○
河原委員 報告書を朗読することによ
つて御
報告いたします。
〔
野村委員長代理退席、
吉田(吉)
委員長代理着席〕
報告書
呉市の
治安問題について去る七月十五日
東京発、翌十六日以降
現地において
調査したところ、その結果の
概要は別紙の
通りにつき、この
段報告に及びます。
昭和二十七年七月二十五日
衆議院地方行政委員会
委 員
河原伊三郎
委 員
鈴木 幹雄
委 員
大石ヨシエ
調査員 丸山 稻
衆議院地方行政委員長
金光 義邦殿
報告書
目 次
緒 言
第一節 最近の
国連軍関係治安状況
第二節
関係当局の
処置及び
態度
第三節
犯罪の
発生原因及び
予防策
第四節
市民の
態度、人心の動向
第五節
現地の要望と将来の対策
以上
緒 言
さきに呉市の
治安問題に関して、その
実情を
調査するため、
地方行政委員会の決議により、
議長の
承認を経て
現地に派遣せられることに
なつた
調査団は、
河原、
鈴木、
大石各
委員に
丸山調査員を加え、去る七月十五日
東京発、翌十六日以降、
広島、呉両市の
現地において、
関係各
官公衙、
新聞報道関係、
国連軍関係労働組合等について
調査するほか、
不法暴行行為による
被害者、さらに
一般市民の声を聞くなど
実情把握に努め、また
夜間呉市内広地区の
盛り場等を視察して
認識の徹底を期した。
資料を徴し、あるいは往訪
調査した
関係官公衙のおもなるものは、
国家地方警察広島管区本部、同
県警察隊、
広島地方検察庁、
同臭支所、
呉市役所、
同市警察本部等であるが、
市役所における
調査には、
呉市長以下幹部はもとより、
市議会議長、
市公安委員長も列席した。
なお
広島県第二区選出、
衆議院議員宮原幸三郎君、
前田榮之助君の二君は、呉市
出身代議士として
調査の一部に参加された。
今回の
調査の目的は、言うまでもなく、呉市における
国連軍関係の
犯罪や
暴行事件に基く
同市の
治安状況の
実態の把握にあつた。
従つて調査の目標としては、伝えられる
同市の
治安事情について、その実際の程度、事案の真相を知るために、
関係当局に資料を求め、その説明を聴取するとともに、
一般輿論や
市民の人心の動向を察知するに努めたのである。
しこうして何ゆえ呉市においてはかかる
犯罪や
暴行事件が頻発するのか、またその具体的事例の真相や類別、これらの事案に対して当局の
とつた
処置はどのようなものであるか、
関係各
官公衙では本問題についてどのような見解を持ち、どのような要望をしているか、
一般市民の関心
いかん、さらに呉市におけるかかる
犯罪的事象を絶滅し、平和な地方都市として存立させるための当面の対策及び本問題の根本的解決をはかるための将来の対策はどのように
考えるべきであるか。これら一連の項目について、
調査団が各個の
調査や視察によ
つて認識し、感得したところを総合的に概説すれば、大よそ次のごときものである。
以下項をわけて概説するが、統計的数字及び各個の
犯罪事実の内容等の詳細は、当局の提出した資料に譲り、ここには掲げない。
第一節 最近の
国連軍関係治安状況
呉市は現在人口十九万三千五百の旧軍港都市であり、終戦後は占領軍の一部が駐屯していたのであるが、この軍は英濠軍であり、朝鮮事変以来は
国連軍が移動の際、戦線と母国との中継地として軍兵の出入がはげしく、呉市に駐在する
国連軍人の数は不明である。すなわち現在呉市には旧占領軍の延長として、市の西部に濠洲兵が駐留しており、市の東部にはカナダ部隊が在泊しているが、その数およそ二、三千人、両者を合して今年初め約七千人と推定されるが、もとより常に移動しているので一定しない。
これに対し呉市の
警察力は、
警察吏員三百九十二人、その他を合して全員四百五十人である。自動車十五台、サイド・カー二台、三輪車三台であるが、現下の
