○
西村(熊)
政府委員 平和條約と
安全保証條約につきまして、簡單に
逐條説明を申し上げます。
平和條約は
前文と七章、二十
七條からな
つております。
前文は、條約の
慣例によりまして、
関係国がこの條約を
締結するに至りました経緯と、その條約の
指導精神を明らかにいたしております。この條約によりますると、
連合国と
日本とは今後対等の
主権国として、提携、
協力関係に入ることを決意して、
戦争の結果生じた問題を解決するような、
平和條約の
締結を
希望するという
事情を述べております。その上に、
日本は
国際連合に加入を申請し、
国際連合憲章に
従つて行動上、
世界人権宣言の
目的達成に
努力……(「
委員長、
外務大臣が帰
つてしまうよ」と呼び、その他発言する者多し)
国際連合憲章の第五十
五條と第五十六條の
原則に
従つて、安定と福祉の
條件を創造するために
努力する。また
国際通商上の公正な
商慣行を尊重する
趣旨を
宣言いたしまして、
連合国におきまして、この
日本の意思を歓迎する旨を
宣言いたしておるのであります。
本文は平和、
領域、安全、
政治及び
経済條項、
請求権及び
財産條項、
紛争解決に関する
條項、
最終條項の七章からな
つております。
第一章、平和は第
一條からな
つております。この
平和條約が
効力を発生すると同時に、
日本と各
連合国との間には、
平和関係が克服するということを明らかにいたしております。第二項におきまして、
日本国民の
主権が完全にその
領域において行使されるということを明らかにいたしております。
第二章は、
領土の
処分に関する
條項でございます。第
二條から第四條の
規定でございます。第
二條におきまして、
日本は
朝鮮の
独立を
承認し、済州島、巨文島、鬱陵島を含む
朝鮮に対する
領土的主権を
放棄することを明らかにしております。
台湾、
澎湖島に対しても同様であります。
千島列島及び
南樺太についても同様であります。
台湾と
澎湖島、千島と
南樺太の
帰属について第
二條に
規定しなかつた
理由は、その
帰属が
連合国間において合意に達することを得ない問題であるからということを、
ダレス代表は
サン・フランシスコ会議で
説明しております。
また
日本は第一次
大戦の結果、
ヴェルサイユ條約によりまして、
委任統治制度について持
つておりました権原を
放棄するということと、旧
太平洋委任統治を
合衆国の
信託統治制度のもとに置きました一九四七年の
安全保障理事会の決議を
承認するということにな
つております。
また
南極地方に対しまして、一九一二年
白瀬探検隊の
探検の事実に基いて、
日本国におきまして、
南極地方の
主権の
帰属が問題になる場合には、
日本の
主張を考慮されたいという
立場を、一九三八年、正式に
米国国務省に通告いたしておりましたが、この事実を考慮して、以後そういう
主張をすることを
放棄する
趣旨が明らかにされておるわけであります。
最後に、
南支那海にありまする
新南群島及び
西沙群島につきまして、
日本側が
領土的主権を
主張しないという
趣旨を明らかにしております。
新南群島は、御
承知の通り一九三九年、
日本政府が
わが国の
行政管轄に属するよう正式に
措置を
とつた
地域でございますが、その前から
フランスとの間にその
帰属について問題があ
つて、
外交交渉が行われてお
つたのであります。
西沙群島につきましては、いまだか
つて日本は
領土的主権を
主張したことはございません。ただこの
群島の
帰属につきましては、
中国と
フランスとの間に
外交交渉があ
つております。今日なお
両国間においては、その
領土的帰属について円満なる解決に達しておらない状況と了解しております。
第三條は、北緯二十九度以南の南西諸島及び
小笠原硫黄諸島に対しまして、将来
合衆国が
信託統治制度を提議する場合には、これに同意するということと、
合衆国が
信託統治を提議するまでの間、
合衆国で同
地域及びその住民に対しまして、立法、司法、行政の三権を行使することができるということを明らかにしております。
第三條におきましては、第
二條と異なりまして、
日本による
領土的主権の
放棄を
規定いたしておりません。
従つて、同
地域に関する限り
日本の
主権が残るということは、
サン・フランシスコ会議においても、
米英両全権が明白に
説明されたところでございます。
