15. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 弓家さんはどうですか。
  16. 弓家七郎

    参考人弓家七郎君) 私も賛成です。
  17. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 それでは弓家さんにちよつと……これは楽屋内的な私的な話になるかも知れませんが、地方自治法ができるとき、内閣の地方制度調査会が中心になつていろんな案を具申し、それが基本になつてこの地方自治法ができたのでありますが、そのときに私も委員であつたのがすが、当時弓家さんは、内務省の顧問のような形でやはりこの地方自治法ができたときに参與せられたと思うのですが、当時私はこの政府法律案が内包しておりまするような、即ち提案の理由としておりまするようなことは随分述べたのであります。即ち区長公選にするということは、或いは区の自治権をむやみに擴大するということは、地域的な地方分権主義によるものでありますけれども、都市、殊に東京のような大都市の居住民社会的な実態に照らすならば非常な弊害を及ぼして来るだろうというようなことを、欧米諸国の首都は、区がいずれも行政区であること、ひとりイギリスのロンドンの、カウンテイ・カウンシル・オブ・ロンドンのメトロポリタン・ボロースがそうではない。まあニユーヨークは御承知のごとく五区の区長公選であるけれども、行政区であるというような例等も引用してまあ実は反対したのでありますが、併しこういうように法律がきまつてしまつた、きまつてしまつた今日では、きまる前と私は非常に政治的な考慮から違つた見解を持たなければならんという考えを持つておるわけでありますが、それは具体的には今日申しませんが、当時これは私的な会談であつて、私の記憶はありますけれども、弓家さんはもう忘れられておるかも知らんけれども、そうしたこの地域的な極端な地方分権主義には今日では、即ち戰後の状態を基本にしては或いは私の言うような意味においてのいろいろな弊害がある。即ち非常な極端なデセントラリゼイシヨンの、殊に地域的なデセントラリゼイシヨンの弊害ということがあつても、それは又一定の時期に元へ戻したらいいというような話を、僕との間に話をせられたと僕には記憶がある。これは速記録には残つている話ではありません。プライベートのトーキングですが、それで、併し私はさつき申しましたように特別区の制度を基本にして考えるならば、やはり一度そうした地方分権主義的な制度をとつた以上は、それに則るところのやはり機能を十分発揮されて、そして日本の民主主義の発展に貢献さす方向へ十分リードすることの努力をしなければ私はならんというのがまあ考え方なんです。それでこれのできない場合には、非常な弊害を考慮して、そういうことをすべきではなかつたと思うのだけれども、一度してしまつた以上は、そうした民主化への貢献への努力というものが私は十分まだされておらん。又仮にここに弊害が、弓家さんが当時私的な私との話において言われましたような弊害が生まれて来たときには元へ戻したらいいというような考え方も、まだ時期には到達していないというのがまあざつと言うと私の持つておる意見なんですが、弓家さんそれについては……どうも楽屋内のようなことを話して恐縮ですが、どうお思いになつておるかということをお伺いいたします。
  18. 弓家七郎

    参考人弓家七郎君) 勿論区を一つ自治団体のようなものにするということについて、今の区は私は中途半端だと、そのときもそういうふうに何かお話だつたと、こう思うのですが、つまり一つ中心というものもなし、性格というものもなし、自分が区民であるというような、そういう自治生活を何ら営んでおらないというような区はいけないと、そのときにたしかそういうことを言いまして、一体区には当然一つのセンターがなければならない。そのセンターを中心として区民が結合しなければならないけれども、そのセンターがどういうものであるかというようなことを吉川さんとこれはお話をしたと、こう思いますが、今の区では何としてもこれは行政区にしか過ぎないのじやないですか。併し行政区としても或る方面から言えば余りに小さ過ぎる、又別の方面から言えば又大き過ぎる、それで出張所なんかを設けたり何かしておるのだ、こう思うのですが、そういう大都市の中のもう一つ小さな自治組織をどうするかということは、これは前から吉川さんが町内会の調査その他のときから随分それは私どもお話を承わつてつて、今でも重要だとは思つておるのですが、結論は出ておらないのですが、とにかくあのときから今の区では困るということは、今のような大きさの区では困るということにはなつてつたのじやないかと思つております。今でもそいうう考えでおるのでございます。
  19. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 私の意見を申上げることを成るべく控えたいと思うのですが、ただ一度きめたのを今元へ戻す時期であるかどうかということと、それからこうした改正案の動機が、やはりいわゆる政治の全般的な逆コースの線に沿うて、殊に地方行政においては、私は旧内務省の官僚諸君の意見というものが、日本地方自治というものをば非常に圧迫して、そして又日本の国民の民主主義の発展を阻止して来たということを非常に言つておるわけなんで、やはりそうした旧内務省官僚の、まあ官僚イデオロギーと言いますか、そういうものが少しも反省されないで、独立になつたのだから又元の通りにやるのだ、時によれば内務省も復活をするのだ、内務省も一定の時期には復活するもいいと思いますが、或いは知事も公選制を廃止するのだというような、戰前と少しも変つていないこの旧式官僚の意見の復活というような考えと結び附いた、この政治全般の逆コースの一つの現れとしてやはりそれが言われて来ておるというような点で私は非常に心配しておるわけなんですが、意見は申しませんが、今申したようなことについてはどうでしような、あなたのお考えは……。
  20. 弓家七郎

    参考人弓家七郎君) 私は本当の民主主義という点から言いまして、選挙によるものをたくさんにすることが民主主義だというふうには考えておりませんし、人民に対して責任を持つことのできるような、又人民が責任を問うことのできるような機構が第一だと、それはあなたもその通りいつもお話になつていうつしやるのですがそういう点から言いまして、私は区長公選をやめることが決して官僚主義の復活であるというふうには考えませんで、むしろそれが民主主義の前進だというぐらいに考えるのでございますけれども……。
  21. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 どうも併しこの地方自治法でこういう区長制度や区の制度を作るときの、私の記憶しておる、あなたの御意見と少し違うような感がするので、あなたが元へ戻してしまうときが或いはあるかも知れん、適当な時期に、適当の時期に今日なつておるかどうかということを私は聞きたいと思つて話したのですが、お答えがないようですけれども、強いてお答えは求めようとは考えません。結構です、私はそれで……。
  22. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 金森先生に一つ。その前に私、諸先生から公述を承わりまして非常に有益なサゼツシヨンを得たのですが、全体として共通した私の印象を申上げますと、九十三條の只今の諸先生の御解釈と憲法第九條の解釈と殆んど似通つたような解釈をされておるのではないかというのが、私が非常に有益なサゼツシヨンにもかかわらず、寂しくなるわけなんですが、第九條には、一切の戰争を永久に放棄する、ところが第二項には、陸海空軍その他の戰力はこれを持つことはできんということになつておりますが、今の政府はたくさんの警察予備隊を持ち、カービン銃を持ち、バズーカ砲を持ち、大砲を持ち、飛行機を持ち、アメリカの国防省から軍艦を借りて来て、それを連合艦隊と称せずして連合船隊というような形で、そしてそれは全然戰力でないというような解釈と非常に似通つて、特別区がやはり憲法規定するような直接選挙をやらんでも違憲でないというのが或る共通した、吉川先生のお話によると逆コースと一連の関連があるような気がしてならんのですが、そこでそういう前提の下に金森先生にお伺いいたしますが、特別区の区長公選にしなくても、直接選挙をしなくても違憲でないというお考えのようですが、そうしますと、区会議員の直接選挙をやらんでもやはり同様に違憲でないというふうに取れるのですが、どうでしようか、その点をお伺いいたします。
  23. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 区議会ですが、これはどうも法律でお変えになる分にはいたし方ないと思います。これは私の先に申しましたように、どうもそれがいいか惡いかということは、これは別問題です。全然いい惡いについては、これは別に個人の意見を持つておりますが、ただ筋から言うと、自治体というものは或る程度国法で動かせるものである。憲法自治体制度を国法で動かすということを深入りしないで、一種特別な、憲法で言うような完全な自治体でないように若し説明できるならば、或る特定の自治体が……、そうすれば憲法上のあの規定は形式上適用はなくなつてしまう、こういうことを申上げたのです。事の善惡ということは全然別の問題になるのであります。
  24. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 そうしますと、やはり区長公選制をとらないように区議会議員公選を廃止してしまうこともやはり違憲ではないのでしようか。
  25. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 甚だ答えは好ましくありませんけれども、さようでありますと答えるよりいたしかたございません。
  26. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 それからこの九十五條との関係です。特別区の性格を変えますには、この規定は適用されるものでしようか。九十五條の「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体住民投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」という規定と特別区のこの関係、性格変更とはどういうふうになりましうか。
  27. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 今の、この一つの団体にのみ適用がある法律の問題につきましては、これは私、只今本当の定見はございません。と申しまするのは、これは実際例というようなものがかなり緩やかになつて来ておりまして、今までの地方自治法それ自身ですらもいろいろな特別都市を含むものについても特別にそういう憲法上の処置をせずして、そのまま承認されております。或いは東京都制それ自身もそのまま承認されておる。北海道の自治体制度も、これは名前が違つておるにもかかわらず認められて来ておる、こういう実際例と申しまするか、社会の通念において今まで行政の或いは立法の慣例が発達しておりまするからして、私自身としてはやや意見を述べるに苦むのであります。大体アメリカの事例等から申しましても、いろいろ言葉を飾つてかような規定を免れて来ておるというような事例がございまして、つまりこの憲法は特定の自治体適用があるものはこの憲法規定に談当しますけれども、特定でなくて或る種類を表わす、一つでもその種類を表わすのですから、適用例は一つ切りだつてかまわない、こういうような一つの解釈があつて、大体日本の今までの慣例もその解釈によつておるように思います。これは外国の、アメリカでもそれが問題になつて訴訟なんかにもたつておるのですけれども、そういう事例を前提に置きまして私はこの問題はなお頭の中で練つておる次第でありまするが、多少の疑いを……多少の疑いと言いますのは、果して或る限られる特定のところの制度を変えるときに、平然として、国民投票に問わずしてやれるものかと、その限界如何ということにつきましてはむしろ研究問題として、私どもどちらとも今お答えできかねる状態であります。
  28. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 そうしますと、この九十五條というのは一体どんな場合ですね。現在一つ公共団体のみに適用される特別法は過半数の住民投票なしに国会でやれるが、過半数の住民投票をやつてないとできないということになれば、自治法のいろいろな……そうしたらどんなのがこれに該当するのでしようか。
  29. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) まあ現在までありましたように或る特定の町を具体的に名を挙げる、この町にはこういう制度を布くんだ、こういうことにいたしますると、それがそこだけに当てはまるということになりますが、例えば人口何十万以上の都市はこうする、こう言いまして、例えば人口六百万以上の都市についてはこういう制度を布く、こういうことにいたしますと、社会的の事実としては一つしかその町がなくても、言い方が一般的であるということで、古くからのアメリカの事例では免れておるというようなふうに聞いております。そういうふうにしてこの規定は迂濶に行くと脱法せられるというような危險性も非常に多い規定であります。どこまで行つたときにこれに当てはまると解すべきかということはまだ問題が残つておるような気がいたします。
  30. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 この憲法によりまして十四條、十五條その他で、国民は平等な権利を持つているわけなんですが、特別区の長を公選する権利がないというふうになりますと、他の地方公共団体住民ですと、先ず知事と市町村長を公選するというような権利が憲法上保障されている。東京都民だけそういう権利がないということは、これは憲法上の平等と言いますか、そういう関係はどうなりますか。東京都民だけがそういう区長公選する権限がないという、この関係はどうなりましようか。
  31. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 平等の規定というものは実質的に考うべきものであつて、人と人と実質的に違つた扱いを国法の上でしてはならないということであろうと思います。その住んでおるところの自治体が、その組み方が違えば、これは実質上は差が起らないけれども、形式ばかりで押えてはいけないのじやないかという気がいたします。それはアメリカのワシントンの町に住むとあらゆる選挙権がなくなつてしまう、大統領、国会議員参議院議員選挙する権利がなくなつてしまう、そうしてその町は市会がございませんからして市会議員選挙する権利がなくなつてしまう、こういうこともありますけれども、その場所の制度がそういうふうだから止むを得んということで、未だ曾つて問題を起したことはないように聞いております。どうも当てはめる場面が出て来なければしようがないのでございませんかね。
  32. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 どうも併しそういうふうな御解釈もあると思いますけれども、八千数百万の同胞のうちで、東京以外では知事を選挙し、そうして市町村長を併せて選挙する権利を持つているわけです。それで都民だけがただ都知事だけ、都知事はいろいろ複合的な性格は持つていますが、あと区長、まあ市町村長に当るそれを選挙する権利が参政権と申しますか、そういう権利がないということなんですかね。
  33. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 結果的に行くとそういうことは止むを得ませんけれども、実際例えば自治体が三階段にでも……ちよつとそういうことは想像できんかも知れませんけれども、又区の中に小さい区があるというふうに、東京都でありますれば東京都に住んでおる者は余計選挙権があるとか何とか恨まれるかも知れませんけれども、どうも実質上諸般の社会事情、法律制度の事情を念頭に置いて政治上公平に扱われておるかどうか、これによつてきめるべきであつて、たまたま制度のでき工合が甲地と乙地と違つておる、これはどうも止むを得ないような気がいたします。
  34. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 金森さんの今の中田さんの質問に対する、憲法第九十五條の適用をする必要がないかどうかという御質問に対する御答弁で、それは一つの研究課題であるという御答弁だつたのですが、先ほどの御意見の御開陳の中で、憲法の條章が内包しておるところの根本的な精神から離れたところの法律の改廃をやるということはよくないという御意見があつたように極く抽象的にお述べになつたと思うのですが、それでそのことを非常に力説をなさつたのは、具体的な目標を、今度の区の制度に対する改正が憲法九十五條の精神によつて一般投票によつて決定すべきものであるという中田さんの御質問のことをまあ心のうちに持たれてお話になつたのか、或いはそのときのお話の中には、先ほど私はちよつと申上げたのですが、憲法第九十三條の第二項によれば、地方公共団体の長及び議員の直接選挙制ということ及び現在の地方自治体の構成というものは意思機関とそうして執行機関とが対立するところの制度をとつている。そうしてその立場からは両方が共に住民選挙によつて選ばれなければならないにもかかわらず、議決機関が、即ち意思機関執行機関の長を選挙するということは、即ち憲法地方自治に関するところの規定精神に反するものであるというような御趣旨で、先ほど申上げた抽象的な憲法精神から離れて法律が改廃されてはならんということをお述べになつたときの具体的な対象というものは、大体どういうところに置かれて今度の問題に関連してお述べになつたのかということの御答弁を得たいということ、それから一緒に申しますが、弓家さんに私先ほど実は質問するのを忘れていたのですが、そうした地域的な非常な地方分権主義の制度、この制度を採用するようになつたのには、当時はさつき私が申したように区長公選とか或いは区の非常なる自治権の擴大というようなことは東京都民の自治生活には副わないものであつて行政に非常な不統一を来たすというようなことを言つて、私は相当強くその当時、六、七年前ですが、あの委員会で反対したのですが、そのときにそれに関連して当局はこういう答弁をしているわけなんです。自分も全くそのときは同じ考えであつた。要するに私の考えと同じようであつた。然るにもかかわらず法律がこういうようになつたのは、GHBの命令に従うものであるというようなことを言つておるのですが、あなたは当時官吏ではいらつしやらなかつたわけだが、とにかく顧問のような形で内務省にいられたのですが、そのいきさつについての話を金森さんのあと一つ聞かして頂きたい。
  35. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 先ほどのお尋ねを、少し私の言つたところが強く響いているのですからもう一遍言い直しますが、私の考え議決機関執行機関を対立させる根拠は、一つ住民選挙に基かしめて、その二つの間に親子の区別をしないようにする、この考え方はいいか惡いかは、客観的なことは別問題として、他の憲法議論するときに、議会で御説明申上げるときに、自治制に関する根本の原理一つである、こういうふうな考えを持つて来たということははつきり申上げました。そして、併し先ほども申しまするように、この東京都の区政というものはちよつと憲法の九十三條の規定には当てはまらないものである、別口であるという解釈を一応述べたわけです。これも批評の余地はありましようが、その前提をとりますと、憲法の表面からはこの問題は消えてしまつて、九十三條にかかわりのない問題になるとこれは言えようと思います。併し私どもの考えでは、できるだけ執行機関意思機関というものは独立性を強くしたいという気持を持つておりますから、仮に区長の直接選挙を避けなければならん事情が起るにしてもできるだけこの基本的な考え方に合せて行きたいものである。こういう妥当の問題として、私の希望を申上げたわけであります。その今言つておる意味は、区長選挙について、区長の任命について区議会意思決定をするということは、相当理想的な地方行政と背反するのではなかろうか、だからこれが防げるような工夫が生まれることを非常に希望いたしますけれども、併しものは一本調子に行くものではない、いろいろな複雑な関係から来るのだから、これも私としては、ただそういう茫漠たる所見を持つておるにとどめて、それ以上に発言はしないと、まあこういう意味のことを申上げたのです。
  36. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 地方行政の問題は頭に置いてお話にならなかつたわけですね、中田さんが今問題にしていられることは……。
  37. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 九十五條の問題は、これは私どもも少しずつ研究はしておりまするけれども、相当簡單な條文でありながら立法例もかなり複雑でありまして、一から十まで、ちよつと違えばすぐここの九十五條に係わるというのではなくて、もつと含蓄のある規定であるような気がしておりますので、その点は今日の主題としては勿論考えるわけもございませんし、今非常にはつきりした考えというものは持つておりません。ただ現在の問題としては、従来の地方自治法行政上のやり方として概念的に取扱つて行く、何区とかいうように言わないで、大よそこういう特別区はというように概念的に言つているものですから、堀じれば果しがございませんけれども、今までの流れて来た線に従えば、大体理論上通過し得るものだと思いまして、強いて考えなかつたわけです。
  38. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 一応承わつておいて、弓家さんのほうの御意見を……。
  39. 弓家七郎

