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1951-11-10 第12回国会 参議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十一月十日(土曜日)    午前十時二十一分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     大隈 信幸君    理事      楠瀬 常猪君            一松 政二君            曾祢  益君            加藤 正人君            野田 俊作君            堀木 鎌三君    委員            秋山俊一郎君            石川 榮一君            泉山 三六君            團  伊能君            川村 松助君            北村 一男君            杉原 荒太君            徳川 頼貞君            平林 太一君            岡田 宗司君            波多野 鼎君            吉川末次郎君            岡本 愛祐君            片柳 眞吉君            杉山 昌作君            高橋 道男君            伊達源一郎君            木内 四郎君            一松 定吉君            羽仁 五郎君            堀  眞琴君            兼岩 傳一君   国務大臣    法 務 総 裁 大橋 武夫君    大 蔵 大 臣 池田 勇人君    農 林 大 臣 根本龍太郎君   政府委員    法務法制意見    第一局長    高辻 正巳君    外務政務次官  草葉 隆圓君    外務省條局長 西村 熊雄君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○平和条約締結について承認を求め  るの件(内閣提出衆議院送付) ○日本国アメリカ合衆国との間の安  全保障条約締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それでは只今から委員会を開きます。  五章以下平和條約全部を問題に供しますから、條約局長に対する御質問がございますれば、御発言願います。どうぞ。
  3. 北村一男

    北村一男君 戰利品ということと賠償ということはどんな関連がありますか。ちよつと……。
  4. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 戰利品というものは、交戰中に軍の直接管轄内に落ちたもので、当然没収し得るものでございます。でございますから、戰利品は戰闘行為との関連において考えるべきものと思います。賠償は、戰争が終りまして、講和條約によつて平和関係に入る際に戰勝国戰敗国に課する財的負担観念すればよろしいかと思います。当初は戰勝国戰争のために費した戰費プラス国民受げた損害、この合算したものになお余りある金額を戰敗国に課すのが通例でございました。二十世紀に入りましてからは、戰争性質変つて、非常に損害が大きくなり、戰敗国支拂能力が殆んど残らないよう状態になりましたので、ヴエルサイユ平和会議では戰費賠償はこれを放棄しまして、国民の受けた損害だけを戰敗国に課すという考え方が出て来たわけであります。今度の戰争では、国民が受けた損害賠償を求めることすらもが、第一次世界大戰の経験で不可能であることがわかりましたので、更に圧縮して、むしろ戰敗国支拂能力の限度によつて財的負担をきめようという思想になつて来ております。
  5. 北村一男

    北村一男君 ソ連が満洲国から撤去して参りましたいろいろの施設を、一応ソ連戰利品という解釈をとつているのじやないかと思いますが、條約局長衆議院の塚田君の貿疑に対してお答えなつた中に、これは将来中国との間に若し平和條約のようなものが成立いたしました際は、こういう物件を対象にして清算すべきものであるかのような御答弁があつたように思いまするが、ソ連戰利品というものと、この同じものが清算対象になるという事柄については、ちよつとこの彼我の解釈に食い違いがあると思いますが、條約局長はそれについてどういうふうにお考えですか。
  6. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 終戰直後ソ連が満洲地区にありました日本の莫大な資産ソ連領内に移転しました事実はございます。それにつきまして、ソ連はこれは戰利品であるという主張をしたことがあると了承しております。併し戰時国際法で言う戰利品の中に入るべきものでないことは連合国も認めておるようでございます。その後、今日までの経過はよくわかりませんが、ソ連中国との協定によりまして、相当ソ連側から中国側返還することになつておるようでございます。中ソ同盟條約の附属議定書にその趣旨の規定がございます。いずれにいたしましても、この問題は中国国民政府によりまして取上げられたような形跡がございます。と申しますのは、三月の條約草案におきまして、連合国の領域内にある日本財産が他の連合国によつて持ち運ばれた場合には、その両連合国内の間でお互いに勘定を付けるべきであるという條項が入つておりました。この條項米英合同案では削除いたされております。そういう関係がございますので、中国ソ連の間でそれは問題になつておるし、中共ソ連との間には、すでに條約によつて或る程度解決されておる点でございます。
  7. 楠瀬常猪

    楠瀬常猪君 只今の問題に関連して條約局長にお伺いするわけでありますが、ソ連が満洲にありまする在外資産中、工業施設を撤去いたしておるわけでございますが、その問題は、ソ連中国との間の関係という問題につきましては、賠償という問題と関係を特つておりますので、ソ連中国との関係、延いては今後中国ソ連との関係になるでしよう併しな在外資産補償するという問題につきましては、過日来非常に同僚議員からもこれを補償すべしというよう要望が出ておるわけであります。そういつたことからいたしましても、ソ連がこの條約というものの締結日本といたしません場合、或いは中共日本締結をいたしませんような場合におきましては、いつまでも問題がそのままで放つたらかされておるというようなことになりまして、満洲におりましたる邦人のいろいろの利益という問題も永遠に放つたらかされてしまうという関係国内的の関係においては特に持つわけでありまして、従つて在外資産補償するという見地からいたしまするならば、中国ソ連との関係においては話が付きませんでも、国内的にはこの補償ということにつきましては、全部でないにいたしましても、何がしかの部分ということにつきましては、補償ということについては是非とも御考慮を願いたい。ソ連との関係におきましては、戰争による損害ソ連は受けておりませんけれども、中南米の諸国におきましては、戰争の災害はなくても賠償というよう規定も今度出ておりますよう関係もありますので、ソ連中国との関係は付きませんでも、一つ在外資産利害関係を持つておりまする邦人に対しましては、補償という問題を是非とも一つ早い時期においてお考え下さるということが必要ではないかと思うので、これは実体的な問題であり、国内的の問題でありますので、條約局長お尋ねするということは或いはどうかと思いますが、この点はいろいろ質問進行上の関係もありますので、大蔵省当局ともよくお打合せの上でお答えを願いたいと思います。
  8. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指摘の点につきましては、事務当局も全然同じ考え方を持つております。在外資産所有者に対する補償の問題を考える場合には、この平和條約に署名した国と署名しない国との間に何ら差別を設けるべきものではなくて、一括して在外資産に対する補償の問題として考慮すべきものであるということについては、関係省事務当局は同様な考えを持つております。
  9. 楠瀬常猪

    楠瀬常猪君 次に十四條の問題にきまして、なお條約局長解釈をお願いいたしたいのでありますが、十四條の2の(IV)項にありまする「前記の(1)に規定する日本財産を差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法処分する」という文句があるわけですが、この清算処分という解釈でありますが、これは在外資産関連いたしまして、債権債務がございまする場合に、債権債務とを相殺した残りの正味を処分するという意味解釈をいたしていいのでありましようか。そういうふうにいたしたいのでありますが、若しそうでなくて、在外資産がそのままで接収されまして、それに関連する債務につきましては、別途に日本のほうから送金をするというようなことになりますというと、これは由々しき問題だろうと思うのでありますが、解釈はどちらでありましよう。その点をお伺いしたいのであります。
  10. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) それは、やはり清算という観念から、清算対象となる一つ財産につきましては、その債権とそれの見合になつておる債権とは相相殺して、残つた財産が即ち連合国処分の自由に任されるものであると考えております。これは、私どもが持つておりますイギリスやアメリカ国内法を見ましても、さようになつております。ただ問題は一つ財産乃至は一つ商社につきまして考えて見ます場合に、財産が多い場合は問題はありませんが、清算をして見た結果、マイナスになる場合には、これは有効なる負債として残るのでありまして、日本人負債者に対して依然として債務として残る結果が生ずるわけであります。これは清算性質から誠に止むを得ない次第でございます。この問題は、戰前、海外支店を持つておられた商社において非常に関心を持つておられる点でございますが、如何ともいたしがたい点でございます。実例を見ましても、イタリヤとの平和條約ができましたあとイタリア財産処分清算されることになりましたが、その結果プラスである商社については何ら問題ございませんが、負債を弁済し切れなくてマイナス残つた場合に、その商社が再び支店合衆国に設けるというような場合に、戰後生れた支店財産に対して、差押処分申請債権者から出て来るというよう事態があつてイタリヤ商社が困つたということを私どもも聞いております。最近も日本郵船会社の船がアメリカに航路を再開しまして、アメリカに行きますと、郵船に対して債権を持つておる合衆国人から、郵船の船に対して差押申請がされたというよう新聞報道を聞きました。こういうことは法制上誠に止むを得ない結果でございますので、心配はいたしておりますが、清算観念から止むを得ないところでございます。
  11. 楠瀬常猪

    楠瀬常猪君 今、清算をいたしまして、マイナスの場合のいろいろ困つた事態につきまして伺つたわけでありますが、プラスになりましたような場合におきましては、その点の処置は向うの国内法できまるのでありましようか、どういうふうになりましようか。
  12. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 当該国国内法規定されておりまして、大体国内法規定従つて戰争によつて損害を受けた自国民の対日本国政府乃至対日本人賠償請求の充当に当てておるようでございます。
  13. 楠瀬常猪

    楠瀬常猪君 連合国法律従つて行使されます今の問題でありますが、これはイタリア平和條約の例の場合もございましようが、大体どういうよう事柄がその法律で以て規定されることになりましようか、その事項で予想される事項をお教え願いたいのであります。
  14. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) すでに法律なつたものがございますので、若し御希望でございましたら、印刷物を、差上げてよろしいと思います。
  15. 楠瀬常猪

    楠瀬常猪君 さようにお取計らい願います。もう一つ條局長にお伺いいたしたいのでありますが、この(IV)の規定には、昨日も同僚高橋議員からお尋ねがあつたのでありますが、返還ということが含まれておるというお答えでありました。これはイタリアの條約の例の場合においてもあつたわけでありますが、この返還ということにつきましては、これは若しそういうようなことに相成るといたしますれば、両国間の覚書というようなものによりまするか。或いは通商條約というような問題によりまするか、どういうよう方法によつてそういうようなことがきまることになりましようか。具体的には……。そうして先ず国内法できまつた上で覚書或いは通商條約できまつて来るということになりましようか。その何と言いますか、具体的な手続やり方というものについてお教えを願いたいと思います。
  16. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 権利を持つております連合国政府で、條約で獲得した権利を行使しないで、旧所有者である日本人返還してくれる場合があるわけでございますが、その場合全く連合国政府好意的措置でございます。協定とか、取極とか、そういうような形のものにはならないと思います。
  17. 楠瀬常猪

    楠瀬常猪君 條約局長に対する御質問はこれで……、あと大蔵大臣が見えましてから……。
  18. 高橋道男

    高橋道男君 四章に返つて、甚だ恐縮でございますが、どなたからもお尋ねがないようでございますので、一点だけお尋ねいたします。四章十三條に航空関係條文がございますが、これは今後民間航空に関しての交渉なり、規定を定めることが示してございますが、これは現在においては日本の国では、飛行機を持つこと、或いは飛行機を操縦することなども禁止されておるように聞いておりまするが、今回の條約ではそういう禁止されておることは全部解除されるよう解釈されますけれども、そういうことでよろしうございますか。
  19. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) お説の通りでございます。平和條約が実施になりますれば、現在あります指令による飛行機所有とか、飛行機の運航だとか、そういうことに対する禁止が全部解けますので、自由に飛行機を持ち、飛行機を運営することができることになります。
  20. 高橋道男

    高橋道男君 現在禁止されておるということにつきましては、何かどういう理由があつて禁止されたのでございましようか。
  21. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 占領管理直後に出ました指令によるものでございますので、私どもの推察では、日本の非軍事化というよう意味から出たものではなかろうかと思うわけでございます。
  22. 高橋道男

    高橋道男君 先ほどの御解釈にありました通り、條約発効は飛行機を持てるということは明らかになりましたが、勿論ほかの何らかの方法によつて飛行機を持つこと乃至は飛行機を造ることの一切に関しての何らかの禁止、抑制などの方策が講ぜられるようなことは毛頭考えられないと考えておりますか。
  23. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 今年の、二月の平和條約に関します日米両国政府の話合いの当初から、平和條実施後における航空面における日本国乃至日本国民活動については何らの制限を置かないことが、はつきり言われてございました。平和條約外においてこの方面における日本活動に対して制限を講ずるというようなことも、一度も言われたことはございません。完全に日本の自由に任されております。
  24. 高橋道男

    高橋道男君 飛行機に関して何ら制限が加えられないことはわかりましたが、日本飛行機がその場合に外国へ行くこと、海外への航空路を開くということについては、これはどうなるのでございましようか。
  25. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) それは十三條の(c)項にございますように、この平和條実施と同時に、日本はまだ参加はいたしておりませんけれども、一九四四年の国際民間航空條約の原則に従つて行動をするということになつております。この條約によりますれば、個人の持つておる飛行機が單独に飛行する場合には何ら相手国の許可を必要といたしませんが、航空運輸業を営む場合には相手国政府の同意を要することになつております。でございますので、相手国さえ同意してくれれば日本各国国際航空運輸業を開始することができることになります。
  26. 高橋道男

    高橋道男君 航空関係に関しまして、私どもこの国際民間航空條約というものを、つまびらかにしておりませんので、資料としてその條約を御提供頂くことはできませんか。
  27. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 資料として提供いたします。なお、この條約附属の宣言によりまして、日本平和條実施後六カ月以内に加入申請をする約束をいたしておりますので、この次の国会ぐらいには加入承認を求めることができるように取運ぶため、事務当局としては努力いたしておる次第でございます。仮訳文ではございますが、作つてございますので、お手許に差上げたいと思います。
  28. 高橋道男

    高橋道男君 国務大臣が見えましたから、あとにいたしましようか。
  29. 岡田宗司

    岡田宗司君 委員長議事進行について……昨日新聞紙上米加日漁業條約の草案が、アメリカ側で作りました草案が発表されております。で、これは本條約に基いて当然成立することになるものと思うのでありますが、本條約の審議に当りまして、私どもはあのアメリカ側で提案されました草案をこちらに出して頂きたいと思います。そしてそれについての説明、並びに日本側において、日本政府においてはこれに対してどういう案を持つて臨むかという、その態度についてお伺いしたいのであります。これを是非明後日の委員会におきまして、アメリカ案説明並びにそれに対する日本側態度、それに対する質疑をやつて頂きたい。  それから連合国財産補償法案衆議院上つてこちらに回付されました。そうして大蔵委員会にかかつておるのでありますが、大蔵委員会におきましては、この特別委員会における審議が行われまして、それに基いて向うでやる、こういうことですが、この法案はすでに配付はされておりますけれども、それに対しまする大蔵省側が具体的な説明を持つておる、その大蔵省側説明を本委員会においても聞きたい、こう考えておりますので、その二つについて委員長におきましては、月曜日にそれらの両法案説明が行われるようにお取計らい願いたい、こう思います。
  30. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 只今二つの問題については、この午前の委員会に終りましたあと理事会を開きますから、その際よく御相談いたしまして、御要望に副うようにいたしたいと思います。
  31. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 何時からでしよう理事会は……。
  32. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) これは済みまして、午前の委員会を終りまして、大体晝休みにいたしたいと思います。では法務総裁が見えられましたから、杉山君、御発言を願います。
  33. 杉山昌作