状況において機動力に十分でない。
かかる條件のもとにおいて、最近における
同市の
国連軍関係の
犯罪状況を見るに次の
通りである。
すなわち呉市
警察本部の提出した資料及び桐原同本部長の説明によれば、本年四月二十八日から七月六日に至る講和條約発効後七十日間の
事件の発生総数百七件、検挙総数八十四件で、検挙率は七八%とな
つている。罪種から見れば、最も多いのは窃盗の三十件で、次に器物毀棄二十四件、暴行十五件、傷害十二件、詐欺十一件、その他十五件で、凶悪犯としては強盗五件、強姦四件、放火未遂二件の発生を見ている。
これらの犯行の被疑者の国籍別を見ると、総数百七件のうち、カナダ兵によるもの六十一件、イギリス兵によるもの二十八件、濠洲兵によるもの十二件、ニュージーランド兵によるもの五件、不明のもの一件とな
つており、大部分はカナダ兵によ
つて行われている
実情であるが、カナダ部隊は通過部隊で移動が頻繁なことが、
犯罪多発の主
原因とな
つていると認められるが、カナダ以外の他の部隊でも、時折艦船入港の際は、その乗組員の
犯罪が起ることが多いとのことである。
右の数字ははたして何を語るか。これを一年前の同期すなわち
昭和二十六年四月二十八日から七月六日まで七十日間における占領軍被疑
事件に比較して見ると、発生件数九十八件、同人員百八十七人、検挙件数二十四件、未検挙件数七十四件とな
つている。この数字は
日本警察と
国連軍当局と協力して検挙し取扱つたものの数であるが、
国連軍側だけの
事件取扱数は、呉憲兵隊
調査による資料によれば、右とまつたく同期において、
事件発生件数は百五十二件、検挙八十五件、未検挙六十七件で、検挙率五六%とな
つている。
さらに角度をかえてこれを呉市における
日本人
犯罪との比較を見るに、本年同期において
犯罪発生件数は
日本人千六百三十二件に対し、
国連軍将兵百七件、検挙件数は
日本人千三百五十三件、八二%に対し、
国連軍将兵は八十四件、七八%とな
つている。
さらにまた
昭和二十三年以降、呉市における
一般犯罪と、占領軍ないし
国連軍将兵
犯罪との発生及び検挙の推移を比較するに、
一般犯罪は
昭和二十三年より本年まで順を追うて、検挙率五七%、八六%、八〇%、八〇%、八二%とな
つているのに対し、軍
関係犯罪は同じく
昭和二十三年から順を追うて、二百三十九件、百七十一件、九十件、七百三十六件、最後の本年度一月から六月までは二百五十九件、検挙百三十二件、五一%とな
つている。
以上の数字を大観して
考えられることは、條約発効時までは正確な数字を得ることができないので、前後の比較は確実にはわからないということである。そして
昭和二十五年度に軍
関係事件の少いのは、朝鮮動乱によ
つて在呉部隊の大半が
現地に派遣されたためであり、二十六年に発生件数の多いのは、朝鮮動乱による交代兵が多いためである。
最も問題となるのは本年にな
つてから、特に講和條約発効のときから、はたして世上伝えられるように、かえ
つて軍
関係犯罪が増したかいなかということであるが、これはにわかに断定しがたい事情がある。條約発効前は占領軍の処理にまかされていたので、
日本側としては正確なことは知りがたいばかりでなく、
被害者も泣寝入りする者が多かつたが、発効後はたとい少額の
被害でも訴え出る者が多いので、数字的には多くなる。ともあれ
日本独立後は、
日本警察が
市民の面前で暴行被疑者を逮捕し取調べるので、
市民としても安心感と
警察信頼感を増しつつあると、市
警察当局は
言つている。
第二節
関係当局の
処置及び
態度
さて、以上の
犯罪事件に対して
関係当局はいかなる見解のもとに、どのような
処置をなしつつあるか。
検察庁も
警察も、
日本独立後の今日においては、軍
関係の
