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1951-10-20 第12回国会 衆議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月二十日(土曜日)     午前十時八分開議  出席委員    委員長 田中 萬逸君    理事 北澤 直吉君 理事 倉石 忠雄君    理事 島村 一郎君 理事 竹尾  弌君    理事 並木 芳雄君 理事 笹森 順造君       麻生太賀吉君    池田正之輔君       石原 圓吉君    石原  登君       伊藤 郷一君    植原悦二郎君       小川原政信君    菊池 義郎君       近藤 鶴代君    佐瀬 昌三君       田嶋 好文君    田渕 光一君       塚田十一郎君    仲内 憲治君       中山 マサ君    西村 久之君       西村 直己君    原 健三郎君       福田 篤泰君    藤枝 泉介君       守島 伍郎君   山口喜久一郎君       若林 義孝君    小川 半次君       坂口 主税君    松本 瀧藏君       山本 利壽君    吉田  安君       勝間田清一君    西村 榮一君       田島 ひで君    林  百郎君       米原  昶君    高倉 定助君       黒田 寿男君    佐竹 晴記君  出席国務大臣         法 務 総 裁 大橋 武夫君         大 蔵 大 臣 池田 勇人君         国 務 大 臣 周東 英雄君  出席政府委員         外務政務次官  草葉 隆圓君         外務事務官         (政務局長)  島津 久大君         外務事務官         (條約局長)  西村 熊雄君 十月二十日  委員北村徳太郎君辞任につき、その補欠として  中曽根康弘君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  平和条約の締結について承認を求めるの件(条  約第一号)     —————————————
  2. 田中萬逸

    田中委員長 これより会議を開きます。  昨日までの総括的質疑によりまして、両條約の大綱及びこれに関連する基本的な諸問題の概略を明らかにすることができたと存じます。  本日より各條項について逐條審議形式によつて質疑を続行することにいたします。  平和條約から始めることにいたしまして、便宜上各條ごと議題に供することとし、各條ごとに通告に従いまして質疑を許すことにいたします。  まず平和條前文議題に供します。菊池義郎君。
  3. 菊池義郎

    菊池委員 今回の対日平和條約は世界外交史上つて類例を見ないところの異例の成功を示すものであつてかくのごとき友愛と信義に満ちたところの條約の結ばれまする陰には、米国の絶大なる好意と、わが全権御一行の涙ぐましい努力とがあつたことを忘れてはならぬと思いまするが、ところでこの講和條約に調印した国々に対しましては、講和條件ポツダム宣言降伏文書にかわるといたしましても、調印しない国々とはなお戦争状態が継続し、ポツダム宣言降伏文書も、依然としてその効力を失わないわけでありまするが、日米安全保障條約で第三国に駐兵の権利を與えないとするならば、ソ連がもし単独でもつて日本占領することは、事実上不可能であるといたしましても、法的には占領権利があるといたしますれば、その占領権利というものは、この安全保障條約に優先するものでありまするかどうか。この法的の御解釈をお伺いいたしたいと思います。
  4. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 問題は主として連合国間の問題でございます。しかしながら私ども考えといたしましては、連合国の一国が単独日本占領する権限はないものと考えております。
  5. 菊池義郎

    菊池委員 その法的根拠を御説明願いたい。
  6. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日本連合国による占領につきましては、終戦前に連合国間の協定によつて行われたものであります。
  7. 菊池義郎

    菊池委員 連合国間の協定でありましても、調印しない国はなお占領権利が残るわけであると思いますが、これに対する御見解を承りたい。
  8. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日本占領管理する権限というものは、連合国が合同的に有する権限でございまして、単独に有するものでないのであります。その根拠方法については、ポツダム会議以後同年十二月のモスクワ協定その他連合国間の協定について定められております。
  9. 菊池義郎

    菊池委員 対日管理政策を決定する機関でありまする極東委員会は、ソ連拒否権発動にありますると解散できないはずでありまするが、そうなりますると、その機能はどうなりまするか。この点ひとつ
  10. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それは純粋に連合国間の問題でございまして、われわれとしては、連合国間の処分に一任しておいてよろしいと考えておるわけであります。サンフランシスコ会議ダレス全権説明されたように、連合国としては、すでに日本における連合国による占領管理を終了すべき時期が来ているという確信のもとに、この平和條約をつくるものであるという立場を声明されております。その連合国の大部分の立場に同調しない数箇の、ないし、一つ連合国との関係がどうなるかということは、この平和條約をつくろうという立場をとる連合国と、それに同調しない連合国の間の問題として、私どもとしてはまかしておいていい、こう考えておるのであります。
  11. 菊池義郎

    菊池委員 なお最高司令部助言機関でありました対日理事会は、司令部の解散とともに解消するものでありますか。
  12. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 解消するということは、総理もまた私もたびたび御答弁申し上げたところであります。
  13. 菊池義郎

    菊池委員 もし日本が将来再武装する場合に、ソ連が、ポツダム宣言違反理由としてこれに反対した場合は、どういうことになるのでありましようか。
  14. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それはまつたく仮定の問題でございますので、今対策考える必要はなかろうかと思います。そういう事態がかりに発生いたしますれば、そのときに日本政府としては愼重考慮すればよろしい、こう考えております。
  15. 菊池義郎

    菊池委員 総理答弁のような答えでありますが、こういう場合は必ず到来するものとわれわれは予期しておりますので、今からしてその法的な対策考えておかなければならぬと思うのでありますが、これを考えないのではどうも政治家としてどうかと思う。もし一度御親切な御答弁をお願いいたしたいと思います。
  16. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 それは法律上の問題でなくて、その問題に包含されておる法律的意味はきわめて軽いものでありまして、要するに政治的問題であるといつても間違いではないと思います。従つてそういう事態が起るか起らないかまだわかつていないときに、どういたしましようという政策上の問題について意見を申し上げるのは適当でないと判断いたす次第でございます。
  17. 菊池義郎

    菊池委員 それからもう一つ国際法の権威であります西村局長にお伺いいたしたいと思いますが、ソ連拒否権行使によつて日本国際連合加盟が困難であるといたしますならば、日本といたしましては、形式よりも実際的の効果をねらいまして、加盟しなくても加盟したと同じような効果を収めるために工作するのが、最も賢明な策であると思うのであります。そこでソ連拒否権発動を受けるような安全保障理事会を通さなくても、この目的を達し得るような手段方法について、政府におきましては幾つかの腹案が必ずあるはずであり、またなければならぬと思うのでありますが、これにつきまして、第一案はこういう案、第二案はこういう案、あるいは第三案はこういう案といつたように、西村局長腹案をひとつお示しになつて、参考に供していただきたいと思います。
  18. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 国際連合が設立されましてから、憲章規定によつて加入を認められた国は、たしか六十箇国であつたかと思います。また加入を申請いたしまして、安全保障理事会でひつかかつておるものが、たしか十五箇国かと記憶いたしております。こういうふうな状況がきわめて不満足であるということは、数年来国際連合自体の中で、取上げられておりまして、この難関を打破する道を発見するように、国際連合加盟諸国は非常な努力をしておる次第でございます。むろん日本としましては、前文で声明いたしております通り国際連合に一日も早く加入いたしたい次第でございますので、この難問題が国際連合それ自身の手によつて解決されまして、一日も早く加入が実現することを希望いたしておる次第であります。では国際連合によつてどういう方式考えられておるかということになりますが、大体今日まで表面に出ておりますのは、国際連合憲章自体解釈によつて総会は必ずしも安全保障理事会の勧告に拘束されることなく加盟を決定し得るのではなかろうかという方向をとつておりました。しかしこれは所期の目的を達しておらないようでございます。もう一つは、そういうふうに憲章それ自体解釈ないし運用を変更することによつて安全保障理事会における拒否権行使を回避するということは、きわめて困難であるということがわかつて参りましたので、一部には総会の決議のような方式によつて加盟国に準ずるような地位を持つた国を認めるという方式とつたならばどうであろうかという考案があるということを聞いておる程度でございます。公式に聞いたことは何もございません。ただ私どもとしましては、サンフランシスコ会議におきましてシユーマン・フランス全権が、この十一月にはフランスにおいて第七回の国際連合総会が開かれる、この総会においてこの対日平和條約が承認されまして、日本とイタリアとが平和愛好国の仲間として迎えられることを期待するということを言われました。そういうふうなこともありましたので、われわれとしては日本国連との協力関係について、何らか適当な方法が発見されまして、加入が実現したに近いような協力関係ができるようになる—できたならばまことにけつこうであると、静かに事態を静観しておるというありさまであります。
  19. 菊池義郎

    菊池委員 それではあとは逐條審議に讓りまして、これで私の前文質問を終ります。
  20. 田中萬逸

  21. 小川半次

    小川(半)委員 前文は條約全般にわたつておるのでありまして、そういう趣旨から、私は大体條約全般に関連して総括的にお尋ねしたいと存じます。  日本国際連合加入することを前提として、今回の條約がなされたものであるということは政府説明通りで、わが国国連加入はもはや時間の問題であると思うのでございます。申し上げるまでもなく、国際連合は、世界の平和を維持するために結成を見たところの一つ平和擁護組織機関でありますが、その憲章には、自国の安全を自力によつて守り得るもののみが、これに加盟する、権利を有する、と規定しておるのであります。すなわち素手では加盟する資格がない、入つて来るならばからだに武装を帯びて入つて来いという意味であります。これをさらに掘り下げて申し上げますならば、軍備を持たない国は加盟する資格がないということであります。この点は政府の方でもよくわかつておると思うのでありますが、かくのごとく、講和とともに日本武装は決定づけられているにもかかわらず、それでも政府軍備は持たないとおつしやるのでありまするか、この点明らかにしていただきたいのであります。
  22. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国際連合加盟條件としては、必ずしも軍備が必要とはなつておらないのでありまして、現在すでに加盟しております国の中でも、アイスランドパナマコスタリカの三箇国の軍備のない国があるようであります。
  23. 小川半次

    小川(半)委員 それはあなたの解釈の違いではないかと思います。自国を守り得る力というものは、私はやはり日本のような広大な地域を持つておる国と、アイスランドのような日本の一県にも当らないような国とでは、地理的條件が違うと思うのであります。少くとも日本のような広大なる地域を持つておる国が、自己の力で自己を守り得る力というものは、これはやはり軍備であるということ、武装であるということは、少くとも常識あるところの考え方としてここに帰一するのではないか、こういう解釈を持つております。大体政府においては、再軍備反対理由として三つのことを引用しておられます。すなわち、現在わが国経済は安定しておらず、国力は十分でないから、今その時期でないということがその一つであります。もう一つは、再軍備をするかどうかは国民に聞き、国民がきめるべきものであるということが一つである。もう一つは、外国は今日本の再軍備を望んでいないという、この三つのことを引用しておられます。第一に、経済が安定しておらないという意見ですが、吉田内閣の大番頭である池田大蔵大臣は、ことごとに、しかも鼻高々と、経済は安定して生産は上昇したといつておられる。特に昨日の財政演説においては得意になつて、安定と能率と発展を説かれたものであります。大蔵大臣はすでに経済は安定しておるといつておられる。ところが総理大臣は、日本経済は安定していないから、軍備を持つことは早いといつておられる。ここに意見矛盾があり、その矛盾を暴露しておる。これは内閣自体の弱点であります。また再軍備するかどうかは、国民がきめるべきものであるという意見であります。それならば衆議院を解散して国民に問えばよいのであるが、それも行わないということになれば、ここでも理由があいまいになつて来る。いま一つの、外国が望んでいないという考え方は、これはまつたく当を得ないところでありまして、現にマツカーサーを初めアメリカ指導者暦は、日本の再軍備を訴えておるのであります。また欧州方面においてはフランス、ベルギー、西ドイツ等、声をそろえて日本の再軍備を唱えておるということは、私自身体験して来たところであります。かくのごとく政府の再軍備反対理由は、一つとして自信に満ちたものがないのであつて、この際政府は、日本民族の自尊心と独立自主の気魄を樹立するために、すみやかに再軍備に着手すべきであると思うのであります。世界独立国家で、外国軍隊に依存しておる国はどこにもないのでありまして、外国軍隊に保護されておるうちに、その国の国民は去勢された無気力な、しかして知らず知らずのうちに屈辱主義的な敗北思想陷つて、再び立ち上るというたくましさを失つて行くのであります。私はこういう点を非常に心配しております。おそらく政府の諸君も、そういうお考えはあるだろうと思うのであります。従つて私は、この際政府が積極的に軍備を創設されるように望むものであります。この点については、再軍備論は今まで数回出ましたから、いずれ同じような御答弁だろうと思いますので、私はしいて御答弁は求めません。もし政府においてこの点お答えがあれば、どうぞお答え願います。
  24. 草葉隆圓

    草葉政府委員 みずから独立をいたした国がみずからの力でみずからを守るという点につきましては御同感でございます。また当然そうあるべきだと存じております。お話のように、国際連合加入しておりまする国の中でも、アイスランドあるいはコスタリカパナマという国々はいわゆる武力を持つていませんが、これらの国々日本とは違うじやないか、こういう点も確かに違うと存じます。また従来から申しておりまするように、日本の現在の経済力というものは、軍備を今持つ状態にはなつていない。経済力そのものがどうという問題は、大蔵大臣あるいは総理大臣の御説明通りでありますが、再び今ただちに武力を持つということは、今日の経済状態では困難である。また外国が必ずしも全部反対というのではなく、日本軍備に対して、武装に対して、はなはだしい疑惑を持つておる情勢、この疑惑の解消ということも必要である。こういう点が、従来から申し上げておる点でございます。
  25. 田中萬逸

    田中委員長 小川君に申し上げますが、大蔵大臣はただいま閣議中でありまして、ちよつと遅れるようであります。そこで大蔵大臣に対する質疑は保留されて、他の質疑をお進めになつてはいかがでしようか、そのことを申し上げます。
  26. 小川半次

    小川(半)委員 それでは次に大橋法務総裁にお伺いしたいのであります。大橋法務総裁は、行政協定国会承認を受ける必要がないと言明されたのでありますが、これはただ単に国会無視であるばかりではなく、憲法違反の暴論であり、私たち憲法解釈とは全然異なる考え方であります。私は、今あなたとここで憲法論をとりかわそうという考えはありませんが、おそらく憲法論をとりかわしておるうちに、あなたは窮地に陷つて行くのではないか、私はかように思う。治外法権や関税問題その他重要な事項が、国会承認経ずして行われるということは、今日町の法律学者でも首肯できないところであります。大橋法務総裁は、自分考え方憲法に抵触しないとおつしやつておられますが、あなたの考え方は大政翼賛会的な、フアツシヨ的な憲法解釈であつて、私は最も危険な考え方ではないかと思います。だからあなたは昨年の国会においても、義勇軍を創設しても憲法には何ら抵触しないというような、とんでもない意見を言明されたのでありまして、今回の解釈とまつたく私は似ておると思うのであります。従つて私は、あなたがこのお考えを御訂正なさるお考えはないかということを、この際伺つておきたいのであります。
  27. 大橋武夫

    大橋国務大臣 小川君にお答えを申し上げます。行政協定について、国会承認をあらためて必要とするかどうかという点につきましては、昨日も申し述べましたるごとく、この安全保障條約におきましてこれを国会承認されるということによりまして、将来の行政協定に対して事前に国会承認せられるということになるわけでございます。その上あらためて国会承認の手続は必要ないという解釈を改める意思はございません。  なおこの協定によりましてただちに治外法権なり、あるいは国民に対する何らかの拘束というものが当然出るような御議論でございますが、この点につきましては総理からもたびたび申し上げましたるごとく、行政協定の結果に基きまして国内において法律を必要とし、あるいは予算を必要とする事項については、当然法律案または予算案の形において国会の御審議をいただくべきものであります。従いまして国会権限を侵犯するフアツシヨ的なやり方をするということは、これはわれわれの考えとは全然違つたことであるわけであります。
  28. 小川半次

    小川(半)委員 大橋法務総裁は、大体言明された御意見を訂正しないというお言葉ですからこれはやむを得ませんが、しかし起つて来る個々の問題において最も重要で、これは国会にかける必要があるという問題も出て来ると思います。また国会承認を得なくとも、内閣で処理する問題も出て来ると思う。私はおのずから個々の問題によつて違つて来ると思うのです。この点あなたはおそらく私たちと同じ考えを持つておられるのではないか、こう思うのですが、この点を明らかにしていただきたいと思います。
  29. 大橋武夫

    大橋国務大臣 小川君の仰せられましたる個々の問題によつて違つて来るということは、おそらく行政協定内容となるべき事柄で、予算案あるいは法律案を提出し、国会の御審議を願う必要のある事柄もあるであろう、また当然政府権限において実行できる事柄もあるのではないか、それに応じて取扱いが違つて来るのではないか、こういう御趣旨ではないかと思うのでありますが、これは先ほども申し上げましたるごとく、行政協定内容に定められる事柄のうちで、法律案あるいは予算案国会で御審議をいただいた上でなければ国内において実施できないような事柄は、これは当然そういう取運びをすべきものである、こう考えております。
  30. 小川半次

    小川(半)委員 次に領土の問題に関してお尋ねしたいのであります。これは芦田委員初め各委員からしばしば発言のあつた重要な問題でありますが、いまなお疑問な点が残つておりますのでお尋ねしたいのでございます。信託統治領土は、永代借地権のごとく、何十年も経過するうちに地主は自分土地であることを忘れ、また借地人自分土地のごとく錯覚して、うやむやのうちにだれに帰属するともわからないものになりがちであるのであります。南西諸島初め合衆国信託統治下における領域は、永代借地権のごとく、主権日本にあることも忘れられる時代が来るのではないかと杞憂するものでありますが、これは大体今後何年間その制度に置くというような、公式文書をとりかわす必要があると思うのであります。現在でなくとも、これはあるいは半年、一年の後でも必ずしもできないことはないと思うのでありますが、この点について政府見解を明らかにしていただきたいのであります。
  31. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 第三條に基きまして信託統治制度に付せらるることあるべき南西諸島、その他南方の諸島について信託統治が施行される場合には、期限をつけておいたらどうであろうという御意見であつたかと思います。第三條をよくごらんくださいますとはつきりしておると思いますが、同條は、合衆国南西諸島信託統治制度に付したいという提案をした場合には、日本はこれに同意するという規定が第一であります。信託統治に付せられる可能性規定しておるわけであります。後段は、そういう提案がなされるまでの間、合衆国が同地域とその住民に対して立法、司法、行政の三権を行使する権利があるということが規定されてあるわけであります。同條につきましては従来たびたび御説明申し上げましたように、二條と違つて、冒頭に日本による領土的主権の放棄というものが規定されておりません。その意味は、同地域日本主権から離す意思がないということに基くものである。言いかえれば、同地域は依然として日本領域の一部をなすものであるという趣旨のことを、米英両国代表から公式に声明されたところであり、吉田全権もこれを喜んで了承され、そうして合衆国が、こういうふうに信託統治制度にする可能性ないしはこの制度がしかれるまで同地の管理に当る、その理由はたびたび総理からも御説明があつたように、主として極東における平和維持見地から出ておるものであるという説明を念頭におかれまして、極東における平和が確立いたしまして、この地域日本主権のみならず、行政のもとに入ることが一日も早からんことをこいねがうという趣旨を言明された次第でございます。会場におきましても、その節には非常な拍手がありました。そういうふうに私どもとしては、合衆国が同地域について第三條のような規定を置かれた趣旨は、主として極東における安全維持見地から、同地域合衆国管理のもとに置く必要ありとしておることと了承いたしておるわけでございますので、その必要とする事態が解消する場合には、必ず日本主権のみならず行政のもとに返つて来るものであるという確信を持つておる次第でございます。ただその確信については、文書その他による約束というようなものがないということは、総理せんだつて芦田委員の御質問に対して御答弁なさつておる通りであります。そういうふうなことでございまして、要は極東の平和の安定がいつになつたら確立するか、五年ないし十年、十五年というような非科学的数字をもつてこれを規定することは、現状これを許さないと思うのであります。従つてわれわれとしては繰返し申し上げます通り、平和が安定し、それによつてアメリカとして、この地域極東の平和のためにみずから管理する必要がないようになる日の一日も早く来ることを希望するものでございます。なおまた合衆国政府といたしましては、日本の同地域に対する主権が喪失されないということを明言されるばかりでなく、同地域における日本人の国籍の維持、その他日本国民全体ないし住民の希望を考慮して、できるだけ妥当な措置をとりたいという、米国の好意ある態度に日本国民が信頼を寄せられんことを希望するという趣旨のことは、たびたびサンフランシスコ会議でも述べられてあることでございます。日本人としては、この米国の言明に信頼して十分であろうかと思つておるわけでございます。
  32. 小川半次

    小川(半)委員 大体明らかになりましたが、これは主権日本にあり、また当然日本領土であるから、そうなければならぬはずであります。ところが日本国民の中で、信託統治下学校教育は、日本語が使用されるようなことはなくなるのではないか、アメリカ語になるのではないかというような心配を持つ人がありますが、この点も明らかにしていただきたいと思います。
  33. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 第三條につきましては、日本政府といたしましては今申し上げましたような趣旨からして、快くこれを受諾すると同時に、日本国民全体ないし同地域における日本人の気持といたしまして、アメリカ管理のもとに置かるるにかかわらず、従前同地域日本との間に存在しておりました、経済、財政、社会、文化の関係はなるべくこれを断ち切らないで、今後とも継続して行けるような措置をとつていただきたいという事情を申し述べてあります。合衆国が、米国の善意に信頼せよ、こう言つておられる以上、われわれは合衆国の善意に信頼して十分可なり、こう信ずるわけであります。
  34. 小川半次

    小川(半)委員 それでは次に、もう一つ疑問の点を明らかにしておきたいのであります。日本安全保障條約によりますと、アメリカ日本に対して広汎にわたるところの権利を有しておるにかかわらず、義務規定がないのであります。すなわち、いかなる場合においても日本を保護するという決定的なものがないと思うのであります。従つて場合によれば、いつでも放棄できるとも解釈されるのであります。特に期限が明確にされておりませんから、日本にいや気がさした場合、またこんな場合はあり得ないとは思いますが、たとえばアメリカソ連と妥協し、ソ連のごきげんを伺わんがために、いつでも弊履のごとく日本を捨てることができるのではないか、こういうふうに国民の中で心配し、不安を持つ者があるのでありまして、この疑問を明らかにしていただきたいのであります。
  35. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 要するに、日本として米国に対して信頼と友好と協力の気持を持つか持たぬかの問題である、こう思うのであります。日米両国の間に信頼と協力の精神が十分にある以上、小川委員のような御質問は出る余地はない、こう考える次第であります。小川委員は、日米安全保障條約がただ合衆国権利のみを規定しておつて合衆国として日本に対して條約上の義務を何ら負つていない、こういうふうな前提でお考えになつておるようでございます。その点につきましては一昨日、そうではない、日米安全保障條約のもとにおきましても、日本としては、外部からの武力攻撃に接した場合に、必ず合衆国軍隊による防衛を期待して間違いはないという確信説明いたしておきました。その理由をまた繰返す必要はないと存じますが、繰返して申し上げるならば、合衆国ともあろうものが—日本自国軍備がないので、外部からの武力攻撃に対して不安を感ずる、従つて兵を置いて、こういう攻撃があつた場合に攻撃を阻止してもらいたいという希望を表明し、その希望に応じて合衆国が、前文にもあります通りに、平和と安全のために日本に兵を置くということを承諾し、現に兵を置かるるということは、すなわち日本にそのような事態が起つた場合には、必ず防守をするということが暗黙のうちに含まれておると断言してさしつかえないと思います。また当條約の第四條を見ましても、この日米安全保障條約は、国際連合の措置またはその他の集団的安全とりきめによりまして、日本地域の安全が確実に確保されたと日米両国が認めた場合には、それによつてつてかわられる、こうなつております。と申しますことは、いわゆる日本地域における平和と安全が、それまでは暫定的方法である合衆国軍隊日本駐屯という方法によつて確保されるということが前提になつておることは申すまでもございません。また合衆国が最近締結いたしました本格的な安全保障條約におきましても、決して小川委員が想像になつておるように、義務的規定において兵力行使の約束を與えてはおらないということに御注目を願いたいのであります。一番完全だといわれている北大西洋條約においてすらも、第五條をごらんになるとわかりますが、締約国の一国に対して武力攻撃が発生した場合には、その他の締約国は武力行使を含むその他のあらゆる措置をとつて援助する、こうありまして、必ず武力措置をとつて防ぐとございません。この第五條の條項すらも、合衆国上院にこの條約の批准がかかりましたときに、合衆国憲法のもとにおきましては用兵権、講和、宣戦の権が国会にある、コングレスにあるから、この條項憲法との関係において慎重考慮を要するという議論が生れまして、要するにアメリカにおける用兵権が立法機関にあるか、それとも行政府の首領である大統領にあるかということについて、非常な議論を巻き起したことは御承知の通りだと思います。こういう武力行使を含むというような、きわめて含蓄の深い表現すらもが、なおかつそれくらいの議論を巻き起しております。従つて今年の八月ないし九月に、日米安全保障條約に先行して締結されました濠州、ニユージーランドとアメリカとの安全保障條約、フイリピンとアメリカとの安全保障條約におきましても、決して武力行使ということは規定いたしていないのであります。各締約国が憲法上の手続に従つて適当な措置をとるということを宣言する、とあるにすぎません。決して約すともありませんし、兵隊を使つて防ぐともありません。本格的の安全保障條約においてすらしかりであります。いわんや日米安全保障條約のごとき本格的でない、暫定的の條約におきましては、さらに用心深い表現が必要であるということをお互いに理解する必要があると思うのであります。なおそれに加えまして、今申し上げました最後の二つの條約によりますと、合衆国の太平洋における軍隊に対する武力攻撃は、合衆国に対する武力攻撃と見なすという規定がございます。申すまでもなく、日本国ないし付近にある米国軍は、太平洋におけるアメリカ軍隊であります。これに対する武力攻撃に対しましては、合衆国に対する武力攻撃と見なすのだということを、濠州、ニユージーランド及びフイリピンとの條約においては明定されておるということも、われわれとしては考えておいてよろしいと思うのであります。今申しましたような諸般の事情から申しまして、私ども日米安全保障條約によつて合衆国日本の安全のために必ず必要の場合には條約上の義務を果してくれると信頼して可なりと断言いたすものであります。
  36. 小川半次

