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1952-02-20 第13回国会 衆議院 法務委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年二月二十日(水曜日)     午前十一時十九分開議  出席委員    委員長 佐瀬 昌三君    理事 押谷 富三君 理事 田嶋 好文君    理事 田万 廣文君       安部 俊吾君    角田 幸吉君       鍛冶 良作君    古島 義英君       松木  弘君    眞鍋  勝君       山口 好一君    田中 堯平君       加藤  充君    世耕 弘一君  出席国務大臣         法 務 総 裁 木村篤太郎君         国 務 大 臣 岡崎 勝男君  出席政府委員         法制意見長官  佐藤 達夫君         刑 政 長 官 草鹿浅之介君         検     事         (法務行政訟         務局長)    小沢 文雄君         検     事         (法務府民事局         長)      村上 朝一君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 二月十八日  釧路市に高等裁判所支部並びに高等検察庁支部  設置に関する陳情書(第  四七六号)  九大事件戰犯者の赦免に関する陳情書外二件  (第四  七七号)  会社更正法案に関する陳情書  (第四七八号)  宅地の分割に関する陳情書  (第四八〇号) を本委員会に送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  工場抵当法及び鉱業抵当法の一部を改正する法  律案内閣提出第三三号)  国の利害関係のある訴訟についての法務総裁  の権限等に関する法律の一部を改正する法律案  (内閣提出第二八号)(予)  安全保障条約に伴う外国人裁判管轄権に関す  る件     ―――――――――――――
  2. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これより会議を開きます。  工場抵当法及び鉱業抵当法の一部を改正する法律案議題といたします。政府より提案趣旨説明を聴取することにいたします。村上政府委員
  3. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 ただいま議題となりました工場抵当法及び鉱業抵当法の一部を改正する法律案につきまして、提案理由を説明いたします。  企業金融の重要な担保制度である財団抵当利用が近時急速に増加して参りましたが、御承知のように、この制度は、明治三十八年の工場抵当法により初めてわが国に創設されたものでありまして、その後今日に至るまで制度的には見るべき改正がまつたく行われませんでしたため、今日においては、利用不都合不便を感ずるに至つた点が少くないのであります。たとえば、現行法によりますと、工場財団は、その所有権保存登記後二箇月内に抵当権設定登記を受けないときにはその効力がなくなることになつておりますので、現在の金融事情のもとで担保附社債信託法による抵当権設定のため財団設定しようとする場合などには、右の期間が短かきに失するきらいがあり、また財団設定された抵当権消滅すれば財団もこれによつてただちに消滅することになつておりますので、抵当権消滅後その財団を他の抵当権目的とすることは不可能でありまして、この場合には、多額費用と複雑な手続によりあらためて財団設定し直さなければならないことになるのであります。さらに現行法のもとでは財団分割合併が認められておりませんので、財団余剰担保価値利用するためには、その財団から組成物件の一部を分離し、これをもつてあらたに別個財団設定し、またはこれを他の財団に追加するごとき複雑な手続を要するのであります。以上の諸点にかんがみましてこの法律案は、これらの不便不都合を除き、財団抵当による金融便宜を増進するために、工場抵当法の一部を改正することにいたしているのであります。主要な改正点を申し上げますと、第一、財団所有権保存登記は、その登記後三箇月内に抵当権設定登記を受けないときにその効力を失うものとして、所有権保存登記効力存続期間を一箇月延長することとし、第二、財団抵当権消滅によつて消滅せず、原則として抵当権登記抹消後三箇月内にあらたな抵当権設定登記を受けないときに初めて消滅するものとし、第三、一定要件のもとに財団分割合併を認め、これに関する所要規定を設けることといたしております。  なお、この法律案は、鉱業抵当法の一部をも改正することといたしておりますが、それは現下の鉱業経営実情に照しまして、鉱業関係工業所有権鉱業財団組成物件に加え、また財団に属している採掘権租鉱権設定することを認める必要がありますので、この点につきましてその趣旨改正を加えることといたしたのであります。  以上この法律案につきまして概略説明申し上げたものでありますが、何とぞ慎重御審議のほどをお願いいたす次第であります。
  4. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 これにて提案趣旨説明は終りました。  なお本案に対する質疑は、これを後日に譲ることといたしますから、さよう御了承願います。  なおこの際政府委員より本改正法案に対する逐条説明の申出がありますから、これを許します。村上政府委員
  5. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 この法案におきまして、第一として工場抵当法の一部を改正することになつておりますが、御承知のように工場抵当法鉱業財団抵当漁業財団抵当及び港湾運送事業財団にも利用されておりますので、これらの財団に共通の改正となるわけであります。  まずおもな点について逐条的に御説明いたしますと、第八条の第三項でありますが、現行法によりますと、工場財団抵当権消滅によつてただちに消滅することになつております。この現行法のもとにおきましては、従いまして工場財団を新たに他の抵当権目的とすることができないのでありまして、第一の抵当権存続中に第二の抵当権設定するというような方法を講じない限り、第一の抵当権抹消してしまいますと、その財団を別の抵当権のために利用する道がないのであります。従いましてその後新たに抵当権設定して財団利用しようとすれば、相当多額費用と複雑な手続をかけて新たに財団設定する必要があるのであります。なお現行法によりますと、抵当権が実体的に消滅いたしましても、ただちにその登記抹消が行われるとは限らないのでありまして、すでに抵当権消滅によつて消滅しております財団が、登記簿上なお存続しておるような公示になつておる結果、取引の安全を害するおそれもあるのであります。よつて改正案第三項におきましては、工場財団抵当権の実体的な消滅によつてただちに消滅するということをやめまして、抵当権消滅によつてその登記が全部抹消された後、またはあとに出て参ります四十二条の二の新設規定に基いて、工場財団分割によつて抵当権消滅した後三箇月以内に新たに抵当権設定登記を受けないとき及び四十四条の二の新設規定に基きまして、工場財団消滅登記をしたときに初めて工場財団消滅することといたしました。財団存続期間の延長と、財団消滅の時期の明確化をはかつたものであります。  次は第十条でありますが、現行法におきましては保存登記の後二箇月内に抵当権設定登記を受けないと財団保存登記効力がなくなることになつております。ところが大きな財団設定いたします際には、所有権保存登記を受けますまでに、工場抵当法二十四条第一項の規定による公告の手続をする必要があるのでありますが、この期間が一箇月半ないし二箇月を要しますので、保存登記後二箇月内に金融を受けて抵当権設定し得ることを予想し、この時期を基準として所有権保存登記を申請するわけでありますが、現在の金融事情のもとにおきましては、財団担保として金融を受け、抵当権設定し得る時期を予定することがはなはだ困難でありまして、特に担保附社債信託法による抵当権設定の時期、すなわち社債発行による金融を受け得る時期は予定した時期よりも二、三箇月先に延びることが往々あるのであります。かような場合にはせつかく設定しました工場財団が二箇月内に抵当権設定登記がなされないために効力を失つてしまつて、あらためて財団設定手続を繰返さなければならないという不都合を生ずるのであります。従いまして現行法の二箇月の期間は短かきに失するきらいがあるのでありますが、一方これをあまり長くいたしますと、財団存続する限りその組成物件單独処分が禁止せられ、他の権利者権利行使等制限される関係上、これを適当の期間に打切る必要があるのでありますが、この両者の関係の調整をはかりまして、経済界実情の要求いたしております三箇月を適当と考えまして、一箇月延長することにいたしたのであります。  次に十七条の二でありますが、これは後に出て参ります工場財団分割の場合の登記用紙措置に関する規定であります。  十七条の三でありますが、これは工場財団目録の記載の変更によりまして、財団から組成物件を分離した場合に残つた工場がすべて当該登記所管轄地域内に存しなくなる場合がありますので、こういう場合は、前条と歩調を合せまして、十七条の規定による本来の管轄登記所へその財団登記用紙を移送すべきものとしてその手続規定したものであります。  十七条の四は、これは後に出て参ります財団合併の場合の手続を定めた規定であります。  二十二条の第三項でありますが、今度新たに工場財団分割を認めます関係上、分割の場合の手続を容易にいたしますために、数個工場について一個の工場財団設定する場合に、財団目録工場ごとに別冊として調製することに改めたのであります。  三十九条の第二項も同趣旨改正であります。  四十二条の二は、工場財団分割規定であります。現行法のもとにおきましては財団分割が認められておりません結果、たとえば抵当権債権額が一部弁済等によつて減少いたしました場合に、財団余剰担保価値抵当権目的の範囲から除外しまして、これを別個財団として他の第一順位の抵当権目的とするためには、ここに組成物件財団から分離して、これをもつて新たに財団設定しなければならないことになりますので、この分割制度を設けたのであります。かような理由によりまして、分割制度を認めました関係上、抵当権目的たる財団分割しました場合には、分割後の財団のうち一個の財団についてのみ抵当権存続し、他の財団については既存の抵当権効力を及ぼさしめないこととし、従つて抵当権者権利を保護するために、抵当権目的たる財団分割は、抵当権者承諾があつた場合に限りこれができることといたしたのであります。  次に四十二条の三は、財団合併に関する規定であります。現行法において合併が認められておりません結果、たとえば抵当権目的となつていない財団または財団余剰担保価値を他の財団抵当権追加担保にし、またはこれらを集めて一個の大きな財団設定しようとする場合に、財団組成物件を個々に分離いたしまして、これを他の財団に追加する以外に方法がないのであります。これらの不便を除くために、財団分割とその併合を認めようとするものであります。ただ財団合併の場合には、合併せられるべき数個財団がそれぞれ他の抵当権目的になつておるような場合には、複雑な法律関係を生じますので、合併をなし得る場合に、ここにあげてありますように一定制限を加えたわけであります。  次に四十二条の四でありますが、これは分割合併は、その登記をもつて手続とするという趣旨規定であります。四十二条の四ないし四十二条の七は、いずれも財団分割合併に伴う所要手続規定いたしたのであります。  四十四条の二で、財団消滅登記規定を設けましたのは、第八条の第三項の改正と関連するわけでありまして、改正案によりますと、財団は、抵当権登記が全部抹消され、または分割によつて抵当権消滅したのちも、なお三箇月間は、新たに抵当権設定登記を受けなくても存続することとなりましたのに伴いまして、もし工場所有者組成物件を單独で処分する必要があるというような場合、その他工場財団存続せしむることを欲しない場合には、財団所有者の意思によつて財団消滅登記を申請して、これによつて財団消滅させるという道を開いたわけであります。  四十四条の三も、八条第三項の改正に関連いたしまして、抵当権消滅したにかかわらず抵当権登記がいつまでも抹消されずにありますと、八条の第三項の立法趣旨を逸脱することになりますので、抵当権消滅したときは、遅滞なく登記抹消を申請することといたしたのであります。  四十八条は、これも第八条の第三項の改正に伴いまして、登記用紙の閉鎖について所要改正を加えたものであります。  次に四十九条及び五十条でありますが、これは現行工場抵当法の罰則は、旧刑法時代規定でありまして、これを現在の新しい刑罰法体系に合うようにこの際改めたものであります。  次に第二鉱業抵当法改正でありますが、最初に申しましたように、鉱業抵当法工場抵当法を準用しておりますので、工場抵当法改正は、すべてそのまま鉱業抵当法改正になるわけでありますが、なおそのほかに第二条におきまして、鉱業財団組成物件工業所有権を新たに加えたのであります。近時鉱物採掘方法に関する特許等が相当認められまして、鉱業経営には工業所有権が重要な要素となつておりますために、これを鉱業財団組成物件に加える必要を生じたわけであります。  次の第二条の二でありますが、鉱業抵当法において準用しております工場抵当法十三条の規定によりますと、他人の権利目的たるものは鉱業財団に属せしめることを得ず、また鉱業財団に属するものは所有権以外の権利目的とすることはできないものとされております結果、先般鉱業法改正によつて新たに認められました租鉱権目的となつております採掘権鉱業財団に属せしめること及び鉱業財団に属している採掘権租鉱権設定することは、現在においてはいずれも不可能とされておりますが、租鉱権鉱物合理的開発をはかるために必要な権利として認められたものでありまして、この制限鉱業経営相当支障を生ぜしめております実情にありますので、本条をもつてその調節をはかり、租鉱権目的たる採掘権鉱業財団に属せしめることは無条件に許し、また鉱業財団に属する採掘権租鉱権設定することを、抵当権者承諾要件として認めることといたしたのであります。  以上をもちまして概略逐条説明を終ります。     —————————————
  6. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 次に、国の利害関係ある訴訟についての法務総裁権限等に関する法律の一部を改正する法律案議題といたします。これに対する質疑の通告がありますから、これを許します。鍛冶良作君。
  7. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これは、この法律案を制定するときからたいへんわれわれが疑問を持つてつた点で、また議論をむし返すことになりまするが、この議論をする上において、大前提として承つておかなければならぬことでありますから承るのですが、一体国利害関係ある訴訟についての法務総裁権限寺に関する法律そのものの制定の趣百、これは国の利害関係のある訴訟について法務総裁訴訟をやるべきものだという考えから出たものであるか、ただ監督をすればいい、こういう意味でつくられたものでありましようか。この点をひとつ明確にしておいていただきたい。
  8. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 この点は法務府の設置法で、国の利害関係のある訴訟については、法務総裁管理することに定められておりまして、本来から言えば国の利害関係のある訴訟で、しかも国を実質上の当事者とする訴訟については、法務総裁が自分でやるのが本来の建前であろうと思つております。ただ当事者便宜等のために、特に行政庁当事者とする訴訟につきましては、その行政庁が形式上の訴訟当事者になつております。その行政庁訴訟を遂行することができる建前にはなつておりますけれども、この場合にも法務総裁は、その行政庁に適正に訴訟を遂行させるために必要な指揮をやり、また場合によつてはみずから職員を指定して、その訴訟をやらせるという責任を持つているものだと考えております。
  9. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今のお言葉で管理と言われたが、それじや管理とこの第六条に書いてある指揮とはどういう違いがあるのですか。
  10. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 その管理の中には、間接に指揮をする場合と、それからみずからその訴訟そのものを遂行する場合と両方含んでいるものと考えております。
  11. 鍛冶良作

