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1951-10-24 第12回国会 衆議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月二十四日(水曜日)     午前十時十八分開議  出席委員    委員長 田中 萬逸君    理事 北澤 直吉君 理事 倉石 忠雄君    理事 島村 一郎君 理事 竹尾  弌君    理事 笹森 順造君 理事 並木 芳雄君       池田正之輔君    石田 博英君       石原 圓吉君    石原  登君       伊藤 郷一君    植原悦二郎君       小川原政信君    菊池 義郎君       栗山長次郎君    近藤 鶴代君       佐瀬 昌三君    鈴木 正文君       田嶋 好文君    田渕 光一君       橘  直治君    仲内 憲治君       中山 マサ君    西村 久之君       西村 直己君    原 健三郎君       福田 篤泰君    藤枝 泉介君       守島 伍郎君    若林 義孝君       小川 半次君    中曽根康弘君       山本 利壽君    田島 ひで君       林  百郎君    米原  和君       中村 寅太君    黒田 寿男君       佐竹 晴記君  出席国務大臣         内閣総理大臣         外 務 大 臣 吉田  茂君         法 務 総 裁 大橋 武夫君         大 蔵 大 臣 池田 勇人君  出席政府委員         内閣官房長官  岡崎 勝男君         外務政務次官  草葉 隆圓君         外務事務官         (政務局長)  島津 久大君         外務事務官         (條約局長)  西村 熊雄君     ――――――――――――― 本日の会議に付した事件  平和条約締結について承認を求めるの件(條  約第一号)  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約  の締結について承認を求めるの件(條約第二  号)     ―――――――――――――
  2. 田中萬逸

    田中委員長 会議を開きます。  本日は平和條約及び安全保障條約について一般的の質疑を行うことといたします。難田壽男君。
  3. 黒田寿男

    黒田委員 私は今日は時間があまり与えられておりませんので、簡単に一、二お尋ねを申し上げてみたいと思います。  最初は日米安全保障條約によつて生ずる、日米両国間の権利義務関係について御質問申し上げたいと思うのであります。私はこのように思うのであります。日米安全保障條約によつてアメリカわが国に対し駐兵権を持つことになる。ところがそのアメリカ軍隊を、日本の安全を保障するために使用しなければならぬという法的の義務は負わない。日本の側からいえばどうかといいますと、アメリカに対し、基地提供等法的義務を負担することにはなりますけれどもアメリカ軍隊使用日本安全保障のためにアメリカに対し要求する條約上の権利は持たぬ。ただ、政治的にまた道義的にアメリカ軍隊による安全保障を期待し得るにすぎないのである。これが日米安全保障條約における日米間の権利義務関係である。これがこの條約の真相である。私はこういうふうに考えておるのであります。私がそう考えます理由を簡単に申し述べておきたいと思いますが、なぜ私がそういうふうに考えるかと申しますと、まず第一にアメリカ側権利についてであります。それは安命保障條約の第一條に、平和條約及びこの條約の効力発生と同時に、アメリカ軍隊日本国内に配備する権利日本国は許与し、アメリカ合衆国はこれを受諾する、こういうふうに明記してありますから、アメリカがこれによりまして駐兵権を得る。こういう権利アメリカが得るということは申すまでもないと思います。ところがアメリカ安全保障義務を負うことになるかどうか、この点になつて参りますと、第一條の二行目から以下に、アメリカ軍隊は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、並びに、日本国における大規模の内乱及び騒擾を鎮圧するため、日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる、と書いてあるのであります。使用することができというのと、使用するというのとではこれは非常に違うと思う。(「大学講義みたいなことを言うな」と呼ぶ者あり)これは大学講義ではありません。重大な法律解釈の問題であります。使用しなければならぬ、使用するというふうには書いてないで、「使用することができる。」と書いてあるにすぎないのであります。これは私は軽々に見のがすべき言葉ではないと思う。これは米比相互防衛條約や、アメリカ・オーストラリア・ニユージーランド安全保障條約の規定表現と異なつていると思います。日本安全保障條約に関する第一條のこの言葉は、これはアメリカ軍隊日本安全保障のために使用するかいなかをアメリカの一方的な意思にゆだねてあることを示す規定でありまして、軍隊使用義務があることを法的に規定しておるものではないと私は考える。このことは前文に「アメリカ合衆国は、平和と安全のために、現在、若干の自国軍隊日本国内及びその附近に維持する意思がある。」と書いてありますのと対応するのでありまして、この前文趣旨アメリカの一方的な意思を示したものでありまして、駐兵義務のあることを示したものではないと私は考える。元来この安全保障條約は、前文と五箇條よりなつておりますけれども、骨子は今第一條について説明いたしましたところで書きておるのであります。他は補足的な條文にすぎません。第二條の規定も、第一條に掲げる権利行使される間は、日本国は、アメリカ合衆国の事前の同意なくして、もろもろの権利を第三国に許与しないということを書いてあるのでありまして、これも日本義務規定しておるにすぎないのであります。私はこのよう解釈いたしますから、前回総理質問いたしました際にも、この條約では、日本の側では義務ばかり負わされて権利はなく、向う側には権利ばかりあつて義務はない、これがこの條約の真の姿だと申したのであります。私はこの点を国民はつきり知らしておく必要があると思う。先日来の審議過程における委員諸君政府との質疑を聞いておりましても、委員諸君の中にも、この点についてはつきりした観念を持つておいでにならぬ方が少くないように見受けますし、政府の御答弁にもあいまいさがあつたように思われます。そこで私はこの点をはつきりさせておきたいと思いますので、私の右の見解に対して政府の方ではどういうようにお考えになるか、その点総理から承りたいと思います。
  4. 吉田茂

    吉田国務大臣 重大なる法律解釈でありますから、政府委員からお答えいたさせます。
  5. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 安全保障條約全般をごらんになりますとよくわかりますように、合衆国は、日本外部からの攻撃に対して日本防衛するために軍隊を置いてもらいたいという希望に応諾いたしまして日本に兵隊を置く事第でありまして、希望に応じて応諾する、国際の平和のために応諾するというところに、日本希望の原因となりまする外部からの武力攻撃が発生した場合には、これを防止するために軍事的措置をとるという合衆国趣旨が明白にインプライドされております。含まれておるのであります。黒田委員が御指摘になりましたよう北大西洋條約を見ましても、その第五條が規定いたしておりますところは、締約国は、その一国に対しまする武力攻撃が発生した場合には、武力行使を含み、その必要と認める措置をとつて助けをすることに同意するとあります。その必要と認める措置、これはその措置をとる国の認定によるということを明らかにしております。また武力行使も、武力行使を含みといつて、必ず武力行使をするという條約上の義務は負つておりません。また今年の八月に締結されましたところの合衆国と濠州・ニユージーランドとの條約、フイリピンとの條約を見ましても、締結国は憲法上の手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言するといつておるにすぎないのであります。本格的な集団保障体制を定めたこういう條約においてすらもが、必ず武力行使をするというよう條項は含んでおりません。それを黒田委員はよく御了解願いたいと思うのであります。
  6. 黒田寿男

    黒田委員 その点の御説明ならば、実は私の方から申し上げたいと思つてつたのであります。私は先ほど質問いたしましときに、日米安全保障條約の條文表示の仕方と、米比、あるいは米国・ニユージーランド・オーストラリア間の安全保障條約の軍事義務規定表示の仕方が違うということを私の方からむしろ指摘したのであります。解釈の相違といえば議論になつてしまいますれども、ただいま條約局長がお示しになりましたところの、アメリカ・フイリピン両国相互防衛條約第四條における「共通の危険に対処するため行動することを宣言する。」という表現と、日米安全保障條約第一條における「日本国の安全に寄与するために使用することができる。」という表現とは私は意味が違うと思う。違わないとおつしやれば、違う違わないという議論になつてしまいますが、私は違うと思う。だから、この点のはつきりと真実を知りたいから私は御質問申し上げるので、私から見るといどうもアメリカ義務を負わないような用語が用いられておるように思われますから、これを質問したのであります。これはしかし議論としておきましよう。しかし私は、ただいまの條約局長の御説明には承服することはできません。これは私が先ほど申しましたよう考えるべきであると思ふのであります。そこできようは時間がありませんから、もう一つだけ簡単に行政協定の問題につきまして質問を申し上げてみたいと思います。  日米安全保障條約第三條の行政協定の問題につきましては、その内容はどうかという質問が、今日までの審議過程におきまして、他の委員諸君からもたびたび政府に対しなされたのでありますけれども、これに対し総理初め政府委員は、まだ成案ができていないのであるから、答えようにも答えようがないではないか、という答えを繰返されたのであります。そこで私も過去においてなされましたよう質問を、きよう同じく繰返そうとは思いません。少し角度をかえまして質問申し上げてみたいと思うのであります。  政府行政協定内容について、口をかたくとざして沈黙を守つておいでになりますが、何とかこの問題を解く方法はないだろうか、そう私は考えてみました。私は第一に最近締結されました、ただいま條約局長指摘されました二つ安全保障條約、すなわち今年八月三十日に調印されました米比相互防衛條約と、その翌々日に調印されましたオーストラリア・ニユージーランド・アメリカ三国間の安全保障條約と、この日米安全保障條約とを比較してみたのであります。まぼ三国の安全保障條約の方では、米国軍の他の二国に対する常時駐屯規定がありませんから、そういう点で日米安全保障約と異なつておるのであります。従つて行政協定問題の参考には三国條約はならぬ、私はそう思います。そこで米比の條約の方はどうかと考えました。この條約も、米国軍隊フイリピンにおける常時駐屯條項は含んでおりません。ただフイリピンには、別に米国との間に一九四七年三月の米化軍事基地協定というものがありまして、アメリカフイリピン特定地域軍事基地として使用することを許しておるのであります。フイリピンにはアメリカ軍隊基地がこういう理由で存在しておりまして、そこに米国軍隊駐屯しておる、こういう関係になつておるのでありますが、この駐屯は今申しますように、安全保障條約に基くものではなくて、軍事基地租借契約に基いておるのであります。ところが日米安全保障條約におきましては、安全保障條約の中に基地使用を許すということになつておるのでありますから、アメリカフイリピンとの間の二つの條約を、日本アメリカのこの條約の場合には、一つの條約で兼ねているというような性質になるのではなかろうかと思うのであります。もとより租借契約安全保障條約による軍隊駐屯及び基地使用とは、正確に申しまして同一ではありません。けれども、とにかく外国軍隊日本に来る、従つてその基地をどうするかという問題については、租借問題と共通するところがあると思います。私は、日本安全保障條約においては、フイリピンの場合に二つの條約でやつておるものを一つでやつておる、こういうふうになるのではなかろうかと思うのでありますが、この点そういうふうに見てよろしゆうございますか、政府の御意見を承りたいと思います。
  7. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御答弁申し上げます。米比軍事基地協定は、御指摘通り基地協定でございます。基地協定の特色は、ある一定地域を限り、同條約は九十九年といたしておりますが、年限を限りまして、その地域に対する管轄権相手国に全部供与する、これが基地協定であります。戦時中英米の間に行われた條約もさようであります。今回日米安全保障條約によりまして、日本駐屯するアメリカ軍との関係におきましては、さよう基地協定ということは一回だも両国政府間に問題になつたことはございません。要するに日米安全保障條約のもとにアメリカ軍日本駐屯する関係は、最もこれに似た事例を申し上げますれば、北大喜西洋條約に基いて、西欧諸国要請合衆国軍隊が欧州のイギリス、フランスその他に駐屯いたしております。それと同じ関係でございます。軍隊駐屯する、従つて駐屯地の国の政府がその軍隊に施設、役務を提供してこれに協力する、こういう関係が生ずるにすぎないのであります。
  8. 田中萬逸

    田中委員長 黒田君に申し上げます。時間が迫つておりますから、ごく簡潔に質問だけをお願いたします。
  9. 黒田寿男

    黒田委員 むろん私も先ほど、軍事基地租借契約による軍隊駐屯安全保障條約によつて軍隊わが国駐屯することとは同一であるとは申しませんでした。しかし外国軍隊わが国に来て日本一定土地使用するという関係においては、やはり共通したところがあると思います。フイリピンの例でいえば、こういう土地使用することについては、フイリピンの場合は別な契約をしておるのでありますが、日本はそれをやらないで、そういう問題に関して行政協定をやるのではなかろうか、こういうふうに私ども考える。  そこで私はさらに質問してみたいと思うのであります。ただいまも申しましたように、租借地の場合と、安全保障條約においてアメリカ日本土地を事実上軍事的に使用することとの間には、日本人にとつてどのような重大な差があるかということを私ども考えてみなければならぬ。軍事基地租借の場合は、ただいま條約局長が申されましたよう一定地域限つて使用するという権利を他の国が獲得するということになるのであります。ところがこの安全保障條約によつてアメリカ軍隊日本にやつて参ります場合には、特定軍事基地を獲得するということは目的になつておりません。日本防衛のために駐兵するのでありますから、必要に応じますと日本全体が駐屯基地になり得るといゐような場合もあると考えなければならない。ここが租借契約安全保障條約との差でありまして、しかもこの安全保障條約には、租借地以上のこのような重大問題が含まれておると私は考えるのであります。このよう考えて来ますと、日米安全保障條約におけるわが国領土米国軍隊による軍事基地的使用は、単なる軍事基地租借契約におけるわが国領土使用という場合よりも、もつと重大な内容を持つておるものでありまして、司法上、行政わが国の受くべき制限、あるいは国民基本権国民自由権国民経済生活との関係等におきまして、わが国国民としましては重大な関係を持つものであります。このよう考えた場合に、行政協定内容は、断じて法務総裁の言われるよう施行細則にすぎぬ、あるいは外務次官の言われるように単なる事務的の問題にすぎぬ、というよう軽々に取扱うべき問題ではなく、国会承認を得なければならぬ問題、條約として取扱われなければならぬほどの内容を持つ重大問題であると私は考えます。そこで今日は時間がありませんから、何もかも一緒に申し上げましたが、私の結論は、行政協定内容が明らかになるまでは安全保障條約の審議は停止すべきである、こう私は考えます。そうしないで、このような重大問題を含んでおる行政協定内容が明らかにせられないままで、白紙委任のごとき方法で、このままこの條約の賛否を決することは、国会として国民に対して親切を欠く、責任を欠くと思います。以上いろいろな点を含めて、一緒総理からお答え願えればけつこうであります。お答え願えなければどなたからでもよろしうございますから、お答え願いたいと思います。
  10. 草葉隆圓

    草葉政府委員 基地の問題につきましては、ただいま西村條局長が申し上げましたように、一定地域限つて、しかも一定年限限つて、そこの管轄権軍事行動目的のために使うというのが、これが基地の根本的な考え方であり、概念であると思います。今回の日米安全保障條約は、るる申し上げましたよう日本の安全を保障する。従つてまた極東の平和と安全に寄与するという根本目標であります。基地の場合には、その国のいかんということを問うのではなしに、軍事目標のためにある一定の場所を一定の期間使用する。従つてそこの管轄権当該軍事行動において占むべきものであつて、根本的に考え方が違つておるのであります。日本の安全を保障するためにやつて行くものでありまして、一方はまつたく軍事的な意味においての、ある区域と期間とを限つて軍事行動のためにするので、その管轄権をさよう意味においてとり行うものであります。従いまして今回の日米安全保障條約は、この項に出ております五箇條條文による根本目的をごく細目的行政協定でとりきめをする、こういうのでありまして、基地における管轄権が、しからば全国に及ぶという考え方とは全然異なつておるということを御了承を願いたいのであります。
  11. 黒田寿男

    黒田委員 いろいろ質問したいと思いますけれども、時間がありませんからこれで打切つておきます。
  12. 田中萬逸

  13. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 社会民主党を代表いたしまして質疑いたします。第一に日本自由主義国家陣営に参加せざるを得なかつた根本的事由について承りたいと存じます。総理大臣は、本会議演説において、サンフランシスコ会議の状況を報じ、トルーマン大統領ダレス代表ヤンガー英国代表演説を引用して、これらの論調をもつてサンフランシスコ会議空気想像せられることと思うと言われ、かつ各国代表意見陳述の後に、所見を開陳する機会を与えられた私は、日本が欣然この平和條約を受諾する旨明らかにいたしました旨を述べられております。この演説だけを聞いておりますと、サンフランシスコ会議には、何の風波もなく、平穏無事、友好善隣会議であつて、條約はただ日本独立を与えるための恩恵的なものであつたと思われ、ただ随喜の涙のこぼれる感じがするのでありましよう。しかし報道機関は、必ずしもさよう状態でなかつたことを伝えております。ことに九月の十一日、毎日新聞所載工藤特派員国際電話記事を見て、私は強いシヨツクを受けたのであります。  それによりますと「サンフランシスコ冷戰、凄じい米ソ対立、来てみて知る中立の不可能」という見出しのもとに「コールド・ウオー(冷い戦争)のすさまじい姿を現実に見て驚、くというよりはある種の戰慄を覚えた。ソ連並びにその衛星国が場内に現われると一種の殺気が走り、ソ連がいなくなつた調印式はまるで家族会議ようなごやかさであつた。」といつております。また「対日講和はまつたくそつちのけにしてソ連側米英側が真つ正面にせり合うような場面がしばしばあつた。この会議に示された対立の激しさを見れば、この両陣営の間にあつて中立などということが至難というよりは不可能なことがよくわかる。」といつております。いうまでもなく、世界が氷炭相いれない二大勢力対立して鋭く拮抗しておることは、朝な夕なラジオに新聞に絶えず私どもは聞かされて参りました。われわれといえども、その深刻さは想像の及ぶ限り最大のものと考えて来たのありますが、右毎日の報道によれば、その想像も及ばない戦慄を覚えるもので、会議に臨んで初めて知ることのできたものであることが了承されました。私はこの記事を見て、いよいよ世界二つに割れた。この講和会議こそ世界分裂式である。日本調印こそ、自由諸国国家陣営への出初式であるという感を深ういたしたのであります。かよう考えるときに、今回の講和会議は、ただに日本独立のためにのみ開かれたものではない。緊迫せる世界情勢に対応するための自由主義国家陣営世界政策の現われであると見るのほかはありません。日本はこの世界の大あらしの中から、ただ一人のがるべくもなく、共同の生命を守るため一役買わされたものと思わざるを得ないのであります。はたしてしかりといたしますならば、この深刻にして緊迫をいたしました世界情勢に、ことに世界の縮図とも見られましたサンフランシスコ会議を通じて看取されまする世界緊迫状態、並びに自由主義国家陣営に投ぜざるを得なかつた根本的事実をここに明かにいたすことは、本案審議の上にきわめて重大であると私は存じます。しかのみならず、イタリアは、講和の日弔旗を掲げて、今日こそは悲しみの目であるといつたそうでありますが、日本の場合、それとは事態が異なつてお軌まして、同様には申されませんけれども、しかしいたずらに講和の甘さに陶酔し、背負わされたところの重大なる大役を忘れて、難局に処する気魄を失つたやからをして奮起せしむる要がありますと同時に、いまだもつて十分納得をしない、納得することを得ない国民に対し、熱誠を傾けて情勢の急迫を語り、日本の進むべき道はこれ以外にあり得ないことを説得して、感奮興起せしむるの要があると私は思う。総理大臣は、講和に臨むに際して、酒、タバコを断つて精進せられたと聞きます。まことに敬服にたえません。この委員会においても、かかる真剣さをもつて熱意ある、説明あらんことを熱望いたします。
  14. 吉田茂

