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1951-11-02 第12回国会 参議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十一月二日(金曜日)    午前十時二十一分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     大隈 信幸君    理事            楠瀬 常猪君            一松 政二君            曾祢  益君            野田 俊作君            堀木 鎌三君    委員            秋山俊一郎君            石川 榮一君            泉山 三六君            大屋 晋三君            川村 松助君            北村 一男君            杉原 荒太君            徳川 頼貞君            平林 太一君            岡田 宗司君            加藤シヅエ君            佐多 忠隆君            永井純一郎君            吉川末次郎君            岡本 愛祐君            片柳 眞吉君            楠見 義男君            杉山 昌作君            高橋 道男君            伊達源一郎君            羽仁 五郎君            堀  眞琴君   国務大臣    法 務 総 裁 大橋 武夫君    厚 生 大 臣 橋本 龍伍君    通商産業大臣  高橋龍太郎君    労 働 大 臣 保利  茂君   政府委員    法務府法制意見    第二局長    林  修三君    外務政務次官  草葉 隆圓君    外務省政務局長 島津 久大君    外務省條局長 西村 熊雄君   事務局側    常任委員会專門    員       坂西 志保君    常任委員会專門    員      久保田貫一郎君   説明員    労働省労働基準    局長      亀井  光君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○平和条約締結について承認を求め  るの件(内閣提出衆議院送付) ○日本国とアメリカ合衆国との間の安  全保障条約締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 只今から委員会を開きます。  予定に從いまして本日より逐條審議に入ります。本日は日本国との平和條約に関してであります。第一に前文を問題に供します。御質問のあるかたは御発言願います。
  3. 曾禰益

    曾祢益君 この前文の中に、日本国として国際連合への加盟申請し、且つ国際連合憲章原則を遵守する、こういうことが明らかに謳つてあるのであります。これは誠にそうでなければならないと思うのでありまするが、これに対しまして連合国は、前項に掲げた日本国意思を歓迎するので云々と、まあ、なつております。御承知のようにイタリーとの講和條約におきましては、連合国イタリー国際連合加入を支持するという趣旨のことが明らかにされておつたわけであります。なおこの最後確定案として調印される前には、いま少し連合国側意思はつきりつてつた草案になつてつたと思うのでありまするが、なぜさような連合国側義務はつきりなくなつたのか、この点についていろいろ政府側説明があつたように思うのでありまするが、なお私たちは十分に納得できないのであります。連合国としては勿論かような国際連合日本加入する問題は、国際連合機関において決定されるのが本当である、これはもうその通りである。然らば政治的にこの日本連合国との約束におきまして、連合国としてさような決定を見るように、日本に対して努力するという約束を取り付けることが、日本としては政治的に極めて望ましいからこそかようなことを国民としては要求をしているんだ。從つて一片法律論を以てして、国際連合加入の問題は国際連合機関の決定するところであるから、元来がそれとは別の趣旨の條約であるところの対日平和條約について、連合国日本の契約として取上げるのは不適当であるというようなことは、單なる一片の私は理窟であつて大切な政治的の狙いを肩すかしを喰つておる感じがしてならない。そこでそれらの点につきまして一片法理論でなく、何故にこの点が貫徹できなかつたか、これらの点に関する十分なる政治の御説明を私は希望するのでございます。
  4. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) お話通りだと存じます。実はこの前文にも又第五條でございましたか、にもありまするが、国際連合加盟国として日本申請する、そうしてその原則を守る、或いはその目的を守る。併し申請をしてもそれが国際連合加盟できない状態が、現に十五カ国でございましたか、現在申請しておりまするが、或いは拒否権によつてイタリーその他の五カ国の、今度の戰争での平和條約にもそれを謳つておるけれども現実においては今日まで加盟ができ上つていない。こういう具体的な事実もある次第で、從いまして少くともこの調印をいたしました四十八カ国はこの意味を十分了承しておつて、現在の国連憲章によりますると、その手続の問題において現在は拒否権の行使があつた場合にはなし得ない状態である。こういう現実状態がありまするから、全体的な問題としてはお話通りに進むべきものでありまするが、それができにくい状態になつておる点が現在国連の最も大きな一つの悩みであります。そういう状態で、從つてその精神を生かすためにイタリー等でもいろいろな方法を講じて、実際上の加盟というような行き方をとられてはおりますけれども、併し正式の加盟国としての行き方がとられ得ない状態ではないかと考えております。
  5. 曾禰益

    曾祢益君 只今の御答弁は私の質問に対する直接的な回答になつていないと思うんですが、私の言わんとするところは、只今外務次官からおつしやつたような、不幸にして国際連合加盟については拒否権濫用等から見て困難な状況がある。このことはイタリーとの講和條約のときには恐らく予想しておらなかつたその後の国際情勢の変化が、特にはつきり言えばソ連側拒否権濫用が初めとなりまして、折角連合国ソ連を加えた連合国イタリー国際連合加入のことを支持すると約束しておりながらそれができなくなつた問題は、日本もその問題に直面する可能性が不幸にしてある。この問題に如何に対処するかについては後ほど又政府の御見解を伺おうと思うんですが、私の言わんとするところはイタリーのときに予想していないような状態が起つたからこそ、却つて日本としてはこの困難打開に全連合国に対して、この対日平和條約に調印する国をしてかような問題打開のために、一つのまあ日本に対する誓約を取り附けて、直ちにできないにしても彼らを縛つてこの困難打開に向けるように、そういう困難が起つたからこそ、イタリーとの講和條約にあるような連合国側はつきりしたコミツタールをここで取り附けるようにするのが、日本の外交ではなかつたかということです。困難があるなら向うは最終的の責任を逃げる可能性が多い。だから逆に日本としてもこの点で縛つて、そうしてそれを利用して今後の日本国際連合加入等に関する国際連合側における運用上、或いは法規上の問題を有利に打開するような一つ足がかりをここに作るように、政府最後まで努力して欲しかつた、こういうことを申上げているわけなんです。
  6. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 御尤もでございます。ここへ一つにやはり国際連合加盟申請するというのも一つはその足がかりでありまするが、お話のように、具体的なもつとはつきりしたことになりますと、やはり国際連合憲章條文というようないろいろな問題が、まあこれは專門でよく御存じの通りに出て参る次第でございます。從いまして最近の国際連合動きも御承知のような動きをとつて来ていると存じます。かような拒否権による加盟拒否をしているというような態度に対する国際連合自身動きが強く出ているときでございますから、ここに加盟申請するということにおいても、日本意思表示をすると同時に、署名国がこれを承認するというところに一つの大きな足がかりを持つて来る、かように存じている次第でございます。
  7. 曾禰益

    曾祢益君 まあこれは結局見解は大体同じだと思うのでありまするが、遂にそこに至らなかつたことは非常に遺憾だと存じますが、そこで外務次官もすでにこの事態に対処して、然らばこの平和條約の條文を離れて、如何にしたらば日本国際連合加入ができるか。或いは国際連合加入に至る一つの過渡的な便法として、如何なる準メンバー的な取扱先例があり、或いは先例ができつつあるか。更には今後の国際連合総会動き等から、何らかこの新加入に関しては、安全保障理事会勧告がなくても、総会だけで取計らうような可能性があるかどうか。この問題について政府考えを伺いたいと思います。
  8. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは国際連合加盟したいという熱望は、ここにもありまする通りに、日本国民、又政府は強く要望いたしておる次第であります。どうしても独立後におきましては国際連合加盟するということが最も必要なことと思います。併し只今お話を申上げました通りに、又お話にありました通りに、現実の問題としては十五カ国ほどはすでに申請をしながらできないような状態であります。殊に今度の戰争においてのイタリーとの條約にも、このことを謳いながら、又署名国批准国承認をしながら、現実には国際連合加盟ができておらない。從つて最近イタリーにおきましては、只今お話にありました準加盟国というような立場における取扱を受け、又いたすために、常駐の使節団国際連合に派遣をいたしまして、又国際連合会議には場合によりましては、公式、或いは非公式、その他オブザーバー等を出しまして、殆んど同様な取扱を受けておる実情であると承知をいたしております。これは曾祢委員十分御承知通りであります。從いまして、幸いに多数の国々が日本加盟申請承認いたしておるのでありまするから、かような取扱日本は同様に取扱われることを強く熱望いたしております。又総会等におきましても、今回の第六回総会等においての動きも、この点については相当活溌に動いて来ることを予期しておる次第であります。
  9. 曾禰益

    曾祢益君 これは非常に法律問題ですから、場合によりましたら條約局長から御答弁下すつても結構なんですが、連合憲章解釈としては、総会が、やはり安保理事会勧告なしに、総会の決議によつて新規加入の問題を解決してしまう余地は全然ないと考えられるか。それともその点はまだ可能性ありと法律的に考えられるかについて、御意見を伺いたいと思います。
  10. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指摘の点は、国際連合総会でも取上げられたところでございます。連合国の一部から、第四條の解釈上、総会安全保障理事会勧告基ずいて決定するとあるが、仮に安全保障理事会勧告ノーという趣旨であつても、総会勧告に基けばよろしいのであつて勧告の結論に從わねばならぬという意味とは必ずしもとられないのであるから、ノーの場合でも三分の二の多数決で加入をさしてもよろしいという新らしい解釈論が出たのでありますが、総会内部でそれは成立いたしませんでした。今日までのところ、総会がへーグの国際司法裁判所に諮問いたしまして、安全保障理事会勧告をする場合に、第四條に規定しておる以外の條件にかからしてもいいかどうかという問題について意見を求めました。それに対して裁判所は、四条に規定してある條件以外の條件に、加盟申請承認をかからしてはならないとの意見を出しておるだけであります。併し裁判所意見は要するに諮問的意見でございますので、拘束力はございません。依然として常任理事国の一部は四條以外の條件にかからしておるのであります。言い換えれば、自分がサポートしておる国が加盟承認されることを條件として他の国の加盟に賛成するという態度でございます。加盟を容易にする問題は国際連合内部で真劍に討議され、難局を打開しようと努力されておりまするので、日本としては気長く国連それ自身の手によつて問題が解決されるのを待つほかなかろうかと考えます。
  11. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) ほかに御発言ございませんか。
  12. 一松政二

    一松政二君 私は條約局長からでよろしうございますが、この前文の後半に、「降伏後の日本国法制によつて作られはじめた安定及び福祉條件」から最後までのこれを、特に前文に謳わなければならなかつたいきさつを御説明が願いたいと思います。
  13. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御指摘の点は、日本が将来個人の基本的権利の尊重を基礎とする民主国家として行くことと、男女平等、完全雇用生活水準向上等を目標として行くものであるとの意思を明らかにし、連合国でこれを歓迎することを明らかにしたものでございます。この点が前文に入りましたことは、イタリー平和條約と御対照下されば御了解できるかと思います。イタリー平和條約によりますと、同じ趣旨のことが第二篇の政治條項の第一款に、第十五條、十六條、十七條の三カ條としてイタリーに対する條約上の義務として規定せられておるわけでございます。対日平和條約を作成するに当りまして、連合国は、日本の将来ののあり方について條約上の義務を課するようなことは一切避けまして、すべて日本国民自発的行動に待ち、これに対して信頼を置くとの精神に立つておるものであります。連合国としては、日本が新憲法で確立いたしております平和愛好民主主義国家で常にあることを期待いたしておりますが、この期待を條約上の義務として課することなく、一に日本自発的意思として了承して、それに信頼を置く形式をとつたものでございます。この点は日本平和條約のイタリー平和條約に比べて非常に違う点でございまして、我々としては、連合国がかような考え日本に対してくれたことを多とし、愉快に思う次第でございます。
  14. 一松政二

    一松政二君 私は何故に連合国側が、イタリーでは條約上の義務を課し、日本との平和條約においてこれは前文に入れてありますけれども前文に入れてあることそれ自身が相当重要な意義を持つておると思うのであります。然らば何故に連合国イタリー或いは日本に、仮に條約の義務とは謳わなくても、日本はすでに憲法で明示してある通り、その道を歩くことにきめておるものを、わざわざここにイタリーでは條約上の義務として課し、日本は自発的にせよ、こういう前文を挿入するようになつたか、その真意が那辺にあるかを一応條約局長は大よそ推察できるだろうと思うのでありますが、その辺の御説明が願いたいと思います。
  15. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) それは、前文の冒頭にありますように、連合国が今後日本世界の平和のために相互に協力する対等の盟邦として迎える気持を出すためにそうしたものと考えます。
  16. 一松政二

    一松政二君 私は只今問題にしておりまする前文の事柄は、日本憲法に規定し、日本もそれを努力することに方針は定まつてつて誠に結構ではございます。併しながら、吉田全権がサンフランシスコでもすでに述べられておる、日本はこの條約によつて全領土の四五%をその資源と共に喪失するのでありますから、八千四百万に及ぶ日本の人口は残りの地域に閉じ込められ云云と、かなり明白に日本現状を訴えておると思うのであります。而もその以前に、日本人すらもが若干その点について苦悩と憂慮を感ずることを否定できないのであります。と全権の文句もある次第でありまして、今後日本国際場裡に立つていわゆる貿易を営む場合に、必ず問題に上つて来る日本社会状態と、それから貿易上の競争において、この公私の貿易及び通商において国際的に承認された公正な慣行に從う意思を宣言すると、無論日本は公正な競争のつもりでやつて、これを重んずることは当然であります。併しながらこれは相手国のあることであつて相手国とかなりこういう問題が今後尾を引くと思うのであります。この点について日本生活向上を企図し、社会福祉を念願しなければならん。併しながら日本現状はどうであるか、果してこれ以上に賠償を取られて生活向上を図り得るか、そういう点についてはかなり問題が残つておるわけでありますが、こういうことを世界に訴えて、そうして日本現状を赤裸々に示して、そうして日本社会情勢から来る必然の結果として日本が、而も貿易を振興しなければならん、その価格が常に問題になつて来るだろうと思うのであります。そういうことを相手国から指摘されて、いわゆるソシアル・ダンピングとか、いろいろなことが国内国外において問題になつて来ると思うのでありますが、そういうことの問題にならないようにするためには、政府は不断の努力をして、国内にも国外にも、いわゆる国民にも或いは世界の人々にもこれを知つてもらつて日本のやつていることが決して不公正な、或いはソシアル・ダンピングでないというところの努力が私は必要であると思うのであります。この点に対して私は高橋通商産業大臣が、どういうお覚悟でいらつしやるか、伺いたいわけであります。
  17. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) ソシアル・ダンピングの問題がいろいろの方面で取上げられておりますが、私は現在そういう事実はないと信じておるのであります。なお、このやはり売込み競争などで多少ソシアル・ダンピングとは全然関係がなくても、安売りであろうかというようなものも出て来るわけですから、そういうものはいろいろの方面で取締つておりますが、今一松さんの御意見の、世界に向つて日本は公正な商売をしておるので、決してソシアル・ダンピングなどをやるのではないというようなことを、機会があるごとに、日本から説明をするということが必要でないかというお言葉は私は非常に同感に存ずるのであります。全く御同感で、そういうふうに私は進んで行きたいと存じます。
  18. 一松政二

    一松政二君 私は労働大臣がお見えになりましたから、労働大臣にも一応伺つておきたいと思うのであります。つまり皆さんみな御承知通り日本の国情でありますから、いわゆる日本は全体に考えて、私は極くくだけた言葉で言えば、貧乏人子だくさんであろうと思うのであります。貧乏人子だくさん状態にある日本国生活水準というものは、およそ私は多少高低はあるにいたしましても、おしなべて大よそ想像がつくわけであります。ところが敗戰後日本において、いわゆる民主化という言葉が殆んどすべての方面を風靡しておつて、そうして何か、民主国になるというと、まあ国民の間にはいろいろなでこぼこと、それから階級的に見て多少の上つたほうと下つたほうとあるわけでありますが、併し日本の全体から考えてみると、日本生活水準戰前に戻す、或いは戰前の何割ということは、私は言うべくしてなかなか容易なことじやないと思うのです。從つて日本生活水準から来る国際上の貿易上の競争は必然的に物を安く生産するよりほかに途がない。殊に日本の物価が高いということが問題になつておるわけであります。そのことで日本資本の蓄積もなく設備も悪い、あるものは労働力だけ、而も労働力は過剩にある。そういう状態において日本生活を営んで行かなければならん現状なわけであります。でありますから、安定と福祉を希うことは、これは殆んど皆如何なる国民といえどもこれは希わざる者はないと思うのでありますが、この間もこの條約委員会において加納久朗君がドイツの例を引いておりました。我々は戰前生活水準を維持しようとすれば、私は戰前より非常に心がけを新たにしてたくさん働く、能率をよく働く以外に日本を再建する途はなかろうと思うわけであります。でありますけれども、今度はいろいろないわゆる労働三法と申しますか、かなり進んだ労働のいろいろな法律作つておりまして、そうしてその点から国内にもいろいろ議論があると思いますが、そういうことをこれが改正を要望するものもあるし、或いは労働基準法についていろいろな問題もありますが、そういうことがこの前文とかなり関連を持つて来ると思うのであります。で、その点について日本が從前よりも、戰前よりもおしなべて多く働く以外に日本生活向上し得る途はないのだと、無論設備の問題もあるし、資本の問題もありますけれども、これもかなり日本は遅れておるし、いたんでおる。そうして世界競争せなきやならん。そういう状態において日本国民心がまえについて私はどういうふうに考えればいいのか、そういうことを国民に私はかなり自覚してもらわなければならんことがたくさんあると思うのでありますが、これに対して労働大臣はどういうふうにお考えになり、且つそういうことをお努めになるつもりであるか、その御意見のほどを伺いたいのであります。
  19. 保利茂

    国務大臣保利茂君) お答え申します。今日の労働立法が目指しておりますところは、どこまでも働く人たちの働く條件世界的な水準に持つて行くように、それを維持するようにという建前で今日の立法が行われておるのであります。いろいろの議論はございますけれども、この建前政府として後退するという考えは毛頭持たないのでございますが、一松委員の仰せのごとく、例えば労働基準法の問題にいたしましても、これは日本における一流の事業場等を拜見いたしましても、先進諸国事業場等を聞きましても、八時間労働ならば八時間労働のその労働量というものは、まあいわば息もつかせぬような状態において労働が行われておる。從つてさようなところにおいて長時間労働がきつく制限せられなければならんということは、もう当然の、労働保護の上から言つても当然のことであろうと存じます。飜つて日本実情を見まするのに、相当進歩した事業場においてはそういう事例を直接目撃するのでございまして、從つてこの最高水準を行く日本労働立法を維持して参りますということは、同時にそれに応えるところの勤労者心がまえというものも、飽くまでこの法律を受取るだけの労働態勢といいますか、心がまえが必要であろうと、それなくしてただ法律だけを作つて、その上に坐して行くという考えでは、私は日本の経済というものは到底立つて行くことはできないというようには考えますけれども、併しながらかようなことは一朝一夕でできることではございません。飽くまでこの勤労精神を旺盛ならしめる諸般の措置というものが時間的にも必要でございましようし、又国民全体のこれに対するところの心がまえ、自覚というものも必要であろうと思います。從いまして今日制定せられておりますところの労働各法はいろいろ議論はございますけれども、その世界的の水準を維持して行こうとする全国民的理想は飽くまでこれを保持して参りたい、こう考えておる次第でございます。
  20. 一松政二

