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近藤参考人 硫黄島へみなで行きまして、
新聞であのことをじやんじやん書いたら、
アメリカのAPの
記者か何かが聞いて、日本の
新聞記者は非常に事実を歪曲して誇大に書いているという文句が出たそうですが、今ここで
新聞記者の皆さんが言
つたことを冷静に聞いておりまして、あるいはまた冷静にあの記事を見まして、ちつともゆがめてもなければ誇大でもありません。おそらく
アメリカの
人たちは、私
たちのようにやたらに穴へ入
つてみたり、あるいは
道路の横へ
ちよつと入
つてみるということがないので、こんなによく片づいているじやないかというふうに言いたいのでしようが、実際に
行つてみますると、今皆さんが言われたように、
方々でその骨のくずのようなものを見ることがありますし、またたまにはちやんと形を整えた頭蓋骨を見ることがある。飛行機で島の中央の
飛行場へ着陸したときは、晴れてもおりましたし、
飛行場も非常によくできておりますし、おり立
つたところに非常に人相のいい飛行隊の隊長が出迎えてくれましたし、そのそばに黒人の
兵隊などがのんきな顏をしていましたので、割にこつちものんびりしたつもりで、地獄の島とか死の島とか
遺骨の島とか、そういう
感じがおりたときは持てなか
つたのです。それからまた
トラックに乗りまして、
ねむの木の並木の間のいい
道路を走
つておりますと、やはりそういう
感じがしません。しかし
トラックをおりて、ここは
ちよつとすごいんだというところへ
行つて見ますと、岩には一ぱい弾痕があるし、その弾痕が集中したまん中に穴があいている。そこにおそらく日本の
兵隊さんがこも
つて戰
つたのだろうと思うのです。またそこの近くの
草むらなど見ますと、たいてい骨がおつこ
つておる、そういう
状態です。着いたときは何だ大したことはないじやないか、非常に明るくて、清潔なきれいな島じやないかと
思つたのですが、今皆さんのおつしや
つたようなことを、私も
一緒に歩いてみまして
感じました。帰りには、飛行機が離陸して上から見おろしますと、小さい島ですから、島のまわりを囲んでおる白いなぎさというものが、何かわれわれらしい表現をしますと、歯をむいて怒
つているように見えるし、それから島のまん中から今
那須君が
言つたようにふき出ている
硫黄なんというものは、何か怒りの象徴のようにも感ずることができるわけです。島が非常に小さくて、あそこで二万何千あるいは三万に近い人間が命を落したということは
ちよつと信ぜられないようなわけなんですが、ある生き残
つた人に
向うで聞きますと、その人の言葉によると、私の覚えではこの
飛行場の下にも一ぱい穴が掘
つてある。もう掘るところがなくな
つて、
飛行場の下にもずいぶん大勢の人が確かにもぐ
つていたはずだ。もぐ
つてそこへ逃げた。そこへ
米軍が上陸して来て、すぐに
飛行場をブルドーザで修理しかけた。従
つて何千貫だか何万貫だか知りませんが、重いブルドーザで
飛行場の
滑走路をなぜているそのとき、その下では非常に多くの日本の
兵隊さんが押しつぶされているんじやないか、生き残りのその人はそういうふうに言
つておりました。ですから今日に見、あるいは足で歩いて発見される穴以外に、おそらくあの島全体を掘り返したらずいぶんたくさんのそうい
つたものが出て来るんじやないかと思われます。それでなければただ
摺鉢山の
洞窟とか、
将軍の
洞窟とか、あるいはほかに二、三ちらほら見た
洞窟だけでは、とても二万とか三万とかいう人間が入り切れるものでもないし、そうい
つた数が
ちよつと信用できない。しかし現実としてそういう多くの人があそこで命を落したということになると、おそらくはその
飛行場の下にも、あるいは何もそういう
洞窟が見えないところでも、掘り返してみたらたくさんのそういう
遺骨が現われるんじやないかと想像いたします。非常に小さな島で、あそこでたくさんの人がなくな
つた、
最後はどういう
状態か知りませんが、ひしめき合
つてなくな
つた。やはり生き残
つた人の言葉によりますと、戰争の末期には島の上に日本人を見ることがほとんどできなか
つた。全部の人が土の下にもぐ
つてしま
つた。上はまことに静かなものだ
つた、そういうことを聞きましたが、とにかくあの小さな島で二万何千という人がなくな
つたということと、私はこのごろ
新聞の仕事で飛行機で
方々を非常に旅行ずるのですが、日本の上を飛んでみますと、日本の国が非常に小さい。それでそこに人家が非常に密集しておりまして、もし今度戦争でも起きたら、日本の本土そのものがけたの大きな
硫黄島になるのではないかというような
感じを
ちよつと持たせられます。皆さん
遺骨の話で終始されましたが、私はまた商売柄そんなふうにいろいろと考えているのであります。何しろ八時間ほどの滞在ですから、それ以外のこまかいことはあんまりわかりませんが、大体私の
感じたのはそういうことです。