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1951-11-18 第12回国会 参議院 本会議 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十一月十八日(日曜日)    午前十時十二分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第十九号   昭和二十六年十一月十八日    午前十時開議  第一 平和条約締結について承認を求めるの件(衆議院送付)(委員長報告)  第二 日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約締結について承認を求めるの件(衆議院送付)(委員長報告)  第三 連合国財産補償法案内閣提出衆議院送付)(委員長報告)     ━━━━━━━━━━━━━
  2. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 諸般の報告は朗読を省略いたします。      ―――――・―――――
  3. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) これより本日の会議を開きます。  この際、日程第一、平和条約締結について承認を求めるの件、日程第二、日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約締結について承認を求めるの件、(いずれも衆議院送付)、以上両院を一括して議題とすることに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。先ず委員長報告を求めます。平和条約及び日米安全保障条約特別委員長大隈信幸君。    〔大隈信幸君登壇、拍手
  5. 大隈信幸

    大隈信幸君 日本戰争に敗れまして、占領下にありますこと六カ年、それは新憲法下におきまして民主主義への道を踏み出しましたところの新らしい歴史の第一頁でございました。今や、運命は、この二つの條約即ち平和條約及び日米安全保障條約を仲介といたしまして、更に日本独立への道へ導こうとしておるのでございます。占領から解放されまして独立を達成することは大きな喜びでございます。併しながら、日本をめぐります国際政局は決して平穏なものではなく、まさに我が祖国は嵐の中に立つておるのでございます。このように、この二つの條約の承認によりまして、日本の進路は決定せられるのであります。この国の運命即ち国民一人一人の運命に繋がりますところの重大な問題を含みます両條約の審議に当りましては、特別委員会といたしましては、期せずして、本委員会審議を通じまして、国民の聞かんとする多くの点を解明すベく、文字通り愼重審議をなすことに意見の一致を見たのでありまして、会を重ねること二十一回、昨十七日に結論に到達したのでございます。審議は連日午前午後に亘りまして、時には夜遅くまで続行いたしたのでございます。衆議院が九回の短期間の審議をいたしましたのに比べますと、参議院はまさに実質的には有に三倍もの努力を傾けたわけでございまして、二院制度におきまするところの参議院の特色をいささか発揮できたことは本員の喜びとするところであります。(拍手)以下本特別委員会におきまするところの審議の経過並びに結果を御報告申上げます。  本特別委員会は十月十七日に成立いたしましたが、衆議院におきまする両條約の審議を待ちつつ、その間、二十五日に、伊藤述史加藤久朗金森徳次郎松本俊一尾形昭二及び今中次麿の諸氏を参考人として出席を求めまして、両條約に関する意見を聽取いたしました。次いで二十六日に両條約に関する政府提案理由説明及び逐條説明を聽取いたしました。  政府提案理由説明によりますと、去る九月八日サンフランシスコにおいて日本及び四十八カ国により調印されました平和條約の基調は和解と信頼の精神であつて、この精神は降伏後連合国側に立つて共同交戦国として対独戦争に加わつたイタリアに対する講和にも見られなかつたところであるが、勿論、平和條約は、日本敗戦国であるという事実そのものをも否定するものではなく、領土條項財産及び請求権條項など、個々の場合には、我々の苦悩と憂慮を禁じ得ない規定も存することは事実であります。併しながら、條約に盛られた一般的な内容は、過去の諸平和條約に比し、寛大且つ公正であり、又我が国の将来に関して、政治上、経済上の永久的制限のないことは勿論、軍事上の制限さえも受けることがない。これは、戰争を開始し且つ敗れた我々にとつては、相携えて祖国の再建に邁進するの勇気を與えるものである。要するに、現在我々の最も待望するものは、完全な独立と自由の速かな実現及び世界各国に対する完全な平和関係の回復であつて、これら二つとも、平和條約によらなくては、これを求め得ないもので、これ政府平和條約を締結せんとする理由であると申すのであります。  次に、平和條約と同日にサンフランシスコにおいて調印されました日米安全保障條約は、政府提案理由説明に従いますと、無責任なる侵略主義が跡を絶つていない国際の現状においては、集団的防衛の手段をとることが今日国際間の通念であつて平和條約の効力発生により独立と自由を回復した暁、軍備のない我が国が、自己防衛、ひいては極東の平和、世界の平和のために何らかの集団的防衛の方法を講ずることが是非とも必要で、これがこの日米安全保障條締結の理由であるというのであります。  平和條約と同時に署名された議定書及びこの宣言は、内容上、平和條約と一体的の関係に立つものであるから、平和條約と共に一括承認を願いたい。又安全保障條約と同時に日米間に交換された交換公文は、平和條約の第二章安全の規定に掲げた原則を念のため明らかにするものであるから、安全保障條約と一括して承認を得たいと政府は申しておるのであります。  特別委員会は、十月二十九日、三十日及び三十一日の三日間に亘りまして両條約の一般質問に入りました。詳細は議事録に譲りまして、簡單に質疑応答の模樣を御報告申上げます。  先ず総論的には、戰争犠牲者への対策に関する要望、イデオロギー外交の排除、反動主義の否定、民主主義の確立、社会保障制度の擁護、労働基準法等の遵守の問題に関連して、諸委員から政府に対する鞭撻又は警告的陳述のあつたのに対して、政府側からの所信の披瀝又は弁明があり、且つ貿易政策金融政策及び精神文化対策に関し、熱心な質問答弁が展開せられました。  次に事項別に見ますと、  賠償問題につきましては、賠償の総額が記入されていないために、相手国に莫大な希望を持たせ、永久に賠償を取立てられる虞れがあり、日本経済を圧迫することになりはしないか。フイリピン国平和條約第十四條に役務賠償と書いてあるのを承認しない態度を一方的に留保しているが、役務賠償以外は応じない趣旨であるのか。又平和條約第十四條にいわゆる「存立可能な経済」とは具体的にどのくらいの程度であるのか。米国の対日援助費日本外債方拂は優先的に考慮されるのか。賠償交渉各国別か或いは実地調査団を派遣するのか。第十六條の中立国にある日本私有財産までも取上げるのは酷ではないか等の質問がございました。右に対し、大要、政府側は次のように答えました。即ち総額がきまつていなくても、善隣友好精神で交渉すれば自然に総額はきまる。フイリピン等の主張に対しては誠意を以て交渉する。存立可能な経済云々と申しても、相手国と相談して具体的にきめなければならないが、生活水準は切下げたくない。水準を上げつつ賠償も支拂うという考え方である。具体的な話合いはすべてこれから始まるのである。賠償外債等のいずれが優先するかの問題も、相手国との話合いが必要である。総合的に考えて善処し、和解と信頼の精神で進めば、解決は付くと考える云々でありました。  次に領域に関しましては、連合国大西洋憲章を無視して領土慾を現わしたきらいはないか。色丹、歯舞諸島は千島に含まないとは公式解釈か。南西諸島国連憲章第七十七條の1の(ろ)によつて分離して信託統治となる以上、日本主権は残らぬ理窟となるではないか。南西諸島等住民日本人として残るか等の質問に対し、政府側から、ポツダム宣言日本の領域が四大島及び連合国の定める諸小島に限るとある以上、いたし方がない。色丹、歯舞群島は、ダレス氏の声明もあり、これらが北海道の一部であることは連合国の絶対多数の承認するところである。国連憲章第七十七條1の(ろ)による分離にはいろいろの態樣があるわけであつてサンフランシスコ会議米英全権発言にある通り、信託統治に置かれても、南西諸島等主権日本に残り、住民日本人として残るといつた答弁がございました。主権が残ることになつたのは政府苦心の結果で、多とするとの一委員発言もありました。  安全保障條約については、圧迫によつて突然できた感じに受取られ、曾つての日満議定書的である。不平等である。行政協定憲法に違反しないか。その内容の大綱なりとも承知しなければ審議ができない。安全保障機構、例えば伝えられる日米合同委員会に国会に対し責任を持つか。ソ連を刺激するのではないか。不名誉であるのではないか。再軍備を前提とするか。自衛戰争憲法交戰権否定との関係如何。内乱に米軍援助を得るのは内政干渉とならないか等の諸質問に対し、政府答弁は、圧迫は何もない。平和條約で得た独立を守るためである。片務的という気持はむしろ米国が言いたいところで、ヴアンデンバーグ決議による相互援助の義務は日本が目下負い得ないから、米国の一方的義務のように書かれている。安全保障條約は原則を定め、行政協定施行細則で、憲法に牴触はあり得ない。現在まだできていないが、機構は憲法以上のものは作らない。安全保障條はり自衛のためで侵略のためではない。自衛のために外国軍隊を招くことは不名誉ではない。再軍備は前提となつていない。我が国自衛権はあるが、その行使の方法として戰争はできない。手段がないからである。その手段を米国が供してくれる。それが安全保障條約である。日本交戰権が主体とならぬから憲法に触れない。北大西洋條約も、第三国の関與する内乱の場合に他国軍の出動のあることは有権的解釈となつている等でありました。  又、日本を無防備に置いても誰も侵略しないとの考えは非現実的であり、安保條約を占領下で結ぶのは自主的でないとの説があるが、そんな悠長なことは言つていられないとの一委員発言もあつたことは附言いたします。  次に中共との関係については、台湾政府中共政府との選択は日本に任されているのか、又は連合国がどちらかを選ぶのかとの質問に対し、総理は、連合国考えがまとまつたときに、それを付度して日本が定めるのであると答えました。  又、外国では平和條約は日本アジアから切り離したとの論さえあるが、日本アジアの人民と手をとつて進まねばならぬのではないか。対中共問題は自主的であるべきであるが、日本は国府と結ばねばならぬとの圧迫があつたのか。ソ連と中共サンフランシスコ條約を目して新戰争の準備と称している等の質問に対して政府側から、條約は日本のほか四十八万国で調印された。何らの圧迫はなかつた。未調印国とは休戰状態が残るが、日本側に重大な違反行為がない限り、この休戰状態を破つて戰鬪行為に移ることはできない。條約は平和のためであるから休職の違反と言うことはできない等、答弁があり、更に、中共貿易については望ましいが、現在政治的に阻まれているのは遺憾である。我が国と中国とは経済的に自然に結び、付くべき運命にあるとの意味の答弁がございました。  更に、憲法第九條の戰力不保持交戰権放棄と條約との関係については、政府側から、日本自衛権は依然保持するか、戰力がないから、この権利を有効に行使することができない。そこで外国軍隊によつてつてもらうのである。日本曾つて戰力の行使を誤まつたから、(「はつきりやれ」「わからんぞ」と呼ぶ者あり)それを放棄する旨、憲法第九條の規定なつたのであつて外国軍隊による自衛権の行使は差支えない。又その場合、戰争となつても、それは日本戰争の主体でないから憲法に違反しないとの説明がなされました。  又、平和條約第五條(a)項(iii)の「あらゆる援助」の意味について、安全保障理事会等決定を待つた上で、日本の国法によつて可能な範囲の援助を與えればよいとの説明がございました。  在外私有財産については、何故、條約中に補償規定を置かなかつたか。條約に規定あるなしにかかわらず補償すべきではないか。十四万トンに達する差押え船舶在外財産の中に入るか等の質問あり、これに対し政府から、日本の財政が補償に堪える見通しが付かなかつたので條約には書かれなかつたが、検討の上、国内問題として補償の問題を決定いたしたい。問題の船舶は当然在外財産に入る。これが除外方を交渉したが認められなかつた等の答弁がありました。  以上が三日間に亘つた一般質疑応答の大要であります。  続いて十一月二日から平和條約の章別の逐條審議に入りましたので、以下その質疑応答の概要を申述べます。  先ず前文でありますが、第一に、我が国国連加盟に関し、拒否権の障害を打開する方法を講ずべきではないかとの質問に対し、「加盟を申請」することが一つの足掛りとなり、正式の加盟ができない間も、イタリアのごとく、国連代表部を送つて、事実上加盟国と同樣に取扱われている国があるとの答弁があつた後、前文第三項の「安定及び福祉の條件」をめぐつて二つの相対立する考え方質問がなされました。一つは、この文句の挿入にむしろ反対する考え方で、憲法ですでに新日本の行き方として同趣旨のことが謳われているのに、何故に條約に挿入されたか。日本は無論この趣旨を守るが、例えば貿易等においては相手があること故、将来必ず問題が起る。日本経済を発展させるために豊富な労働力によると、すぐ労働三法に引つかかり、又はソシアル・ダンピング等の非難となる。法の保護だけがあつても、これを受けるほうが、勤労精神を旺盛にして、それに値する心がまえがなくて、法を惡用するようなことになつてはいけないという趣旨質問と、他は、日本はすでに反動化の兆がある、民主化僞わりであつてはならないとの論旨から、社会保障制度労働基準法ゼネスト禁止法案団体等規正法案国家公務員法等に関連して、政府の方針を質す質問がなされました。前者に対しては、政府側は、この文書はイタリア平和條約では條文の中に入つているが、日本の場合は前文に誰つて日本自発的行動に信頼することにされた。世界に向つて日本は公正な通商をなすことを示さねばならない。働く人人の條件世界の水準に持つて行かねばならないが、最高水準を行く労働立法は、それを受取るほうの心がまえが必要である旨の答弁があり、後者に対しては、団体等規正法等前文趣旨に副う線を守る。社会保障制度に関しては、同制度審議会の勧告はできるだけ急速に実現に努力する等の答弁がございました。  更に前文に関連して、精神的、教育的、社会思想的な方面から日本の現状を批判し、民主革命をやつたはずの日本に、依然として国家を最高の道德と考える古い指導者が残つているのではないか。そして、そのような人が教育の衝に立つたり、中央、地方の行政を行なつたりしているのでは、日本の将来について外国筋で心配を表明する人のいるのも当然であるとの趣旨発言もありました。なお、前文法的拘束力ありやとの質問に対しては、政府は、前文は、條約締結の事由、又は目的、或いは根本原則を謳うので、條約の本文とは区別して考えられ、締結国に対しては道德的義務を課するものであるとの見解が表明せられました。  次に第一章に関しては大略次のような応答がございました。先ず、(b)項の「完全な主権」とは、完全な独立のことと思うが、そうすれば、第六條(a)項の外国軍隊の残留と矛盾するではないか。例えばエジプトは不完全な独立と自由を見ているではないかとの問に対しては、完全独立といつても、自主的な主権の制限はあつて差支えない。北大西洋條約で、英、仏、伊に米軍が駐屯しているが、英、仏、伊の独立は害されていない。アラブ諸国における外国軍の駐屯は古い植民地政策的なもので、北大西洋條約に基くものは全然別であるとの答弁がありました。又、戰争状態日本国連合国との間に終了するとの規定は、反対解釈として、一部の未調印国とは戦争状態が残ることを意味するが、この戰争状態とは如何なるものかとの間に対し、降伏文書交戰状態を終了せしめて休戰状態を作つたので、この休戰が残るわけであるとの説明がございました。更に、「日本国民主権」とあるのは日本主権在民を契約的に確認したものと解すべきかとの質問に対しては、さようではなくて、対外主権は最高で、他国の制肘を受けない、いわゆるサブジエクト・ツーの関係の終了を意味するものであるとの答弁がなされました。第二章に移ります。  第二章では、先ず一般的に、大西洋憲章領土不拡張乃至は住民の同意の原則が無視せられて領土決定があつた。今回の條約は寛大と称せられるが、領域に関しては懲罰的とも言える。将来国際感情の融和を待つて再検討の機の来るのを期待するとの発言に対し、政府は、日本ポツダム宣言を受諾して、領土決定連合国に任したのである。併しその決定の前に、政府としてはあらゆる資料を提出して、できるだけの措置を講じた旨、答弁がございました。  第二條に関しては、朝鮮には現在二つ政府があるが、日本相手とするのは南北いずれであるかとの質問に対しては、国連の努力によりでき、三十数カ国によつて承認せられている南の政府であるとの答弁がありました。又国連軍は現に北鮮と停戰交渉をしているが、日本も国内に多数の北鮮人を擁する関係もあり、事実上、北鮮をも相手とすべきではないかとの見解については、南北統一政府の早くできることを希望するが、大韓民国だけを相手にせざるを得ない旨の政府側答弁がございました。  次に第三條の南西諸島小笠原群島信託統治については、多数の委員から各種の質疑が続出しました。その二、三を例示いたしますと、次の通りであります。主権日本に残ると言つても、実際は何も残らないではないか。信託とせずに安全保障條約の対象としたほうがよかつたのではないか。信託とするときに日本に相談があるのか。この信託制度日本を監視するためではないか。信託は折角の日米の友好を阻害するものではないか。日本国憲法はこれらの島々に適用されるのか。憲法第九條の関係上、島民が外国義勇兵にとられることば憲法違反ではないか等々の質問であります。これらに対し、政府は、主権日本に残る以上、これらの島々は日本領土として残り、住民日本人として残るのであつて、具体的には今後の事態の発展に待たねばならない。詳細は今日なお答弁の段階にないが、いよいよ信託制度を施行するときは、実際上、日本に相談あるものと思う。信託制度日本の安全のためであつて監視のためではない。又、友好を阻害することにはならない。イタリアの場合は信託になる土地の主権は放棄させられているが、日本の場合は残る。憲法は、米国の行使する立法、行政及び司法の権力によつて排除されない限り、法理的には適用される建前であるが、事実上施行されなくなる。憲法第九條は国民が個人として外国義勇兵となることには関係がない等、答弁がございました。なお、第三條末段について米国話合いをする了解があるかとの問に対しては、現地住民の希望が容れられるような話合いがあると確信する旨、答えられました。  千島に関してはその範囲が問題となりましたが、歯舞、色丹は、北海道の一部であつて千島ではないとの主張を持する旨、政府の見解が披瀝せられました。国後、エトロフ両島も一八五五年の日露條約で明らかに日本領と認められ、又宮部ラインによつてウルツプ以北とは学術上あらゆる点において異なり、国民感情的にも千島にあらずと思われるが、常識的には千島の中に入るのではないかとの趣旨の応答もございました。由来、千島諸島は全体を通じて毫も我が国が侵略又は貧欲によつて得たものではないので、これらについてはできるだけ我がほうの見解が了解せらるることが期待されるのであります。  次に第四條の(b)項とは、主として、韓国にあつた日本財産に関し、すでになされた処分の効力を認める趣旨と思われるが、この項が挿入されたのは大韓民国からの圧力に基くものと思われるが如何との質問に対しては、政府は、この項は條約の最終草案に挿入されたものであつて大韓民国からの要請によるものと想像せられると答え、更に、大韓民国は交戰国でも戰勝国でもないのに、(b)項によつて戰勝国的な待遇を與えられているではないかとの追及に対しては、政府は、平和條約第十九條の(a)項によつて占領期間占領当局の指令に基いて行われた作為の効力を承認しているから、(b)項がなくてもあつても大体同樣である。又第四條(a)項の取極を行うときに、大韓民国に対し、我がほうの貸方として主張することができると答えました。  第三章に移ります。第三章は安全の條文で、五條、六條から成つています。  第六條但書の意味について政府側は、これはサンフランシスコム会議におけるダレス全権説明の通り、但書がなければ、占領軍は一度撤退して、更に改めて駐留軍として来る必要があるとの論も起り得るから、引続き駐留軍として残ることができる趣旨を明らかにするために置いた規定である旨、説明があり、これに続いて、但書がある以上、安全保障條約はあのように大急ぎで結ぶ必要がなかつたのではないか、大つ急ぎで結んだのは結局日本に対する信頼の欠如ではないかとの質問に対しては、然らざるゆえんが答えられ、又、但書による駐留軍は即ち第五條(C)の項の集団的安全保障軍で、インド、エジプト等日本のために心配してくれている日本主権侵害的な軍隊でないと断言できるかと念を押したのに対して、政府は断言できる旨明瞭に答えました。  次に、第六條(b)項については、ソ連が平和條約に調印しなかつたから実効なしと解してよろしいかとの質問に対しては、政府は、この條約と同趣旨の條約が結ばれるときに実効が現われるのみならず、この條約は日本のほか四十八カ国の署名するところであるから、道義的、政治的の意味は大であると答えました。  更に、平和條約第五條、第六條の規定によつて日本の安全が保障されるか、ソ連のごとき国連加盟国平和條約の調印国でない国、又は中共のごとき国連加盟国平和條約非調印国に対しても、日本の安全は保障せられるのかとの質問に対しては、第五條によつて国連精神が適用されるから、一応、平和体制が確立する。又国連憲章第二條の四項によつてソ逋も拘束されるし、中共については、同憲章第二條の六項によつて中共国際の平和と安全に必要な原則に従うように国連加盟国は努力する義務があるとの答弁がございました。これについて然らば、別に第五條、第六條はなくても、日本は真空にならないではないかとの質問に対しては、国連憲章が忠実に実行されるならばお話の通りであるが、無責任な侵略主義が駆逐されていない現状では、丸裸かで国際場裡には出られないとの答えがあり、丸裸か、真空などの表現は国民へ誤まらす、如何にも国連憲章が空疎なような印象を與えるとの問答がありました後、第六條(b)項に関連し、日本軍隊にあらざりしものが強制労働をさせられていることに対する政府考え方如何、これは国際法違反ではないかとの質問に対して、政府側は、それは軍人の抑留以上に不合理であつて国際法違反であると述べました。  なお、第六條に関連し、安全保障條約の行政的取極はまだ内容がきまつていないと言うが、これはあり得べからざる説明で、九月十日のマンチエスター・ガーデイアン紙は、日本警察予備隊は必要の場合米軍指揮下に入る旨規定があると伝えておるがこの質問に対して、政府側から、それは推測であるとの答弁がございました。  次に第六條(a)項に関し、サンフランシスコ会議で、ダレス全権は、駐留軍日本が自発的に與える地位を持つ旨、言われたが、日本はどの程度自発的に與えるつもりかとの問に対して、安全保障條約による米軍駐留日本の安全のためであつて、それは日米相談の上きめるとの答えがございました。第五條(C)項にいわゆる集団的自衛権の発動によつて警察予備隊を国外に派遣せよと要求された場合、五條(a)項のあらゆる援助を與える関係上、派遣の義務があるのではないかとの質問に対して、それは憲法第九條及び警察予備隊の本質上あり得ない旨の答弁があり、これに関連して、憲法と條約及び法律の効力問題の議論が交され、政府側から、国家が條約を結ぶ場合は憲法に従つて結ぶのであつて、換言すれば、條約は国内的な努力としては憲法の下にあり、法律の上にある。第五條(a)項の「あらゆる援助」とは、憲法上、法律上、合法的で可能な範囲の援助という意味である。又国際連合も加盟国の法律上不法なことを要請するはずはないし、たとえ、おつても服する要はないとの趣旨答弁がございました。  又第六條(a)項但書について、マンチエスター・ガーデイアン紙のごとき比較的公平な新聞も、この部分は倫理的に最も擁護しにくい部分であると論じている。日本は両手を縛られたまま外国軍隊の駐留を認めた。国務省はこの條項に乘り気でなかつたと伝えられる。又排他的でもあるとの意見に対し、政府側は、この但書は念のための規定で、本質は第五條(C)項と同一であり、排他的ではないとの答弁をいたしました。  続いて第四章政治及び経済條項に移ります。  本章で先ず取上げられました漁業に関連して、マツカーサー・ラインはどうなるかとの質問に対して、政府は、マツカーサー・ラインは占領下の暫定措置であつて平和條約発効後は調印国に対しても非調印国との関係においてもなくなる。併しながら非調印国は実際上マツカーサー・ラインの消滅を認めないとの態度をとるかも知れない中共側はもともとマツカーサー・ラインは認めず、東支那海は全部自国のものとの態度をとる樣子である。それは勿論不当であるが、その不当な主張をあえてするところに無法な勢力の残存を見る旨答えられました。  第九條の規定に関し、これは公海漁業を制限する意図からであると思うが如何。現在対等の交渉はできないから、平和條約が発効して完全に平等な立場を得てから漁業交渉をなすべきではないか。過去の日本漁業が不評判であつたのは労働條件が低かつたからではないか。この点について反省が不十分であれば、将来も信用を回復できないのではないか。第九條によつて協定を結ぶと同時に、窮迫している漁村の生活を改善する国内対策を実施すべきである。吉田書簡には一九四〇年以前に出漁していなかつた区域への出漁を禁止するとあるが、実際上どうして漁民に知らせるのか等の諸質問に対し、政府側から、公海の漁業は国際的な原則に基いて行われなければならない。併し何ら制限を置かぬことは資源保護上好ましからぬ。現に行われている予備交渉は対等な立場を與えられている。労働條件の改善の要は多々あり、これが実現方を努力中である。出漁区域のことは水産庁で明らかにわかつているから個々に知らしめることになると思う。別に立法の要はないと考えられる等、答弁がございました。又同じく漁業に関して、アメリカ、カナダ方面へ出漁する前に近い所で漁業ができるようにしてやるべきであり、その点から、ソ連、中共との交渉が必要である。公海の漁業制限ということは断然反対してもらいたい。公海でも他国の養殖している魚族についてはその権利を尊重しなくてはならないが、公海の一部を区切つて独占するようなことは、相手国の如何を問わずあつてはならない等、諸意見の開陳がございました。更に第九條に関連して、現在東京で進行中の日米加漁業予備交渉について種々の応答がありました。  サンジエルマン・アン・レイで結ばれましたいわゆるコンゴー盆地條約につきましては、日本がこの條約の利益を放棄させられたことは、主に英国の主張によるものと思われるが、この英国は日本に対して法律上は最惠国待遇を與えぬと噂せられ、又日本のガツト加入も賛成しないとも伝えられ、意味深長である。コンゴー地域へは日本は昭和十二年には一億四千万ヤールの綿布を輸出しており、将来も希望をかけている市場だけに打撃であるが、対策如何との質問に対し、政府は、遺憾であるが、條約できまつた以上小細工は禁物で、公共な貿易をして信用を増すよりいたし方がないと答えました。又更に、日本は権益を失つた上に各国から誤解をこうむつているから、公正な貿易をするのは勿論だが、もつと積極的に、例えば在外事務所に優秀な商務官を置いて現地で打てば響くように誤解を解く方策を講ずべきである。在外事務所は現在のままでよろしいのかとの質問に対し、政府から、在外事務所については必ずしも満足していない。外務、通産両省一体となつて十分意を用いるつもりであるとの答弁がなされました。又在外事務所についてはもつと予算を與え、人も殖やし、活動ができるように措置せられたいとの発言もございました。  第十一條戰犯関係につきましては、現に国外で刑を言い渡されて拘禁されている者の数はどのくらいか。これらの人々の内地送還は可能か。第十一條の減刑、赦免に関する規定は、外国に拘禁されている者に適用されないか。赦免、減刑、仮出獄に関する日本国の勧告は、個人々々の事情によるのか、又は記念日等に全般的な形で行われるのか等、幾多の質問がございまして、これらに対しては、現に濠州のマヌス島に二百四十三人、フイリピンのモンテンパに百十三人であつて、これらの人々の内地送還についてはあらゆる方法で努力中であるから、相当見通しがあるとわれる。減刑等の対象となるのは日本に拘禁されている者だけであるから、外国で拘禁されている者についてはできるだけ條約発効前に内地に送還を図りたい。減刑等に関する日本の勧告は一定の機会又は個人々々のいずれについても行い得るよう努力したいとの答弁がございました。  十二條に関連し、西独はすでにガツトに加入しているが、日本の加入見通し如何との問に対し、條約中に日本のガツト加入支持の規定を挿入するよう努力し、米国はこれに同情的であつたが、連合国全部の支持は得られなかつた旨の答弁がございました。次に、内国民待遇の例外が明らかでないため日本経済が巨大な外国資本に圧迫されないか、外資導入も必要だが、事業の性質上検討を要するとの質問に対し、発券銀行、專売事業、地下資源等は、通常内国民待遇の例外と考えられている旨、及び外資導入ぱ場合々々により善処する旨述べられました。現在、関税は低過ぎる。又、外国品、例えば時計、化粧品等が都内に氾濫している。