第四條は、第
二條によりまして
日本から離れる
地域における
財産の
処分につきましては、
日本とその
地域を管理する
当局との間の特別とりきめをも
つてきめるという
趣旨を
規定いたしております。また第
二條と第三條に
規定されました
地域につきまして、
アメリカの
軍政府が
日本の
財産について
とつた
処分行為は、その
効力を
承認するということにな
つております。また
日本と
日本から離される
地域との間を連絡する
海底電線は、両
当事国間で折半するということを
規定いたしております。以上が
領土條項であります。
第三章は、第
五條と第六條からな
つておりまして、
安全保障に関する
規定であります。第
五條は、
日本が
国際連合に加盟する前におきましても、
日本は
国際関係におきまして、
国連憲章第
二條の定める
原則に
従つて行動するということを明白にいたしておりまして、同時に
連合国においても、同じ
原則によ
つて日本に対して
行動するということを誓約いたしております。この第
二條にいわれる
原則のうち、特に摘出してあるものが三点あります。一つは、
国際問題を
平和的手段によ
つて解決するということと、
国際関係におきまして
武力の脅威または
武力の行使を
愼むということ、第三は、
国際連合がとるあらゆる
行動に対して
援助を與えるということ、
国際連合が
制裁措置ないし
防止行動をと
つているその
目的にな
つている
国々に対して
援助を與えないということ、この三つの
原則を特に摘出しております。
国際連合がとる
行動にあらゆる
援助を與えるという、そのあらゆる
援助の
意味については、本
会議においても問題に
なつたようでございますが、第
二條は、
国際連合憲章の第
一條の
目的、すなわち
国際平和の維持と
国際協力の発達という、この
二つの
目的を達するために
加盟国が
行動の準則とすべきものを七つ掲げてあるのであります。この
国際連合の
行動に対する
援助が具体的に何を
意味するやは、
国際連合総会なり
安全保障理事会なりが、第三章以下に
規定している
憲章に
従つて国際的問題についてとる決定または
勧告の
内容によ
つてきま
つてくるものであります。(「
総理大臣の答弁と食い違
つておるぞ」と呼び、その他発言する者多し)
第
五條の
安全保障の
規定の
最後に、
C項といたしまして、
日本は
独立国として
安全保障とりきめを
締結する
権利があるということと、
国際連合憲章第五十
一條に
規定いたします集団的及び
個別的自衛権を持
つているということを明らかにいたしております。
独立回復後における当然の現象を注意的に
規定したにとどまるものであります。
第六條は、
占領軍の撤退の
規定であります。
占領軍は、
平和條約
発効後九十日以内に撤退しなければならないことにな
つております。但し、
日本と
連合国との間に別にとりきめができた場合にはその限りにあらずとされております。この
意味は、
連合国の一部には、この
但書はいらないという
議論もあつたようであります。第
五條の
C項によ
つて十分カバーされているから、第六
條A項の
但書はいらないという
議論であります。これに対しまして、なるほどそうであるかもしれないけれども、もしこの
但書以下がない場合には、
占領軍というものは第六條の
規定によ
つて一旦撤退した上、再び
日本と別個に
締結せられる
安全保障とりきめによ
つてまた兵を駐屯させるという、無用の
措置をとらなければならないような
誤解を招く懸念があるから、注意的に置かれたものであるという
米国代表の
説明であります。
第四章は、
政治及び
経済條項でございます。第
七條から第十三條の
規定であります。第
七條は、
連合国と
日本間にあります戦前の二
国間條約をいかに処理するかを
規定いたしております。
戦争の二国間に及ぼす影響については、
慣例も
国際法も一定いたしておりませんので、
平和條約によ
つてその処置の
原則を定めるのが通例であります。これによれば、
平和條約
発効後一年以内に
連合国の方から、
効力を存続させ、または
効力を復活させたい
希望を
日本に通告すれば、三箇月後に、
効力を存続し、または
効力が
回復されることになるということになります。そういう
措置がとられない條約は全部
効力を失います。
第八條は冒頭におきまして、第二次
世界大戦の結果、すでにできております五つの
