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1951-10-30 第12回国会 参議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月三十日(火曜日)    午前十一時十分開会   —————————————   委員の異動 十月二十九日委員櫻内辰郎君辞任につ き、その補欠として栗栖赳夫君を議長 において指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     大隈 信幸君    理事            楠瀬 常猪君            一松 政二君            金子 洋文君            曾祢  益君            加藤 正人君            野田 俊作君            堀木 鎌三君    委員            秋山俊一郎君            石川 榮一君            泉山 三六君            川村 松助君            北村 一男君            杉原 荒太君            徳川 頼貞君            平林 太一君            岡田 宗司君            加藤シヅエ君            佐多 忠隆君            永井純一郎君            吉川末次郎君            岡本 愛祐君            片柳 眞吉君            楠見 義男君            杉山 昌作君            高橋 道男君            伊達源一郎君            木内 四郎君            一松 定吉君            羽仁 五郎君            堀  眞琴君            兼岩 傳一君   国務大臣    内閣総理大臣    外 務 大 臣 吉田  茂君    法 務 総 裁 大橋 武夫君    大 蔵 大 臣 池田 勇人君    通商産業大臣  高橋龍太郎君   政府委員    内閣官房長官  岡崎 勝男君    法務府法制意見    第一局長    高辻 正巳君    外務政務次官  草葉 隆圓君    外務省政務局長 島津 久大君    外務省條局長 西村 熊雄君   事務局側    常任委員会專門    員       坂西 志保君    常任委員会專門    員      久保田貫一郎君   —————————————   本日の会議に付した事件平和条約締結について承認を求め  るの件(内閣提出衆議院送付) ○日本国とアメリカ合衆国との間の安  全保障条約締結について承認を求  めるの件(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 只今から委員会を開きます。
  3. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 高齢なる首相に対して、私は條約局長お答え下され得るような質問をしないつもりであります。私の部屋に同じく高齢なる松原一彦議員がおられますが、私が本日首相に対して質問をするに際して、特に松原一彦議員の御意見を代表して伺わなければならない点が多々あるのでありますが、その第一に、特に松原議員首相に対して私から伺つて欲しいということは、どうか首相がこの区々たる問題に拘泥されないで、首相外相として、この平和、安全保障両條約が締結されるにつきましての首相の大きな抱負、グランドプラン、それを国民の前に明らかにして頂きたい。首相は就任以来、又この両條約が問題になりましてから、未だ曾つて一度も首相グランドプランというものを国民の前に明らかにされていない。どういうお考えでおられるのか、日本をどういう方向に導いて行こうとされておられるのか、それを国民は知りたいと思つている。又特に松原議員の率直な、そして誠意の籠つた質問としては、現在の我が日本国憲法を作られた御自身である現吉田首相が、この両條約締結に際してどういう決意を持つておられるのか、それを伺つて欲しい。私もそういうふうに思います。  それで先ず第一に伺いたいことは、私は総理大臣が現在なさつていることが秘密外交であるとか何とかいうことを批判しようとしているのではないのです。そうでなくて、この高齢首相が現在非常に困難な状況に立つて外交上の努力をされている、その御苦労というものに対しては、深い敬意と、そして同情とを感ぜざるを得ないのでありますが、或いはその方向が……こういうことを私から申上げるのは甚だ私としても心苦しいし、又或いはお聞き苦しいかも知れないのですが、併し方向が妥当でないために一層御苦労になつているのじやないか。それはこの両條約につきましても、昨日、首相曾根委員に対して、安全保障條約は各党の幹部はあらかじめ知つていたという証拠を挙げられて、本日新聞の賞賛を受けておられるようでありますが、併し例えば行政協定なども、大分新聞にすでに出ております。従つて首相はあとからは、すでにあれは大体、殊に政党の幹部などは知つておられたのじやないかというように言われるのかも知れないのですが、併しなぜこれを国民の前に明らかにされ、そうして国民からのいろいろな見解というものが自由に表明せられることをお求めにならないか。現在イランにおいてはモサデグ、エジプトにおいてはナハス・パシヤと、同じく高齢なる政治家が、国民の中から湧き上つて来るところのこの世論というものの上に立つて外交を展開しておられる。私は我が首相モサデグ或いはナハス・パシヤという人に劣らず、自信を持つてこの両條約に対する国民の熱烈なる批判というものの上に立つて外交を展開して行かれることが、日本国のために、日本国の幸福のために必要ではないかと思うのですが、この点についてどうお考えになつておられるか。先日来首相或いは自由党かたがたから、この両條約について、強いて異論を立てるというようなことは外交上害があるというようなお考えを述べられたことがございますが、私はこういう点において、首相がいわゆるドグマテイツクな、独善的な考え方をとられようとしているのではないと思います。有名なイギリスの独裁者と言われたクロムウエルでさえも、自分は事によると間違つているかも知れない、アイ・マイト・ビー・ミステークという有名な言葉を話されたことがある。そういう意味において、政府に対する反対の意見というものも十分聞かれ、場合によつてはその上に立つて日本国の本当の幸福のための外交を展開される、なおこれに関連しては、外交上の識見と経験とを有せられる首相に対して、我々がそういうことを言うべきではないかも知れませんが、言うまでもなく、いわゆるバランス・オブ・パワーズ世界の列強が一方に一つ陣営を作り、他方にもう一つ陣営を作るというようなやり方が如何に危險であつたかということは、歴史の証明しておるところであり、従つて第一次世界大戰後においては国際連盟、第二次世界大戰後においては国際連合というような国際的な方向で行くべきだ。或る国々が第一次大戰後のように、いわゆるアクシス・カントリー、枢軸国というようなものを作つて、そうして国際機構を破壞するということは好ましくない。こういう意味で、首相は現在やはりいわゆるバランス・オブ・パワーズ世界の一方に或る種の国々が特に結集し、他方の結集と相対立するという傾向を以て、国際連合の理想としているような、問題を国際的に解決するという原則を破壞されようということには飽くまで反対せられると思うのでありますが、どうでありましようか。  最後に大原則の点について伺いたいのは、やはり私は、この話合いをするということが現在の外交の上の最高原則ではないか。曾つて日本は蒋介石を相手にしないというような態度をとつた。或いは犬養木堂が、話せばわかるという言葉を残しておられる。今日世界のこの両條約締結の前後の模様を見まするのに、或いはこの話合いということを放棄するのじやないか。話せばわかるのに話さないのじやないか。こういう点で私は、このトーク、話すということが国際間のさまざまな紛争を解決する、平和に解決する重要な方法であるというふうに考えておりますが、首相はこれらの点についてどういうふうにお考えになつておるか、お聞かせを願いたいと思うのであります。
  4. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 只今お話によると、高齢にして而も独善というような結論のようでありますが、高齢は事実でありますが、独善は事実でありません。(笑声)いわゆるこの條約も話合いの結果できたのであつて、決して一人ぎめでいたしたのでもなければ、絶えず條約については国民の自由なる意見を発表してもらいたいということは、議場その他においてもしばしば申しておるので、独善でやつたつもりは少くとも本人にないのであります。それからこの條約締結等について、締結いたすには、ときに相手方にこう言つた、ああ言つたということを発表いたすべきではありませんけれども、できた條約については何らの秘密もなく、又国民がその條約の趣旨、精神をよく理解することが必要でありますから、安全保障條約についても、何ら今日において秘密もなければ、事実を事実としてありつたけのことを、議会等においてその趣旨を率直に申述べておるのでありますが、ただ相手方が何かあるだろう、独善であろう、秘密があるであろうと疑う結果、独善になり、秘密になるのでありますが、この條約については、何らの秘密はないのであります。憲法に対する決意ということは、憲法を守る考えがあるかどうかというようなお話であれば、無論憲法は守ります。憲法の範囲において條約は締結いたします。それから国民見解を求むべきではないか、見解を求めております。又求めたいと考えております。それから力の均衡ということは私にはよく了解できませんが、いずれにしても世界客観情勢を考慮に入れて、そうして国政をやつて行かなければならんものと考えております。以上お答えいたします。
  5. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 話合いというのは一方側とだけの話合いという意味伺つたのではなかつたのでありますが、時間の関係もありますので、次の問題に移ります。  第二に伺いたいのは、これも甚だ或いはお聞き若しくはお考えになるかも知れないと思うのでありますが、現在日本が両條約を締結するに際しまして、過去においてどうしてあのような、なすべからざる戰争をするようになつたかということについての反省が、必ずしも国内においても国際的にも十分になされておるとは私は考えません。併し首相サンフランシスコで御自身お聞きになりましたように、フイリピンのロムロ代表が、過去は決して忘れられない、パスト・イズ・ナツト・フオアゴツンと言つておられますが、外部から言われるまでもなく、我我自身として再びああいう誤まりを繰返したくないということを痛感しております。首相は殊にそうであろうと思う。その点について、この両條約が締結される際に、特に衆参両院の討議を伺つておりましたが、未だ国民或いは国際的に、現在この両條約を担当されておる最高責任者である総理大臣からどうか一遍……、殊に総理大臣は尊敬すべき体験を特つておられる。どうして日本の政策というものがあのような侵略戰争に導かれたものであるか。犬養木堂曾つて総理大臣になるには監獄の飯を食つた人間でなければその資格はないと言われたことがあります。これはまあ恥ずべき事件監獄の飯を食う政治家は多いかも知れませんが、現在閣僚の中には、政治上の節操を守つてあえて縲紲の辱めを忍ばれたという政治家総理一人しかおいでにならない。而もそれはどういうところからそういうことになつておるか。我我は若年で、日本がああした戰争に導かれた詳しい事情は存じておりません。又その中で何が一番重大な問題であつたのか、或いはほかのことは別として、どういうことだけが再び繰返してはならないかということを、特に首相のその実に貴重な体験を通じてお考えになつておるところがあろうと思うのであります。それをここで国民の前にお示し下さつて、他のことはどうでも、こういうことだけは絶対に繰返してはならない、こういうことを繰返して行くと、とんでもないことになる、そういうお考えがあろうと思われますので、それを伺うことができれば国民のために仕合せではないかと思うのでございます。
  6. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 過去の歴史的の感想についてはいろいろ考え方もありますが、これはとにかく、サンフランシスコにおいての感想だけを申せば、これはソヴイエト全権考え方がいいか悪いかは批評の限りでありませんが、過去においてソヴイエト全権の言われたことなどを考えて見て、余りに国際事情と申しては失礼になるかも知れませんけれども、少くとも日本のことに対しては余り承知しておられなかつた戰争中においても或いは戰争以前から、日本八紘一宇とか、そういうようないわゆる独善の思想に捉われて、海外情勢余り耳を傾けないとか、或いは聞き苦しい海外批評は聞きたくないというような狹隘考え方日本だけが選ばれた天孫人種らい考えておつたという話を聞きました。これが禍いをしたのではないか。現在ソヴイエトなどもそういう傾向があるのではないか。鉄のカーテンの中に閉じ込められて外国の事情は少しも顧みない。そうしてイデオロギーでありますとか、或いはソヴイエトだけの事情で以て世界情勢を判断している。そういう狹隘考え方が国を誤まるのではないか。内政においても広く国民意見輿論傾向を窺わなければならんと同じように、世界の間に、世界に伍して、或いは列国の間に伍して行くのには、よく広く世界知識を求め、世界情勢を見極める、世界はどういう傾向に進んでおるのかという情勢の判断と言いますか、研究が必要であろうと思うのであります。例えば五十一ヵ国が集まつて、そうして、そのうち四十八ヵ国は講和條約に賛成をする、僅かに三国だけが反対するというような、これを以て輿論傾向がわかると思うのでありますが、その輿論に逆行して、そうして外交をなし、政治をなすというところに危險があるのではないかと私は思います。日本の過去においても同じなのではないか。余り狹隘知識、眼前に捉われて政治をやろうとし、国政を行わんとしたところに誤まりがあつたのではないかと考える。これは私の一人の考え方でありますが、ただ感じたところを述べてお答えにいたします。
  7. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 私は首相保守主義の上に立つておられるということに対しては、一個の政治上の見解として十分の尊敬を持つておるものでありますが、併し日本の過去の歴史考えて見ましても、或いは今お話のように国際的な歴史を顧みて見ましても、過去における保守主義というものと、それから現在における保守主義というものの間に、おのずから大きな違いがあるのではないかと思うのであります。それで今日客観的に歴史的に眺めて見ますれば、世界が次第に社会主義方向に動いておるということは、恐らく首相もお認めになるのではないかと思うのであります。問題はこの保守主義がそれに対してどういう態度をとるか。歴史に逆行するという態度をとるならば、これは悲劇を生むだけである。恐らくは今日の近代的の健全な保守主義というものは、その歴史の進歩或いは客観的な社会主義への動きというものについて、できるだけ犠牲を少くして行くということが、この健全な保守主義のとられる態度ではないかと思う。例えば英国外交上において、北京政権のその政治上の主張の如何を問わず、これを早く正式に承認したということは、世界が或いは社会主義或いは民族独立というものに動くのは、客観的な傾向としてこれを認めなければならん。保守主義として、当時これを承認したのは保守党ではなかつたかも知れませんが、恐らく超党派的に保守党もこれに賛威した、その意味は、そうした歴史動きに対して逆行するということは、非常な悲劇を招く。英国は御承知のようにそのために国王が断頭台上に立たれたというような悲劇まで経験した。その結果、保守主義は決して歴史に逆行しようとするものではない、歴史動きの中にできるだけ犠牲を少くしようとするものだというふうに私は考えるのでありますが、そういう点については首相はどういうお考えをお持ちになつておるのでありますか。現在の我々の誇るべき日本国憲法をお作りになつ首相は、あの日本国憲法が制定されました当時に誓約された原則というものは決して見せかけのものではなかつたであろうと私は信ずるのであります。そして又決して、あの当時の国際情勢において、今日の国際情勢を全く予測しなかつたというような無知に基いてああした誓約が行われたのではないだろうと思うのであります。或いは正直にあの憲法というものが日本の行くべき唯一の途である、その意味において民主主義、平和というもの以外は考えない、従つて民主主義の上においては違う考え方との間にも平和な解決を確信するという上に立たれたのではないかと思うのであります。最近再び戰前或い戰争中日本を支配していたような考え方が支配するのではないかというふうに感ぜられる点があります。例えば真空論のごときはその一つであります。これは江戸時代には御承知のように、さむらい両刀をたばさんでいる、さむらい両刀をとつてしまうということは、恐らくさむらいにとつては非常な真空状態が発生するように考えたのじやないかと思うのです。併しこの真空状態というものを武器で満たす、或いは軍事的に満たせば、必ずそこに社会的な不安が起つて来る。今度は社会的な不安がその真空を満たすということになつて来る。若し真空状態というものがあるとするならば、それは決して軍事的に埋められるものではなくして、社会的に埋められて行くものであろうと思うのであります。これらの点について、私は過去の日本歴史考えて、そして現在この両條約を締結されるときに、私は一番重要な問題は、この世界が、或いは一言でいえば社会主義傾向に動いて行くという歴史的な客観的な動きを持つておる。それに対して、保守主義に立たれる首相としての最大の力は軍備にあるのか、或いは官僚主義にあるのか、そうではなくして、民主主義平和主義、特に社会保障にあるのではないかと思うのでありますが、それらの点についてはどうお考えでございましようか、伺えれば仕合せだと思うのであります。
  8. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 私は保守主義イデオロギーを以て終始するというほど固い保守主義者ではないのであります。融通無碍のつもりであります。(笑声従つてときに変論改説もいたすこともありますが、そういうことは別といたしまして、この條約は保守主義とか、そういうようなイデオロギーが主になつておるものではなくて、現実の国際環境考えてみて、現に朝鮮事変というものがある。そうして日本防備を撤しておる。防備を撤しておりますが、この憲法の下において、そうして防備のない、武備のない日本海外危險状態、現に朝鮮のごとき状態を防ぐためには、安全保障條約のごときものを以てするにあらざれば独立は守りにくい。或いは又万一の場合を考えて、かくのごとき條約を持つよりほか方法はないと考え安全保障條約をこしらえたわけであります。真空状態に対する歴史的或いは政治的の解釈はいろいろあるでありましようが、私の真空状態というのは、現在の客観情勢及び日本の現在の防備のない状態考えてみて、安全保障條約が一番適当な方法考えて條約の締結考えたわけであります。
  9. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 それでは第三に伺いたいのは、この国際情勢の現在と、そうして当面の将来に対する首相外相見通しを伺わせて頂きたいと思うのであります。そうして、これは特に国民が、現在、国際情勢が今後、現在どうあるのか、そうして今後どう動いて行くのか等について、首相はどういう見通しの下に立つておられるのかということを知り得ないための不安があると思うのであります。そのために無用な不安を或いは生じておるのではないかということは、新聞等輿論を見てもそういうことを感ずるのであります。この点について勿論たびたび両院において首相に対して質問せられておる問題、即ちソ連中国との間の問題が第一の問題であろうと思うのであります。で、只今お答え下さいましたような真空状態を主として武力によつて埋めるということが行われますと、最初にお答えを頂きました国際問題も話合いで解決して行かなければならない……武力話合いを断ち切つてしまうところがあります。そういう意味で、現在日本が一方においては軍事同盟に近いようなものを結び、その他の国々との間に話合いを断ち切つてしまうのかどうか。ドアは開かれているのか、それとも閉ざされてしまうのかという点についての不安があるのじやないかと思うのであります。首相は特に昨日もお答え下さいましたように、必ずしもイデオロギー的に拘泥しないというようにいつておられます。従つて又軍事的な手段というものにも拘泥せられないのだろうと思う。特に我々はイデオロギー或いは軍事的な対立戰略的対立というものを超えて外交というものがあるのじやないか。その外交的方法というものについて、その外交的方法を飽くまで尊重して行く、そうしてソ連中国と飽くまで友好的な関係を増進するような方向に御努力をなさろうとしてお考えになるのでありますか。そうではないのでありましようか。この点について、或いは首相、又は現在の政府閣僚或いは自由党幹部かたがたが述べられます言葉の中には、場合によつては無用の挑発的のお言葉ではないかというような心配のある言葉があります。これは新聞もその点を指摘しております。ソ連、中共に対して無用な挑発を私はなさろうとするお考えはないかと思うのであります。いわんや現在日本ソ連に対しては少くとも降伏した状態にあるのでありますし、政治上の主義主張ということは、いわゆる内政干渉ということが許されないと同じ趣旨において、特に必要のない限り批評がなさるべきことでもないでありましようし、この点について先日来首相はときどきお考えの片鱗を示しておられるようでありますが、いわゆるグランドプランという意味において、今後ソ連と又北京政府とどういう関係をとつて行かれるのか。現在これはサンフランシスコにおいて首相自身もお聽きになりましたように、英国を代表してヤンガー全権は、英国北京政府を正統の政府として承認しているということを言つております。これらの点は、或いは英国外交上の識見というものが極めて高いということがあろうということも考えられなければならないと同時に、日本態度はこの英国をして国際信義に背くような立場に立たせるようなことになる虞れもないとも限らない。これらの点についてはどういう基本的な大きいお考えをお特ちになつているか、伺わせて頂ければ仕合せだと思うのであります。