    小川(半)委員 そこであなたにお尋ねするのですが、今アメリカ日本を保護してくれておる。その際にかりに日本を侵略しようというある国があるといたします。そういう場合に、アメリカが交戦しておる際には、国連軍もアメリカ軍とともに日本を保護することができるのかどうか。日本国際連合に現在加盟しておらないけれども国際連合日本を保護するところの義務があるのかどうか。この点あなたのただいまのお話を承つておりますると、当然その問題に到達するのでありまするが、この点も明らかにしていただきたいのであります。
  37. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点に関しましては、国際連合憲章というものをお考えになりますと、疑問は氷解されると思います。また合衆国国際連合加盟国であるということをお忘れならないようにお願いしたいと思うのであります。国際連合憲章によりますと、加盟国はそうやすやすと戰争というものはできないのであります。国際連合憲章の解説本をお読みになるとよくわかりますように、戦争を禁止しておるわけです。不戦條約も戦争を禁止しておりますが、国際連合憲章も戰争を禁止いたしております。第二條の原則をごらんになればすぐわかると思う。それではいかなる場合に国際連合加盟国が武力行使ができるかといいますと、同際連合憲章の運用によりまして、侵略国に対して国際連合が制裁措置をとるときであります。いま一つ憲章第五十一條によりまして、いわゆる外部から武力攻撃を受けた場合、この武力攻撃に対しまして、国際連合が連合憲章規定に従いまして、対抗措置をとるまでの間、自衛権の発動といたしまして、武力行使ができるにすぎないのであります。この二つだけであります。従つて日本におけるアメリカ軍隊が何らか実力行動に出る場合も、その二つの場合しかないということをお考えになつてくだされば、御疑問は起らないと思います。
  38. 小川半次

    小川(半)委員 次に経済閣僚に、国民が一番関心を持つておりますところの賠償の問題についてお尋ねしたいのでございます。  昨日塚田委員からも御指摘されましたように、賠償の問題が結論に達するまでには、ときには悲観説が伝えられたり、また楽観説が伝えられたりして、わが国の産業経済がこれまでたびたび見通しを誤つて安定感を得られなかつたのでございますが、結論としてでき上つた賠償の義務規定は、わが国民にとつて決してありがたくないものであることは明らかであります。平和條約によりますれば、賠償の対象として日本人の役務を該当連合国の利用に供することになつているのでありますが、役務といつても、これは結局日本国民の負担において政府が支払うことになるのでありますから、金銭支出と何らかわらないことはもちろんでございます。御承知のごとく、現在のわが国の貿易状態は、昭和七年ないし十一年、すなわち戦前のベースでは、輸出において四〇%であり、また輸入の面では六〇%にとどまつておるというような貧困な状態であり、また国民生活水準は戦前の八〇%にすぎないのであります。こうした現状のもとにおいて国民の希望していたものは、講和になれば何とかなるであろうという、講和後における生産の上昇によるところの資本の蓄積であつたのであります。ところが、講和によつて與えられるものは賠償のための産業の動員であつて、資本蓄積のできない、いわばただ働きに使用されねばならないのであつて、しかもそれはわが国経済にプラスするのではなく、外国に対してのただ働きでありますから、その負担は国民が背負うのでありまして、依然として残されるものは国民生活の低下であり、税金の悩みであります。そこでお尋ねいたしたいのでありますが、賠償を支払いつつ、かつわが国の生産を高めることができるかどうか。いま一つは、かりに日本の現在の生産を百とすれば、賠償関係に幾パーセント、それから輸出貿易に幾パーセント、また国内向け生産に幾パーセント動員する計画であるか。これは日本産業と賠償との基本課題であると思いますので、その分析を明らかにしていただきたいのでございます。
  39. 周東英雄

    ○周東国務大臣 お答えいたします。賠償の支払いにつきましては、條約の命ずるところによつて、被賠償国に対する善隣友好の関係を確立する上からも、誠意をもつて支払うということの必要があることはもちろんであります。しかし條約にも書いてありますように、この支払いの限度というものは、あくまでも日本経済の存立可能な限度ということ、そのことは同時に国民生活の水準を維持して行くに足ることでなければならぬのであります。その線に沿うて賠償の範囲、額、その支払いの方法というものは今後の折衝によつてきまるのであります。しかしそのきめる場合には、ただいまの限度を維持して、相談してきめられると思うのであります。従つて今日ただいま賠償国に対して日本の工場の能力を何パーセント動員するか、または国内向けに、あるいは輸出向けにどのくらい動員するかということは、今日ただいま申し上げることはまだできないのであります。
  40. 小川半次

    小川(半)委員 それでは日本の生産の上昇ということができぬじやありませんか。たとえば現在の日本の生産を百といたしますれば、ここへ別に賠償というものが現われて来たわけでありますから、そこで現在の生産百プラス賠償という計画を立てなければならぬと思います。あなたは経済安定本部長官でありますから、どうかそういう計画を立てられるように申し上げておきます。今聞きますと、そうした基本課題さえ十分に果されておらないのでありますが、そこへ持つて来て、今後はさらに講和の結果として種々なる負担も加わつて来ることも考えなければならぬと思います。たとえば外債関係だけを拾つてみまして、一億五千八百万ドル、未払い利子が一億四千万ドル、減債基金積立て七千万ドル、なおそのほかに外債の中にすでに期限到来の分が六千三百万ドルもあります。また国民が最近まで無償で援助されていたと信じ切つておつたところの対日援助費二十二億ドルさえも、講和の結果国民の債務となることが明らかとなつたのであります。昨日塚田委員質問に対して大蔵大臣は、賠償よりも対日援助費は先に支払わねばならぬという答弁があつたのであります。そういうことになれば、大蔵大臣がたびたび言明されたような、二十七年度は税金を軽くすることはできないのであつて、これとは逆に増税せざるを得ないような結果が当然起つて来る。これに対してあなたの所管ではないかも存じませんが、政府立場を明らかにしてほしいのであります。
  41. 周東英雄

    ○周東国務大臣 お話のごとく、講和條約成立後における負担というものは、軍に賠償だけでないことは御指摘の通りであります。従つて賠償の前提となるべき問題については、ただいま申し上げましたように、日本経済の存立可能の限度ということが問題になります。同時に、賠償以外の債務支払いをどうするかということを頭に置いて考えなければならぬことは御承知の通りであります。従つてこれらの問題をどういうような方法で、どのくらいな額になるか、どういう支払いをするかということを相談できめることと並行して考えて行くべきだと思います。幸いにして今日までの日本経済の実態は、小川君御承知のように、最近二、三箇年間における日本経済の復興状況は目ざましいものがあることはお認め願えると思います。この問題を、これらの賠償その他債務支払いに対してさらにプラスして持つて行かなければならぬということについてはもちろんであります。幸いに日本における未稼働工場なり、あるいは過剰労働力というものに與えるに必要な原材料の確保ということが考えられており、さらに鉱工業生産その他の上昇をはかることだけはでき得ると私確信を持つておりますし、従つてその限度がどうなるか、またこれを上げるについて必要な電力その他の問題等もあわせ考えつつ—絵に描いたもちではいかぬのでありまして、その可能な限度を考えつつ、しかも他方においては賠償の範囲、賠償以外のいわゆる債務をどういうふうに持つて行くかということとにらみ合せて考慮を加えて行かなければならぬ、こういうふうに考えております。
  42. 小川半次

    小川(半)委員 次に賠償とインフレ必至についてお尋ねしたいのですが、今申し上げました外債関係のほか、さらに国内的に見ましても、日米安全保障條約から当然発生して来るところの防衛分担金、国内治安費などが考えられるのであります。一方物価が高騰して国民生活がますます苦しくなることは既定の事実であります。日本の賠償能力としては相当過大な負担のもとにおいてなされるのでありますが、日本経済の実力は、はたして賠償支払いによるところのインフレ化の危險を克服し得るまでに強力なものであるかどうか、私はこの点非常に怪しむものであります。政府においてインフレ克服の確信があれば、その点を明らかにしていただきたいのであります。私はインフレは必至だ、こう考えまするから、これに対する対策をお示し願いたいのであります。
  43. 周東英雄

    ○周東国務大臣 いろいろ御心配でありますが、ただ私は小川さんのように、一方的にだけものは見ないのでありまして、今後いろいろな條件を克服しつつ持つて行くについて、困難は相当あると思います。それは私どもも認めます。しかし第一の問題として、今後の経済に対処する上において、日本国における需要を満たすことの上から言つても、あるいは国際的に積極的に経済に参加して協力する上においても、まず第一に日本の生産を増強するということが一番大事だろうと思う。これについては、こまかい議論は時間がないからよしますが、日本の工場なり未稼働工場の余力、過剰の労働力というようなものから見ますと、余力は持つておる。従つてこれに対してどういう形で必要な原材料を獲得し得るかということが大きな問題になる。しかもこれが獲得されるならば、その生産規模の増大ということは私は相当期待できると思う。このことによつてさらに輸出貿易関係の伸張を来し、これによつて輸入を確保するということが一連の施策となつて出て来なければならぬ。従つてその間において、問題は物価の問題でありましよう。あなたの心配されるインフレがどうかということは、私は単に物価の上昇だけをとらえてはインフレと見ない、これは私の信念であります。このことは終戰直後のごとき、物がなくして上つたときの、賃金と物価との悪循環をしたときにおけるようなインフレの形ではなく、今日も物価上昇は確かにあります。しかしこれは欧米、アメリカ、イギリスあたりにおける物価上昇の率とは違つた形にありますけれども、これは日本というものが置かれた位地、立地條件の相違から来ておりますけれども、ともあれ生産というものは非常な上昇であります。物の生産というものは上つておる。そこにかつて見たような賃金と物価の悪循環の形は見られない。そういう立場において、私どもは生産の増と強輸出の規模の拡大ということをまず第一に持つて、そうしてインフレを防ぐということが第一の條件でなければならぬと考える。
  44. 小川半次

    小川(半)委員 はたして輸出が可能になるか、資材などがうまく入るかどうか、あとでまた質問してみますが、昨日塚田委員が、行政協定による分担金は二十七年度分一億六千万ドルであろうと質問されたその際に、大蔵大臣は言を左右にして明らかにされなかつたのでありますが、二十七年度予算において防衛分担金及び国内治安費合せて一千億円を計上すべく政府の方針が大体決定しておるということでありますが、そのところをひとつ正直にお聞かせ願いたいのであります。
  45. 周東英雄

    ○周東国務大臣 まだ二十七年度の予算については大綱がきまつておりませんので、目下大蔵省で一つの案を立てつつある最中であります。まだ今日御返答いたす時期ではございません。
  46. 小川半次

    小川(半)委員 そこで先ほどのあなたの生産増強と伴うて、輸出振興によつて日本の国力を増進して行くのであつて、インフレはさほど悲観的なものではないという御説であつたが、しかし現在の水準に歩いて、日本はすでに自分の持つている力の八五%から九〇%を出し切つております。それはたとえばあなたの方の資料でありますが、講和会議への持参資料として持つて行つたといわれる経済安定本部のB資料について見ましても、今から四年先の昭和二十九年度の最高水準は一九七と算定しております。現在に比べて約四〇%の上昇となつておるのでありますが、これとて動乱後一年のそれにも及ばないところの状態であります。また生産水準を上昇して行く。これに対応するところの貿易規模の達成がはたして可能かどうかにも疑問があります。また輸入の点につきましては、現在世界的な基礎原材料の窮迫傾向であります。あわせて船舶の不足や、さらに今後恒常化して来るものと予想されるドル不足、それだけ輸入力を削減することになるし、輸出については、依然たるコスト高から来るコマーシヤル・ベースの関門がなお解決を要するものではなかろうか。こうしたことを考えてみると、今後の生産活動に急速な上昇が期待できるとは思わない。あなたの考えておられるような、生産を高めて輸出を振興させて、そうしてインフレをとめて行くというような、甘い考えは、どうしても結論としてあなたのところの経済安定本部の資料によつて研究してみても出て来ないのであります。はたして国民生活を低下させず、資本蓄積を後退させることなくして賠償支払いが可能であるかどうか、この点政府に確固たる根拠があればお示し願いたいのであります。
  47. 周東英雄

    ○周東国務大臣 お答えします。先ほどから言つておるように、なかなか手放しにそう楽観的にものを考えるということは、私は申し上げていない。しかしあなたのように今の状態がだめだだめだというのは、これもまたあまり悲観的だ。私は理論でなくして実績をもつてお答えを申し上げておる。あなた方はこの一、二月の議会で大分私をいじめられました。あの当時の案すらできるかできないかと言つて、そんな甘いことではいかぬとおしかりを受けましたが、あの当時の自立経済に向つての鉱工業生産を一例にとりましても、二十八年度に一三〇%という予定であります。ところがそれは、その後の世界的情勢がいい影響をいたしたのでありましようが、少くとも今年度に入りましてから四月、五月、六月、ずつと生産が上昇しまして、ともかくもあなた方が予想されなかつた一四〇%になつた。一応一三八ですか、とにかく上昇を見ておる。これから見ましても、とてもできぬだろうということができて来ておる。もとよりこの問題につきましては、朝鮮事変その他の関係もありましたし、これまでに日本内地に持つておつたところの財を使つたということもありましよう。また電力その他を相当最大限まで使つておるということも事実であります。このまま伸びるか伸びぬかということは、もちろん私ども……。しかしそれは当然われわれが持つておるところの未稼働工場、それから余剰の労力を使つてここに電源の開発ということが起つて来る。いろいろな問題で最近ごたごたいたしましたが、しかしこれにつきましては、電源の開発などに資金を積極的に導入して行きまして、電力を開発すればいつか今あなたがお示しになつた一九七の生産指数に持つて行くという可能性は持つておる。それをどうするかということで、これは私はとてもだめだろうというのではなくて、国民全体それに集中してやらなければならぬ。私はそういう立場をとつて積極的に持つて行きたいと思つております。
  48. 小川半次

    小川(半)委員 それでは辛いようですから、できるだけ甘くお尋ねいたしますが、私は日本の賠償支払い能力の限界は、何よりもまず戦前の国民生活の水準を回復して、それを維持するという一線を置いて、そこに求めらるべきものであると考えております。従つて生活水準がなお戦前の八〇%に満たずして、また経済安定の、自立の前途になお多くの不安がある現状では、賠償が大体において困難である、こういう事実を明らかにして、延期または別の方法が講ぜられないものであるかどうか。この平和條約は信頼と和解ですから、おそらく私は懇請によつては延期などはできないことはないのではないか、こういうぐあいに甘い考え方を持つておるのですが、ひとつ政府の甘い考え方か辛い御答弁かをお願いしたいのであります。
  49. 周東英雄

    ○周東国務大臣 お答えしますが、私どもは賠償その他の支払いについてこそあまり甘く考えません。これはシヴイアのものだと思います。しかし條約には、日本経済の存立可能の限度ということを書いてくれておりますので、日本の実態をよく話して、その実態に即するように話合いを進めることは考えております。そのことについては、お話のように政府としては十分努力して行きたいと思つております。  それからまた生活水準を戦前のように維持することが、一つの行き方だとおつしやいました。これは希望であります。もちろん私もそう思います。しかし私どもとして、今の実態に即して国民の協力を求める点は、戦争終結直後の状態違つて、今日における状態は非情によくなつておるということを頭に置かなければならない。これを引下げぬように努力するとともに、徐々にでも向上させるということをあわせて考えつつ、世界の信頼にこたえて行かなければならない。これを、講和なつたから一足飛びに戦前に百パーセント回復することを目途としてと、すぐお考えになつては間違いだと思います。私は、今日まで上つて来ておるものを下げないように努力し、維持し、かつ徐々にでも向上して行くという形において、世界の信頼にこたえて行くという建前をとつて行きたいと思います。
  50. 小川半次

    小川(半)委員 もちろん私も世界の信頼にこたえるために、今後一切の賠償を拒否すべしというような考えではありません。ただ戦前の国民生活の水準を回復するまでは、技術指導の無償供與や、あるいは特許権の使用提供など、比較的負担の軽いものにとどめて、本格的な賠償の支払いは一応除外するという、そういう方針を確立して、やがて経済のバランスと国民生活水準の向上が可能になつたあかつきにおいて初めて根本的に話し合う、こういう方法がとれないものかどうか、こういうことを私は申し上げておるのであります。この点どうぞ……。
  51. 周東英雄

    ○周東国務大臣 その点につきましては、大体答えたつもりでありますが、あくまでも日本経済の可能な限度においてということで、よく実情を打明けて相談をする、こういうふうに考えております。あなたの御趣旨と大体同じだと思います。
  52. 小川半次

    小川(半)委員 私は大体この平和條約を見まして、そこに含まれている種々なる観点から申し上げておるのでありまして、たとえばこの條約の十四條は、ある種の含みのある、幅の広い意味を持つておると私は解釈しておる一員であります。すなわちこういうところがある。「存立可能な経済維持すべきもの」と規定してあるところは、これはあくまでも日本経済を破壊せしめないという苦心の跡がうかがえるのである。だからといつて信頼と和解の寛容な講和とは、少しも考えておらないのであります。はたして文字通り信頼に値いするかどうか。フイリピン八十億ドル、ビルマ六十億ドル、インドネシア七十億ドル、ヴエトナム二十億ドル、合計二百三十億ドルに上るところの賠償要求額は、昭和二十五年度のわが国の輸出総額八億ドルに対して、実に二十八倍の高額なものであります。聞いただけでも呼吸のとまるような思いがするのであります。一九二一年五月決定されたドイツの賠償総額は千三百二十億金マルクで、これは当時のドイツの輸出総額四十億金マルクの三十三倍に上るものでありましたが、当時のドイツに比べてより広大な領地を喪失したわが国としては、重圧の度合いがはるかにまさつているということは明らかであります。また第二次大戦後のイタリアの賠償額を見ますと、ソ連一億ドル、アルバニア五百万ドル、エチオピア二千五百万ドル、ギリシヤ、ユーゴーはいずれも一・〇五億ドル、総計三・四億ドルで、支払い期間は七箇年となつているのであつて日本から見ればまつたくけた違いの、いわば負担の軽いイタリアの講和であつたにもかかわらず、イタリア国民は、講和の日に弔旗を掲げ、イタリアの全権国民に申訳がないと言つて慟哭したということであります。しかし今なおイタリアは連合国に対して、賠償の軽減を訴え続けております。私は日本の代表者にして、講和会議に臨んで、イタリア代表のごときあの愛国的な尊い姿の見られなかつたことを遺憾に思う。しかし今後といえども決して遅くはないのであります。日本における生産状態国民の生活水準が戰前の八〇%に達していない具体的な調査と研究を早急に実施して、その結論を連合国に訴えることが残された任務の最善の方法であると私は考えます。政府においてこの点今後の懇請に努力される御決心があるかどうか、この点お答え願いたいのであります。
  53. 周東英雄

    ○周東国務大臣 お答えしますが、今いろいろお示しになりました数字は公のものでもなく、またそういう数字はきまつておりません。あまり日本の方から、これだけの数字を要求しているというようなことをお話になることは、かえつて私はまずいのじやないかと思います。実際そういう具体的な……。(「きまつている」と呼ぶ者あり)まだそれは公表がありません。私どもといたしましては、條約の趣旨にのつとり、かつ善隣友好を確立いたすために、日本経済の可能な限度において相談に応じ、適正な形に持つて行くように努力いたしたいと思つております。
  54. 小川半次

    小川(半)委員 それでは大体賠償は、どうもみな頭が痛くなるそうですから、在外資産についてお尋ねいたします。この條約において、日本の現在の経済状態が債務を履行するのに十分でないということを認めております。すなわち日本人の苦痛をよく理解しておりながら、日本の在外資産は全部没収するというのでありますから、まつたく納得の行かぬ和解と信頼であります。個人の私有財産までが取上げられてしまうのでありますが、政府において、これらの人々に補償する用意があると言われたのでありますが、実際においてそれができるかどうか、お答え願いたいのであります。また中立国にあつた在外資産までが没収されるという例が、今まで諸外国においてなされたかどうか、その点もお答え願いたいのであります。
  55. 周東英雄

    ○周東国務大臣 お答えいたします。在外資産の問題につきましては、まことに国民に対しても気の毒な問題であります。これらにつきましては、愼重に政府は将来研究いたしたいと考えております。
  56. 小川半次

    小川(半)委員 あとそれでは簡單に一つだけお尋ねいたします。これと同じことですが、現在の英国、オランダを初め、七箇国に接収されておりますわが国の民間商船三百四十四隻、十九万千九百七十六総トンの船舶、これがはたして返還されるのかどうか、このまま没収されてしまうものであるかどうか、将来の日本の船舶関係について、非常に重大な問題でありますから、お示し願いたいのであります。
  57. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御質問の点は、十四條の(a)の2の(1)のところに規定がありますように、連合国は、この條約の最初の効力発生のときに、その管轄のもとにあるものを差押え留置し、清算する権利を持つておるわけでありますから、御指摘のような船舶は、この條約の規定によれば、連合国において、留置、清算することになつております。こういう結果になりましたことについては、われわれとしてもむろん遺憾に思つておる次第であります。
  58. 小川半次

    小川(半)委員 これらの民間商船所有者に対して、政府において今後何かの処置をとつていただくことを希望いたしまして、私の質問を終ります。
  59. 田中萬逸

  60. 勝間田清一

    ○勝間田委員 私は総理大臣質問を申し上げてみたかつたのでありますが、それが不幸にして今日御出席にならぬようであります。今度の講和の問題について政府に若干お尋ねしたいと思いますことは、私は今度の講和は、長い日本の歴史の過程、なかんずく最近ここ十数年来から今後予測される日本のいろいろの状況というものから見て、きわめて重大な政府は決定しようとするわけでありまして、それは言うまでもないことでありますが、政府は今度いわゆる単独講和というものを締結し、両時に特定国の軍隊の駐屯を含む軍事同盟の締結をあえてはかり、同時に朝鮮問題に具体的に介入して行くという決意をここに新たにしている。そこで日本の今後の重大な転換を策そうといたしておるわけでありまして、私はこのことを単なる口のがれの言い方や、あるいは照なるおざなりの説明ということでは、国民はおそらく納得が行かぬことと思う。ここに連合国側あるいはアメリカ等の諸国家が日本に要請する希望というものがあるであろうことは当然でありますけれども、こういう事態に対して、八千四百万の日本国民が何らかの希望をこれに持ち、また同時に何らかの要請を持つてこれにイエスかノーかを與えて行くことは、日本国民の当然の権利であると私は思う。これは重大なわれわれの運命に関する問題であるからでありまして、これは決して単なる独立の問題だけでは解釈できない問題であると考えるからでありまして、こういう事態に立ち至る根拠というものに対して、吉田総理は一方の民主主義側の陣営に立つことを決意した。こういうことであるようでありますが、私はここにまことに不安なきを得ないのでありまして、ここに日本国民のすべてがこの問題について考えねばならぬところがあろうかと思うのであります。そこで私は今日までしばしば聞くのでありますが、日本から連合国軍隊が撤退すれば、あとは真空状態になる。どこかの国が日本を侵略するかもしれない。従つて外国軍隊にいてもらうのもやむを得ない、こういう議論を聞くのでありますけれども、一体日本の現在を脅かしておる諸問題、恐怖、不安というものは何であるか、この点をどうか御説明を願いたいと思うのであります。
  61. 草葉隆圓