平和條約及びまだ
平和條約ができておりませんドイツとオーストリアについて、
連合国間に協定されております
平和関係回復のためのとりきめの
効力を、
日本が
承認することを明らかにしております。その次に数種の條一約を並列いたしまして、これらの條約によ
つて日本が有しておる
権利、
利益を
放棄することにな
つております。一々
説明を申しません。
説明書によ
つて、ごらんを願いたいと思います。その結果どうなるかといいますと、簡単に申し上げますれば、第一次
世界大戦の結果、
日本がヨーロッパとアフリカにおいて取得いたしました
政治的、
経済的の特殊の
立場を全部失うということであります。そのうち実際問題としてやや重要なものは、一九一九年に結ばれましたサン・ジェルマン・アン・レィの
諾條約と他の
二つの條約でありますが、そのうち
コンゴ盆地に関する條約上、
日本が
通商経済上同
地域に得ております
均等待遇を受けるという
地位を喪失するということが、終局的に見て一番こたえる点であろうと思います。
第九條は
漁業に関する
規定であります。
日本は公海における
漁業の取締りのために、できるだけすみやかにこれを
希望する
連合国と
漁業協約を
締結するということにな
つております。
第十條は
中国関係でございまして、
中国における
特殊権益の
放棄であります。特に一九〇一年の
北清事変の結果
締結されました
議定書その他の
関係文書によ
つて日本が享有しておる
権利を
放棄するということが特に掲げてあります。
第十
一條は
戦犯に関する
規定であります。
戦犯に関しましては、
平和條約に特別の
規定を置かない限り、
平和條約の
効力発生と同時に、
戦犯に対する
判決は将来に向
つて効力を失い、
裁判がまだ終
つていない瀞は釈放しなければならないというのが
国際法の
原則であります。
従つて十
一條はそういう当然の結果にならないために置かれたものでございまして、第一段におきまして、
日本は
極東軍事裁判所の
判決その他各
連合国の
軍事裁判所によ
つてなした
裁判を承諾いたすということにな
つております。後段は内地において服役しております
戦犯につきまして、
日本が
判決の執行の任に当るということと、こういう
人たちの恩赦、釈放、減刑などに関する事柄は、
日本政府の
勧告に応じて、
判決を下した
連合国政府においてこれを行う、
極東軍事裁判所の下した
判決につきましては、
連合国の過半数によ
つて決定する、こういう
趣旨でございます。従いまして第十
一條後段の
利益は、国外において服役中の
戦犯者には適用ありません。これは
国民の一人としてまことに遺憾と思う次第でございまして、一日も早くわれわれの念願がかないまして、現在外地において服役しております約三百五十余名の同胞が、一日も早く
内地服役になるように念願いたす次第であります。
第十
二條はきわめて重要な
規定だと存じます。これは第十
二條によりまして、
日本は、
日本と
連合国との
通商経済関係を安定した
地位に置くために、できるだけすみやかに
連合国と條約を
締結する用意があるということを声明いたしております。しかしながら
通商航海條約を結ぶまでには相当時間的空白が生じますので、その間の
過渡的措置として、四箇年
間日本と
連合国との
通商関係が準拠すべき
原則を
規定したものであります。この
規定によりますと、
連合国の
国民と船舶と貨物は、輸出入に関しましては最恵国待遇、
経済的活動につきましては内
国民待遇を享有いたします。
日本は與えなければならないのであります。但し
日本がこの最恵国待遇、または内
国民待遇を與えるのは、相互主義でございまして、相手の
連合国が與えない場合には、
日本もこの待遇を與えなくてもよいのであります。また
日本がこの條によ
つて與えます最恵国待遇、ないしは内
国民待遇につきましては、三つの除外例が認められております。それは各
当事国が
締結いたしております
通商航海條約に、通例除外例とな
つている場合には、内
国民待遇なり、最恵国待遇などを與える必要はありません。沿岸貿易、国境貿易、関税同盟、その他数個の除外例があることが、文明国間の
通商航海條約の通例であります。こういう通例除外されてあります事項については、この待遇を與える必要はないのであります。第二は、国の対外的財政
状態、または
国際収支の上から必要がある場合には、この待遇を與えなくてもよろしいことにな
