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1951-05-29 第10回国会 参議院 法務委員会 第21号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十六年五月二十九日(火曜日)    午前十一時十一分開会   —————————————   本日の会議に付した事件 ○住民登録法案衆議院提出) ○司法書士法の一部を改正する法律案  (衆議院提出) ○民事調停法案衆議院提出)   —————————————
  2. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 只今から委員会を開きます。  本日は先ず住民登録法案議題に供します。昨日に引続き御質疑を願います。
  3. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 昨日御質問を受けました第六条及び第七条に属する転住の場合の手続でありますが、御指摘通り、この条文によりますと、転居しました際は新たなる住所地において届出をして、それが旧住所地に届きますまでは、住民票では旧住所地住所のあることとなつておりまして、実際と住所地とに食い違いの出ることは御指摘通りであります。併しこれをあべこべにしまして、旧住所地でこれを抹消して新住所地行つて届出をする。新住所地において登録するということになりますと、その間に空白ができます。そこで問題は、そのほうが期間が少くて前のほうが長くなるからという御議論もありまして、実際上どちらがいいかということは相当研究問題でありますが、いろいろ研究いたしました結果、如何に短くても住所のない時期を幾らでも作つておくということは法律上面白くないというので、やはりこの条文通りやるよりほかなかろうと考えるものであります。そこでいろいろの問題はありますが、昨日御指摘になりました配給面等につきましては、これは確かに工合が惡いことになりまするが、配給に関する基礎は、やはりこの住民登録によつてやりたいとは思いまするけれども、すべてが全部一致するというわけには行かんかと存じます。その意味は配給の点は住民登録を基にするとは言えますが、何と言いましても居所中心の実際問題でありますから、いるところで食べる物を取るということが本則となつておりますので、その点に幾らかの食い違いが出ることは止むを得ませんと存じます。その代りその点は、この住民登録で十分行かない場合は、配給の面において適宜やり得る方法もあろうと思いますから、その間に讓り合つて調節させてもらう。それ以外にないかと考えるのであります。
  4. 中山福藏

    中山福藏君 ちよつと関連してお聞きしておきたいのですが、今住所登録の問題が議題となつているのでありますが、私只今の御答弁に関連して更に詳しい御説明を承わつておきたいと思うのです。これは犯罪予防の面から一応この条文について考えて見たのですが、例えばたびたび法廷に立つて弁護いたしております実情から推察して、公文書の僞造、或いは印鑑の僞造というものをやりまして、同じ人間が同一の時間に所を異にして登録している、まあ配給関係から登録している事実がある。そういうことが将来惡意に、或いは作為的にすべての惡事をやろうという場合においては、必ずしもそういうことはないとは言えないと私は思うのであります。そういう面に関してはこの登録をなす場合においては、一応犯罪防止の面についても御考究があつたものと私は考えるのですが、そういう点についてはどういうふうなお考えを持つて、第六条の立案をされたものですか、それを承わつておきたいと思います。これは附加えておきますが、証拠湮滅のために、同じ時刻に日を違えて登録いたしました場合には、その顔を新らしい住所地の公務員なんか知つておりませんから、結局そういう危險が伴つて来ると思いますから、特に私はそれを尋ねるのであります。
  5. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 御指摘ような場合にすべて完璧を期せられるかどうか、これは相当問題だと思いますが、大体この法の建前は戸籍を基にしまして、そうしてその際変つて行けばすぐ本籍地に知らせまして、戸籍とそれとが一致するかどうかということで調べるのが基礎になつております。若しもその点と相違の点があれば、そこに疑問が生じますから新たに調査する、こういう方法をとる考えであります。
  6. 中山福藏

    中山福藏君 その本籍地にお問合せになる、或いは通知をするというのは期限切つて指図をされるという考えですか。或いはその点について何も規定がなければ、従来の日本の官吏の慣習と申しますか、一つ問合せをするにも三、四カ月も放つているようなことがままあるのですが、そういう思召しであれば一定期限切つて指図をするという何らかの規定がなければ、私はそういうことは一つの理想であつて現実の問題には効果がないと思うのですが、如何ですか。
  7. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 十六条におきまして、この点は市町村みずからやることになつております。而してその期間は遅滯なくやれということにして別に日を切つておりませんので、これは本人その他じやなくて、市町村役場でやることでありますから間違いなくやつてくれるものと、かよう考えております。
  8. 中山福藏

    中山福藏君 実はこの前、私或る一部のことを申上げて済みませんが、大阪府に参りまして、そうして外人が私のところに参りまして、アメリカ人でしたが、アメリカで一週間で済むことが日本では六カ月かかるということを事務手続のことについて申しておりました。やはりそういうことに、遅滯なくということは、これは法律上の用語でありますから、遅滯なくはいわゆる遅滯なくでありましようが、この遅滯なくということが、私なかなかうまく運営できておらんように思うのですが、やはりこれは期限を切られる必要があるのじやないでしようか。これは日本人の惡い習癖でありますから、何らかその点に一つ考慮を拂うことができれば結構だと思うのですがね。
  9. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) いわゆるこれは市町村固有事務としておりまするので、固有事務としてやらなければならんことになつておりますから、そこでやはり日を切つてそれをやらなければどうするということを考えて見てもどうも市町村長をどうする、こうするとと言うてもしようがないから、いわゆる公共団体として遅滯なくやれと、こういうことであればそれでやつてくれるものと考えるほかないのじやございませんでしようか。
  10. 中山福藏

    中山福藏君 それはそう言われればいたし方もないのですが、或る半面においていわゆる住民登録というものは、犯罪の、極めて完全知能犯というよう人間のやることに対して、一つの材料を提供するような私は基いになるのじやないかということを恐れておるのですがね、これはこれからだんだん犯罪方法が巧妙になると思うんです。この住民登録が同時にできた場合において、同じよう文書僞造方法を用いて、本籍地に同時に同じような通達が参る、或いは前後して参るというような場合においては、この問題は一つ犯罪証拠の上に非常に私は重大な影響を及ぼして来る時が必ずあると思うのです。そういう面も一応御考慮を拂つて頂いて、何らかこれに対する予防の手段というものを一応別個の法律か何かこしらえて、これを予防するとか何とかいうことにならなければ、私は必ず後日になつて問題が起きて来ると思うのでありますが、事務の簡捷、いわゆる行政事務の簡捷とか、いろんなことが書いてありますから、それは一利一害でありましようが、或いはそういう面にとても私はむずかしい問題が生れて来るのじやないかと思うものですから、一つ御注意をお願いいたします。
  11. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) いろいろ考えて見ますると、お説のような不安の出ることはまあ事実かと思います。そこでにせの者にやらせるということになりますると、昨日も問題になつたのですが、指紋を取つたほうが一番間違いないかと思います。そこで半面からこれをやるのに、条例指紋を取るということを考えておるのじやないかということを昨日須藤さんからも質問がありましたが、勿論そういうことも立案をするときに考えたそうでありますが、どうも犯罪搜査のためにこれを使うということになると、如何にもどうもこの目的以外に亘るようですから、現在のところではそういうことを予想しておらんと、こう考えておるのですが、まあいよいよとなればそこまで考えなければならんじやないかと思います。
  12. 中山福藏

    中山福藏君 それでは私の質問は一応この程度にしておきます。
  13. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) 昨日監獄に收容されておる者の住所及び選挙権との関係、これについての御質問伊藤委員からございまして、まだその点のお答えができておりませんでしたから、簡單にお答えいたします。監獄に收容されておる者は、これは強制力によつて收容されておるのでありまするから、従いまして、これらの者が監獄住所があるということは考えられないのであります。ただ選挙権との関係でございますが、この監獄に收容されておる者の中で、禁錮以上の刑に処せられておるような者、これは公職選挙法の十一条によりまして、勿論選挙権も被選挙権もないのでありますから、これは選挙の問題には、従いまして関係がない。そういたしますると、それ以外の者で、監獄に收容されておる者が問題となつて来るのであります。例えば、いわゆる未決勾留中の者或いは罰金の関係処分で留置されておる者、こういう者はこれは住所は勿論従来の所に住所がある。それから勿論禁錮以上の刑に処せられておる者でありましても、これは従来の所に住所があるということになります。それで今申上げました後の禁錮以上の刑に処せられておる者以外の者で、監獄に收容されておる者は、先ほど申上げましたような例のものは、これは選挙権不在投票という方法で行使できるのであります。従いましてこれらの監獄に收容されておる者すべてにつきまして、総じて申しますと、これらの者について監獄住所があるものとしてこれをつかむ、把握するということをする必要はないかと考える次第であります。
  14. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると今の御答弁だと、監獄におる者はすべて強制力によるんだから住所はないと、こういうお説ですか、よろしいですか。
  15. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) さようでございます。
  16. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、上野地下道か何かにおつて住所のない人間が、いわゆる浮浪者が、たまたま重大犯罪を犯して無期懲役に処せられておる。これが監獄におる場合は、これは住所がないことになるのですか。
  17. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) 国民で、勿論一般の場合にはこれは皆誰も住所を持つておると思いますが、いわゆる住所を持つていない人間もこれはあるだろうと思います。今の御設例ような場合におきましては、浮浪者でございまして、住所がなく、転々渡り歩いている渡り鳥のような者でございまするからして、これは仮に監獄に收容されたといたしましても、これは住所はないと、こういうよう考えておる次第であります。
  18. 伊藤修

    伊藤修君 そんな馬鹿なことはないですよ。およそ日本国民として日本に中に住まつてつて生活を営んでおつて、いわゆる生活本拠がそこにあるのだから、それが住所でないということがあり得ますか。
  19. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) 浮浪者の場合、これは衆議院でも随分実は問題になつたのでございますが、そういう者で、仮に上野の公園だとか或いは地下道ような所でも、そこに一つ簡單構えでも何でもそこに構えまして、そこで生活本拠を持つておるような場合には、これは結局如何にその構え宏壯邸宅でなくても、やはりこういう者は住所があるという場合が具体的にあるんじやないか、こういうことは実は衆議院でも問題になりまして、私も実はそういうふうに考えておるのでございます。併しながらそういうもののない、本当浮浪人がたまたま或る監獄に入つてつたら、監獄住居であると言うことは、これは私どもはいささかできないんじやないかと、むずかしい問題じやないかと考えております。
  20. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、お説のようだというと、国民であつて住所のない国民があるということになるんですね。
  21. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) さよう考えております。住所不定の者があると、かよう考えております。
  22. 伊藤修

    伊藤修君 住所不定ということは、彷徨しておる場合を指しておつて、すでに監獄に、一定場所に收容されて、そこが死ぬまでの生活本拠であるということになりましても、それは住所とみなさないのですか。
  23. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) これは住所というものの考え方でございますが、結局本法考えておる住所と申しまするものは、民法住所及ぶ地方自治法十条でございましたか、そこにいう地方自治体の住民住所、こういうことを受継いで考えておるのでございますから、従いましてそれらのものに当らない、いわゆる転々浮浪しておる者が、国民の中にそう多数ではございませんでしようがある場合に、これはやはり住所がない者だ。終身懲役或いは無期禁錮というような者が監獄に入つておる場合、これは一生監獄におるのだから、これは住所監獄にあるのだというようなことも考えられるかも知れませんが、併しながらこれは本人の意思は全然ございませんし、住所というものにはやはり主観的なものと客観的な要件がなければなりませんので、それでこれらの者が従来転々浮浪しておつて、たまたま犯罪を犯して無期懲役なつた、監獄で一生終るから監獄住所があるのだということにはならないのじやないかと考えておる次第であります。
  24. 伊藤修

    伊藤修君 それは結局住所がないから届出義務がない、そういうことになるわけですか。
  25. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) さようでございます。
  26. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、これはこの間の新聞に出ておつた滝野川の橋の下に住まつておる者、お茶ノ水の橋の下に住まつておる者、或いは上野地下道生活本拠を営んでおる者は、こういう者はどうですか。
  27. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) これは先ほど申しましたように、私ども衆議院で論議がございましたが、今の御設例ような場合、或いは随分昔にあつたことでありますが、どつかの、山ノ手線中央線の……、山ノ手線でございましたか、大久保の辺に、例の終戰後大きな土管でございますね、あの土管の中に鍋釜を持込んで住んでおつたの新聞に出ておつたのでございますが、これらはそこで相当長い期間生活して、生活本拠があるというふうに認められる場合でございまして、又今御設例ような場合にも、そこで生活本拠が営まれておるということになれば、仮に立派な邸宅でなくても、雨露を凌ぐに足りる程度の所で生活をしておれば、これはやはり住居と認めていいのじやないか、こういうような結論に達しておつた次第であります。
  28. 伊藤修

    伊藤修君 今までのお話をだんだん伺つておりますと、結局本法の第一条は「常時人口の状況を明らかにし、」という目的は壞滅しておるんですね。ちつとも明らかにしてない。不明確です。却つて不明確にする虞れがあるのです。あなたの御答弁をずつと伺つておると、少しも目的に沿つていないのですね。それでは本法に第一条を麗々しく掲げる必要はない。抹消したらいいと思いますが、どうですか。
  29. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) 今お話申上げましたように、そういう例えばお茶ノ水の橋の下、或いは上野地下道など、或いはこの頃はないかも知れませんが、先ほど申上げました土管の中で生活を営んでおる。これらの者も住所は認めるのであります。従いましてこれは住民登録票登録される。ただ監獄ような場合にはこれは住所はありませんが、従来の、本来の住所地においてこれを把握するということでつかめますし、又全然住所のなかつたようなものが、これが監獄等に強制收容されておるような場合には、これは住民登録としてつかむことはできませんが、そのほかの方法でこれを收容人員を知る方法はたやすくあるんでございますから、これは住民登録を、この法律考えておる目的は十分達せられるんじやないかと考えておる次第でございます。
  30. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これは今の衆議院でも随分議論したんですが、これは甚だ極端な例をお引きになるので、そういうことを考えられるのですが、併し住民登録をせんでもいいんじやないのです。せなければいかないのです。けれども本当浮浪者で転々して歩くからつかまえようがないというのであつて、決してその者がやらんでもいいというのではございません。一日も早く住所を定めて、そして登録せよということがこの法の根本精神である。だからそういう者を一人でもつかまえようとする。ただ事実上つかまえられん場合があり得るだろうと思う。それから訴訟の場合、監獄の場合も、転々して歩いておつても、転々する前におつたところを一応の住所としてつかまえてやるので、実際は違つてもそういうことでやつておるようですから、そういうことで一人でも多くこれに入れて、一人でも多く実際の人口と合せたい、住所と一致させたいということが法の精神であることは間違いありません。
  31. 伊藤修

    伊藤修君 私の申上げることは今の点だけじやないのです。昨日からお伺いしておる、要する寄宿舎の場合であるとか、或いは寮の場合であるとか、下宿の場合だとか、いろいろな場合が想像される。それはことごとく把握できない。ということは結局はいわゆる世帶及び世帶主という意義が明らかになつていないのです。小木專門員の御答弁によりますと、客観的にそれは定めるものであるというふうに聞える。社会一般通念従つてという言葉を使われますが、およそ法律にこうやつて掲げる以上は法律用語になつたのですから、その用語を明らかにする必要があると思うのです。そういう一般通念によつてこれを定めるというような言い方をせずして、世帶とは何ぞ、世帶主とは何かということを先ず定義を明らかにする必要がある。そうすることによつて問題を解決することができると思う。
  32. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) これはいささか議論になるようでございますのでありまするが、世帶というのはやはり家計共同というようなことが中心考え方になつて参りまして、それからそれは寄留法のときにもこの世帶ということは考えていたのでございまするから、寄留法の発展であるところのこの住民登録法におきましてもその考え方は受継がれておると、かように実は私共は考えておる次第であります。
  33. 伊藤修

    伊藤修君 それは答弁になつておりません。寄留法にあるから世帶使つたのだ、その世帶とは何ぞと聞いておるのです。だから要するにですね、あいまい模糊とした事実を表現する世帶という文字を基本にして法律が作られておる。そこに私はこの法律の弛みが出て来る。そういう不可欠のものをつかまえずして、むしろ本人届出さして本人にその責任を負わせるとかいうふうの組立を持つてつたほうが第一条の目的を達成することになるわけじやないでしようか、その点どういう解釈です
  34. 平賀健太