    草葉政府委員 先日来総理からいろいろと申し上げましたように、今回の日本との平和條約は、日本戦争状態にあり、あるいは宣戦布告をし、あるいは国交断絶をいたしましたほとんど大多数の—二、三、中国あるいは特殊の関係がありますイタリア等は除かれておりまするが、その他の大多数の国、いわゆる五十一箇国の参加を求めたサンフランシスコ会議であつたのであります。従いまして従来よりしばしば申しておりましたように、戦争状態の終了がはつきりといたしまするのは平和條約によつてでありまするから、これらの参加国に対して、戦争状態にあつた国との戦争状態が終了することは、すべての戦争状態にあつた国との條約の締結ということが原則的に必要になりますることは申し上げるまでもないのであります。幸いに今回サンフランシスコ会議にはソビエトが参加をいたしましたが、しかし最後の日に調印をいたさない状態に相なりました。従いまして私どももまた招請国でありましたアメリカ、イギリスにおきましても、全体的な努力をしながら、参加はしても調印をせなんだ状態に相なりましたので、これはやむを得ない状態と存じておるのであります。これらの状態から考えましても、またサンフランシスコ会議におきまして、首席全権として総理が演説いたしました中にも申しましたように、現在極東におきましては、ことに共産主義侵略の現実の情勢がありますることはいなみがたい現状であります。これらの状態から、ただいまお話になりましたような侵略の脅威を感じ得る状態であり、また感じておる状態でもあります。従つて独立を回復し、主権を回復しましたあとにおいて、日本が無防備の状態になつて独立を完全に守り得ない能力に陥ることは、連合国、ことに調印をいたしました連合国においては、最も不安を感じて、従つて日米安全保障條約のようなものがここに生れた。それによつて極東の平和、ひいては世界の、平和の安全を企図する状態に相なつて来た次第であります。
  62. 勝間田清一

    ○勝間田委員 ただいまの政府の御答弁によれば、極東において共産主義勢力の脅威が現にあるから、それに対してかような処置をとらなければならない、こういう御説明であろうかと思う。そうしますと、私の質問に対しては共産主義勢力に対する脅威、それが今日における日本の具体的な不安であると政府考えておる、こういうように私は理解をいたすのであります。しかし私はもう一本入つてみて、現在のアジア各国の情勢の中で、幾たびか、あるいは幾箇所でか、不安の状態があるとする。あるいはその中には共産主義のいろいろの問題があるかもしらぬ。しかしその根底をなしておるものは、一つには朝鮮の具体的な事実に現われておりまする通りに、いわゆる三十八度線という不自然なる状態が、朝鮮以外の政治政権によつてこれが生れて参り、それが朝鮮の国内に不安動揺というものを起して参る。ここにアジアにおける不安が朝鮮人以外の力によつて生れておることは事実であろうと私は思う。この問題は、われわれが深く朝鮮人の立場に立つて今日考えてやらねばならぬ問題が山積いたしておると私は思う。同時に、今日までアジアの諸情勢というものの不安の根本がどこにあつたか。それは単なる共産主義の脅威であるか。あるいはそうではなくして、アジアにある西欧諸国の植民地政策、それによつて生ぜられておるアジア国民のまことにみじめなる生活水準、これらを支配しておるところの一切の対外的権力、こういう事態が数世紀にわたつてアジアを支配しておつたのでありまして、この数世紀にわたつて起つたそれらの結果が、あるいはアジアに対する民族主義の勃興となり、あるいはアジアが生活をとりもどそうとする民族自体の自覚ともなつて生れておることも私たち考えなければならない。こういう事態をネグレクトし、根本の不安の基礎を無視して、そこに共産主義の脅威のみがあるのであるから、これに対して対処して行かなければならないという見解をとるならば、それはかつてわれわれが満州自体に対して、反共の線によつて再び戦争を起したことと大差のない結果に陥るのではないか。ここにアジアが何ゆえに不安であるかということ、同時にそのアジアにめぐらされた不安がそれらの関連として日本にあることが明らかではないか。アジアの不安なるものの根本をついた日本の外交政策がそこにとられなければならぬと私は思う。これは現在の政府と私が根本的に意見の対立するところであります。  そこで私は同時にこの際具体的に申したいのでありますが、私は今日における共産主義のいわゆる全体主義的な戦いについては、もちろん社会民主主義者として反対であります。しかし同時にこの前マツカーサー元帥が解任せられたときに、欧州諸国はこれに対してどういう意見を持つておつたか。昨年のブラツセル会議、それ以前におけるアトリー・トルーマンの会談においていわゆる制限戰争、しかし緩和政策はとらないという線で朝鮮事変の終結が進められておつたのでありまするが、そのときに突如として起つた問題は、言うまでもなくマツカーサー元帥の五つの要求であつた。台湾軍の動員、台湾の軍事基地の設定、中共に対する海上封鎖あるいは満州基地に対する爆撃の自由、南鮮に対する増援軍の動員、これらによつて一挙に解決しなければならないという軍事的提案がなされて、もしかかる事態が生じたならば、第三次大戦は必至であろうとのアメリカ政府及び西欧諸国の要請に基いて、この英雄とも称せられるマツカーサー元帥が突如として解任せられたことは、われわれの記憶に新たなところであります。しかもそのときにアメリカのあの開放せられたる討議を通じてわれわれが見て、たとえば満州基地に対する爆撃が行われるならば、ただちに日本に対する報復爆撃が行われるであろうということも明白に示されておる。私は今明白にもあるであろうかもしれない具体的な日本の脅威というものは、いわゆる抽象的な共産主義国家の侵略ではなくて、いずれにしても現在安全保障の道、平和の道が確立せられていない今日、朝鮮問題によつて起るかもしれない第三次世界大戰の危機なり、あるいはアジアの平和の撹乱なりが日本に及ぼす影響、われわれ八千万に関連する諸問題、これが今日われわれの具体的な不安であると思う。今日たとえば横須賀に行つてみても、あるいは農村、都市に行つてみても、この朝鮮問題と日本との運命の関係が、今日私は日本人の具体的な不安であると思う。こういう不安に対処することなく、進んで朝鮮問題に介入することが、はたして今日の日本の平和と安全保障を受ける道であるのかないのか、ここに私はまず大きな疑惑を持つものでありまして、政府はこの不安に対して、ここに解明する責任があるものと思うのであります。
  63. 草葉隆圓

    草葉政府委員 朝鮮問題の原因でありまする三十八度線の問題につきましては、前々国会等からしばしば論議されておりました通りに、いわゆる昭和二十年九月二日のマツカーサー元帥の命令第一号によりまする武装解除の線として設けられた三十八度線が、遂にいろいろな段階を経まして北鮮軍の南鮮への侵入線になつた。これに対しては、国際連合が共産主義の武力侵略と認定したというような段階を経て参りましたことは、私から申し上げる必要もないことと思います。いわゆる朝鮮動乱そのものは、一つの共産主義勢力の直接な武力攻勢としての方式をとつて来たものであるという認定で、国際連合はこの侵略に対する措置として国際連合軍を出した。極東の問題につきましては、いろいろ特殊的な原因もあります。ことに極東の多くの国々は、第二次世界大戦後独立した国が多く、タイ、中国を除きましては、ほとんどそうであります。また産業の形態におきましても、あるいは生活水準等におきましても、特殊的な現象を持つており、その特殊的な現象から東亜におきまする一つ独立というものがだんだんと向上して参つております。その中において、ただいま申し上げました朝鮮の三十八度線を境にした共産主義の脅威というものが各地に違つた形においてなされて来ておる現実は、これは実際上の状態であります。従いましてこの状態に対しましては、国民のひとしく注目をいたすべき件であり、また政府におきましても十分この国際情勢を看取いたしておる点であります。
  64. 勝間田清一

    ○勝間田委員 国連が云々という問題については、まだ若干の問題が残つておると思いますが、しかし現在私はあえてインドを言わなくてもよくわかると思いますが、インドなりビルマなり、あるいは最近のアジア・アラブ諸国家を見てもわかる通りに、たとえば今度の対日講和に対してとつたこれら諸国家の立場考えてみても、あなたがお話になるような、そういう脅威に対してとつ国連の処置、あるいは現在日本がとろうとしておる処置に対して、それはアジアの平和を攪乱するものであるとも言い、あるいはアジアの諸問題を解決することをいよいよ困難ならしめるものであるとも言われておる。これは共産主義のみならず、インドのネールも、ビルマもあるいはインドネシアも、それらのアジアの諸国家がこれを言つておることに、われわれは冷静に耳を傾けなければならぬと私は思う。こういう諸問題をアジアの声としてわれわれは聞くのでありまして、今日アジアの中にもし平和を確立せんとするならば、現在懸案になつておる台湾の帰属の問題、現在懸案になつておる中共の承認の問題、朝鮮問題の解決、対日問題の解決、これらの諸問題がいわゆる関係諸国、特に強大な両陣営の国との間に話合いがつくことなくしては、アジアの平和は解決できない。これが今日における世界の良識ある者の判断であると私は思う。同時にそれはアジア諸民族の考えであると私は思う。この問題に深く意を用いずして、ここにあえて特定国に軍事基地を提供する軍事協定を締結せんとする日本政策というものは、きわめて誤れる方向に進んでいるのではなかろうか。私はこれをもう一度お尋ねいたしたいと思うのであります。
  65. 草葉隆圓

    草葉政府委員 インド、ビルマが今度の会議にあるいは不参加、あるいは不調印の状態になりましたことは、まことに残念でありまするが、インドの不参加はネール首相が申しましたように、一口に申しますると、むしろ今度の條約が辛いというような立場であります。ビルマはむしろ甘いというような立場であります。従つて日本独立というものに対しては十分協力し、従つて両国は近くそれらの措置をとつて参るとかたく信じております。従つて東亜全体の国々日本独立についての強い希望を持ち、またこれを支持しておりますることは同様であると思います。また独立後におきまする日本の力の空白状態につきましては、決して日本は一国に軍事基地を提供するというのではなく、先ほど申し上げましたような立場からも、日本を力の真空状態に置くことが東亜の安定をかえつて危険ならしめるということ、この大目的のために日本がとりまする処置と了解をしております。
  66. 勝間田清一

    ○勝間田委員 政府はたいへん誤まれる答弁をされておると私は思うのです。すなわちインドが今日サンフランシスコ会議に参加せず、従つて調印もしなかつた一番大きな問題は、ネール声明にも現われておる通り、また私たちがしばしば各方面を通じて知つておる通りに、今度の対日講和極東問題の解決を困難ならしめるということが一つであり、もう一つ根拠は、日本の完全独立を不可能ならしめるということが第二である。この二つの理由は、一つは台湾の帰属の問題、一つ日本に対する第六條の但書の駐屯の規定の問題、一つは小笠原、琉球等が戦略的目的従つて日本から領土の割譲を求められる問題、これらの問題が前提になつて矛盾するということがいえる。従つてサンフンシスコ会議に調印参加せず、独自に無條件講和を、すなわち一つ戦争状態の終了、一つは平常なる外交関係の回復、一つは正常なる通商の回復、これを内容とする講和を今後日本単独に締結したいというインドの願いでありました。先ほど来の政府の御説明は、インドの主張とまつたく違つておるのではないか、この点を明確にお願いいたしたいと思います。
  67. 草葉隆圓

    草葉政府委員 インドの主張につきましては、お話のように、ネール首相は声明もいたしておりまするし、演説もいたしております。その通りであろうと思います。  これはヤンガー国務相も申しましたように、インドは今度の講和條約については十分了承してくれるものであると信ずる。従つて今度の條約の内容については、今後インドは全面的に支持をしてくれるものと信ずると申しました。私どももさように信じております。
  68. 勝間田清一

    ○勝間田委員 ヤンガー国務相がどう言われたか知りませんが、御存じの通りインドは独立をいたしておるのであります。  次に私が今度の講和に対して質問をいたしたいと思うのは、そもそも国連が生れて来た今日までの経緯、特に第一回の創立のサンフランシスコ会議における経緯、及びその後の諸問題、諸経緯を通じて見て、私は国連というものは、強大国の協調の上に立つてできるものと考える。こういう国連にわれわれは期待をする。またそういう国連のみが世界の平和を確立するものである。これは国際連盟に対する批判から生れて来ておるものと私は思う。しかもこの根拠をなすものは、先ほど来條約局長が戦争をも簡単にできない禁止條項があるとおつしやつた通りに、ものを平和的に解決づけ、武力による不可侵不脅威の態度をとることが明白にされなければならない、すなわち各国はいかなる場合においても脅威を與えてはならない。いかなる場合においても侵略を行つてはならないという国連憲章第二條の、しかも本講和條約に示されておるところの第一項及び第二項の精神というものは、こういう本筋に貫かれているものと私は思う。しかしてこれらの諸問題と日本の安全とを考えて行つた場合に、いわゆる強大国の協調を基礎とする国連に対して、あえて一方の側の国連に参加しようとする現在の政府政策、私はまず第一にそれに疑義を抱かざるを得ない。もし今日の状態においてある特定国、しかもそれは国連に実際は加盟できずに、— できるかのごとき印象を講和條約の上に與えておいて、事実は特定国家群との間に地域的なる集団保障、こういうものに参加するということであれば、これは国際連合の本筋とは逆行して、少くともそれは筋の相いれない方向に日本の運命を陷らせて行こうとする線であると私は思う。同時に私どもは、日本憲法をもし尊重するという政府立場が明白であるならば、憲法前文にうたつておる通りに、同時にわれわれが第九條で明白ならしめておる通りに、なぜ国連による不可侵不脅威の性格を持つた條約が締結できなかつたのであるか。講和條約がかかる軍事同盟的なものではなくして、開運の精神、憲法の精神にのつとつた不可侵不脅威の講和條約がなぜ締結できなかつたのであるか。私はそこを不安に思うものでありまして、われわれ日本社会党は、その意味においてこの点を特に中立的條約と申しておるのであります。これについて一言御説明をお聞きいたしたいと思います。
  69. 草葉隆圓

    草葉政府委員 今回の日本との平和條約は、前文にもありますように、あの目的でつくる、同時にこの目的はただいまお話になりました国際連合憲章の大目的、大眼目に沿つておるという、その目標から出て参つたのであります。條文の内容につきまして十分その一々が現われておると思います。また日米安全保障條約におきましても、この国連目的を達しますその立場から、いわゆる五十一條の集団安全保障の方式をとつてつて参つたのであります。むしろそれがないために、かえつて国際連合憲章目的を危険に陷らしめる、こういう考え方から、五十一條の方式とつ日米安全保障條約をとつて参つたのであります。従いましてこの点についてはどうぞ十分御了承いただきたいと思います。
  70. 勝間田清一

    ○勝間田委員 五十一條及び五十二條の個別的及び集団的特殊な自衛権というものは、いわゆる安全保障理事会の安全保障というものが確立をされて、その構想のもとに、その本筋のもとにおいて行われる五十一條、五十二條であつて、五十一條、五十二條が単独的にしかも国連憲章の精神として生れているものではない。国際連合憲章の本筋は、あくまでも安全保障理事会によるいわゆる賛成なり、方針なりで決定をされて、その決定に対して暫定的にとられる個別的、集団的自衛権が従属して補完的にこれが役割を果す、私はそのように解釈をいたすのであります。しかし国民に対して五十一條、五十二條があたかも現在の国連の精神であるかのごとくにこれを宣伝し、そして国連そのものを分裂の方向に持つて行こうとする政策は私のとらぬところである。五十一條、五十二條の精神を承りたいのであります。
  71. 草葉隆圓

    草葉政府委員 必ずしもそうではないと存じます。個々の問題につきまして起つて来る現実の紛争あるいは侵略等に対しまする問題については、安全保障理事会におきましてこれを取上げて解決の方法を持つて来るのであります。しかし現在ありまする北大西洋條約にいたしましても、全米の條約にいたしましても、あるいは最近できましたニユージーランド、オーストラリア、アメリカ等の條約にいたしましても、いわゆる地域的な集団保障の道を講じて、この防衛の態勢をとつておるという点におきまして、私が先ほど申し上げた通りであります。
  72. 勝間田清一

    ○勝間田委員 いずれにいたしましても、きわめて国連憲章を歪曲されて、その歪曲された中に正当性を見出して行こうとする努力はまことに私は恐るべきことだと思う。そこで先ほどの現実というものを考えてみる。ほんとうの脅威が現に朝鮮問題にありとすれば、私は朝鮮問題の解決されることに日本努力すべきである。私はそのことを申し上げたいのであります。  次に国際連合加盟について、昨日松本委員に対して吉田総理大臣は、便法があるということを言われた。あるいは便法が講ぜられるとも言われた。この便法とはいかなるものであるか、政府の所見を承りたいのであります。
  73. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国際連合加盟するということは、また加盟を希望するということは、平和條約の中にうたつてありまする通りであります。従つて日本といたしましては、国際連合加盟したい、その手続をとることはもちろんでありまするが、実際の問題といたしまして、イタリアの場合でもそうでありますが、なかなか安全保障理事会においても、先ほど條約局長お答え申し上げたような状態で、加盟が決定いたされない状態に相なつております。さような場合におきましては、国際連合に実際加盟に準ずるような適当な方法を今後いろいろとりまして、また調印をいたしてくれました四十八の国は、今後批准をいたしますると、強くこれを支持してくれる形をおそらくとつてくれるだろうと存じております。現在イタリア等におきましては、あるいは場合によりましては正式、あるいは非公式、あるいはオブザーヴアーを出して、事務所等を置いて連絡を密にいたしておる状態であります。
  74. 勝間田清一

    ○勝間田委員 今日までしばしば再軍備の問題が論ぜられておるのでありまして、芦田前総理は、ただちに再軍備をしろという。吉田総理は金ができない現在の状態ではということを言われておる。しかしこれは一方の人が正直に、他方の人がずるく言つているだけの話であつて、私は再軍備については、現在の政府も当然これを行うことになると考えるのであります。しかしこの再軍備で私どもが今日一番心配にたえないと思うのは、西ドイツにおける再軍備の問題と、日本の再軍備の問題とがきわめて近似いたして来るのではないか。同時に、日本の現在の国民が何か心配である、あるいは何か独立国家としては自衛権を持たなければならないという素朴な愛国心から出ているところの再軍備というものとは、おおよそ方向の違つたものではないかと私は思う。これをただ單に日本の自衛という名を盛つて行こうとする考え方一つの欺瞞を含んでいるのではないか。私はその意味において、この前議和條約の最終草案が決定されたときに、フオスター・ダレス氏は外国の記者団の質問に対して、日本憲法改正の問題は講和條約締結後起るかという質問に対して、調印後八箇月くらいは起らないであろうという答弁をされた。九箇月以後はどうなるかは示されなかつた。しかし同時にある人が、日本の再軍備はどういう形がよろしいかという質問に対して、統一単がよろしいであろうという説明をされたことが新聞に報道されておりました。そうしてこの統一軍には二つの効能があるとも言われました。一つ日本に輝ける貢献を期待すること、もう一つ日本が再び軍国主義国家にならないためにということでございました。そこで私たちは欧洲の統一軍の姿を思い出すのであります。西ドイツに対して、昨年ブラツセル会議の決定に基いて、約五十五個師団ないし六十個師団の軍隊の編成が決定された。最近オツタワ会議で同様の論議が行われておる。これに対して伝えられるところによりますならば、西独に対して十八個師団ないし二十個師団の割当が行く。しかしその際に、西ドイツの軍隊はすべて欧洲統一軍に編入せられる。地上軍だけである。あるいは編成された統一單ドイツ人の投入された隊の隊長は、ドイツ人以外である等々の諸問題がここに論議をされ、もし今日かかる統一軍の形式によつて、しかも再び軍国主義国家にならないという保障を與えるという名目によつて、ドイツのシユーマツハーの言葉をかりるならば、将校のいらない兵隊を日本にもし要求される形の再軍備でありといたしますれば、私たちはここに生れて来る再軍備というものがいかなる姿のものであるかを憂えざるを得ません。もちろん今日、私は政府がこういつた再軍備があればこそ懸念されておるとも、同情的に理解もできる。しかしこの問題については、われわれは明白に知つておかなければならぬ事柄でありまして、同時に日本人みずからの意思をはつきり明白にしておかなければならぬ事柄であると思う。政府はこれらの問題についていかに考えておるか。
  75. 草葉隆圓

    草葉政府委員 西ドイツのいわゆる再軍備の問題と、日本の今度の日米安全保障條約とはおのずから相当趣を異にいたしておりますことは、御了承願えると存じます。西ドイツではアデナウアー首相がすでに申しておりますように、再軍備はする、しかしながらその前に、連合国軍隊を現在の少くとも数倍常設することが前提になる。こういう立場において再軍備を肯定しておると考える。従いまして日本の場合とは相当違うと存じます。日本の場合におきましては、ただいま再軍備をたいへん御心配になつておつたようでありますが、再軍備がただちにできますなら、実はこういう條約をつくる必要はない。日米安全保障條約において米軍が日本の内外に駐屯するということをいつておりますことは、現在再軍備ができない状態にあるから、この力の真空を防ぐためにこの條約を結んだ次第で、ただそれならば、いつまでもそういう状態であるかといえば、それはそうではなしに暫定的である。その暫定的ということは、あるいは講和世界の情勢が安定するか、あるいは国際連合によつての解決ができるか、あるいはその他の方法による状態ができたら、それによつてかわる、こういう状態であります。従いまして決して御心配のような、今ただちに再軍備をする、そのための日米安全保障條約ではないのであります。
  76. 勝間田清一

    ○勝間田委員 国際連合憲章の中には、第二條であつたかと思いますが、一つ加盟條件として、国際連合のすべての義務を守る能力と意思があるということが明白に規定されておる。同時に御存じのバンデンバーグ決議等においては、みずから守る能力と意思があることが前提となつて、対外的な支援、あるいは同盟の締結が行われるという條件が付されておる。今度のこの安全保障條約なり講和條約を締結するということによつて日本の再軍備が義務づけられていないというが、そのいないということは、この安全保障條約が期待するという言葉になつておるから、すなわちオブリゲーシヨンではないから、これは義務でないと解釈されるのか。私はその点をまずお尋ねをし、同時にもし国際連合に参加するとすれば、当然再軍備従つて現在の憲法九條を改訂することなくしては国際連合に参加できないのであるか、できるのであるか、この点を明らかにしていただきたいと思う。
  77. 草葉隆圓

    草葉政府委員 期待すると申しておりまするのは、決して義務づけておるのではありません。また義務ではないのであります。これは再三総理からも御答弁申し上げた通りであります。またただいま第二の御質問国際連合加盟すると、ただちに憲法第九條を改正して、いわゆる再軍備武力を持たないと、国際連合目的に沿わぬことになるのではないか、従つて加盟が困難ではないかというお話でございますが、決してこれもそうではないと存じております。現に先ほども小川委員の御質問お答え申し上げましたが、アイスランドコスタリカパナマは、武力を持たずに加盟いたしております。
  78. 勝間田清一

    ○勝間田委員 次にお尋ねいたしたいと思いますが、政府は今度のこの両條約というものを、いわゆる可分の形で出しておるのか、不可分の形で提案しておるのか、この点をお尋ねしたい。
  79. 草葉隆圓

    草葉政府委員 これは実は御質問そのものが私ちよつと了解いたしかねますが、可分か不可分かという内容は、ちよつとここで御答弁申し上げるのには、どういう意味かわかりませんが、実は形式におきましては、二つの條約ははつきりと別個にお手元に提出いたしております。従つて日本との平和條約、あるいは日米安全保障條約、それぞれ違つた形において取扱われております。日米安全保障條約は平等の形において、対等の形において結びまする條約、日本との平和條約は戰争終了の跡始末として起つて参ります條約でございます。従いまして別個の形において皆様の御審議をいただくことにいたしております。しかし内容から申しますると、日本平和條約によつて独立したあとは力の真空状態のままで、そのまま放任されるだけでは、日本のほんとうの独立というものは困難であるという大前提のもとに、日米安全保障條約というものが当然の形において現われて参りましたから、最も密接な関係がある、こういうことに相なるのであります。
  80. 勝間田清一

    ○勝間田委員 最後に一点だけお尋ねしたいと思います。それは対外支払い、あるいは弁済の問題でありますが、賠償あるいは対日援助に対する支払い、あるいは外債の返還、こういう順序はどれを優先し、あるいはそれを同時に行うか、あるいはしからざる方法をとるかという問題は、これは現在のアジアの考え方、あるいは現在の欧州の考え方、それに大きな食い違いがあるだけでなく、日本の今後の政策をとつて行く場合においてきわめて重要であると思う。たとえば中国という国がある。その大きな指導権を握つておるものは現在の中共政府であると私は思う。しかも日本が最も大きな被害を與え、同時にこれら諸国家に対して最も多くの償いをしたいと考えていることは、日本国民感情であろうかと私は思う。こういう事態が一面に存在すると同時に、またビルマなりあるいはインドネシアの諸国が日本の賠償に対して強き希望を持つていることも明らかであろう。しかしそういう場合に、旧債務、しかも金持ちの諸国家の債務は早く返還しなければならない、あるいは対日援助が優先的である、あるいはまた日本の軍事的な費用が計上されるというようなことがあるならば、これら諸国家に対する賠償の態度というものは不公平になつて来るのではないか。しかもそのことが、今後における日本のいわゆる全面講和達成に対しても重大な問題を残して来ると私は思う。その意味で、これらをいかに処置せられるか、私はこれを政府にお聞きいたしたいと思うのであります。
  81. 池田勇人

