○木内四郎君 私は
国民民主党を
代表いたしまして、
只今議題にな
つておりまする両條約案に対しまして、数個の要望を付しまして賛成の意を表したいと思います。
国民はこの過去六年間講和を待望して参りました。我々も又この
国会におきまして、現に自主性のない政治というものの悲哀を身を以て体験して参
つたのであります。今日ここに講和條約の
締結を見ましたことは、私
どもは喜びに堪えません。
国民の大多数も恐らく喜んでおることだろうと私は思います。併しながら、今回の條約を見ますというと、多くの大きな問題の決定を将来に残しておる点、殊に全面講和でなか
つた点、即ち非調印国が多数ある、大きな国が非調印国であるという点が一つの確かに欠点であると思うのです。
国民はこのために、これらの諸国との
関係はどうなるだろうか、或いは又一方にくみしたような形に
なりまするので、対立を激化するようなことに
なりはしないか、非調印国との
関係を却
つて悪化させるようなことはありはしないか、或いは又こういう
状態において、我が国の経済自立が可能であるか、或いは経済の回復と発展を阻害しはしないかというような点について、
国民は非常に心配をしておるということは私
どももわかるのであります。勿論全面講和は我々もこれを理想として唱えて参りました。併し現実の客観情勢がこれを許さないといたしますならば、いつまでも、この可能な国との多数講和を妨げまして、そうして我が国の
独立をいつまでも遷延するということは、到底私
どもは許されないと思うのであります。併し、さればと言
つて、今申しましたような、この非調印国との平和を妨げ、或いは善隣友好の
関係を妨げるというようなことは、これは、いつまでも許されるべきことではありません。この非調印国との
関係につきまして、現在の情勢において、
政府から積極的に、その施策と、その対策と、所信を聞きたか
つたのでありますけれ
ども、それを聞くことができなか
つたのは私
ども遺憾に思いますが、この多数講和を基礎といたしまして、漸次非調印国との
関係を、平和を打開し、且つ促進して参らなければならんと思うのであります。そのためには勿論
政府にも大いに
期待いたしまするが、
国民もこのために努力する、即ち朝野を拳げてこれに力を注がなければならんと思うのであります。
さて、今回の
平和條約は和解と信頼の條約だと言われております。確かに、戰争
責任等には言及もいたしておりません。或いはいろいろな制限も設けておりませんし、又監督の
規定な
ども置いておりません。確かに或る意味において和解と信頼の條約であるということはできるだろうと思うのでありますが、各條文を見ますというと、その間にやはり避くべからざるこの敗戰国としての立場と重い負担というものは滲み出ておることを、私
どもは否定することができないと思うのであります。
先ずこの
領土の
條項につきまして、先ほど来、たびたび繰返されましたが、私
どもは確かにポツダム宣言を受諾いたしました。併しながら同時に、カイロ宣言と大西洋憲章の精神によ
つて、我々に歴史的、民族的に帰属してお
つた領土はこれを保持し得るものと私
どもは思
つてお
つた、又我々がそう思うのも当然であ
つたろうと思うのであります。然るに今回の條約によりますると、
主権は放棄させられました。けれ
ども、私
どもはこのヤルタの秘密協定というようなものは絶対にこれを
承認することはできません。
政府委員のかたから伺えば、御説明では、すでに放棄したのだから、我々は
法律上の権原はないということを言われております。それも確かに一つの
解釈であると私は思う。正当な
解釈であるかも知れません。併し新聞の伝えるところによりますれば、ダレス特使の書簡として発表されたところによりますというと、
日本は
主権を放棄したのだけれ
ども、ソ連に帰属さしたいと書いてないし、ソ連はそれに対して発言権はないと言
つておる。我々は、すでに放棄したのだけれ
ども、これを取上げる人がないのだというならば、元の所有者がこれに対して当然先ず第一に
法律上の
権利を私は主張し得ると思う。我々飽くまで、千島、南樺太の
主権の回復、失地の回復を叫んで、その実現を朝野を挙げて期さなければならんと思うのであります。歯舞、色丹が北海道の一部であるということは申すまでもありません。又
領土の問題につきましては、北緯二十九度以南の地域、それにつきましては或いは
憲法が施行されないというようなお話もあ
つたり、眠
つておる
主権だと言われたり、潜在の
主権だと言われたり、まあいろいろなことを言われております。これは何でも言葉はいろいろ言い現わすことは自由でしようが我々はすでにして
安全保障條約を
締結いたしました以上は、
平和條的にあるところの信託統治の制度というものは必要がないのじやないか。これは先ほど岡本
委員などからも言われましたが、私
どもはかねてそういう主張を唱えてお
つたのであります。今現に
平和條約を
締結した、そのあとにおいて
安全保障條約が
締結されて、そこに米軍が駐留することができるということになれば、眠れる
主権とか、そういうややこしいことにしないで、
安全保障條約によ
つて十分その
目的を達するのであるから、信託統治制度は必要はないのじやないかと私
どもも思いますし、
アメリカの
政府もすでに今日
考えておるでのはないかとさえ我々も想像するのでありますが、
アメリカの
代表が
日本に
主権があるということを言われてお
つたということでありまするから、これを基礎として、
政府において飽くまで
主権保持存続に努力されることを強く要望いたしたいと思うのであります。
なお、この安全に関する
條項につきましては、我々は夙に国連加入ということと、集団的
安全保障條約
締結、又その基底をなすところの自衛力の強化ということについて、常に強化、確立ということについて主張いたして参りました。今回この趣旨が
平和條約の或いは第五條と第六條に挿入されておるのでありまするからして、これを、この基礎に基きまして、能う限りみずから祖国を守る態勢を整えるべきであると思うのであります。