  10. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) ソ連中国は不幸にしてサンフランシスコの対日講和條約には参加しませんでしたが、併し條約にもあります通り、今後三年間に調印或いは講和條約に参加しなかつた、対日講和に参加しなかつた国からして講和條締結の申出があつた場合には、三年間はあの條約のラインでと、こういうことが書いてあつてソ連中国が進んで希望するならば、無論日本政府としては講和條関係に入るということについては異存がないのみならず、得べくんば両国との間において、いわゆる話合いで平和を維持して行くということについては何も異存はありません。現に新聞だけの話でありますが、チヤーチル新首相ソ連話合いをしたいと、こういうことを言つている。その結果はどうなるか知りませんが、日本のごとき、敗戰敗余日本では、更に進んで平和状態の来ることを妨げるなどということは考えも及ばないことで、できれば各いずれの国とも講和状態に入る、殊に中国との間には多年の関係があることでもあり、殊に日本との間には政治経済その他において過去においても将来においてもますます親善関係をとらなければならんと思うのでありますから、この国との間に話合いができれば無論政府としては喜んでその話合いをいたしますが、これも相手のある話であつて中国が希望せざるのにかかわらずこれに対して講和を強いるというわけにもいかないし、これも單に政府努力ばかりでなく国民努力も必要であろうと思うのであります。又隣国の状態が平和状灘になければ、或いは統一ができるとか或いは内乱が治まるとかいう状態でなければ、自然やはり日本の治安も脅やかされるわけでありますから、日本としては中国と再び過去と同じような親善関係に入ることを希望せざる者は誰もないであろうと思います。ただ今日において直ちにできがたい事態にあるのであります。これは国民一致した努力によつて私は何か打開の途がないか、打開の途ができることを切望いたします。
  11. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 次に伺いたいのは、これは特に昨日あたりの西村條約局長の御答弁の中に我々が意外と思う御答弁があつたのでありますが、この点について総理大臣はどういうふうにお考えになつておられるのかという問題でありますが、日本がこの両條約によりまして今後とるところの態度が、ソ連或いは北京政府に対して或いは宣戰布告とみなされ、或いは侵略行為とみなされるか否か、又安全保障條約によつて日本に駐在するところのアメリカ軍隊の行動というものが中国或いはソ連に対する侵略行為とみなされるかどうかということは、昨日の西村條約局長なんかの御答弁によりますというと、日本がきめるような印象を與えるのでありますが、果してそうでありましようか、どうでありましようか。曾つて日本は過去において何でも国際上の問題は日本がきめるような印象を国民に與え、或いは当時の外務省にはそういうような伝統が成立していたのではないかというような心配もございます。例えば仏印に侵略してこれを進駐というふうに言う。これが進駐であるのか侵略であるのかは一体誰がきめるか。こつちできめれば侵略も進駐になるのか。この点について、やはりまだ外務省或いは国民の中に、こういう今首相のお言葉の中にあつたような相手国のきめるべき問題をこちらできめるというような考えが不幸にしてあるのじやないか。従つてその点について私は、中国の主権を誰が選択するかというような議論がなされていることは、新中国に対する、殊に中国国民に対する印象から、私は深く嘆くものでありまして、中国の正式の政権は言うまでもなく中国国民がこれを選択するのである。民族自決の原則は国連の最高原則一つである。総理もそのようにお考えになつていると思います。そうして又この両條約に伴つて日本がとるところの態度というものは、侵略或いはそれらの疑いを受けるということについては、日本だけがそのつもりでなければいいんだというふうには、まさかお考えになつていないだろうと思う。従つて相手方の声明、或いは相手がたの判断というものに対して十分の尊重をなさるお考えであろうと思うのでありますが、如何でございましようか。
  12. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 條約局長がどう説明いたしたか、私まだ聞いておりませんが、併し條約局長といえども、中国の主権、正統なる政府日本がきめるというようなことは言いもしないと思いますが、その條約局長の議論については條約局長からして弁明なり説明なり直接にお聞きを願います。併し私としては昨日もここに申した通り講和條約の相手方として日本には権利があるというふうに書いてありますけれども、しばしば説明いたした通り、仮に権利があるとしたところが、如何にその権利を行うかということは、客観状態考えなければならず、中国自身事情考えなければならず、日本との将来の関係考えなければならないので、仮に権利があるからといつてかるがるしくいずれかを選ぶということはいたさないつもりであるということは、しばしば申しておるわけであります。いわんや中国内政に干渉するような意思は毛頭ございません。
  13. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 講和、安保両條約のアメリカにおける議会の承認又は批准の問題に関連して、新聞で伝えられております議論の中に、アメリカ自身の中にも或る一部にはこの日本平和條約というものが、反ソ的な方向において少し行き過ぎているのではないかという議論が、責任のある人々の間にあるということが報道せられております。そうして又アメリカの現在のいわゆる厖大なる軍事予算、五百七十億ドルに上る軍事予算、そのために国民の收入の四分の一、一人当り三百八十ドルというものが軍事予算に用いられて行く。こういう方向が或いはインフレーシヨン、或いは恐慌というような破滅的な結果を惹起しはしないかということは、ニユーヨーク・タイムスなどの有力な輿論の問題にもなつている点であります。これらの点、即ち反ソ的な方向に進んで、そうして軍事予算というものの方向にのみ行くということには非常な危險があるということが指摘せられておりますが、首相はそれらの点についてどうお考えになつておられますか。  それから続けて伺いますが、中立ということはあり得ないということを先日もお延べになりましたようでありますけれども、今日の世界情勢では大きな国、例えばソ連とアメリカとが互いに中立ということはあり得ないかも知れない。併し小国がそのいずれに味方をしなければならないかということは大した意味を持たないで、却つてその小さい国にとつては非常な害を受けることがありはしないか。現にアジアにおけるインドその他の国が中立の態度をとつているということに対して、日本として何ら学ぶべきことがないというふうにお考えになつておられますか。この中立という問題についても、日本は中立ということは全く考えないでいいんだというふうにお考えになつておられるか、或いは却つて日本の今後の外交上の大方針としては、この中立ということも相当愼重に考えられるべき問題ではないかと思うのであります。これらの点についてはどういうふうにお考えになつておいででございましようか。
  14. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 現在講和條約批准についてお話のような議論があるかどうか承知いたしておりませんが、併しサンフランシスコにおける講和條約は、民主、共和両党の主な人が加わつて、そうして調印をいたしたので、私の承知しておるところでは、米国国会における批准は間違いないと安心して可なりというような気持で以て、私はサンフランシスコを立つたのであります。併しアメリカ国内の議論等については詳細は未だ聞いておりません。  それから中立はあり得ないと、こう申したのは、如何にして日本独立の安全を守るか、守り方としては中立條約によるということが考えられ得るであろうし、又その他の方法考えられるであろうが、併しながら中立條約では国は守り得ないということを申したのであります。又インドのごときは中立で以て立ち得るでありましようが、併しながら日本とインドとは国の大きさから言つてみても、地理上の関係から言つてみても、インドは中立で以て立ち得るから日本も立ち得るということは、言い得るかも知れませんが、言い得ないかも知れないのであります。インドとソヴイエトの間にはヒマラヤ山という大きな障壁があるので、インドは国防の上から言つてみても、仮にソヴイエトにインドを攻撃する意思が生じたという場合においても、そうたやすくできないでありましようが、日本関係は、そうインドが中立で以て受けたから、日本はと申しても、インドと同じ地理的條件も備えておらない国でありますから、日本独立の守り方については相当深く考えなければならないと思います。
  15. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 それでは第四の問題をお伺いしたいのでありますが、この講和、安全両條約締結前後に、日本が右旋回をしつつある、民主主義を放棄しつつあるというような印象が伝えられております。そうしてこれは先日アリソン公使の談話の中にも、多少そういう虞れがある、それに対して警戒しなければならないということを述べておられます。これらの一々については申上げませんが、これについて先程も松原議員意見を代表して申上げました通りに、総理は新憲法の作成者として、私は飽くまで民主主義を死守するという決意を持つておられると思うのでありますが、その中で経済上の民主主義というものを何によつて守ろうというふうに決意しておくれますか。第二には、政治上の民主主義を何によつて死守しようというふうにお考えになつておられますか。経済上の民主主義で我々が客観的に考えることは、経済上の民主主義で最も尊重しなければならないのは、いわゆる労働者の基本的人権、労働組合の権利、それから社会保障の問題であろうと思うのでありますが、これらによつて経済上の民主主義が守れるのではないか。又政治上の民主主義は、これは首相自身体験からも伺うべきことがあるのだと思うのでありますが、この政治上の自由というものが失われるのは、しばしば言われることでありますが、一朝にして政治的自由というものは失われるのではない。政治的自由の敵は、先ずその最初には、最も悪い場合を捉えて、そうして政治的自由を蹂躪する。併しそういういわゆるバツド・ケースにおいて蹂躪せられた政治的自由というものは、やがて広く一般にすべての多くの人々の政治的自由を脅かすものになるのではないか。先日の英国の選挙の直前に、英国保守党から出されましたパンフレツトに、英国保守党は共産主義と如何に鬪うか、その結論として、共産主義にミート、出会つて、そうしてこれを破る最善の方法は、ワイズ・ステイツマンシツプ、賢明なる政治態度と教育よりほかにないのであります。これに出会わないようにして追い拂つてしまえば、勝つたのか負けたのかわからない。相手を追い拂つてしまつてつたように言われても、これは勝つたことにも負けたことにもならない。英国保守党はそういう態度をとつておられることは、日本において吉田首相もそういう点については高邁な識見をお持ちのことと考えますので、これらの点について伺いたいと思うのであります。
  16. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 民主主義の確立ということは絶えず申しておるので、又、民主主義の確立、或いは民主主義の発展ということについては、アメリカ、イギリス、その他が非常に注意をいたしておるので、そのために日本民主主義を放棄する、或いは逆転するのではないかという疑いを持つておることは確かであります。又、日本の国内においても、やがて独立したならば、講和條約ができたならば、民主主義が逆転するだろうというような議論がどことなしに起つて来て、それが外国通信員の通信種となつて、そうして日本において逆転しはしないかという虞を持つておる外国の読者その他に訴えるということもあり得ます。又アリソンがどういうことでああいうことを言つたのか、新聞を見ましたけれども、これは抗議をすべきものだと考えて抗議をしておりますが、抗議といつても非常に四角張つた抗議ではありませんが、アリソンと私との関係においてはそう四角張つた話合いをするほどの他人の仲ではありませんから、まあ、いわばひやかし半分に申しておることもありますが、いずれにしても逆転しはしないかという疑いを持つておるのであります。そこへ持つて来て、殊にイギリスなどは、日本が再びチープ・レーバーで以て競争されたら厄介である、殊に保守党内閣はそういうふうな考えを持つて、でき得べくんば日本の経済或いは産業その他について制限を加えたいと考えており、そうして日本の競争力に対して恐れを抱いておることも事実であります。併し私は若しチープ・レーバーがいけないのなら、チープ・マネーでもいけないのじやないか、チープということは同じだから、外国も事情があるのだろうからして、資本のたくさんの所は従つて利子が安い。チーブ・マネーになる。労働力の豊富な所はチープ・レーバー、これは当然なことである。各国おのおの長所を以てその経済を律すべきものじやないかといつて議論をしたこともありますが、併しながら日本の競争力を、イギリスあたりは、過去の歴史もあることでありますから、いわゆるアンフエア・コンペテイシヨンと言つて攻撃しておりますが、併し政府も又国民としても、民主主義を逆転しよう、或いは健全なる労働組合その他を押し潰そう、或いは労働者の人権を破壞しよう、そういう考えは誰も持つておらないでありましよう。又それが事実に現われた場合は、それが自然国交に及ぼして来て、日本政府はああいうことを言つておるけれども、事実はこういうことなんだと言つて、攻撃も来るでありましようし、反抗も来るでありましようが、又我々或いは国民の多くは、民主主義を棄てようとか、或いは民主主義の確立は考えておつても、逆転しようという考えは世論の中にはないと思います。政府も又そういう考えをいたしておりません。
  17. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 それでは時間もございませんので、あと二、三の点について簡單に伺いたいと思うのであります。いわゆる普通世間で申します向米一辺倒というのですか、このアメリカに依存してそうして日本を国防経済の一環に巻き入れるということは、先程もちよつと申上げましたが、アメリカ国内においても国防経済がアメリカ経済を破綻に導くのではないかという問題を生じておりますし、或いは北大西洋條約において、ヨーロツパにおいても御承知のように英国がこの北大西洋條約等に基く財政負担によつて国民経済が破綻に瀕するのではないかという心配を持つております。で、日本の場合に、その賠償等の問題もある上に、この世界の一方にだけ片寄る、いわゆるアメリカだけに依存し、政治上も、軍事上も、経済上も殆んど独立というよりもアメリカに依存する、インデペンデントではない、デペンデントな関係に入つて行くことは、結局は最後には国民経済が破綻に瀕するのではないか。首相曾つて日本におけるインフレーシヨン及びそれに基く国民の間の苦しみというものを御覽になつて、そうして潔く内閣を投げ出されたことがありましたけれども、今度のような問題は、若し国民経済を破綻に導くと、これは單に一内閣の運命にとどまらず、日本国国民経済が危殆に瀕するのではないか、この点については首相は十分考えておられることと思います。  それから第二には、平和條約の中でやはり一番問題になりますのは、第六條(a)項但書というものであろうと思うのであります。これは言うまでもなく占領軍が撤退する、併し日本との約束によつていずれかの軍隊が駐在することも妨げないということでありますが、これは一言で申せば、現在イランやエジプトがやめようと思つておることを日本が始めるということになる点があるのではないか。この点について首相は勿論深い憂慮と苦悩とを感じておられることと思います。  それから第三には、これは安全保障條約の中の最も重要な点は、安全保障條約によつて、先日も本会議でそうう御質問がございましたが、これがどういう機構によつて動かされるのであろうか。そしてそれが日本の国会に対して責任を持つのであろうか。日本の国会に対しては全く無責任に、その安全保障機構合同委員会といいますか、何といいますか、防衛委員会といいますか、それは一体日本の国会に対して責任を持つのであろうか。持たないのであろうか。これは曾つて旧議会において尾崎咢堂翁は、人間がサーベルを下げているうちはまだいい、併しサーべルが人間を下げるようになつたらばどうなるかということを言つておられるのであります。同じ心配がここにあるのじやないか。この安全保障條約を実行する上のボデーが日本の国会に対してスポンシブルであり得るのかどうか。これはまだ行政取極などがきまつておらないというふうに言われますが、きまつていようと、きまつていまいと、日本首相としての総理大臣は、この安全機構の、安全保障條約を実行する機関が日本の国会に対して最大限の責任を有するものであることを御希望に相成るか。それともそういうことはどうでもいいというふうにお考えになつておりますか。この点を伺いたいと思うのであります。
  18. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 米国依存ということを言わるれば、アメリカは有難くないだろうと思います。日本独立を守るところは守り、そして依るべきものは依る、何でもかんでも、アメリカ任せというようなことをすれば、アメリカが財政的には勿論のことでありますけれども、氣持の上から、独立を愛せざる、自由を愛せざる国民、そういう国民は尊敬するに足らないということになれば、結局こちらが頼りたくとも頼れなくなると思います。でありますから、アメリカを頼り、アメリカへのみ依存して何でもかんでもアメリカのおつしやる通りというようなことは、これは私は断じていたさないつもりであります。  それから米国……、外国の軍隊の駐兵が……。
  19. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 安全保障條約を実行する場合の日本とアメリカとが、合同の防衛委員会とか、或いは共同委員会というものを作るのではないかというふうに伝えられておりますが、いずれにせよ、これはまだ行政協定がおきまりになつていないというお答えなんでありますが、きまつてつても、きまつていなくても、安全保障條約を日本で実行する機関ができるわけだと思うのです。このボデーが日本の国会に対して責任を持ち、レスポンシブルなものであるのか、それとも全く無責任に勝手なことを決定なさるものであるか。その点についてはどちらを首相を切望なさるか。
  20. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) これは、いずれどういう形態になつていわゆる機構ができるか、今のところはまだ海のものとも山のものとも、ないから、ないと申すより仕方がないのでありますが、いずれにしても日本憲法以上のものができるはずはございません。又いたしません。
  21. 羽仁五郎

    羽仁五郎君 最後に一言伺つておきますが、この両條約につきましては、御承知のように、この條約の中に書くことは必ずしも適当でないというような関係から宣言が附せられております。この両條約につきましては、日本国民が、首相自身深い憂慮と苦悩とを感じておられますように、国民の間に、この両條約をもうすでに衆議院では可決されたわけなんでありますから、この参議院において特に首相に伺いたいのは、この二つのものが條約として成立する場合には、これにつけて日本首相の深い憂慮と苦悩、そうして又日本国民の現在切望に勘えないその希望を表明せられるような或いは宣言、或いは声明か何かそういうことをお考えになつておられないでありましようか。その中の一番大きい問題は、言うまでもなく朝鮮休戰の早期の成功を国民は深く願つております。これは新聞の論説などを通じても首相も御承知のことであろうと思う。又首相自身朝鮮休戰が一刻も早く成立することを御希望になつていると思う。この両條約が実行されるにつきましても、或いは一般に日本の今日民主主義が健全に生長して行きます上にも、どうしてもアジア及び世界が平和の環境の中に置かれたいということは、国民のすべての人の熱望だと思うのであります。特にこの両條約の締結に際してこの朝鮮休戰というものが早く成功して、そうして日本が平和の環境の中に置かれたいということを切望する国民の気持というものを代表なさるようなお考えはございませんでしようか。
  22. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 朝鮮の擾乱の收まることは、無論先ほど申した通り、隣国において擾乱があれば、それが自然日本に影響を及ぼしますから、擾乱の收まることは切望してやまないのでありますが、それを條約が成立した場合に声明することが擾乱を收まる上において有効であるかどうか、或いは有害になる場合があれば無論声明をすべからざることでありますが、何かの形式で以て声明することが朝鮮の動乱を鎭定するゆえんであるということが考えられるなら、それは無論声明しますが、今日のところでは未ださほど具体的にこの問題は声明するとか、どういうことを、声明するとかということは考えておりません。   —————————————