    参考人弓家七郎君) 私はあなたも御存じだと思いますが、元来行政区、東京都の区は行政区であるべきだという考え方を前から持つておりましたし、今でもそういうような考え方を持つております。あの地方自治法の制定のときは若干何かお手伝いはしましたけれども、私どもは單純なお手伝いをしただけで、詳しい内情は全く存じません。どういう事情でああいうことになつたのだということを言われましても、私存じません。
  40. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 私は金森さんと入江さんにお尋ねしたいのであります。今日のお話で私ども非常に得るところが多かつたのでありますが、私どもの反省しなければならないところもあつたのですが、併し入江さんのお話でもわかりますように、現在の地方自治法におきまして、その特別区というものは憲法の九十三條、九十二條にも言つておりますが、地方公共団体であるという意図の下に立法せられたものであることは明らかであります。これは地方制度云々というものがありますが、これをよく読んで見て、提案理由の説明から、それからいろいろ答弁しておること、それからそのときに資料として準備しておつたもの、それからも非常に明らかであります。つまり現在の特別区というものは、現在の地方自治法では憲法第八章の地方自治の章における地方公共団体であるということで立法せられておるということは明らかであります。そこでそういう地方自治法の意図せられておるようなこの公共団体に育て上げもしないでおいて、現状が旧態依然として行政区的な性質法律と違つてつておる。実は数年前からの二十三区と都とのいわゆる自治権擴充問題というのが、それであります。私どもその調整に当つたのでありますが、ともかく地方自治法で與えられておる特別区の実を備えてほしいということがこの二十三区側の要望であつたわけです。ところがそういうように育て上げられないその現状を見て、そうしてこれは行政区的な性質だから、区長公選でなくて任命でいいのだという議論がすぐ出て来るということは非常におかしいと思うのです。そこで入江さんのおつしやつたように、今度の政府の提案は、これは現行の地方自治法を大改正をして特別区の性質を変えてしまう。つまり憲法に基く地方公共団体でなくしてしまうという改正である、こういうように見て初めて理窟は立つと私は思うのです。そうなりますとこれは非常に大問題で、今まで東京都の特別区として憲法地方公共団体であつたものをそうでなくしようというのですから、これは東京都としては大変な問題です。即ち中田君が指摘しました九十五條の「一の地方公共団体」、即ち東京都のみに適用されることになる特別法であろうと思うのであります。今まで憲法地方公共団体であるとこうしておつたものを、それをなくするということでありますから非常なことであります。やつぱり東京都民住民投票に問うべきではないかと思うのですが、その辺もう少し御明確に入江さんからお答え願いたいと思います。
  41. 入江俊郎

    参考人(入江俊郎君) 私はこの憲法九十五條の規定は、やはり特定の地方公共団体を押えて、それの自治権に影響を及ぼすような規定考えておるのであります。それで都の制度というのは、実際においては東京都しか現在ありませんけれども、地方自治法の上ではやはり都道府県といいまして、都道府県という一つの性格を持つた公共団体一つの名称であるから、将来別の所へ都を設置するということも予想し得る建前と思います。それで私は憲法の法理的解釈としては、九十五條の規定には該当しないように考えておるのです。大体九十五條の規定というのは、法律制定に対する重大な例外的規定でありまして、本来国家の最高機関及び唯一の立法機関として国会が憲法上きめられておる。その唯一の立法機関でさえも独自でできないというのですから、実に九十五條の規定は重大な内容を持つた規定であると思います。従つてそういう例外的な部分については、やはりその事の性質に鑑み、又その規定範囲を嚴重に解釈してそうして行くのが私は憲法の解釈として正しいのであつて、お話のように成るほど東京都は一つしかないし、特別区の制度の改正ということは相当重要な問題には違いありませんけれども、併しそういうことはやはり国会がこれをきめるということによつて憲法の要請を満たすので、私の考えでは九十五條の特別法等にはならないと考えるのであります。意見でありますから或いは御批判があると思いますが……。
  42. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 じやもう一つ入江さんにお尋ねしたいのでありますが、国際温泉観光都市、これは別府に限らないでほうぼうにそういうものをこしらえていいのでありますが、それなんかも住民投票に問うておる。それで東京都の他に大阪都もできるかも知れませんが、ともかく東京都の特別区という特別な制度憲法にある地方公共団体一つ、それをそうでなくしようというのですから非常に大きなことです。そこで立法関係者の意思は、東京都なんというものは一般の普通地方公共団体、道府県と同一に解されるので、むしろ基礎的な公共団体でないとまで言つているのです。基礎的な公共団体市町村及び区だと、こう言つておるのでありまして、これにすぐに出て来ますが、それほどまでして立法しており、立法府として、むしろ都より区を基礎的な地方公共団体としておる、そういうように育て上つて来ていない、まだまだその過程なんですが、それをやめてしまう。而も政府の態度はごまかしでやめてしまう、そういう根本問題に触れないでやめてしまうという非常に卑怯な態度だと思つておるのですが、フエアー・プレーでないと思つておるのですが、それはともかく、憲法第九十五條に言うこういう大きな住民投票をやらないで、国際温泉都市なんかやつてつたのでは何もならないと思うのです。これはどうでしよう。
  43. 入江俊郎

    参考人(入江俊郎君) 今のお尋ねは、やはり同じことをお答えするほかないのでありますが、事柄の内容から申しますと重要な問題もたくさんありますし、それほど重要な問題でないものもありましようが、とにかく地方公共団体という独立の人格を認めた団体そのものに対して、住民の権利、義務に直接影響を及ぼすというようなことについては、事の軽重を問わず、特別法として扱うのが憲法第九十五條の趣旨であろうと思うのであります。従つて九十五條をもう少し変えるのがいいというのが、憲法改正論としてはいろいろ考えがございましようけれども、現行憲法範囲であるというと今のお話のような点は幾分不揃いの点もあるかも知れませんが、憲法の法理的な解釈としては先ほど申上げましたように解するほかはないと思つておりますので、今までの例から申上げましても、数個の公共團体、数個と申しますよりは、従来の例から申しますと、とにかく特定の公共團体を挙げまして、それに適用のある法律をこの法律考え、然らずして、都についての規定の改正でありましても、これを特別法として扱わない前例もありますので、こういう憲法の解釈もその幾多の前例を踏襲して、程よいところに落ちつけるというのがいいことであると思うので、結局この問題については私は先ほど申上げましたような結論を持つております。
  44. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 じやもう一つ入江さんにお尋ねしますが、先ほど最後にお述べ頂きました点で、衆議院の修正におきまして、この二百八十一條の第一項、現行は「都の区は、これを特別区という。」という表現をいたしております。それを政府の改正原案は、「都に区を置き、これを特別区という。」と、それからまだほかにもいろいろ字句を直して、多少性格を変えるのじやないかというふうに見える所もあるのであります。それを今度衆議院ではすべてもとに復せられて、「都の区は、これを特別区という。」というのに直されたのであります。そして二百八十一條の二という政府原案にちよつと筆を入れられて、特別区の議会が都の同意を得てこれを選任するというふうにやられたのであります。これは憲法の問題、法律の問題としてもそれでいいのだ、違反ではないと、こう言われるのでありますが、そういたしますと、まあ表面上にはそれほど区の性質が変つているようには見えない、ただ区長の選任だけですから。それでは今度は都道府県なんかについても、これは基礎地方公共団体ではないというような見地から、都道府県の知事は任命すると、総理大臣がその議会の議決を経て任命するのだというような規定地方自治法に入れれば、それでもうすつかり都道府県憲法に言う地方公共団体である性質がなくなつてしまうという、こういう危險に私は導くと思うのです。その点どうお考えですか。
  45. 入江俊郎

