○林百郎君 私は、
日本共産党を代表して、ただいま
議題にな
つております
国際小麦協定に
加入することの
承認を求むる件について反対の
意見を申し述べたいと思うのであります。
第一に、
政府は、この
国際小麦協定に
加入することが、あたかもアメリカ側の非常な恩恵によるもののように盛んに宣伝をしているのでありますが、事実ばとんでもないことであります。そもそもこの小麦協定が結成されました歴史を振り返
つてみますと、アメリカの小麦は、一九四七年、今から四年ほど前には世界的に食糧が不足しておりまして、それに伴う
価格の高騰と、またドル不足によりまして、輸入国がアメリカの小麦を輸入することができず、そのために一ブツシェル三・三四ドルという戰後最高の値段に達したのであります。このとき輸入国が強く希望しまして、どうか
国際小麦協定をつく
つて、ドル不足の輸入国にアメリカの小麦を輸入してもらいたいという希望を申し述べたのでありますけれども、アメリカ、カナダ、オーストラリアの輸出国が非常な高い値段を申し込んだために、遂にこの
国際小麦協定は不成立に終
つたのであります。ところが、翌年の一九四八年になりますと、世界の食糧
事情はようやく戰前の域に立ちもど
つて参りました。小麦を中心とする主要食糧
生産高は戰前の水準を突破いたしまして、戰後絶えず上昇を続けて来たアメリカを中心としての小麦の
価格は、一九四八年の一月を山といたしまして二月三月には大暴落を演じまして、小麦の
生産過剰の傾向がようやく顯著にな
つて来たのであります。ことにアメリカにおきましては、世界のドル欠乏によ
つて有効需要が不足いたしまして、一九四八年の一月には、十年間の平均が六百万トンのストツクであ
つたのが、一躍三倍以上の二千百六十万トンものストツクに増大いたしました。そのために、一九四八年の三月には、前年一ブツシェル三・三四ドルもしたものが、二・四一ドルと、一箇月の間に一ドルもの大暴落を遂げまして、アメリカの穀物取引所が開始して以来二十七年間で最もひどいという暴落を遂げたのであります。このために、アメリカの
農民は約二億ドルの損失をこうむりまして、農家の收入は九%の減少を来すような形になりました。アメリカの小麦の値段は、とうもろこしや燕麦よりも安くなるという惨状を呈してしま
つたのであります。こういう情勢が続けられまして遂に一九四九年三月、今度は輸出国の方のアメリカ、カナダ、オーストラリアの申入れによりまりして、アメリカのイニシアのもとに、この小麦協定が成立したのであります。
これによ
つても明らかなことく、決してわれわれはアメリカの恩惠をこうむ
つているのではなくして、むしろアメリカのあり余
つている小麦をどうしてよその国に脚しつけ売りをして自分の国の小麦の値段を維持するかということが、この協定の本質なのであります。(
拍手)しかも、この小麦協定による輸出
価格は一・八ドルであります。これは戰前の不況時代の〇・五三ドルに比すれば、その三倍以上の値段であります。一ドルならば決して損をしないというアメリカの小麦の値段の二倍もの値段であります。このことは、アメリカが十分利益をとりながら、自分の国で余
つている小麦を外国へ輸出しまして、
自己の利益をはかろうとしている本体を現わしているのでありまして、われわれは、この意味においても、この協定に賛成することはできないのであります。
第二の問題は、それだけならいいのでありますが、
日本の
政府はこのアメリカの
生産過剰の小麦を輸入するためにどうするかというと、
日本の
農民の小麦の
生産を破壊する政策を立てているのであります。
生産費が米よりも高くつくという小麦について、
政府は
昭和三十六
年度には、その対米価比率を、前年に比して小麦八一%を六四%に、大麦七つ%を五四%に下げているのであります。しかも、農家の麦による反当收入は、三十四
年度には平均一万四百八十二円だ
つたのが、二十五
年度には八千八百四十七円とだんだん減少しまして、今や小麦のやみ値はマル公を下まわるような
状態にな
つているのであります。このときに対米価比率を切り下げるということは、ま
つたくこれは
日本の米作農家には痛手であ
つて、このために、静岡、神奈川を初め
全国至るところの
農民は、麦の減反の方向をたど
つているのであります。このことは明らかに
日本の小麦の
生産を破壊して、
日本の人民を飢えさしてその地ならしの上に、外国の高い小麦を補給金のもとに輸入する。これがこの小麦協定に対する
日本政府の
対策であります。
政府は、本
年度輸入食糧三百二十万トン、これに要する補給金を二百二十五億円つぎ込んでおるのであります。この食糧輸入の補給金は、農家一戸当り約四千五百円であります。もし七百戸の農家のある村への補給金を割当てますと、
日本の
一つの村へ三百十五万円ずつの
補助金をやることができるのであります。この
補助金を出すことができるならば、輸入食糧くらいの増産は、
日本の
農民にと
つては決して困難ではないのであります。このことは、
日本の
農民のひとしく言明しておるところであります。ところが、
農林大臣の答弁によりますと、来
年度は、驚くことには、食糧の輸入量はさらに本
年度の三百二十万トンから三百六十万トンに増大して、そのために補給金もふやすというのであります。
今や吉田
政府の農業政策は、アメリカの過剰小麦をどうして処理するかということが中心でありまして、これはま
つたくアメリカの農商務省の
日本出張所と同じ役割を
日本の
農林省が果すのであります。このために、
政府は麦の統制を撤廃すると言
つておるのであります。従来ですら、保護政策によ
つて初めて立ち行くことのできた