    池田国務大臣 この問題につきましては、昨日も塚田委員からの御質問に答えた通りでございます。賠償よりも対日援助の方が優先するという説も相当ございます。私といたしましては、外債の支払い、対日援助の債務の支払い、また賠償、一連のものとして考えたいと思うのであります。同じ賠償にいたしましても、ある国とだけ早くきめて、ある国のことは考えずに行くわけにも行きません。支払うところは日本国民でございます。全体の見通しがつくまでは、なかなかきまりにくいのではないかと思つております。
  82. 勝間田清一

    ○勝間田委員 総論の分だけは以上で終りたいと思います。
  83. 田中萬逸

    田中委員長 午前中はこの程度とし、午後は一時半より委員会を開き、質疑を継続いたしたいと存じます。  この際暫時休憩いたします。     午後零時十七分休憩     —————————————     午後三時三十六分開議
  84. 田中萬逸

    田中委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  前文に対する質疑を継続いたします。林百郎君。
  85. 林百郎

    ○林(百)委員 前文についての質疑をいたしたいと存じます。前文を見ますと、「国際連合憲章の原則を遵守し、世界人権宣言の目的を実現するために努力し、」云々とあるのであります。従つてわれわれは、この国際連合憲章の原則というものを日本政府の責任者はいかに解釈しているかという、まずこの国際連合憲章の原則なるものについて、政府の責任のある見解をただしたいと思うのであります。
  86. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国際連合憲章の原則は、最も適当であり、妥当のものと解釈いたします。
  87. 林百郎

    ○林(百)委員 その最も妥当である国際連合憲章の原則とは何をさすかということをお聞きしているのであります。
  88. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国際連合憲章に出ております原則、目的、すべてそうであります。
  89. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、国際連合憲章の中に含まれておる一切の基本的な精神はこれを遵守するという立場からこの條約を締結されたということを前提として、私は質問を続けて行きたいと思うのであります。まずこの国際連合憲章の原則を遵守するという立場から申しまして、この安全保障條約の前文に「無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、」という條章があるのであります。この「無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていない」ということは何を意味しているかということをお聞きしたいと思うのであります。
  90. 草葉隆圓

    草葉政府委員 無責任な軍国主義は、実は従来からしばしば申しました通りに、無謀なる侵略、武力による侵略、これが現実に行われておることを具体的にさすものであります。
  91. 林百郎

    ○林(百)委員 具体的にアジアにおいて日本安全保障條約を結ばなければならないような形における無責任なる軍国主義者の具体的な現われというのはどこに現われておるか、そしてまたいかなる勢力をさすのか。
  92. 草葉隆圓

    草葉政府委員 無責任なる軍国主義の具体的な現われは、武力による侵略と申し上げましたが、武力による侵略は極東におきましてはいわゆる昨年の六月以来北鮮軍が南鮮に侵入して参りましたのが最も端的な現われと解釈しております。
  93. 林百郎

    ○林(百)委員 侵略という問題が出ましたから、まず侵略という言葉の意義について政府はどう考えているか、私はお聞きしておきたいと思うのであります。
  94. 草葉隆圓

    草葉政府委員 侵略という言葉は、昨年の六月二十五日北鮮軍が南鮮に侵入して参りましたのに対して、国際連合安全保障理事会はこれを侵略と認定いたした、その点から申し上げたのであります。
  95. 林百郎

    ○林(百)委員 一つの民族が一つの民族に対して侵略を行うということは、国際連合憲章あるいは国際的な協定のどこにそういう定義があるか、私は教えていただきたいと思うのであります。
  96. 草葉隆圓

    草葉政府委員 これは日本がそういう解釈をいたしたのではなく、国際連合安全保障理事会及び総会における解釈によつて、われわれはこれを了承いたしておるのでありますから、これらの問題につきましては国際連合安全保障理事会及び総会状態を御了承いただくと御了解願えると思います。
  97. 林百郎

    ○林(百)委員 朝鮮問題に関するあの国際連合の侵略の決定に対しては、いろいろの国によつてそれぞれの意見違つておるのであります。あの決定が無効であるということを主張している国もあります。従つてそうした国際連合の決定と同時に、私たちは明らかにわれわれの常識からいつて、一体民族が民族、朝鮮人が朝鮮の中で侵略を行うということが考えられるかどうか、現に一九三三年の侵略の定義に対する協約によりますと、戦争の覚書のない場合でも、他国の領域への武力による侵入、他国の海岸または港の海上封鎖、そのほかいろいろありますが、朝鮮問題を具体的にわれわれが考える場合の侵略の定義については、こういう場合が考えられると思うのであります。従つて一体他国の領土—朝鮮へ最初に武力行使して外国軍隊として入つて来たのはどこの軍隊かお聞きしたいと思うのであります。
  98. 草葉隆圓

    草葉政府委員 実はいわゆる朝鮮動乱に、侵略という判定をいたしましたのは安全保障理事会なり総会でありますから、従つてこれらの解釈安全保障理事会及び総会によるものであります。今日本政府がこれを解釈すべき限りではないと思います。
  99. 林百郎

    ○林(百)委員 国際連合の決定は決定として国際的にはこれは問題があるのであります。国際連合の決定に対して、たとえば七箇国のうちの一国として、四億の人民を代表する政府として台湾の政府が行つているが、これが常任理事国の構成を傷けないということは常識上言えない。しかもソ同盟はあの場合出席して拒否権行使してはいないのであります。こういう問題については手続上根本的ないろいろな問題があります。しかしその手続の問題については国際的の紛争であるから、私はここであなたと論争をかわしたくない。しかし少くとも常識上、一体朝鮮の領土へ最初に入つて行つた外国軍隊はどこなのか、それからまた中国の領土である台湾を海軍の力によつて封鎖しているのはどこなのか、侵略の定義によると他国の海岸または港の海上封鎖は侵略になるわけであります。一体ソ同盟がアメリカのどこに海上封鎖をし、どこの海岸を封鎖したか、ソビエトの軍隊アメリカのどこの領地に行つていますか、最初に他国の領土である朝鮮に入つて来たのは明らかにアメリカじやないか、われわれはこういう立場からしまして、政府が北鮮が南鮮に侵入したというような無責任な前提で、かかる講和條約、かかる安全保障條約を合理化そうとするこの鉄面皮な、この三歳の童児にもわかるような理論を初めからまずぶちこわして行かないと私の質問が展開できないのでありますから、この点についてまず政府の根本的な見解をただしたいと思う。北鮮が南鮮へ侵入した、朝鮮人が朝鮮へ侵入した、あるいはアメリカで南北戦争があつた、これは侵入だ、あるいは幕府の軍隊と薩長の軍隊との戦争は、これも侵入だ、そういう一国の民衆が自分の好む政府をつくるために衝突をする場合、これを侵略という言葉で言えるかどうか、こういう点でまずあなたの御意見を聞いておきたい。
  100. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国際連合におきまする議決は、場合によりますと多数決であり、あるいは拒否権等の行使等がある。それぞれ安全保障理事会総会とは違つておりますが、しかしお話のように一部あるいは棄権をし、あるいは欠席をした等がありましようが、国際連合安全保障理事会が正当なる方法により、あるいは総会がこれを認められたる方法によつて下したのでありまして、従つて日本政府は、これらの安全保障理事会及び総会によつてなされたことをここで批判する限りではないと存じております。従いまして侵略の問題につきまして異議がありまするなら、国際連合総会あるいは安全保障理事会に持ち出していただくべきものだと考えます。
  101. 林百郎

    ○林(百)委員 私は異議だとか何とか法律の論争を言うのではなくして、われわれが常識からいつて、朝鮮の民衆が、朝鮮の民衆の要望する政府をつくろうとして闘つておる場合に、これを侵略だと言つて八千マイルも遠くの向うの軍隊や飛行機を持つて来、あるいは軍艦を持つて来て攻撃することが一体侵略にならないのかどうかということをあなたに常識的に聞いておるのであります。しかしあなたがあくまでそういう形式論で、国連で決定したのだから侵略だということはアブソリユートだ、議論の余地がないというなら、私はあなたにこれ以上追究する必要はないと思います。そこで「無責任な軍国主義」という言葉が日本アメリカとの間の安全保障條約の中にあるのでありますが、これとまつたく同じ言葉が、ソ同盟、中国、アメリカ、イギリスが日本の軍国主義に対して下したポツダム宣言の中の「吾等ハ無責任ナタ軍国主義が世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和、安全及正義ノ新秩序ガ生ジ得ザルコトヲ主張スル」というところにあるのでありますが、このポツダム宣言にいう「吾等ハ無責任ナル軍国主義」というこの無責任な軍国主義と、一体安全保障條約にいう無責任な軍国主義というのはどういうように違うのかお聞きしたいのであります。
  102. 草葉隆圓

    草葉政府委員 ポツダム宣言にいいまする「無責任ナル軍国主義」はポツダム宣言にいつておる意味の無責任なる軍国主義であります。現在この日米安全保障條約に申しておりますのは、私が先ほど申し上げた通りであります。
  103. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると無責任なる軍国主義がいつの間にか二つあつて、最初の無責任なる軍国主義は、ソ同盟をも含めた民主陣営が日本あるいはドイツのフアシスト勢力に対して使つた言葉で、今度の無責任な軍国主義は、フアシスト国としてまだ国連加盟も許されない日本の国が、かつて日本をフアシスト国として指定したソ同盟あるいは中国に対して無責任な軍国主義という言葉を使つておる。こういうような差異と見ていいわけですが。まつたく二つの異なつた無責任な軍国主義が世界には存在するという意味でよいのですか。
  104. 草葉隆圓

    草葉政府委員 無責任な軍国主義と申しましても、その時代により、その場所によつて違つて来ると思います。
  105. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、ポツダム宣言でいう無責任な軍国主義が、いつの間にかあなた方の言うような意味の無責任な軍国主義にかわつたわけですか。
  106. 草葉隆圓

    草葉政府委員 ポツダム宣言の無責任な軍国主義は、すでにポツダム宣言が忠実に実行されましたあかつきにおきましては、これは解消いたしておるのであります。
  107. 林百郎

    ○林(百)委員 われわれは、この無責任な軍国主義というのは、フアシスト勢力に対する中国、ソ同盟、あるいはイギリス、アメリカ、こういうものに対しての無責任な軍国主義と解釈しておるのであります。従つて国連憲章におきましても、こうした旧敵国、要するに日本あるいはドイツの無責任な軍国主義の再復活を防ぐために、五大国あるいは大国が一致して、国連加盟国とともに、このかつての無責任な軍国主義の復活を防ぐという、これが私たち国連憲章の根本的な精神であるというように考えておるのであります。従つて国連憲章の各條章を見ますと、五大国が一致して、この旧敵国であるところのドイツ、あるいは日本の軍事的な勢力の復活を防ぐというのが、明らかに国連憲章の中に盛られている根本的な精神だと私たちは思うのであります。従つてわれわれは、この日本講和條約あるいは安保條約いずれにおきましても、まず五大国の一致によつて日本の国に対する講和條約が討議され、それが日本との戦争に参加した各国の会議にかけられて、そして講和が結ばれるというのが、国連憲章の根本的な精神だと思うのであります。ところがこたびの講和條約並びに安保條約を見ますと、この精神がまつたく蹂躙されておるのでありますけれども、この五大国一致の精神を主張したところの連合国宣言、あるいはモスクワ宣言、あるいは、ポツダム協定に基くところの五大国一致の原則が、国連憲章の根本的な精神であり、またこれがかつての対日戰に参加した諸国、ことに大国の基本的な方針であつたということを、政府は認められるかどうか、この点をお聞きしておきたいと思うのであります。
  108. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国際連合憲章の出て参りました動き方につきましては、第一次欧州戦争後におきます国際連盟からさらに発展して国際連合になり、現在の通り戰争並びに今後の紛争その他に対し、世界の平和のために用いられているのであります。従いまして、ただいまお話にありましたようなことも一応ありましよう。しかし必ずしもそればかりではないことは、国際連合憲章の各條文に出ておる通りであります。
  109. 林百郎

    ○林(百)委員 われわれは、国連憲章の五十一條、あるいは五十三條、あるいは百六條、百七條等を貫く根本的な精神は、あくまで大国一致の原則だと思う。大国が一致して、あの無責任な軍国主義によつて世界の人類に大きな危害を加えたナチス・ドイツ、あるいは軍国主義日本を破砕して、世界の平和を確保するということが、私はあくまで国連憲章の根本精神ではないかと思うのでありますが、この五大国一致の精神と違う精神が盛られた條文があるというならば、国連憲章のどこにそういう点があるか、教えていただきたいと思うのであります。
  110. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国際連合憲章目的、設立、その後の動き等につきましては、私が申し上げるまでもなく、林君よく御承知と存じます。従いまして、世界の安全保障をいたすための安全保障理事会等におきますその後の動き、そういう状態に対しまして、さらに世界全体の平和を得るために、いろいろと不十分なる点があるのであります。総会等におきましては、必ずしもただいまお話にあつたような條項だけではなく、世界全体の平和と福祉のためには、いろいろな動きをいたしておる。それが各條項に現われておることは、よくごらんになると御了承いただけると思います。
  111. 林百郎

    ○林(百)委員 たとえば五十三條の安全保障理事会の強制行動の場合におきましても、「第百七條に従つて規定されたもの、又は右の敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されたものは、関係政府の要請に基いてこの機構が右の敵国によるあらたな侵略を防止する責任を負うときまで、これを例外とする」というように、旧敵国の侵略政策の再現に備えるためにはあらゆる方法を認めておるということ、あるいは百六條によりまして、強制行動が安保理事会によつて決定するまでは、一九四三年十月三十日、モスクワで署名された四国宣言の当事国及びフランス国は、この宣言の五の規定従つて、国際の平和及び安全の維持のために必要な共同行動をとるというような形で、国連憲章の最も重要な部分であるところの安全保障の問題については、すでに五大国の一致が原則としてとられておる。たとえば安保理事会の決定につきましても、五大国常任理事会の一致ということが、根本的な原則になつておる。私たちは、国連憲章の精神を貫く根本的な原則の一つとして明らかに五大国一致の精神というものがあると思います。もしこれをこわすような、あるいはこれと反するような規定があるというならば—私は幾ら読んでもそういう條項は見つからない。もしあなたが、それと反するような、その後の情勢の変化によつて五大国一致の原則が破られて来ているということがあるというならば、精神の上に、條章の上にそういうものがあるならば、示していただきたい。
  112. 草葉隆圓

    草葉政府委員 安全保障理事会が五大国一致の状態によつて議事を進めることになつておるというのは、お話の通りでございます。ただこれが都合よく進んでおらない。それは十分御承知のように、今まですでに拒否権の使われたものが四十八回くらいあると思いますが、その大部分はソ連拒否権行使したために一致した行動をとり得なかつたのが現実の姿であります。従つてお話のような精神から出ておりましても、最近におきまする動きは、総会等の三分の二の多数、あるいはその他の方法によつて国際連合憲章の部分におきましても、いろいろの問題の解決方法がとられておる状態であります。
  113. 林百郎

    ○林(百)委員 ハンガリー、ブルガリア、あるいはイタリア、そのほかルーマニア等もそうでありますが、それらの講和條約は、すべてソビエト・ロシヤも入れまして、五大国が一致した形で全面的な講和が結ばれているという事実を知つているのであります。従つて場合によつては、安保理事会においてソ同盟が拒否権行使したことがあつても、それはあくまでも五大国一致の精神を貫くためにそういう拒否権が與えられていると思うのであります。従つてたちは、日本の場合におきましても、全面講和可能性は十分あるし、また日本としては、もし国連憲章の原則を守るというならば、あくまで全面講和を主張し、これに対する努力をすべきだと思うのであります。御存じの通りに、中国あるいはソ同盟にきましても、すみやかに日本と全面講和を締結するということを常に日本に呼びかけておるのであります。一体どこにこの五大国一致の原則が実現されず、あるいは日本の全面講和が破壊されたような要素が、あなたのいう中国あるいはソ同盟から與えられたかを知らしていただきたい。
  114. 草葉隆圓

    草葉政府委員 日本との平和條約の動きにつきましては、ずつと説明の中に申上げた通りでありまして、あのような動きをいたしまして、今日まで日本独立といういわゆる平和條約の推移というものは参つたのであります。従いまして日本はたとい五大強国であろうとも、あるいは四大強国であろうとも、日本戦争状態にあり、あるいは国交断絶をし、あるいは現に戰争いたしておりました全部の国と平和の状態を結ぶというのが日本の本心であるということは、たびたび申し上げた通りであります。またそうなることが平和の全体の完成、達成であるのであります。従いましてその方法が、あるいは国際連合によらねばならぬのじやないかという御議論の筋から来ていると存じますが、今回の日本との平和條約は、それらの戦争をいたしました全部の国に対する招請となつて現われたのでありますから、これほどりつぱな会合はなかろうと存ずるのであります。
  115. 林百郎

    ○林(百)委員 驚くべきことをお聞きしたのでありますが、まずその問題に入る前に、第一に、このたびの日米の間におけるところの安全保障條約いわゆる集団的な安全保障のとりきめでありますが、これは国連憲章の第五十一條を見ましても、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、集団的な固有の自衛権を認めるということになつておるのであります。これは明らかに国際連合加盟国の自衛の権利として、集団安全保障の方法が講ぜられていると思うのであります。先ほど草葉次官からお聞きしますと、あなたはこのたびの日本の態度があくまで五大国一致の精神に合致している、しかしソ同盟が拒否権行使していると言いましたけれども、この国際連合の常任理事国であるソビエト・ロシヤ、並びに実質的には中華人民共和国、この二国を仮想敵として、その旧敵国のためにできた国際連合憲章の名に借りて旧敵国の日本アメリカ安全保障條約を結んで—政府答弁によるとこれは共産主義勢力がまだアジアでは盛んだからこれに対する安全保障だという、そうすると五大常任理事国であるところのソ同盟、中国を仮想敵して、旧敵国の日本国連憲章の名を借りて安全保障條約を結んで、どうして五大国の一致ができますか。これはみずから安保理事会に油けるところの常任理事会の一致をこわしているじやないですか。こわしているのはむしろ日本であり、あるいは日本と結ぶ特定の国であつて、常任理事国の内部においてある国を仮想敵として、しかもある国と安全保障條約を結んで、どうして五大国一致ができますか。五大国の一致を阻害しているのはソビエト・ロシヤではなくして、むしろこのような侵略的な條約をつくるということ—五大国一致の原則は、むしろこのたびの日米講和あるいは日米の安全保障條約によつてこわされている。五大国一致の原則はまつたくこわされている。そうして国連憲章の機能は、これでこわされている。常任理事国の中で、一方を仮想敵として一方が安全保障條約を結んで、どうして五大国の一致が出て来ますか。このことは、明らかにこの條約みずからが国連憲章違反し、国連憲章の五大国一致の原則を破つている。前文ではいかに美しく国連憲章の原則を遵守するとありましても、これは明らかに国連憲章の五大国一致の原則を破つていると信ぜざるを得ないのであります。たとえばソ同盟なども、あるいはブルガリア、ハンガリーとの間の相互援助條約を結んでおりますけれども、これはあくまで連合憲章からいうと旧敵国であるところのドイツのフアシズムの興隆に対して安全保障を結ぶということである。連合国加盟国を仲間としての安全保障である。ことに常任理事国の二大国を相手としての安全保障條約などというものをソ同盟が結んでいる例は何もないのであります。(「中ソ同盟は何だ」「中ソ同盟があるじやないか」)何を言つているか。中ソ同盟はあとでやります。默つて聞いていなさい。私の方がよく知つている。それについてどう考えるか。
  116. 草葉隆圓

    草葉政府委員 先ほども申し上げましたように、日本独立平和條約というものの今まで参りました過程は、最初詳しく説明をいたしましたように、一九四七年から始まつて参つたのであります。しかしその行き方の上において、ここで繰返すまでもなく、一致の方法がとられなかつた。そうしてその後の世界情勢はまつたくかわつている。実は日・米安全保障條約というものは、いよいよ今回の日本平和條約によります独立によつて日本が一本立ちになろうとする極東の情勢から参つたのであります。そもそもがさような情勢でないと、このような心配はいらないのであります。このような心配をいたします原因になりましたのは、さような現実の姿が極東にあるから起つて参つたのであります。この点は林君冷静にお考えになると御了解いただけると存じます。
  117. 林百郎

    ○林(百)委員 先ほどから次官のお話を聞くと、日本の国が非情に武力攻撃の脅威にさらされている、そのために五大国一致の原則をかりに守らないような遺憾な事態になつても、このような安全保障條約を結ばざるを得ないというように聞えるのでありますが、あなたのいう日本の国がそれほど直接的にどこかの国の軍事的な攻撃の危機にさらされているというその例を私は示していただきたい。
  118. 草葉隆圓

    草葉政府委員 これは今までもたびたび申し上げましたように、そのような脅威を感ずると同時に、また無防備、力の真空状態にある場合においては、そのような状態を最も端的に従来露骨に現わして来る現状であるから、そのことが世界の平和を脅威に陷れる、こういう、前提こういう根本的な問題の上に起つたものであります。
  119. 林百郎

    ○林(百)委員 日本の国にアメリカ軍隊を無期限に駐屯させなければならないほどの日本の国に対する脅威が一体アジアのどこにあるか。むしろアメリカ日本の国を軍事基地にして、朝鮮事変のためにここから飛行機を飛び立たせ、朝鮮を爆撃し満州を爆撃することについては便益を感じているかもしれない。しかし日本の国がアメリカ軍隊にいてもらつて二百箇所の空軍基地をつくり、横須賀、舞鶴あるいは函館等の海軍基地を持たなければ武力攻撃の危險にさらされているほどの脅威というものは一体どこにあるのか。私はそれをはつきり聞きたい。むしろアメリカが朝鮮事変の便益のために日本を利用するということのために結んだというならわかる。しかしそれをあたかも日本がお願いして、日本がどこかに侵略の危險があるからこわくていけないからお願いしますからアメリカ軍隊に来てもらいたい。そんなことまでして守らなければならない危険がどこにあるか。お隣りの朝鮮ではアメリカ軍隊は朝鮮に侵入しています。しかもそれは最初アメリカ軍隊が行つて、鴨緑江まで行つて中国を爆撃しています。台湾はアメリカの海軍が封鎖しています。中共は決してアメリカ領土を封鎖しておりません。中共は決してアメリカ領土を爆撃しておりません。これは中共としては当然の正当防衛であります。一体日本の国が外国軍隊まで連れて来なければ、厖大な費用を出し日本の国を主権を売つてまで守らなければならないような危機が極東のどこにあるか。あなたに示してもらいたい。
  120. 草葉隆圓

    草葉政府委員 極東におきましては、現在現実に武力の闘争が行われております。この武力の闘争のよつて来たりました原因は、私がここでるる申し上げるまでもないのでありますが、一般的な立場から、また国際連合といたしましての解釈の上から、神君の解釈とはあるいは違うかもしれません。世界の全体的な立場からの解釈では、いわゆるる共産主義の武力侵略、とかような認定を下しておることは先ほど来申し上げた通りであります。この現実の姿は、日本のそばにあり、しかも今までは同一な国民でありました状態における現実として現われて参つた。現にまた日本におきましては、昨年の暮れから本年の春ごろには特にさような情勢でありました。安らかに漁業をいたしております者に対しましても、武力をもつて漁携をしております船を拿捕に来ておるというような現実の姿を私どもはたびたび体験して参つたのであります。従つて、先ほどし申上げたように、独立いたします国家は、特殊な場合を除きましては、全部みずからをみずからの力で守るという態勢をとつておるのであります。もしやその能勢が、特別な地域を除きましてとられない限りにおいては、先ほど申し上げたように、かような力の真空状態に対してもつと脅威的な状態を繰返されたことは、今まで歴史のいろいろと示しておるところでありまして、かような状態に陥ることは、世界の平和と安寧をかえつて阻害する、こういう立場から、日本は今回、ぜひとも日本の内外における力の真空状態を除くということが独立上最も必要なことである、こう考えた次第であります。
  121. 林百郎