    鍛冶委員 それじやこの第六条では不足じやありませんか。あなたは二つ言つておられますが、そのうち一つしか六条に書いてないのです。みずからやるもしくは指揮する、ところがここには指揮するとだけしか書いてない。
  12. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 この第六条の第二項によりまして、その種の訴訟につきましては、法務総裁が「所部の職員で指定するものに訴訟を行わせ」と規定てございまするので、これがみずから訴訟をやる場合に該当しますし、それからもう一つ指揮の方は、六条の第一項で、行政庁法務総裁指揮し、訴訟そのもの行政庁をしてなさしめるというふうに二つわけてあるものと思いますが……。
  13. 鍛冶良作

    鍛冶委員 われわれが第六条を率直に読んでみますると、第一項に「指揮を受けるものとする。」そして第二項は、この指揮内容であろうとわれわれは考えておつた。ところが指揮以外のみずからやることだ、こう言われますけれども、われわれは条文の体裁か見てもわれわれにはそう読めないのですが、第二項は指揮内容とは別個なんですか。
  14. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 第六条の第一項で指揮をするということになつております。第二項で、必要があると認めるときには、さらに行わせるとなつておるのでございますから、法務総裁がみずからその職員をして訴訟をさせるものは、法務総裁が必要があると認めた場合でございまして、それ以外に必要と認めない場合には本来の原則にもどりまして、ただ指揮だけをするということになるように実際取扱つて参つたのでございます。
  15. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、第六条の第二項以外の指揮ということはどういうことをするのですか。
  16. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 これは実情を申し上げた方がよいかと思います。行政自を当事者とする行政訴訟が起きました場合は、その報告行政庁から法政総裁の方に一々とつております。訴状の送達があるとすぐ訴状写しを送つてもらいまして、その内容を検討しました上に、場合によつてはもしその訴状に書いてある通りの事実をかりに認めなければならないとすれば、一体どういう抗弁があるのか、あるいは事実がその通りだといたしますと、訴訟としては争う余地がないのではないかといつたようなことを考えて、行政庁にその点についての釈明を求め、その結果とうていその訴訟が防禦できないものであれば、適当な措置をするように行政庁に私ども考えで勧告します。それか行政庁からいろいろ事情を聞きまして、これは訴状に書いてあることが事実と違う、あるいは事実はその通りであるけれども、しかしその行政処分を取消すことのできない他に理由があるといつたようなことがわかりました場合には、行政庁にこちらの研究の結果を話して、それに相当する答弁をするように勧めております。場合によつてはその点についての法律上の学説なり判例なりを調べまして、そしてその写しをやることもございますし、またさらに進んで答弁書あるいは準備書面の案をつくりまして、それを行政庁に渡して、その行政庁の名前で法廷に出させるといつたようなこともやつております。これが訴訟指揮実情でございます。ところでそれをやつております間に、だんだん訴訟が進行し、し、あるいは初めからの場合もありますが、やつている間に、とにかく行政庁にまかしておいたのでは不十分であると考えられたような場合には、その後訴訟段階全部を通じ、あるいはある場合にはその訴訟のうちの特に重要な証拠調べとか、あるいは準備手続の自由な段階などに、法務府から職員を派遣しまして、法務府が行政庁当事者とする事件訴訟代理人となりまして、必要に応じて法務府の職員だけ、あるいは法務府の職員行政庁職員とが協同しまして法廷に臨む、あるいは準備手続に臨みまして必要な訴訟行為をやる、そういつたようなことが現在の実情でございます。
  17. 鍛冶良作

    鍛冶委員 われわれも訴訟をやつてわかつてもおるのですが、ただ訴状写しをもらつて、向うから出て来ておる証拠物添付書類を見ただけでは事件内容はわからぬ。そういたしますと、実際に取扱つた行政庁取扱者を呼んで実情をこまかく聞かなければならぬと思うが、さようなこともやつておられるのですか。
  18. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 それはやつております。私どもとしてはすべての事件についてそれをやらなければならないと思つておりますけれども、何と申しましてもこの制度が発足してから割合に時日も短かくありますし、十分の職員もおりませんので、全国各地に起りますすべての行政事件についてそれをやるということは、事実上不可能でございます。大体実情を申しますと、東京で起きて、しかもあまり定型的でない、とにかく行政庁としては初めて訴訟が起きたといつたような事件については、まず例外なくその行政庁の人に第一回の期日前に来てもらいまして、いろいろ聞いて対策を立てております。それから地方で起きた訴訟につきましては、高等裁判所所在地には法務局長、それから訟務部長がおりますから、そういう人たち事情を聞いて対策を立ててもらつております。しかし法務局所在地以外の地方裁判所に起きる事件となりますと、なかなかそこまで手が届きませんので、実際は書面だけで、もしこの事実がこうであるとすれば、こういう点を調べたらどうか、あるいはもしこの事実はその通りであるとしても、しかし訴訟はすでに提訴期間を過ぎているのだから、この点はその趣旨答弁を出すように、あるいは訴願前置の要件を欠いておるから、その点について取調べの上、もしほんとうに訴願を経ていないものであれば、その点から却下されるべきものだからその趣旨答弁をしろというようなことも、やむを得ずやつておる実情であります。
  19. 鍛冶良作

    鍛冶委員 これはたいへんな問題だろうと思うのだが、それでは大体全国の国を相手にする訴訟は、法務総裁のもとに報告することになつておるのですか。それとも地方にあるのはせぬでいいということになつておるのですか。
  20. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 全国行政庁に対して、すべての訴訟——国当事者とする訴訟、それから国の行政機関である行政庁当事者とする訴訟、それについてはすべて法務総裁の方に報告するように言つてありまして、実情でも、現在のところまず大部分は訴状報告は来ているように思います。ただまれに往々報告漏れがありまして、訴状報告はないが、あとで判決が報告なつたというので、そのときになつて結局控訴審からこちらの方が実質的な訴訟指揮をしなければならないというようなこともまれにはございますが、しかしそういう場合には必ず訴状報告がなかつたことを指摘して、訴状を送らせるというような方法をとつております。
  21. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますると、どういう事件報告すべきもので、どこからの事件なら報告せぬでいいのか。それとも報告せないのはすべて不適法もしくは不当なやり方であるのですか。
  22. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 法務府といたしましては、国を実質上の当事者とする事件について報告をしないのは、これは行政庁やり方としては非常に遺憾なことではないかというふうに思つております。私の方としましては、現在のところ行政事件の種類とか軽重によつて事件そのもの報告をしていい、あるいはしないでもよろしいというような区別はいたしておりません。
  23. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、報告しないとすれば、第六条違反と心得えていいわけでありますね。指揮に従わなかつたから。
  24. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 それは実は報告がないものですから、具体的な事件については指揮のしようがなかつたので、むしろまず報告を励行することが前提になるのだろうと思います。
  25. 鍛冶良作

    鍛冶委員 あなたの方ではない。行政庁は第六条によつて指揮に従わなければならぬということがきまつておるのですから、その指揮方法はあなたの方に報告をして、その報告に基いてなお調べて、黙つていいものは黙つてよかろう。そうすれば必ず報告しなければならぬ義務があるわけだ。従つてあなたの方ではない、行政庁指揮権に服さなかつた、第六条違反の行為をやつてつた。かように解釈していいか。こういうのです。
  26. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 そういうふうに考えております。
  27. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私はこの法律をつくるときからそれをやかましく言つた。なるほど理論の上からはそうでしようが、実際においてさようなことはできないのではないですか。やはり行政庁に来たものは行政庁にやらせなければならぬのではありませんか。もしあなたの言われるようなことでこの法律ができておるものとすれば、あなた方の今の頭から言うならば、第五条と第六条を区別することが間違つておると思う。第六条ですべて国を相手にする訴訟法務総裁指揮を受ける。それから第六条の第二項くらいで、行政庁へ来たものは便宜行政庁でやらせる。そして報告をせい。なおさらに第三項として、第六条の第二項に書いてあるようなことをきめる。そうなれば初めて理論が一貫するわけなのだ。今あなたの御説明を聞いておると、一貫しておらぬ。また事実上おそらく行われないだろうと思う。この点はどうお思いですか。
  28. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 あるいは私の申し上げましたことが少し不十分だつたかとも思いますが、この行政事件について法務総裁指揮をする必要上、法務総裁は各行政庁訴訟が起きたら訴状の送達を受ければ、その訴状写し写し法務総裁報告をしてもらいたいということを頼んであります。それでもし報告をしないとしますと、その点で法務総裁指揮を受けなかつた指揮に従わなかつたということになるのではないかと思います。それで実際問題といたしましては、何分事件が多いことと、それから行政庁の数までも非常に多いので、こちらですべての行政庁の末端の方まで直接にそういう文書を出しておるわけではございませんし、ことに新しい行政庁もできるような場合もありますので、そういうときには報告が漏れるということもありますし、また報告いたしましてもそのために非常に時間を要する、それで実は報告に来たころにはすでに弁論が行われておるといつたようなこともございますし、ですから現在の職員事情、予算の実情などからいろいろ考えまして、それほど厳重に私どもの方では事実上やれないのでございます。行政庁報告をしないのは、行政庁として法律に違反したのではないかとおつしやいましたが、りくつの上ではまことにその通りでございますけれども実情を申しますと、現在のところはその点を一々問題にしてあまり強く責めるということはできないような実情でございます。
  29. 鍛冶良作

