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1952-04-19 第13回国会 衆議院 法務委員会 第37号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年四月十九日(土曜日)     午前十一時四十三分開議  出席委員    委員長 佐瀬 昌三君    理事 北川 定務君 理事 田嶋 好文君    理事 田万 廣文君       角田 幸吉君    花村 四郎君       松木  弘君    眞鍋  勝君       加藤  充君    田中 堯平君       猪俣 浩三君    世耕 弘一君       佐竹 晴記君  出席政府委員         法務政務次官  龍野喜一郎君         法制意見長官  佐藤 達夫君         検     事         (法制意見第二         局長)     林  修三君         検     事         (検務局長)  岡原 昌男君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 本日の会議に付した事件  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約  第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案(内  閣提出第一四一号)     —————————————
  2. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案議題といたしまして、前会に引続いて質疑を続行いたします。質疑の通告がありますので、順次これを許します。世耕弘一君。
  3. 世耕弘一

    ○世耕委員 私はニ点ばかり簡單にお尋ねいたします。  まず第一に、用員のストライキが行われた場合、それが日本人であつた場合にどういうような取扱いをするか。
  4. 岡原昌男

    岡原政府委員 軍用員と一言に申しましても、その地位は必ずしも法律的に一つではないと思いますので、その地位いかんによりまして、わが国の労働法規が全般的に適用あるかどうかという問題が違つて来るのじやないかと存じます。従いまして、何か具体的にお示しいただければ、その線に沿うて研究いたしたいと思います。
  5. 世耕弘一

    ○世耕委員 たとえば、飛行機の整備をするために雇われておる。あるいは船舶について、特に軍需品積込みを請負うておる。そういう者が、作戰行動をする場合に、途中で故意に休んでしまう。そういう場合の処置はこの協定のどれで取締ることができるのであろうか。あるいはもう少しこまかい点まで掘り下げて行きますと、無電裝置関係のある者が故意に休んでしまう。そのために活動が不能に陥る、重要な軍の行動ができなくなるということがあり得る。そういう場合の処置はどの條文で取扱つて行くか、内地の法規だけでいいのかどうか。
  6. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま御質問趣旨によりますると、俗に軍用員と申しておりますが、それは法律的には軍構成員あるいは軍属という性質のもの唇はなくて、いわゆる一般の労務者ということになろうかと存じます。さような場合におきましては、その労務の性質いかんにかかわらず日本国労働法規が全般的に適用になる、かように御了承願いたいと思います。
  7. 世耕弘一

    ○世耕委員 それはただ特別な規定を用いずして、普通の労働法規を適用するというように解釈してよろしいのでありますか。
  8. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようでございます。従いまして、ただいま議題となりました本法案とは直接関接関係はないことに相なるわけでございます。
  9. 世耕弘一

    ○世耕委員 了承いたしました。次にお尋ねいたしたいことは、日本裁判所で事案を処理し、判決する、その判決がどうも軽過ぎるとか、あるいは重過ぎるというような場合、あるいはまた向う裁判権に服した者があまり重過ぎるじやないかとか、あるいは軽過ぎるじやないかという問題が当然起つて来るのではないかと思う。そういう場合に、それに対する双方の意見の交換とか、あるいはそれに対する裁判の修正とかいうことがあり得るかどうか、そういう場合を想定してお考えになるかどうか。
  10. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまのような御質問趣旨でございますると、たとえば、アメリカ人でこちらの裁判権に服する者に裁判があつた場合に、それが重過ぎるというような問題がございましても、これは日本国内法規で全部律すべきものでございます。また反対に、向う側用員軍事裁判所行つて裁判を受けた場合、その被害者日本人であつて、われわれの目から見るとどうも軽過ぎるという問題がございましても、それは向う側裁判所の問題でございまして、これを修正するというふうなことは規定いたしておりません。但しもしもさようなことが連続して起るとか、あるいは連続でなくても署しく何か問題になりそうだという場合には、これはただ後日の参考のためにと申しますか、取扱い運用の実際の面のお話合いといいますか、そういうような趣旨で話し合うことは可能だと存じます。
  11. 世耕弘一

    ○世耕委員 こういう場合が想像できませんか。たとえば向うにつかまえられて行つて裁判を受けて死刑宣告を受けたが、それは日本側の調査によるというと、実は人違いであつた無罪宣告されなければならぬのが、死刑宣告を受けた。そういう場合におのずから救済の道がないものかということが言えるが、どうですか。
  12. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようなことは私どもといたしましては、予定しておりません。少くともこの法案ではさようなことは考えておらないのでございます。
  13. 世耕弘一

    ○世耕委員 実際問題としてそういう点は当然考慮せらるりべきものではないかと思う。過去においてもこれに似通つた事件がはたしてなかつたかどうか、ありませんとは断言できないでしよう。こういうところに重要な人権が尊重されなければならぬのではないかと思う。一例を申し上げますと、この條文の中にあつたかと思いますが、戰争中に日本裁判所がやつたことに対して、アメリカ側からの修正的の要求があつて、修正しなくてはならぬということを、私ちよつと見たように思うのです。これなんかも、人権を尊重するという大きな意味から見て、非常に大切なことではないかと思うのでありますが、この点は、先ほどの御答弁と同様にお考えでありますか。あらためてもう一度お尋ねいたします。
  14. 岡原昌男

    岡原政府委員 お話によりますると、日本国人向う裁判権に服する場合のことを前提としておるように承つたのでございますが、さような場合は、行政協定によりまして全然起りませんので、従いまして、日本人向うでひどく重くやられるというような問題は、第一起りませんし、従いまして先ほど前提として申し上げた向う側裁判を是正するとか、修正するとかいうふうな問題は起らない、かように存じておるわけであります。
  15. 世耕弘一

    ○世耕委員 それはその程度にいたしまして、あらためて私は他の機会にお尋ねします。  次に合同委員会というのがありますが、合同委員会の活用は、どの程度まで活用されるかどうか。かなりこの法案はあわてて立案したように私は考えておる。ある意味において、突けばところどころに穴があるように実は考えるのであります。ただこの法案を完璧にするには、どうしても合同委員会を至急に開いて、その専門的な見地から適当な処置が行わるべきものと思いますが、この点についてお尋ねいたしたいのと、これはよけいなことかもわからぬが、大体行政協定に対して、あなた方専門家がどの程度までタツチしていたのかどうかということについても、少し私は疑問を持つ点があるのです。この間西村條局長にもこの点についてお尋ねしたのですが、その点はぬかりがあつたように思う。どうも外務省にまかせ過ぎたきらいがあつたのではないかというふうに感ずる点があるのでありますが、これは過去の問題だから申し上げないといたしまして、今後の処置について、合同委員会をどう活用して行くかということが問題であると思いますから、承つておきたいと思います。
  16. 岡原昌男

    岡原政府委員 やはり日米合同委員会の小部会と申しますか、刑事法民事法関係部会が現に数回開かれまして、今後起こるべきいろいろな、身柄のやりとりとか、押收、捜索する場合の問題とか、あるいは検証する場合、死体の解剖をする場合、いろいろな事態想像いたされますので、その場合に円滑に事が運ぶように協議は進めております。それである程度のその間の打合せが済みましたならば、実際の運用の面として、これを全国に流して行きたい、かように存じております。なお、今お話がございましたが、あわててつくつたというよりは、私どもの方は非常に急いでつくつたのございます。あるいはいろいろ予想せざる事態が起るかとも存じますので、さような点につきましては、今後合同委員会において問題を一つずつ解決して行きたい。その意味におきまして、今後合同委員会というものが、ある程度調節作用行つて行く必要があるのではないか、かように存じております。     〔委員長退席北川委員長代理着席
  17. 世耕弘一

    ○世耕委員 私があわててと言うたら、急いだと言われたが、結局あわててつくつたということになると思いますが、法案法案であるし、また急いで決定する必要があるように心得ますから、他の質問は後の機会に讓りまして、一応私の質問を終ります。
  18. 北川定務

    北川委員長代理 田万廣文君。
  19. 田万廣文

    ○田万委員 すでに他の委員から聞かれたかもしれませんが、もう一度再確認したいのでお尋ねいたします。本案第二條の「正当な理由がないのに」というその「正当な理由」というのは、刑法百三十條の「故ナク」とは、意味が違つているのか、あるいは違つているとすれば、どういう範囲で違つているかということの御説明を願いたい。
  20. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点はきのうも御説明申し上げたのでございますが、刑法百三十條には「故ナク」と書いてあり、あるいは刑法の他の條文の中に「不法ニ」とか「故ナク」という文字が随所に使つてございますが、刑法の「故ナク」、あるいは「不法ニ」というものが、いわゆる構成要件としてこれを認むべきであるか、あるいは違法性の問題として取上げるべきかということについては、刑法学者の間にいろいろ議論があるようでございます。ただ実際の問題といたしますると、この点につきましては、事件取扱いの立証問題に若干影響して来るという点があるだけでございまして、いずれにせよ、検察官側としては、事前にこの事由のありやなしやを判断することになろうかと存じます。従いまして、きのうは大西さんから御質問がありまして、その点は大体私どもは、たとえば許可を得てこの中に入つた、あるいは緊急避難で中に入つた、あるいは正当な業務を行使するために中に入つたというふうなことは、いずれも除外されると思いますが、それは大体広く言つて違法性阻却簡單考えてもいいんじやないだろうかとお答えしておきました。この点は刑法の学説をそのまま受継いで、論争の余地はあると存じますけれども、実際問題としてはさほど大きな影響はない、かように存じております。
  21. 田万廣文

    ○田万委員 りくつの上の問題になるかもしれませんが、「正当な理由」という点について、具体的に問題が起きた場合、米軍の方においては正当な理由がないと認め、裁判所の方はあるというふうな食い違つた見方が起きた場合、日本裁判所ではこれに対して、無罪判決があるということが予想されると思います。その際に米軍との関係においては、何らあとで文句を言うたり、また聞いたり、訂正したりする必要は絶対にないと思いますが、その点御意見を承りたい。
  22. 岡原昌男

    岡原政府委員 お話通りでございまして、こちらの裁判所の認定につきましては、かれこれ言わさせない建前でございます。
  23. 田万廣文

    ○田万委員 次にお尋ねしたいのは、第五條の「合衆国軍隊に属し」という文句の解釈です。「属し」というのは、米国軍隊所有権があるというふうに解すべきですか。どういうふうになりますか。
  24. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点も昨日お答えいたしておきましたけれども、属すると申しますのは、簡單に申します。と、所有権がある、但し、そのほかに合衆国軍隊において借用中のものもこれを含む、というふうに解釈しております。そこで問題が生じますのは、同じ合衆国軍隊の財産でございましても、日本予備隊に貸し付けてあるというようなものは、これから除外してある、かような趣旨でございます。
  25. 田万廣文

    ○田万委員 次にお尋ねしたいのは、同條文の「その軍用に供せる」という点でございますが、これは現在軍用に供せられておるというふうに限定して考えてよろしいかどうか。
  26. 岡原昌男

    岡原政府委員 現に合衆国軍隊の用に供することというのでは、若干狭いのでございまして、たとえば倉庫に保管してある、あるいは集積所集積中のもの、あるいは現に輸送中のもの、それらのものをも包含する、かような趣味でございます。
  27. 田万廣文

    ○田万委員 それは、保管してあるものは現在使用しておらないという客観的な事実から見て、そういうお話があるのだろうと思うが、軍用に供するという意味で言えば、寝ておつてもいつでも供し得るものを含んでおるというふうに解すべきではないか。
  28. 岡原昌男

    岡原政府委員 軍隊の物的な裝備といたしましては、現に兵隊なりが身につけている、あるいは操作しておるというものだけではないのでございまして、その直接の管理下にありまして、ただちに軍用に供し得るもの、これもまた「軍用に供する」と、かように解釈しておるわけであります。ただ軍人または軍属が、その日常生活のために使用しておる、たとえば歯みがきとかちり紙といつたような——そういうものがあるかないか知りませんが、そういつたものは軍用品とは解釈しておりません。
  29. 田万廣文

    ○田万委員 第五條通り軍用に供する」云々という文句について一具体的にはたしてこれが軍用に供せられておるかどうかという認識について、どういう判断でそれを認識したらいいのですか。何も知らないで、軍用に供せられておるものでないという認識で、こういう犯罪を犯すかわからないから、それはいわゆる過失の問題になるかと思います。私は過失の点については、これは当然問題にならぬと思いますけれども、なお念のために聞いておきます。
  30. 岡原昌男

    岡原政府委員 お言葉通りでございまして、過失を罰する趣旨ではございません。
  31. 田万廣文

    ○田万委員 第六條に移りますが、やはり同じような質問ばかり続くわけでありますが、第六條の文言のうちに「公になつていないものをいう。」これは公になつているといないとの区別に対する判断は、どこに準拠したらいいのですか。
  32. 岡原昌男

    岡原政府委員 公になつている、あるいはなつていないという問題は、第一には客観的な事実でございまして、第二にはその公になつているか、いないかについての問題になつた被疑者主観の問題でございます。いずれも証拠をもつてこれは認定すべきものでございます。
  33. 田万廣文

    ○田万委員 客観的事実というのは、どういう事実を言うのですか。
  34. 岡原昌男

    岡原政府委員 客観的にと申し上げましたのは、公になつているということが、客観的に存在するということでございます、語をかえて言いますと、客観的にそういうことがはつきりしておる事実、少し不正確でございますが、わかりやすく申しますと、さようなことに相なります。
  35. 田万廣文

    ○田万委員 はつきりしておると知らぬとでは、どういうふうにして区別ができるのですか。
  36. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは先ほど説明の第二段に申し上げました、結局証拠の問題になるわけでございます。
  37. 田万廣文

    ○田万委員 はなはだ具体的な問題になつてみると、そういう御答弁以外にはないかもしれませんが、実際問題としては非常にこれは迷惑な法律ができるので、詳しく尋ねておかなければ国民が多大な迷惑をこうむるのです。  次にお尋ねしたいのは「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」、ここに「目的」となつておりますが、その「安全を害すべき」云々という、安全であるか、安全でないかという、これもやはり先ほどのお話通り、客観的に見てはつきりわかることですか。
  38. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点はただいま御指摘の通り、いわゆる目的という文字がございますので、さような点についての認識が必要になつて来る。つまり本人がこういうことを他人に漏らすのは合衆国軍隊の安全を害する、そういうことを知りつて「その用途に供する目的」でと、こういうことに相なるわけでございます。
  39. 田万廣文

    ○田万委員 了解つきましたが、次に條文の「不当な方法で、探知し、又は收集した者は、十年以下の懲役に処する。」とありますが、この不当あるいは正当というものの判断につきましてはどういう御見解を持つておられるのでありますか。
  40. 岡原昌男

    岡原政府委員 「不当」と申しますのは、社会通念に照しまして、妥当とは認められないような方法、これは非常に抽象的でございますが、具体的に申しますと、たとえば機密の存すると思われるような立入り禁止の施設または区域内に入つて行く、あるいは業務または正規の勤労のために入つて行くときは、立入り禁止区域内に正当に入つてつたけれども、たとえばその部屋の奥の方で何か密談をしておる、そういうところにこつそり入つて行つて、盗み聞きして来る、かようなものは普通の社会通念に照しますれば、妥当なものとは言えないのであります。さようなものを押える、かような趣旨でございます。
  41. 田万廣文

    ○田万委員 それでは悪意——刑法上から言えば故意ですか、そういう意思によつてなされた方法というような意味になるのですか。     〔北川委員長代理退席委員長着席
  42. 岡原昌男

    岡原政府委員 全般としてこの條文に関する限りは故意であることを要するのでございますが、ただいまの御質問の点は、いわゆる悪意とか故意とかいう問題とはちよつと違うのでありまして、方法自体において不当であり、そうして不当なことを本人認識する、かような趣旨において悪意があると言えばあることに相なると思います。
  43. 田万廣文

