○
岡原政府委員 それではただいまから、
刑事特別法案の
逐条説明をいたしたいと存じます。その前に、私
どもがこの
法案をつくりました際の根本的な
方針ということを申し上げたいと存じます。
私
どもがこの
行政協定を見まして、まず第一に考えましたことは、なるべく
現行の
日本の法令は全部
アメリカの
駐留軍に及ぶ、その大きな
原則のもとに、できるだけこの
行政協定に基く
特別法の立案の
範囲を縮小する、言いかえますれば、なるべく
日本の
法律の
適用を広
範囲に
原則的に認めさせようというのが、
一つの
方針であります。従いまして、
行政協定の第十七条あるいは二十三条の
関係で、いろいろと議論いたし、ほかにも
立法の手当が必要じやないかと思われた
事項も多々ございましたけれ
ども、それを全部切り捨てまして、
刑事の
実体法規につきましても、
手続法規につきましても、
現行法規の大きな網をそのままかぶせるという態度をとりました。
第二の
方針といたしましては、
行政協定の文言をいろいろ研究してみますと、
大分字句がはつきりしていない。われわれ
法律的に検討いたしましてあやふやな点もございましたので、これを明確化する、そうして
向うがやればこちらもやるという
双務主義を貫くというふうな
方針をとりました。
次に
行政協定の案文を見て参りますと、どうもわれわれには納得しかねる面も若干あるというような点を二、三取上げまして、その点はこの
法案によ
つて是正したというふうな点もございます。これはいずれ詳細に、御
質疑等がありますれば、順次御
説明申し上げたいと思いますが、私
どもが
最初この
法案をつくる際の
根本的方針は、以上三点でございました。これから第一条以下逐次入りたいと存じます。
御
承知の
通り、この
法案は三章二十箇条から
なつておりまして、第一章は、第一条だけの
定義の
規定でございます。第二章、実体的な罪の
規定は、第二条から第九条までございます。第三章、十条以下第二十条までが、
刑事の
手続規定と
なつております。
第一条は、この
法案に用いますいろいろな
用語の
定義を掲げました。いずれも
日米安全保障条約あるいは
行政協定に使われている
言葉を、ほとんどそのまま取入れた次第でございます。
第二条は「
施設又は
区域を侵す罪」でございます。御
承知の
通り、
刑法百三十条におきまして、いわゆる
住居侵入、
邸宅侵入の
規定がございますけれ
ども、
行政協定第二十三条に掲げる軍の安全々確保するためには、このほかに
施設または
区域内に侵入する
行為というものに対して、
罰則をも
つて保護する必要があるのであろうというふうな観点から、この
刑法第百三十条の特殊な場合といたしまして、特別の
構成要件を定めた。しこうしてこの
法定刑をずつと下げた
規定を
一つ置きました。すなわち正当な理由がなしに、
合衆国軍隊の
使用する
施設または
区域内で、立入り
禁止の
場所に入るとか、あるいは
要求を受けてその
場所から退去しないということを
構成要件といたしまして、一年以下の
懲役または二千円以下の罰金あるいは科料という軽い
法定刑を定めました。この但書は、立入り
禁止区域内でありましても、
刑法百三十条にあたる場合があり得るのでありまして、
つまり人の看守をする
建造物等がございます。それに入
つた場合には、
刑法の
適用がある、かような
趣旨でございます。
次に第三条でございますが、第三条は「
証拠を隠滅する等の罪」でございます。
刑法第百四条に
証拠湮滅罪の
規定がございますが、これは事の
性質上、
日本の
裁判所における
事件の
証拠隠滅の
規定でございまして、
アメリカの
軍事裁判所の
事件については、その
適用がないわけでございます。従いまして、
行政協定第十七条第三項(e)の
趣旨にのつと
つて、
向うの裁判の
公正妥当を期するために、この
証拠隠滅を罰するという
規定が必要に
なつて参るわけでございます。そこでこの
構成要件その他は、大体現在の
刑法第百四条とほぼ同じ
文字を使いました。その
法定刑も、これと並べて
規定してございます。
文字が若干違
つておりますのは、
制限漢字の
関係や、あるいは新しい
用語例に
従つただけでありまして、全部
刑法の
概念はそのまま
適用されることになると思います。
次は第四条でございますが、この点に関しまして、実はこの
法案の
プリントの一部にミス・
