○大和
参考人 国鉄労働組合の副
委員長の大和であります。本日お招きを受けまして、
運賃値上げに関する
参考人の役を勤めるわけでありますが、この問題は
国民生活に直結しておりますので、なかなか微妙な問題であります。先ほど
高橋先生からもお話があ
つたように、この
運賃値上げについては、基本的にはだれも反対であるということが前提になると思いますが、われわれ労働組合としましても、基本的には
運賃値上げには反対である。ここにおられる
国民の選良としての皆様の
立場としても、やはり選挙区に行
つて、おれは
運賃値上げをしたなんてことはまさか言えそうもないし、国家
財政とにらみ合せてやむを得ないのだということにもなろうかと思われます。そういう苦しみというか、哀情というか、忠孝両全の道というか、そういうことはいろいろ苦労があるわけであります。それで私は基本的に反対であるが、
運賃を
値上げすると
なつたならば、適正
運賃であれば了承するにやぶさかではない、こういう持論を前から持
つておりますが、さて適正
運賃とは何かということになると、なかなか議論があるわけであります。それにつきまして二、三の点を申し上げてみたいと思います。時間がないということで、簡單でありますので意を盡さない点がありますが、その点は御賢察いただいてお聞き取りいただきたいと思います。
第一に、客観的條件について申し上げたいと思いますが、戰後
わが国は敗戰国として失意のどん底にあり、
経済的復興は至難のざわだと思われておりました。
インフレーシヨンは悪性的相貌を呈し、国家
財政の破綻は焦眉の急となりました。そのときに占領下にある
特異性に加えて、アメリカからドツジ・ミツシヨンが来て、再三の勧告によ
つて思い切
つた剔抉のメスが下され、悪性
インフレーシヨンの様相は小康を得、いわゆるデイス
インフレーシヨンに
なつたということがいわれております。しかし昨日の新聞を見ましても、大蔵大臣の御答弁は、少くともデイス
インフレーシヨンの時代は去
つたということであるが、今後悪性的な要素を持つのではないかという心配も考えられます。ですから政府が、この
インフレ政策に対してどう考えているか、こういうことが私たちは一番心配になるわけであります。何とか調節をしたいと非常に苦慮されておることはよくわかりますが、それに対して
運賃の
値上げのみをとやかく言うのではなく、基礎産業に要するあらゆる
物資の
値上りを、もつと大きな国家
財政の見地から、ぜひとも上らないようにしてもらうということが、最も大きな先決問題でなければならないと思います。それでそれらの
物資とにらみ合せて、政策的に均衡を考えて
運賃を上げる。上
つてしま
つたものはしようがない。だからそのしようがないものに合せるために、
運賃なり電気料金なりを上げなければいけない、こういう形にやむを得ずなるのではないかというように考えられます。
石炭なり、枕木なり、鉄鋼なりというものは、直接
国鉄に非常な
影響を與えるので、それらの
値上げをなるままにまかせるというのでは、はなはだ困るのであります。またこれらの
値上りによりて、零細な資本によ
つて生活をしている中小
企業家の
方々あるいは給料
生活者は、相当の部分を足代に使わなければならないということで、
生活の脅威が直接に考えられ、
インフレーシヨンによる他の
物価の
値上りによ
つても、給料はそれに比例して上らない。こういう現実もよくお考えをいただかなければならぬと思います。か
つて政府は
価格差補給金を出しましたそのときにも
国鉄に対しては
運賃を押えて、補給金を出さずにがまんをするように強圧された。その結果は戰災復興費も自分で持
つたために、車両の改修、保安度の安全性もはかばかしく行かず、不十分なままに今日に至
つております。また
国鉄電化の促進も、涙をのんで延期中止のやむなきに至りました。この点も先ほど
高橋先生がお触れに
なつたところであります。このことはひいて従業員の待遇問題についても、
物価の
変動にかかわらずすえ置きとなり、非常に労働強化をしいるという
傾向が出るのではないかという心配がございます。また今回二十六年度の予算を組むに際しても、初めから
朝鮮動乱の見通しもきわめて不徹底だ
つたと思われますし、三月に組まれた予算が当時の
物価を
基準にして、その
値上りについてはどうも考えが足りなか
つたのではないかということも考えられるのであります。予算が足りないということはやむを得ないとして了承しましても、その穴埋めに
運賃の
値上げによ
つてその一端を補いたい、こういうお考えでは困るので、ぜひとも大所高所と申しますか、国家
財政全般的な、
国民経済全体のにらみ合せから、政府が適切な処置をしていただくことをお願いしたいと思います。
第二に、主体的條件について申し上げたいと思います。公共
企業体にな
つて独立採算制ということがいわれておりますが、公共
企業体労働
関係法あるいは
日本国有鉄道法というような、いろいろのややこしい法律があ
つて、しかもその法律は一夜にして
なつたというか、はなはだ不十分な点が多く、今後ぜひともこれをもつと正しいものにかえてもらわなければいけない。そのために、独立採算制という言葉はあるが、実際に
国鉄の
企業は独立採算制にならない。あらゆる資金面において、すべて
国会なりその他の承認を得なければならぬ、こういうことでは健全な
企業の独立採算制ということは考えられない。こういうがんじがらめの形では困るので、この点もぜひとも御
考慮いただきたいと思います。
第三に、具体的條件について申し上げたいと思います。およそ一個の
企業が健全に成り立
つためには、
收支の
バランスがとられ、
赤字がなく、
減価償却を行いつつ、新規事業の計画が進められるほどの安定性を持たねばならぬことは、論をまつまでもありません。今回の
