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1952-03-25 第13回国会 衆議院 厚生委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十七年三月二十五日(火曜日)     午前十時三十九分開議  出席委員    委員長 大石 武一君    理事 青柳 一郎君 理事 亘  四郎君    理事 金子與重郎君 理事 岡  良一君       高橋  等君    田中  元君       寺島隆太郎君    堀川 恭平君       丸山 直友君    松井 豊吉君       松谷天光光君    柳原 三郎君       堤 ツルヨ君    苅田アサノ君       寺崎  覺君  出席政府委員         厚生政務次官  松野 頼三君         引揚援護庁長官 木村忠二郎君         引揚援護庁次長 田辺 繁雄君  出席公述人         中央社会福祉協         議会副会長   青木 秀夫君         日本患者同盟書         記       浦田  博君         日本遺族厚生連         盟副会長    佐藤  信君         民 生 委 員 佐伯藤之助君         早稲田大学教授 末高  信君         白鴎遺族会理事         長       杉  暁夫君         神奈川県世話課         長       中川  廉君         元陸軍省恩賞課         長       藤村 益蔵君         未亡人代表   村島 喜代君  委員外出席者         専  門  員 川井 章知君         専  門  員 引地亮太郎君         専  門  員 山本 正世君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた事件  戦傷病者戦没者遺族等援護法案について     —————————————
  2. 大石武一

    大石委員長 これより戦傷病者戦没者遺族等援護法案審査のための厚生委員会公聴会を開会いたします。  この際公述人皆様に一言ごあいさつを申し上げます。本日は御多用中にもかかわらず、当委員会公聴会公述人として進んで御出席くださいましたことに対し、委員一同を代表して委員長より厚く御礼申し上げます。申すまでもなく、本法案は、戦争によつて身体に重い障害を受けられた方々及び肉親を失われた遺族方々を、国家義務において補償援護ようとするものであります。これこそ、私どもが七年の長きにわたつて解決を熱望して参りました自主日本の最も重大な、そして最も早急に取扱うべき問題の一つであると存ずるのであります。お手元に差上げてあります法案をごらんになればおわかりのことと存じますが、今回の法案は、今次の大戦による遺族戦傷病者等を、国家の責務において手厚くう慰し処遇すべきものであるとの観点に立脚し、敗戦の結果やむを得ず支給を停止せられていた恩給法に基く諸種の恩給にかわるべき措置をとるべく、旧軍人及びその遺族戦地勤務軍属等対象として、戦傷病者には障害年金更生医療費補装具等支給を行い、遺族に対しては遺族年金遺族一時金を支給ようというものであります。これらの問題は、国民の非常に重大な関心事であります。本法案については、当委員会も特に慎重を期し、委員の請君は、いやしくもこれの審査にあたつて、いたずらに政争の具に供するようなことを極力排除し、真執な態度審査しておるのであります。この法案内容については、皆様も御同感のことと存じますが、決して満足すべきものとは申されません。しかし、私どもは、現在の日本立場とその国力というものを十分に勘案してその態度をきめなければなりません。私どもはこの七年の長きにわたつて、心に済まないとわびつつあつた問題が、初めてその解決基礎をつくり得たことを、非常に心から喜んでおる次第であります。従いまして、かかる重要な法案は、広く国民輿論を反映せしめ、でき得る限りりつぱなものにいたしたいと念願いたしておりますので、長い間この問題と取組んで参りました方々の御意見を十分拝聴し、審査に万全を期すべきであるとの委員会意思により、本日の御足労を願つた次第であります。公述人におかれましては、十分忌憚なき御意見を御披瀝くださるようお願いいたします。ただ時間の都合上、公述の時間は一人十五分程度といたしますが、公述の後で、委員諸君から質疑があると思いますので、これに対しましても、忌憚なくお答え願いたいと存じます。  念のためつけ加えて申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、公述人発言ようとするときは、委員長許可を得なければなりませんし、その発言につきましては、意見をお尋ねする問題の範囲を越えてはならないのであります。従つて今回も、戦傷病者戦没者遺族等援護法案についての御意見をお伺いいたしたいのでございますから、本問題についての陳情のようなことは、できる限り避けていただきたいのであります。また委員は、公述人質疑をすることができますが、公述人は、委員質疑することはできません。以上お含みおき願います。  次に公述人諸君が御発言の際は、便宜上劈頭に職業または所属団体並びに御氏名を述べていただきたく、発言の順位はかつてながら委員長にきめさせていただきます。  次にお諮りいたしますが、本法案は、当委員会のほかに、海外同胞引揚及び遺家族援護に関する調査特別委員会も重大なる関心を持つておられ、向うの委員長からも申入れがありまして、本日の公聴会には、特別に委員外発言許可せられたいとのことでありますが、これの許可につきましては、委員長において適宜許可いたすよう御一任願いたいのでございますが、そのように決するに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 大石武一

    大石委員長 御異議もないようでありますから、そのように決します。
  4. 堤ツルヨ

    堤委員 きよう公述人方々に出ていただいて公聴会を開くのでございますが、見渡すところ、野党の方は全員出席いたしておるように拝見するのでありますが、このような大切な委員会に、かんじんな与党の方々がかくのごとき御欠席ではいかがかと存じますので、委員長——これは政党的に申し上げるのではありません、委員会としてまじめに検討するときに、この出席ではいかがかと考えるのであります。委員長はひとつかり出しをされまして、やはり全員出席されるように、私は議事進行を提案いたします。
  5. 大石武一

    大石委員長 よくわかりました。善処いたします。  それでは第一に末高公述人発言をお願いいたします。
  6. 末高信

    末高公述人 私、早稲田大学教授末高でございます。  ただいまからこの戦傷病者戦没者遺族等援護法案についての、私の感想を申し述べてみたいと考えます。個々の条文について意見をお述べをするのではなくて、全体的あるいは総合的な観点に立ちまして述べたいと思うのであります。特に私の専門といたしておりまする社会保障または公的扶助というものの理論の上に立ちまして、感想を述べるということにいたしたいと思います。  ただいま委員長お話にありましたように、この法案はきわめて重要な法案といたしまして、国会においてお取上げなさいまして、私どもの耳に達するところの輿論と申しますか、世間の御意見は、ほとんど全部これを支持し、あるいはこれをむしろ拡張し、予算のわくを拡大するというふうに向いているかと考えられるのでございますが、私自身、多少違つた感想をこれについて持つものでございます。私は、何ら背後に団体もございませんし、特別のどういう階層輿論を代表するものでもございませんが、公平に、公正にものを見て行こうという方々の間には、私の意見を支持せられる方が多数あると確信するものでございます。憲法第二十五条に確認せられました生存権基礎に立ちまして、わが国では、もちろん自力生活できない国民生存を支えることは国の義務でございます。従いまして、遺族等の方が、事実生活をみずから支えることができないという場合におきましては、当然国の費用におきまして、国民の納得する水準におきまして、これが支えらるべきでございます。そしてそのことは、すでに生活保護その他のわが国において既設せられておりますところの公的扶助の各種の制度におきまして、その援護が与えられていると考えるのでございます。一歩を譲りまして、適当な援護がそれらの方々に与えられていないといたしますならば、それは一般的に公的扶助わが国制度そのものに欠陥があるのでございますから、従いましてそれらの生活保護基準をかえるなり、範囲を拡大するなりというような修正をなすべきであると思うのであります。御遺族方々の大部分は、非常にその生活がお困りであるということ、これに対して手厚い援護が与えられなければならないということは、私ども万々承知いたしておるのでございますが、しかしながら、御遺族方々生活の態様も、必ずしも一様ではないということを考えてみますと、一般的に資力調査を省いての年金制度をここに創設するということ、遺族方々に特別なそういう措置を講ずるということは、どうかと考えているものでございます。一般的な生活保護基準以上の生活保護せられる特別の場合というものは、保険料等におきまして、各自犠牲を払つて蓄積した資金があるという社会保険制度においてのみ、これが認めらるべきものではなかろうかと思うのでございます。従いましてみずからの資金保険料その他の方法でもつて醵出なさらなかつた方々に対しましては、国の費用で与えるところの保護というものは、当然無差別平等の原則が適用せられなければならないと思うのでございます。そうして当法案に盛られておりますところの軍人軍属に対する特別の援護を与える、一時金なり年金を与えるということによつて生ずるところの不都合について、二、三私の感想を申し述べてみたいと思うのでございます。  それは、戦争というものは、国民国家的な仕事でありますために、それによつて受けるところの犠牲負担というものは、あらゆる階層、あらゆる人人に対して、ほぼ同一に発生すると考えられるのでございます。たとえば、戦争徴用を受けて工場に働いていた人たち、あるいは勤労学徒といたしまして、飛行機製作場あるいは海軍工廠等において働いていた多数の者があるのでございます。そういうような方方の中で、爆撃のために、あるいはその他のために命を落された方、病気になられた方が、多数あると考えられるのでございます。さらに、栄養失調になりまして、からだの衰弱のために自然死亡せられるような方もある。さらに不急不要の事業であるがために、転廃業をやむなくいたしまして、その後の生活がまつたく没落をみている方々も多数あるのでございます。さらに、命と財産というものを、もちろん同一に見ることはできないのでございますが、しかし、空襲その他によりまして全財産をなくなしました結果、今日路頭に迷つているところの幾多国民のあることを、私どもは承知しているのでございます。それらの者は、いずれも戦時におきまして、自己の意思に反して戦争にかり立てられた者、あるいは戦争によつて打撃を受けたというよう方々でありまして、これらの方々に対しては、何ら特別の措置を講ずることなく、単に軍人遺族であるがために、あるいは傷病者であるがために、特別の措置を講ぜられるということは、国民のうちに党中党を立てるよう感じがありまして、私ども納得できないと思うのでございます。終戦後軍国主義的な、あるいは侵略主義的な色彩を、わが国家から払拭いたしまして、民主主義国家なつたということは、少くとも援護につきましては、無差別平等の原理、私が先ほど述べましたようないろいろお気の毒な方々に対しまして、同様な援護が与えられるということに、その一つの現われがあつたかと思うのでございます。もちろん、軍人であられた皆様方に対しまして、労働基準法におけるところの業務災害考え方を適用して、特別な援護をすべきであるというようなお考えもあつたかと考えられるのでございますが、それらにつきましては、私先ほど申しました幾多の実例をあげまして、同じよう戦争でもつて犠牲をこうむり、同じよう戦争によつて生活没落を見た人々に対しまして、何となく相済まないよう感じを持つ、こういうふうに考えるものでございます。従いまして、私は軍人であられた方の傷病者になつておられる方々、あるいは戦没者の御遺族に対しまして、まことに厚い御同情の念を禁ずることはできないのでございますが、どうぞ援護国民一般平等に、もしもそれらの遺族方々傷痍を受けられた方々生活が、十分現在の公的扶助生活保護等立場においてできないということになりますれば、これを改善し、これを拡張することによつて、この問題の処理をしていただきたい、解決をしていただきたいというのが私の希望でございますし、この法案に対する私の感想でございます。  多くの皆様方の抱いておられますところの御希望なり御感想と、非常に違うところの意見を申し述べるということは、私自身大いに考えさせられるところがあつたのでございますが、平素の考えを曲げてここで公述申し上げることができませんために、以上私の日常考えております所見を申し述べまして、私の義務を終りたいと考えております。
  7. 大石武一

    大石委員長 ただいまの末高公述人に対する御質疑はありませんか。
  8. 柳原三郎

    柳原委員 今、末高先生からいろいろお話を承りまして、戦争による犠牲者が、軍人軍属だけではなく、その他徴用工勤労学徒転廃業者、あるいは爆撃による全財産喪失等、広い範囲にある。これはよくわかるのですが、そうしますと、私がまだ国会に出て来なかつた前です、たしか五年ぐらい前であつたと思いますが、終戦直後、大内兵衛先生が、戦時補償打切りという考え方を持ち出され、国会がこれに同調したのか、どういう関係であつたか、私は知りませんが、戦時補償打切りになりまして、いわゆる政府その他の公的機関への貸金というものは全部打切られてしまつた。あの議論を聞いておりますと、戦争犠牲者範囲が、もつと押し拡げて行きますと、戦時補償打切りについて、今日あなたはどういうお考えを持つておられるか承りたい。ちよつと質問が要点がわかりにくいかもしれませんが、戦時補償打切りについて、もう少しあなたの議論を飛躍させていただきたいと思います。
  9. 末高信

    末高公述人 ただいまの御質問戦時補償打切りにつきましては、考え方が二つあると思います。先ほど私が申しましたように、戦争犠牲というものは、全国民負担しておる、従いまして、その負担程度はともあれ、これは全部打切つてしまうという考え方と、すべて戦時補償を公平に徹底的に洗い出して解決をするという、二つの考え方があると思います。どちらでも私けつこうだと思いますが、戦時補償をやるならやるで、あらゆる戦争によるところの犠牲、あらゆる戦争によるところの災害というものを、まことに平等に処理することができれば、戦時補償はなすべきであるというふうに考えております。しかし、中途半端な戦時補償は、むしろ打切つた方が公平ではなかろうか、その点につきましては、かよう考えております。
  10. 柳原三郎

    柳原委員 中途半端といいますと、この法案を中途半端という御意見ですか。
  11. 末高信

    末高公述人 さよう考えております。
  12. 柳原三郎

    柳原委員 そうすると、この法案には、先ほど先生も言われましたあらゆる戦争犠牲者一般補償的性格を含んでおらないから、この法案には、結論から言うと、反対であるというふうに解釈してよろしいのですか。
  13. 末高信

    末高公述人 さようでございます。その点につきまして、もう一言申し上げたいと思います。私が先ほどおおむね列挙いたしましたが、まだたくさんあると思います。それらのものにつきまして、国民の納得するような公平な補償ができるならば、私は補償をやることも一つの手であると思います。しかし、それができなければ、国民最低生活を国の費用において保障すると申しまするか、援護いたしておりますところの生活保護法、その他の公的扶助方法において解決すべきである、それが一番公平な方法であろう、かよう考えております。
  14. 柳原三郎

    柳原委員 いろいろ戦争犠牲者もありますが、そのうちで、特に今日援護の手を差し延べなければならないというのは、やはり戦死された遺族の方、あるいは傷痍軍人、これらが最も気の毒な立場の第一番目にあるというふうには思われないでしようか。
  15. 末高信

    末高公述人 その点、やはり程度の差ではなかろうかと思います。傷痍を受けておられる方々、それから遺族方々、大部分は、私どもの接触している限りにおいては、お気の毒ではございまするが、しかし、自力でりつぱに更生せられておる方も多数またおありであるということを私は知つております。従いまして、資力調査なしで、この法案に盛られておるよう方々に、この範囲内において無差別平等の年金と一時金を与えるということにつきましては、私は反対である、こういうわけでございます。
  16. 苅田アサノ

    苅田委員 末高公述人にお伺いいたしますが、公述人の御主張でございますと、文官恩給というものに対しましては、どういうようなお考えをお持ちでございますか。保険等の掛金によつて、これの約束に従つて特別なものが出るというのは認めるという御主張であつたのですが、それでは現行の文官恩給につきましては、どういうお考えでございますか。それと、もう一つは、今回政府の方では、来年度から軍人恩給ということにつきましても、考えがあるように申しておるのであります。こういう問題につきまして、公述人はどういうお考えでしようか、この点をお聞きしたいと思います。
  17. 末高信

    末高公述人 文官恩給につきましては、ただいま別段問題になつておりませんので、きよう公述範囲を逸脱しているかと考えておりまするが、しかし私自身それだけについて意見を徴せられるならば、これは出すのが当然であると考えております。それから軍人恩給の点につきましては、これは再軍備との関連においていろいろ考えられているという意味におきまして、再軍備の問題を私がここで論議するということは避けたいと思います。従いまして、非常に飛躍した結論から申しますれば、私は反対でございます。
  18. 苅田アサノ

    苅田委員 そういたしますと、文官恩給には賛成であるが、軍人恩給反対である、こういう御所見に伺いますが、それでよろしゆうございますか。
  19. 末高信

    末高公述人 その間の理論お話をしなければ、私の意見は納得できない方が多いかと思うのでございますが、ただいまは、その問題の理論を、十分二十分の時間を費して申し上げる機会でないと思いますので、結論をお確かめくださるならば、結論といたしましては、御質問通りでございます。
  20. 苅田アサノ

    苅田委員 文官恩給がなぜ必要かということについて、これはたいへんに広い範囲にわたつて理論を聞くひまが、きようはないと思うのでございますが、文官恩給は、保険とは別個な、何年か在職した者に対する政府としての補償だと思うのですが、こういうものは必要である。ところが、そういう御議論をお持ちになつておられる公述人が、それでは戦争のために最初から死んでもらうということをほとんど強制して、これは年限は何十年というわけではないでしようが、五、六年から七年も戦争に行つておられる。しかも、それは任意に職を選んだわけでなくて——職業軍人自分の職として行つたのでしようけれども、大多数の国民というものは、政府の強制で連れて行かれて、いろいろ苦労しておられるわけですが、これに対しては、恩給までは行かなくても、そういう人たちの死亡に対して、あるいはけがに対して、国としての補償をやるということが悪いと言われますことは、目的によつてそういう差別があるわけでしようか、どういうわけでしようか、この点をお聞きしたいのです。
  21. 末高信

    末高公述人 目的の点は、しばらく議論外にいたしたいと思いますが、少くとも公平という点におきまして、私ども納得できない。私ども戦時中、早稲田大学学徒を引連れまして、豊川の海軍工廠に参りましたり、あるいは岐阜における川崎航空に出動いたしまして、爆撃を受けまして、多数の学徒が死んでいることを知つているのでございます。それらの人たちは、決して自分意思——なるほどあのときは、いろいろ激励せられたり何かいたしまして、納得して喜んで行つたように見えます。それは軍人の方も同じだと思いますが、しかし、当人の意思に反して、せつかく学徒は勉強すべき時代であるにかかわらず、そういうところへ連れて行かれまして、爆撃によりまして多数死傷を来しておるということがありまして、それらの方々の御遺族あるいは父兄の方々のお気持というものは、軍人遺家族方々のお気持と、何ら異なるところはないというふうに考えております。
  22. 苅田アサノ