    参考人(入江俊郎君) 私は法律の、こういう制度のもとの観念を理解しますときには、やはり法律の形式の面とそれから実質の面と双方から考えて行かなければならないと思います。そこでこの特別区につきましては、先ず形式の点から申しますと、その中心はやはりさつきも申しましたが、二百八十一條の二項以下の規定に重点を置いて私は解釈するのであつて、即ち特別区か従来のように広くその区域内における公共事務を処理するがごとき形式をやめまして、二十三区を通ずるような区域における一般的公共事務を一応都の事務にいたしましてから、又区のほうに戻して来るというような形になつておる。そういう形式的な面から見て、性格が変つたものと理解しておるのでありますが、その部分については、今度の衆議院の修正でも触れておらないようであります。それから然らばそういうような制度さえ変えるならば府県でも何でも将来そうなるかという点につきましては、これはやはり実質問題がその裏付けになるわけでありまして、特別区につきましては東京都制の制定以来の各種の沿革があつて、成るほど自治法の上では形式的には市と全く同じようになつておりましたが、実質的には相当に特異性を持つてつた。それを今度は実質の上に即しまして制度も変えたということであると思うのです。府県のごときものになりますと、これをただ法律の條文を変えただけで以てそういうことになるかどうか、これはにわかにそういう結論にはならないのであつて府県制度というものは、根本的な問題として論議されましようけれども、單に今日の府県をそのまま法律規定を変えることによつて、それで憲法九十三條二項の地方公共団体でなくなつたというようなことは、これは暴論であろうと私は思つております。
  46. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 もう一点金森さんにお尋ねしたいのですが、これは私は中田さんと同じ考えを持つてつたのでありますが、憲法の各條文の解釈、それはやはりそのときの公定解釈というものが相当ものを言わなければならん。時勢が移るに従つて憲法も変るものであるというような点において公定解釈が多少変るというものがあると思います。併しその公定解釈が簡單に変るのでは非常に困るのでありまして、大きな法律憲法範囲内において改正する、変えるということでなくてはならん、そういうふうに感ずるのであります。特に地方自治法憲法の附属法律であろうと思うのですが、憲法の公定解釈、それとその後の時勢の推移というものについての解釈の考え方、それについてお話し頂きたいと思います。
  47. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 日本には憲法の公定解釈というものもそうはつきりはしておりませんが、併し社会の通念に従つて自然に多くの問題についてはどこかに一定しておると思いますし、又その一定したものを尊重しなければ、お話のように折角憲法があつても各人各別な憲法になつて殆んど意味を持たんということになりまして、その点は非常に大切であろうと思います。余談になりますけれども、例えば、それがぐらついたように思われておりますのは、先ほどお話のありました憲法九條の解釈でありますが、これも私自身の立場から申しますれば、当初からの、これは身贔屓でありまして、私どもの考えておつたものは今日も変つてはいない気がしております。今地方公共団体のほうを考えるにつきましても、もとよりこの解釈が憲法の解釈が狂つてはならないということは当然のことであります。ただ今問題になつておりますのは、憲法の解釈というよりも地方自治法をどういう中味でこしらえて行くかという、いわば妥当問題として立法上考慮しておるという段階でありますから、それについては憲法の解釈が動くということの問題とは大した直接の関係はないのではないかという気がしております。私自身も、御説明申上げましたあの論議からもう一遍筋だけを復習いたしますと、地方自治体というものの、非常に憲法規定は含蓄のあるものでありまして、複雑なものを僅かな條文にまとめておりますために、中心ははつきりしているけれども、その周辺にありますものはなかなか正確に見極めにくいという点がございまして、今問題になつておりますのも、いわばその周辺にあるものについて解釈を変えるのではなくて、現在如何に考えれば一番正しいかという、いわば公定解釈がだんだん生れつつ行く順序の段階にあるのではないかという気がしております。今日二つ議論があつて、文字通りに行けというのと、文字を少しく離れて行けという議論になります。文字を離れて行けとい議論の中にもしばしば聞きまするように、積極的に定義を與えて基本的、一般的というのもあり、私どものようにそれはそうはつきり言葉に出して言い切れるものではない。要するにノーマルな自治体を着想しているのだ、こういう説明もありますが、これらを全事項練り合せつつおのずからよき慣例が生まれてはつきりした答えが出て来るものだと思つております。  ちよつと先に関連して、九十五條の特別法の所はこれは私はわからんと申しましたが、事実憲法が生まれましたあとの動き工合を見ておりますと、どこかの町を旅行客を誘う町にするということがさも重大な問題として取扱われて、案外もつと重大な問題がこれに入らないということ、軽く動いているということについてはもう少し深く考えてみなければならん点がございますけれども、ただどういうところに着想を置くべきかということは、外国の立法例なんか見まてもなかなかこれは帰結が得られませんので、要するに或る自治体が広い世間から圧迫を受ける。つまり個人が社会から圧迫を受けるように、或る自治体が広い世間から圧迫を受けて、そうして不利益を受けることになつてはいけない。つまり人権擁護のような気持で出て来ておりまして、それを中心として考えて行きますと、これは複雑な世の中で、ちよつとした特別規定があつたからとてすぐ国民投票に訴えるというわけでもないと思います。どういう部分がかかるものであろうかという問題が一つと、それから今のように概念的に扱つた場合に、この規定では適用外になるかどうか、この二つの点がありまして、政治は政治の舞台で動くものと存じます。私は個人的に今少しずつ研究しておりますが、こういうのもやはり社会的な発展によつて解決するもののような気がしております。
  48. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 もう一点金森さんにお尋ねしますが九十三條の第一項に「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。」とある、それによつて議会がある。そうすると区議会のほうはそのままにしておいて、第二項のほうはそのままでいいのだというのは何だか割切れないのですが……。
  49. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) 実は私も割切れないので、私は別に原案に関係はございませんので、つまりこの案というものはそういう区々たるところに関係しないで、大づかみに九十二條の外に都の特別区というものを出してしまつて従つて外に出てしまいましたから、中にどういう議事機関を作るか、執行機関を作るかということは、憲法九十二條、九十三條の外に離れてしまつて、そこは立法上のいいところで行く、こういう構想に基いているものと思いまして、それでなければちよつとどうも片端者をこしらえるということは私にはわからんのであります。
  50. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 金森先生は憲法制定当時の担任の大臣とされていろいろ裏面の消息を知つておられると思うのですが、私は第九十五條、これはやはり相当重要な規定だと思うのです。私が先に質問し岡本さんも言いましたように、やはりこういう規定があるというのは、地方自治日本の民主化並びに再建の希望である、従つてそういうものに対して軽々しく性格を変えるようなことをやつてはいけないという、やはり日本が戰争になつたのも、内務省を中心にした全機構的な関連において日本が戰争になつてつておる。従つて日本を民主化し地方分権をやつて行くというのは、やはりその根本に触れる問題は、住民意思を問うて、そうして過半数の投票が得られた場合においてのみ国会でもできるというふうに、私は日本が曾つてつた道を再び過まらないような一つの制動的な、ブレーキのような大きな意味を持つてやられたのではないかと思うのですが、その点はどうでしよう。  もう一つは、このたびの政府原案では、都知事議会同意を得て選任する、こうなつておりますし、それから衆議院の修正案では、区議会が知事の同意を得て選任する、こうなつているのですが、その法的な関係、利害得失というようなことにつきまして一つお伺いしたい。
  51. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) この憲法の九條とか或いは九十五條とかいう規定、或いは九十二條もそうでありますが、この憲法の由来は私は責任を持つて述べるわけには行きませんけれども、私どもがこれをあずかつているときには、日本は急角度に一つ新らしき世界に行こう、従来いろいろな弊害のあつたものは抜本的にこれを摘除しよう、こういう、理想を以て御説明を申上げたということ、これはその通りであります。ただだんだん物事を丁寧に見ていると、世の中の力が結集して来まして、幾分ずつその理想を減らして行く傾向のあることは世の中の自然として認めなければならん。いい惡いは別としまして、事実或る程度は、考えが変るわけではありませんけれども、その働きの鋭さというものが鈍つて行くという傾向はあると思います。九條のほうは私どもは初めと今とは寸毫も意見は違つておりませんから暫らく別として、自治制の面に関しましては、総体的にいうと私ども一遍飛び出したものは後は向かんけれども、前を向いたまま後ずさりして行くというような傾向があつて、これはこの憲法が国家で議論されておりますときに知事公選、ちよつと古い言葉になりますけれども、この憲法は当然知事公選ということを前提にしておりましたが、憲法議会にかかつておる当時に内務省かう出た案は、知事は官吏で行く、こういう案であつた。そこでいろいろな経緯があつてやつとどうにか公選のほうに無理矢理に勢いに乗つて引ずつてつたのであります。これはそのときの歴史的事情でございますが、その事情が今度逆転して又もとの姿に行くというような、これは永久、百年のあとにどうなるということは、我々は静かに見守るよりほかにしようがございませんが、十分の経験なくしてあと戻りするということはよほど避けなければならんという気がしております。今日現われておりました、私は特別区のことしか実は精読しませんでしたけれども、これは必ずしもあと戻りなりと断定するほどの性格でなくして、むしろ起つて来た弊害が多過るからこれで是正しよう、こういう面からでありまして、結局起つて来ている弊害を調整するために、もつと積極的な手段でその弊害を調整するか、それともこういう幾らか形の上であと戻りするような方法で矯正するか、こういう問題が起りますが、何か矯正すべきもの、つまり短い時期の間に一つ早く欠点を取除かなければならんという必要は迫つているらしく感じまするが、私どもは今日自分の意見を述べる範囲ではなかつたので述べませんでしたけれども、これは永久の制度として変えるのではなくて、とにかくその間にもう少し自治的精神を涵養して、発展せしめる余裕を置いて弊害を暫らくとめる、こういう考えで行くべきものではないか。ちよつと個人的な見解になりますけれども、私は初めから自治体というものは二階棧敷、三階棧敷に重複して来る。これは当り前のことであつて、それでなければ人間生活というものはうまく行かない。これは或いは私の個人的な見解かも知れませんが、日本では個人と国家というものを考えて、その二つしか考えなくて、自治体というものは実は考えていなかつた。無理に考えた結果として国家の手足と考えた。結局自治体をこしらえましても、個人と国家と二つしかない、こういうのがどうも私どもの認むるところであります。併しそれはおかしい。個人があり家族があり、自治体がある。これは人間に生れつきの原理であつて、そこで自治体というものを本格的に起して行かなければならんというのがこの憲法地方自治制度である。理窟を言えば国家の手足でも何でもない。国家の外にはみ出しておる。自治体のやることは国家でもやれないと、このくらいの鼻息であるといたしますると、今度地縁団体としては小さい団体、中ぐらいの団体、大きな団体いろいろありまするが、おのおの意味を持つておるのでありますが、従つてその権能が重複するのは当り前であつて、この重複を嫌つて一元的に統一するということは、相当工夫を要する点でありまするけれども、たまたまこの問題は重複するところを何か行政的に統一しよう、こういうような行き道のような気がいたします。併しこればかりではない。世間往々にして気短かに各種段階の自治体を一元的に整理しよう。併し二元というのを一元的に整理されるのは本筋じやないので、多元的に整理されるのが本筋でありまするから、もつと積極的に自治体を活かしつつ、而もその間に統一と協力が得られるような工夫というものが生れなければならんと思いますけれども、これはなかなか急に智惠が出ない今日、こういうものが出たのじやないかという気がしているのです。
  52. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 それからもう一つ、先に御質問しました政府原案では、知事が議会同意を得てというのと、区議会が知事の同意を得てという法的な限界と利害得失というようなものについて……。
  53. 金森徳次郎

    参考人金森徳次郎君) これは実は細かいところを見れば都知事が任命するのと区会が任命するのと、これは形式的には違うに相違ございません。併し私どもただこういわれを知らずしてこの修正のあとを見ますると、要するに同じことであつて、ただそこに何かこう人間というのは意思ばかりじやたいのですからして、そういう複雑な心理作用を満足せしむるものがあるのではないかとひそかに思つております。まあ違つたら誠に相済みません。
  54. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 ちよつと入江局長にお尋ねしますが、この間接選挙と直接選挙の法理論的な問題を離れまして、入江さん長いこと地方行政に御関係つたのですが、そういう体験から見て、直接選挙と間接選挙による場合との利害得失といいますか、私地方公共団体の市長、それから区長であろうが、やはり公選制の直接選挙がいいのじやないかというふうに考えるわけであります。いつかも馬場恒吾さんがやはり、代議士には随分いろいろな種類の人がおるが、あの数十万の人に選挙されることは、高等文官の十人くらいの試験官よりかも遥かに手嚴しいもので、そういう試練を経た者がやはり議員なり長なりをやるということは非常にいい制度である。それはもう一遍あの闘争場裡を潜ることによつてどういうレベルの人でも人間が生れ変つて来るというようなことを書いておられて、私非常に感銘を持つて読んだのですし、それから一つの例を挙げて、例えばシドニー・ウエツブとベアトリス・ウエツブが大英社会主義国の構成というので、間接選挙と直接選挙による弊害を多数の実験をしまして調査をやりまして、彼は大部の力作を書いていますが、その要約を見ましても、いろいろな調査の結果、我々がここでなし得る二つ選挙方法の無数の実例を研究し、遂に到達し得た結論というものは、やはり直接選挙制度が絶対的に優秀であることは何ら疑いを入れないというふうに書いていまして、そして更に途中を飛びまして、決して選挙は、中間団体の媒介を通じて選挙されてはならない。そしてこの結果が明らかにするところは、間接選挙原則は明らかに不利であると、そして更に飛びまして、実に実験の示すところによれば、政治問題を決定し……、又は広汎なる労務者の合成体を完備しなければならん、間接選挙による団体は、選挙人に理解させる必要を免除させる結果、官僚主義の特徴たる秘密主義に陥るようなことになるのであると、そして飛びまして、若し直接選挙による団体が反動的であり又は冷淡であるとするならば、間接選挙による団体は超反動的になり超冷淡になるであろうというようにシドニー・ウエツブは夫妻で、イギリスの広汎なる地方自治制度の調査に基いて、歴史的な地域的な調査に基いて、そして直接選挙というものが間接選挙よりかあらゆる点で勝るというように結論しているわけでありますが、日本のこの地方自治体の長という者が内務大臣が任命したり或いは地方議会がやつたりしてああいうふうな戰争になるというようなことと深い結び付きがあつて、その当時入江さんは最高首脳部として担当されたのではないかと思うのですが、そういう関連とにおいてこの関係をどういうふうにお考えになりましようか。
  55. 入江俊郎

