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1951-10-15 第12回国会 参議院 本会議 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月十五日(月曜日)    午前十時九分開議     —————————————  議事日程 第三号   昭和二十六年十月十五日    午前十時開議  第一 国務大臣演説に関する件(第二日)     —————————————
  2. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 諸般の報告は朗 読を省略いたします。      ——————————
  3. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) これより本日の会議を開きます。  この際お諮りいたします。千田正君から海外旅行のために二十日間、川上嘉市君から病気のために会期中、それぞれ請暇の申出がございました。いずれも許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。よつていずれも許可することに決しました。      ——————————
  5. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。(第二日)。  去る十二日の国務大臣演説に対し、これより順次質問を許します。棚橋小虎君。    〔棚橋小虎君登壇拍手
  6. 棚橋小虎

    棚橋小虎君 講和條約と安全保障條約とは、日本の運命と将来を決する重要な意味を持つものであります。殊に国際情勢の緊迫せる今日、これが一歩を誤まるならば、我が国は忽ち戦争の危機に直面する慮れなしとしないのであります。かような重大な問題に対する先般の吉田総理の御演説は、単に條約成立の経過を報告するに過ぎないものであつて、この重大な時期における我が国外交内政に対する方針見通しも何ら明示されていないのであります。これでは国民は全く失望と不安の念を持たざるを得ないのであります。私は日本社会党を代表して、政府にこれらの外交方針について質問を試みるものであります。  先ず講和條約から質問をいたしたい。講和條約なるものは、戦争状態が終つたことを法的に確定すると同時に、交戦国間の国交の回復の條件を定めるものであつて、平和の到来と言われておるゆえんであります。併しこのたびの講和は、日本国民にとりましては、このほかに今一つ重大なる意義を持つておるのであります。我が国は敗戦に伴う無條件降伏以来、連合国占領管理の下に置かれ、国民は自由と独立失つたのであります。併しこの間、国民は隠忍自重して困難に堪え、欠乏と闘いながら、一日も早く講和條約を締結して、自由、自主独立を回復することを希求し、熱願し来たつたのでありまして、このたびの講和は実にこの国民の悲願を達成したものと言わなければならんのであります。国民がこのたびの講和を喜び、これを歓迎するのは当然のことと言わなければなりません。併しながら、この平和條約は、不幸にしてすべての交戦国との間に同時に国交回復が達成できなかつたがために、国民の一部には遺憾ながら欣然この燥約に賛成するに至らない人人も存在するのであります。併しこれは、政府が当初から全面講和に対して熱意がなく、国民不知の問に単独講和を進めた結果が、今日国民の一部に不満を與えるに至つたのでありまして、その責任はむしろ政府が負うべきものと言わなければならんのであります。(「そうそう」「ノーノー」と呼ぶ者あり)けれども日本国民世界国民の間に伍して、真に人類の進歩と世界平和に貢献せんと欲するならば、先ず独立を回復して自主的な発言権行動権を確保し、その上に立つて積極的に世界と協力すべきであります。被占領国民として何ら自主独立の発言もできず、行動もなし得ない現在の責任のない立場は、或いは安逸をむさぼり、逸楽にふけることはできるといたしましても、それは要するに奴隷の平和と言うべきであつて国家民族自主独立を希うところの気魄ある国民のいさぎよしとしないところであります。日本国民は、一日も早くかかる奴隷的の境遇から解放され、つ独立を回復し、世界国民と対等の立場に立つて、人類の向上進歩世界平和のために寄與すべきであります。  併しながら、本條約がすべての交戦国との間の同時講和條約でないということは、この條約の持つ大きな欠陷と言わなければなりません。即ち第一には、サンフランシスコ会議に招請を受けなかつた中国、第二には、招請されたが参加しなかつたインドビルマ等諸国、第三には、会議には参加したが調印を拒否したソ連その他の諸国、これら非調印諸国との関係が幾多の重大な問題を包蔵したままに残されておるのでありまして、更に或る国々は、調印はしたけれども批准しないかも知れないのであります。然るにこれらのアジア諸国は、我が国にとりましては、政治的にも経済的にも密接不離関係にあるのであります。従つてこれら諸国との国交を将来どのように調整するかの問題は、日本の将来にとつて重大なる影響があることは申すまでもありません。そこで、これら諸国との国交調整に対して、政府は現在如何なる考えを持つておるかを承わりたいのであります。  先ず日本と最も深い関係を持つておる中国についてお伺いいたしたい。政府は或いは中国に対する選択権、即ち相手方を中共政府にするか、国民政府にするかとの選択は、日本意思によつて決定し得ると言い、或いはそれは連合国間の話合いの結果に待つべき問題であつて日本選択権はないとも言うのであります。果してどちらが正しいのであるか、承わりたいのであります。次に、その選択権日本にあるとすれば、政府は、中共政府か、国民政府か、そのいずれを相手国として選ぶつもりであるか、政府のお考えを聞きたいのであります。第二に、インドビルマ等との国交調整について政府如何なる見通し方針を持つておいでになるか。第三には、ソ連中共等共産主義国々は、サンフランシスコ会議において、又新聞、放送等を通じて、直接間接にこの條約に対して絶対反対の意思を表明しておるのであります。而もその提示する講和條件なるものは、我が国としては到底受講でき得ない内容のものと考えられるのでありますが、この点に関して政府如何なるお考えを持つておられるか。更に又国民は、ソ連中共のがかる強硬な反対の結果、これら諸国日本との間に交戦状態が再開されるのではないかとか、或いはこれら諸国ポツダム宣言を楯にとつて一方的に進駐して来るのではないかとか、乃至は公海において我が国の漁船の拿捕等報復手段に出て来るのではないか等、いろいろの危惧の念に襲われておるのであります。政府はこれに対してどのように考え、又如何なる対抗手段を有しておるか。これを明らかにして欲しいと思うのであります。第四に、朝鮮動乱は不幸にして今なお継続中であります。私どもは、この動乱全面戦争に発展したり、或いは日本に波及したりすることのないように念願すると共に、侵略が抑止され、国際平和が回復して、全朝鮮平和的手段によつて統一されることを心から希望するものでありますが、万一、本條約の効力発生後も朝鮮動乱が継続しておるような場合において、政府如何にして動乱日本への波及を防止しようとせられるのであるか。確乎たる方針を承わりたいと思今のであります。  平和條約の第二の欠点は、如何に和鮮と信頼の講和であるといつて政府が宣伝いたしましても、敗戦国として、完全に平等な立場において結んだ條約でない結果といたしまして、種々なる不公平な條件が伴つておるのであります。なかんずく領土條項賠償條項とは到底我々日本国民の納得し得ざるところであります。  先ず領土につきましては、私ども降伏文書及びポツダム宣言受諾の事実を無視するものではありません。併し同時に、連合国日本領土の範囲をきめるに当つて、みずから定めた連合国共同宣言の原則、即ち領土の拡張を求めず、又領土の変更は住民の自由意思に従うという公正な態度をとるものと期待しておつたのであります。(拍手)然るに平和條約は全くこの原則を一擲いたしまして、我が国民の期待をすつかり裏切つたのであります。即ち條約の第二條において、南樺太及び千島の領土権の放棄を明記しておる。この点の不当なことは、元来千島に属せざる歯舞諸島、色丹島ソ連による不法占拠の事実と共に、吉田総理がすでにサンフランシスコ会議において指摘したところであります。併し政府はただ単に講和会議における抗議的陳述を以て能事終れりとして引下るおつもりであるか。我々は合理的方法に訴えて、飽くまで條約の改訂に向つて努力すべきものと信ずるのでありますが、(拍手)この点に関する政府の所信を承わりたいのであります。なお、歯舞、色丹島については、国際司法裁判所に提訴して、我が領土権の確認を求める必要があると思うが、政府のお考え如何であるか。北緯二十九度以南の小笠原、南西諸島につきましては、サンフランシスコ会議において米英両国は、日本領土権は存続するかのごとき解釈を述べております。併し一方、政府は、日米安全保障條約によつて日本領土内に米軍駐留とその軍事つ施設を許容した以上は、私どもはこれらの諸島を特に他の日本領土と異なつた取扱に附する理由はないと信ずるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)政府はその理由を明らかにする責任があると存ずるのであります。信託統治の場合に、一体その信託統治には期間があるのか、ないのか、この点を明らかにせられたい。又この一種の潜在的な日本の主権という観念でありますが、これは果して国際法上可能な観念であるか。又それは国連信託統治に附せられた前の場合について言うのであるか。それとも信託統治に附せられた場合でも、なお、この観念は可能であるのか。以上の諸点を明らかにされたいと思うのであります。  次には賠償についてでありますが、條約第十四條の規定は、一方において日本賠償能力のないことを認めながら、他方においては賠償支拂義務を負わせておるのでありまして、これは矛盾と言わざるを得ません。併しながら我が国は、賠償交渉を望む国々に対しては、條約発効後、速かにこれと交渉を開始せねばならないのでありますが、特にフイリピン、インドネシア、ビルマ等は強硬な要求を持つておると伝えられておるのであります。然るに日本義務には特定の責任額の定めがありませんから、賠償を要求するこれら諸国との国交に累を及ぼす慮れが案じられるのであります。政府はこの交渉に対して如何なる腹案を持つておられるのか。又その交渉方針を承わりたいのであります。一方、国民は、賠償の結果、又独立後の外債償還駐屯軍費の負担その他の不生産支出の増大のために、国民負担が激増し、生活水準の低下することを極度に恐れておるのであります。国民生活を圧迫し、かような惡影響をもたらすことなく、而も東南アジア諸国との国交並びに通商関係の円滑を期するために、この二つの矛盾する利害を如何に調整するお考えであるか。この点、特に大蔵大臣の御答弁をお願いしたいのであります。  更に、日本中国に対しては重要なる在外資産賠償として放棄しております。その上に領土権特殊権益を移譲しておるのでありますが、東南アジア諸国は殆んど荒廃のままに今日放置されておるのであります。この種のサービス賠償につきまして、この両者の間に何らの差異をも設けていない第十四條(A)(1)の規定は甚だ不合理であると考えられるのであります。この点に関して政府中国と他の東南アジア諸国との間に取扱上の差異を認める方針であるかどうかをお聞きしたいのであります。以上を以て講和條約に対する質問は終りました。  次に安全保障條約について質問を試みようと思うのであります。  現在日本軍備を持たないのであります。然るに平和條約が批准され効力を発生するに至りますれば、外国軍隊はその効力の発生後九十日以内に撤退しなければならないのであります。その後に生ずる無防備の状態、即ちいわゆる真空状態において、我が国の安全を如何にして保障するかは、今すべての国民が重大な関心を寄せておるところであります。