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1951-10-18 第12回国会 衆議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月十八日(木曜日)     午前十時六分開議  出席委員    委員長 田中 萬逸君    理事 北澤 直吉君 理事 倉石 忠雄君    理事 島村 一郎君 理事 竹尾  弌君    理事 田嶋 好文君 理事 笹森 順造君    理事 水谷長三郎君       麻生太賀吉君    池田正之輔君       石田 博英君    石原 圓吉君       石原  登君    伊藤 郷一君       小川原政信君    菊池 義郎君       栗山長次郎君    近藤 鶴代君       佐藤 昌三君    田渕 光一君       塚田 十郎君    仲内 憲治君       中山 マサ君    西村 久之君       西村 直己君    原 健三郎君       福田 篤泰君    守島 伍郎君      山口喜久一郎君    若林 義孝君       芦田  均君    小川 半次君       北村徳太郎君    並木 芳雄君       松本 瀧藏君    山本 利壽君       吉田  安君    猪俣 浩三君       勝間田清一君    西村 榮一君       松岡 駒吉君    田島 ひで君       林  百郎君    米原  昶君       高倉 定助君    黒田 寿男君       佐竹 晴記君  出席国務大臣         内閣総理大臣         外 務 大 臣 吉田  茂君         法 務 総 裁 大橋 武夫君         大 蔵 大 臣 池田 勇人君         文 部 大 臣 天野 貞砧君         国 務 大 臣 周東 英雄君  出席政府委員         内閣官房長官  岡崎 勝男君         外務政務次官  草葉 隆圓君         外務事務官         (條約局長)  西村 熊雄君     ————————————— 十月十七日  委員三木武夫辞任につき、その補欠として小  川半次君が議長指名委員に選任された。 同月十八日  委員井之口政雄辞任につき、その補欠として  田島ひで君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した事件  平和条約締結について承認を求めるの件(條  約第一号)  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約  の締結について承認を求めるの件(條約第二  号)     —————————————
  2. 田中萬逸

    田中委員長 これより会議を開きほす。  平和条約締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約締結について承認訳めるの件、右両件を一括議題として質疑に入ります。質疑はまず両件に対する総括的質疑をなし、次いで各條約ごとに逐條質疑を行いたいと存じます。  これより総括的質疑に入ります。質疑通告に従い、理事会申合せの順序によつてこれを許します。池田正之輔君
  3. 池田正之輔

    池田(正)委員 私ども昭和二十年の八月十四日すなわちポツダム宣言を受諾いたしました。そうして九月二日降伏文書に調印して以来満六年有半の間、無條件降伏に伴うところの諸原則とその義務を厳粛に履行し、平和回復の日の一日もすみやかならんことをこいねがつて今日に至つたのであります。今回連合国なかんずくアメリカ及び英国の深い理解と好意によつて国民待望講和條約が調印されたのであります。今日ここに條約承認のための審議手続が行われる運びになりましたことは、まことに国民とともに喜びにたえません。また感激なきを得ないところであります。この間に処して吉田総理が、あるいは全権として今日まで挺身されたことにつきまして、私ども国民とともに感謝にたえない次第であります。そこでこの意義深い條約の審議にあたりまして、一部の国民の間に流布されておりますところの、あるいは抱かれているところの疑惑、不安を解明するために、私はこれから以下数点について政府見解をお尋ねしたいと思うのであります。  まず第一に講和條約の発効ポツダ宣言との関係であります。われわれが受諾いたしましたポツダム宣言は、米英及び中国の三国によつて宣言され、あとでソ連が加わつて四国宣言となつたのであります。日本降伏後、さらにわが国と交戦関係にあつた五十数箇国が加わつたことは御承知通りであります。ところで今回調印された講和條約は連合国側全都の意見が必ずしも一致いたしておりません。かつて交戦国関係にあつた国々の中から、特に重要な関係にあるソ連中国などが、この條約に調印いたしておらないのであります。ここに世上流布され、また国民が最も懸念している疑惑と不安の第一があるのであります。すなわち一つは、この條約が各国によつて批准され、効力が発生した場合、ポツダム宣言効力というものは消滅するのかどうかという、この一点であります。次には、もし消滅しないとするならば、本條約に参加調印しなかつたソ連及び中国などとの関係において、依然として交戦状態が継続するという解釈が成り立つのであるかどうか。さらに第三点は、対日占領管理に参加して来たソ連中国の駐日代表というものはどうなるのであるか。この三つの点についてお伺いをしたいのであります。  この場合特に私の申し上げたいことは、これを政治的に私どもが見るときに、サンフランシスコにおける遜合国側の絶対多数の賛成と同意によつてこの條約が成り立つた以上は、米国及び英国がとつてくれたこの見解というものは最も正しいものであつて、しかも妥当なものである。このことは、すなわち多数決の原理による民主主義原則を堅持し、尊重して行くという建前に立つ以上は、当然本條約の効力発生と同時にポツダム宣言というものは消滅するものである。これは私の政治的な見方であります。従つて日占領行政も終結するものと期待するもので上ります。この点政府はどういうふうにお考えになつておられますか。従つてそれとあわして、ワシンントにある極東委員会、及び対日理事会というものは自然消滅するというふうな解釈をとつてよろしいかどうか、この点について総理にお尋ねいたしたいと思います。
  4. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをいたします。講和條約ができた以上は、ポツダム宣言にかわるものであり、従つてポツダム宣言効力を失すると私は考えます。  しからば中ソとの関係交戰状態にあるのか、これはりくつはどうつくも知りませんけれども法律的には交戦状態にあると言い得るであろうと思います。すなわち平和関係はまだ成立しておらない。講和條約が効力を発生した後において、ソ連中国、あるいは講和條約に調印しない国との間には、事実上もしくは法律的に戦争状態が在すると言い得るでありましよう。しからばすぐ戰争になるか、これは私は政治的に考えてみて、ないことと思います。  それからソ連代表部はどうなるか。ソ連代表部なるものは、一種の、総司令部承認したといいますか、日米政府に対して日本政府承認を求めて来たものではないのでありますから、もし総司令部がなくなれば、当然対日理事会も消滅するでありましようし、従つてソ連代表部がどうなるか、これは当然消滅するものと思います。しからばその後どうなるか、ソ連などはどうするか、これは私の存じないところであります。ソ連自身できめることであろうかと思います。もしきめなかつた場合には、日本政府考えるというよりほか、しかたがないかと思います。
  5. 池田正之輔

    池田(正)委員 次にこの問題に開通してお尋ねいたしたいことは、ポツダム宣言の受諾に伴う法令や命令が出て始りますが、この規定の今後の取扱い方をどうなさるか。これは本会議等においても、しばしば総理から御言明がありましたが、この機会にいま一度はつきりお尋ねしておきたいのであります。  それからもう一つは、その結果起つて来る、今現に行われておる永久追放規定を存続させるかどうか。もし存続させるとするならば、その法的根拠、その他手続につきまして、これはあるいは法務総裁からでもけつこうでありますから、この点を明確にしていただきたいと思います。
  6. 大橋武夫

    大橋国務大臣 ポツダム政令は、御承知通りに、昭和三十年九月の緊急勅令によりまして、これを根拠として、法律と同等の効力を有する命令を出し得ることに相なつておるのでありまして、この緊急勅令によつて、現在約百件の政令、並びに五十数件の省令が出ております。この緊急勅令につきましては、当然講和條約の発効に伴いましてこれを廃止すべきものと考えておるのでございますが、これが廃止せられましたる後におきまして、この廃止せられたる緊急勅令に基いて現に存在いたしておりますポツダム命令、すなわち各種の政令並びに省令府令等効力はどうなるかという問題があるわけであります。この問題につきましては、法律的には、母法の消滅それ自体によりましては、一旦有効に成立しました委任命令が当然に効力を失うものではない、かように政府としては考えておるのでございますが、しかし学者間におきましては、この点はなお論争のあるところでございまして、従いまして、将来この問題が裁判所において争われました場合におきまして、いかなる判決が下されるかということにつきましては、予断を許さないような事情がございますので、この機会に、この有効なものは、有効であるという趣旨をはつきりいたす意味におきまして、緊急勅令を廃止いたしますと同時に、これらの委任命令の今後の効力につきまして法律によつてこれを明らかにすることが実際上適当である、かように考えておるわけでございます。しかして、かような見地においてこの百数十の命令を検討いたしてみますと、これらの中には、占領行政の終了に伴いまして当然将来において廃止することが適当であると考えられるものがございます。これらはいずれも廃止するという手続をとるべきであり、しかしてそのことを法律によつて明らかにいたしたいと思つております。しかし、このほかに多数応命令の中には、今後の日本行政といたしましてなお現在通り有効に継続せしむることが適当であり、また必要であると考えられる内容を持つたものも多数あるわけでございまして、これらにつきましては、右の法律におきまして引続き有効であるということをはつきりいたすことが適当であろうと存ずるのでございます。  なお、このほかに若干のものにつきましては、平和條約の発効に対しまして、これを相当程度修正して存続せしめることが適当であると考えられるものもあるのでございまして、これらにつきましては、そのおのおのについて、改正点を含めましたるところの法律案を国会に提案し、この法律によりまして、今後の内容並びに効力を形成する。こういう措置をとることが適当であろう。こういうふうに政府といたしましては考えておるのでございまして、ただいまこの方針に基きまして多数の命令を一々検討いたし、提案すべき法律案内容について準備を進めておる次第でございます。
  7. 池田正之輔

    池田(正)委員 次に、安全保障條約に関達してお尋ねしたいのでありますが、講和條約と同時に調印された日米安全保障條約は、米国政府日本政府との発表によつて発表された通り、これは日本独立と安全と平和を守る上において、絶対欠くべからざるものであるという観点に立つて、これが成立したものであるということは、理論よりもむしろわれわれといたしましては現実的な問題としてこれを了承いたします。しかしながらこれに対して世間に一部の者は、この治安條約は安全と平和への道ではなくして、むしろこれは不安と戦争への道を開くものである。すなわち、すでに本会議においても論議縛れましたように、ソ連及び中共仮想敵国とした軍事協定である。かえつて極東の情勢を刺激し、戦争への危機を増大せしむるものであると主張しておる者があるのであります。この主張は、その人心に及ぼす影響が必ずしも軽くはない。そこで私はこの論議に対しまして、次のような事項を指摘いたしまして所見の一端を申し述べ、と同時に政府見解を伺いたいと思います。  そういう議論をする者は、すなわち共産党及びその他の諸君は、ソ連及び中共、すなわち共産主義陣営態度あるいは方針、その意図というものを、すべてこれ彼らの宣伝のままに、これを善意解釈して、善意の立場に立つてかくのごとき論議を進めておる。従つてわれわれといたしましては、この論議に対しては、遺憾ながら見解をまつたく異にするということを、私ははつきり申し上げておかなければなりません。そのまず第一は、われわれ日本はかつて日ソ中立條約を結んでおつた。これは皆さん御承知通りであります。この條約があつたがゆえに、私どもはあの不幸な戦争のさ中において、一方においては日独伊の三国協定があつたにもかかわらず、しかもその当時ドイツはソビエトとの間に激戦を戦わしており、われわれに向つてしきりにシベリア出兵を懲悪されたにもかかわらず、われわれはこの日ソの條約の信義守つて、あえて出兵しなかつた。しかるにロシヤはあのポツダム宣言を作成したポツダム会議に出席する直前において、日本からロシアを通じて申し入れた講和通告を受けとつたはずであります。ところがその日本の申入れを無視してポツダム宣言に参加し、そして彼は突如として出兵し、満洲を攻略し、樺太を占領した。このことについては、われわれ日本人はいまだ断じて忘れてはおらぬ。われわれ日本国民は断じて忘れておりません。  その第二は、捕虜送還の問題であります。未帰還者の問題であります。ソ連政府が参加したポツダム宣言には、明らかに、日本国軍隊は完全に武装を解除された後に各自の家庭に復帰上、平和的かつ生産的な生活を営む機会を與えられると明記しておるのであります。にもかかわらず、ソ連領に抑留された捕虜及び在留民三十幾万の同胞は、今日に至つてもなおその消息が不明である。しかもそれに対して、国連及び国際赤十字社からその事実の調査を申し入れたにもかかわらず、これさえも拒否しておる。これが今日のソビエト態度であります。かくのごとく国際慣行を無視し、国際信義を無視し、しかもかくのごとく人道を無視したる行為に対しては、未帰還者の数百万遺家族の方々はもちろん、われわれ全国民としてまことに憤激にたえません。  その第三は、昨年六月以来われわれの眼前において起つた朝鮮戦争であります。朝鮮動乱であります。ソ連政府は直接に関係がないと言つております。また中共政府も義勇軍であると言つております。しかしながら共産軍の背後にソ連及び中共政府のあることは、世界の常識であります。     〔「アメリカは何と言つておる」と呼び、その他発言する者多し〕
  8. 田中萬逸

    田中委員長 静粛に願います。
  9. 池田正之輔

    池田(正)委員 国連マリク代表休戦提案をいたしております。この事実によつても、関係がないとは断じて言われない事実であると私は確信いたします。ことに第四といたしまして、今回の平和会議におけるグロムイコ代表提案、すなわち十三箇條にわたる提案、これについては先般本会議において、社会党の鈴木君からも申されましたから、あるいはまた総理の演説の中にもありましたから、私は省きますが、一体ソ連及び中共が何ゆえに絶大な犠牲拂つて北鮮共産軍の戦闘を支持し、協力するか、これはいうまでもなくソ連中共計画書に書かれておるアジア革命を実践せんとするためであります。言いかえれば、ソ連中共政府の支持し、協力する朝鮮戦争というものは、アジア革命のプログラムが軍事的段階に移されたというてもはばからないと思います。このアジア革命天目山はまさに日本であると申さなければなりません。すなわち朝鮮今日の運命日本運命直線コースを引くのであります。このことはわれわれ日本国民として十分に考えなければならぬ事実であります。南朝鮮領域から米国軍が撤退したその直後において、突如として南鮮侵入が始まつたのであります。この事実は生きた教訓として私どもは忘れておりません。講和條約の成立によつて国連軍の撤退した後のも本は、軍事的にまつたくの無防備であり、まる裸となるのである。この点から見るならば、今日のわれわれ日本というものはまさに南鮮李承晩政権よりもさらにもつと脆崩だと申さなければなりません。アジア革命天目山、すなわち日本は、ソ連中共が、その世界革命を放棄しない限りにおいて安全であり、平和であるということは、われわれは言い得ないのであります。以上の観点からこの安全保障條約は、日本の安全と独立と平和を守るために必要であり、欠くべからざるものであると、私は確信するものでありますが、これに対して政府はいかにお考えになりますか、総理の御所見を伺いたいと思います。
  10. 吉田茂

    吉田国務大臣 安全保障條約の趣意は、しばしば本会議でも申して説明をいたしておきましたが、今日日本が防備がない、いわゆる真空状態に置かれておる日本として、また同時にお話のように、一方にはいろいろな国際上おもしろくない事件が起りつつあるというようなときに、独立はしたが、その安全はどうして守るか、この安全を守る方式として、集団的防禦方法考える以外に方法がないと考えて、それでこの安全保障條約を政府締結することになつたのであります。これをもつて十分なりやいなやということは、十分ということはあるいは言えないかもしれませんが、しかしながらまず一応これによつて日本の回復し得た独立守つて行く、集団的防禦方法を講じて、日本独立を保護して行く、こういうようなことが政府考え方であります。
  11. 池田正之輔

    池田(正)委員 実は次にこの安全保障條約によつて一体安心であるか、絶対心配はないかということをお尋ねしたかつたのですが、ただいまの総理の御答弁によつて明瞭になりましたので了承いたしました。  次に行政協定に関してでありますが、その行政協定のとりきめの内容ともなるべき事項のうちで、われわれが考えられることは、駐留軍特権地位、あるいはその運営、経費分担等でありますが、特にここでわれわれが注意しなければならぬことはその特権地位であります。今日私ども占領下にあつて、いわゆる占領軍に與えておる特権なり地位なりというものは、そのまま今度の新しい駐留軍に対して與えられるかどうか、たとえば裁判権であるとかあるいは警察権であるとか、あるいは課税権といつたようなものについて、これは当然に判然と、占領軍駐留軍との間にははつきり区別を設けるべきであり、またそれを国民は期待いたしているはずであります。従つてこの点に対する政府の御所見を伺つておきたいと思います。
  12. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをします。行政協定はしばしば申す通り、今後の両国の間の協議にまつてきめるわけでありますが、政府としてはお話のような問題について研究をいたしております。米国軍としては米国軍紀に服さなければならず、同時に駐留しておるところは日本の国土である、日本主権とその軍紀との間の関係をどうするかということは、むろん問題になりますが、これは両者の間において協議してきめるよりいたし方ないと思います。どうしてきめるかということについては、これはいろいろ先例もあるのでありまして、現に米国軍を駐屯さしておる国々もありますから、その国と米国との間にどういう協定をしておるか等を研究しましてきめるつもりで、現に研究をしております。
  13. 池田正之輔

    池田(正)委員 ただいまの総理お答えによつて、今研究中であるということなのであります。そのことはわれわれとしても了承いたしますが、その行政とりきめとしてなされる内容についての事項と、こういうようなものの大体の輪郭は、一応私どもとしてもできるならばこの際伺つておきたいのでありますが、その項目として考えられる点、これはもし総理でなければ、他の方でもけつこうでありますから、御説明願いたい。
  14. 吉田茂

    吉田国務大臣 それでは私からお答えします。今御指摘になつたような、たとえばどの地点に駐留せしめるか、大体の原則から申せば、なるべく日本国民に迷惑にならないようなところに置きたいというのが、米国軍希望でもあり、またわれわれ政府希望でもあります。それから費用についてはどうするか、一体費用の額はどのくらいになるかということは、結局駐留軍の数によることでもありましようが、数等がきまつておらないために、従つて経費の点はまたはつきりしておりません。従つてそれをどう分担するかというようなことも、まだきまつておらないのみならず、話にも実は上つておらないのであります。これは米国国内における国防省としての方針はありましようから、国防省等において研究いたしておることと思います。その他の点については—考えられることはそういうような点でありますが、いずれにしましても、将来の交渉の内容に立ち入ることでありますから、私としてはあまり深く立ち入つてお答えしにくい点もあります。
  15. 池田正之輔

    池田(正)委員 もう少し輪郭その他についてお伺いしたがつたのでありますが、一応それで了承いたしました。  次にそれに関連して再軍備の問題でありますが、この点に関しては、総理の先般来の本会議における御答弁を聞いております。と、財政上できない。あるいはこれは国民意思によつて決定せられるのである。これは申すまでもなく総理の言われる通り、私もさように解釈いたしておりますが、当然これは国民の総意によつて—国民意思に反してはできないことなのでありまして、この総理考え方は、私は賛成なのであります。しかしここでわれわれがもう少しはつきりしておきたいことは、もし財政上これを許し、しかも国民がこれを希望するという段階に立ち至れば、当然に再軍備をするものというふうに了解してよろしいのでありましようか。この点を総理にお伺いいたします。
  16. 吉田茂

    吉田国務大臣 国の独立は、その国の国力をもつて守るのが当然のことである。長く米国駐留軍の援助を得るということは、むろん希望しないことであります。私の言う国民意思によつてきまるというのは、すなわち再軍備をするかしないかについては、何ら條約上日本主権拘束されておらないのである。日本人が自由にきめ得るのであるということを申したのであります。自由にきめ得るということは、主権の上に何らの拘束がない、再軍備について何らの主権拘束を受けておらないという意味合いであります。さらに日本国として考えてみて、ただちに再軍備をなすかなさないかという点ですが、現に国民軍税に苦しんでおるときに、再軍備のためにさらに課税をするということになれば、国民は耐え得ないということが第一。第二は、過去において戦争は結局だれにも得にならないもので、あるということを印象づけるために、つまり国家主義もしくは軍国主義を拂拭するために、特に兵役についておつた軍人等に対しては年金を停止するとか廃止する、あるいは負傷者救済の中止、あるいは戰傷者、遺家族等に対しての手当も中止した。国民戰争に参加することによつて自分の子供、自分の親等は命を犠牲にしたが、国家はこれに対してあたかも処罰するような意味合いで扶助料ほ停止する、あるいはまた年金は停止するというような処置をしておきながら、さらに再軍備をするといつても、これは一種の矛盾がそこにあるので、決して軍役に服したからといつて処罰はしないという点などを明らかにして、しかる後再軍備にとりかかるべきもので、再軍備をなすまでには内政的にも相当考えなければならぬことがあります。財政的にも考えなければならぬことがあります。また国際関係から申して、とかく日本軍国主義であるとか、軍国主義の復活というようなことを絶えず言われておるので、今日軽々しく再軍備を言うということは国際的にもよろしくない。内外の関係から、申して、再軍備はただちに軽々しく言うべきものでないというのが私の議論であります。しかし根本は、日本独立を回復して、その独立は他国によつて保護せられておるのであるということになれば、国民自負心といいますか道徳心が許さないと思います。でありますから、日本は再軍備が可能だ、また独立を維持することは独力によつてやるべきものであるという真意が国民によく了解され、しかも政府国家のために犠牲なつた者を顧みないというようなことはないのであるという点等が明らかになつて後、再軍備考えるべきものである、というのが私の趣意とするところであります。以上お答え申し上げます。
  17. 池田正之輔

    池田(正)委員 この問題はきわめて重大な問題でありますが、現在の段階において、総理として責任ある立場からの御答弁でありますから、私はこれ以上お尋ねいたしません。  そこで再びこの行政協定の問題にもどりまして、今度の行政協定というのうは、要するに安全保障條約の肉づけとなるものである、従つてこれはきわめて重要な内容を盛られるということは想像がつくのでありますが、これが重要であるだけに、その法的な性格について、十分に明らかにしておきたいと思うのであります。まず一体行政協定という言葉は、われわれが今まで見て来た行政協定というものと今度の行政協定というものは、その内容において、そのウエイトにおいて、格段の相違があるのじやないか。そこで今度の行政協定という言葉の意味が、どういう内容を持つのか。その法的性格なりそれらについて、法務総裁から一応明確にしていただきたいと思います。
  18. 大橋武夫

    大橋国務大臣 お答えを申し上げます。安全保障條約の第三條におきまして、「アメリ男合衆国の軍隊の日本国力及びその附近における配備を規律する條件は、両政府間の行政協定で決定する。」こういう趣旨の定めがあるのでございますから、ここに両政府間の行政協定と呼んでありますものは、安全保障條約の実施細目を定めることに関しまして、両国政府が文書による合意をするということを前提といたしております。そしてその文書による合意をすることによりまして、その法的な効力が完全に成立をいたし、また確定をする、こういう意味をも含んでおる、こういうふうに理解いたしております。すなわち法律的には、これは両国政府の文書による合意によりまして、ただちにその成立が完全に確定する、こういう性質を持つた協定を意味しておるというふうに理解いたしております。
  19. 池田正之輔

