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1951-11-07 第12回国会 衆議院 外務委員会労働委員会連合審査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年十一月七日(水曜日)     午前十時四十四分開議  出席政府委員    委員長 守島 伍郎君    理事 北澤 直吉君 理事 竹尾  弌君    理事 山本 利壽君       小川原政信君    近藤 鶴代君       仲内 憲治君    中山 マサ君       小川 半次君    並木 芳雄君       林  百郎君    黒田 寿男君   労働委員会    委員長 倉石 忠雄君    理事 島田 末信君    青野 武一君       麻生太賀吉君    天野 公義君       金原 舜二君    佐藤 親弘君       船越  弘君    大矢 省三君       赤松  勇君    中原 健次君  出席国務大臣         法 務 総 裁 大橋 武夫君         労 働 大 臣 保利  茂君  出席政府委員         外務事務官         (政務局長)  島津 久大君         通商産業政務次         官       首藤 新八君         労働事務官         (大臣官房国際         労働課長)   橘 善四郎君         労働事務官         (職業安定局         長)      齋藤 邦吉君  委員外出席者         外務事務官         (条約局国際協         力課長)    須山 達夫君         労働事務官         (大臣官房総務課         長)      富樫 総一君         外務委員会専門         員       村瀬 忠雄君         労働委員会専門         員       横大路俊一君         労働委員会専門         員       浜口金一郎君     ————————————— 本日の会議に付した事件  国際労働機関憲章受諾について承認を求める  の件(条約第四号)     —————————————
  2. 守島伍郎

    ○守島委員長 ただいまより外務委員会労働委員会連合審査会を開会いたします。慣例によりまして私が委員長を勤めますからさよう御了承を願います。  それでは国際労働機関憲章受諾について承認を求めるの件を議題といたします。まず政府側より提案理由説明を求めます。
  3. 島津久大

    島津政府委員 ただいま議題となりました国際労働機関憲章につきまして、提案理由説明をいたします。  国際労働機関は、今次大戦までは国際連盟の一機関として活動してまいりましたが、大戦連盟の解消と前後して、その憲章改正して独立の国際機関となり、かつ国際連合とも協定して、その専門機関となつている国際機関であります。  政府は、後に述べますようなこの機関加盟することの利益にかんがみまして、機会あるごとに総司令部を通じて、この機関への加盟に努力して参りましたが、容易に成功するに至りませんでした。しかるに去る六月六日からジユネーヴで開催されました第三十四回の労働総会の直前に至り、ようやくこの総会加盟申請書を提出し得る見通しがつきましたので、ただちに申請書を提出し、同月二十一日に賛成投票百十七、反対投票十一をもちまして総会承認を得ることができました。  現在国際労働機関は、六十四箇国が参加している大規模な国際機関でありまして、世界の恒久平和は、ただ社会的正義の上にのみ樹立され得るという立場から、多数の人民に対する不正、困苦及び窮乏を伴う諸種の労働条件を、国際的協力によつて改善して行くことをその目的としております。そのために必要な条約提案し、勧告を行うとともに、この目的の達成が完全雇用不断に向上する生産力とのもとにおいてのみ可能であるという見地に立ちまして、世界生産資源のより完全かつ広汎な利用、生産消費の増強及び極端な景気変動の防止を目的とする国際的、国内的施策後進国の経済的、社会的発展国際的原料品の価格安定、国際貿易量の増加と安定に関し、他の諸機関と協力することをその主たる任務といたしております。わが国のこの機関への加盟が実現いたしますれば、これによつてわが国労働者福祉が増進されるばかりでなく、さらに進んで労使間の関係円滑化産業高度化が促進され、もつてわが国発展に寄与するところが、はなはだ大なるものがあると考えます。さらにこれによりまして日本労働条件が、法制上完全に国際的水準に達していることを示すことが可能となり、日本が決して低い労働条件により、いわゆるソーシヤル・ダンピングを行うものではないという事実を広く世界に理解せしめることができるでありましよう。これは従来製品の輸出にあたつて日本がこうむつていたこの種のとかくの非難及び疑惑を一掃することになり、わが国経済の公正な発展を、初めて可能ならしめるものであるといわなければなりません。  この機関への加盟に伴い、戦前わが国が未払いであつた分担金の問題があります。事務局よりの通報によりますと、一九三八年より一九四〇年に至る三箇年のわが国分担金未払額は、現在の邦貨で約一億二千九百八十六万円でありますが、その金額及び支払い方法については、今後毎年負担すべき分担金とともに、国際労働機関との将来の協議により、できる限りわが国の負担を軽くするよう努力する所存であります。  以上の次第でありますから、何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御承認あらんことをお願いいたします。
  4. 守島伍郎

    ○守島委員長 それでは質疑を許します。並木芳雄君。
  5. 並木芳雄

    並木委員 この憲章にいうところの労働者定義をはつきりしておいていただきたいと思います。それは、この国際労働機関が第一次大戦の結果、工業労働者を主として対象としておるのではないかという節が見えますので、まずこの憲章のいわゆる労働者というものの定義をはつきりしていただきたいと思います。
  6. 橘善四郎

    橘政府委員 お答え申し上げます。国際労働憲章の中に掲げられておりますところの労働者というのは、賃金の支払いを受けておる者でありまして、農業労働者も全部含んでおるということが申し上げられるのでございます。
  7. 並木芳雄

    並木委員 そうすると広い意味における労働者というふうに了解してよいわけですか。
  8. 橘善四郎

    橘政府委員 その通り相違ございません。
  9. 並木芳雄

    並木委員 この憲章に基いて現在までに国際労働立法、つまり条約とか勧告というようなものが、条約の場合は約百、それから勧告では九十二採択されているというふうにこの説明書の中にあります。そこで日本がこの国際労働機関憲章受諾いたしましたあかつきに入るべき条約、あるいは拘束される勧告というようなものの、おもなものをあげていただきたいと思います。
  10. 橘善四郎

    橘政府委員 わが国が戦前加盟しておりました当時に批准いたしました条約の数は、全部で十四条約あるのでございます。それから脱退期間におきまして労働総会において採択されました条約の数は三十三、勧告の数におきまして二十六というぐあいになつておると存じている次第でございます。これら空白時代条約及び勧告につきましては、わが国といたしましては、これらの条約原則的な、基本的な分から選択いたしまして、今後国会の御承認を求めるような方法を講じまして、なるべくすみやかに必要なるものから順次批准して行きたい、こういう考えを持つておる次第でございます。
  11. 並木芳雄

    並木委員 そういうものにはどんなものがあるのですか。おもなものの項目をあげていただきたいと思います。
  12. 橘善四郎

    橘政府委員 おもなるものを申し上げます。工業及び商業における労働監督に関する条約職業安定事業の組織に関する条約結社の自由及び団結権の擁護に関する条約、団結しかつ団体的に交渉をする権利原則の適用に関する条約というようなのが、おもなるものと存じておる次第でございます。
  13. 並木芳雄

    並木委員 これは労働大臣が来なくてもおわかりになつておると思います。けれども、この憲章には完全雇用ということが非常に強くうたわれております。そこで日本も当然この完全雇用という線に向つて、進まなければならないと思うのですけれども、その基礎資料として、現在の失業者の数、それから今後の失業対策、そういつたものに対する基礎的なものを、この機会にお伺いしておきたいと思います。
  14. 橘善四郎

    橘政府委員 まことに申訳ないことでありまするけれども、今資料を持ち合せておりませんので、またの機会にお願い申し上げたいと存じます。
  15. 並木芳雄

    並木委員 この憲章受諾する以上は、この線に沿つて日本は努力して行かなければなりません。そこでどうしても項目の大きな一つである完全雇用というものを無視できないのであつて、その完全雇用なるものに労働大臣がどういう構想をもつて臨むか、こういうことを聞きたいと思つておるのです。そのための基礎になる資料でございますから、手元になかつたら、至急それを取寄せるようにおとりはからいを願いたいと思います。、  それからこの憲章にはソ連が入つておらないようでございますけれども、今世界のおもなる国の中で、入つておらない国々はどことどこですか。
  16. 須山達夫

    須山説明員 世界の重要な国の中で入つておらないのは、ソ連一国であります。
  17. 並木芳雄

    並木委員 中国という名前で加入しておりますけれども、この中国は今どういうふうな関係に置かれておりますか。
  18. 須山達夫

    須山説明員 台湾にあります国民政府のことであります。
  19. 並木芳雄

    並木委員 そうすると、この国際労働機関というものは、やはり二つにわかれた世界一つの分野に通用されるようにしか受取られない点は、はなはだ残念です。このほかに国際労働機関的なものはどんなものがあるか、その点お尋ねしておきたいと思う。
  20. 橘善四郎

    橘政府委員 国際労働機関としてILO一つしかないのでございますが、民間の国際労働機関といたしましては、おもなるものといたしまして世界労連国際自由労連というのがあるのでございます。
  21. 並木芳雄

    並木委員 その二つに対しては、政府としては全然関係を持つておらないのですか。つまり各国とも政府が全然関与しないで、純民間的の労働機関にすぎないものであるかどうか。
  22. 須山達夫

    須山説明員 国際労働機関と申します現在御承認を願つておる方は、国家国家との間の約束でできた国家の間の機関であります。あと国際自由労連世界労連は、国家とは別個の団体でありますから、政府といたしまして特に関係を有する筋合いではないわけでございます。
  23. 並木芳雄

    並木委員 それでは私は、あと労働大臣に直接質問いたしますから、この程度でやめます。
  24. 竹尾弌

    竹尾委員 ただいまの御説明では、農業労働者も加わるということでございましたが、農業労働者と申しますと、資本主義的な農業経営に携わつておる労働者、こういう意味でございますか。
  25. 橘善四郎

    橘政府委員 その意味は、農業におけるところの雇用労働者ということになつております。
  26. 竹尾弌

    竹尾委員 そうしますと、それは雇用労働者には相違ございませんでしようが、大農経営等々の範疇に属する農業経営に雇われておる労働者という意味でしようか。
  27. 橘善四郎

    橘政府委員 主としてそういうことと思つておる次第でございます。
  28. 竹尾弌

    竹尾委員 念のためにお尋ねいたしますが、そうした農業労働者世界に今どのくらいおりますか。
  29. 橘善四郎

    橘政府委員 まことに申訳ございませんが、資料を今持つておりませんのでお答えいたしかねます。
  30. 守島伍郎

    ○守島委員長 それでは林君。
  31. 林百郎

    ○林(百)委員 ILO総会に出席して帰つて来た総評の島上君の帰朝談の中に、英国代表日本政府労働政策が反動化しないということを条件として、ILO総会において日本加盟を支持した。各国代表とも日本軍国主義の復活を非常に杞憂しておつた従つて英国代表は、日本政府代表に対して次の三点を質問した。第一は、日本政府はすべての人民言論集会の自由を与えておるかどうか。第二は、公務員団体交渉権政治活動制限憲法違反ではないか。第三は、労働基準法を改悪すると言われているが事実か。この三点の質問英国代表から受けたということが、島上君の帰朝談に載つていますが、この点について、ILO総会における日本加盟の問題についてどういういきさつがあつたか、まず説明を聞きたいと思います。
  32. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 私からお答え申し上げます。私もやはり今回の第三十四回ILO総会にオブザーヴアーの政府側代表として向うに参りました。その際に向う日本正式加入申込みについて審査小委員会が開かれたのでありまして、その審査小委員会には島上さんは出ておりませんでしたが、政府側代表が二人出ておつたのであります。その質問内容について、ただいまお尋ねの点がありましたが、多少事実と違う点もございますのでお答え申し上げますが、ILOの再加入につきましては、そうした条件は何もございませんでした。質問は、ただいまお尋ね労働基準法改正の問題につきまして、新聞紙上いろいろ伝えられておるが、これについてどう考えておるか、こういう質問がありました。これに対しましては、目下のところ労働基準法改正につきましては、何ら成案を得ていないということを答えております。それからそのお尋ねの中の団体交渉言論の……。
  33. 林百郎

    ○林(百)委員 今のでちよつと……。基準法改正については日本政府成案を持つておらないと答弁したのですか。
  34. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 基準法改正については、目下のところ成案を得ていないと私は答えておきました。それから言論の自由、団体交渉権の問題につきましては、日本憲法では言論の自由並びに団体交渉権を保障しておるか。憲法では保障しておる。国家公務員地方公務員については多少の制限をしておると聞いているが、その通りか。団体交渉権についてはその通りである。そういうふうに答えましたら、その点はそれでは憲法違反ではないだろうか、こういうお尋ねがありました。私どもといたしましては、公務員は全体の奉仕者であるという憲法条章並びに権利は濫用すべきでなく、公共の福祉のために行使すべきものであるという憲法条章に照しまして憲法違反でない、かように解釈をしておるということを答えたのでありまして、ILOの再加入につきまして、そうしたただいまお尋ねのような趣旨条件というものは、何もついておりませんでございました。以上私から御説明申し上げます。
  35. 竹尾弌

    竹尾委員 ちよつと関連して一言……。三十四回総会反対投票が十一票あつた、こういうふうにここにございますが、この反対投票の十一票というのは大体どんなことになつているのですか。
  36. 橘善四郎

    橘政府委員 三十四回の総会におきまして賛成投票をしたのは百十七、反対は十一票ということになつておりますが、反対側の十一票の四つはチェコスロヴアキアの代表全部、さらに四名はポーランドの政府代表及び労使代表全部、それからフィリピンの政府代表二名の反対グアテマラ国労働者代表の一名、以上十一名が反対しておるということになつております。
  37. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると英国代表から、日本政府人民に十分な言論集会の自由を保障しておるかどうかという点についての質問はあつたのですか、なかつたのですか。
  38. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 人民という言葉ではなかつたと思つておりますが、言論の自由を保障しておるか、こういうお尋ねがありましたので、言論の自由は憲法の定めるところによつて保障せられておるというお答えをいたしました。
  39. 林百郎

    ○林(百)委員 言論の自由が保障されておるといいますが、御承知通り世界労連解散の問題もありますし、それから各労働組合機関紙発刊停止の問題もありますし、労働組合の中におけるところのいろいろの平和運動に対する弾圧もありますし、一日に八百件以上の家宅捜索も行われておるような実情でありますし、国会議員特審局の認定で追放されるようなこともあるのですが、これであなたは日本国民言論集会表現の自由が十分保障されておるというお答えをなさつたのですか。
  40. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 私のお答えいたしましたのは、憲法条章従つて言論の自由があるということを答えただけでありまして、ただいまお尋ねのような具体的な例では、私は何らお答えをいたしておりません。
  41. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると憲法条章では保障されておる。しかし現実の問題ではこういう事態が起きておるということはあなたは認められるのですか、認められぬのですか。
  42. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 向うお尋ねは、日本憲法言論の自由を保障しておるかというお尋ねでありましたから、私は憲法によつて言論は保障されておるということだけを答えたのであります。
  43. 林百郎

    ○林(百)委員 ILOアジア地区予備会議でもこういう決議がされておるのであります。アジアにおける労働条件の向上は、その基準日本にも適用されることなくしては望み得ない。本会議決定日本政府にも送付して、日本政府アジア会議決定を採択するように注意を喚起する。国際労働機関日本労働事情を調査し、日本が再びダンピングに至らぬよう処置をとることが望ましい。こういう点を見ますと、明らかにILOアジア地区予備会議においても、日本の国の労働条件が非常に低いということが非難されておるのであります。この点についてこの総会でもこれと同じ問題が出たと思いますが、あなたとしては、日本における労働者労働条件は、決して世界基準からいつて低くないという答えをしておるわけですか。
  44. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 ただいまお尋ねのような質問は、私は小委員会では受けておりません。
  45. 林百郎

    ○林(百)委員 英国代表質問は、先ほど私が言いました通り日本政府日本のすべての国民言論集会の自由を与えておるかどうか、公務員団体交渉権政治活動制限憲法違反ではないか、労働基準法を改悪すると言われておるがどうかということで、日本労働者利益が十分保護されておらないという点を危惧して、英国代表はあなた方に質問をしたと思うわけです。このことは一九四七年の十月のILOアジア地区会議でも、同じ決議をされておるのでありまして、この点について日本代表としてはどういう答弁をされたか。日本労働者が、世界的な高度な労働条件のもとに保護されておるという趣旨答弁をされたのか。あるいはその点は将来十分保護するような努力をするという意味答弁をされたのか。その点を聞きたいのです。要するに私の聞くことは、あなたの答弁を聞いていると、現状のままで憲法労働法によつて十分日本労働者利益は守られておるという答弁をしておると思う。ところが法規の上でもいろいろ欠陥がありますけれども、法規の上と実情とは非常に食い違つておるのであつて、その点について率直に日本の現情についての見解を、日本代表としては述べるべきだと思う。その点について、あなたが総会で受けたいろいろの質問あるいは経緯、それに対して日本代表としてどういう答弁をされて来たかということを私は聞いておる。
  46. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 小委員会内容につきましては、先ほど申し上げましたように、労働基準法改正新聞紙上伝えられておるがどうか、こういうようなお尋ねに対して、なるべく簡単に答えてくれというお話でありますから、すべて簡単にお答えしておりますが、政府としては目下のところ労働基準法改正については成案を得ていない。これだけお答えしてあります。
  47. 林百郎

    ○林(百)委員 ちようど法務総裁が見えましたので、法務総裁に聞きたいと思うのでありますが、今議題になつております国際労働機関憲章宣言によりますと、「総会は、この機関基礎となつている根本原則、特に次のことを再確認する。」とあつて、「労働は、商品ではない。」「表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。」「一部の貧困は、全体の繁栄にとつて危険である。」そのほかいろいろあります。それから「すべての人間は、人種信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ。」こういうことが明確に規定されておるのであります。ところがこの占領下における日本実情といたしましては、連合国最高司令官命令とか、あるいはこれに基くポツダム政令という形で、たとえば全労連解散だとか、あるいは労働組合機関紙発刊停止だとか、こういうようないろいろの制限がなされているのであります。これに対して、今われわれがこの国際労働機関憲章宣言を討議するにあたつて占領中に発せられましたこうした日本労働者に対するいろいろな制限は、もし講和が効力を発生した後には、どういう方法をもつてこれに対処して行くお考えであるか。まずこれを法務総裁にお聞きしたいのであります。
  48. 大橋武夫

    大橋国務大臣 ただいま御指摘の宣言を拝見いたしますると、日本憲法根本精神とまつたく同一でありますから、講和後におきましても憲法趣旨従つて、かようなあらゆる問題を推進して行けばそれでさしつかえない、こう考えます。
  49. 林百郎