    ○田万委員 次にお尋ねしますが、それは同條文のうち「通常不当な方法によらなければ探知し、又は收集することができないようなもの」とありますが、この通常という言葉は非常にわかりにくいのです。普通に考えると常識上ということも考えられるし、いわゆるコモン・センスの問題になると思いますが、ことさらこういう通常というまぎらわしい言葉を使われた理由はどこにあるのですか。
  44. 岡原昌男

    岡原政府委員 実はその点は昨日もお答えいたしておきました通り、不当な方法でと軽く言い流しておきますと、ともすると不当という点についての判断主観的なものになりやすいのでございます。つまりそれを本人主観いかんにかかわらず、通常一般人の今おつしやつたコモン・センスに律して、これをやつた場合に、これが不当だというようなときにこれを押えよう、かような趣旨でございます。
  45. 田万廣文

    ○田万委員 そうすると前にちよつと質問いたしました「不当な方法で、探知し、又は收集した者」、これの上になぜ通常という言葉を使わなかつたか。
  46. 岡原昌男

    岡原政府委員 第一項におきまして「不当な方法で」、という文字を使いましたのは行為の態様が「不当な方法で」ということでございます。第二項におきまして、「通常不当な方法によらなければ」云々と書きましたのは、機密に対する説明事項として書いたのでございます。つます機密に対する一つの限定したものを表現した趣旨でございます。
  47. 田万廣文

    ○田万委員 具体的にひとつお尋ねいたしますが、ただいま米軍の駐屯しておる兵数がどれだけであるとか、あるいは駐屯軍に対するいろいろな意味批判があると思いますが、そういうものはこの法案から見てどういう結果になりますか。
  48. 岡原昌男

    岡原政府委員 米軍の某基地における駐屯数は何千何百名であるというふうなことを漏らすということは、通常わからないことでございまして、何か非常に特殊な方法で探知または收集しなければ認定しがたいというふうなことになる場合が多かろうと思いますので、さような場合には、客体としては構成要件の中に入つて来得るものだと存じます。但しほかの要件ではずれれば別でございますが、客体としてはあり得ることだと思います。  なお後段の批判の点でございますが、批判云々は、一切この法文の問うところではないのでございます。
  49. 田万廣文

    ○田万委員 駐屯しておる兵数がどれだけいるかということは、ちよつとひつかかつて来るようなお話でございますが、これは今のお話によると、事実と一致しておるということが前提ではないですか。いわゆるいろいろな話が出て、世間話の上で、相当来ておるぞ、いやあすこにはこれだけの兵隊がおるような話だがというようなことはあり得る。そういう際に偶然それが一致しておつたという場合には、やはり犯罪の対象、いわゆる客体になりますか。
  50. 岡原昌男

    岡原政府委員 客観的にある一つの事実がございまして、それに対して本人がしやべつたことが偶然一致した、本人としてはあてずつぽうに言つたんだけれども、偶然一致したということはあり得ると思います。ただ私どもがこの法文をつくるときに研究いたしましたのは、先ほど最初にお話のありました通り、客観的に一つ機密というものがなければ、これは問題には相なりません。つまりわれわれがただ想像で、あすこにはこんな型の飛行機が何台おるようだということで、これを記事にいたしましても、あるいは單にしやべつて歩きましても、それは機密自体をしやべつたのではなくて、想像といいますか、意見といいますか、あてずつぽうに言つたことになりますので、これは問題になりません。  それからもしもその本人言つたのが、客観的に事実と合いましても、それが本人として機密をよそに漏らすという意思がなければ、つまり偶然に一致したということは、最後には証拠で認定されましても、本人としては機密そのものをよそにしやべつたという意思がないということに相なるだろうと思いますが、さような場合は入つて来ない、かように解釈いたします。
  51. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 機密の性格を持つておるということに対する認識が必要であるという趣旨に、政府委員答弁はなるわけですね。
  52. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようでございます。
  53. 田万廣文

    ○田万委員 ただいまのお話によると、そういうような認識がなければいいという御意見ですが、具体的に裁判所の問題まで持つて来られたときに、自分がそういう意思はなかつたのだ、偶然一致しておつた、そうじやない、知つておるということは、ともかく何らかの方法で探知しておるに違いないというような問題も起きて、大きな声で世間話もできないような結果になる一ということをわれわれは心配しておるのですが、その点どうですか。
  54. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは具体的な問題であると同時に、証拠の問題であろうと思います。さような場合におきまして、本人あてずつぽうにしやべつた、というふうなことについての心証がぴつたりと来る場合、本人あてずつぽうだというふうに弁解はしておるけれども、その入手の径路その他にかんがみて、これはほんとうの機密が流れたものであるという場合、認定する場合、二つあろうかと思います。従いまして、これは裁判所においておそらくその証拠に基いて公正なる判断をすべきものと私は考えます。
  55. 田万廣文

    ○田万委員 裁判所はいいですけれども裁判所へ来るまでに、やはり一応警察とか検察庁とかいうところを通つて来るに違いない。そこが私問題だと思う。これに対して、現在の警察あるいは検察庁として、よほどしつかりしてやつてもらわないと——しつかりというのは、悪い意味でなくて、ふん縛らなくてもいいものをふん縛つて、非常に迷惑をかける危險性があると思う。りくつの上では岡原さんのおつしやる通り、きわめて判然としておるが、実際問題としてわれわれ経験をしておるところでは、罪のない人間が警察へほうり込まれておるということが、よくあるのです。しかも検察庁行つてなお自分無罪だというにもかかわらず、検察庁でいたぶられて、自分は有罪だと心にもないことを言つて起訴状をつきつけられて裁判を受けておるという人があるのです。そういうことを考えるときに、この法案というものは、非常に当局においては頭を使つてつくられたけれども、今世耕さんのお話のように、にわかこしらえで、つぎはぎだらけで穴がたくさんあつて、穴のある着物を着せられて、かぜを引くようなことになつては困る。そこはよくやつてもらいたい。私どもはこれは絶対反対であります。  次にお尋ねしたいのは、行政協定とも関連して来るのですが、向うさんの構成員もしくは軍属またはそれらの家族を、犯罪の既遂または未遂によつて逮捕することができても、ただちに相手国に引渡さなければならぬという行政協定の規定がございます。これに対応して私考えてみるのに、向うさんがそういう立場にあつた時分には、日本側から要請をするというふうになつておると思うのです。これはちつとへんぱじやないですか。こちらでつかまつたら、ただちに向うに渡す。向うにつかまつたら、向うへお願いしてもらつて来る。ちよつとこれはどんなことになりますか。
  56. 岡原昌男

    岡原政府委員 行政協定の第十七條三項のa、b、cの関係におきまして、御指摘のような親定になつておることはその通りでございます。そこで私どもといたしましては、さような要請のあるなしにかかわらず、身柄を引渡すべきものは引渡す。引渡してならぬものは引渡さない、さような相互主義の建前をとりましてこの法文ができておるのでございます。
  57. 田万廣文

    ○田万委員 最後に一点お尋ねいたします。第十一條の文句のうち、こういうことがございます。「検察官又は司法警察員は、合衆国軍隊の使用する施設又は区域外で逮捕された者が合衆国軍隊構成員軍属又は家族であることを確認したとき」この確認は、何を基本に確認なさるのですか。
  58. 岡原昌男

    岡原政府委員 軍人、軍属あるいはこれらの家族につきましては、その旨を明白に明記した身分証明書といつたものを持つことになつております。現に軍人以外はそれを持つておりますし、軍人につきましても、向うの身分証明書の和文を今度つけることに相なるだろうと思います。
  59. 田万廣文

    ○田万委員 これに関連してお尋ねしますが、今軍服の話が出ました。最近新聞ではちよつととまつておりますけれども、一時向うの服を着たほんとうの軍人か、あるいはにせの軍人か知らぬけれども、いろいろ間違つたことをやつてつた。あれは本物がたくさんおつたのですか、にせものが多かつたのですか、ちよつと承つておきたい。
  60. 岡原昌男

    岡原政府委員 具体的にそれらの事件を私の方で統計をとつておりませんので、実は詳細のことはわかりませんけれども、大体本物の方が多いじやないか、これは私限りの想像でございますが、かように私は考えております。但しこの点につきましては、よく問題になりましたたとえば千住のギヤング事件とか、あるいは神田の強盗事件というものは、フランス人であつたりトルコ人であつたりというふうな問題がございますので、あわせて御了承願いたいのでございます。
  61. 田万廣文

    ○田万委員 とにかくこれから講和條約発効して、いよいよ独立国になつて行く日本の立場において、法務府関係におかれても、いろいろ難問題が起きて来ると思うのです。私はその際にやはり毅然とした態度でやつてもらいたい。  私の質問はこれで終ります。
  62. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 猪俣浩三君。
  63. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 この法案を審議するにあたりまして、私ども非常に感慨無量なものがある。一体日本国憲法第九條が制定せられまして、絶対平和主義を世界に宣言した。それに照応いたしまして刑法の八十三條ないし八十六條が削除せられた。これは軍の機密の探知、收集というような條項でありますが、なお軍機保護法、国防保安法が廃止されまして、やれやれとわれわれ胸をなでおろしておるこの際、われわれが最も反対をいたしておりまする外国の軍隊の駐留にその安全を保障する意味において、かような軍機保護法の再現が行われるということは、実に憤慨にたえないのであります。しかしこれを事務当局に向つて発散いたしましても何ともしかたがない、ただその憤懣のもとに質問いたすことだけを御覚悟願いたい。これは法務総裁がおいでになりましたら、法務総裁の御所見を承りたいと思うのであります。ことにはなはだこの審議は異常でありまして、われわれがこの法案に対してある質問をいたしましても、それは行政協定できまつておるのである、こういうことを言つて行政協定なるものによつてわくがはめられておる。それから一歩も出ることができない。その行政協定なるものは国会は何も審議しておらない。実にこれは異常な方法だと思うのであります。何も審議しておらない行政協定によりまして、そうしてその行政協定の二十三條を見てもおわかりのように、あの條文だけでこういう厖大な法律案ができるなんてことは想像できない。そういう行政協定についてはわれわれ何も審議しないうちに、それをわくといたしましてこういう法案が出て来る、実に異常だと思うのでありますが、これも事務当局に申し上げてもしかたがない。事務当局といたされましては、相当苦心してこの法案ができたと思われるのでありまして、その労を多とすることにやぶさかでないのでありますが、私はその総体的な質問に対しましては法務総裁の出席を要求いたしまして、その際にいたすことにいたしまして、この箇條の問題につきまして一、二お尋ねしたいと思います。なるべく質問は重複したくないと存じまして、昨日私の出席しないときの質問につきましても、いろいろ専門員の方から承つたのでありますが、なお明確を欠いておる点がありまするので、承りたいと存じます。  それはこの法律案の第一條でありますが、合衆国軍隊の定義であります。これを見ますと、「安全保障條約第一條に基き日本国内及びその附近に配備されたアメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍」ということになつておりまするが、これは行政協定の第一條となつておりまするが、第一條に「その附近に配備された」なんという文句がありますかどうか、承りたい。
  64. 林修三

    ○林政府委員 その法文に書いてございますように、これは安全保障條約第一條を引いておるのでございまして、安全保障條約第一條に、「日本国内……。」
  65. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 第一條に「日本国内及びその附近に配備」なんということがあるか。
  66. 林修三

    ○林政府委員 その付近に配備することを許するということが、安全保障條約第一條には書いてございます。
  67. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 第一條をちよつと読んでみてください——いや私の聞くのが間違いました。安全保障條約ではない、行政協定の第何條に書いてあるか。
  68. 林修三

    ○林政府委員 この行政協定はもちろん安全保障條約を受けているわけでございます。ここで引いておりますのが、安全保障條約第一條の「アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する云々、これを引いてここに書いてあるわけでありまして、これを行政協定の第一條では「「合衆国軍隊構成員」とは、日本国の領域にある間に」云々とこう書いてございます。これは大体同じことでございまして、この「附近」と申します意味は、大体日本の附近の領海、領空というものを含んでおるわけであります。大体領域という意味と同じと考えております。
  69. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 安全保障條約の第一條に基いて、行政協定において第一條というものができたものだと思う。その行政協定第一條におきましては、「その附近に配備された「なんという文句はないと私は思うのだ。一体安全保障條約の第一條にはそういう言葉があつても、それに基いて今度は具体的に細目について、両者が相談をしてこの行政協定というものはできたのでせう。この安全保障條約第一條はいかなる意味に解釈するか。具体的なことについて行政協定というものはできたと思う。その行政協定に、「附近に配備された」なんという文句はないはずだ。今あなたが答弁されたように、日本の領水、領域ということになつておる。しかるにこの刑事特別法には、今度は「附近に配備された」というふうになつておるのであるが、これは一体安全保障條約第一條を具体化した行政協定においてまとまつた、その日本の領水までをいう意案を逸脱していやせぬか、これを私はお尋ねするのです
  70. 岡原昌男

    岡原政府委員 行政協定の前文の一番先の文章に、「日本国及びアメリカ合衆国は、千九百五十一年九月八日に、日本国内及びその附近における合衆国の陸軍、空軍及び海軍の配備に関する規定を有する」云々、かようにあるのであります。
  71. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると行政協定の前文の趣旨にのつとつた、こういうふうに承つてよろしいのですか。それでよろしゆうございますか。
  72. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようでございます。
  73. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 しからば、この「附近」ということでありますが、これは具体的にお尋ねいたします。台湾におりまするところのアメリカの軍隊は、この「附近」の中に入るのか入らぬのか。
  74. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは入らぬという解釈でございます。なおただいま読みますときにその前文の一番先だけを読みましたか、その後に「同條約第三條は、合衆国軍隊日本国内及びその附近における配備を規律する條件は」云々とまた書いてございます。
  75. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 あなたと議論するのじやないからやめるが、私は「その附近」というのは、領水の意味だと了解するのです。しかしそれを非常に延ばすような意図が見受けられることから具体的に聞くのです。台湾は入らない、しからば沖縄はどうです。
  76. 岡原昌男

    岡原政府委員 私どもの解釈といたしましては、沖繩も入らない、かような趣旨でございます。
  77. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 われわれが平和條約を審議いたします際に、沖縄には日本の主権が行われておるという総理大臣の答弁を承つた。そうすると日本の主権が行われる国土であるのになぜこれは入らぬのか。
  78. 岡原昌男

    岡原政府委員 行政協定並びにこれに基くこの法案は、いずれもアメリカの軍隊が駐留することによりまして、日本国あるいは日本国の国民との間にいろいろ関係が生ずる。その関係を律する趣旨でございまするので、私どもといたしましては、手取り早く申しますと、日本の行政権の及ぶ範囲内、かようなふうに解釈いたしております。
  79. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 しからば南西諸島はどうです。
  80. 岡原昌男

    岡原政府委員 いわゆる南西諸島と申しますと、大分範囲が広いようでございまするが、現在わが国において行政権を行使しております、たしか十島村といつたと思いますが、あの十島村が最南端じやないかと存じます。
  81. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そういたしますと、もちろん朝鮮の派遣軍も入つておらないと思うのですが、朝鮮へ派遣せられる軍隊日本にたまたま滞在しておる場合は、この法案の中に入るのか入らないのか。
  82. 岡原昌男

    岡原政府委員 朝鮮に配備される軍隊でありましても、その性質上一時日本に滞在いたしまして、日本の安全を保障してくれる軍隊という意味におきましては、こちらのものに入ります。但しもしもそれが純然たる朝鮮側だけの軍隊であるということがきわめて明々白々の場合は、これには入らぬだろうと私ども考えております。
  83. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは犯罪構成要件になるのでありますが、実に不明確な話だ。われわれには同じような服を着ているのが、一体われわれの安全のためにとどまつてくれるのか、朝鮮へこれから出発しようとする兵隊なのかさつぱりわからぬ。そんな使いわけをやつて、一体この法律が刑法の作用をなしますか、それに対してどういう御見解を持つておりますか。
  84. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点も問題になるであろうとおもいまして、いろいろ打合せをいたしましたが、日本国に配備されるものにつきましては、先ほどちよつと申し上げました証明書の下付があるのであります。それによつて区別ができるわけでございます。
  85. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、これは伺う側とあなた方がそういう打合せになつたか知らぬが、日本の安全のために駐留する軍隊はその意味の証明書を持つておる。ところが日本に一時滞在しても朝鮮に派遣せられるという軍隊は、それと違つた証明書を持つておる。こういうことになるわけですか。
  86. 岡原昌男

