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1952-03-13 第13回国会 参議院 外務委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年三月十三日(木曜日)    午前十時五十一分開会   —————————————  出席者は左の通り。    理事            徳川 頼貞君            野田 俊作君            吉川末次郎君    委員            杉原 荒太君            團  伊能君            平林 太一君            伊達源一郎君            中山 福藏君            金子 洋文君            加藤シヅエ君            大隈 信幸君            兼岩 傳一君   国務大臣    国 務 大 臣 岡崎 勝男君   政府委員    外務政務次官  石原幹市郎君    外務省欧米局長 土屋  隼君   事務局側    常任委員会専門    員       坂西 志保君    常任委員会専門    員      久保田貫一郎君   参考人    一橋大学教授  大平 善梧君    中央大学教授  田村 幸策君   —————————————国際情勢等に関する調査の件  (モスコー国際経済会議出席に関す  る件)  (行政協定に関する件)   —————————————
  2. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 只今から外務委員会を開会いたします。  本日は昨日に引続きまして、行政協定に関して参考人から御意見を承わる予定でございますが、これに先立ちまして、兼岩委員から発言を求められております。
  3. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 先回、先々回の当委員会でお願いし、その後理事会の御高配及び委員長のお骨折りによつて岡崎大臣から旅券発券について、モスクワ経済会議旅券発券について態度を明快にするのであろうというふうな答弁を得ておることは、昨日委員長からこの会議の劈頭で御報告になつた通りであります。然るところ私が聞き及んでいるところで、十二日或いは十三日に船が入る予定であるということを私は聞いております。それは四月三日の開催に対して、片道に約十五日を要するという関係で勘定して見ると、そういうことになるのでありますが、岡崎大臣委員長に対する公約を果す意味で、今日でも旅券を御発行になつて然るべきものと考えますが、それはどういうふうに進んでおるのでしようか。
  4. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 本日も司令部のほうに問合せましたところが、船の入港が四十八時間以前に関係方面通告がなければならないはずでありますが、本日の午前九時までにソ連船入港については何ら通報がないそうであります。従いまして今のところはいつソ連船が入つて来るのかわからないという状況であります。地方先般もこの委員会でいろいろ御説明しました通り、我々としては種々研究を要する問題があり、又それには我々のほうに在外機関がない関係上、よその国に依頼して報告を求める必要もあるのでありまして、只今その方面のことも引続きやつております。一、二材料も参つておりますが、まだ決定的な意見を作るまでは至つておりません。従いまして若し今日何らかの態度はつきりしろとおつしやれば、今のところでは調査が未了であるから、今仮に旅券を出せとおつしやれば、旅券は出せないということであります。
  5. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 相変らずの極めて不誠意答弁でありまして、口の先でごま化そうとしておる。旅券法精神、それの準拠する日本国憲法二十條、これによつて君が今説明されたような、そういう口の先で調査を名とし、又政治的な、この主催地のその所在するところの国家の政治的性格、それから出席する人たち政治的立場等々から、何一つの説明されるような結論は出て来ない。外務省からもらつておるこのものを見ると、やれハルピンの総領事である宮川船夫君というような人がまだ帰れないとか、或いは船が一九五〇年には七十一艘、マツク・ラインを越した越さないという理由で拿捕されている等々と、何もこんなことが調査資料にならないことは、三才の童子といえども明らかである。君の答弁は、将来の戰争及び平和に関する将来の世界会議において醜惡な一エピソードを提供する以外のものではないと思う。そういう不誠意態度をしたいで、委員長及び我々が報告を聞いたこの外務委員長及び理事諸君了解を求められたように、速かに憲法並びに旅券法精神に準拠して明快な態度を出さなければ、政府は明らかに政治的な目的を以て妨害をしておるのだ、みずから憲法を蹂躙し、旅券法を蹂躙しておると言わなければならんと思うのです。速かに私は何らかの……、この現に調査としてごま化しているということそれ自身が、もう発行をしなければならなんということの証拠です。なぜならば、若しも明快な拒否の理由があるなら拒否すればいいのに、拒否できない。だから調査々々として、官吏常套手段特権官吏の半封建的な官僚制度の昔から行なつておるその調査調査の名によつてこれを妨害するという、一番安易な、一番卑屈な、一番狡猾な方法をやつておるということは明瞭である。だから拒否するなら明確な態度を以て拒否すべきである。それができない。だから船が四十八時間……、ソヴイエト船がどうだとか、或いは調査中とか、在外自分調査の便宜を持たんとか、そういうばかばかしい言葉でごま化すということは許されないと思う。若しそうだとすれば、君はどうだ。根本龍太郎君に対して、こういう治安の状態が非常に惡いと言われておるビルマラングーン、こういうところに対してパス・ポートを出すということを前提として、現に議院運営委員会申請して来ておられる、その安本の顧問を……。どういうわけですか。ビルマラングーンと、モスクワへ派遣するということと、それらの人の、君のお得意の十九條によるこの生命、旅行先の危險その他ということについて、屁理窟であるということは明快じやありませんか。どうなんですか。根本龍太郎君のラングーンの問題、帆足君、宮腰君その他の諸君モスクワの問題とどうなんですか。一つ説明してみて下さい。
  6. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 君の言うことは支離滅裂です。一体何をごま化しているというのか。それこそ醜惡な言動です。この委員会をむしろ侮辱するような言動です。それは調査をする必要があるから調査をする。政府調査をしちやいかんということはどこにも書いてない、当然調査すべきものである。調査してどこが惡いというのです。なおビルマ等につきましては、我々はよく情報を入手しておつて事情はよくわかつておる。ソ連のほうは鉄のカーテン向うのせいか何か知らんが、情報はわからない。従つて調査をする必要がある。
  7. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 調査をすることな惡いといつ言つたのだ。調査に名を籍りて徒らに態度を明快にしないで機を遷延させておるのは、明らかに政治的な目的のために、外国傀儡政府大臣にふさわしい醜惡な態度であると僕は言つている。調査を非難しておるのじやなくて、調査に名を籍りて、憲法並びに旅券法精神を蹂躙しておる政府態度を攻撃しているのだ。それを醜惡でないということを言つて見給え。
  8. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 我々は外国傀儡政党の党員の言うことを一丸聞くわけに行かない。
  9. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 君こそ傀儡じやないか。だから調査々々に名を籍りて、政治的な目的のために旅券法並びに憲法を蹂躙する態度を速かに清算して、そうして拒否するならばはつきりと万民の納得する形において拒否して見給え。なぜ調査々々として日を延ばすのですか。
  10. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 何を調査をしてごま化しておるということはどこにあるのですか。我々は調査するのが当然だから調査しておる。
  11. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 いつまで調査するのです。
  12. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 調査が終るまで調査をする。(笑声)
  13. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これは君は調査に名を籍りて憲法旅券法を蹂躙しているから、そうして平和を守らないで戰争を促進するということはそれだけでも明瞭じやないか。何のために、モスクワ経済会議が平和に寄與し、東西の貿易の打開に寄與こそすれ、何のために漁船が何隻拿捕されたとか、シベリアで何万死んだらしいというようなばか気たこういう資料を事実の認定と称して、調査々々として日を延ばすことが何のために、日本の国民生活の向上と世界の平和に寄與しますか。しないですよ。調査々々に名を贈りて政治的目的のために妨害していることは明瞭じやないですか。人権蹂躙じやないですか。そうするとお伺いしますが、いつ態度を明らかにするのですか。
  14. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) あなたは非常にモスクワ事情にお詳しいようですが、私のほうはそれだけの資料はないのです。ですから材料を集めて調査している、調査が完了すれば結論は当然出します。
  15. 金子洋文

    金子洋文君 岡崎さん、あなたは鉄のカーテンでわからないとおつしやいますが、世界中の国が行くのですよ、世界中調査に名を籍りて、鉄のカーテンはわからないというと、これは問題になりませんよ。私はやつばり結局あなたたちは苦しい御答弁をなさるのは政治的考慮の結果だと思うが、政治的考慮になるとこれはおのおの皆違います。行つていいという人、行つていけないという考え方とあると思うのです。ところで昨日教員組合のかたがた三名と私と厚生委員長の梅津君と外務省をお訪ねして、井口次官に会いました。そうすると、井口さんの御意見はやはり政治的な見解で、今行つてらつては困る時期である。時間の問題である。先に行けば或いは可能かも知れませんけれども、今は工合が惡い。恐らくあなたたちと私たち政治的見解が違うのであろう、あろうけれども、政府としては今行つてもらいたくない。そういう政治的見解を持つておる。ただ事務的な問題はいろいろ問題があるけれども、私としてはそう思う。私はこれは正しい見解だと思います。そうでなければならんと思う。先ず吉田さんがそう思つておる。吉田さんがそう思つているから、あなたたちがどう思つてもそれは駄目なんだ、甚だ失礼だけれども駄目なんだ。ですから、むしろそういう旅券は交付できないと御了解願いたいと、こう言つたほうが委員人たちも納得するだろうと思うのですよ。調査に名を籍りて荏苒日を延ばして行かないことになると、結局問題をあとに残していかんと思うのです。国民も非常にもやもやした気持で納得できないと思うのですな。そうでなく、はつきりと、いろいろソヴイエトあたりには政治的にいろいろ諸問題があつて、そうして今人が行つてもらいたくない時期だ、御了解願いたいと言うほうが私は正しいのじやないかと思うのですな。それをやつぱりはつきりしてもらいたいですな、その点どうですか。
