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1952-05-19 第13回国会 衆議院 労働委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年五月十九日(月曜日)     午前十時四十四分開議  出席委員    委員長 島田 末信君    理事 倉石 忠雄君 理事 福永 健司君    理事 船越  弘君 理事 森山 欽司君    理事 前田 種男君       麻生太賀吉君    天野 公義君       篠田 弘作君    三浦寅之助君       山村新治郎君    石田 一松君       熊本 虎三君    柄澤登志子君       青野 武一君    中原 健次君  出席公述人         日本労働組合総         評議会法規対策         部長      長谷部儀助君         中央労働委員会         委員会会長代理 細川潤一郎君         日本専売公社総         務部長     小川 潤一君         全逓信従業員組         合中央執行委員         長       永岡 光治君         日本経営者団体         連盟労働法規委         員長      箕浦 多一君         早稲田大学教授 野村 平爾君         国学院大学教授 北岡 壽逸君  委員外出席者         専  門  員 横大路俊一君         専  門  員 濱口金一郎君     ――――――――――――― 本日の公聽会意見を聞いた事件  労働関係調整法等の一部を改正する法律案、労  働基準法の一部を改正する法律案及び地方公営  企業労働関係法案について     ―――――――――――――
  2. 島田末信

    島田委員長 ただいまより労働委員会公聽会を開会いたします。  労働関係調整法の一部を改正する法律案労働基準法の一部を改正する法律案地方公営企業労働関係法案は、去る十日本委員会に付託されて以来審査を重ねて参りましたが、委員会圏が特に本日公聽会を開きまして、三案について、真に利害関係を有する方及び学識経験者等より広く意見を聞くことになりましたのは、申すまでもなく、三案は一般労働問題として国民諸君にとり重大なる関係を有し、かつ深い利害関係を持つ重要法案でありますので、本委員会といたしましては、右三案の審査にあたり国民諸君の声を聞き、広く国民の輿論を反映せしめ、三案の審査を一層権威あらしめると同時に、遺憾なからしめんとするものでありまして、各位の御熱心かつ豊富な御意見を承りますことができますならば、本委員会の今後の審査にあたりまして多大の参考となるものと期待するものであります。私は本労働委員会を代表いたしまして、御多忙中のところ、貴重なる時間を割かれまして御出席くだされました公述人各位に対しまして、厚くお礼を申し述べますと同時に、各位の忌憚なき御意見の御開陳を希望するものであります。  次に本日の議事順序について簡單に申し上げますが、公述人の人員を勘案いたしまして、公述人の御発言は三十分内外としていただきたいのであります。なお発言なされる際は、職業と名前を一音お述べになつていただきたいと思います。なお公述人の御発言は午前午後にわけまして、午前午後にそれぞれ発つ言終了委員の質疑を行うようにいたしたいと存じます。  これより公述人の御意見を聽取することといたします。日本労働組合総評議会法規対策部長長谷部儀助君。
  3. 長谷部儀助

    長谷部公述人 私はただいま御紹介をいただきました総評議会の法対部長をしておる長谷部でございます。  私は今回政府の提出した労働関係調整法の一部を改正する法律案労働基準法の一部を改正する法律案並びに地方公営企業労働関係法に対しまし次のごとき考え方を持つております。言うまでもなく労働関係の諸法律は、戰後日本民主化のために打立てられました最も重要な柱でありました。従つて昭和二十年十二月に制定された労働組合法においては、新憲法の精神を継承するところの相当進歩的なものであつたわけであります。ところが、その後生として国際情勢の変化に伴う占領軍管理政策に基いて、国民の意思というより、むしろ軍命令において法律改正がなされ、憲法に基く労働者の諸権利が逐次剥奪されて来たというのが実情でございます。その中にありまして、もちろん憲法に違反するものではないかとの議論を巻き越したこともあつたわけでありますが、占領下における軍命令の超憲法性がこれを容認して来たところだろうと思います。従いまして、今回独立後において労働法に手をつけるとするならば、まず第一に憲法との関連を十分考慮して、これに合せるように厳格に修正されなければならないと考えます。  次に、第二といたしまし労働法改正はあくまで労働者保護立法立場からなされなければならないと考えます。今次政府改正意図は、独立後の労使関係日本実情に合せるとされておりますが、実はその目的とするところは、破壊活動防止法強行制定を初めといたしまして、ゼネスト禁止法の構想といい、あるいは集会デモ取締法の企図といい、講和後における治安立法の一環としてとられようとしていることにきわめて注目をせざるを得ないのであります。労働運動治安の問題は当然異なる問題であり、これを同一混同視する考え方は、いたずらに労働者諾権利を圧迫することとなるので、あくまで避けなければならないと思います。  第三といたしまして、労働法のような特殊な性格を持つ法の改正にあたりましては、特に愼重かつ民主的な方法によつて労使双方意見を聞き、それに基いて、あくまで実情に即した検討が行わるべきであることは言うまでもありません。その意味において、政府は昨年十月労働関係法令審議会を設置いたしまして、労使公益三者の意見を求め、その答申により法律化を確約していたにもかかわらず、この委員会において各側の意見一致せざる問題を、一般的見解に立つて法律化することは、最も非民主的な方法といわなければなりません。もともと労働法労使力関係を考慮されねばならないものでありまして、あくまでも両者の納得の上に立つて、積極的に守れるものとせねばならないのであります。今回の政府案中の営議行為制限に関する問題等は、前の労働法令審議委員会においても、遂に意見の一致を見ることができなかつた点であり、それはただちに改正することが困難であるという現在の日本労資関係を反映したものであります。従つてその実情を無視して一方的に立案を企図することは、まつた労使現状認識を誤るものであろうと考えます。このような意味においても、このような重要な改正案を提出する以上、きわめて短時日の間に成立させるようなことなく、広く全国関係者意見等も十分聞く機会を持つて、審議に当るべきであろうと考えます。以上三つの観点に立つて、以下法案の具体的問題について公述いたしたいと思います。  まず第一点といたしましては、公務員現業面に対して団体交渉権復活をはかつておりまするが、これはきわめて当然のことであります。前にも申し述べました通り国家公務員法地方公務員法あるいは公共企業体労働関係法等は、占領下における特別管理法規でありまして、独立後は当然憲法第二十八條に基いて、その権利はさらに一歩を進めて、罷業権に至るまで全面的に復活されなければならないものであると考えます。現在日本勤労者中、憲法に基く権利を奪われているものは、その数約百八十万ほどに達しており、全国組織労働者六百万人に対しまして三分の一にも及んでおるわけであります。まさに憲法第二十八條は空文化しておるというのが実情であります。これら労働者に対するところの生活保障に関しましては、人事院の勧告は常に無税をされておりまして、あるいは仲裁委員会裁定等も尊重されす、まつた労働者保護措置が講ぜられておらないことは、今までの経過か如実に示すところであります。昨年わが国は特に求めまして、ILOに復帰加盟を認められました。これは将来わが国民主国家として国際舞台の中で活躍し、再びその信頼を得る上においては、最も期待さるべきことでありました。その上に立ちますると、政府国民もこの際この国際條約は進んで守つて行かなければならない責任があると考えます。そういう点から考えまして、一九四八年に採択されております條約八十七号、結社の自由及び団結権の擁護に関する條約を見ますと、わが国公務員権利というものは、この條約よりはるかに下まわる状態に置かれているのではないかと思われます。特にこの條約第三條におきましては、公の機関はこの権利制限しまたはこの権利の合法的な行使を妨げるようないかなる干渉もしてはならないとうたつてあるわけで、ありまして、このような観点からも、やはり大幅な権利復活をはかるべき改正を要望いたすものであります。さらにその業務公共福祉に深く関係するからと申しましても、一例を申しげ上ますと、私鉄労働者国鉄あるいは市電の労働者と比較して、その労働條件がどのように違うかと申しましても、これはまつたく同一状態にあるわけであります。それにもかかわらず、私鉄労働者罷業権があり、市街電車国鉄労働者には罷業権がないという差別的な取扱いは、理論上からもたいへん矛盾しておるところであろうと考えるわけであります。この際戰後制定された労働組合法のごとく、公共企業体職員はもとより、特殊な業務を除く国家公務員地方公務員には、すべて罷業権までも復活し、一切一般労働者と同様に取扱い、その公共性という観点からは、別に並行して調整制度を考慮すべきであることを望むものであります。  第二点といたしまして、緊急調整制度を採用いたしておりまするが、これに対しましては、まつたくその必要のないことを申し上げたいのであります。改正法案に示されておる緊急調整該当要件のような場合につきましては、現行労調法の第十八條第五号に基いても、労働大臣あるいは都道府県知事は、その判断によりまして、労働委員会に対し職権に基く調停の請求ができることになつておるのであります。争議行為というものは、国民大衆理解と協力がなくてはおそらく成功するものでは、ございません。特に公益事業等においてはしかりであります。このような実情を考えますときに、労働委員会調停を進めておる間にいたずらに争議行為に突入するような場合は、一般大衆理解を得ることはなかなか困難でありますし、またこのような鬪いは成功することはむずかしいものであります。今日の組合指導者は、このくらいのことはよくわきまえて戰術を考慮いたしております。今までの争議を見ましても、これは十分に証明できるところでありまして、現行制度で十分であるわけであります。現在でも職権調停はできるにもかかわらず、あえて五十日間争議行為を停止することは、單に組合争議権の弾圧以外の何ものでもありません。労働者罷業権を持つて初めて使用者と対等の立場に立つものでありまして、今までの争議を見ても、争議権を背景としない使用者との交渉はまつたく実を結んでおらないのが実情でございます。これははなはだ遺憾とすることではありますが、日本民主化が進んでいないためでもあり、特に使用者に強い反省を求めたいところでございます。従つて争議の頂点に至つて五十日間も争議行為を冷却されてしまえば、その間はほとんど争議解決の真の努力はなされず、いたずらに不明朗な争議気分が長引いているにすぎないという結果になるでありましよう。争議調整は單にストライキをとめることが目的ではない。早期にしかも合理的に労使争い解決することでなければならないと考えるわけであります。しかもこの案では、労働大臣はいつも自由に争議行為禁止することができるようになつております。その後は労働委員会に持ち込んでしまうわけでありますが、労働委員会はまつた政府下請機関なつてしまい、本来の自主独立の機能を失う危険が出て来るのではないかと考えます。労使争いに対して三者構成労働委員会があるにもかかわらず、第三者的性格政府争議行為禁止等をもつて介入する態度には、強く反対するものであります。アメリカタフト・ハートレー法にもこのような調整制度があるからということをよく言われておりますが、アメリカではストライキ権保障憲法の中にはなく、これはすべて法律または政府政策にゆだねられておることになつております。いわばそれは権利でなく恩典なのであります。恩典であります以上法律や政治によつて制限し、調整することもできるのでありましようが、日本では明らかに憲法ストライキ権保障されておるところであり、アメリカの場合とは当然異なるところでございます。  第三点といたしまして、公益事業に対する冷却制度は、これを廃止いたしまして、一週間ないし十日程度争議予告制度を採用すべきではないかと考えます。現在の労調法三十七條に基く三十日向の冷却制度はまつたく無意味なものであることは、各関係者のひとしく認めるところでございます。改正案は再び冷却制度を維持しておりますが、この期間十五日は労使休職期間にすぎず、ただ争議を長引かせるに役立つのみでございます。しかも労働委員会調停申請の却下を認めておりますが、これは最も危険な規定であると考えます。「自主的な解決のための努力が著しく不充分であると認めたとき」としてありますが、今までの経過を見ますと、組合争議権を行使する直前にならないと、ほとんど自主的交渉努力が生れて参らないのであります。それが証拠には、多くの争議は大体ストの前夜あるいは明け方等に解決しておるのが実情でございます。そのようにして労使力関係が対等にならないと交渉は軌道に乘らないのが実情でございます。改正案のように調停申請が却下され、いつまでも罷業権が発生しないことになりますならば、争議は長引き、不安定な労働状態が続くことになるわけであります。特に公益事業等は、その性格から申しましても最もすみやかに争議解決をはかることが必要であり、そのためにも一週間程度予告をすることにとどめて、全面的に制限を取除くべきではなかろうかと考えます。公益事業が他産業と違つて公共性を強く持つておるからといいまして、冷却制度争議を押え、さらに第二段として緊急調整で五十日間ストップし、さらにその上ゼネスト禁止法を積み重ねるとするなら場は、これらの労働者は半永久的に争議権は奪われてしまうことになるだろうと考えます。  次に第四点といたしまして、不当労働行為制度の改善を望むむものであります。労働関係法令例審議会登甲の中にも、全員一致して答申しておるところでありますが、改正案には若干程度しか見られません。もともとれ不当労働行為制度憲法に基き、労働三権の保障に基き設けられておるものと考えます。この点から考えますと、同じく憲法保障しておる財産権の侵害が犯罪であるように、労働者権利を侵す不当労働行為もやはり一つ犯罪であるべきかと思います。従つてこれらはきびしく取締らなければならないものでありますが、現行労働組合法の第七條に定める規定は、いわゆる個々の労働者に対する不利益な差別的取扱いと、団体交渉の拒否及び労働組合に対する支配介入並びに経費の援助等を形式的に区分し、あまりにも具体的に規定しておるところから、その規定の間隙をねらつて不当労働行為が行われ、救済の実もあまりあがらぬところでありまして、これを防止するためにもこの際効果ある改正を要望するものであります。  次に第五点といたしまして、労働組合資格審査制度は廃止すべきであろうと考えます。政府案においては、争議調整の場合は今度は必要としないことに改めておりますが、これは現在で労働委員会では並行審査を行つておりまして、現実には事前審査はなされておらないところであります。もともとこの制度が設けられた基本的な趣旨は、組合民主性自主性を確立したいところに本質があつたわけでございまして、教育規定であるわけでございます。ところで現在の労働組合状態を見ますと、大体この線に沿つて来て  おりまして、しかも法内組合にしようという考え方が滲透しておる現在におきましては、すでにその目的が達成せられており、必要ないのではないかと考えます。これがあることの弊害は、労働委員会の事務を煩雑にし、能率の低下を来しておりますし、また不当労働行為の申立にも制約を加えており、まつたく害多くして益の少い制度であると考えます。これは昨年の全国労働委員会の総会におきましても、その過半数が廃止に賛成をしておるところでございます。  次に労働基準準法の改正案について意見を申し述べたいと思います。わが国労働基準法は、勤労者保護の上に大きな役割を果して来ておりますことは事実でありますが、その内容におきまして最低賃金制度を欠き、あるいは例外規定の多過ぎること等の大きな欠陷は見のがせないところでございます。今次の改正案において、婦人労働者の時間外労働例外拡張あるいは深夜業  等の新設等につきましては、特に業種選定におきまして愼重を期して、これらの婦人労働者保護措置をあわせて考慮されることを強く要望いたすもの  であります。   第七十條で改正するところの坑内労働者年齢引下げにつきましては、中央労働基準審議会におきましても多く  の議論のあつたところでございます。特に坑内労働者のように労働環境の劣悪な職場におきましては、これと並行するこれら年少労働者保護規定が考えられなければならないと思います。今次改正案年齢引下げだけを提案いたしておりまして、これに付随する保護措置については何ら具体的に述べられておのず、このような形におきましては反対せざるを得ないものであります。国際労働條約にも制限がないことが言われておりまするが、諸外国におけるこれら労働者保護厚生設備の完備と、日本のそれとははなはだ異るものがございまして、一概に国際條約に照して改正する考えには深く検討を要するものがあるのではないかと考えるものであります。   以上諾立法についての私の公述々終ります。
  4. 島田末信

  5. 細川潤一郎

    細川公述人 私は中央労働委員会会長代理細川潤一郎であります。このたびの労働関係法規改正は部分的の改正でありまするがゆえに、私はその部分心々についての意見を少しく申し上げたいと思うのであります。   まず第一には、緊急調整の点でありますが、大体においてこの程度緊急調整制度は必要ではないかと思うのであります。あるいは労働問題とし、これを考えますと、純粋な労働問題としてはあまりその必要はないのではないかというふうにも思えないこともないのでありますか、しかしながらこれは労働問題というものだけではないのでありまして、他の分子を含み、しかもそれがまた経済問題であり労働問題であるといつたものが混合された問題が往々にして起るのであります。でありまするからそのような場合におきまして、労働問題の面からそういう問題を総合して解決をする道が、すなわち緊急調整というような方法で持たれても、私はいいのではないかと思うのであります。しかしながらこの法案にもありまするこの問題は、いずれにいたしましても労働争議権制限でありまして、従つて憲法に基きますると、公共福祉ということが立法の基本とならなければならぬ問題ではないかと思うのであります。従つて緊急調整を発動いたしまする場合、すなわちその條件と称するものは、厳格に規定するの必要があるのではないかと思うのであります。この意味におきまして、国民生活に重大な損害を與えると労働大臣が認める場合だけと法案にあるのでありますが、なるほど国民生活に重大な損害を與えると言えば、公共福祉立場から発動していいようなものでありますけれども、しかしながらこの場合には、いささか濫用されるおそれもあるのではないかと思われるのであります。私は、これだけの條件でなく、そのときの事態が緊急であるという、すなわち事態は切迫しているのだといつた意味言葉が、これにも一つほしいのであります。さらにまた、ただ重大な損害を與えると認めるのでなく、一般的に重大な損害といつたような言葉でなく、もう少し現実に何らか重大なる損害なるものが予想されることが必要とされていいのではないか、従つて事大に重大なる損害が予想されるというような言葉をこれに入れたいと思うのであります。さらに進んで、單に重大な損害というのでなく、回復すべからざる重大な損害とまで言つた方がいいのではないか、こういうふうに考えるのであります。  それからこの緊急調整、これを取扱いますのは労働大臣なつているのでありますが、いやしくも国民生活全般にわたつて考慮しなければならぬ問題でありまするから、これはやはり労働力面所管大臣労働大臣権限でなくして、内閣総理大臣権限とすべきではないかと思うのであります。  あとは小さな問題でありますが、法案によりますると、緊急調整決定という文字が現われているのでありますが、緊急調整決定と申しますと、何となく緊急調整をただちにその権限ある国家機関がやるの、たといつたぐあいにも見えるのでありまして、これは要するに緊急右、忠のと品とか、あるいは緊急調整に付するの決定とかいうような――当然そういう意味ではあろうと思うのでありますが、それならばむしろそういうぐあいに、はつきり内閣総理大臣緊急調整に付するの決定をするというようにいたしまして、その緊急調整は、中央労働委員会でこれを取扱うのだ、こういうようになるのがいいのではないかと思うのであります。緊急調整はその程度にいたします。  それから今度新たに制定せられまする地方公営企業体労働関係でありますが、この地方公営企業労働関係につきましては、その職員争議行為禁止されておりまするが、その他の点については、やはり一般労働組合法並び労働関係調整法すなわち労組法及び労調法適用を受けることになつておりまして、もしも問題の厚きました場合には、やはり一般労働委員会でこれを取扱うというようになつているのであります。これは立法建前としてはたいへん適切なことであつたと私は思うのでありますが、地方公営企業体職員についてそういう取扱いが適切であるというならば、さらに公共企業体職員についても、また現業国家公務員についても、やはりこれと同じような取扱いをされてよろしいのではないかと思うのであります。しかるに公共企業体職員並びに今度それが拡張されまして現業国家公務員について、依然として従来通り一般労働委員会取扱いではなくして、これが別個の調停委員会及び仲裁委員会というものが持たれまして取扱われることになつておるのでありますけれども、これはかえつてよくないのであります。やはり一般労働委員会取扱いとするのが適当ではないかと思うのであります。要するにこの労働委員会の取扱う労働問題は、やはり行政問題ではありますけれども、直接には政府と離れて、独立したる権威ある、従つてまた信用ある、従つてまた相当大きな組織を持つたところの労働委員会をして扱わしめることが必要なのではないかと思うのであります。終戰後労働関係法規が制定されまして、それ以来取扱つて参りましたわが国労働委員会は、三者構成によつてできておりますが、その三者構成相当成績を上げて来ていると思うのであります。幸いにしてこの三者構成わが国労働委員会が、相当成績を上げて今日まで来ておるのでありますから、今回地方公営企業についての立法にあたり、一般労働委員会で一切を取扱うことにされたと同様に、公共企業体につきましても、また現業国家公務員に関しましても、これを特別の仲裁委員会、または特別の調停委員会というものを持つのではなくして、やはり一般労働委員会をして取扱わせるのが適当ではないか、さらにまたそれに関連いたしまして、労働組合法並び労働関係調整法は、争議行為禁止を除いては、これらの面においても適用があるのだという建前をとるのが、適当ではないかと思うのであります。この二点を除いては、あとはきわめて小さな問題になるのでありますが、こういう機会を與えられたのでありますから、その小さな問題の二、三について少しく私の意見を述べたいと思うのであります。  まず労働組合法第十五條の新しい法案の第三項、第四項でありまして、期間の究めのない労働協約は、九十日前の予告をもつてこれを解約することができるというのであります。一定の予告をもつて解約することができるというのは当然置かねばならぬ規定でありますが、二箇月という期間はどうかと思うのであります。それは一般的に労働協約について考えますと、三箇月でもよさそうにも思えるのでありますが、今労働問題として最も痛切に感ぜられます賃上げ問題等の場合に、賃上げ協定は労働協約であるという前提を置かなければならぬ。私の申し上げることはその前提に立つのでありますが、賃金協定は労働協約であるという前提に立ちますと、三箇月の予告をもつてでないと賃上げの要求ができないという形になります。しかし賃上げの場合については、従来も一般労働協約とは別のようにして扱われておるのだから、労働協約の一般規定の拘束を受けないという解釈がとられるのなら、それはそれでよろしいのでありまして、その心配はないのであります。しかしながら観念としては、どうもやはり労働協約というべきものではないかと思います。もし労働協約であると仮定いたしますと、現行法におきましては、期間の定めのない労働協約というものは有効でないのでありますが、賃金協定の多くが期間の定めはないのですから、実際問題として有効でない協定をやつておるのかということが出て来るのでありますが、労働組合法の一部改正の際でありますから、そういう点をはつきりさしておきたいということになりますと、賃上げの点については、たとえばただいまは五月ですが、五月に賃上げの要求をするときには八月以後の負上げの要求をする、そうでなければできないといつたようなことでは、実情から見て大分困るのではないかと思うのであります。そうなつて参りますと、賃上げ等については特に例外を設けるか、そうでなければこの予告期間三箇月というのを、たとえば一箇月、せいぜい二箇月といつたようなことにして、賃上げの場合には来月あるいはせいぜい再来月から、こういうことにする必要があるのではないかと思うのであります。これは労働協約という観念の解釈にもよりますが、賃金協定は労働協約の性質を持つておるというように前提いたしますと、ただいま私が申し上げましたような事情になると思うのであります。  その次には、同じく労働組合法の二十七條第二項に「労働委員会は、前項の申立が、行為の日から一年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。」とあるのでありますが、現行法の同じ條文の第一項の方をごらん願いますと、「労働委員会は、使用者が第七條規定に違反した旨の申立を受けたときは、」とありますので、これは改正になりませんから、このまま一項として残るのであります。この「申立を受けたとき」というのは、当事者の側から見れ、ば申立てをしたときというのではないかと思うのであります。すなわちこれを受理と申せば受理と申立てとの間に別に違つた何ものもないのであります。もし申立てと受理との間に何か違つたことがありますならば、申立てに一定の條件が加わると労働委員会が受理する。その受理の條件というものは法律規定されなければならぬのでありまして、労働組合法にはそういう点は何にも規定してないのでありますから、申立てをするということは、労働委員会が見れば、これを受けるということなので、言いかえますと、労働組合法の二十七條には特に受理という観念はないのだ、当事者が申し立てればその審査に入るのだ、その審査が一定の條件に触れた場合には審問を開かないで処理する。そうでない場合には審問を開いてその結論を出す。いずれにしても申立てをすれば労働委員会はこれを受けているのだ、こういうように解釈されまして、現在そういう取扱いを受けておるのであります。しかるに今度の改正法案の第二項は、申立てはしたが労働委員会は受けてはならないというように規定されますので、これは明らかに受理の観念をここに入れたのではないか、申立てと受けるということの同に何か違つたことのように規定されております。これはどうも第一項との関係上どうかと思うのでありまして、第二項は「労働委員会は、」という主格で書き出しますと、受けることができるとかできないとかいうことになりましようから、そうでなく、申立てをすることができない、こういうようにお書き直しされないと解釈上少しくまぎらわしいのではないかと思うのであります。  それから続いてその第三項でありますが、「労働委員会は、第一項の審問を行う場合において、当事者の申出により必要があると認めたときは、証人に出頭を求め、質問することができる。」この「当事者の申出により」という規定がありますために、当事者の申出がないと証人の出頭を求めたり質問をすることができないのかという疑問を起すのであります。そうでなく、労働委員会審査の手続は、労働委員会権限をもつても証人に質問をすることもできるものと解釈されるのであります。その解釈上の根拠等は、少しくくどくなりますから省きますが、いろいろの規定を総合いたしまして、当事者の申出た証人だけでなくして、労働委員会が必要と認める証人も、委員会権限をもつて、法律的用語をもつて言えば、職権をもつてその証人を尋問しておるのであります。おそらく今度の改正法案の第三項はそういうことを言つたのでなくして、証人は調べることはできるけれども、証人に特に出頭することを求めるのは、当事者の申出があつたらそれをすることができるといつたようなぐあいに、特に証人の出頭ということに重きを置かれたのではないかと思うのであります。しかしこの規定が置かれますと、当事者の申出がないと、労働委員会は必要と認める証人も調べることができないのか。その点について現行法が大きな改正を受けたのかといつたような疑問を起しますので、当事者の申出というのはとつていただきたいのであります。  それからもう一つ労働関係調整法でありますが、特別調整委員というものが今度設けられます。この特別調整委員というものも、労働大臣があらかじめ一般的にこれを任命しておかれるようになつているのでありますが、実際において特別調整委員の必要が起きますのは、労働委員会委員が具体的の問題に当つて、どうしても現在構成している労働委員会委員では足りないように感じて、この事件については特別に何の何がしといつたような方に調停委員に入つてもらいたいというような場合が、ほんとうに起つて来るのではないかと思いますので、そういう場合に、もしこの法案規定するような、労働側は労働組合からの推薦によるとか、また使用者代炎は使用者団体の推薦によるといつたことでは、これはとうてい間に合わないのであります。でありますからこの特別調整委員の委嘱は、労働委員会労働側の委員であるならば労働委員の推薦による、使用者委員であるならば使用者委員の推薦により、また公益側の委員であれば、労働委員会労使両側の同意をもつて、労働大臣がその必要ありと労働委員会から要求された場合に、委嘱してもらう、こういうようにしていただくとたいへん便利で、ほんとうにこれが活用できるのではないか。私の意見はこれで終ります。
  6. 島田末信

