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1951-10-31 第12回国会 参議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月三十一日(水曜日)    午前十時六分開会   —————————————  出席者は左の通り    委員長     大隈 信幸君    理事            楠瀬 常猪君            一松 政二君            金子 洋文君            曾祢  益君            加藤 正人君            野田 俊作君            堀木 鎌三君    委員            秋山俊一郎君            石川 榮一君            泉山 三六君            北村 一男君            杉原 荒太君            徳川 頼貞君            平林 太一君            岡田 宗司君            加藤シヅエ君            佐多 忠隆君            永井純一郎君            波多野 鼎君            吉川末次郎君            岡本 愛祐君            片柳 眞吉君            楠見 義男君            杉山 昌作君            高橋 道男君            伊達源一郎君            木内 四郎君            栗栖 赳夫君            羽仁 五郎君            堀  眞琴君            兼岩 傳一君   国務大臣    内閣総理大臣    外 務 大 臣 吉田  茂君    法 務 総 裁 大橋 武夫君    大 蔵 大 臣 池田 勇人君    通商産業大臣  高橋龍太郎君    国 務 大 臣 周東 英雄君   政府委員    内閣官房長官  岡崎 勝男君    法務法制意見    第一局長    高辻 正巳君    外務政務次官  草葉 隆圓君    外務省政務局長 島津 久大君    外務省條局長 西村 熊雄君    大蔵省理財局長 石田  正君    通商産業政務次    官       首藤 新八君    通商産業大臣官    房長      永山 時雄君    物価庁次長   熊田 克郎君   事務局側    常任委員会專門    員       坂西 志保君    常任委員会專門    員      久保田貫一郎君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○平和条約締結について承認を求め  るの件(内閣提出衆議院送付) ○日本国アメリカ合衆国との間の安  全保障条約締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 只今から委員会を開きます。  皆様に御報告を申上げて置きますが、逐條質問に入りましたときに大体次の要領でいたしたいと思います。質問は條約別及び各章別でいたしまして、條約の宣言、議定書及び交換公文はこれを一章として扱います。次に質問はできるだけ質問通告をあらかじめ委員長にお出し頂いて、それは質疑の前日の午前中に出して頂く、そういう原則をきめて置きたいと思います。昨日これは理事会において御承認を得ましたので、皆様の御異議がなければ、この通りにいたしたいと思いますが、如何でございますか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) ではそのように取計らいます。
  4. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 議事進行について一言希望を申述べて置きたいのでありますが、理事会でいろいろなことをおきめになるようで、皆さんに諮つて更に御承認を得ていらつしやるのだと思いますが、ともかくこれはたびたび言われますように、日本の国の運命を決定するような重大な條約案でありますから、余り議事についての発言の時間を制限したりするようなことなしに、思うままに言うだけのことは言い、又政府もこれに対して、この機会を利用してそれに対する答弁を通じて政府の意のあるところを国民に十分に訴えるというような態度に出られることが、この際非常に必要であると思いますので、徒らに時間を制限して、ただ時間的な議事進行を図るというような考え方は一擲して、どうぞそういう趣旨で議事をお取運びを願いたいと思います。委員長も十分その点は御了解なつておると思うのでありますけれども、更にこの際希望を申述べて置きます。
  5. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 了承いたしました。   —————————————
  6. 岡田宗司

    岡田宗司君 先ず日米安全保障條約につきまして、吉田首相にお伺いいたしたいと思います。本條約が締結されました目的は、日本安全保障、即ち今日武力を持たない日本が暫定的にアメリカ軍に今後駐屯してもらいまして、外からの武力攻撃を阻止してもらうというのがこの條約の目的なつておるのであります。併しこれをアメリカの側から見ました場合にはどうか。本條約によりまして、アメリカがエクスクルーシヴに日本軍事基地を設けまして、そうして軍隊駐屯する権利を得るということになるのでありますが、これは單に日本の安全を保障するというだけの目的ではないのではないか。即ち第二次世界大戰後におきまして、米ソ対立がだんだんに激化して参りまして、特に昨年の六月の朝鮮戰争の勃発以降におきまして、米ソ陣営対立ということが、すでに流血を見るがごとき状態になつているのであります。そこでアメリカといたしましては、全世界におきまして、この対立に備える、そういう体制を作り上げつつあることは私が申上げるまでもないことでありますが、すでにヨーロツパにおきまして、北大西洋同盟を作り、更に地中海、近東方面におきましても、かかる体制を今日作り上げつつある。そうして東洋におきましては、即ち北はアラスカ、アリユーシヤン、日本列島南西沖縄諸島、台湾、フイリピンを含む線をアメリカ太平洋防衛線に、又同時に対ソ戰に備えまして、ソ連包囲陣の一翼に作り上げつつあるのであります。アメリカ戰略から見ますならば、日本は明らかにこの陣形の一部になつているのであります。從いましてアメリカがこの安全保障條約を締結いたします大きな目的は、この対ソ戰に備える戰略的基地といたしまして日本を使う、そうして更にその必要に応じて日本軍隊をとどめる、こういうことが第一の目的であるというふうに考えられるのでありますが、首相アメリカ側から見ましたこの日米安全保障條約に規定されている基地の設定並びにアメリカ軍駐屯というものが、そういう意味によつて置かれることになるのであるかどうか、吉田首相はこれをどういうふうに御覧になつているか、先ずお伺いしたいのであります。
  7. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 只今お話のように、アメリカ軍駐留がそういう意味であるかどうか私は存じません。私らの話合つたことは、日本独立、安全をどうするか、日本独立、安全は一応米軍駐留によつて、いわゆる集団的防禦の方法で日本独立を守る、又アメリカ日本において、ソヴイエトと言いますか、とにかくそういうものが日本の安全を危くするということは、太平洋の平和を破るゆえんであるからという二つの考え方から、この條約になつたのであります。それから基地基地とおつしやいますけれども日本基地という考えはないのであります。米軍駐留というだけの考えであります。
  8. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今お話では基地という考え方はない、こういうふうに言われたのでございます。單にアメリカ軍駐留というだけであるというふうに言われたのでございますが、成るほど條約の第一條には「アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国は、許與し、」、この駐屯だけの問題のことでありますが、併しこれらの軍隊駐留する以上におきましては、その駐留のために多くの場所を必要とし、設備を必要とする。而もこれらは單に空間を占めるというだけではなくて、戰争をするに必要な施設を整えたものになろうと思うのであります。例えば横須賀のごときは、今日より引続きこれが使用されるといたしまするならば、それは基地であることは明らかであります。吉田首相は今基地の問題はない、こういうふうに言われましたけれども、私ども基地の問題があればこそ、ここに今それに対する行政取極等も必要になつて來るというふうに考えているのでありますが、飽くまでも基地考えはないのかどうか、もう一度お伺いいたします。
  9. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) ないのであります。
  10. 岡田宗司

    岡田宗司君 次にお伺いいたしますが、この安保條約の第一條に、アメリカの三軍は「極東における国際の平和と安全の維持に寄與し、」、こういう目的をはつきり記してあるのでありますけれども、私どもがこの極東における国際の平和と安全の維持に寄與し……このうちにはアメリカ側対ソ陣営に対する戰略の必要上、極東におきましてこの軍隊を置くのでございます。ソ連側からいたしますところのいろいろな脅威に備え、或いはその場合におきまして、若しこれが戰争になりました場合には、日本にいる駐留軍並びにその駐留軍が使用いたしますところの諸設備、即ち基地を利用するということが予想されるのでありますが、そういうふうにこの極東における国際平和と安全の維持に寄與し云々のうちには、今申上げましたように、直接日本攻撃をされない場合におきまして、例えば欧洲における両陣営の衝突からいたしまして、米ソの間に戰争が起つたというような場合には、日本におりますところのアメリカ軍が、この日本を根拠地といたしまして出動する、そういうような場合も予想されて参るのでありますけれども、そういうような際におきまして、この條約に定められるところによりまするならば、果してそれは日本との了解を、事前了解なり何なりを得てこれを使用し、又ここから軍隊が出動することになるのか、或いはそれとも何ら了解なしに、アメリカの必要のみによつてこの軍隊が動かされ、基地がそういう目的に使用されるようになるのか、その点をお伺いしたいのであります。
  11. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 條約の事項の解釈になりますから、條約局長からお答えいたさせます。
  12. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 岡田委員は、この安全保障條約の第一條規定が阻止しようとしている戰争が発生するという前提の下に立つてお尋ねになつているようでありますが、大体私どもとしては、この日米安全保障條約は平和と安全の維持のためのものであつて、これがあれば、そういう事態は十分防止し得るという確信の上に立つておるわけであります。御指摘の問題の文句が入りましたのは、若しこの文句がありませんと、日本にいる米国軍隊日本に対して武力攻撃が発生したときだけに行動し得る、言い換えれば日本に全く釘付けになるという解釈を生む危險がある。ところが一国の軍隊は、申すまでもなく本來自国の国の安全と、その国が国隊平和のために負う責任とを果すためのものであつて、それに日米安全保障條約による新たなる責務が加わることになるのであります。そうして、日本の安全の維持という見地から見ましても、第一條のように、日本に対して現実武力攻撃が発生したときだけに動き得るのでは狹ま過ぎるのであつて、現在の国際の観念におきましても、平和は不可分であると申しますように、極東の平和と安全の維持も即ち日本安全維持になるのであります。このことから見ましても、合衆国軍隊極東平和維持のために動く場合には、日本におる米国軍隊もそれに参加し得る余地を存する必要があるのであります。この理由から入つたものであります。日本におる合衆国軍隊日本国外行動する場合は、無論極東の平和の維持のためでございます。言い換えれば国際連合当該機関の決議によつてとられる平和の維持のための行動に出動する場合でございます。この点は平和條約第五條から見ましても、又平和條約の前文から見ましても、日本としてはこれに協力すべき立場に立つことでございます。御質疑の第三点でございますが、現実にそういう事態があつて国外行動する場合に、事前日本に協議があるのであろうかという点でございます。これはこの條約に基いて日本にいる合衆国軍隊の主たる責務は、日本に対する防衛ということでございますので、これが国外に出動する場合は、無論事前に緊密なる連絡の下に、国外出動措置がとられるものであると考えておる次第でございます。
  13. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今西村條局長の御説明によりまするというと、この條約は戰争が起るであろうということを予想しておるものではない、そうしてこの條約によつてむしろ戰争は起らないのであるというふうな御説明があつたのでありますけれども、併しこの條約は直接武力攻撃のある場合をさえ予想して作られておるのであります。從つてそういうことが起ることも予想の上に立てられた條約であろうと私どもは思うのであります。そこで今西村條局長お話によりますというと、極東における国際の平和と安全の維持に寄與する云々が入りましたために、日本駐留いたしますところのアメリカ軍隊というものは、單に日本防衛だけではない。例えば世界戰争が起りました場合に、極東の平和の維持世界の平和の維持が不可分であるから、極東におきましても、又その不可分の関係に立つ戰争が起ることがある。その場合においてアメリカ軍日本から出動することができるようになつておるのだ。こういうお話であるのであります。こういうふうにいたしまして、若し戰争が発生いたしました場合に、アメリカ軍日本から出動するということになつて参りますというと、日本は又同期に攻撃をされる。例えば、日本におけるアメリカ空軍基地或いは補給基地海軍基地等他国爆撃等を受ける可能性が十分に生れて参るわけであります。その場合におきまして、日本は好むと好まざるとにかかわらず、事実上の戰争に捲き込まれることになるのであります。そうした場合に、大橋法務総裁の御説明によりますならば、日本は交戰権を持たない、そうして宣戰布告はしない。こういうふうに言われておるのでありますけれども日本は受動的に戰争状態に捲き込まれることになるということが考えられるのであります。そういう場合におきまして、日本は中立的な立場に立ち得ない、必ず戰争に捲き込まれるものである、そういうふうに解釈してよろしいものかどうか。これを西村條局長から一つお伺いしたいのであります。
  14. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 米国国際連合加盟国でございますので、国際連合憲章によつて行動するものと考えなければならないと思うのであります。でありますから、日本にいる米国軍隊極東における平和と安全の維持のために動くことがあるとするならば、それは必ず国際連合防止措置乃至は強制措置をとるときに、これに参加するものとしての行動でございましよう。そうしますと、日本も、平和條約の前文平和條約の第五條(a)(b)との関係におきまして、かような国際連合のとる措置には協力する立場にあります。  併しその協力限度は、国法上又事実上の事由で制限されたものであることは、すでに御説明申上げた通りであります。同じく合衆国がとる強制措置に対する日本協力限度も、やはり国法上並びに事実上可能なる範囲において與えられるものでございます。で、御懸念のような日本戰争に捲き込まれ又は戰争的行為をとるようなことは考えられないところでありますし、合衆国としても、期待していないということを御答弁申上げられます。
  15. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今西村條局長お話ですと、日本戰争に捲き込まれない、又アメリカもそれを期待しておらない、こういうふうなお話でございますが、どうもこれは私どもアメリカにおきまして、いろいろ新聞その他を見、或いはアメリカ人に会つて聞きましたところから受けた感じと非常に違うように思うのであります。例えば警察予備隊等につきましても、私は向うで見ましたニユース映画におきましては、これは、やがて日本における軍隊となるのである。そうしてアメリカ軍隊協力して戰うであろうというような説明を同時に言つておるのであります。新聞等を見ましても、そういうふうなことが往々書かれておるし、又政治家たちもそういうふうな日本協力ということを強く主張しておるように思われるのであります。どうも西村局長の言われますところとは異なるのでありまして、むしろ「直接及び間接侵略に対する自国の防衛のために漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」、この点は大統領サンフランシスコにおける演説も同じ意味だと思うのでありますが、そういうような期待がむしろ強いのではないか。この点は事実の認識でありますが、條約局長はそういうふうなアメリカ側の意向がない、そういうふうに断定できると思いますか。
  16. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 岡田委員の御指摘になりましたような事実は、私もサンフランシスコ会議に参りましたのでありますから、印象に残つております。大統領演説も拜聴いたしました。併しこれはアメリカの世論の一部、アメリカ指導者の一部の日本に対する気持を現わしたものであろうと解釈いたしました。同じような期待なり解釈なりがアメリカのみならず日本にもあることは、現に国会の皆さんの御議論のうちにも看取できる次第であります。
  17. 岡田宗司

    岡田宗司君 次に吉田首相にお伺いしたいのでありますが、この安全保障條約のうちにおきまして、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模内乱及び騒憂を鎭圧するために、日本政府要求があればアメリカ軍隊が出動し得るという規定があるのでありますが、これは私どもから見ますならば、内政干渉の途を公然と開くことを規定したものと考えるのであります。こういうふうな内政干渉の途を開く條約というものが、果して対等国の條約に含まれていいものかどうか。少くとも從來の諸條約におきまして、かような先例はないように私どもは思うのであります。勿論第二次世界大戰以降におきまして、直接的侵略だけでなく、間接的侵略の問題も重大な問題になつております。北大西洋同盟條約におきましてもこのことが含まれてはおる。併しながら間接的侵略の場合があるという事実がある場合におきましても、なお條約上におきまして、公然とかくのごとき他国軍隊によつて国内の騒憂等を鎭圧してもらうというような、明白なる規定を設けておる條約はありません。これは私は今度の安全保障條約なり或いは平和條約を通じて見ましてのうちで、最も露骨に日本從属的地位に置かれておるということを示しておるものではないかと思うのであります。この点につきまして私どもは、かような文句がこの条約に挿入されたということは、この内閣外交方針、或いは吉田首相以下のアメリカとの折衝が失敗であつたということを意味するものではないかと思うのであります。この点につきまして吉田首相は、これは明らかに内政干渉の途を開いたものであるということをお考えなつておるかどうか、お伺いしたいのであります。
  18. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 條約局長からお答えいたさせます。
  19. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 岡田委員の御指摘文句は、内政干渉の途を開くものだとは考えておらない次第でございます。同委員の御指摘になりましたように、この文句が條約に挿入されたのは、今回の日米安全保障條約を以て最初といたします。併し同じ思想は、北大西洋條約ができましたときにアチソン国務長官から、同條約に規定されてある武力攻撃の中には、第三国教唆又は干渉に基く内乱の場合が包含されると解釈するとの見解が表明されております。こういう規定が必要になりました理由は、岡田委員の御指摘通りスペイン内乱以來各国において起りました内乱、それに対する第三国の介入が、結局戰争というものを招來する危險がある現実の体験から來たものであります。從いまして現在国際連合におきまして作成中の、そうして今年の総会に提案されるはずになつております国際の平和と安全に対する罪の法典案の第二條第五項には、他の国において内乱を釀成することを目的とする活動を国の官憲が企図し又は奨励すること、或いは、他の国において内乱を釀成することを目的とする組織的活動を国の官憲が寛容すること、これを国際法上の犯罪として処罰すべきであるとの規定が入つております。やがてこれは国際的の文書として国際連合の枠の中で完成せられるであろうかとも存じます。御指摘通りこの文句は、この條約によつて先例を開いてはおりますが、将來の安全保障関係の條約の一つの行き方として、いい例を開いたとまでは申しませんが、先例として恥かしくないものであると、事務当局として考えております。殊にこの文句は、日本政府の明示的の要請があつた場合に、との條件が付いておりますし、第三国教唆又は干渉のある場合とありますし、又大規模なということも明らかにされておりますので、日本政府さえしつかりしておりますれば、内政干渉というような憂えは全然ないものと考えております。
  20. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今西村條局長は、この條項は明らかに先例を作るものであると言われておるのでありますが、誠にこれは從來例を見ないところのものであります。北大西洋條約のことを引合いに出されたのですが、成るほどアチソン国務長官の、この北大西洋條約が締結されました際における演説におきまして、特に間接的侵略のことを極めて重要視をして指摘しておるのであります。併しながらこの北大西條約におきましては、特定国軍隊特定国内乱に対して干渉するという、そういう特殊関係は何ら設定されておらない。この條約におきまして、特定国軍隊との間においてこういう特殊的な関係が設定されておるという点におきまして、たとえ日本国要求があるなしにかかわらず、これは内政干渉の途を開いた、こういうことが言えるのではないか。若し事実かような事態が起りました際に、たとえ日本国政府要求がありましたといたしましても、外国軍隊日本国内におけるこういう事態に参加するということになりますれば、一体、日本国民はこの外国軍隊に対して如何なる感じを持つか。そうして、それがさような場合が生じました場合に、国際上にどういう影響を持つて行くか。特にアメリカに対しまして日本が如何なる考えを持つか。日本人が如何なる考えを持つようになるか。これらを考えますと、かくのごとき先例は誇るに足る先例として結ばれたように聞えたのでありますけれども、そうではなくて、むしろ屈辱的なものである。從属的地位に置かれたものであるという以外にはないかと思うのであります。  更に重ねて西村條局長に、この北大西洋條約における場合とこの場合との相違があるのかないのか、その点について明らかに示して頂きたい。
  21. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 北大西洋條約は十余国に及ぶ多数国間の條約でございます。日米安全保障條約は二国間の條約でございます。從いまして多数国間と二国間の関係においての差があります。  いま一つは、北大西洋條約については、間接侵略武力行為に含まれるというのは締約国間の解釈として採択されております。日米安全保障條約におきましては、これが條約の明文の中に規定されております。これだけの差でございます。  私はこの先例を開いたことを誇りとして申上げたわけではございません。妥当なる規定であると事務当局として信じると、お答え申上げたつもりでございます。
  22. 岡田宗司

    岡田宗司君 これが妥当であるかどうかということは、これは解釈というより評価相違でありますが、私どもはこれにより、この一点だけでも日本從属的地位に置かれたと解釈せざるを得ないのでありまして、これ以上この評価の問題について争いましても無駄でございますから、次に中国或いはソ連との国交回復の問題につきまして首相にお伺いしたいのであります。  首相の連日の御答弁によりますというと、中国との国交回復につきましては、連合国間に意見の一致を見た場合、日本がそれを参酌いたしまして、そうして態度をきめる、こういうふうな御答弁であつたようであります。併し私どもこれは非常にむずかしいと思う。近いうちにはこの連合国間の意見の一致を見ることが不可能ではないかというふうに考えておるのであります。アメリカとイギリスとは中国との国交の問題につきまして見解を異にしており、他の連合国間におきましてもアメリカとの間に見解を異にしておるものが非常に多いのであります。これは長期の見通しが違つておるからであると私どもは見ておるのであります。こうなつて参りますというと、この見解が帰一いたしました後に、日本中国国交回復するということは、非常に先に延ばされるという結果になりはしないかということを虞れるものであります。特にアメリカにおきましては上院議員九十六名中五十六名がすでに署名をいたしまして、日本が中共下の中国政府との国交回復をするということに反対の意思表示をしておる。これは日本国に対する一種の牽制であると私ども考えておるのでありますが、こういうふうな強い意思表示がなされておるということは、日本の今後の中国に対する心理の上に非常なゆがみを與えることになりはしないかということが第一に懸念されるのであります。  第二に、サンフランシスコ会議の最中にも報ぜられ、更にその後においてもしばしば伝えられておる、特に台湾における蒋政府の要人たちが非公式に語つているというところも伝えられておるのでありますが、蒋政府日本に対しまして戰争終結の宣言をし、或いは日本平和條約を結ぶ用意をしておるということが伝えられておるのでありますが、若し蒋政府がさようなる準備をいたしまして、これを日本に向つて結ぶように交渉の途を開いて來るというようなことが近くあるといたしましたならば、その際に吉田首相は先ず蒋政府との間に講和の交渉をいたすおつもりであるかどうか、その点を先ずお伺いしたいのであります。
  23. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 未だ蒋政府から何らの申出もございません。あつたときに、とくと考えます。
  24. 岡田宗司

    岡田宗司君 そういたしますと、やはり蒋政府からそういう申入れがあつたときにも、先に吉田氏からお答えになりましたように、連合国間の意見の一致を見るまでこれについては延ばすという態度をお取りになるということも、そのとくと考えるといううちに含まれておると解釈してよろしうございますか。
  25. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) いろいろな事情を考えます。(笑声)
  26. 岡田宗司

    岡田宗司君 次にソ連との関係でございますが、この平和條約が成立いたしまして、そうして、その結果として日本の占領状態が解ける、こういうことになりますというと、ソ連の代表部というものはなくなるだろうということを私ども考えておるのであります。併しソ連日本との間にあるいろいろな問題というものは、それによつて消滅しないのであります。例えば引揚の問題につきましても、なおソ連との間に問題が残つておりましよう。更に又日本の漁船が北洋におきまして往々ソ連の軍艦等に拿捕される問題も残つておるのであります。又領海等の問題につきましてもいろいろ問題があるのではないかと思うのでありますが、そういう問題がソ連との間に残つておる。それらの問題につきまして、たとえフオーマルな外交関係が成立しないといたしましても、何らかの方法でこれが解決されなければならんと思うのでありますが、それは如何なるチャンネルを通じて解決されるのでありますか。この点について吉田首相にお伺いいたしたい。
  27. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 岡田委員の御指摘のような案件が生じないことを希望いたす次第でありますが、それがあるといたしますならば、平和條約が効力を発生いたしますれば、日本は外交権を当然回復いたすわけでありますから、世界の列国と外交関係や領事関係に入れることになります。從いまして占領管理下におきまして外交権が全然なかつたのにくらべまして、今後は非常に広い外交権があることになりますので、この第三国を通じての話ということも可能になりましようし、日ソの間の案件も、その性質によりましては事実上接触をする途も開かれて來ると思うのであります。從いまして、現在に比べますれば、遥かに案件の処理が容易になると考えております。
  28. 岡田宗司

    岡田宗司君 西村條局長にもう一点お尋ねしたいのでありますが、中国との場合におきましては、この問題がまあ台湾政府並びに北京政府と相手が二つになる。まあ台湾政府との関係においてそういう具体的問題を解決することは、在外事務所も設けられてありましようから容易であろうと思うのでありますが、この中共政府との間における接触の問題であります。これはソ連の場合よりも遥かに問題も多いようでありますし、更に又その解決になお非常にむずかしいものを要することも多々あることと思うのでありますが、日本にとりましては重要な問題を含んでおるこの中共政府との接触という問題につきまして、平和條約の成立後におきましてどういう方針をとつて行くかどうか、お伺いしたいと思います。
  29. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 対中国関係は、対ソ連関係よりも複雑且つ機微であることは岡田委員指摘通りと存じます。日本政府といたしましては、対中共関係の問題を如何にして取扱つて行くかについては、今後の問題として愼重に考究すべきものであろうと考えております。いずれにしろ、平和條約発効前の今日と、平和條約発効後における日本とでは、外交の面においては日本行動の自由について大きな相違がありますので、現在よりも妥当な手段があり得るのではなかろうかと考えております。
  30. 岡田宗司

