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田中萬逸君 ただいま議題となりました
平和条約の
締結について
承認を求めるの件及び
日本国と
アメリカ合衆国との間の
安全保障条約の
締結について
承認を求めるの件の両案について、本
委員会における審査の経過並びに結果について御報告申し上げます。
顧みますれば、昭和二十年八月、
ポツダム宣言の受諾による無
條件降伏によ
つて、
わが国開闢以来か
つて経験したことのない敗戰という冷嚴な事実をも
つて戰争の終局を見ましてからまさに六年有余、その間
国民は、忍びがたきを忍んで日夜
降伏條件の忠実なる履行に努めるとともに、その苦難を通して
精神的再生を人間の自覚に求め、
人類普遍の原理に基いた
人権尊重の
民主憲法を実施して、ひたすらに
完全主権の回復と
国際社会への
復帰を約束される日の来ることを一日千秋の思いで待ち続けて参つたのでありまするが、去る九月八日、
サンフランシスコにおいて
平和條約の
調印が終り、近き将来にその輝かしい実現が望み得る運びと相なりましたことは、
国民のひとしく
喜びとするところであり、かつまたこれまでに至る
連合国、ことに
米国政府の熱心なる
援助と好意に対して感謝するものであります。(
拍手)
申し
上ぐるまでもなく、
平和條約は、
和解と
信頼の
精神を
基調とするものでありまして、過去の
戰争状態に終止符を打ち、
調印諸国との間に
国連憲章の
精神にのつと
つて新らしい
平和的国交を回復するとともに、さらに進んで
世界の平和と安全のために、
主権を有する対等の国家として協調と
善隣友好の
原則を
基調として参ることを約束する、新しい時代を画する條約であります。しかして、それは何人も満足させる條約であるかといえば、必ずしもそうではなく、
サンフランシスコ会議において、
ダレス代表すら、
平和條約は完全なるものではない、何人も完全に満足しているものではないが、しかし最もよき條約であると述べているから、この
平和條約は
各国の
和解互讓の結果成立したものであり、
戰勝国側においても不満があるのであるから、戰敗国である
日本から見れば、必ずしもすべての点に満足の行かないところがあるのは当然であります。しかしながら、
本條約は
日本として現段階において望み得る最善のものであることは疑いのないところであります。(
拍手)
従つて、
政府の申すがごとく、もし
わが国がこの機会を逸しては、またいつの日か
世界各国との国交を回復し得るや、まつたくその
見通しが困難とな
つて、これがために生ずる
わが国の不利益、ひいては
世界の損失ははかり知るべからざるものがあると存ぜられるのであります。のみならず、
日本が今後
復帰せんとする社会は、
世界的な規模においてきびしい対立のもとにあり、また
隣邦朝鮮の動乱はいまだ終熄いたさず、しかも
ソ連、
中国等との
国交調整は将来にかかり、
極東の暗雲なお低迷しておるときにあた
つて、何らの
防衛力を持たない
わが国は、
わが国土の安全とその
独立を確保し、
極東の平和、ひいては
世界平和のためにも、
日米安全保障條約を
締結して
集団的保障の
方法による以外に道はないものと思われるのであります。(
拍手)
かくのごとき見地に立
つて結ばれた両條約は、現在の複雑なる
世界情勢のもとにあ
つて、
わが国家と
国民の新しい将来の運命をかけたる重大な案件であります。されば、
委員会における審議もまた
従つて真劍かつ愼重をきわめ、終始愛国の至情が吐露されました結果、まことに傾聽に値すべき論議が行われたのであります。(
拍手)すなわち本
委員会は、去る十日に両條約の付託を受け、十七日に
総理大臣及び
政府委員の詳細なる説明を聽取いたし、十八、十九の両日にわた
つて両條約に対する
総括的質疑を行い、引続き昨日の午後に及ぶまで、各條約の
逐條的質疑によ
つて精細なる審議を逐げ、
国民の両條約に対する疑点を一掃いたして、
日米両国の
友好関係と、
わが国民の
世界平和に
貢献せんとする用意と覚悟を新たにすることができましたことは、まことに邦家のため御同慶の至りにたえません。(
拍手)
両條約の内容については、過般の
総理大臣の本
会議における御演説によ
つてすでに諸君の承知せらるるところでありますから、私は再びこれを繰返すことをとりやめまして、ここには
委員会の
質疑応答で明らかにせられた、この両條約に関する若干の基本的なる重要問題について、以下項目をわか
つて順次に申し上げることといたします。
まず
平和條約についての第一の問題は、條約の
発効によ
つて占領統治から脱する場合における
わが国と諸外国、ことに非
調印国との
関係についてであります。すなわち
平和條約は、
サンフランシスコにおいて
わが国と四十八箇国によ
つて調印せられたものでありますが、
ソ連等のごとく、
会議に参加はしたが
調印しなかつた三箇国、あるいは
インド、
ビルマ等のごとく、招請を受けて
会議に参加しなかつた三箇国、さらにこの
会議に招請せられなかつた
中国のごとく、この條約に
調印していない
諸国との
関係について、
平和條約第二十六條は、これらの
諸国との間における二
国間平和條約
締結に関する
規定を設けておるのでありますけれども、
サンフランシスコ会議における経緯、ないし現在の
