○
佐竹(晴)
委員 だんだん
政府当局の
お話を承
つておりますと、
戦犯の実態に対してたいへん認識が薄いではないかと疑わざるを得ないのであります。
政府当局に対してはおのおの
受刑者の
代表者よりも相当多くの資料を提供いたしておるはずです。しかるにこれを十分御理解にな
つていないとしか思われませんの。
戦犯といえばただもう概念的に、残虐行為をしたのだから、それは
戦犯者自身の
個人適
責任であ
つて、それぞれその
責任を負わなくてはならぬことはしかたがないではないか、こういう
考えのもとに、すでに判決を受けてしま
つて、そのことが
講和條約十
一條によ
つて認められておる以上、これはまずいかんともすることはできないではないかとい
つたような
気持が腹の底にあるようにしか思われません。しかし
戦犯についてはいま少しく徹底的掘り下げて、認識を正しく持
つてやる必要があると存じます。私はここに二、三の点に触れてみたい。
まず第一、彼らが
戦犯として扱われておりますもののうちで、職務行為がある。これは国家の権力に基く職権の発動によるものであります。戦時中軍人軍属に対する軍法
会議がございましたが、そのほかに軍の統帥権に根拠を持ちます軍律
裁判というものがありましたことは申し上げるまでもありません。たとえばB二九の搭乗員が大阪、神戸その他軍事施設でないところの一般民家を爆撃をいたしました。そのときにその飛行機が墜落等をいたしまして、その搭乗員を
とつつかまえた。そこで
日本では、それは俘虜ではないと解釈し、戦時重罪犯人としてこの軍律
裁判にかけたのであります。そこでその軍律
裁判に関與いたしました
裁判官は、民家を爆撃したのであ
つて軍事施設をや
つたのではないので、起訴のごとくそれが有罪だと認めて、これに対してそれ相当の刑を盛
つた。ところが終戦後になりまして、その
裁判をしたところの
裁判官、検察官等は、当然国権の発動によ
つて職務を
執行したのにかかわりませず、これを
戦犯者とし、殺人罪なりとして死刑の宣告をいたしておる。現に私はこの
受刑者に会
つて参りました。彼らは言
つている。
日本の機構のもとにおいて、私は
裁判官に任命されました。私は検察官に任命されました。そうして
裁判が開かれて、法廷において私は審理をした。これは国権の発動によるところの当然の私の職務行為をした。ところが国家の命ずるところの当然の職務行為を
とつた私が、残虐行為をや
つたところの殺人犯人であるとして、死刑の宣告を受けた。一体こういうことが認められるでしようかと彼は言
つている。この起訴状によれば、虚偽かつ無効なる訴訟
手続において、虚偽かつ不法の証拠に基いて
裁判をしたというぐあいに書いてある。
政府当局といたしまして、特に法務当局といたしまして、何と
考えるでしよう。もし
戦犯の言うことは無理だというのであれば、
赦免の
勧告を向うに申入れるなぞできるものではないというような感じが起るでしよう。けれ
ども、私
ども法律家としてこれを
考えるときに、軍律
裁判というものがあ
つて、ちやんと
政府から任命されて、おのおのその役について、検察官が起訴をする。
裁判官が
裁判をする。書記はそれを文書につくる。しかるに検察官、
裁判官から
記録をつく
つた書記に至るまで、殺人共謀犯なり、残虐行為者なりとして処罰されるということが、はたして肯定のできることでありましようか。このケースの者があの
巣鴨の
刑務所に現に三十名以上おります。
齋藤政府委員のただいま述べておりますところの仮出獄
資格者の中にはこれが入
つておらぬ。先ほど二百九十六人とおつしや
つておられる有
資格者にそれが加えられておらぬ。これらの人は死刑の宣告を受けて、
減刑されて今やつと
終身刑にあります。しかして
齋藤政府委員は、これを
資格なきものとして、別にこれに対して相当の
手続をしようとはなさ
つておりませんことははつきりしております。だがしかしわれわれ
法律家といたしまして、こんなことが黙
つておられましようか。少くともここに
和解によるところの
講和條約が結ばれたとするならば、この際こうい
つたような当然の職務行為を行
つた者に対して——これは悪意も何もあるのではない、残虐でも何でもないのだと、向うさんを理解せしめ、向うさんを説得して、彼らを
赦免するだけの国家及び
政府としての
責任がある。彼らは決して
個人的に人を殺したのではないのです。国家の命に基いて国家の職務を行
つただけである。しからば国家が何知らぬ顔をし、
政府が何知らぬ顔をいたしまして、これらの人を
終身刑のままにほう
つておくことができましようか。
〔
委員長退席、田嶋(好)
委員長代理着席〕
次いで第二に
考えられるのは命令行為であります。
戦犯者と言われる者のうち、命令によらないでか
つてにした者はほとんどございません。ことにひどいのは、戦闘地域で
裁判によ
つて俘虜に死刑の言渡しがあ
つたときに、その
裁判の
執行をした部隊長は
戦犯としてこれまた死刑の宣告を受けておる。しかしてその下された判決を電話によ
つて伝達した者、しかしてその刑を
執行するに際して見張りをした兵隊、これがことごとく
戦犯者として
無期すなわち終身の言渡しを受けておる。