    池田(正)委員 この行政協定が、憲法第七十三條の條約であるかないか。もしそうだということになれば、ただいま言われたように、当然これは事前または事後において国会の同意を得なければならぬ、国会の承認を経なければならぬ事項であると思います。そこでこの点に関して、一体承認を得るおつもりであるかどうか、この点を明らかにしておきたいと思います。
  20. 大橋武夫

    大橋国務大臣 この行政協定は、ただいま申し述べましたように、両国政府間において締結される国家問のとりきめではございまするが、それはあくまでも内閣が国を代表して締結いたしまする正式の国際協定でありまして、その意味においてこの行政協定は、国家間において法的拘束力を持つ文書による合意を意味するところの、広義の條約に該当することは申すまでもございません。すなわち憲法七十三條の條約というものに当然含まれておる、こういうふうに考えております。この憲法第七十三條第三号に申しておりまする條約というものも、また軍に條約と名づけられたいわゆる狭い意味の條約に限定されるものではないのでございまして、ただいま申し述べましたような広い意味の條約をも意味するものと考えるべきでありまするから、この行政協定もまた当然憲法七十三條第三号にいう條約に該当いたし、従つてそれは国会の承認を必要とするのではないかという疑いが生ずるのは一応もつともと存ずるのであります。しかしながら、ある條約におきまして、一定の事項を締約国政府間の協定にゆだねておるということが明らかに定められておりまする場合においては、国会はその條約の承認におきまして、併せて当該條約に基づいて両政府間の文書による合意によつてその成立が完全に確定いたしまする協定締結を、あらか。め承認しておるものと解されるわけでございます。従つて憲法第七十三條第三号但書の要件をすでに満たしているのでありまするから、たといその協定が條約に該当いたしておりましようとも、これをあらためて国会の承認にかける必要はない、こういうふうに考えております。
  21. 池田正之輔

    池田(正)委員 今の法務総裁の御答弁は、われわれとしても相当に研究を要する点だと思いますが、時間の関係上一応これは了承いたしまして、その内容には当然多岐にわたつたものが出て来ると思いますが、それらの事項は曲政府に一切を一任する、委任するという形になるのですか。
  22. 大橋武夫

    大橋国務大臣 御承知のように、わが憲法の建前といたしましては、條約締結権はあくまでも内閣に専属いたしておりまして、国会はこれを承認するかいなかの権能を有するのであります。この意味で一応の事項について條約の締結を事前に承認することは、国会のみがその制定権を持つ法律についての白紙委任とは、その性質をかなり異にいたしておると存ずるのであります。この本質論は抜きにいたしまして、御指摘の点を直視いたしてみましても、本協定規定されるべき内容は決して無制限なものとは申すことのできないものであります。すなわち本協定締結の相手国となるのは米国という一国のみに限られておりまして他の諸外国一般をもその対象にしているものでないことは申すまでもないのでありまするが、その内容といたしましては、また安全保障條約で決定せられました米国軍隊の日本国内駐留という大原則のもとにおいて、右軍隊の日本国内及びその付近における配備を規律する條件のみに限定されているのでありまして、それはあくまでも米国軍隊の日本国内駐留を前提といたし、その目的の範囲内においてのみ駐留條件に関しまする細目事項をとりきめるという限界が付されているわけであります。そもそもこのよう本協定の性格というものが、安全保障條約で規定せられましたる大原則の実施細目を内容とすること、相手国が特定されていること、またそれは決して一般的外交事項、に関するものではなく、米国軍の現実の駐留に関する事項のみに限定されているというような点を考えますると、本協定規定されるべき内容は、その目的、相手国、範囲等においてかなりの限界を設けられておるのでありまして、従つてこの程度に内容を限定されておりまする協定締結をあらかじめ国会が承認することをもつて、憲法上国会の保有する條約承認権を放棄したものと見るのはまつたく当を得ない、かように考えます。
  23. 池田正之輔

    池田(正)委員 そうすると内容についても今後当然に国会に提出される場合があり得ると了解いたしましたが、その場合に、これに関連した法律案なり、あるいは予算を伴えば当然予算も出て来るわけでありますが、そういうものが万一にも国会で否決されたらどうなるか。これはむしろ法律論よりも護憲として、われわれとして一応この点を明確にしておきたいと思います。
  24. 大橋武夫

    大橋国務大臣 行政協定内容がまつたく未確定の状態にありまする現在、いかような予算上ないし立法上の措置を必要とすることになるかということは、もとより今はつきり申し上げることはできません、しかし本協定を実施するにあたりまして、予算または法律の措置を必要とする場合におきましては、当然国会によつてこれに関する予算や法律案審議が行われるものであります。ところで行政協定は先に申しましたように、その基く條約の承認についても、両政府間の文書による合意によつてその成立が完全に確定することについて、あらかじめ国会の承認を得るものと認められ、るのでありますが、本協定はその意味でも事前に承認を得た一般の條約と何ら性質を異にするものではないのでありまして、従つてそれが国家拘束する効力を持つことは当然であります。しこうして行政協定を実施するための予算や法律案が国会に提案せられましたる場合に、国会がその固有の権能に基いて、当該の予算たまは法律案について、それがはたして行政協定実施のために適当であるかどうかということを審議し得ることはもちろんでありまするし、より適当な予算または法律を成立させるために、不適当と認める予算または法律案について適宜の措置をとられるということはもとより可能でありましよう。しかしながら右に述べましたるように行政協定自身国家拘束するものでありまするから、国権の最高機関でありまする国会が審議を盡されまして、行政協定の実施に必要不可欠な予算や法律は何らかの形において必ず成立せしめられるであろうということは万々疑いがない。御懸念のような事態は実際問題としては心配する必要はなかろう。かように考えます。
  25. 池田正之輔

    池田(正)委員 この問題はきわめて重大な問題でありますが、私の持時間の関係上これは他の同僚の諸君に譲りまして、この機会に外務省の方にお尋ねいたしたいと思います。今度の安全保障條約によつて米国の軍隊が日本に常駐される。これは現在の世界情勢の段階においては当然で、われわれにとつてはありがたいことであるが、また一面において情ないことで、しかしながらやむを得ない。こういう複雑な感情をわれわれは持つておる。そこで国民の間でもこの点については独立国になつて外国の軍隊が国内に常駐するということについては何となく不安というか、国民感情としてぴつたりしないものがある。これはやむを得ないといたしましても、この場合われわれとして聞いておきたいことは、日本以外に、米国軍隊は英国なりそめ他の国々に駐屯しておるはずでありますが、その場合にそれらの国々との條約のとりきめといつたようなものはどういうふうになつておりますか。一応参考に承つておきたいと思います。
  26. 草葉隆圓

    ○草葉政府委員 アメリカ軍の海外におりまする駐兵と申しますか、いろいろな方面におるようであります。西ドイツ関係に大体本年度中に六箇師団ぐらいを予定しておる。現在は十五万程度ぐらい、これも西ドイツの占領につきまする條約に基いて駐留する。またイギリスとの間においては、アメリカの空軍、第三空軍師団所属のB二九、二五爆撃機関係の搭乗員なり整備員なりが常駐をしておるようでありますが、その内容に関しては不明であります。またフランスにも約五千の飛行関係の軍隊が駐屯いたしております。オーストリアに約一万、これはオーストリアとの條約に基いて常駐いたしております。それからトリエステ、これも平和條約に基きまして約五千常駐いたしております。またそのほかアメリカ軍が常駐いたしておりまする国といたしましては、フイリピン、イギリスの、バーミューダ島、デンマーク、グリーンランド、そういう方面にそれぞれの條約、協定に基いて駐兵をしておると承知しております。
  27. 池田正之輔

    池田(正)委員 これと関連して、実はアメリカ軍が、今説明されたように世界の各地に常駐しておる。これと対蹄的な関係を持つソビエトの衛星国家、そこには一体ロシヤの軍隊がおるのかおらないのか、常駐しておるかどうか。もし常駐しておるとすれば、一体どういうふうな状態で、どのくらいの数の兵隊がおるか。これはわれわれ自由主義国家群と対比して一応考えておかなければならない問題でありますにら、お伺いいたします。
  28. 草葉隆圓

    ○草葉政府委員 ソビエト軍の国外に常駐いたしております情報は、確実に、は承知し得ないのでありますが、西欧側の報道を総合いたしますると、ポーランドに約五万、ハンガリー及びルーマニアにそれぞれ三万の軍隊を駐屯させております。またブルガリアには二千の軍事顧問、チエコにはプラーグのソ連大使館付武官を中心といたしまして数百名の軍事顧問団を派遣しておると伝えられております。これらの諸国のうちでハンガリー及びルーマニアにおきまするソ連の駐兵権は、講和條約に規定されておるところから出ておるのでございまして、ハンガリーとの講和條約の第四編の二十二條の第一項に、またルーマニアとの講和條約におきましては、同じく二十一條の第一項に、ともにこれらの国々ソビエト地帶のソビエト陸軍との交通線の維持のために必要とする、こういう目的で武装軍隊を当該の国の領域に常駐する権利を有する、こういうような條約によりまして駐兵をいたしておるのであります。ポーランドにおきます駐兵権に関しましては、公表された内容承知いたしませんが、大体ハンガリー、ルーマニアと同様の理由と存じます。ドイツにおきますソビエト占領地帶と本国との交通線の維持のためにも、兵力を常駐させておる。これもその理由であると承知いたしております。そのほか、これらのお話の衛星国に対しますソ連の駐兵は、駐兵と同時にそれらの国々の軍隊に対する一つの指導権を持つ傾向をとつて、最近におきましては、あるいはチェコスロヴアキア等におきましては、その国防軍司令官にソ連の元帥を任命し、あるいは参謀総長に任命するというような傾向をとつて来ておると報道されております。
  29. 池田正之輔

    池田(正)委員 重ねてお尋ねしますが、これは今私の持つている資料とは大分数字が違うようであります。私ども承知しているところでは、第二次戦争の最終にあたつて連合国側の磁定によれば、停戦からたしか六十日でしたか、九十日以内にその軍隊を本国に引揚げるというとりきめがあつた承知りておるのでありますが、それと今のロシヤの駐兵とはどういう関係になつておりますか、お伺いいたします。
  30. 草葉隆圓

    ○草葉政府委員 ただいまの御質問は、多分イタリーとの平和條約の協定内容であつた承知いたしております。そのほかは私が申し上げた通りで進んでおります。
  31. 池田正之輔

    池田(正)委員 次に領土の問題にいささか触れてみたいと思います。こもはわが国の人口問題とも重大な関連を持つておるのでありますが、マツカーサ上元帥が一九四九年の六月にアメリカの雑誌にこういうことを書いておる。多年にわたつて日本の最大の資産かつ負債は、その大きな急速に膨脹する人口であつた日本はなおその生存に必要な最小限の要求に応ずるだけの食糧を生産することができない。戦前の高度の工業化によつてのみ、それ以上の大人口をささえることができたのであるが、一九三〇年代の初期に世界各地において保護関税障壁と自給経済の趨勢が増大したために、日本商品の外国への流出と日本国内の工業機械に使用する原料の確保等に対する障害は次第に増して行つた。実際このことは他の何ものにも増して、日本の指導者に戦争の大賭博をあえてせしめる誘因となつたのである。世界征服は一部軍閥の夢であつたかもしれない。しかしながら、日本の工業のために、原料資源を確保するというのが推進的な国民的動機でもあつた。かようにマッカーサー元帥が意見を吐露されておるのであります。もとより右の事実によつて日本戦争の責任を軽減されると、いうものでは断じてないことはもちろんであります。しかし今回の対日講和條約により、これから締結される各国との通商協定、あるいは漁業協定というものに、今後右の事情、マツカーサーが言われたこの精神を十分取人れて戦争以前に日本の環境を絶望的にならしめたようなことのないように、私どもはこいねがつてやまないのであります。これはむしろ今後のそうした協定を結ばれるときの心構えとして私どもは期待するのであります。しかるにこれに対して一方カイロ宣言の中には、日本国は、暴力及び強欲により日本国が略取した他の一切の地域から駆逐せらるべし、こういう言葉があるのであります。この言葉をわれわれ日本人としてただちに無條件に受入れることについては、いささか躊躇せざるを得ないのであります。もしそれ日本の明治以後における新しい領土というものを、以上申し上げたように論断することができるとするならば、今日の世界の大国中において、日本以上に汚れた手をもつて獲得せる領土を所有する国録は、いかなる批判と処分とを受けるべきであろうか。これはわれわれとしましても十分に考え、また考えさせられる問題なのであります。なかんずく樺太の問題でありますが、領土の詳細の点は同僚諸君に譲りまして、樺太の問題は、日露戦争以後初めて日本の領土となつたものではない。これは歴史によつて明瞭であります。突は樺太全島というものは、すでに十七世紀以、来日本人が発見上、開拓しておつたものである。それに遅れて極東に入つて来たところの当時のロシヤが、一八七五年に日本からこれを奪い取つたものであると私は解釈するのであります。そこでこの樺太の土地の問題につきましては、ここに元樺太師範学校の教授をしておられました方が非常に苦心の結果検討をされた資料があるのであります。それによりますと、実に十二世紀から十四世紀にかけて日本人というものが、漠然としてはおりましたけれども、北海道取び樺太というものは日本の領土と思つてつた。そのことは一三五六年に著した信州の諏訪明神の絵詞という本がありますが、これにも書いてある。さらに十五世紀に朝鮮の学者である申叔舟という人の書いた本によりますると、海東諸国記というものを著しておりますが、日本の領域というものは黒龍江の北に起るということを書いております。私今時間もありませんから、これをここで一々列挙することを省きたいと思いますが、この点は特に重大な点でありますから、委員長のお許しを得まして、この資料を速記にとどめたいと思いますが、御了承願いたいと思います。従つてこれは私持ち時間がありませんから、その方に譲ります。要はこの領土の問題は、われわれが今後生きて行く上において、單なる貿易であるとか、あるいは産兒制限であるとかいうようなものだけでは、とうていこの小さな限られた島に八千四百万という大きな人口を擁するわれわれ民族が、経済的に完全にやつて行くということははなはだ困難な問題であります。従つてこれに関連して、これらの歴史的に当然日本の領土であつた、最も正当な理由によつて日本の領土として昔からあつたようなそうした島々に対しては、われわれの希望として当然にこれはやがて何らかの機会において、日本の領土として返つて来ることを期待し、熱望してやまないものであります。と同時に、それらの点から考えまして今後の締結にゆだねられておる通商協定なり漁業協定その他の経済協定を今後政府がなされる上においては、十分この点に留意してほしいということをつけ加えまして、この問題は打切ります。  それから、ここでさつき一つ申し忘れましたが、安全保障の問題であります。安全保障の活動は、当然に日米共同の安全保障委員会の設定を必要とするものと了承いたしますが、その場合、この委員会の性格上、この委員会というものは多分に軍事的要素と條件を必要とするものと考えます。従つてこの場合日本側の委員の構成というものは慎重にお考えを願わないといけないと思いますので、これに対する人選、その他についていかなる御用意と御方針を持つておられるか、総理にお伺いしたいと思います。
  32. 吉田茂

    吉田国務大臣 共同委員会については、話には上つておりますけれども、こういうふうにするということは今後の協定に待つ問題であります。
  33. 田中萬逸

    田中委員長 その程度ですか。時間の関係がありますから……。
  34. 池田正之輔

    池田(正)委員 最後に……。今度この條約が批准され、効力を発生して来ると、当然に起つて来る問題は日本の在外使臣を派遣するという問題になつて来るのでありますが、従来からも日本の外交陣の弱体を叫ばれておつたのであります。終戦後、日本の外交界、いわゆる外務省畑に属する外交界にどういうりつぱな方がおられるか私はよく存じませんが、少くとも今後の複雑多岐なこの国際間に処して、日本一の使臣として海外に派遇せられ、日本の利益を代表して大使あるいは公使として駐在する、こうした代表者というものは当然人材を広く—ただ単に従来の外務畑からばかりでなしに、各方面から—率直に言えば、いわゆる民間がらもこれを起用してやつて行くべきじやないかというのが私ども考えなんでありますが、これに対する率直な総理の御所見を伺いたいと思うのであります。
  35. 吉田茂

    吉田国務大臣 外務省には多士済々でありますけれども、なおこういう際でありますから、広く人材を求めるということについては、その考えでおります。
  36. 池田正之輔

    池田(正)委員 これに関連して、おそらく今後、今総理のお言葉によつて民間からも起用なさるという。この広大な御構想、お考えはわれわれとしてもまことに欣快にたえません。ぜひそういうふうにやつていただきたいと思います。そこでこれは、私は昔から私自身も主張して参つたのでありますが、一体日本の在外使臣、いわゆる日本の外務省の役人が今まで使つてつた情報活動費、あるいは通俗的にいうと交際費と申しますか、そういつたものは、おそらく世界の列国に比較して一番けちな金を使つてつたのではないか。それがためにかつて駐米大使であつた斎藤さんが、いろいろな問題を起したというようなことも私どもは聞いております。これは要するに日本の外務省のそうした方面における予算がきわめて貧弱な結果から来ておる。また一方においては陸軍の在外武官というものがあつて、これはあの非常事能以来、特にこれらの人々は莫大な金を使つてつてつた。これと関連して、日本の外務省からはまつたく貴重な資料というあはわれわれは得られなかつた。そこにまたいろいろな弊害も伴つてつたのじやないかと私は見ておつたのでありますが、御承知のように最後にドイツに在外武官として鮮在しておつた大島中将は、とうとうドイツの文官大使をしりぞけて、現役の軍人がみずから大使になつたという事例から見ても、これは十分今後考えて行かなければならぬ。ことに今後世界のいわゆる情報活動—これから世界的に情報活動の手を伸ばし、われわれはこれをキヤツチして行かなければならぬ。この面に最も大胆に莫大な金を使つておるものは、おそらく私はソ連ではないかと見ておるのでありますが、これに比較して今のようなけちな日本の情報活動費では、とうてい真の意味の情報活動はできないだろう。これは今後の国際情勢から見て、ときにはむしろわれわれが今国内で国内情報のために使つておる特審局の費用、あるいは警察予備隊の費用、こういうものにも増して重大な意味を持つものである。かように考えておりますが、これは希望とをあわせて私は申し上げておきますが、これに対する総理の御意見を承れればけつこうであります。
  37. 吉田茂

    吉田国務大臣 従来外務省はなるべく情報活動を活発にしつつ、その経費は少くしてやつて行きたいという方針であります。ことに今日のような財政逼迫のときには、私は海外に出ておる者に対しては、なるべく倹約しろと申しております。この方針日本財政が立ち直るまでは堅持いたしたいと思つております。
  38. 田中萬逸

    田中委員長 北澤直吉君。
  39. 北澤直吉

    ○北澤委員 ただいま議題となつておりまする対日講和條約並びに日米安全保障條約は、わが日本を自由かつ平等の一員として国際社会に迎えるいわゆる和解と信頼の條約でありまして、史上稀に見る寛大、公正な條約であります。従いまして、日本といたしましては、一日もすみやかにこの両條約を批准いたしまして、連合国側の好意と信頼にこたえますとともに、條約の効力の発生を促進させることが必要と思います。それにつきましても、両條約は和解と信頼の上に立つておるのでありますので、両條約につきましてわれわれ国民の抱いておりまする憂慮、苦悩あるいは疑問、希望等は、国会の論議を通じまして十分国民の前に明らかにし、もつて国民が十分納得してこの両條約に賛成するようにしたいと思うのであります。従いまして、総理におかれましては、でき得る限り率直、明快にお答えを願いたいと思うのであります。  まず第一にお伺いしたい点は、先ほど池田委員からもあつたのでありますが、今回の平和條約と日米安全保障條約の調印に関連しまして、ソ連及び中共が一体今後どういうふうな出方をするであろうかということが、国民がひとしく抱いておる不安であります。中共政府の指導者は、今回の平和條約は中共に対する宣戰布告であるというふうな恫喝的な言辞を用いておりますし、また去年の二月の中ソ友好同盟條約を援用しまして、あたかも日本戦争に巻き込むような宣伝もいたしております。また最近ソ連も千島の国後島付近におきまして演習を行つて日本に対する牽制的な行動に出ておるのであります。しかしながらソ連及び中共等の共産陣営はいまだ第三次の大戦に突入するだけの力も意図も持つておらぬと考えます。過般のサンフランシスコ会議におきして、ソ連、ポーランド、チエコの三共産国だけが反対しまして、アジアの十二箇国を含む他の四十八箇国が賛成したことを見ましても、も上万が一今回の対日平和條約を理由といたしまして、ソ連戰争行為に出るような場合には、ソ連は四十八箇国を敵としなければならぬということは明らかであります。今回の平和條約及び日米安全保障條約は極東におきまする力のバランスを回復して、第三次大戦の導火線を断ち切るものであるというアジア諸国をも含む連合国側の確信の上に立つて締結されたものと思うのであります。第二次大戰以後のアジアの不安は、日本の敗北によつてアジアの力のバランスが崩壊したところに起きたとわれわれは見ておるのであります。今回の平和條約は、一時的にはソ連及び中共日本との間に多少の摩擦を生ぜしめるかもしれないのでありますけれども、大局的に見まして、アメリカとフイリピンとの間の防衛協定アメリカ、濠洲、ニユージーランド三国間の防衛協定と一体となりましてアジア及び太平洋の平和への一歩前進であるとわれわれは思うのでありますが、これに対しまして、政府のお考えを伺いたいのであります。
  40. 吉田茂

    吉田国務大臣 対日講和條約は、すなわち世界の平和を促進したいという考えから起つたことは、当時のサンフランシスコにおける各全権の意見も同様でありまして、またソ連といえども中共といえども、対日講和は早くするがいいということを言つているので……(「マイクが聞えない」と呼び、その他発言する者多し)黙つて聞きたまえ。今日ことごとくの国が平和を希望しておつて戦争をしたいということを言つている国はないのであります。すなわち、平和が世界の輿論であると考えてみますれば、お話のように、この対日講和は平和へ第一歩前進したということを言い得るであろうし、またそう言いたいと私は希望いたします。
  41. 北澤直吉

    ○北澤委員 次にお伺いしたいのは、今回の平和條約及び日米安全保障條約は、極東の平和と安全に寄與するということを一つの大きな目標といたしていると思うのであります。ところが、極東の平和と安全というものは、朝鮮動乱の終結によりまして初めて完成せられると思うのでありますが、総理におかれましては、朝鮮動乱朝鮮休戦の見通しにつきましていかに見ておりますか、伺いたいのであります。
  42. 吉田茂

    吉田国務大臣 私はただいま休戦交渉がどういう程度に進んでいるか存じませんから、これに対しては希望以外に申し述べることの何の資料を持つておりません。
  43. 北澤直吉

