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政府委員(
鈴木俊一君)
憲法九十三條と今回の二百八十
一條の二の
改正案との
関係でございますが、この点につきましては、私どもは
政府原案におきましても、又衆議院が修正いたしました案におきましても、
憲法に違反しないというふうに考えておるのでございます。その理由といたしましては、先ず第一にこの
憲法の九十三條の
地方公共団体の長を
住民が直接これを選挙するという
規定の
性格でございまするが、これは
憲法の中にございまする例えばいわゆる権利章典に属するようなさような
規定とやはり事柄の性質が少し違うのではないか。
地方公共団体というものがどういうものであるかということについては
憲法では直接
規定をしていないわけでございまして、それを如何に定めるかということは
法律にこれを委ねておるわけでございます。
法律がただこれを定めまする場合においては
地方自治の
本旨に
従つて定めなければならない、こういうことが
憲法のいわば
地方自治に関する大
原則であるというふうに考えられるのであります。九十三條はかような大
原則の第九十
二條をうけまして、長その他
法律で定める議員は
住民が直接にこれを選挙するということを謳
つておるわけでございますが、この解釈は、絶対拘束的なものでおよそ
地方公共団体の長というものはすべてこれは
住民が直接に選挙しなければならないというような
種類の解釈をすることは、実際の実情から申しましても、
現行法の全体を通観をいたしました
建前から申しましても無理ではないかというふうに思うのであります。と申しまするのは、現在の
制度におきましても
地方公共団体というのは、御承知のごとく普通
地方公共団体、特別
地方公共団体、非常に広く
地方公共団体として
地方自治法においては
規定をいたしております。併しながらこの
地方自治法において
規定をいたしておりますすべての
地方公共団体が、
憲法にいうところの
地方公共団体であるというふうに解釈するうにとは如何かと考えておるのであります。これは財産区にいたしましても、或いはいわゆる組合にいたしましても、現行
地方自治法においてはその長の直接選挙という
建前をと
つておりません。これは特別
地方公共団体に属しまする特別市、特別区、財産区、或いは一部
事務組合というものにつきましては、やはりその
地方公共団体の
性格に応じて
憲法九十三條の
地方公共団体であるかどうかということを判定をする必要があると思うのであります。私どもは、
憲法九十三條の
地方公共団体というのは普遍的な一般的な
地方公共団体、その中には
市町村、都
道府県というような
二つの
種類のものが現行の
地方自治法の
建前におきましては当然に入ると思うのでございます。併しながら特別区はその中には入らないのではないかというふうに考えるのであります。特別
地方公共団体の中で特別市は、これは
府県と
市町村の
性格を併せ持
つておるものでございまして、二層の
地方団体が一層の
地方団体に
なつたということでございまして、これが九十三條の
本旨に
従つて直接その首長を選挙する
建前にな
つているのはこれは当然でございます。併しながら組合とか財産区につきましては、これは学者は、例えば美濃部博士などはこれを
地方公共団体と学説にもかねて述べてお
つたわけでございますが、
地方公共団体ということは言われますけれども、併し
憲法のいう
意味の
地方公共団体には私どもが今申しましたところの
意味の
地方公共団体は考えられないのであります。特別区はかような特別市、財産区
なり組合のいわば中間に位するものと実際は言われるのかと思うのであります。
特別区の
性格につきましてこれはひとり
地方自治法の問題だけでなく、やはり現行の特別区に関する諸法制を通観いたしまして、特別区が現行諸法制の中で如何なる地位を與えられているかということを明確にいたすことが必要であると思うのであります。これは例えば一番
基本でありまする選挙権の問題を考えてみてもわかると思うのでございますが、これは特定の
市町村に三ヵ月居住しているということが選挙権の
要件でございますが、これを東京都の特別区で申しまするならば、
一つの特別区の中に三ヵ月住んでおるというのが、特別区と市を同じ
建前と考えまするならば、そうなければならんのでありまするけれども、現行公職選挙法においては特別区の
区域を通じて三ヵ月というものを計算するというふうにな
つておりまするし、又その他の
地方税法におきましても或いは
地方財政平衡交付金法におきましても、特別区の存する
区域というものが一般の市と異
なつた取扱を受けておるわけであります。と申しまするのは、
地方税法においては都が他の附県の市がとりまするような税もとる、こういう
建前にな
つております。又
平衡交付金法では特別区の存する
区域を
一つの市とみなして都に交付金を交付する、かような形にな