プリントがございますので、この機会に訂正させていただきたいと思います。第四条の「
偽証の罪」とございますが、これは「
偽証等の罪」というふうに御訂正願います。なおついでに申し上げますが、印刷物によりましては第十三条の一項の
最後のところに「裁判官からするものとす。」とございますが、「するものとする。」「る」が
一つ抜けておりますので、あわせて御訂正おき願いたいのでございます。それからもう
一つ、これも印刷を非常に急がせた
関係で、
別表の第二行目でございますが、一
号イの「その
実施状況」とございますが、これは「の」が抜けておりまして、「
実施の
状況」が正確でございます。
それでは第四条に移ります。第四条も現在の
刑法百六十九条ないし百七十一条に
偽証、
虚偽鑑定、
虚偽通訳の
規定がございますけれ
ども、これは
先ほど申しました
通りの事情で、いずれもわが国の現在の
裁判所の
事件のみに関する
規定でございますので、
合衆国軍事裁判所の
事件につきましては、これと類似の
規定を置く必要があるというところから、この
偽証等の罪を第四条として
規定した次第でございます。ここに用いております
用語例はすべて
刑法をそのまま引いてございます。
次は第五条でございます。「
軍用物を
損壊する等の罪」、
合衆国軍隊の
軍用物を
損壊する等の
行為につきましても、特に
規定のない限りは
刑法第二百五十九条ないし二百六十一条の
規定が
適用されるわけでございます。しかしながら
行政協定第二十三条の
趣旨から考えますと、これらの
規定のみでは
合衆国軍隊の
財産の安全及び
保護の確保に十分な
目的を達することができないというふうに認められますので、これらの
規定のほかに特に
本条を設けた次第でございます。
本条の客体は「
合衆国軍隊に属し、且つ、その
軍用に供する兵器、彈楽、糧食、被服その他の物」かように
なつております。ここに属するというのは、その
所有に属するものである。あるいはそういうことがあるかないか知りませんが、
合衆国軍隊において借用しているものも包含する
趣旨でございます。次に「
軍用に供する」という
言葉は、
合衆国軍隊の用に供するということで現に
軍隊で
使用中のものはもちろんのこと、
使用中でなくとも倉庫に保管しておるもの、あるいは
集積所に
集積中のもの、輸送中のものも包含する
趣旨でございます。しかしながら
軍隊の
構成員が
——兵隊さんが自分で
日常生活のために使
つているというふうな
日用品等は包含しない。また
合衆国軍隊の
所有に属していましても、
日本政府に貸興されたというふうなものもこれに包含されない、さような
趣旨でございます。さらに
合衆国軍隊の注文がありまして、
民間工場で製造したというようなものは、たといこれが
完成品でございましても、
合衆国軍隊に引渡される前は、
合衆国軍隊に属するものでも、また
軍用に供するものでもありませんので、これから除外される
趣旨でございます。
行為の
態様、
損壊または傷害、これはいずれも
刑法の
概念をそのまま借用いたしました。
なおここに、関連して申し上げたいのは、
軍用物の
損壊でありましても、その
手段方法において、放火、溢水あるいは、
爆発物取締罰則等に触れる場合におきましては、これらの
規定も
適用されることに相なります。それらの
規定の方が
法定刑も高いので、そちらの方で処罰されることとなろうと思います。
次は第六条でございます。この六条、七条、八条の三箇条は、
合衆国軍隊の
機密を侵す罪でございます。
合衆国軍隊の
機密についてその
保護のための
立法措置を講ずる必要のありますることは、
行政協定第二十三条の示すところでございます。ただ、これをいかなる形で
規定するかという問題になりますると、事の
性質上、実に困難かつ微妙な諸点を含んでおります。すなわちこれによ
つて保護せらるべき
合衆国軍隊の利益、これによ
つて取締らるべき
日本国民の立場、この二つをいかに調節勘案してこの妥当を期するかということが、問題の
主要点でございます。そこで私
どもといたしましては、まず
保護の
対象たるべき
合衆国軍隊の
機密というものの
意義、
種類及び
範囲、これを
法律上明記することに努めました。戰前の
軍機保護法におきましては、この
種類、
範囲等は命令に委任する
建前をと
つておりました。
法律には
規定がございませんでした。すなわち