これらは半公然的に密輸入されているが、政府の所見如何との質問に対し、政府は、條約の発効により関税自主権を回復し、この状態の是正方法を日本だけでとり得るようになると答弁をいたしました。十二條の内国民待遇の相互主義は、巨大な外国資本と弱い国内経済の間では実際上相互主義でなく、弱い経済に種々好ましからざる現象、例えば生産財が入つて来ずに奢侈品の植民地的氾濫、中小工業の圧迫、低賃金を、目当ての外資の導入の現象が現われるとの見解に対し、政府側は、日本は極端に言えば九〇%までは中小企業であるから、これを保証することは絶対に必要である。奢侈品氾濫については同感であるが、法的に阻止することは考えられない。低賃金を目当ての外資導入は、よい技術の導入ともなり、日本工業の進歩にもなるという利点もある。要は程度の問題で、日本工業を阻止せぬように場合々々につき考えるべきであると答えました。  次に第五章請求権及び財産に移ります。  先ず第十四條賠償に関しては、一委員から、衆議院の応答では役務以外の賠償もしなければならぬように受取れる節があつたが、それは誤まりと思うがとの質問に対し、政府側はその通りと答え、ヴエルサイユ條約は金銭賠償、対伊條約では物品賠償であるが、日本は金も物もないから役務賠償であるとの説明がありました。次に、ガリオア、イロア資金は賠償に優先するかとの問に対して、極東委員会の対日政策の賠償の部には優先するとあるが、平和條約によると優劣前後の差はないとの答えがございました。又十四條(a)2(I)(C)にある「日本国民が所有し、又は支配した団体」とは、議決権の全部又は過半数が日本国民の所有であつたものという意味で、いわゆる満洲法人又はアメリカ法による日本人の法人とか会社を指すものであるとの説明がございました。フイリピンは役務以外の金銭賠償のごときを要望しているようであるがどうかとの質問に対しては、要望があるようであるが、正式には聞いていない、條約面からは金銭賠償は考えられておらぬと答えられました。賠償に当てられる在外財産補償すべきではないとの問に対しては、法律上補償すべきや否やは疑問あるも、政治上は補償したい。但し財政上の問題もあるので考慮中であるとの答弁でございました。次に、ガリオア、イロア資金は、政府は贈與であると宣伝していたが、これは国民を瞞していたのかとの質問に対し、大蔵大臣は、対日援助費は債務と心得ると二年前から国会で言つておつた、イタリアの場合は米国は一方的に放棄した、日本としては今日感謝の気持を持つて、余りとやかく言わぬが花との趣旨を答えました。「存立可能の経済」の具体的内容を示せとの問に対しては、今後の折衝によりだんだん具体化して来るので、現在の生活水準を圧迫して下げるようなことはしたくない、水準を上げつつ賠償も支拂うのであるとの答弁がございました。十四條(a)2(I)の「留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する。」とは、今後の交渉で相手国に権利を放棄せしめる余地があるかとの問に対し、イタリアの場合は、在米資産を五百万ドルと見積り、現金拂をして、資産はそのままとした。こんな例もあるから、交渉の余地はあるとの答えがありました。又戰利品と賠償について政府側から、戰利品とは交戰中に軍の直接管轄内に落ちたもの、賠償は、講和によつて平和関係が回復する際、戰敗国が負たり財的負担であつて、昔は戰費プラス損害が賠償の内容であつたが、戰争の損害が大となるにつれて内容が変り、ヴエルサイス條約では、戰費は除けて損害だけを戰敗国に拂わす考え方なつた。今度の戰争では更に圧縮して、戰敗国の支拂能力に標準をおく思想に変つて来た。ソ連が満洲から撤去した莫大な資産は、ソ連は戰利品と称しているが、連合国は戰時国際法に言う戰利品の中に入るべきではないと考えているようである旨、及び在外資産所有者に対する補償の問題を考えるとき、右の在満資産も一括して考慮の中に入るべき旨、説明されました。  第十五條日本にあつた連合国財産補償についての規定でてございます。これに関しては連合国財産補償法案説明政府側から聽取いたしました。元来この種財産補償は、ヴエルサイユ條約、対伊條約では、條約中に長々と規定しているのでありますが、対日條約は條文を簡單にする方針の下に国内法に讓つたのであります。当局の説明によりますと、補償総額は二百億円と三百億円の間で、且つ一年に百億円以上の補償はしない法律の建前となつているとの由であります。  十九條即ち日本側請求権放棄の條項に関しましては、一委員から、條約は和解と言いながら、この條項は酷であつて、十五條連合国財産補償と全く別のものがここに現われ、無差別爆撃に対する損害賠償権まで放棄させられている。これは国際法の発達のために惜しむとの趣旨の見解があつたのに対し、政府は、遺憾ではあるが容認せざるを得なかつた。ヴエルサイユ條約、対伊條約にも同樣の先例がある旨、回答いたしました。  続いて第六章紛争の解決、第七章最終條項並びに附属議定書及び宣言についても、二、三質疑応答がございましたが、便宜一切を議事録に讓らせて頂きます。  十一月十四日には総理大臣の出席を求め、平和條約に対する補足質問及び平和條約に関する総括質問を行いました。主たる質疑応答は次のごときものであります。(「少し明瞭に」と呼ぶ者あり)  安全保障條約は日本独立後に平等の立場で結ぶべきであるのに、平和條約と同時に急いで結んだのは米国の圧力に屈したのではないか。行政協定の内容は未定だというが、米比間の協定や北大西津條約国間の協定に類似するとか、大体の構想があるはずであるから、それを説明されたいとの質問に対して、両條約とも相互信頼の下に結んだもので、米国の圧力などはなかつた。行政協定の内容はまだきまらないから発表できないので、国会に白紙委任を求めるなどとの考えではない。全く今後の問題であると答弁し、次に、在外私有財産賠償の一部に充当されるのであるから、憲法第二十九條に定めた国家の補償をなすべきである。外国に所在する故を、以て憲法の対象にならないという法務総裁の答弁は納得できない。国内問題として考慮するつもりはないかとの問題に対して、法務総裁より、在外財産の処分は当該国の行う措置であるから憲法の適用はないと考える。但し一般戰争犠牲者と関連して処理する問題と思うとの答弁でありました。国連加入の可能性如何との質問に対しては、少くとも米国は加入可能との考えで斡旋すると思うし、国連間の妥協で適当な方法ができると思うとの答弁があり、平和條約で国連に協力する義務を負うが、他面、如何なる権利利益を受け得るとの問に対しては、例えば日本に朝鮮事変のごとき事態が起つた場合は、国連の救援を求められるとの答えでありました。又、安全保障條約第一條の、日本に内乱、駆擾が起つた場合の米軍の出動については、事前に日本側に連絡があるのかとの質問に対し、国内治安は日本が自主的に処置する建前だから、米軍は軽々しく出動しまいし、当方からも国民が止むを得ないと認めるような場合以外には要請はしないつもりだと答弁いたしました。次に人口問題について、日本の過剩人口は産業面の低賃金となり、諸外国殊に英国等に危惧を與えているが、出産制限等に対策ありやとの問に対し、貿易、産業の振興により生活水準を上げる方法等が差当り最も適当な方法と考えると述べ、又條約と憲法との関係に関して、憲法に違反する條約は無効かとの質問に対し、総理より、憲法に違反する條約を結ぶつもりはない旨、法務総裁よりは、法律論としては、條約といえども憲法に違反したものは国内的に効力はない。併し條約は国際的には拘束力がある。万一誤まつて憲法違反の條約を批准した場合などは、憲法を改正するか、條約の改廃を行うことが必要だとの理論になるとの答弁があり、他の一委員会からは、憲法第九十八條第三項を引用して、條約は憲法に優先して尊重されるべきだとの意見が開陳せられました。  十五日から日米安全保障條約の審議に入りました。この條約については、すでに当初の総括質問及び平和條約第五條、第六條との関連においてかなり質疑応答がございましたが、更に各委員関係大臣との間に熱心な、質疑応答が展開せられました。問題となつた主な点は次の通りであります。  先ず前文については、米軍の駐留を暫定措置とした暫定の意味、末段の「自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待」とある字句解釈につき質問があつたのに対し、暫定とは第四條にその終期を定めたことに対応する規定であり、いわゆるヴアンデンハーグ決議が念頭に置かれたわけではないこと、「責任を負う期待」とは、率直に言えば軍備を指すか、日本自身の責任を期待する表現で、必ずしも再軍備のみを意味しない、又その期待は日本に対し義務を負わすものではないとの説明でありました。  第一條については、駐留軍の出動は内政干渉にはならぬか。米軍の出動は国連機関の決定によつて行われると思うが、米国が自身の自衛権発動又は米国が他国と結んだ個別的又は集団安全保障條約に基いて駐留軍を出動させることもあるのではないか。即ち日本米軍の利益のための基地として使用される懸念はないかとの質問に対し、米軍の出動は日本政府の明示の要請を待つて行われるから、国際法上干渉にはならない。又、米軍米国自衛権行使のため又は他国との安全保障取極によつて出動することもあり得るが、それは極東の安全のための行為で、これ即ち日本の安全でもあるから、こり條約の趣旨上差支えないとの答弁でございました。又米軍の駐屯は、日本側が「許與し」とあるのみで、先方を義務付けていないので、米軍の積極的援助を期待し得るかとの問に対し、米軍駐留の目的は極東の安全保障にあるから、日本が攻撃を受けるがごとき場合は必ず出動するであろう。安全保障條約中に当事国間の権利義務を明示しないのは、最近の北大西洋條約、米、濠、ニユージーランド間條約にも先例があるとの答弁がございました。  第二條については、日本米国の事前の同意なくしては権利許與ができないとは極めて不対等の感が深い。対等国間にかかる先例があるか。末段によれば、外国軍艦は、日本の沿岸、領海を、通過するに当つて一々事前に米国の同意を要するのかとの質問があり、政府側より、最近の中ソ條約、北大西洋條約中にも同樣規定があること、外国軍艦の無害航行は差支えないこと、港湾に碇泊の場合は事前に許可の申請があるが、その場合は米国と相談する。諸外国軍艦の日本領海を通過して朝鮮に出動するがごとき行動は、日本国連との関係で許容するもので、一々米国の同意は必要がないとの説明でありました。次に、第三條の行政協定の問題は最も活溌に論議が展開されました。質問の主なるものは、行政協定を條約としてあらかじめ包括的に承認を求め、その実体たる細目を示さないのは、国会の審議権無視ではないか。法律及び予算を伴うものを後になつて審議を求めるというが、それが国会で承認されなかつた場合はどうするつもりか。行政協定米軍配備を規律するものとあるが、その内容は純軍事的なものか、それとも国民の権利義務を拘束するものも含むか等の質問があり、法務総裁より、行政協定は包括的に事前に国会の承認を求めるものであるから、有効に成立し、法律論としては国会の審議を要しない。併し政府は、法律、予算の措置を伴うものについては国会の審議を求める方針をとり、法律、予算の必要な事項については、この法律、予算が国会を通過することを條件として行政協定に記入する方針で行きたいとの説明がありました。又、憲法第九條の戰争放棄の規定に関連し、憲法上保持しない戰力の解釈について質疑があり、警察予備隊は、その装備、訓練の実態から見て戰力ではないか、国連の要請があれば国外出動にも使用せられるのではないか等の質問に対し、戰力とは、戰争する力、即ち近代戰を退行し得る能力と考えるから、予備隊は戰力とは言えぬ。予備隊の本質は、予備隊令の示す通り国内治安のためのものであるから、国外に出動できないとの答弁でありました。  その他、條約と憲法とはいずれが優先するか、国防分担金の内容、独立米軍工場に雇用される労働者の労働條件の維持、米軍の演習によつて損害を受けた農民漁民に対する補償の問題、駐留米軍の使用する消費物資の横流れ防止の措置、日本憲法の平和精神擁護等の諸問題について、十五、十六両日に亘り、熱心に審議を行いました。詳細は議事録に護りまして、憲法と條約の関係については、政府は、條約は国内法の効力としては憲法の下位にある、従つて仮に憲法に違反する條約が結ばれた場合、国内においては施行し得ない、併しその場合も国際法的には條約として成立しているとの見解を表示したのに対し、委員の中には、條約の優位を説く発言、逆に憲法の優位を主張する意見の開陳があり、活溌な応酬がございましたことだけを附言いたします。  十六日には前日に引続き総理大臣の出席を求め、総括質問を行いましたが、委員質問に対し、政府から、賠償交渉の方式としては、各国と個別に交渉するものと、関係国との国際会議を開いて話合う方法とが考えられるが、情勢によつて有利なほうにきめる。併し国によつて軽重は付けられないし、国力を超えた支拂はできない。いずれにせよ各国と話合い、これを集計して全体的具体方針がきめられよう。国連によつて世界平和に寄與したい。併し国連加入には時間がかかるので安全保障條約を結んだ。即ち安全保條約は国連加入前の補助的條約と言える。信託統治地域の設定は決して日本監視のものではない。信託統治が永久化することはない。米国は不要となれば必ず日本に返還するのである。賠償実施は、関係国の不平不満を融和して、日本産業の進展が期待できるという明るい面もあることを忘れてはならぬ等の答弁がありました。  なお、吉田総理大臣とアチソン国務長官との交換公文についても質疑応答がございました。  以上が両條約についての質疑応答の大要であります。詳細については速記録によつて御承知願いたいと存じます。  かくして委員会は会議を開くこと二十一回、昨十七日を以て質疑終局ののち討論に入り、日本社会党第二控室岡田宗司君より両條約に反対、自由党楠獺常猪君より両條約に賛成、第一クラブ羽仁五郎君より両條約反対、緑風会岡本愛祐君より両條約賛成、労農党堀眞琴君より両條約反対、国民民主党木内四郎君より両條約賛成、共産党兼岩傳一君より両條約反対、日本社会党第三控室加藤シヅエ君より平和條約賛成、安全保障條約反対の意見がそれぞれ開陳せられました。かくて討論を終了し、採決の結果、両件とも多数を以て承認すべきものと決定し、本委員会は重大なる任務を終了した次第であります。  私は、この機会に、これらの條約を作成するに当り、我が国に対する深い理解と忍耐強い交渉を以て関係各国間の意見の相違を調整されたダレス特使、並びに優れた指導力でサンフランシスコ会議を予定のごとく成功せしめられたアチソン国務長官に対し敬意を表すると共に、これら條約の発効を契機といたしまして、我が国が、内に個人の自由と尊厳に立脚する民主主義を固め、外に列国の信用を恢復して国際社会に文化国家としての名誉ある地位を占め、極東の平和、延いては世界の平和に貢献し、(「委員長の意見は言うな」と呼ぶ者あり)人類の進運に寄與するに至らんことを念願すると同時に、朝鮮事変が一日も早く平和のうちに解決することを念願しつつ、本報告を終りたいと思います。(拍手)     ―――――――――――――
  6. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 討論の通告がございます。順次発言を許します。岡田宗司君。    〔岡田宗司君登壇、拍手
  7. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 私は日本社会党を代表いたしまして、(「どつちだ」と呼ぶ者あり)平和條約並びに日米安全保障條約に反対するものであります。(拍手)  今回調印されました平和條約は、その起草者であるダレス氏の言葉を借りれば、和解信頼の條約であり、史上稀に見る寛大な條約として吉田全権は欣然これを受諾調印されたのであります。(「それは当り前だ」と呼ぶ者あり)併し、果してこれは、真に和解信頼の條約であり、(「その通り」と呼ぶ者あり)史上稀に見る寛大なる條約と言えるものでありましようか。(「ある」と呼ぶ者あり)又我々はこれを喜んで承認することができるものでありましようか。(「ある」と呼ぶ者あり)由来、平和條約は敗戰国の将来の位置を定めるものであり、敗戰国の領土の処理、敗戰国の負担すべき賠償などのことをきめるものでありまして、今回の條約におきましても、それが主たる項目になつております。領土の点につきましては、本條約によりまして、日本はその領土の六割を失い、八千四百万の人口が、この四つの、狹い、資源の貧弱な島に押込められることになつて参りました。これは、日本の将来の人口問題、経済問題を極めて困難に陥れるものであろうことは、自由党の諸君といえどもお認めになることと思うのであります。(拍手)失いました領土のうち、台湾並びに朝鮮につきましては、いたし方がないことでございますが、千島、南樺太、沖繩、奄美大島、小笠原諸島を失いましたことは、我々といたしまして喜んでこれを認めるわけには参らないのであります。(拍手)これらの諸地域は決して日本の帝国主義的侵略によつて領有された所ではございません。(「総理の真似か」と呼ぶ者あり)又日本人以外の民族の住んでおる所ではないのであります。千島、南樺太は、第二次世界大戰の末期におきまして米英ソの密約によりまして、ソ連の対日参戰の代償の一部としてソ連占領に委ねられたものであります。ヤルタ協定が大西洋憲章及びカイロ宣言と異なり、帝国主義的領土分割の方式と何ら異らないものでありまして、我々といたしましては、現代の戰後領土処理の方式として、かかるものを承認し得ないのであります。(拍手)又奄美大島、沖縄、小笠原諸島につきましては、條約の文面から見ますれば、日本主権を放棄していないことになつております。そしてアメリカを唯一の施政権者とする信託統治に付せられることになり、ダレス氏の言によりますれば残存主権が、又大橋法務総裁等の言によりますれば潜在主権が、日本の手に残つているというのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)併しこれらの地域は国際連合憲章第七十七條(ろ)項により信託統治に付せられる場合でございまして、その地域は元の領有国から分離されるものであることがはつきり規定されておるのでありますから、法理論から参りましても、残存主権や潜在主権がこれらの島々に残つておるということは疑わしいのであります。よしんば、そういうものが日本の手に残つているといたしましても、條約第三條によりまして、一切の行政立法、司法の権力がアメリカにあります以上、それは全く名だけのものでありまして、これらの島々が事実上アメリカの支配下に置かれ日本から引離されるという本質が変るものではないのであります。(拍手、「そうだ」と呼ぶ者あり)これらの島々は、日本が征服した領土でもなければ、他民族の住む領土でもない。日本民族が古代からここに住み、歴史的にも、経済的にも、又文化的にも、日本自体の一部を成すものであります。これらの島々がこの條約によつて日本からもぎ取られることが確定したのであります。一体、米英みずから第二次世界大戰後の処理の方式といたしまして領土の無併合を謳つた大西洋憲章精神は、どこに行つてしまつたのでありましようか。(拍手)又国際連合憲章にある領土の帰属を定める場合の住民投票の精神はどこに見られるのでありましようか。(拍手)潜在主権日本に残つておる、アメリカの軍事的必要がなくなつたら、いつかは日本に戻してくれるだろうというような政府の淡い期待を、これらの島々に住む百十万の我が同胞は納得して待つておるでありましようか。否、すでに奄美大島におきましては信託統治に反対する運動が起つておる。日本復帰のために全島民が立ち上つて、小学校の生徒までもが断食所願をやつたということは、諸君も御承知のことと思うのであります。(拍手)沖縄におきましても、殆んどすべての島民が(「いつも同じじやないか」と呼ぶ者あり)日本への復帰を熱望しておるのであります。(「もう少し新らしいことを言え」「黙つて聞け」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)かかる同胞の悲願を聞くとき、我々はこれを見殺しにいたすことができるでありましようか。(「もつと新らしいことを言え」「黙つて聞け」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)この点についても又この條約に我々は承服しがたいのであります。  次に賠償の点でございます。條約第十四條は、一見、日本に対する賠償が極めて軽いように見えるのでございますが、併しこの條項は、日本をして存立可能な経済を営ましめるためには重い賠償を課し得ないという抽象的な規定と、(「同じことを言うな」「恥かしくないか」「勉強しろ」「恥を知れ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)役務賠償という新らしい形式が示されているにとどまるのであります。第一次世界大戰のあと、ドイツにおいて重い賠償が課せられ、これは結局取れなかつたばかりではないのであります。このドイツに課せられた重い賠償のために、欧洲の経済は混乱いたしまして、又ドイツにおけるナチズム擁頭の重要な要因の一つなつたのであります。(「何回言うんだ同じことを」「黙つて聞け」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)第二次世界大戰後の平和條約におきましては……
  8. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 静粛に願います。
  9. 岡田宗司

    ○岡田宗司君(続) この経験に鑑み、賠償はおおむね軽く、支拂い得る限度において課せられているのであります。例えばイタリアは全部で三億六千万ドルの賠償でございまして、これを七年間に支拂えばいいという程度のものだつたのであります。日本の場合はそれではどうでありましよう。以上のような抽象的な規定しか設けられてなく、あとはそれぞれの賠償要求国との個別交渉に任せたのであります。いわば勝手にやれと突放されているのであります。今、日本に要求されている賠償額は、フイリピンの八十億ドルを初めといたしまして、インドネシアの七十億ドルその他を合せますというと、極めて莫大な金額に上ることは、私が指摘するまでもない。若しこれに中国が加わるといたしますならば、その額は莫大なものでございましてこれは第一次世界大戰後においてドイツに課せられましたるところの賠償金額を遥かに超えるものに相成るのであります。勿論、日本賠償支拂能力というものは知れたものである。而もそれは條約の明示するところによつて役務賠償という形をとりますとき、この厖大な要求を各国との個別交渉によつて結論を出すということは難中の難事であると思うのであります。この交渉は相当長くかからざるを得ないでありましよう。その間、日本経済は極めて不安定な状態に置かれ、又交渉がうまく行かないといたしますならば、これらの国々との友好関係は打ち立てられ得ないのであります。賠償問題の規定がかくのごとくあいまいにされておりますことは、日本経済を不安に置くことであると言わざるを得ないのであります。  領土賠償の問題についてかように承服しがたい点があるばかりではありません。この條約は、十六條におきまして、中立国における日本国及び日本人財産が沒收されるという、国際法上未だ先例のない不條理なことが規定されていること、そのほか和解信頼に基くと思われない節々が幾多含まれておりまして、この條約だけでも我々は承服し得ないのでありますが、この平和條約と不可分の関係にある日米安全保障條約と併せて考えて見ますときに、一層この條約を承認し得ない理由が生じて参るのであります。(拍手)  平和條約第六條(a)項の規定に基きまして、日米両国間において調印された安全保障條約は、自衛力を持たない日本がその安全を保障してもらうために、アメリカ軍の駐屯を希望するという形をとつておることは申上げるまでもないのであります。こういう形をとらせたことは、この條約の起草者の御苦心の存するところでありましよう。併し、この條約に基く米軍日本駐屯は、純粋に日本に対する外部よりの武力攻撃に備えて日本の安全を保障するということに限られておるのではないのであります。決してそうでないことは、最近の国際情勢並びにそれに対するアメリカの諸政策から見て明白であります。即ちアメリカは、太平洋を自由の湖として守るため、又欧洲、中東、アジアを連ねる対ソ包囲陣を完成するために、戰略的見地から、日本をその一環たらしめようとしておることは明らかな事実であります。(拍手、「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)アメリカは安保條約第二條によつてエクスクルーシヴリーに日本に駐屯いたしまして、ここに軍事根拠地を保持する権利を持つのであります。駐屯軍はアメリカの幾多の基地を含む日本に対する外部からの攻撃に対して戰うでありましようが、同時に、條約第一條にある「極東における国際の平和と安全の維持に寄與し」という規定に従つて日本にある基地より自由に行動することができるのであります。ここに我々にとつて重大な不安の種が存するのだ。即ち日本に何ら関係のない事件を発端として米ソ間に戰争が開始されました場合、当然、日本に駐屯するアメリカの陸海空軍は戰闘的活動を開始するでありましよう。かかる場合に、日本にある基地が爆撃され、海上封鎖が行われることは必至であります。それどころではなく、直ちに我々はこのために中ソ友好同盟條約によつて敵国とされ、日本が欲しくなくても、いや応なしに戰争に巻き込まれる危険に陷るのであります。(拍手、「よく聞いておけ」「日ソ條約を結べというのか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)安保條約は、そのうちにかかる危険を包蔵しているのであります。(「共産党に協力するな」と呼ぶ者あり)ここに我々にとつて重大な不安が存するのであります。  第二に我々が指摘いたしたいのは、(「共産党だ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)第一條の後段についてであります。(「靜粛に願います」と呼ぶ者あり)ここには次のごとく規定されております。「一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じようを鎭圧するため」(「共産党の言うことを言うな」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)
  10. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 靜粛に願います。
  11. 岡田宗司