    岡田宗司君 次に、警察予備隊の問題についてお伺いしてみたいと思います。昨日來大橋法務総裁の御答弁によりますというと、警察予備隊は軍隊ではない、又戰力ではない、こういうふうに繰返し言われておつたのであります。で、勿論そういう解釈で進まれなければ憲法違反になるわけでございますから、そういう御解釈をとられることは政府としては止むを得ないことと思うのでございますが、併し、それでは警察予備隊は実際に軍隊ではないか、こう申上げますと、私は決してそうではないと思うのです。事実警察予備隊が設置されましたのは、朝鮮事変が起りましてから、マツカーサー元帥からの指示によりましてこれが組織された。そうしてアメリカ側におきましては、先ほど私が申上げましたように、これがやはり後に軍隊なつて、アメリカ軍と共に戰うべきものであるというふうに期待されておるように思うのであります。又第三国は、アメリカ以外の国々におきましても、日本における警察予備隊がそういう性質のものになるというふうに見ておることは事実だろうと思うのです。最近警察予備隊の裝備の強化が問題になつております。ロケツト砲、或いはバズーカ砲を持つようになる、又その訓練等も從來より一層強化されて、これが軍隊的なものになるというような事態であることは明瞭であるのでありますが、又二十七日にアメリカの国防次官補のローゼンバーグ女史が新聞記者会見におきまして、「日本の警察予備隊は人的資源という立場から私は関心を持つている。我々は予備隊を信頼しているが将來もそうであろう。予備隊が必要とするものについてはその不足を補うが、その不足は、かなり大きなものである。」云々と言つておるのであります。これらはアメリカが、特にアメリカの国防省なり、軍の側におきまして、予備隊に期待しておるものをよく現わしておるものと思うのでありますが、さてこの予備隊の強化についてでありますが、これは大橋法務総裁にお伺いするのでありますが、装備をどの程度に強化することになるんですか。今日の補正予算に出ておる装備内容、及び來年の二十七年度の予算において実現されようとする装備の内容についてお示しを願いたい。又同時に來年度におきましては、今日の警察予備隊の数を更に増加するのであるかどうか、この二点について先ずお伺いしたい。
  31. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 今国会に提案いたしておりまする補正予算、並びに明年度予算におきまして考慮いたしておりまする警察予備隊の装備と申しまするものは、これは警察予備隊の隊員の宿舎、その他の建築物の充実、それから演習地の取得に要する費用、又衛生上の観点よりいたしまして、病院或いは医務関係の職員の養成機関の費用、それから幹部の教育をいたしまするべき学校の費用、それから予備隊全般を通じましての運輸並びに通信機関の強化、これらに要する経費を要求をいたしておるのでございます。  それから第二の御質問の隊員の数を來年度において増加する計画があるかという点でございまするが、現在の七万五千を増加する意思は現在ございません。
  32. 岡田宗司

    岡田宗司君 伝えられるところによりますというと、予備隊は今日では自動小銃並びに機関銃を以て装備されておる、ところが今後これは歩兵砲又はロケツト砲を以て装備せられるであろうということが伝えられておるのでありますが、その点につきまして、大橋法務総裁はどういうふうにお考えなつておりますか。
  33. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 当初はカービン銃を持たしておりましたのでありまするが、それよりやや大型でありまするライフル銃に、今日、銃は変りつつあります。それから、そのほかに各隊に若干の機関銃並びにロケツトと申しまするが、これは口径二・三六インチというものでございまするが、これは砲と申しまするか、何と申しまするか、竹の筒のようなものに入れまして、それから彈がロケツト式に飛び出して行く、そうして数百メートル先で炸裂するというものでございます。私も專門家でございませんので、正式の名称はよく存じておりませんが、ロケツトと申しております。そうしたものを各隊に若干ずつ装備をいたしつつあります。
  34. 岡田宗司

    岡田宗司君 先ほど私はアメリカの国防次官補のローゼンバーグ女史の記者会見における談話を新聞から引用したのでございますが、我々は予備隊を信頼しているが、将來もそうであろう。予備隊が必要とするものについてはその不足を補うが、その不足は、かなり大きなものである。アメリカ側におきましては、予備隊の必要としているもの、即ち武器と考えられるのでありますが、その必要を補うということを言明しているようでありますが、この点につきまして、すでに政府当局に対しましてアメリカ側から何らかの具体的な意思表示なり、或いはそれに対する何らかの接触があつたか、それをお伺いしたい。
  35. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 将來におきまして、小口径の若干の銃を装備する必要があるのではなかろうかというような話を聞いておりまするが、現物はまだ参つておりません。
  36. 岡田宗司

    岡田宗司君 次に、警察予備隊が出動する場合のことでございますが、この安全保障條約の第一條に、日本国における大規模内乱及び騒じようを鎭圧するため日本国政府の明示の要請に応じてアメリカ軍が援助に出る、こういうことになつておりますが、当然そういうことが起る前に警察予備隊というものが活動しているはずと思うのであります。そういたしますと、この警察予備隊が活動しておつて、なおその力が及ばないのでアメリカ軍の出動を要請することになるわけですが、そういうような場合におきまして、警察予備隊はアメリカ軍とは指揮系統を全然別個にして戰うのか、或いは又これは、その場合におきましては、アメリカ軍の指揮命令の下に置かれるのか、この点についての大橋法務総裁の御見解を賜りたい。
  37. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 現在安全保障條約実施のための細目というものが決定いたしておりませんので、そうした共同動作をとります場合におきまして、如何なる指揮系統になるかということについては確定的なことはわかりません。併し現在何もそういう協定のないという状態において共同に仕事をする場合にはどうなるかという点を考えて見ますると、その場合においては、日本側の警察予備隊は日本側の指揮に属し、米軍は当然米国の指揮に属することが本來の建前であろうと考えております。
  38. 岡田宗司

    岡田宗司君 今日警察予備隊は大体アメリカの範に則つて組織され、そうしてアメリカの範に則つて訓練をされている。そうして聞くところによりますというと、アメリカの軍人が各隊に配属されまして、その訓練に直接或いは間接的に参加しているのでございますが、講和條約が成立いたしました後においても、このアメリカ人による日本の警察予備隊の訓練というものが続けられるものであるか、政府はそれを希望しているかどうか、この二点について大橋法務総裁にお伺いしたい。
  39. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) まだ講和條約発効後における措置につきましては、政府といたしましては考えておりません。
  40. 岡田宗司

    岡田宗司君 次に、行政取極の問題について若干お伺いしたいのであります。行政取極につきましては、その内容等についてはまだ何らきまつておらない、こういうお話でございますので、その内容等について詳しくお伺いすることは避けますが、行政取極が結ばれる際にどういうことがその内容の項目になるかということぐらいは、日本政府においてもお考えなつておることと思うのであります。私どもがこの行政取極の内容に含まれるものの項目として考えるところは、例えば駐屯する兵力の数、或いはその駐屯軍が使用いたしますところの基地の種類とか、場所とかいうもの、或いは基地の管理の問題とか、基地の内外における行政権の問題、或いは関税その他、税の免除の問題、或いは連絡交通機関の問題等の問題であるとか、或いは裁判管轄権の問題とか、それから日米合同委員会の設置、それからその構成、権限、権能の問題であるとか、費用の共同負担の問題であるとかいうようなものが行政取極の項目になるのではないかというふうに考えておるのであります。これらの問題は、日本の主権並びに国民権利義務の上に重大なる影響を持つものでありまして、これが取極を具体的に進めて行く場合におきましては、日本の主権が傷つけられないように、又同時に日本国民の権利義務がこれによつて害され、そうして憲法上に保障されたものさえ奪われるということにならないようにしなければならんものと私ども考えておる。併しながら非常にその限界がデリケートなものでありまして、かような行政取極ができました場合に、往々にして例えば中国にさきにありましたような場合、或いは現在エジプトにおいて起つておりますような問題等が将來起る、その禍根をここに含むことになりはしないかということを私どもは非常に恐れておるのであります。この点については政府はどういう根本方針で臨まれるのか、これは心構え、その心構えを御発表願いたいと思うのであります。なお且つ行政取極の内容は別といたしまして、行政取極に含まれる項目につきまして、先に私が申上げたようなものがその項目になるのかどうか、これをお伺いしたのであります。
  41. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 行政取極は今後の問題でございますので、どういう内容がこれに入るかは、今日確答いたすことができません。併し第三條にもあります通り、配備の條件でございますので、配備の條件を逸脱する事項は、協定に包含されることはあり得ないと考えております。
  42. 岡田宗司

    岡田宗司君 吉田総理にお伺いしたいのですが、この行政取極に臨む日本政府の心構えについてはどういうものであるか、これを御説明をお願いしたいと思います。
  43. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) これから交渉の内容に入るわけでありますから、政府としてこういう方針とか、こういう心構えということはここでお答えを避けたいと思います。
  44. 岡田宗司

    岡田宗司君 行政取極につきまして、もう一点お伺いしたいのであります。日米安全保障條約はこれは国と国との條約でございます。行政取極の相手方の問題でございますが、これは日本国政府アメリカ合衆国政府との取極になるのか、或いはアメリカ合衆国政府によつて日本に派遣されておるまあ日本駐屯軍といいますか、日本駐屯軍総司令官との間にきめらるべきものであるか、この点についてお伺いしたいのであります。
  45. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 両国政府政府との間の取極に相成るべきものであります。
  46. 岡田宗司

    岡田宗司君 只今両国政府間の取極になるというふうに言われたのでございますが、この行政取極の具体的細目につきましては、恐らく現地に駐屯します軍隊の見解なり或いは意見なりというものが強く盛られるだろうということが予想されるのであります。今日、日米安全保障條約の経過を見ましても、アメリカにおきましては国務省の意見よりもむしろ国防省の意見が支配的である、そしてその成立の経過につきましても、国防省側の方によつてできたというふうに見られる点が多いのでありまして、若しこの行政取極におきまして、やはり現地の軍の考えておることが強く現われて参りますというと、これは相当日本の主権なり或いは日本国民の権利義務に重大なる支障を及ぼすことが予想されて來るのであります。これは軍事上の必要からして、往々そういうふうになる危險が多いと思うのでありますが、この点につきまして、若し今後政府が行政取極をいたすといたしますならば、十分にその点についてお考え願いたいと思うのであります。なお行政取極の点につきまして私が非常に遺憾に堪えないと思う点は、即ちこの條約を日本の国会において審議いたしますまでにこれができておらなかつたということであります。この行政取極は、場合によりますれば国家総動員法にも匹敵するような、他の法律を制限し、或いは他の法律にも超ゆるがごとき性質を持ち、又委任立法のごとき性質を持つものと解せられるのでありますが、こういうふうな広汎な内容を持つものが議会において論議されずに、この條約を審議しなければならんということは、私どもとしては非常に遺憾に堪えない。アメリカにおきましては恐らく條約の審議は來年になつてから始まるのでありましよう。そうして行政協定の内容等もその際には明らかになり、又アメリカの議会におきましてはそれをも論議することになろうかと思うのでありますけれども、両国間の條約におきまして、條約を審議する場合におきまして、一方の国におきましては行政協定の内容等が明らかになつた後においてこれを審議する、一方の国におきましてはこれらは全然審議されずに條約のみが審議される、かようなことは誠に遺憾なことである。こういうふうに考える。これは明らかに政府の手落だ、政府の失策である、失態である、こう考えざるを得ないのですが、今後行政協定を結ばれる際におきまして、首相といたしましては、十分にこの日本の主権並びに国民権利義務等につきまして強い態度を以てこれが侵害されざるよう御努力を願いたいと思うのであります。  なお私は、他に賠償の問題、日本の講和後における経済方針の問題等につきまして大蔵大臣に対する質問があるのでございますけれども、大蔵大臣が今日お見えになつておりませんようなので、大蔵大臣に対する質問は留保いたしまして、私の質問はこれを以て終りたいと思います。   —————————————
  47. 加藤正人

    加藤正人君 時間もありませんので成るべく簡單に御質問申上げます。私は今度の平和條約を、政府の宣伝せられておるように、いわゆる和解と信頼の條約とは必ずしも思わないのでありますが、何事にも慾には切りがないのでありまして、一度冷嚴な敗戰の咎、又無條件降伏ということを想起いたしますときに、この程度の條約なれば先ず以て忍ばねばならんと思うと同時に、これをここまで仕上げるために世界各国の間を斡旋されたダレス氏の御苦労に対しては、深厚なる謝意を表するものであります。從つてそれに伴つて締結さるべき日米安全保障條約にも同様の賛意を表するものであります。なお昭和二十五年二月に締結された中ソ同盟條約が、その第一條日本への武力的脅迫、第二條に日米離間、第三條に日本を孤立化したる上ソ通圏に編入することを策すというような内容が盛られてあるということを聞くときに、一層その必要性を痛感するものであります。私のこの條約に対する考え方は以上の通りでありますが、二三不安の点もありますので以下質問をいたす次第であります。これは他の委員のなされた質疑と重復する分が多いので、すべてこれは中止いたします。  第一に、今後の貿易対策についてでありますが、平和條約の前文中には、今後の我が国の国是とも言うべき三つの点が挙げられております。そのうちの一つに、すでに降伏後の日本国の法制によつて作られ始めた安定及び福祉の條件を、日本国内に創造するために努力すべきことが謳われているのであります。このことは当然に、占領政策の中心であつた民主化のための施策をも意味するものと考える。勿論我々といたしましては、今更條約の前文に掲げられるまでもなく、この民主化の原則は当然これを維持し増進すべきものと思うのでありまするが、この点に照らし、從來から産業界の最も強い要望であつた独禁法、事業者団体法の改正は可能であろうと考えられるがどうであるか、先ずこの点をお伺いしたいのであります。言うまでもなくこの独禁法並びに事業者団体法は、我が国経済の民主化のために法制化され、いわゆる独占のもたらす弊害を排除して公益の増進を図らんとするもので、経済民主化のために寄與するところが多かつたのでありまするが、半面、そこに非常な行過ぎがあつて、たとえ法の精神に合致する行為であつても、單にこの行為が形式の上において法の禁止する行為の類型に合致するものはこれを禁止し、却つて真の公益を阻害する結果となつたり、或いは海外取引において業者間の価格協定、生産協定、或いは販売協定等を禁止しているために、如何に我が国貿易に不利益をもたらしつつあるかということは、すでに各方面から指摘されているところであります。例えばダンピング防止のために申合せすること、或いは価格暴騰時に自粛価格設定のための申合せをすること等、公益増進のためにむしろ法の精神に合致するものであると思われるにかかわらず、価格協定という類型に合致するためにこれを禁ぜられている。例えば機械輸出について言えば、インド、パキスタン、ビルマ市場において、アメリカはあらかじめ市場協定を行なつている。そのために国際入札にはただの一社しかオフアがないのであります。ところが日本の場合は、業者がばらばらで競争を行い、一つの商品に対して、実に十五のオフアを出したという実例があつたのであります。かかる不都合な事例は誠に枚挙にいとまないのである。而してこのような無理な通商貿易の仕方は、独禁法、事業者団体法が存在する結果から起るのであります。自然法外な安売となり、諸外国からダンピングのそしりを受けることになるのでありまして、我が貿易界待望のガツトへの加入もこれが禍をして我が国の加入に難色を示しておる国々があると聞いております。この点でも日本は貿易関税上において、非常な損害をこうむつておるのであります。而も外国貿易についてかかる嚴重な制限を課しておるのは、ひとり我が国だけであります。現にアメリカにおいてさえ輸出貿易につきましては、一九一八年四月十日に発布せられたウエツプ・ポメリン法によつて、アンチ・トラスト・ローの適用を除外されておるわけであります。又占領の当初、我が国の経済を民主化し、細分化することに最も重点を置かれた時代には、この観点から見てこれらの法規が必要であり、妥当のものであつたのであつて、その故にこそ我が国民の吏心よりの協力が得られたのでありますが、民主化も始んど完成され、今や我が国経済の自立が内外の切実なる要望となつておる今日、この自立化の観点から從來の民主化のための施策を檢討すれば、おのずからそこに修正さるべき幾多の問題があると考えられる。過般、占領中の法規の改廃について檢討することを許されたリツジウエイ総司令官の声明も又この趣意に出ずるものにほかならないのであります。こういう事情を考えますれば、少くとも輸出貿易については、いわゆるカルテル行為を認め、諸外国と対等な條件で取引されるようにすることは、決して民主化の原則を破壞するものではなく、從つて前文の原則に牴触するものでもないと考えますが、政府はこの点をどのように考え、又今後どのような取扱をせんとするものであるかを伺いたいのであります。  我が国貿易規模の増大、即ち貿易増進は我が国の経済自立の成否の鍵であるとまで言われておる今日、我々はこの問題につき異常なる関心を持たざるを得ないのであります。尤も政令諮問委員会で、すでにこの点については総理大臣宛に答申もなされてあるということでありますから、政府もできればこれを改正したい御意向であるとは想像されるのであります。講和後の苦しい日本経済を担つて行かねばならん我が国貿易にとつては、年來の重大問題でありまするので、この際ここに特に総理の御意見をはつきりと伺つておきたいと存ずるのであります。
  48. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 占領中に発布された、制定されたいろいろな法制については、その当時の事情から申せば必要があり、又当然の理由もあつたのでありましようが、その後、事情も変り、又総司令部方面の政策と言いますか、考え方も現に変更して、今御指摘のようなリツジウエイ大将の声明もあるというようなわけで、政府としても精神は、お話通り民主化の精神は尊重いたして、併しながら現在の事情に合わない政令については改訂する、そのために改訂委員会に諮問をいたしておるわけであります。成るべく諮問委員会意見通りに改訂することができるようにいたしたいと今努力いたしております。
  49. 加藤正人

    加藤正人君 誠に結構なことでありまして、安心をいたしました。その時期を成るべく早くして頂きたいのであります。私の希望を申上げますと、対外取引には独禁法の適用を除外すると共に、国内的にも公益増進のために真に止むを得ないと認められるとき、例えば価格暴騰時の自粛価格の申合せ、或いは価路暴騰のため異常な混乱が起つたとき等の生産販売協定、特に後者につきましては、ちよつとした景気の変動にも堪え得ない我が国の貧弱な経済にとつては、業者の自主的な需給の調整を図り得る途を開いて置くことが是非必要であります。このことは延いて国民経済上の利益に合致するものでありまするから、このようなときには或も程度のカルテル行為を認むるよう改訂さるべきであると考えるものであります。  他に大蔵大臣に対する質疑がございまするが、前委員の出された通り御出席がないので、これは後日に讓ることにいたします。私の質問はこれで終ります。    〔委員長退席、理事一松政二君委員長席に着く〕   —————————————
  50. 栗栖赳夫

    ○栗栖赳夫君 この講和條約の第十八條には、外国債務に関する取扱についての規定があると思うのであります。そのうちには、いわゆる外債、こういうものが問題になつて來ると思うのであります。実はここに総理大臣その他関係大臣にこれに関連する基本問題をお尋ねいたしたいと思うものであります。  先ず吉田総理に対してお尋ねいたしたいのは、この講和が発効いたしまして、外債の支払その他についての処理がきまります際に、国際信義の尊重ということについての関係をお尋ねしたいと思うのであります。実は本年三月二十八日の参議院電力問題に関する特別委員会におきまして、米国の電力外債その他の外債の所持者を代表いたしますところの、ニユーヨークにおりますカウフマン博士の同僚ハミルトンという人が参考人として出席いたしまして、外債の処理について要望をいたし、こう申しておるのであります。「この外債の処理が如何になるかということについて重大な関心を持つておる次第でございます。」、こう前置きをいたしまして、更に「講和がいつ調印されるかは存じませんが、多分本年未までにはその運びに至るものと思いますから、この際この種の交渉を急速に進めて頂きたいと存じます。」、こう申しておるのであります。ここで申す「この種の交渉」ということは、外債所持者の利益を保全してもらいたい、こういうことについての交渉であります。なお、この八月にはこのカウフマン博士が日本に來朝いたしまして、この人は私も外債発行の当時から交渉した相手であります。殊に私は帝大で先生から英語の講義を受けたものであります。いろいろたくさんの所持者のこの要望書を持つて來まして、是非この善処をお願いしたい、そうすれば古い証文が整理されることは、新らしい外資導入を開く上において非常に必要である、こう申しておるのであります。そのほか外債関係において、向うの友人あたりから私どもに対してもいろいろ手紙を以て要望いたしておるのであります。元來日本の外債は、戰前におきましては不払いがないということで、英米仏等におきまして、投資家から高い信用を與えられておつたものであります。丁度一九三五年であります、昭和十年に、金約款のことでたまたま私アメリカに参りましたときに、ニユーヨークのコロンビア大学のセリグマン先生にお会いしたのであります。このセリグマン先生は財政経済学の父と言われたかたであります。先生が私に対して、日本の国鉄が黒字であるということを賞して、「日本の外債を買つたよ」、こういうことを言われたことを私は記憶いたしておるのであります。日本の外債の信用は、そういうように戰前においては高かつたのであります。然るに戰後はどうであるか。こう申しますと、やはり戰後の日本も講和が成立いたしますれば、外債については昔の高い信用を回復することが第一である、こう思うのであります。而して講和の成立と共に外債を処理なさるにつきましては、国際信義の原則の線に沿うて善処いたして頂くことが、日本の外債について、昔の高い信用を再び取戻す第一歩であると思うのであります。又これが日本の経済の自立、我が国の国際收支の上に寄與することが非常に大きいと同時に、又延いて日本で今待望いたしております外資導入というようなことが、初めて可能の域に達するのであると思うのであります。ところでたまたま、私は昨年四月に、電力の再編成法案が国会に出ましたときに、政府はいわゆる電力外債の処理についてどうなさるつもりかという質問書を差出したのであります。当時私は病床にありまして、親しく出てお尋ねすることができませんので、書面でお尋ねしたのであります。ところが政府から、昨年の五月二日附で次のような答弁書を頂戴しておるのであります。「御質問の電力外債については、未だ債権者の権利保全についての最終的な措置を決定する段階に立ち至つていないが、政府は、国際信義を尊重して、所有者の利益を保護するため、その処置に遺憾なきを期し、今後もこの趣旨に基き万全の措置を講ずることといたしたい。」、こういう答弁書を頂いて私は極めて満足いたしたのであります。そうしてなお、これは電力外債の問題でありましたが、その他一般の外債についても、この趣旨はすべて当てはまると考えておる次第であります。ところが講和が成立いたしまして、いよいよ外債の処理をするというようなことになりますと、この答弁書に書いてあります最終的な措置を決定する段階に立ち至つたと認められると思うのであります。そうすれば、政府国際信義を尊重して、所有者の利益を保護するため、その処置に遺憾なきを期せられ、そうして万全の準備体制をお整えにならなければならん、こう思うのでありますが、この際、改めて総理からその確乎たる御方針のお示しを願いたいと思うのであります。これは日本国民の、日本の経済自立につきまして外資導入を必要とするという声の答えにもなります。私どもの多年の友人で、戰前に日本の国の友として日本の外債を持つて、それがどうなるかということを心配しております英米仏の所有者などの、その気持にも応えることになりますと思いますので、どうか総理に確乎たる御方針の御答弁を頂戴いたしたいと思うのであります。
  51. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 御同感であります。政府としては、外債に対する元利償還については完全に償還をいたす考えでおります。その具体的の方法につきましては債権者側の意向もありますし、又御承知の通り政府が、政府の一方的の行為で以て肩替りをしたというようないきさつもありまして、この外債の処置についてはいろいろな今までの行きがかりから、債権者には相当不満足を與えておるであろうと思います。併し対外信用の上から言つて見て完全なる措置を講ずることが必要と思いますから、その具体案については債権者側とも交捗をいたしております。又、交渉したいという意思を述べ、又機会あるごとに只今申した方針を申述べております。政府の意向としては全く御同感であります。
  52. 栗栖赳夫