国際情勢のもとにおきましては、條約
発効後の
日本と、これらの非
調印諸国との
関係がどうなるかということは、実際問題として
国民のきわめて重大なる
関心事であります。しかして、この点に関する問題のうち、まず
平和條約の
発効後における
ポツダム宣言の
効力はどうなるのか、非
調印国たる
ソ連または
中国との間における
戰争状態はどうなるのか、またこれらの
諸国が條約
発効後單独に
日本を占領することができるかいなやの点につきましては、
政府においては、この
平和條約の
発効により
ポツダム宣言はその
効力を失うことに相なり、非
調印国たる
ソ連、
中国との間には法律上または技術上
戰争状態が継続すると言い得るけれども、だから
といつて、政治的に見てただちに戰争になることはない、さらに
日本占領の
権利は
連合国の共同して有する
権利であるから、一ないし数個の非
調印国が單独に
日本を占領することは不可能であり、
ポツダム宣言、または
モスクワ協定の違反となる旨の
答弁がありました。なおこの問題に関連いたしまして、
政府から、現在
日本に置かれてある
中国の
代表部は
連合国最高司令官に対して派遣されたものであり、また
ソ連の
代表部は対
日理事会に派遣されたものであり、條約の
発効によ
つて最高司令部が消滅すれば、対
日理事会も
各国の
代表団も当然解消するものであると
考える、しかし
ソ連等との間に
講和條約ができない以上は、大公使の交換ということはあり得ないとの
見解が表明されたのであります。
次に
中国との
関係については、
国民政府、
中共政府のいずれと條約を
締結するか、
米国と
安全保障條約を
締結する以上、
米国の
承認している
国民政府を選ぶことは常識と思われるし、また
米国の一般の空気から、すでに
わが国が
国民政府と
講和條約を
締結することを内約しているものと
考えられるがいかがであるかとの
質問に対しては、
政府は、現在
米国は
中共を
承認せず、また英国は国府を
承認せず、いずれを
中国の
正統政府とするかは
連合国側でも議がととのはなかつたために、
日本にその選択をゆだぬる結果と
なつたものであるが、
わが国としては、列国との
関係を考慮し、今後の推移をま
つて決定したいと思うが、いずれにしても、
米国から国府との條約
締結の
交渉を受けたことも、またそれに対する内諾を與えたことも全然ないとのことでありました。
また
インドとの
関係については、
インドの対
日講和不参加は、
日本のこれに対する
努力が欠けていたこと、また
インドがこの條約をも
つてアジア諸問題の解決を困難にし、
日本の
独立を不安ならしめるものと見たことによるものではないかとの
意見に対しては、
インドの対
日講和不参加は一に
国際情勢によるものであ
つて、
日本の
努力のいかんによるものではなかつたが、
インドは
日本に対して好意的であり、
日本の
独立を支持しておるからこの條約を理解すると思うし、日印間の
戰争状態も、條約
発効と同時にその
終了宣言が発せられることにな
つているということを明らかにされました。これに関連して、
アジアにおける
日本の将来の地位にかんがみ、
アジア、ことに
東南アジア諸国との
善隣友好の
関係を急速に樹立し、同じ
民主主義陣営にある
西欧諸国と
アジア諸国とを結ぶ紐帶となることを
日本の
外交政策の
基調とすべきであると思うが、その
具体的方法があるかという
意見に対して、
政府は大体同感であるが、
具体的方法については
外交権の回復までに十分研究したいとの
見解を披瀝されたのであります。
次に、
平和條約は
日本の
国連加入を予想しているが、はたして
国連加入の
可能性が現在あるかどうかにつきましては、
ソ連の非
調印と、
安全保障理事会における
拒否権の
関係から、
正式加入については困難であろうが、
国連加入は、
日本だけではなく、
米英その他の国も希望するところであるから、
正式加入の前に何らかの便法が講ぜられるものと思うとのことであり、その便法とは、
国連総会の決議により
加盟国に準ずる地位を與えようとする方策のごときものであろうとの
答弁でありました。
また、わが同胞三十数万の未
帰還者に対しては、今後も、單に
日本の問題であるばかりではなく、仏、独等の
連合国数箇国の共同の問題として、
国連あるいは
赤十字等の盡力によ
つて日本の希望が達成せられるよう一層
努力するとの
答弁がありましたが、この問題については、條約
草案作成の
最終段階において、第六條のb項として未
引揚軍隊の
復帰に関する
規定が挿入されたことは、
政府の
努力と
締結諸国の理解ある態度に深く感謝するとともに、
国民のひとしく
喜びとするところでありますが、非
調印国たる
ソ連、
中共等に抑留されている
人たちの
引揚げについて、
ソ連、
中共はなお
ポツダム宣言第九項の
日本軍隊復帰に関する
規定の拘束を受けるものであるかどうか、またこの條約の
引揚げに関する
規定は單なる好意であるのか、それとも
調印国に対する
義務として解してよいのか等の
質問については、
ソ連に対して
引揚げ問題についての
ポツダム宣言第九項はなお
効力を持つものと信ずること、及びこの條約の
規定は署名した
連合国が当然相互の
関係においてこれを守るべき
重要條文であり、この実現に
努力すべき立場にあると思う、これらは漁業問題と同様に、実際問題としても