    ○岡田宗司君(続) 「日本国政府の明示の要請に応じて」アメリカ軍が使用されることになつておるのであります。(「共産党の代弁を言うな」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)一体こういうことは真の独立国家としてあり得ることでありましようか。外国の教唆があるにせよ何にせよ、ここに規定されておる事態は国内の政治的事件でありまして、たとえ日本国政府の明示の要請に基くという條件が附いておるにいたしましても、外国駐屯軍が鎭圧に乘り出すということは、何と言おうと内政干渉の道を開いておるものと言わなければなりません。(「拍手、「寢言を言うな」「その通り」「よく聞け」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)独立国間の條約にかかる條項の(「いつから共産党に入つたのだ」と呼ぶ者あり)設けられている先例は全く見られないのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)併し従属関係に立つ国との間にはこういう先例があるのでありまして、明治三十七年に締結されました日韓議定書の第四條には次のように記されておるのである。「第三国ノ侵害ニヨリ若ハ内乱ノ為メ大韓帝国ノ皇室ノ安寧或ハ領土ノ保全ニ危險アル場合ハ大日本帝国政府ハ速ニ臨機必要ノ措置ヲ取ル可シ。而シテ大韓帝国政府ハ右大日本帝国政府ノ行動ヲ容易ナラシムルタメ十分便宜ヲ與フルコト、大日本帝国政府ハ前項ノ目的ヲ達スルタメ軍略上必要ノ地点ヲ臨機收用スルコトヲ得ルコト。」とあるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)又昭和七年に満洲国が作られました際に日満両国間に締結されました日満議定書の第二條には、「日本国及ヒ満洲国入締約国ノ一方ノ領土及ヒ治安ニ対スル一切ノ脅威ハ同時ニ締約国ノ他方ノ安寧及ヒ存立ニ対スル脅威タルノ事実ヲ確認シ両国共同シテ国家ノ防衛ニ当ルヘキコトヲ約ス。之カ為メ所要ノ日本国軍ハ満洲国内ニ駐屯スルモノトス。」と規定されておりまして、国内の治安の問題がここに明らかにされているのであります。いずれも過去の日本が他の国に対しましてやつた例でありまして、今日、日本がこれと相似た條約を他国と結ばなければならないということは、何たる歴史の皮肉でありましようか。(拍手、「頭が古いぞ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)今日外部からの攻撃ということが間接侵略をも含むというようにだんだん解釈されて来ているといたしましても、(「つまらない仮定を持つて来るな」と呼ぶ者あり)両国間の條約にかかる條項が挿入されましたことは、明らかに内政干渉を許し、これだけでも日本を従属的地位に置くものでありまして、(「何を言うか」「その通り」と呼ぶ者あり)政府の拭うベからざる大失態であると言わざるを得ないのであります。(拍手、「その通り」「ロシアに干渉してもらいたいのか」「何を言うか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)  第三に問題にしなければならないのは、第三條にある行政協定の点であります。委員会における審議の過程におきましてその内容は、片鱗だに明らかにされなかつたのでありますが、この内容審議せずして包括的に行政協定承認することは、結局一種の白紙委任状を與えることと同じであります。(「その通り」「何遍も聞いたよ」と呼ぶ者あり)米比軍事協定等より推しまして考えますと、この行政協定内容に盛られるところは極めて多種であり且つ広汎であります。そうして、これによつて日本主権が制約される虞れが多々ございますし、又国民の権利義務関係を持つ点も少くないのであります。而も政府は、條約の審議を急いで、これが内容を全然知らせず、論議を許しません。一方の署名国であるアメリカでは、條約審議の際に、この行政協定内容審議されることになつているのであります。この事実のうしろには一体何が潜むのであるか。(「何も潜んでおらない」「おかしいおかしい」と呼ぶ者あり)私は、結局、アメリカに対しまして広汎な権利を白紙委任的に許す條項を含みますところの安保條約に対しては断呼反対せざるを得ないのであります。(「その通りだ」と呼ぶ者あり、拍手)  次に、平和條約は日本占領を終らしめ独立を回復するものであると言われております。成るほど平和條約第一條には、インドネシアの好意ある主張によりまして、「連合国は、日本国及びその領土に対する日本国民の完全な主権承認する。」という條項が挿入されているのであります。この條約の成立によりまして戰争状態が終り、占領が解かれ、そうして独立国の形をとるでありましよう。だが、この平和條約は、同時に、これと不可分の関係にある安保條約を伴つておるのであります。平和條約の発効によつて形式的に日本独立が許されたとたんに、同じ日に発効する安保條約によりまして、事実、日本がアメリカの軍事的従属国的地位に置かれるといたしましたならば、どこに日本の真の独立が與えられたと言われるのでありましようか。(拍手、「もつと勉強して来い」「恥を知れ」と呼ぶ者あり)要するにアメリカは、平和條約によつて連合国による日本占領管理という複数支配の方式を解き、安保條約によつて日本とアメリカとのみの従属的関係を設定したのであります。「集団安全保障の行われる今日、外国軍隊の駐屯がその国の独立を侵害するものではない、(「自由党の恥だよ」と呼ぶ者あり)イギリスにはアメリカの空軍基地が置かれており、空軍が駐屯しておるが、イギリスの独立は侵害されないではないか」という議論もあります。併し今日の日本はイギリスの今日の地位と同じような地位にあるのではないのであります。主観的にはあなた方がどう見ましようと、客観的には、先ず軍事的に従属的地位に置かれ、これに伴つて政治的にも間接的に支配を受けることは必然であります。又日本経済がアメリカの軍需動員計画に結び付けられ、これに編入されまして、経済的にも従属的関係に置かれることも必至であります。長いものには巻かれろということがあります。この封建的な観念が、過去の日本において、軍国主義、保守主義、官僚主義の跋扈を許し、民主主義の確立を妨げて参りまして、(拍手日本を今日の悲惨な状態に置いたのであります。(拍手)今また、長いものに巻かれろという考え方で安易に今日を切り開いて行こうといたしますならば、それこそ日本を従属的地位に置き、民族独立精神を萎縮させ、真の独立の回復を妨げるものと言わざるを得たいのであります。(拍手)一寸の虫にも五分の魂ということがございます。(「君らはあるか」と呼ぶ者あり)我々はこの気魄で進んで行かなければなりません。日本を従属的地位に置くことがはつきりわかつていることを、どうして私どもは目をつぶつて呑み込んで行てことができるのでありましようか。この二つの條約を締結することによつて生ずる日本の将来を予見する多くの知識人、勤労大衆は、真の独立達成のために闘う決意を表明しておるのであります。私も又この見解に立つて日本を従属的地位に陷れるこの二つの條約に対しまして反対の見解を表明せざるを得ないのであります。  次に、この二つの條約を受諾することによつて日本が巨額な経済的負担を課せられるのであります。この負担は單に賠償のみではありません。連合国財産補償、旧外債の元利支拂のみならず、警察予備隊の拡充強化の問題、これが費用だけでも莫大に上るのでありますが、若しアメリカの要請に基きまして日本の本格的な再軍備が行われるということに相成りますれば、その金額は極めて巨額になろうということが推定されるのであります。すでに昭和二十六年度の補正予算において講和関係のための諸費の一部が計上されておるのでありますが、これは今のところは問題にはなりません。併し昭和二十七年以降におきまして年々巨額の支出がこの講和関係諸費というものになされることになるでありましよう。これが日本経済に大きな負担となり、或いはインフレを促進し、或いは国民生活の水準を低下せしめることは必至であります。これらの負担が国民大衆特に勤労大衆に負わされるのでありまして勤労大衆といたしましては、今日以上の生活水準低下に対しましては、これに堪え得られないのであります。近き将来におきましてこの生活水準低下が現実に現われて参りました場合に、勤労大衆はそれが両條約に発するものであることをはつきりと認識いたしまして、この條約に対しますところの改訂或いは廃棄の運動という、ものが必ず熾烈に起つて参るということが今日予見されるのであります。(拍手)我々はかかる見地からいたしまして日本経済の発展を妨げ、勤労大衆の生活水準を低下せしめるこの種の條約に対しましては、反対せざるを得ないのであります。我々は結局アメリカ軍に対して広汎な権利を白紙委任的に許すような條項を含む安保條約に対しましては反対せざるを得ない。  この両條約に調印いたしましたことは、日本を然らば一体如何なる地位に置くものであろうか。日米安全保障條約は、強大な軍事力を持つ国家と武装を解除された敗戰国との間に結ばれた一種の変態的な軍事同盟と断定せざるを得ないのであります。(拍手)名は安全保障條約ではあるが、巧妙に粉飾された軍事同盟にほかならないのでありまして、この條約には将来日本が再軍備をいたすことが期待されておる。やがて日本の再武装が行われるようになつて参りますならば、これが本格的な軍事同盟に発展することは明らかであります。日本は、今や両條約の締結によつて、対立する二つの陣営の一つにみずから進んで飛び込んで参つたのであります。サンフランシスコ会議の経過から見ましても、我々の近隣国であるソ連、中国との友好関係を確立することは極めて困難になつたのであります。(「本音を吐いたな」と呼ぶ者あり)それどころではない。やはり軍事同盟である中ソ友好同盟條約の(「そつちもやつているじやないか」と呼ぶ者あり)直接の敵対物となり、軍事的危険の尖端に立たされることになつて参りました。これが日本にとつて危険でなくて何でありましようか。(「本音が出たな」「ソ連の代弁演説」と呼ぶ者あり)  両條約は締結することによつて日本アジアの諸国から引離される結果になることを私は恐れるのであります。(「それからどうした」と呼ぶ者あり)インドを初めとするアジアの諸国は、世界が対立する二大陣営に分裂し、(「日本人じやないぞ」と呼ぶ者あり)第三次世界戰争の近づきつつあることに危惧を感じ、両世界の対立の緩和と平和の維持を望んでおるのであります。今日、アジア諸国の動向は国際政治の上に大きなウエートを持ちつつあるのでありまして、日本アジアに位置する国家であり、特にアジア諸国との友好関係を樹立し、(「賛成か反対かどちらだ」と呼ぶ者あり)アジア諸国の動向と深い関連を持ちつつ進まなければならないのであります。今、日本が両條約を締結することによつて決定的に米陣営の一員となりましたことは、インドその他アジア諸国との関係を冷やかならしめるものと感じられるのであります。インドはなぜサンフランシスコ会議に加わらなかつたか。それは、この両條約によつて日本が将来戰争に巻き込まれるであろうということを看取したからであります。インドの不参加は、日本に対するむしろ好意ある忠告の態度であつたと私どもは感じておるのであります。(拍手)  今日、日米安全保障條約に賛成せられる諸君は、強大なる武力のみが平和を維持できるものであること、いわゆる武装平和に頼り切つておるものと言わなければなりません。(拍手)武装平和は、平和を維持するよりも、むしろ戰争を促進するものであることは、世界における軍拡競争の歴史がこれを雄弁に物語つておる。(「ソヴイエトはどうした」と呼ぶ者あり)今、日本がこの方の陣営に飛び込んだことは、この危險なる流れにみずから進んで身を投じたことにほかならないのでありまして、両條約を支持する者は、意識するとせざるとにかかわらず、日本を再び戰争に巻き込まれる危機に追い込むという重大なる政治的過誤を犯すものと言わなければならんのであります。(「共産党と区別がつかんぞ」と呼ぶ者あり)  我々は日本戰争の惨禍に巻き込むことを阻止するために、日本に恒久的平和をもたらすために、両條約に反対するものであります。アメリカ一辺倒、武装平和一辺倒に対する批判は、西欧陣営の内部からもすでに起りつつあるのであります。イギリスの保守党のチヤーチル氏でさえ、ソ連との直接的交外交渉によりまして危機の打開を企てております。(「それとこれとは別だよ」と呼ぶ者あり)フランスを初め西欧諸国も又、アメリカに引きずられる軍備拡張に疲れ果てて外交交渉による危機の回避に赴こうとしておるのであります。日本を昔の姿に返そうと思つておる保守反動主義者、(「誰のことだ」と呼ぶ者あり)軍国主義の夢を追う者は、我々の平和主義を空想と罵り、ソ連の使嗾に乘るものと言うでありましよう。だが、我々は、欧洲諸国に、特にアジアの広汎なる地域に起りつつある民衆の平和への希求と手を携えまして、断乎世界平和の確立のために邁進せんとするものであります。(拍手、「夢物語」と呼ぶ者あり)  以上の理由によりまして、日本の真の独立と平和を欲し、戰争に巻き込まれることに反対する勤労大衆、有識者を代表いたしまして、ここに両條約に対する反対をいたす次第であります。(拍手)     ―――――――――――――
  12. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 杉原荒太君。    〔杉原荒太君登壇、拍手
  13. 杉原荒太

    ○杉原荒太君 自由党を代表して平和條約及び安全條約を承認することに賛成いたすものであります。(「恥を知れ」と呼ぶ者あり)  このたびの平和條約の具体的内容のうち、敗戰の事実に伴う避くベからざる或る種の條項、例えば領土條項及び賠償條項などの若干の個々の点については、我々の苦痛とする点のあることは事実でありまして、吉田首席全権が、サンフランシスコ会議の席上、堂堂と日本国民の名において我が国民の苦悩と憂慮するところを率直に表明された通りでありまするが、両條約の本質的性格を以て、独立への第一歩を踏み出すものにあらずして従属化へ導くものなりとする謬論、及び、新たなる戰争誘発、戰争準備の條約なりとする暴論に対しましては、断乎反対せざるを得ないのであります。(拍手)  先ず第一に、このたびの條約こそは独立への條約である。何となれば、我我はこの平和條約の締結によつて初めて長い間の占領管理の状態から脱却することになるのであります。條約は永続的な主権の拘束制限を課しておりません。即ち、この條約こそは、日本に対し、明らかに独立自由への道を開くものである。而して、これこそが、我我国民一同敗戰以来営々として苦労しつつ一日千秋の思いを以て待ち焦れていたところのものにほかなりません。(拍手)又この独立回復の契機をつかむことこそが、国家民族の将来という観点からいたしまして我々が最も深く思いをいたさなければならぬ肝腎かなめの所ではありますまいか。世上ややもすれば安保條約と国家独立主権との関係について随分と間違つた極端の論をなすものがあります。(笑声)併し心を平らかにして見れば誰にでも明らかなように、安保條約は、その本来の根本性格において、日本独立主権を侵害する矛ではなくして、我が国民の愛国心と相俟つて外部の侵略から日本独立主権を守る盾となるのである。(拍手)然るに、善意か、惡意か、この盾ウ矛と取り違えて、甚だしきに至つては、外国への従属化を意味するものとし、或いは独立主権外国に売渡すものなりとなすがごときは、本條約の根本趣旨を全く曲げて解するものか、然らずんば日米の離間を狙い、(「その通り」と呼ぶ者あり)あわよくばその盾を取りのけて、折角回復せんとする待望の日本独立主権を有名無実ならしめんとする(拍手発言する者多し)共産系の謀略宣伝にほかなりません。ひとしく外国軍隊の駐留と言つても、今日の新らしい時代の集団保障における協力関係は、古い時代の植民地的体制による従属関係とは混同さるべきではない。その協力関係の具体的内容を、日米両国の友好関係を阻害するような結果にならないように注意せよということはよくわかるけれども、併しみずから僻み根性を起してみだりに臆測を逞しうするがごときは、相手方に対しても余りにも心無きわざであるのみならず、却つてみずからを侮辱するものではないか。(「その通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)我が国民性の中には、心を広うして信を相手方の腹中に置く襟度を持つと共に、みずから奪うベからざる毅然たる気魂を失つてはいないはずであります。要するに、このたびの條約を以て従属化への第一歩を踏み出すものだなどという愚にも付かぬ理窟をこね上げて、これを以て反対論の根拠としている連中こそ、切々たる国民的要望を無視し、折角の独立回復の契機をつかむことを妨げるものとして(「何だ何だ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)国民の審判を受けなければなりません。(「国民はよく知つておるよ」「その通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し、拍手)  次に第二に、両條約こそは真の平和のための條約である。このたびの平和條約の最も大きな特色は、普通の講和條約のごとく、單に古い戰争状態を終結して通常の回復平時関係をするというだけでなくして、新らしい戰争を防止し、将来の平和を積極的に築き上げんとする点にあるのであります。(「そうだそうだ」「その通り」と呼ぶ者あり)而うして、これがためにこそ、本條約は新時代の平和方式として国際連合の原則を取入れているのであります。その結果本條約自筆(「古く古く」と呼ぶ者あり)国連原則に基く一般的集団保障の性格を持つものとなつているのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)而うしてこの点こそは平和條約の一大眼目とするところでありまして、その名の示すがごとく、実質においても真の平和條約たるゆえんの積極的根拠をなすものである。(拍手)然るに、一方、今日の嚴しい国際的緊張の真只中にあつて、殊に極東方面が世界政治の危険地乗となつているとき、講和後日本独立と安全を守り立てて行くためには、この平和條約による一般的保障のほかに、特殊の補強措置を講ずるの必要あることは明白であります。いわんや、有効なる自衛手段を持たず、又性急な、急速再軍備論のごときが、可否の点から申しましても、又能否の点から見ましても、にわかに成り立ちがたい今日の実情の下においては、殊に然りと申さなければなりません。(「そうだ」「その通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)日米安全保障條約こそは、欠くべからざるこの補強措置として、国民の常識と理性の命ずるところと申さなければなりません。而うしてこの安保條約の性質は、集団保障の一種として国連憲章の認むる地域的保障の性格を持つものであります。(「そんなことがわかるか」と呼ぶ者あり)国連原則に基く一般的保障と地域的保障の両者を併用することは、今日世界的に認められた安全保障の行き方であるが、平和條約及び安全保障條約こそは、この世界的に認められた平和方式の大道を行くものにほかなりません。(「その通り」と呼ぶ者あり)両者相寄り相待つて(「大したものだ」と呼ぶ者あり)安全保障の一貫した体系をなすものでありまして、これによつてこそ、日本の安全を守り、極東の平和を強め、以て世界平和の推進に寄與することができるのであります。従つて平和條約には賛成するが安保條約には反対するというがごときは、如何にも聞えない話である。(「それは聞えぬ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)それは、舟の一方の櫓を前のほうに漕ぎながら、他の片方の櫓は後ろのほうに漕いでいるようなものであります。又そのようなことが国際外交の具体的な現実問題そのものに対する正面切つての対決として国際的に通用するなどと思うならば、余りにも国際政治の実際に疎い者と評さなければなりません。(拍手)かくのごとき「ぬえ」的態度は今からでも遅くない、翻然改められんことを希望してやみません。(笑声、拍手)今日の時代においては、集団保障こそが戰争防止の道であり、中立は却つて戰争誘発の道であることは、皮肉にもスターリンが共産党のバイブルと言われる本の中でも明らかに認めているところでありますが、以上のような集団保障の性格を持つところの両條約をとらえて戰争準備の條約などと誣いるがごときは、人の顔に墨を塗つておいてお前の顔は黒いという共産党一流のやり口以外の何ものでもありません。(「何だ何だ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)それは顔が黒いのじやありません。墨が黒いのである。いな、墨を塗る御本人の肚の中こそが黒いことを証明するものではないか。  ソ連は一体サンフランシスコで何を提案したか。先ず第一に、千島、樺太についてこれを日本に残す提案でもしていたならば、日本共産党諸君の顔もさぞよかつたであろうが、ソ連は、一握りの日本共産党諸君のために自分の領土慾を満足せしむることを遠慮するほど、そんなお人好しではないことを立証しているではないか。又、歯舞色丹については知らぬ顔の半兵衛をきめこんでいるではないか。更にひどいこと、ソ連賠償提案である。このたびの平和條約では、日本経済を破壞しないようにとの考慮から、金銭賠償は免除し、又役務賠償についても一定の制限的の枠を付けているのであるが、ソ連案はこれに比べると恐ろしく苛酷なものであつて、(「そうだ」と呼ぶ者あり)全く無制限に全損害の賠償を命じているではないか。(「君だけじやないか」「その通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)このような(「何とか言え」と呼ぶ者あり)破滅的な賠償が課せられるならば、(「口惜しいか」と呼ぶ者あり)早い話が、減税や賃金のベース・アツプどころの騒ぎでは断じてありません。労働者農民大衆を含む国民めいめいの生活はめちやめちやに破壞され、今後百五十年ぐらいは再建復興などは到底思いも及ばぬことを知るべきであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)まだそれだけではありません。更にソ連は宗谷から対馬に至る四つの海峡の非武装化も要求し、これらの海峡は、ソ連の軍艦だけの專用通路にすることを要求しているではないか。(「そうだ」「どうだ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)これは、本州と北海道を分断するばかりでなく、(「引つ込め」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)日本列島全体を━━━━━━━━━に置かんとするものではないか。(「その通り」と呼ぶ者あり)更に日本を孤立化するため、一定の集団保障の取極を、結ぶ権利を日本には否認しようとしたではないか。更にその上に積み重ねて、反フアシズムに名をかりて━━━━━━━に道を開くことを條約上の義務として強制せんとしたではないか。(「その通り」と呼ぶ者あり)かくのごとくに、政治的、経済的、軍事的に(「共産党と話をしろ」と呼ぶ者あり)日本━━━のための前提條件を作り上げようとすることこそが、━━━対日講和政策の魂胆であり、実体である。(「どうだ」「わかつたか」「いつまで言つているか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し、笑声、拍手)このようなことを知つてか知らないでか、我が国内の一部では、未だに、いわゆる全面講和の実体をも究めずして(「どうした社会党」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)多数講和に反対する者があるのは、誠に奇怪千万なりと申さなければなりません。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)要するに、全面講和なるものの実体は、報復と懲罰と━━━━━とを本体とする(「多数講和が好きか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)ソ連提案を、全部の国が呑むということにほかならないことが、サンフランシスコで証明された今日、世のいわゆる全面講和論者は一体如何なる顔色があるのでありましようか。(「顔を見せろ」「何を言うか」「そうだ」「馬鹿野郎」「何だ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)  最後に簡單に、(「もうやめろ」と呼ぶ者あり)新日本のとるべき外交政策の大本の問題に関連いたしまして、両條約に対する態度を一層明らかにして、私の両條約賛成論の根拠を補充しておきたい。(「李承晩になるなよ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)  顧みまするに、特に満洲事変以来、日本国際的針路は、世界の世論、世界の公論の認むるところと逆行して、危険なる方向に向い、その結果、世界に信を失い、アジアから孤立し、世界から孤立して、遂に自己の独立さえも失つてしまつたのであります。(「お前らがやつたんだ」と呼ぶ者あり)而して我々は、(「お前がやつたんだ」と呼ぶ者あり)この苦い過去の失政の事実を反省して、その中からこそ新日本国際的再出発の生きた教訓を学び取らなければなりません。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)一度失つた独立の回復ということが(「何を言うか」「静粛にしろ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)如何に貴重なものであるかということは、国民の一人々々が身を以て体験したところであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)又世界の輿論に背いて国際的孤立に陥るということが、(「本当にそうか」と呼ぶ者あり)国家運命、民族の幸福にとつて如何に危険なものであるか、如何に外交上禁物であるかも、よく味わつたのであります。(「謹聽謹聽」「外交官になれ」と呼ぶ者あり)更に又、独立の維持と平和の維持とが如何に不可分な関係を持つているかということについても、深い認識を得たわけであります。新日本の外交政策の大本を打ち立てるに当つては、これら実の物教訓を十分活かして行かなければなりません。かかる見地から、振返つて両條約に対する関係を見まするに、両條約を承認することによつて我が国は先ず第一に独立回復の契機をつかむことになるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)第二に、有力なる盟邦を得ると共に、世界の圧倒的大多数の国との間に平和的友好関係を取り結ぶの機会を得ることになるのであります。(「その通りだ」と呼ぶ者あり、拍手)第三に、我ら国民の最も希求してやまない平和と独立の確保のために、新らしい時代の世界公論の認むる国連原則に従つて、集団保障の体制に入ることになるのであります。而もこの集団保障の措置は、平和確保のための他の外交施策の併用を妨げるものでないことはもとよりであります。而して、これらは、いずれも新日本のとるべき外交政策の大本に通ずるものと申さなければなりません。(「何を言うか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し、拍手)若しそれ、両條約の個々の具体的内容及び実施運用につきましては、今日まで国会の内外において表明せられました幾多の合理的な国民的要望があるのでありまして、それらの点につきましては、我々も所見を同じうする点が少なからず、政府の善処を期待してやみません。  以上申述べました観点からいたしまして、私は、両條約を承認することが大局上この際(笑声)我が国としてとるべき妥当の措置と確信し、又(「止むを得ず賛成か」と呼ぶ者あり)国民の圧倒的大多数の意思に副うゆえんであると考えるが故に、(拍手)確然と両條約を承認することに賛成の意を表するものであります。(「そこで最敬礼」と呼ぶ者あり、笑声、その他発言する者多し、拍手
  14. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 午後一時十分まで休憩いたします。    午後零時七分休憩      ―――――・―――――    午後一時十九分開議
  15. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 休憩前に引続き、これより会議を開きます。曾祢益君。    〔曾祢益君登壇、拍手
  16. 曾禰益