現在、世界が米ソの二大陣営に分裂して、その対立はいよいよ激化し、世界平和を脅威しておる際に当りまして、厖大な人口と莫大な遊休生産設備を持つて、その国土は絶好の戦略的地位に置かれておるところの我が日本は、まさに両陣営争奪の的となつておるのであります。かかる情勢の下におきまして、隙があれば我が国は何時外敵の侵入を受けるかわからない危険にさらされておることは、何人も認めざるか得ないところであります。従つて日本がその安全を確保することは一日もゆるがせにできない真剣な問題であることは言うまでもありません。この点において、我が党の考え方は、ソヴイエトの侵略を許容するところの共産党の無防備、無抵抗主義とは明白に区別せらるべきものと信ずるのであります。然らば独立後の日本安全保障如何にすべきであるか。第一は自己の軍備による自衛でありますが、現在我が国軍備を持たず、又急速にこれを持ち得る事情に置かれていないのでありまして、これは問題とならんわけであります。第二には国連による安全保障考えでありますが、国連国際警察常備軍の備えがない現在におきましては、これも又頼むわけには行かないのであります。従つて残された唯一の途は、国連憲章に基く暫定的地域的集団安全保障ということにならざるを得ないのであります。独立後の真空状態を憂うる者は、好むと好まざるとにかかわらず、暫定的にはこの形態による安全保障の途を選ぶ以外に方法はないでありましよう。日本安全保障條約の締結を希望した目的が、平和條約発効後における日本国の無防備状態においてその安全を保障するにあつたことは、この條約の前文が特に次のように述べておるところによつて明らかであります。即ち「無責任軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、武装解除状態にある日本国には危険がある。よつて日本国は、アメリカ合衆国との安全保障條約を希望する。」と言つております。又その次に、「日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため、日本国及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊維持することを希望する。」と言つてあるので明らかであります。すでに安全保障條約の目的日本の安全を保障するにあるとするならば、條約は十分に確実に我が国の安全を保障し得るものでなければならないと同時に、駐留軍隊兵力使用がその目的を逸脱して勝手に恣意的に外国間の戦争に使用されたり、又その結果として我が国が不当に不必要な外国間の戦争に介入させられたり、協力させられたり、又戦禍をこうむつたりすることのないように、極めて厳格に、慎重に規定されなければならないことは言うまでもないところであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)  安全保障條約の第一條によれば、日本駐留する米国軍隊は二つの目的を有することになつておるのであります。その一つは、極東における国際の平和と安全の維持に寄與するということであります。その二は、外部からの武力攻撃に対する日本の安全に寄與するということであります。この第二の目的が條約前文中に日本の希望として表明されておる点でありまして、日本はこの條約によつて幾多の義務を負担することになるのであります。即ち駐留軍隊に対しましては基地を與え、駐留を許容し、これにあらゆる便益を提供し、又駐屯費を分担する等、莫大な犠牲を拂つてその駐留を求めるのでありますが、これは一遂に、講和後の無防備期間に、外部からの武力攻撃に対して国土の安全を保障してもらわんがためであります。然らば、條約は、この日本に対する外部からの武力攻撃に対してその安全を保障する義務を負う米国は、かような場合に必ず日本を援助し、その安全を保障する旨の、相手国義務を、明確に、はつきりと規定したものでなければならないと信ずるのであります。この條約の第一條後段に記されておる文言、即ち「この軍隊は……外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄與するために使用することができる」という極めて緩やかな文言が書いてあるのでありますが、これが果して相手国たる米国安全保障義務を、即ち日本外部から攻撃を受けた場合に、必ず日本を援助して、その安全を保障するという相手国たる米国義務を、積極的に決定的に明確ならしめたものと言い得るのでありましようか。日本国民は、果してこれによつて、この條約の目的たる安全保障への確信と信頼とを持ち得ると考えるでありましようか。私はこの点について、これに対する政府の御見解を承わりたいのであります。(「異議なし」と呼ぶ者あり)  駐留軍隊のいま一つの目的は、「極東における国際の平和と安全の維持に寄與する」ということであります。現在、朝鮮においては戦乱が継続中であり、何どき極東の他の部分に波及するか測られない現状におきましては、この点に特に慎重の考慮を拂う必要があると思うのであります。條約に、駐留軍隊極東における安全に寄與するために使用せられると規定せられてある以上は、この兵力はすべて国連意思従つて使用せらるるものと解釈できないことはないのでありますが、万一駐留軍隊国連の決定によらずして、勝手に、恣意的に日本基地として第三国と戦争を始め、その結果、我が国を不当に、不必要な戦争の渦中に巻き込むようなことが、絶対に起らないという保証は、この條約のどこにも見当らないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)国民のうちには、かかる場合の必ずしも絶無でないという点について少からず危惧不安の念を抱いておる者があるのであります。政府は、この点に対して如何なる見解を持つておられるか。又かかる駐留目的を受諾するに至つた理由はどうであるか。又、国連の決定によらない恣意的な攻撃基地としないという点について、政府は果して確信と保障があるかどうか。明らかにされたいのであります。  軍隊使用目的の第三に、「外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じようを鎭圧するため日本国政府の明示の要請に応じて與えられる援助」ということが記されておるのであります。併しながら我が国には、すでに警察予備隊を初めといたしまして、それぞれ治安維持の機関があつて、その任に当つておるはずであります。然るに内乱騒擾に対してまで外国軍隊の援助を受けねばならないということは不可解と言わなければなりません。我が国治安状態は、果してかような程度にまで危殆に瀕しておるのか。又、政府は自力を以て国内治安維持し得る自信がないのか、どうであるか。又、独立国外国軍隊の援助によつて国内治安維持するというがごとき有樣で、今後、日本自主独立国家として果して立ち行けるのであるか。又、かようなことをすることが国民感情如何なる影響を與え、延いては日米国交の上にどのような影響を及ぼすかを、政府は考慮したことがあるのか。この点に対する政府の御所見を承わりたいのであります。   次に條約締結の時期について質問をいたしたいのであります。本條約は、講和條約と異なつて自主独立国家としての日本が、自由な立場において締結する條約でありますから、飽くまで外部からの強制圧迫によらず、自主独立立場において相手国と対等の地位に立つて締結されることを要請されるのであります。然るに我が国は、現在、講和條約に調印したとはいえ、その條約はまだ批准されず、従つて効力を発生するに至つておりません。我が国は、依然、連合国占領下に置かれておるのであつて、かかる状態で締結される條約は、決して自由な自主的條約とは言い得ないのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)講和條約によれば、外国軍隊は、批准後九十日以内に撤兵すればよいのであります。従つて本條約は、講和條批准発効後のその期間中に締結するのを適当とすると考えるのであります。又、かくすることによつて我が国の安全に何らの支障を生ずるとは考えられないのであります。然るに政府は、この占領下、而も講和條調印の翌日に、あわてて本條約を調印しなければならなかつたのは、如何なる事情によるのであるか。明白なる御答弁を望むものであります。(拍手)  次に條約第三條は、細目の條件両国政府間の行政協定に一任いたしております。併しながら日本国憲法第七十三條は、一切の国際條約は、「事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。」と明らかに規定しておるのであります。政府は、行政協定は條約にあらずという見解でも持つておられるのであるか。行政協定の方法には、いわゆる米比型と北大西洋同盟條約型との二色がありまして、前者は一九四七年、米此間軍事基地協定の樣式で、詳細に両国の権利義務を規定するものであります。後者は、一切を挙げて共同委員会に一任する形式であります。政府は、今回の行政協定は、そのいずれの形式によらんとするのであるか、その方針を明示すべきであります。そのいずれの形式によるにいたしましても、その協定事項広汎多岐に亘りまして、殊に軍事施設の種類、その性格、駐も軍と日本国民との司法関係駐屯軍の課税上の特典、駐屯地点と治外法権、港湾使用権演習権並び駐屯費分担等国家主権に関する重大事項や、国民権利義務に関する基本的問題を包含するものと想像されます。かかる重要事項国際的協定を、国法上の性格のあいまいなる行政協定の名によつて、国会の審議権を奪い、政府独断專行せんとすることは、甚だしき非民主的独裁政治と言わざるを得ないのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)我が党は、かかる憲法の條章を蹂躙するがごとき新例が、独立後の最初の條約において開かれることは、條約の当否以上の重大なる憲法問題と考えるものであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)この点に関する政府の御所見を承わりたいのであります。  條約の期限については、特に期間を定めず、日本区域における国際的平和と安全の維持について一定の條件が具備したと日米両国が認めたときに、條約が効力を失うことになつております。併し、それでは、その條件が充たされない限りは、外国軍隊が永久に我が国に駐屯する結果となるではないか。政府は、従来しばしば繰返して、現在のところ再軍備は行わないと言明しております。然らば政府は、将来如何なる時期において自衛力を創設するつもりであるか。若しそのつもりが全然ないとするならば、結局、この変態的な、一特定国からの軍事保障状態が永久的に続けられることとなつて日本独立国としての性格は失われざるを得ないのであります。この点に関する政府の御所見を承わりたいのであります。  以上、私は両條約について、国民の疑点の存する所と、不満と不安の存する所を挙げて質疑をいたしました。首相の誠意ある御答弁を期待いたす次第であります。(拍手)    〔国務大臣吉田茂君登壇、拍手