犯罪もそれが、軍管轄の区域外における公務以外の、しかも対
日本人
関係の
事件である限り、
日本側に管轄権があるとの見解のもとに被疑者の逮捕、捜査、取調べをなし、
警察としては一定の
事件は検察庁に送致している。
前節に述べた
国連軍被疑
事件の検挙件数八十四件の処理
状況を見ると、検察庁送致四十三件、憲兵隊引致十三件、
事件軽微による微罪処分十件、親告罪で告訴なきもの十三件、取調べ中のもの五件とな
つており、さらにこのうち、検察庁に送致した四十三件の処分の結果は、起訴猶予三十二件、告訴坂下げ二件、嫌疑なし二件、少年
事件につき不処理二件、身柄交渉中一件、未処理四件とな
つている。
検察庁が
事件を処理しているのは、もとより、司法管轄権が
日本側にあるとの見解のもとに
行つているのであるが、別に軍当局と公文の交換等明確な根拠があるわけではないから、この点について当局は中央における外交交渉によ
つて、法的に明確化されることを希望しているわけである。
しこうして検察庁の処分においては、いまだ起訴されたものは一件もないが、これは
犯罪の性質が裁判まで持
つて行くほどのものでないと
考えられるからであ
つて、検察庁としては
国連軍人と
日本人との間に、取扱いを違えてはいないとのことであつた。
従つて警察としては検挙して検察庁に送致しているのであるが、これまでは実質的には不起訴に
終つているのである。ただ右の検挙
事件中、條約発効後なお憲兵隊に引致したものが、十三件あるが、これは
日本独立後一週間以内の
事件で、逮捕別は憲兵逮捕五件、
日本警察逮捕五件、憲兵と
警察の共同検挙三件であり、従前
通り憲兵隊に引渡したという。
なお強盗
事件二件を
警察が検挙し憲兵隊に引渡しているが、本件は五月四日夜、カナダ水兵三名が共謀して、特殊飲食店におもむき、女将の首を締めた上、現金三千円を強取した
事件、及び五月五日夜カナダ水兵一名がビヤホールにてビール二本を飲み、代金を支払わず退去しようとしたので、請求したところ、暴行の上十日間の傷害を与え逃走したが、いずれも
警察吏員が届出受理後間もなく逮捕したもので、身柄の
措置について、地方検察庁呉支部の指示回答によ
つて憲兵隊に引渡したのであるが、本件については
外務省において犯人の身柄引渡し方について折衝中のものであるという。
強姦四件は
警察が検挙したもので、うち二件は講和條約発効直後で事案は未遂であり、しかも軽微なため告訴もないので、憲兵隊に引渡したものであり、他の二件のうち一件は十四歳の少女を強姦したとの告訴があり、捜査したところ、現金をもらつた上の和姦であることがわかり、後日告訴の取下げがあつたもので、残りの一件は捜査の上犯人が判明し、
被害者から告訴があつたので、目下身柄の引渡方を交渉中のものであると市
警察当局は
言つている。
右のような凶悪犯のほか、他の種類の
犯罪を一括略述すれば、放火未遂の一件は飲食店において飲酒酩酊した兵士が、飲食店の柱にかけてあつたカレンダーに、持
つていたライターで点火したがただちに消しとめたものであり、他の一件は特殊飲食店に遊びに来た兵士が接客婦のことで立腹し、ライターで玄関の障子に火をつけたが、家人がただちに消しとめ、犯人は騒ぐすきに逃走したものである。
窃盗
事件は特殊飲食店または接客婦を
対象としたものが十七件で、総発生件数の半ばを占め、その他は自転車盗み、みやげもの店その他かつさらい等で
被害品目は現金、時計、雑品等である。
詐欺
事件はハイヤーの無賃乗車、カフエー等においての無銭飲食などで
被害額は少額である。
暴行傷害
事件はいずれも特殊飲食店または接客婦を
対象としたものが大部分であり、恐喝
事件は特殊飲食店で遊興し、一応支払つた金を返せ、返さねば衣類を持ち帰るぞと脅迫して遊興費を取返したもの、器物毀棄はほとんど飲食店において窓ガラス、障子、等を毀棄したものや、ハイヤーの窓ガラスを破壊したもので、ほとんど