    ○曾祢益君 私は日本社会党を代表いたしまして、ここに上程されました平和條約に賛成し、日米安全保障條約に反対するものであります。  言うまでもなく、この両條約は、我が日本民族の運命を決する重大な意義を持つばかりでなく、極東及び世界の情勢に歴史的な一段階を画するものであります。そもそも講和は、過去の戰争の終結を法的に確認し、交戰国の間に平和的国交を回復することを、その本議とするものであります。然るに、このたびの講和は、ただ單に敗戰国日本の平和回復の條件規定するものたるにとどまらず、無條件降伏に伴う連合軍の軍事占領からの解放と独立の回復という意義を有することを、特に重視せざるを得ないのであります。ポツダム宣言を忠実に履行して参つた我が国民が、独立を回復し民主的平和国家として平等な立場において再び国際社会に復帰するの資格と権利とを十分に具備するに至つて、すでに久しきものがあるのであります。故に、我々は、八千万国民と共に、ここに独立の契機を積極的に促えて、平和條約を受諾し、民族の誇りを回復し、自主的な責任においての民主主義の完成と、国際協力による世界平和の確保に向つて、雄々しく前進することを当然と思惟するものであります。(拍手)我々は、我が国民と共に我が民族独立の速かならんことを願う一方、この講和が單に過去の戰争の終了を意味するにとどまらず、独立日本の前途に正義と秩序を基調とする国際平和が約束されることを、衷心念願して参つたのであります。我々は、講和即ち独立が冷たい戰争の余波を受けて不当に遷延されることに対し抗議しつつも、他面において、不完全なる講和、内容的に不当なる講和であつても、速かなる講和ならば結構であるという吉田内閣のいわゆる單独講和論に反対して参つたのであります。(拍手)この点から見て、サンフランシスコ会議とその結果たる平和條約が(「賛成」と呼ぶ者あり)重大なる欠陷を有することは明らかであります。即ち中国の除外と、インド、ビルマ両国の不参加、更にはソ連邦の調印拒否がこれであります。然らば我々は單に全面講和にあらずとの理由に基いてこの條約を拒否すべきであるか。我々は拒否すべきでないと信ずるものであります。  第一に、全面講和の願望が如何に正当であつても、その実現には相手方の能動的な協力が必要であることは言を待たないところであります。然るにサンフランシスコ会議におけるソ連邦代表の言動につて、今やソ連及びその衛星国と、四十八カ国の他の一団、その中には西欧陣営と現に抗争しつつあるエジプト、イランや、又国際的中立政策を標榜するインドネシアのごときいわゆるアジアアラブ諸国をも含んでいることは御承知の通りでありますが、この四十八カ国の一団とソ連との間には、到底、同一の條件による全面講和の可能性が、将来はいざ知らず、差当つてないことは如実に証明されたところであります、(拍手「そうだ」と呼ぶ者あり)  第二に、従つてこの現実に直面して(「おかしいぞ」と呼ぶ者あり)なお且つ全面講和の形式にとらわれてこの講和に反対することは、占領継続の肯定であり、独立否定にほかならないのであります。(拍手)すでに我が国独立を欲し、大多数の国連加盟国が賛成する以上は、我々としてみずから進んで占領の継続を選ぶべきでないことは明らかであります。(拍手)  第三に、インド、ビルマの不参加と中国の除外とを取上げて、直ちに以て日本アジアからの孤立というような誇大な表現を用いている人々がありますが、(拍手、笑声)講和に加わらなかつたアジア諸国のうちで、中国に対しては個別講和の途が開かれており、(「精神錯乱症」「分裂してみる」と呼ぶ者あり)インドはすでに個別講和の意思表示をなし来たり、ビルマのサンフランシスコ会議不参加に関する公式発表としては、その理由として挙げられましたものはただ單に賠償問題のみである。これらの点から見まして、かかるアジアからの孤立というような危惧は当然抱き得ないと存ずるのであります。(拍手)  第四に、ソ連との講和の不成立が直ちに戰争への道であるかの議論も又欺瞞と威嚇にほかならないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)法律上の戰争状態の継続とは現実の交戰状態への復帰を意味するものではなく、ミズーリ艦上の降伏文書調印、即ち変態的にせよ休戰の成立に何ら変更がないのであります。我々は、朝鮮動乱の速かなる終結と朝鮮民族の平和的統一を衷心希求すると共に、更に一般的に、独立日本の前途には、冷たい戰争や直接間接侵略を伴う局地戰争、更には原子戰争意味する全面的な第三次世界戰争の危険が解消せられ、平和が確立されることを念願するものであります。併しながら、この悲願は全人類共通のものであつて、必ずしも独立を目前に控えた日本国民のみの悩みではないのでありますと共に、この悲願の達成は、対日平和条約締結という一つの外交文書の成立や、サンフランシスコ会議という一回の国際会議によつて、直ちに可能となるような、容易なものではないのであります、而も第三次大戰の勃発とか朝鮮動乱が極東の全面戰争への発展とかいうことが断じて宿命的な必然的なものでない以上は、戰争の危険があるから独立はいつまでも避けるということは、奴隷の平和を求めるにほかならず、到底我々の賛同し能わざるところであります。(「その辺、名調子」と呼ぶ者あり、拍手)かく考えて参りますと、我が国としてとるべき態度は、この講和を独立の契機として捉え、その不完全な点については、この條約の肯定の上に立つてこれを是正して行くことにあると確信するものであります。  この点から言つて、我々は、吉田内閣に、果して講和後の外交の二大眼目、即ち不参加国との国交の回復と国際平和の維持とを実現する能力と識見とがあるかについて、多大の疑問なきを得ないのであります。アジア諸国との国交の調整に当つて我々が特に留意すべき点は、その政治的隷属であり、経済的の貧困であるのであります。西欧側がこのアジアの共通の悩みを解決するために抜本的な対策を講ずることなくしては、如何に当面の軍事的侵略を封ぜんといたしましても、内部よりの崩壊と混乱とを防ぐ途はないのであります、我々は、去る七月に誕生いたしました社会主義インターナシヨナルが決議したがごとく、新らしい帝国主義たる国際共産陣営の軍事侵略に対して、全自由世界の団結と協力とによる防衛の原則を肯定すると共に、鉄のカーテンの外部におきまして、殊に全アジアの後進地域に対し資本主義のもたらす不正と不平等を急速に是正し、以て、自由、正義、平等のアジアを建設することが、真の世界平和の鍵であると確信するものであります。(拍手)即ち自由世界に属する独立日本が、アジアと西欧の架橋の役割を演ずることが、日本の外交の基本であり、このことは、固晒な自由主義経済を守らんとし、ひたすらアメリカの資本主義に依頼せんとする吉田自由党内閣の、短見的な外交政策のよくするところではないと信ずるのであります。(拍手、「木村君どうした」と呼ぶ者あり)  更に、東西両陣営の対立激化と、力の均衡に依存する不安定な武装平和の将来に対して、我が国民は多大の危惧を持つておるのであります。自由世界に属する平和日本の使命は、共産世界からの戰争の開始を防止する力はなくとも、少くとも、自由世界の中から万一にも予防戰争をしかけるがごときことを抑止するためにあらゆる平和的努力を傾倒するにあると信ずるものでございます。而して、かくのごときは、自由世界内部における最も有力な平和的勢力であるところの国際自由労連と、社会主義インターに結集せられました各国民主社会主義諸団体と緊密に提携する我が党のみが、これをなし得るところと信ずるのであります。(拍手)  次に平和條約の内容であります。今回の平和條約は、和解信頼原則に立ち、懲罰と復仇とを目的としたものではないと政府は自画自賛しておるのでございます。これを仔細に検討するに(「もつとうまくやれ」と呼ぶ者あり)成るほどイタリア平和條約に比して優る点も確かにあると共に、より不利なる点もあるのでございます。而して敗戰と無條件降伏という大前提の拘束から、平和條約中には多くの苛酷な條項が存在することは予期しなければならなかつたところであります。  第一は領土條項であります。我々はポツダム宣言を受諾した以上は、日本領土が、本州、四国、九州、北海道のほか、連合国がみずから定めるその他の諸小島、もろもろの小島に限られることを否定するわけには参らないのであります。併しながら、連合国大西洋憲章において、又一九四二年一月一日の連合国共同宣言において、みずから領土の拡張を求めず、又領土の変更の場合には住民の自由意思による旨の原則を打ち立てたのであります。これはもとより日本が当事国である協定ではございませんから、連合国に対してこの原則の尊重を日本の権利として要求するわけには参らないと存じまするが、連合国みずからが日本領土決定するに当りましてこの原則に拘束されることは論を待たないところと信ずるのであります。(「拘束されておる」と呼ぶ者あり)然るに條約第二條の南樺太、千島、これらは我が国が盗取した地域ではなく、我が祖先伝来の土地であり、住民も又日本民族であり、従つてこれら地域に対する我が領土権の放棄は断じて承服できないところであります。更に我が領土の一部たる歯舞諸島、色丹島の不法占拠に対しては、最も強く抗議するものであります。又第三條におきまして、北緯二十九度以南の沖繩、南西諸島或いは小笠原諸島につきましては、成るほど第二條と異なり、我が領土権の放棄は明記されておらないのであります。政府はこの点に出発いたしまして、これら諸島に対しては日本の潜在的主権が存続する旨を説明しておるのであります。併しこれら地域は、南樺太や千島と同樣に、歴史的、文化的に我が国領土であり、その住民も又日本民族であります。故に、国際連合の目的である国際平和と安全の見地から、これら地域に関して如何なる暫定的なる要求がありといたしましても、それは飽くまで日本の完全なる主権の確認の上に立つて解決すべきであると信ずるのであります。(「だから講和條約反対なんだ」と呼ぶ者あり)従つて、暫定的にせよ、これら地域にアメリカ合衆国行政立法、司法上の一切の権限の行使を認め、殊に植民地と同樣な見方に立ちまして国際連合の信託統治区域に編入するごときは、如何住民日本国籍を認め、如何なる経済上、文化上の住民希望を容れるといたしましても、到底我々の納得し得ないところであります。(拍手)特に、政府日米安全保障條約を締結いたしまして、アメリカ軍隊が、日本の直接防衛のためのみならず、極東における国際の平和と安全の維持に寄與するために日本及び附近に駐屯することを許容いたしておりまする以上、これら南西諸島の特殊扱いはますます以て筋道の立たないところと信ずるのであります。  次に賠償問題であります。十四條(a)項の規定が、連合国全部に対し日本賠償支拂の建前を定め、而も、日本が存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本の資源が完全な賠償を行うためには現在十分でないと規定し、続いて(a)項のIにおきまして役務賠償を一部連合国になす義務規定しておるのであります。かように極めて複雑な関係になつておりまするその結果、現に関係国のうちには、第十四條(a)の2によつて取得しまする在外財産以外に、更に役務賠償に附随いたしまして、日本より現物又は現金賠償を要求しておる国がありますることは御承知の通りであります。役務賠償自体につきましても、政府日本の財政的負担にはおのずから限度があるとの楽観的説明をなしておるのでありまするが、かくのごとく総額の定めもなく、日本の負担能力が増大すれば、これにつれて将来長きに亘つて漸増的に賠償額が増大し得る余地を残しておりまするこれらの規定は、一面、相手国に対しては過大なる要求或いは期待を抱かせ、他面、我が国民に対しましては、働けど働けど生活水準の向上は期待し得られず、すべては賠償に(「その通り」と呼ぶ者あり)取上げられるという絶望感を與えることは、(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)断じて否定できないところであります。(「それで賛成したら世話ないよ」「よくやつた」「精神分裂」「賛成」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)故に、我々は、この第十四條(a)及び(a)の1の規定を改訂することが、日本と東南アジア諸国との友好関係の増進の見地から絶対必要と認めますと共に、(a)の2の在外私有財産の放棄につきましては国内的に公正な補償をなすことを主張するものであります。(拍手)  以上、要するに我々は、平和條約は不完全なものでありますから、従つて不参加国等に対する国交の調整によつて速かに全面講和の実現を図るべきことを主張し、(「どうしてやるのだ」と呼ぶ者あり)條約の内容につきましては、前述の領土及び賠償條項の速かなる改訂に関する発言権を明確に留保し、且つ、我が党に関する限り、以上の二つ努力を今日より国民の先頭に立つて行うことをここに厳粛に宣言し、(拍手)以て独立の契機としての平和條約に対し嚴粛沈痛なる心境において賛成するものであります。(「一人でやれよ」「さあ、これからがいいぞ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し、笑声、拍手)  次に日米安全保障條約でありますが、(「これから楽だ」と呼ぶ者あり)我我は、独立後の日本には国連方式による集団安全保障が必要であることを、かねてより主張して参つたのであります。現下の国際情勢に顧み、非武装の日本が一片の一方的な中立宣言を以てその対外安全を保障し得ざることは容易に理解し得られるところでありますと共に、侵略の可能性が否定し得ない場合に、なお且つ無防衛、無抵抗主義に立て籠らんとする主張は、断じて正しい平和主義ではないのであります。(「それはおかしいじやないか」「賛成」と呼ぶ者あり、拍手)又国際連合の成立以来、米ソ両陣営の反対して参つておりまする中立不可侵條約に安全保障を求めんとすることも、実現不可能でありまして(「その通り」と呼ぶ者あり)且つ、仮に実現の曉におきましても、強力な軍備の裏付けなくしては何らの安全保障たり得ないことは、これ又明白であります。(「両條約賛成」と呼ぶ者あり)従つて我々は、独立日本の安全保障が国連の集団保障能力の強化によつて確保されることを衷心希望して参つたのでありますると共に、今後とも我々はこの主張を続けるものであります。さりながら国連自身の能力が未だ十分でない場合には、国連憲章第五十一條に基く集団的自衛の方式をも、これを考慮することも、あながち否定するものではないのであります。  併しながら日本の安全保障は、講和とは明確に区分して取扱わるべきものであります。(拍手)何となれば、講和特にこのたびの講和は、占領管理下にある無條件降伏日本独立を回復するために占領国と結ぶ條約であり、その本質が対等の関係に立たざるものであります。然るに、これに反しまして安全保障條約は、日本平和條約によつて独立を回復し、その上に、平等の主権国の資格を以て、自主的に必要な限度において取極めるべきものであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)若しさようでなくして、独立回復の條件として戰勝国に対し軍事上の特権を與える趣旨であるならば、それは安全保障條約ではなく、独立主権制限の條約であるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)然るに、政府はこの明々白々たる公理を忘れ、平和條約とこの特定な日米安全保障條約とが不可分一体であるとの説明をなしておられるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)又現実におきましても日米安全保障條約は、平和條約の調印の直後、即ち日本独立回復に先立つて占領継続中に調印されたものでございます。この占領下にある日本占領国であるアメリカとの間に交渉し調印されたものであります。かかる條件の下に交渉締結せられました日米安全保障條約が、果して対等の立場において作られた安全保障の措置と言えるかにつきましては、多大の疑問が附きまとうのは当然至極でございます。(拍手)従つて我が国内におきましても、左右の両陣営のうちから、日米安全保障條約即ちアメリカの日本に対する軍事的支配がアメリカの主自的であつて平和條約即ち日本に対する独立の付與は單にその手段に過ぎない(「その通り」と呼ぶ者あり)という見地におきまして、(「そうだ」「それだから反対しなければならない」と呼ぶ者あり)両條約に反対すべきことを主張する意味合いの不可分論を聞くのでございます。我々はこの議論や観点に賛成するものではないのでありますが、(拍手政府の自主性なき外交がかかる誤まれる議論に油を注いでおることも、これ又明白であると存じます。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手、「怒れ怒れ」と呼ぶ者あり)我々は、従いまして、この日米安全保障條約については、その内容審議するまでもなく、先ずその成立の経緯と及び時期の点よりいたしまして断じて賛成し能わざるものであります。政府はよろしく本條約を撤回され、改めて平和條約の発効と同時若しくはその後九十日以内に、完全に平等な立場に立つて国際情勢に応じ、所要の安全保障の措置を国連憲章の枠内において講ずべきことを主張するものであります。(拍手)  更に、本條約は右のような不平等な立場において締結されました関係から、その内容におきましても、平等の主権国間に結ばれました地域的集団保障の幾多の先例に見る能わざる不対等の條項が存するのであります。前文、第一條、第二條、第四條、皆然りであります。即ち前文におきましては、日本よりアメリカ軍の駐屯を希望し、アメリカこれを許諾する形になつております。第一條、又然りでありまして、殊にこの駐屯の目的につきましては、日本に対する武力攻撃に対する防衛のみならず、極東における国際平和と安全に寮與するるためという附随的な目的が書いてあるのであります。更に又、すでに指摘されましたごとく、日本におきまする外部から使嗾いたしました大規模の内乱、騒擾に対するアメリカ軍隊の応援の規定も、これまた対等條約において取上げられた例は我我は極めて稀ではないかと存ずるのであります。一々ここに例を挙げないのでありまするが、特に第三條におきまして米軍の配備の條件は両国政府限りの行政協定に讓つておる点は、我々が納得し得ないところであります。  政府は、行政協定内容はなお交渉中であつてその内容も構想もあらかじめ説明できないと述べまして国会より白紙委任を要求しておる一方におきまして、国民の権利義務に関する事項が行政協定内容となるごとき場合には、協定の中におきまして国会の承認條件とする旨を断わつておき、所要の法律案又は予算案を国会に提案すると陳弁しておるのであります。(「それでいいじやないか」と呼ぶ者あり)して見ますれば、政府は、條約の形式におきましては第三條において国会の事前承認を白紙委任の形において取り付けておき、他方におきましては法律又は予算の形において国会の一承認をあとで求めると申しますることは、全く矛盾する措置と考えなければならないのであります。而してその理由が奈辺にあるかについては全く不可解と言わなければなりません。(拍手、「力が少し弱いぞ」「元気出して」と呼ぶ者あり)それのみならず、一九四七年アメリカ・フイリピン間の軍事基地に関する協定の先例から見ましても、国民の権利義務に直接関係なしとしても、間接に重大なる関係を有し、而も国の主権に関する重大な制限を伴うような事項が、行政協定の形において締結されないとの保障はどこにもないのでございます。故に、我々は、憲法の擁護と国会の審議権尊重の原則並びに秘密外交排撃の見地からいたしまして、この第三條に断乎反対するものであります。(拍手、「外務大臣どこへ行つたか、出て来い」と呼ぶ者あり)  日本がかかる不対等の関係に立ちました安全保障條約を結ぶことは、すでに先ほど申上げましたごとく、自由アジアと西ヨーロツパとの架橋たる使命を帶びました日本の断じてとるべきところではないと存ずるのでありまして、我々は、吉田首相とアメリカ当局とが、当面の真空状態に対する軍事的措置に專念する余り、この自由アジアとの連繋という長期政策の観点に立ちましたスポーツマンシツプを発揮し得なかつたことを、深く遺憾とするものであります。(拍手)以上、要しまするに我々は、日米安全保障條約につきましては、国連憲章に基く暫定的な安全保障の必要を認めると共に、而も本條約につきましては、占領下において不平等の立場から締結されました点並びに特に第三條の行政協定に関連いたしまして、本條約全体に対し、明確な反対の意思を表明するものであります。(拍手、「終り」と呼ぶ者あり)  以上を以ちまして、平和條約に対しましては賛成、安全保障條約に対しましては反対の討論を終ることといたしたいと思います。(拍手)     ―――――――――――――
  17. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 加藤正人君。    〔「外務大臣はどうした」「外務大臣の出席を要求する」「外務大臣がいないのに質問をやめたらどうです」「質問じやない」「休憩々々」「継続継続」「外務次官がいる」と呼ぶ者あり〕    〔加藤正人君登壇、拍手
  18. 加藤正人

    ○加藤正人君 私は緑風会を代表いたしまして対日平和條約並びに日米安全保障條約の締結に賛意を表するものであります。(拍手)  先ずその賛成意見を表明するに先だち、和解信頼精神を以て快く我々を自由世界の一員として迎え入れてくれた米国を初めとする自由諸国家の友情、殊にこれらの国々の間を直接斡旋に当られたダレス氏の御労苦、並びに戰後日本再建に深い友愛とよき指導を與えられたマツカーサー元帥並びにリツジウエイ大将に対しまして、国民の一人として衷心感謝の念を禁じ得ないものであります。(拍手)而して、それと同時に、曲りなりにも日本をここまで導いて来た政府の労を多とするものであります。(拍手)  過去六年の長きに亘る占領下にあつた我が国民の間に、漸く講和の問題が話題に上るに従い、最も真劍に論議されたことは、いわゆる全面講和か單独講和かという問題であつたことは御承知の通りでありまして、両條約に対する賛否を決するに当り、(「外務大臣の出席を要求いたします」「外務大臣はどうした」と呼ぶ者あり)今もなお、そのことは最も基本的な問題であると考えるのであります。(「外務大臣はどうした」と呼ぶ者あり)即ち、それは、独立後の我が国の安全を如何にして守るかということに直接結び付く重大な問題であつて、現在のような緊迫した国際情勢の只中に真裸かで飛び出す(「総理の出席を要求いたします」と呼ぶ者あり)我が国の当面最大の問題でなければならぬからであります。本條約の審議に当つて平和條約と表裏の関係にある日米安全保障條約に論議の重点が向けられたのも、蓋しこれがためであると思うのであります。この意味において、私は先ずこの前提條件について(「外務大臣が出席しなかつたら休憩しろ」と呼ぶ者あり)私の見解を明らかにし、然る後に條約の内容に触れて見たいと思うのであります。  我が国が今回の講和によつて、相対立する二大陣営の一方に身を投ずることとなつたことは明白でありますが現在のように世界が挙げて二大ブロツクを形成して相対立しておるようなときに、而もその対立は、観念的には共存し得ても、現実の勢力として根本的な協調を期待することが殆んど不可能であると考えられるときに、ひとり我が国だけがその局外に立ち得るかどうか。私は今更、過去幾回となく繰返されたこの種の議論を、今ここに再び繰返そうと思わないのであるが、観念の遊戯に耽り得る者はとにかくとして現実に立脚した責任ある者の考え方としては、全面講和即ち二大勢力の局外に立つということが現実に可能であるとはどうしても考え得ないものであります。(拍手)従つて私は、今回の講和がいわゆる全面的なものにならなかつたということについては、(「総理大臣はこの本会議より重要な問題があるのか」と呼ぶ者あり)残念ではあるが、又止むを得ないものとして、これを是とするものであつて、このことが直ちに米ソの対立を激化し、新らしい危機を招来するものであるとは考えないものであります。(「その通り」「冗談言うなよ」と呼ぶ者あり)成るほど、二大勢力の一方に新らしい力、力と言えば語弊があるかもわからないが、とにかくも新らしい力が加わるとすれば、勢力の均衡は破れ、その限りにおいて危機も招来するとする見方もあろうと思うのでありまするが、それは、その側に侵略意図がある場合について言い得ることであつて、そうでない場合には現実に危機を招くものではないからであります。  そこで、平和條約の内容でありますが、吉田全権も香港で率直に日本国民の不安と苦悩を訴えられたように、私も必ずしもこの條約を満足すべきものとは考えないものであります。(拍手和解信頼がこの條約の精神であることは、例えば、この際、最も問題となるべき日本の再軍備、或いは産業、海運等に何らの懲罰的制限を加えなかつたということによつても明らかだと思います。併し、かかる和解信頼の念にもかかわらず、(「漁業條約はどうだ」と呼ぶ者あり)我々にとつてはなお且つ幾多の苦痛と不安の種を蔵していることも、又覆いがたい事実であろうと存じます。例えば、父租伝来の地であつた南西諸島等信託統治、或いは千島、樺太の割譲は、我が国民感情として誠に受入れがたいものでありまして、ポツダム宣言を受諾した以上、領土については我が国には何らの発言権が與えられないとは申すものの、戰争中の、最も敵愾心の強い、従つて制裁的気分に満ちた(「休憩々々」と呼ぶ者あり)当時に決定されたところのものを、そのまま和解信頼の講和に押付けられているということは、誠に残念であります。(「休憩々々」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)
  19. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 靜粛に願います。(「外務大臣連れて来い」「外務大臣どうした」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)静粛に願います。加藤君、お続けを願います。   (「ここは自由党の総会じやない   ぞ」「休憩々々」「続行々々」と呼ぶ   者あり、その他発言する者多し)
  20. 加藤正人

    ○加藤正人君(続) 而も……。(「休憩休憩」と呼ぶ者あり、議場騒然)
  21. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 加藤君お続けを願います。
  22. 加藤正人

    ○加藤正人君(続) 而も千島と樺太については、これを決定したヤルタ協定の当事者である米ソの間には、もはや今日では折衝の余地がなく、又信託統治については、切なる住民の願望と吉田全権のこの点に最も力を注がれた努力にもかかわらず、遂に我が国の要望が実現しなかつたのは、連合国の間に、これらの地域を日本に返還すべしとする主張と、反対に、我が国の再侵略を恐れてこれを米国領土にすべしとする主張があつて、これらを調節するための措置であろうと想像するのでありまするが、そうだとすれば、政府説明にもかかわらず、極東の平和の維持のためという純粋の軍事的理由のみでなく、そこには日本を監視するという目的も当然に含まれることとなり、この條約の基本的精神に合致しないものがあるのを感ぜざるを得ないのであります。又、これらの地域には、日本主権が潜在し、住民の国籍も残り、将来軍事上の必要がなくなれば日本に返還されるということが、米当局者との間に約束されているとのことであり、これは吉田全権の異常な御努力の結果であるとは思いまするが、併しそこにも、住民の教育の問題、(「自由党の総会と違うぞ」と呼ぶ者あり)或いは徴兵、傭兵の問題等、将来大きな不安を蔵しているのであります。  更に賠償問題につきまして言えば、最初は無賠償原則としたのを、アジアの諸国の強い主張に基いて、それらの国々の復興を助ける意味からも、又日本が今後これらの国と友好関係を得るためにも、日本の自立を妨げない範囲内で最少限度の賠償義務を認めたものでありまして、我々も決してこれに反対を唱えるものではありません。存立可能の経済範囲内で役務による賠償原則とするということは、イタリアの場合に比べ遥かに寛大であり、日本経済自立のためにも、又過酷な賠償戰争を誘発するということにも、深い配慮が加えられているのであつて、我々誠に感謝に堪えないのでありまするが、(拍手)併し、この賠償がどれほどで済むのか、問題の解決を将来に委ねているところに我々の不安が大きいのであります。存立可能の経済ということは、政府答弁によれば、日本経済全体の立場から言つているのであつて、決して国民生活水準の比較から定めるべきものではなく、現在の生活水準を引下げないと言つておられるのでありまするが、果してその通りに行くかどうか。常識を以てすれば、賠償というものの性質から考えて、我が国生活水準がその国の生活水準より高ければ、当然その国並みの水準にまでこれを引下げ、でき得るだけの賠償を拂わねばならなくなるものではないか。今後の交渉が果して條文通り行くかどうか非常な不安があるのであります。特にフイリピン等のその後の依然として強硬なる態度を見れば、一層この感が深く、「又現在は賠償能力が十分でない」ということは、問題の解決が将来にも結び付く心配があると思うのであります。その他、未調印国に対する賠償等々、我々の不安は盡きないのであつて、而もこれらの各国が我が国の重要な輸出国であることを思い合わせれば、なかなか複雑微妙な問題が伏在するのであります。以上のように、賠償問題に関する我々の不安は大きいのでありまするが、この機会に賠償の実施について政府に要望しておきたいのでありまするが、加工賠償を行われる際には、努めて、今まで余り輸出の振わなかつたプラントものについてこれをなすようにし、でき得るだけ将来の取引に繋がりを作つておくよう、勿論、相手国のあることでありまするから注文通りに行くとは限らないのでありまするが、禍を転じて福となすの考慮を願いたいのであります。(拍手)  又在外財産が沒收されること、殊に中立国にあつたそれが国際赤十字委員会に引渡され、捕虜虐待の償いに当てられるのは、その気持は我々にも十分にわかるのでありまするが、何と言つても前例にもないことでありまして、余り苛酷に過ぎるのではないかと思うのであります。  又いわゆるコンゴー盆地條約に伴う権益を放棄せしめられたことは、これが侵略行為によつて得た特殊な権益ではなく、殊に、通商上の門戸開放、機会均等の原則の上に立つものであることを思えば、誠に心外に堪えないものであります。御承知のように、これら地域との我が国の貿易は、戰前戰後を通じて余り大きな額ではなかつたのでありますが、併し問題はむしろこれからであり、満洲、中国の市場を失つた我が国の貿易にとつては、これから開発を期待される重要な市場でありまして、我々産業界にある者としては誠に遺憾の極みに存ずるのであります。これは某国の特に強い主張に基くもので、「この條約を成立せしめるためにも、或いはその国との今後の友好関係を維持するためにも」というアメリカ政府の説得もあつて、涙を呑んで受諾せざるを得なかつたとのことでありますが、誠に不当な措置と言わねばなりません。以上のように、この平和條約については、我々を和解信頼の情を以て迎え入れてくれようとする連合各国の好意をひしひしと感じつつも、そこにはなお且つ多くの苦痛と不安があるのでありますが、これは数多い連合各国のことでありまするから、必ずしも利害や見解が一致し得ない結果であると考えられ、多くの笑顔の中には未だ依然として白い眼のあることを感じないわけには参りません。併しながら、何事にも慾には限りがなく、一度無條件降伏という冷嚴なる事実を想起すれば、この程度の條約は先ず以て忍ばねばならぬと思うのであります。(拍手)  講和後の苦難に満ちた日本の自立を考えるとき我々はなみなみならぬ覚悟と努力が必要であり、今や我々はその決心を新たにして立ち上らんとしているのでありますが、それにつけても、講和に伴つて処理すべき重要な問題が山積している中にも、賠償、外債の返還、その他、治安関係費等々の、莫大な負担がのしかかつておる我が国経済を担つて行かねばならぬ貿易の伸張こそ、喫緊の課題でありまして、当面、ガツトヘの加入、最惠国待遇の獲得のため、最大の努力が拂わるべきでありまするが、そのためには、我が国の通商に対する各国の誤解を一掃し、正しくこれを理解せしむるため、我が国の産業事情に明るい優秀な商務官を在外事務所に派遣し、現地における活動を積極化すると共に、又戰後とみに弱体化した貿易商社の強化育成を図り、特に、独禁法、事業者団体法を徹底的に改正して、国際貿易においてひとり我が国にのみ不当に課せられている制限を除去するの必要があると確信するものであります。この際、政府の一段の配慮をこの点に要望するものであります。  次に日米安全保障條約について申上げます。  講和後のいわゆる真空状態に対処するため、国際連合の集団保障体制その他ができ上るまでの暫定措置としてこの種の取極が必要であることは、現在の国際情勢より見て誰しも異存のないところと存ずるのであります。(拍手)世に設をなす者は、この條約による安全保障の方向は、却つて日本アジアの動乱に巻き込む原因となり、反対に新らしい戰争を準備する結果になりはせぬかということが、論議の中心であつたように思うのでありまするが、この点は、飽くまでも、これは自衛のためのものであつて国連憲章精神に則つているものである以上、何らこのような心配はなく、むしろ反対に、講和後、我が国を無防備のまま放置しておくことこそ戰争を誘発する危險があるのであつて、(拍手)まさに猫と鰹節の関係が生ずるであろうことは火を見るより明らかであると言わねばなりません。従つて我々は本條約には基本的に賛成であります。ただ、本條約の実質的な部分であるいわゆる行政協定内容が未定のまま、その原則承認することは、遺憾であるが、若し行政協定内容国民の権利義務関係のある事柄が入るようになる場合には、法律、予算の形で国会の承認を求め、その成立を條件としてのみ協定が成立せしめられるという政府の言明を信頼して、審議の形式としては妥当ではないにしても、我々は本條約の承認にあえて異議を挾むものではありません。  ただ、條約の中で米軍駐留の期間については何ら明記されるところなく、両国の意見の一致によりこの條約を解除できることになつている点が将来の不安の種となることを恐れるのであります。即ちその必要がなくなつたという状態の認識について幸いに両国の意見がうまく一致するかどうか。国際情勢の変化、両国の政治事情の変化、或いは世論の変化等に関連して、その憂いが生ずるのであります。勿論これは條約でありますから、双方とも信義誠実の原則に則つてこれを遵守することは当然でありましようが、事、軍事上の問題であるだけに、ひとしお、その心配が多いわけであります。従つてこの点については、行政協定内容として、十分具体的に、列挙的に取極めておくべきであつて、できれば條約の本文とは別個に一応の期間を設定し、順次必要に応じてその期間を改訂できるようにしておくことも必要ではないかと考えるものであります。  最後に本條約の運営について一言しておきたいことは、我が国が米ソ対立の最前線に位置してる事実に鑑み、駐留軍の武力行使については、独立主権国として、実質的に完全なる発言権を保持できるよう、政府の確乎たる決意を要望するものであります。  以上のように、対日平和條約及び日米安全保障條約に対して、私は若干の希望を述べつつ、これに賛意を表した次第でありまするが、一応、両條約が成立した上は、たとえこれに反対の意見を有する人々であつても、真に民主主義原則に従つて、新生日本の再建のために、全国民が打つて、一丸となり、講和後の幾多の苦難を切り開いて行かれるように念願して、私の賛成演説を終ります。(拍手
