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1951-10-25 第12回国会 参議院 厚生委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月二十五日(木曜日)    午前十時四十二分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     梅津 錦一君    理事            長島 銀藏君            井上なつゑ君            有馬 英二君    委員            大谷 瑩潤君            中山 壽彦君            山下 義信君            藤森 眞治君            谷口弥三郎君            松原 一彦君   事務局側    常任委員会専門    員       草間 弘司君   証人    東京大学教授  児玉 桂三君    大阪大学教授  河盛 勇造君    東京大学教授  内村 祐之君    国立公衆衛生院    厚生技官    染谷 四郎君    国立東京第一病    院長      坂口 康蔵君    千葉大学教授  小池 敬事君    国立予防衛生研    究所結核部長  柳沢  謙君    慶応義塾大学教    授       阿部 勝馬君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○社会保障制度に関する調査の件  (BCG有害無害に関する件)  (右件に関し証人証言あり)   —————————————
  2. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 只今から厚生委員会を開きます。  これより社会保障制度に関する調査の一環といたしまして、BCGの有害、無害について御証言を願うのでございますが、その前に規定によりまして、証人かたがたに順次宣誓をお願いしたいと存じます。総員起立を願います。学術会議会員東大教授児玉桂三さんお願いいたします。    〔総員起立証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 児玉 桂三
  3. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次に専門家といたしまして、大阪大学教授河盛勇造さんにお願いいたします。    〔証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 河盛 勇造
  4. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次に学術会議会員東大教授内村祐之氏にお願いいたします。    〔証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 内村 祐之
  5. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次に専門家国立公衆衛生院厚生技官染谷四郎さんにお願いいたします。    〔証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 染谷 四郎
  6. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 御着席を願います。  厚生委員長といたしまして、証人かたがたに一言御挨拶を申述べたいと思うのであります。  結核予防に関する問題中、特に最近の新聞紙上に取上げられ、国民に多大の不安を抱かせておりますBCG予防接種について証人のかたの御出席を頂いた次第であります。参議院厚生委員会では結核予防重大性に鑑みまして、特に小委員会を設けまして、結核予防の徹底を期するため各方面から調査をいたしておつたのであります。ときたまときたま日本学術会議の有志から厚生大臣に出されましたBCG強制接種に関する意見書が発表せられますや、急遽二、三の有力新聞学術会議学者からの意見も添えて大臣談を発表せられたのであります。即ち結核予防の一部について、接種は一時停止又はBCG予防は一時中止するかも知れない、更に有害であれば法の一部の改正を考慮するといつたような意味の記事が発表せられたので、国民は少からず不安の念に駆られるようになつたのであります。御承知のごとく昭和二十三年六月予防接種法が初めて制定せられてから、BCG強制接種が実施されるようになつたのであります。更に本年三月結核予防法が新たに公布されましたために、BCG予防接種のほうは本予防法に移されまして今日に至つたのであります。この際にも本委員会といたしましては、予防接種の問題には慎重審議を重ねました結果、現行通り規定が設けられたのであります。以上の事実によりまして、厚生委員会は本問題について重大関心を持つように相成り、結核小委員長提議等に基きまして、過般意見書を出しました学術会議かたがたを呼び、斯界の専門家の学術的な証言によりまして、政治的責任の問題並びにBCGの将来に対して、世の疑惑を一掃することは当委員会責任と存じているわけであります。かような意味におきまして、証人かたがたにおかれましては、忌憚のない率直なる御意見を御開陳願いたいと思うのであります。御繁忙中誠に当委員会のためにわざわざ御出席下さいましたことを当席上から深甚の敬意と謝意を表しまして、御挨拶に代える次第でございます。  次に順序に従いまして、証人のかたの御研究並びに御意見を伺いたいと存じます。児玉桂三さんにお願いいたします。その前にちよつと申上げますが、時間がすでに十一時になつておりまするので、関係専門的な御意見、更に特に御造詣の深い御研究等が御発表願えれば、すでに三回に亘つた公聴会におきまして、概略は承知いたしておりまするので、そうした点から成るべく重点的に御発言願えれば幸甚と思うわけであります。お願いいたします。
  7. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 私は、生化学及び栄養学専門でありまして、結核に関する細菌学的並びに臨床的研究に関しましては全く素人であります。併し科学者といたしまして、物の観察方法及びその結果についてのどういうふうに論議を進めるかというふうなことに関しましては、共通な点が多々あることと信じております。殊に先般学術会議会員に選挙されまして、学術会議科学成果を正しく行政に反映することを重大なる使命といたしておりまする関係上、強き責任を感じておるものであります。  さて、BCGがカルメツト及びゲランによりまして一九二一年に創製されまして、人体にも応用されまして、結核に対し有効無害であるということが提唱されました。爾来三十年を経過いたしました今日におきまして、なお全世界を通じまして、喧々囂々たる論議が繰返されておりますることは一体何を意味するか。およそ新薬が発表されましたとぎには医師は直ちに応用いたしまして、その有効、無効ということを判定し、多くの場合におきましてはそれを用うべきや否やを数年の間に決定するものであります。然るにBCGに関しましては、三十年を経過いたしました今日におきまして、なお決定しない、これには種々原因があるでありましよう。その一つの大きな原因結核が極めて慢性的な疾患であつて、その効果を判定するのに長日月と極めて慎重な態度を要するからであつて、少くとも私は現段階におきましてBCGに関しては研究時代を脱していないと信ずるものであります。従つて強制しまするからには、すべての医師がその効果を十分に認識し、誰もが異存のない段階に達して初めてやるべきものと考えます。日本結核国である、他に適当なる方法がないからやるのだというのでは理由にはならないのであります。却つて適当なる方法発見研究の意欲を鈍らせるものであり、又被接種者側にとりましても、BCG接種したから俺は結核に対してはもはや心配はないと過信させ、警戒心を鈍らせる結果となることを私は恐れるものであります。  次に、私は生菌接種による免疫というものはよほどデータがしつかりしなければ実施すべきものではないと考えるものであります。その理由細菌の高度の適応性ということであります。即ち細菌は与えられたる環境によつて或る程度その性状変化するものであります。BCGは御承知のごとく毒力の強かつたところの牛型結核菌を何代も何代も胆汁加馬鈴薯培地に植えつぎまして、その毒力がその人体又は二、三の実験動物に対して低下した菌であります。この菌の毒力は不変であると力ルメツト言つたのでありますが、私は培地変化すればその毒力を復活することがあり得ると信ずるものであります。私は最近BCGに関する世界文献を渉猟いたしまして、私のこの信念というものを裏書されるところの二、三の報告を見ました。それを一つ申上げたいと存じます。  第一は、P・ハウデユロア及びウイリイロセー・サジエスチビリテイ・オブ・ザ・ハムスター・ツウ・BCGツベルケル・バチルスというのであります。ハウデユロアはスイスのローザンヌ大学細菌学者でありまして、欧洲における結核研究の第一人者であります。且つユネスコの世界細菌保存委員長をしている人であります。同氏パスツール研究所から入手いたしましたところのバチルスをハムスター注射したのであります。最初は二匹のハムスター注射したのであります。そのうちの一匹が間もなく死にました、これは変だと思つて剖検いたしましたところが、非常な結核病巣体内にあることを発見したのであります。それによりまして、更に彼は六十四匹のハムスター皮下又は腹腔内に注射いたしましたところが、そのうち二十九匹が死んだのであります。そのうちで二匹は数日にして死んだのでありますから、他の副作用によることかも知れませんが、二十七匹は皮下注射いたしましたものは八乃至十二カ月後、腹腔の中に注射いたしましたものは四カ月後に死んだのであります。解剖いたしました結果注射局所病変があるのではなくて、肺臓、肝臓、脾臓に結核病変があり、而もそこに多数の菌がおりまして、その菌によりましてハムスターからハムスター接種いたしまして、病変を惹起することができたのであります。併しこの菌というものはモルモツトに対しまして注射いたしました場合におきましては、何らの作用はないのでありまして、一匹も罹患しなかつたのであります。そこで彼は結論といたしまして、実験動物に対してBCG毒性ありと証明されたのはこの実験を以て初めとする、嚆矢とすると言つております。先日私は今村さん、それから戸田教授にも聞きましたが、戸田教授はこの事実はまだ知らんということを言つておりました。少くとも日本におきましては、こういう実験はまだやられていないと信ずるものであります。で、私はこの実験を見まして、人間におきましても結核菌に関する抵抗というものはいろいろ人によつて違うものである。従つてあれが人間におきましても、ハムスター型の人間モルモツト型の人間というふうなものがあるのじやないかというようなことを心配するものであります。  第二に申上げたいのはスーター・W・E及びジユボー実験でありまして、名前はヴアラエテイ・オでBCGストレインズ、これは今年参りましたジヤーナル・オブ・エキスペリメンタル・メヂシンの九十三巻に発表されておる論文であります。ジユボー氏はロツクフエラー研究所の有名な結核研究家であります。で、同氏米国の方々の研究室で実際の臨床的に用いられておりますBCGの送付を受けまして、これにつきましていろいろやつておるのでありますが、三種の菌について報告をしております。ところがその第一のものと第三のものは二十日鼠及びモルモツト注射いたしまするというと、立派な結核病変を起して来る、ところが第二の菌は病変を起さない、ただ注射しました局所にのみちよつとした変化が起るのみであつて、こういうふうに、つまり各研究所に持つておりますところの種類によりまして、この病毒が毒性が違うというのであります。どういうわけで違うということを彼は今研究しつつあるのでありますが、少くともパスツール研究所からもらつて参りましたこの菌の毒力というものが各研究所の持つておりまする菌によりまして違うということは、つまりその研究所に持つて参りまして、そこで培養しております間に少しずつ菌の毒力変化したということを物語つておるものと存じます。  第三に私が申上げたいのは、アメリカの有名なアーサー・マイヤーの、これも今年版の第三版として発行いたしましたチユベルキユロージス・アマング・チルドレン・アンド・アダルトという本の中に書いてあることであります。その中に書いてあるところによりますというと、ヨハネスホルムが一九四六年にBCGワクチネーシヨン・イン・デンマーク・パブリック・ヘルス・レポート五十六回にあるそうでありますが、それによりますると、牛型の結核菌期間人体内にとどまると、人型菌と間違えられるように変質する。従つてBCG接種する場合、毒力を適度に保つこと、又毒力変化を十分に見守ることが大切であるということを言つております。又A・ヤンセンはプラクチカル・オブ・カルメツト・ワクチネーシヨン・アクタ・チユベルクローザ・スカンジナビアの一九四六年、二十巻に出ておる文献でありますが、それによりますと、BCG毒力変化する、若し毒力が増加して行く場合はアブセス、つまり潰瘍を作り、恐るべき結果を伴う、ウイズーアラーミング・エフエクト、私はこれを恐るべき結果というふうに訳しました。又一方毒力が低下する場合もあり、アレルギーを惹起しないこともある。そういうふうに非常に毒力が廻つてしまう場合があるということを言つておるのであります。このヤンセンの仕事につきましてアンダーソンがジレース・オブ・チエスト・イヤー・ブツク・オブ・ゼネラル・メヂシン、一九四七年に言つておりますところによりますと、ヤンセン研究は生菌であるBCGストレイン毒力及び免疫性は一定でないことを示している。私は生菌を含まないところの免疫力を持つものが出て来る望みが豊富に、十分にあるのであつて、この生菌を含まないところの、こういう免疫力あるものを作るという研究が進められることが望ましいということを言つております。更に今度はやはり先ほど申しましたロツクフエラーデボース実験でありますが、イマノロジカル・アスベクツ・オブ・BCGワクチネーシヨンアメリカン・レビユウ・オブ・ツベルクリン、一九四九年、九十巻に出ておる論文でありますが、それによりますと、サナナク研究室において得られた実験があるが、BCGと殆ど同一のRIRVというストレインは健康のモルモツトに対しては何ら毒性がないが、珪肺モルモツトに対しては劇烈なる症状を惹起するということを言つております。又デボース研究室においてBCGの或るストレインの或るいは一般接種せられておるものでありますが、一般に通常に用いられておるものでありますが、不完全なる食餌で飼育した二十日鼠注射すると、激しい肺結核症状を呈し、ときには死ぬことも見出されておるということを述べております。これはBCG毒性は、以上述べましたことはいろいろありますが、BCG毒性というものは単にBCGそのものの持つている性状によるのみでなくして、接種を受ける動物、個体というものの栄養状態が重大なる関係があるということを示しておるものであります。私は栄養学者の立場から、このデボース二十日鼠実験というものを極めて重大視するものであります。栄養が低下いたしまして、体内貯蔵蛋白が減少いたしておりまするときには、免疫体産生が並行して低下するということは事実であります。戦後栄養が悪かつたときにおきまして、日本におきまして結核が急に蔓延しておるということも明らかなる事実であります。今日栄養が漸次好転いたしまして結核死亡率が減少したということも事実であります。でBCG論者は、これはこの低下したということは、BCGのためである、こういうふうに解釈しておられるそうでありますが、私は併し栄養の問題がそこに大きな意味を持つておると考えるのであります。ジエネラル・サムスが米国において講演されましたところの報告の中に、一九四五年には十万人について二百八十名の死亡率であつたものが、一九四八年には百八十一名に下つておる、これはBCGのためであるといこうとを言つておられるのであります。而も注射したグループにおいて下りまして、注射していないグループにおいてはこれが見られなかつたということを言つておられるそうであります。併しこれはこのマイヤーが挙げておりますところによりますというと、リオデジヤネイロにおきましては、丁度これと反対のことが起つておるのであります。というのは注射をいたしました子供におきましては、却つて死亡率が増加して結核による死亡率が増加いたしまして、注射しないところの、接種しないところのグループにおきましてはずつと下つて来た。丁度これは一九四五年と一九四八年のデータを調べておるのでありますが、全く反対の結果を与えておるというふうなことであります。従つてこれを要するに、私は日本のような栄養が十分でないところの国民BCGを強制するということは、或いは二十日鼠の轍をふむのではないかということを心配するものであります。  最後に私は、この現在用いられております乾燥ワクチンにつきまして、一言申上げたいと存ずるのであります。日本におきまして現在使用されておりまする乾燥ワクチンは、すでに法律によりまして強制接種されておるのでありまして、その有効無害であるということはこれは世界におきまして実に立派な成果であろうと存じます。そういうふうに想像いたしまするが、まだ併しこれを用いて有効無害であるという積極的な声明がなされたことを私は寡聞にして聞かないのであります。少くとも数万人の人間につきまして立派な成績だと折紙がついて、初めて実施すべきものと私は考えます。アメリカにおきまして、ワシントンのパブリツク・ヘルス・サービスのツベルクリン研究所のチーフをしておりますところのアンダーソン及びパルマーは目下ジヨージア州におきまして七万五千人の人につきまして一九四七年からしまして実験を始めております。そうしてその結果は今後数年経たなければわからないということを言つておるのであります。これから見ましても、僅か一年や二年の前に作られました日本乾燥ワクチンにつきまして何らのデータがないということは当然であります。データを用いずしてこれを強制するということは、これは科学者といたしましてはどうしても納得することができないのであります。  又接種方法につきましても、現在は皮肉接種でありますが、津田教授乱刺法に還るべきだと主張しておる。併し乱刺法についての何ら今日日本におきまして十分なる実験データはないのであります。やればよかろうというのであります。アメリカにおきまして、一九三八年にローゼンタールがすでにやつておる。成るほど潰瘍をつくる率は少いのでありますが、大体ツベルクリン反応陽転率は八十二から五十六に低下したということを言つておる。なおブランシユは乱刺法によりましても、潰瘍ができるということを言つております。  以上述べ来りましたところから考えて参りまするというと、日本BCG問題につきましては、まだ私は研究時代であると思うのであります。従つてこの研究時代にありますものを有効無害として強制実施することは、科学者としてどうしても賛成することができません。科学というものは日々進歩しております。皆様が強制接種法に御賛成になりましたときにおきましては、その当時のデータにおいて最善だと信じられましてやられたことと存じます。併し今日私が今申述べましたように、種々研究データ世界からして出て来つつあるのであります。科学に基礎を置くところの法律というものは科学が進歩するに連れまして変更されるということは当然とするところであります。かくしてこそ進歩的な政治がなされるものと信ずるのであります。どうか謙虚なる気持でもつて科学の進歩に耳を傾けて、そうして善処されんことを私は切望する次第であります。
  8. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次は専門家河盛勇造さんの御証言を願いたいと思います。
  9. 河盛勇造

    証人河盛勇造君) 御質問になりました一々につきまして極く簡単に申上げたいと思います。  先ずBCG効果について申上げます。BCG有効性を証明いたしまする人体実験或いは動物実験につきましては、日本及び欧米各国におきましてすでに多く報告されてあつたところでございますが、このうちで特に私ども関係いたしましたところの阪大病院看護婦につきまして、昭和十一年以降実施して参りました今村教授及び教室員実験について申上げたいと思います。即ち昭和十一年四月以降半カ年に一回ずつ新入して参りますところの看護婦の生徒のうちツベルクリン反応が陰性のものを全く一時無選択に交互に取つて参りました。一方にBCG接種し、一方にはBCG接種をせずにずつと観察して参つた生活条件及び勤務条件同一にしまして、四カ年間見て参りました結果、BCG接種いたしました者からは一四・七%の結核発病がございまするに対しまして、非接種分よりは三五・六%の結核発病を呈しております。なお結核死亡につきましては、BCG接種分よりは一・五%非接種分からは七・四%であつたのであります。この実験は非常に厳密な意味での対照実験行なつたものでありまするから、この成績と統計的に吟味されましたところの曾田博士らの成績から見ましても、極めて危険率が少く、優位にあるということが実証されておるのであります。  なおこの実験は最も濃厚なる結核感染機会を有しまするところの看護婦で行なわれた実験でございまするし、なお且つBCGを一回のみ接種したところの成績でございまするので、一般にこれより感染機会の少い集団でなお且つBCG接種を繰返しておりまするところの現状では、なお有効性は増加しておるのではあるまいかと想像されるのであります。  なおBCG乾燥ワクチンを用いましたところの、人体のこういうような結核発病予防効果に関する成績は持つておりませんが、前実験を行いました当時に用いました液体ワクチンによつて行いましたところの動物での免疫実験と、現在使われておりまするところの乾燥BCGワクチンを用いて行いまするところの動物での免疫実験とが、本質的に全く一致した成績を有しておるところから見まして、当然前述の人体接種実験は、乾燥BCGワクチンについてもその成績を推定して十分であろうかと思うのであります。  次にBCG副作用につきまして申します。BCG接種を行いました局所に小膿疱、それから引続きましてその部分痂皮が生じ、それが小瘢痕を作りますることは当然のこれは反応でありまして、これは副作用とは申し得ないかと思うのであります。場合によりまして直経一センチ前後の潰瘍を作りますことがありますが、この率も一%前後であります。若しも現在の皮内接種が幾分深部に進みまして膿瘍を作りまして、それから更にこれが潰瘍に進展いたしましたような例は以前には相当多くあつたようでございまするが、最近はこの皮内注射の技術が一般に普及して参りまして、こういうような事故発生率が少くなつております。大阪府におきまして昭和二十五年中に、BCG接種を全部で二十三万人以上に行なつておりますが、そのうちでこういうような潰瘍が発生したというような報告がございましたのは全部で僅かに三件で、そのうちで相当長期間の治療を要しましたのが四十名ほどであるという数字であります。本年度になりましてからすでにBCG接種大阪府下で二十六万人ほどに達しておるそうでございますが、現在までこのような事故報告はないと聞いております。なおこのBCGによりまして生じました潰瘍或いは膿瘍に対しましても、この頃の進歩しておりまするところの結核化学療法剤ストレプトマイシン或いはパス等が著しい効果を有しておりますることは文献にも報告されておりまするし、又一部分は私どもも経験しておりまするので、若し不幸にして膿瘍或いは潰瘍を生じましても、従来よりはよほど簡単にこれは治癒し得るものと考えております。  次にBCG接種人体に及ぼす障害の有無について申します。BCG動物体内の通過によりまして、或いはいろいろな培養基の継代培養によりまして毒力を復帰するかどうかという問題は従来多数の報告があり、或る種のうちには、古くはペトロフの実験のごとく有毒菌糸があるかのごとく報告されたものもございまするが、この実験もペトロフ自身によつてそれは誤りであつたと訂正されておりまするし、或いは又我々自身現在まで多く行なつておりまする実験でも、すべて全くこれは陰性の成績に終つております。又BCG人体接種いたしまして、活動性結核いわゆる進行性の結核病変を生じ得ないという事実も動物実験より容易に類推し得るのでありまするが、なおこれにつきまして幾分でも参考になり得るかと思いまするのは、昭和二十一年に大阪の或る女子商業学校につきまして私どもの見た一つの事実があります。  即ち当時のBCG皮内接種用のBCGワクチンを、これは接種者が誤りまして一CC或いは〇・五CCずつを皮下注射をしたのであります。これは全部の十七名に行なつたのでありまするが、その者につきまして接種五カ月後、及び一年三カ月後にその胸部のX線像の検査、その他の各種の精細な検査を行いましたところが、全員が全く健康でありまして、結核性疾患その他を認め得なかつた事実であります。即ち人体に現在接種しておりまする量の十倍量、或いは五倍量を注射いたしましても全身的には何らの障害をも起していないということであります。  なお現在結核性疾患を持つておりまする者にBCG接種をいたしました場合に、病巣に悪影響を及ぼすのではないかという問題がございますが、これにつきましても、昭和十八年当時大阪の福泉療養所におきまして、八十名ほどの患者にこれはBCGワクチンを何とか治療に使えないかというような目的で人体接種したことがございまするが、いずれもこれは結核を増悪するというような結果には終つておりません。  次はBCG強制接種に対しまする意見であります。現在の我が国におきましては、結核の感染頻度がなお甚だ多くございまして、且つ日本人の結核が感染に引続きまして発病いたしまするいわゆる初感染結核が多いというところの現状よりいたしまして、BCG接種は是非とも必要であろうと思います。なお且つ日本一般の人の結核に対する認識の程度を見てみますると、なお十分なものがございませんので、強制的にこれを行うことも止むを得ないかと存じます。この点につきましてなお注意しなければなりませんことは、決してBCG接種のみで結核予防が完成しておるのではないということと、若しも日本結核感染頻度が非常に少いようないい状態に持つて行きした場合には、これはBCG接種などというものは必要がなくなるのでありましてがその時期に到達することが最も望ましいということ。及び日本人の民度と申しまするか、日本一般大衆の結核、或いはこういう健康に対しましての認識が進みまして、それぞれの人が進んで接種を受けるという状態になりますれば強制をする必要がないと思うことであります。  最後にBCG接種の改善に関する意見を申します。BCGワクチンの製法及び接種方法につきましてのこれが改善が必要なことは申すまでもございません。併しこれは現状よりはなお研究してよりよいものを作りたいという意味でありまして、現状のものを用いましても強制接種を行うには何らの支障がないと思つております。強制接種を行うに何らかの障害があるほど現在のものは程度が低いものではないと思います。もう一つこれらの改良に関するような研究は、現状の強制接種を続行しておりましても十分これを研究して改良し得るということであります。  以上で証言を終ります。
  10. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次は学術会議会員内村祐之君にお願いいたします。
  11. 内村祐之