    ○林(百)委員 草葉次官の話によりますと、何か共産勢力のじやまによつて漁船が拿捕され、日本の漁業に重大な影響を與えているというのでありますが、私は日本の漁民の二十四の漁区が、アメリカ軍隊の演習のために漁獲ができなくて困る、これをどうしてくれるのだということを痛切に叫んでいるのを聞いております。そのことは、日本の漁業に対して重大な影響を與えることは聞いております。そしてまた、先ほど、日本が真空状態なつたときに、外国から侵略される危険があるという、その外国というのは、おそらく共産勢力のことをさしていると思う。しかし中国やソ同盟が、いつ日本に侵略するということを表明したことがありますか。一方中国の領土を、日本から飛び立つたアメリカの飛行機が爆撃しているのであります。むしろ脅威を感じているのは、日本アメリカの軍事基地になつて、ここから飛び立つた飛行機が朝鮮や満州を爆撃される。この朝鮮や満州の方が具体的に武力攻撃の危険を感じているのであつて、この方が、中ソ同盟條約を結んで守るということは当然なことであります。しかし、日本の国がいつソ同盟の飛行機によつて攻撃され、いつ中国の飛行機によつて爆撃されておりますか。中国はすでに爆撃されております。しかし中国はまだ日本を爆撃しておらないのであります。どちらが具体的に武力攻撃によつて危機を感じているか。日本が真空状態になるから、それを守つてもらうために日本軍隊を置くというけれども、本心はそうではなくて、アメリカのアジア政策の一環として日本が必要だ。軍隊を募集するに十分な人的資源が日本にはある。ちようど中国、ソ同盟に対する軍事基地としては適当な地域だ。工業力も相当ある。これをアメリカの陣営へ入れてアジアの作戰に利用するならば非常に有利だというところから、この安全保障條約ができているのであつて、これはむしろよその国の便益が中心であつて、われわれは何も頭を下げて外国軍隊に無期限にいてもらわなければならないような具体的な危険は、アジアにおいては日本には加えられておらないと確信している。私も日本人、あなたも日本人、この條約によつてわれわれの子孫の百年の運命が決定されるので、よくそのことを知つていただきたい。よく考えていただきたい。一体中国、ソ同盟が日本を侵略するということをいつ言つておりますか。中国は現に飛行機で爆撃されているのでありますが、いつ日本にそういうことがあつたか、私はあなたに聞きたい。国連憲章の五十一條によりましても、武力攻撃が発生した場合における集団的な固有の自衛権を害するものではないとある。具体的に武力攻撃の危険が発生した場合に、初めて自衛権の問題になります。架空な、真空状態なつたならば心配だという将来の未確定な形で五十一條の自衛権というものは出て来ないので、この点についてあなたの御見解をお聞きしたい。
  122. 草葉隆圓

    草葉政府委員 これは、ただいまも申し上げましたように、現実に極東において戦闘が繰り返されておるが、この戦闘は力のほとんど真空状態なつたときに起つて来た状態であります。ほとんど力の真空状態になりましたときに、昨年の六月あの朝鮮動乱というものが発生いたしたのでありまして、従いまして、世界の平和、極東の平和から考えますると、日本独立いたしまして、そうしてその日本独立が守られない、力によつて守り得ない状態にありますときに、かような現実にわれわれの目の前に起つたこの姿が、日本において起らないと保証はできないのであります。むしろ逆に、かような状態が起らないような状態にしておくことが、極東の平和を来すゆえんであり、従つて世界の平和を来すゆえんである。この点からこの條約を結んだのでありまして、ただいま林君のお話のように、永久にこれで行くというものではないのであります。かような情勢が起らない状態なつたらこれをやめるということで、暫定的にこれは結んだのであります。従いまして、日本独立した後におきまして、極東の平和のためにはこのような状態が最善の方
  123. 林百郎

    ○林(百)委員 私と見解が根本的に違うと思います。よく自由党の方は、真空状態が発生した場合に心配だからと言つているのであります。しかし脅威を感ずるのは真空状態が発生するからではなくして、真空状態が発生した場合に脅威を感じさせるような條件を真空にできないようになつてしまうのであります。そういうアジアで侵略的な戰争をしているような外国軍隊をすつかり日本から去つてもらつたならば、真空になろうと何になろうと、それを理由にして外国軍隊が入つて来ることはないのであります。私は、国連におけるヴイシンスキーの演説からこういうことを引き出したいと思うのであります。「ソビエト人は、もちろん、周囲の国家の形がかわるのをのぞんでいる。しかし、これは周囲の国自体の問題である。—スターリン大元帥は、つけ加えてこういつている。」(笑声)「—もしこれらの国家が、ほんとうにしつかりと安定しているなら、周囲の国家は、ソビエト人のイデーを危険視できるとは私は思わない。」「革命の輸出なんて、およそ馬鹿げたことだ」要するに、日本の国にそういう危険な條件があるから真空状態にすることができないのだ。日本の国を外国軍隊の侵略的な基地にするような條件を排除してしまうならば、真空になろうと何になろうと何ら心配がない。要ないのであります。私がこういうように言うと、共産党ばかりのように言われておりますが、アジアの大国は、この対日講和條約に一つとして賛成しておらない。中国にしても、インドにしてもあるいはビルマにしても、全部賛成しておらないのであります。ということは、この講和と安全保障がいかにマジアの人民に対して脅威を感じさせるかということであります。だから賛成できないのであります。私は具体的にたとえばインド首相ネールの声明を出す。先ほど草葉次官は、インドの意見は、対日講和日本に甘過ぎるという。甘過ぎるから今度のサンフランシスコ会議にインドは参画しなかつたのだというようなことを言われましたが、甘い辛いの問題ではないのであります。インドのネール首相の言つていることは二つの條件があります。すなわち一つは、今度の対日講和條約は日本に対し、自由国家の共同社会において名誉あり、平等なかつ満足すべき他位を與えるべきであるのに與えておいないということ。第二は、対日講和條約は、特に極東における安定した平和の維持に関心を持つすべての諸国が、おそかれ早かれ調印できるように作出されたものでなければならないのにつくられておらないということです。この第一の條件の、日本が自由国家の共同社会において、名誉あり、平等もかつ満足すべき地位を與えられておらないという理由のもとに、当然予想できることであるが、日本は、自国民とよく似ておる住民が住み、他の国から侵略によつて奪いとつたものでない地域を、完全に自国主権下に回復したいと望むに違いない。このことはまさに琉球、小笠原にあてはまることであるとはつきり言つているのであります。琉球、小笠原を外国の統治下に置くということで、どうして日本が名誉あり、かつ平等な満足すべき講和と言えるかということが第一の條件。第一は、極東におけるところの平和の維持に関心を持つ諸国が、安心して調印できない理由といたしまして、以前にも述べたように、インド政府は、台湾の中国への返還を重税する。その返還の時期及び方法は、個々別々の交渉によつてきめられるものであろうが、台湾に関する国際協定が現存するのを無視し、今次大戦において日本と戰つたすべての国と日本との関係を定める文書中に、台湾の将来を定めずにおくことは、正しいことでもまた好都合のことでもない。同じことが千島並びに南樺太においても言える。国際語協定の精神から言えば、インドのこの意見は明らかに正しいと思います。この條約がアジアの諸国に侵略の危機を感じさせないとか、あるいはアジアの諸国の平和を守るものだというあなた方の意見に対して反対するのは共産党ばかりではないのであります。インドですら明らかにこういうことを言つているのであります。こういう意味から、この條約は、明らかに国際の協定、国際の諸條約に違反した講和條約であり安全保障條約であると言わざるを得ないのであります。その次の問題に移ります。先ほどから草葉次官は、この條約は、アジアにおける平和を守り、日本の国の平和を寸るための條約だということを盛んに言われているのでありますが、私はこの問題につきましても政府といささか見解を異にしている。いささかどころかまつたく見解を異にしているのであります。どちらが事実に適合するかという問題については、私は草葉次官の御意見を承りたいと思うものでありますが、この條約によつて中国とソ同盟この戰争状態はどうなるのですか。
  124. 草葉隆圓

    草葉政府委員 さきに、極東の大多数の大国がこの條約に反対しておるというお話でありましたが、これは林君の一方的な御解釈であろうと存じます。私はさようには解釈いたしておりません。またインドのネール氏の主張は、こまかくごらんになりますると、私どもが存じておりまする範囲におきましては、日本独立しましたあとに、日本自身の自主の立場において日本を守るということには、何ら反対をいたしておらないばかりでなしに、さような状態がむしろ歓迎されておると存じます。従いまして、こういう状態において日本独立したあとにおける力の真空状態ということを申しましたが、この点につきましては、共産党の林君もよくひとつ御了解をいただきたいのであります。日本独立したあとでたとえて申しますと、銀座のまん中に新しい家をつくりまして、その家に何ら戸締りをせずにあけつぱなしておいていいということは、それは銀座が盗人などのいない状態でありましたならば、それでいいでしよう。しかしながら、前文にもありまするような、最近の極東のような極端な状態におきましては、そのような状態の中に家をつくつて、店を開いて、雨戸を締めず、錠を下さずにおいては、その一軒の家は決して立つては行かないということは、当然御了解願えると思います。これを無理に雨戸を締めずに、錠を下さずにほつておけというような議論は、むしろこれは国民をして誤らせるもとになりはしないかと考えます。また、ただいまソ連と中共との戰争というお話でありましたが、私はそういうことは存じません。
  125. 林百郎

    ○林(百)委員 新しい家をつくつて、芝の中に、道を通る人はだれにでも鉄砲やピストルをぶつ放すような危険な人物を住まわせたとするならば、それに対して周囲の者が脅威を感ずるのは当然であります。私は、今度の日米安全保障條約は、せつかく独立した日本の国に、アジアの諸隣国に対していつでも鉄砲をぶつ放し、飛行機で爆撃するような危険な人を住まわせる、こういう條約だと思います。だからアジアの諸国の人がこれに対して危險を感ずるのは当然だと思います。しかしこの新しい家論争はこれで打切ります。  吉田総理答弁によりますと、中ソ両国とは講和條約が締結されておらないのだから、技術上並びに法律上はまだ戦争状態にあるということを聞いたと思いますが、もし総理見解が違うなら違うでけつこうです。あなたはどう考えておるかお聞きしたいと思います。
  126. 草葉隆圓

    草葉政府委員 総理答弁通りであります。
  127. 林百郎

    ○林(百)委員 中国とソビエト・ロシヤとは戦争状態にある。この戦争状態にある中国、ソ同盟を仮想敵として、要するに共産主義勢力を仮想敵として日本の国に外国軍隊が駐屯するということになれば、これは安全の保障ではなくして、むしろ、その同盟の性格は明らかに軍事同盟である。戦争の渦中にある相手国を仮想敵として他国の軍隊日本に駐屯することを許すようなとりきめは、これは安全保障條約ではなくて軍事同盟だと解釈せざるを得ないのであります。その点について政府見解を質したいと思うのであります。
  128. 草葉隆圓

    草葉政府委員 仮想敵国というような考え方は毛頭ございません。むしろ、こういう條約ができることが反対されるのは、侵略の意思がある場合においてのみ反対されるのだと考えます。
  129. 林百郎

    ○林(百)委員 これは吉田総理がサンフランシスコで述べた演説でありますが、「近時不幸にして、共産主義的の圧迫と専制を伴う陰険な勢力が極東において、不安と混乱を広め、且つ、各所に公然たる侵略に打つて出つつあります。」と言つておるのであります。明らかに侵略の危険が出た場合でなくて、総理はもう侵略していると言つている。そうすると中国、ソ同盟を仮想敵としての軍事同盟と言わざるを得ないではありませんか。それはどうですか。
  130. 草葉隆圓

    草葉政府委員 それは私がさきに説明いたしましたように、侵略の事実があると国際連合が認定した、その認定に基いて総理もそう申しておるのであります。
  131. 林百郎

    ○林(百)委員 どういう詭弁を弄しましてもやむを得ないと思いますが、これは明らかに軍事同盟であり、戦争の終結ではなくして、新しい戰争の拡大のための危険を非常に包蔵しておるとりきめであるというように考えられるのであります。一例を申しますと、御存じの通り今朝鮮に戦争が起きているのであります。この朝鮮の戦争に対しまして、吉田・アチソン交換文書によると、日本は従来も最高司令官の承認を得て、あらゆる便益を供與し、基地並びに役務を提供して来たと言つておるのであります。さらに今後もこれを続けることを確約すると言つているのであります。そうしますと、朝鮮事変で現に戦争しておる国の軍隊日本に入れて、これと同盟を結ぶということは、日本の国をして戦争の危険から安全保障するのではなくして、さらに新しい戰争の危険に日本を巻き込むことだと私は言わざるを得ないのであります。先ほど申しました通りに、朝鮮事変はまだ解決いたしておりません。また朝鮮事変は非常に拡大する可能性があります。またアメリカの軍部の中では、朝鮮問題を解決するためには、もつと積極的に中国の領土を爆撃し、台湾にいる国府軍を中国に第二戦線として送り出さなければならないということを主張している人があるのであります。またこのことも、必ずしも絶対に実現しないとは言えないのであります。そうすると、現に朝鮮で戦争をしているアメリカ軍隊がある。この朝鮮の戦争はさらに拡大する可能性がある。その軍隊に、このたびの吉田・アチソン交換文書によつて、あらゆる便益を供與し、施設、役務を供與するということになれば、これは安全を保障し、平和を保障するのではなくして、新しい戰争の負担を、役務的にも、基地的にも、費用的にも負担することになると、私は考えざるを得ないのであります。朝鮮事変が解決した後ならまだ考えようがある。しかし現に朝鮮事変をして、そこへアメリカ軍隊が出兵して戦争をやつている。その軍隊日本の国に置いといて、この軍隊にあらゆる便益を供與することになれば、これは戦争の渦中に日本が飛び込んで行くことになることは、三歳の児童でもわかると思うのであります。「(わかるものか」と呼ぶ者あり)私はこんなことからいつても明らかに軍事同盟であると思う。こんなことがわからないのは自由党の諸君だけであります。これについて政府の要解を伺いたい。
  132. 草葉隆圓

    草葉政府委員 朝鮮の動乱は、先ほど来るる申し上げましたように、侵略の戦争でありまするから、侵略の戦争をやめさせるように国際連合は出たのであります。侵略を防止するため、侵略を中止するために、国際連合国際連合軍をもつて現在いたしておりまするのが、朝鮮動乱の実情であります。従いまして、従来通り国際連合に協力する立場から、かような文書を交換した次第であります。
  133. 林百郎

    ○林(百)委員 その戦争があなた方の言う何々戦争であろうと、国民の心配するのは、また新しい戦争に日本の国が巻き込まれるということに対する危険を感じているのであります。朝鮮事変が平和的な解決もしておらないのに、かかるアメリカ軍隊の恒久的な駐屯を内容とし、これにあらゆる便益を供與するようなとりきめをすることは、明らかに日本の国を戦争に巻き込むといわざるを得ない。私はこれについてはこれ以上あなたと論争をしませんが、問題は朝鮮事変だけの限界にとどまつていればいい。しかし中国は、これに対して何といつているか、これを私はやはり一つの要素として考えなければなりません。  御存じの通りに、中共の対日講和に対する態度については、三つの段階があつたのであります。最初は、全面講和をすべきだ、これは中ソ友存同盟の第二條にもはつきり現わしております。中国、ソ連同盟は、日本と一日も早く講和を結ぶことを希望し、そのためにあらゆる努力をするということがうたつてある。初めは安全保障、全面講和を締結するという非常に大きな運動を起している。しかしそのうちにだんだんと日米の間に単独講和可能性が強くなるに従つて、非常に論調が伸張して来まして、第二の段階における最も代表的な意思表示が、今年一月中共政府から発表せられておるのでありますが、もし日本単独講和を結べば、日本が中国とソ同盟となお引続き戦争状態にあることを示すだけではなく、さらに一歩進んで、日本がすでに中ソ二大強国を敵視している側に立つたことを表明するものであると言つておるのであります。ダレス、吉田氏との間に、こうして朝鮮、中国を爆撃するような安保條約を結ぶ可能性が強くなればなるほど、相手国の中国としてこういうことを言うのは当然であります。しかもこれがいよいよ具体化して来まして、中共政府の大弘報の発表によりますと、中国はさらに第三の段階としては、すでにこういうことを言つておる。われわれは、日本国民が、中国とソ連を除外した単独講和は、中ソ両国への宣戦布告にひとしいことをさとるものと信じている、こういうことになつておるのであります。このことは明らかに、中国にとつてこの講和條約が宣戦布告にもひとしいということであります。われわれは、八千マイルも遠く離れたアメリカと手を握るよりは、われわれと文化を交流し、血をつなぎ、長い間の歴史的な関係にあるこの中国と親善関係を結ぶということが、極東における日本の平和を確立し、われわれの子孫に與える最も安定の道であると思います。それを吉田内閣は、これにあえて宣戦を布告しながら、何をもつて八千マイルも遠いアメリカと手を結ばなければなければならないのか。中国のかかる緊迫した態度、この講和と安保條約に対する中国の緊張した態度、あるいは国内の情勢に対して、日本政府は将来いかなる態度をもつて臨むのか、これを私はお聞きしたい。
  134. 草葉隆圓

    草葉政府委員 日米安全保障條約は、そのどこをごらんになりましても、決して侵略というような考え方一つも持つておりません。まつたく日本立場を守るだけであります。
  135. 林百郎

    ○林(百)委員 私は、政府が白々しいことを言うのは実に驚くべきことと思うのであります。十月二日、テネシー州のガトリンブルグという所で、知事会議を開いておるのであります。そのときダレスがどう言つておるか。これは十月二日発AP電報でありますが、ダレスはこのときの知事会議において、対日講和條約に言及し、トルーマン大統領は、條約がソ連と中国を公然たる戰争に挑発するかもしれぬのを承知の上でこれに調印した旨を述べておるのであります。あなたが言わなくても、アメリカの方は、あなたの政府と同盟を結んで、中国、ソ同盟と戦争になるかもしれぬということを、ちやんと腹の中に入れてやつておるのだ。これはサンフランシスコに行つた方—西村條約局長はサンフランシスコに行つてよくわかつているでしようが、アメリカの方は腹がきまつておつた。日本の方は動揺していた。その動揺を、日本アメリカに行つて激励されて、はつきり反共の態度をきめて来た。吉田総理の演説にあの反共の字句を入れるのも、これは吉田総理考えばかりではなかつた。アメリカ政府の示唆があつて、腹を据えろと激励されて、ここにはつきり反共の態度を示して、この演説をした。私はこの十月二日のガトリンブルグにおけるダレスの談話について、日本政府はこういうことは全然知らない、あるいは将来そういうことは関知しない、中ソ両国とアメリカとの間にどういう事態が起きようと、日本は全然アメリカとともに渦中に入ることはないということを、ここで保証できるならば保証してもらいたい。もし政府がそう言うならばそれでいい。ここではつきり言つてもらいたい。
  136. 草葉隆圓

    草葉政府委員 御意見のようでございますから、別に答弁の必要はないと思いますが、ただ間違つております点だけを訂正いたしておきます。私もアメリカに参りましたが、ただいま林君のお話にあつたような事実は全然ありませんから、この点ははつきり申し上げておきます。
  137. 林百郎

    ○林(百)委員 これはもちろん、そういうことがありましたとは言えないと思います。私は時間が参りますから、この前文に対する私の意見を申し上げたいと思います。  かくして私は、現に朝鮮事変がまだ平和的な解決をしない間にかかるとりきめをすることは日本を朝鮮事変に介入させる危険を多分に包蔵するし、現に介入していることを政府は認めている。第二には、かかる條約を結ぶことによつて、将来中国、ソ同盟との間の関係をますます危險に陷れ、ますます大きな戦争に日本を巻き込む危険があるということ。草葉次官は先ほどからにやにやとしてお聞きになつているようでありますが、ほんとうに日本の将来を考えるならば、この点を十分に考えて責任を持つてもらいたい。あなたがあくまでこの條約を結ぼうとしても、おそらく将来日本の平和を愛好する諸君の力によつて、必ずこれが無効にされるときが来ると私は確信している。その点を十分考えてもらいたい。従つて拡大する戦争に日本がますます省き込まれるのであつて、これは平和を保障するためのとりきめではなくして、新しい戦争拡大へ日本の国を巻き込む危険を包蔵しており、また現に巻き込みつつあるとりきめである。これが第一。第二は、国際的な諸協定によつてこの條約は明らかに不法であり、かつ無効である、私はこう確信しているのであります。この私の意見に対して、御答弁があるなら御答弁を聞くし、見解が対立しているから答弁の必要がないというならば、あえて聞く必要はないのであります。  これをもつて前文に対する私の質問を終りたいと思います。
  138. 田中萬逸

    田中委員長 石原登君。
  139. 石原登

    石原(登)委員 私は前文について、ごく簡単に二、三お尋ねいたしたいと思います。まずこの條約の締結に非常なる御努力を払われた関係各国、日本政府に対しまして、心から敬意を表したいと存じます。この條約は申すまでもなく和解と信頼の基礎に立つておりますることは、国民すべてが十二分に納得しているところでありまして、このことは多くの国民の諸君が心から歓迎いたしているこの事実をもつてしても明らかであるのでございます。しかるに本日のただいまの質問においては、この国民的な輿論を裏切りまして、あたかもこの條約が国民の平和に寄與しない、国民の信頼に沿わない講和であるかのごとき言辞がなされたのでありまするが、私はこれはまことにおかしいと考えております。こういうような言辞を政府当局ははたしてどのような意味にお考えになつておりまするか、これは非常に重大だと考えまするので、まずこの点からお尋ねをいたしたいと思います。
  140. 草葉隆圓

    草葉政府委員 国民の絶対多数は今回の平和條約に対しまして十分了承をしていただいておると思います。従いましてただいまのお話にありましたような一部の不愉快な條約だというような意味のお話は、全然政府の了とし得ない点であります。
  141. 石原登

    石原(登)委員 往々にしてこの国会におきましても、特殊な考えの基礎に立たれまする人は、議論の焦点を完全に別個な立場から、しかも立論として許されない立場からいろいろなことを言われまするために、これが日本国民にむしろ多くの弊害を及ぼすような場合が多々あるのであります。私どもは、こういうような無責任な発言に対しては、爾来一つの広告ないしは宣伝というふうに了解いたしておりまするので、私はこれ以上この問題については深く意にも介しないのであります。またこれ以上ちつとも関心を払いたくないのであります。  さてそこで私はお尋ねいたしたいのでありまするが、今回の和解と信頼のこの條約の締結に対しまして、共産党の一方的な特異の立場に立つての議論は、まつたく別でございまするから、これは問題にいたしませんが、社会党の一部においてこれに反対をするような立場の議論もあるわけであります。その議論の中には、この問題が相当歪曲されて申されまして、極端に申しますと、日本のための平和條約ではなくて、これはアメリカ日本に駐軍するところの第一の段階としての講和会議である、こういうようなことを申しておるのであります。私はこういう議論は、ただ単なる議論的な議論であつて、まつたく現実を無視したものであるということを指摘いたしたいのであります。それはなぜかと申しますと、私どもは六年前に敗戦の非常なる痛手を受けまして、当時、今日の英米はもちろん、ソ連を中心といたしまするところの連合国の制約によりまして、今日までそれこそ血のにじむような復興と再建の努力をいたして参りました。その後社会情勢はただいまるる御指摘になりました通り、非常な変革を来しまして、当時世界的に非常なる好戦国民として指揮され、そうして世界的に相いれない、相交わることのできない国民として除外されましたところの日本国民が、この六箇年間を通じまして営々として盡しましたところの誠実と平和建設の努力が、今日初めてみごとに効を奏したと私は存ずるのであります。一方当時連合国であり、立場を同じゆういたしましたところの米ソの関係が、逆にお互いに相反しまして、特にソ連国際連合多数の国の中からわずかその陣営数箇国と除外されるような立場になつておりますことを考えてみますときに、私は世界の正義人道は皓々明白として照されるものであるということを確信いたしまして、日本人が今日まで盡して参りましたところの努力と誠実は、今こそ全世界的に誠実に認められたものと確信いたすのでありまするが、この点に対しまして政府当局は率直に国民にこの事実のいかんをお示し願いたいと存ずる次第であります。
  142. 草葉隆圓

    草葉政府委員 今回の日本との平和條約は、先般のサンフランシスコ会議第一日に、トルーマン大統領が演説されました中にもはつきり申されましたように、このような條約ができまするようになりましたことは、まつたく日本国民の誠実とそして忠実にポツダム宣言を履行したりつぱな努力の結晶の結果だという意味を申しておられたのであります。私どもも大戦争のあとに結ばれました條約で、このような和解と信頼を基礎となしております條約は今まで世界のいずこにもなかつた條約であると存じます。これはまつたく国民全体が敗戦以来心を一つにして立上つて参りましたその結晶によるものと深く感じておる次第であります。
  143. 石原登