  23. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 羽仁五郎君。    〔羽仁五郎君登壇、拍手
  24. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 日本世界との運命決定しようとしている平和條約並びに日本アメリカ安全保障條約に対して、私は一個独立参議院議員の責任においてこの両條約に反対するものであります。  この日のために、日本の真実の平和條約のために、ただそのためにのみ私は参議院議員選挙されたのであります。(「やめろやめろ」と呼ぶ者あり)平和條約の名を以て呼ばれるこれらの條約に反対せねばならないのは誠に悲しむべきでありますが、(「賛成しろ」と呼ぶ者あり)それはただ真実の平和條約を得なければならないからであります。(「その段階だ」と呼ぶ者あり)旧日本帝国の議会の最後の大事業は新らしい憲法の制定でありました。この日本国憲法が真実のものであつたことは、そのときこれを迎え、これを與えられたすベての国民喜びがこれを示しこれを與えた議会の高潔なる誇りがこれを示しておりました。然るに、この日本国憲法による新らしい国会の最初の最大の大事業である平和條約の締結は、今、すべての国民、男女老若の喜びによつて迎えられていますか。(「喜んで迎えられておるよ」と呼ぶ者あり)諸君の顔はその誇りによつて輝いております。(「君の主観だけだ」「ぬかすな共産党」「ブルジヨア共産党」「輝いておるよ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)国際法廷が勝者の法廷でなかつたならば、現代の平和條約は、勝者と敗者との取引たるべきものではなくして、過去の戰争の罪を真実に償い、即ち将来の戰争を根絶し、恒久の平和の保障たらねばならないのであります。(「言語を弄ぶな」と呼ぶ者あり)  現在、日本国民の望んで止まないのは、占領の真実の終結であり、真実の平和であり、新らしい日本の真の独立であり、自由であります。この両條約により占領は終結すると言われております。果してそうでしようか。果し、そうであるとして、然らば、かくのごとき形において占領から免かれたという日本は、そこからどこへ行くのでありましようか。フライパンの熱に堪えないで、そこから飛び出して火に飛び込むのではないか。現に、民主主義連合諸国の共同占領の下にあつた日本には、その空からの爆撃の不安はなかつたではありませんか。然るに、この両條約によつてその占領が終つたあとに、吉田首相御自身が一昨日の本院の條約委員会において原子爆撃を受ける危險の想定を認めなければならなかつたではありませんか。(拍手、「そうだ「「心配ない」と呼ぶ者あり)そうして、この両條約の起草者ダレス氏自身によつて、数日前の報道によれば、我が国民と世界の平和との希望であつた我が貴重なる日本国憲法を無視し、日本の再軍備態勢を待つて、これに武器を貸與しようという申込がなされるであろうと伝えられておるではありませんか。(「仮設だ」「道聽途説だ」と呼ぶ者あり)  今提案せられているいわゆる平和と安全との両條約が、その名のほかに真実において何を意味するものであるか。国民の中には、或いは未だその真実を知らない人々があるのかも知れません。(「妄想を言うな」と呼ぶ者あり)併しこの無智を利用することも、それに追随することも、許さるベきことではありません。(「何を言うか」と呼ぶ者あり)分れたる家は立たないというが、分れたる世界戰争に行くのであります。(「それとは限らん」と呼ぶ者あり)この両條約は国際世界の対立を緩和しようとしておりますか。それとも、この国際対立を激化しようとしておりますか。この点のみを以てしてもすべては明らかであります。占領下の苦痛の下にあつたとは言え、そのとき、日本国際対立の原因ではなかつたのであります。然るに、この両條約を我々が承諾するならば、我々は日本を米ソ対立の一原因とし、日本をアメリカと中共中国との対立の激化の一原因とし、台湾問題の解決如何によつては、中共中国の承認をめぐつてアメリカとイギリスとの間にさえ拭うことのできない禍根を生ぜしめる原因に、日本をして責任あらしめることになるのであります。(拍手)さればこそ、サンフランシスコにおいて、イギリス初め西欧諸国の賛成は、その内心の深い失望を隠すことができなかつたではありませんか。さればこそ、日本に最も深い運命関係あるアジアの重要な国々は、この会議に参加し得なかつたのではありませんか。日本国際的対立の激化の原因たらしめ、従つて日本独立を不可能ならしめることは、アジアの不幸であるとして、インドは最後まで会議参加を受諾せずして、日本とアメリカとの反省を求め、今なお、台湾の中共中国への返還と、中共中国の国連参加承認を要請しておるではありませんか。政治形態の選択は各国民の自由であり、政治形態を異にする国々の間の対立の激化ではなく、その緩和、協調こそが、世界平和の至上命令であり、日本国憲法が嚴として我々に命令しておるところであります。(拍手)  諸君、日本国憲法の下に立つ我が国会議員のおのおの一票は、今いずれの方向に投ぜられようとしておるのでありましようか。(「新制中学に行つてやれよ」と呼ぶ者あり)国際対立の激化の方向にか。国際対立の緩和の方向へでありますか。諸君は、政治家として、政治的判断を主とするのか。軍事的判断を主とするのか。軍人が軍事的判断を主とするのはその職業であります。軍事的判断を主とするならば、中立ということは如何にも成り立ちません。併し、ダレス氏自身、その著「戰争か平和か」の中に特に一章を設けて、アメリカにおいて軍事的判断が政治的判断を圧倒した場合を指摘し、その原因を警戒し、且つダレス氏自身が、ソヴイエト同盟においては、軍事的判断が政治的判断に優越したことが曾つてなかつたし、又あり得ないことを、指摘していたではありませんか。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)而もそのダレス氏自身さえもが、その後、軍事的判断の優越の下に駆使されるに至つているではありませんか。(「馬鹿言うな」と呼ぶ者あり)イギリス自由主義、いな、世界の自由主義の牙城と言われて来たマンチエスター・ガーデイアンが、この九月十日に(笑声)対日平和條約について、特にその第六條(a)項但書及びこれによる日米安全保障條約について、米国国務省はこれらを急いで決定することに反対し、ダレス氏自身も、これらを余り好ましくない、リトル・テーストという感じを抱いておつたが、併し、ペンタゴン・ウオンテツド・イツト、国防省がこれを要求したと報道しているではありませんか。(「真実だ」「マンチエスター・ガーデイアンを知らんか」と呼ぶ者あり)アメリカにおける軍事的判断の優越のために、今日イギリスさえもその独立の立場が危くされていることが嘆かれているのではありませんか。軍事的判断が優越するならば、民主主義は崩されざるを得ません。我が日本国憲法は、唯一の目的として平和を、唯一の方法として平和的方法を、我々に向つて命じているのであります。然るに、今や平和條約及び日米安全保障條約を手にして、日本指導者たちの間に、あらゆる国際及び国内の重大問題を日本に駐留する米軍戰力によつて解決するのであるかのごとき錯覚に陷り、最も嚴かに、戰争を禁ずる憲法の下にありながら、公然再軍備主張し実行しようとしている人々がないでありましようか。(「あるぞ」「君が錯覚にとらわれているのだ」と呼ぶ者あり)  国民の切望してやまないのは名ではありません。実であります。(「その通り」と呼ぶ者あり)「ばら」の花は、如何なるほかの名を以て呼ばれようとも、美しい薫りを放つ。然るに、それとは反対に、この平和條約及び日米安全保障の両條約は、平和の名を以て呼ばれているけれども、戰争の臭いがするではありませんか。(「羽仁先生、今日はできが惡いね」と呼ぶ者あり)日本国民世界、なかんずくアジアの良心が切望し、エジプトさえも希望したのは、日本の真実の独立であるのに、日本独立の名を與えるこれらの両條約により、日本はアメリカに偏向的に依存することとなるではありませんか。国民は、これらの両條約が、名称の上においてだけの占領の終結であつて、現実においては新らしい形式における占領の継続を意味することを知つたならば、満足するでありましようか。新らしい形式における占領の継続とは、世界の良心を代表すると認められて来たマンチエスター・ガーデイアンが、この両條約の内容を指摘した結論であつたのでおります。(「そんなことは独断だよ」と呼ぶ者あり)  名のみのこの平和條約は、真実の平和條約に対する最大の障害をなすものではありませんか。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)諸君のすべてが真実の平和條約としては全面講和が理想であると言い、ただ、それが今直ちにできないから、先ず多数講和を結んで、そこから全面講和への努力を続けると言う。(「それでいいじやないか」と呼ぶ者あり)果してそうか。今ここにある多数講和は、日本の問題について決定的の関心に立つのではない多数の国々の賛成を得たけれども、日本と切つても切れない運命の繋がりを持つ日本の直接の近隣たる中国、又ソヴイエト同盟との間の講和の可能性を、全く断ち切るものではありませんか。現に、そのために、この平和條約の多くの條項が明白なる空文と化していることが、この平和條約全体が死文であり、この死文を固執する限り、この死文ほど、日本にとつての真実の平和、全面講和への道を塞ぐものはないことを、何よりも直接に証明しているではありませんか。領土の問題においても、賠償の問題においても、日本にとつて主要の産業である漁業の問題においても、この平和條約におけるこれらの條項は、空文であり、死文であつて国民の不安を解消し得ないのみならず、ややもすれば、これらの空文は、最も悲しむベき新たなる紛争の原因として、挑発的意図によつて利用されようとさえしているのではありませんか。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)占領下の状態は如何にも我々の最も苦痛とするところであるけれども、而も民主主義連合諸国のコントロールの下にあつた日本には、そこから真実の平和、全面講和への道が開かれていたのであります。然るに今、名のみの平和と(「妄想だよ」と呼ぶ者あり)独立との、この両條約により、現実にアメリカの戰略的判断に依存する日本に対しては、中共中国及びソ同盟との平和の扉は閉ざされるのであります。ダレス氏自身、中ソの参加がなくても(「うるさい」と呼ぶ者あり)対日講和を決定するという方針に立つたとき、全面講和への扉を閉ざしたのみならず、日本国連参加への道をも閉ざしたのであります。(拍手、「冗談じやない」と呼ぶ者あり)いな、中共中国及びソ同盟が対日講和に参加することのできる扉を閉ざすべきではない、ドアは最後まで開かれてあるべきであるとしたイギリスの対日講和の根本方針さえも、隊に踏みにじられているではありませんか。そうして、アメリカの戰略的判断が日本を支配し、従つて日本が、この両條約に必然的に引続く次の一歩において、現在の中国の民衆の選択した正式の政府としてイギリスもすでに承認した北京政府を無視するならば、日本はイギリスをしてアジアにおいて独立の立場と誠実とを失わしめる原因とさえなり、かくて、日本は、日本自身、延いてアジア、延いて西欧においてまで、アメリカの戰略的判断が政治的判断を乘り越えて支配する一つの足場を提供する責任を逃れることはできないのであります。(「共産党の代弁者」と呼ぶ者あり)  この道はいつか来た道。(笑声)日本国民の中に、最近、この感を抱いている者が少くないことに諸君は気付いているでしよう。(拍手)そこまで行けば、もう、そこから帰ることのできない一点というものがあります。(「あなたの歩む道」「地獄への道だ」と呼ぶ者あり)そうして、その一点に到達するならば、その次の一歩は一歩より、ただ悲劇的になるのみであります。政治家が最も鋭敏に民衆に先立つて気付かなければならないのは、最初の一歩をいずれの方向に踏み出すかにある。先へ行つてからではもう戻れないのであります。大正の末年に治安維持法を制定した議会自身、これが、その後、日本のあらゆる言論、集会、結社の自由、あらゆる政治的自由、いな、議会そのものが踏みにじられるようになる第一歩となるとは考えなかつたのであります。極東平和のためにと言つて日本は極東に侵略を強行したのであります。(「ソヴイエトのためだろう」と呼ぶ者あり)米英を鬼畜と呼んだ人々が、今日、日本運命をアメリカの手に委ねようとしているのではありませんか。(拍手)、「そういう人々じやない」「あなたは中国のためだろう、ソヴイエトのためだろう」「議長、木村をつまみ出せよ」「やめ給え」「よく聞け」「酔つばらいみたいだ」「うるさいぞ」と呼ぶ者あり)
  25. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 静粛に願います。    〔「そういうことを言うなら又問題になるぞ」「木村さん下品ですよ」「みつともねえぞ」「もつと気のきいたことをやれ」「傍聴人席に上れ」「なんだその野次は」「馬鹿の一つ覚えみたいにいつでも同じことを」「休め休め」「妨害だ、そんな野次は」「もう時間がなくなるよ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕
  26. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君(続) 国民世界とを欺くことをやめ給え。(「誰だそれは」と呼ぶ者あり)諸君、現在の国会は、いずれの(「それは誰だ」と呼ぶ者あり)方向に今最初の一声を踏み出すのであるか。(「出ろ」と呼ぶ者あり)
  27. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 静粛に願います。(「妨害だ、妨害だ」と呼ぶ者あり)静粛に願います。(「場所が惡いんだ、場所が」「傍聴席に行け」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し、議場騒然)靜粛に願います。各員着席を願います。各員着席を願います。(「着席しろ、着席しろ」と呼ぶ者あり)着席を願います。(「議長公平」と呼ぶ者あり)諸君に申上げます。議長の許可なき発言はお控えを願います。(「異議なし」と呼ぶ者あり)
  28. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君(続) 国会がひとたびこの両條約を承認するならば、政府は次に何を国会に求めようとしていますか。曰く団体等規正法案、曰く主要食糧統制撤廃、貧乏人は麦を食え、金のない者は何も食うな、不満があれば警察を以て取締る、(「條約論をやれ」と呼ぶ者あり)学校校食も、六三制も、労働基準法も、貧乏な日本国民には贅沢だという考え方は、(拍手警察予備隊の拡充や特審庁とかいうものを設置するには金を出そうという考え方と表裏一体をなしている実に残酷な考え方であります。(拍手)  今月の十五日の読売新聞さえもが、保守的な立場に立つ読売新聞さえも、その社説で何と言つていますか。「最近見られる日本の社会風景には、新憲法を制定して起ち立つた数年前の革新気分とはおよそ縁のない恐ろしい逆もどりの珍現象があり、それがもし社会人に何の驚きも與えずに展開しているとしたら悲惨である。」「終戰後のわれわれは、官僚政治や警察政治に戰慄を感じるものである。もし、このような政治が、民衆の従順に乘じ、逆コースをたどるならば(既にそうした兆が到るところに見られるが)民主主義の仮面とその偽善をいさぎよく棄て去るべきである」。(「そうだそうだ」「而も読売だぞ」と呼ぶ者あり)日本が警察国家に陷りつつあるという我々の警告に対し、吉田首相や大橋法務総裁は否定を続けておられるが、吉田首相御自身が、曾つての日に、日本の憲兵隊の組織を目の前に見つつ、これが最後にあなた御自身の人権をも踏みにじるものとなることに、ただお元気が付かれなかつただけであつたことは、事実がこれを証明しているのではありませんか。(笑声)大橋法務総裁が、今日、将来彼自身の身に振りかかる繩と知りつつ警察組織の拡充に專念しているものでないことは、私は確信をしますが、(「怪しいぞ」と呼ぶ者あり、笑声)最も恐るべ問題は、日本を再びそのような状態に導く第一歩にあります。(「しんとしたな」と呼ぶ者あり)  昔の選挙演説や政見発表、その他の講演会などには、大抵臨官席とかいうものが付きものであつた。(「現在はないぞ」と呼ぶ者あり)その臨官席から声が飛んだら、もうおしまいである。(「現在はありません」と呼ぶ者あり)ちよつとしたことで「弁士注意」と来る。それが二、三度やられると「弁士中止」と来る。大抵最後は強制解散である。(「條約の討論だよ」と呼ぶ者あり)「警察隊長、警察長などは、集会などが、法の規定違反したときは、警告し、制止し、止むを得ぬ場合は解散を命ずることができる。」ちよつと見ると昔の臨官席時代のようであるが、これは近くできるかも知れない法律なのであります。法務府では、団体等規正法やゼネスト禁止法と並んで集団示威取締法なるものを作ろうとしている。(「予備審査じやないぞ、ここは」と呼ぶ者あり)これはその原案の一節であります。「警察官は秩序維持のため集会等に立入ることができる。」こういう大問題がすでに出ておるのであります。よほどうまくやらない限りは、警察国家の復活になつてしまうのであります。警察官の主観で一切が決定されることになるからであります。憲法に明示された集会の自由の完全な蹂躪になる慮れがあるのであります。こういう虞れのあるものを現在の政府は作ろうとしておるのであります。公開の集会は公安委員に届出なければならないという、但し気勢を張る行為を伴わないものはこの限りではないというのだが、この気勢を張るという解釈は頗るむずかしい。気勢を張るつもりはなくとも気勢を張つたと認められたら、それでおしまいであります。  国民は国会議員に向つて、何よりも政治家としての節操を期待しているのであります。客観情勢の変化で軍備を強行し、客観情勢の変化で戰争を仕かけ、客観情勢の変化で敗けてしまい、(笑声)客観情勢の変化で戰争放棄を宣言し、(「眼鏡をどうした」と呼ぶ者あり)客観情勢の変化で自衛権のための戰備を唱え、客観情勢の変化で再軍備主張する。このような無節操の上にどうして真実の平和條約が成り立つでありましよう。(拍手)(「そうだ」「客観情勢の変化で共産党に同調する」と呼ぶ者あり)確信のない政府は秘密主義に立てこもる。諸君は、再び、どこへ行くかわからない汽車に国民を乘せようとしている。(「君は戰争中何をしていた」と呼ぶ者あり)「たれがため流れし血潮ぞ何がためただ白骨はカラカラと鳴る」、「人知るやテニアン島の谷うずむ恨露に朽ちるはらからの骨」、これは「テニアン」という書物を書いた元の海軍士官の歌であります。(笑声)この本で見るだけでも、(「何を笑うか」と呼ぶ者あり)幾千人の子供や、老人や、母親や、若者たちが、あちらの洞穴、こちらの岩蔭に白骨と化してころがつているかがわかります。(「そのどこがおかしい、戰争で死んだのがおかしいのか」「不謹愼だぞ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)
  29. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 静粛に願います。    〔「謹んでやれよ」と呼ぶ者あり〕
  30. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君(続) 「首をつつたままの白骨も熱風に揺れている」と書かれているではありませんか。長崎医大の後藤教授の手紙によれば、東部ニユーギニアの、鳥獣以外は訪れるものもない暗い密林の草むらに、鉛筆の赤り書きで名前を記された丸木の墓標がたくさん埋もれているはずだという。新潟の杏雲堂の小林医師の手紙にも、干潮満潮の差の激しい河中に投ぜられた死体が、朝には上流に、夕には下流にと、行きつ戻りつしながら骨と化して行く樣が涙で綴られている。  すでに、政府は講和発効後の自衛措置として防空計画を考えていると言います。諸君の誰しもが、防空演習という声を聞いただけでも、いやだなあという感に打たれない人がありますか。この平和條約によるこの日米安全保障條約のうしろに、白紙委任状的に国会に要求されている行政協定によつて法律又予算を必要こするときは、政府はこれを国会に提出すると言つておりますが、これは軍事的法律、軍事予算であることは間違いありません。(「出すのか」「出すぞ」「出したほうがいいのか」「どつちがいいのだ」「議長、整理しろ」「そんなこと聞いておられないよ、ばからしくて」「靜粛々々」と呼ぶ者あり、笑声)諸君は、曾つてこの議場に軍事予算に反対して迫害された議員の運命を、今日において諸君自身の上に準備しようとしているのでありますか。(「違うぞ」と呼ぶ者あり)諸君は、政治家として、常に政治的判断の上に立つのか、軍事的判断に届従するのか。この両條約が軍事的判断に従つていることはすでに明らかであります。(「違う」と呼ぶ者あり)政治的判断の上に、軍事的判断、戰略的見地が優越したのちは、言論、集会、結社の自由、政治的自由は蹂躪されざるを得ないのであります。(拍手)軍事的判断による條約を受諾し、従つてアメリカに戰略第一主義を勝利させ、日本に戰略主義、軍国主覇者の復活を可能ならしめ、従つて日本に旧治安維持法的体系及び警察国家を復活させる者は、次の国際法廷の審判の前に戰慄すべき運命をみずから準備するものではないか。戰争犠牲者及び戰争責任の故に裁かれた人々を慰める最高方法は、日本を再び戰争の方向に立たせないことではありませんか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)、拍手)街頭に戰傷者が鉄の手を振つて、諸君の体をこのようにするなと叫んでいたではありませんか。アメリカ国民に対する我々の感謝は、日本が中ソと対立することによつて表現せらるべきものではありません。(「然り」と呼ぶ者あり)アメリカ国民に対する我々の感謝は、日本憲法民主主義とを覆えすことによつて表現さるべきでもありません。(「汝らのうち、誰かその子ハンを求めんに石を與え、魚を求めんに蛇を與えんや」とマタイ伝第七章に記されている。日本国民の求めているものは、真実の独立の地位に立つことであつて、事実上の保護国の地位に陷ることではありません。(「そうだ」と呼ぶ者あり)日本国民の求めているものは、占領の終結であつて、新たなる形式におけるその継続ではありません。日本国民の求めているものは、国際対立の緩和による平和の方向であつて国際対立の激化による戰争の方向ではありません。(「然り」と呼ぶ者あり)今日、世界の平和のためになさるべき最善の方法は、アメリカの軍隊とソ同盟の軍隊とを相互にできるだけ遠く離して置くことにあります。日本国民の求めている真実の国家の安全は社会保障にあるのであつて外国軍による保障ではありません。(拍手日本には真空状態はありません。日本には日本国民がおります。(「その通り」と呼ぶ者あり、笑声、拍手日本国民大衆と信頼関係において繋がれていない人だけが日本真空状態を感ずるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)これは平和のための條約ではありません。(「真空とは何か知つているか」と呼ぶ者あり)その故に私はこれに反対いたします。これに賛成するよりも本質的に遥かに重要な、併し喜ばしい責任を以て、真実の平和條約を作り出すために、諸君、我々の手を清くして置くべきであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)     ―――――――――――――
  31. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 木内四郎君。    〔木内四郎君登壇、拍手
  32. 木内四郎

