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1952-03-20 第13回国会 衆議院 法務委員会 第23号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年三月二十日(木曜日)     午前十一時三十四分開議  出席委員    委員長代理 理事 押谷 富三君    理事 北川 定務君 理事 田嶋 好文君       安部 俊吾君    角田 幸吉君       鍛冶 良作君    高橋 英吉君       花村 四郎君    松木  弘君       眞鍋  勝君    山口 好一君       大西 正男君    加藤  充君       田中 堯平君    猪俣 浩三君  出席政府委員         特別調達庁長官 根道 広吉君         総理府事務官         (特別調達庁管         理部長)    長岡 伊八君         法制意見長官  佐藤 達夫君         検     事         (法務検務局         長)      岡原 昌男君         検     事         (法務民事局         長)      村上 朝一君         外務事務官         (條約局長)  西村 熊雄君  委員外出席者         総理府事務官         (特別調達庁管         理部不動産補償         課長)     鈴木  昇君         検     事         (法務検務局         刑事課長)   神谷 尚男君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 三月十八日  委員梨木作次郎君辞任につき、その補欠として  田中堯平君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 三月十八日  住民登録法施行法案鍛冶良作君外三名提出、  衆法第六号) 同月十四日  森町に簡易裁判所等設置請願村上勇君紹  介)第一四四三号)  戰争犯罪者減刑等に関する請願岡村利右衞  門君紹介)(第一四四四号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  行政協定締結に伴う法制に関する件  裁判管轄権等に関する件     —————————————
  2. 押谷富三

    押谷委員長代理 これより会議を開きます。  前会に引続き、行政協定締結に伴う法制並びに裁判管轄権等に関する件について調査を進めます。発言の通告がありますから順次これを許します。鍛冶良作君。
  3. 鍛冶良作

