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1951-11-15 第12回国会 参議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十一月十五日(木曜日)    午前十時二十九分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     大隈 信幸君    理事            楠瀬 常猪君            一松 政二君            金子 洋文君            曾祢  益君            加藤 正人君            野田 俊作君            堀木 鎌三君    委員            秋山俊一郎君            石川 榮一君            泉山 三六君            團  伊能君            高橋進太郎君            北村 一男君            杉原 荒太君            徳川 頼貞君            平林 太一君            岡田 宗司君            永井純一郎君            波多野 鼎君            吉川末次郎君            岡本 愛祐君            杉山 昌作君            高橋 道男君            伊達源一郎君            木内 四郎君            櫻内 辰郎君            一松 定吉君            羽仁 五郎君            堀  眞琴君            兼岩 傳一君   国務大臣    法 務 総 裁 大橋 武夫君    大 蔵 大 臣 池田 勇人君    農 林 大 臣 根本龍太郎君    通商産業大臣  高橋龍太郎君    労 働 大 臣 保利  茂君    国 務 大 臣 周東 英雄君   政府委員    特別調達庁長官 根道 廣吉君    法制意見長官  佐藤 達夫君    法務法制意見    第一局長    高辻 正巳君    法務法制意見    第二局長    林  修三君    外務政務次官  草葉 隆圓君    外務省條局長 西村 熊雄君    大蔵省理財局長 石田  正君    通商産業大臣官    房長      永山 時雄君    労働省労働基準    局長      亀井  光君   事務局側    常任委員会專門    員       坂西 志保君    常任委員会專門    員      久保田貫一郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○平和条約締結について承認を求め  るの件(内閣提出衆議院送付) ○日本国アメリカ合衆国との間の安  全保障条約締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それではこれより会議を開きます。  本日は日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約締結について承認を求めるの件、並びに日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約の署名に際し吉田内閣総理大臣アチソン国務長官との間に交換された公文書の全部を問題に供します。外務省に御質疑があるかたは御発言願います。
  3. 曾禰益

    曾祢益君 外務省だけに御質問するよりも、関係大臣、特に法務総裁労働大臣がおいでになつてから御質問申上げたほうが、一括御質問したほうが都合がいいのでございますが、如何でしようか。
  4. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) ちよつと速記をとめて。    〔速記中止
  5. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 速記を始めて。
  6. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 昨日非常に我々が議事に疲れたりしていたときに、突然私がかねてから問題にしておりましたアチソン・吉田交換公文に関する質問に対する答弁を、草葉次官が平素の声に似合わず細い声でやられた。私も気が付いたので聞き質したところが、あに計らんや、ああいう重大な問題をほそぼそした声でごまかしてしまおうという意図で、ああいう発言をされたということは私は非常に遺憾に考えるのです。なぜならば、この吉田アチソンの間に交換されております公文には、非常に重要な事柄が幾つか記載されておりますが、特に重要なのは、朝鮮戰役に対して日本がもうすでに施設及び役務の重要な援助を與えて来たし、現に與えておるというこの非常に重要な公文を全世界に向つて発表されておる。而も御承知のように朝鮮の状況は一歩を誤れば非常に重大な問題に展開する。こういう関係で私がお尋ねしておいたことを、次官はそれに関する資料については何か非常にあいまいな返事をされました。そうして又現在でも保留になつておりますが、一体この資料を、全世界に向つてこういうことを明確に発表する以上は、その根拠がなければならん。その根拠を私は要求しておる。一昨日から三日に亘つて要求しておる。昨日、今申しましたように、ああいう形でこの問題を処理してしまおうとされておる。これに対して総理及び外務大臣の代りをしばしば勤められる政務次官は一体どういうことを言われましたか。私は昨日は問題にしようと思つたが、ああいう状態だから、わざと差控えたわけです。次官一つ答弁を願いたいのであります。
  7. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) お話のように、兼岩君のほうから、日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約の署名に際し吉田内閣総理大臣アチソン国務長官との間に交換された公文の中にあります、この点だと思います。「連合国最高司令官承認を得て、日本国に、施設及び役務国際連合加盟国でその軍隊国際連合行動に参加しているものの用に供することによつて国際連合行動に重要な援助を従来與えてきましたし、また、現に與えています。」従つてこの現に與えておる現在の状態についての資料を提供せよ、こういう点であつたと存じます。この点につきましては、実は外務省関係におきましては、この資料は、この前も條約局長から申上げましたように、商業的な取扱でやつておりますから、直接的にはありませんが、併し重ねて昨日お話がありましたから、本日特別調達庁長官が参りまして、この点は御答弁申上げる予定をいたしております。
  8. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 コマーシヤル・ベーシスで行われておりますというような、そこにおられます西村政府委員が、総理が全世界に向つて声明したことと全く違つた虚構の事実を答弁しておるということが問題だと思うのです。第一、私どもは、去る国会において我が党の衆議院議員川上貫一が、この問題だけではございませんが、この問題を含めて一般質問いたしましたところ、虚構捏造であるということで除名処分を受けておる。これは簡單な問題ではない。そういう意味から一議員除名になつておる一つの重要な原因になつておる。ところが西村政府委員は、総理の全世界に向つての発表と全く違つた、全くそれこそ虚構捏造答弁をやつておられるということは、衆議院特別委員会で十月十九日我が党の米原昶議員質問に対し、朝鮮において日本が與えておる物質的援助はすべてコマーシヤル・ベーシスであると、これは虚構の事実を述べておるのでしよう。念のためにちよつと西村政府委員から、あなたはなぜこういう虚構の事実を述べたか。
  9. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 私、代りまして申上げておきますが、それは全体の取扱といたしましては局長が申上げた方針で来ております。ただ、ここにもありまするように、連合国最高司令官のこの承認の下に、国際連合軍としての行動に対する援助をいたしておりますと同時に、占領軍最高司令官としての行き方におきまするその施設等を、ここにもありますように便宜の用に供しておるのでありまして、その他の以外におきましては局長の申上げた通りでございます。
  10. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私がこの問題をお尋ねしておるのは、平和條約の締結を待たないで、すでに日本朝鮮の戰争に関係しておることを吉田アチソン交換公文で全世界に発表しておられる。これは非常に重大なことであつて安保條約の審議に際しては、このことを明確にしなければならんという意味で、そのときになつては遅いので、平和條約第五條との関連においてこれを明らかにして頂きたい。これは安保條約の私たちの質問のこれは前提になるのだという意味でお尋ねしておるのですから、やはり一応次官ではなく、衆議院答弁しておられる西村氏自身の、なぜこういう、すべて、すべてと言つておるじやありませんか。すべてコマーシヤル・ベーシス、大部分コマーシヤル・ベーシスならそれは幾らか恕すべき点がある。あなたはすべてコマーシヤル・ベーシスと言つておられる以上、直接政府委員としての責任において御本人の御答弁を要求いたします。
  11. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私が言いたかつたことは、日本政府国連行動に参加しておる、加盟国諸国に提供しております協力が、無償でなくて対価受取つてつておるという意味におきましてコマーシマル・ベーシスという俗語を使つた次第であります。兼岩委員対価なしに無償に提供しておるように誤解されたように思われますので、その点は今一度、対価受取つて提供しておるということを申上げたいと思います。
  12. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これは非常に重要でありますから、もう一度質しておきたいのでありますが、それならば、あなたは、南鮮銀行券を製造するために一億五千万円以上を使つていることが、大蔵省の所管の印刷庁特別会計予備費使用調書によつて明らかにされている、こういう金はちやんと返つて来ておるとおつしやるのですね。及び、これに限らず、これは私どもの調査した一つの例ですし、これは大蔵委員会で公表されているし何も秘密はない事実ですが、あなたは、これに限らず、すべて、この総理交換公文で言つておられるのは、除外例なく、すべてコマーシヤル・ベーシスでやつたのである、コマーシヤル・べーシスに対して施設及び役務援助援助という字を使つている、援助という字はすべてコマーシヤル・ベーシスだ、除外例なくコマーシヤル・ベーシスだという御趣旨なんですか。
  13. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 兼岩委員指摘の事実を、私、存じませんのでございますので、その点がどうなつているか返答申上げかねます。私の申上げたかつたのは、無償でなくて、現在まで対価を受けまして、国連加盟国政府に対して各種の便益を提供して来ておることでありました。けれども、万一、御指摘のように無償の場合があるといたしますなれば、私の答弁は間違つておることになります。私は、率直に若しそういう事実がありまするならば、私の答弁が不完全であつたと申上げます。
  14. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 西村政府委員只今の御答弁は了承いたしました。それで、今、各委員もお聞きの通り、この点は非常に重大である。なぜならば、朝鮮戰線に、平和條約、安保條約の締結なしにすでに介入していたということを吉田全権は発表しておるわけです。従つて私はこの問題についてはここで正確な答弁が頂きたい。そういう意味で初めから出しておるのに、昨日のような態度があつたから、私は事柄は前後いたしますが、今日時間を頂いて、その次官の公正ならざる態度に対して私は攻撃をいたしておるのでありますが、次官も今聞いておられたと思いますが、このような問題は重要な問題であり、内容は極めて具体的であり、これに対しては明確な資料を出して頂きたい。それに、あなたは、今のちほど誰か政府委員が来られるということですが、これは責任上重大ですから明確な書類にして、私のみならず委員にもお配りを願つて施設については、どういうふうな施設を、どういう金額で、どういう量、役務につきましては、どれだけの人間に対して幾らでどう、それで金を受取つておるのはこれだけ、受取つていないで真に無償援助したのはこれだけということを、私のみならず全委員に明確にされる義務をあなたに負つて頂きたいと思いますが、昨日の答弁を聞くと、声の聞えない間にぼそぼそとごまかしてしまう態度がございますから、ここで明快な返答を願います。
  15. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 先ほど申上げました通りです。
  16. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、又繰返すんですか。もう一回だけ繰返します。私の要求しておるのは、施設及び役務について吉田アチソン交換公文……施設につきましては、どういう種類施設をどういう分量、如何なる値段で、いつ出したか。それから役務につきましては、延人数種類別延人数にされて幾ら、そのうちどれだけを金として受取つて、どれだけを無償援助したかということを、明確な書類にして、私のみならず他の全委員に配られる、このことのない限り、私は安保條約についての審議前提條件を欠くと考えるから、これはどうしても明確にして頂かなければならないということを要求します。これに対して次官が若し答えなければ、総理に又お答えを願わなければならんと思いますが、次官でこの問題はいいと思います。一つ今の私の要求をあなたが承認されるかどうか。承認したとかしないとか明快に答えて頂きたい。若し承認できなければ、どういう理由で承認できないか。つまり政府が考えておるようにと、あなたがぼつぼつ口の先で言うことは、僕は全然承認できないということを申上げます。
  17. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 関係しております関係の省に、官庁に連絡しまして御意思の点は伝えておきます。後刻参りましてよく御説明申上げることと存じます。
  18. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 つまり他官庁だから私は引受けられないというのですね。それならば委員長にお願いいたしたいと思います。委員長に今の私の資料提出をお願いいたしたいと思いますが、お引受け願えるでしようか。
  19. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 承知いたしました。
  20. 曾禰益

    曾祢益君 私は先ほど申上げましたように、関係大臣出席の下にやつたほうが時間的にもいいと思うのでありまするが、ほかの議員に対しまして却つて審議を徒らにとどめておるようなことになるといけませんから、或いは労働大臣法務総裁が来られてから同じ問題について各別にもう一遍御質問申上げることになると思いますが、取りあえずそれでは外務省政務次官に主として伺いたいと思います。  大体私の御質問を申上げる前提と申しましては大袈裟でありまするが、先般も総理大臣に対する質問におきまして、安全保障條約は、飽くまで平和條約とは切り離された完全な主権国として平等の立場で作られなければならないものである。それにもかかわらず、事実は、政府のやり方におきましては、平和條約で独立さしてもらう、それの如何にも代償的のような気持でこの交渉をして来た。かような点が條約の内容についてほうぼうに現われておる。不平等関係の上に立つたということが各所に現われておるのでありますが、その意味において御質問申上げたいのであります。先ず網羅的ではありませんが、重要点だけについて御質問申上げたいのですが、第一條におきまして、平和條約の効力発生と同時に、アメリカ軍隊日本国内並びに附近に配備する権利日本許與し、アメリカはこれを受諾するということになつております。これは駐兵に関する権利許與と受諾でありまして、そこで、その軍隊駐兵する目的がそのあとに書いてあるのです。その目的は大きく分けて二つになります。第一は、極東における国際の平和と安全の維持に寄與する。第二は外部からの武力攻撃に対する日本の安全に寄與するために使用することができる。外部からの武力攻撃という中に、いわゆる外国から干渉し若しくは引き起されたところの大規模な内乱、騒擾も含むんだ、こういうことになつておる。大体目的二つである。そこであとのほうの日本に対する武力攻撃目的については、武力攻撃に対する安全保障については暫らくおきまして、その前の、極東における国際の平和と安全の維持に寄與するということの意味でありまするが、これは国際連合目的から考えまして、アメリカ合衆国国際連合憲章を受諾しておる以上は、この国際連合憲章に基かざる、いわゆる兵力使用ということは到底考えられない。従つて日本におりまするアメリカ軍が、日本を事実上の基地として極東における国際の平和と安全の維持のために出動するような場合は、嚴密に国際連合憲章に基いた国際連合の正当な機関決定に基いてのみ行うのであつてアメリカが恣意的に、勝手に発動するというような、そのために日本駐兵するということはあり得ないと思うのでありますが、先ずその点についてお答えを願いたい。
  21. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 全く同感でございます。従いまして、駐留いたしましたアメリカ軍極東の安全と平和のために出動いたしまする場合には、国際連合憲章精神則つて、それによつてなす以外にはないと存じます。
  22. 曾禰益

    曾祢益君 そこで、そういう場合を一応予想してみなければならないわけであります。日本といたしましては、日本の安全のために、止むを得ず、国際連合憲章の五十一條に基いたつもりで、政府はかような外国軍の駐留を認めたのだろうと思いますが、日本安全保障のために国際連合が許す日本権利の行使としてやるのならばいざ知らず、日本基地としてアメリカ軍がそこに配備されて、国際連合憲章義務によつて発動する場合に限るとはいうものの、然らばどういう場合にそういうことが行われるのであるかということは、いやしくも日本国民としては重大な関心を持つておるはずであります。そこで、たとえていうならば、現に日本基地として国際連合武力発動朝鮮において行われておるのでありまするが、そのような正式な国際連合機関決定に基く行動だけに限るのか。それとも国際連合憲章の許す範囲内において、アメリカ自衛権発動として日本基地とする外国に対する兵力発動をする余地はないのか。その点をお伺いします。
  23. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 私は先の御趣旨同感を申上げます。と同時に、国際連合憲章精神に基いてと申上げたのであります。国際連合憲章精神に基きまする場合には、国際連合機関によつて或いは制裁手段を用いまする場合、又一方におきましては、それまでの間に、自衛権発動、或いは個別的集団的な方法によつてやりまする方法、この二つ方法を予定される。従いましてこの二つの場合においてなし得ると存じます。
  24. 曾禰益

    曾祢益君 そこで、国民関心の的は、その第二の場合、即ち第一の場合のごとく、現に国際連合正式機関が意思決定いたしまして、即ち安全保障理事会決定に基き、或いは総会の勧告に基きまして、武力制裁といいますか、警察的行動と申しまするか、朝鮮におけるがごとき明々白々の事実のときに発動するならば、これはまだしも、我々日本国民としても、さような場合については当然に相談もありましようし、発言権もございましようが、今、次官指摘されたような、国際連合憲章が認めている権利発動ではありましようが、いわゆるアメリカ個別的自衛権、或いはアメリカが持つている、日本は何らこれに関知しないところの集団的自衛権発動として、日本基地とする外国に対する発動の場合があるという点において、我々国民はどうもその点については必ずしも納得しない。即ち具体的に言うならば、極東方面におきまして、個別的自衛権の場合はこれはもう言うに及ばずでありまするが、集団的自衛権として、現にアメリカが結んでおる国際協定の見地から言うならば、例えばフイリピンとの條約、或いはオーストラリア、ニユージーランドとの最近できました安全保障條約、これらが恐らく具体的に集団的自衛権発動に該当し、又日本地理的関係から申しましても、日本におるアメリカ軍隊がそのために発動するという具体的の事例ではないかと思うのであります。併し必ずしもそれにとどまらない。例えばこのアメリカ集団的自衛権が、更に他の地域より日本に近接した地域、例えば南鮮というものが一応戰時事態から平時事態に返りましても、例えば韓国とアメリカとの間にさような集団保障條約ができたために、或いはインドネシア或いは台湾に対してさような集団安全保障條約ができた場合に、すべてこの日本にあるところのアメリカ軍隊は、日本に何ら関係なしに、その結んだところの集団的な安全保障條約の結果として、アメリカ集団安全保障集団的自衛権発動として、すべて日本基地として発動し得るということになれば、日本国民としては、多くのアジア地域日本をめぐる地域に対するいわゆる何といいまするか、兵力基地日本が事実上利用されるということになる。この点は、果して日本としてそれでいいのかどうかということは、大きな政策として考えなければならないのではないか。只今申上げました見解見解といたしまして、今、次官が言われたように、アメリカ個別的自衛権アメリカ集団的自衛権の場合においても、この日本基地とするアメリカ軍の出動があり得るということについては、法理的な解釈として御同意であるかどうか。御答弁を願いたい。
  25. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 国際連合精神に基きまして、国際連合精神の下に、極東国際の平和と安全のためにアメリカ軍日本駐兵をする。これは日本安全保障の大眼目の下に駐兵をすること、従いまして、日本安全保障を一方におきましては脅かすと同時に、一方におきましては極東における国際の平和と安全とが危險な状態になりまする場合におきましては、アメリカ軍国際連合憲章の示した範囲内においての行動はなし得ると存じます。
  26. 曾禰益

    曾祢益君 直接のお答えでなかつたのでありますが、今のお答えよりか前のお答えではつきりしておると思うのです。国際連合憲章の認めておる権利に基いて、アメリカがその自衛権、その個別的自衛権集団的自衛権発動をなし得る、アメリカ軍隊として日本駐兵するものは、さようなことができ得るということは議論の余地はないと思います。そこで、かような点については、勿論国際平和の維持ということは、国連に加盟せんことを願う日本としては勿論無関心ではない。ただ、これらの点を日本国民において十分に承知しておるかどうか。安全保障條約を作つた趣旨は、日本が独立はしたけれども自衛力がない、だから、その真空状態を埋めるために、日本のためになるからということで御説明になつておるのですが、直接日本のためには必ずしもならないかような場合にも、第一條に基いた駐兵が利用されるのだということは、十分に国民承知しておらなければいけない点がある。かように私は考えます。それらの点については、政府は、只今次官の御答弁を聞きましても、この「極東における国際の平和と安全の維持に寄與し、」ということと、次の日本の安全のために使われるということが、当然に、もう両者が二重の相切離し得ない関係にあるようにおつしやつておりまするが、一応これは日本から見るならば、極東における国際の平和と安全の維持のためにアメリカ軍に駐屯してもらうことを日本から希望する必要はなかつたのではないか。これは、この項はどうして然らば挿入されたか。これは日本側からこれを希望されたために入つたのであるか。それとも、これはアメリカ側の希望によつてつたのであるか。挿入されたのであるか。この点を御説明願いたいと思います。
  27. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 万々御承知のように、いわゆる日本安全保障というのは、同時に世界極東における平和と安全という、その大前提の下に立つて来なければならない次第でありますることは、もう十分御承知通りだと思います。従いまして、極東全体に、いわゆる極東の、世界の平和を破壞し、脅威を與えるような事態がありまする場合におきましては、現在においては日本自体も決して平和と安全とがいつまでも保ち得ない状態である。従つて、かような状態になることを極力避けながらも、万止むを得ずそういう状態になりました場合には、国際連合憲章精神に基いた諸般の方法がとられることが、現在の国際間の一つの行き方になつておることも御承知通りであります。従いまして、日本安全保障は、同時に、広い意味におきましては、極東安全保障一つの体系の中に入つて来べきものだと考えるので、これが大根本的な問題になつて従つてその状態における極東国際の平和と安全の維持に寄與する、従つて極東の平和と安全の維持が努めてなされる方法をとつて来るということが、日本だけの安全保障と並行して考うべき根本的なことだと考えまして、この條項を入れた次第でございます。
  28. 曾禰益

    曾祢益君 私の問いに対する直接なお答えではないのでありますし、勿論日本安全保障は、極東安全保障国際間の安全保障の重要な一環であるということは、その通りであります。それから又日本安全保障日本以外の極東の平和と安全に非常な重大な関係がある、他の地域の安全が日本の安全にかかつて来るという点も牽連性があることを私は認めておるのであるが、私の質問は、この日本から見るならば、先ず第一に関心を持たなければならないことは、全極東地域国際の平和と安全の一つのキイポイントである日本自身の安全保障がこれが主ではないか。従つて極東における国際の平和と安全保障に寄與するというようなことは、日本が全然自衛力すら持たない時代に、日本みずからがそこまでのことを考えて、いろいろな積極的な約束や何かをするのは、これは第二段階に置くのが本当ではないか。かようにまあ考えたから申上げたのでありまするが、お答えもないようでありまするし、時間もありませんから、次に移りたいと存じます。  これはたびたびもう質疑応答のあつた点でありまするが、この同じく第一條におきまして我々が感ずることは、先ほど申しましたように、第一條は何といいましても、これはアメリカ軍の駐屯を日本許與し、アメリカが受諾するというのが第一條目的であつて従つてこの軍隊如何なるために置かれているかという規定はありまするけれども日本から見るならば、日本側に対して武力攻撃がなされた場合に、アメリカ軍隊がこの武力攻撃を排除し、或いは阻止するために用うるのだという、積極的な、日本権利アメリカ義務関係は、ここから生れていないのではないか。勿論、しばしば外務当局から申されるように、すべての安全保障條約におきまして、少くともアメリカが当事国である安全保障條約におきましては、議会との関係もありまするから、完全な相互主義に立つた安全保障條約の場合でも、締約国に対する武力攻撃が行われた場合に、アメリカが必ず條約上一切の武力を挙げてこれを支援するというような積極的な義務は必ずしも負わない。それは国会の審議権の尊重といいまするか、アメリカの憲法から来た一つの制約である。併しさような場合には、国内法の手続の制限の下に援助をするのだということは積極的にアメリカ義務としてこれを負い、締約国としてはアメリカにさような措置を要求する権利が明らかにされておるのが通常であります。で、かかる点から言うならば、どうしても私は、第一條のこの書き方だけでは、日本が真にアメリカに対して、アメリカ軍隊を置いた目的、即ち武力攻撃日本に加えられた場合に、日本権利としてアメリカ軍発動を要求し得る。アメリカ義務として、勿論コングレスの権限を犯すことはできないが、日本援助するという積極的な義務を持つということにはならない。この点についてもう一度御見解を承わりたいと思います。
  29. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) この点に対しましても、再三実は具体的に御答弁申上げましたように、北大西洋條約或いは今度できましたオーストラリア、ニユージーランドとアメリカの條約、これらの四條、五條等を対比いたしました場合におきましても、大体今回のとは違つてはおりますが、権利義務というものは、はつきりと明示をしながら参つてはおらないのであります。十分相談、協議したり、或いはそのことにおいての、その憲法に示された、憲法の範囲内においてやるというような行き方になつておるのであります。ここには、最初から申上げまするように、日本の平和と安全の保障、それは即ち極東における国際の平和と安全の維持に寄與して、そうして外部からの武力攻撃に対する日本の安全に寄與するために使用する、これが根本目的でありまするから、外部からの武力攻撃に対する日本の安全が不安になりました場合には、この使用というのが当然そこに生れて来るものと私どもは考えながら、この日米安全保障條約を結んだ次第でございます。
  30. 曾禰益

    曾祢益君 政府の御答弁は、只今のあれを含めて、アメリカの約束においては、他の例を見ても、私が先ほど申上げたような真の同盟関係といいまするか、必ず軍事援助義務はコングレスの関係から言つて條約上はつきりしていない、置かないのが当り前だということは、私も知つておるのでありますが、併し、それを妨げない範囲において、或いはそういうような場合には直ちに協議するという場合もあるし、いろいろな書き方もございまするが、事実上において、アメリカ安全保障についての一切のことを、コングレスの許可を條件として一切の措置をとるという積極的な義務規定があるのは、これは当然である。然るにここに積極的な義務規定がないというのに対して、政府答弁はただフイリピンとの條約、或いはオーストラリアとの條約等の例から見て、ここに言う外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄與するために使用することができるという、これだけの字句を以ていたしまして、類推解釈から、先ず先ず間違いないだろうという期待を持つておられるだけであつて、さような期待だけで済むものならば、嚴かな国家と国家との間の條約できめる必要はない、條約できめる以上は、はつきりした権利義務をきめるから條約が必要なんだと私は考えるのであります。その意味において、只今の御答弁では十分なる安心は得られないと私は考えます。  次に第二條でございます。この第二條は、私は他の先例は一々知りませんが、何と申しましても、これは日本だけを拘束するところの極めて不対等的な、不平等的な、最も露骨な不平等的な規定だと考えるのであります。そこで、かような事例が一体対等国間の條約にあるのかどうか。ほかに事例があるならば似たような事例をお示し願いたい。それから第二点は、非常に技術的な問題でありますが、要するにこの第三国に許與してはならない特権の中で「陸軍、空軍若しくは海軍の通過の権利を第三国に許與しない。」と書いてございますが、陸軍、空軍等が、平常の場合に、特別な約束のない限りは、主権国の領土を通過するということはないでございましよう。併し、一体、海軍の場合には普通の国際法の観念から言うならば、軍艦の領海内の無害航行権というようなものは、一般の国際公法の観念から言つて当然に與えられているのではないか。私はさように考える。して見れば、海軍の通過を第三国に許與しないということの規定は、日本に対して一切の第三国の軍艦の日本領海の無害航行権すらも、アメリカの許諾なくしては與えてはならない、権利として與えてはならない、こういうようになるのであるか。この点を伺いたいと存じます。
  31. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 第一点だけ申上げまして、第二点、第三点は條約局長からお答え申上げます。  第一点は、実はお話の点について、なお不十分な、はつきり明文がないことは、使用しない場合もある、従つて国民が不安じやないかという点でございます。併し日米安全保障條約を結びましたことは、根本には日本の平和と安全を維持する。従つて駐兵そのものは、その駐兵することによつて日本の平和と安全とに寄與するという大眼目でありまして、それが極東における平和と安全の維持に併せて寄與する。そうして万一外部からの武力の攻撃がありました場合には、日本の安全に寄與するためにこれらの軍隊使用することができる。「使用することができる」というような言葉でありまするので、不安であるという念が起りましようが、もともと駐兵をしておりますその最大の眼目は、日本安全保障のためであります。それは延いては極東国際的な安全の保障でありますから、それ以外には、根本的目的はそれが中心でありまするので、さような不安は全然起らずに、十分、この日米安全保障條約における駐兵によつて日本の安全の保障が現段階におきましてはなし得る最大の途と考えております。
  32. 曾禰益

    曾祢益君 草葉さんに、私の質問した点は、第一点は、第二條のような極めて不対等的な、片務的な、第三国に対してこういう権利を與えてはいけないというような規定の前例、類似の例は、これは飽くまで、対等国間の條約においてかような例があるのか、ないのか。これが第一点。第二点は、海軍に関する通過の権利を第三国に許與しない、その点は、軍艦の沿海、沿岸、いな、領海の無害通過の少くとも自由と言われておる国際公法上認められた権利だと思うのでありますが、これを一々アメリカの許可なくしては與えてはならないということになるのですか。
  33. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 曾祢委員質問の第二点でございますが、北大西洋條約には、第八條に同趣旨の規定がございます。又中ソ同盟條約にも、第四條に同趣旨の規定がございます。安全保障條約には通例入つておる條項でございます。ただ日米安全保障條約におきましては、日本が陸海空軍を持ちませんから、米国の関係において、日本が米国に対して負うと同じ義務を米国の日本に対する関係において規定する理由はございませんので、日本についてだけ、米国の同意がなければ軍事上の権益を第三国に與えない形式の規定になつた次第でございます。  第三の点は、原文にありますのはトランジツトでございます。陸海空三軍のトランジツトとありますので、日本文には通過といたしました。無論、曾祢委員指摘のように、国際法上国家が当然保有しておる領海の無害航行権を排除するものではないのであります。国際法の関係におきまして、無害航行の場合の外は、相手国政府の同意を得て、航海、碇泊をすることができることになつております。そういう場合には、第三国の海軍について日本が許可を與える前に、合衆国政府に相談する義務が第二條から生れて来るわけでございます。無害航行権は、この第二條によつて制限されないのでございます。
  34. 曾禰益

    曾祢益君 これは見解の相違でありまするが、通常の対等国間に結ばれる最近の安全保障條約においても第三国の軍隊に同様な権利を與えないというのは、これは対等の立場に立つておるから、一向差支えないのであつて、第二條は飽くまで日本だけの義務になつておる。この点について私は問題にしておるのでありまするから、只今の御答弁では私は満足とは考えられないのであります。  第二点の海軍の通過については、只今の御答弁によりますと、通常の無害航行権には関係ない、トランジツトということの意味はどういう意味なんですか。碇泊も含むという、通過でなく、碇泊も含むから別だという御意見ですか。
  35. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 平常の関係におきましても、第三国の軍艦が一国の領海を無害航行する場合には、何ら許可を要しませず、当然に国際法上の権利とされております。ただ領海において港湾に入るなり、領海において或る期間碇泊する場合には、領海国の同意を必要とするのが、国際法の原則でございます。で、この国際法の原則に従つて日本政府の同意がなければならない場合には、日本は、同意を與える前に、合衆国政府に相談することになるわけでございます。
  36. 曾禰益

    曾祢益君 領海の無害航行の権利はこれは制限するものではない、従つて日本のさような場合に一々アメリカの同意を求める必要はないという点はわかりましたが、第二條のこの書き方から言うならば、例えば国際連合軍といいまするか、国際連合のために朝鮮戰線に現にアメリカ軍以外の軍隊が行く場合に、日本基地とし或いは通過する場合、かような場合は、今後とも、幸いにして朝鮮動乱が済んでも、不幸にしてさようなことが今後あり得るかと思うのでありますが、そういう場合には、一々、その国との関係において、或いは国際連合との関係において日本が判断する以外に、一々アメリカの許可を得なければ、個々にアメリカの許可を得なければ、その第二條の規定から、さような第三国軍隊の通過乃至は日本基地利用はできないということになるのでありまするか、お伺いいたします。
  37. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 国際法上無害航行権に該当する場合には、大体通行する軍艦の所属国の政府が領海国に照会乃至は許諾を要する必要が全然ないものでございますので……。
  38. 曾禰益

    曾祢益君 それは私の質問が不明確で……。
  39. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 当然のことなんです。国際法上当然許されます。ですから、無害航行権のない場合には、領海国の承諾を必要と国際法でいたしますので、その場合には当然領海国政府の同意を得る手続をとらなければいけないことになるわけであります。そういう同意を求められたときに、日本政府としては、この條約の二條の結果、合衆国政府に相談をしなければならない結果になるわけでございます。
  40. 曾禰益

    曾祢益君 私の質問が不明確であつたので御答弁が食い違つて来たのですが、私は今の無害航行権の問題から離れまして、第二條の全体の日本基地とし或いは日本を通過する外国軍隊のこの問題に返つたわけです、一般的な、軍艦の領海の無害航行権の問題から離れまして……、そこで、この第二條の規定によれば、国際連合のために日本を通過し或いは日本基地とするような外国軍隊、アメリカ軍以外の外国軍隊があり得るわけであります。さような場合には、勿論日本国際連合との関係においてかようなことを許諾すべきか否か。これはすでに他の平和條約等によつて、或いは平和條約の條項を離れても、国際連合憲章の建前からいつて、これを許すというのが日本の立場になると思うのであります。併しそういう場合に、この安保條約第二條の規定のために、一々アメリカ当局の同意なくしては、日本は、国際連合に対し、或いは国際連合軍といいますか、その部隊であるところの外国軍隊の通過及び基地利用についての許諾等を與えられないことになるか、この点を伺いたい。
  41. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) わかりました。その点は、憲章の第百三條にあります通り国際連合加盟国のこの憲章に基く義務と他のいずれかの国際協定に基く義務とが牴触するときは、この憲章に基く義務が優先するという規定がございまして、加盟国に関する限りにおきましては、如何なる場合にも国連憲章が他の條約に優先することになつております。従つて指摘のような場合に、一々日本政府としては合衆国政府に相談する必要はないわけであります。
  42. 曾禰益

    曾祢益君 その点、非常に明確になりまして了承いたしました。次に第三條でありまするが、これも法務総裁まだ来ておりませんが、法務総裁に伺いたいのですが、先ず外務省に伺います。この行政協定の内容と申しまするか、範囲と申しまするか、これは、第三條の書き方から言うならば、日本国及びその附近におけるアメリカ軍隊の配備を規律する條件、これが行政協定の内容になるべきだということが第三條に明らかです。そこでアメリカ軍隊の要するに配備を規律する條件というのは一体どういうものであるか。これが明らかになつて来れば、従つて行政協定の内容がどういうものであるかということが明らかになるわけです。そこで、この配備を規律する條件というものは、ただ單なる軍事的な問題であるのかどうか。日本国民権利義務などに直接関係がないような純軍事的なものであるならば、政府が言つておられるような行政協定は、これは特殊な扱いで、この安全保障條約で国会の承認を受けておれば、さようないわゆる細目的な事項といいますか、必ずしもそう言えないと思うのですが目的範囲がはつきりして来るのならば、行政協定はいわば白紙委任してくれということが一応の筋が立つかと思うのです。だから、その配備を規律する條件、これはどういうものなんですか。この点を伺いたいと思います。
  43. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) この條約に基きまして日本国内アメリカ軍駐兵いたしますことに相成るわけでございます。その場合に、今度は具体的にその取扱をどういうふうにして行くか、その中には、駐兵でございますから勿論軍事的な問題もありましようし、軍事的でない問題も当然含まれて参ると存じます。駐兵をするということを、両方の政府でこの條約によりまして決定をいたします。それらのもろもろの細目的な問題は、両方で今後行政協定の形で話合つて行く、こういうのでございます。
  44. 曾禰益

    曾祢益君 極めてそれでは漠然としているのです。つまり配備という以上は、その軍隊をどこへ置くか、先ず地理的な配置、そういうようなこと、或いは軍事的な考慮もありましようが、そういうことをいうのが配備ということの意味なのではないか。従つて必ずしも、アメリカ軍日本国民の間の裁判管轄権の問題、或いはアメリカ軍に関する課税上の特権とか、そういうことは配備を規律する問題に入らないのじやないかというようにも考えられます。併し非常に広汎なことを意味しているとも言えるわけなのです。それで、これがはつきりして来れば、結局、行政協定で、いわゆるここで委任してしまつて、行政協定の中でやらないような、アメリカ軍隊日本国内におるために必要となつて来る予算或いは法律等は、別個に国会の審議を願いますと政府は言つておられるのですが、そのことは筋が通つて来る。そうでなくて、この配備という問題を、配備の條件というものを、非常に広範囲な問題も含むということになれば、政府の言つておられることは論理が立たなくなる。矛盾して来る。一方においては行政協定でやると言つておられて、そういうことをやるかも知れぬ。まだ内容がきまらないから言えない。そうして他方においては、いや、国民権利義務に関することは、ここに行政協定と書いておりまするが、一々予算なり法律を以て国会の承認を改めて求めますと、こう言つておられます。だから、そこに非常に我々がわからない矛盾があると思うのです。若し行政協定の内容が極めて軍事的な、極めて限定されたものを示すとすれば、成るほど行政協定というのは大体そういうものであるか、それだつたら或いは国会としては細日協定だから政府に任してもいい。併しそういうことでない、広汎な……平時、外国軍隊が一国内に駐屯するに伴う一切の国民権利義務の制限等は、別に法律或いは予算という形でやるのだから何も御心配はありませんというなら、これなら話はわかります。だから非常に限定的なものであるか、それとも広汎なものであるかということによつて、議論が非常に筋道が立つて来ると思う。だから伺つているのであります。
  45. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 御質問のような意味におきまして考えます場合には、勿論限定的と申上げるほうが最も妥当であると存じます。従いまして、この配備を規律する條件についての行政協定で、特別な問題につきまして或いは予算なり或いは法律なりを要する問題は、勿論御承認を頂いて、これを実施する方法をとつて行くと、こういう行き方になつて参る次第であります。
  46. 曾禰益

