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証人(
今井久次郎君) それでは
住宅金融公庫法の一部
改正法案に対して
損害補償制度に関連した
部分について
損害保険会社側の
意見を申述べます。
政府提案によりますと、
災害被
融資者の
負担を軽減することが最大の
目的であるように承わ
つております。
ところが果してそのような
目的が達せられるかどうかということは簡単に考えられない点があると存じます。即も
災害補償料なるものは千分の三・五というふうに述べておりますが、
融資物件に対してのみ三・五を適用するというのでありますから、事実
建築がなされる場合には
自己資金を一
部分使いまして
建物を
建築しております。現在の
木造建築でありますと、十八坪限度においてその
建設費坪二万六千円と考えて、その八掛しか許可されない。そうしますと二割というものについてはおのずから
自己資金が出される。八掛に対して千分の三・五の
補償料で
保険を済ましても、残りの
部分は
一般保険に
契約しなければならんのであります。それから必ずしも二万六千円の
単価で
建築ができるものとは限らない。三万円、二万五千円も費やす場合があります。又必ずしも十八坪の
建物に限らない、三十坪、二十五坪というような
建物が
建築される。その
白日資金の
部分についてもやはり
一般保険が
契約されるのでございます。で、現在はそれに対して
平均三割
引きの
保険料率を以て我々
保険を
引き受けておるのでございます。
自己負担部分についても三割五分
引きを以て
引受けております。それは
別個の又
理由があるのでございますが、今回
改正されまして
住宅災害補償料を以て八掛の分だけ、
融資額だけに対して
契約されるとしますと、
保険会社は
白日部分については
一般料率三割
引きしない
一般契約として
保険を
引受けなければならんということになります。そうしますとこの
数字がいろいろありますが、結局において殆んど
債務者の
負担が軽減されない、或いは計算の取り方によりますと、
却つて被
融資者の
負担が増加するというような結果を来たしております。詳細を或いは御
質問あれば申上げてもよろしうございますが、そういう結果にな
つております。
次に
政府の
機関が現に
民間保険会社で実施しておる
ところの
保険に競合するような
保険を締結するということは民業の
圧迫になるばかりでなしに
自由経済の原則に悖るものであるというふうに考えます。
民営がいいか、
国営がいいかということは、単に
保険事業ばかりの問題でなしにすべての
事業に共通の問題でありますが、その長所、短所は今更ここで申上げる必要はないと思いますけれ
ども、少くとも
保険事業というものは非常な
熟練を要する
事業であります。殊にその
保険の対象が非常に広汎に亙
つておる場合にこれを取扱う
機関というものには相当な経費がかかる、又
損害の発生した場合に如何なる
損害価額であるかということを調査することは特殊の技能を要するのでありまして、而も従来は
平均一ヵ月十五件乃至二十件の
損害がありますが、それが全国に亙
つておりますと
相当熟練者が多数いなければ速かに
損害の処理ができないということになります。又一部は
国営の
保険になり、一部は
民営の
保険になるというと、
同一物件について二つの
保険が重複するというときには
損害の査定の場合しじゆう食い違いができます。一部の
損害に対してどの
部分はどういうふうな割合で払うかというようなことについていろいろ複雑な問題が起
つて参ります。更に今回の
改正法案によりますと、
損害の起
つた部分について
修繕費の
貸付けをするというふうに言われております。又全部滅失した場合には新たに
貸付けをするということにな
つておりますが、その
金額だけ
金融公庫の
資金が
損害を蒙
つた建物に流れ込むのでありまして、新らしい
建築をすることについての
資金がそれだけ少くなるということになります。それよりもむしろ
保険は
保険に委せておいて、事故が起
つたならばそれを
保険会社から出させるということがなお合理的であると存じます。
更に現在
一般的に
政府におきましては、
行政整理を考えておられる。
従つて行政整理によ
つて国費の
節減を考えておられるのでありますが、今回の
補償制度を実施することによりまして、
人件費並びに
物件費はそれだけ膨脹することになります。少くとも
節減に支障を来すということになりますから、むしろそういう
事業は
一般保険会社がや