軍機保護法の
施行規則におきまして、相当詳しい、こまかい
規定を置いたのでございます。ところでわれわれといたしましては、
合衆国の
軍隊に現にいかなる
機密があるものやら全然存じませんし、そう詳細に何から何までかかるというふうな
規定をすることはできませんし、そこで
別表に掲げたような割合に簡單な
表現でございますけれ
ども、その諸
項目にとどめた次第でございます。なお
軍機保護法時代におきましては、軍において公表したもの、あるいは
官報または
法規に公表されたものというようなものだけを除外しておりましたけれ
ども、特にそれを公に
なつていないものという
表現を使いまして、
機密の
範囲の妥当を期した次第でございます。この点は後ほどまた御
説明申し上げたいと存じます。
今は
機密の
対象の点を申し上げましたが、次は
機密の
保護に関する
犯罪構成要件、
行為の
態様につきましても、嚴に失しないような合理的な
配意を用いたのでございます。そうしてその
保護に必要な
最小限度の
規定を置いた次第でございます。すなわち
行為の主たる
態様といたしましては、
合衆国軍隊の
機密の
探知、
收集及び
漏洩、さようにいたしまして、しかもこれらの
行為が
一定の
目的または
方法をも
つてする場合のみ処分されるというふうな
建前をとりました。
漏洩につきましても、すべての
機密をその
対象に置くのではなくて、
通常不当な
方法によらなければ
探知收集できないような
機密というふうに限定いたしました。かつ
故意犯のみに限定いたしまして、元の
軍機保護法におけるがごとき
過失漏洩とい
つたようなものは全部削除いたしました。なおこのほか、元の
軍機保護法には特殊の
目的をも
つてする場合の
加重規定あるいは業務上の
処罰規定等もございましたけれ
ども、それらも全部これを排除いたしました。なおこれらの
探知、
收集及び
漏洩の各
行為につきましては、
未遂、
陰謀、
教唆、
扇動を処罰する
規定を設けたのでございますが、その
趣旨とするところは、
機密の
保護というものは、その
性質上あくまでも
機密が
外部に漏れることを防ごうというのでありまして、一日漏れたものは、これは何とも
方法がない、しようがない。そこでこれの漏れるような
行為を
事前段階において防止しようというのが、この
趣旨でございます。この
探知、
收集または
漏洩の
未遂、
陰謀、
教唆、
扇動という形で罰するのは、
軍機保護法の
時代と若干その趣を異にいたしまして、前はたとえば
探知、
收集等のための結社の
組織等も罰せられてお
つたのでございますが、さような点はこれを除外し、
陰謀というふうな
行為形態にいたしましたし、また前の
軍機保護法時代の
行為の
態様あるいは
機密の
種類、
範囲が非常に広か
つた関係上、いろいろ
教唆につきましても広い面が出てお
つたのでございますが、われわれといたしましては、その前
段階において、
行為の
態様あるいは
機密の
種類、
範囲を限定いたしました
関係上、その
未遂、
陰謀、
教唆等につきましても、おのずから狭ま
つて来た、かように解しておるのでございます。
次に
法定刑につきましても妥当を期したという点にも特に重点を置きました。刑の
最高限は、いかなる場合におきましても十年の
懲役にとどめまして、かつその
最低限を設けなか
つたのでございます。この点は刑の
最高を死刑、無期まで参りました旧
軍機保護法並びにある
犯罪態様によりましては
最低限を設けた元の
立法とは全然趣を異にする次第でございます。
次にこの
法案におきまして
一つの危惧を持たれましたのは、この
機密保護の
条文と憲法の
保障する
言論の自由との
関係でございます。特にこの
法案第六条第二項の
機密漏洩の罪についての
言論出版界の
一つの考え方から申しますると、何か不用意に言
つたことがすぐこの
条文にひつかか
つて、うつかりしたことが言えない、書けないということになるのじやないかというふうな心配があ
つたようでございます。しかしながら、
先ほどから申し上げました
通り、
合衆国の
軍隊が真に
機密として嚴守しているものというものは、たやすく
一般の
取材活動の
対象には
なつて来ないというふうに私
どもは考えております。この点はいろいろ調べてみたのでございますけれ
ども、どうも
合衆国軍隊におきまして真に
機密とするようなものは、とうていわれわれが