この
憲法の
解釈につきましては、いろいろ説明がありましたが、併しながら我々の満足すべきものではありません。併し徒らにこの
憲法の
解釈を狹隘にし、或いは曲
つた解釈をしまして、自縄自縛に陥ることのないように、自縄自縛に陥り、
従つてこの祖国を危殆に陥れることのないように、十分戒慎すべきものであると思うのであります。
更にこの未帰還者の帰還促進の問題につきましては、御承知のように前の草案に入
つておりませんでしたが、
国民的の祈願が容れられまして、
規定に挿入されたことは、誠に喜ぶべきことでありまするが、併し施策、交渉、対策よろしきを得ませんければ、これが一片の空文に終るだろうと思うのであります。どうか、この点につきましては、特に
政府当局において一段の努力をせられて、速やかに未帰還者が祖国に一日も早く帰還できるようにされることを要望して止みません。
更にこの政治経済の
條項でありますが、これらの
條項に関しましては、過去の諸條約によるところのいろいろな
権利、利益を放棄しと書いてあります。これは又一、二の場合におきましては、通商上の均等待遇というようなことを放棄しておるというようなこと等、遺憾なことがありますけれ
ども原則的に見ますれば、
国内的の政治的、経済的の、問題、対外的経済活動の自主性と平等の原則を認めて、明らかに
規定いたしております。又相互主義によるところの内
国民待遇の許興、最惠国待遇の許興というようなことが、通商
関係の処理の基本原則として明らかにここに
規定されまして、今後我が国はこの基礎の下に我が国の経済的発展を図
つて参らなければ
なりません、又図
つて行くことができるのでありまするが、併し一面におきましては、又この四つの島に八千余万人の人口を擁し、而も條約の
前文にありまするように、社会福祉と安定の條件の創造推進に努めなければならない。生活水準の向上、或いは完全雇用ということに努めなければならない。この両方を
考えて参りますというと、実際問題として非常に多くの困難を私は伴うだろうと思う。そこで、この点につきましては
政府の施策よろしきを得ると共に、
国民の一段の奮起と努力を私は強く要望せなければならんと思うのであります。
更に、次には請求権と財産の
條項でありますが、我々は当初、実は賠償はないだろうという
期待を持
つてお
つたのでありますが、それは役務賠償でありましても、今回その
條項が入
つたことは、誠に私
どもこれを遺憾に思うのであります。而もこの程度と方法等につきましては、今後の協定に残されておる。我々は非常な失望と不安とを禁じ得ないのであります。この厖大な在外財産が留置されて、我が国の
国力が非常にそれによ
つて減耗するのみならず、この中立国にあ
つたところの財産もこれを引渡さなければならん。これは先ほ
ども御指摘がありましたように、
国際的にも先例のないようなこういうことを課さられておる。私
どもは誠に遺憾に堪えません。而もこの條約におきましては、私有財産尊重の趣旨を現わすところの字句が挿入してありません。勿論これに対する補償の問題は、他の戰争犠牲者或いは戰補の打切りというようなこと、又一方においてはこの
国家の財政
状態等を考慮して、慎重に処理すべきものでありまするけれ
ども、とにかく私有財産尊重の趣旨が條約に現われておらんという点は、私
ども誠に遺憾に思うのであります。又この
條項の結果といたまして、厖大なこの在外財産を、先ほど申しましたようにこれを失う。それから賠償の負担を課せられる。又対日援助資金を逃さなければならん。或いは我が国にあ
つたところの連合国の財産に対して補償しなければならん。或いは外債を拂わなければならん。非常に大きなこの
国家的の負担があるのでありまして、一たびこの措置を誤まりまするならば、我が国の経済回復を阻害するは勿論、
国民経済を破綻に陥れるところの私は危險さえもありはしないかと思う。そこで、これらの点につきましては、飽くまで
政府の善処を、要望してやみません。
更に
安全保障條約について簡單に申述べたいと思うのでありまするが、私
どもは
安全保障條約のこの
目的につきましては、これを
承認いたします。今日の段階におきまして、この
考え方と、この構想に対しましては、私
どもは賛成するものであります。併しながらその結果といたしまして、対立しておる二大勢力の一方にくみして、それによ
つてこの対立を激化しはしないだろうか、或いは又我が国が戰禍をこうむることがないだろうか、我々の知らないでおる間に戰禍に捲き込れることはないだろうか、或いはこの
規定の仕方で安全が十分に保障されるだろうか、或いは負担が依然として重く、これが続いて行きはしないだろうか、或いはこの
駐兵というものは半永久的に続いて行くのじやないだろうか、或いは又この白紙委任状を渡して何をされるのかわからんじやないかとさえ思われるような心配をする人も一部にはあります。これらの諸点に対して、
政府の説明は必ずしもすべて満足すべきものばかりではありません。
政府は、少くも
国民の
権利義務に関するものと、予算に関するものは、
国会の
承認を求めると言われる。
国会の
承認がなければこれは実施することはできません。私はこれらの諸点は
政府の言われることは当然であると思うのでありまするが、併し同時に、この
アメリカの
駐兵によ
つて安全保障の
目的を達するためには深い理解と協力がなければならんと思う。そこで、
政府は先ほど申しましたいろいろな
国民の不安に対して、これを解消するために最善を盡し、而もこの
国民の理解と協力を待て、円満にこの
駐兵の
目的を達するように努力すべきであると思うのであります。我我は、併し、いつまでもこの
外国の
軍隊に依存しておるわけには参りません。みずからを守り、みずからの力によ
つて自衛の
責任を果すという態勢を一刻も速かに達成するために、
政府も最善の努力をし、
国民も一段と奮起することを要望いたしまして、私の賛成の討論といたします。