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1952-06-11 第13回国会 衆議院 法務委員会 第65号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年六月十一日(水曜日)     午前十一時四十二分開議  出席委員    委員長 佐瀬 昌三君    理事 鍛冶 良作君 理事 田嶋 好文君    理事 山口 好一君 理事 中村 又一君    理事 田万 廣文君       安部 俊吾君    角田 幸吉君       北川 定務君    高橋 英吉君       大西 正男君    吉田  安君       梨木作次郎君    猪俣 浩三君       世耕 弘一君    佐竹 晴記君  委員外出席者         検 事 総 長 佐藤 藤佐君         参  考  人         (元東京大学教         授)      小野清一郎君         参  考  人         (東京弁護士会         所属弁護士)  稲本錠之助君         参  考  人         (最高裁判所判         事)      斎藤 悠輔君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 六月十一日  委員田中堯平君辞任につき、その補欠として梨  木作次郎君が議長の指名委員に選任された。     ――――――――――――― 六月九日  破壊活動防止法制定反対に関する請願赤松勇  君紹介)(第三四六三号)  戦争犯罪者減刑等に関する請願岡村利右衞  門君紹介)(第三四九二号)  戦争犯罪者減刑等に関する請願岡西明貞君  紹介)(第三五九八号)  築館簡易裁判所庁舎新築並びに支部設置促進の  請願大石武一紹介)(第三五三二号) の審査を本委員会に付託された。 同月十日  破壊活動防止法案反対陳情書  (第二二一三号)  同(第二二一四号)  戦犯者釈放に関する陳情書  (第二二一五号)  同  (第二二一八号)  同  (第二二一七号)  同(第二二一八  号)  戦犯者釈放並びに内地送還に関する陳情書  (第二三一九号)  同(第二二二〇  号)  同(第二二二一号)  同(第二二二二  号)  同(第二二二三  号)  市区町村役場における戸籍届出用紙等無料頒  布中止に関する陳情書  (第二二二四号)  同(第二二  二五号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  刑事訴訟法の一部を改正する法律案内閣提出  第一五二号)     ―――――――――――――
  2. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより会議を開きます。  刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。  お諮りいたします。本案につきまして、最高裁判所判事斎藤悠輔君、元東大教授小野清一郎君、東京弁護士会所属弁護士稲本錠之助君より、参考人としてそれぞれ御意見を聴取するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  なお以上三君のほか、検事総長佐藤藤佐君よりも意見を聴取いたします。  議事の進行について念のために申し上げておきたいのでありますが、御意見陳述の前に、まず御身分または職業とお名前を御紹介願い、御意見陳述はおおむね三十分前後におまとめを願いたいと存じます。  参考人及び検察庁側の御発言順序小野参考人稲本参考人佐藤検事総長斎藤参考人の順にお願いいたします。  なお衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになつており、発言の内容は、意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならないことになつております。また各委員参考人質疑をすることができますが、参考人委員に対しては質疑をすることができませんから、この点もあわせてお含みを願いたいのであります。参考人の御意見に対する各委員質疑は、各参考人ごとにこれを許すことといたします。  それではまず小野参考人にお願いいたします。小野参考人には、もつぱら刑事法学立場と、またこの法案の立案の経過を御存じである立場から、今回の刑事訴訟法の一部改正法案につきまして御意見の開陳を願いたいと存じます。
  4. 小野清一郎

    小野参考人 ただいま御指名をいただきました小野清一郎であります。身分は、ただいま弁護士であります。元東京帝国大学教授。今日は、ただいまの御要求によりまして、もつぱら刑法学を専攻する者としての意見を申し述べたいと思います。ちなみに、私は法制審議会委員といたしまして、この法案の基礎になつております法制審議会法務総裁に対する答申案の成立に関係いたしたものでありますから、その審議経過に関する事実について、ただいま御要求もございましたから、私の意見を述べるについて必要な限度で申し述べたいと思います。実は昨晩九時初めて速達でもつてこの資料を送つていただいたのであります。昨晩遅くまでこれを見ておりましたけれども、まだその資料も十分に読み切つていないような始末でございまして、準備が不十分であると思いますが、その御了承願つておきます。  今度の刑事訴訟法の一部を改正する法律案というのは、分量から申しましても相当分量がございます。これについて逐条的に意見を申し述べるということになれば、とうてい三十分の時間では足りない。そこで要点を幾つかにまとめて、その各要点について私の見解を述べたいと思うのであります。  刑事訴訟法の一部を改正する法律案提案理由書というものがあります。これは皆さんお読みになつていると思います。このうちにたいへんよく今回の改正案要点がまとめられております。大体その順序を追うて意見を申し述べたらどうかと思うのであります。  第一に、被疑者及び被告人に対する身体拘束に関する規定改正であります。これは大体において強制処分を強化して行くということになるのであります。この点は、私の率直な意見としては、今日の社会情勢の上から見て、遺憾ながら、やはりある程度やむを得ないという見解を持つておるのであります。実は私は法制審議会におきまして刑事法部会長という役目を仰せつかりました。最初の部会は昨年の九月末であつたと思います。その部会におきまして、当局の諮問に対する答申をするについて部会の中にさらに小委員会を設けるということになりまして、その小委員会委員長をまたお引受けいたしたわけであります。それで実はこまかい点に至るまで私が一応承知していることになつておるわけなんですが、なかんずくこの強制処分の強化につきましては、委員の間に非常に見解の相違がありまして、最後までこれは難航を続けた問題でございます。特にそのうちでも、起訴前の勾留期間を、一応十日以内、やむを得ない事由がある場合にはさらに最大限十日の延長を許している現行法に対して、検察庁方面から、その二十日の期間で十分にその事件起訴すべきやいなや判断のつかない場合もあり、捜査が十分熟し得ないという場合もあるので、さらに十日間延長希望するという御意見が出ておつたのであります。しかしこれは何分にも身体拘束に関することでありまして、現在最大限二十日の期間ですらも、場合によりましては非常に被疑者に対して気の毒な場合がある。ことに御注意を願いたいのは、起訴前の勾留におきましては、保釈制度というものがないから、保釈の請求というものはできない。それに刑事補償というものもない。これは現実にあつた例なのですが、ある会社の女事務員が何かお金のことで不正があつたということで検挙されて、二十日間取調べを受けて、結局証拠が十分でないというので釈放になりましたけれども、もはやその会社に続いて勤務するということはできなくなり、非常に名誉を毀損され、家庭生活にも非常にいろいろな支障が起きまして、何とかこれは刑事補償の道がないものであるかということを聞かれたことがありますが、何ともしようがないのであります。こういうわけでありますから、起訴前の勾留というものは非常に慎重なることを要するものであります。何とか検察の陣容を強化し、また科学的な捜査方法その他捜査に関する人的、物的施設を充実することによつて、人身の拘束というものは一日でも短かくしなければならないということを私は衷心より希望しております。そういう希望はこの小委員会におきましても圧倒的であつたのであります。ただ検察庁方面それから警察方面におきましては、その捜査実情からして、何としても通計二十日をもつて足らない場合があるということを、非常に強硬に主張なさつたのであります。私委員長として、自分一個の見解であつたならば、延長は一日もしたくないという見解でございましたけれども、しかし現在の捜査実情についていろいろお話を承りまして、ごもつともな点があるのでありますから、その点をいろいろと苦慮いたしました。それで初めは弁護士会側だけでなく、学界その他もこれに強硬に反対であつたのですけれども、小委員会は五日の延長を認めるということでまとまりました。ところがその五日ということに対して留保がついた。少しくどくなりますけれども、この点だけはぜひ申し上げておかねばならぬと思います。在野法曹側延長には絶対反対、一日も延ばしていただきたくないと最後まで留保をつけました。これに対して検察庁側と申しますか、捜査に従事される方々の方面では、やはり十日という希望を付ざれたのであります。そういうかつこうで、結論は五日であるが、一方在野法曹側は絶対反対検察庁側は十日を希望するという形のままで部会に持ち込まれた。部会におきましても、これは最後最後まで問題になりまして、実は私自身も相当苦慮を重ねたのですが、検察庁では非常に強硬に、検事総長みずから陣頭に立つて十日を主張される。それに対して弁護士側は全面的に反対、それで私は小委員会ですでに五日という妥協ができているのでありますから、何とかしてその線で妥協を願えぬものかと思つて、小委員会決議通りではどうであろうかということを部会長といたしまして執拗に主張いたしました。遂に検事総長意見が合いませんで、今年の一月末でありましたか、私閉会を宣したまましばらく会を開かないでおつたのです。というのは、議論が水かけ論になりまして、とうていけりがつかない。それからいろいろの事情を考えまして、また検察庁側弁護士会側でもいろいろ心配されまして、たしか三月になつてから、間に立つて調停される方がありまして、結局また部会を開きまして、それで小委員会通り決議部会としては採決したわけです。すなわち結論は、条件法律案にあります通り相当厳重になつてはおりますが、その条件のもとに五日の延長を認める、こういうことに相なつた。それから総会になりまして、その総会でもまた検事総長みずから陣頭に立つて執拗に十日説を主張されました。しかし結局は、はつきり申し上げますが、総会はまたメンバーが違つておりまして、むしろ部会よりもはつきり五日の線でとまつたのであります。それがすなわち総会決議として法務総裁答申されたわけであります。ところが出て来た法案を見ますと、最大限七日ということに相なつているのであります。法務府のこの法案提案理由書を拝見いたしますと、これは「法制審議会における審議経過をしさいに検討し」云云、結局七日の延長相当考えたというのであります。それはお考えになつたのは御自由でありますけれども、とんでもない話なんで、審議経過はただいま述べたことが事実でありまして、結論は五日というところまでぎりぎりに折り合つた。それをけちにもたつた二日延ばされたのはどういう意味であるか、私は法務府の気が知れないと思う。二日ぐらい多かつたつて少なかつたつて捜査が完璧になるかならないか、そんな問題じやないと私は思うのであります。法制審議会答申を無視するということは、これはまあ諮問機関でありますからさしつかえないといえばさしつかえないが、私も何十年そういう種類の会の委員をやつておりますが、かようにはつきりと、こういう審議会答申が無視されたことを私は知らない、そういう前例がないのです。この点は、私は法制審議会委員として、また部会長、小委員会委員長としてはなはだ遺憾に思つておる。私はこの際やはり出発点帰つて――私個人といたしましての意見は、これは七日もいかぬし、五日もいかぬ、弁護士会と同じくこれは絶対に削つていただきたい、こういう意見に相なつたのであります。これは相当条件しぼつてございますけれども、しぼつてつても、これは相当濫用のおそれと申しますか、濫用しなくても、いかようにもこれは適用ができるようになつておるのでありまして、被疑者が多数であるとか云々というようなことも、多数といえばどういうことになるか、二人以上でも多数であるとも言われますし、これは私は非常に危険であると思う。なぜ七日にされたか、その気持も私にはわかります。私はこういうことを申したのです。保釈もなし、また刑事補償もなしに、人を一箇月以上拘束するということは、これはもう文明国としてあるべからざることだ、こういうことを申したのです。それでこの七日ということになつた。二十七日に三日は、逮捕の期間を入れますとちようど三十日になる、そういう気持から七日にされただろうと思うのです。これは結局法務府が検察庁意見に追随したというか、引きずられたというか、これはまあ同じ役所でありますから、それもやむを得ないでありましようけれども、現にその総会の席上で、ある委員から、検察庁側意見として、いろいろ五日という意見もあり、七日という意見もあり、十日という意見もあるというようなことを並べて書いてほしいという要求があつた。私は断然お断りした。そんなうやむやにしておいたら結論が出ないじやないか、――結論多数決つたら五日にきまつてしまうのです。けれども、なぜ私が小委員会においても、部会においても多数決できめなかつたか、また総会においても、私は一委員でありますが、多数決できめてほしいという要求はしなかつた。なぜかというと、ああいう技術的な、専門の審議機関でありますから、多数決で押し切ることは必ずしも適当ではない――多数決なら、もう三分の二以上だつたと思う。過半数じやない、三分の二以上が五日なんだ。しかし、ぼくがあえてそれを要求しなかつたのは、今のような次第である。検察庁がそういうふうに、いろいろの案のままにして答申しろとおつしやるけれども、そんな結論の出ないような審議会は何の役に立つか。現に多数決なら結論が出ているのです。ただ私が遠慮しただけの話なんです。その際には法務総裁はさしつかえがあつて出席しておりませんで、佐藤法制意見長官が出ておつたが、ある委員が、どうもこれをそういうふうに並べておくと、法務府と検察庁とグルであるから、どういうふうにされてもしかたがないようになるからという発言をされた。これもはつきり記憶している。委員名前も申し上げてもいいけれども、それは必要ないと思う。そうしたら、佐藤法制意見長官は、いや、そんなことはございません、十分に御意見は尊重します、こう言つておきながら――私は佐藤法制意見長官の責任を問いたいと思つている。五日という結論が出ているのに、七日にしたのは何事であるか、ちつとも意見を尊重していない。法制審議会審議経過は以上のごとくでありまして、しさいにそれを検討した結果こういうふうになつたというようなことは、とんでもないことなんで、しさいに検討すれば――初めに帰ればこれは絶対に否認さるべきものであり、もし最後妥協案によるなら五日、七日は法務府限りの私案である。それは検察庁意見に追随したものにすぎないということを私ははつきり申し上げておきたいと思います。これがすなわち、私の全体を通じて唯一の、根本的に反対する点でございます。  次に権利保釈除外事由の点でありますが、これも一応権利保釈という制度をとつたのであるから――わずか三年の経験でもちろん不都合と思われるような場合もあつたでございましよう、それはよく想像できますけれども、できればもう少し試験期間を置いてもよくはないかと内心思つたのであります。しかしすでに実務における三年の経験によつて現行法では権利保釈というものが広きに過ぎるという御意見実務家方面に圧倒的でありますのみならず、世間でも案外この点につきましては、何と申しますか、権利保釈というものは何分にも新しい制度である点もありまして、現在の制度に不審を持つておられる向きも多い。そこからして、多少その除外事由を広めるということが、小委員会でもきまり、部会を通して総会に持ち越して、決議なつた。大体それに基いてあるのでありまして、この点は私は一応やむを得ないのではないかと思いますが、ただこれにも特に疑問の点が一つございます。それはその除外事由として新たに加えようとする中に、「被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき」という規定がございます。これは小委員会においても部会においてもいろいろと問題になりました規定で、多衆共同ということは、まあ騒擾罪その他特殊の、このごろの集団的犯罪を対象としているのでございましよう。ねらいは一応わかります。ねらいはわかりますけれども、多衆共同して罪を犯したということになりますと、必ずしもそのねらいだけに適用されるというわけではなく、その他相当いろいろな場合に適用されるおそれがあるのではないかと思います。     〔委員長退席山口(好)委員長代理着席〕 ことに共同して罪を犯すということについては、御承知通り、大審院以来の刑法第六十条に関する判例がありまして、現実の行動に加わらなくても、共謀があれば、それで共同したことになるというようなことに相なつておるのでありまして、この判例最高裁判所もそのまま継承しておる次第であります。そこでそういう判例がもしこの場合にも同じ趣旨で適用されることに相なりますと、まず第一に、多衆と申しましても、その数の限界がはなはだ漠然としているのみならず、共謀というので、共謀の嫌疑があれば、やはり除外事由の中に加えられるということであります。これは相当考えなければならぬことで、私はこの点にやはり疑問を持つものである。もしできるならば、たとえば騒擾罪その他特殊の集団的な犯罪というように、いま少しくこれを限定してはどうかと思います。私個人といたしましては、そういう修正意見を持つているものでございます。  第二は、簡易公判手続の採用でございます。この点は御承知のように、新刑事訴訟法が、公判における証拠取調べ、また犯罪理由、罪となるべき事実の認定にあたりまして、その個々の証拠証拠能力というものについて、相当複雑な制限規定を設けておる。これは現在すべての公判手続に適用されているわけでありますが、これは大体英米法参考としてでき上つたものでありまして、従来におきましても、理想としては、大陸刑事訴訟法学を学んでおりました間でも、直接審理主義、それから口頭審理主義というものが、原則としては考えられておつたのであります。しかし旧刑訴には予審もありましたし、法令によつてできた尋問調書というものは、無制限証拠能力を認められておつた。その他のものでもある程度証拠能力が認められておつたのでありまして、その点から、一旦警察なり検事局なりで、本人または参考人として聞かれたものは、それも正確にできておればいいのですけれども、聞取書とか調書とかいうものが、無制限証拠となるということによつて、非常に間違いが起りやすいということは理の当然であります。その点から申しますと、このように大陸法考えから言えば、直接審理主義、それから口頭審理主義を徹底する方向に、大幅にそつちの方に傾いた現在の新刑訴手続というものは、これは相当意味のあることで、この改正意義相当重大であると思う。けれどもまた、何分にも簡易裁判所等におきまして、ほとんど争いをいれないような窃盗とか、その他それに類する軽い事件などでも、やはり非常に煩わしい法則のもとに拘束されることは、それが非常に意義のあることなら何でありますけれども、場合によつては、それほど必要のないことにむだな手続をするというような感じもないでもないのであります。御承知のように、英米法におきましても、簡易な手続があるのみならず、英米法におきましては、今の簡易な手続がいわゆるサマリー・ジユリスデイクシヨンでありますが、そのほかに、どんな重大な事件でも理論としては、被告人有罪答弁、いわゆるリプライ・オブ・ギルテイをみずから公判法廷においてした場合、一切の審理を省略して有罪判決をすることができることに相なつております。もちろんただ形式的に検事起訴状通りであるということを言つたからといつて、裁判官は軽々しく有罪判決はいたしませんし、ことに刑の量定に関する情状は十分取調べるのでありますけれども、ともかく一応有罪はそれで確定する。コンヴイクシヨンセンテンスとわけるならば、コンヴイクシヨンはあつたものとして、有罪の確信を得たものとして、あとセンテンス、刑の言い渡しという手続に進むわけであります。これは特に英米法では陪審手続になつておりますから、そこで相当手続を節約することにもなるわけなのであります。しかし英米法考えは、必ずしも手続の節約というようなことではないので、ともかく当事者主義考えから、被告人が原告の起訴する通りであるということを、正面切つて認める以上は、それで犯罪の事実は確定したものとして取扱つてもさしつかえない、こういう考えから来ていると思います。軽い事件などはそれとは違う。たとい否認していても、陪審に関係のない簡易な手続によるということがありますが、刑事訴訟法の今度の改正案では、その両方の考えがここにまじつているのでありまして、すなわち被告人有罪答弁をしたから、ただちに有罪判決をするというような、いわゆるアレインメント考えも入つているとは思いますが、アレインメントそのものではない。被告人がみずから有罪であることを陳述した場合には、証拠調べ手続を簡略にすることができるということと、それから証拠能力に関する法律的な制限を一応取除くという、すなわち言つてみれば、旧刑訴に帰ると思えば大した違いはないのじやないかと思うのであります。そのような意味手続を簡略にする。それがすなわちここに法案になつております簡易手続の大体の趣旨であります。これは弁護士会側からは、やはり反対意見が出ておりまして、最後まで反対留保されたのであり、それからこの法案が国会に提出されました後も、これに対して相当強い反対意見が出ておるようでありますが、これは御承知と思います。そういうわけでありまして、民間法曹側としては強い反対意見があることは、私承知しておりますし、それに相当理由があると思いますので、疑問はありますが、しかしいろいろ現在における刑事手続審理実情などにかんがみまして、この簡易公判手続を採用することは、一つの案であると思います。しかし疑問もあることでありますから、これは私は積極的に賛成するというよりは、裁判所側の持ち出されたこういう案に対して、確かにやはり一応ごもつともな案であるという程度見解でございます。  第三に、これは最後のものでありますが、控訴審における事実の取調べ範囲を拡張する点であります。御承知のように、現行法は旧刑訴の覆審の制度を捨てまして、控訴審もまた、昔の上告審に類する一種のいわゆる事後審査、または事後審と言つておりますが、事後審方法をとつたことになつております。事後審と申しますのは、申すまでもなく、判決する際のそのときまでの審理資料によつて、その判決が正しくあるかないかということをあとから審査する、判決の当否を審査するという意味であります。その点は、今回この法律案に盛られた程度改正は、私といたしましては、わざわざ改正をいたしませんでも、解釈によつて十分まかなえることだと思つておるのであります。それは私の解釈論は別に刑法雑誌に発表してありますので、私の論文が影響したというわけでもありませんでしようけれども、だんだんと事実の取調べというものがゆるやかになつて来つつある実情であります。しかしながら、それは裁判所によつつていろいろ手加減違い、またたとえば同じ東京の裁判所でありましても、部によつてその考えが違うというわけで、弁護士側といたしましては、まことに困る。もう少し親切な事実の取調べをしていただきたいというような訴えをしておる。これは全国的な一つの非常に強い要望であります。この要望にこたえて、控訴審における事実の審理を少しく拡張する。私に言わせると、拡張でも何でもない。私は解釈論としてでもこれ以上行けるとも思いますけれども、それを明文化することによつて弁護士、在野法曹の人たちが、楽に新たな証拠をある程度まで法廷に持ち出すことができるというようなことに相なりますと、その点は被告人側と申しますか、弁護士側は、被告人の利益を主張する意味においてはたいへんに都合のいいことである。これについては弁護士会側は積極的にその成立を熱望しているようなわけであります。と同時に、ふしぎにも、この点は検察庁側もまたたいへんに賛成せられて、検事総長のごときは、むしろ元の覆審に帰つたらどうかというくらいな意見を持つておられるらしい口吻を承つたこともある。しかも審議会の席上で公式にそういう御意見も承つております。この控訴審における事実坂調べの点に関しましては、朝野まつたくその意見を一にしておる。学界もまたこれを大体支持しておると私は思います。ただこの事後審というものを非常にきゆうくつに考える学者の人たちは、これにはどうもあまり気持よくは賛成されなかつたということ、これもまた事実を申し上げておかなければならないと思う。しかしそれは私に言わせると、事後審という概念にとらわれているのであつて、現在の刑事訴訟法規定をもつてしても、なお事実の誤認や刑の量定に関する控訴申立ての理由を認めているのでありますから、それを認めれば、その一角からして、どうしても新しい証拠の提出を絶対に押えるということはできないものだと私は信じておりまして、そういう点から、一部分ででも継続的な審理に入り込むのだ、継続審理をつぎ木するのだということを、理論的には申しておつたのであります。すなわち基本構造は事後審の基本構造であつてけつこうであるが、それに継続審理的なものがつぎ木される、理論的にはそういうことになると思つているのであります。そのことを明文化したことになるのじやないか。私は衷心より賛成いたすものであります。  その他こまかい点につきましてはいろいろありますでしようけれども、時間も実は三十分以上になりまして、御迷惑かと思いますし、こまかい点についてはとうていこの席では尽せないので、以上をもつてごめんをこうむりたいと思います。
  5. 山口好一