  16. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 今まあいろいろお話がありましたが、先ず世界中どの国も行つておるとおつしやいますが、我々はやはりそういう点も調査をしておるのであります。只今私の入手しておる報道によれば、アメリカにおいては一人旅券申請をした人があるとかいう話がありましたが、それ以外にはモスクワヘの旅券申請した人はないと思つております。而もその一人も旅券申請したのか、して取下げたのか、或いはしようとしておつただけで申請をしなかつたのかわかりませんけれども、結局その一人も申請を取消したのかしないのか、とにかくしなくて、結論では一人もモスクワ経済会議には行かないという報道を今日持つております。併しながら我々はやはりあなたのお考えのように、ほかの国が一体どうするのかという点もこれは考慮一つなんです。やはりこれも調べており、現に本日そういう情報を入手したのであります。なおこの未帰還者の問題もありますが、これはまあ非常に長い間の懸案であります。ところがもう一つのこの漁船と漁夫を抑留されて、その通報は再三我々のほうから、とにかく名前なり、どこにおるのか、又どういうふうにこれを帰還させるのか、或いは何かの処罰を受けるのか、そういうことだけでも知らしてもらいたいということを再三司令部を通じてソ連の責任ある方面に要求しておりまするけども、未だに何らの回答がない。これはマツカーサー・ラインを越してからつかまえたというのならば、それでもいいのであります。いいのでありますが、それで処罰すると言うのならば処罰をしてもいいのでありますが、一体その精神がどこにあるか、どこに置かれておるか、それは一体名前はどういう人間であるか、向うにつかまつておるとこちらでは思つているのに、途中の何か事故で行方不明になつたり、死亡したりする場合もありますから、とにかくそういうことを知らしてもらいたい。然らずんばこの北海道方面にいる家族は非常に難儀をしておる。併しながらこれも何らの通告もないというようなことで、我々政府としてもいろいろ考慮すべき問題があるのであります。結論的に言えば、あなたのおつしやるようになるかも知れない、なるかも知れんけれども、その前にはちやんとその筋道を立てて研究して見ないとわからないのです。本当に私の言うことを素直におとり下されたいと思うのです。政府としては、仮にそうあなたがおつしやるように、吉田さんがそう考えておるか、誰が考えておるかわかりませんけれども、それだけですぐ結論を持つて行くように、いろいろお膳立をしてそこへ持つて行こうというような恰好にはしたくないのです。やはり筋道を立てて、ここにはこれだけの力を盡して見た、あれにはあれだけの手を盡して見た、併し手を盡してこれは情報が入らなければ、これは仕方ありませんけれども、やるだけのことはやらなければ、私は結論を出すべきものじやないのであるから、実はこの族券を早く出せということは、しばしば要求されまして、例えば三月の二日か、何かに出さなきやいかん、それでなければ間に合わない、船がやつて来るのだと言われておつたこともあります。それから十日までに出さなければ間に合わないのだと、こういう話で強く要求されて、今度、今兼岩君のお話じや十五日までに出さなきやいかん、こういうお話であります。それで我々もそのたびに急いでいろいろやつておりますけれども、併しながら二日に出さなくても、又更に船は十日に来る、十日に来なくて又十五日に来るというような話で、だんだんそのほうもズレて来ている。而も本日午前九時に確めたところでは、まだ船は何らの通報がない、そうすると、少くとも十五日の午前九時まではその船は入つて来ないということは確実なんです。そういう方面でいろいろの点を私どもは調べて、それで結局はわかりませんから、こうしますということもありましよう。ありましようけれども、決してただごま化しのためにそう言つておるのじやないのであつて、やはりそれは入手すべき情報は入手すべく努力し、且つ入りつつあるものもあるのですから、さよう一つ御承知を願いたい。併しできるだけ早く国民の納得するような結論を出そうとしておることは事実であります。又それがいいと思つております。
  17. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それはいつまでにやるのですか、いつはつきりするのですか、旅券法に基く態度をいつ明らかにするのですか。
  18. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) できるだけ早くいたします。
  19. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういうできるだけ早くということで……ちよつと委員長にお尋ねしますが、そういうできるだけ早くなどという態度に又変更したらしいのですが、明確に何かお約束したのじやありませんか。委員長ちよつとお尋ねいたします。
  20. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 政府のほうの意見を述べるということでございましたので。
  21. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 政府態度を明らかにするということですね、旅券法に基いてこの旅券を出す……。
  22. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 政府のほうの意見を述べるという……。
  23. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 いつまでに……。
  24. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) そういうことは何も伺つておりません。今日意見をここで発表するというお話であります。
  25. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうでなくて、この前委員長報告を聞かれ、且つ理事諸君了解を求められたのは、漫然調査に名を籍りてこれを握り潰すような卑劣なことをしないで、これが間に合う以内のうちに政府態度を明確にするということを約束されたものと、私は昨日の冒頭のあなたの御報告によつて了承したのですが、そうではございませんですか。
  26. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 私がそのとき申上げましたのは、船が入るまでに政府のほうとしての意見を発表して頂きたい、それは了承したというお話であります。
  27. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それじやそれを再確認したと思いますが、四十八時間云々というので、船の入る時間まで一生懸命に政府調査しておられるようですが、僕は船が入るまでは遅いと思うのですけれども、船の入るまでには政府態度を明確にするという只今委員長に対する約束は守られるのでしようか。
  28. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 我々の態度を明確にするという点につきましては、委員長にも申上げておきますが、三つの場合があるのでありまして、一つ旅券を出すという場合、一つ旅券を出さないという場合、もう一つは何月何日までに返事をよこせと言われるならば、それまでにはまだきまらないという場合もあります。その三つの場合があるのであります。つまり我々は期限を付けていつまでに態度を言え、こう言われた場合に、その期限までには言えない場合もあることはあらかじめ御了承願いたいと思います。併しできるだけそういうことでなく、出すか、出さんかというふうに御返事をしたいと思つております。
  29. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 第三の立場は僕は容認できんと思うのです、法治国として……。どういうわけで第三の立場旅券法並びに憲法を基礎としてあなたの意見が出得るのですか。第一、第二は僕は断わるということは不法だと思うけれども、何歩か讓つて明確にするという意味でその態度を承認するとして、それまでにきまらないということは、何を根拠にしてそういう人権蹂躙的な行為が許されるのでしようか。
  30. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) 例えば旅券申請しますときは、何月何日までにこの旅券を出してくれという注文を出されても、その日が迫つておればできない場合もあるのであります。政府は何月何日までに出せ、こういう要求を受けて、それに従わなきやならんという規則はないのであります。で、必要な期間の調査は、これはやるべきものはやります。併し私は徒らにただ調査ごま化そうとしておるのじやなくて、できるだけはつきりした御返事を出そうと思つておるのですが、その日を限つて来られたら、その場合にはそれまでにははつきりしないということはこれはあり得るのであります。ふだんでもそうです。旅券を出す、それじやできるだけ早く用意をしたいから早く返事をしてくれと言われても、過去の例から言いましても、その注文の日までに返事のできないことは、これはもうしばしばあるのです。
  31. 平林太一

    平林太一君 私は兼岩君から委員長に対しまして発言せられております御趣旨でありますが、前回の委員会におきまして、私はこの委員会一つの議決のような形式を以ちまして、政府に対してこの旅券の問題に対して何か支持するようなことを訂正することは甚だ面白くない、従つてそういうことはすべきものじやないということを申述べておいたのでありますが、理事会におきましての結果は、私伺つておりませんので承知いたしていないのであります。理事会も私は恐らくそういうことでお進めを頂いたことと、かように存じております。従いましてこれに対しまして、私は兼岩君と政府との間に討論が繰返されておるのでありますが、調査をいたすということに対しましては、私はこれは当然のことと思うのであります。殊に金子君が只今発言の中に、外務次官井口君とお会いになりましてお話しになつた際に、実は当方でも政府としては成るべく行つてもらいたくないのだ、こう述べられておるにもかかわらず、これが行つてもらわない処置を決定いたさないということは、政府意思、又この旅券の下附者に対しまして非常な、できればこれが行かしたいというような意思の潜在することを、これを想像せざるを得ないのであります。それでありますから、決して必ずしもこの調査をいたすということは、私は只今両君が御発言になつております御趣意に相反するものではない、むしろ井口君が言つておるように、実は行つてもらいたくないのだということでありますから、これは法律々々というが、政府のほうでは申請者に対しましては、これは直ちに却下すべきものである。併しながらこの問題に対しては、両君の御発言のごとく、私自身考えましても、この申請者は非常な権力をお持ちになつておる、力を持つておる、そういうところに、私はこういうことが決定をいたさないものであるということは、両君が非常に御心配になつておりまするごとく、非常にこの申請者に対しまする大きな絶大なる効果を発揮せられておることと思うのであります。そういうわけでありますから、決してこの調査するということに対しまして、何か激憤、感情を以てお考えにならなくてもよろしいことと思います。十分慎重に誤まりのない政府調査をしてもらいたい。それから第二点は、今後もあることでありますが、この法律の文字の上に示されました法律通りに、何かその通りにきちつとやるのだということでありますれば、実はこの行政にいたしましても、司法にいたしましても、或いは立法機関さえ私は必要としない事態が起るのではないと思います。例えば法律りにやるといたしますれば、市民大会なり、国民大会をやりまして、そうしてその国民大会なり、市民大会で多勢の者が申合せをいたした、一つのことを、一つ法律と言いますか、一つの取りきめをいたしましたそれを法律として、各国民、各市民が我が家に持ち帰りまして、そうして適当な場所にそういうものを貼つて置く。今日は自分の行動はこの法律によつてやるんだ、今日は自分の社会に対するこの問題に対してはこの法律の適用によつてやるのだ、こういうことに私は相成るのではないかと思います。若し法律というものをその通りに、何か鉄のごときものに、冷いものにいたしまして、何らかこれに対して制約を……、考慮なり、調査いたしたいということになると……、ところがそういうことになりまするというと、その法律解釈いたします各市民、各国民というものは、その解釈の仕方によりまして、顔形の異なつておるように皆異なつた解釈をいたして行くことになるのでありましよう。そうなれば、従つてそれでは秩序のない混乱の状態に陷り、そのためにここに行政機関があり、司法機関があり、更に立法機関というものがここにありまして、そうしてそれに対しまする間違いのない、この法律の適用、処置というものを取りきめて行くということに相成るのではないかと思います。そこにいわゆる我々の共同生活というものの秩序ある基本が成立つて行くのである。従いまして政府が、私はこの問題に対しまして調査検討をいたしておるということは、当然職務上の行為といたしまして、決して法律をおろそかにし、法律を無視し、或いは人権を蹂躙したというようなことには当らないと思います。でありますから、私の見解といたしましては、どうかこのような問題は極めて穏やかの間に懇談、納得の行く方法によりまして取進めをいたしまして、本委員会といたしましても、この委員会の使命を全うするようにいたしたいと、かように存ずる次第であります。
  32. 金子洋文

    金子洋文君 簡單に質問いたしたい品と思いますが、調査という……、問題は調査、結構なんですが、調査ということに疑問が起つて来ておるのです。問題はそこなのです。であるから、調査に名を藉りて引延すものでないかという疑問が起るわけです。結局私は井口さん、昨日会つた井口次官見解で、やはりこれは延ばされておると見て来ました。併しこの見解は我々とは違いますけれども、一応了解しましたけれども、ただそれが私は違憲じやないかと思うのです。政治的な考慮によつて旅券を下附しないということは違憲じやないかと言いましたら、そうかも知れませんと言つていました。その点どうです。岡崎さん違憲じやないでしようか。