    参考人(入江俊郎君) その問題は非常にむずかしい問題でありまして、直接選挙と間接選挙にはおのおの利害得失があると思います。それで比較法的に申しましても、議決機関につきましては一般選挙、直接選挙、これが一番適当であるというよとは先ず通説でもあり、殆んどその例外はないと思いますが、いわゆる執行機関になりますというと、御承知のようにイギリスやヨーロツパ大陸のほうではいわゆる間接選挙と申しますか、それが一般的であり、アメリカ大陸等につきましては直接選挙が一般的である、こうなつておりまして、どうもどつちがいいかということは、やはりその国々の沿革とそれから選挙をする人の政治的な自覚ということと睨み合つて判断するほかないと思うのです。それで総じて申しますと、執行機関の直接選挙というものにつきましては相当に選挙人が冷静に、そうして又政治意識が発達していることが必要ではないかと思いますけれども、併しそれを待つてつていつまでもそれを行わないというよりは、或る時期に直接選挙をやつたほうが、どうせそれは民主的に申しまするというと、一般の国民と直結するのでありますから、理論的に言えば直接選挙非常に結構であるということになろうと思います。我が国の制度として考えますと、これは地方公共団体につきましても原則的には執行機関は直接選挙が望ましいと思うのです。憲法自身がそうきめてありますから、憲法上はするほかありませんけれども、憲法規定を離れて、実体論から申しましても望ましいと思いますけれども、地方公共団体にもいろんな種類、程度がありまして、そうしてこれについてはそれこそ行政学的によしあしを検討すべきであつて、一概に間接選挙絶対にいかんということにもなるまいと私は思つております。
  56. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 私はこれが一つのきつかけになつて、ただこの区長の間接選挙だけでなしに、知事なんかのやはり任命制なんかとからんだ広汎な一つの氷山の一角じやないかと、それは吉田総理がここにおられる岡野国務大臣を呼んで、知事の公選制を廃止して任命制にするような方法を研究して見ろとか、それから岡野国務大臣が関西に西下された際にも、私は新聞を切抜いているが、そのことを目下鋭意研究中であるというようなことを言われている。私はやはりこれが橋頭堡になつて、堰を切つたようにこの吉田内閣の性格からして行つてしまうのではないかというように考えるのですが、長官はそういうような虞れは現下の世情から見てないとお思いでしようか、大変変な質問ですが、私はそういうふうに行く一つのやはり契機ではないかというふうに考えるのですが、そういう点で、殆んど前のように旧内務省時代のような逆コースヘの一つの布石じやないかというふうに懸念するのですが、この地方、中央を見られてそういう虞れはないものでしようか、どうでしようか。
  57. 入江俊郎

    参考人(入江俊郎君) 私の考えまするところによりますと、今度は東京都の特別区の区長がこういう制度になりましたからといつて、今の府県制度の下における知事が、法律の改正によつて間接選挙になり得るとは到底が考えられません。又一般国民もそういうふうな改正を出したからといつてそれで納得するようなことにもなるまいと思いますけれども、私の私見であります。
  58. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 実は今の憲法ではそういうふうに第九十三條二項でできないが、例えば道州制というようなものを入れて、そして府県というものを行政区にしてしまつて、そして地方事務所長を任命するような形でやるというのが道州制の起きた一つの、現行憲法の枠内で知事をどういうふうにして任命制にするかというので新しく登場したのが……別な意味の道州制もありますが、そういうような意味で道州制が現行憲法の違憲性がら逃れながら、もう一つ大きな道州制という、地方団体を入れて、公共団体を入れちやつて、そしてそれを一つの地方事務所のような形にしてそれをやる。そういうような意図も道州制の起きた一つの理由じやないかというようなこを言われているのでが、そういうことはないのでしようか。
  59. 入江俊郎

    参考人(入江俊郎君) 私はどうもその実情については一向存じません。
  60. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) それでは午前中はこれにて休憩いたしまして、牛後は二時より開会いたします。    午後一時十分休憩    —————・—————    午後二時三十一分開会
  61. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) それでは午前中に引続きまして只今より再開いします。  順次参考人の御意見を聽取いたします。最初に日本弁護士連合会の弁護士島田武夫君。
  62. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 私から意見を申上げます。  先だつて都の関係者から日本弁護士連合会に区長選挙制を任命制に改めることの法律上の可否について質問を受けたのでありますが、いろいろ研究の結果、区長選挙制を任命制に改めることは憲法に違反するという回答をいたしたのであります。この回答は実際の政治面には触れないで、専ら法律的立場からだけお答えしたのであります。複雑な都制、区制の内容について調査することは非常に煩雑で、時間も許しませんので、ただ法律の面から目た回答にとどめたのであります。本日はその弁護士会の回答した内容について申上げたいと思うのであります。  一体この東京都の二十三特別区は地方自治体としての実体を備えておるかどうか、この点について私は法律を離れた、即ち法律をないものとして、区は自治体であるかどうかということについて疑問を持ちましたので、このことを区の方に質問したのありますが、満足な回答は得られませんでした。が自治体というからにはみずからの意思決定を成るべく自分の経費でその意思決定を実行する組織と機能を備えていなければならんと思うのであります。然るに地方自治法はこの区を地方公共団体にしてしまつたのであります。この点に問題の原因があると私は思うのであります。そこで区は現実自治体としての実質を備えていないものとして、これを本来の自治体でない姿に帰して、これを都の行政区域にするか、又はこれに基礎的な公共団体としての権能を付與して自治体の実を挙げしめるかということが、これが問題の核心になると考えるのであります。それで前の立場をとれば、区長都知事の任命制になりますし、後の立場をとれば区長は区民の公選制でなければならんということになるだろうと思うのであります。御存じのような地方自治法の二百八十一條乃至二百八十三條によると、都の特別区は区の公共事務及び都條例で区に属せしめた事務を処理し、原則として地方自治法の市に関する規定が準用されるということになつております。この建前から見て、特別区は基礎的な地方公共団体であると見られるのであります。  なお第九十二帝国議会における所管大臣の、地方自治法提案理由の説明には、東京都の区は特別区であつて原則として市と同一の権能が認められる。これと同時に東京都は基礎地方公共団体でなく、都道府県と同様に市町村を包括する複合的な地方公共団体である。こういうふうにこの提案の理由が説明されておりますし、又地方自治法の施行に関する県通牒のうちにも同趣旨のことが述べられておるのであります。これによつて見ましても、地方自治法が特別区を基礎的な公共団体として認めたものであるということは明らかであると思われるのであります。  それでは自治法地方自治体としての実体を備えていなかつたかに思われる特別区をなぜ基礎的な地方公共団体として認めたのであるか。この理由は明らかでありませんが、将来特別区として地方自治体としての実体を備えしめるように漸次法令を改正して行くつもりであつたものと推定されるのであります。昭和二十二年地方自治法が立法された当時には、立法者は民主主義の理想を高く掲げて、近き将来特別区が理想的な自治体に発展して行くことを期待し、その前途を祝福していたものと思われるのであります。特別区を基礎的な地方公共団体であると見るときには、これに矛盾する法令がないではありません。例えば地方税法、生活保護法、それから児童福祉法とか社会福祉事業法などは、特別区の存在を無視したような規定があります。併し地方自治法の立法当時はこれらの規定はすべて特別区に順応させて行くつもりであると考えられるのであります。従つて現在特別区の存在を無視するような法令があるからといつて、特別区を基礎的な公共団体とした地方自治法規定は誤まつていると即断することは早計ではないかと思うのであります。憲法第九十二條には、地方公共団体組織及び運営に関することは地方自治本旨に基いて法律でこれを定めると規定しておりますが、この規定は單に組織運営にとどまらず、どんな団体を地方公共団体として認めるかについてもこれを法律に委任しているものと解されておるのであります。この憲法の要請に基いて現行の地方自治法は特別区を地方公共団体に対し、先に申上げますように区を特別区という基礎的な公共団体として認めねばならない必然的な理由はないと思うのであります。併し理由の如何を問わず、地方自治法憲法の委任に基いて区を基礎的な地方公共団体として認めたのでありますから、今更これを基礎公共団体として認めなかつたのだということはできないと思うのであります。地方自治法上特別区が基礎的な地方公共団体である以上は、憲法第九十三條二項によつて区長は区民の直接選挙によつてきめられなければならない次第であります。都の側の代表者は、地方自治法地方公共団体組合財産区は地方公共団体であるが、その長を住民が直接選挙するという憲法原則は適用されていない。特別区も地方自治法上この組合財産区と同様にその長を住民の直接選挙によつてきめる必要はないのであると主張されるのであります。併し特別区は人口三十万乃至五十万の多数を擁し、数億乃至数十億の課税を負担し、政治的にも社会的にも市町村以上の重要性を有しておることは御存じの通りであります。これを事務組合財産区と同一視することは常識上許されないのではないかと思うのであります。仮にこれらの公共団体の内容を除いてその形式だけを法律的に見ましても、自治法は特別区を基礎的な公共団体とする目的で立法されており、従つて区長議員憲法九十三條二項によつて住民選挙によつてきめることを前提としておるのであります。従つて自治法の中には区長議員のきめ方については何らきめておらんのであります。然るに事務組合におきましては議員組合長の選挙や選任方法は組合規約できめることになつておるから、直接にはこの憲法の支配を受けんでもいいことになつておるのであります。又財産区にあつて関係市町村又は特別区の條例によつて議会を設けることができ、その長を置かずに関係市町村長や特別区長事務を処理することになつているから、これ又直接憲法の支配を受けんでもいいことになつておるのであります。右のような次第で、特別区を公共団体事務組合財産区と同一に扱うことは、扱おうとする都側の見解は、法律的には正しくないと思われるのであります。先に申しましたように、どんな團体を地方公共團体として認めるかということは憲法の委任があるのであるから、法律で勝手にきめることはできないのであります。従つて地方自治法を改正しまして、特別区は基礎的な地方公共團体ではなく、都の行政区画であるか又は財産区であるというふうにその性格を変更すれば、区長如何ような方法できめても差支はないということになると思われるのであります。併しかように改正をするのには、憲法第九十五條によつて住民の過半数の同意を要することになつております。この同意なくして軽々しく地方自治法を改正することはできないのあります。この点について都の側の代弁者は、一の地方公共団体のみに適用される特別法の改正について規定している。ところが二十三特別区に同時に適用される法律の変更には、これは一の地方公共団体というに当らないから、九十五條の適用はないのである、かように主張されるのであります。併しかような字句の末節に拘泥した解釈には左袒できないのであります。一体この憲法九十五條はその表現が甚だ不明確で、学説もいろいろ分れており、その解決は甚だ困難な問題を包含しておると思うのであります。学説を大別すると、この規定の文言に重点を置く説、これを仮に形式的な解釈と申しましようか、それからこの條文の精神に重点を置くもの、これを仮に実質的な解釈と申しましようか、大体この二つに分れるのでありますが、形式的な解釈からすれば、憲法九十五條には一つ地方公共団体とあるから、二つ地方公共団体に適用される特別法を包含しないことになるのであります。併し憲法がかような杓子定規の解釈に満足するものでないことは言うまでもないのであります。又この九十五條には特別法という文字を使つておりますが、この特別法という文字が甚だ不明確であります。普通には特別法は一般法に対して用いられる言葉でありますが、地方自治法は自治に関する一般法であるとすれば、自治法は特別法ではないから、自治法を改正するのは憲法九十五條に該当しないということになるのではないか、かように形式的に解釈するときには、憲法九十五條は死文と同様に相成るのであります。憲法地方自治制度を認めたのは、御存じのように警察法の前文、教育委員会法、地方自治庁設置法などに規定せられておるように、国民に属する民主的権威の組織を確立し、公正な民意によつて国民全体に対して責任を負うところの政治的基本單位としての自治体を認めたものであると思うのであります。従つて民主的な基本組織を破壞するような法律の改正は憲法の欲しないところである。憲法九十五條にいわゆる特別法は自治の精神に悖るような法律を制定することを指しておるものと解せねばならないと思うのであります。従つてここに特別法というのは、自治の原則を示す法律を一般法というに対して、これに反する法律を特別法という文字で言い現わしておるものと解するのが妥当であるように思うのであります。  さて特別区の区長は区民の直接選挙によつてきめるという憲法規定は、地方自治法精神から流露した規定であると解せられるのであります。その運用の実際面を見ないで、憲法自治法の建前から見ると、この制度が自治の本旨に反するとは考えられない。むしろ自治の本質をなすものと考えられるのであります。従つてこれを改正して区長を任命制にするのには住民の賛否を問わねばならないことに相成るのであります。  最後に特別区は果して自治体としての実体を備えているかどうかは甚だ疑わしいと思うのであります。仮に基礎地方公共団体としての実体を欠いているとすれば、特別区はその実基礎的な地方公共団体ではないのであるから、これを基礎的な地方公共団体として扱う必要はないのではないか。従つて区長を任命制に改めても差支ないのではないか、こういう疑問が起るかも知れんのであります。併し特別区の実体自治体としての実質に欠くるところがあるにしても、地方自治法はこれを地方公共団体として一旦認めたことに誤りがないとすれば、法律の面では基礎的な地方公共団体になつておるのであります。この法律が廃止されない限りは特別に法律的性格を勝手に変更することはできない。これは地方行政一般に通ずる原則であります。従つて改正案によつて区長を任命制に改めることはできない。改正案では区長は区議会同意を得て都知事が任命するということになつておりましたのを、衆議院では反対に、区長都知事同意を得て都議会が選任するとしたのであります。併しそのいずれにいたしましても、区長憲法第九十三條二項に言うところの住民の直接選挙でないことに変りはないのであります。で、都民又は区民の全部又は一部がかような改正を歓迎するか否かは別問題といたしまして憲法九十五條に適合しない改正であるということに変りはない、かように考える次第であります。  大体私の申上げることはこれで終りました。御質問がありましたら……。
  63. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) それでは皆さん終りましてから質疑をいたしますから……次に東京大学教授杉村章三郎君。
  64. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 本日地方自治法の一部改正法律案につきまして意見を述べるようにということでまかり出た次第であります。併し問題が限定してありまして、この法案の全体につきまして私見を述べるのではありませんで、法案が第二百八十一條の二、即ち特別区長選任方法につきましての見解を求められておるのであります。実はこの問題につきまして私の見解はすでに先月十九日でありましたか、衆議院地方行政委員会の公聽会の席上で申上げてあるのでありまして、その速記録を御覧願いたいのでありますが、この速記録には誤植もあるようでありますし、又当日私が述べましたところで意に満たなかつた点もありますので、多少繰返して申上げます。重複の点が多々あると存じますが、お許し願いたいと思います。  元来都制の問題は明治二十一年の市制、町村制制定以来と申していいほど多年の懸案でありまして、昭和十八年の戰時中の改革によりまして一応解決いたしましたが、終戰後地方自治法の制定を契機としまして再び問題は焦点を変えて蒸し返した感があるのであります。地方行政調査委員会議でも都制の問題は特別市制の問題と共に最も取扱いに困つたものの一つでありますが、両者ともに大都市に関する問題の一環といたしまして、とにかくそれぞれ一連の勧告をいたしたのであります。私の意見はやはりその勧告に相当盛られておりますので、勧告起草当時のことをちよつと申上げて見たいと思います。その勧告起草の方針といたしましては、この会議の性格としまして、先ず都と特別区との間における事務配分をいたしました。ついで都及び特別区においてそれぞれこれを処理するに心要な組織及び財源措置を考えたわけであります。事務配分に当りまして、一般の府県市町村との関係と違いまして、都と特別区の場合は、都が特別区の存する区域、即ち旧地域における一貫した行政をなさなければならない建前から、特別区に属せしめる事務を列挙する方針をとりました。その内容として、住民の日常生活に特に密接な関係のある事務で者も全体として統一的且つ計画的に処理する必要のない事務、即ち大体におきまして営造物に関する事務中心としまして特別区の事務考えて、私どもはこれを都の事務として両者の間の責任を明確に区別し、将来両者の間の紛争を断つための努力をしました。即ちこの委員会といたしましては、一方において現在の特別区の能力においてなし得ることは成るべくこれに任せると共に、他方において都が二十三区において一貫的な都市行政を成るべくやりやすくするために、従来のような都吏員を区へ配属するとこういうを認めますし、又財源措置としては、従来特別区が賦課徴收する区民税を還付税方式によつて都が徴收すべきものとしておるわけであります。併しこれによりまして特別区の性格を変更するというような意識はなかつたように思うのでありまして、むしろ現制度の下において都が一貫的行政をやりやすくする最大限度の考慮を拂つたものと私は解釈いたしております。ところで委員会におきましては更に都の組織の問題、特に区長選任の問題につきまして多くの議論が出ました。この問題につきましては憲法九十三條第二項の規定関係上特別区の権能を如何に制限いたしたといたしましても、そう簡單公選以外の方法をとるということはできないわけであります。学説としまして、特別区から財産区の末に至るまで、すべての地方公共団体の長は公選でなければならないという説はとらんとしまして、仮に基礎地方公共団体或いは一般的権能を持つ地方公共団体だけに九十三條二項の適用があるものとし、特別区は神戸勧告とか或いはこの改正法によりまして、基礎地方公共団体或いは一般的権能を持つ地方団体たる性格を喪失したのだから区長公選を要しないという説をとつたといたします。私はこの説に対しては知事公選廃止というものの将来根拠になるのじやないかということで、今これは再検討しなきやならんと思うのでありますが、たとえこの説をとつたとしましても、そうなりますと都制の場合におきましては、二十三区の区域には上級地方団体はあるといたしましても、二十三区だけを区域とする特別市基礎地方公共団体が存在しないということになります。と申しますのは都と二十三区の特別区とは区域を異にする団体でありまして、都が二十三区に如何に広汎な行政権を行使するからと言つて、旧東京市が復活したというわけではないからであります。この点はよく世間、世人ばかりではなく、自治法の権威者と言われておる人におきましても往々錯覚を起すようなことであります。世の中の人がよく我々は区民意識はない、都民意識のみがあるのだと、こういうように申しますが、そううい東京都民考え方は旧東京市民意識であつて、恐らくは三多摩或いは島嶼を含む大東京都民であるという住民意識というものは、これはそうあるかどうかということは私疑問に思つておる次第であります。かように考えて参りますと、現行都制の建前では、たとえ権限が局限されたとしましても、特別区に憲法九十三條二項が適用がないという解釈は自信を持つてはとることができませんでしたが、神戸勧告では、区長の選任の問題はこれを見送りまして、現行制度のままといたしたのであります。従つてこの点は法案に対する衆議院の修正によりまして、区長を区議会で知事の同意を得て選任するという方法をとりましても同様であります。それは憲法には長は住民が直接選挙をするというふうに明記してありまして、直接選挙以外の選挙自体につきまして解釈の余地がないからであります。  以上私はこの問題を特に神戸勧告の線を基礎として私見を申したに過ぎませんが、区長を間接選挙にするというようなこと、その他の修正で、都と区との間の意見がまとまればこれに越したことはないのでありまして、実際上の見地から申しますならば、私は妥協案の成立を希望するのであります。要するに現行制度基礎とする都区の問題につきまして、私の意見は神戸勧告の線を大体出ないのであります。何ら憲法上の疑点がなく都区の紛争問題をなくし、一体的な都市の行政をなし得る理想的な姿としまして、東京都はどういうふうな制度の下にあるのがいいかということを最後に申し附加えたいと思います。この種の理想案としまして三つのものが考えられます。その一つは、二十三区を全体として一つの特別区を作りまして、三多摩地方を以て一つの県とする案であります。これは東京市政調査会が多年主張しておるところであります。第二は、道州制を作りまして、同じく二十三区を全体まとめて一つの都市とする案であり、第三は、現在の東京都の全体を一部市と考えまして、その下において二十三市及び三多摩の特別市町村というようなものを考えまして、両者共に大都市の下部機構として共存共栄の体制を作るということがこれであります。第一案は都区と三多摩が特殊の一体をなしておる現状から見ますならば、これを採用することはできないことは明らかであります。これを強行すれば現在の五大市と所属の府県との争い以上のものが繰返えされることになるでありましよう。第二の道州制案というものは、これは日本全国或いは少くとも関東六県全体の問題でありまして、これはよほど政治力がなければとり得ない、いわば非常な理想案であります。そこで第三案となるのでありますが、これは結局現在の東京都の全区域を特別市とするというそういうことであると考えて頂けばよいのでありまして、それはすでに昭和十八年の東京都制において採用せられたことでありまして、私はこれがまあ最も実現し能う案ではないかというように考えます。これは又この案は府県を以て上級団体とし、知事を以て市町村長より上位であるというふうなことを考えるのは、我が国の多年の伝統でありますけれども、真に地方自治の理想からするならばむしろ邪道でありまして、都が市町村の団体によつて、大都市として又帝都として、英国のロンドン市に匹敵できるような名誉ある地位を占めるということこそが、東京都の最終の目標とすべきことではないかと私は現在考えております。  これで私の陳述を終ります。
  65. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) 次に参議院法制局長奧野健一君。
  66. 奧野健一