    苅田委員 そういたしますと、もしこの戦争に対する補償が、今日のよう軍人遺族軍属とに限られなくて、もつと対象が広げられまして、たとえば今お話なつよう学徒動員工場に行かれたとか、あるいは原爆地でのがれるひまもない間にやはりそういう状態になつたとか、あるいは戦争によつて海外から引揚げて来たとか、そういつたふうな人々を全部対象にして、国が戦争による特別な被害者という意味補償するとすれば、これに対しては御賛成になるわけですか、この点もお聞きしたいと思います。
  23. 末高信

    末高公述人 その点でございますが、範囲がなかなかむずかしいと思うのでございます。たとえば、民防空に従事した——ども応召もいたしませんでしたし、徴用にもならなかつた者でございますが、帝都にはほとんど人がいなくなつた際に、お前たち残つて帝都を守らなければどうするのだという激励にこたえまして、私どもバケツ送りもいたしましたし、あらゆることで戦つたのであります。私のうちは、完全に焼かれ、広野原になつてしまつたのでございまして、私は幸いにして生き残りましたが、民防空のために命を落した人がたくさんある。それらの人々をどうするかという問題になります。それから失いましたところの財産——財産と人命というものは、先ほども申しましたように、一概にこれを一緒にすることはできませんが、しかし、全財産をなくなして今日路頭に迷つておるという悲惨な境涯は、親兄弟を戦争犠牲にいたしまして路頭に迷つておる方々と、その路頭に迷つておるという点におきましては、何ら異なるところがない。こういうことになりますと、幅の広げようがない。従いまして、全部これを御破算にいたしまして、今日の公的扶助あるいは生活保護内容を拡充して行く。皆様も御承知の通り明年度生活保護法予算は二百五十億となつておりますが、これを倍額あるいは三倍にもいたしまして、全部の遺家族方々に、私どもが納得できる水準におきまして、十分の援護の手を差延べるということにつきましては、私は大賛成でありましてそれをこそ私はお願い申し上げたいと考えておるものでございます。
  24. 苅田アサノ

    苅田委員 意見にわたることは申し述べませんが、もう一点だけお聞きしたいことは、御専門立場から、現在の生活保護法水準に対しまして、ただいまの御陳述の中にもあつたのですが、これが、戦傷者であるとか、あるいはそういう人たちをも含めたものといたしますと、現在の基準でよろしいかどうかにつきまして、簡単でけつこうですからお答え願いたいと思います。
  25. 末高信

    末高公述人 生活保護法立場は、つまり現在生活能力がないという点に基準を置いております。従いまして、現在生活能力がない、欠如をしている部分について、国の費用において補給する、これをできるだけ納得のできる水準において改善して行く、あるいはその線を引上げて行くということにつきまして、私は賛成するものでございます。
  26. 高橋等

    高橋(等)委員 末高先生にお伺いいたします。ただいま御発言になりました御意見も、よく承つたのですが、軍人軍属に対しまして、国が特にこれらの人に補償をするというのでは反対だ、こういうように承つてよろしゆうございますか。
  27. 末高信

    末高公述人 軍人軍属というものに限つて特別の措置をするということにつきましては、反対いたします。
  28. 高橋等

    高橋(等)委員 軍人軍属につきましては、実は戦争中から、なくなりました場合には遺族扶助料を出す、それから傷つきました者、要するに身体障害を受けました人には障害年金を出すという規定がありました。これは、ポツダム政令によりまして、一時停止をされております。この法律関係におきまして、戦前のそうした方面の約束というものを、敗戦後の日本が守る義務があるかどうかという点については、どういうようにお考えになつておりますか、その点をお伺いしたいと思います。
  29. 末高信

    末高公述人 その点につきましては、戦争直後に出ましたところの戦時補償打切り——先ほどの御質問と同じことを、私は申し上げたいのでございますけれども、やはり戦争前の約束は、新たなる観点に立ちましてこれを検討して、国民一般の納得できる水準にこれを引直して実施を計画するということが、いいのではなかろうかと考えております。
  30. 高橋等

    高橋(等)委員 議論にわたることは避けたいのですが、一般の文官につきましても、私は戦前の約束であろうと思うのです。日本戦争に負けて、そして戦争前のいろいろな約束については、変更を要するものは変更をしなければならぬと思いますが、少くとも給与の関係におきまして、一応国が義務として約束したことについて、文官においてはこれを実行している、しかも軍人軍属について約束したものは、これをやめるということが、どうも私は何か権衡を失するように思うのです。何か新しい別の考え方で、もう戦争は負けたのだから、全然考え方を違えるのだという意味の御立論かとも思いますが、もう一度その辺のお考えを承つて、私の質問を終りたいと思います。
  31. 末高信

    末高公述人 文官恩給に関しましては、文官という特別の階層は、私ども民間人と違いまして、特別な営利事業にサイド・ワークとして関与して金をもうけるとか、あるいは財産を蓄積するという立場に立つておりません。従いまして、そういうよう文官の方方が、忠実に誠実に職務に当つてくださるということが、国の行政の運用上まことに必要である。こういう立場から、あの文官の階属に対しましては、恩給というものがあることは御承知の通りでありまして、これにつきまして、たとえば民間の会社におきましても、基礎の確立しておりますところの事業等におきましては、特別の恩給制度等々があるのと同じようなわけであつて政府の職員に対しまして、恩給制度があるということにつきまして、私は当然であると考えております。
  32. 高橋等

    高橋(等)委員 軍人軍属は、私は戦犯者じやないと考えておる。そこで戦争前の文官も、総力戦となれば、すべて戦争には従事しただろうと思うのです。そこで、ひとり文官恩給を残して、軍人軍属恩給を、約束したものをこの際葬り去るということについては、何か割切れぬものがあるように思うのですが、もう一ぺん先生にその点をひとつ伺いたい。
  33. 末高信

    末高公述人 ひとつ、先ほどの話でもつてごかんべん願いたいと思います。
  34. 堤ツルヨ

    堤委員 ちよつと議事進行に関してお尋ねいたしますが、たとえば末高先生に対するみなの質問が終つてから、次の公述人お話になるのだと思いますが、それに対してわれわれの質問する時間の制限はございませんか。
  35. 大石武一

    大石委員長 時間の制限はいたしてございません。しかし、大体常識において公述人の数と時間を御勘案なさつて、適当に御質疑していただきます。
  36. 堤ツルヨ

    堤委員 先ほどから御意見を伺つておりますと、末高先生は、これはいわゆる社会保障の保障で、賠償の補償でなしに、遺家族に対する援護は、他の人たちと一律に、他の公的扶助と一律に考えて公平になさるべきで、悪平等にならないようにという御意見ように私は考えるのであります。そこで、今、高橋委員がお尋ねになりましたが、この保障と補償の問題、ここのところをどういうようにお考えになつているか、そこがわからないのですが、私たちとして、ここは大切な問題なのでお伺いしたいと思います。
  37. 末高信

    末高公述人 賠償の意味補償考え方は、労働基準法におきまして、業務災害に対しましては賠償の意味補償が与えられる、それと同じ考え方傷痍軍人並びに遺家族の方に対してしたらばいいじやないか。つまり、国の公の仕事に従事している間にけがをせられたとか、あるいはおなくなりになつたという者に対しましては、特別の賠償的な立場においてこれを処理するのが当然だというお考え方もあろうかと思うのでございますが、しかし、それは私が先ほど申し上げました範囲の問題、たとえば勤労学徒であるとか、徴用者であるとか等々の範囲の問題におきまして、すぐに行き詰まつて来ると思います。従いまして、この問題につきましては、賠償の意味補償では処理ができない、すなわちセキユリティの意味の保障、一般的な国の責任において、自己の生活を保つことのできない者は、納得し得るところの水準において国が保障を与えるという方式において、これを処理すべきであるというのが、私の究極的な考え方でございます。
  38. 堤ツルヨ

    堤委員 非常にはつきりいたしました。それで一つ公述にはなりませんでしたが、遺児の育英の問題に関して、どういうお考えをお持ちになつておりますか。ひとつこれだけについて、御意見を承つておきたいと思います。
  39. 大石武一

    大石委員長 それは公述以外の問題のようでございますから、末高さんは発言を差控えたいと申しております。
  40. 堤ツルヨ

    堤委員 遺児の育英の問題は、これは遺家族援護全般の中に含まれる問題であると私は思つておりますので、従つてこの問題をどうお考えになるか、御意見を伺いたいと思います。
  41. 末高信

    末高公述人 それでは申し述べますが、やはりこれも他の国民方々と平等に扱うべきではなかろうかと考えております。
  42. 松谷天光光

    ○松谷委員 先生の御説明で、大体こうした問題は、社会保障の建前で行くへきだ。この考え方は、先生のお考えとして了承できるのでございますが、その場合に、先ほども出ておりました文官恩給でございます。一般社会保障だけでやるんだという考え方で参りますれば、これは一つ考え方として納得できますが、その場合に、文官恩給だけをそこに存在を認めて、そして他のものは——これは軍人恩給その他は別の問題でございますが、少くとも一方にそうした恩給的な制度を認めて、そして片方では社会保障一本で行くんだでは、そこに何かちよつと割切れないものがあります。先ほどの御説明では、納得が行きかねますので、恐れ入りますが、ちよつとつけ加えていただきたいと思います。
  43. 末高信

    末高公述人 その点は、今日七百万の一般の勤労者、労働者の方々の厚生年金保険というものを、昭和十六年からやつておるのでございますが、これはやはり戦争中のものも打切られないで今日まで来ております。それと同じように、社会保障考え方は、国民一般平等に、最低の水準は守る、それ以上の水準につきましては、できるだけ各階層の者が一つの部門をつくりまして、あらかじめ保険料その他で醵出しておくという方法でもつて自分たち階層生活を守るということは、これは当然認められなければならない。従いまして、民間における厚生年金保険と同じよう意味におきまして、私は文官恩給につきまして考えておるものでございます。
  44. 松谷天光光

    ○松谷委員 先ほど御説明くださいました労災補償でございますが、あれを先生はお認めでございましようか。
  45. 末高信

    末高公述人 この点、学問的に非常にむずかしい問題で、あれを認めないで行こうという議論もあるのでございますが、ただいまのところでは、通念から申しますれば、一般的に認められている。しかし私の考え方を押し詰めて参りますれば、あの労働基準法によるところの業務災害考え方というものは払拭すべきものである、是正すべきものであるというふうに考えております。
  46. 松谷天光光

    ○松谷委員 労災に対するお考えと同じように、先生の今日の公述なさいました御結論は、理論家とされての先生の御結論であると拝承してよろしゆうございますか。  もう一つつておきたいのは、確かに一つ理論として、また理想としての行き方は、社会保障によるべきである、これは当然だれしも思うところであると思うのであります。あるいはまた、もちろん物の考え方の相違によつては、他の議論が出るかもしれませんが、そういう場合でも、今の労災を先生一つの暫定的なものとしてお認めになられたように、私ども一つの理想である社会保障の確立を来すその日まで、今日の現状として、なかなか生活保護法の実施さえも十分でない場合に、その目的に一足飛びに飛ぶことができないという現状からして、臨時的な、あるいは労災と同じように暫定的な一つ措置として——軍人軍属範囲には、もちろん相当の疑義があるといたしましても、こういう暫定的なものに対する具体的な問題としてのお考えについて、できれば伺つておきたいと思います。
  47. 末高信

    末高公述人 私現在の立場におきましても、この法案につきましては異議がある。それは、ただいまこの法案に附属するところのものとして予算に組まれているものを、むしろ生活保護法の方に流し込みまして、わくを広げる。私ども軍人遺家族の方の大部分は、ほんとうにお困りになつているということの実情をよく承知しているものでございまするが、しかし同時に、困つておらぬ方もある。別の各層において困つておられる方もある。軍人遺家族におきましても、御辞退申し上げた方がいいと、みずからお考えの方も幾らかあるんではなかろうか。で、生活保護法に流し込みますれば、それらの御辞退なさるような方には当然与えられない。従いまして御辞退どころではなく、ぜひもつていただきたいという方のためには、もつとよけい行くということになりまして、むしろその方が実情に合うのではなかろうかと考えているものでございます。
  48. 堤ツルヨ

    堤委員 そうすると、先生の御意見は、公的扶助、ただいま行われております、おもに生活扶助ですね。これに対しては非常に御不満であつて、これの運営なり、また今後の財的なこれに対する裏づけに対しては、こういう法律をつくつて金を使わなくても、もつと生活保護法を百パーセント運用することによつて十分行けるという御確信があるというふうに、結論を解釈してよろしゆうございますか。
  49. 末高信

    末高公述人 その通りでございます。
  50. 大石武一

    大石委員長 それではどうも御苦労さんでした。  末高公述人は急用があつて早くお帰りになりますので、末高氏に対する質疑許可いたしましたが、あと午前中もう三人予定しておりますので、その方々に対する質問は、三人の公述が済まれてから、まとめて御質疑を願いたいと思います。  次に浦田博君の公述を願います。
  51. 浦田博