    鍛冶委員 私らの憂うるところはあなた方にわかつておらぬ。私はあなたの言われたのを聞いて、むしろつくるときからそうなんです。かようなことをこしらえて、法務総裁が全部指揮しようと思つても事実上できないのじやないか、そうしてみると行政府でやることと法務府でやることと違つて、とんでもないときに意見の衝突などが起りはせぬかということを憂いておる。今あなたの説明聞くとわれわれの憂いがそのまま現われておる。事実上指揮できない。どうあつて指揮せんならぬものならば、どうしても指揮せなければならぬことにきめなければならぬ。ところがしてもせなくてもいいというならば考えなければならぬ。どうあつて指揮せんならぬというならば、第六条の第一項をきめて第五条は第二項に入れるべきだ、それをこうやつておられるところを見ると、事実上行われないのではないかということを憂えましたが、その通り実情のことを今聞きまして、そうすると行われぬ法律ができておる、こういう解釈と言つては何ですが、そういう懸念が生ずると思わなければなりません。この点はそういう懸念はありませんか。
  30. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 まことに今申しましたような実情でございますので、これはまことに申訳なかつたとは思つておりますが、ただ実際一般に法務総裁として指揮権を持つております関係上、報告にある事件の中から特に法務総裁として具体的にその訴訟内容について行政庁と違つた見解を持つ場合、そうして違つた見解を訴訟の上に表わさなければならない場合、あるいは法務府の職員みずからが訴訟に出て行つて、そうして法務総裁の信ずるところに従つて法務府の信ずるところに従つてその使命を遂行しなければならぬというような事件が、現実に相当あるわけでございます。これは報告の中からよりわけることもありますし、それからただいま申しましたように、たまたま報告が漏れておる。しかし報告が漏れていても何らかの関係で事前に特にそういう非常に重要な影響力を持つような事件については、自然にわかつて参ります。わかつて参りますれば、こちらの方から進んでその事件の調査をするということにいたしておりますので、一応そういう権限を与えられている以上、それによつて法務総裁としてなさなければならない職責の大部分は、遺憾なく行われておるつもりでおります。
  31. 鍛冶良作

    鍛冶委員 どうも今のお話を聞いておると、実際問題を言うと行政庁の方でこれはどうもおれの手に負えません、なかなかめんどうです、またよくわかりませんと、こういうときにだけ法務総裁指揮を仰ぎに来るんじやないですか。それが実際じやないですか。
  32. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 いや、そうではないです。それはそういうのもございますけれども、しかし現状ではそうじやございません。やはり知つておることは全部報告に参ります。ときには法務府と見解が違う、明らかに法務府とその行政庁と見解が違うことが、法律問題などになつていることも決して少くはないのですが、そのために報告を渋るとか、隠すとか、そういう実情は私どもの方では今のところは見ておりません。そういう実情はないと思つております。
  33. 鍛冶良作

    鍛冶委員 まあそうだとすると、まことにどうも不徹底な法律だといわなければならぬ。そこで承りたいのは、今この改正案をお出しになりましたが、かようなものをやらなければならぬ、現行の通りでははなはだ困つたという実例はあるのでありますか、どういう場合でありますか。
  34. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 今具体的にどの裁判所の何号事件ということを覚えておりませんけれども、たとえばこういう事件がございました。国の行政機関としての市町村農地委員会が、農地改革について被告となつて訴えられたのでございます。ところがそれがずつと地方の方にありまして、それでしかも弁護士の選任といつたようなことについては、その市町村の財政上の理由でその市町村自身が弁護士の選任をすぐにはできない、また弁護士の選択ということについても何にも知識がない。それで市町村の人が農林省を通じて私の方に頼みに来ました。そうしてこの訴訟はとても自分たちにはできないから、法務府の方でその措置を講じてもらいたいと言つて来たことがございます。その場合に私どもの方としましては、法務府の職員をそこへ派遣してやればできないことはないのでございますけれども、しかしそれが遠方のような場合には、現在の職員では事実上できないのでございます。それでその措置として次に考えられるのは、行政庁にその弁護士を推薦して、その弁護士を選任することを勧めるということも考えられるのでございますけれども、それも今いつたようなその市町村の財政上の理由、そのほかの関係でなかなか敏速に行かないのであります。ところが一方訴訟の期日は容赦なく進行しますから、そういうときには結局その訴訟対策についての時期を失するということになります。そういうときにはやはり法務総裁として、ただちに弁護士を選任して、その事件をやらせるといつた方が、訴訟を時期を失しないで遂行する上において必要ではないか、そういうふうに思います。
  35. 鍛冶良作

    鍛冶委員 今のような場合は、話ずくでやるからいいのですが、行政庁で頼んでおる弁護士がどうもおもしろくない、法務府の意見と違う主張をしておる、こういうときに法務府の弁護士を別に出して法務府の意見を述べさせよう、こういうことになりりますると、相反する主張をする二派の弁護士が、同じ当事者となつて出るという実情が現われて来ますが、かようなときは全部解任してやりますか。それともそれでもかまわず、両方に違つた主張をさせながら黙つて見ておりますか。
  36. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 今までそういう実情に接したことはないのでございます。もし法務府の見解と違つた主張をする弁護士がおられましても、これは両方とも法律家ですから、一緒に法律の研究をすると自然にきまつてしまいますので、あくまで見解が反して困つたという現実の例は記憶しておりませんが、しかしあるいは今おつしやいましたような事態があり得るかもしれないと思いますので、その場合には現行法でやはり解任という道もございますし、それまでに至らない間に、その手続をしないうちに、二人の弁護士が法廷に出て、それぞれ相反した主張をするということも、あるいは過渡的にあるかもしれないのですが、そういうときの問題は、現行民事訴訟法の適用によつてきまるものじやないか、そういつたふうに考えております。
  37. 鍛冶良作

    鍛冶委員 進んで言いますが、行政庁から出て来た職員訴訟をやつておる職員を解任して、さらに弁護士の解任はできましよう。できましようが、取扱つた行政庁の解任ということはできません。訴訟をやりまするときには、何といつても一番大事なものは、すべて主張、証拠にいたしましても、当事者本人であります。しかるに向うから出したものをとりかえして、法務府で新たにやつて、はたして訴訟が円滑に行きますかな。
  38. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 実際問題として、そういう例に接しないのでございますし、現在そういうことが近いうちに起るということも現状では予想しておらないのでございますから、非常にむずかしいのでありますけれども、ほとんどそういうことはないのじやないかと思います。
  39. 鍛冶良作

    鍛冶委員 なければまことにけつこうですけれども、われわれはそういうことを予想できます。訴訟をやる上において……。そこで、先ほどから理論上のことを言つたのですが、翻つて承りますと、やはり行政庁に関する訴訟行政庁を主体としてやるのがほんとうじやないのですか。そこであまりにひどいことをやつて、あまりにしろうとくさくてどうにもならぬときには、これは黙つておれぬからやろう。こういうことならば私は聞けると思う。ところがあなたの建前は、すべて法務総裁指揮する、すべてに身を投じてやるのだ、こう言われるから、そういう議論が出るのです。行政庁で、手に余るからひとつ御相談願います、これはどうしたらいいでしよう、わかりませんと言つて来たときに、それならやつてやろう、こういうのならわかる。そうではない、全部やるのが建前だ、こう言われるから、それでは全部やれるか、こうい議論をわれわれは出すのです。そうでなかつたら私は、この五条、六条は円滑に適用になるものとは思われないのですが、これが根本なんだ、その点に対する御意見をひとつ承りましよう。
  40. 小沢文雄

    小沢(文)政府委員 法務総裁指揮内容はよく問題になつて来るのだろうと思いますが、その法務総裁指揮内容については、別にどの限度までというようなことについて、はつきりした規定はないのでございます。法務総裁自身が訴訟を行う場合を除いて、その他の一般指揮については、特に具体的なことは規定してないのでありまして、あるいは考えようによつては、その指揮内容として何でもかんでも全部こちらで内容をきめてしまう。たとえば訴状の送達を受ければ、法務総裁のつくつた答弁書以外のものは、あるいは法務総裁が承認した答弁書以外のものは一切出してはいけないとか、あるいは準備書面法務総裁の承認したもの以外は一切出してはいけないとか、そういうような内容訴訟指揮ということは私ども考えておりません。一応報告は認めて、そうしてその内容をずつと見まして、特に気をつけなければならぬものについては、行政庁にその事項を知らしてやる。必要があればこちらが準備書面も書いてやる。それはまつたくこちらが必要と認めた限度でやつておるのでございまして、もちろん建前行政庁当事者とする訴訟については行政庁が第一義的に訴訟するということで、実際法務総裁が自分で職員を出し、あるいは弁護士を選任して法務総裁みずから行政庁の意思を度外視して訴訟を遂行するということは、これはきわめてまれな場合であります。多くの場合は行政庁の能力の足りないところを補充する意味においてやると私は思います。それはあくまで能力の補充の意味を持つものでございまして、行政庁法務総裁とが対立して、その対立を解決する方法としてこの訴訟指揮の手段に訴えるということは、ごうも予想しておらないのでございます。
  41. 鍛冶良作

    鍛冶委員 きようはあなたにこれだけ申し上げておきますが、もう少し考えていただきましよう。すべて指揮監督をやるのだ、こういう頭でおいでになりますると、それでは目の届かぬところはどういうわけだ、そちらも怠慢になるし、向うも法律違反になると、こう言わざるを得ぬことになり、また実際はさようなことはできない。そこで行政庁は主としてやるのだということになりますると、行政庁で手に合わぬもの、御助力を願いますというものをやるということになれば、これはまことに円滑に行く、さらにどうも今の弁護士でよろしゆうございましようか、不足だとすればもつといい弁護士を頼みましよう、こういう相談が来る場合にやるというならば円滑に行くのですが、そうじやなくても、こちらの方で進んでやるのだ、こういう御見解ですと、先ほどから私質問するような疑念が解けぬから、これは今後この法律を実施する上においても、どこへ目途をつけるかという重大な問題でありますから、ひとつよく御研究願つてもう一ぺんあらためて御意見を承ることにいたします。
  42. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 本議案の審査はこの程度にとどめます。     —————————————
  43. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 次に安全保障条約に伴う外国人の裁判管轄件に関する件について発言の通告がありますので、これを許します。鍛冶良作君。  なお念のため御注意申し上げておきますが、法務総裁は約三十分ぐらいで他の会合に出席しなければなりませんので、質疑はなるべく簡潔にお願いいたします。
  44. 鍛冶良作