    ○林(百)委員 現実に全労連解散しているとか、あるいは労働者の新聞の発刊停止をしているとか、あるいは公務員から争議権を剥奪しているとか、こういう問題があるのであります。これは占領下における連合国最高司令官命令に基いてやつていた行為であります。要するに占領の必要から連合国最高司令官命令に基いてなされたものであつて占領というような事態が解ければ、これは当然元の権利に復帰されるべきものと私は考えます。あなたの言うように憲法では結社の自由、表現の自由が保障され、また今ここで議題になつている国際労働機関憲章精神にも、こういうことがうたつてある。さらには極東委員会の十六原則にも、明確に人間人種差別、階級あるいは信条によつて物質的、精神的差別待遇を受けるべきでないということが規定されているのでありますから、占領状態が解けるならば、そういう占領下における特殊な必要に基いた人権の制限というものは、当然解かるべきだと思いますが、その点について何らの考慮もしておらないわけですか。
  50. 大橋武夫

    大橋国務大臣 ポツダム政令によりまする各種の法規の中には、憲法趣旨から見まして、その手続その他の点において不十分なものもございます。従いまして講和条約発効と同時に、これらのもののうち不必要なものは廃止をいたすという考えを持つております。また廃止をせざるものはすべて憲法趣旨に適合いたしまするごとく改正をいたしました上、法律として存続をさせるという措置をとることにいたしております。
  51. 林百郎

    ○林(百)委員 どういうようなものは廃止し、どういうようなものは修正して存続する意図を持つておられるか。法務総裁の大体の構想をお聞きしたいと思うのであります。
  52. 大橋武夫

    大橋国務大臣 これは法務総裁構想ではございませんので、各省それぞれの立場において目下御研究を願つておりますし、一部の省においてはすでに成案を得まして、近く法律案として提案の予定になつております。
  53. 林百郎

    ○林(百)委員 ですから、あなたは国務大臣でもありますから、国務大臣として政府方針の大綱をお聞きしたいと思います。
  54. 大橋武夫

    大橋国務大臣 政府方針といたしましては、占領軍自体の特殊の必要に基くものは、占領軍講和条約発効によりまして解消いたすのでありまするから、当然廃止をすべきものである。また国内施政上の必要に基いてできておりまするものは、もとよりポツダム政令として指令に基いてできてはおりますが、今後の国内施政上なお必要があると考えられますものは、いずれも憲法精神に適合するごとく修正いたしました上で存続せしめる、こういう趣旨でございます。
  55. 林百郎

    ○林(百)委員 非常に抽象的でよくわからないのですが、もう少し具体的に私の方から聞いて行きたいと思います。たとえば公務員から団体交渉権あるいは争議権を剥奪した。これは御存じの通りマ書簡に基いてなされたのでありますが、これを講和後はどういう方針で臨むつもりですか。
  56. 大橋武夫

    大橋国務大臣 公務員法は御承知のごとく、あなたも御審議をなさいましたところの国会の協賛を経た法律によつてつているわけでありますので、これはさしあたり問題とすべきものではないと考えております。
  57. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、ここに国際労働機関憲章精神である「すべての人間は、人種信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ。」「表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。」それから「労働者及び使用者の代表者が、政府代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によつて、遂行することを要する。」というような、こうした国際労働機関目的に関する宣言から逸脱することになると思うのであります。公務員争議権あるいは団体交渉権を剥奪しているのは一、二の国を除いてはほとんどないはずであります。これもマッカーサーの書簡に基いて、ああいうやむを得ない措置がとられたのでありますが、講和が成立したならば、当然日本政府の独自の考えで、日本憲法精神あるいは新しい国際的な基準から、これを廃止すべきものである。公務員に対する特別な基本的人権の剥奪は、取除かなければならないと考えますが、あなたにはその意思がないというように解釈してよいか。この問題についてのお考えを伺いたい。
  58. 大橋武夫

    大橋国務大臣 公務員関係の御指摘の点は、公務員法でございまして、法律案国会の権限に属するものでございますから、政府の一存をもつてどうこうというわけには参りません。
  59. 林百郎

    ○林(百)委員 政府考えを聞いているのです。私の方は国会国会独自の立場がありますから、政府はどういう考えを持つているか。これは占領法規の中の一環としてなされたものでありますから、占領状態が解かれた場合には、これに対して政府は何らかの考えを持つているかどうかということを私は聞いておる。
  60. 大橋武夫

    大橋国務大臣 政府といたしましては、国家公務員法は必ずしもその全部が、占領法規の一環としてなされたものとは考えておりません。
  61. 守島伍郎

    ○守島委員長 林君に申し上げますが、もうあなたには三十分の時間を差上げましたから、なるべく簡潔にお願いします。
  62. 林百郎

    ○林(百)委員 次にストライキに対する制限の法案を具体化そうとしていることを聞いておるのでありますが、これについて、政府としては今どういう考えを持つておるかをお聞きしたい。
  63. 大橋武夫

    大橋国務大臣 政府といたしましては、勤労者の団体行動権としての争議権憲法上の権利であり、これは尊重しなければならぬと考えております。しかしながらこの争議のうちで、全国的にわたつてきわめて大規模な、各種の事業を通じた争議が一齊に起る場合において、国のいろいろな機構を麻痺させる。そしてこのことによつて経済上あるいは国民生活上重大なる打撃を与える。しかもこの打撃は回復すべからざるものであることが予想される。さらにこの打撃を回避する方法として、他に何ら手段を見出すことができない場合においては、あるいは労働争議に対する制限ということも考慮の必要があるのではなかろうか。こういう考えのもとに目下研究をいたしております。
  64. 林百郎

    ○林(百)委員 あなたの御承知通りに、安保条約の中には、一つまたは二つの外国の干渉のもとになされた大規模の内乱または騒擾に対しては、外国の軍隊の出動もこれを要請することができるという規定があるのであります。そういう問題をもからめて、このゼネストというようなものに対する制限の立法を将来されるのかどうか。されるとすれば、もう少し具体的に、どういうようなストライキは禁止される、どの程度ものは禁止しないという方針を持つているのか。私たちとしては、ゼネラル・ストライキというのは、憲法で保障されている労働者の持つ当然の権利だと思います。もしこれが制限される、場合によつては、外国の軍隊まで出動してこれを鎮圧するということになれば、これは労働運動に対する大きな干渉になると思うのであります。従つて労働者階級としては、ストライキ禁止法案については重大な関心を持たざるを得ないのでありますが、今の法務総裁答弁では少し抽象的だと思います。もう少し具体的に、どういう構想政府は持つているかお聞きしておきたいと思います。
  65. 大橋武夫

    大橋国務大臣 抽象的というおしかりがございましたが、今はただいま申し上げました程度の抽象的な段階まで考えておるのでございまして、これをもう少し具体的にしたいと思つて、毎日研究いたしております。いずれ研究の成果が上りましたならば、お答えをいたしたいと存じます。
  66. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、これはいずれ法案として具体化されると見ていいのかどうか。その点をお聞きしておきたい。研究中ということであつて、具体的の法案として国会にかけないのか。あるいは法案として国会へ将来かけるつもりであるのか。その辺の見通しと、それから、もしゼネスト禁止法が具体化される場合には、政令三百二十五号をも加味して、その中に入れられるのか。政令三百二十五号については、また別途の、駐屯軍に対する危害行為とかいうような形で独自の法案をつくるのか。その点の法律的な構想もついでに聞いておきたいと思います。
  67. 大橋武夫

    大橋国務大臣 国民経済に打撃を与えるような大規模なる争議に対する制限についての法律案は、他の問題と切り離して、単独に研究いたしたいと思います。研究ができまして、どうしてもこれが必要だということになれば、当然法律を要する事柄でございまするから、法律案として提案しなければなるまいと思います。
  68. 林百郎

    ○林(百)委員 この点もその程度の抽象答弁なら、これ以上追究してもしかたがないと思います。私どもまた具体的な資料でお聞きいたします。そうすると三百二十五号は三百二十五号として別個に、日本に駐屯するアメリカ軍に対する危害行為に関する立法を講ぜられて、それからストライキ問題についてはゼネスト禁止の単独法としての立案を、今検討中というように解釈していいかどうか。この点が第一点。第二点は、日本の経済に脅威を与えるようなストライキはこれを禁止するといいながら、そういうストライキに発展する可能性のあるストライキとかいうような形で、非常に部分的なストライキ、あるいは従来許されていたストライキまで、そういうものに発展する可能性ということだけで取締る可能性が出て来る。そういう点からいつても、このストライキ禁止法というのは、私は労働運動に対する大きな弾圧となると思いますから、私としてはこの点については反対し、同時に、もう少し具体的な質問を将来あなたにすることを留保しておきまして、今の二点について、法務総裁答弁をお伺いいたしたいと思います。
  69. 大橋武夫

    大橋国務大臣 政令第三百二十五号というのは、昨年の政令三百二十五号をさしておられると思うのでありますが、占領目的阻害行為処罰令のことだと思います。これは講和条約発効後におきましては、占領軍というものはございません。当然なくなるわけでありまして、また占領軍というものがない以上は、これにかわるべきものをつくる必要はないと思いますが、国民経済に回復すべからざる打撃を与えることが当然予想され、しかも他に避くる手段もないという場合におきまする労働争議の制限についての法案ができたならば、さような重大な危険に将来発展するというだけの理由で、あらゆる争議が制限されるという御心配でございまするが、共産主義諸国におけるがごとき、さような不当なる争議権制限は、わが国におきましては憲法によつて禁止されておるわけであります。私どもは憲法の線において、勤労者の団体行動権をあくまでも守り抜くという考えで、立案をいたしたいと考えております。
  70. 林百郎

    ○林(百)委員 共産主義圏ではストライキをやらなければ食えないような労働者は一人もありません。十分生活が保障されておりますから、ストライキをやる必要すらないのであります。資本主義の国とは全然構想が違いますから……。しかしこの点についてあなたと私でここで論争してもむだですから、やめます。  その次に労働階級として非常に大きな関心を持つているのは、これもやはりポ政令で出ております団体等規正令でありますが、これもポ政令で出ておるのでありますから、本来これは占領に必要なために設けられた政令であります。こうしたことは明らかに憲法で保障されている団結権の自由、並びにこのたびの国際労働機関憲章からいつても、当然廃止さるべきものだと思いますが、この団体等規正令については、法務総裁としてはどういう構想を持つておるか、お聞きしておきたい。
  71. 大橋武夫

    大橋国務大臣 団体等規正令は、団結権には全然関係ない問題でありまして、勤労者の団結権の問題でなく、これは憲法上はいわゆる結社の自由ということに関連するものでございまするが、このことは今日の日本の情勢から見まして、民主主義に対しまする破壊活動を予防する見地から、何らかこれにかわるものを考えなければならないと思つております。
  72. 守島伍郎

    ○守島委員長 林君、これでこれでと言うてもう四十分になりました。公平にやりたいと思いますから……。
  73. 林百郎

    ○林(百)委員 私に時間を制限するということについてあらかじめ注意がなかつたものですから……。
  74. 守島伍郎

    ○守島委員長 大体御想像がつきましよう。
  75. 林百郎

    ○林(百)委員 もう一点だけです。
  76. 守島伍郎

    ○守島委員長 それでは簡単に……。
  77. 林百郎

    ○林(百)委員 法務総裁考え方は間違つていると思います。御存じの通り団体等規正令によれば、政党ばかりでなく、特定の公職の候補者を推薦し、または支持すること、政府または地方公共団体の政策に影響を及ぼす行為をすること、これでほとんどの労働組合が、団体等規正令の適用を受けているのであります。ところが極東委員会の十六原則によると日本の民主化のために、日本労働組合は積極的に政治活動に関与することを、むしろ奨励されているのであります。ところが実際は日本労働運動が、日本の民主化のために行動を起して行けば、この団体等規正令によつて団体等規正令該当の団体とみなされて、いろいろの制限取締りを受けているのであります。しかもこの団体等規正令によりますと、そうした日本の民主化を希望し、たとえば吉田内閣のような内閣を打倒すというような方向へ進むと、この団体等規正令で取締りを受ける、あるいは捜査を受ける、あるいは尋問を受けるという形で、非常な制限を受けて行くのであります。こういう点について団体等規正令の将来の適用、あるいは公職についての就職の制限の問題、あるいは特審局の強制捜査権の問題こういうような点について現状の団体等規正令、現状の特審局の強制捜査権をマ書簡の解釈という名のもとに、憲法法律で全然与えられておらない権限を行使する、こういうような点についてあなたがこれからつくろうと思うという、いわゆる団体等規正法か何か、その法律の中にはどういうふうに規定して行くつもりか。従つてこれは法律となつて将来国会にかけられるのかどうか。その点ももう少しはつきりした見通しを、ここで聞いておきたいと思います。
  78. 大橋武夫

    大橋国務大臣 団体等規正令に将来かわるべき立法措置につきましては、目下研究をいたしております。その中心となりますものは、政治団体の公開ということであります。なおあわせて不法なる政治団体政治活動について制限を加えて行く。但し私の考えといたしましては、かような政治団体の活動に対しまする制限というものは、これは憲法上許された国民権利に対しまする公共の福祉立場からする制限でございますからして、これはあくまでも公共の福祉を守るために必要な、最小限度にとどめられなければならない。これを逸脱いたしますことは、憲法精神を乱るばかりでなく、憲法基礎となつております民主主義というものを、根本的に、かえつてその行為自体によつて破壊するというような結果に相なるのであります。この点にかんがみまして、ただいま法案の研究に際しましては、これらの制限が真に公共の福祉に必要な最小限度にとどめられなければならない。厳格にその範囲またその限界を逸脱することのないような、そうした事柄が法規内容自体において保障されますばかりでなく、いかに健全なる法規をつくりましても、運用が問題でございますから、これが運用に当りまする行政機関の組織の面についても、十分なくふうを加えまして、この趣旨を組織の面からも保障いたして参りたい。こういう点に重点を注いで、われわれ研究をいたしておるのでございます。
  79. 守島伍郎

    ○守島委員長 次は並木君。ちよつと並木君に申し上げますが、法務総裁は閣議に呼び出されているので、簡単にお願いします。
  80. 並木芳雄

    並木委員 先ほど労働大臣と一緒にお聞きしておきたいと思いましたことですから、一点だけお伺いします。  国際労働憲章に、労働というものは商品として扱われてはならないとありますが、これは労働者ばかりでなく、すべての人間がそうだと思うのです。ところがここに疑問が出て参ります。それは平和条約の第十四条の1のところの例の賠償に関する項目でございます。「日本国は、現在の領域が日本国軍隊によつて占領され、且つ、日本国によつて損害を与えられた連合国が希望するときは、生産、沈船引揚げその他の作業における日本人の役務を当該連合国の利用に供する」というところに、私は先般来疑問を持つたのであります。つまり労働者の役務というものは、ここで商品化されているのではないか、こういう疑いを持たれるのですが、法務総裁はどうお考えになりますか。
  81. 大橋武夫

    大橋国務大臣 私は商品化された趣旨を規定したものではないと考えております。
  82. 並木芳雄

    並木委員 こういうことを条約でお約束すると、それをやはり履行する義務が出て参るのです。賠償に引当てるためにいろいろの作業をしたり、生産をしなければなりません。それに従事する労働者の問題ということが起つて来るのでございます。それに対して自発的にだれでも好んで参加するものであれば、これは問題ないと思うのです。われわれはそれをもちろん望んでおりますけれども、その仕事の内容あるいは給与の条件その他によつては、必ずしもそれが円滑に行かない場合もあると思うのです。そういう場合に、この条約を履行するために、政府としては強制力を発揮しなければならないようなことが起らないとも限らない。それを私は心配しておるわけなんです。そういう場合に、憲法のいわゆる人身を拘束してはいけないとか、あるいは職業選択の自由とか、そういうものに抵触する心配があるのであります。その点法務総裁に疑念を一掃していただきたいと思うのです。
  83. 大橋武夫

    大橋国務大臣 御承知通り講和条約というものは国と国との合意でございますから、これによりまして直接日本国におりまする勤労者を拘束するものではないのであります。これはただちに日本政府だけを拘束するものであると思います。従いまして条約上の義務は、政府が負つておる義務でありますから、日本政府がこれを履行するわけでありまして、その場合においては、国内において通常の取引を通じまして必要な労働力を充足し、これによつて役務賠償を実施して行くということになると考えております。これに関連いたしまして、必要な労働力を充足いたしまするために、強制力を用いなければならぬというような事態が起ることは、政府としてはまつたく予想いたしておりません。
  84. 山本利壽

    ○山本(利)委員 私は国際労働機関の事業に関連することを、少しばかり御質問いたしたいと思うのでありますが、明年の総会においては、社会保障、政府、公共機関労使団体間の協力及び農業における有給休暇に関する国際基準が、設定されようとしているということでありますが、わが国がこの機関加盟するからにおいては、国際的に十分な協力をしなければならない次第でありますが、現在の日本の社会保障の点及び政府、公共機関労使団体間の協力といつたような点で、現在の日本の状態は大体国際間の水準に達しておるか。その点についてまずお伺いいたしたいと思うのであります。
  85. 橘善四郎

    橘政府委員 本年の第三十四回総会におきまして、社会保障制度に関する第一次討議が行われたのでございます。来年の総会におきまして第二次討議が行われるということになつておるのでございますが、現在ILOの本年度の総会において討議されました第一討議の内容を——わが国の社会保険その他将来への社会保障制度確立のための関係につきましては、少くも将来ILOにおいて採択されるであろうと思いまするところの基準従つてわが国の将来の社会保障制度も研究されて行くのが、最も好ましいのではないかと考えておる次第でございます。
  86. 山本利壽

    ○山本(利)委員 そのことが好ましいことであるということは、もちろん議論の余地がないのでありますが、私の質問いたしましたのは、現在日本に行われておる社会保障の現状というものが、国際間でどのくらいな地位を占めておるものであるかということをまずお聞きしたい。
  87. 橘善四郎

    橘政府委員 わが国において今日研究討議されておりまするところの社会保障制度は、ILOにおいて確立されようとしております社会保障制度より何ら落ちていない。その水準は一致しておる。あるいはそれ以上のものがあるのではないかと考えさせられるのでございます。
  88. 山本利壽

    ○山本(利)委員 その点もまことにけつこうでございますが、私の質問とははずれております。現状の日本の社会保障の程度は、現在の国際間における水準と比べてどの程度のものであるか。
  89. 橘善四郎

