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1951-11-06 第12回国会 参議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十一月六日(火曜日)    午前十時十七分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     大隈 信幸君    理事            楠瀬 常猪君            一松 政二君            加藤 正人君            野田 俊作君            堀木 鎌三君    委員            秋山俊一郎君            石川 榮一君            泉山 三六君            川村 松助君            北村 一男君            杉原 荒太君            徳川 頼貞君            平林 太一君            岡田 宗司君            永井純一郎君            吉川末次郎君            岡本 愛祐君            楠見 義男君            杉山 昌作君            高橋 道男君            伊達源一郎君            木内 四郎君            一松 定吉君            羽仁 五郎君            兼岩 傳一君   国務大臣    法 務 総 裁 大橋 武夫君    文 部 大 臣 天野 貞祐君    国 務 大 臣 岡野 清豪君   政府委員    地方自治政務次    官       小野  哲君    法務府法制意見    第一局長    高辻 正巳君    外務政務次官  草葉 隆圓君    外務省條局長 西村 熊雄君   事務局側    常任委員会專門    員       坂西 志保君    常任委員会專門    員      久保田貫一郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○平和条約締結について承認を求め  るの件(内閣提出衆議院送付) ○日本国アメリカ合衆国との間の安  全保障条約締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 只今から会議を開きます。  最初に申上げますが、先般この委員会で申合せて頂いて総理に本日の出席を希望したわけでありますが、総理の御都合で今日は出席されません。いつ出られるかまだ連絡がありませんので、いずれ連絡のあり次第御連絡申上げます。なお総理に対する質問要綱の未提出のかたは至急御提出を頂きたいと思います。  では昨日に引続いて第二章を問題にいたします。
  3. 石川榮一

    石川榮一君 私はこの第二章の領域に関する講和條項に関しまして、国民的な感情を一応申述べて、更にこれに対しまする政府の御所見を伺つて見たいと思います。この第二章の領域に関しまするいわゆる日本領土割讓條項は、敗戰国日本に対しましては、公正であり寛大であるとは言われておりまするが。この領域に関する限りは、私は懲罰的であり、報復的であり、或いは復讐の意図も包蔵しているかのように感ぜられますことは誠に遺憾千万に堪えないのであります。この領域條項決定する基礎に相成りましたところのいわゆるカイロ宣言、これは第二次大戰真只中でありました一九四三年十一月二十一日に発表をせられましたいわゆるカイロ宣言に端を発しているのでありまして、当時連合国側対敵日本に対する澎湃たる敵愾心が最高潮に達しておつた当時にきめられたところの宣言なのであります。この澎湃たる敵愾心が湧き起つておりましたときにできましたこのカイロ宣言の本質は、今日から考えますれば相当に膺懲的であり、報復的であることは、私どももこれは認めなければならないと考えるのでありまするが、このカイロ宣言を基本といたしましてできましたいわゆるポツダム宣言、このポツダム宣言領土條項は、このカイロ宣言を基盤として作られておりますことは、我々はこれを認めるのであります。勿論降伏文書によりまして、日本は無條件降伏し、ポツダム宣言を承服したのでありまするから、今更日本がかれこれ、これに喙を容れることは許されないことでありますが、併しながらこの領域に関するこの條項は、徹底的な日本に対する領土褫奪條項なのであります。併しながら戰後すでに六年に亘りまして、国民自省反省とを重ねて参りまして、大体におきまして、民主的な平和愛好国民に再生しておる現在であります。このことは連合各国の恐らく認識せられておるところであろうと信ずるものでありますが、このカイロ宣言のできました当時と、現在の日本国民の再生の門出に当りますときに結びますこの講和條約とは時期的に非常な差異がある。この領土條項カイロ宣言決定いたしました当時とは非常な差があるのでありまして、いよいよ日本国連に招請して、世界の平和、東洋の平和に寄與させようとする考え方によつてできましたこの講和條約の締結が、かくのごとく戰争真只中に、而も敵愾心澎湃として起つたときにきめられたものを、そのままこの領域に規定したということは非常に遺憾極まりないものがありまして、日本国民といたしますれば、感情的にも非常な堪え忍びがたいような遺憾な感を持つことであろうと私は確信をするのであります。私どもは将来の平和のため、もう少し寛大であり、公正である領域決定が行われるだろうと思いましたところが、やはりカイロ宣言に一歩も出ないということでありましたことは非常に遺憾でありますことを、私は国民感情として申上げてみたいのであります。この見地からこれらの條項を考察いたしますのに、(a)條項並びに(b)條項、これらは私どもは止むを得ない、この程度のものはこれはお返しすべきである、又朝鮮独立をなさしむべきであるということは納得いたしますのでありますが、以下(c)(d)(e)(f)、この四つの項目に規定せられましたところの日本領土権褫奪條項は、これは何とか将来国連国際正義のその感情を十分に自省を求めまして、そうしてこれらに対する緩和の方法が将来とり得ることができるかどうか。私どもは是非この(c)項以下のものにつきましては、再検討を加える時が来ることを非常に期待するものであります。特に申上げたいことは、これらの(b)項以下(c)項、(f)項に至ります項目に対しましては、日本領土権放棄させることを規定しておりまするが、その放棄しましたこれらの地域は、その主権がどこにあるかということがはつきり書いてないのでありまして、恐らくこれは国際連合帰属するものであるか、或いは連合国帰属するものであるか、或いは連合国中この平和條約に署名し批准した国のいわゆる国家群にこれが帰属するものでありますか等は、少しも私どもにはわからないのであります。勿論放棄しました以上は、これらに対してかれこれ言うべき筋ではありませんが、先般来申上げましたように、我々国民として今日自省反省を重ねておりまして、民主的に徹底した国民であるとみずからも信じ、又世界もこれを認めつつあるときに、これらの條項に対する放棄したところの主権存在がどこにあるかはつきりしておらない。これはその主権帰属はどこに行くのでありますか、伺いたいのであります。  更にこの講和條約を批准しないところのもの、或いはこれに参加しないところのものが関係しておりまして、これらの国々がこれらの條項地域を占拠しておる事実であります。将来日本とこれらの占拠しておる国々との間に講和條約が荏苒延びまして、締結の見通しが付かないような状況に相成りましたときに、これらの帰属はどうなるものでありましようか。或いはそういうような場合に、仮にこれが国際連合の下に帰属するものであるといたしまするならば、これを占拠して長く日本講和を結ばないような国々との関係はどうなるのでありましようか、これも伺いたいのであります。この御答弁を伺いましてから、更に御質問申上げたいと思います。
  4. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 御質問の第一点は、ここに第二條において領域決定することに我々は承認するが、将来はどうするかという問題でございまするが、今回のサンフランシスコ会議におきまして、この平和條約を承認いたし、又連合国も共々に承認いたしました以上は、日本はこの條約を将来嚴守して参る勿論確信を持つて承認をいたした次第であります。第二の帰属の問題が未決定であるではないか。お説の通りであります。併しこれは連合国間、関係国間において話合が付かなんだから、未決定のまま日本領有権、いわゆる権利権原請求権放棄したという形になつておりまして、これらの帰属のことにつきましては、関係国間において将来決定されるものと存じております。又現在署名をしなんだ国で占領をいたしておる国、この問題についても将来どうなるか。千島の問題につきましては、千島範囲についての問題がお話の問題に該当する点であると存じますが、その範囲につきましては、結局具体的になりますると、歯舞色丹の問題になつて参りまするが、歯舞色丹につきましては、前々から申上げております通りに、日本政府はこれは千島範囲外である、北海道の一部であると、固くこの点をはつきりとそういう主張を持つておるのであります。又現実においてもそうである。従つて問題の帰着は、歯舞色丹占領という問題に帰するわけでございますが、この問題につきましては、将来、昨日もお答え申上げましたように、でき得るだけの方法を以ちまして、日本政府主張国民主張が了解されるように努力をいたして参る予定をいたしておる次第であります。
  5. 石川榮一

    石川榮一君 只今の御答弁で大体わかりましたのですが、特にこの(e)項の「日本国は、日本国民活動に由来するか又は他に由来するかを問わず、南極地域のいずれの部分に対する権利若しくは権原又はいずれの部分に関する利益についても、すべての請求権放棄する。」と、こうなつておりますが、これらは例の一九一二年におきまする白瀬大尉南極探險によつて発見したところの、これは何ら他国を侵略したところのものでも何でもない。文化的な活動によつて得ましたところの領土たる島嶼であろうと思いますが、これらについてもその帰属並びに(f)の新南群島及び西沙群島に対する権利権原請求権放棄、この二つに対する主権はいずこにありますかをもう一度伺いたい。
  6. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) (e)項にありまするいわゆる南極地域につきましては、お話のように、明治四十五年一月に白瀬中尉西緯百五十六度、南緯八十度のところに標識を持つて探險に行つて、そうしてそれぞれこの処置をいたして参つたのであります。その後日本政府といたしましては、昭和十三年に米国国務省宛に、今後これらの帰属決定については十分日本はその場合に申入れ権原の保留を申入れをいたした次第であります。こういう関係におきましてこれらの南極地域につきましては、日本はいわゆる発言の強い権利を持つてつたわけで、あります。それがこの條項によりまして請求権放棄すると、又新南群島につきましてはこれは大正七、八年の頃に日本人調査をして、そうして新南群島燐鉱株式会社を置きまして、日本政府の援助と承認の下に進んで参りましたが、その後一時中止をし、更に昭和七、八年頃にフランス政府自分のほうに主権があるということを日本に通告して参りましたけれども日本政府はこれに抗議をいたして参りまして、昭和十四年三月三十日に高雄市の管轄に入れた地区であります。西沙群島につきましてはフランス中国との間のこの領有紛争があつた地区でありまして、日本は直接には関係がなかつたのでありまするが、併し大正六年頃からしばしば日本人調査をしており、その後燐鉱採取等もいたしたことはありまするが、フランス自分のほうの領有だと主張し、それぞれこの処置をとつておりましたけれども日本政府はむしろこれを中国領有ではないかということの意見を持つてつた土地であります。従いまして直接にはこれは領有としての、日本領土としての関係におきましては関係は少いものだと思います。併しそういう関係がありますので、今回の條約におきましては、これらの土地に対する問題の解明をはつきりするために(e)(f)というものをはつきりここに表わして来たと存じます。
  7. 石川榮一

    石川榮一君 只今の御答弁を伺いますると、その経過はわかりましたが、そういたしますと、これらの(e)並びに(f)に関する請求権放棄をいたしました、その放棄しました請求権は、未だその帰属がきまらないで、どの国か或いは国際連合、或いはこの講和條約に関係を持つ連合国、いずれに帰属するかはまだはつきりしておりませんのでございましようか、お伺いいたします。
  8. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これはそれぞれによつて違うと存じまするが、(e)の場合におきましては従来日本立場主張した申入れを、只今申上げました一九三八年三月にアメリカ国務省日本政府はいたしておるのでありまするから、従つて従来ともこの帰属というのは別に国際的に問題にはならなんだと存じまするけれども、問題になる場合の請求権放棄したと、又(f)の場合におきましては只今申上げましたようにすでに問題になつており、むしろこの西沙群島におきましては、フランス中国との間に領有紛争があつたのであります。又あつておると申上げてもいいかも知れませんが、従つてこれらはそれらの国々によつて決定すべきもので、日本はこれらに対する権利権原請求権日本立場においては放棄をした、こういうわけでございます。
  9. 石川榮一

    石川榮一君 第二條質疑はその程度で終りますが、昨日第三條に対しても質疑を行われたようでありまするから、関連して第三條を引続いて質問したいと思います。  昨日の質疑応答によりまして大体私のお聞きいたしたいと思うことは了承し得たように考えられるのでありまするが、もう一度念のためお伺いしておきたいと思うのであります。この第三條の「北緯三十九度以南の南西諸島」に対する主権日本にある、こういうお説でありました。勿論ダレス米全権並びヤンガー英全権講和会議において日本主権がありますことを強調せられたことを唯一の私どもは証言と見るのでありますが、ただ国際情勢は変転極まりないのが現実でありまして、今日の友好関係もいつどういう情勢に変化するかも測りがたい目まぐるしい情勢下に立たされております。この條項はつきり日本主権があるというとを謳つておりません。ただ英米全権主張並び日本全権連合国の一、二の全権のかたがたとお話合いをしておるということを唯一の頼りとしての主権存在の確認であろうと思う。そういうややもいたしますと、将来この條約に明記していないために起り得る紛議を予想しなければならない。そういうような紛議が将来あつては大変でありますので、そういうことのないようにいたしますために、何とか外交交換公文のような形によりまして、この第三條の信託統治制度の下に置かれました場合におきましても、日本主権があるということの公文交換をしておいたらどうであろうか。将来紛議の種をここで根絶しておくという必要がある。かような見地に立ちまして、日本主権がありという外交公文交換をなさつて下さつておるのか、これに対する御所見を伺いたい。
  10. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 第三條は第二條と趣きを異にいたしておりまして、第三條の中には権利権原請求権放棄するということは謳つておらないのであります。従いまして、その立場におきまして主権は残る、こういう解釈をとつておる。これは当然な解釈であるという立場をとつている次第であります。そういう意味から別に外交公文を取り交す必要はないのであります。
  11. 石川榮一

    石川榮一君 一応さように了解できるのでありますが、それならば何故ダレス全権並びヤンガー英全権演説のうちこの項目を取上げて、日本主権ありということの発表をされたのでありましようか、若し今お話のように権利権原並び請求権放棄條項がないからいいではないかという、それで確然と主権が確立しておるというならば、これは両全権発言の必要がなかつた、かように考える。両全権発言なさるということ自体が、この日本主権があるということの條項はつきりしておらないことを、実は演説の中で主張されたのではないか。かように考えられるのですが、何故に両全権は殊更に日本主権をこの演説において主張されたかを伺いたいのであります。
  12. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは信託統治制度の下におきます主権というものが、相当従来から定説がない次第であります。従いまして、信託統治の下に置かれる状態になりました場合におきましても、主権があるということをはつきりするために言われたと存じます。
  13. 石川榮一

    石川榮一君 主権がさように確定しております以上は、将来米国がこの信託統治制度の設定をいたしまして、国連にこれを提案するという場合におきまして、その信託統治制度決定いたします内容等につきましては、恐らく主権国日本の直接関係国としての立場から、当然その信託統治制度決定協議にあずかり得るものと私どもは考えていいと思いますが、御所見を伺いたいと思います。
  14. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは実際上の問題になりますと、恐らくそうであると存じまするし、又そうであることを希望いたす次第でありますが、ただこの日本国としては、唯一施政権者としてのアメリカ立場におきまして国際連合に対する合衆国の如何なる提案にも同意するということになつておりますから、表面上、アメリカの提案によつてなされ得ると考えざるを得ないと思います。併し実際の問題ではお話通りに進み得ると思います。
  15. 伊達源一郎

    伊達源一郎君 條約局長にお尋ねしたいのでありますが、私は休んだのでもう質問が済んでおることと思いますけれども、第一條の、この條約が効力を発すると同時に戰争状態は終了するということでありますが、戰争はすでに降伏條約によつて終了しておるのであるけれども戰争状態ということは続いておるのでありますが、その戰争状態ということはこの場合休戰状態であるかどうか。戰争状態というものは平和状態でないということを広く意味するのであるか。或いはほかの多くの場合と同じように休戰状態になつてつたということを意味するか。それをお伺いするのは、この調印をしなかつた国、或いは調印しても批准しない国等との今後の関係のことが考えられますので、その点をちよつと伺つておきたいと思うのです。
  16. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 日本降伏によつて設定されております休戰状態を意味するものと考えております。
  17. 伊達源一郎

    伊達源一郎君 休戰状態であるとすれば、その休戰状態にありながら軍事行動をなお続けて満州を処分し、南樺太占領し、千島占領したというような行動がこの休戰状態の間に行われておる事実は、休戰條約を破つたということになるかどうか。その点を伺いたい。
  18. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その点は日本休戰状態に入る前に、連合国間の軍事的話合いの結果、対日戦争に参加いたしております各国占領地区について話合いができておるようでありまして、その話合い従つて連合国の軍隊が占領しておるわけでございます。
  19. 伊達源一郎

    伊達源一郎君 この條約によつて平和状態に復するのでありまして、批准した国は平和状態に復するのであるが、批准しない国は依然として休戰状態が続いて行つて戰争状態が残つて行くということになりますと、日本降伏條約を受諾して、あの降伏條約によつて平和状態でないことが続いておるのでありますが、批准しない国があるとすると、批准しない国は戰争状態をやはり続けておるし、批准した国は平和状態になつておる。そこの間に非常な違つた状態日本との関係に起つて来るわけでありますが、そういう矛盾した関係各国の間に、もつれ合うという心配はないのでございましようか。
  20. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 理想的に申しますと、この平和條約に署名しました四十八ヵ国が全部批准してくれまして、同時に日本とこれらの国との間の関係平和状態に入ることが、望ましいと考えられます。併し実際問題としては、そうは行きませんものでありますから、先ず第一に日本とその他主要なる六ヵ国により批准書が寄託された時に効力が発生して平和関係が回復し、その他の国については、それぞれの批准する国の批准書が寄託された日から平和状態が回復することになります。世界的範囲亘つて戰争が行われたあとにおきまして、戰争状態から平和状態に復帰するためには、どうしても或る期間平和関係にある国と、戰争状態にある国とが同時に存在する不自然な事態存在します。理想的ではございませんが、止むを得ない事態だと思うのでございます。併し従来の経験から見ますれば、実際上はさほど不自由なこともなかつた次第であります。
  21. 伊達源一郎

    伊達源一郎君 私はそれだけでいいと思います。
  22. 岡田宗司

    岡田宗司君 第二章の第二條についてお伺いしておきたいと思います。先ず第二章の第二條(a)でございます。「日本国は、朝鮮独立承認して、」とありますが、朝鮮は御承知のように二つ政府ができております。北朝鮮南朝鮮に別の政府ができておるのであります。朝鮮全体が一つの独立国になつております場合におきましては、この独立承認の問題は何らむずかしい問題はないと思いますが、二つになつておるということは、やはり非常に厄介な問題をもたらすものと思います。日本政府におきましては朝鮮の現在の状態、これは二つ政府があるという、こういうことを先ず認識して、そうして今のところ南朝鮮大韓民国政府承認する、こういうような立場で行かれるのであるか。或いは又そうではなくて、現在は二つ政府があるが、現在なお内戰状態が続いておる、そして片方の、例えば南朝鮮にある大韓民国政府朝鮮全体を支配すべき政府である、こういうふうに認めてこれを承認する。そうして朝鮮独立承認ということをこの政府の下における朝鮮と解してやるのか。その点についてお伺いしたい。
  23. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) この條文から申しますると、朝鮮独立承認するというのが南北いずれの朝鮮ということはここには明示いたしておらないので、従つてカイロ宣言によりますると、朝鮮民族奴隷的状態から解放して朝鮮独立を来たすという方向から流れて参りました(a)項におきまする「朝鮮独立」というものを、これこれの島を含んで、日本はこれらに対する権利権原請求権放棄したのである。併し次に起つて参りまする問題は、お話通りに然らば現実朝鮮には南北二つがあるのではないか、こういう問題になつて、今後これらの政府に対して日本はどういう態度をとるかという問題になつて来ると思います。この場合におきましては、実は実際上の問題といたしましては、四五年の十二月のモスコーでの米、英、ソ三国の協議に基きまして、ソ連、アメリカイギリス等協議に基きまして、朝鮮独立朝鮮の統一というのを相談して、そうして朝鮮に速かな民主政府を樹立するということで進んで参りましたが、どうしてもうまいこと行かずに、到頭アメリカは四七年の十二月に国際連合にこれを提訴して、その結果臨時朝鮮委員会を設置して、その下で朝鮮民主的選挙を行わせてできたのがいわゆる大韓民国従つて大韓民国に対しましては、いわゆる南鮮政権に対しましては、現在国連自身が、立場を変えて申しますると、朝鮮独立のために作つた作つたと申しますか、協力をした政権である。従つて、これを承認しておりますのも二十九の国々承認いたしておると記憶いたしております。これに対しまして、北鮮の場合におきましては、これら国際連合の公的な立場における政権ということは認めがたいのではないか。現在におきましては、九ヵ国がこれを承認いたしておると承知いたしておりまするが、そういう状態でありまするから、これらの独立後における朝鮮政権を、日本政府はどうするかという場合には、当然国際連合立場における大韓民国というのが日本の対象の政権として今後進んで来ることは当然であると考えております。
  24. 岡田宗司