    岡原政府委員 大体さような取扱いになるのじやないかと私は考えております。
  87. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、なるかというのは、なるじやないかというのですが、それはならぬじや困るんです。いつどこでどういう方法でそれはなるのですか。
  88. 岡原昌男

    岡原政府委員 要するに私どもといたしましても、ただいま猪俣さんから御質問されたような点が非常に問題であろうと思いまして、その点を慎重に打合せをいたしたのでございますけれども、結局ただいままでのところ、証明書の下付ということで、つまり本人の軍人の資格を明らかならしむるということが、一番わかりやすいのじやないかというふうに考えまして、さようなことにいたしたいと私は考えております。
  89. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、法務府のたた希望であつて、それは具体的になつておらぬわけですね。
  90. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は例の合同委員会の小委員会におきまして、大体打合せ済みでございます。
  91. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それから日本に駐留いたしておりました軍隊が朝鮮へ派遣せられる、沖縄へ派遣せられるという場合に、それがあるいは東京あるいは大阪から九州あたりに通過のために滞在しておるというような軍隊はどうなりますか。
  92. 岡原昌男

    岡原政府委員 それが日本国内におきまする間は、やはり日本国内において安全保障條約に規定するような事態か起きた場合の一つの要因といいますか押えになるだろうと思いますので、さようなものも入る趣旨だと存じます。
  93. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これはりくつになるかもしれませんが、しかし朝鮮に駐留することを目的とする軍隊は、ただ国内を通過するだけのものでしかないと思うのですが、それがここに入るということになると、法務府のこの解釈の中の安全保障條約第一條に基いて配備されたものでない單なる通過軍隊はここにいう合衆国軍隊には含まれない。」ということとはどう調和するのですか。
  94. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようでございますから、先ほども純然たる通過軍隊なることが明らかである場合においては入らない、さように申し上げたのでございます。
  95. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それからこれはちよつとこまかいことになりますが、箇條で言いたいと思います。第一條の四項になりますが、軍属の定義の中に「合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、」こういうように言葉区別されておりますが、雇用された者と勤務する者との区別はどういうふうになりますか。
  96. 岡原昌男

    岡原政府委員 大体雇用と勤務と偉いますのは、雇用関係なくして勤務したる者があとの勤務の方に入る、かように解釈いたしております。
  97. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 雇用関係なくして勤務する、これは一体どういうことになるわけですか。雇用されたから勤務じやないでしようか。雇用されない勤務者というのはどういうものをいうのですか。ただ頼まれもしないのに手伝いに行つた者をいうのでしようか。
  98. 岡原昌男

    岡原政府委員 これは民法上の雇用関係はないけれども、事実上勤務する、たとえば無報酬で勤務するというふうな者もあろうかと思いますが、さような者を律する趣旨でございます。
  99. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは簡單なようであつて、これもなかなか犯罪構成要件としてはむずかしいことになると思うのです。雇用なら、何かいろいろの雇用契約があつて立証できると思うが、そういう契約も何もないのに、ただそこへ勤務したんだということになりますと、一体どうしてそれが明らかになるのであるか。都合がいいときには勤務者にし、都合が悪いときには知らぬ顔をしているということも考えられるのでありまして、そういう合衆国軍隊と何らの契約またはその他の法令の根拠なしに、ただおもしろ半分にそこへ手伝いに行つている者までも含むとしますと、これはピンからキリまでみな含まれることになりはしないか、そこで私はお尋ねするのです。
  100. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようなことのないように、身分関係のはつきり証明できるところの写真入りの身分証明書を本人に携帶させる。従いましてさようものを持つていない者はその取扱いを受けない、さようになる打合せでございます。
  101. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 いま一点、「アメリカ合衆国及び日本国の二重国籍者」というようなものがやはり四項に書かれておりますが、この二重国籍者という者はどういう方法で生ずるものであるか、これを私どもにお教えいただきたいのです。
  102. 岡原昌男

    岡原政府委員 本人の出身が甲国でありまして、居住地が乙国である場合に、乙国におきましてそこに居住する者を全部乙国民と認定する場合がございます。しこうして甲の方は甲の国民の資格を失わない、さような場合に二つの国籍を持つて来る、かようなことに相なるわけでございます。
  103. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 日本人で義勇兵か何かの形でアメリカ軍隊の中に入り込むような者があるかないかはわかりませんが、さよな者が起つた場合に、こういう者はどういう取扱いになりますか。
  104. 岡原昌男

    岡原政府委員 日本人は全然これには入らぬ、さような趣旨でございます。
  105. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それからこれは民事特別法のときにも問題になつたのでありますが、国連軍に対する場合は、刑事の関係においてはどう扱われるのでありますか。
  106. 岡原昌男

    岡原政府委員 国連軍の資格においてなすところの軍隊の行動あるいは軍人等につきましては、本法案は関知しないところでございます。
  107. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それから同じ第一條の第五項の「家族」のところでありますが、日本の女がある犯罪を犯して、それがアメリカ人の軍人と結婚をしてアメリカの国籍を取得したという場合に、その日本の婦人に対する犯罪追究はどういうことに相なりますか。これは実例があるのであります。あの豊田とかいう豪傑の女がそれをやつてのけてわれわれをあつと言わせたのですが、ああいう者は一体どういうことに相なりますか。
  108. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような場合には、アメリカの国内に住むことはできましても、アメリカ側法規によりまして、アメリカの国籍を取得することはできないというのが今の建前でございますので、それがのがれるというふうなことはなかろうと思います。
  109. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、実例がありました豊田何がしという女は、あれはアメリカの国籍は取得しないわけなんですか。
  110. 岡原昌男

    岡原政府委員 さように聞いております。
  111. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうするとこれは念のためにお聞きいたしますが、日本の女がアメリカの軍人の妻になるという場合に、どういうことにすればアメリカの国籍を取得して妻になることができるようになるのですか、それをお尋ねいたします。
  112. 岡原昌男

    岡原政府委員 実はその点例の国際私法の問題でございまして、私詳しくは存じませんけれども、一定の向うの居住年限によりまして国籍取得の権利が生ずる、かようなふうに聞いております。
  113. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 この合衆国軍隊の家族——配偶者、あるいは父母、そういう人たちの中にアメリカ人でない人があると思いますが、そういう者はやはりアメリカ人でなくとも妻あるいは父母の関係があるならば、この第一條の構成員の中に入るのですかどうですか。
  114. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は、例の日本国の法例第二十二條によりまして、親族関係はその本国法によるということに相なつているわけでありますけれども、大体今のような場合には入るということになつて参ると思います。
  115. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 第二章に移ります。この「施設又は区域を侵す罪」、これは先ほどからも質問がありましたのでありますが、この犯意がどこまでであるかというのが相当重要な問題じやないかと思うのです。まず第一に事実の認識を必要とする、これはわかるのであります。第二といたしまして、違法の認識が必要であるかどうか、これをお尋ねいたします。
  116. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は刑法の一般理論と同じなのでございますが、一言に違法の認識と申しましても、いわゆる法律違反の認識の問題と違法性認識の問題がございます。この点につきましてはいろいろ学説のわかれるところでございますので、これを今ここで御紹介いたすのもいかがかと思いますけれども、私どもといたしましては、大体ただいま申し上げました犯意、つまり構成要件認識があればよろしい、かように考えております。
  117. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは要する合衆国軍隊の施設または区域という特殊のものでありまするから、私どもは、日本刑法論といたしまして、犯意の定義につきまして、いわゆる事実認識論というものをとる立場に立つたといたしましても、さような立場におきましては違法の認識というものをやはり必要とするというように、私はこの條文に明確にしておきたかつたのであります。これが将来相当問題を起すと思うのであります。ことに広い練兵場その他におきまして、在来でも子供やおとなが練兵場なんというのはキヤツチ・ボールをやつている。また鉄條網でもまわされれば別でありますが、何里という所があけつぱなしの所が通常です。今まで日本軍隊はなやかなりし時分でも、日曜日になると練兵場でみな遊んでいる。そういう慣習がありまするのに、ただどこか片すみに立入り禁止の札があるだけで犯罪にされるというようなことでは、はなはだこれは私は不都合が起ると思うのであります。そこで練兵場であることを認識してそこへ入つたということだけでなしに、違法の認識というものも入れないと、これは相当善良の人たちを場合によると網にかけるようなことになるのじやないか、こういうふうに思われるのでありますが、法務府の御見解いかがでしようか。
  118. 岡原昌男

    岡原政府委員 御承知の通り、わが国の刑法は大体におきまして原則として故意犯のみを要件として、過失あるいは未遂をもつて広げる場合は明文をもつて書くということになつております。従いまして何らの表示がなければその構成要件全部についての認識を必要とする、かようなことに相なりまするので、この立ち入ることを禁止された施設または区域内の場所というふうに書いてございますので、その立入り禁止という事実があることの認識を必要とすることになるわけでございます。従いまして法文上これを明らかにいたしませんでも、従来の一般刑法理論でこれを律し得ることになろうかと存じます。
  119. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これはまあ一般の刑法理論で御解決なさる御意思でありますから、きようはそれだけにとどめておきますが、これはその施設または区域の管理者の許諾がある場合には、もちろん違法性を阻却するはずでありますが、この許諾は明示の許諾を必要とするか、あるいは暗黙の許諾でもよろしいのであるか。法文上ははつきりしておりません。これはいかようにお考えになつておりますか。
  120. 岡原昌男

    岡原政府委員 明示あるいは黙示、暗黙いずれでもけつこうでございまして、本人がさように信ずるについて十分な理由があれば、これは今お話通り違法性阻却の問題にもなろうかと存じます。
  121. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私がさつき違法性の問題でお尋ねいたしましたのは、実例としてかような場合は一体どういうことになるか。相当農地が今接收されて、それがある場合には予備隊の練習場、ある場合にはアメリカ軍隊の飛行場というふうになると思うのですが、その土地の接收に対して承服できない、ところが行政処分によりまして收用された、アメリカ軍隊はその使用権を取得している、しかし実際そこにおりました住民が立ちのきをがえんじない、立ちのけという要求を受けても従わないという場合はこの犯罪が成立するのであるかどうか。
  122. 岡原昌男

    岡原政府委員 第一に、中に侵入する行為につきましては、昨日委員長からも特にお尋ねがございましたけれども、前に日本の要塞地帶法という法律がございまして、その区域云々の箇所であることについては、国民一般が官報で知つておるべきはずである、従つてこれを知らなかつたとは言わさぬといつたような、ちよつと法律的には違いますけれども簡單に申しますとさような判例がございました。この点につきましては、相当学問上争いのあつたところでございまして、私どもは、いわゆる刑事犯並びに行政犯の区別によりまして、ただいま御指摘の違法の認識というものが違つて来るのじやないかというふうな論をとつております。これを本件について当てはめてみますると、広大な畑の一部分に入つた、ところがいつの間にやら接收されておつて区域に指定されておつたというようなことがありましても、それは本人にちつとも過失もなければ知らぬということに相なろうかと存じますので、さような場合には正当な理由がなくして侵入したというような問題は起きて来ないと存じます。ただもしもその際にだれかに見つかりまして、これは実は立入り禁止場所なんだ、君知らずに入つたんだろうけれども、実は入つちや困る場所なんだということを注意を受けまして、それをがえんぜずして退去しなかつた場合には、この後段の不退去罪ということで成り立ち得るかと存じます。
  123. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私が質問した点にちよつとそれていると思いますが、ある農地が強制收用されてもその行政処分に服従しないでそこへがんばつている、これがこれに当てはまるかどうか。
  124. 岡原昌男

    岡原政府委員 農地が接收されまして、それが合法的な手段によりまして確定してしまつたというふうな場合におきましては、これはやはり区域、施設に入つて来るわけでございます。従いましておそらくその具体的な場合におきましては、本人が、そういうふうな争いの上でございますからして、そういう者が施設、区域に入つたということについては認識が出て来るのだろうと思います。従いまして、その場所にがんばつているということになりますと、退去の要求を受けて退去しない場合には、この後段の罪が成立し得る、かようなふうに考えております。
  125. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 次に第三條。証拠隠滅。これは行政協定の第十七條から出ていると思われるのですが、行政協定の十七條の一体何項のどういう文句から証拠隠滅罪というものが出て来るのでありますか。
  126. 岡原昌男

    岡原政府委員 第十七條の第三項の(e)号でございます。
  127. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 どういう文句になつておりますか。
  128. 岡原昌男

    岡原政府委員 「日本国及び合衆国の当局は、それぞれの裁判所における刑事上の捜査その他の手続のため証人及び証拠を提供することについて協力し、」云々、それからちよつと置きまして「何人も自己に対する刑事裁判権を有しない裁判所に対する判裁所侮辱、偽証文は審判妨害を行つたときは、これを犯した者に対する裁判権を有する裁判所は、その者が当該裁判所に対してこれらの罪を犯したものとみなしてその者を裁判するものとする。」この趣旨から出て参るわけでございます。
  129. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると証拠隠滅というような明らかな文句はないと思うのでありますが、行政協定十七條三項(e)号には裁判所侮辱とか偽証または審判妨害とかいうことは書いてありますが、証拠を隠滅するというような文句はない。ないが、こういう趣旨から証拠隠滅という罪を設けたということになるわけですか。
  130. 岡原昌男

    岡原政府委員 この(e)号の裁判所に対する裁判所侮辱という概念の中に、これは英米法の関係では入つて来るわけでございます。その観念をそのまま取入れてあるのでございます。
  131. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、これは行政協定による裁判所侮辱という意味で今度は証拠隠滅という文句を使つた、こういう罪が出て来た、こういうことになるわけですか。
  132. 岡原昌男

    岡原政府委員 日本の現在の裁判所法、あるいは刑事訟訴法等の建前からいたしますと、証拠隠滅をした場合に、すぐに裁判所侮辱といつたような罪名と申しますか、そういうふうな形でやるのは穏当でない。しかしまた一方におきまして、刑事事件について正当なる、正しい裁判を仰ぐために、正しい証拠を提供するということはお互いの義務であろう、かように解釈いたしまして、このあとにあります偽証、偽鑑定、あるいは虚偽通訳等と並べて刑事裁判の公正、妥当を期する、担保するための條文として掲げた次第でございます。
  133. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 先ほど、いわゆる行政協定十七條三項以降にいう裁判所侮辱という意味から、かような証拠隠滅罪というものをつくつたのだというふうに御答弁いただいたのですが、アメリカの裁判所侮辱法というのはわれわれよく知らぬのですが、それにはこういう証拠隠滅をする罪というようなことが含まれておるわけでありますか。アメリカの裁判所侮辱法の骨子をお聞かせ願いたい。
  134. 岡原昌男

    岡原政府委員 アメリカでコート・コンテンプトという文字を使つておりますが、これは非常に広汎なもののようでございまして、その一つとして、ただいま申し上げましたような証拠隠滅等も入るようでございます。資料はいずれ私の方で調べまして、訳してお手元に差上げたいと存じます。
  135. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これはあなた方の立場と行政協定それ自体に反対いたしておりますわれわれの立場と違うので、しかたがないかもしれませんが、日本にそそんな侮辱法なんて法律はないのでありますが、裁判所侮辱なんという言葉があるということで、すぐその意味をそんたくして、こういう罪をつくるというような態度は、われわれ納得できない。  なおついでにお聞きいたしますが、刑法百三條によれば、証拠を隠滅する罪と、犯人蔵匿の罪というようになつておるが、犯人蔵匿の罪というのはやはり証拠を隠滅する罪の中に入るのですか、入らないのですか。
  136. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは入らぬものと存じております。なお先ほどの第三條を置くことの意義についての御疑問でございますが、たとえばあちらの軍人が軍事裁判所事件にひつかかつておる。その事件日本人に対する何かの加害行為をしたような場合を想像してみますと、さような日本国民が被害者である事件をやたらに証拠隠滅されまして、その事件無罪になり、あるいは不当に軽くなるというふうなことがあつてはたいへんでございますので、さような趣旨からそれを担保する意味でこの「証拠を隠滅する等の罪」というような規定を置いた次第でございます。
  137. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 犯人の蔵匿はこの中へ入らない、こう理解いたしますが、臓物の寄蔵はこの中へ入るのですか、入らないのですか。
  138. 岡原昌男