つております。第三は、国家の安全上必要がある場合には、この待遇を與えなくてもよろしいことにな
つております。言いかえれば差別待遇をしてもよろしいということにな
つております。但しこれらの差別待遇は、その事態に応じて合理的なものでなければならぬということにな
つておりますが、これはむろん当然のことでございます。
第十三條は、民間航空に関する
規定であります。民間航空に関しましても、今申し上げました一般
経済関係と同様に、
日本はできるだけすみやかに
希望する国と民間航空に関する條約を
締結することにな
つております。しかしその條約ができますまで、この條約の最初の
効力発生後四箇年間、
日本は現に
連合国に対して與えております
権利待遇を引続き四年間は與えなければならないということにな
つております。現に與えておるものとしては、
連合国飛行機の乗入れ権が中心とな
つておること皆さん御
承知の通りであります。なおまた
日本が
国際民間航空をやる場合には、
国際民間航空條約によ
つて技術的な規則がすでにできておりますが、この條約に加入する前におきましても、
日本が実施する航空輸送はこの條約の
規定に
従つて行わなければならないということにな
つております。
次は第五章の
請求権ど
財産関係の
條項であります。賠償
関係の
條項であります。第十四條が賠償に関する
規定であります。この條によりますと、
日本は
連合国に賠償を支拂うべきものであるという
原則を認めると同時に、
日本の資源をも
つてしましては、現在完全な賠償支拂いと債務の履行を合せて行うならば、
経済を維持することはできないということも同時に認められておるわけであります。
従つてこの相矛盾するがごとき
二つの
原則を
承認するがゆえに、第一と第二の二種の賠償を
規定しております。第一の賠償は、現在の
領域が
日本軍隊によ
つて占領され、かつ損害を受けた
連合国から
希望があるときは、
日本人の役務を提供することによ
つて、その損害を修理するに必要な費用を補うためにとりきめを
締結しなければならぬということにな
つております。提供されるべき役務の例としましては、沈船の引揚げと生産とがあげてあります。このとりきめについては
二つの
條件がついております。第一は、他の
連合国に迷惑をかけないことということであります。
日本が賠償とりきめをなすことによ
つて他の
連合国に追加的負担を及ぼすようなことがあ
つてはならないというのであります。第二は、役務の
内容が原材料に対して加工をする賠償、いわゆる生産加工賠償でありました場合には、
日本に外貨の負担を課さないように、原材料は賠償要請国が供給しなければならない、こういうことにな
つております。これが第一の賠償であります。第二の賠償といたしまして、
連合国領域内にある
日本の
財産は、
連合国の
処分に一任されます。この
処分は、各
連合国の国内法に
従つて行われることにな
つております。もつとも五つの除外例が為ります。また
日本の在
連合国財産のうち、著作権と商標につきましては、各
連合国においてできるだけ好意ある、取扱いをするということにな
つております。十四條の第二項におきまして、今あげましたように、
日本は二種の賠償をいたしますので、
連合国はこれ以上の賠償支拂いを要求しないという
意味におきまして、今申し上げました賠償義務に対応して、
連合国がこの
平和條約中で特に
規定されているものを除いて、すべての賠償
請求権と、
戦争送行中に、
日本国または
日本人が行つた行為から生じた
連合国または
連合国人の
日本または
日本人に対する
請求権、それから占領期間中の直接
占領軍事費の
請求権を
放棄するということが明らかにされております。末項の直接の
占領軍事費とあるのは、いわゆる
経済復興
援助費のような間接的占領費を含まない
趣旨であります。
第十
五條は、
日本にあります
連合国財産の返還であります。これは
戦争の始まつた日から
戦争が終りました日までの間に
日本国にありました
連合国財産は、これを返還する、但し現状のままに返還し得ない場合には、原状
回復に必要なる補償を
日本政府がする、こういうことにな
つております。その補償の詳細は、本年七月十三日の閣議で決定いたしました在日
連合国財産補償法案に定めてある
條件よりも不利でない
條件に
従つて補償をする、こういうことにな
