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赤松常子君 七月十五日より一週間にわた
つて、
滋賀県、
福井県の
労働事情を
調査して参りましたので、其の
経過を簡単に御
報告いたします。
議員派遣の
調査目的は他の二班と同様、
労働関係法規改廃問題と
労働行政の
実情に関するものでありますが、本班は、特に
近江絹糸株式会社彦根工場に関する
労働問題について
調査いたして参りました。
調査の
方法といたしましては、
工場事業場の
視察、
労使懇談会、
県庁・
地方労働基準局よりの
事情説明等、それぞれの
目的に適応した
方法をもちまして
調査して
参つたのでありますが、所期の
目的を十分に果し得ましたことは、ひとえに
調査にあた
つて便宜や御援助を与えて下さつた
関係各位の御協力のおかげでございまして、顧みてここに改めて厚く御礼を申上げたいと思います。
さて、
調査概況に入りますが、
先づ滋賀県、次いで
福井県の順に
視察して参りましたので、それに従いまして御
報告いたしたいと思いますが、
懇談会の
状況につきましては他の二班と重複いたす点もありますので、
問題点だけをとりまして、
最後に一括していたすことにいたしたいと思います。
滋賀県におきましては、
ニカ所で
労使懇談会を開き、三カ所の
工場施設を視せて頂いたのでありますが、その内
昭和工業株式会社と
近江絹糸とは
基準法施行が
企業活動に与える
影響について、或いは
労働関係の
特殊性についてそれぞれ問題がありますので、これにつきましてお話申上げます。
昭和工業は、大津市におきまして、二硫化炭素を製造する
工場でございましたが、
資本金六百万円、
従業員約百名前後の中
企業でございます。
現行基準法が
日本産業の現情に相応するものであるかどうか、非常に疑問であるということは、従来から一部
使用者側の
方々によ
つて主張されて参り、その欠点がいろいろな面から指摘され、遂には
基準法が
生産復興の
一大障害物のように言われて来たのでございます。それでは、果して
日本の
産業にと
つて、
基準法は
生産を常に減退させ、
企業の存立をおびやかすものでありましようか。
昭和工業の場合は、これに対しまして、非常に面白い回答を与えておるのであります。即ち
昭和工業は
基準法を厳正に遵守することによりまして、前に申上げました所説とは
反対に
生産が上昇し、非常な
利益を挙げることができたのであります。少し詳しく申述べますと、この
工場は、以前は
有害ガスの
処理施設が悪く、そのために
作業場には
有害ガスが漏出し、又附近の
農作物には甚大な
被害を与えてお
つたのでありますが、
基準局の再三の指示、助言、
指導により、不可能と考えられていました
施設の
改善が行われたであります。その結果、
漏出ガスの利用により、
生産は従前より月間の総増量二六・三キロとなり、
金額に換算して、約九十四万円
利益増とな
つたのであります。
施設改善費は約百五十三万円でございますから、年間を通じて考えますと、非常に会社の
経営に寄与いたしているわけでありますが、この他、
瓦斯中毒者の激減による
労働生産性の
向上、
農作物に対する
被害賠償額の
軽減等、幾多の
利益を収めたのであります。
基準法改訂は
国際信用其の他の
関係で非常な困難な面を持
つておりますし、いわんや
定員予算の削減によ
つて実質的に無力化するなどは絶対に許されないところであります。従来から
企業の
合理化は常に
労働者の犠牲において行われ、
合理化といえば
人員整理、
労働条件の切下げが叫ばれ、且つ、
基準法が云々されて来たのでありますが、
企業家におかれても、こういう
施設改善による
産業の
合理化という点に
積極性を持たれ、又
政府においてもそのため必要な
中小企業に対する
金融政策を確立し、
国民経済の発展を御考慮願いたいと思います。
基準法による
最低基準を
引下げねば
産業の
発達興隆がないというような一部の世論を過大に評価することなく、
労働者の
利益保護、延いては
日本の
民主化という基本問題に立入
つて問題を慎重に考えて頂かねばならないのではないかということを痛感いたした次第であります。
次に、
近江絹糸彦根工場の問題に移ります。
近江絹糸彦根工場はすでに
委員の
方々も御存じのことと思うのでありますが、去る六月三日