  7. 小川潤一

    ○小川公述人 専売公社の総務部長の小川潤一でございます。ただいままで、前の方々が全体的な問題についてお話になりましたが、私は主として公共企業体労働関係の今回の改正につきまして一、二の意見を述べさせていただきたいと思います。今回の改正を拝見いたしますと、いわゆる公労法とは内容的には大して違いはないようでございますが、ただ大きな点は、いわゆる電通事業が一般管理から公社になるということを契機といたしまして、電通公社が公共企業体労働関係法の適用を受けるという中へ入つて来るわけであります。これは公社として入つて来るのは当然でありますが、それと同時に、いわゆる郵政事業あるいは国有林野、あるいは大蔵系統の造幣事業または紙幣の印刷事業、こういうものも一緒に公共企業体労働関係で一本に処理して行こうというふうに入つて来ております。これはよく考えてみますと、相当の問題があるのではないか。といいますのは、電通公社の場合は、確かに公社といたしまして、公務員の身分をやめまして、いわゆる公社職員としての身分規制を受けるのでありますから、これは公共企業体労働関係法の適用を受けて処理して行かれるのは当然でございますが、郵政事業あるいは国有林野あるいは造幣印刷という人たちは、公務員のままで入つて来る。実に複雑な面が出て来るのではないか。といいますのは、公務員でありますと、公務員法の適用がある。片方では公務員法の適用がない。なるほど今度公共企業体労働関係法の修正案を見ますと、公務員にして現業である郵便屋さんとか、あるいは印刷とか造幣という人は、公務員法の適用を確かに除外せられます。しかし、これはその事業全体を公務員法から除外しておるならば、まだ話はわかるのですが、そうではなくて、いわゆる非組合員の管理者面というものは、依然として公務員法の適用を受けている。従いまして、公務員法の適用を受けている者と、公務員法でない公共企業体労働関係法の適用を受ける者と、こういう二つが一つの職場にこんがらがつて入つて来る。これは今後、管理者側といたしましても、あるいは政府としても、非常に複雑な問題が起きて、きつと困るのではないかということが、われわれの非常に心配するところであります。  具体的に考えてみますと、たとえば公務員でなくなつて、公共企業体労働関係法の適用を受ける現場の人たちは、おそらく各現業は一緒になりまして、団体交渉の内容も似て来ると思います。そういう場合に、たとえば私らの立場にいたしましても、専売公社の労務員というものは、今回の団体交渉の結果、今度六月、十二月にはボーナスは全然出ない。それはふだんの方に繰入れたせいもあるでしようが、とにかく六月、十二月のいわゆる盆暮れの手当はない。しかし片方に公務員法の適用を受ける者がもしそこに混淆しておりますと、〇・二ですから、六日分の日給で、ほとんど問題にならない程度ですが、とにかく六品口分なら六日分の六月の手当が出る。同じ職場で二つが混淆して行くという問題が、きつと出て来るのではないか。これは管理者側もやりにくいし、組合も統一がとれなくて困るのではないか。こういう点に気がつくわけであります。特にあとで申し上げたいと思いますが、現在の団体交渉の結果、円満に行かないときには仲裁委員会にかけて解決していたただくのですが、その場合に、いわゆる予算上の制限かあつて効力を発揮できないというような問題がありますと、結局政府側としては、その予算を直すときに、一緒に職場に混合しておる公務員立場を考えて、その均衡論をまず第一に頭に浮べると思いますので、実際公共企業体労働関係法の適用を受ける人たちも、公務員の給與体系に引きずられて、今度意図されたような、その職場に適応した勤務体制なり給與体制をつくろうとされたせつかくの意図が、実質においてはだめになるのではないか、こういうふうに考えられます。従いまして、今回は困難ならば、近い将来において、この関係はすつきりされた方がいいじやないか、公務員ならどこまでも公務員法で行くべきであり、公務員をはずして公共企業体労働関係法で行くならば、その企業全体とそういうふうに持つて行きたい、公務員をはずすなら全部はずしてしまつたらどうかというふうに考えられます。おそらく政府としては、郵政事業、紙幣の印刷事業などというものは、公共性が重大であり、また公社として、それ自身の企業意欲とか、企業採算とか、そういうものを中心にものを考えるよりも、公益性優先で行きたいという考えから、公務員としての現在の形に置かれたのだと思いますが、結果的に、今私が申しましたような複雑な形態が出て来るということは、一応考えなければならないことと思います。  もう一つ、私総務部長として、管理者側として、はつきり申し上げていいかどうかわかりませんが、私たちが実際に公共企業体組合運動といいますか、労務関係で今日まで困つたことを率直に申し上げて、皆さんが政策をお立てになる一つのかてにしていただきたいと思います。それは御承知の通りに、公共企業体労働関係法の三十五條ですか、仲裁裁定の委員さんたちが、せつかく苦労してつくつていただきました裁定の結果が、実際の効果を発揮し得ないというところに大きな問題点がある。これはもう皆さん御承知と思いますが、われわれは、できるだけ経営者と労務者と話合つて、問題を円満に解決して行くということが理想でもあり、現実にそういう方向に毎日みんなで努力しておるのですが、やむを得ないときには、どうしても仲裁委員会の御決裁を仰がねばならないということになります。その場合に、この公労法の三十五條に「仲裁委員会の裁定に対しては、当事者双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならない。」ここまではきわめてりつぱなんですが「但し、第十六條に規定する事項について裁定の行われたときは、同條の定めるところによる。」こういう但書がありまして、この十六條には「公共企業体の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とするいかなる協定も、政府を拘束するものではない。又国会によつて所定の行為がなされるまでは、そのような協定に基いていかなる資金といえども支出してはならない。」とあり、二項として「前項の協定をしたときは、政府は、その締結後十品目以内に、これを国会に付議して、その承認を求めなければならない。但し、百会が閉会中のときは、国会召集後五日以内に付議しなければならない。国会による承認があつたときは、この協定は、それに記載された日附にさかのぼつて効力を発生するものとする。」こういうふうになつておりまして、仲裁委員会が三十五條で無理してきめていただいたことも、事お金の面になりますとすぐこの十六條にひつかかる。確かに労働問題は政治問題じやないのですから、すべてが金銭の問題にかかつて来ると思いますので、たいていはこの十六條にかかつて来る。そうしますとこれは予算の修正という問題になりまして、国会の承認をお求めになること自体がすでに予算の修正になるか、あるいは同時に予算を出さなければいけないのかというような問題が出て来ますが、今のところの解釈では、どうも国会の承認だけでは予算の歳出権は認められないというような状況でありまして、同時にその国会の承認を尊重して補正予算を出していただくという二段階になつているようでございます。これでは実際この法律目的としたところは、何だか中途はんぱになつているようである。せつかく現業の方々に団体交渉権を認められ、仲裁委員会決定に対しては当事者双方とも最終的に服従せよというようにまでつくられたのですから、実際的にそのお金を伴つてその通りになるように、ひとつ何かのチャンスにおかえになつた方がすつきりしていいのじやないかと、率直に申し上げる次第でございます。昨年の例によりましても、御承知のようにこういう問題がありまして、この国会の前で専売公社の職員がハン・ストなどをやりまして、非常に社会的に不愉快な感じを與えて、御迷惑をかけたということもございますし、ぜひこういう問題は法的に上手に解決していただきたい。私自身の感じから申しまして、公共企業体は現在給與額を予算総則で縛つております。従いましてこれに何らかのプラス・アルフアの団体交渉で結論が出ますと、すぐこれにひつかかつて来る。そうすると給與総額があるから出せないといつて行き詰まつて参りますので、これは各公共企業体にひとつ予備費を設けられまして、裁定があつたらばその予備費の歳出権を認めてやるという包括的白紙委任を予算総則でされてはいかがか。そういうふうにいたしますれば、何も法律を直さないで、現実問題として解決するのじやないか。各企業体の予算総則を提出されるときに総括委任されたらいかがか、予備費の中から、裁定があつたならばそれは出してよろしいというふうに、歳出権の総括委任をされたらいかがか。これはほんとうに私個人の考えでございますが、そうしたならば大した問題も起きないで、スムーズにこの問題が解決するのではないか、かように考えております。公共企業体労働関係で一番困つておる問題は、率直に申しますと今のような問題であります。従いまして、そこへまた郵政、電通、印刷、造幣というものが入つて来て、同じ悩みがまた繰返されることを非常に憂えますから、ひとつよろしくこの点立法府の方は考えていただきたいと思います。  以上をもつて私の公述を終ります。
  8. 島田末信

    島田委員長 それではただいままでに公述の終りました長谷部公述人細川公述人及び小川公述人に対する質疑を許します。船越弘君。
  9. 船越弘

    ○船越委員 長谷部さんにちよつと伺います。あなたのお説なるほどごもつともな点があると思うのでございますが、ただ私の聞き間違いかもしれませんが、憲法において財産権が侵害されたときに犯罪になると同様に、争議権が侵される場合にも犯罪として取扱うべきである、そうしてその筆法をもつて行きますと、このたびの改正法が憲法に與えられた争議権を特に侵しておるような印象の御所見があつたように思うのであります。ところが私考えますのに、財産権も結局公共福祉というわく内で認められておる、だから財産権保障されておるのは、やはり公共福祉の範囲内で認められておつて、そこで侵されたときにこれを保護するということになつておる。争議権財産権と同様であつて、公共福祉の範囲内で侵された場合にはこれは守らなければならない、こういうふうに私は考える。その点が、ちよつと聞き間違いかどうかで、あなたのお考えが少し違うのではないか、こういうふうに思うのですが、その点いかがでございましようか。
  10. 長谷部儀助

    長谷部公述人 お答え申し上げます。確かに財産と労働三権の問題については、公共福祉という制限があります。しかしながら憲法の二十八條に着いてございます労働三権の保障につきましては、ただちにその條項には公共福祉云々という條項は見当らないわけであります。二十九條の財産権の点につきましてははつきりその條項にございます。これはその前の憲法條項で、一般的な問題として公共福祉制限をうたつておるわけであります。考えますのに、現在の労働者の置かれている状態といいますか、生活の保障というような問題につきまして、やはり日本憲法は二十五條で保障をすることになつておるわけであります。しかしながら現実公務員あるいは公共企業体職員でございますとか、あるいは公益事業という特殊な争議制限を受けている労働者に対しては、それでは争議権の抑制を受けているほかに、生活の保障か何かの方で別に保障されているかということを考えますときに、これは全然見当らないわけであります。こういう点に立ちますと、明らかに労働者の生活の保障というものは、やはり罷業権を背景にしてみずからつくり上げなければならないというような制度に大体なつておるのではないかと考えられるわけでございます。こういう点に立つて、單に公共福祉という観点からのみこの労働者の三権を侵害して行くという考え方につきましては、これは公共福祉というものが、やはり日本財産権とこの労働三権の対等な保障立場に立つて初めて公平な公共福祉が出て来るわけでありまして、そういう点においてバランスが欠けるのではないかと私は考えておるのであります。こういうことから申しましても、今回の改正におきましては、特に私先ほど公述いたしましたように、公共企業体あるいは国家、地方公務員法それぞれ占領下の特殊な管理状態における立法でございまして、これをこの際憲法に合わせるように修正をしていただくことが、やはり合憲的な改正方法ではないかというように申し上げたわけでございます。
  11. 島田末信

    島田委員長 森山欽司君。
  12. 森山欽司

    ○森山委員 長谷部さんにお伺いします。先ほどあなたのお話によると、今回の労働法改正をもつて、治安立法強化の一環として理解されるようなお話でありますが、事実でありますか。もし事実であるとすると、去る一月二十三日の総評幹事会で審議決定を見た総評の春季闘争の展望と行動計画というのがあります。それによりますと、春季鬪争のねらいどころは、再軍備反対臨争に集約することを前提として弾圧法規反対をかざして闘うことにあるというのであります。従つて労働法規の改正は弾圧法規である、従つてこれに対して鬪うとあなた方は言うのでありますが、これに対して闘うことが本旨にあるのではなくて、あなた方の春季鬪争の本旨は、再軍備反対闘争という政治鬪争に弾圧法規反対鬪争というオブラートをかけたものにすぎないのじやないでしようか、その点について伺いたいのであります。
  13. 長谷部儀助

    長谷部公述人 お答え申し上げます。私は本日政治論争をやりに参つたわけではありませんが、その点につきましてはこのように考えておるわけであります。ただちに私どもがこの労働法の改悪という問題につきまして鬪争をすることは、再軍備反対というものと並行的にやつて行くのだという考え方は、非常に形式的な見方ではないかと思うわけであります。現状におきまして、治安維持法としての破防法でありますとか、あるいはデモ取締法でありますとか、あるいはゼネスト禁止法というものの構想の出発、あるいは労働法のこのような強い争議制限というものが、なぜ出て来なければならなかつたかという背景を考えてみまするときに、やはりこれは日本の再軍備をしようとする方向が、こういうものを必要づけて来たところのゆえんであるの、ではないかというふうに考えられるわけであります。しかしながらそうかといいまして、ただちに私どもは再軍備反対であるということにおいて、ストライキをもつて労働法改悪反対に結びつけようという形式的な考え方を持つているわけではありません。現実に出ておりまする労働法争議制限、これらはわれわれの生活保障とただちに結びつくものでございます。たとえば破防法の制定につきましても、これは労働組合権利労働組合の存在さえも非常に危うくする内容のものである。これはわれわれの生活の保障というものと、厳密な意味においてただちに結びつくわけでございます。こういう点について戰いを進めているわけでありまして、ただちにそのような政治目標を掲げて鬪つているというふうな解釈の仕方は、非常に形式的な考え方になるのではないかというふに考えられます。
  14. 森山欽司

    ○森山委員 私があなたにお伺いしたのは、近く労鬪スト第三波が行われようとしている。あなた方が中心になつてやろうとしているというように新聞紙上に伝えられているわけであります。しかも今回の第三波のストの中心は、あなた方の労働法改悪にあると言われている。従つて労働法改悪としてあなた方が労働法改正に反対するならば、反対する基本的な心構えについて伺いたかつたわけです。あなたがいかにここで弁明されようとも、またここで私はあなたと政治論をやろうとは毛頭思いませんが、去る一月二十三日の総評幹事会の決定というものは、これは否定することができない。これを形式的に理解するなと言われても、われわれはこの事実を率直に読まなければならない。私はそういう政治的意図というものをあなた方に指摘せざるを得ないのであります。かかる政治的な意図の結果というものが労鬪ストー波、二波、また来るべき三波となり、またメーデー暴動事件という不祥事件を惹起するに至つたと考えるのでありますが、これ以上お伺いいたしません。  私が次に伺いたいことは、緊急調整はいらないというあなたの御意見、これは私も相当同感できる。労調法第十八條五号によつて足りるという意見があります。これはなかなかもつともな意見であると思いますし、私もかねて同じような意見を持つておる。ただ労調法第十八條第五号をかえるといたしましても、大規模産業については冷却期開基というものがないわけです。もしそういうものについても調停をやつて、何とかストに至らずして、あるいはマトに入りましても穏便な解決をしようということになりますと、大規模産業についてやはり一種の冷却期間を與えるというようなことについて、あなたの御所見はいかがでしようか。
  15. 長谷部儀助

    長谷部公述人 お答え申し上げます。大規模の産業の場合におきましても、私公述で申しましたように、労働委員会調停に入つて参つております間は、これはやはり世論というものと対比して考えまするに、ただちに調停中に争議行為を敢行して行くというような考え方は、現在の労働組合の幹部は毛頭考えておらないところであります。これはそのような争議行為をやつてみましたところで、非常に現在の労働組合の闘争というものは大衆と密接な関係がございまして、大衆の支持と協力の上に立たなければ成功はしないものであります。そういう点から見まして、調停中に争議行為をやるというようなことは、どうしても大衆の支持がなくて、これが成功する争議とはなり得ないわけでございます。従いましていかに大規模の争議になりましても、この調停が決裂するという場合は別問題といたしましても、調停期間中にこのような争議をただちにか行つて行くという考え方は、現在の労働組合に関する限りとつておりませんし、将来ともそのようであると思うわけであります。この点につきましては、緊急調整五十日間というものを設けましても、五十日たてばその後解放されるわけであります。従つて調停等を行つておりますその間は、当然先ほど申し上げましたように、五十日間というストップをあえて法律で根拠づけなくても、道義的な立場から、戰術として組合は考えておるわけであります。そういう点で、私は労働争議というものの労使の自主的な解決という基本目標に立つならば、法律という国家権力が争議禁止するという形は非常に望ましくないのではないか、このように申し上げたわけであります。
  16. 森山欽司

    ○森山委員 重ねてお伺いいたしますが、緊急調整というものを削るといたします。そして第十八條五号によるところの調停制度という形をとるといたします。すると大規模な産業については、冷却期間というものは現行法ではない。現行法になくても、あなたのお話だと、組合は十分輿論を考慮して自制するということであります。しかしこの際緊急調整を除くということになれば、あなた方はその点において、公益事業並にこういう特殊の要件を満たした場合には冷却期間を設けるという、その程度のことは、了解できるかどうかを伺いたい。
  17. 長谷部儀助

    長谷部公述人 冷却期間というものと今度の緊急調整に基く争議ストップというものの性格は、ちよつと違うと私は思います。森山先生の質問される冷却期間というものは、労調法の三十七條に基いてある制圧でございます。これは明らかに、何といいますか、労使の休戰期間にすぎないような状態に現在置かれているわけであります。それはどういう形で置かれておるかと申しますと、この三十日というものは、あらかじめ争議行為ができない期間であるということに労働組合も当然考えておりますし、使用者側もそういう考え方を持つておるわけであります。従いまして、この期間は一応闘争を進める戰術の上の一段階として考えて進んで行くというこことで、どうしてもこの罷業権というものが合法的に出て来ないと、使用者側もなかなか交渉に乘つて来ない。また労働組合側も、そういう使用者側の実情でございますので、積極的な交渉というものがこの冷却期間の間にはなされないということになつている。従つて冷却期間三十日というものがございますが、これはまさに労使の間の休戰にすぎない状態でございまして、争議という状態を長引かせているだけだという実情でございます。従いましてたとえば今度改正いたす際にそういたしましても、大規模の争議の場合に、このような冷却制度を用いるということについては何ら効果がない、こういうふうに私は申し上げたいと思います。
  18. 森山欽司

    ○森山委員 あなたは先ほど、従来の冷却期間を廃して予告期間にしろと言われた、それもいいのです。但し労調法第十八條三号のような場合は、冷却制度にした方がいい。しかし緊急調整は一応はずすわけですから、労働法上の何らかのよりどころを持つて行つた方がいいだろう。われわれとしては、できるだけゼネスト禁止法はやめてもらうということになれば、労働法上に、大規模争議としても三十七條の冷却期間程度のものは、要するに職権調停とかあるいはまた調停申請とかいうような場合には、冷却期間を設けることが意味があるのではないか。それを伺いたいのですが、あなたはそれはないという御意見ですか。
  19. 長谷部儀助

    長谷部公述人 そうです。
  20. 森山欽司

    ○森山委員 もう一つ細川さんにお伺いいたしたいと思います。先ほどのお話を伺いますと、緊急調整について現在の改正案は要件が非常にルーズになつているという御見解であります。すなわち発動の場合について、公益側委員の答申のように「争議解決が困難であり、かつ放置すれば国民生活に回復すべからざる損害を與える緊急かつ現実の危険がある場合」というふうに嚴格に規定しておる。そしてまた緊急調整を開始するについても、内閣総理大臣の請求による、しかも中央労働委員会の決議によるというようなことである。今度は労働大臣だけという専断的なものになつておるが、こういうようなやり方じやない方がいい。今度の改正案は、緊急調整を発動するにしても、要件がルース過ぎるという御見解と拜聽してさしつかえありませんか。
  21. 細川潤一郎

    細川公述人 私は緊急調整の発動に、労働委員会の決議という審議委員会の公益委員意見、そこまでは申さなかつたのであります。労働大臣の所管でなく、内閣総理大臣の所管とすべきでなかつたか。それから発動の條件としては、その文字通りの必要はないと思うのですが、緊急ということがどつかにうたわれておつて、また損害もあまり漠然としておるのではなく、現実損害といつたようなことが想像される場合が必要なんじやないか。さらに重大なる損害が、回復すべからざる重大なる損害とまで行けば最も完全ではないか、こう申しておるのであります。
  22. 森山欽司

    ○森山委員 ですからあなたのおつしやるのは、緊急調整の発動要件を、改正法案よりもう少し嚴格に規定したらよいという御趣旨である、こういうふうに承つてよろしゆうございますか。
  23. 細川潤一郎

    細川公述人 その通りであります。
  24. 森山欽司

    ○森山委員 そこで、先ほどあなたのお話の中に、こういう緊急調整は、純労働問題以外に、労働問題でも他の要素が加わる場合があるから、こういうような緊急調整が必要だというようなお話があつたと思うのです。他の分子等を含む場合もあなた御想定になつて、緊急調整をお考えになつておられるようであります。そうすると、この他の分子とは、今日の時期においては治安上の問題ではないか。治安上の問題の場合に、こういう緊急調整をやつておいて、さらにゼネスト禁止法といつたようなものを置くことが、労働運動の推移から見て適当と思われるかどうか、ちよつと御所見を承りたい。
  25. 細川潤一郎

    細川公述人 経済問題と政治問題とがからんで起きて来る場合においこれを解決するのに経済問題、労働問題として取扱つて解決ができるのならば、その画の解決方法もつくられていいのじやないか、こういう意味緊急調整そのものには私は賛成をいたしております。
  26. 島田末信

    島田委員長 前田種男君。
  27. 前田種男

    ○前田(種)委員 細川さんに今の点で重ねてお聞きいたしますが、現在の状態のもとにおいては、この程度緊急調整はやむを得ないという意味での賛成のような御意見でございます。但し今提案されておるこの法案は、相当濫用されるおそれもあるから、この内容をある程度修正してもらいたいという御意見でございましたが、もし修正ができなくて、原案が通るという場合でも、緊急調整の内容はやむを得ないということで賛成されるのか、あるいはその場合は濫用されるおそれが多分にあるから、反対というような態度になられますやら、その辺の御意見を承りたいと考えております。
  28. 細川潤一郎

    細川公述人 法案通りの文言を用いました緊急調整が置かれると置かれないでは、どつちがいいかという御質問でありますれば、私はやはり緊急調整が定められた方がいいと考えます。
  29. 前田種男

    ○前田(種)委員 今まで現実に行われたいろいろな国内の情勢から見ますると、ゼネストその他の問題等があるいは行き過ぎだという批判もあります。その反動として、何とかして緊急調整にすがられあるいはスト禁止法を考えるということになつて来ている一半の事情もわかるわけです。今の改正案のような案が正式に法律化されたあかつきには、今度は逆に使用者団体の方が非常に強くなりまし事業上争議がやれないということのために、中労委の皆さんがあつせんされても、なかなか労使間の問題が妥決されないという逆な結果が今度は生れて来るという心配も強くされるわです。そういう点等から考えてみますと、やはり労働組合にはスト権を與えて、対等の立場において労使関係が円満に妥結されるような道が講ぜられることが理想に近いことでございますが、なかなかそうは行かないというので、緊急調整が講ぜられますが、原文にありますような、公益事業に限らず争議の規模あるいは特別の性質の事業等々というように幅広く解釈されますと、国民生活に影響しない事業はないというような結論が出て参るわけです。さようになつて、この條項が活用されるということになると、今までと逆な結果になる。それから予測される問題は、労働組合の非合法化という問題がまた生れて来ると私は考えます。この問題が相当心配になつて来るのです。要するに当然行われるところの争議権が制約されるという結果から、しかも使用者相当強腰で出て来られます反動として、労働組合の非合法的な争議行為が生れて来るということになると、これは今後の国家産業の再建あるいは社会秩序の維持から見ても、新しい今日予測せない問題が惹起されるということを非常に憂えますが、この点に対して、公正な立場におられますところの細川さんの御意見を、もう一度承つておきたい。
  30. 細川潤一郎

    細川公述人 純粹の経済問題あるいは労働問題だけで、この緊急調整の発動を見るということは、けだしまれであろうと私も想像するのであります。ただしかしいわゆるスト、ことに一般的のスト、ゼネストといつたような問題になりますと、これが政治的意味を含むもの、また経済的、労働問題的の意味を含むもの、それが区別のできないような形において行われることもあり得ることではないかと思うのであります。そういう場合にただちに政治スト、そつちの面からだけ解決する方法はあるけれども、労働問題として、経済問題として解決する方法がないというのではどうかと思うのであります。と申しますのは、純粋な政治ストであれば、労働委員会へ調整を持ち込まれたつて、労働委員会で扱いようがないのであります。しかし労働問題を含み、経済問題を含んでおれば、その経済面、労働問題面を調整することによつて、ひつきよう政治上の意味を含んでおるストも解決するといつたようなところへ行く可能性があるのじやないか。その面から見て労働問題として取扱われる緊急調整が必要じやないか、今日の情勢から見て、私はそう考えるのであります。それからこうやつて立法されることになりますると、この緊急調整に付するの決定に対しては、行政訴訟というようなものが起き得ることになるのではないか。これも法律上どうなりますか重大な問題でありますが、なるのではないかと考えられますので、そこで、法案では労働大臣決定でありますが、調整に付するの決定内閣総理大臣なり労働大臣がこれを扱われそして付せられた調整は労働委員会がこれを扱うことがいいのじやないか、こういうように考えます。
  31. 前田種男