被害を弁償しているため、
被害者の告訴がないので
事件を送致していないというのが
警察当局の説明である。
第三節
犯罪の
発生原因及び
予防策
呉市における
国連軍関係の
犯罪事件は何ゆえにかくのごとく発生するか。またその
予防策いかんについて考察するに、すでに述べたようにその
犯罪統計、発生の時期及び罪質を見ればおのずから明らかなように、旧軍港の呉市が、
国連軍の朝鮮動乱における母国と戦線との中継地として役立ち移動の激しい戦線への部隊の仮泊地としておちつかない軍隊の出入りを送迎していることが、
犯罪多発の最大の
原因である。
この点は講和後の米国
駐留軍の比較的安定した軍部隊とは趣を異にするし、また在呉
国連軍である英連邦軍は、米兵に比し給与も低いとのことである。
年齢の若いいわば
犯罪適齢期の兵隊で、戦線への移動往復で安定しない、しかも給与の低い軍人が、中継地で慰安や休養のため仮泊するのであるから、それらが深夜飲酒する以上、暴行や
犯罪が多発するのは当然の現象であるといえよう。
犯罪が多く発生するのは軍移動の特に激しいとき、また時間的にはほとんど夜間であり、午後八時以後で、十時から午前零時にかけて大部分が行われている事実、またさらに
被害者の種別を見ても、特殊飲食店、カフエー、自動車業等が大部分であることは統計の示すところであるから、おおよそ
犯罪の起る根本的
原因は明らかである。もとより
被害者の中には、十九件の
一般人もあり、個々の
犯罪の直接の動機には種々あり、中には
被害者側に不用意ないし多少
犯罪誘発の
原因をなしたものもあるかもしれないが、総体的に見て
犯罪発生の
原因は、右の点に要約されるであろう。
しからば
犯罪の予防対策はいかように講ぜられているか。市
警察当局のいうところによれば、講和條約発効に伴い、憲兵司令官並びにSIB隊長に対して、憲兵パトロールの
強化、部隊将兵への警告方を申し入れるとともに、飲食業者、みやげもの商、旅客自動車業者の懇談会を開催して、その自粛を促す等の方法により、
犯罪の未然防止に努めつつあり、
国連軍においても全面的に協力されているとのことである。
また軍との
連絡は容易に随時
行つており、特に定例的に会談日を設けるようなことはないが、気軽く電話でも話し合
つており、別に支障はないとのことである。最近には
国連軍がさらに軍紀を引締めるよう、たとえば帰営門限も午後十一時を励行するよう申入れをしたこともあるという。
国連軍側の自粛については、地方検察庁呉支部においても両三回警告を発したことがあり、岡邊同文部長は桐原市
警察本部長等とともに、カナダ軍のアレン大佐と会談して、防犯対策を相談したところ、カナダから四人の法務官を招致して、予防の万全を期することに
なつたとは支部長の言うところである。
呉市
警察自体の陣容は前述の
通り、全員で四百五十人、英語を解するもの三名、派出所は三十箇所、駐在所八箇所であ
つて、パトロールは派出とかねて四人ないし五人でこれに当
つている。市
警察予算は八千五百万円であ
つて、これでは予防の万全を期するには不足とのことである。
日本側当局者の言うところは右のようであるが、
国連軍当局はいかように
考えているか。たまたま七月十七日付中国新聞の記事によれば、「英連邦軍司令部総務将校R・H・バツテン代将(ブリッジ・フォード司令官が不在中の代理
責任者)は十六日午後呉市の元鎮守府の建物にある司令部内で
外務省記者団と会見、
国連軍協定など当面の問題に関して呉、岩国地区に駐留する
現地軍当局の見解を次のように明かにした。」といい、その中に次のような点をあげている。すなわち「一、裁判権が将来どうなるかについては