    ○北澤委員 次にお伺いしたいのは、中共との貿易の問題でございます。最近中共に対しまして繊維品などの一部輸出禁止が解除されたわけでありまして、これによつて中共貿易の扉が多少開かれたように一般に思われているのでありますが、もちろん日本といたしましては、中国大陸との貿易がわが国にとりまして非常に重要でありまするけれども、現在国際連合の中共に対しまする戦略品の輸出禁止の決議もあり、またこれに対しまして日本は協力する立場にある、また今回の平和條約第五條によりますと、国際連合が防止行動または強制行動をとるいかなる国に対しても、日本は援助の供與を愼むということになつておりますので、現在の段階におきましては、中共貿易にはあまり多くを期待していないと思うのでありますが、これにつきまして総理のお考えを伺いたいのであります。
  44. 吉田茂

    吉田国務大臣 中共は現に管理貿易をいたしておるのでありますからして、その貿易政策がかわらない限りは、中共との貿易は多く望むことはできない。のみならず現に戦争しておれば、戦争物資はこれは供給ができないのが当然であります。現に現在あるいは将来において、中共貿易が非常に発展するということは不幸にして望みがたいことであると思います。
  45. 北澤直吉

    ○北澤委員 次の問題に移りますが、平和條約の第一條におきましては、日本国民主権という字句が使われておるのであります。平和條約第一條のb項におきまして「日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権承認する。」こういう字句が使われておりまして、ダレス代表は講和会議の席上この字句につきましては特別に注意を喚起しておるわけであります。この日本国民主権という字句は、これは日本国憲法の主権在民の主義を確認したものであるかどうか、この点伺いたいのであります。
  46. 吉田茂

    吉田国務大臣 私はダレス氏とこの点について議論いたしたことはありませんから、お答えはできません。
  47. 北澤直吉

    ○北澤委員 会議の席上ダレス代表が以上のように申されておりますので、何かその点について特殊の了解があるのかと思つてお伺いしたのでありますが、ただいまの御答弁で、そういう話はないということでございますので、次の点に移ります。  次は領土の問題でございますが、領土の問題は、国民の感情に重大な関係があります。領土問題が国際間のがんとなつた例は多々あります。たとえばドイツとフランスの間で、アルサス・ローレンの問題が両国の間の関係を長きにわたつて害しておつたことは御承知通りであります。今回の講和條約によりまして、日本の領土の関係が第二のアルサス・ローレンのようなものとならないように、将来において特に連合国側の善処を希望してやまないもので、あります。そこで今回の講和條約におきましては、日本は台湾、澎湖島、千島、南樺太を放棄しておるのでございますが、連合国側の意見が合致しませんために、その帰属の決定は将来に残されておるわけであります。これらの地域の帰属は、将来どういう形で決定せられるのでございましようか、またこれらの地域におりまする住民の国籍は、講和條約の効力発生後どういうことになるのでありますか、その点を伺いたいと思います。
  48. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは條約に規定しております通り日本は四つの島及びそれに所属した小さな島に主権を持つ、その他のものに対してはあるいは主権、あるいは権原を放棄するということになつておるのであります。中には将来どこに帰属するかということは規定しておりませんが、これは連合国の間の関係であります。日本国は無條件降伏によつて主権を放棄するという義務を負わされておるのであつて、その義務に従つて放棄しただけであります。また琉球島は、これは主権日本にゆだねられると思いますが、信託統治問題について国連との間にどういう話合いをするかわかりません。しかしダレス特使もあるいはヤンガー氏も、日本主権を残しておくということを明言しておりますから、残ると思います。住民の国籍については日本に残ると思います。
  49. 北澤直吉

    ○北澤委員 ダレス代表は講和会議におきまして、歯舞諸島は千島列島には包含せられないとするのが米国の意見である、もし争いが起れば、へーグの国際司法裁判所に提訴することができると明言されておるのでありますが、政府国際司法裁判所にこの問題を提訴する意思があるかどうか。またソ連講和條約に調印しない限りは、よしんば国際司法裁判所が判決を下しましても、この判決はソ連拘束しない、こういうふうに解釈せられるのでありますが、この点について伺いたいと思います。
  50. 吉田茂

    吉田国務大臣 ダレス氏の意見は大体そうでありますが、しかし提訴するかしないか、まだソ連態度も見きわめないうちは軽々しく決定はいたせません。
  51. 北澤直吉

    ○北澤委員 ただいま総理からも小笠原島、琉球島の問題につきましては、前もつて答弁があつたのでありますが、これにつきまして一点だけお伺いしたいのは、この小笠原、琉球諸島を将来アメリカが信託統治にすることになつておりますが、もしこの両群島を戦略的信託統治にする場合におきましては、どうしても国際連合の安全保障理事会の承認を要する。その場合にはソ連の拒否権の発動が予想せられる、こういうわけでありますので、結局はこの小笠原、琉球両群島は、当分の間現状のままでアメリカがこれに対しまして立法、行政、司法の三権を行使する、従つてこれが信託統治になるのは相当先のことである、こういうふうに予想せられるのでありますが、この点につきまして政府のお考えをお聞きいたしたいのであります。
  52. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えします。信託統治問題については、これから米国政府国連との間に交渉ができた後にきまる問題であります。従つて信託統治になるかならぬかということは、これはしばらく協議の成行きを待つよりしかたがないと思います。
  53. 北澤直吉

    ○北澤委員 それでは、次に賠償問題に移ります。この問題につきましては、後ほど同僚の方から質問がありますので、私は一点だけお伺いしたいと思うのであります。  賠償に関しまする具体的のとりきめは、講和後に残されておるのでありますが、賠償問題は、御承知のように国の予算、国際収支、国民の生活水準あるいは産業構造、正常貿易との関係国民所得あるいはインフレーシヨン、こういうふうな各般の経済財政問題に重大関係がありまして、本問題の処理に一歩を誤りますと、日本経済に非常に大きな影響があることは申すまでもないのであります。ヴエルサイユの講和條約が、ドイツに対しましてあまりに大きな賠償を課しましたためにドイツの経済を崩壊に導きまして、遂に講和條約の賠償條項そのものの実行を不可能にしたことは御承知通りであります。しかしながら東南アジア諸国との善隣友好関係を樹立しますことは、政治的に考えましても、経済的に見ましても、日本の将来にとりまして絶対に必要でありますことは多言を要しません。でありますからフイリピン、インドネシア、ビルマ等に対しまする賠償に対しては、国力の許す範囲内において誠意をもつて当ることが肝要であります。ここに賠償問題の非常な困難があり、またその処理につきましては最大のステーツマン・シツプが要請せられると思うのであります。  そこでお伺いしたい点は、平和條約の第十四條によりますと、存立可能な経済を維持すること、それから他の連合国に追加負担を課さないこと、外国為替上の負担を日本に課さないということが、賠償の前提となつておるように思われるのであります。しからばこの存立可能の経済というのは何を意味するのかという点は、必ずしも明瞭ではないのであります。総理は本会議におきまする御答弁におきまして、賠償は国力の許す限り行うということを言明せられております。またトルーマン大統領は、サンフランシスコ会議におきまして、條約は賠償支拂いの原則承認しておるが、将来日本の経済を崩壊させるような重い賠償を日本国民に負担させるものではないと述べております。またダレス代表も、日本は労働力も工業力も完全に使用されておらない、これは原料の不足によるものである、従つて日本より賠償を希望するものは、豊富な原料を持つておらない日本に原料を與えれば、日本はこれを加工することによつて、サービスによつて相当の賠償を支拂うことができる、賠償に関するとりきめは、消費財のみならず未開発地域の工業化を可能ならしめる機械及び生産財を包含することができる、こういうふうに述べられておるのであります。こういういろいろの言明にかんがみましても、賠償は日本の経済の自立ないしは生活水準の維持を前提とするものと思うのでありますが、これに対しまして政府のお考えを伺いたいのであります。また賠償は役務賠償に限られまして、金銭賠償や生産物賠償は含まれておらないという解釈を持つのでありますが、これに対する政府のお考えを承りたいと思うのであります。
  54. 周東英雄

    ○周東国務大臣 お答えをいたします。今度の講和條約における賠償に、ついては、誠意をもつて日本政府は被害を受けた国について考慮いたすことはもちろんでありますが、しかしあくまでも日本の経済の自立並びに国民生活の水準を破壊するがごとき形のものであつてはならぬし、またそういう趣旨を講和條約もうたつていると思うのであります。どこまで今後きまるべき問題でありますが、生活水準の維持と経済自立の線は守る範囲で話合いを進めて行きたいと思つております。  それから内容といたしまして、役務賠償に限るかというお話でありますが、大体その通りであります。
  55. 北澤直吉

    ○北澤委員 賠償問題につきましては、後ほど塚田委員より御質問があると思いますので、この点は打切りまして、次に在外資産に移ります。  日本の在外資産は、日本軍の占領等によりまして被害を受けない国までもこれを接収し得ることになつております。また中立国及び旧枢軸国にありました日本資産も、日本捕虜であつた者に対しまして分配するということになつておるのでありまするが、私有財産を尊重するということは、これは戰時国際法の原則であります。またイタリアの例を見ましても、講和條約後関係連合国との話合いによりまして、この財産がイタリアに返還された例もあるようであります。従いましてわれわれといたしましては、講和後の関係国との話合いによりまして、すでに処分済みのものはやむを得ないのでありますが、そうでないものでありますが、そうでないものでありまして、日本人の私有財産であるものはできるだけ返還されるように話合いを進めていただきたいと思うのであります。また、これらの接収された在外資産の所有者に対しまして、政府は国内補償をするものでありますかどうか、この点も伺いたいと思います。  それからまたこれに関連して満洲にあつた日本財産をソ連が撤去したのでありますが、このソ連が撤去した在満日本資産というものは、一体これはどこに帰属するのであるか。もしこれが中国に帰属するということであれば、中国との賠償問題の場合に相当話の材になるのでありますが、この在満資産の帰属は一体どこにあるのでありますか。以上の点を伺いたいのであります。
  56. 池田勇人

    池田国務大臣 ただいま在外財産の補償の問題から聞いておりますので、その点お答えいたします。在外資産の補償の問題は、終戦直後司令部の要請によりまして国内で一応の推算をしたのでありますが、なかなか正解なものができないのでございます。本会議でどれだけあるかということを聞かれたのでありますが、申し上げられるようなしつかりした数字ではございませんので、お断りいたしておるのであります。しかしてこの在外財産を補償する気があるかないかということは、在外財産は非常に厖大な額に上りますので、これを政府が補償するだけの財政的余裕はございません。御承知通り戦争中に起りました政府の債務も、戦時補償特別措置法という特別立法をいたしまして、ほとんど棒引きにするというふうな措置をとつておることも考えますとき、在外財産の補償につきましては、われわれとしては研究はいたしますけれども、今これを全額補償するとか、あるいは半額補償するとか、あるいは一部でも補償できるというだけの確信はまだつかない状態にあるのであります。  次に満洲の日本国財産につきましては、これは中国との話合いできまると思うのでありますが、われわれは一応在外財産として條約によりまして没収されるものと考えております。
  57. 北澤直吉

    ○北澤委員 在外財産問題に関連して伺いたいのは、占領軍の接収しておりまする日本財産の返還の問題でございます。これは條約によりますと、占領軍の使用に供されていた日本財産で代価がいまだ支拂われておらないものは、條約の効力発生後返還されるということになつております。この問題は、日米安全保障條約によりまするところの施設の提供との関係もあるのでありまするが、たとえば港湾施設とか、そういうふうな日本の経済の復興に重要な関係のあるものは、なるべく日本側に返還さ札るように希望したいのであります。これにつきまして政府はいかにお考えになつておりますか伺いたいのであります。
  58. 池田勇人

    池田国務大臣 占領軍の接収しておりまする資産につきましては、原則として日本政府に返ると思うのであります。ただ駐留軍の用に供するものは、行政協定によつて一時お貸しするということに相なつておるのであります。
  59. 北澤直吉

    ○北澤委員 では次に通商問題に移りたいと思います。今回の講和條約に関連しまして最初連合国の一部の間には、日本の紡績や造船業や、あるいは海運などにつきましてある種の制限を加えたい、こういうふうな意見もあつたようでありますが、これは主としてダレス大使の努力によりまして日本経済には恒久的な制限を加えないことになつた。これはまことに再びにたえないのであります。講和條約の前文におきまして、わが国は「公私の貿易及び通商において国際的に承認された公正な慣行に従う」という意思宣言しておりますので、この上は日本といたしましても、外国に対して通商上の公正な取扱いを要望してやまないのであります。  そこでまず伺いたいのは、條約の第八條によりまして、アフリカのコンゴー盆地における通商自由ないし最恵国待遇を規定したコンゴー盆地條約の権益を放棄することになつておるのであります。これは日本のアフリカに対しまする貿易に非常に大きな影響があるのであります。昭和十年、十一年の貿易統計を見ますと、このコンゴー盆地に対しまして、一年に一億五千万ヤードの綿製品が日本から出ておるのであります。こういうわけでありますので、このコンゴー盆地におきまする日本の通商自由の権利あるいは最恵国待遇を放棄するということは、わが国の対アフリカ貿易に至大の関係があるわけであります。通商自由の原則は、これは第二次世界大戦後アメリカ初め世界各国の唱道して参つたところでありますので、将来におきましてコンゴー盆地における通商の自由については、日本もこれに均霑ができまするように、関係各国の好意的考慮を要望したいのでありますが、この点につきまして政府のお考えをお聞きしたいのであります。
  60. 草葉隆圓

    ○草葉政府委員 お話のコンゴー盆地の問題は、たいへん経済的に関連が多いのでありまして、今後関係国と十分連絡をとつて参りたいと存じます。
  61. 北澤直吉

    ○北澤委員 政府におかれましては、将来コンゴー盆地に対する日本の通商に対しましてはできるだけ善処する、こういうお話でありますので、私は了承しまして次に移ります。  講和條約第十二條を見ますと、日本連合国と通商航海條約を締結するまで、日本講和條約の最初の効力発生後四年間、連合国と相互主義のもとに、最恵国及び内国民待遇を與える義務を負担しておるのであります。ところが連合国の方は、日本に最恵国待遇を與えなければ、日本に最恵国、内国民待遇を要求することはできないのでありますが、日本にこの種の待遇を與える義務は負担しておらないのであります。現にイギリスにおきましては日本に最恵国待遇を與えることにつきまして、これを躊躇する空気がないわけでもないのであります。こういうふうになりますと、日本の商品は英国市場におきましては差別待遇を受けることになりまして、通商上きわめて不利な地位に立つわけであります。またイギリスにおきましては、英連邦相互間の特恵関税を強化しようとする空気も見られるのであります。かくては日本の品物は、英連邦内に臨きまして英国品との競争上、これも非常に不利な立場に立つわけであります。かくては領土が狭く、資源が乏しく、人口が非常に過剰でありまして、ひとえに貿易の伸張によつて経済の自立達成をはかり、過剰人口をさざえんとする日本にとりましては、まことに重大事であるといわなければなりません。政府は一日もすみやかに英国初め連合国と互恵平等、機会均等の原則のもとに通商條約を締結する必要があると思うのでありますが、これに対します政府の構想、準備、あるいは締結の時期等について伺いたいのであります。
  62. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 平和條約第十二條の規定は、日本に対しまして最恵国待遇、または内国民待遇を許與することを義務として規定しておりますが、同時に連合国も同様な待遇を與えることを條件にしております。従いまして日本としては通商航海の発達のために、内国民待遇ないし最恵国待遇が広く連合国によつて採用されることを希望する立場にございます。そういう立場においてこの條約作成に至るまで努力をいたしたのでございますけれども、イタリア平和條約の場合もそうでありましたように、平和條約において、戰勝国と戦敗国との通商関係の準則を完全に対等にするというところまでは至らなかつたのであります。従つてサンフランシスコ会議におきます受諾演説におきましても、吉田全権は、日本が積極的に国際経済の発展と繁栄に寄與したいというこの努力を了とされてその努力をとざすようなことをしないでほしいという形におきまして、連合国日本に対しまして最恵国待遇ないし内国民待遇を與えることを要望された次第であります。平和條約の建前は、日本ができるだけ早く通商関係を安定と繁栄の基礎に置くために、通常の通商航海條約を締結することを原則にいたしております。従つて政府といたしましては、できるだけ早く本格的の通商航海條約を締結する方針で、万端用意を整えております。
  63. 北澤直吉

    ○北澤委員 次に伺いたいのは、わが国の貿易の伸張をまかるためには、すの原則に均需することが必要でありますが、この一般関税貿易協定には、世界国々の約五分の四がすでに参加しているわけであります。ところがこれに対します日本の参加については、応対する向きがあるようであります。政府はこういう国際貿易機構または一般関税貿易協定に対する参加につきましてどういうふうな措置をとつておりますか、またこれに対する参加の見通しについて伺いたいのであります。
  64. 草葉隆圓

    ○草葉政府委員 いわゆるガツトの参加につきましては、日本政府は従来からこれへの参加を強く要請して参つたのでありますが、ようやく第六回総会におきましてオブザーヴアーの派遣を承認せられましたので、今後におきましてはその道は開かれたのであります。しかし正式代表としての参加は、現在のところ見込み困難な状態にあると思います。ただ一九五四年の一月に現在の内容が全部改訂されます時期にありますので、五三年中にはこれらの根本的な方法が講じられると存じております。
  65. 北澤直吉

    ○北澤委員 次に伺いたいのは、独立の回復と安全の保障、経済の自立というこの三つは、ちようどかなえの三本足のようなものであると思います。これによつて初めて日本の完全な独立が達成されるわけであります。そこでこの経済の自立のためには、国際収支のバランスを確保することが必要でありまするが、終戦以来国際収支の赤字を埋めて来ました米国の対日援助というものも講和後はなくなるわけであります。一方役務賠償あるいは外貨債の支拂い、あるいは対日経済援助の支拂い等国際支出が急激に増加することも予想されるわけでありまして、講和後の国際収支のバランスをはかるということは、なかなか容易なことではないと思うのであります。問題は貿易の大幅な伸長をはかり、また外資導入等によつて貿易外の収入の増加をはかつて、これによつて国際収支のバランスをとることが必要であります。今後の日本の外国貿易あるいは外資導入の大体の見通しについてでもけつこうでありますが、伺いたいのであります。
  66. 池田勇人

    池田国務大臣 お話通り経済自立の根本は、国際収支の均衡をはかるということにあると思うのであります。ただいまの状態におきましては、特需その地の関係もあります。またポンド地域への輸出も相当増加いたしまして、外貨の手持ちは六億ドル近くに相なつております。昭和三十四年までは、ガリオア援助資金によつて収支をやつてつたのであります。二十四年の後半から二十五年にかけてよほどよくなりました。今年度におきましても、大体私は一億五、六千万ドルの受取り超過になるのではないかという気持を持つておるのであります。ドルが六億ドル、七億ドル、こんなにたまつたら非常に安心ではないかという考え方もありますが、今の日本国際貿易から申しますと、輸出入、特需合せまして二十億を越えるという状態でございますので、六億ドル程度ではまだ安心は許せん。まだまだいるのであります。従いまして今後におきましてもできるだけ輸出を伸張し、そうして外貨を受取つて、外債の支拂い等に充てなければならぬと思うのであります。また国内的にも、産業の合理化、復興に相当外国から物を借りて来なければならぬ、こういう考えで外資の導入もわれわれとして念願しておるのであります。しかし外資を今たとえば二億ドル三億ドル借りて参りましても、さあそれをどこに使うか、物にかえることが問題なのでございます。水力発電にしても、向うから鉄材、セメント、銅を持つて来るということになるとなかなか持つて来にくい。そうしますと、結局金だけ日本に使うのではだめでございます。やはり日本の生産力をふやし、それが輸出に向けられるように国内に使う、それが外債の貿易じりにどういう影響を及ぼすか、その影響をぬぐうのに外資を持つて来よう、こういう建前で、私は徐々に日本の経済の進行と見合つて外資導入を考えて行かなければ、地につかないと考えておるのでございます。
  67. 北澤直吉

    ○北澤委員 次の問題に移りまして、漁業の問題についてお伺いいたします。講和條約によりますと、この問題につきましては、講和後におきまして関係国と日本との間に話合いをする、こういうことになつておるわけであります。申すまでもなく、漁業問題は日本の経済にとりまして非常に重大な関係のあることは当然であります。そこで伺いたいのでありますが、講和会議の席上におきましても、カナダのピアソン外務大臣は、この漁業協定において何ら差別的な、あるいは排他的な取扱いはしないだろうということを申されておるわけであります。この漁業協定が今後どういうふうにつくられるかということは、日本国民は非常な関心を持つておるのでありますが、政府におかれましては、この漁業協定の交渉にあたりましてはいかなる構想をもつて当られますか、その点を承たいと思います。
  68. 草葉隆圓

    ○草葉政府委員 平和條約第九條によりまして、希望する連合国とはすみやかに交渉を開始したい意向を表明いたしております。お話のカナダ、アメリカ方面からは、公式になるべく早く交渉を開始したいということを伝えて参つておりますので、多分十一月上旬から話が進められ得る状態になつて来るのではないかと存じております。話の内容につきましては、従来とも国際條約その他の関係におきまして、また吉田総理からも声明その他この講和会議等におきまして申し述べられましたように、国際條約及び慣行を十分守りました意味においての、直接関係のある條項について協定を進めて参るのでありますから、国内におきましても、十分これらの点を検討する準備をして進んで参つておる次第であります。
  69. 北澤直吉

    ○北澤委員 時間もあまりありませんから、次の問題に移ります。次は安全保障の問題でございます。平和條約におきましては、国際連合にあらゆる援助を與えるというふうになつております。これは国際連合の決議、あるいは勧告、あるいはまた日米安全保障協定の付属の交換公文のようなものによりまして、成規の手続つて決定せられて、そうしてこれに基いて、日本に要求があつた場合に限るものと思うのであります。ところがこの点につきまして総理は過般の本会議におきまして、この国際連合に対するあらゆる援助の内容は、行政協定によつて決定せられるというふうな意味の御答弁があつたのでありますが、行政協定というのは日米間だけの問題でありまして、国際連合に対する日本との関係ではないと思うのであります。この国連に対するあらゆる援助というのは、国際連合の決議もしくは勧告によつて、正式の手続によつて要求せられた場合に、これに援助を與えるという意味と解釈するのでありますが、これにつきまして念のために総理の御答弁をお願いいたします。
  70. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えしますが、あらゆるといつたところがおのずから制限があるので、国力相応の援助を與えるということもありましようし、また国内においてたとえば軍隊を持たない、こういうのにもかかわらず軍隊を出せということを国連として要請するはずもなし、あらゆるといつてもおのずからその間に制限がある。常識として判断すべきであります。しかしながらいかなる集団的防禦を講ずるか、その内容がすなわち行政協定において兵力その他がきまるのであるから、あらゆるといつたところが、自然に行政協定等の協定の範囲においてきまるという意味合いにおいてお答えをしたのであります。
  71. 北澤直吉