    説明員平賀健太君) 只今世帶の意義如何という御質問でございますが、法務府の事務当局の見解を申述べます。世帶につきましては今の寄留法であるとか、或いは生活保護法なんかでは、いきなり世帶という言葉を使いまして、何ら定義を試みていないのであります。又他方世帶定義を試みた立法令もあるのであります。例えば昭和二十五年の国勢調査令などでは、世帶定義を試みておるのでございます。それから更に市町村条例なんかにおきましては、東京都の条例世帶定義を試みておるのでございます。こういう世帶定義を試みておりまするところの、そういう法律命令、或いは条例なんかを見ますと、結局要するに居住と家計を共通にする生活共同体というよう表現が用いてあるのであります。併しそういう表現を仮に用いましても箇々具体的の場合にそれを適用しますと、やはり疑問が起つて来るのであります。例えば下女、下男というよう家事使用人は、一体雇主の世帶一員になるのかどうか、或いは同居人を置いてある、その同居人は、その同居先世帶一員になるのかどうか、学生下宿させて、その下宿人一体下宿先世帶一員になるのかどうか、やはり個々的に解決して行かなければなりませんので、この法律では、むしろそういう抽象的な基準を掲げるよりも、常識的に一般通念に任せるほうがいいのじやないかということであろうと思うのであります。それからなお国勢調査なんかの場合に、特に世帶というものを細かく定義いたしておりますのは、先ほども問題になりましたように、住所不定、転々として移り住んでおる、こういうような者も国勢調査の際にはやはり把握しなくちやならんのであります。それから昨年の国勢調査におきましては、常住地において調査の対象とするということになつておるのであります。常住地と申しますと、丁度民法住所とほぼ一致すると思うのですが、そういうふうに転転としてあちこちを彷徨しておる者、こういう者には本来常住地はないわけでありますが、それをつかまなくちやならない。そういたしますと、やはり特別に規定を設けまして、ここが常住地だという規定を置く必要があるのであります。それでありますから、去年の例でありますと、そういう常住場所がない者については、昭和二十五年十月一日の午前零時現在において、現在いる場所を以て常住地とみなすという規定を置いておるのであります。国勢調査令なんかでそういう常住地定義、或いは世帶定義を特に掲げておりますのは、そういう固定した世帶一定場所常住してない、そういう者を把握するために、特にそういう擬制的な規定を置くのでありまして、そういう必要から又常住地定義をし、或いは世帶定義をするということになつておると思うのであります。でありますから個々具体的な場合には、やはりたとえ法律で以て定義規定を掲げましても、やはり問題は解決できないと思うのでございます。それからなお具体的の問題、仮に申上げますというと、例えば学生寄宿舎におるというような場合に一体どうなるか。現行の寄留法におきましては、そういう場合に関しましては、特に規定を設けておるのであります。寄宿舎であるとか、そういう寮であるとか、そういう多数同居目的とする場屋住所又は居所を持つておる者は、その場屋に住んでおる者全体が、一つ世帶とみなすという擬制をいたしておるのであります。いわば準世帶というようなものを考えておるのであります。そういう特別の一般通念に従わない世帶を設けます際には、寄留法規定を設けておるのでありますが、一般の我々の日常の世帶、こういうものについては何ら規定を設けていないのであります。この住民登録法案では、そういう特別の準世帶というよう観念を認めておりませんので、例えば学生寄宿舎におけるというような場合には、これはいろいろの具体的な場合によつて違いましようけれども一般の場合にはその学生住所は、郷里親元のところにある。その世帶郷里親元世帶に属しておる。こう見るべきじやないかと思うのであります。従つて住民票登録される際には、その親元世帶のあるところの市町村でそこの住民として登録される。こういうことになると思うのであります。それからなお世帶という非常に或る点では不明確であるとも言えるかも知れんのでありますが、こういう世帶という観念をやめて、住民票個人單位にしたらどうかということも一応考えたのございます。そうなりますと個人單位になりますというと、例えば普通の世帶でありますと、夫婦親子というものから構成されておるのが大部分の世帶なんでございます。そういうものもその世帶員がめいめいに自分で届出もしなくちやならんということになりますと、これは非常に不便極まるので、そういう場合にはその世帶の主人であるところの世帶主、これが一括して事を処理したらいいじやないか。それから又個人ばらばら生活しておるわけじやなくて、そういうふうに夫婦親子という工合共同生活を営んでおる現実というものがある以上、これを行政事務便宜という点から行きましても、やはりその現実世帶という形態を元にして把握したほうが、行政事務便宜に役立つじやないかということを以ちまして、第三条は世帶單位として住民票を作製する。それから届出義務につきましても、個人ばらばらでなくて、その共同生活を営んでおるところの單位につきましては、世帶主届出義務者であると十九条でいたしたのじやないかと思われるのであります。
  35. 伊藤修

    伊藤修君 それは後に讓りまして、第四条中に必要記載事項として書かれておるところのものの中に職業を何故表わさなかつたのか、これは市町村条例に讓つたという趣旨ですか、この点をお伺いしたい。それから第十一条の附票ですね、附票というものは一体どんなものであるか。又どうして整理するのか、この点も伺つておきたい。それからこの届出方法について従来の寄留法や何かによりますれば、本法では口頭とも書面とも書いてない、いずれ施行令か条例に讓るつもりでおるでしようが、こういうようなことは、従来ですら口頭という簡易な手続を認めておるが、本法中にやはりそういう規定を明らかにする必要があるんじやないでしようか。若し条例や施行令によつて書面によるというふうに書かれますと、最近の行政書士法の法律を見ますと、一枚五十円乃至八十円取る。それが十行以内、十行で八十円取られたら貧乏人はやつて行けない。そういう点の親切心があつていいじやないでしようか、先ずその三点を伺つて置きたい。
  36. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 職業を記載したほうがどうかという御意思で、衆議院でもよほど議論したのでありまするが、過去の実例を聞いて見ますると、職業と言いますると、非常に分類が面倒で、国勢調査の際でも、どの職業にはまるかというようなことが非常に面倒で、容易に把握できないそうであります。従いまして第一条の精神から、どうあつてもやらなければならんというならばこれは別でありまするが、なくてもよいというなら、そういう面倒なものをやめよう、又特に何かの目的でそれを使うことの必要があるとするならば、これは条例でやればやれるじやないか、こういうことでこれを載せなかつたのだという説明で、我我も納得したわけであります。それから第二は何でしたか。
  37. 伊藤修

    伊藤修君 附票というのはどういうものか。
  38. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 届出ですか。
  39. 伊藤修

    伊藤修君 附票、十一条の附票はどういうものか。附票というものの。
  40. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 必要な事由ですか。
  41. 伊藤修

    伊藤修君 戸籍に対する附票というものは一体どういう形式でやられるのか。
  42. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 様式ですか。
  43. 伊藤修

    伊藤修君 様式です。附票というものはどういうものか。
  44. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 資料に付いておるカードですね。
  45. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) 資料に実は附票も付けておくようにしましたのですが……。
  46. 伊藤修

    伊藤修君 見ていません。
  47. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) この参考資料につけてあります。こういうふうなもので、これが住民票でございます。
  48. 伊藤修

    伊藤修君 これも附票のほうもカードですか。
  49. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これは戸籍簿に綴じ込む考えだそうでございます。
  50. 伊藤修

    伊藤修君 附票は戸籍簿に綴じ付けるのですか。
  51. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 戸籍簿のあとへ……。
  52. 伊藤修

    伊藤修君 どうするのですか。
  53. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 戸籍がこうありますと、そのあとへ綴り込むのであります。
  54. 伊藤修

    伊藤修君 綴りますというと、現在の戸籍簿というものは拔きさしのできないように綴り込んでおるのですが、そうできるのですか。
  55. 平賀健太

    説明員平賀健太君) 戸籍のことに関しますので私から御説明申上げます。
  56. 伊藤修

    伊藤修君 いや、あなたから説明されても長くなりますから簡單に……。
  57. 平賀健太

    説明員平賀健太君) はめ外しが始終自由なのであります。新戸籍になりますとそこへ綴り込む、除籍しますと外します。こういうふうに始終はめ外しができます。
  58. 伊藤修

    伊藤修君 帳簿になつておるのですか。
  59. 平賀健太

    説明員平賀健太君) 始終綴じまして、はめたり外したりしております。
  60. 伊藤修

    伊藤修君 それで危險なことはないですか。
  61. 平賀健太

    説明員平賀健太君) 考え方によつては危險ともいえますけれども、そういう紛失というようなことはありませんです。
  62. 伊藤修

    伊藤修君 そんなことをやつておるのですか。私は綴じ込みだと思つた
  63. 平賀健太

    説明員平賀健太君) 例えば一冊の帳簿に五十戸籍綴じ込む、或いは百戸籍というようになつておるのですが、全員除籍されますと、戸籍簿からそれは外します。新戸籍を作成しますとはめます。始終おさめたり外したりしております。
  64. 伊藤修

    伊藤修君 第三点について……。
  65. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 第三点は我々は研究したのですが、書面でやつても口頭でやつても差支えないのだということであります。口頭でやればそれを聞いて市町村吏員が代つて書いて出せば、書面で出したと同じことになる、そういう考え方だ、こういうことであります。
  66. 伊藤修

    伊藤修君 その考え方は法文で表示しなくてもいいのですか。どこで賄うつもりですか。提案者の考え方はそうだけれども、あなたの考え方は……。
  67. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今言う、口頭でやつた場合にこれを拒絶しない、その代り書いてやれば、書面で出したと同じになるからいい、こういうことなんです。書面が原則になるわけです。
  68. 伊藤修

    伊藤修君 だから私はお尋ねしているのです。これは旧法ですら、いわゆる封建的な憲法下における旧法ですら口頭を認めておつたのですから、令日の時代において口頭によるということを認めないということは私おかしいと思うのです。逆行すると思うのです。口頭を原則にして書面は例外でもいいじやないですか。又そうであるとするならば、本法中にそれは明らかにすべきじやないか。
  69. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今までの実際を承わりましても、例えば出生届にしましても書面で出すべきものでしようが、名前を書いて行つて何月幾日に生れましたとこういう場合には、皆そうやつて届けておるので、この場合に書面で出すべきものだと言つて、これを拒否した実例はありませんから、同様に取扱うものとして差支えないという見解でございます。
  70. 伊藤修

    伊藤修君 それはあなたみたいな人が受付におつて頂けばいいのですが、(笑声)そういう人ばかりいないのです日本の官吏は殊にやかましいのですから……。あなたは最近の戸籍届をなさつたことがあるかどうか知りませんが、最近の戸籍届は実にうるさい、関係方面の示唆に基いて記載事項というのが実に細かくなつております。大抵の人はあれは書けませんよ。いわんや今度そういう書面によるなんということになつたらこれはいわゆる行政書士の銭儲けを我々は獎励するようなことになる。(笑声)一般国民は一日汗水たらして二百円とつて、一ぺん住民登録すると、一ぺんでふいになつてしまう、それを一つ考えて頂きたい。鍛冶さんともあろう人が……。(「その通り」と呼ぶ者あり、笑声)
  71. 小木貞一

    衆議院專門員小木貞一君) なおほんの少しばかり補足いたしますが、大体市町村では届出の様式の紙を刷つておきまして、それへ書込んでもらうように用意して、現在もやつておるのでありますから、今度これをやる場合にはそういうことは当然これは行われるものだと考えます。若しその際に届出の用紙に書けん人があつたら、これは市町村の吏員が代つて書いてやる、そういうことです。それから本来問題になるのは書面主義によるか、口頭主義によるかという基本的な問題があるかと思いますが、口頭だけということではこれはあとに証拠が残らない、正確性を期せねばならんということで、やはりこれは書面によつて行くという建前をとつて、而もその書面が窓口で市町村がそういう届出の用紙を用意してサービスを大いにやれば、そのほうがむしろ正確を期し、そういうことができればそのほうが理想的ではないか、こういう考え方から実は届出書によるということを考えておるのであります。
  72. 伊藤修

    伊藤修君 私はそういう考え方は逆行だと思うのです。先ほど中山さんですか、どなたかの御質問にもあつたようアメリカあたりの事務処理というものは一週間でできる、それが日本では六カ月もかかるというのがいい示唆です。大体口頭で以てすぐ処理されておるのです。裁判所に行きましてもどこに行つても口頭で処理されておるのです。それですから我々の生活面からそれに費やす時間というものは相当節約できるのです。日本法律でも旧来そうしておつたのに、今度正確を期するために書面を要求するということは、それはより以上煩雑にするものです。どうせこの住民登録、この立法では寄留法に代るべき程度のものです。正確さというものは私はこれは第一条では相当謳つておりますけれども、結局は正確さが得られないのです。だからそういうようなものに対しまして、なお且つ形式主義、書面主義をとるということは私はよくないと思うのです。むしろ口頭主義を原則として、そうして書面をも取り得るというふうにいたしたほうがいいと思うのです。
  73. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) お説の通りで、私らもそういうことを聞いたのですが、今移りましたからといえばそうかといつて役場の者が書いてやればいいのだから、口頭でも同じことだと、こういうから、それならよかろうと、戸籍でもそうだと、私らもそれでいいと思いますが、若しそういう御懸念がありますなら、施行令を作ります際にとくと一つ注意して頂きます。
  74. 伊藤修

    伊藤修君 私は鍛冶さんの考え方と私の考え方とは同じことだと思いますが、ただ扱い方を考えてもらうという場合に、施行令の中に入れるのか、本法へ入れるのか、はつきり一つお約束願いたいと思います。
  75. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それではその点できるだけ明確にさせるようにいたします。
  76. 伊藤修

    伊藤修君 できるだけ明確ですが、口頭をもできるということにして頂けますかどうか。
  77. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) やれそうですから、それではそういうことにいたします。
  78. 伊藤修

    伊藤修君 施行令のほうに入れて頂けますか。
  79. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 施行令のほうに入れるようにいたします。
  80. 伊藤修

    伊藤修君 それではこの次にお出し願いますから、お約束をしておきます。  それからもう一点、この三十二条には「正当な理由がなくて、」この頭に載せてあるのですが、三十三条のほうになぜ「正当な理由がなくて」と、こう入れなかつたのですか。
  81. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 三十二条はいわゆる行政罰でありまして、正当な理由がなくてやつた場合には過ちを犯したとこう書いたのでありまして、三十三条は一般の刑罰でございますから、これは刑罰法規に基きまして、正当の理由があれば当然阻却事由になつて参りますから、なくてもよろしいのだと、こういう考えでございます。
  82. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、三十三条を解釈する場合におきましては、正当の理由ということがやはり頭にあるものとして考えてよろしいですね。
  83. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) はあ。
  84. 中山福藏

    中山福藏君 簡單に私承わつておきたいのですが、これはこの法律を施行することによつて必要な人員が総合してどのくらい全国的にお見込みになつておられますか。又それの裏付をする予算というものはお考えになつているのですか。若しお考えになつておれば、一応その点をお伺いしたいと思います。
  85. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それはこの間合同審査のときに申上げたのですが……。
  86. 中山福藏