協定締結交渉が行われている際だから何とも言えない。現在のところ
施設区域外における軍人の
犯罪は、
日本警察官が逮捕し、
日本側検察当局がこれを
日本側で裁判すべきかいなかを判断している。これまでのところ
犯罪の程度が比較的軽微なので、すべて
日本側から移管を受け英連邦軍側が裁判して来た。程度の重いものについては、
日本政府と英国大使館との話合いによ
つてきめられることにな
つている。
一、呉地区の
治安について暴行恐怖の町などと新聞雑誌に報道されたが、これは事実を誇張し過ぎているし、自分としては納得できない。しかし最近の報道はかなり事実に近くな
つているようだ。
治安保持のためには将来とも
日本側
警察と緊密に協力して行くが、同時にまた朝鮮から呉地区に引揚げて来た将兵に対して厳重な注意を与え、事故の起らないよう配慮している。
一、呉地区にはカナダ、英本国、オーストラリヤ、ニュージーランドの各国兵約六千から七千名がいる。英連邦軍の
犯罪件数は一日一・六件であるが、
日本関係は十六件だから
犯罪件数が多いとはいえないと思う。もつとも呉
市民は十九万人だけれど。」
また同日付の毎日新聞は、同一の事実について大同小異の報道を
行つているが、ただ、「給与も決して低くなくカナダ軍は米兵とほぼ同率であり、支払いも希望によ
つて全額円貨で渡しているから
犯罪理由にはならない。」といい、「
犯罪の
原因は元気一ぱいの兵隊が前線から帰つたばかりで、突発的に起るわけで、この防止については、呉地区に到着すれば上級者から厳重注意するとともに
警察に協力して
犯罪防止につとめている。」といつたと報じている。
第四節
市民の
態度、人心の動向
犯罪の予防には、
警察当局の警備力の充実と、万全の努力を要することはいうまでもないが、軍
関係の
犯罪の様相にかんがみ
関係業者の自粛と警戒が必要であり、さらに
一般市民の
認識の徹底と慎重な用心が望ましいのである。
呉
市民ははたしてどのような実感を持ち、どの程度の
認識を得ているのであろうか。
調査団の感得したところによれば、おおよそ二つの面があるようである。その
一つは、案外平静で無関心とも見える面である。これはほとんど大部分を占める主流かとも思われるが、「恐怖の町」「暴行の町」などと新聞雑誌に報道され、中央が多大の関心を示し、
全国的問題の
対象と
なつたことに不審の感情を抱く人々である。
警察当局はみずから万全の努力をして警備に当
つており、決して無
警察の
状態ではなく、検挙率も七八%の成績をあげているのであるから、呉の
治安は、世上伝えられるように夜間婦女子の外出は、絶対できないようなものではない旨を
市民に説いているようであるが、これは
市民に安心感を与え、
警察の努力やこれに対する信頼感を増すには役立つであろうが、当局の努力にもかかわらず、なお相当に
犯罪が頻発している現状においては、はたしていかがであろうか、
警察当局が努力していることは了解されることであり、この点
市議会議長も認められているのである。特に第一線にあ
つて、深夜警備に当
つている当局者の身にな
つて見れば、これほど努力しているのに無
警察状態と言われることに不満を感じ、かような印象を是正しようということはもつともなことではあるが、またそれに行き過ぎがあ
つて、
市民に誤解を与えるべきではないということは、宮原代議士の指摘されたところであ
つて、さなくてさえ、かような環境や
治安状態になれつつあるかのごとき
市民の警戒心を、さらに鈍らぜることにな
つては遺憾である。
「恐怖の町」「無
警察状態」という言を文字
通りに解釈する限り、呉市はこれに該当しないであろう。ただその言の与えた印象を打消すための努力が過ぎて本質を失
つてはならない。
警察の努力にもかかわらず
犯罪があり、同じような軍
