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1952-04-24 第13回国会 衆議院 法務委員会 第41号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年四月二十四日(木曜日)     午前十一時四十九分開議  出席委員    委員長 佐瀬 昌三君    理事 鍛冶 良作君 理事 田嶋 好文君    理事 山口 好一君 理事 鈴木 義男君       安部 俊吾君    角田 幸吉君       北川 定務君    高橋 英吉君       花村 四郎君    古島 義英君       松木  弘君    眞鍋  勝君       川崎 秀二君    吉田  安君       加藤  充君    田中 堯平君       猪俣 浩三君    世耕 弘一君       佐竹 晴記君  出席国務大臣         法 務 総 裁 木村篤太郎君  出席政府委員         法務政務次官  龍野喜一郎君         法制意見長官  佐藤 達夫君         検     事         (法務法制意         見第一局長)  高辻 正巳君         刑 政 長 官 清原 邦一君         検     事         (法務特別審         査局長)    吉河 光貞君  委員外出席者         検     事         (法務特別審         査局次長)   關   之君         検     事         (法務特別審         査局次長)   吉橋 敏雄君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 四月二十三日  委員山崎岩男辞任につき、その補欠として古  島義英君が議長の指名委員に選任された。 同月二十四日  委員大西正男君及び石川金次郎辞任につき、  その補欠として川崎秀二君及び鈴木義男君が議  長の指名委員に選任された。 同日  理事北川定務君、押谷富三君及び田万廣文君の  補欠として鍛冶良作君、山口好一君及び鈴木義  男君が理事に当選した。     ――――――――――――― 四月二十三日  破壞活動防止法案反対陳情書  (第一四  〇二号)  同(第一  四〇三号)  同(第一  四〇四号)  同  (第一四〇五号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  理事の互選  破壞活動防止法案内閣提出第一七〇号)  公安調査庁設置法案内閣提出第一七一号)  公安審査委員会設置法案内閣提出第一七二  号)     ―――――――――――――
  2. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより会議を開きます。  この際理事辞任並びに理事補欠選任についてお諮りいたします。本日理事北川定務君より理事辞任の申出がありましたがこれを許すに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議なしと認めます。よつて同君理事辞任の件は許可することに決しました。  次に理事補欠選任についてお諮りいたします。三月三十一日に理事押谷富三君が委員辞任せられましたので、その補欠、また去る二十二日に理事の田万廣文君が委員辞任せられましたのでその補欠、並びにただいま理事辞任を許可いたしました北川君の補欠と、都合三名の理事補欠選任を行わなければなりませんが、これは先例によりまして委員長において御指名いたしたいと思いますが、これに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議なしと認めます。よつて鍛冶良作君、山口好一君、鈴木義男君を理事指名いたします。     —————————————
  5. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより破壞活動防止法案公安調査庁設置法案公安審査委員会設置法案、以上三案を一括議題といたしまして、審査に入ります。審査に入るに際しまして委員長より一言申し上げます。本日より審査に入りますこの三法案は、その必要性有無あるいはまた憲法国民の自由、基本的人権言論勤労者団結権等に重大なる関係を有し、これが憲法違反ではないかというような論議もあるようであります。また特に祖国独立後における治安問題を顧慮しますときは、内外の重大なる関心を寄せられておる向きもあるのであります。従つてこの歴史的な法案に対し、各党一致し本委員会においては愼重審議を進めたいと存じます。なおまた政府委員も十分ここに思いをいたし、その質疑応答資料提供等において十分なる協力を要望する次第であります。  それでは政府提案理由説明を求めます。法務総裁木村篤太郎君。
  6. 木村篤太郎

    木村国務大臣 破壞活動防止法案につきましては、さきに本会議の席上提案理由説明いたしたのでありますが、さらに当委員会におきましても、その提案理由説明いたしたいと思います。  今やわが国は、平和條約の発効を目前に控えまして、民主国家として世界の期待に沿い得るよう全力を傾注する要あるは申すまでもないところであります。政府におきましてもかねて国民の自由と人権の擁護に努め、これを基調といたしまして、民主主義育成強化をはかつて参りましたが、今後ともこの態度を堅持し、いよいよその健全な発達のため邁進する所存であります。  しかるに現下国内治安状況を顧みまするに、御承知のごとくあるいは集団暴力により、またあるいはゲリラ戰法により、警察及び税務署等を襲撃して、放火殺傷等犯罪をあえてする暴力主義的破壞活動がひんぴんとして各地に行われているのであります。しかもこれらの破壞活動の背後には、憲法及びそのもとに成立いたしました政府武裝暴動によつて転覆することの正当性を主張し、またはその準備的訓練として暴力行使を扇動する不穏な文書が組織的に配付されているのであります。かかる事実に徴するとき、これら運の事犯は、広汎かつ秘密な団体組織によつて指導推進されている疑いを深めざるを得ないのであります。およそ世界いずれの民主国家におきましても、自由権濫用し、団体組織により、国家社会基本秩序を破壞せんとするがごとき行為は、最も悪質かつ危險なものとして、刑罰または行政措置によつて結社禁止解散をなし得る等、所要法的措置を講じている現状であります。しかるにわが国におきましては、現行刑法その他の刑罰法令はいずれも個人犯罪行為対象とするものでありまして、破壞活動をあえてした団体に対しては、たといその団体自体がいかに危險なものであつても、手をこまねいて傍観せざるを得ないので、治安確保法令に警戒すべき空白状態が生じているのであります。かかる理由からいたしまして、今日この種破壞活動危險を防止するための最小限度立法が当面喫緊の課題となるのであります。すなわちこの法案は、この要請にこたえまして、まず暴力主義的破壞活動行つた団体に対し、行政措置をもつて所要規制を行い得るものとしたのであります。これはこの種破壞活動危險を防止するには、その活動がよつて行われる組織自体規制することが、何よりも必要かつ有効であるからであります。  次にこの法案は、暴力主義的破壞活動に関して若干の罰則を補整することとしたのであります。それはかかる破壞活動のうち、実害的行為はすべて刑法等により処罰されておりますが、その予備陰謀教唆扇動等行為は、現下事態にかんがみますとききわめて危險行為であるにもかかわらず、現行刑法規定をもつてしては、決して十分ではないからであります。  申すまでもなく民主政治は、国民の公正な論議の自由を基礎として成立するものでありますから、いやしくも集団暴力を手段として政治目的を貫徹せんとするがごときは、民主政治基礎を破壞し去るものでありまして、断じて許すべからざるところであります。従つてかかる破壞活動危險を防止することこそ、すなわち民主主義を擁護するゆえんでありまして、これがため必要最小限度法的措置を講ずることは、日本国憲法精神に合致するものと確信する次等であります。  これを要しまするに、本法案目的は、もつぱら団体組織により国家社公基本秩序を破壞する暴力活動危險を防止することにありまして、およそ自由権の正常な行使や、労働組合運動その他公正な団体活動が本法による取締りの対象となるがごときは、とうてい想像し得ないところでありまして、むしろかえつてかかる暴力活動を排除することによつて、その健全な発達に寄與するものと固く信ずるところであります。  よつてこの法案におきましては、正常な自由権行使を阻害しないよう、また規制が公正かつ民主的に行われることを方針といたしまして、調査及び規制処分請求をなす機関と、その審査決定をなす機関とを分離して権力の集中を避け、後者に準司法的な独立性を付與して、その判断の自由と公正を担保し、また当該団体に十分な意見弁解を述べる機会を與える等法案全体を通じまして、常にその運用が本来の目的を実現し得るよう愼重な考慮を払つたのであります。  以上が、この法案を提出した理由であります。  次に公安調査庁設置法案提案理由を御説明申し上げます。政府におきましては平和條約の効力発生後の事態にかんがみまして別に破壞活動防止法案と本案を国会に提出いたしまして、ただいま御審議を願わんとしておるのでありますが、同法案において、いわゆる破壞的団体に関する調査及び処分請求事務を所掌せしめる機関として、公安調査庁を設置すべきことが要請されておるのでありまして、これが同法案に関連して本法案を提出する理由であります。すなわち本法案におきましては、公安調査庁の任務、権限内部部局研修機関及び職員等について所要規定を設けておりますが、以下簡單にその概略説明を申し上げます。  公安調査庁は、これを法務府の外局として設置することとし、一般国家行政組織法上の権限のほか、破壞的団体規制に関する調査と、これに対する処分請求等権限行使せしめんとするものであります。  内部部局としては、総務及び調査一、二部の三部を置き、長官及び次長一人の監督のもとに、それぞれの事務を分掌せしめることとし、またその職務の性質にかんがみ、職員の資質の向上をはかるため、特に研修所を設けることといたしました。  また、地方支分部局として、全国に八の公安調査局と四十二の地方公安調査局を設置し、その事務を分掌せしめることといたすほか、職員に関する所要規定を設けておるのであります。  以上が本法案のあらましであります。  次に公安審査委員会設置法案提案理由を御説明申し上げます。  破壞活動防止法案におきましては破壞的団体規制に関する審査及び決定事務をつかさどらしめる機関として、公安審査委員会を設けるべきことが要請されておりますので、本法案は同委員会設置に関し所要立法的措置を講じたものであります。  本法案において、公安審査委員会法務府の外局として設置することとし、委員長及び委員四人をもつて組織し、特定身分保障のもとに、独立してその職権を行うことといたしました。これは破壞的団体規制に関する審査及び決定が自由かつ公正に行われることを保障せんとする趣旨に出でたものであります。また委員長及び委員は、その職務重要性にかんがみ、人格が高潔であつて団体規制に関し公正な判断をすることができ、かつ法律または社会に関する学識経験を有する者のうちから、両議院の同意を得て、法務総裁が任命するものとしておりまして、実際には労働言論その他社会各界に広くこのような人材を求めようと思つている次第であります。  委員会には、委員長及び委員のほか、その補助として委員補佐三人を置くことといたしております。  最後に附則におきまして、この法律の施行に関連する法務設置法の一部改正等所要規定をいたしております。  以上がこの法律案概略の御説明であります。
  7. 佐瀬昌三

  8. 吉河光貞

    吉河政府委員 総裁提案理由の御説明に続きまして、いささか補足的な御説明を申し上げたいと思います。  破壞活動防止法案について、立法理由を初め、内容構成及び重要な事項について、概略説明申し上げます。  第一に、本法案は、ただいま法務総裁から御説明した通り現下治安状態、特に団体による暴力主義的破壞活動危險に対処せんとするものであります。従いまして、現下治安状態に対する認識いかん立法の要否を決する根本問題であります。立案当局におきましては、法務総裁の御説明通り現下治安状態は、団体組織をもつて行われる暴力主義的破壞活動の激化により、これをこのまま放置すれば、国家社会基本秩序、すなわち公共の安全に対し、重大な実害危險が存在するものであるという認識に立つているのであります。しかも現行刑法その他の刑罰法令をもつてしては、かかる破壞活動を有効に防止し得ないことが、立案を必要とする根本的な理由であります。換言すれば、この種破壞活動は、団体組織によつて計画的、組織的に行われ、拡大性をもつているにもかかわらず、この危險団体自体に対しましては、何ら法的な措置をもつてその危險を防止し得ないからであります。  第二に、本法案は、ただいま申し上げた要請にこたえて、次のような方針のもとに立案されたものであります。すなわち、第一にはあくまで日本国憲法趣旨に合致するものでなければならないこと。第二には団体組織による暴力主義的破壞活動危險を有効に防止し得るものであること。第三には法案構成自体に、濫用危險を持たないものであることであります。従いまして、この法案立案にあたりましては、暴力主義的破壞活動思想的背景に立ち入つて、過去における思想統制にわたるような危險を避けるとともに、運用機関の編成につきましても、かりそめにも警察国家を再現するがごときおそれを防止したのであります。  第三に、本法案は、その構成といたしまして、団体活動によつて行われる暴力主義的破壞活動危險に対しましては、これらの団体に現実の危險があることを條件として、個別に行政上の規制処分を加えて、その危險を未然に防止することを建前とし、規制処分違反に対して罰則を科することにより、処分履行を確保いたしましたほか、暴力主義的破壞活動内容につきましても、後に御説明申し上げる通り現下事態にかんがみまして、必要最小限度行為罰則を補整したのであります。これによりまして、かかる破壞活動団体活動によつて行われる危險がある場合には、有効に行政上の規制処分を加えることができるとともに、破壞活動内容たる行為に対しましても、すべて司法措置を行うことができる建前となつているのであります。   〔「原爆基地はどうするのだ、それを取締れ」「黙つて聞け」と呼ぶその他発言する者多し〕
  9. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 静粛に願います。
  10. 吉河光貞

