○林(百)
委員 私の方はこの加盟に反対いたします。反対の理由は、先ほど北澤
委員の賛成の意見の中にありました
通りに、わが国がソーシャル・ダンピングの疑いを国際的に受けておる。これを避けなければならないということが、これに加盟する大きな理由の
一つであ
つたのであります。この提案理由の説明を見ますと、
日本がこれに加盟することによ
つて「労使間の
関係の円滑化、産業の高度化が促進され、も
つてわが国の発展に寄与するところは、はなはだ大なるものがあると
考えます。さらにこれによりまして
日本の労働條件が、法制上、完全に国際的水準に達していることを示すことが可能となり、
日本が決して低い労働條件により、いわゆるソーシャル・ダンピングを行うものではないという事実を広く世界に理解せしめることができるでありましよう。」ということでありまして、これに入ることによ
つて、法制上
日本の労働條件が世界的水準に産しておることを示すことが可能だ。これによ
つてソーシャル・ダンピングを行うものじやないということを広く世界に理解せしめるということであるようであります。しかし問題は、この法制上、
日本の労働條件が世界的水準に達しておるかどうかということではなくして、
日本の労働者が置かれておる
現実の條件がどうかということによ
つて、国際的なソーシャル・ダンピングのそしりを免れるようにしなければならないということが、ほんとうの責任のある政治家の行うべきことだと思うのであります。ところが御
承知の
通りに、
日本の労働者の労働條件は、
アメリカの平均賃金の二十分の一から、いいところでも十分の一
——アメリカは週給六十ドルといいますから、これを月に直しますと大体二百四十ドルくらいになりまして、大体十万円平均になると思うのであります。
日本の労働者の平均賃金は、いいところ一万二、三千円、実際は五、六千円のところがあるのでありまして、これは明らかに国際的な水準からいつたら、
アメリカの例が高過ぎるにしても、そのほかの国の例にとりましても、問題にならないような低條件であるのでちります。しかも失業者、半失業者を入れますと、大体一千万人近くの半失業者的な労働者がちまたにあふれておるのでありまして、工場では通常の本雇いの労働者から臨時工雇いにどんどん切りかえれて、いつでも首切りあるいは低賃金で雇うことのできるような産業予備軍が町にあふれておる。そのために
日本の労働者一般に及ぼす劣悪な條件というものは、およそ国際的に比を見ないような、さんたんたる
状態だと思うのであります。問題は、こういうさんたんたる
日本の労働者の労働條件を率直に国際的に訴えて国際的な輿論のもとに、
日本の労働者の労働條件を改善して行くということが、むしろ
日本の姿をありのままに示すことであ
つて、こうした劣悪な労働條件をそのままにしておいて、法制上だけ国際的な水準のもとに入るということは、私は欺瞞ではないかと思うのであります。この点がこれに反対する第一の理由であります。
それから第二の理由は、御
承知の
通りに今占領下でありまして、PD工場あるいはLR工場では、
アメリカからの注文は非常なわくの狭い
状態で注文が来る。たとえば日立のごときは一時間四十八セントの比率で注文を受けるというような形で、四十八セントの注文を受けますと、材料代が四十セントかかりますから、労働者の賃金はどうしても八セント。八セントということになりますと、月平均五、六千円の労賃しか拂えない。そういうような條件で特需あるいは新特需の注文が来るという
状態でありまして、こういう占領下のもとで、いかに国際的水準の高い法制上の措置をとりましても、
現実の問題としては、
日本の労働者の労働條件を改善することは不可能であります。資本家の利潤すら非常な幅の狭いものにならざるを得ないという
状態でありまして、こういう條件のもとでこの
国際労働機関憲章に入
つても、これは無
意味であるとわれわれは
考えるのであります。ことにPD工場、LR工場では、自由に従業員を馘首することができまして、これは工場主に言わせすと、注文側つまり
アメリカ側の監視のもとで仕事をしておるのだから、この監視する人たちから、あの労働者は不適格だと言われれば、首を切らざるを得ないのであ
つて、こういう占領下では、労働協約も労働三法も適用するわけに行かないというような説明を聞いておるのでありまして、こういうことではとうてい労働者の基本的人権あるいは労働條件を十分守ることができないのであります。むしろこれは率直に国際的に訴えることの方が、私は
日本の労働者のために利益になると思うのであります。
それから第三は、こういう劣悪な労働者の労働條件のもとでありますから、労働法規の改悪だとかゼネスト禁止法だとか、いろいろの取締法が吉田内閣のもとでは考慮されておるのでありまして、この国際労働憲章の宣言の中にあるような、労働は商品ではないとか、表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができないとか、すべての人間は、人種、信條または性によ
つて、物質的精神的に福祉を受ける條件に差異を付されてはならないというようなことは、
まつたく空文にすぎないと思うのであります。こういう條件のもとで、この美しい言葉だけで入るということは、一種の欺瞞であるというように私は
考えるのであります。この点からい
つても、要するに労働者に対する強圧的な
政策をと
つていながら、こういう労働者の基本的人権を守らなければならないというような労働憲章に入ることは賛成できないのであります。
それから第四としましては、この
国際労働機関憲章に入ることによ
つて、保利労働
大臣の意見によりますと、さらに労働基準法を、行き過ぎたものは改悪するというようなことも言われておるのでありまして、吉田内閣が労働基準法だけは世界的な水準だと
言つておきながら、これは労働憲章よりもまた行き過ぎているからこれを直さなければいけない、たとえば婦女子の生理休暇あるいは十八歳未満の未成年者に対する労働條件というようなことは、労働憲章に照しても行き過ぎておるから将来改悪するということをほのめかしておるのでありまして、将来これに入ることによ
つて、むしろ
日本の労働三法を改悪する口実になる、この点から私たちはこれに入ることに賛成できないのであります。
第五としまして、先ほど北澤
委員の賛成討論の中にもありましたごとく、この国際労働機関に入
つても、
日本の特殊
事情からい
つて、適しないものは考慮すべきだという逃道も張
つておるのであります。一方において逃道をつく
つておきながら、法制上だけは完備した国際的水準に達しようということは、いささか欺瞞であるといわざるを得ない。かかる理由から、私はむしろ、
日本の労働者の置かれておる
現実の劣要な條件を国際的に訴えて、国際的な協力のもとに
日本の労働者の労働條件を改善するということが率直な態度であ
つて、法制上りつばなものに入ることによ
つて——現実の劣要なる
日本の労働者の労働條件を隠そうとする意図には、どうしても賛意を表することができないのであります。
こういう
意味で、わが党はこの憲章を受諾することについては反対するものであります。