  7. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答えをいたします。この講和條約が全面講和でなかつたことに甚だ不満であるというお話でありますが、併しながらそれは、全面講和論は、しばしば繰返されたところであります。すべての国が講和條約に加入して、参加してくれたならば、誠に結構なことでありますが、併しながら参加しないという国に対して、これを強制することはできないことは当然であります。のみならず、すべての国が一致することが必要ということを以て議論せられるならば、すべての法律は常に国会の満場一致を得なければならんという御議論と同じことであつて、これはできないことであります。できない故にできなかつたというだけの話であります。(拍手、「詭弁だ、詭弁だ」と呼ぶ者あり)  又、中国ビルマソ連との間の国交をどうするかというお尋ねでありますが、中国その他ソ連等が、即ち共産主義国日本に対して参加しない。而も中国にしても、ソ連にしても、日本との間の講和は、成るべく早くしたいという希望を持つておるのでありますから、何とかして速かに講和状態に入りたいと思いますが、併しながら相手国がこれは希望いたさないという以上は如何ともできない。  又中共ソ連に対する外交方針如何。これは共産主義国外交を調整するということは、これは日本の今日の状態からいつて見て、或いは日本の内地の状態からいつて見て、これはできないことであります。共産主義を捨てればとにかくでありますけれども共産主義を以て、そしてこれと平和状態に入つた……日本において、共産主義の宣伝の中心を招き入れるというようなことは私はできないと考えるのであります。(拍手)(「外交じやないじやないか」「鎖国だ鎖国だ」と呼ぶ者あり)  領土の條項についての御質問でありますが、日本の條約上の関係としては、(「新らしい鎖国だ」と呼ぶ者あり)すでに八月十四日においてポツダム宣言を受諾いたした以上は、領土に対して日本としては連合国の指定する條件を呑まなければならん状態に置かれておるのであります。そして、その連合国において、アトランテイツク・チヤーター等において言明せられたことは、これは連合国内の話であつて日本としては、日本政府としては、この條項を楯にして主張することはできないのであります。併しながら日本としては、飽くまでもポツダム宣言を受諾いたしたその関係においてのみ、このポツダム宣言を完全受諾したその態度に対して見ても、領土問題についてとやかく言うべきでない。男らしく條項を受諾するのが日本としてとるべき態度であると思うのであります。  賠償條項については、日本が、日本軍隊等が不幸にして占領中において不当な行為をなした。暴行をなした。そのために損害を與えた。これに対して成るべくその損害を軽くするために或る行為をなす、或いは或るサービスをするということを敢然認めることは、断然これに応ずることは、日本としてとるべき態度であると私は信ずるのであります。  歯舞等の諸島については、私のサンフランシスコの演説において申した通り、日本としては主張すべきことは主張いたしたのであります。今後どうするか。今後に属することは、ここで言明するなにはありませんが、併しながら私としてはサンフランシスコにおいて述べた主張は飽くまでも通す考えである。その実施を求むるつもりであります。  二十九度以南の諸島について、西南諸島について、信託統治の期限等についてお尋ねでありますが、これは軍事上必要なために米国はこの琉球等を占領いたしておるのであつて、その必要がない場合、即ち日本に対する脅威が去つた場合には、これは当然又進んで信託統治米国政府は放棄いたすと私はここに断言いたします。  賠償の問題について、過日私の演説の中に申した通り、賠償は支拂う。併しながら同時に賠償能力について限度を認めておるのであります。日本賠償能力のある限りできるだけの賠償はいたす。併しながらその賠償におのずから一定の限度があることもこれは申し添えておるのみならず、又條約にも明らかに明記しておるのであります。将来の交渉方針も同じその方針で以て進むつもりであります。できるだけ、能う限り満足を與えて、そうして賠償に応ずる。併しながら日本国賠償能力以上のことはいたさないつもりであウ、又いたすことができないのであります。ただ、これによつて善隣外交と申すか、従来占領国で占領された国との間に好い関係、善隣関係を打ち立てるためにも、賠償はいたすべきであると私は思つて、この條項を私は認めたのであります。  安全保障條約についてのお尋ねでありますが、その規定するところは、甚だ茫漠といたしているというお話でありますが、私はあの規定で以て決して御懸念のような事態が起ることはない。例えば目的以外にアメリカ軍を使用した場合にはどうか、或いは惡意的運動、行動とつた場合にはどうするか。かくのごときことはいたさないと私は確信いたすのみならず、かかる場合には日本政府はこれに参加いたしませんのみならず、又これに対しては相当抗議をいたす考えであります、若しそういう場合が起るならば……。併しながらそういう場合は起るはずはないのであります。常識で以てないと断言し得るのであります。(拍手)又内乱騒擾の場合に云々ということでありますが、これは万一を顧慮しての話であります。日本敗戦後六年の間に、内政、治安等の維持に対しては相当努力し来たつたのでありますが、併しながら如何にもみじめなる敗残国であります。故に如何なる場合でも、日本の力を以て、国力を以て鎭圧できない場合もないとは言えないのであります。万一の場合にかかる規定が置いてあるのであります七  安全保障條約はなぜ翌日直ちに規定したか。これはこの條約も相手方のあることであります。相手方の希望するときに、日本に有利なる條約を結ぶことは、(笑声)翌日であろうが前日であろうが差支えないと思つているのであります。(拍手)(「正気かね」と呼ぶ者あり)  又行政協定云々についてのお話でありますが、これは政府として万全を期して御希望に応ずるようにいたしますが、然らばどういう協定をなすか。これは将来に属するところであります。その場合において御相談をいたしますが、今日において未だこの協定は成立いたしておりません。内容についても話合つておりません。今後の話であります。(「審議できんじやないか」と呼ぶ者あり)  その次は、期限はいつかということでありますが、この期限と申しても……。安全保障條約の期限はいつか。これは必要が消滅すれば、従つてこの安全保障條約は自然に消滅するということは、條文にもちやんと書いてあります。よく御覧になつて頂きたいと思います。(拍手、「人口問題答弁しろ」と呼ぶ者あり)    〔国務大臣池田勇人君登壇拍手
  8. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 平和條約第十四條の賠償規定につきまして御質問がございました。第一は、これは矛盾してはいないかというお話で、ございました。矛盾はいたしておりません。日本国政府賠償義務はあるが、日本が存立可能な経済を維持すべきものとすれば、現在のところ十分な賠償を行い、又他の債務を拂うのには不十分だ。こう書いてあるのであります。原則は認めるが、現在のところ完全なる賠償をするだけの力はない。こういうのであります。従いまして役務賠償に限つているのであります。で、フイリピン、インドネシア、ビルマ等は相当の賠償考えておられるようでありまするが、我々はこの第十四條の精神に従いまして、誠意を盡して国力の許す限り支拂うつもりでおるのであります。ただ問題は、第二項に書いてありますように、他の連合国に追加負担をかけてはいけない。又我が国外国為替上の義務を殖やしてはいけない。こういう制限がございますので、賠償の限度もおのずから両者が誠意を以て話をすれば解決付くと思うのであります。  第三に、賠償支拂によつて日本国民生活が非常な窮迫を来たさないかというお話でございますが、私は、役務賠償で、金銭賠償でございませんので、そんな心配はないと考えております。(拍手)    〔国務大臣大橋武夫君登壇拍手
  9. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 只今の御質問のうちに、安全保障條約第三條に基く行政協定というものは憲法違反ではないであろうかという御質疑がございました。この点についてお答えを申上げます。  安全保障條約第三條は、「アメリカ合衆国軍隊日本国内及びその附近における配備を規律する條件は、両政府間の行政協定決定する。」と規定をいたしてあるのでございまするが、この條項は、安全保障條約の実施細目を定めることに関しまして、両政府が文書による合意をすることによりその成立が確定するところの協定を認めた趣旨であると考えるのであります。即ちこれは安全保障條約の大綱の下においてその実施細目を定めるのに過ぎないのでありまするから、(「それが問題だ」と呼ぶ者あり)その協定は政府間限りの合意により確定することをあらかじめ立法府において承認する趣旨を含むものと解しておるのでございます。本條行政協定は、このような意味の協定でありまするから、これを改めて国会の承認にかける必要はないのでありまするが、行政協定の内容によりましては、これを実施いたしましるために国の予算及び法律の制定を必要とし、これについてはもとより国会の御審議を仰がなければならんことは申すまでもないと存じております。(拍手)     —————————————
  10. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 大屋晋三君。    〔大屋晋三君登壇拍手
  11. 大屋晋三

    ○大屋晋三君 私は吉田内閣総理大臣に対し、国家将来の問題について質問申上げたいと思うのであります。質問に入るに先立ちまして、総理大臣が老躯を提げて、みずから対日講話会議の全権といたしまして、我が国には曽て見ない積極的な前例を作られましたことに対し、感謝と敬意を表するものであります。(「八百長」と呼ぶ者あり、拍手)  先にサンフランシスコで調印されました対日平和條約は、我が国が平和を愛好する世界の自由国家群の理解と協力によりまして国際社会に復帰して、独立国として再び世界の大道を行く資格を與えられたことを意味するものでありまして、御同慶に堪えない次第であります。(拍手)又平和條約に続いて調印されました日米安全保障條約は、やがて日本国際連合に加入いたしまして、国際連合による集団安全の保障等の有効な措置ができるまでの間不当にして不正なる侵略から祖国を守るためのいわゆる真空状態に対応する臨時措置といたしまして、感謝の念と共に、進んでこれを承認せんとするものであります。(拍手、「そんな質問があるか」と呼ぶ者あり)然るに政党の一部にもそうでありまするが、国民の一部には、との條約は戦争を挑発するものであるなど宣伝いたしまして、国民を混迷に陷れんとしておる事実のあることは、誠に遺憾に堪えないところであります。この議論がいわゆる平和攻勢を以て人を欺瞞せんとする共産陣営又はその同調者によつて政略的に放送されるばかりでなく、いわゆる自由主義陣営と称せられる一部知識階級にまで伝染いたしまして、(「世界に笑われないようにしろよ」と呼ぶ者あり)以上二つの條約を否定しようとするがごとき傾向が現われて参りましたことは、由々しい国家の大事として深く憂いとするところであります。(拍手)例えば最近或る総合雑誌は、大学教授、評論家、美術家、文芸家等、知識階級の代表と目されまする七十余名の人々に向いまして、講和に対する意見、批判、希望等を聞いているのでありますが、前慶応義塾総長小泉信三、評論家の長谷川如是閑、仏教学者の鈴木大拙氏ら十数名の諸君が(「議長、それが質問か」と呼ぶ者あり)両條約を肯定しておるのに対しまして、その大部分はむしろ否定的な態度を示しているのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)国民の中核体であるべき知識階級の代表者を以てみずから任ずる人々の中にかような態度をとつている者が存在いたしますることは、国民大衆に対し、特に将来日本を背負つて立つべき青年に対しましてこれが指導を誤まる一大事であると私は思うのであります。併しながら(「意見はやめて質問をやれ」と呼ぶ者あり)彼らの言説を検討いたしますると、惡意に発する共産主義者又その同調者の宣伝が先ず第一、(「同調者とは何んだ」と呼ぶ者あり)その次は現実認識に欠けておりまするために起る誤解に発しておるということがわかるのであります。(「青年が泣くよ」と呼ぶ者あり)併しながら政府としては国家再建の邪魔立てをいたすがごとき言論を傍観しているべきではありません。