    岡原政府委員 おそらくこういう場合じやないかと思います。臓物が同時に刑事裁判証拠になる、さような場合におきまして、これを寄蔵した点につきましては、刑法の二百五十六條が成立すると同時に本法の違反が成立する、かように解釈しております。
  139. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、それは牽連犯になるのですか、想像的競合罪ですか。
  140. 岡原昌男

    岡原政府委員 事案によつて違うと思いますが、大体お話のようでございますれば、いわゆる一行為数罪名と申しますか、想像的競合罪になろうかと思います。
  141. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 第三條の隠滅、偽造、変造の問題ですが、この教唆についてはやはり刑法の共犯規定が適用になるのであるか。
  142. 岡原昌男

    岡原政府委員 御質問通りであります。
  143. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 第四條に移ります。偽証の罪でありますが、この偽証なるものの観念、われわれアメリカの裁判所の構成、刑事訴訟法がわからないのです。裁判所侮辱とか、偽証とか、審判妨害とかいうのは、一体日本の刑事訴訟法の観念から考えているのか。行政協定にそういう文句がありますが、行政協定に現われましたるこういう文句は、日本の刑事訴訟法その他から考えられているのであるか。裁判所侮辱法だとか刑事訴訟法だとか、刑法からこの観念がきめられているのかお尋ねいたします。
  144. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は、もちろん行政務定を基準といたしましてこれを解釈いたしております。ただ先ほどもちよつと申し上げました通り、その解釈につきましては、あらゆる資料を検討してかように立案した次第であります。
  145. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、こういう裁判所侮辱とか、偽証とか、審判妨害とかいうの、アメリカの法律により概念がきめられるのですか。
  146. 岡原昌男

    岡原政府委員 軍事裁判におきましては、宣誓と誓約と二つの種類があるようであります。さような方式に従いまして証人の調べがあることと存じます。さような点につきましては、アメリカの軍事裁判所のやり方等について日本人はなれておりませんので、十分あちら側でその趣旨を証人たるべき人に納得さして、その上で調べをするというようになろうかと存じますので、大体は向うの軍法会議のやり方でやつて行く、かようになろうと思います。
  147. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 まあそれも行政協定ができておりますのでやむを得ないかもしれませんが、少し割り切れない感じが残るのであります。  次に第五條、「軍用物を損壊する等の罪」につきまして、これは日本人アメリカ人が共犯で、アメリカの軍用物を損壊した場合は、どういうふうな処置をなさるのか。
  148. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは第五條の関するところではないのでございまして、一般の刑事手続に関する刑事訴訟法並びにこの法考の第三章「刑事手続」の規定によりまして律せられることとなりますが、簡單に申し上げますと、アメリカ兵はアメリカの裁判所で、こちらの人間は日本裁判所で、さようなことに相なりまして、お互いはおそらく証人的な立場で調べられる、かようなことになろうと思います。
  149. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 本條の範囲でありますが、第一に合衆国軍隊に属する物であるという認識軍用に供する物の認識、この二つだけはどうしてもなければならぬと思うのでありますが、さようでございますか。念のためにお尋ねいたします。
  150. 岡原昌男

    岡原政府委員 その通りでございます。
  151. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうするとある軍器が日本に貸與された軍器であると思つて、それを損壊した場合には、本條には含まれないのであるかどうか。
  152. 岡原昌男

    岡原政府委員 その事実が客観的に証明されるにおきましては、この條文では処罰されないことと相なるわけであります。
  153. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 なお物件につきまして念のためにお尋ねいたします。「合衆国軍隊に属し、且つ、その軍用に供する兵器、彈薬、糧食、被服その他の物」の「その他の物」の中に文書が入りますか。
  154. 岡原昌男

    岡原政府委員 軍用の文書もこれに入れてある趣旨でございます。
  155. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 進駐軍の使つている電気が入りますか。たとえば進駐軍が発電しているものを流用して使うという電気の窃盗です。あれは電力を濫費するのだから電気の損壊になるかもしれません。それはこの中に入るかどうか。
  156. 岡原昌男

    岡原政府委員 ここに書いてあります軍隊に属し、軍用に供する物というのは、大体行為の目的が損壊、傷害というふうになつておりまするので、電気は窃盗の目的にはなり得ても、この條文の対象にはなり得ない、かように相なります。
  157. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると日本刑法の毀棄罪の解釈と違うのですか。
  158. 岡原昌男

    岡原政府委員 毀棄罪におきましてもさようなことはないだろとう私存じております。
  159. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それは違う。電気を投げつばなしにやるのは毀棄になります。効用を害するのだから。これはよく御研究なさらぬと、進駐軍の駐在の附近に必ずこれが起つて来るのです。たしか日本の毀棄罪に判例があると思う。私も思うと言うだけで今ここへ判例を持つて来てないが、たしか私が読んだのにあつたと思うのです。これはあとでよくお調べいただきたい。  結局この「その他の物」というのは財物を意味するか、あるいは財物でなくても入るのであるか。
  160. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまも電気に関連して申し上げました通り、大体行為の態様から申しまして、有体物、さように解釈いたしております。
  161. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 本條に関しまして、前の三條の証拠隠滅罪の証拠物、これを毀棄した場合にはどういう犯罪になりますか。
  162. 岡原昌男

    岡原政府委員 この五條と三條とは先ほども申しました通り、その行為の態様によりましては想像的競合の場合もあり得ると存じます。
  163. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 なお第三條には変造を罰せられておりますが、毀棄と変造との関係はどうなります。
  164. 岡原昌男

    岡原政府委員 その場合もまつたく同一でございます。
  165. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 この法務府の説明を見ますと、「「損壊」又は「傷害」とは物の効用を害することをいい、必ずしも効用の全部を失わしめるりことを要しない。「傷害」とは特に動物についていうのである。なお、「損壊」には「毀棄」を含むものと解する。」とあるのですが、損壊には毀棄を含むものと解するとすると、日本刑法に確立せられましたる毀棄の観念というものがあるのであるが、それ以上にこの損壊の方は広いということになるわけですか。どういうことなんです。もし毀棄と損壊が違う観念なりとするならで、いかような違いがあるのですか。
  166. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は刑法第二百六十一條に「損壊又ハ傷害」と書いてありますが、その点をそのまま受継いだ次第であります。
  167. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 日本刑法の観念として、毀棄というものの観念は学者が皆説明しているのだが、それが損壊の中に含まれることになつたような説明だと、はなはだわからぬ。損壊には毀棄を含むとすれば、損壊と毀棄と対立せしめて、しかも損壊の中に毀棄というものを包含するものと考えなければならぬから、損壊と毀棄というものは観念が違つて説明なさつているとしか思われないが、一体どう違うのでありますか。刑法條文はわかつております。刑法條文でも「毀棄ノ罪」として章の表題となつている。そして毀棄の観念というものは刑法学者においてもほとんど説明せられている。それを新たに、損壊は毀棄を含むものであるような説明をされると、どういうふうに範囲が違うかという疑いが出て来る。要は、日本刑法にありまする毀棄よりも、なお本法の方が広汎な行為を処罰するのであるかどうかということが、われわれの聞かんとするところなんです。その観点に立つて説明願いたい。
  168. 岡原昌男

    岡原政府委員 私どもが実務上よく器物毀棄という文字を使いますけれども刑法條文から参りますと、それはただいま申し上げた通り二百六十一條の損壊というふうな文字で表現されておるのであります。なるほど刑法の第四十章におきましては「毀棄及ヒ隠匿ノ罪」の章の名前のもとに、二百五十八條以降、「公文書毀棄」あるいは建造物、艦船の損壊というふうな文字を使いまして、それからただいま私が指摘いたしました二百六十一條の器物損壊という文字になつて来るのでございます。この特別法の第五條は、この二百六十一條の特別罪のつもりでこれを規定したのでございまして、従いまして刑法において解釈されておりまする損壊あるいは傷害という概念を、全部そのままここに取入れた次第でございます。特に異を立てたつもりもないのでございます。
  169. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうするとこの説明書の中の、「「損壊」には「毀棄」を含むものと解する」なんというのはさつぱり意味のないことだと了解してよろしゆうございますか。誤解を生じます。ちやんと「第四十章棄殿及ヒ隠匿ノ罪」として、刑法の章の條文にある言葉なのです。しかも六法全書を見ても非常に大きくこの字が書いてある。各條文の中に、今あなたが言つた傷害とか、二百六十一條の「損壊又ハ傷害」なんいう字は小さいけれども、毀棄というのは章の頭文字に大きく書いてある。しかるに毀棄と損壊というものは違うような説明をなさると、われわれ頭の悪い者はちよつと迷うから、そこで説明を求めたのですが、そうすると、この「損壊には毀棄を含む」ということは蛇足であつて刑法の二百六十一條の「損壊又ハ傷害」という意味と違わないものであると理解してよろしゆうございますか。
  170. 岡原昌男

    岡原政府委員 その通りでございます。
  171. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 猪俣君に申し上げますが、政務次官と佐藤法制意見長官が出ております。法務総裁はやむを得ない用でただいまのところ出席できないそうそうですから、先ほどの一般問題についてこの機会質疑されたらいかがかと思います。
  172. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それでは出席なさつたときにお願いします。
  173. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 午前中の審議はこの程度にとどめ、午後から再開します。暫時休憩いたします。     午後一時二十三分休憩      ————◇—————     午後二時四十五分開議
  174. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う刑事特別法案について質疑を続行いたします。猪俣浩三君。
  175. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 先ほど質問をいたしまして御答弁いただいのでありますが、もう一点お尋ねしたいと思いますることは、この「施設又は区域を侵す罪」についてであります。  先ほど、農民の耕作田畑あるいはそこに住宅を持つておるような土地が強制收用された場合に、退去を命ぜられて退去しなかつた場合はいかんという私の質問に対しまして、本條が適用されるような御答弁があつたと思うのでありますが、そこでこの土地收用は行政処分であり——これは日本政府の行政処分だと思うのでありますが、これに対しまして收用せられたる権利者が不服であり、そうしてこの行政行為に対しまして行政事件訴訟特例法に基きまして訴訟を提起しておる、あるいは執行停止の仮処分をやつておるというような場合におきまして、一体本條がいつから発動せられるようになるのであるか、その点につきましていま少し詳しく承りたいと思うのであります。この第二條におきまする「合衆国軍隊が使用する施設又は区域」というのは、そういう土地の收用せられた場合には、いつからこの中に入ることに相なりまするか、これをまず承りたいと思います。
  176. 岡原昌男

    岡原政府委員 私どもが現在解釈いたしまするところでは、一つの收用処分がございましてそれが確定いたしますれば、もちろんそのときから問題は発生して参ります。それから、もしただいまお話のように行政訴訟が提起されまして、行政事件訴訟特例法の第十條であつたと思いますが、行政処分に対する執行停止の命令がございますと、そのときから今の仮処分的な効力が生じて参りますので、そのときにおいていわゆる「正当な事由がないのに」という点がはずれて参ります。従いまして本人がまだ自分はそのつもりでおる、そうして訴訟で正式にそれは停止命令があつたということになりますと、この違反の問題はそこで消え去るわけでございます。
  177. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると行政事件訴訟提起をしましたけれども、仮処分の申請をまだしてないという場合にはどうなりますか。
  178. 岡原昌男

    岡原政府委員 行政行為に対する一般的の原則から言いますと、何らの変更その他が加えられない限りそれは一応有効に成立するということに相なりますので、その点について本人の違反が成り立ち得る、かような解釈でございます。
  179. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、執行停止の仮処分の申請が出て命令が出たけれども、御存じのように行政事件訴訟特例法第十條によりまして、内閣総理大臣が異議の申立てをしたというとになると、これはどういうことに相なりますか。
  180. 岡原昌男

    岡原政府委員 行政事件訴訟特例法の第十條第二項の但書に、お話通り内閣総理大臣の異議申立ての権利が留保されております。さような場合には処分の停止命令は出ないということに相なるのでございますが、さような場合にはやはり一般の行政法の原則に従いまして、前の行政処分はそのまま有効に続いて行く、さように解釈いたしております。
  181. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると結局内閣総理大臣が異議の申立てさえすれば、その人間は犯罪構成の中へ入つて行く、こういう御見解になるわけですか。
  182. 岡原昌男

    岡原政府委員 法律的にはさように相なります。但しいろいろ御心配の向きがあるかと存じますが、さような場合の具体的の事情に応じていろいろ処理を考えるということは、またあり得ると思います。
  183. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 大体土地收用の行政処分は日本政府がやるのであるが、これがまだ合衆国軍隊に引渡しを完了しないうちに、すでにこの第二條の不退去罪に当てはまるということに無理があるのじやないでしようか。合衆国軍隊に引渡され、彼らの管理になつたその後でないとするならば、大体違法の認識という点からいつても、これは私は無理があると思うのですが、その点についてどういうふうにお考えになりますか。大体犯罪構成要件として、合衆国軍隊が使用する施設または区域が、まだ日本の行政処分があつただけで、彼らがそこに管理権を持つておらざるにかかわらず、第二條だけはもうすでに発動するということは、私は解釈としても無理だと思うのだが、これはどうなりますか。
  184. 岡原昌男

    岡原政府委員 それが合衆国軍隊の使用する施設または区域として、合法的に、そして最終的に確定するのでなければ本條の問題は出て来ないと私は考えております。
  185. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、結局行政処分があつて間髪を入れずに合衆国軍隊にその権利を委讓するというか、合衆国軍隊が使用する施設または区域という状態に移るということも想像されると思うのでありますが、土地收用は成立したけれども合衆国軍隊が使用する施設または区域として合衆国軍隊の占有に移されるという状態はまだ起らぬというときにおいて、どういうことに相なりますか。
  186. 岡原昌男

    岡原政府委員 実際問題としてさようなことは起らぬと思います。そしてまた施設または区域となりましても、さらに立入り禁止ということが要件にかぶつて参りますので、さような状態はそのあとのことになろうかと存じます。
  187. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私がお聞きすることは、現在そこに住宅でもあるような地域が日本政府の行政処分によつて收用された。しかし彼は不当なりとして行政訴訟を起し、しかも仮処分の申請をして命令も出た。しかるに内閣総理大臣が異議の申立てをやつた。そうすると、とたんにこれは違法状態に相なるというような解釈は、これは今後必ず起つて参ります。これは私は第二條の解釈としてもはなはだ無理じやないかと思う。一体この第二條からさような解釈ができるかどうか、われわれ日本国民としてなるべく犯罪者の出ざるところを庶幾しなければならぬのであるが、第二條の解釈としてさような場合にもなお犯罪が構成するような解釈は、私どもは無理だと思うのであります。あなた方のお考えはどうなんですか。
  188. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は、行政事件訴訟特例法の第十條によりますると、行政処分の執行停止の命令をする場合に、内閣総理大臣が異議を申し述べたときはそれができないということでございまして、一旦執行停止の命令がありまして、そのあとで異議の問題ということはないと存じます。従いまして今御質問のような紛議は生せざるものと考えられます。
  189. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、結局無理に土地を收用せられ、そこに住居を持つている人たちが退去をがえんぜずして行政訴訟まで起し、なおまた仮処分の申請までしたけれども、内閣総理大臣の異議の申立てがあつたために命令も出ないということに相なりますならば、その瞬間にこの第二條が発動するというふうに解釈するのでありますが、なおその点を明確にしていただきたい。
  190. 岡原昌男