  23. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 昨日に引続いて、今日は安全保障を中心にして首相にお尋ねいたしたいと思うのであります。  首相のかねがねお述べになりますとこうによりまするというと、日本講和後においていわゆる真空状態を生ずる。真空状態が生ずれば当然共産主義勢力というものが日本に侵路して来る、ダレス特使は直接侵略と間接侵略という言葉を用いまして、共産主義者勢力の侵入は日本に対して必至であるという言葉を使つておられるのであります。果して真空状態になるというと、直接侵略、例えば朝鮮海峽を渡つてソ連の勢力が、或いは東支那海を渡つて中共の勢力が日本に侵入して来るとお考えになるか。或いは又間接侵略の場合でも、いわゆる間接侵略というのは共産主義勢力による革命の場合を指しておると思うのでありまするが、これがやはり中共やソ連などの使嗾によつて早急に真空状態においてそういうことが発生するという工合にお考えになるかどうかということを、先ず第一点としてお尋ねいたしたいのであります。  それからそれに関連しまして、これまでの、終戰後歴史を見まするというと、いわゆる民主主義国が共産勢力に対抗するという意味で援助を與えておる場合が多いのでありますが、その援助を與えられておるところの勢力を見まするというと、いずれも非常に反動的な、或いは反民主的な、むしろ国民の大衆からは見離された勢力がいわゆる民主主義国の援助という形で援助を行われておるのであります。この問題につきましては、アメリカでもフイツシヤー教授が明快な論説を出しておるのでありまして、民主主義を擁護すると言いながら、実は民主主義に反する勢力を援助し、而もそれによつて歴史の進展の方向を逆転させるというようなことをやつておることは、これ民主主義を呼称しながら実際においては反動の役割を演じておるのだということを、明快に論断しておるのでありまするが、残念ながら今日までの歴史において現われたところの民主主義諸国によるところの援助というものが、そういうような形態をとつておるのではないかという工合に考えられるのであります。例えは中国の場合であります。中国の政権が、新らしい北京政権によつて中国が統一された。ところで中国のあの蒋介石政権が亡命せざるを得なくなつたのは、真空状態がそういうような情勢をもたらしたものかどうかというようなことについて考えて見まするというと、決してそうではない。むしろそういうような政権が成立すべき基礎が国民の間にあつたのだということを我々としてはどうしても結論しなければならんと思うのであります。こういう点につきまして、即ち先ず第一点として、一体真空状態なつた場合に直接侵略というものが起り得るのかどうか、或いは間接侵略というものも早急に発展する可能性を認めることができるかどうかという点、それから侵略を防ぐと称しながら、與えられる援助というものが、むしろ反動的な国民大衆から見離された勢力に対して與えられておる援助ではないか、これは歴史の発展の方向に反するものではないかという点について、首相の率直な御意見を承わりたいと思うのであります。
  24. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 共産主義の問題は、法務総裁が絶えず正確な調べを持つておられますから、法務総裁からお話します。
  25. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 先ず真空状態の発生によつて共産主義の直接又は間接の侵略が必至かどうかという御質問趣旨でございまするが、安全保障條約の前文にもありまする通り、現実の状態として日本国にその危險があるということは、これは否定できないと思います。ところでその危險はあるが、必至かどうかという点に相成りますると、もとより我が国といたしましても極力かくのごとき直接間接の侵略に対しては防禦の方法を講じまするから、必至であるとは思いません。併しながら十分にその危險はあるのでありまして、これに対して万全の措置を講ずるということは勿論必要なことと存ずるのであります。  それから次に、民主主義国が他の国に與える援肋というものが、多くの場合において反民主的なものに対する援助と、反動的な傾向が強いという点を御指摘になりましたが、私どものは、アメリカの日本に対しまする援助というものは、これは日本民主主義国として発展成長するという前提の下に與えられるものでありまして、決して反動的な勢力を助長するためという趣旨では断じてない、こういうふうに確信をいたします。
  26. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 只今大橋法務総裁の御説明によりまするというと、共産主義勢力の侵略の危險はある、併し必至ではないというお答えのように承わつたのであります。危險はあるとおつしやるからには、とにかくそれに対する万全の措置も必要となるでありましようが、併しその前に考えなければならんのは、一体真空状態なつた場合に、共産主義勢力が何故に、何の目的を以て日本に侵入しようとする危險、そういうような危險が今日存在するか、侵略の目的は何かということを重ねてお尋ねいたしたいと思うのであります。  それからもう一つの点のお答えでありまするが、民主主義国家として日本に防衛の手を差伸べてくれるのだということのお答えでありまするが、それも一応は了承することができるのでありまするが、併しながらこのあとに続くいろいろの問題を考えまするというと、実はアメリカの防衛は日本のための防衛ではなくて、アメリカのための防衛だということを我々は考えなければならんと思う。現にアメリカの国防総省あたりの見解によりますると、日本を防衛することがアメリカの防衛なんだ、日本のための、日本を主体としての防衛ではなくして、アメリカの極東防衛を完成するために、日本をその一環として防衛するという考え方が中心になつて生れて来ておるのだろうと思うのであります。こういう考え方から申しますると、アメリカの防衛は結局アメリカの防衛で、アメリカの繁栄のためであるということがどうしても結論されなければならんと思うのであります。で、そういう観点から申しまして、日本の防衛は結局はアメリカの防衛のための日本の防衛だ、こういうことになるのでありまして、主客顛倒をする結果になりはせぬかということを感ずるのであります。この点についてもう一度大橋法務総裁の御意見を伺いたいのであります。
  27. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 直接侵略又は間接侵略が何の目的で以て我が国を危險に陷れるかという点でございまするが、これは結局国外におりまする無責任なる軍国主義的な勢力が駆逐されておらぬというので我々は危險を感じておるに過ぎないのであります。その目的は侵略でありまするから、侵略の性質上おのずからその自的は想像ができ得ると考えます。  次にアメリカの日本に対しまする安全保障のための援助ということは、アメリカのための防衛である、こういう御説でございまするが、私どもは、アメリカの援助というものは日本のためであり、そうして又日本のために日本の安全を保障いたしますることが、アメリカのためにも、又世界の平和と繁栄のためにもなる、こういうふうな趣旨でアメリカがこの責任を負担されることと考えております。
  28. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 只今の御答弁の前の点でありまするが、日本の国内に無責任な軍国主義者が依然として駆逐されずにおる、これが侵略の目標になるという御答弁でありまするが、国内に若し無責任な軍国主義者が存在するとするならば、何も外国と安全保障條約を結んでこれは拂拭する必要はない、日本独立の主権の行動によつてこれを拂拭することができるはずであります。それをしも外国の軍隊によつて拂拭しなければならんという理由は私どもちよつと了解に苦しむのでありまするが、その点もう一度御説明を願います。
  29. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 国外におきまして無責任なる軍国主義が駆逐されずにおるということを私は指摘して申上げたつもりでございます。
  30. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 国内ですか。(「国外」と呼ぶ者あり)国外における無責任なる軍国主義勢力を拂拭するためということになりますと、ますます私は疑問になつて来るのであります。国外における軍国主義者の拂拭のために、なぜ日本を侵略する、日本を侵略する必要は全然ないじやありませんか。若し日本国内に軍国主義者がはびこつているというならば、世界民主主義の達成というような理想の下に、一応日本ソ連の軍隊が来ることも予想されないわけではありません。けれども、併し日本の国内にない、国外の軍国主義者の拂拭のためになぜソ連中国日本に侵略して来るのでありますか。その点を少しお答えを願いたいと思います。(笑声
  31. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 堀委員はよくおわかりのはずなのでございますが、殊更にそういうお言葉を頂戴いたしましたので、重ねて申上げまするが、堀委員は、外国が日本を侵略するのは何の目的であるかと、こう仰せられましたから、私は侵略でありまするから、その目的はおのずから想像がつくと、こう申したわけであります。軍国主義が拂拭される、それが目的だということを申上げたのではない。我々はどういう目的で侵略されるかは知れないけれども、併し侵略の危險はある。その侵略の危險のある原因は、未だ無責任なる軍国主義が世界から駆逐され終つておらんというのが、危險を感ずる動機でございます。
  32. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 時間をとりますので、そのくらいにいたしまして、先に進もうと思いますが、その次に、日米安全保障條約の問題でありまするが、この問題につきましては、同僚委員諸君から今までに相当質問がなされておりますので、私から繰り返すことは遠慮したいと思うのですが、ただこの日米安全保障條約の性格であります。これは、曾祢委員長からも昨日の質問において不平等な條約であるというようなことが述べられたのでありまするが、全くこの條約を見まするというと、双務的ではない、片務的な條約であります。日本には殆んど何の権利もなくて、義務だけが負わされている。アメリカのほうには権利だけがあつて義務は殆んどないというような形の條約になつておるのでありまして、丁度フイリピンとの間のあの四十七年三月の基地協定であります。或いは又これは日本の場合について申しますというと、三十二年九月の日満議定書であります。これは或いは黒田寿男君が衆議院において指摘したのでありますが、例の日韓保護條約と余り違わぬではないかというような感じがするのであります。若しこの日米安全保障條約というものが、主権対等の立場において結ばれる條約でありますならば、これは昨日も曾称君が指摘しましたように、ヴアンデンバーグ決議によりましても、やはり双務的な相互援助的な條約であることが必要であり、お互いに権利を有すると同時に、お互いに義務を負うというものでなければならんはずだと思うのでありまするが、ところが残念なことに、この日米安全保障條約におきましては、そういうような双務的な関係は全然規定されておらん。全く片務的な條約になつておる。丁度エジプトにおきましては、御承知のように、最近三十六年の條約を破棄いたしまして、そうしてイギリスの駐屯軍に対して撤去を求めるという声明をやり、今日近東方面の問題の中心をなしておるわけでありまするが、羽仁君も今指摘されたように、今やエジプトがやめようとしておることを日本においては始めようとしておるというような表現でこれを説明されておるのでありますが、どうもその性格から申しましても、日米安全保障條約というものが対等の條約ではない、不平等の條約である、権利だけがアメリカにあり、義務だけが日本にある、こういうような條約ではないかと考えられるのでありまするが、その点につきましてもう一度総理から明白に、この條約の正確な御答弁を煩わしたいと思うのであります。
  33. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 條約問題の正確なる説明をさせるために條約局長から代つて説明をさせます。
  34. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 御答弁申上げます。アメリカ側が申しますことは、堀委員と逆の事柄であるのでございます。この條約によつて、アメリカは日本に兵を置きまして、外部から来る武力攻撃に対して日本守つてやるという重大な義務を負う、それに対して、アメリカといたしましては、対等の相互援助関係に入るために、同様にアメリカに対する援助を受けたいところであります。けれども日本といたしましては、平和憲法上軍備も持ちませんし、自衛権の有効な行使手段もございませんから、先方の期待する通り、相互援助関係に入ることができないことを認めるという立場でございます。この日米安全保障條約は、アメリカにとつて片務的であつて日本にとつて一方的な利益を與えるものではなかろらか、こういう意見が開陳されたほどでございます。つまり片務的という言葉は当らないと考えるのであります。片務的とは、アメリカから起る声であるということは、曾祢委員の御質問に対し私が御答弁申上げたところであります。日本といたしましては、平等の形式を日米安全保障條約においてとるべきであるということについては、同感でございます。併しながら、ノース・アトランテイツク・バクト式の完全な相互援助條約関係に入ることは、合衆国といたしましては、ヴアンデンバーグの決議があつてできない以上は、実際上可能な範囲、限度において、相互平等の規定を設ける以外にないわけであります。従つて日本側から、外部からの武力攻撃に対して日本を防衛するために兵を置いてもらいたいという希望を表明し、前文第五項にあります通り、合衆国は、「平和のために」現在若干の軍隊を日本の国内に置くことになつたのであります。要するに、希望の申入れと承諾とのこの関係において、両当事者は完全に平等な立場にあるわけであります。そうしまして、平和のために日本の希望に応諾して兵を置くという中には、日本の希望の原因となつたような事態が発生した場合には、合衆国としては必ずこれを阻止する用意があるとの意思が明白に含まれておるわけでございます。この点はたびたび申上げた通りであります。又第四條によりましても、本格的の安全保障体制ができ、又国連によつて日本地区の平和と安定が推持されるまでは、この日米安全保障條約によつて日本地区における平和と安全は確保されるという両国政府間の考えにこの條約は立つておりますので、第四條から見ましても、合衆国は、日本に対する防衛の責任を負つておるということは、断言できるわけであります。  なお又申上げたい点は、堀委員が御引用になりました本格的な安全保障條約におきましても、相互援助義務の規定は、極めてゆとりのある條文になつておるということであります。北大西洋條約でも、第五條を御覽になりますればおわかりになりますように、締約国は武力の行動を含めてその必要と認める行動をとつて助ける、とあるだけであります。武力を行使して防いでやるという條約上の義務は決してございません。而も必要なる行動というのは各締約国が認定することになつております。今年になりましてできましたフイリピンと濠洲、ニユージーランドの安全保障條約におきましては、更に緩和されておりまして、締約国は憲法上の手続によつて適当な措置をとる用意があることを宣言するという、一方的な意思の表明になつております。こういうのが、本格的な安全保障体制における締約当事国間の相互援助の義務を規定しておる條項の規定の仕方でございます。武力行使を含む條約上の義務を如何に表現するかは重要な問題であり、各締約国にとつて憲法上の大きな問題を含んでおりますので、極めてゆとりのある緩やかな形式になつておるわけであります。かような條約に比較しますれば、日米安全保障條約におきましては、現に日本国内及びその附近に合衆国軍隊が存在するという事実があり、而もこの米国軍隊に対して外部からの武力攻撃が加えられることがありましたら、それは即ち直ちに合衆国に対する武力行使とみなすことが他の條約においては明文化されております。こういう点を考えますと、我々としては、日米安全保障條約に双務的乃至は義務的規定がないという御非難は当らないと感ずる次第でございます。
  35. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 只今西村條約局長から日米安全保障條約の性絡について北大西洋條約その他との比較の上にお話があつたのでございますが、併しながら安全保障條約が事実上日本とアメリカとの主権対等の立場において結ばれた條約でないということは、何としても我我は拭い去ることができないのです。それは相互援助的な規定を含まない、或いは双務的でない、片務的でないというような議論はともかくといたしまして、実際上の問題としてそういう性格を持つておるということは否定できないと思う。又その成立の過程から見ましても、恐らくダレス特使が来朝されたあの二月の時期からこの問題が持ち上つてつたのだろうと思います。ダレス特使の当時の演説や或いは声明を見ましても、日本国の希望により、或いは日本政府の要請によりというようなことが強く謳われておるわけであります。あの頃からこの問題が具体化して来たのであろうと想像できるわけであります。主権対等の立場において若しこういう條約が必要であるとするならば、むしろ独立の完成後にこれをやつても差支えなかつたのではないか。何も講和條約と並んで早急に、而もその行政協定の内容も発表できないような現段階において、これを締結する必要はなかつたのではないか。日本が完全な独立を回復した後において、若し必要とあれば日米安全保障條約でも、或いは太平洋安全保障條約でも結ぶがいいのじやないか。而も、これは昨日同僚委院から問題として提出されたわけでありますが、例えば中ソ同盟條約の第一條の後段の規定が、当然この日米安全保障條約の規定に適用されるということも考えられるのでありまして、ましてや私が先ほど質問いたしました真空状態の問題にも関連して参るのでありますが、日米安全保障條約によつてアメリカの軍隊が日本に駐屯する、日本の国内に軍事基地が幾つも設定されるということになり、而もその軍事基地を出発点とし、或いは日本に駐留する軍隊が、アジアの安定というような名目にしろ、とにかく戰争に参加するというような場合も想像されるのでありまして、そうなりますというと、日本戰争を欲しないにもかかわらず、結局は日本がアメリカと戰争する国の侵略を受けることも考えなければならんと思うのであります。そういうわけで、この安全保障條約そのものが、主権対等の立場において結ばれた條約でないということ、並びにこの條約が存在することによつて日本が非常な危險にさらされる。それから何もそう急いで、こういうような條約を結ばなくてもいい。日本独立を完成したあとで結構ではないか、危險はあるが必至ではない。共産勢力の侵略の危險はあるが、必至ではないと、大橋法務総裁も言つておられるのでありますが、必至でないとするならば、独立完成後において国際情勢を十分に勘案して、安全保障條約が必要であるとするならば、そのときに初めて結んでも遅くはなかつたのではないか、というようなことが感ぜられるのであります。この点につきまして、もう一度御答弁を願いたいと思うのであります。
  36. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 御質問の第一点は、日米安全保障條約は、この平和條約が発効いたしまして、日本が完全に自主独立の国家となつてから締結していいのではなかろうか、こういう点であつたと思います。平和條約によりますと、平和條約の効力発生と同時に、日本は完全なる自主独立の国家となります。従つて第六條に言う通り日本の占領軍も平和條約の効力発生と同時に、その性格を一変いたすわけでありまして、その後は九十日間の撤退の船待ちをする軍隊に過ぎなくなるのであります。平和條約を作成するに当りましては、客観情勢と、日本の特殊な国家性格を併せ考えますれば、今申上げたような平和條約だけを作つて置きまして、平和條約効力発生後、米国、或いはその他の関係国との間に安全保障体制に関する條約を締結することは、平和條約によつて得ましたる国の独立と平和とを守るゆえんではございません。従つて政府といたしましては、合衆国と対等の立場におきまして、平和條約発効によつて自主独立を回復した後における日本地区の平和と安全の維持について、適当と認める措置をとることにいたしたのであります。このことは政府の当然の責務であると考えるのでございます。  御質問の第二点は、日米安全保障條約を締結することは、中共その他共産陣営の国に対し、中ソ同盟條約にある通り攻撃的意図を示すものではなかろうか、こういう御質問であります。これは平和條約と安全保障條約は、前者は日本を自主独立の国家として国際社会に復帰せしむるための條約であり、日米安全保障條約は平和條約によつて独立を回復したあとの日本地区における平和と安全の維持を目的とするものであつて、実に世界平和のための條約であり、毫も他国に対する脅威の意図を含んでいない事実を無視るしたものでありまして、御見解には賛成いたしかねる次第でございます。
  37. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 私がお尋ねしたのは、そういうことも含んでおりまするが、一番大事なことは、講和後において日本が主権対等の立場においてこれを結んでも結構ではなかつたか、條約局長の説明では、講和が成立すると同時に主権国家になる。そのときの万全の措置のために、ともかく講和條約と同時に安全保障條約を凖備し、これを結んだのだというだけの説明であります。私の質問申上げたのとは若干食い違いがある。私の申上げるのは、大橋法務総裁が、現に共産主義勢力の危險はあるが必ずしも必至ではない、こう言つておられる。若しそうだとするならば、何も急いで日本独立国家にならん前にこういうような講和條約を結び、そうして講和條約と同時にこれを発効せしめるという意味はなくなるのではないか、むしろ危險がある、そうして安全保障條約が必要である、こういう工合に考えられるならば、この講和後において、日本が主権を回復した後において、アメリカと対等の條件において安全保障條約を結ぶべきだ、こういう工合に私は主としてそこに重点を置いて質問申上げた。あとの中ソ同盟條約がどうのこうのということは、單に例証として申上げているだけです。その点を重ねてこれは首相から御答弁を願いたいと思うのであります。
  38. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) お答え申上げます。直接或いは間接の侵略が、講和條約が締結されれば必至であるかどうかという御質問に対しまして、私は必至とは言い切れないかも知れないが、十分危險がある、こう申上げたわけでございます。政府といたしましては、それだけですでに日米安全保障條約の必要性を通感をいたしておるわけでございます。必至でなければ今から結ぶ必要はないではないかというのが堀委員の御意見でございます。政府といたしましては、必至とは言えないにいたしましても、十分なる危險がありまする以上、この国民を守り、又この国を守るためには、政府の責任といたしましては、十分早期に、間に合いますように、この條約を締結する必要がある、こう考えておる次第でございます。
