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1951-10-17 第12回国会 衆議院 平和条約及び日米安全保障条約特別委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十月十一日  田中萬逸君が委員長に、北灘直吉君、倉石忠雄  君、島村一郎君、竹尾犬君、田嶋好文君、笹森  順造君及び水谷長三郎君が理事に当選した。     ————————————— 昭和二十六年十月十七日(水曜日)     午後一時三十八分開議  出席委員    委員長 田中 萬逸君    理事 北澤 直吉君 理事 倉石 忠雄君    理事 島村 一郎君 理事 竹尾  弌君    理事 田嶋 好文君 理事 笹森 順造君       麻生太賀吉君    池田正之輔君       石原 圓吉君    石原  登君       伊藤 郷一君    植原悦二郎君       小川原政信君    菊池 義郎君       栗山長次郎君    近藤 鶴代君       佐瀬 昌三君    田渕 光一君       塚田十一郎君    仲内 憲治君       中山 マサ君    西村 久之君       西村 直己君    原 健三郎君       福田 篤泰君    藤枝 泉介君       守島 伍郎君    若林 義孝君       芦田  均君    北村徳太郎君       並木 芳雄君    松本 瀧藏君       吉田  安君    勝間田清一君       西村 榮一君    林  百郎君       米原  昶君    高倉 定助君       黒田 寿男君  出席国務大臣         内閣総理大臣         外 務 大 臣 吉田  茂君         国 務 大 臣 益谷 秀次君  出席政府委員         内閣官房長官  岡崎 勝男君         外務政務次官  草葉 隆圓君         外務事務官         (條約局長)  西村 熊雄君     ————————————— 本日の会議に付した事件  平和条約締結について承認を求めるの件(条  約第一号)  日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約  の締結について承認を求めるの件(条約第二  号)     —————————————
  2. 田中萬逸

    田中委員長 これより会議を開きます。  平和條約の締結について承認を求めるの件、日本国アメリカ合衆国との間の安全保障條約の締結について承認を求めるの件、右両案を一括して議題といたします。まずその趣旨について内閣説明を求めます。吉田内閣総理大臣。     —————————————
  3. 吉田茂

    吉田国務大臣 平和條約と安全保障條約の内容については、すでに本会議における施政の演説で詳しく説明いたしておきましたから、ここで繰返す必要もないと思いますが、政府としては国民の総意を体して交渉に当つて来たつもりでありますし、平和條約については、これが可能のもののうちで最上の、ものであると、また安全保障條約については、現在の国際情勢のもとにおいて、日本の安全と独立を確保する道はこれ以外にはないと確信いたして締結した次第であります。従つて両條約は形式的には別個の條約でありますが、現実政策の観点からしますれば、両條約は相連関したものであり、政府としては、両條約がともに国会の承認を得ますことを切望してやまないのであります。  両條約は国民の大多数の健全な良識の支持を受けていると思うのでありますが、一部にはなお空理空論をもてあそぶ者や、わが国国民性に自信を欠く者や、あるいはためにする宣伝を行う者等が存在していわれなき不安感を醸成しておりますことは、ひいてはわが国の平和に対する熱意を諸外国に疑わせる結果ともなり、遺憾に存ずるところであります。これらの誤解や不安を一掃するためには、十分論議を盡すことが最善の道と思いますので、明日からの御質問に対しては、それそぞれ国民の真情に発したものである限り、政府としては事情の許す限りできるだけ納得の行くように御説明をいたしたいと思います。  引続き草葉政務次官及び事務当局から、それぞれ提案理由及び逐條説明をいたします。御聽取を願います。(拍手
  4. 田中萬逸

    田中委員長 なお外務政務次官及び條約局長から、細目の点についての説明をいたしたいとのことでありますから、これを許します。草葉政務次官
  5. 草葉隆圓

    草葉政府委員 ただいま議題となりました平和條約及び安全保障條約につきまして、提案理由を御説明いたします。  まず平和條約について申し述べたいと存じます。御承知のごとく、わが国が一九四五年八月十四日にポツダム宣言を受諾いたしまして以来、われわれは日夜忠実にその條項を履行し、連合国、ひいては世界のすべての国々との友好平和の関係が、一日もすみやかに回復せんことを希望して参つた次第であります。平和の回復のためには、これまで戦争状態にあつた国平和條約を締結しなければならないのであります。私どもはその日を鶴首して待つたのであります。しかしながらわが国のこの希望は、われわれの力ではいかんともなしがたい国際間の情勢によりまして、その実現延引延引を重ねて参つたのであります。すでに一九四七年、すなわち昭和二十二年三月に、時の連合国最高司令官でありましたマッカーサー元帥は、今や平和條約のための会議を開始する時期が到来しておることを声明いたしました。同年七月十一日、平和予備会議の招集に関する提案米国政府から発せられたのでありますが、この米国提案、すなわち極東委員会の十一箇国で会議を構成し、三分の二の多数決による決議方式主張いたしました。