運賃値上げも、その妥当性を肯定する一面もないわけではありません。すなわち生産費に該当すべき
輸送原価と、商品に値すべき
運賃との
割合を、
経済が比較的安定し、
国鉄企業が健全に運営されていた
昭和十一年を
基準としてみると、
昭和二十六年度のそれは、
旅客において
輸送原価が百五十倍にな
つているのに反し、
運賃は百七倍にしかな
つておらない。
貨物においては
原価百五十五倍の
高騰に対し、
運賃は百三十八倍の上昇にな
つている。この限りにおいては
輸送原価と
運賃との
バランスは、
企業経営の観点からは決して
合理的なものとは言えません。また
昭和十一年の
基準年次における
物価を百とすると、今年一月における
物価指数は、卸売
物価において二百九十六倍とな
つており、
鉄道運賃と
物価との上昇率に、大きな懸隔がある。運輸收入と人件費の
割合は、ほとんどかわ
つておらない。
昭和十一年度は三四%、二十五年度は三六%。こういうふうにあわせ考えると、
赤字の
原因が
物価高騰に起因しているということを雄弁に物語
つております。
国鉄経費の主たる
財源が、
旅客、
貨物を主とする運輸総收入によ
つてまかなわれておる現在、
物価は前述のごとく約三百倍の上昇を示しているにもかかわらず、運輸総收入が二百三十七倍にしかな
つていないことを、注目する必要がありましよう。このように
輸送原価ないしは
物価との関連から、主として
経費の
合理性の上に立
つて見るときは、現行
国鉄運賃制度は必ずしも当を得ていないとも言うことができるでありましよう。
これらを打開するために、当局が苦心しておつくりに
なつた
鉄道運賃改正資料を一通り目を通して見たのでありますが、なるほどつじつまの合
つたりつぱな資料には違いありません。しかしたとえば
経営の
合理化について十八億の節約ができるとありますが、これなどは的確な資料を手元に持
つていないので正確でありませんが、まだまだ何とか節約ができるのではないか、こういうような点にはなお一層のお骨折りをいただきたい、こういうふうに考えるわけでございます。それで適正
運賃の徹底ということがありますが、私たちから言わせると、公共
企業体労働
関係法なり、
日本国有鉄道法なり、そういう法律の矛盾は別といたしましても、それでは労働組合が
経営に参画して一緒にやる。私、最近オランダ、イギリスに行
つて参りましたが、そういうところでも国際運輸労働者
会議の議題としても、ぜひとも
経営に参加いたしたい、こういうことが主たる議題とな
つております。このように私たちが
経営に参画して、適正
運賃をもしはじき出すことができるとするならば、これは私たち
消費者に対して、そういう人たちのことを十分考えながら、何とかそこに幾らかでも適正な、絶対とは言えませんが、そういうふうな
運賃が出るのではないか、こういうこともぜひとも今後できるようにお願いしたい、こういうことを考えるわけでございます。
以上を要約いたしまして、理論と現実ということが言われますが、筋を通そうとすれば、もちろん
運賃値上げには反対である。しかし現実にはいろいろな面において、たとえば一つは私をして言わしめれば、政治の貧困もあるだろう、こういうふうに考えますと、何とかこういうことをやらないで、
一般会計からの繰入れ、貸付け、あるいは建設公債というような、いろいろな方法も考えられまして、もしもそれでまかな
つていただけるならだ非常に幸甚だと思います。しかしそれが困難だということになれば、今回の一応当局から出されたところの資料の
内容というものが、はたして適正であるかどうか、こういう点は十分皆さんの御賢察にまかせて
愼重に御審議をいただいて、そしてこれが不当なものではない、先ほども申し上げましたように
企業の形として、どうしてもある程度はやむを得ないというふうなことがあり得るかもしれない、そういう点は一に皆様の
愼重な御審議に待つというふうなことになると思います。先ほど申しましたように十一年に人件費は五八%、物件費は四二%でありましたが、二十五年には人件費が四三%、物件費が五六%というふうにな
つているのであ
つて、決して人件費の増大によ
つて、今回の
運賃値上げがどうこうということではないと思います。また
石炭の節約につきましても、三三%も二十三年から二十五年までは節約しているというふうな状態にございます。以上のことをいろいろ御勘案いただいて、ぜひとも
愼重にこの適正
運賃ということについて十分に御審議をいただきたいと思います。
最後にたとえ話が非常によくないかもしれませんが、昔一体和尚がお
つて、ついたてに虎の画が書いてあ
つた。殿様が、虎がおるから一体和尚に虎をくく
つてくれ、こう言
つたところが、一体和尚がはち巻をしてなわを持
つて来て、よろしい、つかまえましよう、さて準備をしてから殿様に、その虎を追い出してくれと言
つた、こういうふうな昔話がございますが、私たちもぜひとも政府が、われわれにこういうふうに
運賃値上げをしないでよいように、反対なり賛成なりする場合には十分それができるように、もつと私たちをしてほんとうに適正
運賃を裏づけさせるような、そういう方途を国家
財政全体の大局的な面から講じていただく、こういうようなことを切にお願いしたいと思います。基礎
物資の
値上りがあ
つたのでは、あらゆる
日本の
物価がすべててこ入れにな
つてかわ
つて来る。狂瀾を既倒に返すというか、そういことができるならば、ここに
運賃値上げは絶対しないでよろしいでしよう。しかしそれは次善の策であ
つて、もうすでに基礎
物資は上
つて来てお
つて、
運賃だけここでぎゆうぎゆう締めた
つて、これが国家
財政全般については、むしろもつと大きな目で処置しなければならないだろう、こういうふうな考え方をいたします。以上きわめて簡單でございますが、私の公述を終ります。