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1951-10-16 第12回国会 参議院 本会議 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月十六日(火曜日)    午前十時十一分開議     —————————————  議事日程 第四号   昭和二十六年十月十六日    午前十時開議  第一 国務大臣演説に関する件(第三日)     —————————————
  2. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 諸君報告は朗 読を省略いたします。      ——————————
  3. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) これより本日の会議を開きます。  この際お諮りいたします。地方行政委員長から、第十三回全国都市問題会議に出席し、地方自治に関する委員会審議の参考に資するため、宮城県に安井謙君、相馬助治君、鈴木直人君を本月十七日から五日間の日程を以て派遣いたしたい旨の要求がございました。これら三名の議員を派遣することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。よつて委員長要求通り議員を派遣することに決しました。      ——————————
  5. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。(第三日)  昨日に引続き、これより順次質疑を許します。前之園喜一郎君。    〔前之園喜一郎登壇拍手
  6. 前之園喜一郎

    前之園喜一郎君 サンフランシスコにおける平和会議は、日本国民困苦忍従によつて連合国の信用を回復したるその基盤の上に立ち、首席全権初め全権団議員団各位の御努力によつて、大多数の招請国と共に調印を了せられ、講和成立見通しを明確にせられたるものでありまして、深くその労を謝する次第であります。私は国民民主党を代表いたしまして、以下数項につき所信を述べて、総理の明快なる御答弁を求むるものであります。  その一はアジア政策の問題。  平和條約に対する最も重大なる問題の一つとして内外の関心を集めたものは、日本に密接な関係を持つアジア諸国平和條約に対する態度如何であつたと思うのでありますが、不幸にしてインド及びビルマは遂に招請に応ぜず、フイリピンインドネシア賠償問題を強く取上げたのであります。又中国は、総理説明事情通り、いずれの政府にも招請状は発せられなかつたのでありまして、これらの事実は講和会議の目的乃至効果を著しく減殺するものであると言おなければなりません。申すまでもなく、日本独立のためには、アジア諸国との友好関係を取り戻し、あらゆる角度からアジア諸国と協調を保ちつつ、東洋の安全平和のために、はた又通商貿易等のために最善を盡さなければならないことは、多弁を要しないところでありまして、日本は万難を排してこれらの諸国と速かに平和條約を結ばなければならないのであります。政府は勿論近き将来にインド及びビルマ平和條約を締結される具体策を講じておられることと思いますが、この際その見通しについて説明を願いたいのであります。又賠償條件として調印いたしましたインドネシアフイリピンに対しては、先方の申出を待つまでもなく、速かに敗戦日本の可能の限度において、十分の誠意を披瀝して賠償の取極をなされる準備があるものと思いますが、その内容方法等について具体的に承わりたいのであります。  思うに、東南アジア諸国日本に対する国民感情は、單に賠償によつて直ちに氷解融和するものではなく、日本国及び日本国民が真心を以て過去を謝罪し、将来を誓うことが先決問題であつて、かくすることにより賠償問題も円滑に進展するものと信ずるのでありまするが、これらの点について政府所信を質すものであります。  中国に対する問題は、最も重大であると共に、又最も厄介であると存じます。連合国においてすら、中共と国民政府とそのいずれを招請するか、遂に議をまとめることができなかつたのでありまするから、日本がそのいずれかを選ぶということは容易にできる問題でなく、その方途を誤まるならば、将来に大いなる禍根を残すことは明白であると存じます。さりとて中国日本にとつてあらゆる観点から最も大事な国でありまするので、速かなる国交の回復国民ひとしく待望しておるのであります。政府中国に対する善隣のよしみを如何なる手段方法によつて求めんとしておらるるのであるか。詳細に承わりたいのであります。  次にお尋ね申上げたいことは、調印を拒否したるソ連との関係如何に処理せらるるのであるか。又降伏文書並びにポツダム宣言等平和條不参加国には存続するものと解せらるるか。若しさようであるとするならば、中国ソ連等に対しては戦争状態は継続するものであつて、それらの国は理論上日本占領のために進駐する権限を持つと言わなければならないのであります。日本は、ソ連中国に対しては條約発効後といえども独立国と言うことはできない関係に置かれるものと思うのでありますが、この点について総理の忌憚なき御所見を承わりたいのであります。  次に、私は領土問題についてお尋ね申上げ、政府善処方と一段の御協力を要望いたしたいと存じます。その一は、千島最終的帰属については、同列島が歴史的民族的に日本領土であるのに鑑み、日本に返還せらるべきものと信じますが、政府の御所見如何サンフランシスコ会議において、総理は、樺太及び千島につき、ソ連代表主張を強く反駁せられたとのことでありますが、その内容を承わりたいのであります。二、歯舞米国代表千島列島中に包含せられざる旨の見解を示したる由でありますが、色丹も同樣なりとお考えになりますか。その三、琉球奄美大島小笠原等、北緯二十九度以南南西諸島信託統治下に置かれることになりましたが、サンフランシスコ会議において、これらの諸島に対する主権は日本に残ることが明確になつたことは同慶に存じまするけれども、我が国民民主党は次のごとき強い希望を持つておるのであります。即ち政府は、これらの諸島信託統治とせず、信託統治同一効果をもたらすように米国軍事的要望を満足せしめる交渉をなすことはできないのでありますか。例えばこれを安保條約の行政協定によつて米国基地として権限を許與する等、その一つ方法であると存じます。総理演説の中に、「南西諸島の処理について今なお国民諸君の一部に不満の声を聞くのであります」云々と言われているのでありますが、私の見聞する限りにおいて、特に奄美大島日本復帰の念願は、不満の声などという生やさしいものではないのでありまして、日本国民中彼らほど講和を待望した者はなく、講和後の日本復帰は彼らにとつては夢寐の間といえども忘れることのできなかつたものであるのであります。奄美大島島民、老若男女を問わず、二十四時間の断食による日本復帰の悲願を訴えたる切々たる衷情を看過してはならないのであります。講和調印成れる日、奄美大島島民が弔旗を掲げ、復帰かなわざるを嘆いたということが、或いは誤まり伝えられているかも知れませんが、これは決して反米思想でもなく、まして講和を呪詛するものでもなく、一途なる愛国心の表現の方法でしかなかつたのでありまして、誠に胸を打たれる思いをいたすのであります。総理におかれては、諸般事情を御賢察の上、以上申上げましたことを十分御研究あらんことを切望いたす次第であります。止むを得ず信託統治が当分行われる場合、一定の期限を付することも御考慮を願いたいのであります。なお安保條約第四條の條約失効と信託統治関連性についても御意見を承わりたいのであります。又信託統治の場合の住民国籍日本にありと認められるのでありますか。住民に対する実際上の取扱等についてお伺いいたします。  次に自衛力創設の問題についてお尋ねいたします。総理は従来しばしば再軍備はやらないと言つておられるが、これはもとより絶対的ではなく、国力考えられての時期の問題だろうと思うのであります。今回の総理演説の中にも、「日本の恒常的な安全保障の途を如何にすべきかは、独立回復後において政府及び国民が独自の見地に立つて愼重考慮の上決定すべきことであります」と述べておられる点を国民は非常に注目いたしているのであります。又平和條約に日本の再軍備禁止條項がないこと。安保條約が飽くまでも暫定的取極であり、安保條前文末尾によりましても、直接及び間接の侵略に対する自国防衛のための漸増的に自ら責任を負うことを期待する米国側希望が述べられている点から考えましても、自衛力創設準備は今日よりなされるべきであると思うものであります。いずれにいたしましても、自活自衛のできない独立国家とは單なる空名に過ぎないのであつて、真の独立ではないということを日本国民は自覚すべきであると思うのであります。  在外資産の問題についてお尋ねいたします。その一、在外資産没収賠償に代るべきものと解せられるが、政府の御所見如何。又第十四條との関係についても御説明を願います。その二、在外資産私有財産没収に対し、私有財産尊重精神に基き返還方を懇請される御意思はありませんか。その三、條約第四條により、日本より分離する旧領土中、台湾における日本人財産等については、その処分につき中国官憲協定されるべきものとなつておりますが、その具体的な方針について伺いたいのであります。その四、在外資産内容及び金額の概要について御説明を願います。  次に未帰還の同胞引揚問題について政府方針を承わりたいのであります。国民の強い要望に基き、政府米国政府に懇請の結果、平和條約第六條に引揚に関する一項を挿入されたことは、当時国民の大きな感激であり、特に留守家族はこれによつて一筋の光明を認めたのでありまするが、要は今後如何にして引揚を具体化するかにあつて、絶対に一時の糠喜びに終らせてはならないのであります。本年七月二十五日の引揚問題に関する外務省発表情報部長談によりますると、昨年国際連合総会の決議に基きまして設立されました引揚に関する特別委員会は、引揚問題平和的解決具体的方法等を研究中とのことでありまするが、この三人委員会活動状況についても御報告を願いたいのであります。  なお、この際特に申上げたいことは、戦争犠牲者の補償及び援護を急速に法制化し、予算に計上されたいということであります。この問題については、当院の在外胞引揚特別委員会等においても、これまで繰返し要望せられているところであり、政府又十分に御認識になつておられる通りであります。平和條約まさに成らんとしつつあるとき、政府諸般事情を考慮せられて急速に実施せられんことを強く要望いたす次第であります。  次に、これは昨日も御質問があつたと思いますが、平和條約批准後に当然行わるべき恩赦戦犯者に対する関係についてお伺い申上げます。前者に対しては、戦争中又は敗戦後法律の擬制によつて犯罪と認められたる者、例えば物価統制令違反衣料等統制令違反主食統制令違反、密入国、密輸出入等政令違反等が数えられるのでありまするが、これらはその性質上恩赦の範疇に入るべきものでありまするが、その他の犯罪にしても、敗戦という冷厳なる事実に何らかの関連を持つものが多いのでありまするから、できるだけ広範囲に彼らに更生の機会を與えるよう御配慮願いたいのであります。これについてはすでに準備を進められていることと思いますので、お差支えのない限り御発表を願いたいのであります。又目下戦犯者として審理中の者、又は判決の確定したる者に対しても、平和條約の定むるところに従つて、成るべく早い機会に、特赦、減刑、仮出所等の手続をとられるよう切望いたします。  次に安全保障條約について質問をいたします。  この條約には考えなければならない二つの基本的な問題があると思うのであります。その一つは、日本独立国として対等立場に驚いて米国安保條約を締結するということであり、他の一つは、この條約は、講和條発効後の日本真空状態の危険を防ぐために、日本希望によつて米国と結ばれる安全保障條約であるが、その狙いは單に日本の安全にとどまらず、総理御所論のごとく、極東の平和、延いて世界の平和と繁栄の前提をなすものであつて米国に対しても日本共産主義侵略を防ぐ一大防壁となることが考えられまして、頗る深遠なる意義を持つものであるということであります。故にこの條約は、ポツダム宣言降伏文書等を背景として勝者と敗者との間に結ばれる平和條約とは根本的に日本立場に相違があることを十分に考えて、今後行政協定等においては自由活溌に論議せられて然るべきものであります。この條約はその前文に明記せられるごとく、飽くまでも暫定的でなければならないものでありまして、決して国家完全独立支障を生ずるがごとき長期に亘るものであつてはならないのであります。そこで政府に質したいことは、條約前文にいわゆる暫定とは、幾らくらいの年限が考慮せられておるのでありまするか。條約前文末尾の、自国防衛のためみずから責任を負うことを期待できるまでの期間解釈すべきでしようか。本條約第四條によつて本條約が効力を失うまで存続するとせば、その期間は極めて茫漠として捕捉しがたく、又暫定とは言い得ないのではありますまいか。それ故に、あらかじめ條約の有効期間を定め、その間に、米国希望する通り日本自衛力を漸増的に強化して、完全独立自衛へと移行することが最も理想的であり、又一面、自衛力創設に対する国民の覚悟をきめる上にも役立つものと考えられまするが、この点について政府の御所見を伺いたいのであります。  なお、この際、憲法第九條の問題について申上げたいのでありまするが、私は左の理由によつて憲法第九條は改正せらるべきものと信ずるのであります。即ち一、現行憲法敗戦直後改正せられたものではありまするが、その目指すところは、非常に高い倫理と永久的世界平和を願望いたしまして、みずから一切の戦争軍備を放棄したものであつて、その精神は、日本領土軍備を施さずという大原則を打ち立てたものと解すべきものであつて、自分の国の軍隊はいけないが外国の軍隊はよろしいというがごときものではなく、又かくのごとき解釈は政略的な解釈であつて、私どもは賛成しがたいのであります。その二は、日本は、憲法第九條によつて一切の軍備を放棄したのでありまするが、現下の国際情勢及び独立後の日本は、他力本願でなく、自衛力を創設しなければならないことは、もはや国民大多数の意見であると私は思うのであります。その三は、前にも述べたごとく、憲法第九條は、平和、安保両條約と抵触する場合が考えられるのであります。