    吉河政府委員 かような次第で、本法案におきましては、団体に対して行政上の規制処分を行うには、いかなる団体がその対象となるのか、いかなる條件のもとに、規制処分が行われるのか、規制処分内容はいかなるものか、いかなる手続によつて規制が行われるのか、はたまた、規制のための調査は、いかなる権限を持つているのかということが、立案構成の重要な問題となるわけでありますが、これらの問題の中心となる最も重要なる事項は、暴力主義的破壞活動とは、はたしていかなる内容のものであるか、また団体及び団体活動とはいかなるものかということであります。  第四に、本法案における暴力主義的破壞活動について御説明いたします。暴力主義的破壞活動とは、団体に対し規制処分を加える根拠となる行政上の概念であります。この概念内容は、現下事態にかんがみまして、公共の安全を破壞するような最も危險なものであるとともに、明確なものでなければ、法案内容全体が漠然として不確実性を帶びざるを得ないのであります。かような次第で、暴力主義的破壞活動内容といたしましては、刑法等規定する悪質重大な内乱を初め、殺人、放火等犯罪行為を、そのままとり入れるとともに、予備陰謀教唆扇動等、主として刑事上の既存の概念を用いて、これらの犯罪行為必要最小限度補充を加えたのであります。しかもこれらの補充された行為は、今日いずれも実害発生危險性の多い不法きわまる行為でありますから、これに必要最小限度罰則を補正することは、けだし当然のことであります。かくして、暴力主義的破壞活動内容である主たる犯罪行為は、すでに刑法等におきまして、罰則規定されておりますので、ただいま申し上げた補充行為罰則を補整することによりまして、暴力主義的破壞活動内容は、すべて刑事上の犯罪行為となつているのであります。  第五に、本法案におきましては、団体とは、特定共同目的を達成するための多数人の継続的結合体、または連合体を言い、ある団体の支部、分会、その他の下部組織もこの要件に該当する場合には、これに対して規制を行うことができるものとしたのであります。従いまして、団体とは、法人格有無や、その名称のいかんにかかわらないのであります。また団体活動とは、その団体役職員または構成員団体としての意思決定に基いてこれを実現するために行う行為が、これに当るのであります。たとい団体役職員構成員行為でありましても、それが団体意思決定に基かないものは団体活動ではないのであります。  第六に、本法案における規制対象條件について御説明いたします。特定団体が将来暴力主義的破壞活動を行う危險があることを理由として規制するためには、よほどこの危險が客観的に根拠のあるものでなければならないことは申すまでもありません。従いまして、この法案におきましては、まず規制を加える対象となる団体を、かかる破壞活動団体活動として行つた団体に限定したのであります。本法案におきましては、かような団体活動として、破壞活動行つた団体を、破壞的団体と呼んでいるのであります。次に破壞的団体に対して規制をすることができる條件としては、破壞的団体が、それ自体当然破壞活動を行う危險があるものとするというような立場は、とつておりません。破壞的団体が、過去において行つた暴力主義的破壞活動継続または反覆して将来さらに破壞活動を行う明白な危險が存することを必要としたのでありまして、この條件は、証拠によつて証明されなければならないことはもちろんであります。すなわち破壞的団体が実際には、かかる破壞活動を行うという性格的な傾向を帶びることを規制條件としているということが、できるものと存じます。  第七に、本法案における規制内容を御説明いたします。破壞的団体によつて団体活動として暴力主義的破壞活動が行われる明白な危險が存するとき、その危險を防止するための規制内容につきましては、まづ第一に、その危險が破壞的団体活動によるものである以上、この活動制限または禁止するものであることは当然である。第二に、しかし規制内容たる団体活動制限または禁止は、危險を防止するため社会通念をもつて合理的に判断される必要かつ相当な限度を越えるものであつてはならないこと第三に、この規制内容は、団体活動に直接関係のある個人、すなわちその役職員または構成員の範囲にとどまるべきものであつて団体活動とは無関係な第三者に及んではならないのみならず、団体役職員構成員等につきましても、団体または団体活動関係のない私生活に及んではならないことが嚴守されなければならないこととしたのであります。(「あたりまえだ」と呼ぶ者あり)かくてこの法案におきましては、規制内容といたしましては、団体活動制限解散指定の二種類とし、団体活動制限につきましては、集団示威運動集団行進または公開の集会の禁止機関誌紙の印刷、頒布等禁止、破壞活動に関與した特定役職員または構成員団体のためにする行為禁止規定し、さらに、これらの禁止については、一定の期間または地域の制限を付したのであります。また解散指定は、団体活動の全面的な禁止でありますから、規制條件を一段と加重いたしまして、公共の安全に対する重大な危險が存する場合に限ることとし、しかも団体活動制限処分では危險を防止することができない場合にのみ行われるものとしたのであります。次に、規制内容は、破壞的団体に対してその活動制限または禁止するのでありますが、この禁止は直接これを実力で強制するのではなくて、その違反に対しては罰則を科して履行を確保することを建前としたのであります。そしてこの禁止命令は、団体に対して発せられるのでありますが、この禁止命令が発せられると同時に、その役職員構成員禁止命令団体活動制限である場合には、命令趣旨に反する行為や、脱法行為を行うことを禁止され、またその禁止命令解散指定である場合には、その団体のためにする行為や、脱法行為を行うことを禁止されることとしたのであります。従いまして規制を受けた破壞的団体役職員構成員は、規制を受けたということによつてただちに処罰されるのではありません。これらの者があえてこれらの禁止を犯した場合にのみ処罰されることとなるのであります。  第八に、本法案における規制手続について御説明いたします。破壞的団体に対して規制を行うには、日本国憲法第十三條の趣旨に基き、国民基本的人権が最も尊重されるような手続によらなければならないことは申すまでもないことであります。この法案におきましては、先ほど法務総裁が御説明された通り、まず規制のための調査及び規制請求をなす機関規制審査決定をなす機関とを分離し、権限が過度に集中して、専断にわたる危險を避けたのであります。そして規制のための調査請求をなす機関が、規制請求をなす場合には、あらかじめ特に定められた審理手続によりまして、規制を受ける破壞的団体に対し、規制の原因たる事実及び証拠等全部を示し、これに対する意見弁解を述べ、かつ有利な証拠を提出することができる機会を確保したのであります。また規制審査決定をなす機関は、委員会構成をとり、官僚によらず、民間各界の代表的な学識経験者を、国会の承認を得て選任するとともに、他のいかなる指揮命令も受けることなく、独立してその職権を行うこととして、その決定の公正を保証したのであります。これと同時に、委員会構成につきましては、行政機構簡素化趣旨に基き、でき得る限りその組織を簡素なものといたしたのであります。かような次第でこの法案におきましては、この規制裁判所によつて行うべきものではなく、行政機関によつて行うべきものであるという建前とつたのであります。その理由は、第一には、本来規制なるものは国家行政権によつて、行われる保安措置であり、裁判所がかかる行政措置まで行うことは、決して妥当ではないと信じたからであります。また第二には、すでに申し上げたような公正な手続をもつてする場合には、行政機関によつて規制を行うことは、決して日本国憲法精神に反するものではないと確信したからであります。そして第三には、この規制処分に対しましては、自由に裁判所に訴えることができるのでありますから、決して司法権を侵すものではないと存じたからであります。  第九に、最後に本法案における規制のための調査について御説明いたします。規制のための調査は、御承知のように、行政上の目的を達するために行われる調査でありまして、刑事訴訟法による犯罪捜査ではありません。しかし破壞的団体に対する規制という重大な行政措置基礎となる証拠資料收集するものでありますから、これに十分な強制調査権を與えて適確証拠資料收集ができるようにすることも、理論上は考えられることであります。しかし調査対象となる暴力主義的破壞活動は、その内容がいずれも犯罪行為でありますので、刑事訴訟法による捜査対象となるわけでありますから、当然捜査との調整をはかることが必要であります。かくしてこの法案におきましては、規制のための調査につき、一部に濫用の誤解と危惧があることにもかんがみまして、何等の強制権をも與えず、もつぱら任意の調査だけを行うこととし、犯罪捜査に当る警察との緊密な協力によりまして、本法案運用の万全を期することとしたのであります。  かようなわけで、本法案はいわゆる警察国家を再現するような危險は毫末もないものであると確信している次第であります。
  11. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これにて暫時休憩いたし、午後一時半より再開いたします。     午後零時二十三分休憩      ————◇—————     午後二時八分開議
  12. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  先刻田中堯平君より文書をもつて本日議題となつておりまする三法律案政府に撤回を求むべしとの動議を提出されておりますが、ただいまより本動議について議事を進めます。  まず提出者の趣旨弁明を許すのでありますが、その時間は五分以分といたしたいと思いますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  13. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 御異議なしと認めます。よつて五分以内において趣旨弁明を許します。田中堯平君。
  14. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 政府は破壞活動防止法案公安調査庁設置法案公安審査委員会設置法案を提出したが、右はいずれも憲法の保障する言論、集会、結社、出版並びに団体行動権を侵害し、基本的人権を蹂躙するものであり、日本国民に専制と隷従、脅怖と欠乏をもたらし、ひいては日本国民を戰争に巻き込むものであるから、ただちに政府は右三案を撤回すべしとの緊急動議を提出いたします。  簡單に理由説明いたします。破壞活動防止法案及び付随の二法案は、久しく国民輿論の中心題目となつて、その憲法違反であることについては今やまことに明白となつておるのであります。さればこそ三百万の労働者は破防法反対のために総蹶起をしており、民論もまたあげて本法案に対して反対しておるのであります。單に国内の輿論だけではなく今や全世界の勤労階級及び平和愛好人民は、この悪法に対して痛烈なる反対をしておるのであります。たとえば一昨日すなわち二十二日、郭沫若副首相を会長としておる中国平和擁護委員会は、吉田首相あてに電報を送つて、破壞活動防止法案は、日本をアジア侵略の軍事基地にしようとするもので、ポツダム宣言の規定する日本民主化の原則にまつたく違反するゆえ中国国民はこれに抗議すると申し送つております。  またウイーンの世界労連書記局から、四月十一日に日本の労鬪あてに、ちようど十二日から行つておる日本の労働者のこの悪法反対のゼネストに対して、激励の電文を送つておるような次第であります。電文の朗読は省略いたしますが、その他四月十五日、世界労連亜欧連絡局は、日本の労働者に対して、これまたこの破壞活動防止法反対の闘争を激励する長文の電文を送つておるような次第であります。  以上のごとく国際的にもまた国内的にも、あげて本法案に反対しているのでありまして、ひとり吉田反動政府だけがアメリカの意を迎えてこの立法を強行しようとしておるのであります。この法律実施の上は一体どうなるか、言論、集会、結社、出版の自由は抑圧され、国体行動権は侵害され、憲法の認める基本人権はほとんど無に帰する結果となるでありましよう。外国のアジア侵略政策のお先棒をかついで、吉田政府は国力をあげて、今やアメリカのための戰争準備に狂奔しておるのであります。この戰争態勢にたてつく言動は一切この法律によつて取締ろうというのが、この法律の魂胆であります。この戰争態勢に反対する言動は、すなわち公安に害があるものとして、個人団体も、労働者であろうが農民であろうが、新聞人、学者、文人、宗教家に至るまで徹底的な彈圧を受けるであろうことは、往年の治安維持法の歴史を見てもおよそ推察がつくのであります。戰争反対、平和愛好の国民を一切脅迫して、意思のままに戰争に引きずり込もうとするのがこの法案目的である。  かくして政府は破壞活動を取締ると言つてはおるけれども、一体実際に破壞活動をしておるのはだれか。政府自身が憲法を破壞し、国民の権利と生活を破壞するものでないと言えるでありましようか。これは審議に問わずしてまことに明々白々であります。憲法第九十九條には、「天皇又は攝政及び国務大臣、国会議会、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と明記してあるのであります。われわれは国会議員として憲法を擁護する義務を負わされておるのである。かかる憲法破壞の法案審議する権利を国民から付託されておるのではないのであります。政府はただちにこの三法案を撤回すべきである。以上が提案理由であります。
  15. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 田嶋好文君。
  16. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 ただいま田中堯平君より破壞活動防止法案その他二案を政府において撤回すべしとの要求があつたのでございます。今の趣旨弁明を聞いておりますと、共産党はみずから国会審議権を放棄しておるのではないかという錯覚すら起さざるを得ない。本法案につきましては、開会劈頭にあたりまして、委員長から愼重審議を與野党ともにやるという委員会としては珍しい声明まで出しまして、委員会は開会をいたしたような次第であります。しかるにこの委員長の発言を無視してなおかつ撤回を迫るということは、今後共産党に対して、われわれは審議の経過上考えなければならぬ幾多の問題が起つて来ることを共産党は覚悟して進んでもらわなければならぬと思います。その意味におきまして、本動議は討論を省略の上、ただちに採決をせられんことを要望いたします。
  17. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 ただいまの田嶋好文君提出の動議に賛成の諸君の起立を願います。     〔賛成者起立〕
  18. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 起立多数。よつて田嶋好文君提出の動議の通り討論省略のしただちに採決に付することに決定いたしました。  よつて田中堯平君提出の破壞活動防止法案ほか二案を政府に撤回を求むべしとの動議を採決いたします。本動議に賛成の諸君の起立を願います。     〔賛成者起立〕
  19. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 起立少数。よつて本動議は否決されました。     —————————————
  20. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 ただいまより本法案に対する質疑に入ります。質疑の通告がありますので、順次これを許します。鍛冶良作君。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先刻来提案理由説明を承つておりますると、政府がこのたび本案を提出せられましたる根本の理由は、現下の国内の治安状況国家社会基本秩序を破壞せんとする集団暴力の計画がある疑いが濃厚である、であるからぜひともかような法律を制定せなければならぬということが根本理由であつたかと考えるのであります。われわれもある程度のことは知つておりまするが、これがこの重大法案を提出せなければならぬ根本理由であります以上は、この際国会において国内治安の実情を明確にせられまして、われわれも納得行き、国民全体もぜひともかような法律がいるものであるということを納得させてもらいたいと考えておるものでありまするがゆえに、この機会にでき得る限りこれを詳細に御説明願いたいと思うのであります。
  22. 木村篤太郎