つております。この補償を国内法に一任された点は、きわめて奇異に感じられるかもしれませんが、この條約の建前は、できるだけ簡略な文章にしたいということと、できるだけ
日本の自発的
措置によ
つて戦後未解決の諸案件を解決したいという根本
精神に出るものであります。それは
連合国財産補償法案の
内容をごらんになればすぐわかると思いますが、きわめて困難、複雑な
内容を包含している問題でありまして、これを條約中に
規定しようとすれば、きわめて長い、複雑な文章を必要といたします。対独
平和條約、イタリア
平和條約をごらんになれば御了解できると思います。さような複雑、困難な問題の解決を、
原則として
日本の自発的
措置にまかすという
趣旨でございます。この在日
連合国財産の返還に関連いたしましては、工業所有権なり著作権なりについての特殊
條項があります。次は第十六條でございます。第十六條は、
戦争中、
日本が捕虜に與えました損害を各捕虜に補償するために、
日本が中立国及び旧枢軸国において持
つておりました資産を赤十字
国際委員会に引き渡し、同委員会が清算して、これを各捕虜に分配するという
趣旨の
規定であります。
平和條約にはあまり先例のない
規定でございますけれども、
戦争中
日本軍に捕虜にな
つていたがために、多大の物心両面の苦悩を受けました各
連合国捕虜のいわゆる救恤請求という問題は、イギリス、オランダその他の
連合国においてきわめて重要なる
政治問題、社会問題にな
つておることは、皆さま御
承知の通りであります。こういう問題に対して、先例はないけれども、いわゆる人道的見地からある種の補償
措置を
日本政府でと
つてもらいたいということから入
つて来た
條項でございます。
第十
七條は、
戦争中
日本がとりました捕獲審検所の審判を、
関係連合国国民から請求があつた場合には、再審査するような
措置をとらなければならないということにな
つております。再審査は
国際法に
従つて行われなければなりません。再審査の結果、修正を必要とする場合には修正をするということにな
つております。そうして再審査の結果、捕獲審検によ
つて没収された船舶その他を返還すべきものだということに
なつた場合には、今申し上げました第十
五條の在日連合自国
財産返還に関する
規定によ
つて返還しなければならないということにな
つております。同條のb項はほぼそれに似た場合でございまして、
戦争開始のときからこの
平和條約が実施されるまでの間に
日本の
裁判所で
裁判した事件におきまして、
連合国人が原告または被告として十分陳述をし得なかつたような場合には、
日本政府においてこの
裁判を再審査するような
措置をきめるようにという
規定であります。この再審査の結果とるべき
措置があるならば、補償その他を
日本政府がしなければならなぬことになります。
第十八條は、特殊の
規定でございまして、
戦争の介在によ
つて、開戦前に
日本人と
連合国人との間に存在いたしておりました金銭債務、金銭を支拂わなければならない債務は影響を受けないという
規定であります。金銭を拂うその原因となりました契約だとか、種々の法律行為の
効力それ自身は、十八條の
関係するところではありません。ただ
戦争の開始前にすでに成立
つておつた金銭を支拂うべき債務は、
戦争の結果影響を受けないという
趣旨であります。それが第一段の
規定でありまし、て、第二段におきまして、
日本は戦前にありました外債の債務を
承認し、これの支拂いを再開するために、できるだけすみやかに
交渉をするという意思を明らかにすると同時に、同じ問題について民間人が
交渉をすることを容易にし、また
交渉が成立つた場合には、その実施を容易にするようにしなければならぬという
規定であります。
第十九條は、第十四條の第二項におきまして、
連合国が賠償を受取つたり、ないし
平和條約の特殊の
條項によ
つていろんな支拂いを受ける、それ以外の
請求権は全部
放棄するということを声明しておるのに対応しまして、
日本もまた、今回の
戦争について、
日本国としてまたは
日本国人として、
連合国または
連合国人に対して有しておる
請求権を
原則的に
放棄するということを
規定しております。同時にまた日独間におきましても、相互主義のもとにお互いに
請求権を
放棄するということを明らかにいたしております。
第二十條は、
日本にありますドイツ
財産、これは