    橘政府委員 たとえばわが国の失業保険法にいたしましても、労災補償保険法にいたしましても、その他の制度におきましても、国際水準そのものよりもひいでておるということが、申し上げられるのではないかと思つております。
  90. 山本利壽

    ○山本(利)委員 それではその次の、政府、公共機関労使団体間の協力という点に関しては、現在の日本の状況は満足すべきものでありますか。他の国に比べてみて不満足であるとすれば、その程度いかんということについて……。
  91. 橘善四郎

    橘政府委員 御質問関係につきましても、ILOの採択いたしておりますところの条約勧告等に対しまして一致しておる、あるいはそれ以上のものであるということが申し上げられると思うのでございます。
  92. 山本利壽

    ○山本(利)委員 次に農業における有給休暇の問題でありますが、これはもちろんアメリカ等における農業労働者と、日本農業に関する労働者のあり方というものとは、非常な違いがあると考えるのでありますが、日本においても、農業における有給休暇といつたような問題が取入れられるものか。どの程度にこういうことは必要があるかといつたことについて承りたい。
  93. 橘善四郎

    橘政府委員 わが国農業におけるいわゆる雇用農業労働者なるものの条件その他は、全部わが国基準法の中に定められておる通りでございます。
  94. 山本利壽

    ○山本(利)委員 次に、先般平和条約並びに日米安全保障条約の特別委員会におきまして、今回の平和条約というものは、日本及び連合国間における共通の福祉を増進し、かつ国際の平和及びその安全を維持するために非常に大切なものであるという観点から、日本の人口問題というものが重要なる限底をなす。その人口問題の一翼として移民問題が考えられるが、こういうことを今回の条約締結にあたつては考慮して、アメリカ側あるいは連合国側と話合いがあつたかどうかという私の質問に対して、草葉政務次官から、確かにそういう話合いもして相当な理解も得ておるといつたふうな答弁があつたのでありますが、今回提案になりましたこの国際労働機関憲章加盟すれば、人力計画の推進ということがこの事業の一つに入つてつて、しかも移民の国際的調節をはかるということでありますが、このことはわが国にとつてまことに重要なことであるから、この移民問題というものはあらゆる角度から今後研究して行かなければならないが、しかも今回のこの国際労働機関に加わるという点においても、この点が推進されるならば非常に私はありがたいと思う。その点に対して政府は、日本の移民ことに労働者の移民という問題について、いかなる案を持ち合せておられるかということが第一点、もう一つは、すでにこの国際労働機関においては、国際的にこの移民の問題がいかなる程度において取扱われたか。さらに今後扱われようとしておるか。この点について御答弁を承りたいと考えます。
  95. 橘善四郎

    橘政府委員 ILOはかつては雇用移民に関する条約というのを採択いたしておるのでございますが、内容を御参考までに申し上げますと、この条約の中にはいかなる方法によつて労働者を募集すべきであるとか、あるいはいかなる方法によつて選考すべきであるか、人選すべきであるかというようなことを定めてあるのでございますが、この条約の付属書といたしまして、モデル協定というものもつくつてくれておるのでございます。わが国におきましても、もちろん将来の問題でありますけれども、少くもILOが戦後において強力に人力計画というものを推進しておりますときにおきまして、わが国の現状に即応したところの立法措置を講じ、そしてILOの協力と援助によりまして、わが国の雇用移民計画を立てて行くということが重要であることは、もちろん申し上げるまでもないのでございます。従来のILOの雇用移民に関する仕事は、主としてヨーロツパ大陸を中心にして考えられておつたのでございますが、最近のこの面におけるILOの活動は、その他の大陸特にアジア地域におきまして強い要望があるのでございまして、おそらく来るべきILO会議におきましては、アジア地域の人力計画の中に必ず雇用移民計画というものがうたわれて行くようになるだろうと、かたく信じておる次第でございます。
  96. 山本利壽

    ○山本(利)委員 補足してお尋ねしておきますが、これはただいまの御答弁でもすでに認められておるように重要な問題であります。ことにわが国完全雇用の問題その他がやかましく言われるということは、つまり労働力が今余つておるということである。これをいかに移民として出すかということが重要なポイントでなければならない。わが国人口問題解決の一翼として、これに加盟したならば、雇用移民その他についてこのくらいは出してみたいという計画が、当局としてすでにつくられておらなければならぬと私は考えるのであります。ことにこの機関に入るのは、新たに入るのではなくて、いわば再加盟するわけです。国際的にこの機関がいかなるものであるかということは、政府当局としてはよく存じておられるのであつて、現在までにこの問題について何らの計画もないということはまことに怠慢であり、私は国民の一人として遺憾であると考えるのでありますが、その点はいかなるものでありましようか。この点には何らの計画性がなかつたとおつしやるのか。あるいは近く立ててわれわれに示したいとおつしやるのか。そこらのところを率直に承りたいと思います。
  97. 橘善四郎

    橘政府委員 目下のところ研究調査中でございまして、具体的な案は、いろいろな国際的の情勢及び国内関係におきまして、考えなければならないことになつておりますが、研究調査は大いにやつていると、事務当局といたしましては申し上げられるのではないかと思つております。
  98. 山本利壽

    ○山本(利)委員 まことにけつこうなことでございますので、この次に研究調査の中間報告をお願いいたしたいと考えます。  次にこの機関の活動分野といたしまして地域活動に関する点があります。わが国はもちろんアジアにおける問題を考えて行かなければならないのでありますが、加盟国六十数箇国の中に、アジアのほとんどの国々が入つているように見えるのであります。そこで労働問題になりますと、日本より以上にアジア各国労働力の供給地であるように思うのでありますが、日本が今後この機関加盟して、まずアジア諸国並びに国際機関の了解を得、さらに協力して行かなければならぬのでありますが、アジア地域の問題に対する重点をお示し願いたいと考えます。
  99. 橘善四郎

    橘政府委員 仰せの通りでございまして、わが国といたしましては、たとえば技術者の派遣、特にその中には職業補導あるいは職業指導の専門家を派遣するとか、なおまたわが国労働立法その他の資料を提供するというようなことも、その計画の中になければならないと存じている次第でございます。
  100. 山本利壽

    ○山本(利)委員 政府において国際労働機関復帰の必要を認めて閣議決定をされたのが、昭和二十三年の五月になつているのでありますが、その当時におきましては使用者側は全面賛成、労働者側はそのときまでに参加賛成見込み確実の者が約六五%あつた。この大勢からこの機関への復帰を申請しようということになつたようでありますが、現在においては労働者側の参加賛成のパーセンテージがどのくらいになつているのか、その点を承りたいと思います。
  101. 橘善四郎

    橘政府委員 統計的に申し上げることは遺憾ながらできませんけれども、賛成方が圧倒的であるということは申し上げられるのではないかと思います。
  102. 山本利壽

    ○山本(利)委員 まことに常識的なお答えでございますが、多分そうであろう、そうありたいと思うのがお互いでございますけれども、こういう国際的な問題に加盟する場合に、えてして労使間に意見の相違があるのは、非常に遺憾だと考えるのです。そこでわれわれが想像するのに、この機関加盟して最も利益を得るのは労働者側ではないか。労働者の生活水準を高め、さらに社会的向上をはかる意味においてこれに加盟ということが必要である。しかるに昭和二十三年の御調査によると、使用者側は全部賛成であつた。そのときには労働者側は約六五%が賛成であつたということは、急に調べたので、六五%程度までしか手が及ばなかつたとおつしやるのか。そのときには、労働者側においてはこれに加盟することはいやだという、何か特別な理由があつたのか。それをその後において調査され、あるいは指導された結果がすでに一〇〇%近くまで行つておるのか。そこらの点をわれわれ委員としては承つておく必要があると思います。
  103. 富樫総一

    ○富樫説明員 当時私がその方の主管でございましたので、お答え申し上げます。当時アジア地域会議等におきまして、日本の正式復帰を希望する趣旨決議がなされ、占領下ではありまするけれども、日本の復帰が可能ではないかという一抹の希望が持たれましたので、時の政府におきまして急速に関係団体の意向を確かめたのでございます。その場合に六五%の組合は賛成されたのでありますが、残りの三五%の一部は、正規に組合大会にかけるいとまなく回答を保留されたというところと、一部はいわゆる産別系に多いのでありまするが、遺憾ながら明確なる反対理由は示されませんで、賛成の御回答に接しなかつたのでございます。その後最近に至りまして、さらに正規に調べればいいのでありまするが、回答を保留されたようなところも、続々と労働代表をオブザーヴアとして派遣するという際には、全部寄りまして圧倒的に推薦方を希望され、それから当時積極的に反対された組合が、今日におきましてはほとんどと申しますと行き過ぎかしりませんが、日本労働運動全体におきまして、さしあたり影響力を持たざるように立ち至りましたので、かような調査をあらためてする必要を感じなくなつたという状況でございます。
  104. 竹尾弌

    竹尾委員 ちよつと関連して……。この六五%のうちで、大体労働組合の色わけということがおわかりだと思いますが、ちよつと御説明願いたいと思います。
  105. 富樫総一

    ○富樫説明員 当時全国の組合にまんべんなく調査するいとまがございませんでしたので、色わけのいかんにかかわらず、五万以上の組合に照会したのであります。反対された組合の三五%のうち、大会にかけるいとまなくして保留したものを除き、特に反対された組合は、当時いわゆる産別系でございます。
  106. 山本利壽

    ○山本(利)委員 次に本年の六月に、わが国の再加盟に関しての審議がなされたときに、賛成投票が百十七票、反対投票が十一票あつたのでありますが、その十一の内訳については、先ほど他の委員からの質問お答えがあつたのでありますが、私がお尋ねしたいのは、それらの国々は、何がゆえにわが国の再加盟反対するのか。どの点がその国々から見てわれわれに欠点があるのか。その点を承りたいと思います。
  107. 橘善四郎

    橘政府委員 十一の反対投票が行われたのでございますが、チエコスロヴアキアの四名の代表とポーランドの四名の代表反対は、日本国が、依然として進駐政治下に置かれておつて独立国でないということと、東西両陣営の政治的な意見の対立というものも相加わりまして、反対投票が行われたのであると信じておる次第でございます。それからフィリピンの政府代表二名が反対いたしましたのは、おそらく太平洋戦争の関係と賠償との関係について、反対したのではないかというぐあいに信じております。それからグアテマラの労働者代表反対は、反対をされた代表が共産党を代表した人であつたというところに、意味があるのではないかと想像しております。
  108. 守島伍郎

    ○守島委員長 山本君、約三十分ほど時間を差上げましたので、どうぞ簡単に願います。
  109. 山本利壽

    ○山本(利)委員 簡単にやります。今の御答弁も、あなたの御想像のみを承つたのでありますが、われわれとしては、必ずこういう場合の記録が残つていると思います。今おつしやつたように、グアテマラが共産党の代表だからといつても、共産党の代表にしても何らかの理由を付して反対しておるのであるから、共産党側から見ると、いかなる反対理由があげられるかということを承知いたしたかつたのであります。この次の機会にでも、ごく要点だけでよろしゆうございますから、各国反対理由についてプリントでもいただきたいと思います。  最後にもう一点お伺いいたします。これは加盟いたしました場合には、わが国分担金を納めなければならないのでありますが、今度一応納める金が、国際労働機関事務局の計算によりますと、三十六万八千二百十二ドル十セントと出ております。これは金額が相当多いから、その減額及び分割払いの方法を要請しているという御報告でありますが、その要請は聞かれたものかどうかについて御答弁を承りたい。
  110. 橘善四郎

    橘政府委員 御質問は、おそらく過去の未払い分担金のことだろうと思うのでございますが、本年の総会に出席いたしましたオブザーヴアーの代表が、ILOの係官と会談し折衝いたしまして、過去の未払い分担金につきましては、この分割支払いあるいは減額というような関係について、いろいろとお願いをして参つたのでございます。いずれ今月の終りごろにジユネーヴにおきまして、第十七回の理事会が開かれることになつておるのでございます。このときには、わが国の未払い分担金について、いろいろと研究が行われるのではないかということでありますが、そのときには必ずやわが国の方にも、この未払い分担金の額を決定するのに、前もつて連絡があるだろうというぐあいに信じておる次第でございます。
  111. 山本利壽

    ○山本(利)委員 そういたしますと、万一その減額及び分割払いが聞かれない場合には、現政府はこのまま予算として払う余裕があるかどうか。聞かれたらまことにけつこうでありますけれども、聞かれない場合も考えなければならぬ。その点はすでに大蔵省その他と了解済みであるかどうか。
  112. 橘善四郎

    橘政府委員 わが国加盟申請書の中にも掲げておりますように、未払い分担金については、わが政府はこれを承認する、但しその支払い方法等においては、ILO関係機関とよく協議した上で定めるということになつておりまするので、この申請書従つてわが国承認が行われたのでございまするから、一方的にILOの方できめてしまうということはないのではないかと思つております。
  113. 山本利壽

    ○山本(利)委員 ただいまの答弁は満足ではありませんが、時間の関係で私はこれで終ります。
  114. 守島伍郎

    ○守島委員長 次は赤松君でございますが、竹尾君から簡単な御質問があるそうですからこれを許します。
  115. 竹尾弌

    竹尾委員 それでは簡単にいたします。ただいま三十四総会において、何ゆえに十一票の反対があつたかというお尋ねでございましたが、私はその逆に、労働憲章加盟しておる国が六十四箇国ある中で、私どもの常識から判断すると、加盟しないように思われる国が数国あると思います。たとえばオーストリア、ブルガリア、ポーランド、チェコスロヴアキア、こういう国が何ゆえに加盟しておるのか、こういう点について伺いたい。——それでは午後から労働大臣が出られるならば、労働大臣に伺いたいと思います。
  116. 守島伍郎

    ○守島委員長 閣議が終れば多分来られると思います。
  117. 赤松勇

    ○赤松委員 私もその質問をいたそうと思つたのですが、労働大臣がお見えになつてからいたしたいと思います。
  118. 守島伍郎

    ○守島委員長 それでは暫時休憩いたしまして、午後一時半から再開いたします。     午後零時十五分休憩      ————◇—————     午後一時五十五分開議
  119. 守島伍郎

    ○守島委員長 休憩前に引続き会議を再開いたします。  国際労働機関憲章受諾について承認を求めるの件を議題といたします。質疑を許します。林君。
  120. 林百郎

    ○林(百)委員 外務省関係の方にお聞きしますが、特に今この憲章加盟することに至つた理由、これをひとつ聞かしてください。(「提案理由に書いてあるよ」と呼ぶ者あり)それでは私の方からいま少し違う聞き方をいたします。日本の貿易についてソーシャル・ダンピングというようなことが非常に問題にされているのであります。これに対する一つの備えとして入るのかどうか。またそれに備えて入るとすれば、今どういうところからどういうように日本の貿易について、そういう非難が起きているかということを聞かしてもらいたいと思います。
  121. 首藤新八

    ○首藤政府委員 ダンピングの問題でありまするが、自立経済の推進のため、あるいはまた国際関係に及ぼす影響等々から考えまして、ダンピングの防止については格段の関心をもつて、今日までいろいろ施策を進めておるのであります。その具体的な施策の内容でありまするが、まず当面の問題といたしましては、各業種の多少でもダンピングとして疑われておるようなもの、これらのものは全部要輸出許可品に指定いたしまして、一定の価格以下では輸出を許さない、すべて申告制によりまして適正な価格で輸出をするという方法をとつておるのであります。従いまして最近はほとんどさような批判は聞かなくなつておるというふうに考えておるのでありまして、あるいは一部にそういう批判があるかもしれませんけれども、しかしそれは国内の経済状態と消費国の経済状態が非常に異なる場合、消費国の方ではかく安くできるはずはないと考えておるにもかかわらず、日本ではかなり安くできる、そういうことからしてダンピングの疑いを受けるということはあるかもしれませんけれども、実際問題として現在のところダンピングに陥つておるものはない、かように考えておるのであります。
  122. 林百郎

    ○林(百)委員 東南アジアに対する綿布の輸出ですが、イギリスのランカシアあたりから、日本の綿布が特に安く入つて行くということで、イギリスあるいは東南アジアの諸国からの非難はまだ起きておりませんが、私たちの聞くところによれば、相当そういう声が起きておるように聞いております。
  123. 首藤新八

    ○首藤政府委員 東南アジア、特にパキスタンの問題かと思いますが、この春以来相当大量の契約ができまして、その後内地の糸価の暴落と相まつて、特にパキスタンはよそ以上に輸入者が小さい規模の商社で、しかもそれがパキスタンだけで五千以上の商社があるということから、日本の相場の暴落にあわてて、そういう小さい輸入者が非常な濫売をしたということから、それが日本のダンピングのごとく伝えられたのであります。しかしながらその後先ほど申し上げましたごとく、要許可品目に対して厳に価格の点を取締つておりますのと、その中でも。パキスタンに対しましては、特に政府としては厳重な査定をいたして、いやしくも批判を受けるような価格では、輸出を許さないという態度をとつておるのであります。数日前の新聞でありましたか、最近また安値の販売をしているというようなことが報道されておりましたので、事実を調査したのでありますが、そういうことは絶対ないということがはつきりいたしております。
  124. 林百郎

    ○林(百)委員 東南アジアの貿易について、東南アジアの諸国としては、消費物資が東南アジア日本から非常に安い値段でダンピングされるので、それが東南アジアの民族の産業に非常に影響を及ぼすのだ。従つて東南アジアとしてはむしろ基礎的な産業、プラントの輸出をしてもらいたい。そうして日本の貿易が東南アジアの民族産業を育成するような方向へ持つて行くようなものを輸出してもらいたい。そういう希望が非常に強く、繊維品だとかあるいはそのほかの消費物資が安く入つて来るということによつて、東南アジアの諸国が非常に不安と脅威を感じているようでありますが、その点について通産省ではどういうふうにお考えになつておりますか。
  125. 首藤新八

    ○首藤政府委員 東南アジアの開発は、日本の将来の輸出経済を推進いたしまする上において、非常なウエートを持つものだと考えまして、極力東南アジアの開発を推進しているのが現状であります。そこで開発の方法といたしまして、ただいま御指摘の通りプラント輸出をまず強力に進めまして、三箇年なり五箇年あるいは七年にわたつてもさしつかえない。長期にそれらの設備を貸してそうして徐々に回収する。同時に向うの国でできたものを、原料はすべて日本に一応輸入して、製品化して再び東南アジアその他へ輸出をいたしたい。そうすることによつて、東南アジア日本との経済関係がいよいよ密接になつて来る。それを実は目的といたしてもろもろの施策を進めておるのであります。御指摘の消費物資は、むろん向うを相手としてできるだけ輸出をしておりますが、同時にその前提として、なるべく向うから日本へ原料を輸入したいという、基本的考え方の線に沿つた施策を進めておるので、最近の特殊な現象といたしまして、ひとり原材料の開発のみならず、プラント輸出の引合いも相当ふえて参つておるのでありまして、極力これらの契約を作成するように、政府としてはあつせんの労をとつておるのであります。
  126. 林百郎