    杉山昌作君 私は第十一條に返りまして甚だ恐縮ですが、お伺いいたしたいと思います。大体この戰争犯罪というようなものは、これは戰争という極めて特殊な状態の下において行われました行為に対しまして、戰いに勝つた国、敗けた国民という、これ又極めて特殊な情勢の下に行われた裁判によつて処断されたものでありまして、一口に申しまするならば、戰争の本当の特殊現象である、こういうふうに考えるのです。従つてこれは戰争状態が終了いたしまして、平和の回復と共に、当然全面的に解消せらるべきもの、殊に、今度の平和條約がいわゆる和解の條約であり信頼の條約であるという精神から考えましても、今度は、講和すると同時に、この戰犯の問題は全部解消せらるべきものであるというのが実は我々国民の衷情であるし、又それが念願であつたのであります。ところが非常に不幸なことに、この第十一條本條約に挿入されております。誠に遺憾に存じますけれども、今日この條文を取除くということもできないことと考えますので、今後は政府が今私が申上げましたようなことをよくお考えの上で、本條解釈なり、或いは本條実施に当るように御善処を願いたい。かように私は考えておるのでありますが、こういう考えを基にいたしまして、二、三の質問を申上げたいと思うのでございます。  先ず第一に、本條約には、日本国戰犯法廷裁判を受諾し云々ということになつておりまして、これで我が国は裁判を受諾することになるのでありますが、裁判を受諾いたしました結果は、この裁判或いは判決に対してもう全然何らの異議を申すこともできなくなるのであるかどうか、何らの救済もできないのであるかということであります。申すまでもなくこの裁判各国各地で行われておりましたので、従つてその間に量刑上の標準というふうなものについて、統一した基準があつたとも思われませんし、又この裁判犯罪事実の行われたあと相当の時日を経過して行われましたので、そこに援用されておりまする証拠というふうなものも不十分ではなかつたか、殊に誤まれる記憶或いは間違つた記憶に等が証拠として援用されていたような場合もありはしないかということが惧れられます。又裁判におきまする答弁にいたしましても、言葉の関係で非常に不十分にしかできなかつた、通訳も下手だつたというようなことがあるということは容易に想像し得る問題でありますので、従つて同じよう行為に対しても、或る所では比較的軽かつたが、或る所では非常に重い罰を受けているというものもありましようし、同名異人であるというふうな場合もあるかと思いますので、これらのことに対しまして、今日までは何か異議申立に若干の救済を頂く道もあつたかと聞いておりまするが、今回裁判を受諾するということになりますと、一切こういうことにつきましては、今後は異議申立も或いは救済を求めることもできなくなるのかどうか。その点を先ず第一にお伺いいたしたい。
  34. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 講和條約第十一條によりまして裁判を受諾するということは、被告人に対しまして申渡された裁判を合法的且つ最終的のものとして、日本国政府承認をするという意味を含んでおると存ずるのでございます。従いまして、その現在あります確定しておりまするところの裁判につきまして、日本政府の立場から、その手続なり或いは内容について適当でないという点を指摘いたしまして、その修正を求めるという方法は原則的には鎖されておる、こう考えるわけであります。併しながら何分にも多数の戰犯の諸君の数でございまするし、又遠隔の、殊に言語不十分といつたような非常に特殊な環境のもとに裁判されたものでございまするから、今後調査によりまして、個々的にいろいろ不適当ではないかと認められるようなものがありましたならば、その都度外交上の手段を通じまして、でき得る限り是正の道を図るというのが、これは政府として当然考えなければならん事柄でないかと思います。但しこれは條約上の権利として主張し得るものではない。條約は一応裁判日本国が受諾いたしておるのであります。ただその後は通常の外交上の措置といたしまして、できる限り政府といたしましては努力をいたしたい、こういう次第でございます。
  35. 杉山昌作

    杉山昌作君 次に、裁判を受諾して、その刑を執行するということになりますれば、当然そのために法律を制定されることになると思うのでありますが、この場合その法律従つて刑執行を受けた、こういうことになるのでありまするが、その法律従つて刑を受けた人々が、一般刑罰法令によつて処刑されている人と同じように、いわゆる前科というふうな関係に立つのかどうか、そういうふうなことになるものではあるまいと考えておりまするが、その場合どういうふうなお考え政府はお持ちになつておるのかどうか。又その法律につきましては、これによつて今後の執行やり方がきまるものでありましようと思いますが、伺つておりますると、今日巣鴨においての刑の執行は、一般犯罪人の刑の執行よりも相当ゆるやかであるというのですか、待遇等考慮が拂われているように伺つておりますが、日本側にその刑の執行が移されまして、それに対する法律を作る場合におきましても、今日と同様にそのゆるやかな、或いは丁重な待遇を依然として継続する御意思なのか、或いは一般の刑務所におけるよう待遇に引直されるお考えを持つておるのかどうか。又この刑の執行についての規定は、戰犯者り管理日本に移されるということでありますので、当然日本が自主的にお定めになつて然るべきと思いますが、或いはその執行に関する法律を作るにつきましても、何らかの指図を受けて作ることになるのかどうか。その三点を伺いたいと思います。
  36. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 先ず第一に、十一條執行いたしますに当りましては、国内においてこの裁判せられました刑罰執行するに際して、国内法の根拠がいるであろうという点でございまするが、この点は政府といたしましてもさよう考えておるわけでございまして、特別な国内法によりまして、外国裁所判の判決を執行するようにいたしたいと存じます。それからこの刑罰執行について、これが国内法一般刑罰の場合と同様にそのことが受刑者の前科として将来考えられるかどうかという点でございまするが、只今のところでは、これは通常の国内法による刑罰執行とは違いまするから、必ずしも前科というものとして考える要はなかろうというふうに思つております。それから次に刑罰執行する場合におきまして、多少国内刑罰執行と寛嚴の差があり得るかどうかという点でございます。この点につきましては、おのずから現状というものを基礎にいたしまして考慮をいたしたい、こう考えておる次第でございます。それから最後に、これらの刑の執行について、将来自主的にやるべきものかどうかという点でございまするが、これは條約におきまして日本国刑罰をみずから執行するということに相成つておるわけでございまして、そのやり方は自主的に定むるものでありまして、條約上何ら拘束せられておらないと、こういうふうに考えております。
  37. 杉山昌作

    杉山昌作君 只今の御答弁の中で、刑を執行したあとの身分上の問題につきましては、只今のところとか、そうなるように思うとか、というお話でありましたのですが、これは是非とも今お話のような方向にお進めになるように、一段の御努力をお願い申上げたいと存ずるのであります。  次に、日本国で拘禁されている者について刑を執行する、これは当り前の話でありまするが、これに関連いたしまして、今日濠洲のマヌスにおきまして二百四十三人、フイリピンのモンテインルバにおいて百十三人というふうに、外国において拘禁されている者があるのでありまして、これらの人たちは、本人は無論でありましようが、家族の者といたしましても、又我々一般国民といたしましても、一日も早く国内に連れて参つて、同じ刑を受けるにしても、国内で刑を受けるようにして上げたいというふうなことを熱望し、熱願しているわけでありまするが、これにつきましては、今日まで政府も相当の御努力を拂つて頂いていると思いますが、果して講和條約が締結して、只今刑の執行国内日本国管理をするというふうなことになるまでに、大体これらの人たちを日本国に連れて参ることができるでありましようかどうか。その辺のお見通し、或いは今日まで政府において交渉されているところの経過等を御説明願いたいと存じます。
  38. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) このことは数日前にも御質問がありましたから、詳しく御答弁を申上げましたが。
  39. 杉山昌作

    杉山昌作君 それならよろしうございます。
  40. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 結局一口に申しますと、それぞれの国で処置いたしておりまするから、表面上はそう簡單に政府政府の間においては困難な状態もあろうと思います。併し極力国民の熱意を反映させる、あらゆる方法を以て進んでおりまするから、相当見通しがあると存じまするけれども、併し全般について必ずしもそれは断言できないのであります。
  41. 杉山昌作

    杉山昌作君 それからこの赦免、減刑、仮出獄は、日本国の勧告と裁判をいたした国の決定によつて行われると、こういうことになつておりますが、この赦免、減刑というふうなことにつきましては、一人々々の事情、個人個人の事情によつて甲号、乙号というふうなだけの赦免なり減刑を勧告し得るもの、或いは講和の記念日であるというふうな国際的な記念日、或いは日本国の何らかの記念日、或いは裁判をした国の何らかの記念日というふうなときに、全般的な恩赦というふうな恰好で赦免、減刑というふうなものができる、又そうするように勧告いたすということになるのかどうか。その点を承わりたいと思いますが、これに関連いたしまして、今日まだ講和ができておりませんから、勧告ということにはなりませんが、近く講和が成立いたしまするならば、この機会に大幅の赦免、減刑をして頂きたいということは、これは国民のひとしく考えているところであります。最初に申上げました通り戰犯というふうなものが戰争によるところの極めて特殊な事態であるからして、講和になつたら当然赦免が頂けるだろうとまで思つておるのでありますので、そういう意味から考えましても、又この今日戰犯として拘置されている人人もです、その事実は大体戰争に勝たんがために、それぞれ自分の職責に応じてその任務の遂行上の附帶的出来事が大部分でありまして、その中には判断の適正を欠いたとか、職権行使の行き過ぎというものがありましようけれども、併し私利私慾に基くところの破廉恥的な動機に基いた者は皆無であろろと我々は信じておるのであります。そういう意味から行きましても非常に同情に価するものであります。又服役者はすでに相当長い期間服役いたしております。その服役振り等につきましても、模範的な服役振りであるというふうにも聞いておるのであります。すでに十分の贖罪の実を挙げておるのではないかと考えられます。それぞれのことを考えまするならば、講和條約が発効して勧告をするという前に、講和條約成立を機会に大幅の恩赦というふううなものがあるように、十分に政府のほうで、これは勧告でなしに懇請、懇願ということでありましようが、そういうふうなことがなされておるものと思いますが、その辺の御事情をお伺いしたいと存じます。
  42. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 十一條に基きまする日本政府の赦免、減刑、仮出獄等についての勧告でございまするが、これを或る一定の機会にやるか、或いは個人々々について必要の都度やるかという御質問の点でございまするが、政府といたしましては、かような恩典を広く適用あらしめまするように、そのどちらの場合でもやり得るように努力いたしたいと考えております。  それから講和発効の際の恩赦というような問題は、国内におきまする受刑者につきましては、政府といたしましても只今準備を進めておるわけでございまするが、併し何分には軍事裁判所並びに戰争犯罪法廷の裁判執行は、只今日本政府の権限にないわけでございまして、併しながらかような機会に同じような恩典があるということは、政府といたしましても非常に望ましいことだと考えておる次第でございます。これについて具体的に如何なる措置をとつておるかということにつきましては、この機会にお答えを差控えさして頂くことが適当ではないかと、かように存じております。
  43. 杉山昌作

