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1952-05-24 第13回国会 衆議院 法務委員会 第57号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年五月二十四日(土曜日)     午前十一時九分開議  出席委員    委員長 佐瀬 昌三君    理事 鍛冶 良作君 理事 田嶋 好文君    理事 山口 好一君 理事 田万 廣文君       安部 俊吾君    北川 定務君       松木  弘君    眞鍋  勝君       大西  正君    吉田  安君       梨木作次郎君    世耕 弘一君  出席政府委員         検     事         (法制意見第四         局長)     野木 新一君         検     事         (検務局長)  岡原 昌男君         検     事         (人権擁護局         長)      戸田 正直君  委員外出席者         最高裁判所事務         総長      五鬼上堅磐君         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      岸  盛一君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小林 貞一君     ――――――――――――― 五月二十三日  委員梨木作次郎辞任につき、その補欠として  田中堯平君議長指名委員に選任された。 同月二十四日  委員田中堯平君辞任につき、その補欠として梨  木作次郎君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 五月二十三日  人権擁護局存置等に関する請願(川野芳滿君紹  介)(第三〇五六号) 同日  破壞活動防止法案反対陳情書  (第一九三九号)  同  (第一九四〇号) を本委員会送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  裁判所侮辱制裁法案田嶋好文君外四名提出、  第十回国会衆法第四七号)  人権擁護に関する件     ―――――――――――――
  2. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより会議を開きます。  裁判所侮辱制裁法案を議題といたします。
  3. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 本案につきましては、御承知の通り第十四国会におきまして、本委員会に付託となり、提出者より本案提出趣旨説明はすでに聴取いたしておりますので、これを省略いたし、ただちに質疑に入りたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議なしと認め、ただちに質疑に入ることにいたします。質疑の通告がありますので、順次これを許します。鍛冶良作君。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 本法案議員提出ではありまするが、この適用を受ける対象である裁判所から、参考意見として、本法に対する所見を伺いたいと思うわけであります。そこで裁判所といたしましては、本法案に賛成であるかいなや、また本法案が必要であると思われるか、これがあるなれば、本法のねらつておる目的が達せられると思つておられるか。その点をまずお伺いいたしたい。
  6. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 本法案につきましては、裁判所が必要であると思うばかりでなく、ぜひこの成立を要望いたしておるのであります。と申しますのは、この訴訟手続当事者主義となりまして、法廷秩序維持というものがますます必要になつ来ておるのであります。かようなときにおいて、法廷秩序が維持されておるかというと、必ずしもそうではなくして、ことに最近においては、いろいろ法廷闘争の形がかわつて参りまして、中には実力行使等によつて法廷闘争を行おうとするものがあるのであります。さようなことからいたしましても、本法案が成立して、裁判所法廷秩序維持になるということは、われわれの最も要望するところであります。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 法廷秩序維持の必要なことは、われわれもこれを痛感しておるものでありますが、本法一條を見ますると、「裁判所威信を保持し、司法の円滑な運用を図ることを目的とする。」と、二つの目的を書いておるのでありますが、この法律ほんとうのねらいは、かよう法律をこしらえることにおいて、裁判所並びに裁判官威信を保持して、それによつて円滑にやろうというのであるか。それともこの法律でさらに、ほかに円滑なことができるという、かよう考え方であるか。これは本法の大眼目であると思いますので、この点を明白にしておきたいと思うのであります。
  8. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 やはり本法案が成立することによつて裁判所威信はもとより保持するに効果があることを期待するとともに、法廷秩序の円滑な運用に貢献されることと、こう考えております。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると両面目的のためだ、かように解釈してよろしいですか。またその両面でも、その間に軽重がないかどうか。
  10. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 ただいま総長から申し上げた趣旨と同じことでありますが、この法案のねらいは、ほんとうに正しい民主的な裁判を、裁判所独立公正にやるということを究極の目的といたしておるものであります。それで裁判官個人威信を上げるとか何とかいうようなことは、全然その目的ではないのであります。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 では裁判所とわけたわけは、裁判所威信というわけですか。裁判官という個人的なものではなく、裁判所威信というものはどうなんですか。
  12. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 裁判所威信というものは、つまるところ裁判権威裁判威信ということだろうと思うのであります。裁判制度そのものを円滑に運用するためには、裁判というものの権威を承認しなければならない。最近の事情では、現行法ではまかない得ないよう事例がたくさん起きておりますので、かよう法律が必要である、そういう趣旨であります。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも私の質問の主眼点がおわかりにならぬようであります。もちろん裁判の円滑なる運用主眼があることはわかつておりますが、それが主なのか、裁判所もしくは裁判官威信を高めようというのが主なのか、これなんです。そこで両面なのかを聞いたら、あなたはそうじやないと言われるのだが、それならば裁判官威信というものはどうでもいいので、裁判の円滑なる運用さえやればいいのか。これは本法をきめる上においての眼目なのでありますから、この点を明確にしておきたいと思います。
  14. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 そこでただいまお話になつております意味裁判官威信ということは、すなわち裁判威信裁判権威ということと同じように理解できるのであります。でありますから、この條文で書きわけてはございませんが、結局つまるところ、そこまで行くのじやないかというふうに解釈いたします。裁判手続の円滑な運用を離れて、裁判所威信とか裁判威信ということは考えられないと思います。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうだとすると、本法に対して根本的な、みんなから議論の出るところですが、おそらくこの法案に対しての批判眼目は、裁判所もしくは裁判官威信を保持しよう考えておられるようであるが、かよう法律によつて裁判官威信裁判所威信が保持できると思うかどうか。これが各所における批判対象となつておるのです。ところがこの名称自身からいつても、裁判所侮辱罪ですから、あなたの言われるようなれば、裁判円滑運用法とでも直したらいいが、裁判所侮辱法と書いてある。裁判所侮辱した者をやる、それによつて裁判官威信を高めるのだ、こう見られる。ここに根本的な議論があると思うのです。もしそうであるなれば、名称そのものからいつても不適当であると思うが、この点はどうなんですか。
  16. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 裁判所侮辱という言葉は、われわれ日本人には非常に親しみの薄い言葉でありまして、英米法コンテンプト訳語でありますから、こういうことになるのでありまして、英米法でいうコンテンプトというのを日本語に訳しますと侮辱ということになるでありましようけれども、その根底はやはり裁判権威を尊重する、そういう趣旨でできておるものでありまして、その訳語が多少生硬な感じがありますので、御質疑ような疑問が起ると思います。裁判所運用裁判制度の円滑な働きというものを離れて、裁判官権威とか裁判所威信ということは、これは観念上は感えられても両者はまつたく同一のものであると考えなければならないと思うのであります。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 けさの大新聞は、筆をそろえてこの点に関する論説を掲げておりまして、これはあなたもごらんになつたことと思うのでありますが、われわれも同感なのです。イギリスにおいてはいわゆる裁判所侮辱法という制度がございますが、これは国民はこぞつて裁判所というものは最も権威あるまた尊敬すべき人が裁判官になつておるという確信を持つておる。それにもかかわらずその威厳を害するようなことがあるならば、これは国民信念に反する行動でありまするがゆえに、これを何とかしなければならぬ、こう考えるのは当然であるし、また法の根拠もそこから来ておると思うのであります。私は日本裁判所は決して劣つておるとは言わぬけれども、裁判所欠陷であるか、国民裁判所をながめる目が足りないのであるか知りませんが、ことにイギリス裁判所に対する国民感情と、日本国民裁判所に対する感情とは異なつておるよう考えます。そのときにあたつて、英国と同じようなことで、この法律をもつて裁判所威信が高められると思つておられるといろならば、われわれとたいへん考えの違いがあると思うが、この点に対してどうお考えになりますか。
  18. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 御趣旨は、これまでしばしば各方面からそういう御意見は拝聴いたしておるのであります。英米裁判官日本裁判官との水準が違う、日本裁判官に対して、英米裁判官にあるようコンテンプト制度をしくということには、危惧の念があるという御議論があることは十分承知いたしております。しかし英米裁判制度コンテンプト制度がありますのは、これはずつと古い昔から、記憶を絶したほど古くからある制度であるというふうにいわれておりまして、その根底はやはり裁判所というものは国民の権利、自由を守る最後のよりどころであるという観念が非常に強いばかりではなく、また実際英米裁判の伝統的な歴史がそういう働きをして来ておつたのであります。それでは日本裁判官英米裁判官と比べてどうかといわれますると、これはなるほどいろいろ一つ一つ御指摘になれば、もつと裁判所として考えなければならぬといつたよう事例もこれまで全然なかつたとは申し上げません。しかしそれは、日本裁判所憲法上の地位というものは、戰前——明治憲法のもとにおける裁判所というものは、御承知ようにただ事実に対して法律を適用する、国会のつくつた法律をただそのまま忠実に守るというだけ、その使命はそれだけに限られておりまして、ただいまのような広い違憲立法審査権というものがなかつたのであります。ですからその点で、英米裁判官の果した役割と、そういう制約のもとで日本裁判官がこれまで果して来た役割との間に大きな違いがあるのであります。しかしながら従来の裁判所は、とにかく法律に忠実に独立不覊にやつて来たということは、これはどなたもお認めくださると思いますし、また占領下におきましても、裁判所の態度というものは決していわゆる外国から非難を受けるようなことはなかつたのであります。占領されておるというその点から来る制約は、これは裁判官といえども例外でないのでありまして、その点はやむを得ないことであります。今後まつた独立いたしまして、主権を回復した後の裁判所というものは、ほんとう憲法によつて国民から負託されておるその権能を十分に果し得る態勢に立ち至つたのでありまして、この点については裁判所といたしましても十分その点を絶えず反省いたしております。この点に関しては、東京地方裁判所小林判事が昨年の公聴会で申し上げておりましたような、ああいう信念と覚悟というものは、全国のただいまの裁判官一般に共通なのであります。でありますから、英米でも裁判官を役人としてほかよりも特に偉いという意味で特に裁判所侮辱法というものができておるのではないのでありまして、やはり裁判の機能を十分果させるために、つまり法律上のすべての争いは裁判所において、法律によつて公正に黒白をきめるのだ、これが民主政治のもとにおける裁判所役割であり、それがまた民主政治の支柱といわれるところなのであります。でありまするので、今後日本裁判所もやはりそれと同じよう制度のもとにやつて行くことが必要である。のみならず、現在の状況からいいまして——昨今の法廷秩序ある雰囲気のもとで冷静に裁判をするということが非常にむずかしくなつて来ております。さように御了承願いたいと存じます。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私のお問いしたいこととお答えになることは、遺憾ながら一致して来ない。それでは事実についてお聞きしましよう。この法律が制定されまするならば、今日各所に起つておるような忌まわしいことがこれでとまる、かよう確信をお持ちですか。
  20. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 その事例にもよりますけれども、昨今各所に起つておるようなああいう現象が、この法律のために一掃されるというふうには考えておりません。ただ今日のような状態のもとにおいて、現行法のもとでは、法廷秩序維持ということが非常に困難、あるいはむしろ不能に近いのであります。本案よう制度になりますと、今日よりもはるかに裁判所訴訟指揮権あるいは法廷警察権行使というものは円滑に行い得る、そういう意味において、今日の事態よりも相当事情は政善される、かよう考えます。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうだとすれば、この法律で足らぬものは何によつて補おうと思つておりますか。足らぬものはしかたないというわけではありますまい。何としても裁判威信を保持し、訴訟の円滑なる運用をはからねばならぬのですから、足らぬところはどこで補おうとお思いになりますか。
  22. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 御説ごもつともなのでありますが、この法律が議会に提案されたということが世間に報道されたころの一時の法廷は、相当静かであつたという実情なのでありまして、だんだん時がたつに従つて、今日のよう法廷闘争が御承知ように行われておるのでありますが、しかし裁判所としては法廷秩序維持は何としてもやつて行かなければならぬということは、これはむろんさよう考えておりますが、実際に多数の者が計略的に実力行使でやつて来ることに対しては、それに対する警備対策というものは、むろんこの法律運用よろしきを得るでありましようが、この法律以外にその警備対策については考慮しなければならぬ。これは一応司法行政の面からさような点については十分検討しまた考慮して行かなくちやならぬことだと考えております。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私は過日広島並び堺裁判所の暴行の説明刑事局長にお伺いしたときに、やはり国民に、法に従わなきやならぬ、裁判というものは尊厳に行わなければならないという観念を植えつけることだということを言われたのでありますが、もちろんそれに違いはありませんが、さようなことを聞く者ならばあんなことをやりはしないのです。法の秩序をこわしてやろう、裁判尊厳をそこなわしてやろうというやからが来ておる。そんなものにいくら法尊厳を尊べ、法の秩序を尊べと言つてみたつてしようのないことだと私は思いますが、さようなものと思つておいでにならぬのか、またさとせばわかるものと相かわらず思つておられるのですか、これはいかがでしようか。
  24. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいま御質疑のあつたような御意見の、初めから根本的に法の秩序を破壊しようというような者に対しては、これは先ほど申し上げましたように、実力警備で行くよりやむを得ないのではないであろうかと思います。しかしながらそういう者はきわめて少数なのでありまして、多くはやはり法のもとに従つて行こうというような者があるのであります。その事例は、たとえばきわめて騒いでおつた法廷でも、録音の装置をするとかいうようなことによつて非常に静まるというよう現象が見られるのであります。こういうような者は、やはりこの侮辱制裁法というものが存在するごとによつて侮辱制裁法を発動するまでに相当効果を発揮するのではないか、かよう考えております。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もちろんいろいろのことを考えてもらわなきやならぬ。私の言うのは、一言にして言えば安易に考えてもらつては困るということを申し上げるのです。ところが何といいましても、私は裁判官の人徳、高間な意味における威力が根本だと思うのです。たとえば、広島事件などを聞いておりましても、ああいうめんどうな事件予備判事にやらした。そこで私はぴんと来たのは、予備判事といえば何年裁判官をやつてつた者ですかと言えば、裁判官として一年半しかたたないと言う。すでに裁判官室に押し寄せて、別室でぎゆうぎゆうつるし上げにあつておるということ自身が、私はすでにばかにされておる証拠だと思うのです。それが法廷へ出て来て、しかも被告人席もない、傍聴人席もない、裁判長席の両わきに傍聴人が押し寄せて、手を伸ばせばすぐやられるようにして、それでやれると考えておつた——裁判官がやれると考えたならば、これは独立指揮ですからやむを得ませんけれども、そういう経験のない人がさようなことを考えてやるからばかにされる。またかりにわれわれが見ておつたとすれば、公正な裁判ができないであろうという判断ができたと思うのですが、それができると思つてつた。これは結果論というよりほかないのでありますが、そういうよろなことではこんな法律を幾らこさえてもしようがないと思いますが、この点はどうお思いになりますか。
  26. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 確かにこの間の広島事件の係の裁判官は若い人でおりました。判事補に任命されて、——この間広島所長が一年半と申しておりましたけれども、二年の判事であります。あの判事勾留理由開示手続をやりましたのは、その前の令状をあの判事が出した関係で、それで令状を出した判事理由開示をやつたわけなのであります。ただいまお話がございましたが、勾留理由開示手続をやるときに、すでに傍聽人たちがさくを越えて裁判官席のすぐそばに接近しておつたというのは間違いでありまして、理由開示手続中はそういうことはなかつたのであります。理由開示手続が済んだ瞬間に、傍聴人席にいた者がどつと裁判官の席に詰め寄つた、そういう次第でありまして、初めから裁判官席のすぐそば傍聽人が詰め寄せたという事実は、私どもの調査でも、あるいはこれは検察庁も同じでありますが、そういう事実はないのであります。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 しかしこの間広島所長にその点を聞いたら、そういう事実があつたということなのですが、そんなことは今日は関係、ないからよしますが、いずれにいたしましても、公正にできるものと思われぬものを公正にでき得るものと過信した。おまけに相手方にのまれておるということが根本であろうと思つておるのです。まずわれわれが本法考えまする際に根本的に考えますることは、裁判所みずからが威信あるものになつてもらいたい。みずから尊厳を言わなくても、はたからこれに尊厳があると認めるものにならなくては、こんな法律を百こさえても意味がないと考えますので、本法をつくることにおいて裁判所威信が高まるものという見解をお持ちならば、われわれはこれに対して疑念を持たざるを得ぬということをまず申し上げておきたいのであります。  そこで本法によつて裁判所威信を高めるよりも、裁判秩序及び運行を円滑ならしめることが主たる目的だということであるが、現行裁判所法第七十一條、第七十三條にありまする審判妨害罪があれば目的が達せられるものであつて、これ以外に本法を制定しなければならぬ理由がわれわれにはわからないのですが、この点をひとつ明瞭に説明していただきたいと思うのであります。
  28. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 裁判所法の七十一條ないし七十三條までの規定として、審判妨害罪制度がございますが、この審判妨害罪規定が実際に使われた例は、これまでにわずか三件しかないのであります。そういう事情で、この審判妨害罪規定を十分に使わなくて本法案を制定するのは、屋上屋を重ねるもので不当であるという御疑念があろうと思うのであります。これまで審判妨害罪規定が使われましたのは、米子に二件と高崎に一件あるだけであります。     〔委員長退席山口(好)委員長代理着席〕  なぜそのようにこの審判妨害罪規定が使われないかと申しますとこれは実際使われないだけの理由があろうと思うのです。この審判妨害罪規定は、御承知ように普通の刑法犯として規定されております。そうして検察官が事実を起訴して、通常の訴訟手続従つて審判するわけであります。とところが法廷における秩序維持は、その都度々々起る事象に対して臨機応変に処して行かなきやならぬ性質のものであります。現今起つておりますよう事例に対してこれを一々やつておるのでは、本来の審理そのものがやれない。その事件のために派生的なそういう事件をたくさんに演じて行くことになるので、その派生的な事件法廷闘争が繰擴げられる。さようなことになりますと、審判妨害罪規定は非常に強力な規定として、刑法犯として規定されておりますが、それ自体かよう制度はあまり実効がない。この審判妨害罪規定が使われないのは決して検察官の怠慢でも何でもなく、むしろもともと使われないようなもので、法律と事実の間に完全にギヤツプがある、さような次第であります。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 七十三條の規定が実際に行われないものだとすれば、本法の第二條及び第三條も同様に行われぬということになりますが、これと違いますか。
  30. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 審判妨害罪の方ですと検察官の普通の手続として別に起訴しなければなりません。ところが本法案ようになりますと、裁判官の面前において裁判官が現認した不当な行状に対して、すぐその場でただちに制裁を科することができる。その点に非常な違いがあります。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第七十二條を見ますと「裁判所の職務の執行を妨げる者に対し、退去を命じ、その他必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。」とあつて、処置できるのです。今のと違いないじやないですか。もつと言えば現行犯としてひつばられるのです。なぜひつばられないのですか。そういうことをすることがかえつて騒がせるというなら、これでただちにやろうとしたつて同様の騒ぎが起ると思いますが、どうもその説明では納得行きません。
  32. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 裁判所法の七十一條、七十二條によつて裁判官命令を発し、これに従わないときに初めて七十三條が発動できる。ところがこの法案の内容から行きますと、即座にその場でそういう妨害行為を排除して、ひどいものには制裁を科する。普通の刑事訴訟による検察官の起訴を待たずして裁判官即座にやれる、その点に根本的な違いがあるわけです。
  33. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第三條の点は疑問に思つてつたのであとで聞ごうと思つてつたのですが、第二項の「裁判所侮辱にあたる行為があつたときは、裁判所は、その場で直ちに裁判所職員、警察官又は警察吏員行為者拘束させることができる。」これはまず決定をしてから、これは裁判所侮辱行為であるからというのでやるのですか。それとも侮辱であろうと思う場合にただちにやれるのですか。よくわかりませんが……。
  34. 野木新一