    ○前田(種)委員 もう一点お尋ねしておきます。そういう重要な争議はたいがい中労委のある程度のあつせんが事前になされそうしてストに入るか入らないかというような大尊なときに、労働大臣が本法を発動するということになると思いますが。問題は労働大臣職権で発動されるところに多分に濫用のおそれがあるし、その濫用されるということを受け今度は使用者団体が相当強腰になるというような場合が多く予測されるのです。この濫用を防止するという意味においては少くとも中労委がある程度労働大臣職権発動に対して意思表示をする、あるいは政府側は中労委の意見を聞く。そうすればある程度濫用が緩和されるのではないか、中労委関係のそういう意見りも出て来ておりますが、もう一度その点に対する御見解を承つておきたいと思います。
  32. 細川潤一郎

    細川公述人 この緊急調整の発動には、十分慎重に考慮していただきたいと思うのでありまして、従つて法案の内容も、できるだけ條件を重くする必要があるということは先ほど申し上げたのでありますが、しかしこの法案通りで通過するとかりに仮定いたしましても、その緊急調整に付するの決定に対しては、行政訴訟の判断も受けるような道も法律論としてあるのだと私は思いまするので、こういう意味において、これを濫用するということは、政府としてもまた使用者側としても考えられないのじやないかと思います。この行政訴訟がこの決定に対して許されるということは、よほど政府及び使用者側を愼重にさせる役に立つと思うのであります。
  33. 島田末信

  34. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 細川公述人にお尋ねしたいのでございますが、公述人は先ほど、公共企業労働関係その他を一般労働委員会ではなく、別個の仲裁委員会で取扱つて行くというのはまずい。これをやはり権威のある大きいものでやるべきだというようなお話があつたと思うのでございます。先ほど長谷部公述人からお話になりました、主張されるべき問題の中心になつておりました主張は、占領軍管理下の労働法改正その他を、これは一切元にもどして、日本憲法の精神に基いて改正すべきだという御趣旨だつたと思うのであります。ところが細川公述人公述を承つておりますと、これは部分的な改正だ、大したものじやないというような観点にお立ちになつての御公述のように承つたのでございます。仲裁の問題でお触れになつておりますように、もし別個の委員会ではなく、一般の労働委員会で取扱うべきだというお考えの底には、やはり公共企業体関係というような、占領管理下の一つの方式としてやられた取扱いを全部元に返すべきだというものにもつながつているように、またそれがやられない限り仲裁裁定の方だけを別個に取扱いましても、これは、問題が解決しないのじやないかと私は思うのでございますが、その点につきましてはどういうふうにお考えでございますか。つまりワグナー法とか、ソビエトの法律なんかでは、特にソビエトでは、統一いたしまして一般の労働法での取扱いを確立しているわけでございます。リグナー法の場合には別な取扱いなつておりますが、そういう点で、部分的な小さな問題たというふうなお考えは、どうも四月二十八日、どんな講和であろうと、講和発効後のただいまの法律改正についての公述人のお考えとしちよつと納得いたしかねるのでございます。その点につきまして、仲裁委員会改正とからみまして、ひとつ御答弁いただきたいと思います。
  35. 細川潤一郎

    細川公述人 本案の改正が部分的になつているので、私は部分的の改正なつているから、それでは部分々々からただちに私の考えを申し述べますと申しただけなのであります。だから今回の改正がつまらぬ改正だ、小さな改正だとは、私は申し上げなかつたと思うのであります。  それから占領下における法律は、独立したんだから、全面的に改正しなければならぬという立場から、私は申し述べているのでもないのであります。但し委員会制度の問題になりますと、この改正の際において、すでに地方公営企業については一般労働委員会取扱いということになつているのだから、公共企業体においてもまた現業国家公務員取扱いにおいても、一般労働委員会に扱わせる方がいいのではないか。これは地方公営企業体について新しい法律ができませんでも、実はその主張は私が平素から持つていた考えなのでありまして、この意味においては、先ほどお述べになつた小川さんのお考えと大分違うのであります。公共企業体を取扱うそのところへ現業国家公務員が入つて来ては何かおさしつかえのように小川さんはお述べになつたのですが、私の考えはそれとは逆なのでありまして、全部を一般労働委員会で扱わしむべきではないか、また全面的な労働組合法労働関係調整法適用する。しかしながらその中から争議行為禁止というようなことは、地方公営企業法律にもありますように、やはりこれを除いておけばそれでいいのではないか、こういうように考えるのです。
  36. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 政府の方で新しい改正や、治安立法などをいろいろ考えておられる根底になつておりますのは、労働者の戰後與えられました基本的な権利の確立を占領軍の力で押えて来た。しかしそれを押えることができなくなつた。それに対して三百二十五号とか、二百一号という政令がなくなつて事実上破防法が出るまではあらゆる弾圧がやれない。私どもの委員会などでも、改進党やその他の党委員の御質問の中には、もし今労働者が自分の生活を守り、日本の国の独立を守るための大きなゼネストをやつたら、政府はどうして押えるんだ、押える法律がないじやないか、今やられたとして何も取締法律がないじやないか、こう言つて、労働者のスト権をどうして押えるかということで汲々としているのが現状でございます。それに対して細川公述人は、緊急調整は必要だということをしきりと先ほどから御主張になつておいでになるようでございますけれども、このことはあなた方の中央労働委員会という機構、これが法律的にやはり労働者権利を守り、生活を守るために、日本の合法的な国会という機関で確立されていたのに、それを否定するようなことを御自分でおつしやるように私どもは承れるのでございますが、その基本点になつているところは、どうも今日の御説明では納得が行かないのでございますけれども、なぜ労働大臣では足りないか、総理大臣の命令によつても緊急調整をやらなければならないか、労働者の経済ストでも緊急調整をやらなければならないという御主張がどこにあるか、それを憲法改正しなくてもやれるのかどうか、この点につきまして権威ある労働委員会の、しかも会長代理としておいでになりました細川さんの御答弁を承つておきたいと存じます。
  37. 細川潤一郎

    細川公述人 先ほどから述べておりますこととかわつたことを申し上げるわけではありませんが、この緊急調整の発動されまする多くの場合は、おそらくは政治的意義を持つたものとまぎらわしくなつている場合であろうと想像するのであります。それからまたこれを発動ずるのにつきまして、やはり公共福祉というところからこの制限が出て来るのでありますから、できるだけ條件を重くして、そしてまたその取扱いについても、ただ労働行政を所管する労働大臣でなく、国民生活全般の面からこれを考える必要があるだろうという意味で、内閣総理大臣が扱うべきではないか。ですから取扱いについてはできるだけ慎重に、いやしくも公共福祉に反するようなことがあつてはならないのだ。濫用は許さないのだ。慎重に取扱つてもらいたい。しかしながらそうやつて取扱われる上においては、緊急調整は今日の事態やはり必要だ、こう私は考えるのであります。
  38. 島田末信

    島田委員長 柄澤君、大分時間が超過しましたから、簡單にお願いします。
  39. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 私のお尋ね申し上げましたこととは別なお答えであつたように思うのでございます。それは何べんも先ほどから承つておるのでありまして、もちろん公共の利益を守るためにも中央労働委員会というものがあつたと思うのでございます。それを御自分で否定なされるような御発言があつたことに対しまして、私は御意見を伺つたのでございますが、御答弁が同じであれば、これ以上御答弁願わなくてもけつこうでございます。
  40. 細川潤一郎

    細川公述人 同様であります。
  41. 島田末信

    島田委員長 熊本虎藏君。
  42. 熊本虎三

    ○熊本委員 細川さんにちよつとお尋ねするのですが、先ほどから緊急調整は現状においては一応必要であろうというお話でございました。そこでお尋ねいたしたいことは、たとえば従来ありました十八條調停による冷却期間を十五日にする、さらにこれに却下権を與えた理由は、結局三十日間の冷却期間を置いても、その原因がどこにあつたかは知りませんが、いずれにいたしましても、争議権の発生したその瞬間でなければ問題が片づかない。だから従来は罷業権獲得の方法として調停申請がなされるきらいがあつた従つてこれを却下する制度を設け、それから三十日というものを十五日に減らすという十八條改正條文が出ておるのでございますが、それと対蹠いたしまして、あらためて五十日間の冷却期間を置いたといたしましても、その間やはり労使間がくすぶつて、そうして真剣なる解決の論議がかわされることなく、結局は長い間紛争が継続するにとどまる。結論としては、どうしてもそこへ来る。そこで第十八條改正とにらみ合せて私は非常に不安があるわけですが、御経験の上からいかがですか。
  43. 細川潤一郎

    細川公述人 ただいまの御質問でありますが、まつたくこの問題は困つた問題なのであります。これは現行法にいたしましても、三十日の冷却期間立法の趣旨は、決して争議権獲得のために労働委員会へ提訴するというような趣旨のものではなかつたと思うのであります。ただどうしても当事者間で解決のつかない場合には、ただちにストに入らないで、とにもかくにも労働委員会へ一応は持ち込むのだ。ちようど労働協約を結ぶ場合においても、平和條項を入れます。その平和條項を法律規定したにとどまると思うのであります。ですから立法の趣旨のように運用されて行けば、現行法のままでもけつこうですし、三十日を十五日に短縮しただけでもけつこうだと思うのでありまして、却下し得るというような條項はいらないと思うのであります。しかるに実際の場合として見ますと、とにかくスト権を一日も早く獲得するためにこの提訴が行われる。こういうことになつたのでは、当事者間において労働問題を自主的に解決するという能力をいつまでたつても養成できないのであります。自主的解決の能力はだんだん薄らいで来て、そうして労働委員会の手を借りなければ問題は解決しないという、まことにその弊害を助長するのであります。この弊害をどうやつたらいいか。三十日の現行法のままがいいならばけつこうですし、今度法案に現われておりますかくかくの場合に却下し得る、こういう規定を置きましても、おそらくは労働委員会は却下というのを空文に終らしてしまうだろうと思うのであります。ですからこの條文にはあまり重きを置く必要はないのであります。非常に反対が強ければ、却下の点は除いても私はいいと思うし、あつても実際はこれはおそらく活用はいたしますまい。現に労調法の十八條の三号ですか、労働委員会において必要ありと認めたときはという條項がついているにもかかわらず、提訴されて、必要なしとして労働委員会が決議した例はわが国にないのであります。それと同じことであろうと思うのであります。あまり私はそこを重く考えていないのであります。ただ公益事業に関しましては、ただちに争議に入らないで、一応は労働委員会へ持ち出して来てもらうという意味において、冷却期間がある。この意味で、長谷部さんの先ほどの御意見と少し違うのでありますけれども、とにもかくにも一応は労働委員会へ持ち込んでもらいたい、こういう意味で冷却期間というものは私はやはり賛成するのであります。
  44. 熊本虎三

    ○熊本委員 ただいまお答えを聞いておりますと、どうしても罷業権獲得のために労組側のみがそういう形において真劍なる交渉に入らないとおつしやるのですが、私の考え方からすれば、いよいよ、罷業権があすから発生するのだという瞬間に物が收まつておるということになりますと、それはその間において論議された條件より必ず経営者の方が多く出して解決をしている。だからそこまで行かなければ経営者が出さないのであるから、やむを得ず労働者罷業権の獲得を急ぐ、この意味において私どもはこの五十日間の冷却期間を見ましても、同じような紛争をやつて、いよいよ争議をやられては困るというところでまた経営者が出してそれで物が片づく。そうすると、その五十日間が百日間になろうとも、その間くすぶつて、労使間における正常なる労働行政、生産従事ができないだけ損ではないか。これは過去の例で――私から言うと、私も労働運動に籍を置いておりますから、何かへんぱに聞えるかもしれませんが、実際御体験になつておる細川さんが一番よくご存じだと思う。そこで時間もありませんから続けて言いますが、今度の労調法改正に関する限り、ことごとくこれは規制文がついておりますが、この規制、罰則に至るまで、それはことごとくが労組関係に関する規制であり、罰則であるのです。それについて細川さんは何もお触れにならなかつたのですが、それならば、独立後の日本の経営者の方が、正常なる労働行為について、特に日本の産業経済の発展のために、自我を捨てて誠心誠意やるのだ、そういうもんちやくの起るのは労組の方ばかりが悪いのだという観点に立たなければ、もちろんこういう改正は出て来るわけはないのです。そこで私はお聞きしておきたいことは、細川さんもやはりそういう御体験によつて御意思があるのか。一方にも行き過ぎがあつたことは事実でありましよう。ですからある意味において、講和後こことここは悪いということは求められる節があるかもしれません。しかしながらその反対側であります、経営者側の傲慢な、争議さえやらなければどんなにでも逃げて行こうというようなこの態度を、せつかくの労調法で規制することなく、強化することなく、これをやつて行けばうまく行くのだというお考え方は、あまりにもどうかと私は思いまして、労働大臣に聞いたのでございますが、悪いやつは徹底的にやる、こうしまいには追い込められて答弁されたにすぎませんが、実際御苦心になつておる細川さん方のお考え方を、一応お聞かせ願えれば幸いだと思います。
  45. 細川潤一郎

    細川公述人 いろいろ御質問でありますが、冷却期間の問題と緊急調整の点につきましては、私が先ほどから申し上げた以外には申し上げる点はないのであります。ただしかし、私はどこまでもこの問題を純粹の労働問題として考えて行きたい。そうして他の分子とからんで起きた問題も、その中から労働問題として取上げて考える。こういうことで、どこまでも純粋の労働問題として考えております意見を述べただけであります。
  46. 中原健次

    ○中原委員 細川さんにちよつとお伺いしたいのですが、いろいろ御公述のありました中で、だれもが気がついた点でございましようが、緊急調整のことについて、その必要性をお認めになられたと思います。ところでこの問題を考えるときすぐ問題になるのは、最近の政府のいろいろな立法措置が、何か労働運動を特に対象として、これに対して治安的な措置を講じて行くという傾向が非常に露骨に出たようにお思いにならないでしようか。この点についてどのようにお考えになりますか、伺いたいと思います。
  47. 細川潤一郎

    細川公述人 私はただいまも申しましたように、純粋の労働問題として問題を考えて行きたいと思つております。私が先ほどから述べておりますことは、どこまでも労働問題として考えたことにととまつているのであります。
  48. 中原健次

    ○中原委員 労働組合が最近ストライキその他の団体行動の方法をとつております。そこにはもちろん一つのよつて立つ根拠があるわけであります。ただ事を騒がすためにやつておるのではありません。純粋な労働運動に関する場合ということでありますが、それならばこのような場合にはどうお考えになられましようか。たとえば労働者が今まで確保しております一つ労働條件を低下させるような、あるいは労働條件の維持を危ぶませるような、そういう法的措置が、政府から提案されました場合、労働者はこれをただ手をこまねいて見ておるわけには参りません。そうなれば労働者は何と申しましても、今までの既得権としてせめてそれを守ろうとする行動を起すわけです。それがたとえば立法措置に対する反対行動になるわけでありますが、こういう場合その反対行動は、これは純粋な政治鬪争とは言えないと思います。これをどういうふうにお考えになりますか、お尋ねしておきたいと思います。
  49. 細川潤一郎

    細川公述人 ただいまお尋ねのような場合でありますと、使用者労働組合との間においてその問題の解決ができるか、また緊急調整決定されて労働委員会に持ち込まれますが、労働委員会がこれをどう扱い得るかという問題にもなりましこれらの問題を考えますと、どうもただいまお尋ねの問題は労働問題ではないという結論になるのではないかと私は思います。
  50. 中原健次

    ○中原委員 それでこの労働問題、いわゆる経済問題と政治問題の限界が実際はちよつとつけにくいことになるのです。法的な措置で労働者労働條件が低下させられて行くということになりますと、これは労働者の生活権を脅がすことになります。労働者の生活権を脅かすということは、ひつきようするに労働者の経済問題であります。もちろんこれは直接的に資本家、経営者を対象としての交渉でありませんけれども、その措置が経営者の主張をいわば裏づけして行くという方面にからまつて参ります。そこでこの経済と政治との限界は実にあいまいになるような條件下に、今、日本労働階級だけではなく、すべてが置かれておるわけです。そこでこの線までが経済問題であり、これからが政治問題であるというふうに、はつきり分類してかかるということはむずかしいわけです。そういうことであります関係上、やはり労働関係に携わる人は、どのような部面におかれても、この点については十分公正な見地でお考え願わぬことには、とうてい当面の問題がいい解決を見ることはできないと思います。これについて無理解な見解をとつて、ひたすらにこれは政治的な意味を持つから治安云云ということで押えつけて行くということになりますれば、戰後ともかく労働権を確認いたしまして、憲法がああいうふうな措置を講じまして以来、ようやく労働者の地位を対等な地位へ高めようとしておるやさきに、それをあわただしく追い返して行くというような傾向が、最近見られるのではなかろうかと思います。たとえば今度の緊急調整の問題でも、これは非常にややこしいのです。この條文を吟味して行けば行くほど、実は非常に不安になつて来る。、これは労働大臣権限とし解釈ではどのようなことでもできると思いますが、この三十五條の二の解釈というのは、私は下手をすると非常に拡大されて行く危険性があると思うのです。非常に拡大されて解釈されて参りますと、この條項をたてにとりまして、労働大臣労働権をものの見事に蹂躪しても、しかも合法的な措置であるというふうに言い切ることができるような危険をはらんで、おりはせぬかと思うのであります。時間がありませんからあまり理論の詮索をしようとは思いませんけれども、少くとも中労委に籍を置かれます細川さんとしては、やはりこういうことについて現在のそういう諸條件の中でそれをお考え願わなければ、われわれといたしましても安心しがたいということになつて参ります。  ついでにもう一つ伺つておきたいのですが、従つて労働條件の問題というのは、結局庶民階級の中の勤労者一つの特別な條件、特別な生活條件を、法的措置によつて何とか地位を高めて、これを防衛しなくちやならぬというところから出発しておると思うのですが、そうであるならばそういう立法精神をなるべくはぐしみ生かすというような努力はいらないのであろうか。どうも最近の措置、特に法律的措置の中から考えますと、そういう点がだんだん薄められつつあるというふうに私どもには見える。従つて今度の労働関係立法改正問題につきましても、私どもは改正という言葉をよう使わぬ。やはり改悪という言葉を使わなければならぬような結論になるのです。中労委でもこれはおそらく重大問題だと思うのです。その点につきましてもどういうふうにお考えになつておるか、この場合伺つてみたいと思います。
  51. 細川潤一郎

    細川公述人 先ほどからたびたび申し上げましたこと以外にわたる余地はないように思うのでありますが、労働委員会立場としては、どこまでも純粹の労働問題として取扱うのでありますし、緊急調整についてもいろいろ混淆した問題を労働面から解決し得る。またその方法がいいというときに緊急調整が発動されるものと考えますので、この緊急調整にはやはり賛意を表せざるを得ないのであります。
  52. 中原健次

    ○中原委員 それでは最後にお尋ねしますが、この第三十五條の二を見まして、こういうふうにお考えになりませんでしようか。どうも最近の傾向として、政府は少し労働問題に介入し過ぎはしないか、労働問題の中に介入し過ぎるという一つの現われがこの法律改正案の中に出ておるように思えるのです。と申しますのは、中労委あたりの権限を狭めて行くというような傾向が出ておるようにも考えられるのです。しかも中労委の委員の委嘱の方式等を見ましても、大臣の任命というような妙な形が出ておりますが、これらにも矛盾があると思います。今その問題は考えておりませんが、とにかく今度の法的措置というものを見ると、政府労働問題に介入し過ぎる。そうして公共福祉を害するような場合、その責任の所在は経営者側にあるのではなくて、いつの場合にでも労働者側にある、こういうような印象を解釈上投げ與えておると思います。ここに不正なものがある。そうなつて参りますならば、やはり経営者側にも争議に関連して責任のある場合がしばしばあると思う。ところが経営者側に対しては何らの規制もない、労働者側に対しては相当大幅な規制がある。こういうところに、最近の労働行政のねらう方向というものが、はなはだ遺憾な点に落ち込みつつありはしないか、こういうことについても一応中労委の細川さんの御見解を承りたいと思います。
  53. 細川潤一郎

    細川公述人 ただいまの御質問は、法規そのものよりも法規の運用の問題ではないかと思うのです。運用よろしきを得ればそういう弊害は避けられるのじやないかと思います。
  54. 倉石忠雄

    ○倉石委員 長谷部さんに一言お尋ねしたいと思いますが、先ほど船越さんの御質問に対して、日本憲法第二十五條では、すべて国民は文化的な最低生活を保障されるということである、しかるに日本労働者はまだ生活を保障されておるとは言えない、だから労働法などでいろいろな制限を加えることはよろしくないのだというふうに私どもは承つたのでありますが、それで間違いありませんか。
  55. 長谷部儀助

    長谷部公述人 私の申し上げましたのは、憲法第二十八條労働三権があのように保障されておるにもかかわらず、現在の国家公務員あるいは地方公務員あるいは公共企業体職員諸君に対しましては、あの保障の條項よりも相当制約された状態に置かれておるのではないか。それはやはり公共福祉とか、国家公務員の持つ性格、そういうものからしてあのような制約が置かれて来ておるということも一面考えられます。しかしそうであるならば、別にそれらの労働者に対しては、積極的にそれにかわる生活保障がやはり法律でなされなければならないと私は考えております。それでははたしてその面があるのかということを申し上げますと、それは遺憾ながらないのじやないかというふうに私は申し上げざるを得ないわけであります。それはなぜないかと申しますと、たとえば公共企業体職員に対しましても仲裁委員会等もございます。それから公務員に対しましては人事院の存在がございます。しかしこれらの勧告あるいは仲裁案等がそれぞれ守つてくれておるかどうかということについては、現実の問題として、しかく簡單にそうであるということは言い切れない状態にあるのではないかと考えられるわけであります。その意味におきましても、日本憲法で生活の保障を定めているにもかかわらず、生活の保障は各人が自由に求めて行くべきだというふうな解釈しかでき得ないのではないか。法律保障をしてない限りそういうこと以外にないではないか。それは何かと申しますと、労働者が団結をいたしまして、みずから生活の保障を求める以外にない。これは団結権であり、団体交渉権であり、争議権である、こういうことになると思います。そういう建前から申しますと、今申し上げましたような百八十万に近い労働者諸君が、せつかく憲法保障されている権利を制約されその陰にあつて何ら生活保障という法的な措置が講じられない、これは明らかに憲法からいつても正しい措置と言えないのではないか、こういうことを私は申し上げたわけであります。
  56. 倉石忠雄

    ○倉石委員 もう一言それではお尋ねいたしますが、船越右のお尋ねは、国民が自由を主張する前提としては、常に公共福祉ということが先付しなければならないのだ、それが日本憲法の精神だというのです。そこで公共福祉を尊重しなければならないのだが、今日の労働者はその憲法によつて保障された生活すら困難なのであめるから、その人たちが争議をやる、憲法保障された争議権を発動するということは、公共福祉に優先するのであると解釈してもよいと思われますか。
  57. 長谷部儀助

    長谷部公述人 公共福祉という概念につきましては見解がいろいろあろうかと考えます。しかし私ども考えますところの公共福祉というのは、やはり財産権憲法保障し、その侵害ははつきり刑法、商法その他で罰せられております。これは私有財産というものを明らかに国家が守つて行くならば、当然労働者の生活を保障する諸権利も平等に守られて行かなければならない。これが対等の立場に立つてこそ初めて公共福祉ということであろうと考えるのであります。この点において片方の財産権保障だけは確実に守られているが、しかしながら労働三権の方の勤労者保障の点については欠くるところがある。こういうアンバランスの形において公共福祉という存在はあり得ないのではないかと考えます。やはり憲法に基くところの権利保障は、平等に認めて行くところに正しい公共福祉があるのではないかと考えるわけであります。
  58. 島田末信

    島田委員長 公述人の方々はまことに御苦労でございました。  それでは午後一時半まで休憩いたします。     午後零時四十七分休憩      ――――◇―――――     午後一時五十九分開議
  59. 島田末信

    島田委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  全逓信従業員組合中央執行委員長永岡光治君。
  60. 永岡光治