この提案は、手続問題に関する関係国間の意見の対立によりまして、約半年の外交交渉の後、一応見送られる形となつたのであります。この状態は、その後一九四九年夏に至りまして、再び対日平和促進の問題がアメリカにおきまして取上げられまするまで続いて参つたのであります。   一九五〇年四月には、アメリカの共和党のダレス氏が国務長官顧問として、対日平和問題を担当するに至つたのであります。間もなく朝鮮解動乱が勃発いたしたのでありまするが、同年九月十五日、トルーマン大統領は、すでに日本国際社会に復帰すべき十分の資格があることを述べたのであります。  爾来米国政府は、極東委員会構成諸国と非公式に会談を行い、十一月二十四日にいわゆる講和原則基礎案を公表するに至つたのであります。そして本年一月下旬にはダレス特使が来訪されまして、日本政府当局並びに各界代表意見交換を行われたのであります。三月末には、関係連合諸国との折衝の結果得られました対日平和條約に関する米国案の全貌が明らかにされた次第であります。その後さらに関係国間に交渉が重ねられまして、一九五一年、本年七月十二日に、効目平和條約案の全文が米英両国政府によつて公表されまして、連合国五十一箇国がこの條約の署名会議に招請されたのであります。條約案はその後さらに各国意見を入れて改正を加えられ、本年八月十五日、最終條文が公表されました。会議の招請を受けました国は、仏印三国を加えまして結局五十五箇国となりましたが、インド、ビルマ、ユーゴースラビアが参加いたしませんでしたので、結局日本を含めて五十二箇国が会議に参加いたしたのでありますこうしたいきさつの後、去る九月八日号ンフランシスコにおきまして、日本及び連合国四十八箇国によりまして、平和條約の署名を見るに至りましたことは、まことに御同慶の至りであります。その間の事情の詳細につきましては、すでに周知のことでありますので、ここに繰返し御説明いたしませんが、これが本日御審議に付せられることになつ平和條約でございます。このきわめて簡単ないきさつを申し上げました点から回顧いたしましても推測されますように、この平和條約は、長い月日にわたる連合諸国、特に米国政府の熱心な努力及び複雑な折衝を経て、多数の関係国間の意見調整の結果、初めて成案を見たのでありまして、この種の国際間の意見の調節がきわめて困難でありまする時代に、かくも多数の国によります平和條約の署名にまでこぎつけました努力に対して、敬意と感謝の意を表明する次第であります。もしわが国にしてこの機会を逸せんか、待望しております平和條約の締結は、またく見通し困難の状態に陷るのであります。これがために生ずるわが国の不利益、ひいては世界の損失は、はかり知るべからざるものがあつたであろうと確信いたす次第であります。  條約の内容につきましては、後刻逐條説明を行いたいと存じまするので、ここには一々申し上げるのを省きますが、ただこの條約について注目いたすべき諸点を、次に簡単に申し述べることといたしたいと存じます。  この平和條約の基調といたしまするところは、和解信頼精神であります。まことにこの和解信頼精神は、降伏後連合国側に立つて共同交戦国として対独戦争に加わりましたイタリアに対する講和にも見られなかつたところであります。もちろん和解信頼とが條約を流れる精神であるとは申しましても、平和條約は、日本敗戦国であるという事実そのものを否定するものではありません。領土條項財産及び請求権條項など、個々の場合にわれわれが苦悩と憂慮とを禁じ得ない規定もありますることは事案であります、しかしながら條約に盛られた一般的な内容は、過去の諸平和條約に比しまして、寛大かつ公正であると言えるのであります。安全保障につきまして、第三章で規定しておりますように、日本国際連合憲章二條原則従つて行動すべきことを約束し、同時に連合国においても、日本との関係において同様の原則のもとに行動することを明らかにいたしております。またわが国の将来に関しましては、政治上、経済上の永久的制限ないしは特別待遇を受けないことはもちろん、軍事上の制限すらもこれを受けることがないのであります。これは戦争を開始し、これに敗れたわれわれの世代にとりまして、相携えて祖国の再建に遭難する勇気を與えるものであり、また後世に対してわれわれの残し得る最大の遺産であると確信いたすものであります。  この平和條約の関係文書といたしまして、同時に署名された議定書及び二つ宣言があります。これらの文書は、内容平和條約と一体的な関係に立つものでありまして、平和條約とともに一括承認をお願いいたす次第であります。これを要しまするに、現在われわれが最も待望するものは、完全な独立と自由のすみやかな実現及び世界各国に対する完全な平和関係のすみやかなる回復であります。しかしてこれら二つのものは、平和條約によらなければこれを求めることができないのであります。これが、政府がこの平和條約を締結せんとする理由であります。  諸般の情勢から明らかでありますように、連合国はまずわが国がこの條約を批准することを希望いたしております。何とぞ愼重御審議の上、すみやかに御承認を與えられますることを、切に希望いたす次第でございます。  次に安全保障條約について申し述べたいと存じます。国際の現状は、無責任の侵略主義がなお跡を絶つていないのでありまして、これに対しましては、集団的保障手段をとることが、今日国際間の通念であります。平和條約の効力発生によりまして、独立と自由を回復いたしましたあかつきにおきましてわが国は軍備を有しない状態にあるのであります。