例えば朝鮮動乱等関連して、平和條約第五條の(a)の(iii)によつて、この規定は御承知通り国際連合が憲章に従つてとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を與え、」云々とあります。日本があらゆる援助を與えなければならないのでありまするが、この規定に基いて国際連合日本人的資源を求めることがあると仮定いたします。その場合に、日本はこれに応ずる條約上の義務があると思うのでありまするが、憲法第九條には反することになる虞れが考えられるのであります。以上のような理由で、私は、この際、憲法は改正すべきものであると信ずるものでありますが、この点について重ねて総理の御意見を承わりたいのであります。  次にお伺いしたいことは、本條約第三條にいわゆる「配備を規律する條件」、即ち今後に行われる米国との行政協定が最も大事な役割をすることになるのであつて国民にその行政協定内容を知らしめることは当然の義務と思うのでありますが、総理はこの点について御説明がなかつたのであります。もとより私は米軍の機密に属する問題について論議しようとするものではありませんが、たとえ米国との交渉未だしといたしましても、日本立場として、次に申上げる諸点については、国民国会も一応納得のできる程度の御答弁があつて然るべきものと存ずるのであります。即ちその一、米国権利基地だけに保有されるものであるか。基地以外にも及ぶものでありますか。その二、駐留軍の安全を保障するために日本側は必要な立法を行うことがありますか。その三、米軍に対し治外法権を認めるのであるか。認めるならばその範囲如何。その四、米国は、日本の施設、役務を使用する権利を保有するのであるか。その範囲費用負担等如何。その五、基地以外の駐留もあり得るのか。その六、基地米国の一方的行為によつて放棄ができるのか。その七、基地における鉱業権等はどうなるのか。八、合同委員会の組織及び権限如何。九、分担金限度如何。以上、私の質問事項は極めて常識的なものであつて、何ら米軍駐留支障を生ぜざる問題ばかりであります。   申すまでもなく條約は、一たび締結すればこれを一方的に破棄することはできないのであつて、その効力はときに憲法にすら優先することもあり得るのであります。我が国民民主党は、本條約の暫定的必要を十分に認識して、承認を與える心がまえはできておるのでありまするが、行政協定内容について、可能の範囲において総理の決意と腹案を国民の前にお示しを願いたいというわけであります。ともあれ、敗戦六カ年の国民の辛苦が報いられまして、米国初め連合国の並々ならぬ好意によつて平和條約が結ばれるに至りましたことは、誠に感謝のほかはない次第であります。  これを以て私の質問は終りますが、爾余の問題については深川議員が十分にお質し下さることになつております。以上でございます。(拍手)    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  7. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答えをいたします。  サンフランシスコ会議においてインドその他の国が参加しなかつたということは誠に遺憾なことであります。併しながらインドにしても、すでに日本との間には戦争状態を終結せしめるということになつております。又、成るべく早く日本との間に講和條約を締結したいという意思表示はすでにあつたのであります。又政府といたしましても、成るべく早く講和條約をインドとの間にも結びたいと、こう考えておるので、又ビルマも非公式ではありますが同樣の意見を表明しております。即ち中国を除くのほか、アジア諸国との間には早晩講和條約は締結され得るものと私は確信いたします。但し中国については、只今内政が統一されずして、そうして列国の間にもいずれを認めるかということについては議論が分れておるために、中国代表政府に対して招請をいたさなかつたのでありますが、これは暫らく列国の聞及び中国における状況を見定めて、自然に日本との間に講和條約のできるような機会が生ずるということを私は確信いたします。又アジア諸国との間には成るべく善隣関係を打ち立てたいと考えるために、賠償問題についても成るべく相手国意思を尊重いたして、満足の行くように、満足な協定に達するように政府といたしては努力いたすつもりでおります。  ソ連との関係でありまするが、ソ連との間には今なお幾多の問題があるのであります。例えば歯舞色丹の問題にいたしても、又千島領土問題にいたしても、又ソ連が提案せられた講和條約、対日講和條約として提案せられた提案の内容についても、日本としては承諾いたしがたい幾多條項があります。又抑留者の問題、こういうような問題についても、両国の間に相当困難な問題が存在いたしております。これとの間の調整は、講和條約にまで持ち来たすのに、相手方の、ソ連考え方の変更を要求せざるを得ないのでありましようし、又世界客観情勢といいますか、国際情勢が、ソ連をして対日講和條約に参加するというまでにいたすのには相当の時間はありはしないか。けれども、日本としては、できるだけ早くソ連との間の関係においても講和関係に入りたいと考えるのであります。  千島列島帰属については、サンフランシスコ会議においてもはつきり私は申して置きましたが、千島列島は暴力によつて日本が奪取したものではなくて、樺太との間の交換公文によつてその帰属がきめられたのであります。又歯舞等の島については、これは明らかに北海道に属すべきものである。この主張は飽くまでも政府としてはいたす考えでおります。  二十九度以南西南諸島についての信託統治でありますが、この信託統治の問題は、條約に規定してある通り信託統治にするという可能性があるのであつて国連との間の関係もあり、国連との間の交渉もあるのでありましようし、米国国連との間、或いは日本との間のいろいろな今後交渉の結果決定するものであるのであります。然らば今からして條件をつけてはどうかということでありますが、これはしばしば説明いたす通り米国としては琉球その他の島を併合したいとかいうような領土的の考えではなくして、東洋の平和、或いは日本の治安、安全保障のために、軍事上止むを得ずして信託統治等方法で以てその島を統治するということにしたいという考えであつて、趣意は決して領土的野心とかいうようなことではないのであります。米国の善意にどうぞ信頼されて、暫らくの間その経過をお待ちを願いたいと思います。住民国籍については、これは日本人という国籍を保有することは許されることであります。  次に、自衛についてのお話でありますが、これは独立した以上、その国の独立安全を守るということは、国力の許す限りその国の力を以ていたすべきであるということは当然であります。併しながらこの日本の過去の歴史から考えてみて、日本軍国主義とか、或いは国家主義とかいうような疑い日本に対する疑いは、過去の事実からして解消されておらないのであります。故にたやすく軽々しく再軍備等をいたしまするというと、日本に対する国際的には疑惑等が発生いたす憂いもあるし、又国内においても再軍備いたすまでには日本国力の養成ということも大事でありますし、かたがた内外情勢から、そう再軍備論は、たやすくいたすことができないというのが私の所信であります。無論、国力がこれを許し、そうして又国際情勢日本に対する疑惑が解消せられるという場合には、これは国力の許す範囲において、この問題は考えなければならんと考えるのであります。又條約においても、再軍備を許さない、制限するというような條項は、何らないことは御承知通りであります。  次に安全保障條約は、日本独立国として対等立場において締結せられたものであります。米国政府の指示に従つて出されたというようなことは断じてないのであります。又その存続の期間についても、これは安全保障條約の第四條に明らかに明記せられておるのであります。即ち必要の存在する間であります。然らばその必要は、つまり国際連合によるとか、或いは集団的防衛手段とかいうようなものができて、これによつて日本の安全が十分保障保護せられるという確信が両国政府において付いた場合においては、いずれの時においても両政府の合意の下に廃止するということが書いてあります。ただ、これを数字的に何年の間ということを規定することができたらというお話であろうと思いますが、これは客観情勢もあることでありますから、暫らく成り行きに任せて頂きたいと考えます。  次に、なお引揚問題についてお話がありましだが、これはサンフランシスコ会議においてもはつきりこの問題は私は取上げております。即ち人道問題としても、又ポツダム宣言によつても、日本軍隊にして今なお帰還を許されない者は、いつか日本に復帰せしめる。これは連合国、殊にソヴイエト等におきましては、これは義務として考えられるべきものであり、我々は権利として要求すべきものと考えておるのであります。又この問題については、ただに日本ばかしでなく、フランスも、又その他の国も、ソ連に抑留せられておる軍人軍隊は相当たくさんあるはずであります。で、これはただに日本一国だけの問題ではなくて、殆んど戦争関係した国のすべてではないのでありますが、二、三の国はなおこの問題は残つておるのであります。故に国連においてもこの問題を取上げて委員会作つて、そうして又国連のみならず赤十字社その他においてもこの問題を取上げて、人道的の見地から成るべく早く引揚げ得るように、帰還を許されるようにいろいろな方面からして関係国に要請いたしております。然らば如何なる時期に、或いはどういうふうに今後なるかということは、單に政府として、或いは、又利害を同じうしておる国と共にこの問題の促進に暴力いたすという以外に、相手国のあることでありますからして、はつきりいつ幾日に還すということを申すことはできませんが、併し共同の問題としてこの問題は熱心に国連その他において取上げられておるということを御承知を願いたいと思います。  又安全保障條約と憲法第九條の関係についてのお尋ねでありますが、憲法第九條は、この九條に明記してある通り、国際紛争の手段として兵力を使うとか威嚇を用いるとかいうようなことはしない。即ちいわば自衛問題ではなくて、自衛以外の侵略的問題と申しますか、極くはつきり申せば他国を侵略するとかいうようなことはしないということであります。武力を以て国の主張を通すというようなことはしない、こういうのが規定精神であります。保障條約については、これは自国自衛に関する問題であつて、おのずからその間に区別があるので、保障條約があつたからといつて、これが憲法第九條の改訂を必要とすることはないはずと私は考えます。  又行政協定内容を言えということでありますが、これは従来経過を申した通り、まだ決定をいたさないことで、わずかにこの安全保障條約が、話合いの結果、従来の話合いをしておつたところをまとめて候文化して保障條約となつて講和條約成立後の翌日にこれを調印をするというような運びになつて、その内容である行政協定については今後の問題になるのであります。併し従来話合つたところにおいても、軍事基地というような問題は話しておりません。又合同委員会についても彼我の意見が一致しないものですから、この合同委員会権限はどうするかというようなことについては、まだ彼我の議論が一致しないためにでき上つておらない。一致するまでに行つておらないのであります。分担金の問題等はどうするかという問題も、これ又未定の問題でありますが、多分前例としては、英米の間の協定、現に英国には米国の飛行隊がおるのであります。これらの問題について協定せられた條約といいますか、協約等がいい参考になるのではないかという点くらいまでは話合つたのでありますが、併しながら確定的にどうするか、どのくらいなら分担をするか、或いは分担をせずに済むか、それらのことについては今後行政協定として協定せられるのであります。今日のところは未だ何らまとまつたことがないのでありまするから、お話をする程度になつておりません。  その余の問題については関係大臣からお答えいたします。(拍手)    〔国務大臣池田勇人君登壇拍手
  8. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 在外財産の問題についてお答え申上げます。  御質問の第一は、在外財産を連合国で留置処分することは賠償の一部かと、こういう御質問でございまするが、これは十四條第二項に規定してございますので、賠償の一部と考えております。然るところ、私有財産尊重の意味からいつて、この返還を懇請する意思があるかという御質問でございますが、條約に調印いたしました以上、私有財産連合国で沒收せられても返還を懇請する意思はございません。  次に台湾における在外財産の問題でございまするが、これは條約にありまするように台湾の政府協定して定めることに相成つておりますが、今の中国状況から申しまして、具体的に協定の段階に至つておりません。いずれそういう段階になることと思いまするが、只今のところきまつておりません。  次に在外財産の種類、額の御質問でございまするが、これは終戦直後、連合国司令官の要請によりまして一応の調査はいたしました。法人、個人に分けまして、今までの考課状その他の申請によつて一応の推算をいたしたのであります。併しこれは非常に杜撰なものでございまして、政府といたしまして、これだけの在外財産があつたということを発表するほどの数字ではございません。ただその所在は旧領土並びに中国在外財産が殆んど大部分であるのであります。(拍手)    〔国務大臣大橋武夫君登壇拍手
  9. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 恩赦並びに戦犯者に対しまする赦免、減刑、仮釈放等の点についてお答え申上げます。  講和條約の発効の時期は、恩赦につきまして誠にふさわしい機会ではないかと考えられまするので、目下政府におきましては鋭意その準備を急いでおるわけでございます。成るべく広く及ぼしたいという御意見につきましては全く同感に存ずる次第でございます。  次に戰争犯罪者につきましては、平和條約の第十一條に、これら收容中の者の赦免、減刑、仮釈放について規定をいたしておりまするので、政府といたしましては、その円滑なる具体化を図りたいと考えまして、至急国会の御審議を頂きたく、目下これに必要な国内法の立案を準備中でございまして、これによりまして、平和條発効後、速かに戰争犯罪者に対しましても適正なる赦免、減刑、仮釈放等の措置が行われまするよう努力をいたす所存であります。(拍手)    〔国務大臣橋本龍伍君登壇拍手