    証人内村祐之君) 私は専門は精神医学者でございまして、直接結核を手がけておる者ではございませんが、併し結核は脳にも参りますし、従つてそういう患者を見る機会も少くございませんし、又結核性脳膜炎の脳などを見ることにおいては私どなたにも負けておらない、そういう意味で精神病学者ではございましても、全然結核に無縁の者でないということを第一に申上げたいと存じます。  私は学術会議のお申入に署名した者でございますが、その気持を私として申上げますと、いささかほかのかたたちとは違うかも知れませんが、私は医者として、殊に医道の立場から医学的の技術を他人に強制的に施行するということはこれは非常に重大な問題であつて、医者が常に慎重に考えなければならない問題だと考えておる次第でございます。殊に私の専門におきましては、不法監禁というような問題もありますので、殊更にこの強制ということについては我々関心が深いし、又専門のみでなく医学という立場から見まして、各人の意思というものを認めるということが大事なことであつて、今日我々がいろいろの医療を施しておりますけれども、少くとも私といたしましては、どんな医療でもこれを当人の賛成、或いは当人でなければ保護者の承諾がなくしてこれをやらないのでございます。こういうような私の根本的の考えから、戦前であつたと思いますが、優生保護法の制定がありました際に、やはり同じような問題が起きまして、強制断種をするか、或いは任意断種をするかということで非常に問題があつたのでございます。私はその際遺伝性ということがもう決定的に確かな事実であるならば、この場合には又強制も或いは止むを得ないかも知れない。併しできればやはり当人の承認を得てやるのが然るべきであるけれども、もう学問上一〇〇%問題でないときには、これは強制してやつてもいいのかも知れない。併しながら大多数の場合におきましては、やはり学説がいろいろでありまして、私どもやはり相当の精神病は遺伝性だとは思つておりましても、それに異論があるということを考えますときには、これはどうしてもそういう人たちの考えを考慮の中に入れなければならないというような考えもありまして、私は強制断種ということに終始反対をいたしたものでございます。そしてその結果できましたのは、大体私の趣旨に副うたような意味でございまして、今日ではその断種手術の適用が適当であると思うケースでさえやはり地方優生審議会とか、或いは中央優生審議会という二つの組織を通つて当人並びにその保護者の反対と申しますか、反対の余地を残すような法律ができておる。私はこれは非常にいいことだと思つておるのでございます。戦前ともすると統制とかいうようなものに走りやすかつた時代においてさえそういうような法律ができたのでございます。戦後は殊更にこの各人の意思を尊重するという傾向が強くなつてつておるのでございまして、従つて以前よりもなお更この強制という問題については、十分に考慮しなければならないと考えておるものでございます。勿論この四月でございますか、慎重審議をされて、そうしてこういうような法律ができたことを信ずるものでございますけれども、不幸にして私自身は殊に最近におきまして、身辺にもいろいろのケースがあり、私の極く信頼しておる臨床家、細菌学者というような者にもこのBCGのあとで困つたというようなことを言われるかたがあるのを聞きましたし、又私自身の教室の者とか、或いは私の親友から送り届けられた資料によりましても、BCG接種に引続いて肛門周囲膿瘍であるとか、或いは滲出性の腹膜炎であるとか、滲出性の腹膜炎であるとかいうものの出た例の報告を受けております。これらのかたは皆立派な科学者でございますので、詳しいデータとして私の許に届けられておりますので、私はこういう例があつたことを信じたいのでございます。併しこういうような学者でございますので、このBCGによる結核の発病であるとかというふうに無論考えない。併し期目的に見てそれまで健康であつたものがその接種を機としてそういう病気が出て、そうして或る者は死亡したというような例を聞きますと、これは十分に検討して頂かなければならないことでございますが、とにかくBCGの直接の結果ではないということもなかなか証明のむずかしいものではなかろうかと私は考えるのでございます。そういう例を見て参りますると、BCGのあとでそういう極く少数かも知れないけれども、そういうような不幸な例があるということになりますと、これを本当にその銘々の意思に反して強制するということでいいのであろうか、どうであろうかという点が再び私の心に蘇つたのでございます。こういう次第で、私は只今までお聞きすると、BCGにはそういう別のものがないというふうにおつしやることを聞くのでございますが、少数ではあるが、そういう副作用があるという御発言のあることをBCG学者が十分御考慮下すつて、それでもこれはBCGとは無縁のものであるというふうに御証明下すつても結構でありますし、又これはBCGに何かやはり関係があるということを仮に証明できたとしたならば、私は虚心坦懷にこれを銘々の、各人の個人の意思に反して強制するということがいいかどうかということをもう一度考え直して見るべきではないかというふうに私は痛感いたすのでございます。私はそういう次第で、強制ということはこれはどうも日本の現状ではやはり止むを得ないというふうなことで、主として論議BCG効果であるとか、副作用であるとかいう点に集中されておりますが、少くとも私の医学的良心から申しますれば、それよりも強制するということが一体論のないほどの一〇〇%の、つまり学問的の裏付があるかどうかという点で頗る疑問に思つておる。そういう意味で私は厚生省が慎重に調査して遺憾なきを期せられたいという意味のあの申入は、学術会議の使命といたしましても極めて適切であると存じて署名いたしたような次第でございます。私のBCGに関する主な意見強制接種という点にあることを申上げたいと存じます。
  12. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次は専門家染谷四郎さんにお願いいたします。
  13. 染谷四郎

    証人染谷四郎君) それでは御質問の各項について意見を申上げます。  先ず第一にBCG効果についてでございますが、このBCGワクチンの効果があるということにつきましては、我が国におきましても多数の研究者により、或いは又米国、スカンジナビア諸国におきましても、十分吟味された方法によりまして詳細な研究が行われております。それぞれBCG効果のあることが報告されておりますので、このBCG効果のあるということにつきましては、これは大方異論のないところであると確信するのであります。併し現在一部に問題になつておりますところの疑問は、果して現在の乾燥BCGワクチン効果があるのかという問題であるかと考えますので、この点についていささか意見を申上げます。  BCGによらず、あらゆる細菌は乾燥という操作によりまして、本来の性質を変えない、従いまして我々はいろいろな細菌の菌種を保存する場合にはこの凍結乾燥というものを利用するのであります。で、このことは細菌学の一般常識で、従いまして乾燥以前のBCGと乾燥後のBCGというものには、細菌学的に考えて本質に差違はないと考えてよろしいと思います。このBCG効果研究する方法といたしましては、人体接種して発病死亡がどうであるかという点、或いは動物BCGを以て免疫いたしまして、これに有毒結核菌をかけて、その結核病変のでき方がどうであるかという点、或いは更にBCG接種後のツベルクリン反応の程度によりまして、この効果を比較検討するという方法がございます。  未だ乾燥BCGは実際に広く利用されてから日が浅いのでありまして、この点はまだ人体接種して、その発病死亡の効果がどうであるかという点については結論を得ていないのであります。併し動物実験におきましては、これは十分に立証されておるところであります。又人体におきましてツベルクリン反応陽転後の状態を見てみますというと、私が最近各製造番号の違います二十数種類の乾燥BCGワクチン人体接種した成績を持つておりますが、それによりますというと、非常にいい成績がございます。勿論一般に売出された直後のものは極めていい成績を持つております。零度乃至五度に保存されたところの乾燥BCGワクチンもかなりいい成績を持つておるのであります。これは以前の液体ワクチンの場合と比較いたしまして、今の予防に十分役立てることができると思うのであります。又更にBCGを今まで数回接種いたしました、或いは一回でもよろしうございますが、次に或る経過ののちに陰性になれば、これにBCGを又さすという場合があります。これを再接種と申します。初めてBCGをさす場合にはこれを初接種と言いますが、再接種の場合には初接種に比較いたしまして非常に早く強く陽性になります。又接種の菌量も初接種の三分の一というような微量でございましても、再接種の場合は初接種に比較しまして非常に強く陽転するのであります。こう考えますというと、現存の乾燥BCGワクチンを用いましても、接種の回数を重ねるというようなことで、毎年やるということでできるわけでありますからして、接種回数がだんだんと殖えて行くに従つて非常に強力な免疫を付与することができるというふうにかように考えるのであります。徒らに接種量を増さなくてもよろしいと、そういうふうに思うのであります。まあ以上のような考え方から、私の今までの経験を考慮に入れまして、現在のBCGワクチンは効果があるとさように考えるのであります。  次にBCG副作用並びに身体の障害でございますが、この問題の一つはこのBCGが有毒結核菌に転化しはしないかという点であります。この点に関しましてはペトロフの実験などがありまして、一時世を騒がしましたが、これは間違いだというふうにきまつております。又最近一部の細菌学者が特殊な培養基にこれを植えるというようなことをいたしますと、毒力に変るのではないかというようなことが報告されております。併しこれらの実験は結果をよく見てみますというと、決してこれが有毒菌に変化しておるのではありません。なお且つ二、三の動物BCGをさしてその病変を見ておる実験もございますが、これは非常に大量のBCGをさしておるのでありまして、この点も大いに考慮に入れなければならないと考えるのであります。私たちは今まで多数の例についで動物実験をいたしておりますが、これが有毒菌化したというような実例は見ておらないのであります。又このBCGワクチンの中には有毒菌或いはその他の雑菌が入つてやしないかというような点も考慮に入れなければならないのでありますが、この点につきましては、予防衛生研究所において極めて厳重な安全試験が行なわれて、即ち検定が行なわれておりますので、その安全性につき疑問になる点はないと考えるのであります。  次に問題になりますのは、この接種局所副作用として或る程度の局所変化ができるという点であります。この点に関しましては、私が最近行いましたところの乾燥BCGワクチン人体接種成績によりますと、約三千人ほどに接種しました経験がございますが、一カ月において潰瘍発生率は〇・九%でございました。これも極めて軽微なものでありました。而もこれらは三月後においてすべて瘢痕となつて治癒しております。BCGをさしますというと、そこに或る程度の変化が起こるということは、これはBCGがその局所に増殖いたしまして、これが元となりまして人体免疫を付与するということを目的にするのでありますから、局所に何らかの反応ができるのはこれは止むを得ない点であると考えるのであります。  次に強制に関する意見でございますが、以上のようにBCGが有効であるということに対しては私は確信を持つております。又その程度の副作用でございますというと、そんなに問題にするほどではないのではないかというふうに考えますので、日本の現在の結核の淫浸の状態を考慮に入れますというと、例えば東京都内において私が昭和十五、六年頃にやつた成績によりますというと、都会の中等学校高等学校というような生徒が新らしく結核に感染する率というものは一年間二〇%前後、その中で相当部分がどこでうつつたかわからないというような初感染者でありまして、なお且つ農村その他で集団検診をいたしておりますというと、家族内の感染の悲惨な実例を我々は多数見ておるのであります。例えば家族内感染の例におきますると、大体初感染者のうち三〇%ぐらいはレントゲンの上にはつきりと出て来るというような成績を私は見ております。かような結核の淫侵状態から考えますというと、勿論理想的には強制しないで、国民各位がどんどん予防接種を受けるというのを望むのでありますけれども、現在の我が国の状態を考慮いたしますと、強制も止むを得ないのではないかというふうに考えるのであります。要は結核感染の危険にさらされておるところの結核未感染者は一人でも多く強力にBCG接種が受けられるような措置がなされて欲しいと考えるのであります。  最後にBCG接種の改善に関する点でございますが、勿論私は現在のBCGが完全無欠のものであるとは考えておりません。なお且つ改良の余地はあるということはこの種の細菌学的製剤に共通なことであると考えるのであります。例えば接種法におきましても、現在我々も研究を実施継続中でございますが、まだこれを実際に実施に移すという段までには至つておらないのが残念でございます。まあかような程度でございます。
  14. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 以上四人のかたの御証言が終つたのでありまして、これから逐次質疑応答に入りたいと思いますが、証人のかたは自分に不利な御証言は默祕権がございますので、御遠慮下さつて結構でありまするので、念のため申し添えておきます。順次質疑に入りたいと思いますが、証人のかたも委員のかたに対しまして御発問も結構でございます。
  15. 有馬英二

    ○有馬英二君 私は先ず児玉証人にお伺いしたいと思います。只今四人のかたの証言を伺いますというと、どういう工合に私どもが解釈してよろしいか、半々の反対意見が開陳されているようでありまして、学術会議に属しておられるお二人のかたは強制接種ということについてやはり相当の論拠をお述べになつて、そうして反対意見を申出ておられるようでありますが、その論拠と他のお二人の専門家証言とを比べて見ますというと、私はどちらを信用していいかということを迷わざるを得ない。そこで私は児玉証人に伺うのでありますが、あなたは他の専門家の御意見をどういう工合に御判断なさいましようか。
  16. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 誠にあなたがおつしやつたように、我々二人の学術会議人間意見と他の証人かたがたの御意見とは全く正反対であります。これが丁度私は世界の現在のBCGに関するやはり学説と申しますか、学者間の意見を反映しているものだと思います。皆がそれぞれ信ずることを言つているのでありまして、これは全く現在の段階研究状態ということから脱しないというふうに、やはり反対者もあれば賛成者もあるというのが現状だろうと思います。
  17. 有馬英二

    ○有馬英二君 併しながら児玉さんは結核については専門家でないはずであります。私ども委員としてここに証言を求めておりますのは、やはり科学的の根拠のあるところの御意見を求めております。  成るほど栄養の学問を専攻せられて生化学の権威者でおありになるかも知れないが、結核のこと、殊にBCG実験については何ら御実験がないように私は聞き及んでいる。殊に他のお二人の専門家はそれぞれ自分で研究して、自分で実験をしておられる。而も御承知のようにBCG接種は只今法律規定されておりまして、私ども厚生委員会ではこれを審議いたしまして、この接種が適当であると認めてこの法律を制定したのであります。私どもはこの法律の制定に当つた責任者であるのであります。若しあなたが学問上の根拠からこれが強制接種をすることはいけないというお考えであるならば、あなたのもつと強い御意見を承わらなければならんと私は思うのであります。
  18. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 一体何ですね、法律をお布きになるときに、やはりそのときのサイエンス、科学というものの土台において法律をお作りになつたと思います。その当時の科学というものの現段階において制定されて皆さんは御賛成になつたことと思いますが、これは二十三年でありましたか知りませんが、その後におきまして、いろいろこの問題に対しましては進歩しております。私が最後に申しておきましたように、科学というものは日々進歩しております。その進歩しております科学というものに基いて法律というものを改正される、検討されるということが、私は本当に進歩的な政治だろうと思います。
  19. 有馬英二

    ○有馬英二君 児玉証人科学を、その当時の科学のことを尊重してというように言われましたが、昭和十三年以来BCGを学術研究会その他で取上げまして、そうして専門家研究をして、そうして昭和十八年になりまして、五カ年間の結果を収集しまして政府に進言をした、その進言に基きまして政府がこれを取上げて、更に昭和十八年からこれを広く接種し、なお二十三年からこれは強制接種に用いられていることは先ほど言われた通りであります。でありまするから、決してその当時の学者意見を聞いていないということはないと私は思いますが、如何ですか。
  20. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) それは先ほど私が申しましたように、その当時に立派なデータを基礎に皆さんが法律を布かれた。併しその後において学問というのは日進月歩で進歩しております。その進歩したところによつて、また法律というものは科学の進歩したところによつて変えるべきものである、変えるべき時期が来ると私は信ずるのであります。
  21. 有馬英二

    ○有馬英二君 先ほど河盛証人から、それから染谷証人からも承わつたのでありますが、只今BCGは乾燥BCGを使つているのでありますが、この乾燥BCG性状がなまのBCGと殆んど変らないということを言われたのでありますが、その点についてどういう工合に御見解になりますか。
  22. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 私寡聞にいたしまして、まだ乾燥BCGについて非常に……湿性でおやりになつたようなたくさんの人間についての立派なコントロールを、数万人のコントロールを取り、そうして本当にやつた実験データがあるということを聞いておりません。
  23. 有馬英二

    ○有馬英二君 なるほど只今のBCG効果、或いはその他についての我々の知つている知識は、これはなまのBCGについたことが根拠であります。基礎であります。その後乾燥BCGを使うようになつたことが即ち科学の進歩であろうと私今考えております。この乾燥BCGを使うようになりまして、BCG接種が広く行われるということについて一つの大きな寄与をなしていることを我々は信ずる、成るほど乾燥BCGを使うようになりましてからはまた年月がありませんけれども、その効果において著々と好結果を示しているということから、これを推進いたしまして何らこれは不適当ではないと私どもは信じているのでありまするが、他の証人専門家から伺いましても、そういう工合に考えられる。然るに児玉証人ほか学術会議かたがたはただ世上いろいろの噂がある、或いは専門家の間にも疑義があるというような漠然とした言葉で以て、或いは抽象的な論拠で以て、そうしてこの重大なる結核予防という一つの社会的の行政的のこの施策をどういう工合に変化をしようというようなお考えでこういうことをお書きになつたのでありましようか。或いは強いて厚生大臣に進言されたか、この点を伺います。
  24. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) それはたびたび私が申しましたように、成るほど二十三年のときには皆様がその当時のデータで万全であるというふうにお考えになつて決定された、併しその後におきまして私が述べましたように、いろいろの学問の進歩の結果疑義が出て来ているのであります。こういうことを取入れてこれに謙虚に耳を傾けて、そうしてこの問題をどう考えて行くかということなんであります。
  25. 有馬英二

    ○有馬英二君 なお昨日塩田証人から承わつたのでありますが、学術会議におきましては、十九日に改めて会議を開かれて、そうして先に厚生大臣に提出されたこの進言を追認したというようなことを言われたんでありますが、それはどういうような意味でありましようか。
  26. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 最初大学の東京、又は東京に来られましたかたがた十三人の署名を求めて、つまり有志ということにして申入れたのであります。その後たまたま学術会議が開かれまして、全員集まりましたので、我々の有志がこういうふうな申入れをしたが、皆さまはどうかということを御相談申上げたところが、皆賛成するというところで、全員がすぐこれを追認したということであります。
  27. 有馬英二

    ○有馬英二君 その追認ということはどういうことを意味しますか、即ち先に十三人で政府に申入をした。それを更にこの学術会議の会員全部で以てこれを強力に推すというような意味でおつしやつたんでありましようか、如何でありましようか。
  28. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) いや、強力に推すというふうなわけではなくて、とにかく我々が、十三人の有志というものが、ああいう文句で厚生大臣に申入れした、この事実に対しまして、全部の人間がこれを承認するということであります。
  29. 有馬英二

    ○有馬英二君 先ほどもつたのでありますが、十三名で先に申入をされたというのならば、十三名でそれで結構ではないでありましようか。それでいいとお思いになつたら、十三名で進言をされたと私どもは考える。而もその十三名のかたがたの名を見まするというと、只今我国における医学の大家ばかりのかたが皆名を連ねておられるようであります。ほかのかたは当時おらなかつたのかもしれませんけれども、更に十九日において総会でありましたか、部会でありましたか、更に多数の人にこれを追認させたということはどういう意味であるかということを私どもは深くもつと知りたいと思うのであります。第一、御承知のように進言によりまして厚生大臣がいわゆる箱根会談というようなものを発表した。或いは箱根会談じやないかも知れません、それが問題になりまして、只今御承知のように、我国に結核予防上非常な不安と疑義の念を抱かせるようになつたのであります。これは重大なることであると思う。然るに第七部会は更にこれを追認したというのは、更に十三名では弱かつたわけだから、全会一致で以てこれを推そうというような、そういう政治的の意味があつたでありましようか。それを一つ伺いたい。
  30. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 政治的かどうか知りませんでしたけれども、我々学問的の立場から、皆がとにかく一部の会員の名前においてやつたものを、やはりこれは全会員のものが考えるべきであつて、結局相談したわけであります。これは皆ああよしというだけのことであります。別に何も意味はありません。
  31. 有馬英二

    ○有馬英二君 更にお伺いをいたしたいのでありますが、この進言が基になりまして、先ほど申上げましたように、BCG接種ということについて今一つの疑義を生じ、不安を抱かせるようになつて、地方からはBCGを断わるというようなことが続々出て来ておるというような報告も出ておるのであります。我国の結核死亡の状態、或いは結核蔓延の状態というようなことは、あなたは結核専門家でなくても、多年医学を研究しておられるかたでありますから、十分御承知のはずと私は思うのであります。なぜ我国で、特にこの戦時中であつたにもかかわらず、結核問題を強く取上げまして研究をした、そうして過去数年の間、特に最近に至りまして、結核死亡率が激減しつつあるということから考えまして、BCGということが寄与していなかつたとあなたはお思いになりましようか、如何でありましようか。
  32. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) これは先ほど私が申しましたように、これは単に結核死亡率が下つたということがBCGのためだというふうにお考えになることは私はどうかと思います。これは自分の常識から判断いたしまして、栄養がよくなつたということも大きな原因であると思うのであります。
  33. 有馬英二

    ○有馬英二君 我が国の結核死亡の統計を御覧になればわかると思うのでありますが、戦時中特に終戦間際から、或いは終戦後のあの栄養状態の非常に悪い間であつたにかかわらず、その時分の結核死亡率が我々が想つたよりも少なかつたということからして、このBCG効果が相当あつたのではなかろうかということは、学者の間に意見が一致しておると私は思うのであります。勿論BCGだけに必ずしもこの効果を帰するという考えはありません。併しながらあの栄養の低下した食糧事情の悪い時代であつて、丁度ヨーロツパがあの第一次世界大戦の際に食糧封鎖をこうむつてドイツがその時分に今まで曾つて見られないような結核死亡の増加を来たしたというような、ああいう例も私どもは見ておる。そこでこれもアナロジーで我が国でもそういうことが起つておるのではないかと思つたにかかわらず、実際においてはそれほどではなかつたということから考えまして、昭和十三年以来BCG研究し、これを続行しておるということに我々はやはり重大なる効果があつたということを認めざるを得ない、ということは少くとも我が国の結核対策、或いは結核研究に携つてつた者の是認するところであろうと思うのでありますが、如何でありますか。
  34. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) たびたび私が申しますように、そういう立派なあなたたちの御研究に基いて実施になつたところのあの強制接種という法律はおきめになつたと思うのであります。而も私がいうように学問というものは日進月歩のものである今日、それ以後におきまして、いろいろのBCGに関する外国における研究が出て来た、そうしてその中には私が先ほど申しましたように、いろいろな副作用が出ます。ビルレンツ毒性につきましてもいろいろの疑問が出て来た。こういうことも一度お考え下さいまして、そうしてもう一度この問題をお考え願いたいというのが私の本心であります。
  35. 有馬英二

    ○有馬英二君 勿論BCGが完全無欠なものだということは私どもは初めから考えておりません。たくさんの欠点がある、又弱毒菌でありまするからして、強力な毒性の強い結核菌の因子を受けまするというと、感染するということはわかつております。でありまするからして、これをどうしてもこういう工合に予防上取上げるというためには、御承知のように我々の五年間のあの実験によつて、死亡も発病も著しくこれを抑制することができたという事実に基いてこれを取上げておるのであります。そういう点について私どもはいろいろと先ほど言われました、お読みになつたジユボー及びヤンセンその他の人の反対がありましても、この我が国における実験を私どもは深く信じて疑わない、勿論あなたが言われるように、これを何も考えないということではないので、それは結核病に関係しておる人でなくても、すべての学者は学問の進歩というものは当然考えておる、併しこれを我が国の現状から考えまして、結核予防に欠くべからざるものとして実施するということが必要であろうと私どもは考えたからであります。その点についてどういう工合にお考えになりますか。
  36. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) その考え方が違つておるようでありますが、私は先ほど申しましたいろいろの進歩というものの中には、今年発表になつたものも申上げております。少くともあなたたちが昭和二十三年ですか、二十三年にこの法律を制定されました当時の知識ではないのであります。そういうふうな世界のつまり新しい進歩というものを今日謙虚に聞き、なお且つこの法律というものについても強制されるかということを御研究願いたいということであります。
  37. 有馬英二

    ○有馬英二君 学術会議の使命から、学者がこういうことを行政上についても忠言をされ或いは進言をされるということは、誠に結構なことと私は思います。然らば今年この法律が制定せられるに先立つてなぜ学術会議がこれを問題に取上げなかつたのでありましようか。学術会議の中には結核科というものがあるはずであります。あなたたち学術会議の会員で結核科に属しておられないかもしれませんが、どうして皆さんで協議をされなかつたか。協議をされたでありましようか。
  38. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 学術会議の中には結核科というものはございません。文部省の研究班の中にそれはあるのでございます。どうか一つお間違いのないようにお願いいたしたいと思います。
  39. 有馬英二

    ○有馬英二君 それにしてもなぜ今年の結核予防法の制定前に学術会議がこういうことについて注意をされなかつたかということを伺いたい。
  40. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) それは二十三年にもうすでに決定しておられることだと私は存じておりましたのですが、そうしてその法律が今度新しくでき、結核予防法の中に入れるということを承わつておりました。それにつきましてはもう二十三年に決定しておるのではないのですか。そうではないのですか。
  41. 有馬英二