    木村国務大臣 鍛冶委員のただいまの御質疑はきわめてごもつともと考えております。現下の情勢においてどのような破壞活動が行われ、また行われんとしつつあるかということを明瞭にしろということであります。これはわれわれとしても十分に各委員の御了解を得る手段として申し上げたいと思うのであります。明日にでも適当な機会においてこれを明らかにいたしたい、こう考えます。
  23. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 政府においてなるべくすみやかに準備の上、本委員会にその点の御説明をあらためて願いたいと思います。
  24. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それでは近いうちにその説明を願うことにいたしまして、まず承りたいのは、この法案によつて取締らんとせらるる諸行為は、現刑法においてもまことに重大なる犯罪と指摘しておられるのでありまして、かような行為がありまするならば、あえて新たなる法律を求むるまでもなく、現在の刑法においても嚴重に取締つてもらわなければならぬ行為が羅列せられておるのであります。従いまして、われわれの疑問とするのは、これならば現行刑法によつても取締りができるのじやないか。なおただ説明にもありましたように、集団としての取締りが不可能であるという御議論でありましたが、それでありまするならば、その点たけを改正したら、その取締りができ得るものでなかろうかという疑問を生ずるのであります。この点現行刑法によつてはとうてい取締りができない、新たなる法律がぜひ必要であるという理由を明確にしていただきたいと思います。
  25. 木村篤太郎

    木村国務大臣 お答えいたします。現下の破壞活動防止のための立法措置といたしましては、このような特別立法の形式をとるもやむを得ない事情であります。それは次の二点からであります。  第一は刑法等の恒久的基本法は、これは軽々に改正すべきものではないと考えます。現下事態に即応するためには、その必要の程度、内容従つてその必要最小限度の特別立法をもつてすることがきわめて妥当と考えております。  もう一つは、現下の破壞活動が、申すまでもなく団体組織によつて行われておる疑いがきわめて濃厚である。この危險を防止するためには、団体組織自体に対して所要規制を加えることが絶対に必要だ、こう考えておるのであります。さような次第で、ぜひともこの法案はわれわれとしては提出する必要あり、こう考えます。
  26. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ただいまの説明によりましても、団体暴力行為はある、また提案理由を見ましても、集団的の暴力行為あるがゆえにこれを取締る必要があると言われますが、かような危險団体とは、現在の日本においてどのような団体をさしておられるのでありましようか。われわれは主として日本共産党の指導のもとにかようなことが行われておるものと思いまするが、さよう政府は認めておられるか。そのほかにも何らかの危險なる団体ありと認めておられるか。この点を伺いたいと思います。
  27. 木村篤太郎

    木村国務大臣 この法案を提出いたしました理由は、必ずしも一つの団体をさしておるものではないのであります。申すまでもなく極右と言わず極左と言わず、いやしくも国家の基本的秩序を破壞せんとするような団体は、これは日本の平和国家建設の途上において許すべからざることと考えております。政府におきましては、かような暴力的破壞団体は、その種類のいかなるかを問わずこれを規制して行きたい、こう考えております。
  28. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ただいまの法務総裁の御答弁はなるほどその通りであろうと思いまするが、われわれはこの法案に対するいろいろの批判を率直に承つておりますと、はたしていかなる団体を、いかなる集団を対象としておられるものか。この点が明確でない。これがしいて正当なる労働組合及び正常なる活動をする各団体にまでも及ぶものでなかろうかという懸念が、この法案に対する批判の最も大きな点だと心得るのであります。従いまして現在かくかくのものがあるのだ、こういうものを取締ろうとするもので、これ以外のものもかようなことをすれば取締るけれども、そうでなかつたならばそれ以外のものは取締らぬのだ、この点をある程度明確にせられるならば、国民も非常に納得するものでなかろうかと考えまするので、たとえばこういう団体でこういう行動をしておるもの、こういうことをでき得る限り指摘していただきたいものだと思うのであります。
  29. 木村篤太郎

    木村国務大臣 この法案趣旨といたしまするところは、ただいまも申し述べました通りいわゆる国家基本秩序を破壞せんとする暴力団体対象といたしておるのであります。そこで世上住々にしてあるいは労働組合だとか、あるいはその他の正常なる団体がこの破壞活動防止法案対象となるのじやないかということを心配しておる向きがおるのでありますが、さようなことは決してないのであります。この法案の御審議においてその点はきわめて明瞭になろうと考えております。第三條におきましてきわめてそれを明瞭に、すなわち内乱とか、あるいは内乱の幇助とか、こういうことを扇動したり、あるいは事実行わんとするような団体、あるいは殺人だとか放火だとか、あるいは汽車の転覆とか、こういうような許すべからざる行為をせんとすることを扇動し、教唆するような団体規制して行くのであります。従いまして労働組合なんか、かようなことは私は想像し得ないのであります。宗教団体にしてもあるいはその他の団体にいたしましても、いやしくも団体として活動する以上において、内乱を企図したり、あるいは殺人を企図したり、騒擾を企図したり、放火を企図したりするような団体は、およそわれわれは想像し得ないのであります。しかもそういう団体が活躍することにおいて、日本の国家秩序はいかになるかということを考えますると、われわれはそういう団体としては一日も捨てておくことはできない。これは本法案対象となるのであります。われわれといたしましては労働組合を規制したり、あるいはその他の団体規制したりする意思は毛頭もないということを私は申し上げたい。しからば今どういう団体がそういうことをやりつつあるかという御質問でありますが、それはただいま申し上げましたように、現下の情勢においてどういう破壞活動が行われておるかという点についての説明で十分におわかりであろうと思います。それは機会を見ましてすべての資料を提供して御了解を得たいと思います。
  30. 鍛冶良作

    鍛冶委員 かようになりますと、いわゆる行われている破壞活動の実情並びにこれを指導推進しておりまする団体の実態をまず説明していただかなくては、はなはだ進行しにくいと思うのでありますが、われわれの知つている範囲においては、この第一に当るものは日本共産党である、かように考えますが、これは御否認なさるまいと思いますが、議論を進めます前提として政府の御所見を承つておきたいと思います。
  31. 木村篤太郎

    木村国務大臣 これは明日でも明後日でも十分に御説明申し上げたいと考えております。否認はいたしません。
  32. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ただいま刑法の点で承りましたが、なお一つは現在団体等規正令が存在しております。この団体等規正令によりますと、かような暴力を計画し、さらに暴力行為を推進したる団体に対して相当の規制ができることになつているはずであります。従いましてそれでは刑法ではいかぬが、団体規制令ではやれないか、またなぜやられないか、ひいてはこれによりますと、かような日本共産党のやり方はいわゆる非合法団体と認定してもよろしいのではないかとわれわれは考えるのでありますが、どうしてそのことができないのであろうか、この点を明瞭にしていただきたいと思います。
  33. 木村篤太郎

    木村国務大臣 ただいまの御質疑の要点は、要するに共産党を何がゆえに非合法化しないかということにあると考えております。その御議論は従来からもあるのであります。政府におきましてはこれを愼重研究を続けておつた次第であります。しかしながら終戰後公党として認められておりまする政治団体解散するというようなことは、国家内外にも重大な影響を及ぼす問題でありまして、政府といたしましてはまだその結論に達していないのであります。従いましてそのような立法をなすことは、ただいま考えていないのであります。政府といたしましては、もつぱら当面の暴力主義的破壞活動に対処して、これを防止することを建前として本案のような立法をいたした次第であります。
  34. 鍛冶良作

    鍛冶委員 さらに、この法案を見ますると、いわゆる現行刑法上における罰則を整備してこの法案に載せておらるることがその内容の主眼であると心得るのでありまするが、この第三條に規定せられておりまする諸行為、ことに第三條の一号のイの行為、内乱に関する行為等につきましては、これは刑法上においても、予備陰謀、幇助なるものが規定してあるのであります。その規定があるにもかかわらず、ことさらここでロ号におきまして「教唆」「せん動」等を附加しておられまするが、この点も刑法だけではぜひ行かない理由を明確にせられませんと、われわれ審議する者においても、国民においても、非常に疑問を持つ点でございまするので、刑法では行かない教唆扇動等をぜひとも入れなければならぬという理由を明瞭にしていただきたいと思います。
  35. 木村篤太郎

    木村国務大臣 ただいまの鍛冶委員の御質疑は、私はきわめてごもつともなことと考えるのであります。この点につきましては、政府委員から後刻詳細に御説明申し上げることといたしまするが、とりあえず私から簡單に申し上げておきます。  御承知通り刑法には教唆はありまするが、扇動という言葉がない。しかしこの扇動ということのいかに重要性を帶びておるかということは、やがて御理解願えることと思いまするが、申すまでもなく、教唆というのは、ある一定の人を相手にしてその者にいわゆる使嗾をする。一つの犯罪を犯せということの使嗾であります。そうして刑法におきましては、その使嗾した行為が効果を発生する、すなわちそれが目的を達したときに初めて教唆罪が正犯として取扱われるのでありますが、しかしながら大衆に向つて、あるいは内乱を扇動する、いわゆる内乱をやれやれとあおる行為をやる、あるいは汽車を転覆しろ、ある特定人に対してでなしに、相当数の者に対してあおるような行為、これは最も危險行為であるとわれわれは考えております。現実にそういういわゆるあおる、扇動しておる文書が頒布されておる。これによつていかに社会が影響を受けるか、大衆に向つて反乱をやれ、騒擾しろ、あるいは汽車を転覆しろと言うようなことは、個人々々に対して教唆するより以上の重要性を帶びておると私は考えておるのであります。そういうものを取締る法規として、国家の治安が守り得るかということを考えますとき、これは当然教唆扇動ということに相ならなければならぬと考えておるのであります。ほかにもこの教唆、扇動の文字の使われた法文は幾多もあるのであります。たとえば公職選挙法なんかにもやはり教唆、扇動というような文字がたくさん出ております。これはいずれ政府委員より御説明申し上げたい、こう考えております。
  36. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この点につきましては、大体の了解をいたしましたが、なおさらに逐條審議の際に詳細承ることにいたしましよう。
  37. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 法務総裁はやむを得ない所用で一時退席しますが、他の政府委員がおりますので続行を願います。
  38. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それでは承ります。その次には教唆、扇動の点は一応了解をいたしておきますが、さらにロ号において、いわゆる一号のイに関する犯罪について関係のある文書、図画の印刷から所持までを加え、これらの点までも取締らんとしておらるるのであります。これがいわゆる憲法に與えられたる国民の自由を抑圧し、言論を抑圧する機会が起らぬかということが本法案に対する疑念の最も多い点でございますので、この点はぜひともかようなことを入れなければならなかつた理由、並びにこれを入れても言論自由を抑圧せざるものであるという政府の確信のほどをこの際承つておきたいと考えます。
  39. 吉河光貞

    吉河政府委員 お答えいたします。破壞活動防止法案の第三條第一項一の口に書いてあります「実現の正当性若しくは必要性を主張した文書」その他についての御質問でありますが、行為の実体は、日本において現実に内乱が行われることの正しいこと、あるいは必要なことを自己の意見として主張することであります。そういう文書を現実に内乱を容易ならしめる目的をもちまして頒布し、印刷するというような行為が処罰の対象となつておるのであります。御承知でもございましようが、こういう大規模な内乱その他の集団行動におきましては、まず内乱が正しいものである、現実に日本において内乱が行われることが正しいものである、必要なものであるという意識を一般国民大衆の中に植えつけることが彼らの手段でありまして、この行為は革命のためにきわめて危險行為であると考えるのであります。従いまして單に外国の革命の事例を報道するとか、マルクス、レーニンの書物を読むとか、あるいはそれを持ちまわるとかいうようなことがここに問題とされているのではないのでありまして、あくまで日本において現実に革命が行われることの正しいこと、あるいは必要なことを自己の意見として打出して来る、そういう文書、図画を印刷、頒布する行為が破壞活動内容に含まれておるのでございます。
  40. 鍛冶良作

    鍛冶委員 ただいまの御説明のようなものであるならば、これを嚴重に取締る必要のあることはわれわれも十分納得いたします。ただこの点が問題になるのでありまするが、一方においてさようなものだと考えても、一方においてそんな目的じやないのだ、今言われる通り、かりに今の事例によれば、レーニンの学説、所論を出した場合に、これくらいのことは本号に適合するものではないと思うときに、取締りの任に当るものがこれは当るのだ、かようにして取締ることがあるならば、一般国民言論及び自由が抑圧される。かようなことが本法案に対する批判の最も重大なる一つだと考えるのであります。それゆえに、かようなものを置きましても、そういうところへは行かないというめどをお持ちのことと思いますから、その確信のほどを示して、国民に安心させてやつていただきたい、こういうことが今の質問の一つの要点でございます。
  41. 吉河光貞

    吉河政府委員 御質問の要点は、第三條第一項一のロ号の運用につきまして、犯罪行為として捜査の任に当る司法警察職員の行き過ぎはないだろうかという御質問でございます。これは万般の犯罪行為についても言えることであろうと考えるのでありますが、特にかような犯罪につきましては、そのおそれがさらにあるのではながろうか、ごもつともな御質問と思うのであります。しかしただいまも申し上げました通り、これは單にそういうような文書を持つていた、あるいはそういうような文書を印刷、頒布したということだけで処罰されるのではないのでありまして、たとえばそのものに内乱の実現を容易ならしめる犯意がなければなりません。この犯意は証拠によつて認められなければならないのであります。二段構えになつておりまして、むやみやたらにさような文書を持つていたからと申しまして人を逮捕することができるものではありません。なおこの法案につきましては、司法警察職員に対しましても、かような趣旨を十分に将来徹底して、運用につきましても間違いのないようにするつもりであります。
  42. 鍛冶良作

