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国務大臣(
吉田茂君)
お答えをいたします。つまり
日本国との間に成るべく早く円満なる早期
講和を締結いたしたいというのが、今日
米国政府の真に
考えておるところと思います。即ち
日本国の
国民の
希望するところ、要望するところは成るべくこれを取入れて、そうして
講和条約を拵える、その
講和条約が長く、東洋は勿論ですが、
世界の平和の基礎をなすようにしたい。これが本当の
気持であり、その
気持があるがために、特に
ダレスさんが
日本に来られて、そうして
日本の各層の
輿論、
考え等を直接に聞かれた次第だと思います。而して又
ダレス氏の声明にもありましたが、
日本と
連合国との
関係は、戰勝国、戰敗国の
関係においてではなくて、友邦の
関係として
お話がしたい、条約締結がしたいと
言つておられるのでありまして、
講和条約を押付けるというような
気持はない。
連合国一方の
考えで以て
講和条約を作り、そうして
日本にこれを強制するという
考えは毛頭ないということは明瞭であると思います。然らばその
形式はどうするかというと、
講和会議を開いて、なお
日本側に
意見を聞くことになるか、ならないか、これは将来のことに属しますから、私がここでこうなるであろうという予想さえも私としては本当に付けにくいと思います。今後の
情勢によると思います。先年パリの
講和会議の際に伊達君も御承知の
通り、ドイツの全権を呼びつけて、そうして二十四時間内に返事をしろと
言つてクレマンソーが談判を開いたことは御承知の
通りであります。そういうような
形式は
日本に対してとらないであろうと思います。これは
ダレス氏の話の
内容になりますが、
ダレス氏は私に、これが二、三年前において
講和条約ということになるよりも、今日のこの時期において、この機会に、この機会にというのはおかしいのですが、もつと
はつきり申せば、
朝鮮事変後におけるこの時期においての
講和ということは、二、三年前における
講和よりもよほど条件は緩和されて、
日本のために利益に
なつたであろうという打明け話をしておられた、けだしこれは真相であろうと思います。そこで
講和会議の形でありますが、先年のような形ではないだろうと思います。然らばどういうような
形式になるか、これは今日は予想も許されませんが、決して先年のような、
講和をデイクテートするというような形には多分ならないと思います。又ならないことを
希望いたします。そうしてその時期でありますが、私の第一次
吉田内閣が総辞職をしたのは、たしか一九四七年でありますが、総辞職をする当時の空気では、その年の、四七年の秋には
講和会議になるであろうという予測を以て私はやめたのでありますが、その後の
状態、つまり国際
関係の変転から、今日に至
つてなお
講和条約ができないというようなわけで、その如何なる時に、どの時に、今年のいつ
講和条約ができるかということはこれは予測も今日許されません。ただ成るべく早くしたいという
希望はあ
つても、
連合国は十三ヵ国あるのであ
つて、これと一々個別的に談判するということになるでありましようから、一堂に集めて
会議できめるという形にはなりますまいから、相当時間はとれると思います。決して楽観は許されないと思います。国会に重点を置くか。これは当然のことであ
つて、重点を置かないとは申せないのみならず、重点を置くべきであり、又私は今日
日本に最も欠けておることは、
国民の
国際情勢に対する認識が欠けておると思います。例えば
朝鮮動乱において機械力その他に優秀な
アメリカが、
朝鮮において敗れて追い佛われるということは私は毛頭信じないのでありますが、
日本国民はそういうことがあり得るかも知れないと
言つて、
東京の土地……、都以外のところに土地を求めて家を移そうというような慌てた人もあつたようでありますが、かくのごとき
国際情勢に対する認識が不完全であるということは悲しむべき点であり、今後
日本は外交、国際
関係、国際知識についての十分な認識を持
つて臨むのでなければ、
日本の外交或いは
日本の安全は
保障されないと思います。即ち国会を通じて国際知識については
十分国民の承知の下に置きたいと私は念願いたしまするから、無論私は国会に重点を置くことは当然でありますが、更に国会におかれても、国
会議員各位におかれましても、
国際情勢については十分御研究にな
つて、そうして
国民に周知せしむるように御協力を願いたいと思います。