○岩間正男君
日本国民は曾
つて日本帝国主義によ
つて歩まされた暗い谷間を再び歩こうとしておる。━━━━━━━━━、悲惨と貧困の谷あいを
国民はただ一筋のあかりを求めて今日まで堪えて来たのであります。(「共産党だけだ」と呼ぶ者あり)一筋のあかり、これこそはポツダム宣言の保障する真の独立と自由と平和をかち取るために世界のすべての国々と講和を結ぶことであ
つたのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)税金が重い。金は借りられない。米は捨て値で取上げられる。給料は上らない。それどころか首が切られるこの苦しさに堪えかねて立ち上れば直ぐ背後の
——によ
つて押え付けられる。こうした憲法をふみにじ
つた一切の出来事は、講和さえ結ばれれば消え去るものと
国民はひとしくその日を待ち望んでお
つたのであります。ところでサンフランシスコから帰
つた吉田総理と全権団の一行は、あたかもこれら
国民の要望に応えるかのように、今度の講和は和解と信頼の講和であり、
日本に独立と自由を保障するものであると宣伝これ努めている。果してそうであろうか。その事実を解く鍵は
政府の
財政経済政策である。そこで私は
日本共産党を代表して、
政府の
財政経済政策の一端について
関係閣僚に質したい。
先ず私の第一に聞かんとすることは、朝鮮戰争とこの
補正予算の
関係である。戰争で儲ける一握りの大商人
どもは別として、
国民は今一人残らず朝鮮戰争の平和的解決を望んでいるのである。だからこそ
国民は今の講和及び朝鮮戰争とこの
補正予算との
関係を知りたが
つているのであります。そもそもこの
予算は、朝鮮及びアジアに真の平和をもたらし、
日本から外国の軍隊を引揚げさせ、自由と独立を民族に保障するために組まれたものであるか。それとも又アジアに戦火を拡大し、
日本の国土と民族を永久に外国軍隊のきずなに繋ぐために組まれたものであるか。
池田大蔵大臣の
答弁を求める。
第二に、私は講和條約調印後の
予算の規模並びにこれに関連して
予算編成権の自主性について質したい。
池田蔵相は出発直前、
歳出は四百五十億
程度、
歳入は今きめられないと言
つてサンフランシスコ
会議にたしか臨んだはずである。然るに調印して帰るや否や、
歳出は千三百億、
歳入は千七百億にはね
上つた。これは誠に驚くべきことと言わなければならない。講和
財政の正体がまさにこれである。僅か半カ月の間に三倍以上も
予算を膨脹させねばならなか
つた理由はそも何であるか。一体、誰の指図で何のためにこのような
予算が組まれたのであるか承わりたいものである。これらのことは、先ほどしばしば論議されたように、又来
年度の
予算規模とも関連して、決して、見逃すことのできない問題であります。この点につきましては、いろいろ論議されたので省略するのであるけれ
ども、このような
予算の規模の拡大は、当然に非
生産的な
支出の増大と軍拡
インフレの激化によ
つて、
国民生活に堪えがたい
負担をもたらすことは、今までの論議を通じて明らかであります。これに対する
政府の対策が伺いたいのであります。又、
予算の規模の拡大の問題と関連しまして、
予算編成の自主権についても伺いたいのであります。近くドツジ氏が来訪されるということが伝えられておるのでありますが、これによ
つて、今度の
予算並びに来
年度の
予算について、蔵相が曾
つて演説の中で言明したものが覆えされるようなことが起らないかどうか。この点、はつきりさせてもらいたいものである。又この
予算の扱い方について、新聞に伝えられるところによると、蔵相は、この
補正予算案を国会に提出するに先だ
つて天皇に説明をしておるが、これは従来に例のなか
つたことである。どういう必要があ
つてこういう異例の措置をとられたか。併せてこの点も
池田蔵相に伺いたいところであります。
私の第三に聞かんとする問題は
補正予算の軍事的性格についてである。
昭和二十六
年度本
予算の審議に当りまして、我が党は、直接間接の軍事費が
予算の六割以上を占め、その
傾向が今後ますます増大するであろうことを指摘したのであります。然るに、この
補正予算を見るに、我が党の予見が如何に正しか
つたかを証明している。即ち本
年度の
予算歳出総額は今次の補正を加えて七千九百三十七億円、まさに終戰以来、未曾有の
厖大予算である。当初
予算施行後まだ半カ年を出でずしてこのような膨脹を示した原因は、言うまでもなく軍事費の増大である。その証拠として挙げられる第一は警察予備隊費である。当初
予算は百六十億円であ