  10. 橋本龍伍

    国務大臣(橋本龍伍君) 戰争犠牲者の補償、援護を、法制化、予算化する意思はないかというお尋ねでございますが、法制を準備し、予算化するつもりであります。実はこの件に関しましては、政府は本年度初頭から大体その決心をいたしまして、黒川前厚生大臣の頃に具体的な援護法案の要綱を準備されまして三月に閣議でも内相談をしたことがございまして、爾来なおデリケートないろいろの考慮を必要といたしましたので、伏せてございましたが、講和後の状況に顧みまして、これを具体化する措置を着々進めております。今までのところといたしまして、傷痍軍人には極く僅かな手当を継続いたしておりまするが、遺族は、極東委員会の指令によりまして、誠にお気の毒ではございまするが、全部扶助料を打切つてしまつたのであります。従つてその権利者もわかりませんので、直ちに予算を計上いたしましても誰が受取るというわけにも参りませんので、今回の補正予算に遺族や戰傷病者等に対する調査費を一億円計上いたしまして、年度末の三月一ぱいまでの間に調査を完了するつもりであります。別途援護の法律案と予算を準備いたしまして、二十七年度の初頭から実行いたしたいと考えております。(拍手)     —————————————
  11. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 大山郁夫君。    〔大山郁夫君登壇拍手
  12. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 議長並びに議場の皆樣、私は先ず第一に、この演壇まで杖を運んで来たぶざま振りを許して頂きたいと思うのであります。実は昨年の八月から一年数カ月に亘つて病院生活をしておつたので、最近やつと許されて退院をいたしましたが、まだ主治医から平常の活動に帰ることを許されておらない。こういうわけなんでありまするから、自然こういうことになつたのであります。その点御了解を願いたいと思います。  そういうような状態でありますのに、今日私はここへ出席いたしまして、そうしてこの一言だけ発言の機会を得たそのわけは、勿論皆樣においてもすでに御推察なさつておることであると信ずるのであります。即ち我我は今非常に重大なる地位に立つておる。日本があの敗戰から復活して、将来世界の平和と文化とに盡すことができるような状態までやつて来ることができるか、それともこの瞬間において全然隷属的の地位に、そうして一言もない国家生活をしなければならなくなるかということは、もう実にこの瞬間における我々の態度一つにかかつているのではないか。こういうふうに考えられます。(「そうだ」「その通り」と呼ぶ者あり)この重大なる時期に国民の各階層からさまざまの意見が持ち出されなければならない。そういうような考え方で、私は勿論ここにいる以上は、このいろいろの政党、又いろいろの集団を代表せられるかたの御意見に傾聴したいと思うのでありまするが、併し又私の独得の、或いは特異の立場から自分の意見を申上げて、そうして又聞いても頂きたい。殊にこの私たちが接触しているところの民衆の声というものが、あんまり日本の政治の上に代表されておらないように思うのであります。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)  先般ダレス氏が日本に来たときに、あの講和の構想を示されて、そうして、それに対して意見を申上げるというようなことも言われたようにも思うのでありますが、併しその当時あのダレス氏に示された意見というものは、これは支配階級という言葉を用いることを許して頂きたい、そのほうに属する人々の側から主に言われたようでありまして、本当に民衆と接触して、民衆の声をあのダレス氏に告げた者は一人もいなかつたように私は考えられるのであります。(「その通りだ」「そうしたのだ」と呼ぶ者あり、拍手)そういう立場から、一言だけここに言わなければならない。又世界はそれを聞こうと欲しているのではないか。(「そうだ」「その通り」「共産党代表」と呼ぶ者あり、笑声)こう考えるのであります。(「共産党代表」と呼ぶ者あり)それで、共産党とかいうことが出ましたが、これは事実を歪曲するものであります。私は不偏不党の立場にいるのであります。それは第一クラブに私は属しておりまして、而も私は今日ここに出るについては第一クラブの諸君に感謝しなければならない。第一クラブの諸君は私と政治的意見を(「共産党に入れ」「卑怯だ」と呼ぶ者あり)必ずしも一致しているのではない。併しながら(「質疑に入れ」と呼ぶ者あり)この重大なる時期において、各方面の意見を聞くことは非常に大切であるという態度とその考えから、私は発言の機会を與えられた。これこそ実に言論に対する非常に大きな寛容の精神である。(「頑張つて下さい」と呼ぶ者あり、拍手)これこそ本当の民主政治の現われであつて、政党でないところの第一クラブであればこそ私はこういう態度がとれたと確信しているのであります。(「共産党へ入れ」と呼ぶ者あり、拍手)今日の日本の二院制度におけるところの参議院のあり方というものは、こういうものによつて示唆されているのではないかとも考えるのであります。(「共産党によつてか」と呼ぶ者あり、拍手)そういうわけでありますが、それで私は……、頻りにさつきから共産党というような声が聞えるが、これがどこにその頭が付いているかたが言われるか知らないが、そうでない。私が政党に関係したのは、曾つて旧労農党に関係したことがありまするが、併しながらそのときにもやはり全人民の利益を代表するというその立場に立つていたのであります。今日に至つてもやはり同じでありまして、(「質問をしろ」「靜かに聞け」「駄目だ、老ぼれちや」と呼ぶ者あり)余りにわからないことを言われるとそれに対する解釈を與えなければならないと、こういうふうに考えられるのでありますが、(「からかわれないで堂々とやつて下さい」と呼ぶ者あり)私はあの昨年の(「質問をしろ」と呼ぶ者あり)参議院の選挙に当つて京都の大衆に訴えた。勿論、京都の大衆のみならず全国の大衆に訴えたのであつて、そのときに大衆からさまざまの私に対する要求が出たのでありまして、一年間の病気にも私はその大衆の要求を忘れることはできないのであります。(「共産党」「黙れ」と呼ぶ者あり)その大衆、勤労大衆、初めから日本の、もう今から二三十年前、もう帝国主義戰争反対、政治的自由獲得の旗を樹立して勇敢に鬪つたあの戰鬪的な勤労大衆、労働者、農民、並びに無産市民、この勤労大衆、そうして又その往年の大衆の伝統を受けているところの今日の大衆の立場からものを見たい。こういう関係でここにやつて来た次第でありまして、私は(「耄碌するな」と呼ぶ者あり)ここにいろいろの発言をしようとか、或いは又識見を示そうとかいうような、こういう立場からこういうことをしようとしているのではないのでありまするが、
  13. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 靜粛に願います。
  14. 大山郁夫

    ○大山郁夫君(続) ただ街頭だの或いは田園、工場における平凡な大衆が、講和條約と安保條約に対してどういう考えを持つているのであるかということを諸君にお伝えしたいのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)こういう立場から私は安保條約(「共産党に入れ」と呼ぶ者あり)並びに講和條約というものを見て参つて疑問百出であります。さて、僅かの間にそれを述べることはできないが、併しながら私はそのうちで極く大切な最も根本的なものを十幾つかを選んでこういうメモに書いて来たのであつて、私は先ずこのメモがこんな長いものになつてしまつたので、時間のあるうちにメモを読み上げて、勿論多少の補足的の説明をしながらこのメモを読み上げまして、そうして余つた時間において、私の結論の形において私の立場を述べるし、又質問理由を述べたい。こういうふうに考えているのであります。それで、この質問の要点だけ読むことにいたします。中におりおり補足的説明を加えるので多少お聞き苦しいかも知れないけれども、その点は諸君の御容赦を願いたい。(「わかりました」と呼ぶ者あり)  それで、この質問の要項の第一は、講和條約及び安保條約に対する我々の批判は、日本がその受諾を通じて降伏したポツダム宣言條項を基準として行われるべきではないかという当然のことを私は申しました。日本は勿論このポツダム宣言を受諾して降伏したのである。この無條件降伏と言われるが、併しながらあのポツダム宣言というのは日本に対して降伏の條件を示している。我らの條件左のことしというようなことを以て條件を示しているのでありますが、それを受諾して日本は降伏をした。そうして、いつまでもそれを守るということを言つているし、又降伏文書にもそういうことを書いてある。即ちポツダム宣言は一九四五年七月二十六日に発せられたものであり、初めは合衆国、それからイギリス及び中国の三国によつて発せられ、のちに参加したソ連、そういうこの四カ国に対して日本はこのポツダム宣言の受諾をはつきりと言うのであるというようなことを降伏文書にも書いてあるのでありまして、ともかく、この四カ国に対して日本は降伏を申入れたわけなのでありまして、そうして又このポツダム宣言こそは、勿論この戰勝者が戰敗者に対して或る條件を課したということにはなつているけれども、それを読んでみると、実に日本国民から考えれば非常に歓迎すべき福音であるとも私は考えているのであります。当時私はアメリカにおりました、  亡命生活をしておつた。そのときにアメリカから日本のことを考えると、もう日本は亡国に瀕しているように考えた。それで私は、若し日本の国が亡びるものならば我々は日本の国に殉じて永久に歴史から掻き消されることは厭わないという決心を固めておつたときにポツダム宣言が出た。よく見るというと、日本に滅亡を與えよというのではない。自由を與えよというのであります。日本軍国主義を徹底的に打倒するということは書いてある。これは当然のことである。が、同時に日本を民主化する。又日本軍事的施設、或いはこの日本の戰闘力というものを根本的に破壞するが、併し基本的人権というものを尊重した。この民主主義を日本に植え付け、これを育てて行くということが書いてある。又日本が将来経済自立をするためには産業を持たなければならないだろう。だから日本に或る程度の産業を認める。又日本が産業自立をするために、又公正なる賠償に応ずることができるために、日本にこの産業を認めるほか、原料の入手の自由も與えるし、又国際貿易に参加させることも許すというような、こういうようなことが書いてあるのであります。殊に私、当時あのポツダム宣言を初めて読んだときに、私を打つたその一つの文句は、あの第十項にある「我々連合国というものは、日本を人種として、或いは種族——レイスということが書いてある——種族として隷従せしめようとしておるのではない。奴隷化しようとしておるのではない。日本を滅亡しようとしておるのではない」ということがはつきり書いてある。即ち日本の再生、日本が気づかつておつた民族の独立、これをこのポツダム宣言日本に保障したのであります。私はいろいろの国際的文書を見たが、特  に日本というものに対して民族独立を承諾するというようなことが書いてある文書というものは、ポツダム宣言以外に断じてないと思うのであります。だから日本がこの講和條約を作るときには、勿論これによらなきやならない。これを基準にするのは当然であるのみならず、日本はあのポツダム宣言日本に與えた四カ国に対して、ポツダム宣言の諸條項を守りますということを、嚴守したのであるが、この四カ国を通じて全世界にそういう誓約をしたようなものであるから、若しこの講和條約を作るときに、ポツダム宣言というものをその基準にしなければ、実に日本というものは世界に対して信義を失う、国際信義の問題ではないかと思うのであります。そういうわけで、私は飽くまでこのポツダム宣言を出発点にして、ものを見たいと思うのであります。  即ち第二にこう書いてある。両條約はポツダム宣言の諸條項に正面衝突する諸規定を多量に包合しているが、それを受諾することは、日本の民主国家としての存立及びその経済自立並びに極東及び世界の平和への脅威を意味することになり云々と、そうして更に日本としてはそういう條約を鵜呑みにすることは、日本の、これはさつき言つた……。そういう條約というものは、こういう意味で鵜呑みにすることはできない。これは日本の国際的信義の問題になる、国際政治道徳を蹂躪するということになるというようなことを第二は書いておるのでありますが、ともかく今の吉田内閣は頻りに道徳々々ということを盛んに言われるようであるが、併しながらこのポツダム宣言に違反した條項をたくさん持つておる條約を受諾するということは、この国際正義と特に違反するものではないか。こういう点において特に首相のお考えを聞きたいのであります。勿論、首相はあの講和儉約の中にはポツダム宣言に違反したことは少しもないと言われるかも知れませんが、若し首相がそういうことを言われたならば、人類の真理ということを軽侮せられるものであると考えるのであります。(「共産党だけだ、賛成するのは」と呼ぶ者あり)  第三には、両條約は復讐よりはむしろ和解の條約だということが言われておりますが、果してそうでありましようか。又日本政府も同じような趣旨を反響しておるが、どういう意味でこれが復讐より和解の條約であるということが言えるのであるか。勿論復讐の條約でないかも知れないけれども、和解の條約であるということを私はどうして言い得るのであるかということを、この点を伺いたい。如何にも両條約は、日本の両條約を批准する諸国との間の戰争状態を終結することを目的としておるということは事実であるが、併しながらこの両條約を日本が受入れるときには、この両條約が規定から除外したソ連とそれから中国日本との溝というものを一層深くするものではないか。こういう点が和解というのであるか。アメリカのほうから言えば、連合諸国のほうから言えば、或る意味においてこれは和解の條約であるかも知れないけれども、日本の側から言えば、これは断じて和解の條約ではなくて、明らかにこの両国、少くともこの二つの国を向うに廻して敵国とすることを意味する條約であると我々は思うのでありますが、併しこういう和解の條約というようなことは、これはどうして言えるのであるかということを、この点をお聞きいたしたいと思うのであります。  