連合国間の協定によりまして、英、米、仏三国が結局
最後の処理権を持
つておりますが、この三国のために、
日本にあるドイツ人
財産の保管の責に任ずべきことを
規定いたしております。
第二十
一條は、これはまつたく特殊の
規定でございます。條約というものは参加国間の契約でございますので、その條約に参加しない第三国が直接條約上の
利益を受けるということは、きわめて例外でありますが、この條約は
朝鮮と
中国について、條約の特殊
條項の
利益を受け得るということを明らかにいたしております。
中国は第十
一條、言いかえますと、
日本による在
中国特殊権益の
放棄、この條文の
利益、それから第十四條aの2の、
連合国領域内にある
日本財産の
処分の件でありますが、その
條項の
利益を受けるということにな
つております。
朝鮮は第
二條の
利益を受ける、
独立承認の
利益であります。第四條、これは
朝鮮ないし
朝鮮人が
日本に持
つておる
財産、この
財産をいかに処理するかを両当事者間の特別協定によ
つて解決するという
規定でありますが、この第四條の
規定の
利益を受ける。もう一つ第九條は、
漁業協定を
締結するという
趣旨でありますが、この條約の
利益を
朝鮮は享有する。
最後に第十
二條、いわゆる
通商航海條約ができるまで、両当事者間の
通商関係を最恵国待遇及び内
国民対遇の一基礎の上に樹立して行くという、この
條項の
利益を受けることにな
つております。
第六章は第二十
二條の一箇條でございまして、紛争の解決方法であります。この條約の解釈なり実施なりについて起りました紛争が、両
当事国間の特別の手続または特別の
裁判所で解決できない場合には、ハーグにあります
国際司法
裁判所に付託して解決するという
規定であります。
第七章は
最終條項でありますが、第二十三條は
効力発生條件を
規定いたしております。この條文によりますと、この條約は
日本の批准書とそれからオーストラリア、カナダ、セイロン、
フランス、インドネシア、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、英国、
アメリカこの十一箇国のうちの過半数、すなわち六箇国、その六箇国のうちには必ず
アメリカを含まなければなりません。この七つの批准書の寄託がされましたときに
効力が発生する。その以後の批准につきましは、批准書が寄託されたときから
効力を発生するということにな
つております。但し第二項におきまして、この第一項の
規定によ
つて効力が発生しなかつた場合には、
日本の批准書の寄託から九箇月た
つてもなお
効力が発生したかつた場合には、批准書を寄託した国は、
日本と
アメリカ政府とに通告することによ
つて、二国間でこの
平和條約を実施してよろしいという
規定であります。何とい
つても、この條約の
効力発生が
日本の批准書寄託にかか
つておるということは争えません。
第二十
五條は、この條約で言う
連合国の定義であります。と同時に、この條約に
署名し、批准しない
連合国は、この條約のどの條文からも何らの権知
利益も得ないし、
日本の有しておる
権利利益も、この條約に加入しない国との
関係においては、ごうも毀損されることはないということを明白にいたしております。但し、先刻
説明いたしました二十
一條、
中国と
朝鮮に関する特別
利益規定は、当然除外されておるわけであります。
第二十六條は、この
平和條約に
署名しなかつた
連合国との
平和関係は、いかにして
回復さるべきかの
規定であります。この
規定によりますと、一九四二年一月一日の
連合国宣言に
署名し、またはこれに加入した国であ
つて、
日本と
戦争関係にある国であ
つて、この條約に
署名しなか
つた国から、この條約と同一の、または実質的に同じ
平和條約を
締結しようという申込みがあつた場合には、
日本はその国と
平和條約を
締結する用意あるべきものとされております。この
條項が実際適用されるものは七箇国ございます。ビルマ、
中国、チェコスロヴアキア、インド、ポーランド、ソヴィエト連邦、ユーゴスラビアの七箇国であります。
第二十
七條は、批准書の寄託に関する
規定でございます。
以上をも
つて平和條約の
逐條説明を終りました。
議定書の方は、契約、時効期間及び流通証券、保険契約、特別
規定、それから
最終條項からな
つておりまして、二十六箇国が
署名いたしたものであります。この