つておる一部面として委されるほうが適当であろうと存じます。
殊に今回の
料率の千分の三五というものは極く
短期間の
料率でありまして果してこれが長期間に亙
つて妥当なものである、どうかということは、我々の経験から申しますと決して肯定できないのであります。ということはしばしば
大火の危険が発生しております。それによ
つてそういうものを考慮するということが是非必要なわけでありまして、若し、殊に今度の案によりますと
風水害をもその中に含めるということでありますが、
風水害の危険はなかなか測りしれない巨額に達することがあるのでありまして、若し一挙に大
損害が起
つた場合如何にされるつもりでありますか。これは或いは
借入金或いは
財政資金の一部から支出するような御
計画であるかも知れませんが、その場合全部を返済するには相当長期間を要するのでありまして、かくのごとく財政的に、
財政資金の上に損を与えるような
計画には賛成できないと存ずる次第であります。今回
鳥取市に
大火が発生いたしました。
鳥取市における
公庫建築の
保険の
損害は約二千万円でありまして、
建設省の御
計画によりますと、一年の
保険料が恐らく四千五百万
程度お見込にな
つておると思いますが、その半分に該当すると
ところの二千万円が
鳥取一回の
損害で支払われなければならないということになります。そうしますとその他の
損害、或いは又今後あの
程度の
損害が発生しないとは限らないのでありまして、それを何を以て補填をされるか、又今回承わりますると、二億の
公庫資金が
鳥取の復興に流されるということでありますが、その鳥坂市のごときは
大火の危険が非常にある土地でありまして再び同じような
大火が起
つたときに
公庫の
負担というものは一億以上、或いは二億近いような
損害を支払わなければならんというような結果が来ないとは限らないのでありまして、そのような危険を生むよりも、むしろ
民間保険会社がほかの
保険から得た
ところの蓄積によ
つて支払うというほうが適当であろうと存じます。
なおこうい
つた国営若しくは公営に対する
事業についての
反対意見といたしまして、もう
一つ附加えさして頂きます。
公庫が現在の
融資額は比較的僅少でありますが、年々増加して行きます。その都度
住宅の
かなり多くの
部分、
従つて保険の見地から見ますと、
住宅保険の
かなり多くの
部分が
公庫の
補償に変ります。
住宅保険というものは我々
保険会社の目から見まして非常に危険の分散された優秀な
保険であります。優秀な危険、我々の言葉で申しますと危険と申しますが、優秀な危険であります。
従つてこれを漸次
保険会社の手から持去られるということは、
保険の
経営の
安定性を失うことになります。非常に
金額の浮動の多い工場或いは倉庫或いはそのほかの非常に
金額の変動の激しいもの、或いは危険の大きいもの、そういうものが
保険会社に残るということは
経営の
安定性を阻害するために、勢いそうい
つた建物の
料率も引上げなければなりませんし、又対外的に見まして
保険会社の
信用を傷つける虞れがあります。現在
保険会社は国際的な再
保険取引をや
つておりまして単にただ大口の
物件ばかりでなしに、小さい三十万、五十万というような
保険でもこれを集積した場合に再
保険取引をや
つております。
外国の
保険会社は内地の
保険会社の
内容をいつも注視しておりまして、危険の多いものばかりが再
保険に出されるようであれば、
保険取引に対して悪い
条件を持出します。極端な場合には再
保険の
引受けを拒絶する場合があります。その
実例は極く最近に
船体保険について現れておりまして今年の初めに
海外再
保険取引をずる場合に、非常に悪い
条件を
船体保険について持出されまして困
つたという
実例があります。又こういう
公庫の
補償制度のようなものが漸次ほかの官庁或いは
建設省においても拡張されるということになりますと、一種の
国有保険が発達するということになりますが、その場合
海外の
保険者は
日本の
保険に対して一種の不
信用な、信頼の
観念を失うというような結果になります。その例はフランスにおいてすでに明らかであります。又
イギリスにおいては御
承知のように各種の産業が
国営化されておりますがこの
イギリスでさえ
保険事業は
民営に委ねられておるのであります。それらの事情をよく御覧頂きまして今回のこの
改正法案に対してはそれらの点を考慮いたしますと、この
改正法案に対しては
反対しなければならんというふうに存ずる次第であります。
以上で一応の
意見を終ります。