    鍛冶委員 同一趣旨の質問になりますが、さらに第二号の行為に対しても同様の疑問を持たれるのであります。この二号に規定せられておりまする諸行為は、もちろん刑法上の犯罪でありまするが、これに対しましても、先ほど質問したように「予備陰謀教唆又はせん動」を加えております。これはかような刑法上の犯罪に、なぜかようなことが必要かと考え、またこれに対して先ほど来の疑問を持つのでありまするが、この二号を読んでみますると、「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対するため」、このいわゆる目的を指摘して、かような目的を持つてなしたる予備陰謀教唆、扇動を罰する、かようになつておりまするので、法文の上においては、なるほど嚴密なる注意を持つて規定されたようでありまするが、われわれの最も疑問といたしまするところは、かような目的有無は、裁判所へ参りますれば綿密に調べていただき、また高度の法律知識を持つておられる裁判官によつて調べられるがゆえに明瞭になると思いますが、捜査の任に当る者に、はたしてかような判別をなし得る能力ありと認められるかどうか、またかような目的のない者でも取調べの対象にせられて、調べた結果なかつたといつておつぱなされても、調べられた者ははなはだ迷惑をするのでありますから、これらも非常に一般国民の疑念を持つ点でありまするが、これに対して捜査の任に当る者には、さような心配はない、またさような盲目的捜査をさせないだけの確信ありという、もちろん確信あつて立法と心得まするがゆえに、その確信のほどをこのたび聞かしていただきたいと思います。
  43. 吉河光貞

    吉河政府委員 第三條の第一項第二号「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対するため、左に掲げる行為の一をなすこと。」というので、以下列挙されている犯罪につきまして予備陰謀教唆または扇動を補整して処罰しておるのであります。実は終戰後わが国につくられました多数の法令は、この予備陰謀教唆、扇動、特に教唆、扇動、あおりそそのかすという法令用語を使いまして、いろいろと独立犯として罰則を設けて規定しておるのであります。これは従来司法警察運用につきましても、いささかもこれが濫用されたという事実はないのであります。(「ばかなことを言うな、しよつちゆう濫用じやないか」と呼ぶ者あり)この点につきましては、しかく濫用のおそれはないのではなかろうかと考えておる次第であります。なお司法警察職員につきましても、こういう趣旨は一層明確に普及させまして濫用のおそれのないように努めなければならぬことは申すまでもないことでありますので、十分にその点につきまして趣旨の普及をはかりたいと考えております。
  44. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この点についてなお承りたいところもありまするが、これは逐條の際に讓ることとして、政府におかれましても、この点に対する万般の準備をいま一層考えて次会に答弁をいただきたいと考えます。  次に法案にも出ております通り正常な労働組合運動及び公正なる団体活動を取締るものではなくて、破壞活動のみを排除する考えである、これは言うまでもなく、さようあらんければならぬことだと思うのでありまするが、ただあなた方がさようなことを考えておられるだけでは、これに関連を持つ諸団体は安心ができないのであります。従いましてこれを提案せられました以上は、この点は嚴格に区別ができ得るのだ、取締りの対象としても、先ほど来言うように間違いのないように指導すると同時にはつきり区別ができ得るものである、かようなめどを明瞭にしておいてもらいたいと思うのであります。
  45. 吉河光貞

    吉河政府委員 お答えいたします。たとえば一つの団体が集団デモ行進などを行います場合に、往々にして一部の破壞分子がこれに潜入して、いろいろ破壞的な活動をなす場合、または一つの公正な団体の内部に潜入した少数の破壞分子が、いろいろな組織をつくりまして団体の内部において、破壞的な活動を行う、こういうような場合につきましては、これらの被害を受けるような団体につきましては、絶対に規制がかけられないことになつておるのであります。つまり団体活動とは、その団体意思決定をいたしまして、その意思に基いて役職員または構成員が、その意思の実現としてなした行為団体活動となるのでありまして、団体意思決定とは関係のない一部破壞的な分子の活動は、団体活動ではないのであります。この点は規制の面においても嚴格に区別されているところでございます。
  46. 鍛冶良作

    鍛冶委員 総裁はしばらく来ませんか。
  47. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 総裁は参議院と、それから衆議院の本会議の済み次第出席することになつております。
  48. 鍛冶良作

    鍛冶委員 なるべく総裁に承りたいと思うのですが、今質問いたしまして、そちらでできなければ総裁が見えるまでお待ちしますが……。
  49. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 他の、政府委員の答弁のできる範囲内において続行を願いたいと思います。
  50. 古島義英

    ○古島委員 ちよつと関連して、今鍛冶君の質問に対して吉河政府委員からたいへんなことを承つたのです。内乱もしくは革命が正当であるというようなことを自分の主張として発表する、もしくは自分がそれに溶け入つて、そうしてそういうことを印刷物にして持つておる、そういうことが悪いのだという御答弁であります。そういたしますと、あまりに狭くなるのではないか、もそつと広いのではないかと思う。たとえて申しますと、甲の人はかような主張をしておつたということで書いたその革命、扇動の文書を持つてつては、自己の主張になつたのではありません。そこで自己の主張ではなしに、自己がそれに溶け入つてそういう印刷物をこしらえたのではないのでありますから、吉河政府委員のような話で行くと、これは処罰ができなくなるのであります。またレーニンなりエンゲルスなり、こういうものの言うたことを印刷にして、これは正しいと思うというだけでは、まだ自己の主張になつたのではありません。しからば政府委員の答弁の範囲を逸脱した部分において、幾らでもこの法律違反することができると思います。政府委員の御答弁は間違いではなかつたか。
  51. 吉河光貞

    吉河政府委員 お答えいたします。実現の正当性もしくは必要性を主張した文書という、その主張につきましてただいま私どもの解釈を申し上げました。つまり文書に書かれた内容が執筆者の意見として発表せられているということが内容である。従いまして他人の意見を紹介するというような内容のものは、この主張の中には含まれない。いやしくもそういうような執筆者が、自己の意見として現実に日本において革命が行われることの正当なことや、あるいは必要なことを主張した文書を印刷し、その印刷物を受取つて頒布したりするようなことは、一切この罰則に触れる行為である、かように解釈いたしております。
  52. 古島義英

    ○古島委員 そこでたいへんな問題が起るのです。あなた方のようなそういう解釈にすると、幾らでも脱法的な行為ができる。甲はかように考えておるということをそのまま書きつぱなしにすれば、この問題には触れない。もしくは革命を扇動したことを甲が言つた、その筆記を頒布する、これはその犯罪にならない。しからば幾らでもこの法律のうしろを抜けて行くことができるのだが、抜けられてもあなた方では満足するかどうか。
  53. 吉河光貞

    吉河政府委員 お答えいたします。この実現の正当性必要性を主張した文書を頒布する、あるいは印刷するという場合には、そういう行為者に革命が実現されることを容易ならしめる意思がなければなりません。かような意思をもつてかような文書を扱うこと、これがここに規定する行為である、かように考えている次第であります。
  54. 古島義英

    ○古島委員 あまりくどいようですが、さらに念を押しておきます。自己の主張に溶け入らなくんばいけない。そうして自己は、革命は正当なり、内乱は正当なりと自分の主張を印刷したのでなくんばならないということになれば、自分以外の者がさような主張をしておるということを書いて頒布したときには、これは問題にならない。そうでなく、むしろこの法律精神から言うならば、自己もしくは他人の意見であつても、革命を扇動するなりもしくはそれを容易ならしめるというような行為全部を含まなくんば、この法律目的は達しないと思う。人の意見であつたならば、この法律には触れない。革命を容易ならしめる意思はもちろんあるが、自己の主張という制限があるので、自己の主張ではなく、自己以外のものの主張だということで書いて、まつたくそういう人が他にあつたということになれば、これは別々にやります。ある団体でも中央執行委員の人たちがこういう意見を持つておる、あるいは何のそれがしはこういうような意見を持つておる。それだけを書きつぱなしにしたならば、不穏な文書を頒布しても何ら問題にならぬということになる。それはあなたの方でいま一歩広く解釈しなくんばこの目的は達しないと思いますが、このままで、解釈しないでよろしゆうございますか。
  55. 吉河光貞

    吉河政府委員 お答えいたします。主張とは文書の記載内容全般を通じまして、革命が現実に実現されることが正しいという意見が打出されておることであります。  ただいまの紹介の点でありますが、そういうような意見をまた紹介する。援用支援するような紹介は、一括して主張になると考えます。しかしながら、ただこういうふうにレーニンが言つておるというようなことを紹介して、その危險性を説くというような場合には、これは主張した文書にはならない、かように考えております。
  56. 古島義英

    ○古島委員 それだけ言つていればいいのだが、それではまだ足りない。自己の主張でなくんばならないということになれば、紹介しただけではいけないということになれば、紹介する意見に内乱を扇動するような、革命を扇動するような言説は幾らもある。そして自己の主張にしない。そのままかれはかように言うておる、その言うておる中に革命を扇動するような言葉、内乱を容易ならしめる言葉が含まれておる。その程度でただ紹介しただけだから犯罪にならないということになれば、これは常識で幾らでもそういうことはできようと思うのでありますが、それはいかぬので、ほかの法案で罰するということができますか。この法條のみによるというのならば、あなたの意見では罰することができない。
  57. 吉河光貞

    吉河政府委員 お答えいたします。ただいま申し上げました通り自己の意見という言葉を使いましたが、これは執筆者も含めますが、文書全体の趣旨から、そういうことの必要なこと、あるいは正当なことがはつきりと打出されておる、また紹介につきましては、これを利用するというような紹介は單なる紹介ではございません。一括して主張になると考えております。
  58. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはひとつ逐條審議の際にいま一歩政府の方でも十分研究の上御答弁願いたいと思います。これを読んでみますと、「必要性を主張した文書」となつておる。主張する行為ではなく主張した文書であることとなつておりますから、これは十分研究の上で、逐條審議の際に明瞭にされることを希望いたしておきます。  次に承りたいのは、この手続機関でございまするが、処分請求機関審査決定機関とを分離せられました気持は十分わかります。この請求機関法務総裁の管下に置かれることは、これは性質上当然のことと考えるのでありまするが、審査機関までも法務総裁の管轄下に置かなければならないものかどうか。これにはなはだ疑問を持たざるを得ないのであります。その第一は、この機関に対しては独立性を與えて、他の侵害のおそれをなきものにしておるということですが、法務総裁の管轄下にあつて、はたしてどこまでも独立性が保ち得るものであろうか。  さらに第二の疑問といたしましては、法務総裁の管轄のもとに、かような請求機関並びに審査機関というような両面の厖大なる権限を持たせるということは、はたして適当であるかどうか。しいていえば、かような大きな権限を持つておらられるときに、さらにこれを請求とでも申しまするか、是正とでも申しまするか、さようなことの必要のある場合に、はたしてさようなことができ得るかどうかという大きな疑問を持つものであります。この点に関する立案者の所見を承りたいと思います。
  59. 吉河光貞

    吉河政府委員 たいへん重大な御質問でありますから、法務総裁からあらためて御答弁願うことにいたしたいと思います。ただ事務の立場からお答えできる範囲でお答えいたします。  本法案公安審査委員会審査決定は、條文にもございます通り、独立して準司法的な保障のもとにこれが行われるようになつておりますが、それで十分に公正が期し得るものと考えておるのであります。しかも総裁の御言明によりますれば、委員は、言論労働、法曹、その他社会各界の代表的な方々に御就任を願い、官僚をもつてこの委員に当てないで、運営に万遺憾なきを期したいと考えておると言われておるのであります。こういうような立て方をすれば、法務府の外局としてこれを設けましても、決してその公正が害されることはないと考えておる次第であります。
  60. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これ以上は法務総裁から承るよりほかはないと思いますが、もう一つ承つてみます。公安調査庁調査手続には、弁明の機会を與え、さらに代理を認め、傍聴、立会い等を認めておられるのでありまして、この点は調査の公正を期する上においてまことにけつこうなことと考えまするが、進んで審査委員会手続を見ますると、かようなものは規定してありません。これはおそらく許されないのであろうと思うのであります。そこでわれわれの疑問として、かような弁護及び代理等は、調査の場合よりも審査の場合がむしろ必要でないかと考えられるのでありますが、この点はどのようにお考えになつておられるか、立案者としての御見解を承りたいと思います。
  61. 吉河光貞

    吉河政府委員 審査委員会にただいま御質問のような聴聞制度を設けなかつた理由といたしましては、一つには、すでに公安調査庁において審理をなす場合に、愼重手続をとりまして、当該相手方の団体に対しまして、事実並びに一切の証拠を見せました意見弁解を述べさせる。また有利な証拠の提出も認めているのでありまして、審理の手続において十分に意見弁解を聞く。この意見弁解を聞かないような証拠委員会に送り込むことができないのでありまして、公安調査庁長官処分請求をする場合におきましては、この審理手続を経た事実並びに相手方に有利な証拠委員会に提出します。委員会は独立の立場で公正な審査決定をされるというような立て方になつておりまして、重ねて委員会で再び審査手続をとることは、事案の処理上そこまですることも必要ではないのではなかろうかと考え、また一面事件の迅速な処理をすることも要請されておるのでありまして、かような次第から、公安審査委員会におきましては、もつぱら公正な立場から審査決定をするということにいたしたのでございます。
  62. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 暫時休憩いたします。     午後三時八分休憩      ————◇—————     午後三時四十五分開議
  63. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  質疑を継続いたします。鍛冶良作君。
  64. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先ほど事務当局に承つたのでありまするが、さらに法務総裁の御意見を承りたい点は、この規制機関といたしまして、調査及び規制処分請求をする機関審査決定をする機関とを分離せられました立法者の御苦心のほどは、よくわかるのでありますが、この請求機関法務総裁の管下にあることは、これは当然と心得まするが、審査機関法務総裁の管下に置かなければならぬものであろうか、この点であります。ことにこの点で疑問に思いまするのは、なるほど法文の七では審査機関独立性を認める点の十分の用意はしておられますが、法務総裁の管轄下にありまして、はたして独立が徹底し得るものであるかどうか、これが第一点であります。  次は法務総裁にかような請求並びに審査の両機関の管轄の大権限を持たせておきますることは、将来において憂うべき現象が起るというおそれはないか、これは法務総裁自身に対してかような質問をすることは変なようでありまするが、木村法務総裁は永久の法務総裁でもなかろうと思いますので、将来の法務総裁との関係について十分な御確信のほどを承りたいと思うのであります。
  65. 木村篤太郎