両條約の意義を国民の納得の行くように積極的に且つ詳細に説明いたしまして、敷衍をして、過まちを未然に防ぐ方途を講ずべきは勿論、(「フアツシヨだ」と呼ぶ者あり)全国民が心から理解して賛成するように政府が一大努力を盡すべきであると信ずるのであります。私どもは平和を愛好するものであります。誰か悲惨な戦争の勃発を望むものがありましようか。総理大臣が両條約に調印せられましたゆえんも、全く平和を愛し、平和を希望するからでありまして、このことが即ち侵略者を防ぎ戦争を防ぐただ一つの途であるからにほかならないと信ずるのであります。昨年の六月、アメリカの軍隊が引揚げて、全く真空状態になつてしまいました南朝鮮に向つて、三十八度線を突破侵略を行いました共産軍のあの仕打ちが、我が国に再現せずと、誰が保証し得る者がございましようか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)共産主義者は別といたしまして、(「総理大臣への質問に入れ」と呼ぶ者あり)安全保障條約に反対せんとする者は、進んで我が国を無防備状態に置き、共産主義の蹂躙に任せようとするのでありましようか。(「馬鹿言うな」と呼ぶ者あり)我々はこの点に対して深い慮りがなければなりません。(「討論じやない」「質問々々」と呼ぶ者あり)日本外交の根本方針は、先ず日本みずからを守り、而して(「誰の力で」と呼ぶ者あり)世界の平和と繁栄と安全とに寄與するにあると信ずるのであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)そしてこれが方針といたしましては、観念的な中立政策のごときは、ソ連帝国主義が虎視眈々としておる状況にあえて目を覆うがごとき謬論でありまして(「こわいこわい」)と呼ぶ者あり)自由主義国家群との協力親善こそは日本を再建いたしまするための基本政策であるということをはつきりと断定してかからなければ、不測の混乱を起すのであります。(「吉田は断定していないのか」「総理が恥かしいよ」と呼ぶ者あり)平和條約と日米安全保障條約のこの二つの條約は、あたかも一枚の紙の裏と表でございまして、法律論といたしましてはともかくとして、政策論的には不可分のものと信ずるのであります。(拍手)然るに政府は、態度の慎重なることを期するためであろうかと思うのでありますが、四方八方に気兼ねをして、そのためにややもすれば(「質問々々」と呼ぶ者あり)日本立場を不明確にいたし、味方とすべき者の疑惑を招くことなきにしもあらず、私はその点、甚だ微温的で不十分であると思うのであります。即ち政府は、(「総理の演説のようだ」と呼ぶ者あり)我が国方針は前に申上げました通り、世界の民主的自由国家群と相提携協力いたしまして、世界の平和と安全とに寄與せんとするものであつて侵略共産主義者は断乎排撃する旨を、進んで積極的に言明すべきであると思うのであります。(拍手)この点について吉田総理如何にお考えになられましようか。お伺いいたしたいのであります。(「恐る恐る伺うわけだ」「猿芝居だよ」と呼ぶ者あり)  質問の第二点は安全保障條約と再軍備の問題であります。(「聞いちやいられない」と呼ぶ者あり)安全保障條約は先にも申述べましたごとく暫定的ないわば臨時措置でありまして、現在の国際情勢の下において、如何なる政党が政権の地位にありましても、(「守れというんだ」と呼ぶ者あり)自由国家群と手を携えて共に世界の平和を守ろうとする政党及び政府でありまする以上、少くともこれ以上に安全を確保いたしまする方法は発見できないと確信いたすものであります。(「ノー」と呼ぶ者あり)ただ国民がやや不安の念を持つておりまする点は、具体的な内容、国民生活と直接関係の深い部分が行政取極によるということになつております。而もその行政取極の具体的交渉が将来に残されておるという点でございます。(「その通りだ」「もういい」と呼ぶ者あり)我が国負担が、果して現下の国民の担税能力に堪え得るものでありましようか。又第二次大戦以来、英国等に駐兵いたしました米国軍隊がその国の主権を侵すことは絶対にないと同じく、我が国主権も侵されるということは絶対にないということは確信いたすところでありますが、駐屯米軍の治外法権的な特権等についても、故意に或いは誇大に、日本米国の属国になるがごとき言説を流布する向きもありまして、国民の関心は極めて深いのであります。政府如何なる方針の下で今後の行政取極を行わんとせられるのか。成るべく詳細に御説明を煩わしたいと存ずるのであります。(拍手)又吉田総理はしばしば「現在の国力では再軍備をする考えはない」と(「その通り」と呼ぶ者あり)言明しておられるのでありますが、外に向つて軍を進めるがごとき積極的軍備ではなく、防衛のための消極的な意味における軍備は、独立国家の体面からするも権利であり且つ義務でもあると信ずるものであります。(「その通り」「本当か」と呼ぶ者あり)天はみずから助くる者を助くと申しますが、日本がみずからを防衛する手段を講ずることなくして他国の防衛に全部を任せるということは、頗る虫のいい、而も卑屈な話でありまして、米国及び国際連合が……(「いつそ断わつてしまえ」と呼ぶ者あり)米国及び国際連合といえども、いつまでも日本防衛の責任を負うことは望み得ないと考えるのであります。(「なぜでしよう」と呼ぶ者あり)然りとすれば、我が国は他日必ずや軍備を整えなければならないのでありますが、この点に関しまして、従来御発表に相成りました吉田総理の御見解は、先ず以て国内の自衛力を強化し、国力の充実を待ちつつ、国民の世論の動向を見極めて、逐次防衛力の増強を図ろうとするお考えのように信じられているのでありまするが、(「憲法はどこにあるんだ」と呼ぶ者あり)日米安全保障條約の調印が済みました今日、何か従来の御意見と違つた新規の事実なり又は新規の構想なりがおありでしまうか。若しおありならば承わりたい。(「ありません」「東條の道だ」と呼ぶ者あり)なお又安全保障の期限、これは條約に明記してないのでありますが、従いまして国民の間には、いつまでもいつまでもこの條約に依存しなければならないのか、果していつ頃になつたら防衛の軍備ができるような国力に回復いたすであろうかという、我が国のいわゆる再軍備の時期、経済力回復見通しなど、これら一連の関連事項について国民の関心は極めて深刻であります。これらの点について御意見を承わりたいと思うのであります。(「架空の問題は答えられません」と呼ぶ者あり)  第三に領土の問題についてでありまするが、奄美大島、琉球諸島、小笠原群島、その他二十九度以南の諸島の領土権我が国に残されているという米国全権及び英国全権の言明は、その島々の住民はもとより、全日本国民を非常に喜ばせておるのでありまするが、これら諸島が我が国の行政下に完全に帰属するのは一体いつ頃になるでございましよう。(「再軍備完了後」と呼ぶ者あり)私はその住民諸君と共に一日も早い機会を待望いたすのでありまするが、これに対しまして、政府としても一日も速かに実現のできますように努力をいたさなければならないと存ずるのであります。政府見通しを伺いたいのであります。  第四に承わりたいのは、今度の講和條約を貫く平和的和解精神から考えまして、私どもが理解できなかつたただ一点の瑕瑾は、千島列島並びに南樺太の割譲でございます。千島列島並びに南樺太は、民族的にも、又歴史的にも、又講和條約の精神から申しましても、当然我が国に返還せられる性質のものでありまして、殊に色丹島や歯舞諸島のごときは、終戦当時たまたま日本の兵営があつたというだけでソ連に占領されたのでありまするが、聞くところによれば、ソ連はこれら諸島に恒久的な軍事施設を施しているとさえ伝えられているのであります。我が国世界第一に人口稠密なる国でありまして、寸土といえども我が国民にとりましては死活に関する重大な問題でございます。ソ連のごとく広大な未開発地域を有している国とは全くその事情を異にいたしておるのであります。我が国は一平方キロ二百二十四名も住んでいるのに、ソ連の人口密度は一平方キロ僅かに八名であります。(「ベルギーはどうですか」と呼ぶ者あり)かように人口密度の稀薄なソ連が、如何なる理由によつてこれらの諸島をあえて日本から割譲せしめるのでありましようか。これらの事実に対するソ連の主張は、ただ日本侵略によつて奪取したものだから、ソ連はこれを返還せしめるのだとしか私どもは承知していないのであります。ソ連は我々とは主義を異にする国家ではあるけれども、少くとも世界主権国家であります。又世界の世論もかような一方的な主張を承服するはずはないと思うのであります。(「その通り」と呼ぶ者ある)ソ連の主張が果してかような子供だましのようなものであるかどうか。ほかにもつと、少くとも多少の根拠のある主張があるのであるかどうか。若しもかかるソ連の主張が基礎となりまして両島の帰属が決定されたのであつたとするならば、我々は承服できないのであります。(拍手政府としては今後において如何なる措置をとられんとするお考えでありまするか。この点についてお伺いたしたいのであります。(「小笠原、琉球は……これは黙つている」「黙れ」と呼ぶ者あり)  第五に賠償の問題であります。戦争で迷惑をかけた国に対しましては、誠意を以て損害賠償支拂原則を承認すると同時に、我が国現在の資源を以てその経済を維持し得る限度において負担をするという取極に対しましては、私はこれに賛成の意を表するものであります。殊に我が国の苦境を察しまして、金銭賠償でなく役務賠償を認められた関係各国に対しましては、深く感謝いたすのであります。(「労働者の賃金はどうするんだい」と呼ぶ者あり)曽つて第一次世界大戦のドイツに対し天文学的数字の要求をいたしまして、支拂不能に陷れ、デモクラシー実現の要望とはまさに逆にヒツトラー政権を生みましたところの世界第一次大戦の賠償のことを思い出しまして、今回の措置は誠に妥当な方策であると同感の意を表するものであります。国民といたしましては、関係各国のこの好意に対しましては、単に物価賠償のみでなくして、精神賠償を以て酬ゆるくらいの心がまえを必要とするとさえ考えるのであります。併しながらこの役務賠償負担力につきましても、我が国の経済の現状では大いなる限度があります。賠償という卵を生むところの鶏を殺してしまつては卵を生まなくなりましよう。卵は生かして置いてよい餌を與えて、(笑声)そうして卵を生ませるとが賢明な策であります。(「読み違いのようですな」と呼ぶ者あり)條約締結責任者でありまする現内閣は、如何なる方針を以ちまして賠償問題の処理に臨まれようとするのでございまするか。総理大臣のお考えを伺いたいのであります。(「答えられないだろう」と呼ぶ者あり)  第六番目にお伺いいたしたいのは、講和條約の効力発生いたしました後における我が国の財政経済の見通し国際関係の関連性についてであります。(「お先まつくらですよ」と呼ぶ者あり)本国会に上程されまする補正予算の講和会議前におきまする構想は八九百億円程度と伝えられておつたのでありまするが、いよいよ提出される段取りとなりますると、これが千三百億円程度に膨脹を余儀なくされておるのであります。(「なぜだ」と呼ぶ者あり)而もこの予算の中にはいささかの冗費もなく、真に必要欠くべからざる経費ばかりが計上されているのであります。併しながらこの調子で参りますると、昭和二十七年度の予算は更に相当の膨脹の危機をはらむのではないかと予想されるのであります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)政府が今回の補正予算で四百五億円の主として少額所得者の負担軽減のための減税を組み込まれましたことは、機宜を得た処置といたしまして国民各層から支持を受けているのでありまするが、来年度予算におきましては、遺家族の援護費だとか治安拡充費等の国内的支出に加えまして、駐屯軍負担金、役務賠償金、その他講和に伴う緊急欠くべからざる諸経費が計上されるのでありまするが、政府といたしましては、増税をすることなしに、如何なる対策を以ちましてこの財政の調節をなされる方針で、ございましようか、これをお伺いいたしたいのであります。