    曾祢益君 その点は、まだ法務総裁或いは外務大臣に御質問申上げたいと思いまするが、他の関係大臣も来ておられますので、この行政協定に関連いたしまして労働大臣に伺いたいと思うのであります。  先ず現状におきまして、占領下におきまして、アメリカ軍隊、或いは連合軍と言つたほうが正確だと思いますが、連合軍のために日本の労働者が働いておるのであります。これはいろいろな雇用関係は、直接雇用する場合もありましよう。雇用関係にもいろいろなむずかしいルールがあるようでありまするが、従つて直接に連合軍に働いておる、そうして又雇用内容も、いわゆるホワイト・カラーのものもありましようし、そうでないものもある。それから直接でなくても、アメリカ軍が、或いは連合軍が事実上管理しておるような工場等に働いておる労働者の場合もあると思います。いろいろな態様がありまするが、とにかくこれを貫く基本的な原則といたしまして、一体アメリカ軍、或いは連合軍の下に働いておる日本の労働者は、日本の労働関係法規の保護を受けておる、適用を受けておると言つたほうがいいかと思いますが、それは受けておるのかおらないのかという点を先ず伺いたいと思います。
  47. 保利茂

    ○国務大臣(保利茂君) 曾祢委員の御質問のごとく、連合軍関係の下に働いておられる人たちの雇用の実態というものがいろいろ複雜でございまして、もとよりこの特別調達庁を通じて発注されておりますいわゆるP・D工場或いは特需工場といつたような所におきましては、国内労働法がそのまま適用せられる建前でございます。だだ、この進駐軍の直接労働に服しておる人たちにつきましては、これは適用という枠内には入らない。併しながら、占領軍の協力を頂きまして、原則的には軍関係労務者に国内法によつて雇用の状態が律せられるように御協力を願つて来ております。無論折々事故が発生いたしますが、その事故が発生いたしましたときには、その具体的な事故につき占領軍と相談をして、できるだけ私どもの希望するように日本の労働法によつて処置せられるように、今日まで御協力を願つて来ておるような次第でございます。
  48. 曾禰益

    曾祢益君 P・D工場、なかんずく特需工場等については、日本の労働関係法規がフルに適用されるのが当然だろうと思うのであります。それからいわゆる直用の場合には、これは占領下にありますので、直用の場合に果して少くとも日本が占領下において労務を提供する義務が……、あれは積極的な根拠は何でありましたか、はつきり覚えておりませんが、占領直後における一般命令か何かでそういう義務が少くとも政府に負わされておる。かような関係から出て来るのか。少くとも労働者が本然の姿として持つておる、ホワイト・カラーでない労働者が持つておるようなストライキ権なんかというものは、事実上これは行い得ないというような自然的な制約下にあるということは、私も承知しておるのであります。そのよし惡しは別といたしまして……。併しさような場合におきましても、今労働大臣が言われたように、日本政府の要請、それから私はこの点ははつきりした資料を持つておるわけではありませんが、アメリカ軍隊の内部におきまする訓令か指令みたいな形で、やはり日本の労働法規を成るべく適用すべしというような命令が出ておるやにも聞いておるのですが、このストライキの権利については一体どういうふうに考えておるか。そうしてP・D、特需工場と直用との場合がなぜ違つて来るか、どういう点が違つて来るかという点につき、もう一遍お答え願いたいと思います。
  49. 保利茂

    ○国務大臣(保利茂君) この七月までL・Rと言つておりましたいわゆる直用労務につきましては、これは占領軍の直接の労務に従事するものでございますから、これにつきましては占領軍の規律の下に労務に服するということで、これは先ほど申しますように労働法の適用の枠内にあるとは申されない類でございます。その他のP・D工場乃至特需工場におきましては、これはもう完全適用の状態でございますから、御質問のようなことも当然実施せられておると、かように考えております。
  50. 曾禰益

    曾祢益君 実際問題といたしますると、P・D工場、更にP・Dと特需とでは私は又性質が違うと思う。P・Dのほうは、やはりそれ自身が占領軍日本政府に要求し得る占領軍の機能に基いたものであるので、それをやつておりまする工場における労働者においても、間接的ながらそのP・Dへの占領軍の要求に対して、この要求を積極的に妨害するような行為をすることは、多くの労働組合においても自省されておるやに聞いておるのであります。併し特需というのは、これは占領軍の命令ではない。労働者の見地から言うならば、例えば朝鮮動乱が起つて、これは占領軍の命令としての一つの労務の提供ではなくて、朝鮮動乱に基く需要については、これは自由な原則から雇用関係に入つておる。そうして多くの民主的な労働組合においては、朝鮮動乱の場合に、侵略者が北鮮であり、中共である。従つて国際連合軍に協力するのが労働者の正しい立場だという見地から、いわゆる割り切つた気持で、協力は正しいのだ、併し労働組合の権利権利として留保しておく、かような立場で業務に従事しておる。特にさような特需工場等におきまして、然らばそれだけ正しい労働者の見地から、正しい者を援助してやろうという気持からやつておる労働者の労働組合としての活動が、実際上は特需工場に派遣された連合軍のいわゆる監督者的な地位の人が、十分なる理解をしないために、特需工場において協力はするつもりでおる、併し労働者の当然の権利である労働條件の改善、否、労働基準法その他の権利の、当然の権利の保護すら受け得ないというような状況が多く起つておるのであります。具体的の事例といたしましては、神奈川県の渕野辺にありまする相模工業という会社がございまして、多くの労働者が働いておるのでありますが、非常に強固な、民主的な、強い、一切の御用組合的でない、立派な労働組合が、その工場の労働組合の諸君の実情を聞いてみましても、私は時間を省略いたしますから詳細申上げませんが、非常にその労働法規の適用が事実阻害されておる。このことは相模工業だけではない。かような実情にあるのであります。そこで、なぜかようなことが行政協定に関連するかということは、労働大臣申上げるまでもなくおわかりだろうと思う。現状においては丁度過渡期にあるわけです。それで、勿論一応の考えから言えば、占領下であるから仕方があるまい。併し占領下にあつても、只今労働大臣の御説明のごとく、特需工場においては労働関係法規はフルに施行されなければならない。それにもかかわらず事実は施行されておらない。而も行政協定が如何なる内容でできるか知らないけれども、行政協定に直接関連しないかも知れませんが、講和後におきまして、然らばこの特需工場に働く人、特需という状態の下にある労働者の雇用関係がどうなるかということ自体の問題でありまするが、講和後の切替後において、とにかく米軍が日本に残ることは事実である。そして、それに対しては直用の労働者もございましようし、それから直用でない、現在の特需工場において働いておるような労働者もある。これらの労働者諸君が、共産党のアジテーシヨンなんかと鬪いつつ、立派な正しい労働者として正しい平和主義のために鬪いつつ、而も労働者の基本的な権利を主張するのに決して十分なる立場にない。この事実を政府如何に考えられるか。かような点を十分に考えなければ、政府如何にいろいろな彈圧法規等を考えられても、共産党の労働組合に対する進出は、殊にアメリカ軍の駐屯にからんだ仕事に従事しておられる正しい強力な労働組合の進展に非常な阻害を来たすのではないか。かような見地から労働大臣のお考えを伺いたいと思います。
  51. 保利茂

    ○国務大臣(保利茂君) P・D工場、乃至特需工場におきまする労働法の関係は、先ほど申上げました通りでございます。そういう建前の下において、併しながら実際問題としては曾祢委員の御指摘通り事態を私も認めるわけであります。そこで、さような事態が起りました場合には、個々の問題について占領軍の理解と協力を得て、政府の希望するように処置をとつて、これに協力を願つて来ております。併しそこのところに実際もどかしいところがこれはございますわけで、問題は、御質問のごとく講和條約発効後においてこれをどう改善して参るか。これはもう只今どもとしても愼重に研究もいたし、こうしなければならないという検討もいたしておりますが、條約発効後におきましては、少くとも今日のP・D特需工場におきましては、今日さようなもどかしい思いをしておるような状態から改善をして、いわゆる文字通り完全に労働法規の適用が実施できるようにしなければならない。そうすることが当然のことである。そういう考えでやつて行こうと思つております。
  52. 曾禰益

    曾祢益君 労働大臣も事実は認めておられるように、あなたは、そういうような個々のケースが起つたならば、これを取上げてアメリカ当局に十分に交渉して、是正に努めておられると言つておられまするが、そのお気持はそうだろうと思う。当然にそうでなければならないのですが、現実には、これは出先の労働基準監督署等のお役人さんたちは、実際特需工場なんかに行つてそういう基準法の完全な施行を見届けることすら躊躇している。結局サージエントが一人おればそれでオール・ストツプというような関係にあるのです。ですから、さような態度で行くことは、政府が何のためにこの平和條約を作り、何のために政府が考えておられるような安全保障條約を作るか。結局日米の国交上の非常な累をなすような事態をそのまま放つておいたのでは、これは政府目的に決して合致するゆえんでない。いわんや、それよりも、その前に労働者に対する政府の当然な義務を怠つていることになるのでありまするから、さような点については現状において甚だ不満である。従つて将来に対する施策は、この飽くまで毅然たる態度を以て、正しく、強くやつてつて頂きたいということを申上げたいのであります。で、それに関連いたしまして、これは特別調達庁の長官にも関係するかと思いまするが、一体、やはりこれは労働大臣の主管でしたと思いまするが、占領後のその直用に関する何と言いまするか、方式ですか、これをどういうふうにするのか。それから、この労働者の保護の見地から言うならば、現に労働者諸君は言つているのでありまするが、まあ、P・Dの工場に働いていたほうがまだまだよかつた、特需工場になると、実際は非常に……これは通産大臣にも関係あるのですが、工場の請負の価格において非常に無理な価格を押付けられる。少くとも押付けられたと称して、経営者がまあ非常に無理な條件を、雇用條件において、賃金において押付けて来る、かような関係を生じておるように聞いておるのであります。従つてアメリカ軍の直用及び間接の雇用のために働く労働者を保護するためには、講和後においてどういう構想を持つておられるのか。政府機構におきまして、例えば特別調達庁、或いは外務省国際局ですか、何か、結局占領軍との連絡事務をやるような部局を考えておるようでありまするが、何らかの意味占領軍日本の労働者との間に、何らかの政府機関を置きまして、そうしてその機関の中において労働者の十分なる発言権を認めるような、例えば経営者と労働者それから政府との三位一体的な委員会等によつて、経営問題、雇用條件等、十分な労働者の発言権を認めるような方式を考えて行くことが、これは思いつき程度でありまするが、さような私の思いつきでなくて、政府としては、何らかの労働者の保護を目的とするような仲介的な政府機関を置く気があるかないか。この点について伺いたいと思います。
  53. 保利茂

    ○国務大臣(保利茂君) これはどうも行政協定の全貌が私どもまだ明らかにせられておりませんから、行政協定がどういうふうな内容を持つて参りますか、それによつてお話のような考え方を考えなければならないという場合もないではなかろうと存じますけれども、今日のところは、私はまだ全然その点については、いろいろああいう場合、こういう場合という研究はいたしておりますけれども、こういう方法でという、まとまつた考えはまだできておりません。
  54. 曾禰益

    曾祢益君 私は、今までの労働大臣の御答弁は、実情も知つておる、併しなかなかやりにくい点もあるという意味において、今後大いに誠意を持つて勇敢にやつて頂くという意味で了承したのですが、只今の御答弁は極めて不満であります。行政協定というものが何だか、いつまで経つても、国会のほうから見ましても、どういうことをやるのか訳がわからない。それでいて白紙委任状だけはよこせ。こういうような態度で労働関係の立場に立つたならば、労働大臣としては、これは行政協定の内容になるかならないかについては、これは吉田さんとの御相談、アメリカとの関係もあるでしようが、行政協定の内容になるかならないかということを離れて、講和後においてアメリカ軍が駐屯するという事態は、これはもうはつきりしている。そして、それに対して労務問題が起る。それに関連したいろいろないい面もあるし、トラブルの面もあるわけで、そういたしますれば、労務の供給と労働者の保護については、かくかくに行くべきである、政府機構としてはこうだ、労働組合との関係はこうして行くというような案があつて、それが外務大臣のところに行つて、然らばそういうものを日米安全保障條約の行政協定に入れたほうがいいのか、或いは日本の法律として別個にやつたほうがいいのか、こういうふうにきまつて来る問題で、行政協定がきまるまでは、それらの問題については何らの考えもない、研究はしておるけれども、コンクリートなことは進んでいないということでは、我々は到底満足できない。殊に過渡期における労働者の不安等を考えますると、政府は、こうやるのだ、こうやつているのだ、それが行政協定に入る、入らないということは、これは労働大臣がお考えになる必要はない。お考えになる必要がないというのは、甚だ言い過ぎでありましたが、第一義的の問題ではない。行政協定の中に入るか、入らないかは、外務大臣との相談で、而も外務大臣とこれに対処する方針は、労働大臣が作られて、これを閣議に諮つて頂きたい。かように考えるのでありまして、若し今の御答弁以外に補足するような御答弁がありましたら、是非御答弁願いたい。
  55. 保利茂

    ○国務大臣(保利茂君) この講和條約発効後、駐留軍の関係、若しくは日米経済協力という線から、日本の労働條件の向上というほうに障害が起らないように、私は万全の努力をいたすつもりであります。そういう点については、相当私どもとして関心を拂わざるを得ない状態もあるように考えますから、十分努力をいたしたいと思つております。
  56. 曾禰益

    曾祢益君 通産大臣及び大蔵大臣が来ておられまするから、やはり同様な問題について御質問申上げたいと思います。先ず通産大臣に対しましては、只今労働大臣に対しまする私の質問によつて大体おわかりのように、直接的には、私は労働者の問題を第一義的に取上げておるのでありますが、これがやはり経営者におきましても、先ほど申したように特需工場というものは、実は相当特定な工場が、事実、軍管理的な関係になつております。従つてそこに、その工場が或る種の契約を結ぶ場合に、経営者としてはかなり弱い立場にある。そうして日本の経営者、殊に中小企業的な経営者が、アメリカ軍当局と、直接には主として兵站部のJLCとの間において、大きな工場は別でありましよう、中小工場におきましては、この條件において非常に苛烈な競争が行われ、而もその結果として非常に不当な、日本側から見て無理ではないかと思われるような條件を受諾しております。このことは勿論経営者が惡いのだと言えばそれまでであります。自由競争の原則のそのままである。私はそれでは済まない。なぜ済まないかとなると、結局、結果は労働者の犠牲になつて来るのであります。そこで、かような中小工場におきまして、それがただ單なる軍の管理しておる施設とか、或いは大蔵省が管理しておる国有財産の、結局、軍の管理しておるような施設になりまするが、そういう所においては特に非常に劣惡な條件で引受けるというような事態を御承知であるか。先ほど私が申上げました相模工業の場合もこれに該当するわけであります。かような工場は非常に多い。そこで、さようなことにならないように、公正なる條件において契約ができるように、何らかの政府としては措置を考えておられるかどうか。これは、特需工場になると、私の承知しておる限りでは特別調達庁でなくなる。P・Dでないから……。P・Dについても同様であるかも知れないが、特需工場は主管当局は、財産は大蔵省の場合もありましようが、業態としては通産省である。かような場合に如何にして行かれるお考えであるか。これは又行政協定にからんで非常に大きな怨嗟の的になつておるという事業、これを放置しておくことは甚だよろしくない。かように考えるので、通産大臣の御意見を伺います。
  57. 高橋龍太郎

    ○国務大臣(高橋龍太郎君) 今特需品の注文の件ですが、私は昨年八月十八日民間におります時分に、この問題について多少意見もありまするし、横浜へ行きまして直接スコツト大佐に会つていろいろ意見を交換したのですが、その際、向う側では、特需品は自分のほうで直接に、而も日本のメーカーと直接に交渉をする、これは絶対に曲げない方針だという固い意見だつたのです。多少いろんなことを聞きますが、そう極端な具体的な例は私はまだ聞いておりません。いろいろな方面から苦情は聞きます。私は現在のところで今その対策として何か通産省内に特殊の機構を設けるということは考えておりませんが、これは、やはりそういう必要ができるかも知れんということは考えて、いろいろ調査、研究をさせております。現状のところを御答弁申上げます。
  58. 曾禰益

    曾祢益君 これは大きな特需に関しては通産大臣も御経験があるのだろうと思いますが、小さなものはなかなか当局に訴えないのであります。実はそこら辺に対しては十分政府が眼をみはつて、そして自由競争と自由契約という一応の建前に立つて、それでうまく行つておるというふうにお考えになると、決してそうでない。これは日本人の心理状態が、結局は占領軍なんだから仕方がないといつたような諦めと、いわゆるカツト・スロートの非常な激烈過ぎるようなコンペテイシヨンがあるために、実は非常な劣惡な惡條件、それを転嫁する先は、これは労働者にきまつておる。さような問題は決して、大体うまく行つているであろうというような考えでなくて、実情をもう少し十分に御認識願つて、これに対する、それでは如何なる態度がいいか、これはなかなかむずかしい点もございます。併しそうだからといつて、そのままでいいということには行かない。これらの点もむしろP・D時代のほうがよかつた。労働者についても一応プリヴエーリング・ウエージという枠があるから、余り経営者に対しても、アメリカ側は露骨に言つて安い値段で叩けないという限界があつたのに、P・D工場から特需工場になると、そういつたようなウエージの天井がないといつたようなところから、非常に自由契約の原則にからんで非常な劣惡な條件で押し付けられるきらいがあるのです。ですから、これはいよいよ独立後のことを考えたならば、かような状態に放置して置くことは、ただ單に中小企業の保護のためにのみならず、いま一つは非常に大きな政治的な怨恨、不満の種を作ることになるから、この点は絶対に放置してはならないと私はかように考えるのでございます。実情についての御認識を願つて、もつとはつきりとした対策を至急一つつて頂きたいと考える次第であります。  更にこの点に関連して大蔵大臣に伺いたいのは、ほかの委員会でも問題があつたかと思いまするが、最近やはり行政協定を前にいたしまして、国有財産、これは賠償工場等が多いと思いまするが、一応これが占領軍の許可を得まして民需に転換しておる工場がありまするが、特に横須賀地区におきまして、一部は横浜地区でありまするが、これはいろいろな国際情勢、朝鮮動乱等の関係もありましようが、一たび民需工場に転換を許された工場が、軍事的な必要のためにこれを明渡しを要求されておる。かような事例が而も大量に行なわれておるのであります。若し政府がこの行政協定ができてからだというようなつもりで、今のところは占領下にあるのだから徴用は免がれない、殊に国有財産であるし、財産そのものはまだ国有財産から解除されておらない、売渡しをしておらないから仕方がない、それじや徴用されるのも仕方がないというような態度で行くならば、これは非常に過渡期で、転換期であればこそ、非常に厄介な地方々々の労働問題、或いは社会不安の問題であるのみならず、非常に大きな怨恨の的にならんとしつつあるのであります。従つてかような問題に対して、先ず財産の見地から言うならば、大蔵大臣が所管当局であると思うのですが、大蔵大臣としてはどうか。殊に池田大蔵大臣は一般的に、日米安全保障條約の調印者ではなかつたけれども、むしろ平和條約の関係から言うならば、軍の施設が解除されるほうについては、條約を調印しておられる全権委員吉田さんの次に名前を出しておられるかたでありますから、さような一般的な平和條約の実施に関連する責任から言つても、ただ單に国有財産の保管者であるという以外に、大きな政治的責任を負わなければならないと思うので、今の御方針と今後のやり方についての御抱負を伺いたいと存じます。
  59. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 曾祢君のお話のような事例は先般聞きましたので、具体的に調査を命じております。お話のように占領治下でございまするから、国有財産の徴用があることは止むを得ません。併し我々としては、一旦民間に出したものは、そういうことが再び起らないように極力話は付けるつもりでおります。而して又そのために損害があつたような場合におきましては、我々としても善処しなければならんと考える。要は徒らに国有財産をどんどん徴用されるということのないように努めたいと存じまして、実情の調査をさせております。
  60. 曾禰益

    曾祢益君 これは主として国有財産がマークされていろいろ軍事施設に使わなければならない問題が起る。従つて大蔵大臣が所管当局であるが、これは実は外務大臣に伺わなければならない。さような事態が現に起つておる。これは外務省においてもとくと御承知のことで、さような事態が起つているにかかわらず、行政協定はまだできておらない。占領下だから止むを得ないというようなイージー・ゴーイングな考え方で行かれるべきでなくて、アメリカ軍隊が残つている。そこに当然に配置転換も行われるでありましようし、従つて向うに提供すべき施設の問題等については、これは現に取上げて積極的にこれをどういうふうに調整して行くか。トラブルが起つたら、それをこれから調査して対処して行きましようというのでなくて、これに対しては、当然に積極的に政府のほうからすべきことは合理的に秩序を付けて、不必要な摩擦を起さないように、殊に一刻もゆるがせにできないところの経済復興に参加しておる工場に対して、又そこに働いている労働者にトラブルを起さないような合理的な方法で積極的に打開して行く。それを盛り上げたものが行政協定になるのだ。行政協定というものは吉田さんとアメリカさんとの間に話がきまつてそれから、それまでは内容も何もわからないというような態度でおるから、かような問題に対して、もう火がついている問題に対して、何にも積極的な手を打つていないではないか、かようなきらいが非常に多いのでありまするから、どうぞさようなイージー・ゴーイングな、投げやり的な態度でなくて、積極的に来るべきものに備えてこれを打開して行くような態度をとつて頂きたい、これに関して外務次官から御答弁を願います。
  61. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 曾祢君のお話の事例をよく承知いたしております。又その内容等も縷々お話を承わりました。只今大蔵大臣からお話がありましたが、外務省といたしましても十分先方のほうと連絡をいたしまして、なるべく摩擦を少くし、又現在民間でやつておられまする仕事に支障の来さない方法においてのやり方を、十分連絡をいたして参つておりまして、何とかして都合のいい解決の方法を協力いたしたいと、現在も実は努力いたしておるところであります。
  62. 曾禰益

    曾祢益君 私、まだ第四條について外務省に伺いたい点があるのでありますし、又法務総裁に対しましては質問があるのでありまするが、折角各大臣が来ておられまするので、私の質問を留保させて頂きまして、他の同僚委員に代つて頂いたほうが都合がいいのじやないかと思います。
  63. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 私はいろいろございますが、大蔵大臣の御出席の都合もありますので、大蔵大臣に若干の点をお伺いしたいのであります。  第三條の問題でございます。即ち、「アメリカ合衆国軍隊日本国内及びその附近における配備を規律する條件は、両政府間の行政協定で決定する。」この配備を規律する條件の中には勿論経済関係のものが含まれると思うのであります。例えば基地の建設或いはそれの維持の費用、或いは宿舎等の問題もございましようし、そのほかいろいろな問題があると思うのでありますが、伝え聞くところによりますというと、今後アメリカ軍が駐屯又は駐留する場合におきまして、日本国におきましてもその費用を何らかの形で負担をするということが言われておるのでありますけれども、これは政府におきましては、その負担を、アメリカ軍が駐屯する期間内、これは條約によりましては定められてはおりませんが、その期間内負担を続けて行く、こういうおつもりであるかどうか。先ず第一にお伺いしたいのであります。
  64. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) それが問題になつておりまする防衛分担金の問題であります。幾ら負担するかはきまつておりませんが、負担して行くことに相成ると考えております。
  65. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 これを幾ら負担するかということは、今後の両国政府間の行政協定の内容になる、こう思うのでありますが、これは日本の財政並びに経済の上にも相当影響を持つものと思うのであります。この点については、事態が明示されませんので、それが財政上に及ぼす影響について論議できないかも知れませんが、このアメリカ軍の駐屯並びに駐留の防衛負担金の問題について、他の国とアメリカ軍との軍事協定等についてこういうような防衛負担の先例があるかどうか。例えばアメリカ軍が今日フイリピンに基地を持ち、そして軍隊を駐留さしておる。或いはイギリス領の島々にも、そういう例がある。或いは北大西洋條約によりまして欧洲の方にもアメリカ軍が今日駐屯しておるのでありますが、それらのアメリカ軍が駐屯をしておる国々におきまして、今後日本に予想されるようにアメリカは各国に対しまして防衛負担の義務を負わせておるかどうか。その点をお伺いしたいのであります。
  66. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 私は所管でないので、その條約の内容なんか知りませんが、フイリピン、殊に英本国におきましてはアメリカの空軍が駐屯しております関係上、英本国は防衛分担金を負担しております。而してその内容につきましては一部わかつておりますが、公表し得ない点もありますので、はつきりは申上げられませんが、或る程度の負担をしておることは確かでございます。
  67. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 只今イギリスの例をお挙げになつて防衛負担金をしておると、こう言われておるが、一方におきましてアメリカはそれらの国々にはいろいろな軍事援助をしておるのであります。そういうような関係が生じておるのでありますが、日本につきましては今後日本が一方において防衛負担金をすると同時に、他方において、まあ軍時援助日本が武裝をいたさないという点で直接にはないかも知れんが、他の経済援助等が予想されるかどうか。その点をお伺いしたいのであります。
  68. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 防衛分担金を負担すべきことは先ほど申上げた通りでありまするが、その他の経済援助につきましては、私は経済援助を期待いたしております。それがどういうふうな恰好で参りまするか、いろいろなやり方があると思います。日本としては是非とも経済援助をしてもらうように努力いたしたいと考えております。
  69. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 今イギリスの例を引かれまして、イギリスの防衛負担金については一部公表されない点がある、こういうふうに言われたのでありますが、日本の場合におきまして今後行政協定の内容が定められました場合に、政府はこれを公表するつもりであるかどうか。そうして又その防衛負担金についても当然国会の承認を得なければならんのであります。予算の上で国会の承認を得なければならんのでありますが、その内容につきましては、單に一括金額だけの計上ではなくて、或る程度その内容は細かく発表されるかどうか。その点をお伺いしたいのであります。
  70. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) この行政協定に基きまする費用の分担と申しまするかにつきまして、只今大蔵大臣からお話がありましたように、或いはイギリスなり或いはフイリピンという問題が引例されておるわけでございますが、この行政協定に基く負担は当然して行かなければならん。併しその率はどのくらいになるかということは、協定によつてきまつて来る次第であります。従いまして、その協定によつてきまつて参りました内容に基きまして、或いは細部的なものか或いは全体的なものかによつてきまつて参ると存じます。ただ、この行政協定によりまする問題は、従来からよくありまする基地の貸與についての問題とは違いまするので、こういう点についてほかの国々の例と少し違つておる点もあろうと思います。全くイギリス等がいい例ではないかと存じます。
  71. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 次にお伺いしたいのは、配備を規律する條件のうちには当然基地が含まれると思うのでありますが、今後の基地の建設に当りましては、これは日本側が負担するものであるか、或いは又それはやはり防衛負担金としてそれの一部を負担することになるのか、その点をお伺いしたいと思います。
  72. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 実は今回のこの日米安全保障條約におきまする考え方といたしましては、基地という考え方では来ておらない次第であります。基地と申しますと、一定の土地の範囲と年限とをきめまして、そこにありまするすべてのと申上げていい管轄権を借り受けるほうへ委讓する次第で、いわゆる外国政府にその管轄権を與える。ところが今度の日米安全保障條約は基地の観念による基地貸與協定という意味ではないのでありますが、基地貸與協定は従来から幾つかこういう例もやはりあるようであります。併し全く基地貸與ではなくて、日本の安全防衛のためにするものでありますから、或いはここにありまするように、施設だとかというようなことが問題になつて来る場合もあろうと思いまするが、一定の土地を画しまして、そこにある日本の権限、管轄権というのを全体的にアメリカ政府に委讓するという考え方ではないのであります。この点を御了承を頂きたいと思います。
  73. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 基地ということではないと、こうおつしやいますが、それでは、軍隊がそこに駐屯し、そうして、これを軍事的に使用するいろいろな諸施設、この問題でございますが、それは従来占領治下におきましては、それの建設は終戰処理費によつて負担されておつたのであります。今後占領が解かれまして、この條約によつてそういうものが更に新らしく作られることがこの條約から予想されるのでありますが、そういうときに、そういう施設を作る費用を日本が財政的に負担するかどうか。この点、大蔵大臣にお伺いしたいのであります。
  74. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) それは行政協定の内容でございまして、話合いの上きめるべき問題だと思います。
  75. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 これはどうも、そう言つてつてしまわれたのでは、私どもとしてはお伺いするわけにも行かないと思うのでありますが、そういう点がどうもはつきりしないので、この法案の審議が極めて進めにくいのであります。  それはそれといたしまして、次に大蔵大臣にお伺いしたいのは、アメリカ軍が駐屯いたします、その駐屯いたしました軍隊に対しましていろいろな物がアメリカなりその他から運ばれて来る。そうして、そこの基地におります軍人なり或いは家族なりが使用いたしますところの消費貨物等もそこに運ばれて参ります。これが大体無税で入つて来るのであります。ところがその無税で入りました品物が、無税で国内に流れて来るということが起ることは必定であります。現在アメリカのいろいろ化粧品その他のものが東京に氾濫しておるような状態で、これはやはり今後もそういうルートを通じて流れて来ると思うのでありますが、これは日本の経済に取りましてやはりマイナスになるものと私どもは思うのでありますが、そういうような場合に対しまして、大蔵大臣としては、それをどう処置されるつもりであるか。
  76. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 昨日の予算委員会で波多野委員より御質問を受けたのでありまするが、この駐屯される米軍の消費物資につきまして輸入税並びに国内のほうで税をかけるかかけぬかということは、これは安全保障條約に基く行政協定の重要な部分であろうと思います。私の知るところでは、軍人が直接使用いたします物についての輸入税或いは国内の税はおおむね免税しておる場合が多いと思います。而してその場合において、輸入せられた物が直接米軍に使われずに横流れをして闇の市場に出るということにつきましては、私はこれは極力防止する方法を考えたいと思います。今は御承知通りにスペシヤリテイ・シヨツプとか、ああいうアメリカ軍人のみならず軍人以外の人が、生活に直接必要な物につきまして特に入れておる例があるのであります。こういうものは、実は今占領治下におきましても本年限りやめる考えでおりまするが、独立いたしまして、安全保障條約に基くいろいろなことを行政協定に委ねておりますが、その場合におきましては、お話の点のような不都合のないようにいろいろ考えたいと思つております。
  77. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 まあ不都合のないようにする、その具体的な方法というのは、かなりいろいろむずかしいこともあろうと思うのですが、例えばどういうような方法によつてそれを処置されるおつもりでしようか。
  78. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) これは大体輸入の数量によつてもきまりましよう。品目によつてもきまりましよう。そうして又そういう物が流れて、今のように公然と市中で売られているというような場合におきましては、調査して、どこから出たというようなことはできると思うのであります。具体的の問題でございまするから、今ここでこういうことをやるということを申上げても、まだそれ以外にいろいろな点がありますので、そのときどきによつて適当な処置を考えるほかないと思います。
  79. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 次にこの條約によりまして日本側がまあ演習場等も設けなければならんことになるかと思います。現在も演習場が各地に置かれてありますけれども、過日兼岩委員も問題にしたのでありますが、漁業がこの海上における演習場が広汎に設けられておりますために非常に不振になり、そのために漁師が困つているという事態も生じている。又今後予定されるいろいろな演習場或いは軍事施設等のために農業のほうにもいろいろな影響が現われて参りまして、開墾せられている土地がこのために潰される。或いはそこにある農家が立退きをしなければならんような事態も起つて来る。現にすでに起りつつあるのでありますが、これは今日の場合におきましては非常にまあ不十分な補償でありますけれども、これは政府が補償しているが、今後そういうものが設けられました場合における補償はアメリカが直接にこれをすることになるのか。或いは日本政府がこれをするのであるか。その点をお伺いしたい。
  80. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 前の問題と同じことでございまして、防衛分担金の計算の根拠になるものでございまして、只今のところどちらのほうが負担するかはつきり申上げられません。
  81. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 これはどうもこの安保條約から生ずるいろいろな問題につきましての審議は殆んど不可能なように思われるので、甚だ私としては遺憾なのであります。  次にお伺いしたいのは、この條約の前文に、「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」こういうふうに書いてあるのであります。この「漸増的に自ら責任を負う」という問題が、軍隊設置の問題かどうかという点についていろいろ論もあるわけでありますが、この「漸増的に自ら責任を負う」ということになりますれば、それに伴う財政的な支出も増加して来るということは、これは免がれないのであります。一例を挙げれば、或いは間接侵略に対抗する一つ方法としての警察予備隊の問題もあるのでありますけれども、この警察予備隊の費用は二十七年度以降においてどのくらいの程度に増額されて行くのか。これは裝備の問題或いは警察予備隊の数の増加の問題等も関連すると思うのでありますが、その点について、先ず二十七年度における警察予備隊についての財政的な計画の見通しをお示し願いたいと思います。
  82. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 前の御質問に対しまして補足いたしまするが、この駐屯費というものは、お話のように施設もありましよう、而して施設を置きました借地料もございましよう、或いは軍隊の移動の費用もございましよう、或いは通信関係の費用もございましよう、それから又相当大きいのは労務関係でございますが、これもございましよう、それから今お話のような点もあるのであります。それで労務はどちつちが負担するか、施設はどつちが負担するか、通信費はどつちが負担するか、こういうことは行政協定の内容をなすものでございまして、これを今どつちが負担するのだということはきめ得られない。これは御了承願わなければなりません。だから、私は今の施設をどつちが負担するか、労務をどつちが負担するか、これはまだきまつておりません。これよりお答えのしようがないのであります。  次の御質問の警察予備隊を二十七年度にどれだけ予算に組むかという御質問でございまするが、まだきめておりません。今年程度よりも多くなるのではないかくらいな肚づもりは持つております。
  83. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 今の大蔵大臣の御答弁でありますると、一切が行政協定においてきめられると、こういうお話でありますが、この行政協定は大体見通しとして、いつ頃取極められて、そしてこれが二十七年度予算の編成に間に合う程度に取極められるものであるかどうか。これは二十七年度予算の編成並びにそれの執行との関係において重要な点であろうと思うので、その点についてお伺いしたいと思います。
  84. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 二十七年度予算に間に合えば結構と思います。成るべくこういうものは早くきまつて審議つたほうがいいと考えておりますので、外務省のほうで相当急いでおられると私は想像しております。
  85. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 これら行政協定等に基く防衛負担金、或いは警察予備隊の費用の増加等々は、いずれも講和関係費として、或いは連合国財産の補償、或いは賠償の支拂の金額とか、外債の支拂等と関連さして考えらるべきものと思うのでありますが、こういうようないわゆる講和関係費全体を合せまして、それが予算上におけるパーセント、大体の割合、そして、それが国民経済の今日の事態を圧迫しない割合というものは、来年度の予算が八千億程度ということがよく言われておるようでございますが、八千億ぐらいでありましたならばどの程度になるものか、大体をお示し願いたいと思います。
  86. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 来年度の予算が八千億円台、今年度の八千億と大差ないということを申上げておるのでありまするが、その全体の枠について今お話のようなものがどれだけの割合を占めるかはまだ申上げる自信がないのであります。
  87. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 私の質問を終ります。
  88. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) なお大蔵大臣に対する御質疑がありましたら御発言願います。
  89. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 大蔵大臣に一つだけお聞きしたいのですが、今警察予備隊はいろんな武器をアメリカから借受けている。無償で借受けている。そうすると、これは独立いたしまして後にもこういう状態が続くのでありましようか。その点が第一点と、現在借受けております武器の額が金額にして見ると大体およそどれくらいか。この二点だけをお聞きしたいと思います。
  90. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) お話通りに、今武器は全部借りております。これは訓練用に借りておるのであります。平和條約後、これがどうなるかということは、私は向うと話合いできまると思います。日本で今これを急に造ろうといつたら大変なことでございます。私としては、やはり訓練用のものでありますから借りて行くが、併し訓練用でも実際に使えぬことはありません。借りて行きたいという気持を持つております。併しこの武器がどれだけあつて、金額にしてどれだけになるかということは、実は予算に関係のないものでございますから、私、存じておりません。
  91. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そうすると、大蔵大臣としては、これがいわゆる軍事援助費的な形、無論この日本には軍隊がないので、国内治安だから軍事援助と言えないかも知れませんが、ともかくもアメリカが他の西欧諸国なり、その他の大国にやつておるような軍事援助的な性質の経費に振替えるということが予想されると思うのでありますが、それでも大蔵大臣は非常に細かい隅々のことまで金の問題についてはよく御承知なんですが、この問題についてはそういう御関心はないでございましようか。
  92. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 国から出る金のことについては、或いは国に入る金については、私は十分承知いたしておりますが、これは実は借りておるのでありまして、予算に関係のない、歳入歳出に関係のないことでございますから、あれしておりません。ただ今後も借りて行きたいという気持でおるのであります。今これを日本で造りますというと、これは厖大な金額だろうと思います。私はそういう計算は一応はしたことがございますが、これは裝備の関係でございまして、なかなか專門でないのであります。要求を査定することはしておりますが、自分で要求は余りしたことはございませんので、よく存じておりません。
  93. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 もう余りくどくど申しませんが、ただ一言、言いますと、大蔵大臣は国の歳入歳出に関係のあることは御承知だけれども、国の歳入歳出に関係ない金融等も万々御承知です。決して国の歳入歳出に関することだけじやありませんし、場合によれば独立してから……。あなたは無償でお借りになつて参るという御方針なんですが、場合によると、国の負担になるという可能性のあることだけはお認めになると思う。従つて恐らくその可能性に基いて、大体の何と言いますか、目安的なものはおやりになつたのだろうと思いますが、この目安だけでも何かないか。それが非常に差がありましても、どうのこうのと考えるつもりはございませんが、おおよその頭でどれくらいになるなというお考えがありましたら、聞かして頂きたい。
  94. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 私の計算いたしましたのは、鉄砲一挺造るのにどれくらいかかるか、或いは機関銃でどうとか、或いは中型戰車くらいまでで幾らになるのか、こういうような計算は一応やつてみたのでありますが、それならば、鉄砲を幾ら持ち、自動車を幾ら持ち、機関銃をどうするかということになりますると、これは裝備の問題でございまして、大蔵大臣の直接の問題ではございません。こういう裝備で、こうやつたならば、どれだけになるかという分、その單位の分だけは計算しておりますが、全体としてどうなるかということは、只今は検討していないのであります。私は今の七万五千人にこういう裝備にしたらどのくらいになるかというなには持つておりますが、差向き当座の問題でないのでありますから、精査したり、物価の変動なんか見ておりませんので、今お答えすることはできません。
  95. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕は、先ほど岡田委員も触れられましたし、私がかねて総理に対する総括質問のときにも大蔵大臣に要求しておきました農民及び漁民の演習地、基地のための取上げの問題についての資料を、私が大臣にかねてお願いしておりましたが、未だに手許に参りませんので、質問前提が参りませんので、非常に困惑しておりますが、これは委員長もすでに知つておられると思いますし、もうすでに一時近くなつておりますから……。ただ、その点を明快にして頂かないと、僕の質問前提が整わないのであります。で、私はこの第三條、安保條約三條そのものを憲法違反であるというより、安保條約そのものが国連憲章違反であり、憲法違反であるという点につきましては、十分これからお尋ねしたいと思いますが、特にこの三條、特にこの土地取上げ、それから漁区の取上げ、こういう問題につきましては、十分法務総裁並びに大蔵大臣から法律的及び経済的、財政的の両部面から詳細承わらなければならんと思いますが、それはもう時間の関係もございますから、これに対する資料については、委員長を通してかねてからお願いしてありますが、いつそれが頂けましようか。必要なければ承わらなくてもいいのですが、大蔵大臣が若し忘れておられるといけないから、念のためにちよつと大蔵大臣にお伺いしておきたいと思います。
  96. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 早急に取揃えてお約束したものならば出します。
  97. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 ならですか。仮定ですか。仮定でなくて御提出願わなければいけないと思いますね。
  98. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 私は約束したかどうか覚えませんので、若し約束しておりますれば、速記を調べて早急に取揃えて出します。
  99. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういう態度でいいですか。国会に対してですね。総理の総括質問に際してすでにお願いし、委員長を通してお願いし、且つ参議院の事務局を通してお願いし、私は三重の手続をとつて十分に委曲を盡してお願いしてあると思いますから、そういう仮定のお答えは非常に迷惑ですね。明快にして下さい。
  100. 池田勇人

