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1951-10-16 第12回国会 衆議院 本会議 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月十六日(火曜日)  議事日程 第四号     午後一時開議  一 国務大臣演説に対する質疑(前会の続)     ――――――――――――― ●本日の会議に付した事件  海外胞引揚に関する特別委員会及び行政監察特別委員会設置の件  国務大臣演説に対する質疑(前会の続)     午後二時七分開議
  2. 林讓治

    議長林讓治君) これより会議を開きます。      ――――◇―――――
  3. 福永健司

    福永健司君 特別委員会設置動議を提出いたします。すなわち、海外胞引揚げに関する調査をなすため委員三十名よりなる特別委員会を設置せられんことを望みます。
  4. 林讓治

    議長林讓治君) 福永君の動議賛成諸君起立を求めます。     〔賛成者起立
  5. 林讓治

    議長林讓治君) 起立多数。よつて動議のごとく決しました。      ――――◇―――――
  6. 福永健司

    福永健司君 特別委員会設置動議を提出いたします。すなわち、本会期においても行政監察特別委員会を設け、その委員会の構成、権限及び次の国会召集の日までに支出し得る費用等については本年二月六日本院で議決した通りとせられんことを望みます。
  7. 林讓治

    議長林讓治君) 福永君の動議賛成諸君起立を求めます。     〔賛成者起立
  8. 林讓治

    議長林讓治君) 起立多数。よつて動議のごとく決しました。  ただいま議決せられました両特別委員会委員は追つて指名いたします。      ――――◇―――――
  9. 林讓治