    野木政府委員 第三條第二項の趣旨は、裁判所が、裁判所侮辱に当る行為があつたと認めたときは、とりあえず保全的処分として拘束するという意味でありまして、侮辱制裁といたしましては後に第四條の方で決定するということになるものと存ずる次第であります。
  35. 鍛冶良作

    鍛冶委員 すると、これを拘束せよという命令を下すことは、裁判所として一種の決定じやないですか。それとも事実行為ですか。
  36. 野木新一

    野木政府委員 一種の命令だと思います。ただこれはいわゆる裁判所侮辱に当る行為に対する制裁を科する場合の決定と違う点は、第三條第二項後段におきまして「拘束の時間から二十四時間以内に監置に処する裁判がなされないときは、裁判所は、直ちにその拘束を解かなければならない。」という明文があります関係上、ただいま御質問の第三條第二項の拘束はいわゆる制裁としての拘束でない、そういうように解せられるものと存ずる次第であります。
  37. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは裁判所侮辱罪としての一つの執行方法ですか、それとも法廷秩序の維持権から来るものですか、どちらですか。
  38. 野木新一

    野木政府委員 第三條第二項の拘束は、侮辱に対する制裁としての意味でなくて、いわば法廷秩序を維持するという面から来るものであります。こういうよう規定がありませんと、すぐその場で拘束して侮辱裁判をするのが原則でありますが、すぐその場でやるというように縛つてしまうとゆとりがありませんので、場合によつて本来の審理を続けておいて、とりあえずそれを排除しておいて、本来の審理が一段落したような場合にそれに対して侮辱制裁を科する、こういうよう手続もでき得るように余裕を置こうというのが、第三條第二項の趣旨だろうと存ずるのであります。
  39. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると裁判所法第七十二條で必要な事項を命じまたは処置をとることができるのですから、ちつともかわりがないと思います。が……
  40. 野木新一