    ○有馬英二君 只今この学術会議のこういう申入れが行われておる。即ち最近に行われておるのでありますが、この結果我々は只今行つておるところの現行法を修正しなければならんかどうかということを深く考え、また憂慮しておるものであります。その点についてあなたはどういう工合にお考えになつておりますか。
  42. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) これは学術の新しい進歩というものを十分お考え下さいまして、改正すべきものならば改正する、改正しないものならば改正しないということをおきめ下されることこそが、全くこの進歩的な科学に即した政治を行うものであると考えるのでありまして、どうかそういうふうに進められることを希望いたします。
  43. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 私は内村先生にお尋ね申上げたいのですが、内村先生はこの学術会議のスポークスマンをやつておられるということを承わりましたので特にお伺いしたいのですが、御承知のように昨年の十月に社会保障制度の勧告が出ました。現在社会保障制度の勧告がなかなか進んでおりませんのは御承知通りでございますが、特にこの中で漸く取上げられておるのが結核の問題である。而もこの結核の問題がかなり軌道に乗つて来つつある、これは結核予防法の制定に当りまして非常に軌道に乗つたということを私は考えております。この結核予防法におきましては、今児玉先生のお話のように二十三年の六月に公布になつて、そうして実施は二十四年の十月になつております。これは成るほど又児玉先生のおつしやるようにこの頃の学問に基礎を置いたということかもしれません。併し昨年の十月のこの社会保障の勧告の結核の第二項には予防接種ということを特に謳つております。これには特にこういうことを謳つております。読上げる必要はないかもしれませんが、御参考に読上げて置きますが、「予防接種は、特定の年齢層の者に対し年一回定期におこない、患者家族、淫侵地区居住者などに対しては定期以外にも予防接種を行うものとする。この事業のためには」云々ということがございまして、この意味は特定の年齢層を考慮し、又こうこうということは、これは私は勧告の真意は、或る程度強制してやらなければならないという考え方があるのではないかと思うのであります。而もこれは昨年の十月に勧告が発表されたのでございます。一年の間に学問の進歩が非常に変つて来たということになれば別問題でありますが、十月と今日と比べまして先ずそう考え方に違いがないといたしますと、先般の学術会議かたがたによつて突然にBCGの問題が取上げられまして、そうして漸く軌道に乗りつつある、又この勧告の線に沿つて参りましたものに一頓座を来すのじやないかということを私どもは非常に懸念しております。それにつきましてこの問題が取上げられました、第七部会に取上げられました動機と申しますか、どういうわけでなぜこれが取上げられるようになりましたかということ、又七部会の中におきまして、どういうふうなお扱いで厚生大臣へ申入をされるようになりましたか、その間の取扱いました模様、又厚生大臣に申入れをされましたが、どういう目的で申入れをされましたか、この点について御意見を拝聴したいと思います。
  44. 内村祐之

    証人内村祐之君) 私がスポークスマンであるということのために何か特別な重大な役割を持つておるかのような誤解を新聞などもつておるようでございます。併し学術会議の中には部長、副部長、幹事という者が部員の相互選挙によつて選出されておるんでありまして、私はその幹事に選挙されたわけでございます。従つて幹事は部長を助けて部務を司るというその条令に従いまして、大体部においてきまつたことを整理いたしましたり、或いは外に発表したりということだけを私がやつておるわけでございまして、そのほかに私がスポークスマンを引受けたという特別の意味合いは何もないのでございますから、そこを一つ御了承を願いたいと思います。  それからもう一つの軌道に乗りかかつておる結核予防についてあの申入れが非常に社会の不安を起すのではないかというようなことでございますが、私をして言わしめれば、むしろ強制接種ということが社会に不安を与えておつた、そのことがただんだんに現われて来てあの申入れを結局作つたのではないかというふうに私は理解しておるのでございます。即ち私は実は今年の四月からの学術会議委員でございまして、その前の学術会議の働きについては私は余り関知しないのでございますが、四月以降会員の中からBCGで非常に困つておる者があるんだが、あれでいいんだろうかという声をちよいちよい聞くようになりましたし、まあそのほかに先ほども証言の際に申しましたように、我々の友人である臨床家や細菌学者などの中で、BCGというものに信頼がどうも置けないという意味のこと、例えば自分の孫にBCGをさせるかといつたらさせないということを言つたりする人もあつたり、そういうようないろいろの声、それから又特別に発表したようなことの報告というようなものを我々受けるのでございまして、つまりこういうことが不安があつては、それこそ軌道に乗つた結核予防が阻まれるというようなことを恐れるのでありまして、目前に多少の不安はありましても、完全なものを作つて国民全体の不安をなからしめることが国家百年の計ではないかというふうに私は考えるものでございます。
  45. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 それでは只今申上げたその勧告案の中にありまする予防接種の条項についてはどういうふうにお考えになりましようか。勧告案の中には先ほど私が読上げましたように「特定の年齢層の者に対し年一回定期におこない、患者家族、淫侵地区居住者などに対しては定期以外にも予防接種を行うものとする。」これが昨年の十月の第一次勧告案でございますが、これはこの意味から察しますると、どうしても強制を意味しなければこういうふうな年齢層に限り、或いは一定の時期に行えというようなことはできないと思うのですが、これには相当な強制の意味を含んだ勧告だと私どもは解しておりますのですが、そういうふうには解釈がとれませんでしようか。
  46. 内村祐之

    証人内村祐之君) どうもその勧告案の内容はよく存じませんのですが、私は先ほども申したように、この個人の意思というものをできるだけ尊重しなければならないという立場でございますし、又強制しなければ予防接種ができないというようなお話でございますが、すでに学術振興会あたりが非常に多数の者を接種されたのは、特別に強制してやつたというわけでなく、ガイダンスによつてこういうことをやつてみるのたがどうだということの、ガイダンスによつてあれだけの数をおやりになることができたのじやないかと私は思うのでございます。それですから仮に強制でなくとも、本当に信頼のできるBCGができて、これを上手に一般に指導すれば、これがそのために結核予防の進歩が妨げられるというようなこともないのじやないかと私は思つておるのです。それで何でもこう法律で押付けるというよりも、やはり教育で以て一般の人、民衆を上げるようにすることが本当の活きた政治だと私はこう思つておるので、そういう意味で強制ということに私は殊更に敏感なんでございますが……。
  47. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 もう一つお伺いしたい。先ほどこれは申上げたのですが、十分にわかりませんので、もう一度お尋ねしたわけですが、厚生大臣へ申入れをされたこの目的は、こういう目的で厚生大臣に申入れをされましたのでしようか。
  48. 内村祐之

    証人内村祐之君) 少なくとも私の理解する限りではこのBCG研究はまだ研究の余地がある、これはもう専門のかたもおつしやつておるところなんですから、そういう研究を、法律で強制的に接種するということはどうかというふうにも感じられるから、この点について政府が十分に御調査になつて、そうして遺憾なきを期せられたいというあの文章の意味そのままでございまして、そのほかに学術会議が特別な意図を持つておるということはあるはずもありませんし、あつてはならないと考えるものでございます。
  49. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 それじや調査研究をしてもらいたいというだけの意味だと解釈しましてよろしいのでございますか。
  50. 内村祐之

    証人内村祐之君) 十分に調査研究をしてそうして遺憾なきを期せられたいと、こういう意味でございます。
  51. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 それじやこれは調査研究というところに主眼があるわけでございますね。
  52. 内村祐之

    証人内村祐之君) いや、むしろ遺憾なきを期せられたいというところのほうに重点があるかと思いますが、遺憾なきを期するのには、やはり十分に調査しなくちやならないかと、こういうような意味でして、どこに重点があると、まあ私むしろ遺憾なきを期せられたいというところに私の信条は私自身としてはございます。
  53. 松原一彦

    ○松原一彦君 私も内村先生にお尋ね申上げたいのですが、去る十月四日付を以て厚生大臣日本学術会議会員有志として御提案になりましたものを読みますというと、「強制接種については現段階において世上にいろいろ問題があり、医界にも疑惑を抱く者があつて、なお研究の余地があるものと思われるから、政府においてはこの点について慎重に調査して」と、こういう条件でお出しになつたように拝見するのでありますが、この厚生大臣にお求めになる点は、今藤森委員の御質問に対して、最後の遺憾なきを期せられたいということであるそうでありますけれども調査を御要求になつたのでありますか、強制接種は今直ぐにやめねばならんと、こういう条件附の調査でございますか、そこをはつきり承わりたい。
  54. 内村祐之

    証人内村祐之君) 少なくとも私自身としては、この十分に調査するということと、遺憾なきを期せられたいというものとは不即不離でありまして、而も学術会議自体は研究機関ではないし、この厚生省関係或いはそのほか日本医学会とかいうような、或いは日本医師会、そういうような、調査のできる機関で以てやつて頂きたいということを言つた意味でございまして、それ以上今直ちにその強制接種はやめて欲しいというようなつもりはない。つまり本当に調査して、そしてその上で今のままでいいというならそれも結構だし、今のを変えたほうがいいというような結論に出たならば、そういうふうにして頂けたらいいのであつて、すべてこういう法律はやはり学問の根拠の上にできておるものでございますから、その結果を見た上でやつて頂くと、こういう申入れであつたつもりでございます。
  55. 松原一彦

    ○松原一彦君 ところが厚生大臣はこの権威ある学界の最高峰である学術会議会員の御勧告を受けまして、急遽これを実行に移そうという手段をとられたのであります。で、なお昨日塩田部長にお聞きしますというと、学術会議には調査機関はないと、こういうことであつたのでありますが、この日本学術会議とは何かという、学術会議から御発行にたつておるパンフレツトによるというと、できるだけ政府を助ける職務を持つておる科学技術行政協議会、SPACは、その点において日本学術会議が政府に協力、応援するための機関であると、はつきりこう示されております。学術会議の最高峰の権威のあるかたがたが御提案になるということは、これは日本のすべての衛生方面には、特に公衆衛生方面には非常に影響が大きいのであります。これを御提案になつて、橋本厚生大臣が急にそのまま、調査研究もしないままに実行に移すような態度をとられたということによつて、あなたがたはこれは目的を遂げたとお考えになりましようか。又一面においては現にお持ちになつておる科学技術行政協議会というものになぜに協力応援させるような論拠をおとりになつた上でおやりにならなかつたのでありましようか。勿論これは有志の御進言であるとは思いますが、改めて部会にお掛けになつてこれを再追認せられたところを以て見まするというと、これは政府の諮問に応え、又は政府に勧告するという学術会議にはこの二つの使命がおありになるのでありますが、その勧告案ということになつたのでございましようかどうでしようか、これおば部会で以て改めて御承認になつたということは、つまり正式に政府に勧告したということになつたのでございますか、この点お伺いいたします。
  56. 内村祐之

    証人内村祐之君) 先日の学術会議の七部会ではそういう特定な言葉は最後まで聞かれませんで、結局有志の者がやつたことを、その臨時措置とその精神を全員が追認するということだけでございまして、それ以上の何の決定もなかつたのでございますから、何とも私としては申上げられません。
  57. 松原一彦

    ○松原一彦君 実は私どもは公衆衛生上非常に大きい影響のあるものにつきましては専門でありませんから、厚生省の提出せられたる原案、つまり現在政府が出されましたところの法律案について審議いたしましたのでありますが、この厚生省が今日までやつて来ておりますうちで、癩病に関する限りにおいては非常に大きい画期的な効果を上げている。次には戦死者以上の死亡者を出している結核という国民病に対して非常な、国民挙げてこれが撲滅策を講じたいというので、予算も多量に取り、研究調査を重ねて今日まで参つておりますので、内村証人も御承知通りに厚生省の中にはBCG効果調査費というものが第一番に挙げてあるのであります。七十七万五千円というものが本年度においても挙げられているのでありまして、それぞれの機関も持つております。又結核審議会という機関も持つております。そういうような機関を持つて数年来すでに調査研究をいたしてそうして進んでおり、なお今日も調査研究をいたしておるのでありますが、この権威ある皆様方の御進言或いは勧告によつて厚生大臣は直ちにこれを行動に移そうといたしておるのであります。ということは総理大臣にこれを訴える、総理大臣は非常に学者を重んじますから、学者の御勧告であるという以上は、これは背いてはならんという心理をお持ちになるに違いない。そのために厚生大臣はあのような発表をいたしたものと私は考えるのでありますが、そこでお尋ね申上げたいのは、一体この学術会議がお取上げになりましたこの問題に対してどなたが御提案になつて、どういう審議過程を通つてそうして勧告というところにまでお進みになつたのであろうか。その学術会議の審議の過程を承わりたい。どなたが御提案になつたのであるか、そうして幹事としてあなたはどういうふうにこれをお取上げになつて会議におかけになつたのであるか、又学術会議といつたような非常な権威ある団体が御進言になる以上は、世の中に及ぼす影響は非常に大きいということは十二分に御承知と思いますが、今日BCGに関するところの結核予防、この研究のために委託している費用がすでに本年においても一千万円であります。更にその他BCGをば製造することに対しましても国はたくさんな費用を使つてつておるのでございます。この行政上今遂行途中においてこの御勧告の及ぼす影響が非常に大きく現われて、一頓挫を来たすことになつた場合における影響について、学術会議はどういう論拠でこういう御提案になり、又その提案者はどういうデータを持つて会議にお臨みになつたかを承わりたい。提案者はどなたでございましようか。
  58. 内村祐之

    証人内村祐之君) ああいう提案は他のすべての提案と同じように、同じでない場合もありましようが、自然の声がやはり挙るのでございまして、第七部においても突然と申しますけれども、私自身が四月に初めて役員になつて以来、そういうことが話題になつておるのは以前からであつたのでございます。従つて誰が提案者であるというようなことは、私幹事をしておりますが、どうも申上げることはちよつと私としてはできません。
  59. 松原一彦

    ○松原一彦君 私どもが問題にしております点は、厚生大臣という責任者のとつた態度なんで、これが及ぼすところの影響であります。それは厚生大臣という当の行政上の責任者は、今日法律を忠実に遂行しなければならないのでありますが、それに対して皆様方の御提案は勧告であつてBCG接種はやめねばならないという意図を持つてあのときは御提案になつたのでありますか、そうしてそのやめねばならないという条件に対しての何か的確なる科学者としての医学上のデータを以て御提案になつたのでありますか。その点をはつきりここで承わつて置きませんと、皆様の若し御意図が、いろいろな風評もあるという道聴塗説を取上げて、そうしてそれを直ちに厚生大臣に進言し、厚生大臣は直ちにこれを行動に移そうとしたところに、私ども厚生大臣に対する責任を問いたいのであります。そのよつて来たる原因が権威のある皆様方の御進言であるということであり、なおそれには厚生大臣の私どもに説明したところによりますというと、学界のほうから調査もあり研究物もある。それは追つて提出する、こういうことであつたから、自分のほうでは重きをおいて取上げたのだ、こう返答しておられる。そこでお聞きいたしたいのは、そういうものが出たのでございますか、又今後お出しになるのでありますか、その点であります。
  60. 内村祐之

    証人内村祐之君) 繰返して申しますけれども、私があの申入れに署名した意味は、なお研究の余地があるように思われるから十分に調査して遺憾なきを期せられたいという題名だけでありまして、そのために少くとも私は直ぐ強制接種をやめなくちやならんという意図は毛頭持つておりません。又持つていないはずであります。それはすべて科学的の資料に従つてから判定すべきものだと考えておるのですから、強制接種を直ぐやめなくちやならんというふうにあの申入れで以て感じていないことはもう当然おわかり頂けることと存じます。  それからもう一つ資料のことでございますが、これは第七部長の名において日本医師会にも支援力をお願いするというようなことで、日本医師会のほうで然るべく取計われて、そうして一層有力な資料が出て参ることだと存じておりますが……。
  61. 松原一彦

    ○松原一彦君 私が疑問を持ちまする点は、このパンフレツトにもありますように、折角皆様方は科学技術行政協議会という機関を持つておいでになると、こう書いてある。この機関が、日本学術会議が政府に協力、応援するための機関であると明記してあります。そうすると忠実に日本政府に協力、応援するために御進言になり御勧告になるものとするならば、一応科学技術行政協議会の議を経て慎重に御用意になつての御進言でありたかつたのであります。そうしますればここに初めて、私どもは決して固執いたしません。法律は変えてもいいのでありますが、法律の権威から申しますと、朝令暮改はなかなか許しがたいのであります。折角何億という費用を費やしてBCGをこしらえ、これをば末端の町村はいろいろな非難に堪えながら、いろいろな面倒なこと、厄介なことを一生懸命にやつて、どうかして結核患者が一人でもなくなるようにということを苦慮いたしておる。然るにこの御提案が有志であり、更に再追認して学術会議の名を以て勧告となつた結果、只今私の今朝までに聞きましたところの情勢では、BCGの注文が三分の一に激減したというのであります。恐らく私はこんな厄介なものは取扱つたら困る、おできができて大変困るというようなことで、なくなつてしまうのではないかという懸念すらも持つのであります。その影響が非常に大きいのであります。若し単にそういういろいろな懸念があるから調査をしろとの御勧告であつたならば、厚生大臣調査もしないのです。省議にも諮つていないのです。又結核審議会にもかけていないのです。そうしていろいろ疑問もあるようだからBCGはやめるかも知れないという、強制接種はやめるかも知れないという表現をいたしておるのであります。問題は皆様方の御示唆によつて、御勧告によつて厚生大臣のとつた態度がここで私どもの問題になるのです。それを承わらないというと、我々厚生委員として立法に参与した者としましてはどうしても割り切れないものがあるのであります。良心的にこれは相済まない。若し我々がいい加減に政府の提案を受入れたとしますと、今後厚生省方面から出ますところの法律案につきましてはいろいろ考えなければならない重大な問題を伴う。これは予算審議にも非常に大きい関係を持つ。その影響につきまして私どもは非常に憂えております。決して面目問題を申しておるのではないので、権威のあるかたがたが御加勢下さることこそ全くこの厚生行政のような重大なものを取扱うには必要なのでありますから、虚心坦懐にお聞きいたしたいのでありますが、実はこの問題についてはまだ元があります。本年四月に某博士が文芸春秋の上にBCGに対することを中心としたる政府の結核対策を撲滅するという議論を載せております。これは熊谷博士やその当時学者がここにおいでになつて、私どもここに立会つて聞いておりますが、その議論は他愛もないことでありまして、すでにこのことば記録に載つておるので御承知と思いますが、重ねて御提案になつたところを見ますと、これは一民間の専門家でない学者のいい加減な問題ではなく、よほど権威のあるものと考えたいのであります。その権威のよつて来たるところがどこであつたか、その調査研究がおありになつての御提案であつたかどうかをここではつきりお聞きしておきませんと、又厚生大臣にお求めになつたものが調査であるのか、直ちに実行に移すべきものであるのかをお聞きしておかないと、厚生大臣の信任か不信任かの問題がここできまるのであります。この点をはつきり記録に残しとうございますから、是非幹事としての責任の上からお答えを願います。
  62. 内村祐之

    証人内村祐之君) いろいろなことを御質問になつたようで、どうもはつきりとわかりませんが、第一の科学技術行政協議会を通じて勧告をしろということでございますが、これは児玉副議長のほうがよく御存じと思いますが、これはスタツクと私ども申しておりますが、このSTACを通じないで直接やつておることもあるようであります。その点……ですから第七部としてこの科学技術協議会のほうを何か無視しておるというようなことはいささかもないと思います。  それから結核の予防について何か我我が誰かの手先にでもなつておるかのようなお話もありますが、私ども純正なる学者としてそういうようなことは毛頭考えたことはございませんし、又結核予防ということが我が国にとつて非常に大切なことであり、これが今日進んで来たことを私も衷心から喜んでおるのですし、又将来ともそれを進めなければならんという精神においては、これはもう松原先生などといささかも変らないつもりなのでございます。ただその途を誤りなく本当の学問に立脚したものにするために絶えず注意しながらやつて行きたいということは、これ又学者としての私の気持でありまして、或るときにできたものが又他のときにそのときの学問の水準によつて変るということも当然あり得るのでございまして、先ほどから兒玉委員もおつしやつておるように、こういつたようなものは常に虚心坦懐にやはりものを見て行かれるということが必要だと、こういうふうに思つておるのでございまして、私恐らく七部会全部が私と同じ意見じやないかと存じておる次第でございます。
  63. 松原一彦

    ○松原一彦君 私どもは決して学者の御意見を無視もしなければそれに反対をするものでも何でもございません。御進言に対しては成るべく聞きたい、敬意を表して承わりたいと思つておるものでございますから、この点については懸念のないように御進言を頂きたいと思います。但しそれが及ぼした結果があなたがたの御所期になつたものと非常に違つたものが現われておりはしないか、その影響力につきまして学術会議という権威のあるかたがたはどういう責任をおとりになりますか。
  64. 内村祐之

    証人内村祐之君) 私は若しこれによつて日本結核予防対策というものが一層よいものになるということであるならば、先ほど申したことでありますが、一時的な不安ということよりももつと十年、百年の計を立てるということのほうが非情に意味があると私は感じておるものでございます。
  65. 松原一彦

    ○松原一彦君 もうこれで申すまいと思つたのですが、それでは重ねてお尋ねしますが、そうしますと今の情勢を推しますと、本年はBCG接種には大きな頓挫を来たす虞れがありますが、勿論BCG注射は強制になつておるが、罰則はございません。拒否したからといつて何も罰則があるものではございません。こういうような大きな問題は、最初種痘のときでもあつただろうと思います。あれほど有名なものでも、その当時には恐れられ、逃げて隠れた時代があつたと思います。今日よほど学問が進歩したからそういうこともほうぼうに宣伝されておりますので、割合に国民は信用してこれを受けておるのでありますが、今度の御提案によつて大きな頓挫を来たす結果と、それから今あなたがお求めになつておる現実との間に多少の頓挫は来たしてもよろしいと、こうおつしやるのでありましようかどうか。
  66. 内村祐之

    証人内村祐之君) 希望としては、無論頓挫しないで、そうした事柄がよく運ぶことが一番理想であることは言うを待たないことであります。それからなお我々の申入れがこういう大きな不安を醸した、その責任はどうか、こういうわけでございますが、私どもは少くとも学問的の良心従つて行動しておるのでありまして、その点私としては何らやましいと感ずるところはないのであります。
  67. 松原一彦

    ○松原一彦君 さつき私は記録に残したいと申した。提案者がどなたであつてどういう過程を経て御審議になつたかを後に記録に残さなければならないから、一つ御明答を願つておきたいと思います。
  68. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 内村証人お答えございませんか……。
  69. 山下義信

    ○山下義信君 私は証人のかたに二つ伺いたいのであります。児玉証人の御証言の中に大変示唆される御証言があつたのですが、栄養の低い日本人に対しての強制接種はよほど注意しなければならんという御証言があつた河盛証人は、民度の低い日本人にこそ理解が低いから法律で強制してやらさなければいかんという御証言があつた。我我は政治家として、児玉証人のおつしやるように十分学問を尊重して行かなければなりませんが、政治的にはこういう問題をどう取扱つて行くかということが我々の責任であると思うのであります。そこで民度の低い日本人にこそ強制せなければならんということと、栄養の低い日本人に対してはよほど考えものだということとの間には多少筋が違いますけれども、私は河盛証人専門家染谷証人とに伺いたい。極く素朴な質問でありますが、先ほどの児玉証人の御証言に、その問題として、日本人は非常に貧乏で大衆の栄養状態は非常に不良であります。これが当分改善されようとは思われません。今後ますます国民生活の低下を我々は憂慮しておるのであります。ですから日本人のような栄養の低い国民といいますと、いろいろ何と申しますか、体にも不利な諸条件がいろいろあろうと思います。極く素朴な私は民衆の質問として、どういう栄養の者にでも、どういう状態の民衆にも、殊に貧乏な者に多いのでありますが、無差別に強制接種して弊害というものがないのでありますかどうですか、これを河盛証人染谷証人とに伺いたいと思います。これが一点であります。  それから児玉証人に伺いたいと思いますのは、先ほど松原委員からもちよつと御意見が出ておりましたが、御質問の中に入つておりましたが、私どもはこのBCGの論争がいわゆるジヤーナリズム的な、ただ単なる噂話のような程度から学術会議という権威のある諸氏の団体にこの問題が取上げられたということは、非常な私は一大進歩であると思うのであります。それでよく新聞などを見ますというと、何か我々は今の強制接種というものを飽くまで固執するという立場に立つて学術会議の諸君を非難するがごとき印象が一部にありまするが、我々はさような考えは持つておりません。相当な敬意を持つております。学術会議の諸学者が勇敢にこの問題を街の噂話から飛躍して取上げられて、学者の問題としてこれを持ち出されたという御態度には私は敬意を表するのであります。学者かたがたがかくのごとく学問的の立場から勇敢に起ち上られて国政の上に御忠言を下さるということは、我々としは歓迎しなければならん。でありますから決して私は攻撃しようなどという意図はございません。ただ世上反対論には学術的根拠がないということを言うのでございまするから、児玉証人におかれましては反対論にも相当な学術的な根拠があると一応お考えに相成るかどうかという点を伺つておくのであります。殊に東大の医学部長であるという、我が国最高の医学の権威者である証人からその点を伺つておきたいと思う。  それから内村証人に伺いたいと思うことは、この問題のこの論争というものは、一体いつ決定版が出るという何か見込でもございましようか。我々は学者の権威ある結論を待つて善処してもよろしいという考えを持ちますが、先ほどの児玉証人の御証言の中にも、長いこれはもう世界的論争であつたと、こうおつしやるのですが、今後とも長く続くというようでありますると、政治が学問を尊重するという立場の上におきまして、非常に当惑いたさなければなりません。従いましてこのBCGの論争というものは、学問的にかなり近い将来に何か国民の納得するような結論が出るお見込がありましようかどうか。或る席で近頃この問題で有名になつた武見君に聞いて見ますというと、あれは一年くらいで結論か出るだろうということを私に言つたことがあるのでありますが、さように短時日に結論が出るものでありましようか、出るものとすれば待たなければなりませんが、出んものとすれば、相当長期を要するというならば、政治の上で又考えなければなりませんので、以上の諸点につきまして証人各位の御証言を得たいと存じます。
  70. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) それでは最初に専門家河盛証人にお願いいたします。
  71. 河盛勇造