内容はきわめて技術的な
規定でございますが、戦前
通商経済的
関係が深か
つた国との間にはきわめて重要な條約でございます。ただ戦前最も密接な
経済関係がありました
合衆国が、この
議定書に
署名しなかつた
理由は、
合衆国は連邦制度をと
つておりまして、この
議定書で
規定しております契約なり、保険なり、流通証券なりに関します権限は、中央
政府になくて各ステートの
政府にあるわけであります。
従つて合衆国としては、こういう
議定書に参加する権限を持たないというのがその
理由でございます。これはブラジルも同様であります。その他多くの国が
署名しなか
つたのは、
日本とその国との間の
経済関係がきわめて稀薄でございますので、こういう
議定書を
締結する必要があまりなかつたからであろう、こう考えます。
最初の契約は敵人間の契約で、その履行のために
交渉を必要としたものは、
原則として当事者のいずれかが敵人と
なつたときから解除される、将来に向
つて無効とされるということに
原則を定めております。契約のうち可分であり、その履行のために
交渉を必要としなかつた部分がある場合には、その部分だけは有効とし、そのほかのものは解除する、こういうことを
規定いたしております。
Bの時効期間、これは
戦争中時効の進行が中断されることを
規定いたしております。そうしてこの
規定の
利益は
日本に対してもあるし、
連合国に対してもある、相互主義にな
つております。
Cの流通証券は、戰前作成されました流通証券が、
戦争を
理由としては無効とされないという
原則を定めております。
その次のDは、保険と再保険契約につきまして、Eは生命保険契約について
規定いたしております。
Fは特別
規定でございまして、いつから契約の当事者を敵人と見なすかという技術的の問題について解答を與えております。
最終條項は
効力発生、その他に関する
規定でございます。
この
議定書のほか、
日本政府だけが
署名いたしました
宣言が
二つあるのであります。一つは、
国際條約の加盟に関する
宣言であります。もう一つは、戦死者の墳墓に関する
宣言であります。
第一の
国際條約加盟に関する
宣言は、第一段におきまして、多数国間の條約、戦前
日本が参加していました多数
国間條約は
戦争によ
つて影響を受けることなく完全に有効であるということを明らかにしております。
平和條約
効力発生と同時に、完全にこれらの條約に基く
権利義務が復活されるということを明らかにしております。
国際法上の
慣例もこの通りであります。
第二は、
日本が今後加入すべき
国際條約を九種あげて並列されております。この九種の條約に、
日本は
平和條約が
効力発生しましたあと一年以内に加入するということを誓約いたしております。この九種掲げられております
内容は、第一次
世界大戦終了後第二次
世界大戦勃発までの間に作成されました各種の技術的條約を含んでおりまして、その
内容もきわめて厖大でございます。今後
平和條約
効力発生後一年の間にこれだけの條約に加入手続をとることがいかに困難であるかということは、今後各位に御了解いただけることと思います。外務省
事務当局は全力を盡してこの誓約を果す覚悟でございます。
第三は、
日本が参加すべき
国際機関について明らかにいたしております。
日本はこの
平和條約が
効力発生しましてから六箇月以内に、一九四四年にできました
国際民間航空條約、それから一九四七年にできました
世界気象機関條約に加入する意思を表明いたしております。第二部で声明いたしております九種の條約につきましては、加入書を寄託するとか、批准書を寄託するだけで加入が有効に成立いたしますが、この二種の條約につきましては、
国際連合の機関なり、当該機関の総会や、執行委員会の
承認その他の手続を要するものでありますから、この二種は別個に
規定したものであります。
第二の戦死者の墳墓に関する
宣言は、
日本政府は
平和條約に関連して、
わが国の
領域内にある
連合国の戰死者の墓、墓地及び記念碑を識別し、そのリストを作成し維持しまたは整理する権限を、いずれかの
連合国によ
つて與えられた委員会、代表団その他の機関を
承認し、このような機関の事業を容易にし、またはこれらの墓、墓地及び記念碑に関して必要とされるような協定を
締結するために、こういう委員会などと
交渉するという意思を表明いたしております。と同時に、