    吉田国務大臣 サンフランシスコ講和会議空気を何と見たか、おのおの見る人によつて異なるでありましようが、しかし私は戰慄を感ずるというよりは、むしろ今日共産主義世界の大勢からだんだん遠ざかつておる一つの現われと見たのであります。しかしながら一方には、朝鮮において現に共産軍国連軍と戰つておるという事態にある。しかも何らの予告なしに突然共産軍朝鮮の南部を襲つたというような、晴天の霹靂というよう事態が今日なお見られるとするならば、しかも日本防備のない状態において独立した、そうすれば、この独立を守り、この国の安全を保障するのには、何らかの方法考えなければならぬ。すなわち安全保障條約を考えて、集団的防備方法考えざるを得なかつたのであります。自由群に投じなければならなかつたというのではなくて、日本独立を得た以上は、どうしてこれを守るかという考えから保障條約というものをこしらえるに至つたのであります。自由群に入らなければならぬというのではなくして、入る入らぬはまつたく日本の自由であり、現に何らの拘束を加えておらないのが、平和條約の建前であります。しかし現に独立した以上は、どうしてこの独立を守るか、この観点から保障條約をつくつたわけであります。
  15. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 私は十分納得いたしかねます。そこで私は私どもの得た情報に基いて、講和会議に重大な関係を持つた英国の態度を顧み、あわせて世界情勢の一端を探つて、さらに政府所見をただしてみたいと存じます。  今次講和会議がうまく行つたゆえんは、英国米国とがつちり組んで、自由主義陣営を強化して、一糸乱れず所期の目的に向つて邁進したことがあずかつて力あるものと私どもは思います。ところが、もともと英国は、第一に米ソ対立の中間に立つて、第三勢力を結集して、米ソいずれをも押えて、両者の衝突を避けるようにと、懸命になつておつたことは事実であります。第二に、再軍備強化に反対をして、社会保障制度一本やりで行こうとしておつたことも事実である。第三に西洋第一主義を唱えて、東洋第一主義に反対したことも事実であります。第四に、対日講和に文句をつけて、まず繊維工業の制限、商船の保有の制限、造船能力の抑圧を強く主張し、その主張が通らなければ講和には賛成できないという態度を示して来たことも事実と存じます。朝鮮動乱が膠着状態になりますや、マツカーサー元帥が満州爆撃中共封鎖、台湾国府軍の参戦を要求し、東洋で負けることは西洋でも負けるゆえんであると唱えて、強くこれを推進しようとしたときに、英国のアトリー首相は米国に飛んで、トルーマン大統領に強硬な談判をした。もしも米国にしてそのようなことをするならば、英国米国と縁を切つてソ連と結ばなければならぬという意向まで伝えたということが、ニユースとなつてわれわれに伝えられた。さすがのトルーマン大統領も、これに応ぜるを得なかつたか、ついにマツカーサー元帥を解任して、あのような結果になつたのであります。ところがその後に至つて英国は百八十度の転換を示し、社会保障制度一点ばりで、目の悪い者にはめがね、歯の悪い者には入れ歯、これを全額国庫負担というまでに徹底をいたしておりました英国が、ついにそれを半額国庫負担として、再軍備の強化を断行しようとするや、労働党左派のベヴアン保健相は憤慨辞職いたしまして、波乱を巻き起した。しかしそれにもおかまいなしに、さすがの英国も、もはや第三勢力ではいけない、今こそ米国とかたく結んで自由主義国家陣営を守るのでなければ、共産勢力の侵略を防ぎ切れないという結論に達するとともに、対日講和を促進して、日本自由主義国家陣営に加盟せしむることが共産勢力の侵略防衛に有効適切であるということになつて米国の推進しようといたします対日講和に対して持出しておつたところの一切の條件をひつこめて、米国とがつちり組んで講和の成立に協力をしたというのが、真相ではないかと思う。はたしてさように見ることができるといたしますならば、さらに英国が百八十度転回せざるを得なかつた窮迫せる世界情勢説明を得るならば、われわれが今日平和並びに安保両條約に対してとるべき態度についても非常に参考になると存じます。この点、総論的に総理大臣の御説明をいただきたいのでありますが、情報に関しまする限り、他の適当なお係より詳細その説明を願いますれば幸いであります。聞違いは御叱正を願いまして、足らざるところを十分御説明願い、英国百八十度転回の実相を明らかにし、われわれがこの両條約審議に際しまする参考資料として御提供あらんことを望みます。
  16. 草葉隆圓

    草葉政府委員 第三勢力あるいは大転換というような点は別といたしまして、いわゆる共産主義勢力が方々におきまして、御案内のような強い圧力をだんだん加えて参りまして、軍備が強力に実施されつつあり、ほかの国々は第二次大戦後におきまして、それぞれあるいは召集解除等の方法をとりながら、努めて平和方面に転換して参りました際におきましても、共産主義圏の国々におきましては、武力がだんだん増強されておる、かよう情勢で進ん参りまするときに、たまたま昨年六月朝鮮動乱が起り……。   (「うそをつけ」と呼び、その他発言する者多し〕
  17. 田中萬逸

    田中委員長 御静粛に願います。
  18. 草葉隆圓

    草葉政府委員 この朝鮮動乱は武力による侵略である。かような現実の情勢が起つて参りました。この情勢に対して、民主主義陣営が足並をそろえて世界の平和のためにしつかりと進んで来ることが最も大事であるという状態が、このような現実の姿に直面してはつきりと現われて参つたのが、英国がこのように態度を宣明するように相なりました点であろうと思います。もともと民主主義圏の国々が、ともども世界の平和のために手をつないで参つておりまする中にも、一層朝鮮問題等の現実の姿において、さらに民主主義陣営が足並をくずしてはいけないという認識が深くなつて参つた点より、このよう情勢に相なつて来ておると存じます。
  19. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 遺憾ながら、私どもの琴線に触れるもののないことは、まことに物足りません。この点については、さらにソ連の東洋政策と申しますか、ソ連の東亜に対する侵攻状態について、後刻安保條約についてさらにお尋ねをする際に掘り下げて伺いたいと存じます。  そこで、平和、安保両條約の二つにわたります総論的なものはこれだけにいたしまして、これより平和條関係について承りたいと思います。まず第一は、平和條約に関し一番問題となるものは、何といつて領土の問題であると存じます。総理大臣は、領土に関してはポツダム宣言八項に原則が定められておつて日本に帰属する諸小島は米英等の決定するところであつて、無條件降伏をした日本としては、これに対し何とも言う権利はないとおつしやつたようでありますが、その通りに相違ないでございましようか。ここにいま一度お確かめいたしておきたいと存じます。
  20. 吉田茂

    吉田国務大臣 無條件降伏をした以上は、連合国の決定にまつ以外に方法はないと思います。
  21. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 総理大臣は、日本が無條件降伏をしたのだから、何とも言うことができないと言われるのでありますが、しかしポツダム宣言十三項によれば、「吾等ハ日本国政府が直ニ全日本軍隊ノ無條件降伏ヲ宣言シ甘右行動二於ヶル同政府ノ誠意二付適当且充分ナル保障ヲ提供センコトヲ同政府ニ対シ要求ス」とございます。降伏文書を見ても、「下名ハ」「一切ノ日本国軍隊日本国ノ支配下二在ル一切ノ軍隊ノ聯合国に対スル無條件降伏ヲ布告ス」とあります。さらに「一切ノ軍隊の指揮官二対シ自身及其ノ支配下ニ在ル一切ノ軍隊が無條件二降伏スベキ旨ノ命令ヲ直二発スルコトヲ命ズ」と明記いたしております。無條件に降伏いたしましたのは日本国軍隊であつて、民主的国民ないし政府ではない。軍隊は無條件に降伏して消えてなくなりました。国民ないし政府は、ポツダム宣言の定むる條件に従つて生存し、なお活動いたしております。さればこそ、国民は選挙するの権利を有し、国会議員も選出し、国会を形成し、憲法を制定し、法律をつくり、予算を組み、自由にやつて参りました。政府またおのおの組織を整備して、その意思従つて行政をして参りました。いかに連合軍がこうありたいといつも、日本の各機関が予算を組まず、法律をつくらなければ、何ともすることができなかつたことは申し上げるまでもありません。政府が動かない限り、日本の政務はどうにもならなかつたことももちろんであります。この間むろん連合国総司令官の命令に従わなければなりませんでありましたけれども、これはポツダム宣言による條件を受諾したからであります。結局国民ないし政府が無條件降伏をしたというのではなく、ポツダム宣言という條件を無條件に承認をしたものといわざるを得ません。もしそうでなしに、われわれが無條件降伏をして、何の発言権がなかつたということになれば、講和を結ぶ権利もなかつたでありましよう。イタリアのごとく天くだり講和をのむのはかなかつたと存じます。しかし日本が今回講和会議に臨んで発言権を認められ、調印するといなとの自由を持ち、今やここに批准の前提たる両條約の承認を求むるところの国会が開かれております。われわれはその賛否いずれに決定しようとも、その自由を持つております。もし無條件で降伏して何の発言権もなくなつたといたすならば、このよう権利講和條約発効前に、一体だれから与えられたものでありましよう。また何年何月何日与えられたのでありましよう、これを解するに苦しむと存じます。従つて私は今回の條約の締結にあたつて、ポツダム宣言という條件の範囲において発言権があるものと存じますが、いかがでございましよう
  22. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日本は連合国がポツダム宣言という形で提示いたしました戦争終結の條件を無條件で受けて終戦いたしたのであります。無條件降伏というのは、戰勝国が提示した條件に何ら條件をつけずして降伏したという意味であります。その当時、政府、大本営連合会議においてポツダム宣言に対して種々の條件を付してこれを受諾したいという議があつたことは、佐竹委員よく御存じのことだと思います。ただ連合国が戦争指導方針として、無條件降伏というものを強く主張しておりました情勢から考えまして、日本全体といたしましては、何ら條件を付さないで、先方の提示した條件を受けたのであります。それが無條件降伏をしたという意味でございます。むろん先方が提示したポツダム宣言の中には條件がございます。その條件の一として、日本領土の範囲は連合国できめるという一項がございます。その條項従つて、連合国が日本領土について最終的な決定を与えるまで、日本といたしましては、あらゆる角度から日本要請国民感情その他が連合国によつて考慮に入れられるよう努力いたすことは当然でございますし、また政府といたしましては、十分その責務を盡したと存じております。しかしその結果、平和條約におきまして、連合国が最終的決定をいたしました以上は、條件をつけないでポツダム宣言を受諾した以上、日本としては男らしくこれを受けるものであるというのが、総理考え方だと存じます。
  23. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 言葉のあやはどうありましようとも、ポツダム宣言という條件を無條件で承認をいたしましたことは、ただいま西村條局長はつきり認められるところであります。よつて私はここで承りたいのは、平和條約第二條(C)に、千島列島、南樺太の放棄を書いてあります。同三條に北緯二十九度以南の琉球諸島及び小笠原列島等を信託統治に置くという米国の国連に対するいかなる提案にも同意する旨の規定がございます。これはいかなる根拠に基くものでございますか、千島及び南樺太の放棄は、おそらくヤルタ協定に基いたものではないかと想像されますが、ヤルタ協定は日本を拘束する力のございませんことは、過日すでに御説明を承りました。また国際法上何らの効力を有するものでないということも、われわれは信じております。ポツダム宣言においては、「「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク」と書いてあるが、ヤルタ協定には触れておりません。この協定に基いて主権の放棄をするというがごときは、とうてい首肯し得ないところであります。さらに北緯二十九度以南の琉流、小笠原列島等が、もし信託統治に付せられるとすれば、いわゆる潜在主権が残るといたしましても、いわゆる表現された主権はなくなりまして、ほとんど主権放棄と同様の結果になりますことも、これは争いがありません。ポツダム宣言のどこかの條項に、こういうことをやつてもよろしいという根拠がなければならないと思いますが、どの條項に基いたもものでございましよう。あるいは言うでしよう。無條件に降伏したのだから、日本に帰属する諸小島は米英等の決定するところに任ずるよりほかにはないという議論も繰返されるかもわかりません。しかしこれは無條件に降伏したから何でも向うの言う通りにならなければならぬというのでなしに、ただいま局長のお答えの通り、向うの提示した條件を無條件に承認したというのであり、その條件のいずれに当るかということをここに検討しなければなりません。総理大臣の御所見を承りたい。
  24. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御指摘の点は、ポツダム宣言に、連合国は積極的に北海道、本州、四国、九州の四つの大きな島は日本領土として残すということと同時に、その他の範囲は連合国できめるといつているわけであります。それを日本政府といたしましては、何ら條件をつけないで、これをお受けいたしております以上は一国民感情といたしましては、いかに苦しいことがありましても、最終的決定を下された以上は、涙をのんでこれを受けざるを得ないということでございます。
  25. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 だんだん御説明を聞いておると、まるきり日本が何か征服されて向うの言う通り、ただ盲従的に従わなければならぬ今度の條約はあたかもそんな條約であるかのごとき印象を受ける。当会議においてかくのごとき印象を受けながら論議を進めて行かなければならぬということに、私どもははなはだしく遺憾を感じます。千島、樺太の放棄、北緯二十九度以南の諸島の信託統治はポツダム宣言八項によつてやれるといたしましても、同項に基いたものといたしまするならば、同項の條件を守らなければならぬことは当然であります。今ポツダム宣言八項をごらん願えばわかる。冒頭に何と書いてあるか、「「カイロ」宣言ノ條項ハ履行セラルベク」と書いてある。カイロ宣言によれば、同盟国は自由国のためには何らの利得を求めず、また領土横張の念も有しないと書いてある。いささかも棄合国側において国の主権の及ぶ範囲を横張することを求めようといたしておりませんことは明らかであります。それなら、カイロ宣言では何を求めておるか。それはその項の次にこう書いてある。同盟国の目的は一九一四年の第一次戦争の開始以後に日本が奪取し、または占領した太平洋におけるすべての島を日本から剥奪すること、並びに満州、台湾及び膨湖島のよう日本国が清国人から窃取したすべての地域を中華民国に返還するということにある。また日本国は暴力及び強欲により日本が略取したすべての地域から駆逐せらるべしというのであります。ところが千島のうち、いわゆる南千島でありますところの択捉、国後等は徳川初代のころより日本人が領土し、いまだかつて他国人によつて支配せられたことのないことは申し上げるまでもありません。歯舞、色丹は北海道の一部でありますこともここで論じ盡されました。南樺太は明治八年の交換條約によつて千島と交換をし、一九〇四年ポーツマス條約で再びわが国の領有となつたものです。いずれも一九一四年第一次世界戦争開始後日本が奪取したものでも、また窃取したものでもございません。いわんや暴力及び強欲によつて略取したものでは断じてありません。北緯二十九度以南の琉球、小笠原諸島もまた歴史的に見ても、民族的に見ても、日本の固有の領土であつて、カイロ宣言にいわれる奪取したものでも、窃取したものでもなければ、暴力によつて略取したものでもありません。従つて「「カイロ」宣言ノ條項ハ履行セラルベク」という以上、この條項に何ら関係のない千島、樺太の主権を放棄し、北緯二十九度以南の諸島を信託統治に委すべき何らの理由もないことは言をまちません。はたしてしかりといたしますならば、今回の平和條約二條(C)及び第三條のごときは、右カイロ宣言を蹂躪したものというべく……。     〔発言する者あり〕
  26. 田中萬逸

    田中委員長 静粛に。
  27. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 日本としては、その條項の履行を求める権利があるものと言わなければならないと存じます。もつともポツダム宣言、前段の「「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク」というのと、後段の一「又日本国ノ主権ハ」云々「吾等ノ決定スル諸小島二局限セラルベシ」というこの文字は、おのおの独立的存在を有しておつて、後段には前段のポツダム宣言の條項はかかつていないと言うのでありましよう。それは文理解釈といたしましてそう言うのでありましよう。しかし前段において「「カイロ」宣言ノ条項ハ履行セラルベク」と規定をいたしており、そのカイロ宣言においては、はつきり領土の横張はしないと誓約をし、返還を求むるものは一九一四年以来の日本に奪取せられたもの、暴力によつて略取せられた島々に限ると明示しているのでありますから、日本はこの條件をのんで、この條件に従つて、これを受諾したのであります。よつて、その後段における「吾等ノ決定スル諸小島」とは、この條件にそむいてかつてほうだいにきめ得るものとは考えられません。カイロ宣言というわくを承諾し、カイロ宣言の條件に従つて降伏をいたしました以上、米英の決定はこのカイロ宣言の條件の範囲においてすべきは当然である。決定すべき諸小島もいわゆるカイロ宣言の定むる條件に従つて、その範囲内において決定すべきことは向うさんも條件として提示し、われわれもこれを承認した以上当然である。今回の平和條約第二條(C)及び第三條はこの範囲を逸脱するものと考えますが、どうでありましようか。
  28. 草葉隆圓

    草葉政府委員 御質問の点につきましては、ごもつもな点も多々あると思います。また今までも再三これは各委員から十分論議されました点でございまして、それで先ほど條約局長からも申し上げましたように、ポツダム宣言を受諾して、そのポツダム宣言によりまして、四つの島に局限される。その結果において男らしく、今度の平和條約における第二條の領土という点について受諾し、これに対しまして総理は特にサンフランシスコ会議におきまして、決して千島、樺太は略奪したものでも何でもない、お話の通りに昔から、ずつと以前から、日本の歴史上からも地理的関係からも、経済的関係からも、日本領土であつた。何ら国際條約の上にも問題が起らなかつた点をじゆんじゆんと申しておられるのであります。十分この点は佐竹委員も御承知だと存じます。従いまして、今回の平和條約におきまする條項に対しましては、日本の立場の心持は総理から十分伝えながら、この條約に署名した次第でございます。
  29. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 お答えでは何らの根拠も示されませんでした。要するに私はポツダム宣言第八項の解釈を求めているのです、ポツダム宣言は一つの條件として提示された、その條件をわれわれは承認したのであります。従つてその範囲内において向うさんも義務がある、われわれもまた義務があると同時に権利がある。ところがその條項に違反しているのじやないかというのです。違反しておらないという論拠をあげて御説明つて初めて答弁になります。答弁をなしておりません。しかし私は時間がございませんので、論議を繰返すことを省略いたしまして、さらに進めて参ります。今回の條約第二條(C)、第三條のごとき規定が許されるということになれば、それ自体カイロ宣言違反ではないかと私は考えます。すなわちカイロ宣言では、奪つたものは返せというのです。戦争の結果譲り受けたものを返せというのでありますが、それなら米英等連合国が、今回の戦争の結果、日本本来の領土であつた島々まで権利を放棄させ、連合国の権力内におき、あるいは信託統治にするということは、逆に日本に力を加えて、その頭上を奪うものではないでありましようか。カイロ宣言でもつて日本が力を加えて奪つたものはいけないから返せという口の下で、今度は逆に向うさんが、日本へ力を加えて、日本の固有の領土を奪おうとするがごときは、まつたくそれ自体カイロ宣言違反ではないでありましようか。かくのごとく、われわれに対し奪つたものは返せと言つておいて、今度は逆にわれわれに力を加えて奪うがごときは、国際正義の観念に照して許され得べきことでありましようか、承りたいと思います。
  30. 草葉隆圓