    野木政府委員 まず第一の裁判所侮辱にあたる行為がありまして、その裁判所侮辱にあたる行為は、たとえば裁判官命令に反するということでなくて、ただいきなり裁判所で騒ぐというような事態もあるわけで、そういう事態がありましたならば、とりあえずその騒いだ者をこの第三條第二項で拘束させる。その拘束させる裁判長の指示などに従わなければ、そこでまた別個の裁判所侮辱行為が成立する場合もあり得ると思います。しかしそれは別個のものであります。裁判所法規定だけでは最初の、命令も何もない場合に騒いだというような場合に制裁を科することができないような場合がありますので、裁判所法だけでは少し足りない部分があるといことになるだろうと存ずる次第であります。
  41. 鍛冶良作

    鍛冶委員 騒げば職務の執行を妨げておるのじやないですか。始まらぬ先に騒ごうが、始まつてから騒ごうが、職務の執行を妨げておる。職務の執行を妨げておつたら必要な処置がとれる。必要な処置として退廷させる。さらにそれが進んで七十三條にそむいた場合は、審判妨害罪になるかどうかは別問題といたしまして、本案第三條の第二項と同様のことができると思うのですが、その点いかがですか。
  42. 野木新一

    野木政府委員 まず審判妨害罪規定します裁判所法第七十三條は、「第七十一條又は前條の規定による命令に違反して裁判所又は裁判官の職務の執行を妨げた者は、」とようよう規定してありますので、とにかく審判妨害罪が成立するためには、裁判所命令がまず前提になるわけであります。従いまして、單に騒いだというだけでは、七十三條にただちには該当しないわけであります。しかし御質問のあとの点でございますが、その場合には七十二條で、騒いだ者に対して退去を命ずればそれで足りるじやないかというような御質問であろうと思いますが、それは七十二條でもできると思います。騒いだ者に対しては「退去を命じ、その他必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。」この規定は活用の余地はあり得るわけであります。しかしながら、「退去を命じ、その他必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる」ということにおきましては、この解釈上、退去を命じて外に出すだけのことは、命令をもつてできますが、出して若干留置することがはたしてできるかどうかという点が疑問でありまして、解釈によつては、ある程度はできるじやないかという解釈もできると思います。妨害排除の措置としては、若干範囲はとめておけるのではないかという解釈が、むしろ強いのではないかと思いますが、しかしいかにも不明確な点がありますし、事、人身の拘束に関することでありますから、時間を制限するという意味考えまして、どんなに長くとも二十四時間だけしか応急処分はできないという面を考えて、この三條二項が置かれたものと考える次第であります。
  43. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第二條の「これを妨げ」というのは、審判その他の手続をすることを妨げる、こういう意味に解釈していいと思いますが、この妨げるのは手段、方法を選ばない、何でも、妨げたものであるということならば、本法の適用があるもの、かように解釈してよろしいのでありますか。
  44. 野木新一

    野木政府委員 大体御質問のようでよろしいかと思いますが、最後に「その他裁判所威信を害する行状をした者」という含みがございますので、その趣旨がおのずからはね返るわけでございますが、妨げるということは、それ自体でもう裁判所威信を害する行動をするということになるのでありまして、その方法いかんは度外視すべきものであろうと存ずる次第であります。
  45. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もつと具体的に言つて、不作為の妨害も入る、かように解釈してよろしゆうございますか。妨害というよりか、不作為で進行させないということは。
  46. 野木新一

    野木政府委員 不作為で妨げるというのは、後の、「その命じた事項を行わず、その執りた措置に従わず」ということとの関係で、具体的にどういう場合があるか、今思いつきませんが、大体立案のときは積極的行為を頭に置いて考えましたが、不作為で妨げるということは、実際問題としてあまり考えられないのじやないかと思います。
  47. 鍛冶良作

    鍛冶委員 別段手段を選ばずというよう言葉が入つて来るわけですから、それが私は問題だと思います。「その命じた事項を行わず」、これは要するに裁判所命令に従わなかつたこと一切を包含するものと解釈せざるを得ないと思いますが、この点いかがですか。
  48. 野木新一

    野木政府委員 不作為が問題となるのは、妨げるということに関してではなくて、「その命じた事項を行わず」という点で、むしろ実際問題となるのではないかと思います。條文趣旨は、この命令はその種類を問いませんので、たとえば一応ここだけの文字から読みますと、法廷警察権に基く命令訴訟指揮から出た命令も、全部包含するようなものと存じますが、しかし先ほどちよつと触れましたように、「その他裁判所威信を害する行状をした者」という趣旨のはね返りがございまして、裁判所が命じた事項でありましても、法律上の理由があつたり、あるいは正当な見解の相違等で、その理由に対して争うというような場合は、必ずしも裁判所威信を害するという意図に出ておるわけではありませんので、おのずからそういう正当な場合は除外されると存じますが、しかし一応基本的には法廷警察権に基く命令訴訟指揮命令、たとえば釈明を命じたのに対して裁判所を無視するような態度でこれに従わぬという場合は、これに入つて来るのではないかと思います。
  49. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今あなたのおつしやつたように、裁判所は釈明せい、釈明する必要はない、こういつた場合は、どういうことになりますか。「命じた事項を行わず」ですね。それから、弁論をいいかげんに打切つてもらいたいと言うのに対して、いや、もつと必要だからやる。これも命令したことに従わずですね。そういうものは除外されますか。
  50. 野木新一

    野木政府委員 それはその具体的の場合におきまして、結局裁判所の正当なる命令を無視するというような態度の場合、すなわち裁判所威信を害するというような方法とか態度とか意図とか、そういうもので行われた場合は、やはりこれに入つて来るものではないかと、上この文字の上では解せるのじやないかと存ずる次第であります。
  51. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今までおつしやつた、その正当ということですが、正当、不正当は裁判官の認定にあるのですか。だからそれは裁判所が不当であると認めたら、全部入りますね、命令に従わなかつた場合は。何時までに出頭せよと言つた。しかるに出て来なかつた。これも命令に従わなかつた、こういうことも入ると解釈せざるを得ないが、どうですか。
  52. 野木新一

    野木政府委員 第二條の字義を解釈して行きますと、正当かどうかという点は、おつしやるよう裁判所が判断する、こういうふうになりますので、そうなると存じます。しかしある事実がはたして正当であるかどうか——事実があつたかなかつたかという問題でなくて、ある事実があつて、それがはたして正当性を有するかどうかという点は、やはり法律問題として上級審の批判を受け得ることになりますので、下級審の非常に独断的な措置は、上級審で是正される道は残されております。しかしいずれにせよ、第二條の立て方は、ともかくその当該裁判所の一応認定にかかるということになつておるのであります。
  53. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうもはなはだ困つたことになりますが、これはそうじやないのじやないのですか。あなた方が書かれたつもりは、法廷秩序を維持する命令じやないのですか。ほんとうに何でも命令に従うという意味であつたら、この法律はたいへんです。どこまでもこれは法廷秩序維持なんだから、その秩序維持命令に従わなかつたというときじやないのですか。そうでなければとんでもないことだと思います。あなたの今の答弁によつたら、弁護士はこぞつて反対しますよ。鼓を鳴らして反対しますよ。
  54. 野木新一

    野木政府委員 今命令の事項を行うという点だけを一応取上げて、つき進めて申し上げたわけでありますが、その「威信を害する行状をした者」という点がはね返つて行くという趣旨におきましては、実際問題といたしましては、しこうしてごの法案の主たるねらいは、おつしやるように、秩序維持命令に反するという点を主たるねらいとしていることは、申すまでもないことだと思います。
  55. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうでなければたいへんです。そうなると、この「裁判所威信を害する行状」ということが不適当なんです。裁判所秩序を破壊するような行状なんです。だから第一番にこの法律のねらいはどこですか、こう言つておるのです。私はそう思いますが、私の考えは間違いですか、いかがです。裁判所威信と言われるから、問題になつて来る。裁判所秩序を乱し、裁判の運行を妨害したる者、こういうところへ来なければならぬのじやないのですか。
  56. 野木新一

    野木政府委員 この法案自体が、その趣旨英米法裁判所侮辱制裁法にとつておりますので、立て方といたしまして、裁判所の審判を妨害するという法の立て方はとらなかつたわけだと存ずる次第でありますが、裁判所威信というのは、先ほどからおつしやるように、むしろこの法律をつくつて威信を高めるというのではなくて、裁判所威信というものは、本来憲海その他によつてあるわけであります。それをともすると外から害されるというようなことがありますので、その害されることを排除するという意味で、この法案が立案せられておるわけだと存ずる次第であります。裁判所威信が一番害されるのはどういう場面かと申しますと、先ほども議論があつたようでありますが、やはり裁判所裁判するという点が本質的のところでございますので、その裁判の進行が妨害されるという場面が、やはり裁判所威信が害せられるという場面の一番大きな点になるのではないかと存ずる次第であります。従つてこの法律のおもなるねらいは、一つは第一條にうたつてあるように「裁判所威信を保持し、司法の円滑な運用を図ることを目的とする。」というふうにうたわれているのも、そのわけだと存ずる次第であります。しかしこの法案の立て方といたしましては、やはり審判を妨害するという直接的のところをとらえないで、その背後にある裁判所の本来あるべき地位というものを、ここに持ち出して来ておるものと存ずる次第であります。
  57. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それではその点は一応そのくらいにしておきますが、第三條に「その裁判所が審判する。」ということになつております。これにも相当疑問が出ますが、それよりも、「拘束の時から二十四時間以内に監置に処する裁判こうありますが、これは先ほどどなたかの説明もありましたが、これは実際できますか。騒いで審議させまいと思う人間を相手にしなければならぬのですが、騒ぐだけ騒いで、それから本来の裁判をやつて、今度は侮辱制裁裁判をやる。今日の現状から見て、それが二十四時間以内に行われるとは私は思いません。これはりくつよりか、実際ですよ。考えてごらんなさい。やたらに反証を出したり、騒いだりするにきまつている。その騒いだものを、また出て来てやつているのでは、追つかけごつこになつてしまう。これはどう思いますか、可能でしようか。
  58. 野木新一

    野木政府委員 たとえば法廷において、被告人及びこれに呼応する傍聴人等が、全部一体となつて騒いでしまつたという場合には、その本来の裁判進行というものは、事実上一時停止されるということになるかと存じますが、傍聴人とか何か若干の者が騒いだという場合には、それはとりあえず排除しておつて、その間に本来の裁判を進めるという場合も相当あるかと存ぜられる次第であります、いずれにせよ、機宜な措置がとれるように、第三條の二項は規定されておるものと存じております。なお裁判所侮辱制裁法案自体が予定しておる事実は、裁判官の面前の明白な事実をもとにして考えておりますので、証拠調べとかなんとかいう規定はここにあるようでありますが、実際問題としてはそういうことはあまり予定しないで、現行犯的なものをぴしぴしやつて行くというのが、この制度趣旨であろうと思います。非常に重大な証拠をたくさん調べなければならぬというようなものは、むしろ審判妨害罪とかほかの方の制度によるべきものでありまして、この裁判所侮辱制裁制度というものは、非常に簡単明白なものをその場所でおきゆうをすえて行くというようなことを、ねらつておるのではないかと存ずるのでありま申す。
  59. 鍛冶良作