    岡原政府委員 理論的にはさようなことに相なると存じます。
  191. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこで理論的にはそうなるが、実際的には何か救済の方法がありましようか。あなた方日本人なんだから、これは何か助ける方法がこの法文の中から出て来ませんか。たとえば違法の認識がなかつたとか悪意がなかつたとかいうようなことで、それを罪にしないようなものが出て参りましようか。
  192. 岡原昌男

    岡原政府委員 つまりただいま御質疑のようなことになりますると、この第二條の後段の「要求を受けてその場所から退去しない者」というこの要求を受けるということが前提要件となつております。従つてその具体的な本人について何か特殊の事情があり、今すぐ立ちのきを要求しましても、何か非常にかわいそうな事情があるというふうな場合には、要求をしないという場合も考えられるでございましようし、またたとえばさような要求を受けて、その場所から退去しないという現実の事実がございまして、これを検挙処罰ということになりましても、刑事訴訟法の一般原則に従いまして、犯罪の情状、犯罪後の状況等、すべて参酌いたしまして処理することと相なると存じます。
  193. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 この要求を受けてその場所から退去しないというのでありますが、要求するものは日本政府でありますか、あるいは合衆国軍隊でありましようか。
  194. 岡原昌男

    岡原政府委員 それは合衆国軍隊のしかるべき権限のあるもの、さように解釈いたしております。
  195. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 次に合衆国軍隊機密を侵す罪、第六條以下についてお尋ねしたいと存じます。  なお私ども質問がはなはだ執拗にわたるようでありますけれども、私は戰時中軍機保護法違反事件を弁護いたしまして実に痛切に感じましたことは、立法の際における政府委員答弁ははなはだ質問の議員の意を迎えるような答弁をやつておりますが、一旦法律となつてこれが施行せられまする場合におきましては、その執行の機関というものは、その時代のおもむくところ、傾向によりまして相当無理な解釈をして、ここに犯人をつくるという傾向がある。その意味におきまして、私も具体的な実例がありまして、痛感して参つておるのでございまして、その軍機保護法違反事件の被告は有名な新聞人でありましたが、一審、二審とも無罪判決を受けました。それはただ当時の衆議院及び貴族院におきまする委員会の質疑応答の速記録、これが唯一絶対の証拠と相なりまして。裁判所がその一問一答、議員の質問政府委員答弁、そのことから軍機の何なりやをつかんで、時の陸軍省が絶対に軍機だといつて検事を督励し、証明書までも出して裁判所すら圧迫したのでありますが、裁判所無罪判決を下されたのであります。私はその意味におきまして、この委員会の質疑応答というものは、後日重大な意義を持つものだと思いまして、御質問申し上げのでありますから、その意味におきまして疑点のあるところは疑点があり、不明確なところは不明確と、あとまでまた皆さんから研究していただいて答弁してもけつこうだと思いますので、そういう意味におきまして、お互いに人権擁護の意味から事の真相を明らかにしたいと存ずるのであります。その趣旨をおくみとり願いたいと思ます。  そこでこの合衆国軍隊機密を犯す罪は本條中最も重大な規定だと思います。これに対しまする法務府の説明書を見ますと、相当用意周到に御規定になつているようでありまして、その労苦のほどは私どもも認めるのでありますが、なお多少不明確な点もありますので、お尋ねするであります。そこで何が一体軍機であるかということの最終決定は、日本の検察官あるいは裁判所、最終的には裁判所の認定にかかるだろうと思うのでありますけれども、事が相当デリケートな問題でありまして、先ほどの質問にもありましたが、アメリカ軍隊との関係上、よほどしつかりした態度を日本の官憲が持つておりませんと、相当問題だと思うのであります。そこでこの全体の構想を見ますならば、公になつているものは機密としないという一つの原則を示されておるようであります。そこで立証の問題でありますが、警察及び検察官が第六條の違反の疑いを持つときには、これがまず公になつておるものであるかないものであるかを調査なされて、しかる後にこの犯罪の嫌疑をかけるということになるのであるかどうか。ただこれが合衆国軍隊機密だと認識すればすぐ第六條の犯罪行為ありとして捜査の段階に入るのであるかどうか、その点を承りたいと思います。
  196. 岡原昌男

    岡原政府委員 ある一つ事件といいますか、事実が起つた場合に、これがこの條文に触れる問題であるかどうかということは、まず第一には警密なり検察官が判定することになると思います。その場合におきまして、それが公になつているものということが検察官に明らかであり、あるいは警察官に明らかである場合には、もちろんこれは問題にならぬで済むと思います。さりながらただいま御心配のように、たこえば本人はこれは公になつているというような認識のもとにいろいろやつているところへ、警察官または検事の方で公になつていないというふうな考えのもとに、一応事件を立てる場合もなきを保しがたいと思います。しかしながらさような場合に、本人からこれはこういう根拠に基いて公になつておることが明らかにされるということになりますれば、そこで事件はおしまいになるわけでございます。
  197. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私はこの第六條の立て方がはなはだ巧妙であるけれども、少し親切を欠いておると思うのです。公になつていないというような重大事件を括弧の中に入れてしまつてちよちよこと書いておられるのであるが、それは相当の裁判官あるいは検察官でありますならばいいですが、一体下級の警察官などはなかなか公になつておるかなつていないかという問題につきましては、認識が乏しいと存ぜられるのでありますが、これは何かもう少し捜査についての條件として、もつと列挙的にやるべきものではなかつたかと思うのであります。たとえばアメリカの各種の新聞雑誌あるいはイギリスあたりの新聞雑誌、そういうものに書いてあることでも、語学の相当でき、インテリの人であるならばそれがよくわかるけれども、一体一般の捜査官がそれまでの知識があるかどうかわからぬ、そこでこれは公になつておるなつていないというような争いが、必ず起ると思うのでありまして、この公になつているいないということの証拠責任でありますが、これは一体起訴する際に、あるいは捜査する際に、自然その責任が捜査官にあるのであるか、ないのであるか、その点についてはつきり御答弁願いたいのであります。
  198. 岡原昌男

    岡原政府委員 まずこの條文の書き方でございますが、これは「合衆国軍隊機密」という文字がこのままずつと続けて出て参りますので、そこで実はその説明といいますか内容といいますか、「(合衆国軍隊についての別表に掲げる事項及びこれらの事項に係る文書、図画、若しくは物件で、公になつていないものをいう。以下同じ。)」というふうに書き表わしまして、「合衆国軍隊機密」という字句でそのまま使いたい、さような趣旨から括弧の中に入れたものであります。実質的にはまつたく公になつていないというのが要件でございまして、別に括弧の中であるから軽々しく取扱つたというわけではありません。それから挙証責任の問題でございますが、この点は一般の刑事訴訟法に関する証拠取扱いの原則と同じでありまして、原告官側に挙証責任がある、かように理解しております。
  199. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の御説明を聞くと、原告官側においてこれが公になつているものであるかいないものであるか、ある程度調べて、それから捜査に入るということに相なりましようか。
  200. 岡原昌男

    岡原政府委員 疑いのあるものにつきましては、さようなことに相なると思います。
  201. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 ところが実際問題といたしまして、こういう公になつておるかいないかを全然調べずに検挙し、あるいは勾留したということが起りました際に、そういう挙証責任を盡さずして検挙した、勾留したという者に対しまする制裁はどういうことになりましようか。
  202. 岡原昌男

    岡原政府委員 もしもその検察官なり警察官がまつたくの悪意でさようなことがあつたといたしますれば、それは職権の濫用でありまして、それぞれ制裁を加えるべきものでございますが、実際問題といたしましては、かような事件につきまして、われわれは常に慎重を期すべきであるということを現地の方に言つてあるつもりでございます。従いまして実際問題としてさような事件は軽々しく取上げられることはない、かように存じております。
  203. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうするとこの挙証責任を盡さずして逮捕監禁したる場合には、刑法の職権濫用罪が成立すると、こう承つてよろしゆうございますか。
  204. 岡原昌男

    岡原政府委員 簡單にさような結論ではないのでございまして、本人が何らかの悪意を持つてさようなことをいたした場合には、さようなことがあり得るということでございます。検察官なり警察官なりにおいてこれらの点について、挙証責任といいますか、いろいろな証拠を集めるについては、おのずから能力限度がございましようから、これを盡したか盡さないかということは、いろいろ客観的に判断すべきでありましようけれども、その場合に、もし本人がことさらに被疑者事件をものにしてやる——何と言いますかでつち上げてやろうというふうなことから、何もその点の手を盡さずに職権を濫用したという場合には、今のような事件が起り得る、かような趣旨に御了解願います。
  205. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それから「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、」これはまあ目的罪になつているようでありますが、そうすると「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」がなければこの犯罪は成立せぬ、こういうことに相なりましようか。
  206. 岡原昌男

    岡原政府委員 第六條第一項において探知、收集をした場合に、全部が全部この六條一項違反になるのではないのでございまして、それがあるいは不当な方法でやつた場合、あるいはただいまお話のような目的をもつてなされた場合——この特殊な目的があるかどうか、あるいは方法が不当であるか、さような場合にこの犯罪になるわけでございます。
  207. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこで問題は、何が「合衆国軍隊の安全を害すべき途用に供する目的」ということになるかという問題であります。法務府の説明書を見ますると、「合衆国軍隊の安全とは、同軍隊の諸裝備、財産等や同軍隊の人員の生命、身体等人的物的構成要素の安全をいう。一国の軍隊にとつては、その機密が現に敵対関係にあるか、又はさして遠くない将来敵対関係を生ずる客観的可能性のある外国その他合衆国軍隊の安全を害する意図を有する者に知られることは、その安全にとつて危險なことといわなければならない。」こういう説明をされている。結局「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」の客観性の説明じやないかと思うのであります。そこで承りたいことは、この法律が施行せられます際に——この合衆国軍隊というもの、これは他国の軍隊であります。この軍隊と敵対関係にある国というのは一体何であるか。そしてまたさして遠くない将来敵対関係に入るというのは何の国を言うのであるか。一体そういう国が現在存在するのか。
  208. 岡原昌男

    岡原政府委員 この守らるべき機密の種類というものは、性質的にかようなものでなければならないということを表示したものでございます。
  209. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは構成要件の中に、合衆国軍隊機密であつてもただちに犯罪にならない、その一つの制約としてこれは目的罪となつている。そこでもし合衆国軍隊に現在敵対関係にある国もないか、または将来敵対関係を生ずるような客観性のある国もない場合には、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」というものはなくなるのではないか。
  210. 岡原昌男

    岡原政府委員 合衆国軍隊が毎日遊んでいてもいいような状態でここ数年続くというようなことでございますれば、さような場合も観念的にはあり得るのじやないかというふうに考えられます。
  211. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると今世界は相当平和な機運に向つて来ているようでありますが、するとこの具体的の、軍隊機密を犯す罪の発動は、合衆国軍隊に対する敵対の国が現われる、あるいは近い将来に敵対関係に入るような国が現われるということが客観的に認識せられたときにのみ、この六條は発動するものである、こう解釈してよろしゆうございますか。
  212. 岡原昌男

    岡原政府委員 この第六條以下の規定はいずれも行政協定第二十三條にその根拠を置くのでございまして、二十三條において合衆国軍隊の安全を保護すべき限度においてこの條文がやはり働いて来る、かように理解しております。
  213. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこで現実の問題としてこれはただちに起るのです。あるいはある新聞に、合衆国の軍事基地がどことどことどこで、どのくらいの軍隊が駐留しているというようなことを発表する。するとただちにこの六條が発動することになるのかならぬのか問題になつて来る。そこで一体他国の安全を害するような情勢があるかないかを日本裁判官がどういう証拠に基いて判断するのでありますか。日本の国の安全を害するということならば、日本政府におきましても裁判所におきましても、国民もわかつているかもしれぬ。事は合衆国のことであります。合衆国の外交問題、その合衆国の安全、なお言葉を加えて言えば、今法務府が説明なされたように、現在敵対関係にあるか近い将来に敵対関係に入るであろうような国、こういうことに相なりまするが、一体それらのことを日本裁判官がいかなる証拠に基いて判定することになるのであろうか。一体この「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」というような目的罪になさつてしぼろうとなさつているけれども、これは実現可能であるのかないのか、私ははなはだわからぬ。自分の国のことすらよくわからぬのに、ほかの国のことをそんな一々日本裁判官がわかりますか。ことに裁判官なんというものは、あまり外交問題、経済問題なんということに対しては、そう申しては失礼だが練達堪能の士だと認められない人もある。さような場合におきまして、近き将来において敵対関係に入るであろうというようなことが、一体認定できるのかどうか。大体法務府の説明の中に、かような註釈を加えなければならぬような文句が出ることは、現在の日本といたしましていかがなものであろうかと私は考える。もちろん裁判官の働きは裁判官がやりましようけれども、あなた方の予想では無理じやないかというような感じがありませんかどうか承りたい。
  214. 岡原昌男

    岡原政府委員 かなり問題は大きなところに参つておりますので、外交問題、その他の詳細な客観的な情勢については、これを私からとやかく言うべき筋じやないかもしれませんけれども、ただ法律的な理論構成といたしましては、さような一切の問題は、あげて裁判所証拠をもつて認定すべき問題である、かように理解しております。
  215. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 犯罪構成要件としてこの目的を入れた、私はこれに反対するものじやありませんけれども犯罪の容疑ありとして検察官、あるいは警察官が活動する場合に、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的」を持つたかどうかというようなことの立証責任は、やはり捜査官にあると思いますがどうでありますか。
  216. 岡原昌男

    岡原政府委員 その通りでございます。
  217. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうしますと、その立証事項の中には、ある国が合衆国軍隊の敵である、あるいは近い将来に敵になるのだという証明がなければならぬのですが、そういう証明ができますか。
  218. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま御指摘の合衆国軍隊の現在の敵、あるいは近き将来において生ずるであろう敵、これに対する云々と証釈書に書いてありますのは、要するに、この「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて」と一言に簡單にいいましても、それが客観的に不能な問題であれば初めから問題にはならない。さような意味においてこれを除外した趣旨でございます。従いまして、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて」ということを判断するにつきましては、それらの諸般の情勢を証拠によつて総合認定する、かようなことに相なるだろうと存じます。
  219. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私のお尋ねいたしたいことは、合衆国軍隊が駐留しておりましても、世界が平和な道に進んで行きます状態におきましては、検察官あるいはその他の捜査官といえども立証ができないと考える。そういう立証ができない場合におきましては、本條は発動できないのだということの確固たる御答弁があればいいと思うのでありますが、その点いま一度お伺いいたします。
  220. 岡原昌男

    岡原政府委員 国際情勢が、猪俣さん御指摘のように平和であることを私ども希望いたしまして、かような條文の適用が全然ないことを希望するのでございますが、單に外交的な敵関係、あるいはいわゆる戰時関係の敵対関係というものがありませんでも、合衆国軍隊の安全を何らかの方法で害するものがないとは限りませんので、さような場合も予想した規定でございます。
  221. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 第七條の第一項「前條第一項又は第二項の罪の陰謀をした者は、五年以下の懲役に処する。」第二項の「前條第一項又は第二項の罪を犯すことを教唆し、又はせん動した者も、前項と同様とする。」この「教唆」と「せん動」の区別を承りたいと思います。
  222. 岡原昌男

    岡原政府委員 「教唆」と申しますのは、他人をしてある罪の実行を決意させることを申します。「せん動」と申しますのは、他人に対して中正の判断を失わしめるような手段方法で実行の決意をなさしめ、または既存の決意を助長せしめるというような行為を申すのでございます。
  223. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 この「せん動」という言葉刑法にはないのであります。ところが政府はこの字が非常におすきだと見えまして、今度提案せられるであろうと思われます破壞活動防止法案にも「せん動」という言葉か使つてある。それが労働組合スト蹶起の原因にもなつている。一体「教唆」の上に「せん動」というような言葉を用いないと行政協定違反になりますか。
  224. 岡原昌男