    ○永岡公述人 ただいま御紹介いただきました全逓信従業員組合執行委員長の永岡光治であります。ただいまから労働関係調整法等の一部を改正する法律案地方公営企業労働関係法案及び労働基準法の一部を改正する法律案についての公述人としての私の意見を申し上げたいと思います。  まず第一に断つておきたいと思うのでありますが、公述人の顔ぶれを拝見いたしますと、大体私の受持ち分野は、主として公企体関係職員を代表しての意見及び国家公務員を代表しての意見を吐くことが適当かと思いますので、そちらの方に重点を置いてただいまから意見を発表したいと考えております。  御承知のように昭和二十三年の七月に、占領政策に基きましてマッカーサー書簡が出、ポツダム政令が出まして、国家公務員法等の改正なつて今日に至つておりますが、先月四月二十八日に講和が発効いたし、占領が終つた現在においては、これらのマ書簡に基く法規関係は一切無効なるものとして、その上に立つて考えるべきであるということを主張したいと思うのであります。こういう点から考えてみますと、まず第一に考えられますのは、当然国家公務員といえども憲法の第二十八條規定されている労働者の基本的な権利が與えらるべきであるということが、この法律の中にすべてを通じて現われていなければならぬと思うのであります。またその観点に立つて今度の労働法規の改正がなされなければならぬと考えておりますが、拝見いたしますと、この三つの法律案の中では、そういうものはごく一部にしか出ておりませんで、最も望むところの基本的な権利は何らうたつていないということを、非常に残念に考える次第であります。私ども国家公務員立場で考えますと、なるほど国家公務員法というものがありまして、この法律に基いて私どもの労働條件なり身分を保障されるように規定してあつたはずではありますが、現在の運行から見まして、マ書簡が出ました当時のねらいは、この国家公務員法によつてはごうも実施されていないということが、現在私どもが国家公務員に対しても労働三権を返してくれと強く主張するゆえんであります。御承知のように、人事院は民間の賃金状況と比較して勧告をすることになつておりますが、勧告がそのままいれられたためしは一度もありません。しかもわれわれ国家公務員に対しましては争議権は否定されております。そして争議権が否定されているために、待遇改善というのであるならば、それは国会の審議にまつそこで君たちの要求はかちとるべきが至当であるということをよく言われるのでありますが、その一番大事な国会に対する私たちの政治的な働きかけということすら、政治活動の禁止という條項で認められていないというのが、国家公務員の現在置かれている悲しい立場であるわけであります。私どもは、ただ單に憲法保障されているから、それだけでよこせということ以外に、現在まで味わつて来たこの苦しい労働運動の状況、そしてまたこの国家公務員法では生活が保障され得ない現在の状況、二十三年の七月以来苦しみ続けて来た結果の上に立つて、ぜひ今度だけはこれを改正してほしいというのが私どもの主張であるわけであります。現在西欧諸国を見ましても、やはりこの労働基本権はみな保障されているように聞いておりますし、イギリス等の場合におきましても、明確に争議権もあるし、また今度の公共企業体等の労働関係法等で規定されております調停委員会ないし仲裁委員会の裁定の制度と同じようなものがイギリス等にありますが、この裁定をくだされた場合に、いまたかつて一度も政府はこれを拒否したためしがないということであります。こういう点から考えてみましても、現在の状況下においては、ぜひこの労働基本権の復活だけは主張したいと思います。自分たちの立場はもちろんでありますが、これを国際的に考えてみましても、最近しばしば言われておるように、どうも日本が逆行しつつあるのではないかという印象を受けておるやさきにおいて、ぜひこれは改正する必要があると考えておるものであります。最近私どもの関係しております郵便電信電話労働組合の国際本部がありますが、そこからの日本政府に対する嚴重な抗議書等を見ましても、当然この三権は復活すべきであるということが、世界の労働組合の名において申し送られておるという事実を見ましても、これはぜひとも返さなければならぬ問題であると思います。それが今度の三つの法律案の中では考えられていないということは、非常に残念であると思います。  次に、労働関係調整法の中に入つてみますと、一般の民間の労働組合に対する労働関係の一環として考えられておる緊急調整の事項がありますが、これは先ほど総評の長谷部公述人からも公述があつたようでありますが、争議権はなぜ労働者に與えられたか、この本質を考えなければならぬと思うのであります。そういう本質を考えてみたときに、やはりこの緊急調整というものは不当であることが明確になるのであります。労働者労働組合というものは弱いから争議権を與えておるはずであります。争議権があつて初めて対等の立場交渉ができるというのが憲法保障された立場である。私どもはこういうふうに考えておりますがゆえに、この緊急調整という條項を考えた場合に、労働大臣緊急調整決定して、公表後五十日間の冷却期間を設けるということは、争議現実問題としてできないということを前提にした上に立つている。ということは、争議権を奪つたと同じ形で問題を処理しようという建前に立つ以上、私どもはこの点には絶対に賛成しかねるのであります。  第二点は、この法律案を見ますと、同じ法律案の中で労働調整として考えらるべき法律の條項と、一般現業国家公務員に対する労働基本権の一部の復活の條項とを、同一法律案で扱うという考えが出ておるということが、どうもふに落ちないのであります。権利復活ということと、その調整ということはおのずから別個の問題でありますから、これは別々の法律として当然考えなければならぬというように考えますが、この点は今のような情勢下からして、非常に政府の態度を疑いたくなるわけであります。この点は私どもとしては非常に遺憾であると思います。  それから現業国家公務員として郵政、農林、アルコール、造幣、印刷等が公共企業体労働関係法ということでこの法律案の中に入るわけでありますが、この立て方をずつとながめてみますと、やはり私どもは、身分が国家公務員であるということで非常に無理な制約を受けておるというのが、この前国家公務員全体に対して労働基本権を復活させてくれという要求と同じ考えに立つわけであります。こういうものが身分で区別されるということは、私は非常にいけないことではないかと考えております。先ほど公述人の専売公社の総務部長さんから話があつたようでありますが、これはほんとうの事業の実態を政府が十分把握していないのではないか、こういう点を私どもは非常に残念に思うのであります。たとえば私どもが関係しております郵政事業でありますが、今度大きな市以上に置かれております電通関係公共企業になりますけれども、それと同じ仕事は町村の郵便局は全部やつておるわけであります。なおまた私どもの郵便事業をとりましても、郵便通信で一番重点を置かれているのは大都市全部の市街の逓送でありますが、これは民間に請負いをさせております。御承知のように赤い自動車が東京都内を飛んでおりますが、あれは会社であります。これは事業が大事であるというならば、会社であるということだけで許さるべきではないと私は考えておるわけであります。しかもあの赤い郵便車には集配人が乘つて動くわけであります。それが争議を許されて、ただ郵便配達するとか、区分するとか、あるいは窓口でお客に接するとかいうことだけで、そういう人を除外いたしまして、争議はできないのだという非常に矛盾した考え方を持つているのであります。一方事業が重要だということで物事を考えるとするならば、私はむしろ電気事業の方がタバコ事業よりはよほど重要でないかと考えるわけであります。タバコ一日、二日とまりましても、国民生活に重大な影響を及ぼすとは考えません。これは賢明なる国会議員の各位もそう考えられると思うのであります。それよりも電気がとまり、石炭がとまるということの方がよほど私は国家的に見て重要であると思うのであります。そういう事業については争議権はいい。しかしそれがたまたま公社であるとか、国家公務員であるとか、身分があるということだけで争議もできないという考え方は、まつたく矛盾した考え方であると考えるのであります。そういう関係からいたしまして、私どもとしては、事業の実体を考えて、この問題はやはり民間と同じような形で考えらるべきが正当である、こういうふうに主張するわけであります。なお公共企業体労働関係法の中に入つておりまする現在の国家公務員の中での該当するものでありますが、これは現在この法律を見ましても、一部は国家公務員法適用を受けることになつております。私ども條文を見まして非常に奇異に感ずることは、当然この段階に至るならば、まず労働関係については、少くとも公共企業体労働関係法が先行する。これが主であつて、身分関係に限られた、ごくわずかな者についてのみ国家公務員法適用を受けてもいいのではないかと考えておりますが、重点はやはり国家公務員法というものに重点が置かれまして、公共企業体労働関係法というものが従になつております。この点がやはりこの法律のねらいとして、私どもの主張するところとはまつたく逆な方向に出ておるということを主張したいのであります。  それからこの中に現われておりまする政治活動の禁止の條項でありますが、同じ法律であるこの公企体等労働関係法等の適用を受ける私どもの立場として、国家公務員であるということだけで――これは先ほど申しました労働関係適用の問題と軌を一にするわけでありますが、国鉄にいたしましても専売にいたしましても政治活動は自由だ、地方公営企業労働関係においても政治活動は自由だ、しかしお前らは労働者かもしれぬけれども、国家公務員だから政治活動はだめなんだ、しかも争議行為禁止している、こういうことでは、まつたく私どもとしてはおかしな、片手落ちの取扱いだと思いますので、この政治活動の禁止というものはぜひともこの際排除して、自由にできるという建前をとらなければならぬと思うのであります。  もう一つ、これは一番問題になる條項と思いますが、今度の改正を見ましても、公企体等労働関係法につきまして、あるいは調停なりあるいは仲裁なりの裁定が下りましても、両者これに従わなければならぬという條項が明確になつているにもかかわらず、予算上、資金上という名目で政府がこれを拒否することができる條項はいまだに改正を見ておりませんが、これは私どもこの法律のねらいとしての兵の意義が生きて来ないと思うのであります。もちろん私どもは国会の審議を無視するものではありません。最終的には国会の審議に従うことは、国民の一人として当然であります。この国会の審議、国会の決議というものに対しては全部服従することは当然でありますが、その前に政府の独断でそれを出すとか出さないとかきめる点において、この法律は一体何でそういうことをきめたかという精神まで遡及しなければならぬのであります。争議禁止し、そして労働基本権を奪つている以上は、当然政府はその裁定に従うということになつておるのですから、これはその裁定に従つて、予算を組んで国会に諮るべきだと思うのであります。そうして国会がそれはだめだと言うならばいたし方ないことでありますが、最初から国会の審議はどうあろうとも、自分一方でこれを拒否することがでまるという建前をとつているこの考え方には、賛成することができないのであります。  なおこの適用の條項の中で、これは私ども郵政関係になるわけでありますが、この適用を受ける対象になる職員として、事業としてここに明確にいたしておりますが、これだけでは不十分ではないかと思いますので、その点を特に御説明申し上げたいと思うのであります。第二條に「この法律において「公共企業体等」とは、左に掲げるものをいう。」とあつて、その第二号において「左に掲げる事業(これに附帶する事業を含む。)を行う国の経営する企業」とありますが、そのイの項で「郵便、郵便貯金、郵便為替、郵便振替貯金、簡易生命保険及び郵便年金の事業」ということになつておりますが、実は先ほど申しましたように、郵政省の事業としては、町村以下の電報や電話というものは郵政省がやつておるわけであります。この対象の従業員がこれに明示されていませんので、いろいろ立案当局の説明を求めました。そしてまたこの逐條説川書の中にも一応明示してありますが、電気通信から委託されましたところの町村以下の電気通信事業の従業員というものは、この中に附帶事業として含まれるという説明をしておりますが、何しろ四万人に及ぶ従業員でありますので、私どもは、この際もしそういうものもこの附帯事業として含んでいるということであるならば、なおさらこれは明示しておいた方がいいのではないか、やはり四万に及ぶ大事業を、はたして附帯ということだけで片付けられるかどうかということになると、説明書や政府考え方にはかわりないようでありますが、私どもとしては、明確にここで表示した方がいいのではないか、明示しなければならぬ、こういうように考えておるわけであります。  それからいま一つは実施期日の項でありますが、公企体になります電信電話事業につきましては七月一日から実施をすることになつており、他の国家公務員法適用を受けるものについては、来年の三月三十一日以前の日であつて政令で定める日まではこの法律適用しないことになつておりますが、私はこれは非常に不合理だと思うのであります。なぜそういう区別をするのかいろいろ立案当局にも聞いてみたのでありますが、真相はどうやらこういうことのようでありますので、もしその真相が事実とするならばもつてのほかだと考えるわけであります。それはたしか財政法三十五條と記憶いたしておりますが、大蔵大臣が一応各省の予備金制限をすることになつております。ところでその條項があるにもかかわらず、これは各特別会計にあると思いますが、郵政の場合は、たしか郵政の特別会計法の二十六條と記憶いたしておりますが、その中で一応まかされておる予備費があるのであります。それは所管大臣限りで支出できるという條項があり、もちろんこれは業務の運用上必要という條項はついておりますが、その條文があるために、公企体は予算上、資金上ということで縛つておいて国家公務員にそういうことがあつてどんどん支出されると困るので、その修正ができるまで待つてもらうのだ、そういう説明であるやに聞いてお  るのです。それでわれわれ事業当局でいろいろ調べて見ましたが、なるほどその條項はありますが、実体予算に関する限り今年度郵政大臣がかつてに出せるという金は一文もないわけであります。従つて当局の心配することは三月三十一日までには起り得ない。しかもこの法律は三月三十一日までには発効させなければならぬということでありますので、私はそういう考え方は必要がないと同時に、むしろ先ほど申し上げましたように、郵政大臣において予備費を業務の運営上必要があるときに支出できることはけつこうなことである。必要であるから現在の特別会計法にもあつたと思うのであります。この臨機即応の措置をとつて国民の輿望にこたえる施策をなそうとするために入れられたこの條項を、わざわざ制限するような必要はごうもない。むしろ予算上、資金上押えられておる公企体の関係のこの條項を改正する方が、先ほど申し上げましたような観点から正しいということで、むしろそつちの方の修正を要望したいくらいでありますので、この実施期日はそろえてもらいたい。御承知のように私どもの職場の中には、これは現実の実態の職場のことで恐縮するわけでありますが、同じ郵便局の建物に、一方は郵便がおり、一方には電信、電話がおるというのが現実であります。期日をわけると、一方はもう公企体になつたというので七月一日からはお前さんたちとは法律関係が違うのだということになりますが、町村の電信電話は郵政の職員がやつておるという仕事の実態から考えまして、この実施期日は当然そろえるべきが至当であるこういうように考えておるものであります。  もう一つ、最後に考えられることは、公営労働関係のいろいろな法律が、労働関係調整法、基準法、今度は公共企業体労働関係法あるいは地方公営企業労働関係法国家公務員等いろいろ錯雑して来ておりますが、こういう例は外国にはまあないようであります。労働法というものは、やはり一本にしたすつきりした形でこれを改正しなければならぬ段階に、今日本は来ておるのではないかというふうに考えますので、ぜひこの点も国会議員の皆さんの方で叡知を働かしていただきまして、そういう方向に改正していただくように、特にお願いしたいと思うのであります。  制限時間が迫つたようでありますので、以上私の意見を申し述べまして、私の公述を終りたいと思います。
  61. 島田末信

  62. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 私はただいま御紹介を受けました経営者団体連盟の労働法委員長をしておる箕浦であります。  今度の労働法改正は、労働省当局としては各種の委員会の論議をたいへんよく検討されまして、非常に取捨選択に御苦心の跡が法文の上にもはつきり現われておりますが、またこれだけに私どもといたしましては、各方面からそれに対しては批判を加えねばならぬ点もあるように思います。私どもといたしましては、大体このたびの改正案を取扱う上におきましては、基本的には三つの考え方を持つておるのであります。第一は、現在の労働関係法は、わが国労働運動性格並びにその実績をある程度反映したものでありまして、必ずしも占領下にでき上つた法律であるがゆえに、占領の解除後には、当然それが改正されなければならぬという性質のものではないと思うのでありまして、むしろこの際は、現行法の建前といたしましては、現状維持を原則として、大幅の改正を行うべきではない、こういう立場をとりたいのであります。  第二は、今後の国際関係と国内経済の複雑困難なことから考えますと、労働問題ないしは労働運動はますます政治性を濃化するに違いないのでありまして、そういう場合には国家社会の治安を脅かすような緊急事態の頻発が予想されるのであります。労働法のわく内ではとうていそれらの問題を処理することが不可能であると考えられますので、それらの点もこの改正法案審議と並行して、一般治安の面からこれが法的対策を講ずべきではなかろうか、こういうふうな考えを持つておることであります。  第三点といたしましては、労働問題の解決は、労使双方の自主性を尊重するということは、原則として申すまでもないことでございます。しかしながら公益事業争議につきましては、現在よりもさらに労働組合の責任と自覚を強く要請されねばならぬのではないか、そういう段階にあると私どもは判断するのであります。そうして公共福祉との調和をはかるためには、実効のある措置が望ましいと考えております。この三つの基本的の考えを土台にいたしましこのたびの改正案につきまして、二、三私どもの考えを申し上げてみたいと考えておるのであります。  第一に労調法関係について申し上げますと、現行法の第十八條並びに第三十七條改正によつて、いわゆる冷却期間が三十日から十五日間に短縮されておりますが、交渉当事者の交渉努力が十分であるかどうかという事実の認定につきましては、非常に基準を設けにくいのでありまして、また労働委員会性格から申しましても、却下制度はほとんど運用上困難であるとわれわれは考えておるのであります。でありますから、これに多くの期待を持つことができない。しかも従来は調停案が出ますと、これを拒否して争議に入る、そうしてその間調停案を踏み台として鬪争をするというのが従来の慣例のようになつておるのであります。すなわち常に必ずしも団体交渉が十分盡されないで争議に入るという現状から見ますならば、冷却期間争議調整方法としては不適当である、こういうことを申し上げてよいと思うのであります。最近の争議の実例を見ましても、こういう調整方法の限界を越えて、すでに公益事業の野放し争議といつたようなことが言われておるのであります。そのために不当に公益を害し、あるいは国民経済に損失を與える結果を招いている、かように考えるのであります。こういう場合には、争議の状況に応じて、労働委員会が必要と認めるところによつて争議行為自体を一時停止せしめる、そうして実情調査によるところの調整措置をとることが、わが国労働慣行の実情に非常に適しており、かつまた労使の自主交渉を真に促進するゆえんであると私は考えるのであります。その意味で、公益事業争議に対しましては、争議行為の事前予告制あるいはまた職権調査制というものが妥当であると考えておるものであります。  第二に、公益事業争議等で、公益に著しい障害を及ぼす労働争議につきましては、労働大臣職権による緊急調整措置を講じて、その間五十日間の争議行為禁止する、こういう改正につきましては、あえて反対するものではございませんけれども、こういう措置は、その対象たる緊急事態という争議性格からすれば、これはむしろ労働争議といいますよりも、治安立法措置によつて取上げられる問題ではなかろうか、かように考えるものであります。われわれといたしましては、政令の三百二十五号がなくなつた後において、どういうふうな国家的緊急事態に対しましても、国民の安寧と福祉とを守るためには、治安上の立法措置を講ずること、これは独立後の民主的法治国としては当然なすべき責務であると信じておるのであります。そうして労働争議といえども、それによつて招来されるところの事態が社会の秩序を乱し、国民生活を脅かす性質のものであるならば、もはや労働法規で取締るところの範囲を逸脱しておると考えるのでありまして、他の破壊的集団行為と同様に、治安立法によつて禁止せらるべきであると考えるのであります。講和後相次いで起つておるところの一連の政治ストあるいはまた過般のメーデーの騒乱事件等に見られるような、破壊的集団行為によるところの緊急事態に対処するためには、労働法で調整するところの問題の範囲を越えて、治安問題であるということをここに強調したいのであります。過般のメーデーのあの事件のときに、私は金属鉱業の労働委員会に出席のためにゼネヴアに行つておりました。ちようど三日にその委員会が終つたのですが、二日にこちらのメーデーの情報が入りまして、委員会の席上で各国の代表からたいへんその点をなじられたのでありまして、まことにはずかしい思いをしたのであります。そのときの各国代表の意見といたしましては、やはり現在の日本においては、どうしても治安立法といつたような形の法律を確立して、しかる後に公正なる労働運動を展開しなければ、そこに常に大きな不安があるのではなかろうかというような意見でありました。この点は、私」ども立場立場であり、時期が時期であるだけに、たいへん微妙な立場におつた次第でございます。  次に公労法関係について申し上げます。私どもといたしましては、この公労法の適用範囲を国家公務員中の現業職員に及ぼして、これに団体交渉権を認めるという改正には反対せざるを得ないのであります。国家公務員は、国民全体に奉仕し、国家組織の統一的性格と行政秩序の維持という観点から、現行国家公務員法によつて、その身分、職責に即応した労働関係に置かれておるのであります。しかるに改正案は、その一部たる現業公務員公共企業体職員と同様の取扱いに改めようとするものでありまして、公務員法、ひいては公務員制度建前を部分的にもせよくずすものだと思うのであります。ことに公務員の身分、地位にある限り、すべての公務員は国家の統一的性格の中に包括せらるべきものでありまして、單に現業という理由のみによつて別個の労働関係に置きかえることは、公務員の管理、国家事務の運営上支障を来すばかりでなく、国家の統一的性格を乱すものとして反対せざるを得ないのであります。なお右と関連いたしまして、今回新たに制定されました地方公営企業労働関係法規につきましても、地方公営企業体職員が、地方公務員の一般職たる地位と身分を保持する限りは、これに団交権を與えんとする本法案には、全面的に賛成がしがたいのであります。  次に労働組合法関係であります。労働組合法においては、改正と申しましても手続の問題あるいは技術的の問題にとどまつておるので、大きな問題はないと思いますが、二点ばかり申し上げておきたいと存じます。第一点は、第七條改正につきまして、争議調整中の不当労働行為の申立てないし発言等が虚偽または不法な場合におきましては、不当労働行為保護を受けられないということを明確にせねばならぬと考えるものであります。第二には、不当労働行為の申立て期間が一年となつておりますが、これは労働関係の不安定ということから見まして、また方この立証が長引けば長引くほど立証の困難が伴いますので、これはむしろ六箇月程度に短縮すべきものではなかろうかという考えを打つております。   この改正法以外で強く改正を要望したい点が二点ございます。それは現行労組法の第十七條、第十八條のいわゆる協約の一般的拘束力についてであります。これは解釈上も非常にあいまいな点がございますし、また多数労働組合のために少数の労働組合員がその自由を束縛されるという点に問題があると思いますので、むしろこの一般拘束に関する條項は削除してしかるべきものではないかと考えるものであります。  それからもう一つは、現行労調法第三十六條の問題であります。すなわち「工場事業場における安全保持の施設の」云々というあの規定につきましては、企業の基礎的設備を長期にわたつて使用不可能に陥れるような破壊的争議の手段は厳禁してもらいたいということであります。もし法律によつてそういう規定ができないならば、少くとも労働協約の中には設備保持の定めをすべきであるというようなことに規定してもらいたいと思うのであります。たとえば化学工業のごときに至りましては、争議のために作業を停止するので、その中の薬品が全部腐る。その設備の金属も全部腐つてしまうというような実例が多いのでございまして、こういう点もやはり公正なる労働争議としては、制約を受けてしかるべきではないかと考えるのであります。  なお労働基準法につきましても若干つけ加えておきたいのであります。労働基準法改正案を拝見いたしますと、労働基準委員会で論議されまして、三者の意見が一致しましたものをそのままそつくり改正案に取入れておりまするので、一見問題はないように考えられるのであります。しかしながら基準委員会で一致しました案件というものは、きわめて集約した、より拔いた事柄だけでありまして、この三者でもつて一致しない点にむしろ多くの問題がひそんでおるのであります。でありまするので、私どもといたしましては、この基準法の改正につきましては、大体やはり三つの基本線を頭の中に描いてみておるのであります。  一つは、基準法ができました当時の日本の瓦業界の実態と基準法の実態との比較、はたして日本の産業界が、あれだけ高度な基準法に耐え得るかどうかということ、このことをまずわれわれは頭の中に入れて判断せねばならぬと思うのであります。そういうふうな考え方からいたしますと、中小企業に対しましても、李面的にこの労働基準法適用があるということは、日本の産業に中小企業というものが相当大きな基盤を持つておつて、大企業を助けておるという点から見ましても、中小企業の助長という点から見ましても大きな無理がある。そこに日本の経済の幼稚さがある。従つてこの適用に対しましては、ある程度の除外を必要とするのではなかろうか。少くも十名以内の使用人を使つておるような小企業については、特に、たとい別途の法律措置を講ずるにいたしましても、何らかの適用除外を必要とするのではなかろうか、かように考えておるのであります。  それから今の労働基準法のうちには、非常に行き過ぎた点があるように考えられるのでありまして、これらの点はこういう機会に是正さるべきではなかろうか。その一つの例といたしまして、時間外労働あるいは休日労働の場合には、必ず労働組合と協定しなければならないという規定なつております。これは現在の状況によりますと、とかく争議手段として悪用される  のでありまして、これはむしろ、一年を通じ、あるいは一月を通じて一定の最大限のわくを設けて、そうしてそのわく以内においては、経営者の判断によつて、あるいは残業をし、あるいは休日出勤をするということにいたしませんと、経営の実態に即しない結果になるのではなかろうか、かように考えておるのであります。  以上いろいろ申し上げましたが、根本といたしましては、今度の労働法改正につきましては、当局の非常な御苦心の跡をわれわれは了といたしますが、ただいま申し上げたような諸点につきましては、当委員会におかれましても、十分しんしやくをされますように要望して、私の公述を終ります。
  63. 島田末信