    ○栗栖赳夫君 総理から今のお言葉を頂きまして、私のアメリカにいる友だちなども、又先生あたりも満足すると思うのであります。ただこれの具体的な方針その他につきましては、安本長官、大蔵大臣、通産大臣にお尋ねいたしたいと思います。併しここに今おいでになりませんから、それを留保いたしまして、私の総理に対する質問はこれで終りたいと思います。   —————————————
  53. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私は平和條約及び日米安全保障條約を審議するに当りまして、すでに大分この委員会といたしましても、同僚各位から主要な点については述べられておりますので、成るべく重要だと思われます一、二の点について総理大臣から特に御意見を拜聽いたしたいと思うのであります。  先ず第一に、安保條約について考えられますことは、よくこの平和條約だけでは日本安全保障が期し得られないと申しますか、或いは平和條約だけでは日本に直ちに真空状態が起るということが、ダレス氏の言われました言葉もありまして、非常にその点が国民の皆の頭に入つているのじやなかろうか。こういうふうに考えられるのでありますが、平和條約の第五條によりまして、日本国国際連合憲章の第二條の義務を受諾いたしますと同時に、連合国側も同條の原則に從つて行動するということを確認しているのでありまして、同條の二は明らかにこの点は加盟国を拘束するものだと、こう思うのであります。又、加盟国でない国に対しましても、同條六において加盟国がそういうことのないように保障する。こういうことを言つておるのであつて、全くの真空状態ができ上るということは考えられないと思うのであります。この点は確か昨日堀君に対する御答弁でありましたか、西村條局長から比較的明快にお答えになつた点でありまするが、総理大臣もそうお考えになりましようか、それを第一点としてお尋ねいたしたいと思います。
  54. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 條約局長意見は、私を代表する意見と御承知を願いたい。
  55. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そうでありますと、この安保條約を結びますのは、この平和條約だけでは日本の国の安全が十分に保障されない。やはり国際的な情勢から見て、もつと緊迫した直接間接侵略危險性というものを予想しなければならん。又国際の情勢から見ても、国際連合の加盟国がお互いに地域的な集団的安全保障をやつて行くのもそこにある。それが安保條約の前文で、「無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので」という言葉を以て現わされておるんだろうと考えられるのでありまするが、こういう点につきましては、ダレス氏もサンフランシスコ会議でもつと端的に今申上げようなことを表明しておると思うのであります。そういう点からこの安保條約が生れて來たものだとこう考えていいだろうと思うのでありますが、総理大臣はそうお考えになるのでございましようか。
  56. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 條約局長から……。
  57. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御意見通り考えております。
  58. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 そういたしますと、そういうふうな国際的情勢というものを頭に入れましてこの條約ができたということを考えますと、この安保條約の性格が比較的はつきりわかつて参りますと同時に、しばしばここで論議を繰返されましたように、安保條約の前文に、「直接及び間接侵略に対する自国の防衞のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」ということを言つておるのでありますが、この点が明らかになつて参つたと思うのであります。殊にその前に書いてあります「国際連合憲章目的及び原則に從つて平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ」、これは半面を解釈いたしますと、日本攻撃的な脅威となつても、国際連合憲章目的であるところの平和と安全を増進するためには軍備を持つていいと、そうして直接間接侵略に対する自国の防衞のためには漸増的にみずから責任を負うというふうなことがよくわかつて参ります。更に又この條文から見ましても、しばしば條約局長が引用されますように、第四條の裏で以て解釈すれば、つまり本格的な集団的安全保障ができるまでの暫定措置であるというふうな点もよくわかつて参ると思うのであります。ただこの條文を文字通り解釈いたしますと、いろいろなことが言い得るのでありますが、條約そのものから全体として受けますところのものは、やはり日本がこの條約を批准いたします以上、自国の防衞のために漸増的にみずから責任を負うということは、單純な期待でなしに両国間の約束として成立するものである。更に今申上げましたようなことを裏付けます実際の問題といたしましては、サンフランシスコのトルーマン大統領演説は、実にはつきりと軍備を持つことを期待しておりますし、ダレス氏も、やはりしばしばこの点については從來とも言われておつたと思うのであります。私は條約の批准前でありまするならばともかくといたしまして、批准するかしないかに当りましては、やはり総理大臣としてはこの点について、差当りはともかくとして、将來の御方針というものが、ここに決然となつて現われて参るのでなければならない。殊に先ほど、岡田委員からいろいろ警察予備隊の問題もありましたのでありますが、ともかくも他国軍隊日本の国の安全を保障してもらうために駐屯してもらう、そうしてその軍事行動に対してはあらゆる便宜を與える、又費用を分担する、警察予備隊も考えるというふうな状態になつて参りますと、これはどうしても、何と申しまするか、ここで問題になつて参りますることは、漸増的に直接間接侵略に対して自国を防衞するということが、一つどういうふうに日本の今後の国政の上に現われて行くかということは、総理大臣としてはお考えになるべきでなかろうか。特にその点を国民にお示しになるべきでなかろうか。総理大臣は、從來、日本の過去の軍国主義に対する疑惑が払拭されていない現在、又国民が非常に重税で生活に苦しみ、重税に喘いでおるというふうな点から、この点については今考える段階でないというお考えのようであります。併し確かに総理大臣の御指摘のように、そういう段階にはありまするが、ここで我々としては、日本としてはです、どうしてもこの問題について考えて行かなくてはならないのじやなかろうか。成るほど外国においてはそういう軍国主義に対する危惧、日本の旧軍閥の復活に対する危惧があることは私どもも知つておりますが、国際的なこの條約というものは、どこから見ましてもやはりその点を予想しておるということが考えられます。それから第二段として、国民の生活が苦しい、そうして今は軍備は考えるときでないとおつしやる実質的な理由も、私どもは十分理解できるのでありますが、併しながらどうしてもこの点について解かなければならない。我々がここに当面しておる、こういうふうに私は考えるのでありますが、その点について從來とも首相の言われたこともよくわかるのでありますが、このこと自体は、今この條約を批准するような段階に入つて参りますると解かなければならない事柄でなかろうか。こういうふうに考えるのでございますが、総理大臣は如何お考えになりましようか。
  59. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 内外の現在の状況から考えてみて、再軍備は未だ考えて行くときでないと政府は確信いたします。一応この安全保障條約で以て、国の独立安全を保障する。こういう方針で政府は参りたいと思います。
  60. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 確かに総理大臣はその点で終始一貰して、そういうふうな御答弁をなすつていられるのでありますが、私はこの條約を全体的に読みますると、これはまあ何人が見てもです、何と申しますか、対等の條件で條約が結ばれておると考えるよりは、やはりこちらがお願いして恩惠的に向うさんに権能を與えるが、法律上の義務はない。併しながら実際上の運用の妙味で、日本の国の安全が保持される。殊に、アメリカの從來の態度から、これによつて十分安全が保障されるというふうにお考えになると思うのでありますが、実はもう一つ総理大臣の從來ずつと御説明なすつた事柄を考えて参りますると、一方におきましては総理大臣は日本の、自分の国を自分で守れない、国民がそういう自尊心のない国民なつてしまつては困るのだ自尊心は、自分の国は自分で守るようになるだろうということを期待しておられるのであつて、それらについては独立国民の意思の決定するところに從うのだ、こういうふうにお話なつているのであります。やはり私もこの條約についてどうしても対等的でない、條約局長の言われるような北大西洋同盟條約のように対等の事情でないというところに、日本日本の国で日本人が今のところ守れないというところに、その形をとらざるを得ないところが出て参つたのであります。で、総理大臣が今おつしやるように、今考えておりませんとおつしやいますことと同時に、国民の自尊心は、無防備で自衞力がなかつたならば、それは国民の自尊心は許さんだろうとおつしやるような、この二面のいろいろな御表現があるわけであります。このことをつかまえて、衆議院においては芦田氏が、どうも総理大臣はああ言えばこう言われる、こう言えばああ言われるといつて国民をして帰趨するところを知らしめないということを言われているのでありますが、私は実は総理大臣のおつしやること、そのこと自体に信用を十分おきたいと思いますし、又おつしやること自身に間違いがあるとは思わないのでありますが、併しながら確かに二面の、この條約に当つて先ほどから申上げますような二種の表現をなされていることは、国民をしてその帰趨に惑わしめるところがないであろうか。殊に我々は、先ほど岡田委員指摘しましたように、実際警察予備隊というものを、一昨年でございましたか、五百億の債務償還をいたしませんで、その財源で以て警察予備隊を持つた。速急に作るようになつた。そして本年度の補正予算でも百六十億の補正予算を出しております。そして無論これは一応憲法にいう戰力ではない。無論軍隊ではない。併し裝備につきましては先ほど大橋法務総裁が言われましたように、又事実アメリカから相当裝備を借りてやつてつているのであります。こういう二つの現象、條約の表に現われました以外に、その裏付けになつている事実というものはこういうふうに動いている。で、この二つの方向を解くのにどう考えたらよいのかというのが、私の非常な悩みであり、又国民も非常にこの問題を悩んでいるものでなかろうか。こう私は考えのであります。実は、そればかり私自身も考えあぐんだのでありますが、結局私は、何と申しますか、この予備隊乃至海上保安隊というものは、おたまじやくしだ。今は成るほどおたまじやくしであつて蛙にはなつていない。併しだんだん尻尾ができ手が付いて参ります。成るほどおたまじやくしは飽くまでおたまじやくしでしかない。だから蛙に発展する、成長することは何人も疑いない。やはり総理大臣が、一方においては條約に忠実ならんとして、何と申しまするか、その條約上の期待に副われようという努力もある。併し地方においては現在の憲法に忠実ならんとしていろいろ表現をされるということに考えざるを得ないのじやないか。そうなつて参りますれば、総理大臣の二つの表現というものがここに矛盾なく解けて参るのではなかろうか。総理大臣としては、再軍備の前にまだ日本の国としてはいろいろ考えなければらん、恐らく今度の軍人遺家族の問題もその一つであろうということは十分考えられますが、これらの、かれこれ申上げましたことに対して、総合して見通しと計画とをお立てになつて、そうして国民の向うところをお示しになつて、それを国民の批判と自覚と決心を促がすことに役立たせようとなさることが、総理大臣としての何よりの今なさるべき事柄でなかろうか。こういうふうに考えるのでありますが、その点について御意見を拜聽できれば仕合せだと思います。
  61. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 私の所信は先ほど申上げた通りであります。再軍備は未だその時期でない。而してこの安全保障で国の安全を守る。この條約は余儀なくこれを結んだのではないのであつて日本がこれを希望し、アメリカが応諾した、対等の関係において作つたものであつて、これを日本が余儀なく押付けられたものではないのであります。やはり私の所見は前言の通りであります。
  62. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私の申上げておることをもう少し素直に受取つて頂ければ、私が総理大臣に申上げましたことも、もつと御理解の上に立つて御返事が頂けると思いましたのでありますが、それでは第二段にお聞きいたしたいことは、「一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模内乱及び騒じようを鎭圧するため日本国政府の明示の要請に応じて」この軍隊が寄與することができるということになつておるので、岡田委員はこれを内政干渉だという点からいういろいろ批判されたのでありますが、私は率直に申しまして、独立国になつて、日本の国のこういう間接的な侵略と申しますか、それについて日本自身が責任を負うというふうなことでなければ、本当の独立国ではないという観点に立つておるのであります。ダレス氏が、間接侵略については日本としても考えなければならないと言いましたことは、我々自身にも記憶に新たなるところであります。この点につきまして、無論これが何も忽然として国際法上特別な新らしいものではなく、新例ではあるが、観念的には從來ともあつた問題であるということを言われるのでありますが、実際のところ私は、芦田氏が言いましたように、このデイスターバンセスというものについては、何と申しますか、非常に疑いを持つているので大規模などの程度の、騒擾といえばどうも程度はよほど低いものでなかろうかというふうなことも考えられる。この問題を考えるに当りまして、私は違つた観点から、実は第一点は今申上げましたように、日本人として日本の国についてはお互いが責任を持つてそうしてその治安を守つて参るということが当然である。警察予備隊もすでに七万五千人になつて、実際の問題としては五百億以上の予算を使つてそうして国内の治安に当るという使命を持つておりますし、そのほかに警察官というものが十二万五千人以上あることになつております。我々としてはこういう問題についてこそ直ぐにでも責任を負わなければならないのじやなかろうということが考えられるのであります。と同時に第二点といたしましては、こういうことが一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起されるということを予想しておるのでありますが、この外部の教唆又は干渉によつて起されたときに、先ず私は総理大臣としては、こういうことが起きないことを、起きないように御責任をお負いになるということが、総理大臣としての第一におやりになることである。第二の点は、この一又は二以上の外部の国の教唆又は干渉によつて引き起された場合に、アメリカ、ここではアメリカでございますが、アメリカ軍隊によつて鎭圧されるということは、外部の教唆干渉が予想される以上、その教唆したり干渉せんとするところの国の侵略と申しますか、それに対して戰うところの好餌を與えるものである、そういうふうに考えられるのであります。いずれの観点から見ましても、この点についてこそ我々が責任を負うべきものでなかろうか。こういうふうな問題が出て参りますことも、今申上げましたような事柄に対する御決心のほどがきまつておらないから出て來たものである。その点について私は、総理大臣はこれは万が一の場合である、又朝鮮動乱のようなものを予想して考えたのであると言われるのでありますが、日本の国が二つに割れて両方に政府ができておるようなこともございません。国内におきまして、対戰車砲の対象になるような部隊を持つておるようなものもいないのであります。先ずこういうことが起らないようにされることが総理大臣の責任であり、第二段においては、こういうことこそ日本人が責任を負つて参る事柄でなかろうか、こう思うのでありますが、この点について総理大臣の御所見を伺いたいと思います。
  63. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 條約局長からお答えします。
  64. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 国内治安の問題は、一国が独力を以て責任を果すべきであることは、絶えず総理の言われておるところでございます。併しながらスペインの内乱事変以來顕著に現われました国際情勢を見ますと、外部の国家による干渉又は教唆に基いて内乱が起り、その内乱に外部の国が義勇兵を送るなどで介入して戰争へ導く危險を釀成する傾向が著しくなつて來た次第でございます。こういう情勢の下に、北大西洋條約に参加しております大国さえもが、同條約でいう武力攻撃には、第三国干渉又は教唆に基く内乱の場合が含まれるとの解釈をとつておるほど現実的な問題となつて來ておるわけでございます。從つてども考えとしましては、この第一條にあるような規定をして置くこと、更に申しますれば日米安全保障條約のような條約を作つて置くことそれ自身が、堀木委員のおつしやるような事態を未然に防遏する最も有効な手段と考えておる次第でございます。
  65. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 私が申上げましたことの一つだけは総理としてお答え願わなければならないと思うのでありますが、つまり、こういうことが日本の国としては実際のところ起らないようにするということが、総理大臣の御責任である。日本の国におきまして二つの政府はどこにも樹立いたしておらないのであります。どこにもあの警察予備隊の裝備を以てして対抗するような組織を持つておるものはいないと思うのであります。先ずそういうふうな国内の情勢を見ますと、その点については、総理も治安については心配がないのだとおつしやる。そうおつしやるならば、その治安については、こういうことが先ず起らないようになさる御責任はお感じにならなければならない。この点は條約局長からの御答弁では無理だと思いますので、この点について総理大臣から御所見を伺いたいと思います。
  66. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) そういたしたいと思います。
  67. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 もう時間が五分だそうですから、それではこれで大体やめたいと思いますが、條約局長は、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された場合は、こういう規定があるほうが安全だとおつしやるわけであります。私はその点について何と申しますか、こういう規定を特にお考えなつて安全だとおつしやるよりは、先ほど総理大臣もそうありたいとおつしやいますように、先ずこういうことを起さないということが現在の政治家、特に政府責任を持たれたかたは、国民にそれだけの安心を持たせることが当然だということが前提になりますし、又あなたはこの文句が入りましたことについて非常に理路整然と御説明なつておるのでありますが、私自身から言わせれば、そういう問題があるということ自身が日本の国が、日本人が日本の国の治安について責任を持つという観念を非常に希薄ならしめる。而もそのときに、外国干渉、示竣による場合には第三国干渉する更にいい好餌となる。朝鮮事変だつてそうであります。一方が使嗾して來たから他方がそれに理由がつけられる。そういうふうな国際的紛争というものは、却つてこの條文があるために私は安全ではない。国内的に見ても、国民が自分たちの治安について自分たちで責任を負うという勧念を希薄ならしめて、何でもアメリカに頼むんだ、何でも他国の力を借りてやるんだということを一方においては起さしめ、他方においては、この問題が起りましたときは、他国干渉教唆が原因になつておりまするから、その国の干渉を招きやすいというふうな二つの危險性を含んでおる。從つてむしろアチソンが言いましたように、国際的な解釈があるならば、わざわざここにお書きになる必要はない。殊にです。北大西洋同盟條約と違つて、これは特定なアメリカ軍日本駐屯いたしまして、そうして、その日本のダイレクトな外部からの侵略に対してだけなら負うのでありますから、その特定の国の駐屯しておる力によつてやろうとする姿が、北大西洋同盟條約よりは、はつきりと現われて参つて來るのでありますから、この問題は私どもから言わせれば、先ず日本人がこの国内の治安については責任を負うという決心なら、むしろ削除さるべきものではなかろうか。こういうふうに考えるのであります。
  68. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御意見は御意見として拜聽しておきたいと思います。併し申すまでもなく一国の治安はその国において責任を持つて当るべきであるとの根本は、少しも変つて來ないのでございます。堀木委員は今日の国際社会で論議されております間接侵略の重要性を看過していらつしやると思うのでございます。これは、第二次世界大戰後、如何にして間接侵略の行為を阻止すべきかが、平和愛好諸国の一課題となつておることをお考え下さるならば、内政干渉を招くがごとき関門を開く條項ではないことが御理解願えると思うのであります。英、米、仏、イタリアその他の世界の大国が参加しております安全保障條約においてすら、間接侵略武力行為として取扱つておる点をお考え願いたいと思うのであります。
  69. 一松政二

    理事(一松政二君) 堀木委員に申上げます。これを最後にして下さい。
  70. 堀木鎌三

    ○堀木鎌三君 今言われたのですが、私が聞くと、何と申しますか、そう言つては惡いですが、共産党の人やら社会党の左派の人の聞いておるのと同じような立場じやないかという考え方から、私の申上げませんことまで言われておる。私は決してこの点については内政干渉だという観点から言つておるのではない。こういうことをわざわざお断わりしておるのに、あなたの御答弁にはそういうものが出て参りました。  ただ、もう一点だけ申上げておきますが、日本の国は軍備を持たない、全然丸腰であるのであります。他国のように自分の国を守れる十分な軍隊があり、他にも出し得るような軍隊のある国とは、そのときの力の相違というものは全く違う。だから表向きは一緒でも、これが実際に運用されるときは違つて形で出て來るということもお考えにならなければならん。私の言つているのは、日本人自身が日本の治安についての責任感が足りなくなるのではないか。それから第三国の却つてこれを種にしての干渉が起り得るのではないかということだけを申上げたのであります。私は決して條約局長の言われる内政干渉の端だなどとは言わない。その点は誤解のないようにお願いしたい。
  71. 一松政二

    理事(一松政二君) 午後は一時二十分に再開いたします。  午前はこれを以て休憩に入ります。    午後零時十三分休憩    —————・—————    午後一時三十二分開会
  72. 一松政二

    理事(一松政二君) それではこれより午前に引続き会議を開きます。吉川末次郎君。
  73. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 私のほうの会派から出ておりまする理事が十分行届きませなかつたので、我々委員との連絡が十分付かないので、その結果私に振り当てられている時間に十分となつておるのでありますが、できるだけその協定に從うように努力いたしますけれども、或いはもう十分くらい時間がかかるかと思うので、あらかじめお許しを願つておきたいと思うのであります。併し一問一答の形式をとつておりますると、非常に長時間を要しまするから、私は四項目ばかりについて御質問いたしたいのでありまするが、まとめて吉田首相その他のかたがたに質問をいたしますので、終りましたあとでどうぞ一々御答弁が願いたいのであります。  昨日の兼岩君は政府のかたがたに対して一言でいいというようなことを要求いたしましたが、私はでき得る限り委曲を盡して答えられる範囲内において十分詳細に、誠意ある御答弁が願いたいと思うのであります。
  74. 一松政二

    理事(一松政二君) ちよつと吉川委員に申上げたいのですが、今の御希望は了承いたしますけれども皆さんとお打合せが十分ということになつておりますから、できるだけ要約されまして、十分以内に済むようにお願いいたします。
  75. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 少しかかりますから、前例もありますことですから、お許しを願いたいと思います。特にお願いをしておきます。  第一にお尋ねいたしたいことは、過般行われましたところのサンフランシスコ講和会議における議事手続に関してであります。二項目それについてお尋ねいたしたいのでありますが、私はあの会議が開かれまする前二カ月ほど以前からアメリカ各地を旅行いたしまして、幸いにしてこうした会議が開かれたものでありますから、一旅行客といたしまして、三週間ばかり更に桑港に踏みとどまりまして、米国政府の好意によつて、あの五日間、開会式並びに調印式その他の総会が一日三回開かれるのを、全部少しも遅刻することなく実は傍聽することができたのであります。日本に帰つて参りますると、多少間違つたようなことも私は報道されて伝えられておるかのように見受けるのでありますが、その伝えられておりますることの一つに、あの重大なる講和会議場において、日本から行つたところの参列員が居眠りを非常にやつておつたということが伝えられておるのであります。これは遺憾ながら事実なのであります。その通りなのであります。居眠りをいたしておりまするばかりでなしに、二日目でありましたか、三日目でありましたか、私は二階の傍聽席から見ておりまするというと、すでに会議が開会せられまして、列国の全権が極めて真摯な態度において自国の意思表示をいたしておりまするときに、日本の全権、副全権、その他の参列員が一人もその会議場に列席しておらなかつたときもあつたということを実見いたしたのであります。ひとり民主党から出ておりまする議員訪問者、パーラメンタリー・ヴイジターズの一人であります中山まさ女史が椅子に坐つておられるのが見えるばかりでありまして、全権、副全権その他の諸君は一人も会議場に入つておられないのであります。これはまあ反対党でありまする私が見ておるばかりでなくして、政府與党の私と席を同じくいたしました自由党の国会議員の諸君も、多数その実情を見まして、甚だ怪しからんことであるとして非常に当時憤慨いたしておつたのであります。かくのごときことは甚だ奇怪なことでありまするが、問題はそこにあるのではないのである。それは居眠りをしたり、会議場へ入つたところで別にちんぷんかんぷんの演説を聞いてもわかりつこはないのでありまするから、もう入らずに置こうというような念を多少持ちまするのは当然であります。この会議規則によりまするというと、使われますところの言葉は、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、こうなつておるのでありまするから、そんな外国語を日本人が一から十まで完全にわかりつこはないのであります。トルーマンも、アチソンも、日本語の演説を聞いたところで、それは暫くであるならばよろしい、吉田さんが最後に日本の意思表示をせられて、そうして丁度この間の参議院の本会議場でやられたような、あの施政演説と同じような長い巻紙を持つて來て、そうして読み上げられたのであります。その明くる日のサンフランシスコ・クロニクルの評を以ていたしますると、エモーシヨンレスである、無表情である、そうして中国的な象形文字で書いたものを縱から下へ読み上げられたということを書いておるのであります。我々聞いておつても実に無表情な、エモーシヨンレスな御演説であつたのでありますが、併しながら私たちは反対党でありましても、我々の全権が重大な意思表示をせられておるのでありますから、傍聽席から一生懸命に吉田さんのために拍手をいたし、声援を送つておつたのであります。併し吉田さんの演説のような極めて簡單な時間でやられるならば、これはちんぷんかんぷんの演説を聞いておつても、じつと辛抱して聞いておるでありましようが、朝の十時から晩の十時までこういうわけのわからない、そういう外国語の演説を聞かされまするならば、これは居眠りをしたり、席を外したりすることになるのは当然のことであります。議事規則によりまするというと、第八節十條でありまするが、用語は今申しました四国の言葉に限られております。併しながらあの会議はジヤパニーズ・ピース・オブ・コンフアレンス、日本をむしろ主客といたしました重大なる会議であります。その重大なるこの何と申しますか、その会議の主役を勤めますところのこの日本の国語はともかくも、日本の全権に日本の国語を通じてわかるような処置が十分に講ぜられなかつたことは、これは私は重大な手落ちであると考えざるを得ないのであります。吉田さんは楠木正成の千早城の故智にお倣いになつたのかも知れませんが、非常にたくさんの同勢を引き連れられて、そうしてあの会議場に列席せられておつたのでありますけれども、これはいわゆる千早城の藁人形と同じで、何もわからんのであります。そうしてただ盲判のようなものを吉田さんが押して帰られた。それはサイニング・セレモニー、調印式というような言葉を使つておられまするから、我々には積極的ないろいろな意思表示をするということが、政治力を以てすることは困難なような、單なる調印式であつたかも知れませんけれども、併しそれならば吉田さん一人が行つて判こを押して來られたらいいという考えも成り立つのであります。米国の国務省は我々に対しましては、あなたたちは旅行客なのであるから、十分の会議に対するところの傍聽の御便宜は図るけれども、外交官的な外交上のポジシヨンを與えるということの便宜をお取計らいすることはできない。又ダレス氏の言であるが、フイリピンが賠償金をばどうかして日本から取ろうとしておるときに、日本新聞には、非常に数百人の人間がこの会議日本から乘り込んで來るということであるが、そういうようなことでは日本はこれほど経済上の余裕があるのじやないかというところの口実をフイリピンその他の諸国に與えるから、そういうような外観を呈するということはでき得る限り御遠慮を願つて、その点を考慮してもらいたいというようなことが、ダレス氏の言として我々にも当時それが伝えられて來ておるのであります。然るに何もわからないようなそういう連中がわいわいとやつて参りまして、そうしてそこで居眠りをしなければならない、或いは席を外していてもおつても、どうでもいいというような結果を來たしますようなこと、それはです。ほかの国と同じように、その四カ国語と同じように、日本語の通訳が蔭の声として、そうしてイヤホーンに入つて來て、日本の全権その他の諸君が皆、今、アチソンが何を言うておるか、ヤンガーが何を言うておるか、グロムイコが何を言つておるのであるかということがわかるだけの仕組みをしておくということは、私はこれは当然のことではないか。この議事規則におきましても、四カ国語でやるということが書いてありまするけれども、併し吉田さんの日本語の演説も許されておるのであります。その場合におきましては、その演説の要領というものをば先に事務局へ出しておくということの規定がありまするが、この規定を作りますときに、規定が作られました後でも、それはこういう当事国なのでありますから、有力なる当事国なのでありまするからイヤホーンに日本語が入るようにしておくべきである。我々傍聽者は、イヤホーンはもらえるときもあつたり、もらえなかつたようなときもありまして、吉田さんがあの演説をおしになりましたときには、吉田さんの日本語の演説しか聞きませんでしたが、併し英語の飜訳をいたしましたところの嶌内君の演説というものが、非常に立派なものであつたということを、私は聞いておるのであります。結構なことでありまするが、なぜ日本語でイヤホーンに入るようにしておかなかつたか。イヤホーンには、一から六まで六カ国語の飜訳が入るようになつておるのであります。そのほかに五、六とまだ二つ空いておるのでありまするから、そこへ日本語の私は通訳が十分入る余地があつたと思うのであります。これは大きな問題であります。
  76. 一松政二