    ○林(百)委員 東南アジアの要望がそういう要望で、なるべくプラント輸出をしてもらいたいというにもかかわらず、こちらから安い消費物資が行くということによつて脅威を感じているということが、一つの東南アジアの大きな問題ですが、同時にドル・クローズが廃止されてポンド取引になつて、東南アジアとの貿易によつてポンドを非常に日本の国がかせいで持つているにもかかわらず、ポンド地域からの材料の輸入がないということのために、ポンドがただむなしく包蔵されている。それからドル・クローズも廃止になつて、それをドルにかえることができないということが、日本の貿易の非常に大きな隘路になつていると思います。今東南アジア方面からの輸入の状況が何がどういうように入つておりますか。大体の大綱でいいのですが……。
  127. 首藤新八

    ○首藤政府委員 ポンドの手持ちが若干ふえておるということは御指摘の通りであります。またその原因が輸入不振であるということも大体御指摘の通りであります。しかしながらこれは御承知通り、昨年の秋からごの春にかけて大量の輸入をいたしました。そうしてあらゆる原材料がこの春は厖大なストックとなつて来た。しかもその後輸出が不振であつた。あるいは市価が暴落したというようなことから、これらの輸入品の繰延べが今日まで行われて来ておる。もう一つはこの輸入品の暴落によつて、銀行の輸入者に対する警戒がかなり強くなつて来た。従つて新しい輸入に対するところの信用状の発行等々に、この春までとはかなりかわつた態度を銀行はとつておるということが、それらの原因をなしておるのであります。しかしながら最も大きな原因は、新規の輸入をしなくても、なおこの春のストックが繰延べされたということが、一番大きな原因であります。しかもこれも時間的な関係から、ほぼ新しいものを輸入しなければならぬというような情勢になつておりますので、各金融業者に対しましては、そういう場合にあまり厳格な態度をとらないように、スムースな輸入ができるようにという折衝をいたしておるのでありまして、大体今後の輸入は困難な問題とはならずに、順調な成績を上げるであろう。そういうことになりまするならば、現在若干ポンドの手持ちはありますけれども、これは早晩解消するであろうと考えておるのであります。現在輸入されておりますのはマレーのゴムあるいはまたタイの米、それから近くインドから石炭、これらのものが輸入されておるのでありますが、早晩その他のジュートであるとかあるいはチーク材であるとか、そういうものにも輸入が伸びて行くであろう、こういうふうに考えております。
  128. 竹尾弌

    竹尾委員 関連して……。これはソーシヤル・ダンピングとはちよつと縁が遠いかもしれませんが、幸いその道のエキスパートであります通産次官がお見えになりましたので、お聞きしたいと思います。この輸入の中で、最近塩が相当入つて来ておるのではないかと思いますが、これは御承知のように専売なんでありましようが、外塩の輸入について御説明願いたい。
  129. 首藤新八

    ○首藤政府委員 外塩は農林省、大蔵省の所管でありますから、私の方ではあまり関知しておりませんか、ことしの工業塩並びに食料塩を合した輸入の全量は、大体二百万トンという計画になつておると思います。今日までの輸入量は非常に順調に入つておるというふうに聞いております。
  130. 竹尾弌

    竹尾委員 それは専売の関係もありましようから、外塩の輸入者に対して特別な許可をしておるのですか。
  131. 首藤新八

    ○首藤政府委員 これは専売公社の方で一切の処理をいたしておるのであります。
  132. 林百郎

    ○林(百)委員 何分ぐらいいいですか。
  133. 守島伍郎

    ○守島委員長 労働大臣はもうすぐ見えるそうでありますからそのおつもりで……。
  134. 林百郎

    ○林(百)委員 それではそれまで、いろいろ聞きたいことがありますが、簡単に聞きます。  この前の外務委員会で、貿易の問題で、通産関係の人が来なければわからないということで、留保になつた問題が一つあるのです。日ソ貿易のことでありますが、日ソ貿易が具体的に日本の商社とソ同盟の通商代表と話がまとまつた場合、国内的な措置としてはどういう手続をとるべきか。それをお聞かせ願いたい。
  135. 首藤新八

    ○首藤政府委員 最近日ソの貿易が大分久しく中絶いたしておりますが、以前の貿易は日本政府向う政府との貿易ということになつておりまして、その場合に、日本政府が輸入してそれをそれぞれの業界の適当者の実務代行者として、販売なり配給をいたしておりた、こういう方法をとつてつたのであります。おそらく現在でもこういう方法をとらざるを得ないというふうに考えております。
  136. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、たとえば日本の紙をつくる製紙業者が、向うの木材を入れたいという申請を貿易会社を通じてやりまして、ソ連代表部の方ではよかろうと言つた場合、日本の業者としては、それを政府へ持つてつて政府に肩がわりをしてもらわなければ貿易ができないわけですか。それとも政府へ許可の申請をして、その貿易を許可するかしないかという権限だけが、日本の通産省にあるのですか。
  137. 首藤新八

    ○首藤政府委員 御承知通り、昨年の春から輸入の自由を建前にしております。いわゆる民間インポートでありますが、特別の物に限つて政府は、緊急物資特別会計の方法で実は輸入しておるわけであります。これは民間で輸入できない、しかも稀少物資ということに一応限定されております。従つてただいま御指摘の紙なり木材が、これに入るかどうかということは、ここでははつきりしたことは申し上げかねます。しかし建前が民間の自由輸入になつておりまする関係上、手続としては御指摘の通り政府に申請して、それを許可するか許可しないか、一応政府の方で査定いたしまして、そこでいずれかを決定する。現在の場合こういうようにお考えを願つてもいいのじやないか。詳細なことは私もここではつきりしたお答えはできませんので、いずれあとで書面でお答えしてもいいかと思います。
  138. 守島伍郎

    ○守島委員長 林君、北澤君から首藤政務次官に質問したいということで、実は順番は北澤君の方があなたより先でありますから、簡単にお繰上げ願います。
  139. 林百郎

    ○林(百)委員 私簡単に聞きたいと思いますから、今の点はわからなかつたら答えてもらわなくてもいいです。むしろわかつておる人に答えてもらつた方がいいと思います。もう一つお聞きしたいことは、今度国際労働機関憲章に入るので、まじめに考えれば、日本労働条件世界的な水準に持つて行かなければならないということになると思うのです。しかし日本の現状として、それを非常に制限する条件がいろいろあるので、言葉の上では美しい憲章に入つても、実際に置かれておる日本労働者労働条件というものは、憲章でうたわれている言葉のような条件に高められるかどうかということは、非常に大きな問題だと思うのです。絵に描いた餅ではしかたがない。そこで私たちとしては、今日本の経済が置かれておる実情から言うならば、この憲章へ入つたところが、実際この憲章の求めておるようなことを実現することは、むしろ不可能だというように考えられる。その要素としては、大体私たちは三つほど非常に大きな要素として考えられるのであります。第一は、日米経済協力の問題でありますが、たとえば日立に対してアメリカが発注した場合に、一時間四十八セントでこの仕事をしてもらいたいという、要するにタイムの注文が来ておる。それから東日本重工のごときは、三十六セントということで来ておる。この場合、日立の業者から聞きますと、どうしても一時間当り資材工賃等が四十セントかかる。そうすると労賃は八セントしかないという注文の仕方が向うから来るわけであります。八セントと言いますと、大体一時間当り二十三、四円です。アメリカの労働者は、御承知通り一時間当り一ドル五十セント、少くとも四、五百円の金をとつております。日米経済協力の形で向うからこういうような注文が、わくがちやんとはめられて来たのでは、とうてい日本労働者に国際的な労働条件をもたらすだけのことは、不可能のように思われるわけなんですが、日米経済協力という形で、経済のほんとうの主動権はアメリカの方で持つているような、要するに日本の経済がアメリカの下請にならざるを得ないようなこういう条件のもとで、日本労働者の賃金を世界的な水準に高めるということが、一体実際問題としてできるか、できないかということを、まずあなたにお聞きしてみたいと思います。
  140. 首藤新八

    ○首藤政府委員 日立並びにその他二、三の会社が、日米経済協力の線に沿うた新契約をいたした場合に、ただいま御指摘の通り、一時間の労働賃金、それが契約の一つの大きな条項になつておりますことは事実であります。但しこれは、おそらく絶対的なものではなくして、総合的な全部の契約金のうちには、そういう不足のものもあり、また余るものもあるので、かれこれ総合して、大体この契約をしても、この会社の経済にプラスにこそなれ、マイナスになるような契約はしていないと思うのであります。と申しますのは、この契約は強制的なものではないのでありまして、まつたく自由な契約であります。従つて会社は、それぞれ採算を考えて、不利なものは受注せぬであろうということが想像されるわけであります。もう一つは、この契約を受注したことによつて労働条件が悪くなるというようなことは、現在の日本の経済界ではとうてい許されないのであります。もしそういうことをいたしますれば、当然職工は他の方面に移動するでありましようし、また世の批判も相当峻烈になりましようから、おそらくこれがために労働条件が悪くなるとは考えられない、こういうような考え方を持つております。  もう一つは、一般的労働条件でありますが、これらも御承知通り日本はどうしても輸出に依存しなければならぬという状態にありますので、今後もできる限り輸出を促進して生産力を向上いたすということであります。  さらにもう一つは、先ほど申し上げましたごとく、東南アジアの開発を急速にやり、資源を確保する、こういうふうな基本的考え方を持つております。従つてこの貿易の促進については、合理化をできるだけ強力に推進しまして原価を安くし、輸出は各国向けとも引合うような方向に持つて行かなければ、目的を達しがたいと思うのであります。東南アジアの開発も、しよせん原価を引下げる上において、プラント輸出その他の方法によつて安い原料を獲得する。さらに国内経営の面におきましても、合理化を強力に進めてあらゆる方面から原価を安くする。そうして輸出を旺盛にいたして、生産力をできるだけ上げて行こうということでありまして、こういう目的を達成いたしますれば、労働条件はよくなつても決して悪くならない。ぜひともこの線で持つて行きたいというのが、今の政府考え方であります。
  141. 林百郎

    ○林(百)委員 次官は、あまりにも実情を御存じない。アメリカの注文に対して日本が、採算が合わないからといつてつて、自分の思うような条件でアメリカと経済的な契約を結ぶ自由があるかどうかということを、よく知つておいていただきたいと思います。日立の場合も、現に四十八セントの注文が来たために、八百人くらいの首を切つて臨時工に切りかえているということも、よく知つておいていただきたいと思います。この問題は、あなたにこれ以上お聞きしません。  次にPD工場、LR工場ですが、これは直接軍が管理している工場であります。これは占領下だということで、首切りだとか、労働時間の延長だとか、女子に対する労働条件だとか、そういうものについては、ほとんど日本国内法が適用されておらないのであります。それから政府の通達からいつても、PD工場、LR工場には労働基準法を適用しなくてもよいという通達が行つているほどであります。これは占領が解けた後も、はたして完全な労働条件が回復されるか。御承知通りに依然として安保条約によつてアメリカ軍が日本に駐留しておる。そして行政とりきめでどうきめるかわからないが、こういう占領下と同じような工場の管理が行われて行くことになると、そこからもまた日本労働条件を、必ずしも世界的な水準に高めることができないという条件が出て来る。現にここでは日本人のガードが銃を持つて監視し、赤羽の工場のごときは鉄条網で取巻いておるというような状態のもとで、労働が継続されておるのでありますが、占領が解かれてもアメリカの軍隊が駐留する。あるいは行政とりきめで、依然としてそういう工場がアメリカ軍の必要に応ずるような工場として経営されて行く場合に、完全に労働法規が適用され、労働者の基本的人権が守られるような状態で経営が継続されるものかどうか。私の方に絶対されないと思うのでありますが、この点についての次官の考えを承りたい。
  142. 首藤新八

    ○首藤政府委員 現在の状態が御指摘の通りであるかどうかということに対しては、正確な調査の結果を持つておりませんからお答え申し上げかねますが、将来の問題につきましては、おそらく講和条約の批准が済みましたならば、これらの工場は一応解除されまして、国内法によつて民間の経営に移つて行くであろうという考え方を、実は現在持つておるのであります。
  143. 林百郎

    ○林(百)委員 それは批准され寄託されて、効力が発生した後ということですね。
  144. 首藤新八

    ○首藤政府委員 そうです。
  145. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、たとえばアメリカ軍が依然として駐留して、行政とりきめか何かで、依然としてアメリカの軍隊の管轄下に置かれるような工場は、行政とりきめの範囲内においても絶対になくなりますか。
  146. 首藤新八

    ○首藤政府委員 この場合断定的なはきつりしたお答えはできかねますけれども、少くとも政府考え方といたしましては、講和条約の批准が済んで発効いたしますれば、当然これらの特殊会社は全部解除されて、一応国内経営に移るというような構想を持つております。
  147. 林百郎

    ○林(百)委員 この問題はこれで打切りますが、もう一つ日本労働者労働条件の大きな重圧として考えられる要素がありますので、聞いておきたいのです。御承知通り役務賠償がもし実行されるということになりますと、外国から資材を持つて来て、一定の工賃で向うに渡さなければならない。この工賃は日本の財政的な負担になるのでありますが、そこで、こうした務役賠償をやる場合の工場の労働者労働状態であります。これは要するに捕虜と同じような状態で、戦争の跡始末を、自分の役務を通じて行わなければならないという状態になるのでありますが、この役務賠償をする場合、これを請負つた工場の労働者労働条件についてはどういうことを考えておるか。役務賠償である、賠償のための労働であるからということで、何らかの制限が加えられるのではないか。ことにそれが財政的な負担になるということになれば、その財政的な負担をなるべく軽減したいということも、日本政府考えることでありましようし、そうなりますとその負担が役務賠償をやる工場の労働者に転嫁されるということは、理論的にも当然考えられる。これについて何か政府として考えておられるか。これはいずれまた労働大臣にもお聞きするつもりですが、あなたの構想だけでも参考までに聞いておきたいと思います。
  148. 首藤新八

    ○首藤政府委員 賠償に対する交渉は、まだどこの国とも成立いたしておりませんから、具体的なことは申し上げかねますが、しかしかりに役務賠償ができました場合におきましても、それが賠償物資なるがゆえにということで、労働条件を制約するということは断じて考えられないことでございまして、おそらく一般産業と同一であるということだけは、はつきり御理解願つてもよろしいと思います。
  149. 守島伍郎

    ○守島委員長 北澤委員
  150. 北澤直吉

    ○北澤委員 通産政務次官にお尋ねしたいのですが、先ほども問題になつて参りました日本のソーシャル・ダンピングに関する各国の誤解でありますが、御承知のように日本世界的水準の労働法規よりももつとよい労働法規を持つておる。のみならず今回の講和条約におきましても、前文にも書いてありますように、「降伏後の日本国の法制によつて作られはじめた安定及び福祉条件日本国内に創造するために努力し、並びに公務の貿易及び通商において国際的に承認された公正な慣行に従う意思を宣言する」こういうふうになつておるのでありまして、日本はどこまでも不当な競争を避けて、正当な競争によつて国際貿易場裡に発展しよう、こういう方針をとつておるのでありますけれども、それにもかかわらずまだ今でも日本がソーシャル・ダンピングをやつておるというふうな誤解が、世界の各地にあるようであります。これにつきましては、政府側におかれましても、こういう世界の誤解を一掃して、日本労働条件その他の事情をよく説明しまして、日本は絶対にソーシャル・ダンピングをやつておるのじやないのだ、日本は正当な競争をやつておるのだということをもつと世界に宣明して、日本はソーシャル・ダンピングをやつておらぬということを、はつきり知らせなければならぬと思うのでありますが、その点について何か政府は具体的な方策を考えておるかどうか、お伺いいたします。
  151. 首藤新八

    ○首藤政府委員 先ほども御答弁いたしたのでありますが、ダンピングに対しましては、日本がようやく経済を再建しようという重要な際でありますから、その際に各国の誤解を招くということになりますれば、将来長い間いろいろな面で不測の損害をこうむるおそれありということから、ダンピングの防止に対しましては特に関心を持ちまして、厳にこれを防止しようという基本的方針を守つておるわけであります。従いましてその具体的な対策といたしましては、先ほど申し上げましたごとく、当面要輸出許可品目に指定いたしまして、ことごとく輸出の価格を申告して許可を必要とする、こうして適正な価格の輸出をいたす、これ以下は防止するという方針をとつておりますが、同時に一面におきましては、消費国に対して、日本の各業種の価格は大体こういうところが適正であるということは、あらゆる機会を通じて周知徹底するような方法を講じておるのであります。特に最近問題になつておりますのは、冷凍まぐろのアメリカ向け輸出でありまして、これらもアメリカで相当問題になつておるそうであります。そこでごく最近、これも要輸出許可品目に指定いたしますとともに、幸いただいま日米加の漁業会議が東京で開催されておりますので、この会議に詳細な国内の事情を報告いたしまして、そうして誤解を解くという方法を現在とつておるのであります。これにもかかわらず、ある業種に対しましてはダンピングという声も聞きますが、しかしそのダンピングという声も必ずしもそのまま受取つてよいかどうか。たとえば消費国の輸入者の競争、あるいは国内の競争というような問題も、ダンピングに関連していろいろな揣摩憶測的な説が伝わつて来ることもあるのであります。これらは慎重に検討いたしまして、決定いたしたいと考えております。
  152. 北澤直吉

    ○北澤委員 政府におかれましてダンピング防止のためにいろいろな措置をとつておられることは了といたしますが、もう少し政府におかれましては、日本はダンピングをしておらぬということを国際的に宣伝する必要があると思う。そういう点におきまして、少し宣伝に欠けているというふうにわれわれは見るのでありますが、こういう点につきまして政府の一段の御努力を願います。
  153. 守島伍郎

    ○守島委員長 ちよつと皆さんにお断りいたしますが、労働大臣がお見えになりましたから労働大臣に対する質疑を許しますが、労働大臣は一時間以内に引上げなければならないとおつしやいますが、質問者は七人ございます。そこで一人当り十分くらいの短かい時間でありますが、公平にやりたいと思います。それでは並木君。
  154. 並木芳雄