    一松政二君 労働大臣の御趣旨はよくわかる、私もさようにあつて欲しいと思いますが、事実は必ずしもなかなか今労働大臣も言われたように、私は八時間労働が別に少いとか、八時間労働を十時間にしろとかいうやぼなことを私も申上げたくないのです。ただ時間と労働の分量、或いはその精神が非常に違うわけでありまして、労働大臣も今アメリカの、或いは先進諸国の例を引かれておりますが、誠にさようでありまして、私は国民心がまえ、特にこの法の保護はよろしいけれども、法の保護に値するだけの一方の心がまえがなくて法の保護だけがあるという場合には、私はともすれば、その法律言葉飾らずに赤裸々に言えば、場合によつたら悪用される危險がある、働かんでも、甚だしいときには、片山内閣のときに、京都で憲法に保障してあるから、総理大臣生活を保障しておるのにどうして食わしてくれんかという訴訟をした人があると言つて、当時の水谷商工大臣が私ども委員会に来て笑つておられたことがありましたが、そういう人も出て来るわけであります。いわんや、今後平和條約が成立して日本競争場裡に立つて行く場合に、日本労働力は私は決して安いとは私は思わん、日本の労銀は能率の点から言つて決して安くない、これは私どもがまだ学生であつた時代に私はそういうことを聞かされておつたのでありまして、今日でも私はかなり場合によつてはそういうことがあるかも知れませんが、大体において労銀は安くない、日本の機械化なり設備が進んでおりませんから、かなり高くついておるわけでありますが、とにかくそれがチープ・レーバーという名前の下にソシアル・ダンピングという問題が起つて来るわけであります。そこに通産大臣にいたされましても、又労働大臣におかれましても、その自分の所管事項について先手を打つて、私はそういうことを国の中にも外にも、特に私は労働大臣においては内にそういうことの私は心がまえを強調して欲しいと思うのであります。  以上の希望を以ちまして、私のこの前文に対する質疑を打切ります。
  21. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 今ちよつと私ほかの委員会へ参つておりましたので、一松委員がどういうふうなところからお話になりましたのか、全部は承わりませんが、何と申しますか、この前文を我々が読みまして、先ず考えられますことは、やはりここに書いてあります、日本国法制によつて作られはじめた安定及び福祉條件日本国内に創造するために努力して参らなければならん、又国際連合憲章の五十五條及び五十六條に定められたものに対しまして、我々が国際的に責任を負うというふうなことになつて参るのですが、私は特に今一松君の言われた労働問題について更に念を押しておかなければならない責任を感じておるのであります。細かいことは労働委員会で申上げたいと思いますが、本委員会におきましても、総理が、チープ・レーバーということがです、日本の国のチープ・マネーと不可分の、密接不離の関係にあるようにして、そしてチープ・レーバーを肯定されるがごとき言辞があつたので、特に私は御質問いたしたいと思うのであります。今労働問題でよく言われますことは、労働三法を初め、労働各種の法制国際水準にあるということを言われ、そうしてリツジウエイ声明に基きまして、実情に合わないということからすべての問題が検討されると、こういうふうな形なんでありますが、この実情問題というものがですね、頗る何と申しますか、意味があるんであります。実情実情の名に隠れて、とかく反動的な方向に向わんとする傾向なきにしもあらず、これは私の断定ではなしに、現に国際労働会議等におきまして、最近の吉田内閣の傾向が、或いはこの終戰後始められました新らしい民主主義の傾向に反するのではなかろうかという疑いすら持つてつたということの事実を以てしても、その傾向が必ずしも私の断定でない、こういうことが言い得ると思うのであります。そういう意味から、私に言わせれば、今丁度一松委員の言われましたように、労働大臣としては、先ほどの御答弁のように新らしい民主主義の下に、終戰後日本が歩んで参りましたこの国民的な理想というものは飽くまでも棄てられないというふうな点が強く政策面に現われて参りませんと、とかく何と申しますか、違つた、逆な方向に参り勝ちであるということを感ぜざるを得ないのであります。特に労働大臣として御注意を願いたいことは、労働省の機能的なものが非常に限局された、專門的な労働問題に限られるような傾向がありやしないか。労働問題が全日本産業の基盤的なもので、すべての産業、経済の問題全般の重要なポイントをなしておるという認識の下に立つて吉田内閣の政策というものが果して行われておるんだろうか。外国においては、為替問題をきめることすら、労働者の生活をどこへ持つて行くかということから審議されておる。ところが今の内閣全体の行政の方針を、行政の動きを見ますと、およそ経済、産業の問題は別個の問題になつて労働大臣がどこまで御指導になつておるかということについて、    〔委員長退席、理事一松政二委員長席に着く〕 私は頗る疑いを懷くような全体の行政の動きでなかろうか。そういう問題から考えますと、ただ実情というあるがままの姿で参りますると、とかくこれが違つた方向に参る傾向がある。で、例えば一例を申上げますると、日本の物価が高い、そしてそれは国際水準を上廻つておる、その国際水準を上廻つて参りましたことは、国際的な価格の騰貴ということも一つあります、併しながら、と同時に中共貿易が杜絶して、原材料を遠隔の地から求めなければならない。で、船賃だけでも、ものによりましては原価に相当するくらいの船賃を、近間の中共その他の貿易において得たものよりは更に高いものになつて来ておる。そうすると、これを国際価格に鞘寄せするということが内閣の方針でありますが、そうなると、そこに、どこにその価格のしわ寄せが生まれるかということになつて参りますると、これは当然今までの実情に副わないというふうな観念の頭の持主であつたら、労銀の占むる割合というものの所へしわ寄せが参るにきまつている。もう材料のまま、そのままきまつて来る。あと生産費の相当部分を占めまする労働問題にしわ寄せが参るということがよく行われる。で、この問題は私は非常に注意しなければならない問題だと、こういうふうに考える。労働者の賃金の問題のみならず、労働者の福祉の問題、すべての労働條件にかかつて来て、賃金問題その他の労働條件にみんなしわ寄せされて来るという心配があるわけであります。そうすると、ここで一体、他方の労働者以外の政府なり、経営者は何をしなければならないか、政府なり経営者はです、そういう労働者の福祉に関係する新らしい意欲を、努力を重ねないで、現状のままで以て労働賃金の高いことを言い勝ちなんです。経営者自身がみずから経営の合理化について努力するのは当然のこと、政府の通産大臣なり、大蔵大臣のやつておりますところのです、金融だとか、産業の面におきます政策が労働賃金から、賃金及び労働條件にですね、如何なるように積極的な努力がされなければならないか、そういう点は、労働大臣が本当に労働者の味方になつて、その努力をなすつた上でなければです、実情に副わないということで、労働條件に持つて行くわけには行くまい。果して政府が、政府なり経営者なり資本家なりがです、そういうふうな点についてできるだけの努力を拂つてです、なお且つ実情に副わないかどうかというふうな問題をお考え願わなければならない問題だ、このバランスが合わないままにどうも労働條件実情に副わない、こういうふうな態度では私は、この條約を本当に、本当にです、施行して行く日本国際的な義務が遂行されないと、こう思うのであります。中でも特に例を挙げて申しますと、労働大臣の非常なお骨折で、婦人少年局の存置でありますとか、その他の問題は一応きまつておるようであります。併しながらなおまだこの婦人少年の労働問題についてはもやもやしたものが残つていないとは言えない。日本労働問題のうち一番国際的の問題になりますことの一つは、やはり少年労働、婦人労働労働條件の問題だ、日本実情から見まするとです、先ほど労働大臣も言われましたように、法制があつても実際は、実情から言いますと、まだまだ理想に到達すること甚だ遠いものがあるというふうに私は考えるわけであります。労働省の労働基準監督局の機構も減らされる、無論ある程度の行政整理のおつき合いがあつていいかということを考えますと、実際労働基準局では現在一番大切なこういう中小企業、全体の国の問題として労働問題が現実の問題として現われて来るのは中小企業ですが、こういう婦人、少年労働問題、中小企業の労働問題等は、実情としてどうお考えなつつて国際水準まで行つていない。併し何とか或る程度努力しなければならん責任がある。そこを埋めようとしないで、実情に合わないんだということだけで、埋める努力が精一ぱい出て来ておるのならいいのですが、しないで実情に合わないのだ、こういうふうなことにとかくなり勝ちである。今後実は労働省が労働三法を改正される、これは労働大臣としては責任は負わないかも知れませんが、こういうことすら、あの労働三法を改正されるもとのところには、こういうことすら出ているわけです。労働法を改正するのは、從来GHQという一つの法外の実力があつた。それに頼つて労働最後の平和が保たれた。この圧力がなくなると、何とか法制的に考えなくちやならないのではなかろうかということが一つ挙げられております。労働省の三法改正の理由に、これは私はこういうことが挙げられるようじや実は困つたものだ、そういう圧力がなしにお互いにあの新らしい民主主義の方向というものが守られて行かなければならない。幸いに三法については労働大臣も私の意見を容れられたのか、労働大臣自身の頭が私の頭より進歩的であつたのでおとりになつたのか、それは別といたしまして、非常に改正についても愼重を期せられた。私どもがそう言つちや悪いのですが、幾分邪推よりも進歩的の方向へ動いております。(笑声)労働大臣は、全体の政治なり、行政の動き方を見ますと、よほど御決心をなさらないと、今までの個々の問題で起つて来ましたものを一例として挙げましたが、そういう問題でもときどき反動的な、そうして新らしい條約の方向に向つて行こうとする努力が消されてしまう傾向になりやしないか。この條約の批准に当つて労働大臣が積極的に十分に新らしい労働行政を国政全般の上から是非指導されなければならないし、その御決心がございましようか、その御決心を承わりたい、こういう意味におきまして、私、御質問申上げた次第であります。
  22. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 別の席でも堀木委員からはしばしば只今のような御注意を頂いて参つております。全般の上から、日本労働保護について労働大臣が国政全般の上にそれを反映するように行かなければ、法律はできておつてもそれは何にもならないのだという御注意は全くその通りでございまして、これは、それが十分参つていないと御覽になれば、私の力の及ばざるところでございまして、その点は非常に遺憾に思う次第であります。結局この法律は、労働各法の狙つているところもございます。国民全体が今後狙つて行こうとするところも、私は同じものだ、結局は日本国民生活が全体として改善せられて行くように、向上して行くように持つて行かなければならない。その上から行きますと、極端に申上げますならば、労働者の生活向上して行くということ、即ち全国民生活が改善せられて行くということと全く同じことであろうと、そういう意味から行きまして、保護立法は、これを後退させるようなことでは無論相成らん併し法律だけでこれは問題が片付くものではございませんので、先ほど一松委員からお話のように、労働自身のほうにおいても、みずからの手によつてこの保護立法をかちとり、そして生活向上を求めて行くという心がまえが旺盛に湧き出て来たときに、国民的な希望が達成せられて行く、そういう線からすべての問題を処理して行きたい、こう考えておるわけであります。一、二の例がございましたが、婦人、年少者の保護の問題もまだ十分ではないこともその通りでございましよう。併しながら今日は、例えば年少者の保護を、法律を以て実際現実にどういう事態が起きておるか、実際この保護の目的を達して、法律考えているところの保護の目的が達せられておるかどうか、法律考えている以外に事態が起きておるところはないかというところを見ますと、例えば義務教育を終りまして十八歳になるまでいろいろの保護制限を加えておるために、非常な就職上の制限を受けるとか、その人のみならずその一家の不幸を招いておる。或いは就職制限、事実上の就職の機会がないために、而も就職をいたしたいという希望を持ちながらも、その間を非常な大事な、人生の最も大事な成長期をとんでもない方向に行つて、一家の不幸を招いておるという事例も、これは見てやる必要があるのじやないか、そういう点も考えつつ、只今これは堀木委員の有力な御注意によりまして、労働法の扱い方はこれは御了承項いておると思いますが、只今それぞれ審議会で御研究を願つておるわけであります。その間、私のほうからこうやつてもらいたい、ああやつてもらいたいという御注文を何も出していないわけであります。広く関係識者の意見がまとまりますれば、総合して具体案を提示したい、その上で一つ十分御議論を願つてというように思つておる次第であります。併し御注意の決心のほどは如何ということにつきましては、十分御注意を守つて行くつもりであります。
  23. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 余り申上げませんが、実はこの條約を受諾するに当つては、是非労働大臣としては国政全体が積極的にこういう方向に行くことを、特に内外にわかるような状況について、わかるような状態において労働政策をはつきりさして頂くということが私は必要だと思う。とかく今一般に受けております感じは、実情に副わないという点から反対の方向に向きやしないか。これが国内的事情ならば、国内的にだけ見られておるならばいいが、国際的にこれが見られておるから特に申上げるのであります。無論労働大臣言葉尻を決して捉えるつもりじやございませんが、先ほど年少者の就幟制限の問題でも、それ自体成るほどできないために家族が差当りの生計費を得られない、家族が生活に困るというような問題もありましようが、それも労働省の視野だけでお取上げにならないで、広く社会政策的な面から、社会福祉的な面からお取上げになると又違つた考え方ができるのであります。ところが今は、巷間に論議されるときには、常に労働問題が小さな労働の視野に捉われて、こういう心配があるから改正しようとすぐ行くことは、決して労働大臣がそういうおつもりで例としてお挙げになつたのじやないと思つておりますから、この問題について特にどうのこうのと取上げて申上げるつもりはありませんが、先ほど私が縷々申上げましたことは、そういう趣旨を申上げたのでありますから、御了承を願いたいと思います。そして積極的に條約受諾に当つて労働行政の基本的方策を世界が納得するように、むしろ御闡明になる御用意すらあつて然るべきものだ、こういうふうに考えておるのであります。
  24. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 御承知のように、日本労働各法が相当世界的に本来認められる程度の労働立法が行われ、而うして労働政策自体としては、先日も本会議で申上げましたように、制度自体としては、そう世界の多数の国々に比して遜色のない制度が実際行われておる。併しながら、そういうことが現実日本の制度となつており、立法となつておるということに対する世界的認識は、私は実際遺憾ながら少いのではないかと考えておる。これはこういう占領という状態に置かれて国際宣伝と申しますか、合法的な措置が全然とれなかつたところにも原因していると存じますが、只今国会にお願いいたしております国際労働機関加入が認められるということになりますれば、いわゆるILOを通じまして、日本労働政策の実情というものをよく世界の人々に認識して頂けるような方途も講ぜられましようし、又ジユネーヴの在外事務所にも、特に労働省から一人出て行つて頂くように外務省のほうとも話を付けまして、只今手続を進めておるわけでございます。そういうことで国際的に、かなり宣伝の立遅れと申しますか、そういう点は、これはもう十分認めないわけに参りませんから、これは政府と言わず、国全体としても少し強く手を打つて行かなければならんのではないかというふうに考えて、そういう処置をとつて参りたいと考える次第であります。
  25. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 今の問題に関連して……。只今保利労働大臣からILO加入の問題が出ましたので、この際、念のためにお伺いしておきたいと思います。勿論我々といたしましては、日本が一日も早くILOに参加いたしまして、今保利労働大臣の述べられましたように、日本労働三法の施行等が世界に遅れておらないということが実際でありましたならば、それを世界に闡明することは誠に必要であろうと思うのでありますが、本年ILOの会議が開かれました際に、オヴザーバーといたしまして、日本からもそれぞれ代表が列席いたしたのであります。そのILOの会議におきまして、日本労働三法の改正問題等につきまして大分議論があり、そうしてそれについて日本政府代表に対していろいろ質問があつたそうであります。その際に日本政府代表は、このILOの会議におきまして、労働三法は改正しないということを発言されたということを聞いているのであります。これは真実であるかどうか。又そのILOにおいて、政府代表が今列国の代表の前で言いましたことを日本としては守つて行くつもりであるか、この点について保利労働大臣にお伺いいたしたいと思います。
  26. 保利茂

    国務大臣保利茂君) お答えいたします。この問題はいつかも、前国会のときに申上げたと思いますが、先般の総会に、国会の承認があつた曉においては、日本政府はILOに加盟したいという申請をいたし、そうしてそれが選考委員会でございますか、審査委員会でございますか、少数の委員会で審議をせられましたときに、政府の代表がいろいろ質問を受けまして、そのときにイギリスの労働組合の代表からそういう御質問があつたのであります。この席にもその席に出ておりました代表の人がおりますが、政府代表が申しておりますことは、労働法の改正については何らの政府は成案を持つていないということを申上げているようでございます。そういう報告をいたされました。
  27. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 大体、大橋法務総裁お急ぎの様子にちよつと見たのですが、団体等規正令につきましては、羽仁君が詳しくお聞きするはずなんでありまして、私お聞きしようかと思いましたけれども、羽仁さんの質問がここに集中するのではないかと思いますから、御遠慮いたします。ただ私として一点法務総裁に是非ここで伺いたいと思いますことは、今労働大臣に申上げましたこの問題から見まして、今お手許にありますと申しますか、もうすぐお出しになるのかも知れませんが、お手許にありまするところのいわゆるゼネスト禁止に関連いたしますところのもの、及び団体等規正令をこの條約受諾の精神からおやりになるのか、規定されるか。こういうような十分な御決心の下に諸法案が出ていますかどうか。私はその基本的な態度だけを一つお聞きしまして、細かいことは又他の委員会なり、羽仁君の質問に讓りたいと思います。
  28. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 平和條約の発効に伴いまして、從来国内におきまして、ポツダム政令によつて処理せられておりましたいろいろな法規を、国内憲法によりまする法律に切替える問題があるわけでございまして、これらの問題につきましては、今各省におかれまして、それぞれ御研究を願つておる状況でございまして、これらの法規のうちそのまま存続すべきもの、或いは修正の上存続すべきもの、或いは廃止すべきもの、大よそ三種に区分されると思いまするが、これらを如何なる考えで検討いたしておるか、もとよりこれは我が国の民主化並びに平和條約の前文に盛られたところの趣旨に沿うような線においていたしたいと、私としては考えておる次第でございます。
  29. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私は率直に申上げますと、今日は余り細かいことは入りたくございませんので、もう細かくは入りませんが、実は言うは易く行うは難しということを実に痛感いたしますし、いろいろと実例的に挙げますと、又長くなりますのでやめますが、ともかくもここでこの條約を受諾するに当つては、内閣として基本的な考え方を是非積極的にここに求めるという態度で行つて頂きたい。この條約を批准いたしますと申しますか、批准の前にいたしましても、この批准をするという考え方から見ますると、これが基本的な日本の国の政治の方向であらねばならん。その積極性が常にどの問題にも現われて参らなくちやならない。こういうことで、大橋法務総裁はなかなか答弁は練達堪能の士でありますから、やりとりはいたしませんが、むしろ積極的に大橋総裁みずからこの條約を受諾せられるということに当つての、お口だけでなしに、実際に今後現わして頂きたいということをお願いして、私の質問をやめたいと思います。
  30. 岡田宗司