    鍛冶委員 近ごろ新聞紙上を見ますると、外国人の、いわゆる強力犯がしばしば行われることを聞いております。ところが一昨日富士銀行千住支店で起りました白昼の強盗、いわゆるギヤングと言われるものは、これは明らかに米軍の兵士のように書いてございます。はたしてこれは米軍の兵士であつたかどうか、さらに進んで、今まで新聞に出ておつたものでも米軍の兵士その他いわゆる進駐軍の兵員であつたかどうか、まずその点を承りたいと思います。
  45. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 千住ギャング事件、ただいまの調査の結果によりますると、アメリカ軍の服装をつけた者が二名、そうして二世らしき者が一名、確かに日本人が一名、こう四名であると報告を受けております。そこでまだこれは御承知通り逮捕されておりませんので、はたしてこれが米国の軍人であるか、あるいは米軍の服装を装つて来たものであるか、その点は判明いたしておりません。なおその他の事件につきまして、往々にして普通の米人が軍服をつけて、いわゆる軍人を装つてつたという事件も聞き及んでおりまするが、とにかくまだ逮捕されておりませんからその点のことは明確になつておりません、まことに遺憾でございます。
  46. 鍛冶良作

    鍛冶委員 この事件以外でもしばしばそういうことを聞きましたが、いわゆる進駐軍の兵員もしくは軍属でさような事件を起したことは過去においてあろうと思いまするが、それらの例をひとつおさしつかえない限りここでお示しを願いたいと思います。
  47. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 相当の数があることは推察されまするが、これらの事件は御承知のように、いわゆる向う側のCIDというのが取扱うのが大分ありますので、われわれの方といたしまてこの数字の点は判明いたしておりませんです。但し相当数あることは予想されております。向う側から数字その他についての情報をとることもできませんので正確な数はわかつておりませんです。
  48. 鍛冶良作

    鍛冶委員 相当数あるというのは被害届等、そういうことによつて承知になるのですか、それともあなた方の方で捜査権を行使せられましたがためにおわかりになつておるのでありますか。
  49. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 被害届等によつて推定するものでございます。
  50. 鍛冶良作

    鍛冶委員 さように相当数があるとすれば、治安の上においてたいへん大きな問題だと思うのでありまするが、かような被害届がありますると、現在のところでは日本の警察及び検察官がどの程度の捜査権を行使し得るものでございましようか。
  51. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 一般的にどういうふうにやつて行くかということを申し上げますると、まず日本側の警察官吏等が事件の発生を被害者の届によつて知りましたときには、大体その所轄警察署からただちに占領軍の憲兵司令部とかあるいは警視庁の渉外課、それから捜査一課とか、あるいはいわゆるCIDと言つております連合軍の犯罪捜査部と言いますか、これらの所に電話で実情を申し上げておきまするが、電話の報告をいたしますとともに、犯人を逮捕する見込みがあるというような状況でありますときには、ただちにMPの方へ出動を要請するわけであります。こういうことをやりまして、日本側の警察官吏はすぐ犯罪現場におもむきまして、被害届にあるような犯罪が発生しているということを確認いたしますと、もし犯人がその場に現在しておりますときは、日本側の警察において逮捕のできる場合はただちに逮捕いたします。これは日本側の警察において逮捕できる場合はと申しましたのは、御承知のように、例の昭和二十五年十月十八日付の連合国最高司令官の覚書、民事及び刑事裁判権の行使、この第二項Bに該当して逮捕し得る場合はただちに逮捕いたしまして、これをMPに引渡します。これ以外の場合は向う側の捜査に、できる範囲において協力をする態勢をとるということになつております。それからすでに犯人がもうその場におらぬ、逃走してしまつたという場合でありますと、通常の場合と同じように、緊急警戒を行うとか、あるいはいろいろ刻々に参りまところの情報を、——占領軍犯罪捜査機関と協力いたしまして、これらの情報を向うにも提供する、向うからもこちらが聞くというようにお互いに緊密な協力をしまして、その犯人検挙に努力する。それと警視庁の捜査一課におきましても、占領軍犯罪捜査機関と並行しまして、警視庁は警視庁として並行した捜査を行うということになつております。相互に自分の方だけで捜査をやつてはいろいろ困難な場合がありますような場合は、お互いにそこは協力しまして、たとえば占領軍のある施設内において捜査をやらなければいかぬといつたような場合とか、あるいはどういう犯人であつたかといつたような被害者の犯人確認とか、あるいは犯人に対する強制処分といつたものは、占領軍の犯罪捜査機関におきまして担当いたしまして、鑑識の点とか、あるいは似顔写真——最近新聞等に出ておりましたが、こういつたようなものの作成等の技術、あるいは日本人の間における聞込み捜査とかいつたふうな、いろいろ日本の風俗、習慣、地理の関係、これらのことをよく知つた者でなければできないといつたような捜査は、これは当然日本側で担当してやつて行く。こういうふうに今の実情はやつておるようです。こういうことをやつておりますが、先ほどのいろいろな制約がありますので、日本側の警察官吏独自の手によつて逮捕したという事例は、昨年度におきましては、ちよつと正確にわかりませんが、十一、二件くらい、今年に入りましてからは、たしか三件くらいだと記憶いたしております。
  52. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますると、いわゆる進駐軍の兵もしくは軍属に対する犯罪の容疑がありましても、日本政府には独自の捜査権がないのだ、CIDもしくはMPにあるので、どこまでもこちらは協力してやるのだ、かように先ほどからのお話は聞えますが、それでは協力する必要はない、やめてくれと言われれば、やめざるを得ないのですか。
  53. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 これはつかまえてみないと、はたしてアメリカの軍人か軍属かわかりませんので、日本側は日本の警察として、やはり向うと、また別個に、捜査の可能な範囲において捜査はもちろんやつております。
  54. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうすると、つかまえてみなければわからぬのだから、そこまでのところは別に区別なしにやつていい、かまうに解釈してよかろうと思います。そこでつかまえたらあなた方はどこへお引渡しになるのですか。
  55. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 つかまえてみまして、これがアメリカの軍人、軍属であるというようなことが確認されますと、普通は向う側のMPに引渡しているようです。
  56. 鍛冶良作

    鍛冶委員 MPに引渡すときには、もちろん犯罪の事実及び被疑者と認むべき証拠その他はそろえておやりになることと思いますが、その点はどの程度のものをおやりになりますか。
  57. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 具体的な事件々々によつていろいろ違つて参りますが、大体はそれまでにこちら側に持つてつた資料は向うに渡します。
  58. 鍛冶良作

    鍛冶委員 さらにその資料を渡したら、それから先の捜査状況というようなものは報告がありまするか、または聞きに行つたら聞かれるのですか。いわんや裁判に至つてはどういうものであろうか。
  59. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 別にそういうようなことはないのです。向うでやつているようです。聞きに行けば教えてくれるだろうと思いますが、向うから一々そんなようなことを知らせたりするようなことはないようです。
  60. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますると、被害者は日本人であつた、そしてその犯罪ははなはだ悪質なもので、日本国民に対して非常に不安の念を起すものであつても、いかなる捜査方法をやつているか、またいかなる裁判によつてやられたか、また犯罪に対して相当の処罰が行われておるやいなやというような重大なことも、こちらは全然わからぬ、また干渉すべきものでない、かように解釈してよろしゆうございますか。
  61. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 向うの裁判を傍聴して知るとか、あるいは新聞紙によつて知るとかいう方法とか、あるいは向うが好意的といいますか、任意的に知らせてくれれば別でございますが、向うとしましては別に知らせなければいかぬということはございませんので、極端に申しますと、わからない場合があるようであります。
  62. 鍛冶良作

    鍛冶委員 日本の治安を守る法務府といたしましても、この点ははなはだ遺憾であると私は考えます。われわれはこの上もない遺憾な点だと思われる。しかし占領治下でもありまするがゆえに、やむを得ないとあればやむを得ないでしよう。ことにいわゆるポツダム政令が出ておりまして、それに制約せられなければならぬ日本の現状でありまする限りは、いたし方ないと言われまするが、すでに平和条約の効力が発生いたしまするならばかような遺憾の点はすべてなくなるものであるとわれわれは信じ、かつはこれを待ち構えておるのでありますが、この点はいかがでしようか、これは法務総裁から承りたいと思います。
  63. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 ごもつともであります。行政協定につきましては、お互に主権を尊重するという建前ですべて取運んでおるのであります。
  64. 鍛冶良作

    鍛冶委員 行政協定のことについてはまたあとでも伺いますが、とにかくわれわれ国民といたしましては、平和条約の効力が発生したる以上は、かような不安の状態がなくなるものと信じております。この点に対しては法務総裁も同感であろうと思いまするが、まず前提としてその点を承りたい。
  65. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 鍛冶委員の仰せの通り、私もそのつもりであります。
  66. 鍛冶良作

    鍛冶委員 しかるところわれわれもいろいろうわさを聞くのでありますが、ことに昨日の朝日新聞の論説を見ますと、社説として、「重ねて行政協定に望む」という題で書いております。その必要なところを読んでみますと、「最近刑事裁判管轄権に関する取決めの内容が明らかにされたが、それによれば、米軍軍人、軍属、その家族が米軍施設や地域の外で犯した犯罪は、それが公用中と私用中とを問わず、当分の間米国側が裁判権をもつといわれる。これはいわゆる刑法上の属人主義を貫いたもので、米国軍人、軍属などがわが国内においては完全な治外法権を享有することを意味する。」と書いてあります。もしこれが事実であるといたしますならば、今われわれが考えましたる遺憾の点が、せつかく平和条約の効力発生と同時になくなると信じておつたにもかかわらず、行政協定によつてこの望みが断ち切られるという重大なる結果に及ぶのであります。そこで、かような事実が明らかにされたのでありますかいかがでありますか、まずその点から伺います。
  67. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 それは少し新聞の早手まわしの考えか何かがあるのであります。決してきまつているわけではありません。
  68. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そうしますれば、行政協定の中にこれに関するとりきめのあることはもちろん当然だろうと思いますが、それでは、現在ではまだこれらに対しては交渉中であると考えてよろしいのですか。
  69. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 まさにその通りであります。せつかく交渉中であります。
  70. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで、これはあなたとしてどこまで意見を述べられるかわかりませんが、さしつかえのない限り承りたいのですが、それは、米軍の施設以外の場所の日本で米軍人、軍属並びにその家族の者が犯した犯罪の場合、ことに被害者が日本人の場合におきましては、捜査権においても相当のものをこちらに認め、また裁判においても相当こちらの方で権限を持つにあらざれば、平和条約の効力発生の意味をなさぬことになると思いますけれども、これについて法務総裁は、どの程度のことを今日の日本としてぜひとも持つておらねばという所信をお持ちになつているか、おさしつかえのない限り承りたいと思います。
  71. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 捜査の点はもとよりでありますが、われわれが考えているのは裁判権の問題であります。そこで裁判権をどうするかということですが、これについては今折衝中であるということを申し上げておきます。捜査はむろん日本においてやるのであります。
  72. 鍛冶良作