    議長林讓治君) 国務大臣演説に対する質疑継続いたします。鈴木義男君。     〔鈴木義男君登壇〕
  10. 鈴木義男

    鈴木義男君 私は、日本社会党を代表して、過般の総理大臣の演説に対して若干の質問を試みんとするものであります。  問題は多岐にわたるのでありますが、許されたる時間の関係上、主として講和條約並びに日米安全保障條約に集約してただし、時間がありましたら、その他の問題に及びたいと存ずるのであります。そのうちには棚橋君や三木君の質問と重複するものがありまするが、首相の答弁の十分ならざる点について、観点をかえてお尋ねをいたしたいのであります。  まず第一に平和條約についてでありますが、今回のような形の條約に調印せざるを得なかつたということが、わが国にとつてはたして慶すべきか、はた弔すべきかは、後世歴史をまたずしては断ずるわけに行かないと思うのであります。しかし吉田首相が、示されたる條約に單に調印するだけのためとは申しながら、老躯をひつさげて、はるばるサンフランシスコまで行つて来られたということに対しましては、御苦労さまとねぎらいの言葉を呈する次第であります。  もしも朝鮮事変というものがなかつたならば、いうところの和解と寛大なる講和條約が示されたかどうかは疑問であつたと思うのでありまするが、それにしても、今回の條約が、その調印国の陣形において、はなはだしく片寄つたものであることを遺憾とせざるを得ないのであります。交戰国のうちで最も有力なソビエト連邦と中国が除かれておるのであります。また、これら二国と合せまするときには世界の人口の半ばを占めるインドも、これには参加しておらないのであります。今回の講和においては、東洋の平和ということが最大の願望であつたわけでありまするが、東洋に位置しておる国で、いろいろの理由からではありまするが、国交回復の仲間に入つておらないもの、中国、中共インドを初めとして、朝鮮ビルマ等、むしろ多きに位しておるのであります。フイリピン、インドネシアは、調印はしましたが、批准については難色があると伝えられておるのであります。まことに遺憾な現象であります。  われわれは、かくのごとき事態の発生を憂えましたがゆえに、講和の締結について主導権を握る国々に対して、片面的な講和でなく、全面的な講和に到達できますように努力方を懇請し続けて来たのであります。(拍手)最後の瞬間まで続けて来たことは、諸君御承知の通りであります。ダレス氏が来日せられた都度、対日理事会加盟国代表部に対し、並びに外国新聞記者諸君に対し、またコミスコ大会出席渡欧に際しましては、わが党首脳部は、歴訪各国首脳部に対して、文書をもつて、あるいは口頭をもつて、熱心に全面的講和の達成のためにあつせんせられんことを要望したのであります。しかし、これは在野党の側面的運動である。政府こそ真撃に力を盡すべき仕事であつたと信ずるのでありますが、政府は従来、交渉の過程にあつては、秘密を名として多くを語らなかつたのであります。すでに調印を終つたこの機会に、政府はできるだけ多くの国々との講和実現について、ダレス氏あるいはその他の方面にいかなる努力をなされたか、御報告を承つておきたいのであります。これは過去のことでなくして、将来の外交方針に至大の関係を持つ問題であるからであります。この点については、現内閣がまじめに若干の努力でもしたというならば、これを了とするのでありますが、吉田首相は、その共産主義ぎらいからして、初めからソ連中共を敵のごとく考えて、てんで歯牙にもかけずして、西欧一辺倒に終始したようだという印象を国民は抱いておるのであります。これが誤つておるならば、この際解明していただきたい。  イギリス中共講和会議に招請すべしと主張したことは、今や隠れもない事実でありますが、その当のモリソソ外務大臣がわが党の二、三氏に語つたところによれば、イデオロギーと外交とは別ものである、自分も感情としては共産主義はきらいである、しかしイデオロギーのために国交回復を怠つてはならない、ということであつたそうであります。当然のことでありまするが、この点について吉田総理にどういう御用意があるかを承りたいのであります。(拍手)  政府の努力の足らなかつたために、遂に同時全面講和が実現しないで、多数講和となつてしまつたのであります。今回の平和條約の持つ一つの重要なる意義は、無條件降伏伴つた連合国占領管理の終結と、これに伴う日本の独立の一応の回復ということにあるわけであります。これ、この條約の形式や内容には幾多危惧すべきものがありますにもかかわらず、独立獲得の第一歩として国民の多数はこれを受入れようとする感情を持つておるゆえんであります。私も、いろいろ異論もありまするけれども、これ以上占領の継続を希望しない、民族独立回復の契機として忍ぶべきではないかと考えている一人であります。しかしながら、前述の通り、この講和はかたわの講和である。変則の講和である。今後これを完全に仕上げて行くには容易ならざる困難を予想されるのであります。政府がこれに対していかなる決意と方略とを持つておるかということは、国民のひとしくあずかり聞かんと欲しておるところであります。  戰時中、中立を守つたタイ、スイス、スエーデン、アイルランド等戰時中日本から分離した朝鮮戰時中日本同盟関係にあつたドイツイタリア等との国交回復は、おそらくは比較的容易でありましよう。最も困難な問題は、会議に招待もされなかつた中国、中共、招待されたけれども参加しなかつたインド及びビルマ、ユーゴ、会議に参加しながら調印を拒否したソ連、チエコ、ポーランド等との国交回復は、最も困難な問題を包蔵しておるわけであります。さらにインドネシアは、調印はしたが、批准は容易に逆賭しがたいといわれておるのであります。  第一に、わが国として最も関係の深い対中国の関係でありまするが、アチソン長官ダレス氏並びにイギリスヤソガー代表等は、中国を選ぶか中共を選ぶかは、日本に選択させるのであると申したのであります。吉田首相は、従来、それは連合国がきめてくれるのだと申しておつたのであります。これは非常な食い違いであるが、今もなお日本政府に選択の余地がないように考えておられるのでありまするか。私は日本国に選択の自由あることが当然と思うのでありまするが、その場合政府はいずれを選ぼうとするのであるか伺いたい。私は、中国と中共、この二つの団体と講和以外において国交回復の道もあると信ずるのでありまするが、あるいは、かのイギリスが、イデオロギーの立場を離れて、実勢力に着眼して中共政府を承認して、これと取引をやつておるように、思い切つて中共を承認して、隣国との国交、経済上唇歯輔車の関係にある隣国と正常なる貿易関係を樹立する勇気を持たれるかいなかを承りたいのであります。(拍手)昨日、わが党の棚橋君の質問に対して、共産主義を捨てない限りは外交関係を樹立することはできないような御答弁であつたそうでありますが、それは、坊主憎けりやけさまでも、というたぐいでありまして、笑うべき單純主義であります。現在のイギリス労働党政府が、中共ソ連外交関係を結んでおることはもちろんといたしまして、保守党のチャーチルすら、選挙に勝つたならば、スターリンと会見して、ともに世界の平和を語ろうと宣言しておるととは、外電の報ずるところであります。日本自由党政府にこれを求めることは無理かもしれませんが、国家百年のために再考を希望するものであります。  またインドビルマは近く單独講和を申し出るということでありますが、これに対してはどういう方針で対されるつもりであるか、承つておきたいのであります。  ソ連中共等共産主義国が今回の平和條約に反対したことは御承知の通りであります。ソ連は、サンフランシスコ会議場において直接反対を明らかにし、中共は、ラジオや新聞を通して明らかにしておるところであります。ともに中共を加えない講和は真の東洋の平和でないと指摘しておることは肯繁にあたつておると思うのでありますが、ただグロムイコ、ソ連代表具体的提案を聞いてわれわれの意外とするところは、搾取を否定し、共存を主義とする共産国が、西欧諸国よりも苛酷なる條件を提起しておることであります。アメリカに向つて琉球小笠原を返せということはけつこうでありまするが、千島と樺太はもらつておくというのである。わが国が必ずしも希望しない軍隊を十九万五千まで持つことを許すというのは、ありがた迷惑でありまするが、日本海はソ連中共の軍艦だけが自由に航行することができるというのであります。そして、賠償は相当厳格に取立てる気構えのようであります。こういう提案を聞いて、われわれは共産国に対して一種の幻滅の悲哀を感ぜざるを得ないものでありまするが、政府はどういう感想を持つておられまするか伺いたい。これは将来追加講和を結ぶ場合に重要な問題となると思うのであります。またソ連中共の、かく強硬な態度の結果、国民ソ連中共との間に戰争状態が継続するか、あるいは交戦状態が再開されるか、そうでなくとも、ポツダム宣言をたてにとつて一方的に進駐して来るとか、あるいは公海においてわが漁船の拿捕等復讐的手段に出て来るのではないか等、相当危惧の念を抱いておるのであります。これらに対して政府はどう考え、またどういう対抗手段を持つておるかを明らかにしていただきたいのであります。  また朝鮮動乱は、不幸にして、いまなお継続中であります。われわれは、この動乱が全面戰争に発展したり、日本に波及したりすることのないことを念願しまするとともに、侵略が中止され、平和が回復しまして、朝鮮平和的手段で統一されることを心から希求するものでありまするが、万一この條約の効力発生後も動乱が継続しているような場合に、いかにして政府は動乱の日本への波及を阻止するつもりでありまするか、その信念と方針とを承りたいのであらます。  次に政府は、今回の平和條約は無條件降伏の結果である、いわば、まないたの上のこいであるという態度をもつて首相の言葉をかりれば、男らしくということで、その予備的折衝過程において、毫も不合理の是正に特に努力した形跡のないのは、はなはだ遺憾であります。ことに領土條項賠償條項には、われわれの納得しかねるものがあるのであります。  領土については、われわれはポツダム宣言の趣旨を無視せんとするものではないが、同時に連合国日本領土をきめるにあたつて連合国がみずからきめた連合国共同宣言の原則を守ることを要求する権利はあつたと思うのであります。すなわち、連合国共同宣言によれば、領土の拡張は求めない、また領土の変更は住民の自由意思に従うということになつてつたのであります。しかるに、これが守られたとは思われないのである。條約第二條には、南樺太及び千島の領土権の放棄をうたつております。なるほど、この條項の不当なこと、ことに千島にも属さない歯舞、色丹等ソ連による不法な占拠の不都合なことは、吉田首相サンフランシスコ会議において指摘したところではあります。しかし、條約ができ上つてしまつてから一方的に捨てせりふを残して去るだけでは、政府の責任は果てないと存ずるのでありまして、何らか合理的方法によつて條約改訂に努力すべきものと思うのでありまするが、政府の所信を承りたい。ことに歯舞、色丹については、ダレス氏すらも、北海道の一部と見るべきであるかもしれない、そうであれば、これを決するのは国際司法裁判所であるということを語つたと伝えられておるのでありまするから、この二島については、国際司法裁判所に提訴してもわが領土たる確認を求むべきものと思うのでありまするが、この点、政府はいかなる見解を有せられるのでありまするか、いま一層これを明らかにしていただきたいのであります。  北緯二十九度以南の小笠原、南西諸島については、サンフランシスコ会議において、米英両国が、日本領土権が存続する旨の解釈を述べたようであります。しからば何ゆえに信託統治に付する必要があるのであるか。軍事基地保有のためというならば、政府日米安全保障條約によつて日本領土内に米国軍の駐留とその軍事施設の維持とを許容した以上は、何ら異なるものあるを見ないわけであります。これら諸島に対して法律上本土と異なつた取扱いをする必要と意義とについて、政府はこれを明らかにする責任があると信ずるのであります。(拍手)また信託統治の意義については学者間にも種々議論があるようでありまするが、総理が過日の演説において説明されたような観な、一種の潜在的主権というような観念が、国際法上はたして可能でありましようか。完全に日本行政権外に去るものでありましようか。こういう点を明らかにされたいのであります。  次には賠償の問題でありまするが、これにも幾多の疑問があります。條約第十四條前段によれば、日本には現在賠償能力がないということを認めておる。他方、旧占領国の要請があれば、いわゆるサービス賠償に応ずべき義務を負わせることが定めてありまするが、これは矛盾であります。サービスも、りつぱに金銭に見積らるべき賠償であります。ことに、との義務には一定の責任額がきめられていないのでありまするから、賠償を要求する諸国と日本との間の交渉にゆだねられており、紛争を生じ、累を国交に及ぼすことなきかをおそれるものであります。またこの賠償の点については、重要なわが在外資産賠償として放棄し、さらに領土権特殊権益を放棄して提供した中国に対するのと、ほとんど荒廃したままに放置してありまする東南アジア諸国との間に、サービス賠償について何らの差異も設けておらないのは、不合理であり、不公平であると存ずるのであります。この点について、政府賠償上差異をつけるつもりであるかいなかを承りたいのであります。さらに政府は、この賠償交渉についてどういろ腹案を持つておるのであるか承りたい。国民の負担を加重し、著しく生活水準を切り下げることなく、どろして東南アジア諸国との国交並びに通商関係を円滑に処理して行くお考えであるか、承りたいのであります。  池田蔵相は、参議院において、役務を提供するのであるから、財政を圧迫したり、国民生活を圧迫したりすることはないと答えられたそうでありまするが、サービスりつばに金額に換算せらるべきものでありまして、負担が重ければ、国家財政国民生活とを圧迫することは明瞭なことであります。この賠償の方法はきわめてデリケートのものと存ずるのであります。  なおまた在外私有財産については、先例によれば、少くとも国内的に補償の責任を條約に規定すべきであつたと思うのでありまするが、政府はこの問題をどう処理する方針であるか。引揚同胞が一齊に刮目して凝視しておる問題について、この際政府の方針を伺いたいのであります。  次には安全保障條約についてお伺いをいたします。一体、口を開けば安全安全と、敵が眼前に迫つたように申すのでありまするが、それほど急迫した危険がどこにあるのでありましようか。朝鮮ドイツは二つに分割され、一方にりつば共産政権が樹立せられておるのでありまするから、その侵略か解放かは存じませんが、必ず他の半分が緊迫を感ずることは当然のことであります。わが国は、これと事情を異にするのであります。国内の治安は、一般警察警察予備隊とで一応十分である。いかに共産主義国といえども、平和に暮しておる日本に、よほどの口実がなければ武力攻撃を加えるということは考えられないことであります。日本が外国の軍隊を借りるということは、不必要に東洋の緊張を誘発するのではないかということをおそれるものであります。  しかし、世界における西欧陣営共産陣営の対立、米ソの角逐というものを考えまするならば、日本がどちらにとつても最も重要なる戦略基地であり、軍事基地であることは、何人にも明らかなことであります。アメリカ軍事評論家も筆をそろえて、アラスカ、アリューシャン、朝鮮、沖縄を連ねるアメリカ防衛線の一環として日本軍事基地とすることは絶対不可欠であると主張しておるのであります。そのことは、われわれも認めるのであります。しかし日本としては、東洋緊張の原因になりたくない、侵略が疑うべからざる正確度を持つてつて来ることを予見するまでは、平和憲法の精神にのつとつて、できるだけ中立の地位に置いてもらいたいというのが、日本国民多数の念願であるのであります。(拍手)  誤解を避けまするために一言いたしますが、私は、何らの意味においても安全保障はいらない。自衛も必要がないと申すのではないのであります。客観情勢のいかんによつては大いに自衛力も高めなければならない。新憲法があまりにも理想に過ぎたということも、すでに世界に定評の存するところでありまするから、万やむを得ない場合には、これを改正してでも防衛力を充実しなければならないときが来るかもしれないとさえ考えておるのであります。  御承知の通り、社会主義は常に平和を愛し、軍備と戰争には反対するものであります。しかし、だからといつて、どんな犠牲においても無抵抗に征服を甘受するほど卑屈ではないのでありまして、われわれは物質的幸福以上に精神的自由を尊重するものでありまするから、いかに物質的幸福を約束されましても、武力をもつてしてまでわれわれを精神的奴隷の状態に置かんとする政治形態の招来に対しましては、それが資本主義から来るものであれ、あるいは共産主義から来るものであれ、これを排除するために敢然闘うだけの勇気は持つておるのであります。そのために必要ならば、世界の志を同じゆうする人々とともに普遍的な集団保障に参加し、分相応の自衛力をもつて自由を守るために闘う心の用意はあるつもりであります。しかし、今はまだそのときではないと信ずるのであります。  朝鮮事変の見通しは困難でありまするが、平和を回復する見込みはまだ絶無ではないようであります。休戰会談が実を結んで平和が訪れるならば、ここに企図するような安全保障は、しかく急ぐには及ばぬことであります。また、できるだけ中立的立場を維持しようとしてサンフランシスコ会議にも出席しなかつたインド政府が主張しましたように、安全保障條項は本来平和條約中から削除さるべきものであり、安全保障條約は、平和條約の効力発生後、独立国としての日本が対等の立場において、そのときの事情に応じて自主的に締結すべきものであります。(拍手)平和條約発効後もなお九十日間は連合国軍は駐屯しておるのであります。その間に締結しても決しておそくはないことであります。しかるに、その内容は、調印の瞬間まで国民に知らしめず、平和條調印後半日を出ずして急遽調印した。あまりにもあせり過ぎたという印象を拂拭することができないのであります。いわんやアメリカ側は、アチソン長官以下ダレス大使ワイリー、ブリツジス両議員の四人が調印しておるにもかかわらず、日本側は、いかにワン・マン氏とはいいながら、万事乃公の方寸にありといわんばかりに、吉田首相一人でこれを応諾しておるのもふしぎであります。  ソ連中共とは、すでに明らかにこれをもつて敵対行動の端緒と宣言しておるのであります。万一これがわが国を戰乱の渦中に巻き込む原因となりましたような場合には、首相はいかなる責任を負わんとするものであるか。またアメリカの側においても、日本反対陣営に奪おれるのではないかという危惧の念からあせり過ぎておることを遺憾とするものであります。われわれは、アメリカだけの保護を期待しなかつた、国家連合に入れてもらうことは困難であるといたしましても、せめて日本のデリケートな立場を尊重して、国連総会の決議のようなものによつて集団的に日本安全保障を確保してほしかつたのであります。それならば、わが国が戰乱の渦中に入れられる可能性ははるかに遠のいたはずだと思うのであります。  本来私は、日本憲法第九條の精神からするならば、一艦一兵といえどもたくわえないことを主義とするのでありますから、外国軍隊にかわつてもらうこともこれに反するものと存ずるのであります。総理の昨日の答弁によりますと、憲法の禁じておるのは攻撃のための軍備である、自衛のために、防禦のために軍備を持つことは憲法の禁ずるところではないよらな趣でありますが、それは総理憲法をつくつたときの精神を忘れた御議論ではないかと思うのであります。私も当時立法に参加した一人といたしまして、吉田首相が最も熱心に防禦のための軍備ということを許さない趣旨を高調されたように記憶いたしまするので、念のために当時の速記録を繰広げて見たのであります。  吉田総理は、昭和二十一年六月二十六日の本会議において、正当防衛のための軍備をも認めないのかという質問に答えて、「近年ノ戰争ハク自衛権ノ名二於テ戰ハレタノデアリマス、満洲事変然リ、大東亜戰争亦然リデアリマス、今日我が国二対スル疑惑ハ日本ハ好戰国デアル、何時再軍備ヲナシテ復讐戰ヲシテ世界ノ平和ヲ脅カサナイトモ分ラナイト云フコト日本二対スル大ナル疑惑デアリ、又誤解デアリマス、」。同じく六月二十八日の野坂參三君の質問に対して、「戰争抛棄二関スル憲法草案條項於キマシテ国家正当防衛権二依ル戰争ハ正当ナリトセラル・ヤウデアルガ、私ハ斯クノ如キコトヲ認ムルコトが有害デアルト思フノデアリマス、近年ノ戰争ハクハ国家防衛権ノ名二於テ行ハレタルコトハ顯著ナル事実デアリマス、故二正当防衛権認ムルコトガ偶々戰争誘発スル所以アルト思フノデアリマス、」こう答えておられるのであります。  憲法第九條の解釈としてはこれが正しいと信ずるのであります。わが国自身が防衛のために持つべきでない軍隊は、外国から借りることもやはりいけないのだと解すべきではありますまいか。客観的情勢の変化によつてその必要を認めるに至つたというならば、まずこの憲法を改正してかかるべき問題ではないかと存ずるのであります。(拍手)この点に対する総理の御所見を承りたいのであります。  次に本條約第三條によれば、すべての細目はいわゆる行政協定に譲つておるようであります。そこで、最も大切なる部分たるこの行政協定の内容をある程度明示して国会の承認を求めるのが政府当然の責務であると信ずるのであります。この行政協定のやり方は、一九四七年に米国とフィリピンとの間にやつた軍事基地協定のように、軍事施設の種類、その性格、軍隊と市民との裁判関係駐屯軍の課税上の特権、駐留地点、港湾の使用権演習権駐屯軍費分担等、細目にわたつてきめられるのでありますか、あるいは北大西同盟條約各国のように、一切をあげて共同委員会に一任するのであるか、いずれの方式をとるのか伺いたいのであります。そうして、いずれにしても、その大綱についてはすでに了解があるはずと信じまするがゆえに、これを明らかにされたいのであります。  一体、この行政協定なるものは、法律上どういう性格のものでありまするか。私は、この行政協定は條約の内容の一部をなすものと思うのでありますが、しかるときは、憲法第七十三條によつて国会の承認を得なければならないはずである。政府が今これをわれわれに示されないのは、政府限りの行政行為と解しておられるのであるか、承りたいのであります。  三木君も昨日指摘されましたように、日本憲法第七十三條の規定はすこぶる明瞭でありまして、アメリカにおける憲法慣習はどうありましようとも、わが国では、一切の国際條約は、事前に、時宜によつては事後に必ず国会の承認を得なければならないと思うのであります。(拍手)政府がこれを無視するようなことがありますならば、憲法上の大原則が、独立後最初に締結される條約において破られるという悪先例をつくるものでありまして、その責任軽からざるものと考えるのであります。(拍手)われわれは、この際政府に白紙委任状を渡すわけには参らぬのであります。  なお駐屯軍費の分担が必ず問題になると存ずるのでありまするが、前述の通り、この安全保障は、実はアメリカの駐兵條約とも申すべきものでありまして、日本の防衛にもいくらかなりまするけれども、それにも増してアメリカの防衛上必要な軍事基地でありまするから、日本財政の貧困にかんがみ、その全額をこの際アメリカに御負担願うということは決して無理な要請とは思われないのでありまするが、政府はいかがお考えでありましようか。(拍手)  いま一つ、われわれの心配いたしますることは、これがわが国の再軍備につながりはせぬかということであります。アメリカの方からは、しきりにそういうことが放送されて来るのであります。トルーマン大統領も、サンフランシスコの演説において、日本が将来防衛軍を持つことを予想して述べておりましたし、この條約の前文においても、日本がみずから防衛の責任をとる日の来ることを期待しておるのであります。これはおそらくヴアンデンバーグ決議等と関連するところあるものと思うのでありまするが、再軍備の問題は、日本が完全に独立した後、世界並びに東洋の情勢を勘案いたしまして、広く国論にも問うて、まつたく自主的に考慮すべき問題であります。そうして、憲法改正を前提とすることもちろんであります。ただ、この條約を受入れたことは当然再軍備を約束したことになるという見解は、私どもの承認するととのできないものであります。総理は、たびたびの答弁において、今は貧乏だからできないというように答えられた。これは裏を返せば、ゆたかになつたならばやるということに聞えるのでありまするが、はたしてさようでありまするか。この点、政府の明確なる所見を承つておきたいのであります。  以上の諸点について、吉田首相の責任ある答弁を求める次第であります。なお時間がありますれば、平和後の財政問題、行政機構改革の問題、主食統制撤廃の問題、電力危機の問題、治安立法の問題その他についてお尋ねをいたす予定であつたのでありまするが、すでに時間がありませんから、これらは緊急質問、委員会の質問等に譲ることといたしまして、最後にいま一つお伺いいたしたいことがあります。  いわば今回変態的占領を続けるような平和と独立を獲得したわけでありまするが、この平和條約によつて、ともかくもわが国は独立することとなるのであります。しかし、領土は戰前の半分に減り、この狭い領土に八千万の同胞がひしめき合つて暮すのである。しかも、物資はすべて欠乏である。しかるに自由党内閣は、すべて統制を撤廃し、手放しの自由経済でこの国を運営して行こうというのであります。これで万人が最低限度の生活水準を保つことがはたして可能でありましようか。われわれは、そういうやり方ではこの国を持つて行くことはとうていできないと確信するものであります。人口があり余つて物資乏しき国に資本主義的自由経済を強行すれば、弱肉強食、持てるものは與えられて余りあり、持たない者は持てるものまで奪われるという修羅場を現出することは、火を見るよりも明らかなことであります。(拍手)これを阻止し、国民の最低限度の生活水準を維持する道は社会主義的計画経済の達成のほかにないことは、国民の多くのすでに認識するところであります。(拍手)平和條約の批准を終り、わが国独立国として再出発するにあたりましては、国民の多数がいずれの政策を希望するかを輿論に問うことは最も民主的の行き方であります。その際、衆議院を解散して総選挙を施行し、輿論の帰趨に従つて新しい政権担当者を定めることこそ、まさに立憲政治家のとるべき態度と存ずるのであります。この意味において、政府は適当の時期に解散を断行する意思はないかということをお尋ねいたすものであります。  以上をもつて私の質問を終ります。(拍手)     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  11. 吉田茂