ソ連と話し合う
方法が
考えられるから、今後ともあらゆる機関、あらゆる
方法を盡して
引揚げの促進に
努力したい旨の言明があつたのであります。
次に、
平和條約に関する第二の問題は
領土の問題であります。申すまでもなく、
領土問題は、すでに條約
調印の前から、国会においてはもちろん、
国民の間においても、
最大関心事の一つとして論議されて来たものであります。またその大
原則は、つとに
ポツダム宣言の受諾によ
つて承認されたところではありまするが、その中には、
千島、
南西諸島、
小笠原群島等のごとく、ひとしくわれわれ
日本民族先住の地として、
国民的感情からい
つてもまことに忍びがたき切実な問題を包蔵しているのでありまして、
委員会においても最も論議の集中された問題の一つでありました。
領土問題に関して特に論議されたのは、まず
千島の帰属についてであります。
平和條約第二條は、
日本が
千島列島に対するすべての
権利、権原及び
請求権を放棄することを明らかにしているのでありますが、これについて、
千島の
割讓を最初に定めました
ヤルタ協定がはたして
日本を拘束するものであるかどうか、また
千島は歴史的に見ても昔よりわが
日本の
領土であり、決して
侵略戰争の結果獲得したものではないのであるから、その放棄ははなはだ遺憾であり、樺太とともにその返還を要求するため
国際司法裁判所に提起する用はないか、またいわゆる
クリル・アイランドとはいかなる
範囲であるか等の
質問に対しましては、
政府は、
ヤルタ協定は
英米ソ三国間の
協定であ
つて、その
協定自身はもとより
日本を拘束するものではなく、また
千島が正統な
日本の
領土であることは、
吉田首席全権が
サンフランシスコ会議においても特に強調せられたところであるが、遺憾ながら條約第二條によ
つて明らかに
千島、樺太の
主権を放棄した以上、これらに対しては何らの権限もなくなるわけであ
つて、
国際司法裁判所に提起する道は存しておらない、また
クリル・アイランドの
範囲は、いわゆる北
千島、南
千島を含むものであるが、歯舞、色丹の両島が
千島に入らず、その
最終的帰属は
国際司法裁判所において決定されると
ダレス氏も
サンフランシスコ会議で述べておられ、両島に対する
主権について
米国も
日本政府の主張を支持していたが、それは條約
調印前のことであ
つて、
ソ連が條約に
調印しなかつた現在においては、條約第二十二條の
紛争解決の
手続規定によ
つてハーグの
国際司法裁判所に提訴する方途はないのである、今後は結局
国際紛争の一つの問題として残るであろうが、これをどうするかは実際上の
関係であり、双方がそれぞれその主張を堅持いたすとすれば衝突するほかはないが、なるべく円満な
方法によ
つて問題を解決し、
国民に満足を與えるように
努力したいとの言明がありました。
次は
南西諸島、
小笠原群島等の
南方諸島及び沖の島、南鳥島に対する
信託統治制度に関する問題であります。これらの
地域は、いうまでもなくわれわれと血を同じくする同胞の現に居住する
地域であり、ことに
奄美大島のごときは鹿児島県の一郡部であり、その地理的、
歴史的事情より見ても、また
国民感情の上からい
つても、
信託統治制度のもとに、たとい一時的にもせよ、
日本と離れることはまことに忍びがたいものがあるのでありまして、
従つてこの
地域に対する
信託統治制度の問題をめぐ
つて相当詳細な質疑が行われたのであります。すなわち、これらの
地域を特に
信託統治制度のもとに置かねばならぬ理由は何であるか、
日本本土に基地を持つ以上、これらの
諸島が特に台湾、
フイリピン等のごとく
共産勢力に対抗する基地として
重要性があるとは思えず、何らかの意義があるとすれば、
米国が
日本を監視するポストとしてのみであろうと
考えられるが、これは
和解と
信頼を
精神とするこの條約の趣旨にも、また
国連憲章の
信託統治制度本来の趣旨とも必ずしも一致しないのではないか、また
信託統治に付される
地域に対する
主権の所在については、たとい
わが国に
潜在的主権が存するとしても、それはまつたくの名目的なものにとどまる。この点は
国連憲章第七十七條の
規定から見ても問題があり、実は
領土の
割讓と何ら異なるところがないのではないかとの
意見が開陳せられ、さらにはこれらの
地域の
日本復帰の将来の
見通し、及び
信託統治実施の場合におけるこれら
地域住民の国籍の問題、
参政権、
交通往来、
教育等に関する諸問題がそれぞれ取上げられたのであります。
これらの諸点につきましては、
政府から、
米国は琉球、
小笠原等の
諸島に
領土を求める
考えはなく、軍事上重要なこれらの
諸島が他国の占領するところとな
つて日本の安全を脅かすことにな
つてはならぬとの
考えから
信託統治を行うことに
なつたものであり、その
主権が
日本に残ることは、
平和会議において
ダレス、ヤンガー両代表も言明しておらるるところであり、また文書による確約ではないが、
ダレス大使その他
米国当局者との話合いの結論として、軍事上の必要がなく
なつた場合には、これら
地域が
日本に返還されることを確信するとの
答弁がなされたのであります。また
信託統治は條約でその
可能性があることを定めておるのであ
つて、その形式、内容は
国連と
米国との
信託統治協定によ