    参考人(奧野健一君) 私は純法律的にこの問題を申上げたいと考えております。第一に憲法では地方公共団体の長の公選制を保障しておるのでありまして、而して地方公共団体とは何かということは憲法からは明らかにいたしておらないのでありまして、ただ地方自治本旨に基いて法律で定めるべきことといたされておるわけであります。そこで地方自治とはどういうものであるかと申しますと、国家内の一定の地域を基礎といたしまして、その住民を以て直接の構成員とする独自の団体の在立を認めまして、その住民の福祉に直接関係を有し、且つ地方的な処理の可能な重要行政は、この団体の自主的な意見によりまして処理させようとすることであるのであります。従いまして地方公共団体の長の公選制が要請せられておる。いわゆる地方公共団体というものも又この地方自治本旨の実現を確保する趣旨から言いまして、單にその団体が法律上、例えば地方自治法地方公共団体という名前の下に規定されておるということだけでは足りないのでありまして、以上のような意味におきまして、地方的な基本的行政を自分で処理すべき存立目的を有するものとして法律がこれを認めておる団体でなければならないというふうに考えます。  そこで特別区が地方自治法の上では地方公共団体とされておることは明白でありますが、然らば憲法に言う地方公共団体と言えるかどうかということは、その特別区が前に申しました見地に立つて法律上如何に規定せられておるかということを判定して見なければならないと考えます。そこで今回の改正法案の規定によりますと、特別区の事務として規定せられておりますものは、区民の生活に直接且つ重大な影響を與えているものを含んで、この意味において憲法上の地方公共団体であるというふうに考えられる余地も十分ありそうであります。そのためにこれらの事務住民を直接の無関係執行機関によつて行われるということ憲法の要請に反するのではないかというふうな疑いも存し得ると思います。併しながら翻つて考えて見ますのに、前に冒頭に述べましたような見地から改正法案を検討いたして見ますと、特別区の事務が一応法律規定によつて列挙されて、限定されていることになつております半面地方的の行政事務といたしましては、最も基本的な事項と考えられます、例えば特別区の存する区域において市町村税に相当する税を課する場合は、これは原則として都が課することになつておる。又地方財政平衡交付金法によりますと、特別区の存する地区を全体市と見なしていること、又警察につきましては特別区が連合してその責に任じ、特別区公安委員会都知事の所轄の下にある、且つその委員は都の議会同意を得て任命されることになつておる。又消防につきましては特別区が連合してその責に任じ、特別区の消防は都知事がこれを管理しているということ、又住民選挙権の居住要件につきましては、特別区の存する区域全体を通じて計算されていること、その他いろいろあるのでありまするが、特別区の処理すべき事務につきましても、一応特別区は市の規定を適用されることになつておりますが、市の処理すべき事務は都がこれをやることに、処理すべきものとされ、而もその都の委任によつて特別区に委任されているということになつておる。こういうふうな点、即ち特別区は市町村とこういう点において根本的に異つた取扱を受けておると考えます。特に特別区の警察、消防、課税、財政と地方自治本質的な部分都知事、都議会によつて処理されて、特別区の長或いは議会はこれに關與しないというような点から見ますと、法律上特別区は前述の意味において根本的な性格を持つた、完全に独立して自治団体としては認められていないかのように感ぜざるを得ないと考えるのであります。この意味におきまして憲法がその長の公選制を保障している地方公共団体とは特別区は言い得ないものであり、従つて特別区の長の公選制を廃しても憲法違反とは言えないのではなかろうかと考えるのであります。これを要しますのに、憲法第九十三條第二項というのは、地方公共団体住民がその団体の行政事務なり或いは財政なりを住民みずからの手によつてこれを行うというような団体を考えており、そういう団体であればこそその議会及び長は住民みずからの直接選挙によつて選んだものでなければ、ほかのところから任命されるというようなものであつてはならないというのが、この民主的な九十三條二項の趣旨であろうと考えるのであります。  先ほど申上げましたように、特別区におきましては、その財政上或いは行政事務等において、自分の区域の住民と他の区域の住民と合して選挙された都の議会或いは都の知事といつたような機関によつて行政事務なり課税というものが処理されて行くというようなあり方に現在なつておるところからみますと、憲法九十三條ではすべて事務はみずから住民の手でやる場合を予想した規定でありますので、そういう意味におきまして完全な自治体の場合に対する規定であつて、かくのごとく現在の特別区のような建前になつておる自治体と申します地方公共団体については、この適用がないというふうに考えて然るべきではないかと思うのであります。ただ地方自治法のできました際に特別区に独立法人格を備えまして、市の規定、殆んど市と同じように取扱いまして、都に包括される市と同様の取扱によつて特別区というものが認められたように考えます。そこで市と同じであるということになれば、完全な地方公共団体として憲法第九十三條二項によつて直接選挙を行わなければならない性質のものであると思いますが、併し先ほど来申上げたように幾多完全な自治とは異つた制度になつておるわけであります。そういう市と同じような取扱のために、成立した過程を辿つてみますと、区長公選をやめるということは多少の憲法上の疑義を残すと思われますので、私はむしろ政府提案のように市の規定を適用するとはしないで、準用するとか、或いは東京都に区を置きというふうにいたしますと、やや行政区的な感じも出る、それを衆議院のほうで元通りに都の区は云々というふうに修正され、或いは又市の規定を準用するというのを適用するというふうに改正されたことによつて、むしろ憲法的な疑義をやや濃くするものではないかと思いますし、又特別区の区長につきましては、政府原案は任命制であつたのを、衆議院は修正をして公選制ということにいたしまして、これは特別市の区は純然たる行政区であろうと考えますので、それを公選にしておきながら、特別区は少くとも名称において地方公共団体であるとはつきりなつておりますのをこれを任命制、尤も純然たる任命制でなく、特別区の議会が知事の同意を得て選任するということになつておりますが、これは憲法九十三條の直接公選ということには当てはまらない。その意味から行きまして、任命制と衆議院の修正とは大して、直接選挙でないという点においては同じであろうと思うのであります。そういうふうに特別市の区の長の選挙関係と、特別区の長の選任方法との平仄から言つても、むしろ政府原案のほうがよかつたのではないかというふうに考えております。    〔委員長退席、理事吉川末次郎委員長席に着く〕
  67. 吉川末次郎