  33. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) ちよつと御質問の趣旨がわかりませんが、旅券を下附しないというのは違憲であるというのですか。理由が政治的だから違憲であるというのですか。
  34. 金子洋文

    金子洋文君 政治的見解でどうも行つてもらいたくない。であるから旅券の下附ももやもやしておるのだ。むしろはつきりしたほうがいいというふうに言つておりました。井口さんはこの際もやもやしないで、はつきり出せないのだ、出すのだと結論を早く出すべきだというふろに言つておりましたけれども、井口さんのように、政治的見解行つてもらいたくない、旅券を下附しないことは違憲でないか、こういうことです。これは違憲じやないかと思うのです。あなたはどうお思いになりますか。
  35. 岡崎勝男

    国務大臣岡崎勝男君) さあ、これは違憲と言いますか(笑声)旅券法という法律があるのですよ。その法律の規定に反したような結論を政治的な理由から出せば、これは違法だろうと思いますね。(金子洋文君「わかりました」と述ぶ)併しこれがまあその法律の規定に反しておるかどうかというようなことは、これは調べて見なければわかりませんけれども……。
  36. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 今さつき平林自由党所属議員から、何だか意味のわからんというと、こちらが頭が惡いのでしようけれども、御発言がありましたが、何か聞いておるところによるというと、どうも法治主義というものを全面的に否定したようなお言葉がありまして、こんなことを取上げて、ここで論議して行つてもばかばかしいような感じがするのでありますが、結論的に、平林さんがおつしやつたようなことは、私は全面的に否定します。又はかの議員でああいう発言を否定しない人はいないだろうと思いますので、そういうことを今述べて、速記録にとどめておいて、それ以上は言及いたしませんが、兼岩君のほうからの、まだこの旅券の問題についてはいろいろ問い質したい気持を持つていらつしやるだろうと思いますのですが、併し劈頭委員長からお話になりましたように、今日は参考人行政協定に関する参考意見を聞くということが議題になつておるのでありますから、兼岩君の御意見に基くところの政府との質問応答はそのあとに一つ廻して頂きまして、そうして心行くまで委員長のほうで機会をさらに考慮して頂くということにして、一応途中でありますが、旅券の問題に関する討議はちよつと休むことにしまして、そうして早速両参考人意見を聽取するようにお取計らいを願いたいと思います。(「異議ございません」「異議なし」と呼ぶ者あり)
  37. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 承知いたしました。
  38. 平林太一

    平林太一君 只今吉川君から私の発言に対する御発言がされたのでございますが、何か法治国の何として非常にそういうことを尊重しないということでありますが、私といたしましては、法治国の国民といたしまして、この法律を最も尊重するというところの気持におきましては、遥かに吉川君より高いものを持つておりますから、(笑声)そういう点だけを申上げでおく次第であります。
  39. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) それではこの問題につきましてはこの程度にとどめます。   —————————————
  40. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 次に行政協定に関する件を議題にいたします。本日は参考人といたしまして、一橋大学教授大平善梧君中央大学教授田村幸策君の御出席を得ました。参考人各位には御多忙中にもかかわらず、本委員会のため御出席を頂きまして有難うございます。日米安全保障條約第三條に基く行政協定に関しましては、本委員会におきまして目下慎重なる調査、検討を続けております。各参考人におかれましては、それぞれ御專門の立場から、忌憚なく御自由に御意見の開陳をお願いしたいと思います。なお後ほど外務委員各位も御質疑を申上げるはずでございますから、各委員の疑問とする点につきまして、お答え下さることができますれば幸いに存じます。時間の関係もございますので、最初の御意見の発表はお一人約三十分におまとめ願いたいと存じます。  なお皆様にお諮りいたしますが、今日も昨日同様参考人の御意見を伺つてから質疑に入りたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  41. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) それでは先ず大平善梧君から御発言を願います。大平参考人
  42. 大平善梧

    参考人(大平善梧君) 只今御紹介にあずかりました一橋大学の国際法を専攻いたしております大平でございます。  日米安全保障條約第三條に基く行政協定に関し、日本国憲法との関係、裁判管轄、非常事態に伴う措置の問題につきましての意見ということを求められたのでございますが、若干、初めにやや角度を変えまして、私の具体的な疑問を申上げることにいたすのであります。最近の国会の討論を新聞紙上又はその議事録の一端から拝見しておりますると、議場の質疑応答が言葉の遊戯に堕しておるのではなかろうかと感ぜられる点が多いのは甚だ遺憾と思うものであります。或いは戰力又は軍隊と称しなければ憲法第九條の規定に毫も違反するものではないと言い、戰力に代るに時に自衛力、時に防衛力、時に治安維持力と申し、軍隊の言葉を避けまして、特別警察隊、海上保安隊乃至は俗安隊と申しておるのであります。安全保障力、セキユリテイ・フオーシスというものと、憲法で言うところの陸海空軍その他の戦力、ラウンドシー・アンド・エア・フオーシスというものとの区別がどこにあるのか、私は国民の一人としてその理解に苦しむものであります。而も答弁政府当局もその説明必ずしも一貫せず、自衛力と申しても近代的な兵器、例えば原子兵力プラスB二十九以上の航空兵力、そういうようなものを装備しない軍隊は戰力ではないと称するかと思うと、他方におきまして、又自衛のための戦力を保持することは合憲的であると言い、直ちにこれを失言であり、十分に意を盡さなかつたと説明を訂正されておるのであります。又陸海空軍とか、或いは軍隊とか、そういうこと度言わずして保安隊と言つておるのでありますが、併し今度の日米安全保障條約第三條に基くところの問題の行政協定そのものにおきまして第十八條には日米相互の軍隊の構成員、メンバー・オブ・アームズという文字が書いてあるのであります。政府の責任において締結され、憲法に合致すると主張される行政協定の中に日本の軍隊という文字があるのであります。日本人は自分では警察予備隊であり、治安隊であり、保安隊である、こう言つておるのにかかわらず、その実体が外国から見るならば軍隊そのものであるという意味であるか、或いは又日米安全保障條約の前文において「直接及び間接の侵略に対する自国の自衛のため漸増的に自から責任を負う」と、こういうアメリカの期待、こううい期待が将来において、而も近い将来において日本が軍隊、アームド・フオースを持つことを意味する、こういう意味であるか、どちらかであると私は思わざるを得ないのであります。日米安全保障條約は基地、ペース、又は軍事基地、ミリタリー・べースというような言葉を使つていないのであります。そういう文字を書いていないから、日米安全保障條約は米国の軍隊の日本駐屯乃至は駐留というものを認めるだけであつて、決して米国に軍事基地を提供するものではないと説明されておるのであります。併し軍事基地と申しまするのは、これは軍事專門実の言葉を援用するのでありますが、軍事活動の地点となるところの場所である、従つて軍隊が、これは陸海空、そういう戰力が継続的に駐屯して軍事活動が営まれ、殊に安全保障のために必要な軍事施設が永久的に或いは半永久的に設けられる場合には、これを軍事基地と言わずして、何と申すのでありましようか。殊に特定区域を限つていないから軍事基地の提供とはならないと言われたようでありまするが、一体近代的な軍事基地というものは、特定の区域を限つているのではないのでありまして、最近の軍事的な本には明瞭にそのことを謳つているようであります。安全保障降誕の第二條には、「基地における、若しくは基地に関する権利、権力若しくは権能」、という文字があります。この第二條は一條を受けまして、これらの基地に関する権能を第三国には許さないということが規定してあるのであります。この第二條から論理的帰結といたしまして、第一條は、日本が米国に対して軍事基地を提供しておると、逆にそういうことが言えると私は考えるものであります。今度の行政協定では施設及び区域という文字を使用しておりまして、同じような意味合から基地という文字を極力避けようとしておることがわかるのであります。更に日本における米国の軍隊は治外法権エクストラ・テリトリアリテイを有しないと弁明されております。これに代つて属人主義という言葉が使用されておるのであります。国際法の用語を以ていたしますると、領土、主権に対する制限が行われまして、属地主義によらない場合、属人主義による場合をすべで治外法権と申すのであります。これはすべての国際法のテキスト・ブツクに出ておるところでありまして、法権の外にあるという意味に殊更に解しまして、今回の行政協定とは、日本の法律が国内全部に適用されることになつており、第十六條で米国軍隊の構成員及び軍属並びにこれらの家族が日本国の法令を尊重する義務、これが治外法権的な刑事及び民事の規定をしたその前に置かれてあるのであります一つのオブラートが提供されておるわけでありまするが、こういうような日本法令を尊重する義務が書いてあることはよろしいのであります。併しそれなるが故に治外法権ではないと説明されるその一点であります。併し要は法の尊重というそういう文字、そういう道徳的なことよりも、現実の裁判管轄権の行使如何の問題であります。法律は妥当する、ゲルテンするばかりでなく、それだけでは無意味である、これが実効的エフエクテイヴでなければならないのでありまして、法の妥当性、ゲルテイガイト或いはフランス語でバリデイテ、実効性、バークザムカイト、フランス語でエフイカシイテというこの二つの妥当性と実効性を区別しなければならないのでありまして、日本の法律が尊重されるばかりでなく、日本の法律によつて現実に刑事、民事の裁判管轄権が行われて初めて治外法権が存しないことになるのであります。要は言葉ではなく、弁解ではなく、事実だあり、実効であります。巧言令色にあらずして、事実を探究する実証的な態度であると考えるものであります。行政協定に関する議論も文字の遊戯、言葉の綾と考えられるものが多いのではなかろうかと思うのであります。行政協定、アドミニストレーテイヴ・アグリーメント、これは安全保障條約第三條に規定して曲るのであります。それ故に行政協定日本国憲法下において合憲的であると説明されております。併し少くとも行政協定憲法上許されるか、又行政協定憲法上の限界が何であるかということを論及していないのであります。又行政協定は国家間の合意でなく、政府間の合意であるから條約ではない。従つて日本国憲法第七十三條三に言う條約でなくして、事前又は事後において国会の承認を要しないと説明されておるのであります。併し政府間の合意、国際法上の、インターガバメンタル・アグリーメントというものも 国際法上又は條約と等しく国家を拘束する合意でありまして、広義の條約であります。ただ国家元首の正式なる批准を要しない、そういう手続を要しないとされるものでありまして、日本国憲法上、行政協定という名前を附すれば、国会の承認を必要としないということは、それだけでは言えないのであります。又安全保障條約第三條の規定する行政協定、アドミニストレーテイヴ・アグリーメントは、行政府が独自に行い得る執行協定でおる。アメリカで言うエクゼキユーテイヴ・アグリーメントであると、アメリカ憲法にある制度である、これを持つて行け、こういうふうに説明されろと、これをおうむ返しにいたしまして繰返し、アメリカ側で執行協定という、そういうものでも、日本では執行協定というものを、こちら側に帰つて研究していないように考えられるのであります。例えばアメリカ憲法においては、大統領は軍司令官としての権限があり、それ基く行政協定があるわけであります。併し日本の憲法において、軍司令官の権限としての内閣総理大臣の権限がない、或いは日本の行政協定は、安全保障條約が国会に批准されるときにはまだできていなかつた。然るにアメリカにおいては行政協定ができて、それを見て安全保障條約を向うが審議することができる。いろいろ違つたことが起つておるのであります。政府当局は、「本日日米間に署名された行政協定は、もともと安全保障條約の実施細目について協定したものに過ぎない。」