    ○国務大臣(池田勇人君) 私はあなたから直接要求があつたかどうか、覚えませんので……。それがこの席上で要求があつたものなら、速記を調べて取揃えます。委員長その他を通してお出しになつた分はまだ私の耳に入つておりません。御承知通り資料をお出しするときは、個々にずつと出て参りまして、事務的に片付けておるのであります。従いまして若し私が直接にお約束したとすれば、これは速記を見まして、早急に資料を取揃えて出します。委員長のほうからの要求であれば、委員長から事務局へ行つておりましようから取揃えてお出しします。こういうように……。
  101. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 兼岩委員に申上げますが、催促をしております。
  102. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 議事進行について……。只今曾祢委員、岡田委員などと政府との質疑応答を伺つて見まして、この安全保障條審議について必要なる限りの行政協定に関する知識がなければ、安全保障條約の審議は事実上不可能だと思うのであります。それで、私はこの点は委員長から特に政府に我々の意向をお伝え願いまして、これは皆さんの多数の御意見であろうと思われますので、安全保障條約の審議に当つて政府はその能力と責任の最大限を盡して、行政協定に関する知識を本委員会に提供するという努力をせられるように、特に愼重に要求せられたいと思うのであります。事実上この安全保障條約の各條項について具体的な審議をしようとすると、直ちに行政協定は全くきまつていないというようなことを述べておられる。これが独立した日本の條約として結ばれるものであればあるほど、一層にそういう態度は実に今後に対して非常に惡例を残すものである。私は、行政協定の取極に関する可能な限り最大限の材料が、資材がここに提出されない限り、我々はこの安全保障條約の審議を拒否すべきものであるとさえ私は思つておりますが、そういう動議を提出する権利を保留して、只今のお願いを強力に申上げます。
  103. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 承知いたしました。  岡田委員、通産大臣に対して質問願います。
  104. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 通産大臣に一点お伺いしたいのであります。昨年の六月に朝鮮事変が起りまして、その後、九月にアメリカにおきまして国防生産法ができまして、アメリカは非常な勢いで軍需生産を開始しております。その後、日本におきましては、直接に、朝鮮事変に対しまするいろいろな援助という意味もありましようし、アメリカ軍或いは国際連合軍の直接の必要に基きまして、日本国内にいろいろな註文が参りまして、工場はその生産を引受けてやつてつておるのでありますが、更に一歩を進めまして、アメリカ日本の工業力の能力を調査いたしまして、アメリカの軍需生産計画に日本使用できる工業能力を繰入れて、そうしてやつて行こうというような傾向が見えておりますが、そうして、そのためにすでにいろいろな軍需品の註文が発せられ、更に今後調査に基きまして、或いは航空機或いはその他の武器の部分品の生産等の註文がなされるようなことを聞いておるのであります。そういうような工業能力の調査なり、或いは今後そういうようなことが行われるという近い将来にそういうことが行われるということは、通産大臣としては認めておいでになるかどうかをお伺いしたい。
  105. 高橋龍太郎

    ○国務大臣(高橋龍太郎君) お答えしますが、この航空機或いは軍需品の日本の生産力と言いますか、生産設備の調査をしたということは、私は承知しておりません。
  106. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 まあ通産大臣が承知しておらなければ、おられないのは本当か嘘か私には判定が付きませんが、全体の工業能力の調査が行われておる、そうして私の知つております或る元飛行機を作つておりました工場におきましては、そういうふうな註文が今後あるであろうというような気がまえを持つて、すでに或る種の凖備を始めなければならん、こういうことにしておるということを、その会社の経営者から聞いたことがあるわけであります。すでにそういうような問題が起つておる。今後恐らく私は日本の工業に対しまして、軍需品の原料の生産、これはすでに鉄鋼等において行なつており、アルミについて行なつておるのでありますが、直接の武器の生産に対しましては、そういう問題が必ず起つて来ると思います。これは原料等の面から見ましても、日本にとりまして、日本の全体の国民生活、国民経済の上にとりまして、非常に大きな影響がある。若しそれが非常に大規模になつて参りまして、国民経済全体に影響を及ぼし、そのために今日の国民生活の水準が低下するというような問題も起つて参りましようし、又原料がそのほうに多くとられるために、まあ一般の生活必需品に対する生産が阻害されるという問題も起つて来るであろうと思うのでありますが、そういう問題を予想いたしまして、政府は今日この工業上の政策を立てておられるのか。それの研究をしておられるのか。それをお伺いしたいと思います。
  107. 高橋龍太郎

    ○国務大臣(高橋龍太郎君) 今の物品の製造能力の調査云々ということは、私は承知しないと申しましたが、少くとも通産省では知りません。通産省ではそういう調査をしたことはありません。なお、将来今お述べになりましたような、そういう生産を日本でやることになつた場合に云々という御質問だと思うのですが、それは程度問題で、日本国民生活に害があるような程度では、それは十分研究して避けなけりやいかんと私は考えておる次第であります。
  108. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 どうも「のれん」に腕押しで、私、御答弁に満足できないのでありますが、そういたしますと、そういうような場合が起つて、例えば向う側から政府に対する註文でなくて、日本の工業に対しまして、直接にいろいろな註文が発せられて来るというようになつた場合に、まあいろいろそういう困難が起る、その際に、日本といたしましては、そういうことの生産等については相当考えて行かなければならんのではないかと思うのであります。又そういうことが、註文を発するアメリカだけはよろしいけれども、その軍需工業が復活するという問題が起つて参りますというと、これは恐らくアメリカといたしましては、日本が再び軍需工業能力を持ち、これがアメリカに輸入されるということは当然歓迎すべきことでありましようけれども、そのために曾つて日本によつて侵略を受けました東南アジアの諸国、或いはオーストラリア、ニユージーランド等、その他の国々から非常に疑惑の念を以て見られるという虞れがあるかと思うのであります。こういう点につきまして、今後生ずべきそういうような場合、つまり日本の軍需工業の復活する問題に対しまして、政府は今日から或る種の対策を持つていなければならんと思いますが、その点についての通産大臣の対策、政策、根本的な考え方をこの際承わりたいのであります。
  109. 高橋龍太郎

    ○国務大臣(高橋龍太郎君) 只今のところは日本に武器を作ることは禁止されておるのであります。将来日本で武器を作るという問題は、これは通産省の問題でなくて、非常に大きな問題でありますので、私から答弁はいたしかねます。さよう御承知を願いたい。
  110. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 二時まで休憩いたします。    午後零時五十四分休憩    —————・—————    午後二時三十三分開会
  111. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 休憩前に引続き会議を開きます。
  112. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 昨日、例の條約と憲法の効力に関しまして私質問いたしたのでありますが、そして特に御研究を願つたのでありますが、それについての御見解をもう一度お伺いします。
  113. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法に違反いたしました條約の効力の問題につきましては、昨日お答え申し上げましたるごとく、国内においては国民に対して拘束力を持つべき性質のものではない。併しながら手続が合法的に合憲的に取計らわれておりまする限り、それは国際的には有効な條約として日本国政府を條約上拘束するものである。こういう見解をとつております。
  114. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 それでは大橋法務総裁にお聞きいたしますが、九十八條の第二項は何のためにある規定なんでございますか。
  115. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 九十八條の第二項というのは、憲法の規定だと存じますが、これは従来の我が国の歴史的な事実から考えまして、日本が條約の遵守ということについて国外において十分な信頼を得ておらない嫌いがある。この点について、今後日本が條約は遵守するという国際的な信頼を高めるという意味におきまして、條約は日本としては今後遵守するという趣旨を謳つたものと聞いております。
  116. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 大橋法務総裁の、この規定のできる沿革的な問題については私もそうであろうということを考えますが、併しながら、憲法九十八條の第二項は、憲法みずからが国内法ですから、国内法的に見て、「日本国締結した條約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と、こう書いてありますが英文を見ますと、「しなければならない」、これは命令されておる。憲法自身が命令しておる。そういうようにお考えになりませんか。
  117. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 九十八條の第二項によりまして、條約というものは遵守しなければならない。従いましてこの條約を国内的に遵守いたしまするためには、九十九條にありまするごとく、天皇、攝政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員はこの條約が遵守されるように努力しなければならない、こういうことになるわけであります。国内において所要の立法がありまするならば、関係機関はすべてこれを実現するように努力しなければならない、こういうことになると存ずるのであります。
  118. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 ちよつと、大橋法務総裁がそれをお引きになりまするので、これは端的にお聞きいたしますが、何だか努力目標のように御返事になるのですが、努力目標ではなくて、守る義務がある。あなたの御所管の関係、及び御所管ではありませんが、密接な御関係を持つておられる裁判所です。裁判所は、條約ができて、その條約の中には、国民関係のない、他国民との問題もありましようが、国民権利義務関係あるものが出て、これが公布されておる、そうなると、裁判官はその條約を守ることが先ず第一に何よりも必要になつて来る。條約に違反したものについてはこれは無効であるものであると、こう判決しなくちやならなくなる。こう私は思いますが如何でありましよう。
  119. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 條約は無論守るべきでありまするが、併し憲法に違反した條項につきまして、憲法を條約によつて攻められたものと解釈して適用するということは、我が国の憲法は硬性憲法の建前をとつておりまする関係上考えられないと存じます。
  120. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そうすると、大橋法務総裁にお聞きいたしますが、條約が締結された、そうしてこれが訴訟上の問題になつて憲法違反かどうかという問題になつたときに、裁判所は、ともかく憲法違反の條約は無効の條約である、こう判決せざるを得ない、こうでございましようか。
  121. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 国内法としては、その條約は憲法に違反するから無効であるという判断をすべきものと考えております。
  122. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうも国内法と国際法を、いろいろ国際法上の効力と国内法上の効力をお使い分けになりまするが、そのときに日本の国は他国と條約を締結して、その條約は国民権利義務を制限する場合に、これは憲法違反だと言つてそのまま無効になつてしまう、そうして日本の国としては相手国に対してそれで済んで行くということが考えられるかどうか。今度は実際問題としてですね、その点についてどうお考えになつておりますか。
  123. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 実際問題としては、私は、より根本的に遡りまして、さような條約が締結されるということはなかろうと思います。
  124. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 で、それじや大橋法務総裁に伺いますが、連合国の財産補償法案というのが現に今国会に提出されております。それは御承知通り平和條約に基いて、あの閣議決定平和條約の中に入つておるので、それに基いてこの国会にお出しになりましたのですが、これについて例えば百億を限度として責任を負うという場合に、西村條約局長は、昨日でございましたか、大蔵省の所管の審議中に、これはまだ條約にはなつておりません、今調印されたばかりでありまするから、まだこれから批准されなきや効力を発生しませんが、その問題について、この金額は動かすべからざるものであるというふうな御答弁をなすつたように聞き及んでおるのですが、そういうことはあり得ないので、この連合国財産補償法案は全く自由な立場において審議さるべきものである、こうお考えになりましようか。
  125. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この條約と法案というものは不可分のものであると思つておるのでありまして、成るほど法律的には、これは全然別個の議案として別個の運命に到達するということは十分に想像できますが、併し実際上の問題といたしましては、この條約と法案というものは不可分のものでございまするからして、そういうものの一方が成立して一方が不成立に終るというようなことは考えられないわけであります。又仮に條約が承認され法案が否決せられるというようなことがありましても、国会の承認によりまして條約上の義務として、法案の企図しておるごとき内容日本政府としては義務として履行しなければならない。その義務は明らかに條約上発生しておるわけであります。この義務を免れるということは、法案の運命に関係なく不可能なことだと存じます。
  126. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうもその点が実は、はつきりしないのでありますが、これは一例として私が聞いたわけでありますが、この平和條約第十五條に「この財産が千九百四十一年十二月七日に日本国に所在し、且つ、返還することができず、又は戰争の結果として損傷若しくは損害を受けている場合には、日本国内閣が千九百五十一年七月十三日に決定した連合国財産補償法案の定める條件よりも不利でない條件で補償される。」こうなつております。そうすると、ここへこの法案が出て参りましたときに、今おつしやつたようだと、どういう効力が発生するのですか。連合国財産補償法案が、この閣議決定より違つたように修正されるということは、自由だと言われるのでしようか。これは私はこの憲法を守る意味においても、憲法上我々自身が憲法の規定によつて條約上の制約を受けておると思うのであります。こういう国内法的な意味の効力を持つておる。こういうふうに考えられるのですが、どうでしよう。  そうしてもう一つお聞きしたいことは、條約の効力を、国際法的な効力と国内法的の効力とが全然別個のものであるというふうな法律論というのは、どういう学説に基いておるのか。私いろいろ調べてみたがなかなか発見できないのです。どうも納得できないのでありますが、その点についてお考え直しの余地がありませんでしようか。
  127. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 十分研究の上、申上げておるのでありまして、只今この見解を変更する考えはございません。
  128. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 その点については、結局それでは法律論として、いつまでも何と申しますか、私とあなたとは意見が一致しない。ただ結果的に見ますると、私のほうが少くとも通説的に多い議論ということが考えられるのでありますが、併しそれは又の機会に讓りまして、そうして條約自身に入つて参りたいと思うのであります。  で、非常に問題がこれはもう論議されたものでありますが、法律論として特にお聞きしたいと思うのであります。いわゆる憲法第九條戰争放棄の規定と、この安保條約との関係であります。で、第一点にお聞きいたしたいことは、第九條の二項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戰力は、これを保持しない。」と、書いておりまして、この戰力については法務総裁が、客観的にそれが戰力であるかどうかということはきまるのであつて、それについて、はつきりした一線をなかなか画することができないのだと、こういうふうに言われておるのでありますが、それについて特に戰力というものは、実はこの條文だけで見ますと、「陸海空軍その他の戰力」と如何にも陸海空軍を連想させるようなその戰力というものに法文上読めるのでありますが、実はこの規定を英訳したものを見ますと、或いは場合によると英訳が原本かとも思いますが、ともかくそれを見ますと、ウオア・ポテンシヤルという言葉が使つてあるわけであります。ウオア・ポテンシヤル、そうすると、私は非常に広い意味になつて来る、つまり陸海空軍を予想させるような軍隊でなしに、ともかく戰争の何と申しますか危險性があるような戰力、そういう戰力を予想している、何と申しますか、ウオア・ポテンシヤルという言葉から受けるのは非常に範囲がが広いのじやなかろうか、こう考えるのでありまして、従来ここで普通に論議されておりますように、陸海空軍の形を、そういう形式を備えなくてもウオア・ポテンシヤルという考え方には入つて参る。又いろいろな学説を見ましても非常に範囲が広いように思われるのでありますが、その点についての御意見は如何ですか。
  129. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 陸海空軍を含めまして、これが活動いたしまするに必要となりまするいろいろな力を総合したものを戰力と考えております。
  130. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 いろいろなとおつしやるのでありますが、非常にともかくこの戰力というものは広いものだということが考えられるのであります。それで今朝ほど実は大蔵大臣にお聞きいたしましたのですが、今の警察予備隊というものはアメリカから貸與されました武器を相当持つておる。これは大蔵大臣の言葉で言いますと、莫大な経費になる。だから、これは今の日本の国としては、これを予算上背負つて行けるような程度でない。だから無償貸與を受けているのだ。成るべく無償貸與で行くのだ。こう言われるのでありますが、と同時に、その程度については大橋法務総裁がよく御承知だというので、自分の所管でないということで答弁なかつたのであります。先ず大橋法務総裁にお聞きしたいことは、今の警察予備隊の実力はどの程度の裝備をしているかという点をお聞きしたいと思います。
  131. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 現状におきましては、部隊の員数は七万五千に相成つております。これを現在一つの補給部隊並びに四つの管区隊というものに分けておりますが、一管区隊は大体昔の一個師団に相当する員数でございます。大体一万五千程度に相成つております。この補給隊がやはり同様一万数千の補給部隊でございますが、この補給部隊は全部隊のための補給的な任務、即ち資材の購入、貯備、配付、供給、それから衛生の管理、こうした特殊の任務でございます。それから各管区隊は管区総監部、即ち司令部の下に三つの普通科連隊、一つの特科連隊、一つ施設大隊及び一つの衛生大隊、こういう部隊で構成をいたしておるわけであります。管理補給隊は先ほど申上げましたごとく、管理補給総監部の下に施設、通信、病院、武器輸送、保安等の後方諸部隊を以て編成をいたしておるのであります。この普通科連隊と申しますのは、主として小銃を裝備いたしておるのでございます。一つの特科連隊は将来火器を以て裝備をしたいという予定でございまするが、現在十分なる火器をまだ受取つておりませんので、原則的には大体どの部隊も小銃を持つております。小銃のほかに若干の機関銃並びにバズーカ砲を持つておるという状況でございます。
  132. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私は惡意があつてお聞きするのでなしに、事実を究めたいと思つておるのでありますが、ともかくもこれは国内治安を目的としている。これは嚴とした方針であります。これは内閣もしばしばおつしやつている。だからこれは全く国内治安の問題だ。そうお考えになつているわけであります。実はその点について、実際の実情として考えますと、今、警察は国警、地方警察を通じまして十二万五千人あるわけであります。それから今御説明になりましたような警察予備隊が七万五千人、警察官の数だけで申しますと、実は以前よりも警察官の数が多いわけであります。そのほかに警察予備隊があるわけであります。そうして、この警察予備隊が裝備としてはバズーカを持つ、その他臼砲も持つているというふうな問題になりますと、国内治安を目的としておつても、これが隊の訓練をするのである、そうして隊のキヤンプに入り、そういう裝備をしているということになりますと、これは相当やはり実際的には、御説明の点と、つまり方針を持つておられるのと実際のものとの非常に受ける印象が違つて参る。それだから、よく外国でこれを軍だというふうなことを言う人があるようになつて参るのであります。こう私は思うのであります。だから大橋法務総裁はこの委員会で以て、これは他国から侵略をされたようなときには、やはり国土防衛のためには使われるだろうということをお考えになつているような答弁がありましたのですが、これはウオア・ポテンシヤルの中に入りませんですか、どうですか。
  133. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私どもは、国内治安のためだけに使われるべきこの警察予備隊というものは、憲法上の戰力という範囲には入らないと考えております。
  134. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 それじやお聞きいたしますが、一体どこにこれだけの警察予備隊の実力を持たなければならない不安なり、これに対抗した組織或いは力というものが、国内にどこにあるのでございましようか。
  135. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは国内の全般の状勢から見まして、かようなものが必要であると考えられるわけであります。
  136. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 その点で、国内的な治安の面から警察官を十二万五千人持つて、なおこの種の七万五千人を持たなければ不安があるとおつしやることについて、我々を納得さして下さるような、あなたがお認めになつて必要なんだ、実際は御承知通りマツカーサー元帥の書簡に基いて行われたことは私も知つております。曾つてあなたに、七万五千人はどういう想定の下に持たれたのだと聞きましたときにも、これはマツカーサー元帥の書簡によつてしたのだ、こういうふうにお言いになつたことを記憶いたしておりますが、ところが今度独立して、自分として考えて参らなければならんというときに当りますと、この問題についても私どもは究めなければならん立場にある。こう考えるのでありますが、そういう不安が国内においてあるというお考え方、そうして本年度の予算においても、これはまあ本年度の予算はどの程度だという御説明があつたからお聞きしません。又今朝ほど大蔵大臣のお話だと、来年度の予算の構想にも幾分予算的な処置を考えるのだというふうなことを言つておられるのですが、そういう点についてですね、ただ私どもはここでマツカーサー元帥の書簡だけで無條件にこれが要るのだというわけに行かないと思うのでありまして、内閣として、どうして、どういうふうな不安が予想されるからこれだけのものが要るのだというお考え方を、国内治安でしたら、はつきりおつしやつて説明して納得さして頂きたい。こう私は考えるのです。
  137. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 今日の我が国の国際上におきまする地位並びに現在の国内の治安状況というものから考えまして、将来においてかような危險が絶無であるということは保証できないわけでありまして、これに対しまして国内治安を飽くまでも守るということのために、かような警察予備隊を必要と認めておるということでございます。
  138. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうも実質的な御説明を承われないのですが、まあ要約いたしますると、将来においてそういう不安が起るかも知れないから、今から準備しておかなくちやならないというふうなお考えに近いものだと私は考えます。併し先ほどのお話で、他国の干渉、直接侵略を受けたときに、その場合にはこれが国土防衛に当るのだというふうなことは、たしかこの委員会でおつしやつたと思うのでありますが、その点も否定されるのでありましようか。
  139. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういうことも将来において必ず絶無であるということは保証できませんので、やはりその辺のことも考えまして、準備をいたしておるわけでございます。
  140. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そういたしますと、その直接侵略を受けたような場合にも使われることは、やはり予想されなくちやならないと、こうなつて参りますると、これがウオア・ポテンシヤルでないとおつしやることが私はおかしくなつて来ると、こう思うのでございますが、如何でございましようか。
  141. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私どもは、国内の治安というものを守る、そうしてそのために必要な範囲で裝備されまする警察予備隊は、憲法九條の戰力とは考えておりません。
  142. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そうすると、憲法九條によつて、他国から侵略を受けて国土防衛に当るようなものは、憲法九條において許されているものだと、こういうふうなお考えでございましようか。
  143. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 国内におきまする治安上の必要なものは、これは憲法第九條の戰力には入らないものであると、従つてこの九條の制限外にあるものであると、こう考えております。
  144. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 憲法九條になりますと、すぐ国内治安だけのようにおつしやるのですが、今おつしやつたことでも、国内治安と外国から直接侵略を受けたときには用いられることあるべき警察予備隊なんです。この二つを含んだ警察予備隊と、こう見なくちやならん。それもこの憲法の第九條から見て、憲法の九條はその程度までは行けるんだと、自衛権範囲内でそういうものを発動する場合も考えられると、こういうふうにお考えだと、私はあなたのお考えから類推いたしますと、第九條はそういうふうに御解釈になつておるのでなかろうか。こういうふうに考えますが、如何でございましようか。
  145. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) ちよつとその御解釈は論理的ではないと思うのでありまして、私の申上げたいと存じましたのは、国内治安のために必要なものは、これは戰力として制限される限りではないということを申上げたわけでございます。  次に御質問になりました、国外から何か不法なる侵略があつた場合に、国内治安のために備えられたところの警察予備隊がこれに対抗して治安維持に当ることがあり得るかという御質問につきましては、先般そういうことはあり得るということを申上げたわけであります。国外の侵略に対しまして、治安上国内で準備をいたしておりまするあらゆる実力機関というものを発動するのは、これは当然のことであると考えまして、この点は自衛上の措置として当然であるということを考える旨を先般申上げました。併しながら、国外からの不法侵略に対しまして、国内治安のために備えられた実力を直接に行使するということは、これは私はその事自体が戰争行為であるとは考えないのでありまして、これが戰力であるというためには、戰争を遂行するに足るだけの力を持つておるということが必要ではないかと思うのであります。現在予備隊の持つておりまする力は、国内治安を維持するための最小限度の力でありまして、近代戰を遂行するだけの十分なる力を持つておるとは考えておりません。従いまして、これを私は戰力とは考えておらないわけでございます。
  146. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そうすると、今の御説明によりますと、外国から直接侵略があつたときに、警察予備隊を使うか使わぬかは、これは私は実際、法律問題でなしに、政治上いろいろ判断があると思うのであります。だけれども、少くとも外国から侵略を受けた場合には、自衛権発動として、警察隊のみならず、自分の持つておる力というものは全部使うのだというふうなことは肯定されておるわけだと思うのであります。これは警察予備隊だけ問題にしますと非常に神経質になり易いのでありますが、実は警察予備隊だけでなしに、ともかくも持つておる力は全部使うのだということも考えられる。使うか使わぬかは別だが、そのときの情勢によつて使うことも考えられると、こういうふうなお考えだと、もう一遍念を押しておきますが、それでよろしいのでしようか。
  147. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 自衛権を行使するために、即ち不正な侵害を除去するために必要なる限度におきましてはすべての力を使う。そうして、その範囲内において警察予備隊を使用することが必要であると認められる場合におきましては、政府としては警察予備隊も当然使う考えであると、こういう趣旨であります。
  148. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 その使われます場合に、こういう警察予備隊というものが実力的に見ても一番最初に使われるだろうということは、これは何びとも肯くところであります。そうなつて参りますと、あなたのは、もうそこへ使うと必ず予定していたものなら戰力かも知らんが、そのときの政治的判断で使うか使わぬかはわからないものだと、今から予定されないものなんだと、今予定しておるのは国内の治安だけを予定しておるのだと、だから使われるか使われないかわからないものです、併し使うことも考えられるというものについて、これを戰力だとお考えにならないかと、それが私は特に英語を使つたゆえんなんですが、つまりあなたの信託統治論にやや近い議論をしますと、潜在的な、使えるかも知れない、戰力というものはウオア・ポテンシヤルとすれば、私はそれは潜在的な力を持つておるんだから、ウオア・ポテンシヤルじやなかろうか。こういうふうに考えるのですが、その点についてお考えを……。
  149. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私どもの考えといたしましては、戰力というものは各種の要素を合計いたしましたる、その力の合計が、日本として近代的な戰争を遂行するに足りる、それほどの十分な大きさを持つておる、その場合において初めて日本の持つ戰力というものが成立つものと認めます。勿論、実際の戰鬪行為におきましては、ピストルを用いる場合もありましようし、竹槍を持つ場合もありましよう。併しながらピストルと竹槍が幾らたくさんにありましても、それは近代戰争を遂行するだけの力の大きさというものにならないものでございまするから、かようなものを戰力とは考えない。即ち若し日本が陸海空車、その他の戰争を遂行するに必要なだけの大きな組織的な力を持つておる場合におきまして、その一翼として警察予備隊が行動をいたすという場合においては、警察予備隊の持つ力も又その戰力の一部をなすということは言い得るかも知れません。とにかく日本といたしましては、警察予備隊を持つておるだけでは、戰力を持つておるということにはならない。こう考えるのであります。
  150. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 それでは今度は反対のほうからお聞きいたしますが、一体、近代戰を遂行するに足る戰力というものは、どの程度を大体御想像なさつておるか。これは実は近代戰を遂行するに足る戰力というものは、考え方によつては非常に大きなものが予想される、それまでは要するに戰力でないのだということに相成りますが、逆のほうからお聞きしますが、どの程度を頭に入れつつお考えになつておるか。
  151. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 先ず戰争前に日本の持つておりました陸海空軍ぐらいを持つておれば、これは無論戰力であると考えます。(笑声)
  152. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そうすると、戰前に持つておりました力までは戰力でない、こういうふうにお考えになるわけでございますか。
  153. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) とにかく現在の予備隊程度では戰力ではない、こう考えております。
  154. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 それでは、もう一つお聞きいたしますが、ここで條文に入つて参るわけでございますが、「国際連合憲章目的及び原則に従つて、平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、」これはまあ当然のことと思うのでありますが、この裏を返して見ますると、国際連合憲章目的、原則に従つた軍備は持てと、そうして「直接及び間接の侵略に対する自国防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」こういうことが條約で締結されたわけでありますが、この点についてはどうお考えになるのでありますか。
  155. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これはアメリカ合衆国の期待として考えております。
  156. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 外務省もそういうふうな何か條約の御説明が書いてあるんですが、ともかくも期待することは向うが言い放しじやないのでございます。これは大橋法務総裁得意の法理論だと思うのでありますが、これはお互い約束するのでございます。それを單純にお前のほうは期待しておるんだが、おれのほうはそれについては知らないぞ、こう言つて行けるのでありましようか。
  157. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは、はつきり申しますれば、結局軍備を持つということでありまして、ただその軍備の程度がこれこれというのでありますから、アメリカが将来において日本に再軍備を期待しておるという意味ではなかろうかと想像いたします。併しこれは必ずしも、日本がこの期待に副うて近い将来に直接及び間接の侵略に対する防衛のためにみずから責任を負うんだ、こういうことを約束をいたしたものとは考えないのであります。現に総理からもしばしば申上げておりまするごとく、日本といたしましては、現在の段階によつては再軍備ということは考えていないというような状況でございまして、これによつて日本が再軍備の義務を負うておると考えることは行き過ぎではないかと存じます。
  158. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 期待するという所で、非常にこの文句だけ見ますと、みずから責任を負うことを期待するということを言つておるだけで、如何にも期待だけのものでありますが、併し條約としてお互いに、向うさんもそういうことを期待しておるし、今あなたのお話で言えば、この規定は明らかに向うは軍備を持つことを期待しておるんだ、併しそれは期待なんだと言われるのでありますが、軍備を持つことを期待しておることを列国が承認する、承認しながら、おれのほうはそれについては責任を持たない、こう言つて行けるのでございましようか。そういうことは、私は実際問題として、文句だけを見ますといいのでありますが、條約上の義務として條約の義務があるのだ、これは国を縛るのだ、これだけは幾ら何でも大橋法務総裁承知しておられるでしようが、そういう点で、期待するということは、やはり義務を負うものと考える。ただ普通の人の話合いとは考えられない。で、法律的な効果を少くとも條約上持つべきだ、こういうふうにお考えになりませんでしようか。
  159. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 義務というものは内容が明確である必要があると思います。これは單なる期待でありまして、これによつて日本如何なる時期において再軍備をなすべきものであるかという法的義務を負うておるものでは決してないのであります。
  160. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 これも大橋法務総裁がよく御承知なんでありますが、少くとも期待権というものは一応向うが持つ、期待権的なものは生ずる、法律上の観念としては期待権の観念はあるわけであります。だから、それだけは発生しておるんじやないのでしようか。
  161. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この前文の趣旨は、アメリカに期待権を認めた趣旨と考えておりません。
  162. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうも非常に、何といいまするか、法律は、やはり健全なる常識によつて判断されなくちやならないと思うんですが、大橋法務総裁が健全だといたしますと、私が非常に不健全なことになり、私が健全だとすると、大橋法務総裁が健全でなくなるので、非常に私としては困つたことだと、こう考えるのでありますが、併しながらもう一つ違つた角度から申上げます。少くとも暫定措置として書いてある。何故暫定措置であるか。これは直接及び間接の侵略に対する自国防衛のための責任を負うということを予想して、それまでの暫定的な措置だ、こう書いてあることは明らかであります。で、そうすると、あなたのお説に従うと、今のところでは期限がわからない、つまり永久に、この條約は暫定措置でなくて、永久的な措置になつてしまう、こういうふうにお考えにならなければならないと、こう私は考えるのですが、如何ですか。
  163. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 元来この「アメリカ合衆国は、日本国が、攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章目的及び原則に従つて平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備を持つことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」と、こう書いてありまするが、これは結局日本自身が日本の防衛について責任を負うべきであるという原則を示し、且つそれが実現されることについてのアメリカの期待を表現したものなのでありまして、この原則というものは、日本がみずからの力で再軍備をするということ、それによつてもそういう原則を実現することは可能であると思います。併しながら集団防衛というような方法によつても、そういうことはなし得るわけでありまして、ひとりこれは再軍備だけを予定したものと、こういうふうに考える必要はないと私は考えるわけでございます。かような、少くとも現在においては、日本政府が、自国の防衛力によつても、又日本責任によつて締結されておりまするところの集団防衛の方法によつても、自国の防衛について責任を負うことは不可能であるという状態でありますが、併しそれが他日何らかの方法によつてそういうふうになることを期待する、こういう意味であろうと思うのであります。そうして暫定的ということは、さような現在の日本が、何らかの方法によつて、この安全保障條約によらずとも、他の方法によつて自国の安全を保障できるような方法を講ずると、こういう時期までということだと思うのでありまして、それは結局この條約の第四條におきまして書いてありますごとく、「国際連合又はその他による日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生ずる時期、」こういう不確定の期限を予定いたしました暫定的な措置である、こういう趣旨であると考えます。
  164. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 もう一つその点で。これは契約をするときに、どういう條件と、どういう相手方の意思で結ばれたかということは、これはもう誰しもわかるわけですね。こういう文章を書いて、何とでも逃げられるが、併し逃げるだけの文句を入れても、とにかくそのときの情勢というものから、法律解釈についてだつて、その沿革的な成り立ち的なものがわかることによつて、法律解釈が正しくされるということはお認めにならなければならんと思うのですが、少くともこの暫定的措置としてということと、第四條の問題とは、こういう本格的なものができるまでは暫定措置だ。そうすると、こういう本格的なものがいつできるのだということは、今予想されない。併しアメリカ自身が、これは大橋法務総裁もよく御承知でしようが、ヴアンデンバーグ決議なるものをしておる。西村條約局長もここでたびたび御説明になつておるわけでありますが、いわゆるヴアンデンバーグ決議によつて日本が相互援助的な責任が持てる、恒久的な援助義務が持てる状態まで、暫定的なんだと、これはもうはつきりしておるわけであります。そうしますと、「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」ということもよく出て参りますし、暫定措置もよく出て参りますし、第四條の規定もよくわかつて参る、こういうふうに考えるのでありますが、如何でございますか。
  165. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) ヴアンデンバーグ決議において、日本が自力で防衛するようにと、そういう国に対してはアメリカが相互援助條約をする、こういうふうな趣旨の決議はあつたろうと思います。併しその内容が、相互的な條約をする場合においては、相手国が自力を以て條約上の自国の義務を果し得るものであるということを前提にしなければならんという趣旨でございまして、それは、日本がそうならなければ、それまでは暫定的なこの條約を結ぼうと、こういう趣旨のものではないのでございます。これは、この條約において暫定的と言い、それから第四條において効力を失うべき時期を定めておりまするそのことと、只今のヴアンデンバーグの決議というものは、これは関係のないものであると私は理解をいたしております。
  166. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 少くともアメリカの何と申しますか、こういうヴアンデンバーグ決議なるものがあつてアメリカの政策というものがそれに基いて行われておる。従つて自国の防衛については、無論アメリカも言つておりますように、一国だけで十分な安全を保障される事態でないと、だから他国と協同してやらなければならない。併しその時に相手国が防衛についてやはりお互いに援助する実力、それが恒常的な姿となつて現れておることが必要だということは言つておるのであります。それで、もう一つ事業論を言いますと、御承知通りに、平和條約の時でございますが、トルーマン大統領自身がサンフランシスコの会議で、日本の軍備に触れている。ダレス氏も日本は自国の防衛については責任を負いなさい、只乘りは許しませんと、だけれども、今そういうものがないんだから、今現在としては止むを得ないんだと、こういうことを言つておりますことは、これはもうよく誰しも知つておる事柄でありますが、そうなつて参りますと、いよいよ私の言つたことが明らかになつて参るのであつて、そういう單純な、向うさんが期待しておるだけだと言い切るわけに行かないことは明らかだと思うのでありますが、如何でありますか。
  167. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 成るほどアメリカの高い役におられる方々が、日本の再軍備ということについての強い期待をいろいろな機会に表現せられておる、これは私も承知いたしております。併しながらこの條約の前文にありまする事柄と、それとは又別個の問題でございまして、これは決して日本にそうした義務を負わせたものではないということは、これは條約上明らかだと存ずるのであります。
  168. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうも私のお聞きしたいことにお触れにならないで、そうして私のお聞きしておることに反対だというふうなことをすぐ勝手におきめになるんですが、反対か反対でないかは別にしまして、私のお聞きしておりますのは、事実をはつきり究わめたいと、こういう考え方で、そう考えられないかという問題を、時には私自身の考え方を真正面から、時には私の考え方を反対のほうからお聞きしておるわけであります。その点は誤解のないようにお願いしたいと思うのでありますが、どうも私はあなたのおつしやることがよくわかりませんが、私だけ時間を取りますこともどうかと思いますので、もう一点、違つた問題から、憲法第九條に触れつつお聞きしたいと思うのであります。その問題は、大橋法務総裁のお考えによりますと、憲法第九條は、「戰力は、これを保持しない。国の交戰権は、これを認めない。」そうなつて参りますると、だから自衛権はあるということはお認めになつておるようです。その自衛権というものは、先ほど御説明になつたような自衛権であつて、最初からその自衛権を行使するための手段方法は全部持つてないんだ、こういうお考えだと私は思うのであります。そうすると、大橋法務総裁にお聞きしたいと思いますことは、先ずその前提はいいだろうと思いますが、如何でございましようか。
  169. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 自衛権を行使する有効な手段は持つておらないということになります。
  170. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 有効の程度になつて参るのかと思うのでありますが、ともかくもそういう目的を持つたものは初めから持つていない、先ほどの警察予備隊でも、そういう治安という、国内治安だけの目的を今持たしている。その時に使われるか知らんが、ともかく現在は持つていない、そういうふうな考え方で、ともかく有効という考え方にいろいろあると思いますが、自衛権を有効に行使する手段方法を持つていないということにまあ一応思います。そういたしますと、これは大橋法務総裁にお聞きしたいと思うのでありますが、そういう有効な手段は持たない、国を守るためにそういう有効な手段は持たないというふうに決心した日本そのものが、自分は持たないが他人の力は利用するんだというふうなのが、大体この條約における、要するに真空状態が起つたから、それに対して自国を防衛するためには、直接の侵略に対してアメリカ安全保障條約を結んで、そして自国の安全を保障してもらおう、そして外国の侵略があつた場合には撃退するという考え方になるわけですから、自分は持たないんだが、自分の意思によつて他人の力を利用するということになつて参ることは、これは明らかだと思うのでありますが、そういうふうなことは第九條の精神から申しましても文理解釈から見ても出て来ないじやないか、そういうふうに考えるのであります。つまり自分自身が或る犯罪を行おうとする、併しながら自分は手を下さないんだ、誰かをして行わしめるというような方法をする、それは明らかに犯罪として成立することは御承知通りであつて、要するに方法の問題になつて参る。こういうとき憲法の九條に反しないとお考えになりましようか。その点を一つお考えを承わりたいと思います。
  171. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは、例に用いられました言葉は、自分は犯罪をしませんが、第三者を用いて犯罪をすることは、自分が犯罪をしたことになるかならんか、こういう御趣旨でございましたが、犯罪の場合は明らかにそうだろうと思います。併しここに考えられておりますることは、犯罪ではなくして、国際法上明らかに各国家の固有権として認められておりまする自衛権の行使ということなんでありまして、これは即ち国際上の正義に合致し、又国際法上の道義に合致した事柄なんでありまして、その事柄をやることは、これは如何なる国にも許されたことなんであります。このために有効な手段がない場合に、第三国の力を借りるということは、これは犯罪をやろうということは全然関係がないことであります。で、もともと憲法九條というものは、これは日本における軍隊の存在というものが、過去において軍国主義に国を指導した、そして、そのことによつて他国にも迷惑をかけ、自国みずからも悲惨な運命に陷つた日本軍隊を持つということが世界を不幸にする基であつた、こういう考えから、この九條の趣旨というものは出たものではなかろうかと察するわけでございます。そうしますというと、このことと、この第三国の軍隊を利用することによつて日本が曾つての軍国主義時代のごとき成るほど自分の軍隊はないが、併し第三国の軍隊を利用することによつて外国に対して不法な侵略をやつて行く、こういうことになりますと、これは御設例のごとく、明らかに、自分は犯罪はやらないが、第三者をしてやらしめるという場合に当りますけれども、この場合はそうでなく、当然、国としてやり得べきこと、又やらねばならんことをやるのでございますから、御設例の犯罪の場合とは大分趣きを異にしておるのではないかと愚考いたすわけであります。(笑声)
  172. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうも大橋法務総裁、急に元気がお付きになつて、私の犯罪というのをおつかまえになつて非常に元気がお付きになつたのでありますが、要するに、私は犯罪ということに重点を置いておるのではなくて、法律構成として、そういうふうな、自分がやれないことを他人をしてやらしめたということは、自分がやらしめたということと同じことになつたと、こういうことを言つておるのでありまして、私は自衛権、これは明らかに国際連合憲章五十一條従つてこの問題が生れて来る以上は、これ自身が犯罪行為だなんということで言つておるのではないので、その点は大いに力まれたのですが、誤解ですから、どうぞ設例が惡かつたという点ならば私は謝まりますが、それをつかまえて犯罪行為だと言つたというふうな断定は、甚だ軽率な御断定だとこう思わざるを得ません。要するに、私の言わんとすることは、そうすると、今のようなお話になつて参りますと、九條の関係から、自衛権を有効に行使する手段を持つことは差支えない、こういうことなんでしようか、どうでしようか。
  173. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 自衛権を有効に行使する手段を持つことは差支えないかどうか、こういう御質問でございますが、これは憲法九條の関係でございますと、自衛権を有効に行使する手段といたしましても、陸海空軍その他の戰力を持つということは、これは現在の憲法では許されないことと思います。
  174. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 今度は、言葉を愼みますが、今おつしやるところは、憲法九條によつて自衛権日本にあるのだが、有効に行使することは日本自身としては愼まなければならん、憲法九條に反するものだ、こういうふうにお話になるのでありますが、そうすると、私がさつき言つていたように、自分の力では持つことは愼むのだ、憲法九條に違反するのだ、併し国際法上、嚴として自衛権というものは認められておるのだ、その自衛権によつて自衛権の存在から起つて来て、この安保條約によつて米英軍の、他人の力を借りてそうして日本の国の安全を保障してもらう、他国の侵略に対して防衛してもらうということが、憲法九條上許されるかどうか。自分の国の軍隊ではいけない、アメリカ軍隊が代つてその役目をするのはいいのだ、憲法九條には反しない、こういうふうなお考えでございましようか。
  175. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 甚だ失礼でございまするけれども、堀木委員の御質問はやや詭弁だと思うのでありますが、それは、私の申上げますことは、日本国といたしまして必要な場合に自衛の活動をする、これは自分の国の力でやることはいけない、こう今言われておりまするが、これは表現がやや正確を欠くわけでありまして、日本といたしましては、自衛の場合に必要な活動といたしますることは、その限りにおいてはすべてよろしいわけでございます。但し、その場合において、憲法に許されざるごとき方法によつて自衛権を行使するということは、これはその方法がよろしくない。こういうだけでございます。外国軍隊の問題は、憲法において制限をした事柄ではございません。憲法第九條は、これは日本みずからが戰力を持つことだけを制限いたしておるのでありまするから、憲法に関係のない第三国の戰力を利用することによつて、もともと許されておるところの自衛上の一切の活動をするということは、これは憲法として差支えないことである。こう考えなければならんと思います。
  176. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 どうも、大橋法務総裁、だんだん憲法は国内法だということを明らかにしておいでになつたので、私は非常に先ほどの議論から見ると欣快に堪えないのであります。どうも憲法は国内法だということは、これはもう誰もわかり切つたことなんで、あえて法務総裁を要しないのですが、ただ私の申上げるのは、憲法の余りいろいろな條文を引用いたしますとペダンテイツクになりますし、又話が多岐になるので、非常に限定しておりますので、御理解が付きにくい所があるかと思うのでありますが、併し憲法の前文によつても、要するに、国際の正義を信頼して、日本としては永久に戰争することを放棄するのだ、こう言つているわけです。だから、これはもう明らかな規定なんだから。併しそれは自分の国の軍隊では……成るほど直接には憲法第九條は国内のものである。併しそうした日本国が他国の軍隊によつて守られる。他国の軍隊、これは御承知通りに、日本国の要請によつたということが書いてあるはずでございまするが、ともかく日本国がお願いして、そうしてアメリカ軍隊に駐留してもらうということにきめるわけですから、日本人自身が他国の軍隊によつてそうして守つてもらう、その他国の軍隊が、アメリカ軍隊が他国の侵略に対して防衛してくれる、そういう戰争の手段にはよらないのだといつたのが、私は憲法の精神であろうと思う。そうすると、その精神から見ますと、どうもその点が、自分のところの軍隊を使つちやいけないのだが、よその軍隊を使うことは差支えないのだというように考えられないのでございますが、もう一遍その点を明らかにして頂きたい。
  177. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは、結局憲法第九條というものは、日本が自家用の軍隊を持つてはいけない、自国の軍隊を持つてはいけないという意味でありまして、他国の軍隊の力を借りて平和と安全を図ることを禁止した意味とは私ども考えておらないわけであります。勿論、これは、外国の部隊を一括いたしまして政府が傭兵をし、日本の指揮命令によつてその軍隊が全く日本のためだけに活動する、そういうような制度であつたら、これは自国の軍隊と同様でありまするが、併しこの場合においては、それとは趣きを異にいたしておるので、憲法第九條は、そこまで禁止した意味とは私どもは考えられないのでございます。
  178. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 それでは問題をもう少し明らかにいたしますが、実は行政協定の内容に入りませんが、行政協定は、少くともアメリカの軍が日本の国を守つてくれるために活動する、ふだんからいろいろな便宜を供與する、これは明らかであります。そうして、アメリカ軍隊が他国の軍隊と交戰状態に入りまして、日本の国を防衛するために他国の軍隊と交戰状態に入りましたときに、日本人は、これに対して当然の義務として、これにあらゆる便宜と協力を惜しまないということは私は当然だと思う。それは日本人自身の意思によつてやるのでありますが、それでも戰争行為はしておらない、こういうふうにお考えになりましようか。
  179. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 日本が宣戰を布告するとか、或いは日本の発意によつて戰争が始まる、そうして日本が交戰権の主体になるというようなことは、これは憲法上禁止するところであります。さようなことはあり得ないと考えます。
  180. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 如何にも従属的な関係に立つようにお考えになりますが、少くとも、これに日本国の力、持つておる力で協力するということは、日本人自身の意思、日本の国の意思そのもので決定しておるのでありますが、だから、これは何も、條約であります以上は、向うさんが要求したから、こつちは意思なしに行くというなら、占領状態にある場合と同じことであつて、独立国になつてからは、自分の意思で協力し、そうして最大限の協力をする、こういうことに相成りますると、これは私に言わせれば、日本人自身、アメリカの実際の実勢力から見ますと、問題にならない力同志の間でありまするが、少くとも日本人自身の立場から言えば、自由に独立した意思に立つて、そうしてこれに協力するのでありますから、それは、やはり戰争に従事しておるということに私はなると思うのでありますが、そうお考えになりませんか。
  181. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法におきましては、日本が戰争に入るということは明らかに禁止されておりまするから、その場合に、米軍に対する日本の協力というものもおのずから限度があるということでありまして、日本みずからが戰争に入るというような程度までの協力ということは、これは憲法上不可能なことと考えます。従つてその程度に達しない程度において米軍に対して協力する、これは無論国内法の認めるところによつて自由に決定できるところであります。
  182. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 もう一つ明らかな例を申上げますと、行政協定の内容的なものに触れてちよつと申上げたのですが、確かにこのアメリカの駐留いたしまする軍の費用は日本が持つ、分担金を持つ、無論どの程度持つのか知れませんが、まだ決定しておりませんが、少くとも持つのであります。軍自身の費用をともかく日本の意思で今度は持つのであります。今までと違うのであります。日本の意思で持つのでありますが、それでも戰争行為に協力する、実力的には協力でありますが、法律的に見れば共同動作です、こういうふうに私は考えるのでありますが、そういうふうにお考えになりませんでしようか。
  183. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういうふうには考えません。
  184. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私、又いよいよ常識問題、健全なる常識の判断になるのですが、他国の軍隊に、駐留して下さい、私の所が第三国から攻撃を受けたときには大いに戰つて下さい、私どもはそれに対してできるだけの便宜を供與いたします、そうしてそれに伴ういろいろな行政協定を、自国の国民権利義務まで制限して、そうして協力いたします、そうしてその費用の一部も持たして頂きます、こういうように考えておりますのは、戰争行為についての共同動作を予定したもの……、ただ実力がありませんから、実際的に見ればそれは非常に小さなものかも知れませんが、併し日本の国の意思でそれをやつてる以上は、どうしたつて戰争行為を共同してやつているということは明らかだと思います。如何でございましようか。
  185. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) それは、アメリカが仮に日本を守るために、第三国との間に戰争がある、その場合に、日本が協力をアメリカ軍のためにする、それは戰争をしておるアメリカ軍に対して日本が協力をしておるのでありまして、このことが直ちに、日本が共同にその戰争をやつているということにはならないと思います。若し協力の程度が甚だしくなりまして、その程度になるとすれば、それは、憲法で日本が交戰権の主体になることを否認しております、その規定に違反することに相成りますから、政府といたしましてはそこまでの協力は不可能であると考えます。
  186. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 御注意がありましたから成るべく……。それでは、大体私と大橋法務総裁はどうも考え方が違うのですが、健全な常識を持つた者はどつちの判断が正しいと思われるかは別にいたしまして、とにかく少くともどうも私の質問に対して十分お答え願つておりませんと思います。  最後の一点は、今度行政協定が作られる、第三條の行政協定は條約だということは大橋法務総裁が言われておるわけであります。内容についてはほかのかたがたから随分お聞きになるようでありますが、ともかく一点お聞きしておきたいことは、この行政協定は国家間の約束であつて、條約だ、こういうふうにおつしやつておるわけでありますが、その内容的なものに、明らかに日本国民権利義務を、国民の憲法上保障された国民権利義務を制約するものが入つて来るだろうということも何人にも肯かれる。そうして主権を或る程度制約される。無論、主権の制約ということは如何にも重大な問題のようでありますが、無論、国際連合自身に加入するだけでも、それだけでも主権の制限が起つて来る。とにかく主権が或る程度制限されるということは、これは誰も予想することであります。そうすると、それが国家間に約束されましたときに、これは内容が一番安全保障の実のある所だと思うのですが、実体的なこれを細目協定だとおつしやるのはおかしい。これが一番実のある所だと思うのですが、と同時に、これをきめる前提の情勢というものが非常に大切だと私は考えます。けれども、そのときに、先ほど法務総裁がこの連合国財産補償法案でおつしやいましたように、両国間で取極められたものは、これは自由に我々の審議の対象になるものだ、国内法としてできるときには、何ら制約を受けないで、自由に変改ができるものだ、こういうふうに考えていいのでありましようか。どうでありましようか。
  187. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 法律的には勿論自由に国家としては審議権があるわけでございます。併しながら、この行政協定というものは、この日米安全保障條約というものの締結前提とし、而も国会において承認され、有効に締結されたということを前提にいたしまして、その内容たるアメリカ合衆国軍隊日本国内及びその附近における配備を規律する條件についての行政協定でございまするからして、この行政協定の審議の際においては、少くとも現在の安全保障條約というものが有効に成立しておるということを前提にして審議しなければならないということは、これは実際上の問題として、当然考慮しなければならん問題だと思います。併しながら、法律的には無論自由に審議の対象になるべきものと考えます。
  188. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 最後に、あなたの御管轄に非常に関係が多い、又前に遡りますが、裁判所が、條約上の義務日本の国が負つておる條約上の義務、そうしてそれが国民権利義務を制限しているという場合に、裁判がその点を全然無視した裁判をやつたときに、これは法律上欠陷のあるところの判決である。こういうふうにお認めになりませんか。一つその点をお聞きしたい。
  189. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 條約につきましては、憲法第九十八條に、「日本国締結した條約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」又第九十九條に、「裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」こういう規定がありまするので、有効なる條約というものの趣旨に反するような判決がありました場合においては、この憲法九十八條第二項又は九十九條というものから、当然憲法上不適法な判決であるという批評を免れないと思いますので、これが下級審である場合におきましては、その点を理由として上訴の道は当然に開かれるであろうと考えます。
  190. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 非常に明らかになつたのでありますが、確かにそうすると、大橋法務総裁の言われる事実上の効力でなしに、法律上の効力があるということだけは明らかになつて参りましたが、裁判所がこの点について無視した判決をしたときには法律上これは欠陷のあるところの判決だと、ですから、そうなると、やつぱり法律上の拘束力があるということは、はつきりしておるのではないでしようか。
  191. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 無論、條約でありまするから、法律上の拘束力のあることは当然なんですが、御質問趣旨ちよつとわかりかねるのでありますが……。
  192. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私は実は随分長く繰返しましたのですが、ときには、事実上の拘束力であつて、国会の審議権を何にも拘束しないものだというふうな考え方を一方において述べられておられると思うと、これは明らかに法律上拘束力があるのだとおつしやるわけなんです。條約そのものは法律上の拘束力がありとすれば、その條約と憲法及び法律との関係はどうなりますか。法律的な御解釈をお願いして、私の質問の最後にしておきます。
  193. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 漸く御質問の御趣旨がわかりました。この條約がある場合において、その條約を実施するための法律案等の審議において、国会が完全に自由であるかという点の御質問であろうと思いますが、これは憲法の第九十九條によりまして、国会議員は憲法を遵守する義務を負う、それから九十八條第二項の、條約は憲法上遵守さるべきものである、この二つの規定がございまするからして、この範囲においては当然憲法上その趣旨で国会の審議を取運ぶべきである、これは当然なことであると思います。ただ、その範囲において、これに反する趣旨の議決が行われるというような場合においても一旦その議決は成立する、当然無効になるという意味ではないという意味で、先ほど自由であるということを申したわけであります。この点は訂正いたしておきます。
  194. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私の質問に答えて頂いたならばよかつたのでありますが、私はそこまではわかつておるのですが、そういう條約が国内法としても立派な拘束力があるということはご憲法自身がそれに道を付けておる。憲法自身が道を讓つておる。こういうようなことになつて参りましたときに、その條約上の効力、法律上の効力と憲法に基く法律との関係、これだけを、国会の審議権のことも何も要りませんから、それだけ御説明を願いたい。
  195. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 條約の効力ということになりますると、これは、條約につきましては、実質的効力、また拘束力、いろいろ一言に効力と申しましてもその意味にはいろいろあると存じます。それぞれの場合におきまして、又その拘束力、実質的効力というものについては、必ずしも同一の運命に従わないわけでありますから、いずれかの場合に分つて考えなければならないと存ずるのであります。即ち、憲法に違反した條約があつた場合、それは国内におきましては実質的効力を持つものではありません。併しながらそれは條約としての拘束力はあるわけであります。従いまして、その後において新らしい條約の趣旨に憲法を改正しようというような場合、その審議においては国会としては十分その点を考えて行動しなければならない。又憲法改正の後におきまして、或いは合憲的な條約におきまして、その條約を国内において実現いたしまするための法律案の審議等においては、関係機関はその拘束を受ける。又憲法違反の條約におきましても、対外的の関係におきましては国家として拘束力を持つ。こういうふうに考えてよかろうと思います。
  196. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私、大橋法務総裁にだんだんお聞きいたしましたが、私としては納得いたしかねる解釈が相当多いのであります。併し私だけ時間を取りますことは審議に対して申訳ないと思いますから、私の質問はこれで打切ります。
  197. 曾禰益