    鍛冶委員 前会も承つたと思いまするが、よほど重大なことでもつと詳しくしておいてもらいたいと思いますことは、第三條並びに第十二條でありますが、第三條では「合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、使用、運営、防衛又は管理のため必要な又は適当な権利権力及び権能を有する。」さらにあとの方も隣接地についても「必要な権利権力及び権能を有する。」こうなつております。それから第十二條を見ますると、「合衆国は、この協定目的のためまたはこの協定で認められるところにより日本国で供給されるべき需品または行われるべき工事のため、供給者または工事を行う者の選択に関する制限を受けないで契約する権利を有する。」その次は資材でありまするが、「その援助を得て調達」する。かようになつておるのでありまするが、この三條によりましても、十二條によりましても、合衆国にかような権限を與えておるといたしますれば、これを実際において施行される、接収する。その他いろいろのことをされるときには、どこの法律で、どういう手続によつてなされるものか。これは日本国民にとつて非常な不安を與えるものと思いまするので、これをひとつ明確にしておいてもらいたいと思うのであります。
  4. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 第三條の規定のあります目的は、日本に駐屯する合衆国軍隊は、日本政府合意の上、日本政府が提供いたしまする施設または区域の中におるわけであります。ところがこの合衆国軍隊というものは、ただおるだけが目的でないのであつて安保條約による使命をになつておる軍隊であります。従つてその目的を達成するために必要と思われる権能を第三條で明らかにしたものであります。第三條は主として提供されておる施設内部での事柄でありますので、直接日本法律といいますか、日本人権利義務に影響する部分は少いと思います。但し区域の外においてはある種の権能行使することが第三條で認められておりますが、それは、付近において有する権限はきわめて限定されておりまして、主としてその場所に出入するについて必要な道路を建設することができるとか、電線を施設することができるとか、そういうふうな施設におる以上は、そして施設におつて安保條約によつて與えられておる任務を果すためには、どうしてもなくてはならない程度のことをやれるという趣旨であります。しかも明文がありまするように、施設の外でやる場合には、合同委員会を通じて、日本政府協議をしてやる、こういうことになつているわけであります。ですから具体的な問題として、協議の結果、日本側がかわつてやる場合もありますでしようし、あるいは事柄によつては、合衆国軍隊が直接自分でやるということも例外的にはあり得る、こう考えております。  第十二條の第一項にありますのは、第三條とは全然別個の趣旨事柄でありまして、日本国合衆国軍隊が必要とする物資、役務、その他の調達関係のことであります。合衆国軍隊としても、何も自分が必要とするものを全部合衆国から持つて来るのではなくて、日本国内において調達する場合も相当あるわけであります。ただに物資調達ばかりではなくて、合衆国軍隊の必要とする建設工事も、私どもの承知しておる先方説明によれば、原則として日本における物資日本における技術を使いたいという趣旨でありまして、ただ現地では調達できない特別の技能を必要とするものだけについては、やむを得ないから合衆国から資材専門家も連れて来るかもしれない、その趣旨で第十四條が置かれておるわけであります。従つて合衆国軍隊については、物資調達をする、ないしは建設工事をする場合には、むろん日本供給者からこれを購入するということになります。私はその面はちよつと不案内でございまして、特調の方などから現在その契約準拠法が何になつているかという点など解明されることができると思いますが、とにかく十二條規定しておるところは、物資調達契約をする権利があるということであります。それから物資調達のみでなくて、建設工事をするときには、その工事についても日本人請負業者とでも、または日本にいる合衆国の普通の請負業者とでも、ないしはその他第三国人とでも契約をしてよろしい、こういう当然の趣旨を明らかにしたものでございます。
  5. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私の聞きたいのは、趣旨ではないので手続なのです。趣旨はその通りでしよう。われわれもさように解釈いたします。具体的に一つの例をあげて申しますると、第三條第一項の後段に基いて、あなたの今の御説明によりますると、通るのに必要な施設をする、道路をつけようとする、そこに日本人住宅があつたとすれば、その住宅をこわして道路にかえるということになりまするが、この規定を読みますると、合衆国にこれをやる権能を與えておる、こういうのですから、一体その家を接収させてとりこわすときに、合衆国法律に基いてやるのであるか、それとも日本法律に基いてやるのであるか、それから権能があるということから向うはいかなることをしてもよろしいのか、それとも日本民法及び民事訴訟法に基いたる手続をとらなければできないものであるか、そういうことを承りたいのです。
  6. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 第三條の趣旨は、そう無制限な権能を認めたものではないのでございまして、ことに施設の外における権能の行使の場合は特殊の目的に限定しておりますし、しかも合同委員会を通じて協議をして行う、こういうことになつておるわけであります。それで合同委員会を通じて協議をし、現在通り日本側においてする場合が多いと了承することをいつておきましたが、先方には異存がございませんでした。従つてその法律関係は、たとえば合衆国軍隊は、第三條によつて日本法律を無視していかなることでもできるという趣旨は毛頭含まれておりません。それはあとにある規定にも明らかになつておりますように、合衆国軍隊は、日本における法令尊重する義務を負うておるわけであります。従つて日本政府考え方としましては、第三條に基く権能合衆国が行使する必要があつた場合に、たとえば私有財産を接収するような必要が生れないことをわれわれは希望しますが、万一あるとするならば、それはむろん日本において定められた法律による成規手続によつてやるべきものであると考えております。先方もその点については全然同感でありました。  また十二條に基く物資または工事契約について、これを取結ぶ場合の法律関係でありますが、これは要するに民法商法でいう私法上の契約でございます。従つて私の了解する限りにおきましては、現在すでに物資調達契約につきましては、その契約條項の中に準拠法についての規定はあるように了解いたしております。すぐに了解できますように、そういう契約を結ぶ場合の法規というものは、米国軍にあつては、自国の経理法令などによつて拘束されておるわけであります。米国軍としては米国国内法によつて規制されておりますから、その経理規則従つて契約を結んでおるというふうに了解しております。従つて二條の一項に予見しますような契約につきましては、日本法制アメリカ法制食い違いがあります。それから商慣習も、米国における商慣習日本における商慣習との間に食い違いがあります。従つてこの二つ食い違いがあるがために、合衆国軍隊日本業者との契約については絶えず愉快でない問題が起つております。これは両国法制が違うのであります。両国商慣習が違うというところから来ておりますので、解決はきわめて困難な問題であります。従つてこの点は今回の話合いにも持ち出しまして、結局これは第一便法としては、契約の履行についてそういう困難が起つた場合には、まず合同委員会をして調停的な役割を務めさせることがいいではなかろうかということになり、その趣旨規定が入つております。それからもう一つは、これとは別に議事録に明らかにしておきましたが、合同委員会調停機関となつてそういう困難を解決するのは、事後の処置になりますので、前もつてそういうふうな困難が起らないようにどうすべきかということについて、日本政府代表ないしは業界の適当な代表者合衆国軍隊代表者の間で、共同に研究しようということにおちつきまして、そういうことを議定書に明らかにしておいたはずであります。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうもはつきりいたしません。少しこまかくなりますが、今のお話を聞きますと、アメリカ軍隊アメリカ法律もしくはアメリカ商慣習に基いてやろうとする、そこで日本ではそれと違つた考えを持つておるから、そこに食い違いができる、こういう御説明のようでありますが、先ほどあなたの説明のように、日本国法律尊重するというならば、日本国法律商慣習従つてやるならば、問題が起らぬ、私の聞かんとするのはそこなんです。日本法律従つてやるというのか、それともこの三條によつてアメリカ権能を與えたというから、すべてアメリカ法律及び商慣習でやれる、こういうのか、この点をまず明確にしておいていただきたい。
  8. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御専門ですからすぐおわかり願うと思います。まず十二條の問題に限りますが、十二條に予見しておるように、たとえば物資調達契約というものは物品購入契約でございます。その場合は契約当事者自由意思によつて契約締結地法律による必要はないのであります。これは民法なり商法なりの契約條項というものは強行規定でございませんので、いわゆる米国軍米国軍調達法規従つて調達のために契約をされる場合に、米国法調達法規契約條項を織り込む場合に、日本業者がこれを入れるということは、間々ありがちであります。また入れなければ契約が成立しないという場合も多々あるわけであります。これはいわゆる私法関係におきます自治の原則であることはおわかりいただけると思います。そこから問題は発生すると思うのです。今度はたとえば土地とか家屋を処分するような場合は、所在地法一般原則から見ましても、日本法規というものを向うは遵法すべきものでありまして、これはたとえば第三條にございますが、道路を建設する場合に、道路を建設する権能はある、しかしそれがためには土地が必要だ、こういうことになりますと、その必要な土地日本側の方でいわゆる提供してやる、一方的に軍隊の方でこれを自己の権限として行使することはないという意味において、合同委員会にかけて協議の上で道路工事をするようにする、こういうふうにいたしておるのであります。そういう場合はむろん日本法尊重原則によりまして、日本の憲法で保障されております私有財産尊重という大原則合衆国軍隊が無視してよろしいというようなことは全然ない、こう考えております。向うもまたその点は了承いたしております。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはよほど重大なことですから、私もう一ぺん念を押しますが、この條文を読みますと「それらの支持、防衛及び管理のため前記の施設及び区域への出入の便を図るのに必要な権利権力及び権能を有する。」とある。便益をはかるために必要なものは何でもできるというようにこれは解釈せられるのでありまするが、向う権利権力及び権能を與えたと、こういうのだから、向う向うの好きなままにできるように思われるから、それで念を押すのでありまするが、それは今の條約局長の御答弁によりまして、かように書いてあるけれども、不動産等に関しては日本法律従つて、ただ必要だから、これを使わしてくれ、こういうことをやらしてくれ、こういう権能はあるものである、かように解釈してよろしゆうございますね。
  10. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御指摘のような、御懸念のような広大無辺権能を第三條によつて認める趣旨は毛頭ないということをお答え申し上げます。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それでその点は明瞭になりました。  その次はこの執行方法であります。これは従来われわれも非常にいろいろのことを聞いておりましたが、占領治下にあるがゆえにというので泣寝入りをしておつたと思う。今度はそうじやないのでありますから、さようなことはないことになるものと私は考えますが、国民一般ははたしてどういうものであろうか、こういうことを不安に感じておりますから、これも明瞭にしておいてもらいたいと思うのでありますが、たとえば今まで家がありますと、所有者みずから入つている場合でも、これを明け渡さなければならぬ。さらにそれを賃借していると、賃借人には賃借権というものがある。これはわれわれ日本人同士では容易に解決できない問題でありますが、占領軍が来られると簡單に解決しておつた。あれはどういうやり方をやつておられたのでありますか。
  12. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 お答えに入る前に前回の答弁をもう少し補足させていただきます。私が答弁申し上げた趣旨は、二十五條の第二項にも間接的に明らかに出ていると思います。「第二條及び第三條に定めるすべての施設区域及び路線権をこの協定存続期間中合衆国負担をかけないで提供し、且つ、相当の場合には、」云々というように、第三條の権能を行使する必要上合衆国土地建物のようなものを必要とし、またこれを移転し、ないしはこれを破壊するというような意向があつた場合には、日本政府の方の負担においてやる、こういう規定があるのであります。従つてこういうことができるように——日本政府といたしましてはむろん法なくしてそういうことをやれる立場にないことは、言わずして明らかなことだと思います。  先刻の御質問は、現在行われている土地または家屋使用のための提供方法、それが安保條発効後にどういうふうになるのかということになるかと了解いたしているわけであります。現在の方法は御承知の通り土地家屋物資とについて二つポツダム政令が出ております。要するに占領軍の用に供するために土地または物資が必要となつた場合に、その所有者が応諾しない場合には、それを徴用して占領軍の用に供してよろしいという趣旨政令であります。これは終戰直後占領管理が始まつた後、間もなく必要に応じて発出されたポツ勅でございますが、この二本のポツ勅は今日まで一回も発動されたことがないと了解いたしております。それによらないで全部政府賃借人となつて、または物資の場合には買受人になつて所有者から賃借りをし、または買取りまして、それを占領軍の用に供しております。従いましてほんとう法律問題だけとして考えますれば、個人の意思に反して土地家屋占領軍の用に供せられておることはないと言えると思うのです。しかしそれはあくまでも法律論でございます。実際は所有者の方々が、ことに占領開始直後におきましては、占領軍の用であるがゆえに、ないしは占領軍の人がカーキ服を着てその場に来られるというようなことがありまして、ここで説明するまでもないようないろいろな事情のもとに、必ずしも本人意思によらない、本人意思に反してまでいわゆる日本政府との賃借契約という形で占領軍の用に供されていたことは、だれでも知つておる事実であります。従つてこういう事実が平和條発効後継続してはいけないということは、だれもが考えておることだと思います。それであればこそ安保條なり行政協定なりの話合いを通じて、こういう方式は條約発効と同時に断然終止しなければならない。この以後は完全に両者間の合意に基いてのみその用に供するようにしなくちやならないということを熱心に話し合つて、主義上全然同感であるという満足すべき事態に来ておると思います。これは私から御答弁申し上げる範囲のことではないと思いますが、今申しましたポ勅そのものは、もちろん平和條発効と同時に効力を失うべき性質のものでございます。理想論といたしますれば、ああいうふうな強制的な法律でなくて、そして合衆国軍隊の必要とする土地ないし家屋が快く提供できるようになることが一番望ましいと思います。またそういう趣旨で、現在作業班及びその他は作業を進めておるわけであります。しかし必ずしもそういうふうに、理想的に行かない場合もあり得るかもしれぬという場合を想像いたしまして、その場合にいかにして安保條約及び行政協定目的を達成するように、その法制を完備しておくかという点は、また違つた観点から特調、大蔵省、法務府その他直接その問題に関係のある当局で、御考慮中のことだと了承しております。新聞によつてもそういうふうに了承しておるわけであります。それである場合、條約、協定目的を達成し得るような法制にしておくということが、政府としては必要でありましようが、実際政治問題としては、願わくはそういう法律があつても、その法律を運用しないで、関係者ほんとう自発的意思といいましようか、それに基いてアメリカ軍の要望が満たし得る事態になれば最もけつこうだ、こう思つておるわけであります。この問題は法制上だけの問題でなくて、財政その他の問題であろうと思います。ただ私としては皆様と同様、現在までのような事態は、将来において繰返されてはならないという点につきましては、全然同感でございます。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 民事局長がおられるが、これは非常に関係のあることと思いますが、これに対して、現在の民法そのままで行くということなら、今の御答弁でさしつかえないのですが、何らかここに便法を設けるというようなことになりますと、特別の手続規定が必要だと思うのですが、これに関してどういうお考えをお持ちになつておるか、また何か御準備でもあるならば、聞かせてもらいたいと思います。