    ○理事(吉川末次郎君) 次は武井専門員からこの会議に文書が提出されておりますから、文書を簡單に要領をまとめて伺いたい。
  68. 武井群嗣

    ○専門員(武井群嗣君) 特別区の区長選任が憲法との関係において疑義を生ずる点が大体四つあると思いますので、以下順序を逐つてこれに対する私の意見を申上げたいと思いますが、先ず初めにお断りしておきたいのは、私は今ここで立法政策や自治政策を論ずるというものではないのであります。言い換えれば特別区の長を公選制にするか任命制に改めるかというようなその当否を論じ、或いは公選制をとる場合におきましても直接選挙がよいか間接選挙がいいか、その是非を論ずるつもりはないのであります。地方自治法を初としてこれに関係のある各種の法令において特別区が如何に取扱われているかということを検討いたしまして、その結果特別区の長を任命制に改めて、又は区議会の選任に変えるということが憲法規定に牴触するかどうかという解釈論を試みるに過ぎないのであります。  先づ第一の問題でありますが、区長都知事の任命又は区議会の選任とすることは憲法第九十三條第二項の規定に違反することになるかどうかの点でありますが、私は次に述べるような二つの理由によりまして違反しないと考えるものであります。その一は、憲法第九十三條第二項にいわゆる地方公共団体というものは普遍的且つ基礎的な地方公共団体意味するものであると解釈するからであります。これを説明いたしますれば、憲法第九十三條第二項には、地方公共団体の長はその地方公共団体住民が直接にこれを選挙すると規定してありますが、ここに言うところの地方公共団体とは何を意味するかにつきましては憲法に何らの規定もないのでありまして、ただ第九十二條において「地方公共団体組織及び運営に関する事項は、地方自治本旨に基いて、法律でこれを定める。」と規定しておるのみであります。即ち地方公共団体として如何なるものを設けるかということは、国家の立法政策乃至は自治政策の問題として法律で定める建前をとつているのであります。従つて憲法第九十三條第二項の「地方公共団体」というのも、およそ地方公共団体と言われているものすべてを包含する趣旨ではなく、広く地方公共団体と言われているものの中から普通的且つ基礎的な地方公共団体に対する一般的原則として、その長を公選すべき旨を規定しているものと解することが妥当であると存ずる次第であります。現に地方公共体団の一部事務組合及び財産区は、地方自治法では地方公共団体とされてはいますけれども、その執行機関を直接住民選挙するという憲法原則は、これらの地方公共団体には適用されていないのでありまして、学者もこれを是認しているのであります。即ち地方自治法は、憲法第九十三條第二項の原則の適用される地方公共団体範囲をみずから定めることができるのでありまして、地方自治法といたしましては、普遍的且つ基礎地方公共団体についてのみ憲法原則を適用する建前をとることができると解すべきであるからであります。特別区は前に申上げました普遍的且つ基礎的な地方公共団体としては扱われていないということであります。  特別区は都と一体をなして大都市を構成する部分地方公共団体であるために、その自治権制度上も実際上も多くの制約を免れないのでありまして、それ自身完結した自治体である市町村のような地方公共団体とは以下述べますような幾つかの点において著しく違つた取扱いを受けておるのであります。従つてこれを憲法の保障する普遍的且つ基礎的な地方公共団体であると解釈することは頗る困難であると思うからであります。幾つか例がございますが、そのうち数個挙げますれば、第一は、都は條例で特別区について必要な規定を設けることができることになつております。第二に、都知事は特別区に都吏員を配属することができることになつております。第三に地方税法上、特別区は地方公共団体ではなく、都の條例の定めるところにより都の課することのできる税の全部又は一部を特別区税として課することができ、都の同意を得て更に税目を起して普通税を課することができることになつておる点であります。第四は、地方財政平衡交付金法上も特別区は地方団体ではなくして、都にあつて市町村に対する交付金の算定に関してはその特別区の存する区域を市町村とみなすということになつておるのであります。第五には、特別区の住民選挙権については、その住居要件は三カ月以来特別区の存する区域に住所を有することで足りるということになつております。第六は、道路法及び同法施行令、水道條例、伝染病予病法並びに都市計画法及び同施行令の中で市に関する規定は特別区に適用されないことに定められております。第七には、社会福祉事業法、児童福祉法、保健所法、予防接種法、警察法、消防組織法、消防法、漁港法等の法律に基く事務は特別区又は特別区の執行機関事務とされないで、都又は都の執行機関事務とされていることであります。  そのほかにまだございますが、以上述べるところによりまして、私は特別区の長を任命制に改め、或いは又議会の選任に変えるということは、立法政策上文は自治政策上批判、論難される余地はあると思いますし、又私もそれについて多少の意見を持つておりますが、現行法令の解釈としましては、憲法第九十三條第二項の規定に違反するものではないと考えるものであります。  第二の問題は、特別区の長を任命又は議会の選任とする結果として、特別区の住民都知事選挙権を有するのみになるのであるが、これは憲法第十四條第一項の規定に違反することになりはせんかということであります。憲法第十四條第一項には「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信條、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会関係において、差別されない。」と定められております。法の下に平等であるということは、国家が法を適用するに当つてすべての国民を平等に取扱うべきことを言うのでありまして、すべての国民が常に法の規定において平等に取扱われるべきものを言うものではないというふうに諸学者の意見がおおむね一致しておるようであります。即ちそれは法の適用に関する問題でありまして、立法の問題に関するものではないのであります。従つて大都市の実情に即応するように地方制度を定める結果として、大都市の住民が他の市町村住民違つた單一の選挙権を有するということになりましても、それは人種、信條、性別、社会的身分又は門地を原因として差別するものではないのでありますから、憲法第十四條第一項の規定に違反するものではないと考えるのであります。なお現行法の下におきましては、特別市住民はその市の議会議員選挙権を有するだけでありまして、他の市町村住民のように市の議会議員とこれを包括する府県議会議員との二つ選挙権を有しない取扱いになつております。これは大都市の発展に伴い、特別市に市と府県との性格を併せ有させるために、そのことが又自治政策上適当であると解されるためでありまして、何ら憲法違反の問題は起つていないのであります。  第三の問題は、特別区の長の公選制を廃止することは、憲法第十五條第一項の規定に違反することになりはせんかということであります。憲法第十五條第一項には、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と定められております。これは憲法の前文と憲法の第一條に宣言する国民主権主義の原則を公務員の選定及び罷免について表現したものでありまして、現実に個々の公務員の任免を国民がみずから行うべきことを規定したものでないというのが学者の定説であります。従つて国民の直接に選挙した者が公務員を選任したり又はこれを罷免するということをすべて排除するものではなくして、如何なる公務員を具体的に国民が選挙するかということはそれぞれの法律で定むべきことでありますから、特別区の長を都知事又は区議会によつて選任させるということになりましても違憲の問題は起らないと思うのであります。  最後に第四の問題は、特別区の長の公選制を廃止する法律の制定は憲法九十五條に抵触するかどうかということであります。憲法第九十五條には「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」と定めてあることは御承知の通りでありますが、この規定は特別の地方公共団体についてのみ適用さるべきものとして制定され、又はその特別の地方公共団体について他の同じような種類の地方公共団体に対する一般的な取扱いと違つた取扱いを規定する法律を制定する場合には、当該地方公共団体住民の投票によらなければならないとする趣旨であると解するものでありまして、どういうふうの地方公共団体に関しても一般的に適用せらるべき法律を制定するということは、この憲法第九十五條の関知するところではないというのが学者の一致する見解のようであります。尤もこの特別法ということの解釈などにつきましては議論が分れたようでありまするが、大体の趣旨としましては今申上げた通りであります。而して地方自治法の特別区に関する規定というものは、都及び区について道府県及び市町村と同様な一般的制度として定められたものでありますから、今これを改正する、特別区の中で、時定の特別区についてのみ他の特別区の既存の制度と異る制度規定するのであるならば、その部分につきましては憲法九十五條の違反の問題が起きるかと思うのでありますけれども、言い換えれば九十五條の規定による投票が必要ではないかと思うのでありまするけれども、今回の案のようにこれを一般的に改正する法律は、同條にいわゆる「一の地方公共団体にのみ適用される特別法」には当てはまらないと解する者であります。若しさように解釈しないということになりまするというと、小さいことでありまするけれども、他の職務の措置などについてのみ道府県違つた取扱いをするということも、嚴密に申しますというと九十五條の特別法であるということにもなるわけでありますが、現在さようなことは行われてもおらないことを見ましても、私は今回の法案を九十五條の規定に違反するものとは考えない次第であります。    〔理事吉川末次郎君退席、委員長著席〕
  69. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) 以上を以ちまして参考人意見の開陳は終りましたので、区長のことに対しまして質疑がありましたらお願いします。
  70. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 先ず杉村先生にお尋ねしたいと思うのでありますが、杉村先生は地方行政調査委員会議の委員においでになつてつたのであります。それでこの特別区の御研究については深いと思うのでありますが、御承知の通り現行の地方自治法が二十二年の三月に制定されたのでありますが、そのときの立法関係者におきましては、この地方制度資料に載つておりますように国務大臣の趣旨説明、それから委員会における質疑応答、それに準備した国務大臣の答弁資料というようなものに明かなごとく、この特別区というものは憲法に言う地方公共団体であると、こういうふうに説明をしておるのです。又都のごときはほかの道府県と同じように基礎的な地方団体じやない、この特別区こそ他の市町村と同様に基礎的な地方団体であるのだと、こういうことで説明をいたしております。それはもう御承知の通りであります。ところがそういうつもりでこの特別区の制度地方自治法が設けておりながら、今までの都のやり方、又政府のやり方、国会にも責任があるかも知れません、それが、まあそういう本当の憲法に言う地方公共団体にふさわしいような特別区にするまあ肚ぐみといいますか、それをこだわつていたという点もあるかと思います。まあ二十三区は絶えず自治権擴充運動というようなことでそれを要請しておつたのでありますけれども、それがなかなか実現しない、そこで私がお尋ねしたいのは、現状の今までの特別区の実際のあり方、今奥野さんやそれから武井専門員から述べられたようないろいろな法律で、間接に趣旨を説明したと、そういうような点があるから、これは絶対的にもうすでに憲法に言う地方公共団体にふさわしくなくなつておると、こういうふうにお感じになりましたかどうか、それをお尋ねしたいのです。ちよつとくどくておわかりにくかつたかも知れませんが。
  71. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 私は特別区の現状といいますか、そういうものにつきましては、法律で相当制限しておるわけでありますけれども、併し地方自治法の現在の立て方として、先ほどちよつと申上げましたように、二十三区の区域には基礎的な地方団体というものが、若しこれを特別区を基礎的地方団体でないとしますと、基礎的地方団体が存在しないということに私は考えておるのですが、それともう一つさつき申し落しましたが、私にまあ憲法九十三條というものがありますが、適用される地方公共団体であるかどうかということの判定は、そういう現に持つておる事務が一般的であるかどうかという点よりは、むしろ一般住民に対して権能を行使しておるかどうか、又行使する団体であるかどうかということによつて判定すべきものだろうというふうに考えておるわけでございます。
  72. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 そこでまあ政府の今までの当議会における説明、それから我々が質疑をしましたそれに対する答弁、今回の委員会における……、それで見ますと、はつきりしなかつたのですが、だんだんその意図がわかつて来たのですが、今度のこの二百八十一條並びに二百八十一條の二というものによる地方自治法の改正であつて、今まで地方自治法規定しておつた特別区の性格、即ち憲法地方公共団体たる性質を変えるんだと、こういうことらしいんです。大幅は変えて、そうしてもう憲法規定する地方公共団体でなくするんだということらしいんです、真意は。今までごまかしておつたと思うんです。どうもそうでなければ議論か立たない。それでそうするとこの二品八十一條に対する政府の、字句を変えたりして、又衆議院がそう復してしまつたんですが、そういう点、又政府が二百八十一條に特別区の所掌すべさ事務として、列挙的に書いて来た、こういう列挙的に書いて来たことは、即ち区の性質を変えてしまうものだということらしい、私は用心して、この列挙的に書いたことによつて今まで特別区が持つてつたこの事務の内容、てれを少し減らしておるかというと減らしていない。却つて殖えておるのではないかと思う。それは速記録に載つており、私もノートしておりますが、そういう答弁をしております。そういりごとで今まで持つておる事務内容を列挙したそういうものによつて、特別区の性質というものが変えられるかどうか、そういうことが疑問になつておる。それについて御意見を承わりたいと思う。
  73. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 私はそういう意向があるかどうかということは、私それに關與しておりませんから存じませんけれども、まあそういう意向の見られるのは、特別区の事務を肯定して、その以外のものはすべて都がやるんだと、そういう構成の建前にするという、恐らくしておつたのでありますが、これは私のほうの委員会は一応とにかく特別区の事務法律で定めるということは、むしろ特別区と都の間の事務をはつきり区別しまして、特別区はこれだけのことはやれるんだ、又それだけの財源を與えるんだということで、今まで都と区の間に財源措置とか或いは事務をやるとかやらないとかいうことで多年の紛争があつたわけでありますから、そういうことをむしろ除外する、防止するという目的で、そういうふうに事務をはつきり区別するということに私どもの委員会ではやつて、そういう結論の下に、そういう意向の下にああいうことにしたわけでありますけれども、併しそれによつて先ほどもちよつと申しましたように特別区の性格を変えるということまでは私は考えておらなかつたつもりであります。併し政府の意向といいますか、或いは都の意向といいますか、どういうふうなものであるかということは、私存じませんけれども、そこでまあ性格が変つたかどうかということは、これはやはり解釈の問題ではないか、でき上つたものについての解釈の問題ではないか、こういうふうに考えております。
  74. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 それでこの程度の法律改正で、かかる憲法規定する地方公共団体の地位から区を突落してしまつて、そうして一般に行政区に置き換えてしまうんだということが、このくらいの字句改正又は修正で可能であるということもまあ解釈次第だというような御解釈にとれますが、こんなあいまいなことじやいかんということが一つ。それからもう一つこれも武井君や奥野局長の御意見がありましたが、奥野さんはまだ御意見なかつたかも知れません。ともかく東市都又は二十三区の性質を全然変えてしまうんだから、それで法律措置でそういうことをするんだから、これは島田さんからもお話がありましたように、憲法の九十五條が働いて来やしないか、これは武井君のほうでは働いてない、働く必要はないんだというお説がありますが、その点の御解釈はどうでしよう。
  75. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) これは都制というものの区分になるわけでありますが、都制というものは果して全体地方自治法におきまして東京都だけに適用されるものであるか、或いはほかの大阪とか或いは京都にもそういうことができるということを予定しての都制であるか、この点について私は多少疑問を持つておるのでありますが、どうもそのでき方から見ますと、今までの経過から申しますと、やはり都制は東京都だけに適用される法律である、制度であるというように考えたいわけでありますけれども、併しこれにつきましては政府のかねての意見としては、あれは一般的制度である、こういうように解釈しておるわけでありまして、そういうことになりますれば、まあ九十五條の適用はないということになるわけでありますが、これもまあ恐らく制度の小さいところまで改正するのに一々住民投票などしておつてはとても堪まらないから、それで恐らく全体的な制度としたというふうに考えますけれども、実体は恐らく東京都だけに適用されるものではないか、嚴格な意味においてはやはり住民投票、それは無論個々の小さいところまでそれを投票するという必要は或いはないかも知れませんけれども、大きなところにおいてはまあそういうことが少くとも問題にはなるんじやないかというふうに考えております。
  76. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 島田さんにお尋ねいたしたいのですが、だんだんとお説を拜聽しまして、非常に細かく御研究になつてつて敬意を表するのであります。それで私も実はこの憲法の第九十五條の適用をすべきかどうかという問題について非常に疑問を持つておるのであります。どうも適用があるというふうに考えてみたり、どうも適用がなくてもいいんだというふうに考えておるのでありますが、島田さんは九十五條の適用は当然受けなければならんということをだんだん詳しく御意見を拜聽しました。それで島田さんの御意見では、憲法九十五條には形式的の解釈でもいけない、それで特別法の意味もあいまいだし、自主的に考えるべきだというお説であります。ところが迷いますのは、「一の地方公共団体のみに適用される特別法「とかかつて、今度の政府の改正の意図が、殊に多く区の性質を変えてしまうということにあるようであります。そうなると、何だかその点から考えると、「一の地方公員団体のみに適用される特別法」とは言えないので、特別法という建前からも言えない、それから二十三区、一つずつの区が二十三もあるんだから、そういう建前から「一の地方公共団体のみに適用される」というのが当てはまらんというこの議論はないのでありまして、東京都というふうに一つの都と考えて、それで適用する特別法、こういうふうなことも考えておるのでありまするが、まあ都は制度であつて、大阪都、京都都というものもできるかも知れない。そこに置くとする区の性質はどうであるかというと、それがこの法律によつて今までは地方公共団体でなくする、まあそういうふうにしますときには九十五條には縁が遠くなるということに考えられないだろうか、その点はどういうふうにお考えになるか、お伺いいたしたい。
  77. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 御尤ものお考えだと思いますが、私はちよつと廻りくどくなるか知れませんが、いろいろと考えて、先に奥野さん、武井さんがお話になつたように、区に実際自治体としての実体があるかないかということについて第一に疑問に考えて来たのです。これはどうも詳しくは調べませんけれども、どうも自治体としての実体が欠けておるのじやないかという気がするんです。けれども、これをこの自治法の百八十一條乃至百八十三條を見ますというと、どうしても特別区というものを基礎的な地方公共団体と一応は認めたということは、これは別な事実じやないかと、こう考えるのです。そこから出て来んとこれは解決できんじやないかと、あなたの御意見は、自治体として一応認めたと、認めたとすれば……認めていないとすれば又何をか言わんで、これは自治体でないですから、区長を、自分が勝手にできるわけです。けれども地方公共団体として一旦認めたと、認めた事実があるという前提ならばここに非常に複雑な問題が起つて来るんでして、まあちよつと適切な例は思いつきませんけれども、例えば全然無実の罪の者を有罪として判決された、死刑の宣告を受けたとしましても、これは取消されるまで有効な判決なんですから、行政処分にしても、許可、免許等、條件の欠けておる者を許可しても、やはりそれが取消されるまでは一応有効なものと見なければならんので、これは立法的に見てもやはり同じことで、司法及び行政の面では一般にこれが原則ではないかと思うので、ここのところをどういうふうに解釈したらいいか、私の考えでは、一旦これを地方公共団体として認めた事実があるとするならば、これはやはり憲法の上においても地方公共団体として認めた事実があるとするならば、これはやはり憲法の上においても地方公共団体として一応明かにせにやならん、こういう建前になつて行きますから、九十五條の点もこれは文理解釈の上においてはいろいろ疑義が起りますけれども、先に申上げたような意味で、これは自治の実体に影響を及ぼすような法律を作る場合には住民同意を要すると、こう解するよりほかに適当な方法はないじやないかと、これは昨夜も随分考えてみたんですがね、どうもいろんな場合を考えてみて、結局そこに落ちて行くのでして、そうなれば区が自治体として認められたと、そうしてその基本的な組織に関することの変更であるとすれば住民同意を要するということに自然落ちて行くことになるように思うんでございますが……。
  78. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 大体お考えわかりました。先ほど申上げましたように私も詳しく調べまして、現行の地方自治法が制定されたときに、もう立法関係者においては、区を特に基礎的な公共団体ではないとまで言つておるわけです。それから特別地方公共団体の中の財産区、この区はもう頭から分けてしまつております。特別市と特別区は、これは憲法にいう地方公共団体として扱つておるのです、而もこういうことまで言つております、たしかこれは林修三君の政府委員としての答弁の中にある言が、地方自治法に言う普通公共団体、一般公共団体、それと特別地方公共団体の別は実は、しなくつてもいいんだと、それは都道府県市町村、それから特別市と特別区、これは何も別にそういう片一方は一般、片一方は特別というほどの必要はないんだとこういうことまで言つております。それで現行法、今までの立て方では、勿論特別区は基礎的な地方公共団体であつて、而も憲法にいう地方公共団体、こういうふうに考えておることは、これは一点の疑いもありません。そこで実はこれは国家にも責任があると申しましたが、いろんな立法なんかにおいてそれを忘れていろんな制限を区に加えて来た。又都のほうも二十三区からの要求にかかわらずそれを讓らなかつた。それで私どもは実はこの都区調整協議会というものができまして、中立委員が出して調整をして或る線を引いたんです。ところがやはりその線が守られない、引いた線は大体今度はここに盛り込んであると言うんですが、それよりももつと広いのであります。まあそういうようなことで、この問題は割り切れない問題が非常にあるのでありますが、要するにこのくらいの部分をちよつと言い合つたくらいで今まで憲法上の地方公共団体であつたものがそうでなくなるということは、これは大変だという考えがする。そういうふうな、政府又は時の多数党のお筆先ですぐ憲法上の地方公共団体というものが変つて来ると、そんなことがあつちや大変だと思うから、この問題を大きく取上げておるのであります。まあ大体島田さんはよく御研究下さつてよく事態をおわかりと思いますが、杉村さんのほうの地方行政調査委員会議におきましても、実は神戸さんがここで御報告なすつたときに、特に私は質問してみた。特別区の性質を従来と変えたほうがいいと考えるのかどうかという点を突込んだ。速記録に載つておりますが、それはそういうふうに考えてないということ、それでは特別地方公共団体で今まで通り置けばいいというお考えですかと言つたら、私一個の考えだけれども、そのままでいいんだというふうにお答えになつておる。そういうことから見ましても、これだけの字句修正ということじやどうも変らないと思うのですが、島田さんその点どうでしようか。
  79. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) 今お尋ねのこの区の行う事務を列挙して殖やしたというようなこと、殖やしても減らしてもそのことは憲法上の解決には少しも影響はないと私は考えておる。それからそれに附足して、区長を誰が同意して誰が任命するということも少しも関係ない、それに捉われないで判断すべきじやないかと、こう考えております。それに捉われるというと、こうまで広くなつたんだからいいじやないかというような、ちよつと迷うてみるような気持にも私自身つてみたこともあるんですが、これはよく考えてみると結局何でもないことだと、こういうふうに私は考えております。
  80. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 私実は徹底しなかつたのですが、僕はこういうふうに字句を変えたことによつて憲法上の地方公共団体であつたものをそうでなくしたんだと、こういうまあ主張、その主張がこの二百八十一條をこれだけいじつたことによつてそれだけの大きな変化が法律上可能であろうかと、こういう問題です。まあ解釈問題だというふうに杉村さんはお答えになつたのでありますが……。
  81. 島田武夫