    ○北澤委員 ただいまの総理の御答弁は、日米の関係においてはそうなると思うのでありますが、国際連合との関係におきましては、やはり国際連合のたとえば総会、あるいは安全保障理事会の決議か何かによつて日本に援助を要求された場合に援助するということで、何でもかでも援助を與えるということではないと思うのでありますこの点念のためもう一度御答弁を願いたい。
  72. 吉田茂

    吉田国務大臣 あらゆるという意味合いについての御答弁をいたしたのであつて、あらゆるという定義については、国際連合がある決議をなし、要求をなすとしたところが、日本の国力がどこにあるか、日本の兵力がどの程度にあるかということは自然問題になる話であつて日本の国力に応じないような要求がせられるということは万々ないでありましよう。ゆえにその内容は、自然行政協定に、よつてきまつたものが土台になるということであります。
  73. 北澤直吉

    ○北澤委員 この問題は将来野党の諾君からの質問の際に讓るといたしまして、私は次の問題に移ります。  アメリカの集団安全保障機構に対しまする根本方針によりますと、いわゆるヴアンデンバーグ決議の規定する通りに、すべての参加国が持続的にしてかつ効果的な自助及び相互援助を行うことが必要であります。従つて軍備がなく、この條件を具備しておらない日本の現状におきまして、占領軍撤退後の力の真空を埋めるための暫定的措置であります。今風の日米安全保障條約が完全無欠のものであるとは必ずしも言うことはできないのであります。しかしながら日米安全保障條約のある限り、アメリカの軍隊は必ず日米に駐留し、日本に対する武力攻撃の場合には必ず日本の防衛に当ることは、一点の疑いもないところであると思うのであります。この点はダレス大使が本年四月二十三日に、日本国際連合協会の会合で演説をされたときにもはつきりと言明されておるわけであります。ところが一部におきましては、米軍があるいは日本を放棄しはせぬかというふうな心配を持つておる人もありますが、私はこういうことは絶対にあり得ないことである。アメリカは必ず日本に駐留して日本を守るということを確信いたしておるわけであります。  そこで伺いたいのでございますが、日米安全保障條約は、ただいま申しましたように暫定的のものでありまして所要の條件が具備するに伴つて、将来恒久的な安全保障機構によつてこれは置きかえられるものであるということが予想せられるのでありますが、恒久的の安全保障機構というものにつきまして、政府はどういう構想があるのでありますか。この点を伺いたいと思うのであります。
  74. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは将来の問題でありますから、必要の起つた場合に考えます。
  75. 北澤直吉

    ○北澤委員 この点につきましてトルーマン大統領は、サンフランシスコの会議におきまして次のようなことを述べております。  現在の世界情勢においては、国連の平和的原則を、侵略に対する共同防衛のための地域的協定によつてささえることが必要である。太平洋の安全を達成せんとするならば、同地域の自由諸国は、共同防衛の方法を発見しなければならない。この意味においてアメリカとフイリピンとの間の共同防衛協定、及びアメリカ・濠州・ニュージーランド三国の共同防衛というものを締結したのであります。これは太平洋における平和の結成の第一歩である。太平洋における平和維持のための適当な安全保障協定に、なるべくすみやかに日本を包含することが必要である。太平洋における防衛のための地域的協定の発展は、将来創設せられるであろう日本の防衛軍が、同地域の他国の防衛軍と結びつけられることを意味するであろう。日本軍は他国の軍隊と共同し、日本を含む太平洋諸国の独立に対する脅威に対し、相互的安全保障を確保するであろう。  こういうふうに、トルーマン大統領は講和会議の席上述べられておるのでありますが、大体将来の恒久的安全保障機構というふうな構想の線に沿つて行われるのでありますかどうか、伺いたいのであります。
  76. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは大統領の考え方として承知いたしたのであります。これに対してどう考えるか、問題は具体的な問題が起つたときに研究いたします。
  77. 北澤直吉

    ○北澤委員 次に安全保障條約に対する行政協定に移ります。行政協定の前に安全保障自体についてお伺いいたします。日米安全保障條約は、條約の有効期間を明記しておりません。日本の安全保障について日本米国とが十分である、こう認めた場合にこの安全保障協定効力を失うというようになつておるのでありますが、この日米安全保障條約におきまして、その條約の有効期限を明確に定めなかつた理由はどこにありますか伺いたいのであります。またこの日米安全保障條約というものは、ただいま申しましたよに、日本アメリカ意思が合致した場合においてこれを廃止するということになつておるのでありますが、この條約はもともと日本希望によつて締結せられたのでありますからして、この條約の廃止の場合には、日本希望が尊重されるというふうにわれわれは考えるのであります。この点に対しまして政府のお考えを伺いたいのであります。
  78. 吉田茂

    吉田国務大臣 第四條の意味合いは、結局必要がなくなつたらということであります。いつ必要がなくなるかといえば、いつという期限付で言うわけには行きません。また日本希望も尊重いたしましようが、同時にアメリカ希望も尊重いたします。これによつて條約はできるのであつて、相互互いに尊重いたさなければ條約は成立いたさないのであります。
  79. 北澤直吉

    ○北澤委員 次に行政協定に移りますが、行政協定は、締結されましたあと公表されるのでございますかどうか、その点伺いたいのであります。もしこれが公表されないということになりますと、国民拘束することができないのではないかというふうに思えるのでありますが、将来この行政協定というものは一般に公表されるのであるか、あるいは全部これは秘密にされるのでありますか、その点を伺いたいのであります。
  80. 吉田茂

    吉田国務大臣 行政協定をいたしてみなければわかりませんが、一般的に申せば、公表いたすつもりであります。
  81. 北澤直吉

    ○北澤委員 先ほども池田委員から、行政協定内容についてはいろいろ質問があつたのであります。もちろんこれは非常に機微な問題も含んでおりますので、はつきりした御答弁は得られないと思うのでありますが、一般に伝えられるところによりますると、日本に駐留する米軍の兵力というものは一体どういうふうにしてきめるのであるか、あるいは米軍に対する各種の便宜の供與はどうなるのか、現在占領軍に供與している程度か、あるいはさらにこれが減少されるのか、あるいはいわゆる軍事基地を提供するというふうなことも伝えられております。私はそういうことはないと思うのでありますが、こういうふうなうわさも世間に伝わつております。それからまた米軍の駐留に対しまする経費は、これは日米間に一体どういうふうに負担されるか、現在の終戦処理費などよりも相当減額されるというような報道もあるのでありますが、こういう点。それから米軍の演習とか、建造、通行等の各種の権能はいかにされるのでありますか、先ほども質問がありましたが、米軍及び関係者の課税あるいは裁判権警察権、こういうものに対する特権がどういうふうになるか、国際法の原則による外用駐屯軍隊に対する特権というふうなまものと大体同じようなものになるのかどうか。もう一点は、米軍によつて日本人が損害を受けた場合、この損害の救済をいかにするか。こういうふうな問題がいろいろありましてこういう問題が行政協定内容に盛られるのではないかというふうな報道が行われておるのでありますが、先ほど申しましたように、この中には軍の機密に関するのも相当あろうと思うのでありますが、さしつかえない範囲で御説明を願えればけつこうと思います。
  82. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは先ほども申した通り、現在各国との間の先例等を取調べまして、ただいま研究中であります。いずれそのうち発表をしてあるいは予算として議会にいろいろ要求をし、あるいは法律の形でもつて議会の協賛を経るようないろいろな形がふまれましようが、ただいまのところは細部はきまつておりません。今後の協定にまちます。
  83. 北澤直吉

    ○北澤委員 次の問題に移ります。八回の講和條約によつて日本独立が回復せられるのでここに日本独立国としての国民的な権威をとりもどすわけであります。従いまして終戦以来のいわゆる他力本願の思想を一掃して、愛国の思想を高揚し、独立自尊、自力更生の思想を涵養し、そうして権威ある独立国民としての精神的な基礎をつくることが必要であると思うのであります。これにつきましては、あるいは教育の面、あるいは宗教の面、その他の面においていろいろの方策があろうと思うのでありますが、これに対しまする政府の具体策につきまして伺いたいのであります。
  84. 天野貞祐

    ○天野国務大臣 独立自尊の精神と申しますのは、要するに他人の人格を尊重すると同時に、自分も一個の人格として自己を卑下しない、そういう関係であつて、要するにこれが民主主義の精神だと思いますけれども、個人の自由を尊重するといつても、自由が放埓に流れてはいけず、個人の平等を尊重するといつても、平等が悪平等に堕してはいけない。そういう関係からして、個人といえども国民である、国民であるからして、国家というものを自己の主体とし、あるいは母体として自党する、そこに私は愛国ということが起つて来ると思うのですが、そういう国家というものをただ個人の方便とするような極端な個人主義でもなく、といつてまた個人を国家の方便にするようないわゆる全体主義でもなくして、この二つを含んだ中正な道をとつて行きたいと思います。それからまたその国家というものはそれぞれ特色を持つておりますから、日本国のあり方をどこまでも尊重して行く。けれどもしかし日本的であるということが同時に世界的である、国民的であるということが世界的であるというような広い見地に立つて行きたいと思うのです。そうして歴史とか国家とかいうものの底にあるもの、あるいは歴史を一貫するところの宗教的なもの、そういうものに対してはわれわれは深く敬虔の念をもつて宗教的情操を養い、また宗教をたつとぶ。そういう世界観を持つて、学校教育においても、また社会教育においても指導して行きたい。要するに極端な個人主義でもなければ全体主義でもない。それを含んだ立場に立つて行きたいというのが政府の根本の方針でございます。
  85. 北澤直吉

    ○北澤委員 時間もありませんから最後の点に移ります。最後の点は、講和後の外交方針についてであります。世界が自由、共産の二大陣営にわかれまして、いわゆる冷たい戦争を行つておるのは事実であります。この間に処しまして、日本はあくまでも平和維持に努力すべきことはもちろんでございますが、日本が中立を維持することは、日本の地理的條件その他から見まして、実際的には不可能でありますことは皆さん御承知通りであります。そこで日本平和條約、安全保障條約、この二つの條約に調印しまして、米国を中心とした世界の自由国家とかたく提携して日本の安全と繁栄をほかることを決意した以上は、将来は右顧左眄することなく、この方針にのつとつて進まなければならぬと思うのです。そこで特に私が強調したいのは、アジア諸国との関係でございます。アジア諾国につきましては、アジアの中の自由諸国との経済的、文化的協力を推進し、友好善隣関係を増進して、そうしてアジアの興隆と団結の強化に寄與することが必要だろうと思うのであります。近来アジア、なかんずく東南アジアの問題が国民の多大の関心を集めておりますことは事実であります。終戦以来は、占領下にあつたとは申しながら、アジアの問題が日本人の頭から消えさつたような状態にあつたことは、まことに遺憾であります。アジア諸国は、日本と文化、伝統、宗教、思想あるいは世界観をともにし、進んでは運命をもともにすると思しましても過言ではないと思うのであります。講和会議におきますセイロン代表その他のアジア諸国の全権の発言を見ましても、いわゆるアジア的の感覚が相当強く現われておるのであります。またアジアには、ビルマとかインドネシアのごとく、日本の力によつて独立をかち得た国も少くないのであります。現にイランとかイラク等に見ますように、アジア諸国には民族運動がほうはいとして起つておるのであります。日本の経済自立達成のためにも、はたまた将来の日本の発展のためにも、またアジア自身の興隆のためにも、アジア、なかんずく東南アジア諸国と日本との善隣友好関係を急速に樹立することが必要だろうと思うのであります。今日同じく世界の民主陣営に属しながら、西欧諸国とアジア諸国との間には、民族運動をはさんで必ずしもしつくり行つておらないところがあるのであります。ここに民主陣営の弱みがあると思うのであります。日本世界の民主陣営強化のためにも、西ヨーロツパとアジアのかけ橋となつて両者を結ぶ紐帶となることが必要であり、またこうすることが日本の将来の発展を確保するゆえんであると思うのであります。世界日本が東亜の安定勢力となることを期待しておるとわれわれは確信いたしておるのであります。一部にはアジアとの関係の強化が、あるいはアメリカとの関係に悪影響を及ぼしはせぬかというふうなことを心配している向きもあるようでありますが、これは杞憂にすぎないと思うのであります。トルーマン大統領もサンフランシスコ会議の席上におきまして、米国は太平洋及びアジアにおける多数の新しい自由独立の諸国を尊重し、これを支持する、われわれはアジア、太平洋の諸国が、世界独立諸国の社会において平等の仲間として発展し、繁栄することを希望する、われわれはこれら諸国の農業及び工業の発展に協力援助を與えることを希望する、これら諸国が権威と自由の中に国民の生活向上を達成することを希望する、日本もこれら諸国の平和への協力関係に参加することを信ずる。こういうふうに大統領も述べておるのでありますから、日本とアジア諸国との間の関係をますます、緊密にするということは、アメリカ世界政策の見地から申しましても必要だろうと思うのであります。こういう意味におきまして、将来の日本の対外政策の中に、特にアジア諸国との善隣友好関係の増進について、もしただいま政府に具体的の方策がありまするならば伺いたいと思います。これによつて私の質問を終ります。
  86. 吉田茂

    吉田国務大臣 御意見は大体同感であります。ことにアジアとの善隣関係については、私もそういうつもりでおります。しかしながら、どういう方策があるかということは、いまだ外交権の回復しておらない今日に、こういうふうにする、ああいうふうにすると申したところが、机上の室論にすぎませんから、この問題についてなお今後よく研究いたしてお答えいたします。
  87. 田中萬逸

    田中委員長 午前はこの程度にいたしまして、午後は一時三十分より開会いたします。   この際暫時休憩いたします。     午後零時二十五分休憩     —————————————     午後一時五十三分開議
  88. 田中萬逸

    田中委員長 休憩前に引続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。芦田均君。
  89. 芦田均

    ○芦田委員 今回の平和條約は、わが国の歴史における画期的の記録であり、永久に民族の脳裡に残さるべき記念塔であります。しかもこの條約は、戦争によつて引起されたる一切の過去に終止符を打つと同時に、日本世界的怒濤の中に処して将来進むべき新しい針路を決定したものであります。新しい方針を決定したと私が申すのは、単に日本のみの問題ではありません。連合諸国、なかんずくアメリカの政界、言論界の間においては、今回の対日條約調印は、アメリカの安全保障に関する新しい政策の出発点であると申しております。この平和條約と安全保障條約とを一体として考えてみれば、それは将来日本がいわゆる民主主義諸国群と歩調を合せて共産勢力に対抗する決意をなした、一つの表徴と見るべきものであります。われわれはかような基本方針については、必ずしも支持を惜しむものではありません。しかしながら平和條約はなお幾多の未解決の問題を残しておるばかりでなく、日米安全保障條約は世にもまれなる條約であり、しかもすべての細目を行政協定に讓つておる関係上、国会において政府の説明をまたなければ、無條件に賛意を表することができないことはもちろんであります。かような意味においてわれわれは大局の上から愼重に審議を盡す決心であります。従つて政府もまた誠意をもつて国民の納得するまで十二分に所信を披瀝されんことを希望いたします。  この講和條約においてまず明白にしなければならない点は、領土と賠償の問題であります。およそいかなる講和條約においても、その中心となつた問題は、多くは領土及び賠償に関する問題であります。しかしヴエルサイユ條約以後においては、敗戦国の領土の処分並びに賠償の取立てについて、旧来よりも著しく変化があつたことは、吉田総理大臣も十分に御承知通りであります。アメリカ大統領ウイルソンが第一次世界大戰の末期において、いち早く十四箇條の綱領を発表した中に、無併合、無賠償の原則を声明して、極力その実現に努力したことは、歴史に光彩を放つたのであります。なるほどヴエルサイユ條約は、一応賠償の取立てについてドイツに苛酷な條件を規定したのでありましたが、アメリカ合衆国は後に至つて、無併合、無賠償の方針を一貫して、ドイツとの條約に調印したことも御承知通りであります。従つて今回の講和に際しても、われわれは必ずやこの高貴な精神が貫徹して、対日條約が作成せられるものと確信いたしておつたのであります。それにもかかわらず、この條約においては、ウイルソンの主張したごとき原則がいつのほどにか放棄されてしまつて、琉球、小笠原、奄美大島は国際信託統活に付せられ、賠償支拂いの義務が原則としてわが国に課せられた。吉田総理大臣はしばしばダレス氏と会談し、またアチソン国務長官とも会談の機会を持たれ、従つて先方がいかなる事情からかような條約案を作成し、和解と信頼の平和だと申しながら、日本に相当の犠牲を押しつけたかという経緯については、おそらく先方に説明を求められたことでもありましよう。また先方から説明もあつたと思う。私はまず吉田総理からその辺の事情について伺いたいと思います。
  90. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをいたします。ダレス氏の初めの考えは、日本において賠償能力がないのみならず、また賠償能力がないにもかかわらず賠償を拂わされると、いうことになると日本の経済が立ち行かないだろうというような心配から、はつきりは言われたのではありませんが、無賠償で行きたいという考えを確かに持つてつたと思います。しかしながらその後アジアの諸国、ことにフイリピンその他をまわられて事情をつまびらかにされると、その地方における戦禍が相当大きなものがあるということを看取せられて、これはその国の復興を助ける意味からいつてみても、日本の国力の許す限りその復興を助けてやることが、日本として善隣の関係を生ずることにもなるし、またアジアにおける経済力の発達の上から見ても、これを助けるために日本が賠償の形で幾らか援助するということにならないものであろうかという考えを持たれたものと思います。そこで原則としては、日本は賠償を支拂う義務がある、損害に対して賠償をする義務を認めさせる。しかしながらその限度は、日本の国力の許す限度で、日本の経済を破壊するような大きな賠償はとても負担する能力がないであろうから、日本の経済も破壊せず、同時に相手国の復興を助け、また将来通商その他の関係を打立てるために、日本としてできるだけのことをしたらどうだろうかというのが、ダレス氏の考えであつたろうと思います。われわれは損害を與えた国に対しては、国として善隣の関係からいつてみても、能うれば賠償をするという原則は—日本国民としても、他国に迷惑をかけたことに対しては幾らかの補いをする、できるだけの補いをするということは、日本国民のこれまた道徳心からいつてみても、承認できることであろうとも考えるし、かたがた賠償義務は認める、しかしその賠償義務は、役務等の形において、金銭賠償とか何とかいうのでなく、日本の経済を危うくしないような形で行かないものかということも研究した結果、こういうところに同意を表するに至つたのであります。  領土の問題については、お話通りアメリカとしては、決して小笠原とかあるいは琉球とかいうようなところの、領土を求めるという考えはないのでありますが、しかしながらもあの軍事上必要な島々が、不幸にして他国の占領するところとなつて、それが日本の安全を脅かすというような事態が生じても相ならぬし、また日本がこれを防衛するとして、その力はとうていない、すなわち真空状態をある一部に置くということは、東洋の平和からいつてみてもよくないという考えから、米国がこれを一時持つ、しかしながら主権日本に置くということについては異存はない。信託統治、これはこの前の第一次戦争のときにもあつたことでありますが、領土は併合させない、併合させないが、ドイツの持つておる旧領土は、信託統治の形でもつて各国がその統治に当るという制度が当時打立てられたことは、芦田君も御承知通りであります。その方式から両島は信託統治の形にするということになつたものであろうと思います。米国政府の結論がここに到達した内容は知りません。これは私の想像でありますが、多分そうであろうと思います。以上お答えします。
  91. 芦田均

    ○芦田委員 連合側の意向について特に吉田総理大臣を追究すべき理由はありませんからこれ以上申しませんが、ただいま吉田総理の言及された国際信託制度の問題について一、二政府に伺いたいと思う。今度の講和会議で成立した條約案の規定によれば、いわゆる南西諸島、奄美大島、鬼界島、琉球群島、小笠原群島等を含むこれらの南西諸島は、結局においてアメリカより国際連合に向つて国際信託統治制度の適用を申し入れる、そうしてそれまでの期間は、アメリカ政府がこれらの諸島にみずから統治を行う、こういうことになつておるのであります。その場合に、信託統治制度によつて統治せられる島々の地位がどうなるであろうかということが、日本国民の最大の関心事になつておることは、御承知通りであります。  北緯二十九度以南の西南諸島については、平和條約第三條には、日本がすべての権利を放棄するとは書いてないから、主権日本に残ると米英側でも言つており、政府もまたこれらの島々の主権は残るとにぎやかに煙幕を張つておられる。しかしその場合に、日本に残る主権の正体はどんなものであるか。簡単にたとえて申せば、ちようど旋順、大連、関東州が日本やロシヤの租借地であつた際に、清国政府に残つてつた主権と同じものにすぎないのではないか。かようなことを言うと、芦田は極端な言葉を吐くと言う人があるかもしれませんが、決してそうではない。もともと信託統治区域の主権がどこにあるかということは、あたかも委任統治の場合と同様に、学者の間には諸説紛々として帰一するところはないのであります。現に最近まで日本は南洋諸島の委任統治を引受けておつたけれども、島の主権日本にはなかつた。それではどこの国にあるかといえば、学者の間にも定説はなかつた。南開群島の主権日本に残るという説明は、学者の説明以上に何の実益もないわけである。かような言葉をもつて純朴な国民にぬか喜びをさせるようなことがあつては、議会としても政府としても申訳が立たない。  しからば信託統治制度の詳細な内容はどこできまるのか。それはすでに吉田総理大臣が話されたように、直接利害関係のある国々の間に結ばれる信託協定と名づける約束によつて決定される。その場合に、日本が直接利害関係ある国々の中に入るかどうかということを私は承知いたしておりません。政府はあるいは御承知かもしらぬ。そういう国々が集まつて結ぶ信託協定に、主権日本に残ると明記されるかもしれない。しかしたとい協定において主権日本に残ると明記されても、その主権内容は、ただ主権という名目を維持するにすぎないことは明らかであります。それはどういうわけか。第二次世界戦争が終了して以後今日まで、相当数の信託統治に関する信託協定がすでにできており、効力を生じておる。その信託統治区域の政治の実体を見ればわかります。また国連憲章第七十七條、私はあまりむずかしいことは申しませんが、その七十七條の規定に、今問題になつておる南西諸島は、七十七條列記の(口)というところ、すなわち、第二次世界戦争の結果として敵国から分離されることあるべき地域、という中に入る。これ以外に入りようはありません。日本から分離されると国連憲章に書いてあることは、われわれが注意する必要がある。そればかりではありません。国連憲章の第七十五條には次のように書いてある。国際信託統治制度は今後の個々の協定によつてその下に置かれることあるべき地域の統治と監督のための制度であるとある。それならば西南諸島は日本から分離して、信託を受けた国の統治と監督のもとに生存することが建前です。この場合における日本主権なるものがどんなものであるかは想像ができます。中の握り飯だけをひつこ抜いて、あとに残つた竹の皮の包みと申したいが、あるいはもつと価値のないものだろう。私は大体かように考えるのでありますが、しかし政府においては、いやそうではない、もつと有利な状況に残るのだという見通しがあるかもしれません。その点をお伺いいたします。
  92. 吉田茂