    ○木内四郎君 私は国民民主党を代表いたしまして、只今議題になつておりまする両條約の承認に、以下数個の要望を附しまして賛成の意を表するものであります。(拍手)  国民は過去六年間、非常にこの講和の日を待望しておりました。(「その通り」と呼ぶ者あり)私どももこの国会によりまして、自主権のない政治の悲哀をつくつく身を以て味わつて参つたのであります。今日ここに講和條約が締結されましたのを私どもは非常に喜んでおる。国民の大多数も私は非常に喜んでおると思うのです。併しながらこの條約は非常に多くの大きな問題を未解決の状態に置いている。殊に、連合国全部との調印を得るに至らなかつた、即ち全面講和であり得なかつたという点は、確かに一つの欠点であると私は思うのです。この結果として、国民は、非調印国或いは非参加国との関係がどうなるだろうか、これらの諸国との関係が或いは惡くなつて行くことはないだろうか、こういうような状態で講和條約を締結したけれども、これによつて日本の自立が可能であるだろうか、或いは経済の回復と再建というものを阻害するようなことはないだろうか、というような点について、いろいろ心配しておると思うのです。勿論、全面講和は我々も理想といたしたところであります。併しながら、客観情勢がどうしても許さぬというならば、又、客観情勢が許さないときに、この可能な諸国との多数講和をも妨げて、従つて独立を徒らに遅延させるような、この非現実的の考え方には、私どもは賛成することはできない。(拍手)併しながら、さればと言つて、非調印国、非参加国との平和善隣友好関係を妨げて、いつまでもこのままにして置くということは、私どもこれを承認することはできません。この点について政府のこの友好関係打開促進に対する積極的の施策と所信を聞くことができなかつたのは、私ども非常に遺憾でありまするけれども、我々はこの多数国との條約を基礎といたしまして、できるだけ速かに、この非調印国、非参加国との平和を打開促進して行かなければならんと思うのです。この点については朝野を挙げて努力しなければならんと思いますが、殊に責任の立場にある政府におきましては、この点に最善の努力を盡されることを強く要望いたしたいと思います。  今回の條約は和解信頼の條約と言われておる。勿論いろいろな制限規定もありませんし、戰争の責任等にも言及しておりません。監督の規定もありません。従つて、そういう意味において、確かに私は和解信頼の條約と言い得ると思うのでありまするが、この各條章をつぶさに追つて見て参りますると、その間には、敗戰国として避くベからざることではありまするけれども、この敗戰国の立場が、又敗戰国としての重い負担が、各條文の間に滲み出ておる。又、私どもとして納得のできない点が、又承服のできない点が相当あるのです。先ほど来、しばしば繰返されておりまするけれども先ず條約に関する條項をとつて見ましても、我々はポツダム宣言は確かに受諾いたしました。併し、同時に、カイロ宣言大西洋憲章精神によつて、我々は、歴史的民族的に我々の領土であつたものはこれを保持し続けることができるという希望を持つておりました。この希望を持つことは決して不当ではなかつたろうと思うのであります。然るにもかかわらず、千島、南樺太はこの主権を放棄させられた。私はこれは決して世界の平和を、促進するゆえんではないと思うのであります。こういうやり方で世界の平和を希求することは誤まりであると思う。私どもは飽くまでこの失地の回復を叫ばなければならんと思うのであります。ヤルタの秘密協定というようなものは、私どもはその効力を飽くまで認めることはできません。ダレス氏の書簡として新聞に発表されるところによれば、千島、南樺太に対する主権は、日本は放棄したけれども、ソ連に帰属させたものではない、ソ連はこれに対して発言権を持たぬということを言つておる。(「その通り」と呼ぶ者あり)一方において我々は放棄したけれども、帰属する所がないとすれば、先ず元の権利者であるところの我が国がこれを主張し、この回復を強く叫び、且つその実現を期すべきであると思うのです。(拍手)この点につきましても、朝野を挙げて、殊に政府の最善の努力を切望してやみません。歯舞色丹島については申すまでもありません。又、北緯二十九度以南の島興につきましては、政府説明によりますというと、或いは憲法は施行されないというようなことを言われたこともありますし、潜在主権とか、眠れる主権とか、いろいろな説明がありました。私どもば政府説明を聞きますと、誠に昏迷の状態に陷るような点があるのでありますが、私どもは、かねて、安全保障條約が締結されて、米軍の駐留を認めることになつた以上は、信託統治の必要はないだろうということを主張しております。或いはアメリカ政府も、すでに信託統治提案が必要ないのじやないかとさえ考えておるのでないかとも思われる点もないではないのであります。政府説明によりまするというと、アメリカの代表は、主権日本にあるということを言つておるということでありますので、そういう点を基礎として、飽くまで主権の保持、眠れる主権ではなくて、本当の意味主権の保持に向つて努力せられんことを特に要望しておきたいと思うのです。  安全に関する條項につきましては我が党は、つとに、国連への加入と集団安全保障條約の締結、それから、その基底をなすところの自衛力の強化確立ということを主張して参りました。今回の條約の第五條、第六條に、その趣旨がすでに規定されております。我我は、これを基礎として、成るべく速かにみずからを守り得るところの体制を整備するように努力しなければならないと思うのであります。      更に、未帰還者の帰還促進の問題でありまするが、これは幸いにして国民の悲願が容れられまして規定が挿入されました。併しこれは若し実際の効力を收めなければ一片の空文に終ります。この点につきましては、責任の局にあるところの政府において最善の努力をして、一日も速かに在外抑留者の帰還を促進されんことを切に要望する次第であります。  更に、この政治経済條項について見ましても、そのうちには過去の諸條約に基いたところのいろいろな権益を放棄すべき旨が規定されております。又、一、二の場合におきましては、通商上の均等待遇の放棄さえも規定されておるのは、我々としては誠に遺憾に堪えないのであります。併しながら、その政治経済條項におきまして、原則として国内政治経済及び対外的の経済活動の自主性と平等の原則が認められております。又、相互主義によるところの内国民の待遇の許與或いは最惠国待遇というものを基礎にして、通商関係を発展させて行くことができることになつております。これらの点につきましても、政府から十分の説明を聞くことができませんことを非常に遺憾といたしますが、我が国としては、これを基礎として通商関係を促進して、そうして国運の進展を図つて行かなければならないと思うのであります。併しながら、一面におきまして、この四つの島に八千万の人口が閉じ込められ、そうして、條約の前文にもありまするように、国連憲章第五十五條、第五十六條に示されておるところの生活水準の向上或いは完全雇用というような福利安定の條件を創造し、且つ推進して行かなければならない。これは実際問題として非常に困難なことであろうと思う。この点につきましては、飽くまでも、政府の施策よろしきを得ると共に、国民も一段の努力をしなければ、その実現を期することはできないと思うのであります。  更に請求権財産に関する規定でありますが、この点につきましては、我我は、当初、賠償がないだろうということを期待しておつた。然るに役務賠償ではありますが賠償をしなければならんという規定が挿入された。而も、その程度方法等は今後の関係国との協定に待つという未確定の状態に置かれ、国民は非常な失望と不安を持つたのであります。又、これがために、厖大なる在外財産我が国経済発展の基礎であるところの在外財産が沒收され、留置、清算され、殊に又国際條約において先例のないところの在中立国財産まで引渡さなければならん、こういうことが規定されておることは誠に遺憾であります。又、更に、私有財産の尊重の精神を條約の上に現わしてなく、私有財産国家賠償に充てたが、これに対する補償その他、私有財産を尊重する意味規定が條約に欠如しておる。勿論、賠償の問題につきましては、他の戰争犠牲者或いは戰補の打切りというような、そういう関係考えなければならんでしよう。或いは又国家の財政状態その他も考えなければなりませんから、勿論愼重に取扱わなければなりませんけれども、とにかく私有財産を尊重する趣旨規定が現われておらんという点は誠に遺憾であります。この点につきましては、勿論、政府において国内措置として善処するということでありまするからして、私どもはそれに信頼しまして、その善処を強く要望しておきたいと思うのであります。この請求権財産に関する條項によりまして、先ほども申しましたように、我が国在外財産、厖大なものが沒收されて、経済の基盤というものが非常に狹められておる、それに加うるに、連合国財産に対しては補償しなければならぬ、対日援助を受けたそれも返さなければならぬ、或いは又賠償の支拂をしなければならぬ、外債の元利も拂わなければならぬ、我が国の財政上、経済上の非常に重い負担が、この請求権財産條項の中に規定されておる。これに対する措置を一歩誤まりましたならば、ただでさえ非常に重い、そうして経済の回復再建を阻害しておるところのこの国民の負担というものを、一層加重して行くようになり、或いはインフレを高進させるようになり、経済回復再建を阻害するのみならず、国民経済の根本を非常に危殆に瀕させるところの虞れがある。これらの点について、政府の愼重なる、誤まりのないところの施策を切に要望しておきたいと思うのであります。  更に安全保障條約について一言したいと思うのでありますが、安全保障條約の考え方、構想に対しては、現在の段階におきましては我々はこれを承認するものであります。その目的は戰争になくて平和であるということも、私どもはこれを認めるものでありまするが、併し、この極めて簡單軍な條約でありますが、これに対して国民は非常な不安を持つておる、この條約によつて一方のほうにくみして対立を激化するようなことはないだろうか、或いは、目的は戰争ではないけれども、戰禍をこうむることはないだろうか、自分たちの知らないでいる間に戰争に捲き込まれるような危險はないだろうか、或いはこれに伴つて非常に重い負担が更に続いて行くようなことはないだろうか、この條約の規定によつて安全が保障されて行くだろうかどうか、或いは又これが半永久的に続いて行く、自分たちのほうでやめたいと思つてもやめることができないで半永久的に続いて行くというような虞れはないだろうか、(「十分あるじやないか」と呼ぶ者あり)或いは又先ほど来も言われましたように、白紙の委任状をとつて何をされるかわからんというような心配をする人もあるのでありまするが、これらの諸点について政府説明は必ずしもすべて我々を満足させるものでなかつたのでありまするが、(「その通りです」と呼ぶ者あり)政府は、行政協定等につきましては、国民の権利義務に関するもの或いは予算に関するものはこれを国会に提出して承認を求めると言うのであります。若し国会においてこれを承認しなければ、その限りにおいてそれは施行されない、実際問題として施行することができないと言うのであります。これは私は当然であると思う。が併し、国民のいろいろ不安を持つておる点につきましては、政府において十分この不安を解消するに努めなければならんと思う。そうして米軍の駐留によつて安全保障の目的を達するためには、国民の深い理解と協力が必要だと思う。この点についても政府において特に一段の努力をせられることが必要であると思うのであります。併し、私どもは、いつまでも外国軍隊によつて自国の防衛をする、外国軍隊に依存をいつまでもするということはできません。みずからを守り、自己の力によつて自国の防衛、即ち自衛に当り得る態勢を速かに整えて、そうして真の独立を成るべく早く、一日も速かに達成することが必要であると思うのです。これがためには政府において一段の努力をされると共に、国民もこの際奮起をすることが必要でありまするので、政府努力国民の奮起を要望いたしまして、私はこの両條約に賛成をするものであります。(拍手)     ―――――――――――――
  33. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 堀眞琴君。    〔堀眞琴君登壇、拍手
  34. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 私は労農党を代表いたしまして、平和條約並びに日米安全保障條約の承認を求めるの件に関しまして反対を表明いたすものであります。  先ず第一の反対の理由は、この二つの條約が日本アジアから孤立させるところの條約であるということであります。(「そう」と呼ぶ者あり)御承知のように、中国はこの條約に調印すべきサンフランシスコ会議に招請を受けなかつたのであります。中国と申せば、言うまでもなく、日本とは、歴史的にも、経済的にも、文化的にも、極めて密接な関係を持つておつた国であり、    〔議長退席、副議長着席〕  今後も又、この中国との密接なる関係を持たずして、日本経済の再建も又日本の文化の向上も考えられないのであります。而もこの中国は、日本侵略戰争に対しましては、最も長い期間、最大の犠牲を拂つてつて参つたところの国であります。その中国を講和條約の調印会議に参加せしめなかつたということは、イギリスの代表がその会議の演説において述べておりまするように、最大の痛恨事と申さなければなりません。(「そうだ」と呼ぶ者あり)中国には今日二つの政権がある。その二つの政権のいずれを、代表する政権として認めるかということについて、国際間に意見の一致がない。(「その通り」と呼ぶ者あり)そのために中国を招請しなかつたのだ。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)こう説明しております。併しながら、中国には、中国の国民の選んだ政権が嚴として存在しております。(「その通りだ」「蒋介石政権がある」と呼ぶ者あり)四億数千万の人口によつて支持されておる政権はどの政権でありましよう。台湾の政権は或いは又亡命政権を主張することができるかも知れません。(「わからんじやないか」と呼ぶ者あり)併しながら、亡命政権というものが、どのようなもので、どのような国際的な地位を持つかということについては、すでに第一次大戰並びに第二次大戰の際における連合国間の相談によつてきまつております。即ちその国の大多数の国民によつて支持されている政権ならば、よしんば、その本国を追われようとも、それは正統の政権である(「そうだ」と呼ぶ者あり)ということが認められておるのであります。(「そうだとは、まだきまつていない」と呼ぶ者あり)今日台湾の政権が、先ほど申上げましたように、中国四億数千万の人口によつては支持されてはおらんのであります。これを我々は十分認識しなければならん。中国の政権、中国の国民を代表する政権は、これは中共の政権であります。(「中共の政権は暴力によつてできたものだ」と呼ぶ者あり)中国の正しい政権を招請せずして作られた(「おかしなことを言うな」と呼ぶ者あり)この條約が、我々の善隣関係、今後の友好関係に至大な影響を持つことは言うまでもありません。インドやビルマが今度のサンフランシスコ会議に参加しなかつた理由の一番大きなものが、この中国政権の代表を招請しなかつたということにあるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)ソ連が代表者を送りながら、この平和條約に調印しなかつたのも、中国招請をしなかつたことに基くことは申上げるまでもないのであります。(「冗談じやない、中共と戦争していない」と呼ぶ者あり)而もインドは、これ又米英草案に対しまして対米覚書を発表しているのでありまするが、その中において、日本に名誉ある地位と平等の国際的な立場を與えようということを前提にし、特に中国の不参加に対しましては非常な不満を表明しながら、平和條約の各條項について鋭い批判を與えておるの一であります。インドは恐らくこの講和の発効のときにおいて戦争状態の終結を宣言するかも知れません。そのように我が政府に対しましても公式の通告を出しているということであります。併しながら、日本との講和の見通しは、今日の段階においては何ら付いておらんのであります。ビルマについても同樣であります。即ち日本は、アジアの一国でありながら、アジアにおいてその八割の人口を占めるところの中国、インド、ビルマなどと絶縁されまして、全く今後の国際関係、特にアジア関係において孤立化させられる結果となるのであります。だからして、イギリスのロンドン・タイムスも、アジアの諸国との提携の機会が失われるならば、よしんば五十カ国の国々によつて調印されようとも、その会議は失敗であるということを申しておるではありませんか。(「そうだ」「ノーノー」「何がノーだ」と呼ぶ者あり)  第二に、この二つの條約は日本を新たな国際的従属関係に置くところの條約であるということであります。今度の平和條約によりまして、いわゆる信託統治地域が設定されることになつております。この信託統治地域におきましては、日本主権は残存するということが言われております。併しながら実際には果してそうであろうか。国際連合憲章によりまするというと、いわゆる信託統治地域として設定せられるところのものは、敵国の領土の一部として取られるものでありまして、いわゆるそれは実質上においては日本主権はそこには及ばない地域として設定されるのであります。従つて主権が残存するの、主権が或いは眠れるのと申しましても、それらの主権は何ら実質的な効力を持ち得ないということは明らかであると申さなければなりません。  なお又、日米安全保障條約が締結されるのであります。この條約は、形式的には主権平等の立場において結ばれたと言われております。併しながらその條約の締結せられるに至つたところのいきさつや、或いは又この條約の内容として規定されているところのもの、或いは又更に国際政治的な面から見まするならば、決して主権対等の立場において締結された條約ではありません。これは平等條約であります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)日本が或る強国の下に、いわば保護を求める形において結ばれるところの條約であります。  曾つて衆議院の條約委員会、並びにそれの本会議におきまして我が党の黒田君は、日韓議定書並びに日清議定書を引用して、日米安全保障條約は、曾つて日本が朝鮮に或いは満洲に帝国主義的な侵略を企てるに際して結んだ、あの二つの條約とどこが違うかということを引用せられておるのでありまするが、私は更にこの種の條約を、例えば最近問題を起しておりまするところのイギリスとエジプトとの條約においてこれを見ることができると思うのであります。一九三六年イギリスがスエズ地域を保護するという名目において軍隊を駐屯せしめるところの條約を結んだ。全く日本の今日結ぼうとするところの安全保障條約とその性質を同じくしているのであります。(「違う」と呼ぶ者あり)而もその條項内容について見まするというと、日米安全保障條約においては、我が国内にアメリカの軍隊の駐留を許し、その軍隊の出動に際しましては日本はあらゆる便益を與える、出動の対象といたしましては、日本国に対する外国からの武力的攻撃は勿論のこと、日本国内の大規模な内乱騒擾に対してまでこれが出動を許すという規定になつているのであります。(「あたりまえじやないか」と呼ぶ者あり)日本の国は日本の国においてこれを守るべきであります。ところが、外国軍隊によつて日本外国からの攻撃はともかくといたしまして、国内の内乱騒擾までをもこれを用いるということに至りましては、私は果して日本独立がどこにあるかということを申さなければなりません。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)それはアメリカの占領状態を講和後にも継続するものであると申したイギリスのニユー・ステーツマンの批評は当つているではありませんか。  而も今日眼を転じて見るならば、アジアの諸国には独立を達成しようとするところの民族運動が澎湃として起つているではありませんか。逸早く独立を完成した中国、インド、ビルマ、インドネシア、今又完全なる独立を獲得しようとして民族運動を起しているところのインドシナ、或いは又帝国主義的な勢力を排除しようとするところのイラン、ヨルダン、エジプト、(「朝鮮」と呼ぶ者あり)これらの国々の、この澎湃として起つてつておりまするところの民族運動は何を意味しておりましよう。ところが終戰後六年、敗戰のためにあらゆる苦難の底に置かれたとは申しながら、日本がこれらの国々とは反対に、みずからを帝国主義的な支配下に隷属せしめようとしておるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)我我は我々の子孫に対して何の面目あつてまみえることができるでありましよう。我々は民族の恥辱としてこれを排撃しなければならんのであります。(「そうだ」「独断」「色眼鏡」「何が独断だ」と呼ぶ者あり)  次に、この二つの條約は、国際的対立を激化し、日本を戦争に巻き込む危險が極めて大であるということを申上げなければなりません。(「その必要はありません」と呼ぶ者あり)御承知のように今日二つ世界が対立しております。第二次大戰中並びに大戰後の国際連合を創設するときに当りまして示されましたところの大国間の協調は、今日はすでに失われようとして、いや失われております。なぜ失われたか。諸君の中には、一方は社会主義の国であり、他方は資本主義の国である、即ちイデオロギーの違いが今日の大国間の協調を破つた主たる原因だと言われるかも知れません。(「そんなことはない」「アジア日本である」と呼ぶ者あり)併しながら、單にイデオロギーの違いが大国間の協調を破つたのではありません。大国間の協調を破つたのは、むしろ終戦後の社会情勢の変化であります。いわゆる、今日、世界の各国において社会主義の勢力が伸張いたしております。(「退きつつある」と呼ぶ者あり)この社会主義の伸張しつつある勢力に対しまして、これを封じ込めようとする政策が帝国主義の列強によつてとられたのであります。一九四七年のトルーマン・ドクトリンの名で呼ばれておるギリシア、トルコにとられたところの政治的な措置を初めといたしまして、マーシヤル・プラン、それに次ぐ北大西洋條約、すべてこれ社会主義勢力を封じ込めようとするところの政策であります。これが今日の二つ世界の対立を導いたのであります。而もこの対立のさ中にありまして、一方においては軍備拡張がどんどんと行われております。厖大な軍事予算が次から次へと計上されております。アメリカを初めとし、(「ソ連」と呼ぶ者あり)イギリスも、フランスも、イタリアも(「ソ連も、チエコも、ポーランドも、ルーマニアも」と呼ぶ者あり)すべて軍備拡張に汲々たる有樣であります。そうして、その結果起るところは何であろうか。戰争以外にないということは歴史が証明しておるではありませんか。サイミントン委員会報告に見ますと、アメリカでは一九五三年を以て軍備拡張の絶頂に達するという目標を以てこれを進めておるということであります。(「ソ連はどうした」と呼ぶ者あり)それまでの期間はいわゆる局地戰としてそれを部分的に解決する、これがサイミントン委員会報告書に現われたところのアメリカの軍拡の方針であります。(「ソ連のほうはわからない」と呼ぶ者あり)日本はこのときに当りまして一方の陣営に参加し、その防衛の一環として極東においてその任務を果そうといたしておるのであります。日本がこのために国際対立を激化し、そうして新たな戰争への準備を行わせられておるということを、何人が否定することができるでありましよう。  又日米安全保障條約を見まするというと、極東の平和と安全を維持するということを名目といたしまして、日本と軍事條約を締結しておる。これは中ソ同盟條約の対象となるというばかりでなく、極東の平和と安全を名目として極東の地域のいずれかにアメリカの軍隊が出動する、その場合に、日本は直ちに攻撃され、或いは敵性国家として戰争に巻き込まれることは、必至と申上げなければなりません。例えば朝鮮における問題であります。今日朝鮮における停戰会談は一頓挫を来たし、その将来について我々をして極めて不安を感ぜしめておるのであります。若し万一この朝鮮におけるところの停戰会談が不幸な結果をもたらすとするならば、一体どうなるでありましようか。(「だから必要なんだ」と呼ぶ者あり)吉田首相は一昨日の條約特別委員会におきまして、岡本委員質問答え日本においても原子爆彈投下の危險があるということを認められております。誠に恐るべき言葉ではありませんか。我々は再び原子爆彈のお見舞を受けなければならんのでありましようか。国民は平和に対して切なる願いを持つております。(「そうだ」と呼ぶ者あり)何とかして戰争を避けよう。若し戰争になるならば、一切の文化は破壞され、国土は荒廃に帰するのであります。このような恐しい戰争を二度と再び繰返してはならん。(「外的の侵略を追つ拂えばよい」と呼ぶ者あり)この国民の悲願が日本国内における滔滔たる平和運動の盛り上りとなつて発展しているではありませんか。(「だから條約が必要だ」「何の平和運動であるか」「誤まつた平和運動」と呼ぶ者あり)  次に私は、この二つの條約が日本の民主憲法を踏みにじり、日本の再軍備を準備する條約であるということを申さなければならんのであります、(「独断だ」「何が独断だ」と呼ぶ者あり)平和条約日本の再軍備については何ら制限しておらぬばかりか、これを禁止してもおらぬのであります。日米安全保障條約の前文を見ますると、日本は漸増的に自衛力を持つことを期待しているという旨の規定があります。国家独立国家であるためには、自衛の権限があることは申すまでもありません。併しながらその自衛は必ずしも武力によるべきものではないのであります。憲法によつて、一切の武力、一切の戰力否定した我が国は、むしろ国民の団結の力、組織の力によつて日本の国を守らなければなりません。日本憲法におけるところの第九條の規定は、決して日本が戰敗国であつたがために、或いは戰勝国によつて強制されたがためであるとかというような理由で設けられたものではありません。日本国民が誤まれる政権のために過去数十年間帝国主義的な侵略をほしいままにし、東亜の諸民族に対しまして大いなる苦痛と屈辱を與えたことに対する強い反省と自責の念とから生れて参つたものであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)終戰後六年、憲法が制定されて五年、この我々の反省と自責から生れたところの第九條の戰爭放棄の憲法規定を、今や踏みにじろうとしておるのであります。「ノーノー」と呼ぶ者あり)我々は、あの終戰後、憲法の修正に対して我々のとつた態度を顧みて、今更忸怩たるものを覚えざるを得ないのであります。吉田首相はしばしば自分は再軍備をやらぬということを言明しておられる。その言明のごとくに、実際政治、実際施策の上においてこれが現わされるならば、私もこれを了解するでありましよう。併しながら実質的には実は軍備が始められつつあるのであります。例の警察予備隊であります。警察予備隊は警察の任務を持つものである、国内の治安維持をその対象として警察予備隊は設けられたのだ、こう申しております。併しながら最近の装備なり或いはその訓練の仕方を御覧なさい。どこに国内の治安維持のためにあれほどの装備を必要とするものがありましよう。どこに国内の治安維持のためにあれほど団体的な訓練、いわゆる昔の連隊的な、或いは師団的な、そういうような団体的な訓練を必要とするものがありましようか。    〔副議長退席、議長着席〕  日本警察予備隊につきましては、アジアの諸国の間に、やがては、これが日本の軍国主義の復活となり、再軍備へ変るべきものだということを指摘いたしまして、日本の軍国主義復活を警戒している声が強いのであります。我々は、この警察予備隊そのものがすでに軍備であると、こう認めざるを得ないのであります。(「ソ連日本軍隊を認めておる」と呼ぶ者あり)  更に注意すべきことは、再軍備を準備しているというばかりでなく、日本民主化が、この講和條約と関連して踏みにじられ、逆転せしめられているということであります。(「錯覚だ錯覚だ」「ノーノー」と呼ぶ者あり)集会、結社、言論の自由、労働者の権利、これらのものがあとからあとからと制限されようとしております。これらの制限は講和とは無関係ではないのであります。むしろこれは終戰後のどさくさ紛れにできたものであり、日本の実情に即しない面についてこれを修正するのである、(「その通り」と呼ぶ者あり)或いは又、占領下の特殊事情によつて生れた諸施設についてはこれを修正すべきであるというような政府意見であります。併しながらそれは單に名目に過ぎないのであります。実質的には、講和に関連せしめて国民の基本的な権利を奪おうとするフアシズムの形態以外の何ものでもないのであります。(「ノーノー」「その通り」「そのなことないよ」「独断」「錯覚」と呼ぶ者あり)  私は第五番目に、この二つの條約は、日本経済の自立が何ら約束されないばかりか、大衆の生活はこれによつて一層窮乏化するものであるということを申上げなければなりません。(「年中そう言つている」と呼ぶ者あり)先ほど申上げましたように(「もういい」と呼ぶ者あり)アジアの諸民族と善隣友好関係を結ぶべきにもかかわらず、その機会がこの條約によつて失われる。勢い、経済的な関係、特に通商貿易関係はますます困難になつてつておるのであります。中国との貿易然り、インドとの貿易然り、その他、インドネシア、フイリピン、インドシナ、これらの国々との通商関係考えまする場合に、我々はそれらの地域において通商上の有利な地位を占めておるところの華僑の存在を思わなければなりません。中国との関係が好転しない限り、これらの地域におけるところの華僑との関係を好転せしめることは絶対に不可能なのであります。(「嘘だよ」「違う違う」と呼ぶ者あり)而もこの講和條約によりまして苛酷な賠償日本に対して取立てられようとしておるのであります。フイリピンといい、インドネシアといい、ビルマといい、或いはインドシナといい、二百億前後の賠償を要求いたしております。(「それはお話だけだ」と呼ぶ者あり)政府においては、金銭賠償ではない、役務賠償であるからして、国民経済に対して與える影響は大したことはあるまいという答弁であります。併しながら、役務に動員されるところの技術力、労働力に対しましては、相当の対価が拂われなければなりません。而もその役務賠償に当つて使用された技術力や労働力が、(「そんなら修正案を見たか」と呼ぶ者あり)更に日本国民経済の再生産に役立つものかどうか。絶対に役立つものではないのであります。従つてこれらの賠償を通じて極めて苛酷なる條件日本に課されるのであります。又在外資産の問題であります。在外財産連合国におけるところの在外財産連合国によつて処分される。中立国にあるところの在外財産国際赤十字委員会に提供されなければならぬ。このような形において又日本の在外資産が重大な損失をこうむることになるのであります。更に又、連合国我が国内に存するところの財産の損失について補償しなければなりません。而も、それらの連合国財産は、連合国の無差別爆撃乃至は原子爆彈によつて損失を受けておるのであります。これをしも我々は補償しなければならぬのであります。どこに和解信頼の講和などという言葉の意味するものがありましようか。(「簡單々々」と呼ぶ者あり)大衆の生活はこれによつてますます窮乏を加えざるを得ないのであります。低賃金は強行されます。労働強化はますます激しくなるのでありましよう。又、首切はどんどん行われて行くでありましよう。このようにして今度の講和條約は、日本の自立経済を困難にするばかりでなくて、大衆の生活を困難にして参るのであります。私は以上のような理由からして、この二つの條約に反対するものであります。  なお、最後に私は(「わかつたわかつた」と呼ぶ者あり)日本の今後長きに亘つて歩むべきところの運命を決するこの二つの條約に対し承認するか否かという重大な瞬間に立つていると申上げなければなりません。私はこの瞬間に立つて(「承認」と呼ぶ者あり)私自身極めて粛然たるものを覚えるのであります。若し諸君が、日本独立を回復する、或いは安全を保障するという美名に心を奪われて、これを承認するならば、後代の日本国民は果してこれを何と見るでありましよう。(「そうだ」「国民のためだ」と呼ぶ者あり)一瞬の不用意な行動が後に抜差しのならないところの破滅を導いたことは、歴史の証明するところであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)今日のこの議場での投票は極めて簡單であります。併しながら、それは、日本を平和に導くか、それとも戰争に導くかの岐れ路を指し示すものであると申さなければなりません。(「君らが戰争の道を示している」と呼ぶ者あり)諸君は平和のために、ここに敢然として良心に従つて行動されんことを私はお願いいたします。  私の反対討論を終るものであります。(拍手)     ―――――――――――――