と語つておるのであります。これは先ほどまでおいでになつ岡崎大臣の談話であります。細目的な事務的協定であると言つても、日米行政協定そのものの規定を見れば、極めて重大な内容を含んでおることがわかります。決して細目的な事務的協定ではないことが知られるのであります。安全保障條約第三條は極めて簡單に、米国軍隊の配備を規律する條件、デイスポジシヨン・オブ・アームド・フオーシスという言葉、その配備を規律する條件と書いてあるのでありますが、このデイスポジシヨンという言葉は、辞書を引きますると、軍隊のステイシヨニングというような言葉が出ておるのであります。軍事的な意味の配置を意味するのであります。従つて滞在国の権利義務に影響し、滞在国の人民の権利義務に関する立法事項を左右するような意味は文字の上からは存在しないのであります。今日の行政協定が生れるとするならば、せめて一九五一年の六月十九日にロンドンにおいて署名されました軍隊の地位に関する北大西洋條約当事国間の協定、問題になつておるところのこの協定の條約の名称にあるところの軍隊の地位、ステータス、地位という字を挿入して、米国の軍隊の配備と地位を規定する條約と書いたほうがよかつたのであろう、一字を入れただけでも、よほど具体性を増したのではないかと私は考えておるのであります。條約による委任ということは、一種の立法権の委任でありまして、その趣旨と、これを規律するところの基準とが、あらかじめ国会の審議において明確化されなければならないのであります。安全保障條約第三條の規定は甚だ簡單、不十分であります。署名するところの日本側全権、更に審議したところの国会の皆様がたたち、具体的に特定した内容を把握していなかつたのではないかと考えられるのであります。これでは国民が、行政協定は白紙委任であると考えるのは無理からんことであると考えまして、国会が憲法第四十一條の言う、国の唯一の立法機関であるという精神を害してはいないかということを甚だ憂うるものであります政府に大幅の行政協定の締結権を認める先例をここに作ることは、たとえあらかじめ條約によるところの委任があつたといたしましても、外交権に基くところの立法権を確認することでありまして、十分に注意をしなければならないと考えるのであります。  以上、角度を変えまして、やや比較憲法的な立場から、実は昨日の佐藤教授の話に、余り比較憲法の話が出なかつたようでありまするので、私は比較憲法立場、これは私の範囲ではありませんが、国際法の立場から、行政協定は許されるか、若し許されるとするならば、どういう根拠があるか。許される場合の行政協定の限界というものについて私なりの意見を述べさして頂きます。行政協定と申しまするのは、行政府が国会の同意なくして自主的に締結するところの協定であります各国の條約締結に関する條文を拾つて参りますると、フランス憲法一八一四年の規定では、條約の締結には一切国会が関係しないようになつているのであります。我が旧帝国憲法も又国会が條約締結に直接に関係せず、枢密院の批准を経て行われておつたのであります。これが一つの例でありまして、これは問題にならないと思います。問題は、日本の旧憲法におきましては、枢密院にかけない行政協定があつたかという問題であります。第二の問題は、憲法上、條約締結において必ず国会の議を経るが、その條約の種類が憲法上限定されているというものであります。これはドイツ憲法、ワイマール憲法、一九一九年の規定の四十五條或いは西独憲法、ボン憲法と呼ばれるもの、一九四九年のこの規定の第五十九條、或いはフランス第三共和国の憲法、一八七五年にできたものでありますが、その第二十七條或いは第四共和国の憲法の一九四六年の二十七條、ポルトガル憲法一九三三年の規定の八十一條、イタリア憲法の一九四七年の八十七條、こういういろいろな規定がございますが、その大体共通しておる点は、国民の権利義務に関係するところの法律を変更するもの、いわば立法司法関係するところのもの及び国の財政的負担になる、若しくは将来なるであろうというところの條約は必ず国会にかける、而も法律の手続によつてかけるというふうに大体において規定されているところの憲法でございます。イギリスの憲法はその点に成文法はありませんが、大体十九世紀末に完成しました先例によりますると、裁判所が適用するところの法律を変更するような條約、それから王の権限これは王と言いましても内閣でありますが、内閣の権限に当然属しないような條約、それから現在及び将来の財政的負担になるところの、そういうような條約は必ず国会にかけなければならない、こう規定しておるのであります。これは非常に明確に、條約を一定の種類に限りまして、これを国会に出す、こういうことになつておりますが、それの半面から申しますると、政府が單独でやれるところの行政協定の範囲があるということはわかるのであります。  次に、全然そういう規定がないところのものは、合衆国の憲法、イタリアの一九四七年の憲法の八十七條、それから日本国憲法であります併しながらアメリカの憲法におきましても、行政協定というそういう制度は長い間経験を経て制度化いたしておるのであります。この種類はいろいろありますが、我々の考えておるほど非常に範囲の広いものではありませんで、大体政府の自己の権限において主張できるもの、例えば外交を行う、そういうことに関係するところの、それに関する仮協定、仮取極、こういうようなものについてきめておる或いはあらかじめ国会が授権法、権利を授けるところの法律というようなものを作りまして、それに基いて通商に関するような協定をしておりますこの場合には授権されておる、権利を與えている、委任されているわけであります。又先ほど申しました大統領が軍の最高司令官として戰争中などにおいて軍事協定を結ぶ、こういうようなものも行政協定であります。細かいことはここでは省略することにいたしますこういうような先例を見まして、且つ又外交というものが国内政治とはよほど変つておる、秘密も守らなければならないし、かなり技術的な問題である。そういうようなところからいたしまして、国内の民主主義と調和させる意味からいたしまして、重要な條約については国会にかけるそうでないものはこれを行政協定に任すということは、これは大体私は国際慣行上認められているのではなかろうか、こういうふうに考えるのであります。但し国際法はすべての條約を国会にかけて政府が正式の條約として批准しなければならない。こういうふうに考えてもよいし、或いは国会などを無視しておつてもよろしいし、そういうことは国際法としては問題でありませんで、国際法は、要するに條約締結権があると称するところの国家のそういう代表者同士の取極ということになつておるのでありまして、国内法の憲法上の規定にすべてを委任しておるのであります  以上が比較憲法的な御説明であります。  次に、我が憲法行政協定が根拠付けられるかという問題でござまいすが、今まで申上げました比較憲法的な知識から申しまして、私は日本憲法のいろいろな本を読みました。ところがその点について触れておるところの本が非常に少いのでありまして、美濃部先生の本のごときは、すべての條約は国会の批准を経なければならない、こういうふうにはつきり書いてあるのであります。併しながら私の友人であり、比較憲法の知識を豊富に持つておるところの田上教授、私の同僚でありまして、一橋大学の教授でありますが、その本において初めて行政協定というものが憲法上認められる、はつきりは書いてありませんが、殆んど認められるというような、そういう記述がございます私はこの見解に賛成するものであります。従つて行政協定というものが国会の議を経なくても或る範囲において存在し得る。而もそれは国際法上において有効であるばかりでなく、憲法上においても認められるものではなかろうか、こういうふうに考えるものであります。但しその行政協定というものが非常に種類が限られるべきものであるということも又疑いを容れないのであります。アメリカの例を以ちますると、行政協定というものはかなりたくさん行われておるのでありまして、アメリカの憲法の批准というものは、特別に上院の三分の二というような、日本の憲法の構成と異なり、そういう上院の厄介な三分の二の多数を持たなければならないのであります。マジヨリテイを持たなければならないのでありますが、そういう関係からその憲法を回避するというような意味から、特別な行政協定の制度が発達したのでありますが、一九四〇年まで行政協定憲法成立以来一千二百存在した。四〇年に有効な行政協定は大体五百ある。特に多いのは郵便に関する協定でありまして、四百四十憲法制定以来ある現行有効なものは大体百五十。行政協定は実は日本の憲法において認められないというような議論を若しする人があるとするならば、実はもうすでに日本の憲法が成立しまして、昨年郵便や為替や電信に関する協定を日本は結んでおるのであります。これを行政協定の先例であると考えてよろしいのでありますましてや昔枢密院があつた時代、旧憲法時代におきまして、行政協定といつて枢密院にかけなかつたところの協定があつたということも、これも間接的な一つの証拠になるのであります。従つて行政協定はあるが、その種類をここで考えなければならないその場合に條約の執行の当然細則と考えられるもの、これは條約の内容を具体化するものでありまするので、問題にならないかと思うのであります。第二のカテゴリイといたしまして、政府が、内閣が当然憲法上できる権能に基いて行うところのもの、まあ主としてこれは外交であります。外交関係は口で言うばかりでなく、大体文書で行われ、往復文書というふうに行われまするが、その往復文書の中にはかなりのいろいろの協定的な、約束的なものがあるのであります。そういう意味におきまして、当然にできると考えられるところの行政協定というものがある。郵便に関する協定だとか、電信、電話に関する協定、そういうようなものもこの中に入るわけであります。アメリカにおきましては、そういう例が一番多いということは先ほど申したところであります。問題は、授権によつて行政協定を締結する、こういう場合でありまして、今度の日米行政協定が実は日本の政府の当然に持つておる権能に基いて締結したものであるか、それとも又執行細則、事務的な執行細則であると、そういうふうに考えておるのか、実は政府答弁が新聞紙上などにおきましては時によつてつておると考えられるのであります。併し行政協定が国の合意であるという点は、これは憲法論の議論としてはいざ知らず、国際法的に言えば当然でありまして、これは先に御説明申したところでありまして、私はその点について授権によるところの行政協定たるべきであつたと、併しながらその授権が十分であるとは考えられないのではなかろうか、こういうふうに考えるのであります。と申しまするのは、行政協定の内容でありまして、刑事、民事の裁判管轄権の問題、これは実は政府の最初に安全保障條約を審議する場合におきまして、第三條に規定するところの行政協定の内容というものが、特に外交的な機密ということを考えられたものであるか、事前であるからわからないという意味であつたのか、具体的に我々に示されなかつたと、こういう点であります。で、私は授権する場合におきましては、その授権の目的趣旨というものが明確でなければならない。且つ又授権というものが政府はつきりと與えられなければならない。第三に、併しながらその授権行為に一定の限度、一定の基準を與えられなければならない。この三つがアメリカ憲法はつきりといたしておるのでありまして、大体アメリカ憲法を継受いたしましたところの日本といたしまして、條約による授権というのは少し例外的でありますが、それではそれを認めると仮にいたします場合におきましては、その趣旨と、それからはつきりと政府にそれを授権したということと、並びにそれに対する基準を示して行かなければならないのであります。然るに初めの安全保障條約の批准において果してその程度まで十分に安全保障條約の第三條の趣旨、特にこの行政協定というものを締結するその趣旨と、且つ又行政協定を取極めてよろしいと、新らしい権能を與えるという意思が果して国会にあつたか、それから第三に、その権利を與えるとするならば、具体的な基準というものを明確にしてあつたかどうかということを実は私のほうから伺いたいのであります。で、行政協定には、従つて国会の議を経ないような、経る必要のない当然政府ができる、そういう或いは施行細則的なものもありまするが、若し国民の権利義務に関係する、或いは国家の財政的な負担に現在なり、又将来なるというようなものは、これは当然国会にかけなければならない。言換えれば、立法事項に関するところの條約であります。従つて事の本来からいたしまして、事前に或いは事後において国会の承認を求めなければならないと考えるものであります。その点につきまして、アメリカ側が行政協定といつてつても、こちらが批准しても差支えない、こういう前例を申上げます。これは一つはアメリカの例でございまするが、一九二五年三月十二日、エストニアとアメリカとが無條件待遇に関する経済協定を結びました。