    吉田国務大臣 私のただいま申した説明は、これは米国政府が領土的野心から出たのではないということと、それからダレス、ヤンガー両氏が、主権日本に残す考えであるということを言われた。いわば政治的の説明を與えたのであります。この信託統治がどうなるかということは、これは国連が信託統治をアメリカに與えるか、與えないか、條約には信託統治にする可能性があるということが規定してあるので、その統治の形については、今後国連米国政府の間の協定にまつことと思います。
  93. 芦田均

    ○芦田委員 吉田総理お答えは必ずしも間違つてはおりません。信託統治地域がどういう形で統治を受けるかということは、先ほど私が言及した通り、直接利害関係ある国々が集まつて信託統治協定というものをつくつて、それで確定するのでありますから、吉田総理お答えは間違つておるとは思いません。吉田総理が他の同僚の質問に対してお答えなつたものの中川に、西南諸島の国際信託統治は、軍事上の必要からアメリカが統治するのであるから、軍事的必要がなくなれば、必ず日本に返還されるものと確信すると言つておられる。従つてその吉田総理の確信ある言明が、何らか條約以外の文書でとりかわされておりますかどうかお伺いいたします。
  94. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをしますが、これはダレス氏等、その他アメリカの当局者との話合いから出た結論をお話するので、私の結論は結論でありまして、これが文書になつて確定せしめられておるような事態ではないのであります。
  95. 芦田均

    ○芦田委員 結局吉田総理大臣が、軍事上の必要がなくなれば、西南諸島が日本に返るとお考えなつ根拠は、ダレス氏その他との談話の機会に、これをにおわすような話があつたということでありまして、それが実現すれば、日本国民として確かに慶賀すべきことには相違ないが、一体南西諸島が軍事的な拠点として重要性を持つというのはどういう場合であるか。もしアメリカ日本が共産勢力に対抗する基地として、西南諸島に重要な意味を認めておるとするならば、これは必ずしも正当ではないと思う。ということは、アメリカはすでにフイリピン及び日本の四つの島に有力な軍事拠点を持つておる。沖縄及び小笠原列島はこれに補助的な基地として価値がありましよう。しかしながらもし日本及びフイリピンこおける基地と同様の意味における軍事基地を持つというのなら、わざわざ小笠原、琉球諸島を信託統治の制度のもとに置く必要はない。軍事常識のある者から言えば、沖繩及び太平洋の小笠原列島が、共産勢力に対抗する軍事基地として非常な重要性を持つておるとは考えられないが一つ考え得ることは、日本国を監視するためのポストとしては、小笠原及び琉球は最も重要なポストである。それだから信託統治が必要だというのなら意味はわかる、しかし日本及びフイリピンにおける基地と同様の目的のために、小笠原及び沖縄を信託統治のもとに置くというりくつは納得が困難だと思う。それならば、今回の平和條約は和解と信頼の平和條約ということを連合国みずから言つておる。その和解と信頼の條約を結ぶ相手方たる日本に向つて、特に将来小笠原並びに沖繩群島を信託統治のもとに置くという必要はない。條約の効力発生と同時に日本に返還されることが、当然の成行きだと思うのであります。先ほど来吉田総理からも、ダレス氏その他において内々かような考え方もあるという話でありまして、私どもはそれを非常に心強く思うのでありますが、どうか政府においても、この問題のために最善の努力をしていただきたいと思います。今後とも最善の努力をしてもらいたいという理由はそのほかにもあります。御承知のように鬼界島、奄美大島は建国以来いまだかつて他国の手にあつた歴史を持たない土地である。われわれと同じ血をわけた人間が先祖代々住んでおる。その人々が永久に日本から離れなければならないという衝撃のため、今日仕事も手につかないで懊悩しておる。あの人たちの胸中はまことに察するに余りあります。それだから占領始まつて以来今日まで、間断なく陳情団を東京によこして、どうか永久に日本に残るように盡力をしていただきたいと切々訴えて来た。われわれも気持はわかります。むろん政府もおわかりになつておる。だが私が言わんとすることは、この気持をもつて、せめてあの人々に、本国の同胞は諸君のために最後まで努力したというその真心の一端を示したい。政府も政党も全力をあげて、最後まで努力したという跡を残しておきたい。それがせめて記録にでも残れば、あの人々に対するはなむけです。だから、政府はこの問題について今日までどれほど努力を拂われたか、それを伺つておきたいと思う。
  96. 吉田茂

    吉田国務大臣 交渉の内容は、ここにこうこうかくかくということを申すことはできませんが、しかしサンフランシスコの会議における私の演説の中にも、国民的感情に言及して、国民としてはこの領土を手放すことははなはだ遺憾に思うということを十分申したと思います。
  97. 芦田均

    ○芦田委員 遺憾ながら西南諸島百数十万の島民諸君は、ただいまの吉田総理大臣の御答弁だけでは納得が行かないだろうと思う。しかしこの上吉田総理にこの問題についてお尋ねをしようとは思いません。  次には中国との関係についてお尋ねをいたすのでありますが、中回との国交を回復するために、中国に、中共政府を相手に交渉をするのか、国民政府を相手に交渉をするのかということは、すでに本会議においてもしばしば質問が出て総理大臣はこれに応酬をしておられた。結局どちらを選ぶかということはまだ明瞭にされていないのであります。やむを得ず私もお尋ねをするのであります。しかしお答えはきわめて簡単でけつこう、中共政府を相手として條約を結ぶのか、国民政府を相手にするのか、お示し願いたい。
  98. 吉田茂

    吉田国務大臣 この問題は議会において説明いたしましたが、ただいま中共は御承知通り米国政府承認しておらない国であります。といつて国民政府英国承認しておらないところである。このいずれかを正統政府として認めるかは、連合国の間においても今日でも議がととのわなかつたのであります。その議のととのわない間に、また連合国としてはいずれの国を招請するとは言わず、連合国考え、権限圏内であつたが、しかしながら連合国の間に議がまとまらないために、選択権は日本にあるというふうに書いてあるのであります。その選択権はかりに日本にありとしても、これを行使するには、日本としては、列国の間の関係をよく考慮して、そうして決定をいたさなければならないのであります。ゆえにしばらく今後の推移を待つて決定をいたしたいと考えております。
  99. 芦田均

    ○芦田委員 ただいまの吉田総理大臣の答弁は、従来よりも一歩を進めた答弁でありまして、政府の意中はほぼ推察することができますが、一体今年の四月ロンドンで行われたダレス・モリソン会談において、中国平和條約に参加せしめる問題については合意に到達しなかつた。その結果妥協案として、中共、国府のいずれを選ぶかは日本の選択にまかせるということが、当時の会議のコミユニケで発表されたのでありまして、今度は日本が腹をきめる番になる。それならば日本独自の考えで決定してよろしいのであつて、イギリスやアメリカに教えられて日本態度をきめる必要は毛頭ない。そこで外国電報を読んでおると、アメリカ議会の空気は、日本国民政府平和條約を結ぶことが、対日講和條約の批准を円滑に行うのに役立つであろうと考えられている、こういうことが書いてある。アメリカの立場から申せば無理のないことです。何となれば、アメリカ日本とは実質的に軍事同盟を結ぼうというのです。進んで軍事同盟を結ぶ関係にある日本アメリカとの外日交方針が、同一の方針に協調されることを期待することは、常識から言つて当然だ。その空気はわかります。アメリカの空気に対して吉田総理大臣はどういうふうにお考えになるか、その点をお伺いいたします。
  100. 吉田茂

    吉田国務大臣 アメリカの空気については私も的確に知りませんが、いずれにしても米国政府から国民政府承認してもらいたいという交渉は出ておらないのであります。
  101. 芦田均

    ○芦田委員 同じように電報を引合いに出すので、うるさい感じを與えるかもしれませんが、九月二十二日にワシントンから来た電報にはこういうことが書いてある。国府、中共のいずれが日本と講和を結ぶかの問題については、一部のアメリカ評論家は、すでにこの問題に対してダレス国務省顧問は、日本政府から国民政府と講和するとの保障を得ておると伝えられている。また定員九十八名の上院議員の中で五十六名までが、日本中共の間に正式な外交関係を結ぶようなことには反対の意を表明する書簡に署名している。この事実は、もし日本中共とは講和しないという保障を與えなければ、アメリカ上院が條約の批准を與えることはむずかしいということだけははつきりしておる。こういう電報が九月二十三日に来ておる。しかしこれ以上アメリカの問題について総理大臣の答弁を煩わしませんが、今回日本講和條約並びに日米安全保障條約を調印してこれを批准する決心をしたことは、日本の進路が決定したということである。その論理的の結論として、日本アメリカと歩調を合せて、中国国民政府平和條約を結ぶ用意があると判断することは、決して無理ではありません。それだから十月十三日の電報によれば、ことに現在の計画によれば、日本国民政府との講和條約に関して、国務省の高官がそのあつせんのために東京に派遣されるということまで報じておる。だから吉田全権が今回の條約を受諾されたその瞬間から、日本の進むべき値ははつきりきまつた。自由国家群と抱きあつてこれから行こうというのでしよう。日本はルビコンを渡ろうというのでしよう。そしてアメリカ軍はただいま中共軍を向うにまわして血を流して戦つておる。それならば日本の行く道が一つしかないことは、常識の命ずる判断です。それにもかかわらず、吉田内閣が事ごとに明確な政策を示さず、そのときどきの思いつきで、右と言つたり左と答えたり、ほおかむりをして行こうということが、国民を惑わし、ひいては日本に対する諸外国の猜疑を招く原因をなしておると思う。ことに外交のことは正しい方向に向つて正々堂々と行きたい。われわれは筒井順慶のように洞ヶ峠に立てこもつて、結局何ものを得ないという態度には賛意を表することができません。敗戦国民であつても、出所進退は道理をふんで堂々と行きたいと思う。今回の中国に対する問題についても、私は吉田総理にこの点をとくと要望いたしたいと思います。  次に日米安全保障條約についての疑問を二、三お尋ねいたします。安全保障條約はわが国の将来にとつて講和條約と相並んできわめて重大な関係を持つものであります。しかしアメリカ側から見れば、対日講和條約よりも安全保障條約の方が重大であると考えるでしよう。その点はわれわれがよく頭に入れておく必要があると思う。安全保障條約の目標には二つある。第一はアメリカの陸海空軍が日本の全地域に基地を持つて、共同平和のために備えるということであり、第二は日本における内乱及び騒擾を鎭圧するために、日本政府の要請に応じて兵力を使用するということです。アメリカの兵力が日本に基地を持つて日本を守るということは、日本のための防衛であると同時に、アメリカの太平洋防備の第一線を固めるゆえんである。従つてそれが日本の利益であると同時に、また日本の協力がアメリカにとつても欠くべからざる條件となることは、アメリカ人もよく知つております。現に八月中旬のニューヨーク・タイムズの書いておる論文に、今度の対日條約はアメリカの安全保障に関する新しき政策の基盤であると言つておるのを見てもわかる。従つてこの安全保障條約は、ある程度まで日本アメリカとの間のギヴアンド・テークである。われわれはそれを隠す必要はないと思う。それならば、條約の書き方からしてがおのずから他にくふうがあるべきだつたと思う。この條約を読んでみると、徹頭徹尾日本アメリカに対して懇請した形ででき上つております。従つて日本には権利はないけれども義務がある。條約の前文を読むと、日本政府アメリカ政府に懇請したいんぎんな態度が、まるでテレビジヨンでながめるごとく目に映る。條約そのものがかような形ででき上つているのであるから、これに付随して結ばれる行政協定の交渉についても、国民の間に不安の念を抱く者あることは当然のことである。そこで安全保障條約の前文には、自衛権の行使として「日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。」と書いてある。これが日本から懇請した第一点。従つてここに自衛権並びに自衛戦争に関する問題が起らざるを得ないのであります。それがまたきわめて重大な問題である。この條約の規定を見ると、吉田総理日本が新憲法のもとにおいて自衛権を有するものとの見解に立つて、この條約をつくられたことは間違いありません。わざわざ念を押しお尋ねしなくても、これだけはつきりわかる。そこで私が明らかにいたしておきたいと思うことは、自衛権に関する吉田総理見解についてであります。私の今言わんとする点は、過日本会議において鈴木義男君が指摘せられた通りでありまして、一口で申せば、昭和二十一年の六月二十九日衆議院において憲法を審議している際に、吉田総理大臣は野坂參三君の質問に答えて自衛権を否認せられた。自衛権を否認するばかりでなく、自衛権を主張することはむしろ戦争を誘発するおそれあるものと答えておられる。これは吉田内閣が憲法草案を国会に提案され、その憲法草案を国会において審議したときの政府見解です。しかるに今回の條約を調印するにあたつて、自衛権に関する説が全然かわつた。そういうふうに憲法解釈がまことに静かに、世間に知られないうちにかわつてしまつた。これは自発的にそういう意見にかわられたのであるか。あるいはまた講話條約の草案を見て、これでは自衛権ありと言わざるを得ないというので憲法解釈がかわつたのか。これは日本憲法の解釈の文献としては相当意味のある記録であると思いますから、総理見解を伺つておきたいと思う。
  102. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答をいたしますが、まず第一の質問についてお答えをします。ダレス氏に対して国民政府承認するというような保証を與えたことはかつてありません。また先ほど申した通り、いずれの政府と講話條約を結ぶかということは、愼重審議いたした上で堂々と決定いたすつもりであります。自衛権の問題でありますが、今お読みになつたようなことを私が申した覚えはありませんが、なお速記録を調べます。私の当時言つたとと記憶しているのでは、しばしば自衛権の名前でもつて戦争が行われたということは申したと思いますが、自衛権を否認したというような非常識なことはないと思います。なお速記録を調べた上でお答えいたします。
  103. 芦田均

    ○芦田委員 吉田総理がわざわざ速記録をお調べくださるには及ばないと思います。事あまりにも顕著であつて総理自身を煩わすような問題ではないと思いますから、それほどお心添えをいただく必要はない。  日米安全保障條約の前文の末尾に、米国日本が直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため、漸進的にみずから責任をとることを期待する、と書いてある。防衛のためみずから責任をとるというのは、具体的に言えばどういうことをするのでありましようか、それをお伺いいたします。
  104. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは私がしばしば申す通り、まだただちに再軍備をするとか、独力でもつて国を守るとかいうために軍隊を持つことはできない。しかしながら一国の独立が他国によつて保護を受けるということは、国民の自主性がこれを許さないのみならず、国民としては決して承諾することができないから、国力がこれを許すならば、なるべく早く持つ決心で持ちたいと思いますが、しかしこれはただちにということはできないから、米国政府としては、私の所論によつて漸進的に、漸増的に日本がみずから責任をとることを期待するという考えを持つたわけであるのであります。
  105. 芦田均

    ○芦田委員 ちよつと私の質問が明白でなかつたせいかと思いますが、主としてお伺いしたのは、みずから責任を負うというのは、具体的に申せばどういうことをすれば責任を負うことになるのかという点をお尋ねしたわけであります。
  106. 吉田茂

    吉田国務大臣 それは日本独立はみずから守る、責任をとるという意味合いに私は了解します。
  107. 芦田均

    ○芦田委員 それならば例を引いてお尋ねをいたしたいと思うのですが、ダレス氏と吉田総理との本年四月の会談の内容について、ジヨン・フオスターダレス氏がUSニューズ・アンド。ワールド・レポートのフロムという記者に話をした内容が、本年四月二十九日のワールド・レポートに出ておる。そのダレス氏の談話の大要を簡単でありますから読みますが、こういうことが書いてある。「私が吉田総理との会談の際に指摘したように、ヴアンデンバーグ決議によるアメリカの政策のもとにおいては、いかなる国といえどもヴアンデンバーグ決議の、いわゆる効果的、継続的な自衛と軍事協力を行うことなしに、漠然と安全保障の上にただ乗りすることは許されない。従つて日本人は、われわれの措置が日本が軍事協力と自衛をなし得るに至るまでの暫定的な協定として行われると考えるべきである。吉田総理は会談の際、この方針を認め、かつ日本人が自衛のための義務を盡すべきこと、日本が自由世界の自由な一環たる地位に復帰すると同時に日本政府はその領土を防衛するために日本の負うべき役割について討議すべきことを言明した。」と言つておる。この談話はおそらく真実であろうと思います。本年四月ダレス氏との会談のとき、吉田総理日本国民アメリカ軍隊が日本に駐屯することを希望する旨の書面をダレス氏に送られ、ダレス氏はその書面をアメリカで見せております。そういう関係で話をされたのであるから、ダレス氏の報告はおそらく真実であろうと思う。そこで吉田総理はダレス氏に対して、日本はやがて軍事協力をなすべしとこのときに約束されておる。ダレス氏に対してそういう約束を與えておきながら、国内に向つて軍備はしない、あるいは軍備をすることは憲法違反だとしばしば述べておられる。現に昨年十二月二十八日内閣記者団との会談において言われたことは、再軍備などは口にすべきことではない。憲法の精神からいつても、その規定に反する問題を取上ぐべきでないと話しておられる。これは日本全国の新聞にちやんとその通り出ておる。しかしダレスさんに向つては軍事協力はする、こう言われておる。一体軍事協力というのはどういうことですか。読んで字のごとく軍事的の協力をするということです。そうすると軍備は持たないが、しかし軍事協力はする、こういうことになるのであります。文字通りに見れば、どうしても矛盾撞着といわざるを得ない。そういうことまで私の口から吉田総理にお尋ねすることは、私情としてはあまりうれしくありませんが、国会を通じて国民の聞かんとするところをお尋ねしておるのにすぎないのでありますから、どうか率直にお答えを願いたい。
  108. 吉田茂

    吉田国務大臣 どうぞ御遠慮なくお尋ね願いたいと思います。ダレス氏と軍事協力の話をしたことは私は記憶はないのであります。はつきり申し上げます。但し日本としてはいつまでも外国の力によつて独立を保護せられるということは、日本国民のプライドが許さないということはしばしば申しております。また日本の憲法は戦争放棄をいたしておりますが、この戦争放棄の條項は、芦田君も御承知通り、いろいろの考慮のもとに遂にこの結論に達したのであります。ゆえに軽々しく日本憲法の精神に反し、また憲法を放棄するものではないということは、いまなお考えております。ゆえに日本の国力の許す場合には、いかにして日本独立を保護するか、これは自力で保護いたさなければならない。これも憲法の精神をなるべく遵守して行きたいという考えをいまなお持つておるのであります。従つてダレス氏に軍事協定を約束したということがもしあれば、お話通り矛盾でありますが、そういう話をいたした記憶は、ごうもないのであります。
  109. 芦田均

    ○芦田委員 ただいまの御答弁といい、先ほどの衆議院速記録の問題といい、いつも例を引く方が間違つておるような立場に追い込まれるのでありますが、(笑声)これは他日また明らかにする機会が必ずあると思いますから、この際かれこれとは申しません。吉田総理大臣はしばしば、そして現にただいまも、自分の国の防衛は国民の手でやるのだ、そうしなくてはならないということを言われた。ではどうして防衛するのかと聞くと、軍備はしないと言われる。それだから国民が迷うのです。自力で国を防衛すると政府は言つておるが、何で守るのだろう、鉄柵をかついでいる兵隊は一人もないのではないか。どうして守れるのか、力の入れどころがないと考える。それであるから、総理大臣がそのときどきの思いつきで言を左右にされることが、いかに国民に対して混迷を與えるかをお考え願いたい。吉田総理大臣の憲法解釈が特に重大な影響を與えるといううしとは、これは明白です。吉田総理大臣は新憲法の起草に関係された政治家である。これを国会に提案された責任者である。従つてその解釈が、学界においても、また一般国民の間においても、相当権威ある解釈として重視せられることは当然であります。しかるに時に応じ、所に従つて解釈がかわる。これをそばから見ておると、軍備を持てと言うものに向つては、憲法に反するではないかと言われ、條約に自衛の問題が出て来ると、これは憲法には序しないと答えられる。実に融通無碍、その柔軟性には敬意を表しますけれども、これは国民を迷わせる。それをお考え願いたいと思う。  次に安全保障條約第三條についてお尋ねします。これはきわめて短かい條文でありまして、「アメリカ合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する條件は、両政府間の行政協定で決定する。」と書いてある。この文字はきわめて明白であります。ところがこの行政協定は、国家主権にも、人民の権利義務にも関係が深い問題である。従つて国民が、できるならば詳細に内容を知りたいとこいねがつておることは、決して無理でないと思う。しかるに政府は、行政協定は目下交渉中であるから何も言えない、内閣がしかるべくやるから、国会としては、黙つて條約を通してもぢいたい、こう言われるのです。むろん今朝の委員会において大橋法務総裁から述べられた法理論、これについては私は今ここで取上げて議論はいたしません。かりに政府の言われる通り、この條約案を議会が承認するならば、これに付随する行政協定内容が何であろうとも、行政協定としての効果を生ずる。なるほどこれも一応のりくつでしよう。かりにそのりくつでいいとします。それだから問題がある。たとえば法律案を国会が審議します。この法律の中に命令に委任した事項がある。そうすれば、その委任事項内容がいかなるものであるかということを、提案者から国会に示されなければ、法案の審議は進みますまい。進まないのがあたりまえである。中身は何だかわからぬが、とにかく條約案を通せ、こう言われる。それは純理からいつても、また今日までの長い議会政治の常道からいつても、まつたく無理です。これは無理だから、私は吉田総理にお勤めします。多分外務省では行政協定の案ができておる。條約局長のポケツトを探してみてください。むろん行政協定内容は、しろうとにだつて想像のできる程度のものに違いない。だから政府は率直に大体のことをお話しになるのがいいと思う。そうすれば国民も安心します。国会の審議もよけいな議論のやりとりをしないで、するする進むのです。この際淡白に、大体こういう内容だということを御説明になるお気持はありませんか。
  110. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをいたしますが、兵力を持たない無防備の状態にあるから、安全保障條約を結んで、独立を暫定的に保護しようというのが、この安全保障條約の趣意であります。この考えは、私の軍備をただちに持つことができないという議論とは矛盾しておらないのみならず、相表裏いたしておるのであります。従つてそのときどきの気持で言を左右にいたしておるこどがないことを御承知願いたいと思う。  また行政協定の問題については、これはしばしば申しております通り、サンフランシスコにおいては、安全保障條約の趣意だけがきまつたのであります。すなわち日本独立をどうして保護するか、真空状態に置くということは許すべからざることであつてすでに独立を得た以上は、どうしてその独立を保護するか、すなわち安全保障條約の趣意で保護しよう、この趣意を認めるか、認めないかを、この国会で審議していただく趣意であります。その安全保障條約の趣意が認められたところで、その原則のもとにいかにこれが施行細則をきめるかというのが、行政協定であります。この行政協定はしばしば申す通り安全保障條約は、わずかに講和條約ができたその翌日に締結せられたのであつて行政協定まで入るいとまがなかつたから、当時は遂に協定するに至らなかつたのであります。これから協定いたすのであります。ないからないと申すのであります。多分條約局長のポケツトをお調べになつてもまだないと思います。これははつきり申し上げます。
  111. 芦田均