    並木委員 ずいぶん待つておりましたが、また一時間でお帰りになることはただごとではないと思うのであります。聞くところによりますと炭労争議の件だそうですけれども、これは私どもも関心の深いことですから、この際どういう成行きになつているのか。その点をまずひとつ聞かしていただきたいと思います。
  155. 保利茂

    ○保利国務大臣 去る三十一日から賃金協定をめぐりまして、まず大手八社のストライキが始まりました。そうしてまた五日から第二回のストライキがかなり大規模に行われて、今日まで出炭し得べかりし石炭の減産がきよう一ぱいで四十六、七万トンに達するのではないか。一面需給関係は御承知のようにかなり逼迫をいたして参つております。成行きに対しては非常に心配をいたしておりますが、労働法の命ずるところ、また制度上争議調整の機関として、中労委の会長に夜を明かして極力調停あつせんに努めていただいているわけであります。ただいままでのところまだ解決の曙光を見出し得ない。今明日がきわめて重大な微妙な段階ではないかというように心配をいたしております。さらに炭労では十日から第三回のストを決議いたしておりますが、もしそれまでに解決することができず、膠着するような状態になりますれば、ひとり炭鉱関係のみならず、全産業に及ぼす影響はけだし甚大なものが生じて来るのではないか。ただいまのところ今日に至りまして急速解決ということは言葉が当りませんけれども、とにかく中労委会長の良識と熱意によつて、解決を期待いたしているわけであります。ただいまもそのことで中労委会長と御相談をいたして来ました。これらは実際の状態でございますから、これ以上何とも御報告申し上げることができません。
  156. 並木芳雄

    並木委員 相当深刻な事態であろうと思うのです。政府としては何か対策を持つておられると思うのですけれども、その対策はどういうものでしようか。
  157. 保利茂

    ○保利国務大臣 これは御承知のように労働法の示します通り政府は今日まで争議にいかなる形においても介入することは極力避けて参りました。今後といえどもこの態度は持して参りたい。あくまでも調整機関の機能の十分な発揮によつて、解決を期待しておるわけであります。
  158. 並木芳雄

    並木委員 それではこの国際労働機関憲章受諾に関する質問をしてみたいと思います。この憲章は国際的な資本の競争から、労働者を保護すべき安全装置であると言われております。ところが日本においては、国際的の資本の競争がだんだん激甚になるのではないか、こういうことを私どもはまず憂えております。日米経済協力、あるいは英国からの貿易通商に関する圧力などというものが大きな原因となつて、勢い日本では低廉良質な商品を、大量につくるように要請されるのではないかと思うのです。そうするとやはりかつての財閥のようなものが復活をして参りまして、労働条件はこれに伴つて悪化すると思うのでありますけれども、資本攻勢、ただいまの労働条件の悪化の傾向、そういうものに対する労働大臣のお考えを明らかにしていただきたいと思います。
  159. 保利茂

    ○保利国務大臣 資本攻勢による競争激甚という面は、けだし一面であろうと思います。同時にまた国際協力という強い線も、一面強く動いておるわけであります。このILOは御承知のように、もう申し上げるまでもなく平和を維持して参りますためには、各国民の協力によつて生活条件を改善して行くというところに、真の目的があると思うわけであります。今日この悪条件のもとに立つ日本実情が理解されるならば、私は日本の貿易発展の上に、国際的な支援と申しますか、協力を得て行くということは決して夢ではない。そして日本産業が伸展して参りますれば、それにつれて労働者労働条件というものも一歩々々改善されて行くもの、また行かなければならぬと考えております。
  160. 並木芳雄

    並木委員 世界における軍備拡張の傾向について、労働大臣はどういうふうに見通しておられるか、お伺いしたいのです。現在の内閣は、朝鮮の動乱というものは短期に片づくであろうという見通しを持つてつたのです。結果においてはこれはどうも当つておらなかつたようでございます。たとい形の上で朝鮮動乱がどう納まろうとも、実質においては今後軍備拡張というものが強化されて来るのじやないかと思う。そうすると日本も平和条約が締結されたあかつきにおいては、準戦時体制に追い込まれて、労働対策というものも準戦時体制、あるいは軍需産業に重点を置くことに、漸次切りかえられて行くのではないかと思うのですけれども、こういう点についての見通しを示していただきたい。そうすると結局労働三法、特に労働基準法の変更ということが問題になつて来るのじやないかと思うのです。労働基準法などに対する変更の計画について、労働大臣の御所見をお伺いしたいと思います。
  161. 保利茂

    ○保利国務大臣 世界の軍拡競争がさらに激甚になつて行くかどうか、それに巻き込まれて、日本産業が軍需産業に切りかえられて行くかどうかということであろうと思いますが、前者についてはいろいろ見方があるだろうと思います。一方においては、やはり平和を熱願する人類の強い希望がありますから、そう一面の見方で軍拡の方向へ進んで行くものとは私個人としては考えません。それに従いまして、日米経済協力という線がどういう線に発展して参りますか。ともかくも日本の経済が健全に進展して行くためには、何と申しましても、日米経済協力の線を強く打出して行くほかはないと思いますけれども、これはまあ前者に相当関連を持つておるわけであります。私どもはそうばつかりも言えぬのじやないかというふうに考えております。これは見方でございますから、いろいろございましよう。専門筋によつて明らかにしていただくことが適当であろうと思いますが、それに関連して労働基準法は骨なしになつて行くんじやないかということは、私はそういたすべきものではない。少くとも今日の日本が国際的信頼をかちとつたゆえんのものは、実にこの民主化——社会的、経済的民主化が著しく進展をして参つたということが基本をなすものであろう。その場合における労働各法の役割は、けだし大きいものがございますから、しばしば申し上げておりまするように、労働条件国際的水準の維持を目ざして、今後も努力をして行かなければならぬと思うわけであります。しかしこの基準法は、実際長い問国際的に目を閉じておつた日本に、卒然としてこの労働基準法を——世界の状態のいかなる点にもわたつてしさいに知ることなく、大急ぎでこういうものができている。これについては、これからいよいよ一人立ちをして行こうという際に、一ぺん法律のあり方を見直してみる必要があるのではないか。そこで行き過ぎとは申しませんけれども、相当基準法の面において御承知のように各方面に非常な不便、あるいは注文が出ておるわけです。一々取り上げることはございませんけれども、実際の実情にからみまして、無理からぬ点もあるように感ぜられる。従いまして、すでにこれはそういう名称が適当でありますか、どうですか、総理大臣の諮問機関としての政令審議会でも、基準法改正の要ありという意見が出ております。しかしながら事は労働条件に関する国際的に微妙な関係を持つ貴重な法律でございますから、さらに政府といたしましては、ただいま中央労働基準審議会に、法律全体について御検討を願い、改正すべき点があるとすればどういう点であろうか、いかように改正したらよかろうかということについて、ただいま意見を徴しておるところでございます。そう長からざる機会に答申案が得られるのではないか。その上で政府の最後的な態度を決定して、改正するとすれば国会に提出して御審議を願いたい、こういう状態にあるわけであります。
  162. 守島伍郎

    ○守島委員長 あと五分しかございません。
  163. 並木芳雄

    並木委員 ですから、労働大臣と議論をしながら今日は問答するつもりだつたのですけれども、その方は省きまして、質問だけにしておきます。
  164. 守島伍郎

    ○守島委員長 そういうようにお願いしておきます。
  165. 並木芳雄

    並木委員 どうも時間がないのは、まことに残念ですが、そこで問題になりますのは、米軍が駐留することになるのでありますが、その米軍の駐留に伴う労働対策についてお伺いしておきたいと思うのです。  今までは進駐軍要員あるいは進駐軍労務者と言つておりました。今後はどういう名称になりますか、駐留軍要員あるいは駐留軍労務者というふうに呼ばれるかもしれません。これに対する労働対策としては、これは政府は暫定的と言いますけれども、相当長くなる可能性もあるわけです。そこでこの対策にはやはり本腰を入れておかないと、問題ではないかと思いますので、どのようになりますか、今までのように二本建の労働政策労働行政というものが行われるのかどうか。これは私見ですけれども、それではやはり日本の自主性というようなものから考えてみて、よくないと思う。私はやはり日本労働大臣なら労働大臣が全部を掌握して、一本建になつ労働対策、労働政策で進むべきものであろう、こんなふうに考えておるのでありますけれども、そういう点に対する労相のお考えをお伺いいたしたいと思います。それに従つて労働三法は、これに適用されて行くかどうかというような問題も、おのずから解決されるであろうと思うのです。それからまた駐留軍要員に対する裁判の問題だとか、それから災害、労害に対する処置だとか、失業保険の問題とか、いろいろのこういう問題が解決されて来ると思うのです。特別調達庁などはどういう形になつて行くか。労働省一本で、労働行政というものがこの分野において行われるかどうか。そういうことに対する労相の所見と見通しとをお伺いいたします。
  166. 保利茂

    ○保利国務大臣 考え方については私は並木さんと同じ考えだと思います。ただよく御承知のように、いわゆる行政協定がどんなふうなきめ方になりますか、その重要な部分でございましようし、行政協定のとりきめ方によつてかわつて来るのではないか。要するに今日の二十三万人ばかりの進駐軍の要員の方がどういう形で——駐留軍と直接雇用契約になるものか、あるいは政府が引受けて政府と要員との契約になつて行くようになるものか、そこらのところはかかつて行政協定のあり方によつてかわつて来るのではないか。しかしながら労働条件それ自体につきましては、私は国内法である労働各法によつて律して行くべきものであると、これは強く考えております。
  167. 守島伍郎

    ○守島委員長 次は青野君。
  168. 青野武一

    ○青野委員 私は発言者がたくさんおられるそうでありますから、要点だけを二、三労働大臣と、できれば通産政務次官にお聞きいたしたいと思うのであります。  お尋ねしたいと思いますのは、解説を読んでみますると、国際労働立法が、この次の総会あたりにおそらく決定するであろうということが書いてありまするが、一番先に労働大臣と通産政務次官にお尋ねをいたしたいのは、関連しておりますが、簡単に申しますと、今参議院の方に両条約がかかつておりまするが、かりにこれが決定いたしますると、北緯二十九度以南の、たとえば奄美大島の例をとりますと、これは日本労働問題に非常に大きな問題でありまするし、特に日本の鉄鋼産業には重大な影響力を持つている所であります。われわれが新聞その他で読んでみますると、奄美大島は直線にして三十里、ちようど私が居住しておりまする北九州の八幡製鉄所の技術者が、最近奄美大島の視察に参りまして発見したそうでありますが、今おおむねインドから輸入しておりまするマンガン鉱石が奄美大島全島にまたがつてある。それが不幸にして日本の領土から一時的にもせよ離れまして信託統治になる。そうして国際的な情勢が平穏に帰するまでは、事実上無期限の信託統治で、仄聞するところによれば、アメリカによつてある程度の軍事基地として使用せられる。そうなりますると、この奄美大島におけるマンガン鉱石は、製鉄産業に非常に必要な原料でありまして、パーセンテージから行きましても、今インドから来ておるのが大体四八%が最高と言われておる。これが奄美大島のは四九%から五二%あるいは五三%程度のマンガン鉱石であつて、全島このマンガン鉱石で固まつておる。これは事実か事実でないか知りませんが、とにかく製鉄産業に従事する調査団の報告であります。かりにアメリカによつて信託統治にされ、一部軍事基地化されましても日本の残業に必要なこういつたマンガン鉱石のようなものは、何らかの協定、話合いによつて、われわれの方である程度自由にこれを発掘して日本に持つて帰ることができるか。これをまず最初にお尋ねしておきたいと思います。
  169. 首藤新八

    ○首藤政府委員 奄美大島のマンガンの埋蔵量の問題であり、また開発の問題と思いまするが、この問題は、実はこの春奄美大島群島政府の経済部長が参りまして、これが開発を要請されたのであります。そこで通産省はこれを取上げまして、八幡製鉄、富士製鉄並びに日本鋼管、この三社に話しまして、それぞれの適当な方に調査に行つていただいたのであります。ただいまの御意見によりますると、非常に無尽蔵にマンガンがあるというような調査団の報告だそうでありまするが、その後通産省に入りました情報によりますると、必ずしも量は多くない。むしろ期待した量よりも非常に少い。但し品質は御説の通り五〇%以上のものが相当大量にある。現在日本の悩みは、この良質なマンガンを必要といたすものでありまして、量は少くともこういう良質のマンガンが獲得できまするならば、非常にけつこうだと考えておるわけであります。従いましてこれが開発並びに輸入の問題でありますが、群島に駐屯しておるアメリカの占領軍の方では、すでにこれが開発に十二分な了解を与えておるそうでありまして、また群島政府におきましては、一部政府の出資で大部分民間の出資によつて一つの開発会社がつくられておるのであります。この調査の結果がいよいよ有望であるということになりますれば、先ほど申し上げました八幡製鉄、富士製鉄あるいは日本鋼管というものが購入者になりまして、困難なくその輸入ができるというふうに、現在のところではなつておるのであります。
  170. 青野武一

    ○青野委員 もう一つ関連してお尋ねいたします。私どもの聞いておりますところによると、これは単に奄美大島に例をとつて話をしておるのでありますが、その他の沖繩列島にいたしましても、小笠原にいたしましても、あるいは問題の歯舞、色丹にしてもその通りであります。私がお尋ねしたいと思いますことは、よし軍事基地なり、信託統治になりましても、通産省あたりの努力によつて、事実上日本の領土に住んでおると同じように、ある程度の自由、あるいは貿易、交通等が得られるか。今奄美大島におりますのは二十三万、日本本土に来ているのが十八万、合計四十一万といわれる。聞くところによりますれば、二千万斤程度の黒砂糖もでき、相当量の日本の鉄道に必要なまくら木、大島つむぎ、そういつたもので鹿児島との交通で辛うじて生活に必要な主食を得ておる。しかし二百マイルの距離と片道に十二時間もかかる。それについて、よしんばアメリカの信託統治になりましても、こういう問題は、やはりアメリカ側とのある程度の協定ができないと、奄美大島の二十三万の島民は、事実上日本から分離されて行くということになるのではないかと思いますので、そういつた交渉内容、あるいはどの程度にそういう交渉が進んでおるか、あるいは将来どういう交渉をするつもりかということを、重ねてお尋ねいたします。
  171. 首藤新八

    ○首藤政府委員 先ほど申し上げましたごとく、この春群島政府の経済部長が参りまして、ひとりマンガンのみならず、木材資源その他海産物等々の開発並びに採取も、ぜひとも日本の力を借りたい。と同時に日本からの輸入も、できるだけふやすような方法をとつてもらいたいという交渉があつたのであります。奄美大島と日本との特殊な関係についても、アメリカの方で十分に好意的了解を与えておるから、事務的手続は至つて簡単であるという申出も、実はあつたのであります。政府においてもこの線に沿いまして、今後できる限り奄美大島の開発、並びに日本の物資の輸出という点を考慮いたしたいという考え方で、それぞれの方法をとつております。幸いに船の関係も近来は相当潤沢になりまして、鹿児島から一週間に一回出ております。東京からも一箇月に二回は出ることになつておりまして、交通輸送機関も非常に便利になつておりますので、今後は日を追うて双方の貿易関係は向上して行くというふうな見通しを、一応持つておるのであります。
  172. 青野武一

    ○青野委員 労働大臣に二、三簡単に質問いたします。第三章の「国際労働機関の事業」のうちから、ひとつお尋ねしておきたいと思う。  この次の総会でかりに国際労働立法決定されるといたしますならば、この加盟が認められた際、日本労働者は、政府代表して総会に対しどういう構想を持つておられるか。たとえば、日本労働条件にいたしましても、午前中の委員会で林委員からもたびたび御指摘がありましたように、今問題になつておる専売公社の裁定にいたしましても、最終決定機関である仲裁委員会が一万四百円という線を打出したが、大蔵省関係でこれが思うように行かない。難航を続けておるような次第でありますが、国際労働立法決定いたしますと、一つ国際的水準日本労働者労働条件が確保せられて行く。そういう点につきましては、今日本公務員争議権を剥奪せられておる。あるいは団体交捗権を奪われておる。それから国鉄あるいは専売公社に関係をしております労働者は、やはりそういつたような方法が公共企業体労働関係法で決定せられて、労働組合が非常に片ちんばな動き方をせざるを得ないような状態になつておる。それは日本再建の途上にある一定の時期は必要であつたかもわかりませんけれども、こういうものは必ずしも将来長くこういつた法規によつて縛るべきものではないと、私どもは考えております。それでこういう点について労働大臣は、このILO加入いたしました後の日本労働行政の一つの具体的な方針として、こういつた国家公務員なり地方公務員、あるいは独立採算制による専売公社の労働組合、あるいは国鉄労働組合あたりに対して、今法律上かなり重圧を加えております点について、どういうお考えを持つておるか、具体的にひとつお尋ねしておきたい。
  173. 保利茂

    ○保利国務大臣 専売裁定の問題から公労法の建前の問題になつて参りますけれども、もとより公労法は、最終的な立て方として仲裁委員会の裁定ということに期待をかけておる。従つてその裁定がありました場合におきましては、労使両当事者を拘束して参るという建前の上に立つておるわけであります。ただ予算上、資金上の問題に関連いたしまして、それがただちに大きく国民経済に響いて参るという上から、国会の意思によつて最終的決定をするということになつておるわけでございます。従いまして、ただいまこのあり方がどうであるかということについては、検討をいたしておりますけれども、もう一点の公務員の問題につきましては、これは国民全体の奉仕者として、現行公務員法を検討するという気持は持つていないのであります。一面なるほど公務員にはいろいろの制限もありますけれども、しかし身分あるいはその他において他に持たない権限も、これに付随してあるわけでございますから、これは国際労働条約に抵触するものとも考えておりません。大体そういうふうに考えております。
  174. 青野武一