これはアメリカにとりましては、経済関係については一応の授権行為が国会から與えられておつたのでありまするが、そのエストニアとアメリカとの一九二五年の協定のうちに、この協定が効力を発生するためには、エストニアの国会の議を経て批准されなければならない、それが通告されて初めて有効になる、アメリカのほうはあらかじめ議会か同意しております。従つて問題はない。然るにエストニアのほうにおきましては、まだ問題があるものですから、一方的に批准をしている。こういうのであります。又一九二三年にアメリカがイギリス、フランス、イタリア、ベルギーとパリにおいて調印いたしました。これは米占領軍の費用に関するところの支拂いの問題なんでありますが、これも又イギリス、フランス、イタリア、ベルギーのほうにおきましては批准という手続をとつた憲法上の必要があればその批准の手続をとつた。然るにアメリカのほうにおきましては批准の手続をとらなかつた、こういうような例がまだたくさんあります。アメリカとベルギーとのアメリカの戦歿者のための記念碑を建てるという協定につきましても、ベルギーの国会はこれを認めた、併しながらアメリカはこれを認める必要がなかつた従つて私はアメリカ側が執行協定或いは行政協定、これは上院にかける必要がない、向う憲法上の理由がありましても、これを直ちに以て日本側の理由にはならない。日本側としては批准という手続、少くともそういう形式的な手続をしなくても、国会の正式の同意を求めるという手続は国際法的に道が開けているということを申上げたいのであります。  最後に、私は行政協定の内容を読ん覚まして、これはなかなか厄介な協定でありまして、且つ又これをフイリピンにおけるところの軍事基地に関する協定とか、或いは北大西洋條約当事国間の協定とか、そういうようなものと比較して参りまして、これを研究するということは容易なことではないのであります。実は昨年の秋、名古屋におきましてこの問題を実は研究いたしたのでありますが、報告書が……、細かくやりますると、これは專門家の我々でさえ興味が、非常に細かいので厄介になりまして、まあ居眠りはいたしませんけれども、(笑声)問題の所在はどこにあるかという点、実は反問したくらいでありまして、非常に厄介なんであります。外務省に行きまして、私は実は或る人に聞かれました、お前は行政協定を読んだかと、こういうふうに言われたのであります。私は読みましたと……、併し読んだかと言われたときは実は読んでなかつたのであります。そうして読んでから意見を述べてくれと、こういう話なんでありまして、私は確かに日本の外務省当局が非常によく努力してこの條約をまとめるように苦心された、一カ月以上に亘つて非常に苦心をされたということを多とするものであり、その片鱗と言いますか、我々が見るところにおきましても、相当いいところの文句とか、何とか、妥協したとか言いますか、なかなかよくやつたというような條文があることを認めるのであります。そうして又実は安全保障條約ができまして、その第三條におきまして、軍の配備に関する規律の條件というような文字がありますると、我々專門家といたしましては、ここに軍隊が外国におる以上は、その秩序を維持し、その軍事活動をするためには特別なる地域、特別なる権能が與えられなければならないということは当然考えられるが、又国際法の原則からいたしましても、港に軍艦が入る、港からその軍鑑の乗組員或いは特別な陸上部隊が上陸したというような場合には、友好的な関係から一時そこに入つて行くというような場合におきまして、国際法上、慣習法上当然に治外法権が認められる。ただ問題になるのは、公務執行中でなくて、プライベートな、私の用において或る犯罪を犯し、まあその他の法に触れるような行動をとつた場合の裁判管轄権の問題が問題になつておるようでありますが、その点につきまして、今度の日本の行政協定は属人主義をとつた。この点でありまして、従来の慣習法的な、突然外国の軍艦が来たり、或いは乘組員が上陸したり、まあ友好的な関係から軍隊が入つたという場合の、これは確立した慣習と申せませんが、大体でき上つているところのそういう従来の慣行から見ると、一歩その権能が多い。併しこれも軍事行動を現実に朝鮮において日本を一つの根拠として作戰しておるということは事実上明白でありまするので、そういう事態を考えまする場合におきましては、私は止むを得ないと、或いはもう少し言葉を換えるならば、日米提携というものを本当に国民が納得するならば、これを呑んでもいたしかたない、こういうふうに考えるのであります。併しながら私はこの行政協定というものが、主権を持つところの対等なる国として日本を待遇するとか、或いは講和條約の第一條におきまして、そのB項において、日本の完全なる主権をその領土において、その領水において持つということを承認すると、こういうふうに言つた、そういう連合国の立場から申すならば、やはり不平等性というものは今後どうしても改正さるべきものである、こういうふうに考えるのであります。政府当局は、こういう重大な行政協定を締結したけれども、立法事項に関することは国会に個別的に求めるであろう、或いは財政的負担については、これ又国会に個別的に求めるであろう、こういうふうに言われておるのでありますが、若し万一そういう立法的な事項に関するところの手続ができないとするならば、それに関するところの條約が可分的に無効になる、こういうふうに考えることができるか、若しできないとするならば、既定事実を作つた、フエイト・アカンプリーをすでに行政協定によつてつた考えられるわけであります。こういうような意味におきまして、私は今度の行政協定は特に治安維持が擴大いたしまして、非常事態に伴うところの措置というようなものについての明確な規定を設けなかつたというような点、いろいろありまするが、大体において私は現在の事態において、歴史的な国際関係としてのきびしい現実というものを前にいたしましては、私は日本といたしまして止むを得ない、こういうふうに考えるばかりでなく、この現実を如何に我々が伝統的に持つているところの国民的な感情、国民的な論理とマツチさせるかということを十分に考えなければならんと思うのであります。  最後に、私は今度の行政協定を前にいたしまして、黒船の来航当時、嘉永六年当時を実は顧みるものでありまして、特にハリスが幕府の当局、堀田備中守正睦と交渉したところのあの交渉の議事録を涙を持ちながら眺めるのであります。併しながら結局幕府は天下の大勢を考えまして、これを呑んだのであります。この井伊大老の決意というものは止むを得なかつた、而も先見の明があつた考えられるのでありまするが、その手続を誤まつてつた。言換えれば、その当時の輿論、各藩の意向並びに特に京都に対して上奏しながら、その批准を得るところの手続を十分に盡さなかつたという手続上の瑕疵があつたのであり、これが日本のその後の発展に非常な変動摩擦というものを起したのであります。私は行政協定は本来立法事項に属するところであつて、国会の承認を要すると考える。併しながら安全保障條約第三條によりまして、漠然としながら授権が與えられているような模様である。併し仮に授権が與えられるといたしましてもこのようなあいまいなるところの規定によつて授権ができるというような先例ができるということは甚だ遺憾であると申上げるのであります
  43. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 有難うございました。  それでは続いて田村幸策君にお願いいたします
  44. 田村幸策

    参考人(田村幸策君) 大分お疲れのようでございますから成るべく重復しないつもりでございますが、暫らく……。私はこれから先ず行政協定というものの法的性格を申上げさして頂いて、次に安保條約三條との関係、次に憲法七十三條との関係、その次に刑事裁判権の問題、最後に非常事態との関係、これだけを極めて簡單に申上げさして頂きます。  行政協定という名前は、これは名前からアメリカの生産物でございまして、併しこれはひとりアメリカのみでございませんので、こういう政府限りでやる制度というものは世界の殆んど全部の国が持つております。名前が丁度アメリカの名前がとつてありまするので、アメリカの制度がはつきりいたしませんようでありまするから、極めて一つこれをはつきり今日いたさして頂きたいと思うのであります。アメリカには外国と結びまする国際上の約束には二つの種類がございます。その一つは、上院の議決を経て批准交換という形式の下に正式に結ぶ條約と、それから行政部限り、即ち大統領限りにおいて結びまする行政協定、これはこの間までは御承知のようにエクゼキユーテイヴ……エクゼキユーテイヴというのは行政部のことを申しますが、エクゼキユーテイヴ・アグリーメントと申しておりました。ところが最近、十年この方でありまするが、アドミニストレーテイヴ・アグリーメントという名前を使つております。古くは全部エクゼキユーテイヴ・アグリーメントでございました。ところが條約のほうは憲法の第二條にはつきり明文が書いてありまして、上院……下院は全然関係ございません。上院の三分の二の同意と助言とを以て大統領がこれを結ぶということになつております。條約を締結する主体は飽くまで大統領であります。決して上院が批准をするのでも何でもございません。ただ上院は同意を與えるだけでございまして、それを批准をするのは大統領がやります。條約締結主体は大統領であります。その大統領が批准をする前に上院の同意を必要とするだけであります。ところがこれに反しまして、行政協定というほうは全然憲法に規定がないのであります。これを憲法に規定したごとく考えておつたら大きな間違いであります。純然たるこれは憲法上の建国以来の慣習でございまして、そういう文字はないのであります。如何なる文字もないのであります。併しこれが建国以来憲法上の疑問が一度も起つたことがないのでありまするが、そういう協定を大統領限りで結ぶ。それだからエクゼキユーテイヴ或いはアドミニストレーテイヴ・アグリーメントと言うのでありまするが、これは大統領が一方において行政権の主体であるということ、それから陸海軍の統帥権を持つておるということ、それから外国に対する唯一の代表者であるし、又外国に対しての責任者であるということで、そういうことを結び得るということが憲法上の慣習として樹立されて今日に至つておるのであります。それならその條約と行政協定とはどういう標準で区別をするか、こう申しますと、憲法の中に大統領は云々、上院の三分の二の同意を得て條約を結ぶという、條約という字が書いてありますけれども、その條約という字の意義がはつきりしていないものでありますから、そこで非常に問題が起るのであります。この点は日本の憲法と全く同じであります。日本の場合と全然同じであります。日本にも條約という字が使つてございまして、その條約の解釈が書いてない。如何なる範囲のものを含み、如何なる範囲の国際的の約束を含むかという点を書いていないのであります。その点はあとで申しますが、大体の傾向を申しますと、アメリカの今までのやり方を見ますというと、国家の全般に関する大きな重大な問題はこれを條約に讓ります。そうでないものはこれを行政協定に比較的重要でない事項は行政協定に讓つております。こういうのが大体の標準でございまするが、これは決してそうではないのであります。例えば北清事変の議定書、これは非常に大きな條約でありますが、これをアメリカは行政協定で結んでおります。でございますから、その標準は、まあ重要であるとか、国家全体に関係があるか否やということは区別が付きかねますのであります。それでは全然区別がないかといろと、そうではないのであります。條約と行政協定と全然区別がないかというと、そうではありませんで、大体アメリカは今日まで憲法を実施して以来百六十三年くらいになりますが、大体次の六つの種類のものが行政協定で結べるのだということになつております。その一つは、これは憲法で大統領に與えられた権限でありますが、陸海軍の統帥権を持つております。従つて統帥権に基く外国との協定、即ち休職協定でありますとか、捕虜の交換協定でありますとか、こういうようなものは、これは当然大統領限りで結べることになつております。併しながら休戰協定でも、中に政治上の事項が一つでも入つておりましたら、必ずこれは議会に持つて行かなければならない、こういうことになつておるのであります。次は法律の授権に基く場合であります。法律の中に行政協定に譲る、例えば通商に関する條約とか、先刻お話のありました郵便に関する條約でありますとか、そういうものがたくさんございます。大変たくさんございます。それから第三番目は、将来協定を結ぶための準備事項というようなものは、これは行政協定で結んでおります。それから第四番目は、先刻もお話がありましたが、モダス・ヴイヴエンデイと言つております暫定協定でございますね、一時的に、永久的な話が付くまで一時取極をします。ちよつと一時、そういうことはこれを行政協定でやつております。それから第五番目は、アメリカ人が外国で損害を受けた場合に外国政府へ損害賠償を要求する。これは政府がやるのでありまするが、そういう場合の協定もこれを行政協定でやつております。但し外国人がアメリカ政府に向つて損害賠償を要求するときには、これはアメリカ政府が義務を負うことになりますので、これは行政協定では許されないのであります。