    山口(好)委員長代理 これにて小野参考人の御意見の開陳は終りました。小野参考人に対する質疑の通告があります。これを許します。鍛冶良作君。
  6. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 今あなたの説明を聞いていると、弁護士会から出ましたのは、多数共同して罪を犯した場合、これをあなたは、多数ということはどの程度までを多数というのか、限界がわからぬと言う。法文は多衆となつておりますが、多衆と多数とは異なりますが、多衆でもやはり相かわらずいかぬか。これをわざわざ多衆と書いたのは、相当考えがあつてではないかと思うが、この点は多衆でもいけませんか。
  7. 小野清一郎

    小野参考人 多衆と多数とは少くとも気持の上で違つております。多数と申しましても、二人ですでに多数であるというようなことも言えるのじやないかとも思いますけれども、多衆となりますと、二人や三人ではいけないことは、これはもうはつきりしております。しかしそれならば十人はどうか。十五人はどうかというようなことになつて、その限界は決してはつきりしたものではない。御承知の暴力行為等ですか、あの法律の中にもたしか多衆という言葉が出ておりまして、現行法においてすでに用いられておる限りにおいては多衆という文字の方がより適切であることは申すまでもないのでありますが、それでもなおどうもこれが不安であるということは、これは小委員会からずつと部会を通して相当そういう意見がございました。けれどもさればといつてこれをどう直すかということになると、ちよつと適当な案が見つからなかつたということが正直なところです。それでもう少し何とか考え方があるのじやないかといいながら、ついこれにおちついた。私の不安とするところは、多衆もそうでありますが、共同というようなこの解釈も、共謀だけあればよいというような現在の判例は、もしこれが適用されることになりますと、いよいよその点からも困ることになる。こう思うのであります。その点は、今の何については暴力行為の法律ではたしか単に共謀をしただけでは足らぬという判例も一つあつたように記憶いたしますが、案がなければこれにおちつくのもやむを得ないと思いますが、もう少し考えて見て、修正の余地が十分あると思うのはこの点であります。
  8. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 もし修正するとすれば、あなたの御意見をここで承つておきたい。
  9. 小野清一郎

    小野参考人 それはたとえば、すでに現行法のもとにおいてはつきり集団的多衆の犯罪と認められておる内乱罪、騒擾罪、しかしそれだけでは足らぬでありましようが、それをあげて集団的の犯罪あるいは団体的な犯罪というようにでも言いましたならば、単に多衆というよりは少しく輪郭がはつきりするのではないか。団体的、あるいは団体的または集団的というようなことにでもしたら、今の騒擾罪というような罪名をあげたらどうかと思います。しかしそれだけでは足らぬ。その罪名だけで済めば簡単ですが、それだけでは済まぬ。たとえば暴行などでも、騒擾と言い足らないまでのところを押えようとするのでありますから、団体とか、集団とかいうような――これは今まであまり用いていない。法案には用いられいないが、そういう点を考慮したらどうかと思います。     〔山口(好)委員長代理退席、委員長着席〕
  10. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 次はいわゆる保釈のお礼まわり、この点も反対でございますか。
  11. 小野清一郎

    小野参考人 これは私もずいぶん疑問がありまして、小委員会でも、いろいろここまでの、この法律案のような文句に来るまでには、相当の紆余曲折がありまして、何としても例のお礼まわりというものは公安の点から、またその後の裁判の審理にもさしつかえが起りますし、これを放任して置くということはできないというので、この点はまず最後にはこういう案になりまして、この案には大体において委員各位は一致しておつたのであります。
  12. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 弁護士会からの意見では、九十六条によつて保釈の取消しをすれば――そういうことがあればそれでよろしいのであるから……。
  13. 小野清一郎

    小野参考人 そうであります。
  14. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 従つてこれを認めない方がよいという意見がありましたが、これについてはどうですか。
  15. 小野清一郎

    小野参考人 私は弁護士でありますが、この点は弁護士会意見とは違いまして、私はやはり必要ではないかと思います。
  16. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 起訴後の勾留期間については……。
  17. 小野清一郎

    小野参考人 その点はさつきちよつと触れましで、十分申し述べなかつたかと思いますが、これももとより人身の拘束に関することでありますから、決して好ましいことではございませんけれども、しかしながら起訴から判決の確定までの勾留期間が三箇月ということになつて、それでもほんとうは、たとい第一審の判決有罪になつても、釈放しなければならぬ。しかしそれは禁錮以上の実刑の宣告があつたというような場合にはまことに不都合じやないか、そういう考慮から来ておるのであります。ところが私は実際弁護士としての実務に携わつて驚いたのでありますが、詐欺の事件でありますが、一年九箇月勾留を更新されていたという記録があるのであります。これはどういうものか、驚くべきことなのであります。それは現実に私の見た事実なのであります。それならばこんな規定の必要はないのではないかというふうにもそのとき申したのであります。しかしそれは要するに有罪になつて、いろいろの関係で手続は延びる、保釈をしたら逃亡のおそれがあるというので、多分規定の上からは、八十九条でしたか、ちよつと今忘れましたが、何か延ばせるというようにはなつておるのですね。ですから一年九箇月という驚くべき長期の――第一審で有罪にはなつておりますけれども、そういうことになつておりますから、どうもそういうことから見ると、私は勾留期間というものは非常に慎重にしなければならぬのではないか。ついでに申し上げますが、これも実務経験したのですが、これは新潟県であります。県下の選挙違反の場合に、運動員が選挙違反の嫌疑で、起訴前に勾留二十日されました。一旦二十日のときに釈放された。出て、お前毛布まで持つて行けというので、かついで出たとたんにまた令状をつきつけられまして、四十日いたというのが、しかもその事件は二つあつて、地方をいえば長岡と高田ですが、私はそういう実例を見ております。ともかく起訴前の勾留などというものは非常に慎重にしなければいかぬ。これをゆるしたら、どんなことにならぬとも限らぬ。非常に濫用をおそれるので、もし二十七日をまたむし返されようものなら、まさに二箇月、昔の予審とそれでは同じです。そういうことは非常に私は警戒しなければならぬことではないかと思うのであります。ことにこの場合被告人が多数というのは――これは多数でございますよ。多衆ではございません。それですから、選挙法違反、経済事犯、贈収賄、その他あらゆるものに適用がありますから、どうぞそのおつもりで……。
  18. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 小野先生にお尋ねいたします。起訴前の勾留の問題ですが、起訴前の勾留については今御説のように、濫用は非常に心配で、われわれもともに考えるべき問題でありますが、五日間と、先ほどのお話では小委員会で認めたということですが、五日間と認めた場合についての理由がはつきりいたしませんでしたが、どういうような具体的な事由でございますか。
  19. 小野清一郎

    小野参考人 それは一方には全面的な反対がございます。一面には十日という要求がありまして、それで長期間にわたつてもみ合つた。実は私委員長として、好ましい妥協ではないのでありますが、実情を伺うと、五日でぎりぎりのところで期間が切れて釈放しなければならない、もう二、三日で、あるいは場合によつてはまとまりがつくかもしれないという場合も私はないでもないと思つたのであります。それで両方の半分をとつたようなことでございましたが、これは不徹底の妥協とおつしやるならまさに不徹底な妥協を試みたので、委員長の責任でございます。しかし七日ということは絶対にないので、多数の意向、三分の二以上の多数は五日で、たとえば学会側などは、総会意見は、できれば全面的にやめてもらいたい。やむを得ずんば小委員会から五日を認めるということであつたのであります。
  20. 梨木作次郎

    ○梨木委員 権利保釈の問題で今も質問が出たのでありますが、「多衆共同して罪を犯した」場合というのでありますが、特に多数の人間が共同して罪を犯した、そういう場合に特別に保釈を許さないというような特殊の扱いをするということは、これは憲法が規定している団結権というものとの関連において、これは非常に問題があると私は思うのであります。なるほど検挙する検察側からいえば、それを検察側の認定で、団体行動であるというように認定する。認定されたら最後保釈までも許されないというようなことから来まして、憲法の団体行動を保障しておるこの基本的な権利を否定するものに通ずると思うのでありますが、それはどういうぐあいに考えますか。
  21. 小野清一郎

    小野参考人 団体行動ということが憲法の保障するところであるという御意見には同感でありますが、ただ多数の被告人が――これは権利保釈の方は起訴された後のことでございます。これは起訴前とは違いますので、起訴後でありますが、多数の被告事件として併合審理しなければならないような場合でございます。その場合にやはりその一人が欠けましても審理の進行に非常にさしつかえるというような場合も考えられるのでありまして、はなはだ被告人にとつては迷惑千万なことであることはもちろんでございますが、しかしその審理を急速に、また円満に進行させるために、権利保釈から除くということはやむを得ないのではないか。もちろんこれは権利保釈としては許さないというのであつて保釈を請求することはさしつかえないのみならず、裁判所において保釈しても審理の進行にさしつかえないという見解である場合には、それは保釈してさしつかえないのでありますから、絶対に保釈を許さぬというのとは違います。その点を御了解願います。
  22. 梨木作次郎

    ○梨木委員 こういうものが出て来ますと、私は現在衆議院を通過して参議院で審議中の破壊活動防止法のごときは、これとの関連においてまつた権利保釈を認めないということになりまして、破壊活動防止法との一貫した手続、破壊活動防止法の訴訟の手続の面において実施して来ているというように私は考えるのでありますが、その関連性をどういうぐあいにお考えになりますか。
  23. 小野清一郎

    小野参考人 私は破壊活動防止法には何らの関係もないのでありまして、あちらの方の事情については私さらに承知しないのでありますが、やはり何と申しますか、立法の目標としては、率直に申して、同じようなところに向いているとも考えられます。ただ私は破防法の方はよく存じませんのですから何でありますが、これは関連が公然ないとも申されないと思うのでございます。これはただ第三者としての観察です。しかし現に目前に、たとえばメーデーの騒擾事件とか、ああいうものについては、捜査当局も相当苦心しているということは学界人としての私の立場からも、もしああいうことを放任してもいいということになれば、これまた別でありますが、そうでない限りは、相当捜査に苦慮している捜査機関の立場というものも考えなければならない。これはやはり法的秩序を維持する上に必要なことである。かように信じております。
  24. 梨木作次郎

    ○梨木委員 多衆共同してというのは、これは起訴状に多衆共同して、こういうぐあいに記載されておる場合なのか、それとも裁判所が判断してそういう罪に該当しておると判断する場合を指すのか。それはどういうように審議状況では討議されておつたのでありますか。
  25. 小野清一郎

    小野参考人 その点は審議経過においては特にそういうことを問題にいたしません。と申しますのは、こういう法律案がかりに成立して法律となつたあかつきには、これの解釈適用は裁判所の手にゆだねるほかはない。それで疑いがあれば結局のところ最高裁判所判例できまる。こういうことになります。それでありますから、私さつき申し上げたように、共同してということの解釈がどういうふうに動くものか、現在のところ刑法の第六十条でありましたか、共同正犯の解釈については数人共同してということが、つまり共謀があればいい、共謀さえあれば、共謀だにあればよろしいという最小限度、思想的な共同があればいいように解釈されておるのでして、実行に加わる必要がない。しかしそう解釈されるのだつたら、私は断然反対しなければいかぬと思う。これは共同して、共謀のみならず、現状において実行に加わつた者にこれは限りたいと思うのであります。そういう共犯の解釈をされたら非常に広汎なことになつて、のみならず一応の嫌疑はむろんあるにしても、まだ審理の途中であなたのおつしやるように、裁判所がそういうふうに認定したらやはり拒絶するでしようから、「共同して」というそういう文字を裁判所の手に渡すということだけは覚悟をしない限りは、これを通過することはできない。けれどもさつき申しましたように、公平に申しますれば、暴力行為等処罰に関する法律には同じ多衆共同してとたしかありましたが、それは共謀だけではいけない。やはり現状において実行に加わらなければいかぬという判例があつたように記憶いたします。
  26. 梨木作次郎

    ○梨木委員 さらに今度は保釈の場合に、氏名または住居がわからない。従前は氏名及び住居、双方がわからない場合としてあつたのを、今度はどちらかわからない場合というぐあいにさらに範囲を広げて来ておるのでありますが、私は逮捕された場合に氏名も住所も言わないということは、被告人にとつては自己を防衛する基本的な権利であると思うのであります。ところがその権利を行使した結果が権利保釈条件を具備しなくなるというような規定の仕方というものは、これも自己に不利益な陳述を強要されないという憲法の基本的な権利の保障と矛盾すると思うのでありますが、それはどういうぐあいにお考えになりますか。
  27. 小野清一郎

    小野参考人 今まで「氏名及び住居」とあつたのを、「氏名又は住居」とかえましたのは、これも裁判の実務に当つておられる方面からの御要求でこういうことになつたのであります。氏名はわかつている、しかし住居がわからぬという場合には、やはり保釈いたしますと、あと被告人を次回の公判期日に呼び出さなければならぬのでありますから、そういう場合に一体どうすればいいのか、住居がわからなければ呼び出す手もなくなるのではないかと思いますので、その点は「又は」で私はけつこうなものと思います。
  28. 梨木作次郎

    ○梨木委員 もう一点。この勾留期間を延ばしたことについていろいろ御意見があつたわけでありますが、実際は今勾留期間を脱法的に非常に延ばしております。それは今小野さんの方からもお話がありましたが、一年数箇月脱法的に――脱法的かどうかわかりませんが、非常に不当に勾留しておる事実をわれわれも経験しておるのであります。逮捕状を出しまして、その逮捕状の中に五つぐらいの容疑事実を掲げておきます。そして一つだけを調べて出しまして、出すと同時にすぐ第二の容疑事実を調べる。これまたすぐ逮捕勾留する、こういうことをやつておるのであります。こういうことは私は不法であると思いますが、こういう扱い方についてどういうぐあいにお考えになりますか。
  29. 小野清一郎