    中山福藏君 それでは記録を見ますからよろしうございます。  それから私は、本当戸籍法を強化して改正すれば、こんな法律は要らんのではないかと実は考えておるのです。全く繁文褥礼的な、国民を惑わす法律案ではないかと考えておるのですが、これは併し議論になりますから、その点は申上げません。
  87. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) それでは午前はこの程度で休憩しまして、午後一時半より質疑を続行いたします。    午後零時六分休憩    —————・—————    午後一時四十八分開会
  88. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 只今より委員会を開会いたします。  午前に引続き住民登録法案に対する質疑を続行いたします。
  89. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 私は前にお尋ね申しました補足をもう少しお尋ねしたいと思います。  この三十一条の「関係人に対し質問をし、」という条項ですが、関係人という解釈は、この前お伺いしたのですが、この関係人に質問する場合に、宣誓をさすというようなことはなさるのですか。どういう要領で……。
  90. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) さようなことはございません。
  91. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 そういうことはない……。
  92. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) ええ、できません。
  93. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 宣誓をせずに関係人が虚僞の陳述をした場合に、この法令で処罰……、罰則にするのですか、どうですか。
  94. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) その何は、刑法の僞証罪のときにだけそれはやられるものでありまして、勿論こんなものにはそんなことは全然やりません。
  95. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 それでは関係人がその質問に対して嘘の返答をした、そういうことでは処罰はされないわけですか。
  96. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 宣誓した証人が嘘を言うた場合に罰するというのは、それは僞証罪だけで、刑法に定めてありますが、それはずつと重いものなんです。これはずつと軽いものですから宣誓は勿論させませんが、宣誓がなくても虚僞であるということの実証がつけばこの規定によつて処罰を受けます。
  97. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 そうですか。もう一つ私は素人らしい質問になると思うのですが、憲法で默祕権、いわゆる陳述をしない場合ですね。私にはそういうことは答えられませんと言つた場合に、積極的な拒否として処罰されるようなことがあるでしようか。
  98. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) この規定においてでしようか。
  99. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 いや憲法の中に、憲法に認められておるいわゆる默祕権と言われる、默つておればそれは默祕権ですが、それを積極的に拒否するような場合には、これは、おれにはそういうことは答えられないというようなふうに答えたときには処罰されるのでしようか。
  100. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 憲法三十八条だと思いますが、これは刑事事件についての問題と我々は考えております。このほうはこれは行政的のことだから、これとはちよつと……。ただ精神は取らなければなりませんが、このままは適用ないのじやないかと思いますが……。
  101. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 刑事事件で、自分はそういうことは答えられないといつた場合に現行犯として逮捕されることがないにもかかわらず、行政法上で、僕にはそういうことが答えられないと言つて拒否すれば、これは積極的な拒否として現行犯として逮捕されるということになると思うのです。随分矛盾があるのじやないかと思いますが……。
  102. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 現行犯として逮捕されるとおつしやいますが、行政法上のそれでさようなことは我々はあるとは想像できないのです。ただやれるかと言えば、そう言われれば条文上やれんとは言えませんが、そんなことはあり得ないことです。我々は未だ默つて、行政法上には大抵こういうことが出ておりますが、さようなことは聞いたこともございませんし、ただこういうものを無理に邪魔をしたら、默つておらんぞというだけの話でありまして、行政法上そんなえらいことは事実上あり得ないことです。
  103. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 事実上あり得ないくらいなことなら、この法文から省いたほうがいいと思います。事実上あることが仮想されるからこういう法律を作つたのじやないかと思いますが、どうですか。
  104. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) いわゆるこれは何というか、間接強制とでも申しますか、これは必ずやらなければならんのだぞ、やらなかつたらやはり何かの制裁がなくちやいかん、こういうところからこういうものができておりまして、よその家に刃物があるからお前斬るつもりかと言われても、それは決して斬るつもりで刃物を持つておるわけじやない。それは刃物を持つてつても斬るつもりじやない。やはり刃物というものは要るときがあるから持つておるだけで、ただそれは斬れば斬れますよ。けれども斬るというものではないと思います。
  105. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 今の刃物の例は、これに当てはまらんと思うのです。この法律はいわゆる処罰する目的を以てこの法令を作られておるのです。こういう場合には処罰するぞ。刃物を持つていても殺すという意味で我々の家庭にあるのじやないと思うのです。併しこれはやればやれるのだぞということをちやんと裏に含んで作つておるのですから、やる人が出て来ればやると思うのです。あなたがその衝に立てばやらないでしようが、併しあなた以外の人がやればやることが出て来るかも知れん。そういう危險な条項ですから私は当然省くべきじやないかと、そういうふうに考えます。なおもう一カ所御質問申しますが、三十三条に「又は文書の呈示を拒み、妨げ、忌避し、」という条項がありますが、役所の人が来る、そして文書の提供を求めた場合、そういう文書はありませんと言つた場合、又見せられませんと言つた場合、その文書があるかないかということはどこで認定なさるのか。そのために家宅捜索をする権限があるのかどうか。その点を伺つておきたいのであります。
  106. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それは家宅捜索というものはするときには、もう刑事訴訟法上一定の条件が備わらなければできないということは当然なんですから、それは到底できません。それから文書があるかないかということは、これは若しそれがあると思わなかつたら拒みにはなりませんのです。あるという何かがなかつたら、そこに間違いで、ないにもかかわらずあると思つて仮に告発したとしますれば、それは裁判上無罪になることは当然であります。それは当然そうなるであろうと思います。
  107. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 そうすると、まあ村や町の役場の人がやつて来る。そうしてあなたの家にはこういうものがあるかどうか見せろと言つて来たが、そういうものはありませんと言う。そうするとそれが「呈示を拒み」という条項に触れる虞れはないのですか、どうですか。
  108. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今申上げましたように、あるということが前提でなかつたら拒みにはなりません。あるかないかわからんのに、それを拒みにするというわけはございません。
  109. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 それはあるかないかという認定は誰がするのですか。
  110. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それはやはり確かにあるという証拠を持つてでなかつたら、そういうことは言えぬと思います。必ずあるものをないとも言えませんし……。
  111. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 その証拠を持つておるということが私には……。その本人は証拠があると思つて来ても、実際それは間違つておる場合があると思うのです。そういう場合調べに来た人が証拠があるから見せろと言つた場合、拒んだときに書類の呈示を拒んだという罰則に当てようとしておる。その証拠があるかどうかということは、その家を調べて見なければわからん。そういうことになるのじやないですか。
  112. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そういう場合には仮に告発いたしますでしよう。仮に告発するとすれば捜査機関が捜査をいたします。捜査機関が捜査をするときには、それは裁判所のほうから令状を持つて来れば家宅捜索ができましよう。それから捜査をせないで仮にすぐ起訴したとしますれば、裁判所が裁判の結果なかつたということがわかれば無罪になる。
  113. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 それじやそういう場合には、そういう手続を経てやるわけですね。
  114. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 勿論そうです。
  115. 須藤五郎

    ○須藤五郎君 わかりました。
  116. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今まで各委員からの御質問を伺つております間に、こういう感じを抱きましたので、最初にそのことを提案者に伺いたいのですが、この住民登録法案只今までの御準備というものが十分でなかつたような感じを受けるのでありますが、十分でなかつたということをお認めになりますでしようか。
  117. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) どういう点の準備でございましようか。それによつてですが……。
  118. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 伊藤委員なり、或いは中山委員なり各委員からの御質問に対してのお答えが、私がそれを拜聽しておりましてどうもはつきりしない。その提案者、即ち立法の際に或いはこの第一条の公証というような問題について、或いは世帶主の問題について、或いは附票の問題について、殆んど各条項に亘つての御質問に対していろいろ御説明がありますけれども、なお御研究になるというふうなお答えであつたり、或いは恐らくは、伊藤委員なりから御質問なつた場合にも、十分納得せられていないのではないかという感じを受けたのでありますが、準備完全なりというふうにお答えになりますか。
  119. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 準備と言われるから、この法案についての研究が足らんという意味だろうと思いますが、そう言われればさようでございますと申すよりほかはございません。我我としては少し足りなかつたと言われればそうでございましようというほかにはございませんが、我々としてはできるだけやつたつもりでありますが、我我も随分この法律の審議に当りまして答弁をする側に立ちますると、質問をする側に立ちまするとは大変なハンデイキヤツプがありまして、我々が予想しておる以外のことを質問を受けますると、これはどうもやむを得ないものでありますが、併しそれはお前は頭が惡いからと言われればさようでありますと申すよりほかに仕様がありません。
  120. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私は決して提案者に対して頭が惡いとか、そういう無礼なことを申上げたのではございませんので、且又その予想なされないような点についての御質問ならば、勿論私も伺つてつて、そういうわからないはずはないのでありますが、かなり重要な問題についての御質問関係していろいろお打合せの結果、さまざまのかたがお立ちになつてお答えになつておりますが、まあ伺つているほうではどうなんだか甚だあいまいという感じがするのですが、お答えになつているほうでは決してそういうことはない。はつきりしているということなんでしようか。
  121. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それは決して答えは全部完全とは思つておりません。又実際上の取扱の点だとかそのことになりますると、抽象論として考えておりますると、実際に扱う人々の意見も聞いてみないと理窟だけではないものですから、それらの点についてはまだ不十分であつた点は相当あつたろうと我々自身も考えております。
  122. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点につきましてこの会期の迫つている今日、現状のままでこの法案が国会で採決されるということになると、速記録などを国民が見ました場合に、まあこれは殆んど国民の一人々々に関係を事実上において持つて来るわけなんです。それについていろいろな問題が起つて来たような場合に、国会がこれについて十分な審議を盡したという感じであれば結構なんですけれども、若しそうでないようなことがあると、やはり私は問題じやないか、私もどうも伺つております過程ではまだ相当御研究になり、例えばさつき中山委員のほうからは戸籍法の改正によつて十分ではないかというふうな御意見もまあありましたし、それから世帶主などについての規定の御説明ですけれども、その世帶主というものの概念の規定、或いはさまざまの法律における規定伊藤委員は御質問になつたのじやないと思う。この住民登録法によつて世帶主というふうに言つて従つてその報告をしなければならない責任者としての世帶主というものについての概念が、この法律においてはつきりしていないという御質問に対して、他の法律或いは国勢調査の場合とかの答えがあつたので、それを伺つただけでは、私としては住民登録法における世帶主というものの概念がはつきりしてないと思う。そういう意味ではどうもこれは提案者のほうにそういうことを伺うのはどうかとも思うのですけれども只今直ちにこの通過を飽くまで御希望になるということなんでしようか。それともやつぱり十分に研究したほうがよいということではないでしようか、どうでしようか。
  123. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今の具体的のお話になりますと、戸籍法一本によつてつたらどうかという問題は、この前の委員会から何遍も出ました問題でありまして、戸籍法と趣旨を異にする狙いがあるのだから是非ともこれでやらなければならん、こういう答弁は十分しておるつもりであります。それ以上はまあその人々の意見の相違でありますから何とも方法がないと思います。それから今おつしやる世帶のことは成るほどこの明文に明らかに世帶とはこういうものであるという概念は載せてはございませんが、我々の考えでは大体一般国民の言識の上から世帶と言えば大体わかるのじやないか、もつと言えばこの法律を使う上において、そんなにそのぎりぎりのところまで条文に表わさなければならんほどの問題じやない。実際生活を共にしているのだからそれでいいのじやないか、こう考えておるわけであります。それから法案はもうもとよりこれは準備もございまするし、国民並びにこの事務のほうの訓練等の準備も非常に重要なことでありまするから、少くともこの議会には是非とも通してもらわんければならんと心得て、できるだけ早く持つて来たつもりでおるのであります。
  124. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それで提案者に伺いますが、第一に私の伺いたいことは五つ、六つあるのでありますが、その第一に、この住民登録法案の提案者は凡そこの国民の自由という問題、それから政府の行政上の便宜という問題、即ちリバテイという問題と、レガリテイという問題とも言えますが、いずれを重しとなさつて、この法案をお出しになつておられますか。
  125. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 勿論国民の自由は、憲法で保障せられておる自由はどこまでも尊重せんならんと心得ております。ただ行政上の事務の都合上これくらいのことならば基本的人権に障りのないと思うものだけを、ここに努めて載せてある。こういうよう考えております。
  126. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その国民の自由のほうを重しとする、必ずしも行政上の便宜ということばかりを考えておるのじやないという御答弁と伺つてよろしいのですか。そうすると、それについて約六、七点伺いたいのでありまするが、第一に我が国の最近までの法律の中には戰争中戰時法として認められて来たものがあり、それらの大部分のものは廃止されておりますけれども、併しそういう考え方が今日多分に残つておるのじやないか、例えば配給とか或いは国勢調査とかいうものの中には、そうでないものもありますけれども、併しそこに戰時法の考え方というものが相当入つておる。それから又現在まだ占領下にあるためにこれは戰時法というわけじやないでしようけれども、占領下の状態であるためにそういう考え方が入つておる。即ち今申上げておる国民の自由というか、それとも行政上の便宜から必要かということにおいて、どうかすると、行政上の必要というほうから国民の自由を圧迫しておる法律があるように思うのですが、この法律の中にはそういうことはございませんか。
  127. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) さようなことは、それは戰時中の、戰時の政策上必要とすることという意味でありましようが、さようなことは毛頭ございません。
  128. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは伺いますが、この第一条に目的が書いてございます。この目的を拜見しますと「この法律は、市町村においてその住民登録することによつて住民の居住関係を公証し、その日常生活の利便を図るとともに、常時人口の状況を明らかにし、各種行政事務の適正で簡易な処理に資することを目的とする。」ということが書いてあります。これが立案者の立法の目的と思うのですが、ここには全く行政上の便宜ということだけが考えられておつて、そうして今申上げている国民の自由というものについては何ら顧慮されているところがないようですが、そうでないですか。
  129. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これは大変な見解の相違であります。行政上の目的を言つておるのではないのです。国民の利便を図る行政をするということが目的なんであります。根本は国民の利便でなかつたら、利便を拔きにして行政というものはあり得ないと我々考えております。従いまして根本は国民便宜で、そのために行政をやるんだ、こういうことでございます。
  130. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると第一条の文章は、その日常生活の利便を図るためにというようにお直しになるんですか。
  131. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 別に文章が惡ければ何ですが、「利便を図るとともに」、もつと言つて見れば行政というもののすべてが国民の利便を図るためにやつておるものと我々考えます。根本は利便を拔きにした行政があろうとは考えておりませんのですが。
  132. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それではその問題と関連して伺いますが、提案理由の説明でしたか、どこでしたかに、今その場所がちよつと出て来ませんが、犯罪捜査を便宜にするというようなことはお考えでございますか。
  133. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そういうことはございません。この間も議論になりましたが、先ほども申上げましたように、指紋を入れたらどうかという議論があつたのですが、それは主として犯罪捜査を主目的とするものであるから、これに入れることは面白くなかろう。こういうことで除いたという経過もありまするので、勿論それは使うつもりは全然ありません。
  134. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今お話が出ましたので伺つておきたいと思いますが、この指紋をとるということについては、この立案者はどういうお考えを持つておられますか。
  135. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 本法でそういうことをきめることは面白くない、こういうことで入れないということに決定した過去の経過がございます。
  136. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ちよつとお差支えなければこの本法においてそういうことを規定する意思がないということのほかに、およそ指紋を強制するということについて本法の提案者はどういうお考えをお持ちになつておるでしようか。
  137. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) この法律でそういうことをやるよりほかに、他に犯罪の捜査の目的であるならば、他の法律によつてつたらよい、かよう考えております。要否はこれは別であります。是非とも必要ありとすればということです。
  138. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、もう少しはつきり伺つておきたいのですが、本法は、この指紋を取るというよう考え方に対して対立するのでありますか、それともそれと何らかの関連を持つものでありますか。
  139. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 別に関係はございませんでしよう。ただこしらえるときにこの中へ入れたらどうかという議論もあるし、考え方もございましたでしようが、入れぬほうがいいということになつたのです。
  140. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 提案者は我々の個人の、個人的な祕密というものが尊重されなければならないというお考えの上に、勿論お立ちになつていると思いますが、どうでしよう
  141. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 当然のことでございます。
  142. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この法案が個人の祕密を尊重されなければならないものを侵す虞れが全くないというふうにお考えでしようか。
  143. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) この法律では特にそれに関する規定は書いてはございませんが、勿論その精神であるべきものであることは変りはございません。
  144. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 併し実際上において、この一軒の家にどういう人がいるか、或いは自分がどこへ行つて住むか、私は自分にそういうことが余りないので、具体的にどういう場合というふうに申上げませんが、併し申上げる必要があるというなら申上げることができると思いますけれども、それを個人の祕密として尊重されたいというふうに希望しておることが、この法律によつて尊重されなくなる事実が具体的にはありはしないでしようか。
  145. 鍛冶良作