    岡田宗司君 現実には二つ政権がある。併し日本国としては大韓民国唯一朝鮮の正統なる政府としておる、こういうふうに考えてよろしいのでございますか。
  25. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これはまだ実際には具体的にはそこまで進んでおりませんが、独立後における朝鮮のこの條項におきまして、独立後における日本の今後の対象はどうかという場合におきましては、お説の通りに考えるべきものだと考えております。
  26. 岡田宗司

    岡田宗司君 これは在留朝鮮人の問題と関連して非常にむずかしい問題が起ることになると思いますが、今、日本政府といたしましては、占領が解かれ、そうして日本国独立して地位を回復すると同時に、日本における朝鮮人の問題を解決しなければならない。恐らくそのために今日本政府が交渉の相手と認め得る大韓民国政府とその国籍の問題について折衝されるであろうと思うのでありますが、日本における六十万とも八十万とも伝えられておる朝鮮の人々の間におきましては、どちらかと言えば北鮮政府を支持する人が多いのであります。北鮮の出身者も非常に多いのであります。そういう場合におきまして、これらの人々の取扱い方、單に現在の南朝鮮政府とだけ話合つても解決はうまく行かないのじやないかというような点が考えられるのでありますが、そういう点につきまして、政府はどういうふうにお考えになり、又それをどういうふうに処理して行こうとされるか、それをお伺いしたい。
  27. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは、当然今申しましたように、この條約が効力を発生いたしますると、ここにありまする(a)項によりましての條項が有効になつて来るわけでございます。従いまして、お話のような国籍の問題、或いは朝鮮日本とのいろいろな関係の解決の問題というのが起つて参りまするから、最近お話のように話を進めて参つております。従つて、現在におきましては、大韓民国と具体的な折衝を進めながら参つて行くべきものと考えておりまするが、国籍の問題等におきましては、十分現状を認識いたしまして、そうしてその現状に即応した解決をなさるべきものだと考えて折衝を続けておる次第でございます。
  28. 岡田宗司

    岡田宗司君 例えば、一例を挙げますというと、北鮮の出身で北鮮政府を支持する人々が日本の国内におきまして、政府が考えておりまするような好ましからざる事態を起したとする。例えば麻薬の密輸入というようなことで検挙されたといたします。又その北鮮の人が日本に密入国をした。そういう際においてそれらの人々をどう取扱うかということについて、今の政務次官の、具体的な現実を考えてこれを善処するというのは、どういうふうにされるということを考えてされるのでありますか。
  29. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 北鮮でありましても、南鮮でありましても、従来でありますると、外国人登録令、或いは出入国管理令等によりまする取扱の対象として平等に進めるということは当然だという立場をとつてつております。
  30. 岡田宗司

    岡田宗司君 平等の取扱方はいいのでありますが、若し例えば送還というようなことが起りまする場合に、北鮮の出身者で北鮮政府を支持しておる者たちを一体南鮮政府に引渡すのか、或いは何らかの方法北鮮に送還するのか、その問題をどういうふうに外交上お取扱になるかという点をお伺いしてみたい。
  31. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 送還の場合におきましては、従来とも御承知のような手続で具体的な方法で進んでおりまするが、先ほど申上げましたように、日本におきましては、別に北鮮南鮮という区別をせずに、いわゆる先ほど申上げましたような状態でできておりまする大韓民国を相手にして取扱を進めて参つておるのであります。
  32. 岡田宗司

    岡田宗司君 そういたしますと、北鮮側に属する者でも何でも大韓民国に渡す、こういうふうに言われておるのでありますが、それでありますというと、先ほど草葉次官の言われました二つに分れておる現実事態をよく認識して、そうして対処して行くというのと非常に違う結果になりはしないか、今後の問題ではありますけれども、今後もやはり大韓民国だけを相手にする、そういうふうにして行く態度をお続けになるというつもりであるのかどうか、その点をお伺いしたいと思います。
  33. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは今後におきましても、当然日本としましては、特別に北鮮人民共和国政府というのを対象にして交渉して参るという立場はとり得ないと存じております。従来の通り立場に沿つて進んで行くべきものと考えております。
  34. 岡田宗司

    岡田宗司君 国連軍は北鮮政府承認してはおりません。併しながら、現在国連軍は戰争の相手として北鮮の軍隊を、休戰会談の相手方として北鮮の将軍がその代表者であることを認めておる。事実上これを認めて相手としておるのであります。従つて日本が正式に北鮮政府承認するしないは別問題として、事実存在するものとして何らかの形でこれとのいろいろな折衝、或いは交渉をしないというと、そういう日本における朝鮮人の問題が解決しにくいのではないか、或いは又貿易の面におきましても、そういう問題が起るのではないか、今日、日本はまだ中共を承認する立場をとろうとは思いませんけれども、中共貿易ということが盛んに言われ、そうして又事実上それが或る形で行われておる。恐らく日本占領を解かれました後におきましても、そういう形が続いて行くと思うのですが、北鮮に対しましてもそういう事実上の関係が何らかの形で行われなければ、日本における朝鮮人の問題についての満足な解決は得られないであろうというふうに考えますが、それでもなお北鮮政府に対しましては、何らそういうような方式を以て臨む意思はないと、そう考えていいのでございますか。
  35. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは実は、朝鮮お話通りに現在三十八度線を中心にいたしまして、南鮮北鮮との、いわゆる戰争と申しまするか、動乱が行われておる。それでこの動乱が済みまして、一日も早く両方の政権が統一された全朝鮮政権というものを希望しまするのは、日本ばかりでなしに、これは各連合国の当然考えておる点だと存じまするが、いろいろな立場におきまして、なかなか困難な状態になつているのが現在の御承知の通り状態だと思います。併し今後或いは国際間の問題におきまして、或いは朝鮮自身の内部の問題におきまして、二つ政権はつきりとできまするような場合はこれは別でございまするが、そうでない場合におきましては、従来からの立場だけを考えて参りまするというと、どうしても大韓民国というものが、この朝鮮全体に対する一つの相手国として日本は今後の準備としての折衝を続けて行き、今後もつとその朝鮮自身も内部のはつきりした確立ができまするならば、お話のような態度もとり得ると存じますが、それまでは朝鮮全体としてはやはり大韓民国というのを従来通りの対象として、話相手としてとらざるを得ないと存じております。
  36. 岡田宗司

    岡田宗司君 次に第三條につきまして、西村條約局長にお伺いしたい。第三條に、いわゆる「合衆国を唯一施政権者とする信託統治制度の下におくこととする国際連合に対する合衆国のいかなる提案にも同意する。」こうあるのであります。合衆国はこの提案をいつ国際連合にすることになるか。只今国際連合の総会がパリに開かれておりますが、この国際連合総会に対して合衆国政府はその提案をする、そういうふうになるのか、或いはこの條約の成立を見ました後に、つまり次の国際連合の総会に合衆国政府はこれを出すのか、その点についてお伺いしたいのであります。
  37. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御質問の点は、一に合衆国政府の判断にかかるところでございまして、今日までのところ日本政府としては、何ら合衆国等の意向についてお話を聞いておりません。
  38. 岡田宗司

    岡田宗司君 私は、合衆国政府がこの国際連合の総会にこの問題をかけるというのでなく、日本との話合いをもつといたしまして、そうして後段にあります問題等について日本との間にもつと話合いをよくした上で、合衆国政府国連に提案するように希望したいのでありますが、問題はいわゆる一部の主権を、つまり残存主権でありますが、この一部の主権日本側に残すという問題が、今度ダレス氏が来られました際に解決されるものであるかどうか、又政府はそれを今度ダレス氏が来られました際に解決しようと努力されるつもりか、その点をお伺いしたい。
  39. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは昨日もお答え申上げましたが、そういう情報、いわゆるダレスさんが来月早々来日せられるという情報はありまするが、まだ正式には実は接しておらないのであります。いずれ来られますると、この條約関係はいろいろ問題が当然話題に上ると存じますが、前々から申上げましたように、この南西諸島、及び南方諸島の問題につきましては、特に国民の熱望がありまするので、この熱望に対しましては十分意を汲んでお話を申上げ、相談を進めて行きたいと存じております。
  40. 岡田宗司

    岡田宗司君 次に西村條約局長にお伺いしたいのでありますが、「合衆国は、領水を含むこれらの諸島の領域及び住民に対して、行政、立法及び司法上の権力の全部及び一部を行使する権利を有するものとする。」そうしてこの「全部及び一部」はオール・エンド・エニイですが、これは全部ということを意味するものと私ども解釈する、全部であつて、どの部分もことごとくという意味と解しているのでありますが、外務省はこのオール・エンド・エニイをさように解釈されておりますか。
  41. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御解釈通り解釈いたしております。
  42. 岡田宗司

    岡田宗司君 そういたしますと、残存主権の問題は、結局この條約に基いて全部の権利が、即ち行政、立法及び司法上の権利、これが全部一応アメリカに移る、こういうことを意味するのか、若し残存主権があるとすれば、それはアメリカ側が好意をもつてその中から何か一部分日本に残してくれるのだ、こういう恩惠的な意味であるのであつて、初めからこの主権のどの部分日本に残す、そうしてどの部分アメリカのほうに行くというふうではない。一遍全部まとめてアメリカへ移して、その中から日本に幾らか返してもらう、或いは残してもらう、そういうふうなことになるのでありますか。
  43. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) それは主権の観念の仕方によると思うのであります。私は主権は不可分であると考えております。又学者の通説でもあるようでございます。主権の一部分を他国に讓渡するようなことはないのでございます。立法、司法、行政の三権を行う権限でありますが、その根拠は、主権があるから、一国は主権を持つておるから、その領域においてその住民に対して立法、司法、行政の三種を行使する権能を持つことになるわけであります。第三條後段に規定しております三権の根源となる主権は、同條によつて日本をして放棄せしめておりませんので、根源の主権は残るのであります。但し主権から生れて来る実際施政をする権能は、條約の規定によつて、合衆国が全部行使しようとすれば行使をすることもできる関係になると考えておるわけであります。
  44. 岡田宗司

    岡田宗司君 そういたしますと、主権日本に残る、併しその主権の作用に基くところの行政、立法及び司法上の権利は全部向うにあるのであります。そうなりますと、一体具体的には何が残るのでありますか。
  45. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 具体的に申しますと、これらの島々は依然として日本領土の一部を構成し、その土地に住んでおります同胞は依然として日本国籍を保有することが当然の効果として現われるわけでございます。それ以上に如何なる具体的効果を持つかは、今後第三條の実施につきまして日米の間で話合うことによつて、最大限度に日本国民の要望が実現されることを期待しておる次第でございます。
  46. 岡田宗司

    岡田宗司君 今の西村條約局長のお説ですと、残るものは日本領土である、併しそこでは行政も立法も司法も何にも日本の手で行われない、又そこにおる人々は日本の国籍を持つておる、併しその人々は何ら、日本の行政も立法も或いは司法もその人々の手によつて、又その人々の上にも及ばない、こうなつて参りますと、單に名目だけ残る、こういうことに過ぎないのではないかと思うのであります。先ほど主権は不可分である、こういうふうに言われた。不可分であるといたしますというと、ダレス氏のサンフランシスコの会議におきましての演説の際における残存主権、残存主権という言葉は、不可分ならば出て来ないはずだと思いますが、これはやはり可分と見ておるから残存という言葉が出たんじやないかと思います。私はそこに疑いを持つのでありますが、その点についての西村條約局長のお考えを伺いたいと思います。
  47. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 残存主権乃至潜在主権は、公法上別に珍しい観念ではないのでございます。主権が不可分であるというのもこれ又通念と思うのであります。国家の主権から、各種の国家が行使する機能が生まれて来るわけでございます。その根源となる主権はインダクトに領有国に残りながら、それから派生する機能が他の国家によつて行使される現象は国際間では又珍しいことではございません。租借地の場合もそうでございますし、專管居留地の場合もそうでございますし、共同居留地の場合もそうでございます。別に私どもはそう不思議に思いません。関東州租借地や広州湾が依然として中国領域であり、中国がこれらの地域主権を持つておることについて、誰も疑念を持ちません。又、そこに住んでおる中国人は依然として中国人であります。この第三條につきましては、主権日本に残されておりまして、ただ主権から派生する三権能を合衆国が希望すれば全部行使することができるとの規定になつております。私どもとしては、合衆国ができるだけ我我の要望に応じて、これらの島々を管理するに必要な最少限度の権能の行使にとどめてほしいとの立場で話をしたいと考えております。過日合衆国の当路者も、この三條について合衆国が日本国民に最大の満足を與えるように努力するであろうことに信頼を持つて欲しいと言われました。暫らく時日をかして頂きたいと考えておる次第でございます。
  48. 岡田宗司

    岡田宗司君 主権から派生いたしますところの行政、立法及び司法の権能が全部アメリカの手にある、そういたしますとアメリカの好意を待つてこの問題を解決するということは、この行政、立法及び司法上の権利の一部を日本に返してもらいたいということを意味すると思うのでありますが、政府としては合衆国との交渉におきまして、この行政、立法及び司法上の権利の如何なる部分日本に残すように希望しようと考えておられるか、その点をお伺いしたいと思います。
  49. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私どもの了解いたしております範囲内におきましては、合衆国がこれらの島々の管理を必要とするのは極東の平和と安全の維持のためであります。従つてこの必要から来る限度は格別として、そうでない限りは従前これらの島々と日本との間に存在いたしておりました関係が壊されないようにして欲しいというのが根本的な立場でございます。
  50. 岡田宗司

    岡田宗司君 そういたしますと、これを具体的に言いますならば、例えば日本とこれらの島々との間の渡航の自由、或いは両領域に住む住民がどちらへ行つて住んでもかまわないというようなこととか、或いは物の交易については一つの関税の圏内に置くというようなこととか、或いは教育については日本と同じ教育をするとか、そういうような直接軍事に関係しない問題をことごとく日本に残して置いてもらいたい、こういうふうに解釈してよろしいですか。
  51. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 大体お話通りにあつて欲しいと考えております。
  52. 岡田宗司

    岡田宗司君 それでは私は終ります。
  53. 木内四郎

    ○木内四郎君 第二條において日本権利権原及び請求権放棄し、而もこの帰属決定していない地域は、国際法上一体どういうことになるんでしようか。私は他の委員会関係でちよつと席を外しておりましたので、或いは重複するようなことがありましたならば、すでに答えたということをおつしやつて頂けばあとで調べて見たいと思つてつたのであります。
  54. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 第三條の規定のみならず、この平和條約には日本の力ではどうにもならない事由によりまして最終的な解決が與えられていない條項が相当あるように思います。これらの点は日本としては誠に遺憾ではございますけれども、何といたしましても、日本の力でどうにもならない事情でございますので止むを得ないと諦めるよりほかないと思います。二條の規定は特にそういう色彩が多くございます。これは、米英代表も説明いたしております通り、これに規定してある数個の地域につきましては、その最終的帰属について今日連合国間に意見の一致を見ることができないから、平和條約では日本に対して領土主権放棄を要求するにとどめて、この最終的帰属は将来の問題として残すことになつたのであります。台湾、澎湖島につきましても、南樺太千島につきましても、その最終的帰属は、連合国間の合意によつて決定が與えられるまでは、未決の状態が続くことになります。世界戰争の後には、領土処分につきましては、こういう事態が或る期間続くことは、第一次大戰後にもありました現象でございます。喜ばしいことではありませんが、止むを得ない現象であると思います。
  55. 木内四郎

    ○木内四郎君 今の日本ではどうにもならない問題があるということ、よくかわります。又御説明の点はよくわかるのですが、そうしますと、こういう一方において権利権原及び請求権放棄した、主権放棄ですが、にもかかわらず、その帰属ときめなかつたということは、今のお話ですと先例にもあるのでしようか。
  56. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 例えば第二次世界大戰後のイタリア平和條約でも、北アフリカにおきますイタリア旧植民地の処分につきましては、平和会議決定ができなかつたので決定を将来に残しております。又身近な例を考えますと、ヴエルサイユ條約で日本は膠州湾におきますドイツの租借地を條約の規定によつて委讓されたわけであります。併し肝腎の中国代表がこの山東條項を不満としてヴエルサイユ條約に署名いたしませんでした。それでありますから、ヴエルサイユ條約に参加した国との間におきましては、旧膠州湾ドイツ植民地は日本の所属に帰する法律効果を持ちますが、肝腎の領土主権を持つております中国はこれを認めないという事態が数カ年続きまして、結局山東問題解決に関する日支條約ができまして、やつと法律関係が最終的解決に到達したことがございます。こういうふうに大きな戰争のあとに起る領土の処分につきましては、平和條約で右左はつきりと解決がつかないことは、喜ばしいことではないのですけれども、よくあることであります。この二條につきましては、必ずしも理想的な解決ではないでございましようが、今後時日の経過を待つて、その間に連合国間に合意に到達して最終的帰属がきまるというようになることを希わざるを得ない次第でございます。
  57. 木内四郎

    ○木内四郎君 今の租借地の問題は、租借する国とされる国との間において、その国が他に話合つて委讓するということがありますが、主権の問題は別にあるのだと思います。今のどこにも主権の属しないというような書き方にした例は條約にあるのでしようか。アフリカの場合でもそういう状態であつたのでしようか。
  58. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) イタリアの北アフリカ植民地に関しましては、主権放棄さしております。そうしたあと最終帰属決定するまでは、現にその地区占領しておる政府がこれを管理することができるという規定になつております。
  59. 木内四郎