    小野参考人 先ほど申しました選挙法違反事件について、私が驚きましたことは、まさにあなたがおつしやる通り不法だと思うのです。それから検察庁としてもそういうことはしないように、十分上の方からだんだんと指令が出ていると思いますけれども、地方で現にそういう事実があつたことは打消すことはできない。検察庁方面では、勾留期間については、実際はそう全部二十日ともなつていないので、十日で大体済んでおり、延長するとしても二十日まで行つておるのは何%であるという統計を示されて、大したことはないというふうに陳弁されるのでありますけれども、それは統計的の数字の問題ではない。たといこれが一件、二件にとどまつても、さような不法な起訴勾留のむし返しというようなものはあつてはならぬものだ、こういうふうに確信しております。その点御意見とまつたく同じであります。
  30. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 猪俣浩三君。
  31. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 控訴審におきましては、事実の取調べ範囲につきまして、私どもこの際非常に改正しなければならぬものだと考えております。それでもう少し研究したいと思いますがその時間もありません。先ほど先生の御意見を「刑法雑誌」にお書きになつたと聞きましたが、それは「刑法雑誌」の第何号でありましたか。
  32. 小野清一郎

    小野参考人 第何号でありましたか、一昨年の秋か昨年の春だつたと思います。もし御必要ならば法務委員会に差出します。
  33. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 お願いいたします。なお先生の御意見を拝見いたしませんとわからぬことですが、私の実際経験したことで、第一審で執行猶予をつけたのが、第二審でほとんど事実審理をせず、被告人取調べもせず、執行猶予だけ取消してぶち込んでしまつた。私は非常に驚いたのでありますが、かようなことが一体合法的かどうか、これも控訴審の事実審理範囲の問題になるかと思いますが、ちよつとその点について先生の御意見を承りたいと思います。
  34. 小野清一郎

    小野参考人 それは検事控訴の場合でございましよう。
  35. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 検事控訴の場合です。
  36. 小野清一郎

    小野参考人 ですから不利益変更禁止は解けるわけなんです。事実審理をしないで執行猶予だけをとつたわけでございますか。
  37. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうなんです。それは妻が夫を殺した事件ですが、情状酌量すべき点が多々ありまして、一審では情状酌量の点をしんしやくしまして、執行猶予をつけてくれたのです。ところが控訴審におきましては、全然被告人取調べもせず、書面審理だけで、その執行猶予の分だけを取消してしまつて、そうして三年の懲役で刑務所へ送つてしまつたのであります。
  38. 小野清一郎

    小野参考人 ほんとうの刑事訴訟法の理想からいえば、全面的な審理をしないで刑をかえるということ、また執行猶予をつけたりとつたりすることは、いけないことだと思います。たとえば元の旧刑訴のもとにおいて、上告審で事実の審理の決定をして、全面的な覆審的審理をした上ならばいいが、そうでなくして、刑をよし軽くするにしても、かえるということには非常に疑いがあるということを私は申しておつたのであります。そうして今や控訴審事後審になつて、やはり同じような考え方がそこに当てはまると思うのであります。ほんとうのことをいえば、全面的な審理、すなわち審理のやりかえ――リトライアル、もう一度全面的な覆審をした上でなければ刑の量定をかえたり、執行猶予をつけたりとつたりということは、これは許されないことだと思うのですけれども、そうなりますと、また覆審というものの手数を考えて、訴訟の経済という考えがそこに入つて参りまして、多くは被告人の側から控訴しますから、原審より刑を軽くするなら大体不服はないだろうということになる。そこでそういう場合には、弁護人もできれば事実の認定はそのままにしておいて、刑だけを軽くしてもらえばけつこうだというような気持で、そつちへ持つて行こうとするわけで、また現にプラクテイスで行われておる。反対検事の方から控訴の申出があつた場合には、前より重い刑にするとか、あるいは第一審で執行猶予がついておつたの控訴審でそれをとるというようなことにもなるわけです。ほんとうをいうと、両方ともいけない。厳密な理論からいえば、刑を軽くすることもいけない。それなら覆審にしなければいけない。覆審にしないで継続審的にやつていただけばまだいいのですが、多くの裁判所のプラクテイスはそこまで行かないで、刑をかえておるという事実があるのです。それははなはだ私は遺憾だと思いますけれども、それでも軽くなる方は大体それでみな文句はない。けれども重くなるような場合はあなたの今言われるような御不満があるわけです。
  39. 吉田安

    ○吉田(安)委員 勾留期間延長の点でありますが、この点につきまして先刻来法制審議会における審議の模様、経過を率直に小野さんから承りまして、たいへんわれわれ審議に当たる者として幸いに思います。しかるに先生の率直なる御意見を聞きますると、一面法案提案理由書によつて見ますると、答申の模様が一向現われておりません。
  40. 小野清一郎

    小野参考人 そうなんであります。
  41. 吉田安

    ○吉田(安)委員 これは私としても非常に不愉快に実は感ずるのであります。もう一ぺん先生のおつしやつたこと、これは速記録を見ますると一目瞭然でありますが、私の記憶をここでもう一度復調しまして、そうして審議参考にしたいと思います。先ほどの参考人の御意見では、小野個人としてはかような延長は全面的に反対である、また弁護士会、すなわち在野法曹界でもこれは全面的に反対である、学会もそういう傾向であつた、しかるに、審議会としては、その模様を見ておると、結局五日という説、三日という説、いろいろな説が出ておる。そして委員長としては、これをどう取扱うかということについて相当に小野先生は苦慮なさつておられた。ところが一面佐藤検事総長のごときは、陣頭に立つて十日説を固持された。そういうことで審議会の内容を想像しますと、非常に困難になつて、一時はその委員会も開かれないで、成行きを見て多少冷却期間でも置かれたというのですか、小野先生としてはしばらくほつて置かれた。こういうこともあつたらしいんですね。で、その後意見の対立のままであつたが、遂には機会があつて総会にこれを持ち出された。その総会の模様でも、また検事総長みずからやつて来て、十日説を固執されて、その間佐藤法制意見長官ですか、これも出て来ていろいろな議論があつたが、結局小委員会においても、これは多数決できめれば五日というのにただちにきまるのであります。しかしまた自分はなるべくなら多数決をとりたくない、おそらく小野先生の御意見では全会一致でもそいつをきめたい御意見と私は想像しました。ところがなかなかきまらぬでおつたが、結論としてはやはりその空気は五日という空気だ。総会においても、これを持ち出すとやはり五日という空気だつた。そこに検事総長が来ておつてひとり十日説を主張された。ところが答申する段になると、今おつしやつたようにいろいろな意見、たとえば三日、五日、十日とあるのをそのままひとつ持ち出してくれという希望であつたが、それでは答申案にならないからということで、まず五日ということで答申された、こう解してよろしいんですね。――そうしますと私実に不愉快に感ずることは、この提案理由を読んでみますると、法制審議会における審議経過をしさいに検討し、かつ現下の捜査の状況云々とこういうことが書いてありますが、この提案理由には――私はこの法案の説明のときには出ておりませんでしたが、審議会答申というものはいささかも反映していない。反映していないのみかかえつて逆の反映を招来するような感じがするのです。いやしくも立法府としては、そういう食い違いがあるということはまつたく遺憾千万でありますけれども、今私が復調いたしましたことは、参考人においてはやはりその通りに間違いない、かような御意見でありますか。
  42. 小野清一郎

    小野参考人 大体その通りであります。結論としては、小委員会も、部会も、総会も五日延長の説が出て、ただ付記として、全面反対の在野法曹の意見があり、それから十日を希望する検察庁側意見があるということを付記したわけです。ただいまお話の通り、小委員会部会などは懇談的な会でして、その事柄とその会の審議の性質からして多数決で押し切ることは適当でないのです。それで私は何とかして全会一致にしたいと努力したのですけれども、それができなかつた。しかし大体私のにらんだところでは、多数で五日におちつく、それを結論とすることにはたれも異存がなかつたということをはつきり申し上げます。小委員会においても、部会においても、総会においても、結論を五日とする段になつて、それには一つも反対がない。ただ固執される方があつたということ、一方には全面的に反対を固執され、一方には十日希望を固執された、こういう状態であります。それを検察庁の御希望としては、いろいろの説があつたらそのまま報告したらいいじやないか、こうおつしやるが、私はそれは委員長としてとうてい忍びがたいから、結論を出そうじやないかというので五日という結論までこぎ着けたわけです。但し付記することは妨げないというのです。で私の見るところでは、部会、小委員会ではもちろん、それから総会になればなおさら、多数決つたらば五日でもそんな付記も何も必要がないくらいだつたと私は思うのです。ところが今のいろいろな意見をそのまま書けというので、私はそれを拒絶し、五日の結論になつたのですが、総会におきましてまたむし返されて、それでまたただ平等に併記するという説が持ち上つて、そういう委員の間に反対があつた。それで法務府のことだからどんなことをするかしれぬ――まさにどんなことでもされておるのです。そういう発言があつたのに対して、座長の席にあつた法制意見長官が、多数の御意見は尊重しますということをはつきり言われたけれども、食言されてこういうことをされた。
  43. 吉田安

    ○吉田(安)委員 くどいようですけれども、検察庁の方でその意見をどこまでもつつぱつて主張する、これは一向さしつかえない。また法務府がその答申案を一向尊重していない――もつとも諮問答申ですから、何も徹底的にこれに拘束されるという意味ではないと思います。それは思いますけれども、今日は法務府の方が見えていないからいたし方ありませんが、こういうことのやり方はまつたく下愉快に存ずるのであります。これは参考人に申し上げてもいたし方がないのでありますが、小野先生の御意見だけお聞きしておきます。これはいずれ多数党の自由党とも相談して徹底した修正をする必要があると思います。
  44. 田万廣文

    ○田万委員 吉田君の質問と関連するのですが、先ほどの小野先生のお話では、法制審議会答申を今まで無視せられた前例はなかつたという御発言があつたように思うのですが、私の聞き間違いかどうかわかりませんが、そういうような御発言に間違いありませんか。
  45. 小野清一郎

    小野参考人 私に関する限り、いかに思い起そうとしても思い出せない。それから法制審議会では刑法とか、刑事訴訟法の一部改正などはたびたびありましたが、刑法先なんかはとうとう成功しなかつたわけです。ですからあまり例はないのです。刑法の例は全然ないと思いますし、訴訟法の改正でも、こういうようにはつきりと結論の出たものを司法省限りで何とかしたことは、どうも私の記憶にはありません。
  46. 田万廣文

    ○田万委員 佐藤法制意見長官審議会結論は特に尊重するとはつきり明言せられ、結果においては尊重せられない姿が出ております。部会長をなさつてつた小野先生としては、法制意見長官に何かお話なさつたようなことがありませんか。
  47. 小野清一郎

    小野参考人 まだ話しておりませんが、私は部会長として、また審議会委員の一人といたしまして非常な不満を持つているということを確言いたします。
  48. 田万廣文

    ○田万委員 こういうことが連続して行くと、法制審議会が熱心にいろいろ御研究になつていることが水泡に帰すると思うのです。今後を戒めるために何か決意を持つていらつしやるか、そういうお話はまだ委員会に出ておりませんか。
  49. 小野清一郎

    小野参考人 その後まだ委員会が開かれませんで発言の機会を得ておらぬのであります。
  50. 田万廣文

    ○田万委員 先生の御意見は。
  51. 小野清一郎

    小野参考人 私は強硬な意見を持つております。こういうことであれば、将来法制審議会に協力することがはたしていいことか悪いことか疑つております。
  52. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 他に御質疑がなければ、次に稲本参考人に御意見の開陳をお願いいたします。稲本参考人には、弁護士会を代表して刑事訴訟法の一部改正法案につき御意見を述べていただきたいと思います。特に起訴前の勾留期間について御発言を願いたいと思います。
  53. 稲本錠之助