    岡原政府委員 「せん動」と申しますのは、既存の法律で、たしか国家公務員法並びに国税犯則取締法の中に「あおり」という言葉で使つてございます。「あおり」と申ますのは、字をくずしてございますが、どうもわかりにくいというので、既成概念の「せん動」という文字を使つた次第でございます。なお「教唆」と「せん動」との区別は、先ほどちよつと別々に申し上げましたけれども、「せん動」の方は、單に実行の決意を生ぜしめるということのみならず、すでに実行の決意をした者に対して、この決意を強めしめるというふうな場合も含むという趣旨でございます。従つて若干その間に違いが出て参るのでございます。
  225. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 あなた方もこの説明書に御留意があるように、これは憲法に保障せられました言論の自由と非常に重大なる関係がある條文であります。そこで基本的人権というものはこれは守らなければならない。それが制限せられる場合は公共の福祉という場合である。そこで基本的人権と公共の福祉ということは、これは現代の大きな問題だと考えるのでありまして、福祉の方を重要視し、基本的人権を非常に軽く見るように相なりますならば十八世紀の福祉国家になり、ヒトラーの公益優先国家になり、東條の滅死奉公国家と相なる。そこでこういう場合におきましては、基本的人権に対して非常に繊細なる神経を働かして立法していただかなければならぬと思う。ところが立法に当る人はなるべく大きく網をかけてひつぱりたい欲望であるが、刑法にりつばに既成の法律概念として成立しております「教唆」という言葉のほかに、特別法二、三に吉田内閣になりまして出て来たかもしれませんが、こういう「せん動」というような、法律概念としては実に不確実な言葉を用いることによりまして、多数の人たちの基本的人権を侵害するおそれがある。ぼくらは日本裁判所に対しましてあまり信頼を置けない。アメリカの最高裁判所のように、明確にして現実的な危險というようなことにおきまして、公共の福祉と基本的人権を調和するような風習が行われておるところにおきましてはいいかも存じませんが、私ども日本の最高裁判所の態度を見ましても、さようなアメリカの最高裁判所のような確たる信念に立脚しておるとは考えられない節がある。そういう際にかような不確実な言葉、基本的人権を侵害するおそれのある言葉を用いるということは、私どもはまつた反対でありますが、今お尋ねいたしましても、言葉のあやみたいなものであつて、しかも「教唆」と「せん動」が違うという御説明の中には、はなはだ危險性がある。それがゆえに「教唆」という刑法上の確立せられたる観念のほかに、「せん動」というようなまだ不成熟な言葉を用いて、これが立法化されまして、下部の執行機関が濫用いたしますると、容易ならざる基本的人権の蹂躙問題が起ると思うのであります。今御説明になりましたような違いのある「せん動」という言葉を、何がゆえにこういう日本の国民の基本的人権と重大な関係のありまする法條の中に入れなければならぬ必要があるのであるか。こういう不熟成の言葉はなるべく基本的人権擁護の立場から、これを削除すべきものじやないかと考えられられるのであるが、法務府の御意見はいかがですか。
  226. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 委員長として申し上げますが、この「せん動」という言葉は、最近のいろいろな立法上かなり問題の用語となつておるようでありますが、従来の立法において、日本においてあるいは外国において、「せん動」という用語を使われたものがあるかどうか、お調べになつた結果がわかつておれば、簡單に御報告願うことが必要じやないかと思います。
  227. 岡原昌男

    岡原政府委員 猪俣さんの御質問の基本的人権と公共の福祉との関係、これがこの問題の中心でございますことは、まさしく御指摘の通りでございます。そこで私ども考えましたのは、アメリカ軍が行政協定に基きましてわが国に配備されるのは、わが国の安全を保障するという趣旨に出たものでございまして、その安全を保障してくれる意味におきましては、われわれとしてもこれに協力しなければいかぬのではないか、さようなことに相なりますると、軍の安全が保障される限度におきましては、やはり相当な規定を設けなければならぬ。しかるに一方に御指摘のように、これがために基本的な人権が侵害されるようなことがあつてはこれまた相ならぬ。さような二つの観点をかれこれ批評いたしまして、この程度の立案はまことにやむを得ないものと私ども考えまして、かような立案にいたした次第でございます。なお機密性質といたしまして、それが一旦外に漏れました以上は、あとからあわてて何といたしましてもしようがないのでございます。従つてこの機密が探知、收集され、あるいは他に漏洩されるというのを未然に防止する、さような趣旨から、この未然の段階においてとどめようというのが、この「陰謀」、「教唆」、「せん動」等を加えた趣旨でございます。  なお御参考までに申し上げますと、次の第八條に関係を持つて来るのでございますが、第八條におきまして自首の減免の規定を置きました。その趣旨とするところは、ただいま申し上げたのとうらはらの関係に立ちまして、自首によつて機密がまだ漏れない先にこれを防止すると申しますか、他に漏れないように防止することができますればこれに越したことはないので、さようなことから自首が減免の事由に加えられた次第でございます。  なおただいま委員長から御質問の「せん動」という文字の今までの立法例あるいは外国の立法例等につきましては、正確な資料をとりそろえまして書面にして御報告いたしたいと思います。
  228. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 了承いたしました。
  229. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私は旧軍機保護法時代におきまして、委員会における質疑応答の記録を全部調べたことがある。しかしこれは十年くらい前の話で今頭から抜けておりますが、その場合におきましていろいろと具体的な事件をあげて、これは軍機か、これは扇動かというように、あらゆる議員が質問されておつたようでありまして、一体こういう場合は扇動になるか、こういう場合は扇動にならぬかと、一々具体的な事例をあげて法務府の見解をたださなければならぬと思うのでありますが、一体合衆国軍隊機密、しかも公になつていないものであつて、しかも合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的のためにそれを探知、收集せよと、ある人間を教唆する、これはわかりますが、その以外に扇動するという場合は、一体具体的にどういうふうなことに現わされますか。実例として、こういう場合があるから、教唆のほかに「せん動」というものを取締らなければならないということを、あなた方は立案なさる際に頭に浮かべてきつと立案されたと思う。私どもは、教唆のほかに「せん動」なんというものは、軍の機密探知、收集にどういう場合が一体当てはまるか、実例が出て来ない。出て来る実例からいうと、みんなそれは人権蹂躙になる実例だけしか頭に浮かばぬ。人権蹂躙にならぬで、しかも教唆だけにとどまれない何か合衆国軍隊の安全を害すような事案で、「せん動」という中にどういう事案がありましようか。実例をおつしやつていただけばぴんと来るのでありますが……。
  230. 岡原昌男

    岡原政府委員 この種の事件と申しますか、事実につきましては、従来御承知の通り政令第三百二十四号によりましてアメリカ軍の裁判管轄に服しておつた関係上、こちらとしては実は具体的な事件は新聞紙等に一、二載つたことがあるかどうかという程度でございます。従いまして私どもとして具体的な事件を、ここにこういう「せん動」の事例があつたということはちよつと申し上げかねるのでございますが、ただ「せん動」と申しますのは、先ほどもちよつと申し上げました通り、單に教唆の態様にとどまるもののみならず——ちよつと詳しく御説明申し上げますと、他人に対して犯意を起さぜるという場合にとどまらず、すでに犯意がある者に対してこれを助言するということを、中正の判断を失わしめるような手段方法でなすということになつて参りますので、従いましてその行為の態様において相当違つて参るのであります。なお従来の取扱いにおきましては、扇動と申しますのは、不特定多数ということも要件に加えた判例もあるようでございます。さような趣旨から「せん動」と「教唆」とは大分違つて参ります。かようにつけ加える次第でございます。
  231. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そんな実例も考えられないような問題に対して、こうやつておけば広く網にかかるだろうというようなことを予期しておつくりになつたのじやないかと思われる。ちつとも水も漏らさぬようにきめてやろうという頭で、実例はわからぬけれども、「教唆」だけでは何か漏れるものがあるのじやないか、だからついでに「せん動」というものを入れておけというふうに私どもには考えられる。それでなければ、合衆国軍隊の安全を害する現実にして具体的なる危検というような——アメリカの最高裁判所の基本的人権と公共の福祉の建結点をそこに求めるような頭ならば、今法務府の専門家が全然実例が出て来ないような文字を使うということは私ははなはだ解せないのです。そうして今あなたの説明を聞くと、こう決意を固めているものをなおあおり立てることになるから、これは刑法で言う幣助罪、従犯というようなことにならぬのですか。それとはまた別なのですか。
  232. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど申し上げましたのは、従来の実例としては、事件があちら側の裁判所にかかつている関係上こちらとしてはわかりかねる、従いまして具体的な事件を申し上げることはできないけれどもと、かように申し上げたのでございますが、私どもがこの法案の実際に動く際に予想いたしましたのは、たとえば壁新聞を張る、あるいはビラをまくといつたようなことを意味するのでございます。つまりそれを読んだ人が、ある者はすでに決意を持つており、ある者は決意がないというふうな場合があろうかと思いまして、さようなことを予想したのでございます。なお幇助的なものは刑法の従犯等で律せられるのではないかという御質問でございまするが、刑法におきまして幇助の規定が働きますのは、本犯が幇助されてその犯罪を実行したという場合にこれが問題になるのでございまして、これとそれとは区別した趣旨でございます。
  233. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると第七條第二項の「前條第一項又は第二項の罪を犯すことを教唆し、」というこの教唆罪は、本犯を犯さなくても教唆として独立の犯罪として処罰する意思なのですか。
  234. 岡原昌男

    岡原政府委員 この規定の立て方はさような建前でございます。
  235. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 しからばわれわれが今まで覚えて参りました日本刑法の教唆とこの教唆というものは、字は同じくても意味は違うことになると聞いてよろしいでしようか。
  236. 岡原昌男

    岡原政府委員 第三項におきまして、「前項の規定は、教唆された者が、教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。」ということを規定いたしてございますのは、教唆された者が実際に犯罪を実行した場合においては、刑法の第六十一條がそのまま働いて来る、さような趣旨でございます。
  237. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると第七條の二項の教唆というものは刑法の教唆と内容が違うのである、こういうことになりますね。
  238. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま説明いたしました限度において違つて参るわけでございます。
  239. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 「せん動」の場合もやはり「せん動」それ自体が独立罪でありますか。
  240. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような立案の趣旨でございます。
  241. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、何か壁新聞が張つてあるが、何人も軍隊機密を探知、收集した者はない。ないが、壁新聞を張つた者それ自体を処罰する、こういう規定でありますね。
  242. 岡原昌男

    岡原政府委員 大体さような趣旨でございます。
  243. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、アメリカ合衆国の最高裁判所の現実にして具体的なる危險ということによつて公共の福祉、基本的人権との調和をはかつている趣旨は、一体どこに現われているのですか。だれも現実の危險はない。また、だれも軍機を探知していない。しかるに新聞を張つたというだけで処罰される。何も危險がないのに処罰するということは、言論の自由と公共の福祉のいかなる調和をはかるのか。それでは言論の自由、出版の自由というものを徹底的に圧迫することになりはしないか。現実にして具体的なる危險は何もない。しかるにそれを処罰するということはアメリカでもはやつていないことだろうと思う。アメリカ軍隊の安全を保護すると称して、アメリカの原則にもないことを日本人にだけ行うということはどういうことか、その説明を聞きたい。
  244. 岡原昌男

    岡原政府委員 その程度——その程度と申しますのは、この條文に触れる程度の扇動行為ですが、それがあるということは、それの態様が壁新聞でありましても、現実に具体的な危險が発生した、かように私ども考えております。つまりその趣旨とするところは、現実にということは、現にそれを張つたということであり、具体的な危險と申しますのは、それが読み得る状況にあるということで、これは従来のわが国の判例の態度でございます。
  245. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、その壁新聞が張られたとたんに、もう合衆国軍隊機密が具体的にして危險なる現実に直面したと認定する、こういう意味ですか。
  246. 岡原昌男

    岡原政府委員 その壁新聞が張られるということは、同時にそれが読み得るという状態になつたわけでございまして、これを読んだ以上は、それに基いて行動する者が出る、さような意味において現実にして具体的な危險が発生した、かようなわけでございます。
  247. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 その場合の記事の内容はいかなる程度のものであるか。その点の制約ということは考えられないものかどうか、その点の御説明を願います。
  248. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は、もちろん記事の内容あるいはビラの内容が何でもいいというわけではないのでございまして、(「あたりまえだ」と呼ぶ者あり)この構成要件にすべて当てはまるということを前提として、ただいまの「せん動」の説明をいたした次第でございます。
  249. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 今の説明ははなはだ疑問がある。たとえば第六條において、合衆国軍隊機密を探知、收集しても、それは合衆国軍隊の安全を害する用途に供する目的がなければ犯罪が成立しないということが書いてある。しかるに、壁新聞を張つただけでこの第六條の構成要件の扇動をしたということは、これは一体どういうふうにして判定するのか。
  250. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいま申し上げました通り、その前提たる第六條第一項第二項等の、この犯罪事実の内容についての扇動でございまするからして、その機密といえば、第六條に書いてありまするところの「別表に掲げる事項」ということがまず第一要件になります。さらに「公になつていないもの」という点が同じく要件になつております。またその行為の態様につきましても、何でもかかるというのではなくて、その行為の態様が、探知、收集、その方法はさらに一定の目的または不当な方法で、かようなことをすべて要件とするわけでございます。
  251. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 これは実におかしいですぜ、まつたく。壁新聞を張つただけで既遂になるという、壁新聞を張つて人が見たら既遂になるということと、第六條のあなた方が苦心しておつくりになつたこの構成要件というのは、これはほんとうにおかしな関係になつていると私は考えられるのですがね。じやその壁新聞の中に一体、合衆国軍隊の安全を害しなければならないから軍隊機密を探知、收集する必要がある、しかもまたあるいは、不当な方法で探知、收集せよ、そしてしかもこれは公になつていないものであるぞというような、一々断り書を書いた場合に第七條が発動するのですかどうですか、それをひとつ伺つておきます。
  252. 岡原昌男

    岡原政府委員 文字の上ではいかようにもあれ、その内容がただいまのような要件を備えておらなければならぬ、かようになるわけでございます。
  253. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると重ねてお尋ねいたします。この壁新聞の中に書かれましたいわゆる「教唆」、「せん動」の文句が、公になつていない合衆国軍隊機密を、しかも合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、探知、收集せよ、あるいは不当な方法で探知、收集せよということをその文章の中に明白にうたわれている場合が、第七條の「教唆」または「せん動」に該当する、こういうふうに承つてよろしゆうございますか。
  254. 岡原昌男