    ○岡田宗司君 先ほど保利労働大臣のお答えがあつたのでありますが、どうも保利労働大臣のお答えは余り明瞭に意味が理解できなかつたのであります。ILOにおきましては、明らかに政府代表は労働三法は変えないということを言つたというふうに伝えられておるのでありますが、どうも保利労働大臣の今の御説明は極めてそれがぼかされておるように思われるのであります。若しそういうふうに政府代表がILOの会議において質問に答え、そうして今日労働三法のいろいろな改正が進むといたしますならば、今後ILOに日本が参加いたしましてから、政府自体がこの問題のために非常に非難を受ける、そうして保利労働大臣考えておられるのと逆な効果をむしろ来たして、日本労働法を改悪し、平和條約に調印した精神に逆行するということを逆に世界に宣伝する結果になるのではないかと私は恐れるのであります。從いまして政府といたしましては、この点について労働法を改正しないのであるということをもつと、むしろはつきりと、この際言明せられまして、そうして日本におけるところの労働者の待遇に対する水準を、世界的な水準を維持して行かなければならないものであるということを政府みずからこれを世界に闡明するということが必要ではないかと思うのでありますが、その点について保利労働大臣の御見解を承わりたいと思います。
  31. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 私はあいまいにぼかす意思も何もございませんので、報告を受けておる通りに申上げておるのであります。要するに労働法の改正について政府は何か持つておるか、そういう成案はございませんという、やりとりはあつたということを聞いておるに過ぎないわけであります。併しながらこの日本労働政策或いは労働立法のあり方について、世界の誤解を受けないように心遣いをしなければならんということは、これはまさに御注意の通りでございます。併しながら法律を改正するからどう、改正しないからどうといつたものじやないと私は思う。改正すべき必要のあるところは、これは当然改正して行くのが私は筋であろうと思います。從いましてこの法律を改正しないという言明を私はこの機会にいたす気持は毛頭ございません。
  32. 岡本愛祐

    ○岡本愛祐君 堀木委員の御質問に関連して大橋法務総裁に御質問いたしたいと思います。今ポツダム政令の質問が出ましたときに、ポツダム政令はこの平和條約の発効後そのまま残るものと、少しその内容を変えるものと、全然廃止するものとがある、こういうふうな御答弁であつたように思うのであります。併しそれはおかしいのじやないか。そのおつしやることがポツダム政令としては残らないで、その内容そのままがほかの法律で残る、こういう御意味であるのかどうか。ポツダム政令というものは平和條約ができますれば、そういう形のものはなくなるのではないか。こういうふうに思うのですが、その点をはつきりいたして頂きたいと思います。
  33. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 岡本委員の御質問にお答えいたします。先ほど堀木委員に対する私の答弁が十分でなかつたので誤解を生じやすいと思いますので申上げますが、政府といたしましては、講和條約の発効と同時に、現在ポツダム政令の基本をなしておりまする昭和二十年の緊急勅令は廃止をいたしたいと考えております。これは法律を要することでありますから、当然法律で廃止をすべきものと思います。次にこの緊急勅令に基いて今日まで制定せられておりまする命令といたしましての政令が約百件、ほかに省令が約五十数件に上つております。これらの省令並びに政令につきましては、講和條約発効後におきまして、その内容となつております実資が今後の我が国として必要がない。從つてかような法規は、如何なる形においても不要であるというものがあるのでありまして、これは廃止をいたしたいと考えます。それからこの廃止につきましても、これを自然消滅という考え方でなく、法律によつてはつきり廃止を明らかにいたします。それから存続いたすべきものは、これはそのままの形で存続するということなく、そのままの内容を持ちましたる法律として存続をいたすのであります。それから修正いたすべきものは、当然個々のポ政令につきまして、それに該当し得る改正法律案を出して御審議を願う、こういう考え方をいたしております。
  34. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この前文との関連におきまして、時間の関係から最初に労働大臣に伺いたいと思うのでありますが、先ほどから御質問もありましたが、要するに日本の民主主義を守るということが、この講和條約の根本でありますが、その民主主義を守るということが、いわゆるリツプ・サービスというものでないとするならば、先ず第一に何と言つても人間らしい生活、働く人々に人間らしい生活を保障するということがなければならない。それで、さつき一松委員から、日本貧乏人子だくさんだということを言つておられましたが、日本が多くの植民地を持つて、そして必ずしも貧乏国ではなかつた時代、世界のいずれの国よりも充実した軍備を持つていた時代にも、日本の勤労階級というものは必ずしも人間らしい生活をしていたわけじやないのであります。從つて貧乏だから勤労階級に人間らしい生活をさせることができないというようなお考え労働大臣がおられるかどうか、先ずこの点を伺いたいと思います。
  35. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 日本の国全体が貧乏だから、貧乏人生活でない生活ができるか(笑声)ということは、私ちよつと無理じやないかと思います。
  36. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 労働大臣は曾つて新聞界にもおられて、そういう点において社会的良心のない人じやないと私は思うのですが、例えばこの部屋を眺めて見ましても、ここにかかつているこの立派な額、こういう時代の日本労働階級がどういう待遇を受けていたか、世界のいわゆる富んでいる国が、必ずしも労働階級の生活を保障しているわけじやないし、貧しい国だからと言つて労働階級の生活を保障できないということはない。よく引用される例に、乏しきを憂えず、等しからざるを憂うということが言われております。そういう意味で、現在、殊に最近の或いはケインズの説であるとか、或いは完全雇用の説であるとか……。近代の資本主義の立場に立つものとしてのプライべートな資本の立場というものに立つて、現代の経済を建設できるものでない。どうしても社会資本の見地の上に立たなければ経済の再建というものはできるものではない。又どれほど困難があろうとも、完全雇用の遂に立つて行くよりほかに、国内市場の充実を全うすることはできない、從つてこの大衆の生活向上の上に健全な産業を発達することはできないというような、最近の思想の進歩については、まさか保利労働大臣は全く無知でおられるのじやないだろうと思うのです。然るに最近、本会議或いはその他の機会にお答えになる答弁を伺つても、全くそうした現代の労働に対する考え方というものの上に立脚して、そうして良心と責任に基いて答弁しておられるのか、それともいわゆる日本のこの敗戰以前の、いわゆる帝国主義時代の大臣の議会答弁みたいなことをしておられるのか、甚だ疑わしいと思える場合が少くないのであります。議会をただ言葉で通つて行けばいいということのお考えにはまさかなつていないと思うのです。殊にこの国家の運命を決定する平和條締結に際して、日本労働問題についての最高の責任を持つておられるあなたが、ここで先ず第一にその点について、どういう決意と、どういう理論とを持つておられるかを伺いたいと思うのであります。
  37. 保利茂

    国務大臣保利茂君) お答えいたします。本会議その他で申上げますことは、決してその場逃れで私申上げておるつもりではございません。心にもないことは私は申上げられないものでございますから、從つて御批判は十分に頂かなければならないと思つております。ただ恐らく御質問の御趣意は、私もよくわかるわけでございます。即ち世界の強国となつておりました戰前の充実した日本の下においても、労働階級の生活状態というものはああいうふうでなかつたかという点については、全く同感でございます。即ち旧日本国民生活というものは、旧日本のこの国民生活の実際はかなりちぐはぐな状態にあつたのじやないか。即ち国力の相当大部分をいわゆる軍備充実のために、即ち強国として列するために、軍備充実のために、非常な大きな物心両面の国力をそこに注いだ。これが新らしい新日本のあり方としては、飽くまでも国民生活それ自体を充実向上さして、そうして世界の平和に貢献して行くようにしなければならないという考え方の上に立つておると思いますから、從つて新らしい憲法建前、即ち今後の日本建前といたしましては、国民生活の改善充実ということが第一の狙い、それによつて世界の平和に貢献して行くということになろう。その点は恐らく羽仁委員と同じだろうと私は思うのです。そういう考え方の上に立つて進めて参りたい。こういう考えを持つております。
  38. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 もう少しはつきりしたことを労働大臣としてはおつしやれるのじやないかと思うのですが、少くとも今御答弁頂いた点だけからでも、国民生活向上ということが第一だという、殊に労働大臣としては日本労働者の生活向上ということが第一だという御答弁だと伺つてよろしいのでしようか。
  39. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 私はそう考えております。
  40. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そこで具体的な問題について伺いたいのですが、占領中に日本労働政策はノルマルな状態で行われたのではないということは、言うまでもないことだと思います。その中でも最も重大な問題は、国家公務員の争議権、団体交渉権というものを制限してあるということであります。これは当時、よく御承知のように、対日理事会において英連邦を代表しておられたパトリツクシヨー・オーストラリア代表が、日本占領最高司令官が日本のゼネラル・ストライキ、或いは公務員の争議というものをその命令によつて阻止されるということを自分は批判する立場には置かれていない。併しながら労働階級のこの基本的な権利を長期に亘り法律を以て制限するということは、自分としては納得できない。自分としてはと言つて、あのときパトリツクシヨー・オーストラリア代表は非常に高い地位におられるにかかわらず、自分自身を指して、現在の保利労働大臣と同じくらいの地位におられる自分を指して、自分は国家の公務員であると同時に、労働組合の組合員であるということを自覚しておるということを対日理事会の席上で述べられた。よもやこのことは保利労働大臣はお忘れないだろうと思います。これが占領が解けて、日本が占領政策の下にない、この平和條約が締結されるならば、私はこの問題は日本労働大臣として先ず第一に解決すべき問題じやないかと思う。必ずやすでに御研究になつておることと思う。どういうふうに御研究になり、現在どういう結論に到達せられておるか、それを伺いたいと思います。
  41. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 現在の国家公務員法についていろいろ意見のあられるかたもございましようけれども政府当局といたしましては、国民全体の奉仕者であられる公務員の諸公のあり方としては、現在の公務員法を改正する考えは持ちません。
  42. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 どういう理論上の根拠によつてそういうお考えなんですか、それを伺いたいのです。するとかしないという独断的な判断だけを伺おうとしておるのじやない。我々国会議員として伺いたいのは、如何なる理論上の根拠に基いてそういう断定に到達されたかということを伺いたい。
  43. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 国民全体の奉仕者であるという、その公務員の性格からいたしまして、今日の国家公務員法をそのまま活かしておくということに考えておるわけであります。而してこのことは、国際労働條約から見ましても、必ずしも不適当ではないと考えております。
  44. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この、さつき述べました当時の英連邦代表がその演説の中に、公務員に対して極東委員会日本労働組合に対する勧告原則というものが適用されないということは理解できないと言つておられますが、その点についてはどうですか。……それでは委員長、その問題についてもう少ししつかりした御意見を伺いたいと思いますが、時間の御都合もおありになるそうですから、厚生大臣に質問したいと思います。厚生大臣に向つて伺いたいのは、平和條約と安全保障條約というものは、実際我々の良心に基いて審議されるためには、さつきも申しましたように、單なる恥ずべきリツプ・サービスというものではない。日本国民生活が平和的に、民主的に行くというためにはどうしても……、政府は頻りに外部からの脅威ということを実に口ぎたない言葉で以てたびたび繰返されておりますが、外部からの脅威よりも、先ず我々考えなければならんことは、ソ連はどういう国である、中国はどういう国であると、日本は現在批評する立場にないのです。事実それに降伏しておいて、降伏した頭を上げもしないうちから相手国に向かつて批評をするということよりも、我々として考えなければならないことは、日本国内の問題において民主主義の敵が解消されておるかどうかということに全力を挙げたらよい。ノ連が侵略でやるかどうかはソ連のほうの責任の問題である。ところが、徒らに赤色脅威であるとか、無責任な侵略であるとか、アメリカがそういうことを言われるのを我我は批評する資格はない。それを口真似をして、まるでアメリカの條約局長か、アメリカの閣僚であるかのごとき言辞を弄して、ソ連、中国を批評しておる。実に聞き苦しい。それよりも我我日本国民としてやらなければならないことは、日本国自身果して民主主義を建設しつつあるかどうか。これは講和会議でもフイリピンが言われたように、日本が今民主主義化したと言つておる国は世界一つもないということを申しております。そういうふうに言われておりながら、日本の民主主義はすでに完成したということを日本自身として言えるかどうか。その点で最近社会保障制度審議会が政府に向つて勧告をされましたが、この勧告に対して厚生大臣は直ちにこれを受諾するという決意を持つておられるのか。それを伺いたいと思います。
  45. 橋本龍伍

    国務大臣(橋本龍伍君) 御議論の点につきましては、いろいろな意見があると思いますが、政府といたしまして、外部の脅威は存在いたしておりまするし、それだけに又内部の民心の安定統一ということは、非常に大事なことだと考えております。労働大臣からも民心の安定が非常に大切なことだと言われましたが、私も自分の所管の面を通じまして、又その他の面から言いましても、生活の安定向上というために、生産力の増強といつたような積極的な面と、それからもう一つ社会福祉の諸施設の充実という面から、両方立つて行かなければならんということを常々痛感をいたしております。只今社会保障制度審議会の勧告についてお話がございましたが、御指摘のありました分は、昨年の勧告ではなくて、今年の勧告であろうと思います。昨年の勧告につきましては、あれは新規に約八百億ばかりの財源を要します部分につきまして、即時全面実施をしろという要望でございました。これはなかなかむずかしい問題でございまして、昨年以来、日本の現存の社会保障の諸制度のいろいろの面で、或いは結核対策でありますとか、或いは国民健康保險の医療費の全額国庫負担でありますとか、或いは社会福祉事務所の問題でありますとか、いろいろの面をできるだけ実行いたして参りました。今回、この夏以来社会保障制度審議会において討議をせられまして、その間において昨年の社会保障制度審議会の答申を即時全面実施をするということは、これは必ずしも実情に即しないということで、社会保障の、現在立法いたしておりまする日本の社会保障制度を、より改善充実いたしますために、いろいろな面でかなり具体的な勧告を受けました。で、あれの内容につきましては、私がこれをできるだけ急速に実現をいたしたいと思つておりまする項目でございます。ただ財源その他の関係もございますので、予算の編成とからみ合せませんと、最終的な、決定的な御返答を申上げかねますが、大体においてあの中に盛られました諸項目の実現に積極的に努力をいたしたいと思つております。
  46. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 非常に抽象的なお答えで、全く明治、大正の時代の大臣の御答弁を伺つておるようです。近代的な閣僚とは思えない。研究して善処する、我々はそういうことを伺いたいために来ておるのじやないのです。もう少しはつきりしたことを伺いたいと思います。
  47. 橋本龍伍

    国務大臣(橋本龍伍君) 社会保障制度審議会の答申案、それはつい先頃頂戴をいたしたばかりでありまして、これは実行いたしまする上においては、掘り下げて、余ほど検討されなければならない問題でありまして、只今研究中でございます。
  48. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 外部からの脅威があるかないかということは、我々が判断すべき問題じやないですが、併し外部からの脅威があるとして、こういう閣僚で果して外部の脅威に対抗できるかどうか。ソ連の閣僚と比較して見て、これに対抗できるものだろうか、どうだろうか、もう少し少くともその誠意と能力を盡してお答えになることができるのじやないかと思います。何も私は能力以上のことを伺おうとしておるのじやないのです。現に少くとも前年度の勧告に対しては、どれとどれとどれとを実行しようと思つておる、これは自分が厚生大臣としての職を賭してもやろうというようなことはおつしやれるはずだと思います。或いはBCGの強制接種をやめるならば、それに代つてこういうことをやるつもりであるというお考えがあるはずだと思います。そうしてああいうふうにおつしやつても、やはり外部からの脅威よりも、内部の脅威を解決することが先決問題ですよ。從つて前年度の社会保障制度審議会の勧告にいたしましても、これが財源の関係もありますしと言つておるが、あなたは大蔵大臣じやない、厚生大臣としてあなたの所管事務が日本の現在の内外を問わず、いわゆる民主主義に対する脅威というものを防ぐためには、最低限これだけのことはしなければ駄目だ。それができないぐらいならば、自分は厚生大臣をやめるというぐらいの決意を持つたところを伺わして頂きたいと思うんです。そうして昨年度の社会保障制度審議会の勧告にしても、財政上の見地を全然無視した勧告じやないということは、その責任者である大内兵衛博士が財政学の專門家であるところから言つたつて、すでに明瞭ですよ。日本の財政からやれもしないような勧告をしておるのじやない。だからあなたが厚生大臣として、大蔵大臣は、そういう点について無理解ですから、大蔵大臣に向つて、お前のような、そうしたアメリカの言うことばかり聞いておつても、日本の内部の破綻ということは保障できないし、これだけの社会保障はやらなければ駄目だということを十分に御主張になれる立場にあるのだし、我々もそれを期待しておるんだし、国民もそれを期待しておるし、そうしてこの平和條約というものを我々が審議する際に、現在の最高の責任者はどういう具体的のお考えをお持ちであるかということが伺えなければ審議をすることはできないと思うのです。相当の努力をするつもりだからよろしくやつてくれというふうなことで、この前文を審議することはできないのです。これは国内に向つて世界に向つても我々の良心がこれを許さない。さつきからもドイツで労働者が非常に働いているとか何とか、この間加納久朗さんか何かの話を一松君が引用されたと思います。ドイツではミツトベシユテイムングス・レヒト、産業経営に対して資本家と平等の権利を今日持つているのです。日本にはそんなものはありやしません。厚生大臣は昨年度乃至最近の勧告は極く最近お受取りになられたばかりだそうで、まだよく御覽になつていないそうですが、どうか昨年度の勧告に対しては何と何と何は必ず実行するつもりだ、これに対しては財源は立派になにするつもりだということを考えておる、それを伺わなければならないと思う。伺えないならば、この前文に書いてあることは、全く国民に向つて世界に向つて嘘を言うものだというふうに判断をいたします。
  49. 橋本龍伍