    木村国務大臣 お答えいたします。この公安審査委員会なるものを法務総裁の管下に置くことはどうかという御質問でありますが、もとよりこの公安審査委員会なるものは、制度上は法務総裁の管轄にはなつておりまするが、事実は法務府の外局であります。そして準司法的の性格は、公安審査委員会設置法第三條におきまして、「独立してその職権を行う。」とあります通り法務総裁がこれに対して何らの容喙をしないのであります。いわゆる十分なる独立的性格をこれに與えまして、独自の公正な判断によりこれを処理して行こう、こういう建前になつておるのであります。しかもこの委員会組織する委員は、国会の承認を経て法務総裁がこれを任命するということになつております。しかもこの国会で御承認を得べき委員の方々は、言論界あるいは労働関係あるいは実業界、そういう多方面な人を十分に選択いたしまして、きわめて公正かつ適当なる判断のもとに決定をいたしてもらうという建前を堅持しております。法務総裁はこれに対して何らの干渉をすることもできなければ、まつたく独立的性格を持たれたいわゆる準司法的委員でありまするから、御心配のような点は毛頭ない、こう考えております。
  66. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今後さような憂いのないことをまず希望いたし、本日はその程度にいたしておきます。  次に承りたいのは、公安調査庁には捜査の強制権を持たせておいでになりません。これはいろいろ深慮の結果であろうと思うがかようなものがなくてはたして十分に職務が行れるかどうか、またあればよいのだというんなら、何ゆえに持たせないことにせられたのか、この点を承りたいと思います。
  67. 木村篤太郎

    木村国務大臣 ごもつともの御質問だろうと思います。理論といたしましては団体規制のごとき重要な人権制限をなす場合には、事前に十分な証拠を集める必要上、個人を起訴する場合と同様に強制調査権を必要とすることも考えられるのであります。しかし現実の問題として考えてみますに、一方に規制の原因となるこの暴力主義的破壞活動は、個人的に見ると犯罪でありますから、刑事訴訟法上の強制捜査対象となるものであるのでありますが、一つの行為に対しまして刑事訴訟法のほかにさらに一つの強制調査権を設けることは当を得ないと考えましたほかに、一般に不必要な疑惑を與えますことを避け、公安調査庁には団体規制のためにする強制調査権は與えないことにした方がいいのである、さような考えからしたのであります。従つて団体規制のための証拠收集は、一に関係庁の協力を得まして、すべて任意の方法をもつて行いたい、こう考えておる次第でございます。
  68. 鍛冶良作

    鍛冶委員 強制調査権を認められぬ理由は今承りましたが、さらにかような団体規制目的とする調査庁であります以上は、常に各種団体の行動に対してこれを取調べ——取調べと言つては語弊があるかもしらぬが、いわゆる情報の收集は必要あるものでなかろうかと思われます。従いましてここでは平素常にこれらの団体に対して情報の收集をやられるものかどうか、またやられるものであろうとわれわれは考えますが、そこで問題が起りますのは、さようなことをやればかつての旧特高の復活ではないか、さらにまた大きくいつて旧治安維持法の復活と同様のものでないか、同じ目的と見てもよいし、同じ手段といつてもいい疑いを生ずるのでありまして、これが本法に対する批判の最も大きい点だと考えるのであります。従いまして情報收集の必要ありやいなや、必要ありとすれば旧特高と異なるかどうか、さらに治安維持法とどのような点において異なりのあるものであるかを、これはでき得る限り詳細な御説明を願いたいと思います。
  69. 木村篤太郎

    木村国務大臣 もとよりいろいろな調査をしなければこの運用は全きを期することはできません。今鍛冶委員の仰せになりました、しからば従来のいわゆる特高警察とどこがかわるか、また治安維持法との関連はどうなるか、ああいうような昔のことを再び繰返される懸念がある、ごもつともなお考えと私は考えております。その詳細につきましてはいずれ逐條審議を願いますときに事務当局に詳細にこれを述べさせるつもりでありますが、私から一言申しますと、御承知通り旧治安維持法におきましては、主として朝憲の紊乱とかあるいは私有財産の否認という建前をとつて、それを取締りの対象としたのであります。申すまでもなく、一番主たるものは国体の破壞である。それがややもすると思想方面の取締りにまで進んで行つたのであります。これが治安維持法で一番問題を引起した原因と考えております。ところが本法案におきましては、申すまでもなくこのような思想上の問題とは全然かけ離れて、ただ暴力的破壞行為をする団体、これを規制して行こうというのであります。しかもその対象とする団体の行動というものは、第三條におきまして嚴格に規定されております。この取締りの対象を全然別箇にしておるということが第一、それから調査するにあたりましては、今申しまする強制調査の方法をとりません。任意の調査であります。この点から考えまして非常にかわつておる次第でございます。しかも事の取調べに当るものというのはこれは人であります。この人をいかに民主的に取扱わせるか、これは私は一番の大問題だと考えております。いかにいい法律が出てもこれを運用するのは人である。ことにこの調査の任に当るべき人は十分にこの法案の意図するところを理解いたしまして、いやしくも人権蹂躙の疑いのあるような行動に出てはいけないのであります。そこでわれわれとして一番考えましたことは、その取締りの任に当るべき人をいかに教養すべきか、教育の方面からこれを考えて行くという考えのもとに研修所という附属機関を設けて、これらの人たちの教育に対しまして人権擁護の建前から、いやしくも憲法規定される基本的人権を侵すことのないように努めておる次第であります。さような次第でありまして、この法案は昔の治安維持法の再来というような懸念は毛頭もなかろうかと考える次第であります。詳細のことは逐條審議の際に御答弁をいたします。
  70. 鍛冶良作

    鍛冶委員 なおただいまの法務総裁の御言明はたいへん重要なことでありますから、具体的に間違いのないようという点につきましては、逐條審議の際に讓りまして、ただいまその程度にとどめておきます。  次に団体の規則につきまして、規制対象となるものは破壞活動を行つたばかりでなく、将来これを反復するのおそれあることをも必要としておられるのであります。この点も立法上における周到なる用意は十分了知いたしますが、はたしてかようなことが実際において認定でき得るものであるかどうか、認定でき得るとすればどういうことをもつて将来の危險を認定せられるものでありましようか。これも逐條審議の際こまかく承りたいが、大体の構想をまず承つておきたいと思うのであります。
  71. 木村篤太郎

    木村国務大臣 将来団体の破壞活動を行うおそれありという認定はどうしてやるかという御質問の要旨と考えます。私はそれは可能と考えております。すでに今日の立法例を見ましても少年法あるいは消防法、その他多数の法律におきまして、将来の各種の措置を講じておるのであります。そういうことをなすおそれのあるものについての処置を講じておるであります。多数の立法例も存在する次第であります。現在のその団体活動をどうこうとか、あるいは活動方針とか、その他諸般の状況を総合いたしますれば、これは十分に合理的に、将来さようなおそれがあるかどうかということの推定はできると考えております。繰返して申しまするが、少年法においても消防法においても、将来のことについての措置規定しておるのであります。将来そういうような活動をするおそれがあるかどうかということにつきましては、各種の事情——繰返して申しまするが、その団体のこれまで行つた行動とかあるいはその方針だとか、趣旨だとか、そういうものを総合いたしますると、大よそ推定がつき得るものと考えておる次第であります。
  72. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先ほど来の質問でほぼ立案者の御意思はわかりましたが、大事な点でありまするから、私は重ねて承りたい。本法に対するいろいろの批判があるのでありまするが、法そのものの批判よりも、先ほど来述べましたる通りこの中には非常に疑問の文字が入つておる。その文字を、現在の取締り当局において取締るときにこれを逸脱し、もしくはこれを誤つてやらないかということが、最も憂いの対象になつておると考えておるのであります。そこで重ねて承りまするが、この中の扇動という点または文書、図画を單に所持し、もしくは携帶しておるというような点までも取締る必要があるとは先ほどおつしやいましたが、なお考慮の余地のあるものかどうか。それとも本法に規定してあるものは、絶対必要欠くべからざるものと思いになつておりまするか。これは将来の審議のためにあらかじめ承つておきたい点と思いまするので、くどいようでありまするが、いま一度御答弁願いたいと思います。
  73. 木村篤太郎

    木村国務大臣 ただいまの御質疑は、要するに「せん動」という文字を使つておるが、これはどこまでも当局者としては維持すべき考えを持つておるかどうか、こう拜察するのであります。私はこの「せん動」という文字はどこまでもこの法案の骨子をなしておるものと考えております。先ほども申し上げました通り、文書でもつて内乱、騒擾その他悪質犯罪正当性を主張したりするようなことは、国家治安の上から許すことができないものであります。しかもこの扇動というのは、あおることであります。これは個々人に対してそういうことをしろと言うことよりも、相当数の多衆に向つてそういうような危險行為をすることをあおるということは、国家治安の上から見て許されぬ、どうしても処置しなければならぬと考えております。しかもさような扇動の内容を含んだ文書が一般に配布されたらどうなるか。われわれとしては、決して言論、出版の自由を規制しようという考えは毛頭ないのであります。これは憲法基本的人権から見ても、尊重しなければならぬことはもとよりであります。しかしこの言論も出版も、もとより公共の福祉が優先すると私は考えております。公共の福祉のもとに、初めて言論も、また出版も自由でなければならぬ。一たび公共の福祉を侵すような言論であり、また出版であれば、これは当然治安の上から見ても取締らなければならぬと考えております。そこで内乱あるいは騒擾あるいは放火その他を起すことを扇動したり、またその正当性を主張したりするような文書は、言論の自由あるいは出版の自由という見地から見ても、また許すべからざるものと考えておる次第でありまして、当然取締りの対象となるものであると考えます。ただ、最後に御質疑になりましたそういう文書を持つておるだけでもいかぬのではないかということでありますが、ただその文書を持つているというだけでは、この取締りの対象にならないのであります。ある意図のもとにそういうものを持つていることを前提としておるのであります。だからそういう文書をどこからか拾い上げて持つておること自体は、決してこれは対象にならない。そこがこの法案の一番の骨子の点であると私は考えます。
  74. 鍛冶良作

    鍛冶委員 もちろん「目的をもつて所持する」となつておりまして、その目的があるかないかの認定ははなはだ重要な点でありまするが、これはいずれ逐條審議の際に詳細に質問することといたします。  私は最後に、法務総裁にかようなことをお聞きするのはどうかと思いまするが、国務大臣として、またさらに治安の任において深い関係があると思いまするので承るのであります。かような治安状態にありまするときに、この治安の不安を起す原因であろうとする団体規制及び取締りの必要なことは当然でございます。当然でありまするが、さらに進んで、かような団体が次第に強化して来ることはどういうことであろうか。私は国家の治安の根本対策を立てるならば、現われたる現象を取締ることも大切でありまするが、さらにその根源である社会不安がどうして起つて来るのか、かような社会不安を起すような団体がどうして強力になつて来るのか、この点までも考えなかつたら、真の治安維持とは言われないのではないかと考えるのであります。そこでかような団体が強化したる根本原因は那辺にあるとお思いになつておりますか。また先ほど来具体的に述べましたる日本共産党等のやり方を見ますると、社会の混乱を起すことをもつて第一義とし、その上でなかつたら暴力革命はできないものと認めておると私は信じております。しこうして混乱を起すときには、社会に不平のあるところを利用しまして、不平をいやが上にもあおり立てて、そうして社会の混乱を起し、その混乱が起きたときに暴力を用いて野望を遂げようとしておるものと確信をいたしております。そこで私はまず何よりも国民に不平のない政治、しかもこの不平の根本は経済上の不安、生活の不安等が最も大きな原因になるものと心得まするので、治安維持を考えまする上において、大きく国策の面においてもさようなことまで考えてかからなければならぬ。それと取締りと、両面相まつてでなければ根本的な対策はできないのではないかと考えまするが、法務総裁の御見解を承りたいと存じます。
  75. 木村篤太郎

    木村国務大臣 お答えいたします。すべての犯罪におきましても言われることでありまするが、その根本原因はどこにあるか、ことにかような暴力活動に関する問題につきましては、暴力そのものは別でありますが、いやしくもその団体にどうして引きずられるのであるかというようなことに対しましては、いろいろの原因があろうかと考えます。そこで何よりもわれわれとして一番考えられることは民生の安定であります。民主の安定なくして国家というものは、いわゆる平和的に建設できるものではないのであります。平和的文化国家を建設するにあたりましては、まずもつて民生の安定ということが必要なことは論をまたないのであります。しかしてこの民生の安定についていかにすべきかということは、ともどもみな考慮を払つておることであろうと考えます。政府においても議員諸君においても第一に頭を使うべきことは、民生の安定にほかならぬと私は確信いたしております。しかし現在の暴力団体が必ずしも民生安定を目標としてやつておるわけではないと思います。これは国際的な関係も、いろいろな関係もあります。御承知通りイデオロギーの関係もあるのであります。これはその根底に何があるかということをわれわれはよほど考えなければならぬ。もとより民生の安定ということは必要でありまするが、その破壞的団体の根本をなすものは何であるかということを、われわれはまた深く掘り下げて研究する必要があろうと考えます。しかし御指摘の趣意はよくわかつております。何といつても目下の急務は、どこまでも国民をして安定させなければならぬ。これについては政府も一段と努力をいたしたいと考えております。
  76. 鍛冶良作