    島田委員長 国学院大学教授、元国際労働機関帝国事務所長北岡壽逸君。
  64. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 国学院大学教授政治学部長の北岡であります。  今回政府から提出されました労働関係の諸法律改正案は、いわば部分的な改正でございます。日本独立しまして、経済を自立せしめ、また日本の独自の力をもつて社会秩序を維持しなければならぬということのために必要な一切の法規の改正は、含んでいないように思うのであります。ことにいわゆる政治的ストライキという最も重要な社会現象に対する取締まりの規定を含んでいない。この点は世間におきましては、いわゆるゼネストの問題に関連しまして別の法律を準備しておるようにいわれておるのでありますが、ゼネストというものは政治的ストライキの極端な場合でありまして、政治的ストライキはゼネストに限らない、もつと広汎なものででございまして、私はこの点に関しまする正治の措置を必要と思う。そうして政治ストに関しますることは、理論上はこれは労働法の一部を形成するのでありまするから、今回の労働法の改訂に対しまする最も重要な部分を占めておりまする公益事業、その他国民生活に重要な影響を與える争議に関しまする対策とあわせまして、まず労働者争議権に関しまする根本的な私の見解から述べてみたいと思うのであります。  一体労働者団結権とか争議権というものは、私は單なる自由権とか單なる天賦の人権というものではないと思うのであります。ことに労働者の再議に対しまして、これに対抗すべき使用者の解雇の権利制限しているということは、これは労働者の経済的地位の向上のためには労働者の団結を強くしなければならぬ、それがためには、議権を確保する必要がある、こういう見解に立つて、つまり労働者保護のために特に與えられた権利であり、もしくは特権と言つてもいい。でありまするから社会の公益のためにそれに制限を加えるということは当然でありまして、また権利の濫用というものは嚴に抑制しなければならないと思うのであります。わが国の現行法は、この点に関しましてすこぶる広汎なる団結権争議権労働者側に與えている、ほとんど無條件労働争議権利を與えておるのでございますが、これはいずれの国にも例を見ない広汎な規定であります。  何ゆえにこういう規定ができたかというならば、これには二つの重要な特質があることをわれわれは見のがしてはならない。第一は、この現行の労働法をつくつたものは日本政府ではなくして、アメリカの進駐軍である。進駐軍は日本を無條件降伏せしめた後においては、日本の国を根本的に変更しなければならぬ、従来のような全体主義的な、軍国主義的な日本をかえて、民主的な日本にしなければならぬ、こういう熱意に燃えて日本に来たのであります。そうして日本をしてすみやかに民主化するために、また日本を侵略戰争なんかできない国するために、急いで日本労働組合を発達せしめようという意図に基いてできたものであります。従つてもしこれがために経済の自立ができなかつたらどうするか、日本国民経済が成り立たなかつたらどうするかというようなことにつきましては、十分に考えていない。進駐軍は、むしろその場合においてはアメリカが援助する、こういう考え方であつたろうかと思う。  もう一つ重大なことは、占領軍というものは憲法以上のオールマイティな権力を持つておるのでございまして、この権力をもつていたしますれば、いわゆる占領政策に違反するという名目をもつて、争議を自由に押えることができた。でありまするから、広汎な争議権労働組合に與えても何ら弊害はないと考えたのであると思われるのであります。  今やわが国独立しまして、日本の経済白日体をもつて八千万国民を養つて行かなければならぬ。日本の経済が国民を養えなかつた場合に、どこからも援助金というものはくれない。われわれは経済自立の必要に応じて争議権制限しなければならぬ。またもう一つには、今日は憲法以上の権力というものはない。日本政府憲法の許すところに従つてのみ国民権利を押えることができるのでございますから、従つて争議権というものに対しまして、ある程度の抑制をする必要が起つて来るのではないかと思うのであります。  今回の改正案規定せられました事項の最も重要な問題は、公益事業に関する職権調停及び冷却期間に関する規定改正と、それから国民生活に重大な障害を與える重大争議に関し、新たに緊急調整という制度を設けた点であります。この両者はいずれも労働者争議権と公益との調節をはからんとするものと見ることができるのであります。この規定は総括して申しますならば、むしろ労働者の再議権を相当尊重したものでありまして、現段階といたしましては、まず妥当なものと私は思うのであります。  しからばこれによつてこの種の争議を防止するという目的を達し得るかという問題になりますと、これは遺憾ながらわれわれは予言することはできないのであります。この法律規定によつて、はたして将来この種の争議が防止できるかどうかということは、わが国の経済、産業というものが、労働者の生活を十分に安定せしむるだけの繁栄を保てるかどうか。また労働者、資本家がよく自省し、よく相互の立場理解するかどうか。またそのほかに中央労働委員、特別調整委員というような重要な部署に適任者があるのかどうかというような点にかかるのでありまして、将来のことを予断することはできない。もしこの制度をもちましてこの種の争議を防止することができなかつたならば、さらに一歩を進めた制度を案出しなければならない。たとえば特別調整委員というものを、この改正案におきましてはすべて労使双方の同意を要することになつております。しかもこの同忍というものは、この法文で読みますと、労働者側全員の同意を得なければならぬとあります。従つてこれは相当困難ではなかろうかと思う。もしこういうような労使双方の同意を得て適任者が得られますならばこれに越したことはないのでありますから、もとよりこの法律が円滑に施行されることを私は希望するのであります。これが円滑に施行されないならば、そのときは大臣が職権をもつて委嘱するというような制度を考えなければならぬ。またさらに單なる冷却期間とか調停ということのみをもつて争議をとめることができないならば、あるいは遺憾なことで、むずかしいことではございますが、強制仲裁というようなことも考えなければならぬのではないか。これらはやつてみて実際の成績にかんがみて新しい法律制度をつくるという以外にないのでありまして、私はそれらの関係とともに、ただいまの改正案程度制度をもつて円滑に施行されることを希望するというほかはない。  次に先ほどすでに申しました政治的ストライキの問題につきましては、今申しました公益事業とか、重大争議調停の問題と違いまして、争議権の濫用と見るべきものであります。八千万の国民が民主的に選定しました政府及び議会を、国民の一小部分である労働組合、実際はさらにごく少数の労働組合の幹部の意思によつて、政府及び国会の意思を強要しようというのであるから、明白に労働者団結権及び争議権の濫用であると思う。労働組合はもとより政治上の意見を発表することはできますし、政党を支持すことはもとより自由でありますが、争議権、同盟罷業という大きな力がある。同盟罷業というものは、今日たとえば、産労働組合が決議するならば、全国をまつ暗けにできる、鉄道の組合が決議するならば、国民の足を奪うことができる、また石炭の労働組合が長く罷業するならば、産業の息の根をとめることができる。こういうような絶大な力をもつて議会や政府に対して労働組合の意思を強要するということは、私は民主主義に反するものであると思う。でありますからいずれの国におきましても、この種の争議、つまり争議権の濫用に対しましては、これが防止の方法を講じているのであります。たとえばフランスにおきましては、労働組合というものは労働者の経営上、工業上、商業上、農業上の地位の向上、利益の保護目的とするということをはつきり明文にうたつているのでありまして、この限界を越えました政治ストは非合法としておる。一九二〇年にフランスの労働総同盟が、鉄道の国有を要求しましていわゆるゼネストになつたのでありますが、そのときに裁判所は、これは労働組合の許された存在の理由を逸脱したものであるというので、これに対しましてCDTの解散を命じたのであります。このときには大統領の処置によりまして解散だけは免れました。爾来こういう政治ストというものは非合法であるということははつきりしておる。その後フランスの労働組合法はたびたびかわつておりますけれども、この根本の條文は私の考えの範囲におきましてはまだかわつていない。それからドイツにおきましては、その後たびたびかわつておりますが、標準的の労働立法というべきワイマール憲法下の労働立法におきましては、団結権はございますが、争議権につきましては国の保障はない。これは事実上の相互の徳義にまかせるので、国の保護はない。それからイギリスは長く労働組合の良識に訴えまして、法律においてそういうことは規定していなかつたのでありますが、一九二六年に石炭の国家管理の継続ということを要求しまして大規模な争議をやつた。そこでこれはいけないというので、政治ストを禁止するという非常に峻嚴な法律がつくられたのであります。戰後労働党内閣はこの法律を撤回しましたけれども、その後政治ストというものは英国においては見ないのであります。アメリカには政治スト禁止のための特別の法律はございませんが、これは政治ストという事実がアメリカにないから、こういう必要がないものと思われます。わが国におきましては政治ストと見るべきものがすこぶる多いのでありまして現に今国会で審議せられております破防法や、今回の労働法規の改正に反対しまして、広汎なストライキが行われておるのでありまして、これは私の見解をもつてしますれば、争議権の濫用をわれわれの目の前に展開して、政治スト禁止の必要を実証しているのじやないかと思う。政府及び議会はすみやかに政治スト禁止法律を制定すべきものであると思う。それのみでないのでありまして、現在のわが国労働組合の政治ストというものは、非常に重大な危險な力に指導されておるように推定される。彼らは口には民族の独立とか自由とかいうことを標榜しておりますけれども、その実彼らが権力を握りますれば、日本を外国の隷属下に置く、もしくは一切の国民の自由を剥奪して、専制政治、恐怖政治をしくような計画をしておるのでありまして、こんな計画を平然と見のがしておるということはすこぶる危險なことと思われる。私は民主主義の見地から、かかる行為を傍観することのないように強調するものであります。ところが政府及び議会が、この種経済自立並びに社会秩序維持のための労働立法を行おうとすることに対しまして、最も大きな障害は、わが国の真実の民主主義者や自由主義者が、大体においてこの種の労働立法治安立法に反対するということであります。これは実に重大な問題だと思うのであります。その理由はいろいろありましようが、その最も大きな理由は、日本国民もしくは日本の民主主義者、自由主義者は、日本政府を信用しない。一たび政府労働組合を抑圧する権利を與えると、政府はこれを濫用するだろう、そしてしきりに労働組合を彈圧するところの戰前の状態に復帰するであろうということをおそれるのであります。また一たび政府労働組合法をいわゆる改悪し始めると、だんだんと改悪に次ぐ改悪をもつて、ついに戰前のような状態に復帰するのではないかということをおそれるようであります。この点は外国でも同様でありまして、外国におきましても、日本が今日共産党の抑圧のためにいろいろな法律改正しなければならぬということは事実認めながら、しかし日本政府はやがて反動的な労働立法を頻発するであろうということを、すでに心配しておる。残念ながら日本政府は、戰前において内外に信用を失しましたので、いかに政府が民主主義を尊重する、団結権を尊重する、自由を尊重するということを声明しましても、それだけでは国内の識者も外国の輿論も納得しない、日本政府を信用しないのであります。それで私は、日本政府が内外に対しまして、団結権を尊重する、労働立法をある限度以上には――むしろ世界の標準以下には逆転せしめないということを保障するために、国際労働條約を批准するのが一番よいのではないかと思うのであります。わが国戰後の労働立法は、大体国際労働條約の標準を取入れておるのでありますので、今日のままで大部分の国際労働條約を批准することができるのであります。今後国内事情に即応しまして実際の必要に応じまして労働法改正しましても、私は文明国共通の標準であるところの国際労働條約の標準を下つてはいけない、また下る必要はないと思う。たとえば今述べました政治ストを禁止しましても、あるいはまた重大争議に対して、もつと強力な制限をつけましても、国際労働條約団結権保護に関する條約には反しない。ゆえに政府は一方において団結権保護に関する国際労働條約を批准し、そして国内労働立法改正しまするならば、政府の逆転の危險とか濫用の危險が保障せられ、内外のおそれがなくなります。国内の識者の賛成を得、外国の信用を得て円満に法律が通過するのではないかと思うのであります。  以上法は労働法に関しまして最も重要な点につきましてお話したのでございますが、それ以外に今回出されました法案の内容につきましては、私は重要つな意見を持つていない。たとえばここに公務員の問題について、現業員には団結権は與えるが争議権は與えないというような規定なつております。これについてどういう程度にするのが一番よいか、どうも抽象的、絶対的な標準がないように思うのであります。現在わが国の法制におきましては、公務員、つまり政府に雇われている者を大体三つにわけまして、警官及び消防夫に対しましては一切の団結権争議権も與えない。これは外国におきましても同様でございまして、軍隊及び警察に対しましては、一切団結権及び争議権を與えていない。それから次の行政的な公務員に対しましては、団結権を與えるが団体交渉権を與えない。現業に対しては、団体交渉権は與えるが争議権は與えない、こういう三段にわけているのでございますが、絶対の標準というものはございませんが、まあ、この辺が妥当なところではないのかと思うのであります。外国の例をとりましても、アメリカにおきましては、政府に雇われている者は一切罷業権がないのでございまして、罷業をしますればただちに必ず逮捕される、解雇ではなく、逮捕されて三年間雇われないという峻嚴な規定がある。その他いずれの国におきましても、公務員に対しましてはいろいろな制限を加えておるのでございまして、どうもその程度が妥当ではないかというように思うのであります。  次に労働基準法の問題につきましても、これはほのかに承るところによりますと、労働者、企業者側の双方の一致賛成しているところでありまして、大体穏当なように思われます。ただ問題は、はたしてこれをもつて必要な改正を盡しているかどうかという点でございますが、これは今後研究せられ、実際に即して改正する点があれば改正すればいいのであります。まず現段階におきましては、この程度改正が妥当かと存じます。  以上私の公述を終ります。
  65. 島田末信

    島田委員長 早稲田大学教授野村平爾君。
  66. 野村平爾

    ○野村公述人 早稲田大学教授野村平爾であります。  まず最初に全般的な問題として一つ簡單に申し上げておきます。これは同時に私自身の全労働法規の立法に関する考え方かと思いますので、申し上げておきます。  今度の労働法改正がもし改正としてぜひなされねばならないということを考えた場合に、その理由としては二つあり得る。これは皆さんも御承知のことだと思う。一つは占領の形式がなくなつたということから、占領中政策として行われていた労働法上に関するさまざまな制約がこの際排除されて、日本憲法の精神に即した体系をつくり上げるということが一つであろうと思います。それからもう一つは、すでに私たちは過去において労働法規を実施した歴史を持つているわけでありますが、そういう歴史に照らして、妥当を欠いていると考えられる部分について是正をするということが第二の点だと思うのであります。  第一点で問題になります一番中心的なことは、占領中できましたところの公務員、特に現業員などを中心としますところの、一般民間労働者とやつている仕事においても、地位においても、収入においてもきわめて似通つているような労働者に対して、どのような取扱いをして行くか、団体行動権を回復して行くということは行わるべきではないかということが一つの点であろうと思います。  第二の点といたしましては、団結権の侵害ということがしばしば最近においても行われておるのでありますが、これに対する不当労働行為制度というものが必ずしも十分な効用を発揮しておらない。そこでこういう運用をして行きます機関労働委員会等の構成と相まつて、十分この点を再検討して是正して行くということが問題になるということ、及びすでに申し上げました公務員などにつきましては、たとえば公共企業体労働関係法や、公務員法における規定などをもちまして、人事院の給與勧告制度とか、強制仲裁制度というようなものがとられているのでありますが、こういうものについて、はたしてこれでよろしいのかどうかというような検討がなされなければならないはずだということ、それからまた従来の労働法規の中におきます争議調整一つ方法としての冷却期間制度というものが、実効がないという声が聞かれるのでありますが、これについてどのような是正をやつたらよろしいか、こういうようなことがあると思うのであります。  ところでこのたびの改正の中では、どちらかというと、こういう根本的な問題が必ずしも十分には取上げられなかつた。そしてむしろ向うべき方向とは、必ずしも一致しない方向へと、改正の方向が向いておるということが感ぜられるのであります。しかしながら、私はここではむしろ具体的に、法案そのものの内容に即して若干の意見を申し上げておきたいと思います。  まず最初に労働関係調整法等の一部を改正する法律案のうちの第十八條公益事業に関する労働争議調整について、調停の申請をしてから三十日間の冷却期間を十五日にかえたということと同時に、その場合に申請を却下することが、労働委員会においてできるとした点であります。これはつまり御承知のように、紛争関係が煮詰まることができないうちは、せつかくの申請を取上げても、單に冷却期間争議のためのウォーム・アツプの期間なつてしまいはせぬかということが批判された結果だと思うのであります。ところが、なぜ争議関係が十分に煮詰まらないかという原因の究明については、必ずしもなされておらないようであります。どちらかといいますと、この紛争関係が煮詰まらない根本的な理由は冷却期間中においては、絶対に実力行使ができないという制約が加わつておる條件のもとで団体交渉がなされるということのために、紛争関係が煮詰まる状態にまで達しないというふうに考えられるのであります。でありますから、もしその角度で両当事者の争いを煮詰まるだけ煮詰まらせたいということであるならば、こういう冷却期間の制約を解いて交渉せしめるということの方が、早く煮詰まり点に達するということになるのではないかというふうに考えられるわけであります。ところでその場合に、ただそうしたならば、やたらに争議が起るであろうという懸念が考えられるかもしれないのでありますが、これについては、実際の労働関係を見ますと、重要な公益企業などにおける争議というものは、そうやすやすと簡單に決定して、旬日のうちに行われるというようなものではなくて、むしろ十分な折衝が行われ、二箇月、三箇月の期間がたつてから出て来るというのが、まず普通の状態なつておるようでありますから、この点については、そのような心配はまずないのではないか、こういうように考えられるのであります。  ところで、申請を却下するということになりますと、実は両当事者の納得の上に問題を解決して行くべきはずの労働委員会が、みずから労働者側に対して一つ対抗する立場に立つ。つまりサービス機関であるという性質から考えると、ややそぐわないような権限を持つてしまうことになりやしないかという点が憂えられることであります。調停というのは、一つには双方の主張を煮詰まらせるための一つの補助的な手段であるというふうに私は考えておるのであります。もし争議権を禁圧した状態のもとでこれを期待するということになりますと、どうもその期待がそれにそぐつた結果を生じないというふうに考えられるわけであります。なおこの点につきまして、申請の却下をなされた場合に、はたしてこれに対する救済がどのような方法で得られるかということにつきましては、必ずしもこの規定から、あるいはこの法律全体からは、どうも私は明確にすることができなかつたように思うのであります。いろいろ学説もあるようでありますけれども、申請の却下のような処分というものが、これは違法の処分であるとか、不当な処分であるとかいうような点につきましても、若干議論があるようでありますし、もし違法な処分だということでなくて、不当な処分だという考え方なつた場合には、どうもこれについて救済を得る道がないというような理論も出て来るのではないかというようなふうにも考えられる点、一つの大きな疑問を抱いておるのであります。それから却下をして行くということについて、私は労働委員会が、十分労使双方の間に立つて事に処して行くという性格から考えて、不当な取扱いはしないであろうという期待は持つのが当然だと思うのでありますけれども、できるならば、こういう場合には、どのような期間に申請の却下をやるかというようなことを立法上明確にしておくというようなことも、一つのなすべき準備ではなかろうかというふうに感ずるのであります。  第二の点は、三十五條の二に設けられた緊急調整に関する問題であります。この緊急調整につきましては、大体これとよく似た制度アメリカタフト・ハートレー法において行われておるわけでありますけれども、タフト・ハートレー法の場合においては、すでにある程度緊急調整というものの実施の経験があるわけであります。その経験を、私の知り得た限りにおいて見ますと、どうも四十八年、四十九年となるに従つて緊急調整の数が急激に減少しておる。この減少しておるということは、一面からいうと、批評家は、これはこの制度が必ずしも望んだような十分な効果を発揮し得ない制度であるということが批判されたものなんだというふうに言つておる者があるわけです。たとえば、四十八年、四十九年に八件ばかり事件が報告されておるのでありますけれども、そのうち七件までが四十八年、すなわちタフト・ハートレー法の通過した翌年であります。その結果を見ましても、やはり大部分が、緊急調整による争議のさしとめ命令が出て、それが解除された後に争議を行つたりして、初めて解決がついておるというような結果を示しておるということであります。中にはまたその命令に違反して、さしとめ期間中に争議をやることによつて問題の解決をはかつておるというような、そうしてそのために法廷侮辱罪に問われるというような事件を起しておる例もあるわけであります。その他実情調査委員会を設けて、別にさしとめ命令を出さないうちに解決をしたというのも若干ありますけれども、つまり、この期間の中に、実力行使をしないで問題がきれいに片づいて行くというようなことがきわめて少かつたというような実例があるわけであります。こういうようなことから考えまして、この制度については、案外アメリカにおいても、これはどうも適切でないという批判があるのじやなかろうか、こんなふうに思われるわけでありますが、日本では、ちようどそれと同じような方法をここで採用しようというふうに考えられるわけであります。アメリカにおきましても、たとえば十人ばかりの原子力の研究をするところの、民間で委託を受けた研究所の従業員の争議に対して、このさしとめ命令を出すという問題が起つたことがあるわけであります。これでも国民の健康あるいは安全に大きな障害があるというように認められるということになりますと、一体どういう標準で、こういうような緊急さしとめ命令等を出すのかということにつきまして、アメリカの問題として考えても、かなり疑義があるのでありますが、日本の場合においては、三十五條の二においていろいろ要件をあげておるのでありますけれども、この要件の言葉それ自体は、かなり一般的な広い解釈を持ち得る規定でありますので、従つて十分こういうような調整が行われ、しかもこれが労働者の基本権に対して、はなはだしい侵害にならないような道を講ずるのだとするならば、手続や要件の点において、かなり嚴密にこれを規定するとことが必要ではなかろうかと感ずるのであります。ところで、アメリカタフト・ハートレー法の手続を見ますと、日本の第三十五條の二に比べまして、はるかに手続が複雑であります。たとえば争議が起るにまかせる、しかも続くにまかせて放置しておいたならば、国民の健康や安全を脅かすと大統領が考えた場合、しかもそういう争議が州際通商などに関係があるような大規模な争議であつたというような場合において、大統領は、そういう争点を調査せしめ、そうして定める期間内に報告書をその調査委員会から提出させ、その調査委員会の報告に基いて、こういうものをさしとめる必要があると感じたときには、検事総長をしてこれを裁判所に対して請求させるという手続を経るわけであります。だからそれだけの複雑な手続を経て、初めて労働者の団体行動権の抑制ということが始まるということを考えてみますと、日本の場合は、きわめてこれが簡單にやつてのけられることになつている点は、一考を要すべきではなかろうかと考えるのであります。つまり公正な機関によるところの実情の調査、あるいは裁判所による判断というものを経過して、初めて行政機関の行為だけでなしに団体行動権の抑制が始まるという点は、非常に重大なことだと思うのであります。御承知のようにアメリカにおきましては別に憲法上団体行動権の保障などという文句はありません。日本においては、そういう文句が明らかにあるわけであります。そうだとするならば、そういう形式からいつても、日本の方がアメリカよりも、よりていねいにこういう問題を取扱う方が、憲法の精神にかなうというような見方が成り立つのではなかろうかというふうに思うのであります。  二番目に、しからばこういうような決定があつた場合、事後における救済は簡便に與えられるであろうかということが問題になるかと思うのであります。この決定の取消訴訟を求めるのは、おそらくは行政事件訴訟特例法などによる救済が考えられておるのではないかと思いますけれども、こういうような方法によつての争議権の行使というようなものに関する救済は、きわめて困難であると考えられることが第二の点であります。  それから第三の点は、先ほども出たのでありますけれども、なぜ日本労働法規が、終戰後において民間人や労使双方の代表者を加えた委員会構成によつて事を運び、政府の行政機関が直接これに關與することを避けたかという問題でありますけれども、とかく世界の労働運動は、御承知のように使用者に対する運動であるだけでなしに、政府に対する運動というような歴史も持つておつたのであります。従つて政府は、なるべく直接に行政機関としてこの労使関係の――もちろん労働委員会も行政機関でありますけれども、従来の行政機構そのままの形をもつてこれに対処することを避けることがりこうである、そしてなるべくそういうようなことに対してみずからの手を清めて、いつでも中立の地位において問題を処理して行くようにはからうことが適切だと考えられたのだと思うのであります。なおそれに加えまして日本における過去の歴史というものに対する批判もあつたことだと思いますし、また先ほどの公述人の説明にもありましたように、信頼度の問題というのがいつも労使関係においては伴うのでありますから、このような信頼度をかち得るためにも、なるべくそれに即した機関の手を経過させることがよいのであつていつも政府労働関係に対してその敵になつて立ち向うということをなるべく避け、労使関係は双方の納得の上に、できるだけ問題の解決に近寄る方法をとらせたい、こういうような考え方が従来の労働委員会制に基く調整の方法であつたと思うのでありますが、今回の緊急調整は、その入り方において、必ずしもこの道を踏まなかつたという点が、どちらかというと、従来の伝統あるいは基本的な労働問題に対する処理の行き方と違つた方向をとつたということが指摘できるのではないかと思います。その点については、私はむしろ従来の行き方の方が正しいというふうに考えるのであります。  次に第三十九條、第四十條の問題について触れておきたいと思うのであります。これは罰則規定であります。すなわち公益事業関係の冷却期間経過しない争議の違反に対する処罰及び緊急調整期間に反する行為に関する処罰が規定されているのであります。従来こういう第三十七條の違反などにつきましては、組合が罰金を科せられるということになつていたのでありますけれども、今度はこれを個人罰に切りかえてやつたわけであります。ところで労働者が、団体行動として組合の中の決定に基いて行動をするというような場合に、一人々々の労働者に責任を負わせるような行き方がいいか、それとも組合自体として責任を負うという行き方がいいかということにつきましては私はむしろ後者の方であろうというふうに考えるのであります。違反された事柄あるいは犯された事柄が、もし殺人とかあるいは強盗、放火のようないわゆる自然犯的な性格のものであるならば、もちろんこれは個人罰で行くべきことは当然であると思うのであります。しかしここで処罰を受けるのはつまり所定の手続を経ない争議権の行使とに対する処罰という形をとるのでありますから、これはどうしても個人罰でない方が適切ではないか。何ゆえにこういうような個人罰に切りかえたのであろうかという点について、私はどうも了解が困難なのであります。  なお同じく処罰規定につきまして、第四十一條が削除になりました。これは労働法第四十條が労働組合法の中の第七條に讓られたという関係で、この処罰規定が形式的にはいらなくなつたのだと思うのでありますが、結果から見ますと、従来この第四十條の労働関係の調査中の発言等に関して不利益な待遇を労働者に與えた者につきましては、六箇月以下の禁錮もしくは五万円でしたか、今ちよつと明確にわかりませんが、罰金というような処罰の規定があつて、嚴にこれを戒めるという態度をとつて来たのでありますが、これが不当労働行為規定の方に讓られるという結果、もはや直接には処罰規定がなくなつた。つまりこういう面については、団結権の擁護についての救済方法が刑事罰をもつて行うというような方向を全然やめてしまつた。同時に今申しましたように、かなり今度労働者の個人罰の方が増加されて来ておるというようなことは、全体として直接に三十九條、四十條並びに四十一條が削除された――四十一條が必ずしも相関関係を持つものではありませんけれども、どうも全体の上から見てやや労働者の個人々々に対して酷になつ規定のように考えられるという点であります。  なおその他小さな問題につきましては若干の意見がないわけではありませんけれども、やはり中心的な問題は労働関係調整法に出ているこの問題が一番大きな問題のように考えましたので、私の意見をその点に集中いたしまして、ただいま申し上げたわけであります。これで私の公述を終りといたします。
  67. 島田末信

    島田委員長 これで本日の公述人公述は一応終了いたしましたので、永岡公述人、箕浦公述人、野村公述人及び北岡公述人に対する質疑を許します。船越弘君。
  68. 船越弘

    ○船越委員 永岡さんにちよつとお伺いいたします。あなたが冒頭に言われましたように、四月二十八日にわが国独立した、独立したあかつきには当然公務員には労働三権が與えられるべきである、これは明らかに憲法規定してある。にもかかわらずこのたびの改正については、一部の公務員に団交権が復活しただけであつて、あれだけでは不十分であり、われわれは反対であるという所論であつたように思うのであります。それで独立したならば、なぜ当然国家公務員労働三権が與えられなければならないか、そういう理由についてちよつとお伺いしたい。
  69. 永岡光治

    ○永岡公述人 これはただ占領か終つたから、だからこれは憲法に基いてやれ、こういうような簡單なものでは私はないと思う。これはあのマ書簡が出たときのいきさつから見て、占領政策建前に立つて出された法的措置である。従つてそれは根本的に講和の効力が発効した今日においては、それが無効という建前に立つて再検討さるべきものである。その上に立つていろいろな問題を考慮した場合に、たとえば公務員は政治活動ができない、争議権がない。だから、今の実態を考えてみると、人事院があつて、その保護をしようとしておる。あるいは公企体等については調停委員会ないし仲裁委員会があつて、これを保護しようとしておる。そういう建前で、現在まで運営して来た。ところが労働者としての国家公務員の受け入れらるべき要求が全然いれられなかつたという過去の実績がある。だから現在そういうものは、苦しみ苦しんでつくつてみたところで効果がないのだから、私どもの結論としては、やはり現在においては、労働三権を返すべきである、こういう主張をしておるわけであります。
  70. 船越弘