    国務大臣(吉田茂君) お答えいたします。  鈴木君のお話を伺つておるというと、占領中において日本はすでに外交権を回復しておるようなお話であるが、これは少々おかしいと思います。またお話のように、全面講和に大いに努力せられた――国内において演説をし、もしくは新聞に発表する程度は、これは交渉というべきものではないのであります。(拍手)またダレス氏が日本に参られて、全面講和は無條約にひとしいものである、全面講和をするがためにこの対日講和條約を延ばすわけにいかないということは、しばしば言われたところであります。これに対して鈴木君はいかなる反駁をなされたか承知いたしたいと思うのであります。  また領土については、無條件降伏をし、ポツダム宣言を受諾した日本としては、この連合国の規定する領土條項をまず甘受するというのが條約上の義務であります。條約上の義務を放り出しておいて、とやかくおつしやるのは、はなはだ当を得ないと思うのであります。(拍手中国ソ連との関係は、むろんわれわれは重観するところであります。しかしながら、ソ連に対しても、また中国に対しても、従来、ダレス氏がサンフランシスコにおいて明瞭に言われた通り、十一箇月の間、ソ連に対しては交渉を続けて来たのであります。しかしてソ連は、サンフランシスコ会議へ参加はしたが、宣伝を事とするのみであつて、この條約に参加する意思が毛頭ないということは、ダレス氏も明らかに言われたところであります。かような国と講和を求めるということは、これは木によつて魚を求めるがごときものであります。鈴木君のような外交家ならはこれはできるかもしれませんが、私不幸にして浅学短才、これをなすあたわないのであります。(拍手)その次に安全保障條約についてお話でありますが、これが危険を挑発するというが、危險を挑発しないために、極東の安全、極東の平和を維持するためにこの條約を結ばれたのであります。目的とするところは、戰争を招来するためではなくて、平和の確保であります。(拍手) また、外国軍隊を駐屯せしめることが憲法第九條の精神に違反すると言われるのでありますが、鈴木君のような法律学者が、かく憲法解釈せられるのは、おかしな話だと思います。憲法第九條の規定は、読んで字のごとく、これは国際紛争を兵力によつて解決しないということを規定いたしたのであります。また安全保障條約は、これは日本独立を守るために、日本の安全のために規定せられたのであります。すなわち自衛権の発動であります。自衛権なるものは、国が独立した以上は自衛権は欠くべからざるものであり、当然の権利であります。この自衛権発動の結果として安全保障條約を結ぶということは当然のことであります。それに対して非難をするのは共産党くらいのものであります。(笑声、拍手)また、安全保障條約は急遽締結したごとく言わるるが、実は急遽これを締結したのではないのであります。ダレス氏が今年二月見えたとき以来の問題であります。これは研究に研究した結果であつて、急遽これを結んだのではないのであります。  また、その中にある、いわゆる行政協定なるものは、今後において協定をいたすのであります。これから協議をいたすのである。秘密條約でも何でもないのであります。秘密條約というがごときは、これはしいるものであります。無稽の言であります。  また、安全保障條約でなくして中立條約で行けというようなお話のようでありますが、中立條約によつて国の独立を守られなかつたことは、国際の慣例、史上において最も明瞭なところであります。中立條約によつて国を守らんとするがごときことは、国の独立を失うことを希望する者が言うべきことである。(拍手)また、この安全保障條約なるものは再軍備と何らの関係はないのであります。この安全保障條約は、いわゆる集団攻撃に対して集団防衛の手段を講ずるのであつて、再軍備とは何らの関係もないのであります。これもはつきり申しておきます。  また再軍備は、日本に対して自由を與えられておるのであります。日本軍備を持つか持たないかは、国民自由意思で決定すべきものであります。今後国民がこれを希望するならば再軍備をいたしまするが、しかしながら、するとしないとはまつた国民自由意思によつて決定せられるのであつて、完全保障によつてしいられておるものではないのであります。(拍手)また解散についてお話でありますが、政府はしばしば申す通り、解散はいたしません。(拍手)     〔国務大臣池田勇人君登壇〕
  12. 池田勇人