その場合にはやはり正式な上院にかかつた條約でなければいかん、こういう慣例になつております。それから第六番目が、條約の中に明らかに授権をされた場合 その典型的な例は今回の安保條約第三條のごときがそれでございまするが、大体以上の六つの種類が今まで憲法上の慣習として行政協定の名の下に行われておりますが、それじや大統領が大統領限りで締結することが行政協定のそれが全部であるかというとそうでないのであります、例えばそれ以外に非常に大きな政治上の意義を持つておるものがやはり行政協定の名において結ばれておる。それは一番大きな例は一九〇八年に太平洋の現状維持を約した高平・ルート協定というものがございます。これも行政協定でできております。更に皆さまの御記憶に新らしいところの石井・ランシング協定というものが一九一七年にできた。これは中国における優越的な地位をアメリカが承認したものでありまするが、これま行政協定でできております。こういうふうに重大な政治上の意義のあるものができておるのであります。でございまするから、こういう結論が出るのであります。だから今申上げました六つの以外の事項をば、それを條約でやるか、行政協定でやるかは時の政府の便宜によるということがアメリカでは行われておる。こういうことが言えるのでございます。例えばその一例といたしまして、一九〇五年に、この前の日露戰争の時の大統領でありましたルーズベルト大統領が、サント。ドミンゴという小さな国がカリブ海にございますが、あそこに独立を保障すると同時に、財政の監督でありますとか、それから国内の秩序維持に援助をするという非常に保護国になるような條約を結んだのであります。立派に判を付かしたのでありますが、上院がこれをアメリカの帝国主義だというふうに誤解されるというので上院がこれを否決いたしました。そうすると、大統領はこれと全く同じ内容のものを行政協定で結んだのであります。それで上院はごうごうといたしまして、上院の権限を無視するものだというようなことがあつた行政協定でそれが結ばれておる。でございまするから、今申上げました六つ以外のもので、時によつてどつちか、共同の交錯地でありまして、どつちで行つていいか、それは時の政府の力にもよります。行政府が強い、大統領が非常に強いパーソナリテイを持つておられると、そういうこともやられることもあつたのでございます。  今度は両方の効力の問題でございますが、條約と行政協定はどういう効力の差があるか。これは御承知のように、アメリカでは條約はもうアメリカでも最高法規でございまして、これは法律と全く同一の効力を持つて、そのまま公布と同時に法律と同一の効力を持つ。各州の憲法、連邦の憲法でなく、各州の憲法よりもこれは優越な地位を持つております。ところが行政協定はそうは行きませんのでありまして、これは法律と同一の効力を持つておりません。従つて裁判所とか、国民を直接に拘束することはないのであります。併しながら行政協定であろうと、それが普通の條約であらうと、いやしくも経費を出すとか、こういうことになりますと、上院ばかりでなく下院が関係するのでありますが、経費を出すとか、或いは既存の法律を変更するというような場合には、これはやはり両方とも、それが行政協定たると條約たるとを問わず、やはり議会の承認を必要とする。その点においては両者に区別はございません。国際法の上から、対外的の方面から見まするとこれは全然同じものであります。これはアメリカという国が約束することでございまして、それが名前が條約であろうと行政協定であろうと全然変りません。全然同じ効力を持つております。両方とも……。アメリカの学者とか、政治家の中には、行政協定というものはそれを結んだ時の政府を拘束するのみであつて、あとの政府関係ないということを言う人があります。そういうことを論ずる学者も政治家もありまして、現に石井・ランシング協定がアメリカで非常に不評判になりまして、ランシングが上院の公聽会に招かれまして行つた時に、ランシングはこれを否定いたしまして、拘束力なしということを言つたのであります。これは少しお年寄のかたは御記憶と思うが、私ははつきり覚えておるのでありますが、これはよく議事録を読んで見ますると、それは行政協定というものの一般の効力を論じたのではなくて、あの石井・ランシング協定そのものが、あれはアメリカのただ日本との政策をデイクレアしただけで、声明だけで、内容が政府を拘束するようなものではないということを書いたものであります。行政協定の一般的効力を持つものではない、その辺の分析が多分足りないような点があつたのであります。いずれにせよ、アメリカの憲法が実施されたのは丁度フランス革命の起つたときであります。一七八九年以来、今日までアメリカが外国と結んだ国際上の約束の半数以上は行政協定であります。先ほど申上げましたように、行政協定というものはアメリカの名前でもございまするが、そうかといつてこれは決してアメリカに限りませんのでありまして、類似の制度は世界のどこの国にもあります。即ち伝統的な形式を持つた條約でございますね。ああいうやかましい、非常にフオーマリズム、やかましいものであります。形式がやかましいものでありますが、そういうものでなくて、政府限りの協定といたしまして、このような国際上の約束が非常にたくさん結ばれております。決してこれは事柄が行政府でやつたからこれは軽微なことであるとか、まあその事項が一時的な性質のものであるということはございません。非常な重大な国の存亡に関するようなものでも行政協定でやつたところがあるのであります。それは一番いい例は、今度の第二次世界大戦に、イギリスが参戦いたしましたときの法的原因になつておりますポーランド相互援助條約というもののできたところの一九三八年の八月二十五日、その間もなくあとから、五日目に戰が始まつたのでありますが、このポーランド相互援助條約、これは行政協定でできております。イギリスの正式な條約というものではないので、政府限りの……、でございまするから、必ず行政協定をやつたから事柄が重要でないとか、或いは一時的のことである、そういうことはないのであります。フランス憲法は、今度終戰後にできた立派な憲法がございます。一九四六年の十月十三日から効力を発したものであります。それの第二十七條というものを見ますと、これはあとで憲法との関係のときに出て来るのでありますが、フランスの憲法では七つの事項をちやんと書いておるのでございます。これだけのものは必ず正式な條約の形で結ばなければ相成らん、そうして国会の承認を経なければならんということになつております。こうなると非常に簡單なのでございますが、それ以外のことは政府がやつていいということを間接に物語つておるわけであります。それによりますと、七つと申しますと、フランスは、例えば国際連合というようなああいうような国際機構を設置する條約、それから平和條約、通商條約、それから国の財政に負担をかけるような條約、それから外国におけるフランス人の身分及び財産権に関する條約、その次はフランスの国内の法律を変更する條約、その次は領土の割讓、包含、附加というものの條約でございますが、そういうものに関する七つの種類の條約というものは、必ず條約という形で、法律という形で議会にかけなければならんということになつておるのでありまするが、これは非常にはつきりして、それ以外はやらんことになつております。非常にはつきりしておるのであります。  その次は安保條約第三條との関係でありまするが、これはもう問題はデイスポジシヨンという字に先ずなければならんのであります。大体この安保條約を議会が承認を與えましたときに、私どもはもう少しあのデイスポジシヨンということは一体何を意味するのか、開けてみたら実に予想外なことが書いてあつたというようなことは、これは国際的に田舎者というような感じがいたしますので、アメリカのほうではもう当然なことだと、初めから日本は承知しておるに違いない、三條で話が付いた以上は、デイスポジシヨンが何を意味するかということはわかつてつたはずだと考えられておるのではないかとさえ私は感ずる次第であります。いやしくもそれがデイスポジシヨンのいわゆる條件に該当するのであれば、議会はこれはもう何とも言えないはずなんであります。ただ問題は、その授権の範囲を、デイスポジシヨンということの意味するものの範囲を逸脱しておるかどうかということに結局問題は帰着せざるを得ないのであります。即ち委任された事項以外なことを、又は以上のことを今度の行政協定で書いたのだと、こういうことでなければならんと思うのであります。デイスポジシヨンというのはミリタリーの用語、軍事上の用語でありますが、これは簡單なことでありまして、ステーシヨニング、軍隊を置くということと同じことであります。アメリカ側からということであります。アメリカのほうから日本に軍隊を配置する、日本に置いた、イギリスへ置いた、ドイツへデイスポーズされておる、そういうことでございまして、ただ軍隊を駐屯させるという意味と差はないのであります。それの條件というのでありますから、この軍隊というものが行けば、それに伴う一定の條件は必ず必要でなければならん。それが一体どれだけのものを含むものであるか、こういう了解を先ず安保條約を御承認になるときに、この問題ははつきりしておらなければならんはずなのであります。どういうことを一体……(笑声)そのときに明らかにせずに、今になつてから、あとになつて一体そんなはずじやなかつた、わしらはそのときにはそんなことは考えておらん、そういう広汎なことを書くことはけしからんと、こういうことになつたように、我々草莽の微臣はそういうことを考えるのであります。(笑声)これはフイリピンの場合はミリタリー・ベース、軍事上の基地でありますが、北大西洋條約の場合には、御承知のように軍隊の地位という字になつております。併し内容は皆同じようなことが書いてあります。日本の場合はデイスポジシヨン、フイリピンの場合はベース、北大西洋條約の場合は軍隊の地位、これが一番はつきりするのでありますね。いやしくも軍隊が外国に行く、それの地位に伴う何ものかを必ず書かなければならんのでありますから、これはどうもいろいろ攻めるほうも、それから守るほうも、ちよつと守るほうは堅固でありますから、攻めるほうがはつきりしていらつしやらないような印象を私は持つております。刑事裁判権の問題は逸脱しておるのじやないかと、こればかり大変やかましく言われておるのでありますが、その他に重要な事項があるのですが、そういう点は余り御指摘にならないので……、具体的に何と何が逸脱しておるじやないが、デイスポジシヨンというものから、これは離れておるじやないか、ほかの国の例からも離れておるじやないかという極め手をかければ政府もぐつと参るのでありますが、その極め手をぐつとかけておらないのであります。どこか足のあたり、背中のあたりを撫でくり廻しておるだけでありまして、どこか極め手を……、一つも押えるところを押えていらつしやらないで、不幸にして刑事裁判権というものが不必要に浮んで参りまして、この点はもう少しはつきりしないと、アメリカから見れば国際的に田舎者じやないか、初めからきまつておる、そんなことを言つても、軍隊のデイスポジシヨンの條件を書くのは当り前なことだと、こう言われてもしようがないのであります。その点は甚だ残念であります。  その次は憲法七十三條との関係、即ち憲法では條約は内閣が締結する権限を持つておると書いてある。これはアメリカの憲法二條と同じでありまして、トリーテイという字が使つてあります。この條約という字の内容が、範囲が今どこまでのものかはつきりいたしませんので、アメリカには建国以来の慣習がありますが、我々は憲法実施以来僅かに五年、而もその間外交権を奪われておりまして、而もその行政協定なんかやる余地はなかつたのでありまして、そういう慣習ができていないのであります。ただ一つありますのは、去年の吉田・アチソン交換公文であります。これは非常な重大なことが書いてありまして、ギヤングが出たら皆アメリカの兵隊だなんと言つて、議会ですらそういうことをおつしやつておられますが、それは我々が吉田・アチソン交換公文を見ればわかるのです。今日本にエチオピアの兵隊も、コロムビアの兵隊も、或いはトルコやフランスであるとか、それどころじやない十六カ国、朝鮮で戰さをやつておる国の兵隊が我々の日本に来ておる。日本にそれがおることを許しておるのでありますから、利用することを許されておるのであります。これは幸いに政府ちやんと條約のときに議会にかけてあります。これはかけざるを得なかつたと見えまして、これは立派にかけて皆さんの御承認を仰いでおるのであります。これを出さないということはないのでありまして、ただ條約という範囲の中で、これは旧憲法から持出して、枢密院の官制の中には條約は必ず枢密院に行く、あれは議会にかからん代りに枢密院にかけておりました。枢密院の官制には「列国交渉ノ條約及約束」とございまして、これは枢密院には細かいものまでも皆かけておりまして、批准を要する條約のみならず、どんな小さいものまでも枢密院にかけております。尤も時の内閣によつてはそうでない場合もある。時の内閣によつては非常に強い場合もあります。