    曾祢益君 二、三点大橋総裁に御質問いたしたいと思います。その前に、只今堀木委員との質疑応答を伺つておりまして、私、本日の大橋総裁の御答弁の中で、二つばかり、これは外国人が聞いたらびつくりするだろうというニユースがあると思います。第一は、この前文におきましての最後の所に「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」と書いてある。この問題について、いわゆる法律論としてこれは日本義務になつておるとか、或いはアメリカが期待しておるとか、かような御議論があつたが、その点、私は質問の中心ではないが、ただ大橋法務総裁は、これが戰力の保持を禁止しております憲法の精神に反しないのだという点を中心にお考えになつてつたからだと思うのですが、このアメリカの期待そのものは、例えて言うならば、ヴアンデンバーグ決議と何ら関係のないことである、或いは、再軍備に対するアメリカ責任ある当局のいろいろの機会に行われたところの声明でありますとか、日本が再軍備するということに関する期待に関する声明、これらと何ら関係がない。或いは又、ここに言うておることは、第四條にあります暫定的な安全保障條約を締結することを予想しまして、その際における、或いは国際連合による或いはその他によるところの集団防衛、こういうことも含んでおるかのような御説明があつたのですが、これは私は非常に変なことではないか。これは端的率直に言いまして、アメリカがここに言うておることは、堀木委員も言われましたように、はつきり言えば国際連合憲章精神に基いた軍備である。軍備のみに限つてないでしようが、軍備を含む自衛上の責任を逐次増加して行つてくれということの期待であつて、そのこと自身は集団安全保障体制に入ることを予想しておるものではない。即ち日本が軍備を含むところの自衛態勢の強化、その責任を持つことの期待をアメリカは端的率直に出しておる。私はかように思う。このことが、日本から言つて、憲法に違反する義務を負うたことに直接なるかならないかということについては、議論があると思います。私自身これだけで直ちに日本がそういうような直接の義務を受けるとは法律的には考えられないと思います。併し、そのことを証明せんがために、ここに書いてある期待自身がいわゆる軍備的なものを含んでいないというふうなことを言われるならば、それこそ、これは非常におかしなことである。それでは、いつまでたつても、日本アメリカ駐兵によつて、自衛上の責任をとらないということになる。ヴアンデンバーグ決議と無関係であると言われましたが、私に言わせるならば、この極めてまずい、極めて自主性のない、安全保障條約として極めて特殊の内容を持つた而も不対等の形式を持つたかような條約ができた一つの原因は、即ちヴアンデンバーグ決議があるからなんだ。ヴアンデンバーグ決議があつて日本にヴアンデンバーグ決議が言つておるところの「継続的且つ効果的な自助及び共同援助」の根幹をなす自衛力がないからこそ、こういうまずい條約ができるとは私は申しません。併しそれが一つの根本原因であつて、そして、かような條約ができたのだ。大いに関係があるのだ。何故にこの條約がヴアンデンバーグ決議と無関係であると言われるか。大いに関係がある。ヴアンデンバーグ決議があるから、アメリカとしては、ヴアンデンバーグ決議には該当しない條件であるけれども、特別に日本駐兵して上げましよう。それも日本から先に是非駐兵して下さい、それじや、して上げましよう。併し長い間は困ります、漸増的に日本自衛力責任を持ちなさい。こう言つておるのであつて、このことがヴアンデンバーグ決議に関係がないのだとは、とんでもないことであります。若しそういうことで行くならば、政府は成るほど憲法に反する條約を、政治論として、作るべきでない。併しそうかと言つて、ここに明白に寄せられた期待に対して、日本は、ここに書いてあるアメリカさんの期待は一切の自衛力の強化ということを含まない、いわゆる軍備を含んだ自衛力の強化ということは決してここに言つていないのだということは、これは、日本の今日の大橋法務総裁の言動というものは対外的に非常に大きな反響を呼ぶことになる。その点について第一に意見を承わりたい。
  198. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 曾祢君にお答え申上げますが、安全保障條約の前文の末項において表現いたしておりますることは、これはアメリカの期待であつて、それが日本義務意味するものでないと申上げたわけでございまして、この点は御質問の御趣旨にもあつた通りでございます。  次に、私の申上げました点は、これは軍備だけを意味するものではないのであつて、「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負う」ということは、決して軍備だけを意味するものではなかろうという私の考えを申上げたわけです。軍備を含まないということはもとより考えられない。当然軍備ということは含んでおると思います。併し軍備以外にも何かさようなものが含まれておるのではないかということを申上げたつもりでありまして、若し軍備を含まないという御趣旨にお聞き及びでございましたならば、この点は、私、訂正さして頂きます。  それからヴアンデンバーグ決議とこの末項が関係ないと申しましたのは、これは御質問の御趣意が、この末項において終期を……この暫定的という意味がいつ終るか、その時期をこの末項において予定されておるのであつて、そうして、それはヴアンデンバーグ決議によれば、日本が軍備を当然持つことを期待されるべき筋合いのものであり、日本が軍備を持つ時期においてこの條約が暫定的措置としての使命を終るべきものではなかろうかと、こういう御質問の御趣意でございましたから、この條約の終期につきましては、第四條にありまする通り、「国際連合又はその他による日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じた」という、その時期に終るべきものである。それは即ち第四條の文面から申しまして、日本の再軍備ということだけではない。それ以外にも、第四條の趣旨から言えば、集団的安全保障というような方法によつて終ることも考え得るのではないかという趣旨で、お答えを申上げたつもりでございます。
  199. 曾禰益

    曾祢益君 第一の点について、前文に言つておるアメリカの期待の中には軍備を含むのだという意味ならば、それでわかるのでありますが、もとより軍備のみでないことは、これは治安の責任者である法務総裁を待たずしても、これは国内治安上の能力のこともありましよう、それから直接侵略に対する自衛力の問題もありましよう。軍備のみだとは勿論言つてないのですが、あたかも軍備ということは含んでないようなことを言われた。これは一つ速記録でお調べ願えばわかるのでありますが、それでお聞きしたのです。私、その点はそれでよろしうございまするが、第二の点で、集団防衛と言われたのですが、然らば、第四條に予定しておりますいろいろな場合がここに書いてあるのであります。それについて「国際連合の措置」、この場合には、あなたは、日本はその自衛力は要らないとお考えであるかどうか。それから次に「個別的若しくは集団的の安全保障措置」、この場合は日本の軍備と如何なる関係になるか。この点をもう一遍はつきりと御説明願いたい。(「研究中だ」「会議中だ」と呼ぶ者あり)
  200. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この條約の文面だけでは、必ずしもその場合に日本が軍備というものを持たなければこういうことは不可能であるというふうな趣旨には考えられないと思います。
  201. 曾禰益

    曾祢益君 今、法務総裁は私が申上げたことをよくお聞きにならなかつたようです。私も、第四條の解釈から言いますると、必ずしも日本が軍備を持つことのみが唯一の方法でないように思うのです。ですから、その点をもう少しはつきりさして頂きたいのです。ここに書いてありますように「日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置」、この場合……。(「会議中だ」と呼ぶ者あり)私の言うことをよくお聞きになつて頂きたい。
  202. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) いや、聞きながらこちらと打合せをしております。
  203. 曾禰益

    曾祢益君 それは、あなたは非常にお利ロなかただから、聞きながら相談できるかも知れないが、一遍お聞きになつてから、そうして御相談下すつて返事をして下すつて結構ですから、もう一遍お聞き下さい。「国際連合の措置」というのは……(「そんなに後ろにおらんで、隣におればいいじやないか」「ちつともかまわん」と呼ぶ者あり)よろしうございますか。それでは始めます。私はその点をもう少しはつきりとお示し願いたい。先ず「国際連合の措置」というのがありますね。この場合は、日本の軍備を当然の前提にしておるか、していないか、必ずしも含まない場合があるのか、これが第一点。それから第二は「個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じた、」この場合、個別的ということは、これは條理から言いましてその個別的の対象は日本でしようから、個別的な安全保障措置という場合には、日本の軍備を含む自衛力意味していると思うのです。従つてそれはもうわかつておる。そこで、ここに書いてある「集団的の安全保障措置」という場合に、先ほど法務総裁が言われたような、日本の軍備を全然伴わないような他の何か集団防衛というようなものがあるように言われたから、果してそういうものがあるのかどうか、この三点についてお答えを願いたい。
  204. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 今御質問の点につきまして西村條約局長とお打合せをいたした結果を申上げます。(「ダレスさんと相談したほうがいい」と呼ぶ者あり、笑声)第一に、「国際連合又はその他による日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置、」これは必ずしも日本の再軍備ということを前提にして考える必要はなかろうということでございます。  それから第二の、これに代る個別的安全保障措置若しくは集団的の安全保障措置という点でございますが、これは、理論的には、強いて考えれば、特に集団安全保障の場合におきましては、日本の武力を必ずしも理論的には前提としなければならんとは思われませんが、併しヴアンデンバーグ決議等の趣旨から考えますると、実際的には日本の再軍備ということを前提にしなければあり得ないことであろう、こういうことであろうと思います。
  205. 曾禰益

    曾祢益君 それで、はつきりいたしました。従つて先ほども総裁が言われたように、第四條に関連して、若し日本の再軍備を前提としない形で何らかの満足な安全保障ができるという余地がありとすれば、それはただ一つ国際連合の措置だけなんだ。そういたしますると、この前文に言つていることは、国際連合の機構が十分な世界の平和を保護する恒久的な永続的な常駐的な警察力を持つというようなことを期待するのではなくて、日本自衛力を持つことを期待しているんではないか。だから、さつきあなたのおつしやつたように、この点に関しては、第四條とはこれは全然関係なく、やはり前文に書いてある期待は、国際連合がそのうちに立派に世界の警察的能力を十分に永続的に持つてくれるだろうからというので、アメリカ軍の駐屯を頼んで、そうしていわゆるフリー・ライデイング、ただ乘りすることは許されない。漸増的に成るべく自衛力を持つという期待を書いてあるのであつて、その期待には当然日本の軍備を含めた自衛力の強化、これが中心なんだということは、あなたもお認めにならなければならない。こう思うんですが、如何でございますか。
  206. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 前文の末項におきましては、これは軍備のみが自衛力というわけではありませんが、軍備をも含めた自衛力というものを当然日本みずからが漸増的に準備すべきものである、こういうことについてのアメリカ側の期待を書いたという御趣旨につきましては全然その通りに存じます。
  207. 曾禰益

    曾祢益君 いま一つ総裁が、堀木委員に対する御回答の中で、これ又憲法第九條に関連して、堀木委員の極めて緻密にして巧妙なる質問で自然さような御回答になつたのではないかと思うんですが、即ち日本に不幸にして直接侵略の外部からの武力攻撃が加えられた場合に、これが日本の国の交戰権の問題、或いは国権の発動たる戰争ということとの関連において御質問があつたのですが、総裁のお答えによると、これ又、外国の新聞がこれは大々的に報道するのじやないかと思うのですが、こういうような場合にはアメリカ軍隊が主体になつて、これに対してどの程度日本が協力するか、日本国民が協力するか、これらのことが安全保障條約の限界であり、或いは行政協定の限界である。そうして日本が主体になつたらば、それは憲法第九條に反するという建前でお答えになつたと思うんです。私は、これはちよつとおかしいんではないかというように考えるんです。これは日本がこの攻撃を受けた場合に、いわゆる自衛力がない。従つてかような日米安全保障條約みたいなものをお作りになつたんだと、私はその全部を肯定はしていないんですよ、併し政府の考えから言えば……。そこで、そういう場合に、日本自衛権発動として、いわゆる外力を利用するのだ、自衛権内容の中核体はアメリカ軍隊だということになるのだから、然らば日本はそういうときにアメリカ軍隊日本が協力するのだというような受動的な立場にあることを憲法第九條の第一項がきめているのだ、私はこれは法律家でないですから九條の解釈は知りませんが、これは條理的に言つておかしいのじやないか。日本武力攻撃を受けて、いやしくも独立国である以上は、その場合に日本を主体的に考えて、日本自衛権を行使すべきではないか。ただ、その手段において我々が主体的な力を持つておらない。こういうふうに考えるべきであつてアメリカ軍隊攻撃を受け、そのアメリカ軍隊日本人がこれを援助するのだ。その援助の限界がどこまで行つたら憲法に反するかというような御答弁であれば、これこそ誠に外国人はびつくりするだろう。果して日本は独立国であるのかどうか。自衛力を持つていないという特殊な状態は、これは国民にも又外国人にもわかつている。併しそんな、アメリカ軍隊攻撃を受けたから、それに協力するのだというような建前で行くならば、これは、それこそいろいろ論じ盡されているように、日本が植民地、或いは信託統治下における我々の姿であるということにしかならない。この点はどうも私はわからないんですが、あなたのような法律家から憲法第九條の説明をもう一遍して頂きたい。
  208. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 誠に御尤もな御質問でございまするが、この点に対する私のお答えは実は御質問と関連してのお答えなんでありまして、もとより不正の侵害に対しましては日本国みずから自衛権というものはあるわけでございます。この自衛権を行使するために有効な手段は持ちませんが、たとえ有効ならずといえどもあらゆる手段を盡して、国としては自衛のために行使をすることは、これは当然の事柄であります。次に米軍が交戰の主体となつて日本がこれに援助をするということを申しましたのは、その場合におきましては、当然米軍も又日本の安全のために安全保障條約の精神従つて戰鬪行為を始めるだろうということは期待される。その場合において、アメリカ軍に対して日本としてはどの程度まで協力すべきものであるかという問題でございます。この協力の面と、日本みずからの自衛権発動のための活動の面と、二つの面が法律的には考えられるわけでございます。勿論この二つの面は、御指摘通り日本の場合におきましては嚴密にこれを区分して、これは援助の面であるか、或いはこれは自衛権行動としての日本国自身の活動であるか、これを区別するということは、実際問題としては、これは恐らく不可能に近いと存じますが、併し理論的な問題といたしまして法律上の、法律上強いて区別をいたして申上げますならば、先ほど申上げたようなお答えが出し得るのではないか。これは御質問に対するお答えといたしまして、結局御質問の点に対しましてお答えを申上げて見たわけでございます。改めて曾祢委員から仰せられた点についてお答えを申上げますなら、只今申上げました通り、実際の問題としてその二つの活動を区分するということは非常に困難であろうと思います。
  209. 曾禰益