    鍛冶委員 たとえばこの間の広島のことなんか聞いておりますと、二百人くらい行つて騒いだでしよう。これはおそらく全部騒いだでしよう。そういう場合にそれができますか。
  60. 野木新一

    野木政府委員 そういう二百人も、全部裁判所において処分するのが適切であるかどうかという点は、やはりその具体的の場合における裁判官の判断にまかすよりいたしかたがないと存じますが、私の考えといたしましては、必ずしも二百人全部やる必要はないのじやないか、裁判官裁判長として法廷に臨んでおつて、その騒ぎの現場の空気におつて、現認して、特にこれはひどいと思う者を処罰するということで、おのずからその目的は達せられるのではないかとも存じますが、それはやはり具体的の事案々々によつて、異なつて来る問題ではないかと存ずる次第であります。
  61. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私はりくつよりか、実際においてその日にできない場合には、みな放してやらなければならぬが、それでよいかと言うのです。
  62. 野木新一

    野木政府委員 この裁判所侮辱制裁法案に盛られた、いわゆる裁判所侮辱に対する制裁は、第二條にありますように、百日以下の監置、五万円以下の過料という非常に範囲の狭いものでありますので、どれにどれだけの制裁を盛ろうかという点につきましては、裁判官は普通の刑事事件の刑を盛るというほど頭を悩ます点はないのではないかという点が一つと、侮辱にあたる行為自体が、裁判官が現認しておるその行為自体でありますから、これは証拠を集めるとかなんとかいろような、めんとうな問題も起りませんので、普通の刑事事件と違いまして、制裁を科する手続もずつと簡単でありまして、場合によつては二十四時間内に相当のことができるのではないかと存ずる次第であります。
  63. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第四條を見ますと、民事訴訟法による証拠調、べをするとありますが、これは反証をあげて、証人を呼んでやられるのでしようが、あなたのおつしやるような簡単なわけに行かぬよう思います。大勢の証人を呼んでやらんならぬと思います。これはりくつじやないので、実際問題ですから、とくとお互いに研究してみなければなりませんが、私は心配になりますから言うのです。
  64. 野木新一

    野木政府委員 第三條第二項は、御質問の点を中心にしてお答えしておりましたので、この趣旨が二十四時間内に何でもかでも裁判をしてしまわなければならないというように、強い意味におとりになられると、ちよつとこの趣旨に反するのではないかと存ずる次第であります。第三條第二項は、一応二十四時間内に何か裁判をすることが期待されるわけでありますが、文字自体といたしましては、二十四時間内に監置に処する裁判がなされないときには、ただちに裁判所はその拘束を解かなければならないということでありまして、特別の場合には一旦拘束を解いておいて、それから裁判するという場合もあり得ないわけではないのではないかと存ずる次第であります。もつとも実際の運用といたしましては、二十四時間以内に監置に処するのでなければ、その後になつて監置に処するということは、なかなかいたさないといいうようになるものとは存じますが、解釈としては、むしろそういう読み方になるのではないかと存ずる次第であります。第四條第二項におきまして、「民事訴訟法による証拠調の場合の例による。」という規定がありますのは、むしろ例外的の場合でありまして、実際問題としては、証拠調べを待つまでもなく、できる場合が大多数であろうと存じますが、場合によつてはおつしやるように、多少そこに問題が起り得る場合もありますので、その場合に処するために、第四條三項の規定が置かれているものと存ずる次第であります。
  65. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それはあとで話しましようこれはりくつじやないのですから……。  第五條ですが、ここに「地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所又はその裁判官の」とあるが、これはこういうことを列挙しなければならない必要がどこにあるのですか。「制裁を科する裁判に対しては」はいいと思いますが、これはどういう理由でここに列挙しなければならないのですか。
  66. 野木新一

    野木政府委員 御説のような表現にいたしますと、たとえば高等裁判所制裁を科する裁判をした。あるいは最高裁判所制裁を科する裁判をしたという場合の書き方が、非常に混雑いたして来ますので、五條第一項は、高等裁判所に対する抗告を定めたものでありまして、高等裁判所より下の裁判所をここに取上げる、そういうことにいたした次第であります。
  67. 鍛冶良作

    鍛冶委員 高等裁判所でそういうことが起つたらどうなるのですか。
  68. 野木新一

    野木政府委員 高等裁判所で起りました場合におきましては、第五條、第四項において、抗告ということでなく、異議の申立てをするということを一特に規定いたしてあるのであります。
  69. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もう一つだけ……。第七條の第七項を見ますと、「制裁を科する裁判をした裁判所は、制裁の執行の全部又は一部を免除することができる。」これはどういう場合なんですか。自分でやつたことを自分で言い渡しておきながら、免除するというのはどういうときにかようなことが行われるのですか。
  70. 野木新一

    野木政府委員 この第七條第七項の趣旨は、次のようなものだと存じます。すなわち裁判所侮辱その他の事実があつた場合、裁判所において制裁を科しますが、そのときの事情に基きまして、冷静に判断、裁判をするということになるといたしましても、その後制裁を受けた者が、非常に改俊の情を示すというようなこともありますし、その後事情もしんしやくして、もう本来制裁を科した目的が達せられたというような場合には、執行の全部または一部を免除することができるという、広い運用の余地を残しておいた方が、時宜に適する場合が多かろうという理由で、こういう立て方をなされたものと存ずる次第であります。
  71. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは何ですか、もう一ぺん調べなおしてやるのですか。それとも任意にいつでもやるのですか。
  72. 野木新一

    野木政府委員 第七條第七項は、別に何も制限がありませんので、裁判所はみずから職権的にやる場合もあると思いますが、当事者の職権の発動を促すような申立てに基いて行う場合もあろうかと存じます。その実際は、運用にまかせてある趣旨ではないかと存ずる次第であります。
  73. 鍛冶良作

    鍛冶委員 かよう規定がありますと、即時釈放の要求は絶えませんよ。勾留の決定をやつておいてさえ、即時釈放の要求を迫つて来ておるのですから、裁判官、なぜきさま釈放しないかという要求が出て参りますよ。
  74. 野木新一

    野木政府委員 ただいまの御質問は、まことにうがつた御質問でありまして、私どもも立案に際しましては、そういうような弊害の面が起り得るのではないかという点は大分議論してみたわけでありますが、しかしこの法案自体といたしましは、こういう規定を置いた方が、全体としての制度といたしては、よろしいのではないかという趣旨でこういう規定が設けられたものと存ずる次第であります。
  75. 山口好一

    山口(好)委員長代理 田万君。
  76. 田万廣文

    ○田万委員 私はあとでいろいろ詳しいことをお尋ねしたいと思いますが、ただいまお尋ねをしたいのは、この間岸さんから法廷闘争の実態というお話が、詳細にありました。また広島の地方裁判所所長、それからもう一人大阪の地裁の所長がお見えになつてお話がありました一相当いろいろうるさい法廷闘争の問題が出て来ておるようでありますが、その他の一連の法廷闘争といいますか、その行為自身において、共通しておる点がいろいろあろうと思いますが、その点おわかりでしたら、ひとつ聞かせていただきたい。
  77. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 やはりこの種の事例は、非常に各地に起つております。各地で起つておるにかかわらず、共通した要素を持つております。まず傍聴関係から申しますと、普通傍聴人が多過ぎるときは、裁判所が傍聴券を発行して傍聴人を整理いたすのでありますが、まずその傍聴人の入廷のところで大きな騒ぎをする。それから必ず、必ずと言つては語弊がありますが、これは大体論ですが、裁判が開かれたる前に、代表者数名が裁判官に執拗に面会を強制する。即時釈放しろというような要求をいたすのでありまして、これは手続上そういうことはとうていできないことなのですが、そういうことを強要して、そのために非常に開廷が遅れたり、あるいは裁判官の室に大勢人がなだれ込んで、ごたくごたするというよう現象があります。それから最近の広島や堺で起つたことは、必ずそれを指導しておる者があるのであります。それから非常に大勢の人を繰出して、デモ的な行動をとる。ときには旗等を持つておる。先般津の裁判所では、赤旗を十本立てて、そうして町を練つて、大勢の傍聴人が押しかけております。傍聴人全員を法廷に入れろというようなことで、ずいぶん無理な要求をしたということであります。しかもその赤旗十本のうち、三本の先の方はそいであつたということであります。大体外形的には、さような類似的な現象が現われております。
  78. 田万廣文

    ○田万委員 法廷の内部での共通点はどうですか。
  79. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 法廷内部におきましては、これはもうたいていそうでありますが、被告人の陳述と相呼応して、傍聴人から拍手あるいは激励の言葉が出る。それを制止してもなかなかやめない。それから裁判官に対する脅迫的な言葉を、被告人、傍聴人からしばしばなされます。最近は資格ある弁護士ですら、さようなことをいたす例があるということであります。それで訴訟手続というものは、言うまでもなく法の定める手続従つて、順序を追つてやるべきでありますが、しばしばそれを無視して、かつてなときに自分の発言を許してくれという主張が非常に多く、そのために手続の進行上いろいろな問題を起すのであります。これは多くの場合に、さよう現象が見られるのであります。
  80. 田万廣文

    ○田万委員 今のお話で、指導者があつて、そして多数を集合して、法廷秩序撹乱をやるというお話ですが、そうすると指導者というのは、大体どういうふうな関係の方なんでしようか。質問がぽうつとしてわかりにくいだろうと思いますが、はつきり言えば、思想的な背景、こういうものを持つた指導者ですか。あるいは事件自身に対する指導者なんですか。
  81. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 その指導者が、はたしてどういう人物かということは、はつきり確めたことがありませんけれども、とにかくそういう事件傍聴人というのは、その事件に、直接間接に非常に関心を持つた人たちであります。従いまして、指導者も、そういう人たちの中のだれかが、そういう役割を演じておるように思われます。
  82. 田万廣文

    ○田万委員 さつきのお話によると、全部じやないだろうけれども、赤旗を持つて来たとか、その先が三本ほどそいであつた。こういうふうなものは、あなたの方はどういうふうに考えておりますか。はつきりわからないのですか。
  83. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 大体共産党員がそういう赤旗を持つて来たり、それから最近の事例では、北鮮系の人たちが、北鮮旗をかつぎ出して来る。そういう状態であります。
  84. 田万廣文

    ○田万委員 とにかくいろいろ法廷闘争事件が、種類がかわつておるけれども、現在のところ背後関係については、確実なものはつかんでおらないというわけですか。そう承つていいわけですね。
  85. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 およそ想像はつきますけれども、その点については、特に確実なことを、裁判所としては調査する力も、権限りありません。
  86. 田万廣文