日常生活において、あるいは
ちよつとや
そつとのことで目に触れたり耳に聞えたりするようなものではなさそうでございます。
従つてこれらのものがそうたやすく
新聞あるいは
雑誌等に発表したためにひつかかるというふうなことはまず第一あり得ない。しかも最も常識ありとされている
新聞、
言論界がその常識をも
つて行動する限りにおいてはこの
規定に触れるようなことはないと私
どもは確信しておる次第でございます。それではそれを具体的にどういうふうな用意がしてあるかということを申しますと、まず
先ほどちよつと触れました
通り、公に
なつているものをこの
機密から除外してございます。
従つてその
事由の
いかんを問わず、一旦
公刊物に掲載されたものはその掲載されたときには、何か特殊な
犯罪が成立するかもしれませんけれ
ども、一旦掲載されたら、それを孫引きと申しますか、他に転載するというふうなことは、この法条の禁ずるところではないのであります。つまり
機密の
範囲には入らないのでございます。たとえば
原子爆彈の性能あるいは
ジエツト機の威力、
新兵器の話などがいろいろ
新聞に掲載される例がございますが、大体さようなものは
アメリカの
新聞、
雑誌あるいはその他に出所があるものと私
どもは考えておりますので、それらの
事項をこちらで取上げましても、そんなものは一切
機密に入らない、さように私
どもは考えております。すなわち
漏洩の点につきましては、
機密の全部が
対象になるのではありませんで、
通常不当な
方法によらなければ
探知し、または
收集することができないような
機密、これに限定しております。すなわち
普通一般の人には容易に知り得ないような
機密、いわゆる高度の
機密というものがこれに当るものと存じます。すなわち不当な
方法を用いなくても知り得る
事項というふうなことは、もちろん
漏洩罪の
対象にはならないのでございます。しかもこの
漏洩罪の成立するには、その
機密が
通常不当の
方法によらなければ
探知または
收集することができないようなものであるということを認識することが必要でございます。これは
刑法の大
原則から当然なことでございますので、いわゆる
過失犯を処罰するということが明記されていない限りは、その
機密の
内容についての認識が必要である
行為が必要であるということが当然でございますので、
ちよつとや
そつとでひつかかるというようなことはないものと私
どもは考えております。
最後に
合衆国軍隊の
機密で、それが
外部に漏れるならば
合衆国軍隊の安全にさしさわりを生ずるような
性質のものは、たとい
新聞雑誌などとしても報道を差控えるのが
日本の安全を
保障するための
駐留軍に対する
日本人としての心づかいであろう、従いまして
言論の自由の
保障もそこにはある限界があるであろうというようなことは十分考えられますが、
言論界が良識をも
つて判断する限りにおきましては、このような良識ある判断に基いてや
つた行動までこの法が干渉する
趣旨ではないことを繰返して申し上げたいと存じます。そこでこれらの詳細の点について若干補充いたします。
最初に
合衆国軍隊の
機密という
概念でございますが、これは「
合衆国軍隊についての
別表に掲げる
事項及びこれらの
事項に係る
文書、
図画若しくは
物件で、公に
なつていないもの」ということに
なつております。すなわち
別表に掲げる
事項あるいはそれに関する
文書、
図画、
物件としまして、
先ほど申した
通り、公に
なつていないもの、そのような
要件を必要といたします。もちろんこの
事項に合致しましても、
向うの方でこれは
機密ではないというふうに申しますものは、
機密の
範囲から除外されることは当然でございます。
別表の
説明は後ほどに讓りまして、
別表に掲げる
事項及びこれらの
事項にかかる
文書、
図画、
物件の
意義を申し上げます。「
別表に掲げる
事項」というのは、
別表各
項目に掲げられております
事項についての事実及び
情報を申します。
文書と申しますのは
文字またはこれにかわるべき符号をも
つて一定の
事項を表示した
物件であります。
図画というのは形象を表示した
物件で、写真とか映画の
フイルム等でございます。
物件とはあらゆる有体物をいう、かように
定義しております。
次に「公に
なつていないもの」、これは
合衆国軍隊の公にしたものというのとは違うのでございまして、旧