    ○芦田委員 私は政府行政協定内容にそんなにかたくなられる気持が実はわかりません。どうしてこの問題をそれほど秘密だとか、わからないとか言つて、お隠しになるか。たとえばフイリピンとアメリカとの間に、一九四七年三月二十一日に調印した軍事基地に関する協定というものがあつて、これは外務省の條約集の中にちやんとはさんであります。だから今度の日本アメリカとの間の行政協定も、大体の骨子はこういうものに準拠してつくられるに相違ない。また総理は、條約を調印してすぐ引上げて来たから、向うの気持もわからないと言われますけれども、こういう例はたくさんあるのですから、わざわざアメリカの国務長官にお聞きにならなくとも、すぐわかる。相手と話をしてみなければわからないとおつしやるが、話をするまでに、政府方針というものがあるはずです。何も案がなしに、アメリカさんのところに話に行くというわけのものではありません。日本としては、かようかくかくの案で話合いを進めたいという、こちらの案があるべきである。そういう案は一晩のうちにだつて考えられます。條約局の部長か何かにつくれと言われれば、一晩で案ができます。もうおそらくできておると思いますが、大臣には隠しておる。だから先日鈴木義男君が本会議の席上で、行政協定内容は大体こういうものだろうと言つた。しろうとにだつて、大体想像がつくのです。基地を許すことの規定、軍事基地をどうして管理する、関税その他の税の免除をどうする、演習用地をどうする、米軍の要員に対する裁判権をどうする、交通機関の利用はどうする、防衛軍の経費はどうして計算する等等大体筋はわかつております。どれを見たつて秘密にわたることは一つつてありません。軍の機密に関することを行政協定できめるなどという間拔けな軍人はあるものじやない。その間何にも秘密はありません。だからこの問題に対する政府の構想を国会にお示しになつて、相手国が迷惑するようなことは一つつてありません。きわめて簡単なことです。議員もこの節は甘いのですから、政府がしかるべくお話になれば、それで納得します。新聞も国民もそれで納得するのだから、大体こういう問題をこういう内容できめたいと思つていると、この席であなたがお話になれば、この問題はそれで解決するのです。それは今でなくともよろしい。明日でもけつこうです。この際率直にお話になる気持はありませんか。
  112. 吉田茂

    吉田国務大臣 政府が隠すのははなはだおかしいとおつしやるが、今お話のようなものであるならば、さほどしつこくお尋ねにならぬでもよいじやないかと思います。政府としては決して隠す考えではない。しばしば申す通り、これが予算の形になれば、予算でもつて国会の協賛を経る。法律規定を必要とする場合には、法律の協賛を求める。決して秘密に隠すとか、隠さないとか申しているのではありません。むろん国会の協賛を経るつもりでおります。しかしながら、ないからないと申す。まだできておらないからできておらないと申すのであります。芦田外務大臣当時は、下僚は外務大臣に隠したことがあるかもしれませんが、今日の下僚はまことに正直な下僚でありまして、大臣に隠すようなことはありません。(笑声)
  113. 芦田均

    ○芦田委員 ただいまの総理大臣のお言葉の中に、それほど重大でなければしつこく聞かなくてもいいじやないかというお話がありました。それは国会の審議としてはそうは行きません。たとい一円の税金でも、税金は税金です。一円くらいの税金だから、納めなくてもいいと言つたら、池田大蔵大臣は何と言いますか。(笑声)国会が條約や法律審議するときに、その内容となる命令、あるいは昔でいえば勅令、それは必ず国会に出して、内容を説明して通した。それでなければ、立法審議の立場が立ちませんよ。事は重大でなさそうだから、この点は目をつぶつて通してもいい、それでは立法府の職責を全うすることができない。一体政府は国会というものをどういうふうに考えておられるのか。国会の審議というものがこんなふうでいいとお考えになつているのか。いずれにしても現在のごとき態度は、国家のためにも、また吉田総理大臣のためにも、私は非常に遺憾だと思う。  次に、この條約にある自衛力と憲法の問題を簡單にお伺いします。憲法第九條、すなわち戦争放棄の規定については解釈が三つあるということは、吉田総理大臣もおそらく御承知になつておりましよう。そして憲法審議の国会においては、私の持つている速記録によれば、吉田総理日本に自衛権がたいという答弁をしておられる。その後軍備を行うには憲法を改正しなければならないという意見も発表しておられる。そうなれば日本安全保障條約は、疑いもなく、憲法違反です。條約の前文によれば、日本国は、その防衛のための暫定的措置として、外国軍隊が日本国内に駐屯することを希望している。これは明らかに日本防衛のために侵入軍と戦う。戦争を予想している。日本もまたこれに協力することを予想している。従つて実質的に日本が侵略軍と交戦関係に入るということなのだから、明らかに憲法違反である。これはかつて吉田総理大臣の憲法解釈によればというのですよ。そういう状態を予想した條約は、明らかに憲法第九條に抵触すると思います。しかし吉田総理大臣はいやそうじやない、これは憲法に抵触しないと言われる。それならば、憲法解釈がかわつたのだからまあそれでもよろしい。  そこでその次に、つい先ほどの御答弁にも、軍備を持つことは憲法にさしつかえるようなお話があつたが、アメリカ軍と協力して自衛のために戦うことが憲法に反しないとするならば、日本みずから自衛兵力を維持することも、憲法に反しないといわなければならない。しかし今日となつては、憲法を改正しなくとも実行上さしつかえがないと吉田総理大臣が考えられるならば、それは吉田総理大臣の格段の進歩でありまして、おそまきながらそこに気がおつきになつたことは祝福いたします。しかし無條件じやありません。これはあとでもう一度お伺いいたします。  安全保障條約の規定の申で一瞬国民が関心を持つている点は、次の点です。安全保障條約第一條には、アメリカの駐屯軍は、日本国における大規模の内乱及び騒擾を鎮圧するため、日本国政府の要請に応じて行動することが定めてある。現在の政府は国内の治安維持に自信が持てないから、こういう方法アメリカに懇請したのだと思います。日本が国内治安の維持のために、外国軍隊によらなければならない状態にあるということは、これは重大問題です。ほんとうにそうであるならば、表面はいかに独立国であるといつても、実質においてはいつまでも保護国の地位に残るということです。われわれはかような状態を一日もすみやかに脱却したいと思う。自主独立の念に燃えた民族であるならば、それが当然の念願でありましよう。総理大臣もおそらくかような日本の現状は、つくづく情ないと考えておられるに相違ありません。それはどうですか。
  114. 吉田茂

    吉田国務大臣 むろん日本の治安は、現在の警察力その他でもつて維持できると確信いたします。しかしながら、朝鮮のような事態もあるので、外国の教唆といいますか、外国のしり押しによつて治安が乱される場合も今日あるのでありますから、万一の場合のそういう事態には—駐屯兵を使うということはいろいろ議論があるが、いつ何どき起らぬとも限らぬ。その万一の場合に対して規定しているのです。ゆえに現在の問題としていたしているのではありません。現在朝鮮事件のごとき事変を目の前にして、あらゆる場合を考えなければならぬのに、一方日本の国力は十分回復いたしておりませんから、外国の刺激による、あるいは教唆による内乱等は起らぬとも限らないのみならず、現に地方の暴動といいますか、デモンストレーシヨンとか何とかいうような問題が、外国の教唆によつて生じた場合もあるのであります。かくのごとき事態がある以上は、すべての場合を考え規定を置くということは、決して不用意なことではないと考えております。
  115. 芦田均

    ○芦田委員 もし総理大臣が今説明されたような事態に備えるという意味であるならば、外国の軍隊の助けを借りることを考える前に、日本人自身がどうすべきかをお考えになる方が先だと私は思う。自分の国の秩序を維持するに必要な実力を備えるのは、独立した民族としては、当然の責任じやありませんか。それに対して必要な経費が出せないから、外国の兵隊さんを頼んで来て国内秩序の維持をしてもらう。外国の兵隊さんの力にすがつて国内の秩序を維持するというがごときことが、はたして吉田総理大臣が好んで口にされる、民族の自負心が許さないという気持と矛盾しないのだろうか。なるほど今の日本は経済自立さえも困難であります。国民は重税に苦しんでおる。しかし広く世界を見渡して、独立国の看板を掲げておる国で、内乱の鎮定を外国の軍隊の手にまかせたという例が一つでもありましようか。たとえばかつて満洲国との間に、日本は日満議定書というものをつくつた。あれをごらんになればわかる。またフイリピンとアメリカとの間に防衛協定というものができておる。しかし二つとも、この日米安全條約ほどに外国の軍隊の力にぶら下つちやおりません。今回の條約に規定するような例が一体どこの歴史にあつたか。もしあるという人があつたら、私は教えていただきたいと思う。そういう例はありません。私どもが憂えることは、外国に依存する程度が深くなればなるほど、国の自主権は失われるということです。しかもこの條約に期限はついておりません。政治の実際の勢力として、国内の治安維持まで外国の勢力に依存するという国が、どうして政治の独立性などを期待することができるだろうか。この点を私は心配するのです。だから、かりに自衛の方法を立てるために一年、二年の時間がかかつて、それが必要であるならば條約に期限をつけて、その間に外国の軍隊を煩わさないでも、国内の治安が維持できるような手段を盡すべきでしよう。その計画が政府になくちやならない。私はそう思う。そういう計画を何も持たない、ただいちずに外国兵力によつて国内の秩序を維持するのだ、(「賢明な方法だ」と呼ぶ者あり)こういう賢明な方法は、国民すべての納得しないところです。  ところが、国内治安の維持をはかる上において、一つ重要な点がある。秩序維持に確信が持てないという最大の原因は何であるか。警察の背景となるべき軍隊がいないということです。  たとえば米一騒動のことをお考えになればわかる。米騒動は、何ら計画を持たない一部人民の起した暴動です。その米騒動は日本の警察力では鎭圧することができなかつた。兵隊さんが鉄砲をかついで町の中に出たときに、初めて米騒動はぴたつととまつたのである。われわれの兵隊さんだ、われわれから出しておる兵隊さんだと思うから、警察官に向つて石を投げた人間でも、兵隊さんを見れば、そばに寄つて肩をたたく。     〔「米を食わした方が早いぞ」と呼び、その他発言する者あり〕
  116. 田中萬逸

    田中委員長 静粛に。
  117. 芦田均

    ○芦田委員 背後に軍隊を持たない警察力というものが、大衆的の暴動に対して威力がないということは、試験済みです。今まではなるほど占領下であつたから、軍隊を持つことはできなかつた。しかし條約ができれば、独立国になるのでしよう。その際に何を一番先に政府がやるべきか。軍隊に関する計画を立てて今後一定の期間の後には、国内の秩序の維持に確信が持てるような方策を、国会とともに審議する。これが本條約批准とともに、政府のなすべき二大責任だと私は思うのです。賢明なる吉田総理がどうしてこれだけのりくつがおわりにならぬのだろう、私は実にふしぎに思う。(「予備隊がある」と呼ぶ者あり)  そこで予備隊のことをお尋ねいたします。警察予備隊というものは、本来警察力であつて、これは軍隊じやありません。それだけのことはだれも認める。しかし警察予備隊があるから軍隊は必要がないという考え方は、これは誤りである。ところが今の内閣は、警察予備隊を強化すれば、軍隊の代用品に使えるとでも考えておるように見える。もしそうだとすれば、これはきわめて危険な考えである。政府はそういうふうに考えておられるのか、おられないのか、お伺いいたします。
  118. 吉田茂

    吉田国務大臣 国内の治安を特にアメリカによるように断ぜられて、いろいろお話でありますが、安全保障條約の第一條にも、こう書いてあるのであります。「極東における国際の平和と安全の維持に寄與し、並びに、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じようを鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じて與えられる援助」云々と書いてあります。この條約の由来するところは、大西洋パクトにも先例があるので、これは條約局長から御説明をいたさせます。
  119. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 芦田委員から御指摘になりました第一條の規定、第三回の教唆または干渉に基く大規模の内乱または擾乱の際に駐屯軍の援助を受けることは、従来の外交史上または国際條約上の先例がないように思うという御意見でございました。この條項が入りましたのは、ノース・アトランテイツク・パクトの第五條でありますが、その第五條によりますと、一締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する武力攻撃とみなしまして、兵力行使を含むその他の適当な措置をとつて相助けるという規定になつております。この武力攻撃の意義に関しまして、アチソン国務長官が、この條約が締結公表されましたあと、ここにいう武力攻撃の中には、第三国の干渉または教唆に基く大規模の内乱または騒擾を含むものであるという、締結国間の有権的解釈を公表されたのであります。それから出ましてこの第一條の條文となりました。決して先例のないことではございません。
  120. 芦田均

    ○芦田委員 ただいま條約局長からいろいろお話で、私もなお研究をしますが、北大西洋條約のできた趣旨というものは、日本が占領状態に引続いて、駐屯軍を残すということとは初めから事情が違います。北大西洋同盟諸国が、一国に対する攻撃は、同盟国全部に対する攻撃と考える。これはしばしばある例であれ、ます。もし外部からの攻撃であれば、日本といえども必ずアメリカは全力をあげて日本を守るに違いない。私の言うのは、この條約文は英文とは違う。大規模の内乱とここに書いてあるけれどもアメリカの原文と翻訳文とは必ずしもぴつたり合つてはおりません。もし新制中学の入学試験の問題にこんな答案をお出しになつたら落第ですよ。(笑声)翻訳が違つておる。ここではそういう大規模の共同防衛のようなことを言つておるのじやない。ライオツト・アンド・デイスターバンセスという字が使つてある。そうなるともつと小さな、東京の下町で起つた米騒動だつて、ちやんとこの條文の適用ができるように英文にはできておる。翻訳のこまかいことまで私は言いたくありませんが、今の御説明は必ずしも当てはまつておらぬのです。  私はさらにもう一つお尋ねをしなければならぬことがある。ただいま総理大臣に向つて、現在の政府軍備を持つかわりに、警察予備隊を増強して間に合せに使うのだという考えがあるのかないのかというお尋ねをしたが、首相は机の前に来られるまでにこの質問をお忘れになつたものと見えて、お答えがなかつた。あとで一緒にお答えを願えばよろしい。日本には軍備がない今日であるから、警察予備隊は必要な存在でありましよう。しかし軍隊の組織ができれば、今の警察予備隊というものは必要ではない。あの費用を軍の組織の方に養わせる。それだからといつて、警察予備隊と軍隊とが同一のものであるとは言えません。どこの国でも軍隊には建軍の精神があり、警察には警察の魂がある。われわれは祖国防衛のために、日本の伝統に生きる軍隊が必要だということを言うのだ。国民の多数またそう考えております。増原予備隊長官が十月十一日に新聞記者団と会見して、こういうことを言つておられる。これは十月十二日の夕刊新聞にはみな出ております。警察予備隊は今まで騎銃と機関銃による訓練を行つていたが、最近口径六十ミリの迫撃砲、小型ロケット砲が配付せられ、これに、よる訓練がすでに行われていると、だれはばかるところもなく、公々然と話しておられる、そこで警察予備隊は明らかに近代的武器で装備を施しておることがわかる。武器ばかりではありません。警察予備隊は一定の指揮官のもとに隊伍を組んで訓練を行つておる。そうなると、軍とは何ぞやという問題が起らざるを得ません。警察予備隊は明らかに軍の形を備えている。政府はどういう考えであるか知らないけれども、軍という名を用いさえしなければ、武器を携え、隊伍を組んで指揮官のもとに行動しておる集団であつても、それは軍隊ではないと議会で答えておる。私は警察予備隊が悪いとか、武装をすることがけしからぬとかいう議論ではないんですよ。なぜ政府国民を納得させる堂々たる方法で、公明正大にやらないかと言うのである。国家の大局から見て、軍隊が必要ならば軍隊をつくるがいいじやないか。憲法を改正しなければ軍備ができないというならば、憲法を改正すればいいじやないか。が万が一にも憲法をもぐつて日陰一者のような軍隊をつくろうということであれば、われわれはとうてい賛成することはできません。吉田総理は一体いつになつたら日本軍備を持つことができるというお考えであるのか、いつになつたら、少くとも日本の国内の秩序を維持する程度の軍隊ができるとお考えになつておるか、一応その点をお伺いいたします。
  121. 大橋武夫

    大橋国務大臣 芦田委員の仰せられましたごとく、かつての米騒動の際におきまして、警察力の背後にあつて当時のわが国の軍隊がその背景をなし、これが治安の確保の有力な原因をなしたと言われました点につきましては、これはまつたく同感に存じます。かような場合におきまして、かつて軍隊が国内の治安に関して警察の補助的な役割を演じておつた、その役割をもつぱら目的として設けられたものが今日の警察予備隊であるわけでございます。従いまして、これはもつぱら外国との交戦のための軍事力を組織するという目的のために設けられた軍の代用と目すべきものではなく、むしろ従来軍が国内治安のために補助的に與えられておりましたところの本来の目的と申しますよりは、そのかたわら代用の役割を果しておつた国内治安のための警察力の補助とする、そのことをもつぱらの目的として警察予備隊が今日できて来ておるわけであります。この警察予備隊の装備につきましては、増原長富が新聞記者に言明いたしましたように装備をいたし、また訓練をいたしておるのでございますが、これは政府といたしましては、軍備を持つことはできないから、それぞれ日陰の形において、かような変態的な方法で持とうという意図は全然ないわけでございます。おつしやいましたごとく、かりに今日軍備日本として持つべきであるということでありますならば、これは仰せのごとくさような日陰の状態において、こそこそ隠れてすべきものではない、むしろ法律上の、憲法改正その他必要な手段を講じた上で、堂々といたすべきものであることは申すまでもないのであります。今日、警察予備隊を現在のような状況において維持して去りますということは、ひつきようわが国の現在の実情といたしまして、今日軍備を持たないということがむしろいいのであつて、国内治安のためのかような警察予備隊の強化育成をはかつて行くということが、今日の段階においては必要なことで、ある。こういう考えのもとにこれをいたしておるわけであります。
  122. 芦田均

    ○芦田委員 総理に、いつごろになつたら日本軍備を持つことができるお考えかということを先ほどお尋ねしたのでありますが、お答えがありましようか。
  123. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えをいたします。これは国力の回復が第一でありますが、さらにまた日本に対して、軍用主義の復興であるとか、あるいは国家主義の復興であるとか、あるいは再び日本が軍隊でもつて進撃的態度に出るのではないかというような疑惑、恐騰は、まだアジア、極東においては持つておるのでありますが、他の国においてもその疑惑、恐怖がなおあるのであります。外国が日本の平和主義あるいは民主主義の確立というような事実を十分認めたときに軍備をするということも一つ方法でありましよう。これは国際的の考えからでありますが、国内的から申しても、さらに軍備をするために重税を課するということは、国民の負担に耐えないことでありますし、かたがた今はその時期にあらずと考えておるわけであります。
  124. 芦田均

    ○芦田委員 ただいまの総理大臣の御意見に対して、不幸にして私は同意を表することができないのであります。安全保障條約の前文においても、日本が直接及び間接の侵略に対する防衛のために実力を持つということがはつきり書いてあるのです。  この場合における自衛力というのは警察予備隊ばかりじやありません。独立国としてりつぱに他国の侵略に対しても防衛するだけの実力を持つ力だということは、この條文の文面から見て間違いありません。そういう條約を今審議しておる最中に、外国の猜疑心を招くおそれがあるから軍備はやらないと言われる。しかしアメリカの輿論はあげて日本軍備賛成です。そればかりではない、ソ連でさえも日本軍備をこれだけ持てといつて案を出しておるじやありませんか。日本の自衛のためにある程度の武力を持つ必要は、どこの国もみんな認めておる。インドのネールもそう言つています。濠州政府つてそう言つておる。フイリピンだつてやはりある程度の自衛力は必要だと認めておる。中共の話は聞きませんが、ソ連は少くも日本軍備を明らかに認めておる。そこで日本は税金がこの上増せないから軍備は困難だと言われる。なるほど今日の日本の税は重い。しかしフイリピンだつて軍隊は持つております。李承晩政府も軍隊を持つています。日本の生活水準と朝鮮の水準と比べてみて、日本の方がはるかに生活水準が低いというりくつは立ちますまい。それだから先ほどもつたのです。どうすれば租税負担を加重することなしに、日本はある程度の軍備をすることができるか。アメリカに軍事援助法というものがあつて、共産勢力に対抗してアメリカと提携する国には、武器援助法の形でもつて武器は貸しておる。世間周知のごとく、来年度のアメリカの予箕には七十四億九千万ドルという対外援助費がとつてつて、その大部分は軍事捜助であります。いかに大蔵大臣がアメリカに行つて経済援助の金を出してくれ、外資導入をしたいと言つてアメリカはなかなか耳をふさいで聞かない。アメリカ国内の風潮がかわつておるのです。経済援助から軍事援助の形にアメリカは切りかえた。それだからマーシヤル・プランは一九五二年でやめるけれども、そのかわりに軍事援助の予算はうんと出しておる。その傾向はだれにだつてわかつておる。政府アメリカに行つてたたく戸口を間違えておるのです。軍事援助法の片口をたたけば響きがあつたものを、そろそろ戸を締めかかつおる経済援助の戸をたたくから明きし上ません。これはわかり切つた話だ。ごらんなさい、アメリカはイギリスにも、フランスにも、ギリシヤも、トルコにも、ベルギーにも、オランダにも、蒋介石政府にも、みんな軍事援助をやつておるでしよう。共産主義勢力に拮抗する盟邦として、日本が蒋介石政府やトルコより劣つておるとは思えません。その立場をとる日本国に対してのみ、どういうわけでアメリカは軍事援助法による援助を與えないのであるか、そういうことを吉田全権はアメリカに行かれたときに、質問をされる機会があつたかどうかわかりませんが、それは結局自分軍備をしないからです。これは非常に遺憾なことだと思う。そうすれば日本の負担を非常に軽くして日本の軍を建設することができるのです。その点を一たびも考えないで、税がこの上とれないから軍備はできない、経済的実力がないから軍備はできないという一本やりの方針では、国民が納得すまい、私はそう思う。  なおお尋ねしたいことがありますけれども、時間の関係もありますから、これ以上この席を占めることはいたしません。以上平和條約並びに日米安全保障條約に関する諸点について政府所見をただしたのでありますが、不幸にして政府答弁は私どもを満足させるに至らなかつた。この際最後に一言政府に要望しておきたいことがあります。  現内閣は世界情勢の見通しについていつも甘い観測を下しておる。アメリカ、ヨーロツパの政治家とは根底から波長が合わないのです。去年の秋ごろ、政府朝鮮戦争は三箇月で済むと言われたでしよう。中共軍は絶対に朝鮮事変には介入して来ないと政府が言つたそのあくる日に、中共軍が出て来た。そういう見込み違いが次から次に出ておる。しかし今度吉田総理アメリカに渡つて親しく空気を見て来られたのでありますから、その感覚もよほど是正されたろうと思つてつた。にもかかわらず、いろいろ翼の論議を通じて意見を聞いてみると、今でもほんとうに日本の周囲に押し寄せておる危険な状態が十分おなかの中に入つていないのではないかと思われる。何といつたつて、今日本の周囲はたいへんな暴風雨です。その中に立つて政府は目先の行政事務と選挙対策とに忙殺せられていて平和世界の建設とか、祖国再建の基本的な施策についても、不幸にして理想の片鱗だも示されておりません。前途に対するヴイジヨンに至つてはただの一つもない。先のことを聞けば、いつも先のことはわからないと葬られてしまう。それだから口さがないともがらは、今の日本には行政があつて政治がないなどと言う。なるほど平和條約案の説明のときにも、條約調印後の報告演説に際しても、総理大臣の演説は事務的説明に終始しておつて、この千載一遇の機会において全国民を感激させるような片言隻句も聞くことができなかつた。歴史未曽有の條約審議を前にして、国民吉田総理大臣の衷心の叫びに耳を傾けようと待望しておるのである。それにもかかわらず、今日までの政府の説明は、国民大衆に多くの失望を與えたにすぎなかつた。すでに平和條約が調印された今日、政府は自主独往の見地から、日本将来のあり方について明確な繰締を内外にお示しになる必要があります。ところが現状はどうです。国内には思想的の分裂、経済の混乱、政治的な空白状態、どこを探しても興国の気魂を見出すことができないのが実情でしよう。この沈滞した空気を打破して民族の自信をとりもどす仕事、これが吉田総理大臣に課せられた任務です。今回の條約審議に際しての政府態度を見てわれわれが遺憾に思うことは、確固たる信念の上に立つて民族の運命を切り開こうとする情熱に欠けておるということです。吉田総理の—理想もしありとすれば、その理想を実現せんとする気魂、それを国民は目撃することを待望しておる。ところが政府は常に遅疑逡巡している、腰がすわらない。それがために、内は国民をして適用するところに迷わしめ、外は諸外国の猜疑を拓くような納果となる。いやしくも八千万の民族をして、独立民族たる自覚に奮い立たせようとするならば、政治指導者が毅然たる態度を持つて国民の先頭に旗を振る気魂をお示しになる必要があると思う。現在わが国が当面する難局を前にして、私は一層その感を深くする次第であります。(拍手)
  125. 田中萬逸