それから第四には、講和條約は日本に完全なる主権を承認すると言つておるが、それは如何なる意味において解釈できるのであるか。日本に完全なる主権を與えると、こう言つておるが、私は條約を見ましたけれども、どうもそう思えないのであります。この疑問は、特に両條約によつて日本の主権の発動が地域的にも又事項別にも非常に狹い範囲にまで制限せられておることを見るときに、一層深まるのである。いろいろの制限、即ち日本の主権が発動するまでに、日本の主権はこの範囲までは発動できない、こつちも発動できないということを、ちやんと、きめておい  て、そうしてこの日本に主権の完全なる自由を與える。こういうふうに言われておるように、そういうトリツク、トリツクという言葉は或いは不適当かも知れないが、そういうようなふうにできておると思うのであります。殊に我々が、あの信託統治の下に置かれるところの地域における日本の主権というものはなくなつておるのでなくて、眠つておるのだ、それは眠れる主権であるというような、こういう説明がされておるのである。一体、眠れる主権というものにはどういう意味があり、どういう力があるのか。それを聞きたい。西洋の諺に、「眠れる獅子は醒めておる鼠より劣る」ということが言われておりますが、(笑声)この眠つておる主権というものは醒めておる何よりも劣つておるか何か知らんが、併しともかくそういうことが言われておるのであります。殊にこの講和條約と一体を成しておるところの安保條約が発効するようになつて来ると、外国の軍隊駐留するようになる。駐在とか駐留とかいうふうなことは書いてありますが、ともかく駐留するようになるというと、それからいろいろな問題が起つて来る。さつき司法権の問題も言われておつたように思うけれども、それだけでなく、あらゆる方面において日本の主権が制限せられる。主権が制限せられるだけではなくて、日本日本の非常に大切な地域を経済的に利用しようとするときにも、それができないようなこともあると思うのであります。私は外国から帰つて参りまするときに、日本に非軍事化が行われるということを、軍事的な施設がすつかり破壞されたということをうんと聞かされたので、日本に帰れば、戰前は要塞地帶とか何とかいうふうな名で自分が使うことができなかつた、自分の本国でありながら我々が足を踏み入れることができなかつた、そういう地域に自由に足を踏み入れることができるのかと思つて私は喜んで帰つて参りますると、そうでない。自分の家の近所の所に日本人立入禁止という札が立つておつたのでありますが、これは安保條発効後の日本の主権というものが如何なる状態になるかということをはつきり示しておるのではないかと思うのであります。そういう地域的にも事項別にも非常に制限されることになる。殊にこういうことを考えるときに最も非常に重大な問題は、日本が、将来日本の立ち行く道は恐らく日華貿易或いは日華経済協定という以外にはない。それが中心になるのじやないかと我々は考えておる。そうでない考えも述べられておりますが、併し私たちはそう考えておるのだが、併しこの講和條約が批准されれば、中国はやはり敵国として残るのだ。戰争状態が日本とそれから中国との間に残る。そうなれば、そのこと自身、日本の貿易における日本の主権の発動をすつかり阻害しておるのではないかというふうに考えるのであつて、即ち日本の生存問題に関係する点にまで日本の主権が制限せられるということになつて来ておる。そう考えるというと、あの條約に日本に完全なる主権を承認するということが書いてあるが、一体これはどういうことを意味するのであるかということを吉田首相にお伺いいたしたいのであります。  第五に、さつき申しました日華貿易のことを、吉田首相は日華貿易の重要性が過大視されておるとの意見を吐かれておるように新聞紙上で承知するが、そう了解していいのか。そういう意見を持つておられるならば、その根拠を示して頂きたい。日華貿易の重要性が過大視されておる。こう吉田首相が言われたと新聞に書いてあるのだが、実際そうか。若しそうならば、そういう意見の出る根拠を示して頂きたい。これは非常に重大な問題で、勿論これは私が言うまでもない。今日一般の民衆と言つたらば漠然としておりますが、併し工場におる労働者、特に鉄鋼業における労働者にせよ、或いは又水産業そのほかのいろいろな業務に属しておるところのこの労働者の勤労大衆にせよ、それどころか、産業資本家、大阪方面、殊に大阪方面、名古屋方面、或いはそれら産業資本家、中小企業家、そういうような、もう国民の非常に広汎なる階層が、中共貿易によつて今日のこの行き詰りを打開し、活路を求めようとしておることは事実であります。そうして、そういう人から言えば、日本の経済自立も、経済的生存ということも、中共、日華貿易ということをほかにしてないというふうに考えておるようにさえ私は思うのであります。だが併し吉田首相は、これは日華貿易の重要性が過大視されておるというように新聞に書いてある。本当に言われたかどうか知らんが、新聞に書いてあるが、こういうことに対し勿論我々は異議がある。異議があるが、その理由を言えば何時間もかかる。併し簡單にこう言えるのじやないかと、私は書いて参りました。ただ日本の経済的自立のために、中国との貿易は欠くことはできない。これは、これまでの日本の貿易の幾多の統計がこれを示しておる。それを戰前一九三四年乃至三六年の平均で見ると、中国、朝鮮、樺太、香港との貿易の輸出において四四%、輸入において三七%を占めておるが、この事情は根本的に言えば戰後においても余り変つているところがないものである。いや、そうではない。それどころか、この二、三年間のイギリス、香港、マレー等の中国との貿易を見るというと、毎年倍に近い激増振りを示しておる。毎年、年々倍近い激増振りを示しておる。インド中国との貿易も昨年から今年に入つて輸出入共に発展しておる。これらの事実は、中国が主権を北京政府の下に統一を達成し、又農業人口は、三倍の土地改革を完了したことによつて、輸出能力においても戰前の水準を超えて発展しつつあることを示しておる。従つてこの新らしい中国との全面的な経済交流をなすことは、日本経済の自立と発展にとつて不可欠の條件である。又中国から鉄鉱石、粘結性石炭等の重要原料が輸入できなければ、日本の機械製品は国際価格を上廻ることになつて如何に東南アジアとの貿易を向上しても、それすら不可能なことになつてしまう。東南アジア、東南アジアとの貿易を頻りに言われておりますが、中国からの鉄鉱石、粘結性石炭、こういうものがなければ、日本の機械製品というものは国際価格を上廻ることになつて、單に東南アジアとの貿易を向上してもそれすら不可能になる。こういうようなわけで、いろいろな理由が……時間が非常に迫つておるので省きますが、次に飛びます。これからメモになつておるのをずつと読み上げます。  第六、将来、中国講和條約を結ぶとき、その相手方として人民政府を選ぶか国民政府を選ぶかについては、その選択権が連合諸国の側にあるとか、日本の側にあるとか、こういう議論が盛んに鬪わされておつたのであり、吉田首相は連合諸国側にあるというような意見を漏らしておるように私は了解しておりますが、そう了解していいのであるか。ここにも日本の主権の問題が含まれておるが、日本がそれを選ぶのじやなくて連合国が選ぶ。ここにも日本の主権の問題が含まれておるが、それはともかくとして、一体、中国政府を選ぶ権利中国人民自身の手にあるのではないか。そして中国人民は二年も前から人民政府を自己の政府として選んでおるのではないか。それを、はたからとやかく言つておることは、これこそ内政不干渉の方針に背くものであり、延いて民主主義、平和主義に背くものであると言わなければならない。  第七、講和條約と安保條約との可分、不可分が鬪わされているが、我々が両條約を読むと、講和條約の第三章を通じて安保條約と前者とが一体をなしていて、そこに可分論や不可分論の起る余地がないと思うが、政府の見解如何。   八、安全保障條約は果して日本の安全を保障し得るか。該條約は、共産主義諸国、少くともソ連、朝鮮人民民主共和国、中華人民共和国を直接の潜在敵と規定し、それらの国々が日本侵略を加えようとする意図を持つていることを確定的事実とし、その前提の上に構成されているが、そうした構想に基礎づけられた施策は、直ちに極東平和を、従つて世界平和を撹乱する危険性を包蔵するものではないか。又ソ連や、朝鮮人民民主共和国や、中華人民共和国が日本侵略を加えようとする意図を持つているとする主張の根拠とされている具体的事実は何であるか。これを示して頂きたいのであります。吉田首相は、先日の施政方針演説において、今日一部で行われている日本の中立嚴守の主張に触れた際に、こう言われておる。「又仮に中立尊重の約束をなしても、その約束に信を置き得ない性格の国があることをも忘れてはなりません。」こう言われておる。(「その通りじやないか」と呼ぶ者あり)無論その狙いはどういう所にあるかということは明白であるが、首相が今日かかる言説に耽けるということは、みずから求めて日本の敵国を作ることであり、将来の国際情勢の変転如何によつては非常に重大なる結果を生む可能性のあるものではないか。この点に関しては特に愼重なる御答弁を願いたいのであります。  それから朝鮮事変との関連において、安全保障に関する国連憲章の規定が韓国に適用されたものと考えておるが、これは正しい解釈でありましようか。若しそうだとすれば、事変勃発以来韓国が蒙むつたようなあの非常な惨害が、国連による安全保障、若しくは特定国による安全保障の下においても、これは起り得る可能性考えられるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)のみならず、万一原爆とか或いは類似の武器が用いられるようになつている、そういう状態の下においては、あの韓国民が蒙むつた以上の、更にそれ以上の大惨害が、即ち国土の大部分の破壞とか荒廃といつたような大惨害が起り得るのではないか、安全保障必ずしも安全を保障するものでないということを考えるがどうですか。(「その通り」と呼ぶ者あり)  第十、私の昨年七月十九日の一般質問中の一点に対して、首相は、今日軍事基地の問題はあり得ないのであります。こう言われたのでありますが、併しながら先ほどから聞いておるところによると、安全保障條約の行政協定の問題が盛んに言われておる今日でも、なお首相は軍事基地の問題はあり得ないと言うことができるか。この点をお聞きしたいのであります。第十一、安全保障條約は、アメリカ、オーストラリア、ニユージーランドの三国間の安全保障條約、それからアメリカとフイリピンとの問の相互防衛條約と、お互いに補足し合つて一つの体系をなすと言われておるが、一方には曾つて軍国主義活動によりフイリピンやオーストラリアやニユージーランドに大損害を與えた日本を置いて、他方には日本軍国主義の復活に対する保障を求めておるところのそれらの国を置いて、この太平洋防衛体系が作られておるのだが、こういう防衛体系というものがもうその根本において内部的矛盾を包蔵しておるものであるが、こういうものが安定した安全保障の機構であるということができるかどうか。この点を伺つておきたいのであります。  第十二、吉田首相はその施政方針演説において、サンフランシスコ会議におけるグロムイコ代表の演説の一点に関し、ソヴイエト全権が日本における軍国主義復活云々と言うがごときは根拠なき妄説であると、こう言われたが、首相は平気でそんなことを考えておられるのであるか。首相は軍国主義軍事力とか戰争遂行力とかいうものを、これを混同しておられるのではないか。戰争遂行力のない国にも軍国主義が起り得る。そして、それが他国からの武器援助のごときものと結び付いて、その国が初めから且大な戰争遂行力を持つていたかのようにあばれ出す。そうして平和擬乱をするということもあり得るのであります。現に、今、日本に擡頭しておるところの再軍備論のごときものは、そういうものではないか。国民の非常な負担を顧みず、而も又外国の援助によつて大きな軍隊を作ろうとしている。外国の援助によつて軍隊を作るとすれば、日本軍隊でなくて外国の軍隊なのである。(「先生、時間になりました」と呼ぶ者あり)こうした意味から、これこそ軍国主義復活について適切な見本だと思うのであります。  第十三、又これは中国人民政府の側から取上げられたことでもあるが、講和條約は、戰争の期間中、日本にあつた諾国家並びに国民の財産と権益の処理に関する條文第十五條の中で、その初めと終りの期日を一九四一年十二月七日から一九四七年九月二日までと規定し、日本は、その期間中いずれかのときに日本国内にあつた連合諸国家並びに国民の財産だけを返還すると規定しておる。かくて講和條約は、中国人民政府の語調によれば、一九四一年十二月七日以前の中国人民の独力による戰争の時期を完全に抹殺している。こう書いておると思います。
  15. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 大山君、時間が超過しております。    〔「降壇々々」「もう少しやれ」と呼ぶ者あり〕
  16. 大山郁夫

    ○大山郁夫君(続) 甚だ遺憾でありますが、これでとめます。
  17. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 與えられた時間を相当超過しております。    〔「重大問題だ、やらせろ」「降壇、聞く価値がない」と呼ぶ者あり〕
  18. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 非常に遺憾でありますが、……少し時間を頂けませんか。
  19. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 今日はまだたくさんありますから……。
  20. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 非常に遺憾であります。これから非常に重大な問題が残つておるのであります。(拍手、「まだやらせろ」と呼ぶ者あり)そういう意見は他に発表する機会があると思いますから、非常に遺憾でありますが、議事規則に従うことにいたします。    〔「了解が付きましたからやりなさい」「議長は議会の神聖を嚴守すべし」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕
  21. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 時間の割当はきまつておりますので、そのように……。    〔「了解が付けばいいではないか」と呼ぶ者あり〕
  22. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) では極く………。   (「議長はすでに警告しておるではないか」「議場の神聖が保てない」「何が神聖だ」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し〕
  23. 大山郁夫

    ○大山郁夫君 一九四一年十二月七日以前の中国人民の独力による抗日戰争の時期を完全に抹殺している。一九三一年勃発の満洲事変以来、特に一九三七年勃発の日華事変以来、日本軍国主義から最も重大な損害を受けたのは中国人民であります。それにもかかわらず、講和條約がこの事実に一顧も拂つていないように見えるのは何故か。又吉田首相がこの点に関しては固く口をつぐんでおられるが……。
  24. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 大山君、結論だけをおつしやつて頂きます。簡單に結論をお願います。
  25. 大山郁夫

    ○大山郁夫君(続) 軍国主義云々するのは全然杞憂に属するものであると言われるのか。それからもう一つ重要な問題があるのであります。これは日本の警察予備軍………。
  26. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 結論だけおつしやつて降壇願います。    〔「降壇々々」と呼ぶ者あり〕
  27. 大山郁夫

    ○大山郁夫君(続) じや、これだけでやめておきましよう。ニユーヨークで発行されておる……。    〔「議長なぜ権限を発動しないのか」「権限はないぞ」と呼ぶ者あり〕
  28. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 大山君、一言で結論をおつしやつて降壇願います。繰返します。
  29. 大山郁夫

    ○大山郁夫君(続) ニユーヨークで発行されておる邦字新聞である北米新報の暴露記事について一つお尋ねしたいと思つたのですが、併しそういうことはともかく、私は世界及び極東平和並びに日本の民族独立要求から、この講和條約及び安保條約というものは非常に疑問があるのである。特に我々がポツダム宣言の上に立つ限り、到底これは受諾できるものではないという意見を持つておるものであります。それを更に証明しようとしたのでありますが、併上ながら甚だ不完全になつたのでありますけれども、止むを得ず、議会の規則もありますから、これを以て降壇することといたします。(拍手、「大山君御苦労樣」と呼ぶ者あり)    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  30. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答えをいたします。この平和條約等はポツダム宣言に矛盾をしておるというお話でありますが、どこが矛盾しておるか、私は了解ができないのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)若し矛盾しておるとすれば、それは日本国を敵国の関係でなくして対等関係に置き、若しくは和解と信頼に重きを置いた所が矛盾しておると言われるかも知れませんが、これは私は、矛盾しておらないのであります。ポツダム宣言を土台として、そうして起草せられたものであり、ポツダム宣言をよく改良したのが即ち平和條約である。こう私は解するのであります。又、中国、ソヴイエトを除外したことがと言われますが、これは除外したのではなくて、ソヴイエトが参加しなかつたのであります。(「参加したではないか」と呼ぶものあり)ダレス氏が申す通り、十一カ月もソヴイエトとの間に交渉が続けられたのであります。而もソヴイエトの代表はサンフランシスコに出て来て、調印に参加しなかつたのは事実であります。除外いたしたのではないのであります。完全なる主権の回復と申しますのは、講和條約において日本の主権について何らの制限が置かれておらない。産業においても、経済においても、軍備においても、何ら主権の制限が置かれてないのであります。若し米兵が駐留した、それが主権の制限と言われるならば、これは合意の結果であります。(「いつ合意した」と呼ぶ者あり)主権の発動、日本の完全な主権の発動であります。(拍手、「その通り」と呼ぶ者あり)又、日本人立入禁止云々という話がある。これはそういうことがありましたが、併しながらこれは最近においてすべてというほどに触れていたのであります。講和條調印後、かくのごとき文字のある立札はすべて取除かれたのであります。中日関係について私が過評価したと言わるるが、過大評価せられた事実があるから、過大評価を訂正するために私がサンフランシスコにおいて発言いたしたのであります。今お話中国との関係においては、数字の上にこうこうかくかく、という貿易上の数字は言われましたが、この中には満洲の数字が入つておるはずであります。満洲においては、日本が多くの投資をいたした結果、日本と満洲との貿易は非常な数に上つておつたことは事実であります。若し中国の、いわゆる中国プロパーなるものから満洲に関する数字を除いたならば、甚だ少い数字になるのであります。又これは事実について申せば、占領後、或いは敗戰後六年の間、今日、中国との間の貿易関係は甚だ少いのであります。(「少くさしたのだ」と呼ぶ者あり)少くしたんじやない。(「させたんだ」と呼ぶ者あり、笑声、拍手)これは中国が貿易管理されておつて、貿易の自由を許さないのであります。従つて貿易が減つたのであり、よく調べてみたらわかる。又日本中国なくして、中国関係なくして存立ができないなどと言われるのであります。これは共産党あたりの宣伝でありましよう。併しながら、現に終戰後今日まで六年の間、中国貿易なくして日本は立派に存立いたすのみならず、ますます日に繁栄を加えておるのであります。(拍手)これは事実であります。その事実を何と説明するかと、私はお尋ねしたいのであります。中立條約を以て日本独立を守る、これは痴人の夢であります。ソヴイエトのごときは日本との間の不可侵條約を破棄した国であります。その他幾多の国と中立條約、若しくは不可侵條約を破棄した国と、中立條約を守つて、そうして日本独立が守れると思うのは、共産党あたりの妄信論者であると私は考えるのであります。その他の問題はよく聞き取れませんから、いずれ速記録を見た上で御答弁いたします。
  31. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 堀眞琴君。    〔堀眞琴君登壇拍手
  32. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 今度の講和條約並びに安全保障條約につきましては、国民の間に非常な疑惑を持たれておるのであります。(「誰も持たないぞ」「持つのは共産党だけだ」と呼ぶ者あり)講和会議には日本を含めて五十二カ国の代表が出席をいたしておるのでありまするが、これに調印いたしましたのは四十九カ国であります。確かに国の数の上から申しまするならば、多数の国々が調印したと申さなければなりますまい。併しながらニユーヨークタイムスのレストン氏が指摘しておりますように、今度の講和條約並びに安全保障條約につきましては、世界の人口の半数以上が反対をしている。(「そうだ」「その通り」と呼ぶ者あり)なかんずくアジアの総人口の中では八割の人口がこれに反対をしているということを(「その通り」と呼ぶ者あり)指摘いたしておるのであります。(「反対だぞ」と呼ぶ者あり)勿論反対の人口の大半を占めるものは中国インドであります。中国インドがこの條約に参加しなかつたということにつきましでは、吉田全権もみずからの耳でお聞きになつただろうと思いますが、ヤンガー英代表が、あの演説の中で以て、「インドの欠席は最大の痛恨事である。もう一人の欠席者は中国である。この中国日本の暴力と最も長い期間、且つ激しく戰つた国である。対日講和に対して中国ほど発言権を持つ国はない」ということを、ヤンガー代表は述べでおられる。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)ロンドン・タイムスの九月五日附を見まするというと、どの国の過まちによるにせよ、アジア諸国との提携の機会が失われるならば、たとえ五十カ国がこれに調印しようともサンフランシスコ会議は失敗であると、(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)こう申しておるのであります。このことは極めて重大なことである。日本はアジアの一国である。アジアの国々と手をつないでこそ、初めて日本の経済的な復興も可能になつて参るのであります。ところが、今度の講和條約、安全保障條約によりまして、日本はアジアから絶縁されて、そうして米英の陣営に付けられたのであります。更に六月、オブザーバーという新聞がすでにこれを指摘しております。丁度講和会議の最終日に発行されましたところの英のトリビユーン紙を見まするというと、対日講和條約は、日本の主権を確立するためよりは、むしろ米国軍事的地位を強化するための(「その通り」と呼ぶ者あり)企図に出でたものだ、こう申しております。又同じ日のニユーステーツマン・アンド・ネーシヨンを見ますというと、「対日講和條約の調印は、米国による日本の━━━━━━━━━━單に字句の変更を行なつたものに過ぎない。」このようにニユー・ステーツマン・アンド・ネーシヨンは指摘しておるのであります。  このような国際情勢の下において、果して吉田首相兼外相は、どのような外交方針を以て臨まれるか。講和條約批准後においては日本も自主的な外交権を回復すると、こう吉田首相兼外相は述べておられるのでありますが、どのような態度を以て国際的な情勢の下に処理されようとするか。勿論アジア諸国との親善関係もありましよう。特にインド中国との講和條約の問題もありましよう。或いは広く世界一般のこのような情勢の中において、どのような日本の進路を向けて行かれようとするのか。これを先ず第一にお尋ねいたしたいのであります。  第二は、そのような国際情勢下に日本講和條約を結び、従つてそのために国際的な対立をますます深めて行く。九月九日、丁度講和会議の最終の日でありまするが、その日に発行されましたニユーヨーク・タイムズを見まするというと、ジエームズレストン氏はこのように書いております。「サンフランシスコは我々に條約を與えた。併しながらそれは平和ではない」。ハツト・ノツト・ピースと書いておるのであります。我々は、終戦後平和を念願して今日まで参りました日本を、戦争、あの残虐な戦争には絶対引入れまい。これは国民の傭らない声だと申上げなければならんのであります。講和條約の、従つてこの国民の念願を表現すべきものであることは勿論でありまするが、これがレストン氏らの述べるように、この講和條約が平和の條約ではないとするならば、我々としては非常に悲しむべき事態をそこに予想しなければならんと思うのであります。(「そうだ、その通り」「共産党としては喜んでいる」と呼ぶ者あり)首相はこの情勢に対して如何にして日本の平和を守ろうとするか。このことを第二にお尋ねいたしたいのであります。  以上は講和條約及び安全保障條約に関する大体の外国の輿論を中心として私は積極的に申上げたのでありまするが、これを條約の内容について見るならば、それぞれの国に多くの不満があることは申すまでもありません。これに対して吉田首相乃至は日本の吉田政府として、これが解決を如何にして図ろうとするのであるか。このことについてお尋ねいたしたいのであります。  先ず第一に賠償問題。これは同僚議員によつてしばしば述べられておりますので、私はこれについての深い説明は略しまして、ただフイリピンや、インドネシアや、ビルマや、インドシナ、つまり日本の帝国主義戦争によつて非常な損害と苦痛を與えられた諸国家の中から厖大な賠償額が要求されているということが外電によつて報道されている。勿論日本は、これらの諸国家に対して賠償を支拂うのは原則であります。講和條約の中にもそのことが規定してあります。だが、例えばこれらの賠償額を要求する通りに拂うとしたならば、国民生活に與える影響は極めて重大であります。新聞の伝えるとこによりまするというと、賠償総額は二百億前後に上るのではないかと思う。これを三百六十倍したのが日本の金であります。大体七兆二千億に上るだろうと思います。このような巨額の賠償額は、勿論その後の折衝によつて若干は緩和せられるものと思いますが、政府としても、これに対して国民経済の上から考慮を拂わなければならんと思う。私がお尋ねしたいのは、アメリカで、去る七月、国防動員本部長官のウイルソン氏が、いわゆる日米経済協力なるものを発表しまして、そして日本の経済力を動員いたしまして日本の復興に資しようというのでありまするが、この経済復興の面から、恐らくはアメリカとしても何らかの措置を日本の経済に対して行うであろうということが想像されるのでありますが、その点から、賠償問題についても、恐らく日米経済協力の線においてアメリカの政府との間に何らかの話合いがあるのではないかということが想像されるのであります。この点についてお尋ねをいたしたいのであります。  次にお尋ねいたしたいのは再軍備の問題であります。吉田首相は、只今の民主党の代表質問に対する答弁の中でも、再軍備は行わぬ、国際的な反響もあり、日本の財政の力もこれを許さないという答弁であります。勿論差迫つて軍備をやるだろうとは私どもも想像はいたしておりません。併しながら日本の再軍備に対するアジア諸国の危惧は極めて大でありまして、これも又吉田全権がサンフランシスコ会議においてみずから聞かれたのでありましようが、例のフイリピンのロムロ代表にいたしましても、又オーストラリアのスペンダー代表にいたしましても、口を極めて日本の再軍備に対する警戒の言葉を述べているのであります。例、えば……。フイリピンのロムロ七代表は、「日本が再びフイリピンその他の国々の脅威とならないことを政治的経済的改革によつて確保すべきだ。