軍機保護法のもとにおきまして、同
法施行規則第一条第二項においては、
軍事上秘密を要する
事項又は図書、
物件として指定されたものであ
つても、
法規若しくは
官報において公示されたもの又は陸軍において公表したものは除く、というふうに
規定しておりましたけれ
ども、これとは全然その
趣旨を異にしております。公に
なつているというのは、要するにその
なつた
事由の
いかんを問わず、何らかの径路または
方法で不特定多数人にそれが知らされた以上は、公に
なつているということであります。
次は
探知、
收集の
概念でございます。
探知というのは無形的な
事項すなわち事実または
情報を知ろうとする
意思をも
つて進んで探り知るという
行為でございます。従いましてこの進んで積極的に探り知るということを
要件といたしまして、たとえば軍の
施設に公用または私用であるいは正規の就労のために入
つて、たまたま見聞したあるいは人の話しているのが自然に聞えて来た、頼まないのに
向うがしやべ
つてくれたというふうなのは、これに入らぬという
趣旨でございます。
收集というのは有形的な
文書、
図画または
物件を、集める
意思で進んで集めとる
行為でありまして、その
文書、
図画または
物件を
自己の所持に移すことを必要とするのでございます。單に机の上にある書類を盗み見て来るというのは、
探知の方に入
つて来るわけでございます。
次に
探知、
收集の罪は特殊な
目的または
方法をも
つてする場合のみに当るのでございます。すなわち
合衆国軍隊の安全を害すべき
用途に供する
目的をも
つて——合衆国の安全というのは
軍隊の裝備、
財産等や、あるいは同
軍隊の人員の生命、
身体等、人的物的の
構成要素の安全を申します。すなわち一国の
軍隊にとりましては、その
機密が現に
敵対関係にあるかあるいは近い将来に
敵対関係を生ずる
客観的可能性のある外国その他のものに知られるということは、その安全にと
つて危險なことといわなければならないので、この
合衆国の
軍隊の安全を害すべき
用途に供する
目的をも
つてする場合には、この
機密の
探知、
收集罪が成立する、かように
規定した次第でございます。
先ほどから何度も申します
通り、旧
軍機保護法第二条第二項に「
公ニスル目的ヲ
以テ」という
用語例を用いたのがございますが、これよりは当然狭いのでございます。
次に「不当な
方法で」というのは、
社会通念に照しまして妥当とは認められないような
方法ですることを申します。たとえば
機密の存すると思われるような立入り
禁止の
施設または
区域に入
つて行く、あるいは
施設または
区域に入ることは許されたけれ
ども、さらに近づいてはならぬような特殊の部屋に入
つて盗み聞きをする、あるいは
欺罔手段を用いる、誘惑をする、あるいは脅迫するというふうな不正不当な
方法でやる場合は、これに該当するわけでございます。しかしながらたとえば
合衆国軍隊の
飛行基地の
近所に参りまして、飛行機の台数や型などを見たり聞いたりするというふうなことは、それ自身この問題には
なつて来ないのでございます。
次に
機密漏洩罪でございますけれ
ども、これには
通常不当な
方法によらなければ
探知または
收集することができないような
機密というふうに限定してございます。その
趣旨とするところは、
合衆国軍隊の
機密のうちでありましても、その
性質、
内容、
存在の
態様または
存在の
場所等にかんがみまして、
通常一般人を
標準として考えて、それは不当な
方法を用いなくとも知りまたは集め得るようなものは、これから除外するという
趣旨でございます。さらにこれを逆に言いますと、
通常の
一般人を
標準として考えた場合に、特に不当な
方法を用いない限り、知
つたり集めたりすることができないような
種類、
性質、
内容または
態様の
機密のみを
漏洩罪の
対象としようとするものであります。たとえば駅頭や
飛行基地の
近所、その他
通常の
一般人が立入りを
禁止されていないような
場所において、
通常見聞し得るような
事項は、たといそれが
別表に掲げる
合衆国軍隊の
機密に属する
行為でありましても、これを
他人に漏らす
行為は処罰されることはないのであります。しかしたとえば、たまたま
合衆国軍隊の要員が自発的にその
機密たる
事項を話し、もしくは見せてくれたとい
つたような場合でありましても、さような