(「あともう答弁だけでたくさんだ」と呼ぶ者あり)  財政経済政策の指導方針如何国民精神の動向に重大な関係を及ぼすことは言うまでもないのでありまするが、特に敗戦国において顕著なのであります。今後日本人が国際場裡に堂々と闊歩いたしまして、戦後日本の経営に堪え得るような健全な国民精神を作興できるか、又は共産主義者とその同調者の思う壼にはまつて、その辛辣にして而して手段を選ばざる惡宣伝によつて(「ははあ」と呼ぶ者あり)虚脱状態に陷れられるか否かは、一にかかつて講和後における日本経済のあり方にかかつていると思うのであります。(拍手)今後日本民族興亡の鍵は日本経済運営の如何にありと言うもあえて過言でないのであります。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)政府国民もこの点に対しまして深い認識の上に立つて、来たるべき将来、長い間堅忍不抜の精神を以て、祖国のため、又我らの次代国民のために働かなくてはなりません。(「不言実行」と呼ぶ者あり)  併しながらその講和後の国民経済生活を思うとき、決して楽観を許されません。独立はいたしましたけれども一人歩きはできないという皮肉な窮乏状態を現出する虞れなしとはしないのであります。又領土を約半分に減らされ、人口は逆に急増して八千四百万人が小さい四つの島に閉じ込められます結果、この不均衡が曽つての植民地再分配論のごときものを誘致して、列国が現に警戒するような古き帝国主義が再び頭々持ち上げないという保証をどうして付けるか。更に又、かくのごとき国家の盲点に乘じまして、共産主義的帝国主義者の餌食としての日本が大写しに写し出されるということはないか。私はそれを憂えるのであります。彼らは常に真空の個所を狙つております。外より侵略の毒牙を磨くことはもとより、内に潜む毒素が勢力を増しまして国民独立自主の気魄を去勢いたし、健全な精神を蝕む虞れはないでございましようか。この二つの面の危険を除去いたしまするために、日本国民如何なる道を進むべきでございましようか。今こそ政治家の本当に奮起すべきときではないか。(拍手)今こそ政府は本当に強い決意を以て進むべきときではないか。私が考えまするには、政治は経済に先行いたします。そこで先ず日本の政治を安定いたしまして共産主義者に隙を與えないようにいたしますると共に、自由国家群の(「隙だらけだ」と呼ぶ者あり)民主主義的政治と共通の脈搏を通わせることに努めまして、層一層盟邦の信頼援助を増すようにいたしまして、我が経済を自立の方向に導き、国民生活を安定いたし、いわゆる衣食足つて礼節を知るという境地に到達せしめる以外に途はないと信ずるのでありまするが、総理大臣はこの点に対しまして如何なる具体的なお考えをお持ちになつておられましようか。お伺いいたします。又対日講和調印諸国との間にこれらの点に関しまして何らかの了解点に達しておられるというような事柄がございましようかどうでしようか。それも承わりたいと思うのであります。  更にもう一点お尋ねいたしたいことはアジアの問題でございます。そもそも不幸なる太平洋戦争の渕源は日本中国との間に起りました。由来日本中国とは同種同文の国で、古来から政治、経済、文化等の面におきまして密接な友好関係があつたのであります。それが俗にいう兄弟喧嘩をいたしましたのが即ち先般の戦争の発端でありました。然るにその中国はサンフランシスコの会議に列席しておりません。又我が国と経済上密接な関係にありまするインド及びビルマ調印の席を外しているのであります。これは誠に不幸な現象でございます。私はこの際批准に伴つて大いにアジア諸国と善隣友好の関係を確立いたしたいと思うのであります。我が日本は悲しむべき戦敗国ではありまするけれども、而も我が日本民族が優秀な点で世界有数の民族であるということは私の信じて疑わないところであります。敗れたりとは申せ、我々はアジアの中堅たるべき素質を喪失はしていないのでございます。このことは、中国国民政府におきましても、又インドビルマその他アジア民族におきましても負託と信頼拂つておると確信いたすのでありまするが、日本といたしましては、西欧諸国アジア諸国との仲立ちとなりまして、平和と自由の確保並びにこれら地域の繁栄を念願することが大切であると思うのであります。総理大臣は如何にお考えになりますか。又政府におきましてはアジアの盟邦と固く結ぶ方策につきまして如何なる抱負と具体案をお持ちでございましようか。これも承わりたいと思うのであります。(「吉田内閣がやめる以外に方法はございません」「黙れ」と呼ぶ者あり、笑声)  さて私は最後に、私のすでに申上げました考えの一部を再びここに繰返して質問を終りたいと思うのであります。今回の両條約に関しましては国内に種々の不安が存しているのであります。その一つはこれによりまして戦争に一歩前進するのではないかということでありますが、先に申上げましたように、両條約は戦争防止のためのものであると解するのでございます。次にこれによつて日本は半永久的にアメリカの属国化するのではないかという不安でありまするが、政府は、これらは無用の疑惑であることが納得でき国民一部の疑惑が十分に氷解できまするように説明を願いたいのであります。(「説明は無理ですよ」「それはできないよ」と呼ぶ者あり)もう一つは、講和によつて経済生活が困難になり、生活の水準が低下し、又折角の日本民主化が反動化する虞れはないかという不安でありまするが、(「もう相当に反動化しているじやないか」と呼ぶ者あり)政府は、民主主義の堅持は新生日本の根本精神であつて国際関係上も絶対必要である。日本はこれをますます促進すべきであるということを確約せられたいのであります。  これを以て私の質問演説を終ります。    〔拍手、「八百長も過ぎれば総理苦笑いか」「今の演説そのものが反動化しているんだよ」「答弁無用」「答弁不能」と呼ぶ者あり〕    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  12. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答えいたします。只今世界情勢共産陣営と自由陣営とが相対立しておると、これは不幸にして事実であります。而して日本はその間に立つて、或いは中立等の態度によつてみずから独立を保護するというような、かくのごとき「ぬえ」的の態度は今日許さないのであります。故に又日本の将来の存立のためには敢然として自由主義国に同ずべきであると思う。即ち共産主義陣営に対しては、飽くまでも日本国家として、日本国民としてこれに反対をする、自由陣営に投ずる、よつて以て自由、繁栄或いは文化の発展に日本国民自身が進んでこれに寄與するだけの覚悟があり、態度をとつてこそ、初めて日本の将来が確保せられるものと私は確信いたすのであります。この方針を以て進む考えで私はおります。けだし日本国民の大多数は、同じかくのごとき覚悟を持つておると私は確信いたして疑わないのであります。(拍手)又かくのごとき覚悟であり、かくのごとき力があることを認められた結果、サンフランシスコに招請せられた国の多数はこの対日平和條約に参加をし、調印をいたしたのであります。日本に対して信頼を置き、日本の国力に対して十分の尊重と申しますか、日本の国力を信ずる国が、よつて以て世界の自由なり繁栄を確保するためには日本国に成るべく早く独立を許すべきであるという観念が、即ち対日講和條約を促進いたしたのであります。この点から考えましても、日本国としては自由主義国家に同じて飽くまでも共産主義の崩壊を助くるのが日本として進むべき道と私は確信いたします。安全保障條約はこの主義によつてできておるのであります。今日この両陣営の攻防と、申しますか、対立がだんだん激化する、これに対していろいろな噂が立つ、国民が不安を抱く、この不安を除くために安全保障條約ができたのであつて安全保障條約の趣意はここにあるのであります。  日本独立如何にして守るか、——安全保障條約の企図するところは、集団的攻撃に対して集団的防衛の方法を講ずる、この観念であります。この観念に基いて安全保障條約ができたのであります。この観念がいいか惡いかが問題であるのであります。政府としては、今日の情勢において各国共に集団攻撃に対しては集団防衛の方法をとつておるのであるから、この世界通念に従つて日本独立も又集団的防衛の手段を講ずるよりほかない。この趣意を以て安全保障條約は調印せられたのであります。而してその中にある行政協定はどうするかということについて不安のあるようなお話でありますが、併しながら安全保障條約によつて原則がきめられて、この原則の下に施行細則がきめらるるのであります。この基本観念が肯定せられて、これによつて日本独立安全が守られるという確信が付くならば、その原則の下に行わるる行政協定については、今日未だ確定はいたしませんが、今後の協定に待つのでありますが、御懸念のないはずと私は考えるのであります。(拍手)  奄美大島或いは千島等についての主権の問題について御意見がありましたが、奄美大島については、私は過日のサンフソシスコの会議におきまして明らかに申述べております。これは日本に属すべきものであるということを私は確信いたして疑わないのであります。千島或いは樺太南部等については、これは日本が暴力によつて奪取いたしたのではないので、歴史上及び條約上の権利によつて従来日本に帰属いたしたのであります。これを、奪取いたしたとか、或いは暴力によつて云々というようなことは、これは日本に対して、徒らに日本を誹謗する言葉であつて、その当らざることは、過日サンフランシスコにおいて私は十分に申述べたつもりであります。今後どうするか、この問題は、千島にしても、或いは樺太南部についても、日本が権利、権原を放棄すると書いてありますが、如何なる国にこれが行くかということはきまつておらないのであります。今後の世界情勢と申すか、或いは連合国の間の協議によつて決定いたすのであります。  中国インド等、アジアの主なる国との間の講和関係は不幸にして成り立つておりませんが、併しながら中国にしても或いはインドにしても、成るべく早く日本講和條約は成立せしむべきものなりということは明らかに言明いたしておるのであります。ただ共産主義国共産主義を捨てずに日本国講和條約を結ぶか結ばないかという問題がありますが、インドのごときは、すでに日本に対して講和関係に入りたいという意思を明らかに表明しております。アジアとの関係において成るべく善隣関係に入るようにという御希望でありますが、これは私も極力その関係に入りたいと思うのであります。アジアの諸邦との間に従来における親善関係を直ちに復興せしめて、更により以上善隣関係を打立てたいと考えまするから、そこで賠償支拂義務等を喜んで進んで認めたような次第であります。善隣関係はただに日本の存立のためのみならず、世界の繁栄のためにも、又文化のためにも、日本が進んで、御意見の通り、アジアとの間に、アジア諸邦との間に、善隣関係、貿易その他において最も相互の利益になるような関係に直ちにも入りたいと考えております。その方向で進むつもりでおります。(「できんじやないか」と呼ぶ者あり)  又このたびの講和條約又安全保障條約のために却つて戰争の脅威を一層国民が感ずるというお話がありましたが、或いはそういう考え方もございましようが、併しながら今日いわゆる冷たい戰争はいろいろな脅威を、いろいろな噂を與えて、いろいろな不安を諸国に與える。これが共産主義国の狙いであります。が、現在においてどうであるかと申せば、誰ももう戰さを希望いたす国は甚だ少いのでありまして、ソヴイエトでさえも平和をということを言つておるのであつて、誰も進んで世界の平和を脅かし若しくは破壞しようということを主張する国はないのであります。これが世界の輿論の基調であります。故にそうたやすく第三次戰争が起るはずもなければ、戰争が勃発するということも、これは私は考えられないと思うのであります。