    ○浦田公述人 私は日本患者同盟の書記をしております浦田博と申します。援護法につきまして、私は日本患者同盟を代表いたしまして、特に戦傷病者立場から、これに対する意見希望を述べてみたいと存じます。  まず総括的に意見を申し上げますれば、第一点といたしまして、本援護法は、やはり社会保障観点に立つて行わなければならないということを、基本方針としていただきたいと思うのであります。しかし、現実の問題といたしましては、現在いかなる人々が、その生活の中で当面どのよう内容援護を最も必要としているかということを、この中でもつとはつきりしていただきたいと思うのであります。  第二点といたしましては、これを恒久的な援護立法にしていただきたいと思うのであります。傷痍者に対する援護といたしまして、未復員者給与法という法律がございまして、これにおいて三年間の有期の療養給付を受けておりますが、これもやはり三年と限定されております。また聞くところによりますれば、本援護法も、暫定的のものではないかということも承つております。われわれとしては、さようなものではなくて、第一点で申し上げましたように、社会保障という観点に立ちまして、安定性のある恒久的立法でなくてはならないと主張いたします。具体的に私の意見を申し上げたいと思います。  第一といたしましては、戦傷病者に対する医療の保障の問題でございます。本法におきましては、第十七条におきましては、更正医療といたしまして、きわめて限定した医療すなわち視力障害、聴力障害、肢体下自由、中枢神経機能障害ということにつきまして、更生のための医療を給付することが規定されております。しかしこの条項の中に、何ゆえに結核その他を含みます医療一般が含まれなかつたということにつきまして、われわれ傷痍者といたしまして、多大の疑念を抱くものであります。この点につきまして、もし忘れているものでありますれば、ぜひ入れていただきたい、また故意にこれを削除したものであるならば、この立法の意図が那辺にあるかということを疑わざるを得ないのであります。  本法案が、内科疾患、またその大部分を占める結核、精神病、そういつた一般の疾病を含まないならば、本法の題名でありますところの「戦傷病者」の文字の中から「病」の文字を削除しなければならないのではないかとさえ私は思うのであります。この点、立法の基本方針、すなわち現在、今すぐどのような人にどのよう援護を行わなければならないかという立場に立ちまして、基本問題であると思いますので、いささか述べたいと存じます。  まず戦争のために傷つき倒れました者に対する援護とは、どのようなものでございましようか。戦死された方の遺族に対する援護、あるいは障害を受けられた方に障害年金を給付する、これももちろん大切でございますが、しかし、その者が現在なお医学の可能な限りにおいて、一歩でも完全なからだに復帰できるものであるならば、これを元のからだに返してやるのが、ほんとうではないでしようか。戦争による病魔を取除いてやるのが、まず第一番に、何をさておいてもなさなければならないことではないかと私は思うのであります。もし、このことをなさずして、この援護法があるとするならば、一体何を援護ようとするのかということを、私は言わなければなりません。私ども戦傷病者のほんとうの願いは、年金をいただくようなからだになることではなく、また国立保養所に収容していただくことでもございません。でき得ることなら、元のからだに返りたいのであります。このからだの中から、もし医学によつて病魔を取除くことができるなら、それを第一義に取上げて行つていただきたいのであります。  また援護ということにつきまして、医療が第一義であるということは、この種の社会保障国家保障、すなわち健康保険、あるいは共済保険その他の例をあげますまでもなく、当然のことであります。しかもここに規定してございます更生医療わく内でございますが、視力障害であるとか、聴力障害であるとかいうものは、この中で医療を必要とするものは全体の大体一〇%程度ではないかということを聞いております。すなわちこのわく外にある方は全体の九〇%を占める、しかも長期にわたらなければならない結核あるいは精神病患者がほとんどなのであります。しかもこれらの人々は、戦後七年あるいは八年の闘病と、それに加えまして入院治療費の支払いをどのようにするかということを、家族とともに苦しんでおるのであります。  私がここに公述人になることにつきまして、全国の療友の方々から、数多くの手紙が参つておりますが、その中の一部を公開させていただきたいと思います。前文を略します。   このたび出席される戦傷病者戦没者遺族等援護法案公聴会には、私の場合をお知らせいたし、参考に供したいと存じます。   私は二十代のほとんどを満支各地にて連戦、終戦の年には朝鮮大邱部隊に勤務中、同年四月肺結核発病以来、大邱陸軍病院、東京第一陸軍病院、国立埼玉療養所と、引続き七年余の闘病生活中の者です。   顧みればこの数年来、闘病生活は、また同時に入院料調達の闘いでもあり、また入院料のことを忘れて闘病に専念できた期間が、はたして何箇月あつたでしようか。闘いとつては奪われ、闘いとつては奪われ、適用になつた医療券もいつ打切られるかと恐れおののきながら、現在もなお、二年前無通告で医療券を打切られ、国保に切りかえられ、不親切な係のために赤貧の家庭に残り半額の約二箇年半分の八万数千円の支払いを迫られており、加うるに今度の問題です。二十三年に恩給裁定二款症となり、一時賜金千八十円受領のため、末復員者給与法が適用されず、医療券打切後云々となつております。そして最後に「私は聞きたい。政府はどのくらい特例患者を苦しめたら気が済むのか、と」というふうに言つております。  この手紙は国立埼玉療養所の宇佐見一郎という戦傷せられた人の手紙でございます。いかに医療費につきまして傷痍者が困つているかという点について、もはや私がこれ以上申し上げる必要はないと存じます。この点を十分了解されまして、第十七条の改正をぜひお願いしたいと思います。  次に、第二点といたしまして、障害年金の問題でございます。まず第一に、障害年金の性格でございますが、本法第七条から八条によりますれば、特項症から六項症まで七段階にわけられておりますが、これは傷病保障であり、生活保障は全然考慮されていないのであります。これを一般公務員と比較いたしますならば、公務員の場合は、普通恩給と増加恩給支給され、普通恩給は給与に準じた生活保障であり、増加恩給障害程度に応じた障害保障であります。また同じく公務員における金額は、正確ではございせんが、判任官の方で三項症になつた場合は約五万円であります。本法第八条では、三項症は四万二千円であり、約一万円の差が生じております。この障害年金は、これは障害保障であるばかりでなく、当然これらの人々に対する家族の生活も含めて保障されなくてはならないと考えます。  次に七項症以下の、過去に一時金を支給された戦傷病者に対する保障が、本法第八条においては全然考慮されておらないことであります。特にこの七項症以下の者の中にも、今なお病床にある者も多数ございます。先ほど読み上げました手紙も同様でございます。また法規上六項症と七項症の差は、きわめてわずかなものでございますが、少額の一時金を支給されたほか、今に至るまで何ら適切な処遇をいたしていないのであります。しかも七項症以下の者にも、今なおその症状が続いている者には年金を復活し、適切なる保障をしないことは、片手落であると思います。  次に、医療と年金の関係でございますが、本法におきましては、第七条一項二号において、未復員者給与法による療養との併給を禁じております。しかして第十二条第一項において、国立保養所に収容された者は、障害年金を減額するようになつておりますが、これはきわめて実情に沿わないものであります。すなわち療養を受けます場合、国立療養所に入所いたしましたとしましても、現在の国立療養所の状態は、まかない費は国家予算によつて八十二円で、きわめて低額に押えられております。ほとんどの入院患者は、副食その他の栄養をとらなくてはやつて行けない。その他こまかいことでありますが、ちり紙、石けんその他一切の日用品代、そういつたものまで、やはり自費ですべてまかなわなければならないのでございます。生活保護法ですら、きわめて不十分ではございますが、月々四百五十円を日用品として支給されております。療養給付の保障と年金の保障は、併給されなくてはならないものであります。第三といたしまして、生活保護法と本法との関係であります。具体的に申し上げますと、本法の障害年金におきましては、最高である特項症で年六万六千円、月額五千五百円でありますが、これを生活保護法に比べますと、東京都で五人世帯でもつて最低生活七千円という基準をもつて保障いたしております。生活保護において、東京都五人世帯で七千円の最低生活を保障されている人が、特項症で月額五千五百円の障害年金支給されたどするならば、無差別平等を建前とする生活保護法においては、この障害年金は当然収入と見なされる結果となり、支給額から差引かれることは明白でありまして、最低生活をしている人に対しましては、今回の援護法は何ら援護とはならないということを私は思うのであります。この件につきまして、厚生大臣は本厚生委員会におきまして、運用の面において考慮したいということを述べておられるということをお聞きいたします。一体、運用の面において考慮するということは、具体的にどのようなことをさすのでございましようか。法文の中に明らかにせずして、運用の面で考慮するということは、法を曲げて解釈せよと、大臣は言つておられるのではないかとさえ思うのでありまして、理解に苦しむものであります。もし、そういうお気持があるならば、よろしく立法をもつて、本援護法が死文にならないように、十分考慮されんことを切に希望いたします。  その他気づいた点につきまして簡単に触れますと、本法の運用において、重大な決定及び大臣の諮問に答える機関でありますところの援護審査会の構成と運営についての規定が本文において明確に示されず、附則の第十項に、引揚援護庁設置令の中で、附属機関として一条を加えてあるだけであります。これは立法技術士の手落ちであります。附則は経過規定でありまして、これは当然本文の中でその構成と運営を規定され、しかもこれを民主的になされなければならないと思います。  次に、第十四条一項の中に、たとえば禁錮三年の刑に処せられた者は、障害年金取得の権利が停止されるようになつております。ここで、先ほどからお伺いいたしておりますと、終戦後非常に特殊的な事情のもとに、当然国家が行わなければならない援護を、国家が今日まで放棄して来て、ここに至りましてようやく援護を開始することができた。当然国家が行わなければならない援護を放棄して来た期間におきまして、その生活苦のために犯罪を犯したということは、本法を適用しないという理由にはならないのではないかと私は考えます。  それから併発の問題でございますが、第二十三条の一項二号の規定によりまして、その疾病以外の者は、第二十七条によりまして十分の六に削除するということがございます。手足をなくせられた方が、その手足のなくせられたことの理由以外のことで死亡された場合は、遺族に対する年金は十分の六にするという意味でございます。しかしながら、手足を切断された方が、手足を切断したという理由によつて亡くなる場合は、ほとんどないのではないかと思います。松葉づえをつくために、必ず結核その他の余病を併発するのが、私たちのふだん見て参つておるところであります。この点につきまして、やはり同等の扱いをすべきであると思います。  以上、申し上げました中から、条文の項目を改正していただきたい点を特に申し上げますと、第一点といたしまして、十七条の更正医療を一般医療として結核その他すべての疾病を含め、なお併発症も加えて治療していただくことを要求いたします。第二点として、第七条二号の未復員者給与法に対する障害年金の制限規定は、削除していただきたいと思います。  第三点といたしまして、第七条の障害年金は、家族に対する保障も行い、かつ七項症以下も年金として含めていただきたい。  第四点といたしまして、生活保護法との関係について、本法による援護はすべて収入とみなさないというような、あるいはそれ以外の言葉でもけつこうでございますが、何らか立法でもつて明らかにしていただきたいというふうに思います。  以上の私の意見を総括いたしまして本法の中に貫かれておることは、どのようにして援護を行おうかということに努力することより、どのようにして制限するかということに努力しておらるるのではないかという疑問がございます。すなわち二百三十一億にどのようにして合致させるか、このためには医療をこの程度にするということが行われておるのではないかとさえ、私は疑問を持つわけでございます。またこの法案の提案理由の中には、この法は国家補償ということが規定してございます。そして国家補償という観点に立ちまして、お燈明料と言われましたように、非常に少い年金あるいは少い一時金によつてこれを補償ようとしているのであります。ところが支給の面におきましては、非常に生活保障的な性格を持つているのであります。たとえば遺族年金におきましては、月額二千円以上のものはすべて二千円に押える。あるいは夫であるものは不具、廃疾でなければならない、また父母は六十歳以上でなければならない、また子供は十八歳以下でなければならないというように、その者の生活条件によつてこの援護内容を規定しようとしております。これは生活保障ではないかと思います。こういう点につきまして非常にあいまいではないかと私は思うのであります。七年間待ち続けまして、講和を控えまして、今日こういう法律が提出されまして、これで生活が楽になるのではないかと期待した者もございます。しかし一番困つている者の生活が、本法によつて何ら潤うことがない、今まで通りであるならば——先ほども申しましたように、生活保護法対象になつておる傷痍者の方々が、援護法によつて何ら得るところがないならば、私は一体この援護法は何のためにあるかと思うのであります。  以上をもちまして、大体私の意見を終りたいと思います。
  52. 大石武一

    大石委員長 次は、藤村益蔵君。
  53. 藤村益蔵

    ○藤村公述人 私は元陸軍省恩賞課長をしておりました藤村益蔵と申します。私は前後八年にわたりまして、元陸軍省恩賞課に勤務いたしまして、戦死者遺家族傷痍軍人並びに出動軍人恩給事務及び軍人援護の事務に従事しました。第一線に出動する者に対しましては、あとのことは心配する必要はない、第一線に立つて大いに働いてもらいたいという激励の言葉を発しまして、その門出を送つたのであります。この第一線に出動しましたこれらの方方は、私の言葉の通りに、一身一家の休戚を顧みることなく、報国のまことをいたしましてあるいは戦場の花と散り、あるいは生れもつかないかたわになつて復員されたのであります。そうして終戦後は、あのポツダム勅令によりまして、ほんとうに私の言葉ではとうてい表現することのできない悲惨な生活をされて、今日まで来たのでありまして、まことに同情禁じ得ないものがあるのであります。しかるに、この私は、散りもせず、とらわれもせず、生き長らえているのでありまして、この現状を見ましては、まことに断腸の思いにたえないのであります。以下私が遺族及び傷痍軍人恩給事務並びに擁護事務につきまして、経験したことをもとといたしまして、私の意見を申し上げます。  軍人恩給は、明治四年の陸軍士官兵卒給俸定則に胚胎をしておりまして、明治二十三年に軍人恩給法が制定せられたのであります。この軍人恩給法に基きまして、三十有余年にわたつて軍人軍属恩給支給せられたのであります。ところが、一方におきまして文官、学校職員、宮内官等の恩給が制定実施されまして、これとの均衡調整をはかるために、統制をせねばならぬというので、幾多の曲折を経て、現行の恩給法が大正十二年に制定になつたのであります。その後数次の改正がありましたが、昭和九年以降は、下士官以上の軍人軍属は、俸給の中から国庫納付金をして来たのであります。こういうふうに軍人恩給は長い歴史がありますし、また他の職業につき得ない、すなわちつぶしのきかない軍人軍属が退職した場合、戦死した場合、あるいは負傷した場合に、恩給が受けられるという安心感を持ちまして、専心軍務に精励したのであります。すなわち軍人軍属にとりましては、恩給というものに対しましては、一種の特別な関心があるのであります。しかるに、この恩給がポツダム勅令第六八号によりまして支給停止され、それがまさに解除されんとするときになりまして、この遺族及び傷痍軍人に対して当然行わるべき恩給法による年金恩給法でなくてこの新たなる法案によりまして、実施せられることにつきましては、私は了解に苦しむ次第であります。将来恩給法特別制度審議会を設置されまして、恩給につき慎重審議せられまして、明二十八年度からは、恩給法により支給するという政府要路者の意見も開陳されておるような状況でありまして、そのつながりからいたしましても、この年金は、恩給法でおやりになるのが妥当ではないか、こういうふうに感ずるのであります。要しまするに、年金恩給法によつて支給せられます権利がありますし、現に戦傷病者恩給法上の増加恩給を受けておるのであります。また将来におきましては、審議されまして、恩給によつて支給されるのではないかというような雰囲気にありますこと、これらを考えまして、この戦傷病者遺族年金支給恩給法によつて支給していただくが妥当ではないか、こういうふうに感ずるのであります。  以上申し上げましたように、年金支給は、恩給法によるべきを可なりと信ずるのでありますが、しかしながら、諸種の関係から本年度はこの法案でやるのやむを得ざる事情があるかとも思うのであります。その場合におきましても、障害年金恩給法によつて支給していただきたいと切望する次第であります。その理由は、恩給法の中に入れる方が、事務を簡単ならしめて、受給者の手に早く渡るのであります。と申しますのは、恩給法にこれを入れますれば、すなわち今の増加恩給証書を改訂さえすれば、すぐに受給者に渡るのでございます。ところが、今度この法案によりまして支給をすることになりますと、まず受給資格者の書類を提出させなければなりません。それから事務的にこれを処理しなければなりません。次に、新たに障害年金証書を発行しまして、しかる後に支給をする、こういう事務手続を要するのであります。また附則におきましては、増加恩給障害年金とは併給しない、こういうことがありますから、厚生大臣と恩給局長との間におきまして、煩雑なる事務が避け得られぬのであります。この事務は、まつたく事務費の徒費であります。その上に受給者の手に年金が渡りますのが、非常に遅れるという不利があるのであります。私の経験からいたしますれば、こういうふうに書類を出させまして、審議しまして、裁定をして支給するということは、言葉では簡単でありますけれども、相当の時日がかかるのであります。戦時中私が事務をやつておりましたときに、やはり遺族及び傷痍軍人方々に、増加恩給等が非常に遅れて参りまして、これははなはだ相済まぬと思いまして、一生懸命に働いたのでありますけれども、それでもなかわれ思うように参りません。とうとう恩給年金の立てかえ前貸しということを考えまして、その当時の軍人援護会及び恩給金庫をしまして、戦死した者につきましては、恩給が渡る前に立てかえ前貸しをやつてもらいたいということを交渉しまして、両団体におきましてこれを納得させまして、そういうふうな窮余の策を講じたような次第であります。こんな経験もありますので、国の事務費を節約する点におきましても、また受給者の利益からいたしましても、ぜひ障害年金だけは恩給法に移して、そうしてなるべくすみやかにこのかわいそうな傷痍軍人方々支給していただきたいと切望する次第であります。  次は、この法案による援護の金額が、あまりに僅少であるという点であります。私の経験からいたしますれば、国防治安の予算は、国家の存亡に関するという絶対的な要求から、一括して思い切つた予算を得ることが可能でありまするが、補償費とか援護費とかは、なかなか希望するよう予算の獲得ができなかつたのが常態でありまして、このたびのこの法案実施に要します二百二十九億の予算も、多分にこのような事情もあると思いますが、何といつて援護の金額が少いと思います。で、障害年金につきましては、前の参考人が言われました通りに、特別項症というのは、始終病床についておらねばならぬ重態なものでありますし、複雑な看護を要し、付添人がいるのであります、また栄養をとらなければならぬ。それが月に五千円というのでは、これは何といつても少いと思います。三項症についても意見がありましたが、私は重複を避けます。なお遺族の場合につきましても、妻一万円、その他の遺族五千円の年額では、あまりに少いといわざるを得ないのであります。  次は、戦没者遺族中、父母が六十歳にならなければ年金を給せられないというのは、酷ではないかと思うのであります。終戦直前に戦没しました者が、かりに今生存しておると仮定しますれば、もう三十になつておるのであります。この戦死者の両親が、まあ二十で結婚したとしましても、五十にはなつておるのであります。ところが一般の勤労者は、五十に達しますると労働能力が低下するのであります。この労働能力の低下します五十以上の者に対しては、ぜひひとつ御詮議になつて、この年齢を制限をしない、すなわち戦死者遺族の親は六十歳以上でなければやらないという制限をしないということに、御詮議を願いたいと思います。私の知人が五十五で一人むすこをなくしまして、今はいなかに帰つて、わずかばかりの土地を、非常に苦しんで耕しておりますが、このことを思うて、まことに同情にたえずに申し上げる次第でございますが、六十歳以下の親に年金を給付したからというて、予算面におきましては、あまり大なる影響はないかと思います。ぜひ御詮議をお願いしたいと思います。  次は、恩給金庫の復活につきまして——戦傷病者遺族に生業扶助をいたしまして、生活に光明を与えますことは、この金銭給付と同様に、大切なことであります。しかるに、これらの者が生業を営むためには、資金に窮するのが常態でありますが、本法案におきましては、年金も一時金も、担保に供することはできないと、こういうふうに規定してあるのであります。いくら法律で規定いたしましても、あるいは高利貸しが委任受領の形式により、あるいは本人の受領を仮装して、脱法的にこれをこういうような金融業者に担保に供するようになるのであります。それで、前の半官半民の恩給金庫のようなものを復活していただきまして、低利で担保に入れ、生業資金の獲得できまするように、御考慮をお願いする次第であります。  本法案におきまして、三年を越える懲役もしくは禁錮の刑に処せられたる者、及び在職期間内における職務に関する犯罪により、禁錮以上の刑に処せられた者には、さつきも公述人が申されましたように、障害年金支給しないとなつております。この法案の刑は、国内法の刑のみをさすというのでありますれば、別に私は意見はありません。しかし、戦犯の刑もこの規定を適用するということになりますれば、はなはだ不合理と申さなければならないのであります。戦犯の判決は、国によつてまちまちでありまて、同じ裁判所におきましても、不統一であります。多分に、勝てば官軍的な、また報復的な感情が入つておるのであります。今、巣鴨拘置所では、逐次仮釈放にはなつておりますけれども、なお六十名の戦傷病者が獄窓につながれておるという現状でありますので、戦犯による刑は、国内法の刑に準用されないよう希望をいたします。  以上で私の陳述を終ります。
  54. 大石武一