    理事(一松政二君) 吉川さんに御注意申上げます。大体十分過ぎておりますから、成るべく簡單に要約してお願いいたします。
  77. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 余りやかましく言わんと、十分わかつておりますから……。どうも話の腰を折られちやどうも困つちやうのだが……。それでイヤホーンに私は入るようにしておくべきであつた、このように考えるのであります。で、なぜそういうことになつたのであるか。それについての努力をどこまで当局がおしになつたか。丁度借用証文を調印いたしますときに、債権者と債務者とがお互いの言うことをよく聞いて、それから納得して個々に調印するのでありますが、金を借りるところの立場にあるところの一方が、金貸が何を言つているのか、さつぱりわけがわからないで、ただ判こを押して來るというようなことになつておるわけであります。で、このようなことからして、今申しましたように、そういう努力をなぜせられなかつたか。そのことについての政府当局の御答弁を得たいと思うのであります。  それから第二に議事手続のことにつきまして吉田さんにお伺いいたしたいと思いますることは、あなたが、あのときに、おしになりましたところの演説であります。私は先に申しまするように、一生懸命に拍手をして声援をいたしておつたのでありますが、あの内容は、聞くところによりまするというと、あの嶌内君がやりました英語のその案文をアメリカ政府当局にあらかじめお出しになつて、そうして向うから数カ所それに対していろいろと筆を入れてこれを消して訂正したということが日本新聞にも伝えられておるというのでありまするが、これ又私の知る範囲内におきましては事実その通りであります。それで私は吉田さんにお伺いいたしたいのでありまするが、我我はこの吉田さんの演説日本を代表するところの意思として、独立的な立場において、自主的に、自由に私は列国に対して、相手国に対して表示されたいものである、又そうでなければならないものであると考えておるのでありまするが、そうした相手方の意見によつて、相手方に筆を入れさせて、直してから吉田さんがああいう意思表示をせられたということは、私は日本国民の矜持の上におきまして誠に忍ぶべからざるような感情を持つのであります。その向うが直さない前のオリジナルな、初めお書きになつたところの吉田さんの演説草稿はどういうものであつたか。そうして向うから手を入れられて直されておしになりましたところの演説の内容は、我々にもここに印刷をして配付せられておるのでありますから、その相違を私たちは対照して、ものを考えて行きたいと思うのでありまするから、そのオリジナルな形の演説一つ我々に資料として是非この際出して頂きたいということを吉田さんに私は御要求いたすのであります。  それで急ぎますが、急いで申上げますが、第三番目にお伺いいたしたいことは、これは吉田さん及び大橋法務総裁にお伺いいたしたいと思うのでありますが、過日のこの委員会の議場におきまして、岡本愛祐君が義勇兵というものができても、そうしてそれが戰争に從軍することになつても、日本の憲法に触れないか、憲法第九條の違反にならないかということの質問をいたしましたことに対して、大橋法務総裁は、これは憲法第九條に違反しないというところの御答弁があつたのであります。併しながら私の記憶いたしまするところでは、新聞紙上で見たかと思うのでありますが、多分大橋法務総裁の言として載つておつたと思うのでありますが、或いは吉田さんの御答弁であつたかも知れませんが、御答弁になりましたかたからはつきりお答えが願いたいと思うのでありますが、それと全く違うところの答弁をしておられたように私は記憶いたすのであります。即ち日本人が義勇兵として他国のこの軍隊に加わつて戰争に從軍するということは、平和憲法の規定に反するところのものであるというところの御答弁があつたと思うのであります。私の現在持つておりまする考えからいたしますならば、そのあとのほうの解釈は、即ち憲法に違反するという解釈は正しいのではないかと思うのであります。日本の国が戰争を禁ずるところの憲法を持つておりまする以上は、その国家に所属いたしまするところの国民は、同様の精神を以て戰争及び軍隊というものに対するということは当然であると思うのであります。法律は属人主義とでも申すのですか、即ちその人によつて、どこにいようとも、日本の法律は日本人である以上は私は同様の精神が適用されるべきものであると考えるのであります。なお、この問題につきまして、参議院の法制局の諸君にも、ちよつとこの間も調べてもらつたのでありますが、異説があるようであります。東大の憲法の教授でありますところの宮澤俊義君、その他のかたもあるのでありまするが、その專門家におきましても、私が今持つておりまするように、大橋法務総裁のこの間の岡本君への答弁と反しまして、これは憲法に違反するというところの所説を持つておるのでありますが、もう一度右のことにつきまして、大橋法務総裁からの御答弁を得たいと思うのであります。  なお、それに関連いたしまして、ここに政治的な、外交的な立場からこの問題をば考えてみまするというと、現在御承知のごとく北鮮におきましては、中共軍が数十方義勇兵というところの形において從軍いたしておるのであります。その名称も義勇兵となつておると私は思うのでありまするが、それは大橋法務総裁のような見解から、この間、述べられた見解からいたしまするならば、その立場は肯定せられるということになるかと思うのであります。それについては即ち中共軍が義勇兵の形において北鮮軍に加わつておりまするということは正しいというところの御見解であるか。これは大橋法務総裁の憲法上……これは国際公法上の問題であるかと思いますから、外務省のかたからお答えを願つても結構でありますが、ともかく政府当局からこれに対しての法律的な見解を伺います。
  78. 一松政二

    理事(一松政二君) 吉川さん、再び御注意しますが、もう二十分になりましたから。
  79. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 もうちよつとです。右のような見解がここに許されるといたしまするというと、外交上非常に大きなことが考えられて來る。即ち現在の日本の憲法というものをそのままにして置いて、朝鮮或いは台湾その他の地方において日本の青年というものが幾らでもこの義勇兵の形において戰争に参加することができるというところの問題が起つて來ると思うのでありますが、この問題については吉田首相はどのようにお考えになるかということをお伺いいたしたい。  最後に極く簡單に申上げますが、朝鮮問題についてであります。
  80. 一松政二

    理事(一松政二君) もうあと一分にして下さい。
  81. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 それでは申上げます。すべて略しまして。今我々は朝鮮の停戰問題に当面いたしておるのでありますが、これは停戰がなることを私は望むのでありまするが、停戰がここに成立しましても、成功いたしましても、これは一時的な問題であつて、共産党の国際的な戰略からするならば、直ちにそれは或る一定の時期において破棄されて、そうしてそれが無駄になつてしまうところの結果を來たして來るということを、これはアメリカの軍人でありまするウエデマイヤー氏が最近のユー・エス・ニユーズ・アンド・ウアールド・リポートという雑誌にも書いてありますが、ウエデマイヤー氏が何を言つていようと別といたしまして、私は十分そういう考えは想定することができると思うのであります。又ウエデマイヤー氏は、南朝鮮は非常な惨害を受けて、南朝鮮の人間も、これは地域的にはいろんな、心理的に共産党的になつておる。
  82. 一松政二

    理事(一松政二君) 吉川さん、質問の要旨だけにして置いて下さい。
  83. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 だから、アメリカは南朝鮮からその威嚴を損しないならば一定の時期において撒兵すべきであるというような議論をいたしておるのでありますが、これはウエデマイヤー氏が言つておる如何にかかわらず十分に考えられるところの一つ意見であると思うのであります。その及ぶところは、この條約につきましても、又我々の外交上の問題の考え方につきましても甚大な影響を與える考えでありまして、そういうことについても我々頭に置いてものを考えて行かなければならんと思うのでありますが、停戰協定というものが、それが今ウエデマイヤー氏が言うように一時的なものに過ぎなくて、又或る時期において共産党の世界戰略からして破棄されてしまう。或いは又アメリカは……これはもう時間がありませんからすべて省略いたしまするが、(笑声)南朝鮮から撒兵してしまうというようなことが想定されるというようなことを考えて、朝鮮問題の将來ということについて吉田さんはどのようにお考えなつておるか。仮定に対しては答えられないというような無責任なことをお言いにならないで、とにかく国民が心配いたしておるのでありまするから、答えられる範囲内においてそうした問題についての御意向をこの際お漏らしを願えまするならば非常に結構であると思うのであります。
  84. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) サンフランシスコ会議についての御質問でありましたが、当時随員として参列いたしました條約局長からお答え申上げます。同会議に参列なさいました全権各位、全権代理各位その他の各位が会議議事を理解するために大いに努力されましたことは我々よく承知いたしております。或る場合には議席にお見えにならなかつた場合がありとすれば、それはよんどころない事情によつてであつたろうと考えております。なお又この会議が成功裡に終るように、それに至るまでの間、首席全権を初め全権各位が議場の内外において人に知られぬ多大の努力をなされましたことは会議主催国その他会議参加諸政府のはつきりと私どもに申してくれたことでございます。  なお又会議におきまして日本語のイヤホーンの使用ができなかつたについていろいろ御意見がございましたが、会議設備万端は主催国がいたすものでございます。会議の公用語は議事規則できまつておるところでございます。全権団随員といたしましては、毎日の議事が如何にとり行われ、如何ような趣旨のことが論議されたかをできるだけ早く参列しておられます日本のかたがたに御理解できますように、毎日ブユルテインを日本語で作成して御配付いたす等、あらゆる努力をいたした次第でございます。吉川議員を御満足させなかつた点は事務当局として遺憾に存じますが、私どもとしてはでき得る限りのことを盡したつもりでございまして、良心的に少しもやましいと考えておりません。
  85. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 義勇兵の問題についてお答えを申上げます。
  86. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 演説草稿の問題を……。
  87. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 私からは義勇兵の問題についてお答え申上げます。義勇兵の問題につきまして憲法上どういう見解であるか、いろいろ前後矛盾したような説明があつたようだが、政府の見解を確かめて見たいという御趣旨と存じますが、先ず第一に、政策を離れまして純粹に法理上、法律上の問題として考えて見まするというと、日本人がいずれかの国の軍隊に義勇兵として純粹に個人的に応募するということは、これは直接憲法第九條の問題ではないと考えております。と申しまするのは、第九條は日本の国が国家といたしまして軍備を持たないという趣旨を明らかにいたしておるのでありまして、一国民がその個人的希望によつて外国軍隊に義勇兵として從軍を希望するという場合には、それが純然たる国民の個人の行為でありまする限り、憲法第九條に関係のない事柄である、こういうふうに考えます。このことが、それでは、その行為が憲法上正しいかどうかとかいうような問題ではなく、これは憲法に無関係な事柄である、こういう趣旨に第九條を理解いたしておるわけであります。併しながら若し国内におきまして、日本人が個人といたしまして、外国軍隊の義勇兵として応募するというような事柄が、果してそのときの国際上、国内の情勢から見て適当であるかどうかということは、おのずから又政策上の価値判断があろうと存じまするので、その場合におきまして国が政策としてこれを禁止するという態度をとるといたしましても、それも又憲法に違反するというものではないのでございまして、政策上必要ならば国家がそういう禁止的なことをなすことはこれは十分に考え得ることだと思います。
  88. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 首席全権の演説に対しての御質問の点は御答弁の限りでないと存じます。
  89. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 なぜ限りでないか。
  90. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 事柄の性質上でございます。
  91. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 それから今の義勇兵の問題についての御答弁がまだ残つております。外交上の立場からの答弁を願います。それから朝鮮問題に対する答弁を願います。
  92. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 義勇兵につきましては昨日もそれぞれ御答弁申上げましたが、国際連合関係におきましては、さような制度がありませんから、從つて国際連合に対する義勇兵というものは考えられないと思います。  それから南北朝鮮の問題につきましての御質問に対しましては、御承知のように目下休戰会談が続けられ、日本といたしましては国際連合の精神からこの会談が速かに且つ適正に進みますことを希望する次第であります。   —————————————
  93. 楠見義男

    ○楠見義男君 若干の問題について総理大臣の御所見を伺いたいと思います。先ず第一の問題は中国問題であります。中国の代表政府がいずれにきまるかということは、将來の日本にとりましては政治的意義と同様に経済的な観点からいたしましても極めて重要な問題であろうと思うのであります。総理は先般の臨時国会においては、国民政府を選ぶか中共政府を選ぶかは連合間において決定すべき問題であるとお述べになつたのでありますが、平和條約が効力を発生いたしました後においては、その間の事情は変つて参ることは当然だと思うのであります。衆議院及び本院の今までの質疑を通じて見ましても大体二つの見方があるようであります。一つは、講和会議が効力を発生した後においては日本側の自由の意思によつて、中共政府を選ぶか或いは国民政府を選ぶかは自由の意思によつて決定すべきものであるという意見、もう一つは、昨日來でございましたように、中国の問題は中国が決定すべき問題である、こういう意見であります。いずれにいたしましても総理はこの委員会において、国際情勢や中国の事情等を考慮して決定せらるべきものであり、仮に日本側の自由の意思によつて決定すべきものとしても、軽々に決定すべきものではない、こういうような趣旨の御答弁があつたと思うのであります。併しながら中国に二つの政権があることは、これは事実であります。その実情の上において仮に日本側が自由の意思で以て決定いたすといたしましても、今回のこの二つの條約が成立することによつて、おのずからその方向が決定するのではないか。即ち中共政府をその代表と見ないような結論になるのではないか、こういうふうに思われるのでありますが、この点について総理の御意見を伺いたいのであります。と申します理由は、今回の安全保障條約は、これによつて日本が西欧民主主義陣営に身を投じたことは極めて明白であります。総理もこのような趣旨のことを本会議でございましたか、はつきりと言われたように記憶いたしておるのでありますが、同時に他方においては共産主義陣営において中ソ友好同盟及び相互援助條約がすでに締結せられておるのでありますが、そこで安全保障條約は、その成立の経緯或いはこれが成立に至つた基盤等を考えますると、日本にとりましてはこれを契機として明らかに共産主義国陣営と相対した関係に立つことになると見るのが、或いはこれは国際的にも常識であるように思うのであります。果して然らば将來中国代表政府としては国民政府、中共政府のいずれを選ぶかは、仮に日本の自由の意思によつて決定し得ることとなりましても、今申上げますように、安保條締結国民政府選択という結論になるのではないかと思うんでありますが、このことは中共政府の周恩來外交部長の声明や、或いは大公報等の機関紙において、安保條約は中ソに対する宣戰布告にも等しいと、こういうふうに述べておりまする等のことから考え合せましてもそのように思われるのでありますが、先ずこの点について御所見をお伺いしたいと思います。
  94. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 中国の問題は、日本の從來の関係から申しましても、又地理的関係から申しましても、日本との関係は重大な関係を持つておりますから、軽々に決定しがたい問題であるということを始終申述べたのであります。即ち内外の情勢をよく考えて、中国との間に永遠に亘る関係になることになりましようから、仮に日本がいずれかの政府を認めるとしても、これは相当の理由を持ち、それ相当の研究をしたる上で決定したいと、こういう意思であります。  それから昨日でありましたか、一昨日でありましたか、私が上海に在外事務所を、何と言つたか言い現わし方は忘れましたけれども、とにかく開くかも知れないと言いましたか、開いてもいいと申したか、そのことは覚えておりませんが、そのために多少問題を起したようであります、これは日本ではない、アメリカにおいて。併しその趣旨は、仮に台湾に在外事務所を設けてもそれは貿易の関係だと、商売の関係から設けるのである。政治上の意味ではないのだという説明をするために、仮に上海に開けと中央政府から要請と言いますか、希望を述べられた場合には、その場合には通商の目的のためには開いてもよろしい。併し逆に日本に中共政府の在外事務所ができて、それが宣伝の中心になられては困ると申しましたが、これは今直ちに設ける考えでもなければ、又設けてくれという希望を述べられたわけではない。ただ例えば台湾に在外事務所を設けてもこれは通商の目的である。又それが政治上の意味合いを持つて国民政府を政治的に認めて行くのじやないのだという説明として申し上げたので、今直ちに上海に在外事務所を設ける意思はないのであります。このついでに多少誤解を起しましたから訂正いたします。
  95. 楠見義男

    ○楠見義男君 時間の関係がございますから、もう少し突込んだお答えを得たいと思つておりましたが、次の問題に移ります。  次の問題は、安全保障條約における行政取極の問題であります。行政取極の内容、少くともその大綱くらい知らなければ、安全保障條約の承認上、国会としては審議を盡したものとは言えない、こういうような観点からいたしまして、衆議院及び本院においてもこの問題が終始質問の中心になつて繰返されておるのでありますが、政府はこれに対して未だ全く両国間に話合いがない、こういうような意味から答弁を拒否されておられるのであります。併しこの問題は国民はすべて真劍に聞きたがつておる問題でありますし、それを又国会に求めておるように思うのであります。で、サンフランシスコ会議におけるダレス氏の演説を見ましても、平和條約の第六條でありますが、第六條は、若し日本希望するならば現在日本領土に駐屯中の占領軍が日本防衞のために駐屯し続けることができると規定しておる。これらの残留軍隊は、勿論占領軍として持つていたところと大いに異なつた特色と権限とを持つであろう、これらの軍隊日本が自発的に彼らに與えんと欲する地位のみを持つであろう。こういうことを述べておるのでありますが、日本が自発的に與えんと欲する地位として、仮に総理が言われまするように、未だ両国間に話合いが進んでおられないといたしましても、少くも日本政府としてはどのような構想を以て臨まんとするのか。事は日本自身の防衞の問題でありますから、その構想くらいはお持ちになつておることと思うのであります。総理は今後の交渉にかかる問題であるから言明を避けたい、こういうことを本日もお述べになつたようであります。併し安全保障條約を承認せんとする立場に立つておる者からいたしまするというと、この條約を承認するということが即この條約の一條文をなしておりまする行政協定をも当然に承認したことになるわけでありまして、現に政府筋においても、法律と委任命令の例を引いて御説明なつておられるような次第であります。そこで、この條約を承認せんとする立場から申しますると、総理も或いは又法務総裁も、この委員会で必要な法律案、或いは予算案はその時になつて国会に提出すると、こういうようなことをお述べになつておるのでありますが、併し安保條約を承認し、從つて又この條約の一條文をなしておる、又政府側がお述べになつておりますような法律、委任命令のような関係をかれこれ勘案いたし、考慮いたしまするというと、仮にそういうような法律案、或いは予算案が出て参りましても、安保條約を初めから反対した立場のかたがたは別といたしまして、その法律案及び予算案を否決するということは、国際関係から申しましても、又事実上から申しましても殆んど不可能に近いのではないか、こういうようなことが考えられるのであります。そこで、この問題に関連して、総理は先般岡本愛祐君の質問に対して注目すべき御答弁をせられておるのでありますが、この点についてお伺いいたしたいと思います。それは丁度條約において批准條項を設けると同じような考え方で、行政取極の場合において、仮にそれが法律的の立法を要し、或いは予算を要するというような場合には、それは国会の承認を得るということを前提として、條件として、そういうような行政取極をするということも考えられることである。こういうような趣旨のことを確かお答えになつたと思うのでありますが、この点についてもう一度お伺いいたしたいと存じます。即ち行政取極を行う場合に、国会の承認を前提としてそういうことをおきめになる、こういうようなおつもりで、そういうことをお述べになつたのか、或いはその他の事情ですか。先ずその点をお伺いしたいと思います。
  96. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 安全保障條約は、しばしば説明いたしまするが、來年の二月、ダレス氏が來たときから始まつた話であります。平和條約ができて、そして日本独立し得る。独立回復してその安全をどうして守るかということは、自然両国の間において考えられることである。如何にして守るか、即ち安全保障條約の原則によつて、守ろう。この安全保障條約において、この安全保障條約の原則がいいか惡いかは先ず国会で以てきめられて、その原則がきまつたところで、いわば施行細則は行政協定できめるという気持であります。故にこれを非常に重大にして、白紙委任状を出すのであるとか何とか、非常に誇大にされたように我々は感じますが、さほど重大であるという考えはないのであります。要するに重大な協定であるのならば、別に両国の條約とか協定とかいう形で以てなるでありましようし、安全保障條約の原則の下に、その施行はどういうふうにするか、或いは兵数はどのくらいの兵数にするか、或いはどこに置くかというような施行細則を、行政協定に委すという趣旨であります。若しそれが大きな協定であれば、更に別の協約にならざるを得ないと思います。又若し小さなものであるとか、予算に関係するとか、或いは国民権利義務に関係するものであれば、これは法律によらなければなりません。而して予算に計上しても議会が承認できないようなもの、若しくは又法律にできないようなものは、政府として取極めるはずもなし、又相手方として要求するはずもないと思います。そうは思いますのでありますが、いよいよ問題が具体化すれば、そこで以て議会の協賛なり何なりを経るという当然な手続はいたします。  それから少しく経過を申しますが、アメリカ政府は、或いはダレス氏にしても、平和條約取極を或いは成文を書き上げるため非常に時間をとられて、そうして安全保障條約にいわゆる行政協定まで書き上げる、拵え上げると言いますか、話合う時間がなかつたから、今後の問題に残すということになつただけの話であつて、これが非常な重大問題であるかのごとく、或いは何かそこに秘密があるようなふうに考えられるのは、これは誇張した考え方であつて、事実は今申したようなのがこれまでの事実であります。
  97. 楠見義男