    衆議院議長(鍛冶良作君) 記載事項が限定せられておるのでありまして、これによつてそうどうも、いわゆる一般国民の祕密をあばくようなことはちよつとないのではないかと、我々は考えておりまするが。
  146. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 例えば我々がどこに住むか、又我々の家庭にどういうかたが住んでおられるかということは、明らかにしたくない場合があると思うのです。これは恋愛などにも関係することがあるかも知れないし、或いは又病気などによつてそういうことがあるかも知れない。今日では伝染病なりとして考えられていても、社会の考え方で、遺伝的な病気だというふうに考えられておるものもある。そういうふうにして、例えば不幸にして癩にかかつた人なり何なり、その家族に迷惑を及ぼすまいというふうに考えたりしている、或いはまだ不幸にして今日いわゆる国民の間の差別というものは、慣習上全く撤廃されていない。島崎藤村の名作破戒などに現われている場合に、ああいうふうな悲惨なことが今日跡を絶つているわけじやない。或いはその他いろいろ今私がちよつと思い出して見ただけでも、そういう個人の恋愛の自由とか、或いは病気に関する祕密とか、或いは社会上の差別というものに対する祕密とか、或いは財産上の祕密もあるかも知れない。やはり我々の祕密というものが、我々の居住の自由というものと関連しているということはあるんじやないか、そういう事実はないというふうにお考えでしようか。
  147. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そういう事実は我々もあるだろうと思いますが、この法律には別に何の関係もないように思います。ただ單に誰がどこに住まつておるだけのことをいう、それまでどうも祕密だということになれば、お前のうちに誰と誰が、女と男がおるか、それだけのことを聞くだけでありますが、ちよつとあなたのおつしやるように、祕密を無理にあばいて出されなければならんというふうなことは想像もできません。
  148. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 併し例えば癩療養所に仮名を用いて入院されておるかたがあるとする。そのかたに対するこの法律の適用はどういうふうになりますか。
  149. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今病院に入つている人ですか、それはこの病院に住所があるのです。今どこにおられるかと言えば、病院に入つておると言えばいい。それ以上は何も特に聞く必要はございません。
  150. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それは病院のほうで登録しないで、家のほうで登録するのですか。
  151. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) その通りです。住所ですから、住所でやればいいのです。病院に行つておる、施行しておると言えばよろしいのです。
  152. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 一生入院されておるかたの場合はどうですか。
  153. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 先ほど伊藤さんから質問のあつたように、刑務所へ行つておる場合でも同様に考えられますが、それはそこに生活本拠を移したと認められる限りは、自分のうちがあれば、うちが住所であると、こう見ることが本当だろうと思います。
  154. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 癩の療養なんかの場合、非常に重症なかたが、そこに生活本拠を移しておられるかたがあるように思いますが、そういう場合はどうなんですか。
  155. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) どうもそういうことはないように思いますが、ただ強制的に入れられておれば、なお更本人の意思に基かざる居所の移転ですから……。
  156. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 強制的ではなくて、親戚なり何なりに迷惑を及ぼすまいとして、そうして瀬戸内海の療養所に行つて、そこに家を建てて住んでおられるというような場合もあると思うのです。(「長島」と述ぶ者あり)長島愛生園。
  157. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 病院に入つておるなら、うちから仕送りしなければなりませんし、それから向うへ行つて一人だけ人里離れたところで家を持つても、そこに永住するならば、それは住所を移したことになる、当然そういうことが考えられます。
  158. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 差支えないとおつしやるのですか。
  159. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 家を構えてそこに永住するため行つているとすれば、そこが住所になるから、それは当然です。
  160. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そこで登録をせよとおつしやるのですか。
  161. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そうです。
  162. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、その人はどこへ行つたかわからない、旅行しているとか、何とかいうことにはならない。その人がどこに行つているかということがわかつちやう。
  163. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今あなたのおつしやる旅行したり、入院しておれば、うちがあつて仕送りしてもらつておるから……、旅行中だとか、入院中だとかは元のうちが住所です。今あなたのおつしやる、一人でも二人でもよろしいが、人里離れたところに家を建てて、永住するつもりで行つたら、行つたところが住所になる。そこで届出すればいい。こつちじや届出しなくてもいいのです。
  164. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 長島愛生園なり何なりに行つて家を建てて、一生そこで住むようにされておるかたが事実ございますね、そこで登録なさるでしよう。そうすると、そのかたはそういう病気にかかられて、そこに行つておられるということを祕密にしておきたいというふうに考えておられると、その祕密が侵されることにならないかと伺つているのです。
  165. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 私も愛生園のことはよく知らないのですが、何か島か林でもあつて、その中に個別的に家を建てても差支えないことがありますか、若しそういうものとすれば、そこへ行つたと無理に言わず、愛生園の所轄町村で調べたとき、ここにおるということがわかれば、そこで登録してもらえばいいのです。何もこつちから強いて向うへ行つたということを言わないでよいと思います。そういう場合なら。
  166. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 いや、伺つておるのはそういうふうにして、そこで人に知られないで、そこへ住んでいたいというかたがたの、個人の祕密を尊重できるか、できないかということを伺つておるんです。
  167. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) どういうのですか。元のおつた所を祕密にしておきたいという意味ですか。愛生園におりながらも祕密にしておきたいというのですか。どうも愛生園の中におつて、そこにおらんことにしようとしても無理じやないですか。それはそれだけじやありませんから、いろいろの点で国家なり、公共団体に保護をしてもらわなければならんことがあるわけですから、それはどうもそこまで祕密にしようと思つても事実をなくするわけにも行かんのじやないかと思いますが……。
  168. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その長島の愛生園におられるかたで、そこで本名でなく仮名でおられるかたがあるといたしますね、そういう場合にそこで登録する際に、本名で登録しないで仮名で登録してよろしいのですか。
  169. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そんなことはいかんでしようね。併し実際にそんなことがありますか。想像して見ればいろいろありましようが、文学的か何かでは考えられるかどうか知らんが、事実上そういうことは我々ちよつと想像ができませんが……。
  170. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私は文学的に質問をしておるのじやございません。尊嚴なる委員会の席上で、その提案者に伺つておるんですから、確たる事実に基いて伺つておるんであります。明らかにこれは個人の祕密を侵す場合じやないでしようか。
  171. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 国法はそこまでの祕密を保持してやらなければならんものとは考えられませんがね。勿論そういうことがあるとすれば、癩病の治療所におるのですから、よそへ行つて、これは治療所に来ておるといつて吹聽すればなんですが、ただ愛生園の島なら島におるということを、そのほかの人もおればみんな届出るのですから。
  172. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今の場合は、その病院においては本名を知り、そうしてその仮の名前を承知しておられる。こういうことであれば、そのかた個人の、そのかた御自身が守ろうとされる祕密が尊重されるのですが、この登録というのは病院でなさるのじやなくて、市町村においてなさることになるんでしよう従つてこれが現在守られておるところの個人の祕密を、現在の国法がこれを許しておる個人の祕密を侵すことにならないかということを伺つておるんです。
  173. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 現在おる所を祕密にしてもらいたい、こういうことは事実なんですから、そのことによつて癩の治療をしておるとか、遺伝があるとかいうようなことでもありましたらば、これはいけませんでしようけれども、ただこの土地におるというだけならば……。
  174. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 現在は医師が治療を受けておられるかたの祕密を保護している法律があるように私は了解しておりますが、それに従いまして病院長がそのかたの真実の本籍とか、或いは住所とか氏名とかというものを承知しておられるだけで、従つてその病院内においてもそのかたは仮名を用いておられる。市町村でもそれは勿論わからない。私はそういうふうにすることがいいかどうかということは別問題ですけれども、併しそういうふうになすつているかたがあるのです、事実に。それでこれは社会が進歩しない現在においては、例えば癩が遺伝であるというよう考え方がある状態においては、そのかたがそれを個人の祕密として守るということを、現在では医師法なり何なりによつては守られているわけです。それが市町村登録するということになれば公になつて来るわけでしよう。まさかその際仮名で登録することは許さないとおつしやるのですから、そうすると、この市町村登録簿を御覽になれば、あの人はここにいるのだということがわかるわけです。それを好まない、祕密にして置きたいと考えておられる本人の祕密を侵しはしないか。こういう事実があります、現に。
  175. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) ちよつと非常に極端な例で、我々の常識上でここで答えてもぴちつとはまらんかも知れませんが、勿論医者は祕密保持の義務を持つておりますが、それにしても、これは私の今の常識だけですよ。確かなことはわかりませんが、この病人は癩病、而もこれは遺伝性のものと、こういうことを言うていかんことはこれは当然ですが、あの人はお前に診察してもらつたことがあるか、治療してやつたことがあるかというそれまで私は隠さなければならんかどうか、ちよつと疑問に思うております。祕密事項というのはそういうものでないのじやないかと私は思うておりますが、今の場合でも行政上何らの保護も何も要らんという議論に立つて行けばそういうことも考えられますが、どんな病人でも動けん人でも、死ねば死亡届も出さなければならんし、火事があれば消防もしてもらわなければならん、伝染病を出せば予防もしてもらわなければならん。これは何と言つて住所としての、住民の取扱をやめようということはできないのじやないかと思いますが……。そういうことにおきましては実際問題です、そのときの。
  176. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、提案者は、私がさつき御質問申上げましたような事実があるかも知れないというふうにお認めになるわけですね。
  177. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そういう愛生園なら愛生園へ行つておる事実ですか。それは私にはわかりません。
  178. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 いや、そうでなく今おつしやつた医師が、こういう人があなたの診察を受けたことがあるかどうかということの祕密は現在保障されているのですか。……御確答がない。つまり御準備がその点についておありにならないと考えてよろしうございますか。
  179. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 我々は法律学というものは常識の学問と心得ておりますので、さような特殊なことまでは存じません。それでお前は準備が足らんの、頭が悪いのと言われれば平に謝まるしかありません。我々は常識、いわゆる社会通念をもとにして論じるのが法律論と心得ておりますから。
  180. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 併しこの法律は、今言いますような実際に問題を引起すのであります。私は私の親しい友だちの例の一つを思いながら、心配し、心を痛めながら質問しているのです。法律に従えば、そのかたがそこにおられるというようなかたの氏名は登録しなければならない。そして今までそのかたの祕密は守られているのに、この法律が我が国会を通過すれば、その人の祕密が尊重されなくなるという事実を以て伺つているのです。
  181. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 具体的にそういう場合に当れば、その人の祕密をできるだけ尊重し、而もこの法律に必要なものだけは或る限度にとめて十分両立することになると確信いたしております。更に又それで細かいことで面倒が起れば、実際の例を持つて来て、ここに書いてあります法務総裁の意見を聞くなり助言をしますれば、必ず解決するものと思つておりますから、そういう事実があるが故に、この法律は困るというものではないと確信いたしております。
  182. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 一旦この法律が通過して、そうしてその個人が尊重しよう考えていた祕密が破られるならば、それを救う途はもうないのです。そうじやないですか。
  183. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 法律上保護すべき祕密までもあばくものとは、そういうことは考えておりません。そこで面倒が起つて来る。具体的にこういう場合はどうすればいいか、ああすればいいかということは、恐らく町村なり医者なりで考えてくれるかと思いますが、それでもわからんことがあれば、法務総裁に聞いて、意見長官から意見を求めてやれば必ず解決できるものと思つております。
  184. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 現実にもそういう場合が、今申上げたようにあるのでございますから、その点を提案者は予想せられないで、これを提案しておられるようでありますから、この点について今おつしやるような法務総裁なり意見長官なりの意見をお求めになつてから、改めて御提案になつたら如何ですか。
  185. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 社会万般のことを考えますれば、いろいろなことがあります。そういう特殊なことが出ている、それを解決しないから法律はやつて行けんということになつたら、どの法律もできません。そういうものが出て来ますれば、そういう具体的な事実があれば必ず解決できるものです。それが法律のその適用ができんくらいなら法律をこしらえなければよろしい。その適用者にならなければよろしい。その場合には必ずこれが両立するような適用方法を定め得るものと我々は確信しております。それは今の場合だけじやございません。いろいろな場合を想像すれば、世の中にいろいろなことがありますから、我々はその故を以てこの法律は施行できんというよう議論はちよつと無理じやないかと思います。
  186. 伊藤修

    伊藤修君 ちよつとその点に関連して……。鍛冶さんはその点を、まあ我我も法律家としてやつぱり知らないのです。癩予防法というのですか、癩予防法の第十一条「医師若ハ医師タリシ者又ハ癩予防事務関係アル公務員若ハ公務員タリシ者故ナク業務上取扱ヒタル癩患者又ハ其ノ死者ニ関シ氏名、住所、本籍、血統関係又ハ病名其ノ他癩タルコトヲ推知シ得ベキ事項ヲ漏泄シタルトキハ六月以上ノ懲役又ハ百円以下ノ罰金ニ処ス」。これは昔ですから罰金は低いが懲役刑を盛つている。ここはやはり住所ということを謳つている。これを言われるのですね。これは実際問題として鍛冶さん御存じかも知れませんが、仮に一家の中に不幸にして癩患者が出ます。この人が天刑としてみずからそれに服しまして自分を葬つて、そして一家を助ける、こういう気持なのです。ですから自分は逃避してしまう。そして長島に祕密裡に移動してしまつて、そこで以つて一生を終る。自分が長島にいるということを仮に知られては、残つた一家族というものは非常に不幸な状態に陥る。嫁入りすることもできないし、嫁をとることもできない、これがいわゆる社会常識です。これを慮つて法律は非常な手厚い祕密漏泄防止の措置を考えているのです。今、先ほどから伺つていると、羽仁さんの御質問はこの点を憂えているのではないか。本法にそういう場合におけるところの、質問に対して拒絶したとか、默祕したとか、そういういわゆる住民のほうに対して責任を設けているけれども、取扱者に対しては何ら祕密漏泄に対する責任を設けていないのですから、若しこれを、住所登録を強行して行くということになれば、そういう面に対する手当は必要でないかということも考えられるのですが、その点をお考えになつて答弁願いたいと思います。
  187. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今のような場合は私はよくわかりませんが、そこまで守つておるとすれば何か癩患者は人に面会なんかせんでもいいというようなことになるんじやないか。
  188. 伊藤修

    伊藤修君 そういうことはありません。
  189. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それから病院で寢とるから会わんというのに、それを会わなかつたからと言つて直ちにどうのこうの、法律違反ともなりませんでしようし、それは適宜にそのときにはできるものと思いますが。
  190. 伊藤修

    伊藤修君 いや、問題は長島に行つておるということが知られることが非常な悲惨な結果をもたらすことは、法律が予想してこの祕密漏洩を罰しておるのです。だから先ほどの御説明に、例えば転任する場合においてはこちらに転任届を出して、向うへ届け出るというと、その行つているところがわかりますね。これは仕方がない。法律の建前から仕方がないんですが、それが結局公務員によつてその祕密が保たれるかどうかという問題を我々は考えなくちやならないということです。
  191. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それはやはり、実際取扱うときにできるだけその点は十分今あなたのおつしやるような元のところにおることにしてもいいのです。どこかほかのところに行つている、何とかなるかと思います。そんなふうに極端なことまで考えなくてもできると思いますが。
  192. 伊藤修