つて定まるべきものであり、それまでは、
米国がこれら
地域の
住民に対して行政、立法及び司法上の一切の権力を行使することにな
つておることは、
平和條約第三條の
規定するところであります。この点について、
政府は、
主権そのものは
日本にあり、
住民も
日本国民であることに変更はないが、
主権から発生する
管理権を行使するものは
米国である。しかし必ずしもその全部を行使する
義務があるわけではなく、一方的に
日本に委讓し、放棄することもできるから、
米国の善意によ
つて、なるべく管理に必要な
最小限度にとどめてもらいたいと思う。また
住民の
日本国籍の維持、教育、文化、
経済等についても、従来の
関係を断ち切らぬよう希望を申し入れており、また
統治の期限についても、
米国の善意を
信頼してよいものと思うとの
見解が披瀝されましたことは、せめてものわれわれの
喜びとするところであります。
次に
平和條約についての第三の問題は、いわゆる
賠償の問題であります。
賠償の問題は、外債の支拂い、対
日援助資金及び
在外資産の
処理等と関連して、條約
発効後における
わが国経済に至大の影響を及ぼすものであることはいうまでもありせん。まず
本條約の
規定した
賠償の
原則としての
範囲につきまして、
米国は第一次大戰の際にウイルソンの無併合、無
賠償の
原則を主張したにもかかわらず、
和解と
信頼の條約と称せられるこのたびの條約が
賠償支拂いの
義務を課した根本の理由は何であるかとの
質問について、
政府は、
ダレス氏も、
日本経済の現状から当初は無
賠償の
考えを持
つていたと思われるが、
アジア諸国、ことに
フイリピンその他の国の戰禍の程度を見た結果、この復興を助ける意味からも、
アジアにおける
経済力の上から見ても、またさらに
日本が
善隣の
関係を得るためにも、
日本の国力の許す限りで
賠償をし、
援助をすることとし、
原則としては
日本の
賠償義務を認め、その限度は
日本の国力の許す限度で、
日本の
経済も破壊せず、同時に
相手国の復興を助け、また将来通商その他の
関係を打立てるために
日本としてできるだけのことをしてはとの
考えに
なつたものと思われる、われわれとしても、損害を與えた国に対して、
善隣の
関係からいつでも、また他国にかけた迷惑に対していくらかの償いをするということは、
日本国民の道徳心からい
つてみても
承認できるものであるから、これに同意するに至つたものであるとの
答弁があり、いわゆる、
善隣友好の
精神が
本條約を貫く大なる
精神であることが明らかにされたのであります。また
賠償の
範囲については、存立可能な
経済を維持すべき
範囲においてこれを行うことを
根本原則とし、他の
連合国に
追加負担をかけず、また
わが国の為替上の
負担をも増大しない見地から、いわゆる
役務賠償、
技術賠償ということを
賠償の基本的な形態としており、
従つて條約の
精神たる
和解と
信頼と
共存共栄の立場から、
賠償要求各国と誠意をも
つて話し合
つて行けば、おのずから通ずる道があると思うとのことであり、また
平和條約第十四條にいわゆる存立可能な
経済の意味は、
日本経済全体として見るべきであ
つて、單に
国民所得の
比較等から定めるべきものではなく、あくまでわが
経済を発展させて、
世界の平和に貢献するような態勢に持
つて行きながら
賠償すべきものであるという気持であ
つて、
わが国一人当りの
国民所得をおのおのの被
賠償国の
国民所得まで切り下げて
賠償をなす
考えは持
つていないとの
見解を明瞭にされたのであります。
次に、対
日援助資金と
賠償債務とはどちらが優先するかとの問題につきましては、これは
各国にもいろいろの説があり、
アメリカでは
援助費が優先するという
考え方が多いと聞いているが、これについては
賠償請求国、
援助資金債権を持つ
アメリカ及び外債の債権を持つ
英仏等との間の非常に複雑な
関係もあり、全体的に
考えて行きたい旨の
答弁がありました。
また
在外資産の沒収、特に
中立国にある
個人財産の処分の問題については、
中立国にある
私有財産を
平和條約によ
つて戰勝国に提供することは前例のないことであり、これは
国連憲章の
基本的人権尊重の
原則から見ても、
個人財産の沒収ははなはだ納得しがたいと思われるがどうか、またこれらの沒収財産を補償し、ないしは国の
負担による
等価賠償を選択する
考えはないかとの
意見に対しましては、その
意見はもつともであり、
政府としてもまたそう
考えて
交渉に当
つて来たのであるが、
連合国側から、今度の
戰争中捕虜として
日本のために
精神的並びに物質的に非常な苦痛をこうむつた
人たちの強い
賠償要求の声は、
日本として無視すべきものではないことを懇々と説かれ、またこれらに対して補償をなすことが
日本政府が
各国と
友好提携関係に立つ第一歩であることを説明されたため、
わが国としてもこれを承諾することに
なつたものであり、
個人財産の補償は、現在の
日本の
財政状態としてはなかなか困難な問題であるので、研究中であるとの
答弁でありました。
なお
賠償については、未
調印国との
賠償問題、
ソ連の
賠償請求権、
ソ連が接収した
日本財産の処理問題、
在外資産と
賠償要求債権との
関係等の複雑な諸問題があり、さらに
賠償等の支拂い、
米軍駐留費の
分担等によ
つて考えられる