    参考人(島田武夫君) やはり同じことを繰返して申上げるほかないのでありますが……。
  82. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 奧野局長にお尋ねしますが、抽象的ながらも、とにかく直接選挙でなくても違憲でない、こういうような結論のように思うわけですが、それなら一体昭和二十二年に直接選挙をやりましたのは、あれはどういう意味で直接選挙をやつたと御理解でしようか。ただ民主的なトレーニングでもやるというような意味でやつたのでしようか、その点では先ほどの武井氏の論法については、局長よりかも更に問題があると思うのでありますが、少くとも昭和二十一年の十一月三日にできた新憲法、そしてその九十二條と九十五條の地方自治の條章におきましては、地方公共団体議会議員と長は必ず直接選挙をするというような、この地方公共団体に対する特別な重要性を憲法で認め、そうしてその翌年の昭和二十二年の四月十七日に新らしい自治法が施行されて、そうして地方選挙に臨んだわけですが、そういうふうにやつたのは、実際に地方公共団体でなかつたのがただやつてみたというようなんですか、それはどういうように理解されておりますか、どういう意味であのときには一体つたのか。
  83. 奧野健一

    参考人(奧野健一君) これは私の想像になるかとも思いますけれども、私はこの憲法は先ほど申しましたように、自分らの、住民の手で行政なり財政なりをやつて行く独立の自治体、そういうものであればこそ、すべて住民から選挙した議会と長を持たなければならないので、ほかの任命等の長であつてはいかんという趣旨だろうと思います。そこで特別区を地方公共団体として大体において市の規定を適用するというところまで二百八十三條で規定した当時のことを考えますと、恐らく市と殆んど同じように完全独立な自治体とするつもりで、従いまして議員は勿論、長も直接選挙制度をとつたのではなかろうかというふうに想像するのでありますが、その後実際の動き、或いは他の特別法等いろいろ見てみますと、殊にまあ地方自治法のうちでもやはり都の條例で制約されている点が多々あるのと、殊に課税権の問題につきましては都の條例に殆んど制約されておる。そのほかに武井専門員が言われたように、その他の点につきましてもむしろ特別区は市と同じような取扱いを事実は受けていないというふうなだんだん実体に、建前になつて来たように考えます。結局何が完全な自治体であるかということは、地方自治法及びその他の日本の全体の法令の制度によるほかはないと思いますので、勿論実体を備えなければいけないでありましようが、何が地方公共団体として九十三條に該当するようなものであるかは法律によつてきまる内容であると思いますので、その法律によりますと、どうも完全な自主独立の地方団体というふうな取扱いを受けていない建前のようになつて参りましたので、今回のような直接選挙制度をやめたんじやないか。そういたしますと先ほど申上げましたように、それならば市の規定を適用するという、如何にも独立の自治団体と紛わすようなことはやめて、準用する、それから又仕事の点につきましても、委任事務、都から大体市の規定を適用或いは準用するのだけれども、その事務は一応都に行つて、都から更に区に委任するというふうな事務分掌的な建前にし、それから更に「都の区は、」というのを「都に区を置き、」というふうに如何にも行政区のような匂いのするような書き方に改めたというような、これら一連の改正法律と相待つて憲法上の九十三條のいわゆる地方公共団体ではないというような点は、明らかに政府がしようとしたのではないかというふうに思つております。
  84. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 どうもその辺の何がわからないのですが、とにかく結論から言うと、昭和二十二年にやつた選挙というものは、直接選挙というものは、憲法九十三條による地方公共団体としてやつたのではないということになるのですか。その後の諸立法の制限によつてそういうものでなくなつたというのですか、そこなんです。
  85. 奧野健一

    参考人(奧野健一君) 大変むずかしい問題でありますが、これは現行法の下においても、或いは他の條例によつて相当課税権並びに行政事務の処理という点において制約を受けておるところから見ますと、完全に自治体というふうに、憲法九十三條の二項の適用を受ける自治体でないかも知れないという考えがあるわけです。
  86. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 どうもわからんですな。
  87. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 奧野さんに一点伺いますが、今度の衆議院の修正案によりますと変なことになります。つまり五大市の行政区は区長公選になる、それはそういうことになる。それから都の区、これはまあ今度の改正で大分性格を変えたとしても、地方自治法上はやはり特別地方公共団体になつておる、その区は区長公選しない。而も区会議員の間接選挙だというようなことは、一つ地方自治法という自治の基本法の体系として非常におかしいと思うのです。この点どうでしよう。
  88. 奧野健一