    曾祢益君 まあ非常に巧妙なるお答えですが、私はやはり主体というものが明らかになつていなければいけない。日本攻撃を受けた場合に、日本自衛権発動としていろいろな措置がとられる。又その自衛権発動と、国際連合憲章に基く権利として、いわゆる集団安全保障措置というふうなものが平素からとられて来る。だから、自衛権発動、国家を主体に考えて自衛権発動が主である。あとは手段である。そこで手段であるところの実力としてはアメリカが大きいのだから、何といいますか、具体的に言えば、今度は却つてこのアメリカ軍というものを中心に考えて見れば、これに対する国民の協力というような考えが出て来るけれども、その本末を顛倒してはならないのではないか。これが私の申上げたいところであります。大体それで、私が希望しておりますというと語弊がありますが、伺いたいことが明らかになつたので、実は私が結局伺いたかつた点は、もう一度前文に帰るのでありますが、直接侵略と間接侵略という言葉がある。これは我々も最近非常に使つております。ただこの言葉が国際條約上用いられたことはあるかも知れませんが、少くとも我が国が主体であるところの、締約国であるところの條約の中で用いられた以上は、直接侵略ということは、大体これはもうわかるのです。だから間接侵略ということは一体どういうことを意味するのであるか、これに対する嚴密な解釈を一つはつきりとして頂きたい。これをすぐただ治安の問題だというふうに機械的に分けることは、私はちよつと納得ができない。然らば間接侵略というのはどういうものであるか。これは法務総裁は、あなたの主管事項であるからよく内容も御承知であろうから、内容に即した合理的な法律的解釈を聞かして頂きたい。
  210. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これも実は西村條約局長とお打合せした結果を申上げますが、ここの間接侵略と称しておりまするのは、第一條に書いてありまする「一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騷じようを鎭圧するため」云々と、こうありまするが、これを間接侵略という表現をいたした次第でございます。
  211. 曾禰益

    曾祢益君 そうしますると、ここにいう間接侵略というのは、非常に限定されて来まして、明確になる。そこで、果して私はここにいう間接侵略というものが、第一條にはつきり書いてあるようなものだけであるか、字句として現にそういうふうにのみ使われているか、これは非常に疑問があります。例えばダレス氏のしばしばの演説等を御覽になればおわかりのように、間接侵略という言葉は、まるで思想攻勢、平和攻勢みたいなものに使つておる場合もある。そうかと思うと、共産党の暴力革命、即ち外部との直接の関係を持つて、むしろ外部にその指導力があつて外部から指導し、援助し、或いは使嗾してやらしたような特殊な暴力革命を間接侵略と、こういう場合もある。果してこの第一條意味だけであるということは、あなたは、はつきり條約局長に相談されておつて、間接侵略という意味は、確かにこの第一條だけの場合を示すのかどうかということを、もう一遍御確認願いたい。
  212. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは條約局長とお打合せの上で答えておるのでありますが、少くともこの條約を理解する上におきましては、前文にありまする間接侵略という意味は、只今申上げました通り一條の間接侵略を指すと、こういうふうに考える次第でございます。
  213. 曾禰益

    曾祢益君 そういうお答えですと、この間接侵略という意味については、純国内的な如何なる大規模の内乱、騷擾があつても、そういうものは含まない、こういうわけですね。その点は明確ですか。一般の治安維持能力ばかりでなくて、特殊な外部的なものだけをここに示しておるのである、こういうふうに考えていいですか。
  214. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この條約の前文に関する限り、そういう意味に理解いたしております。
  215. 曾禰益

    曾祢益君 そこで伺いたいのですが、然らば、この第一條に書いておるような間接侵略というものは、一体、直接侵略とどういう関係にあるか。全然無関係に、機械的に、直接侵略というものと間接侵略というものを、——観念的には分けられるでしようが、現実にそういうものが全然分離されて考えられるものであるか。これは法務総裁の非常にお得意の共産党に対する理論等の御研究から言つて、一体どうお考えになるか、これを伺いたい。
  216. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これはむしろ曾祢委員のよく御承知国際情勢等をお考え頂けば、御理解が十分にできることではないかと思います。即ち、直接侵略、間接侵略というものは、それぞれ別々に出る場合もありまするし、又間接侵略が直接侵略の予備的な段階として出る場合もありましよう。その場合々々においていろいろの関係になると思いますので、一概には言い得ないと思います。
  217. 曾禰益

    曾祢益君 もう少し詳細に伺いたいのですが、多くの場合において、この間接侵略だけが直接侵略と無関係に行われることありとお考えであるか。この点をお伺いいたします。
  218. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういう場合もあると考えます。
  219. 曾禰益

    曾祢益君 その点はその程度にいたしまして、最後に行政協定についてお伺いしたいのであります。それはたびたびの……、私は直接は初めてあなたに御質問するのですが、あなたの御答弁を伺つておりますると、この行政協定というものは、はつきりとした憲法七十三條に基く国際條約であるから、従つてこれは国会の事前若しくは事後の承認を要する。而してこの安全保障條約を承認することによつて事前にこれを承認しておるのである。    〔委員長退席、理事加藤正人君委員長席に着く〕  従つて行政協定では、内容如何なるものを作つても、この條約に基くところのアメリカ軍日本国及びその附近における配備を規律する條件である限りは、もう国会の審議権というものは、事前にいわば委任しておるようなものであるから、かようなことを一本取つておきさえすれば、どういうものを作つても、それは憲法第七十三條にも反しないし、一般的に言つて国会の審議権に何ら反しない。かようなふうな御説明であると思うのでありまするが、果してその通りであるかどうか。
  220. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 第三條の行政協定につきましては、この條約の御承認によりまして、併せてこれに当然随伴いたしておりまする行政協定についても事前の御承認があると、こう考えるわけであります。但し、この行政協定におきましては、法律或いは予算を必要とする事柄につきましては、政府といたしましては、必ず別途予算案又は法律案の御審議を待つという態度をとるつもりでございます。
  221. 曾禰益

    曾祢益君 それは、行政協定の中で、法律、予算等、要するに国民権利義務に関連することで国会の承認を得なければならないことは、別に法律なり予算という恰好で国会の審議を求めると、こういう意味ですか。
  222. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういう意味であります。
  223. 曾禰益

    曾祢益君 それは私にはどうもわからないのですが、行政協定に、今ならまだ起らないが、併し平時に外国軍が国内におるのでありまするから、この特殊な事態に伴つて国民権利義務に関連する事項が出て来る。或いは防衛分担金の問題等が出て来るから、さようなことは法律なり予算なりの形で当然国会の承認を得なければならない。そうして国会の審議権を尊重する。これなら話はわかる。併し一方において国際條約の形においては、あらかじめ議会から委任されておいて、そうしてその中の……その中身なんですよ、その中身であるところの或る種の問題は、国民権利義務或いは予算に関するから、それだけを改めて国会の審議を頼むというなら、何のために初めに委任をしておく必要があるのですか。そこの点の御説明を願いたい。
  224. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この行政協定というものは、その都度これは国会の承認を受けることなく、あらかじめ事前に御承認を受けておるという趣旨において、この條約案ができておるからであります。
  225. 曾禰益

    曾祢益君 御答弁一つも直接御回答になつてないのです。だから私は申上げたように、第三條の趣旨は、はつきり書いてあるのでわかるのです。そこで国際條約の形においては、委任立法といいますか、白紙委任という言葉が惡ければ、政府が委任を取つてしまうわけです。そうして今度その内容であるところの問題について、別に国会の審議権を尊重して、條約が法律や予算という形で改めて国会の審議を経るというのはおかしいじやないですか。それなら初めからそういうような手続を、二重の手続をとる必要はない。行政協定の内容は、法律、予算なんかの形をとらないような、別の、例えば軍隊の配備に関すると書いておるんでありますから、どこに軍隊を置くとか、地理的なロケーシヨンだけの問題等を行政協定できめることになるから、行政協定の内容はそういうものに限ります。そうして外国軍隊と日本国民との間の権利義務の問題、権利義務関係、例えば……、西村さん前に進んで下さい。もう少しで終ります。途中で切られるとやりにくいのです。
  226. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) どうも済みません。
  227. 曾禰益

    曾祢益君 ダブるかも知れませんが、例えば日本国民と駐留軍との間の裁判管轄権の問題というようなことは、改めて必要なる法律をお出しになればいいのです。これは行政協定から離すというのなら、話はわかる。ところが、どんなものを作るかわからない、而も重要なものがあれば、別に法律なり予算として国会の審議を受けますと言つておいて、そうして今度はそういうものを総ざらいして行政協定として白紙委任をする、これで国民が納得するはずがない。あなたの言うことは少しもわからない。もう少し親切に御説明願います。
  228. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この考え方といたしましては、第三條にありまするがごとく、行政協定の内容となります事柄は、合衆国の軍隊の配備を規律する條件でございまするから、これらの事柄は、当然には国民権利義務関係ある事柄は含まないと考えます。若しさような事柄を含むという場合におきましては、政府といたしましては当然さような内容を実施しまするに必要なる法律案を国会において御審議を頂く、それが国会において成立するということを條件としてのみ、さような協定がなされるものであります。この点においては、予算並びに法律に対する国会の審議権は、全く害されることはないというふうに考えております。それで、特にこの行政協定を事前に承認を取る、そうして予算、法律については別途に国会の御審議を経るかというのでございますが、これは予算、法律案は、当然国会の審議を経るべきものでありますから、これは丁度今回の條約におきましても、この外国人の財産補償についての法律案については、別途に條約と切り離して御審議を頂いております。それと同様に、この点は別に御審議を受けるのは、これは制度上当然のことと存じます。但し、その場合におきましても、かような法律案、予算案等、国会の審議を待つて初めて確定すべき事柄につきましては、あらかじめそれが国会において成立するという條件の下に協定がなされるべきものである、こう考えておる次第でございます。    〔理事加藤正人君退席、委員長着席〕
  229. 曾禰益

    曾祢益君 只今の大橋総裁の御答弁は、極めて重大なる御答弁だと思います。今までの法務総裁或いは外務省当局更に又総理の御回答から比べますと、非常にはつきりして来た。即ち行政協定は、国民権利義務に関することを含まない。アメリカ軍の配備に関することであるから……これは私はただ一例を挙げたので、これのみに限定する意味ではないが、例えば駐屯地域はどこにするかといつたような問題で、これは国民権利義務に無関係とは言えないかも知れないけれども、直接国民権利義務関係あるものは含まない。そうなれば、これで一つの話の筋道が立つ。だから、若し国民権利義務関係するようなことが、万一行政協定の中に含んで来るようなことありとすれば、條約的な言葉で言えばアド・レフエレンダム、国会の承認を條件として、ということを明白に書いて、そうしてお作りになる。それならば、そういうものができた場合には、国会は事前に承認を與えることは不可能だ。日本政府が行政協定をお作りになるその中で国会の承認を條件とするような條項をわざわざお作りになるならばあらかじめ我々から、国会から審議権を奪つて置く必要はどこにあるか。これが第一点。  第二点は、はつきりとあなたが言われたことは、国民権利義務を含まない、そういうことは行政協定は取扱わない、かような御答弁であつた。これは非常に私は日米両国のために大変いいことだ。そこまで政府は、なぜこういうようなことを、今日まで行政協定の質疑があつたのに、これだけ明確なことを、なぜ今日まで政府責任を持つて答弁しなかつたのかということを聞きたいのですが、それは総理責任ですから、あなたの御答弁は、はつきり確認しておきます。国民権利義務を含まない。例えばアメリカとフイリピンとの間にできたあの軍事協定のような、裁判管轄の問題がどうだ、或いは今度は課税上の特権、これは国民権利義務に直接関係ないと言われるかも知れないが、そういう問題も含まない。更に防衛分担金もこれは当然予算で取扱うべき問題であるから、予算ができるまではこの行政協定に入れない。こういうように私は解釈するが、それでよろしいか。
  230. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは重大なることでありまするから、用語の言い廻しがあいまいでございます関係上、或いは誤解を生ずるというようなことを避けるために、用語を正確に申上げておきたいと思います。  私がこの国民権利義務に関することを條約において含まない、こう申しましたといたしまするならば、その意味は、條約の締結によつて国民権利義務が実質的に定められるということはあり得ない、こういう意味で申したわけです。つまり無論国民権利義務に全然無関係事柄ばかりをこの行政協定で取扱うとは限りませんでございましよう。国民権利義務に多少関係することが内容としてある場合もありましよう。併しその場合におきましても、條約に定められたからといつて、それだけで国民権利義務がすぐ條約の期待したような結果となるというような意味においての行政協定の締結はいたさない。こういう意味であります。従つて国民権利義務については法律を必要とする。こういう事柄については法律が成立した後において、その行政協定の予定をいたしておりまするごとき内容が初めて実現される。そのための法律が成立するということを條件として、さような行政協定が取結ばれる。こういう意味を申上げたかつたのであります。それで、(「おかしいな」と呼ぶ者あり)国会の承認というものを行政協定についてあらかじめ取つて置きながら、国民権利義務関係のある事柄については国会の承認を條件とすると、こういうふうに私が言つた、この点はおかしいという御質問でございまするが、その意味は、只今も申上げましたるごとく、国民権利義務につきましては、国内において法律を必要といたすのでございまして、その法律が国会において成立するということを條件としてさような行政協定を取結ぶという意味を申上げたかつたわけでありまして、その場合におきましてもすでに事前に行政協定としては国会の御承認を得ておりまするから、行政協定それ自体は、條約として改めて国会の御承認を受けるべきものであるといことは考えておりません。併し法案はこれは国会に提案されなければならぬ。従つて法律を要するごときことを行政協定の内容として定める場合においては、それらの立法措置が国会によつて成立いたすということを條件として締結されるべきである。こういう意味を申上げたつもりなのでございます。
  231. 曾禰益

    曾祢益君 どうも、先ほどの御答弁ならば非常に明確でありましたが、(笑声)只今の御答弁ではわからなくなつてしまうのですが、(笑声)国民権利義務関係することはこれは当然に法律事項であるから、法律の形において、或いは予算の形において国会の承認を受けるのだ、これは大原則だと思います。これについてはあなたと私との間の意見の相違はない。そこで、今度は、そこに行政協定という極めてあいまい模糊である、まあ化け物みたいなものがそこに出て来るわけです。そこで、この行政協定の中に、国民権利義務関係あるような、直接これを規定するようなものは含まない、この原則を……原則としてですよ、これをお認めになるかどうか。この点はどうですか。
  232. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 国民権利義務関係あるごとき事柄、即ち法律を要するがごとき事柄につきましては、その法律が成立するということを條件にしてのみ、行政協定が締結されるものと考えるわけであります。
  233. 曾禰益

    曾祢益君 そういたしますると、一体、国民権利義務を條約で直接規定したような場合には、あなたのお考えでは、一体その條約と日本国民権利義務関係はどうなるのですか。改めて法律制定の行為を要するのかどうか。それとも條約において又国民権利義務を規定する場合がありますか。例えば日米加漁業協定を作つて、特定の漁場に対しては日本国民の漁業権を剥奪するような條約ができるとして、その場合には、あなたのお考えでは、そういつた條約を作つて、そうして、そのときに別に法律ができる、法律が国会を通過することを條件としてその條約をお作りになる、こういうことになるのですか。その点はつきりして置いて下さい。
  234. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私は具体的な行政協定の締結の問題についてお答えを申したわけであります。御質問のごとき漁業條約につきましては、漁業條約において或る漁場を保護する、これに対して各国がそれぞれ国内法を以て処罰するとか、或いはその外国の監視船が公海において違反者を拿捕するというような権限を認めることは、これはあり得るわけでありまして、その場合においてそれが国会において承認せられましたならば、事柄の性質によりまして国内法を要するものは、又国内法を作るでありましようし、国内法を要せざるものは、当然に国民を拘束するということになるでありましようと思います。特に外国の監視船が違反の漁船を拿捕するというような内容の條約が批准された場合においては、これがために必ずしも国内法を必要としないではなかろうか。そういう場合には、條約の効果それ自体によりまして、当然国民が拘束されるという場合もあり得ると考えます。
  235. 曾禰益

    曾祢益君 ですから、條約によつて直接国民権利義務を制限したり何かする場合があり得る。その場合に、それに基いた細目的な国内法令を作る場合もあるし、法律を作る場合もありましよう。例し必ずしも法律を要しないで、この国際的な條約によつて直接権利義務を左右する場合があると思う。そだから、そういう心配があるから、行政協定の場合では、あらかじめ国会から白紙委任状を取るべきでないのであつて、そうして先ず原則としては、国際條約であるから、国民権利義務を行政協定の形において拘束する場合もあり得るでしよう。そこで、あり得るのだけれども政府の今度見解を聞くと、いや、そういう場合には仮に行政協定に国民権利義務を拘束するようなことが出て来れば、そのときにもう一遍今度国会の承認を得ることを條件として作るというのは、これは手続的に言つてこれは全然おかしなことになる。そうでしよう。あらかじめ国会の承認を全部取るという立場をとるわけです。行政協定にははつきりそう言つている。ところが行政協定の内容国民権利義務とは関係はない、権利義務関係ないのが原則だ、それをぼかされて、入つて来たらどうするかと言つたら、入つて来たら改めて国会の承認が要ることを條約の條件として締結する。一遍、国会から白紙委任状を取つておきながら、内容国民権利義務関係すると、今度改めて国会の承認を得るということを條件としなければ行政協定が作れないという、これは全然矛盾じやありませんか。はつきり、さつき言つたように、行政協定はそういつたような国民権利義務を直接拘束するようなものを含まない……。そういう事態は起りますよ。外国軍隊がおるのですから……。国民権利義務に至大の関係があります。直接関係のあるような……、然らば日本人と外国軍隊の間の裁判管轄権はどうするのかという問題は、行政協定では取上げないで、内容がきまつて正式に法律として国会の承認を改めて求めますとおつしやれば、我々がこの條約を審議して行政協定の問題で今日これまで心配しやしないのです。だから、その点をはつきりして下さいと言うのです。
  236. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 行政協定におきましては、この條約の御承認によつて事前に承認を得たものとして扱うわけでございまして、今後行政協定の内容如何なる事柄が定められましようとも、改めて国会の御承認を受けるという意思は政府は全然持つておりません。ただ国会の承認を受けるべきであると申しましたのは、それは予算或いは法律を必要とするような事柄については、その予算或いは法律という形においては国会の御承認を受けるべきである、こう思うわけであります。そこで、政府といたしましては、行政協定も條約であり、條約が直接国民権利義務に影響する場合は十分にあり得ると考えております。一般論といたしまして……。併し実際上は、国民権利義務に直接影響があり、従つて法律を要する事柄、又政府において特別に予算を必要とするがごとき事柄につきましては、行政協定においてそれを取上げる場合においては、政府の方針といたしまして、それに関連する予算案、或いは法律案が国会によつて可決され、国会を通じて成立するということを條件として、そういう内容の約束をいたすようにいたしたい。こういう方針である。こういうことを申上げたわけであります。従つて政府の方針がその通り実行いたされまするならば、国民権利義務を行政協定によつて直接変更するというような内容を持つた行政協定は、実際上行われないことになるわけでございます。これは法理論でなく、実際論を申上げたわけであります。これは政府の方針としてさような方針をとつておる次第でございます。
  237. 曾禰益

    曾祢益君 もう大体終ろうと思うのですが、今のお話で、結局、政府は最初の態度には何ら変更がないということを明らかにされたわけですが、それで一応第三條の恰好で行政協定としてやることについて、白紙委任状を取つておる。それは明々白々たるものであります。而して白紙委任状によつて国際條約のことであるから、原理的には国民権利義務を直接規定することもできる。従つて我々は国会の審議権の放棄、或いは少くとも国会の審議を十分にしないで、職務懈怠の虞れを国会議員として持つわけであります。併し政府は、一応原理的にはそうだけれども、政策としては、この行政協定の中に国民権利義務関係するものが出たならば、それぞれ法律或いは予算として、法律案、予算案として国会に提案して、改めて承認を求める、この点は確かですね。
  238. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そうです。
  239. 曾禰益

    曾祢益君 そうして、なお行政協定においては、そういう場合には、例えば防衛分担金で……、今のところ白紙委任状をお取りになつておるが、防衛分担金については予算の恰好において国会の承認を受ける。従つて行政協定でそういうものを取上げた場合には、行政協定の中にはつきりと一応こういうふうに約束いたしますが、第三條の規定によつて、行政協定の形で、国会から委任されたような恰好になつておりますが、予算の形において、予算として国会の承認を得たときに、この條約は、この協定は効力を発生いたします。いわゆるアド・レフエレンダムでお結びになる。こういうふうに伺つてよろしうございますか。
  240. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 明確にその通りでございます。
  241. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 議事進行について……。大分勉強して、質問者も非常にたくさんあるようでありますが、すでに五時を過ぎまして、夕飯の時刻になつておりますから、本日は議事をこれで打切りまして、質問その他の議事は、明日改めて続行することとして、本日はこれを以て散会せられんことの動議を提出いたします。
  242. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 吉川委員の動議が出ましたが、如何でございましようか。
  243. 石川榮一