  39. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 只今の大橋法務総裁の御答弁、まだ納得行かないのです。共産主義勢力の侵略の危險がある、併し必至とは言いかねるという御答弁であります。ところがその危險があるからと言つて、若し日本が日米安全保障條約のような軍事條約に参加するということになりまするというと、当然中ソ両国を敵として見るということになることは、これは当然だと思うのです。若しそうだとするならば、日本は求めて敵国を作るということになるのでありまして、これ以上の危險なことはないのではないかという工合に感じられるのであります。そういう意味から申しましても、むしろ日米安全保障條約というようなものは、必要があるとしても、もう少しあとに延ばすべき問題ではなかつたかということが感じられるのでありまするが、重ねてその点大橋法務総裁の御答弁を煩わしたい。
  40. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 堀委員は、日米安全保障條約の締結が、日本といたしまして中ソを敵としたことに相成るので、却つて一層危險ではないか、こう言われたのでありますが、若し堀委員の言われるようなことが仮にありといたしまするならば、そういう危險なことは、講和條約後であろうと前であろうとすべきでない、こうならなければならんのでありまして、にもかかわらず、講和條約のできたあとでやつたらよかろうという御意見は、私にはよく意味がかわりません。我々政府といたしましては、現実の危險を予防いたしまするために、責任ある政府といたしましては、かような條約を凖備することは当然のことであると、こう考えた次第でございます。
  41. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 時間がありませんので、十分にお尋ねできないのが残念ですが、先に進みます。  安全保障條約乃至は日本の自衛という問題と憲法の問題についてお尋ねいたしたいのであります。これは昨日の同僚議員の質問の中にも出ておつたと思いますが、大橋法務総裁の意見によりまするというと、日本憲法の第九條第一項並びに第二項は、何も自衛戰争というものは否定してはおらん、それから又陸海空の戰力を持たないという場合には、日本の戰力を持たないことであつて、外国の戰力をそこで以て否定しているのではないというような答弁があつたように記憶しているのであります。独立国家であるからには、勿論日本は外国の侵略のあつた場合に、とるべき措置はとらなければならんと思います。何も外国の侵略があつたから手を挙げて侵略に委せるという必要はないと思うのであります。独立の国家であるからには自衛をすべきだと思います。併しながら、日本憲法の第九條の解釈といたしまして、大橋法務総裁の言うように、自衛の戰争はこれを認めている、それから又外国の戰力による自衛は何ら憲法と牴触しないということになりますというと、交戰権を認めないというあの二項の後段の規定というものが、全然無視されることになる。アメリカの軍隊は或いは日本の戰力ではないかも知れない、アメリカの戰力であるかも知れない、併しながら日本の国土を防衛するという関係においては、日本の戰力に準ずべきものだ、而もそれが外国と戰争する、外国から侵略を受けて戰争するという場合に、交戰権を認めないという憲法上の規定から申しますならば、日本戰争の主体となつて戰うことはできないということは、憲法上はつきりしていると思うのでありますが、その点に関しまして、先日の大橋法務総裁の御答弁では極めてあいまいであつたような感じがするのであります。そこで自衛戰争と交戰権を持たないということについての御見解、もう一度大橋法務総裁にお尋ねいたしたいと、こう考えるのであります。
  42. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 憲法第九條におきまして、国の交戰権を認めないということは、これを明文を以て規定いたしてございます。従いまして日本といたしましては、たとえ相手が侵略をいたして参りました場合においても、自衛権は当然ございまするが、その自衛権を行使いたす方法といたしまして、戰争に訴えなければ、これを十分に防禦することができないというような事態に立ち至りましたならば、日本といたしましては、固有の自衛権を行使する有効な手段を持つておらないことになるわけでございまして、そこでこの自衛権を行使する有効な手段を持たない日本のために、必要な援助をアメリカが行うことがあるというのが、この安全保障條約の意味であると解しております。
  43. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 只今の御答弁では、私の、交戰権との関係は十分説明されておらんと思うのであります。私がお尋ねしたのは、アメリカの援助によつて日本の侵略を防ぐ、それは一応認めるといたしまして、果してその場合に、日本が交戰権を持たないのに、戰争の主体となり得るかという問題であります。この点をもう一度御答弁願いたいと思うのであります。
  44. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 憲法の明文におきまして、国の交戰権は認ないと書いてあるのでありまするから、日本戰争の主体となることはないと思つております。従いまして、どうしても戰争に訴えなければ、日本の自衛権を行使することができないというような場合におきまして、日本を援助するためのものが、この日米安全保障條約の趣旨であると、こう考えておるわけであります。
  45. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 日本戰争の主体となることができないという御答弁で私は満足する。そこで今度もう一度安全保障に帰るわけでありまするが、私どもは国連憲章の精神というものが世界の平和の上に最も重大な意義を持ち、今後の世界平和もこの国連精神を拡充することによつて初めて可能だという考え方を持つているのであります。勿論国連の運営につきましてはいろいろ問題もありましよう。併し我々は、この国連の精神を今後ますます拡充して行かなければならぬと感じているわけなんでありまするが、国連の憲章によりまするというと、国連による集団的安全保障というものが最も本筋の安全保障の形として現われて参つているのであります。日米安全保障條約は、いわば地域的な取極に当るわけでありまして、地域的な取極が国連憲章の中に認められたことについては、それぞれ理由のあることであり、今更私はそれを重ねてお尋ねはいたしません。併しながら、本筋は飽くまでも国連による集団的安全保障というものが大事なものである、地域的な取極は、これを補足する意味において認められているものだということを私どもは感じているわけであります。併しながらこの地域的取極は、これまで西村條約局長も御存じのように、例えば北大西洋條約ができた、或いはその他の安全保障條約ができたことによつて、却つて二つの世界対立というものを激しくしているということも、これも否定することができないと思うのであります。で、日米安全保障條約も、その意味におきましては国際的な対立をむしろ促進する一つの要因になると思う。日本安全保障は、むしろ地域的な取極は第二段、これは国連による集団的な安全保障を中心として、それを軸として日本の安全を考えることが最も正しいのではないか、こう私どもは考えているわけでありまするが、この点について首相乃至は條約局長のお考えを伺いたいと思うのであります。
  46. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 安全保障問題につきまして、国際連合憲章による一般安全保障が第一手段であり、これを補完する意味において国際連合憲章の範囲内で地域的安全保障体制を考えるべきであるとの御意見に対しては、全然同感でございます。平和條約の前文におきまして、又平和條約の第五條におきまして、日本国際連合に加盟の意思を表示し、国際連合憲章の原則を遵守する意思を表明し、連合国もこれを歓迎すると共に、條約の第五條におきまして、(a)項及び(b)項におきまして、相互の間に国際連合憲章第二條の大原則従つて行動するという約束をいたしておるゆえんもそこにあるわけでございます。ただ残念ながら現実の事情といたしましては、今日の国際連合による安全保障は、安全保障理事会における大国の拒否権の濫用、その結果として生れました第四十三條の特別協定が未だできていないというふうな事態からして、国連憲章の規定いたしておりまする普遍的安全保障体制は麻痺しておるわけであります。それがどこから来ておるかという点は論述いたしません。この現実の下におきまして、アメリカ、イギリス又はソ連もその一つでございますが、これら世界の大国というべき国々が全部おのおのその安全保障体制確立のために、精神を一にする国と地域的安全保障体制を取結んでおります。堀委員は、アメリカのみを挙げられましたけれども、ソ連もその衛星国とは相互援助條約を結んでおりまして、それらの條約には国際連合憲章を謳つております。  こういう現象が歓迎すべきかどうかは別問題でございます。少くとも日米安全保障條約に関する我々の立場も、日本安全保障は、第一段階において国際連合憲章による一般保障に基礎を置き、これがなお今日では完全でない不満足な状態にありますから、国際連合憲章の枠内においての地域的安全保障体制として日米安全保障條約を締結いたした次第であります。この点は、調印当日におきまするアチソン長官も、明白に、この條約は、国際連合憲章の粋内の下に平和愛好国の間に結ばれている安全保障体制の一部をなすものであると明言されております。
  47. 堀眞琴

    ○堀眞琴君 最後にお尋ねしたいのは、中立の問題であります。そのほかにも行政協定や何んかの問題についてお尋ねいたしたいのでありますが、時間もありません。昨日も曾祢委員からこれは白紙委任状を渡すのだというような質問をいたしておりますが、私は何もこれ以上重ねて行政協定についてはお尋ねしない。中立の問題についてただ一つだけお尋ねしたい。先ほど羽仁委員質問に対しまして、首相は、中立をとつている国はある、例えばインドのごときがそれである、併しインドの場合は、地理的な條件がその中立を可能にしている、ヒマラヤ山がソ連とインドとの境にある、ソ連が侵略しようとしても、到底侵略できるものでない、ところが日本は地理的な條件からいつてその中立を維持することは非常に困難であるという御答弁であつたように記憶する。確かにインドと日本の場合は地理的な條件は違うと思う。併し中立という観念は、むしろ日本のようなどつちの国が取つても、非常にそれが有利に使用し得るというようなものでなければ、中立の考え方というものは有効には出て来ないわけなんです。若し南米の端つこの国や、或いはアフリカの末端の国が中立を守れば守れるでありましようが、守ろうとしたところが、それは何ら世界政治の上に大きな意味を持つものでないということは、これは私から申上げるまでもないことだと思う。米国とソ連とが火花を散らして対立しているその真つただ中に日本が置かれている。そういう所であればこそ、中立という考え方が非常に有効に世界政治の上にその役割を果すものだという工合に考えられる。例えばヨーロツパの場合について見ましても、ベルギーやオランダが、十九世紀のあの時代に、或いは二十世紀の初頭にかけて、あの国が強国間のいわば戰争の真つただ中に置かれておつたために、中立というものが有効にあそこで行われた。或いはスイスにしましても、十八世紀のあの時代において、強国間のいわば緩衝地帶としてスイスが重要な意味を持つていたからこそ、中立国としての地位を保つことができたのであろう。日本も若し南米の端つこか南アフリカの端つこにあるという国家ならば、中立なんという問題は必要がない。ところが今申上げましたように米ソの対立の真つただ中に置かれている。そういう地理的な條件にあるからこそ、日本の中立ということが一番大事なのだ。尤も中立と申しましても、スイスのような、或いは曾つてのオランダ、ベルギーのような永世中立国として日本を持つて行けという意味ではございません。いずれの陣営にもつかないという立場をとることこそが、日本の安全を保障する一番近い途ではないかということが考えられますので、その点に関して、先ほどの羽仁委員に対する答弁の上からは、十分に中立という考え方を捨てなければならんという根拠は私は出て来ない、地理的な條件は、むしろ日本の場合のほうがもつともつと重大価値を持つておるということを感ずるので、首相の答弁をお願いしたい。  これで終ることにします。
  48. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 例に引かれたべルギーはすでに中立を放棄しております。スイスも放棄せんとしております。スイス、ベルギーさえも中立が守れないのでありますから、日本の中立を守ることを考えるのは危險だと申すのであります。それ以上は、議論でありますから、お答え申上げる必要はないと思います。
  49. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それでは、ここで午後二時まで休憩をいたしたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  50. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) では午後二時まで休憩いたします。    午後一時一分休憩    —————・—————    午後二時十三分開会
  51. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 午前に引続き会議を開きます。
  52. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 吉田総理質問する前に、私は一言、かねてから委員長にお願いしてある問題を明確に御答弁願いたいと思います。即ちそれは、我々国会内における言論の自由並びに我々が国会において論議いたしましたものを全国民の耳にも周知させるという、その言論の自由の二つの内容であります。第一の内容につきましては、すでに議院運営委員会において認められ、第二の問題については、いわば議長の権限でございますが、これについて私は議長にもお願いし、議院運営委員長にもお願いし、又條約特別委員長にもお願いいたしました。我々は外におきましては、この講和論議をいたしますと、必ず武裝警官によつて取囲まれる、国会内で辛うじて得ました言論の自由が、一度公報になつて外へ出るときには、たくさんの伏字になり、つい先般の私のいたしました三十分にも足りない演説において、十一カ所の部分が削除されている。このような状態においてこの二つの條約を審議するということは、いわば我々が、八千四百万の国民と国会議員が切離されてしまつておるということ、そういう條件の下にこの二つの條約が審議されたかどうかということを明確に私はしておきたいので、あえて議事に入る前に、質問に入ります前に、委員長にその後の善後処置についてお尋ねいたしたいと存じます。
  53. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) お答えいたします。兼岩委員がおつしやつた問題については、これは議運でも問題になりましたし、又議長も考えておられる問題でありますので、議院運営委員長に私は御連絡をとりつつありますが、未だ十分なる連絡がとれません。できるだけ早く連絡をとりまして、議長にもお目にかかつてよく御相談をした上、はつきりした御返事を申上げるようお約束いたします。
  54. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 いつ答弁がして頂けますか。
  55. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 一両日中に御答弁申上げます。
  56. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私のこれからの質問の速記録に間に合うように善処して頂けましようか。
  57. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) できるだけ善処いたします。
  58. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それでは私は許されましたる時間の範囲内において、吉田総理大臣に対して質問を申上げたいと存じます。  先ず第一は、今回の二條約によつて最も悲惨な運命に陷るであろうと予想されますところの約百万の同胞、琉球、小笠原、奄美大島の信託統治の問題でございます。御承知のようにインドが参加しなかつた理由は二つあります。一つは台湾、膨湖島が中国に返されない、又樺太、千島がソヴイエトに返されないならば、中国ソヴイエトにこれは敵対することになる、アジアの平和がそれでは守れぬじやないか、これが一項目であります。  それから第二項といたしましては、日本に進駐軍が残り、琉球、小笠原が日本に返されない。これでは日本独立国になつたのではないじやないか。この極めて自明な二つの理由によつてインドが参加されなかつた。この二つのうち他はあとで触れるといたしまして、この信託統治、インドの不参加の理由となつておりますところの信託統治、これに対しまして、吉田総理は衆議院を初め参議院の数々の御答弁において、ダレス、ヤンガー両氏が主権があると言つたからあるのだ、こういう答弁をしておられますが、総理にお尋ねいたします。この信託統治諸島の我らの同胞百万は、今後日本人なんでしようか、アメリカ人になるのでしようか。
  59. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 信託統治の法律上の問題でありますからして、條約局長から説明いたします。
  60. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 平和條約第三條によりまして信託統治は……。
  61. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 簡單に答えて下さい。アメリカ人なのか、日本人なのか。
  62. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 同條の文言に明白でありますように、同地に対する日本の主権は放棄されておりませんのみならず、積極的に、この平和條約を作成いたしました米英両国政府は、明白に同地の主権を日本に残すものであると明言いたしております。その結果、同地域は日本国の領土であるところの性格を失うものでもございません。従つて同地域に住む同胞諸君は依然として日本人として残るものでございます。その辺の事情は同地の住民諸君、代表者たちもよく了解しておらるところでございます。
  63. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 時間の節約上、長い答弁でなくとも、日本人なら日本人、アメリカ人ならアメリカ人という答弁で結構なんです。委員長、注意して下さい。  そこで進めますと、然らばお尋ねします。日本人であるならば、日本国憲法は適用されますか。
  64. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 第三條の規定によりまして、條約発効後、同地域における立法、司法、行政の三権は合衆国が行使することになつておりますから、憲法の全般的適用はないと考えるほうが正当かと考える次第であります。
  65. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 日本国憲法憲法の適用されない、そういう部分に日本の主権が残つておるというような、そういう憲法の解釈をするならば、当然憲法を改正されなければならんと思いますが、憲法改正なくとも我らの同胞百万が日本人の憲法を受けないで主権はあると、こういうふうに認められるのですか。憲法の改正を必要とするかしないか、答弁願います。
  66. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 憲法によりましては、その国の領土の拡張乃至縮小は憲法の改正によらなければならないという條項を置いておるものもございます。日本憲法はそういう條項はございませんので、日本の領土が拡張し又は縮小するに従つて憲法の適用ある地域的範囲も拡張し又は縮小すると考える次第でございます。
  67. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 注意して下さい。長たらしい説明は要らんです。日本国憲法が適用されるか、されぬか。
  68. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) これは又長くなるとお叱りを頂戴するかも知れませんが……。
  69. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 注意して下さい。委員長
  70. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 憲法のすべての規定は、国家のすべての領域に平等に全部適用される性質のものではないのでありまして、憲法学者の見解によりましても、憲法の根本趣旨は国家の領域の全部に適用があるけれども、或る部分の條項に至つては必ずしもそうは行かないのであります。
  71. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 委員長、注意して下さい。されるのか、されんのですか。一度で答えて下さい。されるのか、されないのか。
  72. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 平和條約第三條の規定と矛盾しない範囲内において敵用があるけれども、矛盾する場合には排除されるのであります。
  73. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 一部分つまり敵用されない部分があるというわけですか。イエスかノーか言いなさい。
  74. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 平和條約第三條は、立法、司法、行政の三権を合衆国が行使する権利があると規定しております。具体問題として、どの程度合衆国がこの権限を行使するかは将来の問題でございます。将来における日米両国間の話合いの結果によつて御答弁できる次第でございます。
