○三橋
政府委員 ただいま
議題となりました
恩給法の
特例に関する件の
措置に関する
法律案につきまして補足的な
説明を申し上げます。
この
法律案は、
恩給法の
特例に関しまして、講和條約の効力発生に伴うとりあえずの
措置を講じようとするものでございます。
恩給法の
特例は
昭和二十年十一月二十四日
連合国最高司令官から
日本政府に発せられましたペンシヨン・アンド・ベネフィットと題する覚書に基くものでありまして、この覚書によ
つて、
連合国最高司令官から
日本政府に命ぜられましたところを実施するために制定されたものであることは、もう御承知のことと思います。しこうしてその
恩給法の
特例の
内容は、大まかに申し上げますと大体二つの事柄にわかれております。
その一つは、旧軍人、軍属、ここで軍属と申しますのは、旧陸海軍部内の文官たる官吏であ
つた軍属を言うのでありまして、官吏以外の軍属はここに言う軍属の中には含まれていないのであります。かかる旧軍属、それから旧軍人、それから軍人、軍属の遺族の
恩給を
廃止または制限したことでございます。その
廃止または制限の大まかなことを申し上げますと、軍人につきまして傷病者以外のものに給されておりました各種の
恩給、すなわち普通
恩給、扶助料、一時
恩給、一時扶助料等の各種の
恩給を全部
廃止してしま
つたのであります。また傷病者の
恩給につきましては、従来下士官以下の軍人に給されておりました傷病者賜金の中で傷病の程度の低い者に給されたものを
廃止してしま
つたのであります。また不具廃疾者に給されておりました増加
恩給の中で、増加
恩給の第七項症の年金
制度、それから不具廃疾に至らない程度の傷病でありまして、しかも永続性のある傷痍疾病者に給されておりました傷病年金の
制度を
廃止してしまいまして、そして今申し上げました増加
恩給七項症程度の者、それから傷病年金をもらう程度の傷病者に難しましては一時金を給せられることに改められたのであります。不具廃疾者の受ける年金として存続を許されました増加
恩給の第六項症以上の金額につきましては、従来に比べまして比較にならないほど著しく減額されたのであります。また軍属たる官吏につきましては、警察官とか、それから刑務所に勤務しています判任官以外の判任文官たる軍属並びに優遇奏任官たる軍属及びその遺族に対しましては、従来
通り恩給を支給することを許されたのでありますが、その他の軍属たる官吏につきましては、またその遺族に対しましては、一般官吏と同様に
恩給を
廃止または制限されたのであります。
それからまたその二といたしましては、
連合国最高司令官の
命令によ
つて逮捕、抑留せられた者の
恩給につきましては、その支給または裁定を禁止または停止されたのであります。それから
連合国最高司令官の
命令によ
つて有罪の刑に処せられた者、また退職させられた者の
恩給は
廃止させられてしま
つたのであります。すなわち軍人、軍属の
恩給の
廃止または制限の
命令と同時に、
連合国最高司令官の
命令によ
つて逮捕、抑留せられた者につきましては、その間
恩給の支給または
恩給の裁定の停止を命ぜられますとともに、また
連合国最高司令官によ
つて有罪の刑に処せられた者や、
連合国最高司令官によ
つて退職させられた者につきましては、
恩給を受くる権利または資格を失わしめるように
日本政府に命ぜられましたので、
政府といたしましてはその
命令を実施するために
恩給法の
特例の中におきまして、軍人、軍属の
恩給の
廃止または制限の
措置をいたしますとともに、この
命令を実施するために
措置を講じたのであります。今回の
恩給法の
特例に関する件の
措置に関する
法律案によりまして、
措置せんといたしますることも、今申し上げました二つの事柄に関しておるのでございます。最後に申し上げました
恩給の支給並びに裁定の停止及び
恩給を受くる権利または資格を剥奪されておりますことに関しまする
特例の中の
規定は、講和條約の効力が発生しますと、存在理由がなくなりまするので、これを今後は削除することにいたしたのであります。提出いたしております第一條の、第七條及び第八條削除の
規定がその
規定でございます。
それからすでに
連合国最高司令官によりまして、有罪の刑に処せられ、または退官、退職せしめられて、
恩給を受くる権利を失
つた者の
恩給につきましては、この講和條約の効力発生の際にすでに権利を失
つておる者につきましては一従来
通りに権利を失
つた者の取扱いをするごとにいたしておるのであります。附則第二項の
規定がこれに関するものでございます。その
措置につきましては、いろいろと御意泉あるかと存ずるのでありまするが、
関係当局の意向もございまして、軍人、軍属に対する
措置をするまではこのままにしておいて、軍人
恩給の
措置が
検討されますときに、これと同時に改めて
改善の
措置を
検討することにいたしたいと考えておるところでございます。
次に軍人、軍属の
恩給の
廃止または制限に関する
規定に関しまする講和條約の効力発生に伴う
措置について申し上げたいと存じます。
恩給法の
特例は先ほど申し上げましたように、
連合国最高司令官の
日本政府に対する覚書に基いて制定されたのでありますから、講和條約の効力が発生しますれば、
恩給法の
特例はその制定の基礎を失うことになるのでございます。もし
恩給法の
特例の講和條約の効力発生後の
法律的効力の存続に関しまして何らの
措置も講ぜられない場合におきましては、
恩給法の
特例はすでに
政府から国会に提出されました旧
ポツダム宣言の
受諾に偉い発する
命令に関する件の
廃止に関する
法律案の
規定によりまして、講和條約の効力発生後百八十日にして法令としての効力を失うことになるものと考えておるのであります。