    草葉政府委員 ポツダム宣言にいたしましても、カイロ宣言にいたしましても、これはいわゆる関係国の宣言でございます。ことにポツダム宣言は、その宣言を信じて日本は無條件降伏をいたしたのであります。従いまして、そういう立場から日本権利があると強く主張するという意味ではなしに、このポツダム宣言を信じた上においての行動をして参つたのであります。
  31. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 ポツダム宣言が宣言であることについては、これは間違いありません。しかしこちらが受諾をしましたならば、相互の間にその受諾関係において條約同様の効力を生ずることも、これは疑いありません。両者を拘束するものであるか拘束しないものであるかということについて、この席で論議を盡した。しかして政府も両者を拘束すると言つておる。向うさんも義務がある、こちらも義務がある、だから総理大臣は忠実にその義務を履行した。よつて向うさんも、日本が民主化されたから講和を結ばなければならぬとおつしやつた。問題の修損はこの「宣言の二つです。一部かつてにいいところのみをとつて他を捨てるわけには参りません。不利益なところも受入れなければなりません。してみれば、ただいまのごとく力を加えて戰争の結果とつたものは、たとい講和條約の結果とつたものでも、これを返せとおつしやる。それなのに今度向うさんがわれわれに力を加えてとつて行こうとする。これが国際正義の観念に照して許されるかというのであります。これに対し今度は條約できめるからかまわない、日本が受諾したんじやないかというかもしれない。それならば前の台湾だつて、樺太だつて、ちやんと両者の間に対等の関係において承諾の上にものをきめて取引をしたのである。われわれのやつたことはいけない、向うさんなら何をやつてもいいという、そういつた理念は、この委員会においては通りません。しかし私は論議を避けましてさらに進めて参ります。  総理大臣は本会議演説において、トルーマン大統領は歓迎の辞で、この平和條約は過去を振り返るものではなく、将来を望むものであると述べたと言い、またダレス代表は復讐の平和ではなく、正義の平和であると述べた旨を明らかにされました。他面ダレス氏が、今回の講和は和解と信頼の講和であるとおつしやつたことは周知の事実であります。ところが、ここにまことに遺憾に考えまもことは、ただいま申し上げました通り、今回の條約の基礎となつておりますポツダム宣言八項には、カイロ宣言が履行せらるべくとあります。カイロ宣言は、申すまでもなく戦争終末期における深刻なる敵対的うず巻の中に、日本武力を示して無條件降伏を求めたそれであります。カイロ宣言は日本に対する憎悪感を極度に現わしまして、日本を仮借なく制圧出しなければならぬということを宣言したものでございます。この原則をもつて講和内容とするということは、過去を振り返るものであり、また復讐の平和とも解せられるおそれがあります。和解と併願の講和ということに曇りを覚えざるを得ないのであります。ことにカイロ宣言には、すでに述べた通り、台湾、澎湖島のごとき、日本国が中国人より窃取したる一切の地域を中華民国が回復するにありといつておる。また日本国は、暴力及び強欲によつて日本国が略取いたしました地域から駆逐せらるべしとああります。日本を窃盗の強盗のといつておられますが、しかし台湾は一八九五年下関條約によつて、また樺太は一九〇四年ポーツマス條約で、しかもこのときは米国の大統領のルーズベルトの仲裁で割譲を受けたのであつて、もし独立国家間の任意の條約でとりきめたものまで、これを無視するということになつたならば、今日国際法上尊重されているところの條約というものは、一片のほごとなりまして、世界秩序は保たれません。のみならず、その條約によつて合法的に譲り受けたものまでも、強盗だの窃取だのということになつたならば、今日の世界の大国で、強窃盗でない国がはたしていくらあるでありましようか。ある大国のごときは、百年間に百回の戦争をやつて領土が百倍になつたというておる。その国の人々が、この宣言を基調とする條約を結んで、和解と信頼の條約であるといつても、それは筋が通りません。私は当初、おそらくこういつたような宣言とか何とかいつたようなものは一切抜きにし、ほんとうに今度は一切の過去のそういつたものにこだわらず、新しい條約が結ばれたものと考えておりました。それなら、自由に総理がどうきめましようとも、世界の客観情勢がこうだというならば、われわれも納得いたします。ところが本会議においても、あるいは当席においても、ポツダム宣言八項によつてきめた、こうだと打出されておりますので、しからば八項に何と書いてあるか、カイロ宣言は履行せらるべくと書いてある。カイロ宣言には何と書いてあるか、日本を強窃盗呼ばわりをしておるということになつてまいります。私は国民感情を刺戦するような、こういつたことをそのままにしておいて、ほんとうに日米立ち上つて共同の防衛をしようというのでは、遺憾な点が出て来るのではないかということを憂えます。こういう点については、少くとも誤解を解き、日本国家及び国民の面目を失墜しないような適当な方法が講ぜらるべきものであると考えます。講和会議の途中において、総理はいかなる態度に出られたでありましようか。また将来において何かこれを適当に処理するお考えがございましようか。たとえば別途、あるいはこの講和條約発効の日において、なるほどポツダム宣言八項に書いてあるところのカイロ宣言の中には、こういう文句をうたつておるけれども、今日においては決してそういつたようなことは考えていない、あるいは條約は尊重すべきもので窃盗だの強盗だのということを引用する意味ではないということをうたつて、こういつた感情を刺激しない適当な方法を講じて、友好善隣の事実を示さぬ限り、ポツダム宣言八項だ、カイロ宣言だといつてわれわれに押しかぶせて来るのでは、国民は承服することができないと思います。この点に対しまして、総理大臣といたしましては適当な方策をお持ちでございましようか、承りたいと存じます。
  32. 草葉隆圓

    草葉政府委員 御質問ように、サンフランシスコ会議におきまして、トルーマン大統領演説もありました。またトルーマン大統領は、もう真珠湾攻撃などというものは、それは忘れることはできないけれども、そういう過去のことは言うまいじやないか、そうして新しい日本の建設のために全力を盡してお互いに進むようにしよう、こういう意味であつたと私は解釈いたしておるのであります。従いまして今回の平和條約は、これはダレスさんも申しましたように、すべての国が百パーセント満足の行く條約には行かないかもしれないが、しかし戦争の跡始末としては、おそらくこれ以上には考えられないものではないかという点におきまして、旧殻から脱しまして、新しい日本の踏出しとして、私どもはこの平和條約を喜んで迎えた次第でございます。
  33. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 一向に問いにお答えがございませんことはまことに遺憾でございます。まるつきりのれんと相撲をとるとはかくのごときことでありましよう。私ははなはだ残念に思いますが、喜んで受諾したということは盛んにおつしやられますけれども、強窃盗呼ばわりをせられまして、それを喜んで受諾をして、国民が納得するものではございません。  私は論議をいたします時間が与えられませんので、さらに言葉を進めます。ここに一言したいのは領土の問題であります。領土の問題はただに国籍や交通の自由、便宜等で解決せられるものではございません。あの奄美大島の人々が祖先伝来の島々を日本の島として住みたい、日本の島として守りたいと言つて、絶食血書、もつて神に祈る姿を見て、涙なくしてはおられなかつたのであります。所詮領土問題は血のつながつた問題であります。この点深く御考察を賜わりまして、最善の御諒解を賜わりますことを希望として申し上げておきます。なお領土の問題についてもいろいろお尋ね申し上げたい点がありますが、時間が迫つて参りますので、この程度にいたします。しかして政治、経済、賠償等幾多の問題につきましても、これを省略いたしまして、次は安全保障條約の関係を承りたいものと存じます。まずお伺いしなければなりませんのは、日本日米安全保障條約を結ばなければならないような脅威を受けておるかどうかという点であります。條約文によりますれば、駐留する米軍が発動する場合は、第一に直接に外部から攻撃を受けた場合、第二に極東における国際の平和と安全を維持するに寄与する場合、第三に一または二以上の外部の国の教唆または干渉によつて引起される日本の国における大規模の内乱及び騒擾を鎮圧するためというのでありますが、まずこのうちの直接外部から攻撃を受けたり、極東の平和と安全を害するよう事態というものは、一体具体的にどのようなことを想定しておられますか、これを承りたいものと存じます。
  34. 草葉隆圓

    草葉政府委員 極東の現在の情勢から考えまして、日本平和條約によりまして独立しましたあとは、まつたく国防力を持たない、いわゆるまる裸の状態で立ち上つて行くことに相なります。武力を捨て、戦争を放棄しまして、そして独立するかつこうをとりまするので、まつたくそういう状態であります。しかるに現在極東におきまする情勢を見ますると、現に共産主義侵略の闘争が朝鮮においてはつきりとられておる。この状態において、このよう極東において日本独立することはまことに危険至極である、こういう情勢をさしまして、いわゆる極東情勢を危険な情勢と感じておる次第でございます。
  35. 田中萬逸

    田中委員長 佐竹君、ちよつと申しますが、持ち時間が迫つておりますから簡潔にお願いいたします。
  36. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 本委員会では過日社会党の勝間田委員より、日本は何の脅威を受けておるか、何がゆえに今回のような條約を結ばなければならなくなつたかという質問に対しまして、朝鮮動乱が論議の中心となつて政府は国連会議朝鮮共産軍が侵入したと断じたということを最大理由としてお取上げになりました。この朝鮮動乱はソ連極東制覇に関する一つの現われであることは相違なかろうと存じますが、ソ連極東進出はこうした問題と相関連、たしましてこれのみにはとどまらぬと存じます。すばらしく大規模な進出攻勢というものが感ぜられなければならぬと私は考えるのであります。一体ソ連極東進出情勢はどういつたものでございましようか、これを承りたいと思います。
  37. 草葉隆圓

    草葉政府委員 実はソ連極東進出の性質は、私どもは存じません。存じませんが、ただ具体的に現われました状態を申し上げるよりほかにはないと存じます。ソ連の政策をここで承知しないのに、推定して申し上げることは差控えたいと存じます。
  38. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 中ソ同盟の概要と秘密協定の内容を承りたいものと存じます。
  39. 草葉隆圓

    草葉政府委員 中ソ同盟は発表になつておる通りでございますが、秘密條約というのは承知をいたしておりません。
  40. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 一向にお答えがございませんので、私どもの得た情報を申し上げ、間違いかもわかりませんが、聞違いは御叱正を賜わりまして、しかして聞違いないところは間違いないとおつしやつていただきまして、ソ連極東進出の状勢を確かめたいと存じます。ソ連はシベリア鉄道一本に依存しなければならないことは、極東における軍事行動に一大弱点であるとし、ソ会は最近軍事基地を次第々々に東へ東へと移し参りました。西洋と独立して戦争のできる態勢を整えつつあることは明らかな事実であります。すなわちソ連はドイツ方面からの攻撃を避けて、ウラルの東クズバス炭田を中心として、マゴニトゴルスに大きな製鉄所をつくり、その両者を結んで強力なる軍需工業地帶となし、さらに東へ進んでハバロフスク、チタ方面に軍需工業地帶を建設し、他面ナガエボ、コマンドルスキーに潜水艦基地をつくりまして、しかして全シベリアを基地化しておりますことは申し上げるまでもありません。この情勢下に中ソ同盟が結ばれました。ソ連の東洋における根拠地は驚くべく強化されるに至りました。すなわち満州の工業地帶化はもちろんのこと、中国に六箇所の海軍基地を設け、また航空基地も数箇所つくられるに至つた。ソ連は日露の戦いに日本海で撃滅せられて以来三十年、まつたく領が上らず、不凍港さえ得られずに押え込まれておつたのでありますが、今や不凍港どころではございません。太平洋を手に入れたのであります。かくて海軍省を独立させ、一部局であつたものを一躍省に上か、旅順に海軍兵学校を設け、ロシヤ式海軍教育を始めようなつた。一方三万五千トン級の戦闘艦を建造している。しかして海軍はその重点を潜水艦に置き、いわゆるシユノーケルという水素エンジンによる優秀な潜水艦をどんどん極東基地に送つて組立て、盛んにこれを極東周辺の海洋に放つておる。かくて日本はすでに包囲を受けておるといつても過言ではないと私は存じます。一朝事あるとき、南洋との間を往来する船舶は危険にさらされ、わが日本の島国は立枯れになるところのおそれなしとはいたしません。かよう考えますとき、日本は相当に危機にさらされておるものと存じますが、政府はいかに考えておるでありましようか。
  41. 草葉隆圓

    草葉政府委員 お話のように、ソ連におきまする軍備その他につきましては、いろいろ情報が伝わつております。しかし私どもも單に新聞、外電等の情報以外には、現在日本の公館を外地に持ちません。従つて正式な情報を入手し得ません状態でございますから、にわかにこれを判断することは差控えたいと存じます。しかしただお話のように、このままの状態において、このよう朝鮮動乱その他大局から見ましての共産主義革命の押し進んで来ておる状態において日本独立をする、そうしてそのままの姿で立つて行くことはまつたく危険な状態である、かよう考えておるのであります。
  42. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 どうも満足する答えを得ませんが、時間がございませんので進めて参ります。一、または二以上の外部の国の教唆または干渉によつて引起された日本国における大規模な内乱及び騒擾を鎮圧するために、本條約の締結の必要があるとおつしやるのであります。現在かかる脅威がどのような具体的関係において認められるか、この点法務総裁より承りたいと思います。たとえば北鮮軍のスパイと国内治安問題、あるいは共産主義と騒擾事件の関係、具体的にあげますならば、たとえば神戸の事件その他の騒擾事件と、日本の今度のこの結ぼうとする條約との間に、やはり考えなければならぬ関係が含まれておるかどうか、この辺承りたいものと存じます。
  43. 大橋武夫

    ○大橋国務大臣 終戰後ただいままでの間におきまして、外国の教唆または干渉によつて大規模な騒擾が国内に起つたという事例は幸いにしてございません。
  44. 田中萬逸

    田中委員長 佐竹君、重ねて自制を促します。
  45. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 もう少し、ひとつお許しを願いたいと思います。私は本日の質問に集中いたしますために、今まで一言も発言いたしませず、じつと数日を忍んでまいりました。ほかの人は一時間も、二時間も、三時間もおやりになつております。せめて午前中だけでもひとつお許しを願いたいと存じます。  本條約は西村條局長の口をすつぱくしての説明にかかわりませず、冷静に聞いておりまして、法律的には確かに片務的、不平等條約であるという印象を否定することはできなかつたのであります。それはヴアンデンバーグ決議に従つて、完全な平等條約を結ぶためには、持続的にして効果的なる自助及び相互扶助を行うものでなければならというのに、日本には軍隊もない、自衛力もないというのが原因であることが大体想像されます。ところが日本軍隊はないにいたしましても、持続的、効果的に基地貸与、工業力の提供等による相互援助をなし得るとともに、共産勢力侵略の防波堤といたしまして、極東における唯一無二の地点でありますことは申し上げるまでもありません。その価値は十二分に認められなければならないと存じます。かつて米軍首脳部が、世界うちにいかなる場合においても最後まで放棄することができない地点はどこであるか、それは三つあると言つた。英本土とリビアと日本だと言つたということであります。それに自由主義国家陣営共産主義衛星国との間の人口のバランスはどうであるか。確かなる数字は私はここに得られませんけれどもソ連が一億三千万、中共が四億といわれておる。これに対する自由主義国家陣営はどうか、米国は一億、英国は四千万、濠州が六百万というのではとてもバランスかとれません。メン・パワーの面において、人の力の面において日本八千万の力を求むるや実に切なるものがございます。それにすでに述べたように、急迫いたしておりまする東洋の情勢下において、万一共産主義のために日本が侵略せられましたときには、同時に米国は危機にさらさるべきはけだし当然であります。かの太平洋戦争のときに、日本列島からの攻撃でさえ米国はあれだけの脅威を受けました。いわんやもし共産勢力が中国、シベリア、満州など、封鎖のきかない大陸を背景といたしまして、日本を拠点として米国への進撃を始めたならば、重大なる結果になるだろうということは想像するにかたくありません。そうだとするならば、日本列島それ自体の戦略価値は実に決定的であるといわなければなりません。さらに前述いたしました諸般の事情と照し合せますなら、ヴアンデンバーグ決議をたてに不平等の取扱いをするがごときは、断じて私の理解することのできないところであります。  本條約審議情勢においても、不平等、片務條約はすみやかに改むべしとの意向が強いことにかんがみまして、行政協定の際これを明らかに規定するか、また本條約は暫定條約であるから、本條約の成立をもつて改正への第一歩であることを宣言することが必要であると私は思う。そのことが国民を納得せしめ、日米共同防衛の熱意を振起せしむる上に、数万言を用いて弁解するよりもさらにより効果的であると存じますが、総理大臣はいかにお考えでございましよう
  46. 草葉隆圓

    草葉政府委員 これは数日前からるるお答え申し上げましたように、まつたく独立しましたあとの日本状態に対する、いわゆる平等の立場において結んだのでございますが、前文にもありまするよう日本状態であり、また前文にありまするよう極東状態でございまするから、この危險に対して日本の平和を守り、秩序を維持し、あわせて東亜の安定を期するために、米国軍隊の駐留を約束し、相談したのがこの條約であります。従いましてこの本質は、今後これはとりあえず、そういう状態になるか、さらに世界情勢がかわり、あるいは国際連合においてそれぞれの措置をとられるか、その他の方法によつてこれにかわる状態ができる環境になり、情勢になるならば、これは暫定的にこの條約を結ぶというので進んで参つた次第であります。
  47. 田中萬逸