    稲本参考人 私は学者でないので、外国のことはもとより、日本の法律もむずかしいことは存じません。しかし過去三十三年の間、純粋の刑事専門の弁護士として、気の毒な人たちの相談相手になつてつたのであります。いわば年をとつた町の大工さん、むずかしい建築理論はわかりませんが、のみとつちを持てば雨漏りのしない家くらいは建てられると思います。従つて私の申し上げます言葉は素朴であり、単純であるかもしれません。そこは委員諸公の御聰明により、あれはああいうことを言いたいのだと私の意のあるところをおくみとり願えば仕合せであります。  今度の刑訴改正法案を逐一拝見いたしまして、軽々しく賛成してはならない、容易に納得することのできない点が数点あります。しかしながら、これも公共の福祉維持というりつぱな看板に免じてまあまあしんぼうできないことはないというところは別に意見を申し上げませんが、以下申し上げまする三点は、これは絶対に御同意できない。御賛成を申し上げることができない。起訴前の勾留期間延長法案二百八条の二、それから権利保釈制限条項を拡張しようとする法案八十九条、それから有罪陳述をした場合、訴因を認めた場合に、簡易公判手続でやつつけようという法案の二百九十一条の二、この三点は何といたしましても納得いたしかね、かつ御同意申し上げることができないのであります。順序は少しかわりますが、申し上げることの簡単なところから申し上げます。  有罪陳述に基く簡易公判手続、これの適用を受けまずのは、法案によりますと短期一年未満の事件であります。一年未満と漫然と見ますとまことに軽いように思うのでありますが、これは短期であります。短期一年未満であります。刑法犯の大部分、特別公判犯罪はもちろんのこと、今日日比谷の法廷で毎日審理されております事件の大部分を占めます。従つてこの改正案の影響するところはすこぶる広範囲であります。この点を特に御留意願いたいと思う。これはもう専門家の諸公には申し上げるまでもないことであります。私がなぜ御同意できないかと申しますと、まだまだ日本の民度から申しまして、訴因を理解判断する力が被告人にないものが多い。実際法廷におきまして裁判長が冒頭に尋ねられますと、被告人があべこべに裁判長に対して尋ねておる。これはわからないからです。そんなことを裁判長に尋ねられては困る、お前さんの考えを聞くんだというような問答もあります。いや、もう裁判長におまかせしましようというのがあり、お前さんの事件ではないか、まかされては困るというような問答もあります。これをもつていたしましても、まだまだ民度といたしまして、訴因を理解して、私は有罪であるということを間違いなく言えるかどうかはなはだ疑わしいのでございます。  それから日本人は官憲に対して、裁判所なりそういう取調べ機関に対しまして自己を主張することが遠慮がちであります。これは国民性であります。悪く言えば官尊民卑、長いものには巻かれろ、泣寝入りになれというのが一つの国民性の悪い点でありますが、これもおいおい教育にまつよりしかたがないのであります、この法案が出たからといつてすぐにりこうにすることもできないのであります。それから自暴自棄によるもの、あきらめによるもの、毎日大事に会社の帳簿を持つて裁判所に来るということはやりきれない、どうせたかだか罰金ぐらいで済むんだから認めてしまえというので裁判を嫌悪する。それから拘置所の中には御承知の牢名主というような先輩もありまして、てめえの事件は何だと言われると、こうこうだよ、けちなやろうだ、そんなことは認めてしまえというな同房者の示唆、入れ知恵によりましていとも軽々しく自己の責任を認めるという実例が、私三十三箇年の経験に多々ございました。それからもう一つかんじんなことは、被告人の策略に裁判所が乗せられるということ。量刑が保釈の問題に関連して、たやすく認めるならば、頭を下げれば刑を軽くしてくれるだろう、保釈も許してもらいやすいだろうという利益との交換よりいたしまして――これはずるい方法でありまするか、阿諛迎合をする傾向がある。諸公多くのお方は弁護士でありますから、たくさんの御経験を持つていることだろうと思います。それからもう一つずるいのは、余罪の発覚を恐れて、ごく軽い事件についてすらすらと述べる。これは正直なやつだということで余罪探査の端緒を与えない。つまり、大事の前の小事だというので軽々しく認める者があります。それからもう一つけしからぬのは、これはよく裁判所が乗ぜられることでありますが、かえ玉であります。身がわり被告というやつであります。たとえばくず鉄問屋の主人公がどろぼうのくず鉄を買つた、これが臓物故買罪で事件なつた。ところがおやじは今執行猶予中だ、前に前科がある、おやじが今度出たのでは助りつこないのだ。そのときにおかみさんを出す、あるいは小僧を出す、番頭を出すという身がわり被告であります。かみさんはごく神妙に乳飲子をかかえて裁判所に出て来る。これは確かにおやじよりも刑の軽いことは確実であります。かくして大魚を逃がして細魚を捕えるというような身がわり被告にだまされるということが多いのであります。これはまた親分子分の関係の博徒の賭博開帳事件などでは、えてしてあることです。ほんとうのてら銭をとり、税金をとつておりまする親分は開帳罪からのがれる。せいぜい半ばくらいの連中が開帳罪で身がわりとなるというようなことがあるのであります。ごく一言につづめて申しますと、結局これらの誤判の原因をつくるということであります。その誤判というのは刑の量定と事実の認定の両方であります。しかし、お前はそう言うが弁護人はつくじやないか、弁護人がついてよくトレーニングするじやないかと言われるかもしれませんが、御承知通り、どの事件にも弁護人はつきません。ことに、私は有罪ですと言うようなものは、強制弁護事件でない限りは弁護人をつけないのが常であります。ことに、刑事訴訟法三十一条にありますように、簡易裁判所だとか家庭裁判所では、弁護人と申しましても、弁護士にあらざる特別弁護人がつきます。特別弁護人なんというのは、被告に毛の生えたようなものであります。そういうような人が被告人によく言つて聞かせるというようなことは私はできないと思う。つまり、必ずしも被告をよく教育してやる弁護人がつくものではないということであります。それから手続上やつかいだと思いますのは、共犯が数人おりますときに、共犯の一人が有罪を認めたとき、必要共犯の場合に他の者の取扱いをどうするか。それから一人の被告人で幾つもの訴因によつて起訟されておりまするときに、その訴因の五つの三と五を認めます、二と四は認めませんとかいうようなときには、一人の被告においてもさまざまな手続をかえなければならぬ、これは手続上においてむしろ混乱を来すのじやなかろうかと私は考えます。そこで、簡易公判手続をやろうというのは、おそらく訴訟経済から来たことであろうと私はお察し申すのでありますが、訴訟経済の上からいえば、どうせ有罪の供述をするのでありますから、今まで通り手続法でやつて行きましても運用上幾らでも倹約ができます。訴訟経済が幾らでもはかれるのであります。それと、この改正がもしアレインメントを導入しようという意図のもとであるといたしましたならば、これは少し筋が違うのではないかと思います。冒頭に申し上げました通り、外国のことは私は存じませんが、アレインメントとは筋が違います。アレインメントをやつておりまする所は民度が高い――官憲に向つても自己の権利を十分主張する民度の高い国であります。そういう国においてやられております。そうしてこれはいつも陪審裁判にくつついて行くのであります。日本のような陪審裁判でないところにこれを導入しようというのであるならば、これは少し行き過ぎでないかと私は思う。現行法が、少しどさくさまぎれで改正され過ぎたというようなことを聞きますが、その行き過ぎを非難される人が急にここにアレインメントを取入れよう、導入しようとするのであるならば、はなはだ行き過ぎであろうと私は考えるのであります。それで、しいて簡易手続によろうとするならばこういうふうにしたらどうかと思うのであります。弁護人のついている事件に限り、被告人及び弁護人の同意を得て、それに相談して――「被告人又は」ではなくして、「被告人及び弁護人」、必ず弁護人への意見を聞く。それでありましたならば、ただいま申し上げましたような誤判の種をまくような危険はないと私は思うのであります。しかし、そんなことまでして訴訟経済をはかつて幾ばくの倹約ができるかということを考えまするならば、これも冒頭に申し上げましたように、影響いたしまするところすこぶる広範囲、現在法廷に毎日行われておりまする裁判のほとんどがそれにかかるというほど広範囲のものであります。これは申し上げることは簡単ですから――逆でありましたが、有罪陳述に基く簡易公判手続は御同意できないという私の所論であります。  その次に権利保釈制限条項をもつと広げようというのでありますが、こんなことを申し上げると笑われるかもしれないが、人間の命とからだの自由というものは、これは基本的人権の最右翼です。このものを中心としていろいろの基本的人権、権利が派生しておるのであります。これを保障しようということが憲法の大眼目でありまして、これに制限を加えようということは、それ自体悪なんです。しかし、公共の福祉を維持したいという必要があるから、悪いことではあるけれども制限を加えようというのがこれであります。必要悪であります。あるいは、必要なればこそ可能である、ネセサリー・イーヴルというのがこれに当るのではないかと私は思うのであります。こういう必要悪、必要可能というようなことは最小限度にとどめてもらわなければ困ります。一体未決勾留というようなことは例外です。外へ出しておくのが原則であります。これを転倒してはならないと私は思うのであります。  それから、これには短期一年以上という制限があるじやないかというのでありまするが、これも、私は今死刑、無期と短期一年以上を並べたままは申しませんが、死刑、無期を除いて、単独に短期一年以上のものを刑法犯の中からちよつと拾つてみてもたくさんあります。こういうことを諸公に申し上げることは釈迦に説法でありますが、内乱の幇助、それから内乱の予備陰謀罪、外患罪、騒擾罪の首魁、放火罪、鎮火妨害罪、溢水罪、水防の妨害罪、汽車、電車の往来妨害罪、浄水道の損壊、百四十八条、百四十九条の通貨偽造、変造、強姦罪、強盗罪、強盗傷人罪、これまた実際法廷で行われておりまする事件のたくさんの事件がこの適用を受けるのであります。影響するところすこぶる広範囲であるということを御留意願いたいと思います。  私はこの改正法案提案理由書を拝見いたしたのですが、その冒頭に、今の刑事訴訟法は比較的短時日の間に企画立案したもので、不都合が生じて来たというような意味のことを書いてあるのでありますが、ああいう場合であつたらばこそ、われわれのぜひ享有しなければならぬ人権を擁護する、尊重するところの、現行の立法ができたのではありませんか。ああいうときにこしらえたんだからいいかげんなものだ、不都合が生じて来たというのは、私は逆であろうと思うのであります。せつかくあれだけの保釈制度をきめられたのでありまするから、これに制限を加えようということは、これは全然ごめんをこうむらなければならぬと思うのであります。それで私は、この現行法を存置しながら運用面を改善して行けばこの改正の理由を満足さすことができるんじやないか、八十九条の除外事由などはこれは証拠隠滅のことだろうと思いますが、これなどもよく運用いたしますると、今範囲を拡張しようとするような罪名に当る事件は、証拠を隠滅されたんでは捜査上裁判所は困るというようなことに当るのではないかと思います。といつてこれをやたらに濫用されては困りますが、現行法を存置してその範囲内においても私はけつこうやつて行けるのではないかと思うのであります。  それから案の八十九条四号の多衆共同犯、同じ罪名で大勢が共同してやつたから保釈の権利を制限しようということは、これはどう考えても合理的な理由はないのであります。同じ罪名である合理的な理由はありません。大勢で、多衆でやつてはいけない、特に重く処罰しなければならぬというようなものでありまするならば、暴力行為等処罰に関する法律というものがある。それぞれの特別法があり、また刑法には騒擾罪というようなものがあるのであります。ただ窃盗を大勢の者が共謀してやつたからどうである、もつともこれには窃盗は入りませんが、そういつたように多衆でやつたからといつて、同じ罪名で特別に権利保釈制限されるということは、どうしても合理的な理由を発見することができません。それからこれが騒擾罪だとかその他特殊団体または集団的犯罪、このごろよく言われております公安事件というようなものを目ざしてやろうとするのでありましたならば、これは私はいたずらに刺激するだけじやないかと思います。これもよほど考えなければなりません。しかしまたそこは問題は少し政治的になりますので、私の領域以外になりますから申し上げませんが、そういうものをねらつての立法であるということでありまするならば、少々考えなければならぬと思います。  それから今小野参考人も申されておりましたが、多衆という文字、これは立法当時には、提案者からああだこうだといろいろ説明があり、また説明をなさるために出頭されておりまするようなりつぱな方々でありまするならば、この法の運用を誤るようなことはなかろうと思いまするけれども、これもまた、たくさんの裁判をされる人たちのことでありまするからして、相当の危険が内在しておるということを覚悟しなければならない、おそれなければならぬと思うのであります。  それから八十九条の六号です。これは保釈御礼防止ということだろうと思います。私はこの文言から想像すると、証拠を保持したい、証拠隠滅を防ごうというのが眼目であるように思うのであります。しかし証拠を保持しようというのでありまするならば、現行法権利保釈の除外の事由の一つでありまする罪証隠滅の問題として議論すればいいのじやありませんか。この八十九条の六号は、文言上、中学生が読んでもこれは証拠隠滅防止の考えからだなというぐらいのことはわかります。それならばもうすでに現行法にあるのです。それによつて論議されてもよろしいと思います。それからこういう被告を外へ出すと暴行をやりかねない、脅迫をやりかねない、どうもまた何かやる可能性があるというようなことで、権利保釈制限しようというのは、これはもつてのほかであります。それこそ未決勾留を予防拘禁制に切りかえようとする魂胆と申されても私はしかたがないと思います。これは論外であります。そこで、暴行、脅迫の事実がもしありまするならば、刑法の暴行、脅迫の適条で処分すればよろしいのであります。それからまた暴行、脅迫のおそれがあるというのでありまするならば、今度の改正案にもありまするが、保釈取消し請求の方法もあるのであります。と申して、この保釈取消しもそうやたらにやられては困ります。なぜかというと、保釈取消しの理由にあげられます疏明は、多くは警察官の聞込みであるとか、あるいは投書である。あるいは被害者が、往々そういうことをする人、あの親分が出て来たから、自分もその事件に証人に出た、あるいは出ると、おどかされはしないか、暴行を受けはしないか、財産上の損害を受けはしないかというふうに思い過しをして、保釈取消しの請求をする動機をつくることがあり得るのであります。これは世上確かに二、三の例があります。新宿の親分、銀座の私設警察署長という人が保釈帰つて来てお礼に行つたというようなことがあります。こういうことは法治国においてはよくないことであります。そういういやがらせはよくないことであつて、そんなことは私は奨励も賛成もするものでもありませんが、そういう二、三の事例に懲りて、この制限を加えるということは、事の本末、事の重い軽いを転倒したものであると言われしもしかたがないと思うのであります。  それから最後に、起訴前の勾留期間延長、これも適用の及ぶ範囲がすこぶる広いものだということを申し上げたいのであります。長期三年以上というと相当なものじやないかと思います。相当重いものだといわれるかもしれませんが、私が刑法犯から拾つてみましたのでも、公正証書の原本不実記載、登記所に行つてちよつとうそを書いた公正証書原本不実記載、偽証罪、誣告罪、傷害罪、遺棄罪、詐欺罪、窃盗罪、背任罪、横領罪、恐喝罪、建築物損壊罪、公私文書毀棄罪、贓物罪、略取及び誘拐罪、逮捕監禁罪、文書必び有価証券並びに印章の各偽造、これほどたくさんあるのであります。ことに窃盗、横領、恐喝というような財産罪は、諸公も御承知通り、今法廷で審理されております事件の多くを占めるものであります。でありますから、非常に影響するところが広いものだということを御留意願いたいと思います。それから起訴前の勾留被疑者に及ぼします心身の労苦というものは、これは私は被疑者なつたことはないのでありますから、体験は申し上げませんが、三十三年間こんな人たちと暮しておりまして、これは非常に苦痛であります。起訴後の勾留よりも、起訴前の勾留というのが非常に苦痛であります。といつて私はそれがかわいそうだという感情論をいたすのではありません。そういう苦痛を与えることが、真実発見という裁判の大きな精神にもとるような結果を生むのではないか。ここのところをよく御留意願いたい。あまり苦しめちやかわいそうだ、そういう感情論ではないのであります。小野参考人も申されましたように、起訴前の勾留には保釈もなく、刑事補償もない、まつたく切捨てごめんであります。それから私はこの改正案を見て、こういうことを思いました。六・三制の教育制度がしかれてから、中学校の試験を受ける子供の気の張り方がゆるんでいるんです。あの学校の試験に落ちても、どうせ入れてくれる中学校が手を広げて待つてくれているんだということで、気の張り方が違う。十日間という起訴前の勾留期間が過ぎても、あと十日あるぞということで、その衝に当る人にどれほど気をゆるませるかということは、実際問題として私は飾らぬところを率直に承りたいと思うのであります。それがさらにまた七日ふえて来るというのであります。もう現在でも十日という原則は守られない方が多いのであります。九日目くらいなら、まだ前日でよろしいんですが、もうきようで切れるという日に初めて呼び出す、そして遺憾ながらまだ取調中である、参考人も届け出ていない、警察から捜査の書類もまだまわつて来ないというようなことで、十日は当然のように延期されております。それから先ほど小野参考人から、また委員の方からもお話が出ましたが、二十日間という、これは相当長いですが、この間に最初の嫌疑事件を一応調べて、ものにならなければ、第二に余罪でやる。ところが最初の嫌疑事件勾留したのですから、これは一旦帰さなければならぬ。一旦出す、出すけれども、次の、前に勾留している間に調べて用意したもので、逮捕状を出して勾留する。きたない言葉で申せば、たらいまわしということが私は絶対にないということな保証することはできない。ずいぶんあるように伺いましたが、ないということは私は保証はできません。ですから、十日を二十日にし、二十日を二十七日にいたしましても、所詮自分の影を踏もうとするようなもので、二十七日でも、それでも足らぬ、三十日でも足らぬということになることを私はおそれるのであります。いつまでたつても自分の影を踏むことはできない。  それから延長を請求する理由というものは、東京など優秀な裁判官は、たとい請求が来ても、主任検事を呼んで、延長しなければならぬ余儀ない事情をよく聞きとられる優秀な方がおられます。これは私も認めておる。宿直の晩など持ち込まれるときは、宿直室に呼んで、よく事情を聞いて、それなら仕方がない、延長しようというような――あたりまえのことでありますが、慎重にやつております。しかし、これは全国津々浦々の裁判所で、これほど厳重な喚問検査をやつておるということも疑問であります。ただ理由を書いて来れば、延長するというものがないということも、これまた私は保証できないのであります。非常に危険であります。  それから、それに関連して、これには、特に継続の必要ある場合というきわめて厳重な制限をつけております、ということを申される方があるかもしれませんが、刑事訴訟法二百八条二項の被疑者勾留期間延長も、これは「やむを得ない事由があると認めるとき」それから刑事訴訟法六十条の二項の被告人勾留期間延長の、「特に継続の必要がある場合」これは兄たりがたく弟たりがたい、似たような定冠詞であります。定冠詞と申しては失礼かもしれませんが、これが法律の運用面において、どの程度まで取調べがはなはだしく困難になると認められるかということは、それぞれの主観に関する問題でありまするから、これを全国津々浦浦の裁判官にまかせるということも、相当危険であるということを憂慮しなければならないと思うのであります。そこで、現行刑事訴訟法は、当時の情勢上比較的短時日の間に企画立案した。その当時に比べますと、捜査機関というものは隔世の進歩をいたしました。人的において人がふえ、物的において交通、通信、連絡その他科学捜査が急激に進歩をいたしました。ですから、大きな事件も少しふえて参つております、それは私よく存じておりまするが、おそらくそれくらいのことをカバーすることができるほどの設備なり、人員の陣立てというものは、私はできておると思うのであります。それを巧妙なる当局の運用の方法にわれわれが信頼すれば、二十日を二十七日にする必要はない。必要がないどころではない、してはならないという考えであります。それをもつてしても、まだまだ人員が足りないとか、設備が足りないとかいうのでありまするならば、それは大蔵省に向つて交渉なさるべきである。もつと金をよこせ、予算をよこせということで事が足りるのであります。その捜査の不便、欠陥ということを、基本的人権の犠牲において充足しようなんということは、私は困ると思うのであります。  以上をもちまして、私は参考人として、この三点にはどうしても御同意申し上げかねるということを申し上げたのであります。  それから「被告人の氏名又は住居が判らないとき。」これもひとつ申し上げておきます。申し上げないときつとお尋ねを受けると思いますから申し上げておきますが、氏名と住居と両方わからないのは、ちよつと私も困ると思います。しかし住居のわかる者は、氏名がわからなくてもいい。一号二号でも、ABCでもいい。番号でも写真をつけて起訴しておるのであります。裁判もしておるのでありますから、氏名はわからなくとも、住居さえわかれば、これを許してやらなければならない。それからたしか現行法では、明らかでない場合と書いてあつたと思うのでありますが、それは「判らないとき」という文字にかえております。これが私は何かの魂胆――魂胆と申しては失礼でありますが、思惑が伏在しておるのではないかと思う。明らかでないというのが、今度は「判らない」ということになつておる、これはほんとうにわからない話であります。
  54. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 以上をもつて稲本参考人の御意見の開陳は終了いたしました。  稲本参考人に対して何か御質疑がございましたら、この機会にお願いいたします。
  55. 梨木作次郎

    ○梨木委員 一点だけ。今度の刑事訴訟法改正の中で百九十八条でありますが、例の不利益な供述を拒否する権利、これは少し言葉をかえて来たようなことになつておりますが、これをどういうぐあいにお考えになりますか。
  56. 稲本錠之助