    国務大臣(池田勇人君) 平和條約第十四條は矛盾しておるのではないかというお話でありますが、矛盾いたしておりません。日本賠償責任はあるが、今の状態からいえば、完全な賠償や債務の支拂いはできない。従つて役務賠償的なものに限ると規定してあるのであります。何ら矛盾はないのであります。  次に賠償の点につきまして、中国その他東南アジアと差異がありはしないか、こういう御質問でございまするが、賠償は各国と個々に協定いたしますので、われわれは誠意をもつて、できるだけの賠償をいたす考えであります。従つて差異はございません。  次に、賠償を支拂うことによつて生活水準を下げ、非常に困つて来るのではないかという御質問でございまするが、條約第十四條におきましても、日本が存立可能な経済を維持するということが前提條件になつておるのであります。生活水準が下れば社会不安を起し、日本の経済は維持できません。従つてわれわれは、生活水準を下げずに賠償を行わんといたしておるのであります。(拍手)  次に在外財産の補償の問題でございまするが、御承知通りに、在外財産の額は相当多額でございまして、今、日本財政経済の状況から申しますると、在外財産を補償するだけの能力がないように考えられるのであります。しかし引揚者その他の実情を考えますると、われわれは戰争中の戰災者、あるいは戰争中の債権を放棄せしめたあの措置等をも考えまして、今後重大問題として研究して参りたいと思います。  最後に、吉田内閣はあらゆる点で統制を撤廃しようとしておる、これによつて統制を撤廃したならば、国民がその生活を保てなくなり、その堵に安んずることができないではないかという御質問でありまするが、これは終戰後の状態でお考えになればわかります。社会主義の統制、社会主義的統制経済が過去四年、五年前の状態を現出し、われわれ自由主義の経済が過去三年の間にこの復興を見たのを見れば、われわれの統制撤廃による自由主義が、日本が経済的に自立し得る唯一の道であるということを確信いたしておるのであります。(拍手
  13. 林讓治

