○内藤隆君 行政監察特別
委員会は、御承知のごとく、昭和二十六年二月六日に、衆議院本
会議の
決議によ
つて創設されたものでありまするが、第十三国会におきましても継続して設置すべきことが
決議されたのであります。本国会の会期は延長されましたが、本日ここに本
委員会において
調査を行いました諸
事件につきまして御
報告を申し上げたいと思うのであります。
まず前国会時代において
調査いたしましたものは、不正出入国
事件、桜木町駅電車事故に関する件、
公共事業をめぐる不正
事件、
日本專売公社
関係事件等でありましたが、本国会会期中、第一に取上げました問題は、大蔵省の所管である国有財産の管理処分に関する行政監察であります。
その第一は、関門港にあつた扛力五十トン起重機船にからまるところの不正
事件であります。この
事件は、大蔵省の出先機関たる北九州財務局、運輸省の第四港湾
建設部、福岡特別調達局等が
関係を持つ複雑な
事件であります。まず北九州財務局が、預託という形式で、
日本サルベージ会社門司支店に右起重機船を無償で保管を依頼し、同社に不当の利得をさせていたことが、本
委員会の
調査の結果判明いたしまして、あらためて四十数万円の使用料を徴收させるに
至つたのであります。次に、第四港湾
建設部が右財務局からその起重機船の貸付を受けたのでありますが、何ら使用することなく、数箇月間繋船したまま放置いたしておいたのであります。ところが、たまたま
朝鮮事変が突発するに及び、連合軍から徴用されることとな
つたのでありますが、そのときはすでに貸付期間が経過していたのにかかわらず、第四港湾
建設部は、財務局に何ら相談するところなく、民営会社に一時貸付の契約を結んでしま
つたのであります。貸付を受けた業者は、あたかも自己の所有船のごとくに仕立てまして、福岡特別調達局と契約を結び、巨額の使用料をとりました。第四港湾
建設部へは、定期的修理分担金としてその一部分を支拂
つたのみで、しかもこの修理分担金は国庫に納入せず、首脳部が個人的に保管していたという奇怪なる事実まで判明したのであります。
本
委員会でこのことが摘発されまするや、運輸当局は急いでこの金を銀行に別段預金として、その後業者から未納の分も徴収して、合計百四万七千五百円を正式に国庫に納入したのであります。さらに驚くべきことは、連合軍の用務が終つた後、貸付を受けていた枡谷組は、その過失によ
つてこの船を沈没せしめてしま
つたのでありますが、第四港湾
建設部は、本省に対して引揚費一千万円の予算を
要求していることであります。幸いにも、本省はこの予算を承認いたしませんでしたが、いまなお右起重機船は沈没したままにな
つておるのが実情であります。これら
幾多の不可解な行政
措置の裏には、贈收賄や横領背任等の疑いが濃厚にな
つておるのは当然でありますが、確証をつかむに
至つておりません。
国有財産管理処分の不正
事件の第二として
調査しましたものは、財団法人聖十字学園の
事件であります。これは、同学園長磯川義隆及び同理事長渡辺敬吉が首謀者とな
つて、社会事業に名をかり、厚生省
東京衛生試験所の焼け跡の土地、建物の拂下げを受けたのでありますが、十箇年間は公益事業に供用するという條件を無視して、その一部を売却したり、また磯川園長と渡辺理事長との間で土地や建物を分配したのであります。かような不正事実が判明したのは昭和二十五年二月でありますが、会計検査院の手でこれが発見されたのであります。これにより、国有産管理の主管省たる大蔵省は、翌二十六年二月に
至つてようやく契約の一部を解除し、学園が社会事業に供用しておると認めた部分だけを残して契約の更改を行
つたのであります。しかるに、学園はこの
処置を無視し、その後も残存いたしておりまする土地を売却したり、あるいはまた抵当権を設定するなど、国との契約違反をあえて繰返していたことが、本
委員会の
調査によ
つて判明したので、関東財務局は、本年四月、学園に対する売買契約を全面的に解除することとしたのであります
本
委員会は、この学園の経営する社会事業の実態の実地
調査もいたしましたが、社会事業として認められるものは、ただ家出人収容所だけであ
つて、簡易宿泊所、母子寮、太陽の湯等は、名称のみが社会事業のごとく、その実は営利事業であ
つて、とうてい社会事業とは認めがたいものであ
つたのであります。聖十字学園という、いかにももつともらしい美名を用いて、かかる詐欺的社会事業が公々然と行われていることはまことに奇々怪々でありまして、
東京都や厚生省が、かかる実態の
調査もせず、軽々しく法人の認可を與えたり、社会事業として認めたり、大蔵省もまた十分な