わが国今後の
経済、財政上の諸問題として、今後の
国民生活の
見通し、
税負担の問題、来年度予算の規模、物価問題、
インフレ問題等が論議せられ、また條約
発効後における
国際経済と
わが国経済との
関係について、
一般関税貿易協定参加の
見通し、
経済自立のための
国際収支の均衡、貿易の伸張、
外資導入の諸問題、
漁業協定の問題、最
惠国待遇、
海外移民の
問題等がそれぞれ論議せられたのでありまするが、それらの詳細につきましては
速記録によ
つて御承知願うことといたし、ただ
漁業協定につきましては、従来の
国際慣行、條約等を考慮に入れて決定すべく準備中であるが、
アメリカ、
カナダ両国とは本年度内に
交渉が開始されるものと思われるという点、及び
日本の
漁業権を実質的に制限しているマツカーサー・ラインは條約
発効とともに消滅することとなり、未
調印国の
ソ連との間には事実上の
関係とな
つて将来の事態に待つほかはないが、
ソ連といえどもあえて事を構えることはないであろうし、また
日本との
戰争状態をなるべく早く終らせたいと言
つているのであるし、隣国の
関係として、漁業問題ばかりでなく、いろいろ調整を要する必要が生じて来るのであるから、
隣国関係の
問題処理のために何らかの
方法が講ぜられるであろうし、また
日本としても講じたいと思うとの
答弁がありました。
次に
日米安全保障條約について申し上げます。この條約は、
政府の説明によれば、
国際の現状は無責任な
侵略主義がなお跡を絶たず、これに対しては
集団的防衛の手段をとることが今日
国際間の通念であり、
平和條約の
発効により
独立と自由を回復したあかつきにおいて、軍備を有しない状態にある
わが国といたして、自己の防衛、ひいては
極東の平和、また
世界の平和のために何らかの
集団的防衛の
方法を講ずることの必要から
締結されたものであり、この條約によ
つて、武備なき
わが国の
独立回復後における安全について一応の安心が得られるものとされているのであります。
申すまでもなく、
平和條約によ
つて独立と自由を回復して
国際社会に
復帰する
わが国が、きびしい
国際的対立のもとにあ
つて武備を持たない今日、いかなる
方法で国の安全を保
つて行くべきかの問題は、まさに新しい出発点に立つた
わが国の将来の運命を左右する最も重要な問題であります。このときにおいて、その方向を誤らんか、国家と
国民の悲運また避くべくもないことは当然の帰結であります。しかしてこの條約は、複雑な
国際的対立の中に新生の第一歩を踏み出さんとする、
わが国の安全確保に対する方向を決定しようとするものであります。従いまして、その内容は、
平和條約に比してきわめて簡單なものではありまするが、この問題について
委員会諸君が真劍な論議を盡されたことはいうまでもありません。この條約の審議に際して
委員会に現われました空気の特徴は、この條約によ
つて保障せんとする
わが国の安全に対する危惧が、まつたく相反する二つの立場から論議された点であります。すなわち、何人も
わが国の今後の安全を希求する点においては同じではありましても、一つは、この條約による安全保障の方向を認めつつ、はたして條約の内容とする
方法によ
つて真の安全が保障され得るものであろうかという危惧であり、他は、この條約による安全保障の方向は、かえ
つて日本を
アジアの動乱に巻き込む原因となり、反対に新しい戰争を準備する結果となるのではないかという疑惑であります。今ここに
本條約についてなされた質疑の大要を申し上げたいと思います。
まず第一には、この條約は
平和條約と異なり、
日米両国が対等の資格で
締結するものであり、また
平和條約
発効後一定期間は連合軍の駐留が認められておるにかかわらず、何ゆえ
平和條約
調印の日に急いで
本條約を
調印しなければならなかつたか、與えられた期間内に何ゆえ十分研究した上で
調印することにしなかつたのであるか、また
平和條約と
日米安全保障條約は不可分のものとして提案されたものであるかどうか、この質疑に対しましては、
政府から、
本條約は決してにわかに
調印されたものではなく、
ダレス氏が本年二月に来訪されて以来絶えず研究していた結論がこの條約と
なつたものであり、條約の形にまとまるまでに相当時間をとつたが、
講和会議の際に條約の形にすることに間に合つたので、便宜一緒に
調印したものである、ただ行政
協定については時間がなかつたので、その
原則を定めるにとどまつた、しかしてこの條約は、いかにして
日本の安全を守るかについて、中立によるか、あるいは軍備によ
つて守るか等いろいろの
原則はあろうが、
政府としては
安全保障條約による
集団的防衛の
方法が一番いいと
考えてこの條約に
調印したものであり、また
わが国としては中立によ
つてその
独立を守ろうとすることは不可能であり、両陣営の対立しておる現情勢下において洞ヶ峠におることはできないとの信念に基いて、自由主義国家と一緒にな
つて自由の
世界と平和を守ることは
国連の趣旨でもあり、また
日米安全保障條約の趣旨であるとの
見解が述べられ、また
平和條約との
関係につきましては、両者は形式においてはまつたく別個のものであ
つて、
安全保障條約は対等の形で
締結するものであり、
平和條約は戰争終了の跡始末として起
つて来るものであ
つて、各別個の提案ではあるが、その内容からいえば、平和約