    ○青野委員 専売公社の裁定に関する問題は、明日開かれます労働委員会で特に御質問を申し上げる予定でございますから、この程度で、ただ例に引いただけでございまして、懇切な御説明を聞いてかえつて恐縮でありますが、これは明日に譲らしていただきます。  それからもう一、二点お伺いいたしたいと思いますことは、第三章の「国際労働機関の事業」のうちの「三、人力計画の推進」の中にあります「職業安定組織、技術訓練、技術者の交流、移民の国際的調節」こういつた分野にまたがつておることを示されておりますが、午前の会議でどなたか移民の問題について言つておりましたが、相当技術を習得をされ訓練された人々を、大量に移民政策によつてアジア方面に吸収してもらわなければ、日本はどうしても、たこの足を食うように、労働者自身が自分の待遇を低下し、賃金を切り下げて行くような結果になることは、第一次世界大戦直後の例によつても明らかであります。私どもは特にアメリカということを限定するわけではありませんが、こういう点をも考えて、工業上非常に優秀な技術を持つておる先進国のドイツであるとか、あるいはアメリカであるとかいつた方面に、たとえば一年に五十人か百人、国費でもつてあらゆる産業面の必要な技術の習得をさせにやるといつたような計画を、労働省は持つておられるか。これは御承知のように一時戦争前に日本の資本家の一部が計画したが、遂に軍部の強圧によつて実行できなかつた。五、六十人が一年間爆撃下のドイツに行つて、たとえば潜水艦に関する技術、飛行機に関する技術、発動機に関する技術を習得しておれば、今日の日本に非常な大きな貢献ができておつたと思う。五十人行つて三十人もどつて来て、あとの二十人が不幸にして帰れなかつたとしても、それだけの優秀な技術を身につけた諸君が、日本産業界にもどつて来るということは、非常に大きな期待を持たれたことでありましたが、遂にこれは実現するとができなかつた。アメリカ……。
  175. 守島伍郎

    ○守島委員長 青野君、持ち時間が少くなりましたから、要点だけを……。
  176. 青野武一

    ○青野委員 そういつた方面に向つて、特に選り抜いた労働者を国費をもつて先進諸国に派遣をして、技術の習得、技術の訓練等に努めさせるというような計画を持つておられますか。あるいはそういうことを考えられておつたかということも、ひとつ承つておきたいと思います。  最後でありますから、あわせて御質問しておきますが、たとえば国家的な構成の要素は違いましても、日本の経済自立は、何といつてアジアが中心であります。インドあるいは中国を除いての日本の経済の自立はない。経済の自立のないところに、日本国民の生活の安定と向上がないといわれておりますように、移民は濠州あたりは全然受付けておらぬ。フィリピンもその通りです。一年間に百四、五十万の人口の自然増加をわれわれは抱いて、このまま放任しておけば、いよいよ日本は四つの島で身動きができないようになる。特に中国なり、あるいは東南の未開発地域の開発等については、十分国際的ないろいろな重要会議関係を持ちまして、そういつた身体の強健な労働者を、大量に平和的移民政策のもとに東南アジア方面、あるいは中共、特に中共の中の満州方面に行かせる。あるいは北鮮、韓国、朝鮮の再建復興に非常に大量の労働者がいると思いますが、そういつた面についてどういうお考えをお持ちか、労働大臣の御意見を伺いたい。
  177. 保利茂

    ○保利国務大臣 日本の全般の産業はそこまで行つてないといたしましても、相当世界的な技術水準に達しておる産業、企業も相当国内にあるはずであります。従いまして日本の高度の技術を習得しておられる労務者も、相当たくさんあるわけであります。しかし、さらに先進諸国に派遣して、より高度の技術習得をさせる考えをとるかどうかということは、これは非常に貴重な研究の問題だろうと思うので、ひとつ十分御意見に沿いまして研究いたすことにしたいと思います。  なお、移民の関係はきわめてむつかしい。しかしながら日本民族としては、どうしてもこれは開拓していただかなければならない問題でございますが、国際労働会議におきましても、雇用移民に関する条約も採択せられでおります。今後この国際労働機関の理解と協力を得る方向に努力をいたし、その面からも国民の熱願を達成できるようにいたさなければならぬ、こういうふうに考えております。
  178. 守島伍郎

    ○守島委員長 それでは北澤直吉君。
  179. 北澤直吉

    ○北澤委員 この国際労働機関憲章によりますと、国際労働機関総会できめました国際労働条約及び勧告ができました場合には、各加盟国は、総会の会期の終了後一年以内に条約または勧告を、立法または他の措置のために、当該事項について権限のある機関に提出しなければならぬ。条約の場合にはそれを批准する。あるいは勧告の場合には適当の機関にそれを出すことになつていますが、問題は、この条約もしくは勧告がその国の、たとえば日本実情に合わぬようなことがあつた場合が予想されるのであります。国際労働機関憲章におきましても、「一般に適用する条約又は勧告を作成する場合には、総会は、気候条件産業組織の不完全な発達又は他の特殊の事情によつて産業条件が実質的に異なる国について充分な考慮を払い、且つ、これらの国の事態に応ずるために必要と認める修正があるときは、その修正を示唆しなければならない。こういうことになつておりますが、実際問題として、この国際労働機関総会できめて採択したところの条約または勧告が、日本実情に万が一合わないというような場合がありまして、これは批准できないというようなことも予想されるのでありますが、一体そういう場合にはどういうふうな措置がとられるか、これを承つておきたいと思います。
  180. 保利茂

    ○保利国務大臣 国際条約案が採択せられたときに、その条約を批准いたすかどうかということにつきましては、これはもうまつた加盟国の自由ということになつておりますから、採択によりまして加盟国を拘束するという筋合いではございません。従いましてそのときの国情に沿いがたいというようなものにつきましては、むろん批准をいたすべきものでもなく、また批准をする必要もないということに筋合いはなつております。勧告につきましても同様であります。
  181. 北澤直吉

    ○北澤委員 国際労働機関憲章の第三十条によりますと、加盟国が条約または勧告について憲章に規定された措置をとらなかつた場合には、他の加盟国は、この事項を理事会に付託する権利を持つ。理事会は、このような不履行のあつたことを認めた場合には、この事項を総会に報告しなければならないというような規定があるのであります。そうしますと、もしたとえば日本が、日本実情に合わないということで、そういう国際労働総会のきめた条約または勧告を採用しないという場合には、他の加盟国がこれを理事会に付託する、こういうことになるわけでありますが、そういう場合に、理事会は日本に対して新たな勧告とか、何かそういうふうなことをすることになりますか。その点を伺つておきたいと思います。
  182. 保利茂

    ○保利国務大臣 政府委員より答弁いたさせます。
  183. 橘善四郎

    橘政府委員 お答え申し上げます。第三十条に掲げられておりますように、条約当事国におきまして、わが国実情が即応していないというような場合には、苦情を申し立てられることになつております。そうしてその苦情は、一応事務局の方において検討されまして、さらに理事会において必要と認めた場合は、理事会みずからが裁判所を設置する。そうして裁判所においてさらにこの問題の解決ができないというときには、当該国の関係におきまして、国際司法裁判所において最後的な決定をするというようなぐあいになつておるのでございます。なおまたこれに関連いたしまして、日本の国情にどうしても従わないというような条約勧告につきましては、この憲章の規定によりますと、一年ないし十八箇月の間に、その条約が取扱つている事項について権限がある機関に、提出しなければならない義務があるのでございます。——失礼いたしました。この批准しないところの条約につきましては、何らわが国といたしましては、拘束を受けるというようなことはないのであります。ただこの現況報告をすれば、それでよいということになつている次第であります。
  184. 北澤直吉

    ○北澤委員 そうしますと、他の加盟国がこの事項を理事会に付託する権利を持つというだけであつて理事会に付託されても、理事会は日本に対して何らの措置もとり得ない、こういうふうに了解してよいですか。
  185. 橘善四郎

    橘政府委員 その通りでございます。
  186. 北澤直吉

    ○北澤委員 それでは次の問題に移りまして、日本国際労働機関加盟しまして、世界の諸国と協力して日本における労働条件の改善を行うということになるわけでありますが、そういう面から申しましても、国際労働事務局の中に、ぜひとも私は日本人を入れてもらいたい。そうすることが、日本国際労働機関に協力する上において、非常に便利であると思うのでありますが、この国際労働事務局日本人の職員を入れる見込みがあるかどうかということにつきまして、伺いたいと思います。
  187. 保利茂

    ○保利国務大臣 まつたく北澤委員の御意見の通りでございまして、私どももそれをぜひ希望いたして、かつまたそうなり得るという期待を持つております。
  188. 北澤直吉

    ○北澤委員 もう一点お尋ねいたします。それは先ほどもここで質疑応答がございましたが、この日本の経済の発達をはかるためには貿易の進展によらなければならぬ。貿易の進展をはかるためには、どうしても日本でつくる品物の値段を下げる。値段が安くて質のいい物をつくらぬことには日本の貿易の発展はできない、こういうふうなことになつておるわけであります。そこで結局日本で貿易の発展をはかるために、低廉良質の品物をつくつて外国に出すというようなことになるわけでありますが、その場合に考えられることは、一つは賃金を安くする、一つ産業におきまする企業の合理化によつてコストを下げる、こういう二つ方法があるわけであります。ところが経営者の中には、ともすると賃金の方にしわ寄せをして、そうして日本製品のコストを下げるというふうなことになりがちなのでございますが、御承知のように日本が国際の信用を高めつつ、日本労働力の改善をはかるという見地から申しますと、そういう日本品のコストを下げるというふうな場合にも、絶対に労働条件を悪くするということでなくして、すべては企業の合理化によつて日本品の生産費を下げるというふうにしなければならないと思うのでありますが、日本におきまする経営者の中には、ともすると企業の合理化の方にはあまり熱意がなくて、賃金の引下げの方にしわ寄せをする、こういう傾きがあると思うのであります。この点につきましては、政府におかれましても、企業の合理化によつて日本品のコストを下げるという方面に、ひとつ全力を尽すようにしてもらいたいと思うのでありますが、これに対する労働大臣の抱負を伺いたいと思います。
  189. 保利茂

    ○保利国務大臣 まつたく私どももそのように考えております。さればこそ健全な労働組合発展こそ最も望ましいことだとして、健全な労働組合の発達に期待をいたしております。同時に終戦後の状況から通覧いたしまして、ことさらに賃金を切り下げて、そうして輸出に持つて行くという傾向は現われていない、私はこう見ております。従つて日本の先進諸国に比しての低賃金によつて、一般の国民の民度と申しますか、それにバランスを失つた労働賃金、労働条件のもとにおいて現在の貿易が営まれているという事実は、まつたくないわけだと私は思つておるのであります。従いまして御意見の点につきましては、私どももまつたく同感でございます。ただ低賃金なるがゆえに、日本が何か不正競争を行うというふうな国際的な誤解は今後ILOに参加できますれば、大いに日本の実際の労働生産なり、産業実情をその面からも解くことができ、国際的な認識を深めて行くために役立つであろうと思います。御意見にはまつたく同感でございます。
  190. 北澤直吉

    ○北澤委員 この国際労働憲章には、御承知のようにソ連が入つていないのであります。ところが最近ソ連は、いわゆる民主主義陣営との貿易を盛んにしたいということで、いろいろの計画を持つておるようであります。最近のシンガポールなんかの会議でも、ソ連代表が出まして、東南アジアソ連との貿易を大いに伸張したいというふうなことを言つておるわけであります。ところが御承知のように、ソ連国際労働機関憲章に入つておらぬわけであります。そうしますと、ソ連のやつておりますいわゆる強制労働によつて非常に安い賃金でつくつた安い品物が、東南アジアの方にどつと入つて来て、そうして日本の製品と競争において、非常に有利な地位を占めるというふうなことになると、日本の東南アジアに対する貿易の前途に、非常に心配なことがあるだろうと私は思うのであります。でありますから、でき得ればソ連もこの憲章に入つて、そうして世界の水準の労働条件を守つて、そういうふうな強制労働等による低賃金によつてコストを引下げられた製品を、世界の市場にたくさん出さぬようにしたい、こう思うのですが、ソ連はこういう機関に入る見込みがあるかどうか。この点を伺つておきたいと思います。
  191. 保利茂

    ○保利国務大臣 専門家の北澤さんの方が、見通しは私どもよりも詳しいのじやないかと思います。いずれにいたしましても、ILOは人類の平和を達成せんとする一つの大きな手段として生れて来ておりますから、ソ連加入する加入しないにかかわらず、国際的に、また諸国民に貢献することにおいては、そう大したかわりはなかろうと思います。しかし加入されるということであれは、それは諸国民の非常に望むところであろうと存じます。ソ連ILOに正式の脱退通告もしておらないわけでございますけれども、事実上脱退になつております。加入の見込みありやいなやということは、われわれはまだ全然わかりません。
  192. 守島伍郎

    ○守島委員長 次は黒田寿男君。
  193. 黒田寿男

    ○黒田委員 大臣がお急ぎのようでありますから、簡単にお伺いいたします。国際労働機関総会で採択されました国際労働立法と、わが国国内労働立法との関係についてお尋ねしてみたいのであります。先ほど北澤委員からも若干この問題に触れられたのでありますけれども、大臣の御答弁は少し抽象的であつたと思いますので、具体的にお答えを願いたいと思うのであります。  この国際労働機関総会におきまして、現在までに採択されております条約が百、勧告が九十二あるのでありますが、わが国がこの国際労働機関加入しようということで、今日政府承認を求められておるのであります。この百の条約と九十二の勧告内容は、もうすでに政府では十分に研究済みであられると思います。その前提に立つて私は質問をするのでありますから、具体的にお答えを願いたい。  最初にお尋ねしたいと思いますことは、政府はこの百の条約と九十二の勧告を批准し、あるいはこれに対しまして国内立法その他の何らかの処置を講ずる意思を、現在持つておいでになるか。これはよければ批准する、悪ければ批准しない、批准の義務はないのだというような抽象論を、私はお聞きしようとするのではない。北澤委員にさつき大臣が答弁されたような抽象論では満足できない。今日この加入問題が現実の問題になつておるのでありますから、これだけの条約なり勧告内容は、すでに政府にわかつていなければならない。日本がこれに対してどうするかということは、すでに政府として態度がきまつておらなければならぬと思うのであります。それを前提としてお聞きするのでありますが、政府はこれらの条約を批准なさる御意思があるか、具体的に承りたいと思うのであります。
  194. 保利茂

    ○保利国務大臣 日本が脱退いたしました後に採択せられました条約勧告等を除きますれば、加入当時に採択せられておつたものもたくさんあるわけであります。脱退後にどのくらい採択せられておりますか——。条約で三十三、勧告で二十六あるようであります。その中におきまして、政府の最終的な態度はきわめておりませんけれども、とりあえず私といたしましては、まず職業安定事業の組織に関する条約結社の自由及び団結権の擁護に関する条約等につきましては、なるべくすみやかに国内批准の措置をとつてもらいたいという強い希望を持つております。
  195. 黒田寿男

    ○黒田委員 そうしますと、全体のうち今御指摘になりましたもの以外の残余の条約については、まだ別にどうという御研究にはなつていなしのでありますか。
  196. 保利茂

    ○保利国務大臣 研究はいたしておりますが、これは加盟各国とも、採択せられた条約を漏れなく批准しているということはございませんので、私どもとしては今後加盟ができましたならば、かようなものはまず批准をいたしたい、こう考えております。むろんその他の問題について研究を怠つておるわけではございません。
  197. 黒田寿男

    ○黒田委員 この際政府にお願いしておきますが、この百の条約、九十二の勧告を、できるだけ早くこの委員会に御提出願いたい。われわれも一部は知つておるものもありますけれども、知らないものもありますから、こういうものを見おかないと、われわれの態度をきめる場合に、標準というものがなかなか見出しかねるわけであります。そこで政府お尋ねしておきますが、いつごろまでにお示しくださいますか。
  198. 保利茂

    ○保利国務大臣 できますか、できませんか、できればそういうふうにいたしたいと思いますが、今ここではつきりお約束申し上げるわけには参りません。決して提出いたすことを回避しておるわけではありません。
  199. 黒田寿男

    ○黒田委員 実は私は政府がどの程度資料をおそろえになり、またそれに対してはつきりした見解を持つておいでになるかということが、次の質問関係があると思いましたので、こう申し上げたのであります。とにかくその資料はできるだけ早く、委員にも御配付を願いたいと思います。  その次にお尋ねしますが、政府はこれらの条約及び勧告内容を、わが国の現在の労働条件を規定しております国内労働立法と比較して、水準の高低というような見地からどう見ておられますか。これは先ほど言いました通り、もうこの条約全部が政府によつて研究されておると思いますから、御質問申し上げるのであります。
  200. 保利茂

    ○保利国務大臣 基準法に例をとりましても、国際水準を上まわつておる点もありますし、多少下まわつておると申しますか、そういう点もあります。
  201. 黒田寿男

    ○黒田委員 私どもの聞きたいのは、政府が上まわつておるというふうに自負されますものは、またそれとしてお聞きしたいし、国際水準よりは低下しておる部分があるというのでありますならば、それはどこか、何の問題がそれであるかということも、実はお聞きしたかつたのであります。しかしはなはだ抽象的なお話でありまして、どうも話がぴつたりと進まないのであります。そこで先ほど言いました通り、私の質問国内立法と国際労働立法との関係についての質問でありますが、この労働機関に参加することになりますと、御承知のようにこの国際労働機関のおもな活動は、国際的な労働条件基準を設定して、各国労働条件を一層高い水準に引上げ、さらにこれを通じて世界の人々の生活水準を高め、人間らしい生活を保障しようというところにあるのでありまして、そういう目的を実現するために、先ほど申しましたような百の条約、九十二の勧告が出ておるのでありますから、従つて日本としましては、これより以下のものがあるとするならば、この水準に高めなければならぬという、少くとも道義的な義務は発生すると思います。そこでお尋ねしたいと思いますことは、これも研究ができていなければお答えができないかもしれませんが、この条約を批准いたします場合に、もし日本に特殊な事情があるということを主張いたしまして、相当な考慮を加えなければならぬということになつてわが国の事情に適応させるように、国際労働条約内容を変更して批准する。わが国労働立法の現実とこれらの国際条約及び勧告が、このような関係にあるかどうか。そう思われるようなものがあるかどうか。この点労働大臣はどのようにお考えになるでしようか。
  202. 保利茂

    ○保利国務大臣 そういうことの起らないようにということは、しばしば申し上げておる通りでございますが、これはまたあとでどういうことになるかわりかませんけれども、たとえば基準法関係にいたしましても、国際労働条約を上まわつておるというように思われる点を一、二あげてみますれば、たとえば満十八歳未満の者の坑内労働を厳禁しておる点、あるいはまた女子の生理休暇といつたような条項、ないしはいかなる小規模の事業にも、すべてこの法律を適用しているというようなことは、これはちよつとあまり例がないようでございまして、こういう点はかなりはつきりし過ぎておるのではないかという感じがしております。
  203. 黒田寿男