    稲本参考人 それもありますね。そこにも、私は前のようであると、少し被告人被疑者をおだてたり扇動するようになりやしないかというので、こういうふうにかえて来たのじやなかろうか。それならばまだしんぼうできますが、この告知の供述者に対しまする影響を薄めよう、効力を薄めようという意図ではないかと考えております。これも私は、冒頭申し上げましたように、満足しておるわけじやないのです。
  57. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 他に御質疑がなければ、午後三時より再開いたすことにして、暫時休憩いたします。     午後一時五十四分休憩      ――――◇―――――     午後三時三十六分開議
  58. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、佐藤検事総長及び斎藤参考人よりそれぞれ意見を聴取いたします。  まず佐藤検事総長より御意見の開陳を願います。佐藤検事総長には検察庁を代表し、刑事訴訟法改正法案につき、御意見をその立場から述べていただきたいと思います。特に起訴前の勾留期間についても御発言を願いたいと存じます。佐藤参考人
  59. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 刑事訴訟法が施行されましてからすでに三年有余になりますので、先般来私どもといたしましては、この刑訴の実績にかんがみて、日本の国情に沿わない点が多々あるように見受けられますので、ぜひ改正してほしいという希望法務府に提出しておつたのであります。ところがたまたま昨年の五月の初めに、司令部の方から占領中にでき上つた法令について、国情に合わない法令があつたならば、これを国情に合うように適当に改正したらどうかというような非常に賢明な勧告を受けたのであります。そこで法務府におきましては、その勧告に基いて、法務府に設置されておる法制審議会に、刑事訴訟法を早急に改正すべき点があるなら、その項目を答申しろという諮問を出されたのでありまして、私もその法制審議会の一員として、刑事訴訟法改正要綱について審議に携わつたのであります。  もともとこの刑事訴訟法は、アメリカの刑事訴訟法の焼直しである。いわゆる占領政策の一環として向うから指示された事項の、そのわくの範囲内においてでき上つた法律であるということを私どもは承知いたしておるのであります。日本を民主化するために、また国民の人権を擁護するために、どうしてもこの法律でなければならぬという大体のわくが向うから示されて、そのわくの範囲内において、日本政府において立案し、また国会の協賛を得て現在の刑事訴訟法ができ上つたのであるというふうに聞いておるのであります。いよいよ刑事訴訟法が施行されましてから、その運用の実績を見ますると、どうも日本の裁判形態に合わない規定がある。また訴訟の運び方としても、どうも日本の実情に合わない点があるということを感づいたのであります。そう申しますることは、御承知のようにアメリカの裁判は陪審裁判、しろうとの陪審員に裁判してもらうという制度になつておるのであります。そのしろうとの陪審員が裁判するのに間違いの起きないように、国民の基本的人権をどこまでも侵害しないようにという非常に慎重な考慮をめぐらして、たとえば証拠能力等につきましても、百パーセント信用のできるものだけを証拠として認め、場合によつてはあまり信用のできないというような証拠はたといその具体的事件について証拠になる価値があつても、それは証拠としてとることはできないというくらいに非常に複雑な、慎重な証拠法が規定されておるのであります。そうして当事者訴訟主義を徹底いたしまして、裁判官は原告、被告の争いを単に第三者的な立場においてどつちが負けた、勝つたということを裁判するような仕組みになつておるのでありまして、これは申し上げるまでもなくジユアリー・システムを基本とした訴訟手続なのであります。ところが日本の現在の裁判制度を見ますると、将来あるいはいつか陪審制度がまた復活するかもしれませんけれども、ここ当分の間は陪審裁判を施行されるという望みは――そういうきざしは来しておらないのでありまして、当分の間は専門の裁判官によつて裁判されるという裁判制度になつておるのであります。この裁判制度のもとにおいて、アメリカの刑事訴訟法をそのまま日本に直輸入されるというところに、いわゆる日本の国情に合わない刑事訴訟法として非難の声が聞えるようになつたのではないかというふうに私は観察いたしておるのであります。  そこで昨年以来法制審議会において刑事訴訟法改正を論議するに当りまして、冒頭に私は同じようなことを審議会において述べました。この刑事訴訟法はせつかく国情に合うように直そうというこの際だから、根本問題についての改正考えようじやないかということを提案いたしたのでありまするけれども、当時の政府当局といたしましては、次の国会に間に合うようになるべくみんなの意見の一致するような、早く意見のまとまるような問題だけをまず取上げよう。根本問題については相当これは論議もあることだろうから、今度の国会には間に合わないだろうから、いずれゆつくり研究することにしようというので、とりあえず法制審議会において意見のまとまりそうなこまかい問題だけを取上げて審議した結果でき上つたのがおそらくお手元に配付されておることと思いまするが、法制審議会の刑事部会答申として政府に答えたものであります。その法制審議会答申に基いて立案されたものが、ただいま御審議を煩わしておる刑事訴訟法の一部を改正する法律案というのであります。根本問題についてまだ改正案の中に盛られておらない枝葉末節のような問題ではありまするけれども、しかしこういう問題についても現在の刑事訴訟法から見ますれば、改正されることはわれわれ検察庁としては非常に望ましい改正案でありまして、私はこの改正法律案については全面的に賛成をいたしておるのでありまして、国会におきましてもどうぞこの法律案趣旨が一日も早く実現できるようにお願いいたしたいと思うのであります。  そこで刑事訴訟法の一部を改正する法律案の内容でありますが、逐条についてはおそらく政府の方からもすでに説明があり、また午前中の弁護士会方面意見も述べられたことと思いますから、各条についての意見はさしあたり私の方からは差控えて、皆様の方から何かあらためて御質問でもあればお答えすることにいたしまして、委員長から特に申されました起訴前の勾留の問題をまず私の意見として申し上げたいと存じます。  それは刑訴第二百八条の次に、二百八条の二として起訴前の勾留期間延長の問題が規定されておるのであります。起訴前の捜査活動につきましては、なるべく任意捜査を主として、できるだけ強制力を用いないというのが刑事訴訟法の建前であり、またわれわれ検察当局としても、その方針を守つておるのであります。従つて起訴前に被疑者の身柄を拘束するということは、これは慎重になさらなければならないことでありまして、この勾留期間についても、できるだけ短縮されるように努めておるのであります。ところが現在の捜査陣容から申しますると、検察官のうち検事の定員が九百名、副検事の定員が七百名、両方合せて千六百名くらいの定員になつておるのであります。副検事の定員はすでに満たされておりますけれども、検事の定員はいまだ実員が八百名くらいで、約百名余りの欠員を持つておるのであります。最近検察官の死亡者をなるべく充員いたしまして、その欠員を充実することに努めておるのでありますが、まだ百名余りの欠員を持つておるのであります。これはおそらく明年度の新規採用の司法修習生から検事を志望する者によつて充当することができるのではないかというふうに考えておるのであります。これまで欠員々々で現下の事態に適応するような増員計画をいたしましても、欠員があるからというので、増員計画は一つも実現することができなかつたのであります。明年定員か全部満たされまするならば、大いに増員をし、そして検察陣容を充実いたしたいと考えているのであります。現在の欠員のままの人員をもつていたしましては、最近頻発する群衆犯罪、大勢が犯罪を共同して起すというようないわゆる群衆犯罪、あるいは集団的な犯罪、これを処理するには現在の陣容をもつてしてはなかなかまかない切れないのでありまして、現に先般のメーデーの騒擾事件の処理に当りましても、最初のうちは東京地方検察庁の検察官の全能力をもつてこれに当つてつたのでありますけれども、そう長い間その事件だけに当ることもできませんので、数日ならずして、専任の検祭官は三十名というので、東京地検の検事が三十名当り、その足りない部分を大阪、名古屋管内から応援検事を求めて、そして現に処理しておるような状態であります。少い人員を機動的に動かして事件を処理しておるような始末であります。それからなお物的施設を整備しまして、できるだけ科学的捜査をしなければならぬという方針をとつておるのでありますが、これも限られた予算の範囲では十分なわけには行かないのであります。  かように、人的、物的方面から見まして、現在の陣容、現在の物的施設、現在のわれわれの能力というものから見まして、最近頻発する集団的な犯罪、またおそらく将来もかような不祥事件がたびたび各地に頻発するのではないかというふうな見通しをいたしておるのでありますが、こういう現状に対処するためには、現在の三百八条の起訴前の勾留期間延長して二十日まで勾留することができるのでありますが、二十日ではとうていまかない切れないような事件がまれに発生するのであります。まれでありますが、そういう多衆犯罪が発生する。あるいは被疑者は多数ではないけれども、関係人が非常に多数である。たとえば広範囲にわたつて詐欺事件が行われた、あるいは偽造事件が各地に起きたというような場合には、犯人はわずかであつても、被害者なり関係人が多数である。証拠品が非常に多い。これらを調べるのに相当な日数を要する。ことに御承知のように、黙秘権の行使あるいは濫用によつて氏名、住所も名乗らないという者が相当こういう多衆犯罪の中には多いのでありまして、先般のメーデーの騒擾事件でも、いまだに名前を言わない者さえあるのであります。そういう被疑者の多い事件を調べるにはとうてい二十日では起訴、不起訴を決定することができないという実情にあるのであります。さような場合に、裁判所の認定によりまして、それぞれいろいろな事件に濫用することのないように、ここに二百八条の二つとして掲げてありますように、事件の種類を限定し、また共犯その他関係人、証拠物が多数であるために検察官が二十日間の期間ではとうてい調べ終ることができないと認めたとき、そしてその被疑者釈放した後でははなはだしくあとのの取調べが困難となるというような数々の条件を列挙いたしまして、こういう条件のもとにおいて、裁判所がさらに勾留延長することが必要であると認めた場合に限つて、最長七日を最大限として勾留期間延長することができるようにしようというのが二百八条の二でありまして、ただいま申し上げました集団暴力犯罪であるとか、あるいは特殊の大規模の詐欺事件あるいは偽造事犯等、そういう著しい例ではありますが、そういう場合には裁判所の認定によつて必要な期間だけ勾留期間をぜひ延長してもらいたいというのがわれわれの念願であつたのでありまして、法制審議会においては、しかし必要なだけ延長するといつても、それは限りがありまして、先ほど冒頭に申し上げましたように、われわれはできるだけ人身の拘束を短かくして、そして任意捜査によつて真実を発見し、証拠を収集して公共の福祉の維持に当りたいという考えを持つておりますので、その延長期間も、まず十日の範囲延長できるようにしてもらいたいというのが検察庁希望であつたのであります。私どもも皆様の了解が得られるように、法制審議会で十日以内の延長期間ということを強く主張いたしたのでありますが、十日の延長ということについては、全員の賛成というわけには行かなかつたので、一部の賛成があり、また一部では延長は絶対に認むべからずという論者もあり、また中には五日くらいどうだろうというような論もありまして、結局五日の説と検察庁側の十日の説とが対立してなかなか進行しなかつたのであります。そうすると、裁判所側の一部の人及び学者の一部の人から、いつまでも五日説と十日説と闘わせておつたりでは議事が進行しない、ひとつ七日という折衷案でどうだろうという案が出たのであります。私どもはなるべく政府の考えておられるように、今度の国会に間に合せたいという気持を持つているのでありますから、できるだけ譲歩して、そしてまとまるものなら早くまとめて答申したいという希望を持つてつたのであります。場合によつては、あるいは十日を固執してもできないとなれば七日でもやむを得ないじやないかということを内心考えておつたのでありますが、その議事の途中において刑事法部会の議長の御都合によりまして、七日の案が採決にも至らない、審議にも至らないで、続行々々となつて、一箇月半ばかり期間を徒過いたしたのであります。そのうち国会に提案する期間も迫りましたので、政府の方でも何とか早く議事を進行してもらいたいということでありましたし、また部会長さんの方からも、総会において発言することはさしつかえないが、部会において発言することだけは控えてもらいたい。そうして部会を終結して、総会においてひとつとりまとめようではないかというような提案がありましたので、私どもといたしましては、それでは総会において自分たちの主張を述べ、また意見のあるところを皆様に了解を得ていただくということを条件として、最後部会に出席して、そうして約束通り何ら発言をしないで、部会は小委員会の決定通りというふうに部会は通つて総会にかけられたのであります。その総会にかけられた案は、多数は五日説、小数に十日説と、それから全部認めないという意見もあるというのが、最後総会にかけられた部会答申案であります。そうして総会においてあらためて勾留期間延長を認むべきかどうかということが議題になりまして、私どもはまた振出しにもどつて、十日の必要なゆえんを述べて、賛成を求めたのであります。ところが総会におきましては、その当時出席されていた者が案外少かつたのでありまするけれども、検察庁側の代表、また学者の方は大てい帰られたのでありますが、裁判所側の代表の方、弁護士会の代表の方も見えられまして決をとつた結果、五日ということで最後意見答申案としてまとまつたのであります。かような経過でありまして、答申案としては五日の延長であつたけれども、小委員会及び刑事部会、及び総会等の審議経過から見て、おそらく法務府においては、延長するものならば五日では無理であるというので、十日とするわけにも行かないので、その中間をとつて七日という案をここに法律案として作成されたのではないかというふうに思われるのであります。私どもとしては今申し上げたように、十日ならば非常に満足ではありまするけれども、しかし七日でも延長していただければまことに仕合せと考えておるのであります。
  60. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 佐藤検事総長の供述はこれをもつて一応終了いたします。  次に斎藤参考人の御意見を承りたいと思います。もつぱら裁判官の立場から本改正法案について御意見を開陳していただきたいと思います。特に有罪陳述に基く簡易公判手続についての御意見を承りたいと思います。斎藤参考人
  61. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 この改正の点はいろいろたくさんあるようでございますが、おもなる点は、理由書によりますと、三点のように伺つておるわけであります。  まず第一点の勾留に関する件でございまするが、これは御承知のようにいろいろむずかしい問題がありまして、勾留期間を延ばすということは非常に問題じやないかということは明らかなことでありまするが、私は以前から多少刑事訴訟法改正なんかに関係しておつたので、ごく抽象的に申し上げたいのは、新刑事訴訟法というものができまして、予審というものは全然なくなつてしまつた。従来はいわゆる重大事件あるいは非常に複雑した事件というものは、ことごとくこの予審判事がほとんど事件が起ると同時に関与しまして、予審が実際上捜査のお手伝いみたいなことをやつてつた。この点は非常に検事の方が楽だつたわけなんです。ところがこういうものが新刑事訴訟法で全然なくなつてしまつた。それからこの予審をなくするという案は、きよう午前中に見えた小野教授とそれから私たちが発案をして、これは昭和十四、五年ごろだつたと思うのですが、予審をなくしたらどうか、しかしなくするといつても、これは無条件でなくしては困るのだから、これをいわゆる準備手続でもつてまかなおうじやないか、こういうことで予審を廃止するかわりに準備手続をやる、これで間に合せれば、予審の長いのがなくなつて来る、大体こういう案だつたのですが、この新刑事訴訟法によりますと、第一回の公判期日前の準備手続というものもできないことになつてしまつておる。それから御承知のように――私はこれは違法だつたと思うのですが、昔は例の警察犯処罰令でもつてずいぶんまかなつてつた。ところが刑事訴訟法ではこういうものもなくなつてしまつた。つまり予審というものがなくなり、それから準備手続というものも、これは第一回の公判期日前は行えなくなつた。それからいわゆる警察犯処罰令というものもなくなつてしまつた。これが新刑事訴訟法ができる前とあととのたいへんな相違なんですから、この予審、あるいは準備手続、あるいは警察犯処罰令に基く実際のものを刑事訴訟法捜査の方で何とかまかなつてやらないと、これはぐあいが悪いのではないかと私は思うのです。それをまかなうのには警察官をうんとふやし、検事を少くとも三倍くらいにふやせばできるだろうと思うのです。ところがそういうことも国家財政上非常に困難じやないかというところからいうと、ただいま検事総長の述べられた勾留期間を、昔の予審事件相当するような事件あるいは非常に複雑な事件に限つては多少延ばしてやらないとまかなえぬじやないか、私はこういう漠然たる考えを持つております。それをどれくらい延ばしたらいいかというようなことは適当にしかるべく御判断を願いたいと思いますが、ある程度延ばさなければ、予審、準備手続、あるいは警察犯処罰令の廃止などに伴うことのまかないがつかないじやないか、かように考えております。なおこの勾留に関する点につきましては、この案を見ますと、いわゆる権利保釈の中に、これは被告人が逃亡したり、逃亡のおそれある場合でも権利保釈を許すということになつているようでありますが、これは何か間違いじやないか。これは当然、この刑事訴訟法の六十条にも、被告人勾留するときには、逃亡をしあるいは逃亡のおそれあるということを疑うべき相当な理由がある場合には、これは勾留できるということは――たしか六十条の第三号に規定してあるのです。ところがこの規定権利保釈のところに――こういう場合には権利保釈を許さないということは、私おかしいのじやないかと思うのです。これは権利保釈の中に、たしかこういう条件は入つていないと思うのです。あるいはこれは私の見落しかもしれませんが、これはぜひ入れてもらわぬとぐあいが悪いと思う。このごろは実際問題としまして、保釈を許して、そうして判決の言い渡しを受けてから逃げるような、そういうようにきまつておるような被告がずいぶんおるようですが、こういうものを権利保釈を許すということはおかしいのじやないか。だから、この八十九条でしたか、この中にこれを入れるのを、おそらくはこれは私は落したのではないかと実は思うのです。これは私改正案の、ミスプリントかと思つてつたのですが、これはぜひともひとつ入れてもらいたいものだと思うのです。勾留に関する点は大体これくらいにしていただきたいと思うのです。  次の点は、簡易公判手続を創設して審理の促進をはかるということについては、私はたいへんけつこうだと思います。けつこうだと思いますが、これでは少し物足りないので、つまり被告人有罪というふうに訴因について認めた場合には、決定でもつて簡易公判手続に移す。そうして移した結果どういうことをやるかというと、まあ証拠取調べ――証拠なんかについてはしかるべくやる。そうしてこの簡易手続というのは、ただ証拠なんかのところはしかるべくやるというだけの話で、あと何も大して簡易でないのですね。いまの部分だけでもたいへんけつこうだと思いますけれども、話によりますと、実際上こんなことは訴訟法の上では、規定はありますけれども、実際の公判では、もう弁護人でもだれでもみんな異議なし異議なしで、自白した事件なんかは実際上この簡易手続をやつておるらしいのです。だからこの程度のことは、規定なさることはけつこうだと思いますけれども、何とか実際やつておるのですから、わざわざこれを規定するのも多少むだなような感じがするわけですから、この規定はけつこうだと思いますが、なおこのほか、私などは判決なんかの書き方などでも、自白した、争いのないようなものは、特に証拠なんかあげなくてもいい、この事件被告人の争いのないところだというくらいで、判決を簡単に書ける。証拠調べなんかは補強証拠や何かはむろん調べるのですから、ただ判決の書き方として、この事件の事実の認定については被告人も争わないところであるというくらいのことができませんと、裁判所としてはあまり簡易なことにならぬだろうと私は思うのです。ですからこの規定は、設けられることはたいへんけつこうですけれども、これでは少し足りませんから、相なるべくならばもう一歩進めていただきまして、判決なんかごく簡単でいいように修正してせつかくこれを設けられるならば、この議会におかれまして、もう一歩進歩したものを入れていただきたい。そうすればこの裁判官の方が非常に簡単になるので、これくらいのことはひとつつていただきたいと思うのです。それでないと、この規定はこしらえなくても、今実際上みなやつておるらしいのです。だからこれはただ実際の慣行を訴訟法上明らかにするというので、たいへんけつこうだとは思いますけれども、これでは少し足りないのじやないか、かように考えるわけであります。  それから控訴審における事実の取調べ範囲の拡張、これも私はけつこうだと思います。思いますが、これも皆さん御承知であろうと思うのですが、実はこれも裁判所はとつくの昔にやつておるので、ある部なんかによつては、もう職権でじやんじやん調べておるわけなんです。ですからこれもけつこうだと思いますけれども、何かこういうことをことごとしく書きますと、これだけやればいいので、あまり職権でもつて調べなくてもいいのだというようなふうに誤解されるおそれがありますから、まあ御規定になるのもいいのですけれども、あまりこれも実益がないのじやないか。そして近ごろは控訴審で非常に一審判決を破るのですよ。この詳しい数字は存じませんが、何でもたしか三五%くらいは破つておるのじやないかと思うのです。そのほかに事実の取調べなんて職権でやつておるのを合せれば、五〇%くらいはやつておるのじやないかと私は思うのです。まあこれは私は大体そういうふうに承つておるのですから、これも賛成ですけれども、あまりこまか過ぎるように私は思うのです。実際はこれ以上にやつておるわけなんです。  非常に雑駁でございますけれども、この三点についての私の意見は大体そんなところなんです。何か御質問でもありましたら、またその点についてお答えしてもいいと思います。
  62. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 以上で斎藤参考人の御意見の開陳を終了いたしました。よつてただいま意見を開陳された以上の二君に対し、質疑の通告がありますので、順次これを許します。田嶋好文君。
  63. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 私たちは、この刑事訴訟法改正については、従来から非常に関心を持つて、できることなら政府の方にも伝えたいという気持が、共産党の方の気持は知りませんが、私たち自由党の気持であつたのです。ところがこまかいことは別にいたしまして、検察庁を代表いたしました佐藤さんの御意見、裁判所を代表いたしました斎藤さんの御意見を承つておりますと、何だかお二人ともまことに人権の立場から言うと危険の気持があるような感じがいたしました。と申しますのは、検察庁の方では被告人の検挙捜査に当つて、なるたけ検察庁の権限を強化して行くというような御意見、一方裁判所の方は、なるたけ検挙された被告人審理に当つてはこれを簡易にして行く。一方を強化して一方を簡易にして、一体被告へはどこに救われるところがあるかというような見方の立場に立つて、人権擁護の立場から考えると、私らはお二人の御意見は非常に我田引水的な意見であると考えるのであります。(「田嶋君にしては珍らしい正論だ」と呼ぶ者あり、笑声)この観点は非常に重大だと思うのですが、率直に私はそういうふうに感じたのです。この感じに対しまして、こまかいことは別にして、まず感じから言うのでありますが、一体斎藤さんはどうお考えになりますか。それから佐藤さんはどういうようにお考えになりますか、お二人の意見をお聞かせ願いたい。
  64. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 この感じというんですが、私はどこをさして言うのか知りませんが、この簡易手続なんかは、これは被告人が全然事件について争わないのです。その争わない事件について、その争わないのを簡単にするということがこれは決して被告の人権に関係ないと思うのです。被告が争わないものを、これは争わないんだということをいうて根掘り葉掘り調べるのですが、私はそういう必要はないと思うのです。それから高裁の方においては職権で何でもやれるようになつて実際今やつておるのですよ。だからそれをことごとしく何も規定する必要なんかないという話であります。  それから捜査の点の強化ですが、これは先ほど言つたように昔は予審というものがあり、準備手続というものがあり、そういうふうなものでまかなつてつたのですね。それをまかなつてつたのをやめたならば、それを代償としてやるだけの何かそういうようなものを置くのがあたりまえなんで、それでないと検事をうんとふやすか、あるいは警察官をうんとふやすか、短期間に物事を処理することができないというだけで、これは田嶋君少し誤解をしておるのじやないんですか。私は実はこういうことを言いたいのは、被告の争わない事件について、これは今のやり方について私はむしろ非常に残念だと思つておることは、被告から言わせると、自分の経歴とか原因、動機とかいうようなことを劈頭からもう少し言わしてもらいたい。ところが今の何ではただ起訴状を読んでそうしてこれに対してはこのことが違うのか違わないのかというくらいのことを聞いて、違わないなら違わないということを言うと、もうそれでいいというようなことで、原因や動機や、いろいろなことをあまり聞かないというのですよ。これはむしろ新刑事訴訟法では何らそういうことを聞かないのが建前だ、そうして言いたければあとで言えなんというようなことで、それであとから言うともう済んでしまつたというようなことで、むしろもう少しそういうところを私は言わしてもらいたいと思うのです。そんなことを劈頭第一に原因や動機やなんかを詳しく聞いても、決して余談なので聞きたくない、言えるもんじやないと思う。ところがそれが劈頭に聞いたら違法だというような考え方を持つている。そういうようなことは被告からいうと非常な不満な人が多いんですよ。ですから新刑事訴訟法なんかあまり学問的に理論的にスポーツの何かやり方のような妙なことをやらないで、もつと人情に富んだように、被告が言いたいものは、最初であろうが何であろうが詳しくもつと自然に聞いてやる方がいいと思つているのですよ。そういうところは今の訴訟法になつて非常に悪いと思う。だからそんなことはむしろ私は十分被告人に言いたいことを劈頭から言わせるというふうに訴訟のやり方を改めていただきたいと思うくらいだ。争いのないようなことをいかにも争つているかのごとくに、否認している事件と同じように証拠を出したりそんなものを調べてごてごてやつても、そういうことは私はむだだと思う。これは被告にむしろ言いたいことをもつと言わせて、そういう点について何も私は今のやり方があまり何か学問的の紙の上のようなりくつばかりこねまわしておるような、実際の生きた裁判にならないような訴訟法の仕方というようなことは、私はむしろ遺憾だと思う。だけれども争いのないようなものは判決などそんなものは簡単でいいと思う。
  65. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 次は佐藤検事総長より御答弁を願います。
  66. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 先ほど勾留期間延長について、現在の実情から見て、特殊な事件についてはどうしても延長してもらわなければ困るということを申し上げたのでありまするが、その際の説明が足らなかつたためにただいま田嶋委員が検察官は人身を拘束することをあまり大したことでないように思つているのではないかというような御疑念を抱かれたのでありますが、それに対しまして釈明いたしたいと思うのであります。ただいま斎藤裁判官からも申されましたように、事件によつてはどうしても現在の起訴前の勾留期間ではまかない切れない事件がこれは確かにあるので、私は机の上で反対されている一部の方たちでも、実際の場合にこの勾留期間でまかなえない場合があるという事実は認めておられるだろうと思うのであります。そうするならば、どうしても現在の勾留期間でまかない切れない、その勾留期間中調べただけではまだ起訴、不起訴を決定するには至らない。しかしこの被疑者をこのまま調べを半端にして釈放するということもできない。釈放すれば必ず逃走するかもしれぬ、あるいは証拠を隠滅するかもしれぬ。こういう疑いのかけられる被疑者であつて、そうしてもう少し調べれば起訴、不起訴を決定することができるというようなものを中途半端にして、もしもこれを釈放したならばどうなりましよう。犯罪捜査というものに非常に困難を来して、また第一線の警察官にしてみれば、おそらく意欲が失われるでありましよう。せつかく嫌疑ある者を調べて、そうして検察庁に送つたところが、検察庁では調べを半端にして勾留期間が満期だからといつてそのまま釈放してしまつたら、それは逃げてしまう、あるいは証拠を隠滅してしまうという明らかな例があるのであります。そういうものをもし中途半端にして釈放しましたならば、これは検察権の運用上重大なことでありまして、私は公共の福祉を維持するという上からもそういう場合はやはり釈放しないでもう少し調べる方が刑事訴訟法の目的にかなうのではないかというふうに思うのであります。またもしそういうふうに調べが不十分であるならば、勾留期間がもう満期だ、しかしこれを放すわけに行かない、不十分である、それじや起訴しよう、釈放もできないので起訴しようというようなことで、もし万一起訴されるようなことがあつたとすれば、これこそ人権侵害の重大な問題になるのでありまして、私は刑事訴訟法が公共の福祉を維持しながら、そうして国民の基本的人権を尊重しようというその目的から、両方から見ても、ある特殊な事件についてその被疑者釈放すれば逃亡のおそれがある、証拠隠滅のおそれがある。これは調べはまだ十分にできない。もう少し勾留しておけば起訴、不起訴の決定が間に合うというような場合には、私は勾留期間を延ばすのが人権保障の道である。また公共の福祉を維持するゆえんではないかという考えを持つているのであります。決して検察官の方で捜査に人身拘束というようなことを軽々しく取扱つてはおらないのでありまして、その点は私どもの運用について十分御信頼をいただきたいと思うのであります。  もう一つついでに申し上げまするが、この勾留期間延長反対される方は、実際問題について勾留期間の足りないことは十分わかる、しかしもしも法律において十日間なりあるいは一週間なり延ばすという規定を設けると、法律においていかに厳重な制限を加えておつても、これを濫用するおそれがあるということをよく言われるのであります。ところが検察庁においてこの勾留期間の適用について決して濫用してないという証拠として、私は法制審議会においても、裁判所の方からもらつた統計表によつて説明いたしたのでありますが、最初の十日間の勾留期間で間に合つて釈放した者が、拘束しておる全勾留人員の中の八〇%、八〇%は最初の十日間の勾留期間で全部釈放してしまう。あとの二〇%について、五日以内の勾留あるいは裁判所の認定によつて十日以内の勾留延長されておるのであります。で五日以内の延長をされた者が八%、あとの一二%が最一局の十日間の延長となつておるのであります。かように全勾留者のうちで八〇%は最初の十日以内で釈放される、残りの八%が五日間の勾留で間に合つておる。一二%が十日間の延長をしておるのであります。その一二%の十日間の延長のうちで、この二百八条の二に規定されておるような特殊な種類の事件で、そうして特別な事情のある、こういう条件にかなう者だけが、さらに適当な期間延長しようというのでありますから、二百八条の二の適用を受ける事件はごくわずかであるのでありまして、かような実績から見ましても勾留期間延長ということが、将来といえども濫用されるおそれはないものと考えるのでありますが、しかしながら私ども検察の任に当る者といたしましては、冒頭に申し上げましたように、なるべく勾留期間を短かくしたいという念願を持つておりますので、この勾留期間延長の取扱いについては、さらに内部的に慎重に取扱うように何か内規でも設けてみたいと考えておるのであります。
  67. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 私はもう一言で終えますが、今の斎藤さんの説明はあまり納得しませんが、検事総長の説明で多少明らかになりました。実は当委員会は、お見かけ通り、一人、二人の例外はありますがほとんど全部弁護士であります。そうしてまた直接事件に携わつた人たちが多いのであります。従つてこの人たちが目撃していること、常に体験しておること、それは検察庁に抗議を申し上げること、警察に申し上げることが枚挙にいとまがないという当委員会のすべてのメンバーの体験しておる事実、その事実をもとにしてわれわれは法案審議しなければならぬという立場に立つてこの問題を考えております。私たちは与党の議員でありまして、常に政府と協同的な行動をとらなければならぬ、こういうような立場から皆さん方の意見を大いに聞いておるわけでありますから、それをひとつ了承願いたいわけであります。その意見を聞いておるときに、了承できないと申しますのは、遺憾ながら午前中に弁護士の代表、それから法制審議会の小委員長をしておりました小野清一郎さんの御意見を承つたのでございますが、この皆さんが、当委員会を納得せしめるような反対立場に立つ御意見を吐かれた。むしろ今のお二人の意見に対しては、委員諸君は、常に実際の事件を体験しておる委員でございますから、まだ納得が行かない。そこで私たちは、この法案審議にあたつてはもう少しく慎重審議しなければならぬ立場に立つことを御了解願いたいと思ます。そうしてここで私たち意見を申し上げ、また御意見を承りますことは意見の闘いになりますから、これは目的ではございませんから省きますが、どうかそうした立場を御了承の上、せつかく責任の立場に立つておる裁判所、検察庁が一段と御努力を願つて、この法案の通過をはかつていただきたいと思います。
  68. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 鍛冶良作君。
  69. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員長 初に佐藤検事総長にお伺いしたいと思います。今田嶋君の質問に対してお答えになつたので少しく明らかになりましたが、先ほどあなたの勾留期間延長を要するという理由をあげられたところを見ると、検察庁員が思うように得られない、大きな犯罪があるためにそのまかないができない、科学的捜査と思うけれども金がないためにその実現も困難である、だから延ばさなきやならぬ、と言われ、今は罪種によつてどうしてもまかなえないものがあると言われるが、これはまた別ですが、そうじやなくて、かようなことを言われると、どうも国家がなすべきことをなさないで、あるいはなし得ないのかもしれませんが、とにかくなすべきことをなさない、あるいはなし得ないがために、国民の基本的人権を侵害することもやむを得ないんだ、こういう御議論のように聞えましたが、この点はどうお考えになりますか。
  70. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 もし鍛冶委員のおつしやるように聞えたといたしますれば、私の説明が不十分なために誤解を生じたことと思うのでありまして、はなはだ恐縮に存ずるのであります。現在の検察の陣容なり物的施設が人身を拘束しないで、すなわちすべて任意捜査によつて捜査の目的が達せられるほど完備しておらないということを御説明申し上げたつもりであつたのでありまするが、言おうとすることがいろいろごつちやになつたので舌足らずに終つたことと思うのでありまするが、先ほど申し上げましたのは、現在の陣容、現在の物的施設、設備、現在のわれわれの能力をもつてしては、人身を絶対に拘束しないで捜査の目的を達することはとうてい不可能な状態にある。ことに改正案の二百八条の二に規定されておるような特殊な種類の事件、そうして特殊な状況の七とにある場合においては、これはどうしても現在の勾留期間延長しなければ刑事訴訟法の目的を達することができないんだ、こういうことを私は申し上げたのであります。
  71. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 国家でやらなければならぬことをやらぬということ、これはわれわれにも責任はありますが、あなた方の方でも、やらなければならぬことをやらないで、そのために人身を拘束してもやむを得ないという議論は成り立たぬと思います。  それから犯罪の種類によつてはとうていまかなえぬものがあるので、そういうふうな犯罪の種類に限定したとおつしやいましたが、二百八条の二の法案を呼んでみますと、「犯罪の証明に欠くことのできない共犯その他の関係人又は証拠物が多数であるため」となつております。これは「共犯その他の関係人」「多数」というのですから二人以上必要なことはこれでわかるけれども二人あれば多数になるのか。この数はきまつておりませんから三人あれば多数と言われるのか、それとも騒擾罪もしくは内乱罪のごときものをさして言われる御意向なら別ですが、これではどうもこの数はきまらないように思いますがどうですか。
  72. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 御承知のように刑法その他の警察法規の中に、数人あるいは多数あるいは多衆というような言葉をいろいろ用いているのでありますが、ここで多数というのは共犯者の人数あるいは被害者その他の関係人の人数あるいは証拠物、すべてにかかるのでありまして、証拠物が二つ三つとかあるいは共犯その他の関係人が二、三人である、そういうようなものはここで言う多数ではありませんので、おそらくこの立案者は、人数で申しますならば、多衆とは具体的に申しますならば十人以上くらいのものをねらつているのではないかというふうに私は解釈いたしております。
  73. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 どうもあなたがそう御解釈になつても、これは条文にして現われましてそう解釈できなかつたら困る。  それから今あなたのおつしやつた言葉で、同じく八十九条には多衆と書いてある。同一の意味ならここに来ても多衆と書かれればいいが、ただ多数と書いてある。違つております。今おつしやつた多衆ではございません。これはなお審議の際に詳細に聞きたい。どういうわけで区別されたか。どんな区別があるか。そういう疑いが出ます。
  74. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 八十九条の四号で「被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき。」というこの多衆は刑法騒擾罪等に規定してある多衆というのをそのまま持つて来たのではないかと私は想像いたしているのでありますが、この四号の多衆というのはいわゆる多数というものよりもさらに多いことを表現しているものというふうに考えております。従つてたとえば人数で申しますならば、十人以上のものを多衆と言うようなことは言い得ないので、これは数十人ということにならなければ多衆にはならないのじやないかと思います。
  75. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 とにかくそういうふうで、どの程度であるかということがどうもわからぬことがはなはだ困ると思います。  その次に、条件も非常にしぼつてあるとおつしやいますが、ここには「その取調が被疑者釈放後では甚しく困難になると認められる場合に限り、」とあるこのことだろうと思いますが、文字の上では何ですが、そこで聞きたいのは、先ほどあなたに伺つた統計を聞かされても私はほんとうは驚いたというか非常に喜んだのですが、十日で厳格に釈放したものは八〇%、これは日本全体ですか。東京都だけではないのですか。
  76. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 日本全体であります。これは実は司令部でも成績がいいので驚かれたのです。
  77. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私はあまり近ごろは事件をやりませんのであまり大きいことは言えないのですが、私が携つている事件なんかでは、十日でやれればやるが十日でできなければ二十日はやるのがあたりまえだ、もうそんなことはやむを得ない、そういうふうに見ているのですが、これは検察官はやむを得ず十日をやつた、そういうことでまた裁判所もやむを得ざるものということを知られて実際にやつておりますか。
  78. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 ただいま私の申し上げました統計は全国の統計を平均して申し上げたのでありまして、十日以内で勾留釈放されるものが全勾留者の中の約八〇%、それからさらに五日以内の延長を認あられたものが八%、それから十日以内の延長を認められたものが一二%、大体その数字になつておりまして、これはおそらく法務府の事務当局からも御必要とあれば統計でこれを差出されることと思うのであります。この改正案が問題になりまして総司令部に説明に参りましたところが、この表を見て総司令部でも非常に驚かれたのであります。弁護士会側からの前もつて反対理由を聞くとそうではない、ちようど今鍛冶さんの申されたような全部十日を延ばせば二十日というように聞いているがというようなことで、統計表を見られて非常に成績のいいことを驚かれたほどでありまして、これは全国の検察庁において裁判所に勾留延長を認めるのに非常に慎重にやつているという一つの証左になるだろうと私は思うのであります。ただ、ただいま見えている東京の地方検察庁の方から伺いますと、東京における勾留期間は今申し上げた統計よりも少し高いかもしれぬということを言つております。あるいは鍛冶さんのおつしやるのは東京の例かもしれません。
  79. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 斎藤さんにひとつお願いしますが、私はどうも斎藤さんの先ほどの説明では実際意想外だつたんですが、ちよつとあなたおつしやつたが、われわれはあの警察犯処罰令の捜査によるということは、これほどどうも不都合なものはない。他の犯罪捜査をするためにありもしない警察犯がある、こういうことでやるとは、これはとても容赦のならぬものと思つて、われわれは何十年間これを主張して来ましたが思うにまかせなんで、ようやくこの新刑事訴訟法で多年の主張が通つた思つて感謝している。ところが今斎藤さんは、あれは不都合かもしれぬが、あれと同じようになければならぬ、こういう御意見ですが、これはどうもわれわれは合点が行かない。そこでわれわれは承りたいのでありますが、警察犯処罰令は三十日だつた。三十日を必要だという御意見でしようか。
  80. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 それはただ私は従来の経過を言つただけですよ。私どもはあんなものはよくないと思つております。ただ私はこういうことを言つているんです。昔はそれでまかなつてつたんだ、ところがそういうものはみななくなつてしまつたんだから、やはりそういうものに補いのつくくらい多少検察の捜査の方は長くする必要はあるのじやないか、これだけのことをただ言つているだけであります。いいとか悪いとか、それから予審を復活しろとか、そういうことを言つているのではない。つまり昔はそういうように第一回の公判期日前にも準備手続もやつて、それから予審でも御承知のようにやる。これはほとんど実際上の捜査なのですから、私はいいなんて決して――私も悪いと思つていますけれども、ああいうものでまかなつてつた。それでは昔よりも検察官や警察官をたくさんに増したかというと、今のところそうふえてないと私は思つております。だからどうしても陣容なんかをうんとふやさない以上は、おそらくは勾留なんかを多少延ばさないと無理じやないかということを私は申し上げておるので、その方が合法だとかなんとか言つているのじやないのです。多少延ばすことは必要じやないかということで、昔通りにしろなんという考えは絶対にございません。
  81. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 現行法では十日、それからまた十日となつているのですが、それで短かいとあれば幾らあつたらよろしいのですか。
  82. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 私はごく抽象的に申し上げたので、そういう方を多少延ばすことはやむを得ないのじやないかというだけの話です。どのくらい延ばしたらいいかは皆さんが御研究になつてやられてしかるべきものだ、私はただこういう意見を述べているだけなのです。
  83. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 その次は有罪を自白した裁判の簡易手続ですが、これはいまさら出た問題じやなくて、何十年前もこういうことを計画せられて、二度も三度もあつたが、そのたびごとに弁護士大会を開いて反対したことを覚えているのですが、先ほど斎藤さんが言われたように、あえて争わないのならば、法の許す限り証拠調べでもそれから指摘でもやつてよかろう、これは私は法の範囲でいいと思うのですが、それが進んで判決に記入せぬでもいいことになるとたいへんな問題じやないかと思うのです。
  84. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 その点は現に控訴審の簡易化に関するというのでやつておりましよう。つまり旧刑訴事件被告人が全然事件について争わないときには、争わないことを判決に書きさえすればいいというふうに簡易化になつておると私は承知しておるのです。御承知通り判事の方でいろいろな証拠をたくさん書くようなことは負担になりますから、それを判決に簡単に書いたからといつて何も弊害はないと思います。その辺まで一歩進めていただいた方がいいのじやないか、現に立法がそうなつておるはずです。あれを簡単にされることを判事全部が希望しているのではないかと思います。
  85. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私の申し上げたことがちよつとおわかりにならないようですが、あなたの先ほどの御意見を聞いていると、自白して争わぬ以上は、証拠調べを簡単にするだけではなくて、判決証拠の指摘もいらないのじやないか、こういう御意見つたのですね。そういたしますと、自白のある以上は証拠なしでも裁判ができるのだ、こういうふうに聞える。記入しなければ証拠があつたかないかわからぬのですから……。
  86. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 私は現に旧刑訴に関する控訴審のあれにそういう規則ができておりますから、それは今みんなやつております。だからああいうようなふうにしますと裁判所の方としては非常に手数が省けてよろしい。そうして私はそれで何も弊害のないことだと思います。争いのないことなんです。そして証拠調べもやるのですから、それを何も判決にことごとしく書かなくても、この事件は争いのない事件だということさえ書いておけばそれでいいじやないかというふうに考えております。
  87. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 あまりこまかいことを言うておつてもしようがないですが、それじやもう一つ聞きますが、そういうことになりますと自白の強要が多くなるという憂いはございませんか。
  88. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 この簡易手続は、御承知通り公判で弁護人がちやんとついておつて、そこでこの事件は争いはないということを言うのです。裁判所がいきなり聞くわけでない。従来通り起訴状一本主義で来まして、これを被告は争わないというのですから、そういう事件については原案は簡易公判手続をやろうという立場なんですから、この判決の書き方をもう少し簡単にできるように発展してくだされば判事として都合がいい。何も自白の強要にならぬと思います。
  89. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 簡易にするのはいいけれども、証拠を指摘せぬでもいいということになると、なくてもいいということに聞えます。もう一つ、あなたは自白を強要せぬとおつしやいますが、われわれの経験上一番恐しいのは、保釈をやることです。お前、正直にさえ言うたら保釈してやる。それで出て来たいからいいからかんのことを言う。そのときに、万一これから先に行つてこの供述を翻したら保釈をいつでも取消すのだ、これは始終やられている。こういうものがあつて、そこで書いてある通りでございます、その通りでございますと言うたときに、調べをしないでもいいということになりますと、たいへんなことが起らぬかと思います。この点はそういうことはないとお考えですか。
  90. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 予審とか、検事と一人相対で、弁護人のだれもいないようなときにはおつしやつたようなことはあるかもしれませんが、公判でそういうことを――私も実際のところは自分で見たわけじやありませんからわかりませんが、公判でそんなことを言いますかね。簡易手続というのは公判簡易手続ですよ。この案はちやんとおわかりになつているのでしよう。このことは私はほとんどそういう心配はないと思います。
  91. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 私の言うのは警察ですよ。おもに起るのは警察です。
  92. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 そんなものは簡易公判と全然関係ありません。これは、案によれば公判起訴状を読んで、弁護士がおる、そのところで有罪答弁をした場合の規定なのです。
  93. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 その点は見方の相違だから……。
  94. 鍛冶良作

