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菊川孝夫君 私は社会党の第二控室を代表いたしまして、
連合国財産補償法案に反対の
意見を表明するものであります。私たちは先ずこの
連合国財産補償法案がよ
つて来たるところのその根本である
平和條約
そのものに対しまして反対の立場を堅持しておる
関係上、その
平和條約に基いて制定されようとする本
法案にも反対するものであります。
平和條約の反対理由につきましては、
平和條約特別
委員会において同僚議員から述べますので、ここで申上げることを省略いたしますが、ただ本
法案と関連のある
條項についてだけは申上げなければならないと思います。その第一点は、審査の
過程におきましても問題になりました
強迫、
詐欺によ
つて連合国並びに
連合国人の
財産の自由を奪
つたものは返還されなければならないということは、当然あの條約の
條文の十
五條の
解釈から成立つわけであります。そこでこの
平和條約は永く世界の
歴史的文献として伝えられるものでありまして、今急遽この
講和條約を、どういう文章でもいい、どういう姿でもいいから早く結んだほうがよいという立場をと
つておる現
政府の
外交政策に対しまして、私たちは重大な反省を促したいと思うのであります。いやしくも今後永久に世界の文献として残すような
外交文書の中に、たとえそれが戰争に敗れて何を言われても抗弁の余地がないといたしましても、
強迫、
詐欺を
行なつた、而も国際公法を蹂躙して
強迫、
詐欺を
行なつたということを文章の上で承認する
平和條約を結んだということにつきましては、私たちは余りにも屈辱
外交であり、卑屈な
外交であ
つたと言わなければならないと思う次第であります。(「異議なし」と呼ぶ者あり)これを私たちは
歴史の上に一度
考えて見なければならん。例えば私たちにと
つては極めて不愉快な
国際協定でありますところのあの
ヤルタ協定の締結に当りましても、時のソヴイエトから
アメリカ政府に対しまして、不可侵條約の
規定を蹂躙して対日戰に参加するということは国際的にも極めてまずいからして、
アメリカからソヴイエトに対してそれを蹂躙して対日戰に参加するように覚書を出すように要求されたそうでありますが、併し時の
アメリカの国務省は、そういう文書を
アメリカの
外交史上に残しておくということは、今仮に戰争に勝
つて問題はないとしても、永く
アメリカの
外交史を汚すことになるからという理由を以て、断乎ソヴイエトの要求を拒否したと伝えられております。このようにして
外交はすべて人類の
歴史を創造するという誇を持
つて私は当らなければならないと思うのであります。明治時代に我々の先輩が不平等條約改正のために闘
つたのも、その
歴史を見ましても、決してこういう国際的な文献の上に
日本人が
強迫、
詐欺を
行なつたというような文章を承認した事例がないのであります。而も
政府の
説明によりますると、これは單に
言葉の綾であると
言つておるわけでありまして、
言葉の綾であるとすれば、もつとほかの用語を使用されるように
折衝すべきであ
つたと思うのであります。これがこの本
法案の一番よ
つて来たる原因となるのでありまするから、私たちはこの点からいたしまして、先ず第一に
強迫、
詐欺という用語を
平和條約の中に捜入した
政府の拙速
外交と申しますか、秘密
外交に対しまして、先ず重大なる反省を求めなければならんと思います。
第二の理由は、
平和條約の第十
五條の(a)項末尾に、一九五一年の七月の十三日に
日本政府が
閣議決定を行
つたところの
連合国財産補償法案より不利益でない
補償をすると書いてありまするけれども、そういたしますると、成るほど
政府には條約に
調印をするところの権限がございまするけれども、
立法はすべて憲法の定むるところに従いまして
国会にこの権限があるわけでありまするが、このように
政府が国際的に約束をいたしてしまいました以上、この
国際信義というものは
国会においても守らなければならん。でき得る限り守らなければならん。そういたしますると、この
法案を
審議するに当りましても、
国会に対して無限の重圧を加える結果になることはいなめない事実だと思うのであります。従いまして