日本の再軍備については、これを無制限に認めることはフイリピンの到底堪えるところではない」という意味のことを述べ、又オーストラリアのスペンダー代表も、「オーストラリアとしては、本條約に日本の再軍備、国防軍の規模と構成、造船能力の限度、原子兵器その他これに類した物件の生産について何らかの制限を加えれることを希望する」という意味のことを述べているのであります。  ところで、これはオーストラリアの諸新聞でありまするが、吉田首相の再軍備を設けない、当分再軍備を設けないという言明にもかかわらず、現に日本においては、再軍備が着々進行しつつある。例の警察予備隊、海上保安隊、或いはその他これに類するものが軍隊に等しい組織を持ち、漸次それが軍隊化しつつあるということを指摘いたしているのでありまして、事実又最近の警察予備隊或いは海上保安隊などの訓練の状態、装備の状態というようなものを見ますると、私どもはこれと軍隊との違いを見出すことができないのであります。予算の関係におきましても、今度の予算、更に二十七年度の予算においては大幅な増額が見積られているのでありまして、こういうような、海上保安隊である、警察予備隊であるという名前に籍りて、再軍備を着々進行せしめつつあるということは、アジアの諸国日本が曾つて帝国主義戦争によつて非常な苦痛や損害を與えたところの諸国によつて、非常な警戒の念を持たれているということを我Aは指摘しなければならんのであります。首相はこれに対してどのように考えているか。これをお尋ねいたしたいのであります。  それから安保條約であります。安全保障條約につきましても同僚議員諸君からしばしば、言われたのでありまするから、私は重ねて細かいことについてはお尋ねいたすのは遠慮するのでありますが、ただこの安保條約が日本政府側によつて提案されたということの理由についてお尋ねしたいのであります。アメリカの最初の日本に対する安全保障考えとしましては、講和七原則の、あの婆全保障の條項に現われているのであります。それによりまするというと、アメリカとしては、当時は、北大西洋條約にならつて、太平洋條約に日本を参加せしめて、そのことによつて国際的な安全保障の途を達しようというのがアメリカの考え方であつたのでありまするが、ダレス特使が日本に参りまして、吉田首相との会談を通じまして、この史保條約の構想がまとまつて行つたのと私どもは想像しているのであります。ダレス特使も、日本において乃至は帰国されてからの声明で、自分は日本国民要望によつて云々ということを幾度か繰返しているのであります。吉田首相はみずから安保條約を提唱された、その理由、軍に真Sら状態がどうのこうのというようなことで私はこの問題を片付けることはできない。かように信ずるのであります。  次にお尋ねいたしたいのは、安保條約の中の行政取極の問題でありますが、併しこれは先ほど民主党の代表質問の中に出ておりましたから、これは省くといたしまして、最後に、安保條約についてお尋ねいたしたいのは、日本の負担すべき部分であります。これも民主党の同僚議員質問の中に見えておつたのでありまするが、総理大臣乃至は大蔵大臣から何ら答弁がなされておりません。そこで私は重ねて質問いたすのでありまするが、この日本の負担すべきところの額は如何ほどであるか。アメリカのニユーヨーク・タイムス紙によりますると、アメリカの負担すべき額は六十一億ドルに上るということであります。これは日米折半ということになつておりまするから、若しアメリカのニユーヨーク・タイムス紙の報道するがごとくに六十一億を負担するものと、たしますならば、日本の金に直しまして二千億円以上の負担になるだろうと思うのであります。尤も先日自由党の増田幹事長が新聞記者団に話したところによりますると、日本の負担する部分は終戦処理費の程度にとどまるだろうということでありまするが、それにいたしましても一千億に上るだろうと思うのであります。私が先に申上げた警察予備隊であるとか、或いは海上保安隊であるとか、その他の治安維持費と合せますると、恐らく治安費は土千億を突破することになりはせぬか。このように考えられるのであります。このような巨大な額が日本国民経済の上に又国民生活の上に非常な重圧となつて現われて来ることは申上げるまでもないだろうと思うのであります。(「安いもんだよ」「開成金は安いよ」と呼ぶ者あり、笑声)  次に、私はこの危険なる、日本をして戦争に陥れようとするところの、この講和條約の受入態勢について、二三質問をいたとたいのであります。先ほど申しましたように、アメリカの国家国防動員本部長官のウイルソン氏が、去る七月、日米経済協力の具体的な方針を挙げまして、いわゆる従来の朝鮮向け武器の生産並びにアメリカの国防生産計画に基いて、日本の工場をこの計画の下に動員する。並びに東南アジア諸国に対する開発に日本の経済を動員する。特に最後の点につきましては、日本に遊休設備の資本が三分の乃至二分の一あるということを述べているのでありまするが、若しこのような日米経済協力の線が強力に推し進められるならば、結局ポツダム宣言に約束されたところの日本の自主的な経済、自由なる経済というものが殆んど認められない結果になりまして、日本経済はアメリカ経済に隷属化上、日本の工場はアメリカの工場の下請工場化するものとならざるを得ないと断ぜざるを得ないのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)そのために政府におきましては、例えば労働法規の改惡、いわゆる労働基準法、労働組合法、労働関係調整法……。これらの改惡を企図し、これによつて低賃金、労働強化を行い、更に又官庁につきましては行政整理の名前において十数万の人々を首切ろうとしているのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)我々は今日の日本の労働基準法が日本の労働者の労働條件を保護するために非常に貢献して来たことを認めるものであります。而も国際的な観点から申しまするならば、必ずしもまだ十分に国際的に認められる水準にまで達する所までは行つておりません、残念ながら……。例えば労働基準法にも認められているところの八時間の労働制、或いは男女の同一賃金の問題、或いは又残業手当の問題にいたしましても、国際的な水準に比べますならば必ずしも高いとは申上げることができないのであります。ところが日米経済協力の線に沿いまして、この労働基準法を、いわゆる日本の実情に印するという名月の下に、これを改惡しようといたしているのであります。私どもはこれに対しましては絶対反対せざるを得ない。一体、労働大臣は、国際的な水準の上において労働條件を保護するという意図を持つているかどうか。而も低賃金、労働強化は、結局においてはソシアル・ダンピングの原因でありまして、国際的に又大きな波紋を呼ぶであろうということは申上げるまでもないのであります。  それからもう一つお尋ねいたしたいことは、占領下の特殊事情において、我が国にはいわゆるポツダム政令なるものが幾つか呈せられているのであります。ところが最近このポツダム政令を立法化しよう、そして講和後においても占領下におけるところのポツダム政令を依然として有効ならしめまつという企図が行われているということであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)例のゼネスト禁止法であるとか団体等規正令、そういうような法案が続々と竹られようとしているのであります……。  ポツダム政令は占領下の特殊事情において設けられたものであります。占領が終了した後においても果してこれを存続すべきであるかどうかということは、私から申上げるまでもなく、蟹田なる諸君のすでに十分に御了解されろところと思うのであります。例えばゼネスト禁止法でありますが、ゼネストというものは日本国民経済を危殆に瀕せしめる。それ故に、それを労働法上の対象として取締るのではなくて、他の法の対象、例えば治安の対象としてこれを取締る。こういう工合に申しております。ところがゼネラル・ストライキというようなものは、大体において資本家の頑冥さと政府のこれに対する政策の拙劣さからゼネストに発展する場合が多いのであります。責任はむしろ挙げて資本家や政府の側に十あるということを申さなければなりません。これを治安の対象として禁止する、私は憲法上に保障された労働上の諸権利が、これによつて蹂躙されることを恐れるものであります。或いは又団体等規正令を立法化しようとしておる。飛んでもないこれは間違いだと思う。我が国民の基本的人権は憲法によつて保障されておる。而もややもすればそれが蹂躙されがちである。いな、今日においてはそういうような事態がすでに行われておると申上げても過言ではないと私は思うのであります。而もこの占領下におけるところの特殊な事情の下に作られた団体等規正令が立法化される、戦争前の治安維持法、国家総動員法、そういうものにひとしいような人民彈圧の法律が今作られようとするならば、私は日本がいよいよ以て又再びフアシズムへのい途を開きつつあるのだということを申上げなければならんのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)この点につきまして法務総裁の御意見を承わりたいと思うの下あります。以上を以て私の労農党を代表する室温演説を終ります。(拍手)    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  33. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) このたびの安全保障條約等についてはアジアの国民、の大多数が反対しておると言われましたが、私はニユーヨーク・タイムスその他が保障條約について、人民投票といいますか、賛成の投票を募つたことを曾つて聞きません。又ニユーヨーク・タイムスが何と言おうが、ロンドン・タイムスが何と言おうが、私は一切責任を負いません。(「その通り」と「呼ぶ者あり)国際平和については、この平和條約等は、国際の平和を維持するために作つたものであつて、破壞するために作つたものではないのであります。その目的を達成すれば、国際の平和はますます安固になると考えますす。日米の経済協力についてお話がありますが、これは現に交渉中のことで上つて、その交渉がどう落ち着くか、これは暫らく将来をお待ちを願いたいと思います。  再軍備についてはしばしば申した通りであります。現在の警察予備隊、海上・保安庁等の設備、或いは武装、装備その他については、一に国内治安を目的としておるのであります。これを軍隊と同じ教練をしたかしないか知らないが、とにかく目的とするところは用内治安の維持であります。  又安全保障條約の趣意は、アメリカの趣意がどうあろうが、或いは太平洋安全保障條約とどういう関係があるか私は知らないが、とにかく私とダレス氏との間の話は、一に日米殊に日本の安全を主眼として協定をいたしたのであります。その負担額がどのくらいになるか、六十億ドルとかというニユーヨーク・タイムスの報道でありますが、これは私の知らないところであります。(「よく知らないな」と呼ぶ者あり)  労働その他については所管大臣からお答えをすることにいたします。  (拍手)    〔国務大臣大橋武夫君登壇拍手
  34. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) ポツダム政令は昭和二十年勅令第五百四十二号によりまして制定せられたものでありまして、これによりまして、現在政令が百件、府省令が五十数件に上つておるのでありまするが、その内容は、占領政策の中心となつておりまする日本の民主化、その他今後におきまする我が国といたしましての必要な事柄を多数に含んでおるわけであります。講和條約の発効に際しまして、その基礎になつておりまする緊急勅令は当然廃止すべきものと考えておるのでありまするが、これに基いて制定されましたポツダム政令につきましては、当然に廃止すべきものと、そのまま存続すべきもの、又修正の上に存続すべきもの、いろいろあるわけでありまするから、この区分に従いましてそれぞれ適当な措置を決定し、国会の御審議を経て、法律により今後の効力を明らかにすべきであると考えております。  次にゼネスト禁止に関する御質問がございましたが、これはなお政府といたしまして研究中でございます。  団体等規正令を法律化する問題でございまするが、同令は国内治安のために必要な規定を含んでおるのでありまするが、(「ヒヤヒヤ」と呼ぶ者あり)その部分を法律化するのは当然であると考えております。併しその内容については憲法規定の自由権の制限を伴うものでありまするから、その制限は公共の福祉を守るための必要な最小限度を超えることの絶対にないように、規定上、又運用機関の構成上、万全の方途を講ずる要を認めまして、その方針の下に目下内容を検討いたしております。    〔国務大臣保利茂君登壇拍手
  35. 保利茂