    議長林讓治君) 井之口政雄君。     〔議長退席、副議長着席〕     〔井之口政雄君登壇〕
  14. 井之口政雄

    ○井之口政雄君 私は、日本共産党を代表して、八千万国民のまさに聞かんとするところを率直に吉田総理大臣に御質問申し上げる。  日本軍国主義が敗れて、アメリカ日本占領継続することここに六年、今ここに交戦諸国平和條約を結ぽうとする時期に到達しました。これで平和と独立が実現するかいなか、国民は航路に立たされているのであります。アジア諸民族は、今、英米帝国主義侵略からみずからを解放するあらしの中を進んでおる。イラン、エジプトを見るがいい。中国を見るがいい。これに引きかえて、アジアの日本とヨーロツパの西ドイツとは、平和陣営に対する攻撃の基地として再武装されようとしています。こうした時期に、英米との単独講和條約の審議にわれわれは入るのであります。このためには、アメリカ百万長者―――――に恐れず、それに屈することなく、同僚議員諸君国民とともにまず勇気を持つて、自由に、大胆に、率直に討議せられねばならぬでしよう。これが平和と独立をかちとるための先決條件であらねばならぬ。  しかるに吉田総理は、全面講和と平和と独立を叫び続けて来ておる国民大衆の戸を、占領政策違反だと言つて弾圧して来ておる。吉田総理の専制のもとに投獄された者の数は万をもつて数えておる。  一体、今度の條約はアメリカの至上命令で、これを批判することだにできないのかどうか。もしそれができないとすれば、日本における言論の自由とは、アメリカの許す範囲の自由にすぎないではないか。吉田総理は、まず国民に、広く、公然と、自由にこの條約の審議検討を可能とするために、目下投獄されているところの多くの政治犯人を即時釈放し、大赦して、日本国憲法精神に基き、日本国民あげての討議と輿論に訴える意思を有さねばならぬと思うが、この点に対して御回答を願いたい。  第二に、日本は一体どの国々戰争して来たのだ。この簡單な質問吉田総理は答え得るか。満洲に出兵し、中国侵略し、インドシナ、インドネシア、フィリピンなど、十億のアジア民族を銃剣の先にかけて来たのであります。しかるに、中国五億の民族を代表する真の政府、真に平和を愛し、完全な独立を遂げた政府、中華人民共和国が講和に参加しておらぬ。インドビルマは、いち早く、この講和会議アメリカ帝国主義の一方的意思を押しつけるものとして不参加を声明し、インドシナ、フィリピンなどは、彼らの真の民族代表を送つておらぬ。アメリカ百万長者の――― のみである。  自由党の総務山口喜久一郎君は、帰国後、日比谷の報告演説で述懐して言われるのに、世界にこんな国々があつたろうかと思われるような国々が参加していたと言つておられる。桑港会議に招集を受けた四十八箇国の中には、東京のたつた四分の一の人口にも満たぬ、パナマとか、コスタリカとか、グワテマラなど、アメリカの一州にも満たぬような国々が絶対多数の席を占めていた。これ日本が降伏のときに受諾したところのポツダム宣言の單独非講和方針、全面講和の国際的、平和的、民主的協定を侵犯する、そのこと自体から、すでに日本を不利に陷れるところの不法かつ無効な講和條約が調印をしいられねばならなかつたゆえんが起つて来るのであります。あれでは英米のみとの講和でしかないことは明らかであります。日本民族の平和と独立を守る講和では絶対にない。  日米安全保障條約に至つては、日米軍事同盟である。アメリカ駐留同盟である。アジア諸国との友好が回復されるどころか、わが国アメリカの支配下に、アジア民族に敵対することにならざるを得ないではないか。だからこそ、ソ同盟のグロムイコ代表は、これは平和の條約ではなくて、戦争を準備する條約であり、アメリカ帝国主義のアジア侵略の意図を暴露したものであると言つている。さらに中国人民は何と言つているか。もしも日本がこれらの條約に調印すれば、それは中国人民に対する宣戰布告にひとしいということを言つておる。(拍手吉田総理は、サンフランシスコで非常な歓待を受けて、アメリカ政府によつて示された和解と信頼の外交辞令に酔つて日本国民の衷心からの願望が隣国五億の中国民族との和解と信頼にあるということを忘れてしまわれた。この日本国民の願望を裏切つてアメリカ百万長者どもの意を迎え、彼らの――蒋介石ブロックをなお中国政府であるかのごとく瞞着している。帰国後は、中国との友好と貿易などは大したことではないとの意見を、はばかるところもなく公表しておられる。  吉田総理は、中華人民共和国との講和をいかにして結ばんとするか。依然として敵対的関係を続けんとするものなりやいなや。中ソ友好條約が、すでに講和会議以前から、日本民族との真の和解と信頼の全面講和を結ばんことを世界に公表しているのを信頼しないのか。サンフランシスコで結ぱれた單独講和の諸條約を廃棄して、中ソを含む全面講和を締結する意思はないのか。米英とのこのたびの單独講和及び日米安全保障條約は、米英以外とほこれ以上日本にとつて有利な條約を結んではならぬことを禁止條項に置いている。これ全面講和日本にとつて有利であることを予想して禁止する鉄のわくを日本にはめているのである。明確な答弁を希望いたします。  第三に、平和條約の第五條は、日本は国連に加盟せずして、国連に協力義務を負うことを定めている。日米安全保障條約、すなわち日米軍事同盟條約は、吉田総理ただ一人によつて調印されて来た。これに引続き、アメリカのアチソン国務長官と吉田総理との間にとりかわされた往復書簡によれば、日本朝鮮戰争へただちに介入せねばならぬことになるが、吉田総理大臣はこの点御承知かと、アチソン国務長官にだめを押されている。これに対して吉田総理は、百も承知、千も承知ですと答えている。(笑声)日本国民は、何の理由があつて朝鮮戰争に狩り出されて、朝鮮中国の同じアジア民族と血と血で血を洗わねばならぬのか。吉田総理は、またまたアジア大侵略の東條的な決意をしたのか。  この往復書簡では、次のような重大なことが暴露されている。よく聞いておきなさい。(笑声)従来とも、アメリカ軍の占領下において、日本政府は国連軍に協力して、――――に加担していたということである。アチソン氏は、その確認を吉田総理に要求し、吉田総理は、そうでございましたと承認している。吉田総理は、従来国会において、国連の朝鮮における行動には協力しない、何らの費用の負担を負うておらぬ、負う理由もないということをしばしば言明しておられる。しかるに、今それは一切虚言であつたことがこの公文書によつて明らかになつた吉田総理は、憲法を無視し、国会を軽視し、国民を欺き、朝鮮事件に介入している事実を、これでまつたく明らかに暴露したのである。介入すべからずと主張する共産党の議員を議会から追放し、放逐し、国民を覇着している。それのみではなくして、今やいよいよ将来もまた日本を基地として国連の飛行機が朝鮮から満洲へ爆撃に向うことに協力することが義務づけられ、成文化されるのである。  日本の費用をもつて、大量的にわが壯丁の生命を肉弾として朝鮮戰争に注ぎ込まねばならない。国連に名をかりた朝鮮内政干渉にただちに協力せねばならなくなつた。これは明らかに戰争日本国民をひつぱり込むものである。吉田総理は、アジア侵略のために、日本人民にまたまた鉄かぶとをかぶせるつもりなのか。この講和條約並びに安保條約が批准されるならば、日本国民は、国会の決議をまたずして総力戰に追い込まれ、日本憲法に従わず、アメリカの決定に従つて、国連の名において日本は満洲へも中国へも先陣を承らねばならぬ義務が生じて来る。これは戰争を放棄した日本憲法にそむかないか。  吉田総理は、アジア諸国がまだ批准もせず、のみならずアメリカさえも批准せぬこの條約の批准をなぜ急がれるのか。休戰会談が目下進行中の朝鮮戰争が終つてから批准してもいいではないかと、朝日新聞も再三警告しているではないか。これは日本国民のごくごく最小限度の要求、この要求に対して、吉田総理は、両條約は売国的性格が国民に知れないうちに批准してしまおうとたくらんでいる。もしそうでないとせられるならば、この壇上から、朝鮮戰争には引きずり込まれない、武器も送らぬ、一兵も送らぬと確約できるか。(「その通り拍手)  次に、講和條約の最も本質的な主権と領土の問題について質問いたします。すでに外国軍隊の駐屯を許し、そうしてその費用も当方で持つというこの條約の規定一つをもつてしても、日本に安全な主権が與えられていないことは明らかだ。日本国民の生活は、首すじを武力で押えられた奴隷の生活にすぎなくなる。日米軍事同盟條約で、日本は、あなたまかせの、完全に屈辱的な保護国となつてしまうのである。  日米安保條約に匹敵するものを外交史上に探すならば、まさにかつての日満議定書がそのまま生写しである。日本アメリカにとつての満洲国となり、反中国、反ソ同盟の軍事基地になり下るのである。この安全保障條約は、五箇條からなつている簡單なもので、アメリカ陸海空軍は日本占領し続け、日本の治安さえも、日本政府はこの軍隊に依頼する。アメリカの利益は、日本占領下にあつたときよりもそがれてはならぬということが、了解事項にできておる。それのみであつて、あとは一切、具体的な問題は白紙のままで、アメリカの専断にまかされている。一切の協定は、先ほど首相が再三言われた、ダレス氏、アチソン氏、吉田氏の密室内において決定し、きようのきようまで国民にまだ発表もされていない。国会においてさえ秘密会議で押し切ろうとしている。国民は、こうした国を売る取引に反対し、日本民族の主権を守るためには、これらの公開を要求する権利がある。  この行政協定こそは、まつたく八千万のわが民族の命を断つにひとしい。これほど日本人にとつて屈辱的な、残虐きわまる秘密協定を、日本人にとつて和解と信頼に満ちた、対等の地位にある條約などと名づけるのは、一体何たることか。日本民族を一からげにして売り渡す身売り註文と言わずして何と言つたらよいのだ。吉田総理は、アメリカ日本総督として満足せらるるつもりか。外国電報の伝えるところでは、従来の総司令部は表面上解消して、日米合同委員会がこれにかわり、一切の日本の重要問題はこの日米合同委員会によつて決定され、しかもその議長アメリカ人である。これは明らかに名前のかわつた総司令部だ。吉田総理はこれを協定して来たが、歴史上前例なき屈辱とは考えられないのか。  次に、ポツダム宣言、ヤルタ協定、カイロ宣言では、アメリカ合衆国は日本に対し領土的野心を起さぬことを国際的に誓約しておる。日本戰争の手段に訴えて割取した台湾、朝鮮樺太並びに日本軍国主義のハワイ襲撃の根拠地として使用された千島列島を除いて、北海道、本州、四国、九州並びにその近在の島々の上には日本独立した主権が及ぶべきことをアメリカのルーズベルト氏が確約しておる。日本の近在の島々とはどこのことか。言わぬでも知れたこと、アメリカ占領下にある八丈島、奄美大島、琉球諸島のことでなければならぬ。世界の平和を維持し、日本が平和国家として立つて行くためには、この約束を守つてもらうために、これらの島々の軍事施設を撤去し、日本への復帰をサンフランシスコ会議において吉田総理は主張すべきであつた。ソ同盟全権グロムイコ氏も、サンフランシスコ会議でこれを主張したし、インドのネール首相も、ひとしくこれらの島々の日本への復帰を妥当としておる。日本国民にとつて、これほど力強い味方はないのだ。奄美大島二十万の島民の悲痛な叫びが吉田総理には聞えないのか。全島を焦土として日本へ帰還すると叫んでおるではないか。吉田総理は、それとも、凍結した主権という、ばかげた欺瞞で満足するつもりなのか。明確な答弁を要求する。  次に、講和が結ばれたならば、進駐軍の命によつて罰せられることもなくなるであろう、ジープが来て税金や供出米が持ち去られることもなくなるであろう、これが国民の期待だつた。皆さんもそう期待しておつたろう。ところが、池田大蔵大臣は、サンフランシスコ会議から帰国早々、大蔵省の役人を集めて、さあ税金の取立てだ、差押えの強化だ、これから日本国民の生活はますます苦しくなる、と言つておる。この一事をもつてしても、国民講和に対する期待はまつたく裏切られてしまつて、六箇年間、所得税総額の約四分の一ずつを毎年みついだところのアメリカ軍隊の駐屯費は、朝鮮戰争の激化でますます増大するであろう。対日援助と称して、敗戦以来日本国民アメリカから受けた恩恵は……。
  15. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 井之口君に申し上げます。申合せの時間が過ぎましたから簡潔に願います。
  16. 井之口政雄