    田中委員長 西村榮一君。
  126. 西村榮一

    西村(榮)委員 本朝来同僚議員によつて多くの質問が行われたのでありますが、私はその重複を避けまして、本條約の重要なる部門につきまして、要点だけ拾つて総理大臣に御質問いたすのであります。申し上げるまでもなく、本條約の審議はただいま芦田さんからお述べになつたように、きわめて歴史的な審議でありまするので、こいねがわくは総理大臣の率直なる御答弁を私は要請してやまないのであります。  まず第一にお尋ねいたしたいと思いますることは、わが国の領土の問題に相関連いたしまして今日巷間伝えられておるところのいわゆるヤルタ秘密協定というものは、一体わが国が領土の條項を決定する上において拘束を受けるのであるかどうか。これはしばしば問題になりまして、アメリカにおいても、この問題については多くの反対の議論がございます。特にルーズヴエルト大統領の死んだ後、彼の日誌を見てみましても、このヤルタ協定は明らかに失敗であるということがその日誌の中に残されておるのであります。アメリカにおいても、これには反対いたしておりますし、また終戦以来六年の間、わが国はこのヤルタ協定の存在について、どこからも公式な通告を受けておらぬのであります。従つて私は、このヤルタ協定拘束はわが国は受けない、こう考えておるのでありますが、総理大臣の御見解はいかがでありましようか。
  127. 吉田茂

    吉田国務大臣 私もそう考えております。日本国は、署名国でありませんから、ヤルタ協定の束縛は受けないと思います。
  128. 西村榮一

    西村(榮)委員 ただいまの総理大臣の御答弁によつて、ヤルタ協定拘束を受けぬということが明確になりました。しかるにこのヤルタ協定に基いて、ソビエトは千島と南樺太の占有をいたしております。これはわが国も、かつまた列国も承認せざるところであります。従つて本朝の自由党の同僚の御質問の中に、色丹、歯舞に向つて国際司法裁判所に提起するかどうかということがあつたのでありますが、私はヤルタ協定拘束を受けない上からは、千島、樺太も当然日本の領土権を主張してもいいのではないか、従つてその紛争解決の手段として国際司法裁判所に提起しなければならないと思うのですが、吉田総理大臣はその運びをなさる御意思があるかどうか。
  129. 吉田茂

    吉田国務大臣 千島、樺太等は條約にあります通り日本としては主権及び権原を放棄したのであります。従つてその処分について日本は今日容喙をする権利はないと思います。
  130. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は、ヤルタ協定拘束を受けないのにかかわらず、この二つの領土権を放棄したということについては非常に予盾を感ずるものでありますが、しかしそれは別の機会においてその問題の解決に当りたいと思つております。  次にお開きしたのは、先ほど芦田さんからも御質問がありましたが、沖縄と小笠原の信託統治の問題であります。これはもうたれが申しても明らかな通り、大西洋憲章の趣旨に従つても、あるいはその他の諸條約に従いましても、これはアメリカが信託統治をするということは、どこにも法律的な根拠を発見いたさないのであります。特に本会議において、これを信託統治にするという主張の根拠は、軍事上の必要である、こういうふうな御説明を総理大臣はなすつておる。先ほど芦田さんは、別な角度からこれを取上げられておつたのであります。それならば何も信託統治にする必要はない、少くとも国連憲章が定めておる信託統治の概念というものは、後進国を開発し、その遅れた民族が自主独立できるまで国際連合がこれを信託して育て上げるというのが目的であるのでありまして、軍事上の目的のために信託統治をしたという例はどこにもないのであります。従つて沖繩、小笠原というこの二つの島々は、何も国連憲章第七十六條による未開発の遅れた民族を育て上げるという意味ではなしに—これは日本の領土の一部である。日本が完全に国際社会に入り得る憲章という独立の資格を認められ、講和條約が結ばれたのでありまするから、その日本の領土の一部分であつたこれらの二つの島島は、何も国連憲章第七十六條による信託統治の規定によつてアメリカが領有する必要はない。軍事上の必要であれば、これは別の交渉があるべきであります。従つて私はこの信託統治の主張の根拠についてどうも納得できないのですが、総理大臣は調印者であるが、これを納得して帰られたかどうか、お伺いいたしたい。
  131. 吉田茂

    吉田国務大臣 ポツダム宣言を受諾した日本としては、四つの島及びこれに付属した小さい島々に日本主権は限られる。この條項に従つて四つの島及びこれに付属の小さな島以外の領土の処分については、日本としてはこれに干渉しもしくは主張し得る権限はないのであります。しかして琉球等の信託統治にしたのは不都合ではないかというお話でありますが、これは他日国連にでも加入いたしましたときに、西村君から堂々御主張願いたいと思います。
  132. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はあなたとここに議論をしようと思いませんが、あなたの御見解において違うところは、なるほどポツダム宣言においては、日本は四つの島とそれ付随するもろもろの島嶼ということになつておりまするけれども、しかし沖繩と小笠原の領土権の放棄ということはどこにもありません。のみならず、今回のポツダム宣言の基本的法源になるところの大西洋憲章というものは、これはあなたが本会議において、アメリカとその関係国の協定であるから、日本は領土権を主張することはできないのである、こうお述べになつたのでありますが、これらは私は見解が違うと思うのです。ということは、一九四二年のこの大西洋憲章は、連合国だけの申合せではありません。少くとも今回の第二次世界戦争の目的を、自由民主の陣営が世界に向つて明らかにしたのが大西洋憲章であります。現にこの大西洋憲章は、日本の上空からもアメリカの飛行機によつて伝單によつて散布されました。連合国戦争の目的というものは、日本、ドイツ、イタリア、これらの諸国の侵略的行為を破砕するのが戦争の目的であるから、日本国民連合国戦争目的に協力せよということが、日本国民にも訴えられたのでありまして、これは全世界に訴えられたところの戦争目的である。その戦争目的は、先ほど来主張せられたようにその領土権につきましても明らかになつている。従つてこれを考えてみますると、あえて沖繩や小笠原を信託統治にして領有しておくということは、法理的根拠はありません。同時に日本がそれに向つて領土権を主張する根拠がないという総理大臣の見解も私は成り立たないと思う。これはあくまで日本の領土であり、しかも大西洋憲章にはそれが明示されておるのでありまするから、私はこの問題は重要な問題でありますから、将来日米としてはこの領土権の確認を要求しなければならぬと思うのですが、総理大臣はどう考えますか。
  133. 吉田茂

    吉田国務大臣 先ほど申した通り日本は四つの島及びその小島に対する主権は認められたのでありますが、その他の主権に対しては、日本は容喙する権利は與えられていないのであります。それが信託統治になつて今後どうなるか、これは国連米国政府との間の協定によるのでありましようが、主権及び権限を放棄しないように書いたのは日本に対する好意であります。あるいはやがて再び日本主権が帰属するという場合があるかもしれぬし、またあるような期待を失わないようなふうに書いたとも考えられるのであります
  134. 西村榮一

    西村(榮)委員 それでは私は別な観点からお尋ねしたいのですが、この信託統治に対しましては、いつ日本に返すかという期限を付してありません。おそらく総理大臣の御説明は、軍事しの必要がなくなつたときに返還されると断言する、こう本会議で述べられたのでありますが、私は言葉じりをとらえようと思いませんが、しからば問題になりますのは、返還の期日をつけたい信託統治、いわゆる無期限信託統治というものは、これは事実上領土の割讓にひとしいと私は考えるのであります。そういうことは大西洋憲章、カノロ宣言ポツダム宣言にはないのですが、無期限信託統治に対しては、私は無期限信託統治は領土の割讓と同様なる性質を持つものであつて、どうもこれは困ると思うのですが、総理大臣はどう考えますか。
  135. 吉田茂

    吉田国務大臣 私もはなはだ困ると思います。しかしながら信託統治は、来歴がら申しても、ただちに領土にするわけに行かないために信託統治形式というものが認められたのであり、実質的には領土の併合でありましようが、ともかく信託統治になることにたつて、終局的処分については條約にも書いてないのであります。
  136. 西村榮一

    西村(榮)委員 次にお伺いしたいのは、わが国の国際連合に加盟する可能性について、あるいはその時期等の目通しについて、これは愚問の域に属するのですが、一応承つておきたい。
  137. 吉田茂

    吉田国務大臣 お答えします。これは今度の対日講和の中にも、日本国際連合に加入することを前提として書いておるのであつてこれは必ず加入が許されるものと確信いたします。
  138. 西村榮一

    西村(榮)委員 次にお伺いしたいことは、今回の講和條約の中において、わが国は本平和條約の第三章第五條によつて国連に対していかなる行動についてもあらゆる援助を與えねばならぬ、こう書かれておるのでありますが、これは本会議においても問題になつたのでありますが、あらゆる援助とは一体いかなる範囲を示すものであるか、一応承つておきたいと思います。
  139. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは私の腹の中で考えたことを率直に本会議で申したものでありますから、問題になりましたが、このあらゆる援助等については、これは一般論としては各場合に国連の総会、安全保障理事会の決議によつて要請された内容によりきまるところである、こう事務官がはつきり書いてありますから、間違いないと思います。(笑声)
  140. 西村榮一

    西村(榮)委員 そうすると、あらゆる援助の範囲というものは、そう無制限ではない、こう解釈してよろしいか。その無制限ではないというわくは一体どこにあるかというと、わが国の憲法の範囲内であり、第二は、わが国の財政とアジアにおけるわが国の政治的地位に限定される。このわく内におけるあらゆる援助だ、こう解釈してよろしいか。
  141. 吉田茂

    吉田国務大臣 常識的に考えて、結局日本の国力あるいは日本法律制度が許す範囲内においてというふうに解釈はなると思います。
  142. 西村榮一

    西村(榮)委員 そうしますと、一応それでわくの範囲が明らかになつたのですが、それと同時に従来の慣例からいつて、あらゆる援助の意味ということは、その援助の発動の時期並びに條件というものは、わが国の自主的判断によつてこれが決せられる、こう解釈してよろしゆうございますか。
  143. 吉田茂

    吉田国務大臣 結局自主的判断によるのでありましよう。できないことをやれといつたところが、できませんから、結局自主的判断によるということになると思います。
  144. 西村榮一

    西村(榮)委員 大体あらゆる援助の意味がわかりまして、やや安心いたしました。憲法の範囲と、財政の範囲と、アジアにおける日本の政治的地位、同時に日本が自主的にやるということにおけるあらゆる援助であるという解釈において、どうも私はここで安心をいたしました。何を言い出されるかわからぬということでは、これはちよつと困つたのであります。  そこで次の問題で、私は総理大臣にこれは率直にお尋ねしたいと思いますが、日米安全保障條約の内容であります。これは先ほど芦田さんからも話がありましたように、日本から希望して、アメリカがこれを恩恵的に引受けたという形になつておるのであります。私はこれはちよつと現実としておかしいと思うのでありますが、文字通り解釈してさしつかえありませんか。
  145. 吉田茂

    吉田国務大臣 條約は文字によつて解釈するよりしかたがないと思います。
  146. 西村榮一

    西村(榮)委員 文字通り解釈をいたしますと、ここにおかしい点がある。日本の懇請によつて日米安全保障條約が締結せられたといたしまするならば、この日米安全保障條約の中に一番私がふしぎに思うことは、アメリカ日本の防衛に対する義務規定がどこにもないということであります。抽象的には言えるでしよう。アジアの平和と安全の維持のためにという文字が使われておるし、先ほど問題になつた、芦田さんの論議の中心になつた国内治安の問題につきまして、抽象的な文字が使われておるのでありますが、この日本の懇請によつて日本の防衛のために、日米安全保障條約を締結するという建前の本條約の中において、アメリカ日本防衛に対する義務規定というものがどこにもないということは、一体どういうふうな意味でございましようか、お伺いしておきたい。
  147. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは日本の安全を保障するために、保全するためにできたのが條約の趣意であります。従つて日本の安全が侵された場合に、米国軍は義務規定がないからといつてつて見ておる、そうしてアメリカの兵隊が殺されても默つて見ておるということは、事実ないことでありますから、義務規定はなくとも、自然そういう義務が生じますので、進んで防衛をするという事態になると思います。
  148. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はあなたのあげ足をとるつもりではなかつたのですが、條約というものは文字通り解釈することが正しいのだとあなたがおつしやつたから、私は文字通り解釈して、どこにも義務規定がない。おそらく日米両国の友愛と信義の上に立つてはまあ防衛してくれるであろう、こういうふうに好意的には想像しますけれども、條約の中にはどこにもないということが、私は国民の不安の最大のものではないかと思う。今日のこの安全保障條約を見ますると、アメリカがアジアの平和と定寧を維持するために、日本並びにその周辺に軍隊を配置しておく云々ということになつておるのでありまして、これは日米安全保障條約ということよりも、むしろアメリカの駐兵権の要求であります。文字通り解釈いたしまするならば、これは日米安全保障協定という文字を改めてアメリカの駐兵権の要求條項として提案される方が正しいのではないかと思うのですが、あなたのおつしやる通り、私は文字通り解釈して審議して行くのですが、いかがしよう。
  149. 吉田茂

    吉田国務大臣 條約の解釈には文字の解釈もあれば、精神的解釈もあるので、今お話のようなことであります。と、精神を無視することになりますが、しかし保障條約を話合つたときの精神から考えてみても、日本の安全が侵ぎれて、そしてアメリカの兵隊はただ駐兵権だけあるのだからして、日本の防衛には当らないというようなことは、これはないはずであります。
  150. 西村榮一

    西村(榮)委員 條約の文字の解釈と、その内容に横たわるところの思想的、政治的、精神的なものをくみとらなければならぬというところのお言葉につきましては、私も同感であります。けれども一国が條約を結ぶに際しましては、これはときどき政府がかわるということも考えておかなければならぬ。これが将来、この條約が五年、十年という長期にわたるものであるといたしますならば、條約上これはアメリカの義務規定を明確にしておかなければならぬというのが、国会審議にあたつて議員がとるべき当然の職責ではないか。また現内閣においても、その配慮があつてしかるべきだと思うのでありますが、総理大臣はいかがでありましようか。
  151. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは條約もありますが、同時に話の内容等については、政府に議事録というか、会談録がとつてありますから、全然私の申したことが私の一個の議論ではなく、従つて数年たてば消えるであろうという御懸念もありますが、この点は御安心願つていいと思いまするまたアチソン氏の六年前の話がどうであつたか知りませんが、今日アチソン氏の日本に対する考え方は、全然今お話のような考え方ではなくて、日本を助けて行きたい、あるいは日本とともに平和を維持して行きたいという気持であることは、これははなはだ明白であります。
  152. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はそれならば、條約の中に明確に北大西洋同盟のモデルをとつてもらいたいと思います。これは申し上げるまでもない話でありますが、北大西洋條約第五條には、加盟各国は、ヨーロッパまたは北アメリカにおける加盟国の一国またはそれ以上の国に加えられたる武力攻撃を、全加盟国に対する攻撃と考えることに同意し、従つてかかる武力行為が行われた場合は、加盟各国は国連憲章第五十一條に定められた方針をとる、こうなつておるのでありまして、大西洋同盟はこれは各国対等と親愛の上に築かれた條約であるといわれておるのでありまして、その平等にしてかつ親愛の上に立つた大西洋同盟條約は、加盟国の一艦一機に対する攻撃といえども、全加盟国の攻撃とみなして自動的に参戦するということになつておるのであります。私はあなたがおつしやるように、この内容が、ほんとうにアメリカがさようにお考えになつておるならば、単に駐兵権だけを確保するということでなしに、進んで北大西洋同盟條約のモデルを日米安全保障條約の中に求められてはどうか。これが條約の調印後において不可能であるとすれば、行政協定の中にでもそのことを明確にしておかれるか、あるいは條約の解釈においてなお一層明確にされるということが今日必要ではないか。私の申し上げたことは、北大西洋條約をモデルになぜ日米安全保障條約はとられないのか。あなたの御説明によると、当然これをモデルにとつてしかるべきにかかわらず、それがとられておらぬというのは、一体どういうふうなことでかような片務的な駐兵権だけを與えるのか。いわゆる名は安全保障であるが、なぜ駐兵の要求の條約となつて現われて来たか、その真相を明らかにしていただきたい。
  153. 西村榮一

    西村(榮)委員 総理にかわりまして御説明申し上げます。  日米安全保障体制につきましては、西村委員が御指摘になりましたように、今日最も完全な安全保障体制といわれておりまする北大西洋條約第五條のような條約関係が、日米の間に成立するということが望ましいという点につきましては、全然同感でございます。本年二月以来、安全保障問題について総理とダレス特使との間にいろいろお話がありましたが、日本側の最初の出発点は、御指摘のような出発点をとつたのでございます。しかし先方の説明によりますと、アメリカの現在の外交政策として、その基幹を決定いたしましたバンデンバーグ決議によりますと、合衆国政府としては、相手方が合衆国に対しまして有効なる継続的援助義務を負い得る性格の国家でないと、北大西洋條約のような恒久的安全保障とりきめに入り得ないということでありました。日本はこの條約の前文に指摘してありますように、自衛権は完全に持つておりますし、また安全保障とりきめを結ぶ完全な権能も持つておりますが、潰憾ながら戦争を放棄し、軍備を持つておりません。従つてバンデンバーグ決議の言うように、相手国に対して恒久的な有効な自助及び相互援助をなし得る国家に入らないのであります。従つて前文の末項にありますように、アメリカはそういうふうな国家日本がなることを期待する。期待したような事態になつた場合には有効な安全保障体制ができるでありましよう。その安全保障ができるまでの暫定措置としては、しからばいかにして日本地区における安全と安定を保つかというところに問題が帰着いたしまして、いわゆる安全保障の暫定措置を講ずるということになつたのであります。
  154. 西村榮一

    西村(榮)委員 今、西村條約局長の御説明を承つて、私はなおさらわからなくなつたのであります。というのは、あなたの御説明は一応筋道が通つておるように思います。しかしながらこの際私は総理大臣にお尋ねしておきたいことは、昭和七年の九月の十五百に締結せられた日満議定書を総理大臣はごらんになつたことはございますか。
  155. 吉田茂

    吉田国務大臣 政府委員からお答えいたさせます。
  156. 西村榮一

    西村(榮)委員 いや、あなたがごらんになつたことはあるかどうか。
  157. 吉田茂

    吉田国務大臣 あつたけれども、忘れてしまつたから……。
  158. 西村榮一

    西村(榮)委員 総理大臣はごらんになつたことがなければ、はなはだ僭越な話でありますが、私は骨子だけ読んでさしあげます。昭和七年九月の十五日に「日本国ハ満洲國が其ノ住民ノ意思ニ基キテ自由ニ成立シ独立ノ一国家ヲ成スニ至リタル事実ヲ確初シタルニ因リ」満洲国はここに独立せしめるということを書いてあります。同時に「日本国政府及満洲国政府ハ日満両国間の善隣ノ関係ヲ永遠に鞏固ニシ互ニ其ノ領土権ヲ尊重シ東洋ノ平和ヲ確保センガ為左ノ如ク協定セリ」こういうふうなことに書いてあるのでありまして、この日満議定書は、満洲国の主権、領土権を日本が対等の立場において確認しておる。同時に……ここに付属書類といたしまして、契約といたしまして、共同防衛の議定書が明確にされております。その日満議定書の共同防衛の中には、満洲国の攻撃は日本に対する攻撃と見なし、日本国に対する攻撃は、満洲国また共同の責任をもつてこの日満両国の防衛に当らねばならぬということが、明確にされておるのでありまして、今から二十年前に締結されたこの日満議定書には、日満両国は平等の立場に立つて、領土権は尊重して、同時に満洲国の一寸の土といえども侵された場合においては、日本は全生命を賭してこれを防衛するということが明示せられておる争あります。私はこれと現在の日米安全保障協定とを対照してみまするときに、二十年を隔てて、わが国の悲劇に向つては断傷の思いをいたしておりますけれども、ここにあなたにしつこく明確にしておかなければならぬということは、今西村條約局長の説明の通り日本はその資格がないと言われる。一体昭和一七年の満洲国の資格と、今日のわが国のアジアにおける突勢力の資格と、どつちがその有資格者であるかという、ことは、これは政治論でありますから私はあえて賛言を費そうと思いません。けれども、少くとも日本が満洲国にとつた日満議定書の方が、この日米防衛協定よりもはるかに平等にして友好的にして、また筋道が立つて共同防衛の立場に立つておるということだけは、私は申し上げておきたいのでありますが。総理大臣のこの日満議定書をごらんになつての御感想はいかがですか。
  159. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私は日満議定書における満洲国の立場に立つよりも、日米間の保障條約における日本の立場に立つことを、今日の日本国民の絶対多数は支持すると思います。
  160. 西村榮一