  35. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 兼岩傳一君。    〔兼岩傳一君登壇、拍手〕    〔「時間四十分」「簡單にやれよ」「悠悠やれ」「頑張れ」と呼ぶ者あり〕
  36. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私は日本共産党を代表してこの二つの條約に反対いたすものであります。  この二つの條約の内容を簡潔に表明して見ましよう。その特徴を見ましよう。(「よくわかつている」と呼ぶ者あり)  これは先ず第一に、アメリカ軍のために日本の人的、物的資源をことごとく提供するという内容であります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)それは平和條約第五條に「あらゆる援助」、無條件の言葉、「あらゆる援助」という言葉で表現されております。それから(「アメリカからの援助だ」と呼ぶ者あり)必ず再軍備を強要されて、失業に苦しみ生活難に苦しむ幾千万幾百万の日本の我らの青年を傭兵にしようとする内容を持つている。これは安保條約の前文において明瞭であります。  第二の特徴は、(「少し元気がないぞ」と呼ぶ者あり)これが日本主権独立を売渡しているということであります。(「どこにもそんなこと書いてない」と呼ぶ者あり)外国軍隊の駐在する独立国がありますか。(「あります、イギリス」と呼ぶ者あり)国会の権限を無視し、国民の意思を蹂躙して、全部白紙委任状を出すような行政協定を結んだ独立国が世界にありますか。(「あります」と呼ぶ者あり)かような点。(「ソ連の衛星国にたくさんある」と呼ぶ者あり)  第三の特徴は、日本国憲法によつて戰争を放棄したと安心させられている日本国民に、二つの條約が、アメリカの思うままに戰争に、自由自在に、日本国民にも相談せず、日本国会にも相談しないで、すつと入れるようにできております。(「心配いらない」「ソ連がすつと入つて来るのを見守るんだ」と呼ぶ者あり)  第四の特徴は、不法極まる信託統治をやつているということであります。何のための信託統治か。これにつきまして我々は委員会であらゆる角度から尋ねました。ところが総理以下何にも答えない。何にも答えられない。答えられないわけです。これを言えば唇寒し、(「共産党は北の話はしないじやないか、北はどうした」と呼ぶ者あり)殊に日本は琉球小笠原百万の我らの同胞をアメリカに売渡し、そうしてこれを国連憲章違反して信託統治にした、その魂胆がどこにあるか。それは、将来日本が、日本の全民族が、日本国民がただ一握りの少数のかたは別ですよ、少数の、国を売渡す一握りの諸君を別にして、大部分の国民が団結して、労働者階級を中心とし、労働者階級が農民と同盟を結び、中小企業者がこの周囲に集結して、平和と独立を愛する大経営者といえども、これを中心にして集結して来た場合に、必ずやアメリカ軍は撤退しなきやならなくなる。だからアメリカでは、シツクステイという言葉を使つているそうですが、横文字、六十日の占領である。こういう旨口葉がアメリカのジヤーナリズムに使われておる。(「そうだ」と呼ぶ者あり)即ち信託統治の真の狙いは、そのような日本民族が独立と平和の意識に目覚め、且つ団結して起ち上つたときに、これらを━━━━━━せんとするところの目的を持つていることは何人といえども否定することのできない事実である。  第五の特徴は、日本経済を徹底的に破滅させるところの平和條約であるということであります。国内、国際的にも、いわばアジアから切り離され、中国から買うべき品物をアメリカから買う、地中海から買う、アフリカから買うために、我々はアジアから孤立するのみならず、全産業と全貿易が衰亡して行く。漁業問題も解決できない。化学繊維の原料の解決もできない。即ち平和的な発展も全部塞がれて、いや応なしにアメリカの軍需製造の下請をし、極度に労働者に低賃金を押しつけ、首切りその他の合理化をやつて、そうして軍需製造、いわゆる特需或いは新特需の道に進んで行つて、そうしてキヤンセルで叩かれて、ひどい目に遭いながら、戰争の墓場に日本の全民族を引つ張つて行こうとするところの意図を持つている。これが経済的な特徴である。(「それは共産党だ」と呼ぶ者あり)  第六の特徴は、平和條約という言葉の内容が全部戰争の條約であるように、安全保障條約とは日本の安全を絶対に保障しないということの表現である。(「不安全條約」と呼ぶ者あり)何故ならば、日本希望したなどと安全條約の初めに書いてありますが、だんだん読んで参りますと、この安保條約は、日本希望によつては絶対に破棄できないようにできている。日本独立のために、日本の平和のために、日本希望によつてアメリカの軍隊が駐在すると、前文に書いておいて、最後の所を見ると、この條約は日本とアメリカの両方の意思がぴつたり合わなければ(「当り前じやないか」と呼ぶ者あり)破棄できない。即ちこれは当り前だという諸君のごときは、日本人ではなくなつておられるから、そういう感じが出る。(拍手)何故ならば、日本のため、日本独立と平和を守られるか否かをアメリカ人に聞かなければならないというこの安全保障條約に対して、何人がこれを以て本当の安全保障條約であるということができるか。(「まだわからん」「当り前じやないか」「黙つて聞くから早く切上げてくれ」と呼ぶ者あり)  即ちこの二つの條約を、極く簡單に私はこの六つの特徴を表現したのであります。(「騒ぐと長くなるよ」「二時間やるから」と呼ぶ者あり)これを一言にして言えば、この二つの條約こそ、徹頭徹尾、ウオール街の千万長者、モルガン、ロツクフエラーその他の財閥、(「紋切型はよせよ」と呼ぶ者あり)これらに操られるところの反動勢力、これが世界を支配し、━━━━━━━━━━━━━━━━━━ということは、極めて私が説明した六つの特徴から見ても明々白々、(「いつも言うのは同じじやないか」と呼ぶ者あり)そうして、日本独立アジアの平和と発展のために、このような條約には絶対反対するものである。(「それだけ言えばいいんだ」「それでたくさんだ」「簡單簡單」と呼ぶ者あり)そして、日本民族が史上空前の危機に直面しているときに、不当に追放された同僚細川嘉六議員に代つて、この席に立つて独立を求める全日本国民と平和を愛する全世界の諸民族に真実を訴える任務を果し得ることは、私の最も光栄とするところである。(拍手、「拍手一つあつた」「元気を出せ」と呼ぶ者あり)  諸君、細川議員を追放したところの政府、この両條約を真実に、この両條約を持つている真実の特徴、真実の内容日本に知らせることを妨害する政府は、如何なることをやつて来たか。(「それは緊急質問でやれ、あとで」と呼ぶ者あり)国会では、特に衆議院ではろくはらくに審議させないで、議論もさせないで、あつという間に通してしまつた。(笑声)ところが参議院ではそれができない。愼重なる審議を進められた。(「脱線しては駄目だよ」と呼ぶ者あり)ところが政府は我々の愼重なる質問に対して一つも誠意ある答弁をしていない。詭弁とこまかしの連続である。(「質問がなつておらんからだよ」と呼ぶ者あり)おまけにプレスコード違反議長も同意せられているのですが、このプレスコードは止むを得ぬということで、我々の国会内に僅かに保障された言論の自由が全国民に通達されることをし得ない條件において国会の審議も進められて来た。国会の外ではどうであるか。我々が講和の論議をし平和の論議をすれば、必ず武装警官の大歓迎を受ける。(笑声)現に昨日幾千の労働者諸君、平和を愛する労働者諸君が来られたときに、武装警官が襲いかかつたではないか。(「誰の税金で拂つているんだ」と呼ぶ者あり)  この二つの條約は、中国を除外しソヴイエトを除外するのみでなく、あらゆるその他のポツダム協定以下の国際協定を踏みにじつており、国連憲章に至るところ違反している、日本国憲法を至るところ無視している、誠に無法且つ非合法なものであると言わなければならない。(「それは共産党じやないか」「共産党は憲法を忘れた」と呼ぶ者あり)  我々は然らば如何にして日本独立と平和を守るべきか。如何なる條件において日本の真の独立と、平和と、そしてアジアの繁栄が守られるか。これは、現在二つの條約が、やれ共産主義の侵略であるとか無責任な軍国主義であるとか、軍事的な真空であるとかいう作り事を前提として、平和なるべき世界戰争をしかけておる。この資本主義体制の決定的な反省である。(「ソ連であり中共である」と呼ぶ者あり)我我は資本主義体制と社会主義体制が現実に世界に存在していることを事実として承認する。各国各民族はおのおの自分の国の政治形態の形を決定し、かりそめにも他国に軍隊を置いて内政に干渉するごときは絶対に排撃する。(「内政干渉はどつちだ」と呼ぶ者あり)若しも、社会主義国、資本主義国のどちらかが、どれかの色にせつかちにこれを武力を以て統一しようとすれば、第三次世界大戰の勃発は避けることができない。(「それではソ連気をつけろ」と呼ぶ者あり)そうして全世界の(「共産党を注意しろ」と呼ぶ者あり)全世界の健全な常識を持つておる全国民、全民族、あらゆる人たちは、老いも若きも第三次大戰を絶対に起してはならんという決意を持つておる。すでに第二次大戰において、フアシスト的な国家構造の日独伊の侵略に対して資本主義国であるイギリスとアメリカ、社会主義国であるソヴイエト・ロシア、これが同盟して共に戰つた。これは歴史的な事実である。この歴史的な基礎から国連憲章が生み出され、国際連合が組織せられておるのであります。(「簡單に頼みます」と呼ぶ者あり)この国際連合憲章を正しく守ることこそが第三次大鵬を避ける唯一の道である。そうしてこの国連憲章精神は、資本主義米英、社会主義ソ同盟以下の国々が協調して行き、そうしてすべての国家は、人口が多かろうと少かろうと、白い色だろうと黄ろい色だろうと、主権は平等である、内政には干渉しない、そうしてこの二つの体制の有力な五大国が協力し、軍備を縮小し、平和を守ること、これが第三次世界大戰を避ける唯一の道である。(「ソ連の干渉はどうだ」と呼ぶ者あり)この国連憲章の大原則が守られないならば、日本に幾ら軍隊を持つて来ようとも、陸海軍をどんなに遠路はるばる持つて参りましても、日本の安全が保障されないことは明瞭である。  事実を見紛え。朝鮮の現状はどうであるか。若しも朝鮮の経済体制を暴力によつて無理に南と北に分けないで、朝鮮人自身に、朝鮮人自身の国家構造、経済体制を選ばしめておるならば、朝鮮は平和的な解決の道を歩いたということは明瞭であります。(「中共ソ連が手を引けば平和だ」と呼ぶ者あり)然るに朝鮮では、僅かに数百人のアメリカ人軍事顧問の指揮の下に、日本警察予備隊よりも遙かに装備がよく訓練もいいところの韓国軍、これについてはアメリカの国会では、これは一流の軍隊である、共産主義軍隊に対抗できる素晴らしい軍隊だという折紙の付いていた優秀な十数万の韓国軍がいた。そうして、これに隣接しているところの日本、琉球には、有力なアメリカの軍隊がいた。即ち決して真空状態になかつた。而も戰争が始まるや、国連決定がまだ定まらないのに、━━━━━━━━━━━━━━━━━アメリカの空軍と海軍が出動した。それで朝鮮人民の安全が保障されたか。(「だから保障されたじやないか」「三十八度線はどつちが破つたのだ」と呼ぶ者あり)これは過去一カ年半の実績が示す通り、(笑声)数十万のアメリカ、朝鮮、中国の罪なきこれらの国々の青年が死に、傷つき、片輪になり、数百万の罪なき朝鮮の人たちが死に、傷つき、それだのに戰局は三十八度線を中心とする振り出しに戻つているではないか。(「それを誰がやつたのだ」と呼ぶ者あり)若しも朝鮮人民の希望を容れて、昨年六月朝鮮統一の提案を容れ、三十八度線を渡つた平和使節を李承晩が虐殺することなく、外国軍隊が朝鮮の内政に干渉することなく、(「共産党が侵略することなく」と呼ぶ者あり)国際連合憲章精神が守られたならば、このような悲劇は起らなかつた。(「簡單簡單」と呼ぶ者あり)これが過去一カ年半の幾百万の人民が血を流すことによつて得た尊い教訓である。(「もうたくさんだ」「やめろやめろ」と呼ぶ者あり)ここに李承晩政府の内務大臣金考錫(「そんなことはいいよ」と呼ぶ者あり、笑声)李承晩政府の前内務大臣金考錫は、朝鮮戰争勃発後間もなく朝鮮人民軍によつて捕虜にされ、自分の罪業を罪亡ぼしのために、自分のして来たことを、(「何だ何だ」と呼ぶ者あり)内戰の挑発の経過から三十八度線の真相を事細かに書いているが、私はそれの朗読はしない。(笑声)ただ(「駄目だ、やつちや」と呼ぶ者あり)ほんの五行か六行、彼の後悔に堪えない良心の叫びだけを朗読してみましよう。(笑声)「李承晩政府の内務部長官をつとめていた期間中、わたしは━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━と李承晩一派の奸策を実行するために、かれらにありとあらゆる援助をあたえた。わたしはゆるすベからざる反逆の徒として、もつとも恥ずべき方法でわが祖国と人民を裏切つた。しかし現在、わたしはわが祖国と人民にたいするわたしの過去の罪惡のかずかずを、このうえなく骨髄にしみるほど後悔している。いまやわたしはこの眼で、いかにわが祖国が━━━━━━━━━不法な干渉によつてふみ荒され破壞されているか、またいかに罪なき人民が大量に虐殺されているかをみている。わたしは━━━━━━━━とその下僕である李承晩一派の協力者であつた自分が、いかに重大な罪人であつたかを、身にしみて感じている次第である。」(笑声、「どこの記事だ」「そんなものは当てになるものか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)然らば我我はこの貴重な教訓を基として、(「もうたくさんだ」と呼ぶ者あり)如何日本の安全を守り、如何にして日本独立を保障するか。(「もうよくわかつた」「簡單々々」と呼ぶ者あり)日本の安全を保障する唯一の途は、米英と中ソが互いに納得行く形で講和の條件を定め、これを我々が受諾する全面講和以外の途によつては、絶対に達成せられない。(「ソ連の提案を受諾したらどうなる日本は」と呼ぶ者あり)そして、日本の資本主義をこれ以上継続するか。或いはこれを社会主義の遂に推し進めるか。若し社会主義に推し進めるとすれば、それは如何なる道程を通つて、冬階級が如何なる協力的な形においてこれを実現するかは、これは中国、ソヴイエトの問題でもなければ、アメリカ、イギリスの問題でもなくて、これはまさに日本国民決定するところの日本人自身の問題である。(拍手、「共産党の宣伝か」と呼ぶ者あり)然るにこの二條約はアメリカのためのものである。(「何を言つているんだ」と呼ぶ者あり)━━━━━━━━━━━━━━日本の国土と国民を━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━することは明々白々であると言わなければならない。(「そうだ」「ノーノー」「簡單簡單」「わかつているじやないか」と呼ぶ者あり、笑声、拍手、「慌てろ」「慌てるな」「まだ時間はあるよ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)
  37. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 静粛に願います。
  38. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君(続) 成るほど(笑声)成るほどたくさんの国が調印をしました。併しそれにもかかわらず、サンフランシスコ條約が破綻し失敗せしめられることは明瞭である。(「何でもいいから簡單に」「簡單にやつているじやないか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)予言するほどのことはない。フイリピンの選挙がこれを諸君の眼の前に明々白々にしているではないか。(「ノー」と呼ぶ者あり)フイリピンでは條約の批准権を持つ上院の選挙が行われ、(「聞いたよ」と呼ぶ者あり)━━━━━キリノの政党が敗北を喫し、サンフランシスコ條約に反対している野党が決定的な勝利を占めているではないか。オーストラリア、インドネシア然り。(「それがどうした」と呼ぶ者あり、笑声)、而も日本人は、このような條約が持ち来たすところの内外の経済的な破綻及び戰争の来襲を手を拱いて待つべきではない。日本人は、アジアの十億の諸民族及び世界の平和を愛好する民族と提携して、このようなサンフランシスコ條約が失敗し、且つ破綻することによつて、(「破綻しない」と呼ぶ者あり)我々の祖国独立と平和を守ることの道を進むことは明らかであります。(笑声)  私の先ほどからの演説を頻りに妨害しておられる自由党の諸君、(「妨害はしない」「聞いているよ」と呼ぶ者あり)僕の極めて短かい時間の、議運の小委員会決定によつて認められている僅かな時間の私の演説さえも頻りに妨害しておられる自由党の諸君、(「妨害しない」と呼ぶ者あり)諸君は、恐らく今日これから(「ゆつくりやれ」「時間がない」と呼ぶ者あり)緑風会、民主党その他の同調者の援助によつて、多数を以てこの二條約を通過させ、(「脱線するな」と呼ぶ者あり)恐らく今夕あたり勝利の祝杯を挙げられることであろう。(笑声、「うらやましいだろう」「脱線するな」「まじめに言え」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)併したとえいろえいろの事情から白票を投ぜられたとしても、心ある議員の諸君の眼には、諸君の今夕挙げられる祝杯の中には、八千万同胞の苦しい生活の姿、戰争に駆り立てられようとしている嘆きの姿が映つているはずである。(笑声、「共産党の同調はやらないから心配しないで」と呼ぶ者あり)日本共産党は、この二條約に反対の青票を投ぜられた、はつきりと青票を投ぜられた労農党、社会党その他の諸君と共に、平和と独立を求むる全国民を結集し、(「簡單簡單」と呼ぶ者あり)戰争と亡国の運命を打破するために、平和な独立日本を建設するために、たとえ長期且つ困難な闘いであろうとも、これを乘り切つて進める決意であることを表明し、「最後に笑う者が本当に笑う者である」という(「その通り」と呼ぶ者あり)有名な一句を以て、反対討論を終る次第である。(拍手
  39. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) これにて討論の通告者の発言は全部終了いたしました。討論は終局したものと認めます。  これより採決をいたします。  先ず平和條約の締結について承認を求めるの件を問題に供します。本件の表決は記名投票を以て行います。委員長報告通り本件に承認を與えることに賛成の諸君は白色票を、反対の諸君は青色票を、御登壇の上御投票を願います。氏名点呼を行います。議場の閉鎖を命じます。    〔議場閉鎖〕    〔参事氏名を点呼〕    〔投票執行〕
  40. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 投票漏れはございませんか……投票漏れないと認めます。これより開票いたします。投票を参事に計算させます。議場の開鎖を命じます。    〔議場開銀〕    〔参事投票を計算〕
  41. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 投票の結果を御報告いたします。  投票総数二百十九票  白色票百七十四票、(拍手)  青色票四十五票、  よつて平和條約の締結について承認を求めるの件は承認を與えることに決しました。(拍手)    ―――――・―――――    〔参照〕  賛成者(白色票)氏名 百七十四名    結城 安次君  山川 良一君    山本 勇造君  山内 卓郎君    村上 義一君  溝口 三郎君    前田  穰君  藤森 眞治君    藤野 繁雄君  早川 愼一君    波多野林一君  野田 俊作君    西田 天香君  徳川 宗敬君    常岡 一郎君  伊達源一郎君    竹下 豐次君  高橋 道男君    高橋龍太郎君  高木 正夫君    田村 文吉君  鈴木 直人君    杉山 昌作君  西郷吉之助君    小林 政夫君  小宮山常吉君    楠見 義男君  木下 辰雄君    河井 彌八君  片柳 眞吉君    柏木 庫治君  加藤 正人君    加賀  操君  岡本 愛祐君    岡部  常君  尾崎 行輝君    小野  哲君  梅原 眞隆君    楠瀬 常猪君  玉柳  實君    青山 正一君  長島 銀藏君    木村 守江君  宮本 邦彦君    秋山俊一郎君  高橋進太郎君    仁田 竹一君  宮田 重文君    上原 正吉君  草葉 隆圓君    石川 榮一君  大谷 瑩潤君    九鬼紋十郎君  深水 六郎君    加納 金助君  平沼彌太郎君    大矢半次郎君  城  義臣君    岡崎 真一君  西川甚五郎君    小野 義夫君  鈴木 安孝君    寺尾  豊君  黒田 英雄君    石坂 豊一君  岩沢 忠恭君    北村 一男君  中川 幸平君    一松 政二君  黒川 武雄君    横尾  龍君  徳川 頼貞君    中山 壽彦君  中川 以良君    飯島連次郎君  伊藤 保平君    井上なつゑ君  赤澤 與仁君    赤木 正雄君  松本  昇君    廣瀬與兵衞君  野田 卯一君    重宗 雄三君 大野木秀次郎君    加藤 武徳君  長谷山行毅君    松平 勇雄君  古池 信三君    杉原 荒太君  平井 太郎君    白波瀬米吉君  山縣 勝見君    安井  謙君  山本 米治君    岡田 信次君  愛知 揆一君    瀧井治三郎君  石村 幸作君    田方  進君  平林 太一君    溝淵 春次君  鈴木 恭一君    入交 太藏君  島津 忠彦君    石原幹市郎君  紅露 みつ君    深川タマヱ君  木内キヤウ君   池田宇右衞門君  大島 定吉君    郡  祐一君  川村 松助君    谷口弥三郎君  有馬 英二君    油井賢太郎君  山田 佐一君    西山 龜七君  堀  末治君    團  伊能君  鈴木 強平君    櫻内 義雄君  三好  始君    西田 隆男君  大屋 晋三君      泉山 三六君  平岡 市三君    小林 英三君  栗栖 赳夫君    林屋亀次郎君  櫻内 辰郎君    一松 定吉君  鬼丸 義齊君    片岡 文重君  上條 愛一君    堂森 芳夫君  松永 義雄君    齋  武雄君  原  虎一君    加藤シヅエ君  赤松 常子君    山田 節男君  田中  一君    曾祢  益君  村尾 重雄君    小松 正雄君 深川榮左エ門君    菊田 七平君  大野 幸一君    松浦 清一君  相馬 助治君    小林 亦治君  大隈 信幸君   前之園喜一郎君  岩木 哲夫君    岩男 仁藏君  中村 正雄君    下條 恭兵君  山下 義信君    波多野 鼎君  小川 久義君    木内 四郎君  稻垣平太郎君    伊藤  修君  棚橋 小虎君    吉川末次郎君  小泉 秀吉君    三木 治朗君  岡村文四郎君    東   隆君  森 八三一君    三浦 辰雄君  石川 清一君    松浦 定義君  堀木 鎌三君    ―――――――――――――  反対者(青色票)氏名  四十五名    高良 とみ君  門田 定藏君    中田 吉雄君  野溝  勝君    清澤 俊英君  三橋八次郎君    若木 勝藏君  小酒井義男君    栗山 良夫君  森崎  隆君    吉田 法晴君  須藤 五郎君    岩間 正男君  兼岩 傳一君    千葉  信君  木村禧八郎君    堀  眞琴君  水橋 藤作君    鈴木 清一君  成瀬 幡治君    重盛 壽治君  山花 秀雄君    梅津 錦一君  江田 三郎君    三輪 貞治君  小林 孝平君    羽生 三七君  荒木正三郎君    内村 清次君  佐多 忠隆君    松原 一彦君  大山 郁夫君    羽仁 五郎君  藤原 道子君    高田なほ子君  木下 源吾君    矢嶋 三義君  西園寺公一君    佐々木良作君 小笠原二三男君    菊川 孝夫君  椿  繁夫君    岡田 宗司君  金子 洋文君     和田 博雄君    ―――――・―――――
  42. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 次に、日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約の締結について承認を求めるの件を問題に供します。本件の表決は記名投票を以て行います。委員長報告通り本件に承認を與えることに賛成の諸君は白色票を、反対の諸君は青色票を、御登壇の上御投票を願います。氏名点呼を行います。議場の閉鎖を命じます。    〔議場閉鎖〕    〔参事氏名を点呼〕    〔投票執行〕
  43. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 投票漏れはございませんか……投票漏れないと認めます。これより開票いたします。投票を参事に計算させます。議場の開鎖を命じます。    〔議場開鎖〕    〔参事投票を計算〕
  44. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 投票の結果を報告いたします。  投票総数二百二十三票、  白色票百四十七票、  青色票七十六票、  よつて日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約の締結について承認を求めるの件は承認を與えることに決しました。(拍手)      ―――――・―――――   (参照〕  賛成者(白色票)氏名 百四十七名    結城 安次君  山川 良一君    山内 卓郎君  村上 義一君    溝口 三郎君  前田  穰君    藤森 眞治君  藤野 繁雄君    早川 愼一君  波多野林一君    野田 俊作君  西田 天香君    徳川 宗敬君  常岡 一郎君    伊達源一郎君  竹下 豐次君    高橋 道男君  高橋龍太郎君    高木 正夫君  田村 文吉君    鈴木 直人君  杉山 昌作君    西郷吉之助君  小林 政夫君    小宮山常吉君  楠見 義男君    木下 辰雄君  河井 彌八君    片柳 眞吉君  柏木 庫治君    加藤 正人君  加賀  操君    岡本 愛祐君  岡部  常君    尾崎 行輝君  小野  哲君    梅原 眞隆君  楠瀬 常猪君    玉柳  實君  青山 正一君    長島 銀藏君  木村 守江君    宮本 邦彦君  秋山俊一郎君    高橋進太郎君  仁田 竹一君    宮田 重文君  上原 正吉君    草葉 隆圓君  石川 榮一君    大谷 瑩潤君  九鬼紋十郎君    深水 六郎君  加納 金助君    平沼彌太郎君  大矢半次郎君    城  義臣君  岡崎 真一君    西川甚五郎君  小野 義夫君    鈴木 安孝君  寺尾  豊君    黒田 英雄君  石坂 豊一君    岩沢 忠恭君  北村 一男君    中川 幸平君  一松 政二君    黒川 武雄君  横尾  龍君    徳川 頼貞君  中山 壽彦君    中川 以良君  飯島連次郎君    伊藤 保平君  井上なつゑ君    赤澤 與仁君  赤木 正雄君    松本  昇君  廣瀬與兵衞君    野田 卯一君  重宗 雄三君   大野木秀次郎君  加藤 武徳君    長谷山行毅君  松平 勇雄君    古池 信三君  杉原 荒太君    平井 太郎君  白波瀬米吉君    山縣 勝見君  安井  謙君    山本 米治君  岡田 信次君    愛知 揆一君  瀧井治三郎君    石村 幸作君  田方  進君    平林 太一君  溝淵 春次君    鈴木 恭一君  入交 太藏君    島津 忠彦君  石原幹市郎君    紅露 みつ君  深川タマヱ君    木内キヤウ君 池田宇右衞門君    大島 定吉君  郡  祐一君    川村 松助君  竹中 七郎君    谷口弥三郎君  有馬 英二君    油井賢太郎君  山田 佐一君    西山 龜七君  堀  末治君    團  伊能君  鈴木 強平君    櫻内 義雄君  三好  始君    西田 隆男君  大屋 晋三君    泉山 三六君  平岡 市三君    小林 英三君  栗栖 赳夫君    林屋亀次郎君  櫻内 辰郎君    一松 定吉君  鬼丸 義齊君   深川榮左エ門君  菊田 七平君   大隈 信幸君  前之園喜一郎君    岩木 哲夫君  岩男 仁藏君    小川 久義君  境野 清雄君    木内 四郎君  稻垣平太郎君    岡村文四郎君  東   隆君    森 八三一君  三浦 辰雄君    堀木 鎌三君     ―――――――――――――  反対者(青色票)氏名  七十六名    高良 とみ君  永井純一郎君    カニエ邦彦君  片岡 文重君    門田 定藏君  中田 吉雄君    上條 愛一君  堂森 芳夫君    松永 義雄君  齋  武雄君    野溝  勝君  清澤 俊英君    原  虎一君  加藤シヅエ君    赤松 常子君  山田 節男君    三橋八次郎君  若木 勝藏君    岩崎正三郎君  田中  一君    曾祢  益君  村尾 重雄君    島   清君  小松 正雄君    小酒井義男君  栗山 良夫君    大野 幸一君  松浦 清一君    相馬 助治君  小林 亦治君    森崎  隆君  吉田 法晴君    中村 正雄君  下條 恭兵君    山下 義信君  波多野 鼎君    伊藤  修君  棚橋 小虎君    吉川末次郎君  小泉 秀吉君    三木 治朗君  須藤 五郎君    岩間 正男君  兼岩 傳一君    千葉  信君  木村禧八郎君    堀  眞琴君  水橋 藤作君    鈴木 清一君  成瀬 幡治君    重盛 壽治君  山花 秀雄君    梅津 錦一君  江田 三郎君    三軸 貞治君  小林 孝平君    石川 清一君  松浦 定義君    羽生 三七君  荒木正三郎君    内村 清次君  佐多 忠隆君    松原 一彦君  大山 郁夫君    羽仁 五郎君  藤原 道子君    高田なほ子君  木下 源吾君    矢嶋 三義君  西園寺公一君    佐々木良作君 小笠原二三男君    菊川 孝夫君  椿  繁夫君    金子 洋文君  和田 博雄君    ―――――・―――――