工場附属施設の講堂いわゆる仏間でございますが、ここにおきまして、
新入工員の
観迎会を開き、映画を上映中のところ、フイルムの加熱から火災を生じ、これが原因となりまして、二十三名の死者、百六十七名の
重軽傷者を出すという
不祥事件をひき起したのであります。私
たち一行はこの
事件が、単に偶発的なものでなく、不明朗な
労使関係の累積の結果、又はこれに関連をもつものではないかというような、風説を耳にしましたので、
調査の必要を感じ、出向いた次第でありますが、いうまでもなく
調査は公正な
立場から行はれなくてはならないので、予見にとらわれて誤
つた判断をいたすようなことなく、この点は十分注意いたして
調査いたしたのでございます。
彦根工場は
スフ糸、綿糸、
絹紡糸、紬糸を製造し、
従業員は三千八百十六名そのうち
男子八百七十一名、
女子二千九百四十五名で
女子のうち十八歳以上と以下とはそれぞれ半々でございます。六月三日の
不詳事件は非常に多数の
死傷者を出し、
被害者並びに
関係者の身の上を考えると、今後再びかような
事件を発生せしむることのないよう各
方面において取上げられなくてはならない重大問題であります。
現行法上の問題といたしては、刑法の
過失致死、
傷害罪、
基準法上は、第四十三条の違反が考えられ、これにつきましては、それぞれの
行政機関において適当な
措置が現在とられておるのでありますが、私
ども一番痛感いたしましたことは、発生した
災害の前後
措置、或いは
責任者の追及より、発生を未然に防止するためにもつと適切な
方法があるのではないかと考えられることであります。
施設、管理、
集団行動の
指導等、いろいろな不備な面が実際に見て来て気がつくのでありますが、立法上、
労働者保護の
立場から再検討を要するのではないかと
思つたのであります。
次に
労使関係の問題について
県庁や
基準局等でお聞きいたしました二、三の
事項について申上げますと、
関係の係官は、
近江絹糸の
労働関係が非常に近代化されていなかつたことを指摘しておりました。具体的な事例につきましては、いろいろと
調査上の困難がありますので、
寄宿舎生活が厳格で逃亡する者があるとか、
業務上の懲戒として外出を
禁止するとか、社内において
労働運動を行な
つた者を馘首するとか等いろいろな噂を聞くのでありますが、これらは今後よく検討してみることとして、
一般的、総合的に見て、係官の指摘された点が十分了解できるのであります。
彦根工場の
従業員組合は、
視察の当時外部の民主的な
組合との連絡は全くなく、同行の
中村委員長と
組合長との懇談においてもこの点が取上げられ、何故法内
組合として、
労組法、
労調法上の
利益を受けないのかとの質問についても、法内
組合とな
つて会社に対立する必要がないというような見当はずれの回答をし、全く
労働法に対する理解を欠いているように考えられた次第でありますが、このようなことも、係官の述べました
事情を裏書きしているのではないかと思います。
近江絹糸は、
彦根工場のほか各地に
工場を持
つておりますが、これに関連いたしまして、県の
労働政策と
工場誘致の問題がありますので、これについて申述べます。即ち、一つの県が
労働政策の面で非常に厳格であると、大きな
企業で各地に
工場を持
つているような所では、新設、増設等の場合、他の府県に力を入れて、漸次
施設の移動が行われるというような事態が惹起される
傾向があります。勿論、
労働施策という一条件のみが、かかる現象を惹き起すのではありませんが、立地条件が同じなら自然かような
傾向をとるのは当然でありまして、
労働保護の政策というものは、全国画一でなくてはならないのではないかと思います。この点は基準行政の
地方移譲の問題とも関連を有しますので、立法上、十分考慮する必要があるということが
近江絹糸に参りまして、痛切に感ぜられたのであります。
福井県においては、敦賀市、武生市、
福井市の三カ所を
視察し、敦賀市においては東洋紡、港湾荷役、武生においては西野製紙、信越化学、
福井においては、酒井繊維、酒井製練等の
工場施設、
労働事情を
調査しました。東洋紡の病院
施設の完備しておることは、特に注意をひきました。以上のほか、両県において、中小繊維
工場、機械
工場を
視察して参りましたが、
中小企業は
経済力が弱く、
企業の近代化が十分行はれず、