    国務大臣(橋本龍伍君) 重ねてお答え申上げます。  昨年度の勧告は財政的にも十分考慮したものだというお話がございましたが、これはまあお考えの見方であろうと思います。実は社会保障制度審議会におかれましても、私あの総会にも二度ばかり出ましたけれども、昨年の案で即時全面実施、然らずんば社会保障を受取つているものと考えられないというような行き方には自分は考えない、今日の実情から考えて見て、もう少し具体的に噛み分ける必要があるということで、今回の社会保障制度審議会の答申案は、昨年の勧告案ができるだけ急速にあれを実現するという一つの理想であるのに対して、今年度できるだけ早く手を着けてもらいたいという趣旨の、かなり具体的な御勧告を頂いたことを私は感謝をいたしております。ただ内容に関しましては、私、先ほど申上げました通りでありまして、私はあの盛られました内容は、全部私は結構なことだと思いまして、その実現をできるだけ急速に図りたいと考えておるのであります。今日、日本の社会保障関係の制度は、総体の国費の支出額も約五百億に上つておる現状でございまして、私は今日の日本の社会保障の諸制度というものが日本実情から見ましてそう足りないものと考えておりません。ただこれは総体の国力の動向と睨み合せまして、でき得るだけ国内におきまする総所得の中からこういう面に廻わすものを殖やしてもらわなければならない、その努力を誠実にいたさなければならんと思つております。只今羽仁さんからお話のありました問題につきましては、私が今申上げた通りであります。
  50. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この社会保障ということは、近代の考え方には、勤労階級が受取る、或いは個人の賃金のほかに、一種の社会化された賃金ともみなさるべきものです。從つてまさかそういうお考えが残つておりはしないと思うのですけれども、昔のような恩惠的な考え方とか或いはチヤリテイというような考え方は残つていないと思うが、それで現在日本の勤労階級の個人の受取る賃金というものも決して高いものじやない。極めて低いものである。それを或る意味におきまして補う社会化された賃金とも言うべき社会保障制度というものは実に重大な意義を持つている。これは予備隊の拡充だとか特審局の拡充だとかいうふうな、そういうような政治的には極めて幼稚な、野蛮な、そういう方面に要する経費よりも、極めて近代的な、これによつてこそ社会の安全が維持される第一の問題です。こういうことにウエイトを置かれるという方法をとられなければ、どんなに予備隊を拡充しようと、大橋君が国防大臣になられようと、日本の治安というものは決して維持できるものではないのです。これは国際的にも、もはや国内の治安というものを維持する第一のウエイトというものは社会保障でなければならないということは確立された原則です。……政府委員は緊張して聞いておられないようですが、委員長、注意して下さい。(笑声)  こういう問題について誠意を持たない現在の政府こそ革命を招致する最大の陰謀をやつておると言わなければならない。社会保障制度に関するろくすつぽ誠意を持たない、労働者の権利を護ることにもろくすつぽ誠意を持たないで、警察力を以てこれを彈圧するということは、必ずこれは激烈なる革命を起すということは歴史上の事実が繰返し繰返し証明しておるところです。私は先ずこの平和條約について、国内に向つて国際的にも、この点について担当の各閣僚から、仮に総理大臣が言われるようにこの講和條約を欣然受諾するとするならば、その欣然受諾の基礎となる所管の各項目、なかんずくこの日本の民主主義が内部から立派に守られて行くという安心を我々に與えるような具体的な数字を挙げての御答弁を頂きたいと思うのです。今御答弁を幾らお願いしても、恐らく先ほどのような御答弁しか得られないのだろうと思いますから、次回にどうか今申上げた社会保障制度のどういう点を必ず実行したいというふうに考えておる、補正予算においてどうである、或いは来年度の予算においては必ずこれだけのことは実現したいというように思つておる、実現できなければ自分は責任を負う、それがこの講和條約というものを国会に審議を求められる御態度ではないかと私は思うのです。その点について今お答えになつた程度以上のことをこの次の機会にお答えを頂けるかどうかということだけを厚生大臣に伺つておきます。
  51. 橋本龍伍

    国務大臣(橋本龍伍君) 社会保障制度の充実実施に関しましては、その関係閣僚の懇談会がございまして検討いたすことになつておるのでありますが、その相談の進捗の状況によりまして御答弁をいたすことといたします。
  52. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 厚生大臣に対する私の質問意味は、実際この平和條約というものが審議されるその基礎となります上に、社会保障制度について厚生大臣が今のような、相談の結果どうなるかわからないという程度のものであるならば、我々国会としてはこの前文に対して責任を負うことはできないのじやないか。日本はたびたび今まで世界に向つて嘘をつき国民に向つて嘘をついた。私は少くとも国会議員の一人として、国民に向つて世界に向つて嘘をつくような、こういうことに加担したくはないと思うのです。これは実に道義とか何とか言うけれども重大な問題ですから、今のようなお答えでなく、少くともこの程度のことは、この講和條約、平和條約成立の機会に、自分も光栄ある厚生大臣の職におるのだから、この程度のことは必ずやるというようなお答えを是非頂きたいという希望を留保して、厚生大臣に対する私の質疑を終ります。  次に先ほどの労働大臣に対する質疑を続けます。先ほどこの国家公務員法で国家公務員の国体交渉権或いは争議権というものを奪つたことに対する対日理事会の席上での英連邦を代表されたパトリツクシヨウ・オーストラリア代表の御意見というものは間違つているというふうに保利労働大臣はお考えになりますか。
  53. 保利茂

    国務大臣保利茂君) お答えいたします。  御指摘のことは極東委員会のオーストラリア代表の総司令部の占領政策に対する批判のことであろうと思います。私はそれが間違つておるとか当つておるとかということを批評すべき立場ではないと存じますから、私はこの御批評は差控えたいと思います。
  54. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 保利さんに労働政策の批評をしてもらおうと思うほどあなたが勇気のある人だというふうに別に思つているわけではないのです。対日理事会でパトリツクシヨウ代表が言われたのは、占領政策として最高司令官が一九四七年二月一日のゼネラル・ストライキを禁止されたということを自分は批評する立場にはおかれていない、併し公務員といえどもやはり勤労階級である、從つてこれに対して極東委員会日本労働組合に対する原則が適用されないということは自分には理解ができない。やはり適用せらるべきである。それから争議権或いは団体交渉権という勤労階級の基本的権利が占領軍最高司令官の軍事上の判断によつて一時禁止されることを自分は批評するのではないけれども、併しそれが長い期間に亘る法律によつて制限されるということは正しくないというふうに考える。これはなぜ正しくないかということは、そこではパトリツクシヨウ英連邦代表は述べておられませんが、併し言うまでもなく、日本労働者の中のかなり高いパーセンテージを占めておる、公務員であるところのいわゆる政府從業員の団体交渉権なり或いは争議権なりというものが制限されますと、日本労働階級全体の基本的権利というものが著しく弱いものになります。これは労働大臣もお認めになるだろうと思います。著しく弱いものになつてしまうと、どうしても労働階級がみずから自分たち生活を擁護するということはできなくなります。労働階級がみずから自分たち生活を擁護することができなくなつてしまえば、日本国憲法で保障しているような資本労働との対等という立場も崩れてしまう。そうしてそれが公務員以外の一般の労働者に與える影響というものも重大なものがある。從つて法律の上で争議権又団体交渉権というものを否認することは正しくないという御意見です。これは占領政策に対する批判ではなくして、労働政策に対する御意見です。これが労働政策上間違つているというふうにお考えになるか、それとも正しいというふうにお考えになるか、間違つているというならばどういう点が間違つているのか、それを伺いたいと思います。
  55. 保利茂

    国務大臣保利茂君) いろいろの意見はございましようし、その意見が決して間違つているわけでもございませんでしようし、その意見はその意見として立派なものでございましようと思います。ただ日本の国家公務員法がどうであるか、私ども見解を以ていたしますれば、全体の行政権を担当せられる国民全体の奉仕者としての公務員のあり方というものは、今日制定せられておる公務員法でよろしいではないかという考えを持つている次第であります。
  56. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それではこれは労働大臣もよく御承知のことだと思いますが、現在の国家公務員法における争議権、団体交渉権の制限については、今申上げたようなパトリツクシヨウ代表のような、こういう問題について日本の問題と直接に関連して重要な意見が述べられているということ、それから保利労働大臣も御記憶になつていると思いますが、あの前後に日本に来朝せられた国務省なり何なりワシントンの重要な地位におられたかたの御意見に、公務員の団体交渉権まで取つてしまつたということは行き過ぎじやないかという意見が述べられたこともございます。これは御記憶になつていることだろうと思う。これらの問題は、ただいろいろな意見もあり、それぞれなかなか尤もだがという程度じやなくて、日本労働政策というものが今回初めて民主的な方向に行くか行かないかという重大問題です。まさか敗戰前のような労働政策を復活されるというお気持じやないだろうと思うのですが、それも念のために伺つておいたほうがいいかも知れないのですが、そうでないとするならば、日本労働政策というものを民主的な方向に持つて行く、いやしくもその最高の責任者である労働大臣は、こういう問題について絶えず苦慮して頂きたい、十分お考えを頂きたいと思うのです。もうあんな問題は片付いた問題だというのじや政治家と言うことはできないのじやないかと思う。あの問題は果してどういうふうに解決すべきものだろうかということは、絶えず御苦心になり御研究を頂きたいと思う。  次に伺いたいのは、そういうふうにして、いずれにせよ現在国家公務員法では公務員の団体交渉権、争議権というものは制限されておる。これは平和條約が成立するという際に再検討するお考えがおありなのか、それとも再検討の必要なしというふうにお考えになつているか、伺いたいと思う。
  57. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 広い意味における労働立法でございますから、只今労働各法の改正について諮問をいたして御審議を願つておるわけです。そこでも相当のお取上げはあるものと期待をいたしておる次第であります。
  58. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そういう御答弁を伺うと、まあ率直な言葉で言いますが、良心的に考えてみると、一般に労働政策においてどういうように変えて行くかということは、民主的にやつて行くのじやなくて、占領政策下で止むなく行われたような非民主的な方法を一層ひどくしようというお考えが、新聞なんかじや絶えず我々読んでおる。ですから、そういう点について、まあ労働大臣をやつていらつしやる限りは、やはり労働大臣として労働政策の方向を反民主的な方向に右旋回させるということには飽くまで反対をして頂かなければならないのじやないかと思うのです。ですから現在一般の労働政策についていろいろ研究されているというのは、占領が済んでも占領下と同じような労働政策をどうして続けられるか、大橋さんなり何かが日本占領軍最高司令官の地位にどうして立つことができるだろうか、そういうような印象を我々に與えておるのですから、そういう問題じやない、せめて占領が済んだならば、労働政策の上でも占領下止むなくおかれていたような制限された地位からもう少し向上した地位に引上げたいというお考えを持つだろうと思うのです。率直に伺いますが、講和條約成立と同時に日本労働階級の地位は占領下よりもよくなるのですか、悪くなるのですか。
  59. 保利茂

    国務大臣保利茂君) むずかしい問題のようでございますが、私は国は同じものでございますし、而も民主化せられた今日の日本国際信用をかち取る、その国際信用の上に立つて今回の平和條約というものは締結せられておるわけでございますから、從つて今後日本が全体としてこの方向でよくなつて行かなければならんということを考えております。一概に独立をしてよくなるとか悪くなるとか、これは国内事情だけでも言えないのじやないか、全体としてはよくなるように行かなければならんことだと私は思います。
  60. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私が非常にひどい言葉を使うのは、決して労働大臣の個人なり或いは政府閣僚の個人に対して言つておるのじやなくて、平和條約というものが締結される際に、日本政府或いは国会として特に労働政策の面でどれだけ真劍な討議をするか、どれだけ真劍にこれを考えるか、ただ議会を通過すればいいという程度のものでない。又言うまでもなく日本現状としてできないことまでやれと言うのじやないのです。併しできることは最大限にやるという努力をしなければならないと思うのであります。そうして今の例えば公務員の団体交渉権だけの問題についても、あなたは決してお忘れになるべきでないと思いますが、当時司令部の労働課のキレン課長でしたか、それから労働課員の大部分のかたが辞職されましたよ。そのときやはりその辞職された理由は、この公務員の団体交渉権まで奪うということはどうしてもこれは民主主義政策というふうには考えられない。併しそのときは連合軍の、占領軍最高司令官として全責任をマツカーサーがとつておられるのだから、だからこれを飽くまで反対するというわけには行かないけれども、併し自分としては良心が許さないからやめると言つておやめになつた。私は日本政府や又閣僚や、又その衝に当られる労働行政を担当されている日本の官僚がこのくらいの良心をお持ちになるということを期待します。キレン課長はそれほどの良心を以て出所進退を決定されたのだが、日本労働省の内部の官僚は、あらゆる問題をにやにや笑つているようなことで済ませるというようには私は考えたくない。アメリカ人の良心に劣らない良心を日本労働省の官吏は持つているのだというふうに期待すればこそこういう御質問を申上げるのです。從つてどうか單に普段の議会を乘り越えておられるようなお気持でなく、この際平和條約の審議を願つておられる政府としては、そうしてこういう問題について特に、そう申しては甚だ失礼だけれども、認識の極めて低い大蔵大臣というものを抱えておられるのだから、御苦心もそれは並大抵のことじやないだろうと思う。併しどうかこのパトリツクシヨウ代表がそういう言葉を残して日本を去られた、キレン課長がそういう言葉を残して日本を去つてつた、又最近司令部の労働課のミス・スタンダー、スタンダー女史のごときも、日本の最近の労働政策というものは全く反民主的なものである。自分はこの職を辞してアメリカに帰つて、これをアメリカの労働階級に訴えるつもりであるという言葉を残して帰つておられます。こういう状況でこの平和條約というものを通すということは私はできないと思うのです。ですから、このパトリツクシヨウ代表なり、或いはキレン氏なり、或いはスタンダー女史なり、こういうかたがたにあなたが劣られるとは思わない、又こういうかたがたが日本の事情を知らないでそういうことをおつしやつたのではない、日本に長年おられ、日本のそういう問題を担当して、そうして最後にそういう言葉を残して帰られたのだから、ですから現在日本労働行政を担当しておられる最高の責任者は、この平和條約を締結するかしないか……締結するという際に私は格段の憂慮とそうして特別な決意というものを持つて頂きたい。そうしてそれが間に合えばこの本委員会の審議の過程の間にそれを示されたい、その片鱗だけでも結構ですから示して頂きたいと思います。
  61. 保利茂