    ○石川榮一君 大分長時間に亘る審議でありますから、御疲労していらつしやるとは思いますが、会期も切迫をしておりますので、この両條約の持つ重大性に鑑みまして、もう暫らく会議を続行して頂きたい。かように考えまして、今の動議に反対いたします。
  244. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) ほかに御意見はございませんでしようか。  それでは速記をとめて下さい。    〔速記中止
  245. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 速記を始めて。
  246. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私はこの問題は外務次官からも條約局長からも幾らか不完全な形で御答弁を得ておりますけれども、非常に重要な問題でございますので、完全な御答弁が頂きたいので、特に法務総裁にお願いしておきます。と申しますのはこれは非常に国際的に大きな関係を持つものであり、将来これが国際的な意味において日本に大きな関係を持ちますので、特にこの点を明快にしておきたいのであります。それは、この安保條約が私は国連憲章に違反するものであるという認識の上に立つて質問をいたすのでありますから、これが違反してないということを一つ法務総裁から明確にして頂きたいのであります。  前文の二ページの二行目に「国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。」と、そういうふうに記載されておりますが、果して国連憲章はどんな国でも、どういう性質の国でも、第二次大戰において敵であつた国でも味方であつた国でも、防衛した国でも侵略した国でも、植民地でも自立国でも、国連に加入していようと加盟していまいと、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有しておることを如何なる條文で、どこできめておるのでございましようか。
  247. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは国際條約関係でございますから外務省関係で御答弁さして頂きますが、先般からも幾度も御質問に対して縷々御答弁申上げておるのです。で、いわゆる今回の第二次世界大戰の敵国というものは、国際連合憲章で二カ所に出ておることも、前から申上げておることでございます。それから非加盟国につきましても、これに対するものは條文の中に出ておりますことも前々から申上げております。従つて国際連合憲章の……。
  248. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 ちよつと議事進行、マイクにかかるように、よくわかるように明快にして下さらんと、あなたの言葉は都合のいいときに細くなるので……。(笑声)
  249. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 国際連合憲章の敵国に対する部分はこの條文でも二カ所出ております。これも前申上げた通りもう幾度も繰返す必要はない。又非加盟国に対しまする分もこの條文に出ております。従つて国際連合憲章は、ここにありまする目的と原則との下に、世界の平和と安全に寄與するというのが、国際連合憲章目的であり原則でございます。
  250. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 全く答弁にならんと思いますな。私はですね、この安保條約が国際連合憲章に合致するか違反しておるかということを明確にしておくことは、国際的な意味において極めて重大である。ところが私は明らかに、この今読み上げました、もう一度繰返しませんが、この前文の二ページの二行目のあらゆる「すべての国が」という、この一句は、明らかに国際連合憲章に私は違反しておるように考えますが、果して国際連合憲章の十一章から十九章までの、條文にいたしまして百十一條まで、このどこの條文に、この前文の「すべての国が」かかる権利を持つておるということが規定されておるのでございましようか。
  251. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 国際連合憲章憲章としての拘束力を持ちまするのは加盟国六十カ国でありますることは、これは御質問者十分御承知の上での御質問と存じます。従いまして国際連合憲章国際法的に拘束を持ちまするのは加盟国であります。ただ、今のようなお話の中に敵国なり非加盟国のお話がありましたから、それを引例したわけであります。
  252. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 加盟国であると非加盟国とを問わず、「すべての国」という言葉はですね、加盟国であろうと非加盟国であろうと、独立国であろうと半隷属国であろうと、半植民地的な隷属国であろうと、第二次大戰において敵国であつたもの、侵略者であつたものといえども、防衛者であつたものといえども、この「すべての国」という言葉は無條件に認めなきやいけない。何かこれに條件を附けられるのですか。
  253. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 国際連合憲章に「すべての国」とありまするならば、法的には国際連合加盟国すべての国がということであります。併しその他の非加盟国なり敵国なりのお話がありましたから、それはこうこうこういう国際連合憲章の中では順序になつておると申上げるのであります。
  254. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、あなたは、この「すべての国」というのは、国際連合に加盟している国だけで、加盟していない国はこの中に入つてないという意味ですか。
  255. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 拘束力が当然発生いたしまするのは加盟国であります。
  256. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 拘束力があるかないかということを聞いているのじやなくて、この「すべての国」とおつしやるのは、現在加盟している国に限定するのかしないのか。あなたはどちらを言つていらつしやるか。
  257. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) しないことは当然であります。
  258. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 しない、もう少し完全な文章で言つて下さい。「すべての国」という中には、現在ですよ、現在加盟しておる国だけを指すのか、世界のすべての国を指すのかということを明快にして下さい。
  259. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 自主権を持つております国が、国際的に、個別的、集団的の、いわゆるその形の如何を問わず自衛権を持つておるというのは、これは国際法的な大原則であります。この大原則に基いた国際連合憲章の下におきまして「すべての国が」と、こういうことを申したのであります。
  260. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 困るのですがね、質問お答えにならないで。この「すべての国」というのは、あなたが先ほど言われましたよ。あなたは加盟している国を指すというように言われましたが、そうかと思うと、そうでないようなことも言われたので、その辺のところを明快にして頂かないと質問が先に進めないのです。
  261. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 国際連合憲章五十一條自衛権であります。それを御覽になつたらわかります。
  262. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういう答弁答弁にならんでしよう。あなたはそう言つたでしよう。「すべての国」ということは加盟国を指すのですか。非加盟国を含めた全世界の国々を指すのでしようか。何遍でも繰返しますよ。あなたが答えるまで。わからなければ保留して、明日研究されてもよいのですよ。今直ぐ御答弁にならんでもよいのですよ、先に進みますから、保留されて……。
  263. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) ここにありますように、国際連合憲章の五十一條自衛権、ここにありまする「すべての国が個別的及び集団的の自衛権、」この国際連合憲章自衛権は五十一條自衛権であります。この五十一條自衛権は、「この憲章如何なる規定も、国際連合加盟国に対して、武力攻撃が発生した場合において、安全保障理事会国際の平和及び安全の維持に必要な措置を執るまで、個別的又は集団的な固有の自衛権を害するものではない。この自衛権の行使に当つて加盟国が執つた措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。」こういう自衛権であります。従つてここにありまするすべての国であります。
  264. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そこですよ。
  265. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 国際連合加盟国に対する武力攻撃の発生した場合においては、安全保障理事会が措置をとるに至るまでは個別的又は集団的な措置ができる。従つてここにありまするあらゆる国というのは、すべての国というものは、国際連合憲章の五十一條に基く自衛権範囲におけるすべての国であります。
  266. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それでは答弁にならんじやありませんか。あなたのおつしやるすべての……、前文に記載してあります「すべての国」とは加盟国を指すのか、非加盟国を含めた……、だから直ぐこれは答弁されないでもいいんですよ。保留されてもいいですよ。十分御研究願つて……。法務総裁如何ですか。次官はよくわかりましたよ。若しそれが明確でなければ、政府として明確な答弁ができなければ、明日にしても結構です。
  267. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 先に申しましたように、すべての、全世界の国と、こう御解釈賜わりたいと思います。
  268. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 漸くのことで全世界の国とお答えになりましたが、それは私はこの文章から言つて正しい解釈だと思います。この安保條約のこの前文で「すべての国」というものを何か條件が附いておると考えることは間違いであり、あなたの言われた通り「すべての国」と言えば、世界中の自主権を持つたすべての独立国と、そういう御答弁を頂きました。非常に満足です。ところが第五十一條、あなたの挙げられました第五十一條に明らかに、この憲章国際連合の加盟に対してと、加盟国にだけ適用できるということが第五十一條に、あなたが再三挙げ、前文を朗読して聞かして下すつたこの五十一條に、国際連合の加盟国とはつきり謳つてございますが、然らば、この私が当初質問いたしましたように、安保條約の前文にございます「国際連合憲章は、すべての国が、」つまり加盟しようと加盟してなかろうと、個別的及び集団的自衛の権利を有することを承認しているというこの一句は、明らかに国際連合憲章五十一條に違反しておると私は考えざるを得ないのであります。如何なものでございましようか。
  269. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 便宜、私からお答え申上げます。国際連合憲章の五十一條におきましては、加盟国の安全保障については国際連合安全保障方法を規定することがきめられておるわけであります。これは連合憲章全体として国際連合による安全保障という措置をきめておるわけであります。ところで、この第五十一條趣旨は、かような国際連合憲章においては、国際連合憲章の加盟国に対する攻撃が行われた際には、国際連合機関によつて安全保障の措置を講ずるということをきめてあるが、併しその安全保障の措置が現実に効力を生ずる以前において当該国が国際法上固有に持つておりまするところの個別的及び集団的自衛の権利を行使することは、これは自由である、こういうことが五十一條に掲げてあるわけでございます。従いまして、この五十一條は、国際連合憲章において加盟国に対する侵害を防禦するための方法はあるが、併しそれ以外に、その以前において各国が固有に持つておるところの個別的集団的自衛の権利を行使することは自由である、こう言つておるわけでありまして、その裏には、すべての国というものは即ち個別的及び集団的自衛の固有の権利を持つておるんだということが前提になつておるわけでございます。従いまして、この前文の二ページにありまする「個別的及び集団的自衛の固有の権利」というのは、五十一條の規定の前提となつておりまするところのすべての独立国の持つておる自衛のための固有権を引いたわけでございまして、この間、何ら矛盾があるとは考えられません。
  270. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 法務総裁が御答弁願いますのは、先ほどの外務次官の、「すべての国」というのは非加盟国を含めたすべての国ということの御答弁承認された上で、私の質問を……この延長とされておりますか、念のためにちよつと承わつておきたいと思います。
  271. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その通りでございます。
  272. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それから、もう一つちよつと承わつておきたいのは、この言葉のやり取りは徒らに時間を費すだけです。ですから、我々は言葉のやり取りでなくて、概念のやり取り、科学的な概念、事物の存在するものを反映したところの科学的な概念のやり取りをいたしたいと思います。従つて、ただ言葉のその場のがれや、潜在主権というような言葉だけの、内容のないやり取りをすると、徒らに時間を長くして議事の審議の妨害になると存じますので、私も非常に言葉を考えて明確にいたしますから、あなたも明確に答えて頂きたい。  それではお尋ねしますが、法務総裁、(笑声)「すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有する」という前文を証明しておる條項が、この百十一條に亘るこの国際連合憲章のどこの條文にございますか、総裁。
  273. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 国際連合憲章というものの全体は、各独立国が固有の個別的集団的自衛の権利を持つものであるということを基礎にしてでき上つたものでございまして、この條約全体がこの思想の上に立つて組立てられておるものであります。
  274. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そのことがどこに現われておりますか。どこに具体的に表現されておりますか。その條項なり、前文なり、場所を示して下さい。場所を……。
  275. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この條約全体を眼光紙背に徹して読みますならば、おのずから現われて来るのでございますが、特に具体的に申上げまするならば、先ほど外務政務次官からお答えになりましたるこの五十一條の規定のごときは、先ほど私の説明いたしましたる通り世界の各国が固有の自衛権を持つものであるということを前提にしなければ、到底理解のできない事柄でございます。
  276. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 法務総裁に説教を頂かなくても、私どもは、あらゆる民族、あらゆる各国家が、自分を守るべき自衛権のあることについて、今更時間を費して、こういう貴重な時間であなたから説教を頂かなくても、よく承知いたしております。私の提起しておる問題は、国際連合憲章という一つの抽象的な産物でなくて、第二次大戰における歴史的な産物である。この世界の平和を守るべき、この貴重なる、具体的なる、歴史的なるこの国際連合憲章においてと、この前文にちやんと謳つてある。この国際連合憲章が、すべての加盟国を問わず、非加盟国を問わず、あらゆる国に自衛権一般でなくて、「個別的及び集団的自衛の固有の権利」という、明らかにそういうものが、一般的な字句でなくして、国際連合憲章において初めて打ち立てられたはつきりとした概念、この概念に対しては、はつきりとした規定をしておる、そうして実在しておる、そうして歴史的に運用されておる、この「個別的及び集団的自衞の固有の権利」を、どんな国にでも、非加盟国の日本にでも與えるなどということが、眼光紙背に徹しないで、明確にその場所を指定して頂きたい。今すぐ御即答は要りませんよ。明日よく御研究願つてからでいいですよ。(笑声)
  277. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 兼岩委員は、この前文におきまして、国際連合憲章がすべての国が自衛権を有することを承認しておると、こう書いてありまする文章を以ちまして、何か国際連合によつて新しくこういう権利ができた、即ち国際連合憲章のどれかの條文によつてこういう固有権というものが新しく認められたかのごとくお考えになつておられるのではないかと存じますが、ここに掲げてありまする趣旨は、「固有の権利を有することを承認している」と、こうはつきり書いてあるわけでありまして、それは国際連合憲章がそういうものを作り出したという意味ではなく、国際連合憲章が、すでに国際法上各独立国が固有の自衛権を持つておるという、そういう原則を打ち立てておる、その原則を承認いたしておる。その承認の上に立つて国際連合憲章の各條項ができ上つておる。こういう意味を現わしたわけでございまして、これは、やはり眼光紙背に徹して頂かないといけないと思います。(笑声)
  278. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 眼光紙背に徹する論議はお断わりしたいと思います。(笑声)あなたはすでに眼光紙背に徹する法律論で、潜在主権という世界的にも稀な法律的用語を発見されまして、これはノーベル賞ものだと思うのですよ。(笑声)もう、それで、僕は十分満足しておるのです。あなたはそれをもう一つノーベル賞をもらう必要はないと思う。(笑声)あなたは、もつとずつと一つ平民に下られて、極く平凡な一個の大臣として御答弁が願いたい。(笑声)具体的な科学的な答弁が願いたい。  「個別的及び集団的自衛の固有の権利」というのを、あなたは自衛権一般に解消して、言葉の上でちよろまかそうとしておるが、何たることです、これは。そういうことは紳士として恥ずべきことです。どうしてあなたは、私がはつきりと、国際連合憲章にあるところの明確なる概念を持つておる、具体的な内容を持つておる、歴史的に実在するところの個別的集団的自衛の固有の権利を問題にしておるのに、どうしてあなたは自衛権一般にこれを解消するのですか。これが法律論ですか。
  279. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この「個別的及び集団的自衛の固有の権利」というのは、これは各国の自衛権、その自衛権如何に行使するか。個別的に行使する場合においては個別的自衛の権利であり、これを集団的に行使する場合においては集団的自衛の権利である。これを包括して国の固有の自衛権と観念して一向差支えない問題であります。
  280. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕は同僚の議員のかたに証明して頂きたいと思う。議事の引延ばしをやつておるのは僕でなくて大橋君ですよ。僕は何遍でも同じことを繰返しますよ。今のあの明敏なるあの草葉外務次官が、先ほども到頭最後にはすべての国ということを言われたように、そこまであなたを追い詰めますよ。どうですか。答えなさいよ。この「個別的及び集団的自衛」という固有の権利国際連合憲章承認しておるという、その個所を示しなさい。この法律の條文ではつきり……。
  281. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 五十一條の第一項の末段におきまして、「この憲章如何なる規定も……個別的又は集団的な固有の自衛権を害するものではない。」こう書いてあります。何故にこの條項があるかと言えば、これは独立国というものが固有の個別的、集団的の自衛権を持つておる、それはこの憲章によつて害するものではない。その背後においては、即ち国際連合憲章は、かような各国の持つております個別的、集団的自衛権というものの存在を承認し、且つこれを尊重しておるということは、眼光紙背に徹しなくても文字上明らかであると存じます。
  282. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 非常に結構です。(笑声)眼光紙背に徹しなくてもいい議論になれば非常に結構で、満足しました。  そこで眼光紙背に徹しない議論に入りましよう。あなたは眼光が紙背にばかり従来徹しておつたもので、今読み上げられた肝腎の五十一條をこの紙の上で見落しておられる。それはいいですか、五十一條を見て下さい。「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して、」加盟国に対しておるのですよ、あなた……。だから五十一條は、すべて加盟国の問題ですよ。ところがこの前文は「すべての国」ですよ。非加盟国をも含むすべての国ですよ。これは重要な点ですよ。答弁を望みます。
  283. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 成るほどこれは加盟国が持つておりますそういう権利を害しないということを書いてあるわけであります。併しながらこの條項が加盟国にそういう権利を與えるというわけではありません。又国際連合憲章如何なる條項といえども自衛権なるものが加盟国だけが持つべきものであるということを規定いたしておるわけではないのであります。即ち国際連合憲章は、固有の自衛権というものを創造いたしたものではないのであつて、それは国際法の原則によつて存在いたしておる自衛権というものを尊重する、これを承認し尊重するということだけを規定したわけであります。その国際法上の原則というものが、これはあらゆる加盟国に、加盟国以外のあらゆる国に、かような固有の権利があるというわけでございます。
  284. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 大橋君は、苦しくなるとすぐああいう詭弁に入られる。今あなたと僕と、ちやんと前の議論できまつてつたでしよう。そういう具体的な特殊なものを一般的なものに解消しないという約束がある。今何遍でも繰返さなければならない。具体的な国際連合憲章の五十一條に規定されておるところの、この個別的、集団的な固有の権利を問題にしているのであつて自衛権一般を問題にしているのではない。自衛権一般をあなたに教えて頂かなくても……、又聞いておられる同僚諸君も無駄なことである。あらゆる民族あらゆる国家が自衛権を持つていることは、改めて国際公法の説教を聞く必要はない。だから、そういうことで逸脱をしないで、この問題だけで、明確にこの問題についての答弁をして頂きたいと思う。それでなければ僕はあなたが答弁されるまで默つているよりしようがないですよ。どうですか。五十一條のあなたの今言われたのは、国際連合加盟国に対する規定で、非加盟国に対する規定ではないのです。五十一條をあなたは非加盟国に対する規定にまで拡大したいのですか。
  285. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私は五十一條が加盟国に対する規定であつて、非加盟国に対する規定ではないということを否定はいたしません。これは加盟国に対する規定であります。併しながらそこに書いてありまする集団的、個別的の自衛権を害さないという言葉は、これはすべての国家がそういう権利を持つており、それが国際連合に加盟したことによつて害されることはない、こういうことで書いてあるわけでありまして、これは国際連合に加盟する以前において、すでに集団的、個別的の自衛権というものをその国が持つてつたということを前提にして、初めてこの五十一條は理解できるものであります。従いまして国際連合憲章においては、加盟国であろうとなかろうと、すべての国家が固有の自衛権を持つているということを承認いたしているということを、当然これは言い得ることと存ずるのであります。
  286. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 五十一條が加盟国であることを承認されたことは一歩前進であります。それを覆さないで話をして行きましようね。然らばお尋ねしましよう。非加盟国に対して個別的及び集団的自衛の固有の権利を保障した條文を示して下さい。
  287. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) それは国際連合憲章如何なる所にもそういうことを特に規定したものはございません。併しながら五十一條はその原則を承認したという前提を容認することによつて初めて理解することが可能なのでありますから、即ち五十一條の先ほど申上げました條項は、この原則を承認したことをその根柢に意味している。こう言わざるを得ないわけであります。
  288. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 なぜでしようかね。
  289. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 自然の道理であります。
  290. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 自然科学の法則ですか。社会科学の法則だというのですか。
  291. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 理論上の問題であります。
  292. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 理論上……、どういう理論、自然科学の理論ですか。社会科学の理論ですか。
  293. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 健全なる論理を以て考えまするならば、この五十一條の條項というのは、世界のすべての国が固有の自衛権を持つているということを国際連合憲章承認をいたした、その承認をしているということを前提にしなければ五十一條は理解することができないのでございますから、そういう意味において連合憲章が理論上そういう承認前提として成立つているということを結論することは、理論上当然であると存じます。
  294. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 なぜでしようか。
  295. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 理論にはなぜはございません。
  296. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 理論とは押付けですか。
  297. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 押付けではなく、正しい理論というものは、これは証明を用いずしてはつきりいたすことができます。
  298. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 正しいものは証明が要らんそうです。それはどなたの発明ですかな。
  299. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは理論上当然でございます。
  300. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 ここはね、だから僕は最初から、言葉の遊戲はやめましよう。歴史的に実在するところの概念のやり取り、法律的概念、自然科学的概念、社会科学的概念、対象のはつきりあるところの概念、認識論からいつて承認されるところの概念の上に立つて討論をいたしましよう。あなたは言葉のやり取りだけで私をごまかそう、瞞着しようとしておる。もう一遍お尋ねします。五十一條のどこにこの個別的、集団的自衛の固有の権利というこの概念を、勝手に非加盟国まで拡大されるところの、理論的な証明がされなくても、それが真理だと認められるような根拠が五十一條のどこにございましようか。
  301. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私は兼岩委員を瞞著しようなどという大それたことは無論考えませんし、又兼岩委員が私に瞞著されて下さるほど好人物でもないと思います。私の申上げました趣旨は、五十一條というものの規定のできた理由は、世界各国の固有の権利というものを前提として初めて理解され得る條文である。従つてこの條文を見れば、国際連合憲章が固有の自衛権というものを各国が持つておるという原則を承認しておるということは、これは当然に考えられることである。こういうことを申しておるわけであります。
  302. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 ほかのかたが僕と法務総裁の討論を何か言葉の遊戲……、向う様は明らかに言葉の遊戲をやつておられますが、僕は言葉の遊戲ではありませんので、議事進行を兼ねて、なぜそういう質問をしますかというと、私はこういう点を明らかにしておいて先に進みたいのですが……。私の言おうとしておるのは、この国際連合加盟国、第二次大戰の結果として国際連合ができたときに、加盟国、つまり侵略に対して防衛の側に立つたイギリス、アメリカ、中国、ソヴイエト、フランスその他の防衛者に対して、侵略者であつたところの日独伊その他の国がもう一遍軍国主義になつて頭をもたげて、第三次世界大戰になつてはいけないという意味で、全部がそうですが、五十一條はその点に対する警戒として、加盟国に対して若し侵略者その他から武力の攻撃がもう一遍出て来たときには、当然国際連合軍隊がこれを防ぐのだけれども、これが間に合わない場合には、間に合わない場合が多々あるから、その場合には個別的集団的固有の自衛権を発揮してよろしい、害するものではないと、こういうことを言つておるのであつて、あなたが有名な法律の秀才としてさまざまにいい加減の言葉をあつちこつちから持つて来て、国際公法を持つて来られたり、常に特殊を一般に解消しようとして、具体的なものを抽象的なものにしてごまかそうとしておる。具体的な論議をしておるときには具体的な答弁をしなければ国会の侮辱ですよ、あなた……。而もこれは日本の運命にかかわる重大な安保條約、その前文の基本的の事柄を、国際連合憲章と條約との関連において……、そうしてここには法律の先輩がたくさんおられる。そういうかたがたに対して、あなたのそういう不まじめな、併しながら若しまじめだとすれば、今晩答弁をされなくてもいいから、もう少し御勉強になつて、僕は先に進みたいのです。如何ですか、明日でもいいからもう少し御研究なさつていいでしよう。徒らに言葉の遊戲で先に進まないで答弁を保留されたら如何ですか。
  303. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私のほうから説明いたします。五十一條が入りました目的は、兼岩委員の言われるところと違つた目的で入つたものであります。憲章の五十三條によりますと、地域安全保障取極によりまする強制措置を発動する場合には安保理事会の承認を必要とするという條項になつております。それでございますので、サンフランシスコ会議の前にすでに相互間に安保條約を作つておりました中南米二十数カ国から要求がありました。それは五十三條の規定があれば、地域安全保障取極による強制措置が安全保障理事会承認にかかることになる、ところが安全保障理事会承認を與えるまでには時間がかかります。又安全保障理事会には五大国の拒否権の行使がございますので、必ずしも同意が得られる確実性がないわけでございます。それで、五十三條の規定は、加盟国による自衛権発動を妨げるものではないという條項を置くべきであるとの主張が、中南米二十数カ国によつてなされたわけであります。サンフランシスコ会議はその要求を認めましたが、同時に国際法により認められまする自衛権を特に限定いたしまして、現実に武力攻撃のあつた場合に限つて相互の間では認めるという趣旨で、五十一條が入つた次第でございます。その辺の事情をお考え下されば、五十一條が、即ち各独立国が、加盟国たると非加盟国であるとを問わず、当然個別的及び集団的自衛権を持つという前提に立つと同時に、相互の間において現実に武力攻撃が発生した場合にのみ自衛権を認める趣旨であることが明らかになるわけでございます。
  304. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 條約局長は、私の申上げた第二次大戰のさような歴史的基礎の上にこの国連憲章が生れ、国連が生れたという、その事実をあなたは御否定になるのですか。歴史的事実を。私は法律論を申上げたのではなくて、歴史的事実をあなたは否定なさるのですか。
  305. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) あなたから法律的問題が出ましたから、私は明快に法律的解明をいたしたわけでございます。
  306. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 歴史的事実も否定なされるのですか。
  307. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 歴史的事実も私が解明いたした通りでございます。五十一條は五十三條の関連において入つたことは、どうぞサンフランシスコ会議の議事録等によつて、御研究願いたいと思います。
  308. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私は限られた時間で、皆様も御迷惑だろうと思うし、法務総裁と論争をしており、あなたは五十三條が、旧敵国、非加盟国に関する規定であるという理解を持ち、且つ私は先ほど述べた歴史的な理解であなたと国連憲章の問題に対しておるのですから、あなたと改めてこれから又その問題について討論すると又非常な時間を費しますのですが、折角あなたも御出馬になつたついでですから、僕は法務総裁にしたと同じ質問をしたいと思うのです。加盟国と非加盟国たるとを問わず、如何なる国に対しても個別的、集団的自衛の固有の権利があると規定しておるところの一つ場所を御教示願いたい。
  309. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 五十一條前段がその前提に立つております。
  310. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 え、何ですつて
  311. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 五十一條の前段がその前提に立つております。
  312. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 なぜ。
  313. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 眼光紙背に徹するお気持で読んで頂きたいと思います。
  314. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 いけませんね。そういう、ものを食いながら言われてもよろしうございますが、(笑声)私は食わずに質問しているのですから。ここは国会ですよ。食事のことを言うのじやありません。(笑声)食事は召上りながらでも結構です。ちやんと速記はとつておりますから。この五十一條国際連合加盟国に対して明確に何らの疑点もなく規定しておるのに、あなたがたの解釈は突如として反対論に転化して、すべての国というふうに適用されるということは、これは言葉の遊戲以外には答弁できないことだと思うのです。その点だけで結構です。
  315. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 最後までお読みになりますと、「その有する自衛権を害するものではない」とありますので、国家は国際法上自衛権を持つておるという前提に立つておることが判明するわけであります。
  316. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 議事進行について。どうしたものでしようね。こういう、どなたもお聞きになつたつて……、そこに一松大先生、法律のオーソリテイがおられるが、この問題は保留なさつたらいいでしよう。答弁になつていませんよ。押し切られますか。押し切られますなら、どこまでも、今晩何時になつてもやりますよ。保留されたらいいでしよう。説明になつておりませんよ。如何でしよう、委員長
  317. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私は答弁はすでに終つたものと見ております。保留する考えは全然ございません。
  318. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 答弁を押し付けるのですか。
  319. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 押し付けるのでなく、終つたのでございます。
  320. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕は終つていないと思う。僕の質問に対して答えないのです。議事進行ですがね。どうしますかね。
  321. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 見解の相違なんですね。(「見解の問題じやない。理解の能力の問題だ」と呼ぶ者あり)あとでなお解明されるとして、先へお進みになつたらどうです。
  322. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私は、それでは、法律についての権威がかずかずおられる立法機関において、私の質問に対して法務総裁答弁がまじめなものであるかどうか、正確なものであるかどうか、それが真理であるかどうかという点については、私としてはそれは何らの説明を頂かなかつたというふうに理解せざるを得ない。併し時間を徒らに費しても……、もう一点質問がありますから、これは頂かなかつたという……。だから、まだほかにもたくさん質問がありますから、無理やりにここでどこまでも、何時間かかつても何日かかつてもやるというような強引なやり方をやる僕は考えはありませんが、私としてはこの点については答弁を得なかつたものというふうに考えて、先へ進みたいと思いますが、委員長如何でしようか。
  323. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) どうぞ先へお進み頂きます。
  324. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 もう一点。それは国際連合憲章の百七條に関するもので、これは余り時間は……多分明快な答弁が頂けるものだろうと思いますが、これは法律的であると同時に非常に政治的であり、この安保條約全体の前提になるべき基礎的な問題ですから、多少眼光紙背に徹せられても差支えないと思いますが、それはこういうことなんです。この安保條約そのものが、日本は武裝を解除せられておる、無責任な軍国主義が世界から駆逐されていないから、前記の状態、即ちいわゆる真空状態にある日本が危險であるから、非常に御親切なアメリカ軍が大変な分担金をとつて御駐在願う。こういうことになるのですが、さて、その場合にいつも問題になりますのは、日本アメリカにいてもらつて日本アメリカとがこういう安保條約を結んでアメリカにおつてもらうのは当然だというところの、いつも一つの論拠として、見よ、仮想敵国である中ソは中ソ友好同盟條約という侵略的なものをやつておるではないか——。これは法務総裁を初め吉田内閣のお歴々の愛用せられるところの考え方なんですが、果して中ソ友好同盟條約は、法務総裁国際連合憲章に照して……、国際連合憲章に限定して頂きたい、国際公法とかいろいろなものに逃げないで、この国際連合憲章において、中ソ友好同盟條約が不当である、不合理である、非合法である等々を示すような明確な場所があるかないか、この点を承わりたいと思います。
  325. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 中ソの同盟條約につきましては私は関知いたしておりません。
  326. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 如何ですか外務次官、この中ソ友好同盟條約に藉口して日米軍事同盟と安保條約が正当だというふうな議論が非常にあるし、次官あたりも多分愛用しておられるように私は拜察しておりますが如何ですか。この中ソ友好同盟條約は合法的と考えられるのですか。この国際連合憲章ですよ、国際連合憲章の條文に照して非合法なものであるかどうか、この点についてですね。
  327. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) ソヴイエト、中華人民共和国との間の友好同盟につきまして、日本政府がこれをかれこれ批判する限りじやないと思います。
  328. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 関係するかしないかでなくて、じやあ百七條、私から問題のありかをもう少し具体的に申しますと、この百七條は、第二次大戰中において本憲章のいずれかの署名国の、つまり加盟国の敵国たりし国、例えば日本とかドイツとかイタリア、敵国たりし国に関する行動にして、これにつき責任を有する政府が右戰争の結果として執り、又は認許されたるものを無効ならしめ、又はこれを妨ぐることなかるべし、即ち具体的に私が今問題を提起しておるこの百七條に関して言えば、敵国たりし国、日本、この日本に関する行動であつて、これについてこの敵国たりし国、即ちこの場合は私が今問題にしているのは日本行動であつて、この本憲章のいずれかの署名国、即ち中国或いはソヴイエトに対して侵略の危險があるという場合においては、当然この百七條によつて中ソ友好同盟條約をそういう危險を感じたときに結ぶということを妨げることはない。これは差支えない。百七條が明確に規定しております。私はこれはまあ政治論でなくて結論なんです。法律論として中ソ友好同盟條約はこの国連憲章から見て合法的なものであると考えなきやならん。これを国連憲章の條文の上においては非難すべき何ものもない。こういうふうに私は考えざるを得ないと思いますが、これに対する次官なり法務総裁の御答弁が頂きたいのであります。
  329. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 外務省なり政府としては、一度もこれを取上げて非難をしたり、或いは非難のために愛用したりなど、今までそういう態度はとつたことはございません。
  330. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 政府がそういう態度を直接一度もおとりにならなかつたということは誠に結構なことですが、法律的な意味で、この国連憲章百七條について、中ソ友好同盟條約が決して日本或いはアメリカを侵略するためにあるものでなくて、防衛的なものであるという建前から、つまり百七條の建前から制定されたものであるという、このソヴイエト及び中国側の主張しておる、つまり法律的論拠、これを政府国連憲章百七條について承認されますか。されないでしようか。若しされないとすれば、どういう論拠でされないか。
  331. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 中ソ友好同盟は中ソ友好同盟として結ばれたことと存じます。これの経過その他について日本政府がこれにかれこれ批判することは差控えたいと思います。
  332. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 ところが私は何か物知りになるために架空の論議をしておるのじやなくて、安保條約そのものが「無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前記の状態」つまり中ソが日本に侵略して来るということを前提としておられるから、どうしてもこの前文の第一ページの三行目の、そもそもこの安保條約の基礎であるところのつまり日米軍事同盟、つまり安保條約の仮想敵国が中ソであるということは明確である。この中ソが同盟條約を結んでおるということ、やはりこれは、ここで質しておくことが義務だと考えるのですが、如何ですか。
  333. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私も政務次官と同じく中ソ両国間の友好同盟條約について批判すべき立場にはございませんので、批判は一切避けます。
  334. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 批判はいいです。法律論です。
  335. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) ただ憲章の解決からの見解を述べます。兼岩委員指摘の百七條は、條文にあります通り、連合国が戰争中に敵国であつた国に対しまして、「戰争の結果として執り、又は許可したものを、無効」にするものではない。戰争の結果として執り、又は戰争中許可した連合国の行動を、この憲章の規定は無効とするものではないという注意規定でございます。中ソ友好同盟條約は、五十三條の一項の最後のところでございますが、それを御覽願いたいと思うのであります。それによりますと、但しといたしまして、但し「この條の第二項に定義されたいずれかの敵国に対する措置であつて、第百七條に従つて規定されたもの、又は右の敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されたものは、」云々とあります。この敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極と中ソ友好同盟條約は考えたらばよろしかろうと、こう考える次第でございます。そういうつもりで両国は締結されたものであろうと解釈すればよろしかろう、こう考えるのでございます。同條約について批評する気持は毛頭ございません。
  336. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 條約局長の説明ですが、法律問題だから非常にややこしいのですが、あなたの見解では、この五十三條ですね、五十三條と、それから、これに関連する百七條、両條から見て、中ソ同盟條約を結ぶことがこの二つの條文から考えて合法的であるとお考えですか。合法的でない、或いは合法的であるけれども、こういう点において面白くない点があるとかいうふうに、この点の合法性についてあなたの專門的な知識からの御意見を拜聽しておきたいと思います。
  337. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 折角の御希望でございますけれども、先刻申上げましたように、同條約に対する批判は差し控えたいと存じます。先刻の答弁で御勘弁を願いたいと思います。
  338. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それでは、A国とB国があつて、この二つはこの第二次大戰において日独伊のフアシスト国家でなく、侵略国家でなくて、防衛の立場に立つた国で、そうして、それが旧敵国であつた日本、ドイツ、イタリアのような性格の国の侵略に備えて相互に助け合つて守ろうじやないかという防衛規定をきめたといたしましたときに、そのA、Bのその防衛同盟、友好同盟條約といつた性質のものは、この五十三條並びに百七條との関連において、非合法な点がございましようか。そう聞いたほうがいいですね。如何なる点が非合法でございましようか。
  339. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 先ほど来申上げましたように、ソヴイエトと中共との友好同盟條約については、日本政府としてはこれに対する批判は控えたいし、又批判の限りではないと思つております。
  340. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 政治的な地位におられる次官に聞いているのではなくて、法律の條文の專門家としておられるかたに、而も中ソ同盟條約ではなくて、AとBという形にして、仮に抽象的にならば答えいいだろうというので、專門家に対して、抽象的に、どういう点に、そういう場合にABが防衛同盟條約を結んだときに、今問題になつております百七條及び五十三條ですか、この二條に照してこれを非合法とする点があるかないかということです。今日でなくてもいいですよ。あとで御調査になつて答弁下すつて結構ですよ。
  341. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 條約局長の立場からも同様だと存じます。従つて、先ほど来、御答弁申上げたことで御了承を頂きたいと思います。
  342. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 あなたは都合の惡いことだとそういうふうに言われますけれども、これから安保條約を審議して行く上においては、ここで明快にしておいたほうが、今後のほかの同僚議員の議論をも無用な議論を避けますよ。これは僕は念のために承わつておきたいという程度以上に一番重要な点だと思いますね。というのは、我々が日米の安全保障條約を論議する。安全保障條約というものは必ず仮想敵国がある。仮想敵国のないようなそんな安全保障條約というものは世界中に歴史的にも何もない。然らば仮想敵国の結んでいる條約に対して如何なる見解を持つておられるかということ、而もそれをうんと大まけにまけて、AとBというふうにまで碎いて、そうして法律的見解を質す権限を私は国会議員が持つていると思う。この権限を以て僕はその法律的な見解を質したい。
  343. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 国権の最高機関でありまする国会におきまして、政府が両国の條約を批判することは差し控えたいと思います。
  344. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 併し、我々が今審議に入ろうとしているところの安保條約は、仮想敵国を持てばこその防衛同盟條約ですよ、日米間の。然らば当然仮想敵国であるところの中ソが結んでおるこの條約、而もそう言つたんでは或いは御迷惑かと考えて、AとBという形にしてこれを抽象化し、一般化して、純粹の法律的見解を私は質したい。というのは、我々が條約をこれから審議するのに、これは非常な重要な基本的な点です。且つ、政府は何とおつしやつても、国会外においては、この問題に対して、中ソ同盟條約があるから日米は安全保障條約が要るんだという……それでは参考のために承わつておく。これは総理大臣に尋ねるつもりなんですが、そういう仮想敵国はないのですか、この條約には。つまり、ないけれどもやられるのですか。
  345. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは再三御答弁申上げておりまするように、平和條約後の日本の無防備の状態に対する日本の平和と安全のためにいたすのであります。決して仮想敵国を予想して結んでおるのではございません。
  346. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それでは無責任な軍国主義というのはどこを指されるのですか。
  347. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) さような極東情勢であるからという前提であります。
  348. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、無責任な軍国主義というもの、この安保條約の一切の前提になつておるこの無責任なる軍国主義、世界から駆逐されていないところの無責任なる軍国主義というものは、具体的な内容はないのですか、どこの国ですか。
  349. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これも幾度か再三お話を申上げて御答弁を申上げた通りであります。無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないような、而も極東においてはこのような状態になつているということは、再三申上げた通りであります。
  350. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これは具体的な内容はないのですか。国じやないのですか。これは国以外のものですか。
  351. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは極東におきましては、いわゆる朝鮮動乱というのが一つの例でございましよう。そのことも再三申上げたはずでございます。
  352. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 国ですか。国以外のものですか。
  353. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) ここにあります通りに、無責任な軍国主義と申しております。
  354. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それは思想ですか。主義ですか。国ですか。
  355. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 現実におきまして、朝鮮動乱に現われているような姿は、これは一つの無責任な軍国主義の現われだと解釈いたしております。
  356. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 思想ですか。国ですか。
  357. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) さような状態を申しております。
  358. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 どういう状態ですか。状態に対してこの軍事同盟が結ばれるのですか。日米安全保障條約は。
  359. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは恐らく質問をしておられまする兼岩君も御承知の上で御質問なさつていると存じます。再三このことは申上げているのであります。いわゆる現在においては、なお国際情勢が無責任な軍国主義のまだ駆逐されておらない情勢であり、極東においては朝鮮動乱等の現実の姿がある、これを指して申しているのであります。
  360. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 山からの禪坊主みたいなことはやめて、やはり国会の立法機関審議に立ち返られて、その軍国主義というのは思想を指されるのか、さような思想の下に樹立されている国家を指されるのか、この安保條約そのものの対象を聞かして下さい。そうなれば中ソということを、或いはABですかを問題にしていることが明快になるのです。そういう卑怯な詭弁を弄さないで、主義というのか、イデオロギーなのか、そのイデオロギーによつて統一された政党、或いは連合、それらの諸政党の連合政府を構成する国ですか。これをはつきりと答弁して下さい。国か。主義か。
  361. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 主義であります。(笑声)
  362. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、我々は今度はこの主義に対して結ばれたところの安全保障條約を審議して行くのですね。そうすると、主義に対して武力を、アメリカ軍を駐屯させるのですね。アメリカ軍日本軍がね、主義に対して……。そうすると主義に武力を用うるのですね。念のために承わつておきます。(笑声)
  363. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) それは少し御質問が無理な御質問だと思います。併しながら主義に対して武力を用うるというのではなしに、ここで「無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、」という前文は、これは主義であるか、国の姿であるかというお話……。
  364. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうです。
  365. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) それに対して縷々何遍もお答え申上げた通りであります。
  366. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 一回でいいですよ。明快にしてもらえれば一回でいいですよ。それは、今、主義だと言われた、だから主義というような、イデオロギーですね、観念形態に対して、物質的な武力を、而も強大なアメリカ日本が軍事同盟を結んで安全を保障するのですか。そういうふうに理解してよろしいですか。そうなれば成るほど多少肯けるところも又あるのですがね。
  367. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) そういう主義によつてありまする世界国際関係にあるから、従つて日本が前記のような状態においてここで独立することは危險である、こういう意味であります。
  368. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 危險であるかないか、これは改めて、私、総理に対して質問を準備しておりますから……。主義である、主義に対して武力を以て抗争して行かれるということがはつきりしたわけですね。国じやないのですね、従つて……。
  369. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 前言の通りであります。
  370. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それでは主義であると……。それから中ソは然らば仮裝敵国ではないわけですね。
  371. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 再三御答弁申上げた通りであります。
  372. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 だから、あるとか、ないとか言つて下さい。仮裝敵国ではないのですね。
  373. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 勿論ありません。
  374. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 ありますですか。
  375. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) ありません。
  376. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうしますと、軍国主義という思想は、イデイオロギーは、具体的に言いますと何を指すのですか。どういう状態で、どこに存在しているのですか。
  377. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 先ほど引例を申上げた通りです。
  378. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 もう時間も大分参りましたし、いずれ今晩得ましたこの回答につきましては、政府がそういう見解を持つておられるということを前提として、今後の審議を進めて行くことにいたしまして、法務総裁に対する今晩の私の質問は終えます。が、法務総裁答弁をして下さらない、質問に対して……。それから第二の点、條約の合法性についても御答弁がなかつたということになるわけでありますけれども、私の質問はそれじやこれで終りましよう。
  379. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 本日堀木委員法務総裁との間に交された質疑応答、それから昨日一松委員法務総裁との間に交された質疑応答、その結論において、法務総裁は、即ち現在の政府の唯一にして正式の見解として、條約に憲法に違反する部分があつた場合には、それは国内法としては効力を有しない、従つてそれは憲法を改正するか、その條約を改正するかによつてでなければ解決しないというように言つておられましたが、その場合の憲法に違反するということは何によつて決定されるのでしようか。
  380. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは憲法に違反するかどうかということは、国家の機関において判定する以外に方法はないと思います。
  381. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その国家の機関というのは何でございますか。
  382. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 裁判上の問題については裁判所でございます。
  383. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 憲法上の問題については……。
  384. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法上の問題につきましては、国会においてもこれが審議をする権限は無論あると思います。
  385. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この憲法の規定は、憲法の各條項に現われていることは言うまでもないわけですが、その條項を解釈するときの根拠とみなされるべきものはどういうものでしようか。それを伺いたいのであります。
  386. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法の規定自体も、勿論これは解釈の参考の資料でありまするし、憲法制定の際のいろいろな資料があるわけであります。そのほかに、国際間において、或いは法律学上におきまして、いろいろ基本的な原則、解釈上の原則というものもありましよう。又憲法の規定自体において明らかでないものでも、憲法全体を考えまして、憲法上の基本原則というものがおのずからあるわけでございます。こうしたものは、やはり解釈上の資料として当然予定しなければならんと考えます。
  387. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 大変御親切にお答え頂いて満足いたしますが、その中で、この憲法が制定されますときの、その憲法に対する、その憲法を日本の議会に提案されました総理大臣の提案理由の説明、それから又その憲法が議会で審議されておりましたときの総理大臣、或いはその憲法を特に主として担当しておられた大臣の述べられましたところ、それから最後にその憲法がその議会で以て可決されます前に行われたその委員長の報告というものに述べられておりますところは、この憲法の解釈にとつて第一に根拠となるものだというように了解して正しいんでございましようか。
  388. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 御指摘のような資料は、憲法解釈上重要な資料と存じます。
  389. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そういうような、只今羅列いたしましたような、羅列というか、並べましたようなものに現われています解釈を否定し得るような解釈の根拠となりますものはどんなものでございましよう。
  390. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法上の原則でありまするとか、或いは憲法の文理そのものでありまするとか、そういつた事柄が想像されると思いまするし、或いは又、他の規定との関連上、法律学的に帰納されるような事柄、そういつたものも解釈の重要な資料となると思います。
  391. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、法務総裁の御意見としても、さつき私の述べましたような、現在の日本国憲法が提案されましたときの首相の説明、又それを主として担当されました閣僚の説明、又それを審議せられた委員長の報告というようなものは、この憲法の解釈についてプライマリーな、最も重要なものであるというふうにお考えになつておるというように了解してよろしうございますか。
  392. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 重要なものと考えます。
  393. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは伺いますが、その憲法は戰争そのものを否定しておるというように考えることが妥当ではないでしようか。
  394. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法の九條が「国の交戰権は、これを認めない。」というのは、日本が戰争の主体となることを否認しておるというふうに解釈をいたしております。
  395. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 憲法が戰争を否定しているとすべきであるかそうでないかという私の質問なんでありますが、憲法は、一般的に、全般的に戰争を否定するという根本原則の上に立つているかいないか。その点をお答え願いたいと思います。
  396. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法は戰争の放棄という規定をいたしておるわけでありますから、一般的に戰争は否定する、少くとも日本が当事者となるところの戰争は否定するという基本的な原則の上に立つたものと考えます。
  397. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 誠に明快な御答弁を頂いて、憲法のそれ自身の前文及び憲法の條文にそういうことが明記してあるのみならず、当時の速記録を見ますと、当時の総理大臣、現首相吉田国務大臣もそういうように御説明になり、それから、この討議の間にも絶えずそう解釈され、そうして最後に憲法改正委員会の委員長の芦田議員の御説明にもそういうふうになつています。次に伺いたいのは、その戰争一般を否定する結果、自衛権に基く、自衛権のための戰争というものをこの憲法は肯定しておりますか。否定しておりますか。それを伺いたい。
  398. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 一般的に戰争を否定いたしております結果、たとい日本に許されたる自衛権の行使の場合におきましても、それが戰争となることについては、憲法は否定的な原則に立つておると考えております。
  399. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私の質問は、自衛権のための戰争というものも否定しておるかどうかということです。
  400. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 自衛権のための戰争も、日本の憲法は放棄するという原則に立つておると了解しております。
  401. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、現在の日本国憲法が提案されましたときの首相が、その最初の説明において、それから又その後の討論の過程において、自衛権のための戰争と、それから侵略のための戰争とを区別するということが有害である、過去の多くの戰争は自衛権の名の下に侵略戰争が行われた場合が多々ある、従つて、この戰争について、自衛権のための戰争と侵略のための戰争というものを区別すべきでないという当時の総理大臣見解ですが、これは今日において、なお、まだ生きておるかどうか。
  402. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 政府は現在におきましてもさような見解をとつております。
  403. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 次に伺いたいのは、当時、現在の日本国憲法が提案せられて、そうしてその後の総理大臣及び閣僚の御説明の中に、総理大臣は昭和二十一年七月四日に次のように述べておられます。これは現在も政府がこの見解をとられるかどうかということについて、極めて重要な点でありますので、これを引用することを許されたいのであります。昭和二十一年七月四日、第九十帝国議会衆議院の帝国憲法改正案委員会におきまして、吉田国務大臣はこのように述べておられます。「今日マデノ戰争ハ多クハ自衛権ノ名ニ依ツテ戰争ヲ始メラレタト云フコトガ過去ニ於ケル事実デアリマス、自衛権ニ依ル交戰権、侵略ヲ目的トスル交戰権、此ノ二ツニ分ケルコトガ、多クノ場合ニ於テ戰争ヲ誘起スルモノデアルガ故ニ、斯ク分ケルコトガ有害ナリト申シタ積リデアリマス、又自衛権ニ依ル戰争ガアリトスレバ、侵略ニ依ル戰争、侵略ニ依ル交戰権ガアルト云フコトヲ前提トスルノデアツテ、我々ノ考へテ居ル所ハ、国際平和団体ヲ樹立スルコトニアルノデ、国際平和団体ガ樹立セラレタ曉ニ於テ、若シ侵略ヲ目的トスル戰争ヲ起ス国アリトスレバ、是ハ国際平和団体ニ対スル傍観デアリ、謀叛デアリ、反逆デアリ、国際平和団体ニ属スル総テノ国ガ此ノ反逆者ニ対シテ矛ヲ向クベキデアルト云フコトヲ考へテ見レバ交戰権ニ二種アリト区別スルコトソレ自身が無益デアル、侵略戰争ヲ絶無ニスルコトニ依ツテ、自衛権ニ依ル交戰権ト云フモノガ自然消滅スベキモノデアル、故ニ交戰権ニ二種アリトスル此ノ区別自身ガ無益デアル、斯ウ言ツタ積リデアルノデアリマス、又御尋ネノ講和條約ガ出來、日本ガ独立ヲ回復シタ場合ニ、日本ノ独立ナルモノヲ完全ナ状態ニ復セシメタ場合ニ於テ、武力ナクシテ侵略国ニ向ツテ如何ニ之ヲ日本自ラ自己国家ヲ防衛スルカ、此ノ御質問ハ洵ニ御尤モデアリマスガ、併シナガラ国際平和団体ガ樹立セラレテ、サウシテ樹立後ニ於テハ、所謂U・N・〇ノ目的ガ達セラレタ場合ニハU・N・〇加盟国ハ国際聯合憲章ノ規定ノ第四十三條ニ依リマスレバ、兵力ヲ提供スル義務ヲ持チ、U・N・〇自身ガ兵力ヲ持ツテ、世界ノ平和ヲ害スル侵略国ニ対シテハ、世界挙ゲテ此ノ侵略国ヲ圧伏スル、抑圧スルト云フコトニナツテ居リマス、理想ダケ申セバ、或ハ是ハ理想ニ止マリ、或ハ空文ニ属スルカモ知レマセヌガ、兎ニ角国際平和ヲ維持スル目的ヲ以テ樹立セラレタU・N・〇トシテハ、其ノ憲法トモ云フベキ條章ニ於テ、斯クノ如ク特別ノ兵力ヲ持チ、特ニ其ノ団体ガ特殊ノ兵力ヲ持チ、世界ノ平和ヲ妨害スル者、或ハ世界ノ平和ヲ脅カス国ニ対シテハ制裁ヲ加へルコトニナツテ居リマス、此ノ憲章ニ依リ、又国際聯合ニ日本ガ独立国トシテ加入致シマシタ場合ニ於テハ、一応此ノ憲章ニ依ツテ保護セラレルモノ、斯ウ私ハ解釈シテ居リマス」というのが吉田首相の当時の衆議院において述べられたところであります。即ちこの解釈は、今日政府がとられるところの解釈でありましようか。それとも、若しこれを否定せられるのだとするならば、どういう根拠によつて否定せられますか。その点を伺いたい。