    ○鍛冶委員 論争はやめますが、私の言うのはこういうのです。警察で調べられ、検事局で調べられて、それから公判に行くのです。これは間違いない。そこで、この通り警察検察庁で言うたと裁判所へ行つて言うか、もし翻したらいつでも保釈を取消す。これが実際の例です。それが恐しいから裁判所でも、前に言つた通りですと言う。そういう実例をわれわれは知つておる。あなた方の方でわかつておらぬというならばしようがない。公判ではそういうことはないでしようが、前にそういうことを言うておどかしておる。
  95. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 そういうことでありますれば、公判では弁護人の意見も聞くのだし、異議をとなえられることは一向さしつかえないことになつております。だから、これは弁護人の方もだれも異議がない場合を私は考えておるのです。そういうふうなときにはもちろん異議を申し立てて、こういう手続に付さないようにしてもらいたい、普通公判手続でやつていただきたいということで、むろんこれはそういうつもりだろうと私は思うのです。何でもかんでもいきなりやるという手続にはなつていないと思うのです。御承知のように、弁護人も被告も検事も争わないような事件、その場合の手続なのですから、お話のような例のときには、これは決定でそんな手続に付してはいけない事件でありまして、そんなものまでやつてしまえなんという乱暴なことは私は言つているわけではないのです。そういう疑問のある事件はもちろん普通の公判手続でやらなければいかぬので、これは、そうでない場合に、実際に何ら疑いのないときに、こういう証拠調べなんかは適当とするところでやれという規定になつておるから、そういう事件については今も例のあることだから、判決を書くことも簡易化するようにまでしてもらいたいということを言うわけです。
  96. 佐瀬昌三