    ○田万委員 捜査する力も権限もないとおつしやいますが、やはり法廷秩序を維持する上においては、非常に重大な関係があるのではないか、当然あると私は考えます。従つてその筋の、いわゆる特審局ですか、そういうものがやつておるらしいが、そういうところと一連の関係を持つて法廷秩序維持のために、背後関係を調べるというよう手続をおとりになつたことはございませんか。裁判所としては、そのままほつたらかしておくのですか。
  87. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 さよう法廷闘争の、非常に激烈な激件は、それに派生して刑事事件が起ります。その面で検察官がいろいろ捜査しておるわけであります。
  88. 田万廣文

    ○田万委員 私はやはりこの法廷秩序維持の問題については、そういう結果が起らないために、こういう法律ができて行かなければならない。起きたものを処罰して行くということでは、ほんとう法律の精神というものは失われておるものと思う。従つて、ただいま御提案になつておる裁判所侮辱制裁法案というものは、罰するのが目的でなくて、なるべく法廷秩序が平穏裡に維持せられて行く、そして裁判所威信が確保せられるというところに、大きなねらいがなければならぬと思います。その意味からいつて、やはり原因をただして行くということは、裁判所としてひとつの大きな仕事ではないか。そうなると、それぞれの関係方面に実態調査を求めて、その根源をたずねて行くということが必要ではないか。それをうつちやらかしておられるということについて、こうかと思われる点があるので、お尋ねしたのです。それでさらにお尋ねしますが、今のお話では、刑事裁判で云々とか、裁判の上でそういうことがわかつて来るというようお話でありますが、裁判ではすでに遅いので、それは裁判をやらないうちに根源をなくして行くという意味からいつても、当然こういう法律の提案をなさる立場からいつても、さようなことが起らないために、それぞれの関係方面で十分調査をしてもらうように、裁判所としては、処置をとる必要があると思うが、いかがですか。
  89. 岸盛一

    岸最高裁判所説明員 それはまことにその通りであります。決して裁判所としては、それを放置しておるという意味のものではありません。事件によつて検察官の方に連絡して捜査をしてもらう、そういう態度をとつております。
  90. 田万廣文

    ○田万委員 だから、鍛冶委員からいろいろ逐條的なお話があつたのですが、私ここで聞いておりまして思うのは、第二條にいろいろ書いてあることは、それは急迫した場面に対する裁判所の処置として、裁判所侮辱制裁法というのがいるという意味じやないですか。法廷の内外において、裁判が行われ、その際に急迫した状態が、裁判所の審議に非常に妨害になる、それを排除するという意味で、この法律ができておるのじやないですか。
  91. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 この点私からお答え申し上げます。法律の解釈は他の方からお答えするだろうと思いますが、先ほど来鍛冶委員のおつしやる点に関連いたしまして、一体この法案自体の目的は、やはり法廷秩序維持ということが、その眼目なんです。すべて法廷秩序維持というものを度外視して事は考えられない。おつしやるように、裁判官の眼前でさよう法廷秩序を乱すよう行為があつた場合に、初めてこの法律効果が適用せられるというような場合も、実際の裁判の運営上においてはある、さよう意味考えております。これは鍛冶委員の仰せになつた、たとえば訴訟で命ずる手続を行わなかつた場合に、すぐこの問題にくつつけるかというようなことが議論される、これは前からも議論されておるところでございますが、実際のこの法律の運営は、われわれとしてはさようなことは考えておりません。たとえば証拠申請書を出さなかつたからそれは法廷侮辱罪になるということは、毛頭考えておりません。もしこの法律がさよう意味に解釈されるおそれがあるとすれば、ひとつ立法府において、十分御考究を願いたい、かよう考えております。
  92. 田万廣文

    ○田万委員 それからこの法案を見ると、裁判所威信を、第一條において保持して、それから第二條においては、「その他裁判所威信を害する行状」と、裁判所威信ということがしきりに出て来るのですが、裁判所威信というものはどんなものでございますか。ちよつとお示しを願いたい。第二條においては、「法廷又は法廷外で事件につき審判その他の手続をするに際し、その面前その他直接に知ることができる場所で、これを妨げ、その命じた事項を行わず、その執つた措置に従わず、その他裁判所威信を害する行状」として、くくりの言葉として裁判所威信ということが方々に出て来るのですが、これはどんな意味でございましよう裁判所の方から聞かしてもらいたい。わかつたようなわからぬようなことです。
  93. 野木新一

    野木政府委員 裁判所威信ということでございますが、これを分析して説明してみろと言われますと、なかなかむずかしい問題があるわけでございます。私どもが考えますのは、民主主義が維持され行くためには、国会で制定された法律権威が守られなければならないわけでありまして、その法律を具体的に宣明するのは裁判所であり、その裁判を行う機関が裁判所ということになるわけであります。従つて裁判所というものは民主主義を維持するための一番大きな柱になるのではないかと存ずる次第であります。ことに新憲法におきましては、旧憲法と異なりまして、裁判所の地位を一層高めまして、たとえば法律憲法に違反するかどうかというような点を最終的に決定する権限を與えておるような次第であります。すべて裁判所で一旦こうときまつたならば、国民は、いろいろの意見があつたとしても、それに従つて行くというのが、新憲法のもとにおける裁判制度の基本をなすものだと存ずる次第であります。従いまして、裁判所威信というものは、要するに法の威信というものと相表裏するものであろうと存じます。何と申しましようか、法律には何人も従わなければいかぬ。国家の最高機関たる国会で制定された法律には、何人も従わければならなない。従つてそれとうらはらで、裁判所裁判には何人も従わなければならない、そういうよう意味合いにおきまして、裁判所というものには、何人もいろいろの意見があつても服するという意味におきまして、その権威を保持しようという点に、憲法の精神があるものと存ずる次第であります。そういうよう意味合いにおきまして、裁判所威信というものは、なかなか言葉では分析して言い表わしにくいのでありますが、おのずからそこにその趣旨は現われて来るものと存ずる次第であります。
  94. 田万廣文

    ○田万委員 なかなか御答弁でいろいろ申されますけれども、言われば言われるほどわかつたようなわからないような気がして、これはむずかしい問題だと私も存じます。むしろお話を聞いておると、裁判所神聖不可侵というように伺えるふしが多いのです。そういうよう裁判所威信であつてはならないと私は思う。自然に国民から信頼される裁判所というものが、真の裁判所威信でなければならない。押しつけた威信ではなくしてほんとうに大衆から親しまれるところのものが、裁判所威信だと私どもは考える。そこに初めて裁判の神聖があり、裁判の信頼感があると私は考えるのですが、こういう問題は野木さんがおつしやつたように、分析して行くのはなかなかむずかしい問題です。従つてそういうむずかしい言葉で、わかつたようなわからないような文言を使われて、いたずらに裁判所威信を保持する御用法であると思われる印象を拂拭して、第二條なんかでも最後のくくりとして「その他裁判所威信を害する行状」の「その他」ということについてもいろいろ疑義があろうと思うのでありますが、これこれの行為すなわち裁判の公正を害するというようにくくつた方がどれだけ裁判所威信を高めるかわからないと私は考える。この点いかがでしようか。
  95. 野木新一

    野木政府委員 「裁判所威信を害する行状をした者」という点がくくりとして第二條に書いております趣旨は、これがないと、たとえば具体的のごく卑近な事実をあげますと、法廷においてはだ脱ぎになつたりあるいは何と申しましようか、そういうようなふうにいわゆる無作法な行状をするという場合なども抜けて来る場合があるのではないか、もつともその場合にははだ脱ぎを入れろという注意をすれば足りるのではないかという見解もあるとも存じますが、一応そういう場合も起り得ますので、また暴言を吐くなど、具体的の場合につきまして、いろいろニュアンスが生じまして、やはりこういうような包括の言葉を置かないと、具体的の場合に対して欠くるところがあるのではないかという点で、締めくくりとしてこれが置かれておるものと存ずる次第であります。
  96. 田万廣文

    ○田万委員 いろいろ詳しいことはあとで承りますが、ともかくこういう法律が出た場合には、その判断をなさるのは裁判官自身がするのであつて、その裁判官の知的判断能力においてもいろいろかわつて来る。ある裁判官はこれは法の威信を害する行状である、ある判事はそれはその程度に達しない行状であるというふうにかわつて来る。そういう不統一的な法文をここに盛るということはきわめて危険でもあり、また法として完成したものじやないと思う。野木さんのお話はいろいろ承つておると次から次と問題を提供してくれるようなことになるので、私はなるべく問題を少くして解釈したいと思つたけれども、聞けば聞くほど聞きたくなるような虫が起きて来るので、まあこの程度にいたしまして詳細は別の機会に譲ることにいたします。
  97. 山口好一