    杉山昌作君 最後にもう一つ承わりますが、御承知のように、この條約は中国政府によつて承認されないということになります。ところが今日巣鴨の拘置所におきましては、中国裁判を受けて拘禁されておる者が百二十四名あると伺つております。そういたしますと、中国に対してはこの十一條の問題は起きて来ないということになりますと、中国裁判を受けたこの百二十四名は、一体今後その取扱はどういうようなことになるのか。やはり只今までの政府説明を伺いますと、非常に恩情のあるお取扱をされるように伺いますのでありますが、中国裁判を受け、従つて一條の適用のない人たちに対しても、同じような恩情のある日々の取扱い振り、或いは減刑、赦免ということなど、同じような配慮が願えればと思うのでありますが、この取扱は如何になりましようか、お伺いいたします。
  44. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指摘のように、中国裁判所によつて判決を下されておる同胞戰犯諸君が、十一條の利益を受けられないことは甚だ遺憾に存じます。要はこれらの同胞戰犯諸君に対して判決を下した政府と事実上折衝いたしまして、その国の自発的措置として成るべく十一條の趣旨に副う処置がとられるよう政府としては努力すべきものであると考えております。
  45. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 只今杉山さんの御質問の趣旨を、私、拜聽いたしませんので、或いはダブるかと思いますが、御容赦願いまして、第十一條に関しまして、これは法務総裁も出ておられますから法務総裁の御答弁を煩わしたいのでありますが、第十一條戰争犯罪者に関する規定を含んでおるわけでありますが、これによりまするというと「日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。」それから、そのあとは、それらの減刑或いは赦免に関する規定でありますが、日本国に拘禁されている日本国民という規定になつておりますが、日本国でなく外国に、例えば中国とかフイリピンのごとき外国に拘禁されておる国民に対しては、法廷が課した刑の執行については、この講和発効と同時にどうなるかという問題が先ず第一に起つて来るだろうと思いますが、この点について最初に御答弁を願いたいと思います。
  46. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 御指摘のごとく、第十一條によつて将来刑の執行並びに赦免等について日本政府の権限に関係いたして参りまする者は、日本国で拘禁されておる日本国民だけでございまして、講和條約発効の際におきまして日本国外において拘禁されておる者につきましては、この刑の執行並びに赦免等の條項は適用ないわけであります。但しこの十一條の冒頭にありまする「極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戰争犯罪法廷の裁判を受諾し」というこの條項は、すべての人に対しまする裁判について適用があるわけでございまするから、国外において拘禁されておりまする人たちについても、日本政府といたしましてはその裁判の効力を十一條によつて承認をいたしたことに相成るわけでございます。従いまして平和條約発効後の処置は、拘禁をいたしておりまする国の決定にのみ委ねられるわけでございまして、政府といたしましては、でぎるだけ平和條約発効前にこれらのかたの日本送還が実現するように切望をいたしておりますると同時に、その後におきましてもでき得る限り外交上の手続を以ちましてその趣旨を実現するように努力をいたしたいと考える次第でございます。
  47. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 そうしますると、日本国でない外国に拘禁されておる日本国民戰争犯罪者につきましては、政府の側におきましてはこの條約発効後において外交的な手段によつて然るべく交渉する、こういうことに相成るのでございますか。
  48. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 條約に基く権利義務という関係からでなく、條約の第十一條において日本国におきまして受諾いたしましたその裁判でございまするから、これにつきましては日本国といたしましては、国民のためにという立場から、関係国の政府に対して外交上の手続を通じて懇請をいたす以外に途はないと思つております。又さような努力をいたしたいと考えております。
  49. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 そうしますると、この講和條約発効によりまして、外交関係を回復する国とはそういう手続によつて交渉の途が開かれると思いますが、併し條約に調印しない国との間の関係につきましては、例えば中国でありまするが、そういう場合の手続はどのよう方法によつて行われるか、その点を重ねてお尋ねいたしたいと思います。
  50. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) お話のよう中国地区におきましては、中共地区におきましても、ソ連の発表によりますと、戰争犯罪関係中共関係者を七百数十名送つたという発表がありましたが、併し中共関係におきまして日本政府としての、確実な戰争犯罪人として服役しておる者の現在資料を持たないのであります。現在外地におきまする戰争犯罪として持つておりまするものは、先般もお話申上げましたように、フイリピン、それからオーストラリア、この二つの地区だけであります。
  51. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 それからもう一つお尋ねいたしたいのは、政令三百二十五号の問題であります。昨年の十月出されました占領目的阻害行為処罰令、一般に政令三百二十五号と言われておりまするが、この政令三百二十五号による犯罪は、これは戰争犯罪ではなくて、占領目的に反するということで以て処罰されておるものでありまするが、この占領目的違反の行為というものは、占領状態の終熄と同時にこれはなくなるものと考えることができるわけでありまするが、それに関しましてはどのような処置をとられるのか、お尋ねいたしたいと思います。
  52. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 占領目的阻害行為処罰令によりまして、国内裁判所において裁判をいたした者につきましては、これは政府といたしましては、講和條約の発効と同時に、この基礎となつておりまする政令三百二十五号は、当然廃すべきものである、かよう考えておりまするが、併し廃止前におきまして罰前に牴触をいたした者の処置につきましては、なお従前の例によつて処断をするということを根本の建前といたしております。従いまして、すでに裁判を受け、刑罰執行中の者につきましても、その裁判の効力につきましては当然有効なものと、こういうふうに考えるわけでございます。ただ国内法によりますところの恩赦その他の場合において個別的に適切な処置をとるように努力いたしたいと考えております。
  53. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 只今法務総裁答弁で一応はつきりしたと思いますが、ただこの問題は、占領状態が継続している期間にこの処罰令にかかつた者についてはその通りでいいと思うのでありますが、占領期間の終了と同時にこの処罰令は効力を失うものかどうかということについて重ねてお尋ねいたしたいと思います。
  54. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 三百二十五号につきましては、政府といたしましては当然には失効するものではないと考えておりますが、併し近く法律案を御審議頂きまして、その法律によりまして講和條約の発効と同時に政令三百三十五号は廃止するという措置を明らかにいたしたい、かよう考えております。
  55. 杉山昌作

    杉山昌作君 先ほどの質問で、もう一点補充的に伺つておきたいと思いますが、日本国で拘置されている日本国民については、日本で刑務執行を移管されるわけでありますが、日本に収監中の非日本人につきましては十一條関係はどういうふうになるか、伺つておきたいと思います。
  56. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指名の日本人にあらざる者、平和條約発効後におきまして、日本人でない者、具体的に申しますと、朝鮮人たる戰犯者が平和條実施後十一條との関係においてどうなるかという問題でございます。私どもといたしましては、十一條によつて日本政府が刑の執行の義務を受けている者は、日本人たる戰犯同胞諸君であると考えているわけでございます。この問題はすでに関係国におきまして取上げておる問題でございますから、その線に沿つて平和條約発効までに円満なる解決が付くものと考えております。
  57. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 十一條関係法務総裁に御質問ございませんですか。それでは外に法務総裁に対する御質問は……。ちよつと岡田委員に申上げておきますが、昨日問題になりました憲法と條約との関係につきます御質問等は安保條約のときに一括して……。
  58. 岡田宗司

    岡田宗司君 その問題で、一昨日の読売新聞ですか、増原警察予備隊長官が記者団との会見におきまして、警察予備隊を十五万人に殖やすということを言われている。ところが本條約の審議の際に当りまして一般的な質問をいたします前に、私は法務総裁に今後警察予備隊を増員せられるのかどうかということをお伺いしたのであります。特に二十七年度の予算との関係において、二十七年度にその増員を図られたのかどうかということをお伺いしたのでありますが、そのときには、そういうつもりはない、こういうお答えであつたのであります。それから僅か一週間か十日のうちにおきまして警察予備隊の長官である人がそういう意向を話されておるのでありますが、これは恐らく法務総裁並びに内閣との間に何ら関連なしに長官がそういうことを発表したものではないと思うのであります。今日長官が発表するに至りましたにつきましては、恐らく内閣においても議を重ねられておると思うのでありますが、僅か一週間前にそういうことをしないと言明されたのが、今日長官から十五万に増強するというふうに言われましたにつきましては、何か特別な事情の変化があつて、例えばどこからかの示唆があつて、そういうことになつたのであるか、或いは内閣において前々から考えておつたけれども、発表しないで今日までいたところが、長官が発表したのか。いずれであるのか。法務総裁の御答弁を承わりたいのであります。
  59. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 一昨日の読売新聞におきまして岡田委員の御指摘のごとき記事のあつたことは事実でございまするが、併しながらこれは全く記事の誤りでございまして、増原長官におきましてさようなる談話を発表したる事実はございません。従つて同長官から読売新聞社に対して取消の要求をいたしておるような次第でございます。  なお警察予備隊の現在の定員七万五千に対しまして、これを増員する計画というものは政府としては現在においても全然持つておりませんし、又その点について関係筋から何らの示唆を受けたこともございません。
  60. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕は、この前、法務総裁お尋ねいたしまして、潜在主権という非常に世界的にも珍らし概念を御教授願いました。その問題なんです。そういつた潜在主権、つまり明確に言えば何らの主権がないということなのでありますが、そういう地域ができるということは、明らかに日本国憲法からいつて承認できないことである。従つてそういつた地域が発生する以上は、憲法を改正しなければならないと考えられますが、法務総裁はどういうふうに考えておられますか、これを聞き落してありますから伺いたい。
  61. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) この点につきまして憲法の改正の必要はないと考えております。
  62. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私は日本国憲法が適用されないような地域ができるからには、而も国際法から言いまして、国際諸條約から申しましても当然日本国の領域になるべきものであり、国連憲章から申しましても明確なる違反であるようなそういう地域、そうして、そこには日本国憲法が全面的に適用されない。然りとすれば、当然私は憲法の改正の要あるものと考えられますが、法務総裁はなぜそれは憲法の改正の要なきものと考えられるか。一つ説明願いたいと思います。
  63. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 信託統治の区域におきまして憲法が適用されないというのは、これは受任国の立法、行政、司法の権限の行使によりまして、事実上日本国憲法の適用が排除されるわけでございまして、これはその区域に対しまして憲法を改正して将来適用しないということをきめるべきものではないのでございまして、事実上その信託統治が解消し、或いはこの受任国の立法、行政、司法の権限が解消をいたしまするならば、潜在主権の効果といたしまして、直ちに主権全部が回復し、その結果として憲法全部が適用されると、こういうことになるわけでございまして、この点は改正すべきものではないし又改正すべき必要はないと、こう考えます。
  64. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、あれですか、これらの信託統治の人たちは日本人ではなくなるのですか。
  65. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 先般も申上げましたるごとく、信託統治区域におきましては日本の領土主権は依然として存在するのでございますから、その領土は日本の領土であり、その住民は日本の国籍を持つておると、こういうふうに考えております。
  66. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 然らば、日本人であつて日本国憲法が適用されない人たちが百万人に亘つて発生して来るのです。だから、当然日本人でありながら日本国憲法が適用されない。まあ、あなたの説によると、一定期間ですね。私どもは無期限であると考えますけれども、まあ一定期間ということにいたしましよう。この一定期間の間、日本人でありながら、日本国憲法が適用し得ない地域が発生するということについて、憲法を改正しないでもよいということは承認できんではございませんか。日本人なんですよ。そうして一定期間日本国憲法が適用されないのですよ。そういうことは憲法はどこで規定しておりますか。そういう重大な除外例を憲法のどこが規定しておりますか。
  67. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 信託統治区域におきまする国民日本人であることは只今申上げた通りであります。これに対して憲法の適用がないというのは、事実上適用がないのでございまして、その事実上適用のない理由は、憲法に優先いたしまして受任国の立法、行政、司法の権限が働くから、その限りにおいて日本政府の権限が働かない。従つて憲法というものは日本国の国権を規律いたしたものでございまするから、日本国の国権が排除される限りにおきまして憲法が自然に適用がなくなるので、これは全く事実上そうなるわけであります。憲法といたしましては潜在的に適用しておるというわけでございます。
  68. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 潜在的に憲法が適用されるという非常に又新らしい見解を伺つたのでありますが、日本人でありながら、何ら現行憲法を改正しないで或る期間に亘つて突如日本国憲法の適用から除外されるという、真に国民として決定的に重大な影響を受ける。そういうことに際会しながら、そんなことはできるのだと、あなたがおつしやるということは、そうすると国際條約が日本国憲法に優先するということをはつきりここで承認されるわけですね。
  69. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 諸国の憲法の中には、領域につきまして明確なる規定を持つておる憲法もございます。かようなる憲法をとる場合におきましては、領土の割讓ということは直ちに憲法改正を必要とするだろうと思います。併しながら我が国の憲法におきましては、領域の範囲につきまして憲法上何ら規定をいたしておらないのでございます。従いまして、領域の割讓について憲法の改正を必要としないわけでございます。又信託統治の場合におきましても同様に改正をする必要がないというのが私ども解釈でございます。
  70. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 領土の割讓ということについては憲法に規定していないから自由自在だというわけですね。何らの憲法の改正なくして領土の割讓はできると、従つて領土の割讓に準ずべき信託統治の発生についても憲法の改正は要らないと、こういう御趣旨ですか。
  71. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 個々の領域につきまして如何なる主権が、その国の主権が如何なる程度に行われるべきであるかということを憲法上明確にいたしてありまする場合におきましては、お説の通り憲法の改正ということも必要になるわけでございまするが、日本国憲法は、信託統治の場合或いは領土の割讓の場合において憲法改正の必要があるという趣旨で、できていないわけでございます。従つて必要がない。こういうわけでございます。
  72. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、日本国国民は、憲法の何らの改正なくして、或るときに或る條件において、突如として日本国憲法の適用の除外、適用されないところの危險に当然当面して来るということが、日本国憲法の精神だとおつしやるわけですね、結果として……。
  73. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 信託統治が発生をいたしまする場合においては、憲法の改正がなくとも事実上日本国憲法の適用から排除される場合がある。こういう趣旨で憲法ができておるというわけでございます。
  74. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これから先はそれじやもう一遍、そのあなたのおつしやることは非常に明快を欠くので、一遍その御答弁を整理して、そうしてもう一度再質問いたしましよう
  75. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 五章から六章、七章、三章を問題にしておりますから、その件によつて、大蔵大臣、間もなく来られる予定でありますが、條約局長に御質問のあるかたは御発言を願います。
  76. 岡田宗司

    岡田宗司君 十四條以降の審議に当りましては、やはり大蔵大臣の御出席を願いたいのでありますが、大蔵大臣はおいでになりませんか。
  77. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 間もなく来られる予定であります。
  78. 岡田宗司

    岡田宗司君 それじやそれからにします。
  79. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私は條約局長ちよつとお尋ねしたいのですが、それは第五條の(c)、(a)(b)(c)の(c)です……。法務総裁質問があれば結構です。法務総裁にまだおありだそうですから、私のはあとで結構です。
  80. 木内四郎

    ○木内四郎君 法務総裁に簡單に一つつておきたいのですが、昨日実は條約局長に伺つてみましたけれども、どうも徹底いたしませんから、法務総裁から承わりたいと思いますが、今度の條約には、私有財産賠償に充てた場合にそれに対する補償規定を入れなかつた。これは條約局長説明によりますというと、実際入れても空文になるからして入れなかつたというようなことを言われておるのです。併し実際拂えるか拂えないか、或いはどの程度に拂えるかということは別問題として、私有財産を尊重しなきやならん、又私有財産を国家が勝手に取つて、国家の目的に使うことはできないということは、これは憲法の規定にもあるし、條約の前文にもあるのです。そういう趣旨で、ヴエルサイユ條約においても、イタリアとの平和條約においても、とにかくその規定が入つておる。そこで、私有財産を国家の賠償の目的に充てるが、一方において補償規定を置いておるからして、その條的としては私有財産を尊重するという趣旨をそこに明らかにしておると思うのです。然るに今度のこの條約には、私有財産を勝手に、国家の目的に充てて、それに対する補償規定が入れてないというのは、憲法にも違反しておるし、この條約の前文の趣旨にも反しておるようにも思うのですが、そこを法務総裁どういうふうにお考えになるのでしようか。この事実上拂えるか拂えないかという問題は、これは国家の支拂能力の問題になつて、別個の問題じやないかと思いますが、そこをどういうふうにお考えになつているか。若しそこに條約だけではいけないから別に何とかするとおつしやるならば、その御趣旨を一つつておきたいと思います。
  81. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 憲法におきましては明らかに私有財産権というものを尊重すべきことを認め、又それに対する国家の処分につきましては必らず補償しなければならんという規定を置いておるわけでございます。併しながらここに問題となりまする財産はいわゆる在外財産でございまして、これは日本国憲法の適用区域内にある財産ではなく、その所在国の、外国の法制に服する財産でありまして、又その外国というものは、日本の主権の直接及ぶ所ではありませんから、この点についての問題は直ちに憲法二十九條の補償の問題になるかどうか、これは私は大いに問題があると考えております。この條約におきましてはこの補償の問題は、日本国政府国民の間において善処すべきものであるという考えの下にこの点に触れなかつたのであると、こう解釈せられておるのでございまするが、政府といたしましては、この在外財産処分による国家の損失というものは、大きな意味での一つ戰争被害の一態様でありまするからして、公平の原則に照しまして、その犠牲の調整を図るということは当然考えなければならん問題であると思いまするが、併しこれは憲法上の問題でなくて、財政能力と睨み合せての政策的な問題である、こういうふうに理解をいたしております。
  82. 木内四郎