わが国といたしましては自己の防衛、ひいては極東の平和、また世界の平和のために、何らかの集団的防衛の方法を講ずることがぜひとも必要となつて参るのであります。これが日米安全保障條約を締結するに至つた理由であります。  この日米安全保障條約は、平和條約と同日にサンフランシスコ市におきまして署名されました。この條約により、武備なきわが国独立回復後におきます安全についても、一応の安心が得られます次第であります。平和條約の効力発生は必然的に、暫定的にもせよ、この種の安全保障措置を必要ならしめるのでありまして、両者は実質的に密接な関係を有しますることは、申しまするまでもないのであります。日米安全保障條約の内容につきましては、逐條的に後刻詳細に御説明を申上げる所存でございます。  安全保障條約の署名と同時に、吉田首相アチソン・アメリカ国務長官との間に、日本国際連合に対する協に関しまして、付属の公文交換が伴われました。その交換公文は、平和條約の第三章、安全の規定に掲げました原則を、念のために明らかにいたしますとともに、費用の点を明らかにしたのであります。安全保障條約と一括愼重御審議の上、すみやかに御承知賜わりますよう、切に希望いたす次第でございます。(拍手
  6. 田中萬逸

  7. 西村熊雄

    西村(熊)政府委員 平和條約と安全保証條約につきまして、簡單に逐條説明を申し上げます。  平和條約は前文と七章、二十七條からなつております。前文は、條約の慣例によりまして、関係国がこの條約を締結するに至りました経緯と、その條約の指導精神を明らかにいたしております。この條約によりますると、連合国日本とは今後対等の主権国として、提携、協力関係に入ることを決意して、戦争の結果生じた問題を解決するような、平和條約の締結希望するという事情を述べております。その上に、日本国際連合に加入を申請し、国際連合憲章従つて行動上、世界人権宣言目的達成努力……(「委員長外務大臣が帰つてしまうよ」と呼び、その他発言する者多し)国際連合憲章の第五十五條と第五十六條の原則従つて、安定と福祉の條件を創造するために努力する。また国際通商上の公正な商慣行を尊重する趣旨宣言いたしまして、連合国におきまして、この日本の意思を歓迎する旨を宣言いたしておるのであります。  本文は平和、領域、安全、政治及び経済條項請求権及び財産條項紛争解決に関する條項最終條項の七章からなつております。  第一章、平和は第一條からなつております。この平和條約が効力を発生すると同時に、日本と各連合国との間には、平和関係が克服するということを明らかにいたしております。第二項におきまして、日本国民主権が完全にその領域において行使されるということを明らかにいたしております。  第二章は、領土処分に関する條項でございます。第二條から第四條の規定でございます。第二條におきまして、日本朝鮮独立承認し、済州島、巨文島、鬱陵島を含む朝鮮に対する領土的主権放棄することを明らかにしております。台湾澎湖島に対しても同様であります。千島列島及び南樺太についても同様であります。台湾澎湖島、千島と南樺太帰属について第二條規定しなかつた理由は、その帰属連合国間において合意に達することを得ない問題であるからということを、ダレス代表サン・フランシスコ会議説明しております。  また日本は第一次大戦の結果、ヴェルサイユ條約によりまして、委任統治制度について持つておりました権原を放棄するということと、旧太平洋委任統治合衆国信託統治制度のもとに置きました一九四七年の安全保障理事会の決議を承認するということになつております。  また南極地方に対しまして、一九一二年白瀬探検隊探検の事実に基いて、日本国におきまして、南極地方主権帰属が問題になる場合には、日本主張を考慮されたいという立場を、一九三八年、正式に米国国務省に通告いたしておりましたが、この事実を考慮して、以後そういう主張をすることを放棄する趣旨が明らかにされておるわけであります。  最後に、南支那海にありまする新南群島及び西沙群島につきまして、日本側領土的主権主張しないという趣旨を明らかにしております。新南群島は、御承知の通り一九三九年、日本政府わが国行政管轄に属するよう正式に措置とつ地域でございますが、その前からフランスとの間にその帰属について問題があつて外交交渉が行われておつたのであります。西沙群島につきましては、いまだかつて日本領土的主権主張したことはございません。ただこの群島帰属につきましては、中国フランスとの間に外交交渉があつております。今日なお両国間においては、その領土的帰属について円満なる解決に達しておらない状況と了解しております。  第三條は、北緯二十九度以南の南西諸島及び小笠原硫黄諸島に対しまして、将来合衆国信託統治制度を提議する場合には、これに同意するということと、合衆国信託統治を提議するまでの間、合衆国で同地域及びその住民に対しまして、立法、司法、行政の三権を行使することができるということを明らかにしております。  第三條におきましては、第二條と異なりまして、日本による領土的主権放棄規定いたしておりません。従つて、同地域に関する限り日本主権が残るということは、サン・フランシスコ会議においても、米英両全権が明白に説明されたところでございます。  第四條は、第二條によりまして日本から離れる地域における財産処分につきましては、日本とその地域を管理する当局との間の特別とりきめをもつてきめるという趣旨規定いたしております。また第二條と第三條に規定されました地域につきまして、アメリカ軍政府日本財産についてとつ処分行為は、その効力承認するということになつております。また日本日本から離される地域との間を連絡する海底電線は、両当事国間で折半するということを規定いたしております。以上が領土條項であります。  