    ○楠見義男君 賠償の問題及び在外資産の問題について大蔵大臣にお伺いしたいと思うのでありますが、その前に、在外資産の問題で特に総理大臣にお伺いしたい一点があるのであります。  それは、在外資産の問題が、御承知のように今日いろいろの観点から論ぜられているのでありますが、これらの問題で特に考えさせられますことは、旧領土満洲その他から在留邦人が強制的に送還せられたということから生じているいろいろの問題であります。勿論この強制送還ということにつきましては、何らの国際法的の根拠もないと思いまするし、又これを合理化するための事後の措置も何ら今までとられておらないと思うのであります。そこで極端な暴論からいたしますると、日本人は戰争に敗けたんだから、リユツクサツク一つ背負つて逃げて、帰つたのだ。あとに残つた財産の処分については、これは自由に処分されてもいいじやないか。こういうような極端な、これは日本側ではなしに、むしろ外国側の立場からでありますが、そういつた極端な議論さえ出る余地があるわけであります。そこで、この際特に明らかにいたして置きたいと思いますことは、日本の降伏後、旧領土にありました日本が人強制的に送り還されたということについて、それは国際法上と申しましようか、どういう根拠に基いてそういうような送還がせられたのであろうか、こういうことについてお伺いをしたいのであります。御承知のように、今日これらの人々は引揚者という名称によつて一切の財産を失い、そうして又帰つて來てからも非常に悲惨な状態に置かれて、そのために政府もこの援護についてはいろいろ苦慮されておりますことは、我々もよく承知いたしております。併しこういうような戰敗国民が、かくのごとく決定的に、強制的に、又不合理に還されたということは、世界の歴史を繙いてみましても未だ曾つてないと思うのであります。で、本來こういうような問題、特に仮に移動させられるといたしましても、それは平和條約によつてそういう問題がきめられるものだと思うのであります。從つて今回の平和條約においても、そういうような事柄が規定せらるるものと予想いたしておりましたところ、遺憾ながらそういうような條項はどこにも入つておらないのであります。そこで、これは或いは総理又は政府委員からでもお答えを頂きたいのでありますが、どういうわけで今回の平和條約においてこの問題が取扱われなかつたかという、この点が先ず第一点であります。  それからもう一つは、一体このような強制的措置は合法化されておるのか、又若し今申上げますように、これは私はそう思うのでありますが、不合理である、非合法であるということであれば、今後これについて合法化される措置が講ぜられるのであるかどうか、この問題について御意見をお伺いいたしたいと思います。
  98. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 政府委員のほうが確かでありますから……。
  99. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 楠見委員の御指摘の問題は大変むずかしい問題だと存じます。敗戰国の住民の強制移住というような措置は、第二次世界戰争後におきまして、日本人とドイツ人とに対してとられたわけであります。終戰当時におきまする連合国の対日本人、対ドイツ人感情がこういう措置をとらしめたものだと思います。結局勝利者の権利として、敗戰民族に対してとられた措置であると考えたらよろしかろうと思うわけであります。これが非常に苛酷であつたし、又先例もないところであることには、全然同感でございます。  次に強制移住させられた人々が、海外に残した財産の処分が如何にして合法化されるかという問題でございます。その点は、結局この平和條約の第十四條の(a)の2の、この平和條約が効力が発生するときに、連合国の領域にある日本財産を留置し、清算する権限を連合国に認めると條項で、戰勝国としては強制移住させられた日本人が残した財産の帰属を最終的に決定する法律的根拠を得たことになる次第でございます。無論この平和條約について、米国政府意見を交換いたす機会がありました場合には、今楠見委員が述べられましたような、連合国のとられた措置日本にとつて極めて苛酷であつたと思うこと、それから莫大な資産が強制移住させられた日本人によつて旧占領地に残されておるが、これをできるだけ公正なる措置をしてもらいたいことを懇請いたした次第であります。併しながら何と申しましても、終戰後六年を経て、而も当該地域の政府なり当局なりがすでに処置をとつてしまつておるような事情にありまして、よく覚えておりませんが、「ゼイ・ハブ・ゴーン」「なくなつておる」という意味だと思いますが、言われたのであります。事実なくなつておるから如何に日本側で公正な措置を主張しても、又、その主張を諒とはしても、事実上むずかしいことだという説明であつたわけであります。
  100. 楠見義男

    ○楠見義男君 在外財産の問題に関連して申上げたのでありますが、私の申上げた趣旨は、問題が、日本人の強制送還をされたこと、このことにいろいろ問題が胚胎しており、而もその強制送還が今の條約局長の御説明によりますと、勝者の権利としてこれが行われたとのことであるが、このことが国際法上認められるかどうか、仮に認められぬとすれば、これは何らか事後において合法化するの措置が必要ではないか。こういうような趣旨で申上げたのでありますが、なお、この点については逐條審議の際に詳細又お伺いする機会があろうかと思います。  それから委員長に申上げますが、賠償の問題或いは在外資産の問題について大蔵大臣、それから中国との貿易の問題について通産大臣にお伺いしたいことがありますので、その点を留保いたしまして、一応私は総理に対する質問はこれで終ります。
  101. 一松政二

    理事(一松政二君) 了承いたしました。それでは高橋委員にお願いします。   —————————————
  102. 高橋道男

    高橋道男君 今回の両條約を通覽いたしますると、精神文化に関する問題といたしまして、例えば平和條約の前文において、国連憲章の第五十五條に言及しておる。但しこれは国連憲章を見なければわからないのでございますが、この点と、それから平和條約の第十四條に宗教団体の在外財産に関すること、それから同じく第十四條と第十五條に文学的及び美術的著作権の問題と、こういうことが見られると思うのであります。私は、総理が仰せられたごとく、この條約が対等の立場において締結されたものであるといたしまするならば、そうして十分の話合いができる立場において結ばれたものであるといたしまするならば、我が国の新憲法が新らしい文化国家として世界に宣言しておる立場もありまするから、もう少し文化的な内容を持つたものにして頂けなかつたかどうかということについて、この條約において総理は如何なる考えを持つて文化という問題に臨まれたか、これをお伺いいたしたいのであります。  国連憲章においてさえ文化という言葉が、或いは経済的、社会的、衞生的、教育的というような言葉と相並んで用いられておるのでありまするが、それほど大きく考えて見られ得なかつたのであろうか。こういうことをお伺い申したいのであります。これに関連して言われますることはイタリーの條約を見てみますると、先ほど申した美術的、文学的著作権のイタリーの在外文化財というものは、処分せられる財産から除外されて、イタリーの所有に帰することが明らかにされておるのでありますが、日本の今回の條約におきましては、外国のこういう文化財は日本国内において保護を受けまするが、日本の在外文化財というものは保護を受けないということは、極端に過ぎるかも知れませんが、「日本国に有利に取り扱う」というだけの文句が出ておるのでありまして、その点、私は対等の立場ではなしに、いささか不平等のような感じを持つのでありますが、こういう点について先ずお伺いをいたします。
  103. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 文化に関しては、特に平和條約の中に謳われてはおりませんが、個々の話合いとしていろいろな話が進んでおります。例えば学生交換であるとか教授交換であるとか、或いは又世界の文化に関する会議には列席を招請せられるとかいうようなことで、個々の場合には文化に関する問題は取上げられており、又将來も取上げて、日本の文化或いは世界の文化に貢献するようなことにいたしたいと考えております。それから日本外国における文化財の保護といえば例えばどういうことになりますか。
  104. 高橋道男

    高橋道男君 一例を申しますれば、フランスに松方コレクシヨンというものがあることを聞くのでありますが、こういうものがそのまま日本の文化財として保護を完全に受けるものかどうかというようなことであります。
  105. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) この問題については現に交渉中であります。つまり日本に送り返してもらうようにということで交渉をいたしております。
  106. 高橋道男

    高橋道男君 次に独立国家となりました場合に、当然自衞ということが考えられるのでありまするが、自衞ということにつきましては、直ちに思い起されるのは軍備的なもの或いは文備的なものだと思うのであります。先般來この問題につきまして再三論議が繰返されておるのでありますが、自衞ということは軍備ということだけに限つて考えらるべきものであるか。我が国においては古來文武両道ということが言われておるのでありますが、文備ということは自衞という問題の中には考えられないものであるか、これをお伺い申上げたいと思います。
  107. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 便宜私からお答え申上げます。  自衞権の行使ということはよく九條に関連して問題になるのでありますが、国家が自衞権を行使いたしまする際におきましては、その侵害を除去いたしまして自国を守りまするために必要な一切の手段を用い得ると思います。勿論国際條約によつて禁止されたような手段に訴えること、これは当然国際法上できません。併し国際法上許されたる一切の手段に訴える権利があると思います。從いまして、軍備がある国におきましては無論必要があれば軍隊の出動ということもあり得るわけでございます。併し我が国のごとき軍備を持たないという場合におきましては、自衞権行使のためには自国の軍隊の力に訴えるということは不可能なわけでございまして、この欠陥を補うものが日米安全保障條約である、こういうふうに理解をいたしております。
  108. 高橋道男

    高橋道男君 私の発音が惡かつたのでお聞き違いになつておると思います。私は文武両道の文のほうは自衞の中に考える必要はないかということをお尋ねしたのであります。精神的な面が必要じやないのか、それは自衞と考えられないのかということをお尋ねしたのであります。
  109. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 御質問の趣旨は、国が自衞権を持つという場合においては、武力的な面ばかりでなく、何か文化的な面においても自国の文化を守るための自衞ということが考えられるか、こういう御趣旨ででもございましようか。
  110. 高橋道男

    高橋道男君 思想防衞であります。
  111. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 思想の面において自国を守るため自衞権と申しますのは、これは何と申しますか……。
  112. 高橋道男

    高橋道男君 もう少し具体的に申上げます。私は武器だけではなしに、精神的な面が十分に強化されなければ、国の自衞ということは完全には守れないと思うのであります。で、国民の精神を強化することによつて国民をして自分の立場なり環境を自覚させることによつて自衞力はおのずからできて來るものである、こういうように考えるのであります。精神的な間隙があるが故に我々は好ましからざる思想なり運動なりが起つて來るのであつて、精神に間隙を與えないということが非常に大事なことだと思うのであります。そのためには私は文教政策にもつと重点が置かれなければ、この面は充足できない、こういうように思うのであります。具体的に更に今回の補正予算などを見ましても、法務総裁の関係しておられる警察予備隊のごときは当初予算の倍程度に増加が行なわれて、三百十億というような額になつているのでありますが、これに反しまして文教予算は僅かに五十億程度の増加であつて、三百二十億くらいの予算になつているのでありますから、これは内容の比較を詳しくいたさなければ論議が盡されないので、これは別の機会に讓りますが、端的にこれを比較いたしますると、治安問題に重点が甚だ注がれ過ぎて、精神を涵養すべき文教対策が極めて薄弱ではないかということを私は恐れるのであります。殊に只今講和発効前でありまするが、発効後におきまして、問題になつております行政協定なんというようなことが強化されて参りますると、これはほかの法律の場合におきましても、国会が通るまでは事細かにいろいろな点について殊勝に弁明しておられますけれども、法律が成立すると、後は、行政官の思うようにやつて行くというようなこともこれは一、二にとどまらない例を私は知つているのでありますが、さようなことを思いますると講和発効後なお更文教関係の予算が圧縮されるような虞れがないとは言えぬのでありまするが、そういう点、国民精神の円満なる満足すべき充足ということが自衞力の重大な点と考えることはできないかということをお伺いしたいのであります。
  113. 大橋武夫

    国務大臣大橋武夫君) 国の自衞という面から申しますると、單に外部の侵害に対しましてこれを実力で守るという面だけでは不十分でございまして、そのためには飽くまでも国を守るための精神的な背景と申しますか、精神的な要素を重視しなければならんということはもとより同感に存ずる次第でございまして、政府といたしましても今後行政協定その他によりまして、国の自衞ということのために必要な措置を構じて行かなくてはならないとは存じますけれども、併しこれがために精神的な面を犠牲にするというような考えは毛頭持つておらないわけでございます。
  114. 高橋道男

    高橋道男君 幸いにして総理も速急に軍備をするというふうの約束はしておられないようでございますし、又アメリカが当分の間日本を守つてやろうということについて十分信頼ができるということも言われますので、私は独立国家としてほかの国の軍隊に国を守られる点につきまして決して潔しとするものではありませんが、当分その力を借らざるを得ぬと思うのでございますが、それに甘えて当分の間軍備を急がないで、それよりも先に文備を拡充するということについて、実は文部関係の対策は、或いは予算は、長年に亘つて下積みのようら恰好になつて、なかなか拡充が期待されないのであります。我が国の予算編成の実情を見ますると、翌年度の予算を編成するのには今年度の予算が飽くまで土台になるというようなことが続けられる限りにおきまして、この文教政策は十分なることを得ませんし、從つて精神的の背景を十分にかまえて自衞の底力を養うわけには行かぬと思うのでございますが、こういうことを拔本塞源的に改善して頂けるのは、私は吉田総理以外にないと思うのでございますが、それに対して確信ある態度を以て文教政策を樹立されることが、この平和條約発効の機会における、又いろいろな意味において世界からも、国内においても軍備ということについて疑惑を抱いていることを一掃する一つ理由になると思いますが、この点についての総理の御所信を拜聽いたしたいと思います。
  115. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 御意見は伺つておきます。
  116. 一松政二

    理事(一松政二君) では次に片柳眞吉君。   —————————————
  117. 片柳眞吉

    ○片柳眞吉君 私も時間がありませんから極めて簡單に質問いたします。先ず私は日本の水産漁業の観点から質問をいたしたいと思うのでありますが、今回の平和條約で大多数の国とは平和関係回復するわけでありまして、これは日本の漁業の見地からも誠に喜ばしいのでありまするが、ただ問題は、中国とソヴイエトとの関係が依然として平和関係回復をしないのでありまして、ところが御承知のように我が日本とソヴイエトなり或いは中国との間に介在しまする海域が非常に優秀な漁場でありますることは申すまでもないのであります。    〔理事一松政二君退席、委員長着席〕 そこで太平洋方面は非常にはつきりするわけでありまするけれども、依然として北洋から日本海或いは黄海、或いは東支那海方面には從來のようなトラブルが起るということが想像されるのであります。そこで、この平和條約が発効しますれば、從來のマツカーサー・ラインはこれは当然消滅すると思うのでありますが、これに代りましてソヴイエトなり或いは中国がこれに代るべきラインを設定すると、まあこういう心配がないかどうか。これを先ず第一にお聞きをいたしたいのであります。  それから、その次に、ラインが設定されましようが、或いはされませんでも、從來のあの方面の実際の事例から見て参りまするというと、我が日本の漁船が一方的に拿捕されると、こういうケースがやはり依然として続くと思うのでありますが、この間、本会議の総理の御答弁でも、從來は司令部を通じましてこれが返還方等につきましては交渉をされておつたわけでありまするが、條約が発効しますれば司令部もなくなるわけでありまして、そうしますると、そういうトラブルが起きた場合におきまして、どういうルートでこの返還等の交渉をされまするかどうか。これは非常に具体的な問題といたしまして、関係方面で非常に心配をしておる点でございまして、その具体的なチヤンネル等につきましてもお聞かせを願いたいと思うのであります。  併しいずれにいたしましても、この方面の漁業の操業が依然として不明朗である、或いは不安であるということでありまするが、そうなつて参りますると、先ほど西村局長から、平和が回復しますれば、いずれにしても独立国家として外交権も回復をするわけでありますので、そうなつた場合においてはソヴイエトなり或いは中国とは、第三国を介するなり、或いは実質上は直接交渉もできるのではないだろうかと、こういう非常に喜ばしい実は答弁があつたわけでございますが、そうなつて参りますると、依然としてこの方面の漁業関係が不安であるということは非常に困るわけでありまするが、何かこの方面の合理的なラインを設定するなり或いは漁船の拿捕等の問題が起きました場合に、これを円満に解決しまするような具体的に交渉されまする御意思がありまするか。或いは御用意がありまするか。以上の三点につきまして御答弁を頂きたいと思うのであります。
  118. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 政府委員からお答えいたしたいと思います。
  119. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御質問の第一点は、平和條約が発効いたしますれば、現在あるマツカーサー・ラインは当然解消する、この点は大変結構であります。併しながら、平和條約に参加いたしませんソ連なり中共といたしましては、こういう立場を認めるとは限りますまいし、先方のほうでマツカーサー・ラインみたいな線を引いて來る可能性はないだろうかという点でございました。これは全く相手方の出方次第でございますので、相手方に代つてその考えを御答弁をいたすわけには参りません。全くわからないことでございます。  それから第二点は、それはともかくといたしまして、現在日本水産業が非常に困つておるように、北方、西方の海面において一方的な漁船の拿捕が今後もありはしないか、その場合に、現在はスキヤツプを通じて交渉しておるが、平和條約発効後は如何であろうかという点でございました。この点は、先刻御答弁申上げましたように、平和條約が発効いたしますればスキヤツプは消滅いたしますし、日本としては完全なる自主独立国としての外交を行うことができることになります。戰争をしておる場合でも、交渉国の間におきましてすらもが第三国を通じ、又或る場合には直接の交渉をすることはあり得るのでございます。日本国平和條約発効後外交権を行使し得るようになりますれば、第三国を通じて話をすることもできましようし、又場合によりましては直接相手方と折衝することも必ずしも不可能ではないと考えます。現在より解決の途が広く開けると、かように考えておる次第でございます。
  120. 片柳眞吉

    ○片柳眞吉君 その次に、時間がありませんから簡單に御質問いたしますが、安全保障條約で行政協定は勿論おのずからきまつて行くわけでございますが、いずれにいたしましても相当箇所に基地ができますることは、これは当然なことだと思います。そこで基地ができました場合に、その附近の住民の感情というものが、これが私は相当複雑なものがありはせんだろうかということを実は思うのであります。これは私は單なる推察ではないのでありまして、丁度私の郷里が立川附近であるわけでありまするが、まあどうきまるかわかりませんけれども、例えば立川附近には有力な飛行場もございまするし、又一部の新聞に、立川に司令部ができるのだという実は報道がされておりまして、あの附近の住民はまあ喜びやら或いは心配やらというような実は複雑な感情があると思うのでありまして、そこで日本全体を守る意味安全保障はこれはよろしいと思うのでありまするけれども、その基地附近の実際の感情がこれはやはり相当複雑、デリケートなものがあると思うのでありまして、そこで今後基地が具体的にきまりました場合におきまして、この附近の住民には、私は政府の筋からさような不安をなくすなり、或いは特別の指導、保護というような具体的な手を打つて参りませんと、非常にその附近の人心が安定をしないということを、実は実例を以て私たちは心配しておるのであります。そこでそういうような基地ができました場合に、その附近の住民に対しまして政府は特別の保護乃至は指導の手を打たれる御方針があるかどうかを御質問いたしまして、私の質問は終ります。
  121. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) どこに基地を置くかということにつきましては、まだ何らの話合いに到達いたしておりません。從つて例えば立川方面には基地を置くとか置かないというようなことは今において言うことはできませんが、併しいよいよどの辺に、基地でありませんが、駐留軍ですかの舎営地ができるかどうかというような場合には、御指摘のように人心に不安を感じないような措置は必ず講じたいと思います。   —————————————
  122. 石川榮一

    ○石川榮一君 総理は三時にお出掛けになるそうですから、簡單に御質問申上げたいと思います。連日同僚議員が憂国の至情に迸る質疑を行われまして、そのしんがりを石川は承わつたのであります。  そこで一応私どもこの論議を通しまして得ました感想と、平素考えておりますることにつきまして、総理にお伺いしたいと思うのであります。日本民族興亡の運命は、この両條約の締結によりまして決定したのであります。独立と自由とが同復されまして、暫定的の安全が確保され得ることに相成りましたことは、誠に国民としてひとしく感激に堪えないところであります。そういたしまして独立後の日本の進路には又容易ならん難局と障害があると私ども考えておるのであります。この日本の得ました独立維持し、この安全を確保する方策についての根本的な国是を決定することが、現下国政の喫緊の要務であると信じておる次第であります。この両條約は、いわゆる友愛と信頼に満ちておる史上稀に見る公正寛大のものであるということを言われておりますが、私どももそれを率直に認める一人であります。併しながらこの條約は戰勝国から與えられましたところのいわゆる戰争の清算書であるのでありますので、必ずしも満足すべきものであり得ないことは当然覚悟しなければならんと思うのであります。條約の基本的な点はどこにあるかと考えますれば、先ず領土の割讓、賠償の承認、この二つが基本であろうと思うのでありまして、我が国はこの條約によりまして、領土はその四五%を失い、狹小な四つの島に八千四百万の人口と、年々百五十万人に及びまする不可避の増加人口が生存せねばならないというところに立ち至つておるのであります。国富は戰争のために八〇%も失い、又国土山河も廃れ、荒れ果てておるのであります。数十の主要な都市は全部殆んど焼けただれておる現実であります。この悲惨な現状におきまして、たとえ賠償が役務であるとは申しましても、その額は相当大きなものであろうことを想察するにかたくないのであります。その被害を及ぼしました東洋の諸国家の悲惨なる戰禍を聞きましたとき、これに対する賠償の要求に対しましては、物心共に誠意を披瀝して盡さねばならんことも覚悟しなくてはならないのであります。即ち我が国の経済自立というものは、真に容易ならん事態に直面しておると言つても私は過言でないと考えておるのでありまして、更に国際の情勢は緊迫の度を加えつつあります。殊に朝鮮戰乱を契機といたしまして、共産主義陣営侵略的の意図は我が国の周辺に積極化を感ぜしむるような状況に相成つておるのであります。又共産主義陣営の平和攻勢は、日本を仮想敵国として中ソ友好同盟条約の成立が見られ、サンフランシスコの平和会議におけるソ連全権の言動と、條約の修正意見並びにこれに続いて発表せられました中共の周恩來外相の條約に対する反撃の声明、これら戰後一貫せる対日攻勢はますます激化の度を加えておりまして、この事実は私は真劍に認識しなければならないところであると考えておるのであります。かくのごとくして内外危急の情勢下に立ち至り、高い理想を掲げた我々の新らしき憲法の下に、戰争を放棄し、武力非行使の鉄則を堅持しようとしつつある我々であります。いわゆる身に寸鉄を帶びることのない全裸、真空の姿をあえてしておるような状況であることを思いますときに、我々独立を得ました国家の存立の前途は、非常な苦難が多かろうと確信するのであります。私はこういう見地から、この二つの條約は不可分であることを確認せざるを得ない。そういたしまして、條約の持つ根本的な精神をはつきりと握りしめまして、独立維持と安全の確保とを図らねばならん次第であると覚悟する次第であります。  この安全保障條約の前文に、米国は、日本が、「直接及び間接侵略に対する自国の防衞のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」と述べられており、又この米国期待は、その意義が頗る重大であると考えるものであります。若し我々日本がこの自衞権の漸増に冷淡であつて米国期待を無視するようなことがあり、或いは長く自国の防衞の責任を回避いたしまして、或いは一方的に国連にのみ日本の防衞を任せんとするような安易な敗戰的平和主義に陷つたならば、いわゆる我々国民は、独立は得ましたが、独立自肋の精神を遺忘し去る状況になるのでありまして、この安全保障條約は、米国によつて恐らく廃棄せられるでありましよう。かくのごとくすれば、国連の加入も、又集団安全保障條約の取極の資格も喪失し去ることがあるのではないかと心配するものであります。国民独立自主性はここに痲痺いたしまして、亡国の一途を迫るような状況になると心配しておる次第でありまして、我々国民はこの両條約の締結を基盤といたしまして、更始一新したいわゆる挙国一致の体制を整えまして、独立自肋の精神の作興に努め、速かに自衞力の強化に全力を傾倒すべきであると信ずる次第であります。この見地から真の独立と自主を得んがために、自衞体制に関する国の政治の諸般の大改革が必要であろうと考える次第でありまして、首相独立回復後におきまして思い切つた日本の諸政の大革新、大刷新を断行する意思と御構想がありますかどうか、若しありましたらばお聞かせを賜わりたいと念願するものであります。あとは逐條審議の際に讓ります。
  123. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お説は御尤もであります。又国力を養成してそして自衞力を増し、又トルーマン大統領期待に反しないように努めたいと思います。そのためにあなたのお説の通り国内の大改革と言いますか、大革新を考えなければならんことも御同感であります。然らばそれをどうするかということになりますというと、事は非常に多岐になりまするが、我々は相当の腹案を持つておるつもりであり、又この腹案を実施するためには自然国会の協賛を経ることになりますが、併しながらこれは政府ひとりの考えばかりでなくて、国会においても、国民においてもあらゆる手段へあらゆる角度からして、日本の進むべき道、或いは又日本がとるべき方策等については、各位におかれても御協力を願いたいと思います。以上お答え申上げます。   —————————————
  124. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 栗栖委員に申上げます。  通産大臣が出席されておりますから御質疑がございましたら御発言願います。安本長官と大蔵大臣は間もなく來られます。
  125. 栗栖赳夫