    石原(登)委員 私はこの際私の意見を加えながらさらにお尋ねいたしたいのでありますが、私どもは終戰当時連合諸国によりまして、非常なる制約を受けながら、今日のこの輝かしい講和をかち得ましたことにつきましては、私ども自体国民に対しまして非常に感謝の意を表するとともに、当時とかくいわれましたところの、日本の民族が断じて好戰的な国民ではなく、また断じて怠惰な国民でなく、真に世界の平和と向上に寄與し得る国民である、言いかえれば、りつぱな世界的な指導者たり得るところの優秀国民であるということを確信いたしております。また政策もその確信に立たれまして、今日まで指導に当たられたのであることを私は絶対的にこれまた確信いたすのであります。幸いにいたしまして、日本の政治も産業も非常に進捗をいたしました。今日の日本経済力は、もちろん戦後の困難な復興はいまだ完成されておるとは申しませんが、今後この力は、今日までのような努力がさらに発揮されますならば、将来おそらくアジア経済の原動力となつて、アジア全民族の福祉に大いに貢献するであろうことを確信するものであります。また同時に日本の文化、日本の精神は、これまた同様にとかく世界的に遅れておりますところのアジアの文化に、アジアの独立に大きく貢献するであろうことを確信するのでありますが、こういう点について政府はどのようにお考えでありますか、この点をお尋ね申し上げたいのであります。
  144. 草葉隆圓

    草葉政府委員 今回のサンフランシスコ会議におきまして私どもが強く感じましたことは、敗戦の日本ではありますが、集まつております国々は、全体と申してさしつかえないと思います。全体の国々日本並びに日本人に対しましてまことに大きな期待を持つて、その大きな期待が正しく伸びますことにおきまして、世界の平和に寄與することがまことに大きい、こういう雰囲気が満ち満ちておりますことを強く感じた次第であります。従いまして平和條約が効力を発生いたしましたあかつきにおきましては、この世界の国国の大いなる期待に沿いまして、私ども日本及び日本民族が、この期待を十分に達成いたしますように努力して参ることが、極東並びに世界の平和にとつて最も大事なことと存ずる次第であります。
  145. 石原登

    石原(登)委員 私があえて以上の問題をお尋ねいたしました理由は、特に共産党の諸君を含みますところの一部の人たちによりまして、この條約が曲げて解釈される危険があるからであります。この前文をわれわれが熟読いたしますならば、この文字に現われましたところの精神のほかに、この文中に包含されておりますところの精神は、非常に玩味すべきものがあることははつきりするのであります。すなわち今日の日本は、ただ軍に日本の自立、日本独立のみの日本ではなくして、実に世界平和の立場において十分なる指導国家の役割を果すのだ、しかもその地位はアメリカ合衆国並びに英国と同等の立場に立つ世界平和推進の原動力であるということがはつきりうたわれて滞るものであると私は確信するのでありますが、この点の見解についてはいかがでありましようか。
  146. 草葉隆圓

    草葉政府委員 今回の條約は、お話の通りにまつたく今までにかつてない大戦争の跡始末として結ばれました平和條約といたしましては、前例のない内容を持つた條約であります。そのよつて参りました原因は幾多の原因がありましようが、その最も大きなものの中にはいわゆる日本民族に対する信頼というものが根本をなしておると存じます。この意味におきましてこの信頼にこたえまして、われわれもいわゆる信頼にこたえ得る日本民族として世界の平和、世界の福祉に寄與して参ることが、この條約を正しく受入れて参りまする日本立場としては最も必要なことと存じまして、ただいまの御意見、私どもも衷心より賛成いたす次第であります。
  147. 石原登

    石原(登)委員 さらに今回の條約におきまして、南西諸島、特に鹿児島県の大島、沖縄の信託統治の問題についてお尋ねをいたしたのであります。この南西諸島の諸君は、今回の講和草案が示されまする前から、また示されました当時も、さらに今日に至りまして、も、祖国日本に復帰されることを心から念願いたしておるのでございます。もちろんこれは現地住民だけではなくて、われわれ日本軍の切実なる願いでありまして、この問題について政府の非常なる努力によりまして他の地域と異なり、日本主権が残されたことにつきましては心から喜びを感じておる次第であります。しかしながらこの主権は潜在的な主権であり、当然ある種の制約を受けておりますために、この点についてはわれわれはもちろん特に現地在民にとつては重大なる関心を持つておる次第であります。すなわち現地作興が祖国日本に復帰したいと願いまする理由は、まずもつて建国の精神から考えてみましても、またその言語、風俗、あらゆる点から考えましても、さらにまたその地理的立場から考えましても、どうしても日本内地との交易済経上のつながりを必須のことといたしておるがゆえであります。こういうような観点からお尋ねをいたすのでありますが、この潜在主権とははたして具体的にはどのような意味になるのでありますか。この点がわかつておりますならば、なるだけ具体的にお示しを願いたいのでございます。
  148. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 潜在的主権という言葉は、最近私どもが耳にするようになつた言葉のように存じますが、実はそうでございませんので、私は大正九年に東大に入学いたしましたが、その当時の憲法の講義におきまして、すでに美濃部達吉先生から、潜在的主権ということを教えられてございます。いわゆる一国の領土に対する国家の主権がありますと、その主権を持つている当然の結果といたしまして、その地域及び住民に対しまして、立法、司法、行政その他の諸権力を行使することができることになるわけであります。わかりやすく申し上げますと、あるものに対して所有権を持つておりますと、その結果専有、使用、処分の権限が生れて来る、こういうような関係になります。でありますから、第三條の意味は、これらの島や住民に対して行政を行う諸権限の根本となる日本主権というものは、一指も触れないで日本にそのまま残しておいてやることとし、それから生れて来る諸種の権限のうち、原則としてアメリカとしては全部行使しようとすれば行使できるという考え方でございます。その実例としまして、美濃部先生は中国における租借地関東州を例にとつて説明されました。関東州は依然として租借地でありますが、中国の領土主権のもとに立ち、あそこに住んでおりまする中国人は日本人でございませんで、中国人でございました。
  149. 石原登

    石原(登)委員 さようにいたしますると、主権の一部ないしは全部—私どもはなるたけ全部が付與されることを心から希望するのでありますが、主権が原地住民に與えられ、原地住民の復籍が、先般も総理からはつきりと御答弁になりました通り日本国民であるということがはつきりいたしまするならば、これらの住民は当然日本憲法の規制に従いまして、それによつて生ずるところの権利義務は一切享受できる、こういうことに解してよろしいのでございましようか。
  150. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御解釈はやや極端かと思います。主権それ自身は日本にございますけれども主権から生ずる諸種の管理権といいましようか、立法、司法、行政を行う権限というものが合衆国によつて行使されます。従つて地域住民日本人であるということにおいては変更ございませんが、それに対して現実に主権から派生する権力を行使するのは合衆国」でございます。いま一言つけ加えておかなくてはならないことは、第三條の規定は、立法、司法、行政権限を全部行使する権限合衆国にある、こういうことを書いてございます。むろん委員が御希望なさいました通り、條約はなるほどすべての権限行使することを合衆国に認めてはおりましても、條約上、一国が獲得した権限は、必ずしもこれを行使すべき義務はない、一方的に委譲する、ないしは放棄するということは、これは国際通念上許されておる事柄でございますので、私どもとしては合衆国の善意に信頼して、なるべくならば合衆国において行使せられる権限が、向島を管理する必要に応ずるため、絶対に必要な最小限度にとめていただけばまことにありがたいという立場に立つておるわけであります。
  151. 石原登

    石原(登)委員 サンフランシスコの講和会議におけるところのダレス全権並びにヤンガー全権の発言の要旨に考えましても、またこの問題に関する限りはつきり言明されているその事実に考えてみましても、この国民の期待に対しては相当同情的な処置がとられることを政府とともに信じたいのであります。また信じているものであります。  そこでさらにお尋ねいたしたいのでありますが、アメリカがここを信託統治として管理いたします場合、どの程度の主権の制限があるのでありますか、これが想像できますならばお示し願いたい。たとえば国籍があります以上は当然日本に対して参政権を付與されるかどうか、税金なんかはどういう義務規定が設けられるのであるかどうか、さらに特に経済的に密接な関係がございますので、日本内地との交通往来に制限が加えられるのかどうか、さらにまた教育その他の面につきましても、これはどうしても日本に依存し、また日本的な勉強の必要があるのでありますが、そういうものについては制限がされるのか、まつたく無制限な態度で臨んで行かれるのかどうか、こういう諸点について率直なる御意見をお聞かせ願いたいのであります。
  152. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御懸念の点はまことにもつともだと存じます。しかし條約第三條の意味は、九月二十八日、日米協会における演説の中でシーボルト大使も説明されましたように、第三條の正味の結果は、南西諸島並びに他の復帰された諸島に対する残存主権日本にとどめること、並びに信託統治のための提案合衆国によつて行われるときまで国際連合信託統治の問題を延期することであります、こう説明されております。そしてそのあとに、日本国及び合衆国両国の相互的平和と安全をはかりますとともに、日本国民の最大の利益をはかつて行動するであろうということについて、信頼を持たれたいと言われておりまするわれわれとしては御希望の点は了といたしますが、この合衆国の公の証言に信頼して、できるだけそういうわれわれへ国民として持つ感情に沿うように、事が運ばれることを願うという立場をとりたいと思います。
  153. 石原登

    石原(登)委員 もう一点だけお尋ねいたします。総理もしばしば言明されております通り南西諸島は多く軍事的な意味をもつて信託統治にまわされたことは疑いないところであると思います。さようにいたしますると、同じ南西諸島の場合でも、元鹿児島県に蹄しまするところの大島郡は、アメリカその他では琉球と通称されておるのでありますが、これはよほど事情が違うわけでございます。この大島郡の地域につきましては、今日はつきりいたしておりまする通りに、何ら軍事的な施設もないのでありまして、またもしここにそのような必要を感じますならば、これは当然日本本土の立場によつて十二分に活用されて来る機会は十分あると思うのであります。こういうようなかわつた立場におけるところのこの奄美大島に対して、政府は連合軍に対してどのような立場で御説明いただけたか、その点だけを最後に御説明していただきたいのでございます。
  154. 草葉隆圓

    草葉政府委員 従来も申し上げたのでございますが、南西諸島についての従来からの地理的、歴史的、経済的、人種的、文化的、あらゆる方面からの資料等を出しまして、かつまたただいまお話の大島等は特に従来から鹿児島県の一部としてありましてまつたくある意味におきましては沖繩島とも違つた意味のあります点も十分説明をいたして参つておるのであります。今後におきましても、先ほど来お話もありましたが、北緯二十九度以南、これらの諸島につきましては、一層私どもも期待いたしますると同時に、なお今後国民の期待に沿うように努めて参りたいと思つております。
  155. 石原登

    石原(登)委員 最後にこれは希望でございますが、現地住民からは切にこのようなことを申して来ておるのであります。すなわち現地住民は祝祭日にあたりまして日本の日の丸の国旗を掲げたい。これはまことにくだらない話のようでございますが、現地住民はそのくらい祖国に対して、日本に対して非常に大きなあこがれを持つております。またいろいろな祝い等の際には必ず国歌を合唱したい、こういうことも切々と訴えているのでございますが、今後のアメリカ合衆国との折衝においては、この血のにじむような現地島民の気持を十二分に反映させていただきまして、彼らが完全なる日本国民としてその主権の全部が十二分に達成できるように、特別の御考慮を切に要望いたしたい次第であります。私の質問はこれをもつて打切ります。
  156. 田中萬逸

    田中委員長 これにて前文質疑を終りました。  次に第一章第一條を議題に供します。林百郎君。
  157. 林百郎

    ○林(百)委員 時間の関係がありますから、簡單にお尋ねしたいと思います。「日本国民の完全な主権承認する。」この点につきまして、私たちとして考慮される点が三点ほどあるのであります。第一は、将来安保條約に基いて日米合同委員会というようなものがつくられて、この日米合同委員会が相当広汎な軍事的、経済的、政治的な諸問題を、ここで決定するというような機能を持つのかどうかという点に、われわれとしては非常な関心を持つのであります。従つて安全保障協定に基く行政とりきめは、どういうような機構によつて、将来これが実行されて行くのか、その点をまずお聞きしてみたいと思うのであります。
  158. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 行政とりきめの問題は今後の問題でございまして、何もきまつておりません。
  159. 林百郎

    ○林(百)委員 合同委員会というようなものができるのかどうか。また政府の構想としてはどうかということを聞いておるわけであります。
  160. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 できるかできないか、政府の構想としてあるかないかもまだきまつておらないのであります。
  161. 林百郎

    ○林(百)委員 何も内容をきめなくて、行政協定で決定するということをきめられたとすれば、無責任もはなはだしいと思うのであります。それでは内容は別として、この行政とりきめをどういう機構でこの後アメリカ側となされるか、そのなす機構—この協定をとりきめるためにはどういう機構でどういうように相談をして行くのか、それをまずお聞きしたい。
  162. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 行政協定目的は、第三條に明文でうたつてあります通り日本国内及びその付近におけるアメリカ合衆国軍の配備を規律する條件をきめる目的であります。
  163. 林百郎

    ○林(百)委員 ですから、それをどういう機構でとりきめて行くかということと、この配備を規律する條件の中に、純軍事的なとりきめ、たとえば軍事基地を設定するとか、あるいはその駐屯している軍隊経済的な負担をどのようにして行くのか、あるいは駐屯している軍隊国内の交通権はどのようにするか。こういうことに関連します純軍事的な問題と、これに関する国内行政的あるいは経済的な問題もとりきめられるのかどうか。またそれがとりきめられた場合、いかなる機構によつてこれが実行されて行くか。そういう点をお聞きしたいと思う。
  164. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 まだ何もきまつておらないのであります。きまつておる事柄は、行政協定は両国政府の間の外交交渉として、対等国間の外交交渉として、交渉されるということになつております。
  165. 林百郎

    ○林(百)委員 そうするとその点は答弁がありませんからそれとして、その次に、これは各国の行政協定の例の中に見られるのでありますが、基地ができた場合、その基地における外国軍隊の相互の問題に対しては、治外法権が許されるのかどうか、その点をお聞きしておきたい。
  166. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私どもはこの話が始まりましてから、基地ということを一度も問題にしたこともございませんし、あらたまつて考えたこともございません。
  167. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、アメリカ合衆国軍隊日本に駐屯する形はどういう形で駐屯するのですか。基地というような形でなくして駐屯するのか、あるいは基地というような特殊な区域を設けてそこに駐屯し、その基地の中へ搬入する物資についての課税の問題、あるいはその基地内における私企業の営業の自由の問題、あるいはその基地の中における外国軍隊の裁判権の問題というようなことを考えられるのか、もし考えないとするならばどういう形で一体外国軍隊日本に駐留しかつ配備されるのか、その構想をお聞きしてみたい。
  168. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 行政のとりきめができますれば、御疑問の点は全部氷解いたすと思います。
  169. 林百郎

    ○林(百)委員 氷解すると思いますということは、政府がすでにある程度の構想を持つておられるのだと思う。私が講和條約の第一條で説明を求めておるのは、完全な主権が回復するとありますけれども、もし日米合同委員会というような機構が設けられて、これが軍備経済行政的な機能を握つて、現在最高司令部が行つておるような機能を持つとすれば、日本主権に対する大きな制限になります。ですから完全に主権が回復するというけれども、ここにやはり主権が非常に制限される可能性が出て来る。ことに行政とりきめが、立法府の意向をただすことなくして決定されるというようなこともいわれておりますから、完全な主権がはたして回復するかどうかという点について重大な疑点を持たざるを得ない、これが第一点。第二点は、かりにその基地の中で外国軍隊に対して治外法権を認めるとか、あるいはその中における私企業の営業権についての制限を受けるとするならば、この点からも主権の制限が発生して来ると思うのであります。それからさらにこの第一條の完全な主権が回復するという問題について、言葉の上でははなはだりつぱでありますけれども、私たちの心配される点は、これは各委員からもお話がありました通りに、信託統治地域に対して、司法、行政その他の権限を— オール・アンド・エニイですか、これらの権限外国の手にゆだねられる、アメリカにゆだねられるということになれば、この信託統治地域に関する主権というものは完全に失われる。政府は眠るとか、停止するとか言いますが、実際的にはこれは主権が割譲される。こういうふうになると私は考えるのであります。この第一條の完全な主権が回復するという点について、大きな疑点を持つ、これが第三番目のわれわれの疑点であります。それから第四は、安保條約に基いて日本が戦争に介入させられる。日本の国の宣戦布告、そういう條件なくして、日米安全保障條約に基いて、自動的に戦争に介入せられる危險が非常にあるのであります。それで主権の最も重要な要素は、どうしたら戦争に介入しないようにできるか、またかりにどうしてもしなければならない場合には、これを日本の人民の意思によつて決定する。要するに戰争に加入するしないの自由を完全に日本国民自身の手に握つているということが、これが主権の最も重要な要素だと思うのであります。ところが安保條約によれば、この戦争に介入すること、あるいは戦争に介入することを避ける自由が日本国民の手に握られておらない。同盟を結んでおる外国軍隊の動きによつて決定されると私は考えるのであります。  この四点について—要するに将来の日米合同委員会、あるいは基地の中における治外法権、あるいは日本人の営業権の制限、あるいは信託統治の中におけるところの日本主権の喪失、それから戰争へ介入する、あるいは戦争を回避することの自由、こういう点がこの両條約によつては保障されておらない。こういう点で、言葉では完全な主権の回復とあるけれども、これはまつたく主権外国の手にゆだねる。昨日もこの点を心配されまして、労農党の黒田君が日韓併合協定の例を出して来まして、こういう保護国になるような危険があるのではないかということを、切々として憂えられたと思いますが、これらの点について政府はどう考えているか、草葉次官にお聞きしたいと思います。
  170. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 御質問の第一ないし第三点の問題は将来の問題でございます。この将来の問題は、日本平和條約の第一條の規定によりまして、安全な自主独立の国家になりまして、その立場に立つて米国と今後話合いをしてきめる事柄であります。御懸念のような結果にならないように必ずいたします。一條約局長でございますけれども、御心配いらないということを申し上げておきます。第四の御質問でございますが、安保條約にいたしましても、すべてこれ平和のための條約でございます。合衆国にしてもこれ国際連合加盟国でございます。林さんの言われる通り、そうそう戦争というものはやらないものであります。戰争がある、戰争をやるという前提に立つての御質問は、答弁の限りでありません。
  171. 林百郎

    ○林(百)委員 実際は国連軍という名のもとに、現実に朝鮮で行動しているのは、これはアメリカ軍隊であるということはもう明らかだと思うのです。この朝鮮で行動しておるアメリカ軍隊の動きいかんによつてこれに国連軍の名をかして、これにわが国が全面的に協力するということになれば、アメリカ軍隊の動き次第によつて広汎な戦争に日本が介入することがある。これは、これ以上私申しません。従つて戦争に入る、あるいは戦争を避けるという自由が、この日米安全保障條約によつてアメリカ軍隊のイニシアに握られる危険が非常にある。私はこの点を非常に心配しておるのでございます。この点はこれ以上申しません。  それからもう一つ第一條で問題になるのは、各連合国との間の戦争状態は終了したとあるけれども、この署名国以外の国との戦争状態はまだ継続しているというようにわれわれは解釈していいかどうか、その点を確かめて、私の一條に関する質問を終りたいと思います。
  172. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 この條約に署名しないところの連合国関係におきましては、第二十六條に従いまして二国間平和條約を締結することによつて平和関係は成立いたします。
  173. 林百郎

    ○林(百)委員 その二国間による平和條約の締結前は、やはり戰争状態が継続すると考えていいか。
  174. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 さようでございます。
  175. 田中萬逸

    田中委員長 これにて第一條に対する質疑は終了をいたしました。  次に第二章、第二條を議題に供します。小川原政信君。
  176. 小川原政信

    小川委員 質問をいたしたいと思います。まず私の問わんとする立脚点を明らかにしなければ、食い違いが起つてはいけませんから、申し述べたいと思います。今回の講和條約におきましては、連合国世界の平和ということをもとといたしまして、わが国に対して信頼と和解という面からこの條約を結ぶようにとのことであつたので、まことに私は感謝にたえないのであります。また吉田総理も老躯をひつさげて生命を賭して行かれたということは、まことに私どもといたしましては多といたす次第でございます。この條約は私ども反対をいたしません。この條約は批准になるようにということを考えまして、感謝すべきものは感謝し、国民として問わんとするものは問わなければいかぬということを考えておるのであります。また思うところを尋ねるということは、この條約に最も忠実であることと考えアメリカの信頼ということも、日本人はうやむやでない、問うべきところは問い、喜ぶべきところは喜ぶ、こういう国民こそは、真に世界のために信頼すべきものであると考えられることと思いますから、秋はいささかもう論議は盡きたと思いますけれども領土の問題につきまして、自分考え方を申し上げて、お尋ねしておきたいと思うのであります。     〔委員長退席、倉石委員長代理着席〕  まず第一に考えますことは、カイロ宣言であるとか、またはポツダム宣言であるとかいうようなことは、直接私どもには関係はありませんけれども、私どもは無條件に降伏をいたしたのでありますから、間接的にはわれわれはこの関係があるものと考えておるのであります。そこでこのカイロ宣言を見ますと、第一に連合各国は自国のため何らの利得をも欲求するものでない、また領土拡張の何らの念をも有するものでないと明記されてあります。そうしますと、今度の條約というものにおいては、連合国領土を拡張しようという念はいささかもなかつたんだ、こういうことを鉄則として考えられる要があると思いますが、御当局はどういうふうにお考えになつておりますかをお尋ねしたいのであります。
  177. 草葉隆圓

    草葉政府委員 お話の通り領土的な、何と申しますか、領土拡張というような意味考え方は、私どもも毛頭なしということで進んで参る。こういうわけであります。
  178. 小川原政信

    小川委員 次にお尋ねいたしたいことは—政府の所見は明らかになりました。そうしますると、この條約は一九四三年にできまして、そうしてその後一九四五年八月八日にソ連が宣言をいたしまして、この宣言に加入いたしたのでありますから、ソ連もまたこの領土の欲求はないものと考えますが、政府の御所見はいかがでありましようか。
  179. 草葉隆圓

    草葉政府委員 政府も同様に考えております。
  180. 小川原政信

    小川委員 そこで根本は、これが鉄則となりまして、連合国は戦後どういうことがあろうと、日本領土を縮めようとは考えておらなかつたということが明確になつて参つたのであります。しからば、私の問わんとするところのものは何であるかと申しますと、第二條の(a)項の朝鮮の独立、これはだれが考えましてもいたし方がない。日本がこれを放棄することは当然のことだろうと思います。(b)項におきましても、台湾と澎湖島、これもいたし方がない、これは常識的に考えられます。C項はあとにいたしまして、二條の(d) におきましても、またその通りであります。また二條の(e)におきましても、これまたやむを得ない。それから二條の(f)にいたしましても、これまたいたし方がない、こういうことになります。しかし三條と、それから二條のC項におきましては、非常にここに問題が残つて来るのであります。第一に問題になりますことは、南樺太付属の島、これはちよつと異論があろうと思いますから、これは別といたしましても、われわれが暴力と貧欲とによつてこの千島というものを得たのではない。日本の長い間の人類学上から見ましても、歴史の上から見ましても、地誌学の上から見ましても、これは当然日本のものであるということが明記されてあるのであります。と申しますのは、辞書を引きますと、クリル・アイランドというものは千島であると書いてあります。なるほど地形上から考えれば、そう見ることは当然かもしれませんが、これを歴史的にながめましたならば、私どもはそういうふうに考えぬのであります。第一に千島の三十二島というものは、あの島の名前は御承知の通りアイヌ語であります。当然われわれの先住民占領しておつたということが明らかである。またこれもソ連の方から見ますると、茂世路貝塚のようなものがまつたく出ておらぬのであります。すると、われわれの先住のアイヌ人が北へ北へと進んで、遂にカムチヤツカまで行つておるのであります。私どもも先年この島々を踏査いたしました。われわれは十分にこれは日本のものであるということを立証づけるだけのものを持つておるのであります。それにどうしてこの千島を手離さなければならぬかということが、北海道人とし、日本人といたしまして、非常にうやむやな感じがあるのでありますきのうもどなたかおつしやられた通り、わかるようであつてわからぬというのは、そういう点であろうと思うのであります。ちよつと読んでみるとわかるようだが、一々これをつかまえて考えてみますと、どうもわからなくなつて来る。こういうことであります。今度の條約にはクリル・アイランド、こうなつておるのであります。これは申し上げることが至当だと思いますので申し上げるのでありますが、私どもの知る範囲におきまして、いな世界の知る範囲におきまして、クリル・アイランドというものは得撫島から占守島に至る十八島であります。こうなりますと、この島が編入されたんだ、こう思うのでありますけれども、現実においてはそうでなく、千島全島が放棄されたということに相なつたのであります。まことに私ども遺憾を感じておるのでありますが、御当局はこれに対しましていかようなお感じを持つていらつしやるか。これはお感じでよろしいのであります。ひとつお話を願いたいと思います。
  181. 草葉隆圓