    鍛冶委員 申し上げるまでもありませんが、ただいまの私の考えは、もちろんかようなことの取締りは必要でありますが、かようなもののはびこるべき畑をなくすれば心配がないのであります。この点をもあわせ考えてわが国の治安の万全を期してもらうことをこいねがつて、本日の私の質問を一応打切つておきます。
  77. 山口好一

    山口(好)委員 鍛冶君のただいまの御質問に関連しましてお尋ね申し上げたいのであります。本法案につきましては今天下の関心を集めておる、こう申してもさしつかえないのでありまして、さらにゼネストまで本案を対象として行われんとしておるような情勢下にあります。日本国民としてはおそらく今日の情勢下いろいろな集団的、計画的な暴力行為、破壞行為が行われておることを認めておりまして、治安維持の建前から、これははなはだ遺憾であります。何とかこれに対する対策、安全処置を講ぜねばならないということは、だれしも痛感しておるところでございます。ただここで考えねばならないことは、これらの一部不良分子、治安撹乱分子を押える対策のために、善良にして有能なる国民がこれに災いせられ、正当なる自由が抑圧せられたり、あるいは真に国家国民を憂えて真摯なる叫びをする熱心にしてまじめなる言論が制約せられ、あるいはそうした善良な人々なり団体なりが非常に苦しめられるというような事態を惹起するならば、これはいわゆる角をためんとして牛を殺すという結果になることをおそれるものであります。法的に見るならば、憲法において国民基本的人権として高く掲げられております言論、出版、集会、結社の自由は、あくまでもこれを尊重して行かなければならないのでありまして、本法案ができましたために、こういう正しいものが脅かされやしないかということに非常な心配があるわけでありまして、ともすればこの法案の実体というものをつかみ得ないで、ただ漠然とわれわれが非常な苦しみをなめたところのあの治安維持法の復活ではないか、思想まで取締る法律がまた出るのではないかということが、非常な不安になつておるわけでありますので、先ほど鍛冶委員からも治安維持法と根本的に違う点をという御質問で、法務総裁から大体の骨子の答弁はあつたのでありまするが、今日御提案になりましたその冒頭において、治安維持法との根本的な違いはどこにあるか、国民としての正しき思想、正しき言論、集会、結社あるいは正しい労働運動というようなものは、この法律によつて決してそこなわれないのであるということを、法務総裁あるいは事務当局の方々でもけつこうでありますが、大体こういう点が違つて来ておる、ゆえにこれで安心できるのではないかというところをひとつ箇條的でもけつこうでありますからもう一度御説明願いたいと思います。
  78. 吉河光貞

    吉河政府委員 総裁にかわりまして御答弁申し上げます。実は私どもはこの破壞活動防止法案立案をするに当りましては、過去における治安維持法の関係運用につきまして十分これを検討いたしまして、これを本法案立案の出発点としたわけであります。私どもといたしましては、治安維持法の内容並びに運用についてどういうような反省をしているかということを腹蔵なく申し上げて御参考に供したいと思います。  御承知でもございましようが、治安維持法は三つの大きな部分からなつておりまして、第一章は罪、犯罪であります。第二章は特別な刑事手続でございます。第三章は予防拘禁でございます。ここでは第一章の罪について御説明申し上げたいと考えます。治安維持法の立法理由は、御承知通り危險思想または過激思想の取締りの必要から制定されたのであります。この治安維持法の罪の構成について非常に特色があるのであります。それは第一に治安維持法が非常に典型的な、非常に広汎な目的罪として構成される。第二は治安維持法が結社犯の形式で構成される。第三は治安維持法が、その結社犯の構成が非常に拡張された形式を持つておつたという点であります。治安維持法の目的は何か、簡單に御説明いたしますと、国体の変革であり、私有財産の否認であります。     〔委員長退席、鍛冶委員長代理着席〕 特別な犯罪の実行を目的とするものではなくして、国体の変革あるいは私有財産制度の否認というようなきわめて広汎かつあいまいな、漠然とした内容をその目的に持つておりまして、この目的を実践目標として結社を組織する限り、その方法のいかんを問わずすべて取締ることになります。行為の違法性はこれを実現する手段方法にあるのではなくして、この広汎な目的の中から流れ出して来るというような形になつております。この目的をつつ込んで考えてみますと、とりもなおさずそこに一つの思想が取締りの対象になつておるのではなかろうか。そうしてこの目的を中心にしまして結社を結成、指導、加入した者は一切犯罪になる。結社犯が絶対に悪いというのではありません。ただその結社犯がきわめて広汎な事項目的として構成されるとき、そこに事前禁止の逸脱が行われるのではないだろうかと考えております。しかも治安維持法におきましては、結社とは何らの関係のない第三者が結社の目的遂行のためにする行為をしたということによりまして、相当な重い処罰を受けるというような建前になつております。治安維持法はこういう内容を持つておりましたか、しかし治安維持法がいろいろ今日論議対象となつている点は、むしろこういう内容よりも、それが実際に運用された点に問題があるのではなかろうか。御承知通り、当時におきましては違警罪即決処分行政検束その他万般の制度がありました。こういう制度の中に治安維持法が運用されたのでございます。こういう点が非常に今日問題になるのではなかろうか。  ただいま申した通り、治安維持法自体の中にも拡張解釈をされるような点があつたことを否定することはできないのであります。この点はこういう治安立法をする上におきまして重々反省をいたしまして、立法内容からいささかもそういう面のないように立案しなければならないと考えて本法案におきましては、こういう広汎な目的をもつて結社構成方針をとつていないのであります。あくまで具体的に国家社会基本秩序実害を與えるような極端な犯罪行為を中心として立ててあるのであります。しかも団体規制するのは、その犯罪が将来行れるという現実の問題を基礎としまして、これを規制して行くという立場をとつておるのでありまして、治安維持法とは根本的にその構造を異にしておるのであります。  御参考までに私どもの見解を申し上げた次第であります。
  79. 鍛冶良作

    鍛冶委員長代理 田嶋好文君。
  80. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 今回提案となりました破壞活動防止法案につきまして、政府の所信をただいまから伺いたいと思うのでございます。  申すまでもないのでございますが、本法案はおそらくポツダム政令による団体等規正令が平和條約の発効により効力がなくなりますので、これにかわる法律案といたしまして立案されたものであるように思います。昨年の九月に大橋前法務総裁が構想を発表されまして以来、現木村法務総裁がこの法案立案、提出するに至りますまで練り直すこと実に二十数回、そうして法案の名称も特別保安法案から破壞活動防止法案とかわつて参りました。十分審議研究を盡して参つたようでございますが、しかしいよいよ本法案国会に提出される段階になりますと、言論機関の批評的な言葉また警告的な言葉、また言論機関の論説と同時に、総評を中心といたしましたところの労働組合のゼネストを含む抗議となつて現われましたことは、御承知通りであります。そういたしますと非常に慎重審議を重ねて今日まで参つておるのでございますが、これらの事実を見ておりますと、いまだ国民全体を納得せしめていないのではないか。国民全体がこの立法に納得いたしていないのではないかという感を遺憾ながら抱くものでございます。しかる以上は、政府は、本法案がこの国会を通過いたしますまでは、十分国民を納得せしめるように、この委員会において最善の努力をお盡し願いたい。こういうことを私は冒頭に政府に申し上げたいのであります。  申し上げるまでもないことでございますが、われわれはいよいよ独立するのでございます。独立というのは、これは第一番に、何者からも外部的などんな力をもつてしても国家の意思を制限されない。国家はその自由なる意思を表示することがどこまでもできるということでなければ、独立ではないのでございます。同時にこれに付随いたしまして、国内に住む国民をして自由に語らしめ、自由に行動せしめる。この国民基本的人権国家によつて十分保障されることか、独立でなければならぬと考えておるのであります。もしもこの自由が制限せられ、不法に圧迫を受けるということになれば、これは独立国家ではないのであります。しかる以上、私たちは国家の独立を絶対的に推進して行くと同時に、国民の自由を絶対的に守つて行かなければならぬ義務を持つものと考えます。  私は自由と申し上げましたが、しかしこの自由を無制限なものと申しておるわけではないのであります。私たちのその行動の自由が公共性を無視しても、また国家の秩序を破壞しても是認せられるか。もちろんこれは是認せられるものではございません。われわれの自由は公共性を維持すると同時に、国家の秩序が破壞されない行動でなければ、自由とは言えない。公共性を無視した行動の自由があるとしますれば、また国家秩序を破壞する行動の自由があるといたしまれば、むしろこれは自由でなく、基本的人権の侵害となるのであります。これこそ私たちは自由をはき違えた、かえつて自己の権利を侵害される立場に立つておる自由であり、反対の立場に立つて考えなければならぬ行動である。こう考えますときに、私たちの自由は、基本人権の擁護から来るところの自由の確保の範囲においての自由でなければならぬと思うのであります。そうした意味からいたしますれば、公共性が無視され、国家秩序が破壞せられる行動につきましては、むしろわれわれの人権の侵害になる立場から考えますから、これに対抗する措置を講ずることが絶対に必要になつて参ります。こういうように考えます。  最近遺憾なことでございますが、全国的に暴力行為が発生いたしておりますことは、皆さん御存じの通りであります。警官に対するテロ、税務署の襲撃、また検察幹部に対する投石、関西地方の集団暴行事件等、実に枚挙にいとまがないほどこうした事例が起つておるのでありまして、これらの連続的暴行行為事件が、いかなる背後関係によるものであるかということは、現在まだ確証があがつていないようでございますから、確証があがつてから、それを断ずる以外に道がないのでございますが、われわれの想像することのできる某団体の国内の治安を無力化する恐怖戰術の一端の現われであるといたしますれば、まことにこれこそ憎むべき行為であり、意図であります。私はそう断じてやまないのであります。日本共産党のかつて機関紙「アカハタ」の後継紙と目せられておりますところの「内外評論」並びに「球根栽培法」の記載の記事が真実のものといたしますれば、日本共産党は明らかに武裝革命の段階に入つたものと断ずるのほかはございません。こうした立場からいたしますれば、今回の立法はいまだ不十分である、もう少し拡充した法案をつくつてもいいのじやないかという気持すらいたすのでございます。しかしながらこれがために、先ほど山口君も言われたのでございますが、善良なる国民基本的人権が侵害せられ、憲法で保障せられた国民の自由が不当に制限せられてはならないのでありまして、今回の立法に対して、共産党に対してはどうしても何かの線を引かなければならない。しかしこの共産党に対する制限のためにわれわれの基本的な人権制限せられ、侵害せられるのではないかという国民の懸念もあると私は思うのであります。  そこで私は、このような立場に立ちまして、以下の質問を法務総裁にいたしたいと思うのでございますが、まず第一に、本法案は先ほどから申しておりますように、国民基本的人権に関し重大な影響のある法案であります以上は、国民各層の意見を十分に聞いてかからなければならない。しかるに本法案が提出せられることになりますと、言論機関の批評は急激となりました。そして民主団体の反対的行動がまつたく露骨となつて参つたのであります。実は国会におきましても、政府は本法案に対してあまりにも秘密主義ではないかという意見がちらほらわれわれの耳に入つた。そうしたところよりいたしまして、政府は本法案立案するまであまり秘密主義を守り過ぎたのじやないか、立案に対して一体国民の声を聞いたか。町民の声を聞いたといたしますと、どういう方面の国民の声を聞いて、この法案の万全を期したか、またもし聞いていないとすれば今後いかにして万全を期そうとするか、こうした点を政府に承つておきたいと思います。
  81. 木村篤太郎

    木村国務大臣 お答えいたします。この法案を作成するについて独断的の傾向があるのじやないか、各層の意見を聞いたかということでありますが、もとよりこの法案作成に至ります過程において各層の意見を聞いておるのであります。つまり政令諮問委員会意見を徴し、あるいは言論界の意見を徴し、学者の意見を徴し、あるいは国会議員の種々の意見を徴し、検察取締りの実際の任に当る者の意見を徴し、各方面の意見を参酌して成案を得たのであります。ただ法案国民に十分に周知せしむる方法をとらなかつたのじやないかという御批判については、私はその責任の一端を負わなければならぬと思います。しかしながら私といたしましては、おそらくこの法案はむしろ手ぬるいのじやないかという批判を受けるのではないかとまで考えていたのであります。しかるに一たびこの法案が世上に発表されますといろいろ批判を受けているような次第でありますが、この批判も私はみな当つているとは考えておりません。おそらくこの法案に故意に非難をする者があるのじやなかろうかとさえ思つているのであります。もとよりこの法案の趣意とするところは、今田嶋委員からお言葉がありましたように、いわゆる国家の基本的秩序を乱す団体に対しての取締りでありますから、ほんとうにこの法案の真髄並びに各條について御検討願えれば、毛頭も正常なる団体活動規制したり、あるいは言論を抑圧したり、あるいは出版を規制したりするような意図のないことは、きわめて明瞭になるかと考えておる次第であります。ただこの法案の周知徹底についていささか欠くるところがあつたことは私は認めざるを得ない、今後この委員会その他を通じまして、この法案のほんとうの趣旨とするところはどこにあるか、また実際面からしましていやしくも正常な団体活動その他言論、出版を抑圧するものでないということを明瞭にいたしたいと考えておる次第であります。
  82. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 次にやはりこれに関連してお導ねをいたしたいのでありますが、現在ポツダム政令に基く団体等規正令が存在しております。現在までも破壞活動は活発に行われて参つたように思いますが、こうした破壞活動をやつた団体に対して団体等規正令を発動した例はあまりございません。ほとんど現在までは騒擾事件に対しましては刑法刑罰規定で処理ができてしまつておるのであります。にもかかわらず急に独立を前にいたしまして、基本的人権の侵害になるのじやないかというおそれのある、しかも非難のあるこの法案立案しなければならぬという原因は那辺にあるか。ここらあたりが不明確でありますために、とかく誤解を受けておるのじやないかと思います。たとえば現在よりも独立後は破壞活動がもつと活発になる、国際情勢もいろいろ複雑になつて来るということになりますと、これは一応考えなければならぬ。しかし独立を機会国民は一層平和に暮らせるのじやないか、東洋に平和が来るのじやないかということになると、かえつて逆行する形になるのであります。特にこの法案をつくらねばならぬ理由を御説明願いたい。
  83. 吉河光貞