  75. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 答弁者を取替えて欲しい。ああいうふうに不明確な答弁を長長されることは非常に迷惑です。僕がこれからやつて行かなければならん時間をくだらんことで食つてしまうから……。日本国憲法を適用されないのか。次官なら次官でもいい。全面的に適用されるというのか。あなたがた調印して来たのじやないか。
  76. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) それじや答弁します。取替ります。日本国憲法は委任統治領には敵用される。
  77. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 全面的に……。
  78. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 併しながらアメリカの権利に基きまして制限される範囲には適用がない。部分的適用であります。
  79. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それで明確になりました。即ちそのような主権が残る部分に憲法が適用されないということになれば、部分的にしろ当然これは憲法の改正に関係する問題である。従つてこういうものを国会が承認するためには憲法の改正と同様の手続が要る。即ち憲法九十六條により、両院の三分の二及び国民投票によつてこの両條約が承認されるのでなければ、さような憲法を変更するような條約には、まあ国会で承認することはできんと考えるが、総理大臣はこれに対して……極めてこれは議論によつて明快になりましたが、そういう必要はないと考えておられますか。あると考えておられますか。その一点で結構でございます。
  80. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 憲法改正の必要はないと考えております。
  81. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 的外れの答弁です。懇憲法改正があるかないかということを聞いておるのじやなくて、かような憲法の改正を当然予想されるような両條約の承認のためには、国会の單なる多数決の承認では不十分であつて、当然両院の三分の二以上の賛成と国民投票を経過しなければ、憲法の存立の根本を脅かすという点について、それをイエスと考えておられるのか、ノーと考えておられるのか、そのことなんです。
  82. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) ノーと考えております。
  83. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 よろしい、わかりました。つまりこれはですね、この百万の同胞が、島々が日本から持つて行かれたと私は解釈して、そうして今そういう必要はないという極めて乱暴な政府の解釈をはつきりと記録にとどめて、次の問題に進みます。  それは国連憲章の七十九條の問題ですが、この信託、若しもこれが信託されるとすれば、直接関係国によつて信託統治協定というようなものが締結され、それに基いて統治されて行く、日本はこの直接関係国だとすれば、日本はこの信託統治協定に入るのですか、入らんのですか。入るとか入らんとか答えて頂きたいですね。説明は無用です。
  84. 西村熊雄

    政府委員(西村熊雄君) 信託統治協定に入りません。
  85. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 入りません……。これはいよいよ主権がないということがはつきりいたしました。総理がヤンガーとか、ダレスとか言われましても、以上の二つの質問によつて、主権のないということは、もう諸君が、総理閣僚が認められなくても、これを聞いている全国民がはつきり認めると思いますので、こういつた法律論はやめにいたしまして、総理一つこの信託問題について最も重大な点をお尋ねしたいと思う。それはこういうことなんです。日本の今度の二つの條約によつて日本の全部の島々がアメリカの軍事基地として利用されるのに、なぜわざわざこの信託統治というものを作らなければならなかつたかという政治的な御説明が得たいのであります。
  86. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 最も簡單にお答え申上げます。極東の平和と日本の安全のためであります。
  87. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これにつきまして総理は、そういう次官の答えたような抽象的な答えより、もつと進んだ答弁をしておられて、戰略上の必要からだとお答えになつておる、衆議院では……。そうして芦田前総理はこれに対して、撤退した場合の、日本本国からアメリカ軍が撤退した場合の監視をするために、この島々を信託統治にしたのではないかという質問をしておられる。又数日前、我々のこの條約委員会のこの場において、民主党の前参議院議員である伊東隆治氏が、将来これを基地として、将来日本かち米軍が撤退した場合に、それらの島々が爆撃の基地として考えられるという意味の証言をしておられます。私は吉田総理に直き直き、この点をどういうふうに総理はお考えになつておるか、次官その他の口を通さないで、これは非常に重要な問題でございますので、総理直き直きお答え願いたい。
  88. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 重要な問題でありますから専門員からお答えします。
  89. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 爆撃の基地にはならないと存じております。
  90. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これ以上押問答するのは、つまりませんから、これは全世界の人たち及び日本国民の判断にまかせて、行政協定の問題のお尋ねをしたいと思います。それは安保條約第三條に基きますところの行政協定の問題であります。これは、これからの日本人にとつて、我々を含め、国会議員を含め、総理をも含め、これは我々の運命に関係して来る問題に発展して来ると考えますので、これは一つ詳細に御答弁願いたいと思うのです。それですでにこの問題ににつきましては、衆議院で去る二十五日に民主党の三木幹事長がやつておられる。これに対して、総理がじぎじき五項目に亘つて答えてるのです。ところが、それを何回読み返してみましても、名僧と智僧の山の中の禪問答という恰好で、大衆には全くわからない総理の答弁なんです。一つ今日は総理もそういう坊さんの裝いを取り捨てられまして、大衆にわかるような言葉で、以下私の質問いたします項目についてお答えが願いたいと存じます。  第一は、米軍出動の協定方法の問題であります。朝鮮の問題及び今後の事態の発展によりまして、米軍が、曾つてマツカーサーが主張したごとく、或いはリツジウエイ将軍が最近いささかそれに論及しておられるごとく、或いはアメリカの国会においてしばしば問題になつておりますように、満洲が爆撃されるとすれば、当然中国日本の軍事基地に対して爆撃を加えて来ることは、これは北京放送その他から見ても明確でございますし、これは当然の措置である。ところが、その場合に非常に迷惑をいたしますのは、その軍事基地の周辺におります農民、市民、この罪のない、日本国民の受ける迷惑なのであります。これに対して吉田総理は、こういう爆撃があり、そうして日本が報復爆撃を受けるような場合に、どういうふうに政府と協定されるかは未定だが、連絡はあると思う、通知して来るんじやないかというふうに総理は答弁されておりますが、もう少しこの重大な問題について明確な御答弁は頂けないでしようか。
  91. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 満洲爆撃があるかないかというようなことは、むしろ仮定の問題であります。従いまして、そういうことに至る場合においてはどうかという話であつて、その話に対する総理の答弁であつたはずであります。
  92. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうするとあれですか。どういうのですか。もつと、はつきり言つて下さい。仮定じやなくて、現実の問題として。あなたは仮定の問題だから答えられぬというのですか。総理のまねして。(笑声
  93. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 満洲爆撃を想定して、その場合にどこからか日本の或る部分の基地から飛び出すことを予想し、そうして兼岩君はそういう状態であるなら、その近所の人たちが再び爆撃を繰り返されるじやないかという御質問であろうと思います。だから私は、それは満洲爆撃というようなことは国際的の問題になるのではないか、それにはそれ相当の手順があつて初めてなされるもので、さような場合においてはこうだということを総理が御答弁になつた、こう申上げておる。
  94. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕は草葉君から世界政治のお説教を受けようと思つていない。(笑声日本政治的な責任のある総理総理としてこういうような事態が、これは仮定の問題でなくてすでにマツカーサーはそれを主張したために解任され、リツジウエイ将軍もこれについて言及しておられる。現にアメリカの上院下院において現実にこの問題が討議されておる。そうしてそれらに対処するための両條約ではないか。だとすれば当然今僕の質問したようなこの心配は、日本国民、国会議員を含めて当然持つておる心配であり、そういう問題を解決してこそ総理大臣である。従つて総理はこれに対して明確なる考えを持つておられる。だから一つ総理からこの問題に対して御答弁が得たいのです。
  95. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 兼岩君の御質問がはつきり呑み込めませんが、御質問只今の信託統治の基地から米軍が出動して、そうして仮に満洲というお話でありますが、満洲を爆撃したときに、その相手国が再び基地を爆撃に来るのではないかという御質問でございます。
  96. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 何ですか。それが答弁ですか。(笑声)そんなものは責任ある答弁ですか。委員長、整理しなさい。そんなものはまじめに聞かれるか。そんな答弁。
  97. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) よく私が申上げることを兼岩君は聞いてから御質問を願いたいと思うのですが、兼岩君の御質問趣旨がはつきり呑み込めませんが、如何なる御趣旨の御質問でございますかと念を押して問い返す次第でございます。
  98. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 あれほど明確な質問がそういうふうに聞かなければわからんというのは頭がどうかしておられると思うが、それでは形を変えてもつと明確な形で質問をいたしましよう。総理大臣お答え願いたいね。(笑声総理は防衛戰争は否定せぬと言つておられる。宣戰布告の場合、この防衛戰争における宣戰布告の場合、日本が自主権を持つてできるのか。アメリカが一方的にすでに爆撃を開始してしまつて、お前の所も宣戰布告しろ。こういう形で来るかということをお尋ねしておるのです。
  99. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) それは只今兼岩君が読まれたこの前の質問に対して総理が答えられましたように、そういう場合には十分相談がありましようということを答えられたと申したのです。
  100. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それは大変な答弁です。それは全くとんでもない答弁です。宣戰布告に対して権限を持つておるのは国会です。国会がですね、宣戰を承認しないのに、あなたは相談によつて政府が宣戰の布告をきめるのですか、政府が。
  101. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 宣戰布告ということは午前中に法務総裁が答弁されております。
  102. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 繰り返して下さい。一言。一言。
  103. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 日本では宣戰布告というのは放棄しておるはずです。
  104. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると防衛戰争の場合は、宣戰の布告なしで戰争に入るのですか。(笑声)答弁にならんじやないか。
  105. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 日本におきましては交戰権というものを否認いたしておりまするので、防衛戰争という観念は日本については成り立たない、そういうふうに考えております、政府といたしましては。
  106. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 総理大臣は、防衛権は、あとで速記録で調べた上だが、そういうことを言つたことになつておる、自民族の防衛の権利はある。我々も同様に考えておりますが、従つて防衛戰争になるのです。やはりその場合に宣戰の布告をするのかしないのか。宣戰の布告をするとすれば国会の承認を経なければならんのかどうかという、それは全く明確な、三歳の童子でもわかる質問だと思うのですがね。
  107. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 我が国が自衛権があるということは、これは疑いのないところでありまするが、交戰権を否認いたしておりますから、自衛のためでありましようとも戰争に訴えるということは、我が国としてはなし得ないところであります。従いまして、戰争を前提といたしまして考えまするところの宣戰の布告ということは、これはたとえ国会たりとも我が国においてはなし得ざるところでございます。
  108. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうするとあれですな。どんどんと空襲を受ける、そうすると知らん間に戰争になつてつて行く、こういう政治状態を予想しておられるわけですね。誰が答弁するのか。(笑声
  109. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 今御質問継続中かと思つておりました。我が国は如何なる場合においても、事実上にありましようとも、戰争状態に入るということはあり得ないのでありまして、それがために我が国が戰争に訴えなければこの領土を守ることができないというような場合には、これは我が国といたしましては、如何とも手段がないのでありまするから、そこでこのアメリカの援助によりまするところの日米安全保障條約というものの存立の意義があるわけでございます。
  110. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そこまで応答されたのなら、あとで改めていずれ質す点がありますから、次の問題に入ります。  第二に、山の上の名僧と智僧との禪問答によりますと、費用の分担、この答弁が全くわけのわからん答弁です、総理の答弁は。行政協定によつてこれからのアメリカ軍の駐在の費用の分担なんですが、この行政協定によつて予算を組んで、いずれも国会の承認を求めますという答弁をしておられますが、その組まれたる予算を国会が修正又は否決したときにはどういうことになるでしようか。
  111. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 修正又は否決されないように予算を組みたいと思つております。(笑声
  112. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういうばかばかしい答弁は、僕がそれを違つた言葉で言い直すと、これに青票を投じたような連中は、安保條約違反として引つくくるぞという答弁と全く同じだと思う。だから、もうばかばかしいそういう答弁を受けて、この問題を押問答するのは全く無意味なことだから、次に入ります。  それは一定の、つまり基地設定の原則なんですが、これから米軍の基地それから演習場、そういうようなものがこれから全国民の上に大きなこれは問題になつて来ると考えまするが、この演習地或いは基地のために、これから土地の取上げとか漁区の取上げになつて行くのでありますが、それにつきまして私がちよつと一、ニ調べただけでも大変な不当な補償が行われておる。例えば青森県の三沢では、━━━━に亘る飛行場が、坪十銭三厘、十円じやないですよ、十銭三厘ですよ、という値段で、作物の補償も何にもないという形で召し上げられておる。それから靜岡県の伊東の厖大なる━━━━━を、漁夫一人に四千円というような、年額八億円からの收獲のある漁場に対して漁夫一人に四千円。そこで私はこの席上から大蔵大臣に対して、終戰後今までずつとこの六年間にどういう土地を取上げ、漁区を取上げ、これは私は今一例を言つたのですが、そういう全資料をこの委員会に提出することをここで委員長を通してお願いして話を進めますが、こういうような演習地、基地の土地の取上げ、漁区の取上げというようなものを行政脇定できめるということは、これは明らかに私は憲法で定められた国民の生活を脅やかすもので、こういうことを行政協定できめるということは許すべからざることと私は考えますが、如何なものでしよう。
  113. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 行政脇定の結果といたしまして、憲法上当然国民の権利義務に関係ある事柄は、これらの法律によるべきものと思われます。そういう事柄が行政協定によつて必要と相成るという場合におきましては、当然それがために政府といたしましては必要なる法律案を国会の御審議に提出するということは考えております。
  114. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕の質問しているのは、そういうあとになつて国会で出て来るというのではなくて、当然国会で審議を受けなければならない、生活権を奪うということを、行政脇定できめることが憲法違反でないか、即ち憲法を改正せずしては両條約を承認するわけには行かんじやないかということを僕は聞いている。
  115. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 国会において法案が可決されるということを前提といたしまして或る種の協定をいたします場合におきましても、それを憲法違反とは考えておりません。
  116. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 都合のいい解釈ばかりされますので……。もう一つ、ついでに第四の問題として米軍の特権の限度の問題ですが、治外法権とか裁判権の問題。即ち基地の中で日本人の権利義務がどうなるか。それから基地の外といたしましても例えばアメリカのかたと日本国民とが喧嘩した、殺し合いをやつたというような場合、この裁判がどういうふうにかけられるかという問題は、この基地つまり基地内外における日米間の問題につきまして、こういうことの権限を行政協定に委ねるということ自身憲法違反と考えますが、それは如何ですか。
  117. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 別に憲法違反とは考えておりません。
  118. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 見解の相違で、考えぬ、考えぬと言つて国民の権利を、憲法で保障されている権利を片つ端から蹂躙して行かれるのは、吉田政府のお家芸の最も立派な御行為の一つだから今後もそれを継続して行くという御答弁だとしかとれないのですが、この行政脇定について最後の一点をお尋ねいたしますが、この行政協定によつて日米合同委員会がきめられ、その日米合同委員会の協議によつて法律案が準備され、予算案が準備されると仮定いたしますと、明確に日本政府の上にもう一つ政府ができるということ、これは言葉の上でどうごまかすにもごまかしようのない明確なことだと考えますが、その点如何でしようか。
  119. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 予算案、法律案は、日本政府、即ち内閣が準備するのでございまして、内閣以外の如何なる機関もこれに関連してそういう活動をされるということはあり得ないと思います。
  120. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 内閣とこの委員会関係はどうなりますか。委員会というのはできないのですか。
  121. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 行政協定の内容におきまして、委員会ができるかできないかというようなことは今後相談によつてきまることになつております。
  122. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 きまつて、できたらどうなります。
  123. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 委員会を置くことが妥当であると両方で相談をいたしました際は、委員会の設置というものが問題になる。
  124. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 できたらその権限どうなります。政府とその委員会の権限ですね。