    ○栗栖赳夫君 大蔵大臣と御三人揃つたほうがいいと思います。
  126. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) では楠見委員如何でございますか。   —————————————
  127. 楠見義男

    ○楠見義男君 通産大臣に私は一点だけお伺いいたしたいと思います。それは中共及びソ連、特に中共、中国との今後の貿易関係がどのようになるか。こういうことが経済関係の人々は勿論、一般国民としても極めて深い関心を持つておることは御承知の通りであります。総理は現在までも余り大した貿易も行われずにやつて來られたのであるから、今後もさほど重きを置かなくとも余り心配がないというような趣旨のことをサンフランシスコ会議においてもお述べになつたように思うのでありますが、これは占領治下の特殊事情や、或いは援助資金等に頼つておつた時代はともかくといたしまして、今後はさほど楽観的には参らんと思うのであります。現に原材料関係から見ましても製品のコスト高を招來しておるとか、いろいろの不利不便を喞つておることは周知の通りであります。又過去の貿易事情から見ましても、或いは又今後の貿易上の希望からいたしましても、是非一日も早くソ連及び中国、特に中共でありますが、中共地区との貿易の復活を一日も早く希望せられるわけでありまして、通産大臣も昨日でありましたか、この経済関係回復については是非望ましい、こういうような御意見のあつたほどであります。そこで講和條約発効後、それでは具体的にこの貿易関係をどういうふうにして推進して行かれようとしておるのか、この点をお伺いしたいのであります。と申しますことは、現在は御承知のように占領治下でありますから、中共或いはソ連との貿易関係はGHQを通じてやつておるんでありますが、併し講和條約が発効いたしますると、この場合にもはやGHQはないわけでありますから、何らかの方法、例えば貿易協定を結んでやつて行くとか、或いは又貿易協定が結ばれないという場合には直接取引で以てやつて行くこういうような方法が考えられるわけであります。併し若し直接取引をするようなことになりますれば、例えば中共地区のことを例にとりましても、或いはホンコンあたりの外国商人、イギリス商人を介して貿易をするというようなことになるといたしますれば、これは結局日本の貿易が外国商人の牛耳るところになり、又言葉は適当でありませんが、その面で搾取をされる。こういうような懸念もなきにしもあらずと思うのであります。そこで具体的にこういうような地区に対してGHQのなきあとにどういうふうにして貿易を推進し、又打開をして行くのか。この点についてお伺いしたい。
  128. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 中共との貿易が平常化すると言いますか、以前のように回復するということは私は経済人として非常に望ましいことであります。それが日本の経済に相当貢献することがあると信じておるものであります。ところで現在それが非常に困難な状態にあることは昨日も述べましたから繰返しません。ちよつと現在の事情から見るというと、急速に非常に好転すると思えない。中共側のほうの要求が、とかくこちらから出しにくいものであるから、一番障害になつておりますのは、中共側から言つて輸入先行方式を要求しておる。それから私は中共のようなああいう大きな消費地と、日本という大きな生産地が隣り同士であるのですからして、経済的に考えてこの両国間の貿易が盛んになるということはこれはもう当然なことで、現在では政治的にそれが抑えられておる。それが何年続くか知らんけれども、それは正常ではないですから、いつか打開されるということは私は確信しております。それがいつ來るかということは私にはどうも見通しがありません。ところで平和條約がいよいよ批准されて後にどうなるかということですが、これは私はあなたの御満足になるようなお答えができんと思いますが、どういう形式になつて行くものか、むしろこれは外務当局のほうから御答弁することかとも思うのですか、今一番障害になつておるのは、両国の商人が直接に交渉できずに、あなたのお言葉にありますように、第三国人を、或いはホンコンを通してめくら貿易をしておる。その間には相当中間搾取というものはあるだろうと私も思います。中共との平和條約がなくても、私は将來日本からも中国に商人が店を持つとか、事務所を持つか、それと又反対のこともできるようになるのではないか。それでなくて現在のようなホンコンを通して、及びマカオを通して両国間の貿易をやるというのでは、私非常に悲観せざるを得ないのです。あなたのお言葉のような日が一日も早く來ることを私は希望しております。
  129. 楠見義男

    ○楠見義男君 それではこれは外務当局にお伺いしたほうが或いはいいかと思いますから伺いますが、私は先ほども総理に質問いたしましたように、安保條約を契機として、実は中共政府との関係は非常に政治的にも困難な事態が來はせぬかということを懸念する一人であります。国際的な観点から或いは又外交関係の経験のおありになるかたがたの意見を徴しましても、私の懸念を裏付けるような言葉が聞かれるのであります。そこで今お聞き及びのように、中共との貿易について将來どういうふうになつて行くかということについて実は心配をしておるのであります。そこで、通産大臣から只今答弁があつたのでありますが、外務当局として、外務当局には通商局といいますか、経済局もおありになり、又貿易協定等は外務当局が中心となつておやりになることと思うのでありますが、どういうふうにして、例えば貿易協定のようなものを結ぶという方向でもつて今後両国間の貿易の打開にお努めになろうという御趣旨であるか、或いはそのほかのいいお智惠があるのか、この点をお伺いしたいと思います。
  130. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 中共との貿易関係の殊に形式的な方法という問題でございますが、実際的には、昨日又今日も総理から特に申上げましたように、望むことは只今通産大臣のお話通りであります。ただ将來どういう形式で行くかということは、これは大へんいろいろ困難な問題だと存じます。或いは中国に、在外事務所を向うから希望されて置くというような形も、或いは一例として考えられるかということを総理からも申上げましたが、これとてもなかなか簡單には参らない形式ではないかと思います。從いまして、今後の問題で十分この点は研究して参らねばならないと思つております。   —————————————
  131. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 先ほど私の時間が非常に短かかつたので、当時の補欠の委員長の自由党の一松君から三回ばかり妨害を受けたのでありますが、遠慮して私は問題に聞きたいことも聞かずに終つたのであります。総理大臣のここにおいでになる時間が三時までということで、ほかに指名者があつたようでありますから、非常に私は遠慮いたしておつたのでありますが、併し聞くことだけは十分に聞かしてもらわなければならんので、先ほど來の政府当局の御答弁が甚だ腑に落ちないので、改めてもう一度お伺いいたしたいのでありますが、第一私が外務当局にお尋ねいたしましたことは、あのサンフランシスコ会議において、私の質問の要点は、日本の全権があの会議の主役である立場であつたにもかかわらず、日本語の通訳がわからなかつたために、藁人形の役割を勤めたに過ぎなかつた、これは手落ではないか、イヤホーンの設備をどこまですることに努力したかということが私の質問したことの要点であつたのでありまするが、首相はお答えにならないで、西村條局長から、おいでになつたところの全権その他のかたは会議の内容を理解するためには非常に御努力をせられた。あの宿舎のマーク・ホプキンス・ホテルに帰つて、今日はどんなことを全権が話をしたのだろうというようなことで、西村條局長、嶌内通訳あたりから聞いて頭に入れられたと思うのでありますが、それくらいなことをするのは当り前でありますが、私はそんな間接的にあとから要領を聞くというようなことでなくして、主役であるところの会議の当事者である日本設備をする要求を強硬にするならば、これは当然できると思うのであります。吉田さんの日本語の演説も許されておるのでありますから。それだけのことをなぜしなかつたか。どこまでその努力をしたのであるか。皆が居眠つたり、席を外したり、国民にその実相を明らかにするならば、私はそれらの人たちは国民に対して済まんだろうと思うのであります。そんなことをしなければならなかつたのは、それは日本語の通訳が付いていなかつたからなんです。その設備は、国際会議の公用語は、英、仏、スペイン語及びロシア語に限られておつても、あの会議の実情からしてイヤホーンにはまだ二カ国語が入るのでありますから、私はすることが十分できたと思うのでありますが、その努力をどこまでしたかということを聞いておるのでありますから、改めて西村條局長に、西村條局長では私は少し不満なんですけれども、さつき答えられたのですから、もう一遍それを中心にして答えて頂きたい。
  132. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) サンフランシスコ対日平和條約調印会議は、合衆国政府によつて招請された会議であります。合衆国政府会議目的を達するために万端の苦心を払われたことをよく知つております。日本は参加を招請されてこれに参加した国であります。吉田全権が日本語で演説をするかどうかもわかつていないときに、日本語の飜訳を付けろというような要請をなすべき立場にはございません。
  133. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 アメリカが招請されたということくらいは誰でも知つております。併しながら会議の本質からして、要するに債権者と債務者が集まつている会議において、片一方の金貨、或いは金を借りたところの当事者であるところの人間が、数十人或いは数百人以上もおられたと思うが、少くとも数十人の人が日本を代表してそこに参列していて、五日の間何をやつているかさつぱりわけがわからない。私は名を指しては言いませんが、明らかに私に対しても、今日は朝から晩まで向うで坐つていたけれども、僕は居眠りばかりしていたよと言つているところの人があるのです。これは実情なんです。又最後の日において吉田さんがあの安保條約に調印せられに行くときに、私たちにもアメリカ政府からオブザーヴアーとして行くようにというような話もありましたが、私は代りに三宅正一君に行つてもらつて、そのときだけは私は欠席いたしましたが、翌日のサンフランシスコ・クロニクルを見ますと、吉田さんは恐らくは日本を代表して行かれた参列者の中で一番英語の上手な人だろうと思う。長くイギリスの大使もしておられたのでありますから。併しながらその吉田さんが、そのときは日本語でやらないで、書いたところの英語を読み上げられたということでありまするが、新聞記事で見ますと、その一番上手な、もう僕らとても及びも付かないくらいの英語に御堪能であると我々が考えられるところのその吉田さんでも、その英語というものは、ヴエリー・スロー・アンド・スタンブリング、非常にゆるやかでときどき間違われて言うていた。それは読んだ英語でもそうなんです。できるからといつて自慢でもできないからといつて恥でもなんでもないのですが、ほかの人は推して知るべしなんです。そういう人がそんなことの会議をやつて來た。招請の当事者がアメリカであることはわかつています。併しながら日本の外務当局としては、この会議日本が主役なのですから、日本から來ておるところの代表者というものが何を会議で話しておるのか、せめてわかるようにだけはしてくれというようなことを懇請したならば、向うが私は当然にその要求に応じられたと思うのであります。わけもわからないうちに吉田さんがサインしで帰るというようなことは、恐らくは招請者であつたところのアメリカの本意ではなかつたろうと思うのであります。それができないということは私はないと思うのであります。ただアメリカが招請されたのであるからといつて、それだけの努力をせられなかつたのかということを私は聞いておるのでありますから、もう一度御答弁願いたい。
  134. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 憚りながら、この條約局長は二十八年日本の外交に携わつて参りました。多数の国際会議にも参列いたしております。国際会議招集の慣例その他については、相当存じておるのでございます。国際礼讓という見地もございますから、そのような申入れをすべき立場会議ではないと私、断言いたして憚りません。
  135. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 そんなことぐらいは誰でも知つております。併しながら從來ヨーロツパに行われるところの、日本の代表者というものが、その席末に列して、その会議におけるところの主役を勤めるような立場に置かれておらぬところの国際会議ならばよろしうございます。これは先ほど申しましたように、ジヤパニーズ・ピース・コンフアレンスにおいては、日本のための会議なのですから、それくらいのことは、これはアメリカのこの会議の招集者というものは認めないはずはなかつたと思うのであります。この要求をするということは、これは当然であつたというところの考えでありますが、あなたはそういう外務省の役人的な、小役人的な考えでそういうこの憤例を盾にとつて答弁せられますが、これ以上私は質問いたしませんけれども、私は日本国民の名において向うに列席したところの全権がちんぷんかんぷんで何もわけもわからずに、藁人形のような、でくの坊的なことをやつていて居睡つていたり、又会議に入らなかつたというところの実情を私はここに申上げて、国民の一員として非常なる憤激を感ずるものであるということを申上げておきます。  その次に、これはあなたに更にこれをお尋ねしたいのでありますが、これ又あなたの先ほどの答弁は甚だ腑に落ちない。即ち当日せられたところの吉田全権の演説というものは、これを英文でアメリカ政府に見せて、アメリカ政府当局が非常に多数の個所に朱の筆を入れてこれを直したということは、私は自主独立日本国民立場からして、非常に感情的にも、又いろいろな点において甚だ腑に落ちないところのものがあるのでありまするが、そうしたのかどうかということを先ほど質問いたしました。それは事実なのです。それは証拠を示せと言えば示しますが、これは事実なんです。日本新聞にも報道せられておるということであります。それで私は先ほどその直さない前のオリジナルな吉田さんの演説草稿はどんなものであつたか、それを出せと言つたのでありますが、あなたはそれは言明の限りではございませんと言われたのでありまするが、あなたの先ほどの答弁によつて、その当時、私が質問いたしましたように、日本新聞も報道しておられまするように、米国政府がこれは朱の筆を入れて直したものであつて日本のこの政府の意思というものをば、そのままの形において率直に代表したものとは違つておるということを肯定せられるのであるかどうかということをもう一度御答弁が願いたい。
  136. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私は日本の国会で只今御発言のような趣旨を拜聽したことを国民の一人として誠に悲しく存じます。(「何が悲しいのだ」と呼ぶ者あり)外交会議におきます代表の演説につきましては、自主独立の国としての立場と同時に国際礼讓の立場もございます。両者を勘案いたしていたすべきものと存じまして、(「アチソン長官は日本の全権に見せておるか」と呼ぶ者あり)私は弁明の限りでないとお答えいたしました。又その答弁を繰返します。
  137. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 アチソンの演説を見て吉田全権は筆を入れて直したか。はつきり言え。
  138. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 私はアチソン長官に代つて答弁する立場にございません。(「詰らん小役人的な答弁をするな」と呼ぶ者あり)
  139. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 私は私が質問いたしました事項を当局が、これは事実なのでありまするから肯定したものと認識いたします。  それから先ほどの義勇兵の問題についてでありますが、日本人が義勇兵になるということは日本の憲法には牴触しないというところの解釈大橋法務総裁はたびたび繰返されたのでありまするが、そのときに私は、かような解釈をするならば、政治的に、外交的な立場から二つのことが考慮されて問題になつて來る。その一つは、即ち義勇兵団という名において北鮮軍に参加しておるところの中共軍の態度というものは、国際公法上これを肯定するのであるかどうかということに対するところの答弁。第二には、それが許されるならば日本人が憲法の規定を改正することが何とかいうように、先般來この会議において問題になつておるところのその問題と離れて、そういうことをする必要なくして、いくらでもこれは朝鮮に対するところの義勇兵、或いはその他台湾政府その他の地方においても、義勇兵という名目において、軍隊の編成をこれは直接的に国家意思によつて行われるものであるかどうかというような形式の如何にかかわらず、実質的にそういうことをいくらでもやつて、何十万というところの義勇兵の軍隊編成をすることができることが許されると思うが、そういうことについての見解如何という二つの問題を質問いたしましたが、十分なる御答弁がなかつたのでありますが、これは吉田外務大臣がおいでになりませんから、その代りの草葉外務次官、甚だ私には不満足でございまするけれども、ほかの人はいないのでありまするから草葉君でも辛抱しますから御答弁が願いたい。
  140. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 不満足でございましようがお答え申上げます。先ほど申上げましたように国際法上と申しますると、現在戰争の段階は二つの段階しかないのであります。いわゆる国際連合においてこれを侵略と認めて安全保障理事会その他の機関において決定してやつた場合、又それまでの間に集団安全保障によつて緊急の措置をする場合、この二つしか戰争の起り得る原因はないのであります。この場合におきまして、その自国の自衞の立場からいたしまするときは、これは国際法上別でございまするが、一般的な国際的な立場におきまして、国際連合立場においてやりまする場合には、国際連合憲章のいずれにも義勇軍というものはないのであります。かような制度はないのであります。從いまして只今御引例になりましたような朝鮮問題において、国際連合軍が日本国民に対して義勇軍という立場をとり得るという制度はないとお答えを申上げます。
  141. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 中共軍が北鮮に加わつておるじやないか。義勇兵という名において。具体的にそれについて答えなさい。
  142. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) これは中共の立場であります。国際的な公法上の解釈とは私は考えておりません。
  143. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 国際公法上の解釈を誰かしなさい、あなたじやできないだろうから。
  144. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それでは……。(「答弁々々」「委員長しつかりしろ」と呼ぶ者あり)
  145. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 中共が義勇軍として北鮮に加わつておるというのは、これは中共がその侵略立場において北鮮軍に加わつておるので、その立場国際法上に認定された立場とではないと考えております。
  146. 吉川末次郎

    吉川末次郎君 君はできないだろうから、ほかの政府委員が答えなさい。
  147. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) ほかの政府委員も同様であります。
  148. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 大蔵大臣、安本長官、通産大臣が出席されましたので、先ほど保留になつております質疑を続けます。   —————————————
  149. 栗栖赳夫

    ○栗栖赳夫君 時間の都合上簡單にお尋ねしたいと思いますが、先ほど総理にお尋ねしましたところによりますと、外債の処理につきましては完全なる責任を果すように遺漏ないことを期する、こういう趣意の御答弁があつたのであります。併しこの講和條約に盛られておる問題は外債だけの問題じやなしに、その他あらゆるこれが実行については経済上及び財政的に非常なむずかしい問題があると思うのであります。元來敗戰によつて非常に荒廃いたしております日本の経済財政を、これを自立の経済、国家財政というものに建て直すには、非常な決心と思い切つた施策が必要であると思うのであります。いわんや今回の講和條約によつて課せられましたところの経済上、財政上の負担というものは、更にこれが倍加するのであります。大蔵大臣は日本の経済の、或いは日本の財政の許す範囲においての、こういうお言葉があつたのでありますが、私も尤もだと思うのであります。併しながら許す範囲においていたしましても、なお非常な苦難が前途に横たわつておると思うのであります。それでこの経済関係の私の長年の友人であり先輩でありますお三方に出て頂きまして、その所信を述べ、思い切つた固い御決心を伺いたいというのも、この苦難をよく乘り越えて日本の経済の自立と日本の経済の復興と、こういうところまで行けるかどうかというところの所信を聞くための目的であるのであります。  先ず安本長官にお尋ねいたしたいのは、やはり今後の日本の経済といたしましては貿易の振興、或いは貿易産業をどんどん発達さして行く、これが大きな問題であると思うのであります。現状を見ますと、日本国内物価というものは国際物価の水準を大体上に一割五分とか二割と、こういうように超えておるのであります。貿易を振興し、延いて貿易産業を増進して、日本がこの縮まつた領土において国民が生活の安定を得ますのには、どうしてもこの点が必要であるのであります。ところで、そういうことをするためには日本の物価を国際水準まで下げなければこれは駄目であります。ところが現在の状況を見ますというと、国内物価は上昇を辿つておるのでありまして、或いは政府関係の料金その他も引上げを見ておるのでありますが、この矛盾を如何に調節されるかということを安本長官にお尋ねいたし、御決心を承わりたいと思うのであります。  それから第二には、これは大体基礎産業といいますか、或いは基礎物資の生産、入手であります。言い換えるならば鉄、石炭のごときものとか或いは電力、こういうようなものが誠に現在は隘路にあるのであります。この隘路を如何に打開されるおつもりであるか。而も日本の経済自立へ向つてひたすらそれを打開して行かれるか。こういう点を通産大臣にお尋ねいたしたいと思うのであります。なお日本の物資は、国土の開発というもので国内における資源を開発して、それを補うこともできましようけれども、併しそれでは到底及ばんのでありまして、海外から原材料を日本に入れなければいかんと思うのであります。この原材料を日本に入れるにつきましては非常な隘路があるのであります。為替の問題或いはその代価が高いというような問題が非常にあると思うのであります。そこをよく克服して、講和條約の実効をバツクするような経済自立というものに如何にして持つて行こうとされるか、この点を通産大臣にお尋ねいたしたいと思うのであります。次には大蔵大臣にお尋ねいたしたいと思うのは、これは現在の金融であります。私はドツジの方式によるこの原則は結構だと思つております。併しながらそれを実際に当てはめて運用するについては、運用の問題についてはなお相当の遺憾の点があると思うのであります。実際貿易産業その他基礎産業等を振興いたしますには、どうしても設備の近代化ということも必要になり、そういうようなもの、或いは設備の機械化、高度の機械化というようなことが必要になつて参ると思うのであります。それに相応する設備資金の供給ということは、甚だ実際におきましては、金融のことは、私三十年近くもやつておりますのでよくわかるのでありますが、決して十分でない。極めて不十分であると思うのであります。開発銀行のこの設立は非常に結構であります。併しながら資金的に運用されるところのものはなお範囲が狹く、金額の上で非常に少いのであります。増資その他が行われましても、これは到底現在の必要を充たすには足らないと思います。市中銀行、或いは特殊銀行で市中銀行になりましたところの銀行の現状を見ますと、なかなか資金の還流がそこに落ちて参らないのであります。その結果こういうものの貸出は極めて不十分です。殊に新たなる設資備金への貸出等は到底むずかしいような事情にあるのであります。併しながら金融の面からこの日本の経済自立へ向う道を期待することも多いのでありますから、この辺を如何にやろうとなされますか。大蔵大臣に承わりたいのであります。今、日本の現在を国際的に何によつて示すかということは、いろいろなバロメーターもありましようが、為替などの点もその一つだと思うのであります。一ドルが三百六十円でありますけれども、或いは市中為替相場といいますか、或いは言葉は適当でありませんが、闇相場というようなものは五百円、五百二十円、一ドルがそういうようになつておるのであります。これは日本の現在の経済力をよく示すものだと思うのであります。大蔵大臣が外貨が六億幾千万ドルだけの蓄積がある、こうおつしやいまして、これは非常に結構でありますが、それがあつても、なお、この一ドルが五百二十円というような闇相場があるということは、日本の現在の経済が非常に十分でない、又これがこういう状態におきましては、この講和條約が発効いたしまして種々のものを実行する上において極めて不安定である。こう思うのでありますが、その点についての大蔵大臣のお考えを承わりたいと思うのであります。  細かい点は我が党の同僚がいろいろ御質問申上げると思いますから、私は大所を申上げます。要するに今述べました諸点について、打つて一丸として十分苦難を乘り越える。こういう御決心がないというと、日本のこの講和條約が折角発効いたしましても十分なる実行ができず、又この経済自立へという道は誠に遠くて、国民は苦難の道を長く歩まなければならんというような結果になると思うのであります。この点を三大臣にお尋ねしたい。
  150. 周東英雄