    国務大臣保利茂君) 平和條約に対する国民並びに政府としての心がまえを明らかにして臨むべきであるという基本的な考え方については全く同感であります。御注意につきましては私は十分気を付けて参るつもりであります。
  62. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 まだ私の質問は続くのですが、時間はよろしいでしようか。
  63. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  64. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 速記を始めて。それでは休憩をいたしまして、一時半に再開をいたします。    午後零時二十六分休憩    —————・—————    午後一時四十六分開会
  65. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 休憩前に引続いて会議を開きます。
  66. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私はこの講和條約の前文において、日本国民に向つて、そうして又世界に対して日本の民主主義を誓約すると述べられておるのでありますが、それを我々がここで審議するために、午前中にも申上げましたように、国民に向つても、世界に向つても、我々が嘘を言つて通すというふうなことは許さるべきでないと思いますので、そういう関係から法務総裁に向つて、この日本民主主義を如何にして守るかという大きい点から質問をしたいと思うのでありますが、第一に伺いたいのは、最近法務総裁は盛んに地方に旅行をされて、そうしてその旅行先において、いろいろな法律を作るということを新聞記者に語られておられるようでありますが、過去の司法大臣というものと、今日の法務総裁というものとは全く性質が違うものであろうと思うのです。それから又このアメリカのアトーネ・ゼネラルというような人は、大統領がこれを任命して、そうしてアトーネ・ゼネラルとして任務を立派に完遂された後は、最高裁判所の判事になられるとかいうような経歴を持つておられる。現在の日本の制度としての法務総裁の地位というもの、その最高の責任というものはどういう点にあると考えておいでになるのか、その点先ず伺いたいと思うのであります。
  67. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 法務総裁の責任は法務府設置法の定めるところによります。
  68. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 御答弁は速記にも残り、そして平和條約通過の際に、日本の法務総裁の御答弁として、それがあなたの最高の誠意と最高の能力とを盡された御答弁として、国内にも、国際的にも理解されるものと了承してよろしうございますか。
  69. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 法務総裁の責任は法令の定める以外にはないと存じます。
  70. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私の伺いたいと思つておることは、法務総裁として、あなたは最高の任務というものをどういう点に置いておいでになるかということを伺いたいと思うのであります。
  71. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 私個人でございますか。
  72. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 法務総裁として……。
  73. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 私個人に対して御質問ですか。私は法務総裁としての、国務大臣としての立場からお答えいたします。個人の問題ならば個人的の機会に御答弁申上げます。
  74. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 日本が過去の習慣を改めて、そうして民主的な方向に行くか行かないかということは、この平和條約を審議する際に一番大きな問題であると思うのでありますが、現在のいわゆる法律の定むるところによるというのか、或いはもつと大きい意味日本が民主主義で進行して行くという上において、法務総裁としての最高の使命というものをどういう点に感じておられるかを、法務総裁は参議院の平和、安保両條約の特別委員会の席上においてお述べにならないのでしようか。
  75. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 法務総裁の職責につきましては、法令の定むるところがございますから、私はそれに從つて参るべきであると思つておるわけであります。特にその中で、個人としてはどういう点であるかということになりますれば、個人的の問題は又他の機会に申上げたいという趣旨を申上げた次第でございます。
  76. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 過去の日本には民主主義の伝統がなかつたために、政府がみずから立法し、みずから行政し、そうしてみずから司法するような、いわゆる封建的な弊風が根強くはびこつてつたと思うのであります。民主主議の今日にあつてはそういうことは絶対に許されない。なかんずく法務府が現在最高の使命とされておるというふうに、私の了解いたしますることは、只今法務総裁の答弁にあつたように、日本国憲法及びこれに基く法律を守り、そしてその権威を高からしめる。そうしてそれが国民によつて支持さるる民主主義的法治国として確立されるということにあると思うのであります。然るに、最近法務総裁がしばしば旅行先で述べられることを拜見して見ますと、新聞で拜見しますと、法務総裁が現在の日本国憲法の嚴守、これに対する国民の支持ということに主たる努力を傾注しておられるのか、それとも何か一定の党派的な活動をされ、そうして又勿論政府としての立法の権限というものがあるのでありますけれども、併しこの立法府たる国会というものとの関係において、殊に国民に與える印象において、あたかも法務府がみずから立法し、そしてこれを行政するかのごとき感じを與えているという批判を受けておるものでありますが、これらの点についてはどういうふうにお考えになりますか。
  77. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 法務府といたしましては、内閣の法律顧問たる立場におきまして、憲法並びに現行法令を解釈していたしております。それから内閣において提案いたしまする法律案につきましては、その審査をいたしております。又法務府所管の法令に関しましては、内閣を通じて提案をいたす準備等をいたすことがございます。
  78. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 端的に伺いますが、今後も盛んに旅行先等において新聞記者に対して、日本国民に民主主義的基本権に関係するような立法に関する談話をしばしば発表される御予定でしようか。
  79. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 新聞は国民の輿論を代表いたしまする公器でありまして、その新聞記者の諸君が私のところに取材をしにおいでになることはしばしばございます。私は新聞紙の公器たる性質に鑑みまして、その取材に対して便宜を與えるということは、これは公人として自然考えるべきことだと思います。
  80. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 最近日本の両條約締結の前後における右旋回、或いは反動か、或いは民主主義に逆行するさまざまな傾向があるということが内外の輿論によつて指摘せられておりますが、この点については法務総裁はどういうようにお考えになつておりますか。
  81. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 特に右旋回、左旋回というようなことはなく、我が国といたしましては、憲法の示す方向に向つて着々堅実な歩みを続けつつある、こう私は認めております。
  82. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そういう抽象的な答弁でなく、現在の日本が、平和、安保両條約を締結するに当つておる日本において、右旋回というような、指摘しておるような事実が多々あるのではないか、法務府としては、そういう点について十分御調査になつておるのじやないか、そうして左旋回の事実もあるかも知れない、そういうものについても十分御調査に相成つておるだろうと思う。これらを、法務総裁として現在日本民主化に逆行するようなこれこれの事実がある、これらの事実は自分は重要な問題だと思つておる、これらに対しては、こういうような方法を考えておるというような点についてお答えを願いたい。
  83. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 特に顯著とは思つておりませんが、併し講和條約並びに安全保障條約の締結ということを機会にいたしまして、一部の旧軍人等におきまして、多少の右旋回的な動きがあるという噂も聞いております。併し十分な確証があるというわけでもございません。併しいやしくも噂があります以上は、これらの動きにつきましては、民主主義を守るという立場から十分に注意をいたす必要がある、こう考えまして、特審局を通じまして、その方面動きについては絶えず調査をいたし、嚴重な監視を続けるという態度をとらせております。
  84. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 公平に考えて、そして公平に事実を直視して、現在日本に、一言で言えば、右からの危險というものと、左からの危險というものが仮にあるとして、この右の危險と左の危險とは現在の日本において、いずれが当面の危險であるかという問題について法務総裁の御所見を伺いたいと思うのであります。この点についてお答え下さるときに、考えて頂きたい、併せて考えられたいと思うのは、過去の日本において、右からの危險と左からの危險といずれが重要であつたかということを事実に基いてお答えを願いたい。それから現在国際的にも、これはよくこの間うちから政府の首脳部のかたがたがどこかで教えられたのですか、一定の切口上でお答えになりますが、そういうことでなく、世界的にも又アジアにおいても、いわゆる自由世界或いは共産世界ということが言われている間に、実際においてはどういう点を気を付けなければならないか。これは先の新聞発表とも関連するのでありますが、国民がこの点において判断を誤りますと、この平和條約の前文で使われておるような、平和と民主主義の誓約ということは全く僞善となつてしまう。その点において先ず第一に、過去の日本において、左からの危險或いは右からの危險、それのどれが最も重大な危險であつたとお考えになりますか、それを伺いたいと思います。
  85. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 過去と申しましても、そう古いことではございませんが、終戰後におきましては、我が国内におきまするいろいろな騷擾事件は左、即ち共産主義者に関係があるものが多数でございます。
  86. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私の申しているのは、この平和條約が当然の問題としておる、この過去の日本が、なぜ戰争を開始し、そして又その戰争の間において民主主義或いは自由主義というものを全く蹂躪してしまつたか。平和條約は戰争状態を終結させ、新らしい平和の状態を持ち来たす、その意味から先日中から私は首相に向つて、過去の日本がなすべからざる戰争をなしたことについての反省を、この際我々は国会において明らかにされたいと思うので、その点について伺いたかつたのでありますが、日本が次第にいわゆる侵略戰争に導かれるようになつて来た、そう古い明治の初年からであつては大変でしようけれども、少くとも大正の末年からのことを考えて見て、いわゆる極東軍事裁判において問題になつて来た一九二七年前後からをお考えなつたら、右からの危險と、左からの危險のいずれが大であつたか、そうしてその主なる事実はどういう事実であつたか、その点を我々は繰返してはならないと思うので、過去は決して忘れられてはならないので、それから最も貴重な教訓が汲み取られなければならない。それが特にこの平和條約を締結する際に我々の重要な点であると思うので、過去から何物をも学ばず、すべてを忘れてしまうというような印象の下に平和條約は締結せらるべきではないと思いますので、この点について御所見を伺いたいと思うのであります。
  87. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 羽仁委員の御質問の最も適切な問題は、第二次世界大戰に日本が捲き込まれるについて、国内において如何なる動きがあつたかという問題だと思うのでございます。私は大東亜戰争と称しました太平洋戰争日本が捲き込まれるにつきましては、これはいろいろな條件が備わつてつたと思うのでございまして、これを單に左からの原因である、右からの原因であつたとかというふうにはつきり割り切ることは如何かと存ずるのであります。要するに民主主義というものの正常なる発展を阻害する原因があつた。そしてその原因を作るにつきましては、右からの人々もあつたでしよう、左からの人々もあつたでしよう、併しそれは要するに民主主義というものに対する破壞的な勢力というものが、国民政治を一部の人々によつて壟断したというところに、この悲惨な運命の開かれる基礎があつたと私は考えるのでございます。今日におきまして我々の考えなければならないという点は、その根本は常に憲法の意図いたしておりまする正しい民主主義というものを正しく守ることであり、それが左からの危險に対しても、右からの危險に対しても等しく危險であるという点においては左右の区別をつけて考えるべきではなかろうと、こう思うのであります。現に、太平洋戰争に突入いたす当時の我が国のこの戰争の正当性を主張するところの思想的な動きというものを今から回想いたして見まするというと、それがいわゆる右の理論によつて正当性を唱える者もあり、左の理論によつて正当性を唱える者もあり、これが混合して要するに民主主義並びに国際平和主義というものに対する一つの破壞活動、この結果がああいうことになつたと、私はそういうふうに考えておるのであります。特に左が危險であるか、右が危險であるかという御質問でございまするが、私は左も右も危險である。そうしてそれを左が危險であると思つて左ばかり注意する、右が危險であると思つて右ばかり注意するというやり方そのことが危險ではなかろうか、左と右が時として一緒になつて民主主義を押潰そうとする場合も過去においてあつたと、こう私は考えます。
  88. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この国会がまだ国会になる前の日本帝国議会、その帝国議会も或る意味においては民主主義或いは自由主義というものの本拠であつたのですが、この国会が右翼の勢力で以て占領されたような事実があります。法務総裁はまさかそういうことをお忘れになつておるのではないと思います。そして又日本が公平に眺めて見て、法務総裁も公平な見地にお立ちになつて考えになつて見れば、日本という国が右からの力が強いか、左からの力が強いかということは、これは誰が考えて見ても私は明らかなことだろうと思います。日本が過去においてしばしば左翼的な革命を重ねて来た国なのか、それとも過去においてしばしば右翼的な勢力によつて動かされて来た国であるかということを、私は法務総裁がその地位にふさわしく公平に冷靜にお考えになつて御覽になれば、おのずからこれは明らかな問題ではないかと思うのであります。そして又日本が占領されるような不幸な状態になつてからもしばしばそういう問題については警告されている。もうすでに今日はやめられましたが、長らく民政局の次長をしておられたケーデイスさんのような人も、しばしば、現在の日本を脅かしておるものはやはり左の危險よりも右からの危險であるということを声明しておられる。そういう点について法務総裁はもう少し公平にして冷靜な、願くば日本及び日本国民というものを誤まりなく民主主義に導いて行くという点において、この平和條約を締結する際に、この参議院の特別委員会において高邁な識見をお示し下さることはできないでしようか。
  89. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 特に高邁という言葉にふさわしいかどうか存じませんが、私は民主主義は右からも左からも双方から常に脅かされておるものであつて、これを守るためには右にも左にも注意する、これが公平なる法務総裁としての当然の任務ではないかと考えておるわけであります。成るほど過去の太平洋戰争が右の勢力がこれを惹き起したというふうに見られておりまするが、併しこれは表面の動きでございまして、やはりその内部を仔細に点検いたしまするならば、左の勢力が右をここまで引きずつて来た、或いは利用して来たという面も必ずしもないわけではないのであります。いずれにしても正しい民主主義を破壞しようとする活動に対しては、右であろうが左であろうが、共に危險を感じまして、これに対処するというのが今日の平和條約以後の日本を正しく民主主義に導く立場からいつて必要であろうと考えます。
  90. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 甚だ遺憾な印象を受けるのであります。日本の過去の政治というものが、主として右によつて動かされていたというこの明白な事実を法務総裁はどうしても承認されない。そして二三の事実をとらえて、左が右を利用してやつていたというふうにお答えになつている。併し若しも過去において日本が右からも左からも同じような脅威を受けていたという程度のものであるならば、何故に旧帝国憲法というものは改正せられて現在の日本国憲法というものができたのですか。そういう点についても、私はこの平和條締結ということと直接に関係して、日本国憲法というものが、以前の帝国憲法というものと、はつきりつた思想の上に立つている。恐らく帝国憲法が改正せられて日本国憲法が成立した最も大きな意義は、過去においては日本帝国憲法というものは右翼的な、或いは官僚主義的な、或いは警察国家的なそういう勢力を抑えることはできなかつた從つてこれを改正して、そうした右翼の力というものを抑えることができるような日本国憲法というものが新たに立法されたのじやないかと思います。法務総裁はこの際、平和條約の審議のこの委員会において、その点でもう少し率直に右からも左からも危險はあるんだ、両方に向つて防禦するんだという程度のことでなく、日本には右からの危險には決して軽々に看過すべきでないものがある、或いは我々として主として努力しなければならないのは、むしろそうした復古的な傾向である。特にこの平和條締結の際に、そうした点に指導的な政治家として深い思慮を持たれるということを示される必要があるんではないでしようか。最近の内外の輿論がそういうことを指摘しております。そういう点においては必ずしも決して行き過ぎた議論をしているとは考えられない。例えばニュース・ウイークのような雑誌でもこの十月一日号を見ますと、巻頭言の中に、Tokio insiders expects the Japanese soon to stant throwing out many of the liberal reforms they have adopted under U.S. pressure.日本人は、アメリカの圧迫のもとに採用したであろう自由主義的な改革の多くのものを、直き放り出してしまうであろうということを、東京の内部の事情に通じている人は予期しておる、ということが書いてあります。それから最近アリソン公使が、日本の事情についても十分通じておられるアリソン公使が、占領法規の改正は極めて愼重を要する、これは單なる国内問題ではない、日本の近隣の諸国にも影響を及ぼす問題であり、国際的にも重大な影響のある問題であるというふうに言つておられる。それから朝日、毎日、読売その他全国の新聞も、最近の社説で殆んど鋒先を揃えて日本がもう一遍古い日本になるのじやないかという懸念を示しています。で、現に鳩山一郎氏が放送されたときに、もう一遍昔の日本にするという言葉を使われたことが、国民に非常な不安を與えているということもあるのであります。そういう際に法務総裁としては、危險は右からも左からも来る、両方に同じように防禦するという程度のことで、我々はこの平和條約を支持しなければならないのでしようか。その点について今一応法務総裁の反省を促したいと思うのであります。
  91. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 右以外からは絶対に危險がないというお答えをいたしまするならば、羽仁委員は御満足になるかも知れませんが、私の法務総裁としての立場からは、さようなお答えをすべきではないと思うのであります。
  92. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 どういうおつもりでそういうことをおつしやつているのですか。(笑声)
  93. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 私は御質問がどういうおつもりかを伺いたいくらいでありまして、私といたしましては、私の認識いたしておりまする事実に基きまして、私の見解をお求めになりましたから、私の見解をお述べしただけでございます。あなたは先ほどから私の答弁に対しまして、私の申上げたと異なつた答弁を、非常に御要求になるがごときお口ぶりでございますから、如何に御要求がございましても、私の立場としては御要求に応じたような答弁を申上げることは、私の立場上不可能であるということについて、御了解を得たいと存じたのでございます。
  94. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 法務総裁に伺いますが、このアリソン公使の批判或いはニユース・ウイークなりその他の内外の新聞紙、輿論が、現在の日本に右旋回の危險があるというふうに批判しておることは、全くの根拠のない間違いであるというふうにお考えになつているのですか。
  95. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) それぞれの所論は何かそれぞれの根拠に基いて出されただろうと思いまするが、私の考えておりまする限り、日本において特に右への危險ばかりでなく、左への危險も十分ある。民主主義を守る立場からこの両者に対して防衛の態勢を常にとることが必要である、こう考えております。
  96. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 このアリソン公使の批判というのは、特にいわゆる占領法規改正、政令諮問委員会、或いはそれに基く政府態度というものに向つて與えられたことだと思うので、それについてはいろいろの意見があるだろうという程度のことじやないじやないでしようか。法務総裁は特にこの問題について所管というか、責任を以ておられるのではないかと思うのであります。そうしてこれはいわゆる政令諮問委員会なり、或いはそれを中心として最近占領下になされた、そうして特にこの平和條約の前文に書いてあります「降伏後の日本国法制によつて作られはじめた安定及び福祉條件日本国内に創造するために努力し、」ろというふうに、ここに立派に書かれてあるこの問題に関係することなんでありますが、事実先ほど来からこの政令の改廃という問題について、国内的にも又国際的にも批判を受けておられる主なる点は、政令を改廃してそうして余り民主主義的に行き過ぎてはいかん、左からの脅威も十分に考えろという点について批判を受けておられるのか、それとも政令の改廃の際に民主主義的な立法というものを殆んど全部やめようとしておるのじやないか、いわゆる右のほうに行き過ぎるじやないかという点の批判を受けておられるのか。どつちの批判を受けておられるのだというふうに認識しておられるでしようか。
  97. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 先ほど御引用のアリソンさんのお話は私承わつておりません。
  98. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 アリソン公使はこの平和條締結についてダレス氏を助けて活動しておられるかたであり。そうして又我々講和條締結後、日本との関係において重要な地位に就かれるというようなことも伝えられておるかたなので、この平和條締結の問題と関係してアリソン公使が先日演説されたその内容は、我々としては相当に注目しなければならん、又これに対して愼重に考えてみなければならないことだと思うのであります。遺憾ながら、法務総裁はそれについてまだ御承知がないということでありますので、法務総裁は特に政令改廃の問題に関係している、責任を持つておられるので、この点について十分御研究を下すつて最近の機会に御所見をお示し願いたいと思うのであります。  続いて法務総裁に伺いたいのは、具体的の問題でありますが、さつきからおつしやいましたお言葉を、私は言葉尻を捉えようとは思わないのでありますが、今度は主として左からの危險というものに対してであります。いわゆる左からの危險というものに対する最善の、先ず第一になすべきことは何であるというふうに、法務総裁はお考えになつておるのでありますか。
  99. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) これはいろいろありましよう。特にどれが第一ということは言えないと思います。
  100. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それではいろいろあるというその種類を伺いたいと思います。
  101. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) もとより国内のいろいろな施策におきまして、勿論右の危險でありましようとも、左の危險でありましようとも、この危險を予防する措置といたしましては、国内の輿論が自由に行われるような民主主義の体制を作り上げる。又国民の経済的な生活水準の上るような努力をする。又文化、教育その他各面におきまして政府の施策を充実して行く。こういうことは無論これは大切なことでございます。それがどの面かにおきまして破綻を生じましたならば、如何なる努力をいたしましても治安の万全を確保するということは不可能なわけでございます。そうしたことはもとより大切だと思います。併し何分にも多数の国民がそれぞれの動機でいろいろに活動をいたすのでございまするから、政府の施策が如何に進みましても犯罪を絶滅するということは到底不可能であります。これに対して又国家のいろいろな組織なり、又公共の福祉というものも防衛する立場から、防衛の措置ということは当然必要ではないかとこう考えるわけであります。
  102. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今法務総裁は、この国内の治安或いはいわゆる左からの危險というものに対する重要な問題として、第一に言論の自由、第二に国民生活の安定、第三に文化の向上、第四に警察的方法という四つをお挙げになつたというふうに了承いたしますが、この中で最も健全であつてそして最も第一に尊重されなければならないのはいずれでありましようか。
  103. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) これはそのときどき又お人によつていろいろ御意見もありましようが、大体今申上げたような順序で結構でございます。
  104. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今法務総裁が御説明下すつたような順序で、第一に言論の自由が尊重されなければならない、第二に国民生活の安定向上努力されなければならない、第三に教育文化の向上が必要であり、これらのものが果されて、而もなおそこに発生する左からの危險或いは犯罪というものに対する警察的な処置というものも必要である、こういう法務総裁の識見に対して私は心から敬意を表するものであります。どうかこういうお考えを持つて今後もやつてつて頂きたいと思うのであります。今おつしやつたことがこの記録にとどめられて、そうして平和條約が締結せられる際に、日本政府の法務総裁はこういう考えで、決意でいるということは、私個人にとつても、もとより、又国民にとつてもどれほど大きな期待になるかわからないと思います。  そこで更に進んで、恐らくは、この日本国内の予算なり何なりの面においても今おつしやつたような順序というものが常に正しく守られますように、法務総裁は努力なさるのだというふうに了解してよろしいと思いますが如何でしよう。
  105. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) できるだけ努力するつもりであります。
  106. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 御承知のように午前中、厚生大臣、或いは労働大臣に向つていろいろ質問をしておりました際にも、法務総裁もお聞き下さいましたように、社会保障制度の実現という問題についても、或いは労働政策という面においても、残念ながらこの占領政策下においては占領軍の軍事的な必要というものが、ノルマルな状態において考えられるところの必要よりも遙かに強く、そうして重く、そして直接に感ぜられるために、占領下においては必ずしも言論の自由が最高のものとして守られていない。国民生活向上というものが或る場合においては制限されなければならないという場合もあつたと思うのであります。併しこの平和條約が締結される以後においては、これは先日の朝日もそのことを論じておりましたが、この占領が済んで、そうして平和條約が成る、それによつて国民の期待しているものは、つまり国民の自由権の拡大ということであつて、占領下におけるよりも一層不自由になるということは、国民としては納得できないことだろうと思うのであります。然るに現在先ず只今議会に提出されております補正予算というふうなものを拜見しましても、予算の面に現われているところを見れば、この国民生活の安定、或いは社会保障制度の実現、或いは文化、教育の充実というものの予算が削減せられて、そうしてこの警察関係の予算が拡大されているという印象を強く與えております。これは法務総裁の眼にも触れていると思いますが、各新聞の批判というものもその点に集中して、そうして学校給食も金がないからやめる、六三制も貧乏なんだから無理だ、そうして警察予備隊は拡大して、これが百五十億の予算を取るというような考え方は、吉田全権がサンフランシスコにおいて、日本が民主主義の方向に進んで行くというふうに誓約せられた精神とは逆の方向ではないかという批判がなされておりますけれども、こういう点については法務総裁はいろいろ御苦心のことだとは思うのでありますが、現在日本の予算の上で第一に警察予備隊の拡充、或いは一般に治安関係に多大の予算を取る、そうして国民生活なり、教育文化なりの面における予算の削減というものが行われている。これは現在この平和條約を締結する際の日本のあり方として考えなければならない点があるというふうにはお考えにならないでしようか。
  107. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 予算の内容につきましてはいろいろの御批判はあることと存じまするが、今回の補正予算といたしましては、現下の我が国の実情から見まして欠くべからざる、又必要な費目を挙げてあると考えております。
  108. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私の伺いたかつたのは、端的に伺いますが、現在日本の輿論などによつて、この治安関係費が増大し、そして国民生活の安定に関する費用が削減するという批評がなされていることをお気付きになりましたか。そしてそういう批判に対してどういうようにお考えになつておられますか。その批判を無視するというお考えなのですか、その批判を十分聞かなければならないとお考えになつておられるか、その点であります。
  109. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) さような批判のあることは承知いたしております。又それが輿論の一部を代表するものでありまするから、決してこれを無視するということなく、十分にその趣旨を取入れて考えてみる必要があると存じます。併しそれらを考え合せました上におきまして、今日警察予備隊、或いは国家地方警察の経費の増額をあえてしなければならないということは、極めて遺憾なことでありまするが、止むを得ないことだと考えております。
  110. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 第三に法務総裁に伺いたいのは、このいわゆる団体等規正法案というような形で法務府においてお考えになつておられるこの問題についてでありますが、この問題について八月の上旬でありましたか、法務総裁が群馬県に旅行をせられて、そこでさつきの言葉によれば、新聞の天下の公器である性質を非常に御尊重になつて、そうして詳しい談話を御発表になりました。それからこの八月、九月を通じてその法務総裁の談話に現われた……その当時は国家保障法案とかいろいろな名前で呼ばれておつたようでありますが、それに対して朝日、毎日、読売、或いは各地方の全国の新聞、それから当時行なわれました新聞週間中の新聞大会が決議をなされたこれらの批判を御承知になつておいでになりましようか。そして御承知になつておいでになるとすれば、それらによつて如何なる点が如何に批判されておるというようにお認めになりましたか。そして最後にそれらの批判に対して規在どういうふうにお考えになつておられますか。それを伺いたいと思います。
  111. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 御承知のごとく現在の我が国といたしましては、暴力主義によりまするところの破壞活動に対しまして、憲法及び民主主義を擁護するということは、これは法治国といたしまして当然のことでありまして、すでにかくのごとき個人的活動に対しましては、刑法その他の刑罰法令によつて禁圧をいたしておるところであります。併しながら政治的団体のこの種の活動を禁止するためには、現在は団体等規正令があるのでございまするが、これはポツダム政令でありまするし、又その内容等から考えまして、新憲法下において必ずしも適当ではないと、こう考えられまするので、これを修正の上法律化したいという考えは前から構想として持つてつたところであります。特に私がこの立法化に際しまして、憲法趣旨から考え考えなければならんと思いました点は、かような政治団体の活動を制限するという法制でございまするからして、これは当然憲法二十一條の集会、結社、或いは表現の自由などと申しまする、いわゆるデモクラシーの基本原則となつておりまする基本的人権の制限を伴うことは免れないのでありまするが、かような基本的人権を尊重するということは、これは民主政治としての第一の要請でございまするから、この制限は嚴重に公共の福祉を守るために必要な最小限度にとどめられなければならないというのが私の基礎的な考えであります。こういう意味から申上げますると、これは法規の内容においてさような趣旨が十分に保障せられまするばかりでなく、その法規を運用いたしまする機構の組織の上におきましても、如何にすればこの制限の最小限度を超えないような保障を期特できるかということが大事であると、こういうふうに思つておるのであります。この団体等規正法案の内容等につきましては、いろいろ新聞紙の報道その他を通じまして、これに対して各方面から批判のあつたことは事実であり、その批判を羽仁委員と同様に私も殆んどこれを読んで承知をいたしております。これらの批判の眼目、中心となりました点は、仮にかくのごときことが必要であるとしても、それが過去の我が国のこの種法規の運用の実績から考えて見て行き過ぎを絶対になくするという保障があり得るかどうか。基本的人権の不当な制限、即ち法規の不当な鑑用というものが果して保障できるかという点にあつたと思うわけであります。爾来これらの批判に鑑みまして、誠に適切なる批判もございまするので、これらの批判に鑑みまして、更に法務府におきまして検討を加えつつあるわけでございまして、最近におきましては、当初とは幾分さような面におきまして構想も進歩をいたしておると考えております。
  112. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 当初よりも大分進歩せられたというふうな御説明でありますが、当初のような案が法務府から生れ出たということについては深く御反省になつておるのじやないかと思いますが、如何でしようか。
  113. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 実は打割つたことを申上げますると、この法規を立法化するということは、これはなかなか作業としては困難な作業でございまして、事務当局に対しましては相当前から研究を命じてあつたわけでございます。何分我が国といたしましても団体等規正令がありますだけでございまして、又外国におきましても、そう適切な模範ばかりもないわけでございます。これらをいろいろ広く研究をし、そうして我が国の実情から見て適切な、又必要な最小限度の法規を立案する、その内容としてどの程度のことを規定すべきかということは、これはなかなか役所だけで考えましても困難なむずかしい問題、それで私といたしましては、一応事務当局においてこういう種類の、こういう内容の案の検討をいたしつつあるということを、世間の人たちに或る程度理解して頂きまして、その理解に基いてそれに対する自由な批判が広く行われるということは、我々の立場といたしまして、今後法案の作業を進める上から言つて必要又有益なことである、こう考えておつたわけでございます。特にこれが法務府の苦心の作になるところの立派な案であるという考えで当初から流布したわけではないわけであります。或いは誤解を生じておる向きがあるかも知れませんが、本当のつもりは今申上げたような趣旨であつたということを御了承願いたいと存じます。
  114. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私の伺いたいと思いますことは、只今の御説明のような点ではないのでありまして、この本日さつきからずつと伺つておりますことと関連するのでありますが、この法務府が、殊に法務総裁が占めておられる地位というものが国民に與える印象というものは、極めて公平なものでなければならんと思うのであります。それはその立法が行政に移されるという場合に、これが決して党派的に、又不公平に移されるというような不安を與えてはならない。從つて法務府の態度というものは極めて公平な態度が期待されるんじやないかと思うのであります。ところが今お話のような点は大変結構で、政府でお考えになつておることをいわば早目に発表して、そして国民のいろんな意見をお聞きになる。そういう意味でなされていることは大変結構なんでありますが、併しその発表なさいました案というものは余りにも基本的人権の尊重の観念に欠けているという点が指摘された、輿論によつて指摘されたのじやないかと思いますが、そうしますと、法務府がいろいろな研究をする過程をも社会に公表されるということは大変結構ですが、その研究の過程を社会に公表した際に、余りにこの基本権というものに対する考え方が民主主義的でないというような批判を受けられたというふうに若し認識なさいますならば、私はその点について法務府として御反省になるべき点があるのじやないか。さつきから申上げておりますように、この法の公平ということは、民主主義にとつて最高の原則一つになることですから、從つて法務府の態度というものがどうも言論を圧迫し、人権を蹂躙し、そして專ら、いわゆる進歩的な運動を彈圧するというような方向にあるんだというふうに国民考えてしまつては、これはとんでもないことになるのです。だから御研究の結果を適当の時期に発表して、そしていろんな批判を受けられるということは実に立派なことだと思うのですが、その際に発表した意見に対する批判に鑑みて御覽になつて、法務府自身として、何も新聞の社説によつて教えられるまでもなく、法務府こそ基本的人権の尊重ということを日本で最も中心になつて考えにならなければならない地位におありになるのです。それが新聞などによつて、法務府の考えている法案というものは基本的人権を尊重せざるも甚だしい、天下の悪法であるというふうに言われておる。その点について御反省になつていると思うのでありますが、それを伺えば仕合せだと思うのであります。
  115. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 法務府といたしましては、いろいろな作業につきまして輿論の批判というものは常に率直にこれを受け入れる態度をとりたいと思つております。
  116. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その批判の中に、これは読売新聞乃至朝日新聞などにも現われていた意見ですが、いわゆる国家安全保障法案とか、団体等規正法案とかいうふうな名前を以て政府からその案が発表された、こういう法律の目的とするところの問題というものは、現在すでに存在するところの法律によつてすべて決して処理できないことではない。それに対して新らしい法律を必要としていないという批判がございましたが、これはお気付きでございましたろうか。
  117. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) さような批判もありましたが、これは誤解で、一方的なお考えではないかと考えております。
  118. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは現在の法律ではどういう点が処理できないのか、その点について伺いたいと思います。
  119. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 政治団体に対しまする団体等規正令の内容となつておりまする事柄は、これは平和條約成立後におきましては当然にできなくなることでありまして、これはやはり引続きかようなことを残すことが必要であるという立場を、私どもとしてはとつております。
  120. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それは非常に重要な点でありますが、この輿論の批判の中にも、国家安全保障法案なり、団体等規正法案なりに対しての批判の一つに、法務総裁或いは法務府或いは現内閣というものは、占領後も日本の占領を継続し、みずから占領軍となつて国民に臨もうとするのかという批判があつたことも恐らくお目に触れたろうと思います。このいわゆる団体等規正令というものが特に占領政策において置かれたということの主なる目的は、占領政策の遂行ということにあつたのじやないか。そうしてこれが具体的に現れているのは、いわゆる追放ということであろう。或いは更に遡つて言えば、戰争裁判というものであつたろうと思われるのです。戰争裁判なり、或いは追放なりということは、常時の状態においては考えられないことであつて、これは戰争によつて起り、又占領政策の必要からそういうことがなされたことではないか。ノーマルな民主主義の状態においては追放ということはなさるべきものではないだろう。若しそういうことがなされると、政党政派がそれぞれ内閣をとるたびに、右の内閣ができれば左を追放し、左の内閣ができれば右を追放するという血で血を洗うような悲惨な状態が発生する。そういう批判も輿論によつてなされておつたのです。この団体等規正令がなくなつちや困るから、それを法律で以て作るのだというお考えについては、この輿論の批判を受けられた後にも、やはり団体等規正令と同じものを今度法律で作る必要があるというふうにお考えになつているのでしようか。
  121. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 新たなる構想の下に、国体等規正法案というようなものを考える必要性が十分あると考えております。
  122. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それはこの世論の批判に対して十分に反省をなさるという先ほどのお言葉といささか矛盾しているのじやないかと思うのです。で、さつきからのお答えを公平に考えてみますと、この団体等規正法案などに対する輿論の批判というものは、二義的な点においてはいろいろ参考にする、併し本質的な点においては何ら反省の余地はないというふうにお考えになつているように聞えるのです。併し世論の批判について聞くというのは、本質的な点についてお聞きになるのでなければ、私は世論の批判に対する公平な態度じやないだろうと思う。世論の批判の最も重要視している点は本質的な点でありまして、即ち団体等規正令というものは占領政策下において置かれ、それが平和條約ができて、占領政策下に置かれない日本に、どうして団体等規正令のようなものを置く必要があるのか、そういう考え方が理解できない、そこで法務総裁は日本占領軍最高司令官となつて国民に臨もうとしておられるのかという批判が出て来たのじやないかと思うのです。その点についてはどうなんですか。
  123. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 団体等規正令におきまして私どもが最も中心的な価値ある規定であると考えておりますものは、政治団体の公開制度でございます。即ち民主主義並びに平和主義を育成するという立場から、国内におきまする政治団体の公開を制度としてとつております。このことは、私は今後平和條約が締結せられた後におきましても、我が国の民主主義、平和主義の一層の発達のために必要欠くべからざることであると、こう考えております。この点が第一であります。  次に政治団体の民主主義に対する不法なる破壞活動、これが団体等規正令において処理されることになつております。即ち団体の解散という行政処分がそれに対して行われることになつております。このことは、やはり民主主義を破壞から守る必要は今後においてもますます必要であると考えまするから、私は団体の解散或いはその他の制限、こういうことはやはり考えて行かなければならない。かくのごとく今日の団体等規正令の意図しておりまする事柄というものは、決して占領軍が占領軍自体の利益のためにのみ制定を命ぜられたものではないのでありまして、それは日本を真の民主主義国として発達させるという上から申して必要であり、有益であるという観点からできたものがあるわけでありますから、この部分につきましては、私どもといたしましては今後といえども必要であるという考えを持つております。
  124. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 団体等規正令というのは、元来、日本が降伏したポツダム宣言受諾に伴つて発せられた命令であるということは今更言うまでもない。そうしてその最初の形においては、いわゆる日本戰争に導いたような右翼的な、軍国主義的な、そうして侵略主義的な団体というものを取締るという意味の政令であつたことも法務総裁はよく知つておられる通りです。ところが、それが、その後に、この日本戰争に導いたような右翼主義的な、軍国主義的な、侵略主義的な、反民主主義的な、そういう主として右に対する団体等規正令であつたものが、その後に、右に対してばかりじやない、左に対しても適用されるようなものに拡大されて来た。これも事実である。そこで現在平和條約が締結せられて日本が占領軍政下になくなる、その際に勿論法律というものは常に進歩すべきものでありましようから、新たなる立法の必要がどこにもないということは成立たないかも知れないのですが、世論が主として心配しているのは、この団体等規正令というものを法律に持つて行くという、そういう考えの基底に潜んでいるものに危險なものがありはしないか、だから例えばこれは一つのたとえに過ぎませんけれども、今法務総裁が御説明になりましたような政治団体の公開というようなことが仮に必要であるとするならば、そうしてそれが法律によつてなされなければならないということが認められたとする場合にも、この団体等規正令というものとは全く離れて、これは占領軍に対する日本の降伏に基いてできて来たものであるから、こういうものは一応全く廃止して、そうして新らしい、必要があるならば、それとは全く縁がなく、新たに出発するという方向をとられたほうが、健全なる立法なり或いは行政なり、もつと根本的に言えば、いわゆる世論の批判しておるようなその基底に潜む危險なものというものが、いろいろな心配を引き起す憂えがなくなるのじやないか。そういう意味で、なぜ法務総裁はこの団体等規正令というものに執着され、それを何とかして法律にしたいという態度を示され、そうして輿論によつて団体等規正令を法律にするという考え方は、あなたが占領軍最高総司令官として我々に君臨されようとするのかというくらいまでの批判を受けようとなさるのか。むしろ団体等規正令というものとは全く離れたお考え方をおとりになるというお気持はないのでありますか。
  125. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 必ずしも団体等規正令を固執して団体等規正法を作らなければならないとは考えておりません。併しかくのごとき法規は、今日の我が国といたしましては一日もないわけには行かない。從いまして団体等規正令が効力を失いまするならば、当然即日そのあと引続き同種の目的を達すべき法規は何か考えなければならないであろう、便宜上これを団体等規制法案、こういう名前の下に研究をいたしておるわけであります。
  126. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 法務総裁の御都合で時間がなくなつて来たのですが、この点については又次の機会にもう少し伺わなければならないと思うのでありますが、その第一の点は、団体等規正令に執着しないとおつしやいますけれども、事実上において執着しておいでになるという感じを與えておる。これは印象から言つて甚だ問題だと思うばかりではないので、さつきから申上げておるような端的な批評というものは、これは相当重大な問題を含んでおる。これは一方から言えば、この占領軍の下にあつたときに日本政府というものはいわゆる占領軍を笠に着ていろいろなことをやつたのじやないかという疑惑とも関係をして来る。そうして且つ又この占領がやんで平和條約ができるということについての重大な意義というほうを重くお考えになるか、それとも占領はやんで平和條約ができるけれども、取締るものは取締るんだというようなほうが、政治家として法務総裁が重大な問題であるというふうにお考えになるか。私はこれらの点はおのずから明らかな点ではないかと思うのです。それで、この日本が占領が終つても新らしい形式の占領になるのじやないかという批判は、これは国際的に行われておる点で、これも法務総裁の御承知になつておる点だろうと思います。国内的にも、占領がやんで平和條約ができてもやつぱり占領軍の下にあつたのと同じようなやり方でやられるのじやないかということが、これはこの民主主義というものが、国内の平和とそうして国際的な平和、これを守る唯一つ、そうして最高の方法だということに対する国民の自信というものを傷付けることが夥しいと思うのであります。何か取締つていなければどんな騒ぎが起るかわからない、勿論取締の必要というものはあるでしよう。あるでしようけれども、併しこの平和條約というものが締結される際に、先ず第一に、そうして最高の問題として国民考えなければならないものは何であるか。これのほうが私は遙かに重い問題じやないかと思うのであります。從つてこの平和條約が結ばれると同時に、団体等規正令を団体等規正法というようなものにして行くというようなお考えから離れられて、そうしてこの平和條約ができ、平和と民主主義によつて日本は新らしく出発するのである、そつちのほうから考えて来られて、立法の必要があるならばそれを国会にお求めになるというお考えになるほうが、單に国内及び国際的に與える印象だけにとどまらず、本質的な点においても重大な意義を含んでおるのじやないかと思うのであります。
  127. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 団体等規正法案の問題は、今まで占領軍の命令によつてつてつた事柄を、今度は政府の立場で国民を取締るというふうに言われまするが、これは私ども考えるのとは根本的な、対蹠的なものであります。私どもは占領軍によつて行われておつた事柄を、政府ではなく、我々国民全体の主権者としての立場から、みずからの民主主義を擁護するという立場で新らしく出発すべきものであると、こう考えているのでありまして、即ち国民意思によつてかくのごときものが必要であるとして採択されるべきものであると、こう考えております。現政府が占領軍の代りになつて国民に対立するものとして、その上からのしかかつて来ておる、その一つの現われとして、かくのごとき法規を考えるものでない、国民みずからが、お互いの民主主義をみずからの手によつてつて行くところの、真に民主主義的な方法として、かくのごとき法規を採択せられるべきものではないか、これが私どもの根本的な考え方であります。
  128. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そういうことをおつしやると、なお問題が一層広汎なことになつてしまうのでありますが、現に名前の上から言つても、今おつしやるような民主主義を守るための法律というようなものは世界にどこにもないのです。民主主義擁護なんていう法律は出てやしない。民主主義を擁護するのは、法律によつて擁護するのじやなくして、憲法によつて民主主義というものは確立されているのである。で、さつき御説明になりましたように、国民の基本的人権というものは尊重されなければならないけれども、併し公共の福祉に対して害を與えるものは取締らなければならないというお考えを至る所に振り廻されますけれども、併しこれはどういう場合に適用されるものであつて、どういう場合に適用されるべきものでないということは、おのずから明らかであろうと思う。それで憲法或いは一般法規というものについては、基本的人権が尊重されて、その基本的人権の尊重というものが公共の福祉に害のある場合には、いわゆる刑法によつてこれが取締られているのであろうと思う。そしてこの公共の福祉に害があるというものは、法務総裁もよく御承知になつているいわゆるホルムス判事の言われたことにも明らかなように、個々の事実について、それが公共の福祉に対して眼前の、そして明白な危險があるという場合に、これが制限されるということであろうと思う。その故に憲法というものがあり、各種の法律があり、又刑法というものがあるのであろうと思う。これらをごつちやにして、そうして憲法で保障されているものへ以て行つて、いきなりその法全体として基本的人権は守るが、併し公共の福祉に害のあるものは取締らなければならないというふうな法律をこしらえるという考え方、これには私は非常に大きな問題があるのじやないか、端的に言えば、これこそいわゆる法律におけるフアシズムではないかというふうにも言われなければならん点があるのじやないか。從つてこの中については、これは非常に根本的な問題でありますが、果して法務総裁が先ほどおつしやつていたような考え方で、民主主義に危險がないかどうか。民主主義としては、この憲法において基本的人権を尊重し、そして法律によつてその基本的人権が行使せられる考え方を規定し、そうしてそれが公共の福祉にとつて害を生じた場合には、その個々の場合においては、如何なる害があるかということが刑法においては規定され、その刑法によつてそれが防止され、或いはそれが処理される。ところがそういう態度を離れて、基本的な法律憲法のほかにこしらえて、そうして憲法の中で言つている基本的人権というものは尊重される、併し公共の福祉というものを害してはならないというふうに掲げているのは、今私が申上げたような意味で、その憲法で公共の福祉が害されてはならないという場合は刑法で守られている、ですから、さつきからおつしやる団体等規正法案というものが目的とするところの政治団体の公開であるとか、或いは政治団体が不法な行為をなしたる場合というものが、現在日本にすでに存在するところの刑法などによつて処理できるという輿論の批判というものには、確かに聞くべきところがあるのじやないか。そして今法務総裁がおつしやるような既存の刑法その他で以て処理できないものがあるというお考えは、民主主義的な法理論というものから考えて見て問題になる点があるのじやないかというふうに思います。併しすでに法務総裁の時間の御予定もあるようでありますから、この点については次の機会に更に詳細の御説明を伺いたいと思います。
  129. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 時間がないので一言だけ申上げておきます。基本的人権の濫用は、公共の福祉に害があるから、これは当然刑法によつて禁圧されることはこれは申すまでもありません。すでにその点につきましては我が国の刑法において規定をいたしております。併しながら刑法というものは、これはその事柄を刑罰によつて、而も現実に発生したる後においてそれを禁止するための間接的な方法でありまして、近代国家におきましては、かくのごとき刑罰によつてすべての国の行政を行うという意味ではなく、予想せられる危險に対しましては合理的な、予防的措置を行政法規の範囲で行うというのが、これが普通に行われると思うのであります。これが近代国家の行政の根本だと私は考えておるのであります。若しすべて刑法にあることは刑法だけでやつてよろしいということでありまするならば、今日の国家の大体のやつておりまする行政というものは、もう無用に帰してしまう、併しそれではやはり真の文化の発展、民主主義の発展ということは期待できない。やはり予想せられる危險に対しまして合理的な予防の方法が考えられるならば、これを行政上の措置によつて定めて行こう、これが私は行政措置の必要性だと考えております。果してそれが必要であるかどうかにつきましては、具体的な問題についてはかなりいろいろ議論がありましようが、これは一般論といたしまして、刑罰法令で禁止するのであれば、それに対して行政上の予防措置はなくしてよいであろうという御非難に対しては、私は全幅的に支持いたしかねる状態でございます。
  130. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今おつしやつたような点についても、例えば刑罰でないというような点に対しても、世論の批判があります。刑罰でないからいわゆる行政上の措置ができるというような考え方には反省を願わなければならないという世論の批判があります。それから予防する行政上の措置というふうに言われたことも、今おつしやるように広汎に解釈せられることが許されるかどうか。そうして犯罪の予防というものは勿論非常に重要なものでありますが、その犯罪の予防というものにおいては、午前中からも申上げておいたような社会生活、或いはきつき法務総裁のお答えになりましたように、言論の自由、国民生活向上、文化教育の向上というような点が重要な点であつて、そうして刑罰必ずしもいわゆる刑罰でないから行政上の措置をやつてもいい、或いはこれは次に伺いたいと思う点でありますが、いわゆる団体に所属することによつて、それが何らかの責任を刑法上或いは刑法に類するような行政上の措置を必要とするようなことが、果して今日の考え方として、本当の意味において許されるものであるかどうか。いわゆるギルド・バイ・アソシエーシヨン、そういう問題は今易論日本ばかりでなく、世界の各地において問題になつておることであり、我々が今、日本で民主主義を建設して行こうという場合に、ギルド・バイ・アソシエーシヨンというようなやり方をどんどんやつてつては、日本の民主主義の圧迫になるのではないか。民主主義を擁護すると言つておりながら、それを掘り崩してしまう、そういう危險がある。そういう点から十分に御研究になつておることだと思いますので、それらの点については詳細に次の機会に質問をいたしたいと思います。  私はさきに委員長に対しまして、いわゆる政令改廃という問題について、政令改廃を担当しておられる責任者の御意見を伺いたいと思つてお願いしたのでありますが、政令諮問委員会というものは官制上の委員会でない。そうして法務総裁がその政令改廃についての担当者であると言われるのですが、今までの質問の経過を考えてみますと、いわゆる政令改廃についての政府の方針というものについては更に適当なかたの御意見を伺う必要があるというふうに考えるのです。その点について最も適当なのは言うまでもなく首相ですけれども、併し首相がここに出席なされて政令改廃についての根本方針というものをお述べになることが事実上可能であるのかどうかわからない。そこで政令改廃の基本方針というものについて適当なかたの御所見を伺いたいと思うので、そのように委員長が御配慮下さることをお願いいたします。
  131. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 承知いたしました。
  132. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それから政令改廃の問題と関係をしまして大きな問題になつておりますのは、人事院或いは新らしい人事行政の問題についてであります。その点については人事院総裁の所見も伺いたいと思うのでありますが、今日は止むを得ない所用があつてここに御出席になれないということでありますので、次回にでも、許されれば月曜日にでも御出席を願つて、そうして質問の機会を與えられんことをお願いしたいと思うのであります。  労働基準の問題について、労働基準局長が御出席下さつていると思いますが、午前中に労働大臣に向つて労働政策一般についての所見を伺いたいと思つたのでありますが、残念ながら極めてあいまいなお答えしかなかつたのであります。この労働政策全体の中で、特に労働基準の問題は実に重要な問題であり、そうしてこれも甚だ遺憾なことでありますが、現在の首相なり、或いは労働大臣なりからは、労働基準の問題について、我々がこの平和條約を審議する際に、信頼して、我々みずから必ずしも疚しくないというような所見を伺うことができなかつた。先日も首相が商工会議所なり何なり、そういう席上でチープ・レーバーということを非難するのは、非難するほうが間違つているということをおつしやつている。こういう点について、まああなたに伺うのは無理かも知れないのですが、労働基準局長は、労働基準の問題について、労働大臣なり何なりを通じて、首相に対して絶えず意見を具申しておられるでしようか、その点を先ず伺いたいと思います。
  133. 亀井光