    伊藤修君 羽仁さんの御質問の憂慮されるところは、そこだと思うのです。
  193. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今の点について、私はどうもこの提案者の準備、十分であるという先ほどの御確信を信ずることはいよいよできないのであります。これは現実に起る問題です。而も実に悲惨な結果を招くことである。現在はそういう悲惨は幸いにして免れておる。この法律が本国会を通過すれば忽ち悲劇が起る。そういう場合に法律があらゆる問題を考えてやることはできないから、そういうような御答弁でなさつておるあらゆる問題じやない、当然住民登録をお考えになるとすれば、只今ような問題は重要なる問題として、十分御研究になつているはずでありますが、私は十分御研究になつたという感じを受けないのであります。それで又提案者御自身も、只今までの質疑応答で、成るほどこれは随分重大な問題であつたと、お感じになつてやしないかと思うのですが、どうでしようか。
  194. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 私は法律論としては、それほど重大な問題とは考えておりません。ただ適用上の問題なんですから、適用にその当を得ればいい、かよう考えている。例えば今までにも国勢調査はあつた。その国勢調査の際にはどうしておつたか、これは恐らくできるだけ祕密は保持しておるが、併し国勢調査国勢調査目的を達するようにやつてつたに違いない。それはやはりそれと同じようにやれば必ず今まであなたのほうで保護しておられるというならば、それと同様に保護してこの目的を達せられるものと確信しております。
  195. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今ここに新らしい法律ができるのです。そしてその新らしい法律によつて今まで保護されておつた個人の祕密が破られる虞れがあるのです。それについての提案者の御準備というものはなかつたように思いますが、どうでしよう
  196. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) まあそういうことは、我々調べてみたこともなかつたのですが、今そう言われますと、これを見ますと癩予防法というものがありまして、第一条に「医師癩患者ヲ診断シタルトキハ患者及家人ニ消毒其ノ他予防方法を指示シ且三日以内ニ行政官庁ニ届出ツヘシ」となつています。その転帰の場合及び死体を検案したるときも届け出でなければならぬことになつている。医者の義務になつております。だから当然おるところは行政上の監督を受けることになつております。
  197. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その程度只今までの程度で、その患者が自己の祕密を守つていたい祕密が軽うじて保たれている。そこに今新たに住民登録法というものをお作りになつて市町村にその登録をするということが加わつて来るという点において、その個人の祕密が尊重されるのか、それとも尊重されないのか。
  198. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 府県知事に届け出でる、市町村住所登録に載せる、私は一向かまわないと思います。但し府県知事なり市町村長なりが、他に対してこの癩予防法の精神に基いてできるだけ祕密を保持してやろうということには、これは変つてないものと思います。これはやはりそこの市町村長なり府県知事なりの、これによつて行うところの事実行為なんですから、そこで十分注意すればいいと思う。法律上でそこまで予想してきめなければならぬとは考えておりません。
  199. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それは法律のどこに書いてございますか。
  200. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 癩予防法第一条……。
  201. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 いや、住民登録法の、その個人の祕密を尊重するということが……。
  202. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) どの法律に書いてなくても、憲法に認められておる個人の自由は大なるものですから、当然のことです。
  203. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この住民登録法による登録表というものはだれでも見られるものじやないんですか。
  204. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 勿論見られます。誰でも見られると書いてあります。
  205. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは今私の心配しておる祕密は保持されないことになります。
  206. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 病人とも書かなければ勿論癩患者とも書きませんですよ。ただ氏名を書くだけです。
  207. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その氏名を、本名の人が癩療養所内にいるということが明らかになる。現在までは、その本名で以てその人がそこにいるということは、その院長なり、或いは院長が癩予防法によつて責任を負つておるところの関係者以外の人に、知れないようになつていた。ところでこの住民登録法が通過いたしますれば、院長及び院長が法律上責任を負うておる関係者以外の何人も閲覽し得る。登録によつて、その人が仮名を用いても、その癩療養所におるということが本名によつてわかるということになるのであります。
  208. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) どうも細かい議論になつて参りますと幾らしても切りはありませんが、大体そういう場合ならば住所は元のところにあつて、転地療養をしておることにして頂いたら大体済むように思いますが、実際問題ですが、そこらのところの法律上の適用は便宜その人のことを考えてやるべきもので、これは一々条文に謳わなくても、当然法律を適用する者の常識としてやるものと心得ます。
  209. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 御答弁で私の深く心配しておる点がどうも納得することができないのであります。これは一般に広くこの個人の祕密を尊重しなければならないという考え方と、それから住民登録法案というものの考え方の間に、只今の癩患者の場合だけでなく、一般国民の個人の祕密、個人の自由というものが尊重されなければならない、広く言えばその居住の自由というふうなものが尊重されなければならないということとの間に、根本的な問題があるという一つの例であります。今の問題についての質問はなお保留さして頂きたいと思いますが、今の点と関連して例えば職業の点についても、先ほど御答弁の中に国勢調査などの場合にも職業という問題について問題があつたのであります。従つて今度の住民登録法によつても職業を記載してはどうかという御質問に対して、そういう疑義があるので職業を記載しないことになすつた。これは法理論的に考えれば職業の自由、又職業に伴う祕密というものがあるからなので、決してこの職業がどの職業に属するか、範疇が明らかでないという技術上の問題だけでなくて、職業の祕密というものがあるから、この職業に関する調査というものが必ずしも行われることができないということと関連をしているのであります。こういうふうなつまり職業或いはこの病気の療養、それらは全部引つくるめて居住の自由に関する、我々の憲法が保障しておるところの自由というものと、この住民登録法とが、そういう意味で根本的に問題があるよう考えますが、どうでしようか。それでこそ今までこの戸籍法なり、或いは寄留法なり或いは国勢調査なり、それらの場合にも……、一番最初にちよつとその意味で質問を申上げておいたのでありますが、戰時中の戰時法において、戰時中の手段として個人の自由というものを犯した、或いは犯す虞れがあるようなことがあえて行われたことがありますけれども、併し我々が平時における法律としては、そういう考え方を全く脱却しなければならないということは、提案者もお認めになつておるのであります。この戸籍法或いは寄留法というふうな制度によつて、なお多少の不便があるかも知れないけれども、併し多少の不便があるけれども、今までそれでやつて来たというのには理由があるのであります。一つの不便を除こうとして、それを完全にやろうとすれば、今言つたように、職業は記載しないことになつておりますが、この病気の治療について個人が保ちたいと考えておる祕密が、只今尊重されておる程度には尊重されなくなるというようなことが起るのであります。この住民登録法を提案されます際に、広く一般の個人の自由、居住の自由というものについては、どのようにお考えになつておるのか、それを伺いたいのであります。
  210. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 勿論先ほどから申しますように、自由を尊重することを建前として、その範囲で行政上その自由を保持するには、行政上これくらいのことをやらなければならんというところに、或る程度の見境いがついて参りまするので、その範囲を越さないものとして、これをやつておるのであります。それから職業を記載しないようにしたのは、あなたが今おつしやつたような趣旨でわざわざ載せなかつたのではありません。本法を施行する上において載せなければならん必要がないからというのでやらなかつたのであります。それから病人の話が又繰返されますが、病人は病人でもやはり行政上どうやつてもやらなければならんことは皆法律にもきまつておりますから、できるだけ祕密は保持してやる。併し片一方には衞生上なら衞生上のことをやらなければならん。こうなればやはりいやでも行政に従わなければならんのですから、その範囲においてはこれは国民の自由というものは絶対のものじやないですから、一般公共の福祉に反せざる限りにおいて自由というものがあるのですから、一般の公共の福祉の意味からいたしまして、或る程度の制約はこれはもう止むを得ないものだと考えております。
  211. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今の御答弁は、私の質問に対する御答弁としては納得し得ないのでありますが、この公共の福祉に反せざる限りにおいて現在その療養所に療養しておる人の個人の祕密というものは守られておる。ところが、今ここに住民登録法というものが作られれば、登録簿というものが町村の役場に備え付けられて、その祕密は破られるということは、依然としてそう考えるよりほかないと思います。
  212. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) だんだん私もその質問によつて大分知識を得て来ておりますが、あなたのおつしやることですが、癩患者でも行政上いやでも隠すことのできないものは随分法律上きまつております。先ほど言つたように医者が一番に都道府県知事に届出なければならない。これはこの意味は、都道府県知事ということは県庁等ですが、県庁の恐らく衞生係だと思います。これにはやはり何びとも知らせなければならない。その次には癩患者又は癩病毒に汚染したる家においては、医師或いは当該吏員の指示に従い消毒その他の予防方法を行うべきこととなつております。これは医師又は当該吏員というのですから、これは恐らく行政公務員だろうと思います。それはやらなければならん義務になつております。又これに従わなければならん義務になつております。
  213. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今までの法律立案の趣旨を伺つておるのではないのです。この住民登録法案について伺つておるのです。
  214. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) ですから、これだけのことをやらなければならんときには、その町なら町におる者は、当該吏員というものが出て来ますから、これはどれだけ祕密にしようと思つてもそれだけは止むを得ないと思います。
  215. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 さつきから伺つておりますが、今までの法で必要にして十分な限りの措置が講ぜられておるのに、今新たに……必要にして十分なというのは、その病気を予防するという方面と、それからその病人の個人の祕密を尊重するというのと、その両方の方面において必要にして十分なる措置が講ぜられておるのに、ここに住民登録法というものが出ることによつて、その必要にして十分なる限界を超えるということはねいかといつてつておるのです。
  216. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今申しますように、この癩患者に対する消毒だとか、それから職業に就いたらいかんというのもあります。一定の職業を制限されておる。若しそれを侵してやろうとすれば、それは当然いかんということになります。それをやることはいかんということになれば、現在だつてとにかく市町村の何かに載つておるわけです。寄留簿に載つておるか本籍に載つておりますか、世帶台帳に載つておるか、何かありますから、だからその市町村がやるということは当該市町村の者にはわかつておるんでありますから、それが今住民登録に変つて来るだけでありますから、一つも変りはないと考えますが……。
  217. 伊藤修

    伊藤修君 どうもその祕密漏洩に対するところの質疑応答を伺つていますと、ちよつと質疑応答の間にズレがあると思うのです。鍛冶さんのお答えになつておることはできることばかりなのです。質疑をなさる羽仁さんのお言葉は、如何にして我々の祕密を保持するかということであります。癩予防法によりますと、成るほど知事に知らせる、或いは消毒官に知らせるということはあるでしよう。併しそうやつてつた公務員はその祕密を漏洩してはならんぞといつて手当がしてあるのですから、六カ月という懲役で実刑を以てこれに向つています。例えば国勢調査の場合でもそうです。国勢調査の場合にも祕密保護という見出しによりまして第十四条において「指定統計調査の結果知られた人、法人又はその他の団体の祕密に属する事項については、その祕密は、保護されなければならない。」と、これに対して罰則が設けてあるのです。職務上知り得る、これはあり得るのです。それは公益上当然あり得ることです。又なさねばならん行政事務であるのです。併しそれは国家若しくは地方団体がそれによつてつたことは、それは行政上当然のことである、又知り得ることも必要である。併しその知つたことは個人の祕密を尊重する意味において、基本人権を保障する意味において、いわゆる憲法の保障の下に各法条においてこれを手当して、その機密漏洩を防いでおるのです。これは公共のために当然のことなんです。先ほど鍛冶さんの御答弁で、憲法に規定があるから差支えないとおつしやる。憲法に規定があることは基本原則を規定してあるのです。その憲法が保障する祕密保護の国家義務というものはそれぞれの法律によつて手当をしなかつたならば、何ら我々の権利は保護されないのです。憲法にあるから、法律規定しないでもいいという先ほどの御議論は間違つているのです。憲法にあるのだから法律規定しなくてはならない。その点を憂えられて、先ほどからこの法律において祕密保護の手当をしなくてもいいかどうか、規定していないからそういう心配が起るといつて、先ほどから縷々質問されておるのです。その食い違いがあるのです。
  218. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 私の言うのは、これに規定せんでも人の祕密を守つてやらなければならんということは憲法にあるから、法律を適用する人は当然私は心得ておると、こう言つておるのです。併し更にこれが罰則を設ける必要があるかどうか、これは第二の問題です。
  219. 伊藤修

    伊藤修君 憲法に規定があるから当然法律に書かなくていいということは私は言いません。憲法は大枠であつて、それを実際に裏付けるものは各法律におきまして手当をされなかつたならば、憲法それ自体が動いて来ないのです。憲法にあるから何も法律に書かんでもいいというような憲法一本で我我は生活できんのです。
  220. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 祕密を漏洩していかんということはここにないじやないかといわれれば、それは憲法に規定してあるから、いやしくも法律を適用する人はさようなことは心得ておりますと言つたのです。更にそれならもつと強くする意味で罰則を設ける必要があるかないかは、これは別の議論です。
  221. 伊藤修

    伊藤修君 ですから、憲法に保障するところの秘密保持に対して地方自治団体、国家公務員がそれを守らなければならんという手当をしなくちやならんじやないかとこう言つておるのです。そういう御趣旨と伺つておるので、こう言つておるのです。
  222. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その通りです。
  223. 伊藤修

    伊藤修君 そのほかの法律でもそういうことがたくさんある。国勢調査に関する規定にもそれが設けてある。何も新らしくこれにのみ要求するわけじやないのです。
  224. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今の癩の場合はここにちやんと医師及び公務員となつておりますから、それに当る公務員に罰則はございます。従つてそれを知つておるからと言つて、当該公務員が言い触らして歩けば、罰を食うことになると思います。癩の場合ならば……。
  225. 伊藤修

    伊藤修君 そういう御説明には納得できないのです。
  226. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 だめですよ、そんなこと。この住民登録法によつて登録票というものができて、何ぴともこれを閲覽することができるのではないですか。これが通れば……。だから今までの法律によつて保護されているところの……医師及び公務員が如何に守つても、その法律はその通り適用されていても、この住民登録法というものが出て、この法律の上で今の祕密保持に関する手当がしてなければ、今までのあらゆる法律によつて守られているその祕密が、住民登録法の通過することによつて破られてしまうというのです。それはどうしてもそうです。如何に強弁なさつても……。
  227. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これ以上議論しておつてもしようがないのですが……。
  228. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 議論をしておるのではない、国民の自由に関して……。
  229. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 病人とは書かないのです。いわんや癩病とは書かんのです。住所を書いていかんということになれば、それは御見解の相違でしようが、我々はいやしくもこれだけの行政上の処分をする……保護を受ける以上は、その範囲において祕密は守つてやらなければならん。それから住所を届けるのがいやならば、さつき言つたように大体はここに住所があつて転地療養しておる形にすれば大抵済む、ですから適用の上で十分できるとこう思いますが……。
  230. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 どうも御研究が不十分だという感じをいよいよ痛切にせざるを得ないのです。現在は仮名でその市町村においては許されているのです。この住民登録法をやれば仮名ではそれは許されないのです。本名がそこに出るということになります。
  231. 伊藤修

    伊藤修君 これは結論として、今伺つておるところの結論はつけておかなければならんのですが、癩の問題はさておき、一般に祕密漏洩に関するところの責任を公務員に負わせなくてもいいのですか、どうですか。それによつて住民住民の持つところの祕密保持の権利を害せられはしないかどうか。こういう抽象的なことについて御答弁を伺つて見たいと思います。それは小木君の言つておることは、実際というのはこの項目にはないのですから、あとで地方自治体で何を書くかわからんから、どんな祕密事項を書かせるかわからんですから、第二項がある以上は八項目だけではないのですよ。
  232. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今のような特殊の場合に対してはいろいろ議論がありますが、大体において第四条に記載してありまする事項は、特にこれをあばいたからといつて罰則を適用しなければならないほどの祕密のものはないと思いますが、若し第二項によつてそういう人の祕密でもいろいろな実例がありますれば、これは又別に考えるべきことではないかと思いますが……。
  233. 伊藤修

    伊藤修君 二項によつて何を書かせるということは規定してないのですから、どういうことを規定するかわからん。ここに大きな穴が明いておるのですから、これに対する手当というものは考えなければならないでしよう。今あなたが例示的に挙げられたものはそう祕密のものはないと思いますが、二項が掲げてある以上は何を要求するかわからんですから、その場合に祕密が保たれないということになるとどうですかね。
  234. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 我々は二項でもそういうことは規定せんという前提の……。
  235. 伊藤修

    伊藤修君 それはあなたの善良なるお考えで……。
  236. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そこで万一市町村がそういう越権なことをやるということになると、当然そういうことを考えなければならないのですが、現在のところはそういうようないわゆる住民登録に要求する事項だけなんですから、それをそれだけと考えておるわけです。今のところでは……。
  237. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 提案者の個人的なお気持というようなものは大いに尊重するのですけれども、この法律がそういうふうにできている以上は、今私の申上げているような、端的に一つの例を挙げれば癩患者が仮名を以てそこに入院し、又はそこに家を建てて療養しておる、それがそこの市町村登録票に載せられ、仮名で届けることはできないとおつしやるから、本名で登録する。そうすると、その登録票というものは誰でも見ることができる。折角癩予防法なり或いは医師法なり或いは国勢調査なりに関する規定で守られているところの祕密が犯されてしまう、それはお認めになりませんか。
  238. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) できるだけそういうものの祕密を保持してやるようにしようという御精神は我々も同感です。そうしてこれを運用させる上においてそういうことであるべきものであり、又恐らく、仮にあなたのおつしやるように愛生園のある島なら島で、そういうことをよく心得ておるものと心得ますが、この法律だからといつて、都道府県に届出るときにまさか僞名でもいいというものでもないと思いますが、これはやはり通常は偽名で通つてつても、いやしくも地方公共団体届出るときに僞名で届出るものとも思われませんが、できるだけその手当をしてやるべきものだということは、それに違いないのです。それは適用する上において十分やるべきである。こういうことも考えなければならないと、こう思つております。
  239. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今、できるだけ手当をしておくべきものだというような御答弁がありましたが、それではこの法律の中にそういう手当を十分になさるべきではないでしようか。今のこの法律のどこにそういう手当があるのでしようか。
  240. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 癩のことに関してでございますか。
  241. 伊藤修