    山口(好)委員長代理 梨木作次郎
  98. 梨木作次郎

    ○梨木委員 私は、この裁判所侮辱制裁法というのは議員提出法になつておりますが、実質は法務府並びに裁判所側の立案したものであると見ております。それゆえに、こういうものを出して来るところの裁判所側の心構えというものと、法務府側の心構えというものに対して、非常な憤りを感じておる。きようは時間もありませんので、重要な点について二、三聞いておきたいと思います。  先ほど来同僚委員から質問が出ておりますが、裁判所威信を保持するためにこの裁判所侮辱制裁法を出しておるということが、非常に重要な目的になつておることは、第一條によつても明らかであります。では裁判所威信というものはどういうものかという質問に対しては、今野木政府委員はわけのわからぬことを言つておる。そうして法律権威を守るのだというようなことも言つております。もちろん裁判所威信というものは憲法法律を守つて行く、そういう形式的な面にもありましよう。その点も認めます。ではその一点からでも私は聞いて見ましよう。最高裁判所の田中長官はどんなことを言つておりますか。現在の日本憲法においては戰争を放棄しておる。それにもかかわらず、彼は全国の裁別宮に向つて、この憲法を否定し、世界は二つの陣営にわかれておる、もはや中立というものはない、正と不正、善と悪との間には中立的なものはないのだ、こういうことを言つて、二つの国際的な対立の中の一方——これははつきり言つておりませんが、明らかに彼の言つておるところから見まするならば、ソビエト同盟、中国、これらの共産主義あるいは民主主義諸国家、これを国際ギャングと呼んでおる。そうしてこれに対して最も勇敢に闘わなければならぬという趣旨のことを言つて、これを裁判官に呼びかけておる。このことは明らかに彼は憲法を否定し、裁判官でありながら——憲法の番人である最高の責任者でありながら、公然と「裁判所時報」や雑誌「法曹」というようなものに憲法の否定と、戦争を挑発し、戦争を鼓舞するような、こういうことを言つておるのだ。一体これで裁判威信というものを保てますか。この点をまず最高裁判所の事務総長から伺いたいのであります。
  99. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 田中長官が他の雑誌あるいは新聞等に書かれたものについては、私は今資料を持ち合せておりませんので、はつきりしたお答えはちよつとできませんし、また田中耕太郎氏が各種の雑誌に書かれたことについて、一々ここで御答弁、あるいは御説明申し上げることもどうかと思いますが、ただ一言申し上げておきたいことは、憲法を否定する、というようなことをおつしやつておられたが、私おそらくこのおつしやるのは最高裁判所の長官が裁判官会同において訓示されたときのものを御引用になつておるのじやないかと思います。私実はこういう問題は本日よく準備していなかつたからあるいは記憶違いかもわかりませんが、大体この長官の訓示というようなものは会同のあるたびごとにありまして、この訓示は大体裁判官会議にかけて、そうして裁判官会議の議決を経て訓示をしておる。従つて田中耕太郎自身意見ではありません。結局最高裁判所の訓示となるのであります。その中においては、ただいまおつしやつたよう憲法を否定するとか、戦争を挑発するというようなことはむろんなくて、むしろ憲法を守るためには裁判所が非常な責任があるぞ、ということを常に呼びかけておるのでございまして、従つて憲法を破壊するような行動をとる者に対しては、やはり裁判官として確固たる世界観を持たなければならない、かようなことは言われていると思いますが、決して憲法を否定するような言動はいたしておりません。
  100. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それでは具体的に証拠を出しましよう。今年の一月一日の「裁判所時報」に「新年の詞」と題して載つております。これは弁護士会におきましても大問題になつておりまして、最高裁判所長官の弾劾問題が出ております。これは有力なる弁護士の間においても大問題になつております。実に不謹慎な、軽率な、けしからぬ言動であるとして、非難の声が囂々と起つております。であなたは今そういうことをおつしやいますが、では私が読んで見ましよう。一番極端なところをあげて申します。「眼を国際社会に転ずるときに、同じ現象が見受けられるのである。ヒトラー、ムッソリーニ、東條の、軍国主義的極端な国家主義的禍害は取り除かれたが、似而非哲学、偽科学によつて粉飾されたところの、権力主義と独裁主義とその結果である人間の奴隷化においてナチズムやフアシズムに勝るとも劣らない赤色インペリアリズムは、その発祥の領域を越えて、世界制覇の野望を露骨にあらわし始めた。世界人類社会の危険が、これより重大深刻であつた時代は過去において存在しなかつたのである。」こう書きまして、「幸に、平和と自由を愛好する諸国家(民主々義諸国家)は、互に孤立せず相提携して、この共同の敵に」こういうことを言つておる。「この共同の敵に対する防衛に備える体勢を強化しつつある。これらの諸国は、国際連合の正統的な理念である平和主義と民主主義の忠実な使徒として、恐るべき国際的ギヤングの侵略を食ひ止めるために一致結束しつつある。朝鮮の戰乱は、これらの諸国が如何なる程度に国連の理念に忠実であるかを実証したのである。」中略で「もし現在の二つの世界の対立に直面して、なお中立の可能性を信じる者があるとするならば、その現実の情勢の認識の欠如に驚く外はない。さらにわれわれはその道徳的信念と勇気の欠如を批判せざるを得ない。」さらにその次には「わがインテリゲンチャの平和論や全面講和論くらい、その真理への不忠実と論理的無確信を暴露しているものはない。彼等の中のある者は、真理とか平和とかの抽象的な言辞によつて自己の主張を粉飾する。もし彼等が真に真理と平和に忠実ならば、共産主義者でない限り平和條約や安全保障條約に批判を加える前に、それ以上の熱意をもつてまず共産主義の理念及びこれを奉ずる国々の現実に批判を向けなければならぬはずである。」こういうようにいつて、まだ数え上げれば切りがありませんが、彼は要するに自分が反共理論を持つてつて——その反共的理論を持つのはよろしい、しかしこれを現実に裁判官会同における訓示としてこれをなし、これを「裁判所時報」に公表し、やつておる。こういうことは、今度自由党の諸君は破壊活動防止法というものをつくつて来ておりますが、それが通りますと、明らかにこれは宣伝、扇動、教唆、みんななります。これは明らかに戦争を宣伝したことになります。こういうような最高裁判所の長官の地位にあるものが——今日日本の真の独立と世界の平和を望むだれでもが、單に向米一辺倒の政策によつて日本国民が幸福になり、日本ほんとうの平和を守り通すことができるというようなことは絶対にできないと思う。日本の今当面しておる課題というものは、この二つの陣営の中で、いかにして日本が平和を守りながら、戦争に巻き込まれないで日本独立と経済的な繁栄を守つて行くかということに一番問題がある。そうだとするならば、自由党政府が結んだ単独講和と安全保障條約、行政協定、こういうものをみんなぶち破つて、破憶いたしまして、新たに全面講和を結ばない限りは、絶対に日本ほんとう独立と平和と繁栄というものは期待できないということは、良識ある国民の一致した見解である。しかるにこういう最高裁判所長官の地位にある者が、まつたく吉田政府の政策——このことは実質的にはアメリカの戦争政策であるが、これの片棒をかつぐようなこと、こういうよう議論、こういう思想を現実にこれを具体化して裁判官に訓辞しておる。一体こういう裁判所に対して——全面講和と平和を望み、日本の真の独立を望む人たちは、この裁判所裁判に信頼が持てますか。ここに一切の法廷におけるところのかかる植民地的な裁判に対する反抗と不満が起つて来るのは当然じやないか。これを、諸君は裁判所侮辱制裁法なんというものをつくつて、そうして裁判所威信を保持するのだ——では威信とはどういうものか。裁判所自体が憲法法律を破壊しているじやありませんか。こういうことをやつておいて、そうしてこれで裁判所威信を保持しようなどというような、しかも威信の保持とはどういうことかと説明を求めても、説明できないじやありませんか。いろいろなむずかしいもので、おのずからそこに威信というものが現われて来ますとかなんとかいつておる。裁判威信なんというものは、裁判所が独自に手前がつてに判断できるものではない。国民が真に、国民の生活と利益と幸福に合致したよう裁判、しかもそれが真実に合致した公平な裁判がなされるときに初めて、裁判所に対して尊敬の念を持つ、これが裁判威信となつて客観的に現われるのではありませんか。でありますから、まず私はここで最高裁判所の事務総長に伺いたいのでありますが、今、この裁判官会同におけるところの訓示というものは、裁判官会議によつて決定するのだ、こうおつしやつた。こうなれば最高裁判所裁判官全部がこういう思想を持つてこういう考え方で裁判をし、全国の裁判官がこういう裁判をすることを望んでおるということになつて、これはますます責任は重大であり、同時に日本裁判の実態というものを暴露しておると考えるのであります。一体こういうような訓示というものは、何を期待して裁判官にやるのですか。何を期待し、何を希望し、何のためにこういうものをやるのですか、まずこれを聞いておきたい。
  101. 山口好一

    山口(好)委員長代理 梨木君にちよつと御注意申し上げますが、この法案質疑ですから、相なるべくはこの法案に対する質疑を行つてください。
  102. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 梨木委員の国際問題についてのいろいろの御意見は、御意見として拝聴いたしましたが、別に田中耕太郎氏の意見に対してどうというわけではないのですが、ちよつと誤解なさつておるのではないかと思いますが、「裁判所時報」に出た年頭の祝辞というのは——裁判所時報」というものは、これは別に公的なものではありません。あるいは「法曹」かもわかりませんが、これもやはり裁判所の職員あるいは法務府の職員たちには多く購読はされておるが、しかし別に裁判所から出しておるものでもなければ法務府から出しておるものでもありません。さようなものに対する年頭の祝辞をおつしやつたのですから——多分これは「裁判所時報」だろうと思いますが、この祝辞というのは、従来よくある通り、ただ総理大臣あるいは議長あるいは最高裁判所長官というようなものが年頭のあいさつをされる。その中におそらく今のようなことを書いておられたのだろうと思いますが、しかしそれも一部分をお読み上げくださつていろいろ御非難れるようですが、これは裁判所に対する御非難でなくて、田中耕太郎氏に対する御非難のようでありまして、その点に対する弁明を申し上げることは、ちよつとここでは差控えたいと思います。
  103. 梨木作次郎

    ○梨木委員 私はまだ今の問題について非常にたくさんの質問をしなければならぬこともありまするが、きよう裁判所侮辱制裁法についてはこの程度にとどめまして、次に人権擁護局長に質問したいと思います。     —————————————
  104. 山口好一

    山口(好)委員長代理 次に人権擁護に関する件について調査を行います。発言の通告がありますからこれを許します。梨木作次郎君。
  105. 梨木作次郎

    ○梨木委員 五月二十三日の朝日新聞によりますると、札幌の地方裁判所に太田嘉四央君というのが今裁判にかけられておるのでありますが、この人が勾留中に——この事件の容疑というのは、白鳥警部に対する脅迫容疑で逮捕されておるのでありますが、もちろんわれわれの調査したところによると、本人は全然さような容疑事実に該当するようなことを行つておらないというのであります。ところが、本人は全然そういう容疑の事実について黙秘しておるということで、警察の方ではやつきになつて本人をして何とか容疑事実を自白させようとしておる。その前にちよつと申しまするが、何が白鳥警部あて、あるいは白鳥警部の内妻あて、内縁の妻でしよう、あるいは塩谷検事あて、あるいは塩谷検事夫人あてのこれらの書面の中の文字に、太田嘉四夫君の字に似たような字が一つ、二つあるというのであります。そこでこれを鑑定にかけておる。ところが鑑定人は、何といいますか、結局われわれの判断では、検察庁側の要望に良心を堅持しながらは答えることができないというようなところからだろうと思いますが、第一の鑑定人は神経衰弱になつてしまつた。そのために東京の方にただいま第二の鑑定を求めておる、こういうことであります。ところで本人の方から自白が得られないので、こういうことをやつておるというのであります。イソミタールという注射を使つて、太田嘉四夫君の黙祕を破ろうとしている、こういう事実があるのであります。これが今申しました五月二十三日の朝日新聞に「自白強制に麻薬か札幌医者、警官の依頼断る」という見出しで出ております。われわれの調査したところによりますと、五月十八日札幌市南十五條西十五丁目花園精神病院を警部と警部補の名刺を持つた二人の男が尋ねて来て太田にイソミタールを注射したいというのだが跡が残ると困るからその処置を教えてもらいたい、こういう申出をしたというのであります。朝日新聞に載つておりますが、氏家不二雄という博士であります。ところでこの氏家博士は人道上許しがたいといつてつておるのであります。科学者の語るところによりますと、このイソミタールという注射をいたしますと、何でもぺらぺらしやべり出すのだそうであります。そこで精神病の医者たちも人道上使わないことにしておるそうであります。警察はそのことを十分知つておるはずなのです。第二次大戦中にもナチスがこういうことをやつた例があるそうであります。われわれの調査では事実相違ない思つておるのでありますが、これが事実であるといたしますならば、これはまつたく重大な人権蹂躙であります。この点についてはすでに新聞にも出ておりますから、人権擁護の責任を持つておられる人権擁護局においては、この新聞記事に基いて調査されたことがあるかどうか、またこの点については関係者から裁判所に厳重な抗議を行つておるのでありまして、この点についても何かの情報を得られておるかどうか、これをまず第一に伺いたいと思います。
  106. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいまお尋ねの点については、目下調査しております。現地の札幌法務局においてもすでに調査しておりますけれども再度私の方からも至急調査するようにということを指示いたしております。従つて調査がまだ確定しておりませんので、新聞の報ずるような事実があるかどうかということに対しては、即答申し上げかねるのでございますが、もし自白を強制するためにこうしたイソミタールと申しますか、麻薬を使つたといたしますならば、これは人権擁護上まことに遺憾であることは申し上げるまでもありません。御承知のごとく憲法によつて拷問や何かをしてはいかぬということが明らかに規定されております。刑事訴訟法においても、自白を強制させないために黙秘権というものを認めております。そうした見地から、こうしたことが事実行われたとすれば、これは人権擁護上許されないことだと思うのでございます。本件で気をつけなければならぬことは、これはまだ実際には使つておりませんことと、はたしてこれをどういう目的のために使おうとしたかということも、まだ明確でございませんので、十分調査をいたしたいと思つております。
  107. 梨木作次郎