これは内閣官制という元あつたものの中にも「外国條約及重要ナル国際條件」とございまして、これも閣議にかけなければならん事項でございますが、ところがこれはやつぱり外務大臣が非常に強い外務大臣でありまして、総理と外務大臣というものが非常にうまくタイ・アツプして行つておるときには、ほかの伴食大臣には余り見せずに、総理と外務大臣だけでやつたことが非に多いのであります。(「今一人じやないか」と呼ぶ者あり)これは閣議にすらかけなかつたのであります。これは内閣官制には、そういうふうに必ずかけなけなければならんことになつておるのでありますが、明治時代からの慣行をずつと辿つて見ますと、実際の場合にはなかなか……今度の條約にはこういう区別がないものでありますから、この新憲法の條約というものは即ち正式な條約でありまして、こういうふうな一切を含んでおるとは言えないのであります。この点は結局外国の先例もありましようし、日本がともかくこれから追い追い先例を作つて参るというほかはないと言わざるを得ないのであります。  それからその次がやかましい刑事裁判権でございますが、これはどうも私はまだ日本人が劣等感を持つた潜在意識に陷つているのじやないかということを非常に感ずるのであります。安政條約や何か担ぎ出してやつておる。これなんかは国際法から言うと全然カテゴリーの違うべき性質のものでございます。大体軍隊というものは、先刻大平参考人も言われましたように、外国の軍隊、外国の外交使節、外国の元首、こういうものは必ずそれが外国へ行けば一定の特権を享有するものでありまして、その理由は、これらのものが軍艦にしろ、軍隊にしろ、外交官にしろ、元首にしろ、その国の意見を代表しておるということのほかに、その国の法律にこれが全部従えば職務が完全に遂行できないのであります。その国の法律にことごとく支配されるということになれば、その国の行政権、司法権、立法権に支配されるということになれば、これらのものはその本来の使命を達することができないのであります。これがいわゆるこれらに治外法権を與えておる理由でございます。治外法権というものが大変問題になつておるが、これは普通みな治外法権というと、何か非常に恥辱なようなことを感ずるのですが、そんなことは決して何もございません。外国の大公使と言えば治外法権は必ずある、そういう軍隊にしろ、軍艦にしろ、外交使節にしろ、元首にしろ、それらのものが外国に行けば必ず一定の特権と免除とを受けます。それらを総括したものを治外法権という名前で言うのであります。これは現実にそこの国におりながら、ほかの国におるごとく……これはフイクシヨンであります。擬制、作りごとであります。そういうことを今まで全体とカバーする言葉として治外法権という言葉で言つておる。これはこのことを擴げまして、このほうが広いのであります。広いのでありますが、これを擴げて非キリスト救国に在住しておつた、より文化の高いキリスト教国民が、その国の法律、裁判に服しませんで、恰かも本国におるかのごとく、本国の領事の裁判権に服しておつたというのがいわゆる不平等條約であつたのであります。日本がこれを脱却するのが、さすがに東洋の一番先進国でありまして、日本が一番早うございました。それから次第にほかの国に及びまして、今日は中国もなくなりましたし、タイもイランもトルコもなくなりましたし、エジプトも殆んどなくなりました。これは全然国際法上にはカテゴリーが違うものなのであります。でございますから、ただ問題は若干の特権、免除を與えねばなりませんのですが、どれだけのものをやつていいかということが国際法できまつていないのです。これは外交官の場合でも、元首の場合でもきまつていないのであります。外交官も本物はいいのですが、随員になりますと違うのであります。いわんや軍艦の場合ですと……軍艦の例えば一番最近の例から言うと、イギリスにアメリカの軍艦が参りまして、その乗員が上にあがりまして、それでアメリカの兵隊が人を殺したのであります。これはイギリスは本当ならば立派に友邦であります。それは職務上ではないのでございますから、そのときにイギリスは自分が当然管轄権があるのにかかわらず、これを軍艦に引渡しておる、こういうふうにその都度これがきまつていない。外交官ですらきまつていない。制度ができて三百年の年月を経ておりますけれども、なお且つこれが完成していない。でございますから、殊に外国軍隊というようなものは、非常にそれがまだはつきりときまつておりません。併しながら最近三十年間の例を顧みてみますと、一九一九年から今日まで、今度日本と行政協定ができますが、とにかく外国の軍隊がそこにおるとか、通過するとかいう場合は七つございます。日本は七つ目でございます。これはやはり今のように国際法上でどれだけの特権、免除を與えるかということがきまつておりませんから、その都度みな條約なり、協定で結ぶのでございます。一番初めはラインランドを占領したイギリスとフランス、ベルギー、アメリカ、この四カ国とドイツとの間に結ばれた條約でございます。これは非常に広いものであります。その次は一九三六年の今問題になつておりますエジプトにおるイギリスの軍隊、これはやはり條約でやつております。その次は今度の戰争になつてからになりますが……。
  45. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 田村君に申上げますがだんだん時間も進みましたので、一つ成るべく簡單にお願いいたします。
  46. 田村幸策

    参考人(田村幸策君) その次は一九四一年の三月の、アメリカがイギリスの西大西洋沿岸の島の海空軍の基地を九十九年間租借しておりますが、それに関する協定、その次はフイリピンの場合、その次は北大西洋、その次が今回の日本、こういうふうで、途中まだベルギーを通過するイギリスの軍隊の條約などがございますが、これらを見ますると、結局いろいろな先例がございます。ただ今度の問題は、それに比べて今度の日本の行政協定は有利か不利かというだけの問題であります。四十二年のイーデンとワイナントとの交換公文でイギリスがやつておるのによつてくれと今度言われたから、大体それによつたんだというのが政府の声明でございます。ただこの点でイギリスは非常なこれは譲歩であります。ケンブリツジ大学の国際法の正教授をしておるラウター・パハトが、イギリスはこれは非情な譲歩であると言つておりますが、これは御承知のように、アメリカの軍人はイギリスの基地以外におる者でもイギリスの裁判管轄権に服さないのでありまするが、これは大讓歩だ、国際法が許すことを必要としない異常な譲歩だと言つておるのであります。ところが日本国の場合はそれよりももつと、家族というものが入つておりますので、そのイギリスの讓歩よりももう一つ譲歩しておる、こういう点はどうしても争えないのでございます。なお属人主義という言葉は誰が始めたのか、この言葉が使われたのは大変これは日本の不幸でございました。これは例えばフイリピンの場合のごときは属地主義だと言いますけれども、決してそうではございません。アメリカの基地の中で犯罪が行われた場合に、フイリピン人がフイリピン人を殺したという場合、加害者、被害者がフイリピン人であるときは、これでやはりフイリピンの国が管轄権を持つておるのであります。属地主義ではないのであります。属人主義のようになつておるのでありますが、その中で行われた犯罪がフイリピン人である場合であれば、フイリピンが管轄権を持つております。反対に基地の外で、加害者も被害者もアメリカの兵隊である場合はこれはやはりアメリカが管轄するのであります。外でございますから、属地主義で行けば、これはフイリピンに行かなければならんが、そうではないのです。外で行われたものでも、アメリカの安全を害した者はアメリカがするのでございまして、ちよつとこの点が、そういう言葉を使つたのは非常な不幸でございました。あれはああいう場合に使うべき言葉ではないのであります。属地とか、属人主義という言葉は、結局どちらが得かというようなことは、どちらのほうが余計惡いことを、犯罪を犯した者がどちらが多いということで、得か損かということがきまるというようなことになるのでございまするが、その点は……。  それから最後に非常事態のことを一口申上げて終りますが、どうも私はこれが問題になつておるという意味がよくわからないのでありますが、アメリカの軍隊を日本に釘付けにして置きたい、外へ出すときには我々の許可を受けなければアメリカの軍隊は外に出せんのだということを、こういうことをお考えになつてつて、これが問題になつたのがどうも私どももはつきりしないのでありますが、ただ協議するのがどうやこうやと言いますが、これは普通の同盟條約のときには二つの同盟、例えば日英同盟條約を御覧になりますると、緊急事態が起る、又起りそうだというときには、両国政府が隔意なく協議をして共同に取るべき措置をそこできめる、こういうふうに書いてあります。これなんでありまして、別にそれ以外のことを事細かいことを、軍事上のことで、それまでこれのほうへべらべら書くわけには参りません。そういうことは又書くべき性質のものではないのでありまして、これはもう時の政府を信用する以外に方法はないのであると思います。ただすでに我々はああいう議会の承認を得ております吉田・アチソン交換公文によつて、我々はすでに朝鮮における国連軍の日本が基地になつておるのみならず、将来これから佛印に若し問題があつた場合に、日本は佛印の基地になることをすでに国会は承認しておるのであります。(笑声)ちやんと書いてあるのでありますから、これを今更何とか言うようなことをしても、ちよつとバスに乗り遅れた、バスが出たあとのような感じがいたします。(笑声)  それから最後に一言申上げたいのは、外国の軍隊の性格でございまするが、日本におりますアメリカ軍の性格、これは非常に誤解があるようでございます。軍隊というものは御承知のようにその国の独立、名誉、威厳を維持するためのこれは国家の機関でございます。それがその本国の中におると外国におるとは全然関係がないと思います。たとえ外国におろうが、日本の承認の下に日本の国防の全部を担任するのがアメリカ軍でありまするけれども、それは飽くまでもアメリカの機関であります。アメリカの軍隊はアメリカの独立、アメリカの名誉を維持するための機関であります。これが日本の傭兵になつたり、日本の機関では決してないのであります。その点が非常にはつきりしないので、アメリカの軍隊が日本を守つてくれます。併しながらその窮極の目的はアメリカは自分を守るにあるのであります。太平洋の東側まで追い詰められてアメリカを防衛するよりも、太平洋の西のほうへ進出して守るほうがより効果的であるし、より有利であるということから来ておるのでありまして、決してアメリカの軍隊が日本の戦力になつたり、変化するような、そんなものでは……それは軍隊の性格というものを全然誤解しておる議論でございましよう。(笑声)その点を一つ。これは今日のような集団的安全保障時代に、日本にいるアメリカ軍が日本の安全ばかりを守つてくれるためにいるものだと誤認をされてはいけない、こういうような感じを持つておるものでございます。
  47. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 有難うございました。
  48. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 お二人に対して多少お尋ねして置きたいと思うのでありますが、大体参考人に来て頂きまして、我々がお話を伺いました趣旨は、大別して二つあるかと思うのでございます。一つは、この行政協定憲法七十三條の規定の條約であつて、当然に国会の承認を事前及び事後において求められるべきものであるということについての、政府のとつておりまする処置の合憲性の問題であります。もう一つは、行政協定の内容をば、日本国を中心とするところの外交的な見地から、又それに関連して国際法的な見地からのいろいろ御意見を伺うことにあつたと思われるのであります。ところが六人、昨日来おいでを願つたのでありまするが、第一の合憲性の問題は、これはもつぱら憲法の問題でありまして、我我としては憲法の尋問家、即ち憲法学者のかたを中心としてその意見を聞くべきであつたと思うのでありますが、六人の中にただ一人だけ成蹊大学の佐藤教授がおりまして、そのほかの方は国際法の研究家或いは広く外交の研究家であつたと思うのであります。特に昨日の二人のかたはそれぞれ古い外務省のお役人のかたがたでありまして、そうして私たちが聞いておりまして受けますところの印象は、これら外務省の官僚上りのかたがたの言われることは、何か一つの先入観念があるように思われるのと、又憲法の問題についてそれぞれ論及しておられるのでありまするけれども、やはりこれは專門家でないという印象を非常に受けるのであります。失礼なようでありますが、只今の田村さんは外務省のお役人であるか、外国のプロフェツサーを御信用であるか、どちらか、その御経歴については知りませんけれども、非常に只今吉田さんか、岡崎君が聞きまするというと、手を打つて喜びそうな御証言がいろいろあつたのでありますが、もとより政府当局との間に何か政治的な御関係があつたというような、そんな失礼なことは私たち考えません。