    ○木内四郎君 今のを伺いますと、その間の過渡的な措置は、やはり占領しておる国において措置をすることができると書いてありますが、これはどこにも法律関係は書いてないのですね。そうすると誰でも力のあるものは占領してかまわないという状態でしようか。国際法上如何でしようか。
  60. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) さような無法な状態にあるわけではございませんので、台湾、澎湖島が中国軍によつて占領され、南樺太千島がソ連郡に占領されるにつきましては、終戰直前の連合国間の話合いの結果、各担当地区連合国軍隊が入つております。必ずしも事実上の状態ではなくて、話合いの結果成立した状態でございます。ただこの地域の最終的帰属は、そういつた軍事協定なり乃至は体戰條件で規定せられる事項ではなくして、これは戰争を終結させます平和條約によつて規定すべき事項なのでございます。でございますから、これらの地域の最終帰属連合国間の円満なる話合いによつて決定されるまでは、現存いたします連合国間の戰時中の話合いによりまして、当該国が当該地域占領して行くことになると考えます。
  61. 木内四郎

    ○木内四郎君 今のアフリカの例ですけれども、條約によつて主権放棄するほうの国も、現に占領しておる軍隊の権力を行くことを認めることになつておりますね。然るに今回の條約では、一方は放棄するだけだということなんです。これは事実上休戰條約、それによつて認めたとは言いますけれども、その最終の処分については、日本に法律上の発言権がまだあると、こう見て差支えないでしようか。
  62. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 主権放棄させられますので、最終帰属については日本発言権がないことになります。
  63. 木内四郎

    ○木内四郎君 今アフリカの場合などは放棄するけれども、そのあとのことをやはり條約に規定しておりますね。今度はその條約に規定する場合に、あとで取極のときに日本がやはりこれに加わるということは法律上可能なんじやないですか。
  64. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) さようは考えないのでございまして、この対日平和條約におきましては、或る領土の最終処分について、連合国間にどうしても当面意見の一致ができませんので、平和條約作成に当りましては、とにかく日本領土主権放棄さしておいて、その最後的の帰属連合国間の問題として将来に残す解決法がとられたわけでございます。だから、問題の地域帰属決定に当りまして、日本として発言権があるとの立場はとれないと存じます。
  65. 木内四郎

    ○木内四郎君 併し放棄しましたけれども日本に近接しておる地域主権ということは、日本は対等な立場において今後発言権があつて然るべきものじやないでしようか。
  66. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 政治上のお気持はよくわかります。併し平和條約におきまして、領土主権放棄を承諾いたしました以上は、日本に関する限り問題は解決されているわけでございます。
  67. 木内四郎

    ○木内四郎君 日本放棄したけれども、ほかの国も別にどこも権利を持つておる国はないのですから、今度は日本はやはり対等の国家として、これに対して発言権があつて然るべきものじやないでしようか。
  68. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その主権をどの国に帰属せしめるかが今後連合国の間で決定されることになるわけでございまして、日本としては発言権はないと存じます。
  69. 木内四郎

    ○木内四郎君 そうすると、その点はこちらが法律上何らの発言権はないというふうに明らかに言われて差支えないですか。
  70. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 明らかにすでに申しました。
  71. 木内四郎

    ○木内四郎君 次に、この南西諸島に関する点でございますけれども、これは再三繰返されておるのですが、念のために今一度伺いたいのは、国連憲章七十七條の(ろ)によるんだ、併しこれは日本から主権を分離するのでないという御説明でありましたが、そう解釈していいですか。
  72. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) さよう解釈いたしております。サンフランシスコ会議で、ダレス代表も南西諸島は七十七條の(ろ)によつて信託統治制度に付される地域であると説明しました。
  73. 木内四郎

    ○木内四郎君 それを裏から言いますというと、それは日本領土だと言つて差支えないのですか。
  74. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) さようでございます。
  75. 木内四郎

    ○木内四郎君 そうしますというと、この国連憲章七十八條によつて日本国際連合に加入した場合には、信託統治ということは、あり得ないことになると思いますが、その点如何でしよう。
  76. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その点も昨日一、二の委員のかたから質問が出ましたが、七十八條の言うことは、当該地域独立国になりまして国際連合に加盟いたします場合に、信託統治制度は解消しなければならないという趣旨でございます。木内委員よく御存じの通り、旧国際連盟時代にA式の委任統治地域が数年を経て相次いで独立国になりまして国際連盟に加盟いたしました。その際、委任統治制度は廃止になりました。その経験から考えまして、信託統治制度におきましても、信託統治制度に置かれた地域制度の目的を達しまして、自治を獲得し、乃至は独立を獲得して、国際連合加盟を容認せられるようになつた場合には、信託統治制度は終結しなければならんという趣旨で規定が置かれたものでございます。国際連合憲章の各種の註釈書にも明らかに説明してございますので、疑いはないと思います。ただ日本文が幾分英文の意味を完全に出していないものでございますので、ちよつと混淆を来たす場合があるように思つております。
  77. 木内四郎

    ○木内四郎君 ほかの議員によつて昨日すでに論議されたそうでありますから、私は深くこの問題に触れませんが、若し簡單な例を引けば、アメリカ信託統治について提案をする前に、日本国連に加盟すれば問題は起り得ないことになりますね。
  78. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) いや、さようなるとも考えておりません。
  79. 木内四郎

    ○木内四郎君 詳しくは説明を伺う必要はないのですけれども、そうすると、この七十八條にちよつと矛盾することになりませんか。
  80. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 矛盾することにならないのです。と言いますのは、信託統治制度におきましては、或る国が自国の領有している地域の一部を自発的に信託統治制度に付する場合をも予見しておるくらいでありまして、日本領土の一部であります南西諸島が、仮に、そういうことはなかなかないとは思いますが、日本国連加盟が実現したあと、アメリカが第三條に従つて信託統治制度に付されるよう国連に提案する場合にも、別に憲章から考えまして、できないことでもないように考えるのでございます。
  81. 木内四郎

    ○木内四郎君 それですから、私は初めに(ろ)によるのかどうかということを伺つたのです。(ろ)によることを前提としてならば当然そうなると思うのですが、勿論この(は)ということは又考えられますけれども、(は)によつても七十八條によつてこれは排除されているものだろうと思うのですが、その点はどうでしようか。
  82. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 今申上げましたように七十八條の趣旨としているところは、信託統治制度に付せられた地域独立国となり、又は自治となりまして、国際連合加盟国として容認せられる場合は、信託統治制度は終了しなければならんという趣旨でございます。これはサンフランシスコ会議の議事録や、その後数人の学者によつて公刊されております註釈書にも明らかにそうあります。疑問の余地はないものと考えます。
  83. 木内四郎

    ○木内四郎君 どうも私は、はつきりわかりませんが、とにかく長い御答弁は要らないのです。もう右か左かということ一つだけでいいわけなのでありますが、信託統治制度は加盟国の領域に対しては適用しないという、これは国連憲章の大原則じやないですか、イエスかノーだけを一つ……。
  84. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 「加盟国となつた地域」とありまして、加盟国の地域とはない点に御注意願いたいと思います。木内委員、英文を御覽願いたいと思います。「加盟国となつた地域」でございます。
  85. 木内四郎

    ○木内四郎君 余り御説明は要りませんが、この條文に「主権平等の原則の尊重を基礎とするから」ということがありますね、條約の前文を見ますと「主権を有する対等のものとして」云々とありますが、日本はまだ主権平等でない、対等でないというようにやはり考えられるのですが……。
  86. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 平和條約が効力を発生すれば、無論日本連合国との間は主権対等になるわけでございます。七十八條がといいますのは、信託統治制度であつた地域が加盟国となれば、信託統治にはもう付してはいけないということでございます。何となれば信託統治地域は完全なる主権を持ちませんが、加盟国となれば、加盟国相互の間においては主権平等の原則によつて行動しなければならんことが、すでに第二條に明らかにされてあるところでございますので、この原則に矛盾することはできないわけでございます。七十八條について誤解があるように思いますので、お考え直しを願いたいと思います。
  87. 木内四郎

    ○木内四郎君 昨日も大分論議を交されておるようですから、私、速記録を拜見した上で、若し必要があればこの問題について質問いたしたいと思います。それから四條の(b)ですけれども、「合衆国軍政府により、又はその指令に従つて行われた日本国及びその国民の財産の処理の効力承認する。」、これは時期はいつを前提としておるのでしようか。
  88. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 平和條約実施の時期であります。
  89. 木内四郎

    ○木内四郎君 私は一応この程度にいたします。
  90. 岡田宗司

    岡田宗司君 ちよつと今の問題に関連して……。
  91. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 簡單ならばどうぞ。
  92. 岡田宗司

    岡田宗司君 この第四條の(b)項でございますが、特にこの第四條の(b)項の中で問題になります朝鮮の場合でございますが、イタリーの平和條約におきましては、アルバニア或いはエチオピアにおいてこれが独立をいたしました後においても、そこにあるイタリー国民の財産上の権利は相当認められておる。ところが日本平和條約の場合にはそういうものがことごとく放棄せしめられておる。非常な違いがあるようでありますが、なぜイタリーの平和條約の場合と、この日本平和條約の場合において旧植民地における国民の財産上の権利が、かような相違のある取扱を受けるようになつたのか、何か特別な理由があるのか、これを條約局長にお伺いしたい。
  93. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) この差ができました理由は、イタリー平和條約の場合は終戰後間もなく一九四七年に平和條約ができたに対して対日平和條約は六年余を経過してやつとできました事情にあることが一つであります。この六年の間、連合諸国は極東委員会が採択いたしました対日基本政策に従つて各種の措置をとつて或る程度既成事実ができ上つておるわけであります。この既成事実の上に平和條約を作成することになりましたのが、何と言いましても、イタリー平和條約と対日平和條約とを比べる場合に、非常な差を生んだ一つの原因であります。第二の原因は、第二次世界大戰終結当時におきまする連合国の対日本人、対ドイツ人の強い敵愾心だと思います。対日基本政策を御覽になりますとすぐお気付きになりますように、日本領土として残される地域以外の地域にある日本の公私の財産は、これを賠償に充当するという原則が規定されております。それを読みますと、ただに連合国領域内にある場合だけでなくて、日本から引離される旧領有地にある財産も含まれておりますし、極端に言えば中立国にある財産すらもが包含されるという解釈が成立ち得るくらいの原則が、終戰直後の対日政策として採択されたわけであります。この政策に従つて既成事実ができ上つておりますので、その後時日が経過いたしまして、対日感情も相当緩和いたしたことは事実でございます。又今度の平和條約において対日條件をできるだけ寛大にしようと非常な努力がされたことも事実でございます。しかし、とにかく既成事実ができ上つておるのを、又元に戻すことは不可能に近い事柄でございますので、或る程度私有財産については苛酷だと感ぜられる條項が入る結果になつた次第でございます。
  94. 岡田宗司

    岡田宗司君 そういたしますと、この点におきましては、本條約はイタリーの條約よりも極めて苛酷な、不利な條件を付けられたと、こう解釈してよろしうございますか。
  95. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私有財産の取扱に関する限りにおきましては、御説の通り対日平和條約の條項は対イタリア平和條約の條項よりも敗戰国にとつて苛酷になつておると御答弁申上げます。
  96. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今、こういうふうになつたことは既成事実がすでにでき上つておるためであるということが一つの理由に挙げられたのですが、ドイツも日本と同じように敗戰をいたしました。ドイツ国がスイスとか或いはその他の中立国に持つておりました財産も日本と同じように処分されたのであるか、その点をお伺いしたい。
  97. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私どもの知つている範囲内におきましては、スウエーデンとスイスにあるドイツ財産はすでに連合国とスウエーデン、スイスとの協定によつて処分されております。
  98. 岡田宗司