    岡原政府委員 つまりその文書を読んだときの内容が、第六條の——ただいま一項だけを問題にしておりますから一項について申し上げますが、第六條の一項の趣旨に該当する場合に初めてそういうことが問題になる、かような趣旨でございます。
  255. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 田中堯平君。
  256. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 今六條が問題になつてつたのですから、私はこの六條を先に重点に質問します。その前に、昨日加藤委員から相当詳しく質問したけれども、何らそれらしい答弁がなかつたのですが、われわれはこの法案を見て、実際はまつたくたまげておる。あなた方の立場では、アメリカが日本に駐留をして、そうして日本の安全を保障してくれるのであるから、アメリカの安全を保障する意味で軍機保護もしてやらなければならないし、その他の犯罪検挙、証拠收集の協力もしてやらなきやならぬというふうに考えておられる。それは答弁の中にもいろいろ出ておりますが、この刑事特別法案解説書の中にも随所にそういう文句が現われておる。試みに一節を読んでみると、この機密問題についての政府の説明書ですが、「たとえ新聞雑誌などとしても報道を差し控えるのが、日本の安全を保障するため駐留している合衆国軍隊に対する日本人としての義務であり、従つて言論の自由の保障もそこには限界があると考えるべきであろうと思う。」云々、これに似たような趣旨のことが随所に思想として現われております。ところがこれはあなた方だけが考えるので、実際は、国際情勢や国内情勢をごらんなさい。なるほど形の上ではアメリカ駐留軍が日本の安全を保障するために、しかも日本側の要請に基いて、迷惑ながらも駐留してやるぞという形になつておる。しかし今日このようなとぼけたことをだれも信用しておりません。事実は、アメリカ国のアジアに対する侵略計画を実施するために、どうでもこうでも日本をアメリカ軍の前進基地としなければならぬ。それゆえに日本国民が、国家がどんなに迷惑をこうむろうとも、とにかく日本列島だけは放棄できない。ここを先途と、アジアの足場を固めなければならぬ。ことに朝鮮では失敗をし、台湾方面でも危くなつて来た。東南アジア方面でもうまく行かぬ。けれども日本列島だけは何としても確保しようという意図から出て、あらゆる無理をしながら、大急ぎに急いでサンフランシスコの両條約を結んだり、あるいはこれに基く行政協定などをつくり、さらにまたこのような本法案が国内立法の形で出て来ておる。これは実際日本人としての良識を持つておる人なら、たといあなた方でもわかるはずなんだ、新聞雑誌、あるいはラジオをお聞きにならぬわけはない。世界情勢が曲りなりにも入らぬわけはない。それなのに、ぼくはどうしてこういうふうに平然として、アメリカの味方をするということが、この際正義であり、アメリカ軍の安全を保障してやることこそ、日本の利益に一致するということをしやあしやあとして答弁ができ、また文章ができるのかと思えば、ふしぎでしようがない。私は国際情勢をもう二、三分ほど申し上げたい。実際、今日本に侵略の危機なぞありますか。だれが日本を攻めると言うのです。さつきも猪俣委員ちよつと口にしておつたけれども、まあ、去年の終りごろから、大分切迫しておつた世界の戰争危機というものも遠のきつつあるじやありませんか。遠のきつつある。モスクワの経済会議をごらんになつても、アメリカは不承知だつたらしいが、それでもアメリカから十二人も参加しておるし、英国、フランスはもちろん、世界四十数箇国から五百人という代表が集まつて、そうして今、世界の貿易がとだえておつて、必要もないのに反感嫉視しておる、これをひとつ経済の面から打通して行こうじやないかという平和的な意図をもつてモスクワで国際経済会議を開いた。その結果は、たつた一週間余りの会議で、中共と英国のごときは一千万ポンドに上るようれな厖大なる貿易とりきがめ調印されておるじやありませんか。全世界を通じて何億米ドルという大きな取引が、たつた一週間のうちに取結ばれておる。そのようにしてアメリカがいかに自国の世界支配を実現しようとして日本を基地にし、あるいは西ドイツを基地にし一生懸命やつてみたところで、もう戰争機運は遠のいて世界の人類は戰争をきらつておる。何とかしてもう戰争を避けて仲よく貿易もやろうし、文化の交流もやろうという意思になつておる。だからスターリンをごらんなさい。ごく最近外国新聞記者の質問に答えて、もう世界戰争の危機は二、三年前に比べて大分遠のいておるという意味のことを言つておる。彼ははつたりでも何んでもありやしない。彼の言葉は昔からはつたりは一言もありません。国内の軍擴経済に行き悩みを生じてあたふたしているような国を笑殺しておるのじやないか。戰争なんかできやしない。それなのに敵が来る赤の侵略が来るから国を防がなければならぬということで、いりもしない軍隊を導入して、それを保護してやるというようなばかげた立法措置をする。この一條一句といえども審議する不名誉さえも拒否したい。けれどもいやしくも法務委員として、法務委員会にかかつた以上そういうてただあぐらをかいておるわけにいかぬから、しかたなく各條文について審議をして行きますが、そういう心組みでやるのでひとつ十分前提を了承しておいていただきたい。  そこで第六條ですが、軍機密の問題これは大分猪俣委員がわれわれの質問したいことを聞いておりますので、重複は一切避けます。もつとももう少しつつ込んで聞かなければならない点もあるので聞きますが、第一に合衆国軍隊の安全という件であります。これは説明書を見ると、主として外敵関係が考慮されておる規定であるようであります。ところでアメリカ軍隊の安全については、あなた方のお考えによれば、盛におすきな言葉で言われておるところの間接侵略、そういうものがあるはずでしよう。そうすると第六條の「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて」というこの相手方に、間接侵略の主体がなり得るかどうかということ、これをまずお尋ねします。
  257. 岡原昌男

    岡原政府委員 直接、間接を問わず合衆国軍隊の安全を害するような用途に供する場合はこれに入る、かような解釈でございます。
  258. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そうすると、日本人同士が軍事基地のことやら、第六條の條件に当てはまるようなことを話したり、あるいは文書を交換したりしても、みんなこれにひつかかるわけですね。
  259. 岡原昌男

    岡原政府委員 人が日本人であつても外国人であつても、理論の構成としては同じでございます。
  260. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 相手は日本人であろうと外国人であろうと問題ではないということですが、さてその日本人といつても広うございまして、間接侵略ということをあなた方は言われるが、実は昨今のメーデーなどにも現われておるように、国民の大いなる部分は、実は再軍備にも反対であるし、駐留軍にも撤退してもらいたいし、両條約も廃棄してもらいたいし、行政協定反対、破防法ことに反対、刑事特別法も反対であります。そういうのがおしなべての気持なんだ。そうするとこれらに話かけることは一切本條の罪を構成することになりますか。
  261. 岡原昌男

    岡原政府委員 第六條一項は、探知、收集の場合の問題でございまして、話しかけるという問題ではないのでございます。
  262. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 実は私小わけして聞かなかつたのですが、それは第七條の「せん動」ということになりますか。
  263. 岡原昌男

    岡原政府委員 第六條一項または二項の罪についての「せん動」の場合には当るわけでございます。
  264. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そこでこの点についてもう一つお聞きしたいことは、その相手が外敵と目されるならばはつきりしておるのでありましようが、国内における間接侵略勢力とあなた方が目されるものは、国内人は非常に雑多であつて、判定がつかないのですが、一般の人に文書なら文書を渡そうという目的機密に触れることを收集したということになると、それはどうなりますか。
  265. 岡原昌男

    岡原政府委員 ただいまお使いになりました間接侵略というのは実際にどういうことになるのか、私も正確なところは存じませんけれども、その意味合衆国軍隊の安全を害するような可能性のある侵略行為といいますか、さようなことを目当にする場合においては、その目的があるということになろうかと思います。
  266. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それではもつと具体的に問題を提出します。先ほどちよつと言つたことなんだけれども、今、少し進歩的な労働組合などは、あげて政府の方針に反対なんです。アメリカの方針にも反対なんです。従つてあなた方からいえば間接侵略の勢力とも目されるでありましよう。そこで共産党でも何でもない労働組合が一つの演説をやる資料としてプリントをつくるのであるが、実はそのプリントの中に軍事基地がほしいというので收集した材料を掲載をして配るという場合は、どうでしよう。
  267. 岡原昌男

    岡原政府委員 先ほど委員長からの御質問もありましてお答えいたした通り、その内容たる事実と申しますか行為の態様が、單に扇動に当るとかいうことでこれの違反が生ずるのではないのでありまして、第六條の一項、二項等に規定されるような構成要件をその文書の上から読める場合にのみ、犯罪が成立するという意味であります。
  268. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 私の聞いておりますのは、六條の構成要件はみな満たしておるということを前提としておるのです。そして今問題にしておるのは、「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて云々というのを問題にしておるのです。説明書を見ると主として外敵関係と書いてあるから、間接侵略といわれるものを問題に出しておるのです。そこで一般の労働組合や農民組合というような大衆団体に説明する必要上、資料を集めるために六條の要件を満たすような行為があつた場合は一体どうなりますか。
  269. 岡原昌男

    岡原政府委員 第六條の要件を満たすような行為がありますれば、それは七條一項、二項等に触れて参る場合があるだろうと存じます。
  270. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 ここで形式的に取引しておるとどうもぐあいが悪いが、「用途に供する目的をもつて」ということを問題にしておるわけであります。これだけでは構成要件を満たしておるかどうか、これを聞いておるわけなんです。それで一般の労働組合や農民大衆にぜひこのことを知らさなければならぬというので、どこそこでは莫大な土地を取上げられておる、飛行場ができておるという事実を報告するために調査したとする、これが罪になるかということを聞いているのです。
  271. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようにいたしますると、六條の要件を満たすかどうかということが問題になつて来るのではないかと思います。「そこで合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的を承つて、」という特殊な目的が必要になつて来るのでございまして、これは陰謀、教唆、扇動にもそのまま必要になつて来るわけでございます。
  272. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それで最初から私言つているのだけれども、安全を害すべき用途に供する目的というのがわからないわけだ。これは早い話が、相手が、あなた方が遠慮しながらも、名前はあげてないけれども、ソ同盟なり、中共なり、そういうところへ送るべく作成した軍事基地の見取図ということは罪になるにきまつている。それを言つているのではない。国内の労働大衆や農民大衆に知らせるためにつくつたらどうなるかということなんです。
  273. 岡原昌男

    岡原政府委員 だんだん問題の焦点が明らかになつて参りましたが、それは第七條の一項、二項の問題というよりは、六條自体の問題であろうかと存じます。六條自体につきましては当初「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、」ということについて御説明申し上げた通りでございまして、先ほど申し上げました直接の敵対関係のあるところ、あるいはいわゆる外交的な、あるいは戰時国際法に基く敵対関係というものでなくとも、もつと碎いた表現でいいますと、先ほどの直接間接を問わず、何らかそういうふうな敵対関係にあり得る、あるいは現にある、さようなものとの間の関係でございまして、さような者に機密が漏れる、知られるということは、やはり保護しなければいかぬ。そこで「合衆国軍隊の安全を害すべき用途に供する目的をもつて、」ということを規定した次第でございまして、さような目的が全然ない、意図がないというような場合には、これは入つて参らないのでございます。
  274. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そこでいろいろどうもしつこいようだけれども、もう一点だけ伺います。いろいろ私が申したように、事実アメリカ軍に帰つてもらいたいという気分に国民はみなぎつているのです。ことに労働者はそうなんです。だからこれはどうも敵対的な関係にあるものと見られればしようがない。そうすると、それに見せるための文書をつくる材料を集めるということになると、どうでしよう。
  275. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点でございますれば、私どもといたしましては労働者は敵対関係——心理的にはあるいはいやなやつだというふうに思つているかもしれませんが、ここで考えました敵対関係というのはそういうものでございませんので、国際公法上戰時関係にあるとか、あるいは近き将来にさような関係に立つ、あるいは事実上侵略を受くべき関係にある、さようなことを前提といたしておる次第でございます。
  276. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 はなはだはつきりしないが、それはそれにしておきまして、次にさつき猪俣委員も聞いておりましたが、ここでは七條二項をもつて教唆、扇動などの独立犯としておるわけであります。ところでこれはどうも解せぬというのは、第三項では「教唆された者が、教唆に係る犯罪を実行した場合において、刑法総則に定める教唆の規定の適用を排除するものではない。」ということでありますから、そこで教唆が成功して、そうして実行を遂げたときには、これはまず先に扇動を聞かねばならぬが、扇動はやはり独立した罪になるのですか。
  277. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようでございます。
  278. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そうすると教唆はいいとしても、扇動の場合効果が生じて実行を遂げたということなれば、従犯減刑で安い刑になる。ところが何の効果もなかつたということになると、独立犯として第六條の十年以下の懲役ということになる。刑の権衡はどういうことになりますか、非常に納得が行かない。
  279. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようにはならぬだろうと思うのでございます。
  280. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 ちよつと速記をとめて。     〔速記中止〕
  281. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 速記を始めて。
  282. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それでは同じ問題、この件についてですが、これは一体扇動、教唆というようなものを独立の犯罪にしたというのは、これは説明書によると未然に機密を保護しなければならぬから、機密に対する安全を守らなければならぬからという説明のようでありますが、しかしそれにしても非常にこれは国民に対する言論の抑圧になるし、基本人権の侵害にもなる結果が大きいのでありますが、それにもかかわらず、しかも日本軍隊でなしに、外国の軍隊のためにこのような重大な考慮を拂われるに至つたのは、やはり相当向うと交渉があつたのですか。
  283. 岡原昌男

    岡原政府委員 これらの規定をつくるにつきましては、全部私どもの立場において独自に立案したものでございます。
  284. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それならなおのこと、これはまつたく悪法です。この部分だけをつかまえても、そんなものを独立犯にする手はないです。これは意見ですから次に移ります。  これもちよつと小さい問題だが、ついでに第六條の「前二項の未遂罪は、罰する」とあるが、探知、收集の罪はわかるとしても、他人に漏洩する、漏洩罪未遂ということは、どういうことですか。
  285. 岡原昌男

    岡原政府委員 たとえば手紙などで、他人に知らせようと思いまして、手紙を出した、その行為は結局着手があるわけであります。しかしながら、まだ向うに着いていない、見ていないというふうな場合もあるわけでございます。
  286. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それから別表について二、三聞きたいのですが、その前に、合衆国軍隊機密を侵してはならぬというのが、第七條の罪になるのですが、これは合衆国軍隊機密であるから、合衆国軍隊構成員または軍属、家族については、全然問題はないわけだと思いますが、たとえば向うさんの最高司令官なり、あるいは幹部が、どういうふうな動静をとつた、あるいは会議を持つたとか、何々の件について、どこそこでもつた会議を持つたというようなことを言うのは、そういうふうな情報を收集したり、探知したり、あるいは他人に漏洩するということは、いかがなものですか、罪になりますか、なりませんか。     〔委員長退席北川委員長代理着席
  287. 岡原昌男

    岡原政府委員 單に合衆国軍隊構成員が個人たるの資格において云々の行為があつたというようなことは、もちろん問題にならぬと思います。
  288. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 ところが、これが別表の「防衛に関する事項」のイ、「防衛の方針若しくは計画の内容又はその実施の状況」、この「実施の状況」などに入りませんか。
  289. 岡原昌男

    岡原政府委員 もちろん入つて来るようなことはないと存じます。
  290. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そうすると、「実施の状況」というのを簡單説明してもらえませんか。
  291. 岡原昌男

    岡原政府委員 この「実施の状況」と申しますのは、前段の「防衛の方針若しくは計画の内容」というのを受けて参りまして、それらの実施の状況、つまり平易に申しますと、それらの方針や計画の内容が順次実施に移されて参ります、この実施の程度方法あるいは内容、さようなものをさすのでございます。
  292. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 でありますから、司令官がアメリカ本国から来た有力な人と何時何分どこそこで会議をしたというようなことを新聞記事でよく出すが、それさえもやはり事と次第では、実施の状況に入るのじやありませんか。たとえば今朝鮮なら朝鮮で停戰の会談が行われておる。どうもこれは五月一日までには片づきそうだ、ついてはアメリカから偉い人が見えて、そうしてこつちの最高司令官と会つて密談しておる——これは今のことじやありませんよ、たとえばの話ですが、大方これは休戰会談が片づくものと思われるというようなことを報道したとします。これは「実施の状況」に入りやしませんか。
  293. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような程度のものは、「防衛の方針」あるいは「計画の内容」というものには、直接の関係はないと存じますので、入つて参らないと思います。
  294. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 別表一の「防衛に関する事項」のハ「部隊の任務、配備又は行動」これは説明書を見れば至つて簡單明瞭に書いてありますが、しかし説明書が説明しておるようなことは、実はそういうことは日本の新聞のみならず、外国の新聞が始終書いておることなんですが、それはひつかかりやしませんか。
  295. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような、新聞に載る限度においては、もちろん問題にいたしません。
  296. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 限度と言われると、はなはだ不明確になるのでありますが、ことにアメリカの新聞などでは、実に専門的に詳しく書いております。日本の新聞はこれの受売りが多いようですけれども、ここでちよつとお尋ねしておきたいのは、アメリカでは一体プレス・コードというものはどういうふうになつておりますか。それをお尋ねする前に、たとえば別表の「防衛に関する事項」の中で、「部隊の使用する艦船、航空機、兵器、彈薬その他の軍需品の種類又は数量」、あるいはそのすぐ前の、「部隊の使用する軍事施設の位置、構成」——こういうことは書いてないが、「性能又は強度」というようなこと、そういうことについてはまつたく専門的な意見、学説、研究、報告がなされて新聞雑誌に出ております。そういうものは、日本でやつたらひつかかると思うが、アメリカではどうして許されておるのですか。プレス・コードはどうなつておりますか。
  297. 岡原昌男