    草葉政府委員 お話のように、クリル・アイランドというものがどこからどこまでだという問題と、それからこれは決して日本が奪取あるいは搾取あるいは侵略によつてとつたというものでなく、当然従来からいろいろな條約関係において、何も論争なしに日本領土と認められたところであるという点が、御質問の御趣旨であると存じます。歴史上から考えまして、下田條約、あるいは千島・樺太交換條約等におきましても、十分両方とも了解の上に、はつきりと領土が決定いたしましたのが、お話の千島である次第であります。ただクリル・アイランドと申しますうちには、こまかくわけますと、北千島、中千島、南千島ということになつて、北千島と中千島がクリル・アイランドで、南千島は全然別であるという解釈は—昨日でありましたか、條約局長から申し上げましたように、現在は千島と申しますと、一帯を千島として総称されておると、一応解釈いたしておる次第であります。
  182. 小川原政信

    小川委員 よくわかりました。私どもは南千島とは申し上げません。これは択捉とかあるいは国後とか申し上げて、一帯に千島という言葉は使つておらぬのであります。一部にそういう人があつたとすれば、これまたやむを得ませんけれども、そういうわけになつておりますので、これを実証的に申しますれば、ただいま次官のおつしやられた通りに、明治八年の樺太との交換のときに、択捉、国後と南樺太とを交換いたしたのであります。これはクリル・アイランドとまつたく別ものであるという観念を持つているのであります。ただいまのお話でよく了承はいたしておりますが、そういう区別をしておくことがいい、こう考えるのであります。しかし、もう放棄してしまつたのだからいかぬということであるならやむを得ないけれども、何かの機会にこれをはつきりするということは、放棄はいたしましても、われわれ日本人としては考えておくべきだと思うのでありますが、政府はどういうふうにお考えになつておりますか、御意見を聞きたいのであります。
  183. 草葉隆圓

    草葉政府委員 お話にありまする国後あるいは択捉という島々は、従来から日本領でないということで、どこかの国との間に係争があつたという領土では全然ないのであります。古往今来と申し上げるほど昔から、疑点のなかつた点であります。安政年間におきます一八五四年の下田條約におきましても、全然これは問題にならなかつたところであります。従つて従来ともはつきりした日本領土であるということは、日本はもちろん、諸外国いずれの国もこれに対して異論はなかつたのであります。
  184. 小川原政信

    小川委員 そこで第三條をひとつ引用いたしたいと思うのであります。第三條は、琉球であるとか西南諸島であるとか、あるいは小笠原島というものは、信託統治にする、こういうことが書かれてあるのでありまして、この島も日本領土であるということがはつきりしておる、どこからも奪取をしたのではない歴史的には一部分考えなければならぬ点もあります。ありますけれども、そうくどくどしくは申しませんが、この島も信託統治にいたして行くのに、千島のみは信託統治にならないのだというのは、何かの理由があるのかどうか、ここに北海道の人間、日本の人間といたしまして、非常な感じを持つのでありますが、この点をお話を願いたいと思います。
  185. 草葉隆圓

    草葉政府委員 ただいま申し上げましたように、これらのいわゆる南千島というのは、全然従来から問題がなかつたのでありまするから、従つて一八五四年のいわゆる下田條約におきましても、何ら問題がない。その後樺太・千島の交換條約で、一八七五年に至りまして、はつきり千島が日本領ということをよく相談の上納得する、こういうことになりましたので、実はサンフランシスコ会議におきまして、吉田総理からもこの点ははつきり申しておる。千島は全然日本がいわゆる侵略的に領土としたものではない、従来からの領土であつたし、また話合いの上にその区域の不明な点をはつきりいたしたというのでございますから、千島という点につきましては、問題はそういう意味においては、お話のように、どこの国もはつきりしてくれる点だと存じます。しかしこの太平洋戦争の進行中、いろいろ連合国の中における話合い等があつた点にかんがみまして、これが今回の條約において、日本主権を放棄するという結論に相なつて参つた次第でございます。しかしさような情勢になりましても、これらの千島の歴史、千島が日本領であつたという点については、日本は何もそこには領土的にこれを侵略してとつたのでもなければ何でもない、十分世界国々が、日本領であるということを了承しているはずであるということは、こまかく吉田総理から訴えて演説をいたした次第であります。
  186. 小川原政信

    小川委員 次にお尋ねいたしたいことは、問題をかえまして—これは放棄をいたしてしまつたのでありますから、今の御答弁で了承いたしますが、この択捉なり国後の両島には、同胞が残留しておると思うておるのであります。これがもし離れてしまつたならば、いかような取扱いになるのでありましようか、この点をひとつお聞かせを願いたいと思います。
  187. 草葉隆圓

    草葉政府委員 お話の国後、択捉の島には現在、特別の場合は別でございますが、普通の場合においては、住んでおられた方々は引揚げて来ていらつしやると存じております。
  188. 小川原政信

    小川委員 ただいまもお話がございまして、それで一かどのわれわれの心配が、住民に対してはなくなつたのでありますが、次にお尋ね申し上げることは、この千島というものをさように連合国が認めており、また吉田総理も、ただいまのお話のように演説をなさいまして、その演説に対してグロムイコ全権からも演説がありましたが、そのときに、この島の問題を話されまして、自分はどうしても承服いたしかねる、こういう言葉で日本のものであるという主張をされておるのであります。まことに私はけつこうだ、こう考えるのであります。しかしこの問題につきましては、これだけにいたしまして、ただ委員長にお願いしておかなければならぬことは、将来これが— 今はこうして放棄されるでありましよう。またいたさなければならぬ状態なつたでありましよう。世界の人たちまたよく知つてくれるでありましよう。しかしながらこの島は日本武力によつて得たものでなく、日本が孜々常々としてこれを得たのである。今までの歴史的な状況から見まして、ソ連人がおつたのではない、またロシヤ人がおつたのではない、アレウト人もおつたのではない、ある時代にはアレウト人も生産的に連れて参つたのでありますけれども、彼らは自分が住むことができないというので、みな引揚げてしまつた。あとはみなアイヌによつて生活をしておりましたが、ロシヤ人はその後に参りまして、非常な苛斂誅求を加えたのであります。というのは何であるかというと、男一人に対して皮を何枚とる、こういうようなことになりまして、それがだんだんと徴税が安くなりまして、男一人に皮一枚というようなことになつていますけれども、だんだんと彼らは恐れをなして、そうして無人島になつてしまつたのであります。無人島になりましたが、あとから入つて来た人たちが見ると、日本の刀であるとか、日本の什器であるとか、日用品がある。それから占守島に移つて、そうしてこれがカムチヤツカと交易をしておつたという事実もあるのであります。それならばロシヤの工芸品があつたかと調べてみると、そういう工芸品は全然この三十二の島の中からは出て来ないのであります。そういう昔からまつたく自然に国土をなしておつたところのこの両島が、しかも方里で申しますと一千方里くらいである。そうして広い大した海域を持つております。その海域からわれわれ人口八千万人が一つも漁獲をすることもできなければ、あるいはそこに移住することもできないということになりますと、これは平和條約ではありますけれども、二面からながめると、日本の人口というものを圧迫してしまつた、こういうことに相なるのでありまして、これは非常な重大な問題であるといわれわれは考えるのでありますが、こういう点からいたしまして、今後長い年の間には—一年とか二年とかそういう気短かいことは申しません、長い時間の間におきましては、適当な機会はたくさんあろうと思う。そのときは政府におかれましてはひとつ一層の努力を払われ、われわれ国会議員もまた国民の代表者となりまして、これが復帰することには努力を惜しみませんけれども政府はことに情報機関を持つておられるので、その機微をよく知ることができるのでありますから、ひとつこれは記録に載せておいていただいて、そうして国民の満足の行くように、世界の平和を確立して行く上におきまして、特段のひとつ御心配を願いたいことを、ここにつけ加えて申し上げておくのであります。  そこで歯舞の問題であります。歯舞はもう問題が盡きておると思うております。ダレス顧問によりましても、これは日本領土である、こういうことでありますし、まだ先ほど申しました通り吉田全権も承服いたしかねるとあるのでありますけれども、これが現実から見ますると、そう行かぬのであります。ここに漁業をしておる者は、何かの関係からひつぱられて行くのであります。海の中に線をこさえて、この動揺するはげしい北の海に、これからこつちへ入つた者はつかまえるんだ、一体何のことでありましよう。人道から見て、一体こういうことはしなければならぬことでありましようか、私どもの常識から考えるならば、はなはだけしからぬと思います。この陸地にあつてさえも、ここからはといつて線を入れたならどうなる、馬が入つてくれば越える。海の動揺の中に線を画して、これから入つちやいかぬ、何のことでありましよう。世界が真に平和であるならば、人間の基本人権というものを尊重する上において、何がどつちに一里流れようが、こつちに三マイル流れようが、問題じやないと思うのです。それをつかまえて行かれてぎゆうぎゆう言わされる、こういうことは私ども世界の平和を欲求するところの人類のすることではない。私はかように信じておるものであります。どうかこういう点もひとつ考えを願いまして、この問題はすみやかに—日本領土である、クリル・アイランドではないということがわかつておるのでありますから、明日からでも、安心をして、まくらを高くして、住民が暮し向きのできるように、ひとつ特段の御配慮をお願いいたしたい、かように考えます。(「吉田反共政府だからできないのだ、民主的な政府ならちやんとできる」と呼ぶ者あり)それでは私は申し上げる。私はそういうことを言いたくないのでありますけれども、私どもがこの條約に判を押すということは何のためでありましよう。私どもはこれは一応記録に残しておいてもらいたいと思う。委員長、一応申し上げておきたいので時間を許していただきたい。それはこうであります。往年われわれはソ連と不可侵條約を結びました。この不可侵條約を結んだということは、いい、悪いということは別問題でありますけれども、私どもは不可侵條約は、信頼という一念からしてやつたのであります。そうしてソ連がドイツから襲われたときには、われわれはこれを助けたのであります。何で助けるかというと、信頼しなければならない、條約というものは空文でおるといえばそれまでだ、文字の問題だ、けれども日本人はそういう不信なことはしない、今度の條約においても信頼感というものはそこにあつたと思う。それなのに、日本が刀が折れてしまつて、どうぞ降伏をお願いするといつて、地獄に仏でソ連にお願いしたのです。われわれはソ連を決して敵としておりません。ソ連なら救つてくれると思つた。それに何でありましよう、そのときにやいばを取直した、われわれはやいばを捨ててしまつた、それに鉄砲をさしつけた。こういうことではわれわれはまくらを高くして夢を見ることはできない。人権蹂躙した。われわれはここに信念を持つておる。いかように宣伝しようと、この事実を何とする。しつかりこれは記録に残しておかなければならぬ、こういう状態である。われわれのかわいい子供がたくさん捕虜になつておる。それがいかような苦しみを受けておるか、ひとつも報告がないじやないか、国際公法はそんなことは許しておらぬ、まつたく国際公法を無視しておる。われわれは今もソ連と握手するにやぶさかでない、けれども事実が違う。日本はここに武器を持つておらぬ、兵隊がない、それは憲法が許さぬからわれわれは持ちませんが、そういうことがあつたとするならば、いつ何時どんなことをされるかもわからぬ。私ら北海道人は戦々競々としておる。こういう事実を見のがすことはできない。こういうことであるから……(「マツカーサー・ラインじやないか、マツカーサーがきめたのじやないか」と呼ぶ者あり)マツカーサー元帥がきめたと言うけれども、ラインの名前はそうであろうが、それは列国がきめたのであつてソ連なんか、ことにそれに参加いたしておる。もしマツカーサーがきめたならばソ連がほんとうに日本を信頼するならば、私の国はそんな線はいりませんとなぜ言わぬ。しかしアメリカは民主国家であつて、われわれに対する態度は民主的であるからわれわれは賛成した。ソ連は何と言おうとも非民主的であるからわれわれは反対する。口ばかりが民主的であつて、事実はまつたくそうでない。その証拠があつたならば林君言いたまえ。これだけを記録に残しておきます。この程度におきまして私の質問は終ります。
  189. 倉石忠雄

    ○倉石委員長代理 田嶋好文君。
  190. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 逐條の質問に入つておりますので、私はなるべく質問を簡潔にいたします。そして政府当局にただしてみたいと思います。  私の今日聞こうといたしますことは、二條の中で(a)と(b)が中心になつております。(a)によりますと、日本国は、朝鮮の独立承認して、朝鮮に対するすべての権利権限及び請求権を放棄する、こういうことになつておるのであります。しかしながらあまりにも公知でありますように、現在の朝鮮というものは非常に複雑でございます。南の方には南鮮政府—大韓民国が存在し、北は北鮮人民共和国政府があるようであります。してみますと、朝鮮と申しましても、一概にわれわれの概念上今まで唱えておりました朝鮮とは言えないのでございまして、この場合日本は朝鮮の独立承認する。それはいかような形においての承認になりましようか。この点を政府において明らかにいたしていただきたいのであります。     〔倉石委員長代理退席、委員長着席〕
  191. 草葉隆圓

    草葉政府委員 朝鮮というのは、お話のように南は大韓民国、しかも大韓民国は現在二十九の国が承認いたしております。北には北鮮人民共和国政府、これは九つの国が承認しておる、こういう状態でありますが、この「朝鮮の独立承認して」というこれはどちらの政府意味するかは言及されておりませんので、はつきりいたしかねる次第であります。
  192. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 そういたしますと、「日本国は、朝鮮の独立承認して」というこの規定は、ちようど(b)の台湾の帰属がはつきりいたしておりませんと同様に、今後この條約が発効いたした後もこの條項はその問題が片づかない映り効力を発生しない、こういうことになるでしようか。
  193. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 この第二條の規定は、連合国間に意見の一致を見ない数個の問題を含んでおる事項を決定しておる問題であります。日本領土の処分を規定しておる條項であります。従つて條文はきわめて巧妙にできておりまして、とにかく日本との関係において、ある地域に対する日本主権を放棄する、ないしはある地域独立承認する、こういう形式になつておるわけであります。現在朝鮮には二個の政府がございます。一個は二十九箇国、他は大分少いですが、数個の国によつて正統政府として承認されております。この事態連合国間に争いがある一つの問題であります。従つて條約は、どちらの政府を正統政府とするかという、きわめて機微な、連合国間に解決ができない問題を、回避する意味において、日本は朝鮮の独立承認する、こういう規定になつているわけであります。従つてこの二つの政府のいずれを正統政府とするやは、日本国が自主独立国として決定すればいい問題であります。むろん日本としては、国際連合総会その他当該機関によりまして、正統政府として承認され、二十九の諸国によつて承認されております大韓民国政府を、正統政府として行くという方針をとるべきものであることは、疑いないところであります。
  194. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 それでほぼ政府の意向の趣旨はわかりましたが、そうなりますと、現在日本で一番問題になつておりますところの朝鮮の人々の国籍の問題、これが起つて参るのであります。もしそれ政府の意向のごとく大韓民国政府をわれわれが承認いたしたといたしますと、現在北鮮人民共和国の人として政府に登録されておりますこれらの人々、これはどういう国籍を持つことになりましようか。
  195. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日本におきます朝鮮人の国籍には何ら規定がない点でございます。この点につきましては、この條約草案に対して意見を求められました際に、日本政府としては、第二條(a)の規定によつて朝鮮の独立承認する。すなわちかつて存在した独立国であつた朝鮮が、独立を回復した事実を承認するという趣旨である。従つて日本における朝鮮人は、いわゆるその父祖ないし自分が合併当時に持つておりました朝鮮人国籍を、当然回復するものであるという考えで、この規定を了承しますという趣旨の條章であります。
  196. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 もう一つお尋ねいたさなくちやならぬことになりましたが、そうしますと、われわれが承認しないところの北鮮人民共和国に属する朝鮮人と唱える人、これは結局はあなたのお答えによりましても、やはり朝鮮人としての国籍を回復しないということになるようでございますが、念のためにもう一度……。
  197. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私どもとしましては、大韓民国が朝鮮の正統政府であると考えておりますので、第二條(a)の結果、在日朝鮮人諸君は、当然大韓民国政府によつて代表されておる韓国の国籍を取得、回復するものと考えておる次第であります。もしかりに在日朝鮮人諸君の一部に、大韓民国政府を正統政府として認めないという立場をとる人があるとするならば、それはいわゆる朝鮮内部における国内問題でありまして、それがためにむろん日本政府としてはきわめて重大な迷惑はこうむります。しかし法的に言いまして、純粋に朝鮮の問題としてわれわれは考えればよろしかろうと思つております。
  198. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 その点一応法務総裁にもお確かめいたしたいと思います。今の條約局長説明で一応了承いたしの登録をいたしておられる方はございましたが、他は一般に朝鮮人として登録をいたして、北鮮共和国という趣旨の登録は行われておらなかつたわけでございます。この点は現在も同様であろうと思つております。従いまして法務府といたしましても、ただいま外務省からお述べになりましたような見解に対しまして、まつたく同意見を持つておるわけであります。
  199. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 続いて法務総裁にやはりお尋ねいたしますが、今條約局長からお答えになりましたこと、法務総裁からお答えになりましたこと、言葉の上では、至つて単純でございますが、実際上の取扱いといたしましては、北鮮と南鮮が現在の状況にある限り、この朝鮮人の、取扱いには相当複雑な問題が残る。従いまして私たちはこの取扱いに対して、具体的な方法を何か考慮する必要があるのじやないか、こういうように考えるのでありますが、これらの條約発効後の取扱いに対しましては何か御研究の段階にありましようか、また具体的な方法が立つておりましようか。なお私の考えといたしましては、この間われわれ日本国民に人民登録の方法をとりましたが、ああいうような方法を朝鮮人自体に対しましても朝鮮人人民登録法というようなものを施行して、やはりここにはつきりした線を確保しなければ、今後治安上の問題、また租税の問題、すべてに対しまして、たいへんな問題が起るのじやないかと憂慮いたしておる次第であります。その点を明らかにしておきたいと思います。
  200. 大橋武夫

    大橋国務大臣 法務府といたしましては、現在ポツダム政令で出ておりまする外国人登録令によりまして、朝鮮人諸君の登録が行われておりますが、これはもとより所管官庁でありまする外務省の意見によるところでありますが、われわれの希望といたしましては、引続きこれが法律として講和後においても存続をせられ、朝鮮人諸君の登録がこれによつて行われるということを希望いたしております。
  201. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 よくわかりました。いま一つ、これは重大な問題でありますが、朝鮮人の現に居住しておられる方で、まじめにわれわれの国の法律を守り、まじめに自己の生活にいそしんでおるこれらの人々に対しては、まことに申訳ない言葉になるかもしれませんが、実際上今われわれ日本人考えといたしましては、そうしたまじめな人よりも、朝鮮人としてふまじめな人というものが非常に頭の中から消し去ることができないのであります。兇悪犯罪といえば必ず朝鮮人が加担しておるといわれ、また知能犯があるといえば必ず首謀者は朝鮮人であると言われる。(発言する者あり)またここでだれかのお言葉があつたようですが、共産党が騒ぐといえば、この中にも必ず朝鮮人が入つておる。こういうような現状を見ますと、私たちはますます今のお言葉によりまして想像ができるように、講和後複雑化されるであろう朝鮮人の問題、これに対しましては相当厳格な法律制定の必要があるのじやないか。幸いにいたしまして、出入国管理令というようなものが今回制定されたわけでありまして、これによつて不逞の朝鮮人は本国に送還されることと思いますが、こうした法律講和條約効力発生後制定するような御意思がありましようか。出入国管理令というようなものは講和條約効力発生と同時に消滅さしてしまうというようなお考えのもとにお進みになりましようか。治安の問題に関連いたしまして、お答えを願いたいと思います。
  202. 大橋武夫

    大橋国務大臣 ただいま田嶋委員からお述べになりましたごとく、不幸にいたしまして、今日日本に在住しておられまするところの朝鮮人諸君の間におきまする犯罪の発生率というものは、固有の日本人から見ますと、十倍以上に上るというのが実情でございます。この原因が奈辺にあるかは別といたしまして、わが国の治安という面から見ますと、これは非常に重大な問題である、かように考えるわけであります。今日出入国管理令によりまして、外国の国籍を持つておられる方で、国内におきまして治安上に有害な行為のありました場合においては、わが国の治安確保という建前から、これに対しまして、強制退去を命ずる、いわゆる強制送還の方法をとることに相なつておるのであります。ただ現在の管理令におきましては、昭和二十年九月二日以前よりわが国に在住しておられまする朝鮮人諸君については、この條項は適用しないということに相なつておるのでございます。しかし今後におきまして、朝鮮人諸君の間におきまする犯罪の発生率その他が改善を見ませんような場合におきましては、当然国内治安の建前から、これが処置については相当な研究をしなければならない、こういうふうに見ております。
  203. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 (a)項はそれで終えます。  次に(b)項に移りますが、(b)項におきまして問題になりますのは、台湾、澎湖島の問題であります。これも現在は一応中国国民政府が存在いたしておりました当時、戦争が終了いたしましたために、問題はあまりなくて済んでおりますが、台湾澎湖島問題が今後問題になりますのは、中国におきまして国民政府と中共政府の両政府が存在いたしております今日、やはり台湾の帰属ということは條約発効後問題にならなければならぬと思うのであります。この場合やはり台湾人の帰属の問題、台湾人の国籍の問題が朝鮮人の場合と同様に問題になつて参ると思うのでありますが、條約発効後台湾人の国籍の問題はいかようになるものでありましようか。條約局長にお願いいたします。
  204. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 台湾、澎湖島に関しまする中国との関係は、條約第二十六條に従いまして、中国と日本との間に二国間平和條約ができたあかつきに解決されるものと思います。
  205. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 平和條約ができた場合に解決されるのでありますが、私の聞こうとするところは、私の質問が悪かつたかもしれませんが、効力発生後、平和條約締結前、この空間期間の台湾人の国籍問題を聞きたい。
  206. 大橋武夫

    大橋国務大臣 台湾に関しましては、條約第二條の(b)項は、日本が台湾に対する一切の権利を放棄する旨を規定いたしておるのでありますが、その趣旨は、朝鮮の場合と同様に、台湾を日本領土から分離し、日本との関係におきましては、台湾を日本領有前の状態に復せしめるということになると考えられるのであります。従いまして、朝鮮人の場合と同様に、台湾人は日本国内に在住いたしまする者すべて條約の効力発生と同時に日本国籍を失うものと解するわけであります。日本国籍を失いました台湾人の国籍の帰属がどうなるかにつきましては、日本国の關與すべき限りではないのでありますが、わが国国内法を適用する上におきましては、原則的に中国の国籍を有するものと考えてさしつかえないものと考えております。
  207. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 そこをお開きしたいのでありまして、中国の国籍を有する者、今の法務総裁のお答えで、私は正当なお答えだと思うのでありますが、その中国の国籍を持つておる国民としてわれわれが扱う場合、これが一体日本法律適用の場合にどういうようになりますか。中国といつても、今簡単に行かないことになつておりますので、そこのところをもう少し明確に願いたいのであります。
  208. 大橋武夫

    大橋国務大臣 現実の取扱いといたしまして、今日台湾人諸君につきましては、日本に参つておりますととろの中国代表におきまして国籍証明を出しておるというような実情でございますから、先ほど申し上げましたように考えておるわけであります。
  209. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 そういたしますると、結局現在中国代表部の取扱いを受けておるこの段階が実際上はずつと続いて行く、こう考えてよろしゆうございますか。
  210. 大橋武夫

    大橋国務大臣 中国代表部というものが講和條約締結後においてどういうことになりますか、これはなお研究を要すると思いますが、国内法の適用におきましては、実際上中国人として取扱つてさしつかえなかろう、こういうふうに考えているわけであります。
  211. 田嶋好文

    ○田嶋(好)委員 そこのところはあまり明確になりませんが、もう時間がないようでありますから、また他日に譲りまして、これで私の質問を終ります。
  212. 林百郎

    ○林(百)委員 私も第二條の朝鮮の諸君の国籍問題についてお尋ねしたいと思いますが、大橋法務総裁でけつこうであります。日本にいる朝鮮の諸君の国籍を大韓民国政府の国籍にするということをしいる権限は私はないと思うのであります。これは在日朝鮮人の諸君がどういう国籍を持とうが、これはやはり朝鮮の諸君の自由にまかされるべきものだと私は考えますが、この点について大橋法務総裁の回答を聞きたいと思います。
  213. 大橋武夫