    ○梨木委員 いやしくも警察官がこういうことを医者に相談に行つておること自体に、私は非常な問題があると思うのであります。具体的に太田嘉四夫君にこのことをやつたかどうか、このことは非常に重大でありますが、警察官がこのようなことを考えておるということ、相談に行つておるということ自体に、一般国民は人権侵害の恐怖を受けることは事実であります。だからこの点につきましては、この太田嘉四夫君にごの事実がつたかどうかということと、さらにこの相談に行つておるかどうかということ、医者の氏家不二雄博士のところへどういう警官が行つてどのようなことを話しかけたかということを、ぜひ調べて報告を願いたいと思うのであります。  それから第二は、この太田嘉四夫君につきましては、まことにふらちなものでありまして、これは五つの容疑で逮捕されておるのです。それは先ほど申し上げました白鳥警部あての面書、第二は白鳥の内妻あての書面、第三は塩谷検事あての書面、第四は塩谷夫人あての書面、第五に塩谷検事あてのもう一つの書面、この五つの嫌疑で逮捕されておるのであります。これで調べておきまして、第一の白鳥警部あての書面で起訴になりまして、保釈の申請をしたら旦保釈で出して、さらにまた再逮捕しておる。その理由を聞きますと、第一、第三、第四、第五まである。これはまだ調べができてないから逮捕するのだということで、お前さんは保釈になつたつて、第二から第五まで調べるにはまた二箇月ぐらいはいくらでも逮捕してみせる、こういうことを言つておるのであります。私はこういうことが許されるならば、いくらでも嫌疑をつくつて、そしてほとんど無期限に人身を拘束するようなことと相なりまして、これまた非常に重大な人権蹂躙であると思うのでありますが、あなたのそういう捜査の仕方についての考えと、それからもう一には、そういう五つの容疑事実で逮捕しておいて、その期間に調べられないものをわざとあとに残しておくような形において、さらに第二の逮捕、第三の逮捕をするというやり方、これは明らかに人権の蹂躙であり、法定の期間内に起訴の証拠を収集し得ないような薄弱な事実に基いて逮捕、勾留するという事態はきわめて不当であると私は思うのですが、その点についての見解を伺つておきたいと思います。
  108. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいまの太田嘉四夫の事件につきましては、私の方では実はまだ事実を知つておりませんので、これまた正確なお答えはいたしかねます。しかし勾留は不必要にいたしていかぬことはもちろんでありますし、すでに保釈された者をさらに逮捕する場合も、それ相応の理由がなければならぬと思つております。できる限り人身の拘束は避くるべきであることは、人権擁護上最も必要であります。ただ犯罪の捜査上、他にまた別の理由があるというために逮捕することは、これまたやむを得ない場合もあるかと存じますが、ただ不必要に故意に入身を拘束する、再三逮捕するということは、人権擁護上慎まなければならぬことだと存じます。本件につきましては、私の方では事実を全然知りませんので、従つて正確なお答えは今のところいたしかねます。
  109. 梨木作次郎

    ○梨木委員 その点について岡原検務局長に、それはどうなつておるか、伺つておきたいと思います。
  110. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 実は本日参議院の法務委員会からこちらに直接参りましたので、資料を手元に持つておりませんので、正確なことはいずれ後刻調査の上お答えいたしたいと思いますが、ただ法律的な取扱いといたしましては、ただいま人権擁護局長から御答弁のありました通りで、原則として、私どもといたしましては不当なる逮捕あるいは勾留は慎しむべきである。但し新たなる事実専守が発生した場合には、これはやむを得ない場合もあり得るというふうな法律解釈で進んでおります。  なおちよつと今の問題と離れますけれども、先ほどの問題に関連いたしまして、私の方に簡単な報告が参つております。ちよつと御紹介いたします。それによりますと、梨木さんからもお話のありました通り、国警の札幌方面隊及び札幌市警の警察官、お話の通り警部と警察補であるそうでありますが、それが花園病院忙参りまして、お医者さんにイソミタールという新薬の施療方法等について、話をした事実がございます。但し実際にその注射を依頼したような、あるいは施行したような事実はありません。なおこういうことに基きまして、二十二日に杉之原弁護人及び学生約四十人が裁判所及び札幌の検察庁にそれらの事情を確めに来たのでございます。そこで裁判所としても、事実がわからないし、検察庁としても初耳のことで、事実を十分調査した上、回答するということを約して、帰つてもらつたのだそうです。さつそく検察庁から検事二名を派しまして、事実の調査に当りました結果、ただいまの事実並びにさようなことをやるについて、警察の首脳部も全然知らなかつたというようなことで、右の事実が明らかになりましたので、世人の誤解を解くために、二十三日の正午その旨学生側に回答するとともに新聞にも発表した。なお詳細については、調査の上報告の予定であるというような、簡単でありますが、報告が参つております。御紹介いたします。
  111. 梨木作次郎

    ○梨木委員 最近刑事訴訟法の改悪に関連いたしまして、黙祕権の問題が論議されておりますが、今警察のやり方を見ておりますと、自己に不利益な供述をしないという、この黙祕しておる容疑者に対しまして、弁護人の面会、差入れ、それから保釈、こういう問題について非常に不利益な扱いをしております。このことは私は明らかに憲法違反であり、人権侵害であると思う。なぜならば黙秘権を行使しておることによりまして、弁護人との面会、交通、差入れ、保釈の権利について不利益な扱いをされますならば、結局はこの黙祕権の行使ということが自由にできないということになつて結局は圧迫を受け、事実上はこれを空文化して行くということになるわけです。でありますから黙祕しておる人に対しても、しやべつておる人に対しても、同じような扱い方をしない限りは、これは憲法上の黙祕権の行使を実際は侵害しておるということになると私は思う。この点について人権擁護局長は、そういう差別扱いというものは憲法上許されないと思うが、あなたのお考えはどうかということを伺つておきたい。
  112. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいまの御質問にお答えいたします。もちろん憲法国民は法のもとに平等であることを規定いたしております。黙祕しておるから、あるいは事実を認めておるからということによつて差別をつけるべきものでないことは御説の通りであります。ただいろいろ捜査あるいは証拠等の関係から、あるいは書面あるいは弁護士の面会等にも交通に多少支障があることはこれはやむを得ない場合もあるかと存じます。人権擁護上非常にむずかしい問題でありまして、裁判あるいは捜査と個への自由の問題、この調和は非常にむずかしいので、具体的の場合でなければ、一概にただちに申上げかねるのであります。ただ先ほど申し上げたように、黙秘しておる者とあるいは認めておる者との間におきまして、黙しておるからというだけのことで差別をつけるということは、憲法規定された法のもとに平等であるということの趣旨に反すると思います。
  113. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 ただいまの御質問ごもつともでありますので、私の方としても従来さようなことのなかちぬことを期しておつたのであります。たまたまおそらく御指摘のは最近の騒擾事件に関連してのことだろうと思いますが、何百名と一時に入りますと、従来はたとえばそこの拘置所なら拘置所に、黙祕しておる者が三名か五名でありますと、大体、この弁護人がをたずねになつたのはこの人だろうということで取扱いができるのであります。何百各ということになりまして、そのうち百名なり二百名というものが黙祕しておるといたしますれば、その際たとえば逮捕状には丸顔の二十何歳くらいの男ということが書いてあるだけであります。弁護士さんの方でおたずねになつても、ちよつと住所を申すわけにも参るまいと思います。そうすると結局丸顔の男二十何歳くらいでは特定いたしかねる。拘置所の方としても、それでは結局取扱い上困るということで、何か特定する事項がないだろうかというので、実は現地の拘置所等も困つておるようでございます。で実際問題としてたとえば監房の番号とかあるいは被疑者の番号などを弁護人の依頼の手紙に書いてありますれば、どこどこかの警察署から来た何番の男というふうにやれば、面会、差入れ等についても問題はないのであります。本人はそれさえも隠しておるのでありますから、つい連絡がとれない、さようなことになるのじやないかと思います。ちよつと実情を申し上げます。
  114. 梨木作次郎

    ○梨木委員 これは今度のメーデーの騒擾事件ではこれが非常にたくさん問題になつておりますが、それだけではなくして、実は監房の番号でやるということについて監房の番号を教えてくれない。これに問題があるわけで、これは内部的なことだからということでなかなか整えてくれない。このために非常に面会ができなくて弁護士と交渉ができないという問題が起つて来る。これは具体的な問題に入つて、もう少し時間をさいて、いろいろこれらの検察庁、法務府側の方針をただしておきたいと思うのでありますが、きよう伺いたいのは、今度のメーデーのいわゆる騒擾事件におきまして、少年が相当逮捕また起訴されたと、きのうかおとといの新聞に出ておりましたが、これは今の少年犯罪についての扱い方から申しますと、これはまず家庭裁判所へ持つて行くというのが順序であると思うのでありますが、これをさような扱い方をしないで、なぜすぐ起訴して通常の刑事裁判所へ持つて行くというようなやり方をやつておりますか。この点は少年保護の立場からも重大な問題であると思うのですが、人権擁護局長と検務局長の両方から、その点についてのいきさつと、それに対する見解を伺いたいと思います。
  115. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいまのメーデー騒擾事件の起訴に関する取扱いにつきましては、私は承知いたしておりませんが、御承知の少年法の規定によつて、少年の事件につきましては家庭裁判所事件を送致いたします。家庭裁判がこれは起訴する必要があると考えますと、これをさらに検察庁に逆送して来るということになつております。従つて実際の取扱いもさようにされていると私は承知いたします。
  116. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 具体的に少年が何名起訴されたか、あるいはどういう手続に基いて起訴されたかということについての報告がまだ参つておりませんので、私存じておりませんが、この点もいずれ調査の上正確なところをお答えいたしたいと思います。
  117. 梨木作次郎