調査もしないで国有財産を低額に拂い下げたということは、何とい
つてもその責任を問われなければならないところであります。前に申したごとく、大蔵省もその拂下げの非を認めまして契約を解除し、厚生省も近く法人名義を取消す処分を行うと本
委員会に
報告がありましたから、本件は、本
委員会の
調査の結果、不正不当の事実が是正されるに至つたわけであります。
国有財産管理処分に関する
事件の第三に、山口県岩国市の沖になぞの爆沈を遂げた軍艦陸奥のはぎとり
事件と称せられるものであります。これは、西
日本海事工業株式会社が、山口県知事の許可を得て、搭載物資たる燃料、食料品、繊維品、非鉄金属類の引揚げを企てたことに端を発するものでありますが、当時陸奥は、連合軍から
わが国に返還されていなか
つたので、極東海軍司令部から抗議が来たために、一時この計画は中止されたのであります。そり後、
建設省が主体となり、あらためて搭載物件の引揚げ及び処分をその責任において
実施することの許可を得たので、
建設省にその
実施監督を山口県知事に委任し、引揚げた物件は一般の返還軍需物資、すなわち特殊物件の処分方法により、
政府の指示に
従つて売却するということにな
つたのであります。ここにおいて、山口県知事は、あらためて前述西
日本海事工業と契約を結び、引揚げ作業が再開されたのでありますが、この作業継続中、
朝鮮事変が勃発して、金属類の価格が暴騰し、また陸奥の艦体有体が連合軍から
わが国に返還されるに
至つたのであります。今までは引揚げ許可を受けた物件だけが特殊物件として返還されたのでありますが、今度は艦体そのものも返還されたのでありますから、
建設省の所管においての引揚げ物件の範囲、すなわち搭載物件は何ぞやということが問題とな
つて来たのであります。大蔵省、
建設省、山口県当局の見解は、艦と一体をなす機械類、裝備品は搭載物件ではないとしているのでありますが、会社側はこれをきわめて広義に解し、艦体をどんどん破壞して、重要機械類、裝備品を引揚げ、またこれを無断で処分してしま
つたのであります。
しかるにかかわらず、山口県の監督の任に当
つている係員は、県が搭載物件でないとしている物件の引揚げを黙認記し、また無條件に契約量を超過する引揚げを認め、火薬に対しても申請
通りの数量の使用を許可しているのであります。これは、県と会社とが共謀して、特殊物件の名のもとに国有財産を窃取横領したのではないかとの疑いも起りますので、本
委員会はこの点を追究しましたところ、結局搭載物件に関する見解の相違と、県がこの仕事を一係長にまかせ切りであり、この係長がまつたく傀儡的存在とな
つて会社側に翻弄されていたことが判明したのであります。なおこれに加うるに、
建設省が三回目の期間延長に際し、何ら実情を
調査しなかつたことが、不正
行為にさらに拍車をかけた結果となつたことも否定しがたく、中国財務局もまたその所管となりた後、單に一片の書類による警告を発しただけで、全然現地
調査をしていないというように、行政官公署の事務懈怠が禍因をなしていることも否定できないのであります。山口
地方検察庁は、本年四月十五日、西
日本海事工業社長武岡賢に対し、業務上の横領罪で起訴しておりますが、大蔵省、
建設省、山口県当局は、損害の共同
調査を遂げ、西
日本海事工業に対し求償すべき責任があるというのが、本
委員会の結論の
一つであります。
なお、本件
調査中、陸奥艦内には約一千柱と推定される多数の英霊と殉職者の尊き遺体が眠
つていることが判明いたしましたので、
関係官庁を証人として喚問し、英霊に対する事後の行政
措置につき、その善処方を
要求したのであります。遺家族多数より、
委員会に対し、激励と感謝のり書状が参
つております。
以上三つの国有財産に関する
事件を通じ、いかにもその取扱いが粗雑であ
つて、官公吏の国有財産に対する認識の程度が低く、無責任であることが判明したことは、まことに遺憾であります。ことに聖十字学園に関連して判明したことでありまするが、関東財務局では五十数件、金額にして五千万円に上る国庫收入金が、收入と同時に正しく国庫に收入されず、相当の期間、個人保管または銀行預金等の方法で保管されているという事実も発見されたのでありまして、これまた官公吏の国庫金取扱いに関する認識の低下を物語るものと言わなければなりません。かかる事実が官公吏の不正
事件の温床となることは、火を見るよりも明らかなことであります。
さらに本
委員会で取上げたのは、女子及び年少者の人身売買に関する件でありますが、これがきわめて世の視聽を引きまして、新聞の社説及び記事または雑誌等でも大々的に取扱われましたことは、あらためて申し上げるまでもありません。本問題は、その根本に、