発効後
独立した
日本が力の真室状態のままで放任されるだけでは
日本の真の
独立は困難であるとの大前提のもとに、
安全保障條約が当然の形において現われて来ておるから、最も密接なる
関係があるものといわねばならぬとの
答弁でありました。
第二は、この條約の基本的な性格についてであります。この点については、この條約は單に
米国に駐兵権を與える片務條約ではないか、また本来の
安全保障條約ではなく、いわば保護條約に類するものではないかという点が一つの論点でありました。すなわちこの條約が、徹頭徹尾
日本が
アメリカに懇請した形ででき上
つており、従
つて日本には
権利がなくて
義務のみがあり、
アメリカには
権利があ
つて義務がないように見えるが、これは單に
アメリカの駐兵権を認めるための片務的條約ではないのか、またこれに関連して、この條約第四條にある
効力の期限については、それが明らかにされていないことは、永久的に駐留するという解釈もできると同時に、また
米国側の都合で即時に軍隊を
引揚げることができるという解釈にも相なるが、一応期限をつけて、必要があればそれを更新するというとりきめもできるのではないかという
意見に対しましては、
政府は、
日本の平和が脅かされたとか、あるいは
日本の治安が第三国の進出威嚇によ
つて脅かされた場合には、
日本としては当然
米国軍の出動を要求する
権利があり、
アメリカにはこれに応ずべき
義務がある、また
本條約において希望と応諾の
関係がある以上、
日本両国間の親善協力
関係から見て、
日本が要望した原因となる外部からの攻撃が具体的に発生した場合には、
日本における駐屯軍が必ずこれを阻止するために立ち上
つてくれるという確信を持
つてよいと思うとのことであり、またこの條約は、いわゆる暫定的なとりきめであ
つて、
独立国の自負心からい
つても、早くこのとりきめを終了させたいという趣旨であ
つて、期限は書いていないが、両国において安心できる状態に
なつたならば終了すべきものであるし、また
米国政府が一方的に
引揚げることは條約の趣旨と異なるものであ
つて、條約によ
つて合意されたものを一方的行為によ
つて廃棄したり、この條約の一部分を無効にするようなことは、條約上の観念からあり得ないことである、との
見解が述べられたのでありました。
また
本條約は、その第一條に、
アメリカ駐屯軍は、
日本における大規模の内乱及び騒擾を鎭圧するため、
日本国政府の要請に応じて行動することにな
つているが、国内治安の維持のために外国軍隊によらねばならないということは、実質的に見て保護国の地位にもひとしいことではないか、また自助の力も相互
援助の力もない状態でかかる軍事的條約を
締結すれば、その條約の性格は、
権利がなくて
義務のみあるような條約になるのは当然であり、この條約は、あたかもか
つての日韓保護條約に類似していて、
わが国を保護国の地位に落すことになるのではないかとの
意見に対しては、第三国の教唆または干渉に基く大規模の内乱または騒擾の際に駐屯軍の
援助を受けるという
規定は、北大西洋條約第五條に、一締約国に対する武力攻撃を全締約国に対するそれとみなすとあ
つて、この武力攻撃は第三国の干渉または教唆に基く大規模の内乱または騒擾を含むという有権的解釈があり、その解釈に従つたものであ
つて、ひいて当然保護條約的なものではないこと、並びに日韓保護條約当時の情勢と今日の場合はまつたく異な
つており、この條約によ
つてわれわれの将来が日韓併合と同じことになるとは、日米の
友好関係からい
つて決して
考えられないところであるとの力強い
答弁がありました。(
拍手)
なおこの條約は、現在の
国際情勢、ことに
アジアの情勢から見て、
アジアの動乱を
日本に及ぼすことにならないか、また中ソ両国との間に法律上、技術上
戰争状態が続く場合において、この
安全保障條約は軍事同盟の性質を帶びることに相なり、戰争を誘発することにならないか、さらにこの條約は、
国連の大国協調の建前に反して、
国連分裂の方向に向うものではないかとの質疑につきましては、この條約は、
国連憲章の目的と
原則に
従つて行動しない国が一部にあり、
世界平和に対する危險があるので、この危險に対処するものであり、また
国連の線に沿
つて、
極東の平和のため、
日本の安全のために
締結されたものであるとの
答弁がありました。
第三は、この條約に関連して、
わが国の自衛権及び再軍備に関する問題であります。この問題も、すでに過般の本
会議における
質疑応答を通じて大体の論議がなされ、また
政府の
見解も披瀝されたところでありまするが、
委員会におきましても、軍備なき自衛権というのは明らかに無意味であ
つて、
独立国として、その安全の保障を、またその国内治安の問題までも、長期間他国の軍隊に依存するがごときはとうてい許されず、
国民の自負心に対する影響も至大である、のみならず、この條約の前文においても、
日本国が自衛のため漸進的にみずから責任を負うことを期待する旨が明記されており、諸外国もみな、むしろ
日本の軍備に期待しており、
サンフランシスコ会議におけるアチソン代表等の言葉は
日本の再軍備を前提としているのであるから、
日本としてはこの際再軍備に着手すべきではないか、また吉田首相はすでに
ダレス氏と軍事協力の話をしているとの報があるが、すでに再軍備の意思を持