    岡原政府委員 プレス・コードにつきましては、一度前に資料を集めたこともございますけれども、この法案の審議の際に、実は使用するのを怠りましたので、いずれ調べました上、お答えいたしたいと思います。ただアメリカの新聞雑誌には、割合に平気と申しますか、そういうことが載つておるようでありまして、さようなものが載つた以上は、先般申し上げました通り、すでに公になつたもの、かようなことに相なります関係上、この機密に入つて参りません。
  298. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 アメリカから引用する分は罪がないとしても、日本の雑誌あるいは研究機関、あるいは政党が、あのアメリカの新聞や雑誌が今日研究発表しておるような程度のものを、引用でなしに、独立してやりましたならば、これはおそらくこの法律にひつかかると思うが、どうですか。
  299. 岡原昌男

    岡原政府委員 つまり今の漏洩の問題と思いますが、その機密というものが、まず客観的に存在することが必要と相なります。従いまして客観的にそれが公にされていないということを條件にいたしますが、さような機密がいかなる形で研究者なら研究者の手に入つたかということが、まず第一に問題になるかと思います。それにもまして問題になりますのは、第六條第二項に書いてあります、通常不当な法によらなければ探知し、または收集することができないような機密、これにひつかかつて参りますので、その性質があつて本人にその認識があれば、それにかかつて来る場合も生ずる。但し純然たる学術研究的なもので、合衆国機密と直接の関係なしに、研究したものが、たとえばたまたま何かの類似点を持つた、あるいは同一の問題が起きたということがありましても、それはたまたまの問題でございまして、犯意は欠けて来るわけでございます。
  300. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 探知、收集の方法は、一応別としまして、今お尋ねしておるのは、六條第一項の漏洩の問題ですが、そこでアメリカの新聞や雑誌が、ことにニューズ・ウイークなどがよく出しておるような、非常に露骨というか、私どもから言うと、たまげるほどの詳しい発表をしております。ああいう程度のものは、占領治下の日本ではとても許されはしないが、この法律実施後もとうてい許されまいと思う。たといどういうような方法で探知、收集した資料であろうとも、それは別問題としまして、漏洩することが、公表することが本法にひつかかりはしないかということです。
  301. 岡原昌男

    岡原政府委員 その前提として、その機密がどつかからか出て来なければならぬということがまず第一に考えられます。その過程において、やはり一つ犯罪的なものが起り得るということは、御質問の中にもほのかに見えているところでありますが、つまり私どもがいろいろな機械に、向う側機密がどの程度のものがあるものだろうかというふうなことで、話しあつてみましたけれども通常われわれの目に触れるようなところには、そうころがつているものではない。従いまして、さような機密がたやすく手に入る、あるいは漏洩されるということはないというふうな感じを今持つている次第でございます。
  302. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 その点もはなはだどうも不徹底だと思いますが、時間がないので先へ急ぎましよう。もう一ぺんさつきの問題に、ちよつと気にかかりますので返りますが、合衆国軍隊の安全を阻害すべき用途に供する目的をもつてやらなければ、本罪は成立しない。ところが新聞や雑誌は公々然と掲げておるのでありますが、これらは何も合衆国軍隊の安全を害する用途に供する目的などはあろうわけはない、一般にそうだと見られますが、そういうふうなものでもやはり漏洩罪にひつかかりますか。
  303. 岡原昌男

    岡原政府委員 新聞に書きます場合には、第六條第二項の関係になつて参るのでございます。一項の関係ではないのでございます。
  304. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それでは時間がないので第一條からずつと、今までの委員質問に対しての回答では納得の行かない点を拾い上げます。第一條に関してというより、むしろこの法案そのもの全体と行政協定との協力問題ですが、行政協定趣旨に抵触する、あるいはそれに合わないような内容が、かりにこの法案に盛られておつたとします。そうすると、これはどつちが優先的に有力な効力をもつものでございましようか。
  305. 岡原昌男

    岡原政府委員 私どもはこの行政協定の文言を見まして、その不明確なる点等を明らかにしようと思いまして、特に問題になりましたのは第三章刑事手続に関する部分でございますが、その点につきましてはこれを明確化したつもりでございます。従いましてその関する限り、この行政協定に基くこの法案の方が細目にわたりまして明確にしたいという意味において優先するのではないか、かように思つております。
  306. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そうおつしやるが、たとえば第一條のアメリカ合衆国軍隊構成員軍属、家でいうものの定義ですが、これにしても、行政協定の方では、たとえば家族について。「日本国の国籍のみを有する者を除く」とは書いてないわけです。だから行政協定の場合には、日本人をアメリカ軍人が妻にしているというような場合でも、これはそのまま行政協定のいう家族に入るわけですか。ところがこれはそれを省いてあるということになると、どういうことになりますか。
  307. 岡原昌男

    岡原政府委員 その点は行政協定の第十七條第二項に規定してございます。ちよつと読みますと「1に掲げる北大西洋條約協定合衆国について効力を生ずるまでの間、合衆国軍事裁判所及び当局は、合衆国軍隊構成員及び軍属並びにそれらの家族(日本の国籍のみを有するそれらの家族を除く。)が日本国内で犯すすべての罪について、専属的裁判権日本国内で行使する権利を有する。」云々、こういうふうに書いてございます。
  308. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 今の問題についてもう少しお聞きしたいのですが、たとえば軍人、軍属、家族であることを証明する身分証明書を駐留軍の方で不当に出したという問題がある。不当に出したというのは、こつちが言うことであつて向うでは正当に出したというでしようけれども日本側から見れば、それは不当であるというので、争いが起きる、そうするとこれは合同委員会に持ち出す。そこで決定が行われる。そうすると日本裁判所が、こういう者に対して第一條の定義に基く資格を証明する身分証明書を與えるべきではないという判断でありながら、結局は行政協定に基く合同委員会の決定に押しつぶされてしまうという結果になりはしないか。
  309. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような身分証明書がたとえば不法に発行されている、あるいは偽造したものを持つているというような問題も、理論的にはあり得るかと思いますが、さような場合におきましては、その実態を、つまり実際その者が軍構成員であるかないかということが問題になるのでありまして、たとえば身分証明書をたまたまそのときは紛失して手にしていなかつたといいましても、実質的にはその軍構成員であるということが客観的に証明できますれば、それによつて判断する、さようなことに相なると思います。
  310. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 日本裁判所が、たとえば今の身分証明書の問題について、これは身分証明書がない、あつても形式的に持つてつて、これは持つべき資格のある者ではないというので、これに基いて判決したとする。ところがアメリカ軍当局の方は、そうではない、当然これはこの身分証明書をもらう資格のある人だという見解で、判決後に合同委員会が開かれておる云々ということがありますが……。
  311. 岡原昌男

    岡原政府委員 さような場合もあり得ると思います。そうしてその合同委員会で解決ができない場合が予想されます。さような場合におきましては、一般国際公法の原則にのつとつてどういうことに相なりまするか。たとえば国際司法裁判所あるいは常設国際仲裁裁判所でありますか、そういつたものの問題になる場合もあるのではないか、かように考えます。
  312. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 そうすると、今のような例から考えると、やはりこの国内法である刑事特別法よりも、行政協定なり国際法規の方が優先するという場合があり得るわけですね。
  313. 岡原昌男

    岡原政府委員 優先するというのではないのではないのでございまして、さような紛争が生じた場合には、そういうふうなこともあり得る、さように申し上げたので、わが国の裁判所裁判というものはわが国の刑事訴訟法その他の刑事手続法規によつて律するほかないわけであります。
  314. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それでは第二條について……。大体これはもう人が聞いておることなんですが、さつき猪俣委員が出しておつた例ですが、この土地は接收されても反対だ、あるいは接收手続は違法であるというようなことで、明渡しを拒否して農民諸君ががんばつておるというような場合——ところが場合によつてはこれは不退去罪にひつかかるという御答弁であつた、それで繰返して詳しい例は申しませんけれども、あの設例の場合、私の考えでは正当な理由があるということになつて、これは第二條の制裁を受けないで済むのじやないかという気がしますが、どうですか。正当な理由があるんじやないか。
  315. 岡原昌男

    岡原政府委員 私どもといたしましては、ある正当の理由の有無の判断は、結局最初に申し上げました通り違法性の阻却の事由としてこれをなすべきか、あるいは構成要件の該当の問題として処理すべきかということについて、学説上争いがあるということを前提にして申し上げましたけれども、大体において刑法の概念によつてこれは律すべき、似たような取扱いをなすべきものだ、かように申し上げた次第でございます。設例のただいまの事件につきましても、先ほど理論的にはさようなものも入り得るというふうに申し上げたのでございまするが、なおいろいろ疑問の点もあると存じまするので、十分研究した上でさらに明後日にでも明確にいたしたいと存じます。
  316. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 それでは明後日お答えを聞くとしまして、同じく第二條で「但し、刑法に正條がある場合には同法による。」ということになつていまして、ここに掲げられたもの以外、たとえば説明には、射撃場とか演習場とかいうようなものがあげてあつたようですが、そういう場所に不法侵入したり、不退去であつたりという場合には刑法で例がないので、ここでこうした例を設けたという説明があつたのです。ところが刑法の方の処罰は、三年以下になつておる未遂も罰する。ところが本法では一年以下、未遂を罰しないことになつておる。そこで刑の権衡がちよつとおかしくなつて来るのじやないかと思います。というのはたとえばアメリカ軍の将校なり、あるいは軍属なりの邸宅に不法侵入の未遂ということがあつた場合には、刑法では未遂を罰するので、制裁を受けなければいけない。ところがそれよりも重要な案件であろうと思われる合衆国軍隊の使用する施設や区域に入ろうとして入りそこねたという場合には、何ら責任が問われないという不権衡——まだその他にもありますが、そういう不権衡が生じないか、どうですか。
  317. 岡原昌男

    岡原政府委員 この保護法益が違つておるのでございまして、第二條におきましては、合衆国軍隊が使用する施設または区域の中の立入り禁止の場所ということになつております。刑法の百三十條の方は「人ノ住居又ハ人ノ看守スル邸宅、建造物若クハ艦船」ということになつておりまして、簡單に申しますと、片方は一つの施設、区域という割合に広いものを考え、片方は居住権を中心とする一つの看守の場所を中心に考えておるわけでございます。従いまして広い施設または区域の中にもう一つ刑法百三十條に当るようなものがございまして、その中に入つて行くという場合には、それ自体未遂として、現在の百三十條でもやはり同じく未遂が罰せられるわけでございます。
  318. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 次に第三條第二項で「犯人の親族が犯人の利益のために前項の罪を犯したときは、その刑を免除することができる。」という親族免除の規定がありますが、こういうことになるのは、犯人というのはアメリカ人ですから、そうすると、アメリカ軍あるいは軍属、その家族——それの親族ということになると、結局アメリカ人じやありませんか。そうすると、日本刑法の規定に置くのはおかしいことはないか。これはどうし置いたのですか。
  319. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点は先ほどもちよつと申し上げました通り、国際私法を律しまする法例の第二十二條によりまして親族関係事件犯人の本国法に準拠してきめられるわけであります。従いましてその場合には、その国籍はアメリカである場合もございましようし、あるいはその他の国籍の場合もあるわけでございます。
  320. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 これは属人主義の裁判権を行うことになつておるので、当然かもしれないが、第三條で、主犯がもちろんアメリカ人である場合、そして従犯が日本人である場合は、従犯の方は日本裁判所、主犯の方はアメリカの裁判所というような、非常に審理上の困難な問題が生ずるようですが、やはりそれ以外に方法はないのですか。
  321. 岡原昌男

    岡原政府委員 つまり裁判権の問題でございますので、さようなことに相なるわけでございます。
  322. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 第五條について、これは昨日も他の委員から問題にされておつたようですが、「合衆国軍隊に属し、且つその軍用に供する」という表示が行われておるが、これは至つて判然としない。どう考えてみても、いろいろと判断のつかない例がたくさん生じて来るのです。その二、三について尋ねます。たとえば自動車とかタンク、あるいはその他の兵器というようなものが、日本の工場で修理を受けるというようなことはしよつちゆうあることなんです。修理依頼中のものの所有権はもちろんアメリカ合衆国に属しておる。これはどういうことになりますか。やはり第五條の罪になりますか。
  323. 岡原昌男

    岡原政府委員 それた入らぬというふうに解釈しております。
  324. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 これとちよつと違うが、日本の軍工場なりが注文を受けて、そうして製造し、完成したものであつても、引渡しが済まないものは、第五條の対象にはならぬということですが、これはもう一ぺん確めておきたいが、どうですか。
  325. 岡原昌男

    岡原政府委員 さように解しております。
  326. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 アメリカ合衆国軍隊が原料を出して、そして技術指導も半ば行い、日本の工場で製造させておるという軍用物件は、第五條の対象になりますか。
  327. 岡原昌男

    岡原政府委員 まつたく同一でございます。
  328. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 入るのですね。
  329. 岡原昌男

    岡原政府委員 いえ、入らないということでございます。
  330. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 「その他の物」というと、車両とか軍馬というような例も引かれたが、「傷害」という言葉があるところを見ると軍馬だけでなしに、いろいろ生きものを対象としておられるようだが、これはどういうものを考えられるか、軍馬とか犬とか……。
  331. 岡原昌男

    岡原政府委員 ついでに軍用犬というようなところじやないかと思います。
  332. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 もちろん糧食用の家畜も入りましようね。
  333. 岡原昌男

    岡原政府委員 家畜そのままでは食べられませんので、戰時中ただちに糧食用に供し得るというような性質上、おのずから制約が来るだろうと考えております。
  334. 北川定務

    北川委員長代理 ちよつと速記をとめて……。     〔速記中止〕
  335. 北川定務

    北川委員長代理 速記を始めてください。
  336. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 豚や牛のたぐいを輸送中殺したり傷つけたりすることになると、どういうことになりますか。
  337. 岡原昌男

    岡原政府委員 さようなものは私どもはこの五條における糧食とは考えておりません。
  338. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 「その他の物」に入りませんか。
  339. 岡原昌男

    岡原政府委員 「その他の物」にも入らぬ。つまりここに書いてあります「その他の物」と申しますのは、兵器、彈薬、糧食、被服その他これに類すると申しますか、その程度の重要性を持つた「その他の物」というふうに大体理解しておつたのでございます。
  340. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 意見としまして、この規定、すなわち「その他の物」などというのは、これはそういう刑事立法例があるかどうか知りませんが、どうもそういう罪刑法定主義の原則に基いて、ぼやつとしてどのようにも解釈できるような、適用者によつては広げもでき、縮小もできるというような表現の仕方は、至つてまずいので、何とかこれは方法がないものですか。
  341. 岡原昌男

    岡原政府委員 この点はいろいろ考えたのでございますが、もしもこれを野放しに現定いたしますと、何でもんかんでもこまかいものまで入つて来るというような心配がございましたので、まず「合衆国軍隊に属し、」という要件と、「その軍用に供する」という要件と、それから物については兵器、彈薬、糧食、被服、これに類する程度のもの、ほかの立法例におきましても、何か例示を書きまして、その他と、こうなりますと、その程度のものあるいはこれに類するものというふうな解釈になりますので、さような趣旨からこれを入れた次第でございます。
  342. 田中堯平

    ○田中(堯)委員 もう約束の時間も三十分も超過しましたので、きようはこれでやめます。
  343. 北川定務

    北川委員長代理 本案に対する質疑は本日はこの程度にとどめておきます。  なお明後二十一日は午前十時より建設委員会との連合審査会を、午前十一時より本委員会を開会いたしますから、さよう御承知おき願います。  本日はこれにて散会いたします。     午後五時二分散会