    ○木内四郎君 この財政政策と睨み合わしての政策的な問題であることは、わからないじやないですが、その点、私も或る程度理解はできないことはないのですけれども法律或いは條約の態様として、如何にも先例と言つても極く最近の一、二の例をお引きになつても、従来のあれにはそういうことはないし、ヴエルサイユ條約でもイタリア條約でも、外国における財産を、個人の物を国家が賠償に充てた場合には実際上補償できるかできんか、或いはしたかしないかということは別問題として、條約の態様としては、やはり私有財産は尊重したという形になければ私はいかんというので、ヴエルサイユ條約もイタリヤとの平和條約も入れてあつたと思うのですが、日本のこれには入つていないという点が、どうも今の法務総裁の御答弁じや納得行かないのですが、それに関連して非常に重大なことは、どうも外国にある日本人財産に対しては、これは日本の憲法の効力を持つ区域外だからして、これはかまわぬというような御答弁ように伺われたことは、私は非常にこれは驚くべき御答弁じやないかと思うのですが、(「全くだ」と呼ぶ者あり)この点、何か御訂正になることがありますれば伺つておきたいと思うのです。
  83. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 憲法の二十九條におきまして第三項に「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。」この点が私有財産に対しまする公用徴收等の場合における補償の憲法上の根拠であります。こう考えるのでありますが、在外財産につきましては、憲法の適用区域外でございます。この在外財産には日本法律が適用されるものではない。所在国の法規が適用になると考えます。
  84. 木内四郎

    ○木内四郎君 それは所在国の法律が適用されるというのはわかるのですが、然らぱ私は他の面から伺いたいのですが、日本人が外国に特つている財産は、日本政府が勝手に国家の目的によつて取上げて差支えないのですか。
  85. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) この場合の法律構成といたしましては、日本政府が在外財産を取上げて外国政府に引渡すという形ではなく、外国政府処分に対しまして、日本政府としては、在外国民の保護権と申しますか、その権能の行使をいたさないという意味でありまして、これは政府が取上げるという趣旨とは違うのでございます。
  86. 木内四郎

    ○木内四郎君 政府が取上げるというのじやないけれども政府賠償に当てることに政府が同意するのだから、これは政府が国家の目的に使つたと言つても差支えないと思う。然らば日本政府は、この日本人が外国に持つているものに対して、日本政府としてその権利を守らないでもいいというお考えですか。
  87. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 旧敵国にあります財産につきましては、すでに連合国において処分済みでございまして、この点は日本国憲法の問題になる余地はない、こういうふうに考えております。
  88. 木内四郎

    ○木内四郎君 それじやこの点は非常に大きな問題でありますので、法務総裁においてもよく御研究になつた上で御答弁つたほうがいいのじやないかと思うのですが、これは保留しておきまして、このことに関連して一つつておきたいのは、日本の船舶というのはどういうことになるのでしよう日本の領侮を離れるというと憲法施行区域外だからして、これはどうでも差支えないものですか。
  89. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 船舶につきましては、日本国の法規が適用あることは申すまでもありません。
  90. 木内四郎

    ○木内四郎君 そういたしますというと、勿論これは船長は警察権を行なつたり、いろいろなことをしますから、それだけ日本の領土のあれは伸びているという説もいろいろあるようでありますけれども、然らばこれは他の国の港に入つてつても、これは日本の領土の延長というようなふうに解釈できますか。
  91. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 日本の管轄権が完全に日本船舶に及ぶのは、日本の領海と公海でございまして、他国の領海に入れば、その領海国の管轄権がこれにかぶさつて参りまして、日本の管轄権は大きな制限を受けます。
  92. 木内四郎

    ○木内四郎君 今條約局長説明で、大きな制限を受けるけれども、在外財産とは別のものであるというふうに解釈してよろしうございますか。
  93. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その点は、十四條の(a)の2に「この平和條約が効力を発生する日に、連合国の管轄の下にある」と規定いたしております。ですから効力発生の日に連合国の管轄の下にあります場合には、この條項が船舶に適用されるわけであります。
  94. 木内四郎

    ○木内四郎君 そうしますと、この十四條でなくて十九條だと思うのですが……。
  95. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 十四條の(a)の2でございます。
  96. 木内四郎

    ○木内四郎君 船舶でございますか、十四條が……。
  97. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御提起になつております船舶の問題、これはもう四、五回御説明申上げたところでありますから、議事録によつて御了解を願いたいと思います。
  98. 木内四郎

    ○木内四郎君 船舶の場合は十九條ではありませんか。
  99. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 十九條は請求権の放棄でございます。
  100. 木内四郎

    ○木内四郎君 そうすると船舶も十四條によつて在外財産と認められるのですか。
  101. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 木内委員が御指摘になつておる船舶は、船舶と言つておいででございますが、恐らくは船主協会その他からこの條約案の討議中に我々に陳情がありました特殊の船舶の問題であろうかと了解しております。終戰当時に連合国の海域にあつた船舶の問題だろうと思いますが……。
  102. 木内四郎

    ○木内四郎君 そうすると政府としては、船舶も在外財産というふうに解釈されるわけですね。
  103. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指摘の船舶はさよう解釈いたしております。この條約について意見交換中、米国政府代表と我々の間で論議いたした点でございます。
  104. 木内四郎

    ○木内四郎君 論議されたかされないかということは別問題として、船舶も普通の在外財産というふうに見ておられるのでありますか。
  105. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 船舶は如何なる場合に在外財産になるかの問題でございますが、如何なる場合の如何なる船舶について御質問になつておいでかを明らかにして頂きたいと思います。
  106. 木内四郎

    ○木内四郎君 船舶が外国の港に入つてつた場合には、これを在外財産だというふうに考えられますか。
  107. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) そうは考えません。もう一遍御説明申上げますが、我々が降伏をしましたその日に、連合国の海域にあつた船舶が問題になつておるわけでございます。それは連合国最高司令官の一般指令第一号によりまして、その海域に留まることを命令されたのであります。連合国政府はこれらの船舶を当該地域において処分する意向であつたかとも推察されたのであります。その後、これらの地域にある軍人、在留邦人の帰還のためにこれらの船舶を運営することを要請して、許容され、運営して最近に至つたわけであります。そのうちに、講和が近づくにつれ、連合国最高司令官の指令が出まして、従前の地域に引渡すことになつたわけであります。その指令には、これらの船舶の最終的処分は対日平和解決の際に決定さるという留保條項が入つていたわけであります。日本政府といたしましては、かような船舶が在外財産として連合国清算の目的にならないように最後まで懇請いたしたわけでございます。併しこの点は先方関係国の容認するところとならなくて、平和條約十四條(a)の2のよう規定になりました。そして、この船舶も、この條約効力発生の時に連合国の管轄の下にある日本人財産という表現の中に包含される結果になつたのでございます。その点は日本政府としては非常に遺憾に思つております。
  108. 木内四郎

    ○木内四郎君 條約局長がいろいろ交渉された御苦心のほどはよくわかり、又非常に遺憾に思つておるという点は、私どももよく了解いたします。  そこで、さつき法務総裁に伺つたことを留保してありますが、とにかく実際上補償されるかされぬかということは、それはその国の財政能力もありますし、その場合によつてきめなければならんこともあるだろうと思いますが、形の上において法務総裁のさつき言われたよう解釈、これは後で改められるかも知れませんけれども、これは私有財産を国家の目的に使つて、それに対して條約において補償する形がないということは、どうもやはり憲法の清神に私どもは反しておるように思うのです。そこで、それは国内法で以てあとで片付ければいいじやないかと言われる。それも一つ方法でしようけれども、形の上においてどうも私有財産尊重の憲法の趣旨に反しておるように思うのですが、どうでしようか。
  109. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 事務当局として答弁申上げます。私どもがこの平和條約について交渉するに当りましての根本の精神が一つございました。それは、戰敗国といたしまして平和條約によつて負わされる義務は一つでも少くしなければならないということでございました。従つてあらゆる事柄について、連合国側において異存がない限り、日本政府の独自の見解による措置に信頼されたいという精神で参つたわけあります。従つて在外資産所有者に対する補償の問題も、従来の平和條約では補償義務の規定が確かにございました。併しその実際を見ますと、問題はその国の支拂能力の問題でございます。今日文明国である限り私有財産権を尊重するといのは、憲法や国内法を離れましても、又條約の規定を離れましても、一種の自然法的な原則となつておるとも言えると思います。ですから、日本政府におきましても、憲法論とは離れまして、国の財政能力を考えて私有財産は尊重しなければならんという精神に基いて、必ず公正な措置がとられる、と考えている次第でございます。
  110. 木内四郎

    ○木内四郎君 私は昨日も條約局長からそういう御趣旨を簡單ですが伺つて、今詳細に伺つたので、非常に私は結構だと思うのですが、併しどうも形の上において、やはりこれは一種の法律論ですから、形の上に恰好が付いていないということは、非常にまずいじやないかということを、私は言つておるだけなんです。その点、あえて私はこれ以上政府からこの際は答弁を求めませんけれども、何かありましたら、どうぞ。
  111. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 恰好といたしましても、先方の或る人が我々に申したのは、こういう規定を今まで平和條約に設けて来たのだけれども、これは戰勝国の一種の自己満足に過ぎない結果になつたと、こう言つておりました。
  112. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 法律論の立場から申しまするというと、連合国にありまする財産に対しまして、平和條約第十四條(a)の規定により、我が国といたしましては、連合国が直接にこれを処分することを容認する、これに対しまして我が国が在外財産に対する保護権の行使を見合せるということになつたのでありますが、この損害のよつて起りまする直接の原因というものは、飽くまでも当該連合国の主権によるものでありまして、これは我が国の政府措置によつて処分されるのではなく、所在国の主権によつて処分せられるものでありまするから、この際において、我が国の主権の行使について規律をいたしましたる日本国憲法の適用という問題は、生ずる余地がないのでございます。従つて日本国憲法という範囲からだけ申しまするならば、これについて政府として補償しなければならん義務はないと、こういうことになるわけであります。但しこれは法律論でございまして、先ほどから西村條約局長から述べられましたるごとく、私有財産の尊重ということは、これは世界的な一つの自然法的な考え方でございまするから、できるだけその趣旨に副うように、この損失に対する原則的な措置を講ずるということ、これは考えなければならん点でありまして、ただこれについては我が国といたしましては、一般戰争被害と睨み合せまして、財政の面からも十分なる考慮を加えて決定すべきものであると、こう申上げた次第でございます。
  113. 木内四郎

    ○木内四郎君 国内において考慮しなければならんということを言われましたが、勿論それにはいろいろ但書をつけられたから、その点は余り満足しませんけれども国内において考慮すべきものであるという点を答弁されておつたことは、私は満足いたしますけれども、どうも今の法律説明は、外国の主権で処分するんだから、日本の関知したことでないという説明は、私はどうも適当じやないじやないと思うのです。今日でなくても結構ですから、その点をよく御研究になつて説明願わんというと、非常に工合の惡いことになりはしないかと思うのです。今日でなくて結構ですから……。若し今のままでおられれば、私は今の法律論には満足をしません。
  114. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 関連ですが、ちよつと法務総裁に。堀委員の尋ねられた点で一つ落しておられるんじやないかと思うんですが、三百二十五号で、その占領の状態が終りますときに、判決を受けてない、まだ判決を受けてない場合に対してはどうなりますか。
  115. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 只今政府といたしましては、三百二十五号は、講和発効の際に廃止をいたしたいと考えております。但しその廃止をいたしますのは、法律措置によりたい。そうしてその法律の中に特に規定を設けまして、なお判決に至らないもの、或いは検挙に至らないものにつきましても、三百二十五号が有効なる間においてこれに違反したる者の処置ということにつきましては、なお従前と同様の取扱をするという趣旨を明確にいたしたい。こういう方針を考えております。
  116. 平林太一

    ○平林太一君 法務総裁に……。この質疑をどういうふうに扱うかということは、私がこれから申上げる結果によりますが、兼岩君と法務総裁との間に質疑の展開されましたいわゆる小笠原、琉球に対しまする主権の性格に対してのお話でありますが、この際、私は極めて明かにこれはいたしておくべきことと信じまするので、あえて私の見解をこれに申述べる必要をここに感じた次第であります。私の考えからいたしますると、法務総裁、兼岩君、両君とも非常に御熱心の余りにこれを非常に過大評価されてお考えになつておることが、自然、主権の問題従つて憲法の問題に波及いたしたことと信ずるのであります。極めてこの問題は常識的に又平易な気持を以て処理することによつて、何らむずかしい問題でありません。御承知の通り條約におきまして小笠原、琉球の両島は、主権を放棄するということは、條約の條文の中に入つておりません。いわゆる台湾におきましても、澎湖島におきましても又千島におきましても、いずれもこの主権を放棄するということが條文に明らかになつておりまするが、小笠原、琉球は主権を放葉するということが何にもここに出ておりません。ですから、これは講和会議におきましてもその通りである。我が方もそれであるから、そのように受ければよろしい。従つて主権は我が方にありということは極めて昭々として明らかなるものであるということが明確になるのであります。従いまして、これらの住民は、いわゆるこれらの両島における住民の国籍というものは嚴然として我が国にあるのであるということは、これは明らかであるのであります。それでありますから、主権がいわゆるあるということは、何ら疑義の余地のないことである。従つてこれが憲法に波及するというようなことは私はないと思います。又法務総裁も、この問題に対して潜在主権というようなことは、恐らく法務総裁も当局として質疑に対して、つい何か一つの錯覚を起して、そのような潜在主権というようなことを言われた心情は、誠に同情に値するところがあると思うのでありますが、でありますから、むしろ主権は、この問題は何ら論議の余地なくて、両島は我が国にある。住民は又我が国籍である。それから若し潜在ということを殊更に使うのであれば、いわゆる施設権、この国に信託統治として行われまするその施政権下にある司法、立法、行政の三権がこれは潜在の施政権であるということをあえて私はこう主張して支障がないと思います。私は聰明にして叡知なる米国政府は、この施政権に対しまして両島に対しては潜在する施政権であるということを必ず米国当局はそれを首肯し得ることを深く私は信じて疑わざるものであります。それでありますから、この問題に対しましては、御承知の信託統治に対しては、講和会議の際におきまして首席全権からしばしば米国政府に対して、安保條約に関連するところの一つ事態として、切にさようなことをせられないようにということを切々として要望したということを先日も承わつておるのでありますが、併し先方では決して日本のために惡いようなことにはしないから、この場合は、ということで、切なるこの米国当局の要請によりまして、我が方が米国に対する信義の上において、これを一時、いわゆるこのような信託統治に対する承認を與えたということでありまするから、これは将来必ず、近い将来にこれらが解放せられることは明らかである。現に数日前のワシントン電報におきましても、米国の有力筋及び米国の上院におきまして、この問題に対しましては、はつきりと、このことを取上げてある事実を私どもは見逃がしてはなりません。私は以上の見解によりまして、いわゆるこの両島に対しましては、もはや主権の問題に対しましてかれこれ論議するべきものでない。若しそれをするというに至りまするならば、あえて事を好んで、先方がかようの意思であるにかかわらず我が方が殊更事を好んでみずからその両島に対する我が方の主権というものを却つて歪曲した方面に主客顛倒していたすというような結果に相成るのではないかということを深く信ぜざるを得ません。この点に対しましては法務総裁の私はこれに対して答弁を求むることは甚だ忍びがたきものがあることを思わざるを得ません。それでありますから、あえて答弁を要する、私のほうから求めることはあえていたしませんが、併し法務総裁におきましても、いわゆる心情がそこにありましたことを思いますれば、何かそこに考えがありまするならば、この際承わつておきたいのでありますが、(「精神訓話」と呼ぶ者あり)要はこの両島における主権はまさしく我が日本にあり、従いまして憲法に対しまする問題は更にこれは関連しないということを明かに私はここに申上げておく必要を生じましたので、あえて申上げた次第であります。
  117. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 講和條約の文面におきましては只今仰せられたごとくであると、こう私も考えます。
  118. 岡本愛祐