    田中委員長 三度佐竹君に申します。時間が迫つて、あと笹森君もお待ちかねなのです。もう一問だけ特にお許ししますから、簡潔にお願いします。
  48. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 最後にそれでは再軍備の問題についてお伺いをいたします。六月三十日から七月三日にわたつて、ドイツのフランクフルトで開催されました国際社会党会議、いわゆるコミスコ大会で社会主義インターナシヨナルが再建されました。この社会主義インターは、全世界三十四の社会主義政党から成り、加盟政党支持者約四十四万、党員は一千万と称せられております。この大会へは日本の社会党からも代表者が出た。しかしてこの大会では重要なる決議案が提案された。英国のモルガン・フイリツプス書記長が提案をいたしました「社会主義者の世界的活動と、平和のための闘争」というのがそれであります。この要旨によれば、第一に、朝鮮動乱はコミンフオルムがその勢力伸張の手段として、軍事力を利用するのに何ら遠慮しないことを示した。第二に、社会主義インターはコミンフオルムの政策が自由な民主主義国として、軍事的防衛を高く優先的なものにせざるを得ないようにしたことを遺憾とする。しかして、民主主義国にとつてその武装力を築き上げ、戰争の場合には国連を通じてその役割を果すことの必要を承認しなければならない。第三、但し防衛に当つて、あらゆる犠牲の平等が各国に保障せられなければならないし、武装のみでは平和は十分に保障されず、内に完全雇用及び生活水準向上を目ざす建設的な社会主義的経済が必要であることを忘れてはならぬという三点であります。この決議案に対し、日本社会党からの代表者は棄権をいたしましたが、全世界の社会主義政党はこれを是認可決をいたしました。かくて世界の社会主義政党は、マルクス・レ一ニズムに訣別し、共産党へ一線を引いて、民主社会主義の線を確立し、再軍備強化に反対をいたしておりました英国労働党でさえ、率先してかような提案をし、これを可決するに至つたのであります。われわれはその感を深うせざるを得ないのであります。われわれは独立国家となつた以上、みずからの国はみずから守るべきは当然である。防衛のための再軍備はやむを得ないことを提唱いたして参りました。しかしもちろん元の軍国主義への復活は深くこれを戒め、侵略に利用せられるようなもの、非民主的なものは絶対に反対をし続けて参りました。総理大臣は、現在日本に再軍備する力がないこと、他国の誤解のおそれがあることを説いて、再軍備に賛同しがたい旨表明せられております。しかし最小限度の経費で不侵略、不脅威の軍備を用意することも、必ずしも不可能ではないと私は存じます。すなわち、たとえば潜水艦防衛のためには駆逐艦を必要とする。米国にはこれが余つておると聞く。その提供を受けて、乗組員その他最小限度の経費を投じてこれを構成する。駆逐艦は防衛するには用に立つけれども、侵略には用いられない。他面、空襲を防ぐためには戦闘機を必要とする。戦闘機を借りて来るなり、提供してもらつて空襲を防ぐに備える、しかし、その戰闘機は航続距離が短い。遠く南方、満州に進撃する力はありません。防衛はするけれども、侵略のできないところの不脅威不侵略の方法というものはある。しかしてこういつたよう一つの武器なら武器を米国その他から頂戴いたしまして、わずかな人員をもつて構成して、経費をわずかにいたしまして、不侵略不脅威の態勢というものは築き上げられないことはないと存じます。しかして経費がないと申しますならば、魂の脱けたような警察予備隊に多額の経費を投ずるよりも、このよう防衛態勢を確立するために投ずることが一層有効適切であると存じますが、総理大臣の御所見はいかがでありましよう
  49. 吉田茂

    吉田国務大臣 再軍備については、しばしば、現在はできないことを申しておりますが、御意見についてはよく考えます。
  50. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 時間がございませんから、これをもつて打切ります。
  51. 田中萬逸

    田中委員長 笹森順造君。
  52. 笹森順造

    ○笹森委員 問題を集約して簡潔にお尋ねしたいと思います。  両條約が本委員会の議に上りまして、質疑応答がかわされたのでありますが、日米安全保障條約については、その審議を進める上に大きな支障を来しておる現状でございます。すなわち、日米保障條約に関しまして、その主要点である行政協定の正体と内容とを全然示さずして承認を求めて来ておることに対しまして、私たちはこれではまつたく国会が内閣に対して、審議を盡さない問題の白紙委任状を渡すようなものであつて、立法権をゆだねられております責任の上から、とうてい承認することができないという段階まで参つたのであります。私たちは全国民の期待と理解のために、またこの行き詰まりを打開するために、政府はどれだけ誠意を示し得るか、私はきわめて率直に核心に触れて最低限度の質問を発して、吉田総理の解明を得たいと思うものであります。  日米安全保障條約第三條の行政協定につきましては、まだ相互交渉の段階まで至つておらない、そういう理由で、その内容説明はいまなお全然ここに示されておりません。そこでこの段階になりまして、何日かたちましたただいまにおいても、まだなお米国から何らこのことについて示されていないのか、また政府において私どもに示す何ものの用意もないのか、この点を吉田総理にお尋ねをいたします。
  53. 吉田茂

    吉田国務大臣 行政協定については、しばしば私も説明をし、また政府委員説明をいたしましたが、安全保障條約は、国の独立を守る原則はどうしたらよいかということを申しておるのであります。この原則がきまつて、そこで行政協定になるので、行政協定がこの原則の中から生れ出るのであつて、非常にこれが重大なように言われるが、私としては実は重大でないと思つております。もしこれが予算に関係することであるならば、予算問題として議会の協賛を経るでありましようし、もし国民権利義務関係することがあるのであれば、これは法律の形でもつて、その内容は自然議会の協賛を経ることになるのでありますから、これが白紙委任状とかいうようなことは、はなはだ誇張に失した言い方であると私は考えるもので、賛成いたしません。
  54. 笹森順造

    ○笹森委員 そうでありますなら、この段階において、その理解において、私たちは政府の注意を喚起して適切なる処理を要望しますがゆえに、若干の要点について、特に―吉田総理行政協定が重要でないとおつしやいますが、われわれとしては重大な問題としてこれを取扱つておりますので、その基本理念についてただしておきたいと思います。  初めに、本條約の存続の期間に関することであります。すなわち第四條におきましては、間接にこの條約の期限を定めておるのに対しまして、政府日本の国力の充実と自衛力の強化とを待つてこれを実現する意向である、こう申しておるのでありますが、この條約の必要をできるだけ短期間にするということが必要だと考えますが、この行政協定内容は、まずこの基本方針にのつとるべきものだと私どもは理解しておりますが、それに対する総理の御所見をお伺いいたします。
  55. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは、第四條にも規定してあります通り、暫定的のものであります。しかしてその期間は、日本国としてもなるべく短かい期間であることを必要といたします。しかしながら、行政協定でこういうことはきめるはずはありません。
  56. 笹森順造

    ○笹森委員 その次は日米合同委員人に関することであります。行政協定決定すべき事項並びに決定される事柄を実施運営する機関として、たとえば日米の間に合同委員ようなものが設置せられることと推測をするのであります。こういう機関がぜひ必要でありますが、この機関は、日米平等の基礎に立つて、同数の委員によるべきものであると考えます。そうしてもしその議がまとまらないときには、この委員会に一切の権能をまかすべきではなくて、日米政府間の交渉によつて解決さるべきは、これすなわち行政協定の根本趣旨であると考えますが、この点首相の御解明を求めます。
  57. 吉田茂

    吉田国務大臣 しばしば申す通り、合同委員会の話合いは―どうして運用しようとかいうような話合いはあつたのでありますが、委員会をつくるとか、つくらぬとかいうようなことの確定的な話はまだ進んでおりません。しかしあなたの御質問は、行政協定内容についての御質問ようでありますから、事務当局の意見政府委員からお答えいたさせます。
  58. 笹森順造

    ○笹森委員 事務当局のお答えは必要といたしません。よろしゆうございます。  第三は、軍の配備区域及び便宜供与に関することであります。先ほども黒田委員からお尋ねがあつたのでありますが、この條約によりますると、日本国内及び付近に軍が配備せられるということに決定されてあります。そうしてまたこれに便宜を供与する形になつておるということも、先ほどの答弁で明らかになつております。その際に私どもとして考えまするに、その軍の配備せられる区域というようなものが定められる。従つてその際には、日本の主権を不当に制限せずに、特に配備区域及び必要とする演習区域の範囲はできるだけ明確に極限すべき方針をとるものと考えます。かつまた演習による国民の損害は、これを補償する道を最初から講ずべきであると思いますが、御所見を伺います。
  59. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見だけは承つておきますが、本日のところ、今まで何も話しておりません。
  60. 笹森順造

    ○笹森委員 次に明確にしておきたいのでお尋ねをしますが、駐屯軍の費用の分担の限度に関することであります。駐屯軍の費用の日本の分担につきましては、日本の国力の現状及び自国の国防の漸増的な責任にかんがみまして、米国政府に対しましては、十分なる了解を求め、最小限度にこれをとどめて、このほかの力を日本自体の自衛力の強化に振り向けることが適当と考えまするが、御所見を伺います。
  61. 吉田茂

    吉田国務大臣 なるべく御希望に沿うつもりでありますが、結局どれだけの兵隊をどこに置くかという問題から出発するのであります。従つて費用の問題も協定にまつよりほかいたしかたがないと思います。
  62. 笹森順造

    ○笹森委員 次には駐屯軍の法的権利に関することであります。駐屯軍の法的地位につきましては、他に存在する軍事協定の諸範例がたくさんありますが、しかしこれらに触れての質問に対しても明確になつておらない点がありますので、特にこれらのものを勘案するのみならず、日本の国情に合致せしむべきであると思います。特に裁判管轄権につきましては、国際法上外国軍隊の駐留の際に認められておりまする一般的慣行の範囲をかたく守りまして、日本国民の衷必からの協力支持を保たしむるような十分な配慮が必要であると思うのでありますが、御所見を伺います。
  63. 吉田茂

    吉田国務大臣 なるべく御希望に沿うようにいたします。
  64. 笹森順造

    ○笹森委員 次は駐屯軍の使用に関することであります。駐屯軍を使用しまして、日本の国外に出動せしむる場合には、日米両国政府の完全なる同意を要するものと私たちは主張するのであります。かつ国内の治安の維持のための出動につきましては、政府要請する場合の基準をあらかじめ決定することが必要であると考えますが、これについての総理の御所見を伺います。
  65. 吉田茂

    吉田国務大臣 今のお尋ねは、アメリカ軍を国外に使うという場合ですか。
  66. 笹森順造

    ○笹森委員 日本駐屯しておりまする米軍が日本以外のところ、たとえばこの條約の中に、極東安全保障のため、あるいはまた国際の平和のためにもこの軍を使用せしめるということが規定されてあります。すなわち直接日本攻撃されておる場合の防衛ではなくて、その他のこの條約の規定による極東の安定のために出動するという場合を意味しておるのであります。その場合でも、日本政府の完全なる同意を必要とすると私ども考える。それは日本防衛のための軍隊であるがゆえに、それは必要だと思うがどうかという質問です。
  67. 吉田茂

    吉田国務大臣 当然両国の話合いできまることと思います。
  68. 笹森順造

    ○笹森委員 それから国内治安の維持に関し出動する場合に、政府はあらかじめ基準を設ける必要ありと思うが、その点はどうかということもお尋ねしております。
  69. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは今後協定の中に入れて考えます。
  70. 笹森順造

    ○笹森委員 最初に総理大臣は、国民権利義務に関すること及び予算に関することは、しばしば政府が声明しましたように、このたびもまた発言せられましたように、予算に関するものは予算案として出し、あるいはまた憲法の規定によつて国民権利義務に関することは法律案として出すということを言われましたが、それは当然過ぎるほど当然だと思います。しかしここに私どもが最も重要と考えております一つのことは、配備軍が日本に配備せられまする地域の決定に関しましても、これまた私たちが重要な問題だと思つております。これは法律として出るものであるが、法律として出ないものであるか、その点を伺つておきます。
  71. 吉田茂

    吉田国務大臣 政府委員から答弁いたさせます。
  72. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 法律として出し得べき案件ではないと思います。
  73. 笹森順造

    ○笹森委員 そこでお尋ねをしなければならない問題が出て来るのであります。つまり、この條約をめぐる立法と行政の秩序に関する問題でありますが、ただいまの問題が伏せられておるというところに、私ども審議過程において非常な支障を実は感じておるわけであります。つまり重要なものであつて、予算案としても出ず、法律案としても出ない。総理行政協定はきわめて軽微なもののごとくお話なさいますけれども、最も重要な問題がここに残つておるのであります。申し上げるまでもなく、国会は国権の最高の機関であつて、国の唯一の立法機関であり、内閣は行政権の行使について国会に対して責任を負うものであります。條約締結には国会承認を要し、外交関係処理についても、また国会に対して責任を負うことは当然であります。私たちが当時吉田内閣において内閣法を提案しまして、これを審議しましたときに、この外交に関する問題で重要な案件につきましては、これは條約以外のことであつても、国会に問うべきではないかということを、その当時われわれの同僚から質問をいたしたのであります。そのときに政府は、重要な外交に関する案件は、たとい條約でなくても、その内閣の責任上、国会にこれをはかるということを明白に示しているのであります。このことが今のお話でどういう関係になるか。ただいまのお話で、これはたとい法律として提案されなくても、そういう国民の重大な関心になつておることに対して、この條約を私ども承認したことによつて、そうした重要なこともまつたく国会審議する機会なしに終るのかどうか、この点をどうしても明確にしておか作ければならない。安全保障條約の行政協定の問題を取扱いまするときに、私どもは何か知らないけれども、先日来の政府の御発言は、一つの錯覚を起しておるのではないかというような気もするのであります。というのは、国会はむしろ立法権の行使について、内閣に対して責任を負うがごとき印象を与えるよう言辞がたびたび発せられていたのであります。すなわちこれは白紙委任状ではないと仰せられますけれども、この條約を私どもが通過せしめるならば、まつたく白紙委任状になつて、そうした重大な問題が国会審議されずして遂に終るということになりますならば、これはまことに重大なことであろうと思うのであります。この行政協定の正体を示さず、審議の対象を提出せずして、立法権の白紙委任状を求めるということをいつておるのは、これらに関する大きな理由を感ずるから私どもは申し上げておるのであります。占領下の変態的な政情が習い性となりまして、自主性を失つた政府は、独立後の外交においても、ただただ外国の意に追従いたしまして、日本将来の立法権をも外国の意をのみ迎えた外交処理のものに置くという危険がここに感ぜられるのであります。(拍手)この條約は日本の完全独立後において行われるべきものであるということに着眼せられまして、政府の猛省を促さなければならないのであります。結局するところ安保條約の行政協定の問題は、單に暫定的な一條約に関するばかりではなく、日本の国の将来の法の権威である立法と行政と外交との秩序を制する一判例を初めてつくり出すものであります。ゆえにわれわれはあくまでも立法権の地位を守護して譲ることができないという理由がここにあるのであります。最後にこの点に関する総理の明確なる御答弁を願つて、これによつてどもはこれからの審議を進めたいと考えております。御回答を願います。
  74. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは笹森君自身が錯覚に陷つておるのではないかと思うのであります。先ほど来申す通り、原則がきまつて、その原則のもとにその施行細則といいますか、実施の方法をきめるのが行政協定であります。すなわち原則がきまることが大事である。その原則がきまつて、しかる後に細則に入る、当然こうならなければならぬのであります。これはあまり重大なものと私は考えませんが、しかしもしあなたの言われるように、重大な約束であるならば、これは法律がどうあろうが、憲法がどうあろうが、政府として国民意思を問うのは当然であります。これが重大な條約であるならば、必ず国会にはかる……。
  75. 笹森順造

    ○笹森委員 これは言葉の異を別に取上げるわけではありませんが、條約であるならば、当然、重大であろうがなかろうが、国会におはかりがなければならぬのです。條約でなくても、今の外交に関することでも、これは重大なことであるならば、国会にはかるといろはつきりとした回答をここで総理がお出しになるかならぬか。たいへん言葉じりをとらえて失礼でありますけれども、そのことを……。これは條約でないのですから、條約でない外交上の問題であるならば、国会にはかるかどうかということを、もう一回御回答を願つて私の質問を終ります。総理の御答弁を願います。
  76. 吉田茂

    吉田国務大臣 いろいろなものがあります。いわゆる行政協定あるいはまた事務の協定というようなものがあります。しかしながらそれが重大なる條約であるならば、これはかけるのがあたりまえであつて国会審議を経るのが当然であるというのであります。
  77. 田中萬逸

    田中委員長 午前中はこの程度とし、午後は一時半より委員会を開き、質疑を継続いたします。  この際暫時休憩いたします。     午後零時十五分休憩     ―――――――――――――     午後一時四十三分開議
  78. 田中萬逸

    田中委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  質疑を継続いたします。中曽根康弘君。
  79. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 吉田総理大臣にお尋ねをいたします。  私の質問は大体三点でありますが、まず第一は、この両條約を締結するにあたりまして、今後の情勢の見通しについて御所見を伺いたいと思います。まず吉田総理大臣及びダレス氏あるいはアメリカのアチソン氏等の話合いによつてできた交換公文あるいは安保條約によりますと、日本にいるアメリカ駐屯軍、あるいは国連軍というものが極東の安全あるいは平和に使われることになつております。そこで極東で今起つておる事態、すなわち朝鮮事変でありますが、一体この朝鮮事変は今後いかなる発展を示すであろうか、幸い妥結の方向に向つておるようでありまするが、この事変の推移というものは日本の経済自立にも相当な影響を持つております。御存じのように、日本の貿易は大体において二十億ドル前後でありますが、その中で輸出はわずかに十三億ドル、残りの七億ドルというものはアメリカ駐屯軍の落しておる金であるとか、あるいは貿易外収入であるとか、あるいは朝鮮の特需、こういうものによつて、辛ろうじてささえられておるのであります。こういう点からしましても、朝鮮事変は一体今後どういう推移をたどるであろうかという、総理の御所見を承りたいと思います。
  80. 吉田茂

    吉田国務大臣 朝鮮事変の現在の実態について私ども知りませんが、しかし大体の傾向から見ると、休戰協定はでき上るものではないかと思います。
  81. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 休戦協定ができ上りますと、和平の空気がアジアにただようことになりまして同慶の至りでありまするが、ある情報によりますと、それができれば、次に仏印の方に脅威が加わるという情報もあります。これもやはり極東の相当大きな問題でありますが、仏印の方に関する御見解はいかがでございますか。
  82. 吉田茂

    吉田国務大臣 現在われわれは外交機関を持つておりませんから、仏印がどういうふうな事態になつておるかよく存じませんから、お答えはできません。
  83. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次の問題を御尋ねいたします。この講和條約を締結することによつてソ連あるいは中共側からいろいろな情報が入つて来ております。すなわち情報によれば、講和條約締結は宣戦布告にひとしい、その他云々といわれております。そこでちようどヨーロツパにおいて共産陣営がベルリン封鎖をやりましたのは、ブラツセル同盟條約に対抗する報復措置であるといわれておるのでありまするが、アジアにおいて、この平和條約あるいは安全保障條約を締結した場合に、ソ連や中共は日本に対するそのような報復行為に出やしないかということも、国民の心配するところであります。この点に関する総理大臣のお見通しを承りたいと思います。
  84. 吉田茂

    吉田国務大臣 單に見通しということからいいますと、まことに漠然としていますが、しかしこれは希望をまぜその考えでありますが、仏印に出るか出ないか、その他報復的態度に出るか出ないか、これは一般の世界情勢関係をすることであろうと思います。しかし今日漠然とでありますが、新聞等を通じて考えてみますと、ソ連も平和問題につきましては、世界情勢の判断については、今愼重に考えておると思いますから、私は報復手段に出て、そうして極東の方面に第三次戦争を誘発するようなことにただちになるということは考えられません。
  85. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次にお伺いいたしますが、この平和條約が各国の適法なる批准を経て発効する時期の問題であります。池田大蔵大臣その他の閣僚の意見によりますと、来春二月ないし四月までにはおそらく発効し得るであろう、成立し得るであろうという発言でありますが、総理大臣のお見通しはいかがでございますか。
  86. 吉田茂