  14. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 占領中に接収されました土地家屋の今後の処置、並びに将来駐留軍使用に供するために提供する必要がある場合の手段につきましては、必要なる立法措置等特別調達庁において研究中でございますので、その点につきましては、特別調達庁政府委員から御答弁するのが適当かと思います。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、今度は特別調達庁の人に聞くよりほかはありませんが、これは相当今までも争いはあつたろうと思います。そしてポ勅に基いて、争いを言うべからずというので、押えられておつたのではなかろうか。それとも占領治下だからといつて泣寝入りをしておつたろうと思いますが、今度それではこういうことは困るというので、今條約局長のお言葉を聞きますと、こういうものをこういう方法で使わしてくれ、こういうことの要求はできるけれども、手続その他に対しては日本法律に従うのだ、こういうことになりますから、執行方法もすべて日本法律によらなければならぬ、われわれは原則としてかように考えます。その次、いよいよ争いがあるということになれば、日本裁判所に対して訴え得る、ここまで行かなくては論理一貫せぬと思いますが、さように解釈しておいてよろしいのか。それともそういうことでは不便だから、なるべく特別の方法を定めるということなら、それを明確にしてもらいたい、こういうのです。この点はまだお聞及びになつておらぬのですか。それともそこまで行つておらぬのですか。
  16. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 将来駐留軍の用に供するために、不動産を接収する必要があるというような場合には、原則として、先ほど西村條局長が言われましたように、任意契約によることになるかと思います。もし強制的に使用権を設定するというためには、特別の立法措置が必要になつて来ると思います。その点につきまして、ただいま特別調達庁の方におきまして研究中なのであります。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 研究中だと言われるが、それではあなた方の方でどういうことを考えおいでになるか、またどうすれば一番よろしいと思つておるか、この際明確にしてもらいたいと思いますがいかがです。
  18. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 強制的に使用権を設定する場合には、土地収用法等に準じました特別の立法が必要なのでございます。従来のように、特別の法律によらずに、事実上の圧力によつて任意契約の形で接収するということは、好ましくないと思つております。そこでどういう立法措置を講ずるかという点につきまして、ただいまその内容につきましては、特別調達庁研究立案中ということで、御了承願いたいと思います。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 占領中においては、徴発ができるというポ勅がありますから、今お話なつたように、きかなければ徴発するのだと言われるから、泣寝入りをしたのでしようが、今度はそうでないとすれば、収用法その他の法律りつぱに日本では備わつておりますから、それでやられるのか、それともそれでは困るから、特別のものをやるのか、こういうことを私は聞くのです。やはりやる必要があるということは間違いないならば、どの程度までの便法考えおいでになるか、これがわれわれの聞いておかなければならぬところです。これは一日も早くだれしも聞きたいところですから、今日あなた方と折衝があり、またあなた方の方でも準備しておられるならば、この程度のことという構想くらいは聞かせてもらいたいと思うのです。——もし御答弁できないならば、特調長官法制意見長官が来てからにしましよう。私は議論はなるべくしたくないから……。  もう一つ、十二條について伺います。大体の説明は條約局長から聞きましたが、この第十二條の第二項によりますると、これは第一項では契約するというから、これはお互いの自由意思に基く契約でありましようが、第二項を見ますると「日本国権限のある当局を通じて又はその援助を得て調達しなければならない。」こうなつておりまするけれども、これもどうしてもほしいというものを持つておるのならば、それはとられちや困る、こういう場合には困るものならやむを得ぬと言つて任意契約であるからということになるのか、それとも第二項に基く権限あるゆえをもつて何らかの特別の方法でこれを接収するということになるのか、この点が最も不安に感ずるところであります。これはどういうことになりますか。
  20. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 一言御理解を得ていただきたい点があるのであります。安保條発効後におきましては、日本における合衆国軍隊占領軍でも何でもございません。條約の規定に基いた日本におる外国軍隊であります。従つて徴発権というようなものは全然持つておりません。ですからそういう御懸念は毛頭ないということを御了承願いたい。第二項の目的、要するに日本現地において物資調達する必要があるわけであります。この場合は第一項に言うようにこの契約を結んで調達いたしますが、日本政府としてはこれを手放しにしてもらつては困るわけであります。合衆国軍隊による日本国内における物資調達というものは、日本経済に対して大きな影響を持ちます。いい影響を持つ場合もありますし、また心配になる影響を持つ場合もあるわけであります。従つて第二項の趣旨は、絶えず日本政府と連絡の上、日本経済に対して悪影響のないようにして調達するのだという趣旨であります。理想論から言いますならば、この協定の中で調達をする方式につきましても、あるいはもつと具体的に話をきめておいた方がいいのではないかという御議論も出るかと思います。しかしその問題につきましての現状は、日本の民間業者の間にも必ずしも意見は一致しておりませんし、また政府部内の各関係当局におきましても、立場立場によつてやはりいかなる方式がいいかということについての意見の一致がないのが現状であります。先方の気持は現在は非常に当初と情勢がかわりまして、あるいは私の記憶違いかもしれませんが、七五%ぐらいは直接契約調達しておるし、二五%ぐらいが日本政府の機関を通じて調達をしておる現状である、行く行くとして直接調達の方が好ましいと思うという意見を私的に先方は漏らすというような状態でございました。それから先方日本側の方にも、この方式が一番よろしいという確たる見通しがつきませんので、この第二項のように絶えず両者の間で連絡を保ちつつ、そうして必要がある場合には日本当局援助を得、または日本当局を通じて——要するに日本の間接調達と言いますか、することができる、こういうふうにしまして、今後のその話合いも、何も政府当局合衆国軍隊だけではなくて、いわゆる民間当業者の意見も十分入れまして、最もいい方法がとれる道を開く意味で二項のような規定を置いた次第であります。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私のお聞きしたいのは、今徴発はなくなつたから問題ないのですが、そこで一般民間人が持つておるもので、米軍がどうしてもほしいというものがある。ほしくても売ることは困るのだ、こういつた場合には契約自由の原則に基いてそれをとることができないのだ、こういう御答弁を得られるか、それともそういう場合には徴発はないけれども、何か特別の法制をもつてなるべくそういうほしいものをとるようにするというお考えか、お考えと言つてはおかしいが、そういうこともできるようにして渡そうということであるのか、この点なんです。
  22. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 物資調達につきましてはいわゆる製造業者と言いますか、業者が売りたくないというのに強制的に買い取る権限合衆国軍隊は全然持ちませんし、日本政府としてもそれまですべきものとは考えていない次第であります。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それでは十二條については特別の法制考えておらぬ、かように承つておきます。  第三條についてはこれはまだ明確でございませんが、しかし先ほど條約局長日本法律に従うと言うから、もしこの点について紛争があれば、裁判は日本裁判所でやるということはこれは間違いなかろうかと思いますが、いかがでございますか。
  24. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御質問のこの点と言いますのは……。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第三條によつて接収された場合です。
  26. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 むろんさようでございます。さよう了承しております。土地家屋、その他の提供は日本政府義務となつております。日本が提供することになつております。提供するについては日本政府の責任においてやりますので、所有者日本政府の間に日本国法に従つて裁判の問題になり得るものと私はしろうととして考えております。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それでは特別規定については調達庁の責任ある方から承わることにいたしまして、次にこの十三條の第三項、これは印刷の間違いか、どうか一向わかりませんが、「合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、これらの者が一時的に日本国にあるという理由のみによつて日本国に所在する有体又は無体の動産の所有、使用、これらの者相互間の移転又は死亡による移転について、日本国における課税を免除される。但し、この免除は、投資のため若しくは事業を行うため日本国において所有される財産又は日本国において登録された無体財産権には適用しない。」これはこういう意味ですか。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、これらの者が一時的に日本国にあるという理由のみによつて、一時的であつてもという意味だろうと思いますが、そういう者の動産の所有、使用、移転については免除されるが、軍隊の構成員及び軍属といえども、投資のためもしくは事業を行うため持つて来たものに対してはさようなことはない、こういう意味なんでしようね。
  28. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御解釈の通りであります。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第十四條の第七項でありますが、これはアメリカの普通一般人ですが、これは一般人に対しては日本の裁判権に服する、こういうことを原則として書いてあるのだと思うが、「第一次の権利」ということがございます。そして「日本国当局が前記の裁判権を行使しないことに決定した場合には、日本国当局は、合衆国の軍当局にできるだけすみやかに通告しなければならない。」こう書いてある。一体第一次の権利を有するということになると、原則としてはどうも権利がないのだが、まずもつて日本でやろうと思えばやらしてやろう、かような意味に読まれるのでありますが、この本旨はどういうことなんですか。
  30. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 本旨は鍛冶委員のお考えとちようど逆であります。十四條に出ておりますのは、特殊技術のために、合衆国軍隊工事をしようとしても日本では適当な人間が見つからない場合に、本国から連れて来る人々の待遇について規定しております。こういう人たちは合衆国の軍事裁判法によりますと、その連れて来る合衆国軍隊の裁判管轄権に服することになつております。しかしこの行政協定では、裁判管轄の点について特殊の地位に立つ者の範囲を限定いたしておるわけであります。従つて十四條に該当するアメリカ合衆国人は、日本におる一般外国人と同様、日本の裁判権に服するものであります。これが第一段であります。だから日本原則としていつも裁判する。但し日本裁判所の判断で、日本側で裁判権を行使しなくてもよろしいという決定をしたときには、合衆国側にこれを引渡す。合衆国はもともと自国の法令によつて軍隊がそういう人間を裁判する権限を持つておりますので、合衆国軍隊で裁判することができるということを念のために規定しておいたわけであります。この規定が入りましたのは、日本が裁判しない場合には、合衆国軍隊が裁判してもよろしいということを明らかにするためであります。この規定がありませんと、一般在留外国人と同様になりますので、合衆国軍隊では裁判ができないという誤解を招くわけであります。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで疑問が起るのですが、日本に裁判権があるなら、第一次も二次もないわけです。それを第一次にやるが、そうでない場合にはアメリカでやる、こういうところに疑問が出て来るのです。一体どういうときに日本はこんなものをやりたくないというようなことが起るのですか。ちよつとそのことが想像できないのですが……。
  32. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 これは日本裁判所の判定を私が予断するような形になつておもしろくないと思いますが、かりにこういう場合を想像したらよかろうと思います。こういう人が、ある工事を建設しておる途中におきまして、アメリカの兵隊さんに傷を負わしたということがありますと、しかもそういうアメリカ軍が使つております施設の中で、そういう特殊な合衆国人がアメリカの兵隊さんに傷害を加えたというような場合に、これはむろん日本政府が裁判権を持つております。だから当然裁判されたら、する地位にあるわけでありますが、そういう場合に、あるいは犯罪の情状がはなはだ軽微だということ、あるいは当事者が全部合衆国軍隊関係者であること、日本の公安に何ら影響がないということを考慮されまして、日本側では裁判しないという決定をされるということもあり得るのではなかろうか、こう考えるのであります。また鍛冶委員に御了解を得たいと思う点がありますが、裁判管轄権がダブつてあるということは決しておかしくないのでありまして、たとえば北大西洋條約の裁判管轄権方式がそれで行つておるのですから、両方ダブるとき、そしてどちらを先に行使するかということは犯罪の種類によつてきめておる、こういう考え方でありますので、必ずしも異例であるとは存じません。
  33. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今の御説明ではどうもちよつと……。軽いというなら、それなら免訴とか、起訴猶予にすればよい。それではこれはもつと裏から聞きましよう。その裁判はお前の方に管轄権があるが、おれのところでやれば適当なのだ、こういう要求ができるのですか。
  34. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それは第十七條の第四項の場合と対照されるとよくわかりますが、この場合は合衆国政府が要請するというようなことは全然ないのでありまして、まつた日本国裁判所の独自の判断によつて処置すべき事柄であります。
  35. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうだとするとこういうことが起ることはちよつと予想できないのでありますが、そういたしますと、これも明確にしておいていただかないと重大なことですから、少しくどいようですが、それでは原則として日本に裁判権があるのであるから、日本裁判所の独自の考えをもつてこちらでやるよりも、そちらでやられた方が適当だと判断した場合以外にはないものである。こういうことに解釈してよろしゆうございますね。
  36. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 もちろんその通りでございます。
  37. 鍛冶良作