つたのでありますが、又してもほぼ同額をこれに追加している。これでは、如何に吉田総理が再軍備を否認し続け、今は
国民の
負担がこれを許さないと言明しても、
国民が
承知できないのである。何故ならば、天下周知のごとく、警察予備隊はすでにロケツト砲、迫撃砲を持ち、更に火焔放射機や戰車を持たされようとしている。こうして、許さないはずの軍事的
負担が刻々
国民の肩に重くのしかか
つて来つつあるのであります。
日本海軍への萌芽とも言われる海上保安庁費一億五千万円、国防分担金の走りとも見られる特別調達回転基金七十五億円も、すべて直接的な軍事
支出であることは明らかである。それだけではない。
政府はいつ何どきでも軍事的目的に振向けることのできる
厖大な
予備費を新たにこの
予算の中に準備しておる。即ち、
外為特別会計、
食管特別会計等への繰入金、
国際通貨基金及び
国際開発銀行への
出資金、更に平和回復善後処理費等、これらのものを合計して七百億円を超えておるのである。これらは表面如何なる名前を付けようとも、曾
つて債務償還費が突如として警察予備隊の創設費に振向けられたと同じように、一朝事あれば直ちに使用できるところの軍事費であろうと思うがどうか。これら間接直接の軍事費は
厖大な額に達し、今次
補正予算一般会計の約七割を占めておるのである。こうした事実こそ、吉田全権団一行がサンフランシスコ
会議において
日本をアジア侵略の尖兵として再武装することを内諾した何よりの証拠ではないか。吉田総理並びに
池田蔵相の明確なる
答弁を求めるものであります。
私の第四に聞かんとするのは、
政府の
産業、
貿易、
金融政策と
補正予算との
関係であります。
政府は、開発銀行、
輸出銀行への増資をする一方、貯蓄債券の発行その他あらゆる方法を以て
資金を掻き集め、これを戰争
経済遂行の
重点産業に投入しようとしているのである。子供銀行さえこの例外ではないのである。これは吉田
政府の日頃宣伝する日米
経済協力体制をいよいよ強化しようとするものにほかならないのである。然らば果して日米
経済協力は我々に何をもたらしたかということである。言うまでもなく朝鮮戰争開始以来、
日本経済は急速にアメリカ戰時
経済の一環として編入され、その結果は恐るべき破壞と窮乏の一路を辿
つておるのである。
先ず第一に挙げなければならないのは
貿易の破綻である。
貿易政策については、その要めとも言うべき外貨
予算の編成権と為替の管理権とがウオール街の貧慾な戰争屋
どもによ
つて握られ、
日本国民は彼らの操る
国際物価の変動のまにまに飽くなき大収奪をほしいままにされているのであります。例えば今年の春、油脂、皮革、ゴム等の輸入に当
つては、最高価格でこれらの物が押売りされ、買
つた途端の大暴落で
厖大なストツクを抱え込まされた。そうして、その月々の損害は百八十億にも達していると言われておるのである。併しこれはほんの一例に過ぎない。このような馬鹿げた輸入政策により、商社の破産が続出し、手持外貨は底を突き、遂に新たな輸入にさえ事欠くに
至つておるのである。
輸出も又そうである。綿布も、鉄鋼も、二割から五割方原価を切下げなければならないほど買い叩かれ、それでもなおキヤンセルが激増しておる。この自主性を全く喪失した
貿易によ
つて国民に莫大な損害を與えて顧みない責任を
政府はどう
考えているのであるか。第二に指摘したいのは
産業の崩壊である。即ち、戰争協力政策のため一切の資源と
資金は挙げてこれを軍需
産業に注ぎ込まれ、そのため平和
産業は無視され、踏みにじられているのである。
電力危機の実相が何よりもよくこれを物語
つているではないか。元来、水が足りない、雨が降らないというようなことは、これは危機の本質を覆い隠すものである。(「その
通り」と呼ぶ者あり)電力設備は荒れるがままに放任されておるにもかかわらず、工業用電力の
割当は、アルミ、鉄鋼等の軍事的な大口需要にその七割も集中され、原価を割
つた低廉な価格で供給されている。又軍事基地の建設に伴う電力の間断ない使用も危機を深めている原因である。これに対して、
中小企業、平和
産業への
割当は僅か三割に過ぎず、週三日の休電日は全く
生産の停滯を来たし、賃金の遅配欠配が至る所に続出しておるのであります。これは無論電力だけのことではない。
石炭、鉄鋼等、基幹
産業並びにその関連
産業におきましても、過度的集中はいよいよ強化され、その結果、平和
産業、
中小企業は不当に圧迫され、崩壊の速度を早めておるのである。
第三の問題は市場の行詰りの問題である。言うまでもなく、平和
産業の崩壊と
国民生活の破綻とは国内市場をますます狹隘にし、国際市場は又堪えがたい飢餓