第三章は、第五條と第六條からなつておりまして、安全保障に関する規定であります。第五條は、日本国際連合に加盟する前におきましても、日本国際関係におきまして、国連憲章二條の定める原則従つて行動するということを明白にいたしておりまして、同時に連合国においても、同じ原則によつて日本に対して行動するということを誓約いたしております。この第二條にいわれる原則のうち、特に摘出してあるものが三点あります。一つは、国際問題を平和的手段によつて解決するということと、国際関係におきまして武力の脅威または武力の行使を愼むということ、第三は、国際連合がとるあらゆる行動に対して援助を與えるということ、国際連合制裁措置ないし防止行動をとつているその目的になつている国々に対して援助を與えないということ、この三つの原則を特に摘出しております。国際連合がとる行動にあらゆる援助を與えるという、そのあらゆる援助意味については、本会議においても問題になつたようでございますが、第二條は、国際連合憲章の第一條目的、すなわち国際平和の維持と国際協力の発達という、この二つ目的を達するために加盟国行動の準則とすべきものを七つ掲げてあるのであります。この国際連合行動に対する援助が具体的に何を意味するやは、国際連合総会なり安全保障理事会なりが、第三章以下に規定している憲章従つて国際的問題についてとる決定または勧告内容によつてきまつてくるものであります。(「総理大臣の答弁と食い違つておるぞ」と呼び、その他発言する者多し)  第五條安全保障規定最後に、C項といたしまして、日本独立国として安全保障とりきめを締結する権利があるということと、国際連合憲章第五十一條規定いたします集団的及び個別的自衛権を持つているということを明らかにいたしております。独立回復後における当然の現象を注意的に規定したにとどまるものであります。  第六條は、占領軍の撤退の規定であります。占領軍は、平和條発効後九十日以内に撤退しなければならないことになつております。但し、日本連合国との間に別にとりきめができた場合にはその限りにあらずとされております。この意味は、連合国の一部には、この但書はいらないという議論もあつたようであります。第五條C項によつて十分カバーされているから、第六條A項但書はいらないという議論であります。これに対しまして、なるほどそうであるかもしれないけれども、もしこの但書以下がない場合には、占領軍というものは第六條の規定によつて一旦撤退した上、再び日本と別個に締結せられる安全保障とりきめによつてまた兵を駐屯させるという、無用の措置をとらなければならないような誤解を招く懸念があるから、注意的に置かれたものであるという米国代表説明であります。  第四章は、政治及び経済條項でございます。第七條から第十三條の規定であります。第七條は、連合国日本間にあります戦前の二国間條約をいかに処理するかを規定いたしております。戦争の二国間に及ぼす影響については、慣例国際法も一定いたしておりませんので、平和條約によつてその処置の原則を定めるのが通例であります。これによれば、平和條発効後一年以内に連合国の方から、効力を存続させ、または効力を復活させたい希望日本に通告すれば、三箇月後に、効力を存続し、または効力回復されることになるということになります。そういう措置がとられない條約は全部効力を失います。  第八條は冒頭におきまして、第二次世界大戦の結果、すでにできております五つの平和條約及びまだ平和條約ができておりませんドイツとオーストリアについて、連合国間に協定されております平和関係回復のためのとりきめの効力を、日本承認することを明らかにしております。その次に数種の條一約を並列いたしまして、これらの條約によつて日本が有しておる権利利益放棄することになつております。一々説明を申しません。説明書によつて、ごらんを願いたいと思います。その結果どうなるかといいますと、簡単に申し上げますれば、第一次世界大戦の結果、日本がヨーロッパとアフリカにおいて取得いたしました政治的、経済的の特殊の立場を全部失うということであります。そのうち実際問題としてやや重要なものは、一九一九年に結ばれましたサン・ジェルマン・アン・レィの諾條約と他の二つの條約でありますが、そのうちコンゴ盆地に関する條約上、日本通商経済上同地域に得ております均等待遇を受けるという地位を喪失するということが、終局的に見て一番こたえる点であろうと思います。  第九條は漁業に関する規定であります。日本は公海における漁業の取締りのために、できるだけすみやかにこれを希望する連合国漁業協約締結するということになつております。  第十條は中国関係でございまして、中国における特殊権益放棄であります。特に一九〇一年の北清事変の結果締結されました議定書その他の関係文書によつて日本が享有しておる権利放棄するということが特に掲げてあります。  第十一條戦犯に関する規定であります。戦犯に関しましては、平和條約に特別の規定を置かない限り、平和條約の効力発生と同時に、戦犯に対する判決は将来に向つて効力を失い、裁判がまだ終つていない瀞は釈放しなければならないというのが国際法原則であります。従つて一條はそういう当然の結果にならないために置かれたものでございまして、第一段におきまして、日本極東軍事裁判所判決その他各連合国軍事裁判所によつてなした裁判を承諾いたすということになつております。後段は内地において服役しております戦犯につきまして、日本判決の執行の任に当るということと、こういう人たちの恩赦、釈放、減刑などに関する事柄は、日本政府勧告に応じて、判決を下した連合国政府においてこれを行う、極東軍事裁判所の下した判決につきましては、連合国の過半数によつて決定する、こういう趣旨でございます。