    証人河盛勇造君) お答えいたします。栄養の悪い人体BCG接種した場合にどういうようなことになるかというような御質問でございまするが、大阪府立の保嬰館という、これは割に何と申しますか、経済状態の悪いような家庭におりまする児童の診療に当つておりまする施設でございますが、そこで昭和四年以来証人の先輩でありまする西川博士がBCG接種を数千人の乳児に対してやつておる成績がございまするが、それにおきましてもBCGによつて発病したというような例は一例もないということを報告しております。なお先ほどから御引用になりましたところの栄養の悪い二十日鼠実験は、小生らも存じておりまするが、これは一九四八年に発表になつておりまして、デユボーが自分の論説の中に数行だけそれを引用しておりまするが、それの実験の詳細は、相当広い方面の雑誌を読んで見ましたが、まだ発表してないようでございます。実験の詳細はまあわからないのでございまするが、この同一の論説におきまして、デユボーが自分のいろいろな実験から言つておることは、全部免疫だとか細菌学的なことであつてBCG接種が行われるか行われないかということは、それ以外にやはり臨床的或いは疫学的、いわゆる一般結核がどういうふうであるかという意味の疫学的の観点と、或いは又もう一つはやはりソーシヤルという字を用いておりまするが、それらの条件を参照した上でこれは決定さるべき問題であるということをデユボー自身が申しておりますことをここに一応附加えたいと思います。  なお先ほど御引用になりましたハムスター実験もやはり読んでおりまするが、これも非常に大量のBCG接種しております。論文にはいわゆる乱切接種用のアンプル一本ということを書いておりまするので、これはアンプル一本に百五十ミリグラムが入つております。相当これだけを一遍にやりまするのは、異質としてのやはり働きもあろうかと思いまするし、それの場合の病理学的の変化についての詳細は申しておりません。ずつと前から我々がやつて参りました動物実験におきましても、非常に大量のBCG接種いたしますれば、当然これはいろいろな臓器に病変は作りまするけれども、決してそれが進行性のいわゆる結核が中心から崩れまする乾酪化というような病変は非常にこれは稀なのでございます。その点から勿論その小さな動物に非常に大量に結核菌接種すればこの病変、いわゆる良性な病変を作るということは当然あり得ることだということを申添えたいと思います。
  72. 染谷四郎

    証人染谷四郎君) 栄養の低下した人間BCGをさしたらどうかということでございますが、我々は栄養失調になつたようなそういう人間BCGをさした経験がありませんので、人間のことはわかりません。併し我々が今まで相当長い期間小学校の児童であるとか或いは乳児、或いは大人というようなものにさしております。併しながらまあそのくらいのところにあります人々の栄養状態でありますれば、それがために特殊の変化が非常に猛烈に起き、潰瘍になつたとか或いはそのために結核になつたとかというようなことは、私たちは全然見ておりませんし、又動物実験その他から考えて考えられない点であると思うのであります。又動物ではまあBCG栄養の非常に悪いのにさしたとかというようなこともやつておりませんけれども、極めて大量のBCGをさしたならば、或る程度の変化はこれは出て来るのは当り前であります。と申しますのは、やはり非常に少ないけれどもBCGたりとも病変性を持つておるのでありまするから、又それがなければいわゆる免疫ができて来ないのでありまするからして、これは極めて大量のBCGをさせば、これは或る程度の変化が出るというのは当然であります。併し普通に我々が見ておりますような範囲内の、又実際に我々がやります乾燥BCGというものは、予防衛生研究所におきまして十分に検討を経たそのBCGワクチンでございまするから、量とかそういうものも十分検討を加えておりまするから、その点は心配しないでいいのではないか、かように考えるのであります。
  73. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 恐れ入りますが、もう一遍御質問の要点をお願いいたします。
  74. 山下義信

    ○山下義信君 BCG反対説のいろいろ世上にそういう疑惑を持つ者があり、いろいろ反対論があるから、十分政府は調査もし慎重にやれというお申入れをなさつたのでありますが、結局はそういうような議論にはまだまだ学術的な研究を要すると、即ち相当学術的な反対論拠があると、こういうふうにお考えでございましようかと、こういうのであります。先ほどから委員がいろいろお尋ねしているのもその点ですが、結局結論的に我々はそういう反対論にも相当学術的な根拠のあるものがあると、こういうふうに受取つてよろしうございましようか。
  75. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) それはもう今世界BCG学者の間におきまして喧々ごうごうたる議論があるのでありまして、賛成論者もあり反対論者もあるというのが私は実情だろうと思います。私が二、三の最も新らしいところの文献を挙げたわけでありますが、只今も他の証人から、成るほどそのハムスターにやつたハウチユロアの実験は非常に大量をさしておる、だからしてああいうような病変が起つたと、こういうふうにおつしやつたのですけれども、こういう欧州における第一の結核学者でありますところのデユボーがモルモツトに同じ量をさしても何ともなかつたのであります。併しその量をハムスターという動物にさしたときにはそういう変化が起つた、こういう事実なのであります。これは一つ是非ハムスターについて日本BCGについても御研究願いたいと希望する次第であります。
  76. 内村祐之

    証人内村祐之君) BCGの問題がいつ決定するかというお問いでございますが、これは私にお問い下さるよりも、もつと専門家にお問い下すつたほうがよいかと存じます。勿論最後的の決定ができるのは、私寡聞にして存じませんが、恐らくまた相当長い間いろいろ討議されるものであろうと存じます。ただ日本の中で、どんなような副作用があるかとか、どんなような効果があるかとか、まあそういうようなことは比較的短い間に出て来ることではないかと存じております。それは日本医師会のほうにお願いしまして、日本医師会のほうが然るべくいろいろお取計つておられるようでありますから、比較的短い間にできはせんかと存じおるのでございます。ただそういう場合に少数であつても非常に悪いと思われる……、一見してこれはもう専門的に、いつて本当にBCGのためかどうかということをきめるのは相当先でございましようけれども、とにかく相当問題があるという例が幾つかまあ仮に出たとしたならば、これはやはり数は少くとも相当考慮すべき事実として御参考になるのではなかろうかというふうに私考えております。
  77. 山下義信

    ○山下義信君 これは私は日本学術会議の御進言に或る程度の理解といいますか……を持とうとしておる私にとりましては、今の内村証人の御証言は異とするものである。詳しいことは結核専門学者に聞いてもらわなければわからんとおつしやつてもらつては困るのです。それは学問的の研究の結果というものは、それは専門結核学者でなければわかりますまい。併し日本学術会議の使命は科学の行政化、我が国の科学を如何に行政の上に打込もうかということが重大な使命であつて、その御使命の上に立つてのお申入書ができたのでありますから、少くとも政府の当局者に慎重な考慮を要するといお申入れをなさる以上には、この問題のおよその……、政府が政治の上にこれをとるかとらんかは別として、解決して行こうとするためにはどの程度の時日があればややこういう状態の下にはこういう行政措置をとつてもよいという、およその見通しを学術会議はお持ちになつておらんければならん。私ども結核専門的な学問的な結論をここで承わろうとも存じませんし、又そういうことを学術会議に求めようとも思いませんが、学術会議が、先ほど児玉証人がおつしやるように学問というものを行政の上に結附けようという御使命のある以上は、この問題を提起せられた学術会議が、およそどのくらいの時日がかかれば或る程度国民の納得する、即ち行政の上に何らかの措置をとつてもよい、或いはとる必要がないというくらいの学問的な、或る程度の国民の納得し得る結論が得られるというお見通しがなけらねばこれはならんのではないかと思いまするので、もう一度証人のお考えを求めたいと思います。
  78. 内村祐之

    証人内村祐之君) 私が先ほどお答えしましたのは、純正なBCGの解決の時期がいつかという問題と、それから差当つての問題と二つに分けて御返事したつもりでありまして、その第二のほうの問題については、学術会議が医学会などとも連絡しておりますので、比較的短い間に然るべきデータが出るということを御期待頂いて結構だと思います。
  79. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 最後に私から一言お尋ねしたいのですが、証人のかたはこれでもうすでに三回お呼びして御証言頂いておるのですが、専門家のかたの大体御研究なり御意見を聞きますと、日本人の体質に対しては反作用は僅かしかないと、而もそれも大した問題にはならないというような御証言が殆んど全部であつたように考えられるのです。なお学術会議のかたの御証言を頂きますると、外国文献研究の結果を御報告になりますると、これは反作用が非常に多いように考えれて、ここに必然の形において証言が対立の形にまで来ておるのでありまして、我我委員といたしましては、厳正な立場からいずれを可とし、いずれを否とするかに迷うわけであります。併しながら学術会議学者かたがたBCGに対して真向から反対しておるのではない、而もこれに対してはなお研究の余地がある、多分に残されておると、こういうことを私は考えるので、大よそ頂点を見出すならば、BCGは肯定されておる。然るに厚生大臣が突如日本学術会議のこの御勧告を真向から受入れられ、率直明快にこの意思を表明されたということは、厚生大臣個人の意見にあらずして、学術会議意見を尊重するの余り一辺倒の形になつた、そのことが政治問題にまで私は発展して行く、こういうことから私は、専門家かたがたの御証言はよくわかりますし、学術会議かたがたの御証言も私よくわかります。併しながらこうしたためにBCGに対する接種の希望者が急速に低下しておる。このことが日本結核対策に対する影響が非常に多いので、国民に与えた感情を真向から正直に考えますと、BCGは危険なものである、やめたほうがよいのではないかというような深い印象を与えておると私はこう考えております。そこで私はお尋ねしたいのは、学術会議かたがたがそうしたBCGに対しては真向から反対しておるのではない、まだ研究の余地が残されておる、ただこういうことでBCGを否定するものではない、希望者なり或いはその施策に対して共鳴する者は、法の如何を問わず接種をしたほうがよい、こういうような御意見があれば、これを新聞紙上等を通して御見解が御表明願えれば私は非常にこの疑惑が解けるのじやないか更にBCGの将来に対して明るいものがあるのではないか、こういう私の私見でございますが、これに対する御批判を私は頂きたいと思いますので、児玉証人に御批判を頂きたいと思います。
  80. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 私BCGの現在強制されておりまする段階におきまして、学術会議からしてああいうふうな意見を出しまして、その強制、現在実施しておるところのこの強制ということに対して非常に国民的な動揺を来たしておるということなのでありますが、我々としてとにかくこのBCG接種というような問題は、科学的なデータに基いてそうして研究されておることと存ずるのであります。先ほども申しましたように二十三年のときに、法律を制定せられましたときにも、そのときのデータが元になつてそうしてやられたことと存ずるのであります。併し先ほども申しましたように、科学というものは毎日進歩しておるのであります。二十三年からして今日に至りますまでの間、各方面からこのBCGに対しまして又詳しいところのデータができ上つております。そういう新らしいデータをもう一遍考慮して頂いて、而もこの強制をなおやるべきであるかということを御検討願いたいということであります。これが全く私は進歩的な政治である、先ほども申しましたように進歩的な政治である、科学的な政治である、そこに政治というものがなくちやいかん、こういうことであります。橋本厚生大臣が早速我我の意見というものを元にしてお考えになつたというのでありますが、これは当然のことだと思います。私は何も橋本厚生大臣に対して箱根へ行つて来いと申したことはないのでありますけれども、私は実際進歩的な政治家というものはそこに基礎を置かなくちやいかんものだと思つておるのでありまして、そういう慎重に調査されまして、そうして現在の段階においてもなおやつてもいいという結論になればやるのはよろしい、やつちやいかんという結論が出ればやめるのがよろしい、これは一つ皆さん、現在におきますところの十分なこの世界研究状態、又日本研究状態というものを調査されまして御判断されればいいことと思います。
  81. 井上なつゑ

    井上なつゑ君 私児玉先生と河盛先生にお伺い申上げたいのでございますが、こうした問題の、BCG問題は国民の保健衛生思想の普及と申しましようか、一大拍車をかけたものと思いまして、私は不幸なようなことには考えられますが、一面非常に嬉しいのでございます。と申しますのは、とかくこれまで日本の医学とか保健衛生思想と申しますものは、技術者の面に重きを置かれまして、国民一般はこういうものにうとかつたのでございますが、今度の学術会議の何と申しましようか、示唆が行政方面に取入れられるようにと御勧告下すつたことは、非常に国民に大きな衝動を与え、非常な不安を醸しましたけれども、一面非常に有難いことと思うのでございます。但し今回の勧告が余りにも突然に出されたということは、私たち一沫の疑惑を感ずるものでございます。象牙の塔に昔から閉じ籠つておりました学者たちが、自分たちが御研究になりましたことを常々政治の面に現わすために厚生省当局とどういうように御連絡をおとりになつておるかということを、何と申しますか、非常に疑問に思うのでございます。こんなに突然に御勧告にならなくても、今年の三月に結核予防法の制定されたときに、その前に何らかの方法で以て御勧告がありますれば、今回のこうした問題は起らなかつたのじやないかと存じますので、一つ児玉先生に伺いたいことは、学術会議のこうした御勧告は、本当に最後の決定版でございましようか。切札でございましようかということを伺いたいのでございます。  もう一つその次に伺いたいのは、河盛先生に伺いたいのでございますが、とかくお医者さんは、私もよく存じておりますが、実験をなさるのに、この間からいろいろの先生の御報告を聞いておりますが、看護婦BCG実験をして見た、とにかく視野が狭いのでございます。もう少し視野を広くして、学校の子供たちをもう少しつかまえておやりになつたらいい、もう私の孫も、私の孫も、どこへ行つても、孫に潰瘍ができるから嫌いますということを言われます。これは私の孫が一月潰瘍ができておつた、この潰瘍ができた周囲に、疱瘡のように、ストレプトマイシンでも入つたような白い粉をふりかけるように、何で皆さん学者研究してくれないのだ、そうすれば国民も一沫の不安が去るのではないかと思います。私はどうも科学と現実の立場に働いておられるお医者さんとの間に、相当開きがあると思うのでございます。日本で昔から言われておりますように、お医者さんたちの知識はどんどん発達して行くのに、民度の面においては非常に低いということは今日始まつたことじやない、この厚生委員会でも常にこの問題を問題にしております。今度のBCGの問題におきましても、そのことが非常に強く現われておりますので、この問題が起つたことは不幸中の幸いだと存じますので、これは児玉先生に伺いますが、最後の切札として、学術会議がそういうことをされておる面で問題になりますが、どういうように厚生省と御連絡をなすつて厚生省の行政機構の上に科学を反映して頂けるかということのお考えをお伺いいたします。  それから河盛先生は近視眼的研究でなく、もう少し広い研究がお持てになるかどうか伺いたいのでございます。
  82. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 恐らく私の記憶しております関係の範囲におきましては、厚生省に対して学術会議からしてこういうようなことを申入れたことは初めてだと思います。突然どうして申込んだかということでありますけれども、別に突然に私ども何も考えておりませんので、つまり私どもが最近の科学の進歩ということを見まして、どうしてもこの点は問題にしておかなければならんのだというような強い考えを持つたのであります。そこで申入れたのであります。時期的に突然とおつしやいますけれども、別に自分は突然というようには考えておらないのでございまして、ただ一面そういうことになつたという、切札という意味はちよつとわからないのでございますが、どういう意味でございましようか、切札というのは……。
  83. 井上なつゑ

    井上なつゑ君 只今問題になつておるのがそれなんでございます。厚生大臣学術会議意見を絶対に尊重しなければならないとお思いになつていらつしやる、殊に学術会議が高く買われているということでございます。その点学術会議から御勧告になりますにはよほどお考えになつて御勧告をなすつたんでございましようかということをお伺いいたします。
  84. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) 勿論それはそうでございまして、我々がとにかく科学というものを正しく行政面に反映して頂きたいということを常に念頭に持つておるものでありまして、こういうふうないろいろBCGについては具体的な事件において反対の者も出ておりますが、どうかこれらの点を一つ御考慮になつて下されうるよう、こういうことでございます。
  85. 井上なつゑ

    井上なつゑ君 ちよつともう一つ伺いたいのでございますが、それではこの学術会議の会員のかたがたと申しましようか、部会のかたがたは今後もこうした問題に限りませんが、あらゆる問題についてこういうようにたびたび厚生省に申入れなさる御予定でございましようか。伺いたいと思います。
  86. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) それはいろいろ事件がありましたならば、我々が学問の振興に、又正しい良心の命ずるところによつて判断しまして、適当だと思つたときにはこれはやることもございましよう。
  87. 河盛勇造

    証人河盛勇造君) ちよつとお答えいたします。  実験看護婦の生徒にのみやつているというような仰せでございますが、一番初めに申上げましたように、実は一例として申上げたに過ぎません。そのほか昭和五年以来いろいろな小学校の児童、中学校の児童或いは又一般の紡績女工等にも数万人の実験をやつておるのでございます。ただ我々看護婦にやりました実験のみにとどめました理由は、とにかく看護婦の生徒は全部四カ年間寄宿の生活をしておりますので、全部生活条件が同様でございます。その意味BCG接種しておりまする者と接種しておりません者とのあれは、両方からの発病とか或いは死亡の判断とかには最もいい実験のとにかく材料でございます。この実験のとにかくいい材料と申しますのは、いわゆる実験成績の判定を統計的に吟味いたします上に一番いい材料でございますので、それでこの成績を引用しております。  それからもう一つ、BCGによつてできました潰瘍とか膿瘍についてどうして治療の方法を何とか講じないかということでございますが、丁度私証言の中途でも申したのですが、そのとき委員の方お留守でございましたので、BCG潰瘍に対しましては、この頃用いられますところのストレプトマイシン或いはパス等が非常に有効でございます。我々もこれを含めましたところの軟膏を用いまして、相当大きな膿瘍が、今申上げました三件ほどありましたところの、大阪府でのそういうような事件の場合も、膿瘍に用いまして非常にいいとにかく効果のあつたことを経験しております。
  88. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 時間が大分追つて、もうすでに午後一時の委員会を開くための証人も来ておられますので簡単にお願いいたします。
  89. 井上なつゑ

    井上なつゑ君 最後に伺つて置きたいのでございますが、現場でこのBCGをおやらせになりますのは、全部お医者さんがおやりになつていらつしやるのか、どうでございましようか。そのほかの技術者と申しますか、ほかの方にやらせておりますかどうか、河盛先生にお尋ねしたいと思います。
  90. 河盛勇造

    証人河盛勇造君) これは私からお答えすべきであるかどうかとは思いますが、私ども実験しておりますのは全部これは医者がやつております。
  91. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 私は最後に染谷証人河盛証人にお伺いしたいのですが、只今児玉証人から非常に広い範囲において又強い御主張がありましたのはお聞きの通りでありますが、児玉証人の御証言がありました、これを基礎にしてこれをお考えになつて、なおあなた方はやはり最初お述べになつたようにBCG強制接種で進むべきだと、こういうふうにお考えになりますか、どうですか。又そう進むべきだという御確信がありますかどうか。
  92. 染谷四郎

    証人染谷四郎君) 先ほど児玉証人からデユボーその他の実験報告をされております。先ほど河盛証人も申されましたように、我々もその文献を読んでおりますが、例えばデユボーの実験を見ましても、このBCGが有毒菌に変化するというようなさような記載はないようであります。即ち今のようなああいう弱毒の結核菌でありますところのBCGが有毒菌に変つてしまつたというような、さようなことは記載がないようであります。又いろいろな動物BCGをさしておりますが、先ほどから申しましたように或る程度の病変性を持つておりますから、従つて大量のBCGをさせば、これは病菌ができるのは当り前であります。これはほかのワクチンでもそうでありまして、うんとたくさんワクチンをさせば、これは免疫効果が出て来ることは当然でありますが、そうかといいましてそれでは副作用が大きくなりましていろいろな障害が出て参りますので、我々が現在行なつておりますようなあの程度の接種量でありましたならば、十分慎重な検定をなされておるのでありますから、それがためにBCGが今問題になつておりますような、さような危険は起るまいというようなことを、我々は我々自身がやりました動物実験の結果から予想しておるのであります。又実際に現在の乾燥BCGワクチンも、学童であるとかその他にやつてみましても、現在の量でありましてはさような危険な副作用というものはないということを申上げて置きます。
  93. 河盛勇造

    証人河盛勇造君) 今も私申上げましたように、先ほど御引用になりましたところの文献には、なおやはり検討を要するものがいろいろございます。やはりいろいろな実験が、その実験しております人の良心においていろいろな雑誌に発表にはなつておりますけれども、それがそのままで全部信頼していいかどうかということはなお考慮を要すると思います。その点につきましては先ほど引用いたしましたところのペトロフの実験でさえも数年後にはこれはその人自身から訂正されたというようなこともあるというようなことから見ましても、なおこの実験方法なり実験報告が非常に簡単であるというような点から申しましても、これをそのまま信じて現段階BCG接種を中止するというような必要はないかと確信する次第であります。
  94. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 大体内容はわかりましたのですが、なお明確にして置きたいので、それでは御両氏には、現在の制度で、現在の結核予防法に定めてあるこの制度で推進していいと、こういうふうなお考えでありますならば、これを極く簡単にイエスかノーかだけ言つて頂けば結構であります。
  95. 染谷四郎

    証人染谷四郎君) 現在の予防接種法の規則にありますような方法に基いて現在のワクチンでやつて行くということができますれば、結核の予防効果を相当期待することができるというふうに考えます。
  96. 河盛勇造

    証人河盛勇造君) 申されましたように現段階においては現行の法律のままでやつていいと思います。
  97. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 今染谷証人からワクチンの話がちよつと出ましたが、昨日岡証人から、日本の現在のBCGはこれは世界においても最も優秀なものであると自分は確信しているというお話がありました。先ほど児玉証人からも非常に優れたものだというようなお話がありましたが、これにつきましては現在の日本BCG乾燥ワクチンというものが世界に誇るべきものである。なお他の乾燥ワクチンよりも秀でたものであるというふうにお考えになりますか、如何でありましようか。なおこれは児玉証人児玉先生からも伺えれば非常に結構でございます。
  98. 染谷四郎

    証人染谷四郎君) 諸外国にも乾燥BCGのワクチンの研究というものは相当なされております。併しながら我我はそれらの材料を、直接我々の手許にたくさんの量のワクチンをもらいまして、各種のワクチンを頂きまして、そうしてそれを比較研究したというようなことを経験しておりませんので、これは確かなことは申されません。併しアメリカ日本のワクチンを、乾燥ワクチンを送りまして、相当向うで定量培養の成績を見ますというと、非常によく菌が生きておるというような成績日本に送つて来ておるということを聞いております。さような点から申しまするというと、又現在日本としましては予防接種法で全部これに使うのは乾燥ワクチンであるというような製造の状態を考えますというと、相当日本は進んだ乾燥BCGを持つておるのであるというふうに考えて間違いないと思います。
  99. 河盛勇造

    証人河盛勇造君) その点につきましては私自身の別に経験がございませんので、比較いたしました経験はございませんが、いろいろな文献に現われております報告から推定いたしますと、決して現在の日本乾燥ワクチンというものが劣つておるというようなことは考えられません。むしろ優れておるのではないかと思います。
  100. 児玉桂三