連合国が
連合国の
領域にある
日本の戦死者の墓や墓地を保存し維持するためにとりきめをする
目的で
日本政府との協議を開始すべきことを、
日本の方で信じているということを表限いたしているものであります。この二箇の
宣言ができました
理由もまた御推察願いたいと思います。通合国としては、できるだけ平和克服に関連する諸般の問題を
日本の自発的
措置によ
つて解決したい、こういう
趣旨から問題の諸條約の加入ないし諸機関への加入、または戦死者墳墓の尊重というようなものも、條約義務を課せれば課せられる事柄でありますが、それをあげて
日本国との
平和條約の
文書の外に置いて、
日本の一方的誓約としてこの問題を解決されるところに意義があると思います。
平和條約の
説明は終りました。
次に
安全保障條約の
逐條説明を申し上げます。
安全保障條約はきわめて簡潔な文章であります。
前文の第一項と第二項は、
日本が
安全保障のための條約を必要とする
理由を明らかにしております。言いかえれば、
日本には軍備がふりませんから、自衛権はありましても、これを行使する有効な
手段がありません。しかるに無責任な軍国主義は今なお
世界から跡を絶
つておりません。そうして
日本は危険にさられている、これが
理由であります。第三項は、
日本がこのような條約を
締結し得る法律上の根拠を明らかにいたしております。言いかえれば、
平和條約は、
日本が
主権国として集団的
安全保障とりきめをする
権利を有することを第
五條において
承認いたしております。また
国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の
権利を有することを、第五十
一條で
規定いたしております。完全なる
主権を有する国家にこのような
権利があるということは、別に
説明を要せずして明らかなことであります。第四項は、
日本が
日本防衛のための暫定
措置として、
日本に対する
武力攻撃を阻止するため、
日本国内及びその附近に、
米国においてその軍隊を維持されたいという
日本の
希望を述べております。第五項は、この
日本の
希望に応じまして、
米国が平和と安全のために、現在若干の軍隊を
日本国内及びその附近に維持する意志があることを明らかにし、さらに
米国としては、
日本が自国の
防衛のために漸増的にみずから責任を負うことを期待するものであることを明らかにいたしております。
本文第
一條は、
米国軍を
日本国内及びその附近に配置することにつきましての基本的
原則を定めております。この
米国軍に、外部からの
武力攻撃に対する
日本の安全に寄與するためだけでなく、
極東における
国際の平和と安全に寄與するためにも使用することができることにな
つております。言いかえれば、
日本国内及び付近にある
米国軍は、
日本にくぎづけにされるものではなく、たとえば
朝鮮動乱のような事態が発生したような場合には、いつでも出動上得るものであります。
第
二條は、
日本が
米国の事前の同意なくして、第三国に
軍事的な
権利を許與しないことを明らかにいたしております。第三條は、この條約の実施細目を両
政府間の行政協定で決定することを定めております。
第四條は、條約の有効期間であります。
国際連合その他による
安全保障措置ができたと日米
両国が認めたときまではこの協定は
効力を有することにな
つております。この條約が暫定的な性質のものであることの現われであります。
第
五條は、この條約は批准を要するものであるということ、批准書がワシントンで
交換され、批准書
交換のときに
効力が発生するということを明らかにしております。
この條約の
署名と同時に、
吉田総理とアチソン国務長官との間に、
日本の
国際連合に対する協力に関して公文の
交換が行われました。これは、
日本が
平和條約の
効力発生後におきましても、
国際連合が
極東において
行動をとる場合、このような
国際連合の
行動に従事する軍隊を、当該の
国際連合加盟国が
日本国内及び付近において支持することを、
日本が許し、かつ容易にすること。その場合費用の負担は現在通り、または
日本と
関係連合
加盟国との間に別に合意される通りとするということ、
米国につきましては、行政協定に従
つて日本が
米国に提供すべきもの以外は、すべて現在通り
米国の負担とすることを明らかにしたものであります。以上をも
つて逐條説明を終ります。