従いまして第十一條後段利益は、国外において服役中の戦犯者には適用ありません。これは国民の一人としてまことに遺憾と思う次第でございまして、一日も早くわれわれの念願がかないまして、現在外地において服役しております約三百五十余名の同胞が、一日も早く内地服役になるように念願いたす次第であります。  第十二條はきわめて重要な規定だと存じます。これは第十二條によりまして、日本は、日本連合国との通商経済関係を安定した地位に置くために、できるだけすみやかに連合国と條約を締結する用意があるということを声明いたしております。しかしながら通商航海條約を結ぶまでには相当時間的空白が生じますので、その間の過渡的措置として、四箇年間日本連合国との通商関係が準拠すべき原則規定したものであります。この規定によりますと、連合国国民と船舶と貨物は、輸出入に関しましては最恵国待遇、経済的活動につきましては内国民待遇を享有いたします。日本は與えなければならないのであります。但し日本がこの最恵国待遇、または内国民待遇を與えるのは、相互主義でございまして、相手の連合国が與えない場合には、日本もこの待遇を與えなくてもよいのであります。また日本がこの條によつて與えます最恵国待遇、ないしは内国民待遇につきましては、三つの除外例が認められております。それは各当事国締結いたしております通商航海條約に、通例除外例となつている場合には、内国民待遇なり、最恵国待遇などを與える必要はありません。沿岸貿易、国境貿易、関税同盟、その他数個の除外例があることが、文明国間の通商航海條約の通例であります。こういう通例除外されてあります事項については、この待遇を與える必要はないのであります。第二は、国の対外的財政状態、または国際収支の上から必要がある場合には、この待遇を與えなくてもよろしいことになつております。第三は、国家の安全上必要がある場合には、この待遇を與えなくてもよろしいことになつております。言いかえれば差別待遇をしてもよろしいということになつております。但しこれらの差別待遇は、その事態に応じて合理的なものでなければならぬということになつておりますが、これはむろん当然のことでございます。  第十三條は、民間航空に関する規定であります。民間航空に関しましても、今申し上げました一般経済関係と同様に、日本はできるだけすみやかに希望する国と民間航空に関する條約を締結することになつております。しかしその條約ができますまで、この條約の最初の効力発生後四箇年間、日本は現に連合国に対して與えております権利待遇を引続き四年間は與えなければならないということになつております。現に與えておるものとしては、連合国飛行機の乗入れ権が中心となつておること皆さん御承知の通りであります。なおまた日本国際民間航空をやる場合には、国際民間航空條約によつて技術的な規則がすでにできておりますが、この條約に加入する前におきましても、日本が実施する航空輸送はこの條約の規定従つて行わなければならないということになつております。  次は第五章の請求権財産関係條項であります。賠償関係條項であります。第十四條が賠償に関する規定であります。この條によりますと、日本連合国に賠償を支拂うべきものであるという原則を認めると同時に、日本の資源をもつてしましては、現在完全な賠償支拂いと債務の履行を合せて行うならば、経済を維持することはできないということも同時に認められておるわけであります。従つてこの相矛盾するがごとき二つ原則承認するがゆえに、第一と第二の二種の賠償を規定しております。第一の賠償は、現在の領域日本軍隊によつて占領され、かつ損害を受けた連合国から希望があるときは、日本人の役務を提供することによつて、その損害を修理するに必要な費用を補うためにとりきめを締結しなければならぬということになつております。提供されるべき役務の例としましては、沈船の引揚げと生産とがあげてあります。このとりきめについては二つ條件がついております。第一は、他の連合国に迷惑をかけないことということであります。日本が賠償とりきめをなすことによつて他の連合国に追加的負担を及ぼすようなことがあつてはならないというのであります。第二は、役務の内容が原材料に対して加工をする賠償、いわゆる生産加工賠償でありました場合には、日本に外貨の負担を課さないように、原材料は賠償要請国が供給しなければならない、こういうことになつております。これが第一の賠償であります。第二の賠償といたしまして、連合国領域内にある日本財産は、連合国処分に一任されます。この処分は、各連合国の国内法に従つて行われることになつております。もつとも五つの除外例が為ります。また日本の在連合国財産のうち、著作権と商標につきましては、各連合国においてできるだけ好意ある、取扱いをするということになつております。十四條の第二項におきまして、今あげましたように、日本は二種の賠償をいたしますので、連合国はこれ以上の賠償支拂いを要求しないという意味におきまして、今申し上げました賠償義務に対応して、連合国がこの平和條約中で特に規定されているものを除いて、すべての賠償請求権と、戦争送行中に、日本国または日本人が行つた行為から生じた連合国または連合国人の日本または日本人に対する請求権、それから占領期間中の直接占領軍事費の請求権放棄するということが明らかにされております。末項の直接の占領軍事費とあるのは、いわゆる経済復興援助費のような間接的占領費を含まない趣旨であります。  第十五條は、日本にあります連合国財産の返還であります。これは戦争の始まつた日から戦争が終りました日までの間に日本国にありました連合国財産は、これを返還する、但し現状のままに返還し得ない場合には、原状回復に必要なる補償を日本政府がする、こういうことになつております。