    岡田宗司君 この中立国の財産の問題でありますが、これは後に又詳しく伺いたいのですが、今ドイツの場合には二ヵ国における物はすでに処分されておる、他の国における物はその処分はないのか。又日本が、南米等におる日本人が持つております、財産等についてはどういうことになるか、その点ちよつとお伺いしたい。
  99. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) ドイツの新国境外におけるドイツ人財産が如何なる処分を受けるかは、今後対ドイツ平和條約の作成を待たないと見通しはつきかねます。  中南米にあります日本人財産につきましては、私どもといたしましても、これらの国と日本との間には実際戰争がございませんでしたから、実害を先方は受けておりません。従つてこれらの国における日本財産の処分は損害の限度に限るべきであるという條項、これはイタリア平和條約にもございますが、これを置いてもらうよう努力いたしたのでありますが、そういう條項を置くと、今度は強い賠償要求を持つておる諸国から、さような戰争の実害をこうむらなかつた国にある日本財産を賠償資源として提供すべしとの提案が出るにきまつておるから、これは撤回したがよかろうとの話でございました。我々の考えといたしましては、文明国である以上、仮に平和條約の規定によりましてその国にある財産を留置処分する権利を得ましても、何ら戰争によつて実害がない以上は、私有財産の尊重というのは各国憲法におきまする大原則でございまするし、又極端に言えば、自然法の通念と言つても間違いはないと思いますので、必要のないところに権利を行使することはあるまいと存ずるわけであります。又平和條約後各国外交関係が再開しますれば、その外交の道を通じまして、平和條約によつて得た権利の行使について寛大にしてもらいたいとの要請もできる途もございましようかと思います。現にサンフランシスコ会議におきましてサルバドルの代表は自国の領域内にある日本財産は留置、清算しないと声明しました。こういうふうな国が漸次殖えて来ると思います。そのほか十四條には五つの例外事項が規定してありまして、この例外事項によつて相当範囲日本邦人の財産は救助されるものと見ております。あながち規定の面からだけで悲観をする必要もなかろうかと考えておる次第であります。
  100. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 法務総裁にこの前三十日の日に、私が信託統治には日本国憲法は全面的に適用されるかどうかということをお尋ねいたしましたところ、法務総裁は適用されると一度答えておるのでありますが、そうして僕が全面的かという念を押しますと、併しながらアメリカ権利に基きまして制限される範囲には適用がない、部分的適用であるというようなふうに答えておられますが、部分的適用ということはどういうことでしようか。
  101. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) この問題につきましては、将来においてこれらの地域に対しまするアメリカの立法、行政、司法の権能が具体的にどの程度まで行使されるかということできまると思うのであります。と申しますのは、この地域における日本国憲法の適用という問題は、この地域におきまして日本国政府によりまする立法、行政、司法の権限が可能でありまする場合において、その立法、司法、行政に伴つて憲法が随伴して適用になるわけでございます。現実におきましてはさような余地は残らなくなるというふうに考えられるのではないかと思いますが、これは併し今後のこれらの地域におきまする実情によつてよく判断をいたしたいと思います。
  102. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 全部……、この第三條ですね。「行政、立法、及び司法上の権力の全部及び一部」、この「及び一部」という日本語の飜訳を非常に頼りにしての御答弁のように拜聽いたしますが、このオール・アンド・エニイというのは、これはオールということじやありませんか。オアでなく、オール・アンドということは、英語の表現でございますが、これは全部ということの、明確な全部ということの表現であり、現に今大橋法務総裁もさように答えておられますが、これを「及び一部」と大きな活字で、同じ活字で出して、如何にも部分的適用である錯覚をこう抱かせるような表現になつておりますが、この点は如何でしようか。
  103. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) その点はむしろ御見解の通りだと存じます。
  104. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 非常にそこで明確な御答弁を得ましたので、今のその前の御答弁に移るのでありますが、私に対して部分的、初めは全面的適用であるという意味の答弁をされ、後にもう一度私が全面的ですかと念を押したら、再び部分的適用であります。というようなふうに答えておられますが、これは間違いじやないのですか。全面的適用、全面的に適用されないと答えられるのが正確ではございませんか。
  105. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 私はこの適用できるというふうな法理的な意味で申上げましたのですが、現実には仰せの通り日本国憲法が現実に西南諸島におきまして適用になることはなかろうと思います。
  106. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 非常に明確であります。従つて私がこの前申しましたように日本国主権がありながら憲法が全面的に適用されないような地域ができるということは、日本国憲法としては認めがたいことである、平和條約としては、国際的な條約として仮に成立するといたしましても、さような條約を適用させるためにはこれに矛盾するところの日本国憲法が今のままであつて日本国国会としてはこれを承認することは矛盾盾である。従つて当然憲法の改正をするにあらずんば、憲法の改正と同様に愼重な手続を以てこの條約に対する承認をしなければ、ここに重大な矛盾盾が発生しておるんではないかということを私はこの前お尋ねしたんでありますが、繰返しその点をもう一度お尋ねしておきたいと思います。
  107. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 兼岩委員の仰せられましたこのたびの平和條約が実質的には憲法改正以上な我が国にとつて重大なものである。従つてこれに対して国会の審議においては、憲法改正以上の愼重な態度を要する。この点は私は同感に思います。但しその手続として憲法改正に準ずるような手続を国会の承認に当つて必要とするかどうか、又国会承認以外に憲法改正のごとき特殊な手続によらなければこの條約を成立せしむることができないかどうかという点に相成りますると、如何なる重大な内容を含んでおりましても、やはりこの講和條約は一つの條約であり、條約につきましては、憲法においてその成立についての手続を定めておりまするので、その手続による以外にはないし、又よれば差支えないと、こう考えます。
  108. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 百万の国民主権をなくし、憲法の全面的に不適用な地域ができるという、まあ他にいろいろな問題もありましようが、その一点だけをとつて見ても、これを国会が多数決で承認し、衆議院の議決後三十日で参議院が議決しないときは衆議院の議決によるなどという、最も軽々しい形でこの條約を承認するということが、法務総裁の法律的良心と矛盾しないということは非常に奇怪なことだと私は思うのですが、如何でしようか。
  109. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 法務総裁の職責といたしましては、憲法並びに法律を遵守するということが必要だと存じまして、憲法並びに法律にはさような手続がきめられてありまするので、この手続によるべきであるというお答えをいたしますることは、良心の要求に適合するゆえんであります。
  110. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これは私は法律的には重大な違法であり、吉田内閣が将来その責任をとり、且つこれを承認した国会議員は同じく連帶的にこの責をとるものとして、私は大きな責任が後世に残るということの意見を申述べまして、今度はこの問題の他の側面からの質問に移りたいと思いますが、この信託統治につきまして、信託統治の基本的目的として国連憲章七十六條が、明確に、「各地域及びその人民の特殊事情と人民が自由に表明した願望とに適合し、」云々とあり、そして「従つて自治又は独立に向い住民が漸進的に発達することを促推すること」というふうに信託統治制度の基本目的を表わしておりますが、この今、私の読上げました前段のほうを先ずお尋ねいたしたいのでありますが、果してこの百万の島の人たちは、自由に表明した願望に適合しておると考えられましようか。
  111. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは該当條文が違うと存じます。従いまして、今の信託統治はそういういろいろな方法がある、いろいろな方法の中の一つを今申されたのであります。
  112. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 この條文は適用しなくていいというのですか、無視していいというのですか。
  113. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 信託統治の形式のうちの一つであります。
  114. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 だから今問題にしている。そう抽象論でなくして、具体論で今論じておるこの問題として、この條項は何ら関係なくして無視していいのですか。
  115. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) それは他の方法による信託統治の場合の一つの行き方であります。
  116. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 今僕が質問しているこの小笠原、琉球、奄美大島については、この條項は適用されないという御見解ですか。
  117. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) この條項は必ずしも今回の第三条の信託統治の場合に限らないと存じます。
  118. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 いや、適用されるのですか、適用されぬのですか。
  119. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 七十六條は原則的にこうずつと出して参つております。従いましてこの基本目的はこういう目的である、そのうちの基本目的の一つがはまるのと、全部がはまるのと、その一部分がはまる。ここに申しておりまするのは、第一の心を中心に考えて申しておるのであります。
  120. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 適用されないのですか。はつきりしなさいよ。適用するのか、しないのか。
  121. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 適用されません。勿論基本目的は全体に対する適用の範囲に入つて参ります。
  122. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 はつきり答弁しなさいよ。それが責任のある次官の答弁か。はつきりしなさい。
  123. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 適用がありますと政務次官は先ほど御答弁になりました。
  124. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 変りましたね。何回か変つて、そこで適用されることは明確になりましたが、これは前提として、僕は事実を申上げたい。これは我が党に対して来ておる三つの電報なんであります。実にこの奄美大島についてだけ例を挙げますが、奄美大島日本復帰協議会から、こういうような悲痛な電報が来ておる。「さきに奄美大島人民は、日本復帰を熱望し、十四才以上十三万九千四十八名、島民の九九・九%の署名を日本政府及び各国際機関に送つた。然るに講和條約は我々二十万島民の意思を全く無視した。今や全人民は、信託統治絶対反対のスローガンを立て、切歯扼腕死鬪の決意す。全人民の血涙の叫びを察せられ御奮鬪を切望す。」これが一つ。それからやや日を経まして、「講和草案は、元鹿兒島県大島郡を琉球と共に信託統治にしようとしている。我々はこの侵略案に絶対反対を決議、あくまで日本主権に返還せられるよう切望してやまない。民族存立の重大危機打開のため、貴党の奮鬪をお願いす。」これは鹿兒島県大島郡二十一市町村議会議員一同の寄せられた電報であります。越えて八月になりますと更に発展した決意として、「奄美大島二十一ヵ町村は、日本復帰悲願達成を期して一日より断食を開始した。二十余万住民の衷情を察せられ、全力を盡して我々に御協力を乞う。」奄美大島日本復帰協議会からの電報。続いて、「我々一万五千の古仁屋町民は、一日より三日まで奄美大島日本復帰悲願断食を決行す。我々住民の衷情を察せられ、あらん限りの御協力をお願いす。古仁屋町民一同。」そうして今一つ、「八月一日、三回全住民大会を開催決議す。信託統治絶対反対。日本復帰を切望す。一日よりハンストに入る。母国を慕いて泣く住民の姿を想起され、御盡力を乞う。」これは奄美大島喜界町民一同となつて来ております。このように明々白々なるこの人民の特殊事情と、人民が自由に表明した願望は、まさにあなたがたの政府の調印して来られ、只今提出しておるものと正反対なのでありますが、これは国連憲章の重大な違反ではございませんか。
  125. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) お読み上げになりました電報は、皆サンフランシスコ会議以前の電報のように拜聽しました。平和会議後、奄美大島住民の代表のかたがたとも会談をする機会を持ましたが、第三條の趣旨は十分了解して下さいまして、今日までの政府の気持もよく御了解頂いたように思つております。
  126. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 こういう質問には局長から答弁を聞きたくない。政治的な責任を以て御答弁願いたい。法律論ではなく、こういう島民の意思を無視した調印をし、且つ国会に提出するということは、国連憲章の重大な違反であるような政治行為ではないか。政治的見解如何。こういうことなんです。
  127. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 島民の、今お述べになりましたような熱望は、前から私どももよく承知をいたしております。従いまして島民の意思に副うような努力を続けて参つて来たのであります。従つて今回結んでおりまする第三條のこの問題につきましても、今後の両国政府間におきまして結んで参りまするいろいろな打合せ或いは協議等におきまして、島民の意思が十分反映するような方法を結んで来る予定を以て進めております。このことは現在島民諸君も十分了承をして頂いていることと存じております。
  128. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 島民は了承しませんですよ。そういう憲法が一つも適用されないようなことにされることに一つも賛成していないのにかかわらず、こういう調印をして来て提案しておられるということは、一応日本国民の問題は第二といたしましても、世界平和のために起草された国連憲章の七十六條に違反するような政治的行為である。こういう行為をして来られたということは、今後勿論政治的に重大な責任をとられるのでありますが、現実の問題としてこういう違法な、国連憲章に違反するような政治行為、そういうものは将来効果のないもの、不法且つ効果のないところのものであると考えざるを得ぬのでありますが、こういう明確に国連憲章に違反している、誰が見ても違反しているというようなことをやつてのけても、それで有効なんですか。そんなことが政治的に将来効果を持つのですか。住民及び日本人民に対して……。
  129. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 政府といたしましては、今回の條約は国連憲章七十六條に毫も違反したものではないと考えております。
  130. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 その根拠を聞かして頂きたい。法律的根拠を一つ聞かして頂きたい。
  131. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 七十六條は、信託統治になりましたところにおきまする制度の基本目的を掲げたのでありまして、今回の條約におきましては、日本領土のうち如何なる部分がこの信託統治になるべきかということを決定いたしたものであります。この信託統治になりました南西諸島におきましては、この七十六條によつて今後のあらゆる施政が行われることを確信いたしております。
  132. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それは非常に滑稽な説明ですね。後段に自治又は独立に向つて住民が漸進的に発達する、奄美大島、琉球は何のためにこれから自治又は独立に向う必要がありましようか。立派に自治をし、立派に独立を持つて来た島々をわざわざ植民地、従属国に押しつけておいて、そうしてあなたのお言葉だけの説明から言えば、適合するというような説明がありますが、自治又は独立に向つて住民が漸進的に発達するという必要があるのですか、今更……。
  133. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 将来信託統治施政権者がこの地区において施政を行いまする場合においては、この七十六條の趣旨に従わなければならん、従つてこの住民にでき得る限りの自治をやるようにする、こういう趣旨であると私は考えております。
  134. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういう目的に進んで行くと言いましても、もうそんな目的はすでにその前提において充足されておるのです。島民はそんなことは望んでいないのです。島民は自治又は独立に向つて漸進的に発達しなくても、明治、大正昭和の年月を通つて立派に独立又は自治をもうすでに過去の事実として獲得しておるのです。もうそういうものに向つてこれから漸進的にそういう目的に進むようなことは、言葉の上ではあなたは説明できても、滑稽至極ではありませんか。そういう答弁は正気の沙汰ではない、そんな説明は答弁になつてはいませんよ。
  135. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 別に滑稽とは思つておりません。正気の沙汰で申上げております。
  136. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういうふうに真理を認めないんじや、これから討論してみてもしようがない話ですから、それではちよつと、もう一つ角度を変えてお尋ねしますが、吉田総理がこの国会劈頭から説明しておられる、これらの島々には主権が残るという言葉を法務総裁は今も信用しておられますか。信じておられますか。以上の私との討論を基礎にして主権が残ると、こういうふうに考えておられますか。
  137. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 残るという意味でございまするが、先ほど来西村局長が申上げましたるごとく、国際法上にいわゆる潜在主権というものが当然これらの領域に残るのである。併し残る主権は潜在主権でございまして、現実この主権から発しまする行政、立法、司法の各権能は主権国でありまする日本承認に基きまして米国が当分行う。又その後においては信託統治国として米国政府が行う。こういうことに相成るわけでございます。
  138. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 だから残らないと修正されたほうが明快ですね。そういうお考えはありませんか。
  139. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 潜在主権が残るのでございますから、残らないと修正するつもりはございません。
  140. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 潜在主権が残つたというような歴史的事実はどこかございますか。そういうような国民には全く理解のできぬ、そういう観念的な遊戲のような朦朧たるそういう考え方というものが、歴史的な事実としてございますか、どこかに潜在的に主権が残つていた……。
  141. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 歴史的事実につきましては先ほど西村局長からよく申上げた通りでありまして、これらの潜在主権の残つておりまする領土におきましては、領土主権は本来の所属国のものでございまするから、その領域は本来の国家の領土の一部としてとどまる。又その国民は本来の主権国の国民の一部として当然その国籍を保有する。即ち南西諸島は講和條約発効後におきましても当然日本領土の一部であり又その国民日本国民である。こういう状態が潜在主権の効果として当然続くわけでございます。かような例は歴史上しばしばあります。
  142. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 一つ挙げて下さい。
  143. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 例はそれでは西村局長にお願いいたします。
  144. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういう奇妙な潜在主権が残つたという例を一つ挙げて下さい。
  145. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 関東州の租借地をお考え願いたいと思います。
  146. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 関東州租借地は潜在主権が残つていたということは何を基礎にして言われますか、あれは日本の明確な植民地であつたでしようが。ダレス、ヤンガー両氏が宣言したのですか。
  147. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 関東州租借地は、日本が租借していた間も中国領土の一部でありまして、あそこの地域に住んでいた中国人は日本人ではございません。中国人でした。
  148. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると潜在主権が残つておるといる根拠ですね。根拠は吉田総理も言つておるように、ダレス、ヤンガー両氏の言明に基礎があるのですか。言明の如何にかかわらず、客観的な根拠があるのですか。潜在主権が残つておる……、これは法務総裁から御答弁願います。
  149. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) これは條約そのものに基礎を持つております。
  150. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 第何條のどこですか。
  151. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 第三條に基礎を持つております。
  152. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 第三條のどこです。
  153. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 第三條全体に基礎を持つております。
  154. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 第三條のどこということを言つてもらわんと困りますね。潜在的な説明をしてもらつちや。(笑声)
  155. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 丁度第三條に潜在しておりますので、第三條全体と申上げた次第であります。更に細かく申しますならば、第二條におきましてはこれらの関係領域に対しまする日本のすべての権利権原請求権放棄するということを明らかにいたしてあるのに対比いたしまして、第三條はその書き方を変えまして、かようなことを定めておりません。このことは即ち領土主権が依然として日本から放棄せしめられておらないということを意味するのでありまして、この中のどの字句かと申しますと、そういう潜在的な字句になつております。
  156. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 速記録に残つておるから、これは将来の非常な物語の種になる御答弁です。(笑声)ところが私が三條を読みますと、潜在的なところまで探らなくても、明確に行政、立法、司法、権力の全部及び一部……全部をつまり行使する権利を有するというふうに明確に……、何らの主権も残つていないということが明確です。だから、どう潜在的に探り当ててもないのじやないですか。三條を二條に対比してみて、何とかその幽霊みたいなものを描き出そうとされても、幽霊が出るべき、潜在的なものが出るべき根拠が何もないですね。やはりダレス、ヤンガー両氏の言明だというふうに説明されたほうがまだ幾らか工合がいいのじやないですか。取り替えられたのですか、そういう説明を……。
  157. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 條約を解釈いたしまする際におきまして、一つ一つの條項は、これはやはり同じ條約の一條でございますから、相互対比関連させてその真意を捕捉するというのが、当然解釈上のテクニツクでございます。又これに関連いたしまして、講和会議において各関係国の代表のかたがたが披瀝せられましたる見解、これも又條約解釈の有力なる資料でございまして、政府といたしましては、これらのすべてを総合いたしまして、潜在的主権が残つておるという解釈をいたしておる次第でございます。
  158. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 法務総裁が堅白異同の弁、黒い馬は馬にあらずという類の答弁を展開されて説明されましたが、これは一つも我々並びに健全な常識と科学的精神を持つ者にはこれは理解されぬ説明です。そこで、僕は今の法務総裁の言葉尻のやり取りをやめまして、最後に私の信託統治に対する質問として、歴史的事実を一つ申上げて、大橋法務総裁のこれに対する所感を承わつておくことが、将来の歴史上の責任をとる上において、政治的責任をとる上において必要だと思いますが、それは明治維新を遡る数年前に不平等條約の走りとして神奈川條約第一條……、こういうふうな丁度戰争の條約が平和と言われ、植民地の條約が安保條約、安全というような言葉と正に一致いたしまして、この神奈川條約第一條にはこういうことが書いてあります。「日本と合衆国とは人民永世不朽の和親を結び、場所、人柄の差別なきこと」と、こういう誠に現在の平和條約及び安保條約以上の美しい言葉、人民永世不朽の和親という美しい言葉を使つております。ところがどうでしよう、同じこの條約を持ち来たらしました武力的な基礎となりましたところの日本遠征艦隊の司令長官ぺルリの覚書を見ますと極めて明瞭になつておる。このぺルリの覚書にはこういうふうに書いておる。「予の計画によれば……、」これは小笠原のことですけれども「これらの島のうち元島、父島内の二見港に一植民地を建設するにあり、具体的には株式会社を作り、本国から若い夫婦を多数招き、アメリカの一州として経営する。」一方におきましては神奈川條約第一條で、「人民永世不朽の和親を結ぶ」と、美しい言葉で條約は書いてありますけれども、ぺルリ自身の覚書によれば、植民地を建設するにある、こういうことをはつきり言つている。これは何ら私の意見ではなくして、世界に確認された歴史的な事実であります。これに対して法務総裁の御所感を伺つて私の質問を終りたいと思います。
  159. 大橋武夫

    ○国務大臣(大橋武夫君) 歴史的事実として、博学なる兼岩委員の歴史的知識を拜承いたしたわけでございます。
  160. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) ではこの辺で休憩をいたしまして、午後は一時半から再開いたします。    午後零時二十四分休憩    —————・—————    午後一時四十三分開会
  161. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 午前に引続き会議を開きます。
  162. 楠見義男

    ○楠見義男君 第二條乃至第四條について若干お伺いいたしたいと思いますが、先ず第二條関係草葉政務次官にお伺いいたします。  それは、昨日もちよつとお尋ねいたしました千島の問題なのでありますが、結論は昨日の御答弁によると、千島列島なるのは地理的名称によつたというような意味の御答弁がありましたが、実は色丹島を含む歯舞諸島は地理的に見ますと、大体千島列島に含まれるようなふうに思われるのでありますが、それを特に色丹を含む歯舞諸島は千島列島から除外されておるのは、いろいろの機会に言われておりますように、従来北海道の一部として行政をしておつた、即ち日本領土主権の沿革的な観点からそういうふうに言われておるのじやないかと、まあ思うのであります。そこで領土主権の沿革的な観点から言えば、昨日も申上げたように、又この委員会で参考人から意見を聽取いたしましたように、国後、或いは択捉というものは日本領土主権の沿革的な意味から見れば、これは千島諸島には包含されない、こういうふうに解釈をせられるのでありますが、而もなお地理的名称による千島列島になつたと、こういう場合に、その地理的名称における千島列島の範囲というものは一体どこがきめるのか。従来公権的に、千島列島というのはどの島どの島というふうに、公権的に明らかになつてつたものがあるのかどうか、この点を先ずお伺いしたいと思います。
  163. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これはいろいろな従来の外交的な書類を調べて見ますると、実は千島列島というものについて、詳しく一々島なり島嶼なりを列挙してやるということがなかなか少いようでございます。  従つてお話のように一つの行政的と申しますか、或いは従来の條約の関係というような点からするといろいろな問題が含まれておる。で、むしろ歯舞色丹というものは、これは国後群島の一つの延長である、地質学的にも違うというようなことは従来から言われておる通りであります。そういう点から言えば極く通念的と申上げるほうが、却つて常識的と申上げるほうがいいくらいの立場からの島ということを定義することが本筋じやないかと思います。従つて行政的な場合から申しますると、南千島と或いはそれ以北の島とお話通りすつきり違つておりますから單に行政的だけではいかんと思います。
  164. 楠見義男

    ○楠見義男君 実は問題は、二條で、千島列島に対しては日本があらゆる権利権原及び請求権放棄すると、こういうふうに規定されておりますので、従つて問題を将来に残すのではないかという意味でお伺いするのでありますが、今御答弁をお伺いいたしましても、公権的に千島列島の範囲というものが明らかになつておらない。この場合に然らば問題として、例えば歯舞諸島に対して現在ソ連が軍事占領をやつておる、この場合に地理的名称としての点が明らかになりませんというと、例えば日本権利権原請求権放棄しておる島にソ連が占領しておる場合と、平和條約によつて日本に残された領土に対して占領しておる場合とは、これからの問題としてはいろいろ国際的にも問題を残す余地があると思うのでありますが、そこで最終的に、恐らくこれは国際司法裁判所というような所で明らかになるのか、そのほかどういう所で最終的には公権的に明らかになるのか、その点を先ず伺いたいと思います。
  165. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) で、もうちよつとその前に今質問のおありになつた所は、私の答弁が不十分であつたかと存じますが、歯舞色丹千島列島にあらずという解釈日本政府はとつている。これははつきりその態度で従来来ております。従つて千島列島という場合において国後、択捉が入るか入らんかという問題が御質問の中心だと思います。千島列島の中には歯舞色丹は加えていない。そんならばほかのずつと二十五島でございますが、その他の島の中で、南千島は従来から安政條約以降において問題とならなかつたところである。即ち国後及び択捉の問題は国民感情から申しますと、千島と違うという考え方を持つて行くことがむしろ国民感情かも知れません。併し全体的な立場からすると、これはやつぱり千島としての解釈の下にこの解釈を下すのが妥当であります。その場合に将来今後どういう問題が起つて来るか。殊に千島にあらずとしている歯舞色丹について現在軍事占領を行われておる。恐らくこれは引続いた情勢において考えられて来る問題であろうかと思う。この場合には、九月五日の午後サンフランシスコにおきまするダレスさんの演説では、国際司法裁判という方法もあるのじやないか、二十二條による方法もあると言われてゐる。併しそれはソ連がまだ調印をするかしないかわからない時で、会議に出ておりまするから、調印をすることを予想しながらの発言であつたと考えられます。九月八日にはソ連は調印しませんでした。つまりこの條約にソ連は責任を持たない。そうすると、今後はそういう状態において、日本が若しやこの歯舞色丹の問題を国際司法裁判所に提訴いたしましても、ソ連が応訴をすることをしない場合には取上げられないということになつて参りましようし、従つてこれは総理からもたびたび御説明、御答弁申上げましたように、今後は国際関係において努めて最大の努力をしながら、日本が、これは千島と違い日本の純然たる領土であるということを了解してもらつて、そうしてその了解が円満に解決する方法をとる以外には方法はない。又そういう情勢は、独立後においては幾らでも出て来得る情勢は現在以上にある。こういうふうに考えます。
  166. 楠見義男

    ○楠見義男君 了承いたしました。それでは次に三條の点、これは政務次官でも或いは條約局長でも、いずれでも結構でありますが、三條の前段にあります信託統治という場合に、これはたしか私は形式としては国連憲章の七十七條の(ろ)号によつて行われる、こういうふうに承わつたのでありますが、その点を先ず、さようであるかどうか伺つておきたいと思います。
  167. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 七十七條の(ろ)号でございます。
  168. 楠見義男