機密事項が
通常の場合には不当な
方法でなければ知り得ないというようなものであるときは、これを漏らせば本項の罪に該当する、さような
趣旨でございます。これに旧
軍機保護法におきまして、
漏洩のあらゆる場合を処罰するというのとは、全然その趣を異にいたしまして、かような点からこれにしぼりをかけてあるわけでございます。
他人に漏らすというのは、
自己以外の者に
機密事項を口頭で告知しもしくは
文書、
図画、
電信等によ
つて伝達する、あるいは
機密事項にかかる
文書、
図画もしくは
物件をそのまま交付するというようなことを申します。なおこれらにつきまして
未遂、
陰謀、
教唆、
扇動等を処罰しております
趣旨は、
先ほども申した
通り、
機密保護の本質があくまでも
機密の
外部に漏れることを未然に防止するということにありますので、その
行為の既遂前の
段階における
行為の防止をはか
つた趣旨でございます。それらの
未遂、
陰謀、
教唆、
扇動等は、いずれも今までの
概念通りの
用語でございます。
第八条は、
自首減免に関する
規定でございます。特に問題はありません。
第九条は
制服を不当に着用する罪でございまして、
合衆国軍隊の
構成員の
制服を着用する
行為は、軽
犯罪法第一条第十五号に似たような
規定がございますけれ
ども、これではまかなえないというところから、それに似たような
規定を置いた。要するにみだりに
合衆国軍隊の
構成員の
制服を着用するということ自体、その信用を失墜させる原因であるのみならず、とかく他の不正手段の原因にもなるのでございます。そこでこれらを取締る
趣旨から軽
犯罪法に似た軽い拘留、科料の罰を加えまして、この
条文を置いた次第でございます。
第三章の
刑事手続につきましては、全文十一箇条ございますが、まず十条は、
施設または
区域内におきまして逮捕、勾引または勾留状の執行その
他人身を拘束する処分をする場合の特殊
規定でございます。この点は
行政協定第十七条三項(b)の前段にその根拠があるのでございますが、これによりますと、「
合衆国の当局は、
合衆国軍隊が
使用する
施設又は
区域内において、専属的逮捕権を有する。」というふうに相
なつております。従いまして、
日本の官憲は
向うに入れないような
趣旨に
なつております。そこで私
どもといたしましては、さような
施設または
区域内にこちらから犯人が逃げ込んだというような場合等に、こちらの警察官が追いかけて入る必要が非常にあるのではないか。そこでさような場合においては、
合衆国軍隊の権限ある者の承認を受けてみずから行うこともでき、また場合によ
つては、
合衆国軍隊の権限ある者に嘱託してこれを行うというふうに二本建にいたしたものであります。そのいずれをやるかはその逮捕等に当る者の選択的な自由でありまして、その事情に応じてどちらか都合のよい方をとればよろしい、かような
趣旨であります。
第十一条は、
施設または
区域外で逮捕された
合衆国軍隊要員の引渡しの
規定でございます。
本条は
行政協定第十七条第三項(a)の前段に基く
規定でありまして、
合衆国軍隊の
使用する
施設または
区域外において
刑事訴訟法の
規定によ
つて逮捕される者について、それが
合衆国軍隊要員であることが確認された場合に
向う側に引渡してやる、その
規定であります。ここに特に「確認したとき」という
文字を使
つてございますのは、よく
向う側の身分を偽り、あるいはにせの証明書を持
つているというふうなことでうまく逃げられる場合があり得るというので「確認」という
言葉を用いました。次に「
刑事訴訟法の
規定にかかわらず」と申しますのは、
刑事訴訟法第二百三条ないし二百五条に
規定されてあります時間制限をはずした
趣旨であります。すなわち、この
規定にかかわらずただちにあちら側に引渡す、かような
趣旨でございます。
第十二条は、
合衆国軍隊によ
つて逮捕された者をこちら側で受取る場合の
規定でございます。これは
行政協定第十七条三項の(b)及び(c)によ
つて、引渡しの通知があ
つた場合、こちら側が身柄を受取りに行くときの手続でございます。その場合には
一般の逮捕状をもら
つて行
つてその者の引渡しを受けるという
原則を第一項に
規定し、第二項は急速を要して逮捕状を求めるいとまがない場合の手続、第三項は大した
事件ではない、あるいは身柄の留置は必要でない、逮捕の人間を受取