つておるのであります。又
警察法とか消防法でございますが、これは特別区が連合して警察
なり消防を持つ、かようなことにな
つておるわけでございまして、これらも若し特別区というものが普通の市の
性格と同じものでありますれば、当然これは個々の特別区が
自治体警察を持ち、
自治体消防を持つべきでございますけれども、特に
法律は連合して
一つの警察
なり、消防を持つようにしておるのであります。その他
各種の実体法を見て参りまするならば、
都市計画にいたしましても、或いは道路の
関係にいたしましても、
現行法制の中におきまして特別区というものを
一つの独立の市として取扱うことが困難であるという社会的の
実態からいたしまして、特別区の存する
区域というものを通じて
一つのあたかも
地方団体であるかのごとくみなしてこれを
規定をしているというのが
相当多いのであります。かような点からいたしまして
地方自治法並びにこれに基く
各種の
法律及びその他の実体法を通観をいたしまして、現行の特別区の法制上の実体というものを
憲法との関連において合理的に把握いたしまするならば、これらの諸
法律というものは
憲法九十
二條の
地方自治の
本旨に基いてこれは
法律に定められておるものと私どもは考えておるわけでありまして、かようなことが
憲法の定めておりまする
地方自治の
本旨に違反しないというならば、特別区の実体というものをさような実体であるというふうに
規定することが
地方自治の
本旨にも合
つておるし、九十
二條の
本旨にも合
つておると思うのであります。そういう点を
憲法の
一つの
規定だけでなく全体を通じて合理的に解釈して参りまするならば、特別区のような
性格の
地方公共団体は普通のいわゆる基礎的
地方公共団体である
市町村とは甚だしく
性格を異にしているということは私どもは極めて明瞭なることであると考えておるのであります。
のみならず
地方自治法という
基本法の中におきましても、
現行法におきましてすでに都は
條例で特別区について必要な
規定を設けることができるとな
つておるのであります。この
規定だけでも特別区というものは
府県の下にありまする
市町村とは甚だしく違
つておるということを謳
つておるわけでありまして、これを非常に極端に広く解釈いたしますれば、特別区というものは非常にその都との
関係におきましてはやはり都が主体性を持ち、都の下の
地方団体は都と一緒にな
つてや
つて行くべき
性格のものではないかとも思われるのであります。さようなことから例えば現在
地方自治法の施行令におきましても、各特別区に勤務しておりまする職員はこれを都吏員にしておるわけであります。都吏員を特別区に配属することにしてあります。このこともやはり特別区の現在の
性格から申して私は当然のことであろうと思うのであります。又都が特別区に対して
財政調整を行な
つておりまするが、これもやはりこの二百八十
一條、
二條の
規定に基いてや
つておるわけでございますが、かようことは一般の
府県と
市町村との
関係においては行い得ないわけであります。
かように
各種の
地方自治法並びに実体法を通じて観察をいたしますると、都と特別区の
関係というものは到底普通の
府県と市との
関係という普遍的な団体相互の間の
関係とは考えられないわけでございまして、さような
意味におきましては、やはり特別区というものは非常に特殊な
性格を持ち、その
自治性はあるけれども即ち
自治区ではあるけれども、非常に制限を受けた
自治区であるというふうに考えるのであります。
制度上さように相成
つておるのは、実体がやはり都という
一つの
区域の中にある内部的な
地方団体である、それ
自体としては独立して
自治権を持ち得るような完全な
自治団体ではない、やはり二十三区が通じて
一つの大
都市としての機能を持ち、更に三多摩の郡部を併せましたさような
一つの地域の地縁として成り立つところのこれは
一つの
制度ではないかというふうに考えるのであります。で、
自治法上特別市と都制というのは大
都市制度を規律する
二つの
制度であるわけでございまして、
先ほど来御論議がございましたように、特別市の下におきまする下部機構としてはこれは
行政区である。ところが都の下におきまする特別区というものが市と同格の完全なる
地方公共団体ということは如何にもこれは実情に合わないわけであります。で
制度上も今申上げましたようなことにな
つておるのでございまして、さような
性格を持ちまする特別区の長というものについては
憲法九十三條の二項にいう普遍的な一般的な
地方公共団体には入らないであろう。
従つてこの長を直接選挙する必要はない。その長を直接選挙する必要があるか否かということは、これは
憲法の問題というよりもそのことが大
都市行政上果して合理的であるかどうかという、さような
都市政策の観点から考えるべきであるというふうに私どもは考えておるのであります。