    国務大臣(保利茂君) お答えいたします。労働法に関しまする政府考え方につきましては、幾たびか申上げている通りでありまして、即ち現行の労働法規が我国の経済民主化と労働條件の国際的水準を保持しようといたしており、この趣旨、精神は、この政府として一貫して尊重して参ウ、飽くまでこの線は確保して参るということはしばしば申上げておる通りであります。併しながら講和独立を間近かに控えまして、総司令部という絶対権威がなくなつた曉において、果して今日の労働法規を以てして、我が国経済自立の大前提となるべき労使の安定即ち産業平和が確保できるかどうかということについては、多く検討を要しなければならん点があることは御承知通りだろうと思います。従いましてこの点につきましても、おのずから及ぼす影響が重大でございますから、労働者、使用者並びに民間の三者構成による機関の設定をいたしまして、只今その審議を進めておるところでございまして、いずれその答申を得ましたならば、成案を得て皆さまの御審議を煩わす時期があろうかと存ずるのであります。又労働基準法につきましても、或いは婦人、年少労働者の保護、或いは長時間労働の制限等、日本の労働條件を国際的のレベルに保持するために制定せられておりますこの基準法の精神は、飽くまでも確保しなければならないと存じますが、(「そうだ」と呼ぶ者あり)この法律も又徒らに煩雑に過ぎる所があり、我が国の国情に副わざる面につきましては、これは率直に改正をいたすことにやぶさかではないという方針をとり、これも又三者構成の機関に只今諮つて、そうしてその答申を得て政府として態度を決し、改正案をできるだけ早く御審議を願うつもりでおるわけであります。  この場合、私は特に、先ほど堀議員如何にも我が国が低賃金なるが故に国際的の非難を喚び起しておるかのごとき御意見もございましたが、成るほど日本の労働條件は、戦前と戦後におきましては、労働者に対する健康保険、或いは厚生年金保険、失業保険、労働者災害保険等、一連の労働者に対する社会保障制度も、恐らく世界大多数の各国に比しまして遜色のない制度を今日とつておるわけでございまして、労働條件についての世界の誤解は、日本の実際とりつつあるところの労働政策が理解せられるならば氷解せられるところと私は思うのでございますが、(「その通り」と呼ぶ者あり)ただ賃金の低いといいますことは、経済力の貧困、或いは人口の過大、或は我が国  産業構造の後進性、労働生産性の低位等から来る止むを得ざる結果でございまして、我々といたしましては、この日本の低賃金、生活水準の低さから幾らかでも高賃金へ、そうして生活水準の向上を図つて参りますためには、生産の増大と貿易の拡大に上る国全体の経済力の向上を待つほかはないと存ずるのであります。友好諸国の協力によつて、我が国の産業、貿易が発展いたして参ることこそ、即ち日本の低賃金、生活水準を引上げて参る唯一の途であろう、このことが深く了解せられるならば、只今のような御意見は出て来ないと思うのであります。(拍手、「池田さんに聞け」「最低生活ができないじやないか」「黙つて聞け」と呼ぶ者あり)    〔国務大臣橋本龍伍君登壇拍手
  36. 橋本龍伍

    国務大臣(橋本龍伍君) 行政整理の問題についてお触れになりましたので、お答えをいたします。政府職員の数が国力の減少と反対いたしまして、著しく増加して、国民の負担を増加しておりますることは、今日国全体のむしろ常識的な認識であると私は思つております。(「ヒヤヒヤ」と呼ぶ者あり)細かい数字等については今日申上げませんが、是非行政整理はやる必要があると思いまして、今回の国会にも定員法の改正案を両三日中に提案をいたして御審議を願うつもりでございます。御賛成を願います。(笑声、拍手
  37. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 兼岩傳一君。    〔兼岩傳一君登壇〕    〔「共産党の花形」しつかり頼むと呼ぶ者あり、拍手
  38. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 我々は過去六カ年の間、ウオール街を中心とするドル帝用一主義の野望を警戒しがらなも、(笑声)これと同時に、常に自由と独立を愛するアメリカ国民を尊敬し、これに大きな期待をかけて来た。なぜならば、我我はあの日本帝国主義が敗れ去つた日、アジアの繁栄と太平洋の平和に役立つ新らしい日本の再建を決意し、中国を先頭とする全アジアの諸民族との間に、又太平洋を隔てるアメリカ国民一との間に、経済の相互援助と文化の交流、自由なる親善と平和的共存の大きな夢を抱き続けて来たからである。舞いもなくこの夢は全人類に偉大な貢献を與え、アジア人と日本国民を幸福にする共通の希望であつた。(「そうだ」一と呼ぶ者あり)併し今やこの希望は打ち砕かれてしまつた。(「共産党のために」と呼ぶ者あり)日本は単独講和の締結によつて、完全に且つ終局的に━━━━━━━━の支配する一植民地に転落せんとしておるからである。(「その通り」と呼ぶ者あり)講和とは何か。これは何よりも先ず済んだ戦争の後始をすることで、次の戦争準備をすることではない。(「そうだ」と呼ぶ者あり)平和を作り出すことである。(「そうだ」と呼ぶ者あり)次に、それは戰敗国を奴隷にすることではなくて、完全な独立国にすることである。(「そうだ」「その通り」と呼ぶ者あり)従つて講和後に全占領軍の撤退することは当然である。(「そうだ」と呼ぶ者あり)講和後に外国軍隊の駐在するなどという條約を講和と呼べないことは、三歳の童子も知つておるところである。(「そうだ」と呼ぶ者あり、拍手)ただ聰明なる吉田総理と閣僚を中心とする一握りの諸君にだけこの真理が承認されないということは驚くべき事柄である。(「残念と呼ぶ者あり、拍手、笑声)事実、吉田総理サンフランシスコ会議に出席して、この押付けられた二つの條約を、和解と信頼の文書とし公平寛大なる條約と礼讃して調印して来られた。国民の一部にもこれを真に受けて、これによつて(「そうじやないよ」と呼ぶ者あり)世界の平和と日本独立が保障され、日本人の生活も、今までは苦しかつたが、これからはよくなるであろう、これまでのように二言目には進駐軍の命令と称して無理な税金や供出を取立てられ、占領政策違反と称して逮捕投獄されることもなくなるであろうと期待を寄せておる人たちも相当にある。果してこれらの條約は、全国民の心からなる希望を満足させるものであろうか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)断じてそうではない。(「満足しているよ」と呼ぶ者あり、笑声)  以下私は日本共産党を代表して吉田総理の見解を質し、この点を全国民の前に明らかにせんとするものである。(「反対しているのは共産党だけだ」と呼ぶ者あり)  先ず第一に質さなければならないことは、日本民族百年の運命を決する重大な條約の審議を、なぜかくも急ぐかということである。つい先ほどまで十月国会などという気配さえなかつた。ところが、急転直下、批准国会が十月十日からと決定されたのみか、忠誠無比なる自由党の諸君は、十日では遅い、八日に繰上げようと議員総会で決定しておられる。一体全体、誰からこんな急げと言われたのか。(「国民だ」と呼ぶ者あり)あたかもこの疑問に応えるごとく、外電はプラツドレー議長の来朝と関連して、一斉に朝鮮戦線における米軍の損害の増大と、冬を間近に控えて戦局の重大化を伝えている。又国内政治も條約調印を機として急角度に転換した。例えば立川では米軍基地を中心として周囲十マイルの地域で防空演習が行われ━━━━━━━━の閲兵された警察予備隊にはいよいよロケツト砲が配付され、国会では現職の議員が証拠もないのに逮捕され、追放されるという、東條さえもなし得なかつた暴力的な国会自主性の破壞が行われ、そうして電力危機が来た。即ち戦争の切迫、言論の彈圧、そうして国民生活の破綻、これこそが吉田全権以下がサンフランシスコから日本国民に持ち帰つた情深い贈物であつた。併し国民は、今や、これらの関係を急に知り始めた。うかうかしていると批准国会が乘り切れなくなる。病状の進まぬうちに急いで国民をだまそう。これが政府及び自由党の狙いではないか。吉田総理から率直な見解を承わりたい。若しそうでないというなら、政府は日米合同委員会の構成並びにこれに伴う行政協定内容を十二分に国会並びに国民に明らかにすべきである。(「その通り」と呼ぶ者あり)第二に質さなければならんことは、中国、ソヴイエト、インド及びアジア諸国を除外した無効且つ不法の條約をなぜ提出したかという点である。成るほどアメリカ、イギリスを初めとして、グアテマラ、ニカラグア、コスタリカなど、我々の名も知らなかつたような国々が多数調印した。然らば日本は一体どの国と戦争したのであるか。満洲に出兵し、中国を席巻し、インドシナ、マレー、ビルマインドインドネシアフイリピンなど、十億のアジア民族にこそ多大の損害を與えて来たのではなかつたか。(「その通り」と呼ぶ者あり)講和ということは、これらの諸民族と仲直りをし、日本を民主化し、もう戦争はしないから、将来平和な貿易も開始しよう、與えた損害には適度の賠償を実行しよう、こうして和解と信頼を実現すること、これが講和でなくてはならん。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)然るに現実はどうか。一千万人の住民を殺傷し、五百億ドルの家財を焼いた最大の交戦国中国は、サンフランシスコ会議から除外されている。インドビルマは参加していない。インドネシアフイリピン講和條約に不信を表明している。一体、これでアジア諸国と仲直りしたと言えるかどうか。これではアメリカとのみの講和であり、アジア諸国との友好が実現されないのみか、我が国は━━━━━━━━━━アジア民族に敵対し、これを彈圧する手先の役目を引受けることになるのではないか。中国人民は何と言つているか。中国人民は、若しも日本がかかる條約に調印するならば、それは中国人民に対する宣戦布告に等しいと言つている。オーストラリア元外相・労働党のエヴアツト氏さえ、これは平和の條約ではなくて戦争のための條約だと言つているではないか。それのみではない。この道は日本を経済的にも破綻させるものである。最近我が国が平和的な国際的な競争に堪えかねているのは、鉄鋼価格の不合理な割高であり、これが我が国の貿易の発展を阻む根本的な障害となつている。中国の鉄、石炭を求めないで、敗戦の惡條件の下で無理な輸出を続けて行くためには、日本の労働者に対して極度の低賃金と労働強化が必要になつて来る。労働者に低賃金を押付けるためには、主食を安くするために農民に原価を償わない低米価を押付けなければならなくなる。このために国民の圧倒的な部分を占める労働者、農民の購買力を低め、国内市場を貧弱極まるものにし、かくして中小企業の破綻が生れる。大資本家も平和産業を捨てて軍拡インフレの道に入らざるを得ぬ。内外の独占資本家が、崩れ行く資本主義機構を救うため、どうしても侵略戦争に乘り出さざるを得ぬ根拠はここにある。そうして軍拡インフレの道は人民大衆の生活を破壞するのみか、遂には資本家階級の仲間までを破滅させる戦争の道である。(「ゆつくりやれ、そこがいいところだ」と呼ぶ者あり)吉田総理は、この帝国主義侵略の本質をごまかすために、アメリカ軍が撤退すれば日本軍事的真空ができて、そこへ中国、ソヴイエトの軍隊が侵入して来ると逆宣伝をやつている。そして、この逆宣伝を利用して日米軍事同盟を正当化しようとしている。吉田総理は、いわゆる軍事的真空の問題を、お伽話としてではなく、勝手な独断としてではなく、政治的な責任を持つて科学的に全国民説明する重大な義務がある。私はそれを要求する。(「そうだ」と呼ぶ者あり)  第三に質さなければならぬ点は、安保條約及び日米合同委員会の問題であります。吉田総理は、サンフランシスコ会議において平和條約に調印すると同時に安全保障條約に調印して来られた。この二つの條約は、その性格からいつて全く結び付いたものである。何故ならば、平和條約第六條が日米軍協定を予定しており、それを基礎として安保條約即ち押し付けられた駐兵條約の調印が行われたからである。従つて民主党や社会党の一部に、平和條約は賛成だが安保條約には反対だとか、安保條約には賛成だが平和條約には反対だなどとの議論もあるようだが、日米軍事同盟の締結という性質から見て、これらの議論が間違つていると言わなければならない。(「そうだ」と呼ぶ者あり)のみならず、これらの議論は平和條約第五條が憲法違反であることを無視している。條約第五條は、日本国連に加盟を許される以前に国連に協力する義務を負うことを定めている。然るに、今、国連は朝鮮に対する警察行動と称して大量の軍隊を送り、李承晩傀儡政権を支持し、このため朝鮮人民は家を焼かれ、虐殺され、塗炭の苦しみを嘗めている。然るに日本が受諾したこの條約は、批准と同時に、警察予備隊を朝鮮に派遣し、朝鮮戦争に投入する義務日本に負わしめるのである。現に日本基地に朝鮮への爆撃が行われている。今日、平和條約と称し、安全保障條約と称するものは、何ら平和を保障せず、反対に日本戦争に引き込むことを証明するものである。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)この條約が承認されるなら、ポツダム宣言憲法の趣旨は一切蹂躪され、日本国憲法の平和的性格は完全に侵されるであろう。世界史的に見て、安全保障とか防衛協定と称するものが如何なる役割を果したかは、第一次世界大戦を引き起したものが、一方においてはドイツ・オーストリア安全保障協定であつたし、他方において英仏共同防衛協定であつたこと、第二次世界大戦を引き起したものが日独伊防共協定であつたことを思い起す、べきである。又曾つて日本が満洲国軍隊を率いて、中国、ソヴイエト、外蒙古等に進撃したのは、日満議定書にあつた通り東洋の平和を確保するために、相互の安寧と存在に対する脅威から相互を防衛せんがためであつたことを思い起すべきである。(「中ソ協定はどうした」と呼ぶ者あり)元来——実に長い歴史を経て来たもので、安政年間のペルリ来朝以来、アメリカが漸く成熟したアジアに手を伸ばそうとするとき、いつも日本をその手先にしようとして来た。日清日露の戦争日本の尻押しをして、団匪事件より第一次大戦にかけていつも日本の大陸侵略援助して来た。シベリア出兵に至つて、日米帝国主義は相協力してソヴイエトに侵入している。今又一旦叩き倒した日本軍国主義を復活させ、そして日本を朝鮮から満洲への————にしようとしている、アメリカは、ニユージーランド、オーストラリアと軍事同盟を結び、更にフイリピンとも同盟し、今いよいよ日本との離籍及び案保障條約により太平洋岸に————の基地を築こうとしている。このことは安保條約第一條が「極東における国際の平和と安全の維持」と規定しており、決して日本を守ると規定していないことで明白である。(拍手)従つてこの安保條約第三條による行政協定には、国会や国民の前に発表できない秘密な部分があると伝えられており、去る九月二十四日の北京放送が十一項目の秘密條項を暴露した。吉田総理はこれに対し、嘘八百であると逃げているが、その後の内外の動きは北京放送が決して嘘八百ではないことを確信させるに十分である。吉田総理答弁とは反対に、外電によれば、日本政府は両條約締結後、秘密的な行政協定によつて、アメリカ人を委員長とする日本合同委員会権限を決定し、日本の行政についての————と伝えられているが、然りとすれば、かかる最高行政委員会の存在は、日本の————外国人の手にゆだね、その下に所属する————実質的にはこの日米合同委員会の事務局に過ぎない。(「そうだ」と呼ぶ者あり)而もこの最高行政委員会は国会に対しても責任を負わず、国会の上に君臨するもので、これこそまさに植民地的なフアシズム体制というべき一ものである。