○渡部
委員 共産党は、この
特例法が
成立することには、絶対に
反対であります。この
特例法は、いわゆる対
日平和條約の十
五條(C)項に基いて、
連合国人著作権に関する
特例を設け、
戰時加算期間を設けようとするものであります。共産党としましては、しばしば強調しております
通り、
平和條約そのものに根本的に
反対であるという点からい
つて、その
平和條約の
條項を、いわば具体化するものとしてのこの
法案に
賛成するということは、原則的にも絶対にできないわけであります、しかし、問題はそれだけにあるのではありません。問題は、本
特例法というものが、その
適用上非常にあいまいな部分が多いのと同時に、これは
日本の
著作権にと
つて、非常な不利益を来すものであるという二点から、
反対せざるを得ないわけであります。たとえば、
適用上あいまいであるという点を申しますと、国際條約としての
著作権法は、言うまでもなくベルヌ條約に根本を発しておるわけでありますが、本
特例法で
適用されるのは、ベルヌ條約の加盟国であると同時に、
連合国であるという国に
適用されるのである。しかしこのベルヌ條約に加盟している国は四十二箇国あるが、
連合国は十六箇国であ
つて、他の二十六箇国は、つまりこの
適用を受けないことになる。しかも
連合国中、ソビエトとかアメリカとか、こういう大国がベルヌ條約に参別しておらない。従
つて、べルヌ條約の非加盟国であるアメリカ人あるいはソビエト人の
著作権の場合、本
法案との
関係がどうなるかということも、まつたく明瞭を欠いておるわけであります。しかも対
日平和條約といわれるものが、アメリカのえてか
つてな不法な仕方によ
つて処置された結果として、ソビエトとかインドとかいうような国々が、まず本條約を承認しておらないし、また中華人民共和国——
日本の文化にと
つて非常に深い
関係を持ち、今後もますます深い
関係を持
つて来る必然の傾向にある、必然の情勢にあるそういう国が、この
著作権に関する
特例法の対象とはならないことになる。こういう問題を解決しなければならぬのに、こうした重大な
日本との文化的な交渉のある大国の
著作権問題が、全然これによ
つては解決される道が見出されないという点を、われわれは深く考慮しなければならぬと思うわけです。
また
日本人の
著作権者、ことに
日本の場合に最も大きい
関係を持つのは、飜訳権でありますけれども、この
日本人の飜訳権者にと
つては、きわめて重大な被害が現実の問題として出て来ておるのであります。たとえば、政令二百七十二号によ
つて飜訳
著作権というものは、原
著作権者あるいは仲介者の手に帰してしま
つておるのでありまして、実際上その時から
日本側の飜訳権者は、原著作者並びに出版社側に対する
義務を履行して来ておる。つまり印税を払
つて来ておる。原著者側または
著作権者はそれによ
つてすでに実益を得ておるのであります。とこるが、ここに非常に大きな問題が実際のケースとして起きております。これは皆さんにぜひとも聞いてもらわなければならぬ事柄であります。それはシートンの有名な「動物記」の飜訳権問題であります。この「動物記」の
日本語の飜訳者として内山賢次氏がシートン夫人に交渉しまして、シートン夫人がイギリスのクリスチャン・モーア社に動物記の
著作権を管理されておるからというので、このクリスチャン・モーア会社に照会しまして、その承諾を得て印税を七・五%という形で支払
つてお
つたのであります。とこるがアメリカのトーマス・フォルスターという人が交渉権を持ちまして、強引に交渉権を独占しまして、九%に印税をか
つてに上げて、この結果、飜訳者である内山賢次氏及び出版業者が非常に大きな打撃を受けておるわけであります。こういうふう実際上戰時中いろいろなこういうケースが起きておるわけでありますけれども、こういうヶスを救済すべき方法が何らこの
著作権特例法の中には見出されないことによ
つて、今後とも——この種の
日本人の飜訳者というのは、御存じの
通り非常に多い、この飜訳者が非常な不利益を現実上にこうむらなければならないという結果を来すわけであります。こうした点からい
つて、
日本人にと
つては
日本の
著作権者が
外国に対して
権利を持つというようなことよりも、むしろ非常に多く
外国の
著作権者が
日本において
権利を持つ、しかもその
権利が、
日本人の場合には飜訳権者に対するものとして出て来るのであ
つて、その
翻訳権者が非常に大きな不利益を
日本の出版者と同時に受けなければならぬ。これを救済する何らの道もない。われわれはこの点を最も現実的な問題として考えてみなければならぬし、もしこのような
法案ができて、
日本の
著作権者及び出版社が今申し上げたような一つのケースのような場合が今後も続々と出て来るようなことがあるとしますならば——これは現実にありますが、そうしますと、
日本の文化的な興隆というようなものが非常に妨げられざるを得ない。こういう現実的な点からも、私たちはこの
法案を
成立せしめてはならないというふうに考えておるわけであります。
だからいろいろ
法律的な
解釈としては
著作権協会の方からも
意見書が出ておりま考に、
法律にはいろいろな不備な点が多いし、また現実の
利害関係の問題として、われわれは
日本の
著作権者、ことに
翻訳著作権者の利益を守らなければならぬという
立場から
反対せざるを得ないわけであります。しかもこれは、ごらんの
通り著作権協議会には、
日本のあらゆる文化的な
団体が全部参加している。このあらゆる文化的な諸
団体が非常に
反対しているのに、
日本の
著作権を守るために、
日本の
翻訳著作権者の利益を守るために、従
つて日本の文化的な興隆というものを十分に
日本の利益のために高めて行こうとするその
立場から
反対をしている。この
反対を押し切
つてまで、なぜ今このような
法案を緊急に通さなければならぬのか。このことについては、何らの
理由もないはずだ。もしもほんとうに
日本の
著作権をわれわれ
国会が守らなければならぬという
責任を感ずるならば、これは当然延期して
継続審議に付して、
著作権協議会を代表するとこるの、現実に
日本の文化活動に参加している各方面の
意見を十分に取入れて、
日本の文化を守るための
法案をこそつくらなければならぬわけでありまして、今急いでこのような
法案をつく
つてしま
つて、ことに問題は対外
関係の問題であるだけに、
日本にと
つて長い聞の不利益を残すようなことを、
国会は断じてすべきではないと私は考えるわけであります。こういう考えから、私は
日本の文化をほんとうに
国会が守るうとするならば、今日ただちにこれを採決に付するというようなことをせずに、
継続審議に付して、あらゆる文化
団体の、また
利害関係者の発言を十分に
国会は取入れて、新しい
特例法をつくるべきである、こういうふうに考えるわけであります。