わが国民の
経済生活の安定、道徳
生活の向上、封建思想の拂拭、人権尊重の
徹底等、一朝一夕では実効をあげがたき大問題が存在しているのでありまするが、本
委員会でこの問題を
調査した結果、人身売買取締りに関し、人身売買の仲介者の取締り処罰のほかに、買主の所罰規定、売主の責任所罰の規定等を含めた特別法の制定が必要であること、現在の職業安定所の非能率性を打破するとともに、従来閑却されていた農山漁村兒童の恒久的な就職あつせんにも積極的に力を注ぎ、義務教育終了兒童の職業補導の
拡充強化が必要であること、また学校教育においては、社会科に人身売買問題を取入れ、兒童間に人身売買の悪習を自覚させ、人権尊重の思想を植えつけることが必要であること等が認識され、結論とな
つているのであります。
本
委員会でこの問題を取上げて以来、新聞、放送、雑誌等で、人身売買の防止、人権尊重の世論が全国的に高まつたことは前に一言いたしましたが、なお行政機構及び法の盲点を明確に指摘して、これが改正の資料を提供し、本
委員会の
調査の対象となつた諸
事件につき、厚生省及び地元県庁
関係当局が、これまで閑却していた現地
調査を実行し、全
国民生部長
会議が特に本問題を取上げてその
対策を協議し、中央青少年問題協議会が本
委員会の
調査報告書を複製して、その下部機関及び
関係諸機関並びに全国市町村に配布して
対策の資料としたこと等は、本
委員会の活動が世間に與えた好影響として特に御
報告申し上げる次第であります。
最後に本
委員会が
調査しました問題は、今日の
わが国の大問題である
治安警備
状況に関する件であります。
本年一月二十一日、北海道札幌市において、市警の白鳥警部が射殺された
事件が起り、
事件の前後、
日本共産党がこの
事件に直接間接
関係のあるビラの貼示やデモ
行動等に出ているという情報を聞知しましたので、
委員会は時を移さず委員の実地
調査を決定し、篠田、高木、椎熊、田淵の四委員は飛行機で現地に急行して
調査を行い、また京都
騒擾事件が突発するや、折からの自然休会を
利用して、
委員会は田淵、野村、押谷、井上、高倉の五委員を現地に派遣して実地
調査を行
つたのであります。このほか、事務局に命じて、広島県、長野県、
東京都、愛知県において頻発した警察官に対する殺人傷害
事件または集団暴行
事件等の下
調査を行わしめていたのでありますが、下
調査の完了した京
都市及び広島県の集団暴行
事件をまず取上げて
委員会を開会し、証人尋問を行
つたのであります。
この
調査中、たまたま五月一日のメーデーが間近に迫
つたので、特に京
都市騒擾事件のごときが起る可能性も看取されたので、本員、委員長として、特にメーデーに不祥
事件の繰返されないよう警告を発するため、一文を草して、談話の形式でこれを公表し、写しを各
関係取締り官庁、各新聞社及びメーデー主催者側たる総評等へ送付しておいたのであります。しかるに、不幸にも本員の杞憂は杞憂で終らなく、まつたく京
都市騒擾事件と鬪争性格を一にし、しかも、より
暴力的、破壞的の一大不祥
事件が皇居前広場に展開され、流血の
惨事を惹起し、講和発効の新生
独立日本に歴史的汚辱の刻印を押し、諸外国に異常の聳動を與えたことは、きわめて痛恨事といわなければなりません。
本
委員会は、早急にメーデー
騒擾事件の真相の
調査に従い、これを中心
議題とするほか、蒲田
事件、長野
事件その他もあわせて監察を行う
委員会を開催しましたが、その結果は
一、前記各種
事件は、いずれも
日本共産党の新綱領と軍事
方針に基くいわゆる軍事活動の一環として計画されたものであること。
二、
日本共産党は、最近の国際情勢の変化に対応し、民族解放、民主統一戰線を当面のスローガンに掲げ、平和運動の名のもとに反米抗争を展開し、特に学生、婦人層に働きかけつつあること。
三、労働者、農民、特に自由労務者の
経済的
要求あるいは日常
生活の不平不満を取上げて、たえずいわゆる大衆の自衛抵抗鬪争の展開を広汎に企図していること。
四、右自衛抵抗鬪争を強力ならしめるために、職場、学校、部落等にいわゆる中核自衛隊を結成し、さらにこれを人民軍パルチザンに発展せしめるため、府県、地区等に軍事
委員会を
組織しつつあること。
五、警察官、駐留軍の武器奪取を指令するとともに、栄養分析表等の秘密出版物により、広汎にわた
つて催涙ガス、火炎彈等の製造法、使用法が指示され、すでに相当量が準備使用されていること。
六、陽動作戰並びに遊撃作戰の訓練が施され、かつその技術が巧妙になりつつあること。
七、民主的労働組合、国体等を内部から切りくずし、その