    参考人(奧野健一君) 私も同感でありまして、先ほどもちよつと申上げましたように、特別市の区というものは純然たる行政区であろうと思います。その区長公選でなくて結構ではないか。ただ特別区は何といつて地方自治法では明白に地方公共団体であり独立の法人格を備えておるものである。殊に市に関する規定を準用か或いは適用かしているというところまで行つておるのでありますから、特別市の区よりも数等特別区のほうが地方公共団体としての性格を持つておると思うのであります。その特別区の長を任命若しくは間接選挙にしておきながら、特別市行政区たるこの区長公選にするというのはよほど平仄が合わないのではないか。勿論特別区の長といえども選挙制度にしても惡いという点は勿論ないのでありますから、民主主義的考え方から公選は結構だと思いますけれども、平仄の上からは合わないような気がします。
  89. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 杉村さん、その点はどうでしようか。今申しましたように、特別区は衆議院の修正案によりますと間接選挙、そして五大市の区、即ち行政区は区民の公選で残して置くということは、如何にも平仄が合わない。
  90. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) それは私もそう考えます。特別市の区というものは、これは完全にその特別市の中に含まれておつて、全くそれを構成しておるものでありますから、いわば下部組織であることは非常に明瞭な場合です。それでありますから、それに対して公選ということは、これはまあ必ずしも憲法公選であるということを必要としておらないわけでして、それを公選にしておるわけですから、これはそれだけのことですが、それから東京都の特別区それから五大市の行政区というものは、これは性質上非常に違うわけでして、それはおつしやる通り矛盾旧だと思います。
  91. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 もう一つ、先ほど杉村さんのお話で、私も午前中に同じようなことを質問しておつたのですが、こういうようなやり方で、現行法で憲法上の地方公共団体として認めておる、それは地方自治法によつて基礎附けられておるのでありますが、特別区を地方自治法のこういうようなこそこそとした修正で憲法上の地方公共団体でなくするというようなことをやりますと、今度は都道府県の場合も又同じことが起つて来ます。都道府県の知事の任命制というような声が出ておりますが、そういうような場合に又この法律を少し変えて任命制にすることが可能であるというようなことになつて来る。そういうような問題は地方行政調査委員会議で御検討になつたのですか。
  92. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) それは検討は別にいたしません。特別に、それはまあ現行の建前というものを大体保持しておるという考え方でございますから、そういう点につきましては別に論議したことはありません。
  93. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 なぜ私そういうことを申しますかというと、よく考えてみますと、都道府県といえども初めは机の上でこれだけを堅持しよう、あれだけを堅持しようといつて、いわばでつち上げたもので、自然発生的なものではない。従つて都道府県基礎地方公共団体ではないということは、そのことを言つておると思いますが、而も県によりましては、自分で徴收できる税はたつた五億、そして国からもらう平衡交付金は二十数億、四、五倍のものをもらつておる。そういうようなものは地方公共団体としてふさわしくないではないかという議論も今起りつつあるのであります。だから本当の地方公共団体の姿はこうだというような議論が又出て来て、それによつて憲法の言う地方公共団体はそういうようなものは入つていないのだ、それで公選でなくてよろしい、任命でいいのだという議論が発生しそうな気がする。その点についてどうお考えですか。
  94. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 私も全く同感でございまして、この前衆議院でも申しましたし、今日もちよつとその点触れましたのですが、ああいうような解釈をとりますと、法律で以つて都道府県事務を非常に狹くいたしまして、そうして結局これは基礎地方公共団体でないのだ、又事務が一般的なものでないのだというところから、これは公選でなくともいいのだということは、憲法九十三條二項に適用しないのだというような論法も出て来る。今の政府においてはそういうことはないのかも知れませんけれども、あとで別の政府が出て来まするとそういう論法を使いましてそういうことになる可能性は非常に多いと思います。
  95. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 杉村先生にお伺いしますが、地方公共団体の正しい概念規定ですね、武井さんの言われておるようないろいろのこと、午前中に金森先生が言われたように、東京の区は経費の一七%くらいしか徴收していないというようなことも、関接選挙でもいいという理論構成の一つつたのですが、そういうことから行きましたり、武井さんの言われたような、私鳥取県ですが、鳥取県の予算三十三億のうち、県で徴收できる県税は大体三億、あとは平衡交付金と起債と各種の補助金です。そういうような関係からいたしまして、この民主主義の基本單位である自治体というものの正しい概念規定、そういうものを一つ御教示頂きたいと思います。
  96. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) これは非常に学問的な問題になりますので、私がそういうことを申す時期ではないと思いますが、結局その区域における、個々の区域における住民に対して行政権を行使する団体というのが地方公共団体の一般的な規定だろうというふうに考えます。そしてその事務が、果し一般的住民に直接する事務の大部分がそれに含まれているかどうかということが問題になるわけでありますが、この点たつきましてはそういう法制の建前というものと、現に與えられたる権限というものを考えまして、地方公共団体であるかどうかということを決定するほかないと思いますけれども、ですからこれは例えば財産区というようなものにしましても、昔は市町村の一部というような言葉言つて用いられておつたのでありますが、それがやはり住民に対して一定の権能を行使し得るものでありますからしてやはりそれは地方公共団体であるというふうに言われておつたわけでありますし、今もそういう建前は建前としてはとつているわけであります。
  97. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 これは法律的な法理論ではないのですが、仮に区長の間接選挙が違憲でないというような立場を是認しまして、だんだんと都知事というものに権限を集約して来るような形が果していいものであろうかどうかということを、私非常に疑問に思うのですが、私はむしろ成るべく狭い区域の、余り広域でないほうがいいのではないか。例えばラスキの「近代国家における自由」というようなのを見ても、ミルの言を引用してそういうような中央集権的なものは能率的ではあるかも知れんが、最終的には民主主義を育てるには甚だ不適当であつて、終局的には必ずしも経費の節約になるとは言えないというようなことをラスキも引用して、広範囲なそういうような中央集権的な形というものは地方自治を正しく育てるのに適当ではないということを言つているのですが、鳥取県の二十倍もあるような所でだんだんとこういうふうにして知事に権力を集中して行くという過程が、民主主義、経費の節約というような関連からしてどんなものでしよう。
  98. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 私はやはりお説の通りと存じます。今度の地方行政調査委員会議、或いはそれから遡りましてシャープ勧告におきましても、自治というものは成るべく下層の住民に直結した団体が行わるべきものであるということを言つております。それは非常にいいことだ、今までそういうことを言うべくして行われなかつたことを直截に、又地方税法その他におきましてもそういう立法がなされているので、私はそのことからしまして、成るべく下級、下層の住民に直接した団体に対して多くの事務をやれるだけやらせる、そうして更にそれでいけない点は都道府県がやる。更に組合がやるというのがシャープ勧告の考え方でありまして、これについては私非常に賛成しておりまして、正に地方自治というものはそういうものでなければならんということを考えております。併し一方においては実際のいろいろな都市計画でありますとか或いは水道の事務でありますとか、そういうような公益的な行政というものはだんだん多くなるという傾向は勿論あると思います。それについては勿論都道府県或いはそれより大きな団体がやるということが望ましいわけでありますけれども、そうでない一般住民に直結した事務というものについては下のものに、自治団体に任せる、そういう襟度がなければ自治というものは発達しない、こういうふうに私は考えております。
  99. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 それからもう一つ御教示願いたいのですが、憲法の第八章の地方自治の章に條文が四つあるのですが、九十五條ですね、その立法された正しい趣旨をどう理解したらいいかという問題なんですけれども、どういうふうに御理解でしようか。
  100. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 私は九十五條というのは実は多少翻訳的な、アメリカの制度をそのままに持つて来た規定というように解釈いたしておりますが、その本旨とするところは、一つの地方団体だけをアメリカ等の場合のように州が地方団体、個々の地方団体に対してチャーターを付與するとか、或いはそれに対して同意をするとかいうような、国家におきましてはこれはそういう個々の地本団体の権能を保護するという意味におきましてあの規定が非常によく働くのでありますし、又それが即ち自治権というものを保護する一つの作用を営んでいる。又あの規定によりまして憲法第八章のあの四箇條の規定というものが、地方分権的な考え方を取入れているのだという解釈ができるのだろうと思います。併しそれをこの頃むしろあの規定が濫用されているような傾きができて、小さい温泉都市に対して一定の特権を與えるというような法律にまで一般投票を用いているというのはまさに邪道でありまして、もつと大きな本当の都市の死活というようなものについて、一定の法規を特別に作るという場合にあの規定が働く、こういうように私は解したいと思います。
  101. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 その点武井専門員の申されたのと何ですが、一つの区だけでなしに、二十三の区に全部というような問題で九十五條が適用しないというふうに言われたのですが、併し市長の直接選挙をなすということが、二十三区一つにまとめて、他の全部の二十三の区以外のあとの七千数百万のこういうものからの特権との関係というものには触れないものでしようか。そういう関係では理解できないものでしようか。
  102. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) これは私は二十三区の区長公選という、一つの区だから一般投票を要する、或いは二十三だから必要ないのだ、こういう数で行くべきものじやないと思います。やはり東京都というものの一つの大きな地方公共団体というものにおける特別な制度として、それにのみ適用される制度として、それはやはり投票を要るとすればそういう見地から必要じやないかと思います。
  103. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 それからもう一つ政府原案は御案内の通り都知事議会同意を得て選任するということになつていますし、修正案は区議会が知事の同意を得てやるということになつているのですが、これは非常に苦しいですね、衆議院の苦衷も察知するのですが、これは一体どうなんでしようか。ごまかしということにもなりませんか。余り変らんように思うのですが、この点どうでしよう。
  104. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 私は無論幾らか差異があると思います。あれをしたことによつて議会発言権というものは強くなる。つまりどつちが主人であるか、きめる主人であるかという問題で、区議会が先ず人を選んで、そうして区長にすると言えば、都知事のほうではよほどのことがなければそれを拒否しないでありましようし、又一方都知事が任命するという建前をとれば、その都知事意思に対して区議会というものはそう特別な理由がなければ反対しないという、もつれればそういうあれがありますけれども、そういうことになるのじやないかと思います。
  105. 中田吉雄

    ○中田吉雄君 お尋ねしますが、都知事区長との調和といいますか、調整の問題ですが、今のような衆議院の改正の場合と前のような場合との調和といいますか、トラブルを防止して円滑に全体としてのハーモニーを打出すにはどちらがいいでしようか、実際どんなものでしようか。
  106. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 私はやはり修正案のほうがいいだろうと思います。区というものの自治権によつて区が選任する建前をとつておるほうが自治体、つまり区を刺戟するということは余りないのじやないかと思います。私はむしろ修正案のほうがいいと思います。
  107. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 もう一つ杉村先生にお尋ねしたいのですが、財産区それから組合、これを特別地方公共団体としておくその必要性ですね、それがあるか。そういうものを特別地方公共団体にしたからこんなむずかしい問題がいろいろ派生するのでありまして、全く大分性質が違うのですから、そういうものは特別地方公共団体から省いたらいいじやないか、こういうように思うのです。それが一点と、それからこれは立法論であつて、そういうように私がしたいという希望ではありませんが、若し先ほどからお尋ねしておりますようにこそこそ條文を交えて、そうして特別区の性格を大改革するというようなことでなくして、今申した財産区と組合特別地方公共団体から省くことがいいとなりますれば、又そうして特別区の性質を大巾に変えるという必要があれば、それも財産区と一緒に特別地方公共団体から除けばいいじやないか。特別地方公共団体特別市だけでいいじやないか、こういうふうに考えられるのですが、その二点如何でしようか、行政法上どういうふうに見るのでしようか。
  108. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) 前の問題でございますが、財産区のほうはともかくとして、組合のほうは全部事務組合という、町村と同じ取扱いをする組合があります。そういうようなものがありますが、一般の問題としましては恐らく一部事務組合でありまして、それと財産区というものと、この両方の問題になるわけでありますが、これは憲法の解釈といたしましてもあそこの自治法に掲げてある四つの地方団体でどこに線を引くかということが非常に問題となつているわけでありまして、これは特別区の公選反対、任命でいいという御議論からしますれば、別に問題はないと思いますけれども、私としましてはこれを省くということは非常に問題をはつきりさせるということにはなるだろうかと思うのであります。ただそうしますとやはり法人とするというふうに書いてありますから、どういう法人であるかという問題が起るわけでありまして、そこに行きますと、これを省くということについて、これはいいかどうかということは多少疑問があるのであります。  それから第二点ですが、特別区を財産区とはつきり書いたらいいじやないか、こういうお考えでありますが、これはまさにそうでありまして、お考えのように、こそこそと條文をいじくることによつて性格を全然変えたものにするということは、これは私としても好ましくない。それによつていろんな紛争の種を生ずるということになるわけでありまして、財産区とするなら財産区とするというふうに條文を変えたほうが立法としてははつきりするというふうに考えられます。
  109. 岡本愛祐

    岡本愛祐君 ちよつと徹底しなかつたのですが、つまり今の自治法におきまして特別地方公共団体となつておる財産区と一部事務組合、これをその特別地方公共団体の中から除く、つまり地方公共団体というものは自治法においてすべて憲法と合つたものにするということにすればすつきりするのですが、財産区と一部事務組合全部とありますが、事務組合を除くことが何らか支障があるだろうと思います。大分性質が違うのですから、殊にこれから地方公共団体の協議会なんというものを作りまして、それとは同じようなことになつてしまうと思うのですが、どうでございましようか。
  110. 杉村章三郎

    参考人杉村章三郎君) これはやはり先ほども申しましたように、組合というものが、地方団体の組合というものが、これがどういう性格のものであるか、まあ地方団体としてその存在を認めるべきものであるかどうかという点でありますが、この点私法制の詳しいことを存じませんものですけれども、どういう工合に市町村と同じ取扱いをするかということの詳しいことは存じませんけれども、併し現在組合の、例えば役場事務組合というようなものについては市町村と同じような取扱いをしておるのじやないかというふうに考えますが、勿論はつきりする意味におきましては何かそこを区別するということは、立法技術としてはできるのじやないかというように考えまして、まあそのような問題が起らないように処置を講ずるということは、これはできると考えます。
  111. 西郷吉之助

    委員長西郷吉之助君) 他に御質疑ございませんか。それではこれにて参考人意見と質疑は終了いたします。  参考人各位におかれましては本日は御多用中お出を頂きまして、委員会を代表して厚くお礼を申上げます。  午前、午後を通じて長時間でありましたので、本日はこの程度にいたしまして、明日午前十時から開会いたします。    午後四時三十分散会