  404. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その解釈は依然として政府が引続きとつておるところでございます。
  405. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしますと、日本国憲法は、自衛権による、自衛権のための戰争というものも否定している、そうしてその自衛権を守るただ唯一の方法としては、国際連合によつてつてもらう、国際的に守られる、そういう見解の上に立つておると判断して正確と見なされると思いますが、よろしうございますか。
  406. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 国際連合によるところの安全保障方法ということは、これは質問者が、独立後において日本が戰力を持たない、戰争を放棄しておる場合において、如何なる方法日本の安全のために考えられるかという御質問に対しまして、一つの回答を與えたものであろうと思いまして、その当時といたしましては、そういう考えがあつたものと思います。併しながら、これは憲法の規定と直接関係ある事柄ではなく、憲法の規定に関連しての一つ質問に対する回答として、一つ方法として説明されたものでございます。そのほかの点、即ち自衛権に基く戰争は憲法上否認さるべきであるというこの解釈は、政府は現在においてもさように存じております。
  407. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この日本国憲法が、戰争一般、即ちあらゆる戰争を否定しておる、従つて自衛権のための戰争をも否定しておるということは、只今現在の政府もそういう見解の上に立つておるということを明らかにすることができて、非常に仕合わせに考える次第であります。これは、その当時の帝国議会における委員会及び本会議の討論を通じて見ても、常にこの立場が繰返し繰返し述べられております。例えば七月十日には、藤田議員質問されておる言葉の中に、「自衛ニ依ル戰争ト云フモノモ否定シタノダト云フ御説明がアツタノデアリマス」というように繰返されております。それから又金森国務相もそういう意味において主張しておられる。それで、例えば七月十日衆議院における金森国務大臣は、「憲法第九條ノ前段ノ第一項ノ言葉ノ意味スル所ハ固ヨリ自衛的戰争ヲ否定スルト云フ明文ヲ備へテ居リマセヌ、併シ第二項ニ於キマシテハ、其ノ原因ガ何デアルトニ拘ラズ、陸海空軍ヲ保持スルコトナク、交戰権ヲ主張スルコトナシト云フ風ニ定マツテ居ル訳デアリマス、是ハ予ネ予ネ色々ナ機会ニ意見ガ述べラレマシタ通リ日本ガ捨身ニナツテ、世界ノ平和的秩序ヲ実現スルノ方向ニ土台石ヲ作ツテ行カウト云フ大決心ニ基クモノデアル訳デアリマス」、こういうように述べられております。それから七月十日の芦田委員長の述べられておりますところには、「武力ナクシテ自衛権ノ行使ハ有名無実ニ歸スルデハナイカト云フ論ガアリマセウ、併シナガラ国際聯合ノ憲章ヨリ言へバ、日本ニ対スル侵略ガ世界ノ平和ヲ脅威シテ行ハレル如キ場合ニハ、安全保障理事会ハ、其ノ使用シ得ル武裝軍隊ヲ以テ日本ヲ防衛スル義務ヲ負フノデアリマス、又我ガ国ニ対シマシテモ自衛ノ爲ニ適宜ノ措置ヲ執ルコトヲ許スモノト考ヘテ多ク誤リハナイ」というように述べておられます。それから七月十二日に金森国務相は、「理論的ニハ自衛戰争ハ正シイニシテモ、総テノ戰争ガ自衛戰争ノ名ヲ藉リテ然ラザル戰争ニ赴クト云フコトノ労ヒヲ、憲法ノ中ニ残シテ置クヤウナ言葉ヲ避ケル方が宜イト云フ考へモ成立スル訳デアリマス、此ノ憲法ハ其ノヤウナ考へニ依リマシテ、特ニ区別セズ謂ハバ捨身ニナツテ世界ノ平和ヲ叫ブト云フ態度ヲ執ツタ次第デアリマス」というように述べておられます。こういう討議の経過、現在の憲法が提案され、そうして討議され、そうして可決される過程において、只今読み上げましたところでわかりますように、いわゆる日本真空状態と今日言われておるような状態に対して、これが予想せられなかつたというふうには判断できないのであつて日本自衛権がありながら、武力を持たない、そのことは現在の日本憲法が予想しておるところであります。従つて、この安全保障條約の前文に、「日本国は、武裝を解除されているので、平和條約の効力発生の時において国有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。」「前記の状態にある日本国には危險がある。」という文章ですが、これは憲法の條文、それから又この日本国憲法が制定せられた根本的精神、そうして又これが解釈せられました当時の、つまり立法者の意思というものと甚だしく矛盾しておると判断しなければならないところがございますが、この点については政府はどうお考えになりますか。
  408. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法制定当時におきましても、すでに日本の安全を如何にして保障すべきであるかという論議が相当熱心に行われておるわけであります。独立に際しまする日本真空状態というものは、日本の平和並びに安全にとつて極めて危險なものであるということは、当時すでに多数のかたがたによつて認識されるところであつたかと思います。
  409. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その危險を憲法はどういう方法によつて解決することを宣明しているのでありますか。
  410. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法は、それを解決する方法といたしましては、本来から言えば、みずから固有の自衛権を有効に行使すべき手段を持つのが一般の国の例でありますが、併し日本国憲法においては、その方法はみずからそれを否定いたしておるのでございまするから、それ以外の方法によつて日本としては解決しなければならんという状態に立ち至つておるわけでございます。
  411. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 さつき引用いたしましたように、日本国憲法は、日本がみずから武力を持たない、戰力を持たない、そのための危險は国際連合によつて守られるというように、はつきり吉田総理はその当時述べておられたのですが、只今その吉田総理の述べられたところは生きているのでしようか。いないのでしようか。
  412. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 真空状態を解決する一つ方法として、国際連合安全保障ということが考えられるわけでございます。これは理論上今日においても十分考えられるところであろうと存じます。
  413. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 一つ方法と言われるのですが、当時さまざまの方法が考えられていたものである。そうして、そのさまざまな方法が許されるものとするならば、当然この日本がみずから武力を持たない、そのために自衛権を守る方法がない、只今法務総裁がおつしやつたように、その危險というものは、日本国憲法が制定せられるときに、政府においても議会においても十分意識せられたところでありますから、そしてそれをどういうふうにして守るかという論議が詳細に亘つて展開されておるのでありますから、ここに今問題になりますように、外国軍隊の駐在によつてそれを守つてもらうのだということが日本国憲法に許されるとお考えになるならば、当然これは随分大きな問題でありますから、小さな問題ではありませんから、この国際連合によつて守られる、又外国軍隊に駐在をしてもらうことによつても守られるという御説明があるのは当然ではないでしようか。その御説明がないということは、日本国憲法が日本の国の自衛権というものを外国軍隊によつてつてもらうということを予想していないと考えることが正当じやないかと思いますが、政府はどう考えますか。
  414. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 独立に際する真空状態を守りますための方法として、憲法制定当時の論議において、外国軍隊の駐留を仰ぐということが明らかに説明されなかつたということは、これは事実であります。併しながらそのことは、憲法上それが否認されておるような意味に解すべき根拠がないと存じます。
  415. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 では、憲法がそういうことを消極的に禁じていないとして、憲法がそういうことを積極的に期待しておるという解釈が成立しましようか。
  416. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは憲法においてそのことについて何ら触れてない事柄であります。関係がないことであると思います。
  417. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 憲法の前文において戰争が一般に否定され、そして又憲法第二章第九條において戰争一般が否定せられ、従つて自衛権による戰争までが否定せられておるということは、日本国憲法が戰争に対して徹底的に否定的な態度をとつておるということは明らかです。従つてその戰争のために用いられるところの戰力というものに対しても、これを否定する立場に立つております。でありますから、論理的に言えば、その憲法の條文で、すでに十分に、日本外国軍隊が駐在することによつて日本自衛権を守るというようなことが予想せられていないということは、そういうことを予想していない、即ちそういうことが起り得るとは考えていないということが、正しい解釈ではないでしようか。
  418. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) それは根拠がないことであります。
  419. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 どういう理由で根拠がありませんか。
  420. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その点については、憲法は何ら触るるところがないわけでありまして、触れてないことは予想していない、規定していないことは禁止する意味であると、こう考えることは根拠のないことであります。
  421. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 憲法は、先ほど一等最初に伺いましたように、戰争一般を否定している、如何なる戰争をも。従つて日本国の軍隊による戰争を否定しているばかりじやない。如何なる戰争をも否定している。そうして、その日本軍隊がないと、いわゆる真空状態が発生する危險に対して、繰返し繰返しこれは各委員から御質問があるわけなんです。ですから、政府としては、そういう各委員の心配というものを除くために、あるところの、あらゆる論拠は当然列挙せられると考えます。各委員のそういう不安に応えるためには、十分な、あらゆる、こういう方法がある、あり得る方法をすべて述べるのが当然ではないでしようか。そうして総理大臣が繰返し繰返し、この国際連合によつて守られるのである、そしてこの憲法の根本精神従つて、戰争ということでなく、国際平和団体、これは今日の国際連合のことであるようですが、国際連合によつて平和的に解決するのだ、そうして金森国務大臣も芦田委員長も、これは世界平和を築くために日本が捨石となるのだというふうに答えておられる。即ちあらゆる戰争を否定し、ただ平和に向つて邁進するのだという考えの上に立つて、現在の憲法ができている。これはお認めになりますか。
  422. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) すでに真空状態に対して我が国を保護する方法として、当時国際連合が考えられておつた、このことは、国際連合というものは、單なる抽象的な国際機関であり、そこにおいて言論的な方法が行なわれて、それで平和的にすべてが解決するというばかりでなく、国際連合自体、武力による解決ということを考慮いたしておるわけであります。この点は羽仁委員もお認めになることと存じます。然らば国際連合の持つ武力というものは如何なるものであるか。これは結局各連合国のいずれかに属する軍隊から成るわけでありまして、それは即ち我が国以外の国の軍隊が、我が国の自衛の際において、我が国の安全のために活動してくれるものであるという期待を、すでにそれ自体意味していると思うのでございます。従いまして、国際連合によつて日本の安全が保障されるということは、即ち我が国みずからは武力を持たないということ、併し武力によらなければ我が国の侵略が予防できないという場合においては、外国の武力によつてこれは守られるべきものであるということを前提といたしてのみ、初めて理解し得ることと考えるわけでございます。
  423. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 憲法の根本精神が、戰争を否定し、平和を目的としているということは、法務総裁も御異存はないと思います。それから国際連合目的も第一には平和的な解決にある、そういうことも御異存は恐らくないと思う。そこで、この現在の日本国憲法が制定されるときの総理大臣の説明は、そして又金森国務相の説明、又芦田委員長の説明というものも、絶えず、日本自衛権はあるけれども自衛権の戰争というものをも否定して、あらゆる戰争というものを否定している。そしてすべてが平和に解決せられることを希望する、そして最大限の場合として、国際連合は平和に解決することを主たる任務とするのだが、その平和に解決できなかつた場合に、国際連合の武力、戰力というものにより解決される、そういうふうに答えているのでありますから、これを客観的に、素直に解釈するならば、国際連合が平和の方法によつて問題を解決する、そして、それでもできなかつた最後の場合に、国際連合兵力によつて解決するということが、極限の場合として考えられていると判断すべきだと思いますが、そうでないでしようか。
  424. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 成るほど順序といたしましては御説の通りでありまして、原則的には飽くまでも平和的解決によるべきものであるという考えに立つて憲法ができていることは、もとより申すまでもないと思います。併しながら、最後の場合におきましては国際連合の武力による解決、即ち日本以外の国の武力の力を借りて侵略を防止するということも、当然止むを得ないものであるということを、当時からすでにこの問題については考えられておつたものと、こう考えるのが当然だと思います。
  425. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 法務総裁は、この国際連合武力制裁という場合に用いられる武力と、それから外国の武力というものとの間には差はお認めにならないのですか。
  426. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) それが、いづれも日本政府の戰力とならないという意味においては差を認めるべきでないと思います。
  427. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それ以外のときは。
  428. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 或る他の国の武力と、国際連合の武力というものは、おのずからそれをコントロールする主体というものにおいて違いがあるということは、これは当然のことだと思います。
  429. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点において、国際連合の武力と、それから特定の外国の武力というものの間には、平和に関する意味において本質的な区別をなすべきではないでしようか。
  430. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これはいずれも日本の安全と平和を守るためのものであり、そうして又それが日本外国に対する侵略を意味するものでないという点においては、特に区別する実益はないと考えます。
  431. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その特定の外国軍隊が、日本に関して、或いはそれ以外においても、この平和のために動いているのか、戰争のために動いているのかということは、現在の世界状態においては誰が決定するのですか。
  432. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これはおのずから決定さるべきもので、特に誰ということはない。
  433. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 普通には、それは国際連合安全保障理事会において決定されるものではないのですか。
  434. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 国際連合安全保障理事会において、それに対する決定を與える場合もあると思います。
  435. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そういう意味において、この国際連合の武力というものは、この現在の日本国憲法が考えられている根本の精神は飽くまで平和にあるのであつて、戰争一般を否定している、そうして万一の場合戰争が発生するということに対しては、国際連合による解決というものを予想している、で、国際連合による解決ということも、実際は日本国憲法の中には書いてないですね。併し総理大臣は、各議員や或いは当時一般に持たれておつた日本が全然武力を持たないで、どうして日本の国を守れるであろうといういわゆる真空説ですね、今日の言葉で言えば……。当時は真空論という議論はなかつたようですが、現在の言葉で言うと、これは真空論、ダレスさんの盛んに言われる真空論、この真空論に対して吉田総理大臣は、当時は国際連合によつて守られるのだというような態度をとつておられる。それ以外の態度は明らかにしてはおられない。主張してはおられない。これは、さつき法務総裁は同僚堀木議員に対して、詭弁を弄するというふうなことを言われましたが、これは恐らく失言であろうと思う。我々はこの問題を解決するのに、詭弁を弄したりするような意思は全くないのです。つまり日本がどうして平和を守るかという点については、法務総裁も恐らくそうでしようし、私もただそこに唯一の誠意を持つだけなんです。日本国憲法というものは、飽くまでも平和を目的としている。そうして最大限の戰争的手段というものとしては、国際連合による解決というものですね、これは言うまでもなく、つまり日本なり何なりが先に戰力を備えて、そうして国際問題が起つて、そうしてそれを国際連合によつて、武力によつて解決されるというのじやないのです。吉田総理もここに述べておられますように、日本が全然武力を持たない、如何なる武力をも持たない、あらゆる戰争を否定する、そこで、それに対して侵略して来るものがあれば、世界がこれを憎んで必ずこれを処理するという信念の上に立つておられますね。これは今ここで再び引用いたしませんが、当時の空気は大橋総裁も御承知でしようし、又そこにおられる現在の意見局長官は、当時法制局次長でおられましたから、この当時の衆議院における提案及びその質疑応答の中の空気というものはよく御承知だろうと思うのです。つまり、この日本国憲法というものは徹底的に戰争を否定しておる。ただ平和を念願としておる。この精神というものを政府がお認めになるとすれば、現在我々があらゆる意味において、この戰争とか或いは戰力とが或いは武力的解決というような方法による解決を先ず最初に考えるべきか、それとも先ずこの平和的な解決というものを最初に努力すべきかということは、おのずから明らかだろうと思うのですが、如何でしようか。
  436. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その点は、すでに対日講和條約においても、日本政府が明らかに連合諸国と約束をいたした通り、今後国際紛争においては日本は平和的な解決を原則とするという方針をとつておるわけであります。これは日本国憲法の平和主義に適合したものであると考えるのであります。この点は講和條約に明らかに謳つておるわけであります。
  437. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしますと、安全保障條約には「日本国は、武裝を解除されているので、平和條約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。」「前記の状態にある日本国には危險がある。」、ここまでは日本国憲法が予想しておることですね。そうして日本国憲法は、この危險は国際的平和主義によつて守られるというように解決を與えておるということもお認めになりますね。
  438. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法自体においてはそこまで解決いたしておりませんので、憲法はこの危險を守るために日本国がみずから軍備を持つということは許さないということを規定いたしております。
  439. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしますと、率直に申して、つまり問題の分れ路が生ずるのは、この日本国憲法があらゆる戰争というものを否定している。そうして明らかに日本が戰力というものを持つことを否定しておる。ところが今ここに、この日本アメリカ軍隊が駐屯するということが問題になる場合、これはまあ一種の、ことによると限界的な問題になるというふうに言つてもいいかと思うのですが、或いはすれすれの問題になると言つてもいいと思う。日本国憲法は、これはさつきも御説明がございましたように、こういうことを明らかに禁止してはいない。禁止した條項はない。併し日本国憲法の平和主義というものから申しまして、この戰争とか或いは戰力というものの問題において、日本国憲法が明らかに禁止している線に議論の余地を生ずるようなところに我々が今日進んで行くことを、日本国憲法、或いはその立法者たちが当時表明した意思というものは、歓迎しているのでしようか、それとも歓迎していないのでしようか。
  440. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 当時の日本国憲法においては何らこれは規定してない事柄であります。従いましてかようなことは一応憲法上は差支えなく行われ得ると思うのであります。そこで、併しそのことが、日本国憲法の根本となつておりまする平和主義の根本原則から見て果して妥当なりや否やという問題があると思います。この点につきましては、この日米安全保障條約自体が日本の平和と安全のためにあるわけでございまして、日本の平和憲法を飽くまでも守り続ける手段としてかような安全保障條約が必要とされておるのでありまするから、この点についても矛盾はない、こう思うのであります。
  441. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 法務総裁は、今日の時局において妥当するだけでなく、将来如何なる状況の下においても、如何なる審判の下にも立たれる決意を以てお答え下すつておるものと確信します。そこで伺わなければならないのですが、この日米安全保障條約というものが、日本の平和憲法によつて成立している日本の国の安全と平和とを守るために、そういう必要があつた場合に、現在の日本の国の憲法は、それを守る方法においても、戰争的或いは戰力的な方法を積極的に支持するものでありましようか。そうでないでありましようか。
  442. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 勿論平和憲法の根本精神は飽くまでも平和主義でございまして、従いまして今回の両條約におきましても、すでに対日平和條約におきまして国際紛争については平和的解決を原則にすべきものである、こういう精神が謳つてあるわけであります。そうして又、かような方法によつて解決することが不可能であると認められるところの問題を想定いたしまして、さような問題に対して日本の平和主義を飽くまでも守るということのために、保險的な意味におきまして日米安全保障條約というものができておるわけでございまして、両々相待つて平和憲法の真の精神が生きて来る、こういうふうに考えておるわけであります。
  443. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは、この日本国憲法が率直に我々に向つて要求し、そうして指示しておるところのものは、第一には目的において平和であり、又手段において平和である。で、あらゆる問題を平和的に解決せよということを我々に向つて命令しておるわけです。我々はその命令の下に立つておるわけです。そうして、それが而も、なお、日本側からは、あらゆる意味において平和を目的とし、平和な方法で解決する努力を盡しておる際に、相手国が平和を目的とせず、又平和を手段とせず、日本を侵略しようとする場合には、世界の平和主義が、従つて国際連合が、先ず第一に平和的な方法により、よんどころない場合には最後の極限的な場合として国際連合がこれに対して武力的な制裁を與えるというところまでが、憲法のテキスト、正文として、それがこの立法者の意思において現われておるわけです。これはお認めになると思う。それ以上は現われていない、そういうふうに考えてよろしうございましようね。
  444. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 平和憲法の趣旨といたしまするところは、如何なる場合においても日本の平和であろうと思います。そういう意味におきまして日米安全保障條約というものは、真空状態の存在ということが日本の平和と安全を脅かすものである、日本が飽くまでも平和と安全を保ちまするためには、日米安全保障條約というものが必要である、こういう情勢の下におきましては、むしろ日米安全保障條約によつて日本の平和を守るということが、平和憲法の平和主義の趣旨に徹するゆえんであると考えるのでございます。
  445. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 法務総裁は私の質問お答えにならないで、別のことをお答えになつておるようです。私が伺うのは、この日本国憲法というものが、その正文におきましても、文理におきましても、そうして又その前文に現われておる根本精神から言いましても、それから立法者の意思から言いましても、唯一の目的として平和を考え、唯一の手段として平和的手段を考えておる。そうして、日本が平和を目的とし、唯一の手段として平和的手段に專念しておるとき、他の何ものをも考えていないときに、而もなお侵略するものがあつたらどうするのか、いわゆる真空状態ですね。今日のいわゆる真空状態、その真空状態に対しても、この立法者は、それが平和的に解決される……つまり先ず第一には、これは国際連合憲章の示す通りに、国際連合というものは武力制裁を第一にするものでないことは御承知通りです。平和的解決を第一にするものである。而もその平和的解決が国際連合の主たる目的であるにもかかわらず、それが何ら効果を発しないというようないよいよ最後の場合ですね、これは今日の世界において我々が平和のための努力をするいよいよ最後の悲惨な場合だと思うんです。その場合に国際連合武力制裁という手段に出る。そこまでがこの憲法の前文及び各條項、それから立法者の意思として現われていることであつて、それ以外は現われていないというふうに見るのが真実ではないかと思うんですが、如何ですか。
  446. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私は、日本の平和憲法の平和主義というものはもつと徹底したものであると思います。国際連合の努力が終つたときに日本の平和主義の努力が終るものであると考えることは、これは憲法の精神に副わないのでありまして、国際連合によるところの平和のための努力が終つた後においても、日本憲法というものは飽くまで日本の平和主義というものを貫かなければならぬと、こう考えなければならぬものだと思う。そういう意味におきまして、真空状態における日本の平和を脅やかすようなものを未然に防止することこそ、真の日本国憲法の平和主義を徹底するゆえんでありまするから、そういう意味においてこの日本安全保障條約というものがあつて、初めて日本の平和憲法というものの精神が徹底するのである。こう私は考えている次第でございます。
  447. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ジユピターが電光雷鳴を用いるときには、それは彼が論理を失つたときであるという、有名なギリシヤの諺があります。法務総裁は私の質問お答えにならないので、私の質問お答えになる論理をお持ちにならない、それで他のことをお答えになつているのだろうと思います。
  448. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私はお答えをいたしておらないのではなく、羽仁委員の御質問は、日本の憲法の考えている平和主義というものは、国際連合の努力の終るときに平和主義の理想が終るのではないか、こういうことを前提にしての御質問でございまするから、私は、そうでない、国際連合の努力の終つた後においても平和主義というものは飽くまでも守らなければならん、そうして、その努力こそこの日米安全保障條約によつて保障されるものである、こういう私の考えを申上げたつもりでございます。
  449. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私が伺つているのでは、日本国憲法、又はその立法者が我我に向つて努力しろと言つていることは、どういうことかということを伺つているのです。先ずその努力を集中せよ、その努力を盡せというふうに言つておることは、どういうことかということを伺つている。日本国憲法及びその立法者が我々に向つて、先ず汝らの努力を盡せというのは、この平和を目的とし、平和の手段によつてすべての問題を解決するという努力です。あらゆる努力を盡せ。而もそれがいわゆる相手のあることだからして、相手が不法な行動に出て来た場合、その場合にも、つまり、これは、さつきも申上げたように、そこで盡きるとか盡きないとかいうことじやなくして、そういうことも日本国憲法の立法者は予想していない。それは、さつき引用もいたしましたように、吉田総理大臣も、芦田委員長も、金森国務相も、日本国憲法が捨石となつてというか、土台石となつて、そうして今後世界に友好的な平和機構というものが樹立する、又そのための努力をするということを誓つておられるのですから、その平和によつて、平和的手段によつて平和が守られるということのために全力を挙げるのだ。それは何ら疑いを挾まない。そのためにあらゆる努力を傾けるのだということが、この日本国憲法が制定された当時の空気である。そうして而もそういう確信に燃えながら、最後に、最も悲惨な場合として、そういう努力が、あらゆる努力が報いられなかつた場合はどうするのであるか。だからこれは消極的な意味において考えられて来ることだと思うのであります。法務総裁は、今日の空気の中でお考えになると、この平和的な手段を盡すのだということと、併し平和的な手段でできなかつた場合には、これはそれも止むを得ないのじやないかというふうに、並べてお考えになつているのじやないかと思うのですが、併しこの憲法ができた当時には、並べてじやないので、こつちのほうが上で、こつちというのは、あらゆる意味において平和的に解決するということが上で、それでどうしてもよんどころない場合として、国際連合の力によつてそれが守られるというように考えている、というふうに考えてよろしうございましようかと伺つておるのであります。
  450. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法の根本精神というものは、如何なる場合においても日本は平和的手段によつて平和を守るべきものであるという基本的立場に立つているものである、この点はあなたと同意見でございます。そうして現在の憲法もやはりそういう趣旨のものと考えなければならんという点も、あなたの意見と同意見でございます。ただ、一つだけ違います点は、平和的な努力が終つた場合において、平和的手段以外の手段によつて日本の平和を守るということも必要ではないかという考えを、私が持つているのではないかという点を疑つておられるようでございます。私はその場合におきましても、飽くまでも平和憲法というものは、平和的手段によつてのみ守られるべきものであつて、平和的手段の終つたときに、これに代るべき武力的手段というものは、憲法上考えらるべきものじやない、こう考えるのであります。そうして、それでは日米安全保障條約というものは如何なる性質を持つておるものであるかという場合において、私はこれこそ平和的な手段であつて、それは現在において国際連合によるところの解決というものに万全の希望を繋ぎ得る状態にない、その場合において、それでは国際連合による平和的な解決というものが終つたならば、平和的な手段というものについては憲法上あきらめるべき……私はその場合においてもあきらめるべきでない、飽くまでも日本国憲法は平和的手段だけで平和を守るものであるという考えに立つておる。従つてそういう努力を国家としてはしなければならない、そうしてその努力の現われとして、更にここに日米安全保障條約というものが締結される、こういうふうに考えておるわけでございまして、或いは私のお答えが一歩先に行つたかも知れません。
  451. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その唯一の目的が平和であり、唯一の手段が平和的手段であるということは、この日本国憲法自身がそうであり、又その立法者の意思の存するところである。現在の政府もそうであるというお考えはよくわかりました。そうしますと、率直に言つて、この日米安全保障條約というものは、我我の目指している唯一のものであり、平和を守る道であるかも知れない。或いはそうであるというふうに政府がおつしやるならば、暫らくそれを信ずることが妥当であるかも知れない。それを守る。方法として、平和的手段でなくして、武力を用いることを考えて、日本に武力を置く、これは日本国の武力であるか、外国の武力であるかということは、今問題にならないと思うのですが、この武力を日本に置くという方法は、唯一の目的が平和にあり、我我の最後まで盡す唯一の手段が平和にあるということから申しますと、喜ぶべきことであるでしようか、悲しむべきことであるでしようか。
  452. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは止むを得ざる措置でありまして、これ以外に平和的に平和を守る方法がない、こう考えられるからとられたことで、これは国際の現状から見て止むを得ざる措置であるということは疑いを容れない点であると思います。
  453. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 非常に率直にお答えになつたようですが、この日米安全保障條約というものが、日本国憲法から見て喜ぶべき條約ではないということは、今日政府もお感じになつて、そう判断されていると解釈いたします。
  454. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 憲法の企図しておりまするがごとき国際的な條件が十分に改善されておらない今日において、これは止むを得ない措置としてとつたので、決して日本憲法の趣旨から見てこれが望ましいもの、適切だというふうには考えられません。この点は全く同感であります。
  455. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、次に政府のお考えを伺いたいのでありますが、この憲法が制定されました当時、政府の考え方として、これは必ずしも憲法担当大臣の述べられたところではないのでありますけれども、当時の田中文部大臣が説明されておりますその言葉の中に、日本国憲法というものは「「パワー・ポリテイツクス」詰り権力政治ト申シマスルカ、」というふうに言つておられますが、「日本ガ詰リ今後ノ国際政治ニ於キマシテ「パワー・ポリテイツクス」詰リ権力政治ト申シマスルカ、其ノ「パワー・ポリテイツクス」ノ「クライマツクス」ハ、要スルニ武力ニ依ル世界制覇ト云フコトニナルノデアリマシテ、戰争ヲ抛棄シテ本当ノ平和主義的ナ活動ヲ国際政治ニ於テ演ズルト云フコトハ、是ハ国内ノ教育ニ付テモ非常ニ大キナ意味ヲ持ツノデアリマス、詰リ戰争抛棄ヲナゼ致シタカト申シマスルト、」というように述べられておるように、パワー・ポリテイツクスというものの原則の上に立つのでないということを田中文部大臣が述べておられます。これは恐らくやはり当時の政府の正式の見解と一致するものであり、又日本国憲法と一致するものであり、又現在の政府のお考えとも一致するものであると考えます。それでよろしうございますか。
  456. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その通りに存じます。
  457. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それから、これは同じ趣旨におきまして、そのときの討論の間に、これは七月十五日でございますが、が北浦委員が述べておられるところに、これは引用でございますが、その当時述べておられるのであります。「例ヘバ戰争放棄ノ問題デモ——是ハ戰争放棄ニ後戻リスルノデハアリマセヌ、一例トシテ挙ゲルノデアリマス、外国軍隊日本ノ領土内ニ来テ兵営ヲ建テル、今日ハ已ムヲ得マセヌガ、我々ガ死ンデ我々ノ子孫ノ時代ニナツテ兵営ヲ建テ、サウシテ軍隊日本ノ国土デ軍事行動ヲヤル、斯ウ云ウヤウナコトハ当然此ノ憲法デ禁ジナケレバナラヌノデアリマス」というふうに述べておられる。これは今日の日米安全保障條約を予想せられて言つておられるのじや勿論ないのですが、そうだということになると又議論を生じますけれども、併しこういうような空気の中で日本国憲法が成立しているということについて、政府及び同僚各位の注意を喚起しておきたいと思うのであります。  それからもう一つは、戰力或いは武力の問題です。これも先日来討議になつておりますので、私も率直にどういう見解をとつたらいいのかと思つて、この日本国憲法が制定せられた当時の立法者の意思を窺うために読んで見たのですが、その中で、これは金森国務大臣の述べられておるところに、「陸海空車デナクテモ固ヨリ戰力デアリ、多数ノ人間ニ多クノ生命身体ニ関スル変化ヲ惹起スルト云フヤウナ手段ハ之ニ入ルト思フノデアリマス、」というように述べておられるのです。これは法務総裁が先ほどから、戰力というものは近代戰を遂行するに十分なる力であると、先ほどの質疑応答の際には、旧日本帝国が持つていたような軍備はこれは勿論戰力だというようにおつしやつて、何かその少し下のところまでならば戰力でないかのような印象を、これは法務総裁はそういう印象を與えるというふうに思われたのではなくて、極端な場合を御説明になつたのだろうと思うのですけれども、これは一体本当に、單に討論のための討論をするのでなく、国民が本当に納得するように、我々が考えて見ますと、この戰力というもの、或いはこの武力というものですが、この近代戰を遂行するに足るというと随分大変な武力ですね。現在、恐らく原子爆彈を自国で製造するというくらいのところまで行かなければ戰力にならないということにまさかなつてしまうのではないと思うのです。それから又余り極小に考えて、相手を睨むというくらいでももうそれは威嚇になるというようにも考えられない。これは妥当なところをどうしても我々がこの際はつきりしておかなければならん。金森国務相の解釈によれば、これは陸海空軍でなくても、もとより戰力というものはあると、それは多数の人間に多くの生命身体に関する変化を惹起させるという手段はこれに入ると思うというように述べておられますが、これは当時の政府の、金森国務大臣は当時日本国憲法制定を主として担当されたかたであるので、金森国務相の述べておられるところは当時の正式の政府見解であつたと判断することができると思うのでありますが、現在の政府はこれに対してどういうふうにお考えでありましようか。
  458. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 現在の戰力の解釈といたしましては、戰争を遂行するに足る力と、こう考えております。
  459. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、当時のこの金森国務相を通じて現われていた日本国憲法制定当時の日本国政府見解と現在の政府の御見解とは変化して来ているのでありましようか。
  460. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 変化はいたしておらんと思います。
  461. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 変化していないとおつしやると甚だ解釈に苦しむのですが、金森さんがここに述べておられるのは「多数ノ人間ニ多クノ生命身体ニ関スル変化ヲ惹起スルト云フヤウナ手段」、これは戰力に入ると思うというように述べておられるのです。
  462. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういう手段は即ち戰争を遂行するに足る力と考えます。
  463. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、法務総裁が絶えず現在の政府見解としてお述べになる、近代戰を遂行するに足る戰力とおつしやる意味は、解釈を変えれば、金森国務相がここに述べておられるように、多くの人に多くの生命身体に関する変化を與えるような手段だとおつしやるのですね。
  464. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 戰争を遂行するに足る力という意味において申しておるのでございます。
  465. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 戰争を遂行するに足る力が戰力だというのは、論理上いわゆるタウトロジーと言いますか、訓話註釈的な御解釈であつて、本質的な意味はわからないのですよ。戰力とは即ち戰争を行う力であるというのでは、字引にはそう書いてあるかも知れないのですけれども、併し我々がこの條約を審議するときには、戰力の法律的或いは内容的の解釈としては困ると思うのです。ここで先ず金森国務相も非常に苦心されて、こういう御答弁をなさつたと思いますし、又当時の総理大臣や閣僚も、金森さんがこういう御答弁をしたことを知らないということじやないだろうと思うのですが、これは金森さんが責任を持つてお答えになつたことだろうと思うのです。当時の政府と現在の政府見解が相違しておられないということであれば……法務総裁がおつしやるのはいわゆる字引のような解釈で、戰力とは戰争を行う力とおつしやる。これは内容的に考えれば、金森国務相の言つておられるように「多数ノ人間ニ多クノ生命身体ニ関スル変化ヲ惹起スルト云フヤウナ手段」ということだというふうに解釈して正しいと思います。よろしうございますね。
  466. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 先ほどお答え申した通りであります。
  467. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 法務総裁は、戰力という問題につきまして、外国へ向つて行くと戰力というものになるというような説明を與えておられる場合がありますが、金森国務大臣は只今の討議の過程において、必ずしも外国へ向つて行くものだけが戰力であるというふうには考えていない。これは念のために申上げますが、七月十五日の笹森委員の御質問に対する御答弁です。で、笹森委員は「反乱鎭定ノ為ニ警察ハ武力ヲ行使シ得ルカ」という御質問です。この武力と戰力というものはどういうところで限界になるか。で、国内において「反乱鎭定ノ為ニ警察ハ武力ヲ行使シ得ルカ」、この武力というものが憲法で否定しておるところの戰力というものにならないかという、その限界について、さつき申上げましたような解釈をしておられる。非常に多数の人に多くの生命身体に関する変化を與えるようなものは、これは戰力と言わなければならない、警察力とはみなされないというように解釈されているのであります。従つて当時の日本国憲法を制定した日本国政府は、この戰力ということについて、国外に出て行くのは勿論侵略的な戰力ですが、国内において動くところのこの警察力というものもそれが戰力というものになるという、間に一つの線を引いて行く、その線を引こうとする企てが、先ほど申上げた金森国務大臣の御答弁であるというように了解すべきではないかと思いますが、そういうふうに了解してよろしうございましようか。
  468. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 戰力というのは、戰争遂行のための一切の手段、即ち軍備を意味するわけでございまして、そういう意味におきまして、通常軍隊は戰争すべきものである、戰争のために必要とあれば、国外にも当然派遣されて行くということは前提としなければならない、そういうことをも含めまして、国外に活動し得る場合もあるというお答えをしたことはあります。要するに一言を以て申しますれば、戰力というものは軍備である、こう考えるわけであります。
  469. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 さつき私が御質問いたしましたのは、この警察力と戰力というものの関係なんです。で、警察力というものは勿論日本国憲法はこれを認めておるわけです。ところがこれは、笹森委員質問されましたのは、警察力というものが戰力というものになつて行く虞れはないかという御質問をなさつておるわけです。それに対して金森国務大臣は、そこに一線を画すべきものがある、警察力というものは決して戰力ということになつて行かないというふうに考えることもできない、警察力が非常に大きくなつて来れば戰力というものになつて来る、その一線を画す意味において、さつき引用いたしました解釈をとつておられる。それは当時の政府の正式な見解と解釈してよいと思いますが、現在の政府もそういうような見解をお立てになりますか。
  470. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) お述べになりましたような意味におきましては、現在も同様に解釈しております。
  471. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今の問題、つまり今法務総裁に伺つておりますのは、いわゆる警察力と戰力というものとの関係でございますが、この警察力と戰力との関係において、法務総裁もよく御承知の一九四七年七月十一日極東委員会から発表せられましたこの降伏後の対日基本政策というものがございます。この対日基本政策というものは形式的には今日も有効なんでしようか、どうでしようか。
  472. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは連合国最高司令官日本に対する管理政策を、管理を行われるその基本政策という意味で採択せられたものと心得ております。
  473. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今日も妥当しておりますか。
  474. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 修正されない限りは今日も妥当していると思いますが、そういう部分がどう修正されているかということは詳しく調査しておりません。
  475. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 根本精神に関する点ですから、その点はそれで……。平和條約が発効しますと、これはどうなりますか。
  476. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは連合国最高司令官に対する極東委員会の訓令というような性質のものではないかと存じます。従いまして、これが法律上当然に日本国内のいろいろな事柄を規定する、こういうものではないと思います。併しながら今日の日本国憲法というものは連合国最高司令官の管理政策に従つてできておるものでございまするから、その憲法の根本精神として取入れられた限りにおきましては、これ自体の効果でなく、日本国憲法並びに日本国の他の法令の効果といたしまして、引続き存在するものはあると思います。
  477. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、要するに本質的な点を伺いたいのですが、この平和條約が成立する、併し平和條約が成立しても、日本に重要な関係を持つ国で署名しない国がある、その署名しない国との関係はどうなるか、こうなるかという、そういう細かいことを伺おうと思つているのではない。その点は安心してお聞き下さつたほうがいいのですが、降伏後の対日基本政策に述べられておりますことは、我々にとつて、今の御説明の中にもありましたが、主な問題は日本国憲法の中に取入れられておる。それから又、日本国憲法を解釈する際に、この降伏後の対日基本政策というものが有力な文書の一つであるということもお認めになると思うのですが、よろしうございますね。
  478. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういう意味で貴重な文書と考えるべきものだと思います。
  479. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この中に、第三部に政治関係ということがございます。ここに只今の警察力と戰力と武力とについて、我々の判断の有力な根拠になると考えられる叙述があるのですが、「日本国は、陸軍、海軍、空軍、秘密警察組織又は民間航空又は憲兵隊を保有してはならない」というように書いてあります。適当な非軍事警察隊を保有することができるというように書いてある。これは、こう書いてあるからどうだこうだと言つて法務総裁をいじめるつもりは一つもないのです。さつきも申上げましたように、私の願うところも、法務総裁と御同様に、全く日本の平和というものを守る点にあるのですから、日本国憲法を守るという点にあるのですから、ここにはつきり明記してありますのは、陸軍、海軍、空軍、それからそのほかに秘密警察組織又は憲兵隊を保有してはならない、適当な非軍事警察隊を保有することができる。これはこの日本国憲法を解釈して行きます上にも、やはり我々が十分愼重に考えなければならない点であると考えますが、法務総裁も同じ御見解をおとりになると考えますが、如何でしようか。
  480. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 先ほど申上げましたるごとく、この基本政策なるものは、これは日本政府に対する命令でもなく、極東委員会が最高司令官に対して、日本国管理に当つての基本政策を示したものであると思います。従いまして、直接にこれの法的拘束を受けておるわけではございませんので、日本国政府といたしましては、かようなる原則の下に最高司令官の指示されまする指令に従つて、一般の施政を行なつておるわけでございます。
  481. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 もう一つつておきたいのは、これもやはり法務総裁よく御承知と思いますが、一九四三年十月三十日、モスクワにおいて全般的安全に関する四カ国の宣言というものがございます。アメリカ合衆国、連合王国、ソヴイエト連邦及び中国の政府、この四つの国によつて共同宣言がなされております。その第六に、「戰争の終了後においては、右四国は、本宣言に規定せらるる目的のため、且つ共同協議の後にあらざれば、他国の領域内においてその軍隊使用することなかるべきこと、」ということがございます。これは、今度は先に結論を申上げてもいいのですが、日米安全保障條約には関係がないでしようか。
  482. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 少くとも日本政府とは関係ないと思います。
  483. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 又そういう御答弁を伺つたんじや却つて困るのですが、さつきも日本占領基本方針というものについても、その精神は尊重せられるというふうにおつしやつていましたが、この全般的安全に関する四国宣言というものが、日本が宣言したものでもないし、又日本に向つて宣言したものでないことは私もよく知つています。併しながら、ここで宣言せられておるような趣旨は、我々としても尊重すべきものである、或いは尊重してもかまわない。むしろ私の伺いたかつたのは、この四カ国宣言というものが今後も成立して行くものなのですか、どうですか。今日も妥当しているのであるかどうか。これは私は妥当しているものだと思うのですけれども、どうでしようか。
  484. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私はその宣言をよく読んでおりませんので、なんともお答え申上げかねます。
  485. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは、これは後で教えて頂きたいと思うのですが……。
  486. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは四国間の政策問題でございまして、日本政府といたしましては、これについて申上げる立場にないと、こう考えております。
  487. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、四カ国間というのですから、これはアメリカはこれに関係があるわけですね。日米安全保障條約のアメリカは……。
  488. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 多分そうだろうと思います。
  489. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 條約局長外務省のほうでもそうお考えでしようか。
  490. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) これは戰争中、一九四三年の十月、モスクワで、ハル、イーデン、モロトフ三外相が……。
  491. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 もう一人中国は。
  492. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 三外相会談で作りました三国の戰後の政策についての宣言でございます。現在この宣言がどの程度三国の間において効力を持つておるかにつきましては、日本政府としては判断の資料を持たない次第でございます。
  493. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私も実はその点で非常に疑問を抱いて、そのことを教えて頂きたいというふうに、これは率直に思つておるのですが、今三国というふうにおつしやいましたが、私どもの持つておる、これは国会図書館の調査立法考査局で我々に與えられた資料ですが、これでは、中国も入つて四カ国になつております。そうしてこれを見ますと、第六項というのはアメリカ合衆国を拘束しておる。そうすれば、アメリカ合衆国は、日米安全保障條約というものを、或いはこの内容に規定せられておるようなことを考えられる前に、その目的が、この四カ国宣言に一致しておる、且つ又共同協議ののちにというのですから、この四カ国の共同協議が行われた後にこういうことをしておられるのかどうか。
  494. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 先ず三国外務大臣会議で三国宣言ができたあと、モスクワ駐在の中国大使が招請されて署名しました。それで四国宣言と言つておるわけであります。
  495. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 あとの点についてはどうでしようか。
  496. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 日米安全保障條約についてアメリカが中国その他と相談したかという御質問でございましようか。
  497. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 日米安全保障條約によりますと、日本アメリカ軍隊が置かれ、そうして使用されるという事実を発生するわけですね。そういう外国軍隊を動かすということは、「戰争の終了後において、右四国は、本宣言に規定せられる目的のため、且つ共同協議の後にあらざれば、他国の領域内においてその軍隊使用することなかるべきこと」ということが誓約せられておるのです。それで私の伺いたいのは、これは今さつき法務総裁もおつしやつたように、日本国政府責任じやないかも知れないが、我々国会議員として非常に心配のあることは、アメリカ国際上の取極というものに、万一そういうことはないと思うのですが、違反せられて、日米安全保障條約というものを日本と結ばれるということについての、日本責任というものは、回避することができないと思うので、その点が心配になるので伺うわけなんです。
  498. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 日本は、モスコーの四国宣言とは何らの関係もないものでございます。これは戦争中四国外相によつて作成せられたものでありまして、日本政府としてこの宣言と何等の関係もありませんし、日本との間に拘束関係を生ずべき筋合のものではないわけであります。従つて日本政府として、日米安全保障條約を結ぶことによつて、四国宣言との関係において責任を負うが如き立場には全然ございません。  第二点の、日米安全保障條約の締結について、合衆国政府がその他の国とどの程度相談したかについては、日本政府は何も存じません。
  499. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 條約局長の良心は或いはそういうようなふうにお答えになることを許されるのかも知れないのですけれども、我々国会議員としては、この日米安全保障條約というものをアメリカと結ぶ、その際に、アメリカのほうではこれは国際間の協定というものに違反して、我々日本国とこういう條約を結ばれるのではないかという疑念が生じた場合に、これがアメリカ合衆国は一九四三年十月三十日モスコーにおいてアメリカ国自身が署名しておるところの四カ国宣言に違反するものでないということについて、はつきりした知識を得ておきたいと思うのであります。
  500. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 羽仁委員の御指摘になる文句は、第六の原則でございまして、各国は、責任においてその協議によるか、この宣言に定める目的のためのほかには、他の国の領域に対して武力を行使してはならないという條項であります。これとの関係で疑問を持つていらつしやるのだろうと思います。この文章の意味乃至法律上の効果について日本政府として何ら見解を申述べる立場にはございません。ただ私見を申上げますれば、日米安全保障條約という條約に基きまして、合衆国が日本の領域に軍隊を駐屯させることは、決して日本の領域に対して武力を行使するものとは考えられないということだけを申上げておきたいと存じます。
  501. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 條約局長の御解釈は伺つたんですが、この点について我々は重大な責任を感ずるのであります。で、法律的とか、形式的とかいう責任ではなくして、日本アメリカ安全保障の條約を結ぶということが、日本政府の直接の責任じやない、又我々の直接の責任じやないといたしましても、アメリカ国際的な協定というものの趣旨に則られないで、万一そういうことがあるとしまして、則られないで、そういうものを協定するということを、私もこれを全然知らなければ問題にもならなかつたのですが、我々がこれを知る以上、その点について道義的な責任と申しますか、或いは道義的よりも、もう少し嚴格な責任といいますか、道義的責任よりもう少し嚴格な責任だと思うのですが、これは至急に政府において、この点について、アメリカ合衆国は、この日米安全保障條約を日本と結ぶことにおいて、この一九四三年モスコーにおいて署名された四国宣言に違反するものではないということの、確たる根拠を示されたいと思うのであります。
  502. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 條約の締結に際しまして、アメリカの全権が署名されたる條約につきましては、私どもアメリカ国内においてそれが如何なる事情にあるかということまで取調べることはできないと思います。
  503. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 できないとおつしやるのは、つまり国際協定に違反したものではないというふうに信ずるよりほかに我々としては方法がないと、そういうお答えでしようか。
  504. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういう趣旨でございます。
  505. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 次に伺いたいのは、このさつきの戰力と武力との問題の続きでございますが、さつき述べました金森元国務相が述べておられるような、「多数の人間に多くの身体生命に関する変化を惹起するというような手段、」そうして又この警察力というものと戰力との間には一線を画さなければならないものがある、それから又今述べました降伏後の対日基本政策において、日本国は陸軍、海軍、空軍、秘密警察組織、又は民間航空、又は憲兵隊を保有してはならない、適当な非軍事警察を保有することができる。こういう関係、これらの点から判断いたしまして、この警察力というものと、武力、或いは戰力、日本国憲法が日本において維持されることを明らかに禁止しております戰力というものと、それから日本国憲法が日本に存在することを許すところの、何と申しますか、一種のその力というものとの間には、勿論嚴格な意味においてどこからどこまでということで一線を画すということはできないと思うのですが、併しそのどこで一線を画するかというような限界線まで進むということは、日本国憲法の趣旨から見まして許さるべきことでしようか。許さるべきというふうに申上げると、それは許されないこともない、限界のこつち側までなら許されるというふうにお答えになるかと思つておりますが、喜ぶべきことでしようか。喜ぶべきことでないでしようか。
  506. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 限界の線まで進むということは、これは当然許さるべきであると思います。併しながら、これが喜ぶべきことであるか、喜ぶべからざることであるかということになりますると、これにはいろいろ費用がかかることでありますし、成るべくならば最少限度にとどめておきたいということが日本国政府としてはいろいろな意味から言つて喜ばしいと思うのであります。
  507. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その許さるべきことだという御答弁を頂くということはどうかというふうに思うのであります。と申しますのは、実際問題として、限界の近くまで進むと限界を破るという虞れがあるわけですから、だから、日本国憲法の根本精神から見て、それは喜ぶべきことであるか、喜ぶべきことでないかということを伺つて、そのお答えを頂いたというふうに考えております。  それから、この戰力、武力というものがその限界に近ずくということは、いろいろな意味において、今の経済的な面をお挙げになつて喜ぶべきでないというふうにお答えになつたわけですが、この一つの力が憲法で否定しておるような戰力というものとどこで線を画すか、又その限界に近づきつつあるか、突破しつつあるかということは、なかなかこれはそれだけで判断できない問題であります。  それをそこで安全の状態においてくい止める力が若しあるとするならば、一面から言えば、その限界は曖昧だが併し大体の限界はある。併しその限界というものは曖昧で、そうはつきりさせることはできない。併しそれだけでは心配だが、それがその限界を超えて戰力になつて行くのを防ぐ力があるということになつて行くと、国民も我々も安心することができる。そのような力があると考えているかどうか。
  508. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 戰力を否定いたしておりまする動機は、これは侵略戰争というものが起る危險があるために、その危險を予防する意味において戰力が否定されているわけです。戰力に近いような警察力、或いは何らかの国内の力がそれに近づいた場合におきましても、憲法においては戰争というものを否定している。そうして戰争を現実に実行いたしますためには、ただ政府の決意だけではできないのでありまして、これがためには国内におけるいろいろな立法措置も必要であり、殊に憲法の改正というようなこともしなければならない。それを妨げるところの機会は憲法上いろいろな面において保障されていると存ずるのであります。
  509. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 これは現実の問題なんでありまして、日米安全保障條約というものによつて日本アメリカ軍隊が駐屯する。それに伴なつていろいろな問題が起つて来る。その一つ一つの問題を今伺う煩を避けるために、それらが憲法で否定しているような動きをとろうとする場合には何によつてこれが防がれるだろうか。その防がれる方法があれば国民としても我々としても安心するわけです。それがないということになると、個々の場合を問わなくても、非常に不安心であるということになる。そういうことで伺つているのであります。即ち日本国憲法がその上にある。そうしてその日本国憲法が否定しているところの……これは先日総理大臣が私に対して、いずれにせよ日本国憲法の上に出るものを作らないというふうにお答えになつたのはその意味だと思う。総理大臣はその意思をお持ちですけれども、その総理大臣の意思が具体的、技術的に守られるためには、法務総裁の御援助が必要だ、御助力が必要だと思うので伺うのですが、憲法の上に出ずるものは作らないという意味においても、ということは、その主なるものにおいて、私の了解するところでは、一つは、その戰力だか、武力だか、警察力だかわからならないその力が動く動きについて、国会がそれに対して審議することができるかどうかということがその一つではないかと思うのです。これも勿論これで絶対に守れるとは必ずしも思わない。過去においては国会においてそれを審議する際に、これが侵略戰争なるか自衛戰争なるかという当時の国会においても論議が阻まれたことがある。それが明かに侵略戰争であるのに、それに反対する議員除名されるということがありましたけれども、併し今日の日本国憲法や今日の議会はそういうものではないと思いますから、それらの問題が議会に対して責任を負うものであるかどうか、議会でこれを論議することができるかどうか、審議することができるかどうかということが一つある。もう一つ、第二のものは、一般の言論の批判ということではないか。その以外にもいろいろあると思いますが、これらの二つのものは欠くべからざるものだ。議会の権能は制限されてはならない。又言論の自由は制限されてはならない。これらの自由が制限されることなく発揮される場合には、一つの力が戰力に化する虞れはないという保障があると考えられるのじやないかと思うのですが、如何でしよう。
  510. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 誠に御指摘通りだと存じます。殊に一番現在において実際的に問題となるものは警察予備隊だろうと思いますが、警察予備隊もその基本は法律にあるわけでございまして、現在はかような占領状態にありますので、ポツダム政令によつてできておりますけれども、平和回復後におきましては、当然警察予備隊に類似するような機関が新たにできるかもわからない。或いは現在の警察予備隊令が改正されるというような場合におきましては、その基本法である法律案自体が国会の御審議を煩わすことになります。  次に、これらの部隊が現実に戰争をいたしまするのには行動を必要といたします。この行動のためには当然経費というものが必要になるわけでございまするが、この経費は国会の協賛を得た予算によつてのみ支弁される建前になつております。かような意味合いにおきまして、国会がこれらの力を監督する有効なる手段をお持ちになつておるということが言い得ると存じます。殊に憲法第九條におきまして、自衛権に基く戰争すら否定されておりますのでございまして、この根本原則を改正するということは憲法の改正でございまするから、当然国会において大きな責任をとられなければならん事柄であると存じます。又言論の自由ということも憲法上保障されてあることでございます。国内の或る種の力が戰力と化し、そしてこれが憲法の最も恐れておりまする戰争の原因を作るということにつきましては、日本憲法それ自体において大きなチエツクの力を持つておると、こう私は確信をいたすのでございます。
  511. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 有難うございました。そして最後に、この戰力か、或いは戰力として禁止されておるのではない力であるかという問題の関係としまして、今まで法務総裁の御意見を伺つてはつきりして来たのは、第一には、その力がそれ自身としてどれほどの普通にいう武裝を持つておるかという問題に近いと思うのです。非常にそれが武裝を持つて来れば、これはどうしても軍備と言わなければならない。第二は、どれくらいの武裝を持つておるかということからも来ますが、それと相待つて、これを戰力でないものとして留めておくものとしては国会の審議権というものがあり、言論の批判というものがある。この二つのものが相待つて大体においてこの戰力とならないという保障があると思う。ところで、そういう関係におきまして、その戰力のほうが次第に或る程度まで増大して来ますと、その、戰力じやない、その力が持つておるところの武力的な力が増大して来ますと、この国会の審議権なり言論の批判なりというものに対して圧迫的に働いて来る時期がございますね。これはお認めになると思う。この時期を到来させるということはいけないというふうに私は考えるのです。法務総裁もそういうふうにお考えになりますか。
  512. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その力が如何に国内において大きくなりましても、それが必ずしも国会の審議権とか或いは政府の管理権を圧迫するということにはならないと思うのであります。と申しますのは、これらの力は結局政府によつて管理されておるわけでございます。その政府は国会によつて監督されておるわけでございます。従つて国会がその政府に対する監督的な職責を果し、又政府がその責任を十分に果しておりまする限りにおいては、この力というものが国の政治を支配するというようなことはあり得ないわけでございます。日本国憲法の建前はそういうことを基本的な考え方として成立つておると思うのでございます。勿論これにつきましては、政府、国会、国民においておのおの憲法上期待された職能を十分に働かし、その責任を果すということが、当然の前提となつております。そういう意味合いにおきまして、私はさような危險はないと、こう確信をいたす次第でございます。
  513. 羽仁五郎