つたらすぐに釈放してもよいという場合もあるので、それを
規定した次第であります。第四項は、
向う側で被疑者を逮捕いたしまして若干時間を経過した後にこちらが引渡しを受けるという場合もときにはあり得るかと思いまして、その場合の時間の起算の問題が出て参りますので但書を置きまして、
刑事訴訟法「第二百三条、第二百四条及び第二百五条第三項に
規定する時間は、引渡があ
つた時から起算する。」という
規定を置いたのであります。なおこれに関連しまして、そういうことはめ
つたにないと思いますが、
向う側の手に一日あるいはそれ以上抑留されるという場合がなきを保しがたい、そういうことはおそらくないだろうという実際の打合せでございますが、さような場合の
一つの手がかりといたしまして、この
法案の第二十条に、さような場合には
刑事補償法の
適用について、
合衆国当局による、抑留拘禁を
刑事補償の
対象にする、かような
規定を置きました。
次は第十三条でございます。これは
行政協定第十七条第三項の(g)に基く
規定でありまして、
施設または
区域内の差押え、捜索あるいは検証等についての
規定でございます。これも
行政協定の原文によりますと、「
日本国の当局は、
合衆国軍隊が
使用する
施設及び
区域内にある者若しくは
財産について又は所在地の
いかんを問わず
合衆国軍隊の
財産について捜索又は差押を行う権利を有しない。」かような
規定に
なつておりますけれ
ども、それでは不便であるというので、これを法文において若干訂正してある次第でございます。つまり第十条の場合と同じように、
向うの権限ある者の承認を受ければ、こちらでみずから行
つてもよろしい。場合によ
つては、
向うにや
つてもらうことが便宜であれば、嘱託して
向うにや
つてもらうというふうな
規定であります。
第十四条は、「
日本国の法令による罪に係る
事件についての捜査」の
規定であります。つまり念のための
規定でありますけれ
ども、
日本法令違反の
事件については、検察官、検察事務官または司法警察職員は、全般的に捜査の権限があるということの
規定でありまして、その第二項におきましては、「前項の捜査に関しては、
裁判所又は裁判官は、令状の発付その他
刑事訴訟に関する法令に定める権限を行使することができる。」という
規定を補充的に置いたわけでございます。
〔
委員長退席、田嶋(好)
委員長代理着席〕
第十五条は「証人の出頭等の義務」でございます。すなわち
合衆国軍事裁判所の嘱託によりまして、裁判官から
合衆国軍事裁判所に証人として出頭すべきことを命ぜられ、または
合衆国軍事裁判所において、正式の手続によ
つて宣誓もしくは証言を求められた者は、これに応ずる義務がある。この
規定は、
行政協定第十七条第三項の(e)に基くものでありまして、裁判に対する協力の形を表わしたものでございます。これに対しましては、わが国の
刑事訴訟法等に類似の場合に過料、それから罰金の
規定がございますけれ
ども、この
合衆国軍事裁判所の手続等につきましては、わが国民はまだ十分なれないものがあるだろう、
従つてこれをただちに
刑事罰で臨むのは苛酷に失する場合があるだろう、
従つてこれを特に過料すなわち行政罰に形を整えた次第でございます。
次に第十六条でございますが、これは証人がどうしても出て行かない場合の勾引についての
規定でございます。この場合には、正当な
事由がないにもかかわらず、前条一項の
規定による出頭命令に応じない証人について、
合衆国の
軍事裁判所から、どうしてもこの証人が出なければ事犯の眞相がわからないから、ぜひ調べたいという場合に、裁判官から勾引状を発して
向うに出てもらうというふうな
規定でございます。二項、三項以下は、それらの手続をこまかく
規定したものでございます。
第十七条は、
合衆国の
軍事裁判所または
合衆国軍隊の当局から、
刑事事件審判または捜査のために必要あるものとして申出があ
つた場合には、
裁判所検察官あるいは司法検察員は、現に保管しておる書類または
証拠物を
向うに見せてやる、あるいは謄写をつく
つてやる、あるいは一時貸與するというふうなことができることを
規定したものでございます。
次に第十八条並びに第十九条は、いずれも「
日本国の法令による罪に係る
事件以外の
刑事事件についての協力」簡單に申し上げますと、
日本の法令違反でない
事件についての