    ○岡本愛祐君 関連して……。木内委員から法務総裁に対しまして在外資産に対する日本の憲法の適用問題について御質問がありました。それに対しまして大橋法務総裁から御答弁があつたのでありまするが、日本国憲法は在外資産を管轄しないというふうに聞える御答弁をなすつたのであります。この点について私ども承服できない点が大分ありますのでありまして、在外資産に対して日本国憲法との関係、又在外資産でない船舶なんかに対する日本国憲法の関係、そういうことについてよくお調べを願つておきまして、この次に我々が質問することの権利を留保しておきたいと思うのであります。委員長においてよろしくお取計らいを願います。
  119. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) ちよつと御相談いたしたいのですが、大蔵大臣が遅れて来られましたが、午後一時から衆議院の本会議でどうしても出られなければならない用件を控えておられますが、如何なされますか。
  120. 岡田宗司

    岡田宗司君 大蔵大臣の貿疑を今からいたしましても僅か一時間、恐らく條約に関するいろいろな経済問題、賠償問題等の質疑をいたしまするならば、相当時間を取るものと考えられまするので、大蔵大臣に対するそういうような質疑は明後日にして頂きたいと存じます。本日はこれを以て散会を宣せられんことを動議として提出いたします。    〔「賛成」と呼ぶ者あり〕
  121. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 今岡田委員から御動議も出たんですが、先ほど申上げたように、この休憩中に理事会を開きまして、この間の理事会でもお話が出ておりますので、日曜日委員会をやるかどうかということもまだ確定してないわけであります。その点、理事会でも御相談を頂かなければならないので、その結果を皆様にお諮りした上で、今日午後やるかやらないかということをきめたいと思いますから、さよう一つ御了承頂いて、ここで午後一時まで休憩いたしたいと思います。    午後零時八分休憩    —————・—————    午後一時三十四分開会
  122. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 休憩前に引続きまして会議を開きます。  五章、六章、七章を問題に供します。
  123. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 今朝ほど午前にちよつと口を出してほかのかたがやられました問題ですが、第五條の(c)の問題ですが、これは草葉次官にお尋ねしても明快な答弁が得られなかつた問題ですが、私の質問の要点は、この(c)は国連憲章の五十一條を大体そのまま持つて来ておりますので、形の上から言う、あたかも同一物のように見える。同じものに見えますけれども、その本質が全く相反しているではないか。則ち国連憲章五十一條では、加盟国に対して武力攻撃の発生した場合の自衛権を規定しておる。ところが、これをこの日本平和條約へ持つて来ておいでになつているこの(c)におきましては、日本国が問題になつている。然るにこの日本国というのは国際連合に加盟していない。又現在においては加盟不可能の状態にいる。つまり單独講和によつて……。そして、そもそもこの五十一條が生れました、この五十一條は国連憲章の最も中心的な根本的な規定である。即ち日独伊のようなフアツシヨ国家が、戰後において再び武力を貯えて世界平和を撹乱しないために連合国が自衛措置を講ずるという建前において、そういう国際的な政治條件で国連憲章が定められ、国連が生れておる。従つてむしろこの五十一條というのは、加盟しておる民主主義国家が、日独伊のような敗北したフアシスト国家が再び武力を貯えて出て参りますこのことに対して規定しておる。ところが平和條約はそういう文句を持つて来ておりますけれども、このフアシスト群の一つである日本国が侵される、侵すものは誰かというと、中国、ソヴイエトが仮想敵国になつておる。全く事態が、形は同一でありますけれども、内容が全く反対である。こういうふうな私は疑問を持つて條約局長お尋ねするわけであります。即ち條約局長お尋ねいたしたいのは、この五十一條は、繰返しませんが、以上申述べましたような趣旨におきまして、国連憲章の中心的な條項であり、国連に加盟しておる、例えばソヴイエトとか、中国とか、アメリカとか、イギリスがこの非加盟国から、むしろそういうような日独伊、そういうものから侵される場合を予想して作つたところのものであつて、この五十一條をこのよう平和條約へ持つて来る、加盟していない日本に持つて来るということは、全く形を借りて来て内容を引繰り返しておるのではないかという私の質問なのです。
  124. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) さよう考えない次第であります。簡單に理由を説明いたします。  五十一條が憲章に入りました事由は、兼岩委員のお考えとは全く違つた事情から入つて来たわけでございます。この入りましたのは中南米諸国の主張によつて入りました。何故この條項を入れることを主張したかと申しますと、中南米諸国は国連憲章が、署名される前にチヤテルペテクにおいて相互援助條約を締結いたしたわけであります。その條約によりますると、参加国に対する攻撃に対して相互に援助することになつているわけであります。その当時は五十一條は入つておりませんので、第七章の規定によりまして、すべて安全保障理事会措置をとつた場合のみ加盟国は強制措置ができることになるわけでございます。そうすると前述の相互援助も安全保障理事会の決定がないと発動できぬことになります。ところが実際問題といたしましては、現実に武力攻撃が発生しましてから、安全保障理事会が具体的措置をとるまでには、或る程度の時間的余裕がかかるという事情がございますので、安全保障理事会措置をとるまでの間、国際連合加盟国は、武力攻撃に対して、自衛権を発動して実力的措置をとり得ることにする必要があるわけであります。こうして、例外規定として五十一條を挿入いたしたわけでございます。でございますので、五十一條は中南米諸国の主張によつて入りましたものであつて、決してドイツとか日本とかから来る武力攻撃を見ているのではないのであります。何なる国から来る武力攻撃に対しても、安全保障理事会が具体的措置をとるまでの間、各加盟国は暫定的に自衛権を行使することができるという趣旨の規定でございます。第二点の、この(c)の前段が平和條約に入りました理由は、五條全体が入りました理由と同じでございます。五條の趣旨は、日本もまだ平和條実施のときにおいて国際連合加盟国ではありません。又この條約に言う連合国の中にも、国際連合加盟国でない国があります。セイロン、インドシナの三国のごとき然りであります。でございますから、この平和條約を実施すると同時に、日本と、この平和條約に言う連合国の間には、国際連合憲章二條に定めた加盟国の行動原則に従つて相互の関係を規律するという趣旨で入つたものでございます。
  125. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私は、縷々述べました前提として、この国際連合が国際連合憲章によつて世界の平和を守るという非常に崇高な目的と、そうして一方において社会主義国家群であるソヴイエトその他、それから資本主義である英米その他が相協力してフアシスト国家群を叩いた。叩いてそれにうち勝つたという、その歴史的な、世界歴史的な運動それ自身の中から生れて来たという事実をあなたが承認される限りは、やはりこの世界平和の禍根が、いわゆる旧枢軸国側である日独伊及びこれに準ずるものとしてスペイン、そういう側にあつたということは、あなたは承認されると思います。然りとすれば、この二條の六におきまして「加盟国でない国家が、」と言つているのは、旧敵国及びこれに準ずる旧敵国とも言うべきスペインその他の再侵略を防ぐ、ここに国際連合憲章の中心的問題があつた考えますが、その大前提をあなたは承認されるかどうか。
  126. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その大前提につきましても意見を異にしております。国連憲章の第十七章を御覽願いたいと思います。
  127. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 何頁ですか。
  128. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 憲章の第十七章第百六條と百七條でございます。これによると、国際連合の憲章の考え方は、日独のごとき旧枢軸国に対する安全保障措置は、五大国に暫定的にまかせる趣旨でございます。国際連合それ自体は、当分その責任をとらないで、国際連合が有効な責任をとり得る段階に達するまでの間は、五大国で責任をとつてもらいたいとの趣旨で、できております。これが国際連合憲章の考え方でございます。その考え方日本国にとつて、不愉快なものでございます。
  129. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 百六條でございますが、これがこの世界平和を維持するために五大国が強調する資本主義と社会主義は必らずしも戰争する必要はないのであつて、これは相協力して世界の平和を維持することができる、その協力の具体的方決として、あなたのおつしやるこの第十七章百六條、この百六條においてモスクワで署名された四カ国宣言の当事国の四カ国と及びフランスとを入れたこの五大国、この五大国に安保理事会で常に拒否権を與える、つまり話を多数決で押切らないで、飽くまで五大国の間で協議する、それが協議形態として基礎になつて国際連合ができた。その国際連合の趣旨は、飽くまでもこの五大国が相共に携えて、平和のために第二次大戰において民主主義の旗の下に立つた五大国、これに対して武力的侵略主義的なフアシスト国家群の日独伊、この世界的な二つの陣営が戰つて、この侵略主義的なフアシスト国家群が敗れた。そういう歴史的な過程の中から生れて来た事実、この歴史的な事実を承認する限り、あなたが條約の專門家として、私はこの歴史的事実の上に立脚して国連憲章なり、国連そのものの本質を把握するのでなければ、そんな中南米のもろもろの国がどうだという、世界歴史の上から言えば、極めて二次的、三次的の見解で国連憲章の條文をあなたが見られるということは、これは議論にならないと思います。飽くまでも第二次大戰の産物である、そうして第一次大戰における国際連盟の、更に第二次大戰という苛烈なる世界の歴史のこの歴史的な試錬を通つて生れて来たこの国際連合憲章が、一方において連合国、他方において枢軸国のこのフアシズムと民主主義とが戰つた、そうして再び戰いを防ぐための国際連合は、当然旧敵国であるところの日独伊のミリタリズムの復興を防ぐ、そうして一方においてこれを叩きつけたところの五大国が飽くまでも協調的に、飽くまでも協議の上で平和を維持するために、安保理事会の形をとつて行く。このあなたの引用されます百六條こそは取りも直さず私の主張が正しいことになるのではありませんか。
  130. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) そうはならないと思うのであります。日本人といたしましては、憲章第十七章のよう一般的安全保障の枠から外して、過渡的にしろ、五大国の監視下にある世界の除け者の立場に置かれることは、耐え忍びがたいところであります。第十七章は国連憲章が與えております一般安全保障の枠から一時日本とドイツを外しております。この国連に代つて過渡的に安全保障の責任を負つておる五大国の間に、兼岩委員が言われるように、協調が保てなくなつていますことについては、我々の責任ではございません。併しながら、この十七章におけるがごとき差別的待遇日本民族が長く受けることは耐え忍びがたいことでございます。この平和條約によりまして、憲章第二條の規定によつて日本が国連が與える一般的安全保障を受けることになりますのは日本人として最も喜ばしいことでございます。党派の如何を問わず、その点は、喜んで然るべきところだと信じます。
  131. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 條約局長は最近サンフランシスコへ行つたりして、非常に気が大きくなつて日本を非常に世界歴史の立場から謙虚に見るという立場を少し逸脱しておられる。條約中心に非常に勉強しておられる結果、日本戰争犯罪的な性格、そうしてアジアの平和を乱し、大敗北を遂げたという事実を軽く見ておるということを、私は非常に遺憾に感ずるのですが、それでは質問を変えまして、極く淡泊な質問からあなたの間違いを指摘しようと思うのですが、昨日草葉次官にお尋ねしたのは、日本が独立して、そうして国際連合に入つて、その上で国際連合の課するところの義務と国際連合が與えるところの権利とを享受すればいいじやないかという質問を実はいたしました。今日は條約局長には、一体、日本は加盟できるのか、加盟する資格を持つているかどうか。これをお尋ねしたい。
  132. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 平和條約が実施されまして、自主独立を回復いたしました曉におきましては、十分加盟の資格があると考えております。
  133. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それは抽象論ですか。具体論ですか。世界政治の事実に立脚しておられますか。観念的に抽象論としてなさる議論ですか。
  134. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 抽象論であると同時に具体論であります。
  135. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 よろしい。それなら別にお尋ねします。国際連合に入るためには五大国の安保理事会の勧告に基いて承認されなければならない。あなたは、どういう根拠で、抽象論であると同時に具体論の立場から、安保理事会日本の加盟を承認するという結論を僕の前に展開せられたか。その根拠……。
  136. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 兼岩委員が私に課せられた御質問は、日本は国際連合に加盟する資格ありと思うかというのでございました。私は抽象的にも具体的にも日本には資格があると申しました。ソ連がこれに対して同意するとは私は申しておりません。ソ連の立場を私は一言もコンミツトいたしておりません。
  137. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それでは質問し直します。日本がこういう平和條約によつていわゆる独立を獲得して、国際連合に加盟を申出たときに、加盟し得ると思いますか。世界政治の実情から、抽象論でなくて具体論として……。
  138. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) この点は国際政治の見通しになります。日本の加盟が実現することを希望いたします。又期待いたします。サンフランシスコ会議において幸いにソ連代表も、この平和條約案に対する修正案において、日本の国連加盟の意思の表示、これに対して連合国は歓迎するという点については何ら提案がなかつたようでございます。
  139. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それは非常に大きな一点を除いておられるから、そういう甘い結論が出るのであつて、如何にもソヴイエトはそういうふうに意思表示をしておりますが、それは全面講和として、中国ソ連も加盟ずる、ポツダム宣言に基くところの全面講和の上で、日本が真に名実ともに全世界に対して独立いたしましたときに、私は日本の加盟が許されるということには、何ら疑うものではございません。併しここに今提出され、我々が論議しており、私が質問を展開しておる、こういう僞せ平和條約、これは戰争條約である。而もその戰争は何に向けられておるか。明らかに中国ソ連に向けられておる。この中国ソ連を仮想敵国とするこの平和條約、そうしてその具体的な現われとして私が貿問しております、問題としております第五條のその最も具体的な現われとしての(c)項、この(c)項は、国際連合の世界平和を守る美しい世界歴史的根拠のあるところの五十一條の文句をここに借りて来て、そうして、日本アメリカ、イギリスの一環として中国及びソヴイエトを攻撃するための軍事基地になり、且つ精神的、物的の協力をして侵略をする。そういう目的の下にいわゆる独立を許されました日本が国際連合に加盟を申出ましたときに、どうして五大国の協調がそれで保たれると考えることができましようか。そういうことができると考えるならば、その頭は、もはや普通の脳味噌ではないと私は言わなければならん。あなたが中国でありソヴイエトであつたときに、あなたは自分を攻めて来るための、こういうふうな自分を仮想敵国として攻撃のために軍事基地を提供し、外国の軍隊の駐在を許すような国を許しますか。あなたがソヴイエトの外務大臣なりソヴイエトの総理大臣ならば……。
  140. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) これは私からお答え申上げるほうが適当と思います。実は兼岩君の御質問の御趣旨は、條約の條文以上の或る一つの構想をお持ちになつて、その構想の上に立つての御議論であり、御質問であると存じます。この條文の上から申しますると、私が昨日お答えし、又只今條約局長お答え申上げた通りであります。結局日本が加盟をするということにおきましては、加盟を申請するという意思表示を宣言いたしましたのがこの條約の前文であります。この宣言は少くとも五十一カ国の国々はこれを了承しております。ただ不幸にしてソ連が署名をいたしません事実は、これは事実であります。それによつて御了承を頂きたいと思います。
  141. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 條約に立ち返ります。それは、條約問題を條約局長に聞くためにはどうしても根本的な問題に触れざるを得なかつたからしたのですが、私の質疑をもう一遍簡單に繰返しますと、この平和條約の第五條(c)に出ておることは、非加盟国である日本が加盟国の攻撃に対して自衛権を発動するという建前です。ところが国際連合憲章の五十一條はそれと反対で、加盟国である国々が非加盟の国の攻撃を受けるであろう場合を慮つてつたもので、全く正反対になつておるのではないかという、このことを條約の下における專門家としての局長が認められるかどうか。同一物の形態を持つて内容が反対物ではないかということを私は聞いておるのですよ。
  142. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 全然同一物でございます。国際連合憲章におきまする五十一條意味は、国連加盟国相互の間におきましては、自衛権は現実に武力攻撃が発生した場合に限るということと、安全保障理事会が具体的措置をとるまでに限ることとして、相互の間において自衛権の範囲を制限したものでございます。どの国から武力攻撃が来るかという点について、兼岩委員は旧枢軸国だけを見ておられるようでありますが、さにあらずして、加盟国相互間における関係でございます。この平和條約第五條(c)におきましては、日本とこの平和條約に言う連合国との間におきまして、自衛権を国連憲章第五十一條と同じ制限において認める結果になるのでございます。その間に全然矛盾は存在いたしておりません。
  143. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 あんた、ちやんと條文二つつて調べて御覽なさい。片つ方は日本国が、即ち非加盟国ですよ、僕の先ほどから言うように、加盟を申出たつて恐らく許されるものではない。これは将来の問題ですから、今のところ加盟国でない日本、條約加盟国でない日本国が侵される場合、これがあんた平和條約ではありませんか。ところが五十一條はどうですか。国際連合加盟国に対して武力行為が発生した場合、明暸に違うじやありませんか。
  144. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 五條の(c)は、「連合国としては、」と書いてあることに御注意願いたいと思います。
  145. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると攻撃を受けるのは日本ではないのですか。
  146. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 連合国は、日本が国連憲章五十一條に言う自衛権を特つておることを認めるという意味であります。即ち連合国日本との関係において、自衛権は武力行為が現実に発生した場合、それから安全保障理事会が具体的な措置をとるまでの暫定措置として認めることになるのでございます。国際連合憲章第五十一條と全然同趣旨の関係でございます。
  147. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それでは(c)の場合は、主体は日本国じやございませんか、侵略を受ける対象は。日本連合国と……この文章における「日本国が」というのは、この侵略に対する自衛を考えておりますのは日本ではありませんか。よその国ですか。
  148. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) さようでございます。
  149. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 日本も認めるでしよう
  150. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 日本の場合もあるし、連合国の場合もあるでしよう。国際連合憲章と同様であります。
  151. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 だから「日本国が」と読まなければいけないのです。日本国が問題でしよう
  152. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) これは連合国日本国との関係でございます。
  153. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 だから(c)項は、日本国が侵された場合に、安保理事会の決定によつてこの応援が来るまでの間、日本国がみずからの防衛をするという日本自身の自衛権を規定したものではありませんか。そうすると、あなたの説によると、(c)項は日本国の自衛権の問題じやないというふうなあなたの御見解ですか。
  154. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 日本の自衛権でございます。日本の自衛権を国際連合憲章第五十一條に言う自衛権に制限したものであります。
  155. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうでしよう。然らばその日本は加盟国じやないでしよう。ところが、五十一條は加盟国の、国際連合に加盟しておる国が武力攻撃を受けた場合でしよう日本は加盟国じやないですよ。非加盟国ですよ。だからその間に……そのことをあなたはどうしても承認しなければならないでしよう。五十一條は加盟国が攻撃を受けた場合、五條の(c)は非加盟国である日本が攻撃を受けた場合の日本の自衛権である。この事実を認められませんか。
  156. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 二人の脳味噌がどうも違つておるようでございますから、見解の一致を見ることはできないかと思います。併しこの平和條約(c)項の眼目とするところは、日本とこの平和條約に参加いたします連合国との間におきまして、日本が持つ自衛権は、国際連合憲軍第五十一條によつて国際連合加盟国が有していると同じ自衛権であることを明らかにした趣旨でございます。
  157. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 だから、以上私が延べたことを全部あなたは承認しなければならんですよ。大変條約局長が連日の疲労で疲れていて僕の言うことが明確にわからないようだから、まだ日にちもあることですから、今日の問答はこの程度にして、もう少し明確にいたしましよう。この問題は、この條約の根本的な点ですから、その程度の答弁では明確な結論に落着けないと思いますから、もう一度明確にして提出いたしますから御研究願います。
  158. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 今五章、六章、七章が問題になつておりますから、條約局長に御質問がありましたから御発言を願います。外務省に対する御質問をどうぞお願いいたします。
  159. 曾禰益