    説明員(亀井光君) 労働基準行政は只今お話のございました通りでございまして、日本労働者の労働條件の維持向上を図りまして、その生活の安定を図つて行くという大事な行政でありますと共に、この問題は国際的な繋がりを持つのでございまして、国際的、国内的両面からいたしまして、この行政の進展につきましては私、局長としましても努力をいたしておる次第でございまして、必要な事項につきましては、その都度大臣に御報告し、又我々事務当局の意見は申上げて参つております。
  134. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点についてなかなか御苦心のことだとは思うのでありますが、日本のチープ・レーバーは国の誇りだ、これを非難するのは非難するほうが間違つているとか、或いは午前中のこの委員会でもそういう御意見が述べられましたが、日本は貧乏なんだからと、そういうようなことで、この労働基準が現在日本考えられているということは、私はこの平和條締結について実に重大な問題だと思うのであります。それで労働基準局長はさぞかしこの問題について苦心をされておられるだろう。これには一般の社会の輿論というものも背景にしなければならない。社会の輿論を背景にして、日本の現在の政府というものは労働基準というものについて、もつと近代的な考え方、又国際的な考え方というものを考えられるように、今後も一層の御努力を願いたいと思うのであります。  次に伺いたいのは、昨年でしたか一昨年でしたかの行政整理の際にも伺つたことでありますけれども労働基凖監督局或いは労働基準監督官、或いは労働基準監督の制度というものは、今もお話がございましたように、労働基準というものは実に重大な問題である。民主主義を尊重するとか、平和国家を建設するのだとか、左からの脅威とか、日本の周囲に侵略主義が跳梁しているとか、ああいう言葉日本平和條約を締結しようとしているが、日本世界で判断されるのは、実際の事実として、日本労働基準がどういう状態にあるか、そうしてそれがどつちの方向に動こうとしているかということによつて判断されるのだ。これは外務省なり、外務省の條約局長なりは、文面だけ美しい條約でも、できればそれでいいというふうに、まさか考えておられるのじやないでしようが、先ず以て実体をなすものは第一には労働基準であり、又世界もそれを注目している。しばしば先日来この問題が、殊にイギリスとの関係で述べられている。日本労働基準というものが再び低下するのじやないかというように考えられるのですが、この占領治下の約六年間に日本労働基準というものは、どの程度まで進んで来たものであるか。そうして現在どの程度にあるか。これは、こういう平和條約が締結せられることによつて、どつちの方向に進んで行くかという点について、どうか御説明をして頂きたいと思うのであります。
  135. 亀井光