    ○楠見義男君 そこで残された主権の問題について、昨日来いろいろ論議が交されたのでありますが、例えばその一つとして、曾祢委員から二條のように権利権原請求権放棄すると書いてないというだけでは、主権が残されたとは解釈されないのじやないかというような意味からして御質問があり、それに対する政務次官及び條約局長の御答弁を聞いておりましても、これは政府側の希望的な観点からするいろいろの御意見であつたようにまあ思われるのであります。その一つの例として、例えばこれらの島々における日本人の国籍が残る、こういうことが一つの例として挙げられたのでありますが、併しそれは国籍が残るというだけであつて、実は具体的に主権の発動としての司法、立法、行政権というものは殆んど認められない。こういうことになつて参りますと、残された主権と言いますけれどもそこには主権は何も残つておらないのじやないか。そこで今最初に伺いましたように、残された主権という意味は、国連憲章の七十七條の(ろ)号によつて日本からこれらの島々が分離される、従つてそこには主権はないのだ。併しアメリカの好意と言いましようか、それに将来依存をして、そして将来それらの島々が日本に返されるであろう、こういう期待の意味の言葉であつて、そこに主権が残るとか残らないとか、凍結されるとかされないとかと言つてみても、少くともこれらの島々は国連憲章に基いて分離される。こういうふうに理解するのが一番すらつとした理解の仕方ではないかと思うのでありますが、この点について御意見を伺いたいと思います。
  169. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指摘の点は決して日本側の一方的な希望を述べているわけではありません。この條項が入りましたのは、三月の米案からであります。三月発表されました米案について、意見交換する機会を持つたのは四月でございますが、四月のときから先方は将来信託統治制度に置かれることのあるべき南西諸島について、合衆国はこれに対して日本主権放棄を考えていないことを明確にしておりました。ただこれを外部に対して説明する自由を與えられなかつただけでございます。サンフランシスコ会議において公式に米英当局から声明が出た次第でございます。  第二点の七十七條(ろ)号の分離の解釈でございますが、憲章はただ分離と言つておりまして、信託統治地域になる地域をその領有国から離す方式は具体的に規定いたしておりません。でございますから、主権放棄を伴う分離方法もありますし、これはイタリア平和條約の場合であります。南西諸島につきましてはその分離方法をこの條約第三條に規定いたしております。その三條に今申上げましたように、明日に第二條と違つて、特に主権放棄を要請いたしておりませんので、日本領域として残りつつ信託統治制度に付せられるわけであります。  従つて第三の点に入りますが、信託統治制度になりました場合に、如何ような程度日本主権が残存するか、残存主権の結果としてどの程度顯在的な権能を日本が行使し得るであろうかは、今後合衆国が信託統治国連に対して提案するまでの間に十分両国話合いの結果、国民の要望は相当かなえてもらえるのであろうと考えているわけでございます。すべては今後の問題で、現実信託統治制度になつた場合に初めてその御答弁できることになると思います。
  170. 楠見義男

    ○楠見義男君 問題が政治的な解釈と、純法律的な解釈といいましようか、考え方とが混同しておるために、実はなかなか理解が困難であり、又論議が紛糾をしておるのではないかと、これは私一個の考えでありますが、そういうふうに思えるのであります。申しますことは、今もお話にありましたように、分離ということと、それから主権とは別だと、観念上別だということでありましても、併し実際的に考えて見ますと、形式としては分離をされる、そうして分離をされた所に主権の発動としての司法、立法、行政権というものは何ら残らない。ここにありますように「唯一施政権者」と、こうありまして、従つてそれらの三つの権利については、即ちまあ主権領土権の発動としての具体的な三つの権利については何ら残らない。こういうことになれば、政治的の観点からすれば、それは潜在的主権であると、こういうふうに理解されても、これはまあ政治的の立場であつて、純法律的に申せばそこには主権というものは残らないのではないか。そこで先ほども申上げたように、分離をされて、そして将来はそれが日本に帰つて来ることを期待する、こういうふうに理解するのが法律的の解釈としては一番すらつとした解釈ではないかと、こういう意味で申上げたのであります。その点についてもう一度お伺いしたいと思います。
  171. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 楠見委員の御意見を聞いておりまして、私は賛同いたしかねるのであります。私の申述べておることも純法律的の見地から申上げておるのであります。潜在主権というものは決して珍しい観念でないことを先ず頭に置いて頂きたいと思います。第三條が、日本領域の処分について規定するに当り、主権放棄を要請していないことは、これらの領域が依然として日本領域として残るということであり、信託統治制度になる場合にどの程度施政権者が権限を行使するかは信託統治協定によつて具体的に定まるところでございます。従つて我々としては、信託統治協定が信託制度と両立する最大限度の範囲において日本の権能原を残してくれるようにと希望いたすわけであります。それは希望だけでなく、又法律的に可能であると考えるわけであります。條約作成の上でこのことが法律的に可能であるとの立場をとつておるときに、日本側でそういうことは法律的に成り立たぬではないかと言つて、みずから自分の首を絞めるような議論が出ることは、私のちよつと理解しかねる点であります。
  172. 楠見義男

    ○楠見義男君 三條の問題はそれじやその程度にいたしまして、四條の問題についてお伺いしますが、この四條に入る前に、この前の総括質問の際にも申上げたんでありますが、いろいろの問題が、特に旧領土等につきまして強制送還をさせられたということに問題が胚胎しておる。そこで強制送還の根拠について、合法的な根拠についてお伺いいたしましたところ、そのときに條約局長は、それは勝者の権利として認められたものである、オール・イズ・ゴンという言葉をお述べになつて、即ち何と申しましようか、俗に言えば、勝てば官軍式に既成事実が認められた、こういうような意味の御答弁があつたのであります。そういうことになりますと、仮に国際法的に不合法なことであつても、勝てば官軍式にそれが認められるという場合でも、それは何らか後になつてこれを合法化する措置が必要ではないかという観点からいたしまして、特に午前中にもお話がございましたが、この四條の(b)項は既成事実としてこれが認められたのだ、こういうような意味の御答弁からも彼此勘案いたしますと、今の強制送還の措置は、これは国際法的にも必ずしも従来合法化されておらなかつたと思うのであります。従つてそういう意味から言つて、又四條(b)項がこの平和條約に入られた観点からいたしましても、どうしてもこれを合法化せられる必要があつたのではないかとまあ思うんでありますが、この点についてもう一度條約局長から御説明を伺いたいと思います。
  173. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 前回の御質問は二点でございました。一つは海外住民の強制送還の国際法上の合法性の問題でございます。第二点はこういう人たちが外地に残して帰つた財産の処分についての法的根拠の点でございました。第一点は私、今日依然として勝者の権利によつてこれは説明し得ると考えております。その後御質問を受けましてから又考えて見ましたけれども、それ以外に合法とする論拠はないように思います。それでは強制移住の措置が、従前の戰時国際法の観念から言つて容認できるかどうかという問題になりますが、何と申しましても、二十世紀初頭に制定されました戰時法規、ヘーグの戰時法規でございますが、これはもう今日の近代戰争には適用し得ない法規であることは各国政府もそう見ておるところでございますし、国際法学者もその点大体異論ないようでございます。ただヘーグの平和会議で作成された戰争法規の根本方針、これは依然として活きておると考えてよかろうと思います。で、強制移住という措置がとられましたのは、第二次世界大戰後においてドイツ人と日本人についてでございます。この措置は、戰争終末期におきます連合国の対ドイツ、対日感情、それから終戰末期に連合国政府によつて考えられました対独処理方針、対日処理方針、これから生まれて来た措置でございまして、その措置の対象となつた我々日本人としては決して愉快なことではございません。苛酷な措置であつたと思います。併しながら今日の戰時法規から言つてそれが不法であるとまでは言いにくいのでありまして、むしろ人道問題、政治問題として甚だ苛酷な、文明国らしくない措置であつたという見解を表明する以外になかろうかと存じます。つき詰めれば、戰勝者の権利として戰敗国民に対してとられた措置である、こういう以外になかろうかと思う次第でございます。  第二点の財産の問題でありますが、これはいうまでもなく、当時も御答弁申上げましたが、第十四條(a)の2によつて合法化されるわけであります。この平和條約が効力を発生するとき、各連合国の管轄内に存する日本財産を留置、清算することができるという規定によつて合法化されます。平和條約の規定によつて合法化されるということになる次第でございます。
  174. 楠見義男

    ○楠見義男君 一九四五年十二月十六日附で以てマツカーサー元帥がその管下部隊に対して訓令を出しておるのでありますが、その訓令は條約局長も御承知のように、連合国日本占領の基本的目的と連合軍によるその達成の方法に関してでありますが、その中に勿論これは旧領土も含まれておるわけでありますが、「一般人民は個人の自由及び財産権に対するあらゆる不当な干渉を受けることはないであろう。」それから「占領軍は国際法及び陸戰法現によつて課せられた義務を遵守するであろう。」こういうような意味の訓令が出ております。ここにいう国際法及び陸戰法規とは、先ほどお述べになりましたように、その当時と今とでは情勢が違うので、恐らく現在に適用されることについてはどうかと、こういうような意味でお述べになつた陸戰法規を指しておるのではないかと思うのであります。従つてそういう最高司令官の訓令の意味から申しましても、私はこれは明らかに非合法な措置であつたのではないかと、こういうことを確信をするのでありますが、併し非合法な行為であつたとしても、それは丁度この四條の(b)項に述べておりますように、爾後の平和條約によつて合法化されれば、これで又一つの国際的に権威付けられるというようなことになるわけでありますが、この四條の(b)項のような規定もない、單に勝者の権利として認められるというだけのことであるといたしますれば、その勝者の権利として認められるということは、今回の平和会議を契機として初めてのそういつた先例として関係国間の間に暗默のうちに認められることになるのか、或いはどういう観点から国際的にそれが合法的既成事実として合法化されるのか、この点をお伺いしたいと思います。
  175. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 第二次世界大戰後ドイツ人と日本人に対してとられた所定の境界内への強制移住の問題でございますが、これは何と申しましても、合法、非合法の問題というよりも、戰争末期において連合国が考えておりましたドイツ処理、日本処理の方針から割出された措置であると考えられるものでございます。連合国によつてとられた措置として我々は認めざるを得なかろうと存ずる次第であります。
  176. 楠見義男

    ○楠見義男君 その点で、今読上げたことをもう一度繰返しますが、占領軍の一つの具体的な措置として行われたという御答弁でありますが、その占領軍が国際法及び陸戰法規によつて課せられた義務を遵守するであろうというふうにマツカーサー元帥は述べておるのでありますから、今の御答弁の趣旨ではちよつと理解しがたいのでありますが、もう一度お伺いしたいと思います。
  177. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) この強制送還の措置は、マツカーサー元帥の麾下に対する訓令のような、占領軍の措置としてとられたのではなくて、連合国全般の対独処理、対日処理という最高政策から生まれて来た措置だと了解しておるわけであります。
  178. 楠見義男

    ○楠見義男君 従つてこの国際法及び陸戰法規によつて課せられた義務に反して強制送還をさせられたということになれば、それは非合法と理解するのが常識的であり、又当然だと思うのでありますが、その点は如何でしようか。
  179. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) とられた措置は成るほど日本人、ドイツ人にとつて極めて苦痛な措置でありました。併し私はこれを非合法とは断言いたしかねます。
  180. 楠見義男

    ○楠見義男君 この問題はこれ以上やりましても水掛論になりますからやめますが、さつき最後にお伺いいたしましたそういう措置が既成事実として認められるということについては、今回の平和会議において関係国の間に暗点のうちに認められることになつたのか、或いはどういうバツク・グラウンドにおいて、又どういう意味合いからそれが認められるようになつておるのか、その点をお伺いしたいのでありますが……。
  181. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) この平和條約について合衆国政府といろいろ意見交換する際に、終戰直後にとられました強制移住措置については何ら話をしたことはございません。一度も論議の題目とならなかつたのでございます。
  182. 楠見義男

    ○楠見義男君 そうしますと、うやむやのうちに既成事実が既成事実としてそのまま残された、こういうふうに理解していいでしようか。それともそういう問題に対しては、日本政府としては今後なおこの問題について発言し得る余地が残されておるものと理解していいでしようか。
  183. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 日本政府としては今後強制移住の問題について発言する余地はないと考えております。ただ私どもが合衆国政府に対して申上げましたことは、強制移住の措置によつて多数の日本人が多額の財産を現地に残したまま、倉皇として本国に引揚げざるを得なくなつた事実から生まれて来る在外資産問題の困難性を説明したことはございます。それだけでございます。
  184. 楠見義男

    ○楠見義男君 そこで今お述べになりました在外公私有財産の問題でありますが、例えば四條で今後現地の施政当局と日本国との間に特別の取極が行われることになるわけでありますが、その特別取極をする対象である公私の財産、特に例えば朝鮮等における公私の財産ということにつきまして、政府としては従来何らかの方法で御調査になつておるかどうか、この点をお伺いいたしたいと思います。
  185. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) その点は、終戰後政府におきましては、連合国最高司令部と共同して調査事業を遂行いたしました。その結果、国有と公有、会社財産については相当程度確実性のある推定を立てることができました。    〔委員長退席、理事楠瀬常猪君委員長席に着く〕 併し最も関心の深い個人財産に至りましては、先刻申上げましたような事情によりまして、自信のある推定が事実上不可能であることが判明いたしました。その結果、調査の結果は今日まで発表する自信のないものになつておるのであります。
  186. 楠見義男

    ○楠見義男君 その問題について二点お伺いしたいのでありますが、一点は今お述べになりました国有、公有、会社有の財産についての御調査が行われたそうでありますが、それはどういう方法で行われたかということが一つと、それからもう一つは、私有財産については、只今も御答弁がございましたが、これをできるだけ正確に御調査に今後なるお考えがあるかどうか。と申しますことは、折角こういうふうに四條の規定がありましても、その客体をなす財産について調査がなければ、これは四條がありましても実は死文に堕する虞れがあるわけでありまして、在日の例えば朝鮮人財産についてはこれは正確に調べ得る、併し朝鮮における、旧領土における日本人財産については、これは今もお述べになりましたように、極めて自信のないというか、或いは全くはつきりとした数字がないということであれば、四條の規定は、実は適用上誠に困つたことになるのではないかと思うのであります。従つて今申上げた二つの点について御答弁を煩わしたいと思います。
  187. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 第一問は、私、直接調査に関與いたしませんでしたから、如何なる方法によつて国有並びに会社財産についての調査を行なつたかは御答弁いたしかねます。関係いたさなかつたせいでございます。  第二の私有財産についても、或る程度の推測がないとすれば、第四條の話合いをするのについては極めて不便ではなかろうかという点でございます。その点は全然同感でございます。個人財産につきましても、地域によつて推定の度合に確実性を持ち得る場合もございます。地域によつて、その点は割合にやさしいところもあるかと思つておるわけであります。
  188. 楠見義男

    ○楠見義男君 私のお尋ねしましたのは、第一点は、別のおわかりになつておる政府委員から御答弁を願うことにいたしまして、第二の問題について詳細、できるだけその正確度を高めて、今後調査をせられる意思があるかどうかと、こういう点であります。    〔理事楠瀬常猪君退席、委員長着席〕
  189. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 前回なされました調査を、更に改めて調査をする計画があるとは存じておりません。尤もこれは外務省の主管でございませんので確かではありません。第四條の話合いをすることになりますれば、当該地域について残された公私の財産について、或る程度自信のある数字を出す必要が無論生れて参ります。その際はそういうために又改めて推定を下す、乃至調査をすることもあるかと存じております。
  190. 楠見義男

    ○楠見義男君 私の推測でありますが、国有、公有、会社有というものについては、御調査があつたように只今つたのでありまするが、同時に私有財産については、従来調査がなかつたのではないか。従つて今の御答弁によりますと、従来調査せられたもののほかに、新たに又附加えて調査とか云々とかいうような御答弁のように承わつたのでありますが、私今申上げますように、私有財産についてはなかつたのではないかと、従つてこれは單純な推定であつて調査はせられなかつたとすれば、新たに私有財産については調査せられる必要があるのじやないか、こういう意味からお伺いをいたしておるのであります。
  191. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 今まで行われました調査は、無論こういう私人財産も含んで調査がなされております。ただ私人財産については、強制移住という措置が行われたということと、関係者が非常に多いということと、関係者からの申告について客観的正否を判断する手段がないということ、その他の事情で、或る程度自信のある集計を出すことができない状態にあるわけであります。従つて自信のない推定が下されておりますので、発表その他を今日までしていないのであります。個人財産については、発表するまでの自信が持てないということでございます。
  192. 楠見義男