  125. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 委員会というものが、仮にそういうものを設けるのがいいということになつてできましたところで、これは日本国内におきまする権限は何らないわけでありまして、憲法には全然関係ありません。それは内閣の責任においてそういうものが必要であると認められれば、そのいろいろな日本側の内閣で準備すべき事柄についての下相談をするというような役割をするにとどまるものではなかろうかと想像をいたしておりまするが、何分にもまだどういう委員会ができるか、できないかということもわからない状況でございます。
  126. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、その答弁は、如何なる話合いがあろうとも、政府及び国会の上に更にかぶさるような性格の日米合同委員会は絶対にできないということを、総理或いは総理に代り、同様の責任において、閣僚は明確にこの速記録の上で答弁できるのですか。
  127. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) 明確に答弁いたします。
  128. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 どういうふうに、どういうふうに。(笑声)明確に答弁……。
  129. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) さような、内閣或いは政府の上に権限のある機関は決してできることはないということを明確に御答弁いたします。
  130. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 できれば、諮問機関ができるのですか。できたとすれば。
  131. 大橋武夫

    国務大臣(大橋武夫君) どういうものができるか、それはわかりませんが、いずれにいたしましても、政府に対して権限のある、政府の上の政府、そういうような性質のものはできないということだけを申上げておきます。
  132. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 どうしても総理は優秀なる閣僚に讓つて答弁されないので、じきじき総理がどうしても答弁しなければならん質問をこれからいたします。(笑声)  総理サンフランシスコの会議でこういうことを言つておられます。「中国については、我々も、中国の不統一のため、その代表がここに出席されることができなかつたことを最も残念に思うものであります。中国との交易の日本経済において占める地位は重要でありますが、しばしば事実よりも重要性を誇張されておることであります。」この総理の演説について私は三点質問が申上げたい。  第一点は、中国の不統一のため代表者が出席することができなかつたと本当に総理は今でもそう思つておられましようか。
  133. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) そう思つています。
  134. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 若しもそう思つておられるとすれば、これは私が下手な言葉で言うよりも、或る雑誌に作家の野上さんがこういうことを書いている。これを読んで私は一つ総理のそのそう思つているということがどのように私は間違つているかということを考え直して頂きたいと思う。「最も長い喧嘩相手中国である。従つて仲直りには中国こそ床柱を背負つて坐るべきであるのに、肝腎な正客は招かないで手打ちをしようとする、これはやくざの仁義にも劣る仕方ではあるまいか。尤も中国を名乗る人間が二人あるから、どちらが本物かを見極めさせた上でという建前らしい。頭から胴体から申し分なく揃つた男と、手首か足首だけにつている男とを見比べてどちらを一人前の人間とするか、一暼で認定し得ないほどの痴呆扱いに日本人がされるのは情けないが、それはまだよい。最後の認定さえ誰かに教えてもらわなければできないとあつては、これこそ本物の痴呆者であろう、」こういうふうに作家の野上さんが言つておられますが、総理が、不統一と言われますその根拠はどこにございましようか。私は中国が今日ほど四千年の歴史において確固たる統一を得たことはないと考えておられますが、総理は不統一とおつしやるのはどういう根拠でございましようか。
  135. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 北京政権と台北政権の二つが現存している。そうしてこれらに対しておのおのの立場で連合国が承認をしているという事実であります。
  136. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 ちよつと次官にお尋ねしますが、あなたは総理の演説を代筆されたのですか。
  137. 草葉隆圓

    政府委院(草葉隆圓君) 総理に代つて答えております。
  138. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 総理の演説それ自身の演説の内容を聞いているときに、次官であるあなたが答弁できるわけがないじやないですか。正気の沙汰じやないね。
  139. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 十分総理のお心持を承知してお答え申上げております。
  140. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 国会法に基いて総理自身の答弁を私は要求します。
  141. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 併し今申上げた通りの点において、総理の申されたことに対する十分の答弁となつております。ただ何回おつしやつてもその点については同様であると思います。
  142. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そういう僕は強引な横車を押されることを非常に吉田内閣のために遺憾だと思いますが、もう少しこれはあとの質問で問題をはつきりさせることにして、先きへ進んで参りましよう。  そういうふうに二つの政府が並立しておる。私どもの認識では、台湾というものは何か中国の百分の一の人ロしか持つていない、アメリカが一個の不沈空母だと言つておるが、これは一握りのもので、而もそれはアメリカの第七艦隊によつて辛うじて守られておるものではありませんか。そうして今日も、今日の午前での質問に対しても、総理みずからが中国との関係については国民的に非常に努力してこれの打開を図つて行くということを答えておられるが、さてこの中国日本に対する態度なんでありますが、去る八月十五日の有名な大公報の、日本国民への公開状というので、單独講和承認することは中国ソ連を除外したもので、中国両国への宣戰布告に等しいという有名な言葉がしばしば国会の内外で引用されております。政府は又これを恰かも鬼の首でも取つたように、それだから真空状態ができるというふうに、これを悪く、先ほどの法務総裁がその典型でありますが、悪用しておられますが、大公報をずつと読んで参りますと、次にこういうことが書いてある。「我々は日本国民に対し、この問題に対し諦めた態度をとらないように要請する。現在の日本の植民地の状態は不当であり、この状態は変えられなければならないし、又変えることができる」と日本国民を激励し、そうしてその結びの一句として、日本国民に対して次のような呼びかけをしております。「アジア及び世界における戰争を防ぎ、諸君の美しい国とその子孫の幸福を守るために、我々は日本国民諸君が帝国主義的侵略に対抗し、永遠の平和のために我々と手を結ぶことを希望する。」これが大公報の八月十五日の日本国民への公開状の結びの一句であります。総理にお尋ねいたしますが、あなたは午前の答弁で、国民と手を携えて打開して行きたい、中国日本の経済関係を打開して行きたいと言つておられますが、それは果して可能でしようか、それはあなたのその場当りの答弁ではないでしようか。
  143. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 大公報が八月十五日でございましたか、申しておりますが、この宣戰布告とみなすというのはただ大公報の言うていることであつて、恐らく多くの、殆んど全部の中国の民衆は今度の平和條約に対しましては、大変平和のものと認識していると考えます。そういう意味において、今後十分この状態が認識されますならば、お互いに手を取つて東亜の平和に進み得ると考えております。
  144. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 次官が総理の悪いことだけ真似して、そういう抽象的な美辞麗句で国民をごまかそうとしておられるから、私は具体的な問題を出して参りましよう。平和條約の二十六條によりますと、明らかに中国及びソヴイエト、或いはインドが今後どのような講和にいい條件を出して来ても、それと同一又はそれより悪い條件ならばとにかく、いい條件では締結できぬということになつております。こういう條約にみずからサンフランシスコまで出掛けて行つて調印し、而もそれを麗々しく国会へ出しておられる総理が、国民と共に手を携えて、これから中国その他との間を打開して行くと言われているのが、そもそも如何なる根拠でそういう白々しいことが言えるでしようか。
  145. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 二十六條をよく御覽になりますとおわかりになりますように、日本人のためになるような、よりいいような友好な條約であつたら差支えないのであります。ただ相手国に日本がより以上、今まで與えている以上の有利な條件をやる場合においては、これはほかの国にもやらなければならない、こういうのであります。よくこれは條約の内容をお読みになるとわかります。
  146. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 今の次官の答弁が全く嘘であるということは、これから同僚及びこれからの審議それ自身が明確にして行くと思いますが、それじやもつと具体的に質問します。これは総理に答えて頂きたいですね。頼りない次官の答弁では全く迷惑するんです、僕は……。それは総理が出られましたサンフランシスコ会議において、ソヴイエトの代表グロムイコ氏が、ソヴイエト日本講和條約に対する意見を出しておられます。それはたくさんいろいろな條項がございますけれども、それを私は要約いたしますと、三点の、何と総理がこれを言われようとも言葉でこまかすことのできないよさを三つ持つている。その第一は、信託統治などというような日本憲法も適用されないようなそういうものがないということが第一点、第二点は、アメリカの軍隊が、如何なる外国の軍隊も撤退して、日本人による、日本を守るための、日本の軍隊ができるということを規定しているということ。それから第三には、軍需産業は制限するけれども、平和産業と貿易は無制限に発達を認めること。従つて平和産業と貿易のために必要な商業的な海運、これに使う商船隊の建造は無制限にこれを許すというこの三つの條項でありますが、この三つの條項をソヴイエトから申入がありました場合に、平和條約の三十六條は、この日本国民にとつて明らかに有利なこの三つの條件、これは中国もこれに同調いたしておりますが、これを認められますかどうか。これは次官では到底答えられない大きな問題だと思います。総理の答弁を求めます。
  147. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) グロムイコがサンフランシスコ会議で申しましたことは、中身は、その三つもありますが、ほかにもう十あります。全部で三項出しましたうちの三つを兼岩君はおつしやつたのでありますが、それは御都合のいい三つかも知れませんが、現在ソ連が要求しておりますのは十三であります。従つてこの十三の項目に対しましては、四十八の連合国は皆これに不賛成をいたしております。
  148. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 あなたは、僕はいいこと三つ説明しましたが、悪い十を証明する義務があるでしよう。証明しなさい。
  149. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 昨日お配りしましたお手許にあるサンフランシスコ会議の議事録の資料を御覽下さい。
  150. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 構わん、構わん、明確に証明しなさい。僕も証明したのだから、あなたも証明する義務がある。
  151. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) これを読みます煩を避けて、お手許にそのために資料を差上げてございますから、よくこれを御覽になるとおわかりになります。
  152. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これは答弁にならないですね。あなたは二十六條は、私はこの二十六條は、明確にこれと同等の條件でなければ絶対に受入れないという條項である。ところが、あなたは、いいことなら承認すると言つておられる。それじや三年経てば自由だと書いてある。ところが三年経ちましても、この安保條約によつてアメリカの軍隊がとぐろを巻いている。そうしてこの巻いたとぐろというものは、これはどうしても解きほぐすことができない。なぜかというならば、双方の意見が一致しなければ撤退しないというのですから、日本が幾ら撤退して欲しいと言つても、向うさんが撤退しないと言えば、これは無限に続いて来る。この三年という條件、これがどういう内容を持つているかということは、これは賢明なる同僚諸君が明確に察知しているところだと思いますが、それはそれといたしましても、この二十六條の條項がもとよりいいものならば……そうするとあれですか。このいい悪いは、次官は問題にしたくないのだけれども、次官の答弁によると、これを決定するのは日本国でなく連合ですか。いい悪いを決定するのは連合国だとあなたは説明しましたね。しかと、さようですか。
  153. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 決してそうではないのです。二十六條によつてこの平和條約が効力を発生しましたあとにおきまする主権は日本にあります。従つてそれは二十六條によりまする今後の締結日本がいたすのであります。
  154. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、さつきの速記は修正されるのですね。
  155. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) さようなことは申していないはずであります。
  156. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 よろしい速記録をあとで調べて明確にしましよう。  そこで総理サンフランシスコの演説の内容ですが、「中国との交易の日本経済において占める地位は重要でありますが、しばしば事実よりもその重要性を誇張されている。」これを総理質問しますと、僕が総理に代つて答弁をしたほうが明確なくらいなんですが、余りに不当に誇張されてはいかんということを言つておるのだと、こう答弁されるのです。これは同義反復と言いまして、何ら答弁になつていない。これは論理学のABCを知つている者なら、こういう答弁は詭弁であるということは明確です。そこで、それをもつと僕は、はつきりさせるためにお尋ねしましよう。一体、総理中国日本との経済的関係の重要度を然らばどの程度と考えておられるのでありましようか。
  157. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) これは昔から隣国の関係でもあり、親しくしておつた関係もありまするから、当然関係は密接であることは申上げるまでもないのでありまするが、併し中国との貿易がなかつた日本は立ち行かないというような、いわゆるそういう議論は、それはむしろ最近の中国の貿易というのは過大に評価し過ぎておる、こういう点であります。
  158. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 一つも数字も品目も言わないお伽話のような答弁を頂戴したのですが、そういうお伽話でなくて、これは将来の問題じやないのですよ、現在例そば昨日の新聞に八幡製鉄の社長が、この状態を続けて行けば金融恐慌が必至である、恐るべき状態だという意味のことを書いておられる。又同じ今日の日本経済新聞を見ましても、今春以来の景気停滯でだんだんと日本の経済状態が困灘になつて来て、輸入引取資金の金融と滯貨金融など大口の資金需要が重なつて行き、不渡手形がどんどんと殖え、一日平均四百件からの不渡手形、月九千件、約一万に近いような不渡手形が出始めた。それで機械産業、繊維産業、出版産業、商事産業、などの広範囲な不渡手形が出始めた。銀行としてもいよいよもう面倒を見きれぬ深刻な段階に入つて来て、大企業として日本で自地共に許されておる第一流中の第一統の一、二の商社が二億円乃至三億円銀行から借りているが、この銀行からまさに死刑の宣告を受けようとしておる。若しそういうことになると、下請企業から取引先など広汎な部分がこれに続いております。更に電力事情による生産減や輸出の不振などから資金の回転が一層鈍化するとすれば、この状態は極めて重大だということが、これは今朝の日本経済新聞にあるのですが、あなたは、このような驚くべき、恐るべき日本のこの経済的破綻がどこから来ていると考えられておられますか。あなたが答弁できなければ、経済閣僚でもいいですよ。
  159. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 私は驚くべき恐るべき、経済上の破綻とは考えておりません。
  160. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 成るほどあなたは次官の月給をもらつて、どの会社が潰れようと、どの銀行が倒れようと、どの工場が潰れようと、あなたは痛くも痒くもないから、誠に正直な答弁だと思う。併しそれが若し政治家であり、吉田内閣の次官だとしたら、これは吉田内閣というものは私は恐るべきものですね。(笑声)これは僕がやらなくても、自由党が捨ておかれまいと思う。私は到底答弁がないと思うから、事態をはつきりさせますが、鉄鋼石と石炭、これをアメリカから買えば二十七ドル、中国から買えば十三ドル、これのために日本の製鉄原料が倍以上になるために、製鉄としてできて来た製品が四割から五割高、いやしくも一国の全産業の鉱工業、農業、運輸、電気、あらゆる産業の全部の基礎になるところの製鉄の鉄鋼の価格が四割も五割も高いということは、これはそもそもどこから来るか。それから日本の最も重要な一切の化学工業の基礎であるところの工業塩、この塩が中国から持つて来れば七ドルですが、これをはるばる地中海から持つて来れば二十五ドル、三倍で持つて来る。このためのコスト高、こういう状態が今日の今私が今朝の新聞で読み上げた日本の深刻なる状態になつて来るということをあなたは知らないのですか。それが吉田内閣の外務次官の脳味噌ですか。
  161. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) どうも今の御質問は答弁の限りではないと思います。
  162. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 答弁はできんとおつしやる。こういう無誠意な答弁、経済閣僚はどうですかね。それでは委員長に要求します。今の次官の答弁は国会を侮辱する許しがたい私は失言だと思います。答弁の限りでないと、僕が数字をきちつと挙げてやつておるのに、そうして日本の現在実業界がこんな悲惨な状態になつているのに、君は答弁の限りではないなどと、これは直ちに手配して一つ通産大臣にでもあとで答弁を求めて、そして次官の答弁はこれだけにして……、それではいま一つこの問題を、私は幾らでも挙げられますけれども、もう一つ、それは電力危機の本質、この本質に触れて、それは次官の答弁では固りますね。(笑声)これは若しも総理の答弁がいやでしたら通産大臣でも譲歩いたしましよう。この電力危機の問題、これを吉田内閣は如何にも電力危機というものが雨が降らない天を怨めとか、何とか博士に飛行機を飛ばさせて人工の雨を降らせよう、そういう科学技術の愚弄的言辞を弄しておる。ところが実際はこの電力危機のよつて来たる本質は、たつた━━━━の占領軍がどれだけの雷燈を使つておられるかと申しますと、私の調査したところによると、全八千四百万の国民の使います雷燈消費の約二割、又占領軍の使つておられる産業、交通に消費せられる動力用の電力が、八千四百万の全産業の使います動力用電力の約一五%、これによつて我々国民は文字通り暗い生活をやつておるわけなんです。これをやめれば、つまり講和條約の第六條において、但書でなくて、インドの主張せらるるごとく、全占領軍が撤退せらるるならばこの問題は直ちに解決しまして、翌日から電力の問題は解決するのであります。この事態を、やれ、雨が降らないからどうだ、電源開発に外資導入がどうだというような、顧みて他を言うというような私は吉田内閣の態度国民を最も欺くものと考えますが、この水につきましては、第一次吉田内閣以来、水政省問題その他で吉田総理は非常に水の問題については蘊蓄の深い権威者なんでありますが、(笑声)果して水が足りないのが、私の質問した講和條約においての第六條の問題が電力危機の本質であるか、総理は一体どちらと考えておられるでしよう。
  163. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) これは電力の問題はもつと本質的な問題があつて、この現在占領並びにその後に起ります駐兵という問題とは、本質的の問題では違つていると思います。