    鍛冶委員 われわれはさような場合をちよつと想像できないのでありますが、そういう場合がちよいちよいあるものだという考えからこの規定を置かれたものであるか、それともなかろうけれども、万一あればという意味でこの規定が置かれておるのでありましようか。いずれでありますか。
  38. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それは合衆国軍隊は、合衆国軍事裁判法によりましてかかる者に対する裁判権を持つておるので、万一日本裁判所の方で裁判しない方がよいという、そういう決定をしたときには合衆国軍隊が本来自国法によつてつておる裁判権によつてこういう特殊なアメリカ人の裁判をする。その点規定なくしてそういうことをする場合に非常に誤解を招くから、念のために規定するという説明で、われわれ了承した次第であります。
  39. 押谷富三

    押谷委員長代理 それではこの程度で休憩をいたしまして、午後は二時から再開いたします。     午後零時三十二分休憩      ————◇—————     午後二時四十八分開議
  40. 押谷富三

    押谷委員長代理 休憩前に引続き会議を開きます。  行政協定締結に伴う法務行政等に関する件について質疑を続行いたします。鍛冶良作君。
  41. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第十六條及び第十七條でありまするが、第十六條は合衆国軍隊の構成員及び軍属並びに家族が日本国法令尊重するということに大前提を置いてありまするので、これは当然のことと申しながら、われわれもこのことを明確にせられたことを喜ぶものであります。ところが第十七條以下に参りますると、これは例外であるかは知りませんが、日本国法令に従わざる諸條項の現われておることを、まことに遺憾に存ずるものであります。そこでこれを読んでみますと、その第十七條の第一は、一九五一年六月十九日ロンドンで署名されたいわゆる北大西洋條約協定が「合衆国について効力を生じたときは、合衆国は、直ちに、日本国の選択により、日本国との間に前記の協定の相当規定と同様の刑事裁判権に関する協定を締結するものとする。」かように書いてございます。われわれは岡崎国務大臣からの答弁等を見ますると、現在のこの行政協定ははなはだ不満なものではあるけれども、北大西洋條約の効力が生ずるまでの暫定的なものである、北大西洋條約ができればこれに従うものだと聞きました。ところがこれを読みますると、日本国の選択によつてやると、こういうことになつております。そこで聞きたいのは、日本国からこれをやろうと言わなくては、これができないということになるが、裏を返していうと、それからさらに選択によつて申し込みをして、さらに協定をするというようになるのでありますが、こうなりますると、日本国から選択をしても、向うではそれは困ると言われたら、ただちに効力が出ないということを予想しなければならぬのですが、この点はどういうことのおとりきめになつたものでありましようか。
  42. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 刑事裁判権について規定をいたしております第十七條について、皆さんが非常に関心を持たれておりますということは、私ども当然と考えております。私ども交渉に当る者といたしましても、この点はたいへん大事な点だと考えまして、最初から最後まで日本側の意のあるところを十分説明いたしまた。われわれの言いました事柄の内容を今日ここでごひろうする自由を私は持ちません。それは外交交渉の話の内容でございますので、信義の問題でございます。しかしこの協定が発表されましてから新聞または国会または学者の方々、そういつた方々からちようだいいたしております批判的言論、その中に盛り込まれておりまするいろいろな気持は、十二分に私どもも体して話をいたしましたということだけは申し上げられると存じます。それで私どもの気持も鍛冶委員のお気持と同じく、平和條約が発効いたしましたならば、北大西洋條約の方式によつて刑事裁判権を確立することが、最も理想的であるということを主張いたした次第であります。先方もその点につきましては、全然同感でございました。これまた御報告する自由を持つております。ただ先方で何ゆえに今ただちに切りかえ得ないで、北大西洋條約協定発効を待つて日本がかえてもらいたいといえばそのときかえますという形式にしたかという点でありますが、その点は大体二つの理由があります。一つは北大西洋條約の裁判管轄権に関する方式は、これは今までの国際慣例にないまつたく新しい方式であります。これは北大西洋同盟條約で結ばれておりまする十二の国が、お互いに持つておる軍隊を相互の間に派遣し、または受容をいたしまして、まつたく自国の軍隊と同様な待遇をするという立場に立つておるのであります。こういうふうな條約関係、こういうふうな他国の軍隊を自国の軍隊と同じ立場において取扱うという方式は、実に北大西洋條約発効後に生れた新しい現象でございます。従いましてこの北大西洋條約協定に掲げられております裁判管轄権に関する方式は、斬新的な、画期的な方式だと申してよろしいと思います。この協定をつくるには、非常に困難な交渉があつたらしくて、大体米国専門員の私どもに対する説明によりますれば、アメリカとしてははなはだ苦痛な面があつたけれども、何しろ十一対一という関係で、北大西洋條約協定という斬新的な方式が生れて来た。それで御承知の通りあの協定は北大西洋同盟條約による委任状等もございませんので、発布の批准を必要とされております。まだ上院に提出していない段階にあるわけでございます。それが一つと、批准を必要とするような條約で制定されました今までにない方式を、今度は日米間において政府限りで協定いたしますこの協定の中で採択して、署名と同時に、最終的にアメリカの立場を拘束するということは、現在の合衆国政府としては北大西洋條約協定を上院に批准しなければならない立場にある関係上、きわめて困難である。これが一つの理由であります。その他の付随的な理由がございますが、それが一つの主たる理由でございまして、この困難な立場を理解してもらいたい。従つてあの協定が上院によつて批准され、合衆国に効力が発生すれば、合衆国としてはただちに交渉を開いて、行政協定の暫定方式を北大西洋條約方式に切りかえることに異存がないということを繰返し繰返し私どもは承知しております。従つてこの第一項の規定によつてその点は十分出ておると考えておる次第であります。なお私どもとしては、それだけではいけないのでありまして、われわれの了解するところによりましては、北大西洋條約の協定の方式についてはアメリカ部内にもなかなか異論があつて、仏ずしもその批准を楽観していないという話もございます。そういう話もありましたので、最後の條項にありますように、この行政協定発効いたしまして、一年たつてなお北大西洋條約協定発効していないような事態なつた場合には、とにかく刑事裁判権のこの條項は再検討するという保障を協定に取入れておいた次第であります。この第一項と最後の項、二つによつて、直接この案文をまとめました私どもとしましては、この十七條の方式というものは、数箇月、長くても一箇年で終了すべき暫定的な形式であるという確信を十分に持つておる次第でございます。
  43. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは外交官の方々から申しますると、少しりくつにわたり過ぎると思われるかもしれませんが、われわれは法律家でありますから、法律をつくるときには、いろいろの場合を想定してつくるものでありますから、これはやむを得ないので、この点は十分御了解の上で聞いてもらわなくちやならぬ。そこであなたの今の御説明通りであるならば、北大西洋條約が効力を発生したならば、ただちにこれに従う、これと同様の協定、北大西洋條約と同一のものでやると、こう書くのがほんとうだと思うのであります。ところがここに書いてあるのを見ますと、まず日本国の選択による、日本国が選択せなかつたら、これによらぬでもいいということになる、これが第一の疑問であります。第二は、これによつて協定する、協定に応ぜられないと言われたときに、応ずべき義務があるということをここでどこまでもつつぱる権限があるかどうかということが疑問になつて来る。もつと引抜いて言うならば、選択してもらつちや困るというようなことがあつて、外交上の問題で選択を遅らせるというようなことがあれば、われわれ今日考えておることの実現はできません。これははなはだどうも立ち入り過ぎたる議論と思われるかしりませんが、われわれ法律家から言うと、さようなことが考えられるわけであります。この点に対して、そういうことはないものかどうか。また日本国は必ず選択してただちにやるという意思が明瞭になつてつたかどうか、この点を聞かしてもらいたい。
  44. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点は、私は事務当局の責任者として、必ず米国側におきましても、今鍛冶委員からおつしやいましたような日本側の立場を、十二分に了解しておるはずだと確信しておるということを御答弁申し上げます。刑事裁判権につきましては、今回の四週間にわたる話合いだけではなぐて、昨年の夏以来から、絶えず私どもの方から問題を提起して、議論を進めて来たところでございます。昨年の六月に北大西洋協定ができまして、それが公表されました直後から、私どもは同協定研究いたしまして、行政協定に関連する事項に関する限り、最大限度に同協定の方式を採用するよう、あらゆる手段を盡して、日本政府の意のあるところを合衆国政府説明いたしております。それで十二分に理解がついておると確信いたしておる次第であります。ただ、何ゆえに北大西洋協定発効すれば、自動的に切りかえるという形式をとらなかつたかという点については、一つの事由があります。それは今申し上げましたように、北大西洋條約諸国では、各国が軍隊を持つております。各国が軍事裁判法を持つております。軍刑法を持つております。軍警察を持つております。そしてそれとは別にまた一般刑法もあるし、一般裁判制度があるわけであります。そういう建前でできております。もしそれをそのまま自動的に北大西洋條約の、第七條と記憶いたしておりますが、それを自動的にすぐ日米間に適用するといたしますると、日本は現状におきましては、御承知の通り軍隊がありませんし、従つて旧来の陸軍刑法、海軍刑法もございませんし、陸海軍軍事法廷に関する措置等もございませんし、そういうふうな面におきまして、方式をとりかえる場合に調整すべき事項があると認めましたので、切りかえる大原則規定し、同時に切りかえるについては、少くとも細部的な適用方法については、その際やはり談合しなければ、自動的切りかえだけでは、きわめて不満足な事態になるという見解であつたから、こういうふうな形式になつた次第でございます。
  45. 鍛冶良作

    鍛冶委員 納得の行かないところがありますが、議論にわたりますからその程度にして、今御説明によりますると北大西洋條約をただちに採用することのできない事情は了承できましたが、現にかようなことであります。條約には英米間の軍事基地賃貸借契約というもの並びにアメリカとフィリピン共和国の軍事基地に関する協定とありますが、このようにいろいろありますれば、あえて北大西洋條約と言わなくても、何も英米間の條約にのつとらなければならないということもないわけで、今少しは対等の地位において行政協定を行われるならば、もつと考慮せらるべき余地はなかつたかと思いますが、これは英米間の協約そのままでなければならぬ何か特別の事由があつたものでありますか。
  46. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御質問の点はまことにごもつともだと存じます。今日外国の軍隊がいて、それから起ります裁判管轄について規定を含んでいる協定が数種ございます。米比基地協定一九四七年、米英基地協定一九四一年、その協定の修正に関する交換公文一九五 ○年、また古くては一九三六年のイギリスとエジプトの間の條約もあります。しかし私どもが主として先例として考えましたのは、もちろん第二次世界大戰後の最近の事例でございます。何ゆえに私どもが米比基地協定や米英基地協定に盛られておる裁判管轄権に関する規定を不可なりと判定いたしたかということは、これはきわめて簡單であります。これらの協定をごらんくださいますとよくわかりますように、基地内におきましてはアメリカが地域的な管轄権を持つておりまして、その中ではただに軍人、軍属、家族のみならず、フイリピン人も英国臣民も第三国人合衆国の軍事裁判所及び官憲の裁判管轄権に服することになつております。基地の外におきましても、ある特殊の條件が備わつている場合には、軍人、軍属、家族以外のものにも裁判管轄権が及ぶということになつております。こういうような裁判管轄権に関する方式を行政協定に取入れるということは、すなわち日本にいる合衆国軍隊に対して属地的な管轄権を容認することになります。そういうことになりますれば、これこそほんとう日本国民の間から国辱的である、屈辱的であるという声が沸き起るであろうと思う。私は鍛冶委員が米比協定、米英協定をなぜ不可とするかということについては、まつたく今申し上げました理由で全然御同感いただける点だと存じます。そうしますと残る方式は一九四二年のイギリスとアメリカとの間にとりかわされました、イギリス本国における合衆国軍隊の所属員に対する裁判をどうするかという点についての協定に盛られた方式が、先例として浮んで来るわけであります。その場合は大体今度の行政協定のように属人的の裁判管轄権になつております。米英の属人的裁判管轄権に関しまする協定は、第二次世界大戰が終了してから六箇月まで効力を持つことになつております。合衆国国務省の説明によりますれば、対日平和條約が発効してから六箇月たてば一九四二年の米英協定は効力を失する、こういうことになつているわけであります。そうしてこの米英協定の属人主義の原則が、現にイギリスのみならず北大西洋條約諸国とアメリカとの間の裁判管轄権に関する問題の取扱いの標準になつている、こういう説明であります。従つて先刻申し上げましたように、アメリカ考え方としては、北大西洋條約国十一箇国とアメリカとの間に斬新的な方式が適用されることになれば、同様に日本にもそれを切りかえる、こういう約束がありますので、また問題は先刻申し上げた通りに返りますが、合衆国の立場としては日本の立場を了とするけれども、いわゆる北大西洋諸條約との関係が、北大西洋協定の斬新的な方式に切りかわるまでの過渡的な措置として、北大西洋諸條約と同様な方式を採用してもらいたい、こういうことになつたわけであります。むろんそれに対して日本側としては、最後まで、北大西洋協定の方式を今とることの絶対に必要であるということを各方面から説明はいたしましたけれども、要はそこになりますとほんとうの立場と立場の相違になりますので、互譲の精神から、日本側としては暫定方式であるこの方式をとるについて、日本が一番関心を持つている点はどこかという点をつかまえて、その点に対する保障をしつかりもらつて、そして受諾したようなわけであります。保障は二点であります。一つは北大西洋條約協定発効したら切りかえられるという保障。第二の保障は、日本人が過去八箇年間の経験から見て一番不満に思つているのは何かと言えば、占領軍将兵の行為によつて、しかもその行為の被害者が純粋に日本人だけだし、日本の財産だけである場合に、確実な処罰が付されていないということにあると考えた次第でありますので、それでこの十七條の第四項にありますように、そういう犯罪をアメリカは必ず裁判し処罰いたします、その意思があります。またその能力がありますということを明確に約束をいたしてもらうと同時に、私どもとしましては、解説にも書いておきましたが、能力があると言われるけれども、ほんとうアメリカ法制上、それでは日本法律に違反したアメリカの軍人、軍属、家族をすべて処罰する法律的能力がありますかどうかということを問いただしましたところが、向うの方では一九五〇年の合衆国軍事統一裁判法というものの百三十四條を出しまして——そこに包括的な規定があるわけでありますが、合衆国軍隊が外国に駐屯する場合に駐在国の法令に違反するような行為をした場合は、それを犯罪としてまたは軍規律違反としていかなる場合にも処罰することができるという、全体を漏れなく救う規定がありますので、その規定によつて、たとえば道路交通規則に違反したGIさんといえども、日本から通報がありないしアメリカの方で発見したならば、必ずこれは処罰いたしますし、処罰する能力もこの通りありますという説明を聞きまして、そこまでの二つの保障があるならば現在の過渡期間は、不満足といえどもこの暫定的な法律でやつてつてもらおうか、こういう判断をいたした次第であります。十分御期待に沿い得なかつた点は感じておりますが、普通に言われるほど先例に違反しているものでもございませんし、また罪あれば必ず罰ありという原則がくずれることもなかろうかと考えている次第であります。
  47. 鍛冶良作