外交権と
立法権の問題にまで発展して、憲法違反という点にまで考慮されなければならんと思うのであります。特に世界の條約をいろいろ研究いたしましても、このようにして
国内立法を、実際的には條約によ
つて強要されているというような
形式をと
つた條約はないわけであります。特に私たちはこの際にこの問題を強調しなければならない理由は、今後
賠償、或いは日米
安全保障條約に基くところに
行政協定等、諸般の條約並びに
協定が締結されまして、それによ
つて敗戰
国民として
国民の権利利益がいろいろの面から制約し、その制約することを
国内立法的処置によ
つて行わなければならないことが生じて来ることを憂うるのでありますが、そういう際に、
政府はあらかじめ
国会の承認を得ないままに
政府の立案にかかるところの
法案を相手国に提示いたしまして、その
條件より不利でない
條件で以て実行するということを約束いたして参りましたと仮定しました場合に、
国会においてその
国内立法を
審議するに当りましても、私たちはやはり無力なる
日本の国力から
考えまして、
国際信義又は国際的圧力というものをどうしてもこれを否定するということは極めて困難なことになります。従いまして、憲法に定められたところの
国会の
審議権というものは重大なる制約を受ける結果になると思うのであります。かかる観点から立ちましても、今回の
連合国財産補償法案は、極めて
日本の主権に、特に憲法の條章に重大なる瑕瑾を残すものであると言わなければならないと思うのであります。
第三点には、同
法案によりますると毎年百億に限りましてどうしても
予算的な処置をしなければならないことは申すまでもございません。そうして国の財政
経済状態がどうなりましようと、ここ数年間は毎年百億だけは確保しなければなりません。丁度旧憲法当時に皇室費に対しまして、帝国議会がこれを実際的には手を付けることができなか
つた。これと同じような姿で、而も国際的な圧力で以て百億円だけは
予算審議権を奪われる、こういう結果になることを私たちは忘れてはいけないと思うのであります。その
意味におきまして、百億円の
予算審議権、金額の問題を云々するよりも、
国会の
予算審議権という立場からも、私たちはこれに対して反対しなければならんと思います。
第四に、戰争による被害でありまするが、これは
日本国といたしまして不可抗力であ
つた。B二九の爆撃によるところの戰争被害、なかんずく最も我々として関心を示さなければならないのは、原子爆彈によるところの被害をも
補償しなければならないのであります。今や原子爆彈の問題は、單に
日本民族の問題というよりも、更に大きな世界全人類の重大なる課題とな
つているわけであります。原子爆彈を、今後全人類がどういうふうに扱
つて行くかということは大きな課題にな
つて、世界の最も大きな課題であり、世界人類の、全人類の注視の的にな
つているわけでありますが、その原子爆弾による被害を、ここに
国民が血と汗の結晶で以て納めました税金によ
つて、
補償しなければならないという
前例を、我々はここに初めて打立てるということに対しましては、世界
歴史の上の私は大きな問題であろうと思います。従いましてこういう
法案を用意して
関係国と
交渉するに当りましては、
政府はもつと原爆の問題について
折衝をし、且つその
折衝の経過を
国民の前に明らかにすべきでなか
つたかと思うのであります。これは原子爆彈使用の問題については、
アメリカにおいてもいろいろ問題があるようでありまして、広島、長崎等の出身者が渡米いたしました場合に、
アメリカの宗教団体、婦人団体等に、原子爆彈を使用したという事実の上に立ちまして、長崎、広島等の出身者たちに対する態度というものは、ほかの出身者より以上変
つた扱い方を、鄭重なる扱い方を受けている。この事実からいたしましても、
外交折衝に当りましても、原爆被害の
補償につきましては、もつと言うべきを……正しい主張は主張すべきでなか
つたかと思うのでありますが、それには何ら免除
規定がないということに対しましては、私たちとしては極めて不満であると言わなければなりません。
第五に、この
平和條約は極めて寛大であるということを常々聞かされて参りましたが、