のみならず、その戰争を避けるために、冷たい戰争をも避けるために安全保障條約を調印いたしたわけであります。この條約のために却つて戰争の脅威が増すということは、私は考えられないのみならず、その脅威を除くためにこの講和條約及び保障條約が調印せられたものと御承知を願いたいと思うのでございます。又日本はこの條約等によつて米国の属国になるとか、或いは民主化が後退するとか、反動政治が行われるであろうというようなことをよく申しますが、又日本におる外国人記者なども、かくのごとき噂と申すか、根拠のない流言蜚語をいたすのでありますが、これは、ためにするところがあつて主張する者もあるでありましよう。宣伝する者もあるでありましよう。又真にこれを恐れ、又日本のために、民主化が日本においてその根柢を固めるようにとの希望から好意を持つての主張もあるでありましようが、(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)諸君の御決意の中に、諸君の覚悟の中に、国民の覚悟の中に、この民主化を捨てようという考えを持つておる者はないのであります。又、反動、曾つての反動政治がいいとこれを謳歌する者は私はないであろうと思います。日本の民主政治は、我が党の政府が続く限りは飽くまでもその根柢を固くして、国民の根柢のある覚悟にいたしたいと考えるのであります。(拍手)  賠償問題その他については後に申述べますが、安全保障條約或いは信託統治についてのお話でありますが、その期限はいつまで続くかということでありますが、これは安全保障條約にも書いてあります通り、日本がみずから自衛する力が漸増的に増すということを期待するということが書いてあります。即ち日本自衛権が、自衛能力が確立したときは、自然この保障條約はなくなるものと考えます。又琉球その他の信託統治にしても、その必要がなくなれば、無論アメリカとしてはこれは好んで信託統治をいたしておるわけではないということは、しばしば当局者が私に言明しておるところであります。即ち軍事上の必要、日本に対する軍事上の圧迫が存在するから、防禦のない日本の安全を保障するために、止むを得ずこの処置をとるのである。軍事上の必要のために、琉球、小笠原等は信託統治の下に置く。軍事上の必要が去れば、無論好んでこの小さな島等をアメリカが統治いたしたいという考えはないのであつて軍事上止むを得ず統治するのでありますから、信託統治の必要がなくなれば、自然にアメリカ政府日本に還付すると思います。余り他国の考え方を惡意に解するということはよくないことである。これは善意に解して、アメリカの政府の主張に、考えるところを信頼するがいいと私は考えます。(拍手)    〔国務大臣池田勇人君登壇拍手
  13. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 賠償の問題につきましては、先ほどもお答え申上げましたごとく、日本の経済を維持することと、又アジア諸国の友好関係を確立維持すると、この二つの目標に向つて我々が誠意を披瀝し、又向うさんも誠意を持つてつて下さるならば、いい解決ができると信じておるのであります。而して今具体的の交渉にはまだ入つておりません。これからの問題でございます。  次に財政経済の見通しでございまするが、この点につきましては、明日、予算案を国会に提案いたします、適当な時期に財政演説で申上げたいと思いまするが、一言にして言えば、国民の一致協力があつて努力を今まで通りに進めて行けば心配はないと考えております。過去二、三年のこの日本の経済復興のあとを顧みまして、この努力を続けて行けば、講和後におきましてもいろんな経費が嵩みまするが、切拔け得るという確信を持つております。今年度の補正予算が先般新聞に出まして、相当歳出が殖えて参りましたが、これは日本の経済力の増嵩を示すものであります。歳入その他が相当殖えて参りまして、私としては来年度の財政規模を見ながら、即ち昨年、一昨年作りました十五カ月予算、その頭を今度は十八カ月予算のつもりで編成いたしておるのであります。詳しくは財政演説で申上げまするが、明年度におきましても、極力経済に副つた財政規模で行くつもりであるのであります。減税の問題は、今年度四百五億円の減税でございまするが、来年度はこの税の調整を続けて行く確信がございます。経費が嵩みましても又増税するということは全然考えていないのであります。  なお経済復興に対して関係諸国との了解があるというお話でございまするが、大屋さんの言われましたように、天はみずから助くる者を助くで、我々が一致協力して自立経済に当れば、自然と世界各国は、我々に協力の手を伸ばしてくれると確信いたしておるのであります。(拍手)    〔国務大臣周東英雄君登壇拍手
  14. 周東英雄

    国務大臣(周東英雄君) お尋ねのように、講和後の我が国経済には、対外的にも又対内的にも経済の負担の増加する事柄を内包しております。これらを克服して経済の自立へ向つて行くということは容易ならんようでありまするが、併し只今大蔵大臣申上げましたように、過去における実績を顧みて見たときに、我々は悲観をいたさないのであります。我々といたしましては、輸出規模の増大、貿易規模の増大、生産の増大、国土開発、インフレの回遊、国民生活の安定という線に沿つて強力に施策を推進するつもりであります。これらにつきましては、御承知の通り日本には未稼働の工場施設、又労働力の余剰を持つておる。而もそれは相当な技術水準の高い労働力を持つておる。これに必要なる原材料を従来通り供給し得たならば、我々の生産の増大は期して待つ、そのことから以て、日米経済協力その他各国との協力を土台といたしまして、輸出を、貿易規模を拡大し、生産を増大して行くということは期して待ち得ると思います。この線に沿つて国富の増進を図るということこそ、自立経済の基本となることと存じます。(拍手
  15. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 中山福藏君。    〔中山福藏君登壇
  16. 中山福藏

    ○中山福藏君 私は前質問者と重複を避けまして、極く簡単に国家の将来の動向に関する質問をして見たいと思うのであります。  先ず第一に吉田外務大臣に対してお尋ねをしておきたい。これまでの外交というものは、国家国家の、いわゆる相対的なる外交であつたのであります。然るに世の変遷に連れまして、この相対的な外交というものが、集団的な外交に移行しておるということは皆樣すでに御承知の通りであります。即ちその顕著なる象徴として国連というものを中心としての外交というものが樹立されておる。いわゆる階段的に外交方針というものも変遷が認められておるのであります。而うしてこの集団的な外交方針というものは一つの共通したる理想を持つておるのであります。その理想を達成するために、すべての集団国家が相共に最大の努力を拂いまして、その共通の理想、即ち世界人類の安寧と世界全体の平和を希求しておるということは、外務大臣がすでにお認めになつておることと私は確信いたします。然るにこの集団的な一部の国家群の理想は未だ以て世界全体を蔽うに至つていないのであります。現在米ソの対立は冷戰と世間では呼んでおりまするが、この冷戰が変じて熱戰となるか。或いは又偶発的な事情によつてこの冷戰の対立が解消して行くのか。我が日本憲法はすでに武力というものを保持しない。戰備というものを放棄しておる。いわば階段的外交の終局の理想とするところの戰争のない社会、人類全体の安寧幸福をもたらすところの最後の段階を規定しておると言つても差支えないと私は思うのであります。而うして私はこの場合お尋ね申したいのは、今、国連に現われておりまする集団的の外交方針が、やがてはこの米ソの二大対立というものを如何にして解消するか。ここに最高の人類としての外交方針国家としては持つて行かなければならん事態に到達したと、かように考える。こういうふうな点について吉田首相は、吉田外務大臣は如何なる考えを抱懐しておられるか。私は先ずこの点についての首相の御所懐を伺つておきたいと思うのであります。  第二点は、御承知の通りに、昭和十二年以来私どもは各国と劍戟の間に相まみえておつたのであります。この間に私どもは宗教の中心を失い、道徳の中心を失い、法律の中心を失い、教育の中心を失つたという憐れむべき状態に立至つたのである。申すまでもなく、これまでの法律、道徳、宗教の中心はことごとく皇室を中心として流れ出ておつたということは歴史の証明して余りあるところである。この中心を失いました我が国民は如何なる状態に落ち込んでしまつたか。強盗、強姦、暴行、あらゆる刑事上の犯罪は頻々として数うるにいとまがないという結果になつて現われたのであります。この場合、国家百年の興亡をかけて考えなければならんことは、将来我が国の宗教、法律、道徳、教育の中心点、その拠点というものを奈辺に求むるかということが一番重大なる問題であると私は考えております。吉田内閣総理大臣並びに天野文部大臣は、所管大臣としてこういう問題についてどういう所見を持つておられるか。私はこれを伺つておきたいと思うのであります。  第三にお伺いしたいのは、過日調印せられた安保條約が憲法第九條と抵触すると言つて諸説紛々として帰趨するところを知らないのが今日の実情であります。私は小さいことは申しませんが、かような国民の間に文理的に如何ようにも解釈できる憲法というものは実に国民全体にとつて迷惑千万であります。曽つて片山内閣当時、或いは現内閣の場合におきましてもそうでありまするが、憲法の第七條、第六十九條の解散権の所在というものはどこにあるかというような事柄についても国民は実際迷惑をしておる。いやしくも国家の基本法というものは、他の法律よりも平易に、小学校を出たら誰でもわかるぐらいのたやすい文句を並べて国民全体に国家の骨髄というものを知らせおく必要があるのです。それを漢文体から和文体に持ち直しておりまする現在の憲法でもまだはつきりとわかりません、国民は。でありまするから、いろいろな問題というものが憲法の上に疑義となつて現われて来る。先般毎日新聞の報ずるところによれば、大橋法務総裁のごときは、警察予備隊というようなものはどれだけ戰力を強めても、軍隊に匹敵するところの装備をやつても、それは外国に遠征しないのだから軍事力というわけには行かんというようなことを言われたと聞いております。併しこれは従来政府が、当局が曽て仰せられるように、新聞だから私は責任がない、新聞は間違いだと言えばそれで済む。併しながらともすればこういう問題について、或る一部のかたがたから、日本というものは軍備を暗々裡に準備をいたしておるのであるというような攻撃を受けなければならんのであります。又或る一部の政治家はこういうことを言つておる。外国軍隊日本駐留しておつても、日本国がその駐兵と軍事基地の提供というものを承認したら、それは日本軍事の代行であるから、やはり憲法違反だというのであります。こういう観点から政府は、誠に煩瑣なことではございましようが、何とか国民全体のためにかような紛らわしい憲法條章の改正ということについて考慮を拂われる必要はないのであるか。これをお尋ねいたしておくのであります。  第四にお伺いしたいのは、今日私ども国民全体が電力飢饉に直面しておる。今や御承知の通り賠償というものの裏付けとしてこの電力が如何に重大なる責務を果しつつあるかということは贅言を要せないところである。サービス賠償、労務賠償、工業力、或いは農産物に対して、電力が如何に重要な役目を持つておるかということにつきましては多弁を要しません。然るにこの電力がかくも危機に瀕するというのは、決して今日我々の足下から湧いたものじやございません。これは歴代内閣の電力対策に関する怠慢の結果である。我が国は御承知の通りに、あと百年すれば、現在の採炭量を以て進めば石炭がなくなる。なくなつたときは、東海道五十三次を昔のように草鞋をはいて、てくてく歩かなければならんというような事態に立ち至るかも知れないのであります。