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中山福藏君 私はこの
法律案に賛成いたします。
只今兼
岩委員の共産党を代表しての御討論がありましたが、私どもは人間として衷心より平和を希
つておるものであります。今日不幸にしてイデオロギーの差異から、
米ソ両陣営の対立ということにな
つておりまするが、これは主観的に自己の主義というものが、絶対不可侵と申しますか、絶対的なものであるという宗教的な
考え方から出発しておるものだと
考えるのであります。
私は先ず手取り早く、若し
米ソ両陣営のかたがたが真に平和を希うならば、先ず自分なんかの持
つておる大きな軍備というものをお捨てにならんか、これは私の常に持
つておる疑問であります。
日本の憲法というものは御
承知の
通りに、理想的に言えば、世界最高のものであると私は
考えております。武器を捨て、平和を希
つておる、これくらい立派な憲法はない。併しながら一方に高度の熱を持
つた誠に怖るべき武器というものを擁されてお
つて、一方には全然武器のない平和を希
つておる憲法を持
つた日本のような国があるとすれば、高度の熱を持
つたところから、全然冷え切
つたところの熱のない、いわゆる武器のないところに、高いところから低いところに、自然の道理によりものが流れて来る、流れて来る姿が戰争になるという腐れがある。両方とも同じバランスのとれた同じ高さでありますれば、どこにも武器は流れようがないのであります。ですから武器を持たない平和な社会を希うならば、世界全体が武器を持たないように、先ず世界の
政治家というものは努力すべきだと私は
考える。然るに不幸にして、そういう理想に到達するということは、現在においては望み得ない
立場に私どもは追い込まれておるのであります。
私は、たくさんの子供を失い、夫を失い、父を失
つた人々が、如何に精神的に苦んでおるかということは、最も惨害を受けた
日本人としてこれを痛感して仰るものであります。従
つて本当に平和を希う
気持があるのかどうか、イデオロギーのために
相手方の主張をことごとく否定して、それで世界の平和というものを招来することができるかどうかということは、非常なる疑問がそこに現われて来ないわけには行かないのであります。従
つて私どもは、文化というものがいろいろと学者の人人によ
つて叫ばれておりまするが、併しながら一個人としての
考えとしては、いつも不思議に
考えることがある。先だ
つて南原東大学長がおやめになるときに、どういう訓辞をしたかと思
つて見ておりまするというと、
平和條約、安保條約ができたけれども、諸君は真理を追うということに決して卑怯であ
つてはならないという訓辞を与えておる。私は実に大学総長の言葉としては不徹底なことに驚いた。大体その真理というものを、どういうふうにして現在のいろいろな主義を持
つておられるかたが
考えておられるか。私はこの点について、すべての世の中の識者が、いやしくも社会の木鐸というような自惚れを持
つておる人々が、もう少し
考えて欲しいと思う。それはなぜかと申しまするというと、大体真理というものはどういうものかということについての真理の本体というものをつかんでいないと私は
考える。今日アメリカにおいても
ソ連においても真理、或いは正義という言葉が非常に流行しております。併しながら本当の真理というものは、これは人間の智慧では真理という断定というものは、現在の最高の知識を以ての真理としての断定なんです。不動の真理というものは人間の智慧で、これが真理だ、これが真理でないということは断定できないのであります。例えばアリストテレスの物体落下の法則というものについて、二千年というものは真理として世界中の学者から重んぜられておりましたときに、ガリレオが一分間にしてピサの高塔から二つの大小のものを落してアリストテレスの物体落下の法則を打破してガリレオの現実に基いた証拠の提供によ
つて二千年の真理が覆えされておるのであります。人間の頭によるところの、知識によるところの真理はかくのごとく脆いものである。それを南原総長ともあろうものが声を高らかに学生に訓示をしておられるのだということは、これに滑稽至極、沙汰の限りだと私は
考えるのであります。
そういうふうなことからお互いに自分の主張というものは絶対的なものであるということは今日言い得ないのであります。かるが故に私はこういう前提の下に今日どういうふうにすれば人類が幸福になるかということは、これは階段的にこれをや
つて行かなければ仕方がないのであります。だから今日の
日本の
立場において平和を希
つておりまする
日本民族が国家として構成する、それにはできるだけ卑近なところから私は物事を運んで行く必要があるとこう
考えるのであります。かるが故にサンフランシスコにおいて
日本の対日
平和條約に調印をし、好意を持てるものとはお互いに
公使、
大使を派遣して、そうして仲良くや
つて行く。
只今兼
岩委員も仰せられましたように、
ソ連或いは北鮮或いは
中国、こういうものと別に喧嘩する必要はない。私どもはできるだけ最大の努力を払
つて順次こういう国々と国交を回復するということは、私どもは
国民として世界人類の一員として常に希う次第であります。従
つて私は階段的な世界平和に貢献するという
意味におきまして、この
大使、
公使の
設置に関する本
法律案に衷心から賛成の意を表するものであります。