    大石委員長 御苦労さまでした。  次には中川廉君。
  55. 中川廉

    ○中川公述人 神奈川県民生部世話課長、中川廉でございます。  遺族方々と、毎日直接窓口で接しております世話課長といたしまして、六年間にわたりまして、物心両面において、まつたく手かせ足かせの状況において苦しんで参りました戦没者遺族方々、こういう方々にとりまして、国家補償の線によりまして、講和発効後、こういう法案をつくつていただきましたことにつきましては、ほんとうに早天の慈雨を望んでおる状況でありまして、その期待の度は、まことに強いものがございます。そういう方方は、戦争に際しましては恩愛の情を断ち切れぬままに、肉親等を国に殉じさせたのでありまして、その遺族の方方が、精神的にも、また物的にも、国家補償ということを強く念願しておられる状況は、われわれ毎日ひしひしと感ずる次第でございます。しかもその期待の度の大きいことと、もう一つは、この業務をすみやかに実施をいたしまして、お金が早くいただきたいということを熱望しておられます。  この法案全般につきましては、おこがましいことは申し上げ切れぬのでありますが、われわれ遺族方々に接しましたりいたしておる間に、何となく戦前に約束をされましたところの恩給であるとか、あるいは扶助料というものにつきまして、今、敗戦はいたしましたものの、その形態がそう大きくかわつておらない新しい国家におきましては、一応その形におきまして、財政の許されます範囲におきまして国家補償をしていただくということは、当然であるのではないか、またこれが民生の安定に寄与する大きなことではないかと考えられます。  なお、小さいことになりますが、その期待の大きいところに、この法案に盛られておりますところのいわゆる年金の問題でございます。これが何となく少いのではないかという感じがいたします。われわれ取扱つておりますところの未復員者の給与でありまするが、未復員者は、今妻でございましたならば、本人の俸給一千円、それに妻としての給与六百円、千六百円をいただくのでありますが、これがほとんど遺族とすれすれの方々でありまして、そういう方々がまたその生活におきましては非常な苦しい生活をいたされております。そういう方をもう死亡に持つて行かなければならぬという書面がたくさん出ております。これを死亡処置をいたすというときに、一番気になりますことは、そういう未亡人になられる方は、今まではまあ千六百円いただいておつたにかかわりませず、この法案によりましてその額が平均千円にもならないということが、なぜか不安な気持をわれわれに起させます。できまするならば、そういう未亡人になられます方に対しましては特別の御配慮をいただきたい、こう感ずる次第であります。  次は、この業務は、結局都道府県が実施をすることになるのでありまして、われわれ一生懸命に努力はいたしておりますが、この法案が発効をいたしまするときにおきますところの市町村におきます状況は、どうであろうかということを考えてみますと、遺族は御承知のように、まず年金、一時金の請求書を提出しなければなりませんので、それをもらいに市区町村に殺到をいたします。しかも、戸籍謄本をもらい、また生計依存とか、同一戸籍にあつたというような証明書をもらう、あるいは不具廃疾の証明書をもらう、そういうようなことを一時に市町村の窓口に頼み込みまする場合におきまして、実際市町村は悲鳴を上げるのであります。従いまして、これもできますことならば、市町村長にこの業務を義務づけていただきたいということでありまして、義務づけていただきまして、しかもそれに対しまして予算の御考慮をぜひお願いしたい、こう考えます。この業務は、われわれは何とでもいたしまして早く判定審査をいたしまして、上司の裁定を受けて、お金を早く渡すということが必要でありまするので、われわれただいまのところ、六箇月ぐらいでやつてしまえというお示しがございます。そうなりますと、市町村ではさらにそれよりも早く二、三箇月でこれをやらなければならぬということに追い込まれます。従いまして、その業務量というものが非常に殺到いたしまして、ただいま市町村の業務というものは、もう地方財政の現状で手一ぱいでございますので、ぜひとも義務づけとともに予算のことを御配慮願いたい、こう申し上げる次第でございます。  次は、相談業務でございます。これも非常に殺到することでありまして、今、神奈川県の世話課では、約五万人の戦没者を持つておりますが、毎日三十人から三十五、六人の方が相談に来ておられまして、これが法案ができましたあかつきにおきましては非常に殺到されると思います。しかもその相談の種類は、離婚の問題、いわゆる離籍したらどうなるんだというような、法律的にものをしつかり考えないとわからないようなこと、すなわち法律を少し知つておらなければならぬような人がいるというような状況になりますし、また奥さんがこの間も来られまして、私の兄さんが、もうすつかり請求人になつて、お前には金をやらぬと言うておられるので、どうしたらいいんでしようかということで、尋ねて来られる哀れな人もありますし、またいわゆる嫁、しゆうとの間のいさかいを解決してくれというようなことを言うて来られます。またすでに、法案が通つたら金が渡るのであるから、もうある金貸しから金を借りた、そうして公報を預けて来ましたというような相談、また自分の子供を進学させるために金がいるというので、借金をしましたが、いつこのお金がいただけるんだろうかというような相談が、非常に多いのでございまして、これは単に世話課に対しますところの相談のみならず福祉事務所であるとか、あるいは市町村の窓口が、こういうような相談業務を非常に引受けることになると思います。それで、相談業務に要しまする人の問題、その賃金の問題につきましても、ぜひ市町村の仕事を義務づけていただきまして、それに対しますところの予算を御配慮いただきたい、こうお願い申し上げる次第であります。  以上でございます。
  56. 大石武一

    大石委員長 御苦労さまでした。  ただいまの三名の公述人に対する御質疑はございませんか。
  57. 苅田アサノ

    苅田委員 藤村公述人にお聞きいたしますが、今度の年金恩給法の建前でやれとおつしやるわけで、特に今回は傷痍軍人年金恩給法を準用した方がいいという御主張と承つたのでありますが、そういたしますと、やはり従来のように、軍人の階級別というふうなものは存続した方がいいという御議論なのでございますか、この点をお聞きしたいと思います。
  58. 藤村益蔵

    ○藤村公述人 恩給法によりますれば、恩給支給の額は、退職当時の俸給及び勤続年数ということでやつているのでありまして、御説の通りであります。ただ傷痍軍人恩給につきましては、上下の差別はあまりつけてないのであります。非常に上薄下厚となつているのであります。
  59. 苅田アサノ

    苅田委員 同一症状に対しまして、最低と最高との差異が、どれくらいになつておりますか、もし御承知でありましたらお託し願いたいと思います。
  60. 藤村益蔵

    ○藤村公述人 ちよつと御質問がわかりませんでしたが、同一項症に対しまして……。
  61. 苅田アサノ

    苅田委員 たとえば六項症に対しまして、これにより最高の年金を受けられる人と最低の年金を受けられる人と、現状におきまして大体どれくらいの違いがありますか。ただいまのお話では、上薄下厚になつているという御説でありましたから、どういうのか、お聞きしたわけであります。
  62. 藤村益蔵

    ○藤村公述人 ちよつとその数字を今記憶いたしておりませんから、お答えできませんが、あしからず……。
  63. 堤ツルヨ

    堤委員 ただいま苅田委員から御質問がありましたが、この階級別というものは、一切排除した方がいいじやないかというふうにお考えになりませんか。あなたのおつしやる御意見を採用するとして……。
  64. 藤村益蔵

    ○藤村公述人 現行の恩給法におきまして、文官その他の公務員に対しましては、今申し上げましたような退職当時の俸給と勤続年数、こういうことが加味されているのであります。またその他の社会保障におきましても、未復員者給与法のみが一律になつておりまして、そのほかの主要法規におきましては、全部退職当時の身分と勤続年数というのが基礎になつているのであります。私は現行の大部分の諸制度に準じてやつていただきたいというふうに、思つておる次第であります。
  65. 亘四郎

    ○亘委員 藤村さんにちよつとお聞きしたいのであります。先ほどのあなたの御意見ですと、障害年金だけでも、せめて恩給法によつてした方が手続が早くなるというお話でありましたが、その障害年金につきまして、現在予定しております法案でありますと、第六項症までが通用を受けるわけであります。その前の浦田さんの御意見によりますと、それ以下の者も適用していただきたいという御意見でありましたが、障害年金を受ける人々と、それ以下の者との区別をここで切つたという点について、何か特に御意見はございませんでしようか、ちよつとお伺いいたしたい。
  66. 藤村益蔵

    ○藤村公述人 私も、実は昔の第七項症、それから傷病年金の第一款症から第四款症までやつていただきたいのであります。ところが国家予算が非常にきゆうくつのようでありますから、私がそういうふうな希望を述べましても、とうてい今の予算ではやつて行けないというふうに思いまして、私は本法案に書いてあります特別項症から大項症までのことを論じたのでありますけれども予算が許したならば、ぜひこれもやつていただきたいとお願いする次第であります。
  67. 亘四郎

    ○亘委員 予算との関連においての考え方には、私はあなたの御意見に対して別に反対はないのでありますが、何か六項症にとめることに、大きな矛盾が考えられないかという点について、あなたに何か御意見はございませんかということであります。
  68. 藤村益蔵

    ○藤村公述人 症状の等差をきめますことは、非常にむずかしいのでありまして、実は前に陸軍省におりましたときも、この方面におきましては、医務局の方の専門家が、陸軍部内の恩給請求書についております診断書等をよく審議をいたしまして、内閣恩給局に提出しまして、内閣恩給局におきましては、また各医科大学の専門家をもつて構成せられます会議等で審議されておつたような状況でありまして、どこで六項、七項を切るかは、非常にむずかしい問題であります。恩給法には、ああいうふうに截然と書いてありますけれども、実はおつしやいます通り非常にむずかしい問題でありまして、この点につきましては、こういうむずかしい問題でありまするし、七項症及び傷病年金に該当する者も、ほんとうにかわいそうでありますから、私はやつてもらいたいと思うのでありますが、さつきは予算の関係から、そのほかの重傷者及び遺族に対しても、金額が非常に少くありますので、その点御遠慮申し上げたような次第であります。
  69. 金子與重郎

    ○金子委員 公述人浦田さんにお願いいたします。ただいま六項症の問題が出ております。この項症の限界が非常にむずかしい問題であることはよくわかるのでありますが、実際に患者の方方の中に入つておりまして、現行の各項症の切り方に矛盾がありましたら、その点を実例をあげて述べていただきたいと思います。
  70. 浦田博

    ○浦田公述人 お答えいたします。大体恩給法の別表によりまして、特項症から項症の段階がわかれておるのでありますが、四肢の切断、あるいはそういつた外傷に対しましては、割と明確に示されておるのであります。しかしながら、内部疾患に対しましては、非常にあいまいになつておるのであります。私たち内部疾患の患者からその意見を申し述べますならば、結核患者で五項症を裁定されたら、次の恩給の申請のときまで、五年間生きておらないというのが、当時の私たちの常識でございました。現在は医学も相当進歩いたしまして、死亡率も減少いたしておりますけれども、胸部疾患の場合は、非常に項症の決定が酷になつております。すなわち傷痍者で特項症あるいは一項症の方が、介護を要し寝ておられるという状態とまつたく同じ状態で、胸部をわずらいながら寝ておるという場合でも、それが胸部疾患であるために六項症その他に属するわけであります。私自身こうやつて外見から見ますると何ともございませんが、片肺が全然ありません、この右側の肋骨を十本切断しております。これでやはり昭和二十二年に七項症の一時金千八百円を封鎖でいただいたきりでございます。療養費すべて、その他医療費まで、いつ打切られるかということで、約七年間を自分で療養して参りました。
  71. 金子與重郎

    ○金子委員 それに関連したことですが、脊髄関係の病気は、どんな程度になつておりますか。
  72. 浦田博

    ○浦田公述人 特に胸部疾患の場合は、カリエスと申しまして、脊髄が全然冐された場合がございます。この方はいわゆる外傷のほんとうの重症の方と何らかわらない、むしろそれよりも苦痛なんでございます。ギブス・ベッドと申しまして、ベッドに体を結びつけたようにして、すべてのことをなしている。横に向くこともできないという状態が、三年も四年も続かなければならない。しかもこういつた状態の方は、ここに申し上げるのもなんでありますが、回復する率が非常に少い、そのまま悪くなつて行かれるという状態でございますが、そういう方でも、五項症もらえば一番いいところではないかと思います。
  73. 大石武一

    大石委員長 他に御発言もないようでありますから、午前中の公聴会はこれで休憩いたします。     午後零時二十九分休憩      ————◇—————     午後二時二十二分開議
  74. 大石武一

    大石委員長 休憩前に引続き会議を再開いたします。  公述人の陳述並びにそれに対する質疑を続行いたします、佐伯藤之助君。
  75. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 私は神奈川県の民生委員佐伯藤之助でございます。今日民生委員として、この貴重な公聴会にお招きをいただきまして、非常に感激をいたしております。また社会保護者としての責任の非常に重大なることを痛感する次第であります。意見を申し上げる前に御礼を申し上げたいと思います。  この法案につきましての細部にわたりましては、いろわれ議論のあることも承知をいたしております。先刻各公述人方々からの御意見も拝聴いたしておりますが、私はもともと学者でも知識人でもないのでございまして、大正十一年から三十年間民生委員をやつております。さようなことで平素扱つておる者としての立場から、意見を申し上げたいと思いますが、御清聴をいただきますれば非常に光栄に存じます。従いまして総括的に申し上げます。  先刻公述人の神奈川県の世話課長の中川さんから、この法律の施行につきまして、市町村長が全然関係のない立場に置かれている、ぜひ市町村長にも行政の義務をつけてすることがいいというお話がありましたが、この点は私も同感でございます。何となれば、児童福祉法における児童福祉司が各都道府県の知事に直結をいたしておりまして、市町村との関連が非常に稀薄なために、活動が思うように行かない実情は、皆様方御案内と思うのであります。今日におきましても、遺家族方々傷痍軍人の方方の実際の数は、なかなかつかみにくい、日に日に異動しておる実情でありまして、かくのごとくに流動いたしておる状態を把握するのは、府県だけではできないのでありまして、その地元の市町村がこれに加わる、そうすれば、調査も完全に行きますし、また法の運営の上からも完璧が期せられる、こう考えますので、ぜひこの点は市町村長にも義務づけて、この仕事の密接なる関係をお持ち願いたいということを先に申し上げます。  まず、この法案でありますが、傷痍者の方の問題もありますが、これにつきましては私はしろうとでありまして、専門の方がどつさりおありになるのですから、その方々からひとつお願いしたいと思います。ただいろいろな施策があげてございますが、羊頭狗肉にならないように、これを十分具現していただいて、より以上のことをやつていただきたい。従来ややともすれば法律は幾多出ておりますが、なかなか実効がない。かくのごときことは、はなはだ困るのであります。どうぞこれら傷痍者の方々のため、十分なる施策を実現していただきたいということを希望いたします。  次に遺家族の問題でありますが、この御遺族方々の問題について、私の力点を申し上げたいと思います。この法案は、私、まことに浅学であつてよくわからないのですが、どうも国家補償意味するものであるのか、援護目的としておるものか、私にはわからない点がある。戦没軍人及び軍属の方方に対する国家の賠償的な補償としての一時金の五万円というものは、はなはだ過少であると私は考えます。何となれば、まずこれを米に換算してみたいと思います。満州事変勃発の前年である昭和五年八月の米の二等米を考えてみたのですが、横浜では一升が三十銭九厘に相なつております。ところが昭和二十六年八月の配給米の価格は、九十円八十銭と相なつております。まさに二百九十四倍の違いであります。そういたしますと、一時金の五万円を全部金にいたしましても、これを逆算すると百七十円になつてしまう。総理府の統計局のCPS及び私どもの実態の調査によりますと、昨年十二月には五千円ぐらい一人がかかつている、これが六大都市のCPSに相なつておるように承知しております。昨年十月から物価が上つております。八月、九月、十月を平均しますと約四千円程度どうしても一人でかかる。五人暮しならば二万円かかる。ということが、一般の世帯のように承知もし、CPSからも、そういうような数字が出ております。そうしますと、五人で二万円ということは、結局今の五万円もらいましても、これは二箇月半ぐらいしかささえられないところの生計費になつておるという計算を立てましてございます。そこで先刻公述をなさいました藤村先生に伺つたのですが、藤村先生お話によりますと、満州事変の当時は、死没なさつた方の特別賜金という一時的な恩給が、恩給のほかにあつたそうであります。それによると、大体上等兵ぐらいでもつて千六百円もらつたというお話を、ただいま伺つたのです。この千六百円を今のように二百九十四倍すると、何と七十四万円になつてしまう。えらい違いがここに出て来る。上等兵さんが七十四万円、現在の金でもらう。しかるに法案は五万円だ。五万円はその当時の百七十円です。当時は、約六十円あれば五人世帯が暮せておつた。CPSを逆算すればすぐ出ます。とにかく二箇月半の金にしかならないということに相なりますので、これは国家財政としてはたいへんでありますが、少いことだけを申し上げておきまして、これのわくをおふやし願つたならば、昔の軍人さんと同じようになりはしないか、こういうことを思いまして申し上げるのです。でありますから、できるなら御増額を願いたいのですが、もし国家財政からどうしてもできないということであるなら、今後の措置として、恩給法をおつくりになるときに、十分なる御考慮をいただきたいということを申し上げます。  次は、年金の問題でありますが、これは生活権の保障を意味するものであるのか、あるいは生活援護意味するものかということに、私は迷うのであります。そこに一つの疑点を持つのでありますが、私は年金のお取扱いに対しましては、結論といたしまして、生活保護法とは切り離して、この法案恩給法の復活の前提としての、恒久的な立法でなくして暫定的な立法でありたい、どこまでも弔慰を意味したところのものにしていただきたいということが、私のお願いであります。そうでないと、いわゆる生活保護法の平等の原則ともぶつかつて来るし、なかなかむずかしい問題になりますので、ぜひ切り離しまして、弔慰の意味でお取扱いを願いたいと思う。これにつきまして、いろいろ仄聞するところによりますと、その運営は、しかるべく各府県でやつてもらいたいというようなことも、ほのかに聞いたので、これはうそかほんとうかわかりませんけれども、そういうことは、事務当局が非常にやりにくいし、しかも不公平がそこに生ずることでありますから、どうぞ法律をおつくりになる上において、はつきりと、これは暫定的な立法であつて、弔慰を意味するものであるというふうにお願いをしたいと思うのであります。  その理由とするところを申し上げたいと思いますが、年金遺家族生活権の保障といたしますときは、憲法の二十五条に定むるところの最低生活を保障する現行の生活保護法からいたしますれば、これは基準の額をはるかに下まわつてしまう。さつきもお話があつた通りであります。実例はあとで申し上げます。たとい一時金の六分付の国債をいただきまして、その利子を加算をいたしましても、最低生活を保障する程度までのお金に至らないということであります。また援護と解する場合には、恩給法に移行して、恒久法としてこれが交付されるときは、当然生活保護法に優先するところの法律であります。優先法としてその方で扱われますから、どうしても引かなければならないということもできて来ます。  いま一つは、生活扶助を受けておるところの御家族の方にありましては、生活保護法の第四条の保護の補足性によつて、今申し上げましたように、どうしてもこれは引かなければならぬというようなことができて来まして、せつかく今回の、先ほど委員長お話ような、軍人軍属方々に対するところの特別な弔慰であるという国家並びに国会の御好意というものが、反映しないうらみがありまして、それがもらわないと同じことになるということでは、かくのごとき法案をお出しになる必要はないと思う。出す以上は、その気持になつてもらいたい。同じことになるならば、出さない方がいい、私はそう思うのです。  それからもう一つは、控除されますと、更生しなくなる。御案内の通り、私ども三十年もやつておりますが、保護というものは、保護目的じやない、一日も早く更生したい、しかして生活保護を受けている人たちは、何も喜んで受けてはおらぬのであります。今日の憲法によつて、それは国民の権利である、決して慈恵的なものではないということはわかつておる。しかし、もらう人の身になると、肩身が狭い。だれも喜んで、いばつてもらつている人はない、早く保護からのがれたいと思つておる。だから、このお金をいただいても、みんな借金していますよ。一体今の生活保護法基準なるものが低いのですから、これでは暮せない。そういう人たちは、少くとも借金も返し、子供に一枚でも着物を買つてやれることにおいて、国会並びに国家のありがたい恩典に私は泣くだろうと思う。それにおいて初めてこの法案が生きて来るのだ、こう思われるのであります。そうしてそれが更生して行くことができれば、非常に社会福祉の上からもけつこうなことじやないだろうか、こう私は考えます。さようなわけで、ぜひひとつ暫定的な措置として、弔慰の意味でお出しくださることが妥当だと思うのであります。もし願えるならば、先ほど遺族の子供衆の問題が出まして、どなたかから御質問がございましたが、私は児童福祉法の面からいえば、十八歳までは国家生活権を保障して、引かないことはむろんのことであつて、これはめんどうを見てもらいたい。もし生活保護にかかつておる人たち保護を引くならば、五十万円、百万円の収入のある人がうんとある。そういう御遺族もおありになる。生活保護にかかつておる御遺族の方もある。片方は二万円、三万円もらつても、これはお小づかいです。片方はこれによつて質屋の借金も返すことができる、ほんとうに子供さんを喜ばすことができる。そういうことになつて来るということは、決して平等じやないと思う。困つた人によくすることが、われわれ最も平等だと考えるのであります。  その次に一つ申し上げてみたいことは、この場合実例を一つ申し上げてみたいと思います。まだ神奈川県全部の実例は掌握しておりませんが、かような家庭がどういう状態にあるかということを申し上げてみたい。これは横浜で早急に集めました最近のものでありますが、私の関係しておるところに、子供一人でもつてつておるのがある。父親は昭和二十年に三十五歳で戦没しました。母親は満州から帰つて来るとき、昭和十九年に、二十八歳で行方不明になつて、子供一人残つたのであります。現在十二の子であります。ところが、この子が結核にかかつておりまして、普通の学校ではやつて行けませんので、特殊の、そういう弱いからだを持つておる子供の行く学校にやるように手続をとつております。この子の一箇月の生活保護基準は千九百十一円でありますが、これからわずかやはり引きますから、実際の支給額は千九百六円であります。ほかにはもちろん収入は全然ありません。ところが、国債の六分付をやりますと、三千円、しかも五千円というものが子供としてもらえますと、ちようど八千円になります。これを十二箇月で割つてみると、月に六百六十円という勘定が出て来ます。この六百六十円を千九百六円から引いてしまつたら、教育も何もできないことになる。しかも職業も何もない、無収入であつて学校へ行つている。こういう子供はいかにしてこれをやるかということが、私は大きな問題だと思う。かせげる人はよろしゆうございますが、こういう子供は、無収入でありますから、これから引くということは、どうかと思うのであります。  その次の例は、子供を四人持つておるところの遺家族であります。これまでの生活保護基準は、これが八千九百四十六円であります。先刻七千円というお話がございましたが、七千円にまだ学校給食及び教育費を加えて行きますから、その基準ははるかに上つて参ります。この中から品物をもらつたりいろいろしますから、これを引きますと、八千六百二十一円というものがこの五人世帯の軍人軍属遺家族生活扶助の月額に相なります。そのうちで御本人の収入が三千四百三十九円ございますから、支給額が五千百八十二円になります。この世帯につきまして調べますと、先ほど申し上げた国債の利子が三千円、最高の年金が二万四千円、これを加えて二万七千円になります。これを十二で割ると二千二百五十円というものを月額いただくことになつて、これらを差引いてしまうということになると、これも大きな打撃を与えると思います。更生の道を大いに妨げるであろうと思う。  そのほか老人夫婦の例もございます。そういうふうないろいろな例がございまして、大体私が住まつておる神奈川区におきましては、一人世帯の軍人軍属遺家族生活扶助にかかつておるのが二十三世帯、二人世帯が二十七、三人が二十六、四人が十二、五人が十一、六人が三、七人が一というような割合であります。横浜市全体の数字を申し上げて、このようなお金が引かれましたならば、いかに影響するところが大きいかということをひとつ御参考に申し上げたいと思います。  横浜市の三十七年三月二十日、ついこの間現在でありますが、軍人軍属であられまして生活扶助を受けておる方の世帯が七百六十三世帯ございます。そのうちに未亡人世帯が五百四十八ございますから、七一・八%は未亡人です。人員は七百六十三世帯の分は二千三百二十七人、未亡人世帯が一千七百八十六人。横浜市の現在生活扶助を受けているところの総世帯がどのくらいかというと、これは異動いたしますが、約六千四、五百ぐらいになつておりますから、約一割一分五厘ぐらいまでが、これらの軍人軍属遺族の方において生活扶助を受けておる、こういうふうに相なります。これを全国的に見ますと、非常なる影響を持つており、大きな衝動が起つて来ると思います。身体障害者の軍人軍属の方は割に少いのでありますが、それでも横浜全市を通じますと相当の数に上つております。
  76. 大石武一