    鍛冶委員 行政協定をやつておられるのはもちろん他の国務大臣であろうけれども、裁判権の他捜査のことにいては事ごとに法務総裁に御相談すべきであり、法務総裁に御相談なくしてさような協定はできないものであろうと私は考えるのでありまするが、それは必ず相談のあるものでございましようか。
  73. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 私も協力いたしております。
  74. 鍛冶良作

    鍛冶委員 従いまして今日具体的な内容はまだお話になれないのでございましようか。
  75. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 せつかく折衝中であるということだけお聞取り願いたいと思います。
  76. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先ほどから申しましたように、いやしくも独立国と言われまする以上は、かような事件に対して捜査権もない、ことに裁判に対しても何の権限もないというようなことになりますると、独立を得たる意味をまつたく没却するものと心得まするがゆえに、法務総裁としては、この点国民が安心し得るように——もちろんその前提として日本の治安が十分保てるようにして、しかして日本国民がこれならば安心し得るというところまで、この協定を持つてつてくださることを特に懇望いたしまして、法務総裁に対する私の質問を終ります。
  77. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 委員長として申し上げますが、この問題はきわめて重大な問題でありまして、行政協定によるという建前のようでありますけれども、もし行政協定にとりきめせざる場合は、国際法上あるいは国際慣行上それらの問題がいかに処理されるかということを政府においても十分検討さるべきであり、あるいはその点に対する御見解もあるかと思いますので、もしそれらについての検討がお済みでありましたら、この際佐藤意見長官あたりから一応御見解を発表されることが適当ではないかと思いますので、それをお求めいたします。
  78. 佐藤達夫

    ○佐藤(達)政府委員 お言葉ではございますが、ここで申し上げるにつきましてはまだ少し時期が早いというふうに存じますので、近い機会にその発言をお許し願いたいということで御了承願いたいと思います。
  79. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 鍛冶委員の質問に関連して法務総裁にお尋ねをいたしたいのでありますが、過ぐる十二国会におきまして平和条約並びに安全保障条約の審議が行われました。その節政府から、行政協定の内容はまだ妥結に至らないから発表することができない、しかし安全保障条約を基礎にして結ばれる行政協定には治外法権的な規定は絶対設けないつもりである、それをやらないつもりであるというはつきりした言明を得て、われわれは安心して安全保障条約を通過さしたものであります。この点に対しては法務総裁も御信念をお持ちになつて政府の国会へ発表された線に沿つて、担当大臣とともに現在折衝を行われておると思いますが、十二国会における政府考えと今国会における政府考え、この考え方の点において、具体的な問題について多少なりとも変更された点がありましようか、この点について承りたいと思います。
  80. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 もとより十二国会で政府が発表した考えと同じ考えを持つて、先刻申し上げました通り、お互いに主権を尊重するという建前でこの交渉を進めておる次第であります。
  81. 加藤充

    ○加藤(充)委員 行政協定の中身について、当委員会としてぜひその関連のものとして確かめておかなければならない裁判管轄等に対する治外法権について一、二点関連的にお尋ねいたしたいと思います。政府は予算委員会あたりの答弁によりますと、緊急状態、あるいは超緊急状態、緊急非常状態というような言葉の使いわけをやつているようでありますが、国際用語、あるいはアメリカとの協定等に関しては、アメリカの法律用語が使われていなければならないし、それとの関連においてわれわれは日本政府が使いました言葉を吟味しなければならないと思うのであります。「軍事基地に関するアメリカ合衆国とフイリピン共和国との間の協定」なる文書を読みますると、その第十三条の四項の(b)号には、「国家非常事態の期間中」云々、それから同じく六項には、「戰時においては」云々というようなことが、裁判権に関する管轄の問題についてうたわれておるのであります。従いましてこの点で政府は緊急状態だとか超緊急状態だとかいう、日本語になじまない用語を使つておるようでありまするが、この点をひとつ明確にしていただきたいと思うのであります。
  82. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 御承知通り、非常事態宣言につきましては、警察法第六十二条で明らかに国家公安委員の勧告に基いて総理大臣がこれを布告するということになつておるのであります。それでただいまの御質問の超非常事態、これは何を指しているかわかりませんが、おそらくは突然の外敵の侵略というようなことを意味されておることと考えられるのでありますが、そういう場合にはどういうぐあいに処置して行くかということについては、これは駐留軍と日本政府との間においてとりきめられるものと、こう考えております。
  83. 加藤充

    ○加藤(充)委員 そうすると超非常事態という日本語の意味は、アメリカの法律用語、あるいはそのアメリカを中心にした諸国家との協定に表われた文言からいえば、戰争ということに理解してさしつかえないのですか。
  84. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 私は行政協定のうちに、超非常事態という文字を使つておるということは聞いておりません。
  85. 加藤充

    ○加藤(充)委員 これは新聞の早耳だというかもしれませんが、二月十六日の朝日の記事だと思いますが、次のようなことが載つたのであります。「もともと米国側は外敵の侵略などによる緊急事態の場合は駐留軍は行政協定にしばられず、その行動の自由を持ち、かつ日本の防衛隊をも米駐留軍の單一指揮のもとに置きたいという考えであり」これを行政協定にどう表わすかということが問題になつて、せつかく御交渉中である。そしてこのことを成文の上に載せることは国民感情——これは日本人の国民感情ですが、これに影響するところをおもんぱかつて、これは成文外の了解事項、あるいは成文外のとりかわし文書でまとめたいというようなことで、鋭意御折衝中であるというような記事が載つていたのでありまするが、そこらの真相を今鍛冶委員あるいは田嶋委員からもありましたように、こういうようなことが問題になりますると、裁判権等に関する治外法権の問題に関しても重大な問題が出て来ますので、そこをひとつわれわれの得心の行くように明確に言つてもらいたいと思います。
  86. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 新聞記事に何が書いていようとも、私は責任は持ちませんし、またそういうことは一向耳にしておりません。
  87. 加藤充

    ○加藤(充)委員 私は、責任を持たぬという言葉が責任大臣の口から漏れたということは、重大だと思う。今ほかの委員からも問題になつた点は、ここでわれわれ真剣に考えなければならないと思つている点は、責任を持つてもらいたい、日本政府は日本人に対しての責任を果してもらいたいということが、問題になつているのであります。ところが富士銀行の千住支店の問題につきましても、あなた方は今の答弁通り、責任を持たないという、この点が私は重大だと思つているのであります。それで、先ほどの質疑の中にありましたように、政府は連合国軍人あるいは連合国人が日本の国土内において日本の法規を踏みにじり、日本人に被害を与えた場合において、一番下級の所轄警察にまかせ切りにする、それ以上の権限はあり得ないのだから仕方がないというような態度で、そのものにまかせる。そうして政府としまして、協力ということがあるが、進んで犯人検挙についての強い要請、あるいはまた独自の捜査をやりまして、その独自の捜査に基いたものをもとにして、進んで積極的に検挙逮捕の協力をやるということにならなければならないと思うのでありますが、それがやられたということを聞かないのであります。これは私どもの現場に行つて調べた事実でわかるのであります。あなたが好んで新聞記事に責任は持たないといわれるのですが、われわれが調べたところと、まつたく符節を合致している新聞記事があるので御紹介します。これは毎日新聞の「うわさ雀」という欄であります。「ともかく素手ではネエ……」というのです。「こんな時に腰にイキなピストルをぶら下げたお巡りさんが一人でもいたら犯人をみすみす逃すはずはない……と思うのは都民の気持です。」ところが日本の武装警官が、しかも責任の相当重い部長というような者が、一人でなしにおつたのであります。「都電運転手飯田静寿さん(三一)はこう証言しています。「ところが実はパトロールのお巡りさん二人が現場にいあわせたんですよ。賊が銀行に押し入つている時にお巡りさんがソレと気づいて表と裏の二手に別れたのでてつきりハサミ討ち戰法だと期待していたんですが、お巡りさんもやつぱり人間ですよ」」こういうことで何にもならなかつたのであります。しかも向うがパチンコを撃つならば、こちらはやはり正当防衛だ、それこそ自衛権で、腰に下げたピストルはだてじやござんせん。結局もう撃ち合いをするところまで行かなければ、日本の治安を預かる日本政府として、木村さんあたりがそういうときにはどんどんそれに適当な処置をするという責任をとらなければ、責任をとつておらないというあなたの気持が末端まで行きまして、そうして武装警官の武装というものが何にもなつてないということが、千住の富士銀行の白昼ギヤング事件に現われていると思うのでありまするが、この点について明確な御答弁を願いたいと思います。
  88. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 ただいままでの捜査報告によりますと、当時は警官がいなかつたということであります。そこでこのギヤングが入つたときに、事務員が火災の非常ベルを気をきかして鳴らしたためさつそく消防夫が——三名と聞いております。数ははつきりしませんが、たしか三名がかけつけたそうであります。それはもちろん火災非常ベルでありますから、火災と思つてつたらしいのです。ところがギヤングがピストルを向けて何したから、抵抗はできなかつたということを聞いておるのでありまして、それがあるいは警官と間違えられたのではないかと想像しております。今までの経過報告によりますと、警官はいなかつたということになつております。
  89. 加藤充

    ○加藤(充)委員 この点はあなたが無責任だと思うから、しつかり調べて、しつかりした答弁を望むのです。この記事はあとにも続くのですが、パトロールのおまわりさんは名誉挽回とでも考えたのか、はつと気を取直すと、そこへ疾走して来たトラツクを拾つて、賊のジープをなんと約五百メートル追つかけたにすぎないということが書いてある。私どもは当夜現地に行きまして調べたのにも、その近くにパトロールの巡査部長一名と巡査が来ておつた。そこに女事務員の気転によつてブザーが鳴つて消防署に通知され、消防署員もかけつけたことは明らかでありますが、明らかに巡査が来ておるのであります。治安を守るために武装させられておる巡査部長も部下巡査を率いてパトロールに来ておるのである。こういう事実がまだあなたのところに届けられていないということで、知つていてしらを切るならば、あなたは無責任きわまる治安大臣だと断言して、叱責しなければならないと思うのだが、もう一回その点をはつきり答えてもらいたい。
  90. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 われわれの方に参つております報告は、もちろんまだ詳細な報告はございませんが、今日まで受取つております報告によりますと、最初に参りましたのは、先ほど総裁がお答え申した通り、消防が参りまして、警察官は犯人逃亡後に現場に参つた、こういう報告を受けております。
  91. 加藤充