輸出によ
つてさえ打開困難の現状である。中共
輸出禁止によ
つて根本的に狂いを生じた鉄鉱石、粘結炭等の原料確保も、アメリカがこれを保障してくれると太鼓判を押した
政府の宣伝は、全く今日では計画倒れに終
つておるのである。これにあわてた
政府とワシントンの主人公は、目下ひたすらに東南アジアの開発に血路を求めようとしている。併しながら、価格、船腹等から元来無理な計画が、まだその緒にも着かない先に、マライ、ヴエトナム、フイリピンを初めとする東南アジア諸国の民族解放闘争は燃え拡がり、
日本による開発は曾
つての大東亜共栄圏の再現であるとのごうごうたる非難は、
政府派遣の当局者をすら政情不安を歎かせているのが現状であります。その上、香港を中心とする日貨排斥運動が現在拡が
つている。こうして東南アジア開発に一縷の望みを抱いた
日本の
産業資本家も、今や全くその夢が破られ、唯一の安定した市場として中日
貿易を望む声が目下急速に高ま
つておるのであります。吉田総理は今次国会の
答弁において、中日
貿易を過大に評価すべきでないということを再三繰返して述べておる。又それはこうしたどうにもならぬ現状を蔽い隠そうとする下心ではないのか。中国は、解放後二カ年にして、広汎な土地改革の成功は、食糧において二七%、綿花二五%の増産を示し、満洲の
石炭は戰前の約二倍、重工業の
生産指数はこれと共に急速な上昇線を辿
つているのである。
貿易もつい最近に
至つて七十年来初めて
輸出超過に転じたことが伝えられている。これに反して、
物価は朝鮮戰争の
影響によ
つても僅か三%
程度の騰貴を示しているに過ぎない。これはアメリカの一七%、イギリスの二〇%、我が
日本においては実に六〇%というような馬鹿に
厖大な騰貴率を遙かに下廻
つていることは言うまでもないことであります。
こうして中国
経済の飛躍的な発展を直視すればこそ、最近
日本経済新聞はその社説で、
吉田内閣の向米一辺倒を戒め、戰後の我が国は二大勢力の間にあ
つて苦難の道を歩まねばならぬ運命にある。我々は飽くまで自由主義国と共産主義国の並存の可能を信じ、それに伴
つて進まねばならぬと警告している。
池田蔵相の手放し楽観論が、こうした財界の苦言を何と聞くか、併せてその所信を伺いたいわけであります。なお、以上の問題について、周東
安本長官並びに高橋
通産大臣の
答弁を併せて要求するのであります。
私の
質問の第五は、税並びに賃金と
生活水準の問題である。
今まで述べたように、
吉田内閣の戰争準備の
財政経済政策が
国民生活に及ぼす
影響が極めて深刻であることはしばしば述べられた。その一つは、重税、低賃金、低米価による収奪をますます深め、他は厚生、文教、労働、地方
財政政策等への物凄いしわ寄せとな
つて現われているのである。
池田蔵相は、四百億のいわゆる税法上の
減税を
政府の
公約実施なりと呼号宣伝これ努めておりますが、その本音は、サンフランシスコから帰
つて、帰朝第一声が何よりもよくこれを示していると思うがどうか。すでに明らかなように、
減税四百億は、自然増、水増
所得を前提としてのことであり、実質的には差引千百六十億の増税である。これに地方税の
増収分四百二十三億を加えるときは、
補正予算において約千六百億の大増税となることは明らかである。これまでもしばしば論ぜられて来たように、税法上の
減税という
政府のこの発明は、この大増税の実体を
国民の目からくらますためにとられておるところの煙幕であり、愚民政策の現われである以外の何ものでもないじやないか。
一方又
政府は公務員のベースアツプを千五百円
程度見込んでおり、これによ
つて一万円ベースを
予定している。併しこれは人事院勧告を距たること千二百円の開きがある。而もこの人事院勧告すら、米価、
電力料金等の
値上げを考慮しておらず、まして汽車賃、
通信料金、ガス、水道料の独占
物価並びにこれに伴う一般
物価の値上りを全然
見込んでいないのである。
従つて人事院勧告よりも遥かに劣る
政府案がこのまま実施されれば、実質賃金の低下は勢い大衆の
生活をこれ以上に窮乏に追い込むことは必至であります。而も焼石に水に等しいベース・アツプも地方公務員の場合は始んど何ら
財政的措置が講ぜられず、すべては目下窮乏の極を辿
つておる地方
財政に任されておるのである。
このようにしてたとえ名目的な
減税とベース・アツプが行われたとしても、水増し
所得による増税とこれに伴う
物価の上昇は、相対的に
国民の
生活水準を著しく低下させざるを得ないのである。
従つて労働者の賃上げ闘争は絶対にやむときがないのであります。殊に講話條約調印後の戰争