    ○楠見義男君 これは希望でありますから、先般もほかの委員からもいろいろ御質問があり、私自身も質問したのでありますが、即ち日本の憲法の規定を遵守し、そして国際的に言つても私有財産尊重の原則を貫くということが最も必要なことであつて、それの具体的な補償の問題について、これが全部補償されるか、或いは国の財政の観点から一部補償されるかは別問題にいたしまして、とにもかくにも私有財産尊重の観点から申しましても、是非外務当局もそういうような御意向のようであるから了承いたしますが、是非できるだけ正確に、これはいろいろ関係者の人々の智惠をお借りになり、又動員されますと、できる限りの、可能な限度における調査は私はできるものではないかと思いますので、この点については特に今後の善処方を希望申上げておきます。
  193. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 私のお尋ねいたしたいことは、すでに逐條審議が三條、四條の所にまで進んでおりまするのにもかかわらず、元へ戻りまして、前文について政府当局の御意見を伺いたいのでありまして、甚だ恐縮でありますが、先にそうした質問応答をとり得ることを留保されておりますので、こういうお許しを願いたいと思うのであります。  私のお尋ねいたしたいことは、主としてこの前文の第二項にありまする「日本国としては、国際連合への加盟を申請し且つあらゆる場合に国際連合憲章の原則を遵守し、世界人権宣言の目的を実現するために努力し、国際連合憲車第五十五條及び第五十六條に定められ且つ既に降伏後の日本国の法制によつて作られはじめた安定及び福祉の條件を日本国内に創造するために努力し、」云々という、この條約の前文の條項に含まれたる内容と、それからこれが指示いたしておりまするところの日本の国内の政治のあり方、或いは進み方というようなものについての関連性についてでありまして、すでにこのことにつきましては、先般来二日に亘つて委員から專らこの経済政策的な見地からのいろいろ質疑応答政府当局との間に交されたのであります。それで私もその経済的な面のことに関しましても、附属的と申しますと甚だ失礼でありますが、一言だけ尋ねいたしておきたいと思うのでありますが、併し私がここに立ちました主たる目的は、そのときに余り触れられなかつたところのこの精神的な面、或いは教育的な面、或いは政治思想的な、この文言に現われておりまする面と、そうして国内政治との関連性につきまして、專ら文教の指導者でありまする文部大臣の御意向並びに政治の基本である、立権政治の基本である、或いは民主主義政治の基本であると言われておりまする地方行政の担任者でありまする岡野国務大臣に專ら質問を申上げて御答弁を得たいと思うのであります。すでに昨夜来秘書官等を通じまして、私の私宅に電話をおかけ下さつたり、又いろいろお尋ね等がありまして、大体の趣旨は、完全なる御答弁を得ますためにあらかじめ秘書官を通じて申上げているのでありますから、十分御用意のある御答弁が得られることを推察いたしておるのであります。それで、その前に、経済的なこととして私は安本長官の答弁が得たかつたのでありまするが、おいでになれば安本長官から御答弁が願いたいのですが、おいでにならなければ外務省当局からお答え下つても結構だと、これは極めて常識的な簡單なことをお尋ねするだけに過ぎないのでありますから……。併しながらその安本又は外務省当局並びに文部大臣及び自治庁長官から承りたいと思つておりますることは、かれこれすべて関連性を持つておりますので、私の質問の趣旨が奈辺にあるかということを御了解を願いますために、三者の御答弁を願います共通の私の立場について多少申上げる必要を感ずるのであります。先般この委員会におきましていろいろ各委員から御質問があつて、御応答があつたのでありますが、私はこの條項は極めて重要なるところの條項であつて、そうして現在及び今後におけるところの日本の政治の動向を決定するものであり、又現在におけるところの日本の政治の意見を右か左か、右或いは左という言葉が十分に適当でありませなんだならば、二つの方向に岐れさすところの一つの最も重要なる基準をなすものであつて、これを我々が如何に受取るかということが、日本の政治の動向を、考え方を決定する私は基礎になるのではないかと考えておるのであります。先般来の委員会におきましても、與党所属の一委員からは、御表現は必ずしもそういう表現のままになつておるとは考えないのでありますけれども、大体に私の見まするところ、こういうような條項をこの條約の中に入れた経緯をよく話してもらいたいというような御質問でありまして、日本は社会保障制度をやるとか、或いは極めて民主的なところの労働立法をやるというようなたちのことは、これは分に過ぎたるところの、日本の実際に適応しない考え方であつて日本人は貧乏なのだからして、飽くまでも労働意欲を高めて、そうして馬車馬のように働くということを考えなくちやいかん、そうして国際場裡においては、いわゆる昔のようなチープ・レーバー、低賃金又労働者の生活を極めて低くした立場において、国際場裡にソシアル・ダンピングをときによればやつて行くというような方向へ国際的経済政策を持つて行くのでなければいけないのじやないかというような、大体その線に沿うたお考えが基本になつてお話があつたかと思うのであります。これについて政府当局はいろいろと御答弁がありましたが、そうした私は考え方がこれは大体において満目の目指しておりますところ、現内閣が考えていらつしやる、むしろ主流的な自由党内の御見解ではないかと私は考えておるのであります。ところが、そのお答えになりまするところがどうであるにいたしましても、これは実に重要なるところのことでありまして、世界サンフランシスコ会議を中心といたしましての注視も又日本に対して非常にその一点に注がれておると考えるのであります。そういうような考えにつきまして、いろいろ御質問を申上げたいのでありますが、專ら文部大臣並びに自治庁長官から御答弁を願います前に、経済安定本部長官或いは外務省の当局から、私はもとよりそういうチープ・レーバー或いはソシアル・ダンピングをも肯定するような労働立法の改正、或いは改惡、或いは社会保障制度を実行することについてサボタージユをやつて行くというような、マツカーサー治政を通じて折角行われました民主主義的な立法行政の逆転の方向へ持つて行くということは、断乎としてこれに反対する立場に立つものでありまして、我々は飽くまでも日本の労働者の生活を保障しなければならない、又民主主義行政を擁護しなければならない建前の上に立ちまして、そうしてここに我々が、この條約というものが国際連合の原則を遵守して、世界人権宣言の目的を実現するために努力するというこの文言を、どうぞしてこんなものはもうやめてしまおうというような線に沿うたお考えの披瀝が、表現が多少あつたかに私は考えるのでありますが、そういう考えは一擲しまして、飽くまでもこの條約の條文の中に謳われておりますことに積極的な賛意を表して、これを肯定し、我々はいろいろな立場からこの條約を調印し、批准するということについては、積極的な賛意を持つておるものでありますが、その賛成しまするところの幾多の理由の一つとしても、こういうようなよいことがこの條約に謳われておるから、私たちは賛成したいという考え方を持つておるものであります。それで、そういうような考え方から、ここに一部のかたから、そういうことは日本の現在の実際においては、これを実行するということは非常にむずかしいのだというような消極的な、むしろ反対的な考えをとらないで、経済安定本部及び外務省のほうからは、我々はどうしてもこの世界人権宣言に謳われているような、国民の生活を保障する社会保障制度もやる、いろいろな人間らしい生活を日本人が国際場裡において、地球の上において暮らして行くことができることを確保しました立場を、この條約の締盟国に我々と共に一つこれは肯定し賛成して頂いて、そうしてなお一部のかたが憂えられるような現在の国際的な政治及び経済の環境というものが、日本人が人間らしき生活を維持して行くところの社会保障制度や労働行政やその他のことをやつて行くのに、そこに支障がありといたしまするならば、この條約を呑込むということを盾といたしまして、これを盾といたしまして、そうして我々はこういうことを人権宣言に基いてやらなければならんのですから、我々がそれができる一つの世界的な経済環境を我我に許して頂きたいと、こういうように、むしろこれを盾にして世界に要求して行くということが、私は日本の国際的な経済政策であり、又外交政策の基準と今後なつて行かなければならないのではないかと、こういうように実は考えておるのであります。で、この国際連合憲章の第五十五條、第五十六條、ここに謳われておりまするところの條文は、即ち経済的及び社会的国際協力、同憲章第九章の規定でありまして、長くなりますから皆さんに御覧を願いまして、例えば第五十五條の(い)項を見ましても、「一層高い生活水準、完全雇用、並びに経済的及び社会的の進歩及び発展の條件」その他まあいろいろなことが書いてありますが、こういうような結構な暮しを一つ日本人にさすということに、この締盟国、この調印国が賛意を積極的に表してくれておるのでありまするから、その点からも非常に私たちは結構なことであると考えておるのでありますが、政府当局はこのような積極的に運用と言うと非常に惡うございますが、消極的な立場をとつて、こんなものがあるのはいかんという考え方よりも、むしろ反対に、これを盾にして世界に協力を求めて行くというように考えて行くということが、この際極めて必要なことであると私は考えるのでありますが、右についての御当局の御答弁を承わりたいと思うのであります。大体自由党のかたのお考え方は肚の底はわかつておりますが、ともかく口だけでもどういうことを御答弁になるか、一つ御答弁願いたいと思うのであります。
  194. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 縷々お話になりました前文についての第二項の問題につきましては、これは口だけではなく一つ肚の底からお答えを申上げたいと存じまするが、日本お話通りにここにありまするところを日本みずから宣言いたすので、又宣言いたしたのであります。従いまして、国際連合に加盟し、或いは憲章の原則、目的、人権宣言、その他日本の法制によりまして作られ始めましたもろもろの問題につきまして、今後一層、ここにありまする宣言の趣旨を十分連合国も了承してくれましたので、その線に沿つて今後は十分進んで行く。そうしてこれは吉川さんもお聞きの通りに、トルーマン大統領も、なかなか日本も現在は十分でないが今後大いに努力して行かねばならないということも申しておられたように、今後十分努力いたしまして連合国の了解と支持とを強めて行きたいと存じております。
  195. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 肚の底からか口先だけか知りませんが、とにかく御答弁になつて一応了承いたしておきたいと存じます。併しながら若し肚の底からそのように考えていらつしやるのならば、同じ自由党の党員の一員のかたから先般のようなチープ・レーバーやソシアル・ダンピングを肯定するような線に沿うたお言葉は私はなかつたのではないかと思うのでありまして、まあいずれにいたしましても一応は了承いたしました。併しこれは重ねて申上げまするが、極めて重大なるところの問題でありまして、私は草葉次官の御答弁如何にかかわらず、吉田内閣の国内行政というものはその線に沿うて行われておらんということを考えておるものであります。先般の会議におきましても、草葉次官もおいでになつてつたのでありますが、あのサンフランシスコのオペラ・ハウスの会議場の廊下には、日本がこのように民主化された、日本はすでに民主化されたということを示しますがために、主催国でありまするところの米国のお世話だつたと思うのでありますが、いろいろな大きな写真、日本がこのように民主主義に進んでおるというところのデモンストレーシヨンのための写真や或いは幻燈を映しましたりして、盛んにそういう宣伝をアメリカがしてくれておつたのであります。又トルーマン大統領の演説でありましたか、そういうことも多少謳われておつたと思うのでありますが、私はアメリカがそのように思つてくれておることは非常に結構だと思うのでありますが、併し実際は必ずしもそういうように十分進んでおるとは考えておりません。殊に吉田内閣の治政というものは、そうした方向へ日本国民生活を持つて行こうとする線に沿うておらんと私は考えておるのでありまして、まあそういう立場から、現実的にそういう民主主義的な行政をおやりになつておるかどうかということについて更に文部大臣や自治庁長官にお伺いいたしてみたいと思うのでありますが、今申しまするようにこれは極めて重要なことであります。あの会議におきまして、吉田さんの演説世界無類の国辱的な下手糞演説であるということはこの間申上げた通りでありますが、それに対比して極めて雄弁であつた、満場を傾聽せしめましたフイリピン大統領のロムロ氏の雄弁、或いはセイロン島の、小国でありますが、代表が、我々日本国民に対して非常に東洋人的な尊敬とそうして愛情とを持つてくれておることを披瀝した涙ぐましいような演説、それらが非常に私にもなお印象に残つておるのでありまするが、もう一つ印象に残つておりまするところの演説としては、遅れて参りましたイギリスの外務大臣、今はかわつたと思いますが、あのハーバート・モリソン氏が、やはりその問題につきまして非常に心配をしておると見えまして、こういうことを言つておるのであります。これは文部大臣及び自治庁長官に御答弁を願います前に、簡單に一節だけここに引いてみたいと思うのでありますが、こういうことをハーバート・モリソン氏が言つたのを私非常に覚えておるのであります。この訳文の議事録を見てみますると、それはこういうようになつております。「私は、日本国民に更に一言呈して、この演説を終りたいと思います。民主主義の基礎が今や日本に築かれたのであります。併しながら我々は、英国において我々の幾世紀にも亘る長い経験から民主主義の向上は困難であり、長い年月を要するものであることを知つております。過ちは犯されやすいものであります。忍耐とたゆまない努力が必要であります。我々は、日本にある政府を同情と理解とを以て見守るでありましよう。他面、我々は全く懸念がないわけではありません。我々は、日本人が挑戰に耐え得るように期待しております。私の同胞の多くの人々は、戰前の日本国における高度の技術及び産業の能率と低い労働基準、労働組合の低調及び社会反動との異常な結び付きによつて妨害を受けました。各位、これはよくないことでありました。この傾向が将来において支配的であるならば重大なことになるでありましよう。」これは一節を私は読み上げましたが、このようなことを、いろいろのほかのことをたくさん言つておりますが、言つておるのであります。「この傾向が将来において支配的であるならば重大なことになるでありましよう。」とハーバート・モリソン氏も深く日本の将来につきまして心配をいたしておるのでありますが、今、草葉次官は全然かような心配がないというような結構な御答弁でありましたが、実は私は、ハーバート・モリソン氏と共に、こういう結果を来たすであろうということを実は憂えておるものであります。そのような立場からここに先ず文部大臣に御質問を申上げて、御答弁を得たいと思うのであります。大体三つの項目につきまして私は御答弁を願うように、先に秘書を通じて文部大臣にも申上げておいたのであります。  第一には、昨年でありましたが、予算委員会でも文部大臣の御答弁を得ましたし、又地方行政委員会でも御意見を承わつておるのでありまするが、まだ私には十分了解することができないので、この條約の前文に関連して私は御質問したいと思うのでありまするが、それは国家の問題であります。「君が代」を、天野文部大臣が御就任以来、終戰後私の家の子供なんかはそういう歌があるというようなことも知らないでおつたのでありますが、天野文部大臣はこれを御復活になりまして、今や文部大臣の御指針に基きまして、子供も大人も「君が代」を歌うようになりました。国歌は申すまでもなく国がありまする以上は、私はなければならないものであると考えるのであります。併しながら国歌というものは、そのときにも申しましたように、全体としてその国民生活の全的理想というものをば表明し、それを歌にし、それを音楽のリズムにしたものが私は国歌でなければならんと考えるのであります。ところが新憲法を通じまして日本は民主革命をやつたと言われておるのでありまするが、私はあの「君が代は千代に八千代にさざれ石の」云々というあの歌が、この民主主義によつて立つべきところの日本国民生活の全的理想を表現した我々の最高の国民的理想であるということは、今日考えることができないのであります。それは、そのときにおきまして、私の隣りにいらつしやるところの一松さんなんかは、私の言うことに非常に御反対になつたのでありますけれども、私はそれは国民の民主主義的全的理想を表現いたしておるものといたしましては、その一つの最も代表的なものとして、あの新らしい日本国憲法の前文を私は引用することができると思うのであります。私見を以ていたしますならば、あの新憲法の前文を歌詞化したところのものが現代における私は国歌でなければならないと思うのでありますが、あの憲法の全部を通じての民主主義的な理想、それが更に要約されておるところの前文というものに、明らかにあの「君が代」の歌というものはむしろ背反するところの思想の上に立つておるところのものであるということを、そのときにも申したのであります。もとより新憲法は君主制度の存続というものを認めておるのでございますから、我々は天皇陛下が例えば体育大会のようなときにおいでになつた国民としての皇室に対する親愛の情を披瀝いたしまするために、出席者が起立いたしまして、そうして歓迎、親愛の情を披瀝するために、あの「君が代は千代に八千代にさざれ石の」という歌を齊唱いたしますことは、これはいいことだろうと思うのであります。併しながら国歌が国民生活の全的理想を表現したものでなければならないということがここに肯定せられまするならば、明らかにそれは背反したところのものであつて、私はそのときに言つたのでありまするが、精神的な面からするならば明らかに天野文部大臣がそうした「君が代」の復活を計画して、そうしてそれを文部省を通じて強制せられるようなことをせられたということは、精神的な意味において、法律的な意味においては違いましようが、精神的な意味において明らかに憲法違反であつたということを言つたのでありまするが、一松さんなんかは大いに御反対になつたのであります。私は、これが重大な精神的な立場からする現下の吉田内閣の文教政策の基本的な、私たちからいたしまするならば、大きな誤りがそこにあると考えるのでありますが、そのことにつきましてはその当時まあ一、二時間ほどに亘つて論戰いたしたのでありまするから、これを省略いたしまして、この條約文を通じて我々がここに調印に賛成をいたそうといたしておりまするところの世界人権宣言、これは一九四八年十二月十日に国際連合第三回総会で採択せられたものであります。まだ日本国民の間にこれを普遍化しておらんと思うのでありまするが、私はこれを見まするときに、実に我々が国際連合憲章と共に世界における新らしい日本国民が歩むべきところの態度が、偉大なるところの文言を通じて私は表明せられておると思うのであります。その第一條の自由平等というところに「すべて人間は、生れながら自由で、尊嚴と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、同胞の精神を持つて互に行動しなければならない。」というのが、第一條になつておりまするが、この第一條だけをここに引用いたしましても、私は天野文部大臣においてとられておりまするところの教育方針、文教政策というものが、この世界人権宣言の民主主義的な、人は生れながら自由平等であるというところの観念に反した考えであつて、吉田内閣の思想的指導者である天野文部大臣の文教方針というものは、この條約の前文の精神に反するものであるというのが、先ずお伺いいたしたい一点であるのでありまするが、それについての御答弁を天野さんからお伺いいたしたいと思います。
  196. 天野貞祐

    ○国務大臣(天野貞祐君) 只今の御質問でございますが、こういう点において私は世間に非常に間違つた考えがあると思うのです。それは世界的である……個人の自由、個人の平等という個人を世界的において考えるという考え方が、個人を国民の一員として考えるという考え方と矛盾するというような考えが世間にあるのであります。即ち個人の尊重ということは国家ということと矛盾をし、国家を尊重するということは個人を尊重することと矛盾をする、又国家の尊重ということは世界性と矛盾し、世界性を主張することは国家性と矛盾する、という間違つた考えが私は世間にあると思います。本当に個人を尊重するということは、同時に個人は国民なんですから、よき国民となるようにする指導ということがそれが本当に個人を尊重するという意見である。又国家はそれぞれ個性を持つておるのですから、その個性を持つた国家はその個性を十分に伸ばして立派な国家となることが、即ち国家が世界性を担うということになると思います。そういう考えで私は指導をいたしております。
  197. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 あなたの今のような御意見は、その節十分拜聽いたしたのでありますが、私はあなたが間違つているというふうに言つていらつしやる考えがむしろ誤つている。あなたのほうが私は根本的に間違つているという見解をとるのでありますが、私の質問は、即ち「君が代」はあつてもいいが、国歌というものはその国民の全的理想を表現したものでなければならん。然らばそれは日本国憲法の前文というものが一例としてそれを十分に表わしているものであると考えるが、その立場からするならば、その「君が代」のようなものをば国家にするということは、先ほど申したような意味においてあつてもいいけれども、新らしい国家をこしらえて、そうして新憲法の前文に表わしているような、そういう考えを歌に表わして音楽に表わしたところの国歌を作らすという見解の上に立つのでなければいけないのじやないかということについての御答弁になつておらんようでありますから、もう一度御答弁を願いたい。
  198. 天野貞祐

    ○国務大臣(天野貞祐君) 私は国歌のことは、この際は措くというように今伺つたものですから、この国歌のことは述べなかつたのであります。併し国家について述べるなら、国家というものを作つた例は世界に私の知る限りないと思う。国歌というのは自然に生れて来るもので、日本の国歌もこれはそうであつて、文字だけから言うなら、これで十分とは言えないでしよう。新らしい時代の精神がすべてそこに盛られているとは言えないでしようけれども、これが国歌として生れて来ているものであつて、而もそれが津田博士なども主張されておるように、少しも日本の新らしい時代の精神と矛盾するものではない、矛盾するという考え方は間違つた考えであるということを津田左右吉先生なども述べていられるのであるから、これが全的に完璧なものだとは、私は主張できないでしようが、生れて来たこの国家を国民が親しみを持つて歌うということは何も差支えないばかりでなく、ややもすれば今の子供たちが、自分日本人であるということさえもわからなくなつて、故郷のないようになるのは誠にかわいそうだ。そうでなくて、やはり日本にこういう歌があつて、而も新時代と何も矛盾するものでないから、皆歌つて行こう。けれども新時代に相応した第二の国歌を作るということも一つの案であろうということは曾つて答弁した通りでございます。そういうわけで一つの国が二つ乃至三つの国歌を持つておるという例も多いことでありますから、私は第二の国歌に何も反対するわけではありませんが、この国家が歌われるということが惡いことだとは考えられないわけであります。  なお命令したとおつしやつたように聞きましたが、私は曾つてこれを命令して歌わせたことはございません。
  199. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 そういう御議論もその節承わつておるのでありますが、私からいたしまするというと、あの「君が代」が新憲法の前文の精神に符合したところの考えを表わしたものであるというようにお考えになつておるあなたのお考えは、私からいたしますると、実に度しがたいものがあるように考えるのであります。国歌は強制すべきものでないということはその節もお話になつたのでありますが、併しながら私の多少知つておる範囲からいたしますると、あの「君が代」のごときも、それ以前にああいう昔からの封建的といいますか、或いは極端に言いますれば、一つの奴隷道徳的な見解とも言えると思いますが、ああいう歌は、丁度その歌詞の内容というものは、お正月に各家ごとを廻りまして鼓を打つて歌いに来るところの、この家は万歳々々と言うところの、あのお正月の万歳の言葉と共通した思想と思うのでありますが、ああいうような歌がありまして、そうしてそれを国民の間に国家としてあれを歌わせるというようなことについては、やはり政府が相当な圧力を加えると言うと語弊がありますが、そういう方向へ進むようにしたということは事実であるというように、私は聞きました記憶からは了承いたしておるのであります。それで第二の国家を作つてもいいというところのお考えでありますが、私がお尋ねいたしておりますることは、新憲法の前文とああした内容のこの歌というものを国歌とするということとは、思想的には私は反立しておるものであるという考え方である。新憲法の精神を、民主主義の精神を国民に理解させず、ハーバート・モリソン氏の憂えておりますような結果の方向へ、惡い方向へ、超国家主義的な、昔の神権万能主義的な方向へ日本国民をリードして行くところの見解であるというところの見解については、どうお思いになるのであるか。もう一度はつきり御答弁を願いたい。
  200. 天野貞祐