    鍛冶委員 あまり議論にわたることは避けたいと思いますが、この合衆国とフィリピンとの協定は、今おつしやる通り属地主義で行つているようでありますが、ところが実質から見ると、かえつて属人主義よりも論理に合うように思うのであります。この條約の第十三條を見ますと、「フィリピン国は、合衆国が次の犯罪に対して裁判管轄権を行使する権利を有することに同意する。(a)基地内で、何人かの犯した罪。」これはいわゆる属地主義で、基地内で犯した者はだれでもやれることです。ところが、但書に「犯人及び被害者がともにフイリピン国市民である場合、又は犯罪がフイリピン国の安全に反するものである場合を除く。」と、こうなつておりますから、属地主義の例外として第一にまことにこれ論理上首肯のできるものが除かれております。その次の(b)は、「合衆国軍隊の所属員が基地外で犯した罪で被害者も合衆国軍隊の所属員であるもの。」これは基地外においては被害者、加害者も合衆国軍隊の所属員である場合、こういうことになつているが、これもわれわれは首肯できる。その次の(c)を見ますと、「合衆国軍隊の所属員が基地外において犯した罪で合衆国の安全に反するもの。」合衆国の安全に反しないものはフイリピンに裁判権がある。こういうことになつております。  その次の2は「フイリピン国は、合衆国軍隊の所属員が基地外で犯した他のすべての罪に対して裁判管轄権を行使する権利を有する。」こうなつております。属地主義といえば、まことにどうも主義そのものからいえば属人主義の方がいいとおつしやるかしらぬが、名はどうであろうとも実質においてはかえつてこの方が理論に合うと私は思うのでありますが、理論に合うと考えているのは間違いであるのか。また理論に合うならば、なぜこれに従われなかつたかを伺つておきたい。
  48. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 四七年の米比協定とか四一年の米英基地協定におきましては、それは基地貸與協定でございます。九十九年を限つて、ある相当広い地域をアメリカの管轄のもとに委する趣旨規定でございます。従つてこの二つ協定では属地主義の原則をとらざるを得ない、こう思うわけであります。私どもは安全保障條約が交渉された当初から、安全保障條約の結果日本に基地協定式の協定が必要となるような事態は絶対にあつてはならない、日本合衆国との間にあるべき関係は、あくまでも北大西洋同盟諸国間にあるような方式でなければならない、その方式こそが平等な主権国としての間の関係を律する一番いい方式である、こういう立場をとつて一貫して参りました。でございますので、裁判管轄権に関して申しますならば、ただ施設の外の場合だけの規定をとつて見ればフイリピンの方式は非常にいい、こういうことが言えるかもしれません。しかしその反面には、基地内では属地的に、合衆国人だけでなくしてフイリピン人も第三国人合衆国の裁判管轄権に服しているという事実とはその規定が切り離せない関係にあるということを私ども考える場合に、四十七年の方式はどうしても断固としてとれない、こういう結論にならざるを得ないと思います。そう考えます。その点は考え方のいかんによると思いますが、日本はこの協定によります限り、いかなる場合にも日本人合衆国の裁判管轄権に服することはございません。従つてアメリカ施設内に使われている日本人がかりにアメリカの軍人、軍属、家族に対して危害を及ぼしたような事件がありましても、これらの引渡しを受けて日本が裁判をする、こういう形になるわけでございます。
  49. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これ以上議論してもしようがない。もう行政協定ができたあとで、今ここであなたと議論したつて、けんか過ぎての棒ちぎりでしようがないが、要はわれわれは、いわゆる対等の立場であるということの大原則一つでもいいから貫かれることを希望すればいいのでありまして、さような考えから、今後の取扱いについてどこまでもそのように行くようにひとつやつてもらいたいという気持から言うておることを御了承願いたいのであります。  次に第十七條の第二項でありますが、これは先ほど第十四條のところで質問したと同じように、日本に裁判権があるのに日本がこれを行使せない場合、これと同様に、二項で見ますると、「この裁判権は、いつでも合衆国が放棄することができる。」と書いてありますが、これはどういう場合に放棄するのか、何ゆえに放棄するのでしようか。われわれはかようなことはちよつと想像できない。これはさつき日本の場合で聞いたと同じですが、どういう場合を予想しておるのですか。
  50. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それは、それを受けて第四項に規定いたしておるわけであります。この協定に言う裁判権を放棄するということは、條約でよく使う言葉でありますが、要するにわかりやすく言えば、裁判権を行使しないという意味であります。四項にありますように、日本法律に反する犯罪行為を行つた軍人、軍属、家族、そうしてその犯罪の被害者が日本人でありまするような場合には、日本としてはどうしても日本側で裁判をしたいという気持を持つということはごく自然のことだと思います。そういう場合に、日本側の方で裁判をさしてもらいたいという要請を先方に出しますれば、先方はそれに対して同情的な考慮を拂つて、裁判権を先方で行使しないことにしてくれる、そういう場合には日本が裁判を行つてよろしい、こういう趣旨であります。この点は裁判上の特権を論ずる場合にお互いにわかつておいた方がいいと思うのであります。こういうふうに、駐留軍の軍人、軍属その他につきまして裁判上の特殊の待遇を與えるということは、これは何も條約の規定をまたないでも、国際法上そうすべきものとされておるわけであります。ただ国際法の原則というものが確立いたしておりませんので、條約をつくつて、條約の結果軍隊が駐留するというような場合には、その條約の中で国際法の原則に従い、原則のまだ不明確な場合には協定によつていかようにも定め得る次第であります。大正十年の三月の大審院の判例にもございますが——こういうような特殊な国際法上の慣行による特権によつて日本の裁判管轄権に服しないという事態の性質について日本の大審院の判決がございますが、その判決を見ますと、はつきりと、そういう場合には何も行為者が日本法律を無視していいというのではない。行為者は日本法律によつて犯罪を構成しないというのではなくて、そういう人たちは、国際法の慣行上そういう特殊待遇を受くべき者といえども、日本では日本法律尊重すべきであつて、その法律に違反する行為は日本の国内法上犯罪を構成する。ただ国際法の慣行に基いて特殊の待遇を與えるが、その待遇は、要は、裁判をしない、裁判をし得ないという点に帰着するだけである。従つてそういう特殊の地位に立たせられている人たちが、将来その地位を失つて再び日本に入つて来た場合には、公訴の時効にかかつていない場合には日本裁判所はその人を起訴して処罰してよろしいという式の判例になつております。この判例は私どもは大学の学生時代に先生に教わつたことでございますが、それが大体国際法上に言う外交官や、一国の元首や、外務大臣や、外国の軍隊などが持つておる裁判上の特権の性質なのでございます。そういう考えからいいましても、日本が裁判権を持つているというのは当然でございまして、ただ裁判権を行使し得ないという結果が生れるわけであります。その点は、條約の慣例が、裁判管轄権を放棄するとかいうような表現で裁判を行使しないという趣旨を現わす慣例になつておりますので、法律的にはやや混同を招くおそれもあるかと存じます。
  51. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは、先ほど質問いたした第七項から見ると、こういう裁判権はいつでも合衆国が放棄することができる。次いで、これを放棄して、日本の国の法律に違反する者は日本国で裁判ができるとあるべきものではないかと思いますが、その関係はどうなつておりますか。
  52. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 むろん御説の通りであります。ただ第十七條の四項が、いろいろ彼我の間に論議を盡した結果入ることになりまして、第四項の後段に言いましたところの、アメリカが放棄したら日本の方で裁判をしてもよろしいという趣旨を、実は第二項の末尾の、合衆国はいつでも裁判権を放棄することができるという簡單な字句で現わしておりましたが、それではきわめて不十分なものでございますので、第四項にさらに詳細に規定を入れたわけであります。
  53. 鍛冶良作

    鍛冶委員 第十四條の規定を見まするといかにも均衡がとれぬように思いましたが、なるほどそれは第四項に入れてあるのですか。それではそのときに承りましよう。  そこで次いで第三項でありまするが、第三項のあとの方に、「合衆国軍隊の裁判権からのがれ、且つ、施設及び区域外の場所で発見された者は、」この「裁判権からのがれ、」というのは、第二項の合衆国が裁判権を放棄したものという意味なのか、それとも別な意味でありましようか。
  54. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 第二項にありますのは、合衆国の方で正式に裁判をしないという意思表示をする場合であります。今の御指摘の点は、いわゆる逃げてつかまらない容疑者の場合を規定したわけであります。
  55. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そういう意味ですか。「合衆国軍隊の裁判権から」と書いてありますよ。これはのがれたのだから、裁判権じやない、裁判にかからぬ先にのがれた者でなければならぬ。合衆国軍隊の裁判管轄権以外に出た者、こういう意味ですか。
  56. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 正確に言えば、裁判管轄権の以外に出た者であります。従つて非常に簡單な言い表わし方でありますが、むろん起訴されて公判続行中に逃げた者も含まれますし、刑を受けて服役中に逃げた者も含まれますと同時に、また犯罪容疑者として捜索中の者も含む趣旨であります。
  57. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、そのあとに書いてある「要請に基いて」というのは、アメリカの軍から日本国に要請した、こういうことになるわけでございますね。
  58. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 むろんそういう趣旨でございます。そういう人がはたして犯罪者であるかどうかということは、日本当局には一見してわからないわけであります。従つて裁判し得る立場にある合衆国の方から、正式に日本当局に対して捜査、逮捕について援助されたいという要請を受けて、そうして合衆国の軍人、軍属ないし家族を捜査逮捕することに協力をする、こういう趣旨でございます。
  59. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうもこれはわりかりませんよ。(a)を読んでみますと、「日本国当局は、合衆国軍隊使用する施設及び区域外において、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族を犯罪の既遂又は未遂について逮捕することができる。」とある。これは施設及び区域外であれば、合衆国軍隊構成員といえども、日本国当局において逮捕することができる、こうなつておるのですね。「しかし、逮捕した場合には、逮捕された一又は二以上の個人を直ちに合衆国軍隊に引き渡さなければならない。」これはわかります。その次に、あなたの説明によると、「合衆国軍隊の裁判権からのがれ、且つ、施設及び区域外の場所で発見された者は、要請に基いて、日本当局が逮捕し、且つ、合衆国当局に引き渡す」こういうことになりますか。これは第一の初めの問題からいうと、区域外において犯したものは、これは当然にできるのですから、その次は、区域外で犯して、さらにアメリカの裁判管轄権からのがれたものだから、要請がないとしたところで、第一番の先ほどのところで当然逮捕できるのはあたりまえじやありませんか。
  60. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 第三項の(a)の冒頭で日本が逮捕できるのは、日本法律上犯罪を構成する場合に限られるわけであります。「日本国当局合衆国軍隊使用する施設及び区域外において、合衆国軍隊の構成員若しくは軍属又はそれらの家族を犯罪の既遂又は未遂について逮捕することができる。」その「犯罪の既遂又は未遂」というのは、これは法の原則に従えば、日本当局としては、日本法上犯罪を構成する場合にしか逮捕権がないわけであります。その場合のことを規定してあるのであります。しかし逮捕した場合に、こちらは裁判する権能を持つておりませんので、先方に引渡すということであります。その次にありますのは、これは合衆国側の要請に基いて日本当局の方で捜査、逮捕して引渡す、こういう場合を言うておりますので、その要請の目的となるものは、必ずしも日本法律によつて犯罪となる場合に限られるものではなく、合衆国法律だけで犯罪になる場合も含まれるわけであります。従つてそういう場合には、向うが要請があつて、それによつてこちらが捜査、逮捕する、こういう司法共助の趣旨がそこに入つておるわけであります。
  61. 鍛冶良作