関係都市のうち、呉だけが特にこのような事故の多いことを見れば、呉に駐留する軍に問題があり、独立後の
日本人としてはかかる外国人の不法行為によ
つて侵されるのは見るに忍びないのであ
つて、呉市を
犯罪絶滅の都市にしようとの念願からすれば、
警察当局の
認識はなお足らないと宮原代議士は強調されたのである。
市民の他の一面は、さらに慎重な
態度を以て警戒する人々である。奥原
市議会議長は、呉
市民は本問題に対しては重大な関心を持
つており、講和條約の発効後はさらに関心を増大した。しこうして心ある
市民としては夜間十時以後は場所にもよるが、子女を外出させられぬのが現状であろう。問題は
警察当局がこれだけ努力しているにかかわらずなお
犯罪が発生するという事実であると
言つている。
しこうして呉市のごときかかる特異な地位にある
警察に対しては、国としては考慮を払
つてしかるべきであり、かような事態は敗戦の結果として国家の受くべき苦難であるから、呉市ひとりにしわ寄せされては耐えがたく、何らかの方法をも
つて国が援助すべきであるとの要望が、宮原代議士や奥原
市議会議長両氏からこもごも述べられたのである。
平静と不安、この二つの面は、新聞や報道
関係者との対談においても、夜間市中探訪においても、また放送局の街頭録音においても感じ得られるところであつた。
第五節
現地の要望と将来の対策
国連軍関係犯罪の発生を未然に防止し、事案処理の便をはかり、問題解決の当面の対策として、
現地の当局の要望しているところは次のごときものである。まず検察及び
警察当局の要望は大体同様であるが、市
警察は将来の対策として次のようなものを列挙している。
一、
政府に対する要望
條約の発効後は
日本警察が取締りに当
つているので、以前よりは相当
犯罪は減少し、しかも軽微な
事件も容易に届け出られ、その
被害も弁償されてはいるが、
国連軍兵士の
犯罪取扱いについて、具体的方法のとりきめを早急に希望する。二、
国連軍に対する要望
(1)軍の移動及び艦船の出入等 の
連絡
これらは
犯罪の発生に大きな影響があるので、部隊の移動や艦船の出入等の期日、滞在期間及び員数等を事前に
警察に
連絡してもらい、
警察はこれに対処して必要な警備態勢を整え防犯の徹底を期したい。
(2) 軍紀の粛正
厳格な軍紀の励行粛正を求め、特に
犯罪は深夜に多く発生することにかんがみ、外出時限は午後十一時五十九分とな
つているが、現在はそれ以後も相当数外出しているので、これを午後十一時までとし、それ以後の外出を厳重に取締
つてほしい。
(3)
日本警察に対する協力
国連軍関係あるいはこれらの国の入国者に対する
犯罪事件捜査に関し、軍及び、捜査機関が協力することを義務づけてもらいたい。
(4) 憲兵の増員
軍人の不法行為の取締り警戒のため、現在の憲兵の倍数程度の優秀な憲兵の増員をして防犯の徹底をはか
つてほしい。
(5)
一般民家に宿泊の禁止
相当数の兵士が、いわゆる二号と称する
日本人女のところに宿泊し、あるいは特飲街に宿泊する者があるので、これら兵士の午後十一時以後出入や宿泊を禁止して防犯に資したい。
三、
警察自体の
強化の要望
(1) 機動力の充実
超短波無電
施設をして無線装置の自動車による市中の常時巡回を行い、不法行為の予防警戒に当り、一面
犯罪の早期検挙を容易ならしめたい。
(2) 一齊指令通信
施設の装置
犯罪発生に対処して急速に派出所へ駐在所に手配を行い、早期検挙をはかるとともに、凶悪
犯罪あるいは多数の暴動に対して
警察力の集結を迅速容易ならしめたい。
(3) 語学に通じた捜査員の設置
外国人の取調べに当
つては通
訳を通じて
行つているが、真相把握が困難である。この不便かつ時間的非能率を救うため、語学のできる専任
警察官を二十名くらい増員配置したい。