    ○船越委員 御所論はわかるような気がいたします。しかし占領下におけるところの国家公務員性格でございますが、これと占領が終つて、独立したあかつきの国家公務員性格というものは、別に実体的な変化はない。そうしますと、結局憲法の十五條でございますか、公務員は全体の奉仕者であるというふうにうたわれておる。その全体の奉仕者に対して罷業権が認められるということは、占領されておろうと、されておるまいと、私は実体的にはかわりはないと思う。私はそういう憲法の、いわゆる公務員は全体の奉仕者であるという建前から、罷業権は與えるべきではない、こういうように思うのでございます。なお先ほど人事院の勧告について、政府は全然考慮しておらない、こういうお話でございますが、先般人事院のどなたかがここでお話になつたところを聞きますと、五回勧告しておつて、そのうちの二回は政府はのんでおるということも言つているのでございます。それはそのときの予算あるいは財政状態からやむを得ずのむことができなかつた。のみ得られる状態にあれば、もちろんこれはのむのが当然であります。そういう見地から、人事院の勧告を全然無視したということは当らない。こういう二つの点についてお伺いしたい。
  71. 永岡光治

    ○永岡公述人 重ねて申し上げますが、私は何も事を構えて争議をやろうという公務員はいないと思うのです。生活が保障されれば、これに越したことはないわけです。そういうわけで公務員法ができた、やれありがたい、やつてくれるだろう、こう思つてやつて来た。ところが何らこれが――たとえば勧告があつて、今の御説明では二回実施されたということですが、私の記憶では完全に実施されたことは一度もありません。みんな否定されるか、あるいは程度を下げてしか実施されておりませんので、そういうことでは困るのだということです。それで実際問題として私どもが言つておるのは、人事院があり、あるいは裁定委員会があつて、その裁定が完全にいれられるという制度であるならば、何も事を構えてそういうことはやりたくないのだが、それが今までの実績においてやられていないじやないか。だからこの際返すべきが至当じやないか、こういう主張をしておるわけです。  それで勧告の問題でありますが、重ねて申し上げますが、勧告はずいぶん出ております。完全に実施したものは一回もありません。たしか最初人事院ができまして、これはぜひ人事院の権威を高める必要があるというので、司令部の方で勧告された。その場合でもこれは期日を延ばすとか、あるいはその総額において少し削除をするというようなことで、結局勧告されたそのままが、いまだかつて実施されたためしがない、こういうことを私は強調して申し上げたわけであります。
  72. 船越弘

    ○船越委員 野村先生にちよつとお伺いしたいのでありますが、労調法八條に、いわゆる労使双方の協議が煮詰まらない場合に却下するという條項が入つている。この却下するということが違法であるか、あるいは不当であるかということについては私は知らぬけれども、少くとも不当であると思われる場合に、救済する方法がない、何かそこに條項を入れたらどうか、こういうようなお話であつたように思いますが、もし不当な却下がなされた場合には、これを救済するにどういうような方法をとつたらよろしゆうございましようか。お教え願いたい。
  73. 野村平爾

    ○野村公述人 私自身として実は明確な案を持つているというより、どちらかというと、従来のように申請をして、予告期間的な意味において期間経過させる方がむしろ妥当であるという基本的な考えを持つておるわけであります。ですからこのような場合における対案というものは、私は別に用意しておりません。しかしもしこういう申請却下というようなことを許すことになると、私はこれで行政事件訴訟特例法などによる訴訟をなし得るかということも若干疑問に思つているわけです。もしなし得たとしても、実際こういう事案に対する救済としては、もう間に合わなくなるというようなことも考えられるわけです。従つてそういうような絶対的な立場に置くような形の行政委員会の却下というようなやり方は、なるべく避ける方がいいというのが、実は私の申し上げたい点であります。
  74. 島田末信

    島田委員長 森山欽司君。
  75. 森山欽司

    ○森山委員 箕浦さんにお伺いいたします。このたびの改正案に対して基本的に三つの考え方をもつて当つている。その第一は、労働運動性格と実績を考慮しなければならぬということを言われたのでありますが、あなたは日本労働運動性格と実績を、具体的にどういうふうにお考えになつておられますか。御説明願いたいと思います。
  76. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 ただいまのお尋ねでありますが、この労働運動の実績と申しますと、終戰後の労働運動をとらえて考えていいと思うのでありますが、このあり方は、終戰後できました第一回の労働法から数次の改正を経て今日に至つておるのでありまして、その間おのずからその改正の過程並びにその結果は、すべてそのときどきの労働運動の実績をしんしやくしてできたものだと思うのであります。これはあるときは非常に急激な運動として現われましたが、大体において現在のところでは、一部に非常に過激な動きがあるにいたしましても、現在の労働組合法によつて大きな流れを阻害されるような動きはない、かように考えまするので、現在の労働組合法に関して根本的な改正はいらない、こういうように考えたわけであります。
  77. 森山欽司

    ○森山委員 参考のために伺つておきたいのですが、現在の総評の運動方針、先ほども指摘いたしましたが、一月二十三日の総評幹事会で審議決定を見た春季闘争の展望と行動計画によると、春季闘争のねらいどころは再軍備反対闘争に集約することを前提として、彈圧法規反対という立場で闘う。ななわちこういつたいわゆる労働法の改悪に対して闘う、あるいは賃金問題にいたしましても、従来のCPIによる方式をやめて、マーケツト、バスケツト方式によつて囲うというような方針を立てている。そういう方針をあなたはここでさしつかえないという御意見でありますか。
  78. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 ただいまのお説は、私の申し上げたのはそういう個々の運動の――たとえば総評の運動の方針というようなものは、そのときどきの情勢でずいぶんかわると思いますが、これはそういうふうな性格を今の労働組合性格できつちり規定することはできないのであつて、大体の運動の範囲を、現在の労働組合法の範囲できめておけばさしつかえない。もしもその他のいろいろの派生的な問題につきましては、先ほど申し上げたような労働組合法以外の法律をもつてしても取締らなければならぬ、こういうような考えを持つているわけであります。
  79. 森山欽司

    ○森山委員 そういう労働運動の本筋でないものは他の法規でやればいいというお話なんでありますが、ただあなたが改正法に対する基本的心構えとして、現在の労働運動性格、あるいは過去における実績をどういうように理解されるかということを伺いたかつた。だから具体的にひとつ今指摘いたしましたように、何と申しましても総評は労働運動の大本山である。その幹事会ではきわめて政治性過重の決議を決定している。そういう問題をあなたはどういうように理解されるかということを伺いたかつた。これは何、大したことはない、いわばお経の文句みたいなものだと言われればけつこうですが、御認識のほどを伺いたいのです。
  80. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 ただいまのお尋ねは、私といたしましては、総評がそういうふうな意見を発表されましようとも、それは総評の御意見でありまして、私どもといたしましてはそれがわが国労働運動のほんとうのあり方であるかどうかということについては、これが正しいあり方であるというふうには理解しておりません。
  81. 森山欽司

    ○森山委員 それでは永岡さんはどういうお考えですか。
  82. 永岡光治

    ○永岡公述人 今の質問の要旨は、現在の総評の運動方針をどう考えるか。総評傘下の組合でありまして、その決定は自認いたします。
  83. 森山欽司

    ○森山委員 総評傘下の組合でその方針が正しいというならば、あなた方のあらゆる運動は、一切最後には再軍備反対闘争に役立つように、何でもかんでもやつているというように理解してよろしいのですか。労働法規でもいろいろ論議があるけれども、それをうんとけちをつけて改悪闘争ということで闘争をして、最後は再軍備反対の闘争に集約してある。こういうふうに書いてあるあなた方の指導方針は、それがいいと思つているかどうか。これを伺つているのです。
  84. 島田末信

    島田委員長 永岡さん、答弁ありませんか……。
  85. 森山欽司

    ○森山委員 まあいいでしよう。  箕浦さんにお伺いいたしますが、労調法の第十八條についていろいろ御説がありました。あなたのお説を聞いておりますと、十八條についての今度の改正案は、あまり役に立たないというようなお話ですが、そういうふうに考えてよろしゆうございますか。
  86. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 よろしゆうございます。
  87. 森山欽司

    ○森山委員 しからばこれに対する対応策は、やはり予告制度でいいというようなお考えですか。
  88. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 さようでございます。
  89. 森山欽司

    ○森山委員 次に緊急調整は、やはりあなたのお考えだとあまりいらないというようなお話だが、もしこれを適用されることが必要ならば、やはり他の治安的な法規によつてこれに対応するというような御意見でありましようか、ちよつと伺いたいと思います。
  90. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 この緊急調整の問題は、ある程度緊急調整でなし得る範囲のものもございますが、その多くは緊急調整の措置を講じましても、なおその範囲を逸脱するものがあるから、その分については他の立法で行きたい、こういう意味であります。
  91. 森山欽司

    ○森山委員 先ほどのあなたのお話を伺うと、緊急調整については治安立法措置によつて取上げるべきではないかという御意見に伺つた。そうすると治安立法措置があれば、緊急調整はいらないということになるのじやないかという疑念がありますので、もう一度はつきりしてください。
  92. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 私の申し上げましたのは、緊急措置を講じて、その間五十日間の争議行為停止ということについては、私は必ずしも反対しない。しかし五十日間という期限がありますので、その期限というものが、現在の状況からいいますとあまり活用されておらない。ですからそういう場合には、五十日間というものがあつても、なお治安のためにはほかの法律が必要である。だからたといこういうふうな調整の規定を設けても、やはり最後には治安立法措置というものが必要である、こういうことを申し上げたのです。
  93. 森山欽司

    ○森山委員 要するにあなたの意見は、必ずしも反対じやない。必ずしもという副詞句がついている。さらに実際やつてみても、今までの冷却期間の実績等からみて実効が上らぬのじやないか、こういう御意見ですね。
  94. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 はい。
  95. 森山欽司

    ○森山委員 次に北岡さんにお伺いいたしますが、先ほど真実の民主主義者、自由主義者が立法に反対しておる。反対の理由として、日本政府を信用しない、外国でもそうだというお話がございました。日本政府というのは今の吉田自由党内閣のことを言われるのですか。
  96. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 私の見る限りにおきましては、必ずしも吉田自由党内閣のみじやなくて、日本政府に対しまして、いわゆる知識人、文化人という連中はどうも信頼しないわけであります。ことに私は、大学教授とか、学術会議の人なんかに接してみましても、彼らはみな戰時中に非常な彈圧をせられた記憶を呼び起しまして、日本政府というものは、一旦権力を與えられればすぐそういうふうに彈圧するという考えを持つておるように思つたから申し上げたのであります。
  97. 森山欽司

    ○森山委員 先ほどわが国労働法の特質として、労働者に広汎な争議権を認められておる。その理由の一つとして、この法案の真の立法者は日本政府ではなくして進駐軍であつた。しかもその進駐軍の政策日本民主化ということにあつたというお話がありました。それから侵略国家にならないようにというような考え方のもとに、この労働立法がなされたのだというお話、これはおそらく私は、終戰後のアメリカの外交政策、デイプロマツト・ポリシイに、日本の占領の第一の目的日本民主化することにあつた。すなわちデモクラゼーシヨンということが第一の目的、第二に日本を軍事的に無力にする、足腰の立たないようにする、いわゆるデイ・ミリタリゼーシヨンが目的であつた。要するにこの二つの目標の上に立つて日本労働立法がなされた、こういうことでございますか。
  98. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 さようでございます。
  99. 森山欽司

    ○森山委員 しからば終戰直後におけるアメリカ政策に対して批判を持つ者の立場は、この労働立法改正というものが当然考えられなければならないということになるのでございますか。
  100. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 そういうように簡單には言えないと思います。やはり占領政策に批判を持ちます者でありましても、労働立法とか、憲法に與えられました民主化に対しては、非常に賛成するというものがむしろ日本の現状じやないかと私は思います。
  101. 森山欽司

    ○森山委員 最後に野村先生にお尋ねいたしますが、先生の先ほど来のお話は、大学の講義としては非常にけつこうでありますが、われわれ国会議員の立場から申しますと、もう少し具体的な結論がいただきたかつたと思うのであります。たとえば冷却期間として調停申請をいたします、煮詰まらなければ却下するといいますが、労働委員会が却下した場合において、これは違法であるか、不当であるかということについて疑念があるとおつしやいましたが、先生はこれを違法とされるものか、あるいは不当とされるものか。すなわち救済措置が認められるべきものであるか、認められないものであるか、この法律が制定された場合において、先生の学説をひとつこの際はつきりきめていただきたい。もつとも今まだわからないのだというお話だつたら、けつこうでございます。
  102. 野村平爾

    ○野村公述人 私はそういうことにつきましては、実は疑念があるから疑念があると申し上げたのでありまして、はつきりしておればはつきり申し上げるのであります。
  103. 森山欽司

    ○森山委員 そうすると、労調法の第十八條規定については、先生は今度冷却期間を十五日にして、却下制度を設けても、これはうまく行かないぞということを言われますが、そのかわりに、ただちに労働大臣等に対する予告制度というようなものにかえてよいという御意見をお持ちでしようか。
  104. 野村平爾

    ○野村公述人 私は、この問題に対する基本的な考え方は、大体ほうつておきまして一定期間経過しなければ実は争議は起らないであろうという考え方を持つているということ。それからその場合に、公益事業においては必ず一般公衆に対する予告手段を組合はとつて来たということ。この二つがありますので、こういうような規定を置くことをやらないでもさしつかえないというのが、私のほんとうの考え方でございます。だからしいて言うならば、公衆に対して予告をするということを政府に請求し、政府がそれにかわつて、新聞やラジオ等を使つて公表してやるというような手段をとつて行くのがよいのではなかろうかと考えておるわけでございます。
  105. 森山欽司

    ○森山委員 最後に、緊急調整制度については、これは必要ないという御意見でございますか。
  106. 野村平爾

    ○野村公述人 その通りであります。
  107. 森山欽司

    ○森山委員 箕浦さんに伺いたいと思いますが、野村先生からのお話ですと、罰則について非常にへんぱであるという御意見がございました。労調法の第三十九條においては、これは個人罰に切りかえておる、しかるに四十條の不利益取扱い禁止は、罰則をなくして、不当労働行為に切りかえておる、これは非常にへんぱじやないかというようなお話がありましたが、あなたはこれをいかにお考えになつておりますか。
  108. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 今の問題につきましては、私としては今まとまつた意見を持つておりません。
  109. 島田末信

    島田委員長 熊本虎三君。
  110. 熊本虎三

    ○熊本委員 箕浦さんにお尋ねしたいのです。私も先ほど公述を拜聽いたしておりましたが、労働運動がいかにも不信で、なかなか今の労働組合法では手ぬるいというような前提が多分に使われたのでございますが、労働組合法は、私が言うまでもなく、保護立法として労働階級の最低の保障をするという建前立法がされておるものと、私ども確信して来ております。ただいまの改正、たとえば労調法改正にいたしましても、午前中も私言つたのでありますが、どう見ても規制の方に重点をおいていて、保護立法から規制法にかえようとしている。それに加えて、箕浦さんは、まだ足りないのだというお言葉のようでありますが、日本労働法保護立法では行けなくて、規制一点で行かなければいけない状況だとお考えかどうか、それをちよつと承つておきたい。
  111. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 私の申し上げたのは、現在の労働法規が労働者保護にあるということは、私も当然として認めますが、同時に、それだからその保護を薄くして彈圧法規にしろということを申し上げたのではないのであります。すなわち当然あるべき労働運動であるならば、それは何も干渉する必要もなければ、取締る必要もないが、そののりを越えたる運動については、治安立法その他で取締らなければならぬ、こういうことを私は申し上げたのであります。
  112. 熊本虎三

    ○熊本委員 大分わかつて参りましたが、のりを越えたか越えないかということは、一体だれが判断するかということでございまて、それはおのおのの立場でいかようとも判断されるおそれが多分にあるわけであります。そこで基本的にはあくまでも保護立法といたしまして、そうして、もし労働運動がまだ未熟で足りないところがあるならば、この法をさらに追加して、日本労働運動があくまでも正常なる労働運動によるがごとくに協力すべきであると、私は考えているのでありますが、見込みがないから、もう規制法にかわつてもやむを得ないのだというようなお考えだと、私と相当開きがあるかと思うのでございますが、その点はどうでしよう。
  113. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 私の申し上げたのは、労働法規というものがすべて規制法規になつてよろしいということは申し上げないのであります。治安立法その他の法律ができましても、これはあくまでも労働法規以外の法律でありまして、つまり労働法にきめられました正しい労働運動というものを阻止する意味ではないのであります。
  114. 熊本虎三

    ○熊本委員 大分明確になつて参りました。そこで箕浦さんにお聞きするのは、少し酷かと思いますけれども、なるほど労働争議も、終戰後の労働争議を見ましても、必ずしも行き過ぎがなかつたとは私も言えないと思う。しかしながらあのドツジ・プラン以来経営者側が非常に強化されまして、あらてゆる題についてやはり経営を中心としてものを考えて、労働行政に関してはどうしても反動化している。だから労働組合といたしましても、みずから自制し、あくまでも健全な方向へ逸脱なからしめるように努力することが、逆に経営者側からはなめられるという珍現象すらも出て来ている節が多分にあるわけであります。たとえば労働協約のごときは、あくまでもお互いが平和裡に労働問題を処理したいという基本的な観念に基いて、労働組合からこれを求めている。しかるにそれが平年かかつても、一年かかつてもできない。あつたものでも無協約状態なつている。こういうもののおおむねは、経営者があまりに労働階級の單純率直なる気持を包容する能力がないのか、あるいは意識的か知りませんけれども、経営者側からこれを遷延し、そうしてそのことのために労働争議が起きて来るというような、まことに残念しごくな状態がなしとしない。こういう形でやつて参りますれば、戰前における労働組合は、御承知の通り争議調停法というものが出たのでありますけれども、それは現象に対してほうつておけないからできたにすぎない。他の保護立法というものは一つもなかつたわけであります。にもかかわらず労働運動も、労働争議も、戰争中軍の強力なる彈圧をもつてして初めてこれが解決するに至つたのでありますけれども、しかしながらあの彈圧の中においても、やむにやまれざるものとしてあれだけのものが行われて来ているわけであります。従つてこういうような現象の中において、今労働組合運動もできるだけ行き過ぎを清算して、堅実化しようとして努力の過程にあるにかかわらず、追い討ちをかけるがごときことは、はなはだ残念しごくだと考えているわけでございますが、これらの点についてのお考え方をただしておきたいと思います。
  115. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 今のお話でありますが、経営者の方が、たとえば三例を労働協約にとりますと、これは戰後ただちにできました労働協約は、あれはむしろ労働組合の宣言文に経営者が調印したようなものでありまして、経営者と労働者が対等の立場で結んだ契約ではないと私は考えておるのであります。従つて、その後日本の経済事情もやや復興して参りまして、そうしてどうしても一本立ちの経済にならなければならぬ。経営者としての立場をもつと明確に把握しなければならぬという立場なつたがゆえに、一応過去にとらえた線をもつてこれを動かすべからざる線とするならば、それは経営者の反動でありましよう。しかしながら経営者としては当然帰るべき線に帰りつつあるのだ、かように私は信じておるのであります。従つて今の労働協約が、非常に停頓してできない面もあることは私も承知しておりますが、私はここでもう一ぺん労働協約を、妙なゆがんだ形で結びたくない。やはり正しい労使対等の立場で、明朗な、ほんとうの産業平和を願うところの労働協約が、各方面で結ばれてほしい。そういう意味におきまして、ここで無理に労働協約の締結促進などということは、実は現在やつておりません。そういう意味であります。  なお熊本さんのお話のように、労働運動指導者のお考えが、熊本さんのようなお考えであれば、日本労働運動もしつかり行くのだろう、かように考えております。
  116. 熊本虎三

    ○熊本委員 私がほめられてもどうも赤面の至りであります。もちろん私どもは、御承知の通り行き過ぎはためようとして、いろいろ言われながらも微力を捧げて参つております。しかし微力を捧げて、もつて正常化しようとするこれらの運動をも、うずに巻いて、あえて反抗運動をやらせなければならないときではないと私は思う。なるほど労働協約にいたしましても、従来の関係から見て、多少の行き過ぎがあるという点があつたかもしれません。しかし一ぺんにためることのために、無協約状態に置いて団交で来い。決裂すれば争議で来いという構えは、経営者としてとらるべき態度ではない。この点は経営者側としても十分なるしんしやくをして、率直、單純な労働者を不安と動揺の中に追い込むがごとき処置は、健全な態度ではないと私は考えておるわけです。この点はいくら言つても今のところは議論になるかもしれませんから、お考えおきを願つておきたいと思います。  今度の法案は何と言いましても、労調法に関する限りは労働者規制一本で、一つも経営者側の方面に対して、ここをこういうふうにするという研究すらしていないことは事実であります。従つて、どういうまじめな組合運動者も、こういうことでは次に来るべきものが恐しいという不安の念にかられることもやむを得ない。こういう立場にあることをお考え願わなければならないであろうと考えます。北岡先生からいろいろお話がございますが、私はその中で最後が一番かんじんだと存じます。要するに政府を信頼しないということ、これが日本労働運動を健全化し、正常化するために最も害悪になる元なのです。それをどう信用せしめるかということは、やはり政府自体が時局に即応をして、労働階級に多少の手落ちがあるにいたしましても、これに対して大いなる幅を持つた、これを包容し、育成するという雅量がないところから、逆に政府の信頼がなくなつて不安が出て来、現われておるもの以上に労働階級をして戰標せしめ、かつての戰争以前の二の舞いが再び来るのではないかと思わせるところに、問題はますます深刻になる。私はかように考えておるのでありまして、最後に先生の言われましたことはもつとも重大だと私は考えておりますが、やはり先生もそういうお考えであるかどうかということを、お尋ねしておきたいと思います。
  117. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 日本政府は、今あなたのおつしやつたように、過去、戰争前においてさんざん法規を濫用して、国民の自由を彈圧したという前科者でありまして、吉田内閣がその前科を引継ぐべき理由はごうもないのでありますけれども、日本政府と申しますと、やはりその過去の悪い印象が残りますから、私はそういうことのないということをはつきりと中外に表明すればいいと思う。その方法は、いかに口約束をしてもしようがありませんから、国際労働條約という国際的の標準を採用することを世界に向つて誓約すればいい。そうしますればもし労働法を濫用しまして労働者の自由、団結権争議権等を不当に彈圧しまするならば、すぐ国際労働機関から調査せられ、そこである程度以上の濫用はできないということになります。それからまた諸外国は、日本労働立法などに関しましてはあまり知らないものでございますから、そこで今度日本労働立法を改悪するのだ、せつかくアメリカさんが来て、進駐軍が日本民主化のためにつくつたところの労働法を、日本反動内閣がこれをかえるのだといいますと、やはり日本というのは反動的なものであるという先入主がございますから、いろいろ非常な不安を感ずる。最近いろいろな外国のものを美ますと、どうも日本の最近の共産党の抑制に対しまする法律の必要は、みな認めておるようでございますけれども、これが行き先が恐ろしい、こういう感じを皆持つておる。そこで行き先は恐ろしくないのだ、これだけのことは世界に向つてコミツトする、約束するから、これを守らなかつたらどこまでも調査団をもつて日本を調査してくれということを天下に声明しますれば、外国も日本を信頼するのではないか。私は具体的な方法としまして、国際労働條約の批准をする。その批准の範囲内でやれることはたくさんあるのでありますから、経済の維持、経済の自立のために必要な団結権争議権の抑制ということは、やらなければならぬと思いますから、大いにおやりになつたらいいだろうと思います。
  118. 熊本虎三

    ○熊本委員 時間がありませんし、それでは困りますからあとで先生にも教わりに参ろうとも思いますが、とにかく最近の吉田内閣のとつております諸政策は、あくまでもへんぱなものと私どもは見ておる。たとえて言いますならば、今繊維産業も非常に楽ではないのでありますが、かつては御承知の通り六十何億という利益をせしめておいて、労働者が年末手当を要求しても、ストをもつてしなければ年末手当を出さない。そうしておいて、一方に運動の行き過ぎが多少でもあるからということで組合を規制しようとすることは、ますますこれを激成することになると私は考えます。従つてそういうことが片鱗としてここに現われておると私どもは見ざるを得ない。従つて問題は、吉田内閣がこういうものを出す必要があつて出そうとするならば、当然公平なものを出すべきである。経営者側にも多くの行き過ぎがあるわけなので、これらについて、問題をせめて兼ね合いにしたものを出すべきではなかつたろうかという考え方を、日本の将来のために考えるわけで、この点は北岡先生も一致するのではないか、こう思うのですが、念のためお答え願えれば幸いだと思います。
  119. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 私はどうもあまり一致してないように思うのです。私が見聞する限りにおきましては、日本の自由主義者、民主主義者のこの破防法とか労働法に対しまする反対は、吉田内閣が現実にどういうことをやつたという、吉田内閣に対する不安にあらずして、日本政府そのものに対する不安である。おおむね戰前においてやつた抑圧を思い起しておるようであります。従つて私は、吉田内閣もいろいろな失政があるでしようが、それはそう大したものとは思つていない。むしろ戰前の日本政府の信用を回復しなければならぬ、こう私は思つておる次第でございまして、この法律としましては、そうへんぱなものとは思わない。これは公益と争議権との調節でありまして、公益という点から申しますれば、労働争議権というものは相当尊重しておる。これでもしうまく行かなかつたならば、もう少し労働争議権の方に讓歩をお願いしなければならぬのじやないかとさえ私は思つております。おほめいただいたようでありますが、熊本さんとあまり意見が一致していないようでございますから、一言申し上げておきます。
  120. 島田末信