    鍛冶委員 大分明瞭になりましたが、ちよつと今のあなたの説明では物足らぬ、ではない、ちよつと困るところがある。施設外で日本国法律に触れる犯罪があれば、日本国が自由に逮捕できる権限を持つておる。その次は、そうすると、その権限がある以上は、合衆国の裁判管轄権外であつた場合は、当然やれなければならぬ。そうしてみると、これは施設内でやつた犯罪で、そうして施設外にのがれて来た場合、もしくは日本国法律で罰せられないが、アメリカ法律のみで罰せられる場合、こう限定しなかつたら、論理が一貫しないと思いますが、どうですか。
  62. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 むろん原則としては御承知の通り、最後の條項にある、施設の内部で犯罪を犯した軍人、軍属、家族が、施設の外に逃げた場合が一番多かろうと思うのであります。むろんそれとは限らないのであつて、その外部において犯罪を犯して、その犯罪が日本の法によつては犯罪にならない場合、これも含まれる可能性があります。それで問題は、施設外で軍人、軍属、家族が日本法律に違反する犯罪を行つた場合になりますが、この場合は冒頭の文言で、当然日本側は逮捕して引渡しができる、こう考えます。私しろうとでございますので、はなはだ不満足な説明でございますが……。
  63. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 ただいま條約局長から御説明のありました通りでございますが、私ども見まして解釈いたしましたところによりますと、(a)の前段の方は、施設及び区域外において逮捕の権限をこちらが持つておるという規定だろうと思います。従つて犯罪の場所についてどちらでもよろしいということだろうと思います。それから後段の方は、ただいま問題になつております通りで、裁判権という用語が若干私どもからいうと不正確だろうと思いますけれども、趣旨とするところは、要するに向うで裁判権を行使するような事件について、向うの軍の裁判にかかつておる事件、あるいはこれからかかろうとするような事件、そういうような事件について向う側でやろうと思つたけれども、こちらへ逃げて来て、施設または区域外に逃げて来たというふうな場合に、それが日本法令違反の場合には、前段でただちに逮捕できますけれども、しかもその場合においても、施設内で犯罪を犯した場合、こちらがはたしてその人間が犯罪を犯したかどうかということが、必ずしもすぐにはわからぬという場合も相当起きると思います。そういう場合には、向うの要請によつて初めてこれがわかる。それからもしもそれが日本法令には違反しないけれども、あちら側の法令だけに違反するという場合には、これはこちらとして全然判断のしようがないのでありまして、向う側でこの人間がかような犯罪を犯して、そうしてこちらの区域外に出て行つたから、つかまえてくれということで、初めてこちらの方でわかるのであります。従つてその要請があつて、初めてこちらで逮捕権を発動する、かようなふうに了承しております。
  64. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうだと、今度は重大なことが一つつて来ます。施設内で日本人が被害者だ。それで施設外へあなたの言われたように逃げて行つた。だれが犯人であるかわかつている。その場合にも、要請がなかつたら、施設外におるにもかかわらず、逮捕できないということになります。
  65. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 その点は、日本の刑法並びに刑事法全般が施設の内外を問わず及んでおりますので、施設内の犯罪といえどもこの(a)前段によりまして、日本側が逮捕する、かように考えております。
  66. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それならば、要請によつてと書かなければいい。それを問題にしている。こう書いてある以上は、これはまことに重大ですよ。
  67. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 御疑問ごもつともでございますが、私どもの方は前段を原則と呼んでおりますので、後段はこれを補充する意味で、こちら側で全然わからぬものというものについて、向う側から話があつたものについて、これをやる、こういうふうに解釈しております。
  68. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも合点が行きませんな。要請となければいいのです。当然日本でできるにもかかわらず、「要請に基いて、」と書いてあるでしよう。「要請に基いて、」と書いてあるにもかかわらず、これは補充的だといつて、要請しないじやないかと言われたら、どう答えるのですか。
  69. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 その点おそらく疑問が生ずる余地があると思いますので、実際の立法手続としては、この点を明確にいたしたいと思いますけれども、この行政協定の案文そのものから性質上読まれるところの趣旨は、先ほど申し上げました通り、前段が原則である。従つて日本法令違反については全部かぶる。従つて基地の内外を問わない。ただその他のものについて実際にのがれ得るものが生じて来る。つまりわからぬものが出て来る。そういうものは補充的に後段が働く。しかも働くのは、実例としてはおそらく向う側の法令のみに違反する犯罪——日本法令では罪にならぬけれども、向うの軍令あるいは軍刑法等に違反する、さようなものについて、この後段が働く、かように解釈しております。
  70. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それならばまだ話がわかるけれども、日本法令で罰するものでも、施設の中からのがれて来たらと言われるから、そういう疑問が出て来る。それならばそういうことは言えないはずだ。区域外におつたら、日本法令に触れさえすればやれるのですから……。それでは「要請に基いて、」というのは、日本法律に触れないが、向う法律に触れることだけである、こう解釈してよろしゆうございますか。
  71. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 よろしゆうございます。
  72. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは佐藤法制意見長官も見えましたが、こういうことはおそらく西村局長も今おられて、はなはだ当惑せられる質問であろうとお察ししますが、かような重大なものを協定するときには、これは一体日本法律専門家が入つて協定せられたのですか、それとも外務省におまかせきりでしたか、いかがですか。
  73. 佐藤達夫

    ○佐藤(達)政府委員 われわれといたしましても、この十七條、十八條関係につきましては、外務省と協力いたしております。
  74. 岡原昌男

    ○岡原政府委員 それからもう一つ、ちよつとついでに申し上げますけれども、合衆国施設区域外において、かようなものを向うの要請に基いて日本側が逮捕する、この場合は、先ほど申したアメリカ側の犯罪であつて日本法令に違反しないということでありますると、日本の刑事訴訟法はその方には働いて来ません。従いまして、これはいわゆる犯罪人引渡しといつたようなこと、いわゆる簡單に司法共助と言つておりますが、さようなことになりますので、いわゆる刑事訴訟法としての逮捕権は発生して参りません。従いまして、かようなことにつきましては、特殊な、やはり向うからの要請と申しますか、連絡があつて、初めてできるということにしておかなければ、また何どき不都合なる者が現われまして、これをつかまえてくれ、あれをつかまえてくれと言われても、こちらは困る。従つてこういうふうな根拠のあるものについて特殊な立法措置をして、初めてこれができる。刑事訴訟法の規定はそのまま運用できないというふうに解釈しております。
  75. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その点は明確になつてまことにけつこうですが、しかしこれを読んだだけでは、そうは解釈できませんよ。基いてやるというのだから、基かなければ、施設内から逃れて来た者でも、手をこまぬいておらなければならぬように解釈されます。今の解釈はまことにけつこうですが、これは締結のときにそこまで見きわめておいでになりましたか、もしおいでにならぬとすれば、こういうものをこちらがこういう考えを持つてつても、アメリカは違うというような考えを持つてつたらたいへんですが、これを明確にする方法はどういう方法でおやりになるのですか。今われわれはここで速記録に残りますからよろしゆうございますが、アメリカに対して、今あなたのおつしやつたようなことを主張できる方法は、どういうことでおやりになりますか。
  76. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 刑事、民事の関係條項につきましては、ごく原則的な規定だけが入つております。これを運用する際に、日本側の司法当局合衆国の軍司法当局との間に非常に複雑な、この規定だけでははなはだ取扱いに困難を感ずるような事態を生ずる可能性があるから、できるだけ早く司法共助の問題について専門家の間で話合いをして、施行細則的な了解を遂げたい、こういう話合いがありまして、現に予備作業班の十四、五の班の一つに、その面を担当する班を設けて、協議を進めておる段階でございます。
  77. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはほんとうは締結せられるときに、そういうところまで研究せられて、そこできめておかれれば議論はなくなるのでありますが、これからさらにきめられて、向うが同意してくれたならばけつこうでありますが、同意しない場合、おもしろくないことが起ると思います。これは私はまことに遺憾だと思います。今後十分それらの点をやられることを希望しておきます。これ以上議論はやめましよう。  その次に(b)ですが、これはまたその裏を行くわけでありますが、これは施設内で犯した罪で、「日本国の裁判権に服する者で前記の施設又は区域内で発見されたものは、要請に基いて、日本国当局に引き渡すものとする。」これは属人主義からいえば、おそらく「日本国の裁判権に服する者」というのは、日本人を主としてさすのであろうと思いますが、そうであれば要請がなくても、属人主義に基いて日本国へ引渡すべきものでないかと思うが、要請の必要な理由はどこにあるのでありましようか。
  78. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 むろん施設または区域内で犯罪が行われたような場合の大多数は、要請がなくても犯罪をしたということがすぐわかりますし、それによつて逮捕されて日本側に引渡されることも考えられるわけであります。しかしまた外部で犯罪を犯して施設の中に逃げ込む日本人もあり得ると思います。こういうような場合を見て、こういう規定があるわけであります。
  79. 鍛冶良作