  164. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 今の質問は次官の答弁を僕は聞いても何にもなりませんから、総理がいやならば、総理の命によつて経済閣僚から正確に答えられることを要求いたします。そうしてサンフランシスコの会議における総理の演説の次の項に参りますと、総理はこういう演説をしておられる。「近時不幸にして経験が示しているように、共産主義的圧迫と專制をともなう陰險な勢力が極東において不安と混乱を広め、かつ各所に公然たる侵略に打つて出でつつあるのであります。日本の間近かにも迫つております。」成るほど総理と十メーターも隔たらない所に共産党を代表する者が(笑声)間近に(笑声)こう質問するのであります。総理は先ほどから横を向いて答弁しようともされないのは、多分僕はこの点にある(笑声)と考えておりますが、併し総理が神経過敏と申しますか、取越恐怖に陷られておるのじやないか、それを少し御納得願う意味で、私は最もいい例を一つここで申上げて御答弁を願いたいと思う。それは去る二週間ほど前に、大きな活字で「ソ連、北海道周辺で大演習、眼前に浮ぶ潜水艦、連日轟く砲声、」などという、これもその驚くべき活字で書いている。それで私の知つている人も、さて大変だ、いよいよソヴイエトは北海道周辺で大演習をやつて攻め込んで来るのじやないか、ところがどうでしよう。吉田総理大臣の命を受けた国警本部の調査では、行つて調べましたところ、これは新聞に、ちやんとその後の新聞に出ている。この威嚇的照射、サーチライトと見えたのは、実は漁業に使う漁火であつた。それから連日轟く砲声というのは、土木工事用のダイナマイトであつた、こういうことを、誠に滑稽な話ですが、答弁している。これは吉田総理が堂々たる体格でがつしりかまえておられるように見えても、平家が曾つて水鳥の音に驚いたように、伏せ隠れ、誠に私は取越苦労をしておられるのじやないかと考えるのであります。そこで私はこの際総理大臣に対して一つの提案を申上げて総理の答弁を求めたい。それは、この條約に関係しており、且つこれに関連して賑々しく輿論を賑わしております日米経済協力、或いは東南アジア開発への参加、これによつて中国と切断されておる日本の経済を建直そうという誠にあだな希望と申しますか、夢みるような空想的な希望を現内閣は持つておられる。併しながら先ほど私が説明いたしましたように、中国の石炭と鉄鉱石と塩を輸入し、中国へは、それが供給されて日本の工業力によつて中国の建設の基礎になるような工業的物資を輸出することによつて、鉄鋼価格を引下げなければならない、つまり日本中国がたとえ社会体制、向うは新民主主義、こちらは資本主義としましても、この二つの体制が協力して行く、若しも吉田内閣及びこの條約に考えておるように、中国ソヴイエトを敵視するとして、その結果として鉄鋼石も石炭も、塩も入らないとすれば、日米経済協力もできなくなれば、東南アジア開発に参加するということもできなくなるのであります。そこで私は吉田総理に、この私の今申上げる主張なり、建設的な提案が正しいか、それとも吉田内閣が繰返しておられる中国と切断して日米経済協力と東南アジアの開発ができるというこの問題について、中国ソヴイエトもアメリカもイギリスも入るような国際会議による檢討を希望されるかどうか。次に総理はほかの会派に対しての御答弁も非常に抽象的で、その場限りの言い逃れでありますが、今日は幸いにも私はその空言なり言い逃れさえも聞かなかつた総理からは、そこで私は、そういう言い逃れとか空言をやめられて、今言つたような問題について、私は、真に国を愛するならば、総理が陣頭に立つて、こういつた国際的な会議に、両陣営の参加するところの国際会議に出られたならばどうか。幸いこの暮にはモスクワにおきまして世界の、文字通りの全世界の実業家と、経済学者、農業経営者その他の参加するところの国際経済会議が開催されますので、総理自身がその陣頭に立つて、お茶坊主のようなお取り巻きの政治家とか、幇間のような御用学者とか、国を愛することを忘れてしまつた実業家などと少し話をやめられて、こういう文字通り世界の第一流の人士と会談を交えられるという大きな日本建設の方針を持つておられないかどうか。御答弁願いたいと思います。
  165. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 中国との貿易関係につきましては、昨日も曾称君の御質問に対しまして、縷々総理が御答弁申上げておつた通りであります。必要があり、又希望するならば、上海に在外事務所を設置してもいいというぐらいに大きな協力をする心持はすでに申上げた通りであります。又聞くところによりますと、モスクワでこの冬に何か会讓があるそうでございますが、独立いたしておりません日本はまだ占領下にありまするから、いずれ主権が回復した後にいろいろの世界の会議等にも列席し得ると存じます。
  166. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 今の問題は次官では答えられぬはずですがね。総理がどういう考え方を持つておられるか、総理日本を率いてそういう……。次官に別に耳打ちされた模様もありませんし、そういう勝手な独断的な答弁はこれは無効だと思います。委員長の善処方を申入れます。
  167. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) よく総理の御意思を体して御答弁申しております。まだ独立いたしておりませんから、さような会議には今かれこれ意見を発表する機会ではないと思います。
  168. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 次官としてはそうでしよう。私は総理に尋ねているのです。
  169. 草葉隆圓

    政府委員(草葉隆圓君) 総理も同様であります。
  170. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうですか、総理
  171. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) その通りであります。
  172. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 私は同僚議員及び傍聽者の諸君が、この僕の一時間に亘る応答を聞かれて、果して私の質問が正しかつたか、或いは総理代理の閣僚、次官諸君の答弁が正しかつたかは、これは又同時に速記録を通して全国民に行つて国民自身が判断すると思いますので、そういうような問題の質問はここで打切りまして、私に與えられておりますいま少しの時間を利用いたしまして、平和條約並びに安保條約を、我が党はこれをどう見ているか。これに対して吉田総理がこの二條約によつて本当に日本が救われると考えておられるかどうかという点を質したいと思うのです。恐らく総理は答弁されないと思うのですが、これは法律を私は無視するもので、非常に許しがたい問題であり、特に日本国民の今後の百年の運命をきめるこの両條約、私は数年たてば同僚議員も、何故我々がこのように、この條約を締結することによつて日本国民の陷る筆紙に絶する困難なる状態が来るということを述べたかということを御了解されて、全国民もそれを知られる機会が来ると考えますが、それでは遅いのです。従つて私はここで両條約の持つ役割を極めて明快にしつつ、総理の答弁を最後的に求めたいと思います。  私はこの両條約の審議に当つて、あらゆる会派のとられる判断の最後の問題は、果してこの平和、安保の條約が文字通り平和であり、日本の安全を保障するかどうか、これが私はあらゆる政治的な見解はどうであろうとも、会派をどう異にしようとも、この問題が私はこの條約に対する最後のイエス、ノーをきめる基準だと考えます。私はこの両條約に対する批判の根拠となるものはこういう点にあると思います。これは我々が今後世界の平和を維持し、日本の平和、独立を維持して行くためには、資本主義の体制であるとか社会主義の体制であるとかいうことで毛ぎらいするかどうか、これに対して総理は共産主義がこの世の中からなくならぬ限りおれはみこしを上げぬのだという答弁を数日前にされたかと思うと、昨日はおれはイデオロギーには捉われぬのだというような、そういう全く前後矛盾した答弁をしておられますが、事実資本主義体制というものは世界の半数を占め、社会主義体制というものが他の半ばを占めておるということは、これは存在するところの世界の現実そのものである。若しもどちらかの一体制が他の体制を亡ぼそうとすれば、これはもう明確に世界戰争になるのであります。併しこの二つの体制が平和的に若し共存できるということ、つまりどういう体制を選ぶか。日本についての体制は日本人がきめる、朝鮮の体制は朝鮮人がきめるというふうに、民族の自由な意思に任せて、内政に干渉しないということであるならば、世界戰争は避けられる。そうして世界人民の熱望はこれである。これは私の理窟でなくて、第二次大戰において、一方がドイツ、イタリア、日本という資本主義国で、これと戰つたのが資本主義の米英と経済制度の異なつ社会主義ロシア、これが共同して現に戰つたということ、これはもう理窟を超えて現実、歴史的な事実であります。従つてこの歴史的な経験として国際連合が生れ、二つの体制は決して戰争の原因とはならないということ、それから他国の内政に干渉してはならないということ、もつとそれぞれの国家が自分の主権で以て自分の体制をきめ、それらの国々は全く平等である。どれが上でどれが下ということはないということ。そうして第三に、現実に世界平和を維持するためには、どうしてもこの二つの体制を代表する米英とソヴイエトのような大国がこの歴史的の事実から生み出された国連憲章の精神に従つて協調して行かなければならない。これが世界歴史の結論なのであります。それが守られれば世界の平和は維持されますし、日本の平和も独立も維持され、世界の人民も幸福である。私はこの点を総理質問したいのでありますが、若し原則が守られなければ、あなたがどんなに国民の先頭に立つてこの條約に調印されようと、私は日本の今後の平和は守れないと思う。これは私の意見でなくて、朝鮮の現実がどうであつたかということを考えて頂きたい。朝鮮については、日本政府では国連の決定だと言い、又は北鮮が南鮮に侵入して来たからいかんじやないかと言つておられる。併し私は総理にお尋ねしたい。朝鮮朝鮮を侵略するということがあるか。これはすでに衆議院で非常に論議されましたが、私は吉田総理に対してはもつと吉田総理の胸を打つような事実を以てお尋ねしたい。それは大正十四年広東に初めて国民政府ができまして、北伐を開始いたしました当時、総理は非常に優秀な外交官として活躍せられた。当時日本の軍閥が干渉のために出兵をした。これに対してその当時の外務大臣幣原氏は、中国に対して干捗してはいかんじやないか、不干渉主義でなくてはいけないではないかということを主張したために、軟弱外交だというそしりを受けました。併しその後の政治的の推移、中国内政に干渉した軍閥こそが満洲事変を起し、支那事変を起し、太平洋戰争に持つて来たではありませんか。その歴史を繰返してはならんということは、私は吉田総理も深く決意しておられるところであろうと思う。然るに明らかに朝鮮では、朝鮮朝鮮に侵入するという、論理的にも理解すべからざる、歴史的にも許し得ない、そういう妙な言葉で以て内政干渉戰争が行われておるではありませんか。私はこの点について総理が、朝鮮朝鮮に侵入しておるなぞということを正気であなたがしておられるか、先輩幣原の考えとあなたの考えとはどういう今変化が来ておるか、これに私はお答えを願つて最後の一つ質問にしたいと思います。
  173. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 御質問に対して総括的に最後のお答えをいたします。私は今度の安全保障條約で日本独立安全が守られると確信いたします。日本独立安全が守られるならば、従つて太平洋と申しますか、極東の平和、従つて世界の平和の破綻が生じない、こう考えますから、この條約は日本にとつても、東洋の平和にとつても、世界の平和にとつても有効適切な條約として確信して作つてつたわけであります。
  174. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕は、そうお答えになるだろうと思つておりました。そして、それは美しいあなたの理想ではございましよう。併しこの両條約を締結いたしました後における生ける鑑として、私は朝鮮状態をもう一つだけ申上げて、私の質問を終りたいのでありますが、若しも朝鮮の経済体制が朝鮮人民によつて決定されるということであつたならば、戰争は起きなかつた。これは誰の目にも明快なことだと思います。然るに南朝鮮には数百の、約五百と言われておりますアメリカの軍事顧問がおられる。そして日本の警察予備隊などとは比較にならない裝備と訓練を持つており、アメリカの国会から共産主義軍隊に対抗できる一流軍隊だという折紙まで頂載しておりました優秀な十数万の韓国軍がおつた。そしてお隣の琉球と日本には有力なアメリカの軍隊が蟠踞しておる。即ち決して真空状態ではなかつた朝鮮状態真空どころか、まさにその正反対のものであつた。ところが戰争が始まるや、国連の決定がまだなされぬ以前にアメリカ海軍と空軍が出動した。それで朝鮮の安全が保障されましたか。これは過去一カ年半の実績が示す通りであります。この一カ年半の実績によつて、十数万のアメリカ、朝鮮中国、その他の青年諸君が罪もなく死んだ。又数百万の平和な朝鮮人民が死んだにもかかわらず戰局はどうか。戰局は依然として振出しの三十八度線に戻つて、現在の協議が行われておるではありませんか。結局双方の体制の違つた二つの資本主義、社会主義の合意と協調によらなければ如何なる軍隊の力を以てしても朝鮮の安全は決して回復され得なかつたし、今後も戰争をもくろむ限り、これは解決せられないということの私は有力なる証明であると思う。これが過去一カ年間幾百万の人民が血を流すことによつて世界に証明したところの生ける事実だと思う。二つの世界の平和的共存、相異なる二つの国々の合意と協力、これが世界平和の真の基礎であると思います。日本の安全もアメリカ軍の駐屯によつて真空を埋めた、この両條約によつて埋めたといたしましても、朝鮮の経験に見るごとく、もつと大規模な、もつと悲惨な戰禍の繰返しがアメリカの国民の上に来るだけであります。日本の安全を保障する唯一の途は、米英と中ソがお互いに納得の行く形で講和條約を作成し、これを我々が受諾すること、これであります。日本の資本主義を継続するか、社会党の言われるような社会主義に行くか、我々の主張するような人民民主主義に進んで行くか、これは日本人がきめねばならない、日本国民がきめるべき問題であると考える。日本が如何なる体制に行こうと、戰争に巻き込まれたくないというのが、私は日本国民の絶対多数の心からなる希望だと思います。この国民の心からなる希望が、あなたの調印した、且つ提出しておられる二つの條約によつて守られ得るかどうか。これは先ほどの御答弁をすでに頂いておりますので、同じ御答弁であろうと思いますけれども、念のために全国民のために所信をここで速記録の上に明確にされれば非常に結構だと存じます。
  175. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 私の答弁は、御意見の逓り、前言の通りであります。   —————————————
  176. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 時間もだんだん遅くなつておりまするが、私は講和條約に関して、特に賠償問題に重点を置きまして、総理並びに関係大臣に重要な点だけお伺いいたしたいと思います。明快なる御答弁を得ますれば幸いに存じます。  ヴエルサイユ会議で対独賠償額が余りにも苛酷であつたために、遂に第二次大戰が起つたことは周知のことであります。今回のサンフランシスコ講和会議は、いわゆる和解と信頼の精神に基いたものでありまするが、飜つて我が国を見ますれば、領土は殆んど半減し、在外資産は沒收され、国土は荒廃し、設備は老朽化し、内外個人財産の破壞等を数えますれば、現在日本の回復は戰前の八割と称せられておりまするが、実際は五割以下と見るのが正鵠を得たものと思うのであります。ヴエルサイユ條約におきまして、賠償問題が切離されておりましたならば、ドイツの歩みもおのずから別なものになつていたのではないかと思うのであります。  先般の講和條約の中に、日本の負担せねばならない賠償金額が明記されておりませんために国民が不安を抱いておりますが、この際、私が総理大臣に御質問いたしたい第一は、サンフランシスコ或いは東京におき夜してフイリツピン、インドネシアの各代表と会見されたときに、賠償金額、或いは賠償の期間、更に賠償物件の内容等につきまして、どの程度までお話合いに相なりておられるか、その辺を伺えれば仕合せだと思います。
  177. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) お答え申上げます。今日まで賠償問題の具体的話合いは進んでおりません。互いに何とか円満なるこの問題の解決を図りたいという考えを申しただけの話で、これはもうフイリピンの代表——外務次官、大使等と一二度会つただけの話で、お尋ねのような細かい具体的の問題について何ら話合つておりません。これから語合うつもりであります。
  178. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 第二にお伺いいたしたいと存じますことは、賠償問題こそは今後我が国の最も重大な、而も機微に触れた問題であります。この際、速かに我が国内に賠償審議委員会のようなものを設置して、問題がこじれて対日感情の悪化に先立つて、納得の行く協定に持つて行くことが專ら急務のように考えますが、これに対して政府の御見解を伺えれば幸いであります。
  179. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) そういう考えまでも具体的に進んではおりません。或いに将来になると、そういう諮問委員会のようなものを置くかも知れませんが、今のところではそこまで具体的に考えが進んでおりません。
  180. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 第三に伺いたいことは、賠償協定は各国別に行われるように思われるのでありまするが、その際、総理大臣として当事国以外の国に対して仲介斡旋の労を御依頼になる意図がおありでありましようか。それとも飽くまで日本政府が單独で相手国との交渉に当ることになるのでございましようか。この協定の手段方法につきましてダレス氏との間に何かお話合いがあつたのでございましようか、その事情を伺いたいと思います。
  181. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) この問題の交渉の仕方について合同的と言いますか、各国を集めて一緒にするか、或いは各別にいたすか、或いはその間に何か仲裁の立場に立つ国を入れるかというような問題は、すべてまだ具体的に考えるまでに進んでおりません。
  182. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 次に伺いたいことは、総理大臣はしばしば賠償には誠意を示すとおつしやつておられまするが、フイリピン、インドネシア等の要求額が余りにも厖大であるために、我が国経済の現状より極めて困難であると思うのであります。そこで国民の一部には賠償を支拂うためにアメリカの協力援助を要請したらという声もあります。勿論、他力本願ということは決して喜ぶべきことではございませんが、この国民の声も結局におきまして賠償負担による日本経済の自滅を憂うる真心から出たものであるという見地からいたしまして、総理大臣は如何なる御見解をお持ちになつておるか、伺えれば仕合せであります。
  183. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 数、額等の申出はまだ受けておりません。従つて日本経済にどれだけ影響を及ぼすかというような見当もつきませんが、いずれにしても賠償の限度はきまつておるので、即ち日本の経済を動かさないように、生活水準を動かさないような限度においてということにきまつておりますので、御心配のようなことはないでありましようし、又相手国にしても厖大な予算、根拠のない予算を出して来るはずもございませんから、私は御心配のような筋は、御懸念のようなことはないと確信いたします。
  184. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 時間がございませんので次に移ります。  次に伺いたいことは、先般のサンフランシスコ会議におきまして、総理が非常によい感情を各国代表等に與えたことに対しまして、私は深甚なる敬意と謝意を表するものであります。そのことに関しましてリポーター紙でありましたか、日本総理大臣が古い洋服で会議に出席されたのを見て、これでは日本に賠償を支拂う能力がないというような意味のことを掲載したとの話を伝え聞きまして、私は非常に嬉しく感じたのであります。然るにたまたま近頃来朝いたしまする外国人の眼に映じましたところでは、日本は負けたと言つてもまだまだ大したものだ、東京でもどこでも大きなビルデイングがどしどし建築され、又国際競技大会には相当人員を派遣する力があることを知つて、賠償支拂能力の余裕があるという者もおります。併し、実際問題といたしましては、一般国民は食うに困り、住むに家もない状態で、例えば毎日の新聞に気の毒な記事がいつも一ぱいあるのであります。総理大臣の御苦心のほどは十分わかりまするが、外政と内政との間の調和を如何にされるか。この点の御見解を伺つておきたいと思います。
  185. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 東京においてビルが非常にたくさん建つということは、一面においては家屋が非常に不足している、戰争の破壞の結果不足しているということを証明するものであつて、決して贅沢に建てているものではないと思います。それから又、海外に運動選手その他が出るという御指摘でありますが、殊にオリンピツクその他の選手については非常にたくさんな数も出るような話でありましたが、これは政府といたしまして協力いたしません。又在外資金を儉約する意味において、外務省の海外事務所その他の予算は成るべく切り詰め、更に今後も切り詰めるつもりであります。外貨の節約については各方面に通牒を出しまして、政府の派遣する役人も制限をするように、その制限の下に成るべく外貨は節約する方針をとつております。