    吉河政府委員 総裁にかわりまして御答弁申し上げます。  御承知でもございましようが、団体等規正令は連合国最体司令官の要求に基いて制定されたポツダム政令であります。これが運用の解釈につきましても、その最高解釈権は司令官に留保されておりました。また規定内容におきましても、日本国独自の法的内容ではなくて、占領軍に対する反抗、反対というがごとき規定も存在しておりました。今回私どもが立案いたしました本法案は、日本国の国内法として、日本国の責任をもつて団体等規正令とは何らの関係なく立案されたわけであります。過去におきまして団体等規正令の運用の面において、治安の点において欠くるところがあつた、及ばざるところがあつたということにつきましては、重々私どもの責任として痛感しておるのでありますが、このたび講和を迎えて国内法として独自の法案国会提案して御審議を仰ぐ以上は、私どもといたしましてもこれが運用の万全につきましては全責任をもちまして当る覚悟であります。
  84. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 非常な御決意を承りまして、御決意のあるところを了解するのでありますが、私の聞かんといたしますことは、その趣旨においては了解をいたしているのでございますが、特に国内治安の確保のために、独立を控えて人権制限になるのではないかと疑いを持たれるような法案を出さなければならない理由、もつと具体的に申しますと、この国会で急に出さなくても、もつと破壞活動が活発になつた段階において出してもいいではないか。また次の国会において出してもおそくはないではないか、こういうような考えも生れるのでございます。その考えに対しまして、特に急いでこの国会で独立を控えて出さなければならないという原因が那辺にあるかということをひとつ局長からもう一度承りたいと思います。
  85. 吉河光貞

    吉河政府委員 総裁にかわりまして御答弁申し上げます。第一に独立を控えましてかような法案立案いたしましたことは、日本の国内の治安はわれわれの手によつてつて行かなければならないという気持であります。第二は、後日御説明申し上げますが、すでに団体によるきわめて破壞的な活動が、特に大衆を暴力的な活動にかり立てる宣伝、扇動がこういう団体によつて行われているという事実であります。こういう活動を放置して相当大規模な事態に拡大発展したあかつきにおきましては、これを防止し收拾する上におきましては、すでに手遅れの感があるような段階さえも想像されるのでありまして、すでにその危險が現認される以上、国家がこれを防衛するために必要な立法措置を講ずることは国会権限であり、責任であるというふうに考えている次第であります。
  86. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 もう一度お聞きいたしますが、これは特に吉河局長にお尋ねいたしておりますので、今のお答えは法務総裁ですと納得が行くのでございますが、局長でございますのでもう少しこまかくお答え願えるものと察するのでございます。今のお答えは抽象的でございます。現実に今までも破壞活動が繰返されている。しかもそれが刑罰法規で処罰された。だが現実に今後おそれがなければ、今までの刑罰法規程度で目的を達しているはずである。ですからそれがどうにも刑罰法規では目的が達せられないから、しかも独立を控えてこの法律がいるのだということには、もつと具体的な理由があると思います。この場合抽象的な言葉では私以外の委員も納得できないことだと思います。破壞活動が具体的にこういうように行われている、しかも進行されつつあるのだからということでひとつ具体的に説明していただきたい思います。
  87. 吉河光貞

    吉河政府委員 お答えいたします。先ほど鍛冶先生の御質問に法務総裁からお答えがございまして、この法案のよつてつて立つ根拠となる具体的な現実の事態についての御説明並びに資料は、後日申し上げる予定になつておりますので、どうぞその節御参照いただきたいと思います。
  88. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 それでは今の点が明確になりませんとこの審議が非常に困難を来すと思いますので、なるべ早く資料とともに御説明を願いたい。これを希望しておきます。  次に本法案につきまして疑問になります点は、破壞活動が現実に行われておるといたしますれば、われわれが治安確保の立場からいたしまして、破壞活動の防止であればいい、従つて法案内容におきましても破壞活動をする団体、こういう記載だけでいいんじやないか。特に本法案によりますと破壞活動だけでなくて、「暴力主義的破壞活動」というのを入れております。これは破壞活動防止法案であります以上は、破壞活動をやつたもの、これで目的を達せられるのであります。特に「暴力主義的破壞活動行つた団体」とお入れになつた意味は那辺にあるのでございましようか。この理由を承りたいのでございます。  それから暴力主義的破壞活動をする団体に該当するものが現実にあるか。ここをひとつはつきりしてください。
  89. 吉河光貞

    吉河政府委員 総裁にかわりまして御答弁申し上げます。御承知通り、破壞活動国家社会公共の安全を破壞する活動といろいろございます。欺瞞、浸透、謀略、各種の手段が行われるのであります。贋幣をまく行為も破壞活動であります。経済界を撹乱するような逆宣伝をするのも破壞活動であります。ここで取上げました破壞活動は、これらの破壞活動のうち極端な暴力行使して、国家社会の規模、秩序を破壞するような破壞活動を取上げまして、かような頭をかぶせまして内容を明確にしたようなわけであります。  次に現実にそれでは暴力主義的破壞活動を行うような団体があるかというようなお尋ねでございますが、先般法案提案理由といたしまして、法務総裁からもかような団体の存在を疑うに十分な事態がある。その事情につきましては後日いろいろの資料をもつて総括的、あるいは具体的に御説明申し上げることにいたしたいと考えております。
  90. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 次にこれは法務総裁から特にお答えを願いたいのでございますが、今世間でいろいろとこの法案に対して懸念をもつて見られておりますのは、山口委員も申されましたように、第二條で思想、信教、集会、結社、これらの権利を不当に制限することがあつてはならないと規定をし、また第二條の二で、この法律によつて労働組合その他の団体の正当な活動制限してはならないと規定し、これらの懸念のないことをはつきりさせておるのでございますが、ただわれわれが世間の騒ぐのを見ておりまして感ずることは、吉河特審局長のお言葉にもございましたが、法律はそのきめられることを心配するのではなくて、いかようにきめられようとも、そのきめられた結果によるところの運用を心配する。ここに今までのわれわれの体験上、非常に懸念を生んで参るのであります。実は先般も——こまかい例でございますが、私はある警察署に参りまして、抗議をしたことがございます。検事が証拠不十分なりとして被告を釈放した。ところが釈放した被告は警察で徹底的ににくまれまして、勾留の延期までして二十三日間勾留された。二十三日の最後の日に検察庁に送られて、検察庁は証拠不十分なりとして釈放したのに、それでもなお物足りなくて、帰つて来る被告を途中に擁しまして、捕えて、そうして法規の手続によらず、留置場に十時間放り込んだ。弁護士が抗議したので遂に帰した。それを警察に抗議を申しましたところが、検事が釈放してから十時間は法律できめられておるのである、法律できめられている以上は、法律の範囲内でわれわれが何しようとかつてだ、私たちは決して人権を蹂躪しておりません、こういうことを当の係の警部が臆面もなく、われわれ、しかも国会法務委員の前で言つておる。そこで私は、法律規定ざれたことを守るのが警察官である。それをうまく運営して、いかにかばつてやるかということを考えるのが君たちの務めではないかとお説教しましたところが、最後には頭を下げたのであります。これは非常に小さい例でございますが、とかくわれわれの心配するのは、この法律でもない、法務総裁でもない、吉河特審局長でもない。われわれの心配するのは、それよりももつと下の警察官である。警部であり、署長である。直接運営の衝に当る人を心配するのである。これがこの法律をつくるについての国民の一番人権制限になるのじやないかと心配する点でございます。この心配があるために、労働組合あたりも反対の声を上げる。また内心ではこの法律案は通してよいのではないかと考えておる社会党、社会党に怒られるかもしれませんが、社会党は通してもよいと考えておるかもしれぬが、反対しなければならぬというのには、やはりそこに心配があるからであります。内心は、共産党が今日こういうふうになつている以上は、何かつくらなければならぬということは、だれしもが考えておる。共産党以外の政党は考えておる。それが納得されないで、反対の声に引きずられて行くというのは、私はここにあると思う。そこでこの法律にははつきり、してはならないということをきめられておりますが、この運用に当つての保障を一体どういうふうにしてやるのか。これは絶対的にやりませんという抽象的な言葉、これは信用します。法務総裁の言葉は信用いたします。そり通り、決して法務総裁を疑いません。国民も疑いません。この言葉は信用するのでありますが、もつと下の人たちの今までやつて来た行為を知つておるがために、非常に心配するのであります。これに対していかような御対策をお持ちになるのでありましようか。
  91. 木村篤太郎

    木村国務大臣 ただいま田嶋委員から実例をもつてお示しになりました、さようなことはまことに遺憾のことと考えております。世間でとやかく言われるのも、さような事例があるからだと私も考えるのであります。この法案の取扱いにつきましては、もとより慎重にやらなければならないのでありまして、実際面において、これを調査するその人を得なければならぬと思う。それは十分な注意を払うと同時に、この法案におきましても、先刻来申し上げました通り附属機関といたしまして研修所を設けまして、十分にその人を得るようにしたい、こう考えておる次第であります。それと同時に、私はこの法案を作成するに当つて、最も民主的に行わなければならぬということに非常に考慮を払いまして、これは逐條審議のときに御説明申し上げることでありますが、特に十三條におきまして、いよいよ公安調査庁長官規制請求をするかどうかということの一応の取締りの結果をまとめるわけであります。その際に規制対象となります「当該団体役職員構成員及び代理人は、五人以内に限り、弁明の期日に出頭して、公安調査庁長官指定する公安調査庁職員に対し、事実及び証拠につき意見を述べ、並びに有利な証拠を提出することができる。」ということに規定しております。それから十四條に「当該団体は、五人以内の立会人を選任することができる。」そうしてこの立会人と、なお新聞通信、または放送の事業の取材業務に従事しておる人が弁明の期日に傍聴することができるという規定を設けまして、きわめて公正に事件を処理いたしたい。この弁明の期日に十分な弁明をするとともに、反対証拠を提出させる。しかも立会人を設けてこれを公正に取扱わせるという、従来に例のない規定を設けたわけであります。これらの点から考えますと、御懸念の点は私は十分氷解をされることだと、こう考えております。
  92. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 法務総裁もお急ぎのようでございますから、もう二、三点で済ませますが、次に本法案立案について一番国民が心配いたしておりますことは、とにかくわれわれの人権は、最後には裁判所で守られるのだ。検事がどうしようと、行政官がどうしようと、最後には裁判所がわれわれの人権を守つてくれるのだということが、民主国家の三権分立の思想であり、国民国家に対する信頼感だと考えます。信頼感だと考えますと、本法案が司法処分によらないで、行政処分でやるということは、国民の唯一の信頼感たるところの司法を排斥して、行政によつてやるということ、これが国民の不安感を生むという根本になつておると思うのであります。もちろん行政処分によつて人権の剥奪というものは、これは例外中の例外でなければならぬ。その例外中の例外であるところの行政処分を、司法処分を排斥してまで本法案立案しなければならぬ根本理由がどこにあるかということを、ひとつお示ししていただきたい。
  93. 木村篤太郎

    木村国務大臣 お答えいたします。行政処分団体規制することは不穏当ではないか、それは裁判所でやるべき問題ではないかということでありますが、これこそ私は三権分立の建前をとつていると思います。破壞的団体規制するということは、純然たる行政問題であります。政府が責任を持つてやるべき処分と私は考えております。そこでこれら処分が不当であると考えられた場合において、当事者は裁判所に対してその救済を求めることができるのであります。いきなり裁判所でやるということは、これは国家行政権を裁判権が侵害するものであると私は考えております。この建前はどこまでも妥当であり、また日本の法治国家として当然あるべきことであろうと信じて疑わないのであります。それで行政処分団体解散したというような例はほかにもたくさんあるのであります。いきなり裁判所でこれを解散するというようなことは、これはむしろ裁判所の行き過ぎである、こう考えております。行政処分に対して裁判所へ救済を求めることが三権分立の建前からいつて当然なことと考えておる次第であります。
  94. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 そういたしますと、ここにもう一つお尋ねをしなければならぬ問題が起るのでありますが、それは行政事件訴訟特例法の十條でございます。この行政事件訴訟特例法の十條によりますと、裁判所がこうした行政措置に対しまして処分の執行停止を命ずることができるという規定があります。そうして不当なる行政措置に対しましては裁判所が救済するという道が開かれておるのでございますが、この開かれた道に対しまして、十條二項が但書をつけまして、「但し、執行の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞のあるとき及び内閣総理大臣が異議を述べたときは、この限りでない。」こういうことになつておる。本件のような法案に対しましても、この行政事件訴訟特例法に基きまして行政処分を受けた人間はその停止を願うことができる。しかし総理大臣が異議を述べた場合はこれができない。こういうことになりますと、総理大臣は政府の最高機関でございます。しかもこの法案に基いてその処分をいたしますものは、総理大臣の最高機関のもとにおるところの行政機関である。そういたしますと、自分の部下の行政機関行政処分をしている。そうして総理大臣がこれに停止を命ずるということになりますと、この行政事件訴訟特例法の十條は無意味になつて来るような気がいたします。現在のように吉田内閣が嚴然としておりまして、嚴然たる総理大臣がおりまして、絶対人権を保障していてくださるときはよろしゆうございますが、もしもだんだんと世の中が悪化いたしまして、フアツシヨ的な総理大臣が出た場合、これはもう徹底的に総理大臣の命令によつて今の法務総裁の苦労がふつ飛んでしまう、この法律のために、国民は徹底的に悩まなければならぬ、非常な苦しい立場に立つ。ここで私たちが幾ら論議を盡しても、その論議は、昔の夢と去つてしまう、そうして私たちは再びかつてのファツシヨの政治のもとに呻吟しなければならぬ、こういうおそれが多分に起ると思うのでありますが、この懸念を防止する措置を何かおとりになるお考えはございませんでしようか。これは私の非常に懸念をしている一つの問題でございます。
  95. 高辻正巳