    鍛冶委員 なるほどこれを見ますと、逮捕権を有すると書いてありますから、そういうこともあろうが、要請してもよこされぬと言われたらどういうことになるのですか。
  80. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 これは日本の裁判権に服する者でございますので、こちらの要請に対して渡さないという態度をとられることはないと存じます。もしそういうことがあるならば、何どきでも日本政府といたしましては、合同委員会に基いて問題にいたすこともできますし、その規定の不備を補うために、二十八條でございましたか、それで協定の改善を要請することもできますので、そう御懸念のような事態は起らないで済むかと思つております。
  81. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはあなたと議論してもしようがないが、ふつり合いです。(a)を読んでごらんなさい。(a)は区域外においては、日本当局が逮捕する権限を持つておる。そうして要請がなくても、当然向うへ引渡すべき義務があげられておる。しかるに(b)の場合は、これは日本国の要請がなかつたら、よこさぬでもいいということになつておる。これではたして対等と言えましようか。たいへんな違いです。これは私の解釈が誤つておるならば是正してもらいたいが、どうも私は対等とは見られません。
  82. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 (b)項の第一段がいつておりますのは、施設の中では、合衆国軍隊が逮捕権を持つておるのだという意味で、その対象はただに日本の裁判権に服する者だけでなくて、軍人、軍属、家族も含め、第三国人も入り、また日本人も含むわけであります。それで第二の注意書として、今度は日本の裁判権に服する者が逮捕されるような場合がありますので、その場合は日本側の要請に基いて、必ず引渡さなければならぬということを明らかにしたものであります。
  83. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも私の質問がよくおわかりにならないようですが、(a)の場合は、日本に逮捕権がある場合です。しこうしてアメリカに裁判権がある場合です。これを書いてある。日本に逮捕権があつても、アメリカに裁判権があれば、当然引渡さなければならぬ、こう書いてあるのであります。ところが(b)の場合には、アメリカに逮捕権があつて日本に裁判権がある場合、この反対の場合、この場合は当然引渡さぬでもよろしい、日本の要請がなかつたら渡さぬでもよろしいということになつておるのです。これがふつり合いじやありませんか、こういうのです。
  84. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 必ずしもふつり合いとは思わないのであります。(a)でいつておりますのは、施設区域の外では日本も逮捕することができる、日本もであります。日本が専属的な逮捕権を持つておるとはいつておらないのであります。それに御注意をお願いしたいと思います。(b)は施設の内部でございますから、内部ではアメリカ軍隊が逮捕権をもつぱら持つておるぞ、こういう関係であります。従つてもつぱら向うが逮捕権を持つておりますので、日本の裁判権に服する者が逮捕されたときには、こちらの要請に基いて引渡さなくちやならぬということが書いてあるわけであります。
  85. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますと、区域内で日本人が犯罪を犯して、向うに逮捕されて、要請しなかつたらよこさぬでもいいということになりますから、日本で知らなかつたら、日本に裁判権があるといえども、手がつけられないということになりますか。そう解釈する以外になかろうかと思いますが、いかがですか。
  86. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日本といたしましても、日本の裁判権の行使が完全であるということを、希望するのはもとよりでございますから、日本の裁判権に服する者が施設内で犯罪を犯し、または施設外で犯罪を犯して、施設内に逃げ込んだというようなときに、要請をしないことがあるということを考えることは、それ自身少しわからないのであります。必ず要請いたします。要請すれば必ず先方は、裁判権を持つておりませんので、引渡すべきはずでございます。
  87. 鍛冶良作

    鍛冶委員 こちらは議論じやなくて、そういう場合があつたら困りはしないかということを、ひとつ考えてもらいたいと思つて申し上げるのでありますが、日本人区域内で犯罪を犯せば、属人主義の原則からいえば、やはり日本に裁判権があるわけです。ところが要請に基かなければ日本に渡さない、こういうのだから、日本国で知つておらなくては要請できません。だから必ず通知して、要請するかせぬかと聞いて来るならまだいいが、軍に要請がなかつたら渡さぬと、こういわれたら、わからなかつたら要請できません。できなければ、これはおそらく向うの裁判に服するのではないか、こういう懸念ができるのですが、それでさしさわりはできませんか。
  88. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 この協定の建前は、日本人合衆国軍隊の裁判権に服する場合は、一つも予想しておりません。それは絶対にないという建前になつております。
  89. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まあいいでしよう。なるべくそういう不便のないようにやつてもらうことを希望しておきます。あまり議論してもいけないから……。  その次は、これもまたたいへん問題だというか、わからぬのですが、「合衆国当局、前記の施設又は区域の近傍で、当該施設又は区域の安全に対する犯罪の既遂又は未遂の現行犯に係る者を法の正当な手続従つて逮捕することができる。」とあるが、一体近傍とはどの程度までを言うものでありますか。その次は、当該施設または区域の安全に対する犯罪の、安全、不完全とは、どういうところから出て来るのか、これだけではわからぬのでありますが、この点ひとつ明白にしていただきたいと思います。
  90. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 この條項は現段階におきましては、合衆国日本に持つ施設及び区域の安全を確保するための立法措置というものが、まだとられておりません。しかしあとの條項でそういう立法措置をとるということを約束してございますので、いずれ日本側でも、施設及び区域の安全に対する罪とはいかなるものなりやということは、その立法が済めば、日本の国内法に関する限りは明らかになつて来ると思います。先方におきましては、現在すでに合衆国の軍事統一法といいますか、そういう法令にすでに規定がございますので、先方としてはいかなる罪が施設及び区域の安全に対する罪なりやということは、わかつておるわけであります。その両者をこの條項は見ておりまして、従つてこれに該当するものは米国軍人、軍属、家族の場合もあるし、日本人の場合もある。但し日本人の場合には、先方の裁判権に服しない者はただちに日本国当局に引渡さなければならないとありますので、日本人に関する場合はただちにこちらに引渡される、こういうことになります。しかもこの場合は施設外における逮捕権の行使でございますので、現行犯に限つてこの特殊の逮捕権を認めてあるわけであります。施設内では、合衆国軍隊に専属的な逮捕権を認めるけれども、施設の付近における施設の安全に対する罪については、現行犯の場合に逮捕することができる、しかし逮捕した場合に、日本の裁判権に服する者については、ただちに日本に引渡さなければならぬ、こういう趣旨でございまして、主として施設の安全保持の見地から考えられた規定でございます。  なお「近傍」という字が非常に漠然としておりまして、実際上適用のときに困難を生じないかということは、この條文を書くときにも問題にいたしましたが、どうしてもそれ以外に適当な用語がありませんので、要は刑事行政上の通念とでも申しましようか、そういうものが日本側にもございましようし、合衆国側にもありましようから、この「近傍」ということをあまり広く解釈して、不当に人権を損害するということのないようにしなければならないと思つております。
  91. 鍛冶良作

    鍛冶委員 その次にわれわれの気になりますのは、いわゆる逮捕権が競合する場合です。両方でつかまえようとしたとき、どつちが勝つのか、それからまた日本で逮捕したら、これはおれの方で逮捕権があるのだからといつて、それを引渡せと向うから要求でき得るのであるか、この点が非常に気になるのですが、いかがですか。
  92. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私どもも同じ懸念を持つ次第でありますが、少くとも日本法規に服する者、日本人に関する限りは、逮捕権というものは日本側が第一義的に持つべきであるということは、かわらないと思います。また日本の裁判権に服する者については、ただちに日本側に引渡さなければならぬという趣旨から考えて、日本側が逮捕するのが原則であつて日本側では——どうしても現行犯の場合でございますから、施設などは必ずしも日本の警察官などがいる場所にないということも多分に予想されますので、そういう現行犯の場合に特別に認めた逮捕権でございますので、考え方としては、あくまでも日本側が逮捕権を持つのが第一義であるという考え方に全然同感であります。
  93. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今お話のようなことであろうとわれわれも考えますが、さような場合に争いの起るようなことは、はなはだ遺憾なことでありますから、当然これに対して特別のとりきめをされるものであろうと思いますけれども、「近傍」とはどの辺までを言い、安全を害する罪とはどういうもの、ということでこれはやられるであろうと思いますが、この点はやられるのかやられぬのか、その程度でもしやるとすれば、先ほどおつしやつたが、大体今日どんなところまで考えられており、話が進んでおりますか、おさしつかえない限り聞かしていただきたい。
  94. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 まだ今日まで、この点について具体的な話合いは進んでおりません。しかしこの場合は、まつたく現行犯の場合でございますから、先方の機関と日本の検察当局と言いましようか——一般私人を逮捕できる場合は、必ずしも司法警察官とは限らない、むしろ競合するというよりも協力すべき事態一つにもなろうかと思います。いずれ司法関係作業班などでは、この点はむろん共助の一面として、当然取上げらるべき問題の一つであろうと考えております。
  95. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まだこれについてたくさんありますが、せつかく今調達庁と法制意見長官も見えたのですから、前へさかのぼつて質問したいと思います。先ほど條約局長その他から承つたのでありますが、條約局長の所管でないということでありましたので、調達庁から伺います。さらにまたその後のこちらの用意等に関して、意見長官の方でも法制上の準備があるなら、承ろうと思うのであります。  それは第三條と第十二條であります。この第三條によりますと、「合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、使用、運営、防衛又は管理のため必要な又は適当な権利権力及び権能を有する。」これは施設内ですが、さらに次いでは、「合衆国は、また、前記の施設及び区域に隣接する土地、領水及び空間又は前記の施設及び区域の近傍において、それらの支持、防衛及び管理のため前記の施設及び区域への出入の便を図るのに必要な権利権力及び権能を有する。」これを読んでみますると、施設内のものならば何してもよろしい、施設外といえども、これに隣接するもので、必要があれば、いかなることをしてもよろしい。かように読まれるのでありますが、もしそうだとすれば、これはたいへんなので、先ほど條約局長としてのある程度の御意見を承りましたが、これに直接携わられる調達庁の方で、これをどのように解釈しておいでになりますか、承りたいと思います。
  96. 根道広吉

    根道政府委員 ただいまの御質問でございますが、今のはむしろ外務省ないしは法制関係の件でございまして、私の方で所管している事柄と内容はまるで違うのであります。
  97. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それではどなたでありますか。
  98. 根道広吉

    根道政府委員 ただいま私の申し上げましたのは権利権力云々が外において行使されるというようなお話でございますが、特別調達庁がやつております仕事は、現在のところ、将来あるいは駐留軍のために同じような仕事をするとは思います。しかしそれはあくまで調達に直接関連することでございまして、向うの行う権利権力というものとは違うのであります。そういう意味で、私は直接調達庁において扱う事柄とは違うということを申し上げたのであります。
  99. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それでは、先ほども言つたのですが、具体的例をとりましよう。この施設を通行する権利だ、主としてこういうお話です。そこで通行するときに道路をつける。道路をつけようとするところに家がある。家があつたら、権利権力権能を有するのですから、かつてにたたきこわしてやれるのですか。これはどういうものですか。
  100. 根道広吉

    根道政府委員 そういうような場合には、軍の方において必要とする施設あるいは物の提供と相なるわけでございます。これは今後の合同委員会等において協議の結果、向うに提供すべきものでありますれば、この提供する段取りに至るまでのことは、米軍がするのではございませんで、日本政府がいたすわけでございます。従つてその間米軍等において直接の権利を振うというようなことはあり得ないことだと思います。もしありましたら、これは向うの不都合なる処理に相なると思います。
  101. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこであなたに聞きたくなるのだが、どうあつても至急いるのだ、何月幾日までになくちや困るのだ、こういえば日本政府へ要求があります。それこそ要求する権利権力権能を有する、ところがあなた方は、日本国の現在の法律従つてそれをやろうというお考えですか。それとも何か特別の方法をもつておやりになるつもりですか。
  102. 根道広吉