    説明員(亀井光君) 基準法は、御承知のように昭和二十二年の九月から施行になつているわけでございまして、本年で満四年を経過するわけでございます。この基準法の母体となりました法律は、御承知のように工場法でございまして、工場法におけるいろいろな労働の面における不備を、労働基準法におきまして是正し、補足しましてでき上りました制度であるわけでございます。この基準法の四年間の歩みを眺めて参りますると、我々といたしましても相当の実績を挙げたものと信ずるのでございます。現在の状況を申しますると、現在適用を受けておりまする事業所は約六十八万ございまして、労働者の数は一千五十三万、約一千万人という数になつているのでございます。この六十八万の事業所に対しまして、どれだけの監督をして来たかという問題になるわけでございますが、過去の数字を申上げますると、昭和二十三年におきましては約二十万の事業所を監督いたしました。昭和二十四年におきましては四十万の事業所を監督し、昭和二十五年におきましては三十四万、昭和二十六年の一月から六月まででは約十五万という事業所を監督して参つたのでございます。これらの監督の結果、相当の違反が出ているのでございまして、その状況を申上げますると、昭和二十三年二十万の事業所に対しまして、十五万の事業所が違反いたしまして八一%の違反率、二十四年が八八%、二十五年で六五%、二十六年一月から六月までで五八%というふうに、漸次違反の件数が減少して参つておるのでございます。この違反の件数の中には、実質的な労働條件に関しまする違反と、手続その他の形式的な違反と二つに分けてこれを見ますると、基準法の滲透状況がよくわかるのでございまして、数字になりまするが申上げて見ますると、昭和二十三年におきまする違反の件数、事業所でございません、件数でありまするが、その中で形式違反、即ち届出その他の手続に関する違反、この比率が五二%、実質的な労働條件に関しまする違反が四八%、それが二十四年になりますると、形式違反が四八%、実質違反が五二%、二十五年になりますると、形式違反が三五%、実質違反が六五%、本年一月から六月までの形式違反が三〇%で実質違反が七〇%というふうなことは、基準法施行当初におきましては、基準法に定めておりまするいろいろな條項についての理解認識が、使用者に徹底しなかつたために起りまするいろいろな手続面の違反が主体をなしていたのでございまするが、その後逐次この数は減つてつておるのでございまして、このことは基準法の趣旨が使用者のほうに滲透して参つたことを示すのではないか、と共に、半面、実質的な違反の件数が殖えて参つておると申しますることは、監督の基準と申しまするか、監督の内容における向上を示すものではないか、かように思うのでございます。我々の監督行政の目的は飽くまでも労働者の労働條件を維持向上して行くことでございまして、監督のための監督を行うのが目的ではないわけでございます。從つて我々が行政運営の面におきましては、その点も十分注意をいたしておるわけでございます。なお現在、我々の行政におきまして重点的に取上げまして行なつておりまする事項は、作業災害の防止或いは賃金不拂に対しまする措置、或いは女子、年少労働者に対しまする保護、こういう面を重点にいたしまして目下行政運営を図つておる次第でございます。
  136. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今詳しい御説明を伺つて満足したのでありますが、この労働基準の監督が適正に行われているかどうかということはいろいろな面から見なければならないことでありまして、我々が只今平和條約を審議する際にそのすべてを考えなければならんということは、とてもできないだろうと思うのでございますが、その一つの場合として、私はこの前の行政整理のときにもその点を指摘したのですが、この基準監督官が一つの事業所に年に何回くらい行けるのか、まあとにかく行つて見ないことには、そこで労働基準が守られておるのか、破られておるのかわからないのではないか。そのことを伺つたところが、そのときの政府のほうの御答弁では、行政整理前において二年七カ月に一回くらい行く。それから行政整理を受けて二割の人員を切つた結果は、三年四カ月目くらいに一遍行くという御答弁があつた。それでは例えば今お示しの年少者の虐待という問題でも、三年四カ月もたてば、十五歳の人が十八歳になつてしまうのではないか。そうするとその間にそういう残酷なことが行われておるのじやないかということを申上げたのですが、この点は、これはあなたに教えて頂かなければならないのですが、重要なことなんですか、重要でないことなんですか。重要なことだとすれば、それは基準監督官が、一体あなたが労働基準監督局長として、どれくらいの年月に一つの事業所に行くことができることを理想というふうにお考えになつているか。これのお答えはむずかしいかも知れないとは思うのですが、今の数字を拜見いたしますと、六十八万の事業所に対して、最初二十三年度は二十万、二十四年度は四十万、二十五年度は三十四万、二十六年度は六月までで十五万、この調子じや成るほど三年に一遍くらいしか行けないのじやないかというふうに思うのですが、何年に一遍行かなければならないということは恐らくないでしようが、労働基準法が極めて公正に守られている状態ならば、十年に一遍見に行くだけでもいいかも知れない。そういう意味でなかなかむずかしい厄介なことをお教え願うとは思うのでありますが、今の日本状態で予算その他の面もあるということも考えて、公平に考えて一体どれくらいの期間に一遍見に行くということが、これは絶対に必要だという報告を受けておいでになるか、その点教えて頂きたいと思うのであります。
  137. 亀井光

    説明員(亀井光君) 監督官一人が廻りまして、監督を受けまする事業所、これを積み重ねまして、全監督官が全国の六十八万の全事業所を廻るには、一体どれくらいの日数を要するかというお話でございますが、二十五年の実績は先ほど申上げましたように三十三万八千、約三十四万ございます。そうなりますと、六十八万の事業所を廻りますのは、大体二年に一回という形になるわけでございます。その二年に一回で果していいかどうか。或いは事業所によりましては二、三回行く場合もあるので、その数がどうなるかという問題も、そこから起つて来るわけであります。我々としましては、目下の監督のやり方としては、定期的に廻りまする監督と、それから労働者の申告に基きます監督、両方をやつておるわけでございます。労働者の申告に基きまする監督は、申告のあるごとに必ず監督に出かけさしております。それから又、定期監督は予算等の関係もございまして、それと睨み合せ、計画的に而も能率的に行うような方法を講じておるわけでございます。この問題は、この基準法を遵奉しまする事業所がどれくらいあるかという問題とからみ付くのじやないか。基準法は又今申上げましたように、四年の歴史しか持つていないのでございまして、どの程度滲透しておりまするか、大きな事業所におきましては相当の滲透率を持つておると見ております。從いましてそういう所につきましては、監督についての実地監督は或る程度省略することもできると思います。而して中小以下の企業につきまして、然らばどの程度の監督を実施すればよいかと申しますと、やはりこれは労働者の申告がありまするものを、一年なり一年半に一回くらいというところが大体いいところじやないか。まあ実はこれも勘でございまして、はつきり統計的な根拠があるわけではございません。ただ我々はこの中小企業の事業所を監督する場合におきまして、一人二人を雇つておる事業所を廻りまして監督するということは、勿論必要でございますが、なかなかそこまで手が及ばないということから勘案しまして、経営者の組合或いは協同組合、こういうようなものを通じました監督のやり方、或いは労働組合を通じました監督のやり方、こういうものも今後は工夫して行く。そうして與えられました予算と申しますか、その範囲内において効率的な監督を実施して参るのが適当である、かように考えております。
  138. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ラジオを通じ或いは新聞を通じ、日本労働基準がどの程度まで守られているか、或いはそれらのうち、破られている場合に対する社会の注目を喚起しておられるか、これは労働基準局の御努力も多分にあることだと思うのですが、事実私は労働委員ではないのですが、法務委員をしておりますが、この法務委員会の関係で地方に出張しましたときも、私としては時間の余裕がある場合には労働基準局に伺つて、そうしてそこの実情を伺つたり、或いは工場を訪ねたり、組合の意見を聞いたり、或いは泊つた旅館においては女中の意見を聞いてみたりしているのですが、私どもの受けます感じでは、残念ながら労働基準監督局の非常な御盡力にもかかわらず、実際においては間々そういう事件があるというのじやなくして、至るところに労働基準の違反があり、そうしてそれらの違反に対する適宜の処置をとることができないでおる、そうして特に一般に私は非常な誤解を招くのじやないかというふうに思うのは、今、日本で適用されておる労働基準というものが日本の国には贅沢だという、そうして少しばかりの人間を使い、休めるときには十分に休めるので、何も八時間労働とか女子労働とか深夜業とか、年少労働者とか言わなくても、休ませるときにはゆつくり休ませるのだから働かすときに働かしてもいいという、ああいう議論がかなり横行していますが、勿論この日本の経済的な或いは客観的な條件というふうなものも、私としては無視するつもりは毛頭ございませんが、併し日本現状において、そうしてこの労働基準というものが国内的にも国際的にも要求せられておる基準というものをお考え下すつて労働基準局が、何も非常に実現の不可能な理想というものじやない、一定のスタンダードというものはおありになるのだ思う。その一定のスタンダードというものと、それから現在の日本労働基準が守られておる現状というものとは、どれぐらいのところにあるというように現在お考えになつておるでしようか。これはきつと全国の労働基準監督関係の御報告に基いて、そういう統計上の数字がお出になつているのじやないかと思うので、それを伺いたいと思うのであります。
  139. 亀井光

    説明員(亀井光君) 今の点に関しまする詳細な統計というものは実はないのでございまして、ただ地方からの情報その他によりまして我々は判断をいたして参つておるわけでございます。問題はこの基準法の滲透の度合がどの程度行つているか、或いは基準法の滲透の薄いところはどこかという問題と関連すると思いまして、先ほどもちよつと申上げましたように、大きな事業所におきましては監督の結果についても違反が殆んどないところが多いのでございまして、ありましても極く小部分でございまするが、やはり日本の産業の大多数を占めまする中小以下の事業において違反が相当あるやに見受けられるのでございます。で、これらの違反の内容を検討してみますると、形式的な違反の大部分はこういう中小企業の面において現われておるのでございます。このことは基準法の内容を知らないが故にそういう違反をしておるという結果が大きな原因ではないかという気がいたすわけでございまして、從いまして我々としましては過去四年間この基準法の内容或いは趣旨の周知徹底に努力して参つたのでございまするが、更に今後は重点を中小企業の面に置きまして、基準法の内容を更に徹底して参りたい、かように考えております。
  140. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それではさつき御説明下さいました最も重要な点とお考えになつておられるという第一が産業災害ですが、それから第二は賃金不拂、それから第三は女子及び年少者に対する労働の強制、これらの違反件数というものは、全国総数におきましてどういうふうに推移しておるのでありましようか、その数字をお持ちでございましたらお伺いしたいと思います。
  141. 亀井光