    ○井之口政雄君(続) 急ぎます。――何と八千億からの負債となつて国民はまつたく借金奴隷となり、その元利拂いのために将来永久に泣かねはならぬ。外国人財産の弁済から、戦前外債の元利拂い、敗戰後の不等価交換で、鼻血も出ぬくらいに日本経済はしぼりとられておる。吉田総理は、国際信用を維持するために、誠心誠意この負債の安拂いに応じますと、平身低頭している。それほど奴隷的な奉仕をせねば自由国家群の一員にしてもらえないのか。自由国家群なるものは、何と無慈悲、冷酷な守銭奴ではないか。  これに引きかえて、日本軍国主義から最も大きな被害を受けた中国は何と言つておるか。周恩来外相の公式声明は、日本の平和産準を無制限に発達せしめるために、きわめて少額な賠償総額をあらかじめ国際間に協定して、フィリピンやインドネシアヘの公正なる賠償を可能ならしめることを方針として、日本国民に呼びかけておる共産兄に指導される人民の政府は、かくも双好的であり、かくもやさしいのだ。日本国民は、今こそいずれが日本民族にとつて真の友であるかを知りつつあるのだ。吉田政府は、今や朝鮮戦争に介入せんがための厖大な軍事費を必要としている。その費用は数千億に達する。十二万の官業労働者の首切りは、他方で二十万の警察官、警察予備隊員、税務官の増加を伴うであろうし、五百億の所得税の低減は、他方で数千億の増税を瞞着せんがためのカムフラージである。電気、ガス、水道、郵便、鉄道の料金は引上げられ、主食の値上げは農民にすら何ら利するところなく、一般物価高騰のてこになつて、全国民を塗炭の苦しみに追い込みつつある。これが講和條約の必然的な結果である。日本アメリカの植民地となつたことの大衆の実感である。  国民反対を弾圧するために、治安維持法にひとしい団体等規正法、ゼネスト禁止法、プレス・コード等のフアツシヨ体制を整えることで切り抜けようとしている。これを反動と言わずして何と言うか。吉田総理は、全国の労組並びに大衆団体がこれらの弾圧悪法反対の叫びをあげているのを聞いたか。日本国民は、断固としてかかる戰争準備と亡国條約の批准反対すべきことを、われわれ国家議員要求しているのだ。(発言する者多し)共産党は、この国民の声にこたえ、国民の心から要求しているポツダム宣言に基く全面講和朝鮮戰争への介入反対占領命令を継続する団規法、ゼネスト禁止法の制定反対を要求する。世界の平和は、五大国の平和協定によつてのみ実現される。吉田内閣は、この国民の声を満足せしめ得るか、せしめ得ないとすれば、まさに退陣すべきではないか。
  17. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 井之口君、重ねて申し上げます。御降壇願います。     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  18. 吉田茂