    吉田国務大臣 これも各国の批准状況によることであつて、いつということは私はつきり言いがたいのでありますが、しかしそう遠くはないであろうと思います。すなわち各国の批准を了することはそう遠くはないであろうと存じます。
  87. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 一つの問題といたしまして、アメリカ国内における孤立主義の傾向と申しますか、そういう傾向の議員たちは、この平和條約や安全保障條約の問題に関して、かなり批判的な考えを持つておられるようでありまして、日本国内の動きやらその他をたいへん注目しているやに聞いておるのでありまするが、アメリカ国内における批准の問題その他についてわれわれとして憂慮すべき状態はないでございましようか。総理大臣にお尋ねいたしたいと思います。
  88. 吉田茂

    吉田国務大臣 日本における言論あるいは民主政治の発達を阻害するよう議論等が、ときどき放送せられる結果であろうと思いますが、その点については、米国の輿論も相当注意して去ると思います。ことにこの両條約に付する議会における批判等についても、相当影響があるのではないかとひそかに心配しております。
  89. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 われわれそのような影響があるということを考えますので、特にこの機会を通じて日本国民が心配している事項や、日本国民が衷心から希望している事項を関係方面にぜひ聞いていただきたいという考えもありまして、率直に意見を申し上げておるのであります。  次に承りたいと思いますが、英国の総選挙が近く行われます。この総選挙の結果、一体日本にどういう影響があるだろうか、具体的に申しますと、今までは労働党でありましたが、労働党は中共を承認しております。ところがたとえば保守党が天下をとるというと、対日政策やあるいは平和條約に対する考え方も多少違いはしないか、こういう心配があるのであります。英国総選挙の結果というものは、この平和條約や安全保障條約について、どういう影響をもたらすでありましようか。この点も承りたいと思います。
  90. 吉田茂

    吉田国務大臣 選挙の結果いかんにかかわらず、これは漠然たる感じでありますが、対日講和條約の批准が、そのために遅らされるというようなことはないと思います。なんとなれば、両党ともに対日講和はなるべく早くしたいという考えようでありますから、選挙の結果によつて日講和條約の批准が遅れるようなことは万々ないと思います。
  91. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次にいよいよ講和條約が発効いたしまして、日本独立をいたしましたときに、一番われわれが具体的に心配します問題は、日本の市場の問題や、外国からの資源、資材の購入の問題であります。ただいままではマツカーサー司令部が、日本のかわりに相当世界に対して発言権を持つて、物資の獲得に努めてくれたのであります宗、いよいよ日本独立して一人前になつた場合に、ある程度の米国やその他の後援なくして、日本独力で今までのように物資やあるいは市場の問題について、われわれの要望がかなえられるかどうかということは、相当心配しなければならないところであります。この点につきまして、政府はいかなる所見と対策をお持ちでありまするか承りたいと思います。
  92. 吉田茂

    吉田国務大臣 司令部が撤退をするということになりましても、今日までの司令部の政策は、米国政府が支持して来たのであつて米国政府の方針に異なつた政策を司令部がとつておつたはずはないのでありますから、将来においても同じ政策、同じラインでもつて日本に対する援助は続けられるだろうと考えます。またこれに反対するよう事態は、まだ起つておらないのであります。しからば対策はということでありますが、対策は事態が発展した後でなければ具体的に申すわけに行かない。
  93. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に賠償問題について伺いますが、池田大蔵大臣は過般の答弁におきまして、各国に対する賠償の前に、アメリカから援助を受けました二十数億ドルの債務の方が優先するということを答えられました、このことは相当大きな問題であります。対日賠償の基準について伺いたいと思うのでありますが、アメリカその他から受けた援助の債務が第一位であるとしますと、その次にはたとえば日本の自衛力の整備に要する経費というものがあります。その問題と賠償の問題とはどちらが優先するのであるか。あるいは日米経済協力によつて日本も相当な協力を、資金的にもあるいは施設的にもなさなければなりません。そういう点につきましては、賠償と競合する部面があるのでありますが、自衛力の整備、日米経済協力による日本国力の充実、その問題と賠償とはどちらが優先して考うべきことでありますか、お尋ねいたします。
  94. 吉田茂

    吉田国務大臣 いずれが優先するとかしないとかいうことは、今後の問題でありまして、日本の国力、あるいは日本防衛力を侵してまでもアメリカが債権を取立てるという考えはないようであります。すなわち日本の国力の充実をまず第一に考えるであろうと思いますが、これらは将来の協定にまつほかないのであります。
  95. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その基準でありますが、日本の経済自立を可能ならしむるという考慮が、條約の上においてもなされておるのは同慶の至りでありまするけれども、一体その具体的な限度は、日本の戦前の生活水準を維持さしてくれるという標準と解していいのでありまするか、あるいは戦前の生活水準よりも、もう少し切り下げられるというような程度まで考うべきでありますか、お尋ねいたしたいと思います。
  96. 吉田茂

    吉田国務大臣 具体的にそういう点については、まだ話しておりませんが、しかしながら戦前の生活状態、もしくは経済状態にとどめるというような、何といいますか、日本の活動を制限するような気持は毛頭ないと思います。
  97. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 最後に安全保障條約成立の経緯についてお尋ねをいたします。この安全保障條約ができました経緯は、本年一月ないし二月に、総理大臣とダレス氏と会談されました、その原則によつてできたと承知しております。その際われわれが聞きました情報によりますと、ダレス氏は、日本がみずから自衛力を持つことを要望された。それに対して吉田総理は、日本には経済力がないからまだその段階でない、そう言われて、吉田総理のお考えとしては、それを断つた、こう巷間いわれております。そこで自衛力なき国に対しては、ダレス氏はヴアンデンバーグ決議を引用されまして、継続的な効果的な自助あるいは相互援助をやらない国に対しては、対等な形の同盟條約は締結できない。そこでこのよう安全保障條約になつたのではないかと想像しておる向きもあります。その点は非常に重要な点でありまして、過般の芦田委員吉田総理との問答の中枢も、ここから発しておると思うのであります。もしあの際吉田総理が、われわれは自分の国を自分で守る自衛力を整備する、そうして自助並びに相互援助をやり得る、やるだけの意思と能力も持つ、こういう決意を表明されたならば、このような片務的な、一方的に保護されるような條約ではなくして、もう少し日本の地位を向上せしめた平等な條約ができたのではないかと考えるのでありますが、この辺の消息はいかがでございますか。
  98. 吉田茂

    吉田国務大臣 私とダレス氏との間にいかなる話をなしたかという話の内容は、ここに発表するわけに参りません。しかし私の言つておることは、ヴアンデンバーグ決議というようなことと関係なく、日本防備がない、また再軍備はできない、とすれば、どうすればいいかということで、その結果が日本独立を守るには安全保障條約がいい、こう考えたのであります。これがお話によると非常に片務的な、どうとかいうことでありますが、私はそう考えません。
  99. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 昨日の西村條局長の答弁によりますと、ヴアンデンバーグ決議の趣旨があるために、つまり具体的に申し上げますと、日本憲法第九條があるがゆえに、対等な関係で條約が結べないで、このよう安全保障條約になつたと明答されました。総理大臣の御答弁と非常に食い違つておるのでありますが、この点はどちらの方が正しいのでございますか。
  100. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私はヴアンデンバーグ決議の趣旨を説きまして、ああいう建前をとつておる以上、日本の現在の状況におきましては、中曽根委員のいわゆる対等的な安全保障体制には入り得ない。従つてそういう事態が来るまでの間の暫定措置として、今回のよう安全保障條約というようなつたという事情を説明いたしたわけであります。
  101. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 西村條局長の御答弁は、非常にあいまいでありますが、しかし西村氏は補佐する役目にありますから、私はこれ以上追究いたしません。しかし問題の核心はここにあると思うのであります。そこで私は大体日本が自衛力を整備して力を持てば、必ずやこの安全保障條約は改訂せられて、新しい発展が期待し得ると信じておるのであります。その一つの例を申し上げて恐縮でございますが、北大西洋同盟條約を見てみますというと、これはヴアンデンバーグ決議に値する條約になつております。その北大西洋同盟條約には、アイスランドが入つておる。アイスランドは警察力はあるけれども武力はありません。おそらくこれらの締約国は、アイスランドの戦略的地位というものを相当重要視して、ある程度の相互援助の要件を認めたと思うのであります。そういう点から購えると、日本の戦略的地位というものはアイスランドどころではありません。また日本国民の自由国家群に対する熱意というものも、アイスランドに劣るものではありません。日本国の工業力や労働力も決してそれより落ちるものではありません。だからこそアメリカは、このよう安全保障條約をあえてするという決意に至つたと思うのであります。従つてその日本の価値を吉田総理が認識されて、ダレス氏やあるいはアメリカ当局と話合えば、たとい日本には自衛力がなくても、自衛をやる意思がある、それにスタートをするという決意さえ示せば、このような片務的な、濃度の薄い條約にはならなかつたと思うのであります。そこにわれわれの考えと、吉田内閣の考えの基本的な相違があると思うのでありますが、総理大臣はこの点はいかにお考えになりますか。
  102. 吉田茂

    吉田国務大臣 私のお答えは前言の通り。
  103. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 総理大臣のお答えがないということは、私の質問に対しまして困惑して答弁の法がないのだと私は思う。それは、日本国民は黙つておるけれども、このよう安全保障條約を喜んで受けている者は一人もないのです。日本国のおそらく八〇%というものは、やむを得ず認めるという段階なんです。もしできるならば、日本はもう少し対等な形で、しかももう少し安全であり、かつもう少し独立性を持つた根締めをした関係に、日本アメリカとの関係をしてもらいたいという痛烈な希望を持つているのです。しかし吉田総理大臣がそういう話をしてしまつて、ここまで来たのだから、もう事態はしようがないから、一応の段階として認めよう、こういう考えであるだろうと思うのであります。そこで総理大臣に伺いますが、この條約によりますと、いずれは国際連合による安全保障措置とか、あるいは何か国際連合憲章に基くところの集団的自衛措置というものができるまでの暫定措置であるとしております。一体これはいつごろできるであろうかというのが、また、われわれの重大関心事であります。この北大西洋同盟條約ができましたけれども、これができるについては、ずいぶんいろいろないきさつがありました。しかもあのヨーロツパの国々に対するアメリカの連帶観念というものは、アジアどころではありません。そういうような同文同種であるところの連帶性を持つている北大西洋同盟條約ですら、できるにあれだけの時日と困難があつた、しかもギリシヤやトルコを入れるについては、相的の反撃もあつたわけです。いわんや血を果たし、文化を異にするアジア全体にこのような集団的な條約ができるということは、より以上の困難が予想されるのであります。一体、これはいつごろできるだろうか、十年後になるだろうか、五年後になるだろうかということを国民は真剣に考えております。少くとも北大西洋條約よりはむずかしいということをわれわれは想像しておりますから、かなりの時日を要すると考えるのでありますが、総理大臣はその辺の見当をどういうふうにつけておいでになりますか。
  104. 吉田茂

    吉田国務大臣 今後の国際情勢によるものと思います。
  105. 田中萬逸

    田中委員長 中曽根君、約束の時間が参つておりますから、ごく簡潔に願います。
  106. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そこで伺いますが、私の考えによりますと、この安全保障條約から次にただちに集団的保障條約の段階に入ることは、日本のために不利である。なぜかというと、時間が非常にかかるということが一つと、もう一つは、ただちに入るということになれば、日本の現在の地位というものは、かなりよい地位ではないと私は思う。その結果、濠州やフイリピンやニユージーランドその他の関係もあつて、ただちにそれらの国々との集団安全保障條約に入るということは、日本の地位が不当にたたかれるおそれがある。従つてその集団安全保障條約ができる前に、日本アメリカとの間に軍事的な相互防衛協定が締結できて、対等な地位を回復しておく必要があります。それは時間的に早いということと、次の階梯に至る一つの段階として至急やらなければならぬと思うのであります。そういうような階梯をとる、つまり適当な時が来たらこの安全保障條約を改訂して、米国との相互防衛協定に向けて、しかるのちに集団安全保障條約に入るというコースをとるべきだと思うのでありますが、総理大臣はいかにお考えになりますか。
  107. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見は伺つておきます。
  108. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それでは私はこれで質問を終りますが、吉田総理大臣は真剣にこれらの問題についてはお考えになつておると思います。どうかわれわれの意見も慎重に考えられまして、まじめに国のためにこれを活用されんことを要望する次第であります。
  109. 田中萬逸

    田中委員長 並木芳雄君。
  110. 並木芳雄

    ○並木委員 私は時間の制限がありますので、残念ながら単刀直入にお荷いしなければなりません。  まず吉田首相にお尋ねしたいのは、再軍備についての国民意思を、いついかなる方法で聞かれるかということであります。首相は再軍備は国民意思を聞いてからきめると言明されております。それならば、民意を問うのはいつであるか、そうしてどういう方法で問われるか、それをお聞きしたいと思います。
  111. 吉田茂

    吉田国務大臣 これはいついつかということをここに申すわけに行きません。内外の事情を勘案いたしましていたしたいと思います。
  112. 並木芳雄

    ○並木委員 これに関連して確かめておきたいのは、吉田首相は再軍備をする場合に、憲法の第九條を改正しなくてもできるとお考えになつておりますかどうか。
  113. 吉田茂

    吉田国務大臣 再軍備は考えておりませんから、従つて憲法問題はまだ研究いたしておりません。
  114. 並木芳雄

    ○並木委員 考えておらないということになりますと、この日米安全保障條約の前文の終りのところの「直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」という趣旨に反して来るわけですけれども、この点をどう御説明になりますか。
  115. 吉田茂

    吉田国務大臣 期待する。その期待になるべく反しないようにいたしますが、それがただちに再軍備ということであるかどうか、これは問題であります。なるべくその期待にそむかないようにいたします。
  116. 並木芳雄

    ○並木委員 私は総選挙によつて民意を聞くべきだと思います。再軍備の可否その他講和後の国政のあり方などについて、あらためて国民に訴えて、至急総選挙を断行すべきであると思うのですが、総理大臣はどう考えておられますか。  それから総選挙をする方法が論議されておりますけれども、内閣が総辞職をして、そうして第二党に政権を渡して、今の与党が野党にかわ一つて不信任案を出して可決すれば、解散、総選巻になる道が開かれております。首相のお考えを聞きたいと思います。
  117. 吉田茂

    吉田国務大臣 解散は御希望でありましようが、政府としてはいまだ解散せざる方がよいと考えますから、解散の問題は考えておりません。
  118. 並木芳雄

    ○並木委員 その通りに私ども希望するのです。やれば必ず私ども民主党が勝つにきまつている。総理大臣が総選挙をいやがつておるのは、これは民主党に負けることを恐れるからではないかと思います。     〔発言する者あり〕
  119. 田中萬逸

    田中委員長 私語を禁じます。
  120. 並木芳雄

    ○並木委員 それについて私は質問をしたいのですが、追放解除者の中には多数立候補を希望する者がおります。これらの人々は、なるほど今まで投票権はあつたにしても、みずから公職につく機会をはばまれていたのであります。こういう人々にすみやかに立候補の機会を与えるためにも総選挙をすべきであると思いますが、どうでありますか。そうして講和後の政局安定のために、首相は選挙については小選挙皮制を支持されると聞いておりますが、この点に対するお考えもあわせてお聞きしておきたいと思います。
  121. 吉田茂

    吉田国務大臣 解散は考えておりませんから、今のような問題に対してもまだ考えておりません。
  122. 並木芳雄

    ○並木委員 追放解除のことに関してですが、なおまだ相当の追放該当者が残つておると聞いております。こういう人々に対しては、やはり一様に機会均等であるべきだと思うのですけれども、今後の追放該当者に対する政府の態度をお聞きしたいと思います。
  123. 吉田茂

    吉田国務大臣 追放解除をされない人があることはまことに残念であります。解除せられないことについてはまた相当の理由があるのでありますが、追放全体の問題としては、なるべく早くこの追放という問題をなくするよう考えております。
  124. 田中萬逸

    田中委員長 並木君、なるべく主題の範囲を逸脱せぬようにお願いいたします。
  125. 並木芳雄

    ○並木委員 私が今まで聞いておるのは、みな講和後の点でこれと関係があるのです。これは三木幹事長が前に聞いておりますが、政府答えてないから私は聞いておるのです。委員長はそんなことに注意する必要はない。  私は領土について総理大臣にお尋ねしたいと思います。領土を半分失つた日本の人口対策というものは非常に重要なことだと思うのです。これに対して首相はどういうふうに対策を考えておられるか。領土については、総理大臣はポツダム宣言できまつているのだから、男らしくあきらめようと言つております。しかしこれはなかなかあきらめきれないところがある。なるほどポツダム宣言を受諾していますから、條約でその通りきめれるのは仕方がないといえばその通りです。しかしポツダム宣言のときから今まで六年もたつております。この間に、日本がいかに平和を愛好する国民であるかということ、また日本がいかに苦しい立場にあるかということは、連合国においてもよくわかつてくださつたと思うのです。従つてこの六年間に領土に関しても何らか考え直して、そして最後の講和條約を結ぶときには、私どもに有利になるようなとりはからいができるものであるということを、悲願でありますが、私ども希望しておつたのでございます。この悲願はむなしく、遂に四割五分の領土を失うこととなつて日本はいわば半身不随になつたのであろうと思います。そこで八千万からの人口をかかえて、今後の人口問題をどういうふうに処理して行かれるか。日本の国内で民主化の線に沿つて農地の解放、自作農創設ということが行われました。これをたとえに引くことがいいか悪いかということは別にいたしましても、こんなに狭い日本においては、国際的に考えて、私たちは今や世界の小作農のような地位にあると思うのです。これをやはり少くとも自作農たり得るところまで行かしてもらわなければ、せつかく私どもは平和を愛好する熱意に燃えておつても、今後の運営は政府として農かくむずかしいのではないか、その点について首相の対策をお聞きしたいと思うのです。
  126. 吉田茂

    吉田国務大臣 人口問題は、日本の重大なる問題の一つであります。この委員会の短かい期間において、こう、あるというようなことは申しにくいことであります。しかしながらら外交的にも内政の上においても、この人口問題に対して適切な処置を考えたいと思つて政府は研究調査をいたしております。
  127. 並木芳雄

    ○並木委員 この点について、移民はどういうふうに取扱われて行くでしようか、この際お伺いしておきたいと思います。
  128. 吉田茂

    吉田国務大臣 今まだ独立しておらない今日でありますから、移民の交渉等はいたすことができないのであります。
  129. 並木芳雄

    ○並木委員 ソ連が三年たつて講和條約に参加しなかつた場合の千島、樺太の帰属の問題ですけれども、これは前の條約案では、日本にその主権が残されるようになりておつたと思います。西村局長もそういうふうに答弁されておりましたが、その後この案がかわつて来たのでございましよう。これはどういうふうに首相は見通しておられるか、お尋ねしたいと思います。
  130. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 この條約案によりますと、日本は南樺太と千島に対する領土主権を放棄することになつております。この日本の主権の放棄という関係はこの平和條約に参加いたしました四十八の連合国の間においてしかりでございます。でございますから、この平和條約に参加しない諸国との関係におきましては、平和條約第二十五條にはつきりいつておりますように、そういう国はこの平和條約によつて何らの権利利益を得ることがなく、またそういう国に対する関係において日本権利利益は何ら阻害されることもない、こういうことになるわけであります。従つて現状通りである、こういうことになるわけでございます。平和條約ができましたあと三箇年の間は、この平和條約に署名していない国から申込みがあれば、日本はこの平和條約と同一の條件、または実質的に同一平和條約を結ぶ用意がなくてはならぬということになつております。それで三箇年の期間が経過後はどうなるかということになれば、日本はこの平和條約の規定に拘束されることなく自由に解決ができる、こういうことになるのでございます。
  131. 並木芳雄