    国務大臣(周東英雄君) お答えをいたします。  講和後の日本経済、殊に賠償その他新らしい負担となるべき事柄を考えつつ日本の経済を復興し、自立へ持つて行くということについて、一番大きな問題は貿易の伸張にあるという御議論に対しては全く同感であります。而して御質問の点は、それを実行する上において一番の問題が、国際価格を上廻つておる日本の物価の問題をどうするかという御質問のようであります。この点は全く私どもも同じ憂えを持つておるのでありまして、何といたしましても日本の生産物を輸出し、輸出規模を増大して外貨を獲得するという点、この点が問題であります。御承知のように今日までのところかなり日本の生産立地の條件が惡くて、原材料の獲得等そのものについても、又日本の企業そのものの内包する非能率な設備等のよつてもたらすコスト高ということを根本に解決することが先ず第一と考えております。いろいろな事情で近い所からの原材料の獲得が遠くアメリカに置き換えられた分もありますので、今後の施策といたしましては、何といたしましても、原材料の獲得については近い所からこれを受け入れられるように能う限り転換することが一つの道であります。その意味においては東南アジア地区における開発を通じて、その地区における開発を、地元の国家、国民の繁栄というものを目途としつつ開発し、それを日本の未稼動工場或いは余剩労力に結び付けてこれを生産して、又これを返すということの方向にまで持つて行くことが一つの狙いであり、かくすることによつて鉄鉱石或いは粘結炭等の基礎産業の原材料についての問題が一部解決されるのじやないか、かように考えております。これは一例であります。同時に、かなり問題なのは産業内部にある非能率な点であります。この点については一例を鉄鉱石等に挙げましても、運賃等が遠い所から持つて來ますために非常にコスト高になつておる一つの要因ではございますが、これが全部ではないのでありまして、むしろ製鉄工業の中に含まれる非能率な点を徹底的にこれを合理化するということが必要でありましよう。同時に他の産業ついても同様なことが言えます。こういう点については、このたび出しまする企業合理化法というものができますが、こういうような点につきましては、できるだけ内部資本の蓄積という方向へものを向けて設備の転換に充てさせるために、政府からの援助だけでなくて、自己の資金の蓄積を持つて行くためにも、内容としては償却年を短かくし、更にそれに対して減税の方向をとるというような形を含んだ合理化の法律を出すつもりであります。いずれにいたしましても、戰争中及び終戰後一つも置き換えられていないこれらの非能率な機械を置き換えて合理化することが、根本においてはコストの引下げになるということで、これを強力に推進して行きたいと思つております。  もう一点、かくいたしましても、根本は産業の一番大事な点の電力或いは鋼鉄、石炭というようなものについての弱々しい日本の現状をどうするかということであります。これは御尤もです。ちよつと異常渇水になれば今年のような状况で、非常に困つたものでありますが、将來日本が伸びて行く、産業もこれは今の日本の状況から言つてかなり伸び得ると思いますが、これについて一番問題は、あなたの御指摘通り電力であります。それにつきましては、政府といたしまして、各関係省連絡の上、最近大体の案をまとめ上げておりますが、水力発電の電源開発の地区で、今まで継続した地区は勿論できる限りこれを早く完成に導くことは勿論でありますが、未開発の個所三十八個所、更にその他の大きな地区、いろいろ世土に伝えられております大きな地区について、これらも併せて計画に入れて、大体七カ年くらいの計画の下にこれを完成さして行きたい。これに必要なる主要な資金計画といたしましては、大体六千億程度で、徹底的に、細かいことは変ると思いますが、そういう程度のものを一期、二期の計画に分けつつ一年千億円程度のものを使つて、早急に電源の開発に向つて進む。これがために一時的に他の産業よりも電力へ集中して考えを持つてつて電力の開発を進める。同時に水力電気を如何に開発いたしましても、今年のような異常渇水の場合に処する火力発電の設備も、勿論それに相応して考えて行くというような考え方で漸次今日進めておりますから、御安心を願いたいと思います。
  151. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  152. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 速記を始めて下さい。
  153. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 電力開発の問題は、いま安本長官からお答えいたしました通りであります。  それから石炭については昨年が四千万トン、本年は四千五百二、三十万トンぐらいになるかと思います。で、石炭は日本の生産を一層進めて行くのに非常に重要なファクターであるのでありますが、私の考えでは石炭は明年度は少くとも四千八百万トンは生産ができると思います。うまく行きますれば九百万トン。二十八年度に先ず五千三百万トンぐらいの生産になると思いますが、日本の石炭の資源から言いまして五千三百万トン以上は無理だと考えております。それ以上強いてやりますれば、いわゆる濫掘になりまするし、これはどうしても電力を開発して、電力で石炭をカバーして行くという方向に進むほかないと私は考えております。  それから鉄のほうは、幸いに本年度も予定通りに行つております。本年の計画は上半期で銑鉄が百四十七万トン、鋼材が二百三十六万トン、これは目標を達しております。本年度下半期、上半期を合算いたしまして、銑鉄で三百二十万、鋼材で四百五十万トンの予定になつておりますが、これもほぼできると思います。この電力危機が多少影響しておりますが、この数字は大体できるかと思います。一方、需要のほうは一時不振でありましたが、鋼材の輸出も最近にはだんだん引合がありまして、予定通りつております。ところで第二の輸入の問題でありますが、輸入の問題については今あなたの御質問なつたような点が、心配が非常にあります、日本の国情としましては。併し現在では大体予定の通りの輸入はできております。稀少物資は国際割当で必要な数量は参つております。ただ何と申しますか、高いものをつかんでおるんですね、日本が。現に本年の春などあつたのですが、高いものを輸入して、それが非常に惡い影響を來たしはしないか。それは私も非常に心配があると思います。無論。外人の間でもジヤパニーズ・バイニング、日本人が買い出したというと、これから物が下るんだ、インド人が買い出したというと、附いて行つてつても儲かるんだというような、商売人の間に諺があるぐらいですから、その日本人は如何にも貿易の商売が下手なんだ。殊に戰後いろいろな機関がまだ揃つておりませんので、その点は非常に心配なのでありますが、そういう点は我々も努力をして善処して行かなくてはいかんと思います。いずれにしても、仮に輸出貿易を増進する、これは日本として是非やらなくてはいけないのですが、その問題だけを考えてみましてもですね、仮に今のあなたの御指摘なつたような、日本の物価が国際水準を上廻つておる現在、そういうような非常な弱点を忘れて考えましても、これ以上輸出を殖やして行く、世界の各国が、生産国は皆それを希望しておるのですからして、日本の輸出貿易が殖えれば殖えるほどいろいろな困難な問題が起つて來ることは覚悟しなくてはいかんと思います。併し、そういう困難なトラブルが起つて來るということは私は避けてはいけない。避けてはいけない。あなたも御承知のように、大正の初め、或いは大正の何年頃でしたか、中間、或いは昭和の初め頃に、日本の輸出貿劫というものがやはり物価高の影響を受けて非常に困難な時代がありましたけれども考えようによるというと、あの困難はプラスしておるのですね。日本の生産に相当改善を來たしたのでありますから、いろいろな困難があるとは覚悟しておりますが、その困難を逃げてはいけないので、やはりそういう困難を一つ一つ打開して行くほかないと私は考えておるのであります。
  154. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) お答え申上げます。平和成立後、日本の自立経済を立てて行く、そのためには輸出の振興が第一である、輸出の振興には産業の合理化、これに生産の増強に基きまする国際価格へのさや寄せということが根本の原則であるのであります。これには何びとも異存がないと存じます。而うしてこういうことを果すために産業の合理化その他につきましては、所管の大臣が申されたのでありますが、これを助けて行く金融機関のあり方、金融のあり方が問題であると思うのであります。御承知の通り長い間、日本には特殊銀行、市中銀行の区別があつたのでありまするが、終戰後これがなくなりまして、金融制度というものはかなり乱れております。制度が乱れておるのみならず金融のあり方も私は必ずしもよく行つていないと考えております。で、日本の自立経済を立てるために、先ほど來御答弁のありましたような方向に向つて金融のあり方を変えて行かなければならんと思います。勿論、設備の改善増強も必要でありまするが、生産を急ぐの余りに資金が固定化してもいかないのであります。で、私は今の状況を見まして、余りに資金が少い、資金が固定化すのではないか、固定化しつつあるということを看取いたしまして、先般來、金融は、殊に設備資金は極く重点産業のものに限りたい、こういう気持で指導いたしております。機構のほうにいたしましても、特殊金融機関がなくなりました関係上、それの補いとして輸出銀行、或いは日本開発銀行、或いは又農林漁業の面への特殊金融機関がないので、農林漁業資金特別会計等、おおむねそういう特殊の金融は財政資金でやつておつたのであります。併しその財政資金も将來ずつと続けて行くことはなかなか困難の点もあります。それは国の歳出が相当重なつて來るし、そうして国民の税負担のことも考えなければなりませんので、今後は財政資金ということも、これはやめるわけには行きませんが、主として国民の貯蓄によりまする民間資金の合理的配分を考えなければならんと思つておるのであります。そういう点で只今檢討を加えております。幸いに最近の資金の蓄積状況もよろしうございますし、又証券界のほうも相当の活気を呈して來ております。こういうことを着実にやつて行くならば、資金面による困難さは克服し得るものと考えておるのであります。  第二の御質問の為替相場の問題でございまするが、私は今お話のように、一ドル五百円とか、五百五十円の何と申しますか、闇値があるということは聞いておりません。これは一、二カ月前に説をなして、購買力平価説の関係で行つたならば、特殊のものについては或いは相当日本のものは、購買力平価説から行けば高くなつているという説をなす者がありますが、私は全般的に言つて日本の円が非常に高過ぎるからということを聞くのは、世界的には聞いておりません。フランが、一ドル三百五十フランが四百四十フランとか、或いはポンドの引下げというふうなことは聞きますが、日本が円を引下げなければならないということは寡聞にして聞いておりません。勿論、日本の物価の或るものにつきましては、国際価格より高い、而も輸出は相当出て行つている。物価が比較的高いのになぜ出て行つているかと申しますると、輸出が相当伸びているかと申しますと、これは日本の地理的関係でございまして、いわゆる特需関係、或いは占領治下の問題でドルがございます。もう一つは、日本の輸出は、向うの、外国のグレー・マーケツトを狙つていることも否定できません。そこで我々は今の朝鮮事変によりまする特需、或いは進駐軍関係者の使用いたしまするドル、或いはグレー・マーケツトを或る程度目当てにしている貿易では、これは安心はできませんので、先ほど來財政演説で申上げましたような設備の拡張はいたしますものの、できるだけインフレーシヨンを起さない、そうして設備その他、国全体として能率化し、そうして生産を伸ばして行くならば、私は平和成立後におきましても自立経済は達し得るという確信を持つておるのであります。こう申しますと、楽観だというかたがあるかもわからんが、これは楽観ではありません。我々はそれを努力してかち得る、又かち得なければならん、こういう方向で諸施策を行なつておるのであります。
  155. 栗栖赳夫

    ○栗栖赳夫君 時間がありませんから、簡單にちよつと……今大蔵大臣の御答弁でございますが、その今財政資金を以て、いわば変態的な、いろいろ金融資金を賄うような形になつたというけれども、これはだんだん是正して行くというような方面にお話があつたと思うのであります。金融機関が、或いは市場に放出された資金が、正常なるルートで普通のルートで金融機関に還るようにするという御意味だろうと思いますが、これは私は非常に賛成であります。それがためにはあらゆる方法をとつて頂きたいと思うのであります。それからいま一つは、円価の維持を非常に努力するという御意味に結局はとれると思うのです。これも賛成であります。それで、そういうことをなかなか私は楽観的、悲観的というようなことは決して言葉は強めませんけれども、この経済自立、経済復興ということは言うは易く行うは難いのでありまして、どうか政府におかせられては十分なる施策と思い切つた方法を以てこの困難を切り拔けられるように一つ望んでやまない次第であります。  これで御三人の大臣に対する質問をやめます。  ちよつと、なお、條約局長に極く簡單な点を三点だけお伺いしたいと思うのであります。これは戰争前に、日本の領地でありましたとか、或いはいわゆる海外関係地域においてその当時の日本人が財産を相当持つておつたのであります。この財産がどうなるかというような問題は、私ここで問題にするわけじやありませんけれども、これについて十分なるお取調べができておるかどうか。若しできなかつた場合に実際にお取調べになるおつもりがあるかどうか。これを一つお尋ねしたいと思います。  それから條約十九條にも関係すると思うのでありますが、こういうような事実があるかどうかということ、それは朝鮮に終戰の日までに船籍を持つておつた船が日本に大分返つておる、日本の会社の籍に返つておると思うのであります。これを朝鮮に返さなければならんというような事実があるか。或いはそういう虞れがあるかどうか。あつた場合にはこれに対して如何なる方法をおとりになるかという点が第二の点であります。  それから日本人の財産でありましたが、そのうちで船舶が相当接收されておるのでありますが、この船舶は返されるものであるかどうか。講和條約の発効と同時に返還されるかどうか。返還されないならば、どういうような方法をとつてこの日本の海運の上に好結果をもたらすようにして頂けるか。この三点を簡單にお尋ねいたします。
  156. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 御質問の第一点の在外邦人資産の調査をしたかどうかという問題でございます。この点は終戰後日本政府とスキヤツプと合同して調査いたしたものがございます。併しながら国有財産と会社財産につきましては或る程度の推測は可能でございますが、最も一般人の関心の的となつております個人財産については、殆んど確かめる手段がないのでございますので、その調査の結果について自信を持てない性質のものでございます。  第二点の、戰前に朝鮮に船籍のあつた船舶で今日日本に返つておるものの運命の問題でございます。この問題につきましては、從來大韓民国政府の要請に基くものと推察いたしますが、スキヤツプから日本政府に対しまして、かような船舶を引渡すようにという指令を受けたことがありますが、その都度、日本政府といたしましては、そうならないように全力を盡して今日に至つております。この問題はまだ未解決でございますが、いずれはスキヤツプ、又朝鮮当局との話合いで解決すべきものであろうかと考えております。  第三の日本船舶で、今日接收されておるものが返還される見込かあるかどうかという点でございます。この点は恐らくは終戰当時海外の水域にあつた船舶であつて、終戰後日本側で運営を許され、最近まで日本の海域で日本人によつて運営されていたものが、スキヤツプの指令によりまして、もと存在しておりました海域の政府へ引渡されている船舶のことだと存じます。この問題につきましても、從來政府は非常に関心を払いまして、何とかして、在外資産として処分の対象になりませんように努力して参つた次第でございます。いきさつを申上げれば、終戰後スキヤツプから発出せられた指令によつて、これらの船舶はその海域にとどまつておつたわけであります。その後、在留邦人及び軍隊の本国帰還のためにこれらの船舶を動かすことを許されまして、その後、日本船舶業者の手によつて運営されていたのでございます。併し講和会議が近付くと同時に、もとの海域を領有しておる諸国政府からの要請に基くものと推察いたされますが、スキヤツプの指令によつて、もとあつた海域に戻すよう指令を受けたわけであります。そのときに無論かような指令の実行されないように努力をいたしましたけれども、不宰にしてこれを実行せざるを得なくなりました。その指令によりますと、これらの船舶の最終処分は、日本との平和解決の際にきめることになつておりまして、指令による引渡しは、所有権の移転というような問題ではございませんで、ただ管轄を移すことにあつたのであります。ただその船舶の最後的処分は平和條約の問題として解決するものであるとの一項が入つていたわけであります。でございますので、私どもといたしましては、平和條約案について意見を開陳いたします場合に、当該條項平和條約の第十四條でございますが、それによれば、これらの船舶はそれぞれの国が留置、清算し得る日本財産に入る趣旨の規定なつておりますので、何とかしてそうならないように陳情、努力いたしました。併し、第十四條に使われています表現はイタリーの平和條約にも使われておる表現でありまして、而もその日時が、この平和條約が効力を発する日にその国の管轄の下にあるものとなつておりますので、この條約が成立いたしますれば、連合国において当該船舶を留置乃至清算する権利を持つことになることになつたのであります。この点は私ども事務当局としては甚だ遺憾に思つておる点の一つでございます。
  157. 加藤正人

    加藤正人君 大蔵大臣に御質問いたします。在外財産の補償の問題であります。これは過日木内委員からの御質問があつたのでありまして、大蔵大臣から大体お答えがあつたのであります。木内委員はあつさりとそれで了承されたようでありますが、私どもは在外財産といたしまして朝鮮、満洲、中国、フイリピン、その他に非常に多大の資産を残して参りまして、そう簡單には考えられない。在外私有財産の補償につきましては、本條約はこれを国内問題として触れておりません。そうして政府は助政上の事情でこれを棚上げしようとしているようであります。併しこれは單に財政上の事情で勝手にこれをネグレクトするということができないものであります。我が国憲法によりますと、正当な補償なくしては私有財産は公共の用に供することができないことになつております。この憲法上の原則は、当然にこの場合にも当てはめらるべきものであると考えられるのであります。又その私有権の尊重は、ただに国内法だけでなく、国際上の原則であるとも言われております。この故にこそ、ドイツ、イタリーの講和條約には明文を以て政府において補償すべきことを義務付けていると聞いておるのであります。一体、私有財産が沒收されるのは賠償の一部としてなされるのでありまして、賠償は個人が支払うべき性質のものでなく、国家が、即ち国民全体が負担すべきものでありますならば、これは当然に補償さるべきであり、財政上の事情で法秩序を乱すことは許せないものと考えられるのであります。この点に関しまして大藏大臣が木内氏の質問に対してお答えになつたところは、何とか研究して憲法に牴触しないような措置をとると言われております。それはどういう意味でありましようか。必ず或る程度の補償をするという意味解釈してよろしいのでありますか。又更に一層、憲法上に規定してある通り、いわゆる正当なる補償という意味をお答えになつておられるのでありましようか。この点について明確に承わりたいと存じます。
  158. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 在外資産の問題についての御質問でございまするが、国内財産でも賠償の一部に充てられておるものがあります。その後そのままになつております。お話通りに、今回の平和條約には、賠償の一部として沒收せられました在外財産について規定がございません。私は国内問題としてこれを解決しなければならんと思うのであります。而して憲法の規定において、正当なる補償ということが書いてございますが、これは日本の財政状況も考えなければなりませんし、又終戰後預金を或る程度切捨てたり、或いは又戰時中の政府の債権債務につきまして、戰時補償特別税等の規定を置きまして、普通のことではちよつと考えられぬようなことも実はいたしておるのであります。これも一つ日本の経済安定、自立ということから來ておるのであります。今回御審議になつていると思いまするが、在外公館の借入金の問題につきましても、ああいう特別の措置をとつているのであります。而して国内の賠償に充てられたるもの、又在外財産で賠償の一部に充てられたものについて、どういう措置をとるかということは、法律的にも、又経済的にもよほど研究しなければならん問題でございます。なお先ほど條約局長がお答えになりましたように、どれだけの財産があるかということもちよつと計算がむずかしうございます。殊に個人財産につきましては完全な資料がございません。而して又終戰当時にどれだけあつたかということにつきましても、今の賠償につきまして、今の円との関係考えるといろいろな問題がございますので、私は憲法の條章は知つておりますが、これを如何に処置をしようかということは研究中でございまして、はつきりしたお答えが只今のところできません。
  159. 加藤正人

    加藤正人君 お取調べがむずかしければ、ちよつと書き出してもよろしいのでございます。研究して善処されるということはどういうことでありましようか。財政の許す限りの程度において何とかできたらするということであると、私は想像いたすのでありますが、どうかできるだけそういうことにお願いしたいと存ずるのであります。政府のためにも、憲法に牴触しなかつた、あの措置は牴触しなかつたということになさつておくほうがよかろうと考えます。  それではさようにお願いしておきまして、次に安本長官に、先ほど私は総理に対して事業者団体法、私的独禁法というものが、曾つて日本の経済民主化のために制定せられたものでありまするが、すでに今日まで民主化も相当の程度に行つておりますし、あれあるがために、公平な海外貿易が妨げられている。例えば先ほど例を申上げましたが、ダンピングを予防するための申合せもできないということで、甚だ重点をおかなくてはならん貿易を今日では妨げているが、曾つては役に立つたものでも、今日ではその弊害のほうが著しい。これは到底耐え得られない。もう盲腸のような存在になつておるのであります。何とかこれを今日訂正して頂きたいということを申上げましたところが、総理から非常に同感の意を表せられたので喜んでいるのでありますが、これは安本長官に駄目押しと申しますか、とかくこういう方面の問題は、その筋に向つて非常に気がねをされているように私は感ぜられるのであります。もはや我々は、曾つて歴史上なかつた戰犯の処刑、或いは賠償、領土の割讓、すべての義務を果したような形になつているのでありますから、今回以上に気がね苦労は要らんと存じます。なおこれが民主化に反するような、逆行するような措置であれば、これは我々として愼まなければならんと思いますが、併しこれが価格協定というような、類型に合致するというような意味だけで禁ぜられておるというような向きが非常に多いということは、甚だ今日の日本が貿易によつて自立経済に進まなければならんという重要なときに、貿易が少しでも妨げられておるということは耐え得られない。どうぞそういうお気がねなく、総理の申された通り、できるだけ早い機会において実際的な効果の挙る措置をとつて頂きたい。安本長官にも、一つこれを申上げて御確認を得たいと思います。
  160. 周東英雄

    国務大臣(周東英雄君) 終戰後民主化ということの声が高くなつた結果、惡い部分を直すということは賛成でありますが、その結果いい部面までも一緒になくしてしまつたような傾向が随所に見られることは私も同感であります。角を矯めて牛を殺すの結果になつておるところもあり、從いまして只今事業者団体法についてのお尋ねでありますが、私どもも民主化を壞すようなことなく、而も日本の新らしく進むべき産業の発展のために、不必要に曲げられたる部分については、でき得るだけ早くこれが改正という手段を講じたく、只今愼重に研究いたしておる次第でありまして、成案ができればそういう方向へ具体化して行きたいと考えております。
  161. 加藤正人

    加藤正人君 もう大分古い問題でありまして、もはや研究すべき余地がないように我々は思うのであります。どうぞ、研究のお手伝いでもしとうございますから、御遠慮なく一日も早く御実行願いたい。   —————————————
  162. 楠見義男