(4) 留置場の設備の改善
日本人を
対象として設備した留置場は、生活様式の異
なつた外国人に対しては不便が多いので寝台、食事、用便等改善の必要がある。
検察当局もまた
警察機動力の充実を最も当面の必要として希望するとともに、右の第一項に述べた
国連軍関係犯罪処理に関する基地的な法的根拠の確立を期待している。
市長、
市議会議長等市の幹部あるいは地元代議士等の要望するところは前節で述べたように、もつぱら呉市の置かれた地位について
政府並びに中央諸機関が
認識を深め、
財政、産業、渉外
関係等各般の問題において国家的な考慮のもとに格別な援助が得られるよう希望しているのである。
一般市民としてははたして何を望んでいるか。七月十八日NHK
広島放送局が呉市で行つた街頭録音等によれば、軍
関係犯罪絶滅の見地からは、でき得れば
駐留軍の早期引上げを要望するのであるが、現在の
状況ではそれもにわかには望みがたい。一面においては
警察に対してさらに努力を要望するとともに若干非難の声も聞いたのである。
しかしながら呉市としては
駐留軍に直接労務を提供して生活の資料を得ている
市民が、相当数あるほか、旧軍港時代から引続き軍の
施設や部隊の出入及び駐留によ
つて、直接間接生業を営んでいるのが呉市の生態であるから、その面からは一概に早急な軍の撤退や、これに対する強硬な反対的
態度に出られない事情があるであろう。ここにおいてか、
市民の実感と
態度において割り切れないものが感ぜられるのである。外国軍兵士の
暴行事件等には反感と不安を感じつつも、一面においてこれになれ、これに忍従する空気が生れて来ることが看取されるのである。現在の
市民としては外国軍の無害駐留と、これによる市の繁栄を期待するほかなしとする気持であろうが、しかし独立後の
日本としては、やむを得ない外国軍の駐留についても、その基本的な法的規正については
政府の努力により、
日本側の自主的な立場が司法権その他において確立されることを熱望していることは言うまでもないところであろう。
結 語
現下の呉市の
治安事情は、今回の
調査によれば、もとより文字
通りの意味において「恐怖の町」とか、「無
警察の
状態」ということは誤りであることは確認された。
警察も努力し、検挙率も上
つていることは認められるし、
市民一般も市上層部その他各機関も、そのような誤解がありとせば是正されたいと望んでいる。
しかしながら呉市の
国連軍関係の
治安が、きわめて平静で
市民に何ら不安のない
状態とは言い得ない。むしろ駐留ないし出入部隊の性質上、大いに警戒用心すべき
状態であることは前述の
通りであり、現に
調査団の
調査していた七月十六日の深夜半に強姦一件が発生しているのである。なお深夜と言えぬころ市中を一巡しても、盛り場に店頭に、彼我の交歓風景が見られるとともに、やや人影の少い暗がりには至るところに兵と接客婦らしい者とのささやきを聞くのである。
犯罪多発の可能性のあることは容易に看取されるところであ
つて、
関係当局の一段の努力を要するゆえんであり、
市民の
認識もさらに深められるべきものと思われる。
当面の防犯対策についてはすでに述べたところであるが、真に呉市の
治安問題を解決し、
犯罪を防圧するとともに、呉市の自主的存立を確保するための将来の根本的対策を立てることが、永遠の策として最も肝要なことと思われる。しかしながらこれは呉市の置かれたる地位や、その
性格のゆえに多大の困難が予想されるのであるが、この点については
市民の自覚や市当局の努力が必要であることは言うまでもないことであり、さらに、国なり中央諸機関も呉市の置かれた地位に考慮を払い、でき得る限りの後援と努力をなすべき必要があろう。これが最も根本的な呉市の
治安問題解決の永久的な対策であると思われるのである。