    ○梨木委員 新聞の報道に誤りがないといたしますならば、すでに少年が四名起訴されたと読売新聞の夕刊に載つておりますし、現に相当数の少年が逮捕されておることは事実であります。これを今のように少年法に基いて家庭裁判所へ送らないでやつておるということは、非常に不当であると思うので、この点はさつそく調査いたしまして、法律に従つた処置をとつていただきたいと思うのであります。これはひとつぜひともお願いしたいと思います。  もう一つは、今メーデー騒擾事件で起訴された者、それから現に、逮捕して勾留中の者が何名になつておるのか。それから所属団体、たとえば労働組合が何名、政党員が何名、学生が何名という分類別の御報告を願いたいと思うのであります。
  118. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 その点も実はあいにく手元に資料がございませんが、検挙しましたのが約九百五、六十名ではなかつたかと思います。それから送致されたのがその大半であつた思います。それから勾留状が出ましたのは、今正確な数は存じませんが、身分別、年齢別は大体できておりますが、ただいま黙秘しておる者がございますので、身分、あるいは年齢、職業等について多少不正確なものがございます。わかつておる者のうち、たしか学生が百二十名くらいあつたのではないかと思いますが、これもいずれ詳細に数字をもつて最近の資料を御説明いたしたいと思います。
  119. 梨木作次郎

    ○梨木委員 それをぜひとも資料で御報告願いたいと思うのでありますが、今の捜査段階は、大体これで捜査が打切られておるのか。第一次の起訴ということで五十何名か起訴されておるのでありますが、この程度なのか、それとももつと起訴がふえるのか。それから今逮捕しておる九百数十名のうちで起訴される可能性のある者、そういう点についてわかつておる点を御報告願いたいと思います。
  120. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 現在までに起訴されましたのが約五十名でございますが、あと何名くらい起訴されるかは、実は捜査中でありますので、捜査の完了を待つて検察庁が決定することだろうと存じます。なお今後新たに逮捕する者がふえるかどうかの点につきましても、今まで調べておる者から重要なる事件関係者等が出て参るかどうかによるのでございまして、私は今この段階において予言はいたしかねるのであります。
  121. 梨木作次郎

    ○梨木委員 もう一点伺います。われわれが得た情報によりますとこのメーデーのいわゆる騒擾事件に対しまして、検察庁並びに警察の捜査のやり方はどういうことになつておるかと申しますと、実際は労働組合の中の活動的な分子につきまして、いろいろな聞込みをやる。これは実は会社や使用者側の職制を使つていろいろな捜査をやつて、何かそこへ行つたということだけでまず逮捕する。ひどいのになりますと、労働組合の執行委員長や、あるいは組合の執行部全部を逮捕している。こういう乱暴なことをやりまして、事実上はごのメーテ騒擾事件を労働組合の組織を破壊し、労働組合員を強圧する口実に使つておる。この点に対しまして非常な憤激が労働者や市民の間から起つております。かようなことは明らかに捜査の段階を逸脱いたしまして、それを理由に労働組合の活動に対する政治的な圧迫、弾圧となつて現われて来ているものであり、これは許しがたいことであると考えますが、この点についてあなたの方ではどういう捜査方法を進めておるのかわかりませんが、警察の方ではさようなことをやつております。この点についてのあなたの見解を聞きたいと思います。
  122. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 正常なる労働組合運動につきましては、私どもこれを助長する方針でございまして、決してこれを弾圧する方針はとつておりません。これ具体的にいろいろな事件を通してごらんになればおわかりだと思います。ただ御指摘は、ただいまの実際問題として労働組合の幹部諸君が検挙されているではないかというお話でございますが、中にはさような事実があるかとも存じます。と申しますのは、いろいろ事件を調べて参りまして、たとえばだれとだれとが行つたと、現場でつかまつた者が口を割るといたします。そういたしますると、現場に行つたことによりまして、刑法第百六條の附和随行の犯罪が成立いたしますので、それに対して身柄の逮捕が行われたということではないかと思います。またそれが特に幹部級だけをねらつたのか、あるいは実際にはほかにもあつたのか、その点は個々の事件を見なければ私にはわかりませんけれども、少くとも捜査方針としては、労働組合の幹部諸君だから何もやらぬのにひつぱる、そして労働組合運動をこれによつてチェックしてやろうというような意図はなかつたものと私は確信いたしております。
  123. 梨木作次郎

    ○梨木委員 検察庁はそれくらいに考えておられるかもしれませんが、警察は実際そういうことをやつておりますので、この点は具体的の事実をあげてもう少し質問いたしたいと思います。  次に伺いますが、あの事件で殺されました高橋正夫君の死体の解剖、これがいまだに公表されません。これは解剖に立会つた弁護人からの報告によりますと、明らかにうしろの方からピストルをぶつぱなしておる。警察側から言えばあの射殺は正当防衛だと言つておりますが、うしろからピストルをぶつぱなす正当防衛というものはあり得ようはずがありません。でありますから、これは一体どうして検察庁の方ではこの高橋正夫君の死体解剖の結果を発表しないのか。検察庁側でほんとうに正当防衛だというなら堂々と発表したらよろしい。この点について見解を聞きたい。
  124. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 高橋正夫という人が死にまして、その死体の検視に検察庁から検事が参りました。ただいまお話の通りたしか青柳さんだと思いましたが立ち会つておられます。そこでその事件関係につきましても騒擾の一連の関係として捜査を続行しているわけでございますが、ただ今手元に資料がございませんので鑑定書ができて発表しないのか、あるいはまだ鑑定書ができておらないのか、鑑定の結果が検察庁に連絡があるのかないのか、その辺わからないので確然とは申し上げかねますけれども、さような点について国民の一人たりとも疑惑を持つということは穏やかならぬことであり、もしまた事件としてこれが正当防衛にあらざるものとすればどうしても処罰するのが当然でございます。そこでそれらの点につきましては十分調査を遂げた上でしかるべき機会にお答えいたしたいと思います。
  125. 梨木作次郎

    ○梨木委員 さらに近藤巨士君という法政大学の学生が病院に入院して重傷のためにほとんど瀕死の状態であつた。その瀕死の状態の中で約四時間にわたつて警官が尋問を行う、その間治療を施すことができなかつた、このために死亡しているのであります。従つてこういうことは明らかに人権蹂躙でありまして、これは故意があれば殺人であります。この点につきまして近藤巨士君を調べた警察官がだれとだれとだれで、どういう経過で死んで行つているか。これはもう私は重大なことであると思う。この点につきましてはまず人権擁護局長から、瀕死の重病人を、医者の方ではそういう尋問に耐えられないということを言つているにもかかわらず、これを聞かないで尋問するということは許されるかどうか、人権擁護の立場から御意見を聞きたいと思う。
  126. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいまの事件は私の方では調べておりません。私承知いたしておりませんが、ただいまの質問によりますと瀕死の重傷である、それを長時間にわたつて調べた。かりにさように仮定いたしておきますと、瀕死の重傷にある者を長時間にわたつて取調べを強行するということは、人権を尊重するという立場からあまり適当な取調べ方ではないと思います。ただ今のメーデーの近藤という人の事件につきましては、はたしてさようなことがあつたかどうか私はわかりませんが、今申し上げたようにもうだれが見てもこれは重傷で死に近いのだ、あぶないんだというような者を長時間にわたつて調べるというようなことは、人権を擁護する立場から決して適当な調べ方ではない、かよう思います。
  127. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 ただいま人権擁護局長からお話がありました通りであります。われわれの方といたしましても証拠保全のための捜査とそれから瀕死の際の医療の手当、そのどちらを先にするかどちらをあとにするか、その先後の問題につきましては、現地の適当なる判断を期待している次第でございます。その妥当ならざりし場合にはいろいろ問題が起り得る、かよう考えております。
  128. 梨木作次郎

    ○梨木委員 高橋正夫君、近藤巨士君のこれは顯着な事実でありまして、国民は非常に憤激しております。これは一日本国内の問題だけではなくて、かようなひどい人権蹂躙というものはすでに国際的にも知られております。世界民主法律家協会の人たちもこういうものには重大な関心を寄せて来ております。でありますからこの点については人権擁護局並びに検察庁においても、この事実の真相というものは——これはあなたならあなたが隠そうといたしましても、人民の手によつて明らかにされるものであります。あなた方が隠せば隠すほどあなた方が不利な立場になると思う。私はこの点におきましてやはり真相を十分明らかに国会に報告してもらいたいと思うのであります。  それからさらに聞きたいのでありますが、一体五月の一日に国民広場に、あれは皇居前広場と政府は言つており、まするが、ここに行くというそのこと自体が何か犯罪だというよう考えを検察側は持つているのかどうか。憲法上示威行進をするということは国民の保障された権利、特に勤労者に対しての基本的な人権として保障されているのでありますが、ここにデモ行進をするということ自体は、これは私は断じて犯罪視さるべきものでないと思いますが、ここに行つたこと自体が一つの犯罪だというような見解をとつて捜査を進めているのかどうかを聞きたいと思います。
  129. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 たしか東京都條例でデモをやる場合には道筋それから集合人員その他の許可を受けるという規定があつた思います。たしか日比谷公園で解散するという予定でございますから、それから先は無許可デモということに相なるのじやないかと思います。
  130. 梨木作次郎

    ○梨木委員 デモ行進についてあらかじめその道筋について許可を受けるというような公安條例、これは明らかに憲法で保障された団体行動の自由に対する重大な制限であります。この点については検察庁も御承知ように、京都地方裁判所におきましてはこれは憲法違反であるという見解を表明しているのであります。こういうことが明らかにされている現状におきまして、しかも特にああいう場合におきましてすでに都の公安條例というものは憲法違反ということの裁判所側の判断が示され、もちろんそれは最高裁判所の最終的な決定でないにしろさよう裁判もある今日におきまして、これを公安條例一本でさような行進を犯罪祝して取締るということ自体の中に非常に混乱を起して来る原因があると思うのでおりますが、この取締りについて、京都地方裁判所の公安條例の憲法違反の判決について検察庁はどのような関心を拂つているか。今後の取締りの上についてもどういう程度の考慮を拂つてつているのか、これを伺いたいと思う。
  131. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 お話の通り京都の、あれは円山事件でございましたかに関する第一審の判決の理由書の一部に、京都の公安條例が憲法違反であるという点に触れたのがございます。但しこの考につきましては、梨木さんもただいまお話の通りいまだ最高裁判所の最終的な結論が出ておりません。たしか目下大阪において二審で審理中のはずでございます。検察庁といたしましては一応さような京都の件につきましては違憲の点のない、つまり合憲の公安條例であるという建前のもとに控訴しているのでございますが、なおその他の各地方においてはいまださようなことがあまり問題になつておりませんので、とりあえずわれわれとしては合憲の條例であるさような取扱いのもとにやつている次第でございます。
  132. 山口好一

    山口(好)委員長代理 他に御発言はありませんか。他に御発言がなければ本日はこの程度にとどめておきます。次会は来る二十八日水曜日午前十一時より開会することにいたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後一時三十八分散会