    ○加藤(充)委員 私は思うのだが、その当日渋谷の駅頭には新聞で御承知のように、再軍備になれば徴兵になることは必然で、その被害の対象にされる学生が、聞けわだつみの声を再び繰返してはならないということで、徴兵反対の署名運動をやつていたのであります。間髪を入れず五百有余に及ぶ武装警官がいち早く機動隊でかけつけた、こういうようなことが言われておるのであります。われわれの経験から見れば、何が始まるかわからないのに、あるいは何も不穏なことが計画されてもおらないのに、かつてな妄想をたくましくして、武装警官を配置して、それがトラック一台や二台じやございません。われわれの国会報告演説会などにも、なけなしの予算を食つて、武装警官を満載したトラツクが四台も五台も夜の演説会に朝から他町村まで出かけて、警備おさおさ怠りないというようなことをやつておる。  もう一つ思い出しましたが、これは木村さんが就任する以前の問題ですが、新潟県中魚沼郡十日町の谷矢一郎という人のところの二階に盗聴機をひつつけて、許すことのできないのは、そこの夫婦のむつ事まで聞いておつたというようなことをやつて、警官が近所の床屋かなんかでそういうばかげたことまで吹聴して笑つてつたというような事実がある。こういうことをやりながら、国民をみんな敵視して、そして武装をさしておきながら、かんじんかなめの白昼公然たる銀行への強盗ですよ。銀行というところは日本人の財産を守るのにどこよりも安全なところだという信用を置かれておるところなんです。そこへ来て、パトロールの巡査部長も来ておつた、ブザーが鳴つたというときに、われわれは、たとい取逃がしても間髪を入れずに数百人の武装黒装束が渋谷の街頭に招集されたというような態勢が——アメリカ人がやつたか軍人がやつたかわからぬというようなことを言つている間に、そういう万全な対策をとられたことを聞かないのであります。しかもここで答弁すると、バッジをつけた二世にも不審があるというようなことで、ただ一人だけ日本人が犯罪人であつたということは明らかでありますというような卑屈な、屈辱的な答弁をはつきりやつておきながら、アメリカの軍人がやつたかどうかわからないというあなたの答弁だから、なぜ一千人でも二千人でも黒装束の武装部隊を配置するだけの手配をやらなかつた。こうなつて来ると、事態は明瞭です。日本国民を明らかに敵視して、これにピストルや武装をさせておるけれども、その背後にあつて、間違つて二十九箇も爆弾を投下したというようなばかげた治安の錯乱、撹乱等に対してあなた方が取締ろうともしない。そうして自衛隊だとか防衛隊だとかいうけれども、保安とか防衛とかいうことを何と考えておりますか。
  92. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 簡潔に願います。
  93. 加藤充

    ○加藤(充)委員 要は日本の完全な独立を守るための武装軍隊によつて独立を侵害し、治外法権的な特権で、なお占領時代のありの特権を継続して行こうとするような実質上の占領政策の継続というものをわれわれが打破して行く、打切つて行くというのが、いわゆる外敵の武装的な侵略を日本人みずからの手で守つて行くという本質ではないか。この点について木村さんの決意を聞きたい。
  94. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 御意見としてよく承つておきましよう。
  95. 加藤充

    ○加藤(充)委員 ノー・スピーキングということを言い出してピストルを突きつけるというやり方は、これは新聞の表現を用いれば、言論弾圧強盗と言つています。(笑声)これは笑い事じやありません。これは意味深長であります。武装力を背景にして、日本の憲法のもとにおいて、いわゆるポ政令だとか、その他の実力的な支配によつて言論を弾圧し、超憲的な権力と称して憲法を無視し、あるいは憲法に規定されていないものを押しつけて参つたのが、言葉は妥当でないかもしれませんけれども、明らかにこれは占領軍であります。言葉をかえて言うならば、言論弾圧的な武力である。強盗というわけにはいきますまいが、同じような実体を持つたものだと思う。今度はそれが白昼公然と冨士銀行の千住支店に現われた。帝銀事件はあれもノー・スピーキングと言つたかどうかわかりませんけれども、明らかに英語を使つたのだという。あの当時の新聞には、日本の東京都の役人というようなものを有識者、ホワイト・カラーの銀行員がみな信用して毒薬を飲まされた。こういうばかげた封建的な官僚意識を国民の間から払拭しなければならないということをわれわれは聞いた。ところが、今の状態で、今の木村さんの日本の武装警官の配置、動員、犯人検挙の措置などについてもわかるように、軍人かどうかわからない。そういうときに、もうCIDと連絡をとつただけで、所轄の警察にまかして警視庁やあるいは検察庁は、ただあつけらかんとして拱手傍観していたという実態が明瞭なんだ、こういう状態ですから、結局アメリカの軍人、アメリカ人というものに対しては、特に卑屈な日本の古い封建的な官僚支配にかわつて、新しい危険な状態が日本に出て来ておるのであります。こういう点を見まして、私は帝銀事件などが同じ銀行であるからイコールにするのではないが、ノー・スピーキングと英語を使つたというような事柄から考えてみまして、犯人はあがつてもやはり大分問題があるような事案でありまするから、私はこういうときに法務総裁が、確かに三人組か四人組の一人は日本人だつたという、そういうような根性で、明らかに外国軍人だということを考えて手配に怠りがあつたような——占領下だからしかたがないとは言いながら、万全な日本人の犯人を検挙する、逮捕するような態勢をとつておらなかつた、この卑屈な根性があくまで続けられるというようなことでは困るのであります。私はそこで治外法権の問題をもう一つ最後に聞くのですが、せつかく独立が回復するというようなことを言つておりますが、巷間伝えられておるような治外法権、裁判管轄権等に関する治外法権が協定されるということになりますれば、今ここで問題になりましたような状態が、ますます今後はコンクリート化されて無期限に継続強化されて行くことに相なるのだと思うのでありまするが、せつかく交渉中だというが、あなたも武道の達人とやらで日本人らしい日本人を建前にしているはずなんだ、そう宣伝されている。だからあなたは鋭意交渉中であると言うが、もしこういうことが永続的に継続され、あるいは強化されるという事態になつたら、あなたは職を賭してやられるかどうか、聞くところによれば、あなたに質問するが、去る一月中にあなたの大臣就任を祝賀した東京の弁護士会の祝賀の席上で、私は断固として反共の闘士として共産党弾圧に立ち向う、武運つたなく破れることがあつたら、葬式だけは盛大にやつてくれというようなことを言つたと聞いておるのであります。言つたろうと思うが、その点についてもあわせてあなたの答弁を求めておく。そういう根性だつたらもつてのほかだということを私は言いたい。
  96. 木村篤太郎

    ○木村国務大臣 いろいろと御意見を承りましたが、私は断じてアメリカ軍に対して卑屈な考えを持つておりません。交渉することは交渉いたします。われわれは本来の日本人であります諸君とともどもに、日本人として接して行きたいと考えておるのであります。私が弁護士会において育つたことについては、ここで御質問に応ずることはできません。
  97. 山口好一

    ○山口(好)委員 簡單に、今の加藤君の意見に関連して……。結局加藤君の聞かんとするところはこのギヤング事件について、政府は直後及び現在において、万全の処置をとつておることと思うのですが、その処置がいかにとられておるかを聞きたいのだろうと思う。それを簡潔にお答え願います。
  98. 草鹿浅之介

    草鹿政府委員 先ほど一般の場合におきます実際にやつておりまする手続の径路を御説明したのでありますが、本件におきましても、やはり同じような手続をとりまして、検察庁におきましても、すでに検事を現場に派遣して、警視庁その他関係側とも協力をいたしまして、目下緊密に捜査をやつております。
  99. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 以上をもつて暫時休憩いたします。     午後一時十六分休憩      ————◇—————     午後二時三十分開議
  100. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  安全保障条約に伴う外国人裁判管轄権に関する件についての調査を進めます。発言の通告がありますから、順次これを許します。  なおあらかじめ申し上げておきますが、岡崎国務大臣は渉外関係で約三十分ほどしか時間の余裕がないそうでありますから、その点お含みの上質疑を要領よく簡潔にお願いしたいと思います。鍛冶良作君。
  101. 鍛冶良作

    鍛冶委員 近時新聞紙上で外国人の強力犯、俗に言うギヤング事件がしばしば起つておるように聞くのであります。ことに一昨日富士銀行千住支店において銀行ギヤングが起りまして、これも目撃者の談によりますれば、外国人、ことに米軍の現役兵のようであつた、かように聞いておるのでありまするが、先ほど不幸にして国務大臣はおいでにならなかつたが、法務府の総裁並びに係官に聞きますると、いわゆる占領軍の兵士及び軍属にしてこのような事件を起したものは相当数あるということでございます。しかるにこれに関する捜査権も十分持つておらないし、裁判権はもちろんありません。しこうしていかに処罰せられたかもわからぬという状態でありまするがゆえに、これははなはだ治安の上においてもよろしくないし、ことに日本国民として国家の有する重大なる裁判権をみずからの国で行うことのできないことは、非常に遺憾であります。しかし占領治下にありまして、いわゆるポツダム政令に基いてできないのであればやむを得ないが、平和条約の効力が発生して、日本の国が独立したということになると、かようなものは一切なくなつて、十分捜査もなし得るし、裁判もなし得るということでなかつたら、まつたくの独立は認められない、かような意見でありましたが、岡崎国務大臣はこの点に関してどのようなお考えをお持ちになつておるかまず承りたいと思います。
  102. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 全般的に言いましてただいまの国際慣習といいますか、最近におきましては国の防衛につきましても、経済の発展につきましても、多数の国家が集まつてお互いに助け合わなければできないという観念にかわつて来ましたので、どこの国も自分の国の主権を一歩も譲らないんだとがんばつている状態からかわつて来まして、お互いに主権を譲り合つて、これによつて防衛も経済も発展させて行こう、こういう傾向になつております。北大西洋条約などはそのいい例でありますが、アメリカといえども自分の主権を一部放棄し、イギリスも放棄しておる。こういうことでお互いに信頼し合い、かつ友好的にその間の問題を処理して行くという考えに来ております。そこで今回の安全保障条約に基くアメリカ軍の駐留にしましても、まつたくこの考えで来ておりますから、大体において外国の軍隊がある一国に駐屯するということは、何も日本が初めてでなく、昔からもありますし、現在も方方で行われておりますから、その間に国際法的の規定及び国際慣習に基く約束等が自然にできております。これを大別しますと二つにわかれます。一つは、フイリピンに行われているようなやり方でありまして、国内においてかなり広汎な地域を軍事基地としてアメリカの軍隊に提供する、その場合にこの基地内においてはアメリカ軍に属する者はもちろん、あるいは第三国人でもフイリピン人でも、あらゆる国の人間がこの基地内においてはアメリカの裁判管轄権に服する、そのかわり基地外ではアメリカの軍人でもその他の国民でもすべてフイリピンの裁判管轄権に服する、こういう一つ考え方があります。もう一つ考え方は、こういう一定の区域内においてもアメリカの軍人、軍属、家族等はアメリカの裁判管轄権に服するがその他の国の人間、ことにたとえば日本なら日本人等は当該国つまり日本なら日本の裁判権に服する、そのかわり基地外においてもアメリカの軍に所属する者はアメリカの裁判権に服するし、そうでない者は日本の裁判権に服する。片方は、基地内は全部アメリカの裁判権、基地外はフイリピンの裁判権、もう一つは、区域内では人によつてどちらの裁判権が適用されるかがきまる。区域外でも同じようなことがきまる。これはどちらでもある程度の理論があつて一貫しておると思うのでありますが、フイリピンのような形で協定が結ばれることについては、最近の方々の国の学者等の意見では、非常に治外法権的な観念が入つておるということで、なるべくそういう方式をとらないで行きたいというのが多くの人の考えのようであります。そこで今度の行政協定におきましても、第一にはアメリカの軍人及び軍に属する他の者たちも日本の法律を尊重する、日本の法律に違反した者は処罰される、こういう大きな網が一つかかつておりまして、それは基地内といえども、基地外といえども同じであります。ただその法律に違反した場合に、だれが裁判するか、こういう問題になると、今申したように、基地内は絶対にこつちだとか、基地外は向うだとかいうのと、基地内外を問わず、国籍によつて一定の裁判権をアメリカが持つとか日本が持つとか、こういうやり方と両方あるわけであります。進歩的といいますか、最近では人によつてかわるということが最も適当であるということになつておりますので、今度の話合いもそういうふうな傾向に向うのは自然であります。またその方がいいと思いますが、ただそれについてはまだこまかい規定が多少あります。今おつしやつたように、たとえば日本の法律に違反したアメリカ人が基地外でやつた場合でも、アメリカの裁判権に服する、これはそうしても、いかなる処罰をしたか、どういう措置をとつたかということについて、日本側にどういうふうに通知するか、あるいは場合によつたら重要なる——これは北大西洋条約の案文にもあるのですが、重要なる国内的の犯罪をアメリカ人が犯した場合には、アメリカ側が裁判するべきものであるけれども、裁判権を放棄して日本に渡すかどうか、そういう問題がありますので、いろいろ今話中であります。その話の内容は、まだ発表する段階に至つておりませんが、大筋はそういうふうに行つております。なお一番いいと思われるのは、北大西洋条約の多くの国々がお互いに話合いまして、北大西洋条約に基く行政協定をつくつておるのであります。これが一番理想的なものであるとされておるのでありますが、それがまだ効力を発生しておりません。それでわれわれとしては、今は話合いに基く——いつきまるかわかりませんが、きまりましたら行政協定でこのまま進んで行く。そして北大西洋条約の行政協定が効力を発生したならば、日本としては現行というか、今つくりつつあるものによるか、それとも北大西洋条約の当該規定をもつて来て、今の規定にかえるか、その選択権を日本で持つようにしたい、こう考えて話合いをしている最中であります。
  103. 鍛冶良作