  97. 梨木作次郎

    ○梨木委員 斎藤さんにお聞きしたいのです。大体今までの委員各位の質問で尽きておるのでありますが、斎藤さんは最高裁判所の裁判官でありますから、特に今述べられたような意見考え方に基いて裁判を運用されているということを知りまして、まつたく慄然たるものがあるのであります。
  98. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 梨木君に御注意しますが、刑事訴訟法改正案参考意見ですから、それに対する質疑を願います。
  99. 梨木作次郎

    ○梨木委員 あなたは、今、争いのない場合であるとか、証拠調べをやるのであるから簡易な裁判手続をやつても人権の保障に欠くるところがないのだとおつしやる、そこに問題があるのです。争いがあるかないかということはやつてみなければわからない。そういうところにずつと公判の法廷まで現われて来る。警察検察庁手続の過程において、いろいろと入り組んで、つまり無辜の人間が嫌疑を受けて出て来ている。これをいよいよ公判廷でその真実を明らかにしようというのが公判なのです。ところがあなたの前提というのは、被告人が争わなかつたという、その一点だけで争いがない、こういうぐあいに独断している。私はこれは明らかに独断だと思います。証拠調べをするからいいとおつしやるが、しかし、証拠調べは、これは、今までの検察庁警察のやり方、あるいは裁判所の証拠調べ手続にやはり信頼を置かないから、もう一ぺん公判の法廷でこれをやれというわけなのです。こういう建前から証拠調べというものをやることになつていると思うのです。ところがあなたは、すべてこういうものを、裁判官の独断的な考え方の上に立つて被告人が自白すればそれでもう争いはないのだと独断される。私はここに裁判官の独断的なまつたく危険なものがあると思うのです。そういう点についてあなたはどうお考えになるのですか。
  100. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 私の言うのは、どんな事件でもそうやれなんということを言つておるわけではないのです。第二百九十一条の二というこの改正案のことを言つておるのです。今言つたように、この改正案は、そういう事件については、次の三百七条の二という規定に、この二百九十一条の二の決定があつた事件については、ここに掲げてあるような規定はこれを適用しない、こういうことになつているわけです。そうして、「証拠調は、公判期日において、適当と認める方法でこれを行うことができる。」という規定になつているのですが、こういうような場合にはこの規定はけつこうだ、なおこれを、判決を書く上においても簡略化してもらいたいと、ただこれだけを言つておるので、この二百九十一条の二のような訴因について争いがあるとか、そんなような事件について証拠調べはどうでもいいとか、そんなことを私は言つておるのではありませんから、それは何か少し誤解しているのじやないかと思う。この二百九十一条の二というのはごく例外的な場合で、私の議論は、この例外的な場合だけに限つてただ言うだけの話であります。何か少し誤解があるのじやないですか。
  101. 梨木作次郎

    ○梨木委員 いや、誤解でも何でもない。あなたは、弁護人がついている場合は弁護人の意見を聞くのだからいいとおつしやる。しかし、必ずしも全部弁護人がつくわけではありません。被告人が争わないということだけで争いがないのだとあなたは独断される。だからそういう場合にはこの規定はけつこうな規定だと、こういうぐあいのあなたの論理の進め方だが、それでは被告人が争わなくても、身がわりを出したらどうしますか。身がわりの場合には被告人が争わないにきまつている。そういうようなことをやつて裁判の権威というものが保たれますか。そこに問題がある。それからさらには、量刑あるいは保釈の問題に関連しまして、実際は真実を争わないで、そうして自白をしてしまう、有罪を認める、そういうことでは裁判の権威というものは保たれないではありませんか。そこに問題がある。ところが、それでも、まことにけつこうな手続でございますとあなたはこれを肯定される。それでは非常に危険だということを私は言つているのですよ。
  102. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 あなたのおつしやることは――この二百九十一条の三という案で、そういう場合には決定を取消さなければならぬということになつて、やらないことになつているのですよ。
  103. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それはそのくらいにしておきましよう。  もう一つ。あなたは先ほど、こういう場合には判決を非常に簡単にしたら裁判官の負担が軽減されると言われた。これは裁判官側から言えばそうかもしれませんが、被告人や裁判を受ける国民の側から申しますならば、最近の新しい刑事訴訟法になつてからでも、ほんとうに切捨てごめんみたいな簡単な判決がありまして、裁判の不備や欠陥や不当をつこうにもつけないくらい非常に困つているのが在野法曹の一致した意見です。ところがあなたは、ますますこれ以上簡単にしろとおつしやる。これでは実際裁判官の独断的な考え方、裁判官の頭だけで有罪の認定をしており、裁判官の認定が客観的に批判される対象の記録的なものは残らない。人権保障の立場から申しますならば、この判決というものはできるだけ詳細に書くということ、裁判官が、その結論を得るに至るまでの経過を納得の行くように詳しく書くということこそが、裁判の権威と真実性を保つゆえんであると私は思う。ところがあなたは簡単にしろと言う。逆に行く。これは裁判の権威をますます失墜させ、実際は裁判が客観性を保障しないような逆コースになると思うのです。私のこういう見解に対してあなたはどうお考えになりますか。
  104. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 そういう争いのあるむずかしい事件については、あなたのおつしやるようにこまかく書いたらいいと思う。こういう案のように何ら争いのない事件に限つては簡単でもいいじやありませんか。それでもわかるのではありませんか。
  105. 梨木作次郎

    ○梨木委員 佐藤検事総長に聞きたいのでありますが、われわれが経験しているところでは、これをさらに十日延ばして二十日にする、こういう場合におきましても、十日の期間内に、実際は検察庁が総力をあげて調べておらない、これがわれわれの接触する被疑者から聞く声であります。そういう努力を実際しておりません。それをさらに今度は、検察庁の手が足りないとかなんとかいうことで、これをさらに二十七日までに延長しようというのでありますが、この実情の把握、実際は十日間の勾留期間に何回ぐらい調べておるか、こういう点がおわかりでありましたら聞かしてもらいたいと思います。
  106. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 各具体的事件について、十日あるいは二十日の勾留期間の間何回調べておるか、あるいは担当検事がその期間の間ほかの事件にも担当しないで、それだけに当つておるかどうかというようなことにつきまして、これは私の手元にこまかい資料がありませんから、御希望に沿うようなお答えができないのでありますが、現在の検察官の全能力をあげて、そうしてあらゆる具体的な事件捜査について、また公訴の維持について、刑の執行について、それぞれ努力いたしておるのでありまして、一人の調べられる被疑者から見ますれば、自分の担当の検事が全勾留期間を通じて、朝から晩まで自分だけを調べてもらえないといううらみはあるだろうと思うのでありますけれども、ほかの事件を除いてその一つの事件だけに専心当るということは、これは今の検察陣容の能力においてはなかなかできかねるところでありまするから、各被疑者なり被告人の方から見ますれば、どうも自分の主任の検事が、自分ばかりを調べてくれない、合間にはほかの人も調べておる、あの合間に自分をもう一回調べてくれたらいいじやないかということをきつと申されるだろうと思うのでありますが、全国の検察庁の職員は、われわれから見ますと、御苦労の点は実際涙ぐましいほど、あらゆる方面に努力いたしておるのでありまして、たとえば十日間の勾留期間にある被疑者を二日間しか調べなかつたあと八日は休んでおつたというようなことは絶対ないのでありまして、あとの八日はほかの事件を調べるとか、あるいは被疑者自身に当らなくても、その事件の関係者に当つておるとか、あるいは証拠物を調べておるとか、あるいは公判の立会いをしておるとか、いろいろな方面に精励いたしておることと思つております。
  107. 梨木作次郎

    ○梨木委員 勾留を脱法的に引延ばすために、最初逮捕状を出す場合には四つか五つかの嫌疑事項を並べておきまして、そうして最初の勾留期間最大限延長できる二十日の間に、一つだけ調べて、そうしてこれを出してすぐまた逮捕する。これを公然とやつておる。私は現にその被疑者を知つております。太田嘉四夫君といつて、北海道の白鳥事件被疑者でありますが、こういうことを警察が公然とやつておる。お前はこれから二月でも三月でも――一つは嫌疑なくして釈放しても、まだあと四つ、五つの嫌疑があるからこれで二、三箇月はひつぱれる、こういうことを言つておるのでありますが、一体われわれが口角あわを飛ばして、これを五日延ばすとかあるいは十日延ばすとか、二十日に延ばすとかいうことでやつてつても、その実際の現場におきましてはこういうことがなされておるということになりまするならば、まつたくわれわれの議論というものはナンセンスだとすらいわざるを得ないのでありますが、この点実情をどういうぐあいにつかんでおられますか。
  108. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 アメリカにおきましては、ただいまおつしやるような例がたくさんある。実際の運用としてはそういうようにして調べるんだというようなことを私は聞かされたこともあるのでありまするが、わが国においては、おそらくそういうような濫用はいたしておらないだろうと思つておるのであります。現に検察官に対しては勾留状を請求するときに、Aの犯罪がわかつて、Aの罪について勾留状を請求しても、そのときにBという犯罪もわかつておれば、その勾留期間内になるべくAに合せてBも調べるようにということを、むしろ言つておるのでありまして、当然Bがわかつておるのに、Aだけを調べて、Aの罪について釈放後、Bについて新たに勾留状を請求するというようなことは厳に戒めております。
  109. 梨木作次郎