故にこの石炭に代る動力の根源というものを、今日から国家百年の大計として考慮しておく必要があると確信するのであります。幸いにして日本は雨量が世界第五位という豊富な立場にあるのでありまするから、今日、国家としては瀑布、河川、湖沼等の水力を利用して、そうして永久に動力に困らないような立場をとらなければ、目先の困つた因つたというようなその日暮しの政策では国民は納得できない。殊にいわんや観光客を迎えるという今日におきましては、こういう点については十分な考慮を拂つて頂かなければなりません。電気というものは現在公益委員会に持越されて、政府としてはどうにもこうにもならないというような、けちなことを言わずに、公益委員会であろうが、配電会社であろうが、国家国民のために相協力して、この緊迫したる電力問題を解決する必要があると信じます。こういう点について所管大臣は如何なる所見を有しておられるか。私はこれをお伺いしたいのであります。  第五に、先般吉田首相並びに大橋法務総裁が、ポツダム宣言というものが効力を失つた際に如何なる法的措置をとるかということについて所見を述べられておりますが、お二人の意見が新聞紙では食い違つておる。食い違つてはおりまするが、これに対して如何なる処置を政府としてはとられるつもりか。又終戰後六年を経て、漸く私ども講和條約という岸辺に辿り着いたのであります。この恵沢は国民全体の喜びとするところであります。一部の人がその恩沢に浴するのではなくて、国民全体がこれに浴しなければならないのである。ここにおいて従来の通りに大赦、特赦、減刑というような処置をおとりになる考えがあるかどうか、私はこれをお伺いするのであります。  なお、ついでに大橋法務総裁にこういうこともお尋ねをしておきたい。終戰後すでに処刑せられておりまする戰争犯罪人の問題は、講和條約では、日本の勧告によつて、裁判に関係した国国の人々と力を合わしてこれを解決するということになつておる。この勧告は、間髪を入れずに、條約の効力発生したときに、政府として適切妥当なる処置を講じなければならん問題じやないかと私は思つておる。これにつきまして如何なる御所見を持つておられるか。  第六にお伺いしたい問題は、これは先ほども質問者が申されましたから簡單に申上げまするが、先日フイリピンの代表が日本に参りまして、賠償問題について当該官憲と交渉したということが新聞紙に発表されておりますが、この発表の結果を見ますると、先ずフイリピンに対しては八十億ドル、インドネシアに対して七十億ドル・ビルマに対して三十八億ドル、ヴエトナムに対して二十億ドルと、こういうふうなことになつておるということであり、同時に政府方針としては、一カ年に百億円、十年続いて一千億円を限度として支拂に応ずるつもりだと、こういうふうなことが含まれておつたのであります。果してこういうふうな計画をして、おらるるのであるかどうか。私は日清日露の戰争と今度の世界第二次大戰の出発点というものは、国民の気持において相当の開きがあると、かように考えておる。だから、ただ唯々諾々として、負けたからと、こういうようなことで承知しなければならんことでは、これは外務省はあつてもなくてもいいということになる。その戰争のよつて来たるゆえんを探求して、今度の戰争は、国民全体が或る一部の人々とかけ離れた気持で以て止むを得ず引きずられておつたということも一応考慮に入れて頂きまして、勿論、外交史上のドイツの話なども参考に引く必要はありましようが、今度の戰争においては、日清日露の戰争の場合とは、相当にその原因、その動機について開きがあるのでございまするから、外国人の同情を引くに足る材料が多々あると私は考えておる。でありますから、條約の上にも、日本国民が拂い得る限度においてということを示してある。どうかこういう点も考慮に入れられまして、十分国民の納得し得るような立場をとつて頂きたいと思うのであります。こういう点について吉田内閣総理大臣はその所見を開陳されんことを私はお願いしてやまないのであります。  第七に農林大臣にお伺いしたいのでありますが、現在行政機構の改革と相待つて、食糧庁の役人の首を二万切ろうとか、いろいろな問題があつて、それとこれと道連れにするのではないかというような非難も起つておるのでありますが、そういうことは一応棚上げにしておいて、私は法律家として、過去を振り返つて見ると、統制の結果、墓場と監獄に急いだ多数の人を過去において知つておるのであります。ですから、或る一部にお官ましては、統制ということに非常に恨みを持つておる。日本の国情に副わないところの統制、私が衆議院におりましたときに、高橋是清氏はこういう演説をしました。小川郷太郎さんの質問に答えて曰く、「外国の統制経済というものを直ちに日本に持つて来るというと、日本人の体にドイツ人の大きな洋服を着せたような恰好になるから、一応仕立屋が十分注意して、体に合うところの洋服をこしらえなければいかん。無理やりに統制々々と言つて、あらゆる問題というものをこれで解決して行こうということは、政治家としてとるべき処置ではない」ということをおつしやつたのを記憶しております。この戰争の負けた原因は、この統制に苦しみ抜いた国民の反政府的な気持が相当に働いておるということは、私は今日確信を持つて皆樣の前においてこれを言明することができると思う。でありますけれども、過去は過去であります。如何なる内閣といえども欠点のない内閣はないのであります。私は過去を責めようというものではないのであります。今日米麦の統制というものはまさに外れようとしておるのでありまするが、併しながら今日においては長い間の統制に或る一部の人は慣れておる。かるが故に、この統制を外した結果、日本の社会の間にどういう問題が起きて来るかということは、これはいろいろ例は挙げればございますが、晝飯の時間を控えておりますからこれは省略することにして、ただ私はどういう心がまえを以て統制撤廃後の混乱を防ぐ準備があるか。こういうことをお尋ねするのであります。申すまでもなく今日農林省の人々は、よく、米麦及び主食或いは準主食のことだけを申されておる。併しながら農林省としては、粟、黍、稗、大豆、小豆、豌豆、蚕豆、人蔘、蕪、牛蒡、「じやがいも」、「さつまいも」というようなものを米に換算すれば何石になるかということはちつとも説明されないから、国民が迷う。殊に四面環海の日本としては多数の魚類が獲れるはずなんです。こういう問題もちつとも説明をなさらんから、或る一部の煽動家、或る一部の惡商人のために買占められることを恐れ、或いは煽動されていろんな社会問題が起きて来ると思うのであります。こういう問題について、政府は今から統制撤廃をなされるもよし。併しながら、なされるならば、社会に混乱が来たさないという確信と十分なる事前措置を講ぜられる必要があるのじやないかと私は考えるのであります。こういう点につきまして所管大臣の御明答を煩わしたい。  最後にもう一点お尋ねをしておきます。御承知の通り吉田全権は、サンフランシスコの会議において、ソ連に対する南樺太並びに千島の返還は承服しかねるという、国民として溜飮の下がるお言葉を御発表になつておるのであります。私は日清戰争の馬関條約において、当時の駐日米公使でありましたダン、或いは北京の駐日米公使のデンビー、或いはダレス大使の祖父ジヨン・フオスター・ワツトンン氏の斡旋によりまして、誠に公正に、台湾と澎湖島が我が国に帰属したということを知つております。一九〇五年のポーツマス條約を引いて首相が承服しかねるとおつしやつたが、なぜこの馬関條約について、何らの滯りなく円満裡に日本の属地となつた台湾と澎湖島について御発言がなかつたか。それを伺つておきたいのであります。  以上は、誠に簡單でありまするが、何とぞ我々国民の承服し得る御答弁政府の各諸公にお願いして、私はこの壇を下りたいと思うのであります。(拍手)    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  17. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答えをいたします。  今後の外交方針は従来と変るところがあるであろうという御質問でありますが、如何に変るかということはとにかくといたして、これは條約の前文にも書いてあります通り、国際連合の精神に基いて、世界の平和、世界の自由のために飽くまでも同調するという方針外交は参りたいと考えます。  次に、憲法第九條と安全保障條約との関係についてのお尋ねでありますが、憲法第九條は、即ち兵力を以て国際紛争の解決手段にしないと規定してあるのであつて、即ち侵略的に武力を用いないということを書いてあるのであります。安全保障條約は自衛の問題を、如何にして日本独立安全保障をするかという自衛権の問題であります。おのずから憲法第九條との間に抵触する部分はないのであります。  又、フイリピンの賠償……フイリピンの誰でありますかと政府賠償交渉賠償に関する具体的交渉に入つたというようなお話でありますが、これはフイリピンから未だ賠償に関する全権委員も参つておらず、又来たこともなし、従つて政府は具体的交渉に入るはずはないのであります。  台湾、澎湖島の問題について、なぜサンフランシスコにおいて言及しなかつたか。私が南樺太及び千島の問題を提起、言及いたしたのは、無論ソ連の代表が日本に対する攻撃に対して報いただけの話でありまして、台湾、澎湖島の問題は、全権のうちから問題を提起いたさなかつたから答えなかつたのであります。若し答えることが必要であつた場合には、お話の通り無論いたすつもりでおつたのであります。(拍手)    〔国務大臣天野貞祐君登壇拍手
  18. 天野貞祐

    国務大臣(天野貞祐君) 私は戰後何でもかでも惡くなつたとは思つておりません。戰後もよくなつたこともある。例えば一般の国民が勤労を尊ぶようになつたとか、或いは女性の解放とか、民主的思想の浸透とか、いろいろよくなつたこともありますが、併しお説のような混乱も確かにある。併しこれは、戰前或いは戰時中極端な国家主義が支配し、いわゆる全体主義が支配したに対して、反動的に極端な個人主義が支配して、個人が国民であるということを忘れ、国家が個人の母体であり基体であるということを人が自覚しない。従つて国家の象徴であるという意味、日本国の象徴たる天皇、即ち象徴という意味も十分理解せないような点から、この混乱が来ていると思いますので、一方においては、学校の教育の道徳教育というものを改善をし、又他方においては、私は国民諸君の御参考になるために、近く一般の基準、道徳的基準、個人、社会、国家というような、天皇の象徴性というようなことを、国民諸君に理解して頂く参考のものを提示したいと考えております。(拍手)    〔国務大臣高橋龍太郎君登壇拍手
  19. 高橋龍太郎