    ○曾祢益君 ちよつと伺いますが、農林大臣は……。
  160. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 今おられたんですが、ちよつと出られて、すぐ帰つて来られるそうですが。
  161. 岡本愛祐

    ○岡本愛祐君 昨日でしたか、字句の問題を條約局長答弁を保留されておるのですが、十四條の(a)項の2の(c)、「日本国又は日本国民所有し、又は支配した団体」と、こうあるのですが、どういうものであるか。念のためにこの際、伺つておきたいと思います。
  162. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 失念しておりまして失礼いたしました。御質問の点は、日本国又は日本国民所有した団体とはどういう意味かという点でございました。この点はイギリスの敵産管理法に、敵国又は敵国民が支配した団体というものについて定義がございます。それによりますと、団体の議決権又は株式の過半数が敵国又は敵国人民によつて所有された場合、これを敵国又は適国民が支配した団体と認める、こうございますので、それから見ますと、日本国又は日本国民所有した団体とは、団体の議決権又は株式の全部が日本国又は日本国民によつて所有されておる場合を言うものと解してよろしいと存じます。総括的に申しますと、(a)が「日本国又は日本国民」ですから、国籍を主に見ております。(b)が「日本国又は日本国民の代理者又は代行者」の財産と言つておりますから、これは日本国又は日本国民に代りまして、自己の名前で財産を持つているが、実際は日本国又は日本国民のためのものである場合のことを見ております。具体的に申しますと、連合国内にあります日本商社の代理店の場合を考えられればよくわかると思います。外国にある代理店が日本商社のために持つておる財産は、その限度において留置、清算対象になる(c)は、これは日本国以外の国籍を持つた団体であります。そういう団体でありながら、その議決権又は株式の全部又は過半数が日本国又は日本国民の手によつて所有されておる場合には、その団体に所属している財産日本人財産として留置、清算ができる。こういう趣旨のものと解釈すればよかろうかと考えます。
  163. 岡本愛祐

    ○岡本愛祐君 では、その(c)の実例はどういうものがあるか。二、三例を挙げて。
  164. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) これは満洲法人、満洲国法律従つて日本人によつて設立された会社を考えればよろしうございましよう。又戰前はアメリカ法律従つて設立された法人の銀行、商社どもつたようでございます。これらをお考え下さればよくわかると思います。
  165. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 第六條を質問していいですか。
  166. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) その辺は全部終つております。今五章以下に入つておりますから。
  167. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 第六條の(c)項ですが……。
  168. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 簡單にお願いします。
  169. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 現在占領軍に使用されておる施設がたくさんあるのです。例えば横浜などを見ますと、うんと、たくさんあるのです。こういう施設は当然日本側返還されるべきものだと私どもは了解するのですが、特別に、相互の合意によつて別段の取極が行われないと返還されない、こういう意味らしいのですけれども、その「相互の合意によつて別段の取極」ということは、どういう内容のものを構想しておられるかという点を一つお伺いいたしたい。
  170. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 現在日本におります占領軍は、米国軍と英国軍でございます。大体の見通しといたしましては、英国軍はこの六條の規定によつて撤退してくれるものと考えております。米国軍につきましては日米安全保障条約の結果、條約発効後駐留をすることになると考えるものでございます。現在問題は主として米国占領軍との間に起ると考えられます。私どもの希望といたしましては、現在米国占領軍のために提供されておる施設その他が成るべく広範囲に日本側返還されることでございますが、どの程度にそれが可能なりやは、安全保障條約第三條によりまして軍の配備の條件について今後話合いをいたしました上でなければ、具体的に見通しは付きかねる現状でございます。
  171. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 現在連合軍に使用されているものの中で、特に重要だと私ども考える、即ち日本経済自立の見地から見て特に重要だと考えますのは、港湾施設であります。港湾施設が非常に重要な意味を持つていると思うのでありますが、その港湾施設についてて、例えば一、二の例を挙げて見ますと、神戸では九割接收されている。横浜では七割、門司では六割、東京では九割、博多では八割、佐世保では九割、この程度の重要な港湾の施設が接收されておりますが、そのために日本が貿易上受ける損害というものは莫大なものがあると思うのであります。特に運賃が高いことは日本の経済安定の上に非常に大きな障害になつているということは、あらゆる機会に論ぜられているところでありますが、その運賃を更に高めておるのは、この港湾施設が接收されていることによつて起きていると思う。岸壁に着けられない。艀を使うということから来る運賃の高騰は大きなものであります。こういうよう施設の、これほど大きな部分が收用、接收されているということについて、政府のほうでも大きな関心を私は持つておいでになるのが当然だと思うが、そこで、そういう見地から見て、いわゆる行政取極の場合に、日本側としてはどの程度の、どういう希望を出して行政取極をやろうとしておるかというかということを先ずお伺いしたい。
  172. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 実はこの行政取極とは別にいたしましても、このお話の第六條の(c)項におきまして「相互の合意」ということがありまするが、「相互の合意」ということは極く特殊な場合においてのことと考える。一応はこの全文の趣旨といたしておりまするように、成るべく九十日以内に、占領軍によつて接收されましたものは日本のほうへ返還をするという方向をとつて、そういう方向においての趣旨から、実はこの次に起つて参りまする日米安全保障條約による行政取極というものも勿論睨み合して持つて来なければならないのでありますが、只今特に御引例になりました最も大きい港湾等の問題につきましては、日本の自立経済の点から、お話の通りに相当現状におきましては困窮をいたしておりまするので、この点は十分その意思を持つて従来からも話しておりまするし、今後も努めて話して参る方針を持つて進んでおります。
  173. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 今のお話で「相互の合意によつて別段の取極」という、この「別段の取極」というのは、安保條約に言う行政協定とは又別のもののように理解されますが、そうなんですか。それは……。
  174. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) これは先に條約局長から申しましたが、実際の問題としては次に起つて参りまする安保條約と関連して参ると存じます。併しこの條文そのものから申しますると、それとは別になりまするが、実際上はお話の通り同様になると思います。
  175. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 そうしますと、接收されておるもので返還されないものの範囲というものは、つまり向うが継続的に使用するであろう施設の範囲というものは、安保條約に言う行政取極によつてきまるものと、それからこの(c)項によつてきまるものとは同じことになるのですか。又は違うのですか。それは……。
  176. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) これは同じことになつて来べきものだと存じます。
  177. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 そうしますと、これは私は法律がよくわからないのですが、この(c)項になぜこういうものが挿入されておるのですか。これは同じものだとすれば安保條約のほうに置けばいい性質のものじやないですか。
  178. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 原則は返還いたすべき事柄でございますから、返還される趣旨の規定があります。併し同時に特別取極で必ずしも返還されない場合が予見されますので、念のために置かれた規定でございます。
  179. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 そうしますと、ここでは返還するということが勿論主眼の規定であるということはよくわかるのですが、「相互の合意によつて」云々ということは安保條約の取極を指しておるということなんですか。それとも又別のものがあるような感じがするものだから聞いておるのですが……。
  180. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) それは今後の條約実施の問題でございますので、安保條約との関連において考えることもできましようし、それとは全然別個に考えることもできましよう。しかし、実際問題としましては、占領軍が引続いて日本におるという関係が安保條約の結果生まれて参りますので、安保條約の実施との関連においてこの特別取極が問題になつて来るわけでございます。従いまして実際的には同一になることになるのであります。
  181. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 それから鉄道車両の問題、特に貨車ですけれども、これが非常に多量に接收されておるために、商品の流通過程にしばしば混乱が起きておるということは、我々四、五年間痛切に経験したことでありますが、こういうものは一体どうなるのですか。
  182. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その点も今後の話合いによりましてきまる事項だと思うわけであります。結局は安保條約によつて日本に駐屯する米国軍に対して如何なる程度において日本政府が便益を供與するかということの具体的な内容に入るわけでございます。今後の話合いによつてその辺の見通しが付くのであります。現在のところ確たる見通しはございません。
  183. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 それで、これはすべて今後の問題にかかると言つておられますが、日本経済自立の見地から見て、例えば今言つた港湾施設の問題、それから鉄道車両等の問題、日本の経済が自立するためには、この程度のものが是非必要だという見通しがあると思う。それ以外のものなら貸してもよい、併しこれは是非とも日本経済自立のために必要なものであるという測定が、計算が恐らくなされておると思いますが、それはどの程度のものですか。
  184. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) お話のように、この港湾施設なり、殊に鉄道貨車の問題等は、生産並びに経済の自立という点から申しまして最も大きな問題であり、原則としましては、この平和條約によつて完全独立をいたしますから、従来の占領軍の占有しておりましたものは、原則としては九十日以内に返還をする。但し実際問題として、今同様に御承認を願つております日米安全保障條約という問題と関理して、これらの問題が実際問題として検討されて参るのであります。従いまして、これは運輸省関係におきましても、その点は前々から随分いろいろな方面におきまして検討し、日本経済自立のために最小限度の方法を従来ともとつてくれることを交渉して参つておりましたが、今後殊に自立、完全独立の状態になりました場合には、この点は十分両方で相談し合つて、それをやるにつけましても、又やる方法等も具体的に相談し合つて行くべきものと考えておる次第であります。
  185. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 それでは、こういう資料一つ出して頂きたいと思うのです。神戸その他の重要港湾が七割乃至九割も接收されておつて、海運上非常な負担を我々は負うている。それで、そのうちどの程度のものは是非必要なものであるかという側定はできておると思う。又その程度のものが確保できない場合には、新らしい港湾施設をどういう計画で以て作つて行くのかという点、それから欽道車両などの問題につきましても同じことが言えると思います。鉄道のほうの予算を見ておりましても、非常に予算は少くて、そうして貨車その他の新造は遅々として進まない。而も多くのものが向うに押えられておる。だから運送関係を円満にするためには、大部分のものを解除してもらわなければ困ると思うのですが、それができない場合、どういう計画を立ててこの鉄道車両の増加を図つて行くか。こういう計画が立たないと……、そういう点について我々が知るところがないと、この條項については、にわかに賛意を表するわけには行かんと私は思う。それで是非必要な資料と思うからして、そういう計画表を一つ出して頂きたい。こういう計画があつて、その計画表に基いて行政取極その他の交渉をやるんだという方針を、ここに示して頂きたいと思うのであります。
  186. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 実は先ほども申上げました今後のこのいわゆる日米安全保障條約における行政取極の内容、これは結局、日本といたしましても、恐らくアメリカといたしましても、日本の自立経済に支障を来たすという点については、この平和條約全体がそのようなことのないよう賠償等も特に配慮をいたしておりまするから、この点については十分了承を持つて今後の折衝がなされると存じます。併し、ながら只今お話のようなこの実際の具体的な問題になりますると、日本はこれだけしかもう絶対にいけないぞということは、結局この余分というものは、やつてもいいぞという、まあ逆から申しますると問題になつて来て、相当今後の交渉の内容に対する日本の立場が、場合によりますると却つて逆効果を来たすような場合もないことはないと存じます。けれども、これは実は外務省の直接の所管ではございませんから、この港湾と車両のことにつきましては、主務官庁から一応又御説明申上げる段取りといたしたいと思つております。
  187. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 それじやその説明を聞く場合のために、あらかじめ注文を出しておきますが、港湾施設にしましても、車両の問題にしましても、もうすでに政府当局においてはいろいろな調査が進んでおることだと思います。それから又交渉の場合にこういうデータを出したのじや不利になるのじやないかというようなお話ですが、これはまあおかしなことで、我々よりも恐らく向うのほうがよく知つておる。知らんのは我々だけだというぐらいのことなんですよ。そういう頭隠して尻隠さずのことを言わないで、これは国民に本当に納得させなきや、こういう條約というものは、うまく行かんですから、国会を通じて国民に納得してもらうよう意味において、そういう資料を正確に出して頂きたい。隠したつて隠し切れないのです。現に日米及びカナダの漁業協定の問題が進んでおるようですが、この漁業の問題につきましても、恐らく日本政府よりも今度来ているヘリングトンあたりのほうがうんとたくさん資料を持つておると私は思う。知らんのは日本国民だけなんです。そういうような事情になつておりますから、国会を通じて、こういうことをやるのだから、日本の経済の自立には差支えないのだということを、はつきり国に知つてもらう機会をつかまれたほうがいいという意味において、私も質問をしております。だから、その趣旨で御答弁を願いたいと思う。
  188. 曾禰益