    ○並木委員 時間がありませんから、最後に私は行政協定についてお尋ねしておきたいと思うのです。  行政協定内容については、先ほど私の方の笹森委員からも質問があつたのですけれども、なお私どもとしては合点が行かないのであります。その内容がわかつていないのに、どうして日本の安全が守れるということが断言できるのだ。どうしても政府として、少くともかくあるべしだという案は持つていなければならないはずであります。私はそう思うのです。ですから、安全が守れるのだという以上は、こういう案に基いてこれこれであるからだという説明がつかなくてはならないわけでありますから、その案を、概要なりともけつこうですから、示していただきたいと思う。
  132. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日米安全保障條約が規定いたしております通り、日本に対する外部からの武力攻撃を阻止する目的をもつてアメリカ軍日本国または付近におる限り、日本に対する武力攻撃を企図するような国は全然ないであろう、こういう確信を持つ次第であります。行政とりきめは、この日本国内における合衆国軍隊の配備の條件を定める実質細目に関するものでございますので、この日米安全保障條約が所期の目的を達する上にさような緊急な利害関係を持つものではないと考えております。
  133. 並木芳雄

    ○並木委員 しかし、どのくらいの兵力を置くかとか、どこに基地を設けるかということは、この行政協定ないしはその協定に基いてつくられるであろう日米合同委員会できまつて来るのではないかと思うのですが……。
  134. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日本の安全が確保されるという確信を持つのは、日本独立回復後におきまして合衆国軍隊日本国内にあるという事実、それだけによつて確保されると、こう確信するわけであります。
  135. 並木芳雄

    ○並木委員 どうも核心を突いた答弁になつておらないと思うのですけれども、私は首相にこういうことを断言してもらいたい。要するに私どもは、独立したあかつき一度外からの侵略を受けたら、もうこれはおしまいである。この安全保障條約というものは、侵略を受けた場合に大丈夫だという消極的な効力だけではだめだと思うのです。絶対にこの條約を締結すれば外部からの侵略を受けつけないのだ、来られたら、もう爆弾一つ落されたら混乱状態に陥り、国民は塗炭の苦しみに陥るのですから、これはだめなんでありまして、首相は、この條約を締結することによつて絶対に外からの侵略を受けつけないということをここで断言できるかどうか。この点をお尋ねしたいと思います。
  136. 吉田茂

    吉田国務大臣 その御心配はいらないと思います。
  137. 並木芳雄

    ○並木委員 心配はいらないとおつしやるならば、私はやはり総理大臣は、どういうよう行政協定内容になるということも、少くとも大体はわかつているのだろうと思うのです。西村條局長のポケットにはなくても、首相の腹の中には私はあるのだろうと思うのです。ただ私がここで思い出しますのは、首相が今度の日米安全保障條約を締結されるに際して、ほんとうに日本が自主独立する、こういう精神を十分持つているかどうか、これなんです。と申しますのは、私が一昨年五月二十三日の本会議で、首相に緊急質問をしたことを思い出していただけばわかると思うのです。このとき私は、首相がロイターのウオーナー前東京支局長に駐兵を希望すると語つたことについて確かめたのでございます。これに対し総理大臣は、新聞の記事には責任を負わない旨の答弁でした。今にして思えば、首相はやはりあのときから米軍の駐留を希望していたのは事実だつたということになるのです。ですから首相としては、今回いよいよ日米安全保障條約によつて米軍が駐留されることになることはさぞ本望ではないか、こういうふうにも考えられます。しかし一方首相は、自己の防衛を他国にゆだねるのは自尊心が許さないということをはつきり言つておられます。私はほんとうに首相が自尊心というものを持つているならば、二年半も前からこういうことを希望したはずはないと思うのです。私は首相のいわゆる自尊心というものは外交的辞令であつて、実は尊他心というか他尊心というか、そういうものじやないかということを心配するのであります。私は総理大臣は、この條約が暫定的なものであると言いながらも、心の中では半永久的に米軍の駐留を希望し、期待しているのではないかと感ずるのでありますけれども、その点いかがでありますか。もしそうでなく、暫定的のものであるというならば、首相はいかなる構想のもとにこの條約をして暫定的のものたらしめようとするのであるか、最後に私はこれをお伺いして、質問を終りたいと思います。
  138. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の腹の中は御想像にまかせます。安全保障條約は日本の安全を保陣する條約でありますから、御心配はいりません。
  139. 田中萬逸

    田中委員長 小川半次君。
  140. 小川半次

    ○小川(半)委員 時間がないようですから、要点だけを二、三お尋ねしたいと思うのでございます。平和條約は勝者と敗者の條約でありますから、敗れた日本に相当の重圧が加えられるということは、国民もある程度まで了承しておつたことは当然であろうと思います。しかしながら日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約は、これはいやしくも講和後に日本独立して再出発するところの、そのもとにおけるところの條約でありますから、すなわち日本独立して最初に外国と結ぶところの重要なる條約でありますから、国民としては、とにかく独立国家としての威厳と、毅然とした態度をもつてこの條約が締結されるものだろうと期待しておつたところがこの條約の案文を見ますと、まつたく日本が何だか平身低頭してアメリカに懇請したようにもとれるのであります。私はこれは、やはり少くとも日本が六年間屈辱的な生活に甘んじて来て、初めて明るい気持になつて希望に満ちて出発するところの独立最初の條約でありますから、もう少し自主性のある毅然たる内容がほしかつたのでありますが、一体これは日本から懇請したものであるか。あるいはアメリカの方から押しつけて来たものであるか。それを国民は知りたがつているのです。聞きたがつているのです。どうか総理大臣からこの点をお聞かせ願いたいと思う。
  141. 吉田茂

    吉田国務大臣 この條約はお話のような平身低頭いたしてできたものではなし、しかしながら太平洋の平和を保たなくちやならないというところから、合意の結果ここになつたのであります。決しておじぎをしたわけでもなければ、あなたのお話のような平身低頭いたした事実はございません。
  142. 小川半次

    ○小川(半)委員 日本防衛とともにこれはアメリカ防衛ともなる。少くともこれは日本のみを守るということでなくて、アメリカにとつても―御承知のようアメリカはアリユーシヤンから日本、そうして沖繩、台湾、フイリピンというぐあいに、太平洋の防壁をつくるために日本が必要である。ここで日本だけを除いて、アリユーシヤンから飛んでフイリピンまでということでは、太平洋の防壁にはならないのであつて、どうしても日本は太平洋を防備するために、即ちアメリカを守るために必要である。だから日本を守るためであるけれども、同時にアメリカを守るために絶対に必要である。そういう立地條件を日本が持つているのであるから、少くとも日本アメリカに対して堂々と対等の力をもつて私はやはり臨んで行くべきだと思う。ところが、それが内容にないのです。総理はそういうことはないとおつしやつても、私はどう読んでもそう解釈がとれるのですが、いや総理はそうでない、対等の立場でこれは結んだものであるとおつしやるから、それでは対等の立場でそれが作成されたものであれば、日本は対等の立場で行政協定、の内容を持つていなければならぬはずである。ところが、この間からわが党の代表者、多くの同僚から質問されても、行政協定はまだアメリカの方も示しておらぬと言われる。これはどういうことですか。日本が対等の立場であれば、アメリカ内容を持つのでなくして、こちらから行政協定内容を示さなければならぬ、持つていなければならぬはずです。向うの方から何も言つてこないということであれば、やはり日本アメリカの方から押しつけられたところの條約としかわれわれは解釈できない。対等であれば、行政協定内容を―少くともこの條約が成立してから四十五日たつております。なおかつこの四十五日の間に、日本政府行政協定内容を作成しておらぬということになれば、これは大きな怠慢であると私は思います。
  143. 吉田茂

    吉田国務大臣 これから堂々と持ち寄つて話をするのであります。
  144. 小川半次

    ○小川(半)委員 それでこの條約の期間の問題でありますが、今のところ期間は明白にできない、まあそう長くはないだろうということをほのめかしておられるのですが、しかし私は思いますに、かつて安政の和親條約が結ばれたときに、当時の為政者は国民に対して、これは心配せんでもいい、五、六年くらいであろう、長くても十年くらいであろうといつて国民を欺瞞しておつたのが、遂に明治四十三年まで続いた。私はやはりこういうことを考えると、どうもこの條約が、国民にはそう長くはないというように見せかけておるけれども、これは相当の長期にわたるのではないかというように心配するのです。(「神経衰弱だ」と呼ぶ者あり)それは国家を思えば、当然神経衰弱にもなります。そこでいつ何日までという期間を結ぶということも政府はむずかしいでしようから、私はこういうことを考えるのです。たとえば米国はこの條約を通じて日本の自衛態勢がすみやかに完成するように協力すべきであり、かつ自衛完成のあかつきは、ただちに日本から撤退すべきである、こういう申入れ、あるいは行政協定の中にこういう一項を加えるべきものである。私はこう考えているのですが、政府の態度をお聞きしたいのであります。
  145. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見はとくと考えます。
  146. 小川半次

    ○小川(半)委員 次に地域的治外法権の問題でありますが、これは非常に国民は心配しておるのです。かつて中国においては、各国の治外法権があつて、中国国民はまつたく去勢されたよう状態に置かれておつたのでございます。私もかつて中国に住んでおりまして、あまりたちのよくない外国人などは、中国人に向つて犯罪を犯したり、非常に悪いことをして、そして日本の租界の中へ逃げて来るのです。中国の警察官などは租界の境まで追いかけて来ても、治外法権があるから、外国の租界へ入ることができない。私はそういう状態を見て、中国のために非常に悲しんだ一人でありますが、もしかりに日本にこの治外法権ができたとすれば、これと同様なことができる。もし不法なアメリカにそういう軍人はおらぬでしようけれども、何か犯罪を犯して、日本の警察官が追いかけても、治外法権の中へ入り込んでしまつたら、もう手を下すことができない。こういうみじめなことが起り得るのではないか。私はかつて中国にそういう実例があつたのだから、日本の将来のために憂えるのでありますが、この治外法権の点について、日本政府としてはそういうものは認めることができぬと毅然たる態度をとられるのか、あるいは治外法権を認めるところの考えを持つておられるのか、明らかにしていただきたいのであります。
  147. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 お答えいたします。日米安全保障條約におきましては、今日午前御説明申し上げましたように、軍事基地貸与の問題は全然問題になつていないわけであります。従つて地域的治外法権というが、ごときものは全然問題になつておりません。  なお、ただ一つ御注意を願いたい点があると思うのであります。それはサンフランシスコ会議におきまして、ダレス全権がこの條約の第五條及び第六條について説明しておられる点でございます。それによりますと、平和條効力発生と同時に、日本における合衆国軍隊は占領軍としての性格、権能を全部喪失する。そうして爾後は、日本においては、日本が自発的に彼らに認めるところの地位を有するであろう、こう言明されております。
  148. 小川半次

    ○小川(半)委員 次に米軍の出動の判定でありますが、昨日同僚の中曽根委員からもこれに触れて話があつたのですが、もしかりに米軍が日本基地から第三国、あるいは朝鮮、満州などを爆撃するというような場合がありとします。これは今までであれば、日本が占領されておつたのですから、何らこれに対して権限もなければ責任もなかつたのですが、いよいよ條約が締結された後において、日本基地におるところの米軍がこれらの第三国を爆撃したという場合、これは日本にとつても條約を締結しておりますから、責任があります。要するにこの軍事行動に対してやはり日本が援助したということにも解釈がとれる。これは非常に重大な問題が起つて来るのではないかと思うのです。同時に今度はそういう場合があれば、やはり第三国から日本が爆撃されるという危険性にもさらされる。そういう場合の損害というものは、向うは米軍基地だけを爆撃するのではなしに、おそらくその附近に居住する多くの日本の人々、あるいは住宅、あるいは生産機関などが非常な損害をこうむる場合などが出て来ると思うのです。これらの点について政府はどういう解釈を持つておられるか、お聞かせ願いたいのであります。
  149. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点も昨日御説明申し上げたところでございます。朝鮮において国際連合のために行動いたしております国際連合体盟各国の最高司令官が、いかなる権限を有すべきかという問題は、国際連合の当該機関のみならず、この国際連合の行動に参加いたしておりまする連合諸国の政府の間で論議され、決定されておる問題であります。平和條約が発効いたしますれば、日本平和條約第五條の及び(b)の関係によりまして、また安全保障條約に関連いたしまする交換公文の趣意によりまして、この国際連合がとりまする行動に協力いたすことになるでございましよう。これは條約関係でございます。従つてこういう問題につきましては、日本国際連合加盟国である政府と同じ立場において取扱われるものだと考えております。
  150. 小川半次

    ○小川(半)委員 たとえば米軍が日本基地から第三国を爆撃するとか、そういう場合においては、事前において日本政府と相談する必要があるかどうかについて、昨日の中曽根委員質問に対して西村條局長は、事前にいろいろ交渉する必要があるという御答弁でありましたが、総理大臣もこれと同様のお考えを持つておられるか、お尋ねしたいのであります。
  151. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点は私の答弁をもつて十分であつて、全然疑問の余地はないと思います。総理も御回見だと思います。
  152. 小川半次

    ○小川(半)委員 これは重大なことです。米軍が第三国を爆撃するとか、そういう場合は、これは軍事上の問題であります。憲法第九條にも抵触するし、また日本が軍事作戦に参加するということなんです。軍事作戰に参加するということになれば、これはやはり重大問題です。この点を明らかにしておきたいのであります。日本は軍事作戦に、外国と戦争する行為における一切の軍隊とのあれは、憲法上できないのじやないか。
  153. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御指摘よう事態は、合衆国がかつてに戦争行為をするという前提にお立ちのようでございます。合衆国国際連合加盟国でございまして、極東平和のために強制措置をとる場合には、必ず国際連合加盟国としての立場から国際連合憲軍に従つて措置をとると、こう考えるわけでございます。そういたしますれば、平和條約第五條におきまして、日本国際連合のとる行動に援助与えるということになつておりますから、日本といたしましては法的に、また技術上できる範囲内において援助をいたすことは当然のことであります。法的にと私が申しましたのは、日本といたしましては軍備を持ちません。交戰権も放棄いたしております。従つてそういうカテゴリーに入る援助というものは、日本については考え得られないところであります。
  154. 小川半次

    ○小川(半)委員 自衛ということと第三国へ軍事的出動をするということはおのずから違うのであります。従つて憲法上あなたとは解釈が私は違つております。これ以上私は質問いたしません。
  155. 田中萬逸

    田中委員長 総理大臣はやむを得ない所用のため退席されますから、御了承を願います。  その他に対する質疑を継続いたします。中曽根康弘君。
  156. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は主として賠償問題を中心にいたしまして、外務当局並びに池田大蔵大臣に御質問をいたします。  まず第一に第十四條の字句の解釈について、條約局長から承りたいと思います。第十四條を読んでみますと「戦争中に生じさせた損害及び苦痛に対して、連合国に賠償を支拂うべきことが承認される。」つまりこれは義務的になつております。支拂うべしということになつております。そうすると、その損害と苦痛というものは一体いかなるものでありましようか。具体的にいかなるものを損害といい、いかなるものを苦痛と解釈してさしつかえないのでありますか。
  157. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 別にむずかしい問題はございません。常識の観念でございます。
  158. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、苦痛とうものは精神的苦痛であるとか、そういうような一般的なものも入つておるわけですか。
  159. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 物心両面の苦痛でございます。
  160. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それから第四行目に、「債務を履行するためには現在充分でないことが承認される。」ということが書いてあります。そうすると将来は、あるいは賠償を大幅に支拂うことが可能であるということが前提になつておるようでありまするが、この点はいかがでありますか。
  161. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 この「現在」という言葉は、きわめてゆとりのある言葉でございまして、何年と限定して考えるものではありません。外交文書上にいう「現在」外交史上にいう「現在」いうものは、きわめてゆとりのある表現でございます。
  162. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 いや必ずしもそうとは解釈されない情報が入つておるのでありまして、たとえばヴエトナムでありましたか、現在日本は賠償能力がないけれども、いずれ経済が復興して来たら賠償をとるのだという言明もあります。それはおそらく第十四條のこの「現在」ということから来ておると思うのでありまするが、そういうことに対する配慮は政府としてはしておらないのでありますか。
  163. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 いずれそういう問題は、第十四條の(a)のわく内で関係国間で話合いをするときに十分意見の交換をし得る問題でございます。
  164. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 その次に「原材料からの製造が必要とされる場合には、外国為替上の負担を日本国に譲さないために、原材料は、当該連合国が供給しなければならないと。」書いてありますが、その中で、原材料というものの中には、どの程度のものまで含むのであるか、言いかえれば副資材や国内である程度補充する補完材というのはどういう関係になるのか、向うがすべてこれを輸送するということになるのか、この点をお伺いいたします。
  165. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 加工賠償が考えられておりますから、加工賠償に必要な材料は全部原材料に包含されております。
  166. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうしますと、補完材であるとか、そのほか要するに必要なる材料一切というふうに解釈してさしつかえないですな。
  167. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 さよう考えております。
  168. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に「当該連合国が供給しなければならない。」と書いてありますが、その供給という意味は、輸送費あるいは保険料、こういうものもすべて先方が負担すると解釈してさしつかえないですか。
  169. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 そういう点は、両当事国間の話合いで十分きめ得る事項だと考えております。
  170. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しかしこの條約の文章の精神からすれば、当然これは日本にあらざる国が負担するよう解釈されます。当該連合国が供給しなければならないというのですから、供給という場合には、少くとも横浜渡しであるとか、神戸渡しであるとかいうことが常識的に考えられる。そういう点について明確なとりきめや話合いをしないでこの條約文が成立しておるのでありますか、承りたいと思います。
  171. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 なるべく御意見に沿うように努力いたしたいと考えております。
  172. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 こういうような一番重要な、たとえばどこの船腹を使うとか、保険料や輸送賃はどつちが持つとか、これは持つて来る物資が大きい場合にはかなり大きい負担になる、こういうことまで明確に相談やとりきめをしないで、この條約文ができているとは考えられないのでありますが、外務省はそういう話までしていないのですか。もう一回明確に承りたいと思います。
  173. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 今後話合いをすべき事項の一つでございます。原材料を供参結する、原材料に加工して品物を渡すという場合に、原材料を持つて来る場合の船の問題もございましようが、加工品を渡す場合の持つて行く船の場合もございます。彼我あわせて、こういう問題は十四條具体化のための交渉の場合に、十分意を盡して協議できる事柄だと考えております。
  174. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に承りたいと思いまするが「原材料からの製造が必要とされる場合には、」と、こう書いてありますが、この製造品という中には、一体いかなる程度のものまで含まれるのか、具体的にいえば一次製品であるとか二次製品であるとか、いろいろなものが含まれて来ます。あるいは最終段階における完成材まで含まれておるのか。それによつて日本国民の負担も非院常に違つて来ると思うのでありますが、一体どの程度のことをこの製造品ということは意味しておるのか、伺いたいと思います。
  175. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 そういう点は、すべて今後関係両当事国間の話合いによつて決定する事項でございます。
  176. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私たちが心配しているのは、たとえば鉄鋼を供給するというならばそう大した経費でもないかもしれぬが、船まで供給するということになると、かなりの経費になる。そういう意味で、最終の完成材であるか、あるいは一次製品であるかは、相当大きな関心を持たなければならぬ問題である。こういう点について、政府がもう少し明確なる認識ととりきめをしておく必要があると私は思うのであります。  次にこれらの字句の問題はその程度にいたしまして、池田大蔵大臣に承りたいと思いますが、政府は賠償問題をかなり楽観しているような感じがするのであります。あの第一次世界大戦のあとに、ヴエルサイユ條約をつくるときに、イギリスのロイド・ジヨージが四千八百億金マルクのあの賠償を計算しておつたときに、ドイツ側の政治家はウイルソンのあの原則を信じて、ほとんど賠償に対する配慮をしておらなかつた。何とかなるという甘い見通しを持つておつたといわれております。池田大蔵大臣がちようどそのような心境にあるのではないかと思う。フイリピンその他合せると二百三十億ドルという賠償の要求があります。しかし国内における池田大蔵大臣の言明をいろいろ調べてみますと、賠償は心配するほどのことはないというような楽観を国民に抱かしておるのでありますが、一体大蔵大臣の楽観の根拠はどこにあるのでございますか、承りたいと思います。
  177. 池田勇人