    ○国務大臣(大橋武夫君) その力が如何に国内において大きくなりましても、それが必ずしも国会の審議権とか或いは政府の管理権を圧迫するということにはならないと思うのであります。と申しますのは、これらの力は結局政府によつて管理されておるわけでございます。その政府は国会によつて監督されておるわけでございます。従つて国会がその政府に対する監督的な職責を果し、又政府がその責任を十分に果しておりまする限りにおいては、この力というものが国の政治を支配するというようなことはあり得ないわけでございます。日本国憲法の建前はそういうことを基本的な考え方として成立つておると思うのでございます。勿論これにつきましては、政府、国会、国民においておのおの憲法上期待された職能を十分に働かし、その責任を果すということが、当然の前提となつております。そういう意味合いにおきまして、私はさような危險はないと、こう確信をいたす次第でございます。
  514. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) それは結局憲法の基本原則でありまする民主主義というものを破壞する新らしい国内の力が出て来るということになるわけでございまして、その点はもとより国会としても、政府としても、否、国民全体として、常に憲法を守るために努力をしなければならないので、勿論そういう点は十分に注意をしなければならない事柄であるという点については異存は毛頭ございません。
  515. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点につきまして、旧帝国議会がその点を失敗されたということは、遺憾ながら事実であるということを政府もお認めになると思う。それで現在の日本国憲法は、その点については失敗をしてはならないという決意をお持ちになることもお答えを頂く必要もないと思う。その通りだと思う。そこで、その違いですね、その違いはその憲法の上の如何なる点からその違いが来るのでしようか。
  516. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは今日の憲法の基本的な原理になつておりまする民主主義、そうして又この民主主義を真に効果あらしめるための国民の基本的権利の尊重、又各種の国家機関でありまする三権の分立、こうした憲法上の基本的原則というものが、旧憲法とは全く異つておるという点において、私はこの点についての十分なる保障を日本国憲法に期待していいと考えております。
  517. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点について、私が今伺う二つの点は重要な点であるというふうに政府もお考えになると思うのですが、その一つは、いわゆる国民主権、最後の判断というものが国民によつてなされるということだろうと思うのです。で、旧憲法時代には、この最後の判断というものが政府によつてなされるという場合が、まあ、あつて、これは、はつきり申せば官僚が判断するということであるが、そうでなくして、これを国会なり何なりが国民主権を現わしているほうへ判断するということだと思う。それから第二の点は、この憲法によつて、我々に保障されておりますところの言論の自由というものが、旧憲法においては法律の範囲内にという制約を持つておりましたし、新憲法においてはそういう制約を持つていないという点にある。その他の点にもあると思うんですが、この二つの点が最も重要なものの二つであるというふうに了解してよろしいでしようか。
  518. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 御指摘になりました二つ事柄は、いずれもそういう意味において重要な点であると考えます。
  519. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この戰力と戰力にあらざる力というものの問題は、この安全保障條約を審議して行く上に重要な点でありますので、只今いろいろお答を願つたことによつて、現在の政府のお考えがはつきりしたことを有難く考えております。  それから、その次に……実は大分時間を超過してしまつて申訳ないと思つているんですが、先を急いで、是非法務総裁の御意見を伺つておきたいと思うことだけを伺つておきますが、第三に伺いたいことは、これも、私、專門家でないのでお教え頂きたいと思うのですが、先の質疑応答を伺つております間に、この安全保障條約という、これはまあ條約です、この條約によつて規定される行政協定というものですが、この行政協定というものは、法律でもなければ條約でもない、つまり国会の審議を求めるものではないというわけですね。国会の承認を必要としない……。
  520. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 国会の承認を必要とする條約であると心得まするが、併し国会の承認は、この安全保障條約を承認される際に包括的に與えられることを予定されておる、こういう性格の條約であると心得ております。
  521. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そういうふうになつてしまうと、ますます長引いてしまうのですが、それじや、まあ、それらの点については又機会を得て伺うことにしまして、成るべく簡單にしたいと思うのに、むしろ法務総裁は複雑にされるので、実際困るのですが、そういうふうにおつしやると、つまり白紙委任状ということになつてしまうのじやないですか。
  522. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 白紙委任状ではなく、安保條約第三條によりまして、その限界は、米軍の配備を規律する條件がこの條約の趣旨従つて協定されるものである、こういうふうに考えております。
  523. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしますと、これは白紙じやない。そこには字が書いてある。書いてある字は、「アメリカ合衆国軍隊日本国内及びその附近における配備を規律する條件」、これ以外のものは何もないというわけですね。
  524. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 且つ又内容はそれでありまして、そうして、その趣旨は、この安全保障條約の趣旨従つてきめられるべきものではないか、内容的にもそういうだけの限界はあると、こう心得ます。
  525. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、半分白紙だ、半白紙委任状というようなことになるわけですか。まあそれらの点については又改めて伺うとして、私は非常に心配をいたします点は、率直に申しますが、これはまあ條約なんですね。これについては我々がこうして良心と能力と政治的力とを盡してこれを審議して行くわけなんです。そうして、できて来ます行政協定というものは半白紙か、白紙か、それはまあとにかくとしまして、我々国会がその行政協定の内容について、内容の個々の條章について審議権を持つのじやないのですね。
  526. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 審議権を持つのでありまするが、その審議は、この平和條約の審議の際に包括的に事前に審議される、こういうふうに了解をいたします。
  527. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ですけれども、その内容を知らないのですからね、我々は。又政府もわからないとおつしやられておる。ですから、その内容について我我は事実上審議することはできないですね。今おつしやるアメリカ合衆国軍隊日本国内及びその附近における配備を規律する條件という程度のことしかおつしやらないで、これは條約じやないですから、各條項について我々審議することが事実上できない。まあ現に事実上今できてはおりません。私の結論を急ぎますが、そういうふうなものなんです。私は実は、実際、專門家でないから、專門家に教えて頂きたいと思うのです。そういう各條項について我々が審議をすることは事実上できないものから逆に法律案なり予算案なんというものが発生して来て、それが国会に現われて来るということが、私の常識ではどうしても了解できないのです。つまり猫の首に石を付けてどぶの中に入れてしまつた、ところが、それが、いつの間にか、にゆうつと我々の眼前に現われて来たような感じがどうしてもする。これは現在の法的良心に基いて一向差支えないということなんですか、どうですか。その点を教えて頂きたいと思う。
  528. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは差支えないことだと存じます。
  529. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 喜ぶべきことでもあるのでしようか。
  530. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 止むを得ざることでございます。
  531. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 喜ぶべきことではないというふうに政府もお考えになつていることがよくわかりました。  最後に伺つておきたいのですが、最後のもう一つ手前に伺つておきたいのですが、今の問題に関連してもう一つつておきたいことは、どうしてそれが首に石を縛り付けた猫がどぶの中から出て来るような感じがするかと申しますと、それが違憲であつた場合なんです。或いはその予算がどうしても国会で呑めないという場合、これは過去の国会でもそういうようなことがあつたのじやないか。軍事予算に反対する議員というものは生命身体の安全を感じられなくなつてしまつた。そういう場合には、私は実際首に石を付けられた猫がどぶの中から又出て来たような非常に不吉な感じがするのです。この行政協定から発して来るところの法律案や予算案なりというものが日本国憲法……そうして、その日本国憲法というものは、先にだんだんいろいろと伺つて来ましたところで、私の解釈するところと現在政府のお持ちになつているお考えと一致している点において、触れて来るような場合ですね、それはどうなんでしよう。
  532. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この点につきましては、先ほど曾祢委員の御質問に対してお答えをいたしたところを繰り返して申上げたいと思います。その趣旨は……。
  533. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私も伺つてはいたのですが、どういうふうに……。
  534. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この第三條によりまする行政協定は、事前に国会の御承認を得たものとありまするからして、従いましてこれは有効に成立するものであります。従いまして、その限りにおいて、法律或いは予算を必要とするものでありました場合においては、これは條約は国会議員、又政府においても遵守しなければならんものでありまして、拘束力を持つと思うのであります。併しそれは、その條約が国会において、條約と申しますより、この行政協定が、個別的に国会において御承認を得たものでありませんからして、従いましてその原則を貫くということは結局において国会の審議権というものを無意味にすることに相成るわけであります。そこで政府といたしましては、かような行政協定についてあらかじめ御承認を頂きまするが、併し政府の方針といたしましては、法律、予算等を必要とする事柄については、そういう法律案なり予算案なりを国会に提案して通過に努力をするという程度の約束にとどめまして、国会の自由なる御審議を侵害することのないようにいたす方針である、こういうふうに御説明を申上げたわけであります。法律論として申上げるところと、政府が実際この問題について方針として政策的に考えておりまする点とは、事実上多少食い違いを生じて来る。従つて法律的には、これを事前に御承認願うということは如何にも国会の実質的な御審議を回避するようなことを可能にするような形である。併し政府としては、そういう形を事実上とるということは考えていないという趣旨で運用いたすつもりである。こういうお答えを申上げた次第でございます。その趣旨によつて御理解を願いたいと思います。
  535. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 少しむずかしい御説明で、私にはよくわからないのですけれども、具体的な問題として、その行政協定から生ずる必要として政府が法律案を国会にお出しになる、或いは予算案を国会にお出しになる、その場合に、私はその限界を非常にはつきりしているようなものが出て来るはずがないと思うのです。つまりこの法律案は明らかに違憲であるとか、この予算案というものは明らかにつまり日本経済を破壞するものだというものが出て来るはずがない。この点については今法務総裁が御説明になつたことはそのまま私も了承するのですが、併し過去の例に照らして見ましても、それからさつきからだんだんに伺いました点から考えて見ましても、そこにはかなり議論の余地がある場合があるということが想像される。事実上。その場合には、つまり今日北大西洋條約、ナトなりに関係して、さまざまな問題が起つている、で、イギリスのマンチエスター・ガーデイアンというような自由主義といいますか、いわゆる穏健公正な立場に立つておる新聞、決して左翼的な新聞なり何なりじやない、マンチエスター・ガーデイアンというような国際的に信頼されている新聞がこの問題を取上げて、このナトを実際に施行して行く場合には、このイギリスをナトにおいて代表しておる国務大臣が辞職しなければならないような場合が起るんではないかということを非常に懸念しているんです。これも日本の場合にこれはどういう形になるか、行政協定の細目はまだおわかりにならないというのですが、併し我々が推定するところでは、この行政協定を実際実行するところの一つのボデイといいますか、機関ができるものと思う。その機関には日本の閣僚が代表される、大蔵大臣なり或いは法務総裁もそこに代表されるのかも知れない。そこで先ず第一には、そこで、その大蔵大臣なり法務総裁なりが、これは違憲である、或いはこの予算案というものは日本の財政状態において承認することが不可能であるという場合には、そこで阻止されるんだろうと思う。そこで、辞職せられるということは、我々としては望まないところである。ナトでは辞職されないでもよいという保障がないということをイギリスの場合では心配しておるわけであります。日本の場合においては、その場合にはどういうふうにお考えになつておりますか。
  536. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 法律或いは予算を必要とする事柄につきましては、法律或いは予算の成立するということを條件にいたしまして、初めてその内容とされております日本政府義務が発生する、というような形において、行政協定を取り結ぶという方針を考えておるわけでございまして、行政協定ができたので、とにかく理屈はどうあろうともこの法案は成立させなければならないというような仕方においてこの行政協定の締結ということをやつて行かないというお考えをいたしております。
  537. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 羽仁委員に御注意いたしますが、要点にとどめて簡單に質疑を終えて頂きたいと思います。
  538. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 委員長も御諒察下さると思うのですが、今の点は実際我々の運命に関係する問題でありますし、私が良心に基いて質問していることを御予解願いたいと思います。今の法務総裁の御答弁ですが、これは速記にとどめられておるわけですが、これは只今申上げましたような問題が起りました場合に、今の法務総裁の御答弁というものは必要にして十分なる有効な効力を持つているものでしようか。それを伺つておきたい。
  539. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) そういう方針を以ちまして、政府としては行政協定にそう調印をいたして行くつもりでございます。
  540. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしますと、行政協定の中にそういう明確なる規定が入ると了解をいたしてよろしいのでしようか。
  541. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 必要な場合にはそういう点を明確にして協定を取り結びたいと思います。
  542. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 現在、政府としては行政協定の中にそういう明確なる規定が設けられることを望んでおられるというように了解してよろしうございますか。又そのためのこれはあらゆる努力をなさるというように了解していいのですか。
  543. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その通りでございます。
  544. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そして、この委員会における法務総裁只今のお述べになりましたことは、有効にして妥当なる効力を持つておるというように私も勿論信じます。それでよろしうございますね。
  545. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 政府を代表して申上げた次第であります。
  546. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうしますと、なお念のために伺つておきます。その際における議員の活動に対する圧迫、或いは国会全体に対する圧迫というものは、不法なる行為であるというように判断をすることが妥当であるというように判断されますが、そう判断しておいてよろしうございますか。
  547. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) さような圧迫があり得るはずはないと思います。
  548. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 あり得るはずがないのだから、若し万一そういうような圧迫が行われた場合には、これは不法なる圧迫であるという御答弁と了承いたします。  そこで、最後の問題ですが、そういう圧迫が加えられた場合には、その圧迫をなしつつある力、これは万一の場合です、併し我々としては国民の運命に関係する、又日本の国権の最高機関である国会に関係することでありますから、決して仮定の場合ではないので、そういう場合についても明らかにしておかなければならない。その力は、我々がこれを提訴するか、或いは何らかの方法において国際連合によつて侵略者として判断される可能性があるということをお認めになりますか。
  549. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) それは国内的な問題だと思う。どういう理由で国際連合の侵略者になるか、その点、私わかりませんが、さような不当な圧迫というものは、これは議会政治の根本、従つて日本国憲法の根本を脅かすものである、これに対しましては、政府といたしましてはあらゆる努力をしてこれを退けなければならん当然の責務があります。又国会議員みずからとしても、国民としても、さような国会議員に対する圧迫というものに対しては、これを排除する努力が必要であり、又責任があるものである、これは憲法上の責任であると思います。
  550. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 即ち若しそういうような不幸な事態が発生した場合には、政府はこれに対してあらゆる抵抗をする義務を負つておる、又国会もこれに対してあらゆる抵抗をすることが正当なる権利である、又義務である、又国民もこれに対してあらゆる抵抗をする権利義務を持つておる、従つてこれらの抵抗を打破しようとするものは、国際的に侵略者と判断される可能性があるというように、現在法務総裁はお考えになつておるというふうに了解してよろしうございますね。
  551. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私は、それは国際的な形においてそういうような圧迫があるとは考えておりません。国内的な形において行われた場合においては、只今申上げたようなことであります。仮に日本の国会或いは国民に対しまして、さような不当な圧迫が不法な形において来たときには、これは当然日本の主権を侵害するところの不法な行為である、こう観念するのは、これは当然のことと思います。
  552. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 日本の主権を侵害する行為、即ち侵略的行為であるというようになると思いますが、それでよろしうございますね。
  553. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 日本の主権を侵害する行為であると考えます。
  554. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) よろしうございますか。  それでは本日はこれで散会いたします。明日は午前十時から開会いたします。    午後八時三十四分散会