日本の麦の
生産農家が、すつぱだかにされて国際的なカルテルによ
つて保護されている外国の高い小麦と、どうして太刀打ちできるでしようか。
日本の麦作農家を絞め殺して、その上にアメリカの小麦を輸入すること、これが
政府のたくらむ麦の
統制撤廃の本体であります。
日本の百姓の麦はうんと買いたたいて、
生産を減退さして、その上で外国の高い小麦——トン当りにいたしまして、
日本の小麦の
生産価格よりは、外国のこの協定による小麦ですら千円余り高いのであります。ましてやコマーシヤル・べースで輸入する小麦は、
日本の百姓のつくる小麦よりは、トン当り五千円も高いのであります。しかも、これを補給金まで出して、この補給金を
日本の百姓から税金まで取立てて輸入しておるのであります。
日本の百姓の首をつらせて、その上に足をひつぱるような政策が、これが吉田
政府の農業政策なのであります。
問題は、こうした
経済的な問題だけで済めばいいのでありますが、一国の主要食糧をま
つたく外国に依存するということは、逆にその国の政治的な自主性を外国に売り渡すことにな
つてしまうのであります。そうして他国に政治的な
指導権を握られることになるということが一番寒心にたえない点であります。一国の
国民が、もつばら外国から食い物を当てが
つてもらうようなことしか考えなくて、どうして政治的に自主性を主張することができるでありましようか。それこそ文字
通り外国の保護国となり下ることであります。だからこそ、あるときには、家畜のえさのようなとうもろこしや、はては、あんずや、いものカン詰を押しつけられても、これを恩惠によるものであるかのごとく
国民に思い込ませようとするのであります。そんな政策をと
つている吉田内閣だから、米の
統制撤廃の公約のごときも、ドツジ氏の上陸第一声でふるえ上
つてしま
つて、池田蔵相の媚態を盡した、たいこ持ち的なサービスにもかかわらず━━━━━━━━ことができなくて、今や閣内ではその責任のなすり合いをして、天下にその醜態をさらしておるのであります。(
拍手)食い物の託だけならいい。そのうちには外国の軍隊や軍事基地の提供まで━━━━━━━、はては領土も━━━━━━━、みずから自分の頭の上で破裂する━━━━━━━━━━━━━━━━これを心から歓迎するなどというたわごとを言わざるを得なくな
つてしまうのであります。
この協定の背後に大きな政治的
條件がつけられていることは、本年インドの大飢饉に際しまして、インドがサンフランシスコ
会議に出席を拒否したところが、この協定に基く四十万トンの小麦の提供が、とたんに四万トンに減額されようとしたことによ
つても明らつかであります。しかし、このときインド
政府の
とつた態度は、
日本の吉田━━━
政府の
とつた態度といささか違います。インドは、自国の独立を守るがゆえに、いかに飢えても、かかる政治的
條件のついたカナダの小麦——そこでは小麦があり余
つて、ぶたや家畜の飼料にまで使われておるのでありますが、この小麦を拒絶したのであります。そしてインドは、これにかわ
つて、今や新たに中国、ソ同盟と友好的な取引を開始しまして、中国から百万トンの小麦の提供を受けておるのであります。
第四に問題になるのは、この小麦協定にソ同盟が参加していない点であります。このことは、外務
委員会における
政府の答弁でありますから、よく聞いていただきたい。なぜソ同盟がこの小麦協定に参加しなか
つたかといいますと、ソ同盟は、
価格の点では何らの異存がなか
つたのみか、むしろアメリカよりも低い
価格を主張したのであります。しかし問題に
なつた点は、ソ同盟の方ば輸出希望量として年間七千玉百万ブツシェルを希望したのに、アメリカの
意見によ
つて、このソ同盟の七千五百万ブツシェルの希望が五千万ブツシェルしか輸出割当が来なくて、減少されてしま
つたのであります。このように、ソ同盟が七千五百万ブツシエル希望するのに、五千万ブツシェルしか割当がないということになるならば、この協定の主導権は明らかにアメリカが握ることになります。そして、この協定ば、あくまでも資本主義国、ことにアメリカの高級投機家がこの協定の支配権を握
つて、それによ
つて十分独占的な利益を思うままにするためのものであるということで、ソ同盟はこの協定に参加することを拒否してしま
つたのであります。
また一方、
わが国は何の必要があ
つて中国、ソ同盟から余
つておる小麦の輸入をしなくて、船賃だけでもトン当り五千円、コマーシヤル・ベースを含んでの輸入食糧二百二十万トンは、実に船賃百六十億円以上でありますが、この船賃を出して、どうして遠く六千マイルも離れたアメリカから小麦を輸入しなければならないのでありますか。全面講和を締結するならば、われわれはいつでも、隣の中国やソ同盟から、いくらでも安い小麦の輸入ができるのであります。しかも、そのことは、ひいて
日本とアジア諸国との友好
関係をあたためることになるのであります。しかも、そのことが、アジアにおける
日本の限りない繁栄と独立をかちとることになるのであります。
それに引きかえまして、現在の吉田内閣のと
つておる單独講和の結果はどうでありましようみすみす損をしながら、恩に着せられて、あり余
つている小麦を高い値段でアメリカから押しつけられておるのであります。そのために、意識的に
日本の農業を低麦価政策によ
つて破壊し、その地ならしの上に輸入を強行しようとしておるのではありませんか。吉田内閣の麦類
統制撤廃についての万般の準備ができたということは、実はこのことをさすのであります。今や吉田内閣は、━━━━━農業投機家たちの出先機関であ
つて、
日本の
農民にと
つてはま
つたく━であります。