つているのではないか、また現に警察予備隊は、その装備及び訓練において実質上何ら軍隊と異なるところはないが、かような
方法で日蔭者の軍隊を持つよりは、堂々と、もし必要ならば憲法を改正して再軍備をなす方がよいではないか、さらに軍備はいつになれば持ち得ると
考えるか等等の質疑がたびたび繰返され、また一方、同じ再軍備の問題について、まつたく別個の観点から、この條約は再軍備を必至とすると思われるが、再軍備は憲法上不可能であ
つて、自衛権はあ
つても、兵力を持つことは許されないと思うがどうであるか、また再軍備は、必ず戰前における
日本の軍国主義の復活を見るものであ
つて、きわめて危險であると思われるがどうか、さらに現在
日本の再軍備の問題は、あたかも西ドイツにおける再軍備の問題と非常に近似しており、
国民の素朴なる愛国心から出て来る自衛力保持の気持から来るものとはおよそ異
なつたものであり、か
つてダレス氏が、條約最終草案が決定された当時、
日本の再軍備について、その軍隊は統一軍が望ましいと述べたと報道されているが、将校のいらない兵隊だけを要求するような再軍備はわれわれの最も懸念するところであるがどうであるか、また
国連憲章の
規定やヴアンデンバーグ決議の趣旨からい
つても、この條約は
日本に再軍備を
義務づけていないと解していいのか等々の質疑がなされたのであります。しかして、これらの相異なる立場からなされた再軍備に対するそれぞれの
質問に対して、
政府が披瀝した
見解は、一貫した線を堅持していたものと思われたのでありまして、すなわち
政府の
見解によりますれば、再軍備の問題は、第一に、現在
国民が重税に苦しんでいるときに、再軍備のためにさらに課税することは
国民の耐え得るところではないこと、第二に、過去において戰争は結局何人にも得にならぬことを印象づけるために、つまり国家主義を拂拭するために、軍人に対する年金の停止、負傷者救済の中止、遺家族手当の中止等の処罰的意味の処置をしておきながら再軍備をしようとしても、そこには大なる矛盾のあること、第三に、諸外国には、とかく
日本の軍国主義または国家主義の復活等について今でも一つの疑惑を持
つていること、これらの点から今日軽々しく再軍備を論ずべきではない、しかし
独立を回復した
日本が他国の保護を受けることは
国民の自負心が許さないところでありまするから、
国民の間に、
日本は再軍備が可能であり、かつみずからの力で
独立を維持すべきものであるという真意がよく了解され、また戰争犠牲者に対する
関係等が明らかにな
つて初めて再軍備のことを
考えるべきである、また
日本の憲法は戰争の放棄を
規定しているが、この條項はいろいろの考慮のもとに達した結論であり、軽々しく憲法の
精神に反し、またこれを放棄すべきものではないから、
日本の国力の許す場合には、
日本の
独立は自力で保護しなければならないが、これもなるべく憲法の
精神を遵守して行きたいという
考えであるとのことでめりました。なお再軍備のことは、
日本の
国民がみずからきめるべきものであ
つて、外国からこれを指示さるべき性質のものではなく、また條約自身は
日本の再軍備を
義務づけたものではなく、
日本は
平和條約によ
つて完全な
主権を回復しているのであるから、
アメリカの要求がかりにあつたとしても、国力がこれに耐えなければ、これに応ずるわけには行かないとのことを言明されたのであります。
次に、これに関連いたしまして、
平和條約第三章第五條にしるされてありまする、今後
日本が負うべき
国連憲章第二條所定の
義務のうち、
国際連合に與えらるべき「あらゆる
援助」、この「あらゆる
援助」とは一体いかなる
範囲であるか、それは無制限なものでなく、わが憲法の
範囲内または
財政状態によ
つて一定のわくがあると見てよいのかという問題につきましては、これは一般論としては、各場合に
国連の総会、
安全保障理事会の決議によ
つて要請された内容によ
つてきまるものではあるが、常識的に
考えて、結局
日本の国力、
日本の法律制度が許す
範囲内においてということになると思うとのことであり、万一
国際連合から
わが国の警察予備隊の海外派遣を要求された場合はどうするかとの
質問に対しましては、
国連が
日本に対して憲法違反になるような要求をすることは断じてないと信ずるが、万一かかる要求があつた場合には、
総理大臣としてこれを拒絶いたしますとの
答弁があり、(
拍手)さらにこの
援助の発動の時期並びに條件というものは、
わが国の自主的判断によ
つてこれがきめられるものかどうかとの質疑に対しましては、そのように解せられる旨の
答弁がありました。なおこれらの問題とも関連して、
国際條約と
日本国憲法といずれが優位にあるかとの質疑については、これは具体的な問題が生じた場合に検討するが、憲法はあくまで
政府として尊重するから、憲法に違反するような條約はできないとの
答弁があつたことも申し添えておきます。(
拍手)
最後に、行政
協定の問題について申し上げます。この條約は日米安全保障の大綱を
規定するにとどまり、現実に
アメリカの軍隊の
日本国内及びその附近における配備を規律する條件は、同條約第三條の
規定によ
つて、あげて両国
政府間の行政
協定にゆだねられているのであります。従いまして、この点については、この行政
協定の性質及びその内容について質疑が行われたのでありまするが、まずこの行政