    ○楠見義男君 賠償の問題と在外資産の問題について大蔵大臣にお伺いしたいと思います。サンフランシスコ会議における連合諸国の演説の中で、いろいろとかずかずの印象的な演説を今想起するわけでありますが、中にもフイリピンのロムロ代表の演説は、戰争によつて甚大な損害と影響を受けた国の言葉として、誠に印象的なものがあつたわけであります。その演説の中で、賠償問題につきまして、第十四條の規定に言及して、こういうことを言つておるのであります。「第十四條(a)項に保証された賠償権を制限して、賠償の支払を、要求国の供給した原材料の加工、沈沒船の引揚げその他連合国のための作業という日本国民のサービスに限ろうとする如何なる解釈をも承認することはできない。このように賠債権を制限することは「完全な賠償を行うには、日本国の資源は現在十分でない」という規定を、完全に無意味なものにしてしまうのである。この規定の正確な意味は、現在日本の資源は部分的な賠償しか許さないが、将來においてはこの資源が増大し、完全若しくはできるだけ完全に近い賠償支払を許す可能性がある、ということなのである。」こういうふうに言つておるのであります。即ち現在は日本には賠償の能力がないかも知れないが、日本国民所得や或いは資本蓄積のだんだんと増加して來ておる状況や、或いは又貿易收支の具体的数字を挙げまして、将來における両国間の協定を留保し、最後に、その演説の最後の言葉として、日本が将來我々と歩みを同じくするためには、「諸君のほうから心から後悔し、心を新らしくしたという、何かはつきりした証拠を示すように期待する」、こういうふうに言つておるのであります。同様の趣旨を……即ち日本は現在は十分に賠償能力はないけれども、将來における賠償について、インドネシアや或いはヴエトナムの代表等も同様のことを述べておるのであります。そこで、これらの点から見ますと、賠償問題は日本国民経済がだんだんと伸びて行くに伴つて、いつまでもあとを引く、こういうふうに思われるのでありまして、この点に関して、先日社会党の曾祢君から、賠償の問題については総額の定めがない、從つて相手国に厖大な希望を與える虞れがある、こういうような意味質疑があつたのでありますが、それに対して大蔵大臣は、善隣関係を一方において保持する立場から、そうして又、一方から見れば、我が国の存立可能な経済維特の見地から、この二つの面から考えて行くと、おのずから可能の限度が出て來るであろう。こういうふうに答弁せられておるのでありますが、この点については、なお明確を欠くと思いますので、お伺いいたしたいのであります。即ち今後の賠償問題について、現在はないけれども、併し将來は日本に賠償能力が出るであろう。こういうふうに言つておる。これらの国々の要求に対して、一体、政府はどういう態度を以てお臨みになるつもりか。この点について四点お伺いいたしたいと思います。  第一点は存立可能な経済というのは、具体的に言つてどの程度の経済規模をお考えなつておるのか。フイリピンの代表も日本の生活水準等を挙げて述べておるのでありますが、例を生活水準という簡單な一つの例をとつて申しますと、この存立可能な経済という場合に、生活水準はどの程度のことをお考えなつておるのか、これが先ず第一点であります。  それから第二点は、今申上げましたようにいろいろの要求があるわけでありますが、政府は條約に規定されておる役務賠償以外の賠償には応ずべきでないというお考えをお持ちになつているのか、これが第二点であります。  第三点は、役務賠償のみの場合でも、総額の定めをしないで、そうして毎年度の額だけをきめて、そうしてその後毎年々々それを行なつて行つて、その後両国の話合いでそれを取りやめるというところまで続けるというような行き方になるのか、或いは金額的にいつて総額を定めてやるようにするのか、この点が第三点であります。  それから第四点は、中間賠償との関係であります。御承知のようにアメリカ中国、イギリス、オランダに対しては相当な金額に上る中間賠償をやつております。これは役務賠償ではなくて現場賠償的なものであります。この中間賠償、すでに撤去され、又国外に持ち出されたこの中間賠償のものは、一体この講和條約における賠償とどういう関係を今後持つて行くことになるのか。以上の四点について説明を煩わしたいと思います。
  163. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 平和條約第十四條の解釈でありまするが、これは條約局長からお答えしたほうが適当かと思いますが、私は現にロムロの口からお話のような点を聞きました。厄介なことを言つておられるということを感じた一人でありますが、足らざるところは條約局長から補つて頂くことにいたしまして、私の考えを一言申上げたいと思います。  お話にもありましたように、現にあるのでない、将來はどうするのか、我我は金銭賠償を放棄するものじやないということをはつきり言われましたが、今の御質問の第一の点、存立可能な経済というのはどういうことか。これはなかなかむずかしい問題でありまして、これはやはり向うと相談しなければならんと思います。これは日本の国力その他から考えて、少くとも賠償を払うために生活水準が下るといつたようなことは私はしたくないと思う。生活水準を上げつつ賠償も払つて行くことが善隣関係からいつて適当であると、こういうことであろうと思います。とにかく現在におきましてはそういう能力がないというのでありますから、現在において考えなければいけない。  第二点の役務賠償ということに限つているかという問題でございますが、これは第十四條に書いてある通りに、加工賠償及び沈船引揚げ、役務賠償に類するものであります。役務賠償、例えば沈船引揚げをやるときに、サルベージが行く場合に、旅費その他はどうするかという問題があります。そういう問題もありますし、又原料を持つて來たときに、日本の港までの運賃はどつちが持つか、港までは向うがするが、工場までの運賃はどうするかというようないろいろな問題がありますが、これなんかもやはりお互いに相談してきめなければならんと思います。  それから総額の定めをするのかどうかということは、これはやはり交渉の重大な内容でございますので、私は今ここではつきり申上げないほうがよいと思います。要は共存共栄、お互いに生活水準を上げて行きながら、誠意を以て今まで與えた損害を我々は賠償しようというのであります。そこで注意を願わなければならんことは、フイリピンがそういうことを言われましても、フイリピンに與えた特典というものはその他に皆均霑するのであります。その点、私はよほど肚をきめてかからなければならないと思うのであります。從つて私は今の十四條の解釈といたしましては、それは御疑問の点があると思いますが、それも先ほど申上げたような両者の気持で解決して行かなければいかぬし、又し得る問題と思います。  第四の中間賠償の点につきましては、これは賠償のうちに入るか、入らんかという問題でございます。これは條約局長から答えて頂きます。
  164. 西村熊雄

    政府委員西村熊雄君) 別に大蔵大臣の御答弁に附加えることはございません。中間賠償として引渡したものは、すでに賠償として既成の事実になつております。この既成の事実の上に今度の平和條約ができたと考えるのであります。
  165. 楠見義男

    ○楠見義男君 それでは次に在外資産の問題についてお伺いいたしたいと思います。在外資産の問題については木内委員からも御質問があり、又只今加藤委員からも御質問があつたわけでありますが、特に私は私有財産の問題についてお伺いいたしたいと思うのであります。  旧領土における財産、それから連合国内における財産及び中立国内における財産につきましては、それぞれ平和條約の四條、十四條及び十六條に規定されておるのでございますが、一貫して感じとれますことは、私有財産尊重の原則が踏みにじられておるということであります。從來の国際法の建前からいたしましても、極めて異例のことに属すると思うのであります。  旧領土の場合は、先ほども、私、総理大臣に質問いたしたのでありますが、日本人は強制的に送還せられ、その財産は、第四條の項で現在の施政当局と日本との今後の特別取極の問題とされておりますが、而も朝鮮の場合のごときは、すでにアメリカ軍政府の命令によつて、即ち第四條の(b)項によつて処分されております。満洲における場合は全く惨怛たるものであることは御承知の通りでありまして、而もこれらの地域におりました日本人の多数の人々は、全く戰争とは無関係にこれらの地を安住墳墓の地と定めておつた人々ばかりであります。殊に中立国にある財産に至りましては、総理大臣もこの委員会でお述べになりましたように、曾つて中立国にある財産が賠償に充てられた先例はないと言われたほど苛酷な取扱でありまして、然るが故にサンフランシスコ会議においても、オーストラリア代表が、日本が條約第十六條に同意したことを多とする、こういうふうに述べておるのであります。その言葉を逆に申しますと、それほどさようにこの中立国にある財産の処分というものは異例の取扱であるということを言わざるを得ないのであります。  一方、日本にありました連合国の私有財産につきましては、私有財産尊重の原則によりまして、第十五條規定が設けられております。現に連合国財産補償法案がこの国会に提案されているような次第であります。こういうふうに彼此勘案いたしまする場合、今回の條約にはかねて政府も懲罰的な規定はないと言われておりますけれども、少くともこの一点だけでも甚だしい不公平があると思うのであります。いずれにしても在外私有財産は処分せられるのでありますが、大蔵大臣に特にお伺いしたいのは、條約に基いて外国に処分されるということと、これに対する国内補償とは別である、こういう観点から特にお伺いしたいと思うのであります。私有財産尊重の原則から申しまして、それに対する補償を実際に行う場合に、財政上の観点から、或いは完全に補償を行うことができる場合もありましようし、或いは又財産上の観点からその一部しか実行できぬ場合も考えられるのでありますが、それらの実行上の程度の問題とは別に、少くとも補償すべきであるという原則だけは認められて然るべきではないかと思うのであります。この点についてお尋ねをいたしたいと思います。只今加藤委員から、木内委員と大蔵大臣との質疑応答の例を引かれてお述べになつたのでありますが、先ほどでありましたか、木内委員が、最初に大蔵大臣が御答弁なつた趣旨がよくわからないので、最後に大蔵大臣は日本の憲法を尊重するというお考えであるか、こういうような御質問がありました。加藤委員からもお話になりましたように、その意味は憲法第二十九條第三項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために……」即ちこの場合における「公共」というのは、国家の賠償に充てるという意味の「公共のため」でありますが、「公共のために用いることができる。」こういう憲法第二十九條第三項の規定を引用されたと思うのであります。それに対して大蔵大臣は、憲法は尊重する、こういうことをはつきりお述べになつたと思うのであります。重ねて申上げますが、私有財産は尊重されなければならないという原則を認めるということと、国内において財政上の観点から、全部或いは一部しか補償されないという問題とは、別個の問題だと私は考えまして、その意味で重ねてくどいようでありますが、御質問いたすわけであります。即ち私有財産は尊重せられるという原則をお認めになるかどうか。この点をお伺いいたしたいと思います。
  166. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 憲法の條章は尊重いたし、これを守つて行くのは当然のことであります。申上げまするが、條約文に書いてありまするように、在外財産は連合国が処分し得ると書いてあつて、取つてしまうとは書いてない。平和会議におきましても、サルヴアドルの代表は、自分の憲法ではそういうものは取ることはできないということがあるので取らない、こう言つておりました。こういう点は、これは御質問とは離れておりまするが、それを取られた場合におきして、憲法の條章は尊重いたしますが、連合国にある財産について、憲法上政府が私有財産尊重の規定はありますが、この憲法が適用になつて補償しなければならんかということにつきましては、疑義がある問題であるのであります。私は憲法論は今いたしたくございません。相当重要なことでございまするから、そういう問題もありますので、今暫らく檢討いたしたいと思うのであります。
  167. 楠見義男

    ○楠見義男君 大蔵大臣の今の答弁からいたしますれば、大蔵大臣は、私有財産尊重の原則は認める、こういうふうに了解せられたものと私は了解いたします。   —————————————
  168. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) これで予定の質疑は終つたわけでありますが、杉山委員から大蔵大臣に特に質疑をしたいというお申出がありますが、皆さん異議がなければこれを許可いたしたいと思います。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  169. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 杉山君。
  170. 杉山昌作

    ○杉山昌作君 時間外になりまして甚だ恐縮でございますが、簡單に要点だけを申上げてお尋ねしたい。大蔵大臣は、明年度の財政の規模は、大体補正後の本年度予算と同額八千億円の線にとどめたいということをしばしば言つておられるわけであります。このことは歳入という方面から考えますと、結局政府は八千億円程度の歳入を予定しておる、それ以上あえて必要としないのだということになると思うのでありますが、これを逆に申しますると、国民は八千億円程度、本年度と同じ財政負担をすればいいので、財政負担は加重されない、こういうふうなことになると思うのであります。大体今回の講和によつて、講和後国民は予算が殖えやしないかということを一番心配いたしておるわけでありますが、只今の財政規模ということから言つて租税の負担は加重されないのだ、大体本年度程度で済むのだ、若し万一非常に減收等のことがあれば、増税の措置も講じて、八千億円は確保しなければならんが、反対に自然増收というような事実が起つて來れば、減税の措置を以て大体国民の負担は八千億円程度にとどめる、本年度程度にとどめるというようなことに了解をはつきりといたして安心してよろしいかどうか。実はこれにつきましては、最近ドツジ氏が参りまして、財政の規模或いは租税の負担というようなことに関しまして、政府考え方はやや楽観に過ぎるというふうな意見を発表されております。この点心配になりますので、お伺いすることが一点であります。  それから第二の点は歳出の方面でありますが、歳出は今申しました通りに、八千億円程度という一応の大枠はきまつたわけであります。ところがその内容でありますが、來年度講和が成立いたしますと、今年度の予算にない費目が、而も相当大きなものがたくさん出て來る。例えば賠償支払に関する経費であるとか、連合国人財産の補償に関する経費、外債の支払に関する経費、米軍駐留に関する経費、警察予備隊の拡充、その他自衞力の充実に関する経費、在外公館の設置拡充に関する経費、戰死者遺族等の援護に関する経費、項目を挙げましてもこういうふうな相当大きなものが出て來るわけであります。これが一体どのくらいになるかというと、一々の経費はそれぞれ対外折衝を要する問題でありますので、一々どのくらいということは、現在はおわかりになつていないと思いますけれども、これら一連の経費を合せて幾らくらいになるか。幾らくらいにしようかというお見込があつて然るべしと思うのであります。と言いますゆえんは、これらの経費はいわば純粹の経費と思います。それが直接国民の生活安定に寄與するということもないし、福利施設に関することでもないし、又産業の合理化とか育成に関することでもない。本当に使い放し、出し放しの経費というようなものでありますので、そういたしますると、八千億円という全体の枠がきまり、今日の国民の生活状態、今日の産業の事情等を勘案しまするならば、そういうふうな一連の使い放しの経費は、ほぼ何割程度、何億円程度にとめるべきであるというような見通しがあつて然るべしと思うのでありますが、大体どの程度に合計して踏んでおられますか。その二点についてお伺いいたします。
  171. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 御質問の第一は、私が申上げました点を詳細にお調べ下されば或る程度氷解するのではないかと思います。私は財政演説では、今年度の七千九百三十六億円と大差がない、こう言つておるのであります。大差というのはどのくらいのところかというと、八千億円に区切つて頂いては困ります。ほかの場合の答弁に八千億円台、八千億円台、こういうことを私は、はつきり意識して答弁いたしておるのであります。八千億円という線を引いたわけではございません。財政当局といたしましては、補正予算に対しても出します場合におきましては、殊に今回のように減税をしようという場合におきましては、來年度の一応の見通しは付けなければいかん。そうして又一応の見通しが付いたならば、これを国民に示すことが親切なるゆえんだと思いまして、大差のない八千億円台と言つておるのであります。從つて心配しておりまする減税の問題でございますが、これは今回御審議願うことになつておりまするところの税制の臨時措置を、來年は平年度化する、減税をする。これはもうそうしなければいかんという強い私は信念を持つておるのであります。今年だけ減税して來年はすぐ増税しなければならんようなことは、大蔵大臣としてとるべきことじやない、こう考えております。ただこういう国際情勢その他から申しまして、一応の目安は付きましたが、それならば來年絶対に増税ということはしない、或いは收入が非常に殖えても減税ということはしないか、こう言われますと、これはそのときの情勢によつて、今年におきましても、昭和二十六年度当初減税をいたしまして、なお且つ状況によつて補正で又減税しようとしておるのであります。一応の私は見通しを申述べたのでございます。今の見通しといたしましては、今回御審議願います減税を平年度化して減税する。財政演説においても申しましたように、所得税におきましては千億の減税、そうして又法人税の若干の引上げ等の増收があります。増税の問題にしましても、砂糖は四月から上げる。これは八百億の全体の減税というときに、砂糖は上げます。なぜ上げるかと申しますと、砂糖は今食管会計で競売によりまして相当高く売つて收入を得ておりますので、それを砂糖消費税のほうに入れるという相談はいたします。大体において八百億円程度の減税で以て行こうとしておるのであります。かるが故に、八千億円という線を切りますと、非常に細かくなつて参りますが、私は八千億円台、この言つておりますので、御了承を願いたいと思います。併し八千億円台と申しましても、今回の補正予算でももう七千九百三十六億円と申しますが、ルース台風の状況によつては、これは或る程度補正予算を組まなければならんというようなあれでございます。今昭和二十六年度の予算審議におきましても、補正予算を組みませんと、そうしたときに、輸入補給金がこれじや足りないから補正予算を組まなければいかんだろう、こういうような議論になりましたが、輸入補給金は当初の見込の通り、補正予算を組む理由にはなりませんが、その他の事情によつて組むことがあるということは、財政経済は生きものでございます。一応の見通しはどういうものだ、こういう減税を続けて行うというのです。で、次にそれじや八千億円台のうちで平和條約に伴う経費、これを幾らにするかという問題であります。そこらは今までのお話でおわかりになつているように、賠償の問題もきまつておりませんし、外債の支払もまだきまつておりませんし、対日援助資金の問題もあります。又講和条約に伴う問題として国内的にするのは、在外財産の補償問題もありまするが、これは私は払う払わないということはまだ檢討しております。じや警察予備隊の増強というのは平和条約に伴うもののうちに入るか入らないか、それから又今まではやつておりませんでしたが、傷痍軍人或いは軍人遺家族の問題をどうするか。いろいろな問題があるから、この分と、この分と、この分と、こうどうかと言われても、それに伴ういろいろな問題がありますので、大体私は八千億円台で過ごし得る。そうして減税も今の予定を來年度に平年度化する、こういうことで御了承願うよりほかに仕方がないと思います。こういう国際情勢でございますので、私の見通しも、実は予算を作つても、予算を三度作りまして、補正予算を今度三度、六遍作りましたが、今私がこう申しましたが、生き物ですから少しぐらい違つて來ましよう。今のままで行けば、八千億円台で平和條約の成立に伴ういろいろな経費を、私の胸算用では払い得るという考えでおるのであります。
  172. 杉山昌作

    ○杉山昌作君 こういう時代に、而も大きな金でありますから、八千億円、一円違つてもいかんぞという意味では無論ありませんので、大体の胸算用、見積りを伺つておるわけなんですが、ただ二番目に伺つた問題は、こういうふうな講和関係に伴つて本年度内新らしい予算が出る、それが幾らかということについてのお話はなかつたのでありますが、これらにつきましては、或いは一千五百億円といい、二百億というふうな説もあちらこちらから出ておりますが、それは今お話がありませんから別といたしまして、とにかく相当な経費がそれから出るということは確かだ。而も一方歳出のほうは八千億円台、併し八千億円台といつても八千九百億円というわけでもありますまい。そうなりますと、結局本年度の計上した経費を或る程度減少しなければならないという問題が起つて來ると思います。ところが、本年度ある経費におきまして、來年度当然にと申しましようか、当然にまあなくなる経費は終戰処理費の一千億円弱、或いは国際通貨基金への投資二百億円、合計一千二百億円程度のものは、これはまあ減少いたしましようが、その他の経費は一体どこから減らすか。例えば地方平衡交付金にいたしましても或いは公共事業費にいたしましても、その他各省の経費にいたしましても、本年度の補正予算におきましては物価高によるところの補正増を大体においていたしておりません。ということは年度初めに考えた事業量がそれだけ減るのだということになる。そうなりますと來年も今年度の事業量よりも更に減らすということはなかなか困難であろうからして、これに向つて大きな斧鉞を加えるわけには行かない。そうなれば勢い私たちが想像いたしまするのは財政資金の出資及び投資、これが今の国際通貨基金への沒資を除きまして千三百七十億もの大きな金額を占めておりますが、まあここらに大体減少の鋒を向けるのではあるまいかと思う。で、これにつきましては先ほど栗栖委員との問答におきまして、財政資金で金融のほうにお手伝いをしている今のやり方は本則ではないのだ、成るたけ財政資金をそういうことへ廻すのはやめて、金融は金融でやりたい。而も最近の預金の伸び方、或いは証券界の活況等から見ると、それが大いに期待があるのだというふうなお話に受取つたわけでありますが、併しながら本年におきまして今のような総額では千三百億、まあそのうちで国民金融公庫とか住宅金融公庫、日本開発銀行、輸出銀行、本当のこの民間に貸出す資金として廻されたものが三百億円もある。そのほかに財政資金として出ておりまする見返資金というふうなものは、來年度は大体非常に少くなつて來るのだろう。こういうようなことになりますると、財政資金から金融方面に金を廻す、いわゆる金融のしわを財政が背負つている今のやり方はいかぬから直したいとは言つても、現在の金融状況から行きまして、そういうことはやればいいことには違いありませんが、できるかできないか。而も総体の歳出を八千億円台にして、先ほど申上げましたような厖大な終戰関係の経費を出すとすると、勢いそこに鋒先が向うであろうが、この財政の面と金融との調節といいましようか。そこらはどういうふうなお見込か、どんなふうに行くか、そのお見通しと申しましようか、先ず伺いたいと思います。
  173. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 今年度の歳出と來年度の歳出とを比べてのお話は、大体におきましてはそういうようなことを考えておるのであります。終戰処理費、国際通貨基金、合せて千億円余り、これに平和処理関係の百億円もなくなりますし、そうして終戰処理費のドル払いの七十五億円も來年は要りません。お話の点のこの財政資金の千三百億円、これのうちにも外国為替特別会計への繰入八百億円は、私は金融の正常化その他によつて相当減らし得るのじやないかという見通しを持つておるのであります。で、この財政資金で一般産業資金を賄うということは、先ほど栗栖委員にお答えしたようなわけで、一度にやめるわけには行きません。これはやはり適正を期して行かなきやならんと思うのであります。で、來年度の財政資金につきましては、お話の点でちよつと私と違つているのは、見返資金は來年度はないというお話でございますが、見返資金は本年度程度は來年度も残ります。そうして又財政資金などにつきましても、私は貯蓄の増強その他をやりまして、資金運用部資金も本年度よりも多くなる。從いまして地方債は当初の四百億円を五百億円にしましたが、地方債を賄つても資金運用部資金を相当産業資金に廻し得るのではないか、こういうことを考えておるのであります。いろいろな点を考えまして大体八十億円台で賄えるという望みと申しますか、確信というと少し強うございますが、そういう見通しを持つております。   —————————————
  174. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 兼岩委員に申上げます。先般兼岩委員から御要望のありましたプレスコードに関する件でありますが、大変御返事が遅くなつて恐縮であります。  実はこの問題は議院運営委員会のほうで問題とされておりまして、そのほうとの連絡をとつておりましたところ、運営委員長お留守でありましたので、昨日お目にかかりました。そしてこの問題は参議院全体の問題でもあるので、議長とお話する必要がありますので、議長、運営委員長と私と三人でお目にかかりまして御相談をいたしました。で、議院運営委員会におきましては、理事会においてこのプレスコードの問題は取上げないということをきめられたそうであります。その際には兼岩委員の同僚の委員もおられた由であります。そうして議運といたしましては、結局プレスコードの問題は取上げないといことになりました。議長としても、まだ占領下にある今日においては、やはりプレスコードというものは尊重しなきやならないから、これは問題として取上げることはできないという結論でありますので、そのことを申上げたいと思います。御了承頂きたいと思います。
  175. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると国会の外において我々の講和論議が武裝警官その他の形で彈圧される、院内においては一応の発言権の自由はあるようだけれども、これがプレスコードの形で国民には通達できない、部分々々至る所に一定の削除が出るという事態は、議長並びに議院運営委員長及びあなた、條約委員長の三者において、それは止むを得ないのだという、そういう結論を出すのに、この條約は対等の資格において真に自主的な、自立的な立場を以て審議し得るということでなければならないという、その條約がそういう制約の下で行われていいということをあなた方三人だけでおきめになつたのでは私は不十分だと思いますが、これは総司令部なりアメリカの当局とよく打合せた上で御決定にならないならば、これはやはり重大な手落ちだと感じます。それで、あなたは議運における理事会のことを云々されたけれども、それは何ら本格的に討議されていないし、且つそのような理事会は、その理事会の前に行われた議運における決議に違反した決定でありまして、さようなものを承認することはできないのであります。從つてあなたの今の報告はつの二点から承認できがたいと思います。第一にはかような重大な條約がさような国会の外において……、国会の中においても国会議員と国民との間において切断されておるというような條件で審議されるということを、総司令部と何ら打合せすることなく、一片の、議運における、十分なる効力を持つていない理事会の決議に基きまして、それを基礎として、これはこれでいいのだというような、そういう軽率な御決定は、将來政治的責任をあなたはとらなければならない。国民に対して重大な政治的責任をとらなければならないということを覚悟の上で、あなたはそういう言を僕に押付けようというならば、止むを得んと思います。そうでなければ、総司令部とちやんと打合せされて、そういう事情は止むを得ないということで、そういう余儀ない状態においてこの二つの條約が審議されるのだということを国会、参議院の全員にわかるように明確にして私は行かれなければ、この條約の審議に対して国会として責任を盡されたとは考えがたいのであります。從つてあなたの今の御報告に対して私は全然同意することはできません。
  176. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それでは一般質問は今日で終了いたしましたので、明日から逐條審議に入ります。明日は午前十時に開会いたしまして、平和條約の前分から議題にいたします。
  177. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 議事進行についてもう一つあります。質疑が終了したということを、質疑ということ、文字通り質疑が終了したということならば私は承認いたします。併し質疑に対する答弁が完了したということは全然認めがたいのであります。私は本会議における三十分、今度與えられました一時間についてそれぞれ数分ずつ残すような皆さんの申合せに対して、自分は信義を守つたのであります。ところがこれに対する答弁はいずれも不満足、私以外の他の堤委員にいたしましても、堀木委員にいたしましても、或いは楠見委員にいたしましても、その他木内委員にいたしましても、特に今日の吉川委員のイヤフオーンの問題とか、吉田全権の演説の問題とか、義勇軍の問題とかいうような、ああいうような重要な問題に対してもその答弁は全然していない。私のものについていえば答弁していない。だから質疑が終つたという意味を、答弁も含めてそれで完全だという意味であなたは提起しておられるならば、これ又私は抗議を提出せざるを得ません。だから質疑だけで、答弁は終つていないという点において、僕は質疑の終つたことを了承する。そのことを申上げておきたいと思います。
  178. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) では本日はこれにて散会いたします。    午後五時四分散会