  45. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 日程第三、連合国財産補償法案内閣提出衆議院送付)を議題といたします。  先ず委員長報告を求めます。大蔵委員長平沼彌太郎君。    〔平沼彌太郎君登壇、拍手
  46. 平沼彌太郎

    ○平沼彌太郎君 只今上程になりました連合国財産補償法案の大蔵委員会における審議の経過並びに結果について御報告申上げます。  本案は、対日平和條約第十五條規定に基き、且つ條約と一体をなす補償事項についてその実施方法規定いたそうとするものであります。本案の内容の主な点について申上げます。  第一は補償の原因についての規定であります。補償原則としましては連合国又は連合国人が開戰時において本邦内に有していた財産について戰争の結果損害が生じたときは、日本政府はその損害を補償することといたしております。  第二は損害額の算定についての規定であります。損害額の算定方法につきましては、財産の種類ごとに規定を設けられてありますが、原則として、財産を開戰時の状態に回復するため必要な金額によることになつております。  第三は補償金の支沸方法についての規定であります。補償請求の手続及び期限は、請求権者が、その所属する国の政府を経て、平和條約の発効時から十八カ月以内に、日本国政府に対し補償金支拂請求書を提出することを要し、この期間内に提出がないときは補償金の支拂請求権を放棄したものとみなされることとしております。なお補償金の支拂は原則として円貨を以てし、又一会計年度における支沸限度を百億円に限定いたしております。  第四は、日本国政府決定した補償金額に異議がある場合の解決方法としまして、一定期間内に再審査の請求をすることを認め、これを審議するために、大蔵省に連合国財産補償審査会を置くことになつております。  次に本案の審議における質疑の主なる要旨を申上げます。  なぜ補償に関する規定を国内法で決めたかとの質問については、補償に関する規定は、本来ならば平和條約中に明記さるべき性質のものである。然るに対日平和條約において、條約中には原則のみを掲げて詳細を国内立法に委任したのは、平和條約を簡單ならしめて、その早期成立へ促進するためである旨の答弁がありました。又、金銭債権の補償について円価値の下落を考えているかとの質問に対しては、この法案は直接の戰争被害を補償する原則をとつており、円貨建の金銭債権について、円価値の下落による損害は補償しないこととなつている旨の答弁がありました。その他重要なる質疑応答がなされたのでありまするが、その詳細は速記録によつて御承知願いたいと存じます。  かくして質疑を終局し、討論に入りましたところ、菊川委員より反対の意見が述べられましたが、その要旨は第一に、平和條約は永久的に世界外交文書として残るものであるから、その條文中に、詐欺、強迫等の文字があることは余りにも卑屈であること、第二に、本案は国内法になつておるが、むしろ平和條約に規定さるべきものであること、第三は、予算の審議権を拘束していること等でありました。次に松永委員より、国民生活の安定を脅かさないよう処理されることを希望條件として本案に賛成されました。次に木村委員から反対の意見が述べられましたが、その要旨は、第一は、本案は平和條約に規定さるべきものであるのに、講和を促進するという理由の下に切り離しておること、第二は、賠償一般の問題として取扱わるべきであること、第三は、予算の審議権が制約されておること等でありました。次に小林委員より、平和條約を承認する以上、当然本案については賛意を表するものであるが、相当苛酷な條件であると考えられるので、今後賠償等の国際的解決を要する問題については、政府当局の遺憾なき善処を要望するとの意見が述べられ、次に菊田委員より、日本独立を早急に実現するための平和條約と一体をなすものであるから本案に賛成するとの意見が述べられ、最後に森委員から、国会の審議権を阻害することなきよう、又政令で定められる審査会の構成運営は、国家の利益が公正に確保されるよう十分に配慮されたいとの希望を付して、賛成の意見が述べられました。  かくして採決の結果、多数を以て原案通り可決するべきものと決定いたした次第でございます。  右御報告申上げます。(拍手
  47. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 本案に対し討論の通告がございます。順次発言を許します。菊川孝夫君    〔菊川孝雄君登壇、拍手
  48. 菊川孝夫

    ○菊川孝夫君 私は社会党の第二控室を代表しまして、連合国財産補償法案に反対の意見を申述べます。  この法案は平和條約の第十五條規定に基いて制定されんとするものであり、我々は條約を承認することに反対でありますので、必然的に本法案にも反対する次第であります。(拍手)條約に反対する反対理由は、先刻岡田宗司君が開陳いたしましたので、省略いたしますが、條約の第十五條に、「條約発効後九カ月以内に申請があつたときは、六カ月以内に、戰前日本にあつた連合国及びその国民財産及び権利利益を返還する」とあり、但書で以て、「強迫又は詐欺によることなく自由に処分した場合はこの限りでない」とあります。従いまして、返還されるものは、すべて、戰争中に日本政府が脅迫又は詐欺を行つたものということになるのであります。そうして、返還された財産の中で戰争によつて損害をこうむつておるものについて補償を行うのであります。その結果、この法案は、戰争中に日本政府が犯したところの国際的脅迫罪、詐欺罪の償いをする法律を制定することになるのであります。(「それは解釈の相違だ」と呼ぶ者あり)私は、戰争中に日本軍隊が職場或いは占領地においてかずかずの惡夢を犯したことは認めなければなりませんけれども、少くとも内地においては、一応、国際法、慣例に準拠して、諸般の処置を行なつたと思うのであります。特に連合国又は連合国人の財産日本政府が強迫又は詐欺行為によつて接収その他の処置を行なつたことはないと信じます。平和條約は永久に歴史的な文献として残るものでありまして、世界歴史の上に日本民族が公的に詐欺を行なつたことを承認させられた上に、この三年間、毎年百億ずつの補償金を負担しなければならないのが本法案であります。(「限度だよ限度だよ」と呼ぶ者あり)政府説明によりますると、強迫又は詐欺というのは修飾語であつて、言葉のあやであると、こう言つておりまするが、言葉のあやに過ぎないものであるとするならば、もつと適当な用語を用いるべきであつたと思います。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)特にこの際、考えなければならんのは、我々として極めて不満足なと言いますか、極めてこれに対しては反感を持たなければならないと思うあのヤルタ協定の締結に当つて当時の日ソ不可侵條約の規定蹂躪という事実を、外交史上汚点を残したくないという観点から如何に処理するかというので、米ソ両国間に極めて微妙な駈引が行われたと伝えられております。外交は歴史を創造するという誇りを持つてその衝に当るべきものであつて、(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)私は、この法案審議に当つて、強迫だとか又は詐欺だとかいう字句を承認した吉田外交の底に流れるところの卑屈性を追及して、反対理由の第一とするのであります。(拍手、「君のほうがよつぽど卑屈だ」と呼ぶ者あり)  次に、本法案は形式的には法律案として提出をされておりまするけれども、條約の中に、「日本国内閣が一九五一年の七月十三日に決定したところの連合国財産補償法案の定める條件よりも不利でない條件補償される」とありますので、実際的には、條約を先刻本院において承認してしまつたからして、もはや審議の余地がなくなつてしまつたのであります。それを形式的に只今審議を求められるこの政府の態度は、国会の権威を冒涜するものであると言わざるを得ないのであります。(「承認しているじやないか」と呼ぶ者あり)而も政府説明によりますると、本来は平和條約の中に挿入されるべきものであるけれども、イタリアとの平和條約の例に鑑みても、連合国間の調整が困難であるので、法案の形式をとつたのであるけれども、平和條約の折衝と並行して、アメリカを初め関係国との間に話合いが進められていたことが明らかになつたのであります。(「審議権を承認しているじやないか」と呼ぶ者あり、拍手)若しそうだとすれば、次善の処置として、国会の常任委員会報告する等の配慮ぐらいはなされて然るべきであつたと存じます。然るに、その処置さえもとらずに、実際に審議の余地のないものを法案として提出する政府の態度は、国会を惡用するものであり、憲法第四十一條違反であると断ぜざるを得ません。(拍手)そして、これは国家百年の大計を無視して條約の調印を急いだところの吉田内閣の拙速外交の一端を露呈したものと言わざるを得ないと思うのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)  第三に、本法案が成立いたしますると、向う三カ年間、毎年百億ずつ、丁度旧憲法時代の皇室費のように、実際的には国会において審議の余地のない予算的措置が必要となつて来るのでありまして、その他の講和費用と共に国民生活に重圧を加えて参りますることは申すまでもないことであります。  第四に、日本政府として又日本人として不可抗力であつたところのB二九の爆撃だとか、特に原子爆彈による損害までも補償の対象となるのでありますが、(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)なかんずくこの原子爆彈は今や全人類にとつての最も重大な課題となつており、その解決のために全世界の人人が今腐心しているのであります。日本が今敗戰の責任として原爆被害を補償するということは、人類歴史の上に問題を提供することになると思うのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)  最後に、今回の平和條約は寛大な條件であると言われて来ましたけれども、本法案の内容検討してみますると、ぬか喜びであつた点がほうぼうに明らかになつて来るのであります。一例を挙げてみますると、株式の損害については、株式を返還した上に、更にその会社の戰争損害について、連合国人の持分の比率に相当する額を国家の責任において補償しなければならないことになつておりますが、これは株式の経済的通念を無視したものであるし、当該会社の将来性について何ら配慮が拂われておらないのであります。その他これに類する條項が随所にありまするが、省略をいたしまして、私はここで吉田総理に申上げたいと存じます。我々国民に向つて「ミズーリ艦上のことを忘れるな」と言つて常に叱られる前に、それよりも、世界情勢の変化と時の経過ということをもつと強調しまして、アメリカに向つてイギリスに向つて、真の国民外交の先頭に老躯をひつさげて立たれんことを要求する次第であります。(「その通りつているじやないか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)  以上を以て、私は、このような無理な法案を而も世界の條約の歴史の中に、こういう條約の中に国内法案を入れて調印をさせられたという先例が殆んど見当らない、このような、條約の中に法案を呑まされたという状態で我我に押し付けられるこの法案に対しては、絶対に承服することはできないといことを、ここに明言いたしまして、反対討論を終る次第であります。(拍手
  49. 佐藤尚武

    議長 (佐藤尚武君) 木村禧八郎君。    〔木村禧八郎君登壇、拍手
  50. 木村禧八郎

    ○木村禧八郎君 私は(「簡單々々」と呼ぶ者あり)三つの理由によつてこの法案に反対いたすものであります。  第一の理由は、この法案は実質的には平和條約の一部を構成するものであることは申すまでもないわけであります。実はこの法案は、講和に関する両條約特別委員会に付託されるのが本筋であるべきなんだ。(「そうだ」と呼ぶ者あり)それがどうしたわけで国内の特別な法律案になりまして大蔵委員会に付託されたのか。私は政府委員に対してどうしてこの法案が條約の中に織り込まれないで国内法として大蔵委員会に付託されたのか、こういうことを質問いたしたのであります。これに対して政府委員答弁は「通常であつたならば、例えばイタリアなどと同じように手続的事項が長く條約に織り込まれて規定されたのでありましようが、講和の促進をできるだけスムーズに持つて参りたいというアメリカ側及び日本側希望が合致いたしまして、手続規定等につきましてながながと條約の文章の中に入れますことが、各国の足並みを急速に揃えにくいかも知れないということのために、手続的の部分を別の形にして外した次第であります。」こういう答弁でございました。併しながらこれは手続的な規定でございましようか。これが、先ほど菊川君もおつしやいましたように昨年の七月―十三日の閣議におきまして、そうして、すでにこの閣議できめた條件よりも不利な條件でこれを補償してはいけないということになつた、その内容規定がこれであります。昨年の七月十三日にこの法律案を政府はきめたわけなのです。そうして、この内容は何かと言えば補償内容條件がきめてある。そうして大体毎年百億を下らない範囲においてこれを補償するということになつておる。総額大体三百億、これが手続規定でありましようか。これは実際には実質的なものであります。従つて、これは当然平和條約の條文の中に挿入しなければならんはずです。(「そうだ」と呼ぶ者あり)それを昨年の七月十三日の閣議で決定しておりながら「これを何も国民に知らせなかつた。国会にも知らせなかつたのです。そうして突如としてこういう法案が出て来たわけです。(「それこそ詐欺だよ」と呼ぶ者あり)そういうような経過で、これが條約の草案の中に挿入されるのが当然であると政府委員説明されている。大蔵大臣も説明されている。單なる手続法ではありません、実質的には、これは賠償の広義の意味における内容を形成するものであります。それを便宜のために、この講和を早くするために、これを除外して、そうして国内法としたわけです。何のためにこれを除外したか。講和を早くする。何のために講和を早くするのでありますか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)何のために講和を急ぐのでありますか。(「誰が急ぐんだ」と呼ぶ者あり)それは先ほど菊川委員が言われましたように、アメリカの戰略的な利益を促進するために特に朝鮮動乱後この講和條約を急がれたのであります。(拍手)そういう経過を顧みれば、これはアメリカの戰略的利益のためにこれを促進したことは明らかであります。(「そんなことはないぞ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)日本のほうではどうしてこれを促進しようとしているか。日本のほうでこれを促進しようとしていると、テイルトマンという人がはつきり言つております。この講和によつて日本の大きな資本家は、早く昔の状態に帰ると言つている。この講和條約ができると独占禁止法が緩和される、事業者団体法が廃止される、労働基準法が改惡されて、そうして大工業家は昔のような低賃金で労働者を搾取することができる自由と独立が與えられる。政府はこの講和によつて日本の国が独立するのだ、自由になるのだと言つておりますけれども、誰のための自由であり誰のための独立なんでありますか。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり、拍手)独占禁止法を緩和するところの自由、労働基準法を改惡するところの自由である。一体、誰のためのこれが自由ですか。(「狼のための自由だ」と呼ぶ者あり)そういう條約を早くやろうとして、そうして、当然平和條約の中に挿入されなければならない條項を外して国内法にしたわけであります。私はこういうようなやり方に賛成することはできないのであります。(「簡單簡單」と呼ぶ者あり)  第二の反対の理由は……、木村君、何でも共産党々々々と言われますが、冷靜にもう少しお考え願いたい。(「簡單簡單と言つたのだ」と呼ぶ者あり)  第二の反対の理由は、これは広義の意味におけるところの賠償の一部であります。(「簡單簡單」と呼ぶ者あり)言うまでもなく、いわゆる講和とこの補償の違うところは、いわゆる講和は国家間の補償関係であるけれども、今度のこの補償法案による補償は、外国の個人と日本国家との関係補償関係になる。そういう点が違うだけでありまして、日本国家にとつては広義の意味における賠償の一部なんであります。従いまして、今度の條約によつて、特に平和條約の第十四條によつて日本賠償を課する場合に、自立可能な範囲において日本賠償を課するということになつておる以上、これは広義の意味における賠償の一部として当然考えるべきであります。(「止むを得ない」と呼ぶ者あり)それにもかかわらず、そういう総合的な講和後におけるところの日本の新たなる財政的負担、それと日本経済の存立の可能性との関係検討しないで、これだけが極めて部分的にはつきりと法案できめられているのです。これは、今後の賠償の問題を考えれば、或いは又防衛分担金或いは外債の利拂いの問題、こういう講和後に起るところの日本の新たな財政負担というものを、これは全体的な関連において考えなければならないのに、これだけが優先的に、而もこれだけが極めて明白にこういう形で規定されておるということは、(「條約の一部分だ」と呼ぶ者あり)今度の……それならば賠償についてはどうして明確に規定しなかつたか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)それならば賠償においてもこういう細かく規定すべきであります。これだけが飛び離れてこういうように明確にするということは、私は了解に苦しむ。これは全体いわゆる広義の意味における賠償、講和後における日本の新たなる財政的な負担全体の問題の一部として考えなければならない。(「そうだ」「いいじやないか」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)あとにこのほかに賠償がどんどん出て来たら、どうして日本の自立可能な範囲というものがきまるのでありますか。(「賠償は一括して拂うものじやない」と呼ぶ者あり)  第三の反対の理由は、先ほど菊川氏も触れられましたが、(「もういいよ」と呼ぶ者あり)昨年の七月の十三日の閣議ですでにきまつておる。(「一年間違つておる」と呼ぶ者あり)而もこれによつて相当大きな負担が日本国民にかかつて来るのです。(「一年間違つているよ」と呼ぶ者あり)そういうようなことが全然、これは国会にも大体……何も法律案として内容を示せというのではありませんが、その内容等を一応これは報告すべきである。(「そうだ」と呼ぶ者あり)こういう形において講和を結ぶのだ、これだけじやありません。講和と関連するいろいろな経済関係においても、政府は殆んど国民に実情を知らせないで、そうして調印してしまつておる。講和の締結については、言うまでもなく、(「時間々々」と呼ぶ者あり)講和の締結は調印から承認までを含んでおり、調印の前には当然国会に一応(「時間々々」と呼ぶ者あり)これを諮るべきである。これがいわゆる国会の承認であります。昨年の七月十三日にきまつたものを全然これを国会に示さないで、そうして調印してしまつた。こういう條件で調印してよいかどうか。国民に十分に示す必要があつた。こういうような、(「言い直しをしろ」「議長、時間々々」「何が時間か」と呼ぶ者あり)而もこれは今後の(「わかつたわかつた」「黙つて聞け」と呼ぶ者あり)日本の予算の審議権を制約するわけであります。こういう予算の審議権を制約するような法案には我々は賛成することはできません。  以上の三つの理由によりまして、私は労働者農民等を代表しまして反対する次第であります。(拍手
  51. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 岩間正男君。    〔岩間正男君登壇、拍手〕    〔「共産党は何遍でもやるのだな」「面白い」「どこでも出るわ」「簡單簡單」「少数党横暴」と呼ぶ者あり〕
  52. 岩間正男

    ○岩間正男君 只今上程されました連合国財産補償法案に対しまして日本共産党は断呼反対するものであります。(「共産党だけじやないか」と呼ぶ者あり)  反対の第一の理由は、国会審議権が著しく制限され、無視されているということであります。先ほど菊川君も申述べられましたように(「もうそれでいい」と呼ぶ者あり)吉田内閣は、この法案を、講和会議に臨むに先だち、本年の七月十三日の閣議ですでにこれを決定し、この法案に定める條件よりも不利でない條件連合国財産補償をすることを平和條約に挿入しているのであります。即ち、国民の利益にとつてかかる重大な関係を有する事柄を、事前に国会に諮ることなく、連合国、殊に米英に有利に修正することはできるが、日本国に有利に修正することができないと、あらかじめ国会の立法権を制限しているのであります。(「制限していない」と呼ぶ者あり)明らかに吉田内閣の越権行為でありまして、民族の利益を勝手に外国に売り渡すものであります。これにつきまして最もいい例は、大橋法務総裁が衆議院の大蔵委員会におきまして国会の審議権を何ら制限するものではないが、若しも国会が本法案を連合国に不利に日本に有利に修正したとしても、それは対外的には何ら効力がないのみか、そのような修正は無意義であろうというような答弁をして、この審議権を実は無言で圧迫している。これはまるで奴隷売買人が奴隷の口を無理やりに塞ぐようなやり方である。こういうことを言つている。  反対の第二の理由は、本法案の審議に当つて、その参考資料として、政府はただ一片の表を提出しているのみであります。それによりますと、漠然と、建物が十六億、動産が八十七億、株式が百十四億、預金が一億、債権が五千万円、工業所有権が五十億、合計二百六十九億円とあるだけであります。それでは何ら具体的な審議ではないはずであります。我々の聞きたかつたのは、昭和十六年以後の敵産の処理及び戰時特別措置が如何連合国財産の上に行われたか、又どの程度の損害をこれらに與えたか、更に終戰後それがどうなつたかということであります。然るに政府はその具体的な事実については国会と国民の前に一切これを明らかにしていないのであります。これでは国民が深い疑惑を抱くのも当然であろうと思うのであります。  反対の第三の理由は、本法案の補償の大部分がアメリカ、イギリスのみに向けられていることであります。補償内容国民と国会の前に隠蔽して特にアメリカ、イギリスのみに補償を急ぐ根拠はどこにあるのか。言うまでもなく、曾つて日本が引き起したあの犯罪戰争によりまして最も迷惑をかけたのはアジア諸国であります。これは本日の討論によつて盡されたところである。然るにこれら諸国に対する賠償問題を何ら具体的に取極めることをしないで、アメリカ、イギリスのみの利益に鞠躬如として奉仕する、この吉田政府の態度は、まさに道理に反したものであり、且つ又日本アジアの孤児に陷れるところのものであります。口を開けば敗戰国だから仕方がないこういうことが国内で言われており、そうして、その源泉は実は政府そのものがそういうことを言つておる。そういうことによつて日本人もそういうように考えておる。(笑声)併し、必要以上に米英の前に屈服するこの卑屈な態度は、決して国家と民族の前途に対して光明と再建の道を開くものではないということを、私は断言するものであります。今やアジアの民族解放運動に目を開くことがない者は、日本の政治を論ずる資格はないのである。中華人民共和国は言うまでもない。ヴイエトナム、ビルマ、イランはどうなつている。(「デマを飛ばすな」と呼ぶ者あり)又極く最近では、先ほど述べられましたように、フイリピンの例が挙げられておるのでありますが━━━━━━━━━━キリノの自由党は敗退しつつあるではないか。(「何だ」「懲罰だ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)これこそ、一握りの売国奴を除外した全国民の下からの盛り上りによる民族解放闘争の力の現われである。このアジアの諸国と提携せずして、太平洋のかなたのアメリカに媚び語う連合国財産補償法案のようなやり口をこれから重ねて行けば、我が国の前途は甚だ憂うへきものであると言わねばならないのであります。(「デマを言うな」と呼ぶ者あり)  以上我々は三つの理由を挙げてこの法案に反対したのでありますが、最後に最も驚くべきことは、本法案によると、交戰国の戰闘行為による被害の一切を補償することになつている事実であります。日本に対する爆撃は、広島、長崎の原爆攻撃に見られるように、婦人、子供はもとより、一切の市民が無差別の攻撃を受けておるるのであります。当時の原爆使用の目標は如何なるものであつたか。このことは、米国の戰略爆撃調査団報告も明らかにこれを語つておるように、広島と長崎とは、それらが人口の集中地点であつた故に、目標として選ばれたのであり、又ロンドン・タイムスのワシントン特派員は次のように報じておるのであります。即ち、六月初旬までは大統領と軍部指導者たちは、この新兵器は使用さるべきでないという点で意見が一致していたが、最近六十日間に、いな、恐らく三十日間にこの最高統帥部の政策は逆転したのである。(「いい加減なことを言うな」と呼ぶ者あり)このポルチモア・サン紙の報道は一九四五年八月八日のことであります。これに対して、この報告があつた翌日、八月九日にトルーマンは次のように述べておる。「最初の原爆が軍事基地広島に投下されたことに世界は気が付くであろう。これは何よりも先ず市民の殺戮をできるだけ避けようと欲したからである」。こういうような声明を行わざるを得なくなつておるのであります。併しこういうことについては、私はくどくど述べようとするものではなくて、いずれにしても、我が日本国民の頭上に最初の人類大量殺戮兵器が投下された事実は蔽うことのできない事実である。このような無差別爆撃による連合国資産の被害の一切を我が国補償しなければならんとは、余りにもこれは苛酷ではないだろうかと私は思うのであります。イタリア平和條約におきましても、損害の三分の二を補償すればよいことになつておるのであります。而も更に惡いことには、吉田内閣は、この補償の源泉を、戰争の真の犠牲者であるところの国民大衆の乏しいなけなしのふところから取上げた税金によつて賄おうとしておる事実であります。(拍手)これは二重三重の日本国民に課せられたところの悲惨事と私は言わねばならないのである。  以上述べたように、吉田総理が和解信頼の講和であると言つて調印して来た平和條約は、その僅かな一部分であるこの連合国財産補償法案だけを見ましても、国会を無視し、国民に何ら具体的な内容の発表もできず、アジアの諸国との友好を阻害し、アメリカの言いなりになるものでありましてイタリア平和條約よりもなお苛酷なものであることは、今まで述べましたように明らかであります。(「共産党はどこの言いなりになるのだ」と呼ぶ者あり)日本共産党は、このような尻拭い的な法案に対しまして、絶対にこれに賛成することはできないのである。我我は、先ほどの表決にも現われたのでありますが、ああいうような事態が起つておるのでありますけれども、併しこういうような事態がますます一つ一つ国民の前に明らかにされることによつて、(「時間々々」と呼ぶ者あり)諸君の投ぜられましたところのこの表決が如何なるものであるかということが、おいおいおいはつきりして来るだろう。これによつて、こういう事態によつて国民はその真実を知るであろうということを申あげまして、私は、ここに、この反対討論を終る次第であります。(拍手
  53. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) これにて討論の通告者の発言は全部終了いたしました。討論は終局したものと認めます。  これより本案の採決をいたします。本案全部を問題に共します。本案に賛成の諸君の起立を求めます。    〔賛成者起立〕
  54. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 過半数と認めます。よつて本案は可決せられました。(拍手)  本日の議事日程はこれにて終了いたしました。次会の議事日程決定次第公報を以て御通知いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時十七分散会    ―――――・――――― ○本日の会議に付した事件  一、日程第一 平和条約締結について承認を求めるの件  一、日程第二 日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約締結についての承認をもとめるの件  一、日程第三 連合国財産補償法案