    ○黒田委員 今私がお尋ねしましたのは、国際労働憲章第十九条の3にありますような場合で、これは北澤委員も先ほど触れられましたが、そういう事態が起らないような内容で、国際労働立法を批准するという実情に、日本があるとお考えになりますかどうかということを、お尋ねしたのであります。この十九条の3は、日本労働条件の方が低くて、国際労働立法条件の方が高い場合に、この機関加入することによりまして、日本労働立法の標準を国際労働立法の標準に高める場合に起るものではなく、むしろ日本の低い標準に条約の標準を低めて、それを受入れるという場合に起ることだと思います。そういう事情が存在するというふうに政府は見ておられるかどうか。それとも国際労働立法基準に引上げるという場合はあつても、日本の低い条件条約内容を引下げるというような場合は、現在の日本において起り得ないというようにお考えになりますかどうか。
  204. 保利茂

    ○保利国務大臣 この国際労働条約に照しまして、ことさらに日本労働条件を切り下げるという改正をする意図は毛頭持ちません。あくまで国際的水準を維持して、しかも国内実情に合致するものができればということを、念願しておるわけであります。非常にこまかい問題でありますけれども、大事な御質問でありまして、基本的な考え方といたしましては、私どもはそういうふうな考えを持つておるわけであります。
  205. 黒田寿男

    ○黒田委員 私は日本労働立法の基準を下げるという質問をしたのではないので、国際労働立法の標準にまで達していないようなものがあるときに、国際条約の受入れ方は、向うを低めて日本の低い標準へ合せるのか、それとも向うの標準に日本労働条件を引上げるような方針において受入れるのか、こういうことを質問してみたのです。要するに、第十九条の3に当るような場合が、日本において起り得るかどうかということについての結論を、お聞かせくださいますればけつこうであります。こういう場合が国際労働機関加入したあとで、日本において起り得るかどうか。政府としては起ると思うかどうか。こんな場合はあり得ないと考えるかどうかということを、念のためにお聞きしておるのであります。
  206. 保利茂

    ○保利国務大臣 条項に特に規定を持つております以上は、各国において起り得るので、起り得ないということを前提として条項はできていないと思います。これによつて一般的に御理解を願うほかないと思います。
  207. 黒田寿男

    ○黒田委員 この条項が特に設けられておるのは、その国が何か特殊扱いを受けたい。労働条件について、俗な言葉でいえば国際並の標準まで行かなくても、了解してもらうというような場合のあることを予想しておるからであるが、私は日本にはそういう場合があつてはならぬと思いますから、そこで念のためにこれをお聞きしておるのであります。労働大臣の御答弁はきわめて抽象的でありまして、どこの国でもこういう場合は起り得るというお答えでありましたけれども、私の質問はそういう抽象論ではなく、日本の場合に具体的にはどうかというのであります。しかしこれはこの程度にしておきます。  それから、一体労働大臣は、総括的に言つてわが国労働条件の水準が、国際水準に達しておるとお思いになりますかどうか。またその標準は、単なる労働立法の解釈面においてだけか、それとも事実関係がやはりそうであると見ておいでになりますか。この点をお聞きしておきたい。
  208. 保利茂

    ○保利国務大臣 両面においてそう見ております。
  209. 黒田寿男

    ○黒田委員 それではもう一度お尋ねいたしますが、日本労働条件の中で国際水準に達していないものは、どういうものであるとお考えになつておりますか。今は時間がありませんから、そういうものがあると思われるかどうか。あるとすればどういうものか。おもなものだけでもひとつお伺いしておきます。
  210. 保利茂

    ○保利国務大臣 私はさつき大まかに申し上げたのでありまして、具体的にどこかと言われますと、ただいまちよつと躊躇いたします。
  211. 黒田寿男

    ○黒田委員 よく政府は、日本国内労働立法の標準は決して国際的標準に劣つていない、むしろ上まわつておるものもあるというようなことを言われますが、私どもはそういう安易な考え方で物事を見てはいけないと思いますので、具体的にひとつお伺いしたい。私は労働大臣は何が水準以上であるか、何がまだ国際水準に達していないかということくらいは、よく御存じだと思いましてお尋ねしているのであります。しかしそのようなお答えならばこれはまた次の機会にいたします。  最後に、労働立法を改正するかどうかという問題が今起つておりますが、この国会あるいは次の国会に、労働三法の改正案ないし新しい立法で労働者の生活条件なり、その他政治的な権利関係に変化を生ずるようなものを、お出しになる御意思があるかどうか。それからそれが実現するとすれば、現在の水準より低下する内容になるのではなかろうか。現在の労働立法の内容よりも高まる改正案になるのではなくて、客観的に見れば低くなる改正案になるのではないか。そうすると国際労働立法労働条件に比較して、さらに日本労働条件の水準が低くなるという方向に押しやられるのではなかろうか。このことを私どもは心配しておる。これについて簡単に将来の御方針を承つておきたい。
  212. 保利茂

    ○保利国務大臣 ただいまの基準法につきましては先ほど申しました通りで、その他の労働各法につきましては、委員を委嘱いたしまして御審議を願い、その答申をまつて態度を決したいと存じておりますが、次の国会には御審議を願える段階に至るではないかと、期待をいたしておる次第であります。抽象的に現在のよりも基準を引下げるか引下げないか。これはもう引下げる意思は毛頭ございません。
  213. 守島伍郎

    ○守島委員長 竹尾委員
  214. 竹尾弌

    竹尾委員 私はごく簡単に三つばかり労働大臣お尋ねいたします。  第一は一九一八年でございますかのロンドン宣言、及び今回のILOの前文を見ましても、労働者が国際水準に生活を引上げて、そしてその福祉をはかり恒久平和を実現する、こういう同じ趣旨と思われるような条項が見られる。これはもう非常に美しい美辞麗句でございますけれども、現在の世界労働運動の情勢を見ますると、御承知のように世界労働運動の二大潮流がここに相闘つておる。こういう現状で、私ひそかに心配するのですが、このILO加盟しまして、はたしてここにうたつてあるように、日本労働者福祉が増進され云々ということが実現されるかどうか。労働者福祉の増進云々というような抽象的なことではなく、この機関加盟することによりましてどういうプラスが得られるかということを、もう少し具体的に承りたい。
  215. 保利茂

    ○保利国務大臣 ILOに参加することによりまして、第一点としてはいわゆる民主的な労働運動の発展に、大きく寄与して行くことができるのではないか。第二点は労働各法あるいは労働行政の堅実な進歩を、これによつて絶えず刺激を受けることによつて、はかつて行くという点に大きな意義がある。さらに何を申しましても今日日本の自立ということは、かかつて貿易の伸張、産業発展、しかもそのことたるや国際信用の維持強化、すなわち国際信用の上に立つて初めて可能であることでございますし、ILOに参加することにより、労働条件労働行政の進歩改善を目ざすということによつて国際信用の維持強化に大いに役立つて参るということ等が、直接あるいは間接に大きくわが国の地位と国際的に高めて行くことと考えております。
  216. 竹尾弌

    竹尾委員 時間がありませんから次に移りますが、今大臣がこれに加盟することによりまして、民主的な労働運動に寄与するところが大きい、非常にプラスになる、こういうふうに言われましたが、そこで問題はただいま世界にうずを巻いておりますこの二つ労働運動でございます。先ほど午前中の政府の御答弁によりますと、ILOは独立した機関であつてまた独立した運動をするのだ。従つてこの二つの運動には何か関係がないように、外務当局ではそういう御答弁をされましたが、このILOとこの自由労連あるいは世界労連、こういうような関係は一体どんなぐあいに結びつくのでありましようか。ちよつとお伺いいたします。
  217. 保利茂

    ○保利国務大臣 はなはだどうも常識的なことになつて恐縮でございますけれども、どういう答弁がいたされておりますか。私は世界自由労連はいわゆる自由国家群の国際的労働者の団結であり、運動の母体であり、国際労連はいわゆる共産主義諸国の労働者の団結、しかもこのILO加盟には、なるほどソ連はただいま正式に加入をしていない状態でございますけれども、共産主義の諸国もこのILOに参加をいたしておりますから、相互の代表の派遣あるいは資料の交換等により、相互の意向はILOに十分反映して参る、こういうふうに見ておりますが、おそらく御質問の的はずれになりはしないかと思います。
  218. 竹尾弌

    竹尾委員 的ははずれていないように思います。そこで今加盟国として六十四箇国が加盟しておりまして、これは労働大臣が午後においでになると言いましたから実は留保しておきましたが、ちようどいい機会でありますからお尋ねいたします。この六十四箇国の中には御承知のようにオーストリア、ブルガリア、ポーランド、チェコ、こういうものが入つております。これがここに加盟しているというのは、前からの加盟の続きでこのままとどまつているのか。この点常識的に考えれば、ILOには入らないのが筋ではないかと思いますが、ここに加盟しているというのはどういうわけで加盟しておりましようか。これは大臣の一つの御意見になりましようけれども、お伺いいたします。
  219. 保利茂

    ○保利国務大臣 それらの国々もILO憲章趣旨に賛同して加盟していると、私どもは考えております。決して名前だけ連ねているわけではございませんし、やはりILO活動の中に参加しております。
  220. 竹尾弌

    竹尾委員 ちよつとくどいお尋ねですが、これら四つのオーストリア、ブルガリア、ポーランド、チェコはいつごろ加盟したでしようか。おわかりになりませんか。戦前か戦後かそれだけでけつこうです。
  221. 齋藤邦吉

    齋藤(邦)政府委員 私からお答え申し上げますが、ポーランド、チエコ、ブルガリアの三国は現加盟国として当初から入つております。それからオーストリアの方は戦後入つていると承知いたしております。
  222. 竹尾弌

    竹尾委員 そこでもう一つお尋ねいたしますが、この国際労働運動の二大潮流の対立というものは、今後ますますはげしくなる、こういうふうに私は考えておりますが、そういう場合にむしろこれらのポーランド、チェコなどは、このILOから脱退の可能性が強くなるのではないかと思われますが、その点いかがでありましようか。
  223. 保利茂

    ○保利国務大臣 どうでございましようか。これはたとえば国際連合におけるソ連の様子から見ましても、脱退するという気配はないように見えるのではございませんでしようか。それと同じようなことでILO憲章趣旨に賛回して参加しているのでございますから、むろん両陣営の対立がさらに激化して行くかどうか。それで結局脱退に行くかどうかということと結びつけて、これは考うべき問題でも直接にはないように思います。私はILO関係においては、これらの加盟国も脱退するというようには考えておりません。
  224. 竹尾弌

    竹尾委員 これは非常に大きな問題で、私もいろいろ意見がございますが、いずれ他日を期しましてまた御質問することにいたします。  そこで最後にお尋ねをいたします。先ほど北澤委員お尋ねだと思いましたが、事務局の中に日本の方が入つてくださればけつこうだ、それは可能性がある、こう大臣はおつしやいましたが、可能性のあるというお言葉がある以上は、近くわれわれが加盟するといたしますれば、もう人選くらいはできておるのじやないかと思いますが、いかがでございましよう。どういう方面からどう人選されるのか。その点もしおさしつかえなければ、ちよつと具体的にお聞かせ願いたい。
  225. 保利茂

    ○保利国務大臣 加盟ができましても、それじや今日するということでもないようでございますし、おそらく両年後の問題ということに期待をいたしておるわけでございます。従つていずれの方面で人選しておりますか私はまだ聞いていないわけであります。ただ事務局日本代表が入り得るであろうという報告だけは受けております。
  226. 守島伍郎

    ○守島委員長 林委員
  227. 林百郎

    ○林(百)委員 この提案理由説明を読んでみますと、「日本労働条件が、法制上、完全に国際的水準に達していることを示すことが可能となり、日本が決して低い労働条件によりいわゆるソーシャル・ダンピングを行うものではないという事実をひろく世界に理解せしめることができる」、だからこれに入るということが書いてある。そこでこれは法制上完全に国際的水準に達していることを示すのであるが、実情はどうなるのですか。
  228. 保利茂

    ○保利国務大臣 よいところもあるでしようし、悪いところもあるでしよう。
  229. 林百郎

    ○林(百)委員 そこで具体的な日本労働条件についてこの点は国際的な水準以上、あるいはこの点は国際的な水準以下というように、法制は別として実情として労働大臣はどう考えておるか、説明してもらいたいと思います。
  230. 保利茂

    ○保利国務大臣 抽象的でございますから、具体的にならなければお答えのしようがないと思います。
  231. 林百郎

    ○林(百)委員 そうするとまず賃金の点でありますが、日本の今の労働者の賃金は、国際的な水準からいつてどういう立場にありますか。
  232. 保利茂

    ○保利国務大臣 賃金に国際水準はないと思います。
  233. 林百郎

    ○林(百)委員 国際的な標準からして、日本労働者の賃金は高いものか低いものかということです。
  234. 保利茂

    ○保利国務大臣 それは日本が貧乏であるか金持であるかということと同じことだと思います。
  235. 林百郎

    ○林(百)委員 そう四角ばらないでもよいのですが、日本労働者労働条件というものは、具体的に賃金が国際的な水準まで行つておるか、あるいは大体どの程度の国の水準まで行つておるかということが問題になるわけです。たとえばアメリカだとかイギリスだとか、あるいはそのほかの国と比べてどうか、あるいはエジプトなりそのほかの東南アジアの諸国と比べてどうか、そういうようなことでもよいのですが、そういうことは研究をなさつておらないのですか。
  236. 保利茂

    ○保利国務大臣 むろん賃金の関係は、国内的にもいろいろでこぼこがあると存じますけれども、押しなべてみて国民全体の関係から見ますと、私は賃金は大体バランスがとれていると思います。
  237. 林百郎

    ○林(百)委員 そうするとあなたは、賃金は国際的な水準からいつて、バランスがとれているとお考えになるわけですか。
  238. 保利茂

    ○保利国務大臣 賃金に国際的水準はないと思つております。
  239. 林百郎

    ○林(百)委員 たとえば、アメリカで週給六十ドルくらい、日本の金にして大体八、九万円から十万円くらい、日本の平均賃金が九千円から一万円になつておりますが、実質的な賃金の標準がこういう条件でありながら、それでいてこういう憲章に入る。それでソーシャル・ダンピングでないと言えるかどうかということを、私はあなたに聞いているわけです。実際はアメリカの賃金の十分の一、場合によつては繊維工場の労働者のごときは四、五千円ですから、二十分の一にもなつていないわけです。それであなたは日本国民生活と労働者の賃金はバランスがとれているから、これは国際的には決してソーシャル・ダンピングにならないとお考えになつているわけですか。
  240. 保利茂

    ○保利国務大臣 そうです。
  241. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると私はあなたに聞きたいのですが、ソーシャル・ダンピングとはどういうことですか。国際的な水準で考えないでよいわけですか。
  242. 保利茂

    ○保利国務大臣 あなたの言われるイギリスの労働賃金はアメリカの半分くらいだろうと思う。それではイギリスがソーシャル・ダンピングをやつているかというと、私はそういうものではないと思つております。
  243. 林百郎

    ○林(百)委員 私はイギリスの労働賃金がアメリカの半分だなどということは聞いておりません。しかしながら少くともアメリカの労働者の十分の一、二十分の一という条件で、これが決して不当な賃金ではない、ソーシャル・タンピングにならないというならば、私はあなたに聞きたい。ソーシャル・ダンピングとはあなたはどういうことを言われるのですか。
  244. 保利茂

    ○保利国務大臣 アメリカを引合いに出されますけれども、アメリカは資源の上から行きまして、産業構造の上から行きまして、人口の上から行きまして、日本よりは恵まれたる条件にすべてが立つているわけでございますから、日本のように恵まれない状態のもとにおける賃金と比較せられて、それがソーシャル・ダンピングだと言われるようなことについては、私は同感できません。
  245. 林百郎

    ○林(百)委員 それではあなたに聞きますが、昭和二十五年度の銀行の平均収益率、化学繊維五社の平均収益率、重工業の平均収益率はどうなのですか。たとえば化学繊維などは百倍の収益率を上げているのに、労働者の賃金は手取り四千円、五千円で、自分の体を売らなければ食えないような状態のもとでは、日本国民生活からいつて、私は決してあなたの言われる、日本労働者の賃金はバランスがとれているというような放言はできないと思います。ですからあなたが、日本労働者日本の国情からいつてバランスがとれていると言われるならば、銀行、化学繊維会社あるいは重工業会社の収益率をここで示していただきたい。
  246. 保利茂

    ○保利国務大臣 日本実情をどう見るかということになつて来ると思います。私は、かせいだものをかせいだ人がある程度これを確保し、同時に民族永遠の発展のために、国家再建のために、相当部分は蓄積して、将来の産業の安定をはかつて行くようにいたさなければならぬと思います。そういう点からいつて、昨年の賃金と今日の賃金は、数字をもつて申し上げませんけれども、相当賃金は高くなつております。
  247. 林百郎

    ○林(百)委員 この問答はこれ以上続けてもしかたがないと思いますから、次に移ります。  先ほど労働大臣は、労働基準法のごとき世界的水準を上まわつている法律があるというお話でありましたが、上まわつた法律であるということと、実際にそれが実行されているということとは別だと思うのであります。そこで今日本の国の一人の基準監督官が監督を受持つている工場数は、大体どのくらいありますか、御説明願いたい。
  248. 保利茂

    ○保利国務大臣 基準行政の監督の面で、一人当りの受持ちがどのくらいになつておりますかということは、政府委員から御答弁いたしますが、私は必ずしも基準監督官の数が多いから少いからということよりも、要するに問題は監督官の質の問題であろうと考えております。むろんある程度の監督官の人員を確保するということは、絶対のことでございますけれども、御質問の一人当りの受持ちと申しますか、事業場がどのくらいあるかということは、政府委員からお答えいたします。
  249. 林百郎

