○中村(俊)
政府委員 日本の
自動車工業を発展させなければいけないということにつきましては、
自動車の交通行政を預か
つている私どもといたしましてはまことに同感なのでございますが、事
乘用車になりますと、しかく簡單に言い切れないものを多分に含んでおります。先ほど
通産省の
政府委員からも御
答弁がございましたが、
わが国の
乘用車の工業が、近い将来に世界的の水準にまで達し得るかという問題については、私どももぜひそうな
つてほしいという希望は持ちますが、
現実には非常な困難、あるいは不可能と言つた方が正しいだろうと存じます。
日本の
自動車工業は、か
つて昭和十一年でございましたか、
自動車製造事業法以来非常な発展をいたしておりまして、バス、トラツクについては今日一応一人前の段階に達しております。またほんの多少ではございますが、外国に輸出されていることも事実でございます。しかし
乘用車は、私も長年
自動車を扱
つておりますが、戰争中はもちろん、戰前においても試作を多少やつたというにすぎません。唯一の例外としてダツトサンがかなり長い歴史を持
つてお
つたのですが、これまた一人前というところには達し得ないし、また外国へ輸出されたという例もないのであります。まして戰後ようやく
乘用車の生産が許されました。これはなぜ総司令部が許さなかつたかというようなことについてもいろいろ議論がございますが、とにかく許されて、
通産省の
見解によれば、パンフレツトに書いてございますが、今後二年か三年で世界的の水準に達するということが発表されました。私は
自動車を扱
つている役人でありますと同時に技術者でもありますが、希望は別といたしまして、一応見込みなしというのが
国民としての正しい
見解であろうと存じます。たとえば国産
乘用車の性能が非常に悪いということは、皆さんよく認めております。これはつく
つている連中も、重役でも社長でもみな認めております。また値段の高いこともしかりであります。
通産者がいろいろ苦心して指導されていることについては敬意を払うのでありますが、たとえば車体が非常に高いので、プレス化をすれば三割安くなるというようなことが発表されておりますけれども、私どもの
見解といたしましては、プレス化することによ
つて品物がよくなるということならわかります。しかし安くなるということは根本的に間違いだと思います。
自動車というものは本来安い機械なのでございますが、たくさんつくらなければ安くならない。たくさんつくる手段がプレスなのでありまして、月に百五十両や二百両の車をつく
つてプレス化したところで、絶対に安くならない。なぜならばプレスということをやるには、小さな
自動車でも
一つに一億円とか二億円金がかかる。これが十年も二十年も使えるものではございませんので、どうもこういつたことは世の中を誤るのじやないだろうかと私は思う。そのほかにも技術的な
根拠から論じましたならば、国産
乘用車の将来は、今すぐ一年や二年でよくなるということは言えない。しかし
通産省はしきりにそれを力説されております。私も長年や
つてよく知
つておりますので、国産
乘用車の首脳部の人とも話をいたしますが、彼らといえども絶対に大丈夫ですということは決して言
つてない。もし間に合
つて使えるものならお使いくださいというだけしか言わない。また私はこれが正直なあり方だと思います。特に
通産省が御発表にな
つておりますように、一年間に六千両、七千両の車をつく
つております、しかもそれを現在四社でございますか、そういうところでわけどりしてつく
つていたところで絶対によくならない。
乘用車をつくるとすれば、
一つの工場で一年間に一万両あるいは月に千両くらいが最低のリミツトであるということは、技術面から見ました定説でございます。
アメリカはもちん
欧州各国で
乘用車をつく
つておりますが、一年間に一万両以下つく
つているような工場はありませんし、またそういう工場は成り立たないということは定説なのでありまして、もし
日本の
乘用車工業をほんとうに育てようというのならば、
国民全体が
乘用車工業を育てようという気持になり、また生産行政につきましてもそういう指導をしていただく。各社に競争させてお
つてもだめなのでありまして、ほんとうにやるならば、競争相手は外国車であ
つて、
国内的な産業は
一つにまとま
つて力を注ぐ。同時にこれはわれわれ役人がきめるとか意見を申し上げる筋ではないので、国策として取上げなければならない。国産
乘用車は中型、小型でございますから、総理大臣に乘れとい
つても無理かもしれませんが、
通産大臣に、と言
つては悪いかもしれませんが、官庁は全部国産車以外は使わないという国策でもお
立てにならない限りは、非常な無理があると思う。特に
自動車を扱います技術的
見地から申しましてもそうせざるを得ない。私も
自動車を長年扱
つておりますから、国産
乘用車が一人前にな
つてくれればという希望的な望みは捨てているわけではありませんが、
現状並びに過去の歴史から分析すると、ただいま申し上げたような結論に到達せざるを得ないのであります。