    ○曾祢益君 十三條のこの航空問題についてちよつと御貿問申上げたいのですが、この十三條の(b)項によりますると、この多数国若しくは二国間の航空條約ができまするまで、この平和條約の最初の効力発生の時から向う四年間、この効力発生の日に連合国が行使しているところの権利、特権を存続させるというような趣旨の規定と、且つその特権を持つておる国々に対しまして機会均等が與えられなければならない、かよう規定があるのでございまするが、これは何故に航空事業に関してのみ、この一般の商工業、或いは海運業等と異なつ待遇をしなければならなかつたか。この点を先ず伺いたいのであります。
  189. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) この三月の米国案では、十三條は十二條の中に包含されておりました。内容的には通商航海関係の一事項として規定しても差支えない事項だと思います。ただ事柄性質上、特に十三條として独立した結果になつたものと考えております。と申しますのは、現在日本飛行機を乘り入れておる国は九カ国ございます。それからもう一つは、日本が現在これらの九カ国に與えております特権は、大体国内乘入権、それから航空会社が飛行場で消耗します物品の輸入税免除の特権、それから日本国内航空会社に飛行機及び搭乘員を貸與する権利、この三種の権利を供與いたしておるわけでございますが、これを一般通商事項に関しまする内国民乃至最惠国待遇を四カ年間日本連合国に供與すると同じ趣旨によりまして、これらの特権も平和條約発効後四カ年間連合国に供與するという約束をすると同時に、特に意義があるのは、日本が独自で航空事業を開始する場合に、まだ加盟国とはなつておりません国際民間航空條約の規定従つて運営しなければならんという規定が入つたことでございます。特に別にした理由というものはなくて、事柄性質上、やや技術的な性格のものでありますから、独立の條文にしたものであろうと考えております。
  190. 曾禰益

    ○曾祢益君 この連合国側が行使しておる特権の範囲でありまするが、只今條約局長の御説明によりますると、九カ国が現在乘入権及び飛行場における消費物件の免税構、或いは日本側に対する航空機貸與権、搭乘員の貸與権というような程度のことのように伺つておるのでありまするが、この規定から申しますれば、現に日本側から與えておりまする特権と申しまするか、連合国側が持つておる特権というものを、即ちこの條約の効力発生の日において持つておる特権を向う四年間認めることになつておるわけであまりす。従つて現在においては、今おつしやつた程度のものであるということでありまするが、若しそれ以上、これから効力発生の日までの間にもつと重大なる特権を與えるというようなことがあつたといたしますならば、それは、やはり向う四カ年間日本の條約上の正式の義務として拘束を受けることになるわけであります。それに関しては、この條約では何ら保障がないわけでありまするが、占領下の日本としてこれ以上の特権を與えない、例えて申すならば、通商航海條約上の内国民待遇からの当然にされる除外事項として、この條約の中にも書いておりまするような内国航空に関する特権、沿岸航空といいますか、航空上のカボタージユに関するような特権は勿諭與えるべきことでないと思いまするが、與えなくていいんだというような保障は一体どこにあるのか。その他、現に得ておる單なる乘入権以外の、将来日本国内航空上に讓るべからざるものなんかを讓るようにならないような保障が一体どこにこの條約上出て来るか。この点をお伺いいたします。
  191. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御懸念の点は十分わかります。大体といたしまして、平和條約が署名された今日、従前ともすでに顯著に行われておりました日本に対する自主権を大幅に委讓するという政策が強く実行されるべき段階になつて来たと我々は考える次第でございます。こういう段階に達しましてから、連合国最高司令官が日本政府に対しまして、現在外国に対して許與している以上の特権を民間航空について許與すべしという如き指令を出されるようなことは万々ないと考えておるわけであります。その理由といたしましては、この條の(c)項によりまして、日本平和條約を実施すると同時に、遵守することを約束しております国際民間航空條約におきましても、曾祢委員の御懸念の国内航空については、各締約国の自主権を認めるという原則が謳つてございますが、この段階に参りまして四十四年の国際條約の原則に反するよう指令日本に下されることは、連合国といたしましては(c)項を置いた精神に反すると言えば言えることでございましよう。この点から見ましても、先ず懸念の要はなかろうかと考えておる次第でございます。
  192. 曾禰益

    ○曾祢益君 そういたしますると、この條約そのものからは、必ずしもはつきり規定されておらないけれども、連合軍当局に信頼することが一つ、第二には、この條約第十三條の(c)項にありまする国際航空條約のこの趣旨から言いまして、国内航空に関する権利は要求される心配はない、かようなお考えだと思うのでありまするが、政府としては、ただ單にさような期待を待つだけでなく、さようなことが仮にあつても、そういうような特権を與えない方針であるかどうかということを伺いたいと思います。
  193. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) そういう国内航空を外国会社が実施するがごとき特権を容認するという考えは毛頭ございません。
  194. 曾禰益

    ○曾祢益君 実は通商産業大臣のおいでのときに外務次官と一緒に伺おうと思つたのですが、なかなかお見えになりませんので、取りあえず外務省のほうから先に伺いたいと思います。  それは第十二條の問題でございます。この第十二條の(b)の(1)の(ii)でありまするが、この「海運、航海及び輸入貨物に関する内国民待遇」等に関することでございます。この條文によりますると、この後のほうに「この待遇は、税金の賦課及び徴收、裁判を受けること、契約の締結及び履行、財産権(有体財産及び無体財産に関するもの)、日本国法律に基いて組織された法人への参加並びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動の遂行に関するすべての事項を含むものとする。」かようになつておるのであります。従いまして、この規定だけから言うならば、日本におきまする実際の事業活動或いは職業活動、これに関して更に又日本法人であるものに対する無制限の参加の意味の内国民待遇がはつきり規定されていると思うのであります。そこで、この次に(d)項でございますが、この條約の適用上三つばかりの例外的な制限をしてもいいということが書いてあるわけであります。第一には「通商條約に通常規定されている例外」、第二は、「当事国の対外的財政状態若しくは国際收支を保護する必要に基くもの(海運及び航海に関するものを除く。)」となつておりますが、第三に「又は重大な安全上の利を維持する必要に基くもの」、これらの三種類の例外につきましては、その必要なる、妥当なる必要の範囲においては、内国民待遇から除外しても差支えないのだということが書いてあるのであります。そこで、さきに挙げました(1)の(ii)ほうの外国人に対しまする一般的な事業活動、職業活動及び法人に対する無制限の参加、この点は完全なものであつて、この(d)項の制限を受けないものである、受けるとすればどういう関係にいたすか、この点を御説明願いたいと存じます。
  195. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) (d)項は、(d)項の明文が言つておりますように「この條の適用上」とございますので(a)乃至(c)の三つの項の適用上(d)項の場合は除外されるわけでございます。そういうふうに解釈いたします。
  196. 曾禰益