    池田国務大臣 楽観をしておるというお話でございますが、私が楽観をしておるという根拠をこちらから承りたいと思います。
  178. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 池田大蔵大臣は新聞や何かわれわれに聞かした範囲では、たとえば来年度予算は八千億円程度だろう、しかも終戦処理関係あるいは平和処理関係経費と一般行政事務関係の経費とのパリテイを見ても、そう大してかわりがないようなことである。そうするとその内容を分析してみると、フイリピン、インドネシアその他の国々が日本に要求している賠償の額とはまつたくかけ離れた額が賠償として計上されざるを得ないという段階にある。そういう具体的な計数的な見通しをつけて私は申し上げておるのであつて、大蔵大臣、この点はいかにお考えになりまするか。
  179. 池田勇人

    池田国務大臣 賠償二百億ドルとか二百三十億ドルとかを拂うことを前提にしてお考えになれば、わが国の来年度の予算は八千億円台ということになれば、楽観ということになるかもわかりません。しかし私は二百億とか二百三十億ドルの賠償を現在日本で負担するだけの能力がないという確信を持つておりまするから、来年度におきましても歳出予算は八千億円台でとどまる見込みだと申し上げておるのであります。
  180. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、大蔵大臣は少くとも日本経済自立その他を考えてみて、来年度の財政規模は八千億円程度にとどめる、それ以上の国内的な措置はできない。従つてそれ以上の賠償というものに対しては、日本としてはどうしてもそれは断る、そういう意向であるとわれわれは解釈してさしつかえありませんか。
  181. 池田勇人

    池田国務大臣 日本国民生活を引下げたり、日本の産業が立ち行かぬような賠償を要求する精神は、この條約にはございません。
  182. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうするとその限度というものは、来年度の予算の規模において大体八千億限度であるというふうに解釈してさしつかえないわけですな。
  183. 池田勇人

    池田国務大臣 八千億限度という言葉は誤りやすいので、本年度の八千倍近い七千九百三十七億円と大差がないとお考え願いたいと思います。先ほど申し上げましたように、八千億円台と言つております。
  184. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に承りますが、大蔵大臣は日本国際収支の点について、かなりのドルの保有があるから、ドルの保有自身については現在それほど心配する必要はない、こう言われております。しかし今までの状態ならともかくも、アメリカからの経済援助を打切られた今後の情勢を見ると、必ずしもこのドルがこのまま保有されて行くとは限らない。大体貿易の規模から考えてみますと、現在外国為替管理委員会が持つているドルというものは、主としてこれは朝鮮事変の影響による特需であるとか、あるいは米国軍隊駐留に伴うそういう取得金であるとか、あるいはそのほかの貿易外収入、大体の額にして七、八億ドルにたよつていると思うのであります。そういうような準戦時的な、つまり経営的でないものによつて辛うじて国際収支のバランスが維持されておるのであつて、この状態がこのまま続くという見通しで日本の貿易政策をやつてつては非常な誤りを犯すと思うのでありますが、その点についていかなる政策をお待ちでありますか。
  185. 池田勇人

    池田国務大臣 参議院の本会議でも答弁したと思うのでありますが、現在ドル不足ドル不足といわれる言葉には二通りございます。今ドル不足で困つておるという問題と、あるいは来年の暮れから再来年、あるいはその次に賠償、外債の支拂い等の対外債務が来るから、ドル不足になつて困る、この二つの問題があると思うのです。今はドル不足はございません。六億ドルを持つておりますし、今年度におきましても、一億七千四百万ドルの受取超過になる見込みであつて、今はドル不足の心配はございません。しかし私が財政演説で申し上げましたように、この国際情勢の現状からいい、またお話のよう朝鮮事変等あるいは駐留軍の国内消費等によりまして、大体七億ドルまではございませんが五億五、六千万ドルはある。これがいつまでも続くとは考えられませず、そうして将来において、ただいま申し上げましたようなドルの金が入つて参りますので、そこでわれわれは経済の安定と能率と発展をはかつてこれを乗り切らなければならぬと言つておるのであります。私の見るところでは、今の間にこのドルを利用してできるだけ原材料を入れておく、またドル不足という問題も、これはお金に対して十分ということはないのでありまして、日本の貿易が輸出入大体十億ドル程度のときと、現在のように二十億ドル程度の輸出入の状態のときには、その運転資金たるドルも相当ふえていなければならぬ、こういうふうな考え方から行きますと、まだまだし上げておるのであります。
  186. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 外国貿易の収支の関係によつて賠償の支拂い能力というものが影響されるのではないかと思うのありますが、この点大蔵大臣の見解を承りたい。
  187. 池田勇人

    池田国務大臣 十四條の第一項後段に書いてある通りでありまして、外国為替上の負担を増してはいかぬというので、加工賠償、役務賠償になつておるのであります。こういうことから考えますと、先程西村條局長に御質問なさいましたことがおのずから解けて来ると思うのであります。
  188. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次に質問いたしますが、そういうよう外国貿易上の関係にあつて、しかも来年以降日本の財政規模がどういうふうに推移して行くか、賠償によつてどういうような影響を受け圧力を受けるかということが大きな問題であります。そこで大蔵大臣は、大体今年の予算が七千九百億円程度でありますから、その程度のものだと予想しておりますが、平和関係処理といいますか、終戰処理関係の経費と、それから一般の行政関係の経費の比率を見ますと、本年度予算においては補正予算を含めまして―この中には治安関係経費も入つておりますが、総計千八百二十九億円が終戦処理あるいは平和関係あるいは治安関係、戦争犠牲者関係、在外公館借入金まで含めてすなわち二三%を占めております。国の財産に対する補償、いろいろな関係があるから、この比率はふえるのではないかと一般には予想されております。しかし終戦処理費関係が多少融通がきくようになればあるいはふえないかもしれない、この平和処理関係といいますか、終戦処理関係の経費と一般の行政費との関係は、来年度予算においてはどの程度の割合になるか承りたいと思います。
  189. 池田勇人

    池田国務大臣 前提の千七、八百億というのには、終戦処理費と警察予備隊の費用、平和回復善後処理費、あるいは連合国関係の役務等の特別調達費、これに限つておりますか、まだほかにありますか。
  190. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それだけであります。
  191. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう点になりますと、大体私の見込みではふえると考えております。
  192. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうしますと、本年度予算では七千九百億円の中で千八百二十九億円というものがその関係に充当され、二三%になつておりますが、来年度予算ではこの比率は大体どの程度に移ると考えてよろしゆうございますか。
  193. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう問題は、これから賠償あるいは外債の支拂い、警察予備隊の増強、駐屯費の分担等によつてきまるのでございます。今から申し上げるわけに参りません。
  194. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 大蔵大臣は総額においてはふえぬだろう、こうおつしやいましたけれども、ここが非常に重要な問題でありまして、何しろ総額が八千億円なら八千億円で限定されております。その中で片方の終戦処理や平和関係の経費がふえて来れば、当然一般の公共事業費であるとか、社会福祉費であるとか、そういうものは減少ということになつて来ます。そういうことはまた日本の今後の経済の情勢、インフレぎみであるとか、その他の問題にもすぐ響いて来るものであります。その辺の大まかな見通しをこの際つけていただかないと、われわれとしてこの賠償問題に対する責任を持つた言動ができないのでありますが、もう少し明確にしていただきたいと思うのであります。大体の総額がきまつておるならば、その内部のパリテイもある程度見当をつけておいてしかるべきである。現に大蔵省においては、各省の要求を査定して、大体の草案はもうできてる段階だと思いますので、承りたいと思います。
  195. 池田勇人

    池田国務大臣 歳出予算の総額を申しておりません。八千億円台、七千九百三十七億円と大差ない、八千億円台、こう言つております。従いまして総額もまだはつきり申しておりませんし、それから平和関係経費並びに警察予備隊の方もまだきまつておりませんので、歳出予算に対しまするそういうものの割合は、申し上げる段階に至つておりません。
  196. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そういう段階に至つていないと言つてはそれでおしまいで、話は簡単に済みそうですが、しかしこれは一番重要な問題なのです。大蔵大臣としては、個々別々に一体防衛分担金はどれくらい負担するとか、あるいはその他の外債償還とか、具体的な額や何かを私は聞いているのではない。大体大まかな来年の予算の大綱、大筋だけをこの際頭に入れておいて賠償問題を考えてみよう、こう思つておるのであります。そこで大体経費増になると思われるのは、大蔵大臣が言われたよう防衛分担金であるとか、外債の償還費であるとか、あるいは連合国財産に対する補償費であるとか、その程度のものだろうと思いますが、そういう程度のものがこの八千億円台の予算の中においてどの程度一体ふえるまで耐えられるか、そういう観点から見解を示していただきたい。
  197. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど申し上げましたように、あなたのおつしやるようなアイテムを計算した今年度の金額よりふえると申し上げるよりほかには、まだ結論が出ておりません。
  198. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうしますと大蔵大臣は八千億円見当、大体七千九百億円に近い数字であるということを先ほど申されましたが、そうなると少くとも終戰処理や平和関係の経費がふえますと、一般行政費というものは当然減少します。減少する中でどういう費目が減少するか、たとえば公共事業費が減るのか、平衡交付金が減るのか、あるいは一番心配になつておる六・三制とか、結核対策費とか、そういうものに犠牲が出て来るのか、その辺の大蔵大臣の見解を示していただきたい。
  199. 池田勇人

    池田国務大臣 今お話になりましたような費目につきましては、なるべく減らさない考えでおります。
  200. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば何を減らしてそのひずみをならそうとされるのでありますか。
  201. 池田勇人

    池田国務大臣 各省の要求その他日本の状況を勘案しまして、断定いたしたいと思います。
  202. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そういうのらりくらりした答弁では一向に正体がつかめないのでありまして、少くとも大きな財政政策を持つておられる池田大蔵大臣は、見当だけはつけておられるだろうと思う。各省の要求もあり、大蔵省の査定ももう終るころである。従つて大体の見当はついておると思うのでありますが、最後にもう一回お尋ねいたしますが、大体八千億円見当の中で平和関係、終戦処理費関係がふえると言うけれども、今の割合から見てどの程度ふえると考えているか、それから反対に減らす方はどういうものが減らされるか、つまり行政費、たとえば一般の公務員に対する賃金関係であるとか、物件費であるとか、そういうものが減るのか、そうでなくて社会保障費、実質的に国民の厚生に関係するような経費の方に響いて来るのか、そういう方針でよろしいですからお示しを願いたいと思います。
  203. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほど申し上げましたように、八千億円台というので、まだ総額はきまつておりません。大体大差はないというので八千億円台と申し上げた。今お聞きになる問題はふえるとか減るとかいつても大した問題ではない。私は今年度の補正予算をつくりますと同時に、大体の見通しをつけてことに減税を来年も続けて行くとすれば見通しをつけて行かなければ減税を今年度からできぬわけです。大体のアウトラインだけは持つております。しかし私が今公共事業費はどれだけふやすそれから社会福祉、厚生関係の経費はどれだけふやすというふうなことは、まだ今後の情勢を見て考えなければならぬので、従いまして今ここで責任ある大蔵大臣としてこの分を三十億ふやすとか、この分が十億減るとかいうことは言えないわけであります。あなたが今お考えになつてもわかりますように、行政整理によります平年度の減はもう財政演説で言つております。それから今年八百億を計上いたしております外為特別会計のインヴエントリー・フアイナンスも、これは減るかもわかりません。さしむき国際通貨基金加入の二百億円は今年出してしまえば減るでしよう。これは賢明なる中曽根君が予算を見ればおわかりになることであります。平和関係の分でどれだけあるかということは、貿易協定の内容もきまつていないし、外債の支拂いもきまつていないし、あるいは御質問の賠償の問題につきましても、まだ話合いをしていないのであります。私がこんなところでそんなわくを言つたらたいへんなことであります。言わない方が国のためにもよろしい。
  204. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 要するに吉田内閣のやつておることはお先まつ暗で、アメリカさんが言つて来るまではわからないということであります。それ以外の何ものでもないのであります。(「どうしてこんな者に発言を許したのですか」と呼び、その他発言する者多し)そこで大蔵大臣に承りますが、そうすると来年度の賠償関係の負担がきまるのはいつになるかわからぬという状態ですが、少くとも来年度予算に組まなければならぬ。そうすると来年度予算が国会に提出されるのは、慣例に従つて一月二十日ごろであると思いますけれども、一月二十日ごろまでには来年度予算の構想もきまり、それまでには来年度の賠償の額もきまり、一応の見解がきまる、こういうふうに解釈してさしつかえありませんか。
  205. 池田勇人

    池田国務大臣 お先まつ暗というこことはないのでございます。私は来年度の予算の大体のわくを言つておるのであります。お先は私にははつきりわかります。あなたに申し上げることがよくないというので言わないのであります。  しかして次に賠償の問題は、来年度の予算に載せなければならぬから、来年度の予算の提出はおそくとも一月二十二日だとすればそれまでにきまるかというお話であります。きまれば載せるでありましようし、きまらなければどんなかつこうでも計上するすべは知つております。
  206. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 大蔵大臣は、賠償は誠意をもつて拂うと非常に楽観的なことを言われておるのでありますが、そうすると少くとも百億や二百億くらいは計上するのではないかとみな考えられておるし、その辺の雑誌にもみな書いてある。そういういろいろな考えから、おそらくそれくらいの金は載せられると見ておるのでありますが、それではそういうふうに賠償は来年度の予算に載るか載らぬかもわからぬのだ、こういうふうに大体解釈してさしつかえありませんか。
  207. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう問題は今後の国際交渉によつてきまる問題だと思います。そのときにお答え申し上げます。
  208. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば要するにまだ方針も何もきまつていないので、答えられないというのですから質問いたしません。  その次に承りたいと思いますが、来年度の予算やあるいは財政の規模をきめ、執行して行く上について、来年は大体の予想では賠償であるとか平和関係の新しい臨時的な負担もかなり出て来る。そこでそのような額をなるたけ減らして行くというのが日本国民の負担を軽減させ、またわれわれに努力目標を与える意味においてよろしいというので、そういう関係の経費はこれを特別勘定にするとか何かの、そういう措置を講じて、予算編成に新しい機軸を出すという構想があるようですが、大蔵大臣はそういう考えはありませんか。これは歳出についても歳入についてもその見解を承りたいと思うのであります。
  209. 池田勇人

    池田国務大臣 歳入につきましては問題いございません。歳出についてそういうことをやるかやらぬかという問題は、先ほど申し上げましたように、予算編成までにおきまして、外債の支拂い等がまりますればそれはそれによつて出します。賠償の問題がきまらなければ別の方途をこれから考えたいと思います。
  210. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 次にしからば賠償の限度について承りたいと思います。先ほど総理大臣質問いたしたのでありますが、大蔵大臣はアメリカからの、終戦以来の二十億ドルに及ぶ援助費がまず優先債務であると考えておられる、こういう明確な発言をしておられる。しからば日米経済協力に対するいろいろな経費であるとか、あるいは日本経済自立のための電源開発であるとか、その他に要する経費であるとか、あるいは自衛力を強化して行くためにいろいろな必要な経費がいる、治安関係の経費もいる、そういうよう日米経済協力あるいは経済自立、あるいは資本蓄積、自衛力の強化、こういう問題と賠償の問題をどういうような限度で取扱つてさばいて行くものか。具体的に聞きたいのは、賠償が終らぬうちは日本の自衛力を強化する経費はさき得ないのか、あるいはさき得るのか、あるいは賠償が終らなくても、資本蓄積のためにかなり大幅な政策を断行することができるのか、こういう点に関する大蔵大臣の見解を承りたいと思うのであります。
  211. 池田勇人

    池田国務大臣 御質問の点が多岐にわたつておるようでありまするが、対日援助についての債務の性質は、賠償に優先するかしないかという問題につきましては、先ほど触れたことがある思うのであります。総理はどうお答えなつたか私は存じませんが、アメリカにおきましては、賠償よりも対日援助の方が優先するという説が多数説であります。これだけは御紹介したのであります。  次に問題は、賠償の問題と日米経済協力、あるいは資本の蓄積とどういう関係があるか、こういう御質問でございまするが、その要点がわかりません。私が想像してお答えすれば、われわれは賠償は誠意をもつて拂わなければなりません。日本の経済をこわしたり、国民活を引下げ、塗炭の苦しみに陥るような賠償は、向うもすべきではないと思います。われわれも応じられません。しかしわれわれが誠意をもつて賠償に応ずるとすれば、できるだけ国力を発展して、そうして南東アジア開発の一助にもというので賠償並びに開発の気持でやつて行かなければならぬ、こういうふうに、お互いが共存共栄の立場で行くならばおのずから解決がつくと思うのであります。こういう意味におきまして、賠償とは直接の関係がありませんから、日本の国力増進の上からいつて日米経済協力、あるいは資本の蓄積、こういうことは考えて行かなければならぬ問題である。
  212. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 現在の日本経済の中で重要な問題は資本蓄積の問題、それから日米経済協力の問題、それから政治的には自衛力の増強という問題、この三つの問題と賠償がどういうふうなひつからみ合いを持つているかということは、われわれとして一番心配をしている問題であります。具体的に聞きますが、しからば日本の自衛力を強化して行くために必要な経費は、賠償よりも国内措置としては優先すべきである。つまり賠償が全部支拂われぬうちは、日本の自衛力をこれ以上強化してはならぬ、こういう議論は成立しない、われわれはそう考えるのでありますが、この点について大蔵大臣はどういうふうに考えておられますか。
  213. 池田勇人