平和條約の締結に伴いまして、だんだんと
国内的な処置をしなければならん。或いは
予算措置その他が明らかになるに従いまして、決して寛大ではないということがだんだんと我々の身に応え出して来たわけであります。特に和解の條約だと言われておりまするけれども、和解の條約にいたしましても、戰勝国が戰敗国に臨んだ
原則、近代国家間の戰争において、戰勝国が敗戰国に臨んだ
原則というものは何ら変えられておらないのでありまして、
賠償、領土の割讓という二つの
原則はそのまま守られており、その上に
連合国人に対する
補償ということも課せられていることになるわけであります。従
つてどこが寛大であるかということについて、私たちは極めて疑問を持ち出した次第なのであります。成るほどヴエルサイユ條約によ
つてドイツ国に課せられた
條件と比べました場合には寛大であるということは言えましようけれども、恐らく吉田さんをして言わしめるならば、或いはミズーリ艦上を忘れるなと言われるかも知れないけれども、我々をして言わしめるならば、先ず大きな国際情勢の変化並びに時の経過というものを忘れてはならない。それを
日本人みずからが国際情勢の変化、それから時の動きというものをむしろ言うべきであ
つて、
日本人みずから常にミズーリ艦上を忘れるなというがごときに至りては、私は国の指導者として、或いは
日本国を背負
つて立つ
外交官として、極めて卑屈な態度であるし、我々としては決して信頼し得ないと思うのでありますが、これはさて措きましても、今回の
補償法案に見ましても、ただ一例を挙げて見ますると、株式の
條件のごときは、大体株式を保有する場合には、株主といたしまして、当該会社の危険は保有株数の限度において株主の
負担であり、且つ
アメリカ人が、或いはイギリス人が
日本において
日本の会社の株を保有する場合には、当然
日本国の主権の発動によ
つて生ずる危険は考慮して保有されたものであると
考えなければなりません。而もその会社は
日本の
国内法の定むるところによ
つて最大の努力をして、その
財産の保全を図
つて来たはずでありまして、決してどの会社にいたしましても、仮に戰争中であろうと、戰後であろうと、やはり善良なる管理者の注意を怠
つたことはないはずであります。従いまして、その会社が善良なる管理者の注意を拂いながらも、なおその会社が受けたところの被割に対しまして、
日本国において、
日本国民の責任において
連合国人に
補償をしなければならないというがごときに至
つては、私は決して寛大なる
條件とは言い得ないのであります。こうした
條件が各所に見出されるわけでありまして、寛大である、寛大であると
言つて聞かされたところが、中を開いて見ると、だんだんと寛大でない
條件が現われて来るわけであります。こういう観点からいたしましても、私はこの際に断乎としてこの
連合国財産補償法案に反対をいたしまして、そうして時の経過、世界情勢の変化等を我々は静かに見詰めまして、武器を棄てた
日本人が、もつと勇敢に諸外国に対しまして
日本民族の生活権を要求するという大きな
外交、
国民外交を展開すべきであろう。それを為し得ない現在の
政府であるとするならば、
我が国会において、なかんずく我が参議院におきまして、そのことを決然とその態度を示しまして、そうして諸外国に訴えるという態度を示してこそ、初めて参議院の存在価値があり、
国民の信頼も集まることを私は疑わないのであります。なおそういたしますると、
アメリカ人もイギリス人も、その他の連合
各国人も、やはり何とい
つても武装を解除されたとは言いながら、八千万の
国民を持
つておるところの
日本民族は
一つの世界の一大勢力であります。この勢力の気慨というものを認めまして、そうして我々は
本当に独立して、世界の列国に伍して世界平和に寄与し得るという確信を持つ次第なんであります。
かかる観点から、この際に極めて困難ではありまするけれども、本
法案に反対いたしまして、そうして
アメリカ人の、イギリス人の、その他
連合国各
国民の
日本に対する感じ、
日本人に対する見方とい
つたものを変えてもらいまして、そうして仲よく我々は世界平和に寄与し得る日を迎えるために、この際この
法案に対しまして私は反対するものであります。