    ○林(百)委員 問題は根本的に考えが違うわけです。私の次の質問を聞いてから答えていただきます。  銀座のまん中にも女工哀史があるのであつて、昨日の朝日新聞に、不二コロンバンの喫茶店の女給さんたちが、組合をつくつてつているという記事が出ております。これは明らかに労働基準法が無視されているということから、この組合の闘いが起きまして、今都労委へ提訴しているのです。この要求を見ますと、休憩室をつくつてもらいたい、休憩時間を一時間ください、超過勤務手当を支払つてください、月給制度にして昇給制度をつくつてください、全員に作業衣を支給してください、馘首者を帰してください、こういう要求を店主に出しました。ところがたちまち組合の三人が料亭に呼ばれまして、そのうちの書記長は首を言い渡された。そのあと女子従業員は男子の使用人、重役、顧問弁護士に取囲まれて組合に入つたか入らぬかという詰問を受けて、組合に入つたと言つた者は、全部その場で辞表を書かされた。これが非常にひどいということで、レストラント従業員組合から都労委へ提訴になつたというような事実があるのであります。問題はこのことで私の方の柄澤代議士が中央区の基準監督官に面会を求めたところが、その基準監督官の言うことには、実は基準監督官の人員が少くて、一人当り大体二千件の監督の受持ちを持たなければならない。それで大体五、六年に一回しか工場をまわることができないような現在の状態だ。従つてどうしても自分の手が届きかねるから、基準法違反の事実があつてもやれないということを訴えたそうです。六年に一回ということは、あるいはどうか知りませんが、とにかく基準監督官はみずからそう言つて柄澤代議士に訴えた。それから北海道では監督官が六十三人で、一箇月の旅費が大体二千三百円しか出ない。二千三百円では二泊三日の監督しかできないということで、基準監督官が、非常に今の条件のもとでは、十分労働基準法を実行せしめるだけの責任を持てないということを、はつきり言つているのであります。また長野県の監督官からも私のところへ、今でもこういう状態である。これ以上人員を整理されたのでは、とうてい労働基準法の完全なる実施を監視するなどということは、不可能だということを言つているのであります。そこで私のお聞きしたいことは、実際りつぱな法律があるのと、事実それが実行されるのとは別だと思うわけであります。こういうように基準監督官は非常に責任が重過ぎて、今の労働条件ではその責任を果すことができないということを、切々として訴えているのでありますが、これに対して労働大臣はどういうふうにお考えになつているか、お聞きしたいと思うのであります。笑いごとではないと思います。
  250. 保利茂

    ○保利国務大臣 もとより笑いごとではございません。そこで日本労働基準法は、とにかく一人でも人を使つているところの事業場と申しますか、全部適用になつているわけであります。そこで一人か二人のところでも、数えてみますと、あなたの言われるように、そういうところまでまわつてつたら、あるいは一人当り二千件ぐらいになるだろうと思います。そういうところまで一々歩いて行くということになりますれば、これはもうちよつと今日の十倍や二十倍の人がおつても、十分に行きかねるということは当然だと思います。それは率直に認めざるを得ない。ただしかしながら、全体の労働条件を守る、しこうしてこれが国際的信用につながつて行くという重要な意義にかんがみまして、その点に支障のないような監督行政をいたさなければならぬ。今日の人員で監督官が非常に苦労しておるということは、よく私どもも承知しておりますけれども、一面においてやはり国民の税負担力ということも考えてもらわねばなりませんし、従つて監督の合理化ということは絶えず考えて行かなければならぬ。そこで私どもは決して十分だとは申しておりませんけれども、監督制度のあり方等についても研究をいたしまして、十分法の目的を達成し得るようにいたしたいと考えておる次第であります。
  251. 林百郎

    ○林(百)委員 基準法が今の条件のもとでは、十分適用し得ることは困難な面があるということを率直に認められましたから、私はこの問題はこれでいいと思います。ただ私がこの問題を質問しておることは、国際労働機関憲章というようなものへ入つて、法制的に完備することによつて、むしろ実情を隠して、日本はソーシャル・ダンピングを行うものではないというようなことを言うとすれば、これは国際的にやはり一種の欺瞞になりはしないか。むしろ率直に日本労働条件のある姿をそのまま出しまして、そうしてそれの批判を聞き、一歩々々向上して、国際的にも十分認められて、実質的に日本労働条件が国際的な水準からいつて、非難を受け得ないというような条件のもとに入るならわかりますが、そういう点で国際的に、むしろあとになつて非難を巻き起すようなことになつてはということを私は心配して、ここで言つているのであります。このことは英国代表日本加盟についてそのことを心配して、たしか質問をしているはずです。  そこでもう一つの問題ですが、講和条約が成立して十分に日本の国際的な地位が上つて来た場合には別として、現状のもとで国際労働憲章に入りましても、占領下における労働条件というものは、また非常に苛酷なものがある。これは先ほどもちよつと聞いたのでありますが、こういうことをどう考えられるかということが問題になると思うのであります。たとえば東重工の下丸子工場におきましても、従業員が二人、三人とだんだん首を切られて行く。そのときに大体組合側が会社側と交渉しますと、これはアメリカ政府日本政府の特別な調査機関で調べて首を切つているのであるから、これは団体協約等の適用は当てはまらないのだ。PD、LR工場では団体協約だとか、あるいは日本労働三法というようなものの適用はないのだというような答弁を会社がしておるのであります。またこの問題について私が大橋法務総裁質問をしたときに、われわれは日本人だ、日本人であるがゆえに、現在のもとでは労働法規やあるいはそのほかの法規によつて、保障を受けないのだということを言つておるのであります。そうすると、占領状態が続く限り、また外国の軍隊が日本にいる限り、こういう国際的な条約加盟したところで、大きな労働条件の制約を受けざるを得ないと思いますが、この点について労働大臣の見解をただしたいと思うのであります。
  252. 保利茂

    ○保利国務大臣 林君はいつもそれを言われますけれども、PD工場におきましては、日本労働法はそのまま適用せられる。そうしてそれが励行せられるように、占領軍も協力していただいていることは、しばしば申し上げたところであります。しかして今後のことはどうなるかということは、先ほど並木君にお答えしたと思いますが、独立回復後においては国内法で律して参りたいと考えております。
  253. 守島伍郎

    ○守島委員長 林君、もう時間は一分間ぐらいしかありません。
  254. 林百郎

    ○林(百)委員 それでは最後にお聞きしますが、一つは今度の安保条約に、吉田首相とアチソン国務長官との間の交換書簡に明らかになつているように、今まで日本連合国最高司令官の承諾を得て、朝鮮の問題に関して施設並びに役務を提供して来たということを、はつきり言つておるのであります。この問題について従来私は労働大臣質問をしたことがあると思いますが、日本労働者が朝鮮事変には介入しておらないというように聞いておるのでありますが、日本人が朝鮮事変に役務を提供しているという、この役務というのはどの程度の範囲のことを言うのかという問題と、それから依然として講和後もアメリカの軍隊が日本に駐留するということになれば、その治安の関係もからんで来て、日本労働運動、たとえばゼネラル・ストライキというようなものに対しては、これを制限する、禁止するというようなことが必然的に出て来ると思う。これは午前中に大橋総裁は、はつきりゼネストに対しては立法的に措置することを考究中だと言つております。この二つの点、要するに朝鮮事変、あるいはそのほか国連が日本で行動する場合、日本人が従来役務を提供しておつた。今後も役務を提供する。この役務はどの程度のことを言うのか。また日本に駐留するアメリカの軍隊の治安を確保するという意味で、日本労働運動に対する大きな制限、たとえばゼネラル・ストライキ禁止法というような法律が立法されるかどうか、こういう点をお聞きしておきたいと思います。最後にそういうことをお聞きすることは、現状の占領は、また今後そうした外国の軍隊が駐留するという条件のもとでは、かかる国際労働憲章加盟したところで、とうてい日本労働者利益は守られないし、むしろこれは国際的には日本労働者の奴隷的な状態を隠して、ソーシャル・ダンピングはしないのだというための欺瞞的な手段になりはしないかということを考えますので、その二つ質問をするのであります。
  255. 保利茂

    ○保利国務大臣 第一問は、占領軍の要請に基いて荷役等に従事したことをさしておると思います。第二問はよくわかりませんけれども、駐留軍が来ることと、ゼネスト禁止法の立法をすることとは全然別だと思つております。法務総裁がどういうような構想を練つておられるか存じませんけれども、それとは全然関連のあることではないと思います。それから何かソーシャル・ダンピングをごまかすために、ILOに入るかと言われますけれども、おそらく日本の国情で、全体の国民所得が低くて、しかもあわせてそれとバランスのとれた形において低い賃金である。これをさしてソーシャル・ダンピングだとあなたは言われるのでしようけれども、先般も参議院の方でそういう論議がありましたが、そういうことをもつてソーシャル・ダンピングだと言つて世界的の大きな疑惑を招こうとする言動は、私は共産党だけだと思う。それ以外の人で、かようなことをとらえてソーシャル・ダンピングだという人は、おそらく絶対になかろうと私は思つております。
  256. 守島伍郎

    ○守島委員長 小川委員
  257. 小川半次

    ○小川(半)委員 多数の委員諸君の質問並びに政府答弁によつて、大体了解したのでありますが、二、三各委員が触れていない点がありますので、この機会にごく簡単にお尋ねしたいと思います。  国際労働機関の生れましたのは、労働条件の改善あるいは労働者の身分保障を、根本の精神といたしているのでありまして、ここにもありますように、労働時間の設定を含む労働時間の規則とか、あるいは労働力供給の調整、失業の防止、その他いろいろ福利厚生の問題などがあるのですが、そこで日本が今回ILOに再加盟するにあたつて、本年六月に政府代表が出席いたしまして、日本立場をいろいろ御説明なさつたようでありまするが、その際にイギリス代表からもいろいろ御質問があつた。ここで一番重大なのは、日本において最近労働基準法改正する意図があるのではついかという質問に対して、日本政府代表は、目下のところそういう考えはないという答弁をしておられます。そこで各国はこれに信用を寄せて、日本労働基準法を当分改正する意図がなさそうである、こういう考えのもとに、日本に対する理解と信用を高めて、そうして日本の再加盟承認したものだろうと私たちは解釈いたします。もし日本が近いうちに労働基準法を、現在よりも労働者にとつて条件の悪いところの改正をすることを、今考えておるということを言つたとするならば、日本加盟に対して各国反対しただろうと思う。おそらくここに賛成百十七票、反対十一票——これは労働基準法日本改正する意図は今のところないというこの言葉を信用して、私はこの数字が現われたものだと思う。もし労働基準法改正する意図があるということをほのめかしたならば、私はこれは逆だつたのではないかと思う。先ほど保利労働大臣ちよつとあいまいなことを言つておられたけれども、おそらくこれは近いうちに労働基準法の改悪を出すということは大体想像がつく。そこで日本はいよいよ加盟した、同時に日本労働基準法を、より労働者にとつて条件の悪いものにつくり上げたということになると、国際労働機関理事会において、日本は相当非難されるだろうと思う。これは国際的信用の問題にもかかわると思うのですが、一体この場合政府はどういう処置をとるのですか。ただ苦情とか弁解でこれは済むような問題ではないと思うのですが、これは私はあなた方のために好意的な立場質問するのです。これは重大なことなんです。どうです。どういう方法をとられますか。
  258. 保利茂

    ○保利国務大臣 ちようどきようはここにその総会に出席した代表が三人とも列席しております。私が報告を受けておりますのは、加盟の審査委員会で、日本の今の労働行政の模様を聞かれたことがある。そのときに、イギリスの労働組合から代表に来られている方が——日本労働法改悪という鳴りもの入りの宣伝が相当大きく伝わつておりますし、何さま御承知のように政府としては何らの広報宣伝の手がない。一方において労働運動の方は、すでに世界自由労連とある程度のつながりを持つて国際的活動をやつております。それで実際日本労働政策労働立法というものが現実にどういうものであるかという認識が世界的に非常に薄いということは、これはもう認めざるを得ない。そこへ持つて来て、まるで基準法でもなくなつてしまうのじやないか、あるいはすべての新しい立法が戦前に逆もどりをするような改悪を行われるのではないかというような、相当深刻な印象を与えている面もあるようであります。その結果がその代表から、ただいまお話のように日本政府労働法を改悪するということであるが、そうであるかという御質問があつたそうでありますが、それに対して私が報告を受けておりますところでは、日本政府としてはただいま何らの成案を持ちませんということを申し上げているようであります。従いまして、もつともこれは基準法をどういうふうに改正するかという改正案が出てみなければわかりませんけれども、かりに改正案を御審議願うような段階に至りまして、しかも改正をいたした後にこういうものであるという認識を得ることができるならば、そういう措置は当然とらなければならぬと思うわけですけれども、御心配のようなことは私はなかろうかと思つております。
  259. 小川半次

    ○小川(半)委員 日本労働基準法は第一次吉田内閣のときにつくりまして、当時日本国内のみならず世界に誇つて日本にこういう進歩的な労働関係法律ができたといつて得意になつていたものなのです。実際私はあの当時世界各国労働基準関係する法律に一応目を通しましたが、これは世界の水準の上を行くほどりつぱなものでもないのですが、大体水準を行つているのです。とにかく非常に進歩的ないい法律ができたと、世界の国はそれこそ日本に対する信頼を高めたのですが、おそらく経営者などから、これではきゆうくつでしかたがないという苦情が、全国至るところ相当湧き起つたものですから、結局政府はこの経営者などの苦情というかいろいろ意見に圧倒されて、いよいよ改正の運びに至ろうとするのでしようけれども、しかしそれよりも、かつてフランスだつたかドイツだつたかで、やはり産業の再建上基準法は生きているものだから改正ができない。基準法というものをそのまま置いて、さらにその上にヴェールを着せる。たとえばその上に産業再建法というようなものをつくつて向う三年間経済を起すまで産業再建法を施行する。産業再建法施行中は、労働基準法は一時休業状態に置くというぐあいにして、全然労働基準法を殺さずに生かしておいて、さらにその上にヴエールを着せてやつた例を私は読んだことがあります。日本においてもせつかく世界各国の人々が、非常にいいものができたと感心している労働基準法を悪くする必要はないと私は思う。これを生かしておいて別の方法考えることも、私はそういうことをすれば、日本政府は非常に進歩的なものを生み出したと、かえつて世界の信用を高める一つの動機になると思う。そこで私はもう一点お尋ねしますが、こうした国際労働機関精神から行きますと、これにもうたつてありまするように、どうしても失業の防止ということが重大なのです。そこで失業の防止策というものは一体どうすればいいのか。これは二種類あります。たとえば産業が不振で、産業方面に失業者が出ようとした場合は、政府はその産業方面に金を与えて産業を活溌にならしめて失業を防止させる、そういう政策もある。そういう産業方面でない方面、たとえば公務員の場合、官庁あたりの場合は、国力が貧困でどうも役人が多過ぎるような場合が多少考えられても、そこは失業防止策の建前上それをがまんして行くという方法がある。もしさらにその場合配置転換の政策があればそれほどけつこうなことはない。あるいは整理された公務員産業方面へ流すとか、いずれか配置転換の目標があれば、私はそれを断行してもいいと思うのです。今日の日本において、要するに失業防止策というものを全然政府がとつておられない。今度公務員を十二万幾ら整理されるのですが、その配置転換の用意があるのですか。どこへ配置転換されるのですか。私はこの際その政府の対策を承つておきたいのです。
  260. 保利茂

    ○保利国務大臣 基準法の問題についての小川委員の制定当時の御努力をよく承知しておりますから、これは尊重して参らなければならぬことは当然のことで、政府のみならず自由党といたしましても、新しい基本政策に示しております通り労働条件国際的水準を確保するようにするということを明確にいたしております。その線に沿つて参りますれば、いろいろ大騒ぎをされておりますけれども、大したことは私はいたさないつもりでおるわけであります。  失業関係につきましては、財政力が伴いますれば、あなたの言われるように行けるわけでございますけれども、今日日本の恒久的な完全雇用への道としては、これだけの過剰労働力をどうやつて職業戦線に吸収するか。これは何といたしましても、財政力が御承知通りでございますから、日米経済協力あるいは国際的な理解と協力のもとに貿易を伸張させて、そうしてその産業の基盤を拡大充実して、一人でも多くの吸収力を養つて行くほかにはもうできない。しかしただ今回のこの行政整理に伴う措置としましては、昨日も内閣委員会で申し上げたことでございますが、とにかく昨年来やや緩和をして来ておりますとは申しましても、失業状態それ自体は依然として深刻なものがございますから、その深刻な中に今回退職をされる方々はまことに気の毒であります。でありますからまずもつて離職後相当期間生活の不安なきようにすることが、第一でなければならぬ。財政力の許す限り手厚いもてなしをしよう。そういう意味で退職金の大幅支給ということを考えておるわけであります。それと御承知の先般御審議を願いました退職金に対する課税の関係も大幅に緩和して、実際手取りの退職金が少しでも多くなるようにという配慮から、ああいう措置をとつたわけであります。それから公務員の民間への就職制限を緩和いたしまして、まず第一には各実施官庁でできるだけ退職される方々の行き先を心配する。それでも足りないところは職業安定所にまた御奮発を願つて、困難ではあるけれども強力に求人開拓をやつていただく。しかし最も望ましいことは、先ほどもお話のように産業戦線への配置転換——実際御承知のようにある程度の技術を持つておられる技術の体得者は、この深刻な失業状態の中においても就職の機会に比較的恵まれておる。それで将来安定した職業と生活を持ちたい。そのために技術を持つて再出発したいという希望を持たれる方々に対しては、そういう機会をきわめて簡易につくり出すということがこの場合最も必要である。そういう考えから二十七年度一年を限つて、少くとも一万人ぐらいの方は収容できるように、労働市場とにらみ合せて簡易な職業技術補導をやつて、一人でも多くの方を再就職の機会に恵まれるようにいたさなければならぬ。大体今回の措置としては私はやつて行けるのじやないか、こういうふうに考えておる次第であります。
  261. 守島伍郎

    ○守島委員長 小川君時間が参りました。
  262. 小川半次

    ○小川(半)委員 それではもう一つだけ……。退職の場合に多額の退職金を与えてそれで満足してもらう、泣寝入りしてもらうというようなことは、やはり労働政策の下の下の政策で、一番消極的な下手なものであろうと私は思う。やはりこれは私は時期的な問題だと思います。たとえば今国内が景気がよくて産業界が活発であるという場合には、ある程度の大量首切りもよいでしようけれども、今日のような配置転換もできない状態ではどうにもならない。しかも今の日本国内の状態が、物価高でインフレになつて行こうという時期に多数の人を整理するということは、労働政策上一番下手なやり方であつて、あなたが労働大臣としてそういう政策をやるのだつたならば、労働省は人はいらなくなると思う。あなたは押しの強い人だから、閣議においてももつと押して、自分は労働者の父である、これは絶対にがまんできないと言つて、もつと時期を引延ばすようなことを考えた方が私はよいと思います。私はあなた方のいろいろなお立場も考慮の上で、こういうことを申し上げるのですが、ひとつよく考えてください。
  263. 守島伍郎

    ○守島委員長 連合審査会はこれにて散会いたします。     午後四時四十二分散会