指導権を握ろうとし、また集会、行進等の機会を
利用して
暴動化をはからんとしていること。
等でありますが、特に最近の事実として注目されるものは、
北鮮系在日朝鮮人との間に日鮮共同鬪争の態勢が確立し、
在日朝鮮人が
日本共産党の最も有力な尖兵となりつつあり、
幾多の恐怖戰慄すべき
事態を引起したことであります。(
拍手)すなわち、
北鮮系在日朝鮮人の間に祖国防衛隊並びに祖国防衛
委員会組織が急速に伸びつつあること、
在日朝鮮人に対し、
強制送還を歪曲して宣伝、煽動することによ
つて、
北鮮系朝鮮人勢力の拡大と日共勢力の浸透を企図していること等の事実が指摘され、
在日朝鮮人の問題は、新生
日本の
治安の警備の上の重大な問題として、その
対策を講ずることが焦眉の急務であると痛感されたのであります。
以上のような
事態に対しまして、
治安担当の各機関の
状況はどうかと申しますと、第一に、
治安機関は一般に自己の権力を過信しやすく、
日本共産党の非合法活動を過小に評価して楽観的観察をなす傾向があります。第二に、日共、中共その他の文献に現われた戰略戰術等の研究が不十分なため、ややともすると彼等の遊撃作戰、陽動作戰に乗せられる弱点を示したのであります。第三に、
治安当局の機動力の充実その他裝備の点に一段の改善の余地があることが認められたのであります。
次に
制度上の問題としては、第一に、集会、行進等に関する公安條例をすみやかに全国一律に
法律化する必要があること、第二に、刑事訴訟法の勾留
理由開示、黙秘権の行使等につき急速に改正を行う必要のあることが認められたのでありますが、特に現在における
治安取締上の重大な欠陥は、
自治体警察のあり方並びに国警、自警二本建
制度に起因するものが多大であるという点が認識されて、警察一本化が、
治安取締りの能率の点と、
国民負担軽減の点とより、すみやかに
実施さるべきであるとの結論に達したのであります。
日本共産党が、昨年十月、第五回全国協議会で武力革命に関する戰略戰術を決定しましてから、同党の
行動は白晝公然と
暴力化の方向をたどり、ソ連圏共産主義
国家群の一環としての人民
政府樹立を目標に、あえて
手段の何たるを選ばない地下活動を開始して参
つたのでありまして、広汎な
国民戰線の結成のためには、その合法面を
利用してあらゆる宣伝、扇動を行うのはもちろん、各種の陳情抗議運動を行うことによ
つてその推進の激化をはか
つているのであります。かかる
日本共産党の
暴力的攻撃態勢に対して、
政府は、自由主義を守り、民主
政治を確立するため、一日も早く日共の地下活動の究明と、その壞滅とにあらゆる
努力を傾倒するとともに、
日本共産党による独裁的
暴力化の実相とその目的とを
国民の前に暴露して、
国民各層の間に反共理念の確立をはかり、さらに
治安活動が
国民の協力のもとに力強く推進されるよう、対共政策の確立を期すべきであると結論された次第であります。(
拍手)
さらに、前述の
騒擾事件に関連して起つた各大学の学生と警察官との紛争
事件も、本
委員会において引続き問題として取止げましたが、その詳細は別に書類をも
つて報告してあります。大学が
暴力革命の拠点となり、学生が革命の有力な一翼となることは、最近の中共、フランス、イタリア、東独等の共産革命運動においても顯著な事実であることを思うならば、最近における
わが国の学生運動の風潮に革命の前夜たる様相があるというのも、決して本員の誣言ではないと信じます。
以上は、本国会会期中において、本
委員会で
調査を完了しましたものの大要であり、諸
事件の
調査の完結次第、その都度
報告書を作成して
議長あてに
報告しておきました。
なお、関門の起重機船に関する件及び
治安警備
状況に関する件の結論に対しましては、共産党側委員より修正の少数意見がありましたことをつけ加えておきます。
次に、目下事務局に下
調査を命じているものは、最近新聞紙をにぎわしているダイヤモンド及び金、白金の紛失
事件を初め、電気通信省
関係事件、四日市旧海軍燃料廠拂下げ
事件、特別調達庁業務
関係事件、
国鉄関係事件、
鉄道公安官
関係事件、職安闘争その他自由労務者
関係事件、江東地区並びに新宿区角筈地区、宇都宮市土地区画整理
関係事件、農林行政
関係事件、商工組合中央金庫融資
関係事件、税務行政運営に関する
事件、高崎丸
事件、国有財産中物納財産不当処理
事件、人権擁護に関する件、印紙変造
事件等、実に十数件の多きに及んでおるのであります。
これらはいずれ
委員会を開催して
調査に従うはずでありますが、今日は以上をも
つて第十三国会における行政監察特別
委員会の活動
状況の御
報告を終りたいと思います。(
拍手)