○宮田重文君 今般
労働者災害補償
保険法の一部改正案が
労働委員会に付託されまして、これが審査に資するために神奈川、静岡両県の現地の調査に
行つて参つたのであります。そうして
代表的な工場、或いは港湾設備、鉱山等を視察いたしまして、事業主、或いは
労働組合の
代表のかた、或いは労災法の運営を実際に担当いたしておりまする
労働基準局、或いは
労働監督署の職員のかたにも合わせて頂き、御意見を聴取して参りました。
両県下における
労働災害は、
保険金の給付額、或いは労災件数、災害件数等を見ますと、
一般的に漸次増しておる、こういうような状況にあるのでありますが、それは業務上の死傷、或いは病難報告等が以前より励行されて参りました災害
保険の普及から、業務上の死傷、病難者が以前より増して参
つており、
労働者の稼動指数及び
生産者指数の増加に比例して漸次増して参る、こういうふうなことが窺われるのでありまして、一部の大工場においては安全設備の強化とか、或いは
労務者に対する教育の徹底等によ
つて漸次減少の傾向にはありますが、中小企業の面では、それらの設備或いは教育等についてもいささか足りない面があるので、成績が良好でないような面もあるようであります。なお災害の大部分は行動災害でありまするから、安全
管理特定工場の設定、或いは
労働安全規則に準拠した教育及び安全、衛生思想昂揚のための労使協力を啓蒙宣伝して、且つ施設の改善に極力努力いたしますれば、災害は一層減少するように
考えられるのであります。
或る工場においては、昨年十月末安全
管理特定工場として、
労働基準局より指定をされまして、災害半減運動に努力した結果によ
つて、災害防止に顕著な効果を挙げているようであります。又災害の中には累災が相当数ありますから、将来特に危険
作業に従事する
労働者に対しては、適切な適性検査等も特に励行いたもまして、
労働者の職場を考慮すれば、災害の防止に役立つようになるのじやないかと
考えられるのであります。
次に
保険料金の納入
状態でありますが、これは
健康保険、
失業保険等の状況に比較して
考えますれば、非常に成績はいいようでありますが、一方
保険給付の面は、給付申請後に、神奈川県あたりにおきましては二カ月乃至三カ月後に支払われる。静岡県は非常にそれより早くて一カ月後とな
つておる。こういうことでありますけれ
ども、これがため事業主は、療養補償費については直ちに、休業補償費については毎月
賃金支払日に立替支払いを行うのでありますから、工場によりましては、二月末現在で五百二十五万円もその立替をしておる、こういうようなところもあるのであります。これらの対策といたしまして、
地方基準局の職員を増して、その
事務の簡素化を図ると同時に能率も上げて、一層迅速に給付ができるようにすることが給付金の必要であると同時に、又給付金の概算を、
政府が無担保で貸出しをするというような措置等も、将来講ずるように要望したいというような話も出ておるのでありまして、これらは相当考慮すべき問題であろうというふうに
考えられるのであります。
保険金濫給の弊は多少ありますが、幾らかこの面については多いほうとは認めませんでした。
港湾人夫等、この筋肉
労働者の打撲に基く神経性の傷害については、事実の判定に非常に苦しむ場合がありますので、将来こういう面のことに関しましては、
基準局内に専門の医者を置いて、そうして適正な判断を下すようなことが望ましい。
それから災害
保険の掛金は現在の
労働者の無過失損害賠償責任の
理由から事業主の全額負担でありますが、大部分の事業主は社会政策の一環として
国家において掛金の一部を負担するか、少くとも
事務費
程度は是非負担するようにというような要望をいたしております。特に基幹
産業の方面ではこの要望が労使双方から強く主張されておつたのであります。
又一部事業主からは、災害防止に一層関心を持たせるために或いは給付の制限をするか、又は
労働者負担の必要性もあるのではないか、こういうふうに考慮せられているという声もございました。
保険料率を定める場合に、災害の実績を考慮してメリツト制を採用するということは、労使双方殆んどすべてが負担の公平化の上から
言つても、災害防止に一層関心を深めることになるという面から言いましてもこれに賛成しているようであります。併し伊豆方面の中小鉱山の一部におきましては従来比較的災害が多い。特に珪肺患者の発生を見ている鉱山では、この種職業病の発生は、坑内
労働者が過去において他の鉱山で永年坑内
労働に従事いたしまして、最近その鉱山に入社して、引続き坑内
労働に従事中に厳重な身体検査をした結果発見されたという者であるので、この種の職業病に対する補償は鉱業全体の連帯責任でもあるから、直ちに各企業ごとにメリツト制を採用することは不適当であり、且つ中小鉱山においては
保険料金の負担に耐え得ないので、百人
程度の中小鉱山は従前
通りの
保険料率の
適用を要望するというような向きもあるようであります。
次にメリツト制を採用する場合は、給付金額のみによる実績を標準とせずして、災害頻度等を考慮のうちに入れて、又従来の
業種区分による
保険料率の決定もこの際に再検討して適正化を計ることを要望するという向きもあつたのであります。特に港湾荷役の浜仲仕とそれから陸上貨物取扱業との区分などは、将来研究を要する点もあろうかと思われるのであります。又メリツトの幅の上下を三〇%にするということにつきましては、従来
保険料金の納入額より給付金額の上廻る所、つまりメリツト制を採用すれば、直ちに現在より
保険料金の高くなる方面では二〇%の幅は広過ぎるというような意見があつたのでありますが、他の又大工場等では更にむしろ五〇%
程度まで拡大することが一層メリツト制採用の
趣旨にも副うのではないかというような意見も又極めて多かつた所もあるのでありまして、そういうような意見があつたということを
承知願いたいと思います。又
保険料金徴収の
賃金の基礎は臨時給も含むすべての
賃金でありますが、休業補償の給付金は臨時給を控除した前三カ月の平均
賃金でありますから、臨時給の部分は給付の対象とならないので、この点は公正を失するから徴収の基礎と給付の基礎を同一にすることが望ましいというような意見もあつたのであります。メリツト制を採用すれば、一部事業主は業務上の災害を意識的、無意識的に業務外にせんとする虞れもありますから、
労働者の自覚を待つと共に監督署の十分な活動によ
つて労働者の保護に万全を期することが必要であろうと切に
考えられるわけであります。
大変雑駁な御報告でありますが、以上で大体御報告に代える次第であります。