    国務大臣(吉田茂君) 井之口君の御演説は、多くは事実に根底のない、虚構、曲解もしくは悪罵の連続でありますから、一々お答えできない。但し、事実か事実としてここに是正いたしますが、対日平和條約は、昨年の六月以来米国政府交渉を続け、もしくは意見の開陳をなし、自由に相互の意見を交換し来つたものであつて平和條約その他は、米国政府の意思によつて押しつけられたものではないのであります。またアチソン氏が、この條約が成立すれば朝鮮事変に介入せねばならぬなどと言われたことは一度もないのであります。また行政協定なるものは、これは秘密でも何でもないのであります。ないからないと申すだけであります。(「発表しろ」と呼び、その他発言する者あり)ないものは発表はできない。(拍手
  19. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) 高倉定助君。     〔高倉定助君登壇〕
  20. 高倉定助

    ○高倉定助君 私は、農民協同党を代表いたしまして、総理大臣の施政演説に対し数点の質問をいたさんとするものであります。私は各派代表質問の最後でありまするので、あるいは重複する点があるやもしれません。この点御了承の上、どうか懇切丁寧な御答弁を切望するものであります。  終戰後六箇年、わが国民が待望しておりました対日平和條約はサンフランシスコにおいて調印され、国民の将来にとつて明るい希望がもたらされましたことは、まことに欣快に存ずる次第であります。しかし、この平和会議に、中国を代表する政府が未決定のためその出席を見られず、ソ連代表が出席しながら遂に調印せず、中、ソ二箇国との関係が依然として戦争状態持続のまま持ち越されました事態は、きわめて遺憾に存ずるのであります。同じく会議に参加しなかつたインドは、早急に対日戰争状態終了を宣言し、寛大な態度で単独講和條約締結を明言していることは、せめてもの慰めであると思うのであります。  平和條調印によつてわが国は一切の占領下の束縛から解放され、ただちに完全自主権を回復し、国際社会の一員としての一切の自由を回復し得たかのごとき錯覚に陷つている向きが多いのでありますが、今後に残された幾多の問題をいかにして解決するかか重大問題であると思うのであります。すなわち、連合諸国のうち、平和会議に出席してなお調印を行わなかつたソ連、チェコスロヴァキア、ポーラント等の共産主義諸国との関係をいかに今後処理すべきかの問題はもちろんでありますが、不参加の中国との関係調整、インドビルマ、タイ国等、東南アジア諸国との関係調整が残されているのでありますが、これに対していかなる考えであるか、御明示を願いたいのであります。  わが党は、さきに講和問題につきましては、全面講和單独講和かにつき論議を盡しましたその結果、全面講和なしくずしの考えに到達したのであります。すなわち、サンフランシスコにおける條約締結を第一段階といたし、第二段階は中国政権との講和であり、しかして第三段階は、インドを中心とするアジアにおける諸国との講和進捗であります。特に中国につきましては、二つの政権に対しいずれを相手とするかということに対して総理の所信を明らかにせられたいのであります。  今回、サンフランシスコにおけるインドビルマの不参加は、会議に一抹の混迷を與えたようでありまするが、将来のわが国といたしましては、インドの好意ある申出は、わが国にとつて非常に好都合な状態であると考えるのでありまするが、総理はいかにお考えであるか、お伺いしたいのであります。  次に、独立わが国の経済自立と民生安定に重大なる関係を持つ貿易についてであります。これは、特に現下の事実上禁止されている貿易関係のもとに、香港を通じて中共との貿易が行われつつあるやに聞くのであります。かつ将来ますます盛んになるものと考えるのでありますが、総理サンフランシスコ演説におかれまして、中国との貿易は重要であるが、過去六箇年の経験が示しているように、しばしば事実よりもその重要性を誇張されていることである、かく言われておりまするが、今後のわが国といたしましては、中共と東南アジア方面こそ日本が平和裡に貿易を進めなければならぬところであると考えるのであります。私は、この中共との貿易の交流が、やがて中ソとの講和條約の機会をもたらすものと信じております。最近一部緩和された対中共貿易を、政府は今後いかに運営せられるかについてお伺いいたしたいのであります。  次にお伺いいたしたいのは、安全保障條約の行政協定の問題であります。総理が説明されました両條約の締結によつて、内政上当然具体的なものが出るはずであります。賠償、安保條約の行政協定などは未解決であるとはいいますけれども、今日の段階では、條約締結の経過報告的のもりは、すでに新聞及びラジオを通じて国民も十分に承知しているはずであります。ただこの際国会を通じて国民全体が聞きたいのは、今後政府安全保障條約の行政協定にはかくのごとき構想をもつて臨む考えであるとの具体的な問題をこの際明示されるものと、国民はこれを期待し、かつ熱望していたと思うのであります。ただ会議の事務的経過報告にすぎなかつたことはまことに遺憾でありますが、総理はこの際率直に所信を披瀝されて、国民の祖国を再建する心構えと決意にこたえることこそ当然と思うのであります。(拍手)この場合、私は、この安全保障條約には期間が明示されていることと思いますが、その期間は何年となつているか、おそらく無期限ではないと思うのでありまするが、この点をお伺いいたしたいのであります。またこの條約につきましては、アメリカ側日本の安全をあくまで守り抜く義務規定がないように思うのでありまするが、もしさようといたしましたならば、わが国といたしましては、今より自衛権確立の何らかの方法を考えておかねばならないと思うのでありますが、この点について所信をお伺いいたしたいのであります。  次に賠償問題について、きわめて重点的にお伺いをいたします。賠償問題につきましては、具体的事項は今後の当事国間における折衝によつて決せられるのであります。昨日来、総理並びに大蔵大臣の御答弁を拝聴しておりますると、金銭賠償は絶対に応じられない、役務賠償方法によるのだと言われておるのでありまするが、あまりにも漠然とした答弁であります。すなわぢ、役務賠償といえども、そのすべては国民負担に帰するのではないかと思うのでありまするが、いま少しく具体的な方法をこの際明らかにしていただきたいのであります。  次に領土の問題についてお伺いいたします。領土問題につきましては、特に千島列島は民族的、歴史的にわが国領土であることを、首席全権としての総理が、サンフランシスコ会議で強く発言せられましたことは、まことに意を強うするところであります。ところが、今回の演説には、何らこの千島問題には触れておられない。過般の演説の中に、南西諸島の処理については、国民諸君が冷静に事態に対処して、アメリカ政府の善意に信頼を置かれ、これら諸島の地位に関する日米両国の協定の結果を待たれるよう希望するものであると説明をしておられるのでありまするが、これと関連する千島列島、特に南千島並びに歯舞色丹諸島の問題については何ら触れておらないことは、すでに平和会議において、わが国の帰属であるということに決定を得たのであるかいなか、お伺いいたしたいのであります。もし決定していないといたしまするならば、この問題は今後どのように処理せられる考えであるかをお伺いしたいのであります。  さらに、この千島問題と密接の関係を有するところの、わが国北辺における防備の問題についてお伺いいたしたいのであります。北海道の北辺の地域は、今後国際的に見てきわめて重要な状態にあることは、御承知通りであります。最近の新聞の報道は、根室国標津港より、現在ソ連占領下にある国後島において、ソ連軍の演習とおぼしき砲声がときどき聞えているのである。またその警備状態が望遠鏡を通じて望見されるのであります。この地方の住民は、日を追うて深刻なる不安にかられておる状態であるのであります。また南樺太と対峙する宗谷地方におきましてもしかりであります。がくのごとき北海道全地域としては、今後治安問題はきわめて重大といわなければなりません。現在北海道にはある程度の警察予備隊並びに海上保安隊が重点的に配置はされておるようでありまするが、はたしてこれで万全を期することができるでありましようか。この際積極的に防備の増強をする意思がないかをお尋ねしたいのであります。この防備には相当の人的資源を要するのでありますが、あの能率の高いアメリカのTVA等に活動いたしました工兵隊のごときものをつくつて、これによつて道路、橋梁、河川等の修築に半ば動員し、その間において機械的技術を習得いたしますとともに労働力を提供し得る組織を考えることも一策であると思うのであります。この機会に総理の一考を煩おしたいのでありまするが、あわせて御答弁を願いたいのであります。  最後に米麦の統制撤廃について、吉田総理を初め所管大臣の御所見を伺いたいのであります。吉田総理は、施政方針演説におきまして、主食の統制をすみやかに撤廃する方針を明らかにされたのでありますが、私は現下の国際情勢並びに国内需給関係から見て危惧の念を深くしておるのであります。過般来、政府の米麦統制撤廃の方針が一たび新聞に発表されまするや、生産地は当然の結果として供出が澁滞し、消費地はやみ値の高騰で混乱しておるのであります。政府はこれに対していかなる処置を考えておられますか。  そもそも政府並びに與党が統制撤廃を実施しようとする動機として伝えられるところによりますれば、まず今回の行政整理に伴う農林省の人員整理があげられており、さらに自由党の選挙公約がその理由とされておるようであります。これらのいずれを見ましても、その動機は不純なものであり、われわれの納得のできないところであります。われわれは、過去数年の間、政府の一貫性のない食糧政策に悩まされて、不安と混迷が続けられて参つたのであります。現にわが国の食糧事情は、国内だけでは絶対量が不足しておるのであります。その必要量の四分の一を外国からの輸入にまたなければならないという不安定な状態であり、この現実の問題を無視して、党勢拡張や行政整理に名をかりて米麦の統制を撤廃するに至つては、本末転倒もはなはだしいといわなければならないのであります。  われわれは、講和條約締結後におけるわが国の自立経済確立を期するためには、まず第一に国民生活の基本をなす国内食糧の飛躍的増産をはかることが最も緊要であると確信しているのでありまして、そのための強力なる国家の施策をわれわれは期待しているのであります。吉田総理は、主食の統制撤廃によつて農業の生産力の増加をはかりたいと言われているのでありますが、いかなる根拠に基いてかく申されるのか、その所見を伺いたいのであります。  なお最近の新聞によりますと、政府は統制撤廃後における混乱に狼狽いたしましたのか、供出不振に対処して、統制撤廃に関する法案が成立するまでの措置として、政令をもつて食糧管理法案を改正しようというのでありますが、その真偽のほどをお伺いしたいのであります。もし国会開会中に、かくのごとき重要問題が一片の政令で処理されるとしたならば、国会無視もはなはだしいものでなければならないのであります。(拍手)さらに統制撤廃に伴い、当然考えなければならない今後の需給関係、価格問題等について、所管農林大臣の率直なる所見をお伺いいたしまして、私の質問を終りといたします。(拍手)     〔国務大臣吉田茂君登壇〕
  21. 吉田茂