    証人児玉桂三君) すでに強制接種法律の下でああいうふうな乾燥ワクチンが実際に使われておる日本の現状におきましては、日本の乾ワクの製品というものは、恐らく私は世界に冠たるものであろうと想像いたします。併しただ私をして言わしむれば、それについての十分な実験データ、資料が今日までまだできておらんということを非常に遺憾に思います。
  101. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 四人の御証人のかたから非常に裨益される御証言を頂きましたことをこの席上から厚くお礼を申上げます。  本日はこれにて午前の委員会を休憩いたします。    午後一時二十三分休憩    —————・—————    午後二時二十二分開会
  102. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 午前に引続きまして厚生委員会を開会いたします。  社会保障制度に関する調査の一環といたしまして、BGGの有害無害についての証言を頂くことになつておりまするので、四名の御証人の御出席を頂いたわけであります。非常に御繁忙中わざわざまげて当委員会に御出席下さいましたことに対しまして、深甚の敬意と謝意を表するものであります。  規定によりまして証人のかたに順次宣誓をお願いしたいと存じます。宣誓書の朗読をお願いいたします。総員起立をお願いいたします。学術会議会員慶大教授阿部勝馬先生。    〔総員起立証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 阿部 勝馬
  103. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 専門家国立予防衛生研究所結核部長の柳沢謙先生にお願いいたします。    〔証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 柳沢  謙
  104. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次に学術会議会員千葉大学教授の小池敬事先生にお願いいたします。    〔証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 小池 敬事
  105. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次に専門家国立東京第一病院長の坂口康蔵先生にお願いいたします。    〔証人は次のように宣誓行なつた〕    宣誓書   良心従つて真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。         証人 坂口 康蔵
  106. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 御着席願います。これより証人のかたの御感想、御意見研究の諸点に対しまして御発表を頂きたいと存じます。最初、いろいろの御都合があるそうで、坂口証人にお願いいたします。
  107. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) それでは十月十八日付で頂戴いたしました書類の中にございますこの六項目に亘る御質問につきまして、順次お答え申上げます。  先ず第一に、このBCG効果についてでございまするが、このBCGによる結核免疫は、種痘のように強いものではございませんので、これによつて結核菌による感染を防ぐということはできません。併し元来結核は感染いたしましても、みんな発病するものではございませんで、体の結核に対する抵抗力の強い人では発病せんで済むものが相当に多いのでございます。BCG接種いたしますというと、多少疫ができまして抵抗力が強くなりますので、発病率は接種しない者に比べまして半分ぐらいになり、又発病した場合にも軽く経過いたしまして、死亡率はそのために、接種しない者に比べて七、八分の一になるということは、今日すでに多数学者研究によりまして確定された事実でございます。従つてこのBCG接種が、結核の予防上有効であるということにつきましては、今日世界各国の専門学者意見がもうすでに一致しておりまして、これに対して疑うというのは、つまり専門知識のない人だけのように私は考えております。  それから第二の御質問のBCG副作用についてでございますが、BCG接種したために、結核でない人が結核にかかつたり、或いは結核患者にこれを接種したために、その病気が重くなるようなことはないだろうかというようなことは、このBCGについて研究が行われました初めから、これは一番大事な問題として研究もされ、又注意深く観察されたのでありますけれども、結局そういうようなことは絶対にない。たまにそういうようなふうに一見見えるような例につきましても、細かくそれを調査することができましたような場合には、皆それは間違いであるというようなことになりまして、今日までのところ確実に、実際にそうであつたというような実例はありませんのです。ただ、この結核は感染いたしましても、すぐにツベルクリン反応が陽性になるものではありませんで、三、四週間或いはもつとたつてから初めて陽性になりますために、その陰性の時代BCGをさしまして、又そのあとでBCGをさしましても、必ずしもその発病が予防されるものではありませんで、そのあとからして前々からもうすでに感染しておつた者が発病して来たというような場合に、往々そのBCGをさしたから発病したのだというような誤解を受けるような例はございますが、一体結核というものは、感染いたしましてから臨床的に発病して参りますまでには相当の長い期間かかるのでありまして、五日や六日で以て起るようなことは絶対にないのであります。でありますから、BCG接種してから数日もたたないうちに発病したとか、例えば脳膜炎が起つたとか、どうとかいうようなことを言う人がありますれば、これは結核のことをよく御存じないために、そういう疑いをおかれたというだけのことでありまして、結核というものは実際はそういうことはないはずのものであります。従つてこのBCG注射したために結核が起るとか、結核患者の病気が重くなるというようなことはないと断言して私はいいと思います。それからして、ただ問題になりますことは、この接種をいたした所に膿瘍或いは潰瘍を作るということでありますが、これは以前BCG接種は主として皮下注射で行われたときには、相当にこれができまして、そのことがこの接種を普及させるという上において非常に大きな障害となつたのでありますが、そのうちに、皮内接種を行えばそういうことは避けることができるということがわかりまして、今日のように一般皮内接種が行われるというようなことになつたのでありますが、皮内に接種するつもりのものが、ちよつと針が深く入り過ぎたために皮下になつてしまう。それがために膿瘍ができるというようなことは今日においても行われる、ちよいちよいあるのでありまして、今度のように非常にたくさんの人に接種が行われるというような場におき合ましては、技術が下手であるとか、或いは注意しておつてもつい大勢のことであるからして、針が深く入り過ぎて膿瘍を作るというような実例は相当にあるように聞いております。併しこれはあとで申上げますように、これは避けることができるのであります。これは単にその技術を練習させるとかいうようなことでなく、もつと確実にこれを避け得るように思うのであります。それから又、一つには、この頃のこの乾燥ワクチンを使いますというと効果が少いという、それで効果が少い上に以て来て膿瘍を作るというような非難が相当にありますように聞いております。これはその効果が薄いというのは、つまり乾燥ワクチンを作ります間に、或いは保存しておきます間に、菌が幾分死にますから、そういたしますというと、生のワクチンを使いました場合よりも、幾分効果が少くなるということはあり得るのでありますが、これは乾燥ワクチンの製造がだんだんと進歩して行けば、そういうことも少くなつて参りますが、なおそのほかに、ワクチンを余計使いさえすればいいということになるのでありますが、余計使いますと、只今のような皮内注射でやるというような場合に、間違つて皮下注射になるというと、たくさんのワクチンを使えば膿瘍を作る危険も多くなるというようなことになるのでありますが、この膿瘍の問題が一番これは副作用といつていいか、或いはその反応といつていいか、ちよつとこれは考え方にもよりましようけれども、これはとにかく不愉快なことでありまして、これは何とかして避けるようにしなければならないと思うのであります。併し膿瘍ができたといたしましても、これは以前に皮下注射でやつてつた場合に、相当の膿瘍を作つたのでありますけれども、その膿瘍のために健康に害を起すというようなことはありませんで、膿瘍ができるということは不愉快なことではあるけれども、それで結核が予防できるならば、比べものにならないほどの利益があるからというので、そういうことを構わずに予防接種をやつてつた時代もあるのであります。ところが只今申上げましたように、皮内接種で以てそれを避けるということになつたのでありますが、これはできるだけ避けるようなふうにするのが無論正しいと思うのであります。  それから第三のBCG接種が身体に何か障害を及ぼすかどうかということでありますが、これは何も障害を及ぼすことはないと申上げて差支えないと思います。これについても十分……、殊にBCG研究は、我が国におきまして相当に長い間大勢の人がやつたのでありますが、これは結局そういうことはないということに結論を得ております。我々の経験でも今までに一遍もそういう実例に出つくわしたことはございません。  それから第四番目の、BCG強制接種に対しての意見はどうかという御質問でございまするが、これは本来ならば、よく国民の間にBCG接種ということが、結核を予防する上において相当に効果のあるものであるということを十分に徹底させて、皆が進んでやるようにしてもらうことが一番望ましいのでありますけれども、とにかく結核が一人家庭にできますと、そこの家は現在では破滅の状態に陥ることにもなりますし、又結核患者というものはいろいろ不平不満というような気特になり勝ちのものでありまして、名古屋の精神病科の教授の杉田直樹博士の論文の中にも、従来政治上の革命反動が結核患者によつて企てられたものが多いと伝えられておるというようなことも書いてあるように、結核患者というものは経済的だけでなく、又思想問題、いろいろな社会の安寧秩序を保つというような意味において、つまり国家の経済的の利益或いは安寧秩序ということにも影響の非常に大きいものでありまするからして、我々はできるだけの手段を使つて、これを少しでも少くするということが非常に必要であると思うのであります。先ほども申しましたように、BCG予防接種によりまして結核患者の発病を半分にでも減すということができるということでありまするならば、これを推し広めて、成るべく日本人全部に使わせるようにするということが必要なことであると思うのでありますが、これは成るべくならば強制的でなく、皆が進んでやるようにするということが望ましいのでありますけれども、それが若しもできませんような場合には、国民が十分にそれだけのことを認識していない場合には、我々は法律を以てこれを強制するというようなことも、公益を図るという立場から申しますれば、これも止むを得ないことであるというふうに、私は考えるのであります。  それから第五番目の、BCG接種の改善に関する意見ということでございまするが、これは今のように皮内接種をいたしましても、往々にしてそれが皮下になつて潰瘍を作るということがありまするし、又一方においては、乾燥ワクチンを使つたために幾らか生のワクチンを使つた場合よりも、効力がないのじやないかというようなことがいわれておりますけれども、これはその効力ということについてはワクチンを余計使えばいいのでありますが、ワクチンを余計使えば膿瘍を作るという危険も多い。これを避けますためには皮内注射ということを改めまして、種痘のときのように、もう少しワクチンを、濃いワクチンを使いまして乱刺、針で以てたくさんつつ突く乱刺法、或いは乱切法というようなことをいたしますれば、十分にこれによつていい効果を得ることもできますし、なお又、膿瘍というような、どの不愉快なものを起さないようにすることもできるのでありまして、無論そういうふうにいたしますというと、ワクチンが余計に要りますから、費用が幾らか嵩んで来るという欠点はございますけれども、こういう大切なことでありますから、政府におかれましては、少しぐらい費用のかかるということは問題にしないで、ワクチンをもつとたくさん作つて、そうしてこの接種方法を改良して皮内接種でなく、乱刺若しくは乱切に変えるというようなことが必要であり、又政府もこういう法律を出した以上には、そういうふうにするということが政府の責任じやないかというふうに考えるのであります。  第六に、その他BCGについての意見ということでございますが、これは私は特別なことはございませんので、今までの五項目について申上げましたことで尽きておると存じます。
  108. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 坂口証人は時間の関係上大変お急ぎになつておりますので、先に坂口さんに対して御質問がありましたら、他の三人のおかたにはお気の毒でありますけれども、そういう関係上お許し願つて……、坂口証人に何か御質問ございますか。
  109. 有馬英二

    ○有馬英二君 只今の証言によりまして、BCGワクチンの有効なこと、又無害なことを言われたと思うのでありますが、御承知のように学術会議の有志のかたが厚生大臣に対して或る進言をなした。これが発端となりまして、只今世間に非常に不安を招き、延いてはBCG接種を嫌う人さえ出しておるのであります。従いましてこの厚生委員会におきまして、この問題について皆さんの証言を求めておるわけでありますが、坂口証人はこの点についてどういう工合にお考えになりますか。この学術会議が現行の法律について何か異論があるような含みで以て、こういう進言を書いたという点について、御見解を伺いたい。
  110. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) 私はその会議の模様をよく存じませんので、その真意がどういうところにあるかというようなことを、はつきりと申上げるわけには参りませんが、私が解釈しております点では、多分、今のように膿瘍を作る。法律で強制して膿瘍を作つた以上は、それは政府の責任である、だからそういうふうな膿瘍などを作らないようにしろ。或いは折角BCG接種をしてもツベルクリン反応が陽性にならないものが相当にある。一口にして申しますれば、BCGの効力の薄いような場合があちらこちらにあるように聞いておる。若しそうであるならばもつと効力があるようなふうにしたらばどうか、というようなことについての意見書ではないかと思うのであります。恐らくはその意見書BCGが有害であるというような意味、その有害というのは膿瘍を作るから有害だという意味にはなつておるかもわかりませんが、それがために結核が発病するとか、或いは結核患者が悪くなるとかいうような意味じやないだろうと思います。直接私は聞いておりませんから、それはわかりませんけれども、そういうような意味ではないかと思うのであります。併しこれは先ほど申上げましたように、この専門家の間では、そういう意味においては決して有害なものではない。而も相当に効力のあるものであるということについては、だんだんとこういう委員会でお取上げになつて問題にされれば、これが今国民の間に相当重大な問題になつておりまして、それがために、このBCG接種することを躊躇しておる者なども相当にあるように私は考えておりますが、これは却つて雨降つて地固まるで、これで以てはつきりされますれば、却つてこれが為になることになりやしないかと思うのであります。そこでこれは余計なことでありますけれども、実はこの医学の進歩というものは非常に早いものであり、又なかなか我々この医学に携わつております者でも……私は内科をやつておりますが、内科だけのことについてもなかなか追い付いて行かれないのであります。私は、よく若い医者たちに言うのでありますが、始終勉強をしないというと、現在においては治るべき病人を治さないというようなこともあるし、或いは無駄な治療をするということも起る。悪い気持はないけれども、殺人傷害と結果においては選ぶところのないような結果を社会に与えることがあるから、始終勉強しなければならんということを口癖のように言つておりまするし、又、私自身もできるだけ勉強はしておるつもりでありますけれども、内科の方面におきましても、全部に亘つてなかなか自分の満足の行くほどの知識を得ることはできないのであります。まして私自身はほかの専門のことにつきましては、素人と余り選ぶところがないように私自身は考えております。従つて医者の中にもいろいろこのBCGについて言われる人がありますけれども、こういうことはいろいろ結核のことやBCGのことをよく御承知ないために起つておる。そういう言葉を使つちや甚だ失礼であるかもわかりませんが、このBCG結核に関しては、素人よりはそれは無論知識はあると存じます。私はほかの専門のことにつきましては、素人と選ぶところがないくらいの知識しか持つていない方面が相当にありますので、そういうようなこともほかの専門のかたにはありはしないか。それで恐らくここでお医者さんでないかたがたの中には、医者である以上は全部のことを知つているだろうというようなことも、或いはお考えになるかたがないとも限りませんが、実際に医学のほうに携わつております者は自分の専門のことは十分に承知しておりますが、ほかのことにつきましては、それを知つていないからということで、その人は知識が足らないのだとか、或いは不都合というようなふうにお考えになることは、これは間違つておりはしないかというような考えを持つております。それで今度実際専門的な知識がないかたがたいろいろな誤解を起したために、こういうふうなこと、或いは又、今の学術会議のほうからの進言書などをお取上げになるかたが、或いは多少違つた意味に解釈されるというようなことも、これはあり勝ちのことであると思いますので、そういうふうに私はすべての事柄を善意に解釈したいと考えております。
  111. 有馬英二

    ○有馬英二君 一昨々日からのいろいろの証人の言によりまして、我々もいろいろなことを聞いておるのでありますが、例えば今日の内村証人の言葉の中にもこういうことがあります。自分の親しい友人の中でBCGをやつたにかかわらず肛門周囲炎になつたり、肋膜炎になつたりした人があるということを聞いておる。そういうことについて、それが果してBCGその他によるものであるかどうか、そうでないということを考えることができるかどうか。無関係であるという証明がないように思われる。こういうようなことが恐らく内村氏の学術会議会員としての立場において、ここに書いてありますように、現段階において世上にいろいろ問題があり、如何にも疑惑を抱く者があつてということが謳つてあるのですが、只今申上げましたような事実が、やはり同氏の提案をした一つの大きな理由ではなかと私は思うのです。その点について坂口証人は何とお考えになりますか。
  112. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) 只今のようにBCG接種したあとで肛門周囲炎が起つたとか、肋膜炎が起つたというようなことがありましても、これは別に不思議なことはないと私は考えております。と申しますのは、先ほど申上げましたように、BCG接種いたしましても、それによつてすべての結核の発病することを予防するというような強い力はないのでありまして、ただそういうことが起つた場合に、それを接種してなかつた場合とどのくらいの違いがあるかというようなことが、今の例におきましては、これは個々の例についてはなかなかわからないのでありますけれども、ただその死亡率のほうから見ますというと、先ほど申上げましたように、BCG接種いたしますというと、死亡率が数分の一に減るという、これは確定した事実でありますから、そういうところから考えますというと、BCG接種しておきますというと、病気が軽く済むのではないかというようなふうに考えられるのであります。今のお話のBCG接種したあとで、肋膜炎が起つたり、肛門周囲炎が起つたりしたという場合に、それが接種をした場合に、どれくらい軽く済んだだろうか、それを接種しなかつたならば、もう少し重かつたのではないか。これはむずかしい問題でありますので、そういう個々の例については、どのくらい病気が、しなかつた場合において重かつたとか、軽かつたということは言い得ないと思うのでありますが、そういうふうに接種したものが病気になるということは只今も申上げましたように、接種すれば半分くらいに発病率が減るというのであります。言葉を換えれば、半分ぐらいが発病するというのでありますからして、そういう例があつても少しも不思議はない。殊に、一体それがどのくらいの期間をおいてそういうことが起つたろうかということがむしろ問題になるのでありまして、先ほども申上げましたように、結核菌が体の中に入りましてから、そういう病気を起すまでには相当の期間かかるのであります。これは甚だ不幸な例でありますけれども、東北のほうや、それから神戸のほうで以て間違つて人間結核菌をさしたような実例がありますが、そういう場合でも病的な症状を起すには相当の期間がたつてから起るのでありまして、接種してから五、六日の間にいろんなことが起るというような、そんなに早くは起らないのでありまして、そういうような疑惑を抱くということは、結局結核に対するところの専門的知識を持つておいでにならないということになるのであります。それが先ほど私が、実は私自身としてほかの科のことは余り素人と違わないくらいの知識しか持つておりませんということを申上げたのは、その意味を含んでおるのであります。
  113. 有馬英二

    ○有馬英二君 御説明で大変よくわかりましたが、そういうことが世上の疑惑を招いておるような例があります。又多くの人が専門的の知識を持つていないのが普通である。従いまして世間は、こういうことについてこれを非常に重大なことである。或いは結核予防の欠点である。或いはBCGの欠点であるかのごとくこれを誤解をしておることが多々あると思うのであります。従いましてこの日本学術の最高峰であると思われるところの日本学術会議の有志のかたがたでさえも、世上にいろいろ問題があり、如何にも疑惑を抱くようなことがあつて、こういうような重大な進言を行政府に提出されておるのであります。ここにおきまして、私はこういう工合に考えるのであります。あなたがた専門家のかたが、この世の中の疑惑を除いて、BCGは少しも不安でないとするような事実をお取上げになつて、或いは例を挙げまして、この疑惑を一掃するということは、専門家が努めるべき義務であるのじやないかと思いますが、この点について御見解を伺いたいと思います。
  114. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) お説の通りであると思います。
  115. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 坂口先生にお伺いいたしますが、BCG接種した者が感染して参りますことは、只今お話を承わつた通りでございます。感染しました病人が、予防接種を受けておるのに、どういうふうな結核の進行状態になるか、或いは治癒状態がどういうふうになるか。接種してない場合と接種しておる場合との違いを臨床的に御覧になると思うんですが、そこの御所見を承わりたいと思います。
  116. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) 今の御質問は、BCG接種した場合と、接種しない場合とで、私たちが患者を見まして、どういう臨床的な違いがあるかという御質問のように伺いますが、これは同じ結核にかかりましても、その臨床的の経過というものは、一人々々みんな違うのでございまして、それですからして、軽くて済む人もおりますし、割合に重くて済む人もあります。非常に軽く済みそうに見えて重くなつたり、初めは重いように見えておつて割合軽くて済むというような場合もありますので、こちらの人はBCG接種しておいたが、こつちの人は接種しなかつた、その臨床の試験だけで、どういうふうな影響があつたかということを、これを判断するということは到底不可能であると存じます。ただまあ、先ほども申上げましたように、BCG接種しました者は、全体に割合に経過の軽い人が比較的多い、そうして接種しない者に比べて軽く済む人が割合に多くて、死亡率が七、八分の一というようなことになつてしまうということから見ますと、総合的に考えて、個々の人について、或る患者を見まして、これは接種した人だろう、これは軽くて済むんだからというようなわけには参りませんけれども、大勢の人間を、接種した人、接種しない人というふうに二組に分けまして、どうも接種しない人の組が割合に重い人が多い、接種した人の組は割合に軽く済む人が多い。その死亡率においても今申しましたように、大変な違いが起るというようなことを見て、接種した人は軽くて済むのじやないかということが想像できる。その推論は余り間違つていないだろうと申上げるだけでありまして、或る患者をつかまえて、接種したかしないか。これはまあ隠しておいて、この患者は接種した患者か、接種しなかつた患者か、こういうふうに試験問題を出されましても、それはちよつと御返事を申上げるわけには行かないのであります。
  117. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 もう一つ、これは大体わかつておりますが、念のために伺うのですが先生はそれでは現在の結核予防法規定されておりまするこのBCG接種を、結核予防策として、現在の法律のままでやつてつていいと、こういうふうなお考えでいらつしやいますか。
  118. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) 現在のままで差支えないと存じますが、ただ私が先ほど申しましたように、一番問題になりますのは、何といつて膿瘍の問題だと思いますから、この膿瘍をできるだけ少くするような手段と、それからもう一つは折角予防接種しても陽性にならない。つまり効果が薄いのではないかという非難もあるように聞いておりますからして、陽転率をもつとよくするような方法を講じる。一方においては、その膿瘍を少くするというような、技術面と申しますか、やり方ですね、やり方については改良する余地があると存じます。それは先ほど申しましたように、乱刺とか或いは乱切法を用うれば、その点が除き得ると思いますからして、それですから法律を改正するとか、法律を施行することを一時中止するとかいう必要は毛頭ありませんし、又そんなことはすべきでないと存じますが、技術面において、つまりやり方においては改良する余地が十分にあると思います。又急いで改良しなくてはいけないと思つております。
  119. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 もう一つお伺いいたしたいのでありますが、ツベルクリン反応といいますか、このツベルクリンについて何かお感じになつておる点、そういう点はございませんか。
  120. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) ツベルクリンの今の御質問は、本来ならばすでに結核に感染しておつてツベルクリンが陽性に出るものが往々にしてその陽性に出ない場合がある。つまりツベルクリン効果が不十分であるが、それについて何か意見がないかというような御質問のように受取れますが、これはツベルクリンもですね、これはこの頃は非常に検定もされておりますし、十分よくなつておりますが、戦後は一時ツベルクリン成績が悪いと申しますか、つまり本来は陽性に出べきものが陰性に出る。余り効能のないツベルクリンが売り出されておつたというような時代も一時ございましたが、この頃はそういうことが非常に少くなつたように思われます。それから又、このツベルツリンの反応を見ます場合に、皮内にしなければならないのでありますが、これも少し下手にやりますというと、皮下に入れてしまつたというようなことで、反応が陽性に出ないというようなこともありますので、このツベルクリンの製造或いはこれは又検定もございますからよろしうございますが、まあそういう点においても、なお一層の注意が望ましいということは言えましようが、根本的にそれがどうこうというほどには私は考えておりません。
  121. 井上なつゑ

    井上なつゑ君 坂口先生にお伺いしますが、只今技術の改良とおつしやいましたが、大変この委員会でも問題になりますのは、どの先生もおつしやいますが、膿瘍と、そうして技術のことでございますが、これだけやかましく言われております技術について、お医者さんたちはどの程度教育を受けておられるのでございましようか。又その技術の教育をするのにどんなに期間がかかるのでございましようか、ちよつと御説明を頂きたいと思います。
  122. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) これは技術的な、つまり皮内反応で、皮内に注射をするやつを皮下注射をする、つまり下手だということになるわけでありますが、これが一つは技術、つまり皮内と皮下と、皮内にすべきものを皮下に間違えてしまつたという、つまり下手という点もありましようが、一つは数多くやつておりますうちには、手が滑つて深く入つてしまうというようなこともあり得ると思います。ですから私は一方においてはその皮内に注射をするということを、もつと十分に熟練させてやるということも無論必要だとは思いますけれども、私はそれよりも、そういう危険性のない方法、それには今申上げましたように、この乱刺であるとか、乱切法というのを使いますと、そういう技術の面はこういう面から除くことができます。ただワクチンが少し余計要るのです。併しこの頃では大分このワクチンの製造能力も上つてつたように思いますから、そういうことにこちらで以ておきめになつて、そうしてその製造をもつと大量に作らせるようにしますれば、これは不可能のことではないと思いますので、私はそういう意味において、この皮内接種の技術を医者に普及させるというよりも、むしろそのやり方を今のように乱刺或るいは乱切に変えるということのほうがもつと効果が多いのではないか。そうして先ほど申上げましたように、折角接種しても陽性になる率が少いとかどうとかいう、そういう効果が薄いというような面もそれで除くことができると考えております。
  123. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) それでは先生お時間でございますから……。いろいろ御意見伺いまして非常に有難う存じました。どうぞお引取りをお願いいたします。
  124. 坂口康蔵