    大橋国務大臣 朝鮮人諸君の国籍につきましては、講和條約発効と同時に、日本政府といたしましてはこれを朝鮮人である、こういうふうに観念いたすにとどまるわけでありまして、その朝鮮人が大韓民国の国籍を持つもので占めるか、あるいはまた北朝鮮の国籍を持つものであるか、この点につきましては、日本政府において強制するとかなんとかいう問題を生ずる余地はないと思つております。
  214. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、ここで朝鮮の諸君がどういう国籍を持とうと、それは朝鮮の諸君自身が問題だという大橋法務総裁答弁でありますが、先ほどの西村條約局長の話によりますと、もし大韓民国の国籍を持たないと、非常に迷惑だというようなことを言われておるのでありますが、それは一体内容的にいつて、どういうことなのかお聞きしたい。
  215. 大橋武夫

    大橋国務大臣 日本政府といたしましては、国籍の問題の上から申しますると、これを一つ外国人として考えるわけです。その外国人がいかなる国の国籍を持つておるかということは、その人とその本国との関係によつてきまる問題でございまして、先ほど條約局長お答えのうちにもありましたるごとく、それは朝鮮人諸君とその本国との関係における国内問題である、こういうふうに答えられたのはこの趣旨であります。この間の答弁に食い違いはないと考えております。
  216. 林百郎

    ○林(百)委員 それから第二條の(a)でありますが、「日本国は、朝鮮の独立承認して、」とあるわけでありますから、領土としての朝鮮の独立を認めるということであつて、そこのどういう政権と日本がどういう関係を結ぶかということまでは、ここではきまつておらないのであつて、ここではとにかく朝鮮の独立承認するということだけが、第二條の(a)項によつて決定されていると思うのでありますが、その点はどうですか。
  217. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その通り答弁いたしました。
  218. 林百郎

    ○林(百)委員 それから、先ほどのどなたかのお話の中に、日本にいる朝鮮の諸君が非常に日本にとつてむしろ好ましくない傾向のある人たちだというように聞かれたのでありますが、これは大橋法務総裁にお聞きしたいのでありますが、在日朝鮮人の諸君が日本に来た多くの原因は、大東亜戦争中日本に労働力が不足した場合に、強制的に徴用されて来た人も非常に多い。そこで飛行基地をつくるとか、あるいはその他軍需工場に働くとか、こうして日本の青年あるいはそのほかの男子の労働力が軍人として動員されたあとのいろいろの労務に充足するという意味で、朝鮮の諸君が日本へ連れて来られて、終戦後この労務に従つておつた朝鮮人の諸君が十分な保護、あるいは帰国するだけの生活の保障、旅費の保障というようなものがなくして突き放され、その後日本の激しい生活の混乱の中で、朝鮮人であるという差別待遇のもとに、生活のいろいろの道がとざされておる。こういうことのために、たとえば犯罪なども起きておるというようにわれわれは考えるのでありまして、やはり朝鮮の諸君に犯罪の多いという根本的な原因は、朝鮮の諸君が非常に生活の道がとざされておるというところに原因があると思うのでありますが、犯罪率が非常に高いということの原因について、どういうところに原因があるかということを調査されたことがあるか、お聞きしたいと思います。
  219. 大橋武夫

    大橋国務大臣 犯罪の原因について、これはいずれも処罰に際しましてはその原因を調査したる上で処罰をいたしておりますからわかつておるわけでありますが、最近におきましては特に共産党の諸君と関係のある犯罪が非常に目立つております。
  220. 林百郎

    ○林(百)委員 その次に朝鮮の諸君の強制送還の問題について、今朝鮮の諸君が真剣にこの問題を考えておるのでありますが、このたびポ政令で出ました出入国管理令によりますと、生活に困窮する者も強制送還するというようなこともありまして、そのほか好ましくない政党に関係する者、あなた方に対しては好ましくないかもしれませんが、暗に共産党をさすようなことも暗示しておるようでありますが、こういう者も強制送還するというようなこともありまして、結局在日朝鮮人四十六万八千のうち日本で生活ができるとこちら側で十分保証できる者はわずか百名を越さない。どうやら生活のできるという者は五万人、そのほかの者はこれを強制送還するのではないかというような出入国管理局の情報によつて、朝鮮の諸君は非常に不安を感じておるのであります。御存じのように今朝鮮では非常な大動乱が起きておるのでありまして、ここで、かつて日本の国の方針が誤つた方向に行き、大東亜戦争というような方向に行つたとはいえ、とにかく日本の方針に忠実に、縁の下の力持ちのような仕事をして来たこの朝鮮人の諸君を、今この動乱のさ中にある朝鮮に一方的に送るということは、人道上の問題であるし、また本條約の前文にある世界人権宣言からいいましても、人種あるいは皮膚の差別等によつて人権は左右されないのだという、この原則にも反して来ると思うのでありますが、この強制送還の問題について、大橋法務総裁はどういう見解を持つておるか、この点をお尋ねしておきたいと思うのであります。
  221. 大橋武夫

    大橋国務大臣 朝鮮人諸君につきましては、昭和二十年終戦直後におきまして、希望によつては本国に送還されるという措置がとられたわけであります。にもかかわらず、多数の朝鮮人諸君が、この朝鮮に帰り得る機会をみずからとらずしてこの日本に残られたということは、これはこの日本の再建ということに協力し、日本の復興ということを、通じてみずからの将来の幸福をつくり上げて行こう、こういう日本の再建に対する熱意がかような選択をなされた動機となつておると私は確信をいたしておるわけであります。にもかかわりませず、一部の人々の誤つたる指導のもとに、これらの方々のうちの何がしかの方々が日本の治安を破壊するその再建を傷つける、また日本の民主主義に対する破壊活動を行う、こういうようなことになつておるということは、きわめて遺憾な次第でございます。われわれは日本憲法を守り、日本の民主主義というものをどこまでも守るためには、それ相当の措置を講じて行くということは、当然必要なことであると思います。そこで今日政府といたしましては、本来の面目、本来の考えに立ちもどつて、そうして日本の復興を通じて真にみずからの運命を開いて行かれようという協力的な方々は、これはどこまでもこの国にとどまつて日本の繁栄のために協力していただくと同時に、御自身の幸福をも守つていただく、これはもとよりけつこうなことであると思います。しかしながら特に日本の発展に対しまして、破壊的な動きをするという場合におきましては、これに対して日本国内の秩序を守り、日本の復興を保護する上からある程度の措置を考えなければならぬのではないか、こういうふうに思つておるわけであります。
  222. 林百郎

    ○林(百)委員 そこで今言つた、大橋法務総裁考えておる、政府が協力する考えておる人たち、あるいは好ましくないと考える人たちの区別というのは、国籍で、要するに大韓民国の国籍をとるとか、北鮮人民共和国の国籍をとるというような、こういう形式的なことで区別し、間接的に国籍を強制するような方法をとられるのかどうか、この点が第一点、それから現在好ましくない人たち政府が認定して送還を考えておるような人たちが、具体的にどのくらいあると推定しているのか。先ほど言いました通り、出入国管理庁の情報あるいは報告によりますと、大体生活がどうやらできて、日本にいられると思う人は、五万人前後しかないというようなことも聞いておるのでありますが、この辺の推定をどの程度のところに置いておるか、この点がもしわかつておつたら御説明願いたいと思います。
  223. 大橋武夫

    大橋国務大臣 先ほど申し述べましたるごとく、かりに将来朝鮮人諸君に対しまして、本国にお帰り願うというような措置を講ずる場合におきまして、その帰るべき人の判定の基準を、国籍が南にあるか北にあるかというような、形式的な点に求めようというような考えは全然ございません。これはその人の活動の実態を見まして、真に日本の復興のために有害なりと考えられる人に対しまして、具体的な行為に基きまして、これを認定するという考え方なのであります。その数がどのくらいになるかという御質問でございましたが、私はかような措置が具体的に決定しまするならば、大多数の朝鮮人諸君は今本国に帰るおつもりは全然ないのであつて、やはり日本にとどまつて日本の復興に協力したいという気持の方が大多数でありまするから、さような措置がとられると、それによつて反省をせられ、必ずやみな協力するという立場をとられて、おそらく現実には一人もお帰りになる方がないであろう、そういうことを希望しておるわけであります。
  224. 林百郎

    ○林(百)委員 その問題はそれでけつこうだと思います。それから第二條の(b)と(c)の問題です。各委員からもこの点については質疑があつたのでありますが、問題は、わが国の請求権を放棄するということであつて、帰属が明記されておらないところにいろいろの紛争が起つて来ると思いますし、またインドの代表などもこの点について言及しておると思うのでありますが、一体これはどうして請求権を放棄するということだけであつて、帰属が明記されなかつたか、この辺のいきさつがあるならひとつ説明願いたいと思うのであります。     〔「答弁済み」「重複」と呼び、その他発言する者あり〕
  225. 田中萬逸

    田中委員長 御答弁がございません。
  226. 林百郎

    ○林(百)委員 その点すでに答弁が済んだそうですが、私遺憾ながらその点を聞いておらなかつたのです。そうすると、私たち考えとしては、それは日本人として好ましい、あるいは好ましくないという問題は別として、国際的な諸協定についてはわれわれは関心を持たなければならないと思うのでありますが、局長も御存じの通りに、カイロ宣言によると、台湾、澎湖島が中国に帰属するということがはつきり規定してありますし、それからヤルタの協定によりますると、樺太、千島はソビエト連邦に引渡されるということがはつきり書いてあるのであります。これは国際協定として効力が今もつて現存しておるというようにわれわれは解釈しておるのであります。この点について局長はどう考えておるか、見解をただしたいと思います。
  227. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 たびたび申し上げますように、その問題は純粋な連合国間の問題でございます。
  228. 林百郎

    ○林(百)委員 連合国間の問題ではなくしで、ヤルタ協定あるいはカイロ宣言というものは、国際的な協定として効力があるのかないのか、こういう点を、あなたは日本の條約局長でありますから、あなたの見解を聞いているわけです。
  229. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日本の條約局長として、答弁の限りではありません。
  230. 林百郎

    ○林(百)委員 どうして答弁の限りでないのか、国際協定についての解釈なんです。もしこれが効力を生じていないならいないという根拠、あるいは効力があるならあるという、それをあなたに聞いているのですから、答弁ができないということはないと思います。もう一度答弁を促します。答えられないなら答えられないと、ひとつ速記に残しておいてもらいたい。この点については答られないということでいいですか。そうでないと、かつて解釈をされるわけです。国際的な協定として効力があるなら、対日本との関係は別として、国際的にはどういうように考慮しなければならないかということが発生して来るわけです。この点をお聞きしたい。條約局長なんだから、国際協定として効力があるかないかということは、答弁ができると思う。
  231. 田中萬逸

    田中委員長 林君、発言したら着席しなさい。どこで発言していいかわかりません。
  232. 林百郎

    ○林(百)委員 どうぞ答弁してください。
  233. 田中萬逸

    田中委員長 答弁はありません。もうすでにたびたび答弁したと言われております。
  234. 林百郎

    ○林(百)委員 たびたび答弁していない。もう一度私はここで簡明でいいから聞きたい。効力があるのかないのかということだけでいい。答弁の限りでないというなら、どうして答弁の限りでないか、その理由を聞きたい。
  235. 田中萬逸

    田中委員長 答弁はありません。
  236. 林百郎

    ○林(百)委員 どうして答弁がないのです。答弁があつたということなら、いつどこの速記を読めと言えば、私はそれを読みます。
  237. 田中萬逸

    田中委員長 黒田寿男君。
  238. 黒田寿男

    ○黒田委員 私は時間があまりありませんので、なるべく質問を簡潔にしたいと思いますが、領土問題について質問をいたします。その前提としまして、ひとつ根本的な問題について政府の御意見を伺つておきたいと思います。これは條約局長からお答えを願いたいと思います。ポツダム宣言国際法上の性質について、どうもはつきりしないところがありますので、お尋ねしたいと思うのですが、私は、このポツダム宣言を、これに参加した連合国の共同の合意に基く意思表示というふうに解しておるのであります。それはいわゆる合同行為であつて、これに参加した関係各国相互の間に拘束力を持つものである、こういうふうに理解したいと思うのであります。これについて政府はどういうようにお考えになつておいででありましようか。
  239. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 大体同様に考えております。
  240. 黒田寿男

    ○黒田委員 それでポツダム宣言に参加しております国の横の関係は、わかつたと思います。そこで今度は、それらのポツダム宣言に参加しております国々わが国との縦の関係についての御意見を承りたいと思いますが、私の見るところでは、このポツダム宣言に明示せられております政策は、連合国側の單なる一方的な政策、言いかえれば、連合国の任意な意思をもつて変更し得られるようなものではない。そうではなくて、わが国に対する関係におきましては、連合国もこのポツダム宣言に表示してある政策については、その通りにこれを守る義務がある、こういう性質のものではないかと私は思う。これを言いかえますと、この縦の関係は、單なる勝者、敗者の力の上での事実的な関係にすぎぬものではないのでありまして、むしろ連合国日本国との間に法的関係を設定したものである、こういうように私は考えたいと思う。これを換言しますならば、ポツダム宣言に書いてありますことを守ることは、連合国の單なる信義の問題ではなくて、国際法上の義務である、義務として、連合国ポツダム宣言に書いてあることを守つてくれなければならぬ、そういう性質のものである、こういうふうに考えたいと思う。この点について、政府のお考えを承りたい。
  241. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 ポツダム宣言は、前文にありますように、連合国日本に対して戦争を終結する機会を與えるために、その條件を提示したものでございます。これは前文に明白にうたつてあります。それを日本は受諾いたしたものであります。従つて、申込み、受諾、そういう一点の意思の合致があつたということは否定できないと思います。これを、しからば国際法上にいう国家間の正式の意思の合致、いわゆる正式の條約ということが言えるかどうかということについては、多分に疑念があります。連合国の公式の文書によりますと、当初におきましては、日本における連合国占領管理は、コントラクチユアル・ベーシス、契約の基礎に立つものではないということが明白にうたわれております。しかし必ずしもそれは連合国全体の考えでもないでございましよう。ですからわれわれとしては、大体正式の條約ではないけれども條件を提示され、それを受けたという点において、連合国日本との間に意思の合致があつたものである、こういうように考えております。
  242. 黒田寿男

    ○黒田委員 そうすると、やはり一種の法的拘束力を持つものと解釈してよろしいのではありますまいか。私はそう解釈すべきものだと思うのであります。そうでないと、せつかくこれを受諾させておきながら、わが国の方はもとよりこれを守らなければならぬ義務があるのでありますが、これを受諾させた連合国の方で、受諾さしたあと、かつてにこれを変更することができるというようなものであつては、ポツダム宣言の権威はないのであります。だからやはり連合国といたしましても、日本にこれを受諾させた以上、連合国も受諾さした條項通りにこれを守る義務がある。日本から言いますれば、そのようにやつてくれということを連合国に対して要求する権利があるのではなかろうか。私はこのようにしつかりした約束だと思うのでありますが、どうでしよう。
  243. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 その点につきましては、連合国間の当局の間にも、きわめて議論がある点であります。コーデル・ハル長官の随想録をごらんになりますと、それを通して、日本條件つきに無條件の関門を通つたのであると説明をいたしております。
  244. 黒田寿男

    ○黒田委員 大体それ以上のお答えも得られないと思いますので、次に問題を進めてみたいと思います。そこで領土問題についてお伺いしたいと思うのでありますが、ポツダム宣言の第八條には、領土処分に関する事項がはつきりと示されております。そこでこのポツダム宣言第八條に示されておる領土処分に関する事項は、講和会議の際における領土條項の決定の基準となるものと考えるのでありますが、この点はいかがでありましようか。
  245. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 この点はたびたび総理の議会演説においても申されておる通りでございます。
  246. 黒田寿男

    ○黒田委員 そうしますと、ポツダム宣言第八條の、わが国領土処分の問題のうち、今私が問題にしたいと思います点は、わが国領土として残されるもろもろの小島の範囲の決定は、われらがこれをなすと、こういうことになつておる点であります。そこで質問をしてみたいと思いますことは、第一は、これはわかりきつたことのように思われておりますけれども、念のために質問いたします。琉球、小笠原、これらの諸島、それから千島諸島等の処分は、ここにいう諸小島の範囲の決定の問題になる、こう考えてさしつかえないのでありますか、いかがでしよう。
  247. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 そう考えております。
  248. 黒田寿男

    ○黒田委員 けつこうです。そうしますと、その次の問題は、これらの島々の処分の決定は、領土処分の性質上講和会議においてでなければならぬ。すなわちそれ以外の会議の場所におきまして決定せられるものではない、こういうように解してよろしいと思いますが、これも念のためにお尋ねしておきます。
  249. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 必ずしも講和会議形式をとらなくてもよろしいと思います。平和條約でけつこうであります。
  250. 黒田寿男

    ○黒田委員 私が今申し上げましたのはそういう意味でございますから、それでけつこうでございます。  そこで第三にお尋ねしたいと思いますことは、そういたしますと、これら島々の処分は、その平和会議ないし講和会議においてわれらによつて決定さるべきもの、このことはあくまで遵守せらるべきものであると考えますが、どうでありますか。
  251. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 さように考えております。
  252. 黒田寿男

    ○黒田委員 そこで「われら」とは何ぞやという問題が起る。これは非常に大切な問題でありますから、よく自由党の諸君も聞いておいていただきたい。これは非常に大切な問題です。ポツダム宣言は、一九四五年の七月に合衆国、中国及びイギリス政府の首班が、ポツダムにおいて発したものでありますから、この「われら」の中にイギリスとアメリカと中国、この三つの国が入るということは、疑いのないことと考えます。  次にこの宣言にはその後、そうしてまたわが国降伏文書でこれを受諾いたしました以前に、ソ連が参加したのでありますから、そこでソ連もまた「われら」の中に入る。このように解釈しなければなりません。そこでこの「われら」の中には、この四つの国は当然含まれるということになつて参りますから、日本領土処分のうち、われわれの重大関心を持つておりますこれらの諸小島の範囲の決定は、その平和会議において「われら」、すなわち米国、イギリス、ソ連及び中国、この四つの国の加わつた会議で決定せられる、こういう約束が日本に対してなされておる、こういうふうに解すべきで、あると考えますが、どうですか。
  253. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 でございますから、平和條約第二十六條によつて、入る戸口は開いてあります。
  254. 黒田寿男

    ○黒田委員 この四つの国が参加しなければ、この問題について決定できないということになつて来ますと、私はサンフランシスコ会議について少し考えてみなければならぬ問題が起ると思う。それはサンフランシスコ会議にはこれらの四つの国が招集せられておるか、問題はここです。招集されても来ないのであれば、これは私は来ない方の責任だと思う。けれども中国に対しましては、初めからこれを招集していないのです。そうすれば四つの国が参加しないということについて、来ない方に責任があるのではなくて、呼ばない方に責任がある、こうなると私は思う。そうするとはたしてあのサンフランシスコ会議において、これらの諸小島の処分を決定する合法的基礎があるかどうかということにつきまして、私は疑いをさしはさむ余地があるように思う。この点いかがですか。
  255. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 疑いをさしはさむ余地は全然ないと思います。そういう国があればこそ、二十六條になつてつて来る道を開いており、その国が入らない限りは、第二十五條によつて、この條約によつて與えられた決定によつて何らそういう国は拘束されないとなつておるわけであります。法律的にきわめて明確でございます。
  256. 黒田寿男

    ○黒田委員 しからば中国が参加するに至らなければ、それまではこれらの諸小島の範囲の決定はできない、こう解釈してよろしゆうございましようか
  257. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 中国が入らない限りは、この平和條約において與えられた決定は、中国を拘束しないという結果になるわけであります。
  258. 黒田寿男

    ○黒田委員 中国を拘束しないというだけでなくて、中国が加わらなければならぬその会議で決定すべき性質の問題は、単に中国を拘束しないというだけでなくて、その会議の決定それ自身に瑕疵がある、こう私ども解釈しなければならぬと考えます。これは、たとえば、どんな組合の会議の場合でも、賛成しそうな者だけは呼んで、賛成しそうもない者は呼ばない、しかもその呼ばれない者には参加する権利がある。こういう場合に、賛成しそうな組合員だけを呼んで会議を開いて、それでこれがこの組合の決意であるということを発表した場合に、単に出席しなかつた組合員の立場を拘束しないというだけでなく、そういう会議は認めないとその組合員に言われたときに、私はその異議は正当であると思う。これは株主総会についてでも、協同組合の総会についてでも、労働組合の総会についてでもいえると思う。私はサンフランシスコ会議における領土の問題、ことにこの「われら」という四つの国の参加によつて諸小島が決定せられるというこの問題には、瑕疵があるように思う。私はそこまで深く考えなければ、単に中国側について拘束力を生じないというような問題ではないと思う。根本的にその決定の成立に疑いがある、こう見なければならぬのじやないか。これが物事の真正面からの、すなおな、しかも論理と常識に合つた解釈ではないかと私は思う。この疑問について政府にお尋ねしてみたい。
  259. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 中国について二つの政府がありまして、会議に集まる国の間に、二つの政府承認しておる国がほぼ同数ある場合には、現在の第二十六條以外の方式考えられない次第でございます。私は法律的に見て、第二十六條の形式はきわめて巧妙かつ完全なものと考えます。
  260. 黒田寿男

    ○黒田委員 ここまで参りますと議論になります。だから議論はここで繰返しても仕方がありませんが、私は今申しましたような疑いを持つております。  きようは時間がありませんので、もう一つだけこの問題に関連してお伺いしておきたいと思います。ただいま申しましたように、わが国としては「われら」に参加してもらう。「われら」が参加しなければ領土の処分のうちのこれらの諸小島の処分はできない。領土の処分は講和会議における重要事項一つである。そこで私ども日本人立場として「われら」が参加するような会議にしてもらいたいと思う。これは単なる願望ではありません。吉田さんは願望だといわれる。社会党の淺沼君は悲願だといわれる。悲願というのは仏様や神様に、願つてみてもかなえてもらえるかどうかわからないようなことをあえてお願いするときに使う言葉である。私は全面講和というものは念願とか悲願とかいうようなたよりないものではないと思う。このポツダム宣言の基礎によつて四つの国が来なければならぬ。来なければ講和会議にならぬ。少くとも領土の処分を決定する講和会議にならぬのでありますから、こういう約束のできておる以上、日本として権利をもつて全面講和を要求すべきである。これらの四つの国の参加するものを、大体私どもは全面講和と申しておるのであります。そこで私ども日本人は、ポツダム宣言による権利として、全面講和を要求し得るのだ、こう私は考えておる。吉田さんのように単なる念願とは考えません。淺沼君のように悲願とは考えません。私ども日本人は、権利をもつて全面講和を主張し得られる地位にあると思う。私はこの條項に関連して—ほかにも関連事項がありますが、時間がありませんからほかの問題には触れません。この領土條項の問題に関連いたしまして、私はそう主張することができると考えますが、政府はどうお考えになりますか。時間がないから簡単にお答え願いたい。
  261. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私は黒田委員政府に向つてただいまおつしやつた御意見を、ソ連に向つておつしやるようにお願いいたします。
  262. 黒田寿男

    ○黒田委員 その答弁は私は無責任だと思う。もつとほかのお答えがあるべきだと思います。ソ連に対してどう言おうと私どものかつてであります。私が今聞いておるのは、ソ連に対して聞いておるのではなく、政府に聞いておるのでありますから、そういう無責任な、ふまじめなことを言われては困る。政府はどう思うか。そんなふまじめな講和問答があり得るか。
  263. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 政府も全面講和を要望いたしております。それにもかかわらず相手方がこれに応じない場合、いかんともいたし方がない次第であります。われわれとしては、だから全面講和が一番望ましいということは、過去二箇年繰返しております。
  264. 黒田寿男

    ○黒田委員 私はそんなことを西村條約局長に聞いておるのではない。日本は単なる念願として全面講和を望み得るにすぎないのか、それともポツダム宣言による約束に基いて全面講和を主張し得る権利があるのか、これを聞いておるのである。権利があるかないか、これを答えていただけばいいのです。顧みて他を言うことは一番悪いことです。どうもこのころ政府も政党も、憲法の問題についても、條約の問題についても、ことごとく顧みて他を言つて国民をごまかそうとする。これはいかぬと思う。権利があるかないかということをひとつ簡単にお答えください。これで私はきようの質問を終りたい。
  265. 田中萬逸

    田中委員長 御答弁がないようであります。
  266. 黒田寿男

    ○黒田委員 そのような腰の抜けた政府で、どうしてこの対日平和條約に対して行くことができるか、私はそう思う。敗戦国の立場から立ち上ろうとする意気も勇気もない。いたずらにただ相手側の言うことを、命これかしこみ承るというだけの態度のように私には思われる。今の私の質問に答えられないような政府は、私は信任することはできぬ。きようは時間がございませんから、私の質問はこれでやめておきます。(拍手)
  267. 田中萬逸

    田中委員長 これにて第二條に対する質疑は終了いたしました。  本日はこの程度にとどめ、次会は明後二十一日午前十時より委員会を開き、質疑を継続することといたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時五十九分散会