経済からの押し付けが強化されればされるほど、労、農の抵抗と反撃は激化せざるを得ないのである。今やそのよ
つて来たるところを身を以て知
つた日本の労働階級は、
生活権の擁護と平和、民族の独立のため戰い抜くことでありましよう。これを予想すればこそ、
政府は多くの
予算を割いて、警察予備隊、特審局、国警、税務署等の彈圧並びに牧奪機関を急速に増強し、一方、労働法規の改惡、ゼネスト禁止法、団体等規正法等の反動法案の立法化を目下企らんでおるのであります。警察国家による恐怖政治の再現が今や
日程に上りつつある。吉田総理と
池田蔵相は、これらの事態を直視し、飽くまでも
国民の
生活水準を守り拔く
考えがあるかどうか伺いたいものであります。
最後に私の質したいことは、官公職員の不正問題であります。鉱工品公団の早船の話はもう古い。それほど官公庁の不正事件が矢継ぎ早に明るみにさらされつつある。曰く海上保安庁の汚職事件、曰く警察予備隊涜職事件、曰く何々公団、
通産省、
大蔵省、更に最近
国民実践要領を叫んでおるその文部省の足下にさえ、かような不正が起
つておるということは、実に歎かわしいことではないか。会計検査院の報告によれば、
昭和二十四
年度における各省、公団の公金不正使用は十数億円に上り、件数にして七百五十件に達しており、而もそのうち最も多いのが
大蔵省であると言われている。
池田蔵相は過般の閣議で、この点に関し警告を発したと伝えられておるが、それは如何なる事実に基いてのことであるか。その内容をここで明らかにされたいものである。これらの不正は、レツド・パージ後急速に目立
つて来たところの現象であります。殊に最近はその規模と構想が極めて大きく、金額も数千万円、ときには数億円を以て数えておる。又背後には思いもかけぬ大物が控え、ときには外国人との繋がりがあ
つて摘発を鈍らされておる。又これらの犯行者の責任観念が極めて乏しいことなどを挙げることができるのであります。誠に世は澆季であり、あたかも蒋介石政権の末期的樣相を呈しておると言わねばならないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
一体これらの不正官僚によ
つて横領されたところの金はどんな性質のものであるか。言うまでもなくそれは
国民の血と汗の結晶であり、差押え、競売はおろか、親子心中、首つりまでして搾り取られたところの血税であります。このような飽くことのない収奪をほしいままにする
政府なればこそ、外国の手先とな
つて国際協定を軽々と破り、憲法を全く無視して
国民を戰争に駆り立てることができるのである。こうした不道義な
政府が不正のすべての根源であるということができます。いわば官公吏の不正は、道義的に腐敗しき
つた、植民地的、フアシズム的権力政治機構の中に咲いた惡の花であると思うかどうか。不正が職場で常に陰蔽され、公正な指彈にさらされないのも当然であると言わなければならない。私は吉田総理並びに大橋法務総裁、
池田蔵相に質したい。これらの不正は今後どのように処置し、裁くのであるか。裁くとしても果して
政府にその資格があるかどうか。(
拍手)むしろこの際、潔く内閣を投げ出して、
国民にその罪を謝すべきであろうと思うが、その勇気があるかどうか伺いた、
国民の眼は今ひとしくこの問題に向けられておるのである。返答次第では、納税に大きな
影響があると思うがどうか。
以上で
質問を終りますが、要するにこの
補正予算は、
日本を急角度にアジア大陸から切り離し、一国の
財政経済を挙げて反共侵略の戰争準備に投入せんとするところの亡国的
予算であります。併し前にも述べたように、いわゆる自由主義国と共産主義国との共存の可能につきましては、
日本の心ある良識が、大衆がこれを信じて疑わないところである。然るに
吉田内閣は反共鎖国のイデオロギーを固持して飽くまでこれと心中せんとしておる。心中するのは勝手であろうけれ
ども、そのために
国民大衆を道連れにすることは真つぴら御免であります。(「議長、時間時間」と呼ぶ者あり)我々は歴史の歯車を逆に廻そうとする、このような老ドン・キホーテに殉死せねばならぬ義理は少しもない。まして、そのために組まれたこのような
予算については、国を愛するすべての
国民と共に我々は徹底的に鬪わなければならないのであります。(
拍手、「つまらないこと言うなよ」「
答弁の要なし、
答弁の要なし」「
答弁無用」「何言うか、ふざけるな」「
答弁するような話じやない」と呼ぶ者あり)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