    大石委員長 佐伯さん、恐縮ですが簡単に……。
  77. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 それでは、今申し上げましたようなわけでありまして、長くなりますからやめますが、御質問がございましたら、いかようにもお答えいたします。
  78. 大石武一

    大石委員長 それでは杉暁夫君。
  79. 杉暁夫

    ○杉公述人 私は社団法人白鴎遺族会理事長の杉暁夫でございます。本日ここに戦没者遺家族援護法案に関しまして公聴会を開かれまして、私の所見の一端を述べさせていただける機会を得ましたことに対しまして、国会に対しまして深甚の敬意と感謝をいたすものであります。  終戦以来七年たちまして、あのこんとんとした世相の波に、ともすれば押し流されようとしておる遺族方々の現状を見まして、一人でも多くの方々援護申し上げ、また一人でも多くの遺族方々に喜んでいただいて、そうして早く憂生の道をたどつていただきたいと思いまして、ただただ微力ながら誠心誠意今日までやつて参りました私たちの会といたしましては、ようやく本日に至りましてここに法案の立案を見るに至りましたことを、心から喜ぶとともに、一日も早いその具現方を切望してやまないものであります。と申しますのは、諸般の国際情勢その他からして、今まで遺家族援護対策が意のごとくなされなかつたという実情であるとは申せ、すでに新聞紙上その他で十分御承知のこととは存じますが、今回のこの遺家族援護対策にいたしましても、国家がこの苦しいときにこれだけの国費をさいて、しかもその援護に当ろうとしておるにもかかわらず、種々の物議をかもし出しておるということは、一体どこにその原因があるのかということなのでございます。やつと今日までささえて参りました私たちといたしまして、はつきり申し上げられますことは、そこに何らの愛情が見られなかつたからだということなのでございます。病気のために肉親の方を失われたとしても、その悲しみはまことに深いものがあると思いますけれども、ましてや健全な父や子、兄弟、夫を国にささげて顧みられなかつたこの遺家族方々にとりましては、その御心中は察して余りあるものがあると私ども考えるのであります。戦没者遺家族援護の根本精神をなすものは、まずもつて精神的な援助と申しますのは、ただ淡々とした気持のままに散華された方々の死が、国家のために犬死ではなかつたということを、まずもつて遺族自身の方によく納得していただくことが、一番緊急な問題ではないかと思います。それを同胞の戦没ということを、ただ単に金銭的な取引のごとき感じを抱かせるようなことになつております現状においては、まことに憂慮すべきではないかと考えるのであります。もちろん、私どもといたしましては、本法案の中に盛られました支給対象を広げてほしい、あるいはまたその給付の金額を増額していただきたいとか、あるいはまた分債の償還の期限を短縮していただきたい、または年金を一時に渡していただきたい、一つ一つの項目については、まだまだ改善の要はあるとは存じますが、こうした経済的な援助というものは、その範囲が広がれば広がるほど、収拾がつかなくなることもありましようし、またどこが納得し得る最良の線かということは、線が引けないのじやないか。遺族方々として最良の線を引くということは、なくなつた子供たちを帰してくれということにあるのではないかと思う。この点におきましては、先刻開会の劈頭、委員長の言われましたように、現在の段階における経済的な援助は、あくまでも国家補償の形においてでき得る最大を与えていただくべきである。そうして今回のこの御処置がよしなされたとしましても、講和の締結その他によつて、よりなし得る段階になりました際には、まつ先にこれが施策を立てていただきたいとお願いする次第でございます。  終戦後今日まで、数多くの遺族会というものが結成されまして、そうしてまた消滅して参りました。その原因は何かと申しますと、従来の遺族団体というものは、遺族だけの力で運営されておる。遺族の方は、ほとんど年老いた方が多いのでございます。従つて、力弱い存在であつて、また政治的に利用されたり、あるいは単なる寄付金集めに終つてしまうというようなことで、いつも遺族方々の心情というものが表面に出ずに、世間の目から批判を受けて参つたのであります。こうした遺族援護問題というものは、国民の中から盛り上つて来る感情によつてささえられて行くべきである。従つて遺族自身は、むしろ謙虚な気持で、そうした盛り上つて来る感情について、受入れられる立場に立たるべきではないかと考える。遺族自身の方が発言され、遺族自身の方が申し上げることは要求になり、あるいは陳情になる。そうした姿ではなくて、国民の中から遺族の方をお救いするよう気持に持つて行くのが、こうした遺族問題の根本精神をなすものではないかと思うのであります。私たち、ほんとうに紙一重の生活から生還いたしました三十歳前後の若い者が、それぞれの会社の勤めのかたわら、今日まで微力を尽してその援護に当つております。われわれの周囲におられる遺族方々は、その実情をよく御存じになつて、ほんとうに満足していただいて、心から自分たちの子供、自分たちの肉親が生き返つて来て、生れかわつて来てくれているのだというふうに、喜んでいただいております現状からいつて、こうした力を助長せしめることが、この法案の施行の最も力強い前提とならなければならないのではないかというふうに考えます。しかしながら、反面、若い者だけの集まりでもあるときには、非常にそこに行き過ぎの点等もあると思いますので、その点につきましては、今後とも国会議員諸賢及び国民の力強い支持によつて、是正していただいて参りたく存じておる次第でございます。  次に、今回の法案の立案に際しまして、全国の遺家族の現況調査等も行われたかのように承つておりますが、これもやはり従来の通り一ぺんの事務的な連絡だけに終始したように見られます。それに伴つて、ある程度の国費の支出もなされたかのようにも聞いておりますが、現在ただ一つ全国的に法的に認知されておりますこの社団法人の私たちの会にすらも、何らの御連絡がない。また日本遺族厚生連盟の方に先ほどお尋ねしてみても、そこにも何ら御連絡がなかつたということになりますと、一度で済むことが二度、三度の手数になる。それぞれの民間団体に来れば、そこでもつてある程度の一括した資料なり統計なりが出ることもあるのです。今後の運営におきましても、政府におかれましては、むしろこうした際に、その実をあげるために、民間団体を利用され、またその施策をなさる場合にも、より国民の声を聞かれる立場からいつて、民間団体の活用ということをしていただきたいと思うのでございます。と同時に、私たちの会にいたしましても、あるいは日本遺族厚生連盟にされましても、各地の都道府県にあります遺族厚生会にしましても、ともどもまことに苦しい財政の中からやり繰りをいたしておりますので、できるならば調査費の一部あるいは応急対策費というものを、その実情に応じて支給していただければ、幸いこれに過ぐるものはないと思うのであります。と申しますのは、私たちの年代で戦死した者にしてみますと、大体親一人子一人、あるいは女房をもらつて間もない者というのが非常に多いのでございます。女房をもらつて間もない者のことからいいますと——四月六日の沖繩戦の特攻で逝つた者の遺族方々からいうと、去年今年が、大体その子供たちの就学期に当つております。せんだつても、一人の未亡人の方が私のところに来られまして、今までがんばつて来たけれども、ここで国家が立ち上つていただかなければ、自分たちとしては、もうキヤバレーへでも料理屋へでも行つて働く、そこまで行かなければならないのだということを言つて相談に来られました。私たちとしては、何とかしてあげたい。またキヤバレーなり料理屋なりの内幕ということも、私たちは人一倍よく知つておりますから、そこまで行つていただかないように、私たちとしてはできるだけはやるけれども国家として援護のできるまでがんばつていただきたいというふうにお話する以外に、手がなかつたのであります。そういう意味からいつても、それは各遺族団体とも同じだと思いますが、その相談に応ずる応急対策費を、何とかして支給していただきたいと思います。  最後に、連合軍その他から種々の制肘があるやにも承つておりますが、私たちの会といたしましては、あの終戦の翌年の大混乱のさ中に、東京築地の本願寺におきまして、全国から遺族方々に集まつていただきまして、敢然と大慰霊祭を行つたのであります。当時は、MPがうしろを全部取巻いておりましたけれども、翌日私がCIDに呼ばれたときにも、はつきりと人間愛の骨子を申しましたところが、よくわかつてくれました。ただ、事情がそういうことだから、今は遠慮しろというような話がありました。それ以後、毎年春秋二回、東京、大阪、京都、八幡、神戸等で慰霊祭を行つて、ともども遺族方々となき方をしのんで参りました。単に慰霊祭をやるだけのものであるとは決して思つておりません。しかしながら、事ここまで来まして、遺族方々気持をくんでいただきますならば、現段階においては、一日も早く国家がその力において慰霊祭を行つていただきたい。地方の遺族方々の心情は、私たち会社の余暇をさきまして遺族を訪問してみますと、一生に一度でいいから靖国神社へお参りしてみたい、一生に一度でいいから、むすこのまつられているお社へ参りたいというのが、現在地方におられる方々遺族の声だというふうに考えられます。私たちとしましては、どんなときでも、必ず共通一貫した美しい愛の精神があるということを信じております。私たちの年代またはそれに続く年代は、ともすればロストーゼネレーシヨンとして、非常に苦境の中に育つた世代を送つております。しかしながら、必ずやこの遺家族援護問題の解決を機に、新生日本の原動力となる力を青年層から盛り上らせるべく努力しておるものでございます。  以上、結論いたしまするに、本法案に対しましては、最大の改善を条件といたしまして、一日も早き具現を切望いたすものでございます。第二番目といたしましては、でき得る機会になれば、より以上適切な措置をとつていただきたいとお願いいたします。第三番目に、遺家族援護対策に対しましては、できる限り民間団体を活用していただきたい。第四番目は、民間団体に対して調査費あるいは応急対策費を支給していただきたい。最後に、早急に国家の手によつて慰霊祭を挙行していただきたい。これが私どもの会の、また私の見解であります。
  80. 大石武一

    大石委員長 御苦労さまでした。  次に村島喜代さん。
  81. 村島喜代

    ○村島公述人 私は未亡人代表となつております村島喜代でございます。私の申し上げたいことは、ただいま六番目の方がちようど私の申し上げることを代表しておつしやつていただいたような形で、私もそれをつくづく感ずるのでございます。国でこれだけ逼迫しており、財政も困難しておる中に、とにかく遺家族援護してやろうという考えを持つてくだすつたということに対して、私たちは、まず感謝をしなければならないと思うのでございます。負けたからといつて、国がやろう、与えようというものに対して、それが不足だとかなんとか文句を言うまで、なぜ卑屈になるのか。ここまで参りましても、私は日本人として、やるといわれたら、素直に受取り、感謝するという気持を持つてほしいと思います。私は、戦後、国民に感謝とか報恩とかいう気持が薄らいでいるのではないかと、非常に残念に思つているやさき、またこの問題に対して、あまりにもやかまし過ぎると思うのでございます。額が少い、もつとふやしていただきたいという願いの合掌をしております写真が、いつかの新聞やそのほかに出ておりましたようでございます。なぜあれを、一応とにかく考えていただいてこれだけ支給してくださるという気持に対して、感謝をするという合掌にしないかと、私はつくづくあれをさびしく考えたくらいでございます。でございますから、私たち未亡人といたしましても、日本の伝統のよさというものを足げにしないで、もつとこれを植えつけ直して行くということについても、大いに努めて行かなければならないのではないかという責任を感ずるのでございます。  こう申したからと申しまして、決してこの法案に対して全幅的に賛成いたしておるわけではございませんで、もちろん満足できない点はございますけれども、ただいまお話もございましたように、あくまでこれは暫定的な法案としていただきたいのでございます。私がこちらへ参ります前に、ある未亡人の方——申し遅れましたけれども、私は遺家族の方の未亡人ではございません。で、遺家族の方の未亡人が私に訴えられるのには、早く何とか支給してもらいたい、何か文句を言う方は余裕があるのではないか、というようなことを言つて、とにかく一日も早く支給してもらいたいんだということを訴えた未亡人があるのであります。ですから、それをよくよく考ていただきたい。しかし、考えてみますれば、今申し上げましたように、苦しいががまんをして来て、今までもらえなかつたものを、とにかく今度支給されるということを公にされた。そうすると、お腹がすいているのに見せびらかされて、お預けを食つているかつこうじやないかと思いますので、一日も早くこれを実行していただきたい。けれども、これはあくまで暫定的なものにしていただきたいのでございます。  七人目ともなりますと、私考えておりますことをたいていおつしやられたようにも思いますけれども、しかしその中でも、日本の国を建て直しますのには、やはり何といつても人物というものを養成しなければならないというようなことになれば、父親のない遺児という立場考えて、この育英資金というようなものにつきましてはぜひもう少し考慮していただきたい。  それから支給されます場合に、十八歳未満という言葉があるのでございますが、これは生活能力の出ます二十一歳ぐらいまで、もう三年ぐらい延ばしていただきたいと私は思います。  それから五万円の公債を支給されるというのが、家内、遺児、祖父母というところまで参つておりますが、これをぜひ兄弟姉妹というところまで広げていただきたいと思います。これは回向をする意味だと思いますが、祖父母あるいは遺児、母親の気持と同じ気持で、兄弟だつてそのなくなつた人の回向をしたいと考えているのだと私は思うのです。お燈明代とかいろいろお話がございましたが、これは回向の意味でございますから、兄弟姉妹までぜひ延ばしていただきたいと私は考えております。  それから、こういう一つ法案が出ますとか、新法と旧法が入れかわりになりますとかいうことになりますと、いろいろな意見や何かが出て参ります。ことに、この法案国民的な問題になつておりますから、これが実現されたといたしましても、必ずやいろいろな問題が起つて来ると思うのでございます。私は前に司法法制審議会の委員として司法省へ通いましたが、そのときに、今後、家廃止なんという問題で、血で血を洗うような問題が必ず起るに違いないから、それを一々法廷で争つているよりは、家事審判という家庭的な懇談をして、お互いに互譲の精神で解決し合うよう制度がぜひほしいということをあくまで主張いたしまして、私一人でございませんでしたけれども、結局実現して家事審判制度、これが家庭裁判所どなりまして、ただいまのようになつております。これでとにかく国民が救われていると私は思うのです。そういう考え方から押し広めて参りますときに、ここではぜひそれと切り離しまして、遺族のための相談所、それから遺族のための相談員というものを設置していただく、そういう制度をぜひ考えていただきたいと思うのでございます。男子の方は割合におわかりにならないかもしれませんが、今の未亡人という人たちで、あくまでもなくなつた夫の遺霊を守つていたいという若い嫁さんが、いろいろな問題で、しいて離婚をさせられたという例も、たくさんあるのであります。今また再婚いたしましても人なき夫の遺霊を守つて行くという方も、相当あると私は聞いておるのであります。でございますから、そういう人たちに対して、どういう処置をとつて行くがということを、ぜひ相談のかつこうでやつて行きたいと思います。先ほど何か窓口増員ということで、予算をとつてほしいという御希望をおつしやつた方がありますけれども、私は一歩進んで、ぜひここで遺家族のための相談所相談員を考えていただきたい。これは暫定的でけつこうでございます。問題がなくなりますれば、これは解消することになるかもしれません。ここでは、ぜひそれを考えていただいてそこで解決するようにお願いしたいと思うのでございます。  私の申し上げました点は、遺児のことをあくまで考えていただきたい。それから五万円の公債を兄弟姉妹まで及ぼしていただきたい。それからあの五千円の年金の十八歳未満というのを二十一歳ぐらいまで延ばしていただきたい。それからこの不備を解決するための暫定的な処置として、ぜひ相談所、相談員というものを設置していただきたい。やがて講和条約が発効いたしまして独立国となりますれば、もちろんいろいろかわつても参ると思いますから、今年度はこの法案を一日も早く実現させていただきたい。そうしてこれは今年だけの問題にして、いただきたい。来年度はぜひ考え直して、なお増額あるいは支給範囲を広めていただきたい。これだけでございます。
  82. 大石武一