    鍛冶委員 行政協定のことを承つたら、その内容もお話になつたので、まことにけつこうでありますが、その前に私まず前提として聞きたかつたのは、平和条約の効力が発生します以上は、いわゆる完全なる独立国でありますならば、この国内において犯した犯罪に対しては、この国の法律が適用になる。この国の法律が適用になりまする以上は、この国の裁判に服する、これが本則であろうと私は思いまするが、おそらく岡崎国務大臣もさような御観念であろうと思われるのであります。そこで行政協定の前に聞きたいのは、もし行政協定がなかつたとしたら、この問題は平和条約の効力が発生いたしますると、どういうふうに行くのが至当なものであるとお思いになつているかということを承つておきたいと思います。
  104. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 行政協定がないとしたらというのは、ちよつと私にははつきりわかりませんが、つまり安全保障条約がないとして、アメリカの軍隊がここにいないとした場合とすれば、これは外国人はすべて日本の法律に従い、日本の裁判管轄権に従う、これは当然のことであります。外国の軍隊が国内におりました場合は、ほかの一般の外国人は、やはり同じ原則が適用されて、日本の裁判権に服するわけであります。外国の軍隊が他国の国内におりました場合は、これはたとえば明確に規定されてありますのは、国際法ではたとえば外国の軍艦が一国の領水内に入つて来たとする。その軍艦内においては、他国の裁判権は行使できない。あるいは外国の使臣つまり大使とか公使とかがおります場合は、大使館、公使館の中は治外法権的に、その国の法律等は適用されないし、裁判権等は行われない。これは国際法に明記してあります。軍隊の場合もそうであります。軍隊が駐留するという点にははつきり書いてありませんが、とにかく外国に軍隊がある場合に、それがどういう形で、たとえば宿舎を持つているか、テントで住んでいるか、どういう場合が一般の形でありましようか、そういうときには軍隊に対しては、その国の法律が適用されず、裁判管轄権は行われない。これが国際法上きまつた規則であります。そこでそういうものか安全保障条約であつた場合は、やはり国際法的な取扱いを受けるのは当然でありますが、もしそういうものがなければ、すべての外国人は日本の裁判権に服する。またあつたとしても、軍隊以外の外国人はやはり日本の裁判権に服する、こう考えております。
  105. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そこで今安全保障条約に基いてアメリカの軍隊が日本に駐留するで奪うということは、われわれも想像している。これに基いて、今のお話の裁判権がどうなるかということは、現に国務大臣が折衝中であります行政協定によつてきまる、こういうことでありまするがゆえに、その点を承りたいのでありますが、昨日の朝日新聞の論説に、「重ねて行政協定に望む」——これは大臣ごらんになつたかどうか知りませんが、このうちで裁判に関するものが載つておりますが、かように書いてあります。「最近刑事裁判管轄権に関する取決めの内容が明らかにされたが、それによれば、米軍軍人、軍属その家族が米軍施設や地域の外で犯した犯罪は、それが公用中と私用中とを問わず、当分の間米国側が裁判権をもつといわれる。これはいわゆる刑法上の「属人主義」を貫いたもので、米国軍人、軍属などがわが国内においては完全な治外法権を享有することを意味する。」こういう重大なる記事が載つておるのであります。そこでかようなとりきめがされたのでありますか。また確定せぬでも、交渉の内容として、かようなことが明らかになつたでございましようか。まずその点から承りたい。
  106. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これは先ほど申しましたように、国際的には二つのやり方かあります。その一つをあげたものと思います。まだ話合いは終結しておりません。従つて発表した等のことは全然ございません。  なお軍人、軍属及びその家族ということになる点において、家族まではやや行き過ぎではないかという説があるのであります。しかしながらこのごろは、まあ日本でも婦人を大いに尊重しておりますから、違うのかもしれませんが、外国の多くの国におきましては、家族は当然軍の一部と取扱われております。これは外国の慣習ということになつておりまして、家族を除外するということは適当でないと考えております。もつとも家族と申しますのは、婦人と子供になるか、あるいは年寄りの親になるかと思いますが、成年以上の子供たちは、いわゆるその軍に属する一員とは認められていないのが通例であります。未成年の子供たち、これを家族の一員に加える、つまり軍の所属員に加えるというのが通例のように考えております。
  107. 鍛冶良作

    鍛冶委員 軍人、軍属家族は別としまして、今国務大臣の言われたことと大きな違いがありますのは、米軍施設及びその地域外で犯した犯罪、それが公用であろうと私用であろうとを問わず、当分の間米国側が持つというのが、これが先ほどのあなたのお話と大分違うのですが、かようなことは絶対ないのですか。施設外で犯した罪については、すべて日本の法律に服し、かつ裁判に服す、かように考えておつてよいのでありますか。
  108. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 今私の申したのと違わないと思いますが、私の申したのはつまりフイリピンのようなのは、大きな基地を設定しまして、その中では軍人もあるいはフイリピンの国民も第三国人もすべてアメリカの裁判管轄権に服する。その外はフイリピンの裁判管轄権に服する、こういう一つやり方と、基地の内外を問わず基地の中でも、日本人あるいは第三国人は日本の裁判管轄権に服する。アメリカ人は基地の外でも中でもすべてアメリカの裁判権に服するという、いわゆる属人的なのと地域的なのと、二つありまして、今では属人的な取扱いが正当であるという観念に一般に見られておる、こう申しておるのであります。
  109. 鍛冶良作

    鍛冶委員 そういたしますと、大体においてそれは属人主義をおとりになるか、属地主義をおとりになるかわかりませんが、属人主義をおとりになれば、ここに書いておるようなことになつておると解釈しなければならない。そういたしますると、属人につきましては、向うの軍隊が日本に駐留しておるという原因のために、それに対して治外法権が認められたと解釈してもいいように思いまするが、この点はどうお考えでありまするか。
  110. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 治外法権の法律的解釈は鍛冶君の方が私よりよく御存じだと思いますが、これは従来の観念から申しますと、たとえば日本にいる外国人が日本の法律に服さないで、つまり日本の法律で罪になつてもそれは罪にならない、外国の法律で罪になつた者だけが罪になるという、つまり外国の法律だけが適用される。そうして外国の裁判権が管轄する、こういう場合を称して普通治外法権と申しておるのであります。一般に外国の軍隊が他国に駐屯する場合は、フイリピンのような場合には一定の基地内ではアメリカの法律が適用され、アメリカの裁判権が適用される。結局一種の治外法権的なものに基地内ではなるかもしれませんが、日本の場合はこれは話合いが出て新聞にも公表されておりますが、アメリカの軍人、軍属と軍所属員も日本の法律を守る。従つて日本の法律に反した行為をすれば処罰をされる、ただその処罰される場合に裁判の管轄が属人主義で行つておるわけでありまするから、治外法権とはわれわれは考えておらないのであります。
  111. 鍛冶良作

    鍛冶委員 なるほど完全なる治外法権でありますまいが、われわれの治外法権の意味で最も重きを置きますることは司法権であります。司法権の及ばざるものはまず治外法権と、これは嚴格なる意味でそうは解釈できぬかもしれませんが、何と言いましても、そのものに対してその国の法律に服するという以上は、その国の司法権に服するということが大切だと、こう思いまするが、この点は国民の最も多く関心を持つておる点であります。今国務大臣が言われたように、昔と大分観念がかわつておるかもしれませんが、かつて外国との条約を結びまするときに、日本の法律に従うけれども、裁判は日本人だけでやつては不安だ。その国の裁判官を交えたいわゆる共同裁判でやろうというので、大隈公がこれをやつてたいへんに問題を起したことも歴史上御承知だと思いまするが、今日国際法上の慣例等でそうだというならどうか知りませんが、この協定によつてさようなことができますると一種の治外法権と同様のように心得まするので、われわれとしてははなはだ遺憾でありまするが、この点はまだきめてないから抽象論になりまするが、国務大臣はさようにはお考えにならぬものでしようか。
  112. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 私は外国の軍隊が他国に駐屯する場合におきましては、先ほど申しました属地主義か属人主義かのどちらかの裁判管轄権が必要になると考えておりまするが、国際的の慣例によつても今までのところはそれが認められております。従つて選択は属地主義がよいか属人主義がよいか、どちらがよいかと言えば、正確には言えませんが、むしろわれわれは属人主義の方がいいと考えておるのでありまして、国際的な慣習から言えば、どうもおかしいようには考えておりません。
  113. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先ほど北大西洋条約は最もいい例だとおつしやいまするが、この点に関する北大西洋条約の内容はどんなものでございましようか。
  114. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 ただいまここに案文を持つておりませんから、正確なことは申し上げられませんが、北大西洋条約はむしろ区域内においてはその国の裁判管轄権が及ぶように主張しておるようであります。ところがこれは今申しましたように、アメリカ側の反対がありまして、アメリカの上院の批准を拒んでおります。従つてまだ成立するかどうかはわからないのでありまするが、もし成立した場合は、日本としてはそちらがよければそちらをとる、こういうことにいたすつもりでおります。
  115. 鍛冶良作