    国務大臣(高橋龍太郎君) 今の中山君の電力危機の御質問に御答弁いたします。  これには、恒久対策のほうは、実は電力、電気は私のほうの所管でありませんので、これには触れませんが、当面の対策として我々が只今苦心している点を簡單に申述べておきます。  本年の非常な電力危機というものは、要するに水力事情が惡かつた、これが第一の原因なのであります。で、この対策としては、現在日本に、電力会社にも或いは民間施設にも相当発電設備を持つているのです。この発電設備を総動員して動かして電力の補充をすること以外には、当面の問題としてはないと私は考えるのであります。ところで、それではこの未稼働の発電設備を動かすために何が必要かというと、又なぜそれが動かずにおるかというと、燃料が足らないことなんです。ところで燃料は、石炭について言いますと、昨年四千万トンを欠けた生産であつたのでありますが、本年は関係者諸君の非常な努力で四千五百万トン生産できる予定です。一カ年に五百万の増産ということは私は殆んど知らないのであります。そう増加することはできない。最近、中小炭鉱に手を付けまして、まあ年度内に三十万、四十万ぐらいなものはできるかというのがせいぜいであつて、そのほかは海外から石炭を輸入する。海外と言いましても、電力用の石炭としてはインド炭だけしか現在では考えられないのであります。で、この輸入はすでに着手いたしております。もう一つは重油を輸入して石炭の代用燃料に使う、このほうもすでに着手して、相当発電用の重油を輸入することになつております。併しそれでは足りないので、現在インド炭の輸入、それから重油の輸入を相当量増加したいという計画を立てて、今折角苦心をしているのが現状なのであります。一番問題になりまする大阪の現在の事情は、大阪の電力会社の発電能力は、私は、現在では一日に七千五百トンくらいな石炭が焚ける状態だと思うのですが、それが石炭がないので動かない。最近の事情を聞いて見ますと、十月の一日などは千何百トンしか焚いていない。炭が集まらんわけであります。で、私の省としては極力炭を集めて、尼崎の発電所に送ることを努力しているのですが、十月の一日に千何百トンというのが、その後三四千トンは焚いておつたのですが、十日、十一日頃は五千何百トン、十二日は六千トン余り焚きまして、貯炭は徐々に殖えている状態であります。水力のほうは、昨日の台風がどういう結果をもたらすかまだわかりませんが、炭のほうは当面には幾らかよくなつて、大阪の貯炭は殖えて来ると思いますが、根本には重油とインド炭の大量の輸入が成功しないというと安心できない状態であります。只今までの現状を御報告いたしておきます。(拍手)    〔国務大臣大橋武夫君登壇拍手
  20. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 恩赦の問題について御答弁をいたします。平和條約の発効は、我が国といたしましては独立の達成という極めて意義深い機会でございまするから、この機会にいわゆる恩赦を考えるということは適切なことと存じまして、法務府としましては只今準備的な調査を進めている次第でございます。  次に、平和條発効後は、いわゆる戰犯者の赦免、減刑、仮出獄等につきましては、日本政府の勧告が必要と相成るわけでございまするが、そのために必要な規定等をも含めまして、一般に講和後におきまする戰犯者の処置に関して必要な法律案を講和條発効までに成立せしめるよう、速かに提案いたしたいと存じましてこれ又準備をいたしている次第でございます。(拍手)    〔国務大臣根本龍太郎君登壇拍手
  21. 根本龍太郎

    国務大臣(根本龍太郎君) 食糧政策に関する御質問にお答えいたします。  中山さんが御指摘のように、日本の食糧政策の変遷を見ますれば、戰争に突入いたしましてから初めて国家管理をいたしておるのであります。それ以前におきましては、生産者保護の立場から、需給調整におきまして最低価格を保証し、又一面におきましては食糧の不足を来たすことなく保証するために、輸入食糧に関する処理をしております。これが戰争状態に突入するに及びまして、いわゆる自給自足の経済、アウタルキーの経済に立ち至つたために、止むなく政府は強権を以て農村からその生産したところの農産物を供出せしめると共に、これらの食糧を均等に国民に分けるために、これ又立法措置に基いて権力的配給をいたしておつた。これが食糧政策における戰前戰後の大きな動きでございます。今や日本はサンフランシスコ平和会議におきまして調印を見、近く我が国世界の民主主義国家として国際社会に復帰するような状況でございます。現在においてすら、すでに世界小麦協定に参加するのみならず、食糧の輸入につきましては全く独立国と変らない民主主義諸国からの協力を得ておる次第でございます。これが完全に独立になりますれば、戰時中におけるがごとき食糧につきましての孤立状況に陷ることは断じてない。而も世界の食糧事情は今後好転して来るというような見通しが、第一の、政府が食糧統制を撤廃するという考えなつた根拠でございます。なお又、国内におきましても、農業生産の復興の状況は、全農産物について申上げますれば、すでに戰前の標準を越しております。ただこの間において、戰前の生産量に及んでいないものは畜産と養蚕でございます。併しながらこの畜産におきましても、特に遅れておるのはいわゆる馬産が減つただけでございまして、乳牛その他小家畜においては漸次戰前に近付いておる。更に又、全体の食糧の問題において大きな役割を演ずるのは水産物の問題でございます。これ又漸次増産が続いておりまして、現在はおおむね戰前の状況に達しております。而もこれはマツカーサー・ラインの制限下においてすらこのような状況でありまして、これが近く漁業協定により日本の遠洋漁業が戰前と同樣なる地域において漁業が営まれるようになりますれば、更に蛋白資源の確保が十分になされ得る、かように考えております。こういう観点からいたしまして、先ほど御指摘のように全体の日本の食糧事情は将来において安定且つ確保できる。こういう前提の下に政府は統制の撤廃を決意しておるのでありまするが、併し長年の間統制に慣れましたために、これが一時に変更するということは、その切替時期におけるところの一般国民の心理的不安、この不安に基くところの或いは騰貴、或いは又これに対するいろいろの策動が行われて、折角の方針が混迷に陷るではないか。この御注意は全く我々も深く身に泌みて考究しておるところでございます。このためには、農民に対しましては、米穀需給調整法のごとき立法措置によりまして最低価格を保証し、なお又更に農村の生産資金を不安なく與えるというために、農業手形制度の存続、或いは集荷の大きな組織的運営に当るものとして考えられる農業協同組合、その他商業組合についても集荷資金について政府が十分なる措置を講ずる。又米穀市場における投機的要素を防ぐために米穀市場法を制定いたしまして、これには清算取引を許さず現物取引を以ちまして、でき得るだけ実需者と実際的に供給する線とにおいてこの点の安定を期する。又切替時期における、特に大都市における食糧が或いは偏在するために、而もそれが特に米について偏在するという不安があるようでありまするので、これにつきましては、その切替時には十分に消費地に供給し得るだけの量を政府が操作米として確保し、必要に応じてこれを放出する。こういう考えを持つております。更に全体として価格並びに食糧の需給を調節する大きな要素はむしろ輸入食糧にかかつているのであります。この輸入食糧につきましては、この需給調整法に基きまして政府がすべてこれを管理し、そうして市場の状況に応じましてこの外国食糧を以て操作する。かような考えでございます。いずれこれに関しまする法案その他の準備ができた場合には、いろいろと御審議を願うつもりでございまするが、全体といたしまして、我々は講和を前にいたしまして、今こそ戰時的立法の残存の一つである、而も最も大きなこの統制撤廃をすることに、農村と同時に消費者についても明るい面を確保し、日本の将来の発展のために期したい。これが政府の食糧に対する基本的考えでございます。(拍手
  22. 中山福藏

    ○中山福藏君 私は再質問をしたいと思いますが、簡單でありまするから議席より発言のお許しを得たいと存じます。
  23. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) どうぞ。
  24. 中山福藏

    ○中山福藏君 只今農林大臣のお言葉では、昭和二十七米穀年度の主食に対する補助的な立場にある外国の輸入米に対しての御所見は伺うことができなかつた。ビルマ米が四十五万トン、これが三十万トンに減るとか、或いはエジプト米が十万トンが五万トンに減るとか、こういう問題についても、もう少し掘り下げて御研究を煩わしたいのです。  第二に吉田内閣総理大臣に対して私は申上げたいと思うのです。現在までの外交というものは現実主義を以て常識としておつた。併しながら今や飛躍的に日本立場世界的になつた今日におきましては、理想と現実を並行さして推進して行かなければならんと私は思うのです。例えばアメリカの理想主義、人道主義というものが具体化する場合においては、直ちに熱戰となるというような、現実主義と理想主義との並行でなければ、将来の外交というものはやつて行けないのじやないか。何とぞ一つ外交センスに非常にたけておられるところの吉田外務大臣は、現在世界情勢に鑑みて、日本国家全体として外交の上にどういう理想を持つかということに御着目をお願いしておきたいのです。  第三に天野文部大臣について私は申上げておきたい。天野文部大臣は来たる講和條約の発効の当日に教育要領というものを御発表になるということを承わつておる。又只今お述べになつた程度の文相としてのお立場考え方でございますが、これは全然駄目である。教育並びに政治というものを單に立派なるところの人格とかそういうものだけではやつて行けない。私のお尋ねしたのは、道徳の中心、法律の中心、宗教の中心、教育の中心を失つている今日の日本は、戰後、国民の社会情勢が、国民全体のすべての問題というものが惡くなつたという惡い面ばかり私は申上げておるのじやない。これらの問題の拠点というものをどこに文相は狙いを置いておるかと、こういうのです。それを一つ御発表にならなければ、私は文相としての立場は十分にその責任にお立ちになることはできないのじやないかと実は考えておるのであります。どうか一つこういう点についても十分に御研究を煩わしたい。こういうことをお願して私の質問を終りたいと思います。    〔国務大臣吉田茂登壇拍手
  25. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 只今外交に関する御意見は御意見として伺つておきます。(拍手)    〔国務大臣根本龍太郎君登壇拍手
  26. 根本龍太郎

    国務大臣(根本龍太郎君) お答えいたします。外国食糧の輸入の状況、これにつきまして御指摘がありましたが、現在政府が得ておる資料におきましては順調に行つておりまして、食糧輸入が蹉跌を来たしておることはないと信じております。(拍手)    〔国務大臣天野貞林君登壇拍手
  27. 天野貞祐

    国務大臣(天野貞祐君) 私は、この日本の思想的混乱、今の道徳的な混乱とか、そういうことを一片の文書を出してそれで解決できるなんて決して思つておりません。これはもつと深いところに根拠があるのです。政治とか経済とか、そういうものに非常に重大な根拠があつて、文部大臣が一片のものを出してできるなんということは考えておりません。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)又国家の道徳的中心は天皇にある、だから先ほど象徴という意味をもつと明らかにしよう、私はここで以て象徴という意味を講義するのは不適当だから言わないのであつて、そういうことは明らかにしよう、(発言する者あり)道徳的と言いましたよ。道徳的ですよ。という、そういうことを私は考えておるので、決して一片のあれに、それもただ道徳的中心となるというようなことを言つてそれで済むとは私は思つておりません。だからして、このただ一片のそういう言説をなして、それで、ものができるなどと私も決して思つておるわけではございません。
  28. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 国務大臣演説に対する質疑はなおございますが、これを明日に譲り、本日はこれにて延会いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  29. 佐藤尚武

    議長佐藤尚武君) 御異議ないと認めます。次会は明日午前十時より開会いたします。議事日程決定次第公報を以て御通知いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時四十分散会      —————————— ○本日の会議に付した事件  一、議員の請暇  一、日程第一 国務大臣演説に関する件(第二日)      ——————————