    大石委員長 どうもありがとうございました。  次は佐藤信君。
  83. 佐藤信

    ○佐藤公述人 私は日本遺族厚生連盟の副会長佐藤信であります。今回戦傷病者戦没者遺族等援護法案の御審議にあたりまして、遺族としての意見を陳述する機会を与えられましたことを感謝いたします。私は本日の公述人のうちの、たつた一人の遺族であるよう考えられますので、他の公述人と違つた立場におきまして、子供を、あるいは夫を父を失つた者の心境を皆様にお聞取り願うことも、決してむだなことではないと考えまして、この陳述の冒頭におきまして、私が遺族といたしまして、長年私の心の中に欝積いたしております感情を披瀝することを、お許しいただきたいと考えるものでございます。それはまた全国の遺族の共通の感情であろうと存ずるからでございます。  今次の戦争の意義につきましては、今ここで論議することは、適当でないと考えられます。ただ、私たち遺族は、無謀なる戦争によつてそれぞれその肉身を失つたものでございます。しかも、それはおおむね特攻戦術とか、その他これに類するような、絶対死ぬ境地に陥れられて、野蛮きわまる方法を強制された殺人行為であつて、人命の尊厳を蹂躪した鬼畜の行為を、国家の名において行つたものであります。かくのごとくして二百万人に上る有為の青年を殺し、そしてその陰に幾百万人の父を奪われた遺児、夫を奪われた妻、子を奪われた老父母を血涙に泣かしめておるのでございます。私はこれを考えますときに、ほんとうにはらわたの底から、むくむくと熱鉄のごとき憤懣と憎悪と怨恨の念が燃え上つて来るのでございます。これは八百万遺族の全部の憤懣であり、憎悪であり、怨恨であろうと考えるものでございます。  ただ私たち遺族は、この最大なる犠牲が、ただただ国家のためにということと、国家に一命をささげた英霊の遺族であるという誇りとによつて、みずから慰め、自分生活態度を規正いたしまして、あらゆる苦難に耐え、内心は欝積いたしておりまする憤懣を押えまして、その主張をきわめて謙虚に、その行動をきわめて穏健にいたして参つたのでございます。これはわれわれの過去の行動がこれを立証して余りあることと存ずるのでございます。かくのごとき心境に生きている遺族に対し、政府がその生活援護するというがごとき態度をもつて臨まれることは、遺族の誇りを傷つけるものであつて、決して遺族の心境に沿うゆえんではない、世の為政者はよろしくこれを察しなければならないと存ずるものであります。遺族は、国家の感謝をこそ求め、当然の補償をこそ求めておるのに、政府はこれに援護を押しつけようといたしており、しかもそれが生活保護法を下まわるようなものを与えて、どこにその意義があるか。私は国家のために一家の柱石を失い、そのためにやむを得ず貧困に陥つた遺族を、生活保護法で救済する前に、当然の補償をなすべきであると信ずるものでございます。  遺族は、終戦七年の長きにわたつて、ただ占領下にあるのゆえをもつて、当然受くべき処遇がなされなかつた、ポツダム勅令六八号は、われわれの既得権を停止していたのであります。われわれが待望の独立を前にして、政府はポ勅六八号の効力をさらに一年延期せんといたしておるのであります。政府は、終戦七年間、われわれに対する処遇を、ただただポ勅六八号をたてにサボタージユして来たが、当然われわれの既得権が復活する日、またさらにこれを一年押えんといたしておるのであります。われわれ犠牲者の中には、過去七年間に政府の何らの処遇を受くるごとなく、日の目を見ずして死んで行つた幾十万の人のあることを、さらに今後の一年間に不幸な幾万人が出ることを銘記すべきであります。われわれは、遺族たるがゆえに、国家に対し特段の要求をいたすものではありません。われわれは、終戦七年間を隠忍自重し、ひたすら国権回復の日を待ちわびて参つたのであります。そして、遂にその日が来たのであります。われわれは当然の既得権である軍人恩給遺族扶助料の復活を要求いたすものであります。しかしながら、百歩を譲つてポ勅六八号の一年延期またやむなしとするならば、政府は、すみやかにこれにかわるべき一年限りの暫定措置を講ずべきであります。そして、それがたとい暫定処置であつても、あくまでも国家補償の理念に立脚し、その実質を備えたもの、少くともできるだけその実質に近いものでなければならないのでございます。ただいま御審議になつておられる戦傷病者戦没者遺族等援護法案が、われわれの既得権にかわるべき暫定処置でありとするならば、それは実質的に既得権の侵害であると断ぜるを得ないのであります。  私は、以上申し上げました主張に立脚いたしまして、この法案を見るとき、補償の精神の立脚し援護を行うと称しながら、実質的には国家補償の理念を没却し、社会保障の建前をとつており、われわれの主張と相いれないものであることを、明白に指摘せざるを得ないのであります。私はこの法案が、その提案の理由の御説明の中に述べられておるように、真に国家補償の精神に立脚して行わるべきであることを信じ、前述の理由に基きまして、次のごとく強く要望をいたすものであります。  第一に、この法律に定むる措置は、昭和二十七年度限りの暫定措置であつて、すみやかに遺族の代表者をも加えて審議会をつくり、恩給法上の既得権である扶助料制度をも考慮し、遺族補償の具体策を立て、昭和二十七年中か、おそくも昭和二十八年四月から実施することを、法文の中か附帯決議で明らかにせられたいのであります。  さらに、この法律は、遺族に対し補償をなすものであるという理念を明確にするために、戦傷病者戦没者等臨時補償法として、その第一条に、遺族に対し臨時に補償する措置を講ずることを目的とすると、明らかにせられたいのであります。  第三に、一時金という名称を、弔慰金と改めること。第四に、この弔慰金は、昭和十二年七月七日以降の戦没者遺族支給すること。その次にこの弔慰金の受給者に、配偶者や直系尊属、直系卑属のないときは、兄、弟、姉、妹、おじ、おば、または実際に祭祀を行つておる者にも支給せられたいと考えるものであります。  また受給者に関しまして、本人の死亡当時、「その者によつて生計を維持し、又はその者と生計をともにしていたものという条件を除いていただきたい。その次には子、孫に年齢制限をつけないこと、また孫に関し、他に扶養する者のないものに限るという条件を除いていただきたいと思います。次には、夫に下県廃疾の者という条件をつけないこと。  年金については、その名称を遺族臨時手当とすることにいたしたいと存じます。次に、この年金の受給者に関し、本人の死亡当時「その者によつて生計を維持し、又はその者と生計をともにしていたもの」という条件を除くこと。——これは一時金の場合と同様でございます。この年金の受給者中、父母の年齢制限をつけないこと。受給者中、孫、祖父、祖母に関し、他に扶養する者のない者に限るという条件を除くこと。この年金は、月割計算を行わず、権利を獲得した者に金額を一時に支給すること。最後に、この法律によつて支給される公債、その利子及び遺族臨時手当は、生活保護法の適用上、その所得とみなさないこと。  以上が私の陳述でございます。
  84. 大石武一

    大石委員長 青木秀夫君。
  85. 青木秀夫

    ○青木公述人 私は社会福祉協議会におります青木でございます。ただいま上程されておりますつ法案につきまして、若干の意見を申し上げたいと存じます。  この法案が提案されましたことは非常に喜ばしいことと存ずるのでございまして、なるべく早く成立させ、早く実施していただきたいということを考えておるものでございます。しかしながら、その内容等につきまして、今後さらに改善をお願いいたしたい点、また実施についてお願いを申し上げておきたいと考えられるような点について、申し上げてみたいと思うのでございます。  この名称でございますが、援護法案という名称を、先ほどからいろいろ御論議がありましたが、実は私も援護法という名称と内容とが、そぐわないよう感じがするのではないかということを、感じたのでございます。援護法というこの内容が、いろいろ御意見のありましたように、年金あるいは一時金というようなもの、あるいはその他のものにありますが、大体そういうようなものは、あるいはこれは恩給に類するようなもので、補償に類する考え方が非常に多いよう考えられます。ことに、これが請求という言葉で表現されておるのでございますが、こういうようなものについては、これは率直に補償の観念をはつきりさせた方がよろしいのではないかというふうに考えられるのでございます。軍人恩給については、別に御審議をされておるということでございますから、それまでの暫定的な考え方であるというならば、これでけつこうかとも思いますが、観念上割切れないものがあろうと思うのでございます。援護法と言うからには、私はかえつてこの中にありますところの更生医療、あるいはその他の措置が、援護法の内容としてはふさわしいものでありまして、法案をつくる場合におきまして、恩給法あるいはこの系統に属するもの、国家公務員の災害補償法というようなものに類するものと、国家援護措置として行うものと、別に考えて立案をされる方が適当ではないか、こういうふうに考えるのでございます。更生医療の給付、あるいは補装具の支給、国立保養所への収容というようなものは、援護法の内容として適当なものであり、ことに更生医療というようなものをお取上げいただいたことは、これは非常にけつこうなことと考えるのでございます。  それから、この年金等についての額の問題について、御意見がたくさんあつたと思うのであります。私も、国家財政上の問題等で、こういう程度のものが一応出されたものだと思うのでありますが、私ども、前に軍人援護のこと、あるいはその他のことと関連して考えてみますると、やはりさらに御増額を願う措置をお考えいただいた方が、かえつて適切ではないかというふうに考えるのでございます。たとえば、この特別項症の障害年金というようなものにつきましても、私ども軍人援護の仕事の手伝いをさせていただいたとき、今でも覚えておるわけでございますが、上等兵の方の両眼失明という程度のものが、大体千二百円程度の増加恩給をいただいたと思うのでありますが、その当時のものとこれとを比較いたしますと、たいへんつり合わないというよう感じも起きるのでございます。さらに、こういうものと全然別の観点から、ただいま国会に上程になつております法案の中に、簡易保険の最高額のものが出ておりますが、その当時は一千円が最高限度であつたものが、今回の議会で御審議になつたものは八万円になつておるのでございます。この六万六千円というよう程度のものは、さらに御増額になるのが適当な措置ではないかということを考えるのでございます。  それから遺族年金あるいは一時金につきましては、ただいままで適切な御意見があつたのでございまして、金額等につきましても、適当に御増額がいただければ、また御増額いただくように御努力をお願い申し上げたいと思うのであります。  私、特にこの中で気のついたことは、ここで一時金と出ておりますものの中に、兄弟姉妹というものを一項お加えいただくことが、このまま通過するにいたしましても、適切ではないかと思うのでございます。それは、民法にはいわゆる扶養の義務といたしまして、兄弟姉妹も入つておることでございまするし、また現在の恩給法の建前といたしましても、ほかに受給者がいない場合には、兄弟姉妹が加えられておるのでございますので、若干の条件をつけるにいたしましても、兄弟姉妹をお加えいただくということが、援護法という名前からいたしましても適当な措置ではないか、こういうふうに考えられるのでございます。  大体保護内容につきましては、その程度のことにいたしまして、先ほども意見があつたと思うのでありますが、この法案は急速に実施をされるものであり、金額も相当多額に上るものでございますが、私どもといたしましては、この法案の実施とともに、あるいは援護法というからには、たとえば傷痍軍人につきましては、雇用の促進の問題なども、あるいは事実上の措置で行うどいうようでございますが、官公庁が卒先してこれらの者を雇用するというような方針を法案の上に表わすことが、一つのねらいとしてあげられていいものと考えるのであります。また職業補導というような問題が、いつもただいまでは大きな問題に上るわけでございますが、更生医療その他の問題が出ていると同様に、職業補導施設というようなものも、この法案の中に打出すことが必要だと思うのでございます。  また村島さんからも御意見があつたと思うのでありますが、育英関係がこの法案の中に出ていない。事実上の予算措置で行うというようお話ようでございますが、少くともその精神をこの法案に盛り込むことが必要なのではないかと思うのでございます。  さらに、この法案の実施機関といたしまして、最後の方に若干の条文があるようでございますが、この法案を生かすものは、この運営をうまくすることが必要でございますので、この実施機関の充実ということを特にお願い申し上げたいと思うのでございます。先ほども意見がありました通り、いろいろな問題ができるのでございまして、この実施機関が、府県あるいは福祉事務所あるいは身体障害者福祉司というような機関によつて行われると思うのでございまするが、これらの機構を充実する必要があろうかと思いまするし、また種々の問題が起きましたときの相談相手になる、ことに権利関係、あるいは年金というようなものになりますと、親子兄弟、あるいはその他の問題がいろいろ出て来るので、これらのものについての相談相手になる。それは村島さんのお話のありました相談機構というようなものが、非常に役立つものでございます。お役所の仕事、これは権利関係を明白にする場合には、役所関係の仕事が適切であり、国家の責任を明確にする意味において、役所の仕事としてやるのが適切でございますが、その前提といたしまして、相談に乗り、また該当者の発見等には民間の方々を動員するということをお考えいただくことが必要だと思うのでございます。そういう意味において、遺族対策といたしましては、母子対策要綱というもので、相談機構というものがだんだん充実しつつあるのでありますが、これは政府においては、ただ奨励をするということで、実際は府県あるいは市町村が実施をしておるので、国家の施策として、これに何らかの裏づけをするということが、必要ではないかと思うのでございます。こういうよう措置をいたしまして、これが早く、また実情に適したように運営されることをお願いいたしたいと思うのでございます。先ほども意見があつたと思うのでありますが、多額の国費を投じて、なおかつこれについていろいろな問題があるのは、この根本になる考え方を確立しないところにあるのではないかと思うのでございます。これは臨時の措置考えるという御意見が、非常に多かつたのでございますが、私もその意見賛成をするものでございまして、根本対策を早く確立していただきたいと思うのでございます。  なお援護対策は単に金銭で解決するものではございません。これに伴う施設も必要でございまするし、また援護と申しますからには、精神的要素、精神的の面が非常に大きくなると思いますので、国家の責任を明確にする態勢を確立することが必要だと思うのでございます。こういう意味合いにおきまして、援護機関を充実する。たとえば福祉事務所というものをつくりましても、これが中途半端なものに終つておるというようなことでは、何にもならないのでありまするし、また民間の経験を生かす民生委員の活用をはかるというようなことについても、お考えを願うことがあると思うのであります。と同時に、この傷痍軍人あるいは遺族援護と、国が真剣に取組んで考えているのだという態勢を確立することが、必要ではないかと思うのでございます。国家の責任においてこの問題を解決し、国民がこれに協力するのだという態勢を確立することが、この問題を解決する根本になると思うのでございます。戦後の非常に重要な時期に、私どもといたしましては、たとえば厚生省の存廃問題というようなものが出て来ることは、民生安定の上からも、またこういう切実な問題を解決する上においても、国家考え方をあやふやにし、不明確にするおそれがあるのでございまして、こういうようなことのないように、国家が責任を持つてこういうものを考えておるんだという態勢を確立するようにお考えを願うことが、必要だと思うのでございます。  簡単でございますが、以上をもつて私の意見といたします。
  86. 大石武一