    鍛冶委員 北大西洋条約はアメリカの批准ができないとすれば、これは国会で承認しないということになるから別ですが、アメリカの状況としては、かようなことが国際慣例上及び独立国の協定としてはよろしいという信念を持つて結ばれたものだと思うのであります。従いましてこのたび日本も独立国と認め、お互いに対等の立場において条約を結ぶいうことは、しばしばわれわれの聞いておるところでありまするがゆえに、少くともこのたびの行政協定においても、北大西洋条約と同一の内容を有するくらいのものがあつてしかるべきじやないかと私は考えますが、この点は国務大臣はどうお考えでありまするか。
  116. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 これはつまり駐留する軍隊は北大西洋条約ではたくさんの国がありますが、アメリカの軍隊が行つてフランスに駐留したり、イギリスに駐留したりすることになります。そうして条約はできたのでありまするが、その行政協定がまだできてない、行政協定をつくる場合に多数の国が相談してきめるわけでありまするが、これは正確かどうかわかりませんが、反対はいつもアメリカ一国で、あとの国はみな賛成の方へまわつて、多数決でアメリカの委員は押えつけられたと聞いております。つまりアメリカは国際慣例がそうじやないのだから別のやり方をやりたいというのが、北大西洋条約のほかの国は全部これがいいといつて多数で押えておる。従つてアメリカの上院はその行政とりきめを承認しないで今日に来ておる、こういうふうに聞いておりますが、これは正確かどうか他国のことですからよくわかりません。要するにアメリカ側は日本に対しても、北大西洋条約の諸国に対しても、今までの国際慣例に従つた裁判管轄権、こういうふうに主張しておるように聞いております。
  117. 鍛冶良作

    鍛冶委員 先ほど申しましたように、行政協定のない場合は国際慣例に基く、これは国際慣例に基いてやるものに対しては、日本国民といえども決して不平はありません。それが行政協定のために国際慣例以上に日本の独立権が押えられるということになりますると、これは何と申しましても不平不満のないわけには参りません。しかし安全保障を頼みまする以上は、がまんせなければならぬところはがまんするでありましようが、少くとも司法権というようないわゆる三権分立の一つでありまする最も国権の大きなものを、特に押えつけられることは最も国民のきらうところと考えておりまするので、これは岡崎国務大臣にしたつてわれわれと同様だろうと思いまするから、今後といえども国民のこの感情及びいわゆる独立国として対等の地位でこれを協定するという原則をもととせられまして、治安に不安を感じ、国民に不満を感ずるような協定でないようにひとつ御努力あらんことを、私から特に希望いたしまして私の質問を終ります。
  118. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 お話はよくわかりましたから御趣旨をできるだけ尊重いたします。ただ今回の協定は今までの国際交渉と違いまして、根本に互いに好意と信頼がなければ実現のできないような条約であります。従つてわれわれの方でも、でき得る限りの好意を持ち、できる限りアメリカに信頼して交渉しております。先方も同じことであります。今度の裁判管轄権につきましても、従来の国際慣例を尊重して行うという趣旨にしておりますが、その従来の国際慣例は私が今まで申した通りであります。新しく国際慣例ができるとすれば、これは北大西洋条約の行政協定ができたときであります。そのときは今度は日本の希望によつてそれをとつてもよろしいし、今までのでもいい、こういうふうにいたしたいと考えます。
  119. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 なお委員長から一言申し上げておきたいのでありますが、渉外事件に対する立法並びに裁判管轄の主義においては、ただいま岡崎国務大臣から言われたように、属人主義及び属地主義が従来の学説及び制度の上の一般的なものになつておりますけれども、なお最近は国際法学者あるいは国際刑法学者の間において、いわゆる事物主義ということが提唱されておるのであります。つまり犯罪の内容が政治犯、軍事犯あるいはまたそれと違つた普通犯罪、あるいはまたこれらをミツクスした混合犯罪といつたような事物の性格によつて、属地的あるいは属人的にとらわれずに、いずれかの裁判管轄に帰属させるというような新しい主義が実際化されつつあるのであります。なおまたこれを管轄する裁判所についても、單に一国の裁判所というだけでなくして、いわゆる混合裁判所の所管にするというような例もないではないのであります。ことに最近は主権概念がかわつて来て、完全主権国家の間といえども、互いに従来の主権というものにとらわれずに、協調的な制度を生み出そうというような時代でありますから、私はこういつたような時代に合うように、もし行政協定のとりきめと運行がされて行つたならば、新しい国際的な例をここに築く最も画期的なものになるのではないか。かように考えますので、この際政府においてもこれらの点を十分御検討の上で善処されんことを希望する次第であります。  なお世耕弘一君から質疑の通告がありますが、岡崎国務大臣はあまり時間がないようであります。しかしなお簡單にお願いできるならば、この際質疑をお許しいたしたいと思います。世耕弘一君。
  120. 世耕弘一

    世耕委員 それでは簡單に……。先ほど裁判権の問題等に対して、いろいろ進んだ国際間の空気があるということは、まことに同慶にたえないと思います。ぜひそうありたいとわれわれも考えておりますが、それに触れて申し上げたいのは、アメリカで生れたアメリカの二世がアメリカの市民権が得られるということは、リンカンがその国に生れた者はその国の支配権を得る、こういうような哲理から出発したものでありますが、そうしますると、今度は台湾で生れた日本人の二世は台湾に帰つり生活する権利があるのではないか。朝鮮で生れた朝鮮の二世は朝鮮へ帰つて朝鮮で生活する権利があるのではないかということが当然論じられて来なければならぬわけであります。台湾から引揚げた者はかりに約百万としますと、少くもその三分の一、三十万は台湾で生れた人ではないか。こういうことがごく大ざつぱに考えられるのでありますが、そういう点について何かお考えがおありになるかどうか、この一点だけちよつと承つておきたいと思います。
  121. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 アメリカにおきましては今おつしやつたように、人については属地主義を適用しておるのはその通りであります。ところが日本の方は従来属人主義をとつておりまして、どこで生れても日本人の子供は日本人である。こういう主義をとつておりますが、アメリカ等におきましては、その属人主義と属地主義が一緒におりまして、いわゆる二重国籍という問題が出て来ておると思うのであります。従いまして日本の方の従来の建前から申しますと、台湾で生れようが、朝鮮で生れようが、日本人の子供は日本人である。こういう主張をいたして来たのであります。しかしながら今後どういうふうにするか、今までの説をかえた方がいいか悪いか。これはさらに法務府等で研究中でありますが、今までのところはわが国では属人主義をとつてつたのであります。
  122. 世耕弘一

    世耕委員 この点は今後非常に微妙なものが外交交渉の上にあるだろうと思いますから、ぜひ十分御研究願いたい。  もう一点お伺いして見たいと思いますことは、行政協定の内容の中に未発表のものと発表のものとがあるかということ。それからこれは国際関係の根本に触れると思いますが、少しまわりくどい議論になるかもわかりませんが、一応御意見を承つておきたいと思いますことは、われわれが戰争をしたのは、それは旧日本帝国時代の戰争であつた。ところが昭和二十年に総司令部の指導によつて新しく革命をして、新しい国家が生れて、新しい憲法が生れて来た。その新しい憲法のもとに日本国というものが生れて来たとするならば、その点時代の政府のやつた犯罪の穴埋めを新しく生れた国家が負担する必要はないのではないか。ちようど親が悪いことをしたから子までその罪が及ぶというような解釈は今日の国際的関係から見てはなはだ妥当でないのではないか。こういうことを論ずることができるのであります。この見解から申しますと、賠償交渉のごときも、実は古い政府のやつた賠償責任を新しい国が責任を負わなければならぬという矛盾が出て来るのでありますが、新しい国際関係の動き、人道主義、平和主義の理論から行きますと、ここに大きな矛盾が出て来ますが、この点についてはどういう観点から政府は交渉に当られておるかということ。  それから時間を節約するということからもう一点つけ加えて申し上げますことは、フイリピンその他の関係で外国交渉をなさるときに、日本側の代表者の中に私は宗教団体の代表者も加えてほしい。特に戰犯その他の解放問題にはぜひ必要であり、了解運動をする上において必要であると思うのであります。今日戰争のためにいろいろ思想的な、感情的な刺戟が発生しておりることは多々あろうと思いますから、その国際的な感情の刺戟されたことを緩和する意味においても、またあたたかい手をお互いに握り合う意味においても、宗教団体の代表者をそれに加えるということが得策ではないかと思いますが、これはぜひこの際御意見を承つておきたいと思うのであります。
  123. 岡崎勝男

    ○岡崎国務大臣 第一の御質問は行政協定の中に発表したものと未発表のものがあるか、こういうお尋ねのように思いましたが、今まで話合いしまして、原則的に意見の一致したものはその旨を公表しておりますが、しかしながらこれもただ原則的に意見の一致を見たというだけでありまして、意見の一致を見た趣旨を書きまして、これを起草委員会にまわして起草をさせております。従つて正確なる案文等はまだできておりません。話合いのつかない、まだそこまで行つていないものは、むろんまだ公表はいたしておりません。これも漸次話合いがつくに従つてその大筋は公表いたす。そして正確な案文は記章委員会でだんだんつくつて行く、こういうことになります。  それから第二の問題につきましては、なるほどわれわれは生れかわつて新しい憲法のもとに国を立てて行くのでありますが、しかしながら同時にわれわれ昔日本の国民であつたものはやはり依然として日本の国民であります。たとえば日本は外債等を募りまして、外貨債券もたくさんあります。これは返済すべき約束のもとに借りた金であります。新しい憲法ができたからといつて、もうこの借りた金は一切帳消しというわけにも参りません。国としては、国全体を統治する政府なり政体がかわりましても、国全体の権利義務はそのまま残ると考えております。従いまして賠償等につきましても同じ観念が適用される、こう考えております。  それから最後のお話でありまするが、宗教家を国の代表の中に加えて行くというお話、今度の交渉は、たとえば今言いましたのは賠償の交渉とか、あるいは条約を結ぶための交渉でありまして、これは一々信任状を携帯して行くのであります。信任状には何の仕事をすべしということが明確に書いてあります。従いまして、それに適するような人がありますれば、宗教家といえども何らさしつかえないわけでありますが、單に宗教家だからそういう交渉をさせるというのは、ちよつと困難かと思います。ただお話の点は、まことにうまみのある御意見で、いい御意見だと思いますので、そういうきちんとした交渉の形でなくても、国民の代表とか、あるいは政府の使節とかで、将来宗教家で他国から尊敬を受けるような方を派遣するということは、これは十分考えられると思いますので、よく御意見はひとつ銘記いたしまして、なるべくそのように努力いたしたいと考えます。
  124. 佐瀬昌三

    佐瀬委員長 本日はこの程度にとどめ、次の会議は追つて公報をもつてお知らせいたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後三時十三分散会