    伊藤修君 癩その他ですね。個人の祕密に属するものを尊重する、その手当を……。
  242. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 今伊藤さんに答えました通り一般においてはこの四条に記載しておりまする事項は、これは原則として人の祕密は保持してやらなければならないという、この精神を欠いていないことは当然のことであります。ただこれに対してこれらのものを漏洩したる場合には罰則を設けるかどうかということになると、これくらいのことならば罰則を設けないでもいいだろうということで、罰則を設けておりません。癩のような場合には先ほど言つたように、これは当該公務員がこれを洩らした場合には罰せられることになつておりますから、それで癩の場合は、癩患者の保護ができている。この法律できめている以外の保護については今日我々は予想しておりません。
  243. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 さつき折角伊藤委員が御注意下さつたように、私の質問とそれから提案者の御答弁とが常に食違つているのです。この登録票にその氏名を書くから、癩患者の、今国の法律その他によつて保護されている祕密が、その登録票が公けに閲覧されることによつて破られてしまうということなんです。こつちの八項目では、只今おつしやる八項目の第一に氏名というのがあるでしよう。ですからその氏名が今は日常の生活において仮名を以て許されているのですけれども、それは勿論この登録法に仮名を以て許せと私は言うのではないのです。その本名を以て第一に氏名を告げなければならない、従つて今あらゆる法律その他によつて保護されているところの癩患者の祕密というものが破られてしまうのではないかというのです……。少し休憩いたしますか。
  244. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これは幾ら議論いたしましても、特殊の場合の特殊のことを指摘しておられるのでは……。
  245. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 特殊ではないですよ。
  246. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これは我我は癩患者といえども住民としての保護はしてやらなければならない。そうして見れば、保護するには住民登録票に載せなければならないのです。従つて住民登録票に載るものは我々は祕密とは必得ておりません。併しそれでも癩患者のような特殊の場合だつたら、そういう場合は適用上できるだけそういうことのできんようにしよう。そのほかの癩患者に対する保護については、癩予防法にそういう規定がありますから、それで賄つておると思いますということをお答えしておるのです。病人とも書かなければ癩病患者とも書かんのです。
  247. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そのことも御答弁が食違つているのです。この問題を十分深刻な問題だというふうに御了解がないのではないかと思うのですが……。
  248. 伊藤修

    伊藤修君 五分ばかり休憩して頂いたらどうですか。
  249. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 速記をとめて、ちよつと……。
  250. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) では速記をとめて。    午後三時十八分速記中止    —————・—————    午後三時五十八分速記開始
  251. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 速記を始めて下さい。
  252. 伊藤修

    伊藤修君 只今まで羽仁君より質疑がありまして数時間に亘つて大問答がなされておつたのですが、結局出ますところは、羽仁さんの触れられることはいわゆる祕密漏洩保持ということに帰着すると考えるのです。従つてそれを如何にしてその点に対するところの基本人権を保持するかということに対して、本法案の中の四条の第二項を削ることによつて、その憂えを除去するのではないか、かよう考えます。先ず提案者に対しまして第四案第二項を削る御意思があるかないか、この点を明確に伺つておきたいと思います。而して本法によつて第一項の「氏名」初め、八項目に亘る事項に対しましては、例えば癩病患者に対しましては癩予防法によつて、これらの事項に対しまして携つておるところの公務員が、これを他に漏洩すればそれによつて処罰されるというふうに我々は解釈いたしたいと思うのです。提案者のお説もさような御趣旨のようでありますが、そうであるかどうか。その他の祕密漏洩に関するところの処置はどうするかという、この三点を伺つておきたいと思います。
  253. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 祕密を保持すべき観念については、お説の通り我々も同感でございまして、是非ともそれに副うよう本法の制定並びに取扱について考慮すべきものと考えます。従いまして皆さんの御意見がその意味から第二項を削つたほうがよろしいという御意見でございますれば、私としては異論はございません。更に癩の先ほどからの問題につきまして、癩予防法によつて第十一条を設けましたる精神から見ましてもこの法律によつて癩病患者として知られるような場合における氏名、住所等の公表はせないようになるものと、適用あるものと心得ます。更に又従来からいたしましても寄留も恐らくしておるだろう、先ほどの例示の場合のごとく寄留もしておるだろうと思いまするし、又府県知事に対しましても届出をしておりまして、それで或る程度の祕密を保持されておつたものとしますれば、この法律が出ましたからといつて今までの保持されている祕密の保持をなくして公表するということは絶対にないものと考えます。旧来通り祕密保持の方法の講ぜられまするよう、いわゆる癩病患者だけでありません、一般に対して適用いたしまする行政上に対しては法務総裁の訓令若しくは職権等によりましてこの点を明確にさせて十分に保持させたいと、かよう考えております。
  254. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 本案に対する質疑はこの程度といたしまして、次回に続行いたします。
  255. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 まだほかの問題についても質疑があつたのですが……。
  256. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 続行しますから……。   —————————————
  257. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 次に司法書士法の一部を改正する法律案議題に供します。先ず提案者の御説明を願います。
  258. 北川定務

    衆議院議員(北川定務君) 司法書士法の一部を改正する法律案の提案理由を御説明申上げまするが、これに先立ちまして一言申述べさして頂きたいと存じます。  本法案の審議に当りまして、衆議院の法務委員会において諸種の事情から審議が遅延いたしまして本日に至りましたことは誠に申訳ないと思つております。一言陳謝の意を表さして頂きます。  さて本法案におきまする改正の要点は二点ありまして、その第一点は、司法書士の報酬に関する問題であります。現行法において、報酬額は法務総裁の定むるところとなつております。これを報酬額は司法書士会において定め、更にこれを届出でて法務総裁の認可を受けようとするものであります。尤も、法務総裁が二カ月以内に認可の有無を決定しないときは、届出た報酬額が効力を生ずることといたしました。その理由は、報酬については他の同種の法律と同様に、会の自主性を認めると共に、現状においては法務総裁の認可によつて効力を生ずるとすることが適当と認められるからであります。  第二点は、「正当の業務の附随」を削除するという問題であります。現行法においては、非司法書士が司法書士の業務を行うことは禁止されておりますが、その除外事項として、他の法律規定のある場合及び正当業務に附随して行う場合はこの限りでないとなつております。この除外事項中から正当業務の附随を削除しようとする理由は、他の同種の法律において、この文句を削除する傾向にありまして、今国会における弁護士法の一部を改正する法律案におきましても、これを削除した次第でありまして本改正案もこれにならわんとするものであります。  何とぞよろしく御審議の上、御可決あらんことをお願い申上げる次第であります。
  259. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 本案に対する質疑は次回にいたすことにいたします。
  260. 伊藤修

    伊藤修君 本案の進行について希望を申上げておきたい。本案の審議に当りまして、我々かような改正に至るまでのいろいろな事情、それから弁護士会並びに法務府、裁判所、或いは計理士、調査士、こういう関係において相当紛糾せられたと聞いております。従つて法務府及び裁判所については御質疑できるから差支えありませんが、その他の関係の代表者に参考意見を伺いたいのですが、これが御喚問を願つておきたい。
  261. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 伊藤委員の申出につきましては司法書士、土地家屋調査士、計理士、弁護士、そのうちから適当なかたを参考人として次回に意見を聽取することにいたします。   —————————————
  262. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 次に民事調停法案議題といたします。御質疑のあるかたは御質疑をお願いいたします。
  263. 伊藤修

    伊藤修君 二十二条の調停手続は、いわゆる訴訟手続であるか非訟事件手続であるか、いずれであるか。提案者の御意見を伺つておきたいと思います。要するに民事調停手続というものは非訟事件であるのか、或いは訴訟事件であるのか、その本質を伺つておきたい。
  264. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 非訟事件であると考えております。
  265. 伊藤修

    伊藤修君 そういたしますと、二十二条の「その性質に反しない限り、」という、こういう新らしい言葉遣いというのは必要でないのじやないでしようか。当然非訟事件手続法を準用すればこと足りるのじやないですか。いわゆる非訟事件手続法によるものであるということであるならば、むしろ準用ということもおかしいというふうにも考えられるのですね。
  266. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 調停事件は只今申上げましたように、本質は非訟事件に属するものと考えておりまするが、通常の非訟事件と多少意味合いが異なつておるところがありますので、特別な調停法規ができておるわけであります。それで二十二条の表現は、実はたびたび先例を申上げて恐縮でありますが、家事審判法にこれと同様な表現がありますので、それをここに借りて来たわけでありまして、特別の定めのある場合を除くという、大体除外例が本法に書いてあるわけでありますが、先例があると言葉を柔げるという意味で、「その性質に反しない限り」ということをここに持つて来たものであります。
  267. 伊藤修

    伊藤修君 だから前提に訴訟事件か非訟事件手続によるのかということを聞いたんで、非訟事件であるとおつしやつたのですから当然非訟事件手続法が適用されるのであつて、「性質に反しない限り」というと、特別な場合は本法規定しておるのですから、その他は言うを待たず非訟事件手続法によることは当然のことです。これは言うを待たないと思うのですが、御説明の趣旨なら蛇足じやないでしようか。
  268. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 現在各種調停法規におきましても、特にこのような明文はありませんが、解釈上は非訟事件手続法の一編の規定などが準用されて来るというふうに一般に解釈しておりますので、又終戰後の法規であります先ほど申上げました家事審判法にその例がありますので、事柄を明らかにする意味でこの二十二条を設けたわけであります。
  269. 伊藤修

    伊藤修君 そういたしますと、資料としてお出しになつた要綱の第十八ですが、「調停手続における移送及び過料の裁判に対しては即時抗告を許すものとすること」と、こういうことがありますが、これは非訟事件手続法の附則の二百六条乃至二百十条に明らかにされておるのですが、これをも重ねて本法のルールに規定するつもりなんですか。二百六条乃至二百十条というものはそのまま援用するのですか。
  270. 福原忠男

    衆議院法制局参事(福原忠男君) 便宜この要綱は裁判所のルールとしてお出しいたしました関係上、私のほうから御説明申上げたいと思います。今伊藤委員からお話がございました点は、この法律案の二十一条に、「調停手続における裁判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告をすることができる。」という、その結果最高裁判所の定めるところによるという委任によりまして、その要綱案を考えた次第でございます。
  271. 伊藤修

    伊藤修君 答弁になつていない。それは聞かんでもわかつているのです。私の聞いているのはこのルールの十八に、過料に関するところの規定を設けると書いてあるのだが、そうすると二十二条で以て非訟事件手続法によるということになりますればダブるのではないか、いずれを適用するのかと、これを聞いているのです。
  272. 福原忠男

    衆議院法制局参事(福原忠男君) 只今お話の点は、二十二条では特別の定がある場合を除いて、非訟事件手続法第一編の規定を準用するとあるので、二十一条は「特別の定」に入るわけでございます。
  273. 伊藤修

    伊藤修君 そうするというと、この過料の裁判に関する手続規定であるところの非訟事件手続規定の二百六条乃至二百十条というものは本法に適用しないという考え方ですか。
  274. 福原忠男

    衆議院法制局参事(福原忠男君) 只今お話の点は、或いは私どものほうで要綱案の書き方が惡かつたかと存じますが、「調停手続における移送及び過料の裁判に対しては即時抗告を許すことができる」と、この不服の申立の点だけであります。過ち料の裁判の手続については非訟事件手続法の適用があることは、当然これは言うを待たないわけであります。
  275. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、ここで要綱において書こうとするところは、抗告ができるということのみを書こうとするのですか、それとも裁判手続に関することは、すべて非訟事件手続法の二百六条乃至二百十条というものを適用しようというお考え方でありますか。
  276. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) これは不服の申立の点だけでございます。
  277. 伊藤修

    伊藤修君 そういたしますと、二十二条によつて、二十一条の関係から見ますると、結局この移送の裁判の抗告を許すということと、過料の裁判の抗告を許す、この二点が新らしくルールに移行されることになるのですか。
  278. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) この二十一条を御覽頂けばおわかりかと思いますが、調停手続におきまする裁判については、特に最高裁判所のルールで即時抗告をすることができるかどうかを定めることになつておりますので、このことを明らかにしたわけでございます。
  279. 伊藤修

    伊藤修君 この要綱を拜見いたしますと、一から二十一まであるのですが、この十八及び十九、この要綱ですね、こういう上訴手続をルールに委ねたということはどうでしようかね。上訴できるという、手続でなくて、上訴ができるということを規定する権限は立法事項だと私は確信して疑わないのですが。だから訴訟の中止の規定、これも基本人権を阻止する、そこで剥奪するということになる。訴訟進行という基本人権を剥奪することになる。こういう事項をルールに委ねるという例がありますか。
  280. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) お言葉ように抗告権とか或いは訴訟手続の中止等は相当重大なことでありまして、或いはルールに委ねるのは不適当ではないかという御懸念は十分傾聽に値するということはございますが、この法案の立案に際しましては、誠にたびたび申上げて恐縮ではありますが、終戰後の新らしい立法でありまする家事審判法に家事調停関係が出ておりまして、それと平仄が合うようにしておいたほうが、一般便宜だろうという考え方から、成るべくそれに平仄を合わした次第でございます。それから家事審判法に基く裁判所の規則を拜見いたしますと、大体即時抗告を認めて然るべきようなところには即時抗告を認めてあるようでありますし、又訴訟手続の中止につきましても、これを絶対的に中止するというようなことをいたしますと、これは憲法の保障する裁判を受ける権利、訴権をルールで中止するというようなことになりまするから、不当ではないかという議論が非常に強くなるわけでありますが、家事審判法に基く規則におきましては、場合によつては中止することができるというようにいたしまして、裁判所の判断に任してあるよう関係でありますから、この民事調停法におきましても、仮に規則によるといたしましても、ほぼ妥当な規則が得られるものであろうという考えから、かよう立案した次第でございます。
  281. 伊藤修

    伊藤修君 家事審判規則というのですか。
  282. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 家事審判法に基きまして、家事審判規則というのがございます。その家事審判規則のことであります。
  283. 伊藤修

    伊藤修君 その条文を読んで下さい。
  284. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 家事審判規則ですか。
  285. 伊藤修

    伊藤修君 私はその例を聞いておるのです。上訴権を委ねておる規則がどこか例があるかと聞いておるのですから。
  286. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 家事審判法第十四条におきまして、「審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをすることができる。その期間は、これを二週間とする。」とございまして、只今の第十四条の条文に基きまして、例えば家事審判規則の第百四十条に、この調停に代る決定をした場合におきまして、当事者又は利害関係人は異議の申立をすることができるという規定が家事審判法にもありますが、それを受けまして「異議申立人は、異議の申立を却下する審判に対し即時抗告をすることができる。」となつております。それから只今の過料につきましては、同規則第十三条におきまして、「過料の審判を受けた者は、その審判に対し即時抗告をすることができる。」という規定がございます。大体そういうような趣旨の規定でございます。
  287. 伊藤修

    伊藤修君 今の例示された十三条及び百四十条というのは、基本的な抗告、いわゆる上訴権を許したのは、先ほど御指摘なつた十四条から出て来るというのですか。それとは別箇の上訴権でございますか、どういう意味ですか。家事審判法の第十四条に即時抗告をすることができるという基本的なここに権利があつて、それに基いて家事審判規則の今の十三条及び百四十条というものが出て来るのですか、別のものですか。どちらかはつきりして下さい。
  288. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 家事審判法の十四条に基いて、例えば家事審判規則第十三条が書かれておるというふうに、通説はそうなつております。
  289. 伊藤修

    伊藤修君 百四十条は。
  290. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 百四十条もそうであります。
  291. 伊藤修