    証人(坂口康蔵君) どうも途中で大変に申訳ありません。
  125. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) では次に小池証人から御見解のほどを御披瀝願いたいと思います。
  126. 小池敬事

    証人(小池敬事君) 私は学術会議の会員といたしましてあれに署名いたしました動機につきまして総括的に申上げたいと思います。私があれに署名いたしましたのは、現行法の下におきまして現段階における乾燥ワクチン接種の技術及び乾燥ワクチン、そういうような問題で強制接種するのはどうであるか、こういう限られた問題でございます。幾つかの問題点がありましようが、簡単に申上げたいと存じます。  第一はツベルクリン反応の問題でございまして、只今もそのお話がございましたが、法律によりますというと二千倍に薄めてあと寸法によつて機械的にその陽性、疑似陽性、陰性をきめて行く。それがそのまま施行されるというのが法律でございましよう。そうした場合におきまして陰性と出ましても、その中には陽性の者も含まれているということはその道の専門家のおつしやるところでございまして、本当でございましよう。擬似陽性といつものをどうするかということが、私たちの病院におきましても実施しておりまする助手の諸君が迷うところでございます。従つて法律の線と、それから医学研究成果との間にそこに少し隙間がありはしたいかということが考えられます。  それから只今接種法につきまして坂口先生からはお話がございまして、今の皮内接種法というものを改革して乱切法、乱刺法ということにしたらいいじやないかということでございますが、それはまだ研究中のことでございまして、この間も九大の戸田教授もその点は認めておられましたが、これは改革しなければならないのだというまだ一定の成果が出たように私承つておりません。従つてワクチンを接種する方法についてもまだ十分に研究の余地があるのではないかと考えます。  それから第三にはBCGと言われるワクチンの問題でございますが、一口にBCGと申しましても液体ワクチンでございますか、それと法律でこれを強制するところの乾燥ワクチンというものは別に考えなければいけないのではなかろうか。液体ワクチンにおきまして、千葉の大学におきまして、堂野前教授が余ほど前に学術振興会のあれで以てやつたその成績は相当の成績を挙げておられる。それは私ども専門家の業績として信頼しているところでございます。併し液体ワクチン乾燥ワクチンというものが果して同じ効果を持つているものであるかどうか。液体ワクチンデータは出ておりまするが、乾燥ワクチンに関するデータというものは時間が少いのでこれはまちまちであるということを専門家から聞いております。この点は非常に大きな問題ではなかろうか。BGGと両方申しますが、その間に差があるかどうか。アメリカあたりのあれを伺いましても、液体ワクチンよりも乾燥ワクチンのほうが陽転率が悪い。それから日本で実施されておりましても、その点については相当の開きがある。こうしますと、液体ワクチンで得られた成果をそのまま乾燥ワクチンに移して、それを強制接種するというところにも、科学研究成果というものと法律化というものの間に少しギヤツプがありはしないか、まあこういうことを私感じます。そのほか副作用潰瘍の問題、これは今坂口先生が申上げましたが、膿瘍ができなければいけないならできたほうがいいかも知れませんが、できるだけそれも大きなものを避け得られるならば、これは民衆の幸福ではなかろうか。こういうような医学上のデータ、私専門家でありませんので、専門家の挙げられたデータ乾燥ワクチンのことなどにつきましても、九大の戸田教授は、現在の乾燥ワクチンは悪いのだから、これを改革しなければいけないということを言われておりまして、私たちはそういう専門家データの上に立脚して自分でまあいろいろ考えておるのでございます。それからなお、先ほど出ました大学の研究室におきましては、非常な細心の注意の下にやりますからして、技術上の間違いというものが起ることが少いと思いますが、これを現行法を実行して集団接種する場合におきまして、日本の現段階におきまして、末端の機構というものが果してあの額面通りでこれを行い得るかどうか、これを僕は考慮する必要があるのではなかろうかと考えます。BCG効果につきましては、学術会議の申入書におきましても、その効果を毛頭疑うものではないということがありまして、私ども専門家の皆様がたのそういう貴重なデータを私はそのまま信頼するものであります。が併しながら、これは結核の場合におきましては、天然痘のごとく絶対的、或いは絶対的ではありませんが、それに近いものというものでなくして、その効果は、今坂口先生のおつしやつた通り、限定されたものであるということは、これは間違いなさそうでございます。そうしますというと、そういう与えられた条件の下で、法律によつて強制することはどうかという問題は、これは医学知識の問題でなくして、私は法律上の問題ではないかと考えます。で、学術会議の素人である私どもが、そういうような医学研究者のデータを頭におきまして、それで強制接種ということは、こういう現段階においてはどうであろうか、十分御調査の上方遺憾なきを期せられたい、こういう趣旨であつたのでありまして、私はそういう意味においてあれに署名したのであります。もう一度申しまするならば、BCG日本専門家の皆さんがたの研究によつて非情な成果を挙げたものではありまするが、その効果は制限的であり、これと立法との間に相当の間隔がある。ここに強制によらずして、公衆衛生の第一歩である衛生教育によりまして、或いは納得ずくでやつてはどうであろうか。こういうようなことを考えましたので署名した次第であります。
  127. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次は柳沢証人
  128. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 私は昭和六年から現在まで約二十年間、東大伝染病研究所国立公衆衛生院結核予防会、国立予防衛生研究所においてBCGに関する研究室内及び野外研究をいたしたものでございます。その間、戦時中には陸軍並びに海軍軍医学校においてもBCG研究をお手伝いいたしました。この間に得ました私たちの研究成績に基きまして、BCG問題についての私の見解をこれからお話申げようと存じております。又私は今春アメリカに参りまして、アメリカにおきまするBCG研究状況も視察して参りましたし、又アメリカにおいてBCGに関する世界の展望もできるだけ見て参つたと思いますので、その点につきましても、時間が許しましたならばお話申上げたいと存じます。なお現在一般に提供せられておりまするBCGワクチンは、専門家より構成されておりまするBCG基準委員会によつて作られた基準に従つて国立予防衛生研究所において国家検定を行なつております。この基準委員会につきまして、又それによつて行なつておりまする国家検定の実施についても、私は非常に関係しておりますので、その実態についてもお話を申上げたいと存じております。  先ず第一に、BCG効果についてお話を申上げます。すでに多くの証人のかたからBCG効果については縷縷お話があつたと存じますので、私は今までの証人のお話になりましたことのうちで、多少説明の足らないところを補足いたしまして説明いたしたいと存じます。私たちが今まで研究いたしました中で最も信頼の置けるデータは、昭和十三年から行われました日本学術振興会第八小委員会において得ました成果であると存ずるのであります。その成果におきましては、発病率は少くとも二分の一に減少し、死亡率は七分の一以下になるということが立証されております。この成果を行ましたときのBCGのワクチンは液体ワクチンでございます。又その接種量は〇・〇〇五ミリグラムから最も多い場合で〇・〇六ミリグラムという量でございます。多くのかたたちは、当時やはり今日学術会議の会員が御心配になつておるごとく、初めて人間に用いるというかたもありましたので、非常に少い量を接種量としておとりになつたのでありまして、あの成績は大体〇・〇一乃至は〇・〇二ミリグラムをお使いになつたかたが多いのであります。特に当時の委員で最もこの研究を当時盛んにやつておられました今村先生であるとか、或るいは熊谷先生というようなところでは〇・〇二或いは〇・〇三というような量をお使いになつておりましたので、現行法で用いておりまする〇・〇四の大体半分乃至三分の一の量を使用しているのであります。そうして先ほども申しましたような成果を得ておるということを補足しておきます。  次に只今小池先生からもお話がありましたが、乾燥ワクチンについての研究はなさそうだというような御発言でありましたが、私が一番先に日本でこの乾燥ワクチンの共同研究を陸軍軍医学校において行なつたのであります。それは昭和十七年の秋に大体実験室内の研究に成功いたしましたので、直ちに陸軍軍医学校の大量生産をいたしまする乾燥ワクチンの機械で、このBCGのワクチンを作りまして、そのワクチンにつきまして培養試験、動物試験、更に人体接種行なつております。その成績昭和十九年の四月に、ここにも持つて参りましたが、BCG乾燥ワクチンに関する研究ということでちやんと印刷になつて発表しておるのでございます。当時は戦時中の混乱期でありましたために、専門家でもこの文献をお知りにならんかたが多い。まして専門家でないかたは恐らくは御存じないことと存じますので、このうちの一番大事な人体接種成績だけをここで申しますと、これは当時陸軍において最も結核の多発いたしました軍関係の或る集団でございます。一カ年間に約一二%という発病率のある恐るべき結核の多発する集団であつたので、これを任意に四群に分ちまして、その一群には乾燥前の液体のワクチン、それから第二群には同じワクチンを軍医学校の大量生産の機械で乾燥いたしましてそれを十度内外の温度に三カ月保存をしたワクチン、第三の群は同じ条件で六カ月保存をしたワクチン、それから最後の群は全然BCG接種しない群、こういう四群に分ちまして接種して、一年半ばかりの間の結核の発病を見たのでありますが、乾燥いたしませんワクチンにおきましては、即ち液体ワクチンを用いましたものにおいては発病率が三・一%、三カ月保存したワクチンにおきましては三・五%、六カ月保存いたしましたワクチンにおきましては五・一%、これに対しましてBCGワクチンを接種しない群におきましては一二・五%という発病率を得ております。なおその間におきましてBCG接種いたしました三群におきましては一名も死亡者を出しておりませんのに対しまして、BCG接種しない対象群からは二名の結核死亡者を出しておるのであります。これが私が行いました最も学問的に信頼のおける最初の実験でございます。その後こういう実験をたくさんやりたかつたのでありますが、時期も時期でございましたし、又戦後はBCGが非常に普及されたので、乾燥ワクチンBCG接種しました群は非常にたくさんあるのでありますが、学術的に対象とすべき対象群を得ることが非常に困難なために、成績はたくさんございますけれども、これに匹敵する学術的価値を持つておるものは今日私の手許にないのであります。併しながら、私たちはBCG効果を判定するのにはツベルクリン反応の陽性率を以て効果の有無の判定基準としております。これによりますと、私たちの今まで製造いたしました乾燥ワクチンの保存期間とその効果を判定することができるのでありますが、私たちの今までの研究では、正しい製法によりまして作られた乾燥ワクチンを五度以下に保存しておきました場合には、保存期間一カ年以内のワクチンであるならば、大体七〇%以上のツベルクリンの陽性率が得られておるのであります。従来私たちは液体ワクチンを用いました際におきましても、大体ツベルクリン反応は七〇%以上の成績を得られておりまして、これと乾燥ワクチン成績と比べますと、乾燥ワクチンが決して実用的に用いられないものではないということがはつきりと裏付けられたのであります。従つて、その後の研究を積まれました現在の乾燥ワクチンにおいては、少くとも学振で行われた以上の効果を期待できることを私は確信しておるのであります。これと類しましたいろいろな成績は多くの研究者からも発表いたされておりますので、私はこのBCG効果に関しましては、現在の乾燥ワクチンを用いましても、学振の発表よりも勝るとも劣らない成績を得られるものと確信しておる次第であります。  第二には、BCG副作用について、現行の皮内接種法によつて正しく接種されました場合には、接種局所に軽微な膿瘍又は潰瘍が生ずるにとどまります。私たちの研究成績では直径一センチメートル以上の潰瘍のできる場合は大体五%以下でございます。その他には何の副作用も認めません。例えば発熱だとか或いは下痢だとか或いは発疹というような、そういうほかの副作用は認められません。私は現行接種量の十倍量即ち〇・四ミリグラムを皮下接種した経験が二百例ばかりございます。そのような十倍量というような多量のBCG接種いたしましても接種局所局所の淋巴腺が少し腫れますだけで、又それは一過性でございまして、そのために肺結核症或いはいわゆる結核症と呼ばれる例は一度も見たことがありません。そういう意味におきまして、私は現在用いておりまするBCGは、副作用という言葉を用いるならば、僅かばかりの膿潰瘍というふうに考えておる次第でございます。  次にBCG接種人体に及ぼす障害の有無についてということでありますが、私は今までBCG接種局所以外に人体に及ぼすBCGの障害を全く知りません。若しもBCG体内毒力を復帰して、そのために結核症が起つたり或いは死んだ者がおると想像された場合には、それが本当にBCGによるものであろうかどうであろうかということは、その病巣から結核菌を分離いたしまして、それが牛型菌であるか人型菌であるか決定すればよいのであります。又それを決定しないで、これはBCG毒力を復帰したために起つたものだと、こういう結論を出す人があつたとするならば、それは極めて非科学的の結論であると私は存ずるのであります。併し私はかかる例が今まであれば、その例を研究資料として更に研究を進めたいというふうに考えておりますが、今までかかる例に一例も遭遇しておらないのであります。又BCG接種が既存の結核性病巣に対して悪影響を及ぼさない、即ち既存の結核症を増悪することがないだろうか、こういうことであります。これにつきまして私は少しばかり経験がございます。それは陸軍軍医学校におりました当時に、海軍でも同じことでございましたが、BCGの予防的効果が非常に顕著でありましたので、軍当局では、こんなにBCGが予防的にきくんだつたら、何か結核の治療にも使えるのではないか、一つ治療に使つて見ようじやないかということで、約百数十名の結核の患者にBCG接種をやつた経験がございます。この場合にはBCGの治療的効果は望むことができませんでしたが、併しBCGをさしたために既存の病巣が増悪したという例は一例もございません。ただ結核患者にさしますと、注射をいたしました局所にはコツホの現象と言いまして、膿潰瘍が早期にできます。それだけでございます。そういう意味におきまして、私はBCG接種、特に現行のBCG接種では身体に及ぼす障害はないと存じます。  第四番目にBCG強制接種に対する意見、私はBCG有効無害を信じておりますので、日本の現段階におきましては強制接種を行うべきであると確信しております。  次にBCGのこの強制接種に対する意見に対しまして、少しくこれが法律になる前に私たち専門家に当局からいろいろな専門的のことをお尋ねになりましたときのお答えを、私のメモから申上げて置きます。昭和二十三年の七月にBCG予防接種法に入れるかどうかということの專門的見解を聞かれましたときに、私はこういうことを申上げております。乾燥ワクチンでも発病率を二分の一、死亡率を七分の一以下に減ずることができるという証明が自分のところにある。従つてこの際液体ワクチン乾燥ワクチンで行うべきであるということが一つ。第二は液体ワクチンでは何故こういう法律に入れられないかという問題について、これは液体ワクチンでは使用前に検定することが不可能であります。それ故にどうしても乾燥ワクチンにいたしまして、厳密なる国家検定を行なつて、これを強制接種すべきであるということを主張しております。第三には液体ワクチンでは使用期間が極めて短く、せいぜい製造後十日以内に使用しなければなりません。従つて我が国の国情といたしましては、これを一般に普及することは極めて困難である。この三つの理由から、私は乾燥ワクチンにすべきであるということを申上げております。  それから第五番目のBCG接種の改善に関する意見につきまして、これは私たちは今から二十年前くらいから研究をし、昭和十三年からは学術振興会で共同研究をし、それに引続いて昭和二十年以後は文部省の総合研究会においても研究をし、又日本BCG研究協議会においても研究を続けております。それはどういうところに狙いを置いて研究をしておるかと言いますと、次の三点に狙いをつけて研究をやつておるのであります。第一は、現行の製造法が非常に繁雑でありますので、これをもつと能率的にするという点が一つであります。第二番目には、現在のワクチンではどうしても五度以下に保存をして置かないと、効力が減退するのであります。従つて温室に保存いたします。例えば日本の華氏の三十度内外に保存をいたしましても効力が減退しないような、何か条件を考えて製造をすることの研究に努力をしているのであります。第三は、軽微ではありますが、接種局所反応が起るということで、これを防ぐためには何かいい、而も普及性のある接種方法がないかということについて研究をしております。先ほど坂口先生もおつしやいましたような乱切法或いは乱刺法とかいうような研究も今日続けているのであります。これらの研究については着々成果が挙つておりまして、成果が確認されたところからどんどんこれを直して、これを強制接種の面に取入れて行かなければならないものであろうと私は推察しております。  次に、その他BCGについての意見というところで、国家検定のことについて一言申上げたいと存じます。国家検定基準というものは、基準専門委員会というのがございまして、この専門委員会は全部結核並びにBCGに関する研究をおやりになつている専門委員が十数名お集まりになつて、御自分の研究を基にしまして、又W・H・Oとかその他諸外国の規定を参考にいたしまして、制定されたものであります。我々がミニマル・リクワイアメントと言つておりますが、それができ上るのであります。それに基きまして製造所においても、又国立予防衛生研究所におきましても検定を行なつております。これが国家検定と申すものでございます。今日までに千六百二十四件の検定を行なつておりますが、全部の平均で七二・二%の合格率を見ております。即ちかなりまあ不合格のものもございます。不合格のものはどういうことで落ちているのかと申しますと、いわゆる力価が足らなかつたり、或いは無菌試験に不合格のために落ちているものでありまして、安全試験……BCGの中に或いは有毒菌が混入したためとか、或いはBCG毒力を復活したとかいうようなために不合格になつている例、即ち安全試験のために下合格になつている例は、今までに一例もございません。  次に世界各国のBCG接種の現況をちよつとここで御参考までにお伝えいたして置きましよう。世界で最もたくさんBCG接種が組織的に行われておりますのは、ノルウエー、スウエーデン、フランス、ブラジル、チエツコスロバキア、ポーランド、ユーゴースラビア、ハンガリー、ソビイエトなどであります。法律で強制している国はフランス、ノルウエーそれからブラジル、ユーゴースラビア、ソビイエトでございます。これらの国の多くはW・H・O或いはユニセフ及びI・T・Cと申しましてインターナシヨナル・ツベルクロージス・カンペインの援助の下に行われております。このI・T・Cの指導の下に行われておりまするBCG接種の人員はすでにヨーロツパにおきまして千万人を超えているのでございます。このW・H・O、ユニセフ、I・T・Cなどは東亜にまで援助の手を伸ばしまして、先般フイリピンのマニラに立派なBCGの製造所ができました。又台湾の台北にも立派な製造所が最近新設されたのでございます。で、私は今春アメリカに参りまして、アメリカBCG研究者にもお会いしまして、アメリカでの研究状況も視察して来ましたが、我が国のBCG研究は、行く前にもそういうふうに感じて参つたのでありますが、行つて向うの研究者とお話をして見ますと、遥かに優れております。又向うの研究者のアロソン博士、ローセンタール博士、バークハーク博士に会いましても、口を揃えて我が国のBCGの精神をほめたたえております。つい一週間ばかり前にアロソン氏から手紙が寄せられまして、君が持つて来たこの日本のワクチンの成績がよくできた、僕のところのワクチンと比べてしかじかだ、実に立派な乾燥ワクチンであるということをほめたたえております。そしてそのあとで、どうかお前のところではどんどんこのBCGのワクチンが改良され、進歩して行くと思うから、それについてはどんどん私のほうへ送つてくれ、自分のほうでも君たちのほうのいろいろ足らんもの、欲しいものは言つてくれればいつでも送つてやる。というようなことを言つてつているくらいであります。又私はアメリカBCGの最大反対者でありまするアーサーマイヤース教授にも面会いたしました。彼は七十才近いでつぷりした老大家でございまして、内科と予防衛生との兼任教授でございます。私は僅か三時間ばかりしかお目にかかりませんでした。ただ会いますときの目的は、曾つてアーサーマイヤース氏は、アメリカ・レビユー・オブ・テユーバルクロジスという専門雑誌に、BCG反対論の十二項目を挙げております。私はそのうちで我々研究者としてどうしても納得のできないところがございましたので、それについて問い質て見たい、直接に会つていろいろのデータも見せて頂きたいという意味で、わざわざ北のミネアポリスまで行きまして、彼の教室をお訪ねしたのでありますが、アーサーマイヤース氏は、私が持つて行きましたその反対論に対して一つも答えないで、彼はアメリカではBCG接種をやる必要がない、これが僕のBCG反対する最も根本的の理由であるということを申しております。私は何遍も何遍もこの条項は、私たち結核専門家としてどうしても納得ができないということを、学問的に私たちの実験を見せて申したのですが、それには彼は何とも答えません。若しもこれに対するあなたのデータがあつたら見せて下さい、「それはデー夕がない」ということで、まるつきり話になりません。ただミネアポリスを中心にしまして、ミネソタ州で結核の予防をやつているが、それについてこんなに減つているというデータを見せてくれました。で、こんなに君結核が少いのではBCGを射つ必要がないだろうということを私に言うのであります。成るほど日本と比べたら問題になりません。例えばミネソタ州の結核死亡率は一九四九年には十万人について一三、八という数字であります。かくのごとき少い死亡率でありまして、私はそのときにあなたの大学の学生のツベルクリン反応は何%ですかとお尋ねすると、先ず一〇%である。で、私はそれは驚いた、私たちの大学のツベルクリン反応の陽性率は八〇%、或いはそれを超えるであろうということを言うと、それは大変だ、いやこれはアメリカとお前たちとは結核の予防対策はおのずから根本的に違つて来るよというような話になつてしまいまして、別れるときには君も僕も結核という怖い病気を少くするために働いている。これほど一生に我々の商売に幸福な仕事はないということで握手をして別れて参つたのでありますが、会う前の激論を交わそうとした、その気分とはまるつきり別れたときの気分は違つていたのでありますが、日本に帰つて見ますと、このアーサー・マイヤースの反対論がいろいろの雑誌や新聞などを賑わしておりまして、私は実に以外な感に打たれたのでございます。アメリカに行きますと、「ああBCG反対者か、あれはマイヤース氏だよ」ということは誰でも知つております。それほど彼はBCG反対者として有名であり、而も研究者ではなくて反対しておりますので、半分笑い者になつている次第でございます。  いろいろのお話をいたしましたが、以上のことから私は日本の現段階におきましては、BCG強制接種は現行法を以て行うべきであるという意見を主張するものであります。
  129. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 次に阿部証人にお願いいたします。
  130. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私は長らく薬理学を専門として立つておるものでありますので、その立場から私の厚生大臣に提出いたしました上申書に判を捺したその理由について、こちらからお問いになつている質問事項に逐次お答えをして行きたいと思います。  先ずBCG効果であります。只今柳沢さんから縷縷御説明があつて、その効果については私どもつておりません。これは当時塩田先生が、その効果については疑うものでないということを言つておりますが、ただ今も乾燥BCGが行われております。乾燥BCGワクチンは、柳沢さんは七〇%の陽性率を得たと言われておりますけれども、事実私の大学では三〇%やれば、或いはときには五〇%くらい、又京都大学の小児科でも三〇%から三五%くらいのデータを出しているのであります。これはどこに起因するかと申しますと、私は後ほどそれについては意見を述べて見たいと思うのでありますが、それは保存ということが今もやかましく柳沢さんからも言われたごとく、五度以下に保つこの保存ということが重大な問題になつているのじやないか、熊谷先生の調べたところでは、生菌が三〇%くらいしか生きていないと言われておりますが、若しそうだとすれば一〇〇%生きておれば一〇〇%の効果が現れるものを、ほうぼうで三〇%くらいのデータが出て来るのは、これは三〇%くらいしか生きていないために生ずる結果であります。それでありますが、効果はあるでありましようが、現在一般に行われております、これは勿論柳沢さんあたりの場合には中央で完備した保存方法を用いてやられているには違いないのでありますが、貧弱な電気冷蔵庫で五度以下に達することもできないような日本の現状におきましては、まあ効果の点は止むを得ないと思いますが、そういうことが結局は効果が減ずるということは遺憾ながら認めなければならないのであります。なお私ここで皆さまの御注意を引きたいことが一つあるのであります。今までBCGによる免疫獲得の判定は、アレルギー反応であるところのツベルクリン反応のみに用いられて参つております。このツベルクリン反応では、獲得されました免疫性の強さや免疫性の持続時間など判然としないばかりでなく、多くの病原菌に対する免疫の場合に現われて参りますいわゆる陰性期抵抗力の減つた時期、これのあるかないかがツベルクリン反応ではどうしても判定をすることができないのであります。若し私はそれでBCGによつて陰性期が、今の抵抗になつている時期、即ち陰性期が現われるかどうか、又免疫が獲得されれば、どの程度の強さの免疫性が獲得されるのか。又それがどの程度に持続するのか、これは多くの人の実験によりますと、必ずしもアレルギー反応ツベルクリン反応免疫性と一致しないのである。このことはすでに九大の戸田教授も先日お話になつておりましたし、又小児科の田村博士は結核に罹つてツベルクリン反応がだんだんと弱くなつて、初めは出ておつたのですがだんだん弱くなつて二千倍ではツベルクリン反応を起さない。但し千倍にすれば出てくるというようなことを言われた。そのようなことから考えますと、免疫性がどのくらい持続するのかということにつきましては、ツベルクリン反応だけではどうも問題が解決されない点があるように私には思われるのであります。そしてかような問題をはつきりさせるためには、一日も早く本当に結核に対する免疫性を判定することができるようなインデイケーターが設定されなければならないものだと思つて、それからその研究を私は専門外でありまするがひそかに期待しておるものであります。その設定が行えますならば、効果の判定は非常にたやすくなつて参りまして、このツベルクリン反応によつてのみその効果を判定するというような現状を打破することができると私は考えておるものであります。  次にBCG副作用でありまするが、私は先ほど申しましたように薬理学、毒物学というようなものを専攻いたしておるものでありまするので、副作用という言葉に対しては私の専門としての立場の定義を持つております。それはどういうことであるかと申しますと、副作用とは、適用される薬物が適用される目的以外に作用を現わす場合にそれらの作用をすべて副作用であるという定義を我々は不断守つておるわけであります。そういう意味からこの現行のBCGのワクチンの副作用を見ますると、局所性の副作用と遠達性の副作用があるのではないかというふうに思われるのであります。この遠達性の副作用、即ち全身性の副作用のことにつきましては疑問があるのでありますが、私はそれをあとで論及することにいたします。先ず局所性の副作用から述べますと、先ほどから皆さんのお話に局所性の副作用としては、潰瘍或いは膿瘍等も専門家のいわゆるBCG研究家の報告を見ますると非常に副作用が少い。只今柳沢さんのお話を承わりましても非常に少い、非常に結構なことだと私は思います。ところがそれと反対に又八〇%も大きな潰瘍を作つて後に大きなナルべを出しておる。これは私新聞で見ましたのですが、ここでも塩田先生が報告されたようであります。六センチなり十センチなりになつたナルべがあるということを、私は山形県の飽海郡の松嶺町の松岡の製糸工場の女工さんが乾燥BCG接種を受けてその八〇%がこういうナルべを持つたということであります。これは調査すればすぐわかる事実だと思います。私はこの話をそれを実際に見ました志賀先生が先般上京になつたときに承わつたのであります。そうして非常に面白いことにはBCG専門家に言わせますと、局所性の副作用が非常に少いと言われる。ところが地方に行くと、そういうふうに存外潰瘍を作つておるのです。そうして殊に女工さんなんかは現在腕まくりの服装をいたしますので、大きな斑痕が腕にあるというようなことは、非常に自分の文化生活をする上に忌み嫌うという現状であります。これが地方に多いということは、そこに何か原因がなければならないと私は思うのであります。それはやはりワクチンの輸送、保存或いは接種方法というようなことが何か関係しておるのではないかと思いますので、これについては当然改善をしなければならないものと思つております。潰瘍を作らなくてもツベルクリン反心は陽転するのであります。多くの人はそう認めておるのであります。潰瘍ができるほうがいいというような議論はこれはツベルクリン反応以外の何物かを要求しておるのではないか。これが私の先ほど申しました真の免疫これを要求しておるのだろうというような気持もあるのであります。この点から見ますならば、先ほど申しました真の免疫を判定するインデイケーターを早く設定しなければならないのではないかというふうにますます考えられるのであります。  次に遠達性の副作用であります。副作用と申して今のところいいかどうかわかりませんが、時折りBCG接種の後に淋巴線が腫れたり又肺結核などが起つて参ります。私の知つておる三例のうち一例は前者、二例は後者に属するものであります。これについてはいろいろの見方があり得るわけであります。一方ではそれは接種と同時にときを同じくして結核に感染したためではなかろうか、そのためだつたら性質は違うものだという説が成立つ、いや接種と共に誘発されたという説も立ちます。先ほど坂口先生は注射後四、五日でそういうものが出て来るはずがないと申しましたが、私の知つておるものはBCG接種後約一カ月間にいずれも起つておるのであります。これは五、六日で起つたというものではありません。若しこれが単に同時感染或いはときを同じくして感染したというものでありますれば、これは副作用でないということになります。ところがこれが続発性のものでありますならば、それはBCG接種によつて稀に起る遠達性の副作用とみなさなければならないのであります。それでそういう疾患が感染か誘発かということをきめることが必要になつて参りますが、それには誘発でないことが証明されるか誘発であることが証明されるか、どちらかが証明されなければならないのでありますが、これは非常にむずかしい話であります。けれどもそのむずかしい問題を解決しやすくするために、私は二つのことをここで御参考までに申上げたいと思います。その第一は先ほど来申しますように、BCG接種してから後に免疫が現われるまでに他の多くの免疫の場合に現われるような陰性期がないかどうか。この問題は全く解決されずに残つておるのでありますが、この問題を解決するためにもツベルクリン反応以外に、やはり免疫性と本当に並行する、例えば凝集反応みたいなものが確立されなければならないものだと私は考えております。私はここで断定的に申上げることはできませんが、私どもの大学のレントゲンの春名教授が、結核菌にレントゲンをかけることによつて非抗酸性の結核菌を作ることができる、普通の抗酸性の結核菌ならば液にいたしますと固まつて参ります。いわゆる凝集反応がなかなかできない。これが今まで検査できなかつた原因ではないかと思いますが、実はそういうふうにレントゲンをかけますと、生じます非抗酸性の結核菌を均等に乳剤化することができるのであります。そうしますと凝集化が調べられる。そうして三十人ばかりのBCG接種者について、血液の凝集化を調べて見ますと陰性期があるのであります。BCGを一ミリやつた場合と十ミリやつた場合と、量が減ると陰性期が長く出て来るのであります。今のようにして非抗酸性の結核菌を作るということについてはなお研究する余地がありますから、まだ同教授の下で行われておる仕事は発表されておりませんがこういう事実が事実あるのであります。こういうふうにいたしまして、若し陰性期というものがありますならば、即ち体の抵抗力が減つておる時期というものがありますならば、その場合体内に潜伏して、発病しないでおる、或いは発病しておる菌がその猛威を逞ましくするというチヤンスがあり得るというので、必ずしもBCGの菌がそこに参らなくても、体の抵抗性が弱ることによつて結核が現われるチヤンスがあると思われます。私はそういうことをちよつとここで、まだ公に発表していない事実をも発表いたしておるわけでありますが、そういうことから考えますと、ただ誘発する原因があり得るのではないか、私が先ほど述べたのは誘発したとは言いませんが、誘発する原因、毒物学的な理由はあり得ると考えるのであります。又田村博士は昨年千葉の小児科の学界におきまして、実はツベルクリン反応について五カ年間研究したものを一まとめにして報告しております。その成績によりますと、小児科方面では二千倍のツベルクリンでその反応を調べ、その陰性のものについて精密な検査をやりますと結核菌がある。それで更にツベルクリンを濃くいたしまして千倍にしてやりますと反応が陽性になつて、そういうものが皆引つかかつて出て来るという事実を認めます。そうしますと今一律に二千倍のツベルクリンを以てツベルクリン反応を、殊に小児科方面においてやるということはどうであろうか。小児科の専門家に聞いて見ますと、実は赤ん坊は千倍のBCG接種しても陽転しない、百倍でなければ陽転しないということを言つております。又戸田教授も盛んに百倍を使つております。そういうようなワクチンを二千倍くらいにするという理由はどこにもない。むしろ小児科方面では、或いはそれよりもつと嬰児等に下げて考えて参りますと、ツベルクリンは二千倍でなくてもいいのではないかということが起つて来るのであります。殊にツベルクリンのその効力が必ずしも一定してない製品が出ておるということから見まして、これはやはりそういうことも考えて、単に二千倍のツベルクリンでなく、或いは千倍、或いは五百倍或いは百倍というものまで実際には使うことが許されなければならないものだと私は考えております。そうしますと、二千倍のツベルクリンだけで免疫性を、ツベルクリン反応を見ますと、実際には体内結核菌を持つておるものが陰性に出る場合が相当にある。十何%かある。そのくらいの数があるということは、千倍であれば陽性になるべきはずのものにBCG接種をやるという結果、アレルギー反応が強く出るのであります。処女的な体であるものには非常に強いものでなければツベルクリン反応に応じないという事実があるといたしますと、ツベルクリン反応が陰性としてBCG接種をいたしました場合に、実は体内に強い反応が起つて来る。それで又全身に作用が起ることがあり得るということは、これは薬理学或いは毒物学の原理から十分想定ができる。そういたしますならば、果して本当に遠達性の副作用があつた場合、これは同時感染だと言つて片付けるだけでは済まないのではないか。やはり他の二つのそういう理由があり得るであろう。そのほうを考えなければならないと思うのであります。これは私はどちらとも判定することは……、薬理学上の原理からそれを申上げるのではなくてそういう可能性があり得るということをここで皆さんにお話申上げることができれば結構であると思います。  それからその次に三のBCG接種の身体に及ぼす障害の有無について。この問題は遠達性の作用というものが感染か或いは誘発か、この問題が解決して初めて解決される問題であります。その前には別に答えを出す必要のないものだと思います。  その次の四番目の、BCG強制接種に対する意見でありますが、これは私ども先ほど文字にして厚生大臣に差上げた通り意見でありまして、何ら他意あるものではありません。そういうふうにしていろいろな疑惑を持つておりますので、殊に柳沢あたりの報告されるような陽転率のいいパーセンテージが得られませんので、もうすでに四月一日から強制接種をやつておられるので、この際こそ調査すべき時期ではないか。又四月一日以降のことでありますから、それがいろいろな罹患性とか死亡率ということは案外計算できないと思いますが、そういう副作用については単に東京の真ん中におられる、或いは大都会の中心におられる、大学におられる、そういうかたがたの綿密な研究によるものでなくて、地方で行われておる強制接種副作用がどうであるかということはもう調査してもいい時期であろうというふうに私どもには考えられるのであります。そういうわけで特に調査をお願いして慎重に調べられて。行政上遺憾のないようにされたいということを申入れたわけであるのであります。  それからBCG接種の改善についての意見でありますが、これについてはいろいろここで述べて見たいと思うことがあります。先ず第一にツベルクリン反応以外に結核免疫を判定するインデケーターが設定されなければいろいろな問題が解決されないと思います。又それを設定されればいろいろな問題が解決される。今の免疫における陰性期というようなものもよく解決されて来るし、のみならず免疫の強さをどのくらいの強さの免疫を与えればいいかということも解決しますし、どのくらいの長さの免疫を与えるものかということも解決がついて参るのであります。従つてそれがBCG接種の改善に役立つことは勿論であると私は思います。  それから又ツベルクリンのことでありますが、先ほど申しましたような理由によりまして現行の二千倍のツベルクリン液を、小児科方面では或いは千倍、ときには必要に応じては百倍にまで上げて用いないと目的を達せられないということも十分周知徹底させるような必要があるのじやないかと思われます。  又先ほど坂口先生のお話にもありましたが、ツベルクリン皮内接種法の技術であります。これが存外徹底していない。実は皮内に注射すべきものを皮下注射しますと、ツベルクリン反応は陰性になつて現われるのです。それが皮内に注射すればツベルクリン反応が陽性になつて出るべきものがそれが陰性に現われて来るというようなことがありはしないか。事実これは医者仲間の恥でありますけれども、併し地方のほうに参りますとそういうことがないということは私は保証できません。  それからツベルクリンの力価を常に一定にして置いてもらいたい。これは普通の薬もその効能を一定にならしめるためには、その力価を一定にしなければそれを望むことはできないのであります。  次にBCGに対する改善としましては、力価が不定であるということが、これは保存の方法にもよりましようが、私は力価が不定である、成るべくこれを一定にして頂きたい。それから又乾ワクで現在三〇%とか三五%の液が含まれる、もつと六〇%も六五%も含まれる方法はないのか。これをやはり研究して頂ければツベルクリン陽転は三〇%から六〇%、六五%というふうに上がるのじやないかということも考えます。  ここで大きな問題は、特に皆様の御注意を惹きたいことが一つありますが、これはツベルクリンBCGの保存の問題であります。先ほど柳沢さんから強く言われておりましたが、BCGは五度以下に保たなければその効果が減退して行くということを言われました。BCGツベルクリンも同じに維持して、而もレツテルには五度以下に保てということがちやんと書いてありますが、ところで我々のところには悲しいかな電気冷蔵庫を持たないのであります。ただ我々の持つておる冷蔵庫は僅かに摂氏八度なり十度までしか下つておりません。ビールを冷やして冷いと思つても、存外それは十五度くらいでありましようか、五度以下に保つということは、我々全部ツベルクリンを取扱う者は電気冷蔵庫を備えなければならんという事実があります。果して全国の保健所に電気冷蔵庫が行き渡つておるのでありましようか。こういう問題こそ早く施設して、そうしてどこに送つても必ず五度以下に保存されておる状態になければ、私はBCGのいい結果を望むことはできません。力価がどんどん下つておる品物を使つてどうするのかという問題が一つあります。而もこれは多少皮肉になりますが、いろいろな医療法及びその施行規則の中に病院で備えなければならないものという中に冷蔵庫すら書いてありません。まして電気冷蔵庫においておやであります。このことはツベルクリン、或いはBCG強制接種する以上、どうしても病院に電気冷蔵庫を備えなければならんということがなぜ医療法を制定する場合に気付かなかつたのでありましようか。又BCGを今年の四月に強制接種することにきめましたならば、遡つて前の医療法を改正しなければならないと思います。これなくして医者に保存を五度以下にしろということは、これは大変なこれこそ強制であります。医者は到底それを五度以下に保存することはできないのでありましよう。何かいい方法がありましたならば、又あとでお願いいたしたいと思います。  今一つは甚だ残念なことでありまするが、全国の医者は同じレベルにありません。津々浦々にまで東京の真ん中に住んでおるようなお医者さんが行き渡つておるわけではありません。従つて先ほど申しましたツベルクリンの問題、又BCG副作用のない乱切法、或いはツベルクリンの必ず皮内注射をやるというような技術が、悲しいかな全部の医者にはできないのであります。甚だ残念でありますが、従つて医者に対する再教育を、私は保健所その他をも含めて十分なる再教育をしなければならない。この用意が国家にできておるのであろうかということを私どもは疑う。私は電気冷蔵庫を備える、或いは医者にその趣意を完全に行わせるような方法ができて初めて強制すべきものだというふうに私は考えます。たとえBCGそのものは製造所ではよくできましても、地方々々にまでそういうものがいいまま保存されて、そうしてそれが正当な、最も正しい趣旨によつて接種されてこそ、国家はその法律を完全に遂行することができるでありましよう。その前には望んでもむしろ不可能ではないかというふうに私は考えます。そういたしますと折角強制接種まで漕ぎつけたこの法律の威信をどうするかという問題がここにからんで来ると思います。これも議員諸公には一つ是非ともお考えを頂きたいと思うことであるのであります。最後にその他BCGについての意見ということでありまするが、私はこの度学術会議の第七部会の医学を専門といたす者が、この医事行政に関する法律にちよつと待つたをやつたということは甚だ慚愧に堪えないと思うのであります。併しこれを制定するに当つて日本医学会を含んでおる日本医師会になぜ諮問しなかつたろうということを私は思つておるのであります。若しも日本医師会にこれを諮問されて、そうしてその道の専門家、勿論法で示されておる専門家がありますが、日本医学会から見た専門家は、或いは結核学者あり、或いは内科医者、小児科医者がある、こういうものを網羅してそれぞれの意見を取入れたならば、今度のような事件は起らなかつたであろうと断言ができます。そういう意味におきまして、どうか私の意見としましては、これはお願いでありまするが、医事に関する法規を制定される場合には、日本医学会を下に抱えておる日本医師会に御諮問になることをこの際お願いしてやまないのであります。  以上で私の証言を終ります。
  131. 梅津錦一