併し只今申されました憲法論は、これは田村さんから見られるというと、非常に無知なように議員を……、まあお話しになつたのでありますが、まあそのようにお考えになるかも知れませんけれども、我々からいたしまするというと、実は田村さんが憲法の問題については一向、何と言いますか、失礼でありますが、よく十分の我々が期待するような御知識をば我々は供給されたようには感じないのであります。で、第一の合憲性の問題になりまするというと、これは外国の慣例であるとか、外国憲法の問題ではないのでありまして、新憲法、即ち今日の現行憲法との関係であります。今日の日本憲法の問題であるということであります。それでそれは大喜平さんのお述べになりましたことは、さすがに学者でいらつしやいますから、我々は合理性が非常に、実は失礼でありますが、田村さんの御証言に比べると私はあると思うのであります。我々の肯ける点が非常に多いのでありますが、併しこれも大平さんがやはり憲法の專門家でいらつしやいませんから、ちよつと誤解を招くようなお言葉もないではなかつたかと思うのであります。それでこれは田村さんのお話の中に、長々と我々は御講演を承わつたのであります。即ち米国の、今日日本語で行政協定と訳しておりまするところの即ちアドミニストレーテイヴ・アグリーメント、エクゼキユーテイヴ・アグリーメントということについてのいろいろなお話があつたのでありますが、実は田村さんが御講演下さいましたことは、実は大体みんなあんなことはよく知つているんです。だから知つておるのでありますが、問題はアメリカの憲法上許されているところのエクゼキユーテイヴ・アグリーメント、アドミニストレーテイヴ・アグリーメントというものが、日本の憲法の七十三條に牴触していないか、しているかということを、我々はこの行政協定の内容を論議する前提要件として今参議院では非常に問題にしているのであります。ここで私は大平さんのお説の中で多少誤解を招く点もあると申上げましたが、又田村さんの御証言は全面的に、失礼なことでありますが、そのことについてよく御承知ないのじやないかと思いますが、我々の了解いたしておりますところは、これは大平さんが始まりに御証言になりましたように、憲法七十二條の規定いたしておりまするところの條約という言葉は、これは行政協定も、或いは協商と言われるものも、議定書と言われるところのものも、宣言と言われるところのものも、みんなこれは含んでおる、これが條約なんです。アメリカの慣例的な言葉で申しまするならば、アドミニストレーテイヴ・アグリーメント、或いはエクゼキユーテイヴ・アグリーメントというものと、狭義の條約、即ちあなたのおつしやるところの上院議員三分の二以上の賛成を要するというものとトリーテイというものとは別のものであります。これは日本語におけるところの條約、即ち現行憲法の規定しておりまするところの條約というものは、そのアグリーメント或いはその他のデクラレーシヨンもプロトコールというものもトリーテイズというものの中に一緒に含んでおる。それはどういうことかと申しますと、その証言といたしましては、現在の憲法はこれは六法全書のうしろのほうに多く英訳を付けておりまするが、その前のドラフトにおきましては、これは六十九條の規定であります。その六十九條の規定を見まするというと、現在の六法全書のしりに付けておりまするところの七十三條の英訳はトリーテイズという複数にいたしております、Sを付けておりまするが、その前のドラフトの六十九條によりまするというと、トリーテイ、アグリーメント、それからコンヴェンシヨンだつたと思いますが、そういう言葉をみんな書いておるのであります。そういう点からいたしましても、アグリーメント、今日行政協定行政協定と違うものであるかのように、七十三條の規定の條約以外のものであるかのように……これはアメリカの考えであります。アメリカの憲法の言葉、タームであります。それは日本の憲法には当嵌まらんのであります。だからしてこれは今六十九條のドラフトを私ここに持つておりませんが、大して間違いはないと思いますが、明らかにアグリーメントという言葉を害いておるのであります。だんだんと、始まりは政府はこの問題につきましては、我々が質問いたしますというと、今田村さんがお言いになつたように、トリーテイとアグリーメントとは別であつて、トリーアイだけを七十三條は條約という意味にしておるかのようなことを言つてつたのでありますが、だんだんと申して参りますというと、今日ではあなたと同じような考えを持ち、センスを持つておるところの吉田さんも岡崎君も、これは前言を翻して、我々が申しますことは、これを肯定いたしておるのであります。又現にあなたは今国会の我々に対して多少何と言いますか、おひやかしになりましたが、併し現在この外務委員会にそのトリーテイであるところの條約以外の條約であるところの協定或いは議定書というようなものも、現に七十三條に基いてこの外務委員会に我々の承認を求めておるのであります。それは即ち麻薬に関するところの條約、それに伴うところの議定書又び協定なんであります。そういう実例はあなたは御承知ないかも知れませんが、これも明白な事実なんであります。我々は、あなたはおひやかしになりましたけれども、少くとも私たちの党派はあなたのおつしやるようなことは、安全保障條約は国会の承認を求められたときからわかつておるのです。だから私たちは講和條約には賛成いたしましたけれども、安全保障條約には賛成はいたしましておらんのであります。そうして過まつて賛成をしたところの議員の間からも、大平さんのおつしやたところの授権的な、或いはこれを委任したような観念はなかつたという意味において、これは改進党の諸君などからも盛んに政府に対するところの反対の意見が起つておるのであります。でありまするから、我々は少なくともこんな授権的な意思を全然持つておらない、又おらなかつた、現在も持つておらない。これは少なくとも多数の参議院の議員の意思であるということをよく御承知を願いたいと思うのであります。あなたは政府の旨を受けておいでになつておるというような、そんな変な邪推はいたしませんが、どうも結果から見ますというと、外務省の、あなたは違うと思いますが、外務省の役人をしていらつしやらなかつたと思いますが、何かどうもくさいような気が頻りにいたすということと、この前提要件として、今参議院が取上げて留る重大な問題については、私はあとから申上げますけれども、参考人として、もつと多数の憲法專門家の意見をこの問題については一つ更に招喚してこの証言を求める必要がある。それにつきましては後ほど又御相談申上げたいと思いますが、以上申上げましたことを一つ基底といたしまして、大平教授は、田村さんがお言いになつたことについてどのようにお考えになつておるか、先ず第一に私の申上げました第一点のこれが合憲性の問題、行政協定というものは條約でないというような取扱において国会の承認を要しないものであるとしておりますところの政府処置の合憲性の問題について、あなたは国際法の学者で、憲法学者ではいらつしやいませんけれども、先ほど多少お話がありましたが、田村さんの御証言を基本にして自由に、そこにおいでになるので或いは言いにくいような心持をお持ちになるかも知れませんが、国家のために自由に論評して、我々にあなたの御意見を聞かして頂きたいと思います。
  49. 大平善梧

    参考人(大平善梧君) 実は委員長にお願いがあります。私は参考人として呼ばれたのでありますが、一体通知は極めて漠然としておるのでありまして、要するに行政協定憲法との関係ですね、管轄権及び非常事態に関する措置等に関する意見を述べよ、何分間やつてどういう論点があるかということを言わないで……、これはやはり委員長のほうから具体的に、特に今のような御津文があれば具体的に、私は憲法との関係というものはやはりもう少し具体的に御注文願いたいと思います。この点一つお願いしたいと思います。  それから私は実は田村さんとは諸所でお会いしておりますが、私は一番田村さんの御説明で脇にお落ちない点があるのであります。これは非常事態に関する規定、行政協定の二十四條でありますが、これが何だかアメリカの軍隊を釘付けにするとか、何だかさつぱり一つも議論がわからないのです。これは憲法の基本及び我々国民として最も重大な主権の問題に関連するということでありまして、それが多分国会においての議論の点がそこにあると思うのであります。私は主権というものは三世紀乃至四世紀前のボーダン流のそういう主権をここで申上げているのではないのでありまして、極めて近代的な管轄権という問題を考えましても、とにかく講和條約の第一條の(b)項にあるように、日本の主権を完全に認めるというふうに言つているような建前からいたしまして、この主権というものをどういうふうに考えるかということが一つ問題でございます。そこで結局主権は、日本政府に直接命令を出すことがアメリカにないということが一つ。それからもう一つは、直接に日本国民に対してアメリカ軍及びアメリカ政府は権力を行使しない。この二つの原則が確立しなければ主権というものを日本に認めたことにはならないのであります。従つてこの非常事態におきまして、こういう非常事態が宣言されるかどうか知りませんが、そういう場合におきましては、アメリカ軍が発動いたしまして治安維持のために日本国民に直接に力を加えることである、従つてこれは日本の主権の制限になるのであります。そういう場合はどういうふうに限定しているかということは、これは民主主義的な新憲法の下において、我々の基本的人権が尊重される意味においては、あらかじめ国民にどういう場合にそうなるか、どういうふうになるかということを知らしておく必要があると思うのであります。そういうふうな場合に関しまして、私どもが考えまするのに、最初の協定には「一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じようを鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じ」、言換えれば、最初は日本政府が積極的に要請したという形をとつている、今度は逆に協議をするという形になつている。而もこの合同委員会の協議は多分に廻り道、少くとも日本がなるだろうということをはつきり政府は声明したように新聞では書いている。然るに今度の合同委員会において双方同数であつて、而も合同委員会、私の想像ではこれは軍事專門家の連中が向うから来まして、こちらはどういうかたがおいでになるか知りませんが、大体エキスパートでないかたで、少くとも人間的に見まして千軍万馬のアメリカの專門家、而もそのうしろには相当の勢力を持つている人と、こちらはただ一人或いは随員を入れましても、そこで協議するということは、これは私実は佛印に終戰前でありましたが、旅行しまして、軍がどういうことをやつたかというようなことを知つておりますか、その例にはなりませんが 併しながら連絡する、協議するというようなことの実態は若干推知されるのではなかろうかと思うのであります。それは止むを得ないというふうには考えられる点もありますが、これが田村さんのおつしやるような非常につまらん規定である、その問題はそれは非常につまらんというのではなくて、これは国民の福祉に関係する重大な問題であると思うのであります。
  50. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) ほかに御質疑ございませんか……。御質疑はないものと認めます。参考人諸君には御多忙中長時間に亘り有益な御意見を承わりまして感謝に堪えません。厚くお礼申上げます。次回は公報を以て御通知いたします。
  51. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 散会の前に申上げたいことがある。それは今申しましたあなたのほうからの御説明がないのでありますが、最初この委員会は八人の参考人招聘するように聞いたのでありますが、憲法学者としての宮澤俊義君、又もう一人のかたがおいでにならなかつたのはどういうわけであるかということの説明を願いたいと同時に、それに附随して今申上げましたように、これは前提條件としての憲法の七十三條によつて国会の承認を要すべきものであるかどうかというようなことが重大問題でありますから、更に三、四人の憲法の專門家を、必ずしもこういうような形でなくても結構でありますから、呼んで、是非近いうちにその説を聞くことの機会を持つように、一つここでおきめを願いたいと思うのであります。
  52. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) 吉川さんにお答えいたしますが最初のお尋ね、参考人がおいでにならなかつたということは、皆さんのお返事が大変遅れて、極く最後のところまでわかりませんでした。それで時間がございませんでしたので、こういうことになりましたが、只今吉川さんのお申出の分につきましては、理事会においてお打合せをいたすということにいたしたいと思います。
  53. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 それで結構です。
  54. 徳川頼貞

    理事徳川頼貞君) それではこれにて散会いたします。    午後一時十六分散会