    伊藤修君 ですから私はお伺いしたいのは、いわゆる基本法規において抗告、上訴権というものを與えて、そうしてその上訴権に基いて出て来るいろいろな手続はルールに委ねる、これは我々も認める。併し上訴権すべてを委ねるという考え方は私たちとしては立法権の放棄であると考えるのです。だから本法の、この間もお伺いした第四条の場合においてこれが抗告はできるという仰せですが、この抗告をルールで賄うという御答弁であつたようですが、いきなり上訴権をルールに持つて行かれるということに対しては納得できないところなんです。ここに上訴ができる、いわゆる抗告ができるということを明らかにして、その規定は最高裁判所に委ねるというのならば納得はできるのです。上訴権をも最高裁判所のルールに委ねるという考え方は私として納得できないところです。
  292. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) お言葉御尤もでございますが、この調停法規につきましては家事審判法の新らしい先例がありましたので、これに準じていたしたほうが、この際の立案としてはわかりがいいだろうと、そういう考え立案いたした次第でございます。
  293. 伊藤修

    伊藤修君 ちよつとその御説明は納得できませんが、そうするとこの第四条に対する不服の申立は何条によつてやるのですか。
  294. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 第四条の移送の決定に対する不服申立もこの二十一条に基いて定められることと考えておる次第であります。
  295. 伊藤修

    伊藤修君 そうすると、第四条の不服上訴権はこの二十一条によるということに解釈していいのですね。そうしてこれによつて上訴権が認められる。その手続規定を最高裁判所に委ねると、こう解釈してよろしいですか。
  296. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 第四条の移送決定に対する即時抗告は、第二十一条の委任によりまして最高裁判所の規則でこれは定められるものと考えております。
  297. 伊藤修

    伊藤修君 それからはつきりして置きたいことは、即時抗告できるということはわかる、即時抗告、上訴権というものをこの四条の場合における上訴権というものが、二十一条の即時抗告の中に含まれれば、その後におけるところの手続規定を最高裁判所に委ねるということは納得できるのですが、それから四条の上訴権というものが二十一条を通過しちやつて、直ちに最高裁判所のルールに委ねるという、ルールのほうで即時抗告ができるということを、こう書かれることが立法権の放棄になつて来るから困るというので、あなたの解釈のように二十一条によつて即時抗告の権限が與えられる、そのルールを最高裁判所に委ねるというこういう解釈であるならば、私はルールを承認するのですが、間違いないですか。
  298. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この二十一条の規定によりまして、調停手続における裁判に対しては、即時抗告ができるという基本的な考え方が二十一条に出ておりまして、それを明らかにするために、最高裁判所の規則がきめられると、そういうふうに考えて差支えないと存じます。
  299. 伊藤修

    伊藤修君 それじや、おしまいのほう半分だけですが、私の言うのは四条の場合における不服の申立が二十一条の即時抗告のほうへ入つて来るかと、こう言つているのです。それを明確にして置いて頂きたいのです。
  300. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) その点は、お説のように二十一条の即時抗告に入つて参ります。
  301. 伊藤修

    伊藤修君 そう伺つて置きますればよろしいのです。後日いわゆる我々がかような立法事項に属するところの抗告権、及び訴訟中止権、これをルールに委ねた先例を作りたくないので、その点をはつきりして置きたい。その意味においてルールの御制定をお願いしたい。そして、ルール制定の場合には前以て一応我々にお示しを願いたい。この点お願いして置きます。
  302. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 今伊藤委員から仰せの点は誠に御尤もだと思いますので、その御趣旨に従いまして、できるだけ御希望に副いたいと思います。
  303. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 法案に対する御質疑はありませんか。
  304. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 先日のあの通知の件で伊藤さん……、通知するかどうか答弁を留保してあつたでしよう。あれを……。
  305. 伊藤修

    伊藤修君 ああ、どうぞ……。
  306. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 前回伊藤委員から本案第十八条につきまして、利害関係人にも決定の告知をするかどうかの点の御質疑がありまして答弁を留保して置きましたが、この点につきましては、家事審判法及びその規則に同趣旨の規定がありまして、念のために裁判所の取扱等も家庭局に連絡してお聞きしたわけでありますが、この案の考え方といたしましては決定は当事者には勿論告知するという建前になつておるが、利害関係人には法律上は必ずしも告知するという建前にはなつておりません。ただ異議申立の起算日を明らかにする必要がありますので、「当事者が決定の告知を受けた日から二週間とする。」ということに書いてあるわけであります。ただ裁判所の実際の取扱といたしましては、利害関係人がはつきりわかつておる場合は、即ちその決定によつてその権利が侵害された、その他いろいろ法律上の利害関係を受ける者が、調停手続がはつきりわかつておる場合には実際問題としまして知らせております。ただ利害関係人が誰であるかということがわからない場合があると、そういう場合には知らせることもできませんし、そのままになつておるというような実際の取扱でありまして、この法律案としても大体そのようなことを予想しておる次第であります。
  307. 中山福藏

    中山福藏君 ちよつとお尋ねしておきますが、第七条ですね、それから第六条との関係を明らかにしておきたいのですが、調停法が施行されてから相当の年数を経ておるのでありまして、私も各種調停の委員会にときどき出席しておるのですが、調停委員の選任並びにこの調停委員の行動について相当世間でいろいろな噂が立つておるのですが、こういう点について調査なさつたことがありましようか。一つそういうことをお聞きしておきたいと思います。
  308. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 今のお尋ねに対しまして私からお答えを申上げます。調停委員の全国の数は実質の人員数を申上げますと三万人を超えております。それに家事調停、いわゆる人事調停委員を加えますと、更に多くなりますが、民事調停に関しまする限りでも今申上げました数に達しておりますので、全国的に相当やはり人を選ばなくちやならん。そういうことがございますので、地方裁判所であらかじめ選任いたします際にも、選任の前に相当人を選ぶに苦心しておりまして、地方公共団体或いは弁護士会その他の公共的な団体を通じて選任の候補者を出して頂く。そういたしまして調停委員の候補者を選びまして、具体的の事件が起きましたときにその調停委員の候補者から調停委員を指定することになつております。で、只今多数の調停委員の中には如何わしいものも或いはいるのではないかというお尋ねでありまして、その点については各事件を通じまして調停主任は裁判官でございますので、できる限りそういうことのないようにいたしております。それから若し非違を行うようなものがありますれば、これに対しましては適当な監督方法を裁判所長のほうで講じております。全国的にそういつたことがないように会同その他におきまして常々心掛けておりまして、今度の民事調停法が若し通過いたしますれば、来月全国の長官会同がございますので、その節にも特に今仰せのような点につきまして強調するつもりになつております。
  309. 中山福藏

    中山福藏君 実はこれは一例を挙げて御参考に供したいと思うのですが、これは十年ばかり前の話ですが、或る有力な調停委員がありまして、各種の大事件に関して、ことごとくその人の手を経て解決をつけたということから非常な信用を得まして、その人の家には自動車とか或いは家屋とかいうものをお礼に差上げますからと言つて、お礼に持つてつたということを知つております。ところがその人がことごとく拒絶しまして、拒絶した後に或る人が何とかお引立てを願いたいと頼みに来たときに、その一つ一つ名刺に誰々を紹介すると言つて紹介した事実がある。その結果その男は何百万円というものを或る方面から何と申しますか、寄附と申しますか、強要と申しますか、獲得して政治界に乗り出して、一時巣鴨に收容されておつたくらい大きな仕事をやつてのけた。だから自分でそういう賄賂とを何とかを取らなくても、その人が名刺をつけまするというと、反射的にその名刺を頂いたものが非常な幸いを得るということがあると思う。これはほんの一例に過ぎないのですが、その名刺を頂いたものは大それた大きな仕事をやつてのけた。ドイツへ飛行機で飛んで行つたというぐらい随分騒いだ。これは自分はそういうものをもらわなくても、もらつたと同じような結果に場合によつては陥るのでありますが、この調停委員の選任につきましては、若しさような背任的な事柄とか、或いは何と言いますか、一種の脱法的な行動をやつてつても、只今申上げたような御利益が第三者に及ぶ場合がありますから、この取締については強い罰則を設ける必要があるのではないか。
  310. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 只今のお話のようなことが調停委員にありますれば誠になげかわしいことと存ずる次第でありますが、これをなからしむるような第一の手当といたしましては、調停委員はやはり刑法に規定する公務員の範疇に入りますので、いわゆる賄賂をもらつたりいたしますれば、普通の役人が賄賂をもらつたその場合に処罰されると同じ規定が働く関係になつております。ただその点が一般にやや徹底していないで、涜職罪は普通の役人だけだというよう考えが調停委員にありまするとすれば、その観念は是正しなければなりませんので、最高裁判所も特に機会あるごとにその趣旨を徹底してもらいたいと思つております。
  311. 中山福藏