    国務大臣(吉田茂君) 高倉君にお答えいたします。  終戦後、インド政府は、絶えずいろいろな場合において、日本政府及び日本国に対して好意を表しておつたりであります。またこのたびの平和條約についても、これは私の想像でありますが、日本に対してさらに有利な條件をというような考えからであろうと思いますが、参加しなかつたことは残念に思います。しかし、すでに日本との間において戰争状態を終結する、さらに進んで講和條約も締結したいという意思は表示せられておるのであります。  ビルマについては多少問題があります。損害賠償というような問題があるために、講和條約締結までには多少時間がとられるかもしれませんが、しかし講和條約は締結したいという意味合いはすでに表示せられておるのであります。  タイ国との関係は、従来はなはだ親密なものがあり、また戰争中も損害というような問題はないのでありますから、このタイ国との間の平和関係回復はむずかしい問題ではないと考えます。  中国については、御承知通りに、すでに朝鮮事件でもつて連合国との間に戰争状態が成立しておる。また国内においては統一が完成せられておらないとかいうような関係から、講和條約にただちに参加するということに至りませんでしたが、中国日本との間の関係は多年の関係であり、また経済関係においても密接な関係が現存いたしておるのでありますから、自然そのうち打開の道が講せられるであろうと思います。  東南アジアについても同様であります。この東南アジアの開発については、すでに問題になつておるのであつて、この開発に日本が協力したいという考えは、われわれとしても十分持つておるのでありまして、問題が起つた場合には、開発協力には十分の努力をいたす考えであります。  安全保障條約の中の行政協定については、しばしば申す通り、いまだ具体的の話まで進んでおりませんが、しかしこの問題は近く協定に入るはずであります。いかなることが問題になるかといえば、結局駐兵兵力であるとか、あるいは駐屯軍の所在地であるとか、あるいは駐屯軍に対する行政、司法等の関係をどうしたらいいかとか、あるいは費用の負担ということが問題になりましようが、これはあるいは法律案として、あるいは予算案としていずれ国会の承認を得ることになろうと考えます。  安全保障條約の期限につきましては、第四條にはつきり書いてあります通り、国連による安全措置、あるいはまた集団的防禦方法等に対する措置がきまつて日本の安全が確保された場合には、日米両国の間にその終了を議するということが明らかに書いてあります。ただ、いつくかという期限は書いてありませんが、日本の安全が確保せられるような状態が現出せられた場合、存在いたしたその瞬間において、この問題は両国政府の間に取上げられるはずであります。  その他の問題については主管大臣からお答えを申し上げます。(拍手)     〔国務大臣根本龍太郎君登壇〕
  22. 根本龍太郎

    国務大臣(根本龍太郎君) 高倉君の御質問にお答えいたします。  統制撤廃の方針が示されたために、生産地並びに消費地において非常に混乱を来しておるとのお話でありますが、現在の状況を見ますると、早場米の供出が若干遅れておることは事実であります。しかし、これは御専門の高倉さん御承知のように、本年は秋の気候が若干遅れたために、稔実が遅れたことが一つ、それからもう一つは、電力事情のために脱穀調製が遅れただけでありまして、現在は着々供出が進んでおる次第であります。消費地におきましても、これは現在そうした現象は起つておりません。現在は規定の通り配給を実施しておるために、国民が食糧について何ら不安は感じていないのであります。  その次に、現在の状況から見まして、統制を撤廃するならば食糧において非常に不安になるではないかとのお話でありますが、私はそう感じません。その理由は、毎年わが国の米の生産量は六千三、四百万石、麦において二千五、六百万石であります。米麦だけで大体八千五、六百万石になつておるのであります。そのほかに外国からの輸入食糧が約二千数百万石ありまするので、年々合せまして一億一千万石以上の米麦だけの手当が完全にできるのであります。この意味におきまして、食糧については全然心配はないのであります。  次に統制撤廃に関する手続上の問題を問われておるのでありまするが、この法的手続については目下検討中でございます。  次に、需給調整並びに価格の調整についてはいかなる構想を持つておるかということでございまするが、これは米穀需給調整法というような立法をいたしまして、これに基いて需給の調整と価格の調整をいたしたいと思つております。(拍手
  23. 岩本信行

    ○副議長(岩本信行君) これにて国務大臣演説に対する質疑は終了いたしました。  本日はこれにて散会いたします。     午後三時五十一分散会