    大石委員長 以上で本日の公述人発言は終了いたしました。公述人に対する御質疑はございませんか。
  87. 岡良一

    ○岡(良)委員 午前中にも他の同僚委員からお尋ねもあつたことと存じますが、なお引続き午後の公述人の皆さんの御意見を聞きましても、現在のこの擬護法というよりも、遺族あるいは傷痍軍人に対する処遇に対する国の根本的なあり方についての御意見が、大きくわかれておる印象を受けます。たとえば、午前中の末高さんのお考えでは、公的扶助というふうなものを、もつと大規模に徹底させろ、その中に遺族の処遇等をも包含すべきであるというふうな点を強調しておられました。また特に佐藤さんの御意見では、生活保護法の前に国家補償は優先する、従つて生活保護法の適用と見まぎらわしいような処遇でなく、あくまでも国家補償という建前において、遺族傷痍軍人の処遇に当るべきだ、こういう御意見があつたようであります。関連いたしまして、浦田さんの御意見にも、社会保障というような表現がありました。こういう点で、また佐伯さんのるる実例をもつての御説明を聞きましても、どちらかといえば、社会保障という観点から、御所論に重点がかかつておるようでありまして、生活保護法における生活扶助費との関連において、特に数字をもつてお示しをいただいた御所論は、そのように拝聴いたしたのであります。  そこで、あらためてお尋ねをいたしたいのでありますが、佐藤さんにまずお尋ねいたしたいと存じます。佐藤さんは、国家補償社会保障に優先するというよう考え方の上において国家補償を一日も早く急ぐべきであり、そのためには、本法案は昭和二十七年度の暫定的措置たらしめよ、こういうふうな御所論のようにも拝聴いたしました。もちろん、ほかにもいろいろ御主張もありましたが、そこで国家補償というものを、御存じのように今度政府恩給法特例審議会というものを設けまして、明年三月三十一日までに、適当な規模における恩給法の復活を意図する旨の法律案を、すでに国会に提出し、その同意を求めておるのであります。そこで、この恩給法が、具体的にどういう形において復活することが、国家補償の実現であるかということについて、佐藤さんの具体的な構想をさらに承りたい。と申しますのは、現に勅令第六八号によつて停止されておる軍人あるいは準軍人また遺族等に対する恩給には、普通恩給もあれば、増加恩給もあれば、傷病年金もあれば、公務の扶助料もあれば、普通扶助料もあります。従いまして、これらの中で何を特別に復活すべきであるとお考えであるかという点が一つ。次にはこの恩給を受くべき資格者でありますが、階級差によつて非常に大きな差異があります。現に内閣が提供しております資料を見ましても、増加恩給については、大将は三名であります。しかし上等兵は一万三千——これは海軍の数字でありますが、陸軍はさらに大きな幅を示しておるのであります。軍隊内における階級差というものを、恩給法の復元の場合には、どういうふうにお考えになつておられるか。特に日本遺族厚生連盟の首脳部の佐藤さんとしての御見解があつたら、この機会に承りたいと思います。
  88. 佐藤信

    ○佐藤公述人 ただいまの御質問に対して、完全なお答えができるかどうか、疑問に思うのでありますが、私の考えております範囲において、お答えを申し上げたいと考えるのであります。  私ども国家補償を求めておるということは、それが社会保障とどういう関連を持つかということでございますが、それは私どもが今度の戦争、いわゆる公務によつて死没をいたした者、あるいは傷害を受けた者に対しては、国家援護をする前に当然補償をなすべきである、国家がこれに対して補償をすべきであるという考え方から、国家補償を求めておるのでありまして、それがなされた後に、なおかつ社会保障をしなければならぬような状態にある者は、もちろんこれは一般の者と無差別、平等に社会保障の中に取入れるべきものである。     〔委員長退席、青柳委員長代理着席〕 こう考えておるのでございますが、そういう意味において、社会保障に優先し国家補償をなすべきである。その国家補償は、どういう形において、何を求めておるかという御質問でございますが、私その点について、あまり深い知識を持つておりません。ただ、私どもが従来既得権と考えております点は、戦争に出ますときには、行つて死んだらこれだけのことがあるという約束があつた。その当時、恩給法というものがあり、扶助料の制度があつたと存ずるのであります。それがポツダム勅令によつて停止されておるので、それを復活するのが当然の筋道である、かよう考えておるわけでございます。ただいまの御措置は、それができますまでの間の暫定措置である、かように私どもは受取つておるのであります。その意味において、この暫定措置は、本年度限りの暫定措置であつて、昭和二十八年度からは、その本来の恩給法の復活に行くべきものである、こういう考え方でございます。その恩給法の復活が、どういう姿になつて復活をして来るかということにつきましては、戦前のような形そのままで復活することは、現在の戦後の諸情勢にそぐわない点がたくさんあると思うのでございます。ただいまお尋ねのように、階級の差が非常にたくさんあるというような点につきましては、これは戦後において、戦前のようなそのままの姿で復活することは適当でない。しからば、どういうふうにその階級差をつけるかということになりますと、詳細な点については、今、確固たる考え方を持つておりませんが、そういう差をあまりたくさんつけることは、現在の情勢に適当でないというふうに漠然と考えておるだけでございます。  以上で、はなはだ尽しませんけれども、お答えになれば仕合せだと考えます。
  89. 岡良一

    ○岡(良)委員 もちろん、あまり具体的な構想をと申しましても、これは尋ねる私の方が無理なことは、百も承知しております。ただ、国家補償を要求され、さらに旧恩給法の復活を要求され、特に既得権という文字を用いられるようなことになりますと、ともすれば、停止されておる旧恩給法そのままの復元という印象を与えようとする危険が実はあるのであります。しかしながら、実際問題として先ほども申しましたように、この停止され制限されておる旧恩給法に基く旧軍人等につきましても、増加恩給は、大将が三人であり、准士官は七百七十人であり、上等兵は一万三千人である。これは海軍の数字でありますが、陸軍はもつと大きな開きがあろうと思います。あるいは一般の公務扶助料につきましても、大将は九人である。ところが、二等兵曹は六万六千人であり、上等兵は七万一千人である。これも海軍の数字でありますが、こういうように、非常に大きな開きがあるわけであります。そういう点からいたしましても、乏しい国の財政力というものを、既得権とは申しながら、最も有意義に活用するという場合には、ともすれば、旧恩給法がそのままの姿において復活することを要求されるがごとき印象を与えられることは、私の感情としては、非常に好ましくないということを申し上げると同時に、また遺族厚生連盟等においても、こういう問題については、特にあなたの御発言中にも、恩給法の特例に関する制度の審議会に、遺族代表を参加せしめるという御意向が、強く盛られておりますが、そういう場合には、やはりこうした戦争によつて最も大きな犠牲を受けており、特に職業軍人ではなく、生業を捨て、家族を捨てて、しかも戦地において取返しのつかない不自由な身となつたり、あるいはたつとい一命を失つた、こういう遺族なり当人の身になつて、最も甚大なる被害を、実質的にも、またいろいろな広い意味における犠牲においても、多くこうむつた者に、当然報いられるべきものが報いられるというような形において、厚生連盟の諸君が、たまたま代表者を参加させるならば、主張をしていただきたいということを、この機会に申し上げておきたいのであります。  なお具体的な点について、お尋ねいたしたいのであります。最後の青木さんの御発言にもあり、また村島さんの御発言にもありましたが、遺児育英の問題であります。この法律案には、条文がありません。これは条文として、はつきり明文化する必要があるとおぼしめしでございましようか、その点をなお重ねてはつきりと御意見を承りたいと思います。
  90. 青木秀夫

    ○青木公述人 授護法という援護の観念を、どういうふうに見るかという点について、私は、援護法ということをうたうからには、遺族年金あるいは障害年金というようなもの、これは、この法にもありますように、権利関係でありますので、援護という観念とは法律的な用語からいうと、やや違うのではないか。たとえば更生医療とか、あるいは安全づえの交付とかというようなものこそ、援護法の内容としてふさわしいものでありますので、あるいはこれについて大日本育英会の法律があるわけでありますが、そういうものとの関連において、法文に表わしていただくことが、授護法と銘を打つからには、さわしいと思うのであります。さらに相談、指導というようなこともあります。これは直接物質的な関係でなしに、精神的な方面を考えるならば、そういう面をも加えた国家の温情と申しますか、あたたかい心を表わすよう法案をつくることを考えることが適当ではないかというふうに考えるので、法文の書き表わし方は非常にむずかしゆうございますが、そういう点を、はつきり国家意思として表示されることを、私はお願いいたしたいと思うのであります。
  91. 岡良一

    ○岡(良)委員 そこで、実は委員会でも、その点が問題になつておるのでございますが、この条文の中で明文化すると同時に、その明文の内容について、何か具体的なお考えがあつたら、この機会に承らせていただきたいと思うのです。
  92. 青木秀夫

    ○青木公述人 この他の条文とのつり合いをも考えますならば、ここにあります更生医療、さらに補装具の支給、国立保養所への収容等、この条文にならつた書き方ができると思うのでございます。これは実をいえば、必ずしも私は立法事項ではないと思うのでございまして、法律に書かなくとも、あるいは政令でやつてもさしつかえない事項ではないかと思のでございます。それを法案に書いておるのでございます。私は援護法の内容としては、これが非常にふさわしいことで、更正医療というものをこの際取上げていただいたことは非常にうれしいのでございます。それでございますので、遺児の教育の面、あるいは遺家族援護、指導というような面をも、書き表わすことができると思うのでございまして、そういうものをつけ加えるといたしますならば、雇用に関する問題として——御承知のごとく、従前は入営者職業保障法という法律があつたわけでございます。職業に関する保障の問題、これは傷痍者の強制割当、強制雇用ということに行くか行かないかは別といたしましても、官庁あるいは専売公社、鉄道というようなところで、優先的に使うというような精神を一箇条入れるということは、法文としてできると思うのでございます。さらに、職業補導所の設立でございます。御承知のごとく、職業補導所の設立は、別の法律で国の機関としての設置法をつくつておられるわけでございますが、そういうようなものをここに、身体障害者のために、あるいは傷痍軍人のために、職業補導の機関を国としてつくるということを、これも一箇条でけつこうだと思います。さらに育英についても、あるいは高等学校までの教育については考える、特別の事情のない限り——あるいは全額をある程度まで制限をすることもけつこうと思いますが、その実施は、たとえば育英会にまかせる、あるいは別の機関をつくるということもけつこうだと思いますが、これはできる問題だと思います。それから相談機構、あるいは指導の機構というようなものも、たとえばただいまできておりますところの福祉事務所というようなことを、さらにここでうたうこともできるのではないかと思うのでございまして、援護法の中に、私は法文として書き表わしていただければけつこうだと思いますのは、大体そういうような四項目ぐらいさらに追加していただく。おそらくこれは、予算そのものには関係なしにできることではないかというふうに、考えておるのでございます。
  93. 岡良一

    ○岡(良)委員 私、主として遺児の育英の問題について、実はお尋ねを申し上げたのでありますが、このことは、お母さんにとつても、死んだお父さんにとつても、一番これが大きな関心事であることは、申し上げるまでもないのであります。実は昨日も委員会で、政府当局の御出席を願つて、いろいろ政府所見をただしましたところ、本年度は大体六千八百万円の育英資金を増額する、その中で七千六百人の遺児に育英資金として与える。そこで高等学校は五百円、大学の初年級は千九百円、高学年が三千百円。しかし、これを支給される条件は、やはり学校の成績の優秀なる者からとることにする。しかし、一般の子弟の育英資金を受け得る資格よりは、多少、高等学校で一般が五%なら一五%ぐらいに広めよう、こういうようなことにしたいという意向なんです。特に御存じのように授業料は、今年は大学が六千円に上ります。こういうものは、法律をもつて押えませんと、やはり払わなければならぬものになる。これはどうするかということに対して、大学学術局長としては、現在の大学において授業料を払い得ないものが、大体五%から一〇%あるということを予算に見積つてある。それ以上遺児について大学の授業料を全額免除するということになると、法律の改正をしなければならぬ、こう言つておられる。そういうことになりますと、やはりこの際遺児の育英については、六千八百万円というものが、その所管者の任意に扱われるということは、遺児育英の立場からも、特別な遺児育英金庫というものを決定するところまではつきりさせる、あるいは国立大学における遺児の授業料は、これを免除するという規定を、この援護法案にはつきりさすというところまで具体化した方が、遺児の育英に十全が尽せるのではないか、こういう考えからお尋ねをいたしたのでありまして、村島さんのお考えはどうでございましようか。
  94. 村島喜代

    ○村島公述人 ただいまお話を伺いまして、青木さんの方からも、るるお述べになりましたのでございますが、私も母という立場、未亡人というよう立場考えますと、育英の問題が一番念頭に浮ぶわけでございます。ただいまいろいろ大体の腹案をおつしやつていただいたのでございますが、その程度で私たちもよろしいのでないかと思うのでございます。遺児でさえあれば、成績はどうであろうと優先的にということは、これはなかなかむずかしい問題でございますから、その辺普通であれば五%、遺児であれば一五%程度というのは、まことにけつことだと思うのでございますが、ぜひひとつそういうようにお考えいただきたいと思います。
  95. 岡良一

    ○岡(良)委員 それから佐伯さんにお尋ねいたしたいと思いますが、佐伯さんは、今度の法案に盛られているこの一時金の額面は、非常に低い、こういう御指摘でございますが、それでは一体どの程度にこれを引上げたら適当だとお思いになりますか。
  96. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 お答え申します。私の考えでは、少くとも生活保護法によるところの生活扶助以上に、一箇月に見積りましての金額を出すべきじやないかというふうに考えます。
  97. 岡良一

    ○岡(良)委員 そういたしますと、いろいろ数字をもつて御説明がありましたので、あなたのお手持ちの数字から逆算いたしますと、額面どれくらいになりますか。そうして何箇年の償還において、たとえば年利子はどのくらいという御見当でございますか。
  98. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 お答え申し上げます。そこまで計算を持つておりませんが、国家最低生活を保障しておるところの、いわゆる生活不能者、生活困難者よりも、低いようなものをもつて国家補償、あるいはこれをもつて援護資金となさることは誤りでないか、それ以上の額におくべきだと考えまして、数字はただいま申し上げられませんが、それ以上の額にしていただきたいということの考えを持つております。
  99. 岡良一

    ○岡(良)委員 実は私お尋ねしておりますのは、一時金の方なんです。要するに、公債で交付される分を申し上げておるわけなんです。そのほかに遺族年金なりというものが、また別途支給されることになつておりますので、これはやはり両者を合して、少くとも国が生活保護法によつて保障しておる生活扶助額、住宅扶助額あるいは教育扶助額等の総計よりも上まわるものでなければならぬというふうな佐伯さんの御所存でございますね。そこで、その場合に、その最低生活費というもののある部分は、公債の年賦償還の額と、そうして交債の利子によつて補填されるわけです。その公債の年賦償還による所得と、そうしてまたその年利子の所得と、その合算されたものが、これを逆算して行くと、公債の額面としてどれだけになるかということをお尋ねしておるわけです。最低の生活を保障する年額が、この公債の年賦償還における償還額と、年利子によつて補給されるということになると、家族構成によつて、いろいろかわつて来るでしようね。ですから、やはりある程度基準を、その公債の年賦償還の年額と利子によつてつて行く。あと三人、五人、六人の家族の違いは、年金によつて補う。二つの方法でやらないと、あなたのおつしやるような最低の生活保障はできないわけですね。そこで、一方支給される全額の中で、公債の年賦償還におけるその償還の額と、その利子との所得が、そうした場合に、一体どの程度のものにしたら、最大公約数的に妥当性を持つかという点について、御研究になつたことはまだございませんでしようか。
  100. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 研究したことはございません。今お話通り生活保護法における基準は、各性別、年齢により、みな違いますから、こまかく申し上げますと、ななかこれは個々の問題になりますから、研究したことはございません。
  101. 岡良一

    ○岡(良)委員 佐伯さんはいろいろ数字の方を御研究なので、この機会に私も勉強させていただきたいと思いまして、関連してお尋ねを申し上げたいのでございますが、御存じのように、この四月から大体生活保護法による扶助額は引上ります。東京都では大体七千円というところへ参ります。ところが、昨年十月のCPSから勘定いたしますと、五人世帯の大体の東京都における一箇月の生計費は、支出において一万六千七百八十円という数字を出しております。そのうちで大体飲食費が九千三百七十八円という数字を出しております。ところが一生活保護法における本年四月から支給される生活保護費においては飲食費は五千四百四十円、住宅扶助、教育扶助を合せて、七千六百三十六円。従つて、後段ではエンゲル計数は七一であり、また前段では五五。一般家庭の一箇月の生計支出は、そういう計算になつております。そこで生活保護法のこういうものを基準として、最低の生活費ということで、遺族の給与が押し切られるということでは、遺族にはお気の毒じやないかと私は思うのであります。そういう場合、やはりこれを補正しなければならぬと思うのです。だから、CPSに比べまして四五%の割合ですべての物価を見積つて最低生活費を算出しておるという現在のやり方は、非常に不適正じやないか、国民最低生活というものは、もつとCPSを、あるいは六割に見るか七割に見るかしなければならぬので、これを五割以下に見ておるということは、最低生活が、ただ量的に下つておるのではなく、質的に非常に大きく低く落ち込んでおるという懸念を私ども感じます。あなたの御体験から、またわれわれが法案を検討するための重要な資料にもなるわけでありますが、一体現行の生活保護法に基く生活扶助この四月から実施される七千円は、昨年十月のCPSに比べて、物価を四割五分のところに押えて算定されたもので、これでは補正されなければならぬとするならば、一体CPSを何割のところにこれを補正するのが妥当であるか。同時にまた、最低生活が、四月からのエンゲル係数では七割一分となつている。これは一体どの程度に補正されなければならないか。六〇に補正されるのか、六三に補正されるのか、この点について、われわれはこの法案の審議に非常に重要な参考になるのですが、あなたの多年の御経験から、何かわれわれにとつても参考になる御所見があつたら、承つておきたいと思います。
  102. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 それでは申し上げます。ただいまの生活保護における基準は、今お話通りに、実際の最低生活者の実態調査に基きまして、それに合致しているところの基準とは考えておりません。しかも最低生活並びに文化生活を憲法二十五条で保障していながら、今お話通りに、飲食費が非常に高い、これもその通りであります。それで例を申し上げまして、どのくらいにしたらよかろうかという考えを、ひとつ述べさせていただきたいと思います。  昭和五年の八月でありますが——いわゆる救護法の公布が昭和四年でありまして、七年にこれが実施された、その前の昭和五年の大阪市の状態から申し上げます。大阪市は八千四百五十五世帯について、人口三万四千三百四十八人の実態調査を行いました。これは今日いう生活保護法の適用を受けている人々、いわゆる方面委員カードに載つておる連中を調べました結果、一箇月の家計支出は、何人世帯ということはわかつておりませんが、平均いたしまして、三十五円九十一銭に相なつております。そして食費を見ますと十七円八十九銭になつております。この食費の方の計算は八千三百十一世帯の調査であります。そういたしますと、ただいま申し上げた三十五円九十一銭が八千何百世帯かの中の平均一箇月の家計支出である。それに対しまして飲食費がちようど五〇%に相なつております。それではその当時一般はどのくらいで暮しておるかと申しますと、先刻申し上げましたように約六十円とすると、一般の世帯に比しまして六〇%の生活を、実際に対象者が生活しておつたということに相なります。その上昭和五年の当時は、まだ救護法が実施されておりませんで、一時救護の規定がございました。一時救護の規定によると、大人は一日四十銭、子供が二十銭でございます。それで計算して参りますと、この支給額というものは、実際の最低生活者の実態調査に合つており、それで生活できる範囲支給がせられておるということに相なります。  その次が、昭和十一年の状況であります。これはもう救護法が施行された後でありまして、横浜市の六千百三十一世帯、二万七千六百六十四人の調査であります。その支出は、一箇月一世帯当り平均が、これも三十五円四十六銭であります。そして救護法によりまして、一世帯当り一日一円ですから、一箇月三十円以上は越せないが、一人一日二十五銭ぐらいの割合でやつております。これから見ましても、やはり飲食費と一箇月の支出の割合は、先刻申し上げたように五〇%であります。しかして実態調査からいつても、一般世帯の六〇%になつておる。しかるに今日の生活保護法の四月のお話をただいま伺つたのでありますが、四月のことは私よく存じませんから、昨年の五月に第十一次の改訂をみましたのを見ると、飲食費が全部の一箇月の家計の七〇%以上になつており、世帯によりましては八〇%になつておる。そうすると文化費というものは、エンゲルの計算で行きますれば二〇%になつてしまう。五〇%以下は獣だということですが、そういう状態にあるのが十一次改訂当時であります。これがもつと増額すればけつこうでありますが、私は少くとも一般の生活に対しまして六〇%以上は持つてもらいたいというふうに希望いたします。
  103. 岡良一