  121. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 箕浦公述人にお聞きしたいと思います。先ほど来のお話では、労使の協約の状態が帰るべき線にだんだんに帰つて来たのであつて、今の状態はむしろ当然であるというような御見解であつたと思うのでございます。そしてその中で、あなたが外国においでになつて、メーデーのあの事件等についても、海外では非常に遺憾なこととして、自分ははずかしかつたというような御意見があつたと思うのでございます。私どもの聞いております日本労使間の状態に対する国際的な見解というものは、イギリスのエコノミストなんかに出ておりますようなものの見解では、日本の戰前、戰時中の産業、政治などの追放解除された指導者たちの公的生活への復帰によつて、労使間が非常に逆もどりしておる。今日は元国際労働機関帝国事務所長というようなお方もお見えになりました、帝国という字がまた出て来たようでございますが、そういう帝国主義、侵略政治をやつておつた時代に逆もどりして来ているのではないか、そういう点で労働法規の改正ということも、日本の資本主義が、かつてやりました低賃金政策にもどるその大きな役割をやつているのではないかというふうに、明らかに非難の輿論があるように承つております。そこで、占領軍が参りまして占領政策によつて労働組合をつくらせた。しかしアメリカの占領政策というものが、日本労働運動の進行、スト権を行使するということに対して障害となつて、占領軍の力でこれを押えた。その後これに対する教育とか、キレン課長等がいろいろやつてみたけれども、どうしてもうまく行かなかつたということで、二十四年にはまた労働法の改悪などをしておるのでございます。そういう一連の政策と、今度の、いわゆる民主国家としての講和というふうに吉田内閣が宣伝しておりますけれども、その独立状態なつ日本アメリカとの單独講和という現状というものは、あなたのお願いになるような、いわゆる戰前の、資本家が権力を握つておつた状態に帰るべきだというその状態であるというように了承してもよろしゆうございますか。そうでなければ、国際舞台日本の資本家は出ることはできないのかどうか。この点について実にはつきりした御意見だと思うのでございますが、その点を明らかにしておきたいと思います。
  122. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 ただいまお話の、戰前にもどるということの意味が私にははつきりしないのであります。日本の経営者といえども、戰後あつたような、会社の経営状況がどうあろうとも、とにかく労働者をかかえてそれを食べさせて行かなければならぬということで、つぶれた会社、工場もずいぶんあつたのでありまして、そういうふうな状況では、とうてい長く続くことはできないのであります。そこで、すべての企業が経済的にも独立するような態様を整えねばならぬ。その意味におきましては、やはり経営者としても、経営者としてのしつかりした地歩を固めて、あくまでも労働者と対等の立場で話合いをつけて、仕事をして行くということでなければならぬ。こういうことを申し上げたのでありまして、戰前にもどるという表現が私にははつきりいたしませんが、私どもの考えといたしましては、あくまでも労働組合の健全なる発達をこいねがつて、そうして健全なる労働組合との提携によつて、産業平和のもとに産業の経営をやつて行きたいということであつて、こういうこと以外に考えはないわけであります。またそうでないと、国際競争場裡に立つても太刀打ちができないというふうに考えております。
  123. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 ただいまのお言葉の中の産業平和ということは、ストをやらないという状態で、労働者からスト権をとつた状態ということを意味しておるのでございますか。
  124. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 これは非常にむずかしい御質問であります。私どもは労働組合からスト権をとることを念願しておりません。あくまでも労働組合としてりつぱな労働組合であるならば、ストをしなければならぬときには当然ストをされるでありましよう。ですから今の段階において、ストをやることがよいか悪いかという判断の問題は、おのずからその立場によつて判断が違いましようが、とにかく原則論といたしましては、あくまでも労働組合はストをやつてはいかぬとか、スト権を奪つて産業平和をやろうとかいうような意味ではございません。
  125. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 ただいまのお言葉によりますと、日本にはりつぱな労組が少いというような意味の御発言があつたと思いますが、熊本さんの所属しておられますところの総同盟なんかは、ストライキをやらないということを宣言されたようでございますが、今の日本の危機に際して、ストを放棄している組合はほとんどないようで、ほとんどがストをやらなければならない状態だというふうに、ただいまの日本の国情を了解しておるのでございます。先ほど産業の平和ということをおつしやつたのでございますが、これは私どもは、労働組合だけの御意見ではなく、資本家団体からの御意見等でも承つておることでございます。先ほど野村先生がアメリカの例として言われた原子爆彈をつくつている工場の労働者ストライキ禁止することが、アメリカあるいは世界のあらゆる人類の幸福と平和を守ることになるかどうかというようなことが、今世界の共通した一つの問題として提示されておると思うのであります。日本労働者が、今意識するとしないとにかかわらず、ほとんどが希望してない状態でございますけれども、産業の組織が日米経済協力や行政協定によりまして、軍需工場へ軍需工場へとり資材も資源も持つて行かれておるのでございます。そこに所属しておるところの労働者が、軍命令などで一方的に首を切られたり、あるいはすぐ工場の中の留置場ができておるところに入れられて、軍事裁判にまわされるというような、日本の歴史でかつてないような非常に奴隷的な状態で脅かされておるようなとき、政治的な目的を持たなくても、そのようなささやかな人権蹂躪に対して要求を出して立ち上つても、政府はそれを政治的な問題としてこれを押えようとしておる、また押えておる、こういう事実がございますが、あなたのお話によると、ストをやるべきときにはやるという組合は、りつぱな組合であるというふうにおつしやつておりますが、産業の平和ということの内容が、どういうふうなものか、抽象的な言葉ではわからないので、具体的には日本労働者状態や、資本家の状態というものは、行政協定というものによつて全面的に支配されて来ておると思うのでありますが、そういうときにおける産業の平和というのは、どういうようなものでございましようか。
  126. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 非常にお立場が私と違うようでありまして、どうも非常に理解のできぬ点がございまするので、私は御答弁を控えさせていただきとう存じます。
  127. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 立場がどうも違うという御答弁でありますれば、しかたがございません。  北岡さんにお伺いしておきたいと思います。先ほどの公述の中にございましたが、先生の御意見では、国際的の労働條約に参加すべきだというふうなことをおつしやつておつたと思います。しかしながら今の吉山内閣は、多少の失政もあるだろうけれどもという、御遠慮したような表現で言つておられたように思いますが、国際的な労働條約に入るにいたしましても、国際的な労働組合機関からこのたびの、改正と申しておりますが、改悪に対して抗議されておる。つまり機関決定として、明らかに彈圧法として抗議を受けておるわけでございます。そういうような状態におきまして、この法律をそのままにしておいて、国際的な労働機関に参加することは、これはしごく矛盾しておると思うのでございますが、いかがでございましようか。
  128. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 私の寡聞の範囲におきましては、この法律をちやんと正解しまして、しかもこれに対して抗議が来ておることはないと思うのであります。むしろ将来の不安だろうと思います。もし抗議が来ておりましても、これは十分その法律の内容を了解しないものだろうと思います。百歩讓りまして、かりにこの法律に対して抗議が来ておりましても、これは労働組合の考えでございます。国際労働機関というものは、政府労働者と資本家の三者構成でありまして、その三者の委員会もあり、総会もございますが、その三者の間で十分審議した上で、国際労働條約に違反しておるとすれば、日本に対していろいろめんどうな糾問が来まするけれども、しかし單に労働組合が抗議しただけでは、日本労働條約の違反にはならない。そうして私の了解しております範囲におきましては、国際労働條約中の団結権保障に関する條約は、一歩進めて言えば、公益のために労働者争議権を抑制する法律をつくりましても、それは国際條約の違反にはならないのでありますから、どこからも抗議は来ない。日本は世界の標準を守つておるということになるのでありますから、必ず内外の信用を博し、日本労働條件はこれ以上は下つても、その最低線を確保するゆえんであろうと思います。
  129. 島田末信

    島田委員長 柄澤委員大分時間が超過しておりますので、この辺でおいてはどうかと思います。
  130. 柄澤登志子

    ○柄澤委員 それではそういうことにいたします。
  131. 島田末信

    島田委員長 中原健次君。
  132. 中原健次

    ○中原委員 私は箕浦さんに伺いたいと思います。箕浦さんの御発言の中で、たとえばこの三十五條の二の緊急調整の條項は、あえて反対はせぬけれども、これはまた別に治安立法的な措置をもつて施策を行うた方がよかろう、こういうふうに言われたかと思います。そうだとすれば、箕浦さんの御見解では、この緊急調整というものは、多分に治安的な性格を内容としておる、こういうふうに御指摘になつたことになると思うのですが、その点はいかがですか。
  133. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 緊急措置をとらなければならぬような場合は、おそらくゼネストとか政治ストとかいつたことだろうと思いますが、その場合に、この緊急措置をとりまして、五十日間の争議禁止をやりましても、この緊急事態性格そのものから見まして、やはり労働法だけではまかない切れない面があろうと思いまするので、その際には、やはり別個に治安立法といつたようなとりきめがなければいけないのじやないか、こういうことを申し上げたわけであります。
  134. 中原健次

    ○中原委員 それでは労働争議の方向が、労働者の社会的、経済的地位を向上するためになされる場合ではなくして、むしろ社会の秩序をかき乱すようなものを内包しておる場合が多い。こういうふうに言われたようにも思うのでありますが、そのように拜聽してよろしゆうございますか。そうだといたしますれば、私はまず、労働者のために労働権あるいは人としての基本権を確認するための憲法ができまして、その憲法の精神にのつとつて、労働諸施策が行われることを要請されて、今日に至つたと思います。そうすると、その憲法の示す範囲の中で、その方向において労働階級の行動が逸脱してなされるというふうに御認識に相なられるとするならば、元へ返しまして、どうも憲法がじやまになるということにつながるように思うのですが、この点はいかがですか。
  135. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 憲法がじやまになるというお話は私にはわからないのでありますが、たとい今治安立法ができましても、憲法保障された人権を蹂躙しようといつたような治安立法を期待しておるわけではないのでありまして、つまりその範囲を逸脱しておるものに対してのみ取締りをする、こういうことを私どもは言つておるのであります。
  136. 中原健次

    ○中原委員 その逸脱というのがなかなか問題になるのですが、抽象的に逸脱という御説明では、実は理解いたしかねるのであります。おそらく現実に起つておる各種の、少くとも大きい争議というようなものに対して、そのような御見解を持つておいでになるからこそ、そういう御議論も出たのではなかろうかと思います。それでこれをもう少し具体的に、たとえばどういう場合にあなたの御指摘になるような逸脱した行為と目されるような争議があつたか、これをまず御指摘いただきまして、私どもの判断に資したいと思います。
  137. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 私は、過去の実例を申し上げるとちよつと困るのでありますが、今の治安立法というものは、中原さんの希望されるところは、これを具体的にこうこうだと言えという御注文のようであります。このことは実はなかなか微妙な点もありまして、私どもといたしましては、具体的にこれこれの場合というような指摘はいたしかねる次第であります。
  138. 中原健次

    ○中原委員 それではその件につきましては差控えます。大体お心のうちはわかるのです。お立場がお立場ですから、どうしてもその一方の立場に偏して御解釈になられるのはごもつともだと思います。ただ日本労働者はそれを承認せぬということだけは申し上げておきます。そこで先ほどのお話の中で、対等の立場で協約を結びたいということをしきりに御指摘になりました。なるほど労使ともに対等の立場で協約を進めて行くということは、私どもも願つておるところでありまして、そうなれば、今日の労使関係は、今日までの法規だけの範囲内において対等でなかつたのかということなんです。私どもはこのことにつきまして、必ずしも現行法規の範囲内におきましても、いろいろそこに例外規定もありまして、対等な立場によつて協約を締結することが困難である場合もしばしば見受けておるわけでありますが、さらに加うるに、最近いろいろ法律関係並びに労働関係諸法規の改正に伴いまして、労働階級の立場がいわば非常に抑圧される傾向になつて来たことに気づくのであります。そうなつて来ますと、労働関係調整法その他、ことに労働関係調整法の中で吟味して参りましても、対等の立場を失おうとしておるのはむしろ労働者の側ではなかろうか。こういうふうに私は思うのです。たとえば三十五條の二について見ましても、労働大臣の判断で、労働者の対等の立場保障する争議権が押えられている、こういう点から考えますと、この立法はかえつてあなたの御指摘になりました、経営者の立場を対等にもどしたいと仰せになられますことよりは、労働者立場の方が一層対等性を奪われつつある、こういうことになると思うのですが、この辺はどういうように御解釈でありますか。
  139. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 私が労使対等の立場で協約云々と言うことは、先ほど労働協契のお話が出ました場合に申し上げたのでありまして、この労働法改正をかくのごとく行わなければ、労働対等の立場が保てないということを申し上げたわけではないのでありまして、労働協約を結ぶ場合には、あくまでも労使対等の自由な立場で、公正な労働協約を結ばなければならない、こういうことを申し上げたのであります。
  140. 中原健次

    ○中原委員 まことに同感でありまして、そういうふうな立場保障づけられるような法的措置というものが要望されておると思います。そういうような観点から考えますと、ただいまここで一応問題になつております三法案については、相当批判の余地があるように思います。むしろこれは箕浦さんも御指摘になられたと思いますが、こういうような措置を講ずることに伴いまして、労使関係というものは平和的な円満な結論へおもむくのではなしに、かえつて一層その間のみぞを深めるという形に追い込まれる、そういう場合が多いように受けとれるのであります。従いましてまず一番大切なことは、労働者発言労働者の行動、こういうふうなものに対して、やはり憲法がさし示しましたような、そういうおおらかな線でこれを確認して行く。そうして責任をみずから背負いながら、労働者はその線で発言し、行動して行くということになつて参りますれば、こういう煩わしいものはなくても、よき結論が出るのではなかろうか、こういうように私どもは解するのであります。この点につきまして、私はこの際北岡さんの御見解を伺つてみたい思います。いろいろ北岡さんの御説の中には、しばらく私どもの耳に聞いたことのない響きを與えられましたので、ひとまずここで北岡さんの御見解を聞いてみたいと思います。
  141. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 どの点を質問せられましたのか、ちよつと捕捉せられないのでありまするが、私はこの法律の一番重要な緊急調整並びに公益事業に関しますることは、公益と労働争議権の調節である、そうして私は、少しがんこなようでございまするが、公益のためには労働争議権はもう少し讓歩していただいてもいい、こういうような考えを持つておる。そのほかの点は、すべて事業主と労働者と両方が賛成したようなものではないかと思うのです。もつともこの中に公務員現業員に団体交渉権を與えるということは、あるいは使用者側は反対せられるかもわかりませんけれども、これにつきましても、抽象的な理論としましては、現在鉄道事業の現業員に対しては団体交渉権が與えられておるのですから、この程度団結権を與えるのはやむを得ないと思うのでありまして、この法律はそう大してどちらに片寄るといつたようなものとも私は思わないのであります。ちよつと御質問の要点に触れなかつたかとも思いますが、私の見解を申し述べます。
  142. 中原健次

    ○中原委員 時間の制限もありますので、逐一指摘して御見解をさらに伺うということはできないのですが、ただ問題は、ものの考え方の基本的なより場所、これがこの法を私ども吟味して参りますために非常に重要なことかと考えますので、お尋ねしておるわけです。大体あなたの従来のお立場から判断いたしましても、労働問題に関しては相当造詣をお持ちのように私どもは思うのでありまするが、そうでありますならば、労働権というものはまずもつてどういうふうに理解したらいいか、労働権に対する理解がはつきりして来ぬことには私はやはりすべての現象が間違えられて理解され、論議されて行く、こういうように思います。ここで労働権というものについて、一応御解釈を拜聽したいと思います。
  143. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 労働権に関しましては三つの学説がございますが、私はやはり自由権の一種である、国が保障した自由権であるという解釈をとつております。
  144. 中原健次

    ○中原委員 それでは自由権と拜聽いたします。自由権ということは、労働者が自分の意思に従つて行動する意味かと思いますが、しかしそれは結局人間は生きるということが一応基底になると思います。そうすると生きるという立場からいろいろな自由意思がそこに生れて来ると思います。そうだといたしますと、労働階級が生きるために国はいろいろ配慮しておることになるのだと考える。そのためには、生きることを国家が法的に保障して行くというふうになるのではなかろうかと思います。国家が生きることを法的に保障して、政府政策の上でこれを保障して行くということでありますならば、今日わが日本労働階級は、一体どういう生活水準にどういう生活圏的な地位におるかということが、当然問題になると思うのです。これが押し下げられておつたのが今までの実情であまりしたし、現在もそうでありますが、これを奪回させよう、労働者も合理的な方法によつてその圧縮された、弱められた生きる権利を取返させてやろうというところに私は法的な措置なり、政治的な考慮があるものだと思うのであります。そうなつて参りますと、今日の段階で、日本労働者がいろいろな面でだんだん生活の水準を取返すことに困難な條件が出て参りました。ことにそれを主張いたしますものとして、要するに団結権団体交渉権というようなものを行使いたしましても、何とかかんとかそこに文句がつきましてこれが圧縮されて行く、しかもその規制いたします方面といたしましてはこれは公共の利益にそぐわざることであるからというような判断で、これが圧縮されようとしておるのでありますが、そうなるといたしますと、公共福祉云々の規定づけが非常に問題になると思うのです。この規定づけが、軽率にしかも一方に偏してなされますと、とんでもないことになつてしまいます。公共福祉の一番基礎條件である勤労者の生活が、もうその辺からこわされて行くというようなかつこうになるのじやなかろうか、今まで長い間それを喪失しておりました日本労働者が、わずかでもそれを取返そうとして努力している過程において、もうそれを押えられて行くということになりましたのでは、私は労働の基本権はとうてい守ることができないと思うのです。しかもそれがだんだん最近――政治的な線で行動するから云々ということで、政治ストと名づけまして、政治ストということが何か非合法的な暴力的なものであるかのようなことが、しかも政府の方からしきりに宣伝されておる。これははなはだ遺憾に思うのであります。結局政治的な性格というものは、おのずから政治経済の関係というものが整然と分離しがたいものがあるのでありまして、どうしてもある部面は政治的なものにつながるところがあると思う。たとえば労働者権限を剥奪するような法律がしかれようとするならば、労働者が反対の行動を起さなければしかたがない。今日まで辛うじて保障された自分の最低の線でありますから、これを守ろうとする動きは当然あるべきはずです。そういう場合にその行動は政治行動であるから、これは許されないというような形でどんどん押されて参りましたのでは、やはり北岡さんも御指摘になられましたような意味においても、自由権は剥奪されてしまうということになるのではないかと考えます。そういう点につきまして学を持つておられる北岡さんなら、私は平静な御判断が出て来ると思いまして、期待して申し上げたのですが、どうでしようか。今の段階でそれでもなおかつ労働階級のそういう基本権が蹂躙される場合、やむを得ないということで、一方的な見解ですべてを押し切られても、この程度の法によつて律せられる限度のものならばやむを得ないということになりますか、それをひとつ伺つておきたい。
  145. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 中原さんのお言葉は非常に重要な問題を含んでおりますので、もし時間が許されますならば何時間でもやるつもりでありますが、そんな時間もないので、ごくかいつまんで申し上げます。  労働者の最低生活を保障するということは、近代国家の最も重要な任務でありますから、これがために日本も非常に苦しい予算の中から生活保護法というものをやり、社会保障法も幾分やつておりますが、さらに団結権争議権保障しまして、労働者の向上をはかつていることは御承知の通りであります。しかしながらそれと一般の公益との調和ということは非常にむずかしくて、一般公益を害してまでも労働者権利を伸長する手段としての争議は、やはりある程度制限を受けなければならぬのではないか。これは世界を通じて認められたる原則の一致であると思う。第二の政治ストの問題につきましては、これははつきり申しましたように、明白なる争議権の濫用であると思う。労働者の政治上の要求というものは政党を通じ、もしくはその他の方法によつてやることは必要でありますけれども、労働争議という非常に強力なものをもつて労働者の政治的な思想を実行しようとしてはならない。労働争議というのは、とにかく大きな組合一つに結集すれば、日本中をまつ暗にするような、日本の産業に致命的な障害を與える。こういう権力を無制限に振いますならば、いかに吉田内閣が国民多数の意思を代表しておるものでありましても、屈服せざるを得ない。もし現行の労働法があのままに行われまして、そうして司令部がなくなつた後におきまして労働者が団結しますならば、政府労働組合のために心にもない法律をつくつたり、あるいはその意思に反して予算を出したり、あるいは出したい法律も出さなかつたりしなければならぬだろうと思う。かくのごとく少数の労働組合が、民主的にできた内閣、議会というものを曲げるということは、やるべきことではない、こういうふうに争議権は使われてはならない。争議権労働者の経済生活を向上する場合にのみ使わるべきである。これが私の結論でございます。もし時間がございましたら、幾らでも御説を拜聽してお答え申し上げますが、今日はこの程度で……。
  146. 島田末信

    島田委員長 中原君、時間も大分過ぎましたから、簡單に願います。
  147. 中原健次

    ○中原委員 それではあと一点だけ簡單にやります。  ただいまのお言葉で申し上げたいと思うのですが、なるほどそうです。しかし労働者がたとえばそういう政治的に関係のある問題、しかも自分の経済的な生活と結びついた関係において発言ないし行動いたします場合に、それは議会を絶対に否定してはおらないのです。そういう議会外の人間が議会の中に、政党に反映するということを期待して、労働者は議会の外でやつているわけです。議会の外のもろもろの動きは、必ずしも労組だけではないと思う。たとえばこちらに日経連の箕浦さんがおられますが、日経連におきましても議会を牽制なさるようなことはあると思います。議会外の大衆が動くにしても、よき法律を制定するために行動するのであります。従つて労働者が議会を否定するというより、むしろ議会を激励するために大衆行動をいたしたのであります。私はその点につきましては、そう信じます。一言これに関連して野村先生の意見を伺いまして、私の質問を終ります。
  148. 野村平爾

    ○野村公述人 一般にあるストライキを政治ストと言うかどうかということは、たいへんむずかしいことだと思います。ただごく社会的な現象として言つた場合に、一定の政策を推進するための方法としてストライキをとる。あるいはそれによつて政府をして決意せしめてやるということをさして、広い意味で政治ストと呼ぶのだといたしますと、確かに今やられているようなものは、一面からいつて政治ストの性格を打つているということが言えると思います。と同時に、労働者ストライキ権とかあるいは団体交渉権とかいうものを基本的に認めるか認めないかということについて議論しているのだとするならば、それはまた今の政策推進ということと、個々の使用者に対して要求を出しているものとのちようど中間を結ぶような、つまり基本的な使用者に対する要求を取結ぶような要求をそれ自体の中に持つているものだというふうに考えることができるわけでございます。ですからこれによつて政府を転覆し、政権を奪取するというような性格のものか、それから続きましては、労働者使用者と対等な立場において交渉するための基本的條件をつくるのだというところに至るまで、非常に幅の広いものがあるのではないか。そこで、政治ストであるからすぐにイコールこれは違法であるのだというふうに考えるということは、これは私としてはとりません。それでは政治ストというものが、かりに違法だと考える基礎がどこにあるのかとすると、それは先ほども議論されたように、議会制度そのものを否定して行くことだと思うのです、つまり憲法の基本的な精神を否定するような行動を、憲法の中の権利として認めているはずはないというところになるのではないかと思う。ですから問題は、むしろ大きく言うならば、すべての政策憲法の基本的人権を尊重するような角度において取上げられるということが大切なことなのだ。そこでもしそういうことに抵触するような形で無理な政策が推し進められるというような場合において争議が起つたということになりますと、一概にこれをもつて違法であるとかいうことを言い得ないものがあるのじやないかということが一点。それからもう一つ労働者の行動は、示威行動としてかなり自由な行動が許されなくてはならない。もちろん経営の中におきまして、いつでも経営を放棄することがいいかどうかということは、経営者と労働者との間の関係として考えられるわけでありますけれども、ある労働者が自分として一つ政策を実行してもらいたいというので、頭の上にプラカードを掲げて、そうして議会のところに歩いて来るためにその日会社を休んだという行動は、今の世の中としては、それではこれは犯罪になるだろうかというと、犯罪にならないと思う。たとえば広告の仕方とかあるいはデモのやり方ということについての取締規定に違犯するということがあれば格別、そうでなければ、会社を休んで議会へ来たということが違法になるかというと、これは必ずしも違法にならないと思う。そこで、刑事上の責任として罰するというようなストライキは、一体どういう程度に達したらなるだろうかということになると、これはもつといろいろな條件がいるのではないか。だから、みなが休んで議会へ出かけようじやないかという形で、議会へ押しかけて来られたというときに、公安條例に基くところのたとえば届出等が済んでおるならば、これは違法じやないというようなことになつてしまうのじやなかろうかと思うのであります。そういう意味で、団体行動の中に通常社会的に考えられる程度の政治活動の自由というものが組合員の立場において保障されるということはあり得るわけです。ただそれがはなはだしく通常の議会制度その他の趣旨を否定するような形において行われた場合だけは、これはやはり違法なものとして、それに基くところの刑罰の構成要件に該当する場合は刑罰にかけられるでありましようし、あるいは民事責任等を生ずるという場合もあり得るというふうに私は考えておるのです。
  149. 青野武一

    ○青野委員 時間がありませんから、要点だけ簡單に二、三点質問したいと思います。  まず北岡教授にお尋ねしたい。先ほど委員の質問に対しての御答弁の中にもございましたし、公述なさいました中にもあつたと思いますが、北岡さんは現状を見て、戰前にすべてが復活することを国民は非常に不安に思つている、国際的に見て、政府が戰前からの権力の濫用のためにたいへん信用がない。従つて国際労働條約といつたようなものをつくる方向に持つて行つたらどうか。私は国際労働條約を締結して、国際的に労働者保護労働関係に対する規制をすることには賛成であります。しかし、一番先に言われた、すべて戰前に復帰して行こうとすることに対して国民は非常な不安を持つているということは、大体どこが根拠になつてそういうお言葉が出たか、私はインドの新聞を直接見たのではございませんが、やはり日本でも有力な新聞に先月の十八日に出ておつたと記憶しておりますが、インドの新聞でデーリー・エクスプレスという新聞があります。それの四月十八日の社説に、さか立ちしている日本という題目で、大体こういうことを書いてある。日本のしいられたデモクラシーはようやく皮がはげて、ほとんどすべて戰前に逆もどりし、万歳という掛声が復活し、財閥も元の生気をとりもどして来た。これではもはや日本も平和を愛するデモクラシーの国であると信ずるわけに行かない。社説の中を一貫して流れておるものは、インドのこの新聞を通じて、日本に大きな不信の言葉が投げかけられた。そうすると北岡さんは、戰前に復帰するということは、あるいは再軍備は反対だ、あるいは徴兵令は反対だ、国外出兵は反対だ、安保條約に基く行政協定は一方的であるから反対だというように、労働組合、革新的な政党を中心に大きく国民的な輿論がまき起りつつあるこの現状を見て、そういうお考えのもとにあのようなお言葉が出たか、これをひとつお伺いしたいと思います。
  150. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 ただいま私の言葉を誤解されたと思つております。私は、戰後の日本が戰前の日本に復帰するなどとは毛頭考えていない。ずつと戰前よりは個人の自由を尊重し、民主的な政府であつて、これは動かないと私はかたく信じておるのですけれども、日本の知識階級及び外国人はそうは思わない。その理由は、戰前における政府職権濫用、自由抑圧的な制度があまりにもはなはだしかつた。それがなおわれわれ知識人の記憶から去らないものですから、そういう危惧を抱いておる、私はこう見ておるのです。今あげられましたインドの新聞記事、この記事は、アメリカの新聞でも見ますし、イギリスの新聞でも見るのです。だから私は、これは日本政府が戰後ほんとうに民主化し、自由を尊重するようになつたにかかわらず、世界の人はこれを信用しないのだと思う。また日本の知識人、文化人とか新聞記者とか、学者連中が信用しないのだから、これを信用せしめるために国際労働條約に――国際労働條約といつて中原さんあるいは青野さんに今講釈しては、はなはだ恐縮でありますが、現に日本は最近国際労働機関に入りまして、国際労働條約というものが日本の食膳に載せられている。これを批准しさえすれば、日本は内外に対しまして、これ以上は日本はバツクはしませんということを保証することになるのです。その労働條約を批准して、そうして今申したような、今日やつておるこの労働立法をしますならば、日本の知識人並びに外国人の日本に対する危惧というものはおおむね解消するだろう、こういうような私の考えでございます。
  151. 青野武一