裁判は当然のことである。判決を
執行することこれまた当然のことである。しかしてその命を受けて
執行した者、これに立ち会
つたところの一兵卒に至りますまでが終身懲役を受ける。はたしてこうい
つたことがお互いの常識において肯定することができることでありましようか。
日本政府として、
日本国民としてこれを救わずにおられましようか。
次に第三に
考えなければならぬことは、職場におけるところの正当防衛ないし緊急避難の行為であります。これは主として対住民関係でありますが、
戦争地域の住民が武装して敵対行為に出て来て、電線を切
つたり食糧弾薬を奪取した。そこでそれらの
日本の軍隊の行動に敵対行為をして食糧弾薬を奪
つた者に対して、これはじつとしておられぬから、それを
とつつかまえて処罰した。するとそれを処罰いたしました者を
戦犯だと称しまして、これまた残虐行為者ととなえて、も
つてそれを死刑ないし
終身刑に処した。
戦争それ自体のよしあしは別であります。だれが
戦争を起し、だれが善良なる国民をかり立てて
戦争に持
つて行
つたか、その
責任は別であります。少くともそこに戦闘行為の行われております以上は、
日本の軍隊の持
つております食糧、弾薬を奪われ、電線を切られたならば、それを
とつつかまえて罰することはあたりまえである。ところが罰したからとい
つて、戰争が済んだら罰したものを残虐行為だからとい
つてそれを処罰しようとする、これがまた大勢おります。ところが
齋藤政府委員の先ほどの御
説明によりましても、こんなものは眼中においておられぬことは明らかである。われわれにはおよそまわ
つて来ないであろう、われわれが生きている間にはおそらく何の恩典も與えられないだろう、
刑期三分の二なんて言
つておるが、私たちはとてもそんなものがまわ
つて来る身分ではない、と彼らは
考えておる。逼迫した
気持を持
つてものを
考えざるを得ない
状態にだれが追い込んでおるか。
戦争受刑者の実態をよく理解し、あなた方はそうい
つたような
状態でたたき込まれておるのですかということの事実をよく調べてや
つて、そしてそれらのことを向うさんにも理解させ、これを
赦免するだけの
方法を講じてお
つたならばそれらの人は納得するでありましよう。しかし先ほどの御
説明によ
つても、むしろその逆を行
つておることが明らかである。問題にしておらぬことが明らかにな
つておる。それではそれらの
戦犯の
人々はとうてい満足することはできないでありましよう。
次に第四に
考えられることは、状況上やむを得ない行為をしたものを、やはり残虐行為といたしまして扱われておる。たとえば衛生兵のごときが捕虜を介抱いたしております途上において医薬、食糧等を十分に與えずに虐待したというようなことが例にあげられておるのでありますが、
日本軍自身が食糧に窮し、へびを食い、木の根、草の葉をかじ
つておるときに、與える食糧もない、與える医薬もないにもかかわらず、医薬を與えなか
つた、食糧を與えなか
つたとい
つてそれらの衛生兵をことごとく残虐行為といたしまして、あるいは
終身刑その他に処断されている。
内地でも俘虜に対し医療、食糧等についてはずいぶん苦心したようであります。できるだけのものを支給いたしまして、
日本のお互いがみずから節約いたしまして、向うさんの者に多くの物を與えた、これがために付近の
日本人から反感を受けまして、何回となく、
日本の衛生兵、その他はけしからぬとい
つて誹謗され、糾断を受けておる。それほどまでに向うの俘虜をかば
つておるにかかわらず、向うさんの方は生活程度が高いのですから、彼が自由にな
つて向うへ帰りますと、
日本に俘虜とな
つておるうちはろくなものも食わせず、医療も與えられなか
つたと報告をしている。するとそれだけをと
つて日本の衛生兵はことごとくこれ
残虐者なりとい
つてこれを処断しておる。
さらに第五に、証拠の不正不当による誤判については枚挙にいとまがありません。私はここにその詳細を申し上げることを省略いたしますが、うその証人で人を罰した例がずいぶん多い。ちやんと証人に立つものをこしらえておいて、現にその場所にいないにかかわらず、あの人はここにお
つた、こういうときに確かにあの人はおりました、というその証言をさせ、また一人の証人が十も二十もの
事件に立ち合
つて証言をいたしておる。そのため
間違つた裁判を受けて、今日ほとんど身の置きどころのないようにもだえております連中があの
巣鴨の
刑務所にたくさんおります。以上のように、私がここにあげましたわずかに四つ五つの項目的な例にいたしましても、これらの
人々は、決して自分は
戦犯ではないと
考えている。みずからは決して残虚行為をいたしたとは
考えておりません。
従つて、
日本政府といたしましても十分これらのことに
調査を加えてこの内容を明らかにし、つぶさに向うに訴えて折衝する
責任がある。そうすれば向うさんが理解しないわけがない。一体
政府当局といたしましては、そうい
つたものについてどれだけの
調査をし、またそういうことに対して向うさんの理解を得るだけの努力を拂
つておられるか、熱意ある実践行動をなさ
つているか、これを承りたいと
考えます。