    ○梨木委員 もう一点。先ほどのお話では、現在検察官が定員九百名のところ、八百名実員があつて百名不足しておるということでありました。この百名の不足というものが充実できないのは、これは実はまつたく今の検察庁というものが政治的な弾圧の具に供せられて、まあこういう検事になつてつたら、革命でも来たら人民裁判にでもかけられるというようなことで、非常に恐れて検察官になり手がない、私はそういうふうに聞いておるのでありますが、そういう実情だといたしまするならば、これはいくら勾留を延ばし、それから検察陣を強化しようと考えても、私はそれはできない相談じやないかと思う。問題は、先ほども出ましたが、この二百何条かに、多衆共同してやるとか、あるいは集団的な傾向を帯びた事件についての保釈とかその他を制限しようとして来ておることの中に、特に集団的な事件が多くなつて来ておる。多数の人間が犯罪をやるということについては、たくさんな人間がそういう行動をせざるを得ない社会的必然性というものがあり、そのもつと背景には政治の貧困があるからで、結局これは政治の貧困から来ておる。だからこれは犯罪ではないということになる。だからそれを処罰しようとすれば検察陣が足りないということになる。この点の反省なくして、いくら刑事訴訟法改正してやつても、それはもう客観的には人権を圧迫するための改正であり、検察陣の強化だというふうに批判されざるを得ない問題を含んでおると思うのです。そこでこの百名の定員がどうして充足できないのか、これをひとつ伺いたいのです。
  110. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 終戦前の全国の検事の数は、たしか七百名ぐらいだつた承知しております。その後検事を増員いたしましたけれども、その増員の数がなかなか充当できなかつた。これは従来の人事行政を担当しておる経験から申し上げますると、たとえば八十名の新しい検事を採用したといたしましても、全国で一年間にやめたりあるいは死亡したり、いわゆる自然減が数十名できて来るのであります。まあ五十名自然減があれば、差引三十名だけ翌年に残るというようなぐあいで、二百名増名するとなれば、三年か四年ではなかなか充員できないのが従来の例であります。ことに終戦後いろいろ経済生活等の理由もあつたろうと思いまするが、これは検事ばかりでなく判事の方も、その自然減が終戦前よりも終戦後の方が非常に多かつた。そこでせつかく増員計画を立てましても、思うように充当ができなかつたのが事実であります。ところが最近この二、三年この方検事志望者が割合に多いのでありまして、裁判官の志望者とほとんど同数ぐらいである。本年などはただいま梨木委員から申されましたように、検事志望者は将来公安係にもなると、相当身の危険もある、また対外的な勢力の影響によつて検事というような権力の地位につくと、身の将来にも非常に損だというような檄を、新しい司法修習生の卒業まぎわに部内にガリ版で配付されたのでありまして、そういうときにちようど札幌の白鳥事件警察官が襲撃され、また小樽の公安検事が公安関係の事件でおどかされて神経衰弱になつたというような例もありましたので、本年の検事志望者はさぞ少いだろうということを内心非常に心配しておつたのでありまするが、実際は百人ぐらいの志望者が司法修習生の中からありまして、そのうち八十名を採用いたしました。来年はこの調子で参りますれば、八十名ないしよく行けば百名ぐらいの新規採用の検事が得られるのではないかと考えておるのであります。さように司法修習生を卒業して採用される新しい検事に望みを嘱するよりほかに今給源がないのであります。多数の在野法曹の中から来てくださる方があれば大いに歓迎するのでありまするけれども、待遇等の関係からなかなか志望者が得られませんので、一に司法修習生から新任の検事を求めようということを考えておりますので、欠員がなかなか急速には埋めがたいという実情でございます。
  111. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 佐藤さんにお伺いしておきたいと思います。先ほどもちよつと問題になつたのですが、十日ないし二十日の間では起訴起訴の決定がなかなか困難であるという一つの原因は、犯罪について何か密告があるとか投書があるとか、またデマがあつたりすると、ほとんど勾留するに値しないような者までどんどん押えつけておいて、それからゆうゆうと捜査しておる。その一つのやり方としては勾留状には甲の事実について勾留すると書いて身柄を勾留する。ところが起訴されたところを見ると、それとは全然関係のない乙の事実で起訴しておる。私はこれは違法だと思うのですが、事実金沢の検察庁でやつておる。ことに北海道の教職員組合の選挙違反の事件など、三百何十人から勾留しておる。学校の校長のように逃げも隠れもしないような人までデマか何かで一応全部網にかけちやつた。そうして十日間も全然調べないで、十五日目か十六日目になつて初めて調べ、たつた一回調べただけで釈放しておる。ですから勾留期間が足りないというのは網にかけるのが早過ぎるのです。その方が調べる方では安全でございましよう。とにかくおりの中に入れておいてゆうゆうと吟味するのですから便利でしようが、入れられる方からすればたまつたものではない。これをあなた方改めざる限り、これは何十日あつたつて足りはしません。  なおまたあなたはさつき百人のうち八〇%は十日以内で釈放しておると言われましたけれども、これはあなたの方に有利な統計になるかもしれませんが、政府の統計というのは非常に注意して考えなければなりませんので、この中には今言つたように元来勾留なんかする嫌疑のない者を勾留状の濫発で押えてしまつた者が多くあるのです。北海道の教職員組合なんかそうです。何もない者を全部ぶち込んでしまつて、そうして相当釈放しています。これは何もないのですから、十日以内に釈放しなければならぬ、そういうものがこの八〇%の中に入つておると思うのです。だからこれはあなた方が法律を守つて、こういう成績をあげているということになるかもしれませんが、われわれ裏から考えると、元来が一体勾留すべからざるものを勾留したのではないか。そこでこういう統計が出るのじやないかという疑いが出て来るのであります。そこでこういう事実について、一体何か佐藤さんはお調べになつたことがあるか。なお私が今あげました、甲の事実で勾留状を出しながら、勾留状を書きかえもせず、そのまま勾留しておいて、甲の事実がまつたくない。現われたものは乙の事実であるというようなときは、最初の甲の事実の勾留状というものは一体有効であるとあなた方は考えておられるか。こうなると非常に容易ならざることだと思うのです。何か理由をくつつけてまず勾留してしまう。そうしておいてほんとうのことを探しまわるというようなふうに濫用されると思うのですが、こういう事実をどうお考えになりますか、お述べを願いたいと思います。
  112. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 ただいまお尋ねの点でありますが、それは先ほど梨木委員に申し上げましたように、最初からAとBとの事実がわかつてつて勾留状はAの事実について勾留状を求めたような場合には、その勾留期間内にBも一緒に調べるように、Aが終えてから釈放後、またBで新たに勾留を請求するようなことはないようにということを戒めておりまするので、おそらくただいま御指摘のようなAの勾留状で拘束されておるのに、Bの事実を調べるということは不都合じやないかというような御疑念が出て来るのだと思うのでありますが、私どもはむしろ人権尊重の立場からなるべく拘束期間を少くしたい。初めからわかつておるなら、その一つの勾留状の拘束中にわかつておるBの事実も調べたらいいじやないかというような方針をとつておるのでありまするが、もしそれをただいま御指摘のように厳格に解して、Aの勾留状でAの事実について勾留した場合には、Aだけしか調べていけない。Bを調べようとするならば、Aの事実について釈放後新たにBの勾留状を請求してBを調べるというようなことになれば、かえつて人身の拘束が長くなつて、人権擁護の立場からおもしろくないのではないかというような考えを持つておるのであります。それから単なる聞込みや、デマですぐ人身を拘束する例があるということをおつしやられたのでありますが、以前の刑事訴訟法の建前で、そうして以前のように手があつた時代は、あるいは検察庁が直接単なる投書、密告で活動するというようなこともあつたかも存じませんが、現在のような刑事訴訟法になり、また警察官が独自の捜査権を持つようになりました今日においては、なるべく警察官から相当資料を備えて送致された事件について、検察官がこれを調べる。そうして拘束する必要がなければ、そのま即日釈放し、拘束する必要があれば勾留状を請求するというような方法をとつておるのでありまして、警察官から身柄送致された場合でも、そのうち全国的に見ますと、約三分の一はもう即日釈放してしまうのであります。残りの三分の二について身柄拘束を継続するというような数になつております。さらに起訴の場合には、不拘束のまま起訴するものが起訴人員の約八四%――八四%が不拘束のまま起訴し、拘束のまま起訴する者が残りの一六%、こういう統計の数字になつております。
  113. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今検事総長答弁では、甲の事実で勾留状を出しておきながら、甲の事実が何もない。しかもその具体的事案はやはり二十日間更新しているのですが、そうして起訴状を見ると、それと全然関係のない乙の事実で起訴しておるというところに、甲の事実ありとして勾留状を出したときに、でたらめな勾留状じやないか。聞込みやあるいはいいかげんのデマでまず身柄を押えてしまつたのではないか、たまたま乙の事実が出て来たから起訴になりましたけれども、元来勾留状に表示された事実というものは、全然何もないものである。またその方向については事実何も調べていない。ここが私は非常に奇怪だと思うのです。甲の事実の勾留状の事実について、何もその捜査もしていないで、本人に尋問もしておらぬでおいて、尋問をし、聞取書をとつたのは乙の事実である。そうして乙の事実に基いて起訴しておるのです。そこでこういうやり方をやられると、まず人を縛つておいてからものを調べるというやり方をやるおそれがある。  なお、これは国会内にできております人権擁護議員連盟に訴えられました事件で、私どもは今調べを始めたのですが、これはまだ全貌はわかりませんで、ただ法務総裁に私は質問していますが、調べて答弁すると言いながら、今日まで答弁がありませんでしたが、ある会社の専務取締役を公務執行妨害、強盗傷害で逮捕し、勾留したということを新聞に全文発表された。ところがその本人は勾留もされておらぬし、会社へちやんと行つて執務しているのです。だから本人にちやんと執務しているのに、どうしてああいう新聞の発表になつたかというても警察は取上げない、取消しもせぬ。そうしておいて、しかも現在身柄を拘束されておらぬし、執務しておりまするその甲のうちに来て、全部家宅捜索をやつた。ところが何も出て来ない。ところがその後一体甲と誤認した人物が何であるかということを警察に調べましても、警察答弁ができない。私はこれは非常に奇怪だと思う。そこで勾留状を出したから、その勾留状を出した東京裁判所へ行つて事件の受付名簿を調べましたのでありますが、全然書いてありません。勾留状を出した判事の名前もわかつていますが、その判事はさような事件を受付けておらぬ。そこで私ども考えることは、これは捜査をしたいために、まずそういう架空のものをでつち上げて、判事をごまかして捜査令状をとつて、そうして行つて捜査するのじやないか。捜査したが何も出ないので、それで跡始末に困つてしまつたのじやないか、こういうふうに今疑惑を持つています。ただそこまで私も調査は進みませんけれども、相当判事が勾留状を出すとか、令状を出すとかと言いますけれども、警察が持つてつたものに盲判を押すだけであつて、ほとんど大した意味がない。ほとんど警察の言う通りつておる。そこで警察はどうも濫用いたしまして、これがもし事実であるとすると、たいへんなことだと思うのです。ありもしないものを、そういう架空の人物の捜査令状を申請して、そうして捜査をやる。なおまたそのときわかつたことでありますが、ある番地のある会社捜査令状を持つて来た。ところがその番地にその会社名前相当する会社がなかつた。富士なんとかいう会社です。ところが、それと似通つた会社が近くにあつた。これはこの会社の間違いだろうといつて、巡査が鉛筆でその名前を消して、そうして新たに自分が見つけた会社名前に書きかえて、その会社捜査しておる。そういう乱暴なことをやつている実例がある。これも今調査いたしております。そこでこれは検事総長といたしまして――こういう勾留状に対しまして、私は相当濫発をやつているのが実情じやないかと思われる。あなた方はそこはおわかりにならぬかもしれませんが、われわれ民間にいますと、相当濫発をやつておる。そこでいい加減に臆測でみな勾留してしまつて、それから調べ始めますから、事が非常に長くかかるということが相当私はあると思う。初め相当の嫌疑があつて逮捕したならば、そう長くかからぬで、二十日もあれば調べが終るはずだと思う。そういう実例について、もう少しよく御調査願いたいと思う。私どもももうちよつと調べまして具体的事実が出ますれば、また上申したいと思います。ですから、こういう勾留期間をむやみに先に延ばすということの前に、そういう実情をもう少し御調査にならぬというと、私はいけないと思うのであります。これは私どもの意見でありまして、あなたの答弁はいただかぬでもいいのでありますが、相当の濫用がされておる。共産党あたりの近ごろの相当事件があつて、これはなかなかまた捜査が容易ならぬために、証拠をつかみたいために、スパイ政策をやる。愛知大学みたいに学生に金をくれて、スパイ政策をやる。中には今言つたように、むやみに捜査令状を出して、自宅でも会社でもそこら中ひつかきまわす。まず犯罪の何かデマや風聞や投書がありますと、何か証拠をつかみたいために、あせつて差押え令状や何かを濫発する傾向が、どうも近ごろ非常に出て来たと思う。この中には恐るべきトリックがあるような気がいたします。まだ十二分に調査が済んでおりませんから、その点につきましては、深甚なる御考慮を願いたいと思うのであります。そういうことをやつておりますると、これはなかなか勾留期日を延ばすなどということでは、解決できないことになつて参ります。何でもデマがあると、全部ぶち込んでしまつて、それから捜査を始めるなんというようなことでは、幾日あつても足りないことになる。さつき斎藤さんが申された、昔は警察犯処罰令とかいろいろなものがあつて相当便利であつたわけです、ところがその便宜がなくなつたので、どうもそういう今度は違法な便宜主義をとつている傾向があるのじやないか、こういうふうに私には思われるのでありまして、これは私の意見を申し上げておきます。  それから斎藤さんにお尋ねいたしたいことは、今控訴審における事実調べを相当拡張したことについて、かような規定なんかも、事実やつているのだから、ことさらぎようぎようしくいらぬじやないかというような御意見でありましたが、これは実情に沿わぬ御見解じやないかと思うのであります。私どもはこの控訴審の事実審というものに対しましては、いま少し拡張しなければならぬ。これでも足りないと考えておりますが、あなたはまるで逆な御意見のようですが、事実やつているじやないかとおつしやると、やつているところもあるのです。これは裁判所及び判事によつて、めいめいまちまちです。こういう不統一なことじや私はいかぬと思う、現に非常に乱暴なことをやつております。先ほども申したのですが、東京の地方裁判所の第一審において三年間の懲役で執行猶予がついたものを、検事が控訴いたしまして、それを東京高等裁判所の控訴審においては、ほとんど何らその執行猶予になりました情状を取調べもせず、被告人をほとんど取調べもせず、そうして懲役三年で、執行猶予を削つて、監獄に入つてしまつています。実に乱暴だと思う。かようなやり方をやつたら、一審制度と同じことです。こういう実情をあなた方は御存じなくて、今やつているからそんな必要はないというようなことをおつしやいますが、雲の上に乗つていて下界がごらんになれない。それはいかぬと思う。こういう実情をもう少しお調べになつた方がいいと思う。一審判事が情状酌量でもつて執行猶予をつけてくれたのに対して、何らその事実について調べもせず、書面審理だけで執行猶予を切つてしまつて、監獄にほうり込んでしまうというようなことは、これは控訴審としては、そういうやり方をやられては私はたまらぬと思う。総じて一体官の方々の改正法案というものは、いつでもそうですが、まず自分たちの便宜なようにばかり改正なさる。これはちと考え直してもらわなければいかぬ。いずれの改正を見ても、まず便宜だ。裁判官からいうと、裁判をやるのに便利になるように、検事からいうと、早く縛つて、早く捜査するに便利なようにという方向にばかり改正なさるのでありますが、人権保障の方面にも心を配つていただいて練つていただきたいと思います。ただ斎藤さんには、そういう実情があることを御存じあるのかないのかをお尋ねいたします。
  114. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 私の聞いているところでは、あなたの今おつしやるように、部によつて非常に差のあることは、私も聞いておるのですが、しかし全国的に見て、相当活用しているのか何か知りませんが、調べておることは事実じやないかと思つております。つまり、たとえばこの改正案のねらいは、いわゆる示談をした場合が多いのじやないかと思つておりますが、これは解釈上原判決があつて、後に示談があつた場合には、そういう調べができるかどうかという解釈上の争いはあるようですけれども、こういうのは全部職権によつて審理をしておるように私は思つておりますが、それは個々の事件については、仰せの通り、あまり調べないところもあるようです。それからあまり調べ過ぎるぐらいのところもあるようですから、あなたの言われるような、それはいわゆる運の悪い部に行かれたら、そういうことがあるかもしれませんが、相当私はやつているように聞いておるのですが、これは解釈上疑問があるけれども、それは十分職権で調べて大体やつているように聞いております。個々の点におつしやるような事実があるかもしれませんが、これは私の聞いている範囲だけを言うのであつて、だからそういうものを置かれることに私は反対はしませんけれども、これは今の解釈でも、法文の上からはやり得るのだから、そういうものを特につくらなくてもいいんじやないか、これは私の見解であります。だからそういうものをつくられても別にさしつかえはないけれども、今現に解釈上としては、職権でどんどん売ることになつているから、特に入れる必要はない、ただ私はそういうふうに考えているだけであります。
  115. 山口好一

    山口(好)委員 一つ佐藤さんにお伺いいたします。この勾留期間延長に関する改正規定が出ました一つの原因としまして、先ほどの御説明によれば、検察官が、副検事は大体充実しておるが、本検事の方が全国で百名くらい不足しておる、こういうようなお話があり、これが相当原因をなしておるようにも聞えたのでありますが、この人的不足が補われれば、大体かような勾留期間のさらに七日の延長というようなものは必要としないかどうか。さらに本年度などにおきましては、大体この不足をどのくらいカバーすることができるか、結局将来に向いましては、こういう規定を設けなくても相済むのではないかという見通しをお聞かせ願いたいと思います。
  116. 佐藤藤佐

    佐藤参考人 先ほど申し上げましたように、現在の検察陣容をもつてしては、最近に発生している事案を処理するにつきましても、現在の勾留期間ではとうていまかなえない、現在の検察の陣容はどうかということを御説明申し上げたのでありますが、もし検察陣容が現在の欠員百余名を充実されるとしましても、ここに改正案に記載されておりますように、特別な事件、特別な状況、特別な条件のもとにあるような事件捜査については、定員が満たされましても、やはりやつて行けないという実情にはかわりはないと思つております。なおこれは見通しでありまするが、講和条約発効後の治安情勢を見ますると、東京は申すに及ばず、各地においていわゆる権力闘争と思われるような、警察に対する襲撃事件、税務署あるいは職業安定所等に対する襲撃事件、学生が警察官と事を構えるというような不祥な事件がひんぴんとして起きまするので、私は将来の情勢の見通しとしては、これは国際情勢に影響せられることもありましようけれども、国内の講和問題としては、今よりも事件が少くなるという見通しはとうてい持てないのでありまして、遺憾ながら不祥事件がさらに増加する危険がはらんでいるのではないかというような見通しをいたしております。  なお先ほど猪俣委員から御指摘になつたAの事件について勾留状が出ている、そうしてAの事件については犯罪がないということがはつきりしておるのに、そのままAの勾留状をもつてBの事件を調べておる例があるというようなことを申されたのでありまするが、私はさような場合には勾留状の差しかえをして、そうしてBの事件を調べておるだろうというふうに見ておるのでありまするけれども、もしさように勾留状を濫用して、Aの事件についてすでに事件の見通しがついておるのに、勾留状をそのままにしてBを調べるというようなことがないように、十分戒めたいと考えております。なお具体的な事件について、もしそういうような濫用の事実がございまするならば、お知らせ願えれば私の方でも具体的にそれを戒めて、そうして将来濫用することがないように気をつけて行きたいと思つておるのであります。  それからなお裁判所で、逮捕状や勾留状は、こちらから請求すればそのまま令状を出すのではないかというように見ておられるようでありまするが、実際はそうではないのでありまして、警察から逮捕状を請求して、そうして資料が足りないからといつて却下する例もかなり多いのであります。また検察庁の方から裁判所に勾留状を請求いたしましても、疏明資料が十分でないというので却下される例もかなりあるのでございまして、裁判所は裁判所の独自の立場で責任を持つて令状を発付しておりまするので、私はこの裁判所の令状発付については全面的に信用してよろしいのではないかと思つております。
  117. 山口好一

    山口(好)委員 最後斎藤さんに一点だけ伺います。斎藤さんがさつき説明せられました簡易手続の決定の点でありまするが、これは斎藤参考人の言われる通り、われわれもこれは、実際規定がなくても、さように行われておる実情を見ておるのであります。従いまして特にこの規定を設けまして何か特に、簡易に実際やつておるものをさらに簡易にするというように思われますようなこういう改正をすることは、改悪になりはしないかというふうにも考えられるのですが、実際行つておるといたしますれば、かような規定は、それだけではむしろ必要がない。斎藤さんの言われるように、さらに進んで判決も簡易化するというところまで行けばともかく、さにあらざればかような改正は不必要とお考えになりませんか。
  118. 斎藤悠輔

    斎藤参考人 大体同意見であります。
  119. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 他に御質疑はございませんか。――なければ本日はこの程度にとどめ、明日午後一時より会議を開きます。  本日はこれにて散会いたします。     午後五時五十七分散会