    委員長梅津錦一君) 四人のかたの非常な蘊蓄のある学問的な見地を御披瀝下さいましたことを非常に感謝いたします。  私から最初に質問申上げるのは筋合が違うのでございまするが、委員のかたにお許しを願いまして、一言御質問申上げたいと思うのでありまするが、只今阿部証人のお話を聞き、その前に柳沢証人のお話を伺いますと、おのずから理論上の立場と臨床上の立場との点から意見の食い違いがあるように私は考える。重要な岐路に立つたと思うのであります。このことは当委員会の将来法案に対して検討を加えて行く途上においては重要な論点になりまするので、只今阿部証人からは理論上の立場から多方面に対しての根拠を種々究明されておられたことは理論学者としては私尤もであると思う。更に薬理学、毒物学の立場からもいろいろ検討を加えられて来たのでありまするけれども、これに対しまして柳沢証人は臨床の立場から種々実験材料をお用いになり、更にアメリカに渡られても、こうした臨床問題に対して種々研究になつて来られたと思うのでありまして、柳沢証人の阿部さんに対する理論的根拠に対する臨床上の立場をもう一度明解にされて頂き、更に又阿部証人からはこれに対する御見解を又御披瀝願えれば非常に明らかになつて来ると、こう思いますので、忌憚のない御意見を率直明快に御披瀝願えれば当委員会として非常に仕合せであると思いますので、重ねて柳沢証人の御意見を質したいと存じます。
  132. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 只今阿部先生がおつしやいました三つの点について私の研究に基く成績を申上げたいと存じます。  その一つは、阿部先生が先ほどBCGのようなものを接種したあとにはいわゆる陰性期というものがある、これは私たちの言葉ではネガテイヴ・フエイスと申しますが、そういうときには却つて平常よりも体の抵抗が弱つている。そのために既存の結核症、或いはBCGのために病気が起こらないかということを申されましたが、これにつきましては私たち非常に詳細な動物実験をやつております。即ちBCGをやると同時に、有毒菌をさしたり、或いはBCG接種いたしまして、まだツベルクリン反応が陽性にならない前に有毒菌をさしまして、実際この抵抗が弱るような時期があるだろうかどうかということを調べた実験がたくさんあるのでございますが、このBCGのワクチンの接種に対しましては、ネガテイヴ・フエイスは私たち認めないのであります。  それからもう一つ阿部先生のお話では二千倍ツベルクリンの力価が非常に不安定だと申しますか、非常に強いのもあり、弱いのもあるということを申されましたが、これは先ほど坂口先生からもお話がありましたように、戦争後の、一時いろいろの設備その他が不完全のときのツベルクリンには、確かに或る程度の力価の動揺がございましたが、その後国家検定を厳重にいたしましてからは、力価の動揺を私たちは殆んど認めないと存じます。又ツベルクリンBCGと違いまして、あえて五度以下に保存いたしませんでも、力価は殆んど室温において約一年間は実際上変動がないものと存じます。
  133. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私の意見を述べますが、私は今のネガテイヴ・フエイス、この問題は未だ私のほうでも未発表なのであります。又非抗酸性の結核菌というような問題につきましてもなお研究する余地があるのであります。ここであえて御討議はいたしません。先ほどその点はお断りいたしました。但しツベルクリンのほうは、あの表に五度以下に保存しろということが明記してありますので、我々門外者はそれに迷わされております。従つて若し一年間保存されるものとしますれば、そのツベルクリンの力価の動揺というものは前の動揺した時代のことを指したのでありまして、別に今これを責め立てるものでも何でもありません。むしろそれならば、もつと温度を緩やかにして下さると、我々のほうの木製の冷蔵庫の中にも保存ができるようになるので、大変有難い仕合せだと思つております。但し表面にそういうことが書いてあります。五度以下に保存しろということを書いてありますから、我々は成るべくそれを守りたいという念願から先ほどのことを申上げたので、別に他意あるわけでも何でもありません。    〔委員長退席、理事有馬英二君委員長席に着く〕
  134. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) 委員長に代りまして代理を務めます。私から阿部証人にお伺いをいたしたいと思いますが、先ほど非常に詳細に亘つて薬理学的の知識から、又多岐に亘つて証言がありましたが、私どもは別にここで学問上の討論をやつているのではありません。いろいろの疑念があることは当然わかつておることなのでありますが、そういう学問上の疑念を一掃しなければBCG接種が行われないというようには私どもは考えておらない一人であります。そこで私は阿部証人にお伺いをいたしたいと思いますが、あなたがこの学問上から抱いておると言われるこの疑義を何故もつと早く学術会議の席上においてこれをお質しになり、或いは皆に相談して、今回提出になりました意見書をもつと早くどうしてお出しにならなかつたのか。
  135. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私は二月の十二日に発つてアメリカへ行つておりまして、五月の末まで、二十九日に帰つて来たようなわけです。私はその前の一カ月は非常に忙しく、家に帰つて来てからほうぼう講演旅行に行つておりました。且つ自分の病院のほうもやらなければならないというように、寧日のない身でありますために、ついこういうものは失念して……、こう言うことは、これは国家のため甚だ失礼でありますが、事実でありますからこのまま申上げます。
  136. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) もう一点伺いたいのでありますが、BCG研究昭和十三年以来我が国では戦時中でありましたけれども、学術振興会において行なつて、非常に熱心にその都度学会で発表しつつあつたことは御承知と思うのであります。そうしてBCG結核予防に対する効果があるということは学者が発表しておるのでありまするから、その当時にすでにこういう疑念をお抱きになつたことと思うのであります。もはや今日から十数年も経つておるのでありますが、今頃になつてそういう御疑念を抱くようになつたのでありましようか。
  137. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 甚だ失礼でありますが、私専門外のことでありまして、BCGのことについては余り関心を持つておりませんでした。殊に最近私の大学で結核菌の凝集反応ができるというようなことを知らされましたので、これはここに一つ何かの拠点がありはしないか、殊に免疫反応を調べる上においては最もよいインデイケーターになるということを最近気付いただけでございまして、これは私が何も早くからこれにいろいろ申込をするとかいうような知識もありませんでしたし、最近そういうことが出たので、それからヒントを得た私のアイデアであります。
  138. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) 学問的のことは成るべくここで討論をいたさないつもりでおりますが、今証人結核菌の凝集反応のことをお話しになりましたから申上げるのでありますが、結核菌の凝集反応実験は、もう実験の域を脱して、一九二一年頃から日本でやつてつたのであります。そういうことが今頃問題になつておるというのではないのでありまして、そういうことからしてあなたがこれに反対をなさるとは私は信じられません。如何でありますか。
  139. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私はその点で特に反対しておるわけでも何でもありません。こういう事実があるから、それを論拠にすれば全身性の副作用というものが起つてもいいのではないかというよりどころが一つあるのではないかということを、これは未定稿の形で私が先ほどお断わりしながらここで申上げた次第でありまして、むしろ重点はもう一つのツベルクリンの陰性者、これは実は精密検査によれば症状があるというようなものを見ておりますので、そういう場合に又何かそれが刺戟にならないか。BCG接種することがツベルクリン反応が陰性と思つて接種したのにそれが何か刺戟にならないかということ、それが又全身性反応の起り得る一つのフアクターにならないか、そういうことが一つ考えられるということであります。別に私は今それで感染か或いは続発かという問題はお答えできないと言うたわけであります。
  140. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) もう一点お伺いいたします。この学術会議の有志のかたから厚生大臣に提出されましたこの進言をされるに先だちまして、専門家意見を十分にお聞きになりましてこういうものをお作りになつたのでありましようか、どうでありましようか。この十三名のかたの中に専門家と考えられるのは戸田君一人であります。戸田君一人の意見で以てこれだけの提言をされたのでありましようか、或いはその他に多数の人の意見を御聴取になりましたか、それを伺いたい。
  141. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私はほかの人はどういう人に意見を承わつたか知りません。併し私が戸田さんと話しておる間に、改善する余地があるということをたびたび言われております。改善する余地があるなら、強制する段階ではないではないか。併し戸田さんは改善する余地はあるが強制する段階にあるというので、そこが私との意見の相違でありまして、私のロジツクとしましては、改善する余地があるならば強制するには少し早いということを戸田さんとよく話合いまして、又それで戸田さんも実はこういう穏かな上申書ならば、自分も判を押してよいというようないきさつであつたのでありまして、私は専らBCG研究家の戸田さんとお話しておる間に、やはりそういう専門家からも改善する余地がある、のみならず私が先ほど挙げたような理由がありますために、私はますます判を押す気になつたのであります。
  142. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 私は先ず小池先生に伺いたいのですが、小池先生の御署名なさつたのは、これは専門家意見を聞いて改善の余地があるからということが理由でありましたように伺いましたが、只今有馬委員が言われましたように、専門家というのはどういうかたを指すのか、又学術会議の中の専門家の戸田さんお一人のおつもりなんでしようか。どういう専門家にお聞きになりましたのでしようか。
  143. 小池敬事