  186. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 大蔵大臣がお見えになつておりませんので、続いて総理大臣に伺いたいと存じますが、今日の我が国で賠償の問題ほど重要なものはないと考えます。従つて総理のおつしやるように誠意を以て対処せねばならないことは論を待ちませんが、信夫淳平搏士も、国際法の見解から比島賠償問題を解剖されて、日本に負担の義務があるにしても、要償の権限たる比島の被害の性質を明らかにするのでなくば問題の核心に触れられないと言つておられます。賠償要求国の戰争による被害状況を十分に承知し、更に経済生活の現状及び彼らの対日感情の如何なるかを十二分に承知しておく必要があると思いまするが、政府はそのことについてどれだけお調べになつておられますか。
  187. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 今日までは在外事務所等を出す自由がないものでありますから、間接というのはおかしなことでありますが、日本にいる曾つてフイリピン等におつた人などについて寄り寄り調べをさしていて、いよいよ問題が具体化いたしますと、自然実地観察員を出すというようなことにもなるでありましようが、併しながら今日は話がそれまでに進んでおりませんから、まだ派遣員等の人選等については考えておりませんが、併しやがてそういうことを必要といたすときが来るであろうと思います。
  188. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 只今総理からの御説明もございましたように、今日までは向うの事情を知ることが非常に困難であつたと存じます。是非この問題について十分なる御調査を願つておきたいと思うのでございますが、特にフイリピンに対しましては真劍でなくてはならないと思うのであります。戰争初期から末期にかけまして日本軍がしでかしました残虐行為が、如何に鬼畜的であつたかを知りましたならば、数字的問題は別といたしまして、彼らが賠償を要求して来ることの如何に当然であるかを知ることができるのであります。この意味におきまして我々が過去になした罪悪の償いは当然これを果さなければなりません。このことはすでに総理大臣サンフランシスコにおきまして列国代表の前に声明されたことと同様でございます。私の承知いたしておりまする限りにおきましては、フイリピン政府にしても、又フイリピン国国民にいたしましても、むしろ日本が平和国家として発展し、日本、フイリピン両国の永久的に友好関係を保持できることを望んでいると私は了解いたしておるのであります。従つて各国との賠償協定に関する交渉につきましては、一刻も早く、而も友好裡に行い得るよう、政府の賢明なる処置を切望してやまない次第でございます。それには終始総理のしばしばおつしやる誠意を以て当つて頂きたいことを申上げて私の質問を終ります。
  189. 吉田茂

    国務大臣吉田茂君) 成るべく御意見通りに副いたいと考えております。
  190. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) 徳川委員に申上げますが、大蔵大臣出席されておりますが……。
  191. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 大蔵大臣がお見えになつたようでございますから一、一質問をいたしたいと存じます。  平和條約の調印、批准と関連いたしまして、借財の清算、つまり第一に対日援助資金三十億ドルの返済、第二が賠償の支拂、更に外債の元利償還等、誠に莫大な経済負担を受けるのでありまするが、この三者を一括して清算いたすことは、日本経済の現状から到底不可能であるということは今更論を待たないのでございます。然らばこの三者のうちのいずれを優先的に取扱うか、大蔵大臣の御見解を伺いたいと存じます。
  192. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) こうよう御質問はたびたび聞くのでございます。外債の支拂につきましては、これは債権者と話をしなければいけません。それから対日援助の債権は、外債或いは賠償よりも優先するという議論がアメリカでは相当強いようであります。併しこれはほかの各国もこれに納得しておるわけではございませんが、そういう議論がございます。賠債を……、平和條約の締結と同時に差当つてつて来る問題、私はどれを優先するということも今はつきり申上げられませんが、こういう問題はお互いに関係しておる問題、それは我々国民が拂つて行くということから見れば全部を頭に入れて考えなければならん。殊に賠償の問題にしましてもフイリピンだけではございません。ほかとの関係もございます。これはやはり個々に折衝をしなければいかんと思います。で、外債の問題は、心づもりでは準備はいたしておりますが、今直ぐ債権者と話をするという段階までに至つておりません。賠償の問題は成るべく早い機会に話をしよう、こういうことで、全部拂う財布は一つでございます。いろいろな点を考えまして、適当なところへ持つて行きたいという考えでございます。
  193. 徳川頼貞

    ○徳川頼貞君 その賠償の問題でありますが、フイリピン、インドネシア、只今大蔵大臣のおつしやる通り、フイリピンばかりが賠償の対象ではございませんが、インドネシア等に対する賠償を支拂うにつきましても、時期を遅らせずに、而も誠意を以て彼らの要求に応じられるような、最もよい経済手段はあるのでございましようか、具体的に伺うことができれば結構です。
  194. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) まだ具体的に話をいたしておりません。やはり平和條約の條項に従いまして、和解と信頼の精神に則り、共存共栄の立場で話を進めて行けば、私はそう大した難問題ではないと考えておるのであります。   —————————————
  195. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) よろしうございますか。……ちよつと兼岩さんの質問に対して大蔵大臣から一応答弁して……。
  196. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 軍事基地に提供するために土地、漁区等に対し如何なる補償金額が支拂われておるか。軍事基地に提供するためにという前提がちよつとわかりませんが、これは只今進駐軍が演習その他で使つております土地並びに漁区に対しての、その所に住んでおる農民或いは漁民のかたがたに対する補償と考えます。これは土地によつて漁区によつて違いますが、大体所得の減少した程度を補償することにいたしております。従いまして個々の場合で違つておりまするが、只今昭和二十四年度まで支拂つておると思つております。二十五年度につきましては、今計算をいたしてそれぞれ適当な額を予算に計上して支拂つております。
  197. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 僕の質問いたしましたのはですね、本論はですね、行政協定の取極に対して一定の地区を限つて基地というものが今後設定され、演習地というものが設定されて来るとするならば、これは日本国民の経済に大きなる影響を及ぼすものであるが、これは明らかに憲法違反と考えられる。つまり法律によらないで、行政協定によつて国民の生活、労働者、農民の生活に重大な影響を、漁民、農民に対する重大なる影響を與えるということを、この行政協定で取極めること、そのものの考え方がすでに憲法違反ではないかという第一の質問。それから、それについて仮に行政協定で押切られる場合に、恐らく農民及び漁民の生活を償わないような補償が與えられるのじやないかと、現に私が調査したところによると、青森県の有名な三沢飛行場では、━━━━の土地取上げに対して、坪十銭三厘の補償をし、作物の補償も何もしておらない。靜岡県伊東の沖合の厖大な━━━━━この一年の漁獲高八億円余といわれておる。その━━━━━に対して漁夫一人当りに対して四千円しか與えられてないというような悲惨な事実がある。従つてこの問題を今後の逐條審議の資料にしたいから、この終戰後今までに、日本の全区域に亘つて基地、演習地その他のために土地の取上げ或いは漁区の取上げされたものに対する補償の明細なものをこの委員会に提出願いたいという、これは第二は提出願いたいということ。第一は、行政協定でかかることをきめるのは憲法違反ではないかという質問。この二つであります。
  198. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) これは先ほど来ここで議論になつたことと思うのであります。この條約の御決定を頂きまして、それに基いて行政協定をなさるのでありまするから、憲法違反と心得ておりません。  第二の点は、御質問ではなしに資料の要求と心得まして、調査の上、資料ができますればお出しいたします。又資料が不備で、出すほどの資料にならんときにはそのときお答えいたします。
  199. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 資料を提出願わなければ審議に差支えると思います。だから是非審議に間に合うように全資料を提出願いたいと思います。それから憲法違反の問題は、そういう土地取上げ、漁区取上げの問題を行政協定に基く取極を基礎として、人民の、国民の、農民の権利を剥奪することは憲法違反でないかという質問なんです。
  200. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 行政協定の内容はきまつておりません。若し法律を要する事項がありますれば、法律案を出しまして御審議をお願いいたします。
  201. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 きまつていなくても、安保條約によつてアメリカの軍隊が駐在するということは明確である。従つて軍隊が駐在すれば、基地と演習地とそれから交通の問題、通信の問題、監視の問題、高射砲陣地の問題、あらゆるそういうことが問題になることは、何ら仮定の問題ではなくて現実の問題です。その現実の問題に対して対処するために、諸君はわざわざ国民の費用を使つてサンフランシスコまで行つて来られたのではないですか。としたならば、そういうことを仮定の議論などというそういう言葉でごまかさないで、明確に誠意ある回答をされるのが私は大蔵大臣の責任であると思う。
  202. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 国費を使つてサンフランシスコまで参りましたが、(笑声行政協定の内容はきまつていないのであります。きまつてからお答えいたします。
  203. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 だから、そういうような、あとにならなければならないような不明確な問題を行政協定に譲つたということが憲法違反ではないかというのです。
  204. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) まだこれからきめることでございますので、そうしていろいろな具体的な問題がありますから行政協定に譲つたのであります。行政協定に讓るための條約を御審議願うのであります。
  205. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすれば、そういうような土地取上げとか漁区の取上げのようなことは絶対に含まないから、行政協定でやつてもいいというふうにとつていいですか。
  206. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 含むか含まぬかは、行政協定がきまつてからお答えいたします。
  207. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 含むとすれば、含む可能性があるとすれば、それは当然明確にしなければ憲法違反ではないですか。あなたは何のために法律の学校を出て来たのですか。(笑声
  208. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 行政協定がきまつてからそのときに御審議願えばいいのであります。私が法科を出たか出ないかは問題じやございません。(笑声
  209. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 問題ですよ。つまりこういう三歳の童子も明確な法律を、僕の質問をそういう詭弁で以て答えるというのがあなたの勉強した法律か。僕は法律は門外漢ですが、門外漢たる僕すら明々白々な問題が、專門課程を終えたあなたに答えられぬわけはないじやありませんか。つまり基地、演習地の問題は必ず起つて来る、これは明確である。そういう場合に必ず土地取上げとか漁業権の取上げが起つて来る。そういうことを行政協定に委ねるということそれ自身憲法違反ではないかという、この明確な質問じやありませんか、これは。
  210. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) そういうことを含みますので條約案として御審議願つておるのであります。
  211. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 これ以上押門答しても無用で、これは国民、同僚諸君の御判断を待つて、なお逐條審議に持越すとして、通産大臣のおいでがあればそちらの御答弁を拜聽しましよう。
  212. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) お答えいたします。  中共貿易を行うことによつて現在より経済的に有利な通商が行われるのではないか。例えば外塩についてというお話でございますが、私も通商貿易が行われて、塩であるとか開らん炭であるとか、そういうものが輸入されることは非常に望ましいことだと考えております。相当、例えば鉄の製錬などにもいい影響があると考えております。ただ実情は、中共貿易というものは国連協力の範囲内で行うよりほかないのでありますが、現在中共のほうで希望しておりますのは、やはり鉄であるとか、機械であるとか、或いは纎維品にしましても重い厚い纎維品などが希望されておるのです。そうして昨年までは、中共貿易は日本から言えば、輸入先行式でやつてつたのですが、現在中共のほうで主張しておるのは、中共のほうへ日本からの輸入が済んで、それに対して中共のほうから輸出をする、つまり中共のほうから言う輸入先行形式を主張しておりまするので、なかなか実際の商談は進んでいないのが現状であります。
  213. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 懇切なる答弁を頂きまして恐縮でありますが、私の質問と少しピントが外れてありますので、恐縮ですみませんけれども簡單に総理に対する質問をし、且つ通産大臣の御答弁を願うに至つた関係を明らかにいたします。  それは、総理サンフランシスコで、中国との交易の日本経済において占めるところの地位は重要ではありますが、しばしば事実より重要性を誇張されているという有名な演説をやつて世界中に悪い影響を與えたことは、これはもう世界周知の事実です。この事実に対して、昨日八幡製鉄の社長三鬼氏が、金融恐慌にさえなる危險があるということを明確にしておられる。今日の日本経済を見ると、もう一流の大会社が銀行取引の停止処分を受ける寸前において、二億、三億のマイナスであり、若しそういうことが行われれば、機械、纎維、商事などの下請及び取引先は大打撃を受ける。電力事情が悪化し、並びに輸出の不振などで大変なことに来ておる。これは意見でなく事実なのです。こういう事実を、総理大臣の……、こういう事実を生み出すに至つたのは、日本経済の根本的な基底をなしておるところの鉄鋼価格、この鉄鋼価格が四、五割外国に比べて高い。それは中共より持つて来ればいいのを、倍の値段でアメリカから持つて来ておる。又一切の化学工業の基礎である塩もお隣から七ドル半で持つて来られるのを、地中海から二十五ドルもかけて持つて来ておる。こんなことをすれば一切の化学製品が全部高くなる。こういうことのために輸出が次第に不振になつて今日の不況を招いたと思う。この條約の締結によつてこの関係は一層悪化すると思うが、これはどうかということに対して、実はそこにおられる次官殿が、(笑声)潰れようと何しようと痛くも痒くもないとよう御答弁で、これでは話にならぬ御答弁だつたから通商産業大臣の御出席をお願いした。これが第一点。  もう一つは、政府はこの両條約をもととして、日米経済協力だとか、東南アジアの開発に参加するだのという空念仏を唱えておられるが、この日米経済協力或いは東南アジア開発の基礎はどこにあるかと言えば、今言つた鉄、石炭、工業塩等々の中共との提携こそ本当の日米経済協力及び東南アジアの開発の真の経済的基礎であると考えざるを得ないけれども、これをどう政府考えておるかということ、この二点なのであります。
  214. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 先刻申上げましたので盡きておるように思うのですが、私は中共から塩であるとか、鉄鉱石であるとか、開らん炭、粘結炭であるとかいうようなものが輸入されることを望んでおるのです。望んでおる。それが日本の経済に貢献するものがあると信じておりますが、現状ではなかなか進まない。
  215. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 進めないのでしよう。
  216. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 進まないのです。
  217. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 進めないのでしよう。(笑声)僕は僕の耳が悪いせいか、非常に懇切な答弁を頂いたのだけれども、私の二つの問題は、そうすると今日の破綻は他に原因があるというお説ですね、第一点に対しては……。それから第二点に対しては、日米経済協力とか東南アジア開発は中共との提携なしでも立派にやつて行けるという確信を科学的な基礎の上に……あなたも科学者ですが、(笑声)科学的な基礎の上に立つて明確だとおつしやるのですね。如何ですか、この二点……。
  218. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 繰返して申しますが、中共貿易で日本に必要な物資が入つて来ることは望ましいことなのでありますが、併しそれがないから東南アジア開発の……貿易が不可能であるとは私はよう考えないのであります。
  219. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 立派にやつてのけるという確信のほどはございませんのですね。(笑声
  220. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) それは國民が協力して立派にやつてのけるべく努力するよりほかしようがないと思うのであります。
  221. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 しようがないですね……それで第二のほうはわかりましたが、第一のほうは、今日の破綻はどこから、今申上げました今日の経済的な破綻、一流業者でさえも、もうすでに二、三この困難な状態が来ておつて、これの波及するところ金融恐慌は必至であるという、そういう破綻、それから、なお、これから続く電力危機の継続その他から見て、そうして海外貿易の不振、そういう現状はどこから来ておるというお考えですか。それでは、然らば通産大臣におかせられてはどこが原因であると、通産相思つておられますか。
  222. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 私は今、日本の経済が破綻に瀕しているとは考えません。又、三鬼君がそういうことを新聞で発表しておる、私はその新聞は見ないけれども、それに対して答弁することはお許しを願いたいと思います。
  223. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 それに答弁を頂くというのじやなくて、そうすると現在の日本の経済は困難な状態には来ていない、極めて洋々たる工合のいい状態であると、こういう御見解ですね。
  224. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 洋々……とかくあなたは、(笑声)私は困難な状態ではないというようなことは一言も言つていないわけです。(笑声)私、破綻に瀕しておるとは信じない。そう申上げたのを、日本の現在の経済状態は洋々たるものだと解釈して頂くのは甚だ迷惑です。(笑声
  225. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうすると、この両條約の締結によつて、そういうあなたの認識の程度の、この中程度の困難というか、こういう状態は打開されるという確信を通産大臣としてお持ちでありましようか。
  226. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) この日本の経済を好転さす、或いは後退するというような問題に、この両條約は何ら関係がない。私はこの両條約を非常に歓迎しておる。
  227. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 そうしますと、この両條約によつてソヴイエト、インド及び中国、ビルマこの未調印の四ヵ国十一億の国民諸君との間に貿易関係はどういうふうになるというお考えですか。
  228. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) このソヴイエト、中共の貿易のことは暫くおくとしましても、ほかの国々との貿易は、この條約のために阻害されるとは私は信じないのです。現在においてもインドネシアと通商協定の改正について話合いを始めておりますが、頗る好感を持つておるように感じております。
  229. 兼岩傳一

    ○兼岩傳一君 中国ソヴイエトは……。
  230. 高橋龍太郎

    国務大臣高橋龍太郎君) 中国ソヴイエトのなにはどうも成り行きに任せるより仕方がないのですよ。
  231. 大隈信幸

    委員長大隈信幸君) それではこれにて散会いたします。    午後四時十六分散会