○黒田
委員 そこで、私はなるべく早く
質問を終りたいと思いますが、この人権宣言の第二條には、何人も、人種、それから途中を略
しますが、政治上の
意見その他のいかなる種類の差別も受けることなしに、この宣言に掲げられているすべての権利を享有する権利を有する、こうな
つておりますが、このすべての権利という中には、
国籍を有する権利、また何人も自分の
意思によらないで
国籍を奪われたり、またはその
国籍を変更する権利を奪われるということはない。そういう
内容を含んだものであると
考えます。そこで私
どもは、今わが国に、永年居住して今日に至
つております
朝鮮の人、あるいは中国あるいは台湾、こういう地域の出身の
人々に対しても、この
管理令の適用におきましては、世界人権宣言の中に示されておりますような権利を持
つておる
人々としてその権利を十分に尊重した処置をとらなければならぬと
考えます。なおここで
ちよつと重要な問題に触れておきたいと思います。世界人権宣言第二條の第二項に「個人の属する国又は地域が独立地域であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、その他の何らかの主権の制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基くいかなる差別も設けてはならない。」こうな
つておる。現在の
朝鮮や中国の状態は、一時的な状態でありまして、永続的な、常時的な状態ではありませんが、現状に
従つてこれを見ても「独立地域」であるとしても、「信託地域、非自治地域」というようなものの中に入れるべきものではありませんし、また「何らかの主権制限の下にある国ないし地域」というようなものの中に入れるべきものでもありません。
朝鮮あるいは中国の本土、こういう地域は当然この「国又は地域」という中に含まるべきものであると
考える。そう
しますと、
日本政府はまだそれらの地域またはその一部を独立国と認めていないからとおつしやるならば、私は「地域」でよろしいと思う。必ずしも「国」と見なくてもよいとしよう。そういう地域が、政治上、管轄上、あるいは国際上いかなる地位にあるとしても、そういう地域に属する個人に対
しまして、私は先ほど申
しましたような
国籍上の権利を十分に認めなければならない、そうすべきものであると
考えるのであります。そこで、そうすべきだと
考えますから、——時間がございませんから、私はついでに次の問題についても申し述べますが、私
どもはそういうふうに解釈いた
しますから、私は先ほど
岡崎国務大臣が十分便宜をとりはからうようにしたいとこうおつしやいましたことは、非常にけつこうなことであると
考えます。今この問題について心配されておりますことは、永年居住しておる
朝鮮並びに中国の
人々が、将来はたして定住を認められるであろうかどうかという問題である。それが最大の不安の種にな
つておるのでありますから、この永住
許可の問題につきましては、私
どもはどうしても、従来永年住んでいたこれらの
人々に対
しましては、既得の権利と申
しますか、そういう権利を認めなければならぬと
考えます。そこで、法規の上では、永住
許可を将来得ようとする場合には、
国籍証明書が必要だということにな
つております。これにつきましても、いろいろと、先ほどから他の
委員諸君とも問答がありましたが、中国本土出身の人、それから台湾や澎湖島出身の人でも、代表部の気に入らないような人物であると代表部が
国籍証明書を出さないかもしれません。そういうことも必ずしも起らないとは限らないが、それは代表部の
意思に基くものでありまして、
日本政府はそれに影響せられてはならぬと思います。そこでかりに台湾人の場合に、中華民国人としてこちらで
証明書を得ようと思
つても、代表部が出さない場合があるかもしれません。いわんや大陸出身の中国の
人々は、蒋介石政権の
国籍を持つのはいやだというわけで、
国籍証明書を、代表部を通じて入手することを好まないかもわからないと思います。さりとてその場合に、それでは中国本土の
政府から
国籍証明書をとれるかということにな
つて参りますと、おそらく
日本政府はまだその地域を独立国として認めていないから、とれたとしても、はたしてそれを正式の
国籍証明書であるとして認めるかどうかということについて疑いがあるというふうに、議論をすればそういうことも疑えないこともないと思うのでありますが、しかし、とにかく、そういう一切のことを考慮の外に置いて、ここでひ
とつ安心が行きますように、この
国籍証明書にかわる便法を、先ほ
どもたびたび
岡崎国務大臣が言われましたがぜひこの際と
つていただきたいと思います。将来の問題として残されるというのでは、非常に不安が残
つて来るのでありますので、ひ
とつここで
政府の御所信をはつきりと承りたいと思います。
朝鮮の李承晩
政府の
国籍証明書のとれないような入でも、とにかく
朝鮮の人だということが、何らかの方法で
証明せられれば、南北を問わずこれをも
つて国籍証明書にかわるものとして取扱うことができる。また中国の場合も、蒋介石
政府の代表部の
国籍証明書が得られなくても、権威ある華僑の団体もあるのですから、そういう団体の作成する書類等をも
つて国籍証明書にかえることができる、こういうことにいた
しまして、とにかく無理なことをしないようにされたいと思います。これを私は心から
政府に要請いた
します。私は
政府が共産主義を憎んでおいでになること、
政府の
立場はわかりますけれ
ども、そこはお互いに思想の自由であります。世界人権宣言にも先ほ
ども他の方が言われましたように、庇護権というものもあるのでありまして、現にブラジル
政府のごとき、この人権宣言のできます場合に、戦争犯罪人は別として、政治上、社会上、宗教上、人道上の理由に基き避難しておる者に対
しましては、相互に避難権を行使すべきであるというような議論までしておるのであります。私は理想的にそのような避難権が各国の間に今現実に認められるかどうかそこまで行
つておるものかどうかということにつきましては、いろいろと疑いもあるし、各国にも
事情があることと思いますが、しかし自分の好まない思想を持
つておる、あるいは自分の好まない政権のもとにおる、その政権を支持するものである、というような理由で、差別待遇を與えるというような偏狭な態度だけは、人権宣言の庇護権の
趣旨からいた
しましても、断じておとりにならないようにしていただきたいと思います。
そこで私は結論といた
しまして、従来永年居住しておりました人には、私から言えば單に
国籍証明書に対し、便宜をはかるというようなことでなく、一応そういう人には既得権として居住権を認めて、今まで永年住んでお
つたというだけの事実があれば、一応ここでは永住の
許可をする、既得権によ
つて永住の
許可をする。
証明書によるよりも、もう一歩進みまして、過去において永年
日本に居住したという事実をも
つてそれで
証明にかわるものというようにしていただきたいとも私は
考えますが、それにつきましても、御
意見を承
つておきたいと思います。なぜ私がこういうことを申すかといいますと、最近新たに
法律ができまして、いろいろと
在留資格を定めるように
なつたのでありますが、こういう
法律が制定せられます前には、こういう
法律なくしてけつこう
日本に住み得てお
つた一のであります。
従つて永年住んでおります者は、何も問題はないと
考えておりましたのが、新たな
法律ができて、従来の既得権がそれによ
つて侵害せられるということにな
つて来る、そうなると、それは非常に大きな国際問題にもなるというような重大な性質を持
つて来ると思いますので、永年居住してお
つたという事実が
証明できさえすれば、永年居住しておりました人には、ここではとにかく永年居住の権利を與えるというところまで行
つていただきたいと思います。
証明書にかわる便法、先ほど私は何らかの書類と申
しましたけれ
ども、
国籍を
証明する何らかの書類でなくて、長年居住しておる事実の
証明だけで足りるというようにしていただけたら、この問題は非常に円満に片づくのではあるまいかと思います。時間がありませんから、
岡崎国務大臣に対
しましてはこれだけ
質問しておきます。
あとはまた他の
政府委員に対
しまして別の機会に
質問いたしたいと思います。