恩給法の
特例は、旧軍人、軍属及びその遺族の
恩給が
恩給法の
規定によ
つて給せられておることにな
つていることを前提といたしまして、傷病軍人及び軍属の
恩給を制限し、その他の軍人軍属及びその遺族の
恩給を
廃止するための
特例規定として定められたものであります。かかる
恩給法と
恩給法の
特例との
関係は、
恩給法の
特例が制定されましてから今日までかわることはないのでございます。
従つて恩給法の
特例が
廃止せられるかまたは失効しますと、旧軍人軍属及びその遺族は
恩給法の
規定によ
つて恩給を給せられることになるのであります。言いかえますと、
恩給法の
特例の効力の存続に関しましては、何らの
法律的な
措置が講ぜられす、講和條約の効力発生に
伴つてこの
特例が失効しますと、講和條約の効力発生後百八十日を経過すれば、旧軍人、軍属は従来のごとく普通
恩給その他の
恩給を給せられることになり、旧事人、軍属の遺族は扶助料等を給せられることになる、こういうように考えておるのであります。旧軍人、軍属及びその遺族でありまして、年金、
恩給受給著たるべき人々の現在の人員及び年金
恩給の総額を推計いたしますことは、いろいろな資料を整備しますることにつきまして困難もありますので、なかなかむずかしいことではございますが、
昭和二十一年二月一日軍人、軍属の
恩給が
廃止または制限せられましたその当時におきまして、いろいろと
恩給局におきまして
調査いたしたのでございますが、そのときにおきましては、大体年金、
恩給の受給者といたしまして五百万人余りを予想いたしてお
つたのであります。ところでその後
調査をいたしまして、昨年からことしにかけましていろいろと資料を集めて新たに
検討いたしました結果は、大体七百万人を越える年金、
恩給受給者があるのではなかろうかと想像しておるのであります。もちろんこの
数字につきましては、今後もなお
検討を加えて行きたいと考えておるところでございますので、今後正確な資料が出て参りますれば若干異動することもあるかと思いますが、一応今のところは大体それくらいに推定いたしておるのでございます。今申し上げました年金、
恩給受給者の推定人員を七百万人前後と大体仮定いたしまして、そして年金を支給するということにいたしますならば、現在の
恩給法のもとにおいてどれくらいの金額になるだろうかということが第一問題になるのでございますが、大体大まかに申しまして文官並に引上げるものと想定いたしますと、軍人
恩給を
廃止されましてから今日までの権利を失
つた者その他を全然考えないとしますならば、おそらく二千億円前後の金を要するのじやなかろうかと想像いたしております。その間におきまする失権を想定いたしますれば、それから三百億円内外の金は減るのじやなかろうか、結局失権を引いてしまいますれば、一千数百億円くらいの年金を要するのじやなかろうか、こういうように考えておるところでございます。この
数字は非常に大まかな
数字でございますので、まだ今後
検討を要しなくちやいけないところもあろうと思いますが、大まかに申しまして、大体そういうふうにお考え願
つていいと思
つておるところでございます。かくのごとく多数の受給者に対しまして多額の
恩給、年金が予想せられるにもかかわらず、講和條約の効力発生と同時に、傷病軍人その他の旧軍人の
恩給また旧軍人遺族の扶助料を、昔のように、元のように返すということは、
国家財政の上から考えましても、困難なことと考えられるのであります。
従つて軍人、軍属の
恩給及びその遺族の扶助料を元に返すといたしましても、全受給者を対象といたしまして、制限をつけて返すかどうかということが問題にな
つて来るのでございます。制限をつけて返すということは、結局限定的に復元をするということになるのでございますが、限定して復元をする場合におきまして、その復元をどういうふうにしてどうするかということは、いろいろな問題があると思うのであります。これにつきましては愼重の上にも愼重にすべきであることはもちろんのことでございます。たとえば軍隊に勤務または戦争、事変に従事した軍人につきましては、他の公務に従事した場合に比較いたしまして、割のいい退職金の割増しを受けるような取扱いを受けてお
つたのでありますが、そういうような
規定をそのまま置くかどうかというような問題も、いろいろ
検討しなければいけない問題じやないかと思うのであります。また軍人の遺族の
恩給の取扱いいかんによりましては、現行
恩給法の文官の
恩給に関しましても、
検討を加えなければならない問題もいろいろと出て来るか思うのであります。かくいろいろと考えてみますと、軍人、軍属の
恩給またその遺族の扶助料を元に返すということにつきましては、
国家財政の面から考えるばかりでなく、その他いろいろな点から
検討しなければならない点が、少くないのでございます。こういうような次第でありますので、この善後
措置を講和條約の効力発生後百八十日間に講じてしまいまして、そうして講和條約の効力発生後六箇月た
つて、
恩給を元に返してしまうような
措置をするということは、とうていできにくいことでございます。よ
つて政府といたしましては、
恩給法の
特例は特に講和條約の効力発生後も
昭和二十八年三月三十一日までは、
法律として元の効力を有することといたしまして、その間に審議会を
総理府の付属機関として設置いたし、その審議会の
委員には官民の有識者の方々にな
つていただきまして、旧軍人、軍属の
恩給に関しまする重要な事項を
調査していただき、その審議会の合理的な結論に基きまして、善後
措置をするこことしまして、これに関する
法律案をここに提出するに
至つた次第でございます。