    証人(小池敬事君) 私も大体阿部さんと同じようでありまして、接触する範囲も狭うございますし、戸田証人のお話を間接に承わりまして、或いは直接にも承わりまして、それでやつたわけであります。
  144. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 御承知でしようが、文部省総合研究会の予防接種科会、日本BCG協議会、これは専門家の集まりなんですが、専門家の御意見をお聞きになるのならばなぜこういうところの御意見を一遍お聞きになつてから御提案にならなかつたかということですが、こういう立派な会があるにもかかわりませずこれにお聞きにならなかつたという理由はどういう理由でございましようか。
  145. 小池敬事

    証人(小池敬事君) 別に理由はないのでございまするが、私はそこまで気がつかなかつたというだけでございまして、別に他意はないのでございます。別にそういうかたを無視したとか、そういうことではなくてやつたというだけでございます。
  146. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 それでは厚生大臣にお出しになりました申入れは、極く軽い気持ちで別に政治的な意味も含んでおらんし、まあ厚生大臣にこんなことを語つてやれというような極く軽い気持ちでおやりになつたということですか。
  147. 小池敬事

    証人(小池敬事君) 私は別に政治意味も何もございません。併し軽い意味でこういうことを申したのではないのであります。ともかくもなお研究の余地があり、更に改善の余地があると、そういうものを強制することはどうであろうかということは、私が科学常識から来る良心によつてこれをやつたと私は考えております。
  148. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 比較的軽い気持ちでお出しになつた、又学者科学良心からと、こういうことでございますが、その意味はわかりますが、実はこれを出されました結果が、これは政治問題を起して来ておりますので、それでなぜこういうふうなことにはもう少し慎重に、こういう機関があるのにお聞き下さらなかつたかということを、我々は政治問題として今考えておりますので、この点において私どもは、殊に日本学術会議と、こういうことに厚生大臣は非常に重要な意義を持つております。先般の厚生委員会におきましての厚生大臣の答弁も、ここに非常に重要な意義がございましたので、あなたがたの気持と厚生大臣の気持とにそこに大きな違いがあるのではないかと窺われるのですが、飽くまであなたがたのは極く軽い気持ちで出したのだ、ただこういうことを調べて見ろ、研究して見るというくらいなお気持ちだつたと受取りましてよろしうございますか。
  149. 小池敬事

    証人(小池敬事君) 質問の意味がよく私にわかりませんが、恐らく第七部有志のかたは、あれを政治的の意図とかそういう関係でおやりになつた人は一人もないと私は考えております。それが軽い意味であるかどうかということは言葉の解釈ではございましようが、私たちはともかく学術会議の会員といたしまして、こういうことをすればそういうようなふうに考える、政治的とか、政治的でないとか、或いは厚生大臣がどう受取るとか、その後のことは私たちにも知らざることでありまして、そういう意味でやつたのであります。
  150. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 それではこれをお出しになり、御証明なさる折には、こういうことにまで発展するといいますか、こういうことにまでむずかしくなつて来るというようなことは予想されずにお出しになつたと、こういうことでございますか。
  151. 小池敬事

    証人(小池敬事君) 私はそういうことは予想しておりませんでした。
  152. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 阿部先生にお伺いするのですが、先ほど慶応病院のほうでおやりになつた成績乾燥ワクチンが三〇乃至五〇%の成績つたと……。
  153. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 六〇%。
  154. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 六〇%ですか、それは多分保存の問題でこうなつたのだろうという御所見のように承わりましたが、さようでございますか。
  155. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) ええ。
  156. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 それでは柳沢証人にお伺いするのですが、保存の問題でこういうふうな成績が出て参るか、如何でございましようか。
  157. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 現段階の製造条件におきましては、BCG乾燥ワクチンは遺憾ながら保存温度によつて非常に大きく影響を受けると存じます。
  158. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 今後或いは調べて見まして、若しこれ以上のいい陽転率が出ました場合には、これはそうすると保存の問題でないということも起つて来るのですが、まだ調べはありませんからわかりませんが、併し調べるともつといい陽転率が出るかも知れないということを我々は期待しているのですが、それにつきましてはどういうふうにお考えになりましようか。
  159. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 保存の条件と申しましても、例えば三十度の保存のときにはどれぐらい下るとか、或いは十度保存の場合にはどれくらい下るとかいう大体の下り方の基準がございます。従いまして国家検定を受けましたBCGが、保存が例えば三十度で三カ月も四カ月も置いたものでは、私たちの今までの研究では或いは六〇%、五〇%というふうに下るものと私は存じております。
  160. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 やはり柳沢さんにお聞きするのですが、今阿部先生のおつしやつたように、どこの病院にも冷蔵庫を置いてない、これはまあ現状そのままでございますが、そうするとそういう際にやはり強制接種をやつて行かんならんということになると、そこに大きな矛盾が起きて来ますのですが、それに対しては何かお考えがございましようか、その対策が……。
  161. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) それで先ほども申しましたが、BCG接種の改善に関する意見について申しましたが、私たちは今製造の能率化と申しましようか、効果を確実に保存できるような方法で、即ち室温で保存いたしましても相当長く持ち得られる効果のあるワクチンの製造をすることに努力いたしております。そうしてこれは近い将来においては、十分な可能性が認められると私は存じます。
  162. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 阿部先生に伺いますが、日本医師会のほうへ全然この結核予防法については相談がなかつたというお話でございますが、実はこの結核予防法を成立いたしますまでに、私ども委員会でいろいろ研究しました際の私の小委員長報告の中にこういうことが書いてあります。一般開業医師結核活動に積極的協力を求めること、殊に在宅患者の療養、予防に関しては医師、保健婦の指導の徹底を期する、こういうことを報告の中に一つの項目として出しておるので、当然これは厚生省のほうは医師会に話をしておるはずだと思いまするが、実際においてはいたしておりませんのでしようか。
  163. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 正式の諮問はないそうであります。私は医師会で下見はしたと……。併しそれは医師会におる理事の方が下見をした程度でありまして、医師会がセレクトしたそれぞれの専門家意見を徴してまで、医師会の意見を出したということではないことを承わつております。
  164. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 これはまあ非常にむずかしいことになつて参りますが、私どもはそういう考えで医師会に相談をかけるということは、一応手続きは履んでおつたものと心得ておりまするが、この医師会の書類がどういうふうにされるのか。医師会に相談をかけたかということになりますと、これは医師会の内部的のことで、大変むずかしくなりますが、若しお差支えがなければそういう書類をどうするのかということを、幸い日本医師会長の谷口君がおりますから、先生からよく質問して頂ければ結構だと思います。
  165. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) それでは今医師会長を呼びにやらせますから……。ほかに……。
  166. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 それでは続けてもう少し……。只今も医師会の問題でありまするとか、或いは医療法の問題でありまするとか、阿部先生の言われたことは一々御尤もでございますので、何しろこの申入れの中にそういうことをもう少し詳しく具体的に、この勧告には種々こうこういうふうなことを調査せよというのだという、その御親切がどうして使つて頂けなかつたのでしようか。若しその御親切があれば、今のようないろいろな法の誤解を招いたり、いろいろな本当の先生方の解釈と違つた解釈が生まれたりしておりましたのに、何というか、奥付けがなかつたためにいろいろな問題を起したのですが、若しこの具体的のことをおつしやれば非常によかつた。なぜそういう御親切がなかつたのですか。
  167. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) いやこれは私最近になつて耳にしたことでありますけれども、こういうものには医師会は干与してなかつた、下見はしたという程度で、何にも正式にこうこういう法を制定するが、日本医師会で然るべく御審議になつて頂きたいとか、正式な書類を私はもらつていないように承わつておりますが、これはまあ併しそこに行きますと却つて医師会のかたに御迷惑をかけるばかりでありますが、併しそういうことが徹底すれば私はよかつたのじやなかつたかと思います。
  168. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 私も、厚生大臣にお話されるまでに、こうこう言うておるのだぞと、親切にそれだけを具体的に厚生大臣に言つて頂けば、厚生大臣も先だつて我々の委員会で発言されたような発言もしなかつたのじやないかというようなことが後になると考えられますので、そこにこの学術審議会等で出されました本当の真意とかけ離れた線が只今出ておりますので申上げるわけなんであります。
  169. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) それじや申上げますが、今医師会長を探しに参りましたが、何か用事がありまして……、すでに帰られたそうであります。それで誠に遺憾至極であると思いますが……。
  170. 井上なつゑ

    井上なつゑ君 柳沢先生にお伺いしたいのでございますが、この国家検定でございますけれども、一千何百件の中七〇%余りしか合格しないということになりますと、あとの三〇%は一体どうなるのでございますか。費用にいたしましてかなり大きいと思いますが、ほかの散薬か何かをもう一回作るとか何とかということはできるのでございましようか。この問題についてお考えを承わつてみたいと思います。それからもう一つは副作用潰瘍だけじやないからそれは関係ないじやないかという点、現行法で行くべしというようなお話でございますが、この潰瘍の問題が先ほどもお伺いしたのでございますけれども、非常に今回この事件を拡大するのに非常に使われているということなんでございます。今朝ほども先生に伺いましたら、そんなことはストレプトマイシンの粉でも入れたり、パスでも入れて潰瘍の面に振れば何でもないのだとおつしやいますが、阿部先生がおつしやいましたように、まだ赤チンを塗つたりして、一年も潰瘍に赤チンを塗つて、因つておるという例は多々ございますが、これはどういうように、予研ではどういうように潰瘍を治癒して、早く治癒するということをお考えになつておられますのですか。実際上BCG注射して頂くのに、僅かの費用で注射して頂けますが、現実の問題として一年中繃帯をしていなければならん、一年中赤チンをつけてその治療に大きな費用を費さなければならんということは、これは実際問題といたしまして、子を持つている親なり孫なり非常に皆苦んでおられますが、その普及徹底の問題はどういうふうにお考えになりますか、ちよつと承わりたいと思います。
  171. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 只今の検定の問題でありますが、七二%、平均今日まで七二%何がしの合格率で、あとはどうするのかとおつしやいますが、これは検定をやつて不合格になつたものを再び作り直すということはワクチンの製造上できません。これは残念ながらいたし方がないのでありまして、こういう点について私は先ほど申しましたように、製造の能率化という点について、即ち均等に作れる方法研究するという点について、私は今後検討をしなければならんということを申上げたのであります。  それから第二の潰瘍の問題でありますが、先ほども私が申上げましたが、私たちがおよそ集団でもはや十年以上続けておる同じ町村が、約十カ町村ございますが、そこでは潰瘍ができたために治療を要したという例が私記憶ないのでございます。適当にまあ家で素人療法をしてよくなつたものが恐らく大多数なのだろうと思います。従いまして私自身といたしましては、潰瘍の特別の治療法の経験がございません。併し若しもそういう潰瘍ができましたならば、私たちの今までの結核の知識からいたしますと、今日ではパスだとか或いはストレプトマイシンというようなものがございまするので、そういうようなものをお用いになれば、恐らくは非常に早く直るであろうということが想像されるのであります。又そういうものをお用いにならないで、できました潰瘍の面をきれいにして置くと、即ち言葉を換えて申上げますならば、混合感染をいたさないように処置をして置くならば、BCGによる潰瘍は非常に早く治つてしまうと思つております。
  172. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) ほかに。
  173. 藤森眞治

    ○藤森眞治君 柳沢証人にお伺いしますが、只今そろそろ阿部先生からのお話もありましたが、こういう御意見がありまするが、只今の見本の結核の蔓延状況等から勘案しまして、やはり現在の結核予防法に制定されてある通りに、この法律を推進して行くのがいいと、こういうふうにお考えになりますか。
  174. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 私は先ほどから何遍も申しておりますが、学問的の根拠、並びに今までの実績から見まして、現行法をそのまま行なつて然るべきものと存じます。
  175. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) 私はそれじや柳沢証人にちよつと伺いますが、先ほど来いろいろの、例えば阿部証人からもいろいろ改善の方法について御意見がありましたが、今後どういうような点について専門家は改善を行い、又これを以て当局にその改善した方法を行わしめるという御決心がありましようか。この点において御回答を願いたい。
  176. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 先ず私は第一に、先ほどからも申上げておりますが、乾燥ワクチンでも五度以下に保存しないでも、室温に置いても力価が下らないというようなワクチンを作りたいことが第一の念頭であります。  第二は、我々専門家接種いたしたならば潰瘍は非常に軽微なものである。併し専門家でないものが接種しますと、なかなか治らない潰瘍があるというふうな面から見ますと、近い将来に研究成果が挙がりましたならば、早速そういうものの比較的でき方の少ない乱切法又は乱刺法に切替えるべきであると私は存じております。そういう研究をやるべきである、早く促進すべきであると存じております。
  177. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) もう一点、それでは近い将来ということは実質においてどれぐらいの日子を要しましようか。
  178. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) 私の研究では、大体あと半年乃至一年ぐらいでこのことができるように感じております。
  179. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) 然らば半年若しくは一カ年の間は、現行の法のままやつて差支えないという御信念がありますか。
  180. 柳沢謙

    証人(柳沢謙君) やらなければならないと思います。
  181. 松原一彦

    ○松原一彦君 阿部先生にお伺いするのですが、私は何にも学術上のことはわからんのでございますが、権威のある日本学術会議かたがたが、有志でなく、部会の総意を以て御勧告になつたのでありますから、これはなかなか容易ならんことでございます。そこでこの御勧告の趣旨は、調査して遺憾なきを期せよというのでございますから、厚生大臣はすぐその調査にかからねばなりませんが、その前提として強制はいけない、こういうことが先ず前提となつたように、あの文面では見られます。そこで立法面からいいますというと、さような疑惑のあるものはこの際至急に強制を解くような措置をばとらねばならんものでしようか。その辺の御信念を伺つて置かないというと、丁度今対立しております、それで現行法を行なつております私ども責任者として、悪かつたらこれは変えるのに異議はございませんが、これを今のままで実行してはならんという強い御意見でございますか。それともこれは一つの疑いである、学問研究の上からの疑念であるから、研究はしなければならないけれどもが、今この法律を急に中止を命ずるといつたような意思ではないというようなお考でしようか。そこを一つはつきり伺つて置きたいのです。
  182. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私どもはもう先ほどちよつと述べましたように、すでに強制接種をして、春気は過ぎております。そういうようなことで十分御調査なさつて、やめるべきだと判定なされば政策上やめるし、それがやめなくてもいいという結果が出れば、それで結構だと私は思つております。
  183. 松原一彦

    ○松原一彦君 御疑念の点につきましては、学者として如何にもそうだろうと思いますが、その御疑念に対して厚生大臣の言いますところでは、御勧告になつた学界の皆様から、これに対するところの調査の証拠を挙げて御提案になることをお待ちしているのだと、こう言います。そうすると厚生大臣調査をしろ、学界のほうでも権威のある調査を出すと、その調査を十分につき合せて見た上でこれは処理すべきものだと、まあこういうようなふうに考えますが、学界のほうではいつ頃どういう御調査をお出しになるお約束をなさつたのですか、厚生大臣のその点について我々に答えたことがはつきりしないのです。
  184. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) それは私は当日大臣と面会した際、列席いたしておりましたので、はつきりいたしております。その上申書は大臣の留守中に我々の代表数人が大臣からその後呼ばれたのです。そうして実は実際そういうふうに疑義があるのかというお尋ねでありますので、我々はそういう疑いを持つておる、いろいろ世間でも問題になつておる。だから学界でも疑義を持つべき余地がある。どうも国会の趣旨も強制するようにまではできていないようなことから、そういう点をよくお調べになつて、実際強制接種していい現状にあるかどうか。勿論この際私の意見を簡単に申上げますと、私はいつ、どこで、如何なる医者が接種をしましても、いつも同じような効果があり、且つ副作用が非常に少いものならば、強制しても結構だと思いますが、そのことは先ほど申上げましたように、地方に参りますといろんな問題もあることです。このことにつきましては、私ども学術会議といたしましては、調査機関は持たないのです。それで日本医師会のほうへ、厚生大臣にこのことを申入れたから、どうか医師会の手で都道府県の医師会を通じて調査してもらいたいということを申入れたはずでありますから、それから又実は厚生大臣に疑いを持つて参りましたときに、実は自分が厚生省として若し君らの言つたことで疑いを持つなら、即日、今でも、この法令はやめなければならんと思う。これが確実ならば……、従つてその論拠を示してもらいたい。その資料を示してもらいたい。自分は今疑うわけに行かないのだ、どうか君のほうで調べてくれないか。それに医師会へ幸い申込にであるから、私もこの際調べて、又我々がそこでこの上申書を書いた理由についてその根拠になつた資料を出すが、なお現在の生々しい資料は医師会の調査が済めば出ますからと言つて、私は別れたのです。大臣は疑うわけに行かんから疑うようにしてくれということで、非常に良心的な出かたをしていたわけです。
  185. 松原一彦

    ○松原一彦君 大変御念の入つたことでございますが、今日午前中にも伺つたのですが、日本学術会議からお出しになつたパンフレツトによりますというと、学術会議は別に調査機関はないけれども科学技術行政協議会というものがあつて、その点について日本学術会議が政府に協力応援するための機関であると、こう書いてあるのです。機関をお持ちになつていらつしやる、この機関を通して権威ある御研究の結果をばお出し頂くのでしようか。日本医師会に命じてという今お話でしたが、どちらでございましようか。
  186. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 実は学術会議の中では第七部の医者の仕事というものは、何だか他の六部と離れた別世界のような特別の専門のような考え方を皆さんが持たれております。それは七部でなければわからなかつたことだから、七部のほうで処理してもらいたいというのが学術会議全体の意見です。それは運営委員会等においてそういうことがあつて、その七部のとつた処置については、一々学術会議報告して、殊に科学技術行政協議会を通すまでもなく、私どもがこの意見書を、意見書と申しますか、上申書を持つて参りました場合には、実は厚生大臣に、日本医師会にこれを調査してくれということを命じてもらうつもりでおつたのでありますが、厚生大臣は疑うわけに行かんから、頼むということは、その前に疑うということがあるのだ、疑えばすでにこの法律をなんとか中止するとかなんとかしなければならない。だから是非学術会議のほうで資料と、それらの日本医師会に調査を頼むということで、それでは引受けましたということでお別れしたのであります。
  187. 松原一彦

    ○松原一彦君 もう一つ念を押して伺いたいのですが、実は昭和二十七年度の予算がすでに要求せられております。この中にはBCGに関するものも相当多額の予算が計上せられておるのであります。これを審議しますのは冬の通常国会でありますが、これは非常に貧乏な中に結核対策の予算というものは大きな位置を占めておるのであります。この権威のある調査の出方によつては、この予算に非常に影響するのでございます。それで単に医師会に御委託になつての御調査だけでは私はどうも納得しかねるように思うことです。このパンフレツトにはそういうことには書いておりません。立派に日本学術会議が政府に協力する、協力応援するための機関であるとこういうふうにはつきり書いてあつて、そうして勧告を実証付けて、そうして政府に改革を行政面に滲透させるという責任を皆様お持ちだと思うんです。それで学術会議かたがたに私どもはこういう問題に対して御協力頂きまするならば、国民も非常に安心すると思います。従つてこういうような進行途上に問題を御提起願つたのでありますから、結核予防対策というものが頓挫する虞れのあるこの問題に対しまして、至急に何とか正しい権威のある御答申をお出し頂いて、我々立法上の参考にさせて頂きたいのでございます。私は何も別に他意はないのでございます。非常に結構なことだと思いますが、単に塩田先生の御意見を聞いておつても、どうも道聴塗説を敢然とお取上げになつて一本お打ち込みになつたような感じがしてならないのであります。何かはつきりしたところの科学的な諭拠によつて強制はいけないという証拠を以ての御提案のようには私は思わんのであります。ところが影響は大きいのであります。この強制接種は御承知のように罰則を伴つておりません。罰則のないこれは接種であります。普及ということが目的でありますので、この普及がここで一頓挫をいたしますというと、折角順調に進んでおります日本結核対策が頓挫をいたしますが、今急にこの強制接種をやめるべき法律を国会としては国会議員提出としてでも出さねばならないほどに迫つた問題ですか。或いはまだ皆様がたの御提案をお待ちしてゆつくり運んでいいものなのでしようか。強制接種をやめることによつて生ずる結核対策の損害と、それから皆様方の学的良心によつて満足の行くまで御研究になるのを待つ、その利益とどちらが大きいのでしようか。これを一つお伺いしたいと思います。
  188. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私は現在第七部の幹部をやつておるのではないので、今日は責任のある御答弁はできません。併し恐らくは日本医師会でその調査ができますれば、早く答申ができると思います。勿論内村教授が現在は日本医師会の理事もやつておりますし、又学術会議のほうの第七部の幹事もやつておりますから、そんなわけで、内村教授に促進方をお伝えいたします。
  189. 松原一彦

    ○松原一彦君 先生の御意見を伺いたいのです。
  190. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私自身はどうも全員に諮らなければ個人の意見になつてしまいますものですから、私個人としては医師会の調査が済めば、それも内村教授には成るべく早くとこういうことですから、だから早く出て来ると思いますが、通常国会は間に合うのじやないかと、私はこれは責任のある返答はできませんけれども、それぐらいに考えております。なお、私ども自体の余分な資料は来月早々第二のほうには届けるつもりでおります。
  191. 松原一彦

    ○松原一彦君 なお私念を押すようでございますけれども、実は先年京都で以て起りましたジフテリア菌のことなんでございます。非常な急施を要するものであつたために、もう即刻これは対策を講じたわけで、ワクチンの製造も中止したといつたような事実もありのす。又政府がどんな法律案を出そうとも我々はこれを拒否する権能も持つておりまするし、又非常に急施を要するものならば、議員提出法律案で以てこの臨時国会でも扱い得るのであります。そういう根拠の固い御信念の上において強制接種はいけないと、こういうあなたの御信念を伺いたいのです。
  192. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 私は先ほど申しましたように、あの上申書に書いた通りの文書でありまして、極めて穏やかなものであります。新聞等に伝えるようなものではありません。成るべく政府の行う厚生行政を学術会議といたしましてお助けしたい、又万遺憾のないようにという目的でありまして、現在すでに方々で行われておる接種でありますから、多少改正されたり、今の漸進過程のものがどうなるかということ、又それが併発か或いは続発かというような問題も、なかなかこれは先ほど申しましたように解決が困難であります。それでただそういうことが疑われると、事実そういうものがどのくらいあるかということを実際について見ませんとわかりません。この問題は私はそう軽々にみなされないと思うのであります。実は私の子供が潰瘍をでかして半分、一年やるといたしますと、私の親戚及び私のところに寄りつく他の家族も、恐らくBCGは阿部の家がああだからやらせないというような気持になります。又例えばそれが併発にしましても続発にしましても、自分のところの子供がBCG接種を受けてその後一カ月もして結核になつたということになりますと、その親戚中或いは知人というものは、どうもBCG接種は大丈夫だというけれども、宣伝されるけれども、あの子供がああいうふうになつたのだから、ひよつとすればBCGなつちやつたのかも知れない。これはもう想像は想像を生んで参りますから、そうなりますと、これは強制しようとしても強制が行われないという結果が生まれるかも知れません。それで私らは早くこの処置をつけたいと思うのであります。
  193. 松原一彦

    ○松原一彦君 それじや私はこう心得てよろしいのでございますか。私ども議員提出法律案としてこれの中止を命ずるようなものを提案してよろしうございますか。けれども何分にも私どもが前後三日間に亘つて承わつたところでは、BCGが有効でないという御議論はただの一つもございません、全部有効論でございます。それから無害であるかどうかということにおきましては、臨床実験のかたは無害というのが全部でございます。それから学術会議かたがたは無害とは言われない、ただこうあるというお示しであつて、有害であるという御証明も実はないのであります。してみまするというと、これは現行法律のままで進んで行つてよろしいものと私は心得ます。それでよろしうございますか。
  194. 阿部勝馬

    証人(阿部勝馬君) 現行の法律のままでいいか悪いかは、この日本医師会が出しました調査の結果によるほかないのでありますが……。
  195. 有馬英二

    ○理事(有馬英二君) 大変時間が経過いたしまして、誠に長時間に亘りまして証人各位には熱心に御証言を述べて頂きましたことを深く感謝いたします。  それではこの会はこれを以て散会といたします。    午後五時十五分散会