    西村(榮)委員 私もあなたと同感です。私は二十年前の満洲国の立場には日本は立ちたくない。また自分は格段の差がある、文明の点におきまして、識見において差があるということを確信して疑わない。けれどもあなたが先ほど言われた、日本には資格がないからこの片務的な日米防衛協定を結ばざるを得ないのだというアメリカ当局の言明を引用されたから、私は日満議定書を引用した。従つてその立場に立つて見ても、なおかつ日米防衛協定というものは、私は多くの不備と欠陥と不安とがあるから、これを申し上げておるのです。これについて総理大臣の所見を承りたい。
  161. 吉田茂

    吉田国務大臣 西村條約局長の申したところ、すなわち私の所見であります。
  162. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はなぜこのことを申し上げるかといいますと、この日米安全保障條約に対立的に存在しておる條約は、中ソ同盟條約でおります。この中ソ同盟條約は、総理大臣も御存じの通り、一九五〇年の二月十四日に、締約国の一方が、日本またはこれと同盟している他の国から攻撃を受けて戰争状態に陥つた場合には、他方の締約国はただちになし得るすべての手段で、軍事的のまたはその他のあらゆる援助を與えねばならぬというように、中ソ同盟條約は、明確に日本日本の背後にある同盟国とを仮装敵国とし締結せられたのであります。これが一衣帶水を隔てた大陸に存在しておる今日の現実を考えてみて、しかも日本がその義務だけを負うて、何らの権利も主張することができず、多分アメリカ守つてくれるだろう、防衛してくれるであろうというような、はかない希望によつてこの條約を締結するには、あまりにも現実がきびしいということを考えてみますと、私はこれをしつこくあなたにお尋ねしておるのは、これらの諸事情から、この片務的な安全保障條約というものを、どうやり直して行くかということになつて来ているからである。あなたのお考えを承りたい。
  163. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 総理にかわつて答弁申し上げます。西村委員の御質問の焦点は、この日米安全保障條約上、日本米国側から得ている防禦の保障は不十分ではなかろうか、こういう御質問であろうと思います。先刻総理も御答弁になりましたように、この安全保障條約の前文にも明白に言つております通り、外部からの武力攻撃に対して防衛するために、日本が軍隊を国内及び付近に置いてもらいたいという希望を表明いたしまして、その希望をいれまして合衆国の方で、平和と安全のために兵隊を駐留させることになつております。希望と応諾との関係があります以上、日米両国間の親善協力関係から見まして、日本がごの要望をいたしました原因となります外部からの攻撃が具体的に発生した場合には、日本にいる米国軍が必ずこれを阻止するために立つてくれるという確信を持つていいと存じます。  また條約の第四條をごらん願いたいと思います。第四條には、この條約は暫定的の措置であつて、この條約にかわり得る日本地区における安全と平和とを確保する国際連合による措置、またはその他の安全保障体制が確立したと両国が認めたときは、それによつてつてかわられるということになつております。すなわち日本地区における安全と平和が、この暫定措置によつて確保されるべきものであるということは、第四條によつても暗黙にうたわれておるのであります。一体今日安全保障に関しますいろいろの條約がございます。ことに西村委員や私も指摘いたしましたように、北大西洋條約というのが一番りつぱなものだとされております。それをごらんになりましても、第五條を西村委員は先刻お読みになりましたが、そこに何とございましようか。締約国の一国に対する武力攻撃が発生した場合には、締約国は武力行使を含めてその必要と認める一切の措置をとつてお互いに助けるとあります。日米安全保障條約が締結されます数日前に、合衆国と濠州とニユージーランドとの間に結ばれました安全保障條約及びフイリピンと締結されました相互援助條約、それの條文をごらん願いたいと思うのであります。それによりますと、そういうふうな事態が発生いたしました場合には、自国の憲法上の手続従つて、共通の危険に対処するよう行動することを宣言するとあるにとどまつております。いわゆる安全保障に関します恒久的な條約におきましても、ある事態が発生しましたときに、締約国は必ず絶対的に武力を行使してこれを阻止しなければならないという規定を置くようなことはございません。これは各締約国の憲法上用兵権が国会にありや、それとも行政府の首長にありやというような、きわめて困難な国内問題を包含しておる関係もあります。  もう一つ御注意を願いたい点があると思うのであります、それは今指摘いたしましたアメリカと濠州、ニユージーランドの條約、アメリカとフイリツピンとの條約におきまして、両條約とも第五條でありますが、その條文によりますと、太平洋における当事国の軍隊に対する武力攻撃を含むものとあります。いわゆる自国の、この両條約における締約国に対する外部からの武力攻撃というもののうちには、太平洋における当事国の軍隊に対する武力攻撃も含まれるということになつております。日本は太平洋でございます。日本におるアメリカの軍隊に対する外部からの武力攻撃は、すなわち合衆国に対する武力攻撃であるということが、この二箇の條約においては明文をもつて規定されております。こういうふうな状態から考えまして、なるほど日米安全保障條約に、明白に必ずアメリカは軍隊を動かすという明文上の規定がございませんことは、西村委員が指摘される通りでありますが、われわれとしては、日本に対する外部の武力攻撃が発生した場合には、必ず米国軍によつて防衛されるという確信を持つてよろしいと信ずる次第であります。
  164. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は西村條約局長と條約上のことについて論争しようと思わないのですが、政治的に見て、私はあなたの説明であればなおさら不安に感ずる。そこで先ほど来政治的な見解として総理大臣にしばしば答弁を促したのでありますが、日本が外部からの攻撃を受けた場合、必ずアメリカが防衛してくれるであろうという確信をお持ちになつてこの條約に署名されたようでありますが、しからばなぜそれを條約の上に明記しておかないのか。実体が伴うならば形を表わすのは当然であります。私が憂えるのは、この中ソ同盟條約というものが前面にある、同時にあなたが今指摘されたように、日本は太平洋上にある。従つて日米防衛協定から次に発展する姿は、太平洋防衛協定の中に日本の参加を余儀なくせしめられるところの国際情勢というものが発生するのではないか。そうするならば、ソ連中国とを目標にいたしまして、太平洋同盟がかりに締結されて、日本もやむなくそれに加盟をしいられるといたしまするならば、これは西村君御存じの通り、太平洋上奥深くすわつている国と、日本のごとく、一衣帶水を隔ててこれらの諸国と相対聴しておるところのその国境上の地位というものを考えてみれば、この條約は明確にしておかなければならぬ。あなたが言うように、必ず防衛してくれるということでありまするならば、なぜこれを條文の上に明確化を要求しておかないか。同時にもう一つ、私がなぜ條約上の明文化を要求するかという根港は、率直に申しまするならば、平時においてアメリカ日本を防衛してくれるでしよう。條文にも書いてあります。東洋の安寧と平和の維持のためにということを明確にされてはおるが、第三次世界戦争という本格的な戦争が万一不幸にして発生した場合に、アメリカ日本を防衛するだけの軍事的能力をお持ちだとあなたはお考えになるかどうか。私は、これは仮定の質問であるから、お答えはできませんと総理大臣はお逃げになることは、’これは大体あなたの常套手段として了解するのでありますが、しかしながら真実は、私はその点を考え、條約上明確にしておかなければならぬと申し上げたのはそれなのです。  もう一つ申し上げましよう。この條約を見ると、東洋の平和と安寧を維持するというために、日本国並びにその周辺に駐兵権を要求しているということは、とりもなおさず、平時においては日本に駐兵する、戦時においては、場合によつて日本を放棄するかもわからない。この條約から見れば、放棄されても、條約違反として責める根拠は、一体どこに條約局長お持ちですか。これを政治的にお考えなつたならばわかる。條約上の解釈ではありません。政治的に、総理大臣並びにその他の国務大臣が御判定になれば、平時において兵を率いてその国に駐兵するということは、この軍事的圧力は政治的圧力に変形する。政治的支配が経済的支配に変形する危険が生じて来ている。従つて私の最も憂えて、しつこくこの問題をあなた方に問いただしておるのは、以上の三点に立つて日本を平時においては防衛してくれるという、その政治的意味は何を持つか。第三次世界戦争が起きたならば、アメリカ日本の国土を防衛するだけの軍事的能力を今日持つておるかどうか。それらの事実と相対して、しかも将来発展する太平洋條約に加盟をしいられなければならぬという日本の宿命を考えてみれば、われわれは、国境を隔てて前線に立つておるのと、奥深く太平洋の奥にすつこんでいる国とは、その危険の感度を同一に論ずるわけには行きません、従つて私は、日本への攻撃に対してはアメリカ本国の攻撃とみなして共同防衛に立つのだという明確な一点が、これになければ、日米防衛協定は意味をなさぬというのが、私が申し上げたいところなのです。総理大臣の御見解を承りたい。
  165. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 私は、西村委員の前提がお間違いになつておる、こう考えるものであります。アメリカ合衆国は、国際連合の加盟国でございます。国際連合憲章によれば、戦争をするということは禁止されております。武力行動を許されておるのは、第七章の規定によるか、憲章第五十一條によります個別的または集団的自衛権の行使の場合だけでございます。日米安全保障條約は、たびたび総理もおつしやられております通り、平和確保のための條約でございまして、戦争のための條約ではございません。
  166. 西村榮一

    西村(榮)委員 西村さん、あなたはそういう答弁はなさらぬ方がよろしい。これは苦しい答弁である。それならば北大西洋條約はなぜできたか。あなたのおつしやるところだつたら、なぜ日米防衛協定というものを結ばざるを得ないのか。これは矛盾が来ているのですよ。そういうことではなしに、日米防衛協定の趣旨に従つて、完璧を期する意味において、アメリカの義務條項を明確にしておく方がよい。私はこう言うのです。しかしこれは議論にわたりますから、私は深く申し上げません。  そこで私は別な観点からお伺いしたいのでありますが、この日米安全保障條約に対して、行政協定に大部分がまかされておる。その日米行政協定の問題について、憲法論その他については、いずれ細目の審議のときにお尋ねしたいと思いますから省略いたしますが、ただお伺いしておきたいことは、日米安全保障條約の有効期間です。これが効力を失うのは、日本アメリカの両国が認定した場合、こう書いておる。そこで私は、これはなかなかむずかしい問題だと思う。日本がその時期に、必要ありませんと言うても、アメリカが必要ある、アメリカが必要あると言うても、日本が別の意思を述べれば、結局これは日米両国の国力によつて解決されて行くものではないかと私は思うのですが、ただ問題は、條約の建前からいつて私はこういう点に修正はできないか、こう思うのです。この日米安全條約の失効の時期は、これは條約上の解釈から申しますと、日本から懇請してできたということに形だけはなつておる。従つてその形式をそのまま重んじて、日米両国の考え方が食い違つたときに、日本から懇請したのでありますから、日本が、もうけつこうですという建前になつたときには、これは日本の主張を優先的に認められるというふうにしてみたらはつきりするのではないかと思うのですが、総理大臣はいかがでしようか。
  167. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 日米安全保障條約を交渉いたしますにあたりましては、平和條約についての意見の交換の場合と全然違いまして、まつたく平等、対等の原則に立つて話合いをしたつもりでございます。従いまして、この條約の内容をなしております事柄につきましては、可能なる範囲内において両者平等の地位に立つことを眼目として規定いたした次第であります。従つて、この條約にとつてかわつてよいような、恒久的な有効な安全保障体制が日本地区についてできたと片方だけ認めまして、すぐこの條約を廃止し得るようでは、両方対等の立場に立つたとは言えません。やはり両者の意思が合致した場合にかわり得るとするのが、一番妥当であるという結論に達した次第であります。
  168. 西村榮一

    西村(榮)委員 あなたのおつしやる通りです。けれども意見が食い違つた場合に、どつちの意見を尊重するかということになれば、日本からお願い申し上げたのですから、これは日本で願い下げる、もうけつこうです、こう言えば、日本意思をまず優先的に認むべきではないかと私は思う。これは日本の自衛力と国力の回復と、アジアの政治情勢から見て、特に私はそのことをだめを押しておきたいと思うのです。
  169. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 前文と第一條の形式はとにかくとして、日米両国の間に、日本地区の安全維持のために安全保障とりきめがついたにつきましては、こういうとりきめが日本について絶対に必要であると同時に、米国にとつても絶対に必要であるという理由があるからであります。このとりきめを必要とする理由もまた五分々々でございます。
  170. 西村榮一

    西村(榮)委員 まあ問題は日本よりもアメリカの必要でしよう。そうするとこれは皮肉ではないのですが、この日米安全保障條約というものは、実質的にはアメリカの駐兵権の獲得です。ざつくばらんに申し上げておけばそうです。それならば先般新聞で伝えられているように、この駐兵の費用日本国民が負担すべきではない、アメリカで負担していただいたらどうでしよう。さつき総理大臣が芦田さんの質問に対して、自衛力を持つにも金がない、どうもないものはしようがない。国防上不安であるが、国力は回復されてない。国力の回復の方法は精神力と経済的な問題でありまして、私どもが今日急がなければならぬものは、日本の経済の再建と国民生活の安定であります。しからば問題になるるのは、形は日本からお願い申したような形になつておるのでありますが、実際はアメリカの必要から生れた日本駐兵の要求條項というものは、これはアメリカ費用を負担してもらつたらどうでしようか。日本で負担すべき筋合いのものではない、こう思うのですが、総理大臣のお考えはいかがですか。
  171. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 総理はたびたび答弁されております通りに、一国の安全の防衛を他国の軍隊にたよるということは、常態ではないのであります。日本が外部からの武力攻撃に対して自国を防衛する場合に、米国の軍隊の駐屯を希望する以上は、また米国がわが方の希望に応じて兵を置いてくれる以上は、応分の経費を負担することは理の当然だと思います。
  172. 西村榮一

    西村(榮)委員 それは議論になりますからやめますが、私は西村條約局長にお願いしておきたいことは、きようは條約上の細部について質問しているのじやない。日本の安全保障という国防上の問題について質問しておるのでありますから、総理大臣が私の質問に対してお答えができなければできない、今の情勢だからわしはちよつと答えられるのじや、こう率直におつしやつてさしつかえない。何もあなたが出しやばつて答弁していただく必要もございませんから、どうぞひとつ御遠慮なさつていただきたいと思います。  そこで最後に総理大臣にお尋ねしておきますが、日米防衛協定は今申し上げましたような表の打出しから見ても、非常に不安を持つているのです。くどくど言うようですが、日本から懇請して言うならば、ちやんと日本をどうして防衛してやるかという明確な規定がなければならぬのに、これがない。しかもこの日米防衛協定の大部分が行政協定にまかされている。しかもこれは、日本講和條約の批准が終つて独立してから九十日間という余裕があるのにかかわらず、半日の早々の間に調印されたということは、日本国民は納得しておらないのです。従つてその政治的なアメリカの目的が奈辺にあるかということは、日本人はばかじやありませんから知つております。その知つた上に立つて條約上の完璧を期そうとして国会議員は今努力しているのでありますから、この点は御了解を願いたい。そこで私は総理にお伺いしておきたいと思うのですが、あなたはまだ行政協定内容は知らない、こうおつしやる。私はあなたの人格を信じ、政治的立場からその通り受取つておきましよう。そこで問題になるのは、将来日本主権を著しく侵害し、日本財政負担にたえられない、同時に日本に軍事上不安が生ずるというような行政協定内容が明らかになつた場合には、一応前の調印された條約百白紙にもどして、あらためてやり直すというお考えがあるかどうか。
  173. 吉田茂

    吉田国務大臣 私よりも條約局長の方が、もつとあなたに満足の行くような正確な答弁をせらるることを信じまして、私にかわつて答弁してもらつたのであります。  ところで、今のような協定は断じていたしませんから御安心を願います。
  174. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はそれを聞いて安心をし、かつ信じたのでありますが、従来の経過から考えまして、まこと不安と危惧の念を持つのであります。しかし一国の総理大臣がさように断書せられるのでありますから、本日は一応信頼しておきましよう。いずれ時品の経過によつて、あなたのいわゆる国を憂える信念の具体的な現われを私は拝見いたしたいと思うのであります。  そこでその問題は一応ここで打切あまして、去る十四日の本会議における総理大臣のこの両條約の説明、あるいは答えられた答弁の中において重要の点がございます。それは今日米ソ両陣営が対立しておる中に、中立があり得ると信じておる者があれば、それは少し頭がどうかしているんだ、中立はあり得ないのだという御答弁をなすつたのでありますが、今でも中立というものはないとお考えですか、この点一点承つておきたいと思います。
  175. 吉田茂

    吉田国務大臣 私の当時申したのは、中立でもつて日本独立を守ろうというのは、これは不可能である。ゆえにこの保障條約を締結しなければいかぬ。こういう趣意で申したのであります。
  176. 西村榮一

    西村(榮)委員 それならばあなたは、日本の立場は、政治的に中立が堅持できて行くというお考えですか。
  177. 吉田茂

    吉田国務大臣 ちよつと意味がわかりませんが、どういうことですか。
  178. 西村榮一

    西村(榮)委員 十四日の答弁で、今日の国際情勢では中立はあり得ないという御答弁をなすつた。これは私は一応速記も見てみたのです。そこで今でも中立はないというお考えであるかとお伺いしたときに、今のようなあなたの御等分である。そこで私は、それならば日本は外交政策として、中立というものを堅持されて行くのかどうかということを伺いたい。
  179. 吉田茂

    吉田国務大臣 これは私の考えとしては、この両陣営が対立しておる間に、芦田氏の言うように洞ケ峠はきめられない。筒井順慶はできないというのが私の信念であります。
  180. 西村榮一

    西村(榮)委員 私はあなたのおつしやることはたしかこうではないかと思うのです。筒井順慶はきめちらない。それならば、どつちかの陣営に参加して、日本独立と安全保障を守つて行く、こういう意味ですか、それとも思想的に、イデオロギーの上だけにおいては、あるいは共産党を支持する者も、あるだろう。自由民主を支持する人もある。あなたはどこかの陣営にイデオロギーとして参加しなければならないが、政策としては中立というものを堅持して行くのかあるいはそれも不可能だから、もう筒井順慶はきめられないのだから、どこかの親方を持つてはつきりやろう、こういうお考えですか。
  181. 吉田茂

    吉田国務大臣 安全保障條約の考えておるところは、つまり自由陣営、あるいは自由主義国家と一緒になつて世界の自由を守る、あるいは平和を守る、これが国際連合の趣意であり、また安全保障條約の趣旨であります。ゆえに日本の将来とるべき外交は、自由国家とともに行動をともにする。しかしながら共産主義にもつかず、自由主義にもつかず、宙ぶらりんで行くことはできない、こういうことを申し上げたわけであります。
  182. 西村榮一

    西村(榮)委員 私は現在の激動期の国際情勢に際会いたしまして、中立という政策が非常に困難であるということは認識いたします。しかしながら無條件で自由国家とともに世界の平和を守るのであるという今のあなたのお言葉を拝聽いたしまして、それならばなさねばならぬものは三つあるのではないか、日本が中立を放棄するという政策をとる前に解決しておかねばならぬものは三つあるのではないか。まず第一に、自由主義陣営に参画することにおいて、軍事上どういう保障が與えられるかということが一点。次に問題になるのは、万一日本が海上を封鎖され、あるいは戦争状態に入ります。ならば、少くとも三百二十万トンの食糧は毎年海外から輸入して来なければならぬ、この国民の食糧問題をどう解決して行くか。第三番目には、日本の原材料は、副材料を加えて六割二分というものは海外からの輸入に仰いでおる。従つて日本が筒井順慶をきめ込むことはできない、中立は困難である、このあなたの見通しは私も同感であります。しかしながら中立を放棄する前解決しなければならぬことは、以上申し上げました軍事上の安全感と、国民食生活の最低限の確保、日本の産業の維持に要する原材料の確保を、自由主義陣営国家がいかに保障せられておるか、この確約がなければ、軽々に日本の政治家として一方の陣営に参画するのだということを宣言して、かえつて国防上危険な状態に置くことは、私は愼むべき言辞ではないかと思うのですが、総理大臣の中立政策は困難だ、筒井順慶はきめ込まれないんだという今のお言葉の裏には、この三点の確約がどこかにありますか、あれば具体的に承りた。
  183. 吉田茂

    吉田国務大臣 私は安全保障條約について申したのであります。あなたのような広大な問題については申したのではありません。
  184. 田中萬逸

    田中委員長 西村君にちよつと申し上げます。申合せの時間はとつくに過ぎているのです、できるだけ簡潔にお願いします。
  185. 西村榮一

    西村(榮)委員 委員長の御注意に従いまして、私は詳細な点は次の各論の審議に譲りたい、こう思つております。しかしながら私は総理大臣に申し上げておきたいことは、先ほど芦田さんから申し上げられたようにわが国の憲法の特色であり、この憲法に盛られた平和の日が—日本とアジアの民衆が平和を守り、同時にアジアの安定と日本の安定を念願しておると、いうこの悲壯な考え方、その平和と安定を求めおるという思想の背後には、もちもん戦争は避けたいという人類的な悲願もありますけれども現実においては、以上の三つの点の未解決ということが国民の具体的な不安であります。しかるになんと、一国の総理大臣たる者が本会議において、あるいはまた今この席上において、中立、筒井順慶があり得ないというようなことを不用意におつしやるということは、私は国民に将来大きな不安を與えると思うのであります。日本国民のみならず、あなたの言葉を聞いて、アジア十三億の民衆は失望するでありましよう。アジアは日本とともに何とかして共産主義の侵略を食いとめ、同時に西欧資本主義のアジアの搾取を食いとめて、アジア自身の平和と安定を求めたいというのがアジア十三億民衆の悲願であります。しかるにこの重要な地位にあるところの日本主権者たる総理大臣が、軽々に中立放棄を宣言されるということは、これは私は軽率であると申し上げざるを得ません。従つてこれちの問題につきましては、いずれ中立がいいかどうか、同時に日本はどうしたらいいのがということについては、私は各論のときに総理大臣にもう一ぺんお尋ねしますが、委員長の御忠告に従つて、一応これで打切ります。
  186. 田中萬逸

    田中委員長 本日の質疑はこの程度にとどめ、明十九日は午前十時より委員会を開き、総括的質疑を継続いたすことといたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後四時五十七分散会