    池田国務大臣 日本の自衛力を強化するという中に、警察予備隊が含まれておるか含まれていないかということを私が反問したのはそれであります。
  214. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 入つておる。
  215. 池田勇人

    池田国務大臣 入つておる。だからあなたの前提の額が今年よりもふえると申し上げたのであります。
  216. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 警察予備隊の限度はそれでいいですけれども、警察予備隊を、さらにもう少し有効なる範囲に強化して行く「(「再軍備」と呼ぶ者あり) 再軍備という声があつたが、再軍備でもよろしい。ともかく今よりもつと有効な―日本防衛をほんとうに確保できる程度にまで強化して行く。その程度の額は賠償に優先すべきであると思うのであるが、大蔵大臣はいかにお考えになりますか。
  217. 池田勇人

    池田国務大臣 昨年度二百億、今年度当初百六十億、補正追加百五十億とだんだんふやしております。私はお話のように、治安確保の意味におきまして、警察予備隊は強化するつもりであります。しかし反対に警察予備隊を強化しなければならぬから賠償は拂わないとは言われません。また賠償を拂うのだから片一方はするなと向うも言いますまい。これはやはり全般のことを考えてやらなければならぬ問題であります。しかしてあなたは自衛力を強化すると言う。その限度がなかなかむずかしいのであります。どれだけやつたら自衛力が強化できるか。七万五千人で、しかも今のように鉄砲や何かいろいろなものを借りて来て、通信その他の設備もないときに、自衛力が強化できたとは言えますまい。どれだけの警察予備隊にし、どれだけの装備にしたら自衛力が安泰だというところも、なかなか見にくいのであります。従いまして私は今の状態ではまだ改善する点がありますので、来年度も警察予備隊は相当額計上する考えでおります。
  218. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 どの程度が強化になつたかという見当が見にくいと言われるけれども、それは吉田内閣がそういう点に関心を持つていないで、計算してないからそういう答弁が出る。ほんとうに吉田総理大臣サンフランシスコでやつた演説ように、北方からの脅威が迫つている、そのことをほんとうに思つたならば、それじやその脅威に対してどの程度の力を持つたら対抗できるのだという措置をしなくてはならぬ。そういう考えが真剣に取上げられるならば、大蔵省で計算しているはずです。そういうことをやつていないというのは、吉田内閣がそういう点に関して関心がないということを意味しているのであつて、私は大蔵大臣の答弁は、答弁としては妥当だとは認めない。  次に承りますが、しからばこの賠償の額については将来の問題で言えないと言うけれども一つのモデルがある。それはすでに御存じのように、賠償問題についてはポーレー報告以下ストライク報告、あるいはジヨンストン報告、いろいろ出ておる。ストライク報告によると、一九五一年の価額によつて十億ドルの施設云々という、十億ドルという一つの見きわめが出ている。それからジヨンストン報告になると、その額は四億二千万下ドルくらいに引下げられております。さらにもう一つ、標準としてあるのはイタリアの講和條約の例である。イタリアの講和條約の例によると、三億六千万ドルを七箇年の年賦で拂う、しかも最初の二箇年は拂わぬでもよろしい、こういう三億六千万ドルという額が出ております。日本が東南アジアその他に与えた損害については、イタリアその他とは同じように比較することはできないかもしれませんが、イタリアの講和條約に比べて、この講和條約がほんとうに和解と信頼の條約であるならば、賠償とか懲罰的な要件というものは少くなるはずであります。従つてわれわれ国民側の考えとしては、少くとも賠償の額というものは、ジヨンスト報告やイタリアの講和條約の場合よりは総額において少くなるべきだという考えを持つておるのでありますが、吉田内閣はいかにお考えになつておりますか。
  219. 池田勇人

    池田国務大臣 ストライク報告とかジヨンスト報告通りでわれわれはいいとも思いませんし、こういう問題はこれからの話で、お話にもありましたように、賠償という問題は先方が与えられた損害を考慮してきめなければならぬ問題であります。そこで終戦後一部施設を賠償として撤去される、これだけでよいかという問題があると思います。われわれはこれだけでは済まぬのだと思います。そこで平和條約の十四條が出ておるのであります。平和條約の十四條になると、青天井の賠償かという問題がありますが、これは十四條の精神、平和條約全体の精神、これからいつて私は青天井ではないと考えます。そこできのうも参議院の本会議で非常に苛酷なものだというある議員の質問がありました。私はそうは考えない。やはり寛大な平和條約と考えております。
  220. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 寛大かどうかは賠償やその他に関する今後の講和の出方を見てわれわれは判断するのであつて、この講和條約全体は、なるほど日本の過去に対してはあるいは寛大であるかもしれないが、第五條その他の條文考えて見れば、日本の将来に対しては苛酷になるかもしれない。そういうおそれのある條文が現にきめられておるのである。賠償もその一つである。そこで大体の見当として私は先例を申し上げたのでありますが、われわれ日本国民としては、和解と信頼の條約ならば、その額は少くともイタリアよりは緩和してほしい、こういう要望を持つておるということをここで言明しておきます。  次に伺いたいのは、賠償の限度に関してフイリツピンその他の方面においては―日本国民の生活水準はかなり高い、アメリカのカリフオルニアの人は一年間に千七、八百ドルでありますが、それに対して日本は百二十ドル、フイリピン、東南アジアに行くと三十ドルないし五十ドルという数字をあげておつたのを覚えておりますが、そういうような生活水準というものが賠償の基準になると、これは日本国民にとつてたいへんである。私が先ほど総理大臣にお尋ねいたしましたら、戦争前の日本の生活水準より下ることはない、そういうことをここではつきり言明された、これは国民が聞いて喜ぶでありましよう。現在すでに戦争前の約八十パーセントといわれておるのでありますから、少くとも一〇〇%まで日本国民生活水準が回復できる見通しを持つたということにおいて、私は国民のために喜びたいと思います。その点について大蔵大臣はいかにお考えになりますか。
  221. 池田勇人

    池田国務大臣 質問の点がはつきりわかりませんが、私は戦前の生活水準よりも、もつと上げたいという気持を持つております。
  222. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 大蔵大臣の今の言葉を、責任ある言葉として私は受取つておきます。ともかく日本国民生活の水準を戦前以下には下げない、そういう点において賠償問題を確保する、そういう言明として受取つてよろしゆうございますな。もう一回伺います。
  223. 池田勇人

    池田国務大臣 あなたのお考え意味がわかりません。戦前の生活水準と、今の生活水準を比べたら、あなた御存じのように―私はこの統計が正確なものとは思いませんが、昭和九―十一年の五人世帶の八十八円を物価高によつて割出している、それで生活水準を言つておるようでありますが、生活の状況その他がかわつて来ております。こう生活がかわつて来ておりますので、今七十三、四まで行つて、六十七、八まで下つておる。そうすると生活水準が、そういう計算の仕方で、戦前以上にならなければ賠償を支拂わないということを言いますと、いかに持つてつても、生活水準が戦前以上になるのは何年先かわかりません。それまでは賠償しないというふうにあなたが解釈されてはいけませんので、そういう御質問には答えかねます。
  224. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば戰前の水準ということは、どういうことで判定するわけですか。
  225. 池田勇人

    池田国務大臣 それは今言つたような疑問の点はありますが、戰前の九― 十一年の水準よりも上げたいということで努力いたしております。上げたいという点で努力しておりますが、上るまではそれでは賠償を支拂わぬでもいいのじやないか、こういうような御解釈になられると困りますから、返事がしにくい。
  226. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 常識的に用いられているのは、昭和九―十一年平均、それに対する七十何パーセントあるいは八十パーセントこういうことが常識で用いられているのであつて、それ以外に現在スタンダードになつておるものはないはずです。ところが総理大臣は先ほどの言明で、戦前の生活水準より落さないということをはつきり言われた。大蔵大臣と大分答弁が違うが、吉田内閣の政策が違つておるのですか、総理大臣の方が間違いか。
  227. 池田勇人

    池田国務大臣 そういうことをおつしやるから、私は答えができない。戦前の生活水準までに今回復しているとだれが考えるでありましよう
  228. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 だから総理大臣は、戦前の水準を確保してやる……。
  229. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう言葉じりをとらえておつしやるのは、ほんとうの議論ではありません。従つて私は戦前の生活水準よりも上げたい、こう言つておるのであります。私がそういうことを言つたら、あなたは反問せられましたが、すぐ言葉じりをとつて、上げたいというのならば、賠償はそれまで、戦前の生活水準以上にならなければ拂わぬのかというふうにあなたが出て来られるから、私はそれを見越してお答えしておるのであります。
  230. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私は何も言葉じりをとらえたり数字をもてあそぶようなことはしない。総理大臣が今から一時間前に私に言明した言葉、その言葉は、戰前の生活水準以上に確保したい、こういうこうとを言われたのです。しからば戦前の生活水準というものを今までの数字で常識的に把握すれば、安本の統計に出ているあの昭和九―十一年平均以外にはないわけだ、それより上らなければびた一文も賠償を拂わないというようなことを私はつべこべ言わない、しかし総理大臣が責任をもつてそういうことを言つた言葉と、大蔵大臣が言つた言葉が明らかに違うということはあり得ないことである。一体どちらですか、総理大臣は下げないようにする。総理大臣はそういうことをはつきり言つておる。
  231. 池田勇人

    池田国務大臣 総理大臣の答弁は聞いておりませんが、私は日ごろから総理考えを知つておりますので、違いはないと思います。
  232. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 違いがないとすれば、答弁が一致しなければいけません。ここへ出て来た答弁は食い違つている。総理大臣は経済問題を知らないで放言をしたということになりますか。私はそういうことはあり得ないと思うのです。そうすると大蔵大臣と総理大臣の賠償問題に関する基準において、非常な隔たりがあるということが言えますがどうですか。これは自由党の連中も聞いておつてつている通りです。
  233. 池田勇人

    池田国務大臣 総理のおつしやつた言葉は、私はここに列席していないので知りません。しかし総理のおつしやつた気持は、私のあなたに対する答弁と同じだと確信しております。もし違つているなら速記録を調べまして……。
  234. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 ワン・マンに可愛がられている人ですから、そういう答弁をしなければならぬでしよう。しかし速記録を調べるということですから、私はこれ以上追究いたしません。  次にお伺いしたいと思うのですが、しからばそういうような賠償をやるということになると、国内産業を動員してやるということになつて来る。そうすると賠償の関係によつて動員された産業に対しては、かなりの資金とかあるといは恩典が加えられるかもしれない、また放任しておけばかなりの利潤が入るかもしれない。ところが税金を負担する一般国民というものは、それに反比例してかなりの重圧が加わつて来るということに偽ります。この賠償問題は、国民負担公平の見地からどういうふうに国内措置をとるかということは大きな問題でありますが、一体利潤であるとかその他の問題について、大蔵大臣はどういう方針でおやりになるつもりでありますか。
  235. 池田勇人

    池田国務大臣 御心配のようでありますが、いよいよ賠償の額、形態がきまりましたら、御心配のないよう措置いたしたいと思います。
  236. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 御心配のないようにという抽象的な言葉をお使いにならないで、一体具体的に、利潤の問題についてはどういうふうにやるか、あるいは税金との調整についてはどういうふうにやるか、あるいは加工費の算出方法についてはこういう監督をやる、そういう政策の片鱗をひとつ示していただきたいと思うのであります。
  237. 池田勇人

    池田国務大臣 個々の問題について検討しなければならぬ問題であります。加工費の問題につきましても、今賠償の加工がなければXの仕事をしている、賠償の加工によつて利潤が倍加わつた場合に、XとYとをどういうふうに見て、調整の仕方はどうしようとか、あるいはまたYの利潤の見方をどうしようかということは、賠償の個々の形態によつて適当に処置すべきであつて今ここで議論しても私は架空の議論だと思います。
  238. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば抽象的に一般的な方針として、加工費の算出であるとか、あるいは利潤の処置であるとか、あるいはその他の行政監督については、内閣としては一つの政策を持つて臨む、明確なる政策を持つて臨むと解釈してさしつかえございませんか。
  239. 池田勇人

    池田国務大臣 政策を持つて臨むというと声が大きいようでありますが、適正にやる、これでよいと思います。
  240. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 適正にというけれども、それはあるいは法律の形をとるか何らかの形をとつてやるべきであつて国民としては当然これは議会を通して、議院の監督した方法でやるべきだと思うのでありますが、大蔵大臣はそういうよう国会を経由した方法でおやりになる考えでありますか、どうでありますか。
  241. 池田勇人

    池田国務大臣 賠償の額その他がきまつてから考えればけつこうだと思います。
  242. 田中萬逸

    田中委員長 中曽根君にちよつと申し上げます。お約束の時間が来ておりますから、簡潔に願います。
  243. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 しからば次に飛びまして、外債償還の問題について伺いたいと思います。大体現在日本が借りている外債は約三億九千万ドル程度あると聞いておりますが、総額において元本、利子、減債基金等その他幾らありますか。
  244. 池田勇人

    池田国務大臣 全部で四億四千八百万ドルと記憶いたしております。
  245. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 四億四千八百万ドルの内訳をひとつ説明願いたいと思います。期限到来のものがどれくらいありますか。
  246. 池田勇人

    池田国務大臣 これは各銘柄がたくさんありまして、そうして到来期限もいろいろな種類のものがありますので、いずれ資料でお渡しすることにいたします。
  247. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 この外債の善後処理という問題は、今後の日本国際信用に影響するところきわめて大であると思いますが、一体どういうふうにして期限到来したものについては御処置なさる方針でありますか。
  248. 池田勇人

    池田国務大臣 期限の到来しているもの、また未拂い利子の問題、また今後期限の来るものにつきまして、政府は慎重に考えております。これは債権者の意向を聞かなければならぬことでございます。しかもまた日本の大蔵大臣がこういう処理方針を出したと言うたら、毎日新聞に載つておりまするニユーヨークの日本の国債あるいは社債等の上げ下げに非常に影響いたしますので、私はここで触れたくないと思います。
  249. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 景気のいい話をすれば、相場が上るんだから大いに言つた方がいいのではないかと思います。できるならこれは示すべきだと思います。そこでイタリアの外債借りかえの例を見ると、新規債に借りかえるか、あるいは一部を借りかえて、利子その他一部を償還するか、いろいろな方法があると思うのです。イタリアの場合には、何か非常に国際信用を害したというようなことを読んだことがありますが、イタリアの場合は一体どういう状況であつたか、大蔵大臣知つておりましたらひとつ承りたいと思います。
  250. 池田勇人

    池田国務大臣 イタリアの外債支拂いは、英国とイタリアの関係、あるいはアメリカとイタリアの関係で違つております。アメリカの方との関係は、今お話の通りに、その後のイタリアの信用を上げなかつた、かえつて失墜したのじやないかというふうなことを聞くのでります。いろいろな考え方がありますが、大体これは債務者の方で一人ぎめをするわけのものじやない、債権者の方と話をしてきめなければいかぬ。たといそれが一時的には有利であつても、今後日本の外資導入その他に支障があつてもいけませんので、よほど慎重にしなければいかぬと思います。
  251. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そこでこの処理の方法については、全部新規債に借りかえるか、あるいは一部を借りかえる、そのほかともかく一定の今までのやり方があるわけです。そういう中でどういう方針をおとりになるか、抽象的な方法だけでもいいからひとつ承りたい。
  252. 池田勇人

    池田国務大臣 今までのやり方も研究しておりますし、今後われわれの臨むやり方も検討しております。しかしこれは債権者と相談の上でやらなければいかぬので、ここでいろいろな方法を一人ぎめして、大蔵大臣が言うことはよくないと思います。
  253. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 池田大蔵大臣は、アメリカへ国費を使つて二回も行つておりますが、まだそういう話は一向触れておらないのでありますが、いかがです。
  254. 池田勇人

    池田国務大臣 触れたこともありますし、最近は触れておりません。触れない方がいいと思つて最近は触れておりません。
  255. 田中萬逸

    田中委員長 中曽根君、もうどうです。
  256. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 もう少しあります。まだ時間は三時半ですから……。
  257. 田中萬逸

    田中委員長 先にその話をあなたにしてあるはずです。
  258. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 それじや外債問題をもう一点お聞きします。まず外債の中には、これは大蔵大臣がその中に入れておるかどうかはしりませんが、東拓債とか台湾電力債とか、外地にあつたものがある。こういうものはどちらが処理すべきものと心得ておりますか。
  259. 池田勇人

    池田国務大臣 東拓社債、台湾電力債並びに満鉄等の分は、政府が外債処理法によりまして肩がわりいたしておりますから、先ほど申し上げました四億四千八百万ドルの中に入つております。
  260. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、あの外債処理法によつて日本政府が責任を持つておるから、日本側において処置すると解してさしつかえありませんか。
  261. 池田勇人

    池田国務大臣 その通りです。
  262. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 最後に賠償問題とからみまして、第四條に規定されておりまするところの朝鮮、台湾、千島その他における民間財産の問題を承りたいと思います。これは第二條によりますと、日本国朝鮮、台湾、澎湖島、千島列島、あるいは委任統治地域、南極等における権利、権原すべてを放棄すると書いてある。ところがこの第二條においては、日本国民ということは書いてないわけです。そうすると台湾や朝鮮や千島にありました私有財産については、第四條によつて特別のとりきめができるという意味解釈いたします。そこで西村條局長にお伺いいたしますが、この中で「特別取極の主題と下る」とありますが、現在日本の内地には朝鮮、台湾その他からの引揚者も非常に多いのでありまして、その人たちが外地に残して来た財産の所属がどうなるかということは、非常に今心配しておる問題であります。政府としては、この「特別取極の主題とする。」という言葉を一体どういうふうに解釈し、どういう方針でこれを処置なさるつもりか承りたい。
  263. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 最終的処分を両当事政府間の協定できめるという意味でございます。
  264. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、その場合に相手側が問題になりますが、朝鮮、台湾については韓国政府あるいは国民政府、そういうふうに解釈してさしつかえないわけでありますか。
  265. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それはすでに答弁済みで、御意見の通りであります。
  266. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 私有財産は別として、しからば公有財産や国策会社の場合はどうなりますか。
  267. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 明文に規定してあります通り、特別とりきめの主題になります。
  268. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 そうすると、それは国家財産には含まれないと外務当局は解釈しているわけですね。
  269. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 国家財産も、特別とりきめの内容目的になります。
  270. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 第二條では、日本国権利、権原、請求権を放棄すると書いてあるのでありますが、その中には、国家財産は包含されていないという意味でありますか。
  271. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 第二條で放棄しておりますのは、領土的主権でございます。領土的権原でございます。財産権に関係がございません。
  272. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 時間が来ましたから、これで私の質問は終ります。
  273. 田中萬逸

    田中委員長 本日はこの程度にいたしまして、明二十五日は午前十時より委員会を開くことといたします。本日はこれにて散会いたします。     午後三時三十九分散会