    ○曾祢益君 次に(b)項がやはり前のほうに全部かかるということは御指摘の通りなのでありまするし、又一般の「通商條約に通常規定されている例外、」これも大体の範囲は無論わかると思うのであります。第二の例外である「対外財政状態若しくは国際收支を保護する」ためにやる例外、これも趣旨がはつきりわかる。そこで、特に問題なのは、「重大な安全上の利益を維持する必要に基く」、これはどの程度のことをお考えになつておるのか。又国際的に一定の大体の枠というものが、種類の枠というようなものがあるのかないのか。この点を伺いたいと思うのでありまするが、それに関連いたしまして、私がなぜかようなことを御貿問するかという趣旨を御説明申しておくほうが便利かと思うのであります。それは、過去におきまして日本においては、まあ不必要に国防の安全というような見地と、非常に狹い何と申しまするか、まだ鎖国的な感情から、或る種の事業について、或る種の職業につきましても、外国人には均霑を許さないという法令をとつてつたことは御承知の通りであります。私はかよう考えに立つものではないのでありまするが、ただ、この重大な安全の問題、日本のセキユリテイに関する問題という程度の例外規定であつて、果して日本がどうしても保護して行かなければならないよう日本の民族資本の保護と申しますか、さような点からの内国民待遇の除外例がこの平和條約によつては全然できなくなるのではないか、この心配を持つが故に、それらの点をお考えの上で、御説明願いたいと思います。
  197. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 曾祢委員の御懸念の点は誠に御同感でございます。重大なる安全上の利益の維持のためには差別待遇をとつていいという規定は、従来とも濫用の傾向があつたということも又御指摘の通りでございます。通商航海條約にこの例外規定が入るようになりましたのは、大体今度の戰争の後でございます。アメリカ合衆国締結する通商航海條約には、例外なく挿入されております。解釈上極めて困灘な條項でございますが、一つの標準となるものは、関税貿易一般協定の二十一條事項を列挙いたしまして、左の場合が重要なる安全上必要な措置に該当すると規定されておりますので、大体これによつて一般通念は把握できると思います。それによりますと、第一が、「自国の安全保障上の不可欠の利益に反すると認める情報」を提供しないということ、第二の部類は、「自国の安全保障上の不可欠の利益を保護するに必要な措置として、(イ)核分裂性物質又はその抽出物資に関する措置、(ロ)武器、彈薬及び戰争器材の取引又は軍事営造物を供給するために直接若しくは間接に行われる他の貨物及び物資の取引に関する措置、(ハ)戰争又は国際関係における他の緊急の場合にとる措置」、この(ハ)が一番広く解釈される懸念があると存じます。第三の部類として、「締約国が国際の平和及び安全の維特のために国際連合憲草に基く義務に従う措置、」これが重大なる安全上の利益の維持のためにとる措置の中に含まれると、ガツトではなつておりますが、これが大体の標準になろうかと存じます。
  198. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 関連しまして、今読み上げられましたガツト、これに対しまして日本が加盟の努力をしておるかどうかということを一つ聞きたいのであります。それは、まだ占領下にある西ドイツですら、もうすでにこれに加盟しております。我が国では個別的な通商協定をこれから結ぶということにはなつておりますが、勿論それも必要でしようけれども、ガツトに同時に加入して行くという努力もしなければならんと思いますが、そうでないと今あなたが読上げられたものの意味日本には適用にならない。そのガツトに加入の見通しはどうなのかということを先ず一つ伺います。
  199. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) ガツト加入は、現在の日本の対外通商政策上の一つの大きな目的になつております。従来とも絶えずこの面に向つてガツト事務当局並びに主要な加盟国政府に対しまして努力を継続いたしておりますが、今日までのところまだ確とした見通しが得られないのは残念に思います。ただ最近ジユネーヴで開催されましたガツトの会議には、日本の代表者がオブザーバーの形で参列することを認められたのでございます。又この平和條約の交渉の経過を通じましても、連合国政府において、少くとも日本のガツト加盟を支持するという趣旨の條項を挿入してもらいたいという趣旨で、これ又大いに努力いたした次第でございます。合衆国政府はこれに対して極めて同情的でございましたが、未だ連合国間の空気はその程度の條項を條約に入れることすらもが、まだ不可能であつて、思いとどまるようにというようなことでありまして、我々としては非常に落胆した次第でございます。無論今後ともガツトの加盟が一日も早く実現いたしますように努力して行く考えでおります。
  200. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 非常に努力をしておられますがまだできない。これは独立後の日本の国際経済場裡における前途の困難さを思わせる一つ事項であろうと思います。こういう点で池田蔵相の楽観論などは根柢から覆えると思いますが、それは別といたしまして、ガツトに入ることに、西ドイツさえできたのに、日本が何故できないか。こういうことの説明一つ願いたい。
  201. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その点は、私門外漢でありまして、甚だ自信がないのでございますが、何といつてもガツトに対する加入実現の障害となつておりますのは、英国が日本平和條約発効後において国際貿易上における最も恐るべき競争相手に見ておるところにあるのではあるまいかと、感じておる次第であります。
  202. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 もう一つだけ関連してですが、最惠国待遇の問題が十三條に出ておりますが、今の英国ですね。貿易上日本が英国と相当激しい競争相手になるということは、これはもう誰しも認めることなんですが、最惠国待遇の問題についても英国は日本に與えないというようなことを言つておるようですけれども、この点の見通しはどうなんですか。
  203. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 英国政府も我々の了解する限りにおきましては、法律的に最惠国待遇を與えることは困難であるというのでございますが、事実上は最惠国待遇を與えると説明をいたしておるわけであります。結局は平和條約発効後における世界貿易界における日英両国の競争の度合によると思う次第でございまして、無論対英関係におきましても、最惠国待遇を相互に認めるというところまで持つて行かなければいけない。その方に向つて対内的にも又対外的にも施策をして行くべきものであろうと考えております。專門外でございますのでこの程度で御勘弁願いたいと思います。
  204. 曾禰益

    ○曾祢益君 只今の御説明によりますると、ガツトの二十一條に基くところの一種のひな型は、原子力に関するもの及び国防生産に関連するもの、その他は主として非常事態における制限というようなことになると考えますが、いずれも名のごとく安全上の非常な必要ということから来ると思うのでありますが、併し例えて出しますならば、過去においてそうであつたと思いますが、例えば日本銀行の株主というような問題、株券の所持、これらの問題については、勿論安全の見地から論じ得ない部面が多々あると思います。そういたしますると、只今の御説明だけでは、その他一切の事業、農業であろうが鉱業、マイニングですか、その他銀行業にいたしましても、又相当な国家的な性格を持つた或いは公共的といつたほうがよろしいかも知れませんが、それらの事業につきましても、一切安全の見地からという内国民待遇の除外例はできない。かようなことになるかと思うのでありますが、その点は一体どういうふうに考えるのですか、御所見を承わりたいと思ひます。
  205. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 曾祢委員の御指摘の面は、国家安全上の必要の面よりも、むしろ現在の国際通念上、通商航海條約によつて国民待遇の保障がありました場合においても、一国の発券銀行に対する株主権、乃至は一国の專売事業に対する外国人の参加権のようなものまでも含むものではないと従来実際上考えられて来ておりました。その面から私は救済されるものではなかろうかと思うわけであります。第十二條の規定がありましても、日本銀行の株主に外国人がなることまでも認めなければならない極端な結果は生れないというふうに考えております。
  206. 曾禰益

    ○曾祢益君 そこで、通商航海條約に規定されるもの、この内国民待遇から除外する例につきましては、通念的に言つて相当はつきりしたものがある、ただ日本だけの解釈であるというようなことでは、外国との間に非常にそこに例えば誤解を生ずるのではないか。殊に先ほど延べました、(1)の(ii)に書いてありますように、この点では、はつきりと無制限、無差別の原則が打ち出されておるのです。従つて條約局長の言われるような通商航海條約において一般的に除外例と認められておるものが、国際的に相当はつきりした点が、通念的に認められておるか否やということについて、若し認められておるならば、どの程度のものが、これは必ずしも網羅的にと要求するほうが無理かも知れませんが大体通念的に認められておるものは、実は網羅できるはずですが、例示的でもよろしいからお示しを願います。若しそういうものがはつきりしておりませんと、非常にそこに紛争の種が捲かれて来ることになりはしないか。従つて例えは最近のアメリカと諸外国との通商航海條約においては、こういうものが入つておるというようなことを御指摘願いたいと思います。
  207. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 條約の趣旨は、差別的待遇をとる国の通商航海條約に通例揚げておる例外となつておりますので、各国について幾分の出入りはあるわけであります。併し総合的に見ますと、従来通商航海條約上例外となつておりますのは、内水航行、沿岸貿易、国境貿易、道徳、人道上の理由によつて課される措置、港湾に関する法令及び規則に必要な措置、人及び動物の保護のために必要な措置、刑務所において作られた物品に関する措置、美術的、歴史的、又は考古学的価値のある国宝保護のために課せられるべき措置が大体これに当ります。
  208. 曾禰益

    ○曾祢益君 只今條約局長のお読みになつ通りでありまして、通商航海條約上の通常の内国民待遇からの除外というものは、例えば先ほどおつしやつたような発券銀行に関するものというようなものは、通常含んでおらない。かよう考えられるのであります。従つて私が日本の産業の将来、民族資本の擁護という見地も加えて考えるならば、或いは国家の機能に関連するもの、公共の安全に関連するようなものについて、果して今條約局長の言われたよう説明では、これは重大なる国際発に認められたスタンダードの中に入らなくて、而も日本としてはこれは留保して置かなければならないというような事業等がありはせぬか。この点を心配するから、こう一遍伺いたいわけです。
  209. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指摘のような懸念は、平和関係にありました時代の通商航海の上におきましてもありましたわけでございます。併し国際間の通念といたしまして、内国民待遇規定があります場合にも、外国人が他国の発券銀行の株式取得までなし得ることを要請しておるものではないというのが通念でございます。又地上資源の開発などに対しましても、当然通商航海條約によつて保障されておる内国民待遇が及ぶものではないというふうに、国家が国家として存立するに必要な或る極めて限定された範囲の事項につきましては、外国人は、通商航海條約上の内国民待遇の保障がある場合にも、それまでは及ばないと考えました。この通念からして、御懸念のよう事態は排除し得ると考えておるわけであります。
  210. 曾禰益

    ○曾祢益君 過去におきましては、日本平和條約を結んで、その平和條約の條項によつて、第十二條の(b)の(1)の(ii)のような極めて包括的な無制限的な外国人に対する事業の参加権、或いは株式所有権を認めておらなかつたわけです。従いまして完全な対等の主権国間に結ばれた通商航海條約におきまして、今局長が指摘されたように、通商航海條約の中に例外規定としてはつきり書いてなくとも、それ以外のいわゆる国際通念といたしまして、今申されたように、発券銀行その他、国家的公共的事業乃至はマイニング、地下資源の開発等に関しては、或る程度の、この通商航海條約に書かなくても、内国民待遇から排除していいという一つ解釈、併しその解釈は、やはり日本という国の、何と申しますか、国威というような、国の力というようなもののやはり裏付けがあつて主張が通つたのであります。全部の国が必ずしもそれに同意していたということはなかつたのであります。今や日本の国威は決してそのようなものでないことが一つ。第二には、この平和條約におきまして、今申上げましたような極めて包括的な内国民待遇の原則を嚴として打ち出しておる。而も例外規定のほうは極めて簡單にあいまいにしか書いておらないときに、果して今條約局長の言われたような程度の過去の追想から出て来るところの期待だけで、十分な国営や民営の保護ができるかどうか、この点を私は非常に懸念する。果して今の條約局長解釈が外務省の解釈であるか。更に又その解釈従つて、例えば近く日米通商航海條約の交渉が開かれ、その場合に十分なる見通しがあるのか。殊に通商航海條約それ自身がすべて最惠国の待遇の基礎の上に作られることを考えまするときに、仮にアメリカ合衆国はそれらの点に関して非常に理解的であり、最もリべラルであるといたしましても、リベラルでない国に讓つたようなその利益は、やはり各国に均霑させなければならない。かような重大な私は問題を含んでおると存ずるのであります。従いまして更に外務次官からかような点についての万遺憾なき御決心があるか。私は條文的には非常に不備ではないかと思うのでありますが、この点と今後の覚悟とを一つ伺わせて頂きたいと思います。
  211. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) お話の点御尤もだと存じます。併しこの(c)項によりまして相手国も同様な待遇を與えることになつておりますので、今後若しやこの條約におきまして、これが実施の暁に、今後これに基いて結ぶ場合に、只今お話になりましたよう状態を予想するようなことがありますると、今後結びますこの條約に基いた各種の方法によりまして、十分注意をいたして参りたいと思います。
  212. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 第五章は、曾祢委員、よろしうございますか。
  213. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 ちよつと待つて下さい。今日お聞きしてどうかと思うのですけれども、関税政策の問題ですが、日本は御承知のように非常に低率関税をまあやつておるわけなんでありますが、最近の関税定率法の改正で多少は上げましたけれども、まだまだ日本の経済力から見て税率は低く過ぎるというふうに私は感じております。この低い税率の下におきましては、外国との競争によつて而も今、曾祢委員が指摘されたこれらの條項から見まして、日本の中小企業なんというのは、非常な危機に立つということが懸念されるのですが、その関税政策については一体どういうようなお考えで、この條約に調印されたかということを一つ承わりたいと思います。
  214. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 関税政策につきましては、平和條約が発効いたしますれば、完全に自主独立の国家として最善と思う関税政策を実施することができるわけでございます。でございますので、平和條約を考えるに当りましては、條約上、将来における日本の関税政策について何らの拘束を受けないようにというところを眼目に置いて処理いたした次第でございます。
  215. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 この独立したあとでは、完全に関税自主権を持つという建前であるということを承わつて大変心強く思うのでありますが、この独立に至る過程、つまり現在におきまして、それから又安保條約が結ばれた場合の基地を通じての商品の輸入の問題などに関連いたしまして、現在特に重要となつておる点について一、二お聞きしたいのですが、これは通産大臣に聞きますかな……、いま一つだけ、それでは申上げますが、御承知のように東京都内を歩いて見ましても、地方に行きましても、非常に多くの外国商品が道路、道路といつてはおかしいが、夜店にまで氾濫しておる。而も最近新聞にも報ぜられたことでありますが、時計などはべらぼうな大量の密輸入が行われておるという状態なんでありますが、これがどういう経路でどういうふうにして入つて来ておるか。これなどについては、まあ通産大臣にお聞きしたほうがいいと思いますが、こういう事実がある。而して独立したあとにこういう事実を根絶するような手が打てるかどうかということについては多少の疑念があるのです、私は……。そこでそういう点について、いわゆるまあ半公然の密輸入の途がある。実に奇妙なことなんですが……。こういうことを完全に防止するような対策を考えてこれは結ばれたものだと思うのですが、そういう点はどうなんですか。
  216. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) お話のように、現在の段階におきましては、只今ような現実の状態がよく目に着くほどである状態であります点は御意見の通だと思います。具体的問題につきましては、いずれ通産大臣から御答弁申上げましようが、この條約の締結につきましは、只今局長から申上げましたように、十分今後独立しました後は、日本の完全なる自主の立場におきまして関税政策並びに貿易政策というのを執り行いたいと思う。現在の段階におきましても、貿易金融協定を結んで、これはスキヤツプにおいて結んで参つておるのでありますが、最近におきましては、独立後を考えまして、以上の点を考慮して、ものによりましては、スキヤツプと日本と大体同じような内容のものを二通作つてやるような行き方でだんだん少し変つて参りました。独立後はこれが完全に日本の立場になつて、而も関税政策等も、この條約にありまする範囲におきましては、十分日本自身でやれることになりますから、こういう点に対しましては、従来のような点は、はつきり是正し得る方策を日本だけでとり得ると存じます。
  217. 波多野鼎

    ○波多野鼎君 議事進行についてですが、この第十二條ですが、これあたりは、今後の日本の経済自立の問題と非常に重大な関連がありまして、大蔵大臣や通産大臣のやはり責任者に出てもらつて徹底的に究明しておきたいと思うのですよ。それで私は、今日はこの程度にしてもらつて、次回に関係大臣の出席を是非求めて質問を続行したいと思つておりますが、如何でしようか。
  218. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それでは今日はこの程度にすることに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  219. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) では、今日はこの程度にいたします。  なお、ちよつとこの際、先ほど理事会で大体お打合せしましたことを御連絡申上げて御了承を得たいと思いますが、総理は十四日の水曜日に出席の予定であります。その際に前回の総理に対しまする総理の答弁の不十分な点、更に答弁をしてもらう問題と、それから平和條約に対する逐條審議は大体その前に終る予定でありますから、そのときに総括質問をやつて頂く。その総括質問は各党一人といたしまして、時間は答弁時間を除きまして一人三十分以内、但し社会党は特に二人ということにいたしました。  それから明日は休みまして、明後日十時から開会いします。さよう御了承頂きまして御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  220. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それでは本日はこれにて散会いたします。    午後三時九分散会