    ○岡(良)委員 その際さらに補正しなければならないのは、CPSの四五%の生活費と見積つて算出して来た生活扶助基準というものについては、相当疑義があるのじやないか。これはやはりCPSの六割なり七割なりというその補正もあわせてやつて、さらにエンゲル係数の補正をやるというところまで行かないと、ほんとうに現在の段階における実際の生活費は出て来ないのじやないかと思うのですが、そういう点につきましては、どうお考えでしようか。
  104. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 ただいまの御説に私も同感であります。現段階におけるところの生活扶助を受けておる者は、今までの支給額では、とても暮せない、かたがた収入をごまかしている、というと悪いですけれども、なかなか収入が少い、あるいは借財をしてそれを埋めて暮しておるという状態でありますから、今御説のごとく、そのくらいに上るのが至当であろうと考えます。
  105. 岡良一

    ○岡(良)委員 最後に、佐伯さんにお尋ねしたいのですが、実は私どもの資料から計算をしてみますと、こういうことになるわけなんです。結局エンゲル係数は、御説のように六〇にとどめなければならない、かつまた物価はCPSの四五%というふうなことろで押えてはいけない、これも大体六割くらいのところで押えなければ、実際は所得をごまかしたり、また別途借金をしておるという御説その通りだと思うのです。そこでCPSを六割に補正し、エンゲル係数を六割に補正いたしますと、遺族世帯の中で一番多いと思われる未亡人と年とつた親御さん、そして小さい子供、こういう世帯については、大体七千円余りの生活費は、最低生活費として必要なのですね。そこで今度はその七千円ばかりの費用が必要であるからして、少くとも暫定的な措置であろうとも、これだけのものは何らの所得もない遺族家庭にはやらなければならないということは当然のやり方である。こういうふうに考えて行きますと、御存じのように、お母さんと子供と年寄りとの三人世帯では、年金が大体合せまして千七百円か千八百円ほどになりますね。それからこの公債の利子をかりに——これを十年年賦といつておりますが、五年年賦にしてもいいという大蔵省の考えもありますので、五年年賦で償還するとしますと、一万二千円ほどになる。これは一箇月千円ほどになる。合せまして大体三千円弱というものになる。なお何らの収入もない者には四千円不足するということになるわけです。ところが、現行の生活扶助をもらいますと、四千五、六百円くれるということになるわけですね。それで三千円ほどの収入があるとそこでこれが千五百円ほどに引かれる。実際は七千円ほど必要である、ところが現在の生活保護法の適用を受けて、生活扶助、住宅扶助を全部もらつても四千五百円ほどしかない。そこで遺族であつて今申し上げたような世帯構成であると、大体二千五百円くれるわけですな。そこで公債の収入やら年金の収入増やらとプラス七千円ほどになる。そういう勘定から行けば、生活保護法の適用に際しては、この遺族年金なり、あるいは一時金から生み出される利子、あるいは年賦償還の金額は絶対に所得とみなさないという原則は、どうしても確保しなければならないと思うのです。これはあなたもそのよう主張しておられましたが、重ねて遺族厚生連盟副会長の佐藤さんに、実際この法律案が通つた場合、そういう事態が起りますが、これはやはりどうしてもわれわれは生活保護法をこれで補完して行くという建前で行かなければならぬと思います。従つて、所得とみなさないという方針は、はつきりとこの法律の条文の中に明文化する必要があると私は考えるのですが、佐藤さんのお考えはいかがでしようか。
  106. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 私はもうよろしゆうございますか。
  107. 岡良一

    ○岡(良)委員 佐伯さんのお考えは、さつき承りました。
  108. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 私にもう一度述べさせていただきたいですが……。
  109. 青柳一郎

    ○青柳委員長代理 どうぞ……。
  110. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 ただいまのお話通りに三人世帯で四千三百八十五円になります。まことに同感でございますが、この機会にひとつお願いを申し上げたいことがございます。それは生活保護法の最低の基準の改訂のお話がございましたが、従来は米の値上りによつて上げて参りましたが、そうではなくして、これは全面的に憲法第二十五条に従つて最低生活並びに文化生活ができるように、この構成をあらためておつくり願うようにお願いしておきたいと思います。
  111. 佐藤信

    ○佐藤公述人 この今論議されております法律によつて支給されます場合に、その公債並びにその公債の利子及び年金でございますか、あるいは臨時手当になりますか、そういうものは、生活保護法の適用上、所得に見なさないことに、私は陳述の中でもお願いしてございますが、従来この点について私どもそれぞれお伺いして、仄聞しておるところによりますれば、これは非常にむずかしいことであつて生活保護法の適用上、何と申しますか、手心でやるとか、あるいは運営の妙によつてこれを善処して行くというようなふうにいわれておりまするけれども、これは非常に心もとないところでございまして、これをはつきり条文の中に、あるいは生活保護法の中に改正をして入れるとか、あるいはこの法律の中にはつきりそういう規定をしていただきたい、こういうことを私はお願いしたいと考えております。従いまして、御意見通りでございまして、それは特に私どもとしては望んでおることでございます。
  112. 岡良一

    ○岡(良)委員 それで、この点は私ども非常に大きな関心を持つておりますので、この機会にあらためて、これはイエスかノーかでけつこうでございますが、この法律案が通つた場合、生活保護法の適用を受ける遺族については、年金ないし一時金から生ずるところの所得は所得と見なさないということを、法文の中に明文化すべきであるという御意向について、杉さんと村島さんと、そして青木さん、ひとつイエスかノーかでけつこうでございますが、御意見を承りたいと思います。
  113. 杉暁夫

    ○杉公述人 私はイエスとお答え申し上げます。と申しますのは、今のお尋ねのことが、——生活保護法の問題について、ちよつと要点をもう一回……。
  114. 岡良一

    ○岡(良)委員 では、かりにこういう例を考えてみることにいたしましよう遺家族である未亡人がありまして十八歳未満の子供が一人あり、六十歳以上のお母さんがあつたといたします。この遺族には何らの収入もない。その場合に、生活保護法の適用を受けますと、生活扶助と住宅扶助あるいは教育扶助によつて、今年の四月から大体四千三百円ほどの収入が見込まれるわけなんです。しかし実際問題として、この三人の世帯は四千三百円では生活ができない。ところが、一方この法律案が効力を発生いたしますると、この三人世帯については、大体二千五百円ほどの収入があるわけなんです。合せますると、六千八百円ほど、七千円ほどの収入になります。ところが七千円という収入は、東京都の現在の物価事情においては、この三人の世帯が営む家庭にどうしても必要な所得でなければならない。してみれば、この場合に生活保護法を適用した場合には、生活保護法の建前からいえば、所得と見なしまして、遺族たるがゆえに所得するところの遺族年金やあるいは遺族一時金から生ずる所得というものは、所得から除外される。それだけ引いて、その家庭に与えられるということになりますと、やはり元の木阿弥になるということです。こういうことでは非常に不合理であるから、この法律が一年間しか施行されないものであるとしても、その期間、この法律にはつきりと、生活保護法の適用を受ける遺族家庭については、この法律案によつて支給される所得は所得と見なさないということを明文化すべきではないか、こういうことなんです。
  115. 杉暁夫

    ○杉公述人 明文化していただきたいと思います。
  116. 村島喜代

    ○村島公述人 ぜひそうしていただきたいと思います。もう七千円でもあぶないかもしれないのでございます。それを差引かれるということになつたら、もうこれはたいへんなことになろうと思います。ぜひひとつそういうふうにお願いしたいと思います。
  117. 青木秀夫

    ○青木公述人 明文化してはつきりさせたらけつこうだと思います。
  118. 青柳一郎

    ○青柳委員長代理 他に御質疑はありませんか。——苅田委員
  119. 苅田アサノ

    苅田委員 私、佐伯公述人にお伺いいたしたいのですが、ただいま問題になりました生活保護法の点は、公述人諸氏も御主張になりましたように、私どもも、必ずこれは年金あるいは一時金等は切り離して、支給しなければならないものと考えますけれども、いろいろな事情がありますので、私は万一の場合のことをお聞きしておきたいと思うのです。それは、佐伯公述人は先ほど、もしこれを現在厚生大臣が言つているように、実情に即して、勘案するというようなふうに扱われたのでは——つまり一律一体に差引かないで、事情を見て個々別戸にどの程度差引くかということを勘案するという御答弁なんですが、そうされた場合は、地元の事務当局として非常に困るし、それから不公平になるということを、先ほどの陳述の中でおつしやいましたが、三十年間も民生事業に従事しておる佐伯公述人のこの点についてのお考えを述べていただきますことは、非常に私ども参考になると思いますので、その点もう少し具体的にお話が願いたいと思います。
  120. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 お答え申し上げます。今お話がございました通り、これはひとつ法律をもつてちやんと明文化しておいてもらいたい。それでありませんと、全国的にいろいろな取扱いをやる、また人によつていろいろ違う、あるいはいろいろな権力をもつてやつた者はよけいもらえるのだということになりましたならば、結局平等の原則に違反するし、非常に不公平が出て来る。この実例というようなものは持つておりませんが、これはお考えくださればおわかりになることと存じますので、ぜひそういうふうでなく、地方の事務官もちやんとした形のもとにおいてやれるようにお願いしたい、こう申し上げたわけであります。
  121. 苅田アサノ

    苅田委員 引続いてお尋ねします。今年度の生活保護法予算というものは、公述人も先ほどおつしやいましたように二百五十億で、なるほど昨年よりは何十億かふえておりますけれども、しかし今度基準が引上げられることでありますし、それから生活扶助の点では実質的には減額されておる。十数億ですか、数字ははつきり覚えておりませんが、とにかく減額されておるわけです。そういうことから考えまして、実際は予算を別にとらないで、生活保護法の中から遺族に対しては特別な考慮をすると申しましても、実質上そういう考慮はできにくいのではないか。やはりこれは最初から別途に支給するという形でないと、それは言うに終るのではないかということを、私ども考えるわけですが、実際に民生事業に従事しておられる方が、現在は一般の人たち生活は非常に楽であつて、今年は多分にそういうものを遺族の方にまわすことができるから、そういうふうにできるのだとお考えになりますかどうか。つまり実質上は昨年よりも少しも多くない予算の中から、今大臣の言つているよう遺族には特別なはからいをするといいましても、その予算の中から遺族に特別にはからうことができるかどうか。そうでなくして、やはり遺族に対しては、別途の会計から——生活保護法のほかに、そういうものは差引かないでやるというのでなければ、できないのじやないかと思うのですが、その点お聞かせ願いたい。
  122. 佐伯藤之助

    ○佐伯公述人 お説の通り、これは全然違つた財政的措置をお講じになりまして、ただいまの予算以外から、全然生活保護のことと切り離した点でやるということは同感であります。さようにお願いしたいと思います。
  123. 苅田アサノ

    苅田委員 今度は青木公述人にお聞きしたいのでございます。先ほど傷痍軍人の就職の問題につきましてお話がございましたが、国家としてその雇用に対しまして、たとえば能力上の差異等に対して、国が賃金その他についての裏づけをしないで、また政府から命令的にそういう人たちを各職場に配置するという処置を講じないで、ただ日本人の道義に訴えて、傷痍軍人をみんなが同情し合つて使うようにというようなお説のようなことができるかどうか。それには、やはり特別な財政上の裏づけなり、あるいは政府としての命令と申しますか、そういう方針なりがなければいけないのではないかと思うのでございますが、その点につきましての御意見をお聞きしたいと思うのです。     〔青柳委員長代理退席、委員長着席〕
  124. 青木秀夫

    ○青木公述人 強制雇用あるいは強制割当という問題と、能力、能率その他の問題に関連して、非常に重要な問題でございますが、御承知のごとく、わが国におきましては、太平洋戦争中も強制雇用の制度はとらずに、大きな会社、工場等に道義的にお取扱いを願うというような方針でやり、傷痍軍人だけの特別な工場というようなものもできたのでありますが、これは立法によるものでなしに、行政上の措置でやつたわけでございます。しかし、実際上能力がこれに伴わないときには、長く続かないのであります。その根本対策といたしましては、先ほどちよつと申し上げただけで、関連的に申し上げなかつたので申訳ないのでありますが、能力を補充する、あるいは能力を復元するという意味においての補導施設というものを、十分にやる必要があるのでございまして、今回の政府の御方針は、職業補導所を労働省の所管のものでやるということのようでございますが、こういう特殊のものにつきましては、やはり特別の機構をもつて充実した補導をこれ専門にやつて、この能力を十分りつぱなものにさせて、それで就職させるということがまず第一でございますので、この機能を十分果させるようにこの法案にうたつていただくことが適切と私は思うのでございます。就職は、能力を無視して割当たところで、長続きいたさないのでございます。もしこれを長続きさせようとするならば、奨励金を会社の方に交付するとか、あるいは税金を免助するとかいうような、やはり国家的な措置を必要とするのでございますので、そういう措置をしなければ、何らの教育訓練をしないでそのまま就職させようというようなことは、考えることはできない問題だろうと思うのでございます。そういう措置をしないと、傷痍軍人がかえつて不幸な目にあうということは、今までの例に徹しても明らかでありますので、もしそういう法文をつくるならば、実施にあたりましては、さらに詳細な実施細目をきめる必要があるだろうと思うのでございます。
  125. 苅田アサノ

    苅田委員 もう一点、その点についてお伺いしたいのですが、戦争中と今日とでは、やはり働く人の数がたいへん違つております。現在では、肢体の満足な人でも、なかなか就職できないというような状態なので、こういう状態では、やはり戦争中よりも、よけいに政府の方で奨励金を出すなり、あるいはまた御説のよう職業補導を十分にすることは必要だと思うのでございますけれども戦傷者のことですから、普通の人たちような熟練を得るということは、どうしても従来不十分だつたと思います。そこでそういう措置もやはり十分にしていただくことが、ほんとうにこういう人たちを働かせる道だと思いますし、公述人の御意見もそうじやないかと思いますが、いかがでございますか。
  126. 青木秀夫

    ○青木公述人 その通りでございます。
  127. 大石武一

    大石委員長 他に御発言はございませんか。
  128. 堤ツルヨ

    堤委員 非常に盲点の多いこの法律に対して、皆様方からたくさん御意見をいただいたのでございますが、最後に遺族厚生連盟の佐藤さんに、これはお願いするのでございますが、岡委員の先ほどの御質問に対しましていわゆる国家補償を建前とすべきであるというところの遺族厚生連盟の御主張恩給法の復活という問題、既得権の侵害という見地から御主張になるこの遺族厚生連盟の主張といたしまして、それではどういう案を持つておるという御意見を、私たちのこの委員会にお示しくだされば、私たちも非常に助かりますし、またこれがほんとうではないかと思うのであります。従つて、詳しい研究はしておらないという御答弁でございましたけれども、できますならば、近日のうちに遺族厚生連盟の方で意見をまとめられまして、この委員会の方にいただけたら、非常に私はけつこうだと思いますので、その点委員長からも交渉していただきまして、佐藤さんの御意見を伺いたいと思います。
  129. 大石武一

    大石委員長 他に御発言はありませんか。——なければこれにて本日の公聴会を終了いたします。  終りにあたりまして、公述人皆様に一言ごあいさつ申し上げます。本日は御多用の折にもかかわらず、遠路わざわざ御上京くだいまして、この公聴会に非常に有意義な御発言を賜わりましたことを、まことに感謝にたえない次第であります。おかげさまで、われわれいろいろな広い角度からこの法案を十分に審議する機会を得まして、まことに幸福に存ずる次第であります。われわれも皆様の御発言を参考にいたしまして、でき得る限りのりつぱな法案をつくり上げたいと念願しております。委員一同にかわりまして、皆様に厚くお礼を申し上げる次第でございます。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時三十二分散会