    説明員(亀井光君) 違反の内容の問題でございまするが、これも数字になりまするが、昭和二十三年一年間の状況を見ますると、安全及び衛生関係の違反、これが総体の三九%を占めております。それから女子の労働時間及び休日、これが三・九%、年少者の労働時間及び休日、これが二・三%、賃金の不拂が三・九%という状況でございますのが、昭和二十四年一月から十二月まで一年間でこれを見ますと、安全衛生関係の違反が五一%、女子の労働時間及び休日違反が三・四%、年少者の労働時間及び休日の違反が一・五%、賃金不拂が五・八%、ここで二十三年よりも二十四年におきまして年少者及び女子の労働時間の違反が減つてつていまして、その半面安全衛生の違反及び賃金不拂の違反が殖えて参つております。更にこの傾向は二十五年におきましても現われて参つておりまして、二十五年一年間のパーセンテージを見ますと、安全衛生の違反が五一%、女子の労働時間及び休日の違反が三・七%、年少者の労働時間及び休日の違反が一・八%、賃金の不拂の違反が七・四%という形になつて現われておることであります。これを又二十六年一月から六月までの数字で現わして見ますると、安全衛生の違反が総体の六一%、女子の労働時間及び休日の違反が三・一%、年少者の労働時間及び休日の違反が一・一%、賃金の不拂の違反が四・三%、ここで御注意を願いたいと申しますのは、賃金不拂の事件が二十五年よりも減つてつておりまするのは、朝鮮動乱後における特需或いは新特需における企業の隆盛からしまして、二十三年の暮から一番激しかつた賃金不拂事件が徐々に昨年の六月から解決されて来たという数字を示しております。又年少労働者、女子の問題につきましても、これは逐年大体横這いで来ております。
  142. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今の違反の実数、件数のほうはどうなのですか。
  143. 亀井光

    説明員(亀井光君) 実数を申上げますると、昭和二十三年の総実数が、件数でございますが、これは実質違反だけでございますので、その点御了承願いたいと思います。二十四万件でございます。その中で安全衛生の違反が九万五千件、女子の労働時間及び休日の違反九千六百件……。
  144. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 他は結構ですから、この安全衛生とそれから賃金不拂だけでよろしうございます。
  145. 亀井光

    説明員(亀井光君) そうですか。賃金不拂が九千五百件、これが二十三年、二十四年は総違反件数が六十六万件、この中で安全衛生が三十三万九千件、賃金不拂が三万八千五百件、二十五年が六十万九千件、その中で安全衛生違反が三十一万五千件、賃金不拂が四万五千件、それから二十六年一月から六月までの分でございますが、違反件数が二十七万件、この中で安全衛生違反が十七万一千件、賃金不拂が一万二千件という大体の実情であります。
  146. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 いわゆる新聞などで我々が読む人身売買といいますか、そういう問題は必ずしもすべてが労働基準監督局の問題ではないのかも知れませんが、これらの問題については労働基準監督局ではどんなふうに処理しておられるのか。最近人身売買が東北地方だけに限らず、全国に亘つて増加しつつあるというような報道がなされておりますけれども、どういう状態になつておりましようか。若し今資料をお持ちでなければ次の機会にでも結構なんでありまするが……。
  147. 亀井光

    説明員(亀井光君) いわゆる人身売買事件につきましては、これは單に我々労働省のみならず、厚生省の関係もございます。或いは警察の関係もございます。それぞれ出先におきましては三者一体になりまして、そのほかに各県の青少年問題審議会という審議会でそれらの処理を県が中心となりまして処理をいたし、その保護或いは予防という措置を講じておるようでございます。件数につきましては今資料が手許にございませんので、後ほどお届けいたします。
  148. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それじやあとで書面で結構でありますから……。この八月でしたか、朝日新聞などに報道しておられる。人身売買が地域的な問題でなくて全国的な問題になつて来たと、それから農村の問題じやなくなつて来て、都市の問題にもなつて来たと、それから数においても増加の傾向があるというような報道があつたんですが、それについて労働基準監督局ではどういうふうな結論を出しておいでになるか、それをお教えして頂きたいと思うのであります。  私はこの前文について伺いたいと思います問題は、いま一つ外務大臣に向つて、特に日本が「国際連合への加盟申請し且つあらゆる場合に国際連合憲章原則を遵守し、」というふうに前文に書いておられます。この点について国際連合への加盟申請する、そしてその加盟が許されるということの可能性について外務大臣はどういうふうにお考えになつておられるのか、その点を伺いたいというふうに考えておるのですが。
  149. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは丁度午前中にも曾祢委員から御質問がございまして、実は現在この国際連合への加盟申請しながら拒否権関係でなお停頓しておるのが十五カ国あつたと記憶しております。今度の戰争のあとでイタリー外五カ国も同様な内容を謳つておりまして、そうして又これに署名し批准した国家も、これを承認しながら現実には加盟ができておらない、イタリーを初めできておらない状態でございます。そこで実際こうありまするが、具体的にこの加盟申請承認されるかどうかという問題になつて参るわけであります。この点につきましては今回署名いたしました国が四十八カ国ございますから、とにかくいわゆる多数の国々は日本加入申請承認してくれることは、まあ署名国は当然でございまするが、併し今申上げましたように從来からの例もありまするので、拒否権等の発動によりましてなかなか簡單に行きにくい状態も予想し得られると思います。この場合におきましてはイタリー等に現在この国際連合に代表の機関を派遣しておりまして、場合によりましては公式に或いは非公式に又オブザーバーを出しまして、殆んど加盟に準ずる、準加盟国というような取扱を受けて参つておりまするので、こういう手続も勿論とり得るのではないかと考えて、根本には加盟承認してもらうことが根本でございまするが、それまでにはそういう途もあるのでございます。更にこの六日から開かれます第六回の国際連合総会におきましてはこの問題を、加盟国拒否権のために加盟ができないという状態の問題を相当真劍に取上げながら協議が進められることも伺つておりますので、いずれ遠からず国際連合自身におきましても現在のような障害が取除かれるために相当な努力が拂われるのではないか。この点を大きく期待をいたしておる次第でございます。
  150. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今政務次官から御説明下すつたような御説明は衆議院においてもすでになされておることであつて、我々もすべて知つておることなんでありますが、私が伺いたい、この際この委員会において明らかにしなくちやならないというふうに思いますのは、この平和條約を以ていわゆる明瞭に多数講和というか、全面講和というものを期待しない、そうしてこの日本に関係のある大国の参加というものを必ずしも必要としない、これはダレス氏自身もそういうことを言われたと思いますが、ソ連が参加しなくてもこの講和條約は準備は進めるし、調印はやるんだというふうな態度と、この前文は矛盾しやしないか。これは明らかにそういう態度平和條約を進めて来るならば、これは拒否権に会つて拒否されるということは明らかなことである。だからソ連が参加しなくても多数講和を締結するんだというお考えならば、この前文にこういうふうに書いてあることはおかしい。前文にこういうふうに書いたのが良心に基いて書かれているなら、ソ連の参加しない多数講和でもよろしいという方針で今まで進んで来られたのがおかしい。これはそこに非常に重大な矛盾がある。これが成立し批准されれば、日本平和條約として非常に貴重な文書になるのですが、公平に眺めて見て、この「国際連合への加盟申請し」ということは、今申上げたような点から非常に重大な問題になるのじやないかと思うのですが、これは今日発生した問題じやなくて、今までの平和條約の準備の過程において十分御研究にもなりお考えにもなりいろいろ苦労せられたことだろうと思うのです。我々の見ておるところでは、ダレスさんは、ソ連が邪魔するならば多数で対日講和をこしらえるのだ、そうして置いて、この前文へ持つて来て「国際連合への加盟申請し」、これはどうも普通の人間の頭で考えてみると、どつちかが嘘なんじやないかというふうに判断しなければならない。だから多数講和でやるということならば、こういうところへこういうことを書くのはおかしい、こういうことをここへ書く以上は、何とかの便法を求めて加盟する……、或いは国際連合、なかんずく安全保障理事会における拒否権というものの意義は、そういうものが確立されるに至つた意義というものは、これは今日かるがるしくこれを批判したり、或いはかるがるしくこれを否定したりできるものじやない。世界の平和が守られる上には大国の一致した満場一致でなければ平和は守られないという固い決意の上に拒否権というものが承認されている。これをあたかも政府拒否権ということを何か邪魔するような意味で言うことは、国際連合憲章を誹謗するものでもあろうと思う。拒否権というものが認められているのは、立派な理由があつて拒否権というものが認められている。で、過去のいろいろな国際平和に関する條約というものにおいて、なぜここに拒否権というものがはつきり認められなかつたか。そうしてそれが拒否権というものがなかつたために、折角の国際平和機構というものが失敗に帰したという深い反省の上から、今度拒否権というものが認められている。言葉を換えて言えば、即ち満場一致の原則である。で、すべて国際平和を満場一致の上に打ち立てて行こう、決してバランス・オブ・パワーの上に打ち建てて行こうとは考えていない、こういう国際外交の進歩がそこに現われているのだと、從つて政府が先ほどからソ連拒否権で邪魔するというようなふうにばかり言つておられるということは、私は事態を正当に国民に理解させるゆえんではない。そういう意味でこれは一体どうなさるのか。なかなか只今すぐ御返答を頂くということは無理じやないかと思うのですが、我々は公平に眺めて、こういうことを言つて何とかなるのだというようなことで、参議院の委員会が良心に基いて審議をしたと言うわけには行かないのじやないか。そこに立派なヂレンマがありますね。多数講和でやつて来る。そうして国際連合への加盟を求める。これはできないことを言つておるのですから、どつちかをやめる。多数講和でやる代り、国際連合加盟するということは、一切言わない。国際連合加盟ということを言うならば、その点についての反省がなされなければならない。これは実に重大な問題である。で、日本戰争の、過去の犯罪を脱却して平和状態に入つているという、最初の国際的文書が僞りを含んでいるということであつては、重大な問題だと思うので、その点についてもう少し御研究下さつて御答弁願いたい。或いはできれば外務大臣の御所見を伺いたいと思うのであります。
  151. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) これは実は私少し詳しく申上げたから、却つて悪いかも知れませんが、日本としましては、前文にこういうことを謳つておりまするのは、承認するせぬというのは第二の問題だと思います。お話通り日本国際連合加盟をすることを申請するということを意思表示はつきりいたしました。同時に第五條にもありまする国際連合のもろもろの目的なり原則を守る、こういうのであります。從つてこれを受付けた国際連合がこの日本申請をどうするかは第二の問題であります。で、ここは日本申請をするという意思はつきり表明しただけであります。
  152. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私が非常に心配するのは、繰返すようになつて、時間の関係もあつて甚だ恐縮でありますが、日本が新たに出発する最初の歴史的な国際的な文書たる平和條約の前文において僞りを記すということは許されるべきことではないというふうに思うのです。それで事実においていわゆるこの安全保障理事会において拒否権を持つている国を除外して締結されるところの平和條約、それがこの国際連合国際連合精神に基いて加盟するということをここに記すということが僞りじやないか。
  153. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 申請することは全然僞りじやなしに、真劍に日本申請したいと考えております。この條約を国会で承認して頂きましたら、そうして、このようにこの條約が効力を発生いたしますると、真実日本政府国際連合加盟申請するという熱望を持つておるのであります。
  154. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 もぐつて入るということなんですか。私はこの点は非常に重大な問題だと思いますので、政府がいま少し誠意のある答弁をして頂かなければ、これは我々は審議の責任をとることができないと思うのです。この誠意のある御態度というのは、今申上げました二つの点についてどういう見通しを持つておられるのか、これは決してこの間から衆議院であなたが御答弁になつておるような拒否権をもぐつて入るというようなことを国会で認めることはできないと思うのです。
  155. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) この前文に書いてありまするのは、この通り国際連合加盟申請するということは嘘でも僞りでもない。そうすると今後の見通しはどうかというお話でありましたから、今後の見通しは從来はかくかくかような状態でありますと申上げたのであります。で、日本がこれを承認し、且つこの條約が効力を発生いたしますると最も速かな機会に国際連合申請するというここに宣言いたしました方法を以て日本政府取扱います。從つてその後、国際連合はこれをどう取扱うかというのは国際連合の問題であります。ただ見通しをお聞きになりましたから、從来こういう点があつたということを申上げただけであります。
  156. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その字句の問題でなく、日本国際連合への加盟申請をするという態度が真実申請がまじめなものであるためには、国際連合への加盟ができるような状況に日本がみずから立たなければならん。その加盟が極めて困難なような状況に日本が立つて、そうしてこれを申請するということは、その後の問題は国際連合の問題だとは言えない、極端に申せば、こういうことこそ再び日本が過去において国際連盟を破壞したように、今日国際連合を破壊しようとする動きをしておるのではないかというようにも国際的に考えられないことはありません。それで先ほどから外務省関係では、五十数カ国のうち、四十数カ国が賛成をしたというふうに言われますが、併し世界の問題が、今日、日本の場合であつても、如何なる場合であつても四大国或いは五大国というものの一致した意見というものの上に平和は築かれて行かなければならないということを考えなければならん。日本と勿論南米の諸国とは技術的には戰争状態に入りましたけれども、併しそれらの国々の多数が賛成をするということは日本を中心に恒久平和が確立されるということにならないということは、今日では国民でも心配しておる点です。ですから政府がただ数ばかり勘定して或いはパラグアイであるとかニカラグア共和国であるとか、そういう国が多数賛成しておるからということで、この国際連合加盟の多数の国が賛成してくれるだろうから何とかなるのだというようなことでは、私はこれは僞りの御答弁じやないかと思うのです。そうして日本の問題に関係しては、やはり中国なり或いはソ連なりがこれに対して拒否権を持つ十分な理由があります。そこで日本としては、どうかそれらの国がミニマムの点において一致して、そうして拒否権というものが行使されない満場一致の原則で以て日本の平和の問題が解決されるということを飽くまで効力してもらつて、そうしてその効力の結果に基いてここに前文国際連合への加盟申請すると書かれておるのならば、これは誠に我々の真実を表明したものだということができますけれども、さつき申上げましたように国際連合への加盟が現在の国際連合の根本精神に基いてはできないような状況を日本が作り出しておいて、そうして加盟申請するということは非常に重大な問題じやないか。だから多数講和でやつて来たことが本当なのか、それとも国際連合への加盟申請するということが本当なのか。その真実がいずれにあるのか。これは両方とも真実だということは許されないと思う。從つて私がさつきから政府のお考えを伺いたいと思つていることは、この問題を今のような言葉の上の御答弁で国民が満足する、国際的に満足されるというふうにはお考え下さらないで、この問題を解決するのには、こういうことを考えているのだということをお聞かせ願いたいと思うのです。そうでないと、これはたびたび繰返しますが、歴史的な文書となる日本の新生の最初の平和條約の前文に嘘を書いているというように判断しなければならないのであります。
  157. 草葉隆圓

    政府委員草葉隆圓君) 実は今回のいわゆるサンフランシスコ会議におきまする招請は御承知のように五十四カ国になされて、その中で三カ国が不参加、あと五十一カ国が参加いたした次第であります。勿論その中には只今お話のありましたソ連も参加をいたしておるのであります。從つてこの調印は三カ国調印をせずに、調印をいたしました国は四十八カ国であつたのでありますが、そこで日本といたしましては、実はお話のようにこれらの非調印国三カ国、及び非参加国三カ国、これらの国々もこの二十三條によりまして、今後この條約に対する調印をする途を開かれて、調印と申しまするか、この承認をする途を開かれておるのであります。從いまして当然戰争状態にあり、又は国交断絶をしました国々と全部国交を回復して平和状態になりますることが日本の根本に望むところでございまするから、從つてこれら五十五カ国の戰争状態が終了をして、そうして平和状態になつてこそ、初めて日本の全体の世界に対する平和が回復したと言えると思う。こういう気持は実はこの間から総理からも申上げました通りに、政府におきましてもずつとこういう気持で参つておるのであります。併しこの條約に非参加国があり、又非署名国がありましたことは誠に残念でございまするが、併し現実の問題としてそのような状態になりましたので、今後殊にこの條約で三年間は義務付けられておりまする二十三條によるこの條約の、同じ條約又はこれの精神を酌んだ條約についての両国間の国交が、署名批准がとり行われることを強く希望しておる次第であります。そういう途も進んで参り、そうしてこの国際連合のすべての国々と国交を回復して平和状態になつて来ることが最も望ましいことであり、又これを希望しておる点でございます。
  158. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 時間の御都合もありますから、私はこの点について質問を保留して、本日はこれで打切りますが、どうか政府で十分御研究の結果お答えを願いたいと思いますのは、要点を申上げますが、国際連合というものが今後どういうふうになつて行くかということに対して日本の責任もあるし、それからつまりこの前の国際連盟に対して日本がとつたような態度というものを繰返してはならない。從つてこの国際連合へ持つてつてできない相談をぶつつけるというようにすると、そうするとその結果は必ず日本のそういう態度一つの原因となつて国際連合というものは、いわゆる二つのバランス・オブ・パワーがそこで争う場所になつてしまう。そういう意味国際平和機構としての国際連合は再び破壞されるということになる重大な問題を含んでおります。  それから第二には、この点について只今も言及されましたように、三年間少くとも明らかに国際連合加盟するということが不可能だということを政府はお考えになつておるのだろうと思う。そうして三年間国際連合加盟するということが全く不可能な状態において、この條約及び日米安全保障條約というものが実施に移される結果に伴うところの重大な問題がここに発生して来る。從つてこれを参議院において審議をお求めになりますに当つては、この問題、つまり單独講和でやつて来て、ソ連も中共も参加しなくつてもよろしいという方向でやつて来て、そうしてここになつて平和條約、或いは日米安全保障條約、或いは特に前文において、又前文ばかりではありません、この條約にもしばしば国際連合との関係が出て来る。その場合には国際連合加盟するということを前提としてやつて行く。これはどうしても我我がこれは僞りであるという認識を新たにするような答弁をせられない限り、私としては将来の問題もあることでありますから、この委員会においてこれは偽りであるという判断を明らかにしなければならない。そうしてなお念のため政府から一度この機会に伺いたいと思いますのは、国際連合規約、なかんずく安全保障理事会における拒否権というものを政府は如何なる意義を以て拒否権というものが確立されているのか、拒否権意味についてどういうふうにお考えになつておるのかをも、適当な機会に伺わせて頂きたいと思います。本日はこれを以て打切ります。
  159. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) では、散会に先立ちまして参考資料について委員長から外務当局にちよつと申上げておきますが、各委員から参考資料の要求がありました場合には迅速にこれを御提出頂きたいと思います。そうして審議に差支えないようにいたしたいと思います。なお要求の予想せられる参考資料についてはあらかじめ用意しておいて頂きたいということを御注意申上げておきます。  では、本日はこれにて散会いたします。    午後四時八分散会