その補償の詳細は、本年七月十三日の閣議で決定いたしました在日連合国財産補償法案に定めてある條件よりも不利でない條件従つて補償をする、こういうことになつております。この補償を国内法に一任された点は、きわめて奇異に感じられるかもしれませんが、この條約の建前は、できるだけ簡略な文章にしたいということと、できるだけ日本の自発的措置によつて戦後未解決の諸案件を解決したいという根本精神に出るものであります。それは連合国財産補償法案の内容をごらんになればすぐわかると思いますが、きわめて困難、複雑な内容を包含している問題でありまして、これを條約中に規定しようとすれば、きわめて長い、複雑な文章を必要といたします。対独平和條約、イタリア平和條約をごらんになれば御了解できると思います。さような複雑、困難な問題の解決を、原則として日本の自発的措置にまかすという趣旨でございます。この在日連合国財産の返還に関連いたしましては、工業所有権なり著作権なりについての特殊條項があります。次は第十六條でございます。第十六條は、戦争中、日本が捕虜に與えました損害を各捕虜に補償するために、日本が中立国及び旧枢軸国において持つておりました資産を赤十字国際委員会に引き渡し、同委員会が清算して、これを各捕虜に分配するという趣旨規定であります。平和條約にはあまり先例のない規定でございますけれども、戦争日本軍に捕虜になつていたがために、多大の物心両面の苦悩を受けました各連合国捕虜のいわゆる救恤請求という問題は、イギリス、オランダその他の連合国においてきわめて重要なる政治問題、社会問題になつておることは、皆さま御承知の通りであります。こういう問題に対して、先例はないけれども、いわゆる人道的見地からある種の補償措置日本政府でとつてもらいたいということから入つて来た條項でございます。  第十七條は、戦争日本がとりました捕獲審検所の審判を、関係連合国国民から請求があつた場合には、再審査するような措置をとらなければならないということになつております。再審査は国際法従つて行われなければなりません。再審査の結果、修正を必要とする場合には修正をするということになつております。そうして再審査の結果、捕獲審検によつて没収された船舶その他を返還すべきものだということになつた場合には、今申し上げました第十五條の在日連合自国財産返還に関する規定によつて返還しなければならないということになつております。同條のb項はほぼそれに似た場合でございまして、戦争開始のときからこの平和條約が実施されるまでの間に日本裁判所で裁判した事件におきまして、連合国人が原告または被告として十分陳述をし得なかつたような場合には、日本政府においてこの裁判を再審査するような措置をきめるようにという規定であります。この再審査の結果とるべき措置があるならば、補償その他を日本政府がしなければならなぬことになります。  第十八條は、特殊の規定でございまして、戦争の介在によつて、開戦前に日本人と連合国人との間に存在いたしておりました金銭債務、金銭を支拂わなければならない債務は影響を受けないという規定であります。金銭を拂うその原因となりました契約だとか、種々の法律行為の効力それ自身は、十八條の関係するところではありません。ただ戦争の開始前にすでに成立つておつた金銭を支拂うべき債務は、戦争の結果影響を受けないという趣旨であります。それが第一段の規定でありまし、て、第二段におきまして、日本は戦前にありました外債の債務を承認し、これの支拂いを再開するために、できるだけすみやかに交渉をするという意思を明らかにすると同時に、同じ問題について民間人が交渉をすることを容易にし、また交渉が成立つた場合には、その実施を容易にするようにしなければならぬという規定であります。  第十九條は、第十四條の第二項におきまして、連合国が賠償を受取つたり、ないし平和條約の特殊の條項によつていろんな支拂いを受ける、それ以外の請求権は全部放棄するということを声明しておるのに対応しまして、日本もまた、今回の戦争について、日本国としてまたは日本国人として、連合国または連合国人に対して有しておる請求権原則的に放棄するということを規定しております。同時にまた日独間におきましても、相互主義のもとにお互いに請求権放棄するということを明らかにいたしております。  第二十條は、日本にありますドイツ財産、これは連合国間の協定によりまして、英、米、仏三国が結局最後の処理権を持つておりますが、この三国のために、日本にあるドイツ人財産の保管の責に任ずべきことを規定いたしております。  第二十一條は、これはまつたく特殊の規定でございます。條約というものは参加国間の契約でございますので、その條約に参加しない第三国が直接條約上の利益を受けるということは、きわめて例外でありますが、この條約は朝鮮中国について、條約の特殊條項利益を受け得るということを明らかにいたしております。中国は第十一條、言いかえますと、日本による在中国特殊権益放棄、この條文の利益、それから第十四條aの2の、連合国領域内にある日本財産処分の件でありますが、その條項利益を受けるということになつております。朝鮮は第二條利益を受ける、独立承認利益であります。第四條、これは朝鮮ないし朝鮮人が日本に持つておる財産、この財産をいかに処理するかを両当事者間の特別協定によつて解決するという規定でありますが、この第四條の規定利益を受ける。もう一つ第九條は、漁業協定を締結するという趣旨でありますが、この條約の利益朝鮮は享有する。最後に第十二條、いわゆる通商航海條約ができるまで、両当事者間の通商関係を最恵国待遇及び内国民対遇の一基礎の上に樹立して行くという、この條項利益を受けることになつております。  