    ○高辻政府委員 法務総裁にかわりましてお答えを申し上げます。ただいまの御質問の点は、ただいま法務総裁からお答えになりましたように、三権分立の点にかかわるところなのでございます。申すまでもなく憲法によりますれば、行政権は内閣に属しておりまするし、司法権裁判所に属するとして、いわゆる三権分立の原則が鮮明にされておるわけでございますが、一般に行政庁の処分といたしましても、その合憲性なり、あるいは適法性につきまして一定の訴訟手続のもとに裁判所がこれを審査するというのが、司法権の作用からいつて当然のことでございまするけれども、このように裁判所行政処分の適法性を審査し得るのは、やはりこれは具体的な法の紛争について裁定を下すという司法権本来の作用の一環としてされるものであることは言うまでもないのでございます。これは決して裁判所が、行政権の帰属者たる内閣に対して合憲的な監督者としての地位に立つことを意味するものでないことは当然であろうと考えるのであります。こういうような意味から言いまして、行政処分につきましては、ただいま御指摘になりました行政事件訴訟特例法におきまして民事訴訟法によるような仮処分の制度は元来認められておらないのでございますから、ただ緊急やむを得ない場合の救済措置といたしまして特に執行停止の制度が認められたわけであります。しかしながら行政処分についてみだりに裁判所によつて執行停止が行われますと、行政庁の行政が不当に制約される、あるいは麻痺される、ひいては三権分立の原則を乱すというようなことがありますので、行政府の代表者であります内閣総理大臣が異議を述べましたときには、裁判所が執行停止を行い得ないこととしてあるわけでございます。すなわち執行停止に対する異議の申立権を内閣総理大臣に與えました趣旨は、一言にして申しますならば、むしろ裁判所による行政への侵犯を防止する。これによつて三権分立の制度を維持しようというところにあるのでございまして、これがために行政処分に対する救済が欠けることにはならないと存ぜられるのであります。今まで申し上げましたことは、一般制度の面でございますが、この破壞活動防止法が一定の処分権限公安審査委員会に與えた場合にも同様でございまして、しかも同法はしばしばただいままでに言われておりますように、公安審査委員会に準司法的な独立性を付與しております。その自由な判断に基いて当事者の主張弁明等を盡した証拠によりまして審査決定するものとするといたしております等、この処分の公正かつ民主的に行われますよう慎重な配慮をなしておる点に、特にまた留意をする必要があろうかと考えております。
  96. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 私はそのこまかい立法趣旨を聞いているのではないのでありまして、私の聞きたいのは政治的な意味において法務総裁にお聞きしたいのでございます。それは総理大臣が多分にそうした権限を持つているということは、この法案が将来ほごになつてしまうおそれがあるかないかということが重大問題であります。この行政事件訴訟特例法が認めているために、この法案が今非常に心配されて、人権の蹂躙をしないように、基本的人権制限をしないようにと心配してわれわれはかかつている。法務総裁もその点において御苦心をなさつておる。その御苦心になつていることが、これがあるために将来不備なものになつてしまうおそれがあるのではないか、あるとすればこれは今において処置しなければならぬのではないかという、大きな問題を聞いておるのであります。今事務当局からお答え願つたようなことは百も承知しているのでございまして、それを聞いているのではございません。
  97. 木村篤太郎

    木村国務大臣 田嶋委員のお説に対して申し上げます。裁判所で仮処分の申請を入れて停止するその場合に、御承知のように本案の訴訟は進行するのであります。結局本案においてその処分が正当であつたかどうかということが最後的に決定される。ただ一時的の仮処分の問題であります。そこで單なる処分裁判所においてもちろん理由ありとしてやるのでありますが、これが行政府の最高権威であります総理大臣が国家的見地からことに公共の福祉という面からこれを取扱つて、そうして一応の仮処分したものを破棄するということは、これは行政府の最高責任者として当然であろうと私は考えております。今お説のように、総理大臣がこれを濫用するおそれがありはしないか、こういう御懸念でありまするが、私は特にこの法案において、公共の福祉のために必要であつた場合というこの大きなものでもつて押えておく以上は、かりそめにも独断でもつてさようなことをするようなことはないと考えておる次第であります。
  98. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 私も法務総裁の意のあるところはわかります。わかりますと同時に、今法務総裁が御苦心なさつておることもわかるのであります。ただ私のその意味において非常に心配しますことは、今の総理大臣ならいい。今の日本の現状なら、だれが総理大臣になつても心配はないでございましよう。しかし世の中はだんだんかわつて参ります。かわつて参りましたときに、せつかく法務総裁が心配され、われわれが心配してつくつた法案が、そのかわつて来た世の中のために、まさかヒトラーもムソリー二も出はしまいと思いますが、もしもそういうことになつた場合、これは非常に危險法律として悪作用を世界に及ぼすであろう。この法律のわれわれの心配したことが水のあわになつてしまうのではないか、この懸念があるのではないかと思うのであります。これは対策を講ずる必要がないのでございましようか。御研究を願う余地がないのでございましようか。この点をひとつはつきり……。
  99. 木村篤太郎

    木村国務大臣 重ねて申し上げます。私は、その御懸念の点は御懸念として十分拜聴いたしますが、これはないと考えております。と申しますのは、田嶋さんも御経験がありましようが、こいうう事件については裁判所において特に促進をしてもらう。ことにこの法案において百日以内においてこれを取扱うように特別の規定を設けておりますから、結局は本案の訴訟においてそれがきまるわけであります。すぐそれを促進して行つて本案できめれば、その御懸念はないものと私は考えております。また総理大臣がこの公共の福祉という大きなかぶせ方でもつて来られておるものですから、これを濫用するというふうなことは、万御懸念はなかろうと私は考えております。
  100. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 これは後日の研究に讓りまして、話がこまかくなりますから、これでやめます。  最後に二点伺います。やはり今の人権の問題に関連して参ると思うのでございますが、最近承るところによりますと、木村法務総裁が担当なさつておりましたところの行政機構の改革によりまして、法務府に設けられておりました人権擁護局が縮小せられるかに承つております。人権擁護局がどんな活動を今日までして来たかということは、われわれよく知つておるのでございますが、人権擁護局というのは、その名前が示しておりますように、やはり人権の擁護に当つておるはずであります。その人権擁護に当つておるということは、今の世の中にとつては一番大切なことであり、われわれが願つておる。その願つておる人権擁護局が縮小され、しかも今懸念されるような立法が出るということになりますと、これは非常な誤解を招くおそれがあると思うのです。むしろこの法律を通す意味から申しますと、人権擁護局を拡充してかかつて、大いに国民に安堵を與えてやつて法務府は人権擁護についてはこういうふうに考えておるのだからお前たち心配することはない。この法律はどこまでも破壞活動を防止するためにやるのだぞ。善良なる国民の権利は、国家が絶対に保護してやるのだというようなことが示されれば、国民は安心するのではないかと私は思います。むしろこの制度は逆行しておるように思いますが、これは今に関連いたしますので、ひとつお聞きをしておきたい。     〔鍛冶委員長代理退席、委員長着席〕
  101. 木村篤太郎

    木村国務大臣 ただいま田嶋委員から仰せになつたこと、これは各所で聞く声であります。私の耳へもうすでにしばしば入つておる。まことに適切な御質問だと思います。御承知通り私も多年在野法曹の一人として弁護士の職に従事して来たのであります。人権の尊重すべきことは人一倍知つておるつもりであります。また擁護すべきものであるということも、これは確信をもつて言えるのであります。そこで私の考えといたしましては、一体人権を擁護するということは、これはむしろ官庁の手でやるよりも民間においてこれを大いにやるべきものだ、こう考えております。実は昨晩も連合会の会長に落ち合つた席上で言つたのであります。日本弁護士連合会あたりにおいて人権擁護の機関をつくつてやるべきである。私は前からその意見を持つておつた。賛成者もずいぶんあつたのであります。もうすでにこの時期になれば、具体的に日本弁護士連合会においてこれを取上げて、そうして大きな組織でやるべきではないか。これは行政機関が自分の手で人権擁護をするということよりも、民間自体がやるべき仕事ではないか、私はこう考えておるのであります。大いにその議論は、昨晩は、まあ受けたというわけではありませんが、同感の意を表せられたのであります。そこで具体的の、ただいまどうするかという問題、これは機構の改革におきまして人権擁護局というものは民事局の一課となるわけでありますが、しかしもちろん内容においは少しでもかわつておりません。私はむしろ実質的にこれを強化して行きたい。ただ名にとらわれて実質を失つてはいかぬ。これまでの人権擁護局で取扱われたことは、私は悪いとは言いません。相当の成果を上げておりますが、この上ども実質的によりよき成果を上げて行きたい、こう考えております。ただいろいろの関係からしてこれは民事局の一課となりますけれども、実質においては、これは強化されるとも決して縮小されるべきものでない、またすべきでない、こう考えて、今着々その準備にとりかかつておるような次第でございます。
  102. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 最後に一点お伺いいたしまして私の質問を打切ります。この法律によりますと、だんだんと原案が修正されて参りまして、本日の原案になつたわけでございますが、この原案に最終的になりました第一條には、「団体活動」ということを特に入れて世間の誤解を招いたようでございます。もつともなことだと思います。ところが第三條に参りまして一「暴力主義的破壞活動」とは」、ということで、具体的にその條項が入れられております。そうして第三條の2として、「この法律で「団体」とは」、ということで団体の定義が下されておるのでございます。第一には個人の行動が規定され、そうして団体活動というような言葉で規制されておるところに一つの疑問が生れるのでございます。そこでお聞きしたいのでございますが、個人が破壞活動をやつた、この個人の行動でも団体の行動として認められる場合があるかどうか。これは労働組合等で非常に心配しておる点がここにある。要するに一人の組合員が破壞活動をやつた。これが団体の行動につながつて団体行動と認められるかどうか。これは法文上私は非常に不明確なようにも考えますので、この点をここではつきりさしていただきたいと思います。
  103. 吉河光貞

    吉河政府委員 ごもつともな御質問でございます。法務総裁にかわりまして御答弁申し上げます。  個人行為団体行為と認められることがあるかという御質問でございますが、先ほど簡單に申し上げました通り団体行為団体活動となるためには、団体役職員または構成員が、——これ以外の者ではなりませんが、これらの者が団体意思決定に基いて、——基かなければいけません。その実現のために行う行為というものが団体活動になります。この法案におきましては、活動とは団体の場合にだけ限つておりまして、行為という言葉を使うときには個人の意味に使いわけております。かような意味でございますから、個人の單独の行為団体活動として認められるということは絶対にないわけでございます。ただ団体の最高責任者が、団体の意思に基いて団体の意思実現のために行う行為は、これは団体行為というようなことにも相なる場合があると考えております。
  104. 世耕弘一

    世耕委員 関連質問で一点だけお伺いいたします。先ほど法務総裁人権蹂躪の問題で、これは民間で大いに取扱うべきだというお説があつたようであります。私もこれには同感であります。しかしながら従来人権蹂躪問題が起るのは、多くは官憲が民間の人権を蹂躪したというところに原因があるように思うのであります。そうなりますと民間ばかりにまかしておいたのでは、弱い民間人が官憲と対立する場合に、はたして人権が擁護できるかという一点が疑われるのでありますが、その点について何かお考えがおありになりますか、一点だけ伺つておきます。
  105. 木村篤太郎

    木村国務大臣 民間が官憲の人権蹂躪について取扱うのは弱いことになるのではないかというお考え、これは私は逆だと思います。実は私も第一東京弁護士会に多年関係しておりまして、人権委員というものを設けまして、これが強力に働いた。各署にも行つて、弁護士、委員が出て行きましてどんどんやり、実績をあげておる。官憲が官憲に当るより、民間が官憲に対して積極的に当る方がむしろ力があるのではないかと私は逆に考えておる。私はどうしても日本弁護士会連合会なるものを中心にして大いに官憲の人権蹂躪に対して干渉して、事があつたときには活躍するということになる方が、実際的の運用においていいのではないかと考えております。しかし御批判もありましよう。御批判の点については私は率直にまた考えます。
  106. 世耕弘一

    世耕委員 民間が大いに奮起して人権をみずから擁護するということには同感なんです。ところが多くの場合民間の人権を蹂躪するものは官憲ではないか。だからそこをどういうふうに取扱うかということも考えておいてほしいという私の希望なのであります。
  107. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 本日はこの程度にとどめ、次会は明二十五日午前十時より開会いたします。これにて散会いたします。     午後五時二十五分散会