経営者の
基準法に対する理解の不十分な面も見られましたが、監督官の指示に
従つて着々これ等
企業にも法の浸透して行くのを目のあたり見て来まして、今後もこの方向に積極的に推進して参りたいと考えました。
基準法に不馴れなため、非常に厄介に考えていたが、馴れてみれば、大したこともないというように申している
経営者もありましたが、中小業者においては未だ法を充分認識していない向きもありますので、その周知徹底のために
基準局関係の人員、予算を
増加して、教育
指導を盛んにすることが是非必要ではないかということを痛感しました。この点は昨今の
一般的
傾向に反するかもわかりませんが、このような重要な国家的
業務については、特別に取扱うような
措置が講ぜられなくてはならないと思います。
次に
労使懇談会における懇談の
経過について極く簡単に申上げます。
懇談会は
滋賀県で二回、
福井県で一回持
つたのでありますが、大津市で
開会したときは
使用者側代表の方が出席せず低調であつた他は、多数の人々が参加され、極めて盛大に且つ積極的な
意見が開陳されました。
懇談会の
議題は
労働法規改廃問題に関する
意見でありますが、
会議の
経過を翻
つて考えてみますと、論議は
基準法に集中され、これをめぐ
つて積極的に
意見が交されました。問題とな
つた点は、
中小企業に対する法の適用除外の問題、断続的
業務に対する
労働時間制限緩和の問題、残業歩増低率化の問題、
年次有給休暇の買上げ、或は打切りの問題、
女子年少者の就業制限、
労働時間の制限緩和、生理休暇の問題、
平均賃金の計算の簡易化の問題、官庁に対する届出許可
手続の簡素化の問題等が、主たるものであります。これらの問題は、
経営者側において問題とされて来た点でありまして、従来からとかく議論されて参りましたので、
懇談会においても必然的に論議の対象と
なつたものと考えられます。
一般的に言
つて、
労働者は、
労働法に手をつけることは絶対に
反対であ
つて、今までの
政府のやり方が
改正の各にかくれまして実際には改悪をや
つていることを指摘し、又
改正手続の非民主的な点を特に懸念しておりました。
特に
基準法に関しましては、
基準法が外国に例をみない高度なものであり、
日本の
産業水準からみると非常に贅沢過ぎるものだという
経営者側の態度に対しまして、外国においては社会保障制度が相当進んでおり、
労働基準に関する法規もその中で適当な地位を占めているのであ
つて、ただ単に
基準法のみを取上げて、非難するのは、妥当でない。又
日本経済が戦前に比べてかなり復興しているにもかかわらず、
賃金はそれに伴わず、
労働者は、低
賃金を押し付けられてお
つて、而もこのような
現状において、
基準法を改悪しようという意図が一部にありますことは、全く遺憾であるということを強調し、
産業の発展が
労働者の負担によ
つて行われた過去の行き方と違つた方向において、
産業経済の復興を行う態勢を整えることを主張しておりました。
これに対して
経営者側におきましては、戦争で
国民経済が破壊され、
国民全部が貧乏にな
つたのだから、
労働者もその点を目覚し、
産業復興に協力しなくてはならないのであ
つて、その点からいえば
基準法を現実に適応するよう
改正される必要があるとのことでありました。個々の
問題点に関する
意見については、御質問に応じて後にお答えすることとして、
懇談会を通じて感じましたことは、社会
関係における婦人の地位が非常に低く、これは是非何とかしなくてはならないと考えたことであります。
世論の一部においては、婦人の啓蒙、保護に関する機関、或いは、法律等を無用視し、これを縮少し、且つ廃止しようとする
傾向が見られます。例えばついこの間まで問題とな
つて騒がれてお、りました婦人少年局の廃止問題、或いは婦人少年に対する
労働基準を緩和せよというがごとき主張がこれであります。
私は終戦後まだ幾ばくもたたないのに、このような時代逆行の声の起りつつあることは誠に遺憾なことでありまして、どうか今まで以上に強力に積極的に婦人解放の施策が推進されることを切に希望いたすものであります。
次に
地方において承わ
つて来た
要望事項について申上げたいと思いますが、時聞の
関係もあり、又他の班とも大体同様でございますので、これを省略することとし、簡単ながら、
視察の
報告を終ります。