第六章は第二十二條の一箇條でございまして、紛争の解決方法であります。この條約の解釈なり実施なりについて起りました紛争が、両当事国間の特別の手続または特別の裁判所で解決できない場合には、ハーグにあります国際司法裁判所に付託して解決するという規定であります。  第七章は最終條項でありますが、第二十三條は効力発生條件規定いたしております。この條文によりますと、この條約は日本の批准書とそれからオーストラリア、カナダ、セイロン、フランス、インドネシア、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、英国、アメリカこの十一箇国のうちの過半数、すなわち六箇国、その六箇国のうちには必ずアメリカを含まなければなりません。この七つの批准書の寄託がされましたときに効力が発生する。その以後の批准につきましは、批准書が寄託されたときから効力を発生するということになつております。但し第二項におきまして、この第一項の規定によつて効力が発生しなかつた場合には、日本の批准書の寄託から九箇月たつてもなお効力が発生したかつた場合には、批准書を寄託した国は、日本アメリカ政府とに通告することによつて、二国間でこの平和條約を実施してよろしいという規定であります。何といつても、この條約の効力発生日本の批准書寄託にかかつておるということは争えません。  第二十五條は、この條約で言う連合国の定義であります。と同時に、この條約に署名し、批准しない連合国は、この條約のどの條文からも何らの権知利益も得ないし、日本の有しておる権利利益も、この條約に加入しない国との関係においては、ごうも毀損されることはないということを明白にいたしております。但し、先刻説明いたしました二十一條中国朝鮮に関する特別利益規定は、当然除外されておるわけであります。  第二十六條は、この平和條約に署名しなかつた連合国との平和関係は、いかにして回復さるべきかの規定であります。この規定によりますと、一九四二年一月一日の連合国宣言署名し、またはこれに加入した国であつて日本戦争関係にある国であつて、この條約に署名しなかつた国から、この條約と同一の、または実質的に同じ平和條約を締結しようという申込みがあつた場合には、日本はその国と平和條約を締結する用意あるべきものとされております。この條項が実際適用されるものは七箇国ございます。ビルマ、中国、チェコスロヴアキア、インド、ポーランド、ソヴィエト連邦、ユーゴスラビアの七箇国であります。  第二十七條は、批准書の寄託に関する規定でございます。  以上をもつて平和條約の逐條説明を終りました。  議定書の方は、契約、時効期間及び流通証券、保険契約、特別規定、それから最終條項からなつておりまして、二十六箇国が署名いたしたものであります。この内容はきわめて技術的な規定でございますが、戦前通商経済関係が深かつた国との間にはきわめて重要な條約でございます。ただ戦前最も密接な経済関係がありました合衆国が、この議定書署名しなかつた理由は、合衆国は連邦制度をとつておりまして、この議定書規定しております契約なり、保険なり、流通証券なりに関します権限は、中央政府になくて各ステートの政府にあるわけであります。従つて合衆国としては、こういう議定書に参加する権限を持たないというのがその理由でございます。これはブラジルも同様であります。その他多くの国が署名しなかつたのは、日本とその国との間の経済関係がきわめて稀薄でございますので、こういう議定書締結する必要があまりなかつたからであろう、こう考えます。  最初の契約は敵人間の契約で、その履行のために交渉を必要としたものは、原則として当事者のいずれかが敵人となつたときから解除される、将来に向つて無効とされるということに原則を定めております。契約のうち可分であり、その履行のために交渉を必要としなかつた部分がある場合には、その部分だけは有効とし、そのほかのものは解除する、こういうことを規定いたしております。  Bの時効期間、これは戦争中時効の進行が中断されることを規定いたしております。そうしてこの規定利益日本に対してもあるし、連合国に対してもある、相互主義になつております。  Cの流通証券は、戰前作成されました流通証券が、戦争理由としては無効とされないという原則を定めております。  その次のDは、保険と再保険契約につきまして、Eは生命保険契約について規定いたしております。  Fは特別規定でございまして、いつから契約の当事者を敵人と見なすかという技術的の問題について解答を與えております。最終條項効力発生、その他に関する規定でございます。  この議定書のほか、日本政府だけが署名いたしました宣言二つあるのであります。一つは、国際條約の加盟に関する宣言であります。もう一つは、戦死者の墳墓に関する宣言であります。  第一の国際條約加盟に関する宣言は、第一段におきまして、多数国間の條約、戦前日本が参加していました多数国間條約は戦争によつて影響を受けることなく完全に有効であるということを明らかにしております。平和條効力発生と同時に、完全にこれらの條約に基く権利義務が復活されるということを明らかにしております。国際法上の慣例もこの通りであります。  第二は、日本が今後加入すべき国際條約を九種あげて並列されております。この九種の條約に、日本平和條約が効力発生しましたあと一年以内に加入するということを誓約いたしております。この九種掲げられております内容は、第一次世界大戦終了後第二次世界大戦勃発までの間に作成されました各種の技術的條約を含んでおりまして、その内容もきわめて厖大でございます。今後平和條効力発生後一年の間にこれだけの條約に加入手続をとることがいかに困難であるかということは、今後各位に御了解いただけることと思います。