刑事の協力についての
規定でございます。すなわち第十八条は、
合衆国の
軍隊要員をこちらでつかまえてくれというふうに、
向うから要請がありました場合には、これは
日本の
刑事訴訟法ではまかなえないのでございます。なぜかと申しますと、
刑事訴訟法は、
日本国法令違反の
事件を処理するための
刑事訴訟法でございます。あちら側だけの罪についての、たとえば兵隊が逃亡したというような罪、あるいは
向うの何か行政違反があ
つたというふうな罪につきましては、わが国としては
刑事訴訟法ではまかなえないので、その場合の特殊な手続、いわば準司法的な、あるいは行政的な手続をこういうふうに
規定したのでございます。その逮捕の
規定が第十八条でございます。
なお第十九条は、やはり同じような
事件につきまして、こちら側で参考人を調べてやる、あるいは実況見分をしてやる、あるいはそれらの
証拠品その他の物を持
つておる者に対して提出命令を出すという
規定でございます。これにはやはり協力し、その確保をはかるために、やはり
先ほどと同じような
趣旨で、一万円以下の過科というのを第四項で定めてあるのでございます。
最後に、
別表について簡單につけ加えて申し上げます。
別表一の「防衛に関する
事項」とございますのは、安全
保障条約第一条にいう、「外野からの武力攻撃に対する
日本国の安全に寄與するため」の
手段方法を総称するのでございます。「防衛の
方針若しくは計画の
内容又はその
実施状況」とありますのは、
合衆国軍隊が防衛のためにとるべき
手段方法の基本
方針、あるいはこれに基く作戰計画の
内容を申します。もちろんその完成したもののみならず、現に策定中のものをも含めてございます。「
実施の
状況」というのは、それらの
方針計画が順次
実施に移される程度、
方法、
内容等を申します。「部隊の隷属系統、部隊数、部隊の兵員数又は部隊の裝備」、これは大体読んで字のごとくでありますが、裝備というのは、各部隊に整備されている物的の戰鬪力及び対自然力——寒、暑あるいは風雨等に対するもの、わかりやすく言いますと、兵器、被服等の配当のことを申します。
次に「部隊の任務、配備又は行動」、これはある部隊に命令によ
つて付與された任務で、
通常、
目的、行動の時期、地域等について定められるものと思います。次に部隊の配備は、この任務を付與された部隊の、その任務遂行のための、ある地域における有形の態勢を申します。部隊の行動は、一切の行動、すなわち移動等も含むという
趣旨でございます。
次に「部隊の
使用する
軍事施設の位置、構成、設備、性能又は強度」、これもまた字の
通りでございますけれ
ども、たとえば例を
軍用飛行場にと
つてみますと、構成というのは飛行場の
種類とか滑走地区の地積、地形あるいは滑走路の数、幅員、方向、鋪裝の
状況等をいいます。また設備というのは、離着陸の漂識その他指揮所、通信所、格納庫、器材庫その他の設備の
状況を申します性能、強度は、大体それらの飛行場の面積、形状あるいは飛行場の価値能力等を申します。
次に「部隊の
使用する艦船、航空機、兵器、彈楽その他の軍需品の
種類又は数量」、これは読んで字の
通りであります。
次は「編制又は裝備に関する
事項、」この編制というのは、全体としての
合衆国軍隊の組織の意味であります。
軍隊の区分、各單位部隊の成立ち、配置それから各機関の
組織等をさします、裝備とは、全体としての
合衆国軍隊に整備されている物的の戰闘力及び対自然力と申します。「編制若しくは裝備に関する計画の
内容、又はその
実施の
状況」、これは
先ほど計画の
内容または
実施の
状況について申し上げた
通りであります。「編制又は裝備の現況」、これは現在どのような
状況にあるか。次の構造、性能等も
先ほど申し上げました。
最後に「運輸又は通信に関する
事項」が三つございますが、「
軍事輸送の計画の
内容又はその
実施の
状況」、これは
合衆国軍隊の要員や貨物の
軍事目的をも
つてする移動のための輸送の計画を申します。「
軍用通信の
内容」と申しますのは、無線、有線を問わず、
合衆国軍隊が発受する
軍用通信の
内容を申します。「
軍用暗号」と申しますのは、
通常秘密
事項の通信に用いられる暗号自体を申すのでございます。
以上簡單ではございましたけれ
ども、
逐条説明を申し上げた次第でございます。なお詳細は御質疑によりまして、順次お答えいたしたいと存じます。