かかる日米合同委員会がその機能を発揮する場合に、吉田総理は国会の決議と日米合同委員会の指令と、いずれを主とし、いずれを従とするか。  又、安保條約第一條によれば、委員会の指令が日本国民の期待に反し、————この行動を「暴動」「内乱」と称し、アメリカ軍隊の出動できることを規定しているが、これこそ外国軍隊による内政干渉であり、かくのごとく公然と文書によつて売国的條約を締結した例は世界外交史においても最初の出来事と思うが、吉田総理の見解如何。又外国軍隊による内政干渉は国際連合憲章に違反すると思うがどうか。  以上述べたことはすべて将来の問題としての質問であるが、すでに朝鮮の——にはいろいろの形で日本人が事実上参加していると伝えられているが、最近アメリカのテレプレス通信は、アラスカにおいて八万五千の日本人が訓練されておると伝えているが、若しこれが事実とすれば、政府国民を欺いてすでに戦争に介入していることになる。併し次の事実は外電の報告ではなくて、吉田総理が條約調印と同時にアチソン国務長官との閲で交換した公文書に記載せられている事実である。我々は従来しばしば政府に対し、朝鮮戦争に経済的協力をしている事実を質問した。政府はそのたびに「精神援助又は商取引以外は絶対にやつておりません」と答えていたが、右交換公文によれば、日本政府は朝鮮戦争の開始以来現実に施設又び役務の双方の援助を継続して来たし、現在も與えつつあることを明記している。従つて政府が国会及び国民をだまして来たことは今や明瞭ではないか。問題はそれのみではない。去る第十国会において、我が党衆議院議員川上貫一がこの問題を中心に質問左展開したために除名になつている事案である。(「お前も除名だ」と呼ぶ者あり)吉田首相はこれらの事実に対し如何なる責任をとらんとするのか。  第四に質さなければならない問題は、対外債務、賠償及び在外債務の苛酷さについてである。平和條約第五章によれば、賠償支拂は、対日援助資金や戦前の外債を支拂つて、なお余裕があれば支拂うことになつておる。第七国会で見返資金特別会計が制定されて以来、吉田総理及び池田蔵相は繰返し「対日援助は借金ではあるが、将来アメリカが好意的に考えてくれるだろう」と答えているが、今回の講和会議において返さねばならぬ債務であることが明確になつた。総額は二十二億ドル、約八千億円である。これに戦前の外債が邦貨に換算して元利合計千五百億円、合計して約一兆に近い借金を政府は何年がかりでどう支拂うつもりか。果して近い将来に日本にこれだけ支拂う能力があるかどうか。池田大蔵大臣の説明を求める。  吉田総理は、フイリピンに対する賠償支拂について、先日の記者団会見において、「日本が與えた実害に即するだけの償いをするのが当然である」、といと殊勝らしい答えをしておられるが、(「首相だ」と呼ぶものあり)それは本気であるがどうか。なぜならば、フイリピン要求は八十億ドル、インドネシア六十五億ドル、ビルマ二十五億ドル、バオダイのインドシナ二十億ドル、李承晩の韓国六十億ドル、以上合計二百五十億ドル、邦貨に換算して九兆円、これは曾つてのヴエルサイユ條約によりて敗戦ドイツに課せられた天文学的賠償金を上廻るものである。中国日本に対する賠償政策は、日本の一平和産業と貿易を無制限に発展させ、日本軍事占領を廃止し、日本国民の生活を維持した上で、公正な賠償義務を履行すべきだとしているが、仮に中国の損害として伝えられている五百億ドルを加算するとしたならどうなるか。当然しなければならないアジアの人民に対する償いもしないで、千万長者の外債とか対外援助資金とかを先にして、実質上賠償問題をうやむやのうちにしようとしていることは明瞭ではないか。それに対する吉田総理答弁要求する。  吉田総理は、今回の講和を公平寛大と称しておられるが、事実は、労働者、農民、中小資本家に対しては勿論、大資本家に対しても決してそんな甘いものではない。その一例を示せば、講和によつて我が国の在外財産は没収され、在外債務だけは残されるという点である。この在外債務の支拂を請求された場合、曾つて海外に関係を持つていた会社で、一社といえども完全に支拂い得るものはない。有名な横浜正金銀行のごときすらその例に漏れず、その第二会社たる東京銀行は、在外債務の取立を迫られるために、止むなく海外支店も出せない実情にあるではないか。伝えられるところによれば、在外債務に対しては資産再評価益金を以てその支拂に充当するというが、若しそうだとすれば結局大衆の負担において大資本家の債務を支拂わせることになる。さればといつて、これをやらなければこれらの大企業が再起できなくなる。以上の問題について通産、安本、大蔵三大臣の答弁を求める。(「よく聞いておけ」と呼ぶ者あり)、  第五に質さなければならぬことは漁業問題である。伝えられるところによると、吉田全権はサンフランシスコにおいて、米国、カナダとの漁業協定について下打合せを遂げ、目下政府はこれに基いて秘密裡に締結の準備を進めているとのことであります。政府講和締結によつて政令第三百六号が消滅するから、マツカーサー・ランは当然消滅する。従つて公海における漁業の自由が認められると公言しているがそれは政府希望的なものに過ぎないではないか。なぜなら、日米加漁業協定の骨子として、「アラスカ、カナダ沿岸のカリフオルニア、太平洋沿岸の漁業などは資源維持のために或る程度の制限を受ける」と言い、又「すでに他の国との漁業協定を結び、漁獲高などの制限を行なつている場合、三国の操業は排除されることがある」と朝日新聞が報じている。このように日米加漁業協定は体のいい日本の締め出しであり、公海においてさえ漁業の自由は認められないではないか。又戦前日本の水産輸出品の大部分を占めていた北洋の(「ソヴイエトはどうした」と呼ぶ者あり)「さけ」「ます」「かに」漁業を初め、東支那のトロール漁業、南洋方面の「かつお」「まぐろ」漁業の問題であるが、これらの漁場と最も関係深いソヴイエト、中国サンフランシスコ会議を非合法且つ無効と宣言している一吉田総理はこの問題をどのように解決せんとするのか。曾つての武力によつて護衛された出漁を夢みているのか。又インドネシア、オランダ、ノールウエー諸国日本の漁業を制限せよと主張し、濠洲では日本漁業の制限の法案を近く国会に提出すると言われている。政府はこれらの諸国との漁業問題をどう解決せんとするか。又全国で約二十数カ所の漁業禁止区域がある。即ち茨城県の沖合、銚子の沖台、千葉県の東之、同南方、静岡県伊東の沖合、伊豆南方等を初め、日本全国には広大なこれら米軍の演習場で取囲まれている。これでは日本の幾百万の沿岸漁民は窮乏するばかりである。講和によつてこの禁止区域を撤廃することこそ日本政府責任1ではないか。「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)吉田総理はこれを撤廃する意思があるかどうか。(「それでいい、それでいい」と呼ぶ者あり)  最後に質すべき問題は財政と治安についてである。一吉田総理は先日の記者団会見において、再軍備は今は考えていない。国民は現在以上の税負担には堪えられないし、若しそれを強行すれば共産党の勢力を増すだけだ」と語つておられるが、果してそうだろうか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)政府が近く提出せんとしている講和條約締結に伴う補正予算は約千三百億円を超えるが、これによつて本年度総予算は八千億円になんなんとする。かかる厖大な予算はドツジ・ライン以前にさえ見られなかつたもので、明らかに講和を契機として日本の財政は軍拡インフレに一歩足を踏み入れた。その財源を見るに、四百億円の減税と見せて事実は自然増収と称して約一千五百億円の大増税をやつている。その他、鉄道運賃、電力、水道、郵便等の料金の値上げによつて間接税の大増税をもくろんでいる。国民をだまして、さも国費を節約するための行政整理をやるように言つているが、その実、首切つた人たちを警察予備隊や国警、特審局の大増員に用いようとしている。即ち政府は現に着々と再軍備に必要なあらゆる工作を進めつつあり、そのために、直接税、間接税の増税をやり、これと並行して我が党に対し気違いじみた彈圧をやつているのである。(「そうだ、気違い党だ」と呼ぶ者あり)若し一握りの売国勢力を除く日本国民の団結を以て闘わず、このままに押し流されて行くならば、日本国民の陷るであろう破局的な運命は言わずして明らかである。若し二万や三万の共産党員の犠牲によつてこの国民の悲劇が避けられるならば、我々はあえて如何なる彈圧をも避けないのみか、場合によつては喜んで犠牲になるかも知れない。併し世界の歴史、において、曾つて共産党を彈圧して、それによつて戦争の危機を避け、国民大衆の生活を守り得た事実があつたかどうか。(「その通り」と呼ぶ者あり)博学なる総理答弁を求める。(笑声)共産党大彈圧によつて自分たちの得たものが、日華事変を経て太平洋戦争に至る恐るべき犠牲に過ぎなかつた亡とを日本国民は決して忘れておらない。総理は新聞記者に向つて「国会における論議は、国家の利害を考えて一党一派の利害を考えず、大局から議論を立ててもらいたい」と語つておられるが、(「わかつたか」と呼ぶ者あり)総理こそ以上の私の質問に対し一党一派の利害を考えず、冷静に日本国民に向つて明確に答弁されんことを望む次第である。(拍手、「よかつたぞ」「いいぞいいぞ」と呼ぶ者あり)    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  39. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) ながながの御演説に対して答弁をいたします。一党一派に偏するものではないのであります。公平なる立場でお答えをいたします。(「傾聴しよう」と呼ぶ者あり)傾聴できるかということを私は疑うのであるが、先ず傾聽してもらいたい。(「心配しないでやつてもらいたい」と呼ぶ者あり)  一体この平和條約が信頼平等の條約であるということは、公平にして聰明な而も少数な共産主義者が、共産党が双手を挙げて、必ず深く熟考せられたならば御賛成になるであろうと思います。(「その通り」と呼ぶ者あり、拍手)但し(「ちよつとまずい」と呼ぶ者あり)只今の御演説は、多くは平和條約を曲解し、若しくは共産党の宣伝と考えますから、一々お答えはしない。ただ事実の訂正をいたします。警察予備隊は決して朝鮮には送らないのであります。又送る義務もないのであります。又安全保障條約には何らの秘密協定はないということはしばしば申しておるのであります。行政協定については今なお協議中であります。今なお協議と申すよりは、今後協議いたすのであります。電報が嘘か私の言うことが嘘か、これは世間がおのずから判断するであろうと思います。その他のことはお答えいたしまん。(拍手、「できんだろう」と呼ぶ者あり)    〔国務大臣池田勇人君登壇拍手
  40. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 在外債務の問題、即ち外債処理の問題、又対日援助の支拂の問題、又賠償の問題も只今何もきまつておりません。従いまして、賠償を先にするか、外貨債の支拂をあとにするか、こういう問題は今後の問題であるのであります。  次に在外負債の問題をどう取扱うかという問題でございまするが、これはこの十四條では、日本在外財産と在外債務とを相殺してきめるのか、又は在外債務は別個に取扱うか、まだ解釈につきまして研究を要する点があるのであります。今お答えするわけに参りません。    〔国務大臣高橋龍太郎君登壇拍手
  41. 高橋龍太郎

    国務大臣(高橋龍太郎君) 私はただこの中共貿易についてお答えしたいと思うのです。今、日本政府国連協力に基本政策を置いておるのでありますから、中共貿易もこの範囲内で指導するほかないと考えております。(拍手)    〔国務大臣周東英雄君登壇拍手
  42. 周東英雄

    国務大臣(周東英雄君) お答えをします。賠償の問題なり或いは在外資産の補償、外債利拂というような問題については、只今大蔵大臣からお答えいたしましたようにきまつておりません。恐らく條約にきまつておる通り日本の経済に相応する形に話合いを進めて行くつもりでありますから、お話のように、これによつて日本の経済が破滅するようになるとは考えません。むしろ過去二、三年の間における我が国の経済の復興状況を今後も押して、日本の未稼動の工場並びに労働力を以てこれに適当な原材料を供給確保することによつてもつと進展して行くつもりでありますから、御心配御無用に願います。(拍手)    〔国務大臣根本龍太郎君登壇拍手
  43. 根本龍太郎

    国務大臣(根本龍太郎君) お答えいたします。日米加漁業協定につきましては、未だ正式に何ら日本交渉は始めておりません。なおこの日米加漁業協定によりまして、北洋並びに東支那海の漁業の問題が解決されないであろう、ころいうようなお話でありますが、この問題は講和條約に調印いたさないソ連並びに中共の誠意の如何にかかわることであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)日本といたしましては、講和條発効後は当然マツカーサーラインが解消されまするので、従つてこれによつて制限されることはないと存じます。北洋漁場並びに東支那海における我が国の漁民の出漁に対し、若しソ連並びに中共がこの漁業を妨害するようなことがありますれば、これは国際條約の違反になりまするので、恐らく世界の輿論はそれを許さないであろうと考えます(拍手
  44. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 国務大臣演説に対する質疑はなおございますが、これを明日に譲り、本日はこれにて延会いたしたいと存じます。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  45. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。次会は明日午前十時より開会いたします。議事日程は決定次第公報を以て御通知いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時五十二分散会      —————————— ○本日の会議に付した事件  一、議員派遣の件  二、日程第一 国務大臣演説に関する件(第三日)