    根道政府委員 ただいまの御質問は、将来そのような場合がもしあつたとしたら、どう処置するかということなのでありますが、これはあくまでも米軍が直接にやることではないのであります。現在は御承知のように、まだ土地工作物使用令等がございます。これが本国会にもその廃止の案が付議されておるわけでございますが、この土地工作物使用令等に基きまして、日本政府が接收して米軍側に出しておりますものは、その効力は講和條約発効後九十日間を限つて効力を有するということになつております。もしこれに関連しまして将来私有不動産等に影響のあるような行為を政府が決定いたしましたとするならば、所有者がこれに自由に同意してくれるならば格別、これを強制的にするためには新たなる立法をおそらく必要とするのではなかろうか、こう考えております。
  103. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは申し上げるまでもないことですが、今までも所有物の接収せられる場合、賃借権のあるものを接収せられる場合、もちろん本人の同意を得てやつたと言われておりますけれども、実際はポ勅によつて、お前聞かなければ徴発するぞと言われるから泣寝入りをしておつた。国民の今おそれるところは、占領政策が済んだあとにはさようなことはないものだと思うが、どうもこの規定権利権力権能を與えておられるのだから、また同様のことをやられるのではないかということを第一番におそれます。そこで私はあなたのお言葉からすると、そういうことはない、われわれもまたあつてならぬと思いますが、しかしあなた方が権利権力権能を與えておられるのだから、日本政府に対してその権能に基いて何月幾日までに道路をつけるように明けろ、こう言われた場合には、あなた方はどうなさいますかと言うのです。今までの日本民法のそのままを適用するとおつしやるならば、これは問題ありませんが、そこにたいへんあなた方に困るところが出て参りますよ。われわれは商売柄弁護士ですが、家屋の明渡しというものはそんな容易なものではありません。そこで向うから権利権能に基いて早く明けろと言われる。あなた方は日本法律に基いて明けられなかつたならば進退谷まつてしまうのだが、そのときどうなさるのか、それを聞きたいのです。
  104. 根道広吉

    根道政府委員 ただいまの御質問は半ばしか了解できかねる点があるのであります。御承知のように、現在自由契約に基いて不動産等を接収しております。これは軍の方より出せという要求がありますれば、日本政府としては出さなければならぬ立場にあるのであります。たとえば自由契約がなくても、現実に軍がこれを占拠すれば、それでそのままになる場合があるわけであります。そういたしますと、かえつていろいろ複雑な問題を生じますので、形においては自由契約という形において、政府がこれを借り上げる、家賃を拂う、地代を拂うというかつこうをとつております。しかしわれわれ実際のところ考えまして、ほんとうの意味の自由契約とは思つておりません。現在の段階においてのみ申し上げまするならば、現在いわゆる自由契約と称してやつておりますところの契約によりましては、連合国軍の使用に供するために政府契約をしておるのであります。法律的に申しますならば、連合国軍すなわち占領軍でなくなつたときは、その自由契約も私は基本的には消え去るべきものではないかとさえ考えております。たとえば今日向う一箇年さらに契約を延ばすというような問題があります。そのいわゆる自由契約の條項の中に、政府が一方的に一箇年延ばし得る規定がございます。軍の方よりは、それをそのまま一箇年延ばせと言つて来ております。これは実は実際に適せぬのじやないかというて、一箇月半にもなりましようか、拒否いたしております。そのわけは、ただいま申し上げましたように占領軍に提供するためにこの契約を結ぶのであるという條項があるのであつて占領軍でなくなつた後には、もはやこの契約が中身を失うのである、目的は失うのであるというふうに考えておるので、これは一箇年延ばすなどということはまつたく不適当である。延ばそうと思つても、実際上は連合国軍あるいは占領軍として引続きある種の資格を持つておる間までしかこれは今の契約を延ばしたところで続かないものだ、こういうふうに考えております。従いまして最後のぎりぎりのところまで私は通告は発したくはない。また現在は多くの人が接收解除になることを待ち望んでおります。しかも現実にはおいおいに返つて来るものもあるわけであります。その場合に、一般に全部に対しまして契約を続けているというような通告を発して、返つて来るものにまで悲観をさせることはむだなことである。だから、そういうことはしたくない、こういうふうに軍に話しておるような状況であります。また今後予備作業班等において軍の方から提起されて、どれとどれが駐留のためてに必要であるかという内容が明らかになつたときに、しがるべき措置をあらためて講ずる、こんなふうに考えて、今いろいろ事務的に話を進めておるところでございます。
  105. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まことにわが意を得たる御答弁で、またそうあらんければならぬのですが、これはあとでやります。これはあとの交換文書等からいつて、さようなことはできぬように思いますが、その前に私が聞くのは、あなたの御精神でやつてもらいたいのだが、向うからどうしても何月幾日までに道路をつけなければならぬ、これを明けろ、こう言つて来たときに、日本法律ではさように簡單に明けられません。ところが政府はこの條文に基いて明けてやらなければならぬ義務があるのでしよう。進退谷まると思うのですが、そういう場合には、これは向うを強制するわけに行かぬのだから、といつて、あなた方拒絶できるのですか。それとも何かの方法でこれを接収しなければならぬのじやありませんか。これを聞いておるのです。現実に起る問題を私は聞いておる。抽象論ではありません。
  106. 根道広吉

    根道政府委員 これはどこまでも合同委員会において現実の問題として扱わるべき問題だと考えております。合同委員会等において、日米双方意見が一致いたしまして、この部分はこういうふうにして提供するのだというようなことに話がまとまつたときに、その不動産所有者なりに対して折衝いたさなければなりません。その場合に、これを強制するような法令がないとすれば、合同委員会としてもおそらく処置はできないことであろうと思います。現在のところそれ以上の御答弁はちよつと不可能な段階であります。
  107. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私は何もあなたをいじめようとかなんとかいうのではなくて、今後これは必ず起る問題だから、われわれとして頭のある限り今後の方法を確定しておきたいと思うのですから、今あなたのおつしやるように、それは合同委員会といえども、日本民法及び民事訴訟法に基かざる限りはできないのだから、それはできませんと断られるなら、われわれは何も言わないのですが、そうではなかろうと思う。そのとき、民法にもない、民事訴訟法にもないが、これでやれ、こういうことになつたらたいへんだ。おそらく私は何らかの特別の方法をお定めにならなければならぬのじやないかと思うのであります。これは特に意見長官にお聞きしたい。そういう場合があり得る。今まではいわゆるポ勅で、聞かなければ徴発してやるといつたが、これはできないことはわかつている。そこで今度はこれにかわるべき立法をやろうと思われておいでになるのか。やらずに、日本民法従つてそういうものはできませんと言つてはねつけられるとおつしやられるのか。それなんです。やるとするならば、どういうことを今日までお考えになつておるかを伺いたいと思うのです。
  108. 佐藤達夫

    ○佐藤(達)政府委員 この第三條の御指摘の権利権力権能というところでございますけれども、ここで扱つております限りにおいては、今根道長官から言いましたように、必要に応じ合同委員会を通じて両政府間で協議しなければならないとうたつておりますから、三條自体の問題としては、今御懸念のような問題は出て来ないのじやないかと私は考えます。ただ率直に申しまして、協定の中には、日本国側の協力すべき事柄規定してございます。西村局長がおりますから、間違つてつた場合には訂正していただきますが、たとえばこの二十五條というところに、一種の「提供」というような言葉を使つておりますから、問題となるとすれば、ほかの條文関係で問題が出て来るであろう。しかしそれにしましても、強制云々ということは、この協定自体から出ておりませんから、これは実際の運用の問題になる。またそのときの必要に応じまして、あるいは立法を要するようなことも出て来るかもしれない。それは私ども理論の問題として考えますところでは、もとより不必要な立法をしたくないことは当然でありますけれども、そういう必要が起つて来れば、もちろん法律をもつて解決しなければならぬと思います。その法律はまた国会の御審議を願わなければならぬ、さように考えます。
  109. 鍛冶良作

    鍛冶委員 実際法律でやらなければいかないんじやないですか。いかないなら、どういうことをお考えになつているかをお聞きしたいのです。必要あればというが、今のポ勅にかわるものがなくてはでき得ないんじやないですか。
  110. 長岡伊八

    ○長岡政府委員 ただいま御質問がございました通りに、この行政協定規定を遂行いたしますためには、所有者権利を抑制するという問題が起つて参ります。これは日本防衛ということに関連いたしまして取結ばれました行政協定上の義務の履行と、所有者権利の擁護、この調整の問題にかかるのでございますので、利害関係が非常に複雑でございます。関係するところが非常に重大でございますので、容易に決定いたしかねる問題でございますので、政府部内においても関係するところが非常に多いのであります。従いまして、現在この調整をいかに行うかということについて、実は取急いで協議いたしておるような次第であります。いずれ成案を得ましたならば、ただいま意見長官からお話のありました通りに、今議会に提出いたしまして御審議を仰ぐことになるかと考えております。
  111. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうあらなければならぬと思うのですが、必要あればというが、なくて済むならまことにけつこうなんですが、一番国民の不安に思つているところですから、これは構想ができたら一日も早く国民に明らかにしてもらうことを要望いたしておきます。  そこで長官に承りますが、あなたの先ほどおつしやつた、現在使用のものを、占領終了後においては、今までと性質が異なるのであるから、全然新たにする考えだということは、まことにけつこうですが、それとこの往復文書の最後のものとはたいへんな違いがある。われわれもどうもこれは合点の行かぬものだと思つて、この間條約局長に質問したのですが、「日本国政府が、前記の協定及び取極が成立するまでの間、施設又は区域でそれに関する協定及び取極が日本国との平和條約の効力発生の日の後九十日以内に成立しないものの使用の継続を合衆国に許すことを、日本国政府に代つて、確認する」こういうのです。今まで使つてつたものをそのまま使わせる。そのかわり九十日以内にこれをどうするかをきめます。こう書いてある。そこで九十日できまらなかつたら、前の通り、これはどれだけ続くのか知らぬが、継続する。これは今あなたのおつしやつた答弁とは全然反対の協定ができているのですが、この調和をどうなさるおつもりでありますか。
  112. 根道広吉

    根道政府委員 特別調達庁不動産関係の問題を扱つております現在におきましては、講和関係の諸條項、あるいはそれに基いてつくられました法令、その他の現存法令によつて実務を扱つているわけであります。もしその法文一本だけで仕事をせよと申されましても、仕事はできかねます。これはやはりその中身を満たすべき立法措置等が現実にとられませんければ、特調といたしましては、たとい同じような仕事を続いてやるにいたしましても、強制権力をもつてすることはできないかと心得ております。
  113. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これ以上議論はいたしません。その調和をはかるべき手段を一日も早くとりきめてわれわれに示していただきたい。
  114. 押谷富三

    押谷委員長代理 本日はこの程度にて散会いたします。次会は追つて公報をもつて御通知いたします。     午後四時二十九分散会