外務省事務当局は全力を盡してこの誓約を果す覚悟でございます。  第三は、日本が参加すべき国際機関について明らかにいたしております。日本はこの平和條約が効力発生しましてから六箇月以内に、一九四四年にできました国際民間航空條約、それから一九四七年にできました世界気象機関條約に加入する意思を表明いたしております。第二部で声明いたしております九種の條約につきましては、加入書を寄託するとか、批准書を寄託するだけで加入が有効に成立いたしますが、この二種の條約につきましては、国際連合の機関なり、当該機関の総会や、執行委員会の承認その他の手続を要するものでありますから、この二種は別個に規定したものであります。  第二の戦死者の墳墓に関する宣言は、日本政府平和條約に関連して、わが国領域内にある連合国の戰死者の墓、墓地及び記念碑を識別し、そのリストを作成し維持しまたは整理する権限を、いずれかの連合国によつて與えられた委員会、代表団その他の機関を承認し、このような機関の事業を容易にし、またはこれらの墓、墓地及び記念碑に関して必要とされるような協定を締結するために、こういう委員会などと交渉するという意思を表明いたしております。と同時に、連合国連合国領域にある日本の戦死者の墓や墓地を保存し維持するためにとりきめをする目的日本政府との協議を開始すべきことを、日本の方で信じているということを表限いたしているものであります。この二箇の宣言ができました理由もまた御推察願いたいと思います。通合国としては、できるだけ平和克服に関連する諸般の問題を日本の自発的措置によつて解決したい、こういう趣旨から問題の諸條約の加入ないし諸機関への加入、または戦死者墳墓の尊重というようなものも、條約義務を課せれば課せられる事柄でありますが、それをあげて日本国との平和條約の文書の外に置いて、日本の一方的誓約としてこの問題を解決されるところに意義があると思います。平和條約の説明は終りました。  次に安全保障條約の逐條説明を申し上げます。  安全保障條約はきわめて簡潔な文章であります。前文の第一項と第二項は、日本安全保障のための條約を必要とする理由を明らかにしております。言いかえれば、日本には軍備がふりませんから、自衛権はありましても、これを行使する有効な手段がありません。しかるに無責任な軍国主義は今なお世界から跡を絶つておりません。そうして日本は危険にさられている、これが理由であります。第三項は、日本がこのような條約を締結し得る法律上の根拠を明らかにいたしております。言いかえれば、平和條約は、日本主権国として集団的安全保障とりきめをする権利を有することを第五條において承認いたしております。また国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを、第五十一條規定いたしております。完全なる主権を有する国家にこのような権利があるということは、別に説明を要せずして明らかなことであります。第四項は、日本日本防衛のための暫定措置として、日本に対する武力攻撃を阻止するため、日本国内及びその附近に、米国においてその軍隊を維持されたいという日本希望を述べております。第五項は、この日本希望に応じまして、米国が平和と安全のために、現在若干の軍隊を日本国内及びその附近に維持する意志があることを明らかにし、さらに米国としては、日本が自国の防衛のために漸増的にみずから責任を負うことを期待するものであることを明らかにいたしております。  本文第一條は、米国軍を日本国内及びその附近に配置することにつきましての基本的原則を定めております。この米国軍に、外部からの武力攻撃に対する日本の安全に寄與するためだけでなく、極東における国際の平和と安全に寄與するためにも使用することができることになつております。言いかえれば、日本国内及び付近にある米国軍は、日本にくぎづけにされるものではなく、たとえば朝鮮動乱のような事態が発生したような場合には、いつでも出動上得るものであります。  第二條は、日本米国の事前の同意なくして、第三国に軍事的な権利を許與しないことを明らかにいたしております。第三條は、この條約の実施細目を両政府間の行政協定で決定することを定めております。  第四條は、條約の有効期間であります。国際連合その他による安全保障措置ができたと日米両国が認めたときまではこの協定は効力を有することになつております。この條約が暫定的な性質のものであることの現われであります。  第五條は、この條約は批准を要するものであるということ、批准書がワシントンで交換され、批准書交換のときに効力が発生するということを明らかにしております。  この條約の署名と同時に、吉田総理とアチソン国務長官との間に、日本国際連合に対する協力に関して公文の交換が行われました。これは、日本平和條約の効力発生後におきましても、国際連合極東において行動をとる場合、このような国際連合行動に従事する軍隊を、当該の国際連合加盟国日本国内及び付近において支持することを、日本が許し、かつ容易にすること。その場合費用の負担は現在通り、または日本関係連合加盟国との間に別に合意される通りとするということ、米国につきましては、行政協定に従つて日本米国に提供すべきもの以外は、すべて現在通り米国の負担とすることを明らかにしたものであります。以上をもつて逐條説明を終ります。
  8. 田中萬逸

    田中委員長 これにて両案についての趣旨説明は終了いたしました。  本日はこの程度にいたしまして、明十八日は午前十時より委員会を開き、両案を一括して総括的質疑を行うことといたします。  これにて散会いたします。     午後二時五十五分散会