    ○国務大臣(天野貞祐君) 決して私はそういうものでないと思つております。
  201. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 私は天野文部大臣の頭は度しがたいと思うのでありますが、これ以上申したところで意見の相違でありますから、ああいうわからんことを言つておる人が文部大臣になつておる、そうして新憲法の精神を蹂躙しておることを知らないでおるということを、私は国民の前に速記録を通じて国民に知らしめておくことに貢献するだろうと思います。  次に私はお尋ねしたいのでありますが、これ又先般の「君が代」の復活論と同じように大分世間の問題になつておるようであります。自由党の機関新聞とまで噂されておりまする読売新聞なども、天野文部大臣の頭はこれはパージものである、追放ものであるとまで書いておるのであります。全く私は読売新聞の言うところと同感であります。即ち先般の参議院におきまして、道徳の中心は天皇であるというところのことをお言いになりまして、そうして個人があつて国があるのでなくして、国家というものがあつて初めて国民というものが生まれて来る、人民というものが生まれて来るのである、個人というものが生まれて来るのであるというような、即ち国家が個人の母体であるというところの見解を道徳の中心は天皇であるというようなお言葉と共にお言いになつたと思うのであります。速記録をここに持つて来ませんから文字通りの上からは多少違う点があるかも知れませんが、お言いになつた大体のことは私が今引用したことと相違はないと私は考えておるのでありますが、そういうお考えであるから、今のような私たちからいたしますると度しがたいところの憲法違反的な考えが生まれて来ると考えるのであります。それはあなたはドイツ哲学者であるから……飜訳家であるか、どつちか知りませんが、ともかくドイツの哲学のことをよく御研究になつておるようでありますが、いわゆるこれはそのときにも申しましたように、第一次欧洲大戰におきまして、日本もその一員に加わりましたところの独墺に対抗いたしました連合国側においてのスローガンでありましたドイツの軍国主義の基本というものは、即ちヘーゲリアン・ステート・セオリー、ヘーゲルの国家哲学というものは連合国側の政治学者がこれは矛を揃えてこれを攻撃したのであります。そのときも言つたことでありますが、イギリスの社会学的政治学者でありますホツブハウスのごときは、ドイツがこの超国家主義的なミリタリズムの見解の上に立つた、こんな軍国主義的な侵略主義的な、その考えの基礎というものは、ヘーゲリアン・ステート・セオリーにある、ヘーゲルの国家哲学の形而上学的な見解、国家というものが最高の理想である、国家というものが最高の道徳である。即ち法というものと道徳というものとを、そうして国家というものの三つをば一つに統一して、そうして国家というものが最高の道徳であり、最高の文化であるというようなこのヘーゲリアン・ステート・セオリー、或いはメタフイジカル・ステート・セオリー、ドイツ哲学特有の観念的な、形而上学的な、思弁的な、或いは論理主義的な、そういう頭の上で、でつち上げた、観念で、でつち上げた夢想的な、そういう国家は最高の理想である。これは今までのオーソドツクスの日本の官僚や官学の思想です。あなたもやはりその一員である。そういう今日までの誤まりたる、敗戰の憂目を見たところの、日本国民が惡導されて来たところの御思想であります。その御用思想の根源は、即ち一切のものをドイツに学んだのでありますから、その国家の考えにおきましても、今のような考え、これを日本が伝承した。それからこういう結果が来たのであります。その第一次欧州大戰のときにおいて、先に申上げましたイギリスのホツブハウスという政治学者のごときは、本を著わして、自分の子供はこの戰争によつて無残なるところの戰死をしたが、この仇を報ずるのは、誤まれるところのドイツ人、殊にプロシヤ人の形而上学であるヘーゲル的な国家哲学をば打倒するといることが、自分の息子の仇を報ずることであるとまで叫びまして、そうしてそれに対する反撥の書物を著わしたりであります。その書物はこの国会図書館にもあります。それと同じようなことは、連合国の政治学者や哲学者が矛を揃えてアタツクしましたことの、全くその対象になる考えをあなたがお持ちになつている。それは日本をこのようにしましたところの指導的な精神でありまするが、それはこのような敗戰を見た。そうして、それと違うところの国民主権がある、個人が基であるというところの考え方でなく、即ちさつきのヘーゲルが言つた言葉とあなたは同じことを参議院で言つていらつしやるのである。これはヘーゲルの国家哲学の、歴史哲学の中の文言であつたかと思いますが、即ち国家というものは個人のためにあるのではなくして、個人のために国家があるのでなくして、国家のために個人があるというところの見解であります。これが考えの分れ目なんです。新憲法と旧憲法、そうしてこの條約に謳つておりまするところの国際連合憲章や、或いは世界人権宣言とは、その中からもこの新憲法は大分文言が引かれていると思いますが、共通の思想の上に立つているところのものなんです。ところがあなたはあの無残の、日本を敗戰に陷れたところのヘーゲルの国家観の考え、ビスマルク、モルトケ時代のドイツを統一するため、プロシヤを中心としてドイツを統一するためそのドイツの置かれていたところの古い国情と呼応して生れたところの古い見解であると私は思います。それがドイツをば誤まらし、又ドイツの真似をした日本も誤らしたのでありますが、成るほどあなたの御尊敬になるヘーゲルは偉大なる哲学者でありましようけれども、それは明らかに国家哲学というのは誤まつている。それをあなたはまだ自己反省を私はしていないと考えるのであります。あの参議院において国家が母体であつて、個人が母体ではないというところの考え、その考えこそは、これは明らかに国際連合憲章と新憲法と、世界人権宣言に背反するところの基本的な私は見解であると思います。そういうような見解を持つたビスマルク、モルトケそれ以前の古い、このドイツを誤まらし、日本を誤まらしたところの、国家は最高の道徳であるというような誤まれる見解がここに清算されない限りは、又そういう人がその政府の思想的な指導者になつておりまする限りは、断じてその政府というものはこの国際條約、この平和條約に調印するところの思想的な資格を持たないものである。そうしてそれによつて導かれるところの結果というものは、必然的にハーバート・モリソンが憂えておりまするところの結果を、又再び繰り返すことになると私は考えているのでありまするが、先般参議院においてお述べになつた。読売新聞といえども、自由党の機関新聞などと噂されておりまする読売新聞でも、ああいう馬鹿な文部大臣は追放しなければ、日本国民のために惡いとまで言つているのでありますが、世論の非難は今その問題についてあなたに集中しているのでありますから、世論に答える意味においても、私に答える意味においても、はつきりと詳しくあなたの理論的立場をこの際明らかにして頂きたい。
  202. 天野貞祐

    ○国務大臣(天野貞祐君) 先ず私は学者である吉川さんが、私の言葉を全然間違えておられることを意外とするものであります。  私は天皇は道徳の中心だと言つたことは決してございません。これは重大なことでありますから、人を批判される前によく調べてから批判されるほうがよいのではないか。私は国家の中心は何だと問われたから、日本国家はやはり天皇だ、けれどもその天皇を宗教的の中心、崇める中心と考えてはいけない。又天皇を権力の主体と考えてはいけない。そうでなく、天皇は国民親愛の中心というべきものだ、親愛といえば人と人の関係でありますから、これは人類的といいましようか、道徳的といいましようか、そういう意味で、私は天皇は道徳的な中心と言つたのでありまして、道徳の中心だと申したことは決してございません。  それから私は成るほど吉川さんの指摘されたようにドイツ哲学を研究している人間であります。けれども知識を持つているということと、それを信奉しているといることとは別であります。現に私自分のことを申しては甚だ恐縮でありますが、この大戰争が始まる前、若し日本がドイツの真似をするならば、日本は亡びる虞れがあるということを社会に向つて警告をして、軍部に怒られた人間は、私は思想界にそういないと思うのであります。それから又これも自分のことで甚だ申訳ございませんが、戰時中日本評論社が、社会の多くの人に向つて、ドイツの非常に勢いの盛んなときに、この戰争はドイツが勝つか或いは連合側が勝つかという予想を問い合せたときに、私はドイツが負けるという返事をいたしました。それは私がドイツに関して知識を持つていたからであります。知識を持つているということと、それを信奉しているということとを一緒にしては困るということを申上げたいのであります。  それから今吉川さんは、個人を母体と考えるか国家を母体と考えるかが、理論の別れ目と言われましたが、私はそれは両方間違つているというのが私の論理であります。国家というものを個人の方便と考える考えも間違いであります。又国家の立場から個人を方便と考える、或いは個人の立場から国家を方便と考えるのは、私は共に間違つているという考え方であります。その点、戰前或いは戰時中はいわゆる全体主義というものが支配して、世間が皆個人の品位とか、個人の尊嚴というものを無視しているから、殊に軍部がそういう強い考えでありますから、私は個人の尊嚴ということを強く主張した人間であります。そうして常に個人主義者として迫害された人間であります。それで戰後においては、人が個人ということばかり尊んで、そうして国家ということを忘れやすいから、個人も国民である、その意味においては国家は個人の母体といつていいのだ。個人が国家の單なる方便でなしに、国家も個人の單なる方便ではない、その両方の考えが共に間違つている。極端なる個人主義と同時に極端な国家主義を揚棄して、更に進んだ立場に立たなければいけないというのが私の主張であります。私はヘーゲルを尊敬しますけれども、ヘーゲルの説を信奉するものではございません。
  203. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 いろいろ御答弁がありましたが、恐らくあなたを今日非難しておりまするところの世論は、あなたの御答弁を肯定しないだろうと思います。私も肯定いたしません。けれども大体のあなたの考え方は、この議場におけるところのいろいろの御答弁を通じまして大体わかつております。私は明らかにこの講和條約の前文の謳つている精神に背反したところの、なお拔けがたき古きこの日本の戰前の官学、官僚のオーソドツクスな思想、こういう誤れる思想の上に立つたものであると考えますが、別にここに哲学論をあなたとしておつても、ほかのかたも御迷惑だろうと思いますから、なお、度しがたい考えのかたである。又そういう考えでは世界人権宣言は理解することはできないという私の見解だけを申述べておきます。  更に進んで、右とも関連性があるわけなのでありますが、これ又曾つて予算委員会においてあなたの御意見も多少拜聽いたしたのでありますが、なお釈然といたしておりませんから、この講和條約の前文に関連してお伺いいたしたいと思うのでありますが、憲法にいたしましても、まだできましてから間がありません。又国際連合憲章も一九四五年のものでありまするし、世界人権宣言もまだできて二年もたたないのでありまするから、これは国民の間に普遍化していないことは十分考えなければならんと思うのでありますけれども、それを促進し、その理解を深め、そして腹の底から日本国民国際連合憲章や或いは世界人権宣言の思想の上に立つてこれから歩んで行くということについて、私は先般来申上げましたようなことにおいて全くそれと背反するところの教育方針の方向にばかり天野さんは日本国民をリードしていらつしやると思うのでありますが、そうした線に沿うて日本の憲法の教育につきまして、天野さんを首班とする文部省がとつているところの具体的な教育政策について、この機会に更に同一の思想の上に立つて申上げてみたいと思うのでありますが、その節も多少申したことでありますが、日本の憲法、即ち旧憲法、明治憲法であります。明治憲法は、これは天野さんも御承知だろうと思いますが、伊藤公が明治天皇から憲法の作成を命ぜられまして、そうしてヨーロツパに一年足らずも向うへ同勢を引連れて留学いたしまして、そしてドイツのベルリン大学の公法学の教授でありましたグナイスト及びグナイストの代りといたしまして、その弟子でありますところのモツセなんかの憲法の、プロシヤ憲法を中心とする講義を聞きまして、又オーストリアの政治学者でありましたシユタインの講義等を聞きまして、そして昔の滅び去つたところの古きプロシヤの憲法をそのまま翻訳いたしまして、そうしてこれを焼き直したものであります。そのことは今日まで日本の学校等におきましてはその尊嚴を体し、不磨の大典などと言つてこれを神格化しているのでありまするから、そういうようなことを教えないで、わざと生徒には教えないでおりまするが、これは世界の憲法学者が皆知つていることであります。それはこのときにおきましても、星亨でありましたか、世界夢物語というところの秘密出版を出しまして、そしてそのことをすつぱ拔いたのであります。そのグナイスト談は世界夢物語というところの刊行物となつて、当時非常な物議を釀したのでありますが、それを見ましても、プロシヤ憲法の第一條はこういうふうにお直しなさい、第二條はこのままでよろしうございます、第三條は日本には要らないでありましようというふうに、グナイストが伊藤博文公に教えましたところのありのままを筆記いたしましたところのものを秘密出版しまして、非常に物議を釀したのでありますが、今日にそれは残つておるのであります。かようなこれはプロシヤ憲法そのままなのであります。ところがそういうところの憲法を不磨の大典といたしまして、大学その他におきまして日本国民にこれを有難く欽定憲法であるとか不磨の大典であるとかいうようなことを言つて教えられて来たのが、我々初め、天野さんは文科であるから憲法をお習いにならなかつたかも知らんけれども、これは皆法律学をやつて来た者は教わつて来たのであります。ところがあに図らんやその実体は実にグナイストが教えました通りのことができ上つておるのであります。従つてその一切の法律というものは憲法が基本法でありまするから、憲法を基本としてドイツ法を又模倣し、ひとり法律制度の上ばかりでなくて、憲法は国民の生活一切を律するところの基本法でありまするから、そうしたプロシヤの超国家主義、プロシヤの軍国主義、プロシヤの神聖国家主義、先ほど申しましたようなヘーゲル国家哲学と結び付いたそういう考えが、この戰争に敗けますまで、こういう新しい憲法ができますまで、日本国民の全部を支配して来たところの基本的な考えなのであります。即ち明治憲法というものは、主権論の立場からいたしまするならば国家主権であります。当然に……。そうしてその国家主権と結び付けてヘーゲルなんかが教えましたように、又グナイストもいろいろ伊藤公なんなに教えているのでありますけれども、又あなたがそれを直接教えているところと結びついているのでありますが、帝王に主権がある、即ち天皇に主権があるものであるというところの考えと、国家に主権があるものであるという考えとを結び付けまして、そうしてその国家主権を代表するところの者が天皇であるというような考え方において日本国民は長い間あの憲法を通じて教育されて来たのである。それをあなたはまだ再批判し内省するだけの力を失礼ながらお持ちにならない。即ちそれは天皇主権、或いは少くとも国家主権……国家主権論と憲法であります。ところが新憲法は国家に主権があるのでもない、天皇に主権があるのでもない、主権は即ち国民にあるのであります。主権在民の憲法……、先ほども、一昨日でありましたか、昨日でありましたか、曾祢君なんかもそういうお言葉を述べられましたが、主権在民の憲法である。その主権は民にあるというところの見解の上に、この講和條約も、世界人権宣言も、又国際連合憲章も明かにこれは文面に現わしているのであります。だからして昔のこの明治憲法というものは、この講和條約とは明かに背反するところの主権論の上に立つているところの見解であるから、これを打倒しなければならん。そういうものは捨ててしまわなければならん考えであるということがはつきりした上でなければ、新憲法の精神も、国際連合の精神も、世界人類宣言の精神も、又それと共通する講和條約の精神もこれはわからないのです。そのわからない人が如何に日本に多きことよであります。それで、それには憲法に対するところの考え方、憲法に対するところの国民に対する教育を第一に文部省が考えなければならんのであります。そうでなければ民主主義は絶対日本国民には理解することができないのであります。ところが文部省はそういうところの具体的なこの憲法教育に対するところの政策を、今まで積極的に私はおとりになつておらんと考えるのです。試みに上層部の官僚なんかにそういう話を私がいたしまするというと、これは極めて高き地位にあるところの議院内の職員であります。一人ではありません。数人の者が言うのでありますが、「あなたはそういうようなことを言われますけれども、美濃部さんの天皇機関説のようなものがあるじやありませんか。」そんなことを考えているのが上層官僚あたりの常識なんです。そんなことを考えている者が極めて多いのです、美郷部さんは、即ちドイツの国法学者であるところのエリネツクの国法学を祖述して来たところの人であります。これは明かに国家に主権があるというところの即ちヘーゲリアンであります。先ほど申しましたヘーゲル的な、ジヤーマン・ステート・セオリーをとつているところの国法学者であります。美濃部さんの説は……。成るほど帝王神権説、天皇に主権があるところの憲法解釈をとつているところの人間と論争せられていろいろな憂さ目を見られたのでありまするけれども、新憲法の精神である人民主権というものに明白に対立するところの見解に立つておる。そういう人が、まだ何らか民主主義の見解であり、新憲法の学者として通用するかのように思われる人が非常に多い。だから御覧なさい、我々が参議院議員に当選して来るや新憲法の註釈書を我々に全部渡された。それは国家主権論者として、明らかに新憲法の精神に背反するところの立場をとつている美濃部さんの新憲法の註釈書が我々に渡されたのであります。而も聞くならく、東京大学法律科におきましては、憲法の参考書、テキスト・ブツクとしてこの美濃部さんの古い国家主権論の憲法の本をばやはり生徒に読ましているということであります。美濃部さんは、あの新憲法を作る場合に、新憲法を作る必要はない、この明治憲法で十分やれるんだということを主張せられた人であります。そういう立場をとつたところの人が、その法律家として三百代言的に法律の文言の文理解釈をすることができるでありましようか。精神的に、あの民主主義的な人民主権の憲法というものを理解するということはできないということは、これは実に火を見るより明らかなことであると考えるのであります。文部省は、そういうところの明治憲法を不磨の大典として学生に教えて来たような、古い明治憲法の先生という者をこれを教壇から追放するのでなければ、日本に本当の新憲法のこの思想というものは、これを教わる学生の中から生れて来ないのであります。私はそういうことを先にも言つたのでありまするが、あなたがやはり私の申しますることをちよつとも御理解にならぬように、これについても御理解がないとは私は推察いたしまするけれども、そういうようなことでは主権在民の新憲法の精神は断じて国民の間に普及しないのであります。そういう憲法教育が日本に行われておりまする以上は、日本国民は本当の精神的な理解を持つてこの條約というものを批准するところの資格のないところの国民であると私は言わなければならん結果が起つて来ると思うのでありますが、あなたはそういう日本の昔からの、この古い伊藤公の習つて来たところのビスマルク、モルトケ時代のプロシヤの、国家主義的なプロシヤの憲法をそのままコツピーしたところの日本憲法を不磨の大典として教えて来たところの古い憲法学者が依然として日本の大学の教壇に残つて、一つの権威的な憲法学者の地位を教育界に保有しておるということが、この條約を批准せんとするところのこの立場と矛盾するものであるということについてはどうお考えになるか。又それについてどういうところの対策を持つておられるかということをこの機会に御答弁が願いたいのであります。
  204. 天野貞祐