    中山福藏君 私はそこをお伺いしたかつたのですが、実は独立したこういうふうな法律がありまするときには、その点を明示する特別の罰則というものをやはりこしらえておかれるということが必要じやないかと思う。背任とか涜職とかいういろいろな問題は勿論刑法上の問題でありまして、これは誰が見ても一目瞭然わかるのでありますが、如何にも調停法というものにはそういう点が欠けておりますから、一見して素人の調停委員はそういう弊害を平気でやつてのけるというような素人考えの人が多いようです。そうして地方の名望家がなつておりまして、全然法律に知識のない人が多いのです。それで私の知つておる範囲内におきましても弁護士というものが相当数の力を占めておりますけれども、大体七割くらいは全く法律に経験知識のない人が多いのですから、どうかそういう点を一応お考え願うことができないかと思つておりますが、如何なものでございましようか。
  312. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点は法上の建前といたしましては当然のことでありまして、この調停法案に、これによるということを書くまでもないと存じますが、その周知には十分努める必要がありますので、この点は只今申上げましたように、最高裁判所側におきまして、会同等の際になお注意を喚起して頂きたいと思つておる次第であります。
  313. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 只今お話の点につきまして、実は先般のこの委員会におきましても伊藤委員からお話がありまして、特に今度の民事調停法案が通過いたしますれば、それに基きまして最高裁判所規則におきまして、そういうことのないようにということを明示すべく、或いはこの選任につきましてルールをはつきり書く、更に進みましては調停委員に選任いたしました曉にも、その指導監督についてもう少し具体的に規則で明らかにしたい。これは今までございませんでしたけれども、今度のルールにはそれを入れたいという只今考えでおるわけでございます。
  314. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 只今中山委員から御質問なつた点と重複する点なんですけれども只今の例は十年前の例なんですけれども、私の前にある例は只今つておる例であつて、而もこの国会の職員に関係しておる例なんですが、それを伺いたいのは、殊に家事調停、借地借家などに関係するものはかなり生活程度が必ずしも高くない。そうしていろいろ時間の上においても金銭の上においても十分の余裕のない人が調停によつて円満なる解決を得たいというふうに努力される場合が多いと思うのですが、そういう小さい市民たちの調停の成績というものについて御調査があるのでしようか。今頂いております資料の程度のものしかないのか、それとも絶えず調査が行われて、そういう弱い小さい、時間も金力も余裕もない人が調停によつて円満な解決を得ようとしておるその結果が、所期の結果に到達して来ておるのか、それとも来ていないのか。来ておるとすればそれはどういう原因によるのかというような御調査があるのでしようか。
  315. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 今羽仁委員のお尋ねにつきましては、毎月々々裁判所から調査報告をとつておりまして、例えて申しますると、まあ借地借家関係だけに例をとりますると、一体申立ては借家人側から多いのか、それから家主のほうから多いのか。それから小作調停に例をとりますと、小作人側から多いのか、地主側から多いのか、それから家事調停法を例にとりますと、男が多いのか女が多いのか、そういつた詳細な結果をとつております。それでその詳細な結果をできる限り集計いたしまして、毎月、更に年ごとにその結果を集めておるわけでございます。
  316. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 例えば頂戴した資料の中に、取下げになつておるのがありますが、成立でもなく不成立でもなく、この取下げというのは、これはどういうんですか。而も借地借家調停の場合においては、合計二万四千余りの中で五千八百というかなり多くの数が、これは二十五年度ですが、あるのですが。
  317. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 実は御承知のように、調停ができ上りますると、裁判があつたと同じように債務名義になりまして強制執行の力を持つわけになるんです。ところがそういつた後くされのないように調停におきまして、すぐ現金を渡す、或いは家を明け渡してしまう。そうして後くされのないようにしてしまうと、もう調停条項を作りまして、債務名義にする必要がない、そこまで行けば一番円満な解決でございます。そういつたことが結局調停手続の上では取下げという姿になつて出て来るわけでございまして、そういう事件数はかなり形の上におきましては取下げという、まあ形式的な姿になつて出て参りますが、実質は本当に最後の落着を見た事件といつてもいいかと思います。
  318. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それではこの取下げの内容について細目がおわかりなんでしようか。今おつしやるような喜ばしき取下げと、それからそうでない歎くべき取下げといろいろあるのですか。
  319. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 実はお話の点、取下げの内容を調査いたしておりませんが、私が今申上げたものが或いは言葉の申上げようが惡かつたかと存じますが、もとより不調になりまして、相手方が全然相手にならずに、出て来ません。これにつきましてはどうにもならずに、申立てた側が取下げるという例も勿論ございます。併し大部分は一応調停委員のかたがた或いは調停主任の裁判官から聞きますと、取下げになる実際の場合はかなりそういつた場合があるということを聞いておりますので、私はケース上のことを申上げられないのは遺憾でございますが、大体のところを申上げたのであります。
  320. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その現在起つております事実について申上げますと、むしろ決して余裕のない人が敗戰後の非常に苦しい状態の下だから、それで同情を以て人に部屋を貸す。そうすると借りたほうの人が、その部屋を借りていなければならないような事情がなくなつてしまつてからでもなかなか返さない。それからそういうような場合に他にも気の毒な人があるから狭い家の中をもう一つ貸している。譬えて言いますと、他の人の場合には非常にお婆さんで、それも民生委員の補助も受けないでお針なんかしてぽつぽつ暮している、その人を一人おいている。それからもう一人のほうは、その後いろいろなことをして相当のことをやつておるらしい。そこでその狭い家庭の中で子供が大きくなつたりして、且つ又その相当にやつている人はもはやその部屋を必ずしも必要としていないのだから、返してもらいたいというような場合なんです。これで調停を申立てている。そうするとなかなか相手のほうが出て来ない。それからその相手のほうが出て来ないということについてもどういうふうになるのか。つまりこの法律でなさつているようなことで適当なのかどうか。それから出て来られた場合にまあ調停ですから大体裁判所と違つて本人が出て行つて本人が事実を申述べて、それでやるというような、極めてこの信頼に基いて行われることが至当だと思うんですが、いろいろ相手のほうが見えますと、そのときには相当の專門家をお連れになつて来られる。そうすると、こつちは全く忙しい間を出掛けて行くのですから、そういう場合の両方の申立というものはどうも公平でなくなつてしまう。そうして而もその間に、法律なり何なりを引用されて、本人が使うということでなければそれを明渡すということを要求することは困難であるというふうなことになつてしまうでしよう。そのもう一人非常に貧しいお婆さんをおいている。だから本人が使うならばそつちを先に追出したらどうだろうというようなことを言われたり、或いは殆んど一年に近い家賃取立もしていないのに、引越料として五万円出せというふうに言われる。それに対してこちらがどうもそれは余り話が納得できないのじやないかというふうに答えると、調停の意思がないものとして取下げを求めるという事実がここにあるのです。こういう事実は私は今一つ、二つあるだけじやなくてどうもたくさんある。先ほど中山委員の御質問を伺つてもますますその感を深くするんですが、これらの問題はいろいろな資料分析により、その結論が出て来ると思いますが、今申上げましたような点についても今度の法案によつて余ほど救済されるというふうにお考えになつておられましようか。
  321. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 我々も調停に長く携わつておりまして、お説のような弊害があつたことは認めざるを得ませんです。この法律でどこでそれじやといわれますと、特に指摘するわけに行きませんが、出て来ない場合は、特に出て来ない者に対して過料が今まで五十円以下であつたやつを三千円に高めました。それから後の調停に関する問題は、これは調停委員にその人を得るということが一番大切じやないかと思います。我々は今でも相当調停に対しては批判の目を持つて参りました。又反対したこともございます。その理由は主として素人の人が調停委員になりまして、何でもかんでも、片さえ付けばいいのだと、こういうことで法律を無視して、条理に合わんことでも何でも、相手方を無理押しにして片付ける、こういう弊害が非常にあつたことを痛感いたしております。それともう一つは、今おつしやつたように弱い者が出て来ますと抑え易いから、まあ我慢せい我慢せいと言つてやるという、こういうことがありましたので、私はその意味において、何といたしましても調停はやはり裁判の一種なのですから、解決の基礎法律に置かなくてはならん。而して法律だけで賄えない、社会条理に合わんというときに初めて法律基礎にして、そこへ社会条理を加味して片付ける。こういうことでなければならんということを主張して来ましたので、本法を作ります場合にその点を最も深く考慮したわけであります。調停委員に対する選任については、これはだんだんよくなつては参りましたが、今最高裁判所のほうから言われましたように、十分にそれらの点を注意して頂いて選任してもらい、又出て来た以上はしつかりこれに対する教育並びにその他をしてもらいたい、こう思つております。それから第一条はその精神を、条文ではこれは変更いたしませんでしたが、提案理由並びに逐条説明で特にその点を訂正しておきましたのですが、この逐条説明というのがございましたでしよう。その第一条を修正しましたのはその意味からこれを修正いたしましたのです。この前のは道徳的解決というよう言葉を使つて、道徳や人情等をも加味したという、法律のみに囚われないで、道徳や人情等をも加味してやるというふうに書いてありましたが、それでは今言うよう法律を無視して抑え付けるというようなことがあつてはいかんということで、ここで社会情勢の変化等により法規をそのまま適用することが社会条理に反する場合と、こういうふうに直して、この趣旨をせめて提案理由の説明並びに逐条説明だけにでも現わしたいと、こういうので出しましたわけです。それから第五条の逐条説明にも訂正してあると思いますが、その意味でこれを訂正してございます。
  322. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 相手が出て来ないということについて、過料の五十円を三千円になさつたという点は、この程度で相手が出て来るでしようか、必ず……。
  323. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) そう言われるとどうも……。まあ少しでも重くすれば、過料によつて出て来るということよりか、是非とも出て来なければいかんのだぞということを強く現わした意味が主でございます。これがあるが故に必ず出て来るとは言えませんが、その意味が強く現われておるだろうと思います。
  324. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 第二にさつき申上げましたように、これは具体的には澁谷の簡易裁判所の場合なんですけれども、私は必ずしも專門家でもないし、その事実を專門的に調査したわけではないのでありますから少し遠慮しますけれども、若しも万一にも調停委員がいずれかの一方に加担しておるようなことがあると、甚だ調停が所期の効果を得ないと思いますけれども、そういう場合にはそういうことをどうして防がれるのですか。
  325. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これは調停委員は三人おりませんから、三人ともどうもそうやられたんでは、これはしようがございませんが、恐らくそういうこともなかろうと思いまするから、一人の調停委員が或いは一人の調停委員へ、どうもあの人の言うことが腑に落ちない、私はこう思いますが如何ですかと言つて出る。それからその中には必ず裁判官が一人おるわけですから、少くとも裁判官ならばそういうことはないものと我々は心得ておるわけであります。そこでよく事情を聞いてもらつてやるとか、具体的な方法考えるよりほかはしようがないと思います。
  326. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると、そういう弊害を防ぐためには人数を三人とすることによつて、それはないとお考えなのですか。
  327. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 只今羽仁委員の仰せの点は、法律の上では調停委員は「二人以上」となつておりますが、「以上」となつております関係で何人でも裁判所が適当と見ますれば指定しまして殖やすことはできますが、実際問題といたしますると、大体調停委員二人、それから調停主任一人はこれは裁判官でございますので、裁判官がどちらかに加担するということはこれは考えられませんので、調停委員をまあ指導するといつた役目を果すわけでございます。それで若し調停委員のほうで、どうしてもその二人の調停委員が一方の肩を持つというようなことが、まあ顯著と申しますか、表に出て参りまして、どうしても納得ができないというような場合には、これはどうしても調停というのは示談がもとでございますので、調停不成立ということになろうかと思いますが、どうしてもそれは応じろということは法律上できないわけであります。それとも又別の調停委員を選任してくれということを調停主任たる裁判官に申出でがあれば、又調停主任たる裁判官のほうで調停委員を変えるということも考えられるかと思います。
  328. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今おつしやつたようなことは、この法律のどこに書いてあるでしようか。
  329. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 便宜私から御説明いたしますと、この法律案の第七条を御覽頂きますと、「調停主任は、裁判官の中から、地方裁判所が指定する。」、その第二項におきまして調停委員は、調停主任が各事件について指定する。こういうことになつておりますので、指定ができる調停主任は、又その指定を取消すこともできるという解釈が出て参ります。それに従つてつておるわけであります。
  330. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私が申上げたのは、余り法律に通じない市民が調停委員を取換えてもらうことができるとか、そういうことをどこで知り得るんですか。
  331. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 今仰せになつた小市民、こういうかたがたに対しましてできるだけ調停の手続等につきましては、あらゆる機会にパンフレット等を、或いは宣伝方策を講じましていたしておりますが、なかなか徹底が面倒でございますが、深切な調停委員ならばそういうことを本人に知らせながら手続を進めるということになろうかと思います。それから実際の例でかなりございますのは、非常に当事者は、言葉が過ぎるかと思いますが、非常に神経過敏になつておりまして、調停委員なり調停主任たる裁判官が普通のことを言つたことでも相手方に有利なことを言つたように思い込む人が多い。当事者になりますと非常に神経質というふうな、これは語弊があるかと存じますが、そういつたような嫌いがあります。普通なら何でもないよう言葉を、つい話を進めているうちに、瀕した結果が非常に相手方に有利に事を運んでいるように思い込むということから、最高裁判所におきましても、具体的な事件について投書などございます。そういう投書がございましたときなどは、調査をいたしますると、そういつた嫌いから出た、感情の非常に神経質になつたところから誤解が多い。そういう事例が相当多いのでございます
  332. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 お役所のほうから御覽になると、そういうふうに御覽になるか知らんと思いますが、人民のほうから見ますと、私の聞いたのは、調停というものも結局私どもには縁のないものであるという感想をしばしば聞くのです。そうして何故ですかというと、申立てても相手が来ない。相手が来たかと思えば何か專門家みたいな人を連れて来て、そうして話をしている。そうして随分無理なことを相手が言われる。こつちが、どうもそれは少し無理ではないかというようなことを言うと、取下げろといつて取下げられてしまつたりする。そういうようなことが法律で別に保護されないとすると、やはり一般国民は調停というふうなものは大衆に縁のないものだという感じを抱くのではないかと思います。そういうことを法律のほうに明らかに顧慮される必要がないのですか。
  333. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これは私の申上げたように、調停委員にその人を得さえすればそういうことはないわけでございます。けれどもそう完璧を期するわけにも行きませんので、実際においてそういうことはあるだろうと想像されます。問題は向うが代理人をつけて来たら、こちらでもつけて出ればいいわけです。それができないというのは……、この点は法律扶助という制度が行われておりまして、そういう場合は各弁護士会へ申出られますれば、大体無料を原則として弁護士をつけてくれることになつております。ただそういう制度の周知徹底しておらんことは一番情けないことであると思います。そういうことを利用してやるということ以外にはないと思います。併し根本は調停委員に公平な、法律に明るい人が出てくれさえすれば、そういうことはないと思います。
  334. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そのいわゆる大衆の中で、たまたま調停によつて円満に解決しようというふうに希望を持つた人が、最初の例で諦らめた。そうして二度と調停なんかする気はないというようになつてしまう場合が随分多いので、今のような調停委員を変えることができるとか、相手が人を連れて来れば、こちらで何とかすることもできるのだというようなことが、もう少し周知徹底される、さつきのお話ではそういう周知徹底の努力をしておられるというようなのですが、調停を申立てた際に、それに調停を申立てた人にそれらのことを必ず知らせるということはないのですか。
  335. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) そういう点は、でき得る限りそういう方向にしたいと思いますのですが、ただ全国的に申上げますと、一年内に調停の申立てがございますのが約七万件近くございます。そのうちで成功するのがやはり半分以上ございます。その全体の割から申しますと、相当利用価値があるのではないか。訴訟の数よりも上廻るようなこともございますので、お話のような点もかなりございますと思いますので、今後でき得る限り実はこの民事調停法が通過いたしますれば、今年が丁度調停法施行になりましてから三十年目になります。それで、これは大正十一年に借地借家調停法ができましてから足かけ三十年になりますので、施行の日の記念日といたしまして、十月に大々的な記念式典が、調停委員のほうからも要望がございまして、したらどうかという声もございます。そういう機会をつかみまして、でき得る限り調停法の普及宣伝に努めたいと思います。それから今お話のように各裁判所の窓口等におきまして、でき得る限り周知徹底を図るということをあらゆる方法で努めたいと存じます。
  336. 中山福藏

    中山福藏君 大体この調停法というものの根本の趣旨は、費用を節約する、事務を簡捷にする、或いは平穏裡に国民の間で事件を解決する。こういう点から出発したものと思われますが、私どもの経験によりまするというと、商事調停、或いは民事調停、そういうものは相当のいわゆる調停費というものを納めるということになつております。勿論家事審判とかそういうものは、極く安いものでありますけれども、そういう民事、商事の調停というのは殆んど訴訟、いわゆる民事訴訟の一割か二割か安いだけだと思うのです。それで調停ができんときは、民事でも商事でも一応取り下げて新たに相当額の印紙を貼用して訴状を提出するということになつていますけれども、結局調停の趣旨というものが、不調に終つた場合には没却される場合が多いのであります。そういうときには一応調停から直ちに裁判所へ送り込む制度というものが将来確立されなければならんと思うのですが、これは関連してお尋ねして置くのです。それでその場合に印紙税法とか、いろいろな問題が改正されなければならん問題が起つて来るのじやないかと思う。それで民事調停法というものを出される以上は、そこまで考えて一応お出しになるということがこの法案を作られるかたとしては当然でなくちやならないと思うのですが、一応そういう点をお考えなつたことはないのですか。非常なこれは時間と費用の……。貧乏人にはできませんよ。訴状を出すということになると、もう一ぺん相当額の費用を出さなければならないということになつているのでなから、現在は……。
  337. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) この改正の狙いの主たる目的はそこにあるのでございます。不調になつた場合は直ちにそれを訴訟に変えることができる……。
  338. 中山福藏

    中山福藏君 印紙はどういうふうに……。
  339. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) 印紙は貼つた印紙を差引いてあとの不正を拂えばいい、そういうことになつているのです。
  340. 中山福藏

    中山福藏君 それだつたら結構です。
  341. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) それから訴えを起したときには、調停の申立があつたとき訴えがあつたということになつています。これが主たる改正はそこにあるのでございます。
  342. 伊藤修

    伊藤修君 もう一つ見落しておつたのですけれども、要綱の中の第二十、執行の一時停止を命ずることができる。いわゆる執行停止をやるに当つてルールに任しているのですが、これは前には金銭調停という……法律に定められていたのですが、これはルールに入れるという、考え方なんですか、どうもルールに入れてあることが非常に広汎に失する虞れがあるのですが……。
  343. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点も見方によつては御説のようにやや広汎に過ぎるのではないかという疑問もあると存ぜられます。訴訟手続の中止とその点は大体同じようになろうかと思いますが、この案におきましては訴訟手続の中止の場合と同じように、場合によつては裁判所の、調停委員会でなくて調停裁判所の裁量で中止を命ずることができるということにいたしたわけでございます。
  344. 伊藤修

    伊藤修君 停止ですから、保証を立てしめて停止せしめることがある。担保提供義務はどうですか。保証を立てしめて停止を命ずるということもあり得ると思うのですが、そういうことは予想していないのですか。
  345. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点は現在金銭債務に関する調停法にありまして、それが戰時民事特別法の調停でほかの調停に準用されておるわけであります。それによりますと、担保の点も考慮されておるわけでありまして、大体これと同趣旨の規則が使われるものと予想して規則に讓つたわけであります。
  346. 伊藤修

    伊藤修君 いや、私の申上げるのは、こういう過去の立法例においても法律で定めるべき事項をルールに委託するという傾向が、いわゆる立法権の放棄であつて、由々しい問題だと思うのです。ちよつとルールに委ねる範囲が広汎に失しやしないかと思うのですが、これは衆議院においても十分お考える煩わしたいと思うのです。これはみずからの権限放棄ですよ。必ずこれが先例になつて、過去にこういう例があるではないかと、ここまで立法権を放棄しておるではないかと、必ず将来において問題になつて来ると思うのです。これは私が申すまでもなく必ず起つて来るのです。
  347. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これはやはり我々もこの点相当注意もしますし、又本法を要望しました調停協会等からもいろいろな意見があつたのですが、この四つか五つの調停を皆入れましたものですから、この調停全体へこの規定を適用することがいいか惡いかという議論が出まするので、そこで金銭債務ならいいが、ほかのものなら問題があると、こういうところから、それならこれを入れる、あれを入れるということになると、これはやはり本法に載せるよりかルールでやつたほうがよかろうと、こういう意見だつたものですから、我々もそれに賛成したわけであります。あなたのおつしやる御趣旨は、我々も当然なんで、始終言うておるところでございまして……。
  348. 伊藤修

    伊藤修君 鍛冶さんの御説明ならば、特則がありますでしよう。第二章に、宅地建物調停とか、農地調停とか、いろいろと特則があるのですから、その特則の中でその必要な部分だけ賄われたらいいのではないでしようか。私はこういう先例を作つておきますと、たださえ立法とルール制定権との境界の問題がまだ未解決であるので、未解決にこういう一つ一つ事例を與えて行くということは、結局証拠を與えることになるのです。我々の立法権の放棄をみずからなしつつあるということになるのですから、この点は一つ十分衆議院でもお考え合せ願いたいと思います。
  349. 鍛冶良作

    衆議院議員鍛冶良作君) これはこの際一つの最高裁判所の責任者も見えておりますから、それは十分考えてもらいたいと思います。ただ初め入れなかつたのはそういう理由であることだけは申上げておきます。
  350. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 只今伊藤委員から最高裁判所のルールの問題がございまして、実はほかの法案で鍛冶委員と大いに衆議院議論をいたしたことがございますのですが、実は私どものほうでもできる限り自制しなくちやいかんということは考えております。それでこういつた委任の規定がございますときには、今後はできる限り衆議院或いは参議院のほうに御連絡いたしまして、そのあらかじめの御了解を頂きたいと、そういつた方向に向けて行きたいと存じております。ただ形式的には、実はルール制定諮問委員会が最高裁判所にございますが、この委員の中に国会議員のおかたに入つて頂きたいと要望をいたしたことがございますのですが、国会法の関係でそれはできないということから、まあ今は不可能になつております。ですが、この委任の法律につきましては、それに基くルールにつきまして、特に御連絡をできるだけいたしたいと存じます。実際の点につきましても我々できるだけ努力いたしまして、そういつた方向に進みたいと存じております。
  351. 伊藤修

    伊藤修君 一言申上げておきますが、私はこの法案がどうなるか存じませんが、少くとも法律において幾多の立法事項をルールに委任しておりますが、併し我々は決して立法権をルールに委任する、立法権の放棄であるとかいうふうには考えませんから、どうかその点だけはあらかじめ含んでおいて頂きたいと思います。
  352. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) 今伊藤委員からのお話御尤もなことばかりで、その通りに私ども考えております。
  353. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 速記をとめて下さい。    〔速記中止〕
  354. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 速記を始めて。それでは本案に対する質疑は今回を以て終了し、次回において討論採決をいたしたいと思いますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  355. 鈴木安孝

    ○委員長(鈴木安孝君) 御異議ないと認めます。よつて次回に討論採決をいたします。本日はこれにて散会いたします。明日は午前十時より開会をいたします。    午後五時二十六分散会  出席者は左の通り。    委員長     鈴木 安孝君    理事            伊藤  修君    委員            長谷山行毅君            山田 佐一君            齋  武雄君            棚橋 小虎君            岡部  常君            中山 福藏君            羽仁 五郎君            須藤 五郎君   衆議院議員            鍛冶 良作君            北川 定務君   政府委員    法務府法制意見    第四局長    野木 新一君   事務局側    常任委員会專門    員       長谷川 宏君   衆議院事務局側    常任委員会專門    員       小木 貞一君   衆議院法制局側    参     事    (第二部長)  福原 忠男君   説明員    法務府民事法務   長官総務室主幹  平賀 健太君    最高裁判所長    官代理者    (事務総局民事    局長)     關根 小郷君