    ○青野委員 重ねてお尋ねいたします。北岡先生のお考えになつておりますことは大体わかつて来たようでございますが、私も中原委員と同じように、久しぶりに珍しいお話を聞いて実は驚いておるのでございますが、それはさておきまして、去年の第十二回臨時国会において、外務委員会を通じて国際的な労働機関であるILOに加入の決議をいたされたのです。日本民主国家として、一生懸命で国際的な一つ労働基準を立てるについて、あなたはどういう構想を持たれておるか。これをひとつ要点だけでけつこうですが、お聞きしたい。
  152. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 私の持論としては、日本は諸外国よりむしろ一歩進めて国際労働條約を批准した方がよいと思うのです。その点におきまして政府並びに国会がILOに加入せられることは私は大賛成であります。それはアメリカやイギリスでありますれば、いわば信用がある。だから国際労働條約などを批准しなくても、アメリカがそうひどいことをするとは思わない。実はアメリカも黒んぼなどにはずいぶんひどいこともしておるのですが、世界の人はあまりそうは思わない。ところが日本ですと相当やつておりましても、どうも日本というものは信用がないので、何かやりますとすぐそれに対して疑惑の目をもつて見られる。そこで日本は英米仏等よそよりも一歩先んじて国際労働條約を批准して、外国の信用を得た方が、日本としてはいろいろな意味において利益であるという持論であります。
  153. 青野武一

    ○青野委員 重ねてお尋ねいたします。先ほど公述なさいましたときに、私の聞き誤まりがあるかもわかりませんが、趣旨としては、アメリカによつて與えられた民主主義の中に含まつておる労働三法であり、憲法である、そういうように聞いておるのであります。従つて先月の二十八日でしたか、平和條約が発効いたしまして後に、占領政策にかわるべきいろいろな方策が必要であると同時に、やはり労働三法にしてもその通りであつて、日本の現状に即応して一応再検討するのが当然である。また争議権をある程度制限することも大体しかたがないのではないか、こういうお話の趣意に聞きましたが、御承知のように、これは與えられた憲法ではありましても、憲法の二十八條には団結権団体交渉権争議権保障があります。しかもこの労働者の三権の保障の基礎になるものは、二十五條の健康にして文化的な最低生活をすることの保障、これが基礎になつて初めて二十八條が生きるのであります。資本家と労働者鬪い――最低限の生活を守るために、日本労働運動は、やはり時の権力を持つものと結びついた強大な財閥、大産業の経営者と対立して来ましたが、敗戰までは満足な労働組合というものは法によつては保障されておりません。従つて一部の学者は別でありますが、大体今の法曹界にしても、学者にしても、今私が申し上げたようなことを土台にいたしまして、労働者に対する労働三権は、住居不可侵、財産権など国民の基本的権利と並んで、これは侵すことのできないものであると考えている。それが三百二十五号の政令であるとか、マツカーサー元帥の書簡によつて、占領政策のために、占領中ということが大体目的で、争議権をとられ、団体交渉権をとられた。この機会にほんとうの独立日本の平和をこいねがうならば、こういつた日本労働組合の大きな一つの連合体がまつ正面から反対して、先月の十二日、十八日、そうしてたま近いうちに第三波のストが行われるという強い反対の態度を鮮明にしておるのに対して、それが政治的性格を帯びたストでありましても、労働組合を守り、労働者自身の生活を自分の力で守ろうとするこの行き方に対して、簡單に政治的性格を持つておるストだからいなけい。それは民主的な行き方ではないという言葉だけでは、簡單に片づけられぬのではないか、従つて戰後の今の状態を見ますと、労働組合はそういうように占領政策のもとに幾多の制約を受けた。憲法によつて労働三権が保障されながら、これは有名無実だ。公共企業体労働関係法がつくられたが、実際の面においては公労法の三十五條と十六條によつて制肘を受けておる。これは永岡君が説明した通りである。一面においては教育界、財界、政界、言論界といつたようなところにおいては、陸海軍の旧軍人を初めとして、国民を戰争にかり立てた戰犯と言われた諸君、追放を受けた諸君は、無條件でどんどん復帰しておる。労働者だけが何のために置去りを食らい、なおかつ団体活動に制約を受けなければならぬか。目黒の駅前に行つてみると、再軍備しろといつて演説をする者は一切警察は干渉しない。再軍備は反対だといつて、祖国の防衛のために純真な青年がやつておるものは、いきなり禁止する。場所も貸さない。こういう実例を対照して行くと、この際こそ労働三権の復活を企図すべきであると考えるのであります。そういう考え方のもとに立つておるときにおいて、北岡先生のお話は、今の国情に即して労働組合に対する争議権をある程度制限しなければならないというようなお考えのもとに御発言があつたように記憶いたしますが、そういう考え方を私も十二、三年聞いたことがございませんでした。それで今の国情を、目をつぶれば別ですが、生きて動いておる日本現実性に目をつけますと、あまりにも一つの権力によつての差別がはなはだしいと私は思うのです。どういう根拠に立つて労働組合争議権に対して、ある程度制限はやむを得ないとおつしやつたか、私は権威ある学者としての北岡先生に対して、率直な御答弁をお願いしたい。
  154. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 大分御意見は多岐にわたりましたが、ごく率直に労働法関係する部分を申しますと、憲法の二十八條勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利であります。これは言葉では十分現われていないかもしれませんが、事業主と団体交渉をして経済的にその地位を向上する権利でございまして、ストをやつて国民の足を奪つたり、日本全国をまつ暗にしたり、石炭をなくしたりして議会を動かす権利ではないと私は思つておる。その他公益の必要に応じてこういう権利制限しなければならぬということは、憲法上当然のことでありまして、今ここで憲法論をやるいとまもございませんが、これはおそらく、程度方法につきましては議論もありましようが、公益の必要上こういう労働に関する権利団結権団体交渉権というものの制限を受けるというその根本的の原理に関しましては、憲法学者のだれも異議はないだろうと思うのであります。
  155. 青野武一

    ○青野委員 私はもう議論にわたりますから、この程度で北岡さんに対する質問を終りたいと思いますが、でき得べくんば国際情勢を正視して、われわれをして誤らしめないようなお話を将来もひとつしていただきたいことを心から熱望しておきます。  経団連の代表者であります箕浦さんに一、二点お伺いしたいと思いますことは、今の労働基準法は、御承知の通り日本人の手ではどうすることもできませんでした。露骨に言つてむしろアメリカから與えられたものでございますが、その国際的に認められた高度の労働基準法に、今の日本の経営者はそれに耐え得ない。特に中小企業においてはそれ以上である。従つて最後でございましたか、十人以下の工員を使つている所は特に除外例を設けたらどうかといつたようなお話でございましたが、私は労働委員を三年しておりまして、いろいろな関係で各省をまわつてみますと、全国労働基準局長、地方の労働基準監督署長から、手のまわらぬような五人か三人の人員に制限して、予算を極度に収縮し、労働基準法を中心にしてその違反事項を摘発せよとか、工場の管理をやれとか言つたつて、事実上できませんという不平を一番言われる。どこにまわりましても、予算を上げてくれ、人員を増加してくれという意見であり、一人でまじめに事業場を一監督署員がまわると、三年平ないし四年かかるという説明を各所で聞きます。このように労働基準法は国際的に高度の法律でございましても、実際は人手が足らないのと予算が少いので身動きができない。国家機関でも相当労働基準法違反をやつております。特に繊維産業あたりは、最近は千人の従業員のうち三百人くらいは、一箇月くらいの短期契約で、明らかに労働基準法違反をやつているけれども、摘発ができない。そういうように事実上、基準法はあつても実際は経営者が非常な恩典に浴しているということを、私どもは事実によつて知つております。日本の産業は何といつても労働者の熱意と努力です。それを法律で縛りつけることは、いろいろな條件をあげられ、御意見は出されても、労働者に対するあたたかい同情あるいはそれらの諸君の労働力に対する認識の点において、私どもと大分開きがあると思うのでありますが、こういう点について、労働基準法は今のままではいけないから、やはり法文の上で相当大幅に制限をして、あるいは中小企業に対してもそこに除外例を設けるということは、ずつと続けて行かれるお気持であるか、これは非常に重大な問題と思いますから、むしろあなた個人というよりも、日経連を代表しての立場から、ひとつお聞かせ願つておきたいと思います。
  156. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 中小企業に対して労働基準法適用云々ということを私は申し上げましたが、これは日経連を代表してということになりますと、私の立場が非常にむずかしくなりますが、一応私の意見としてお聞き取り願いたいと思いますのは、今仰せになりましたように、中小企業においては産業の基礎が非常に脆弱でございますから、対労働者との関係におきましては、十分に労働者の個人的の権利を尊重し、その立場を尊重いたしましても、設備その他においてこまかに規定されたところまで経済力の及ばないところがある。そういうものに対してまで一々やらせますと、今の日本の金融機関でもとうていそれは納得のできない線が出ますので、そういう意味を込めまして、これは労働者の犠牲において云々という意味ではなく、そういうように総括的に見て何らかの措置を講じてほしい、こういうことを申し上げたわけであります。
  157. 青野武一

    ○青野委員 最後に一点箕浦さんにお尋ねを申し上げまして、私の質問を打切りたいと思います。それはこの法案に直接関係ないかもわかりませんが、何と申しましても日本の重要経営者の団体を代表しておいでになりましたので、ぜひ承つておきたいと思いますことは、いわゆる財閥を解体し、財閥の勢力を分散するという目的で、財閥同族支配力排除法が、向うさんからの強い要請によつてつくられたと記憶しておりますが、この財閥同族支配力排除法を廃止する法律が昨年臨時国会で通過いたしました。もちろん私ども反対でございます。これは裏返しにいたしますと、財閥をつくる、もつと強い財閥をこしらえさせて、そこヘアメリカの近代兵器、軍需資材を注文する。根拠の薄弱な日本の産業資本に対して投資するわけに行かないから、高度の設備資材を要求するためにも、財的の基礎を築き上げるためにも相当の援助もするが、復活することもやむを得ない。こういう考え方のもとにそういう法案が廃止されたと私は思います。そこで朝鮮問題を中心にして今のままで参りますと、私どもは戰争反対である、再軍備は反対である、もちろん国外出兵も反対です。徴兵令をつくつて若い諸君に銃を持たせて戰争にかり立てることには反対だ、そういう立場に立つて見るときに、なるほどあなたの関係する幾多の資本家の諸君は、外国からの注文を設備を拡大して労働者をたくさん動員してやれる間はいいが、一たび何らかの反動で軍需産業がばたばた行つたときに、はたしてこういうような労働三法で措置ができるかどうか、私どもに言わせれば、これは改正案とは認められません。かなり制約を受けて来る問題でございます。そういう場合に直面することが必ずあります。戰争があれば必ず終りがある、そして相当日本は被害を受ける。そういうことを考えるときに、労働者を使うだけ使う、文句を言わせないようにそこもここも法案でもつて縛りつける、団体行動に文句があれば破壞活動防止法でひつかける。ストライキ禁止する、デモは取締つて行くというような行き方のもとに日経連としては労働者諸君をかかえて、日本の近代産業、特に兵器を製造する面において一たびけつまずいたときには、どういうようにしようという具体的な腹を持つてかかつておられるか。日本は外国の植民地ではない、われわれは不当な国があれば、樺太も千島ももどせと要求します。信託統治の小笠原、奄美大島ももどせと要求します。祖国を守るためにこそ私どもは日本人の立場からこういう主張をしております。各政党とは意見が違いましても、日本人なるがゆえに日本を防衛する、戰争の危機を食いとめる、こういう立場に立つております。日経連は日本の将来に大きな役割をする、そういう立場から、今私が申しました点について、具体的にどういうお考えを持つておられますか。ただ政府を鞭撻して、自分たちの都合のいいことだけを陰から話合つて改悪して行く、そして公述に参りますと、いやそうではない、政治ストはいけないのだといつたような、とにかく一方的な見解では、労働者はすなおについて行かれないのではないか、そのためにいろいろな大きな争議が将来も起り、また今までもありました。そして院外における団体活動も熾烈に展開されて来ることを私どもは予想しております。そういう点についてのお考え方を、最後に承りたいと思います。
  158. 島田末信

    島田委員長 お答えなさいますか――お答えはないようであります。
  159. 前田種男

    ○前田(種)委員 箕浦さんに最初お聞きしたいと思います。先ほどから、たびたび委員の質問があり、公述のときに申されたと思いますが、労使はあくまで対等の立場で行かなければならない。産業平和の見地に立つて物事を処さなければならないという観点でお答えになつておりますが、緊急調整のような方法を講ぜられますと、事実上スト権が剥奪される結果になります。さようになつて来た場合の労使が、まつたく対等の立場労使関係の調節あるいは問題の処理ができるかどうか、私は非常に怪しんでおりますが、大事なところでありますから、その点についてお尋ねしたいと思います。
  160. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 ただいまのお尋ねは私はこう考えるのであります。緊急事態を処理する場合にも、今の労働委員組織とかその他の活用いかんだと思うのであります。これが非常に間違つた方向に動きます場合には、今おつしや一つたような事態は起りますが、これが正常の方向に活動を続けて行く場合には弊害がないと思います。決してスト権の不法彈圧ということは起らないと考えております。
  161. 前田種男

    ○前田(種)委員 私はもしこの緊急調整の命令が労働大臣から発せられますと、事実上五十日間ストをやれないということになるのです。そういたしますと、使用者立場から行くと、事実上やれないという非常に有利な立場に立つて、労使問題の交渉に当る、団交に当るという結果になるわけです。先ほど熊本委員の質問に対してあなたは、終戰後の虚脱状態から経営者陣営も立ち直らなければならぬということを強く言つておられましたが、この間の私鉄争議の例を見ますると、これは一つの有力な事実ですが、半日電車がとまつたということによつて、二十割ないし三十割の賃上げ問題が解決がついておるのです。半日電車がとまつたことによつて、二十割ないし三十割の解決がつくものなら、なぜ半日のスト直前までに解決がつかないかということです。私は、ストをやらなければ問題は片づかないというところにかけひきがあると思う。要するに団交がほんとうに誠意を盡されていないという問題があるわけです。この実例に徴して、経営者団体としてどうお考えになりますか。ほんとうに経営者団体が、讓れる線まではあくまで讓るという、平和的に問題を処理するという誠心誠意の交渉を続けられますならば、スト直前に解決できると思う。しかし相手の出方がいけないからやむを得ないというのならば、何も一週間電車がとまつたところで、聞けないものは聞けないという場合があり得るのです。私は、一日か半日電車がとまることによつて妥結されるというところに、あまりにかけひきが多過ぎると見ております。そういうかけひきが多い今日の状況において、緊急調整という條項を適用されますと、必要以上に資本家団体の方が強くなり、労使関係が円滑な妥結に至らないということに一番不安を持つておりますから、もう一度この点お聞きしておきたいと思います。
  162. 箕浦多一

    ○箕浦公述人 今の争議は停止になりましても、それは一定の期間がございまするから、その点でストがない前の状態とは非常に違うと思うのであります。  もう一つ、今お話になりました私鉄の問題でありますが、個々の企業についての争議並びにその争議解決につきましては、いろいろ事態がございます。今の場合は、実例として私存じ上げないのでありますけれども、必ずしもストをしたから解決したのであるか、あるいは解決すべき状況であつたときにストをしたのか、それはわからぬと思います。現在の経営者の中には、必ずしもストをしたからある程度まで解決する、せざればいつまでもがんばるというような頑迷な経営者は、私の知り得る範囲ではそうないと思います。それで日経連といたしましては、個々の争議につきまして、ああせい、こうせいという指令がましいことは今まで一向いたしてもおりませんし、そういうふうなことをすべき団体でもないのであります。私の考えといたしましては、個々の企業における団体交渉というものは、あくまでも手段の限りを盡して、争議行為に入らないということが一番望ましいことであります。労働協約の締結後におきましても、あくまでも産業平和ということを目途としてやつて行きたいという気持がそこにあるわけでございます。
  163. 前田種男

    ○前田(種)委員 私は、労働組合がスト権を持つて、そして問題を未然に防止するという対等な立場が、名実ともに行われるという状態にならなければならぬと思います。もし一方にスト権がないという場合には、どうしても相手方が強くなるということは人間社会の常識だと考えるのです。この点から、今の緊急調整の問題も、もしこれがこのまま通過いたしますと、この前の三十日の冷却期間と同じように、早くそこまで持つて行つて、そして労働大臣に発令をせしめて、五十日経過して、それで実際の権利を獲得するという方向に悪用されることは、火を見るよりも明らかな状況になつて参ります。だからかようなものは実際の効力を発することができないのではないかというようにすら考えられるわけです。そこで私は、北岡先生にちよつとその点に関連して伺いたい。先ほどから公益を害するようなゼネスト等は禁止されなければならぬということを言つておられましたが、今の私鉄のストの例をとつてみました場合に、ある程度団体交渉は済んでおつた会社もあるでありましようが、私鉄の企業家団体と私鉄総連合との間で全国的にあの交渉が行き詰まつてストに入り、早いところは二、三時間、あるいは半日、一日、おそいところで三日四日かかつたところもあるが、スト後交渉が妥結しているという場合に、公益を害するのはどちら側であるか、あるいは私鉄の最近の争議の例を見ても、労組側のゼネストは禁止しなければならぬというように御解釈になるか、これらに関し、最近の私鉄の実例から見て、どう判断されるかという点についてお聞きしたいと思います。
  164. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 どうもむずかしい質問をせられるもので、争いの場合にどちらが悪かつたかということを、外見的に申し上げることは不可能だと思いますが、私は二点だけを特に強調しておきたいのであります。本来からいえば、労働者争議をする、雇い主はこれに対して解雇をもつて臨むというのが本来の態度です。そうすれば労働者は弱いから争義をしてよいが、公益を害するような場合においては、その争議権を押えてもそんなに不公平なものではなかろうと思う。いわんやその間においてもほつておくのではなくて、政府中央労働委員会とか、調停委員会に、調査させたり、調停させたり、仲裁させたりするのであります。それらの委員会は、決して事業主の利益をはかるのでもなければ労働者の利益をはかるのでもなく、両者に中正な解決案を下すことを前提にしておりますから、これだけのことをもつてこの法律が片手落ちであるということを言うのはどうかと思います。それからまたこれがうまく行くかどうかにつきましては、私は自信がないのであります。うまく行かなかつたらまたやり直す以外に方法がないのであります。
  165. 前田種男

    ○前田(種)委員 公益を害する場合には、結局スト禁止をしなければならぬという政府の措置が緊急調整である。この緊急調整のこの改正案に対して、北岡先生は賛成だというのでありますが、今申しましたように、ストができないようになりますと、使用者側は非常に強くなる。そういたしますと、対等の立場に立つところの労使団体交渉というものは、まつたく対等の立場に立たないという結果になる。そういう見解から行きますと、アメリカのように、大統領の権限で企業を接収するというような非常措置が日本政府にもありますれば、これも一つ方法である。いわゆる公益を害する場合に、どちらが無理をしておるかに関し、双方に対して政府が強い線を出し得るだけの権限がありますならば、これは非常措置として考えなければならぬ場合もありますが、そういう点等は考えられずに、緊急調整意味においてストだけをやらさぬようにしようというこのやり方も、これはもちろん強い政治ストを中心にするストならいろいろ議論もありましようが、まつたく経済的な問題でストに入ろうという場合にすらやれないことになりますと、使用者をして非常に強い方向に持つて行くきらいが多分にあるのでありますから、その点が十分考えられなければならぬとわれわれは考えるわけであります。  最後に北岡先生と野村先生の意見を端的にお聞きしたいと思います。今日民主団体、労働組合、言論界等が、国会で審議されておる各労働関係法案に対して反対的な態度をとつておりますもののよつてもつて来るところは、みなが総合されてそういう法律は困る、一つは破防法であり、一つは警察制度改正の問題であり、一つはデモ行進の制限の問題、一つ労働三法の問題、その次にはゼネスト禁止法の問題というような、問題が幾つもよつて来ているわけです。そういたしますと、労働組合労働組合立場から考えてみますと、破防法で右の手を奪われ、警察制度改正で片足を奪われ、デモ行進の制限の問題で今度は目をつぶされる、その上に労働三法の問題でまた制約を受けることになつて参りますから、非常なかわり方になつて来ます。今日この委員会にかかつておりますところの三つの法案だけならば、大したことではないのではないかというようなことが、普通常識的に言われておりますが、全体を流れておるものは、そういうものが総合されて来ておるということを考えなければならないと思います。これに対する諸外国のいろいろな批評は、日本実情を知らない点もあるかもしれませんが、独立後は、やがて日本労働立法相当改悪されるのではないかというような目で、相当批判されております。またこれが陰に陽に日本独立後の信用の問題、あるいは今後の経済活動の上においても、かわつた面で相当制約される節があるわけです。そういう国際的にも非常に大事なときに、労働三法の改正を今日出されております。この中の地方公企労法の問題は政令にかわるべき法律案でありますから、同じ労働三法の中といつても別でありますが、労働三法の中の基準法の改正の問題、労調法を中心とした問題等は、現行法とそうかわりはないから、独立後二、三年日本の経済的再建と国際的関係をにらみ合せて十分検討した後に、議会で審議をして改正するかどうかということでも遅くはない。今日のような国際情勢のもとにおいて、非常に半信半疑の目で見られておる最中に、独立直後待つてましたというような調子で、こういう改正案を出されることは、かえつて当を得た政策ではない。今これだけのものを改正しなければ、今日の日本労使関係を調節するのには非常な不都合が生ずるというのであれば別でありますが、私は現行法でも決して不都合は生じないと思います。特に基準法の場合の坑内労働や、あるいは女子の特殊問題にいたしましても、ここ一、二年延ばしたからといつて、どれだけ日本の経済に影響するか、大したことではないと思います。むしろ諸外国に與える印象が非常に悪い最中にこういうものを出さなければならぬという政府の処置が、私をして言わしめますと、はなはだ遺憾だと考えます。両先生は、今申し上げました基本的な労働立法改正を、こう急いでやる必要があるか、もう二、三年独立後の情勢と世界情勢をにらみ合せても遅くはないというような見解を持つておられるか。その御見解のほどを承つておきたいと思います。
  166. 野村平爾

    ○野村公述人 私は労働法改正は今やらなければならない点はあると思います。それは占領政策上抑制されていた部分があるわけです。たとえば現業公務員等の問題あるいは公共企業体労働者等の問題として、考えなければならない問題があると思います。これはあまり長くほつて置くべきではなくて、適当な位置にこれを納めるために考慮することが、ぜひ必要な問題であるというふうに考えております。その他の問題につきましては、技術的にも非常に小さい問題なのであります。それからまた緊急調整などという制度を、ぜひここでやらなければどうにもならないほどのものでもないし、またこういうような制度によつてはたして実効が上るかというと、これもどうも上らないような国際的経験もあるのだというような意味で、もつと検討してしかるべきものがあると考えております。
  167. 北岡壽逸

    ○北岡公述人 御質問の点がたいへん多岐にわたりましたが、まず、破防法とか労働法とかを一体といたしまして、現内閣のやつたことに対する知識人、言論人の不満という点につきましては、法規の濫用を押える点からの不安だろうと思う。あの破防法に対しましても、法文にもはつきり書いてございますし、また大臣も繰返し説明しておるのでございます。あれは決して学問の自由を侵害するものでもなければ、労働運動制限するものでもない。だからその言葉通り、文字通りに信用するならば、あの法律の直接対象になつている者は反対するかもしれませんが、知識人や言論人、学者等が反対する理由はないのですけれども、これは政府に対する不信である。むしろ一種の猜疑、危惧の念から反対するのだと私は思つておる。だから單に法文で書いたり、大臣が言うかわりに、国際的に約束することによつて内外に信用を獲得されるだろうと思うのが第一点であります。  第二点は、占領直後こういう法律を早急に改正する必要があるかということですが、私はあると思う。今までは占領軍というオールマイティがおつて、これは憲法以上の権力でございますから、たとえば二・一ストでも、これでストツプとやればぽんととまつてしまう。こういう大きなオールマイティがあつたから、法律がどんなに不備であつてもよかつたのです。ところがそれにかわるものがないのですから、せめて緊急調整というものでもつくつたらどうか。またそういう大きな問題でないのですが、基準法といつたようなこういう小さいものについて、なぜするかということでございますが、これはもつといろいろ問題があつて審議したけれども、これだけの問題については労使双方に意見がないというふうにきまつたのだから、それで出したのだろうと思う。私は今日多くの法律において、場合によつては資本家の意見を押えて労働者意見を採用し、労働者意見を押えて資本家の意見を採用する。両方の意見を押えるいろいろな場合もありましようが、労使双方から賛成したものについては、政府はこばむ理由はない。これはできたものからどんどんと改正して行つたらいいだろうと私は思います。
  168. 島田末信

    島田委員長 本日の公聽会はこの程度にとどめて、次会の公聽会は明二十日午前十時より開会いたします。公述人には長時間御苦労さまでした。  本日はこれにて散会いたします。     午後五時三十八分散会