協定の性質については、もしこれが條約ならば別に国会の
承認を経べきではないかとの
意見については、
政府から、この
協定は
安全保障條約の実施細目を定めることに関して、両国
政府が文書による合意をすることを前提とし、この合意によ
つてその法的な
効力が完全に成立し、また確定するという意味を持つものである、しかしてこれは両国
政府間において
締結される国家間のとりきめであるが、それはあくまでも内閣が国を代表して
締結する正式の
国際協定であり、その意味によ
つて、憲法第七十三條の條約に含まれると
考えるが、ある條約において一定の事項を
締結国
政府間の
協定にゆだねていることが明らかに定められている場合には、国会は、その條約の
承認において、あわせて当該條約に基いて両
政府間の文書による合意によ
つてその成立が完全に確定する
協定の
締結をあらかじめ
承認しているものと解する、
従つて憲法第七十三條第三号但書の要件をすでに満たしているのであるから、この行政
協定について国会の
承認を求める必要はないと
考える、またこの
協定は、條約で
規定された
原則の実施細目を内容とし、
相手国が特定されていること、
協定事項が限定されている点などから、この程度に内容を限定されている
協定の
締結をあらかじめ国会が
承認することをも
つて国会の條約
承認権の放棄とは
考えないとの
見解が述べられました。さらに将来この行政
協定は一般に公表されるものであるか、あるいは全部これを秘密にしておくものであるかとの
質問に対しましては、行政
協定をしてみなければわからないが、一般的にいえば公表するつもりであるし、またこの
協定の実施にあたり予算または法律の措置を必要とする場合には、当然国会によ
つてこれらに関する審議が行われるものであろうと思うとの
答弁がありました。
次に、本
協定の内容はすべて今後の両国間の
交渉の結果としてきめるべきものであるとされてありまするが、質疑の最後の段階において、民主党の三木武夫君が、この
協定の内容たるべき問題の数項目について、今後の
交渉に際しての
政府の心構えをただしたのに対し、吉田
総理大臣の
答弁によ
つて明らかにされた点を簡單に申し上げますれば、第一に、将来この條約により駐留軍が国外に行動する場合の基準として、
極東平和が脅かされたとする判定はいかにしてされるか、第二に、
日本が外国から直接侵略を受けた場合に、国警、警察予備隊等が米軍の指揮下に属するのか、あるいはかかる場合の相互的措置はどうか、第三点に、国内治安の維持については
日本の責任によ
つてやることが
原則であろうと思うが、この場合に米軍の
援助を要請するのは外国の教唆によるクーデターのごとき場合に限ると思うがどうであるか、また共産党が関與する直接行動についてはどうするのか等々の
質問については、
極東の平和が脅かされたとする判定は結局
日米両国の話合いによ
つてきまるものであると思うし、国内治安の維持は
日本みずからその責めを負うべきが
原則であり、
従つて共産党の直接行動の場合等に限らず、
日本の警察等によ
つて力の及ばないほどの重大な事態において
考えるべきことであるとのことでありました。第四として、費用の分担は最小限にとどめて、みずからの自衛力強化に振り向けるよう了解を求むべきではないかとの
意見に対しては、
日本の安全保障のために米軍の駐留を希望しているものであるから、それ相応の分担をすべきものと思うが、それ以上には話が及んでいないとのことであり、また第五として、基地は少くとも六大都市は避けるべきであり、また駐留の
地域と治外法権との
関係等はどうなるかとの
質問には、いわゆる基地という観念ではなく、軍の配備
地域という
考え方であ
つて、
従つて一定
地域を限
つて治外法権を認めることはないとのことでありました。第六、さらに演習地の問題については、永続的に一定
地域を定めることは好ましくなく、できるだけ数少く、必要な場合だけに限るよう
交渉すべきものと思うとのことであり、第七には、米軍の国内における特権は、軍人にしてしかも公務執行中に限るべく、
日本人に與えた損害についての
賠償請求権は被害者にあると思うがどうであるかという質疑については、多分そのようになるものと思うし、またそうしたいと思うとのことであり、その他予想さるべきいわゆる合同
委員会の構成、権限人事等について、日米対等にいたしたいとの意向が表明せられたのでありますが、なおその他の諸点については、あるいは
協定の結果にまつものもあり、また全然話合いの済まない点もあるとのことでありました。
以上が
安全保障條約についての
質疑応答の大要であります。これらの詳細については
速記録によ
つて御承知願いたいと存じます。
かくして
委員会は、昨二十五日質疑終局の後、討論に入り、自由党の守島伍郎君、民主党の小川半次君、農民協同党の中村寅太君、社会民主党の佐竹晴記君よりおのおの両條約に賛成の
意見が述べられ、社会党の西村榮一君からは
平和條約に賛成、
日米安全保障條約に反対の
意見が述べられ、また共産党の田島ひで君及び労働者農民党の黒田寿男君よりはおのおの両條約に反対の
意見が開陳されました。
かくて討論を終局し、採決の結果、両件とも多数をも
つていずれもこれを
承認すべきものと議決して、歴史的な本
委員会の任務を終了したのであります。
以上御報告申し上げます。(
拍手)