    ○国務大臣(天野貞祐君) 私はこの際にも、大学の教授というのは宗教の宣伝をしておるのではなくして、飽くまでも学問としてやつておる、旧憲法を学問として扱つて来ておるのでございまして、決して旧憲法を遵奉しておるものではない。そういう旧憲法に対して知識を持つた人が新選法を教えるのは何も差支えはない。これは宗教的信仰ならば別であります。大学は飽くまでも学問としてやつているのでありますから、ただ旧憲法を教えた、そのためにこれをやめさせるということはあり得ない。仮に私が旧憲法を教えた者は皆やめさせてしまうと言つたならば、私はそういうことは民主主義の精神に反するということをすべての人が言うだろうと思う。
  205. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 忠言があるから簡單に申上げたいと思います。やはり君が代国家論と同じで、やはりましがたいのは仕方がないのでありますから、いい加減にしておきたいと思うのでありますが、まあそれぐらいにしておきましよう。(笑話)天野さんに対する……。  それで今度は同じような精神に基いて自治庁の長官に一つ御答弁頂きたいと思うのでありますが、西村條約局長の説によりまするというと、前文というものは法的拘束力を持たない、道徳律のようなものであるというお話がありましたが、非常に道徳論的のようなものになつて来て甚だ恐縮でありますが、併しこの機会に申上げておきたいと思うのでありますが、私は西村條約局長の前文の法理解釈というものは間違つておると思うのであります。憲法の前文は明らかに憲法の一部分であります。この條約の前文も條約の一部分であると考えておるのでありまして、法律でありますから必然的にこれは拘束力を持たなければならんものであると考えておるのでありまして、私どもの議論に異論がありますならば、西村條約局長から質問が済んだあとで一つお答えを願いたいと思います。  それで岡野さんにお尋ねいたしたいことは、只今天野さんにお尋ねしたことと同じでありますが、同じ思想の線に沿うたことでありますが、日本の地方行政というものは、あなた自治庁の長官に御就任になりました当座は、一同我々から見ますと、地方行政のことをお知りにならないように考えたのでありますが、もう御就任になつてから(笑声)大分日もたつのでありますから、その後わざわざ地方行政を視察のためにイギリスにもおいでになられたので、この頃は玄人になつておられると思うので御質問いたしたいと思いますが、今、日本の憲法がプロシヤの憲法のコツピーであつて、サゼツシヨンのままに作られたものであるということを申したのでありますが、日本の地方制度と申しますものも、これ又それと同じような形で作られて来たのでありまして、失礼なことを申上げることは省略したいと思いますが、グナイストの弟子であるアルバート・モツセが山縣内閣のときに日本に参りまして、アルバート・モツセがそれを教え、そうしてそれが日本の自治制度というものを法律化されるようになつたのであります。それはその間、多少の改正がありましたけれども、その荒筋は山縣内務大臣のときにこのグナイストの弟子であるアルバート・モツセが書きました。ドイツ人が日本の地方制度を書いた。日本人作つたものでありません。そういうものがずつと続いて今日の地方行政の法律的な制度的な基礎になつておるのである。その間、幾多の若干の改正がありました。且つ戰後におきましてもアメリカのサゼツシヨン等によつて米国の新しい民主主義的な地方自治の制度が多少入れられたのでありますが、根が今言うようにドイツ人が作つたところの地方制度を基本にして、そうしてこれは法律的にも地方制度というものは憲法と不可分なものでありますから、地方制度を行政法の学者がやつておりますると、行政法の学者は美濃部さんと同じような憲法学者と行政法の学者であるということになつて、これは不可分のものであります。やはり明治憲法がありまする以上は、それが不磨の大典として国民生活のこの基準をなしておりまする以上は、地方制度もそれから逸脱することができない。明らかにアルバート・モツセの地方自治につきまして、これについてあなたがどうお考えになるかということが質問の第一点であります。地方自治というものは、あなたはどういうように観念しておられるかということなのであります。アルバート・モツセがその当時の日本の役人、それらに教えたものを読んで見ると、私たちは、自治はみずから治めるということでありますから、これは民主主義政治の基礎である。みずから治める、であるから英語でいうセルフ・セルフ・ガバメント・オートノミーという言葉が当るのじやないかと思うのですが、この言葉が自治という言葉に当るのじやないかと思うのでありますが、このプロシヤの学者は明らかに、イギリスでいうところのセルフ・ガバメントというものは、ドイツ語で言うところのゼルブスト・フエルワアルツングとは内容が違うということを言つておるのであります。講釈めいたことは省略します、失礼でありますから。併しドイツ人は丁度極端に申しまするというと、この行政の一部というものをば、余り細かい地方のローカルな部分というものは、中央政府がやるよりも、地元の人間にやらしておいたほうが能率が上つて便利であるというような立場、丁度昔の五人組、内務省の役人というものは五人組が一つの基礎であるということを言われたのでありますが、全くその観念なのでありまして、五人組というものの思想的な基礎というものには何らのデモクラシーという観念はない、一つの極端なるデスポテイズムであります。比類稀なるこれは專制主義であるということを三浦周行博士もその著書日本法制史の中に書いておられますが、極端なる比類稀なるところの、キリシタンバテレンを取締るための五人組というものは、そのための專制政治の現われである。そのために五人組を作つて、そうしてその近所のことだけは隣り近所、向う三軒両隣りでやつて行くというようなその観念と、ドイツのゼルブト・フエルワルツングという、これを内務省の役人は自治と訳しておるのでありますが、そういうような観念で日本の地方自治というものは、ずつと来ておるのであります。そうしてこの官学その他におけるところのドイツ万能主義のドイツ法学の系統を引いたところの美濃部さんであるとか、京都大学であるならば佐々木さんであるとか、もつとそれより古い人はもつと頭が古いのですが、そういうような人がそういう観念に基いて、日本の自治体の役人や、日本の自治体の居住民や、或いは内務省の役人や、その他を教育して来たのでありますから、今のあなたの部下でありまするところの、個人的には極めて頭の優秀な男でありますけれども、その考えはやはり自分たちが明治憲法と不可分であるドイツ行政法学の翻訳であるところのドイツ的行政法学者によつて教えられて来たセルフ・ガバメントとは違う自治観念、そういうものに基いて或いは自然公報であるとか、自然公論であるとか、自治時報であるとかいうようないろんな刊行物を出しまして、一万何千の全国の自治体の吏員に配付しておるのでありますが、その観念は私がさつき文部大臣に申しましたところと同じ線に沿うところの本当の意味におけるセルフ・ガヴアメント、私は自治とはデモクラシーである、バイ・ザ・ピープルという精神が自治でなければならんと考えておるのでありますが、その観念がドイツ法学者を中心としますドイツ行政法学からは生れて来ないのであります。ところがそれを戰後そういう観念が改められたかというと、ちつとも改められておらない。これは日本の地方自治が当面しておりますところの根幹的な最も大きな病弊であると私は考えておるのであります。これを改めるところの対策についてどういうお考えを持つていらつしやるか、先般来あなたもイギリスへお出でになり、或いはアメリカあたりへ自治庁の役人などがアメリカの世話で行つてアメリカでもそのことを知つておりますから、いろいろそういうことを教え込みたいと思つておるでしようけれども、私の見たところちつともその実が挙つておりません。わからないのです。そんなことは日本のドイツ的な行政法学を習つて来た皆さんにはわからないのですが、私はこれがわからん以上は、日本の政治の基礎は地方自治にあると一般に役人も言つておることなのでありますが、これはわからないのです。それについてあなたはどうお考えになるか。地方自治というものについてどういうふうに観念されておるか。私が今申上げたような病弊が、現在あなたの部下のいろいろな地方行政に関與するところの役人、或いはそれと類を等しくするところの、私は全国に何十万、或いは百万以上も地方公務員というものがあると思いますが、それらの人にはそういうことがわかつておらんのです。それについてどうお考えになるかということを先ずお伺いいたします。
  206. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) 自治庁長官といたしまして、約一年半になりますが、併し私より何十倍も長い間、又何百倍も御研究なさいました吉川さんの御高説よく承わつて今後も御指導を受けたいと存じております。ただ只今のお説から申しますれば、日本の自治というものは、戰後本当のデモクラシーの方針で進んで行くという形はできておるけれども、これに携わるところの事務当局が昔風のままでやつておるから、本当の自治ができないのじやないか、こういう私は御懸念だと思います。それにつきましては、無論私も至極御同感でございまして、私、志半ばにしてまだ達しておりませんけれども、できるだけ私は私自身の自治庁長官をやつておる間にやりたいと思いますことは、曾つて衆議院でも申しましたが、やは自治大学というようなものでも作りまして、官吏の再教育をしなければならん、又新らしく出てくる自治行政に携わる人を教育して行こう、そうして行かなければ本当の自治は確立できないだろう、こう私は考えております。ただ問題は、御承知の通りに終戰後まだ六年にしかなりません。それで天皇制から百八十度の転回をいたしまして、主権在民のいわゆる民主国家になつた、これについて一応はアメリカの方式をとりまして、自治制度を確立したのでございますけれども只今お説の通りに十分な効果を挙げているかどうかということに対しては幾分の疑点を持つております。併し私自身が考えますのは、たとえて申しますれば、只今私の庭に桜の木がありました。併し桜の木はどうも毛虫がついて仕様がないから切つてしまつて、そうして一つ庭木を換作した、そういたしますと、アメリカの「もみじ」の木がいいからというわけで、アメリカから「もみじ」の木を持つて来て植えた。今、私は日本の自治制度はそういうような段階ではないかと思います。無論根は付いて根幹は生きておりますけれども、併し風土、国情、いろいろなものの違いますところの日本アメリカの「もみじ」の木がはつきりと庭木として栄えて行くには相当の年月を経ると思います。それでその年月を経る間にいろいろ要らない枝が枯れて来たり、又葉が落ちて来たりしますが、又日本の国情に合つた栄養分を吸收しまして、新らしい枝が出て来る。その枝が果して元のアメリカから持つて来たところの風致にそうような枝振りになるかどうかということは、我々が明識を以て察して、これを手入れをして行かなければならん。でございますから、無論これは誠にもどかしい感じを吉川さんもなさるでございましようし、私自身としましても、そういう感じは持つておりますけれども、併し籍すにやはり年月を以てして、だんだんと「もみじ」の木を枯らさないように、同時にその根幹は絶対にこれを枯らさないようにして行きたいと、こう私は考えております。いろいろ過去何十年間の歴史があつたものをこの際百八十度の転回をしましたのですから、十分なるところとまでは行きませんけれども、今後いろいろな方策を講じて地方行政というものを確立するということについては、無論進んで行かなければなりませんし、そのためには官吏の再教育もしなければならん。又新らしい自治制度に合つたような人材を養成して行かなければならん。それには何かそういうような養成機関なり再教育機関も考えて行かなければならん。こういうように私は考えております。
  207. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 教育の必要があるということにつきまして、そのお考えについては、あえて反対するものではありませんですが、その教育の方針は、やはり憲法の再教育をしても昔の憲法の思想を十分に清算することができないで、人民主権の精神がわからないような人が教授や講師になつては自治大学をお作りになつても何にもならん。それと同じようにワイマール憲法以前のドイツの行政法学をそのまま受継いでやつている。これは各大学の行政法の教授が皆そうです。例えば何か本を書いている、レフアレンスに挙げているのを見ますと、ドイツの本なんです。ドイツの行政法を引用している。その行政法がいつの本かというと、昔ワイマール憲法前、第一次欧洲大戰前のドイツ人の本ばかり引いておる。そういう実情でありまするから、そういう点について十分御留意願いたいと思いますが、恐らくあなたには十分おわかりにならないかと思いますから(笑声)このくらいにしておきます。  それからもう一つ私は極めて具体的なことについてあなたの御答弁を促したいのでありますが、それは最近におけるところの地方行政の一つの出来事といたしましては、シヤウプ使節団というものが参りまして、日本の税制についていろいろと研究をして、そうして極めて有用なところの勧告書を出してくれました。地方財政の問題につきましても仔細な研究が遂げられまして、そのシヤウプ使節団の勧告書を元にして、いわゆる地方政府の事務の再配分をするというので、御承知のような極めて厖大な機関でありまする地方行政調査委員会議というものが開かれて、京都の市長の神戸正雄さんが市長をやめてまで御就任になつて、高橋誠一郎氏、その他のかたがいろいろとやつていらつしやるのでございますが、最近になつてその第一回のリポートが我々の手許に居いたのでありますが、私はこの間神戸さんにも申したりですが、シヤウプ使節団というものは、これはシヤウプ氏はニユーヨークのコロンビア大学の財政学の先生であります。そのほか一緒に参つておりまするところのグループの人というものは皆アメリカにおける財政経済のほうのエキスパートであります。それで成るほど地方財政と、そうして地方行政或いは地方制度というものとは不可分のものでありまするから、財政面からいたしましての結論を出しまして、そうしてこういうように改めたらどうかというところの勧告書は極めて有用なものであると考えるのであります。併しながら一面におきまして、地方行政というものは一つの行政、政治、公法学の学問としては、この部門に入るところの学問であると考えるのであります。即ち行政学、或いは行政政治学者、或いは公法学者の大きな仕事の面であります。それは日本におきましても、アメリカその他の諸国におきましても、大体同じであります。アメリカにおきましも、憲法や政治学をやつておる人に、例えば日本に来ました、後藤新平の顧問として参りましたチヤールズ・エー・ビアードのごときは、政治学者であり歴史家でありますけれども、同時にこれは市政の学者であります。そういうようなわけで、ビアードを後藤さんが市長に就任するや顧問に招聘いたしまして、そうして自由に東京市政というものをば批判させまして、東京市政論というところのリポートをビアードは書いて残していたのであります。今にしてもこれは極めて剴切なところの立派な勧告書であります。それと同じように、アメリカの学者に限りません、それはヨーロツパの学者も結構でありますが、ともかくもシヤウプ使節団に自由に財政面から日本の地方行政というものを批判さして、そうして結論を出ささしたと同じように、これは日本人は今言つたように天野さんのようなドイツかぶれで度しがたいように皆なつておるんです。日本の役人も皆そうなんです。ところがそういうような度しがたいまでに頭が、第一次欧洲大戰のワイマール憲法以前のビスマルク、モルトケ時代のプロシア思想で頭が固まつておるところの人間には、私がなかなか一人で地方行政委員になりまして、地方行政委員会委員長になりまして孤軍奮鬪しましてもわかつてもらえないのです、何ぼ言つても……。どうぞこれは一つシヤウプ使節団と同じように世界の民主主義的な政治学者、民主主義的な公法学者、民主主義的な行政学者のグループを招聘して、シヤウプ使節団と同じように日本の地方行政を、日本の政治の基本である地方行政を自由に一つ批判さして、そうして日本の地方行政で改める点はどこにあるかというこの勧告書を出すところの運びを私はせられることが必要だつたと思うのであります。ただ一人そういう財政経済の学者からの勧告書に基いて地方行政制度の改革をせられるということは、これびつこであります。一本の足であります。足は二本私はどうしても入用と考えるのでありますが、そういうことについてお考えにならないか。又私の言うところが正しいとお考えになるならば、何か具体的な対策をお考えになつてはどうか。それは即ち日本の民主化、民主化の基礎である日本の地方行政の本当のデモクラタイゼーシヨンをやるのでなければ、この講和條約に批准するところの資格を私は思想的に、政治的に日本国民は持たないものである。そうしてハーヴアード・モリソンが憂えているような悪い結果の方向へやはり行かなければならないということの観点に基いて御質問を申上げるのでありますから、どうぞまじめに御答弁を願いたい。
  208. 岡野清豪

    ○国務大臣(岡野清豪君) お答え申上げます。只今吉川さんのお説は至極同感でございます。これは只今承わりまして、一段啓蒙されたのでありますが、先般私イギリスへ地方行政制度を視察に参りました当時、そのときは私、自治大学というものを頭に持つているものですから、ロンドン大学の教授にいろいろ会いまして、そうしてこういうような構想を持つてつて日本の行政官吏を養成し、同時に再教育しなければならん。若し自治大学でも作れることがあつたら、一つ万障繰合わして出て来てくれ、講義をしてもらいたい、同時に日本の官吏に教えてもらいたいということを申しましたが、若しそういうことが実現するならば喜んでするという実は便りを持つて参りました。それからアメリカへ参りまして、やはり同じようなことをしようと思つたのでありますが、アメリカでは何せ帰朝を急がれましたものですから、シヤウプ博士に会う機会ができなかつたんですが、そういう面の学者にお目にかかる機会を逸しましたが、シヤウプ博士に対してはやはり同じようなことを頼んで来たわけです。若し自治大学でも作るようなことがあるとすれば、必ず実現したいと考えているが、そのときはイギリスの行政学者、憲法学者、いろいろな政治学者に代りばんこに来てもらつて講義をしてもらいたい、そういう場合には一つアメリカのそういうような学者を一つお世話を願いたい、こういうことを頼みました。シヤウプ博士は、それはその通りだ、いい所に気が付いた、できるだけのお世話をする、こういうことで現実的にアメリカでは当の政治学者、行政学者にはお目にかかりませんでしたけれども、そういうことは話して来ております。併し只今のお説によりますと、自治大学ができなくても、やはり日本にそういう人を招聘して、研究機関を作つて研究さしたらどうかという御趣旨のように思います。これはあなたの御教示によりまして一般と私の信念が強くなつたわけであります。非常に結構なことと思います。できるだけそういう方向に実は進んで行きたいと考える次第でございます。
  209. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 まだ質問したいことがありますけれども、時間も迫つたようでありますから、又別の機会にいたしたいと思いますが、大体私の言わんとするところは十分に満足するような答弁は一つも得られなかつたのですが、申上げることは申上げたわけであります。ただ結論として申しますならば、御答弁を通じまして、私はこの條約というものに謳われておりまするところの国連憲章、世界人権宣言と、これと関連して来るところの新憲法というようなものとの結び付きにおきまして、精神的な意味において、政治思想的な意味において、教育の方針の意味におきましては、日本国民というものはそれと背反するところの方向へ吉田内閣を通じて導かれつつあるのが実情であつて、実に重大な問題であるということだけを申上げて私の質問は打切ります。
  210. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 他に御質問がなければ本日はこれで散会いたします。明日午前十時から開会いたします。    午後三時五十八分散会